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【DQ7】マリベル「アミット漁についていくわ。」【後日談】(1/8)
【DQ7】マリベル「アミット漁についていくわ。」【後日談】(2/8)
航海九日目:霧の中の幻 / 不幸せな青い鳥
*「アルスさん! マリベルさん!」
アルス「アズモフ博士に ベックさん!」
翌朝、宿を出た少年たちが町の入口まで来ると、再び航海の旅に出る一行を見送りに学者の青年と博士がやってきていた。
ベック「……そうですか。もう 行ってしまいますか…。」
アズモフ「寂しくなりますね。」
ベック「本当はもっと アルスさんたちの 話を聞きたかったんだけどなあ。」
アルス「すいません。次の予定もありますので……。」
マリベル「うふふっ。旅の話なら 暇になった時にでも 遊びに来るから その時にね。」
名残惜し気な青年に少女が微笑む。
アズモフ「いや しかし ベックくん。ここは僕らが エスタード島に行くのも いいかもしれませんね。」
ベック「どういうことですか はかせ。」
アズモフ「アルスさんたちの お話にある そのエスタード島の 神殿というものが 非常に 興味深いと思いませんか?」
ベック「なるほど! 調査も兼ねて 遊びに行くんですね。」
博士の提案に青年は目を輝かせる。
アズモフ「そういうことです。それなら 私たちも ゆっくり話を聞くことができるでしょう。」
マリベル「……決まりのようね。その時を 楽しみにしておきなさい!」
アルス「宿もない村ですけどね。ぼくたちの家でよければ いつでも 歓迎します。」
ボルカノ「わっはっはっ! 遠い地からの 客とあれば うちの母さんも 張り切って 腕を振るうだろうな。」
コック長「わしらも 村にいる時であれば 名産の海の幸を 存分に振舞いますぞ。」
ベック「わあ! それは 楽しみだなあ。」
学術調査のためとはいえ、これほどまでに歓迎してくれるとあってははやる気持ちを抑えられないのか、青年は今からもう待ちきれない様子で握り拳をつくる。
ベック「あ でもその前に 今回の調査の内容を まとめなきゃ。」
アズモフ「きっと いい論文が できますよ。」
マリベル「期待してるわよ。なんせ このマリベルさまと その仲間たちの 活躍のおかげなんですからねー! おほほほっ!」
おどけた様で少女は高らかに笑う。
ボルカノ「よし それじゃ そろそろ 行くか!」
ベック「お気をつけて!」
アルス「はい! それじゃ お元気で……。」
眩しい日の光を横に浴びながら、涼しい風を受けて草原が波打つ。
それはまるで体がふわりと浮いてしまいそうなとても爽やかな朝だった。
マリベル「はーっ… なんか 気分いいわねー。」
学者の二人と別れた一行は町を後にし、空になった木箱を抱えて船を泊めてある岸の近くまでやってきていた。
アルス「帰ったら ガボにも 話してあげないとね。」
マリベル「きっと 悔しがるわよ~? どうして オイラも 連れてってくれなかったんだい! ってね。」
アルス「あはははっ! そうかもね。」
マリベル「…そういえば ガボってば これから どうするのかしらね。」
アルス「これから?」
マリベル「そっ。木こりのおじさんと 暮らすのは 構わないけど いったい将来 何をしていくのかなって。」
アルス「ガボのやりたいことか……。」
マリベル「まあ まだまだ ガボはお子様だから これからじっくり 考えていけば いいんだろうけどね。」
アルス「きっと 見つかるよ。」
マリベル「どうする? オイラも 漁師になるんだー! とか 言い出したら。」
アルス「えっ……うーん。まあ その時は その時かな。」
アルス「でも その場合 獲ったそばから 生でかじりついちゃいそうだけどね。」
マリベル「……ぷぷぷっ。そりゃ ケッサクねっ!」
アルス「あははは……あれ?」
二人がそんな他愛ない会話をしていると、泊めてある船の傍で何人かの男たちが話し込んでいるのが見えた。
ボルカノ「おう あんたら オレたちの船になんか用か?」
先陣を切って船の長が男たちに話しかける。
*「あ あんたたちか。」
こちらに気付いた男たちが海岸を指さす。
*「ほら 昨日の取り決めで この海岸に 船着き場を作ることになっただろ。」
*「今までは 沿岸用の 小さな漁船しか 使わなかったから なかったんだけどな。」
*「こうして お客さんを乗せた 大きな船が来ても 泊まれるように ここも整備することになったんだ。」
*「そこで 俺たち大工の出番ってわけよ。」
*「今は こうして だいたいの位置の 見積もりをしてるのさ。」
そう言って男は簡素な地図や図形が描かれた大きな羊皮紙を見せる。
アルス「そうだったんだ。」
ボルカノ「そりゃ すまねえな。朝っぱらから 頭が下がるぜ。」
*「なんの。おれたちの救世主のためとありゃ 手間暇は 惜しまないぜ。」
大工の男は頼もしそうに分厚い胸板を叩いて得意顔をする。
*「もう 出航すんのかい?」
ボルカノ「ああ。次が 控えてるんでな。」
*「そうか。こっから北の海は そんなに荒れないから 心配はいらねえよ。」
*「ただ 時々 霧が出るから 羅針盤は ちゃんと整備しておいた方がいいぜ。」
ボルカノ「それなら 問題ねえな。道具一式は いつも 手入れをかかしてないからよ。」
ボルカノ「じゃあ 行くぞ お前ら!」
*「「「ウスッ!」」」
ハーメリアの大陸を離れてからというものの、多少の向かい風はあれど漁船アミット号の道のりは順調そのものだった。
*「ぐごおおおおおっ…。ふしゅるるるる……。」
*「スー スー オマエ…… あいたいよお…… むにゃむにゃ。」
航海中多忙だった船員たちも見張りを減らして思い思いの時間を過ごしている。
マリベル「ふあー……あふぅ。」
そんな中この船に乗る唯一の女性である少女は眠気眼をこすり大きな欠伸をしていた。
コック長「寝不足ですかな?」
上品に紅茶をすすりながら料理長が問う。
マリベル「そりゃそうよ。」
マリベル「海じゃ アクシデント続き。ゆく先々では 遅くまで宴会。」
マリベル「これで 寝不足にならない方が どうかしてるわよ。」
*「あっはっは! それもそうですね。」
“いつでも元気いっぱい”を体現するかのように飯番が快活に笑う。
コック長「でも 原因はそれだけじゃ ないのではありませんかな?」
マリベル「な なによ。」
*「夜な夜な 熱いひと時を お過ごしなんじゃないんですか?」
マリベル「ばば……バカ言ってんじゃないわよ!」
マリベル「あいつとは そ そんなんじゃ ないわっ!」
そう言って少女は腕を組みそっぽを向く。
コック長「おやおや。」
*「あらあら。」
マリベル「あ ぜんっぜん 信じてないわね!」
コック長「そうは言われましてもなあ。」
*「いくらなんでも あんな熱い抱擁を見……むぐっ!」
男がメザレでの夜を思い出してそう言いかけた時、不意に隣の料理長に口を押えられる。
“しまった!”
しかし気づいた時にはもう遅かった。
マリベル「なな……やっぱり 見てたのね~!」
*「だって ボクたちの部屋でも あったんですよ!」
*「それを せっかく気を利かして 教会で寝たというのに……。」
マリベル「そ それは悪かったわよ……。」
マリベル「でも あれは あいつが いけないんだからね! 一人でしょいこんで うじうじしてたから あたしが ちょっと 慰めてあげただけよ!」
赤い顔で少女は必死に言い訳をする。実際その通りなのではあるが、こうして改めて口に出していて恥ずかしくなってきたのだった。
マリベル「それだけ……それだけなんだからっ。」
そうして再びそっぽを向いてしまう。
コック長「まあまあ 今は わしらでなんとかしますから マリベルおじょうさんも 少し お休みになってはどうですかな?」
コック長「寝不足は お肌に たたりますぞ。」
そこへきて見かねたコック長が助け舟をだす。
このあたりの年頃の娘の扱いにはそれなりに長けているあたり、流石は年配者というべきか。
マリベル「……そうね。そうさせてもらうわ。」
少女もすんなりとその提案を受け入れ、さっさと炊事場を後にする。
コック長「ふう。やれやれ お前さんときたら。」
*「へ……へへへ すいません つい からかいたくなって。」
コック長「そのうち ばったり倒れても わしゃ知らんぞ。」
*「……どういう意味ですか?」
コック長「さあなあ そのままの意味じゃ。」
*「……ぶるっ………。」
言わんとしていることを察したのか、料理人は身震いして作業に戻っていくのだった。
“あの少女をからかうのはやめよう”
などという、どうせすぐに破られそうな誓いを立てながら。
炊事場を出ると少女は目の前の卓に少年が突っ伏して寝ているのを見つけた。
そんな少年の顔を三毛猫が不思議そうにのぞき込んでいる。
マリベル「あら あんた そんなとこで 寝てたの。」
アルス「…………………。」
少女が話しかけても返事は帰ってこず、小さな寝息が聞こえてくるだけ。
マリベル「まったく 呑気なもんよねえ。あたしが 自分のせいで 恥かいてるっていうのに。」
トパーズ「なー……。」
マリベル「あんたも そう思うわよね~。」
そう言って少女は少年の向かいの席について優しく猫の顔を撫でる。
猫はくすぐったそうに体を振り、少女の懐に飛び込んでくる。
トパーズ「…………………。」
マリベル「うふふっ あんたも アルスに負けじと 甘えん坊ね。」
少女は顔をじっと見つめてくる猫の体をしばらく撫でてやっていたが、
やがて自らの瞼も重たくなり、少年と対になるようにして机に突っ伏して眠ってしまった。
“ギィ……”
しばらくして料理長が二人を見つけるも何も言わずにそっと扉を閉め、
覗きたがるもう一人の料理人を諫めて再び昼食の準備に打ち込むのだった。
アルス「よいしょ……ふんっ!」
雲の切れ間から柔らかい日差しが差し込む穏やかな昼下がり。
少年は日課である甲板の掃除をしていた。
アルス「ふぅ~。さすがに 嵐の後は一回だけじゃ キレイにならなかったか~。」
先日の嵐を受けて手分けしてしっかり掃除したつもりだったが、やはりところどころに磨き残して潮のこびりついた痕が残っていた。
アルス「…はあ……。」
ふと手を止めて額の汗を拭う。
心地よい風が頬をくすぐり床磨きで火照った身体を少しずつ冷やしていく。
アルス「……ん?」
目を凝らしていると遠くの空に向かって不思議な光が昇っていくのが見えた。
アルス「あっちの方角は たしか……。」
マリベル「どうしたの?」
なにかを思い出そうとする少年に後ろから少女が話しかける。
アルス「ああ マリベル あっちの方で 光が昇っていったんだ。」
マリベル「あっち? あっちって 確か 飛空石でしか行けない場所じゃなかった?」
アルス「そうだ! 大賢者のいたところだ。」
マリベル「ふうん。あの賢者が なんかしたのかしらね?」
アルス「……なんだろうね。邪悪な感じは しなかったけど。」
マリベル「あの賢者って 結局 何者だったのかしら? 神が死んだ時代から ずっと あそこで 暮らしていたかしらね。」
アルス「ほこらの隣に たくさんのお墓があったよね。」
アルス「もしかしたら 一族でずっと 代々 あそこに暮らしていて ぼくらが来るのを 待ってたのかもね。」
マリベル「だとしたら ユバールにしろ その賢者にしろ 本当に難儀な人たちよね。
いつ来るかもわからない 人たちを待って 永遠と 使命のために 自分たちの生活を犠牲にしなくちゃ ならないなんて。」
マリベル「あたしなら まっぴらだわよ。」
アルス「でも そういう人たちがいたからこそ ぼくたちの旅は 成就したんだけどね。」
マリベル「わかってる。ちゃんと 感謝はしてるわ。」
アルス「使命……か。」
マリベル「ん?」
少年が唐突に少女の言葉を反芻するように呟く。
アルス「ぼくたちの旅も ひょっとして 誰かに与えられた 使命だったのかなってね。」
マリベル「…………………。」
アルス「初めて 神殿に潜り込んだ時も 大陸が復活した時も 腕の痣が光った時も。」
アルス「いろんな人たちに 想いを託されて ぼくたちは 魔王を討ち取った。」
アルス「あの 神さまは 特に言ってなかったけど 水の精霊から 話を聞いた時は
ああ やっぱり これは偶然なんかじゃなかったんだってね。そう 思ったよ。」
マリベル「アルス……。」
アルス「魔王を倒す っていう使命が終わって ぼくたちはこれから 本当に 好きなように 生きていけるんだろうか。」
アルス「もし そうじゃないとしたら ちょっと やだなあ ってね。」
マリベル「これから……か。」
マリベル「確かに あんたの言うとおり あの旅は 偶然だけじゃない 大きな力が働いていたのかもしれない。」
マリベル「でも やることなすこと 決めてきたのは あたしで。あなたよ。違くって?」
アルス「……うん。」
マリベル「別に いいわよ。使命だろうと 運命だろうと。結果的には 悪くなかったと思ってるし いまだって満足よ。」
マリベル「どんな サダメがあっても あたしは あたしの好きなように生きるわ。」
マリベル「ふふん。どうよ。」
アルス「……かなわないなあ マリベルには。」
マリベル「なーに言ってんのよ! あんたが それじゃ あたしの計画はおじゃんだわよ。」
マリベル「もっと 堂々としてなさいってば。じゃなきゃ 人生損するわよ!」
アルス「あははは…。……ふんっ!」
少年は目いっぱい息を吸い込み、胸を膨らませて仁王立ちをする。
マリベル「あっははは! そうそう その調子よ。」
マリベル「あ……。」
少女が西の空に目をやると再び不思議な光が天へと昇り、美しい光の軌跡を残しながらやがて消えていった。
マリベル「……。」
マリベル「素敵な使命だって きっと あるわよね。」
“クスっ”と笑って少女は誰にともなく呟く。
アルス「えっ?」
マリベル「ううん。なんでもないのっ。」
マリベル「さ! サボってないで さっさと掃除しなさい!」
きょとんとする少年の背中を掌で打ち、少女はそのまま船内へと降りて行ってしまった。
アルス「…………………。」
アルス「まいっか。掃除そうじ。」
少年は少女の去ったあとをしばらく見つめていたが、
やがて甲板掃除という“今の使命”を思い出すと素早い手つきで再びデッキをこすり始めるのだった。
*「うひょお これじゃ 前が全然見えねえな。」
ボルカノ「よく 目を凝らせよ。何か見つけたら すぐに 報告するんだ!」
*「「「ウスッ!」」」
夕方頃から急に雲行きが怪しくなり始めた。
一雨来るかと思ったがいつまでたっても雨粒は落ちてこず、代わりに辺りには深い霧が立ち込めていた。
*「地図上じゃ この辺りは まだ 周りにはなんもねえ筈だ!」
ボルカノ「岩礁に乗り上げる 心配だけは なさそうだな。」
ボルカノ「羅針盤は 正常か!?」
*「へいっ いまのところ なんの問題もありません!」
ボルカノ「よおし あくまで 慎重に進むぞ。」
ボルカノ「帆を緩めるんだ! 速度を落とせ!」
アルス「わかりました!」
*「はい!」
例え目の前が白闇に染まっていようとも漁船アミット号はゆっくり確実に海上を進んでいく。
長年の経験は海の男たちに冷静さと度胸を与え、こんな状況においても怯む者は誰一人としていなかった。
*「なかなか 晴れねえなあ。」
日が完全に沈み、辺りは怖いほどの静寂に包まれていた。
相も変わらず深い霧は船の視界を奪い、惑わすかのように渦を巻いている。
*「もしかして 今日はこのまま 濃霧の中を 走り続ける羽目になるってか? 面倒くせえったら ありゃしないぜ。」
行けども行けども同じ光景が続く。
手ごたえの無い状況に見張りの漁師も辟易とし始めていた。
ボルカノ「なに それでも 方角がはっきりしてりゃ 怖いもんはねえ。焦らずに 行けよ。」
*「「「ウスッ!」」」
再び気合を入れなおし漁師たちが持ち場に戻ろうとしたその時だった。
*「ぼ ボルカノ船長っ!」
ボルカノ「あん どしたぁ! お化けでも出たか?」
*「ら 羅針盤が!」
ボルカノ「なにっ!」
船員の一人が慌てふためき漁師頭のもとへ転がり込んできた。
*「羅針盤が めちゃくちゃなんです!」
ボルカノ「なにっ!」
ボルカノ「……な なんだこりゃあ!?」
男たちは驚愕した。
先ほどまであれほど正確に方角を指し示していた羅針盤の針が不可思議に、まるで誰かが指で動かしているかのように回転しているのだった。
*「こ こいつはいったい……!」
ボルカノ「アルス! 帆をたため! 一度停まるぞ!」
アルス「はい!」
父親の指示で少年が緩く張られていた帆をたたもうとした、その時だった。
アルス「……っ!!」
少年が何かの気配を察して東と思わしき方角を振り向く。
そこには霧の向こうに不自然な視界が広がり、その中心には大きな古ぼけた船らしきものが佇んでいのだった。
その時、今朝がた町を出る時に交わした学者との会話が少年の頭をよぎった。
アルス「それじゃ お元気で。」
アズモフ「ああ 待ってください アルスさん。」
アルス「なんでしょう?」
アズモフ「実は 最近 漁師の者から 妙な話を聞いていましてね。」
アルス「妙な話……ですか?」
アズモフ「ええ。なんでも この北の海域で 幽霊船を 見たんだとか。」
アルス「幽霊船……。」
アズモフ「私は 学者である以上 幽霊の類は あまり 信じてはいませんが
漁師の怯え様からするに 何か 恐ろしいものが その辺りに 出ることに間違いは ないようです。」
アルス「そうですか……。」
アズモフ「不確定な話である以上 あまり 皆さんを 怖がらせてはと思い 黙っていたのですが……。」
アズモフ「アルスさんになら 言っておいても 大丈夫でしょう。」
アズモフ「なんにせよ 注意して 行かれたほうが良いと思います。」
アルス「わかりました。ありがとうございます。」
アズモフ「…っとと。引き止めてすいません。それではまた。」
アルス「ええ。博士も お体には お気をつけて。」
アルス「…………………。」
少年の目の前に広がる不気味な光景には誰も気が付いていないのか、他の漁師たちは羅針盤や前ばかり見ている。
アルス「……まずいっ!」
そう呟き、剣に手を伸ばした時だった。
ボルカノ「ぬおっ!」
突然北と思しき方向から突風が吹き、アミット号の船体を大きく揺さぶった。
*「うわわわ!」
ボルカノ「アルス! 帆をたため!」
アルス「……っはい!!」
鞘にかけていた手を離し、急いで縄を引き帆をたたんでいく。
帆が完全にたたまれると同時に風はさらに強くなり、白い霧を舞い上げ吹き飛ばしていく。
アルス「ぐうううっ!」
吹きすさぶ風の中、なんとか目をこじ開け先ほど船が見えた方向に目線をやるも、そこには霧が舞うだけで何も見えなかった。
アルス「どこに……どこに行ったんだ!」
少年が息も絶え絶えに叫んだ瞬間、急に視界が開け、あれだけ吹き付けていた風がぴたりとやんでしまったのだった。
ボルカノ「……止んだか。」
それまで床に伏せていた漁師たちが起き上がり、辺りの様子を確認する。
*「船長! こいつを見てくだせえ!」
ボルカノ「どうしたっ ……なっ!」
*「も もとに戻ってる……。」
呼ばれて漁師たちが集まってみると、なんとあれだけ狂ったように回転していた羅針盤の針がそれまで通りにピタリと南北を指し示していた。
ボルカノ「いったい どうなってやがる……。」
羅針盤の故障に突然の突風、そして晴れた霧と羅針盤の復旧。不可思議な出来事の連続で漁師たちは少々混乱しているようだった。
アルス「…………………。」
その中でただ一人少年だけが一点をじっと見つめて黙っている。
アルス「いない……!」
それは先ほど船の見えたあたりだった。
しかしそこにはただただ暗い海原が広がるばかりで、船はおろか鳥の一羽すらも飛んでいない。
ボルカノ「どうした アルス。なにか見つけたのか?」
アルス「いや……なんでもない。」
ボルカノ「…………………。」
“自分の見たものは幻だったのか”
“いや、あの時感じた恐ろしい気配は決して幻覚ではない”
しかし自分がそのことを説明すればいたずらに船員の恐怖心を煽るだけだろう。
そう判断した少年は父親や他の誰にもこの話はしまいと決めたのだった。
マリベル「アルス! いったい 外はどうなってるのっ!?」
アルス「マリベル! 外はもう 大丈夫だよ! それよりも 中は……!」
マリベル「それが……。」
少女が指さす先にはひっくり返ってしまった木箱の山に横倒しの机、椅子。
ハンモックをかける竿が折れなかったのは不幸中の幸いか。
アルス「……ケガはない?」
辺りを見渡し終え、少年は少女を心配そうに見つめる。
マリベル「なんとかね。それにしても ホント なにがあったってのよ?」
アルス「霧の中を進んでいたら 急に 突風が吹きつけたんだ。」
アルス「それも 一回きりじゃない。何度も 何度も。それこそ 霧が全部吹き飛ぶくらいね。」
マリベル「で? ピタッと止まったって言うの? なんだか 不自然じゃない?」
アルス「うん。羅針盤も 一時は 故障するし いったい 何がなんやら……。」
コック長「おいたたた…… おお アルス! 皆は無事だったか!」
少年が腕組をしながら考えていると奥の方から料理人たちがやってきて少年に尋ねる。
アルス「ええ なんとか 持ちこたえたようです。そっちは大丈夫でしたか?」
*「包丁が落ちてきた時は さすがに もうダメかと思いましたよ。」
マリベル「あたしがいなきゃ いっぺん 死んでたかもね。」
*「ははは おかげで 命拾いしました。」
アルス「よかった……。」
*「ま 魔物だーっ!!」
アルス「……っ!」
階上から響いた漁師の声に一同は一斉に上を見上げる。
マリベル「今度は魔物? 忙しいわね~。」
マリベル「二人とも 後片付け よろしく! 行くわよ アルスっ!」
コック長「お気をつけてー!!」
料理長たちの声援を背に少年たちは再び異変に苛まれる甲板へと向かって階段を駆け上る。
アルス「魔物はっ!?」
*「あっちだ!」
望遠鏡を片手に漁師の一人が叫ぶ。
アルス「…………………。」
マリベル「…………………。」
少年たちは瞼を閉ざし感覚を研ぎ澄ますと、魔力で視界を上空まで飛ばして前方を俯かんする。
アルス「魔物が一体に あれは……?」
マリベル「鳥……かしら? 追われているわ!」
アルス「あれは……まさかっ!」
なにかに気付いた少年が瞳を見開くと、指を天に高く掲げ呪文を詠唱する。
アルス「当たれええええっ!」
[ アルスは ギガデインを となえた! ]
次の瞬間、鳥を追っていた巨大な魔物を目がけてはげしい雷が降り注ぎ、あっという間にソレは墜落して黒焦げの藻屑と化してしまった。
マリベル「あら あたしが 出るまでもなかったかしら。」
アルス「見て!」
追手が消えたことを悟ったのか、その鳥は最後の力を振り絞るように甲板の上まで来ると、こと切れたかのように少年たちの足元に落ちてきた。
*「こりゃ 普通の鳥なのか?」
マリベル「ひどいケガね……ベホマ。」
少女が落ちた鳥に優しく光を放つと、血のにじんだ傷口がみるみる塞がっていった。
*「…………………。」
小さな鼓動がなんとか一命をとりとめたことを示している。
アルス「ねえ マリベル。この青い鳥はまさか……。」
それはサファイア色の美しい羽毛を生やした鳥だった。
マリベル「とにかく ハンモックにでも寝かしましょ。」
少女に頷くと少年は階下にある自分のハンモックにその青い鳥をそっと横たえるのだった。
事態がようやく収拾したのは夜中になってからだった。
荒れていた船内も落ち着きを取り戻し漁師たちもようやく休憩を取り始めた頃、少年たちは先ほど救出した青い鳥を囲んで話し合っていた。
アルス「やっぱり あの人 だよね。」
マリベル「まだ 確定したわけじゃないけどね。ただの 他人の空似 かもしれないし。」
トパーズ「…………………。」
二人が座って覗き込んでいると横から三毛猫がやってきて鳥の匂いを嗅ぎ始める。
マリベル「あ こら トパーズ ダメよ 食べちゃ。」
“めっ”と鼻に人差し指を当てて動きを静止させるも、
当の本人(猫)はどこか納得していないかのように、そして何かを訴えるかのように少女に向かって鳴いた。
トパーズ「な~うなうなう~……。」
マリベル「どうしたのよ 落ち着かないわね。」
トパーズ「な~お。」
マリベル「にゃん?」
トパーズ「…………………。」
マリベル「な~う?」
アルス「…………………。」
思わず猫の鳴き真似をする少女だったが、すぐに違和感に気付く。
少年が肩を震わせながらにやついていたのだ。
マリベル「……なによ。」
アルス「いや…… かわいいなーと思って……。」
マリベル「フゥーーーッ!」
渾身のポーズで威嚇をする少女だったがそれすらも逆効果だったのは言うまでもない。
アルス「おーよしよし……。」
マリベル「に……あ……。」
パンチやひっかきの一撃でも喰らわせてやろうと思った時には既に遅く、
少女は頭をがっちりと少年の胸に抱かれて髪を撫でられていたのだった。
マリベル「あ……あふ……やめなさいよ……。」
アルス「やめない。」
マリベル「やめてにゃん。」
アルス「絶対やめない。」
マリベル「ザ……。」
アルス「ごめんなさい。」
“危うく尊い命がこんなくだらないやり取りで消えてしまうところだった”と、少年は名残惜し気に少女を開放しながら思うのだった。
マリベル「まったく すぐ 調子のるんだから。」
少女が目を細めて抗議するもその顔はかすかに赤く、名残惜しげなのは少年だけではないことが窺えた。
トパーズ「…………………。」
そんな二人の茶番劇を横目に三毛猫はある変化に気づいたらしく、青い鳥の傍に再び近寄る。
トパーズ「…………………!」
すると突如鳥の体が光り始め……
*「…………………。」
あれよあれよという間に人の姿になってしまった。
マリベル「えっ?」
アルス「あ!」
人の姿とは言っても人間離れした白い肌、先の尖った耳、露出は多いがどこか控えめな印象を与える不思議な衣服。
それは正に少年たちが過去のクレージュで出会った神木の妖精その人だったのだ。
アルス「や やっぱりそうだったんだ!」
マリベル「まさかとは 思ったけど ホントに 本人だったとはね……。」
*「う……うん……。」
二人が驚いていると、なんと眠っていた娘が目を覚ました。
*「ここは……。」
アルス「ここは 漁船アミット号の中ですよ。」
*「あなたは… あなたたちは まさか……!」
マリベル「お久しぶりね。妖精さん。」
神木の妖精「ああっ なんということでしょう! こうしてまた お二人と お話ができるだなんて!」
まるで信じられないものを見るかのように妖精は二人を交互に凝視する。
アルス「小鳥だった時は 世界樹の葉を ありがとうございました。」
神木の妖精「いいえ そんなの わたしが受けた恩に比べれば……。」
神木の妖精「そ そうでした! ご神木が……世界樹が危険なんです!」
マリベル「落ち着いて。話は聞くから その前に 何かお腹に入れたほうがいいわ。」
マリベル「ちょっと 待ってなさい。」
アルス「人と同じものは 食べられますか?」
神木の妖精「え……ええ。ですが 何せ 最後に食べたのは何世も前のことなので……。」
神木の妖精「少し…… 自信はありませんが……。」
アルス「なら 先にこれをどうぞ。」
[ アルスは せかいじゅのしずくを 神木の妖精に 手わたした! ]
神木の妖精「これは……!」
妖精は少年から差し出された神秘の滴をまじまじと見つめていたが、やがておずおずと口に近づけるとまるで噛みしめるかのように残らずそれを飲み干した。
神木の妖精「ああ……身体に チカラがみなぎるようです。」
暗かった顔が明るさを取り戻し、妖精は少しだけ微笑んでみせる。
するとそこへ少女が手に皿を抱えて戻ってきた。
マリベル「作り置きの シチューで悪いんだけど…… 良かったら 食べて?」
そう言って差し出された皿からは温かい湯気が立ち上り、バターとミルクの香りが妖精の食欲をそそった。
神木の妖精「い いただきます……。」
皿とスプーンを受け取り、思い出すようにゆっくりと口元まで近づけ、何度か息を吹きかけてから口へ運ぶ。
マリベル「どーお?」
神木の妖精「優しくて あったかくて ……おいしいです。」
そう微笑む娘の瞳からは色のない宝石のような涙が一筋零れたのだった。
それから船員を招いて軽く自己紹介した後、妖精の娘はこの一週間ほどで起こった出来事を語りだした。
神木の妖精「あれは 魔王が倒れてからでした。いや ひょっとすると それ以前から だったのかもしれません。」
神木の妖精「ここのところ どうにも ご神木の元気がないようだったんですが……。」
神木の妖精「魔王が倒され 魔物もいなくなると 思っていましたが それは 違ったようです。」
神木の妖精「彼らは どうやら 地下深く ご神木の力の源である大地に 何か悪さをしているようなんです。」
神木の妖精「…ご神木は 日に日に 衰弱しているようでした。」
神木の妖精「そこで なんとかしなければと思い 町の古い井戸から 地下へ行き 原因を探ろうと考えたのですが……。」
マリベル「その前に 魔物に見つかっちゃったと。」
神木の妖精「はい……。」
妖精は頷くというよりがっくりと項垂れて目を伏せる。
*「しかしどうする アルスよ。オレたちの目的とは別になっちまうが。」
漁師の一人が思案顔で少年に問う。
アルス「別行動は ダメでしょうか。」
ボルカノ「オレは構わんぞ。ただ あんまり 遅くなっちまうのは困るけどな。」
アルス「出発までに 必ず戻ります!」
ボルカノ「マリベルちゃんは どうする。」
アルス「マリベル……。」
マリベル「どーせ あんた一人じゃ 妖精さんも 心細いでしょうからね。もちろん あたしも付いて行くわ!」
船長やその息子の視線を受け、少女はさも当然かの様に答えてみせる。
ボルカノ「…決まりだな。」
ボルカノ「まあ 今日はもう 遅い。どうせ到着は 明日の朝だからな。三人とも それまで ゆっくりするんだ。」
アルス「あ でも この後 交代ぼくの番ですから。」
ボルカノ「寝不足で 戦えるってのか?」
アルス「父さん……。」
ボルカノ「こういう時は 素直に甘えておけ。」
*「そうだぞ アルス。町一つの命運が お前に かかってんだからな。」
その言葉に漁師や料理人たちは微笑みながら頷く。
最初から反対する者などいなかったのだ。
アルス「みんな…… ありがとうございます!」
ボルカノ「よし それじゃ 解散だ! 明朝 クレージュ南に到着次第 行動を開始する!」
*「「「ウスッ!!」」」
こうして明日のそれぞれの使命のために一行は交代で体を休め、その時を待つのだった。
そして……
そして 次の朝。
249 : ◆N7KRije7Xs - 2016/12/31 15:39:40.27 OqFe7abd0 227/905
以上第9話でした。
*「……私は いにしえの賢者。長き時間 そなたらが来る日を ここで 待ちつづけていた。」
ハーメリア北に位置する山に囲まれた陸の孤島。
そこにポツンと佇む小さな「謎のほこら」。
あの大賢者はいったい何者だったのか。
こればっかりはどんなに考えても想像の範疇を出ません。
ただ、このお話でアルスとマリベルが言っていた通り、あそこにはいくつかのお墓が並んでいます。
そのまま推測するなら彼らはそういう一族なのでしょう。
「机の上に かわった形の 水さしが おかれている。」
このメッセージが意味深長です。
*「旅の者に 教えてしんぜよう。」
*「この世におこる出来事に ぐうぜんなど ひとつも 存在しない……とな。」
*「過去へと通ずる道が われら人間の手によって 開かれたことも しかり……」
*「むろん そなたらが ここへ来るのも すべては はじめから 決まっていたこと。」
そう思うとドラクエ7の物語のスケールがより一層大きく感じられます。
さて、今回登場した「神木の妖精」についてですが、
先に断っておくと、「神木の妖精」というキャラクター名は原作には登場しません。
ただ、彼女が自身を妖精と言っているのでここでは「神木の妖精」と名前を付けております。
他の名無しキャラクターに比べてセリフの頻度が高いので、特別な措置として彼女に限って名前を表示させていただきます。ご了承くださいませ。
…………………
◇お話はクレージュへと続きますが、果たしてアルスが霧の中で見た影は幻だったのか。
それとも……?
