1 : 乾杯 ◆ziwzYr641k - 2013/05/11 11:46:11.88 yFwpMn+D0 1/711・いつの間にやら二期が始まったので触発されて
・禁書1~3以外未読、新約もちろん未読、なので色々違う可能性があります
・地味に暴力描写有り、不快な人はごめんなさい
元スレ
食蜂「好きって言わせてみせるわぁ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368240371/
食蜂「好きって言わせてみせるわぁ」 その2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371963371/
食蜂「好きって言わせてみせるわぁ」 その3
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1377261524/
食蜂「好きって言わせてみせるわぁ」その4
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1402329231/
5 : 乾杯 ◆ziwzYr641k - 2013/05/11 11:59:00.50 yFwpMn+D0 2/711上条×食蜂です
前作は一応あり、トリで察しつく人はつくかも
この組み合わせからして外伝的な感じです
食蜂「……うぅー、どうも熱っぽいわねぇ」ボー
食蜂(起き抜け妙にだるかったし。やっぱ授業サボッとけばよかったかしらぁ)ハァ
食蜂「愚痴っててもしょうがないわね。薬局に寄って早めに寮へ――」
――ドンッ
食蜂「きゃんっ!?」ドサッ
不良1「っと、痛ってぇなぁ。どこ見て歩いてんだよ」ジロッ
食蜂「な、なにアナタぁ? そっちからぶつかって来たんじゃなぁい」
不良2「おっ、すげえ上玉じゃあん?」
不良3「……へへ、おい1。お前、あんなに強くぶつけられて、体大丈夫か?」ヘラヘラ
不良1「あ……、あーっ、やべえなこりゃ。肩外れちまってるかもしんねぇわ」
不良4「となりゃあ、この別嬪さんに責任とって」
不良5「1君の傷ついた体を癒してもらわなきゃなぁ」
食蜂「……はぁ、古典的にもホドがあるんだけどぉ」パンパン
食蜂(まったく、自分が住む街に君臨している七人の顔くらい知っときなさいよぉ)ハァ
不良2「ぶつぶつ言ってないで、ちょいと顔貸せや」
不良3「そうそう、綺麗な顔に傷つけられたくねぇだろ?」
食蜂「容姿を褒められるのは嫌いじゃないケド、お兄さんたちみたいなのは好みじゃないのよねぇ」
不良1「……あん?」
食蜂「釣り合いってモノを考えてぇ、出直してきて欲しいかなぁ」
不良4「……おーい、こいつ調子乗っちゃってね?」
不良5「ああ、こりゃいっぺんきつーいお仕置きが必要だな」
食蜂(んもぅ、体調悪いのに面倒ねぇ)チラ
通行人1「……」タッタッタッタ
通行人2「お、おい、警備員呼んだ方がいいんじゃないか?」ヒソヒソ
通行人3「ここじゃまずいよ、連絡してるとこ見られたらどんな因縁吹っかけられるか」ヒソヒソ
食蜂(――ま、5人もいるんじゃ当然の反応かしらねぇ)ポリ
不良5「何見てんだ! 見世物じゃねえぞコラァ!」
通行人2&3「う、うわっ、す、すみませぇん!」バタバタ
食蜂(そうねぇ、逃げ腰のヒトに戦ってもらうっていうのも乙かしらぁ)キョロ
食蜂(こんな可愛い女の子を見殺しにするなんてぇ、男の風上にもおけないものねぇ)ゴソッ
食蜂(それいけ、弱小戦隊、モブレンジャー☆)スッ
――ピッ
不良3「とりあえず、ちょっとこっち来いや」ガシッ
食蜂「…………」
食蜂(……あれ?)タラ
不良2「オラ、早く歩けよ!」グイッ
食蜂「痛っ、やだっ、引っ張らないでよ!」
食蜂(な、何で!? 洗脳したはずなのに!)
不良5「はいはーい、一名様ご案なーい」グイグイ
食蜂「ちょ、ちょっとっ!」
食蜂(路地はまずいっ! こ、こうなったら直接っ!)ピッ、ピッ
不良3「って、何だぁこりゃ? TVのリモコンかぁ?」グイッ
食蜂「え……あっ、こらぁっ! 返しなさぁい!」バッ
不良3「おっと、あっぶねぇ」
不良4「おっしーぃ、全力でジャンプすれば届くんじゃねぇ?」
不良5「もっとも、下着が見えちゃうかも知れねえけどな」ニタニタ
食蜂「……くっ」ジリ
食蜂(って、これ本気でヤバいっ。こんな狭い道幅じゃ逃げようが)サァァ
不良2「おいおい、どうしたんだぁ? さっきの余裕のある口ぶりはよ」ヘラヘラ
不良4「大方、誰か助けに来てくれるとでも思ってたんじゃねえの?」
食蜂(もぅ! こういうときに能力が使えなくてどうするのよぉ!)
食蜂「お、お兄さんたち、こんなことしてただで済むと」チラッ
不良1「ただで済まねえのはお前だよ。おい、入口しっかり見張っとけよ」
不良4「へいへい、後でちゃんと俺にも参加させてくれよ?」
不良3「わかってるって。アンタもあんま抵抗しない方がいいぜ? 痛い目に遭いたくないだろ?」
食蜂(――今だっ!)ダッ
不良5「――おっとぉ」サッ
――ガッ
食蜂「きゃあっ!?」ズダン
不良5「ザンネーン、こっちは行き止まりだぜぇ?」
不良1「おら、とっとと立てよ!」グイッ
食蜂「い゛っ――たぁいっ、髪引っ張んないでっ!」ジタバタ
不良2「へっへ、あんまり暴れるとハゲになっちまうぜ」ヘラヘラ
不良1「そーそー、服だって乱れちまうしなぁ? こんな風に――よっ!」バッ
食蜂「や、やぁっ!///」カァ
不良4「へぇ、色っぽい下着履いてんじゃねえか」
食蜂「いっ、いい加減にしなさいっ! それ以上したら、絶対後悔させてやるんだからぁ!」キッ
不良1「耳元でキンキンうっせえんだよ。ちっと黙っとけや」スッ
食蜂「こっ、この状況で黙るわけが――」
――バチィッッ!!
食蜂「う゛あ゛っっ!!」ビクン
食蜂(か、体が……痺、れ……)カクン
――ガシッ
不良5「おっと、おねんねの時間はまだですよぉ?」ニタ
食蜂「あ゛ぐっ……ぅ」ピクピク
不良1「大人しくしとかねえと、この程度じゃ済まさねえぞ」バチバチ
食蜂(……ス、スタン……ガン)キッ
不良2「ホントすげえな、マジ効果覿面」
不良1「改造して電圧を切り替えられるようにしてあっからよ。今のでせいぜい40%だぜ」カチカチ
食蜂「くっ……はぁっ……」ググ
食蜂(……っ!)ドサッ
不良1「無駄無駄、しばらくは立ち上がることすら満足にできねえよ」
不良3「はーい、セーター脱ぎ脱ぎしましょうねぇ」ガバッ
食蜂「……や……だぁっ!」ググ
食蜂(……っ、声、出な……、手足も……言うこと……きかな)
不良3「ちょうどいいや、そのセーター、腕のとこで結んで縛っとけ」
食蜂(う、嘘、でしょ? が、学園都市五位の私が、こんな連中に)
食蜂「……くっ」ギシッ
不良1「へっへっへ、俺好みの格好になったじゃねえか」ジュル
食蜂「……こ、ここ、こんなことして、ただで、済むとでも」カチカチ
不良3「くくっ、歯の根が合ってねえぞ?」
食蜂「……っ」
食蜂(こ、声はもう出せそう……だけど、大声出してまたビリってやられたら……)
食蜂「こ、断っとくけど、今のうちに解放した方が身のためよぉ? 今なら、許してあげなくも」
不良1「……あー、ところでよぉ。前回スタンガンのメモリ、最大まで押し上げてやった時は見物だったよな」
食蜂「……っ」ゾク
不良5「ああ、澄まし顔の美人が白目剥いて小便まで垂れ流しやがってよ」
不良2「あの動画、ネットで流したら大うけだったよなぁ」ジロ
食蜂「……ぃ、ぃゃ」ガクガク
不良1「んで、てめえも白目剥いて泡吹きてえクチかぁ?」バチン
食蜂「……ひっ」ビク
不良5「おいおい、そんな脅かしちゃ可哀そうだろ? 今からとっても楽しいことすんだからよぉ」スッ
不良3「んだな、お待ちかね、御開帳タイムと行きますかぁ」ガシッ
食蜂「い、嫌っ……駄目っ!」ググ
不良1「お、結構頑張るじゃねえか」ググ
不良5「こ、こりゃ、すげえ力だ。全然開かねえ――なっ!」グイッ
――ガバッ
食蜂(――っ!!)ギュッ
不良5「へっ、バカが。男二人に敵うわけねえだろ」
不良1「いやぁ、太腿の白さが眩しいねぇ」ジュル
食蜂「は、放してっ! 何見てるのよぉ!」ブンブン
食蜂(こ、こんな奴らの前で、こんな格好っ!)ググ
不良2「あんまもたもたすんなよ、警備員が到着する前に終わらせねえと」
不良3「りょーかーい。っと、ブラウスが邪魔だな」
食蜂「……ひっ、……や、もういやぁッ!」ブンブン
食蜂(誰かっ! 助け――)
不良5「せーーのぉっ!」グイッ
――ビリビリビリィッ!
食蜂「きゃあああっっ!!」プルン
不良5「ひゅーっ! すっげ、この体で中学生かよ!」
不良3「肌すっべすべだわ。胸のさわり心地はどうかなぁ?」ギュ
食蜂「やぁっ、触らないでっ! んっ! やあぁっ! 放しなさいよぉ!」ジタバタ
不良1「はっ、それで抵抗してるつもりかぁ?」
不良2「んじゃ、先に一枚目いっとくか」カチカチ
――パシャッ
食蜂「んなっ!? 何勝手に撮って――くぅっ!?」パシャッ
不良2「人生諦めが肝心ってな。楽しむことに専念した方がお互い幸せってもんだ」パシャッ
不良1「そうそう、さっきよりきっつい電撃食らいたくねぇだろぉ?」ヘラヘラ
食蜂「……な、何で私が」
食蜂(私だけが、こんな目に遭うのぉ)ジワ
不良3「動画、この前みたく音声録り忘れるなよ」
不良2「うっせぇな、過ぎたこといつまでも覚えてんなよ」
不良5「ひひっ、ついてるぜ。今日は俺が一番手だったよなぁ」カチャカチャ
食蜂(……や、だ、こんな形で)ワナワナ
食蜂「――だっ、やだぁっ! 誰かあぁっ!」ポロポロ
不良3「この嫌がりよう、もしかして初めてかぁ?」
不良5「遊んでいるように見えて、かぁ? だったらいいねぇ、俺好みどストライクじゃねえか」グイ
食蜂「……助けてっ! お願い、誰かぁ!」
不良1「ったくっ、騒ぐなってんのに物分かり悪いな。んならもう一発――」
――ドガッ!
不良1「うがぁっ!?」
不良5「えっ、なッ!? ――ぐあっ!」ズンッ
食蜂「……あぅっ!」ズザッ
上条「……」クルッ
不良2「な、んだてめえ! 不意打ちとか舐めた真似――」ヒュッ
――バキッ!
不良2「がはっ!? ――うがっ!」ズダン
上条「こちとら身の程弁えてんだよ。数的不利なんだからハンデは当然だ――ろっ!」グン
――ガッ! ――ガシィッ!
不良2「グッ――ハァ……!」ガクン
不良3「く、くっそっ! いいところだったのに邪魔しやがって!」カチャカチャ
上条「おいっ、今のうちに早く――っ!」
食蜂「……うぅ……ひっく」ガクガク
食蜂(助け……て、誰でもいいから、助けてぇ……)ポロポロ
上条「――っ、……んの」ミシィ
不良5「こ、こいつ、正義のヒーロー気取りか。……ふざけやがってぇ」スチャッ
上条「……アンタだけ浅かったか。ったく、ついてねえな」ボソ
不良3「おい、用心しろよ! こいつ喧嘩慣れて――」スチャ
不良5「うるせー! 仲間がやられてんのにのんきにズボン履いてんじゃねえっ!」
上条「こちとら何度も化け物みたいなのと渡り合ってんだよ。ちゃちなナイフで止められると思ってんなら」ジリ
不良5「う、うおらああぁぁっっ!」ダッ
不良3「ば、馬鹿っ! 迂闊に突っ込むやつが――!」
上条「大間違いだッッ!!」ダッ
食蜂(……だ、誰かいるの? 視界がぼやけて……何も)
不良4「おい、さっきから騒がし――って、なんだこの有様――」
上条「――でラストか。んじゃ、悪いけどとっとと――」
食蜂「……見え……な――」ガク
――ガチャン
インデックス「あっ、おかえりとうま! ……って」
食蜂「……はっ……はっ」
上条「悪い、インデックス。帰ってそうそうすまねえけどお湯沸かしてくれ」
インデックス「ど、どうしたの、その子? すごい苦しそうなんだよ」
上条「多分風邪だと思う。帰り道でたまたま会ってさ――よっと」
インデックス「わ、わかった。すぐに沸かすね」パタパタ
上条「さんきゅ。よし、とりあえずベッドに寝かせて、と」
――ドサッ
食蜂「……んぅ」ゴロ
上条「う、うわっ」ドキ
上条(や、破れたブラウスが生々しいっつーか、……常盤台って中学だよな?)ゴクッ
上条(い、いかんいかん。さっきの背中の感触思い出しちまった)ブンブン
インデックス「すごい汗だね。拭き取らないと悪化しちゃうかも」
上条(さすがに、インデックスの寝巻を着せるのは無理だよな)ウーン
インデックス「……今、とうまからものすごい不快な波長を感じた気がするんだよ」
上条「い、いや、気のせいじゃないですか?」
上条(しゃあねえ、突っ込まれる前に俺のを用意しとくか)ゴソゴソ
インデックス「……ところでとうま。まさか自分で着替えさせる気じゃないよね?」
上条「お願いだから怖い目でこっち見ないでください! てか、お前に任せんのはいいけど前後反対とかやらんでくれよ?」
インデックス「とうま、私のこと、そこはかとなく馬鹿にしてるね?」ムス
上条「い、いや、そんなことは、つうかそれくらいならインデックスにも」
インデックス「そこはかとなく馬鹿にしてるね?」ジロ
上条「じゃ、じゃあインデックスさん、着替えここに置いときますんで」ササ
食蜂「……ふぅ……ふぅ」
上条「呼吸はさっきより落ち着いたみたいだな、……と」ピピピ
上条(うげっ、39度5分!? やばいな、思ったよりずっと高い)
インデックス「とうまとうま、お隣から水差し借りてきたんだよ」パタパタ
上条「おっ、やっぱ持ってたか。さすがはメイド見習いの妹を持つ兄」
上条(シロップタイプだし冷蔵してたし、飲みにくくはないはずだけど)トクトク
上条「インデックス。枕の下に両手を入れてその子の頭を持ち上げてくれるか」
インデックス「了解なんだよ」スッ
上条「おっけー、そんなもんでいい。ほら、薬だ。飲めるか?」スッ
食蜂「……ん……むぅ」カプ
インデックス「……うん、少しずつだけど減ってるみたい」
食蜂「……すぅ……すぅ」
上条「ふぅ、顔色もさっきよりは大分マシになったか」
インデックス「みたいだね。ところで今更なんだけど」
上条「うん? どうした?」
インデックス「なんでとうまはわざわざここまで背負ってきたの? その場で救急車を呼んだ方が早かったんじゃ」
上条「いや、まぁ、それも一度は考えたんだけど。この子、野郎どもに襲われててさ」
インデックス「……っ」
上条「状況的に絶対やられるわけにはいかなくてさ、ついつい力のセーブが」
インデックス「柄にもなくやり過ぎちゃったってこと? でもでもとうま、それって正当防衛じゃないの?」
上条「相手を地面に叩きつけたとき、ぶら下がった枝が折れるような嫌ーな音がしたんだよなぁ、メキメキィッて」
インデックス「う゛ぁ……、聞くだけで痛いんだよ」
上条(ま、他にも心配事は色々あったんだよな。警備員呼ばれたら事情聴取とか避けられなかっただろうし)
上条「てなわけで、万が一にも治療費請求とかって話になるとだ。この先うちの夕飯がモヤシと卵と納豆だけに」
インデックス「すごく、すっごーく、賢明な判断だったと思うんだよ」キラキラ
上条「はい、そういうことなんで。ええ――度々すんません、お世話になります」ピッ
インデックス「小萌もう帰ってるって?」
上条「まだ仕事中だけど、姫神がいるから問題ないってさ」
インデックス「わかった。それじゃあとうま、行ってくるね」
上条「悪かったな、ベッド使えなくしちまって」
インデックス「ううん、病める者を救うのはシスターとして当然の行いなんだよ。――それより」
上条「うん?」
インデックス「とうま、あの子が寝てるからってえっちなことしちゃ駄目なんだよ」
上条「バーカ、病人襲う趣味なんざ上条さんにはありません」
インデックス「うん、だよね。……あともう一つ」
上条「……もう一つ?」
インデックス「多分その子、すごく傷ついてると思うんだよ」
上条「あ……」チラ
食蜂「……ん……んん」キュッ
上条(そうだった。この子、乱暴されかけてたんだっけ)
インデックス「だからとうま、目が覚めたらしっかりケアしてあげなきゃ駄目なんだよ」ジッ
上条「……あ、ああ、わかってる」
上条(って、待て待て。だったらインデックスにも残ってもらった方が)
上条(あぁでも、そうすっと説明がややこしくなるか。この子の口からインデックスのことが漏れないとも限らないし)
上条(とはいえ、目覚めたときに安心してもらうには女の子がいた方が――下手すっといきなり大声で叫ばれたりも)
上条(だったらいっそインデックスに全部任せちまう方が――って、ないな、ない。病状が一層悪化したらどうすんだ)
インデックス「……とうま、今なんかすっごく失礼なこと考えてない?」
…………――――
――ガラガラ
あら、教頭先生?
授業中にすまん。食蜂、食蜂操祈はいるか?
え、ええ。いったいどうなさったんですか?
すまないが急いで帰り支度を。表玄関にタクシーを呼んである。
……っ! わ、わかりました!
あ、あの、先生。いったい何が……
……詳しいことは移動中に話す、教科書はそのままでいい。
――交通事故?
ええ、大型トラックに後ろから。飲酒運転だったそうよ。
ひどいですね、罰則が厳しくなったのに何で未だ守らない人が。
本当、可哀そうにねぇ、まだ小さいのに。
トラックの運転手はどうしたんですか?
さっき現場検証に連れていかれたそうだ。あっちは額に打ち身程度で済んだらしい。
理不尽だな、こっちは二人とも殺されたっていうのに。
きっちり厳罰に処してもらわないとな。
ねぇ、ところでさ。
――あの子、誰が引き取るのかな。
「今日からここを自分の家と思って暮らしてね、操祈ちゃん」ニコ
「は、はい。――――っ!」
(まったく、何でうちなのよ。姉さんとはそれほど仲良かったわけでもないのに)
――また、聞こえる。
「なんで? なんで僕の部屋なのに半分しか使っちゃいけないの?」
「わがままいうな。操祈ちゃんは他に行くところないんだから」
(まあ仕方ない。こうなった以上、賠償金をたんまりせしめてやらんとな)
――嫌、こんな声聞きたくない。
「ちょっとアンタ、体育以外全部操祈ちゃんに負けてるじゃないの」
「ご、ごめんなさい。次は頑張るから――」
(今までこんなことはなかったのに、お前のせいで!)
――どうして? 私が悪いの?
(折角の夏休みなのに塾なんて、くそっ、全部操祈のせいだ!)
(またこんなにご飯残して、私の料理の腕が姉さんより下だっていいたいの?)
(いっそのこと、三人まとめて死んだほうが幸せだったんじゃ――)
――るさい、うるさい、うるさいッ!
食蜂「……学園都市?」
叔母「ええ、そうよ。あなた、すごい適性があるみたいなの」
叔母(まったく、いい話が舞い込んできたものだわ。この子全然私に懐かないし)
叔父「試しに行ってみるのもいいんじゃないか。もし合わなそうならすぐ帰ってくればいい」
叔父(この先なんやかんやで出費が嵩むからな。民事の支払いも決まったことだし、頃合いか)
従兄「いいないいな、操祈ばっかりずるいや!」
従兄(やった、これで元通り一人部屋だっ!)
食蜂「……わかりました、行きま――行きたいです」ニコ
食蜂(もう、どうでもいいわぁ)
――――…………
――上条宅
食蜂「…………あ、らぁ?」パチ
食蜂「……夢、かぁ」
食蜂(ここ、どこかしらぁ。見覚えがあるような、ないような)
食蜂「……ん、おでこに何か」パシ
食蜂(濡れタオル?)ホケー
上条「……う、ううん」ムニャ
食蜂(んー、この人、どこかでぇ……)ボー
食蜂「って、や、やだっ! 何で私、手なんか握って」バッ
上条「……んぁ?」
食蜂「……っ」ビクッ
上条「と、いっけね、少し寝ちまってたか」ゴシゴシ
食蜂「……っ!」ムクッ
上条「お、起きたのか。具合はどうだ? 喉乾いてたりは」
食蜂「――っ、か、上条さん!? な、何がどうなって」
上条「あれ? 確か初対面、だよな。何で俺の名前知って」
食蜂「……あ」
食蜂(……そう、そういう人だったわねぇ)
上条「てか、覚えてないのか?」
食蜂「……覚えてって」
食蜂(それはこっちの台詞――って、どういうこと?)
