葉隠(あれ? おかしいべ。……俺たちは江ノ島盾子を倒して、脱出スイッチをゲットして希望ヶ峰学園を脱出したはずだべ)
葉隠(なのに……)
葉隠が立っていたのは希望が峰学園の玄関。
視界内にはお互い初対面のような対応をしている仲間達。
葉隠(それに死んだはずの舞園っちや桑田っちまでいるべ)
それにどういうわけか仲間に殺されたかモノクマに処刑されたはずの仲間達も全員いる。
これではまるで……
葉隠「コロシアイ学園生活の最初に戻ったみたいだべ?」
――――――――――――――――
タイトル通り殺し合い学園生活二週目に突入した葉隠の物語です。
ラスボスの名前書いておいて今さらですが、ダンガンロンパのネタバレ含みます。
亀更新ですので暖かく見守っていただけると幸いです。
元スレ
葉隠「強くてニューゲーム……って、俺がだべ!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1402841268/
葉隠「強くてニューゲーム……って二スレ目だべ!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1437235487/
葉隠(いやいや、過去に戻ったなんてそんなオカルトあるわけないべ)
葉隠(けど夢とは思えないほどのリアル感を感じる……)
葉隠(となったら、こういうときは情報収集だべ。……十神っちや霧切っちは怖いから、苗木っちにまずは話を聞くべ)
葉隠「おーい、苗木っち」
苗木「ど、どうして僕の名前を知っているの?」ビクッ!
葉隠「何を言うんだべ、苗木っち。そんなの知ってて当然……」
葉隠(あれ、おかしいべ。苗木っちのビビり方が普通じゃないべ)
葉隠(まるで初対面のような……)
葉隠「……すまんすまん。ネットで希望が峰学園の入学者が乗ってたから知ってたんだべ。俺の名前は葉隠康比呂だべ」
苗木(……? 僕の名前はネットには乗ってなかったような気がするけど……)
苗木「僕の名前は苗木誠だよ。よろしくね、葉隠くん」
葉隠(よろしく、だべ? ……やっぱり、この苗木っちと俺は初対面みたいだべ。つまり俺と同じようにコロシアイ学園生活を生き残った記憶を持っていないってことだべか……?)
葉隠「ま、まあよろしくだべ」
葉隠(苗木っちは前のコロシアイ学園生活の記憶を持ってなかったけど、十神っちならどうだべ)
葉隠「おーい、十神っち」
十神「……確かに俺は十神白夜だが、愚民風情にそう軽々と呼ばれるような名前ではないつもりだが」
葉隠(あっ、これは出会った頃のツンツンした十神っち二違いないべ)
葉隠「何でもないべ」
十神「自分から話しかけておいて、用事がないとは面白い庶民だな」
葉隠(この言動が最後には少しは丸くなったことを思うとやっぱり感慨深いべ)
葉隠(それはそうと十神っちも覚えてないみたいだべ。……他の生き残りメンバーにも話しかけるべ)
数分後。
葉隠(霧切っちや朝日奈っち、腐川っちにも話しかけたが全員初対面のような対応をされた。どうやらコロシアイ学園生活を生き残った記憶はないようだ)
葉隠(もし死んだ仲間が前の記憶を持ってたら落ち着いていられるわけがないからその線も薄い)
葉隠(ということはどうやら、前のコロシアイ学園生活のことを覚えている生徒は俺だけみたいだべ)
葉隠「………………」
葉隠「何で俺だけが覚えているんだべ?」
キーン、コーン…… カーン、コーン……
モノクマ「あー、あー……! マイクテスッ、マイクテスッ! 校内放送、校内放送……!」
モノクマ「大丈夫? 聞こえてるよね? えーっ、ではでは……」
モノクマ「えー、新入生のみなさん、今から入学式を執り行いと思いますので」
モノクマ「至急、体育館までお集まりくださ~い」
モノクマ「……ってことで、ヨロシク!」
体育館に全員が集まると、モノクマが壇上から飛び上がって登場した。
そこから希望ヶ峰学園で一生共同生活を送ることと卒業するためには人を殺すことなど、記憶にあるのと同じような説明がされてモノクマが退場した。
十神「……俺は1人で行くぞ」
葉隠(参ったべ。この状況、俺の直感はコロシアイ学園生活の最初に戻ったと告げているべ)
大和田「待てコラ……んな勝手なことは許さねえぞ……」
葉隠(俺は最初コロシアイ学園生活を希望ヶ峰学園のオリエンテーリングだと思って現実を受け入れられなかった……)
十神「……どけよ、プランクトン」
葉隠(今の状況も夢だと思っている自分がいるのも事実だべ……)
葉隠(……けど今の俺は直感を信じて生きるって決めたんだべ)
苗木「ちょ、ちょっと待ってよ。ケンカはまずいよ」
葉隠(だから現実から逃げずに、ここがコロシアイ学園生活二周目だって受け入れるべ)
それは葉隠がコロシアイ学園生活を生き延びて、江ノ島を倒して手に入れた強さであった。
ガンッ!! ガララララ! ナエギダイジョウブ!?
葉隠(自分でも信じられない事態である以上、コロシアイ学園生活を一度体験しているとは他の人に言っても信じられるわけがない)
葉隠(だから周りには黙っておくとして、これからどう行動するべきか)
葉隠「………………」
葉隠(……一周目と同じように過ごしても意味ないべ)
葉隠(せっかくコロシアイ学園生活を一度経験しているんだから、その記憶を生かしてコロシアイを止めてみせるべ!)
葉隠(直感だけど、それこそ記憶を引き継いで二周目に来ている俺の役目なのかもしれないべ!)
葉隠(それに命を助ければ……)ポワンポワン
誰か(?)「命を助けてくださりありがとうございます、葉隠様!」
葉隠「それくらい気にすることないべ。お礼に少し金をくれればいいべ」
誰か(?)「はい! こんなはした金ですがもらってください」ドサドサ
葉隠「ハッハッハ。そんなにたくさんもいいべ。……まあもらっとくけど」
葉隠(……ってなるに違いないべ!)
それはコロシアイ学園生活を生き延びて、江ノ島を倒しても変わらない葉隠のゲスさであった。
―――――――――――――――
C H A P T E R 1
? ? イ キ ル
(非)日常編
―――――――――――――――
前周回通り、皆で手分けして探索することになった。
葉隠が体育館を出てまず目に付いたのが模擬刀だ。
葉隠「これが桑田っちを守ったんだよなあ」
葉隠「…………」
葉隠「………………」スチャ
葉隠「模擬刀の先制攻撃だべ!」ブンッ!
葉隠「………………」
葉隠「……模擬刀の先制攻撃だべ!!!」ブンッ!
葉隠「…………………………」
葉隠「あぁぁぁーー模擬刀の先制攻撃だべ!!!!!」ブンッ! ガンッ!!!
葉隠「………………」
葉隠「……俺何やっているんだろう」
葉隠(建物の構造は把握しているとはいえ、一応探索するフリをしないとおかしく思われるか)
葉隠「面倒だけど行くべ」ポイッ
葉隠(探索そして報告会が終わった後、みんな自分の個室に戻った)
葉隠(俺も自分の個室に戻って、第一の殺人事件を防ぐ方法を考えてみるべ)
第一の事件。
モノクマによるDVDの動機が配られた後に起きた殺人事件。
超高校級のアイドル舞園さやかが、桑田レオンを殺そうとして返り討ちにあった事件だった。
葉隠(……って、えっとあの事件って正確にはどんな内容だったか?)
既に六回も学級裁判を経験しているため、忘れっぽい性格の葉隠は一回目の殺人事件の記憶も明瞭ではない。
葉隠(えっと、俺が止められそうなところは……)
それでも何とか記憶を引きずり出して、メモ帳にいつも意外だと言われる達筆な字で要点を整理し始めた。
第一の事件の止めるポイント。
一、舞園さやかが殺人を決意するのを思いとどまらせる。
二、舞園さやかが殺人を実行しようとするのを止めさせる。
三、桑田レオンが殺人を実行するのを止めさせる。
葉隠(まずは一の方法から考えるべ)
一、舞園さやかが殺人を決意するのを思いとどまらせる。
葉隠(桑田っちが殺人を犯したのは突発的だったから、事件前に説得するとしたら舞園っちだべ)
葉隠(えーっと、舞園っちが殺人事件を起こした理由は外に出たいからだった)
葉隠(そう思わせるのを防ぐためには……モノクマのあのDVD鑑賞をやめさせるしか方法はないが……)
葉隠(それは無理だべ。モノクマに逆らえるようならそもそもコロシアイ学園生活は成立しない)
葉隠(DVDを見た後に説得をする路線も無理だ。殺人事件を起こすほど思い詰めた舞園っちが、俺なんかの胡散臭い言葉で気持ちを変えるわけない)
葉隠「ハッハッハ……」
葉隠「……自分で言ってて悲しくなってきたべ。こういうとき占い師の言動に頼ったっておかしくないのに」
葉隠(結論、一の方法は無理だべ。殺人事件を直接防ぐ方法を考えるべ)
葉隠(次は二の方法だべ)
二、舞園さやかが殺人を実行しようとするのを止めさせる。
葉隠(犯行を止めさせる。それに一番いい方法は……)
葉隠「凶器をおさえることだべ」
葉隠(あのときの凶器は包丁だった)
葉隠(……確か犯行の夜、朝日奈っちとオーガが食堂で舞薗っちを見たはず)
葉隠(二人と一緒にいれば食堂にやってきた舞薗っちが包丁を持ち出すのを止めることができるはず……だが)
葉隠(何と言えば包丁を持ち出すのを止めることができるだろうか?)
葉隠「舞薗っち包丁を持ち出すのは危ないべ……とかか?」
葉隠「……持ち出す現場をおさえないと、それは言えないべ。なんで知っているのかと思われるし、どう考えてもはぐらかされるべ」
葉隠(かといって自然に一緒に厨房に行くのも難しいし)
葉隠「………………」
葉隠「…………!」ピカン!
葉隠(それにもっと大事なことに気付いたべ)
上の訂正。
×舞薗 → ○舞園
葉隠(もし、舞園っちが包丁を持ち出すのを阻止できたとする)
葉隠(それでその日の犯行は防げるに違いない)
葉隠(けど、それで舞園っちが諦めるだろうか?)
葉隠「あきらめるわけないべ。そんなことで諦めるくらいだったら、そもそも殺人を犯そうと思わないべ」
葉隠(そうなったらどうするか。次の日に実行しようとするだろう)
葉隠(それを防げてもまた次の日、次の日、とキリがないべ)
葉隠(何らかのアクシデントから、一日でもミスったらパーになる)
葉隠(それに包丁を持ち出すのを諦めて、別の方法で殺人を犯そうと考えるかもしれない)
葉隠(一周目とは違う、俺の知らない方法で)
葉隠「そうなったら防ぎようがないべ」
葉隠(一周目の記憶というアドバンテージを生かすなら、ある程度前と同じように動いてもらったほうが確実だべ)
葉隠「ということは、二の方法も無しだべ」
葉隠「最後に三の方法を考えるべ」
三、桑田レオンが殺人を実行するのを止めさせる。
葉隠「結局この方法をとるしかないべ」
葉隠(といっても、桑田っちに舞園っちの部屋に行くなと言っても聞くはずがない)
葉隠(桑田っち舞園っちに惚れてるからなあ……)
葉隠「それに一周目とある程度同じに動いてもらわないと困るべ」
葉隠(だから、桑田っちには舞薗っちの部屋に行ってもらって)
葉隠(そして殺されかけてもらう)
葉隠(頭に血の上った桑田っちはその後舞園っちを殺そうとするけど)
葉隠(風呂場に逃げた舞園っちを追うために、一度部屋に工具セットを取りに帰るはず)
葉隠「その途中で俺の登場だべ!」
葉隠(桑田っちと俺の部屋は隣)
葉隠(桑田っちの方が苗木っちの部屋に近いのは残念だが、それでも好条件だべ)
葉隠(部屋は完全防音だから、ドアを少し開けておく)
葉隠(そうすれば音が聞こえて真夜中に歩き回っているのは誰だろう? って自然に廊下に出れるべ)
葉隠(それでとにかく桑田っちに話しかける)
葉隠「そこで俺の話術の出番だべ」
葉隠(何とかして桑田っちを落ち着かせて殺人を止めさせる)
葉隠(これで一件落着だべ)
葉隠「あとは殺人を犯そうとした舞園っちの処遇だけど」
葉隠「……まあ、そこら辺難しいところは霧切っちや苗木っちに任せるべ」
葉隠(これで第一の殺人は止められる)
葉隠(そうすれば命の恩人である俺に、桑田っちからも舞園っちからも謝礼がもらえるに違いない)
葉隠(超高校級の野球児ともなればお金持ってそうだし、舞園っちは国民級のアイドル。……言わずもがなだべ)
葉隠「いくらもらえるだろうか……」
捕らぬ狸の皮算用ということわざを知らない葉隠は、大量のお金に囲まれた自分を想像しながらその日は寝た。
四日目。
モノクマの放送によって体育館に集められ、動機DVDの提示が行われた。
舞園「こんなの……こんなの……」ダッ!!
苗木「舞園さん!!」ガタッ!!
全員で視聴覚室で見た後、飛び出していった舞園を苗木が追いかける。
葉隠は自分のDVDを鼻で笑いながら見た。
葉隠(こんな嘘っぱちな映像を流して……)
葉隠(どうせ外の世界は荒廃しているっていうのに)
葉隠「………………」
葉隠(四日間観察して気づいたけど)
葉隠(やっぱりここまで俺の関わった行動以外は大体一周目と同じだべ)
葉隠(この様子なら、舞園っちが動くのも今夜のはず)
葉隠「………………」
葉隠(絶対に止めて見せるべ。大事な大事な…………)
葉隠(お金のためにも!)
仲間の命を守るために、と思わないあたりが葉隠らしかった。
そしてそのまま夜になった。
葉隠(桑田っちや舞園っちと何か話すべきかとも思ったが)
葉隠(俺との会話のせいで、何らか心情が変わり)
葉隠(一周目とのズレが起きたら困るから結局何も話さなかった)
葉隠(現在は午前12時30分)
葉隠(舞園っちが殺されるのはモノクマファイルから午前1時30分ごろだと分かっている)
葉隠(つまり桑田っちが舞園っちの部屋を出る一時間後くらいのはずだべ)
葉隠「………………」
葉隠(桑田っちの説得をどうするかは考えていない)
葉隠(……先に考えておいてしゃべれるほど器用じゃないから当たって砕けろだべ)
葉隠「それにしても」
葉隠「後一時間何をして暇をつぶすか……」
葉隠「たまには超高校級の占い師らしいことをしてみるべ」
水晶玉(ガラス製)を取り出す葉隠。
葉隠(俺は舞園っちを助けられるか……)
葉隠「………………」
葉隠「……見えたべ!! 助けられるべ!!」
葉隠(次はどれくらい謝礼をもらえるか……)
葉隠「………………」
葉隠「……見えたべ!! ……ってそんな額もくれるだべか!?」
葉隠(じゃあ次は…………)
………………。
………………。
………………。
一時間三十分後。
葉隠「次は何を占うか……って」チラッ
時計<午前二時だよー
葉隠「もう犯行時間過ぎてるべーー!?」
葉隠(えっ、もう桑田っち舞園っちを殺したのか……!?)
葉隠(ちょっとやばいべ、やばいべ!!)
葉隠「…………って……だけど」
葉隠「……何で廊下を走る音がしなかったべか?」
葉隠(舞園っちの部屋に行くときは、個室が完全防音と分かっていても人の心情として、夜中だからあまり音を立てないで行くはず)
葉隠(けど、工具セットを取りにくるときはそんな考える余裕がなくてドタバタと走るはずだべ)
葉隠(それくらいの音ならドアを少し開ければ聞こえるのは昼の内に試してある)
葉隠(いくら占いに集中していたとはいえ、その音を聞き逃したとは考えにくい)
葉隠(ということは……)
葉隠「何か不足の事態が起きたに違いないべ」
葉隠(そして一周目と違うこの事態は俺が引き起こしたんだろう)
葉隠(自分ではそんなつもりはないけど、二周目ということで俺が一周目と違う行動になっていたのは事実だべ)
葉隠(蝶の羽ばたきが遠くで竜巻を発生させたっていう……あの……あの……)
葉隠(そうだべ! アゲハ蝶エフェクトだべ!!)
葉隠(……それのおかげで殺人が無くなったんだべ!!)