大掃除は済みましたか?
それではみなさん良いお年を。
250 : ◆N7KRije7Xs - 2016/12/31 15:40:40.06 OqFe7abd0 228/905
第9話の主な登場人物
アルス
自分に課せられた使命の行方に不安を感じていたが、マリベルの檄に感化され前向きに。
霧の中で船のような物を見つける。
マリベル
何物にも縛られることなく生きたいと思っている。
時折お茶目な行動をする。がう~っ。
ボルカノ
どんな時でも冷静な頼れる船長。
息子のアルスには王からの任務や漁師としての仕事も勿論だが、
彼にだけしかできないことがあると認め、事件解決に向かう彼の背中をそっと押す。
コック長
収集のつかない事態を丸く収める役割。
マリベルの良き理解者。
めし番(*)
何かとマリベルを茶化す料理人。
言わなくても良いのに口が滑ることもしばしば。
アミット号の漁師たち(*)
義理と人情にあふれる海の男たち。
人助けとあらば協力は惜しまない性質。
トパーズ
アミット号のお守り猫。
初めて見るものには興味津々。
不思議な存在にはすぐに気付く模様。
神木の妖精
世界樹の森から生まれた妖精の少女。
現在は青い鳥となって世界樹を見守っていたが、とある事情から人間の姿に戻る。
魔物に追われていたところをアルスたちアミット号一行に助けられる。
航海十日目:小さな勇者と世界樹の悪魔
ボルカノ「みんな 揃ったな。」
朝、食事を済ませた一行は水の都に向かうべく早速準備を整えていた。
*「お気をつけて いってらっしゃい!」
*「ここは 俺たちが 命に代えても守りますぜ!」
クレージュのある島には港や船着き場がなく、必然的に誰かが居残って船を見張る必要があったのだ。
ボルカノ「おいおい あぶなくなったら 逃げるんだぞ!」
*「へっへっへ。わかってますよ船長!」
どこか心配そうな船長に銛番の男が鼻の下を掻いて笑ってみせる。
ボルカノ「それじゃ 頼んだぜ。」
コック長「それじゃあな ワシ抜きでも 頑張るんだぞ。」
*「お任せください! みんなの腹は ぼくが守りますよ!」
そう言って飯番は突き出たお腹を“ボンッ”と叩く。
アルス「ぼくたちも ひとまず町を通って それから 世界樹の下まで行ってみるよ。」
ボルカノ「そうか なら悪いが 道中用心棒を頼むぜ。」
マリベル「まかせて ボルカノおじさま! どんな奴が出てきても あたしの手にかかれば イチコロよ!」
ボルカノ「わっはっはっ! 頼もしいぜ。」
ボルカノ「それじゃ クレージュに出発だ!」
*「「「おーっ!」」」
こうして船に漁師たちを残し、少年たちはクレージュの町へと歩き出したのだった。
“ガサ…”
風の無いひんやりとした朝の草原に、町を目指す五人の足音だけが響き渡る。
アルス「……涼しいね。」
マリベル「いいけど ちょっと じめっとしてるわね。」
少年に返しながら少女は足元に張り付く背の高い草を振り払う。
コック長「ふう……。」
恰幅の良い料理長は早くも息が上がり始めている。
ボルカノ「コック長 大丈夫か?」
コック長「なんの。これくらいなら まだまだ。」
心配する船長に老紳士は爽やかな笑顔で汗を拭う。
そんな時、なにやら前方の草むらが揺れ動いた。
*「ピキーっ!」
マリベル「あら スライムじゃないの。」
茂みから飛び出してきたのは少年と少女が過去の世界で初めて遭遇した魔物だった。
*「ピ…ピキ……!」
[ しかし スライムは おどろき とまどっている! ]
マリベル「ほーらほら 痛いことなんて しないからこっちおいで。」
アルス「うーん やっぱり 少なくなってるけど 魔物は出るみたいだね。」
マリベル「そうねえ でも ここらへんの魔物は スライム系ばっかりだから 脅威とは言いづらいわねえ。」
半ば強引に捕まえたスライムをぐにぐにと弄りながら少女が目を細める。
*「ピキー……。」
マリベル「よしよし。昔はこんなのに 腰ぬかしてただなんて 信じらんないわ~。」
アルス「あはははっ! かわいそうだから もう逃がしてあげなよ。」
マリベル「失礼ね~ こんなに可憐な乙女に 抱っこしてもらってるのに 嫌なわけないじゃないの! ねー。」
*「…………………。」
見ればそのゼリー状の奇妙な生き物は頬を赤らめて大人しくしている。
[ どうやら なついてしまったようだ。 ]
マリベル「こうして おとなしくしてれば スライムだって 愛嬌あるんだからね。」
マリベル「うふふっ。かわいいスライムちゃん あたしを守ってね。」
*「ピキー!」
アルス「もー どうするのそれ。」
マリベル「一時的に あたしのペット。」
アルス「はあ…。」
ボルカノ「わっはっはっ! こりゃたまげた。」
ボルカノ「マリベルちゃん 魔物の心が わかるのかい?」
マリベル「前にちょっとね~。」
そう言って隣の少年に目くばせする。
アルス「そ そうだねー あははは…。」
話しを振られた少年も何と言っていいかわからない様子。
マリベル「言えない… 言えないわよ…… みんなで “スライムやってた”なんて……。」
アルス「ここは 魔物ハンターやってたってことで。」
少年と少女は常人には理解できないダーマ神殿のモンスター職システムについてどう説明したものかと小声であれこれと話し合っている。
それもそのはず、自分の子どもたちが魔物をあしらった衣装を着て世界を闊歩していたなどと知っては
普通の親ならば卒倒するであろうと、少年達には容易に想像がついた。
ただ、基本的に何事にも動じないこの屈強な父親であれば話は別かもしれないのだが。
神木の妖精「……?」
マリベル「そ その…… モンスターの心を理解する 職業ってのがあってね…。」
アルス「そ そう! それで僕らも 火が吐けるようになったり したんだよ!」
ボルカノ「ん? そうなのか?」
コック長「世の中には 面白い職業があるもんですな。」
あまりうまい説明になっているとは言い難いが、
幸い初めて耳にする概念だったためか少年の父親も他の二人もそれ以上突っ込んでこようとはしなかった。
そうしてしばらく沈黙が続いた時。
*「ボヨヨヨヨ~ン。」
液体とも金属とも言えない巨体が一行の目の前に飛び出してきた。
マリベル「キャー メタルよ メタル!」
マリベル「……と思ったけど 今さら 倒す必要もないかしらね。」
*「ブギー!」
アルス「いや そうも 言ってられないみたいだ! 珍しく あっちが やる気だよ!」
少年の言葉通り、冠を被った大きな魔物は姿勢を低くして今にも飛びかからん様子だった。
マリベル「……三人とも下がって!」
ボルカノ「おう!」
こうして久しぶりの“メタル狩り”が幕を開けたのであった。
*「ブウ~!」
あっという間に間合いを詰めてはその巨体で押しつぶそうとしてくる。
流石はメタルスライムの王様というだけあってか、その動きは英雄の二人といえど手間取るものがあった。
マリベル「この! しっつこいわね!」
*「ブヨヨ……ッ!?」
またも電光石火で突進をしかける巨体だったが、何かにつまづいてゴロゴロと転がりだす。
アルス「ここだっ!」
その隙を少年が見逃すはずもなく、獲物にありったけ力を籠め、魔人がごとき一振りを放つ。
*「ブモモモ…。」
鈍器で殴ったかのような重たい一撃を受け、堪らず走る金剛は沈黙する。
アルス「ふー。」
マリベル「やったじゃない アルス!」
アルス「でも 経験を積んだ 実感はわかないなあ。」
マリベル「それだけ あたしたちが 強くなったってだけのことよ。……あら?」
アルス「どうしたの?」
マリベル「……いない! あたしの スライムちゃんがいない!」
アルス「え… まさか。」
少年は先ほどメタルキングの転んだ地点を見やる。
アルス「いた。」
マリベル「ああ! あたしの スライムちゃん!」
*「ぴ…ぴぴ……。」
マリベル「よかった まだ 生きてる…… ホイミ!」
少女は息絶えそうにしているスライムに初級の回復呪文をかける。
*「ピキー! アリガトッ!」
マリベル「えっ!? いま あんた しゃべった……?」
*「ボクッ ツヨクナッタ! アタマモ ヨクナッタ! シャベレル!」
突然流暢に話し出した不思議な生き物に後ろで隠れて見ていた三人も興味津々で近づいてくる。
コック長「ほお しゃべる魔物もいるんですな。こりゃ すごい!」
ボルカノ「わっはっはっ! こいつは いいや! 賑やかになるな!」
神木の妖精「こんにちは スライムくん。」
*「ピキー! ヨロシク! ヨロシクネ!」
マリベル「そうね…… スライム じゃそのまんまだから…… スラッグ っていうのはどうかしら?」
ボルカノ「ほお 金属を転ばす 鉱石の残りカスってか!」
スラッグ「ピキ。スラッグ! ボク スラッグ!」
少女の命名が気に入ったのか、スライムはしきりに自分の名前を口にしている。
アルス「よく そんなの思いつくね……。」
マリベル「なーんとなくね。」
コック長「名付けるのは マリベルおじょうさんに決まりだな アルスよ。」
そう言って料理長は少年の肩に手を置く。
アルス「は…ハハハ……ナンノコトヤラ。」
[ スラッグが 仲間にくわわった! ]
新たな仲間を加えた一行はその後順調に歩を進め、水の都クレージュの町までたどり着いていた。
ボルカノ「よし ここからは 別行動だ!」
ボルカノ「オレは町長のところへ コック長は食材の買出しへ行く。」
ボルカノ「それから オレたちは 今晩この町の宿に泊まるから お前たちも 事件を解決したら 早めに 来るんだぞ。」
アルス「うん わかったよ。」
マリベル「それじゃ またね 二人とも!」
コック長「気をつけなされよ。」
神木の妖精「すみませんが 二人をお借りします。危険なことはなるべく避けますので…。」
ボルカノ「おお ねえちゃんも 頑張ってな。」
神木の妖精「……はい!」
申し訳なさそうに頭を下げる妖精の娘に少年の父親は何を言うまでもなく激励を送る。
そんな気遣いに救われ、妖精も自らを奮い立たせるかのように気丈に返事をするのだった。
*「おい あんたら こんな時にどこへ行くだ!」
少年たちが町の北口まで来た時、門のところにいた木こりの男が突然呼びかけてきた。
マリベル「え?」
*「この先の 世界樹んところへは 今は 行かねえほうがいい!」
アルス「どうしてですか?」
*「どうしてって そりゃ おまえさん 魔物どもが道を塞いで うろちょろしてるからに決まってるじゃねえか!」
神木の妖精「な なんですって!」
*「ん? おじょうちゃん 見慣れない恰好してるな。」
*「まあいい! とにかく 今 あそこに近づくのは やめとくんだ! さもねえと 命がいくつあっても 足りねえぞ!」
マリベル「ご忠告 ありがとう おじさん。でも あいにく あたしたちは そいつらを ぶっ飛ばしにきたのよ。」
*「なーに言ってるんだ! おまえさんみてえな おじょうちゃんなんて すぐに やつらの餌食になっちまう!」
*「悪いこた言わねえから やめときな!」
マリベル「ご心配なく~。」
必死に止める木こりを振り払い少女は悠々と世界樹の方へと進んでいく。
それに続いて少年達も駆け足に北の方を目指して駆けていくのであった。
*「どうなっても 知らねえからなー!」
そう叫ぶ声が後ろの方から聞こえてきたが一行は意にも返さず、大手を振りながら進んでいくのであった。
神木の妖精「こ…これは!」
三人と一匹が世界樹のある森の手前までやってきた時、妖精の娘は思わず絶句した。
本来世界樹を取り囲んでいた美しい池は毒々しい紫に侵され、
見ればそこに生息していたであろう魚たちの死骸が無惨に浮かびあがっていた。
マリベル「ひどい……。」
スラッグ「ピキ……。」
アルス「いったい 誰がこんなことを!」
*「げははは! そんなのおれたちに 決まってるじゃねえか!」
どこからともなく声が聞こえてくる。
アルス「だれだ!」
何か視覚に影響する呪文でもかけているのだろうか、声の主は近いようだが姿は見せない。
マリベル「めんどくさいわね! 隠れてないで 出てきなさい!」
痺れを切らした少女は声の主たちに向かって一言怒鳴りつけ、指先に魔力を籠める。
マリベル「そこよ!」
[ マリベルの ゆびから いてつく はどうが ほとばしる! ]
[ まもものむれに かかっている じゅもんの ききめが なくなった! ]
*「ウゲエエッ!」
*「なんだこいつ なにを しやがった!?」
*「グゴーッ!! しまった!」
マリベル「出たわね…。」
放たれた波動に幻惑の衣を剥され、少女たちの前に現れたのは三匹の赤い悪魔だった。
アルス「レッサーデーモンか!」
神木の妖精「あなたたち いったい ご神木に 何をしたんですか!」
*「グゲゲゲッ! おれたちゃ 世界樹には近づけねえからな。こうして 周りの水を 毒で染めてやってるだけさ。」
*「もっとも 苦労したけどよォ! なんせ まいてく そばから 浄化しちまうんだからよォ!」
*「だがこのとおり もう ここの水は 魚一匹 住めやしねえぜ。ゲッヘッヘヘ!」
アルス「なんて 卑劣なマネを!」
マリベル「悪いけど さっさと あんたたちを倒して 世界樹をもとに戻さなくちゃ いけないの。」
*「なにぃっ?」
*「たかが 人間のくせして 調子乗りやがって! やっちまえ おまえら!」
*「オォーフッ!」
*「ガゴォーフ!」
少女の挑発に業を煮やした一匹の合図により、前にいた二匹の悪魔が少女に向かって飛びかかる。
スラッグ「アブナイッ!」
アルス「はああっ!」
しかし飛び上がったのもつかの間、少年の掛け声と共に凄まじい雷光の一閃が空を切り裂いた。
[ アルスは ギガスラッシュを はなった! ]
*「ゲ……!」
*「ゴ……!」
断末魔を発する暇さえなく、二匹の悪魔“だったもの”は体のごく一部のみを残して跡形もなく消し飛んでしまった。
*「な…なんだとォ!」
あまりの衝撃的な出来事に仲間を失った悪魔が普段は決して見せない腹を見せてひっくり返る。
マリベル「…………………。」
*「ひっ!」
そこへ腰に手を当てた少女が歩み寄り、悪魔見下すようにして立ちはだかった。
マリベル「ったく ホント 面倒なこと してくれるわよね あんたたち魔物ってさ。」
そう言って少女は最後の一匹を始末すべく悪魔の顔に掌を向ける。
*「ま 待て! おれを殺しても いいのかなァっ!?」
追い詰められた悪党のお決まりの台詞で悪魔は命乞いをする。
マリベル「何よ。あんたを 生かしておいて 何か いいことでも あるっていうわけ?」
怪訝そうな顔で少女が尋ねる。
*「あ ああ そうだとも!」
アルス「じゃあ 何か 知っていることを教えるんだ。」
少年の一言に“助かった”と思ったのか、悪魔は饒舌に語りだす。
*「お おれたちだけじゃねえ! こんな水なんて どうせ すぐに 世界樹が自力で治しちまう!」
*「だがよ! 地下ではもっと すげえことが 行われてるんだ! それこそ 世界樹が枯れちまうようなよォ!」
神木の妖精「やっぱり……!」
マリベル「ふーん。じゃあ 原因はそっちに あるっていうのね。」
*「そうさ! どうやら この二日くらい そこに ネズミが紛れ込んでいるようだがよォ。」
マリベル「…ネズミねえ……。」
*「だから な! せっかく 秘密をしゃべってやったんだ! 見逃してくれてもいいだろォっ!?」
マリベル「…………………。」
マリベル「そ ありがとね。じゃ。」
*「ま 話がちが……!」
[ マリベルは メラゾーマを となえた! ]
魔物が何か言い終わる前に少女の手から業火が放たれ、あとには地面の焼け焦げしか残っていなかった。
マリベル「だーれが あんたみたいな 悪党 生かしておくもんですか。百害あって 一利なしよ!」
アルス「…この下か。」
神木の妖精「やはり わたしの思ったとおりでしたか……。」
神木の妖精「アルスさん マリベルさん 急ぎましょう!」
マリベル「ええ。」
アルス「待って。その前に……。」
[ アルスは せかいじゅのしずくを つかった! ]
町の方へと戻ろうとする二人を引き止めると、
少年は袋からこの世界樹からとれた朝露を取り出し、上空まで飛び上がり辺り一帯へばらまいた。
神木の妖精「あ… 池が!」
するとそれまで瘴気の立ち込めていた毒沼が見る見るうちに澄みわたり、再び元の輝きを取り戻していくのだった。
スラッグ「ぴきー!」
マリベル「大事に取っておいて 正解だったわね。」
アルス「残り一本になっちゃったけどね。」
神木の妖精「すいません… あなたたちにとっては 貴重な朝露だというのに…。」
マリベル「いいのいいの。もともと この世界樹から 採れたものなんだから 本体のために使ってあげるのは 当然のことよ。」
神木の妖精「……ありがとうございます!」
申し訳なさそうな表情で謝る妖精だったが、少女が微笑んで答えると少しだけ元気を取り戻したようだった。
アルス「さあ それじゃ そろそろ 行こうか。」
マリベル「いざ! 世界樹の根っこへ!」
世界樹を後にした少年たちは再び町の入口に戻って来ていた。
*「なんと!」
すると先ほど少年たちを引き止めた木こりが驚いた様子で話しかけてきた。
*「おまえさんたち よく 生きて帰ってこれたな! オレはてっきり……。」
マリベル「はあ? だから 言ったでしょ おじさん。あたしたちなら 平気ってね。」
少女が両手を腰に当てて胸を張りながら言う。
*「だけど あの魔物どもはどうしたんだ?」
アルス「魔物なら ぼくたちがやっつけました。」
神木の妖精「この二人は ご神木の 命の恩人なのです。」
*「ははあ おまえさんたち こう見えても ビックリするくらい 強いんだなあ!」
マリベル「こう見えて は余計よ!」
傍からすれば至極当然の感想であったが、どうにも気にくわない少女はぷりぷりと怒って抗議する。
*「わははは! こりゃすまねえ。おじょうちゃんみたいな娘が 魔物とやりあえるなんて 世の中 分からねえもんだなあ!」
マリベル「…ったく。」
アルス「それで この町で 一番古い井戸を探しているんですが。」
*「それならいつも ばあさんが 立っているところが それだ。」
アルス「ありがとうございます。」
*「おまえさんたち 今度は なにをする気だ?」
マリベル「決まってるじゃない。今度も 世界樹を 救うのよ。」
*「…どういうこった? 世界樹なら 周りこそ魔物にやられたが 本体はピンピンしてるんじゃ……。」
神木の妖精「一見 そういう風に見えますが 地下で何者かが 悪事を働いているようなのです。」
*「…事情はわからんが 頑張ってな。」
マリベル「どーも。それじゃ 行くわよ。」
木こりとの会話を済ませた少年たちは町の中心にある古ぼけた井戸へとやってきていた。
アルス「ここか……。」
*「おや お兄さん どうしたんだい 井戸の中なんて覗いて。」
井戸の底を覗き込む少年に横に立っていた老婆が話しかける。
マリベル「おばあさん この町で 一番古い井戸って たしか ここだったわよね。」
*「うん? そうだけど それが どうかしたのかい?」
マリベル「ううん ありがとっ。」
マリベル「それじゃ 先に行くわね!」
老婆に簡単に礼を述べると少女はひらりと体を翻し井戸の底へと消えてしまった。
*「ひゃああ おじょうさんが 井戸に!」
アルス「ぼくたちも 行こう!」
神木の妖精「ええ!」
突然の少女の行動に仰天する老婆を尻目に少年達も後に続いて飛び込んでいくのだった。
*「おおい 大丈夫かえ~!」
上の方から老婆の心配そうな声が響く。
マリベル「あたしたちなら 大丈夫だから 心配しないでー!」
その声に応えて少女も上に向かって叫ぶ。
マリベル「さて と。暗くてあんまり見えないけど 昔と違って 周りは壁しかないわね。」
マリベル「ホントに ここから地下水脈に 行けるのかしら。」
神木の妖精「長い年月のうちに 埋まってしまったのでしょうか…。」
アルス「……見て 二人とも!」
少女たちが壁に手を当てながら考え込んでいると、何かを見つけたのか少年が呼びかける。
マリベル「なになに?」
アルス「これ……。」
少年の指さしていたのは少女たちの乗っている足元の石板だった。
アルス「ひょっとすると これは…。」
アルス「二人とも 下がって。」
少女たちが石板の上から降りると少年は力いっぱいにその板を持ち上げ、横にひっくり返した。
マリベル「これは!」
そこには地下へと続く古い石の階段があった。
神木の妖精「ここからなら ご神木の地下まで 行けるかもしれませんね。」
マリベル「……行きましょ。」
アルス「あ その前に。」
アルス「もう 出てきていいよ スラッグ。」
スラッグ「ピキー! クルシカッタ!」
少年がそう告げるとふくろの中からしゃべるスライムが勢いよく飛び出してきた。
マリベル「ごめんね~ スラッグ。町の人に見つかると 厄介だから。」
スラッグ「……ボク キニシナイ。」
少女に抱きかかえられ、不思議なソレはどこか満足気に口角を上げる。
マリベル「それじゃ 気を取り直して しゅっぱ~つ!」
こうして一行は世界樹を脅かす原因を取り除くべく、暗い地の底へと降りていったのだった。
地下のトンネルは滑りやすく、湿気を帯びてどこまでも続いていた。
マリベル「はあ…… すっかり忘れてたけど ここってめっちゃくちゃに 入り組んでんだったわね……。」
少女は早くもうんざり顔でため息を漏らす。
アルス「前に来た時よりも さらに 複雑になってる気がするね。」
神木の妖精「それだけ 年月を経て 大きく成長した ということだと思うのですが…。」
スラッグ「…ズズ……。」
それぞれが感想を口にする中、少女の腕に抱かれたスライムにいたってはすっかり居眠りをしている始末。
マリベル「どう? 今のところ なにか 感じる?」
神木の妖精「ええ 全体的に 弱っているような感じはしますが……。」
アルス「直接の原因となっているものは まだ 遠い か。」
神木の妖精「はい……。」
辺りを見やれば以前遭遇したことのある魔物がちらほらと見受けられたが、
どれも殺気立った様子もなく大人しくしているか、興味津々にこちらを覗いてくるばかりである。
*「…………………。」
*「…………………。」
マリベル「ああして おとなしくしてれば 魔物だって そこらの 動物たちと変わらないのにね。」
アルス「魔王がいなくなって 凶暴性も 弱くなったのかな?」
少年にエサを渡され、魔物たちは嬉しそうにそれを食べている。
マリベル「まったく この だだっ広い 地下空間のどこに 元凶がいるのやら。」
*「止まれ!」
マリベル「……っ!」
それは突然のことだった。
目の前の暗闇の中から刃物の切っ先がのぞき、何者かが少年たちの動きを制してきたのだ。
神木の妖精「え……!」
アルス「そこにいるのは 誰だ!」
*「むっ その声は まさか……!」
剣が引っ込み、少年の持つ松明の灯りに照らされて足元から少しずつその正体が明らかになっていく。
アルス「…き きみは!」
*「こんなところで 会うことになるとは 案外 世界は狭いもんだな。」
やわらかい砂の上を歩くために交差した皮だけで包まれた履物、軽装の下に忍ばされた鉄の装甲、
動きやすくゆったりとした白地のパンツ、真っ赤な腰巻に、不思議な模様の入った真っ青な羽織物、
腕に巻かれたベルトと包帯、首から背中に下げられた灰色のマント、そして何よりも砂漠の民の証である褐色の肌に美しい黒髪。