上条「あ、いや、むしろ忘れてもらった方がいいんだろうけど」
食蜂「……え、と」
『はっ、それで抵抗してるつもりかぁ?』
食蜂(……っ!)ゾク
上条「わっ、わりぃ! 怖い思いしたばっかりだってのに、思い出させちまって」バッ
食蜂「……わ、私」カタカタ
上条「その、もっと早く助けにいけりゃ良かったんだけど」
食蜂「……私は、何でここに?」カタカタ
上条「連中ぶちのめしてる間に意識を失っちまったんだ。救急車呼ぶか迷ったけど、寮に連れてきた」
食蜂「……そう、そうなんだ」カタカタ
上条「……とにかくすぐに夕飯の支度すっからさ。お前はもう一度体温計を」
食蜂「――バッグ」ピタ
上条「……え?」クル
食蜂「私のハンドバッグ、ここにあるのかしらぁ?」
上条「あ、ああ。路地裏に落ちてたやつなら。これ、お前のであってるか?」スッ
食蜂「……ええ。こんな可愛らしいバッグ、あんな連中が持つはずないじゃなぁい?」クス
上条「そ、そうだよなぁ」
食蜂「……」ゴソゴソ
上条「その、中身はまだ確認してねえんだ。割に重かったから空じゃないとは思うけど、財布やなんか取られてたら――」
食蜂「うん、大丈夫!」ニコ
上条「警察に――って」
食蜂「ちゃんと必要なモノは入ってましたから」
上条「そ、そっか。それなら良かった」
食蜂「だから、ごめんなさぁい」スッ
上条「……へ? 何だそれ、リモコン?」
食蜂(――私と会った時のこと、忘れてちょうだぁい)ピッ
上条「…………」
食蜂(悪いケド、あなたとの出会いがあんなひどい形だなんて許されないのぉ)
食蜂「……あとは、あの連中ねぇ。草の根分けても探し出してやらないと」ギリ
食蜂(よくも、よくもこの私に好き放題やってくれたものねぇ。絶対に生き地獄を見せて――)ギリッ
『んじゃ、先に一枚目いっとくか』
食蜂「……っ! しまったっ! 携帯!」ガバッ
上条「……あ」
食蜂(ま、まずい、まずいっ! あんな画像がネットにバラ撒かれちゃったら――)クルッ
食蜂(時間っ……も、もう二十二時!?)サァ
食蜂(絡まれた時はまだ明るかった――、今から向かっても回収できる見込みは……)ガリ
上条「あ、あのさ、連中のデータだったら心配ねえぞ?」
食蜂「…………え?」
上条「不意打ち仕掛けるときに一人携帯構えてるのが見えてさ、のした後でまとめて踏み潰しといた」
食蜂「……あ、……そ」パクパク
上条「ホントならデータ消去だけすりゃ良かったんだろうけど、そこまでしてやる義理もねえからな」
食蜂「そう、そうだったんですかぁ。気が回るんですねぇ」ニコ
上条「いや、すまん。先に言っておけば変に焦られちゃうこともなかったな」
食蜂「そんなことないです。その、ありがとうございます」ペコ
食蜂(しょ、正直いって助かったわねぇ……って)ホッ
上条「ま、今はあまり色々考えすぎずに、ゆっくり休んでくれな」
食蜂「え、えぇ。すみません、お世話になります」
食蜂(ど、どうしてぇ? 何で記憶が消えてないのぉっ?)
食蜂(猫の鳴き真似しなさい)ピッ
上条「ああ、そういやお前、梅干しは食べれるか?」
食蜂「……え、あ、梅干し?」
上条「苦手か? だったらおかかの醤油漬けでも」
食蜂「い、いえ、普通に食べれますけどぉ」
上条「了解」
食蜂(だ、だったら、ラジオ体操第二をっ)ピッ
上条「……ん、あまり熱すぎてもなんだしな。こんなもんでいいだろ」カチ
食蜂(ど、どうしてっ、何で全然効かないのっ!?)ピッピッ
上条「あとは漬物が――ああ、あったあった」ゴソゴソ
食蜂(そ、そういえば襲われた時も――――って、まさか)ゾワ
食蜂(……完全に能力が、使えなくなったとか)サァァ
上条「お待たせ。熱はどうだ? 下がってたか?」
食蜂「……あ、その」
上条「あれ、まだ測ってなかったのか」
食蜂「ご、ごめんなさい。今測りますから」ギュッ
上条「いや、いいんだ。それは後にしよう、おかゆ冷めちまうし」コト
食蜂「…………はい、わかりました」
食蜂(読心も無理、か。確かに集中力は必要だけど)
上条「少なめに入れといたけど、もっと食べれそうならおかわりも――って」
食蜂「……」グ
食蜂(――ま、万一体調不良のせいじゃなかったら)ブルブル
上条「ど、どうしたんだ? 寒いのか?」
食蜂「あ、き、気にしないでください。何でも、ないですから」
食蜂(――消したい、のに。消さなきゃいけないのに)
食蜂(何で、よりによって一番弱みを見せたくない人に、あんな)ジワァ
上条「一人で食べられそうか?」
食蜂「……まだ、若干だるいです」ホケー
食蜂(もし常盤台にいられなくなったら、次はどこにいけばいいのかしらぁ)
上条「そっか。んじゃあ、もう少し体を起こせるかな」
食蜂「……はい、わかりました」ホケー
食蜂(能力使えなかったら、完全用済みよねぇ。ま、今さらどうでもいいケド)
上条「ん、まだ少し熱いかな。ふーっ、ふーっ」
食蜂「……」ジー
食蜂(いずれにしても、またこの人に助けられちゃったのねぇ)ハァ
上条「それじゃ、はい、口開けて」スッ
食蜂「……あーん」
食蜂(――って、私何して)
上条「よっと」スッ
食蜂「」ゴックン
上条「って、そんな一気に飲み込むと」
食蜂「ゲホッ!///」
上条「普通に咽るよな。はいタオル」スッ
食蜂「えほっ、ごほっ」ハシ
食蜂(い、いきなり近距離に顔があったら、誰だって驚くと思うんですケドぉ!)
上条「もしかしてまだ熱かったか?」
食蜂「……い、いえ、ちょうどよかったです」フルフル
上条「そっか。いくら米が柔らかいとはいっても、少しは噛んだ方がいいぞ」
食蜂「そ、それくらいわかってますぅ」ブス
上条「んじゃ、今度は梅干しも一緒に」スイ
食蜂(もう、この人ってば人の気も知らないで……)ジト
上条「ふーっ、ふーっ」
食蜂「……」
食蜂(……こういうの、いつ振りだったかしらぁ)
上条「はい、ラスト一口」スッ
食蜂「……んくっ――――ご馳走様でしたぁ」
上条「お粗末さん。体、少しは温まったか」
食蜂「ええ、たくさん食べたら汗かいてきちゃいました。……ところでぇ」
上条「うん?」
食蜂「このTシャツ、あなたが着替えさせたんですかぁ?」ピラッ
上条「え……あっ」
食蜂「見たところ一人部屋みたいだしぃ。ということは、制服脱がせたのもぉ///」チラ
上条「って、違うっ! これは一緒に住んでる女の子が――」
食蜂「一緒に住んでる、って、あなたも学生ですよねぇ?」
上条「い、いやっ、そのっ、同棲ってわけじゃなくてだな。たまたま親戚の子が遊びに来てて」
食蜂「私の察知力甘く見ない方がいいですよぉ? ホラ、ベッドの下に長い銀髪が何本か」ジト
上条「まじで本当なの!なんです!なんだよ三段活用! 何なら後で電話番号教えるから確かめてくれても――」
食蜂「もぅ、そこまで必死に言い訳しなくてもいいのにぃ」クス
――ジャアアア
食蜂「……名前」ボソ
上条「うん? 何か言ったか?」ゴシゴシ
食蜂「あなたの名前、聞かせてください。危ういところを助けてもらったんですし」
上条「って、あれ、さっきお前、確か……」ジャアア
食蜂「……」ジー
上条「ま、まぁいいか。んじゃ改めまして、上条当麻だ、よろしくな」
食蜂「カミジョウトウマ、さん。どう書くんですかぁ?」
上条「ええっと。上下の上に、憲法第一条の条、当選確実の当、麻婆豆腐の麻」カチャン
食蜂「……最後の説明はちょっとおかしくないですかぁ~?」
上条「通じりゃ問題ない。ところで、お前の方は?」カチャン
食蜂「……あ、私……私は」
食蜂(……よくよく考えてみると)
食蜂(向こうから尋ねてきたのってこれが初めてね)
食蜂「常盤台学園二年、食蜂操祈っていいますぅ☆」
上条「へぇー、ショクホウか、変わった名字だな」
食蜂「そうですかぁ? 学園都市にはもっと変わった名前の人たちもたくさんいますよぉ?」
上条「じゃあ、俺のクラスは意外とまともな方なんかな。ちなみにどういう字書くんだ?」
食蜂「ショクホウは食べる蜂と書いてぇ、ミサキは操るに祈るって書きま~す」
上条「なるほどな、一度覚えたら忘れなそうだ」ウンウン
食蜂(……自己紹介、これで二度目なんですけどぉ)ウルウル
上条「そういや、常盤台っていえば、御坂のやつもそうだったよな」
食蜂「……っ」
上条「あれ、その反応、もしかして知り合いか? 友達同士とか」
食蜂「え、ええ、そんなところですねぇ」
上条「そっか、まぁ知らないわけないか。あいつも学園最強、レベル5の一人だもんな」
食蜂(……ちょっとぉ。なんで御坂さんのこと知ってるくせに同じレベル5の私のこと知らないわけぇ?)ブスゥ
寮監『わかった、そういう事情ならやむを得まいな』
食蜂「すみません。連絡が遅くなってしまって」
寮監『いや、大事に至らなくて何よりだ。ああ、減点はないから気にするな。ルームメイトには伝えておこう』
食蜂「はい、ありがとうございます」
寮監『その代わり今日はしっかり休んで、明日には寮に戻るように。タクシー代ならこちらで持つ』
食蜂「わかりました、必ず」
寮監『それじゃ、お友達によろしくな。お休み』
食蜂「はい、寮監様、お休みなさい」
――ピッ
食蜂「そういうワケでぇ、今夜はお世話になりますぅ、上条先輩☆」
上条「構わないけど、疑われなかったか?」
食蜂「いいえちっとも、日ごろの信頼力の賜物ですよぉ」ニコ
上条「23時か、んじゃそろそろ」
食蜂「ええ、ちょっと恥ずかしいけどぉ、一緒のベッドで」チラ
上条「んなワケありません。隣の部屋に友達が住んでるから、俺はそっちに泊めてもらうよ」
食蜂「……えっ」
上条「嵩張るから布団二人分も用意してないんだ。ベッドなら気にしないで使ってくれ」
食蜂「で、でも、いつもはどうしてるんですかぁ? さっき女の子が遊びに来てるみたいなこと、言ってたじゃないですか」
上条「ああ、そのときは浴室の湯船で寝てる」
食蜂「……」
食蜂(さ、さすがにそれはぁ、冗談力がきついんじゃないかしらぁ?)ヒク
上条「基本、家の物は何でも使っちゃっていいから。シャワーは、熱が完全に下がるまでやめた方がいいと思うけど」
食蜂「あ、あの、本当に行っちゃうんですか?」
上条「初対面同然の男と一つ屋根の下で寝るとか不安だろ? その、あんなことがあったばかりだしさ」
食蜂「……っ」
『んで、てめえも白目剥いて泡吹きてえクチかぁ?』
『ひゅーっ! すっげ、この体で中学生かよ!』
上条「そっちみたいに寮監なんていないけど、ここ七階だし各フロアに監視カメラもついてるから、鍵とチェーンさえかけとけば」
食蜂「だ、駄目ぇ」ヒシッ
上条「大丈夫――って、食蜂?」
食蜂「そ、そんなの何の役にも立たないわよぉ。能力使われたら一巻の終わりじゃなぁい」グスッグス
上条「い、いや、何も泣くことはねえっつうか」アセアセ
食蜂「……うぅうぅ」フルフル
上条「……ま、まいったな」
――バタン
食蜂「……ぁ」
上条「ただいま、掛布団だけ借りてきた」
食蜂「……あの、その」
上条「んじゃ、俺はこっち側で寝るから」
食蜂「ご、ごめんなさい。わがまま言っちゃって」ショボン
上条「いや、俺の方こそ気が利かなかった。襲われた上に風邪引いてんじゃ弱気にもなるよな」
食蜂「……能力さえ使えれば、何も怖くないんですけど」
上条「あぁ、そういえば常盤台って、全員がレベル3以上だよな」
食蜂「でも、私、何でか使えなくなっちゃったみたいで」
上条「へ? 使えなく?」
食蜂「最初は単に風邪のせいかと思ってたんですケド、熱が下がっても無理みたいで」グス
上条「……あー」ポリポリ
食蜂「……上条さん?」
上条「食蜂ごめん。それ、十中八九俺のせい」
食蜂「……幻想殺し」
上条「文字通り無能力ってやつだな。炎でも電撃でも念動力でも、触れただけで打ち消しちまう」
食蜂「……言われてみれば、都市伝説サイトにそんなのがあったような」
食蜂(っていうかぁ、本当にそんな能力を持ってるんだったら)
食蜂(何でこんな貧乏臭い寮に住んでるのかしらぁ? 研究者がこぞって出資しそうなものなのにぃ)
上条「ただ、部屋の中で使うこと自体問題ないはずなんだよな。もし俺に対して能力を使ったってんなら、話は別だけど」
食蜂「」ギク
上条「さっき、俺にリモコン向けてたよな。もしかして、あの行動も能力発動に関係してるとかか?」
食蜂「……抜けてるように見えて、意外と察しがいいんですねぇ」
上条「コラコラ、仮にも先輩に向かって抜けてるはないだろ」
食蜂「てへっ、ごめんなさぁい」
食蜂(そっか、そっかぁ。やっぱ消えたわけじゃなかったのねぇ)パァァ
上条「ところで、お前の能力はどういう?」
食蜂「ええっと、詳しく説明すると長くなるんですけどぉ」
食蜂(真正面から向けちゃった以上言い逃れは無理よねぇ。まさかそんなふざけた能力があるなんて思わなかったし)
食蜂(出来れば隠しておきたいけど、データベースで調べられたら一発でバレるし)フゥ
食蜂「簡単にいえば精神干渉ってヤツです。相手に自分の意図した行動を取らせたりできるんですよぉ」
上条「……それって、どんなことでもか?」
食蜂「ええ、仲の良い友人同士を仲違いさせることだって朝飯前ですよぉ」エヘン
上条「……そっか、そりゃすげえな」
食蜂「……ぁ」ズキン
食蜂(い、いくらなんでもたとえが悪すぎたかしら。つ、ついいつもの調子で)ダラダラ
食蜂(ま、まぁでも、軽蔑されるのは慣れてるしぃ? 今さら気にすることも)
上条「それじゃ、照明消すぞ」
食蜂「……は、はい」
――パチン
上条「んじゃあ、お休み」
食蜂「……あ、あのぉ」
上条「……うん?」
食蜂「えっと、訊かなくていいんですかぁ?」
上条「何を?」
食蜂「その、さっき上条さんに何をしようとしたのか、させようとしたのか」
上条「……訊いてほしいのかよ?」
食蜂「……っ」ビク
上条「……」
食蜂「……やっぱり怒ってますぅ?」
上条「なんてな」フッ
食蜂「……え」
上条「わざわざ自分で掘り返したってことは、少なからず後ろめたさを感じてんだろ?」
食蜂「……さ、さぁ、どうでしょうか」ギク
上条「前後の状況を考えれば、そういう能力を使うのが日常的なら、理解できなくもない行動だ。反省してんなら責める気はねえよ」
食蜂「……へ、へぇっ、大人なんですねぇ、上条さんって」
上条「棘のある言い方だな。もしかして詰ってほしかったのか?」
食蜂「そ、そういう風に聞こえたなら、謝りますけどぉ」
上条「んじゃ、その話はおしまいだ。あまり深く考えんなよ」
食蜂「……」
食蜂(やっぱり、無理だったわねぇ。薄々わかっていたことだけど)
食蜂(私ってばぁ、思い通りに誘導できない人が――どうにも我慢ならないのよね)ヒヤ
食蜂「……もう寝ちゃいました?」
上条「……寝てない、つか、いい加減寝ないとぶり返しちまうぞ」
食蜂「だ、だってぇ、先に寝たら先輩に襲われちゃったり――」
上条「やっぱ隣の部屋に行くわ」ムク
食蜂「う、嘘うそっ! 冗談よぉっ!」アセアセ
上条「……お前って、意外と難儀な性格してんな」ハァ
食蜂「わ、悪かったわねぇ」ムス
上条「そんで? まだ何か訊きたいことでも?」
食蜂「んもぅ、機嫌治してくださぁ~い」
上条「訊きたいことでも?」
食蜂「だ、だからぁ、何であの時私を助けたのかなぁって」
上条「……そりゃ、いったいどういう意味だ?」
食蜂「だってあんなに人数差があったんだから、あなたが返り討ちに遭うリスクだってあったわけでしょう?」
食蜂(……そうなのよねぇ。他の人が誰も助けに入ってこなそうな状況でも、この人ってば)
上条「んー、まぁ……そうだな」
食蜂「それにさっきのあなたの説明からするとぉ、幻想殺しって能力者以外には通用しない能力なんですよねぇ?」
上条「ああ、そう思ってもらって構わない」
食蜂「にもかかわらず助けに来たってことは、何か見返りとか欲しかったんじゃないのカナーって」
上条「……」ハァ
食蜂「さすがに正式なお付き合いとかは無理ですけどぉ、その、デートとかキスくらいなら」
上条「いらねえよ、んなもん」
食蜂「してあげても――ん」
食蜂(んなもん?)カチーン
上条「そういうのは恋人とでもやってくれ。お前なら選り取り見取りだろ」
食蜂「……ず、随分な口の利き方ねぇ」ヒク
上条「義理のデートやキスなんざチョコせがむより痛いっつうの。金積まれたってごめんですよ」
食蜂「ハ、ハァーーッ? ハァーーー?? わ、私これでも男子受けすっごくいいんですけどぉッ?!」
上条「そーいうめんどいイベントはとっく間に合ってんの。んじゃ、お休み」ガバッ
食蜂「んな……ぁ」ヒク
食蜂(な、なななっ、何よっ、何なのよコイツぅ!)
食蜂(あ、あなたの能力なんて穴だらけじゃない!)
食蜂(それこそ私の支配力なら、ボッコンボッコンのギッタンギッタンにできるんだからぁ!)
食蜂(どうせあなただって、表向きはどう取り繕ったところで心の中ではえっちぃことばかり考えてるんでしょ!)
食蜂(そうよ、そうに決まってる! 私に近づいてくるやつなんてみんな)
食蜂(――――み、んな)キュ
『ばぁか、お前が救われたんなら、それだけで俺の帳尻は合ってんだよ』
食蜂「……う~っ」ボフッ
食蜂(う~~っ、う~~~~っ)ボフッボフッボフッ
――翌朝
上条「……なんでうちに新聞が入ってんだ? 取ってねえんだけど」
食蜂「さぁねぇ、うっかり販売員さんが入れ間違えちゃったんじゃないかしらぁ」パラ
食蜂(寝すぎたせいか、結構早く目が覚めちゃったわねぇ)ファ
上条「……」ジー
食蜂「……な、なんですかぁ?」キュ
上条「能力、消えてなかったみたいだな」フッ
食蜂「……だ、だから?」
上条「別に、そんだけ」キュッキュ
食蜂「も、文句があるならはっきり言ったらどうなんですかぁ?」ジト
上条「文句なんてねえよ。ただ、元気になって良かったなって」ゴックンゴックン
食蜂「……は」
上条「昨日のお前、それこそこの世の終わりみたいな面してたからさ」
食蜂「……朝食って、これがぁ?」
上条「お前、実はほんっとにいい性格してんだな」
食蜂「だってぇ、牛乳と食パンとスクランブルエッグだけって、いくらなんでも栄養偏り過ぎですよぉ」
上条「食べないよりかは脳が働くだけずっとマシですよ」
食蜂「だとしてもぉ、せめてサラダとか果物くらい、ビタミン力の欠如じゃないですかぁ」ブーブー
上条「格調高いお嬢様校のぶれいくふぁすとと一人暮らしの貧乏学生の料理と比べんのが間違ってると私こと上条は思うのですが?」
食蜂「まぁ、無い袖は振れないですね。……あ、ケチャップ取ってください」
上条「ほらよ」トン
食蜂「……」パカッ
食蜂「んー」ニュルニュルニュルニュル
上条「って、かけ過ぎかけ過ぎぃ! あんま無駄にすんなよ!」
食蜂「み、みみっちぃにもほどがあると思うんですケドぉ」
食蜂「タクシー、今到着したみたいです」ピッ
上条「わかった、忘れ物すんなよ」
食蜂「それじゃあお暇する前に――はい、どうぞ」
上条「……うん? マネーカード? って、限度額二万!?」
食蜂「迷惑料とシャツのお代です。破れたブラウス着ていくわけにもいかないし」
上条「んなもん一枚千円もしねえよ。お古だしタダでやるって」
食蜂「……あなたってばいちいち勘に障る人ですねぇ。私は誰かに借りを作るのがすっごく嫌いなんですけどぉ?」
上条「だったら、今度会った時に昼飯でも奢ってくれりゃいい。それでチャラな」グイ
食蜂「あ、ちょ、ちょっとぉ!」パシ
食蜂(な、何も無理矢理返すことないじゃない! 調味料ケチるくらいビンボーしてるくせにぃ!)ムカムカ
上条「学生のうちにちったぁまともな金銭感覚身につけとけ。じゃないと、後々苦労するぞ」
食蜂「……き、昨日の今日で保護者気取りとかぁ、いー加減ウザいんですけどぉ」ピキピキ
上条「へいへい、どう思おうが食蜂さんの勝手ですよー。今さらこの性根変えられるとも思えねえし」ヘラヘラ
食蜂「……ぐっ」ギリ
上条「ほらほらぁ、下にタクシー待たせてるんですよねぇ? 時はぁ、金なりですよぉ?」
――ブオオオオオオン! ――プップーッ! ――キキィッ!