葉隠「ハッハッハ! 俺すげえべ!! 無意識の内に殺人を止めるなんて!!」
葉隠(そうともなれば今日はもう起きている必要もない)
葉隠「気分よく寝れそうだべ」
葉隠は自室のドアをきっちり閉めてから寝た。
翌日朝。
葉隠はいつもと異なる起き方をした。
不二咲「葉隠くん、大丈夫!?」 バンッ!
葉隠「……う~ん……」 ムニャムニャ
葉隠「……どうしただべか不二咲っち……」 フワッ、ハァァー
不二咲「良かったあ~。無事だったんだ」 ホッ
葉隠(ホッと肩を下ろす仕草は女の子にしか見えない)
葉隠(これが男だとはやっぱり今でも信じられないべ)
葉隠「…………って」
葉隠「……あれ?」
葉隠「どうしてここに不二咲っちがいるべか……?」
何故だろうか、普段朝は貧血気味の葉隠だが動悸が激しくなってきた。
朝日奈「どうしてって、葉隠今の時間分かっていないの?」
大神「朝というには遅すぎる時間帯だと思うが……」
どうやら不二咲と一緒に朝日奈と大神も一緒に部屋に入ってきていたようだ。
葉隠「今の時間……?」
時計<午前十時だよー
葉隠「あっ……昨日は遅くまで起きていたから、ついつい寝坊してしまったべ」
朝日奈「葉隠が寝坊するのはいつものことでしょ」
大神「強靭なる肉体は正しい生活習慣の下でしか身につかないぞ」
葉隠「規則正しくしてもオーガのようにはならないと思うけど…………」
葉隠「ってそうじゃないべ!!」
葉隠「どうして三人がここにいるべ!?」
葉隠「個室のドアはカギがなければ開かないはずだべ!!」
朝日奈「あっ、それなんだけど」
大神「モノクマが食堂に表れて言ったのだ……」
―――――――
モノクマ『おまいらなにのんびりしてるの?』
モノクマ『緊急事態が発生したっていうのに』
霧切『……それってどういうこと?』
モノクマ『さあ? 自分たちで調べてみなよ。個室のドアのカギは全部開けといたからさ』
―――――――
大神「……とな」
葉隠「…………どういうことだべ……?」
一周目と明らかに違う。そんなことモノクマが言った覚えは無い。
朝日奈「まあ、私たちも困っていたからちょうど良かったんだけどね」
葉隠「困っていたって何だべ?」
不二咲「葉隠くんたちのことだよ」
不二咲「いつまで経っても食堂に来ないから心配していたんだよ」
葉隠「それは俺が悪か…………『たち』?」
頭の中で警鐘がガンガンと鳴る。
朝日奈「朝食会に来なかったのがもう一人いるの」
大神「だが、この様子だともう一人も寝坊だろうな……」
ピンポンパンポーン。
朝日奈「ん……? 何このアナウンス?」
葉隠「まさか……」
不二咲「おかしいね。これまでアナウンスは朝と夜にしかなったことが無いのに」
葉隠「まさか…………!」
大神「何か異変でも起きたのだろうか……」
葉隠「まさか………………!!??」
そして葉隠は聞く。
葉隠にとって七回目となるそのアナウンスを。
モノクマ『死体が発見されました。一定捜査時間の後、学級裁判を開きます!』
不二咲「……死体?」
朝日奈「今のアナウンスってどういうこと?」
大神「誰かが殺されたということなのか……?」
葉隠(どういうことだべ……!?)
葉隠(もしかして俺が占いに集中していたから、足音を聞きのがしたのか!?)
葉隠(そんな……)
葉隠(救って見せるって決めたのに……)
葉隠「………………」
葉隠(……悔やんでいても状況は分からない)
葉隠(苗木っちはどんな絶望的な状況でも諦めずに前を見ていたべ)
葉隠(俺も見習って前に進まないと……)
葉隠「朝日奈っち……俺以外に朝食会に来なかったのって――」
朝日奈「え? ……そ、それは」
葉隠「舞園っちなのか?」
朝日奈「桑田くんだよ」
葉隠「………………」
葉隠「…………え?」
葉隠(………………)
葉隠(もしかして桑田っちが殺されたのか……?)
葉隠(もう訳が分からんべ…………)
再び一周目と違う事態に戸惑う葉隠。
石丸「こ、これは一体どういうことなのだ!?」
江ノ島「ヤバいって。マジで人が死んでるっての」
十神「フン。ゲームの始まりか。待ちくたびれたぞ」
朝日奈「何か外が騒がしくなってきたね」
不二咲「状況確認のためにも声がした方に行ってみる?」
大神「そうだな……」
葉隠「………………」
葉隠(訳が分からないといって立ち止まっていても始まらない……)
葉隠(何か行動しないと……)
葉隠「俺もついていくべ」
人だかりができていたのは苗木の部屋の前だった。
朝日奈「どうしたの? 何が起きたの?」
不二咲「モノクマが死体とか言ってたけど……」
大神「もしかして本当なのか?」
霧切「……あまり中を見るのはオススメできないけど」
霧切「自分の目で見なければ現実だと認識できないということもあるし」
霧切「……ただ、見るなら覚悟をしてちょうだい」
朝日奈「……やっぱりさっきの放送って」
不二咲「本当だったの?」
大神「俄かには信じられないが……」
葉隠「見させてもらうべ」
すでに覚悟を決めていた葉隠はさっさと苗木の部屋を覗き込む。
葉隠「………………」
葉隠「……本当にどういうことだべ?」
そこで見つけたのは超高校級の野球選手、桑田怜恩の変わり果てた姿だった。
葉隠(現場は一周目と同じでも、状況は大きく変わっているべ)
葉隠(単純に殺された人物が違うし)
葉隠(それ以外にも何点かあるべ)
葉隠(………………) キョロキョロ
葉隠(……その中でも特に)
葉隠「何で『あれ』が見当たらないんだ?」
モノクマ「ピンポンパンポーン。オマエラに連絡します。至急体育館に集まってください」
皆で体育館に向かう。
体育館前ホールについたところで葉隠はある物に気付いた。
葉隠「………………」
葉隠「ど、どうして……」
葉隠「どうしてこれがここにあるんだべ……!?」
葉隠(だとしたら、この一周目と違う状態は……全てこれのせいだということに……!?)
苗木「どうしたの葉隠くん?」
葉隠「苗木っち!! どうして模擬刀がここにあるんだべ!?」
葉隠「どうして自分の部屋に持って帰らなかったんだべ!?」
苗木「ちょ、ちょっと落ち着いてよ葉隠くん」
苗木(どうして僕が持って帰らなかったことを知っているんだろう……?)
苗木(……舞園さんと一緒にここに来たことを知られたのかな?)
苗木「確かに護身用にってその模擬刀を持って帰ろうかな、って思ったよ」
葉隠「だったら!!」
苗木「けど、それ――壊れているんだよ」
葉隠「壊れて……いる?」
苗木「うん。折れているんだ」
葉隠「………………」
葉隠(一周目ではそんなことなかった)
葉隠(これはどういう)
――――――――――――
葉隠「模擬刀の先制攻撃だべ!」ブンッ!
葉隠「………………」
葉隠「……模擬刀の先制攻撃だべ!!!」ブンッ!
葉隠「…………………………」
葉隠「あぁぁぁーー模擬刀の先制攻撃だべ!!!!!」ブンッ! ガンッ!!!
葉隠「………………」
――――――――――――
葉隠「――っ!?」
葉隠(もしかして何となくムシャクシャしてたあの時、壁にフルスイングで叩き付けたその衝撃で……?)
葉隠(そのあと乱暴に投げ捨てたのがトドメに……?)
葉隠「………………」
葉隠(それなら確かに一周目にはなかった行為だ)
葉隠(俺の関わった行動以外は一周目と同じという法則にも当てはまる)
葉隠(一周目と違って俺が模擬刀を壊した)
葉隠(そのせいで苗木が模擬刀を持って帰らなかった)
葉隠(だから桑田っちが舞園っちの襲撃を防げず殺された)
葉隠「………………」
葉隠「ということは……つまり……」
葉隠「俺が桑田っちを殺したも同然ってことだべか……?」
助けるつもりが自分が殺してしまったという事実。
葉隠はそれに囚われてしまっていた。
葉隠「そんな……俺はそんなつもりは……」
モノクマによる学級裁判の説明も聞き流しながら、悔恨の念にかられる葉隠。
だから、この後に何が起きるのかもすっかり忘れていた。
モノクマ「召喚魔法を発動する! 助けて! グングニルの槍ッ!!」
葉隠(……っ!? そうだったべ!? そういえば一周目もこのタイミングで……!)
江ノ島「は?」グサッ!グサッ!グサッ!
葉隠「………………」
葉隠(……正直言ってどうすれば江ノ島……いや、むくろっちを助けられたのか分からない)
葉隠(それでも何か方法があったんじゃないか……?)
自分の行動のせいで救おうと思っていた人間を救えなかった。
殺されると分かっていた人がいたのに何も行動をしなかった。
二つの絶望が葉隠を蝕むが――――それで終わりでなかった。
苗木(学級裁判……)
苗木(仲間の内に紛れた人殺しのクロを指摘する……)
苗木(見事当たればクロがおしおき……)
苗木(それができなければクロ以外全員おしおき……)
苗木(そんな重要なルールを後出しするなんて……)
苗木「モノクマ……」
苗木(……でも、僕にはクロが分かっている)
苗木(必死にいつも通り振る舞おうと頑張っているけど顔が青くなっていくのを隠しきれていない……)
苗木(舞園さん。――彼女がクロだ)
苗木(部屋交換をした僕の部屋で桑田くんが殺された以上、間違いない)
苗木(学級裁判の場で舞園さんを糾弾する)
苗木(そうすれば僕は生き残れる)
苗木(……その代わり舞園さんは死ぬ)
苗木(僕はそれを良しとするのか……?)
――――――――――――
苗木『僕がキミをここから出して見せる! どんなことをしても絶対にだよ!!』
舞園『……その言葉……信じてもいいですか?』
苗木『え? ……もちろんだよ!』
舞園『信じられるのは苗木君だけなんです』
舞園『だから……お願い。苗木君だけは何があっても……ずっと私の味方でいて……』
――――――――――――
苗木「………………」
苗木(舞園さんは……僕に罪を押し付けようとした)
苗木(部屋交換をした場所で殺したということはそういうことだ)
苗木(それで自分だけ卒業しようとした……)
苗木(けど、舞園さんも学級裁判のルールは知らなかったんだ)
苗木(だから代わりに罪を被る僕に与えられる罰が死だなんて想像もしていなかった)
苗木(何の罰が与えられるのかは分からないけど……そう重いものと思っていなかったはずだ)
苗木(僕は……どうするべきだろう……?)
苗木(舞園さん……)チラッ
舞園「…………!」
苗木(舞園さんと目が合った)
苗木(彼女の眼は……もう諦めきっていて)
苗木(……それも当然だ。自分が死ぬと分かっていて人を庇う人間なんてそうそういない)
苗木(だから舞園さんは僕に罪を暴かれて死ぬだろうと思って……)
舞園「………………」ペコリ
苗木(舞園さんが僕に向かって小さくお辞儀をする)
苗木(何となく分かった)
苗木(『迷惑をかけてごめんなさいね、苗木君』と言いたいんだろう)
舞園「………………」 ニコリ
苗木「…………っ!」
苗木(舞園さんが僕に微笑んだ)
苗木(儚げなその微笑……)
苗木(それを見た瞬間僕は………………僕は……)
葉隠「………………」
葉隠(それでも俺は前に進まないといけないべ)
葉隠(一周目のとき、苗木っちはどんなに絶望するような状況でも諦めなかった)
葉隠(江ノ島盾子に自分以外が絶望した時も、みんなを希望に奮い立たせた)
葉隠(俺はあんな強さが欲しいと思ったんだべ)
葉隠(だから……こんなところで諦めるわけにはいかない!!)
モノクマ「では後ほど、学級裁判でお会いしましょう!」
ちょうど学級裁判の説明が終わる。
葉隠(まずは差し当たり、この学級裁判だべ)
葉隠(一周目と同じだと考えるなら、舞園っちが桑田っちを殺したに違いない)
葉隠(答えが分かっている分楽勝――)
苗木「ねえ、モノクマ?」
モノクマ「ん? なになに、苗木君?」
苗木「学級裁判なんて行う必要あるの?」
葉隠(? 苗木っち何を考えて……。 一周目ではこんな行動してなかったはずなのに)
モノクマ「もう、苗木君。説明聞いてなかったの?」
モノクマ「君たちの中にいるクロを指摘しないと」
苗木「ああ、そういうことを言いたいんじゃないんだ」
苗木「僕がクロなのに学級裁判を行う必要があるのかな、って」
葉隠「……え?」
葉隠(苗木っち何を言って……)
霧切「……苗木君、今言ったのは本当のことかしら?」
苗木「本当も何も少し考えたら分かるでしょ」
苗木「桑田君は僕の部屋で殺されたんだよ?」
苗木「部屋にはいれるのはカギを持った本人のみ」
苗木「だったら、僕以外にあの殺人を犯せるはずがないじゃないか」
石丸「苗木君! 君は一体何を言っているのか分かっているのかね!」
苗木「分かっているに決まってるじゃないか」
苗木「……僕が桑田君を殺した。そう言っているんだよ」
苗木「石丸君はこんな簡単な日本語も分からないの?」
不二咲「ど、どうして桑田くんを殺したの?」
苗木「それは……失望したからだよ」
不二咲「……え?」
苗木「だって彼は超高校級の野球選手なんだよ」
苗木「それなのに……野球をやめてミュージシャンになりたいなんてふざけてるよ」
苗木「超高校級の才能はきちんと使われてこそだってのに」
苗木「それを桑田くんに問いただしたら、野球やっててもモテないからって」
苗木「……もう言っている意味が分からなかったよ」
苗木「こんな生徒のために希望が峰学園の学費を使うのも無駄だからね。殺してあげたんだよ」
大和田「ああん? だったら、おまえはそんな理由で人を殺したのか?」
苗木「そうだよ」
大和田「……あんまりぬかしたこと言ってると殺すぞ」
苗木「いいよ。殺してみなよ」
大和田「……あ?」
苗木「その場合、学級裁判の場で君がおしおきされるだろうけどね」
大和田「………………」
苗木「殺すなんて言葉、殺される覚悟もない人が口にしちゃいけないよ。大和田君」
苗木「……ああ、そういえば僕だって卒業はしたいんだよ」
苗木「家族が大変な目に合ったんだ。今すぐ真相を確かめたいと思うのは普通だろう?」
霧切「……あの映像は私たちの出たいという気持ちを煽ったものよ」
霧切「本当だとは思え」
苗木「だったら嘘だっていう確証はあるの?」
霧切「…………」
苗木「確かに本当だという根拠はない」
苗木「だけど、嘘だっていう確証だってない」
苗木「だから確かめるために卒業することにしたんだ」
苗木「まあそれも駄目になったみたいだけどね……」
十神「ちっ、白ける展開だな」
苗木「ごめんね十神君。僕だって君をがっかりさせたくはなかったよ」
十神「……分からないことが一つだけある」
十神「おまえは卒業したかったはずなのに、諦めが早すぎやしないか?」
十神「カギを誰かに奪われた、とか言い訳はできたはずだろう」
十神「凡人は凡人なりにあがくべきじゃないのか?」
苗木「……それも一瞬考えたんだけどね」
苗木「学級裁判のルールを聞いて諦めたよ」
苗木「まさか卒業と同時に他のみんなが死ぬなんて聞いてもいなかったからね」
苗木「……ただ運しかない僕のためなんかに、超高校級の才能を持った君たちが死ぬなんて耐えられないよ」
苗木「だから諦めて、自分の死を選んだってわけさ」
十神「……よく分かった。おまえが狂っているということがな」
モノクマ「うぷぷ、学級裁判の前に自白する人がいるなんて」
モノクマ「なんて絶望的なんでしょう」
モノクマ「……まあ、それはともかく学級裁判は行うからね」
苗木「無駄だって分かっているのに?」
モノクマ「様式美だよ苗木クン。様式美」
モノクマ「現実だってどんな凶悪犯でも裁判を受けてるでしょ」
モノクマ「つまりそういうことだよ」
苗木「ふーん。……まあ、いいけどね」
葉隠(苗木っち……)
葉隠(本当に苗木っちが桑田っちを……?)