そこにいたのは紛れもない砂漠の村の青年その人だった。
マリベル「サイード!」
サイード「しばらくぶりだな。アルス マリベル。」
マリベル「あんた こんなところで 何やってんのよ!」
サイード「実は 旅に出てから すぐにこの町にたどり着いてな。
サイード「そこで この町の長に 話を聞いていたら この世界樹に何やら 異変が 起こっていると知らされてな。」
サイード「それで ここに潜り込んで しばらく 調べていたんだ…が なかなか 原因がつかめなくてな。」
そう言って砂漠の民の青年は腕を組んで考える素振りを見せる。
マリベル「ふーん。それにしても あの 頼りなさそうな町長が そんなことを察知していたなんて ちょっと オドロキだわ。」
あの自分の祖先の自慢話をやたらとしたがる髪の薄い、否、髪の無い町長の顔を思い出しながら少女は怪訝な顔で顎に指を添える。
サイード「あの町長にしてみても 世界樹のことは いつも気にかけているんだろう。そういうことにしておいてやれ。」
アルス「あの時 レッサーデーモンが言っていた ネズミ っていうのは 君のことだったのか。」
サイード「…ところで アルス。知らぬ顔がいるようだが……。」
そこまで話していて青年は少年たちの後ろにいる妖精に気付いたようであった。
神木の妖精「はじめまして。わたしは この ご神木を見守ってきた者です。」
サイード「そうだったか。おれは 砂漠の民 サイード。よろしくたのむ。」
マリベル「それで サイード。二日間も潜ってたんだから なんか情報が あるんじゃないの?」
挨拶を済ませたところで少女が青年に語り掛ける。
サイード「さっきも 言ったが 直接の原因はわかっていない。」
サイード「だが ここよりも さらに先に 嫌な気配を感じるんだ。」
青年はトンネルのさらに奥、深淵を指さして眉をひそめる。
マリベル「…なら 話は早いわね。そこまで 案内してちょうだいよ。」
サイード「いいだろう。おまえらとなら 何が出てきても 大丈夫だろうしな。」
アルス「また よろしくね。」
[ サイードが 仲間にくわわった! ]
サイード「ところで マリベル。その スライムはなんだ?」
スラッグ「ボク スラッグ!」
サイード「な……! 人語を話す スライムとは…… やはり 世界は広いな。」
マリベル「理解が早くて 助かるわ。」
砂漠の民の青年を加えた一行はさらに世界樹の根の迷宮の奥へと歩みを進めていた。
マリベル「どうかしら 妖精さん。」
神木の妖精「はい… 何か 邪悪な気配を感じます。」
アルス「元凶が 近いってことかな。」
サイード「……! おい これを見てみろ!」
マリベル「何かしら これ……。」
それは横壁となっている大きな根についた窪みのようだった。
アルス「何かを打ち付けたような 感じだね。」
少年がその痕を指でなぞる。
サイード「それも 何度も 何度もだ。」
スラッグ「パ パンチ…!」
神木の妖精「そんな ひどい……。」
マリベル「もしかして この跡をつけた奴が元凶なのかしらね。」
アルス「可能性は高いね。」
サイード「なんにせよ ここから先は 用心して 進まなければならないようだ。」
そう言って青年は懐に差した獲物を構えて進みだす。
アルス「二人は 真ん中に。ぼくが 後ろを 見張るから。」
神木の妖精「はい……。」
マリベル「はいはい よろしくね。」
一行は再び隊列を組みなおし、再び暗がりの中を歩みだす。
*「…………………。」
張り詰められた沈黙が、地下のひんやりとした空気をまとって体にのしかかっていった。
サイード「どうやら ここが 最深部らしいな。」
長いトンネルを抜けた後、梯子を昇ってたどり着いた先には巨大な空間が広がっていた。
天井からはやや眩しく感じるほどに光が差し込んでいる。
真っすぐ見つめるとそこには巨大な幹のような主根がさらに地下へと伸びていた。
過去に来た時ですら圧巻だった光景は途方もないほどに膨れ、まるで地下に巨大な塔が立っているような錯覚を少年達に与えていく。
スラッグ「ピキー!」
アルス「すごい……!」
マリベル「あの時ですら ありえないほど 大きかったのに こうなっちゃ もう わけがわからないわね。」
神木の妖精「でも…。」
そっと呟きながらエルフの娘は自分の立っている根に耳を当てる。
神木の妖精「苦しそう… ああ なんてこと……!」
サイード「よく見るんだ 二人とも。」
アルス「え?」
マリベル「どういう…な なによ あれっ!」
神木の妖精「あれは!?」
青年の視線の先にあったのは、自分たちのいる大きな根管のさらに下の方、まるで地底湖のように水が溜まっている場所だった。
水自体は上で見たような毒に侵されているわけでなく澄んでいるように見える。
しかし問題はその上にかかる謎のモヤだった。
モヤは水面だけではなくそこを通って伸びている根の周りを赤黒く染めており、その中に混じって何かがうごめいているのが見えた。
マリベル「どうしよう アルス!」
アルス「きっと あの もやの中の魔物が この異変の元凶だ! だからあいつをたたけば……!」
マリベル「でも どうやって あそこまで行くのよ!」
サイード「人体が触れて 平気な保証はないからな。」
アルス「……こうだ!」
[ アルスは トラマナを となえた! ]
少年が呪文を詠唱すると四人の周りを淡い光が包み込んだ。
アルス「行くよっ!」
そう言い残して少年はさっさと飛び降りていってしまった。
マリベル「ちょ ちょっとアルスっ!? もう 仕方ないわね! スラッグ! 妖精さんを頼むわよ!」
少女もそれに続いていく。
サイード「あんたは ここに 残れ。」
神木の妖精「いえ! わたしも 行きます!」
サイード「…戦えるのか?」
神木の妖精「わたしの 力が通用するかは わかりませんが わたしは このご神木と一心同体。」
神木の妖精「黙ってみているわけには いかないんです!」
サイード「…危なくなったら 逃げるんだぞ。」
神木の妖精「はい!」
力強い返事をすると、妖精は青年と共に水溜まりに向かって勢いよく飛び降りていった。
スラッグ「ピ ピキー…。」
そうして二人がいなくなった幹の上、残されたスライムの鳴き声が虚しく響いていたのだった。
スラッグ「…ピ……!」
アルス「みんな 来たね。」
幹の下では少年が仲間たちを待ち構えていた。
マリベル「もう! ドレスが びちょびちょじゃないの!」
少女がスカートの両端を掴んで抗議する。
アルス「あははは! ごめんごめん。宿に行ったら 洗って持っていこ?」
マリベル「むー。」
少年になだめられるも、少女は不満そうにそっぽを向く。
サイード「どうだ アルスっ 何がいた!」
アルス「向こうに 動きはないね。殺気は 伝わってくるけど。」
遅れてやってきた青年に返し、少年はゆっくりと辺りを見回す。
マリベル「あれ 妖精さん スラッグは?」
神木の妖精「あっ…… すいません 置いてきてしまったようです。」
少女の問いに気付いたのか、妖精は申し訳なさそうに幹を見上げる。
アルス「まあ ここより 上の方が 安全じゃないのかな。」
マリベル「しょうがないわねー 後で 回収しましょ。」
サイード「それより 今は……。」
*「グゴォーフ!」
*「ガゴォーフ!」
サイード「こいつらを 片付ける方が 先だ!」
靄の中から現れたのは血のように真っ赤な悪魔たちだった。
アルス「ざっと 10… いや 20は下らない数だね。」
マリベル「同じ顔が みごとに 並んだわね。こんなにいると むさくるしいわ!」
そう言って少女は腰に下げた鞭を構えて別の意味での毒を吐く。
サイード「…来るぞ!」
こうしてそれぞれがそれぞれの武器や防具を手に、おびただしい数の悪魔たちとの戦いが始まった。
マリベル「そこっ!」
まず先陣を切ったのは少女だった。
少女は固まって歩いているグループを見つけると鞭をしならせ轟音と共に空気もろとも悪魔たちを切り裂いていく。
*「グヒィッ……!」
マリベル「よわっちい くせに この マリベルさまと 戦おうなど 千年早いわね! ほほほ!」
マリベル「はっ!」
ものの数秒でケリがついてしまう戦いにはもう飽き飽きしているのだろうか、
少女はふんぞり返りながらも敵から注意を逸らさないという器用な芸当をやってのけている。
アルス「よしっ 来い!」
*「ゲッ……!」
一方の少年も水の抵抗を物ともせず、敵の攻撃をかわしながら一体一体無駄のない動きで切り裂いていく。
サイード「…負けてられないな。」
青年も負けじと湾曲した剣を片手に素早い動きで敵陣の中へと切り込んでいく。
神木の妖精「……消えなさい!」
そうして青年の散らした残党をエルフの娘が手から発する光で無に還していく。
別段連携を心がけているわけでもないが、自然とお互いの動きが噛み合っていく。
そんな不思議な感覚を覚えながら少年たちは少しずつ、確実にまもののむれを減らしていった。
アルス「残るは…!」
見ればあちこちに魔物の死骸が転がり、水に浄化されては消え、
這い歩く虫の如く蠢いていた悪魔たちも残すはあと数匹というところまできた時だった。
マリベル「あいつよ あいつ! あそこの デカイやつが こいつらのボスに違いないわ!」
少女が離れた位置からこちらを睨む悪魔を指さす。
その大きさは他にいる同じ者たちの優に三倍は越すであろう巨大な体躯であった。
*「ゴオォーフ!! よくも よくも やったな貴様らァ…!」
少年たちが周りを取り囲むとその巨大な悪魔は呻くような声で呪詛のような言葉を吐く。
*「オレ様が なん百年の月日を経て 復讐する機会を 待っていたとも知らずに……。」
神木の妖精「復讐ですって!?」
*「そうだともォ! 俺は 仲間を消されて 貴様ら人間に敗走した あの時の恨みを忘れやしないのさァ!」
マリベル「なん百年~? あんた ねちっこい性格なのねえ。」
*「むん? その声… その姿……。」
お決まりの悪口をぶつける少女の顔をじっと見つめ、悪魔はピタリと動きを止める。
サイード「なんだ 様子がおかしいぞ!」
*「貴様ら… 貴様らまさか あの時の 人間ども……ッ!」
*「許さん… ゆるさんぞォ!」
悪魔は体を震わせいきり立ち、荒い息を吐きながら血走った目で少年たちを睨みつける。
*「貴様らを 皆殺しにし 今度こそ この忌々しい木を腐らせてくれよう!」
アルス「構えてみんな! くるっ!」
*「グゴオオオオオフ!」
少年の合図に全員が飛び退くと既にそこまで来ていた悪魔の前足が空を振った。
マリベル「あっぶな! お返しよ!」
少女は適当な根の端に鞭を巻き付けるとぶら下がり、
そのまま勢いを付けて空中から悪魔の顔目がけて強烈なとび膝蹴りを繰り出す。
*「グゲェッ!」
もろに衝撃受けた悪魔は慌てて反撃を繰り出すも、踊るような足さばきをする少女になんなくその攻撃をかわされ、
それどころか時折繰り出される拳や脚に太い腕を打たれていく。
*「ぐっ ぬ……!」
アルス「ここだ!」
そうこうしているうちに少年が懐目がけて疾風の如く潜り込み、片足を軸に水平に脚を回して真横に巨体を吹き飛ばす。
*「こ こしゃくなァ!」
再び頭に血が上った悪魔は体を起こして思い切り突進してくる。
神木の妖精「スカラ!」
サイード「むん…!」
しかしその一撃も防御魔法を受けた青年の剣に阻まれ、両者は拮抗状態に陥る。
アルス「くらえ!」
そこへ後から少年が飛び出し、悪魔の頭についている二つの角のようなものを切り落とす。
*「ギャアアアアッ!! このォ!」
痛みに悶えながらも悪魔は渾身の力で少年と青年を弾き飛ばす。
サイード「チッ!」
アルス「けっこう タフだね…!」
マリベル「根がなかったら もっと 派手にやれるってのにね!」
神木の妖精「すみませんが なるべく 傷つけないように お願いします!」
マリベル「わかってるわ 妖精さん!」
*「ナ…ニ……?」
その時、頭を押さえて呻いていた悪魔が急に静かになり、少女の後ろに立つ妖精を凝視する。
*「おまえが…… そうか おまえが この木の守護者かッ!」
そう言うや否や悪魔は目から眩しい光を発し、それまでとは比べ物にならないほどの速さで宙を駆け、
瞬く間に少年たちの後ろに回り込むとエルフの娘を鷲掴みにして飛び退いた。
神木の妖精「キャっ!!」
サイード「なっ!」
マリベル「妖精さんっ!」
*「こうなったら せめて… 貴様だけでもォ!」
恨めしそうな、そして恍惚な笑みを浮かべて悪魔は妖精を握りつぶそうと腕に力を籠める。
神木の妖精「ああああっ!!」
骨の砕ける音と共にその口から鮮血が吐き出されていく。
アルス「このっ……!?」
*「ピギイイイイッ!」
*「ぬおっ!」
少年が悪魔を阻止しようと走り出した瞬間、何者かが悪魔の体目がけて猛烈な勢いで飛び込みその体を仰け反らせた。
神木の妖精「か… はぁっ… げほっ げほっ!」
悪魔の手が緩んだことでエルフの娘は地に落ち、激しく咳き込んで荒い息を漏らす。
*「き きさま スライムごときが よくも やってくれたなァ!」
*「貴様なんぞ こうしてくれるッ!!」
スラッグ「ピキーーーっ!」
すぐに体勢を立て直して硬直するスライムを手に掴むと、悪魔は力に任せてその体を握りつぶしてしまった。
マリベル「スラッグ!!」
*「げ…へへ お 俺さまの 邪魔をするから こうな……っ!?」
アルス「っ!!」
ただのゼリー状の塊のかけらとなって飛び散ってしまったスライムを見下ろし、勝ち誇ったかのようだった悪魔の顔は、
突如後ろから放たれた殺気を認知した時には既に驚愕の色で染め上げられ、ただ天井を向いていたのだった。
*「ぐごぁあッ!?」
神木の妖精「……!?」
何故ならば眼にも止まらぬ速さで飛び込んだ少年が、姿勢を低くし片足を軸に水平に悪魔を蹴り転ばしていたからだ。
アルス「この野郎……!」
*「…おおっとォ!」
少年が獲物を突き立てようとした瞬間に我に返った悪魔は、わずかにそれを交わし、すぐに体を翻して後ずさる。
*「まだだァ! まだ 死ぬわけにはいかん! この木に 破滅を与えるまではなァ!」
そう言って再び攻撃の体制を取ると少年との距離をジリジリと詰めていった。
マリベル「スラッグ! しっかりするのよ!」
[ マリベルは ザオリクを となえた! ]
*「…………………。」
少年が悪魔と対峙する一方、少女はゼリー状の残骸が転がった辺りに向かって復活の呪文を唱えていた。
*「…………………。」
しかし物言わぬその塊たちはいつまでも沈黙を貫いたままだった。
マリベル「どうして… どうして 生き返らないのよっ!!」
少女がいらだちと焦りを顔に浮かべてわめき散らす。
マリベル「ザオリク! ザオリクザオリク! ……ざおりくぅ…!!」
まるで壊れてしまったかのように、すがるように何度も何度も同じ言葉を繰り返す。
サイード「マリベル……。」
マリベル「スラッグ! 返事をしなさいよ! へんじを……!」
神木の妖精「マリベルさん!」
マリベル「……!」
妖精が少女の言葉を遮るように名前を呼ぶ。
神木の妖精「残念ですが スラッグさんはもう……。ごめんなさい わたしのせいで……!」
マリベル「まだよ… スラッグは 死なせはしないわ! さっきまで あんなに 元気にしてたのに…!」
尚も諦めようとしない少女に妖精は足元に落ちている欠片を両手ですくいながら言う。
神木の妖精「復活の呪文は 完全に失われてしまった命を 生き返らせることはできないのです……。」
神木の妖精「あなただって それは 分かっているはずです。」
マリベル「…………………。」
妖精の言葉に黙ったままそれを見つめていた少女だったが、やがて立ち上がると振り向きもせずに語り掛けた。
マリベル「二人とも。」
神木の妖精「はい。」
マリベル「……スラッグを守って。これ以上 傷つかせたくないの。」
サイード「…わかった。」
マリベル「ありがとう。」
礼を伝えると少女は黙って悪魔と対峙する少年のもとへと歩き出した。
アルス「次は 外さないぞ!」
*「グゴヒャヒャヒャ!! 俺は死なん! おまえらごときに これ以上の 邪魔はさせんぞォ!」
アルス「なら これでも 受け…!」
マリベル「アルス!」
アルス「…っ! マリベル!?」
マリベル「そこを どいてちょうだい。」
アルス「でも!」
マリベル「どきなさい。」
アルス「…………………。」
少女の有無も言わさぬ言葉に少年は自身の体を横にわずかにずらす。
マリベル「ありがと。」
抑揚のない礼を言い残してその横を通り抜けると、少女は根の壁に背を張り付けるようにして立ちはだかる悪魔の目の前へと歩み寄った。
*「あんだぁ? アマァ 恐れをなして おとなしく 俺に殺されにでも来たってのかァ?」
マリベル「半分正解ね。」
*「あぁ? どういうこ… げごふぅッ!!」
訝し気に少女に詰め寄る悪魔だったが次の瞬間、体が浮き上がり背後の壁にめり込んだ。
マリベル「半分の正解は 恐れをなして と おとなしく殺される ってところよ。」
*「グ… ごはぁッ!!」
今度は顎を蹴り上げられ、激しく仰け反り頭から地面に強烈に叩きつけられる。
マリベル「半分のハズレは それが アマ じゃなくて あんた だってところよ!」
*「ガ……きさまっ! ごああっ!?」
仰向けに倒れた体を起こそうとする悪魔だったが、首を鞭に締め上げられ、その上から馬乗りになった少女にそれを阻まれる。
マリベル「これは あんたに しめ上げられた 妖精さんの分!」
そのまま少女は体に紫色のどす黒い空気を纏わせると悪魔の顔に向かって猛毒の霧を吹き付ける。
*「グエフッ! ごへァッ…! い いキ が……!」
マリベル「これは 猛毒や 汚いモヤに苦しめられた 世界樹の分!」
そして少女は魔力で練り上げた巨大な手を作り出し、喘ぎ苦しむ悪魔の頭をそれで掴むと、自身の拳を握り、巨大な手にその動きを再現させていく。
マリベル「そしてこれは! あんたに 握り殺された仲間の!」
*「ヤ やメ…!」
マリベル「あたしの大事な スラッグの分よ!!」
*「ガアアアアアッ…!」
そして少女はその拳を力いっぱい握り締め、悪魔の頭をギリギリと圧していく。
マリベル「消えろッ!!」
断末魔をかき消すかのように少女が叫ぶと悪魔の頭は赤黒い体液をまき散らしながら、内側から爆発するように四散してしまった。
*「…………………。」
マリベル「…感謝しなさい。あんたたち 悪魔の大好きな 地獄の雷で送ってあげるわ。」
そう言って頭を失くした悪魔の体に手を当て、少女が目を見開いた時だった。
アルス「やめて マリベル。」
少年が少女を背中から抱き、その腕を両手にからめとる。
マリベル「……っ!!」
少女の腕を走る黒い雷光が、少年の腕を真っ黒に焼いていく。
マリベル「止まないで アルス! これはあたしの 復讐なのよ!」
少女は少年の制止を聴かず、尚も腕の雷を大きくさせていく。
アルス「ぐ……! もう そいつは死んだんだ! それ以上する必要はない!」
マリベル「ダメよ! こいつは 世界樹だけじゃなくて スラッグにまで 手をかけたのよ。」
マリベル「地獄の炎よりも苦しい 罰を 与えるべきなんだわ!」
少女の腕はもはや真っ黒に染め上げられ、少年の指先は炭のようにボロボロと崩れ落ちていった。
アルス「それでもダメだ! きみは……君は そいつと同じになりたいとでも 言うのか!」
マリベル「……っ!」
少年の言葉に少女は少しだけ腕の雷を弱める。
アルス「今の君をみて 彼が 喜ぶとでも 思うのか!?」
アルス「復讐のために 死神のように 敵をいたぶる君をみて スラッグが 喜ぶとでも 思ったのかっ!!」
マリベル「…スラッグ……。」
アルス「ぼくは嫌だ。そんな風に 復讐に身を焦がすような 君なんて見たくない!」
アルス「どうしてもというのなら ぼくが 君の代わりに こいつを消してやる。」
アルス「だから 目を覚ますんだ! マリベルっ!」
マリベル「……アルス。」
少女の呼び起こした雷が、ゆっくりと収束していく。
マリベル「…………………!」
その時初めて少女は自分が少年の手を焼き焦がしていることに気が付いた。
マリベル「アルスっ! て 手が……。」
アルス「……いいんだ。」
少女は自分の行動の愚かさを悔いていた。
理由こそ違えど復讐のために無意味な破壊や必要以上の暴力を行うのは、先ほどまで醜く笑っていた悪魔たちと何が違うのだろうかと。
そして冷静さを欠き、見境を失くしたがために自らの愛する人にした仕打ち。
マリベル「…ごめんなさい……。」
あふれ出る後悔が、そのまま涙となって少女のまなじりからあふれ出す。
アルス「……いいんだ。」
ボロボロになった腕で少女の体を力強く抱く少年の瞳には、足元で揺れる水面に滴る雫が小さく映し出されていた。
サイード「どうやら 終わったようだな。」
悪魔の断末魔が響き渡った後、辺りを覆っていた黒いモヤも次第に薄れ、地下は透き通った水面と澄んだ空気に包まれていった。
神木の妖精「あ アルスさん マリベルさん!」
アルス「やあ。」
戻ってきた二人に気付き妖精が呼びかけると少年もそれに呼応してみせる。
神木の妖精「レッサーデーモンは……!」
アルス「倒しましたよ。体も 世界樹に浄化されて 結局 消えました。」
神木の妖精「そうですか… 良かった……!」
妖精は安堵のため息を漏らす。
マリベル「…スラッグは?」
神木の妖精「はい… 私たちで かけらを 拾い集めて……。」
サイード「彼なら ここだ。」
少女の言葉にそう言って答えると、青年は自分のマントに包んだ亡き仲間のかけらを少女に見せる。
神木の妖精「わたしも 何度も 試みたのですが……。」
サイード「…やはり 戻って来てはくれなかった。」
マリベル「そう……。」
少女は青年の持つマントの上をじっと見つめる。
マリベル「…………………。」
マリベル「ねえ サイード。」
サイード「なんだ。」
マリベル「それ… 少しの間借りてもいいかしら。」
サイード「ああ しかし… いや わかった。」
一瞬真意を測りかねた様子の青年も、まっすぐな少女の瞳に何か察しがついたらしい。
マリベル「ありがとう。」
マリベル「みんな 戻りましょ。 ……リレミト。」
そう言って少女が青年の手からマントを受け取り、皆を集めて脱出の呪文を唱えると、
一同を光が包み込み、あっという間に辺りは静寂に包まれたのだった。
少女たちが井戸の前に戻ってきた時には既に日は暮れ、物悲しく町の景色を朱に染めていた。
今は昼に会った老婆もいない。
マリベル「サイードは 先に 町長のところへ 報告に行ってあげて。」
サイード「…ああ わかった。」
神木の妖精「マリベルさんは どうするのですか?」
マリベル「世界樹のところへ 行くわ。」
アルス「…………………。」
サイード「それじゃ また 後でな。」
マリベル「ええ。」
そうして町長の家の前で青年と別れた少女たちは再び世界樹のもとへとやってきた。
少女の手にはまだ包まれたマントが乗ったまま。
神木の妖精「マリベルさん いったい 何をするのですか…?」
マリベル「この子をね。」
そう言って少女は片手でマントの上をそっと撫でる。
マリベル「手厚く 葬って あげたいのよ。」
マリベル「それが こんな形で この子の命を奪ってしまった私からの せめてもの 償いになればね。」
アルス「マリベル……。」
マリベル「……手伝ってくれる?」
アルス「…………………。」
アルス「もちろんだよ。」