運転手「ヒャッハーーッッ!!」ギュイイ
食蜂「ホントムッカつくっ! 何なのよぉ、最後のワザとらしい喋り方わぁ! あれで似せてるつもりなのぉっ!?」ドンッ
食蜂(ど、どうにも気が収まらないわぁ。一度目に物見せてやらないと)フシューフシュー
食蜂(そうよ、目につくスキルアウト片っ端から洗脳して襲わせちゃえば、私の恐ろしさだってわかってくれるわよねぇ)ニタァ
運転手「オラオラどけどけ道を開けろぉーッ! 学園五位様のお通りだぁッ!」グォォォン
食蜂「……この分だと、五分も経たずに付きそうねぇ。料金も安くなるし一石二鳥」ボソ
食蜂(って、運賃は寮持ちなんだから気にする必要なんてぇ)
上条『――時はぁ、金なりですよぉ?』
食蜂「あ゛ぁーもぅっ! ん゛ッも゛ーぅッ!!」ゲシッゲシッ
運転手「背中にぃ! 衝撃がぁ!」ガックンガックン
警備員「88キロの速度オーバーを確認。免許取り消しですね」カキカキ
運転手「……え、…………え?」ボーゼン
取り巻き「おはようございます。女王」
食蜂「ええ、おはよう」キラキラ
食蜂(街中ブッ飛ばしてたら、何かすっきりしちゃった☆)テヘペロッ
取り巻き2「昨日は寮に戻られなかったとか。私とても心配しておりました」
食蜂「ええ、ちょっと出先で熱が出ちゃってぇ。近場の友達の家に泊めてもらったの」
取り巻き3「まぁ、そうだったのですか? それで、お体の方は」
食蜂「この通り、ちゃんと回復したわよぉ」ファサ
食蜂(……一応、付きっきりで看病してくれたのよねぇ)
食蜂(数々の無礼を許したわけじゃないけどぉ、そう、借りは返さないと、人としてダメよねぇ?)テレ
――常盤台中学庭園
食蜂「……んー、麗らかな午後は紅茶に限るわねぇ」フゥ
取り巻き1「あの、女王、お伺いしたいことがあるのですがよろしいですか」
食蜂「あら、なぁに?」
取り巻き1「その、朝方に女王が仰っていたお友達って、女性ですよね?」
食蜂「当然でしょう? 男性の部屋に泊まるなんてぇ、私には怖すぎて無理っていうかぁ」テレ
取り巻き1「そ、そうですよねぇ」
取り巻き2「だから言ったでしょう? 女王が殿方と密会だなんてありえないって」
取り巻き1「ちょ、ちょっと。私はただ確認したかっただけで、決して疑っていたわけじゃあ……」
食蜂「確認って、噂の出所があるのぉ?」ピク
取り巻き3「何でも1さんのクラスメイトが、昨日街で女王に似た人を見かけたとかで」
取り巻き2「しかも男性に背負われていただなんて。私は絶対に他人の空似だって言ったんですけど、この子が――」
取り巻き1「で、ですからそれはぁ」アセアセ
食蜂「……くすん。私って、自分で思ってるより信用力なかったのかしらぁ」
取り巻き3「そ、そのようなことっ! ほらっ、1さんも早く謝罪なさってっ」
取り巻き1「も、申し訳ありませんっ! 私の失言でした!」
食蜂「ううん、誤解が解けたならいいの。さ、顔を上げてちょうだい」
取り巻き1「あ、ありがとうございますっ!」
食蜂(――さて、と。1のクラスは)
食蜂「――というわけでぇ、話した相手全員の誤解を本日中に解いておくこと。わかった?」
女子学生「……ハイ、ワカリマシタ」コクン
――ピッ
女子学生「あ、あれ、私、こんなところで何を――」キョロキョロ
食蜂(修正完了っ、と)スッ
食蜂「人の口に戸は建てられないとはいうケド、あまり手間をかけさせないで欲しいわぁ」
食蜂(……上条さんと噂になること自体は、うん、あんまり嫌じゃないけど)
食蜂(どんなペナルティが課されるかわからないものねぇ)
???「そんなとこで何やってんの?」
食蜂(……っ)クルッ
食蜂「あ、あらぁ、御坂さぁん。御機嫌よう」ニコ
御坂「……今校舎に走ってった子。あんた、あの子に何かしなかった?」チラ
食蜂「さぁ、どうだったかしらぁ」
御坂「……はぐらかすんなら肯定と受け取るわよ?」
食蜂「ご自由に。っていうかぁ、私とあなたの仲じゃ教えてあげるほどの理由力はないと思わない?」
御坂「……ったく、そんなおっかない能力をよくも平然と使えるわよね」
食蜂「おっかない――ねぇ」クス
御坂「……何がおかしいの?」
食蜂「だって、あなたの代名詞である超電磁砲(レールガン)にしたって、人を簡単に壊せるでしょう?」
御坂「少なくとも、私はあんたみたいに能力の濫用はしてない」
食蜂「その心がけはご立派ですけどぉ、個人の価値観を他人に押し付けるのはどうかしら?」
御坂「個人の価値観、ですって? 学園都市の能力者みんなが持つべき当然の心構えよ」
食蜂「……さっすが、優等生の言うことは違うわねえ」クスクス
御坂「いやに挑発的じゃない。言いたいことがあるならはっきり言ったらどう?」
食蜂「それじゃあ遠慮なく。学園内では上手く猫被ってるみたいだけどぉ」
食蜂「外では結構派手にやってるみたいじゃない?」
御坂「……っ」
食蜂「ふふふっ、私の情報力、甘く見るとそのうち火傷しちゃうわよぉ?」
御坂「他人の動向勝手に探るとかっ、あんたの辞書に慎みって文字はないわけ?」
食蜂「あらぁ、御坂さんなら、無知でいることの恐ろしさを十二分に理解っているはずでしょ?」
御坂「――っ! あんた、まさかっ!」
食蜂「って、ど、どうしたのぉ? 怖い顔しちゃって」キョトン
御坂「…………」
食蜂「…………」
御坂「……な、何でもないわよ」プイ
食蜂「あら、そぉ? それじゃ、私はこれで」クル
――とある高校
小萌「――というわけで、人間の体には常に電流が流れているわけですね」カッカッ
小萌「この電流のことを生体電流と呼びます。100~200マイクロアンペアという、人間が感知することができないくらいの微弱な流量です」
上条「あの、先生」ガタ
小萌「はい、上条ちゃん。質問ですか?」
上条「いや、精神系能力者も人間に対して様々な命令が出来るんですよね。それって」
小萌「これは、大変いい質問ですね。特別ポイントを5点、差し上げますです」
上条「おっしゃっ!」グッ
青ピ「ずるいなぁカミヤン。ごくたまーに見せるちゃんと授業聞いてますアピール、あざといわぁ」
上条「黙れ青髪、普段だってちゃんと聞いてるっつうの!」
上条(入院に継ぐ入院で出席日数ボロボロだしな、稼げるところで稼いでおかないと)
小萌「はいはい二人とも、まだ授業中ですよー」
上条「あ、す、すんません」
小萌「ではでは、ざっくりと説明しちゃいましょうか」
小萌「系統別の専攻をしている人以外にはあまり知られていないことなのですが」
小萌「精神系能力者は、系統的には発電系能力者の内に含まれるです」
土御門「ええ? いや、しっかし、電撃と洗脳とじゃ大分かけ離れているような気がするにゃー」
小萌「確かに用途は全く異なります。ですけど、電流を用いて対象に干渉する点は一致してるですよ」
吹寄「それって要するに、精神系の能力を使用する際にも電流を放出しているってことですか?」
小萌「その通りです。ただし、その強さは極々微弱なものになりますけど」
吹寄「ああ、なるほど。先ほど体内にも微弱な電流が流れていると」
上条「つまり、精神系能力者は疑似的な生体電流を作り出して相手の脳を騙す、そんな感じすか?」
小萌「おおっ、上条ちゃん、今日は妙に冴えてるですね」
青ピ「なんやあ、明日は雪でも降るんとちゃうん?」
小萌「さて、お次は発電系と精神系能力が分かれている理由について説明しましょう」
小萌「まず、発電系能力は基本的にどれだけ強力な電撃を操れるかでレベルが決まります」
小萌「AIM拡散力場を展開して電流を組成し、大気に電位の高低差を作り出したり」
小萌「それに伴い発生する磁気を利用して質量に加減速をもたらすことが可能です」
上条(なるほどな。その二つを並列利用したのが御坂の超電磁砲か)
小萌「一方で、精神系能力は電気をどれだけ精緻に制御できるかに重きが置かれます」
小萌「言い換えれば、電力を極々微弱になるまで減衰させ、広範に拡散することが出来る人ほどレベルが上と見なされます」
上条「そっか。共通しているのは電流を使うことだけで、目指す方向は真逆なんすね」
青ピ「それやと、発電系能力者に精神系能力を使うことは」
小萌「ええ、まず無理です。レベル3以上の発電系能力者は微弱な電磁障壁を体に纏っていますから」
土御門「精神系能力で使う電流くらいじゃ、届く前に阻害されちまうってわけか」
小萌「どちらも高度な演算能力が必要であることに変わりはないんですけど、相性は最悪といって――」
――キーンコーンカーンコーン
小萌「っと。それじゃあ、今日の授業はここまでにしますね」
――廊下
上条「小萌先生」タッタッ
小萌「はいはーい、何ですかぁ――って」クル
上条「ども」
小萌「上条ちゃん。授業後にも押しかけて来るだなんて今日は一段と熱心ですね。先生はとても嬉しいのです」
上条「ああいえ、これから聞きたいことは授業とあまり関係ない、とも言い切れないかもですけど」
小萌「あら、いったい何なのです?」
上条「小萌先生って、心理学を専門に学んでいましたよね?」
小萌「はい、そうですよ。専攻しているのは社会心理学・環境心理学・行動心理学・交通心理学などですねー」
上条「それじゃあ、さっき言ってたような能力の研究機関にも顔を出したりしてるんですか?」
小萌「さっきって……あぁ、精神系能力ですか? 一応、何人かの子と面識はありますけど」
上条「じゃ、じゃあ――」
上条「その中に食蜂操祈って女の子、いたか覚えてます?」
小萌「……え」
上条「……先生?」
小萌「――あの、上条ちゃん」
小萌「覚えて、いないんです?」
上条「……え? 覚えてないって」
小萌「というか、その質問以前に、上条ちゃんは特別補習をご所望です?」
上条「って、何でいきなりそんな話に!?」
小萌「何でも何も、食蜂ちゃんは学園都市第5位の超能力者です。どちらにしても名前を知らないのは問題アリアリです」
上条「げっ!? 第五位って、あの子レベル5だったんですか!?」
小萌「え、ええ。今現在の彼女は『心理掌握(メンタルアウト)』と呼ばれる、精神系最強の能力者なのです」
上条「心理掌握……」
上条(……単なる箱入りお嬢様じゃなかったのか。道理で、妙にふてぶてしいと思ったんだよ)
上条「ん、今現在?」
小萌「……本当に、記憶にないのです? 確かに当時は今よりレベルも低かったですけど」
上条(……そうか。やっぱり記憶を失う以前に面識が)
上条「いや、すんません。最近どうも忘れっぽくて」
小萌「……まだ若いのに何を言ってるですかぁ」
上条「ホント、面目ないっす」
小萌「謝ることはないです。上条ちゃんは常々忙しそうですし、そういうこともあるかもですね」フゥ
上条「……先生は、彼女とは親しいんですか?」
小萌「ええ、それなりには。ここのところ『発火能力(パイロキネシス)』の研究でご無沙汰ですけど、研究施設では顔馴染みでしたよ」
上条「そ、そうなんすか。それで、その、どんな子でした? 性格とか」
小萌「……あのぅ、上条ちゃんならわかってくれると思いますけど」
上条「……?」
小萌「教師が生徒に対し、特定の個人の印象を植え付けるような発言は出来ないのです」キッパリ
上条「ああ、そっか。そりゃそうだ」ポリ
小萌「それで、何で食蜂ちゃんのことを? 改めてお友達になったんです?」
上条「い、いえ、友達っていうか、まだ顔見知りってレベルなんすけど」
小萌「どんな子か気になるというのであれば、実際に会って話すのが早いと思いますけど」
上条「それは、そうなんですけど」
小萌「多分ですけど、上条ちゃんが会いたいと言えば会ってくれますよ」
上条「……え、マジですか?」
小萌「はい、何でしたら連絡をつけてあげましょうか?」
上条「……い、いやぁ、そいつはさすがに、問題があるといいますか」
上条(つか、相手はお嬢様校の女の子だぞ? 仮にも教師が積極的に会うことを勧めるのは)タラ
小萌「そうですか。まぁ、あんまり教え子ばかり贔屓するのもいただけないかもですね」
上条「いえ、すんませんした。変なことで呼び止めてしまって」ペコ
小萌「いえいえー。それじゃあ、また帰りのHRでです」ヒラヒラ
――バス停前
取り巻き2「――では、やはり高位の能力者なのでしょうか」
取り巻き3「そうに決まってますわ。何といいましても超能力者たる女王と親交があるんですもの」
食蜂「あら、あなたたち、何の話をしているのぉ?」
取り巻き1「ああ、女王。これからお帰りですか?」
食蜂「ううん、まだよぉ? 今日は検診日だから、研究所に顔を出してから帰るわ」
取り巻き1「そうでしたか。相変わらずお忙しいんですね」
食蜂「もう慣れたけどね。それで?」
取り巻き3「いえ、外に住んでいるという女王のご友人への興味が尽きませんで」
食蜂「友人って……あぁ」
取り巻き2「はい、その正体をあれこれと推測していたところなのでございます」
食蜂「正体って、大袈裟ねぇ。何てことない普通の人よぉ?」
取り巻き1「普通、ですか? 能力者では……」
食蜂「ぶーぶー。れっきとした無能力者(レベル0)」
取り巻き2「え……」
食蜂「あら、どうかしたの?」
取り巻き2「あぁ、いえ、その……少し意外だったものですから」
食蜂「そぉ? 私、能力至上主義者ってつもりは欠片もないけれど」
取り巻き2「も、もちろんです。不快に思われたのならお詫びを」
食蜂「別に、気にしてないケド」
食蜂(厳密にはあの人、無能力者とも言い難いものねぇ)
食蜂(ああいう特異な能力じゃ、学園都市の能力判定ではどうやったって検出されないでしょうし)
食蜂(あの人のよさを物差しで測ろうとするなんて、おこがましいわよね)クス
取り巻き3「あ、あの、差し出がましいことをお聞き致しますが、その方とはいったいどのような経緯で」
食蜂「知り合ったかって? たまたま街で出会っただけの関係だけど」
取り巻き3「ああ、やはりそうでしたか」ホッ
食蜂(――――やはりぃ?)ピク
取り巻き3「学園都市第五位の女王が、無能力者と親密な関係を持つはずがありませんものね」
食蜂「……」イラ
取り巻き2「そうですわね。こう言っては何ですけど、バランス的にミスマッチと申しますか」
食蜂「……」ゴソゴソ
――ピッ
取り巻き1&2&3「」ビクン
食蜂「……そういえば二人とも、最近やたらと体重気にしているみたいねぇ」ンー
食蜂「たまにはバスに乗らず走って帰りなさい――全速力で」ニッコリ
取り巻き2&3「――ハイ、カシコマリマシタ」ダッ
――ピッ
取り巻き1「あ、あら? に、2さん? 3さんも、いったいどちらへ!?」アワアワ
食蜂「さぁ? 帰りのバスが待ちきれなかったんじゃなぁい?」
取り巻き1「それでは女王、これで失礼いたします」ペコ
食蜂「ええ、また明日ね」フリフリ
――ブロロォォォ
食蜂(あの二人、まだ大分後ろを走ってたわねぇ。寮に到着するまであと30分ってとこかしら)
食蜂(まったくぅ、会ったこともない人を好き勝手に貶すなんてダメダメなんだゾ☆)
食蜂(……まぁ、確かにあの人はがさつで依怙地で忘れっぽくて、欠点を挙げればキリがないけど)
食蜂(あれで結構頼りがいはあるし、人並み以上に気遣いもできるし)
食蜂「……」ハァ
食蜂(体調不良だったとはいえ、昨日はらしくなくテンパっちゃったわぁ)
食蜂(いずれ距離を縮めたいとは思っていたけど、あんな形で果たされるのは心外なのよねぇ)
食蜂(記憶が消せないのなら、せめて幻滅されてないか知りたいところだけど)
食蜂(……んー、幻想殺しなんてものがあるんじゃ頭の中を覗くのも無理だしぃ)
食蜂(何よりまた忘れられちゃったら……うぅ、あんにゅいー)グテー
――研究所
研究員A「ふむ、概ね許容範囲内の数値ですが、脳波に若干の乱れが見られますね」カタカタ
食蜂「昨日熱出してぶっ倒れちゃったから、そのせいじゃない?」
研究員A「そうですか。とすると、大脳辺縁系が活性化されているのもその影響かな」チラ
食蜂「私の頭の中を覗き見ながら話すならぁ、あなたもそのヘルメットを取ったらどう? フェアじゃないしぃ」
研究員A「いやいや、誰だって考えていることを盗み見られるのは嫌なものでしょう」
食蜂「……それはつまりぃ、私みたいな存在自体が誤りってことかしらぁ?」
研究員A「まさか、とんでもない。あなたは非常に希少価値の高いデータサンプルとして――」
食蜂「ハイハイ。じゃ、今日はこれでオシマイね」カパ
研究員A「――ッ! 電源を落とす前に外すのはやめてくださいと何度も」
食蜂「ああ、ノイズ拾っちゃうんだっけ。ごめんなさぁい、すぐ忘れちゃうのよねぇ」ペロ
研究員A「……集中力が散漫になりがちなのでしたら、精神安定剤を処方しますが?」
食蜂「結構ですぅ。私だってたまには思うがままに感情を発散したいの」
――コツコツ
研究員B『ね、ねぇ、あの子ってレベル5の』
研究員C『……へぇ、あれが噂の』
研究員D『ちょっと、あまり近づくと思考を読み取られ――』
食蜂(まさしく珍獣扱いねぇ)ンー
食蜂(まぁでも、遠ざけたい人を遠ざけておくには有効な方法だしぃ)
食蜂(こっちにしてみれば、学園都市の研究者の方がよっぽど化け物なんだけどねぇ)ガチャ
食蜂(……さて、と。とっとと着替えて帰らなくちゃ、病み上がりは無理できないし)キィ
食蜂(あっ、いっけない。予備のブレザー借りっぱなしだった――)
食蜂「――――」ドクン
食蜂「…………」トクントクン
食蜂「……はぁー……ふぅー」
食蜂「……早いとこ、忘れなきゃね」コツン
――バス亭前
食蜂「……あら、バスの時間過ぎちゃってる。次は――40分後ぉ?」
食蜂(まだ目に見える位置にいるならバックして戻ってきてもらうのにぃ)
食蜂「となれば、即席タクシーね」ピッ
――キキィーッ!