葉隠「………………」 チラッ
舞園「…………苗木君……」
葉隠(舞園っちのあの表情……)
葉隠(どうみても人を殺した仲間を見ている人間の表情じゃない)
葉隠(『どうして自分をかばうのか……?』そう疑問に思っている顔)
葉隠(やっぱり一周目通り部屋の交換はあったはずだべ)
葉隠(犯人は自白している苗木っちではなく舞園っち)
葉隠(俺はそう分かっているけどみんなはそんな事実知るはずがない)
葉隠(だからまずこれからしないといけないのは)
葉隠(クロを見つけるのではなく、クロでないことの証明)
葉隠(……確かに今まで学級裁判の前に疑われていた者のシロを証明することはあった)
葉隠(一周目の三回目の裁判で、ジャスティスロボに入っていた俺が疑われたように)
葉隠(けど、今回それとは少し違う)
葉隠(積極的にクロになろうとする者のシロの証明)
葉隠(……四回目の裁判で朝日奈っちが全員で死のうとしていたときと同じ状況だべ)
葉隠(あのときは十神っちでさえ騙されていた)
葉隠(それを俺がどうにかできるのか……?)
葉隠「………………」
葉隠(それでも生き残るにはやるしかないんだべ)
葉隠(手始めにこの空気を壊すために……)
葉隠「…………見えたべ!!」
苗木「どうしたの、葉隠君。いきなり叫んで」
葉隠「天からのインスピレーションが降りてきたんだべ!!」
苗木「……へえ。超高校級の占い師がこのタイミングで受け取ったインスピレーション。……ぜひ聞いてみたいね」
葉隠「それじゃ今回は特別にタダで教えるべ。……実は苗木っちはクロじゃないんだべ!!」
一同「………………」
山田「……あの~、それはちょっと無理が」
大和田「お前話聞いてたのか? こいつは自分からクロだって言ってるんだぞ。馬鹿じゃないのか?」
石丸「そうだったのか! 苗木君は犯人じゃなかったのか!」
朝日奈「そんなわけないよ! だって苗木は自分から桑田を殺したって言っているんだよ!」
十神「この状況で面白いことを言うじゃないか。どうだ、占い師ではなく漫才師にでもなったらどうだ?」
腐川「あ、あんたねえ……。自分が何を言っているのか分かっているの?」
大神「我も信じられぬが……」
不二咲「けど、葉隠君の占いって三割当たるんだよねえ」
セレス「たかが三割でしょう? そんな確立に命をベットするのは正気の沙汰だとは思えませんが」
舞園「………………」
霧切「……そうね、私も俄かには信じられないわ」
霧切「けれど、あらゆる可能性を考えてみるのはいいことだと思うわ」
霧切「せっかく学級裁判なんて場があるわけだから」
葉隠を蝕む三つ目の絶望。
一周目でみんなを引っ張ってくれた、そして自分を希望に奮い立たせてくれた苗木が敵というこの状況。
葉隠(苗木っちはこれまで霧切っちや十神っちと一緒に裁判を引っ張ってきた)
葉隠(つまり弁論技術は相当な物だべ)
葉隠(対して俺は裁判でまともな発言をした覚えさえ無いべ)
葉隠(……それに苗木っちは自分がシロではなく、クロであることを証明する)
葉隠(その二つの違いは大きく違う)
葉隠(例えば痴漢冤罪とかからそのことは明らかだべ)
葉隠(やっていないということの証明は難しく)
葉隠(やったということは誰かが言っただけで信じられてしまう)
葉隠(そういう意味で苗木っちは有利……)
葉隠(事実、苗木っちが自らクロだと言ったのをみんな信じてるべ)
葉隠(だから占いを装って苗木っちがクロじゃないって言った)
葉隠(そうすることで、その可能性もあるかもしれないとみんなに気付かせるために)
葉隠「………………」
葉隠(……絶対、絶対苗木っちをロンパして見せるべ)
葉隠(そうすることが苗木っちの為にもなるんだべ)
葉隠(このままじゃ苗木っちも死んでしまうんだから……)
苗木「…………」
苗木「僕がクロじゃない……か」
苗木「……面白い、面白いね葉隠君!!」
苗木「だけどみんな君の占いに否定的だよ?」
苗木「それでも君は占いを信じるの?」
葉隠「……確かに俺の占いは三割しか当たらない」
葉隠「けど、俺の直感はこの占いが正しいって言っているんだべ!」
葉隠「だから俺は俺の占いを信じるべ!!」
苗木「……そうか」
苗木「じゃあ勝負だね、葉隠君」
苗木「僕がクロかそうでないか……」
葉隠「ああ、勝負だべ! 苗木っち!!」
葉隠康比呂二周目のコロシアイ学園生活。
その最初の裁判で葉隠は自らの恩人と争うことになった。
―――――――――――――――――
C H A P T E R 1
カ バ イ キ ル
非日常編
―――――――――――――――――
捜査時間開始。
霧切「まず、見張り役を決めたいのだけど」
不二咲「見張り役?」
霧切「ええ。クロが証拠を消したりしないかを見張るためにね」
霧切「三人ほど欲しいわ」
葉隠(ん? 三人?)
大和田「それなら俺がやってもいいぜ。あんま考えるのは苦手だしな」
大和田「……まあ、そんなことをしなくてもクロは苗木だろうがな」
大神「それなら我もやろう」
朝日奈「さくらちゃんがやるなら私もやる!」
山田「けど、どうして三人なんですか。一部屋を見張るのには多いと思いますが」
不二咲「一人で十分じゃないの?」
セレス「それではその一人がクロでしたら、証拠の消し放題でしょう?」
霧切「セレスさんの言う通りよ」
霧切「ということで部屋の見張りは二人……大神さんと朝日奈さんに頼むわ」
大和田「じゃあ俺は何をすればいいんだよ?」
霧切「大和田君にはそれ以上に重要な仕事」
霧切「現在クロ筆頭の苗木君の見張りを頼むわ」
苗木「……へえ」
大和田「……そういうことか」
霧切「ねえ、苗木君あなたは自分が犯人だと認めるのよね」
苗木「そうだよ。往生際の悪い人間って見苦しいからね」
霧切「だったらあなたは捜査する必要がないわよね?」
苗木「自分の犯した殺人だよ? 方法なんて分かりきっているさ」
霧切「それなら大和田君と一緒に、どこかの教室にこもっててくれる?」
葉隠(これは霧切っち上手いべ)
葉隠(苗木っちは嘘のクロだから、今回の犯行の全容を知らない)
葉隠(このまま苗木っちが捜査もせずに学級裁判に参加してくれれば、簡単にボロが出るはず)
葉隠「………………」
葉隠(それにしてもこの追い込み方、苗木っちがクロじゃないって分かっているのか……?)
苗木「そうだけど、もう一度桑田君の死体を見てみたいからね」
苗木「ボクも捜査に参加させてよ」
葉隠(当然それじゃやばい苗木っちは反対する)
霧切「……はっきり言うわ、苗木くん。あなたにうろちょろされると困るのよ」
苗木「どうして?」
霧切「あなたが捜査時間中にもう一人殺さないって保証がどこにあるの?」
苗木以外「!?」
苗木「そんなことするわけないじゃないか。ボクが超高校級のみんなを殺して何の得になるのさ?」
苗木以外「………………」
苗木「……って言っても信じてくれないみたいだね」
霧切「あなたが出歩いているってだけで、みんなの捜査の足が鈍るの。だから、みんなのためにも教室に閉じこもってくれる?」
葉隠(話の持って行き方が上手いべ)
葉隠(みんなの恐怖を煽ることによって苗木っちの行動を縛る……)
葉隠(実際には大和田っちの前でそんなマネできるはず無いけど、それをあえて言わなかったのもポイントだべ)
葉隠(そしてこう言われれば超高校級の高校生を神聖視する今の苗木っちのキャラ………………) ピカン!
葉隠(……何かインスピレーションが降りてきたべ)
葉隠(今の苗木っちの状態を狛枝状態って言うことにするべ)
葉隠(その狛枝状態の苗木っちは従うしか無くなる)
苗木「分かっ……」
葉隠(裁判始まるまでもなく、俺の勝ちが決定したべ……)
葉隠が勝ちを確信したその瞬間。
モノクマ「ダメです!」
突然現れるモノクマ。
葉隠「……っ!?」
葉隠(そうだ。忘れていた……)
葉隠(モノクマは校則に触れない限りで、クロに協力をする……)
霧切「……ダメって何がダメなの?」
モノクマ「捜査を行うのは皆に平等に与えられた権利です」
モノクマ「それを不当に奪うことは禁じられています」
モノクマ「……ボクはクマ一倍権利に敏感だからね」
それだけ言って帰っていくモノクマ。
霧切「……そういうことみたいね」
霧切「なら苗木君も捜査に参加しても良いけど、行動するときは大和田君と一緒でお願い」
霧切「大和田君も苗木君が何か不審な行動をしたらやめさせて」
苗木「超高校級の暴走族の前でバカなマネはしないって」
大和田「絶対に見逃さねえからな」
霧切「というわけだからみんなも安心して捜査して」
葉隠「………………」
葉隠(霧切っちの狙いは失敗したけど最初に戻っただけだべ)
葉隠(やっぱり苗木っちを裁判で論破しなければ勝ちにはならないんだべ)
葉隠「そうと決まれば捜査がんばるべ!!」
霧切「ああそう、大和田君。苗木君のボディチェックをしておいた方がいいんじゃないかしら?」
霧切「すでに危険なものを持っていないか確かめるためにね」
大和田「そうだな。おい苗木、今からおまえのボディチェックを行う。逃げるんじゃねえぞ」
苗木「だから超高校級の暴走族相手に逆らうつもりは無いって」
霧切「私は先に捜査に行くわ」
葉隠(霧切っちが体育館を出ていく。……きっと苗木っちの部屋に向かったんだろう)
葉隠「俺も行動しないとな。……まずは捜査の基本、モノクマファイルを見るべ」
被害者は桑田怜恩。
死亡時刻は午前一時半頃。
死体発見現場は寄宿舎エリアの苗木誠の個室。現場にはカギがかかっていたためモノクマが開いた。
致命傷は刃物で刺された腹部の傷。
その他に外傷は無し。
葉隠(ほとんど一周目の舞園っちと同じだべ)
葉隠(違うところはやっぱり……)
『モノクマファイル』のコトダマを手に入れた。
葉隠「次は苗木っちの部屋に行くべ」
苗木の部屋にやってきた葉隠は、すぐに一周目との違いを見つける。
葉隠(一つ目は当然だが模擬刀が落ちていないこと)
葉隠(二つ目は争った形跡が無いこと……)
苗木の部屋はきれいなままだ。
葉隠(桑田っちには模擬刀という抵抗手段が今回無かった……)
葉隠(つまり舞園っちの最初の攻撃で殺されたということ……)
葉隠(そう考えれば争いの跡が無いのも納得できる)
葉隠(そして三つ目は苗木っちのカギが部屋の中に落ちていないこと)
葉隠(それはつまり……)
葉隠「どういうことだべ?」
『カギの行方』のコトダマを入手しました。
葉隠「次は桑田っちの死体を調べるべ」
葉隠(前回舞園っちの死体はシャワールームにあった)
葉隠(けど、今回桑田っちの死体は普通に部屋の中央、どちらかというと入り口寄りの場所にある)
葉隠(これも前回は舞園っちは抵抗の末にシャワールームに逃げ込んだのであって)
葉隠(今回の桑田っちは抵抗する間もなく殺されたのだから当然だべ)
葉隠(それと同様に腕にも打撃痕がない)
葉隠(桑田っちが思いつかなかったのか、それとも残す余力が無かったのかダイイングメッセージも無い)
葉隠(……ん? ちょっと待つべ。今回呼び出された側の桑田っちが殺されたということは……)
朝日奈「葉隠よく死体をじろじろと見れるね?」
葉隠「え?」
朝日奈「私はちょっと……。部屋の見張りだってなるべく死体を視界に入れないようにしてるし」
大神「確かに見慣れているようだった。お主、死体をよく見るような環境にいたのか?」
葉隠「ま、まあ、職業上の理由だべ!!」
朝日奈「職業上の理由? けど葉隠って占い師じゃなかったの?」
葉隠「そ、それはその……」
葉隠(まずい、とっさの言い訳としては杜撰過ぎたべ)
葉隠(学級裁判を何回も通している俺は、嬉しくないことだが死体を見慣れてた)
葉隠(けど、みんなにとってはこれが初めての裁判)
葉隠(死体を初めて見るという人の方が多いはずだべ)
葉隠(本当のことを言うわけにはいかないし、これからどうすれば……)
大神「死人をよく見る……。つまり、裏の世界の占い師だったということか?」
葉隠「………………」
朝日奈「………………ぷっ。さ、さくらちゃん? 今のってダジャレ?」
大神「……」
大神「…………」
大神「………………! ま、待つのだ! 我はそういうつもりで言ったわけでは!」
朝日奈「裏の世界の占い師って、占い師で、裏がないのに裏の世界なんて……!」 プハッ!
大神「ご、誤解だ!!」
葉隠(……びっくりしたべ。あのオーガがダジャレを言うなんて……)
葉隠(まあ、本人の様子を見る限り、そういう意図があっての発言では無いと思うが……)
葉隠(まあ、何にしろ話も逸れたし捜査再開するべ!)
捜査を再開して部屋を見回した葉隠の目に止まったのは。
葉隠(……ん? 霧切っちはどうして膝をたたんだ姿勢で部屋の床をすみずみまで見てるんだべ?)
葉隠「霧切っち、何をしてるんだべ?」
霧切「何って捜査よ」
言いながら立ち上がる霧切。
霧切「あなたより先に死体は見終わったから、他の捜査をしていたのよ」
葉隠「……それで何か分かったのか?」
霧切「この部屋一本も髪の毛が落ちてないのよ」
霧切「どういうことかしら……苗木君?」
葉隠「……!」
苗木「僕がきれい好きだから掃除をした。ただそれだけだよ」
霧切「部屋中をくまなく?」
苗木「そうだよ」
葉隠(振り返ると苗木っちがいた)
葉隠(苗木っちも捜査をすることになったからこの部屋を訪れるのは当然とはいえ、いきなりのことに驚いた)
霧切「そう……。じゃあこの部屋は調べ終わったから、私は出ていくわ」
葉隠(俺もこの部屋は見尽くしたし、出て……)
霧切について葉隠も出ようとして一つ思い出した。
葉隠(そういえば一周目のときはメモ帳を鉛筆でこすって文字を浮かび上がらせていたはずだべ)
葉隠(一周目では霧切っちがメモ帳を裁判場まで持って行ってた)
葉隠(だからてっきり今回も霧切っちが持って行ったのかと思ったが、まだ残っている)
葉隠「試してみるべ」
葉隠はメモ帳を鉛筆でこするが。
葉隠(何も浮かび上がらない……?)
葉隠(これはどういうこと……って、そうだ。今回は証拠隠滅したのは舞園っちだべ)
葉隠(桑田っちはこのメモ帳に気付かなかったけど、舞園っちは気づいて破いた)
葉隠(見た感じメモ帳に何枚か破いたあとがあるべ)
葉隠「…………ということは」
部屋の外に出て、扉を見る葉隠。
葉隠「やっぱり……」
そこにあったネームプレートにはナエギと書いてある。
葉隠(舞園っちが桑田っちを殺した後で入れ替えなおしたんだべ)
葉隠「ん、待てよ」
葉隠「証拠隠滅したクロが変わったということは……」
葉隠(ちょうどいいことに山田っちも廊下にいるべ)
葉隠「おーい、山田っち」
山田「むむ、なんですか、葉隠殿」
山田に事情を説明してトラッシュルームに入る葉隠。
だが、そこには何も変化はなかった。
葉隠(それも当然だべ)
葉隠(ここで証拠を隠滅できたのは桑田っちの超高校級の野球児の能力があってこそ)
葉隠(舞園っちには無理な芸当だべ)
葉隠「………………」
葉隠(じゃあ舞園っちはどこで証拠を隠滅したんだ?)