少年と少女は妖精の見守る中、世界樹の根元に小さな墓をこしらえ始めた。
墓とは言っても墓石のようなものはなく、ただ穴を掘って十字に縛った枝を刺しただけの粗末なものだったが、
一つ一つ丁寧に、労わる様に作っていった。
そしてぽっかりと空いた穴の中にマントの中で眠っていた仲間をゆっくりと注ぎ込むと、
上から布団をかぶせるように優しく土を盛り少女は下に眠るそれに小さく語り掛ける。
マリベル「……ごめんなさい スラッグ。あたしが あんなところまで 連れて行ったばかりに こんな目に 合わせてしまって。」
マリベル「でも あなたの おかげで 妖精さんと 世界樹を助けることができたわ。」
マリベル「自分よりも強い相手に みんなを助けるために 立ち向かった あなたの おかげで。」
マリベル「……あなたの 勇気が このご神木を救ったの。」
神木の妖精「マリベルさん……。」
マリベル「ううん。いいのよ 妖精さん。」
マリベル「…アルス! ……わがまま 言っていいかしら。」
悔しそうな顔で俯く妖精に気にしないように伝えると、少女は少年を呼んだ。
アルス「なんだい?」
マリベル「せかいじゅの葉と 最後のしずく …あたしにちょうだい。」
アルス「…………………。」
アルス「わかった。」
マリベル「ありがとっ。」
そう言って少年から手渡された二つの貴重品を受け取ると、少女は盛り上がった土の上に葉を置き、しずくで濡らしていった。
そして墓の前にかがんでゆっくりと目を閉じ、静かに祈りをささげると再び少年たちのもとへ歩き出す。
マリベル「さ! これでいいわ。行きましょう アルス。」
アルス「もう いいのかい?」
マリベル「うん。ちゃんと お別れできたわ。」
神木の妖精「お二人とも 本当に ありがとうございました。このご恩は 決して 忘れません。」
マリベル「いいのよ。それに あたしたちじゃなくて お礼は スラッグに言ってあげて?」
神木の妖精「……はい!」
アルス「それじゃ ぼくたちはこれで。妖精さんもお元気で。」
神木の妖精「また いつでも遊びに来てくださいね。わたしも …そして 彼も きっと 歓迎いたします。」
マリベル「わかってるわ。じゃあね!」
そう言って少女は後ろを振り返り、誰にも聞こえない声でそっと呟いた。
マリベル「さようなら スラッグ。]
マリベル「小さな勇者さん…。」
サイード「戻ったか アルス マリベル。お父上が 首を長くして待っていたぞ。」
町へと戻ってきた少年と少女に砂漠の民の青年が駆け寄る。
アルス「かなり 遅くなっちゃったから 父さん 心配してるかな。」
マリベル「ごめんなさい 待たせちゃったわね。」
サイード「いや 気にするな。おまえたちのことだ 彼のことを 葬ってやったんだろう?」
アルス「…まあね。」
マリベル「はい これ あんたのマント。シミになっちゃったけど……。」
少女は借りていた布を青年に手渡すと大きなシミを見て俯く。
サイード「いや このままでかまわん。これからの旅に 彼がついていれば 心強いだろう。」
サイード「それに 彼の勇気を いつでも 思い出せるからな。」
青年はその優しくシミを撫でるとすぐに自分の首に巻き付けた。
アルス「優しいんだね サイードも。」
サイード「ふん。どうだかな……。」
サイード「最初はただ 魔物だからという理由だけで 彼のことは あまり 信用していなかったのも事実だ。」
サイード「結果的に 彼がいなければ どうなってたかも 分からないというのにな。」
マリベル「…仕方ないことよ。誰だって 魔物と見れば 最初はそう思うわ。」
マリベル「でも 覚えていてちょうだい。どんな見た目の魔物だって 必ず 心を通わせることできる子も いるんだってことをね。」
サイード「……ああ 肝に銘じておくよ。」
少女の言葉に青年は力強く頷いてみせる。
アルス「…そうだ サイード せっかくここで会えたんだから 今日は 一緒に夕飯でもどう?」
マリベル「いいわね! あんたにはいろいろと 聞きたいこともあったし。うふふ…。」
サイード「むっ そうだな。おまえたちの 旅の話を もっと聞きたかったしな。」
サイード「この サイード ご一緒させて いただくとしよう。」
マリベル「そうと決まれば はやく 宿にいきましょ! ボルカノおじさまも コック長も きっと 喜ぶわ!」
そう言って少女は二人の腕を引っ張り町の南に向かって歩き出す。
アルス「わわっ マリベル待ってよ!」
サイード「ちゃ… ちゃんと 歩くから そんなに 引っ張らないでくれ!」
少女に引きずられるように歩き出した二人もどこか楽しげで、今晩の話に期待を膨らませながら仲間の待つもとへと急ぐのだった。
サイード「そうか… 噂には聞いていたが おまえたちの旅は なにかと想像を絶するものだったんだな。」
夜も更け町が静かになった頃、それとは反比例するかのように宿のラウンジは盛り上がりを見せていた。
マリベル「ったく 苦労したんだから。どこ行っても 無理難題の連続ってもんね!」
食事を済ませた少年少女と青年は三人で卓を囲んで酒盛りをしていた。
サイード「しかし それのおかげで おれたちは こうして平和に暮らしていけてるんだ。」
サイード「本当に 感謝している。」
少しだけ顔を赤く染めた青年がかしこまったように二人に頭を下げる。
アルス「いやぁ……。」
マリベル「ホント あんたみたいに みんな感謝してくれるんだったら もうちょっと 士気も上がってたかもねえ。」
そう言って少女は盛大な溜息をつく。
アルス「まあ ぼくらも 途中まで 自分たちの好奇心でやってたからね。」
マリベル「まあね 別に 人から 感謝されるために やってたわけじゃないからねえ。」
サイード「いや 英雄というのは みな 不遇なものだな。」
マリベル「あら あたしは まんざらでもないわよ?」
にやりと笑って少女は隣に座る少年の肩に手を乗せて言う。
マリベル「こうして また平和な世界を 満喫しながら 歩けるんだから あたしたちだって ちゃんと 報われてるわよ。」
アルス「…そうだね。」
肩に乗せられた少女の手を自らの手で覆いながら少年がそれに応える。
サイード「…ふっ 敵わないな おまえたちには。」
マリベル「あーら あんただって ホントは 隅に置けないやつ なんじゃなくって?」
苦笑する青年に少女が悪戯な笑みを浮かべて言う。
サイード「な なんの話だ?」
マリベル「とぼけちゃってー 本当は 女王さまと 何かあるんじゃないのー?」
小さなグラスに注がれた深い琥珀色の液体を一口に飲み干して少女が言う。
サイード「いや 女王様は おれたちにとっては 大地の精霊様や 神に近しい存在だ。」
サイード「そんな お方となど……。」
マリベル「なら その赤い顔はなんなのよ~ うふふふ……。」
サイード「酒のせいだろう。」
アルス「マリベル 今日は いつになく 上機嫌だね。」
マリベル「あら そうかしら? それにしても これ きついけど…… いい香りで 癖になるわね…。」
そう言って少女は自分の杯に芳醇に香る液体を注ぎ込んでは鼻を近づける。
サイード「あれだけあった 生命の水が ほとんど 空だな…。」
生命の水と呼ばれるその液体は水の綺麗なこの地方ならではの名産として古くから伝えられている麦を使用した飲み物だった。
生成される過程で蒸留を繰り返すことで非常に“きつく”なるのだが、水を加えることで香りや味わいが花開き、複雑で繊細な顔を見せる。
それはまるで生命が生まれ、老い、そして無に還る無限の営みの一瞬を切り取ったかのような美しさを持ち、
一度口にすれば体を目覚めさせ、精神を漲らせ、やがて眠りへと導いていく。少女はそんなこの生命の水に心酔していたようだった。
マリベル「ふふっ これ お土産に もう一本もらってこうかしらね。」
アルス「きっと ご両親 ひっくり返るかもね。」
マリベル「うちの親は 別に 弱いわけじゃ ないわよ?」
サイード「まあ おまえを見ていたら それも 納得できるが。」
マリベル「とーにーかーくっ! あんたはきっと 何か 隠しているわね?」
“ズビシッ”
再び少女の指先が青年の顔に向かう。
サイード「むっ まだ その話を引っ張るか!」
アルス「あははは…… マリベル もうそろそろ 寝ようか。」
マリベル「なによう! もうちょっとくらい からかったっていいじゃない!」
サイード「おれを からかっていたのか!」
マリベル「あんたみたいな カタブツは ちょっとからかわれて 赤くなってる方が 可愛げがあるのよ!」
マリベル「きっと 照れた あんたを見たら あの真面目な 女王さまだって…… ふふふ。」
サイード「あ アルス! はやく そいつを連れて 部屋に戻ってくれ!」
マリベル「あ! あんた 分が悪いからって 逃げるきねえ?」
アルス「はいはい マリベル そのくらいにして もう行こう? ね?」
マリベル「ぬぬう……。」
マリベル「わかったわよ…… しょうがないわね!」
そっぽを向き、頬を膨らませて腕組しながら少女は歩き出す。
少年に肩を抱かれて。
サイード「ふう…… ようやく 解放されたか。」
サイード「マリベルのやつ 調子に乗って こんなに飲むとは……。」
そう言って青年は卓の下に置かれた 空瓶の束を見てため息をつく。
サイード「……女王様…か。」
誰にも聴き取れぬような声でそっと呟くと、青年は普段はマントに隠れている首に下げられた物に手を当て、
物思いにふけるように少量だけ満たされている自分のグラスを見つめるのだった。
マリベル「つまんないのー もうちょっとで あいつの 秘密を暴けると思ったのにー。」
アルス「マリベルも 意地悪だなあ。」
マリベル「なによ アルスまでぇ! ふんっ。」
アルス「あははは… ごめんごめん。」
マリベル「しーらなーい! アルスなんて だいっきらいよーだ。」
アルス「よわったなあ。」
マリベル「ふーんだ。」
アルス「…………………。」
マリベル「……はあー。」
少女が盛大なため息をつき少年に背を向けてベッドに座り込む。
アルス「マリベル。」
マリベル「なによっ ばかアル……ス?」
アルス「…………………。」
マリベル「あるす……?」
気付けばいつの間にか後ろにやって来た少年に背中を抱きしめられていた。
アルス「ごめん。ぼくも 意地悪言うつもりは なかったんだ。」
マリベル「……いじわる。」
アルス「うん。」
マリベル「ばかアルス。」
アルス「うん。」
マリベル「もうっ 顔が見えないじゃないの!」
マリベル「えい!」
アルス「えっ?」
次の瞬間少年は宙を舞い、ベッドに横倒しにされていた。
マリベル「うふふふ! ばーかばーか。」
少女はいつの間にか笑っていた。それも心底楽しそうな顔で。
アルス「…は ははは!」
マリベル「あはははっ!」
釣られて少年が笑い出し、少女もそれに負けじと腹を抱えて笑う。
アルス「…………………。」
マリベル「…………………。」
そしていつしか視線が合うと、どちらからともなく二人は唇を重ねるのだった。
しばらくお互いの感触を確かめ合っていた二人だったが、やがて少しだけ間を開けると、少女ははにかんだ笑顔で俯き、少年の胸に顔を埋めて呟く。
マリベル「やっぱり好き。」
少年は少女の背中に腕を回すと、花に似た香りのする美しい髪に顔を落とし、鼻で思い切り深呼吸する。
アルス「おやすみ マリベル。」
マリベル「おやすみなさい アルス…。」
そして二人はお互いの存在を離すまいと疲れた体を寄り添わせ、そのまま夢の中へと落ちていくのだった。
真夜中にもかかわらずどこからともなく聞こえてきた小さな鳴き声に青い鳥の姿を思い浮かべながら。
そして……
そして 夜が 明けた……。
288 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/02 14:54:47.23 kyvdl/RT0 263/905
以上第10話でした。
過去のクレージュでいどまじんを倒したとき、
その周りで魔王の念のこもった水をまき散らしていたレッサーデーモンたちが戦ってもいないのに急に姿を消します。
……どうもおかしいなと思ったんですよね。
今回のお話ではそんなレッサーデーモンたちに脚光を浴びせてみました。
それからこの第10話限定でオリジナルキャラクター「スラッグ」を登場させました。
はじめて遭遇した魔物でもあるスライムはマリベルとは切っても切り離せないキャラクターの一つです。
「こうやってみると スライムも なかなか かわいいものだわね。」
なんていうセリフがメダル王の城では聞けたりします。
そこで今回はちょっとせつないお話ですが少女が旅を通して経た魔物に対する心境の変化を、
「スラッグ」というキャラクターとの出会いと別れで書いてみました。
(けっして某超格闘漫画の映画の悪役カタツムリではありません)
今さらですがこのSSではアルスとマリベルが飲酒するシーンがしばしばあります。
ゲーム終了時の彼らの年齢はだいたい18ぐらいだと思うのですが、
それ以前にも現在の砂漠では(メッセージで)しっかりとお酒は飲んでいますし、
ユバールではビバ=グレイプ(要するにワインですね)を飲んでいます。
序盤ではアルスの家でアミット漁から帰ってきたボルカノにお酒を進められる場面もありますね。
神の復活を祝う祭の際はメルビンやアイラに「まだ早いか」と言われていますが、
きっとドラクエの世界では成人が早いのか、お酒に関する決まりが緩いのでしょう。
…………………
◇今回から砂漠の青年サイードが仲間に加わります。
念外だった世界旅行(?)の最中、こうして出会ったのも何かの縁。
どこまでかはさておき、しばらく彼にも旅に同行してもらいます。
289 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/02 14:55:17.17 kyvdl/RT0 264/905
第10話の主な登場人物
アルス
世界樹を救うためにクレージュの地下へ。
無用な殺生はしないがマリベルの手を汚すくらいなら自分がやる。
色んな意味で暴走するマリベルを止める鎮静剤。火に油を注ぐこともあるが。
マリベル
スラッグを目の前で殺され激怒。
自分もアルスも焼き尽くさんばかりの力で魔物を葬り去る。
旅を通して魔物に対する見方も大分変わってきている。
実は酒豪。
ボルカノ
今回は一人で町長の元へ締約書を届けに行く。
たとえ英雄という大使がいなくとも任務はしっかりこなす。
魔物が現れようと動じない。
コック長
物の見方は非常に柔軟。
不測の事態でも冷静に動く。
神木の妖精
世界樹を見守る森の妖精。
アルスたちと共に世界樹に仇なす魔物たちを退治するべく戦いに身を投じる。
サイード
砂漠の民の青年。世界を旅する真っ最中。
偶然立ち寄ったクレージュで事件を知り、
原因の解明のために地下へと潜ったところアルスたちと再会。共闘する。
スラッグ
クレージュ周辺に住んでいた何の変哲もないスライムだったがマリベルに拾われ、
メタルキングとの戦いを経て飛躍的に成長。人語を解するように。
神木の妖精のピンチを救うべく身を呈し、命を落としてしまう。
航海十一日目:名もなき小鳥 / 砂漠の夜
ボルカノ「おう 待たせたな お前たち!」
*「船長!! みんな おかえりなさい!」
翌朝、朝食後すぐに宿を後にした一行は仲間の待つ船まで戻って来ていた。
*「首尾はどうでした?」
ボルカノ「締約については ほとんど 問題なかった。じきに ここにも 船着き場を 作ってくれるとよ。」
ボルカノ「もともと 争いとは無縁な町だから やっぱり 他所の船を守るチカラはないって 話だったけどな。」
*「そうですか。」
*「……あの 妖精のネエちゃんは どうしたんです?」
銛番の男が少年たちを見回して尋ねる。
アルス「無事 問題を解決したので 世界樹のところへ 帰りました。」
*「そうか アルスたちも ご苦労さんだったな!」
*「ところで そっちの あんちゃんは……。」
漁師の一人が少年たちの後ろに立つ青年に気付いて声をかける。
サイード「砂漠の民の サイード と申します。」
サイード「世界を旅している途中ですが 訳あって この町で アルスたちと再会しました。」
サイード「この度は ボルカノ船長のご厚意で 次の地まで ご一緒させていただくことに なりました。」
サイード「みなさん どうぞ よろしくお願いします。」
漁師の疑問に答えるように青年は乗組員たちに挨拶をする。
*「こりゃまた 礼儀正しそうな あんちゃんだ! おれたちは この船で漁師をやってるもんだ。一つ ヨロシクな!」
*「ぼくは この船で コック長と共に みんなのご飯を作ってる飯番です。どうぞよろしく!」
サイード「よろしくお願いします。」
それぞれが自己紹介を終えたところで船長が号令を出す。
ボルカノ「よし! あいさつはそれまでにして そろそろ出発するぞ!」
*「「「ウスッ!!」」」
*「全員乗ったか! 錨を上げるぞ!」
*「おう!」
船員たちの掛け声と共に海中から錨が引き上げられ、
新たな仲間を加えた漁船アミット号はゆるやかな東の風を受けて再び大陸間の海域を滑り始めたのだった。
マリベル「これでしばらく こことも お別れね……。」
船が走り出し、遠ざかる岸辺を見ながら少女が誰にともなく語り掛ける。
アルス「…そうだね。」
サイード「世界樹の回復を 見届けなくて良かったのか?」
マリベル「いいのよ。元凶はやっつけたし この目で モヤが消えるのを見たんだもの。」
青年の問に少女はあっけらかんと答える。
サイード「心残りは もう ないんだな?」
マリベル「スラッグのこと? そうね……。」
少女はしばし静かに揺れる海面を見つめていたが、やがて遠い岸辺の方を見やると自分の胸の内を語りだした。
マリベル「アルスにはさ たしか 言ったことが あったっけ。」
アルス「…………………。」
マリベル「死が かならずしも その人の価値を なくしちゃうとは かぎらない… ってね。」
サイード「…………………。」
マリベル「それが 人でも 動物でも… 魔物でもおんなじよ。」
マリベル「スラッグは確かに 死んじゃったわ。けど……。」
マリベル「あたしは あの子のこと 絶対に忘れないわ。あの子のことも あの子の勇気も。」
マリベル「たったの半日だけだったけど… あの子と過ごした時間も。」
そこまで言って少女は大きなため息をついた。
サイード「…そうか。」
そう返して青年は、昨晩宿に預けたままにしていた自分の相棒の頭をそっと撫でる。
*「にゃーう。」
少女が嬉しそうに喉を鳴らす茶虎猫を見つめていると、急に少年が声を上げる。
アルス「あっ あれ!」
マリベル「どうしたのよ? 大きな声だし… あっ!」
サイード「む? あれは……。」
少年が見つめる先には二匹の鳥がいた。
片方は二日前この船に迷い込んできた美しい青色の鳥。
もう片方はこれまた天をそのまま映したかの如く澄んだ水色をした鳥だった。
アルス「やあ 妖精さん! また 鳥の姿に戻ったんだね。」
呼びかけられた青い鳥は少年のもとへ降り、その手に小さな茶器のような物を落とす。
アルス「これは……?」
マリベル「ねえ それって エルフののみぐすり じゃない?」
少女の言葉を肯定するように青い鳥は少年の腕に止まり、“チチッ”と鳴いてみせる。
どうやら少年たちに礼を言いに来たかのようであった。
サイード「そっちの 水色の鳥は?」
青年が疑問を口にするとその鳥は少女の腕に止まり、口にくわえていた葉を少女に向ける。
マリベル「えっ これをあたしに?」
少女の問いかけに、水色の鳥は少女が差し出した掌にそれを落としてみせた。
*「チチチッ!」
短く一回だけ鳴くとその鳥はもう一羽と共に水の都の方面へと飛んで行ってしまった。
アルス「行っちゃったね。」
空の色に紛れて見えなくなった二羽の鳥を見送り、少年が呟く。
マリベル「……うん。」
マリベル「あっ……。」
同じようにその後を眺めていた少女だったが、ふと手に置かれた葉を見ると驚いた様子で固まってしまった。
アルス「どうしたの? マリベル。」
マリベル「……ううん。なんでもないのよ。」
サイード「その葉は… 世界樹の葉か?」
マリベル「そうみたいね。」
アルス「でも さっきの見慣れない鳥は いったい……。」
マリベル「…ふふっ さーてね。」
首をひねる少年を横目に少女は少し寂しそうに、それでいて嬉しそうな複雑な表情をしていた。
そうして消えてしまった鳥たちの後ろ姿にポツリと呟いたのだった。
マリベル「ありがとう。名もなき鳥さん。」
少女が胸に抱いた世界樹の葉にはくちばしで開けたような小さな穴が連なっていた。
小さく、形が崩れて少し見辛かったものの、よく見るとそれは文字になっていた。
たった一言の短い言の葉。
だが、そこには確かにこう書いてあった。
[ あ・り・が・と・う・ま・り・べ・る ]
鳥たちを見送る少女の瞳はいつもよりきらめいて見えたが、それに気づいたのは少女の横顔をじっと見つめていた少年だけだった。
*「船長 確かに ここの海底は 浅いようですぜ。」
ボルカノ「そろそろ 始めるか…。」
ボルカノ「お前ら アミの準備だ!」
*「「「ウスッ!」」」
出航から早数刻、日も徐々に昇り温かくなり始めていた頃、漁船アミット号の上ではあわただしく男たちが漁の準備に取り掛かり始めていた。
アルス「この辺では どんな魚がかかるのかな。」
ボルカノ「今回は 底曳き漁だからな。いつもと違った連中が かかるだろうな。」
漁師の親子が今日の獲物の予想を付けていると、後ろから砂漠の民の青年が声をかけてきた。
サイード「ボルカノ殿!」
ボルカノ「ん? どうした サイードくん。」
サイード「おれにも 手伝わせてくれませんか!」
アルス「えっ?」
ボルカノ「ん まあ 別にダメとは言わないが どうしてまた?」
サイード「はい 乗せていただいた 恩義もありますが 何より おれはもっと 世の中のいろんなことを知りたいんです。」
サイード「どうやって 海の食材が自分たちのもとに 届いているのか そして それに携わる人々の 苦労 努力 喜び。…少しでも 知りたいんです。」
アルス「サイード……。」
ボルカノ「わっはっは! こりゃ 見習わなければ いけないのは オレの方かもしれんな。」
ボルカノ「そのあくなき探求心 熱い心 旅の者にしておくには もったいないくらいだ!」
サイード「では…。」
ボルカノ「おう! 是非とも 漁の厳しさを 見ていってくれ。きみのこれからの 糧になれば オレたちも 本望だしよ。」
サイード「感謝いたします!」
ボルカノ「よーし おまえら 網を投げるぞ!」
*「「「ウスッ!!」」」
こうして青年を加えて男たちは大きな網を比較的浅い海へと投げ込み始めた。
マリベル「ふふっ。おいしいのが 獲れるかしらね!」
これまでとは違う環境での漁に少女も期待を寄せて笑みを浮かべている。
砂漠の大陸と水の都の大陸に挟まれたこの海域ではいったい何が姿を現すのだろうかと。
ボルカノ「む こんなところか。」
漁を始めてまだそれほど時間が経っていないにも関わらず、漁師頭は網の引き時を感じているようだった。
アルス「え? もう引き揚げるの?」
それに驚いた息子が父親に尋ねる。
ボルカノ「ああ そうだ。」
ボルカノ「底曳き漁ってのはな あんまり長い時間 やっちまうと 海の底にあるもの 根こそぎ獲っちまうだろ?