配送業者「…………」ボー
食蜂「ごめんなさぁい、ちょっと助手席お借りするわねぇ」バタン
配送業者「……ハイ」コクン
食蜂「常盤台学生寮前まで。そろそろ混雑してくる時間帯だし、くれぐれも安全運転でお願いね☆」
配送業者「ウケタマワリマシタ」
食蜂「……さてと、到着するまで読みかけの本でも――」ヴヴヴ
食蜂(あら? 何か鳴って――)ゴソゴソ
食蜂(ああ、携帯マナーにしておいたんだっけ)
食蜂「……んー、見たことのない番号ねぇ」
食蜂「でも、私の番号知ってる人なんて限られてるしぃ」ピッ
食蜂「はい、どちら様ですか?」
???『…………』
食蜂「……もしもしぃ? 切っちゃっていいのかしらぁ?」
???『……操祈ね?』
食蜂「……あら、私を下の名前で呼ぶってことはぁ」
???『anyway、まずはお礼から述べさせてもらうわ』
食蜂(……ふぅん、向こうからかけてくるとはねぇ)クス
食蜂「――ご無事で何よりです。体調の方は、いかがですか?」
???『お陰様で、こうして話をできるくらいには回復したわ』
食蜂「それなら何よりです。くれぐれもご自愛くださいね」
???『先だっては、随分と手間を取らせてしまったみたいね』
食蜂「気にしないでください。私と先輩の仲じゃないですか」
???『……率直に言って、意外だったわ』
食蜂「何がです?」
???『……私は、あなたには絶対好かれてないものだと疑ってなかったから』
食蜂「はっきり物を言う人って、基本的に嫌いじゃないですケド?」
???『but、……オリジナルの場合は』
食蜂『だからぁ、基本的に、って言ってるじゃないですかぁ』プン
???『indeed、……何事にも例外はあるものなのね』
???『それはそうと、込み入った話をしても問題ない?』
食蜂「私としては、そちらの方が心配なんですけどぉ?」
???『盗聴妨害機を使っているわ。あなた、今どこにいるの?』
食蜂「通りすがりの車の中ですケドぉ?」
???『走行中ってことね。悟られないように、顔の向きはそのままで』
食蜂「――何ですって?」
???『併走している車、及び後続車の確認をお願い』
食蜂「……っ」チラ
食蜂(……いない、わよねぇ。サイドミラーにも……うん、映ってない)ジィ
???『……尾行はなさそう?』
食蜂「何も見えませんけどぉ? これって新手の冗談ですか?」
???『……だと、良かったのだけどね』
――通学路
――ピピッ
上条(メールの着信か)ゴソ
上条「って、小萌先生?」
――from 小萌 16:24
『もし気が変わったらこちらにどうぞ。食蜂さんが所属する研究所の所在地です』
上条「……んー。ご丁寧に地図と電話番号まで」
上条(気軽に紹介してもらえるくらいには、親しかったってことなのかなぁ)
上条(不幸でならしている上条さんにあんな可愛らしい子と接点があったなんて、到底信じがたいんですが)
『それと先ほど聞き忘れたんですけど、シスターちゃんは今日お返ししてよろしいのです?』
上条「……そういや、昨日はひっさびさによく眠れたよなぁ」
上条「安い布団でいいから来客時のために一枚くらい買っとくかな。いい加減、ユニットバスで寝るのもきつい」
上条「考えてみると、廊下で寝るのも風呂で寝るのも、距離的にはほとんど変わらねえんだよなぁ」
上条(だったら、廊下と部屋にカーテンで仕切り作って、床にマットを敷いちまえば)
上条(昨日なんか女の子が隣で寝てても全然問題なかったし、インデックスさえ了承してくれるなら、試しても)
上条(……そういや食蜂のやつ、大丈夫かな。朝には元気になってたみたいだけど)
上条(でも、変に気遣うと返って襲われたこと意識しちまうかもしれないし)ウーン
上条(……あいつ、何となく御坂に似てんだよなぁ。ちょっと陰がある感じとか)
上条(小萌先生の話じゃ能力的にも被るところがあるみたいだし)
上条(……心理掌握、か。良くも悪くも使い方次第って感じはするけど)
上条(洗脳とか、ここの研究者なら真っ先に目をつけそうな能力だもんな。御坂みたく、クソみたいな実験に巻き込まれてなきゃいいけど>
上条(そうだな、前例もあることだし、それとなく何やってるか聞いてみるくらいは……ん)
土御門「いやぁー、待っちくたびれたぜよ、カミやん」
上条「……土御門? 待ちくたびれたってお前、何でわざわざ下で待ってんだ? 隣同士なんだから」
土御門「――寮だと少々都合が悪い、ちょっと付き合ってくれ」ポン
――河川敷
土御門「……ここなら、誰もいないな」キョロ
上条「ったく、なんなんだよ。んなところまで連れてきて」
土御門「壁に耳あり障子に目ありって言うだろ。警戒するに越したことはないんだ――よっと」ドサッ
上条「……まぁた厄介事ですか。つか、その無駄にでけえスーツケース、何が入ってんだ?」
土御門「後で教える。被害を最小限に食い止めるためにも、手を貸してほしい」
上条「……被害、ねぇ? んで、今度はどちらの魔術師サンがいらっしゃるんですか?」
土御門「子供みたいな拗ね方すんなって。先に言っておくと、今回狙われるのはお前さんじゃない」
上条「……狙われる? 何で未来形なんだ?」
土御門「実のところ、事態がどう転がるかはまだわからない。が、最悪の事態に備えて保険はかけて置きたい」
上条「……悪い、話が全然見えねえんだけど」
土御門「カミヤンの見込み通り厄介事だ。もしもの時は協力を仰ぎたいんだが、相手が納得してくれるかはまだ何とも言えん」
上条「……ああ、うん、なんつうか、あれだ」
土御門「うん?」
上条「お調子モンのお前が珍しくシリアスやってるって時点で、事態が拗れに拗れそうな予感しかしねぇ」ガックリ
土御門「おいおい、不穏なフラグを立てないでくれ。こちとら出来るだけ穏便に済ませたいと思ってるんだぜい?」
上条「当たり前だ。てか、上条さんにだって安息の日々は必要なんですよ?」ブツブツ
土御門「と、ゴネるだろうと思って、繚乱家政女学校監修リゾートの宿泊券(マッサージ付)を用意した」ピラ
上条「他ならぬ親友の頼みとあっちゃあ、協力しないわけにはいかねえな」キリ
土御門「……絵に描いたような手のひら返しだにゃー」
上条「メイドさんの手料理にマッサージ……男の夢だろ?」ビッ
土御門「さすがカミヤン、話がわかるぜい。ちなみに、ガーターベルトとフリルバンドは外せないにゃー」ビッ
上条「まぁ、ご褒美とメイド談義はさておいて――だ」
上条「あらましを手短に説明してくれるか」
土御門「……すまん、この借りはメイド見習いたちが必ず」
土御門「つい先日のことだが、学園都市内の研究施設からある装置が盗み出された」
上条「って、強盗窃盗は警備員の領分だろ? 俺一人じゃどうしようも――」
土御門「話は最後まで聞け。その持ち出された装置ってのが、試作品の洗脳装置(テスタメント)なんだにゃー」
上条「洗脳装置、って、どこかで……」
『我々は洗脳装置を用いてこれら基本情報を――』
上条(――そうだ! 妹達(シスターズ)のっ!)ハッ
土御門「俺も詳しいことはわからんが、要するに精神系能力者と同じことを機械で行うらしい」
上条「……脳内情報の強制インストール」
土御門「ああ、悪用しようと思えばいくらだって出来そうな代物だ。野心家なら喉から手が出るほど欲しがるだろうよ」
上条(――試作品、だ? あの実験のせいで御坂や妹達がどんだけ――)ギリ
土御門「お、おい、……カミヤン?」
上条「……何でもねえよ、続けてくれ」
土御門「で、下っ端の俺らは速やかにその洗脳装置を回収、それが出来ない場合は破壊する」
上条「……学園都市も何のためにあんなもん作ってんだかな。こういうトラブル招くのが目に見えてんじゃねえか」
土御門「あー、いずれ完成した暁には、俺たちに使うつもりなのかにゃー?」
上条「全然笑えねえ冗談だな」ムスッ
土御門「ま、まぁまぁ、そんなカリカリしなさんなって」
土御門(……大方、壮大かつ無駄なカモフラージュってとこか。尻拭いさせられてる身としては不愉快極まりない話だな)
上条「ところで、盗み出したやつの見当はついてるのか?」
土御門「実行犯は外の人間っぽいんだがな。んまぁ、そっちの方は俺たち実働部隊が処理するから問題ない」
上条「……へ?」
土御門「機械を使っての洗脳じゃあ、カミヤンの幻想殺しだって通じないだろ?」
上条「じゃ、じゃあ、俺は何をどうすりゃいいんだよ?」
土御門「カミヤンには、最悪のケースに備えて護衛してほしいやつがいるんぜよ」
上条「……護衛?」
土御門「つまりだな、洗脳装置は確かに厄介な代物だが、一つわかりやすい弱点があるんだ」
上条「なんだ?」
土御門「上書きが出来ちまうってこと。幻想殺しが通じなくても、強力な精神系能力者ならいとも容易く洗脳を解ける」
上条「……裏を返せば能力者が狙われる可能性もあるってことか? だけど、学園都市にいる以上は安全だろ?」
土御門「確かに、三基の衛星に多重セキュリティ、屈強な警備員や風紀委員、半端な奴じゃ返り討ちに遭うだろうな」
上条「そんだったら」
土御門「だが、それも相手が外部犯だけだったらの話だ」
上条「って、まさか、学園都市に首謀者がいるってのか?」
土御門「獅子身中の虫がいないと決めつけるのは早計だ。理事会の網を掻い潜って悪辣な計画を立てている勢力がいたら?」
上条「……いや、だけど、学園都市に被害が出そうなら、『0930事件』の時みたく上が動くんじゃ」
土御門「……アレイスターは、あらゆる意味で信用しない方がいい。やつは自分の目的以外にはてんで関心を持たんぜよ」
上条「……ったく、どいつもこいつも」ボリボリ
土御門「よしんば動いたとして、先の侵入者騒動以上の被害が出ないとも限らない。そうなれば今度こそ――」
上条「住人に多くの犠牲者が出る、か」
土御門「とりあえず要点はこんなとこだ。現時点ではまだ確定情報が少ないんでね」
上条「護衛対象者と協力者の詳細は? 魔術サイドは当然不参加なんだろ?」
土御門「まぁな、ステイルは禁書目録が絡まないと動いてくれねぇし、神裂ねーちんの耳に入ったらそれこそ血の雨が降るぜよ」
上条「……だろうな」ハァ
上条(正義感の塊みたいなあいつのことだ。こんな機械を研究開発していること自体許せねえだろうな)
土御門「具体的には、大能力者以上の精神系能力者が護衛対象。身元の確かな警備員と風紀委員、裏からは暗部も協力する手はずになっている」
上条「……外来VIP並の扱いじゃねえか。ぶっちゃけ、俺って必要あんの?」
土御門「だから、最初に保険だって前置いただろ?」
上条「ま、その分気楽に構えていいってことか。……んで、俺が担当するやつの名前は?」
土御門「話の流れから察しはつくだろ? 一番強力な精神能力者さ」
上条「つまりは、最もさらわれたらまずい能力者か」
上条(……ん、ということは)
土御門「結構な有名人だぜい。学舎の園、常盤台中学二年、学園都市第五位の超能力者」
上条「――食蜂操祈、か」
土御門「当然、カミヤン以外にも護衛は手配されているはずだ。護衛対象自身が強力な能力者だし、戦力面に不安はない」
上条「怖いのは搦め手か。不測の、そのまた不測の事態のための緊急要員ってわけだ」
土御門「正直、カミヤンの出番がないに越したことはないんだが」
上条「……あんまり考えたくないんだけど、守りきれなかった場合はどうなっちまうんだ?」
土御門「一番ヤバイのは、食蜂が拉致られて盗み出された洗脳装置で洗脳されるってパターン」
上条「……あー、操られた食蜂が向かってきた能力者をことごとく洗脳、か。世にもおぞましいコンボだな」
土御門「広範囲で洗脳させられるような羽目になったら事態収拾は不可能に近い。最悪、第五位の殺害許可が下りることだってあり得る」
上条「……っざっけんな! んなことにさせてたまっかよ」
土御門「さっすがカミヤン、頼もしい啖呵だにゃー」
上条「……ただ、実際どうやって護衛すんだ? 学舎の園は男子禁制だし、接点が少なすぎるだろ」
土御門「そこで物は相談なんだが――カミやん」
土御門「女装とかやってみたくないか?」
上条「死んでも断る!」
土御門「やっぱりダメか」
上条「正体がバレたら三回は余裕で殺される自信があるんですが!?」
土御門「と、ちょっぴり空気が和んだところで、このスーツケースの登場だぜい」
――パカッ
上条「……うん? これ、タキシードってやつか」
土御門「燕尾服ともいうぜよ」
上条「……まさか、これを俺に着ろっていうのか?」
土御門「渋る舞香の機嫌を取って、苦労して手に入れた一品なんだぜい? 執事とメイドの禁断の恋プレイとか、くぅぅっ、堪らんぜよ!」
上条「……別に禁断でも何でもないだろそれ。単なる職場恋愛じゃねえか」
土御門「わかってないなあカミヤン。それを兄妹でやることに意義があるんだろ?」
上条「……いい加減、シスコン軍曹から曹長に格上げしとくか」
土御門「軍曹の方が響きがいいな。それと、ぬか喜びさせるのもあれだから言っとくけど」
上条「……はぁ、今度はなんだ?」
土御門「食蜂や常盤台中学が護衛の申し出を却下することは充分にあり得る話だ」
上条「……あ、ああ。そりゃそうだな」
上条(小萌先生はあー言ってたけど……、普通に考えたらそっちの方が可能性高いよなぁ)
土御門「実の所、常盤台学生寮に関しては大統領邸宅並のセキュリティだから問題ない」
上条「残るは移動中と学舎の園か」
土御門「そうだ。もし学舎の園に入れたら、カミやんは歴史の証人になれるかも知れんぜよ」
上条「んな資格は願い下げだ。外の男どもに呪い殺されかねん」
土御門「無数の呪詛がはたして幻想殺しに通じるかどうか、見物だな」
上条「笑いごとじゃねえっつうの」
土御門「冗談はさておき、本来なら警備員からバスの運転手からショップの店員まで女性で統一されている」
上条「……けど、今回は状況が状況なわけだ」
土御門「ああ、相手側が同行を認めた場合に限り、監視付きで通学路と共用施設のみ、特例的に立ち入れることになった」
上条「是非は神のみぞ知るってわけだ。肩透かしで終わってくれるならいいんだけどな」
上条(……にしても、よりによって食蜂かぁ。タイムリーっていうか、不幸だ)
――常盤台学生寮前
携帯『――着信履歴、12件』
配送業者「うわわわッ! こんなところで何やってんだ俺わぁッ!」バタン
――キキキキッ、ブォンッ! ブォンッ!
食蜂「あらあらぁ、他人様の荷物をいっぱい積んでいるのに」
食蜂「あんな乱暴力極まりない運転してて大丈夫なのかしら?」ンー
食蜂「……さて、と」クル
食蜂(先ほどの忠告、どう判断したものかしらねぇ)
食蜂(一連の計画が一掃されてやっと一安心と思っていたのに)
食蜂(今度は最新型の洗脳装置か、ホント蠅みたいに際限ない連中よねぇ)ハァ
食蜂(……ほとぼりが冷めるまで身を隠すのも一つの手ではあるけど)
食蜂(また他人の思惑に振り回されるのもうんざりだし……って)
寮監「――ええ、たった今戻ってきました。――はい、よろしくお伝えください」ピッ
食蜂(りょっ、寮監!?)
寮監「……」ツカツカ
食蜂(何てタイミングの悪い……車から降りるところ見られちゃったかしら)ソォ
寮監「一応忠告しておくが」チラ
食蜂「」ビクン
寮監「能力を使用する素振りを見せたら即座に制圧する」
食蜂「……え、ええっとぉ」タラー
寮監「よもや、模範生のお前が寮敷地内での能力使用などナンセンスだとは思っているが、な」チラ
食蜂「も、もちろん、釘を刺されるまでもないですよぉ?」オドオド
寮監「そうあってほしいものだ。ただでさえ本年は寮則破りの常習犯が多くて頭を痛めている」
食蜂「……あ、あのぉ、もしかしてですけど、私を待っていたんですか?」
寮監「話は寮の中でする。ついてこい」ザッ
食蜂「りょ、了解です」ソソクサ
食蜂(なぜだか、この人だけには、干渉しようとしても本能力が全力で拒否るのよねぇ)ビクビク
――ガチャ
寮監「さ、入れ」キィィ
食蜂「し、失礼しまぁす」
食蜂(……以前に入室した時もつくづく思ったことだけど)
食蜂(外来の応接室だけあって調度品が凝りに凝ってるわねぇ)キョロ
食蜂(白磁の花瓶、ペルシャ絨毯にシャンデリア。下手するとこの部屋の家財だけで一軒家建てられそう)
寮監「どうした? 遠慮なく掛けてくれて構わないぞ」
食蜂「あ、はい、では失礼して」チョコン
寮監「さて、――最近どうだ? 学校生活や能力開発の方は」
食蜂「そ、そうですね。可もなく不可もなくといった感じですけど」
寮監「そうか。まぁ生活態度諸々も含めれば、お前は御坂以上の模範生だしな」チラ
食蜂「こ、光栄です」カチコチ
寮監「そう緊張しなくていい。それと今回に限っての話だが、さっきのは見なかったことにしてやる」
食蜂(あら……やっぱりお見通しだったのねぇ)ペロ
寮監「もたもたしていると夕飯が片付けられてしまうな、早速本題に入らせてもらうとしよう」
食蜂「……」コクン
寮監「実は、学園都市の研究施設で一悶着あったらしくてな。各学区内で警戒レベルが引き上げられている」
食蜂「……それはつまり、具体的に何かトラブルが起きたということですか?」
寮監「学区内に過激派が潜伏していたとのことだ。索敵が済むまで各自指示に沿った対応を、とのお達しが来ている」
食蜂「過激派、ですか」
食蜂(……十中八九アレ絡みか。正体不明(アンノウン)というよりは、情報が意図的に伏せられてるようねぇ)
寮監「しかしまぁ、先の『0930事件』からまだ冷めやらぬというのにこのような騒動が持ち上がるとはな」フゥ
食蜂「でも、学園都市のセキュリティを考えれば、そこまで心配することも」
寮監「普通に考えればそうなんだろうが、慎重を期して何人かの生徒に対して護衛をつけるとのことだ」
食蜂「え……護衛って、まさか」
寮監「不本意だとは思うが、食蜂操祈。お前も護衛対象の一人に含まれている」
食蜂「ど、どういうことですかッ!? 本人の許可もなくそんなこと――」
寮監「もう少し声を抑えろ。第三者に漏らしていい内容ではない」
食蜂「……あ、ありえません。学舎の園がこんな暴挙を認めるはずは」
寮監「私もそう思って確認してみたんだが、上には話が通っているようだった。担当者も不可解そうだったがな」
食蜂「……そ、そんな」ワナワナ
寮監「既に学園の各組織からは護衛に適した能力者がピックアップされている」
寮監「警備員や風紀委員が大半だが、外部協力者(ボランティア)も少数いるとのことだ」
食蜂「……まさか、学舎の園での同行を認めるんですか?」
寮監「ごく短期間という話だ。もし異性が護衛についたとして、通学路と一部の施設以外は立ち入り禁止になるだろう」
食蜂「で、ですけど!」
寮監「明日、護衛候補者が外来に来る手はずになっている。とにかく話を聞くだけ聞いて――」
食蜂「冗談じゃありません。見知らぬ人が私に張り付くなんて、気持ち悪すぎます」
寮監「おい、食蜂」
食蜂「嫌です、聞きたくありません」プイ
寮監「よく考えてから発言しろ。本当にそれでいいのか?」
食蜂「いいも悪いもありません。話し合う以前の問題です」
寮監「このまま要求を突っ撥ねたら、行動範囲を著しく狭められるかも知れんぞ?」
食蜂「……それでも、です」
寮監「……気持ちはわかるが」
食蜂「いくらなんでも非常識が過ぎます。私に対するイメージだって傷つきかねません」
寮監「それも重々承知している。しかしな、このような例外が認められたことは過去にもほとんどない」
食蜂「だったらどうだというんですか」
寮監「それだけ楽観できない状況にあるかも知れんということだ。それこそ、先の『0930事件』のような大騒動に発展しないとも限らん」
食蜂「……だとしても、私は第五位の超能力者ですよ? 自分の身くらい自分で守れます」
寮監「あまり能力を過信するな。隙のできない人間などどこにもいやしないんだぞ」
食蜂「過信なんてしてるつもりは……自分の弱点は弁えてるつもりです」
寮監「ならわかるだろう。精神系能力は利便性こそ他能力の追随を許さないが、相性の悪い相手にはとことん向かない」
食蜂「それはっ、……そうです、けど」
寮監「食蜂操祈の名誉のために言っておく。お前の才能と努力の積み重ねは誰もが認めるところだ」
食蜂「……う」
寮監「だがな、いかに能力が強力であってもそれを制御するのは大人未満の少女」
寮監「単独で隙を突かれた場合、悲惨な末路を辿る可能性だって大いにあり得る。それくらいわかるだろう?」
食蜂「……ひ、悲惨な末路って」
寮監「それを、私の口から言わせる気か?」ジロ
食蜂「…………ぅ」シュン
寮監「無論、護衛とやらが信用に値するものでなければ先方の申し出は断るつもりだ。そこは安心しろ」
食蜂「……で、でしたらせめて、私にも品定めをさせていただきたいのですが」
寮監「元より、お前がその気なら同席はしてもらうつもりだった。断るにしても本人が直接訴えた方が効果的だからな」
食蜂「……わかりました。それで手を打ちます」
――食堂
舞夏「なるほどなー、それは多分に同情するぞー」
食蜂「ホント、あんまり悪目立ちはしたくないのだけどねぇ。あ、この竜田揚げすごく美味しいわぁ」モグ
舞夏「お褒めに預かり光栄なのだー。新鮮な鯵が手に入ったので作ってみたー」
食蜂「このさっぱりした後味、何かコツでもあるのかしらぁ?」
舞夏「邪魔しない程度に柚子胡椒を混ぜてあるー。食蜂は、自分で料理したりするのかー?」
食蜂「ほとんどしないわねぇ。あえて自分で作る必要力を感じないもの」
舞夏「でも、将来のために少しはやっておいた方がいいと思うぞー?」
食蜂「んー、そうかしら?」
舞夏「食わせる得意料理のひとつもあれば、男に頼み事をしやすいからなー」
食蜂「……それって結構爆弾発言のような気もするけれどぉ?」
舞夏「お前ほどじゃあないが、私もこれで様々な秘密を抱えている身なのだー」エヘン
食蜂「ふぅん、少し興味を引かれるわねぇ」
舞夏「いやぁ、知ったら別の意味でひかれると思うぞー」ケラケラ
食蜂(もう知ってる。っていうかぁ、あなた人畜無害な顔してドロドロすぎぃ)
舞夏「あぁ、これは私の勘なのだがなー」
食蜂「ああ、うん、なぁに?」
舞夏「食蜂の場合、彼氏が出来たらかなりド嵌りしそうな気がするー」
食蜂「ええぇ? そ、そんなことないわよぉ?」
舞夏「自分でそういうやつほど危ないと思うぞー」
食蜂(って言われても、私には縁遠い話だしねぇ。心を許せる人なんてどこを探したって存在しないもの)パク
???「お話中失礼、相席よろしいですの?」
食蜂「あ、えぇ、どうぞぉ? ……って、あなた」
舞夏「おお、白井じゃないかー」
黒子「どうも、土御門さん。本日の夕食も堪能させていただきましたわ」ペコ
食蜂「確か御坂さんの取り巻……お友達の」
黒子「お顔を憶えて頂けてるとは光栄ですの。風紀委員(ジャッジメント)の白井黒子と申します」
食蜂「ご丁寧に、食蜂操祈よぉ。あぁ、どうぞ遠慮なく座ってぇ」
黒子「では、お言葉に甘えまして」チョコン
舞夏「食蜂と白井かー。何だか珍しい取り合わせなのだぞー。あ、これお前の分のお茶なー」トン
黒子「あら、わざわざありがとうございます」ニコ
食蜂(……寮内で風紀委員の肩書きを出すってことは)
食蜂「……土御門さん、申し訳ないけど少し席を――――って、あら?」
舞夏「先に他の洗い物片付けてくるー、私は空気の読めるメイドだからなー」ヒラヒラ
食蜂(言われる前に退散、か。……さすがというか何というか)クス
黒子「すみません、ご歓談のお邪魔をしてしまったようですわね」
食蜂「気にしなくていいわよぉ。彼女とはいくらでも話す機会があるから」
食蜂(……さぁて、いったいどういう風の吹き回しかしらぁ?)
食蜂(そうね、先に頭を覗いておいた方が)
黒子「寮監様からある程度お話は伺っていると思いますが」
食蜂「あ、え、ええっと?」
黒子「此度、学園の治安を司る者として、任務に支障のない範囲であなたの登校に同行することになりました」
食蜂「……え? ……白井さんが?」
黒子「私は瞬間移動能力者(テレポーター)ですので。護衛兼送迎には打ってつけと判断されたようですわね」
食蜂「そ、そうなの」
食蜂(……確かに、逃走という点において彼女に勝る能力者はいない、けど)
食蜂「……ねぇ、御坂さんはそのことを知っているのかしらぁ?」
黒子「お姉様、ですか? いえ、風紀委員の業務内容を漏らすわけには参りませんもの」
食蜂「ふぅん、真面目なのねぇ。でも、そんな軽々に引き受けちゃっていいのぉ?」
黒子「それは、どういう意味ですの?」
食蜂「彼女の傍にいるあなたなら薄々気づいてるかも知れないけどぉ」
食蜂「私と御坂さんって馬が合わない――ううん、険悪力を存分に発揮しちゃっているっていうかぁ」
黒子「…………」
食蜂「だから、ほら、ね? 私と近しくしてると色々勘違いされちゃったりとか」
黒子「そのようなことでしたらご心配なく」ゴク
食蜂「……そのようなって、そんな楽観視してて平気なのかしらぁ?」
黒子「お姉様は、私の風紀委員の仕事への取り組みに対して口を挟まれたことはありません。ただの一度も」
黒子「些末な柵をいちいち気にしてたら逆にお姉様に怒られてしまいますわ」
食蜂(……なるほど、大した信頼力ねぇ)
食蜂「でもぉ、私があなたを洗脳してるんじゃないかって、彼女が疑わないとも限らないんじゃなぁい?」
黒子「お姉様がもし私の立場だったら、たとえ本当にあなたを嫌っていたとして護衛につくでしょう」
食蜂「洗脳される可能性については、否定しないのねぇ」クス
黒子「ないとは言い切れませんわね。第一に、私はあなたの人柄をよく存じませんし」
黒子「けれど、あなたがレベル5に至るまでにいかほどの努力を要し、どれほどの苦しみを以って壁を乗り越えてきたのか」
黒子「未だレベル4止まりである自分だからこそ、誰より理解しているつもりですの」
食蜂「そこまでして得た能力なんだからしょうもないことには使わないだろうって? あなた、性善説を信じちゃってる人?」
黒子「……だとしたら、何か不都合でも?」
食蜂「温い考えは改めた方がいいんじゃなぁい? 現に私は、結構際限なしに能力を使うわよ?」
黒子「……一応、そうしたことも熟慮した上でここにいますので」パク
食蜂「んもう、からかい甲斐のない後輩ねぇ」パク
食蜂(……表層心理も一致、かぁ。感心するくらいに裏表がないわねぇ)
食蜂(これだけ真っ直ぐだと友達作るのも大変そう。ま、私も人のことは言えないんだケド)
黒子「ところで、前々からお尋ねしたいと思っていたことがあるんですけども」
食蜂「あら、何かしらぁ?」
黒子「どうしてあなたとお姉様って、仲がよろしくないんですの?」
食蜂「んー、一概には言えないわねぇ。たとえば価値観の違い、異なる派閥、競争相手、色々あるじゃない?」ゴク
黒子「それはそうですけれど……」
食蜂「でも、そうねぇ。おそらく一番の理由は、お互いがお互いを脅威に感じているから」カタン
黒子「……脅威、ですの? でしたら好敵手といったような関係にも」
――ザクッ!