無い頭を捻って考える葉隠。
結局何も思いつかないまま、食堂にやってきた。
葉隠「やっぱり包丁が一本欠けているべ」
『無くなった包丁』のコトダマを入手しました。
葉隠(そういえば一周目で包丁を持ち出した舞園っちを見たのは朝日奈っちだったか)
葉隠(今回は苗木っちの部屋にいるはずだし、確認に行くべ)
再び苗木の部屋に戻る葉隠。
葉隠「朝日奈っち聞きたいことがあるんだが」
朝日奈「なになに?」
そして昨夜のことを聞き出す葉隠。
葉隠(内容は一周目と変わりなかった)
葉隠(つまり一周目と変わらず包丁を持ち出したのは舞園っちしか考えられないべ)
葉隠(これを使えば苗木っちを追い詰めることができる!……はず)
『朝日奈の証言』のコトダマを入手しました。
葉隠(そういえば一応朝の様子についても聞いてみるか)
葉隠「今日の朝食会はどんな感じだったのか?」
朝日奈「いつも通りだよ」
朝日奈「まず私とさくらちゃんと石丸と不二咲ちゃんが来て」
朝日奈「朝食の用意をしていたら苗木が来て」
朝日奈「石丸が苗木によく分かんない話してると思ったら、舞園ちゃんが江ノ島と話しながら一緒に来て」
朝日奈「えっとその後は山田と大和田と腐川ちゃんかな」
朝日奈「あっ、そうそう山田は入ってくるなり石丸から解放された苗木を掴まえて何か力説してたよ」
朝日奈「でマイペースな霧切ちゃん、セレスちゃん、十神が遅れてやってきて」
朝日奈「それでも葉隠と桑田が来ないな、ってなったところにモノクマのアナウンスが流れたの」
葉隠「ふむふむ、ありがとだべ」
葉隠(聞いておいてなんだけど、今の話……)
葉隠(裁判で役に立つのか……?)
葉隠(まあ、メモはしておくべ)
『朝食会の様子』のコトダマを入手しました。
キーン、コーン……カーン、コーン。
モノクマ「えー、ボクも待ちくたびれたんでお待ちかねの学級裁判を始めます!!」
モノクマ「学校エリア一階にある赤い扉に入ってください」
葉隠「捜査もここまでだべ」
葉隠「これだけの材料で苗木っちをロンパできるか……」
葉隠「って何不安になっているんだべ!」
葉隠「やらなきゃ死ぬ……」
葉隠「だから全力でやってやる!」
葉隠(過去に戻ってまで死ににきたわけじゃない)
葉隠(絶対に生き残るべ!!)
赤い扉をくぐると全員が集合している。
苗木以外「………………」
苗木「そんな睨み付けて、みんな怖いなあ」
葉隠(自分がクロだと言い張る苗木を相手にみんな敵意を出してるべ)
葉隠(……いや、出していない人もいるか。俺と……)
舞園「……………」
葉隠(舞園っちと……)
霧切「全員そろったわね」
葉隠(霧切っち……)
葉隠(舞園っちは苗木っちがクロで無いのを知っているから当然とはいえ)
葉隠(霧切っちはどういう考えなんだ?)
葉隠(霧切っちにはこの事件がどこまで見えているんだ?)
モノクマ「うぷぷ……みんなそろいましたね」
モノクマ「それでは正面のエレベーターにお乗りください」
モノクマ「オマエラの運命を決める裁判上に連れてってくれるよ」
モノクマの言葉に従ってみんな乗り込んだところでエレベーターは動き出した。
ゴウン、ゴウンと音を響かせながら地下へ下りていく。
扉が開いて現れたのは……見慣れた学級裁判場。
葉隠(またここに来てしまったべ)
これまで六回の裁判が脳裏をよぎる葉隠。
葉隠(ここに来た限り、絶対に誰かは死ぬ)
葉隠(これまで俺は苗木っちや霧切っち、十神っちに助けられてここから生きて出ていた)
葉隠(けど、今回は自分の力で生き残って見せるべ!)
葉隠(敵はあの苗木っち、そして現状がすでに劣勢だったとしても!)
そして幕は開く……
命がけの裁判……
命がけの騙し合い……
命がけの裏切り……
命がけの謎解き……命がけの言い訳……命がけの信頼……
命がけの……学級裁判……!!
学級裁判開廷!!
コトダマリスト
『モノクマファイル』
『カギの行方』
『無くなった包丁』
『朝日奈の証言』
『朝食会の様子』
モノクマ「まずは学級裁判の簡単な説明から始めましょう」
モノクマ「学級裁判の結果はオマエラの投票により決定されます」
モノクマ「正しいクロを指摘できればクロだけがおしおき」
モノクマ「だけど間違った場合、クロ以外がお仕置きされ、クロだけが卒業できます」
霧切「あの写真は?」
桑田と江ノ島の写真を指さす霧切。
モノクマ「死んだからって仲間外れはかわいそうでしょ」
セレス「それでしたらあの空席は……?」
モノクマ「……深い意味はないよ。最大16人収容可能な裁判場っていうだけ」
モノクマ「前置きはこれくらいにして議論を開始してくださーい!!」
石丸「断言しよう、殺されたのは桑田レオンだ!」
大和田「そんなの分かっているだろ」
十神「殺人が起きたのは苗木の部屋だったな」
朝日奈「死体は部屋の中央にあったよね」
不二咲「きっと桑田君は部屋にいるところに襲われて」
不二咲「『抵抗むなしく』殺されちゃったんだね」
コトダマセット『モノクマファイル』 カチャ
葉隠「それは違うべ!!」 パリーン!
葉隠「ちょっと待つべ、不二咲っち」
葉隠「モノクマファイルを見ると、死体は刃物で刺された腹部の傷以外に外傷は無いってなっている」
葉隠「もし桑田っちが抵抗したなら、腹部の傷以外にも外傷がついているはずだべ」
霧切「そうね……それは部屋の状況からしても分かるわ」
霧切「もし争いごとがあったとしたら綺麗すぎるもの、あの部屋は」
不二咲「じゃあ桑田君は……」
葉隠「不意を突かれて殺されたんだべ」
セレス「おそらく部屋を訪れたところをいきなりでしょうね」
セレス「死んでいる場所がどちらかというと入り口寄りですし」
十神「そんなの現場を見ればすぐに分かることだ。わざわざ説明するまでもない」
不二咲「ご、ごめんなさい……」
葉隠「じゃあ続きを始めっか」
大神「では、次は凶器の話だな……」
山田「なんだかそれっぽくなってきましたな」
大神「桑田レオンを殺した凶器は何だったのか」
石丸「腹部に刺さっていた刃物……間違いない! あれが凶器だ!」
大和田「犯人が『ナイフ』でぶっ刺しやがったんだな」
コトダマセット『無くなった包丁』 カシャ
葉隠「それは違うべ!!」 パリーン!
葉隠「あの刃物はナイフなんかじゃなくて厨房の包丁だったはずだべ」
大和田「あ? 包丁だぁ……?」
葉隠「厨房にあった包丁が事件後に一本なくなっていたべ」
大神「その包丁が凶器になったという事か」
大和田「確かに……桑田の野郎に刺さっていた刃物」
大和田「よく見ると包丁だな、こりゃ……」
腐川「凶器が包丁だって分かって何の意味があるのよ」
腐川「どうせ苗木が犯人に決まっているんでしょ……!」
葉隠(ここまでの裁判は前周回とほとんど同じ)
葉隠(違いは殺されたのが桑田っちになったのと、争いが無かったことくらいだべ)
葉隠(けど、今周回はここで……)
苗木「そうだよ。僕がクロだよ」
葉隠(苗木っちがクロ疑惑を否定しないどころか認める)
葉隠(これは一周目には無かったこと)
葉隠(ここからが一周目の記憶が通用しない、本当の裁判だべ……!!)
霧切「みんな苗木君の発言に振り回されないで」
霧切「結論は裁判を進めた後で出しましょう。……でないと学級裁判の意味がないわ」
苗木「これ以上話し合ったところで結論は変わらないと思うけどね」
葉隠(霧切っちが一周目同様の発言をするも、当の苗木っちが認めているから効果が薄い)
葉隠(ここはさっさとあの証拠を挙げるべ)
葉隠(苗木っちがクロじゃないのはそれで一目瞭然なんだから)
山田「確かに凶器は包丁みたいですけど、それがどう関わるのでしょうか?」
腐川「そうよ。どうせ苗木が『食堂に誰もいないとき』にこっそりと持ち出したのよ」
コトダマセット『朝日奈の証言』 カチャ
葉隠「それは違うべ!!」 パリーン!
腐川「どうして否定するのよ……私がブスだからでしょ」
葉隠「前後の脈絡に全くつながりがない……」
葉隠「って、そうじゃなくて厨房から包丁を持ち出したのは苗木っちじゃないんだべ!!」
苗木「どうしてそう言えるの?」
葉隠「それは朝日奈っちが知っているべ」
朝日奈「え? 私?」
葉隠「昨日の夜の出来事をみんなに話してくれ、朝日奈っち」
朝日奈「うん、いいけど……」
朝日奈「昨日の夜ね、私さくらちゃんと二人で紅茶飲んでたんだけど」
朝日奈「紅茶作るときはあったはずの包丁が、飲み終わって片づけるときには無かったの」
大神「そうだったな」
不二咲「え? じゃあ包丁はどこに……」
葉隠「二人が紅茶を飲んでいる間に、一人だけ食堂に来たんだよな」
朝日奈「うん」
十神「……それは誰だ?」
朝日奈「えっと……舞園さやかちゃんだよ」
石丸「ということは……」
セレス「包丁を持ち出したのは舞園さんとなりますが……」
セレス「あら、おかしいですわね?」
大和田「クロだって言ってる苗木じゃなくて、舞園が包丁が持ち出したってどういうことだ?」
不二咲「どう考えても凶器を使った人がクロだよね……ってことは」
葉隠「舞園っちが本当のクロだべ」
苗木「………………」
葉隠(言い逃れの出来ない証拠……)
葉隠(これで俺の勝ちが確定したべ)
葉隠「………………」
葉隠(そのはずなのに、何で苗木っちは落ち着いている?)
葉隠(桑田っちならアホアホ言うレベルの状況だってのに何故?)
苗木「……フッフッフッ」
苗木「アーハッハッハ!!!」
葉隠「……どうして笑ったべ、苗木っち?」
苗木「いやいや、葉隠君って短絡的な思考だなって思ってさ」
葉隠「短絡っ……!?」
葉隠「何を言うべ!! 凶器を持ち出した人しか、凶器は使えない!!」
葉隠「なら、舞園っちがクロなのは当然だべ!!」
苗木「だからその思考が短絡的だって言っているんだよ」
苗木「どうして凶器の調達なんて、クロだとすぐにバレることを自分でやると思ったの?」
苗木「僕はこれでも裁判のルールを聞く前は、本気で卒業するつもりだったんだよ?」
苗木「みんなにバレないように殺人を犯す……」
苗木「そのためには凶器の調達で足がついてはいけない」
苗木「そのくらいは考えたさ」
苗木「だから舞園さんに包丁を持ってきてもらった」
葉隠(………………)
葉隠(苗木っちは何を言っているんだ?)
大和田「けど、包丁持ってこいなんてどうしたって怪しまれるだろ?」
山田「そうですぞ。そんなこと自分がこれから殺人を犯すって言っているようなものじゃないですか」
苗木「そこは簡単だよ」
苗木「夕食を食べ終わった後、僕は厨房からリンゴを一つ自分の部屋に持って帰ったんだ」
苗木「後は夜時間に入る少し前に舞園さんと会う約束をしておけば完璧さ」
苗木「一緒にリンゴを食べようと思って持ってきたけど、包丁を忘れちゃった……って言えばね」
苗木「親切な舞園さんはそれくらい自分が取ってきますって言ってくれたよ」
苗木「それで食べ終わったら、片づけは明日の朝自分でするって言えば包丁は自分の手元に残る……完璧さ」
葉隠(……この話は嘘だべ)
葉隠(そう判断する根拠は……思いつかないけど、一周目はそんな事無かった)
葉隠(だからあり得るはずがない)
葉隠(つまりこれは苗木っちが、舞園っちをかばうために吐いた苦し紛れの嘘)
葉隠(けど、こんな嘘簡単に破れるべ)
葉隠(だって嘘をつかれた当の本人が否定すれば…………って)
葉隠(この場合否定しないといけないのは…………!) バッ!
霧切「舞園さん……今の話本当なの?」
霧切に問われた舞園はうつむいて何やら逡巡していた。
けど、それは問われる前から見ていた葉隠だけが気づけたことで。
霧切の問いに、みんなの注目が舞園に集まったときにはそんな素振りの全く見えない顔で……
舞園「そうですよ」
肯定した。
舞園「昨日の昼の内に、苗木君の部屋に行くことは約束していたんです」
舞園「あんなDVDを見た後で落ち着きがなくなっていて……」
舞園「そしてそのときに苗木君のおかげで精神の平静を保てて」
舞園「だから夜も彼と話をして心を落ち着けようとしたんですが」
舞園「まさか私の訪問がそんな風に利用されるなんて……」
苗木「ごめんね、舞園さん」
葉隠(やられたべ……)
葉隠(こんな嘘、本来なら学級裁判で成り立つはずがない)
葉隠(これが成り立ったのは、苗木っちの命をかけた共犯関係のせいだべ)
葉隠(二人が話を合わせれば他の人は信じるしかない)
葉隠(だって、卒業できるクロは一人でそれに協力するなんて人が普通いるはずがないんだから)
葉隠「………………」
葉隠(捜査時間中もずっと苗木っちには大和田っちがついてたはずだから、今の嘘は事前に示し合わせたものではないはず)
葉隠(それでもこの二人の組み合わせなら楽勝だべ)
葉隠(苗木っちの弁論スキルは前の周回から明らかだし)
葉隠(苗木っちのどんな嘘にも、超高校級のアイドルである舞園っちなら即興で合わせることができる)
葉隠(ってこのままじゃ俺の勝ち目は無いんじゃないか……?)
大和田「ってことは何だぁ? お前は舞園に疑いを向けさせるつもりだったんだな?」
苗木「そうだよ。……何か悪かった?」
大和田「……こいつ殴っていいか?」
朝日奈「殴る必要なんてないって」
朝日奈「もうこのまま投票して、おしおきしてもらえばいいんだよ!」
山田「二次元しか興味のない僕でも、舞園殿に対する仕打ちは酷いと思いますぞ」
セレス「あなたは少々見込みがあると思ってたのですが……残念ですわね」
腐川「そうよ、最初からこんな裁判なんて必要なかったのよ」
不二咲「苗木君がクロだなんて……けど、これ以上議論することもないし」
葉隠(まずいべ、さっきの嘘発言でさらにみんなの苗木っちに対する敵意が増している)
葉隠(まさかここまで計算に入れて苗木っちはあの発言を……?)
葉隠(何にしろこのままじゃ……)
苗木「みんな同じ意見みたいだし」
苗木「モノクマ、そろそろ投票……」
霧切「ちょっといいかしら、苗木君」
苗木「………………」
苗木「何だい霧切さん?」
霧切「いえ……そろそろあなたには本当のことを話してもらおうと思ってね」
裁判中断!!