そうなると その辺りの生態系に悪影響が出てな 次以降の収穫が 悪くなっちまうかもしれないんだ。」
マリベル「なるほど ちょっとずつ 資源を分けてもらう って感じなのね。」
ボルカノ「さすがは マリベルちゃん 理解が早いな。」
マリベル「うふふ。ボルカノおじさまったら お上手なんだから。」
そう言って少女は少し照れたように体をよじらせる。
サイード「漁も節度をもってやらねば いつかは 自分たちの首を 絞めることになるのか……。勉強になるな。」
ボルカノ「そいつは なによりだ。」
納得したように頷く青年に船長は満足げに微笑む。
ボルカノ「よし おまえら アミをあげるぞ!」
*「「「ウースッ!」」」
そして船長の掛け声で再び甲板が動き出し、乗組員たちが一斉に網を引き揚げる。
アルス「……っ!」
サイード「ぬう…!」
*「おまえら 息を合わせていけよーっ!?」
*「そーれぃ!」
マリベル「そーれ!」
ボルカノ「それ! そんなに 時間はかからねえ! 一気に引き上げるぞ!」
*「「「ウース!」」」
漁師たちは力いっぱい綱を手繰り寄せ、ほどなくして沢山の獲物を捕らえて膨らんだ網が姿を現した。
アルス「す すごい…!」
網から飛び出してきた海の幸の山に少年は思わず感嘆の声を漏らす。
普段獲れる魚たちとは全く異なる姿をした甲殻類、貝類、
果てには生き物なのかもよくわからないような鈍い動きで這いまわる謎の物体。
港町フィッシュベルの少年でさえ滅多にみることない宝の山がそこには広がっていた。
マリベル「あんな 短時間でこんなに……! お おほ おほほほっ!」
同じく少女も信じられないとばかりに引きつった口から乾いた笑いがこぼれる。
どうやら金属のスライム達と対峙した時のような興奮と高揚感を覚えているらしい。
サイード「どうりで 重たいわけだ……。」
どうやら青年は慣れない作業に少し堪えたようで、軽く肩で息をしながら目の前の光景をぼんやりと見つめている。
ボルカノ「わっはっはっ! 初めてだから ちょっと 厳しかったか?」
サイード「な なんの! まだまだ おれは動けます。」
ボルカノ「それじゃ 引き続き 後片付けも 手伝ってもらうとしよう。」
サイード「はいっ!」
船長の言葉に元気よく返事をすると、青年は色々なものが引っかかったままの網の方へと向かって歩き出す。
コック長「いやいや こりゃまた ずいぶんたくさん獲れましたな。」
マリベル「もう ビックリしちゃったわ! 底曳き漁って すごいのね!」
先ほど獲りすぎはいけないと聞いたばかりの少女だったが、今は大漁の興奮が冷めないのか楽しそうに料理人たちに話しかけている。
マリベル「ねえ コック長! これどうやって 食べるの!」
コック長「まあ マリベルおじょうさん そんなに 慌てなさんな。」
コック長「貝や蟹は 塩ゆでが 一番でしょうな。ただ これだけ ありますし 色々と工夫してみましょう。」
*「ただ 調理に手間のかかるものが 多いですからね 鮮度の落ちないうちに さっさと 作業に取り掛かりましょう!」
マリベル「ふふふ もう お腹ぺこぺこよ!」
調理場から聞こえてくる楽しそうな声を聴きながら二匹の猫が扉の前でじっとおこぼれを待つ。
そんな光景は、もはやなるべくしてなったと言えよう。
サイード「これは……すごいな。」
網の手入れが一段落し、今は昼時。
太陽がちょうど天長を過ぎた頃になってその日の昼食は始まった。
食堂に降りてきた青年は感嘆の声を漏らし、海の幸を嫌というほど見てきた漁師たちも次々と息をのむ。
アルス「わ こんなにたくさん!」
マリベル「うふふ。すごいでしょ! あたしも 流石に疲れたわよ。」
コック長「それにしても マリベルおじょうさんの 手際の良さが 光りましたな。」
マリベル「これでも 料理には そこそこ 自信があるんですからねっ!」
サイード「いや しかし これほどまでとは……。」
マリベル「どう? 見直したかしらん?」
サイード「ああ。すごいな おまえは。」
マリベル「わかれば いいのよ! おほほ。」
ボルカノ「うし それじゃ 順番に飯にするとしようか。」
*「「「ウス!」」」
船長の合図で何人かの漁師は見張りと操舵に戻り、残った者たちは先に昼食にありつくこととなった。
ボルカノ「しかし 見事な盛り付けだな。」
コック長「料理は視覚でも 味わうものですからな。わしも それなりに 見た目についてはうるさい方ですが……。」
丁寧に皿に盛りつけられた貝や底魚の刺身に、
サラダを覆うようにして円状に並べられた茹で蟹のむき身、二枚貝の殻をそのまま皿として使った一品。
どれも美しく華やかに彩られたもので、とてもここが漁船の中とは思えない光景だった。
そんな船長の感想に料理長は思わず少女の顔を横目に見る。
マリベル「な なによ そんなに ジロジロ見ないでちょうだい?」
コック長「いや 失敬。」
何も普通の昼食にここまで趣向を凝らす必要などなかったのであろうが、先ほどの漁がよっぽど楽しかったのか、
少女がいつになく気合を出して調理に臨んでいたことが料理人たちにはよく分かっていた。
どうせ漁師たちは遠慮なしに食べてしまうのだが少女にとってはそんなことはどうでもよかったようである。
マリベル「どうかしら?」
アルス「うん おいひいよ!」
マリベル「うふふっ。」
どんな形であれ少女の努力は少年のこの一言で報われてしまうのだから、
その場の誰もがどんな反応を見せようがそれは些細なことなのかもしれない。
サイード「お熱いもんだな……。」
呟かれた青年の言葉は漁師たちの楽し気な会話の中に埋もれどこへやら。
彼らにしてももはや見慣れた光景であったし、
目のやり場に困るほどのことはしていないためこれといって非難する者もおらず、温かい目でそっと見守るだけだった。
サイード「…………………。」
そしてご馳走を平らげた漁師たちが次々と席を後にし、入れ替わりで甲板から戻ってきた者たちが再び席についてまた会話に華を咲かせる。
この漁船にあふれている和気あいあいとした陽気で楽し気な雰囲気は、
短い時間ながらもそれまであまり集団で行動することのなかった孤独な青年にとって何か思うところがあったようだった。
*「……ふにゃあ。」
サイード「…ふっ……。」
足元でおこぼれを預かる茶虎猫を撫でながら青年は柔らかく微笑むのだった。
昼下がり、西に船が進むにつれて気温は下がるどころか返って暑さすら感じる。
やがてやってくる夕暮れ時には急激に気温は下がっているのだろうか。
そんなことを考えていた少年が残りの網の手入れをしていた時のことだった。
アルス「ん? あれ?」
網の端に何かが引っかかっているようだった。
紅く、網の色と相まって見落としてしまいそうなそれは固く、しかし不思議な光沢をもつ角のようであった。
マリベル「なにそれ …サンゴかしら?」
アルス「そうみたい。」
近くで見張りをしていた少女が横からしゃがんで覗き込んでくる。
マリベル「……キレイね。」
アルス「そうだね。」
マリベル「…どうしたの?」
少女は思案顔の少年を見つめて問う。
アルス「…………………。」
アルス「マリベルはさ サンゴの洞くつ…… そこの 過去の世界にいた 二人の幽霊のこと覚えてる?」
マリベル「……覚えてるわよ。」
アルス「いやさ 結局あの二人は どこの国の王子さまと召使で あの時代は 結局いつだったのかとかさ。」
アルス「考えたら 止まんなくて。」
マリベル「さーねえ。あたしたちの行った 過去の世界 以外にも いろんな時代があるんだから そのうちのどこか かもしれないしね。」
マリベル「でも 言われてみれば変よね。だって あたしたちは 過去と現代の間で 完全に滅亡した村は知ってるけど 国はなかったはずよね。」
アルス「亡ばなくとも 魔物に攻め込まれたりした国が あったってことなのかな。」
アルス「少なくとも あれは決戦の辺りの時代だと 思うんだけど。」
マリベル「…わかんないわね あの人 あんまり 多くを語ってはくれなかったし。」
マリベル「でも……。」
アルス「でも?」
マリベル「あたしたちは 魔王を倒して あの人たちは 安らかに成仏した。それでいいじゃないの。」
アルス「…………………。」
アルス「うん そうだね!」
マリベル「あの人たちも きっと今頃 天国で楽しくやってるわよ。」
そこまで言って少女は再び少年の手に持つサンゴの欠片を見つめる。
マリベル「…そうだ これ 貰ってもいいかしら。」
アルス「いいけど どうするの?」
マリベル「冒険の時は それどころじゃなかったけど ちょっと 欲しいかなーって思ってたのよ!」
アルス「あはははっ! それなら もちろんだよ! はい。」
マリベル「うふふっ ありがと!」
マリベル「あ でも 壊しちゃったら嫌だから やっぱり アルスの ふくろの中に 入れておいてよ。」
アルス「あ うん 分かった。」
そう言って少年は再び少女の手からサンゴの欠片を受け取ると自らの腰にぶら下げている謎のふくろの中へとしまい込む。
マリベル「邪魔してごめんね。さ 残りも 頑張んなさい。」
アルス「はーい。」
そうして二人は自分の仕事へと戻っていく。
だがその表情には暑さからくる疲労の様子が消え、どこか満ち足りたような力強さを湛えていたのだった。
*「砂漠が 見えてきたぞ!」
日も暮れ、地平線の彼方に半円が描かれた頃、漁船アミット号は次なる目的地のある大陸の近くまでたどり着いていた。
ボルカノ「よし 停泊の準備にかかるぞ!」
*「「「ウスッ!」」」
アルス「みなさん 砂漠の夜は冷えます! 厚着を用意してください!」
*「おうっ!」
*「そうなのか? あいよっ!」
少年の忠告に漁師たちは各々寒冷地用の厚着を着込み始める。
マリベル「サイード あんたは どうするの?」
サイード「む おれは旅に出て まだ 間もないからな。船で待つとするさ。」
マリベル「本当に? 本当にそれで いいの?」
サイード「いや おれにかまわんでくれ。船は おれが守っているから おまえたちは 早く用を済ませてくるといい。」
マリベル「…ったく わかったわよ! その代わり 三バカたちが 女王様に 言い寄ってても 知らないわよ?」
サイード「おれは 族長になることを捨てた男だ。族長でもないような 人間が どうして 女王さまとの仲を 気にする必要が あるんだ?」
サイード「きっと 兄上たちなら うまくやってくれるさ。」
マリベル「…あっそ。じゃあ もう何も言わないわ。」
そう言って少女は船首へと歩いていく。
マリベル「……あの いくじなし。」
アルス「えっ?」
マリベル「あ アルスに言ったんじゃないからね? …それとも 言ったほうが 良かったかしら。」
アルス「…………………。」
突然のことに気が障ったのか、少年は眉をひそめて黙り込んでしまう。
マリベル「ちょ ちょっと なんで黙っちゃうのよ!」
マリベル「ち 違うんだって……。」
アルス「……ふふっ。」
焦る少女の反応を楽しんだのか、少しだけ意地悪そうに少年が笑う。
マリベル「……もうっ!」
マリベル「このっ このっ!」
自分がからかわれたことに納得のいかない少女は少年のわき腹を小突いて抗議する。
アルス「あっははは! ごめんごめん!」
少年は噴き出して謝ると少女の頭を一撫でしてそそくさと自分の作業に戻っていく。
マリベル「……ふーんだ。」
口をすぼめてむくれたまま少女は階段を降り、自らの旅支度を整え始めるのだった。
サイード「えらい変わったな あいつ。」
帆を調整している少年に向かって青年が独り言のように語り掛ける。
アルス「え? うーん そうかな。」
サイード「最初に会った時とは 歴然の差だと 思うのだが。」
アルス「…そうかもね。たぶん 少しずつ 素直になってきてるんだと思う。」
サイード「素直に?」
アルス「うん。自分の気持ちに 正直になったって感じなのかな。」
サイード「自分の気持ちに…か。」
アルス「きっと サイードも 旅を重ねていくうちに 自分にとって 大切なものが何なのか 見えてくるかもね。」
サイード「…………………。」
アルス「さて そろそろかな。」
少年は後ろにいる漁師に合図を送ると、帆を少しずつ緩め始める。
砂漠の大陸はもう目の前に迫っていた。
ボルカノ「しかし 足元が砂だと 体力の消耗が早いな……。」
日が沈み切った頃、一行は袋を被せた木箱をいくつか持って砂漠の中を歩いていた。
砂漠を歩くことなど今までなかった漁師たちにとっては重たい荷物を抱えての行進は流石に堪えるものがあったのか、
砂漠の村まであと半分もある距離で既に息が上がっていた。
アルス「みなさん 頑張って! これから先は 立ち止まると すぐに 体温を奪われます。」
マリベル「そうよ! 凍死したくなかったら さっさと抜けるしかないのよ!」
既に何回と砂漠を往来している少年と少女にとっては慣れたもので、沈みこまない様に脚を持ち上げ軽々と歩いていく。
アルス「ぼくたちだけなら ルーラで 飛んでいけるけど……。」
マリベル「そうも いかないわよねえ。」
マリベル「傷を治す呪文は あっても 体力を回復させる呪文は 無いからなあ。」
アルス「こればっかりは みんなに がんばってもらうしかないね。」
マリベル「ほらほら みんな いくわよー!」
ボルカノ「わっはっはっ! まさか こんなにバテるとはな。オレも まだまだかもしれん。」
なんとか漁師たちを奮い立たせ、夜も更けた頃にようやく一行は砂漠の村の入口にたどり着いた。
アルス「いや みんな 初めてなのに よくここまで短時間で 来られたと思うよ。さすがは 海の男やってるだけちがうね。」
*「ぜえ…… あったぼうよ!」
*「ひぃ ひぃ…… も もう 動けない。」
なんとか立ち上がる漁師たちとは対称的に料理人はすっかりその場にへたり込んでしまった。
マリベル「情けないわねえ。ほら しっかりしなさいよ!」
*「す すいません~。」
気休め程度に回復呪文をかけてやると多少は元気が出たのか、ようやっと立ち上がりふらふらと宿の方へと歩き出す。
ボルカノ「この分じゃ こいつらを売るのは 明日になりそうだな。」
漁師頭が袋にくるまった木箱を叩いて言う。
遅いこともあって辺りはすっかり静まり返っていた。
アルス「この気温なら 昼までに売れば 鮮度も落ちないと思うよ。」
ボルカノ「そうだな。それじゃ オレたちも さっさと宿に行くとするか。」
アルス「うん。」
マリベル「はーい。」
父親に続いて宿に向かおうとした少年だったが、ふと何かを思いついたように足を止める。
アルス「あ 二人とも 先に宿に行ってて。」
ボルカノ「どうしたんだ? あいつ。」
マリベル「さあ…。それよりも ボルカノおじさま! 早く 行きましょ!」
ボルカノ「ん? んん……。」
少年が比較的大きな建物に入っていくのを見届けると父親も少女に連れられて宿の中へと入っていくのだった。
アルス「ごめんくださーい……。」
*「まあ 救い主さま!」
少年はこの砂漠の族長の屋敷やとやって来ていた。
*「少々 お待ちくださいませ。すぐに族長さまを お呼びしますわ。」
突然の来客にもかかわらず、使用人はすぐに奥へと取り次いでいった。
族長「これは これは 救い主さま ようこそ再びこの砂漠においでくださいました。」
しばらくして二階から立派な髭を蓄えた老人が現れた。
アルス「こんばんは 族長さん。こんな 遅くに申し訳ありません。」
族長「何を おっしゃいますか。われわれ 砂漠の民 心よりお待ちしておりましたぞ。」
アルス「ははは…… ありがとうございます。ところで 今日は お願いがあってまいりました。」
族長「ええ ええ 救い主様の お願いとあれば なんなりと。」
そう言って老人は立派な白髭をさする。
アルス「実は 今回 一塊の漁師として この村に来たのですが 今日の昼頃に獲れた 海の幸を 明日の朝から 村で売りたいと思っているのですが……。」
アルス「許可をいただけないでしょうか。」
族長「それはなんと ありがたいお話でしょう! 是非とも お願いします。村の者も きっと 喜ぶでしょう。」
アルス「ありがとうございます! それから これはもう一つの お話なのですが…。」
族長「はい なんでしょう?」
アルス「今回の旅の目的は 漁以外にもありまして…。ぼくの島の王の書状を 預かっているんです。」
アルス「明日また 改めてお伺いしますが その書状に 目を通していただきたいと 思いまして……。」
族長「ふうむ… そうでいらっしゃいましたか。それならば もしかすると 私などよりも 女王陛下の方が お渡しするには よろしいかと。」
アルス「あっ そうでしたね…! すいません。」
族長「いいえ 滅相もございません。」
バツが悪そうに頭を掻く少年に老人は朗らかに笑ってみせる。
アルス「あ それと…… 厚かましいようですが わがままを一つ 言ってもよろしいでしょうか?」
族長「どうぞ 遠慮なさらず おっしゃってください。私にできることであれば なんでも お力添えいたしますぞ。」
アルス「…その……。」
マリベル「ええええええっ!」
族長のもとへ向かった少年を他所に宿屋へやって来た少女たちだったが、そこではある問題が待ち構えていた。
マリベル「寝床が 足りないですって~!?」
*「はい なんでも 旅人が少ないもんで 4人分しか 寝床がとれないらしいんです。」
飯番が焦った様子で説明する。
*「救い主さま お疲れのところ たいへん申し訳ありません……。」
少女の顔を見た店主が気まずそうに頭を下げる。
ボルカノ「オレたちは 6人だからな。あと二人が どこに泊まればいいのか…。」
マリベル「じょ 冗談じゃないわよ! まさか ここまできて 野宿するっていうの…?」
突きつけられた現実に少女は青い顔をしてしゃがみ込む。
マリベル「ううう… まいったわね~~!」
*「おれたちは 気にしませんから マリベルおじょうさん こっちで寝てくださいよ。」
マリベル「ダメよ! 疲れてるのは みんな 同じなんだから。」
*「しかし それでは……。」
少女の制止に男たちは立ち往生する。
しかししばらくして少女は立ち上がると、漁師たちに向けて明るく言いのける。
マリベル「おほほっ 良いこと思いついちゃった!」
マリベル「みんな しっかり休むのよ!」
そう言って少女は踵を返して出口へと駆けだす。
ボルカノ「マリベルちゃん いったい どこへ行くってんだ! それに アルスもまだ 戻ってきていないのに。」
マリベル「うふふ ボルカノおじさま ご心配なく! ちゃんと アテが あったのよ!」
殆ど閉じられた扉から顔だけを出して少女が笑う。
ボルカノ「……?」
マリベル「それじゃ おやすみなさ~い!」
“バタンッ”
*「どうしたんでしょう マリベルおじょうさん。」
閉じられた扉を見つめ、飯番の男が首を捻る。
ボルカノ「まあ アテがあると言うのなら 大丈夫だろう。」
*「はあ……。」
ボルカノ「ご主人 夕食のサービスを 頼むよ。」
*「はい お待ちを。」
どうにも腑に落ちない料理人を他所に漁師頭はそそくさと店主に夕食の注文をつけるのだった。
アルス「ありがとうございます。」
一方、宿で行われているやり取りを知ってから知らずか、屋敷では族長と少年が話を続けていた。
アルス「では 今日は サイードさんの部屋を 使わせていただきます。」
族長「はい。息子が 旅に出てからも 掃除だけはさせておいてますので なんとか お休みになれるかと 思います。」
アルス「はい では お言葉に甘えて。」
そう言って少年が入口の扉に手をかけた時だった。
マリベル「キャっ!」
アルス「おっとっと!」
急に開いた扉の勢いで倒れこんできた少女を少年はなんとか腕で受け止める。
マリベル「あ アルス……。」
アルス「やあ マリベル もう用はすんだよ?」
マリベル「えっ?」
少年の言葉の意味が分からず少女は首をかしげる。
族長「おお そこにいらっしゃるのは マリベルさまではないですか。」
族長「今日はもう 遅いですから どうぞ よくお休みになってください。」
族長「ああ 沐浴は どうぞ うちの者に言っておきますから ご遠慮なく。」
アルス「だってさ。そうだ ひとまず ご飯食べようか。」
マリベル「えっ えっ……?」
族長「それでしたら 簡単なものでよろしければ すぐに作らせますので 少々お待ちください。」
アルス「あれもこれも すいません…… ご迷惑をおかけします。」
マリベル「忙しかった。」
困惑する少女を置き去りに話はどんどん進んでいき、
あれよあれよという間に席に着かされ、族長にあれこれ労われ、食事と沐浴を手短に済ませ、
二人は今、族長の一番下の息子の部屋で座って話をしている。
アルス「いや ここの宿屋は 4人しか泊まれないって 覚えてたからね。」
アルス「先に 族長さんに 相談することにしたんだ。」
マリベル「そうだったのね。どうりで ことが とんとん拍子で進んでいくわけだわ。」
アルス「ごめんごめん 説明するのが 遅かったね。」
マリベル「もう。」
アルス「どうせ 宿屋に 泊まりきれなくて 君がこっちにくると思ったからさ。」
マリベル「お見通しだったってわけね。」
マリベル「…めずらしく して やられたって気分だわ。」
アルス「ははは……。」
本当は昼間にも少年には“してやられている”のだが、少年は黙っておくことにした。
マリベル「それにしても……。」
*「ミー ミー。」
*「にー にー。」
マリベル「この子たち どうするの?」
アルス「どうするも こうするも…… 放っておくとしか?」
マリベル「そんなの 分かってるけど……。」
*「みー!」
*「…………………。」
人懐こくすり寄ってくるまだ若い雄猫と、少し離れたところから様子を見ているこれまた若い雌猫。
どちらもこの部屋の主の飼い猫だった。
マリベル「サイードのやつ そういえば あの子だけじゃなくて 三匹飼ってたんだったわね……。」
アルス「よしよし おいで。」
少女を尻目に少年はあまり近寄ろうとしない雌猫に呼びかけている。
*「にー……。」
次第に慣れてきたのか、雌猫は少しずつ距離を詰め少年から差し出された指の匂いをすんすんと嗅いでいる。
マリベル「はあ… どこ行っても ネコちゃんとは 縁があるのね。」
ため息をつきながらも少女は雄猫をじゃらして遊んでいる。
アルス「…………………。」
しばらく猫と戯れていた二人だったが、少年は立ち上がり、部屋に置かれた二つの本棚を物色し始める。
マリベル「どうしたのよ?」
アルス「いや 地図や旅行記が いっぱいあるなーってね。」
マリベル「あいつ ホントに 旅がしたかったのね。」
アルス「うん 夢だったんだろうね。」
マリベル「あたしたちが言っちゃあ なんだけど 旅は残された人が 寂しがるからね~。」
マリベル「あいつも 大切な人が どんな思いをしてるか 考えるべきだわよ。」
“それが家族かはたまた別の人かはさておき”と少女は心の中で付け足す。
アルス「そういえばさ。」
少年がワラブトンに寝転がりながら言う。
アルス「さっき 族長から 聞いたんだけど どうも あの三兄弟が レブレサックに派遣されたらしいんだ。」
マリベル「あの 3バカが?」
アルス「うん それっきり 戻ってきていないみたいなんだ。」
マリベル「ふーん。まあ いいんじゃないの?」
マリベル「たまには あいつらも 表に出て たいへんな思いを してくるべきなのよ。」
アルス「はははっ! そうかもね。」
少年は楽しそうにけらけらと笑う。
マリベル「……うう… ぶるぶるっ……。」
そんな少年を他所に、少女が体を抱いて小刻みに震え始める。
どうやら沐浴ですっかり体が冷えてしまったらしい。
アルス「寒い? やっぱり 族長の家の方にしておけば 良かったかな。」
マリベル「た たいして変わらないでしょ… どっちにしろ ここの寝床は 掛け布団もないんだから…。」
アルス「待ってて。」
そう言うと少年は袋の中から何やら取り出し広げる。
アルス「ほら とりあえず これをかけて…。」
少年が広げたのは赤く金色の刺繍があつらえられた布、魔法のじゅうたんだった。
アルス「こうすれば……。」
マリベル「あっ…!」
二人の体をすっぽりと覆う大きな布の下で少年は少女の体を抱き寄せていた。
アルス「ね 寒くないでしょ。」
マリベル「う …うん……。」
アルス「……?」
マリベル「あ あるすのくせに なまいきよ……。」
少女はもごもごと反撃の言葉を口にするも、 赤く染まった自分の顔を見られまいと、何食わぬ顔をする少年の胸に額を押し付ける。
そしてとうとう観念したのか、自分の腕を少年の腰に回しその体温を確かめるように頬を擦り付けるのだった。
マリベル「ん………。」
少年に優しく髪を撫ぜられ、気持ちよさそうに眠るその姿は絨毯の温かさにあやかろうと潜り込んだ猫たちのそれそのものだった。
いつしか少年の手の動きも止まり、あたりは小さな寝息だけが木霊する静寂の闇につつまれた。
幸せそうな二人と二匹を優しく包み込みながら夜は美しい星空と共に一日の終わりを告げていった。
そして……
そして 夜が 明けた……。
314 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/03 12:43:25.18 XE7nrcf00 285/905
以上第11話でした。
「死が かならずしも その人の価値を なくしちゃうとは かぎらないわよ。」
「もし アルスが死んでも あたしは きっと アルスのこと 忘れないもの。」
過去のフォーリッシュで聞ける有名な台詞ですが、これはマリベルの死に対する考え方をよく現していると思います。
寂しいけど、その人のことやその人と過ごした時間は決して忘れたりしない。
旅を終え、色んな場所で人や魔物と出会ってきた今の彼女ならば
きっと亡くしたのが魔物だったとしても同じことを言ったのでは。
そんなことを思い浮かべながらこのクレージュのお話を完結させました。
それから、途中で挟んだサンゴのお話について。
サンゴの洞くつは正直謎だらけの場所です。
フォーリッシュ西のほこらから行けるあの場所は、いったい何だったんでしょうね?