黒子「……ッ」ギョ
食蜂「残念ながら成りえないわねぇ。彼女と私では本質が違いすぎるもの」パク
黒子「本質、ですか」
食蜂「彼女が戦場を駆ける猛将だとすれば、私は奇策を弄する軍師」
食蜂「性格と能力は共に対極。彼女は過程を重視する故に正攻法を好むけど、私は結果を重視するからいくらでも小細工を使うわ」
食蜂「どちらが求心力を集めやすいかといえば、当然前者。自ら現場に赴いて物事を解決できるんだから単純明快」
食蜂「まぁでも、それを嘆いても仕方ないわよね? 持って生まれた適性の差違だもの」フゥ
黒子「……あなたは、お姉様の力は認められているんですのね」
食蜂「遺憾なことにね。こと行動力や戦闘力において、私は彼女に勝る術を何ら持ち合わせていないわ」
食蜂「だから私は私の強みである改竄力や発想力に磨きをかけてきた。己に与えられたものを最大限活用した上でね」
食蜂「なのに、私が苦心して獲得した自分だけの現実を、ゲスいだの姑息だのって扱き下ろされてごらんなさい?」
食蜂「同じ穴のムジナのくせして自分本位の正義感や美意識を押し付けてくる。これじゃあ不快力マシマシよぉ」
黒子「……なるほど」
食蜂「彼女と私を比較するのは、文系と理系の優劣を決めようとするようなもの。そんなの比べること自体がナンセンスでしょ?」
黒子(……正直、意外でしたわね。やや主観に依った意見であることは否めませんが)
黒子(この方はお姉様と対極の位置にありながら、常盤台の信望者よりお姉様の本質を――でも)
黒子(本質が違うと言っておきながら、同じ穴のムジナとは……いったい?)
――翌日
――ヒュン
黒子「さ、到着しましたわよ」
食蜂「…………うぅ」フラフラ
黒子「……食蜂先輩? どうかされましたの?」
食蜂「瞬間移動が、あんなに怖いものだなんて思わなかったわぁ」ブル
黒子「あら、慣れればそれほどでもありませんわよ? まぁ、適性がない方も多いようですけど」
食蜂「……空間跳躍する度に階段を踏み外しているような、形容しがたい感覚が」
黒子「仰りたいことは何となくわかりますが、今回は私の能力がどういったものか知っていただくための」
食蜂「……ええ、わかってる、あくまで予行演習よね」
黒子「緊急時と判断されない限りは、普通にバス登校ですのでご安心を。では私は、風紀委員の支部に参りますので」
食蜂「ええ、送ってくれてありがと」フリフリ
――ヒュン
食蜂「……うぅ、気持ちわる゛ぅぃ」ヨロ
――常盤台学生寮
食蜂「はぁ……水飲んだらやっと落ち着いたわぁ――って、あら?」
寮監「というわけで他にも何人か来て頂いたんだが、やはり同性の方が――」
???「あぁいえ、先生の仰ることは納得できますんで、気にしないでください」
寮監「すまない。思春期の生徒にとっては如何せんデリケートな問題でな」
食蜂(いけない、午前中から始まっていたのねぇ。でも、白井さんがいるなら特には――)ガチャ
食蜂「すみません、ただ今戻りました」キィ
食蜂(――――っ)ピタ
上条「……よ、よぅッ」シュタ
寮監「おや、随分と早かったな」
食蜂「……ぁえ、えええ? か、上条、さん?」ポカーン
食蜂(……な、何で、こんなところにいるのぉ!?)
食蜂「あ、あなた、こんなところで何をやってるのぉ? ……それにその格好」
上条「いや、話せば長くなるんだが」
食蜂(……ええっと、待って? 落ち着いてこの状況を整理して)
寮監「何だ? もしかして二人は知り合いなのか?」
上条「ええ、まぁ、せいぜい顔見知りってレベルですけど――」
食蜂「――――」ピーン
食蜂「はい、つい先日、町で不良に絡まれているところを彼に助けていただいたんです」
上条「……って、おい!?」
食蜂「別に隠すことないじゃないですか、胸を張っていいことだと思いますよ?」ニコ
上条「い、いや、そういう意味じゃなくてだな」
寮監「ほぅ、そういう前例があるのは好ましいな」
食蜂「彼が不良たちを追っ払ってくれたお陰で徒に能力を使わずに済みました。本当、感謝してます」
上条「てか、お前、あの時能力使えな――――てぇ!」ギュッ
寮監「……なんだ? 能力がどうしたって?」
上条「い、いえ、なんでも……」ヒリヒリ
上条(い、いきなり何すんだよっ!)ヒソヒソ
食蜂(こっちの台詞ですぅッ! 一時的にでも不能に陥っていたことがバレたら侮られちゃうじゃないですかぁ!)ヒソヒソ
上条(あ、あー……そういう?)
食蜂(お願いですからこの場で軽率な言動は慎んでください。私、これでも派閥のリーダーやってるんです)ヒソヒソ
上条(ハバツ? ……ハバツ、ああ、派閥)
食蜂(まったく、苦労して手に入れた居場所を台無しにされるところだったんですよ?)ジロ
上条(わ、わかったから。言う通りにすっから、そんな睨むなって)
食蜂(……もういいです。ひとまず、この場は私に話を合わせてください)フゥ
上条(いや、いきなりそんなこと言われても、どうすりゃいいんだ?)
食蜂(適当に頷いているだけで構いません。私に対する相槌は全て肯定してください、いいですね)ギンッ
上条(りょ、了解)
寮監「……まあいい。上条君、だったか。繰り返しになるが、現時点では本人の承諾を得ていないんだ」
上条「あ、ああ、そうだったんですか」ホッ
食蜂「…………」ム
寮監「理事会から許可を得ての志願という話だし、本来なら相応の理由がないと断れないんだが」
寮監「学生寮の管理者としては、生徒の安全と自主性を同時に尊重する義務がある。だから、もし彼女の気が進まないのであれば」
上条「も、もちろんです。こっちもなるだけ無理強いはしたくないっつうか」
食蜂「――あの、寮監様」
寮監「うん、なんだ?」
食蜂「いえ、そのぉ……」モジモジ
食蜂「昨日はああ言いましたけど、もしかしたら、少し考え足らずだったかも知れないな、と」
上条「…………え?」
寮監「それはつまり、考え直すということか?」
食蜂「だって、彼って学生なんですよね? ねぇ、あなたもどちらかの学校に通われているんでしょう?」チラ
上条「あ、ああ。まぁ、一応」コクン
食蜂「そうですよね。学業だって日々の生活だってあるのに、こうして有志で名乗り出てくださったんですよね」キラキラ
上条「そ、そういうことに、なるのかなぁ」コクン
上条(……目の異様な輝きが怖すぎるんですが?)
食蜂「なのに、仮採用すらなしにすげなく追い返してしまうなんて、いくらなんでも失礼な気がして」ショボン
寮監「……ふむ、一理あるな」
上条「そんな、あの、俺のことは別に――」
食蜂「ゴホンッ!」ジロ
上条「――いや、なんでもないです」ビクビク
食蜂「……それに私、いつぞやのお礼がしたいんです」キラキラ
寮監「うん? あぁ、助けてもらったという――」
食蜂「はい。確かに能力を使えば難なくあの場を切り抜けられたでしょう、けれど」
食蜂「それでも、野次馬の中から一人颯爽と進み出て、庇ってもらえたことが、その」キュッ
食蜂「その、すごく、嬉しかったかなぁ……なんて」モジ
上条「……い、いや、そんなに大したことじゃ……はは」ポリポリ
上条(な、何だ、何ですか、何だってこんな流れに!?)
食蜂「って、や、やだ……、私ったら、何口走って///」チラ
上条(~~~っ、だあぁーーもぅッ! 演技にしたってその流し目はずるいだろッ!///)
寮監「とどのつまり、考えを改めたということでいいんだな?」
食蜂「は、はい。名門常盤台に所属する者として、恩知らずのイメージが定着してしまうのは心苦しいですし」
食蜂「それに、冷静に考えてみると――生徒がこんなことを気にするのもおこがましいかも知れませんが」
食蜂「絶大な影響力を持つ理事会の要請を全く受け入れないとあれば、常盤台の心証力が低下してしまうのではと」
寮監「……む」
食蜂「何より、寮監様のお立場が悪くなってしまいますし」
寮監「……そこでこちらのことなど気にするな、と言ってやれないのが私の限界か」フゥ
食蜂「いえ、とても感謝してます。白井さんを寄越してくださったのは、寮監様の独断でしょう?」
寮監「……やれやれ、やはり私に隠し事は向かんな」
食蜂「その、これがきっかけで寮監様が転属などということになったら私もみんなに合わせる顔がありません」
食蜂「ですから、ある程度の妥協力は必要かな、と」
寮監「お前が折れて、いや、納得してくれるなら確かに話は早い、が」
寮監「肝心の上条君はどう思っているんだ? 先ほどからこちらの都合ばかり話してしまっているが」
上条「え、あの、俺ですか?」
寮監「君も知っているだろうが、何しろ学舎の園はああいう場所だ」
寮監「中にいるのは全員女性、当然施設だって完全に女性仕様だ。お手洗いも含めてな」
上条「あぁ……なるほど」
寮監「そうした場所に護衛として同行すれば、彼女以上に君が好奇の視線に晒されることにもなる」
寮監「当然、並々ならぬ不便や気苦労をかけることになるはずだ。生半な覚悟では務まるまい」
食蜂「そ、そうですよね。行く先々で物見高い目で見られでもしたら、彼に申し訳が……」シュン
上条「いや、そんなことは大事の前の小事だろ。お前さえ無事ならぶっちゃけどうでもいいっつうか」
食蜂「――――っ」トクン
食蜂「……で、でも、もしあなたの評判に傷でもついたら……私」オズ
上条「んなくだらないこと気にしてるんだったら、わざわざこんなとこに顔出さねえって」
食蜂「……あ、ご、ごめんなさい。気を悪くさせてしまったのなら」
上条「謝らなくていい。俺は、自分なりに覚悟を決めてここにいるんだしさ」
食蜂「……ほ、本当に、ご迷惑じゃ、ないんですか?」オズ
上条「当ったり前だろ? んまぁ、どれだけ役に立てるかは怪しいけど」
食蜂「……あ、ありがとうございます!」ペコッ
上条「気にすんなって」フッ
上条(……っん、あ、あれ?)
寮監「よろしい、双方合意ということであれば申し分ないな」
食蜂「はいっ、不束者ですがよろしくお願いします。――上条先輩」ニマ
上条(……俺、知らぬ間に操られちゃってたり、してねぇよな?)
寮監「いいか、お前は模範生の一人だ。くれぐれも節度を弁えて――」
食蜂「それは心外なお言葉です。ちょっと親切にされたからといって恋心を抱くほど子供じゃありません」プン
寮監「……そうか。いや、すまない、失言だったな」
食蜂「いいえ。それと、上条先輩も勘違いしないでくださいね?」
上条「か、勘違い?」
食蜂「あくまで学舎の園でのあなたは私の護衛にすぎません。公私のケジメはちゃんとつけていただかないと」
上条「あ、ああ、わかってるって」コクン
食蜂「では、試用期間はひとまず、三日間くらいでどうでしょうか? そうすればアラも見えてくると思いますし」
寮監「……お前、彼を信用しているのかいないのか、どっちなんだ?」
食蜂「だ、だってぇ、やっぱり不安じゃないですか。殿方って時に狼になるって聞きますし」
寮監「うん? ……う、うむ、まぁ、な」ゴホン
上条(ちょっ、当人の前でそういう話されんのって超気まずいんですけど!?)
寮監「では、常盤台中学の正門から学生寮まで、下校時のみの護衛ということでいいかな」
上条「了解です。明日から下校時刻に常盤台中学前まで行けばいいんですね」
食蜂「それじゃあ、別室である程度段取りを決めましょうか、上条さん」
上条「……いや、でも、いいのか?」
寮監「外来受付の向かいの会議室が空いてる。そこを使ってくれて構わん」
食蜂「わかりにくいですから案内します。さ、行きましょう」ギュッ
上条「わ、わかった。それでは先生、失礼します」
寮監「ああ、彼女をよろしく頼む」
――バタン
上条「……ふぅ、さすがに緊張したぜぇ」
食蜂「…………」
上条「……何つうか、お前も災難続きだよなぁ。ま、この件に関しては俺も出来る限り協力を――」
食蜂「ぷ…くっ……くく」カタカタ
上条「」
食蜂「そ…その格好、すっごく、お、お似合いよぉ?」フルフル
上条「ぬぐッ、くっそッ! どうせんなこったろうと思ったんですよッ!」ウガァ
食蜂「ハー、ハァ……ぁー、苦しかったぁ」
上条「やっと収まったか……ったく」
食蜂「耐えてた分の反動がきつかったわぁ。あんなに笑ったのいつ振りかしら」
上条「あーそうですかそうですか。笑いを提供できたようで何よりですよ」フンッ
食蜂「こーらぁ、男の子ならそれくらいでイジけちゃダメなんだゾ☆」
上条「年下が何言ってんだか。つうか別に怒ってねぇし」ムス
食蜂「んもう、上条さんだってぇ、昨日家を出る時に私をからかったじゃない?」
上条「あれは単にお前のことが――」
食蜂「……?」キョトン
上条「……あー、もういい。何言ったってからかわれるネタを提供するだけだかんな」プイ
食蜂「ちょ、ちょっとぉ。そこまで怒ることないじゃない?」オズ
上条「今更上目遣い何かされたって、ちっとも心に響きません」
食蜂「あぁ、ひっどーい! 何よぉ、嬉しかったって言ったのは本心なのに――」
御坂「――あ、あんた、こんなところで何やってんの?」
上条「……うん? げっ、み、御坂!?」
御坂「っていうか、アンタと食蜂が一緒ってどういう取り合わ――ぶっ」
上条「」
御坂「……あはっ、あはははッ、な、何なのよその格好! 新手のギャグに目覚めたとか!?」
御坂「衣裳にっ、衣裳に着られちゃってる! あはッ、あのアンタがタキシードとか、あは、有り得なあはははッ!」ケラケラ
上条「……ぬぐっ、てめえもか」
御坂「ま、まさかアンタ、以前私の部屋に忍び込んだときも、はっ、そ、その格好で来たわけ?」プクク
食蜂「」ピク
上条「んなわけあるかッ! 一応白井には許可取ったぞ!」
御坂「あはっ、……痛っ、ふ、腹筋つっちゃった、じゃない! あはっ、いったぁ、ど、どうしてくれんのよ」ビクビク
上条「知るかっ! てめぇいくら何でもウケすぎだろッ!」
食蜂「そうよ、いくらなんでも失礼だわ。彼の格好、そんなにおかしい?」
御坂「あははは…………はひぇっ?」
上条「そ、そうだそうだ! もっと言ってや……てっ」
食蜂「上条さんには、『私のために』わざわざこうしてご足労いただいてるの」
食蜂「その彼にこれ以上不躾を働く気ならぁ、こっちにだって考えがあるわよぉ?」
上条「オイオイ、誰かさんもついさっきまで盛大に笑ってませんでしたか」
御坂「は……はぁ? 誰が誰のためにですって?」
食蜂「野性力旺盛な御坂さんには一生縁のない悩みでしょうけど、私はこの通りか弱い乙女なんで傍で守ってくれる人が必要なの」
御坂「うわっ、か弱いとかどの口が言っちゃってんの? あんたのゲスい能力があれば、敵なんてないに等しいじゃない」
食蜂「ゲ……っ、こっちは繊細で戦略的な能力なんですぅッ! とりあえず雷撃ぶっ放しとけばいいか的な暴力女とは勝手が違うんですぅッ!」
御坂「だ、誰が暴力女だゴラァッ! ていうか、周囲に被害をもたらさないよう高電圧を完全制御するのがどんだけ難しいと思ってんのッ!?」
上条「お、おい、二人ともこんなところで喧嘩は――」
食蜂&御坂「あなた(アンタ)は口を挟まないでッ!」
上条「……はい」
――ざわ……ざわ……
見物客A『ほら、見て見て? 御坂様と食蜂様よ?』
見物客B『まぁ、お二人と同時にお会いできるなんて!』
見物客C『ねぇ、ところであの礼服を着ているのって――』
見物客D『ええっ、何でここに殿方が!? ちゃ、ちゃんと入寮許可を得てるのかしら』
上条(って、ま、まずい。いつの間に野次馬が)
上条「……あぁ、す、すんません。はい……はーい、ちょっと通してくださいー」コソコソ
御坂「大体なんでアイツがアンタみたいな性悪と親しげにしてるワケ!?」
食蜂「誰が性悪ですってぇ!? そっちこそ部屋に入れたとか入れないとかどういう関係よぉ!?」
御坂「わ、私は別にッ! その、アイツとは何も……」ゴニョゴニョ
食蜂「あらそぉ、特に親しい仲ではないってわけね? だったら口出しされる謂れもないはずよねぇ?」
御坂「そっ、それとこれとは話が別でしょッ!」
食蜂「って、なぁにぃ? 御坂さんってば、もしかして上条さんみたいな人が好みのタイプぅ?」
御坂「ば、ばばば馬鹿言ってんじゃないわよッ! 誰がそんなこと!///」
食蜂「やだぁ、顔が耳まで真っ赤よぉ? ほんっと、あなたってわかりやすいわねぇ」
御坂「んだっ、だから違うって言ってんでしょうがぁっ!///」
食蜂「一点誤解しないでほしいんだけどぉ、これって理事会から降りてきた指示なのよねぇ」
御坂「な、何ですって?」
食蜂「だからあなた一人がどう騒ごうと決定は覆らないの! それがわかったら――」
寮監「――現在進行形で」
食蜂&御坂「」ビクッ
寮監「十に近い寮則に抵触している君らに訊こう」ギラ
食蜂&御坂「」クルッ
――ゴゴゴゴゴ……
寮監「――反省文5枚提出と仲直りヘッドバット5回、どちらがお好みだ?」ギラ
食蜂&御坂『はっ、はは、反省文で』ガクブル
――廊下
寮監「まったく、先ほどの醜態ときたらなんだ。お前たち、それでも栄えある常盤台の生徒か?」
御坂「す、すみません。ついカッとなって」
食蜂「は、反省してますぅ」
食蜂(……はぁ、私としたことが。今日中にみんなの記憶を書き換えとかないと)
御坂「そういえば、アイツはどこに」
寮監「……上条君ならとっくに帰宅したぞ? 取り込んでいるようなので明日からよろしく、と言伝を頼まれた」
食蜂「ええっ、もう帰っちゃったんですか?」
寮監「放置された上にあのような光景まで見せつけられれば、誰だって帰りたくなるだろうさ」
食蜂「……ど、どーしてくれるのよぉ! 愛想尽かされちゃってたら御坂さんのせいよぉ?」
御坂「はぁ!? 元はといえばアンタが変ないちゃもんつけてきたんじゃない!」
寮監「……これっぽっちでは罰が全然足りないという意思表示か。勇敢なことだな」
食蜂&御坂『と、とんでもありません』
御坂「って、何で真似すんのよ」ボソッ
食蜂「こっちの台詞ですぅ」ボソッ
――バタン
御坂「うわぁ、もう22:00かぁ。お風呂入って寝るくらいしかないじゃない。とんだとばっちりだわ」
食蜂「お互い様でしょ。恨み節なら心の中で呟いてくれない?」
御坂「……とことん、可愛い気のない女ねぇ」
食蜂「あなたに可愛いなんて思われたらそれこそさぶいぼが立つわぁ」
御坂「あーそーですか。――んで、どういうコトかしら?」
食蜂「それは、私に護衛がつく件について? 上条さんが関わってきたことについて?」
御坂「この際、アイツのことは後回しよ。何でアンタが狙われてるの? 誰かから恨みでも買ったわけ?」
食蜂「同じレベル5なんだから百も承知でしょうけど、私たちは学園都市のありとあらゆる感情の的よ。今回に限った話じゃないわ」
御坂「――なるほど、ね。それで、あんたは今後どうするの?」
食蜂「どうもこうも、食いつくのを待つだけよぉ? くだらない騒ぎに巻き込んでくれた礼をたっぷりとしてあげなきゃねぇ」
御坂「……、」
食蜂「……何?」
御坂「……いや、それって何か、らしくなくない?」
食蜂「らしくない? らしさなんてものを理解してもらえるほど親しくなった覚えはないわよぉ?」
御坂「…………」
食蜂「ま、あなたの方は幾分救われたみたいねぇ。祝福してあげないでもないわ」
御坂「……救われたって、一体何の」
食蜂「そうねぇ、たとえば――――量産型能力者(レディオノイズ)」
御坂「――――」
食蜂「ほーんと、樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)とはよく言ったものよねぇ? 切っても切っても埒が明かない」
食蜂「あらゆる計画(プラン)が枝分かれして際限なく成長していき、絡まり合い、知らぬ間に元の鞘に納まってる。いい加減、疲れるのよねぇ」ファサ
御坂「――あ、あんた、どこまで知ってっ」
食蜂「なぁに? 引き金引かされたのが自分一人だけだとでも思ってた? だから、あなたはおめでたいっていうのよ」ガチャ
食蜂「まぁでも、重荷が減ったことは喜んでいいんじゃない? またいつどこで誰に背負わされるかはわからないケドねぇ」
御坂「……」
食蜂「それじゃ、私はここだから。おやすみなさぁい、御坂さぁん」ニコ
――バタン
御坂「…………冗、談」
御坂(あれが――あれだけの悲劇が)
御坂(枝葉の一つに過ぎなかったっていうの?)グ
269 : VIPに... - 2013/05/20 00:59:47.89 IEQ8y5mFO 124/711乙
美琴とみさきちって確か違う寮だったはずだけど物語上そっちのが都合がいいから改変したのか?まあ改変だろうと勘違いだろうと面白いからこっちで勝手に脳内補完するけど
277 : 乾杯 ◆ziwzYr641k - 2013/05/21 01:22:54.73 2aO1KFHR0 125/711多くの乙&ご指摘感謝です、寮は原作の知識不足による盲点でした(意訳:二つあった……だと?)