モノクマ「いやー、葉隠クンも惜しいところまでは行ったね」
モノクマ「けど、彼はこれまでの裁判と今回の裁判を同じだと勘違いしていたんだよ」
モノクマ「ん? 何でボクが葉隠クンが何回も裁判を受けているか知っているかって?」
モノクマ「今、この空間は本編とは関係ないんだよ。だから、知ってても問題は無いんだよ」
モノクマ「そうそう、葉隠クンが何を勘違いしてたかって?」
モノクマ「それはいつものように証拠を挙げて正しいクロを導くんじゃなくて」
モノクマ「今回の裁判の本質はどうやって苗木クンを言い負かすかって、ところにあるんだよ」
モノクマ「だって苗木クンはクロになりたがっているんだよ」
モノクマ「彼を言い負かさない限り、葉隠クンには勝ち目が無いよ」
モノクマ「ただ、正しい証拠を挙げるだけじゃ、舞園さんも協力してくれる苗木クンならかわせるからね」
モノクマ「事実そうなっちゃったし」
モノクマ「じゃあどうすればいいのかって。そこはもう普通の弁論だよ」
モノクマ「……例えばだけどね、相手に矛盾した発言をさせるとか……ね」
モノクマ「さて、この後は裁判後半だよ」
モノクマ「霧切さんが発言したようだけどどうなるのかな?」
モノクマ「うぷぷ……」
モノクマ「最後に絶望するのは誰なんだろうね」
苗木「何を言っているんだい? 霧切さん」
苗木「僕は本当のことを話しているよ」
霧切「……これを見てもそう言えるのかしら」
霧切が見せるのは葉隠の記憶にも残っているメモ。
桑田に夜時間になったら自分の部屋を訪れてほしいという旨の書かれた物。
差出人は、舞園さやかとなっている。
葉隠「……ん?」
葉隠(どういうことだべ……。メモ帳は破り取られてたから、そのメモは残っていないはずなのに)
気になった葉隠はそのメモを注視して気づいた。
葉隠(そうか。これは前周回とは違って、白と黒が反転している)
葉隠(つまりこれはメモ帳に残った筆圧を浮かび上がらせたのではなく)
霧切「桑田君の死体に残っていた物なのだけれど……おかしいわね? 差出人が舞園さんになっているわ」
葉隠(呼び出したメモ、その現物なんだべ)
葉隠(今回呼び出した側の桑田っちが死んだから、残ってしまった)
葉隠(舞園っちは証拠隠滅をきっちりしていたけど……きっと死体にさわる勇気はなかったに違いない)
苗木「こ、これはその…………」
苗木「………………」
苗木「あの、ほら、ネームプレートを入れ替えたんだよ」
苗木「だって桑田君は僕が誘っても来ない可能性があるでしょ」
苗木「けど、舞園さんからの誘いとなれば必ず来るに違いない」
苗木「だから舞園さんからってことにしたんだよ」
霧切「そう……」
霧切「私には苗木君の今の言い分が嘘か本当か見抜くことはできない」
霧切「けど……今、答えるまでに少し間があったわよね?」
霧切「本当のクロなら即答できるはずなのに……まるで考え出したかのように……ね」
苗木「………………っ!」
霧切「さて、まだ聞きたいことはあるわ」
霧切「あなたの部屋に一本も髪の毛が落ちていなかった件なんだけど」
苗木「だ、だから僕が綺麗好きなんだって」
葉隠(苗木っちが動揺している。……先ほどの霧切っちの発言が効いているのだろう)
霧切「一本も落ちてなかったのよ? そこまで神経質に掃除ってするものかしら?」
十神「どう考えても証拠隠滅だとしか考えられないよな?」
葉隠(出たべ、十神っちの追いうち)
霧切「そういうことよ」
霧切「けど、それならどうして苗木君は証拠を隠滅する必要があったのかしらね?」
霧切「自分の部屋に自分の髪の毛があるのは当然よ」
霧切「これじゃまるで苗木君の部屋に他の人がいて、苗木君に罪を被せるために証拠を消したようじゃない」
苗木「そ、そんなつもりは無いんだって!」
苗木「本当にただ掃除をしたかっただけなんだって!」
苗木「……どうして霧切さんも十神くんも僕を疑うんだよ」
苗木「『僕の部屋に他の人がいたはずなんてない』んだって!」
葉隠(動揺の続く苗木っちが見せた隙……)
葉隠(俺はここぞとばかりに叫ぶ)
コトダマセット『カギの行方』 カシャ
葉隠「それは違うべ!!」 パリーン!
葉隠「だったら苗木っちカギを見せて欲しいべ」
苗木「…………!」
霧切「なくしたっていうのは無しよ」
苗木「……ぐっ!」
しょうがなくカギを出す苗木。
霧切「このカギ、舞園さやかって名前が書いているわね?」
葉隠「そうか……なら、舞園っちもカギを見せてくれ」
舞園「…………」
スッとカギを出す舞園。
霧切「こっちには苗木誠って書いているわね? これはどういうことかしら?」
十神「カギの交換ってことは……」
十神「部屋の交換があったってことだよな?」
朝日奈「ね、ねえ結局どういうことなの?」
不二咲「何か舞園さんがクロみたいな流れになっているけど……」
葉隠(訳の分からない朝日奈っちと不二咲っちが尋ねる)
葉隠(それ以外にも分かっていない人は結構多く、霧切っち、十神っち、俺以外は話についてこれていないようだ)
葉隠(セレスっちだけはポーカーフェイスでどちらなのか分からないが……)
葉隠(まあ俺だって前周回の記憶があるから話についていけてるような状態だからな)
霧切「そうね、この事件を一から説明していきましょう」
霧切「まず、最初に苗木君とクロの部屋交換があった」
霧切「名目は……そうね。怖かったから、とかかしら」
霧切「誰かが自分の部屋のドアを開けようとしていた。自分が狙われている、とかクロが理由付けて部屋交換を提案した」
霧切「もしくは苗木君の方から部屋交換を提案したかもしれないわね」
霧切「そして首尾よく部屋交換を果たしたクロは、桑田君を部屋に呼び出した」
霧切「そのままじゃ苗木君がいるクロの部屋に行ってしまうから、ネームプレートを交換したのかもしれないわね」
霧切「そしてクロは訪れた桑田君を隠し持っていた包丁で刺した」
霧切「その後は証拠の隠滅よ」
霧切「苗木君の部屋にクロの髪の毛があったらいけないから、丹念に掃除したり」
霧切「返り血を浴びた服をランドリーで洗濯したり」
霧切「ともかく自分が殺人を犯した証拠と、苗木君の部屋にいた証拠を消し去った」
霧切「そうやって苗木君に罪を被せようとした……」
霧切「そのクロは舞園さん……あなたよ」
苗木「ちょ、ちょっと待ってよ! 舞園さんがクロだなんてそんなわけがないんだって!」
十神「そうやって反論するからには、カギが交換されていた理由について説明できるんだよな?」
苗木「そ、それは………………」
舞園「苗木君とカギのデザインについて話になったんです」
苗木「……! そ、そうだよ! それで二人の物を出して見比べたから、その後取り間違って……」
苗木「だからカギの交換は『今日の朝食会で舞園さんと話したとき』に起きたんだよ!」
コトダマセット『朝食会の様子』 カチャ
葉隠「それは違うべ!!」 パリーン!
苗木「……何が違うの?」
葉隠「え? ……えっと…………」
葉隠(とりあえず残っているコトダマを使ってみたけど……その……)
霧切「はぁ……」
霧切「朝日奈さん、朝食会の様子を話してもらえる?」
朝日奈「え、えっと分かったよ」
朝日奈「まず私とさくらちゃんと石丸と不二咲ちゃんが来て」
朝日奈「朝食の用意をしていたら苗木が来て」
朝日奈「石丸が苗木によく分かんない話してると思ったら、舞園ちゃんが盾子ちゃんと話しながら一緒に来て」
朝日奈「えっとその後は山田と大和田と腐川ちゃんかな」
朝日奈「あっ、そうそう山田は入ってくるなり石丸から解放された苗木を掴まえて何か力説してたよ」
朝日奈「で、マイペースな霧切ちゃん、セレスちゃん、十神が遅れてやってきて」
朝日奈「それでも葉隠と桑田が来ないな、ってなったところにモノクマのアナウンスが流れたの」
不二咲「それで今の話に何の関係があるの?」
霧切「朝食会に来た順番……あれはどうでもいいわ」
霧切「重要なのは、石丸君が苗木君に話をしていた」
霧切「それが終わった後は、山田君に掴まって話されていた」
霧切「その後にモノクマのアナウンスが流れた」
葉隠(そこまで言われて俺もピンときた)
葉隠「つまり苗木っちは舞園っちと朝食会で話す時間はなかったはずだべ!」
十神「それなのに今おまえは朝食会の時に舞園と話したって言ったよな? どういうことだ?」
苗木「……えっと」
十神「ああ、そうだ。苗木、適当なメモに文字を書いてくれないか?」
十神「あの桑田を呼びだしたメモと同じ筆跡か、この俺が直々に確認してやろう」
葉隠「そういえばリンゴを食べたって言ってたけど、その皮や芯はどこに捨てたべ?」
大神「朝食会の時、苗木は手ぶらで食堂にやってきたぞ」
葉隠「そういうことらしいから、どこに捨てたのか教えて欲しいべ」
セレス「そう言われてみれば、苗木くんは包丁を舞園さんに持ってきてもらったって言ってましたけど」
セレス「それで舞園さんに罪を被せるつもりでしたら、自分の部屋で殺すわけにはいきませんわよね」
セレス「そこのところ説明してもらえますか?」
霧切「それとランドリーを調べて見たところ、中が乾いていない洗濯機は一つだけだったわ」
霧切「つまり夜中に稼働した洗濯機はそれだけ」
霧切「その中から、青い毛が見つかったのだけど」
霧切「この中で青色が混じった服を着ているのは……舞園さんだけよね?」
苗木「それは……それは……」
苗木「何かあるはずなんだって!!」
苗木「舞園さんがクロな訳があるもんか!!」
苗木「みんな騙されているんだよ!!」
苗木「あのメモは舞園さんを脅して書かせた!!」
苗木「りんごは皮と芯まで全部食べた!!」
苗木「それから桑田君は廊下で殺すつもりで、それで舞園さんに罪を被せるつもりだった!!」
苗木「青い毛は僕のタオルの色だ!!」
苗木「タオルで返り血を防いだんだよ!!」
葉隠(喚くように言い訳する苗木っち……)
葉隠(それを他の人は冷たい目で見つめる)
葉隠(雰囲気的に舞園がクロで間違いない、という流れになっているが)
葉隠(苗木っちの言い訳はどうも嘘だと立証しにくい……)
葉隠(まだまだ裁判は続き……)
舞園「――もう終わりにしましょう、苗木君」
葉隠「……?」
苗木「……何を言っているんだよ、舞園さん」
舞園「何を言っているのか……ですか。つまりこういうことです」
舞園「桑田君を殺したクロは……私です」
苗木「舞園さん……?」
霧切「そう。舞園さん、本当にあなたが桑田君を殺したってことでいいのね」
苗木「違うんだって、桑田君を殺したのは僕で……」
舞園「はい。……殺害に至る経緯も霧切さんが言ったとおりです」
苗木「ちょっと僕を無視しないでよ! 僕が桑田君を……!」
舞園「だからもうかばわなくていいんです。苗木君」
苗木「僕が…………僕が…………」
舞園「苗木君は私がおしおきされるのを良しとしなかった」
舞園「そう思ったから、自分の命を投げ打ってまで、私を助けようとしたんでしょう?」
舞園「あのとき約束したように、何があっても味方であってくれた」
舞園「だから私はその苗木君の思いを無駄にしないように、口裏を合わせることにしました」
舞園「けど、やっぱり駄目なんです……!」
舞園「苗木君が私が死ぬことに耐えられないのと同じで!」
舞園「私だって苗木君を犠牲にしてまで生きたいとは思えないんです……!」
苗木「何言っているんだよ、舞園さん!!」
苗木「舞園さんは超高校級のアイドルで国民的アイドルなんだよ!」
苗木「対して僕は人よりちょっと運がいいだけの凡人……」
苗木「だとしたら、どっちが生き残るべきか決まっている!!」
舞園「……そう自分を卑下しないでください」
舞園「苗木君は決して凡人なんかじゃないです」
舞園「人が困っているときに助けてあげられる」
舞園「それのどこが普通なんですか?」
舞園「苗木君は凡人じゃない。特別な人です」
舞園「超高校級のアイドルである私が言うんですから間違いありません」
モノクマ「……何か青春ドラマが始まっているけど、まだ裁判は終わっていないよ?」
モノクマ「まあ、もう決まっているような物だけどルールだからね」
モノクマ「それではお手元の投票スイッチを押してくださーい!」
………………。
………………。
みんなの顔の映ったスロットが回る……回る。
そして徐々に遅くなっていき。
舞園さやかの顔のところでスロットは止まった。
モノクマ「ハイ、大正解ー!!」
モノクマ「何と超高校級の野球選手である桑田レオン君を殺したクロは」
モノクマ「超高校級のアイドル、舞園さやかさんでした!」
モノクマ「ただ、悲しいことに今回の投票。全員一致じゃありませんでした」
モノクマ「自分に入れるなんて苗木クン。頭どうかしちゃったの?」
モノクマ「多数決だったから良かったものの、次からもそんなんじゃ危ないよ?」
朝日奈「舞園ちゃん……」
不二咲「どうして……」
山田「舞園殿……」
葉隠「舞園っち……」
葉隠(そうか、舞園っちが最初に嘘をつく寸前の迷っていたような素振り)
葉隠(あれは苗木っちを犠牲にして生き残っていいのか葛藤していたものだったんだべ……)
葉隠(一度は決心したものの、やっぱり舞園っちは苗木っちを切り捨てることができなかった………………)
大和田「舞園よぉ、どうして桑田を殺したんだよ?」
舞園「………………」
舞園「皆さんも見たあのDVD」
舞園「一人一人中身が違うんでしょうが……私のは私がセンターを務めるアイドルグループが解散したという内容でした」
舞園「私はその真相を確かめたくて、卒業したくて……人を殺しました」
舞園「あの居場所、アイドルという肩書きこそが私を作っていましたから。……それが無くなったと聞かされてたまらなかったんです」
舞園「桑田君を狙ったのも、簡単に誘いに乗ってくれそうといったそんな理由でしかありません」
舞園「……そこまで決心して殺人を行ったはずなのに、学級裁判のルールを聞かされて」
舞園「みんな……苗木君を犠牲にしないと卒業できないと聞いて、私の決意は砕け散りました」
舞園「……所詮、私のアイドルに対する熱意なんてそんなものだったのかもしれませんね」
苗木「そんなことない!」
苗木「舞園さんは誰よりもすごいアイドルだよ!」」
舞園「……そうですか、ありがとうございます」
舞園「けど、やっぱり私はアイドルではありません」
舞園「だって人殺しが……皆さんに希望を与えるアイドルだなんておかしいでしょう?」
モノクマ「うぷぷ、もういいでしょ話はそれくらいで」
モノクマ「甘ったるさで胸焼けしそうだよ」
モノクマ「え? クマが胸焼けするのかって? ……それはボクにも分からないけど」
モノクマ「というわけで学級裁判の結果、見事クロを突き止めましたので」
モノクマ「今回はクロである舞園さやかさんのおしおきを行いまーす!」
朝日奈「おしおきって……」
不二咲「処刑……?」
苗木「どうしてだ!? どうして舞園さんがおしおきされないといけない!!」
苗木「……! そ、そうだ。僕が代わりにおしおきを受けるからさ、舞園さんのおしおきは無しにしてよ!」
モノクマ「うぷぷ、自己犠牲もここまで来ると寒気が起きるよね」
モノクマ「けど、それは受け入れられないよ」
モノクマ「だって苗木クンはクロじゃないんだから」
舞園「苗木君、もうかばわなくていいんです」
舞園「もう私は犯した罪から逃げるつもりはありません」
舞園「現実から目を逸らしちゃいけないんです」
舞園「人殺しがアイドルをやっていけるわけがない……」
舞園「そして…………」
舞園「………………」
舞園「そんな単純な事実を忘れていたから、私は殺人を犯しさらに苗木君に罪を押し付けるようなことをしてしまったんです」
モノクマ「それじゃクロのおしおきを始めちゃおうか! みんな待っているんだしさ!」
苗木「細かい理屈は関係ない!」
苗木「僕はただ単に舞園さんに生き残って欲しい!」
苗木「それだけなんだ!」
苗木「だって僕は…………」
苗木「僕は舞園さんのことを………………!」
モノクマ「今回は超高校級のアイドルである舞園さやかさんの為に、スペシャルなおしおきを用意しました!」
舞園「ダメですよ苗木君、その先を言っちゃ」
舞園「アイドルは恋愛禁止なんです」
舞園「そんなの苗木君だって分かるでしょう?」
舞園「……まあ、苗木君の言いたいことはもう分かっちゃったんですけどね」
モノクマ「では張り切っていきましょう! おしおきターイム!」
舞園「だって私――エスパーですから」
『舞園さやかさんがクロに決まりました。おしおきを開始します』
舞園(………………)
舞園(おしおきということで連れて来られたステージに立って私は歌っている……)
舞園が立っているのは巨大トラバサミの上に作られたステージ。
それが閉じたときに起きる悲劇は……誰でも想像できるだろう。
舞園(どうやら後ろにある歌の評価の点数が20点を超えればおしおきを免れるみたいですが……)
舞園(そんなことどうでもいい)
舞園(………………)
舞園(こうして歌ってみて……やっぱり私はアイドルという職業が好きなんだと再確認できた)
舞園(……さっき言ったことは嘘でしたね。私はアイドルに対する熱意をちゃんと持っていた)
舞園(けど、その熱意に勝るとも劣らない物も持っていたということで)
舞園(………………)
舞園(そういえば、忘れていました。私は殺人犯……アイドルである資格なんてないということに)
舞園(…………ということは恋愛禁止ではない?)