「海中なのに息ができる。」
これだけでもよくわからないのに加えて謎の祭壇や立ち並ぶ石柱。
そしてあそこで彷徨う二人の亡霊。
考えてもさっぱりですが、想像は膨らみますね。
…………………
◇船にサイードたちを残し砂漠へとやってきたアルスたち。
次回、そんな一行のもとへ「ある報せ」が……。
315 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/03 12:52:03.32 XE7nrcf00 286/905
第11話の主な登場人物
アルス
駆け出し漁師。
慎重な性格に思われがちだが、時々大胆になる。
マリベル
漁に料理に戦闘に、この旅の中ではある意味一番忙しい人物。
何かとアルスを振り回すことが多かった彼女も、
この旅が始まって以来ペースを握られることが多い。
ボルカノ
漁船アミット号の船長。
漁を行う際は漁獲量にも気を使っている。
コック長
料理に関しては口うるさい方だが、
マリベルの調理の腕を認めている。
めし番(*)
アミット号の料理人その2。
運動不足の体にムチを打ってアルスたちと共に砂漠を渡る。
アミット号の漁師たち(*)
今回は船に残る組と砂漠へ渡る組に分かれて行動。
サイード
旅の途中だったが、次の目的地を目指すべくアミット号に同乗する。
今回は船で留守番すると言うが……。
族長
砂漠の村の族長。
夜中にもかかわらずやってきたアルスたちを快くもてなす。
航海十二日目:信じる
マリベル「ふああ……。」
翌朝、少女は目を覚ますと違和感に気付く。
マリベル「あるすぅ……?」
昨晩共に寝たはずの少年がおらず、代わりに猫が二匹固まって少女の腹辺りで暖をとって寝ているだけだった。
マリベル「う うん……?」
起き上がり辺りを見回してもやはり少年の姿はない。仕方なく少女は着替えると族長の屋敷へと歩き出す。
マリベル「おはようございます……。」
アルス「やあ マリベル 目が覚めたんだね?」
マリベル「やあ じゃないわよ… あふぅ……。」
屋敷の扉を開くと少年とその父親が族長と卓を囲んでなにやら話している様子だった。
ボルカノ「アルスから 聞いてるかもしれないが ちと 問題を抱えているらしくてな。」
マリベル「3ば……三兄弟のこと?」
アルス「そうなんだ。」
族長「いやいや お気を使われなくとも結構です。実際 バカ息子ども なのですから。」
族長の話では夜明けと共に城の方から報せが舞い込んできたらしい。
なんでも例の三兄弟がレブレサックに行ったきり帰ってこないどころか、レブレサックから妙な書簡が届けられたとのことだった。
マリベル「それで その妙な書簡ってのには なんて書いてあったんですって?」
族長「おまえらの 手先は捕らえた。これ以上 こちらに 脅威を及ぼすならば 全面的に争うことも いとわない と……。」
マリベル「はあ? いったい 何を言ってるのかしらね? レブレサックの連中は。」
族長から教えられた書簡の内容に少女はあきれた様子で眉をひそめる。
族長「それが われわれにも 分からないのです。 いくら あの馬鹿どもでも よその町に迷惑をかけることは しないと思うのですが……。」
マリベル「わからないわよ? 弟に 不利な条件突きつけて 族長にならないように約束させるような連中だもの。」
相手が相手なだけあって少女はどこか懐疑的に言う。
族長「なんと! それは本当ですか! あの馬鹿ども……。」
どうやら話を聞かされていなかったようで砂漠の村の族長は怒りとも驚愕ともいえない表情で嘆く。
アルス「待ってください。」
アルス「もしかすると レブレサックの人々は まだ魔王が 猛威を振るっていて砂漠の民が その手先に成り代わっていると 勘違いしているのかもしれません。」
族長「そ そのようなことが あろうはずが……。」
アルス「ええ 分かってます。しかし……。」
マリベル「あり得るわね。あいつら よそ者を 異常なまでに 警戒してるからね。」
少年の指摘に少女も納得したように賛同する。
ボルカノ「そりゃ また 厄介なやつらだな。」
マリベル「過去に起きた事件を あたしたちのせいにして 村の歴史を美化してるような 連中だもの。きっと 今回も そんなことでしょうね。」
ボルカノ「……それで これからどうするんだ?」
アルス「本来なら このまま城に行って 締約書を渡すつもり だったんだけど……。」
マリベル「砂漠の城は 対応に追われて それどころじゃないってことね?」
族長「どうやら そのようです…。」
なんともやりきれない気持ちを押さえつけるように老人は俯く。
マリベル「まーーったく 仕方ないわね ホントーに。」
マリベル「アルス 行きましょ。」
アルス「あそこには あんまり 行きたくないと 思ってたんだけどなあ。」
少年も思わず苦笑い。
マリベル「泣き言 言わないの! あたしたちが 解決しなきゃ 話が先に進まないじゃないの!」
族長「おお なんということでしょう。再び 救い主さまのお手を 煩わすことになるとは……。」
マリベル「いい? 族長さん。あたしたちは 決して 3バカのために やるんじゃ ないんだからね?」
少女は両手を腰につけ、わざわざ“3バカ”を強調する。
アルス「はいはい マリベル もう行こう?」
マリベル「あ ちょっと アルス!」
アルス「父さん 市のことは お願いします。」
ボルカノ「おう まかせておけ!」
ボルカノ「さばき終わったら オレたちは 案内を付けてもらって 城の方に 行ってるからな。」
アルス「わかった。」
マリベル「まったく……。」
いまいち納得しかねる少女の手を引っ張りながら少年は屋敷を後にしたのだった。
*「フギャーッ!」
アルス「よしよし いいこだから 放しておくれ。」
しがみつく猫からなんとか絨毯を回収し、二人は村の外まで出てきていた。
アルス「よし それじゃ いくよ? ルー……。」
そうして少年が呪文を唱え、あの忌まわしき記憶の残る村へと飛び立とうとした時だった。
マリベル「待ちなさい アルス。」
少女が少年の服の袖を掴んでその動きを制止する。
アルス「どうしたの?」
マリベル「せっかくだから サイードも連れて行かない?」
アルス「サイードを?」
マリベル「そうよ。あいつも 今のうちに 隣村の汚いところを 見ておくべきなんだわよ。」
マリベル「それに 場合が 場合だから 言ったら きっと 来ると思うわよ。」
アルス「うーん。」
少女の提案にしばらく思案していた少年だったが、独り言のようにぼそっと呟くとその案を受け入れるのであった。
アルス「まいっか。」
アルス「じゃ これで。」
そう言うと少年は先ほどしまったばかりの絨毯を取り出して再び広げる。
マリベル「それじゃ アミット号まで 出発~!」
こうして二人を乗せた絨毯はもう一人の仲間がいる船の元へ、来た道を戻っていったのであった。
マリベル「快適ね~ 強いて言えば 砂が 目に入るくらいかしら。」
少年にしがみついたまま少女が目をこすって愚痴をこぼす。
アルス「歩くよりかは よっぽどマシなんだから 我慢 がまん。」
マリベル「わかってるわよぉ…… あ!」
少年が少女をなだめすかしていると件の船の影が見えてきた。
マリベル「着いたついた…! おーい!」
*「ん?」
アルス「おーい!」
*「おお あれは アルスと マリベルおじょうさんじゃねえか!」
サイード「何ですって?」
漁師の言葉に青年が驚いてその方向を見やると確かにこちらに向かって少年と少女が物凄い速さで飛んでくる。
マリベル「サイード! たいへんだわよ!」
アルス「お兄さんたちが!」
サイード「なんだってー!」
叫びながら近づいてくる二人に青年も負けじと叫ぶ。
マリベル「もう! ホントに あの3バカは いっつも あたしたちの 足を引っ張るんだから!」
程なくして到着した絨毯から飛び降りた少女がぷりぷりと怒りながら愚痴を吐き出す。
サイード「いったい 何が あったんだ?」
アルス「それが……。」
[ アルスは 事情を説明した。 ]
サイード「何だとッ!」
少年から告げられた事実に青年は驚きと怒りを隠せない様子で短く叫ぶ。
マリベル「で あんた あたしたちと 一緒にくる?」
サイード「…………………。」
アルス「無理にとは 言わないけど……。」
サイード「いや 連れてってくれ。兄上たちが 心配だ。」
マリベル「やっぱりね あんたなら そういうと 思ったわよ。」
アルス「わかった。すぐに飛ぶけど 準備はいい?」
サイード「待ってくれ。」
そう言って青年は近くにいた漁師のもとへ近づくと自分の相棒の茶虎猫の面倒を頼んだ。
サイード「申し訳ないのですが こいつを よろしくお願いします。」
*「にゃん にゃん!」
*「おお 別に構わんよ! 猫が一匹だろうが 二匹だろうが たいした差はねえ。」
トパーズ「なーぉ。」
猫たちの頭を撫でながら漁師の男は快諾した。
サイード「ありがとうございます。」
サイード「…さあ 行こうか。」
マリベル「しっかり掴まるのよ!」
[ マリベルは ルーラを となえた! ]
少女が転移呪文を唱えると三人は瞬く間に天高く飛び上がり、ここから北にある排斥の村の方へと消えていった。
*「にゃー!」
*「まったく あの二人は いつも規格外だな。」
トパーズ「なおー……。」
残された漁師の呟きに答えるように猫たちは各々の声をあげるのだった。
マリベル「はい とうちゃく~。」
ものの数秒で目的地へとやってきた三人だったが、見れば青年の様子が優れないようだった。
サイード「うっ… 足が……。」
よろよろとその場にしゃがみ込む。
アルス「大丈夫?」
サイード「あいかわらず すごい 呪文だな ルーラというのは。」
マリベル「なによ なっさけないわね~。これくらいで フラついてるようじゃ この先 やってけないわよ?」
サイード「……善処する。」
アルス「今度 教えてあげるから それで 慣れればいいよ。」
アルス「さて……。」
気を取り直した一行は村の入口から中の様子を探る。
マリベル「…………………。」
サイード「何か 聞こえるか?」
アルス「……妙に 静かだね。」
マリベル「それも 怖いくらいに…ね。」
村の中はどうにも不気味な静寂に包まれていた。
魔王が倒れ、世界中の町や国で人々が喜び、祝っているこの中で、
この村だけは時間の中に閉じ込められているかのような険悪な雰囲気と殺気に満ち溢れていたのだ。
それもそのはず、このレブレサックという村は過去に村人のために尽くした神父を誤ってなぶり殺しにしようとした歴史を、
後の世の村長が魔物に化けた旅人の仕業とし、魔王が復活したと聞いたそばから他所から来たものを排斥してきたのだ。
そして現在、少年たちの前に広がる静寂は魔王が倒されたという情報が伝わっていないという何よりの証拠だった。
アルス「……行こう。」
マリベル「待ちなさいよ。なにか 罠が 仕掛けられているかもしれないわよ?」
村の中へと入っていこうとする少年を少女が引っ張り戻す。
サイード「この村に 知り合いはいないのか?」
アルス「いるには いるけど……。」
マリベル「ちびっこたちと 木こりのおじさん だけだもんねえ。」
サイード「ほかは ダメなのか?」
アルス「…………………。」
少年たちは最初から大人には期待してなどいなかった。基本的によそ者を毛嫌いする上に村長など以ての外だったからだ。
アルス「でも まずは 誰かに 話を聞かないと 始まらないね。」
サイード「むっ 誰か来るぞ…っ。」
マリベル「隠れるのよ!」
誰かの接近に気付き、三人はひとまず石垣の裏へ隠れた。
*「よーし! 今日も村の中に まものは 入って来ていないみたいだな!」
マリベル「サザム!」
サザム「ん? そこにいるのは誰だっ!」
“サザム”と呼ばれた幼い少年はこちらの声の主が分からず一瞬警戒したが、
少年と少女が姿を見せると安心したのか持っていたひのきの棒を下ろして歩いてきた。
サザム「なーんだ アルスにマリベルじゃないか! よう! おれの子分たちよ! 元気にしてたかっ?」
マリベル「なーにが 子分よ! いつまで あんたたちのオユウギに 付き合ってなきゃいけないのよ!」
アルス「まあまあ。ねえ サザムくん 今 この村は どうなってるんだい?」
ついつい食って掛かる少女をなだめ少年が膝を折る。
サザム「あいかわらず ひどい ありさまだよ。」
サザム「大人たちは みーんな 家に閉じこもったっきり。」
サザム「おまけに 砂漠から来たっていう 三人組を しばりあげて ここ数日 ユーヘイしてるみたいだしよ。」
サイード「なんだって!?」
青年が思わず身を乗り出す。
サザム「わっ なんだよ おじちゃん。急に でかい声 出すなって!」
サイード「お おじ……?」
マリベル「ぷっ… お おじちゃん!? ぷぷぷっ……く 苦しい。」
言葉に詰まる青年を他所に少女は腹を抱えてこみ上げる笑いをなんとか堪えている。
サイード「き きさま 笑うな! ……そ それよりも その三人組と言うのは 三つ子の男か?」
サザム「ああ そうだよ?」
アルス「その三人は いま どこに 捕まっているの?」
サザム「農家のおじさんの 家の裏にある あんちゃんのうちに 閉じ込められてるよ。」
サザム「なんでも あの あんちゃんや 行商のおっちゃんまで 捕まってるらしい。」
マリベル「た たいへん じゃないの!?」
サザム「みんな まおうの手先だとか言って 話を聞こうともしないんだ。」
サザム「このままじゃ 殺されちゃうのも 時間の問題かもね。」
アルス「…………………。」
サイード「どこへ 行くんだ?」
少年は急に立ち上がり、村の中へと足を進めようとしていた。
アルス「ぼくらが 行って なんとか説得しないと。」
マリベル「あの 村長のところに 行くって言うの? やめときなさいよ どうせ 取り合ってさえくれないわよ。」
アルス「それでも このまま 放っておくわけには いかない。」
マリベル「あ ちょっと 待ちなさい!」
そういって仕方なく少女も後に続いていく。
そんな二人を他所に青年は村の子供たちのリーダーに向き合う。
サイード「…サザムとか 言ったな。」
サザム「そうだけど? おじちゃん。」
サイード「……おれは おじちゃんと言われるほど 歳をとってはいない。」
サイード「ともかく その三人組のところへ 案内してくれないか?」
サザム「いいけど どうするんだ?」
サイード「まずは 様子だけでも 見ようと思ってな。できれば 話も聞きたいのだが。」
サザム「…………………。」
サザム「いいよ。ついてきな!」
サイード「感謝する!」
そうして青年は男の子に連れられて自分の兄たちが囚われているであろう家屋へと向かうのだった。
アルス「ごめんください。」
誰にも会うこともなく村長の家へとたどり着いた少年と少女は、扉を叩いて中へと呼びかけた。
しかし返ってきたのは以前にもかけられたあまりにも冷たい言葉だった。
*「……このような時に 旅人とは。わが村に 何の用ですかな?」
*「もうしわけありませんが 今は よそ者を泊めることは できません。お引きとりを。」
マリベル「このような時じゃ ないでしょ! もうとっくに 魔王はほろんだのよ?」
マリベル「いつまで そうやって 家の中に ひきこもってるつもりなのよ! この恩知らず!」
アルス「ぼくたちは 砂漠の国から 遣わされた 三人の男を 引き取りに来たんです。」
*「なんだとう? いったい 何の話だ? 魔王がほろんだとか 砂漠の国とか。」
*「わけのわからないことを 言うんじゃない!」
マリベル「わけがわからないのは あんたたちでしょ!」
マリベル「もう 世界中とっくに平和になったっていうのに この村だけよ! そんな ハイガイ主義 貫いてるのは!」
マリベル「いいから 人質を解放して さっさと 謝りなさいってのよ!」
まくしたてる少女に尚も扉越しの声は引こうとしない。
*「な なにを デタラメを! おまえたち いいか 聞くんじゃない! これは 魔王の陰謀だっ!」
マリベル「ったく なんて 強情な連中なの?」
マリベル「アルス どうする?」
アルス「…………………。」
諦めた様子でため息をつく少女だったが、少年は静かに扉の向こうを見据えたままだった。
アルス「あなたたちは これから あの三人を どうするつもりなんですか?」
*「く 口を割らなければ 処刑するまでだ!」
アルス「その昔 あなた方の ご先祖が 神父さまにしたみたいに ですか?」
*「な なんの話だ! ええい デタラメを抜かすなと 言っただろう!」
アルス「仮に あの人たちを処刑したとすれば 砂漠の国は この村に 報復をしかけるでしょう。」
アルス「あなたたちは 何百という 人々を相手に 戦うというのですか?」
*「…………………。」
アルス「彼らには 大地の精霊がついています。その気になれば この村なんて 一瞬で岩の下敷きに できるでしょう。」
アルス「それでも あの男たちを殺すというのですか? 言い分すら 聞いていないというのに。」
アルス「……彼らの父親に聞きました。」
アルス「彼らは 砂漠とこの村の友好を深めるために 大事な任をつかさどって この村へ 派遣されてきた そうですね。」
アルス「大使といっても 間違いではない 人たちを 拘束しているだけでも 砂漠の国とは 大きな溝を作ることになるでしょう。」
アルス「あの三人は確かに 欲深で 強情で いじっぱりで おまけに 弱虫の意気地なしかもしれません。」
アルス「それでも 大役を預かって 勇気を振り絞り 三人だけで砂漠を超えて この村まできたんです。」
アルス「祖国と 隣村の 発展のために。」
アルス「…………………。」
そこまで区切って一瞬間をつくり、少年はもう一度ゆっくりと語り掛ける。
アルス「扉を開けてください 村長さん。そして 彼らを 解放してあげてください。」
マリベル「アルス……。」
“言い切った。”
そう少年が思い、これでだめならどうするかと息をのんで次の言葉を待つ。
*「…………………。」
*「うるさい……。」
しかし無情にも返ってきたのは村中に響き渡るような怒号だった。
*「うるさい うるさい うるさああああいっ! だーまれえいいっ!」
そして部屋の奥にいる者に向かってわめき散らす。
*「おまえら 今の話は すべてうそだ! まやかしだ!」
*「やつらは わしらを騙すために あんなことを 言っているんだ!」
すると再び声はこちらに戻り少年たちに脅しかけるような低い声で言った。
*「おまえら見ておれ… わしは決して認めん! そんなことを認めては 村の威信にかかるのだ……!」
*「おまえらさえいなくなれば 村は わしの思いのままなのだ…!」
*「あいつら共々 皆の前で 汚名を着せて 殺してやるからな……!」
マリベル「なんですって!?」
信じがたいことを口にしたかと思えば今度は屋敷の窓が開け放たれ、ついに声の主が姿を現した。
村長「みな! 魔物だ! 魔王の手先が現れた! たすけてくれええええ!」
しかし次の瞬間、その男は村人全員に聞かせるように大声で叫んでいた。
*「なにぃ!」
*「待ってろ! いまいく!」
村長の叫びに呼応した村人たちが屋敷に向かってどんどんと押し寄せてくる。
*「な なに? 何があったの?」
マリベル「リフ!」
その時、叫び声に驚いた村の子供たちがガラクタ置き場から出てきた。
リフ「あ おねえちゃんたち!」
“リフ”と呼ばれた男の子はこの村で唯一正しい村の歴史を伝える家系の末裔の少年だった。
彼とその仲間の子供たちは少年と少女を見つけると、二人のもとへ駆け寄ろうとした。
*「子供が 魔物のそばにいるぞ!」
*「すぐに 引き離すんだ!」
リフ「うわっ! なにすんだよ! はなしてよおっ!」
しかし村の大人がそれを見つけるとすぐに子供たちを捕らえてしまった。
*「おとなしくするんだ! あいつらは 危ない奴らなんだぞ!」
リフ「違うよ! おねえちゃんたちは 魔物なんかじゃないよ!」
*「かわいそうに この子ったら 騙されてるのね……。」
*「おまえら! ただじゃおかねえからな!」
マリベル「キーッ! どうして そうなるのよー!!」
理不尽な状況に少女は真っ赤になって怒っている。
アルス「……マリベル。」
マリベル「なによ アルス! いま おしゃべりしてる場合じゃ……!」
アルス「頼みがあるんだ。」
マリベル「えっ?」
村長「そいつらを ひっ捕らえて 縛り上げるんだ! 殺しても かまわん!」
*「おうよ!」
*「覚悟しなさい!」
鍬、斧、のこぎり、金槌、フライパンに鍋。
少年が少女に話しかけている間にも村人たちはその手に武器になりそうなものを携えて集まってくる。
アルス「……あの方を 呼んできてくれ。」
マリベル「…っ! そんな ことしてたら アルスが……!」
アルス「大丈夫 ここなら すぐに戻ってこられるはずだ。それに ぼくはそんなに簡単につかまったりもしないし くたばったりもしない。」
村長「何を ごちゃごちゃと ぬかしておる!」
マリベル「でも…… あんたを 置いてなんて……。」
アルス「ぼくが 注意を引き付けていれば 人質は ひとまず無事のはずだ。」
マリベル「…でも……っ!?」
アルス「信じて。」
少女を抱きしめ、耳元でささやく。
マリベル「アルス……。」
マリベル「…………………。」
村長「何をしている! ええい はやく捕まえんか!」
アルス「さあ 行くんだ! マリベルっ!!」
マリベル「……死んだら 承知しないからね!」
*「かかれえええ!」
マリベル「ルーラ!」
*「ぬおっ!」
*「なんだ 今のはぁ!」
驚く村人を置き去りに、青と黄色の軌跡を残して少女は遥か彼方へと飛んで行ってしまった。
村長「…ち 逃がしたか! まあいい!」
村長「そいつだけでも やるんだ! いけ! いけ~!」
アルス「くっ!」
少年はなんとか場を切り抜けるべく村の広場へと駆け抜ける。
*「あっ あっちへ行ったぞ!」
*「追えっ! 追うんだ!」
*「野郎! 捕虜を 放つつもりじゃねえだろうな!」
*「かまわねえ! 出てきたら まとめて殺せばいいだけの話だ!」
アルス「まいったな……!」
サイード「アルス!」
広場まで戻ってきた少年の前に人質を連れた青年が現れる。
サイード「無事だったか! やつら 本気で おれたちを やる気みたいだな。」
*「ひゃぁぁ! まだ 死にたくないよお!」
*「ひぃぃぃ! おれたちが 何したっていうんだよお!」
*「ひぇぇぇ! 頼むから 助けてくれよお!」
青年の後ろでは三兄弟がそれぞれ泣きわめきながら助けを乞いている。
アルス「サイード! ……皆を乗せて 城まで行ってくれ!」
そう言うと少年は袋から魔法のじゅうたんを取り出して広げる。
サイード「おまえを 一人にしていけるか!」
アルス「ぼくなら 平気だ。マリベルが 応援を 呼んできてくれている。」
サイード「しかし……。」
アルス「彼らを 頼めるのは きみだけだ! 行け!!」
見たこともない剣幕で命令する少年に圧倒され、一瞬たじろいだ青年だったが、
意を決したように頷くと人質たちを絨毯に乗せて宙へと浮き上がった。
*「逃がすな! 捕まえるんだ!」
*「なんだ ありゃあ!」
*「そ 空飛ぶ じゅうたんだ!」
絨毯を下ろそうと躍起になって走ってくる村人たちの前に立ちはだかり少年が叫ぶ。
アルス「ゆけ! 魔法のじゅうたんよ! みんなを 砂漠の城まで 連れて行くんだ!」
少年の意思に従うかのように動き出すと、定員以上を乗せた絨毯は少し重たそうにしながら南の方へと飛んで行った。
アルス「よし……!」
*「この野郎! 捕虜まで 逃がしやがって!」
*「もう 生かしちゃ おけん! 覚悟するんだな!」
捕虜を奪われた怒りからか村人たちは武器を振り回して少年ににじり寄る。
アルス「待ってください! みなさんは あの村長に 利用されているだけなんです!」
*「なにを わけわかんねえこと 言ってんだ! このっ!」
アルス「ぐっ…!」
少年の説得も虚しく、村人は手に持った鍬を少年の頭目がけて振り下ろす。少年はなんなくその攻撃をかわすも、
こちらから手を出すわけにはいかない以上、長期戦を強いられることを覚悟せねばならなかった。
アルス「落ち着いてください! ぼくは みなさんと 争いに来たんじゃないんだ!」
*「そんなことが 信じられるとでも 思ったか!」
*「おまえら 一気に かかれ!」
*「「「おおおお!」」」
アルス「……!」
総方向から迫りくる殺意を丁寧にかわしながら誰もケガをさせないようにと必死に少年は体を動かす。
サザム「やめろみんな! やめるんだ! そいつは ぼくの子分だぞ!」
*「子どもは 黙ってろ!」
子供たちのリーダーも必死になって説得するが誰も聞く耳を持たない。
その時だった。
アルス「あっ!」
*「ははは! これで動けまい!」
気付けば少年の脚には縄がかけられていた。
*「それ 引け!」
アルス「ぐぅ…!」
*「今だ やれ!」
アルス「スカラ!」
仰向けに倒れた少年に容赦なく武器が振り下ろされるその寸前に、少年は守備呪文を唱えて殺傷能力を軽減する。
アルス「うっ……! メラ!」
なんとか足を縛る縄を焼き切り、攻撃の雨を避けて立ち上がると再び村人たちとの距離を取る。
*「ち! 逃げられたか!」
*「問題ねえ! もう一度 取り囲むんだ!」
*「へへへ… おとなしく殺されるんだな……!」
どういうわけか村人たちは笑っていた。それは狂気の笑いだった。
自分たちのしていることが正義であり、目の前の悪を討つ。
今、自分たちは村の伝承に登場した勇敢な村人たちなのである。
そんな幻想がこの場の一人ひとりを虜にし、狂気の笑顔を浮かべさせていた。
アルス「…………………。」
見わたす少年の目には、彼らがいつの間にか恐ろしい魔物に見えていた。
サイード「兄上たち しっかり掴まっててください!」
少年が村人たちと対峙している頃、青年たちを乗せた絨毯は砂漠の城近くを飛んでいた。
*「サイードぉ 今まで つらく当たって 悪かったよぉ!」