この先については、設定と伏線に致命的な差異がないこと
寮までが学舎の園にあるとすると二人の接点が原作同様少なくなってしまうこと
そもそも食蜂の寮についての情報が少なすぎることを考慮し
if設定のままでいきます、ご了承ください
――学習障害?
『頭の病気の一つでね。文字の読み書きが出来なかったり、計算の段取りが理解できなかったりと様々な症状がある』
――なんだか大変そう。
『そうだね。多くは先天的なものだが、交通事故などによってなってしまう場合もある。今も大勢の患者や、そのご家族が苦しんでいる』
――それが、治せるようになるの? 私がおじさんたちに協力すれば?
『君の稀有な能力を開発し、その仕組みをきちんと解明することができれば、より大勢の人を救える医療機器が作れるはずだ』
――医療、機器。
『学習装置とでも呼ぶべき代物だ。それが実用化された暁には、我々の未来はとても明るいものになるだろう』
――おじさんたちは、その、ガクシューソーチってやつを作ろうと頑張ってるの?
『その通り。ただ、残念ながら我々だけでは力不足でね、どうしても君の力が必要なんだ』
――私が、必要。
『動物実験だけでは最早限界なんだ。試行錯誤を重ね、みんなに安全な技術を届けるために力を貸してほしい』
――本当に、私なんかに、そんなことができるのかな?
『出来るさ。学力や記憶力の向上はもちろん、現代病と呼ばれる躁鬱や重度のPTSDすら克服できるようになるかも知れない』
――もしそうなったら、みんな私のことを受け入れてくれるのかな?
『もちろん、すごく感謝してくれるさ。そのために、学園都市もバックアップを惜しまないことを約束する』
――う、うん。
『それに、亡くなった君のご両親だって大いに喜んでくれるだろう』
――ッ!
『頼む、我々の研究に協力してくれないか?』
――わかった、私、頑張ってみる。
――――…………
――さん、食蜂さん!
食蜂(う……うぅ…………やめ……て……)
――っかりして、食蜂さんッ!
食蜂(……違う、違うの、……私、そんなつもりじゃ……――――)
???「――食蜂さんッ!」
食蜂「――はッ!」バッ
ルームメイト「いきなり起きちゃだめ。ゆっくり息を吸って、吐いて」
食蜂「は……はぁッ…………はぁ」ツー
ルームメイト「……悪い夢でも見てたの? あなた、さっきからずっとうなされてて」
食蜂(……ッ、完璧、見られちゃったわねぇ)ゴシゴシゴシ
ルームメイト「……今かかりつけ医を呼んでくるから、少し待ってて」
食蜂「……いえ、大丈夫です」
ルームメイト「誰が見たって大丈夫じゃないわよ。すごい汗かいてるし、つい先日も熱出したばかりでしょう?」
食蜂「本当に大丈夫ですから。すみません、ご心配をおかけして」スッ
ルームメイト「……少し疲れが溜まってるんじゃないの? 今日は無理せず安静にしてた方が」
――ピッ!
ルームメイト「」ピクン
食蜂「――朝っぱらから使う羽目になるなんて、幸先悪いわねぇ」スタスタ
食蜂「ふぁ……ぁ。……さてっ、早く顔洗わなくっちゃ」ガチャ
――とある高校、屋上
上条「ってなわけで、条件付きで入園許可は出してもらったけど」
土御門「さすがはカミやん。聖域という幻想を見事にぶち壊してくれたにゃー」
上条「よせよ、お前の口利きがなければどうにもならなかったさ」
土御門「謙遜するなって。他の候補者の男どもは軒並み袖にされちまったらしいぜよ?」
上条「たまたま運よく本人と鉢合わせただけだって。俺も無駄足になる寸前だったんだぜ?」
土御門「……ちゅーことは何か? カミやんは第五位と面識があったのか?」
上条「そうみたいだな。全然覚えちゃいないけど」
土御門「……なるほど、記憶喪失以前の知り合いか。――って、オイオイ、それで許可が出たってことはまたしても」
上条「んなことより、そっちで何か進展はあったのかよ?」
土御門「あ、ああ。その話なんだが……どうも思っていたより尾を引きそうなんだ」
上条「なんだよ、偉そうに任せろとか言ってたくせに」
土御門「すまないと思ってる。まぁ、まずは経過報告から先に聞いてくれ」
土御門「先に結論から述べさせてもらうが、洗脳装置(テスタメント)は無事発見された」
上条「……へ? 発見って、つまり回収できたってことか?」
土御門「ああ、盗まれた台数分には足りていたようだな。……ただ、腑に落ちない点もいくつかある」
上条「いや、でも、最悪の状況は既に脱したと言えるんじゃないか?」
土御門「その確証を得るために、今も行方知れずの運び屋どもを捜索している最中だ」
上条「……盗んだ連中は捕まってないと」
土御門「ああ、一人としてな。せっかく手に入れた機械を全て放り出していったことも気にかかる」
上条「……その浮かなそうな顔からすると、他にも何か心配事があるみたいだな」
土御門「察しの通りだ。どういうわけか港の集積所で発見された洗脳装置は」
土御門「被害届けに記載されていた台数より、余分にあったんだと」
上条「…………は?」
上条「それって、つまり何か? 洗脳装置が盗まれた台数より増えちまってたってのか?」
土御門「被害届に記載されていた台数は全部で5台。なのに、見つかった台数は7台だ。誰がどう考えたっておかしいだろ?」
上条「まったくもって意味不明だな」
土御門「さてさてカミやん、この状況から導き出される答えとは何かにゃー?」
上条「……いや、何が何だかさっぱりなんだが」
土御門「そいじゃ、まず盗難被害者が本当のことを話していたと仮定する。数の差違が発生するのはどんな場合だ?」
上条「……盗難被害者――この場合は研究所側が――盗まれたことに気づいていない洗脳装置があったとか」
土御門「そいつは考えにくいな。洗脳装置ってのは悠に家庭用マッサージ椅子くらいのサイズはあるし、重量に至ってはその倍以上ある」
土御門「何より高額な代物だから、在庫管理は徹底されていると考えるのが自然ぜよ」
上条「……だったら、他の研究施設で作られていたやつが盗み出されてて、偶然同じ場所に集められてたって可能性は?」
上条「さもなけりゃ、施設の職員が把握していない、誰かの指示で秘密裏に作られていた装置が一緒に盗み出されちまったとか」
土御門「組立には相当なスペースと高額な器材を要するし、一線級の技術者にしか扱えないような複雑極まりないプログラムを入力する必要がある」
土御門「以上のことから、条件を満たす施設は他にないと断言できるそうだ」
上条「うーん、両方とも外れかぁ」
土御門「補足しておくと侵入された研究施設は地下にあり、搬入口は一箇所だけ」
土御門「装置の大きさや重さからして、まとまった台数を一度に運び出すには大型のトレーラーが不可欠だ」
上条「なるほど」
土御門「実際に、学園都市に点在する複数の監視カメラには盗難時刻の前後でそれと思われる不審車両が捉えられていた」
土御門「その画像を元にして洗脳装置が持ち込まれた集積所を特定し、警備員が突入したら物だけが放置されてたって流れだ」
上条「……質問。持ち込まれた現場の近くで別の大型車両は見当たらなかったのか?」
土御門「ああ、過去二週間分のデータにグラフィック検索をかけてみたが、全く引っかからなかった」
上条「つまり、トレーラーで持ち出されたのはまず間違いないってわけだな?」
上条「そうすると、やっぱり被害者側が嘘をついていたとしか」
土御門「消去法ではそうなるな。ただ、何で盗まれた台数を減じて報告する必要があったのかが謎なんだ」
上条「たとえば、研究所職員が結託して、外部組織に横流しする目的で予め余分に作っていたとしたら?」
土御門「要するに密輸か」
上条「ああ。正規の管理簿には一切登録していない、公的に存在しないはずの装置が盗まれちまった」
上条「それを勘定に入れたら生産数を誤魔化していたことがバレちまう。だから、泣く泣く数を減らして被害届を出した」
土御門「一応筋は通ってるな。金稼ぎか、誰かの命令かって疑問は残るが」
土御門「けど、それにしたって発見された時点で台数に差違があることはバレちまうぞ?」
上条「……そうだな、数を増減させる意味はほとんどない。疑念を抱かれたら結果は同じだろうし」
土御門「何分高額な代物だ。管理簿にある数だけでも回収できなければ進退問題になっちまうから、通報するのは当然なんだが」
上条「あまり納得してねえって顔だな」
土御門「以前よりかは察しがよくなったみたいだな」ニヤ
上条「それなりに長い付き合いだろ。――んで、土御門博士のご賢察を伺っても?」
土御門「……そうだな。カミやんの話を聞いていてひとつ思いついたんだが」
土御門「こんな考え方はどうぜよ? そもそも、盗難なんて最初からなかった」
上条「……それは、自作自演ってことか」
土御門「今回、奪還依頼を受けた俺たちは特定の狭い地域に大人数を動員して捜索に当たっていた」
上条「だからこそ、洗脳装置をあっさり見つけ出せたんだよな」
土御門「逆に言えば、他の区域では警戒が緩くなっていた。盗難騒ぎを囮にして、別の犯罪を目論んでいたってのはどうかにゃー?」
上条「普通にありそうだな。もっとも、そこまで考えの幅を広げちまうとキリがない気もするけど」
土御門「日々騙し騙されてることに慣れちまってるからな。まったく、因果な商売ぜよ」
上条「それは、お前自身の問題な気もするが」ジト
土御門「そもそも自作自演説が正しかったとして、台数が余分に存在することへの説明が思いつかんにゃー」
上条「…………ん」
土御門「……どうした? カミやん?」
上条「いや……あくまで思いつきなんだけどさ」
上条「自作自演はあった。けど、誰かに計画に水を差されたって可能性は考えられないか?」
土御門「……そうか、妨害した人間がいたってことなら!」
上条「たとえば研究所内部に、計画のあまりのヤバさに恐れをなした人間がいた」
土御門「そいつがわざと不可解な状況を作り出し、第三者に不信を抱かせようとした、か」
土御門「いいんじゃないか? 今の所どの説より現実味がある」
上条「最初は盗ませた数をきっちり回収する予定だったけど、洗脳装置の数があってないとなれば」
土御門「当然学園側や警備員は余剰分の出所を探ろうと動く。裏に何かあるんじゃないかと勘繰る者も出てくるな」
上条「今の土御門みたいにな。――いや、でも待てよ?」
土御門「どうした? 今の説はなかなかいい線いってると思うが」
上条「よく考えてみると、こんな回りくどいことをする必要があるのかと思って。このご時世、内部告発なんてワンクリックで済むだろ?」
土御門「……あぁ、そう……いや、そうとも限らんぜよ」
上条「んん、たとえば?」
土御門「いざ現場に行ってみて、そこで初めて自分が重犯罪の片棒を担がされていることに気づいたとしたら?」
上条「――なるほど、気づいたのが運び屋側だったとすれば全て説明がつくな」
土御門「立ち聞きでも誰かが流した情報でも、きっかけは何でもいい」
土御門「とにかく、運び屋は自分が運ばされている物のヤバさを認識した」
上条「結果、臆病風に吹かれて受け渡し前に装置を置き去りにして逃げだした、か。辻褄は合うな」
土御門「手前味噌だが、盗難騒ぎが囮だって方向は間違ってないと思う」
土御門「ともすると、外に持ち出す予定の台数が、まんま余剰分の台数だったとすればどうだ?」
上条「……集積所が引き渡し場所と回収場所を兼ねていて、そこから2台だけを持ち去る計画だったってことか」
土御門「そーゆーこと。当初の計画では被害届に記載した台数分の装置を集積所に運び、警備員に知らせて回収させる」
土御門「かくして盗まれた5台の装置はめでたく研究所に戻り、事件は解決する――ように見せかけることだった」
土御門「外部の人間なら余剰分が消えていることにそうそう気づかないだろうしな」
上条「――よしんば気づいたとしてもかなり後のことになるか。いやらしい筋書きだ」
土御門「おそらく研究所の上の人間が何者かと密約を結び、一芝居打つことでその目的を果たそうとした」
上条「だが、計画の要である運び屋が逃げ出しちまったことで計算に大きく狂いが生じた」
土御門「もしこの一連の流れが正しいとするなら、何のことはない。事件は早くも解決しかかってることになるぜよ」
上条「そうだな、行方をくらましている運び屋をとっ捕まえて、研究所の資金の流れを把握しちまえば」
土御門「おうよ、確実に尻尾を掴めるはずだ」
上条「一つ懸念があるとすれば、事件当事者の証言がないと研究所の人間をしょっぴくのが厳しい点だな」
土御門「まぁ、証拠隠滅くらいはするだろうからな」
土御門「つっても、暗部には諜報のエキスパートが複数名いる。隠蔽された情報を掘り返すことくらい朝飯前だ」
上条「運び屋が始末されてなきゃいいけどな。研究所側が真っ黒だとすれば、絶対に手を回してるだろうし」
土御門「古今東西、裏切り者の末路は決まってるからな。俺も重々気をつけないといかんぜよ」
上条「……とりあえず装置が全部回収されたんなら、精神系能力者が狙われる可能性は低くなったと見ていいのかな」
土御門「そうだな、現状では盗難品も警備員預かりになっているはずだから、少しは安心していいんじゃないか」
上条「……わかった。んじゃ、俺もそろそろ向かうとするか」
土御門「あぁ、カミやん」
上条「あん?」
土御門「これからしばらくの間、携帯の電源は常に入れといてくれ。何か動きがあったらすぐに連絡する」
上条「わかった、そうする」
上条(バッテリー切れには気をつけねえとな。念には念を入れて、携帯式充電器を持ち歩くか)
――常盤台中学、庭園内
食蜂「…………」トントントン
取り巻き1「女王、今日は妙にそわそわしていらっしゃいませんか?」
食蜂「別に、普段通りだけど?」
取り巻き1「しかし、さきほどから人差し指が忙しなく動いていらっしゃるようですが」
食蜂「ちょっと考え事しているだけよぉ」
取り巻き2「おつけになられているリップ、二日前に発売されたばかりの、この秋の新色ですよね」
食蜂「あら、目敏いわねぇ」
取り巻き3「アイライナーも、心なしかいつもより丁寧なご様子」
食蜂「……それはさすがに、気のせいじゃないかしら」
取り巻き3「……女王、まさかとは思いますが、殿方との逢引きなどと――」
食蜂「あのねぇ、あなたたちはいつから私の小姑になったのぉ?」
食蜂(それに逢引きって……今どきの女子中学生が使う言葉じゃないわよねぇ)
――教室
食蜂(そろそろ授業が終わる時間だけど)チラ
食蜂(校門前には……まだ誰もいないみたいねぇ)ンー
食蜂(やっぱり昨日顔を合わしたときに、携帯番号を交換しとくべきだったわぁ)
食蜂(あーあ、御坂さんの邪魔さえ入らなければ、待ち合わせ場所とか段取りとか決められたのにぃ)
食蜂(まぁ、上条さんも好き好んで目立ちたくはないはずだし)
食蜂(私が校門の外に出るのを見計らっているのかも知れないわねぇ)
先生「それは、今日はここまでにします。来週からは能力測定に入るので――」
食蜂(……能力測定か。第四位までの道のりは遠そうねぇ)チラ
食蜂(……ッ!)ガタッ
取り巻き2「ああ、女王。もしよろしければ放課後四人でエクレアなど――」
――ガラガラッ! ――タッタッタッタッ……
取り巻き2「…………」ポカーン
取り巻き2「じ、じじ、事件ですわッ! よもやあの女王が廊下を走られるなんて!」
食蜂「はっ……はぁ……はぁ……」ポタポタ
食蜂(こ、これ以上頑張りすぎると、肌着が汗まみれになっちゃうわねぇ)ハァハァ
食蜂(ひとまず息を整えて、校門まではなるべく優雅に――)ハァハァ
御坂「あれ、珍しい。あんた一人?」
食蜂「はぁっ、み、御坂さぁん。あなたもお早い、のねぇ」
御坂「ていうか、何でそんなに息乱れてるわけ? あんたんとこ、授業体育だったっけ?」
食蜂「う、うるさいわねぇ。あなたと違って、こっちは教室が、はっ、離れてるのよぉ」
御坂「100mも変わんないでしょうが。やっぱりアンタって相当な運――」
食蜂「その先続けたら、今この場で、能力者同士のバトルロワイヤルを、やる羽目になるわよぉ?」ギラ
御坂「……あぁ、はいはい。余計なお世話だろうけど、必要最低限の体力は付けといた方がいいわよ」
食蜂「本当、大きなお世話――――っ」
御坂「うん? …………って」
上条「よっ、お迎えに上がりましたよ」
食蜂「…………」パクパク
上条「って、御坂も一緒だったか。お前らってあれですか? 実は隠れ仲良しだったりすんですか?」
御坂「天地がひっくり返ったってないわ。てかあんた、よくまぁ堂々とここまで入って来れたわね」
上条「校門前でうろうろしている方がよっぽど不審者っぽいだろ。そっちこそ、あんまり驚かないんだな」
御坂「まぁね。昨日寮監から説きょ――じゃなかった、事情を聞いたのよ」
上条「へぇ、あの先生、話したんだ」
御坂「私もこいつと同じレベル5なわけだし、あながち無関係じゃないと思ったんでしょ」
上条「……へへ、探せばいい先生って、結構いるもんだな」
御坂「まぁ、あの人普段は相当厳しいけどね。それはそうとアンタ、ちゃんとゲートから入ってきたんでしょうね?」
上条「もちろん、抜かりはないぜ。この通り、ICタグつきの入園許可証も貰ってる」ピラ
御坂「ならいいわ。ちなみにそれ紛失したら警備ロボットに追い回されることになるから気ぃつけなさいよ」
上条「そりゃ怖いな、覚えとく。ところで食蜂、お前まだ体調が戻ってなかったのか?」
食蜂「……あ、え?」ハァハァ
上条「さっきから一言も発しないし、妙に息が荒いみたいだからさ。もし辛いんなら保健室に」
食蜂「へ、平気ですぅ。今の今まで運動していただけですから――」
食蜂(……ッ、あそこにいるのは。……グッドタイミング!)ゴソ
――ピッ
御坂「運動ってアンタ、単なる校舎の移動でへたばってちゃ――うわっ!」ダキッ
黒子「見つけましたわっ、お姉様ぁ!」ギュウ
御坂「ちょ、あんた、校舎内でテレポートしてんじゃないわよ! 風紀委員でしょうが!」グイ
黒子「んもう、お姉様のいけずぅ~」ツツ
御坂「ばっ、やぁっ! こら、変なところ撫でるなぁ! 離れ、ろ、この――っ!」グググ
黒子「そうは参りませんの。何としても、離れるわけには――ッ!」ギュウウ
御坂「は、はぁッ!? いくらあんたでも人前でやっていいことと悪いことの区別く――」
――シュンッ
上条「うぉっ、二人とも消えたッ!?」
食蜂「さ、上条さん。今のうちに」グィ
上条「って、そんな引っ張らなくたってちゃんと歩くって」
――学舎の園通用路
食蜂「こ、ここまで、来れば……」ゼェゼェ
上条「つうか、逃げる必要なんてあったのか?」チラ
食蜂(……う、息ひとつ切れてない)ハァハァ
食蜂「御坂さんは、正直苦手、なんです。何だか、四六時中ビリビリ、してる、から」
上条「ああ、はは。俺もそういう経験何度かあるよ」
食蜂「……上条さんは、彼女と、仲がよろしいんですかぁ?」
上条「んー、出会った頃に比べれば改善してきてるんじゃないかな。以前は顔を合わせるや否や電撃飛ばしてきたし」
食蜂「まぁ、野蛮ねぇ」
上条「けどさ、あれであいつにも優しいところがあんだぜ? この間だって――」
食蜂「……上条さぁん」
上条「うん? 何だ?」
食蜂「年の近い異性と一緒にいる時に、別の異性のお話を楽しそうにするのはどうかと思うんですけどぉ?」ムス
上条「そ、そか。そういうもんなのか」ポリ
食蜂「……朴念じぃん」
上条「め、面目ねぇ」
食蜂「そういえば、上条さんは甘い物はお好き?」
上条「まぁ、どっちかっていえば好きな方だけど」
食蜂「だったらぁ、寮に戻る前にあそこの洋菓子屋さんで一服しません?」スッ
上条「ええ? いや、でも、なるべく寄り道せずに帰らねえと」
食蜂「そんなにお時間は取らせないですから。ほんの少しだけ、ねぇ、いいでしょ? お願いッ」パン
上条「…………うーん」
食蜂「…………駄目ぇ?」チラ
上条「……わぁったわぁった、俺の負け」
食蜂「やったぁ! あのお店、ケーキの味はもちろん、内装も異国情緒があって素敵なんですよぉ」ニコ
上条「味にうるさそうなお前がそういうんなら、期待して良さそうだな」フッ
――カラーン
女性店員「いらっしゃいま――っ!?」ガタッ
上条「お邪魔しまっす」
女性店員「……だッ」
食蜂「こんにちわ。また来ちゃいましたぁ」ヒョコ
女性店員「あ、あら、食蜂さん? ――えっと、こちらは、もしかしてお連れ様?」
上条「どうも、初めまして」ペコ
食蜂「一応紹介しときますね、こちら上条当麻さん、私の恩人なんです」
女性店員「は、はぁ、恩人さん……」
上条「そこまで大袈裟なもんでもないです、ハイ」
女性店員「あー、びっくりした。こんなことってあるのねぇ」
食蜂「彼、事情があって、短期間だけ学舎の園にいることを認められてるんです」
上条「一応、入園許可証ももらってますんで、これなんですけど」スッ
女性店員「やだぁ、ごめんなさいね。あんな風に取り乱しちゃって」
女性店員「まさか学舎の園で男の子と出会うなんて思ってもみなかったから」
上条「いえ、こっちこそ脅かしてしまったようで申し訳ない」ペコ
女性店員「ふふ、お互い様ね。私も住まいは外だし、種明かしさえしてもらえれば全然平気」
女性店員「ただ――そうね。他のお店に入るときは、予め許可証を出しておいた方がいいかも」
女性店員「どうしたって不意打ちになるから、みんな身構えちゃうだろうし」
上条「ですね、これからはアドバイス通りにします」
食蜂(やっぱり季節限定の濃厚モンブランが……ううん、ちょっぴりビターなキルシュトルテも捨てがたい)
食蜂「あ、ねぇ、上条さんはどれにするかもう決まった?」クイクイ
上条「目下悩み中。どれもこれも美味そうで、どうしたって目移りしちまうな」
食蜂「それだったらぁ、お互い別々の物を頼んで半分コっていうのはどぉ?」
上条「ああ、悪くないな。どうせなら二つの味を楽しめた方が」
食蜂「決まりねぇ」
上条「じゃあ店員さん、俺はこのモンブランを」
女性店員「はい、かしこまりました」ガラガラ
食蜂(あら、以心伝心――って、そんなわけないか)コツン
女性店員「食蜂さんはどれにするの?」
食蜂「あ、そ、そうね。ねぇ、上条さんは、後どれが食べたい?」
上条「コラコラ、ちゃんと自分が食べたいやつを選びなさい」
女性店員「先に席についてて。紅茶とセットで持っていくから」
上条「わかりました」
食蜂「上条さん、どこに座ります?」
上条「天気もいいし、窓際の方がいいんじゃないか」
女性店員「なら、一番奥の席がおすすめね」
上条「奥っていうと、あの大きな柱の裏ですか?」
女性店員「ええ、他の客席と隔てられてるから人目を気にせずに雑談できるわよ」
上条「あぁ、すいません、わざわざお気遣いいただいて」ペコ
女性店員「いいえー、せっかくのレアイベントなんだし、ゆっくりしていってちょうだいね」
食蜂「はい、お言葉に甘えさせていただきます」
上条「さっ、お先にどうぞ、食蜂サン」スッ
食蜂「え、ええ。ありがと」
食蜂(……レディファースト。エスコートじゃ男性が常に通路側、だったっけ)チョコン
食蜂(学舎の園で過ごしてる時には、絶対に見られない気遣いね)クス
食蜂(にしてもこの人、ビンボーしてるくせにマナーは一通り身についてるのね。椅子引くの自然だったし)
食蜂(もしかして、意外と育ちは良かったりするのかしら?)