舞園(……でしたら苗木君の気持ちに答えるべきでしたね)
舞園(私が忘れていたもう一つの単純な事実……)
舞園(アイドルに勝るとも劣らぬ想いの正体……)
舞園(それは)
舞園(私も苗木君のことが――――)
ガシャン!!!!!!!
苗木「うわあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
モノクマ「エクストリーーーームッ!!」
葉隠「………………」
葉隠(殺人を犯し、アイドルとして生きていけないと言っていた舞園っち)
葉隠(そんな彼女の処刑方法はアイドルのまま殺すことだった)
葉隠(それは皮肉だったのか……それともアイドルとして死ねて本望だったのか)
葉隠(それはもう誰にも分からない)
葉隠(死んでしまえば全て終わりだべ……)
苗木「あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
葉隠(苗木っちの慟哭が裁判場に響きわたる)
葉隠(他のみんなも無惨な殺し方に顔面蒼白。言葉も出ない)
葉隠(人の死ぬ瞬間。俺だってこればかりは何回見ても慣れない)
葉隠「………………」
…………………。
モノクマ「いつまで経っても外の世界の未練を断ち切れないオマエラが悪いんだよ」
腐川「あ、当たり前じゃない! こんな訳の分からないところに閉じこめられて」
気付けば一周目と同じやりとりが始まっていた。
モノクマ「ふーん閉じ込められてねえ……」
モノクマ「けど、オマエラはこの学園の謎を全て知ったときこう思うはずだよ」
モノクマ「ここで一生暮らせるなんて幸せだってね!」
霧切「ずいぶん意味深なことを言うのね。さっきもそうだけど……」
モノクマ『それじゃクロのおしおきを始めちゃおうか! 『みんな』待っているんだしさ!』
霧切「あなたが言う『みんな』……それって誰のことかしら」
モノクマ「さあね。ボクから言えるのはここまでだよ。楽しみは、後にも取っておかないとね!」
モノクマ「ぶひゃっひゃっひゃっ……!」
そしてモノクマは姿を消した。
苗木「あ…………あ…………ああ…………………」
目の焦点があっていない。涙は拭われることなく落ちていく。口からは呻きが止まらない。
そんな悲惨な状態の苗木。
葉隠(終わった……)
葉隠(二周目初めての裁判……クロと被害者が一周目と入れ替わった裁判がようやく終わった)
葉隠(俺は苗木っちに勝った)
葉隠(けどその結果舞園っちは死んでしまうし、苗木っちは悲惨な状態だし)
葉隠(本当に勝った意味はあったのか……?)
十神「ちっ、不愉快だな」
葉隠(……? 十神っち、何を……?)
十神「いつまで泣いているんだ苗木」
十神「おまえのおかげで最初のゲームも結構楽しめた」
十神「舞園を守るために自分を犠牲にしたこと……」
十神「それ事態は全く理解できない行為だが、自らが望む結果を出すために努力したおまえを俺は評価しているぞ」
十神「だが、それだけの意志があって何故今泣いている?」
十神「舞園は死んだ。つまりおまえはゲームに負けたんだ」
十神「潔く敗北を受け入れろ」
朝日奈「何言っているんだよ十神!」
大和田「そうだぞ、こいつは舞園のために俺たちを殺そうとしたんだぞ!! それを認めるような発言をしやがって……!」
十神「殺そうとした、だろう。実際は俺たちが今生きている。それが全てだ」
十神「それに苗木に負けて死ぬ展開など、この俺に限ってありえん」
葉隠(そうか。結果は同じでも、経過は違う)
葉隠(一周目ではみんなを守るために必死だった苗木っちだったけど)
葉隠(この周目では、舞園っちのためにみんなを殺そうとした頭の狂った人物)
葉隠(そのせいで苗木っちは責められるはずだったけど……)
葉隠(どういう風の吹き回しか十神っちが庇って……)
葉隠「………………」
葉隠(いや十神っちの性格を考えると、どう考えても言いたいことを言っただけだべ)
セレス「あらあら、良いではないですか。私も十神君に賛成いたしますわ」
セレス「結局生きているのは私たちですもの」
セレス「それに愛する者を命がけで庇う姿は今思い出しても良かったですわ」
山田「問題はその内容ですぞ!」
山田「確かに創作物でよくあるヒロインを命がけで救おうとするのは熱い展開ですな」
山田「けれど、それに巻き込まれて死ぬのはゆるさーん!」
腐川「あれのどこに愛があるのよ……」
腐川「あんなの狂気だけしか無いじゃない……!」
セレス「何を言っているのでしょうか?」
セレス「愛なんて元々狂気の一つでしょう?」
腐川「何ですって……!!」
大神「………………」
大神(黒幕と内通している我は、人質のために皆を裏切っている)
大神(やっていることは苗木とさほど変わらん……)
石丸「ちょっと君たち落ち着きたまえ!」
不二咲「そ、そうだよ。仲間内で揉めてもしょうがないよ」
葉隠(……収集がつかないべ)
葉隠(まあ、ここで動かずだんまりしていた前周回よりは、口喧嘩できるだけマシなのか……?)
苗木「みんなごめんね」
苗木以外「……!?」
葉隠(……いつの間にか苗木っちが正気を取り戻していた)
苗木「ちょっと言っていることが分からないけど、僕なんかのためにみんな争っているんだよね」
苗木「本当にごめんね」
葉隠(頭を下げる苗木っち……)
葉隠(どうやら舞園っちを失った悲しみを乗り越えて……)
苗木「けど、十神君。さっきのは超高校級の御曹司らしくない発言だったね」
十神「どういう意味だ?」
苗木「十神君のキャラに笑えない冗談は合わないよ」
十神「……何だ? 俺は冗談なんて言ったつもりは無いぞ?」
苗木「? え、けど、さっき言ってたけどさ――」
苗木「舞園さんが死んだなんて、そんなことあるわけないでしょ」
苗木以外「…………!?」
苗木「??? どうしたのみんな。そんな穴が空きそうなほど僕を見つめて?」
苗木「僕の才能なんてただの幸運だよ。そんな注目されるような人間じゃないってば」
葉隠(そうか……苗木っちは……)
葉隠(……舞園っちを失った悲しみに耐えきれなかったんだべ)
葉隠(自分を卑下する言動から狛枝状態が続いていることが分かるし……)
葉隠(ヘラヘラした感じは無くなったけど、よく見れば目が虚ろだべ……)
十神「……そうか。おまえはその程度の人間だったんだな」
十神「さっきの言葉は撤回する。おまえは典型的な愚民だ」
十神「……ちっ、俺の目も曇ったな」
十神「腹正しい。先に帰らせてもらうぞ」
裁判場を出ていく十神。
苗木「あれ? 何か嫌われちゃったかな?」
苗木「……けど、まあ超高校級の御曹司である十神君からすれば僕が取るに足らない存在であるのも当然か」
苗木「うん。あの言動は当然だね」
葉隠「そういうことか…………」
葉隠(一周目では黒幕に徹底抗戦の構えを見せた苗木っち)
葉隠(その態度が顕著に現れ始めたのは舞園っちの理不尽な死を目の当たりにしたから)
葉隠(つまり、苗木っちの原動力の一つに舞園っちとのことがあったのは違いないはずだべ)
葉隠「………………」
葉隠(そして二周目も舞園っちはモノクマによって無惨に殺された)
葉隠(けど、今回苗木っちの視点からすれば、それは理不尽な死ではない……)
葉隠(自分がクロだと嘘をつき、裁判でも皆を欺いてと自分の死力を尽くして……)
葉隠(それでも守りきれなかった……という違い)
葉隠(その結果起きたのが、自分がもっと上手くやってれば舞園っちを守れたかもしれないという後悔……)
葉隠(つまり怒りが黒幕ではなく、自分に向かってしまった)
葉隠(そして自分が耐えきれなくなってパンクした……そんなところだべ)
朝日奈「ね、ねえ、苗木。あのね、舞園ちゃんは……」
大神「言うな、朝日奈よ。今は苗木も心の整理が付かないのだろう」
セレス「そうですわね。無理に現実を認識させると壊れてしまいそうな雰囲気ですわ、彼」
大和田「ああいう目をしたやつが一番ヤバいんだよな……」
石丸「苗木君、君はゆっくりと休みたまえ!」
不二咲「そうだよ、今日はもう何も考えず休んだ方がいいよ」
苗木「超高校級のみんなに心配されるなんて嬉しいなぁ」
苗木「そうだね、何か疲れているし今日はもう休むことにするよ」
葉隠(さっきまで苗木を責めていたみんなも、さすがにこの状況を目の前に苗木の心配をする)
葉隠(死体発見アナウンスの前までは一周目同様にみんなと親交を深めていたから、あんな出来事があっても心配されるんだべ)
葉隠(苗木っちの人徳だべ)
苗木がエレベーターに向かうのを見て、その場も解散ムードになった。
一人一人、エレベーターに向かう中。
霧切「ちょっと良いかしら?」
葉隠「……何だべ? 霧切っち」
モノクマが去って以来、ずっと黙っていた霧切が葉隠に声をかけた。
霧切「戻る前に話しておきたいことがあるの」
葉隠「……この裁判のことか?」
霧切「ええ、そうよ。……よく分かったわね」
葉隠「……霧切っちがいたおかげでこの裁判に勝てた。感謝するべ」
葉隠「それにしても霧切っち、最初から苗木っちがクロじゃないって分かってたのか?」
霧切「……そうね。私たちがこの裁判で苗木君に勝てたのはどうしてだと思う?」
葉隠(質問に答えて欲しいべ…………)
葉隠「えっと……。それは霧切っちの弁論能力が……」
霧切「確かにそれも一助にはなっているけど、決め手ではないわ」
霧切「一番重要だったのは……これよ」
霧切が取り出して見せたのは舞園が桑田を呼びだしたメモ。
葉隠「…………ああ、そうだべ。それのおかげで苗木っちが動揺して、発言をミスったんだべ」
霧切「どうしてこのメモが苗木君にとって予想外だったか分かるかしら?」
葉隠「それは自分が見たことが無かったからだべ」
霧切「どうして苗木君は見たことが無かったのかしら?」
葉隠「それは霧切っちが現場から持ち出したから……」
霧切「どうして私は苗木君に見られる前に現場から持ち出せたのかしら?」
葉隠「それは…………」
――――――――――――――――
霧切『ああそう、大和田君。苗木君のボディチェックをしておいた方がいいんじゃないかしら?』
霧切『すでに危険なものを持っていないか確かめるためにね』
大和田『そうだな。おい苗木、今からおまえのボディチェックを行う。逃げるんじゃねえぞ』
苗木『だから超高校級の暴走族相手に逆らうつもりは無いって』
霧切『私は先に捜査に行くわ』
――――――――――――――――
葉隠「…………!?」
葉隠(捜査開始時にあの身体検査を言い出したのは、苗木っちを出遅らせるため……?)
葉隠(だとしたら……)
葉隠「もしかして霧切っちは捜査開始する前から……!?」
霧切「ええ。私は最初から苗木君を裁判で狙い撃ちするために、重要な証拠を隠すつもりでいたわ」
葉隠(まさか捜査が開始した時点から仕掛けていたとは……)
霧切「捜査開始前、クロが現場で証拠を隠滅しないように、と見張り役をつけるように言ったのもそのためよ」
霧切「それを言い出した本人が証拠を隠すとは誰も思わないでしょう?」
葉隠(印象操作も完璧……)
葉隠(……俺は二周目だってのに、何周しても霧切っちには敵いそうにないべ)
葉隠「ん? けど、それならどうして捜査開始前から苗木っちがクロだと分かってたんだべ?」
霧切「……苗木君がクロだっていうのは、あくまで一つの可能性として考えていただけだわ。……まあ結構高いとは思っていたのだけれど」
霧切「今の作戦だって、他の人がクロだったとしても損はしないでしょう?」
霧切「……というよりその質問は私の方がしたいのだけれどね」
葉隠「……?」
霧切「苗木君がクロじゃない、という可能性が高いと私が判断したのはあなたの占いが理由よ」
葉隠「……ああ、そういえばそんなこと言ったべ」
葉隠(苗木っちがクロである、という流れが高まってたからとりあえず印象を分散させるためにした発言)
葉隠「って霧切っち、あの俺の発言を信じたんだべ?」
霧切「……あのタイミングじゃなければ、妄言だって切り捨てていたわ」
霧切「だってよっぽどのバカか全てを見通している人でなければあんなこと言えるわけ無いもの」
霧切「……裁判の様子を見ていて不思議に思ったわ」
霧切「あなたは今回の事件を見通していたようにも思える」
霧切「……失礼だけど同時に、頭が悪いようにも思える」
霧切「あなた一体……何者なの?」
葉隠(どうする? 霧切っちに俺が一度コロシアイ学園生活を体験していることを話すか……?)
葉隠(今の霧切っちなら信じてくれそうな……)
葉隠「………………」
葉隠「俺は……」
葉隠「――俺は超高校級の占い師だべ。それ以上でもそれ以下でもないべ」
霧切「そう……じゃああの時の発言も」
葉隠「全部占いだべ」
霧切「……分かったわ」
葉隠(どうして霧切っちに明かさなかったのか)
葉隠(……そう聞かれると、何となくと答えるしかない)
葉隠(俺は直感を信じて生きていくと決めた。だからそれでいいんだべ)
霧切「そう。……これでやっと本題に入れるわ」
葉隠(ん? 今までの話は本題じゃなかったのか?)
霧切「あなた今、後悔していない?」
葉隠「後悔……?」
霧切「いえ……後悔とはちょっと違うのかしら。……そうね、言葉にすると、自分たちは裁判を生き残ったけど、舞園さんが死に、苗木君もこんな狂って勝った意味があったのか……なんて思ってたりしない?」
葉隠「それは…………思っているべ」
霧切「そう。……だとしたら私は言うわ」
霧切「勝った意味はあった……って」
葉隠「……けど」
霧切「勝たなければ舞園さん以外のみんなが死んでいたわ」
霧切「私はもちろん……あなたもね」
霧切「だから勝つしかなかったのよ」
葉隠(これは……俺でも分かる)
葉隠(霧切っちは俺を励ましているんだべ……)
葉隠「どうしてそんなことを言うんだべ?」
霧切「あなたは乗り越えられる人間だから……」
霧切「舞園さんや桑田君……仲間たちの死を乗り越えて先に進める人間だから」
霧切「そういう人間でなければこの極限状態を打破することは出来ないから……下を向いてもらっては困るのよ」
葉隠「そっか……ありがとな」
霧切「それじゃあ最後にもう一つ……どうして今回舞園さんが裁判で負けたんだと思う?」
葉隠「……? それはさっき霧切っちが言ったように」
霧切「違うわ。それ以前の問題よ」
葉隠「???」
霧切「……舞園さんは桑田君を首尾よく殺した。……けど、いざ苗木君に罪をなすりつける段階になって躊躇したのよ」
葉隠「どういうことだべ?」
霧切「だって彼女……苗木君の部屋にカギをかけていたでしょう?」
霧切「本当は死体を発見させないといけないのに……どうしてカギをかけたのかしら?」
葉隠「それは……」
霧切「……これは推測でしかないけど、桑田君を殺したことについて苗木君に話すつもりだったんじゃないかしら、舞園さんは」
霧切「話してどうするつもりだったかは分からないけど」
霧切「だからそれまで見つけられないように、部屋にカギをかけた」
霧切「……けど、モノクマはその状態を良しとしなかった」
霧切「カギをかけたら誰にも死体を見つけることができないから、それがアンフェアだと考えたのかもしれないわね」
霧切「だからああやってカギを強制的に解除した……そういうことかもしれないわ」
モノクマ「その通りです!」 ピョーン!