*「サイードぉ この前の約束なんて もういいから 許してくれぇ!」
*「サイードぉ おれたち おまえに ついていくよぉ!」
三兄弟が口々に言う。
サイード「今は そんなことは どうでもいいはずです。」
サイード「城に着いたら 女王と アルスの父親のボルカノという男に このことを 伝えてください!」
*「あ あなたは どうするんです?」
捕らえられていた行商人が尋ねる。
サイード「みなさんを 降ろしたら すぐにあそこへ戻ります。」
サイード「アルスを 放ってはおけません。」
*「き 危険だよ! もし戻ったら 今度こそ 殺されちゃうよ!」
同じく捕らえられていた青年が顔を青くして叫ぶ。
サイード「友のために 死ねるなら それもまた 本望。だが おれは 簡単には死んだりしません。」
サイード「じゅうたんよ! スピードを 上げてくれ!」
青年の要望に応えるように魔法のじゅうたんは重たそうな体に力を入れて加速していく。
砂漠の城は、もう目の前だった。
マリベル「どうして こんな 大事な時に いつまでも 寝てるのよ!」
*「そんなこと 言われてものう。ほっほっほ!」
マリベル「笑ってる 場合じゃないわよ!」
マリベル「早くしないと アルスが 死んじゃうの!」
*「あの少年がか? そんなの にわかには 信じられん 話じゃがのう。」
マリベル「どうせ 見えてるんだから 分かるんでしょっ!?」
マリベル「と とにかく 助けて欲しいのよ!」
*「ふうむ あの少年なら 一人で なんとか できてしまいそうだがのう?」
マリベル「あいつは お人よしだから どうせ 村人の攻撃 ぜーんぶ 受け止めてすぐに くたばっちゃうに 決まってるよ!」
*「あんまり 信用してないように 聞こえるのう?」
マリベル「…………………!」
*「……図星かの?」
マリベル「いったい あんたに 何がわかるってのよ……!」
マリベル「あたしは… あたしは……!」
マリベル「傷ついて 倒れる あいつの姿なんて もう二度と 見たくないのよ!」
*「…………………。」
マリベル「何度だって 何度だって ムリにあたしのこと かばったりして……。」
マリベル「半分は冗談だったのに 約束だからって 馬鹿正直に……。」
マリベル「いつだって! いつだって そうよ! あいつばっかり 傷ついて……。」
マリベル「あたしは 自分が 情けなくなるのよ! あいつの お荷物になりたくないのよ……。」
*「ふうむ。」
マリベル「今まで あいつに支えてもらった分 今度は あたしが あいつを支える番なの!」
マリベル「だから だから お願いします! わたしたちに チカラを 貸してください!」
マリベル「神さま!」
神「…………………。」
マリベル「…………………。」
神「あい わかった。そなたの 気持ち しかと 確かめさせてもらったぞよ。」
マリベル「…じゃあ……!」
神「わしに 捕まりなさい。あ ほれ もうちょっと 体を押し付けてもいいんじゃぞ?」
マリベル「…………………。」
神「うっ そんなに 睨まんでおくれ。」
神「…ではっ!」
アルス「はぁ はぁ… ぐっ!」
いったい何回の攻撃を受け続けただろうか。
回復呪文も体を鋼鉄に変える呪文も身の守りを上げる呪文も何十、何百回とつかった。
既に衣服もボロボロになり、休まることのない攻撃や罵声の嵐は何より少年の精神をすり減らしていった。
*「は… ははは! ついに黙り込みやがった!」
*「いよいよ 魔物の本性 発揮ってか…!」
村長「みな あやつも 相当消耗しておるはずだ!」
村長「ここは 一気に叩いて動けなくしてやれ!」
*「「「おおっ!」」」
村長の指示に村人たちは再び少年ににじり寄り、どこからか持ってきた鎖を振り回す。
村長「いまだ!」
アルス「ぐあっ!?」
遂に少年は鉄の鎖によって捕らえられ、縛り上げられて地面に転がされてしまった。
*「やった! やったぞ! 遂に 俺たち 魔物を捕まえたんだ!」
*「ば ばんざーい!」
*「は はやく そいつを 始末しておくれ! 怖いったらありゃしないよ!」
*「神よ… われわれは 試練を乗り越えました。」
村長「うむ ではこれより 処刑を 始める。」
アルス「ま… て ください もうすぐ 神が 神さまが きます……。」
村長「神とな? ふ はははは! 魔物が 神を語るとはなあ!」
村長「やれ。」
*「はい 村長。」
そうして男が斧を振り上げた時だった。
*「たいへんだああああ!」
*「な なんだ?」
一人の農夫が慌てた様子で走り転げてきた。
村長「何事だ!」
*「そ それが…!」
*「ケケケケ!」
男の後ろにはいつの間にか群青色の馬に跨り貴族風の衣装に身を包んだ骸骨が佇んでいた。
*「ま まものだあああ!」
*「新手か!」
村長「ええい 怯むな! やってしまえ!」
悲鳴を上げる者、武器を握りしめる者、逃げ惑う者と反応は様々だったが、
村長の一括で再び村人たちは勇み、“あらたな魔物”へと立ち向かおうとした。
[ 死神きぞくは ヒャダルコを となえた! ]
しかしそんな勇気も虚しく、死神の生み出した氷の刃に村人たちはあっという間に倒れていく。
*「ぐあああっ!」
*「ぎゃああああ!」
*「うっ がは……!」
村長「な なんということだ……!」
*「ああ 神よ 私たちを お救い下さい… 神よ……。」
並大抵の人間では相手になるはずもない魔物を前に村人たちはあれよあれよという間に戦意を喪失し、
どうにかして助かろうと物陰に隠れる者、逃げ惑う者、泣き叫ぶ者、そこはまさに阿鼻叫喚の地獄だった。
*「あっ あああ……!」
*「あ あれはオラの娘!」
先ほど走ってきた農夫が叫んだその先には女の子が地べたにへたり込んでいた。
それを死神が見逃すはずもなく、その手に抱える槍を思い切り突き刺さんと腕を引く。
*「グハハハ! シネ ニンゲ…!」
*「ニフラアアアアアムっ!」
*「っ…!?」
その時だった。
突然叫び声が聞こえたかと思えば死神は淡い光の中に包まれ、足元から跡形もなく消えてしまったのだ。
*「え…っ?」
後には涙を浮かべたまま放心する女の子が座っているだけだった。
*「だ 大丈夫か!!」
*「…うっ うん……。」
父親が女の子に駆け寄り安否を確かめる。
女の子にけがはないようだった。
*「よがった… ホントによがった……。」
娘の無事に父親はすすり泣き、その体を抱きしめる。
*「今のは!」
一部始終を見ていた村の神父と修道女が何やら騒ぎ立てる。
*「まさか そんなはずは……!」
そう言ってシスターは鎖に縛られて寝転がっている少年の顔を見る。
*「今のはあなたが?」
アルス「…に ニフラム です …か。」
*「やっぱり そうなのですねっ!?」
村長「なんだ どういうことだ!」
詰め寄る村長を無視して修道女は周りの村人たちに向かって叫ぶ。
*「今 このお方が放った呪文 ニフラムは 人間の聖職者でなければ 使うことのできない 聖なる呪文なのです!」
*「つまり この方が 魔物ではありえないということの 何よりの 証明なのです!」
*「…ああ 神よ 罪深き われわれを お許しください……。」
そう言って修道女は祈る仕草で座り込む。
アルス「…………………。」
*「な なんだって……!」
*「っじゃあ なにか? おれたちは なんでもない 人間をいたぶってたっていうのか…?」
*「そんな …信じられん……。」
修道女の言葉に衝撃を受け、村人たちは手に持った武器を力なく落とし少年を凝視する。
村長「お おまえたち! そんなの デタラメに決まっておろう! きっと なにかの勘違いだ!」
*「いいえ 確かに このお方は ニフラムを 唱えました。」
*「その証拠に 死神の魔物は 光の中へ 跡形もなく 消えてしまったでしょう。」
それでも認めようとしない村長に神父が反論する。
村長「お おまえが 唱えたんじゃないのかっ!?」
*「いいえ。わたしどもは 何もしておりません。お恥ずかしながら ただ見ているだけが 精一杯でした。」
村長「ぐっ ぐぬぬ…!」
*「そこまでよ!」
その時だった。
曇っていた空が急に明るくなり、その神々しい光の中から何かが舞い降りてきたのだった。
*「な なんだあれはっ!?」
*「ま まさか あの神々しい光 神聖なる纏い気 あれは… あれは……!」
村人たちはその舞い降りてきた存在に無意識のうちにひれ伏していた。
神「待たせたのう アルスよ。」
光の中から現れた大きな老人の肩から一人の少女が飛び降りる。
マリベル「アルスっ!!」
アルス「まり…べる……?」
マリベル「アルス! あたしが わかる? ねえ! ねえっ!?」
少女は少年の元まで駆け寄ると縛られたままのその体を揺らす。
アルス「う…ん……。」
マリベル「っ… 待ってて 今 ほどくわ!」
アルス「…………………。」
少年は少女の言葉に瞼を閉ざすと意識を集中し、瞑想を始めた。
マリベル「…また こんなに ボロボロになっちゃって……。」
アルス「…………………。」
マリベル「ごめんね… 遅くなって……。」
アルス「…いいんだ……。」
目を開けた少年の身体からは傷が消え、衣服の傷み以外はもうどこも問題ないようだった。
神「…ふむ。人間の子らよ。」
辺りにひれ伏す村人たちを見渡し、神はゆっくりと口を開く。
*「…………………。」
神「どうやら お主たちは 自らのうちの欲望や 恐怖におぼれ 人としてしてはならないことを してしまったようじゃのう?」
*「神よ…… わたしたちは 悔いても 悔やみきれませぬ。」
語りかける神に教会の神父が答える。
*「わたしたちは 奢っていたのかもしれません。村の伝説を称えるあまり ことの本質から 目を逸らしていたのやもしれません。」
マリベル「……以前さ こどもたちが 村の歴史は嘘だって 言って回ったことが あったでしょ?」
*「はい 確かに。あの時は 戯言と 叱りましたが… それが……。」
マリベル「真実を言っていたのは こどもたちの方よ。神さま お願い。」
神「お主の頼みとあらば 仕方がないのう。…ほれっ。」
そう言うと神は杖を振りかざし、いつしか村長が粉々に砕いてしまった例の石碑の一部をどこからともなく出現させ、村人たちの目の前で復元してみせた。
神「そこに 書かれている内容を 皆に 読んで聞かせてやるのじゃ。」
*「はっ……。」
そこには こう書いてあった……。
“その身を 魔物の姿にかえて 村を守った 神父さまを われわれは 殺そうとした。”
“神父さまを 魔物の手先と うたがい 村中の みなで 殺そうとしたのだ。”
“神父さまこそが われわれを 守ってくれていたというのに。”
“われわれの あやまちは 旅人たちのおかげで ふせがれたが 罪は 消えることはない。”
“われらは いつまでも このあやまちを 忘れてはならない。”
“そして 旅人と神父さまへの 感謝の心も……。”
*「……なんということでしょう。」
石碑を読み終えた神父は固く目を瞑り、首を振る。
マリベル「その石碑の一部はね 何代か前の村長が ガラクタ置き場に隠しててね。」
マリベル「あたしたちが サザムやリフたちと 見つけたはいいんだけど あそこにいる大バカが 粉々に壊しちゃったのよ。」
マリベル「…村のためと 言っておきながら 実際は 自分の保身のためにね。」
アルス「……ぼくたちは あの村長に 口封じのために 殺されそうになったんです。」
マリベル「あたしたちに 魔王の手下っていう 汚名を着せてね。」
神「どうも それだけでは ないそうじゃのう?」
少年と少女に続いて神が村長に問いかける。
村長「め 滅相もない! わ わたしが そんな 罰当たりなことをするはずが……!」
神「……嘆かわしいことじゃ。せっかくこの世は 人に任せておいても 大丈夫じゃと 思ったのに。」
神「このような 嘘つきがおったとはのう。」
マリベル「神さまに 嘘が通用するとでも 思って?」
村長「ひぃっ!」
少女に詰め寄られ、村長は思わず悲鳴をあげる。
マリベル「よくも 魔王を倒した英雄を 殺そうとしてくれたわね。」
村長「え 英雄?」
アルス「それに 砂漠からの使者を拘束し 砂漠の国との仲を 裂こうとした。」
アルス「すべては 自らの威信と名誉のために。」
そう言って少年は険しい顔で村長を指さす。
*「おい 村長さんよ これは どういうことなんだ?」
話を聞いていた村人たちが村長を取り囲む。
*「あんたを信用した おれたちが バカだったって言うのかい?」
*「あんたのせいで あたしたちは こんな目に……。」
アルス「いけない! けが人がいるんだった……!」
マリベル「アルスは 休んでて。」
マリベル「ベホマズン!」
少女がそう叫ぶと先ほど魔物にやられ苦しそうに地面を転がっていた人々も見る見るうちに回復し、辺りは優しい緑の光で満たされていった。
*「おお…… 傷が塞がっていく。」
*「い 痛みが 消えた……?」
*「今のは 最上級回復呪文……!」
*「あ あなたたちは いったい……!」
奇跡の正体に気付いた神父や修道女が問う。
マリベル「ふふん。だから 何度も言ってるでしょ?」
マリベル「魔王を倒した 世界の救世主 マリベルさまと! その付き添いの アルスよ!」
アルス「付き添いって……。」
神「ほっほっほ! まこと マリベルは 愉快な女子じゃのう。」
少女の宣言に唖然と見つめる村人を他所に少年と神は勝手な感想を言う。
村長「み みとめん… 認めんぞ!」
村長「わしは 今まで なんのために 苦心してきたと 思っとるんだ!」
村長「それが ポッと出て沸いた 旅人なんぞに……!」
マリベル「あたしたちからすれば あんたの方が よっぽど ポッと出 なんだけど?」
村長「ど どういう意味だ!」
神「ふうむ 往生際が悪いのう。その娘と少年は お主たちの伝説に出てきた 旅人 その人なのじゃよ。」
神「言うなれば 時の旅人 アルスとマリベル ってところかのう。」
マリベル「ふふっ 驚いたかしら?」
アルス「ははは……。」
*「おい ホントかよ……!」
*「もう なんだか わけがわからないわよ……!」
リフ「お兄さんとおねえちゃんが……!」
サザム「げえ! おれは そんな人たちを 子分だなんて…。」
マリベル「そーよ? サザム。あたしたちってば とっても 偉いんだからね? うふふっ。」
アルス「まあまあ マリベル。その辺にしとこうよ。」
マリベル「……それで この落とし前 どうつけてくれるのかしらね?」
神「わしは自ら 人間に手を下したりはせんからの。 おまえたちの 自由にするがええじゃろ。」
マリベル「ええ もちろん そうさせてもらうわ。」
面倒くさそうに言う神には目もくれず、少女はおごれる権力者を睨む。
マリベル「さあて 何がいいかしら? あたしたちを おとしめようとした 罪は重いわよ?」
マリベル「魔物のエサ? 海の藻屑に 生き埋め それとも神父さまみたいに はりつけからの火あぶりがいいかしら?
村長「ひ ひぃぃ! お助けぇ!」
*「どこへ 行くんだ?」
村長が少女から逃れようと後ずさりした時だった。
何者かが後ろから村長の首根っこを掴んで持ち上げる。
村長「な……!」
アルス「サイード!」
サイード「遅くなって すまなかったな。」
そこには砂漠の城へと戻ったはずの青年が立っていた。
マリベル「今まで どこ行ってたのよ。」
サイード「人質達は 無事 城まで 送り届けた。」
少女の問への答えも兼ねて青年は少年に告げる。
アルス「ありがとう。」
サイード「礼を言うのは おれの方だ。」
サイード「さて 砂漠の民から たっぷり 礼をさせてもらうとしようか。」
村長「お お許しを… お許しくださいぃ!」
サイード「ダメだな。それこそ おまえのような奴は 生かしておけん。」
サイード「今のうちに 神さまに 祈るんだな。」
神「わしに 祈られても どうすることも できんがのう。」
神は困ったような顔で立派な髭を擦るだけ。
村長「そ そんなぁ!」
マリベル「ざーんねん だったわね。意外と 神さまってのは 放任主義なのよ。」
村長「ぐ… す 好きにしてくれ……。」
遂に観念したのか、村長は項垂れる。
サイード「…………………。」
村長「ぐあっ……?」
それを見た青年は掴んでいた手を放し、男を解放する。
サイード「これで 己の命を絶つがよい。」
そういって青年は自らの懐に差した獲物を村長の目の前に放り投げた。
村長「…………………!」
村長「ぐっ……!」
おずおずとその剣を拾い上げ、目をつむったまま喉元に思い切り突き立てようとした、その時だった。
*「待って! お待ちください!」
村長「っ!?」
突然広場の奥の方から声が響き渡りその場の誰もがその方向を振り返る。
そこには村長夫人と思われる女性が震えながら立っていた。
*「その人は 確かに 保身のあまり 村の外の人を 悪者にしました。」
*「でも 元はといえば それは 村の人々を 脅威から 守ろうとしたからなんですわ!」
サイード「それで 人殺しや 拘束が許されるとでも?」
*「…いいえ。ですが わたしたちはそのおかげで 今日まで 己の精神を 保ってこられたのも事実なのです!」
*「もし そうでも しなければ とっくに村は荒れ 身内で殺し合いを 始めていたかもしれませんわ。」
*「悪いのは 夫だけではないのです わたしたち村人が 知らず知らず そうさせてしまっただけなのです!」
*「ですから お願いです! 夫を殺さないでください! どうしても というのなら わたしも 一緒に……。」
そう言って夫人は夫のもとへ歩み、その隣に座り頭(こうべ)を差し出す。
サイード「…………………。」
サイード「今回の件は おれだけでは 決められん。」
それだけ言うと青年は村長から刀を奪い、再び自分の腰に下げた。
マリベル「……いいのね?」
サイード「おれの役目は 終わった。あとは 任せるぞ。」
そう言って青年は少女に拾い上げた魔法のじゅうたんを渡す。
マリベル「そっ。じゃあ もう 帰ろうかしらね。」
アルス「……そうだね。」
*「あ ありがとうございます……!」
村長夫人は震えた声で礼を言う。
マリベル「あたしは あんたたちを 許したりしないわ。」
マリベル「いい? 自分たちの都合が悪けりゃ みんな よその者のせいにする その腐った根性 叩きなおしておくのよ。」
マリベル「それから ちびっこたちに 謝りなさいよね。」
少女は辺りの人々に向かって睨みを利かす。
リフ「おねえちゃんたち もう 行っちゃうの?」
木こりの息子が少女に歩み寄る。
マリベル「ごめんね リフ。あたしたちは 本当は 砂漠の城に用があって ここまで 来たのよ。」
マリベル「人を待たしてるから。それじゃあね。」
そう言って少女は男の子の頭を優しく撫でる。
マリベル「サザムも 元気で やるのよ!」
サザム「……うん。」
神「さすれば 砂漠の城に そなたら はこんでやろう。」
マリベル「ありがとうございました 神さまっ。」
神「礼には及ばんよ。ええものを 見せてもらったしのう! ほっほっほ!」
神「マリベルよ。アルスを想う そなたの気持ち 決して 忘れんようにな。」
そう言って神が念じると少年と少女、そして青年の身体が浮き上がり一瞬のうちに消えてしまった。
神「…………………。」
それを見届けた神は村人たちを見やる。
神「人間の子らよ。もう一度 自分の心に 語り掛けてみるのじゃな。」
神「醜い欲望を持ち 信じる心を忘れた時 人間は人ではなく 魔物となるのじゃからな。」
神「…ゆめゆめ 忘れることなかれよ。」
*「「「は ははー!」」」
神「では さらばじゃ!」
そして神もまたまばゆい光に包まれて消えてしまったのだった。
マリベル「はあ~ なんとか 終わったわね。」
神の力により三人は砂漠の城の入口までやって来ていた。あれだけの出来事があったにも関わらず、日はまだ高い。
サイード「とりあえず ことのてんまつを 報告しに行くとしようか。」
歩きながら青年が二人に語り掛ける。
マリベル「それも 大事だけど あたし お腹すいちゃったわよ!」
マリベル「ねっ あんたもそうでしょ?」
アルス「…………………。」
少女が話しかけるも少年はどこか上の空。
マリベル「……アルス?」
アルス「…えっ? あ うん そうだね。」
アルス「でも 女王様たち きっと 待ってるんじゃないかな?」
マリベル「もうっ わかったわよ……。」
サイード「悪いが 報告は 二人で行ってくれないか? おれは 兄上たちの様子を 見てくるよ。」
マリベル「あくまで 女王様には 会わないって言うのね……。」
マリベル「まあ いいわ。いきましょ アルス。」
アルス「うん。」
そう言って少年と少女は女王の間のある城の地下へと降りて行った。
サイード「…すまんな。」
ボルカノ「おう アルス! 無事に戻ってきたな。」
城の地下に降りるとそこでは漁師たちが少年と少女を待ちわびていた。
アルス「なんとかね。」
*「おかえりなさい マリベルおじょうさん!」
二人の姿を見つけた漁師たちが駆け寄ってくる。
マリベル「もう たいへんだったんだから!」
マリベル「危うく 村人たちに 殺されちゃうところだったの!」
ボルカノ「話は サイードくんから 聞いてるぜ。ご苦労だったな。」
ボルカノ「……そうだ。アルス この後 すぐに 女王に会いに行くんだろ?」
アルス「うん。」
ボルカノ「なら これも 一緒に持って行ってくれ。お前からの方が 話も 早いだろう。」
アルス「わかった。」
[ アルスは バーンズ王の手紙・改を うけとった! ]
ボルカノ「頼んだぜ。」
*「まあ 救い主さま!」
謁見の間にやってきた少年たちを侍女が出迎える。
アルス「ただいま レブレサックより戻りました。」
*「ご無事で なによりですわ。」
*「今 女王さまに お取次ぎいたします。」
そう言って侍女は奥の方に見える女王のもとへ行き何かを話していたが、やがて戻ってくると二人へこう言った。
*「アルスさま マリベルさま。 女王さまが じかに お話されたいと おっしゃって おいでです。 どうぞこちらへ。」
アルス「はい。」
侍女に促され、少年と少女は女王の元へと歩み寄る。
女王「救い主さま……。この度はまたしても 砂漠の民を救っていただき 感謝してもしつくせぬほどです。」
アルス「いいえ とんでもありません。ぼくたちも 半分は自分たちのために やったわけですし……。」
マリベル「あの 3バカのためっていうのは ちょっと 気にくわなかったけどね。」
女王「彼らも 元はと言えば 砂漠の民のために遣わされた身。」
女王「その彼らを 助けていただいたということは すべての砂漠の民を お救いいただいたことと 同義です。」
マリベル「……じゃあ ついでと言っちゃ なんだけど…。」
マリベル「アルス?」
アルス「うん。」
少女に促され、少年は女王に懐にしまっていた書簡を取り出して言う。
アルス「実は ぼくらは 今回 グランエスタードの王より 砂漠の国との 締約のために 遣わされていたんです。」
女王「まあ! それは 本当ですか!」
アルス「はい。それで よろしければ こちらの書簡に 目を通していただきたいと 思いまして……。」
[ アルスは バーンズ王の手紙・改を 女王に 手わたした! ]
女王「…………………。」
女王「大体の内容は 把握いたしました。わたくしどもも 喜んで 提案を受け入れますわ。」
女王「ただ エスタード島と この大地との行き来は 地形上 少々 難しいと存じます。」
女王「交友上 その辺りの課題を これから 議論していかなければ なりませんね。」
女王「近く わたくしどものところから 使いを送ります。追い追い 話を 詰めていこうと 思いますわ。」
アルス「そうですか。ありがとうございます!」
女王「いいえ 重ね重ね お礼を申し上げるのは わたくしどもの方です。」
女王「きっと 両国はこれから 良い関係を築いて行けるでしょう。」
そう言って女王はにっこりと微笑む。
マリベル「……レブレサックとは どうするのですか?」
少女が尋ねると女王は難しそうな顔をして言う。
女王「レブレサックの村の人々は わたくしたちを 信用していないのでしょうか……。」
アルス「どうやら そのようでした。この国に限らず よその者はみな。」
マリベル「でも 今回 わたしたちが みっちり お説教してきましたので 多少は 反省して 友好的になるかと 思いますわ。」
女王「本当ですか! それでは こちらも 諦めずに根気よく 接していこうと 思います。」
アルス「それが いいでしょう。あの村には 正しい心をもった子供たちが たくさんいます。」
アルス「彼らの 未来のためにも そうしてあげてください。」
女王「はい 是非とも。」
少年の言葉に再び砂漠の女王は笑顔で答える。
女王「……ところで 救い主さま。」
女王「救い主さま方が よろしければ 今夜 ささやかながら 宴を 催したいと 思うのですが いかがでしょうか?」
アルス「マリベル。」
マリベル「うん。」
少年と顔を合わせると少女は微笑んで答えた。
マリベル「よろこんで!」
そうして二人が漁師たちに事情を説明するべく女王の間を後にしようとした時だった。
女王「お待ちください!」
アルス「どうなさいました?」
女王「砂漠の村の族長の 末の息子さんの…… サイードは ご一緒ではないのですか?」
女王は目を見開き慌てた様子で言う。
マリベル「サイードなら 3バカの様子を 見にいきましたわよ。呼んできましょうか?」
少女がバレない程度に口元をにやつかせて言う。
女王「あ いえ…… それなら いいのです。では また 宴の席で……。」
少々声色が落ちたような気がしたのは少女だけだったのか、少年は首をひねったまま何も言わない。
仕方なく少女は一礼し、少年を引っ張ってその場を後にするのだった。
マリベル「あれは ひょっとすると ひょっとするわね。」
漁師たちのもとへ向かいながら少女が言う。
アルス「何が?」
マリベル「ん? なんでもないわよ。」
マリベル「それにしても 何気なしに 言っちゃったけど 女王さまにも 3バカで通用するのね あいつら。」