上条「ここの店員さんって、押しつけがましくない程度に親しげな感じだな。フランクっつうか」
食蜂「あまり畏まられても堅苦しいじゃないですか。学舎の園はお嬢様校の寄合みたいなものですし」
上条「みんな厳格さに慣れちまってると、開放感がより好まれるのか」
食蜂「かも知れないですね。ちなみに、このお店の感想は?」
上条「こういうシックな雰囲気はかなり好き。お前、いい趣味してんだな」
食蜂「良かった、気に入ってもらえたみたいで」ニコ
女性店員「お待ちどうさま。ケーキセットになります」
食蜂「んー、美味しそう」
上条「あの、さっきから気になってたんですけど」
女性店員「何かしら?」
上条「お店の中、ほのかにいい香りが漂ってますよね。これって」
女性店員「そういえば、男の子にはあまり馴染みがないかしらね。エッセンシャルオイルって聞いたことない?」
上条「あぁ、ありますあります。通販番組なんかで耳にしますね」
女性店員「ええ、アロマテラピー何かでよく使われる物よ。ほら、あそこの金属製の燭台に蝋燭が見えるでしょ?」
上条「一本だけ火がついてますね」
女性店員「熱で蝋が溶け出す度に、中に混ぜてある何種類かのローズオイルが香りを放つの」
上条「へぇ、お洒落ですね。このアンティークショップっぽい内装もお姉さんの趣味なんですか?」
女性店員「ここじゃあどうしたって客層が偏るからねぇ。どのお店でも大なり小なり個性を出そうと悪戦苦闘してるわ」
食蜂「…………」ジー
上条「すげえな、この蝋燭も手作りなのか。こんなの貰っちゃっていいのかな」コンコン
食蜂「いいんじゃない、外へのお土産ができたと思えば」ムス
上条「……あれ、何むくれてんだ?」
食蜂「別にぃ、むくれてなんてないわよぉ」モソモソ
上条「と、そうだ。ケーキ半分コにするんだったな。ほら、先に取っちまえよ」スッ
食蜂「…………」
上条「どうした? まだこっち側は手ぇつけてないから遠慮なく」
食蜂「――違う」
上条「……へ?」
食蜂「イメージと違うのよ。こういう場では、お互いのフォークで食べさせ合ったりするものじゃないのぉ?」
上条「オイオイ、お前確か昨日、公私のケジメはちゃんとつけろとかなんとか」
食蜂「昨日は昨日、今日は今日でしょう」プク
上条「いや、にしたって、ここでやるのはさすがに……」ポリ
食蜂「何よぉ、おかゆの時はやってくれたじゃなぁい」
上条「そりゃあ、あんときはお前が病気してたし、家だったし」
食蜂「元気になったから、ここが外だから冷たくしてもいいってわけ?」ジト
上条「少し声を抑えろって。つかお前、言ってることが無茶苦茶すぎだぞ」
食蜂「…………」ゴソゴソ
上条「ったく、どうしたんだよ。何か嫌なことでもあったのか?」
食蜂「……」スッ
上条「って、何で俺にリモコン向けてんだ? 能力は通じないって――」
――ピッ
上条「いや、あのさ」
食蜂「――」ピッピッ
上条「……だから、無理だって」
食蜂「~~~~~~」ピピピピッピピピピ
上条「だぁもうわかった、わかりましたよ! 少し身を乗り出してくれ、このままじゃ届かない」スッ
食蜂「……」コクン
上条(あ、そこは素直に聞くんだ)
食蜂「ご馳走様でしたぁ」ニコニコ
上条「やばいな、ここまで美味いモンブランがあるとは思わなかった」
食蜂「でしょう? 土台に少し塩気があって、クリームの甘さと妙に合うのよねぇ」
上条(やっと機嫌を直してくれたか……それにしても)チラ
上条(さっきの駄々っ子は、いったい何だったんだろう)ウーン
上条(情緒不安定ってやつか? 自分の身が狙われてるかもって聞かされたら、誰だっていい気はしないだろうし)
食蜂「――あ、そうだ、携帯」
上条「……携帯? あれ、鳴ってるか?」ゴソ
食蜂「じゃなくて、番号交換してなかったじゃない?」
上条「あ、そういや済んでなかったっけ。じゃあ、そっちの番号教えてくれ」
食蜂「了解。私の番号は――――」
上条「――――おっけー。んじゃあ転送するぜ」カチカチ
――prrrr
食蜂「……うん、登録完了ッ」バッ
上条「いちいち見せんでもいいですよ」
女性店員「ケーキセット二点でお会計2800円になりまーす」
上条「」
食蜂「あっ、上条さんは出さなくていいわよぉ?」
上条「……え? いや、だけどさ」
食蜂「こっちが無理言って付き合わせちゃったんだし、ポイントカードもあるから」
女性店員「ポイントは貯めとく? それとも使っちゃう?」
食蜂「全部使っちゃってください」
女性店員「それじゃ、今日はお代なしね。レシートはどうする?」ピッ
食蜂「えっとぉ、残りのポイントだけ教えてくれますか」
女性店員「了解。ええっと、253ポイントね」
食蜂「わかりました、ご馳走様です」
女性店員「また来てねー。彼氏君も、いつでも歓迎するわよ」
上条「え、いや、俺は――」
食蜂「さっ、上条さぁん、行きましょ?」ムンズ
――カラーン
食蜂「それじゃあ寮までのエスコート、しっかりお願いしますね」
上条「ちゃんと誤解を解かなくていいのか?」
食蜂「馬鹿正直に護衛だなんて伝えたら出入り禁止になっちゃいますよ? だったら、彼氏の方がまだマシです」
上条「……んー、まぁ、いたずらに不安を煽ることもないか」
食蜂「心配しなくても、店員さんの記憶は今度会った時消しておくから大丈夫☆」
上条「あぁ、それなら問題ない――って大ありだ! お前の能力はそんな気軽に使っていいもんじゃ」
食蜂「冗談よぉ。その代わりに誤解はそのままになっちゃうケド、今の反応なら納得してもらえるってことねぇ?」ニコ
上条「……お前がそれで構わないってんなら、いいけどさ」
上条(にしても? 100円で5ポイント溜まるってことは)ヒーフーミー
上条(うへ、あの店だけで6万以上使ってる計算か。住む世界が違いすぎですよ)
食蜂「言っとくけど、全部自分一人で食べてるわけじゃないですよぉ?」
上条「……あれ、そうなのか」
食蜂「今日みたいに誰かに奢ることだってあるし、派閥の歓迎会何かじゃ費用は基本学校が持ってくれますから」
上条「……これが、学園都市のカースト制度なのでせうか」
食蜂(実はポイント三周り目なんだけど、黙っておいた方がよさそうねぇ)
『あら? あそこにいるのってもしかして』
『まぁっ、常盤台の食蜂様だわ!』
『ど、どうしましょう! 近づいてご挨拶した方がいいのかしら?』
『ちょっと待って! 隣にいる黒服の方って、どう見ても男性よね?』
『そんな、学舎の園に殿方がいるなんて』
『どういうご関係なのかしら。まさか、こ、ここ、恋人……』
『SPってやつじゃないの? 某国のスパイから命を狙われてるとか』
『映画の見すぎ乙、って言いたいとこだけど、食蜂様ほどの能力者なら普通にありそうね』
『あっ、ねぇっ、今の見た!? 私に手を振って笑いかけてくださったわ!』
『何言ってるのよ。あなたじゃなくて私に、よ』
『嗚呼、お姉様。ただこうして歩いているだけでも絵になるなんてぇ』
上条「噂ってのは、こうやって尾鰭がついていくんだなぁ」トコトコ
食蜂「想像力が豊かすぎるのも考え物ですよねぇ」フリフリ
――学舎の園ゲート前
ゲート係員「では、入園許可証をお預かりします」スッ
上条「お願いします」
ゲート係員「いかがでしたか? 初めての学舎の園は」ピッピ
上条「そりゃもう、ばっちり目の保養になりまし――てっ」ポカッ
食蜂「上条さん、ご自分の目的履き違えてません?」ムスッ
上条「やだなぁ、お茶目なジョークじゃないですか」
食蜂「だいたい、目の保養がしたいっていうのなら私を見ればいいと思うんですけどぉ?」
上条「……何つうか、実力に裏付けされた自信ほど扱い難いものはねえよなぁ」
食蜂「それって、どういう意味かしらぁ?」
上条「実際『なるほど』と納得させられちまった後じゃ茶化しにくいだろ」
食蜂「……あ、そ、そう」
上条「どうした? 顔赤いぞ?」
食蜂「べ、別に、なんでもないです」
ゲート係員「――お待たせしました、どうぞお通りください」
上条「明日もまた、入園前にこちらに伺えばいいんですよね?」
ゲート係員「はい。明日は私お休みを頂いておりますので、他の者が対応致します」
上条「わかりました」
ゲート係員「ああ、そういえば、街の建物などはゆっくりとご覧になれました?」
上条「歩いてるだけでも退屈しません。噂には聞いてましたけど、ホント外国みたいな街ですよね」
ゲート係員「それでも、セキュリティは並大抵じゃありませんけれどね」
上条「ああ、そうみたいですね。監視カメラがあちこちに設置されてるし、女性の警備員(アンチスキル)と何度もすれ違いましたから」
食蜂「警備員はともかくカメラは明らかにやり過ぎよねぇ。屋内に入らないとおちおち鼻もかめないわぁ」
ゲート係員「そのように指摘されることもままありますが、それくらいでないと親御さんも大切なお嬢様を安心して送り出せませんので」
食蜂「……あぁ、うん。それは、そうかも知れないケド」
上条「…………」チラ
上条「さてさて、食蜂さん。遅くならないうちに行きますよー」ポン
食蜂「あっ、ちょっとぉ! 気安く頭に触らないでくださいよぅ!」
上条「さて、バスまでは少し時間があるな」
食蜂「上条さん、さっきのお話の続きなんですけど」
上条「……うん? さっきっつーと」テクテク
食蜂「外国のお話です。上条さんは海外旅行の経験がおありなんですか?」
上条「ああ、つい先ごろイタリア行ってきたぞ。観光って風合いじゃあなかったけど」
食蜂「イタリアの、どちらまで? ローマ? それともナポリ?」
上条「ヴェネチア。水の都っていうだけあって町中運河とアーチ橋だらけでさ、タクシーばりに渡し船が通ってた」
食蜂「うわぁ、羨ましいです。私もいつか行ってみたいと思ってる場所の一つなんですよぉ」
上条「長期休暇中なら行けないこともないだろ? 俺と違って裕福なんだし」
食蜂「それが、何度か外出申請してるんですけど、ちっとも許可が下りないんですよぉ」
上条「……そっか、お前ほどの能力者だと出かけるだけでも面倒な手続きがいるんだろうな」
食蜂「研究ありきの待遇だから少しは我慢しますケド、ちょっとくらい自由にさせてくれたって、ねぇ」
上条「……じゃあ、その代わり――にはならないかもしれない、つーか確実にならねぇけど」
食蜂「はい?」
上条「だからさ、この一件が片付いたら」
食蜂「片付いたら?」
上条「気晴らしに少し遠出でもどうかなって」
食蜂「えっ、本当ですかぁッ!? 上条さんが連れてってくれるの!?」ガバッ
上条「おい、落ち着け! 俺の懐具合じゃ行ける場所なんてたかが知れて――」
食蜂「そんなの全然問題ないですって! 温泉旅館でも民宿でも、なんなら旅費全部こっち持ちでも――」パタパタ
上条「しーっ、声がでかいって。どこで誰が聞き耳立ててるかもわからねえんだぞ」キョロ
食蜂「ふふ、いったいどこ連れて行ってくれるのかしらぁ。楽しみぃ☆」ウキウキ
上条「頼むから人の話を聞いてくれよ……」ガク
食蜂「そろそろバス停に並びます?」
上条「そうだな。もう学舎の園の外なんだし、そんなに人目気にする必要もないか」
食蜂「上条さんの服は注目の的ですけどね」
上条「こんな青空の下じゃ目立つのも仕方ねえよな。ただでさえ学生の街だってのに」
食蜂(んー、即席タクシーを使いたいところだけど、さすがにこの人の前でやったら怒られちゃいそうねぇ)
上条「…………」クル
食蜂(……??)
上条「――って、ああ、気にしないでくれ。不審なやつがいないか見てるだけだから」
食蜂「あ、そ、そうでしたね」
上条「第七学区は良くも悪くも雑多な区画だからな。巡回している警備員の目が届かない場所も少なくないし」
食蜂(…………)ポケー
上条「……どした?」
食蜂「あ、いいえ。何でもありません」ニコ
上条「そ、そっか。なら、いいけど」
食蜂(……うん。守られるのって、思ったより悪くないのかも)
――バス内
運転手『右に曲がりまぁす。お立ちの方はご注意くださぁい』
上条「さすがにこの時間は座れないかぁ」
食蜂「ぎゅう詰めじゃないだけマシですよ。学生寮まで十分もかかりませんし――きゃっ!?」グラ
上条「おっと」ドサッ
食蜂「ご、ごめんなさい!」
上条「いや、いいよ。それよか、こっち側の吊革のが掴まりやすいんじゃないか?」
食蜂「いえ、大丈夫です。伸びなくて済む分手すりの方が安定しますし――」
食蜂「――――」ドクン
食蜂(……今、ファミレスに入っていったのって)
上条「……あれ? 食蜂、どした?」
食蜂「…………」
上条「もしもーし、食蜂サン?」
食蜂「あ、ご、ごめんなさい。何かしらぁ?」
上条「いや、沿道の方に見入っていたみたいだからさ。てっきり誰か知り合いでも見つけたのかと」
食蜂「……あぁ、いえ、人違いだったみたいです」
上条「そうか。ならいいんだ」
食蜂(少し遠目だったけど、見間違いじゃない。額に包帯巻いてるのもいたし)
食蜂「……あの、上条さん」
上条「うん?」
食蜂「今日はまだ初日ですし、常盤台に到着したらそのままバスに乗って帰っちゃっていいですよ?」
上条「え? いや、だけど、一応寮の入り口までは付き添わないと」
食蜂「このバスが行ってしまったら次来るのは最終便ですよね? そこまで迷惑はかけたくないんです」ニコ
上条「んなこと気にするこたぁねえって。走って帰れば着く時間もバスと大差ねえし」
食蜂「でもほら、常盤台の生徒は私以外にも大勢いるみたいじゃない? ほとんどは門前のバス停で降りるはずですから」
上条「……確かにそうみたいだけど、……でもなぁ」
食蜂「いいからいいから、あんまり過保護にされるのは面白くないんだゾ☆」
上条「……まぁ、そこまで言われたら引き下がるしかねえけど」
食蜂「気にかけてくれるのはもちろん嬉しいですよ? でも、この状況で先手を取らせないくらいの自負は持っていますから」
上条「確かに、第五位の能力者だもんな。本来は俺が護衛なんてのもおこがましいくらいだし」
――プシューッ
『常盤台中学校学生寮前。常盤台中学校学生寮前でございます。車内でのお忘れ物などにご注意――』
食蜂「じゃあ、今日はここで――――上条さん?」
上条「……こっから見える範囲内では、不審車両は見当たらないか」
食蜂「あっきれた。まだ心配してたのぉ?」
上条「そういう性分なんだよ、悪かったな」
食蜂「ううん、ごめんなさい。ここまで気にかけてもらえるのって、とてもありがたいことよね」
上条「俺だけじゃねえぞ。寮の先生にしたって、小萌先生だって、お前のことを案じてる」
食蜂「小萌……って、月詠先生のこと?」
上条「あぁ、話してなかったっけ。今の俺の担任なんだよ。ここんとこずっと世話になりっぱなしで」
食蜂「はいはい、一生頭が上がらない、でしょ?」
上条「……え」
食蜂「んもう、覚えてないのぉ? 上条さん、ずっと前も似たようなこと――」
運転手「お客さん。常盤台の制服ですけど、降りなくて大丈夫ですか?」
食蜂「あ、す、すみませぇん。すぐ降りま~す」ペコ
上条「…………」
――ガラガラ
食蜂「それじゃまた明日、お願いしますね」フリフリ
上条「ああ、また明日。って、ほらほら、ちゃんとみんなに遅れずついてけよ」
食蜂「そっちこそ、窓からそんな身を乗り出したら危ないですよ。子供じゃないんですから」
上条「わかったよ。何か気になることがあったら遠慮なく携帯にかけてくれな」
食蜂「ええ、そうさせてもらいます」
――プップーッ ――ブロォォォォ
食蜂「…………行ったわね」ピタ
食蜂「……」クル
――ピッ ――キキィッ!
クリーニング屋「…………」ガチャ
食蜂「――常盤台中学方面へ、限界までブッ飛ばしなさい」バタン
クリーニング屋「リョウカイシマシタ、シートベルトヲオネガイシマス」
――上条宅
上条「ただいま――っと、こりゃ誰の靴だ?」
インデックス「おかえりなさい、とうま!」
姫神「お邪魔してます」ペコ
上条「おお、姫神。来てたのか」
インデックス「一緒にスフィンクスと遊んでたんだよ」
スフィンクス「ナァウ」
上条「あれあれ、ずいぶんとさっぱりしちまってまぁ」
姫神「久しぶりにお風呂に入れたから」
上条「あー、そりゃ助かるわ。相変わらず嫌がってたろ?」
姫神「二人掛かりなら、余裕」ブイ
インデックス「なんだよっ」エヘン
上条「うぬぬぬ……どれがババだ。これか、いや、わざとらしく先の突き出ている」
姫神「駆け引きはいらない。あなたの場合、どれを引いてもババ」ウフ
上条「なんつう言い草だ、ぐれんぞマジで」
――prrr
上条「っと、電話か。ちょっと待ってくれな」
上条「……あれ、御坂?」ピッ
上条「はい、もしもし?」
御坂「あ、出た。アンタ今どこにいんの?」
上条「どこって、たった今寮に戻ってきたところだけど」
御坂「もう家に帰ってるそうです。――あぁいえ、どうもそういう感じじゃ」ボソボソ
上条(……ん? 御坂以外に誰かいるのか?)
御坂「……ごめん、一つ訊きたいんだけどさ」
上条「なんだよ、改まって?」
御坂「……食蜂操祈、アンタと一緒にいないのね?」
インデックス「と、とうま!? いきなり血相変えて、何かあったの?」アワアワ
上条「すまん、ちょっと野暮用が入っちまった! 出かけてくる!」バッ
インデックス「出かけてくるって、私たちの夕飯――」
上条「あ、ああ。すまん、そうだったな」ゴソゴソ
上条「悪いが今日は外食で済ましてくれ。ご飯代、ここに置いとくからな!」バンッ
インデックス「ちょ、ちょっと、とうま!?」
――バタンッ!