葉隠「うわっ!?」
モノクマ「いやー、霧切さんに僕の真意を分かってもらえて嬉しいよ」
それだけ言うとモノクマはまた消えた。
霧切「そういうことみたいね……」
霧切「他にも桑田君の死体からメモを取れなかったことといい、彼女は非情になりきれなかったのね」
葉隠「確かに……」
葉隠(一周目でも苗木っちを陥れようとしたけど、結局ダイイングメッセージで苗木っちを助けた)
葉隠(今周回、舞園っちは確かに殺人を犯したけど、それは一種の暴走のようなものだったに違いない)
葉隠(桑田っちを殺して、冷静になって自分のしでかしたことの大きさに気付いた)
葉隠(だから桑田っちの死体にさわれなかったり、苗木っちに話そうとした)
葉隠(彼女がそんな暴走するまでに追い詰められたのは……)
葉隠「全部モノクマが悪いんだべ……」
葉隠「そうだべ! 舞園っちも苗木っちも悪くない! こんなことを仕掛けたモノクマが全部悪いんだべ!」
霧切「……そうね」
霧切「それだけ怒れるなら、あなたは前を向けるわ」
霧切「私も励ましたかいがあったかしら」
霧切は満足そうに言うとエレベーターに向かった。
葉隠「そうだべ。俺はこんなところで落ち込むわけには行かないんだべ……!」
葉隠(全員で生きて帰ると誓ったけど守れなかった……)
葉隠(それでもこれからは絶対に殺人を起こさせない)
葉隠(苗木っちが狂ったりはしたけど、結局死んだ人間が同じなんだから、これから起こることも同じはずだべ)
葉隠(なら、一周目の記憶を使って今度こそ殺人を止めてみせるべ!!)
葉隠「今度こそ必ず!!」
葉隠康比呂の二周目のコロシアイ学園生活は始まったばかりだ。
―――――――――――――――――
C H A P T E R 1
カ バ イ キ ル
E N D
―――――――――――――――――
生存者残り 12名
タララララーン、ラ、ラ、ラ、ラ、ラン!
『絶望マイク』を手に入れた
『使うと不快な声になるマイク。絶望の始まりを予感させる』
TO BE CONTINUED
モノクマ劇場
モノクマ「うぷぷ、CHAPTER1も終わったね」
モノクマ「葉隠クンったら、強くてニューゲームしたっていうのに苗木クンや舞園さん、霧切さんの影に埋もれてしまって……」
モノクマ「やっぱり彼じゃ主人公を張るには荷が重すぎたかな……うぷぷ」
モノクマ「ところでどうしてこのタイミングでモノクマ劇場が入ったのかって?」
モノクマ「それはね……何と作者からCHAPTER2の予告を任されたんだよ!」
モノクマ「ええと、原稿があるから読んでみるね」
―――――――
学級裁判が終わり二階が解放されたコロシアイ学園生活。
結局苗木は狂ったまま戻らなかったが、それでも葉隠は次の殺人を防ぐために動く。
次に殺人を起こすのは大和田。殺されるのは不二咲。
「絶対……絶対防いで見せるべ!!」
葉隠は二人を救えるのか!?
CHAPTER2『週刊少年ゼツボウジャンプ』開幕!
「これは…………一周目では無かった展開……」
物語は一周目の向こう側へ!!
―――――――
モノクマ「……って読んでみたのはいいけどさ」
モノクマ「葉隠クンの『絶対……絶対防いで見せるべ!!』って……」
モノクマ「これってどう考えてもフラグじゃーん!!」
モノクマ「その後に、一周目では無かった展開……って、これどう考えても防げてないよね!?」
モノクマ「こんな予告で大丈夫なのかな……」
モノクマ「本編でもさ……」
葉隠『苗木っちが狂ったりはしたけど、結局死んだ人間が同じなんだから、これから起こることも同じはずだべ』
モノクマ「って思ってたけどさ、これもどう考えてもフラグだよね」
モノクマ「狂った苗木を起点にして一周目と違うことが起きるんだよね!? ね!?」
モノクマ「本当作者の考えていることは分からないよ」
モノクマ「分からなすぎて……絶望するよね」
モノクマ「うぷぷぷぷぷ…………」
学級裁判の終わった翌日の朝。
モノクマのアナウンスにより体育館に集合するように言われる。
葉隠(一体何が起きるんだったか……?)
そこで行われたのは。
モノクマ「ハイッ! 腕を上下に伸ばして、イチ・ニッ・サン・シッ……」
石丸「イッチ、ニッ、サーン、シッ!」
葉隠(そういえばこんなイベントもあったべ……)
ラジオ体操だった。
大神「それで用件は何だ? ラジオ体操の為だけに呼んだのではあるまい」
モノクマ「……希望ヶ峰学園では学級裁判を乗り越える度に新しい世界が広がるようになっています」
葉隠(二階……そして大浴場の開放だろうな)
その後も一周目と同じやりとりが続いたため、退屈な葉隠は昨日のことを思い出す。
葉隠「………………」
葉隠(昨日、裁判の後に食堂で集まってみんなで話をした)
葉隠(舞園っちが口火を切ったことでこれからも殺人が起きやすくなっただろう……という話や)
葉隠(舞園さんに投票したってことは殺したも同然なんだよ、と言う不二咲っちと十神っちが衝突したり)
葉隠(一周目と同じ出来事が起きて)
葉隠(……けど『悪いのは全て黒幕だ』という苗木っちの言葉は聞けなかった)
葉隠(その結果モノクマがアナウンスで煽ってくることは無かった)
葉隠「………………」
葉隠(みんなで話し合った結果、苗木っちは裁判の後で混乱しているのだという結論に達した)
葉隠(一晩寝れば元に戻るかもしれない、と期待したが……)
苗木「学級裁判……そんなことやったっけ?」
葉隠「苗木っち……」
葉隠(結局戻っていない……)
葉隠(何かが起きない限り、苗木っちはずっとこのままなのかもしれないべ……)
石丸「ではひとまず手分けして調査だ!! その後で食堂に集まり結果を報告し合おうではないかッ!!」
葉隠(……考えている間に話が終わったみたいだべ)
葉隠(この前と同じで全部分かりきっていることでも、一応調査するフリをするべ)
一周目と特に変わらない調査と報告会の後、葉隠は自室に戻ってきていた。
葉隠(報告会は苗木っちが狂っているためか、一周目より発言が少ないことくらいしか違わなかった)
葉隠(やっぱり俺が関わったこと以外は一周目と同じ出来事が起きると考えていいのだろう)
葉隠(……………ということはあの殺人も起きるということだべ)
葉隠(モノクマによる、殺人が起きなければ人に知られたくない過去を暴露するという動機の発表)
葉隠(それに触発されて起きた、超高校級の暴走族の大和田っちが超高校級のプログラマーである不二咲っちを殺してしまった不幸な事件)
葉隠(十神っちのせいで複雑になったあの裁判を……今回は絶対に起こさせない……!)
―――――――――――――――――
C H A P T E R 2
週刊少年 ゼツボウジャンプ
(非)日常編
―――――――――――――――――
葉隠(今回の大和田っちの殺人を止めるポイント……)
葉隠(それは前回のように紙にまとめる必要もないくらい単純だべ)
葉隠(それは二日後……動機発表の日の夜に、大和田っちが殺人を犯すことを何が何でも止めること)
葉隠(……前回は舞園っちの執念が強かったから、事前に舞園っちの説得もできなかった)
葉隠(それに下手な防ぎ方をしては一周目と違う方法で殺人を犯す恐れがあった)
葉隠(だから一周目からなるべく展開を変えないで、決定的な瞬間に介入して改心を促すしかなかった)
葉隠(けど、今回の殺人はどちらかというと不慮の事故だべ)
葉隠(大和田っちは積極的な殺意を持っていない)
葉隠(だから動機発表の夜に大和田っちが殺人を犯すその一回さえ防げれば次はない)
葉隠(つまり展開は一周目と変わってもいいということ)
葉隠(だから今回、俺は一周目と違う行動を取っていく)
葉隠(具体的には……大和田っちは怖いから、不二咲っちと仲良くなるべ)
葉隠(目標は動機発表の夜、自分が男であるということを打ち明けるのを、大和田っちだけでなく俺も一緒に聞けるくらい仲良くなるべ)
翌日。十神の朝食会ボイコット事件の後。
葉隠は不二咲の部屋の前に来ていた。
葉隠「不二咲っち部屋にいるのか……?」 ピンポーン
………………。
葉隠「……返事がないべ」
葉隠(どこかに行っているのか、不二咲っちは……)
葉隠「………………」
葉隠「……ん、そうだべ」 ピカン!
葉隠(昨日は二階を探索した)
葉隠(それで図書室でノートパソコンを見つけたはず)
葉隠(一周目では不二咲っちが殺されたときにはアルターエゴが出来ていた)
葉隠(動機発表は二日後の夜……今日から製作にとりかかっていてもおかしくない)
葉隠(つまり不二咲っちがいるのは唯一監視カメラがないあの場所だべ!)
大浴場。
不二咲「あれ、葉隠君昼からお風呂に入るの? それなら出ていくけど」
葉隠(やっぱり不二咲っちは大浴場でパソコンと向かい合っていた)
葉隠「不二咲っちを探していたんだべ」
不二咲「そうなの? ……何か用事でもあるの?」
葉隠「ああいや、いいんだべ。大したことではないから、不二咲っちはそのまま作業を続けてほしいべ」
葉隠(ノートパソコンを閉じて、俺の方を向こうとした不二咲っちを止める)
葉隠(アルターエゴはこの先の学園生活で必要になる。俺との会話のせいなんかで、開発が遅れるわけにはいかない)
不二咲「そう? なんかごめんね」
カタ、カタ、カタ、カタ。
葉隠(ノートパソコンのキーを叩く音が響く)
葉隠(不二咲っち集中しているな)
葉隠(そんな不二咲っちに話しかけるわけにもいかないし……一旦、出直すか……?)
葉隠「………………」
葉隠(出直したところですることもないし、ここで作業が終わるのを待つべ)
<三時間後>
不二咲「……ん、そろそろ休憩しようかな」
葉隠「お疲れさまだべ、不二咲っち」
葉隠(結局不二咲っちはずっと手を止めなかった)
葉隠(アルターエゴは人工知能……そう簡単に作れるはずがないから頑張る必要があるのは分かるけど……)
不二咲「あっ、葉隠君。……えっと、ずっとここにいたの?」
葉隠「そうだけど」
不二咲「ごめんね、僕に用事があるから来たっていうのに相手できなくて」
葉隠「いや、大丈夫だべ。……それより不二咲っちは何を作っているんだ?」
葉隠(アルターエゴだってのは分かっているけど、それを知ってたらおかしいからな)
不二咲「えっと、葉隠君はアルターエゴって知っている?」
葉隠「……別人格って意味だよな」
不二咲「そうだけど、今僕が作っているアルターエゴっていうのは人工知能のことで……」
そこから不二咲によるアルターエゴの説明が続く。
葉隠「………………」
葉隠(不二咲っちが熱心にアルターエゴの説明をしてくれるが、話が専門的すぎて全く分からん)
葉隠(話している間に興が乗ったのか、止める気配もないし)
不二咲「あっ、ごめんね。僕ばかり話して」
葉隠(と、思ったら止めたべ)
葉隠「いいんだべ。……それでそのアルターエゴっていうのはこの学園生活から脱出するために役立つのか?」
不二咲「うん、たぶんね」
不二咲「このノートパソコンにはプロテクトのかかったファイルがあったんだ。アルターエゴができたら一日中、その解析をしてもらえるし」
不二咲「もしネットにつながる場所があったら、そこからこの学園のシステムに侵入して黒幕に対して何かアクションを起こせるし」
不二咲「役に立つと思うよ」
葉隠「そうだな……」
葉隠(実際アルターエゴは役に立った)
葉隠(石丸っちを絶望から蘇らせたし)
葉隠(苗木っちを処刑から救った)
葉隠(アルターエゴが無ければ俺たちは江ノ島盾子に勝てなかったべ)
不二咲「それじゃあ昼食を食べに行こうか」
不二咲「よいしょ……って」 フラッ
葉隠「だ、大丈夫だべか不二咲っち!」 ガシッ
葉隠(立ち上がろうとした不二咲っちが倒れかけたため、あわてて支える)
不二咲「ごめんね。……立ちくらみかな」
葉隠「……三時間もぶっ続けで作業したら、そんな疲れて当然だべ」
葉隠「もうちょっと自分の体に気を付けて作業をした方がいいんじゃないか?」
不二咲「……そうだね、ありがと」
葉隠の手から離れて一人で立つ不二咲。
不二咲「………………」
不二咲「葉隠君は強いよね」
不二咲「モノクマがコロシアイ学園生活のことを言った時も動じていなかったし」
不二咲「舞園さんの裁判のときも、最初から苗木君がクロだって言って頑張っていたよね」
不二咲「……僕もそれくらい強くなれたらなあ」
葉隠(……不二咲っちの評価は妥当なものじゃない)
葉隠(不二咲っちの言う強さは、俺が二周目だから持っていたもの)
葉隠(それは偽物に近かったけど……それでも不二咲っちに近づくためにはちょうど良かったから訂正はしないべ)
葉隠「不二咲っちはどうしてそんなに強い、弱いを気にするんだべ?」
不二咲「えっと……」
不二咲(葉隠君になら言っても大丈夫だよね)
不二咲「昔さ、僕はとある理由のくせに弱いって言われてたんだ」
葉隠(確か『男のくせに』……だべ)
不二咲「それからかな、僕が強いとか弱いだとかに敏感になったのは」
不二咲「それと今朝さ、十神君に言われたとき何も言い返せなくて」
不二咲「結局大和田君に助けられて……弱い者イジメだって言われて」
不二咲「やっぱり僕って弱いなあって再確認して……それを振り払うためにせめて得意分野で役に立とうと思って」
葉隠「……不二咲っちは、十分に強い人間だべ」
不二咲「……え?」
葉隠「強い、弱いを肉体的なものでしか見てないとしたら不二咲っちは間違っている。……そんなこと言ったら、誰もオーガには勝てないべ」
葉隠「本当に強い人間っていうのは心が強いんだべ」
不二咲「けど僕は……逃げてばっかりだから、心も弱いよ?」
葉隠(そういえば不二咲っちの女装は男のくせに弱い、と言われた状況からの逃げだったはず)
葉隠(けど、不二咲っちは……モノクマの秘密をばらすという発表を機会にみんなに打ち明けて強くなろうとした。……つまり)
葉隠「確かに不二咲っちは過去に一度現状から逃げているべ」
葉隠「そのときは弱かったのかもしれない」
葉隠「けど……今の不二咲っちはどうだべ」
葉隠「ある部分で駄目なら、別のところで頑張ろうとする不二咲っちは……現状に逃げずに立ち向かえている」
葉隠「きっと今なら昔逃げた自分の弱さにも立ち向かえるべ」
不二咲「そう……なのかな」
不二咲「まだよく分からないけど……ありがとね、葉隠君」
不二咲「君にそう言ってもらえて、心が少し楽になったよ」
葉隠(柄にもなく熱くなってしまったべ)
葉隠(……きっと俺は不二咲っちと自分を重ねている)
葉隠(俺だって一周目のときは、この学校生活を受け入れられずに逃げていた)
葉隠(そして今は全力で立ち向かっている)
葉隠(だから言葉もいつもの胡散臭さが取れている……そうに違いないべ)
不二咲「それにしても僕が過去に一度逃げているってよく分かったね」
葉隠「え!? ……そ、それは」
不二咲「占い師ってすごいんだね」
葉隠「……ま、まあな! それくらいのこと俺にはお見通しだべ!」
不二咲「プログラマーってことしているからかな。占いってちょっとあやふやなで信じられないと思ってたけど、それは違ったんだね」
葉隠「……じゃあついでに、もう一つ占いで出たから教えとくべ」
不二咲「うん……何なのかな?」
葉隠「今、不二咲っちが作っているアルターエゴ。それは絶対にこれからの学園生活に役に立つ……そう出たべ!」
不二咲「そうかあ。……なら、がんばって作り上げないとね」
葉隠「けど、無理は禁物だべ」
そうして二人は昼食を取りに食堂に向かった。
〈翌日 朝食会〉
朝日奈「あれ、不二咲ちゃん元気そうだね」
不二咲「うん。昨日の朝、十神君に言い返せなかったこととかで落ち込んでたけど、葉隠君が励ましてくれて」
大神「お主にもいいところがあるではないか」
葉隠「それぐらい楽勝だべ!」
それから不二咲が詳しいことを話すと大和田が頭をかきながらすまなそうに言った。
大和田「それにしてもオレが怒鳴ったせいで、そんなに不二咲が落ち込んでいたとはな」
不二咲「いや、いいんだよ。もう解決したことだし」
大和田「……いや、それじゃオレの気が済まねえ」
大和田「男の約束をしようじゃねーか!」
不二咲「男の約束?」
大和田「『男の約束だけは絶対に守れ』兄貴が残した言葉だ」
朝日奈「残した?」
大和田「ああ、兄貴は死んだんだよ」
大和田「……まあ、湿っぽい話は無しだ。つうわけで、オレはこれからぜってーに怒鳴らねえからよ」
不二咲「う、うん。ありがと……大和田君」
葉隠(一周目では本来大和田っちが不二咲っちを励ますところを俺が代わりにやったからどうなるかと思えば)
葉隠(結局一周目と同じように、不二咲っちと男の約束を交わした大和田っち)
葉隠(……二人にはきっと切っても切れない絆があるんだべ)
大神「それにしても気がかりは十神と腐川と苗木だな……」
葉隠(十神っちと腐川っちは朝食会に来なかった。それは一周目と同じだべ)
朝日奈「二人は来なかったし、苗木もご飯食べるとすぐに出て行っちゃったもんね」
山田「食べている間も口数が少なかったですぞ」
霧切「昨日もご飯のとき以外はずっと部屋に閉じこもっていたみたいね」
葉隠(どうやら一周目よりも消極的になっている様子の苗木っち)
葉隠(……一周目と違う行動によって起きるイレギュラー)
葉隠(この前の事件を止められなかった理由であるそれを俺は恐れている)
葉隠(苗木っちは消極的になっているけど………………それは今回の事件には何の影響も起こさないよな……?)