アルス「ははは… 悪名高いって いつだか 城の人が言ってたもんね。」
マリベル「これじゃ あの3人が どれだけ頑張っても 女王様と結婚する可能性は 皆無ね。」
アルス「族長にだって 周りの反対で 絶対なれないだろうね。」
マリベル「あったりまえよ! あんなのが族長になっちゃったら あの村は終わりね。」
アルス「ははは… あ 父さん!」
そんなことを言っているうちに地上階までたどり着いた少年は父親に声をかける。
ボルカノ「よう アルス。首尾はどうだったよ?」
アルス「うん 肯定的な答えをもらえたよ。あとの話は 向こうから 人を派遣して進めるってさ。」
ボルカノ「そうか じゃあ オレたちの 役目はおしまいだな。」
アルス「うん それで 今夜はご馳走してくれるって。」
マリベル「ここの料理って 独特のスパイスが効いてて 美味しいのよね~。」
*「おお! 本当ですか そりゃ!」
*「残してきた奴らに 悪いなあ。」
マリベル「しょうがないじゃない。帰ったら 土産話だけでも してあげましょ?」
*「それも そうですね!」
マリベル「ああああっ!」
まるで飯番の男の顔を見て思い出したかのように少女が声を上げる。
*「えっ どうかしました?」
マリベル「忘れてたっ! お昼ご飯 まだ食べてないんだった!」
アルス「そうだったね。」
マリベル「アルス! 食堂に行くわよ! もたもたしないでよねっ!」
アルス「食堂は逃げないよ……。」
太陽の照り付ける昼下がり、遅めの昼食をとるべく二人は再び元来た道を戻り地下へと降りていくのだった。
それから時間は流れ…。
*「それでは これより 再びわれら砂漠の民をお救いくださった 救い主さまに 感謝をささげ ここに乾杯の 音頭を あげます。」
*「かんぱい!」
*「「「かんぱーいっ!」」」
*「「「救い主さま ばんざーい!」」」
*「「「サイードさま ばんざーい!」」」
大気を、大地を、建物すべてを焼け焦がしていた太陽が地平線へと沈んだ頃、
砂漠の城の祭壇前ではささやかながらも規模としては十分な宴が執り行われていた。
三度も砂漠を救った少年と少女はさらに熱狂的に崇められ、砂漠の村の族長の末息子は一族の英雄として大いに祭り上げられた。
サイード「まさか たまたま立ち寄った故郷で こんなことになるとはな。」
たけなわも過ぎ、青年が気恥ずかしそうに少年たちに話しかける。
アルス「いや サイードは もっと自分を誇るべきだよ。」
マリベル「主役が そんなんじゃ みんな 盛り上がれないわよ?」
サイード「おれは たいしたことは してないさ。」
マリベル「そう思ってるのは 自分だけよ。慕ってくれる人たちの前では しゃんとしてなさいよね。次の族長さん。」
サイード「なっ……!」
アルス「きっと みんなは きみのことをそう見てるはずだよ。」
マリベル「旅に出たいのは よーくわかるけどね。あんたが いなくなれば やっぱりみんな 不安なのよ。」
マリベル「たまに そのことも 思い出してあげることね。」
サイード「しかし 兄上たちが……。」
マリベル「だめよ あんな ポンコツども。村のみんなが かわいそうだわ。」
サイード「むぅ……。」
少女に言いくるめられ青年は押し黙り、辺りを見回す。
集まった民衆は口々にサイードを称えているようだった。
族長の息子としてだけではない、彼自身がもつ人徳が、人々の笑顔にありありと映し出されていたのだ。
サイード「…………………。」
*「サイードさま。」
サイード「むっ…。」
青年が何か感傷にふけっていると不意に後ろから侍女に呼びかけられる。
*「女王さまが お呼びです。」
サイード「おれを か?」
*「はい。こちらへ。」
マリベル「うふっ うふふふっ! やっぱりね!」
アルス「マリベル?」
マリベル「どうせ こんなことだろうと 思ったのよ!」
マリベル「あたし ちょっと 盗み聞きしちゃおうかしらっ。」
そういうと少女はそそくさと席を立ち、どこかへと行ってしまった。
アルス「…まさか……。」
アルス「…………………。」
アルス「ま いいや。マリベルも 好きだなあ。」
そう独り言ちていると、少女がいなくなったのをいいことに若い娘たちがたちまち少年の周りに集まってくる。
*「救い主さま 今度 わたしと ナイラに沐浴に行きませんこと?」
*「いいえ 救い主さま わたしと 明けるまで 星を見てくださらない?」
*「ちょっと 抜け駆けする気?」
*「そういう あんただって!」
アルス「お 落ち着いてください みなさんっ!」
最強のお目付け役を失った少年は冷や汗を垂らしながらこの状況をどう乗り切ればよいのか思案する羽目になったのだった。
*「女王さま サイードさまを お連れいたしました。」
女王「ありがとう。少し 下がっていてください。」
*「わかりました。では 終わりましたら お呼びください。」
そう言って侍女は玉座の周りから人払いをし、自らもそこを後にする。
サイード「お呼びでしょうか 女王さま。」
女王「そう 堅くならないでください。」
女王「…この度は 本当に ご苦労様でした。」
女王「あなたの働きのおかげで 人質となっていた使いも 村にいた移民も 無事帰ったと聞いております。」
サイード「いえ わたしは アルスの指示に 従ったまでです。これといって 称えられるような ことは しておりません。」
サイード「そればかりか このように お褒めの言葉を みなからも そして あなたからも いただいてしまい 恐れ入るしだいです。」
女王「よしてください。たとえそれが 救い主さまの指示だとして 最終的に決断したのは あなた自身のはずです。」
女王「わたしたちは あなたの 勇気ある決断に 救われたのです。」
女王「それを 自分は何もしていないだなんて…… そんなこと 言わないでください。」
サイード「……!」
サイード「申し訳ございません 女王様…っ!」
女王の言葉に自分が恥ずかしくなり、青年はただ頭を垂れ謝るしかできなかった。
女王「…………………。」
女王「顔を 上げてください。みなの前で そんな姿を 晒してはいけません。」
女王はそれを制止し、近くに来るように手招くと青年の目を見据えて言う。
女王「サイード あなたは 次の族長にはならないのですか?」
サイード「…わたしは もっと 広い世界を旅し まだ知らない土地を歩き 人々と出会い 別れてみたいのです。」
サイード「それに 族長は 兄たちの役目。わたしは 元からなるつもりは ありません。」
女王「それが みなの 望まないことであってもですか?」
サイード「…………………。」
サイード「今の兄たちであれば 大丈夫でしょう。」
サイード「…女王様 ありがとうございました。 それでは。」
女王「待って!」
背を向け、その場を立ち去ろうとする青年の腕を女王が掴み引き止める。
その様子に気付いているものは誰もいないようだった。
女王「待って サイード。本当に 行ってしまうのですか……?」
サイード「…………………。」
サイード「いつか……。」
サイード「わたしが 旅を終え 人として成長して 帰ってきた時……。」
サイード「その時までに 族長のなり手が 見つからないようであれば わたしが 引き受けましょう。」
女王「…………………。」
そこまで言ってようやく青年は振り返ると、自分の首元に隠されていた控えめな首飾りを外して女王の手に掛ける。
サイード「祖父の形見です。わたしが 戻るまでの 担保として お持ちください。」
サイード「捨てていただいても かまいません。父や 兄に 渡していただいても かまいません。」
サイード「しかし! この 砂漠の民 サイード いつの日か 必ずや 故郷であるこの地に 再び 帰ってきましょう!」
女王「それでは……!」
サイード「また お会いしましょう。われらが 砂漠の女王 ネフティス。わが 君主よ。」
一度だけ微笑みかけ、青年は二度と振り返らなかった。
女王「…必ず お待ちしております!」
青年の大きな背中に投げかけた女王の宣言は寂しげでもあったが、どこか確信を持った力強さもあったのだった。
マリベル「は~ まったく 見てるこっちが ヤキモキしちゃうわ!」
そんなやり取りを屋根の上から見ていた少女は盛大なため息をつきながら愚痴をこぼす。
マリベル「ん。まあ これで 砂漠の未来は 多少明るくなったかな。」
マリベル「サイードのわりには がんばった方かな……。」
マリベル「ま いーや。アルスのとこ 戻ろっと。」
片方の眉と口角を少しだけ上げて少女はそっと独り言ち、少年がいる宴席の方へと再び歩き出すのだった。
アルス「ええと ですから ぼくには……。」
*「ええ~ つれないですわねえ 救い主さま。アタシと 楽しいコト しませんこと?」
相変わらず少年は一人で娘たちと不毛な格闘していた。
“このままだと 喰われる”という、本能が察知した危険に抗うため、少年はなんとか断ろうと必死に頭を回転させる。
*「うふふっ 少しいいかしら? 救い主さま~~~?」
“また 新手が来た!”
そう思って振り返った瞬間、少年の顔は引きつった笑顔のまま凍り付く。
アルス「ま マリベルさん……?」
マリベル「ちょっと どういうことか 説明して いただけないかしらね~?」
アルス「えっと こ これは その……。」
マリベル「え? 何ですって? 聞こえませんでしたわ~?」
たじろぐ少年に対して少女は仮面のような笑顔を張り付けている。
アルス「マリベル 怖いよ……。」
マリベル「なんですって? おほほほ。」
もはや目は笑っていなかった。
マリベル「ばかアルスううう!」
甲高い音と共に少年が吹き飛び、盛大に床に崩れ落ちる。
サイード「何をやってんだ? おまえたち。」
アルス「ご ごかいなんだ……。」
力なく横たえる少年に対して青年が問いかける。
マリベル「ふーんだ。」
サイード「……?」
*「キャー! 救い主さまがふっとんだわ!」
*「誰か 救い主さまをお運びして!
マリベル「必要ないわよ ったく!」
少女が叫ぶ娘たちをあしらって少年に小突く。
アルス「いててて……。」
マリベル「ほら 起きなさいよ アルス。弁解してごらんなさい。」
アルス「…………………。」
アルス「もういいよ。」
マリベル「……えっ?」
アルス「疲れたから 先に 宿に戻ってる。…父さんたちにも 伝えといて。」
そう言って少年は起き上がるとそそくさと村の方へと向かっていってしまった。
マリベル「あ アルス……!」
マリベル「もう! あとで 泣きついても 知らないからね!」
少女は遠ざかる背中に怒鳴りつけるが、その背中は規則的な動きをしたまま振り返ろうとはしない。
サイード「何があったかは知らんが おれも 今日は 自分の部屋で 泊まるからな。 先に帰ってるぞ。」
マリベル「……勝手にすれば?」
サイード「じゃあな。」
そう言って青年も少年の背中を追って消えて行ってしまった。
マリベル「……ふんっ。」
いまいち腹の虫が収まらない少女は再び漁師たちのいる宴の席に戻り、自棄のように料理や飲み物に手を伸ばすのだった。
アルス「サイード さっきは 何を話していたの?」
城を後にした少年たちは村の近くまで戻って来ていた。
サイード「む? 女王さまとか?」
アルス「うん なんだか ピリピリしているようにも 見えたけど……。」
サイード「いや 別に たいしたことじゃないさ。少しだけ これからの話をしただけだ。」
アルス「次の族長にどうか とか?」
サイード「……おまえには 隠し事は できないな。」
サイード「ああ。とりあえずは 断っておいた。」
アルス「……やっぱりか。」
サイード「今のところは な。」
アルス「じゃあ!」
サイード「まあ 落ち着け。おれはしばらく ここには戻らない。」
サイード「だが いつか 旅を終えて 戻ってきた時には わからないというだけさ。」
アルス「ぼくは きっと きみが族長になると 思うな。」
アルス「なんたって きみはハディートそっくりだしね。」
サイード「…かつて おまえたちと 共に戦った あの ハディート王にか?」
アルス「うん。性格は きみのほうが やわらかいと 思うけどね。」
サイード「は…はは 彼は よっぽどの堅物だったんだな!」
そんな冗談に青年は思わず吹き出す。
アルス「あ 今日の宿 どうしようかな。」
サイード「昨日は どうしたんだ?」
アルス「きみの 部屋を借りたんだ。」
サイード「おれは 別にかまわんが。」
アルス「そうだね… でも……。」
アルス「今日は 宿屋に泊まろうかな。」
サイード「そうか それもよかろう。後から来る者のために 家の者には 屋敷に泊まれるよう 言っておくから 安心しろ。」
アルス「うん ありがとう。今日は きみに 助けられっぱなしだね。」
サイード「なんの おれこそ おまえたちが いなければ 今頃どうしていたか わからないんだ。礼を言うのは こちらのほうだ。」
アルス「いやあ……。」
サイード「さて では おれはこれで 失礼する。二週間ぶりに子猫たちにも 会いたいしな。」
アルス「うん。 それじゃ また 明日。」
そうして二人は別れ、少年は宿屋へ、青年は自室へと入っていったのだった。
ボルカノ「マリベルちゃん どうしたんだ?」
一方、砂漠の城ではまだ宴は続いていた。とはいっても今はだいぶ静かになり、人の数もまばらとなってきていた。
その中で少女はしかめっ面をしたまま深い色の飲み物を煽っている。
マリベル「なんでもないのよ ボルカノおじさま。なんでもっ。」
ボルカノ「しかし さっきから 飲みすぎじゃないのかい?」
マリベル「いいじゃないの こういう時も あるんですからね!」
ボルカノ「…………………。」
マリベル「…………………。」
ボルカノ「そういえば あいつ 見ないな。マリベルちゃん 聞いてるか?」
マリベル「疲れたから 先に宿に帰っているですって。サイードもね。」
ボルカノ「そうか。それにしても さっきのあいつは たいへんそうだったな。」
マリベル「…どういうことですか?」
ボルカノ「いや マリベルちゃんがいなくなった後 娘さんたちが 押しかけてきてな。」
ボルカノ「押し合いへし合いして あいつに言い寄るんだけどよ 申し訳なさそうな顔しながら 謝ってたっけな。」
マリベル「なんて 言ってたんですか?」
ボルカノ「どうだったかな。自分には 心にきめている人が います みたいなこと 言ってたっけか。」
マリベル「…………………。」
少年の父親の言葉を聞いて少女の動きがぴたりと止まる。
ボルカノ「おれには あいつの 考えていることは 時々よくわからなくなるんだけどよ。あの言葉は たぶん 真剣だったんだろうと思うぜ。」
ボルカノ「……でも あいつをして 心に決めた人と 言わしめるぐらいなんだから よっぽど その人のことを 愛してるんだろうよ。」
ボルカノ「きっと 信じてるんだろうな その人なら 自分のことを わかってくれるって。」
ボルカノ「だから マリベルちゃん きみに もし そういう人が いるんなら そいつのこと 信じてやってくれよな。」
マリベル「…………………。」
マリベル「ボルカノおじさま…… あたし もう 行きます。」
ボルカノ「ん? そうか 気を付けてな。」
マリベル「ありがとうございます!」
それだけ言うと少女は村の方角へと走り去っていってしまった。
ボルカノ「……若いってのはいいねえ。」
ボルカノ「おれも 昔は 母さんと あんな 情熱的な恋を…ん?」
*「ボルカノさん 主賓がみんな 帰っちゃいましたね。」
一人感傷に耽る船長の肩を飯番の男がつついて言う。
ボルカノ「……適当に はぐらかして おれたちも 帰るとしようか。急がないと夜が明けちまう。」
*「「「ウスッ。」」」
マリベル「あたしの ばか…!」
マリベル「あいつも ばかだけど あたしだって ばか丸出しじゃない!」
マリベル「アルス……!」
少女は砂に足がとられるのも、ドレスに砂がつくのも気にせず無我夢中で真夜中の砂漠を走った。
上昇する体温に冷めていく気温。闇夜を照らす月光の下で少女の脳裏に映っているのは少年の顔だけだった。
あの人の良さそうな顔がいつの間にか冷たく変わり、自分に向けられたのはいったいいつ以来だっただろうか。
普段は敵や理不尽にしか向けない漆黒に凍てつく瞳に映った自分はどんな顔をしていたのだろう。
彼はいったい自分を見て何を思っていたのだろうか。
マリベル「いやよ……!」
彼は今、暗い部屋の中で一人横たわっているのだろうか。この冷え切った砂漠の夜にたった一人。
マリベル「いやよ!」
否。冷え切った砂漠に一人取り残されていたのは自分の方なのかもしれない。
マリベル「いや!」
村が目の前に見える。
マリベル「待ってよ……!」
宿屋はすぐそこに。
マリベル「行かないでよ……!」
扉の向こうに。
*「す 救い主さま! もう 宴はよろしいのですかっ!?」
マリベル「アルスは……!?」
*「アルスさまなら 部屋に……。」
マリベル「一人追加で!」
*「かしこまりました。」
扉の向こうに。
マリベル「アルス!」
いた。
アルス「…………………?」
アルス「やあ マリベル。どうしたんだい? そんなに 慌てて。」
窓辺に立ち、月を見上げていた少年は少女に振り返り言う。
マリベル「はっ… はっ…… えっ……?」
アルス「そんなに 砂まみれになって…… 走ってきたんだね。」
マリベル「んっ……。」
アルス「髪もこんなに バサバサになっちゃって……。」
そう言って少女の髪や服を優しくはたいていく。
アルス「せっかく おめかししたのに これじゃ もったいないよ。」
マリベル「あっ……。」
アルス「ん? どうしたの? どこか怪我でもした?」
マリベル「…………でよ……。」
アルス「ま マリベルっ!?」
マリベル「一人にしないでよっ!!」
気付けば少女は少年の胸を掴み、小さく震えながら嗚咽を漏らしていた。
マリベル「うっ…ふ…うう…。」
アルス「…………………。」
アルス「ごめんよ。」
そう言って少年は少しだけきつく少女を抱きしめる。その顔にはもはや先ほど見せた険はなく、柔らかくすべてを包み込むかのような微笑みを浮かべていた。
アルス「ぼくは どんなに 言い寄られたって きみを裏切ったりなんかしない。 本当さ。」
マリベル「わ わかってる… わかってるわよ……。」
アルス「もっときつく 言って 近寄らせなければ 良かったかな…… ごめんね。不安だったんでしょ?」
マリベル「…うん……。」
アルス「ごめん。」
マリベル「……うん。」
マリベル「は~ さっぱりしたわ。」
しばらくして落ち着きを取り戻し、沐浴を終えた少女が戻ってきて言う。
マリベル「まったく なんで あんなに 感情的になっちゃったのかしら。」
アルス「お酒のせいとか?」
マリベル「さあね……。今日は いろんなことが あったからかしらね。」
アルス「うん …そうだね。」
マリベル「…………………。」
マリベル「あそこの村は どうなるかしらね。」
アルス「さあ それもこれも 大人たち次第かな。」
マリベル「…違いないわね。」
アルス「…………………。」
マリベル「…………………。」
アルス「もう 寝るかい?」
マリベル「そ そうね……。」
アルス「うん おやすみ。」
マリベル「おやすみ……。」
アルス「…………………。」
マリベル「…………………。」
マリベル「ねえ。」
アルス「…ん……?」
マリベル「そ そっち 行っても いいかな……。」
アルス「後で みんなに 見つかっちゃうよ?」
マリベル「…………………。」
マリベル「だめ……?」
アルス「うっ……。」
アルス「…わかった。 おいで マリベル。」
マリベル「うふふっ!」
マリベル「…………………。」
マリベル「ねえ もう一度言ってよ。」
アルス「ん?」
マリベル「もう 鈍感ね!」
マリベル「その…… 好きって。」
アルス「…はははっ!」
マリベル「なによう! なんで笑うのよ!」
アルス「ごめんごめん。つい可愛くって。」
マリベル「んもう!」
アルス「好きだよ。マリベル。」
マリベル「…………………。」
マリベル「もう一回。」
アルス「ええっ?」
マリベル「……お願い。」
アルス「…好きだよ。」
マリベル「どれぐらい?」
アルス「これぐらい。」
マリベル「わかんないわよぉ!」
アルス「…………………。」
マリベル「えっ なあに?」
マリベル「……!」
アルス「……これくらい。」
マリベル「もうっ……!」
そんなやり取りをしばらく続けているうちに瞼が重たくなり、どちらともなく眠ってしまうのだった。
そして……
そして 夜が 明けた……。
358 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/04 19:49:23.01 NuDoDGza0 326/905
以上第12話でした。
悪名高きレブレサック。
過去でも現在でも印象がすこぶる悪いのはほぼ全プレイヤーの共通認識と言っても差し支えないでしょう。
過去のレブレサックに登場する神父さんはその後プロビナへ流れ着くのですが、そんな彼も元々はレブレサックの住人ではありません。
現在に住まう彼らが毛嫌いしたよそ者だったのです。
……なんだか皮肉な話ですよね。
ちなみに根拠らしい根拠はない与太話なのですが、
過去のクレージュをクリアするとそこにいた神父さんが町の教会を出て行ってしまいます。
現在のシスターによるとその後彼は戻り、当時のシスターと二人で教会を盛り上げたと言います。
そして過去のプロビナで魔物に殺されてしまったと思わしき神父さんですが、その遺体は見つかっておりません。
ただ、住人の一人は自分が魔物に魂を抜かれている間の記憶をこう話していますが。
*「夢かもしれないが 雲の上で 神父さまに 会ったんじゃよ。」
*「やさしい笑顔で 手をふりながらどんどん 空高くに 昇って行ってしまわれたのじゃ。」
もしも、あの神父さんが実は生きていて、その足取りがクレージュ→レブレサック→プロビナ→クレージュという流れになっていたら面白いですよね。
話は変わりますが、大地の精霊を復活させる際のセリフから、
サイードと女王ネフティスは実は初対面ではないことがうかがえます。
女王「まあ あなたは たしか……。」
サイード「砂漠の村の族長の 末の息子 サイードともうします。」
女王「サイード どうか 砂漠の民のみなにかわって 救い主さまを 助けてください。」
女王「この広い砂漠の どこかに眠る 大地の精霊を 目覚めさせ……。」
女王「砂漠に もういちど 光と平和とを とりもどすのです。」
サイード「しょうちしております。」
女王「大地の精霊の 手がかりは 砂漠の村のシャーマンが 知っているはず。」
女王「救い主さま サイード どうぞ 砂漠のために チカラをかしてください。
果たして二人の間にはどんな関係があるのやら。
この会話を見るだけではあまり親密な仲とは言えませんが、
少なくとも悪名高き3バカよりかは好感を持たれているのではないかと推測できます。
今回のお話ではそんな二人にスポットライトを当ててみました。
あ、言い忘れておりましたがこのお話の時系列では、
魔王討伐前に神さまとの邂逅を済ませてあるという設定になっております。
つまり神さまは移民の町にいるということですね。
よく思うのは神さまと会っているのにも関わらず
他の町で仲間のセリフが一切変化しないのはどうしてかということです。
製作上、あれ以上セリフを入れるのが不可能だったのか、それともまた何か別の理由があるのか。
PS版にせよ3DS版にせよ、未来の世界で手に入れた石版を現在に持ち帰るという仕様は
物語を考えるうえでどう処理したものか迷いますね。
それから、今回のお話でアルスが咄嗟にニフラムで死神きぞくを消したのは実際に原作でもできることです。
とかく序盤以外の魔物には通用しないことで有名なニフラムですが、
その特性上「死神系」の魔物には通用するみたいですね。
おまけに運よく魔王復活後のレブレサック周辺には死神きぞくが出現します。
そこでアルスの潔白を証明するために死神きぞくに登場してもらったというわけです。
合掌。
…………………
◇次回は次なる地を目指して漁をしながら航海。
…のハズが……。
359 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/04 19:50:31.39 NuDoDGza0 327/905
第12話の主な登場人物
アルス
たとえ自分が傷つこうと基本的に暴力で解決することを嫌う。
決して饒舌ではないが言うべきことはきちんと言う。
マリベル
アルスのピンチを救うべく一人移民の町まで神を呼びに。
自分の代わりに進んで危険な役を買うアルスを心配している。
ボルカノ
砂漠の城にて少年たちの帰りを待っていた。
二人の仲に陰りが見えればそっと助言を施す。
サイード
砂漠の民の青年。
3バカこと兄たちを救うべくアルスたちとレブレサックへ。
情には熱い方。
族長
砂漠の村の族長。
上の三つ子の兄弟が悩みの種。
3バカ(*)
砂漠の村の族長の三つ子の息子。サイードの兄たち。
顔も性格もまったく同じ。瓜二つならぬ
女王
砂漠を統べる女王ネフティス。6代目(?)
隣村のレブレサックに交易のための使いを送るも拿捕され、頭を抱えていた。
サイードとは面識があった模様。
サザム
レブレサックに住む少年。
村の子供たちのリーダーで、正義感が熱い。
リフ
レブレサックに住む少年。
村で唯一正しい歴史を教える木こりの家系の末裔。
とある出来事からサザムや他の子どもたちと和解。
村長
レブレサックを統治する中年男性。
自分の保身に走るあまりその手を汚そうとした。
神
この世界を創造した主。マリベル曰く「クソじじい」。
およそ厳かとはかけ離れた外見にユーモアあふれる好々爺。
今は移民の町で気ままな生活を送っている。
続き
【DQ7】マリベル「アミット漁についていくわ。」【後日談】(4/8)