インデックス「……行っちゃった。相変わらず、主に私への配慮が足りないんだよ」ブス
姫神「……でも、あの慌てようはただ事じゃなさそうな予感」
インデックス「……ッ! ま、まさか! そんな!」ガーン
姫神「ど、どうしたの?」
インデックス「あ、ありえないんだよッ! ケチなとうまがご飯代に三千円も置いていくなんてッ!」
姫神「……なるほど、新札でぴったりくっついてたっぽい」ピラ
インデックス(……それだけ慌ててたってこと? いったい何があったんだろう)
――タッタッタッタッ
上条「はぁっ……はぁっ、不幸だ! 初日からこれかよ!」
上条(携帯――、コール音が聞こえるってことは、まだ電源は生きてるのか)
御坂『――うん、まだ寮には戻ってないみたいなの。携帯も一向に通じないって』
御坂『さっき警備員に連絡してGPS探査してもらってるから、じきに見つかるとは思う』
御坂『ええ、それは大丈夫よ。コール音は聞こえてるし、電源は切られてないわ』
御坂『認めるのも癪だけど、アイツの力って半端じゃないから、その辺の連中にどうこうされるとは思えないけど』
御坂『別に私も、心配してるってわけじゃないんだけどね。寮監がいやに気にしててさ』
御坂『だからさ、その、あんま気にしないでね。気休めにしか聞こえないかも知れないけど』
御坂『アンタが彼女をちゃんと寮まで送り迎えしてたのは、バスに乗ってた子たちから聞いてるから』
上条(……いや、やっぱり無理やりにでもバスを降りて付き添うべきだった。くっそ、自分の馬鹿加減が恨めしい!)グッ
上条(って、後悔すんのはあとあと。今は一刻も早くアイツを見つけ出さねえと)ブンブン
上条(つったって、闇雲に探したところで見つかるはずもねぇ。人数の多い警備員が見つけ出す方が先に決まってる)
上条(……そういえば、さっきバスの中で沿道の方を気にして――――)
上条「乗車から二、三分の範囲ならかなり搾れるな。行くだけいってみるか」ダッ
――とあるファミレス
不良4「おう――おう、わかった、伝えとく。じゃな」パタン
不良1「5のやつどうだったって?」パクッ
不良4「全治一か月だと。やっぱあん時に折られてたみたいだな」
不良3「ウニ野郎がふざけやがっ……てて。くっそ、まだ顎が痛ぇ」ズキズキ
不良2「全部食べれそうにないんだったら何か引き受けるぜ? その魚のホイル焼きとか」
不良3「メインディッシュだぞ、ふざけろ」
不良2「魚といえば、逃がした魚はでかかったよなぁ。あんだけの美人、滅多にお目にかかれねえってのに」ズルズル
不良1「今はそれよかガキだ! 邪魔した挙句に携帯までぶっ壊しやがって!」
不良4「お前はまだマシだろ。こっちはまだ半年分も分割支払い残ってるってのに」
不良3「そんなに新しいなら保証してもらえんじゃねえのか?」
不良4「あれだけ派手に砕かれちまうと事故適用は無理だとさ」
不良1「事情が事情だし、うかつなことは言えねえかんな」
不良2「どのみち、このままただで終わらせるわけにはいかねえだろ?」
不良4「あたぼうよ。仲間内でやつの人相を広めてるから、ほどなく見つかるはずだ」
不良2「いくら強いっつったって現役軍人ってわけじゃねえ。人数集めてタコっちまえば問題ねえよな」
不良3「おうよ、草の根掻き分けてでも見つけ出して、フクロにして公衆便所に顔突っ込ませて――」
女性店員「あの、申し訳ありませんお客様」
不良3「あん?」
女性店員「周りのお客様のご迷惑になりますので、もう少しだけお声を下げて」
不良1「……なぁにいちゃもんつけてんだ?」
不良2「おいおい姉ちゃんよぉ。声かける相手はよく選んだ方がいいぜぇ?」
女性店員「で、ですが、あの――きゃっ」
不良3「こっちはちゃんと高い金払ってんだぞ? 少しくらい大目に見てくれや」
不良4「まぁ、あんたが色々サービスしてくれるってんなら、話は別だけどな」
女性店員「――――」ピクン
不良1「おいおい、そりゃ店が違うだろ――」ハハ
――バァンッ!
不良4「ぐあっ!?」
不良1&2&3「」
女性店員「…………」ボー
不良4「がぁ……いっ……てぇ」ググ
不良1「……ちょ、トレイでぶっ叩くとか」
不良2「こ、このクソアマッ! いきなり何しやが――ぁ?」
不良3「……あ、あれ?」ググ
不良1「……な、何だこりゃ? 手足が動かねえぞ!?」
――ドゴッ!
不良2「がっ!?」
男子学生「…………」ボー
不良1「2っ! このガキッ! どっから湧いて出て――」
――バキィッ!
不良1「ぐへッ!」ダンッ
不良3「…………」ボー
不良1「くっ、てめえ! 殴る相手が違うだろうが!」
不良3「…………」ググッ
不良1「……ちょ、おい、ま、待て。今度こそ冗談じゃ済まさ――ぐはぁっ!」ガッ
不良1(な、何がどうなって――ていうか、これだけの騒ぎになってるのに)
レジ店員「お会計2160円頂戴いたします」
男「おい、小銭持ってる?」
女「多分あったと思う。ちょっと待って」ゴソ
不良1(何で他の連中は、こっちの異変に気づいてねえんだよッ!)
不良2「……どう考えても尋常じゃねえ。これってもしかして、能力者の仕業か?」
???「ピンポ~ン☆」
不良1「……ッ!」クル
食蜂「先日はどうもぉ。色々お世話になっちゃったわねえ」ツカツカ
食蜂「まだお店にいてくれて良かったわぁ。また探し直すなんて面倒だものね」
不良2「お、お前……あの時の女!?」
不良4「……この状況は、てめえの仕業か」
食蜂「ええ、私の演出力の賜物よ。お店の中にいる人たちには、あなたたちの存在は一切認知されてないわ」
不良1「ば、馬鹿げてる。そんな広域で認識を誤らせることなんてできるわけが」
食蜂「そうそう、自己紹介が遅れたわねぇ。学園都市第五位、食蜂操祈でーす☆」
不良4「第五位……レベル5だと!?」
不良2「だ、だけど、今までそんな素振りはまったく――あの時だって」
食蜂「たまたま体調不良で能力が使えなかっただけよぉ? 本調子ならこんなことも」ピッ
――ゴッ!
不良4「ぐっ!?」グラ
不良2「あがっ!」ガクン
食蜂「朝飯前」ニタァ
不良1「な、殴り合わせた!?」
――ドサッ
不良2&4「」ピクピク
不良1「…………ぁ」カタカタ
食蜂「ええっと、こういうのって何ていうんだったかしら。ダブルノックダウン、であってる?」
不良1「な、何考えてやがる。先の件のお礼参りのつもりか」
食蜂「もちろんそれもあるけど、どっちかといえば本命は別」
食蜂「ほらぁ、あなたたちみたいなのって後々まで根に持つじゃない?」
不良1「……何?」
食蜂「わからない? 私を助けたことがきっかけであの人に迷惑をかけたくないの」
食蜂「せっかく距離が縮まったことだし、このさい邪魔者はきっちり排除しとかないと、ネ?」
不良1「……い、いい気になんなよ? こんだけ舐めた真似して、てめえただで済むと」
食蜂「あらやだ。あなたこそ、まさかこれだけで私の気が済んだとでも思ってるワケ?」
不良1「……あ、あぁ?」
食蜂「うーん、どうせ全部忘れちゃうんだから説明する意味もないんだけどぉ」
不良1「忘れるって、どういう意味だ」
食蜂「あなたたちの頭の中から今日の記憶を消しちゃえば、今何をしたところで問題ないでしょう?」ニタ
不良1「……なん、だと」ゾワ
食蜂「高位の精神系能力者だったら記憶の改竄くらいわけないのよ。ご存じなかった?」
食蜂「たとえば、ここにいるあなたのお仲間の頭をいじって、あなたを性欲の捌け口として見なさせることだって」
不良1(……ッ)ゾゾゾ
食蜂「咄嗟の思いつきにしては妙案かしらね。襲われた側の気持ちが少しは理解できるかもしれないし」
不良1(……こ、こいつ、まともじゃねえ)ブルッ
食蜂「前置きが長くなっちゃったけど――私を襲ったことについて許す気は全くない」
食蜂「それ以上に、あの日の私の記憶を、あなたがたが持っていることは絶対に許さない」
食蜂「言わずもがな、上条さんを害そうとしている連中を放っておく気もない」ジト
不良1「……つ、付き合ってられねえぜ」
食蜂「そうつれないこと言わないで? 今からたっぷりと地獄を見せてあげるから」
食蜂「ゆっくりと、時間をかけて、あなたたちの頭に心的外傷(トラウマ)を深く深ぁく刻んであげる」
食蜂「それが済み次第、私とあの人の記憶を消去する。残るのはいつ受けたかもわからない深刻な心の傷だけ。ご理解いただけたかしら?」
不良1「……しょ、正気かてめえ!」
食蜂「それはすぐにわかるわよ。さあ、早速始めましょうか」ニタ
調理担当「…………」スチャ
不良1(……なんだ? 手に持ってるのは……皮剥き器(ピーラー)か?)
食蜂「来たわね」スッ
――ピッ
不良3「――え、あれ、……俺、いったい?」
不良1「3! 正気に戻ったのか!?」
不良3「……1? え、これ何がどうなって、なんで一緒に飯食ってた2と4がノビて――」
食蜂「ほらほらぁ。時間が押してるんだから、あなたはさっさと手を出す」ピッ
不良3「……!?」サッ
調理担当「…………」ピタ
不良3「……ちょ、待て。……皮剥き器って……じょ、冗談だよ、な?」ブルッ
不良1「――お、おいッ!」クル
食蜂「Lets、早剥きチャレンジ☆」ピッ
――――シャッ!
不良3「い゛ッ――ぎぃやぁあああッッ!!」ガクガク
不良1「~~~~ッ」ゾゾゾ
――ゴクゴクゴク
不良1「ぷはぁっ! だ、誰か、助けっ、助けてくれッ!」ボロボロ
食蜂「まだ2本目でしょう? さぁ、遠慮せずにどんどんいっちゃって」ピッ
不良1「ストレートじゃ無理だ、頼む、勘弁してくれ! こんないっぺんに飲んだら急性アルコ――うぶっ」グビ
食蜂「最初は油とか醤油とか一気飲みさせる気満々だったんですケドぉ? ここは、私の慈悲力に感謝しなくちゃいけないところじゃない?」
不良1(……お、おかしい。これだけ時間が経ってるのに一向に助けが来ねえってことは、まさかこいつの能力は外にまで)
食蜂「はい正解、まだ少しは頭が回るみたいね。意外とお酒強い体質かしら?」
不良1「……かっ、考えていることまで、読めるのか」カタカタ
食蜂「そんなに怯えられるのは心外だわぁ。あなたたちが常日頃からやってることじゃない」
不良1「……俺たちが?」
食蜂「だってあなたたち――」
食蜂「助けてって言われて助けてあげたことなんてないでしょう?」
不良1「……ッ」
不良1(……そうか。頭の中を読めるってことは、以前の記憶まで)
食蜂「私も、さっきあなたたちを見つけた時は、ここまでやる気はなかったのよねぇ」
食蜂「だけど、今は無理。今年だけでこんなにやらかしてたなんて、心底吐き気をもよおすわ」
不良1(……や、やっぱり、こいつは、俺たちのやってきたことを全部)
食蜂「ご丁寧に写真や動画まで記録して、泣き寝入りしている被害者には同情せずにいられない」
食蜂「本当、どうしてやろうかしら。いっそ今すぐそこの車道に飛び込んでもらう?」
不良1「……ま、待ってくれ。お、俺たちが悪かったよ」
食蜂「それとも、セブンスミストの屋上からバンジージャンプする? 命綱はないけど」
不良1「た、頼むから、勘弁してくれよ、な? 何でもする、自首だってする、ほ、本当だ」
食蜂「ふぅん、この期に及んで言うことを聞いたフリして、なんてねぇ。その厚顔力には拍手を送りたいわぁ」
不良1「そ、そんなこと考えてなんか……!」ブンブン
食蜂「――あら、素敵。最寄りの緑地公園に巨大なスズメ蜂の巣があるそうよ?」
不良1「…………ぃ」
食蜂「説明するまでもないかしらね。このお店にいるお客さんの記憶を読み取っただけ」
食蜂「保健局に撤去されちゃう前に、それにしがみ付いてぶら下がってもらうっていうのも乙かしら」
食蜂「運が良ければ生き残れるかもね。どっちにしても、すっごく苦しいだろうけど――――ん?」
警備員A「こちらA、たった今保護対象を確認した」バタン
食蜂「あら、警備員の方々? 誰も通報してないはずなんだけど」
食蜂(ああ、私を探しにきたってこと? そういえば、携帯の電源入れっぱなしだったっけ)
警備員B「……お、おい、この有様は」
不良2&3&4「」グッタリ
不良1「た、助けてくれ……この女が、俺たちを」
警備員A「お、おい、この男子、手の皮が捲れて……」
警備員B「……き、君がやったのか?」
食蜂「だったらどうだっていうのぉ? 今日はお呼びじゃないんだけど」イラ
警備員A「――ッ、街中での能力の使用は禁じられているはずだ! 我々と一緒にご同行願おう」
食蜂「……肝心なときには助けに来てくれないくせに、どうしてそんなに偉そうなのかしらぁ」ボソ
警備員B「……なんだと? いったい何を言って」
――ピッ
警備員A&B「――――」ピクン
食蜂「いいわ。わざわざご登場いただいたんだから、あなたたちにも協力してもらうわね」チラ
不良1「…………ぁ」ボーゼン
食蜂「場所が割れたってことは、あんまりのんびりしてられないわね」
食蜂「一人一人別々の処分方法を考えるのも面倒だし――決めた」
食蜂「ゴミはまとめてゴミ箱にってねぇ」
食蜂「あなたたちには、一人ずつ粗大ゴミの回収車に入ってもらいましょうか」
不良1「…………」カタカタ
食蜂「うん、いい表情よぉ」パァ
食蜂「さぁ、皆さん。この連中を運び出す手伝いを――」スッ
???「食蜂ッ!」
食蜂「……ッ!?」バッ
上条「……はぁっ、はぁっ」ポタポタ
食蜂「……ぁ」
上条「……やっと、見つけたぞ」グィ
食蜂「上……条さん。あ、あなたまでどうして、ここに」
上条「はぁ……はっ……ふぅ」ググ
食蜂「……その汗の量、学生寮からここまで走って来たのぉ?」
上条「んなことはどうだっていい。お前の方こそ、こんなとこで何やってんだよ」
食蜂「それは、えっと、そのぅ」モジモジ
上条「……そいつら、つい先日お前を襲ってた連中だよな」
食蜂「そ、そうよぉ? ひどいのよこいつらったら。さっきも上条さんに報復しようとか相談してて」
上条「……俺のために、こんな目に遭わせたってのか?」
食蜂「べ、別にあなたのためってわけじゃ……その、私だってあれだけのことされたわけじゃない?」
上条「…………」
食蜂「舐められっぱなしでいられるほど、私は温厚じゃないの。だから実力で彼らのやったことの愚かさを」
上条「にしたって、ここまでやる必要はねぇだろがッ!」
食蜂「」ビクッ
上条「なぁ、わかってるはずだよな。お前は悪いやつらに狙われてるかも知れないって」
上条「俺は、お前が寮に戻ってないって聞かされて、ただただお前のことが心配で」
上条「だからいても立ってもいられず部屋を飛び出して、お前さえ無事なら後はどうなろうと構わないって……そう思ってたのに」
食蜂「……か、上条さん」
上条「……なのに、なんだよ、なんなんだよ、なんなんですかこの状況はッ!?」
上条「こんなに大勢の一般人を巻き込んで、あまつさえ犯罪に加担させて、いったいどういうつもりなんだよ!?」
食蜂「そ、そんな! 私は、ただ……」フルフル
上条「……バスを降りないでいいって言ってくれたとき、俺は単に気遣われてるものだと信じて疑わなかった」
上条「その言葉に甘えて、後で寮から不在だって連絡をもらった時、すっげえ自己嫌悪したさ」
上条「俺が目を離したせいで、お前の身に万が一のことがあったんじゃないかって、胸が潰れそうだった」
上条「なのに、当のお前は俺を騙くらかして、こんな復讐ごっこに興じてたなんて、あんまりすぎんだろ」
食蜂「だ、騙すつもりなんて! 誤解よぉ!」
上条「じゃあ一つ聞くけどよ、お前を迎えに来たはずのアンチスキルがこうやって棒立ちになってるのはなんでだよ?」
食蜂「……そ、それは」
上条「支配下に置いてるってわけだ、お前が」
食蜂「だ、だって、この人たちは私の邪魔をしようと」
上条「俺には……もう、よくわかんねぇ。お前のことも、この先お前とどうやって接したらいいかも」
食蜂「な、何よそれ! だいたい、犯罪者に罰を与えることがそんなにいけないこと!?」
上条「学園都市の治安を司っているのはお前じゃない、警備員や風紀委員だろ」
食蜂「お、おめでたいわねぇ。あなた、彼らを信用してるわけ?」
上条「少なくとも、手前勝手な能力者よりは信用できるだろうよ」
食蜂「あ、……あぁそう、それがあなたの答えってわけ?」
上条「……だったら、文句があるってのかよ」
食蜂「彼らが今まで何をやって来たのか、どんなことを考えて生きているのか知らないから」
食蜂「だから、そんな甘っちょろいことが言えるのよ」ズズ
上条「」ゾワ
食蜂「能力開発から落ちこぼれた事実に蓋をし、内在する鬱憤を晴らすために悪事を働き」
食蜂「あまつさえ欲望の捌け口にされて嘆き苦しんでる女の子を見て悦に浸っている、救いようがない連中よ?」
食蜂「……私だって、危うくその一人になるところだった」
上条「それは……」
食蜂「上条さんは、私の言葉を全面的に信用することができないかしら?」
上条「そうじゃねえ! ねえけど……こんなやり方は」
食蜂「こうやって私があなたとやり取りしている最中にだって、色々考えてるみたいよ?」
食蜂「どうにかしてこの窮地を切り抜ける方法はないのか、とか」
食蜂「駆けつけてくれたヒーローの活躍にこうご期待、とかね」クス
上条(……ッ)チラ
不良1「……う、嘘だ! 出まかせだ!」フルフル
食蜂「嘘かどうかがご自分がよくご存じですよねぇ」
食蜂「この場を切り抜けたら仲間総出で、私を再起不能になるくらいいたぶってやるとか」
上条「……お前ッ!」
不良1「ち、違……違う! 俺は……そんな……」
食蜂「反省している風を装いながら、そんなことを企んでるんですよ? 心の深ぁいところで」
食蜂「今まで襲った十数人もの被害者に対して、罪悪感なんかこれっぽっちも感じていない」
食蜂「彼らの頭にある思考は、自分さえよければいい。他人を貶められたらもっといい。その二点に尽きる」
食蜂「それを許せと? 許せるワケないでしょ? 私は、今この瞬間だって」
食蜂「彼らの頭の中で、乱暴されちゃってるんですケド?」ギリ
上条「――――」
食蜂「あの日の続きが、あなたが助けに来なかった、たらればの光景が」
食蜂「その不鮮明な映像が、私には見えているんです」
食蜂「過去、こいつらに乱暴された女の子たちの絶望力に満ちた表情が、見えてるんです」
上条「…………」
食蜂「今彼らを警備員に引き渡したところで、数年で何事もなかったかのように出てきますよ?」
食蜂「一方で、襲われた女の子たちは一生その傷を背負っていくんでしょうね」
食蜂「当事者でも女でもないあなたの尺度だけで語らないでください。はっきり不愉快ですので」
上条「…………」
食蜂「さぁ、わかったらそこをどいてください。彼らには彼らに相応しい罰を与えますから」
上条「…………」
上条「……断る」
食蜂「……上条さぁん、これ以上私を失望させないでくれません?」
上条「……お前の怒りは良くわかる。お前の話が、事実だってことも疑っちゃいない」
上条「正直、俺だって今の話を聞かされて腸煮えくり返ってる」
食蜂「そんな表現じゃ全く足りませんけど」
食蜂「御坂さんのような力があれば、それこそ消し炭にしちゃってるくらいには憤ってますよ?」
上条「……これだけやれば十分だなんて言う気はない。――だけど」
上条「それでも俺は、お前にこんなことをしてもらいたくねえんだよ」
食蜂「……あなた、何様ぁ?」
上条「俺は、食蜂操祈の護衛だ」
食蜂「…………」
食蜂「…………だから?」
上条「俺は、お前の身の安全だけを最優先で考える」
上条「お前の話が事実ならなおさら、こんな連中に関わったって百害あって一利なしだ」
食蜂「だから引き離すってわけ? それじゃあ私の気が晴れないんですけど?」
上条「そうやって鬱憤晴らして、その先に残るもんなんてあるのかよ?」
上条「お前がそうやって能力をひけらかしていたら」
上条「その能力を利用しようと企んだり危険視するやつが絶対に出てくる」
上条「お前の身にこれ以上危険が及ぶようなことはさせない。お前を犯罪者にする気もない」
食蜂「…………今さら」
上条「……?」
食蜂「残念だけど、もう手遅れですよ。私の手は、とっくに血で汚れてますから」
上条「じょ、冗談、だよな?」
食蜂「直接的ではないにせよ、大量殺人の手伝いをしたのは間違いありません」
上条「…………」
食蜂「……あーあ。朝から嫌な予感はしてたのよねぇ」クル
上条「お、おいっ、食蜂! 話はまだ終わって――」ガクン
女性店員「オキャクサマ、ソノバデシバラクオマチクダサイ」ガシ
上条(……っ! 足止めさせようったってこっちにはこれが!)バッ
――キュインッ!
女性店員「あ、あれ? 私、いったい――ッ!」ピッ
食蜂「無駄よぉ。あなたの幻想殺しじゃ、私には絶対に届かない」
上条「待てよ! ちょ、離せって!」ググ
来店客「…………」ガシッ
上条(くそっ、駄目だ! 解除する傍から洗脳されちまうんじゃキリがねぇ! あいつ、一度に何人操ってやがんだ!?)
食蜂「やっぱり距離感って大事よねぇ。踏み込もうとした途端にこの体たらくだもの」ボソ
上条「……食蜂! 待ってくれ! 俺の話を――」
――ピッ!
不良たち「」ピクン
上条「……おまっ、やったのかッ!」
食蜂「ええ。あの日の記憶と、今日の記憶を完全に消去したわ」
食蜂「もっとも、あなたの能力なら元に戻すことなんて簡単でしょうけど」
上条「……どういうつもりだ」
食蜂「言葉通りの意味よ。あなたがその右手で彼らの頭を撫でれば」
食蜂「あなたへの恨みつらみとか、私が襲われてこいつらの前でみっともない格好を晒しちゃったこととか」
食蜂「今日ここで私から受けた仕打ち全てを思い出す。その後、どういった行動に出るかは神のみぞ知るってところねぇ」
上条「……無責任だろ、俺の判断に丸投げするってことかよ」
食蜂「私は、私自身の味方が欲しいと思っただけ。もっというと、その人が味方でいてくれるっていう確信さえあればいい」
食蜂「一時の気の迷いね。何を考えているのかわからない人なんて、本来私には必要ないのに」クス
上条「…………」
食蜂「……帰ります。これ以上そんな憐れむような目で見られるのには、耐えられそうにないですし」クル
食蜂「……それと、明日からは」キュ
食蜂「もう、迎えに来なくていいですから」ニコ
上条「……まッ、食蜂ッ!」ググ
食蜂「それじゃ、上条さん――――サヨウナラ」
続き
食蜂「好きって言わせてみせるわぁ」その2