葉隠(……占ってみても、結果が出ないべ)
葉隠(まあ恐れたって結局今の苗木っちに何かできる気もしないから、他の行動をするべ)
葉隠(昨日は不二咲っちと距離を深めることができた)
葉隠(どうせ今日もアルターエゴを作っているだろうから、作業が休みになる頃を見計らって顔を見に行く)
葉隠(だからそれまでは暇だから今日は……)
大和田「…………」 テクテク
葉隠(と、思って歩いていたらちょうど大和田っちを見つける)
葉隠(大和田っちのことは怖いけど……殺人を防ぐためには避けて通れない道だべ!)
葉隠「大和田っち、どこに行くのか?」
大和田「ん? ……何だ、葉隠か。俺に用か?」
葉隠「いや、ちょっと気になったから聞いてみただけだべ」
大和田「今から二階の男子更衣室に行くんだよ。ここに来てからろくに運動してないからな。あそこにはトレーニング用の器具もあったしそれを使おうと思って」
葉隠「付いて行って良いか?」
大和田「……そんなのおまえの勝手だけど、面白くはねえぞ?」
葉隠「俺もちょうど運動不足を感じていたところだべ」
大和田「そうか」
〈男子更衣室〉
大和田「おまえにはそのベンチプレスは早すぎる。諦めろ」
葉隠「何のこれしき、だべ! 占いによれば、俺はこれを持ち上がられる!」
大和田「……いや、それ三割しか当たらないんだろ」
葉隠「うおおおおおおおおお!!!!」
大和田「聞いちゃいねえ」
大和田(って、あれ?)
葉隠「おおおおおおっっっっ!!!!」 プルプル
大和田(少しだが持ち上がった……!?)
葉隠「…………はあ」 ガタン!
大和田(すぐに落ちたが)
大和田「確かに少し上がったが、そんなことやっても体力付かないだろ」
大和田「ちょっと代われ」
葉隠(そう言って俺と場所を代わる大和田っち)
大和田「……ふんっ!! ……ふんっ!!」
葉隠「おお! すごいべ、大和田っち!」
葉隠(俺が苦労したベンチプレスを軽々と上げ下げする大和田っち。体力あるなあ)
大和田「まあ、ざっとこんなもんだ」 ハアハア
葉隠「お疲れさまだべ」
葉隠「………………」
葉隠「大和田っちは強いんだな」
大和田「強い……か」
大和田「……なあ、おまえの目には俺は強く見えているんだよな?」
葉隠「……ん? 今そう言ったべ」
大和田「…………そうだったな。わりい、おかしなことを聞いた」
葉隠「……もしかして大和田っちは自分の強さに疑問を持っているのか?」
大和田「……っ!?」
大和田「どうしてそ……」
葉隠「分かるべ。オーガなんて見たら、自分が弱っちい存在だと思ってしまうのは当然だべ」
大和田(……何だ肉体的な強さの話か)
大和田(確かに大神には勝てる気が全くしないが……)
大和田(………………)
大和田「なあ、葉隠。自分がどうしようもなく弱い存在に感じられたとき、どうすれば良いと思うか?」
葉隠「大和田っちは自分が弱いと思うのか?」
大和田「……いや、例え話だよ。例え。……そんなことより質問に答えろよ」
葉隠「そうだな……そういうときは弱い自分を認めるべ」
大和田「弱い自分を認めるか……けど、そうするわけにはいかない立場だったときはどうすればいいんだ?」
葉隠「それでも弱い自分を認めなければいけないべ」
大和田「……答えになってないぞ」
葉隠「いや、なっている。……弱い自分を認めなければどうしたって強くはなれないんだべ」
大和田「………………」
葉隠「強い人間ってのは最初から強い人間だと思うか?」
葉隠「確かにそういう人間もいるかもしれないけど、それは少数だべ」
葉隠「大多数の強い人間っていうのは、弱い自分を認め克服して……それを繰り返して弱い部分をなくした人間だべ」
大和田「……そうだろうな」
大和田(葉隠の言っていることは正論だ……)
大和田(俺もあの事件に向かい合って、乗り越えないといけない)
大和田(けど、あれはもう過去のことだ。……それに向かい合うなんてことは……)
葉隠「自分の弱さを認めるのに遅いも早いもないべ」
大和田「…………!?」
葉隠「だからもし大和田っちが自分の弱さを嘆いているなら……今からでも遅くない。向かいあうのをオススメするべ」
大和田「………………」
葉隠「って、例え話だったな」
大和田(どうしてこんなに見透かしたようなことを……)
大和田「……葉隠。おまえもしかして……」
葉隠「それじゃあ大和田っちよろしく頼むべ」
大和田(こちらに向かって手を出す葉隠)
大和田「……ああ? どういう意味だ?」
葉隠「超高校級の占い師である俺の話に対する対価を求めているんだべ」
葉隠「大和田っちは……初回だし、他人でもないからまけて十万にしとくべ」
大和田「俺からぼったくろうっていうのか……!?」
葉隠「だからぼったくりじゃなくて、正当な対価だべ!」
葉隠「俺の話術を尽くした引き込まれるような話なんだから、それくらいの価値があって当然だべ!」
大和田「……おまえの話なんて全く面白くねえし、タメにもならねえんだよ! 大体、今オレ達金持ってないだろ!?」
葉隠「だからそこは出世払いで……」
大和田「……話にならん!」
葉隠(怒ったように大和田っちは男子更衣室を後にする)
葉隠「……上手くいったよな」
葉隠(これでちょっとは考えてくれるといいんだが……)
葉隠(その後は作業休憩に入った不二咲っちと話したりして、ゆるやかに過ぎていった)
<翌日 朝>
葉隠(今日が……今日が本番だべ)
葉隠の記憶が確かなら、今日の夜に動機が発表されるはずだ。
葉隠(そしてそのままあの不幸な事件が起きる……)
葉隠(けど、この二日間がんばったんだ。絶対に防いで見せる……!)
そして食堂に入る葉隠。
石丸「遅刻とは一体どういうことかね、葉隠くん!!」
葉隠「うう、すまんべ……」
葉隠(食堂を見渡すと、十神っちと腐川っちを除いたみんなが揃っている)
葉隠(苗木っちもまだ食べている途中だからか、席に座っている)
石丸「大和田くん! テーブルの上に足を乗せるなんて、行儀が悪いぞ!」
大和田「ああ? そんなの俺の勝手だろ?」
葉隠(石丸っちはいつもと変わらず元気だべ……。今日も相変わらず大和田っちに注意をして…………)
葉隠「………………え?」
葉隠(いつもと変わらない……それはしばしば平穏を表すさいに使われる言葉)
葉隠(けど、今は当てはまらない)
葉隠(一周目では確か、このときには二人は和解してお互いを兄弟と呼んでいたはずだから)
葉隠「………………」
葉隠(何が……何が起こっている……?)
一周目の記憶を思い出す葉隠。
葉隠(二人が和解した経緯は……一周目における昨夜、大和田っちと石丸っちがいつもと変わらないように言い争っていて)
葉隠(そこに現れた苗木っちに仲介役を頼んで、サウナで対決を……)
葉隠「苗木っち……?」
葉隠(っ……!!)
葉隠(そうだべ、今の苗木っちは狛枝状態)
葉隠(それに部屋に引きこもりがちだったらしいから、この二周目では昨夜食堂に行かなかった……!)
葉隠(だから二人のサウナ対決も無くなって……結果昨日までと同じ関係が続いている……?)
石丸「一人そういう人がいるだけで空気が乱れるのだよ!」
大和田「空気が乱れようが俺の知ったこっちゃねえよ!」
葉隠(苗木っちが狂ったことに加えて、二人が兄弟にならなかった)
葉隠(一周目との大きな違い)
葉隠「けど………………大丈夫なはずだべ」
葉隠(今回の事件に直接二人が兄弟であったことは関わっていない)
葉隠(……けど、ちょっとした出来心で模擬刀を振るったくらいで結果は変わった)
葉隠(もしかしたらこれが何らかの影響を事件にもたらすのか……?)
葉隠(それともこれが原因で一周目に無かった新たな事件が起きるとか……?)
葉隠「分からない。分からないけど……」
葉隠(……嫌な胸騒ぎがするべ)
<その日の夜>
葉隠(大和田っちと石丸っちが兄弟じゃなくなった……)
葉隠(そんなイレギュラーが起きたけど、今さら予定変更はできない)
葉隠(結局不二咲っちと仲を深めたりしながら、その日も過ごした)
葉隠(現在、後は寝るだけという時間)
葉隠(……いつもなら、だべ)
キーン、コーン、カーン、コーン。
モノクマ「まもなく夜時間ですが、オマエラ生徒諸君は至急体育館までお集まりくださーい!」
モノクマ「えまーじぇんしー、えまーじぇんしー!」
葉隠(遂に来た……)
葉隠(大丈夫だ……桑田っちのときのようにはさせない)
葉隠(今度こそは殺人を防いで見せる……!)
葉隠「それじゃあ行くべ!!」
<体育館>
朝日奈「ど、どうして……?」
石丸「どうして……このことを知っているんだ……!?」
苗木「………………」
葉隠(各自が名前の入った封筒を手に取り中を見る)
葉隠(一周目同様の光景……苗木っちの元気は無いけど)
モノクマ「24時間以内に殺人が起きなかったら、今見せた秘密を世間にばらしちゃいまーす!!」
石丸「これがキミの言う動機か!!」
モノクマ「そのとおりでーす!」
朝日奈「確かにバラされたくないけど……」
石丸「こんなことのために人を殺したりはしないぞ!!」
モノクマ「そんなあ……」
モノクマ「これじゃ殺人が起きないのか…………」
モノクマ「なら、僕は24時間後にこの秘密をバラすことでささやかな自己満足に浸るとするよ」
モノクマ「トホホ……」
葉隠(落胆した様子のモノクマが体育館の奥に引っ込む)
葉隠(……一周目と同じだが、思えばこのときモノクマはわざと落胆した様子を見せたのかもしれない)
葉隠(殺人が起きるはずがないと思わせることで、後から殺人が発覚したときの絶望を大きくさせるために……)
葉隠(もともと今回の動機発表は大和田っちと腐川っちと不二咲っちあたりを狙い撃ちしたものだ)
葉隠(それ以外がどういう反応をしようと気にもしてなかったに違いない)
朝日奈「恥ずかしいけど……こんなことのために人を殺したりはしないよね……?」
石丸「いい考えがあるぞ! いっその事、さっきの秘密をここで告白するのだ!! そうすれば動機の心配など必要なくなるからな!」
石丸「よし、じゃあ僕から行くぞ! 僕の恥ずかしい過去はだな……」
腐川「あんたの恥ずかしい過去なんて聞きたくないわよ……!」
腐川「それに私は嫌よ。この秘密は話したくない……誰になんと言われようと話したくないから……!!」
葉隠(腐川っちがここまで話したくなかったのは、きっと秘密がジェノサイダー翔に関することだからだよな……)
セレス「私も嫌と言うより無理ですわ」
十神「俺も同感だ。話す必要など無い」
石丸「そうか……なら不二咲くんはどうだ?」
不二咲「あの……ごめんなさい。今は話したくない……けど、このままじゃダメだと思うから、後できっと話すよ」
葉隠(俺との会話で少しは強さに対する意識も変わったと思うけど……)
葉隠(さすがにここでいきなりバラすレベルまで変わってはいないか……)
朝日奈「まあ、無理しなくていいって。私だって本当は話したくないし……」
石丸「ふむ、そうか……」
大和田「……俺も話せねえな」
石丸「ああ、君には期待していない。暴走族なんて人には話せない秘密がたくさんあるだろうからな」
大和田「……ああん? 何だと?」
葉隠(文面だけ見ると石丸っちが大和田っちを煽ったように見えるけど)
葉隠(石丸っちの話し方を見る感じ、単に事実を言ったぐらいにしか思ってなさそうだべ)
葉隠(二人が兄弟じゃないから、石丸っちも考えが変わってないんだべ)
石丸「だってそうではないか。事実人には話せないんだろう?」
大和田「……そういうおまえだって最初秘密を見たときは狼狽していただろ。やけに軽そうに秘密を話そうとしていたが、本当は結構やばいものなんじゃないのか?」
石丸「……そんな君も顔面蒼白ではないか! 何だ? 人でも殺したことがあったのか?」
大和田「何だと……!」 ブチン!
葉隠(あっ、地雷踏んだべ)
大和田「やる気か? ああん?」
石丸「そうやってすぐに暴力に頼ろうとして君は恥ずかしくないのかね!」
大和田「この期に及んで説教たあいい度胸だな……!」
葉隠(これはやばい……けど、この二人の間に割って入っても止められる気がしないし……)
大神「二人とも落ち着くのだ」
葉隠(本格的な言い争いに入ろうとしたところ、絶妙なタイミングでオーガが割って入った)
大和田「だけどこいつが……!」
石丸「あっちから……!」
大神「二人とも落ち着くのだ……」 ゴゴゴゴゴゴ
二人「………………」
葉隠(すごい気迫だべ……)
大神「そうやって不和を起こさせるのもモノクマの一つの策略だ。それに乗ってどうする?」
大和田「……ちっ。まあ、こんな真面目堅物野郎に絡むだけ無駄な時間だったな」
石丸「……そうだな。落ち着きが足りなかった」
葉隠(二人が兄弟じゃなかったために起きた今のいざこざ)
葉隠(もしオーガが止めなければもっとエスカレートして………………最終的にはどちらかが手を出したかもしれない……) ゾクッ!
葉隠(全くイレギュラーは勘弁してほしいべ……俺の頭脳はそんないろんな可能性に対処できるほど高性能じゃないんだから……)
朝日奈「まあ、どうせこんなことで殺人なんて起きるわけ無いよね……?」
葉隠(朝日奈っちのつぶやきを最後にその場は解散した)
不二咲「葉隠君!」
葉隠「おお、不二咲っち」
葉隠(体育館から帰る途中、不二咲っちに声をかけられた)
葉隠(一周目では無かった出来事……これはもしかして)
葉隠「どうしたんだべ? 何か用か?」
不二咲「えっと…………」
不二咲「その…………」
不二咲「………………」
不二咲「よ、夜時間になったら更衣室のところまで来てほしいんだ!」 ダッ!
葉隠(それだけ言うと不二咲っちは走って逃げていく)
葉隠「分かったべ!」
葉隠(去っていく背中にそう声をかけた)
葉隠「………………」
葉隠(これは不二咲っちが自分が男だと明かす場面に呼ばれたということだろう)
葉隠(二周目ということで不二咲っちには俺が強く見えていたようだし、それに何回も話して仲良くなっていたからだべ)
葉隠(これなら大和田っちが不二咲っちを殺すときにちょうど居合わせることができる)
葉隠(……どんなことをしてでも殺人を止めて見せるべ!)
<夜時間>
葉隠「えっと……」
葉隠(夜時間になってから少しして、俺は更衣室の前にやって来て)
葉隠(そこに先客がいることを発見した)
大和田「どうしてここに来たんだ?」
大和田「俺は不二咲のやつに呼ばれたはずなんだが……」
葉隠「俺も不二咲っちに呼ばれてやって来たんだべ」
大和田「……そうか、お前もか」
葉隠(大和田っちの声にいつもの張りがない)
葉隠(それもそのはずだべ。今の大和田っちの頭の中は、二十四時間後に発表される秘密のことでいっぱいなんだから)
大和田「……それにしても不二咲のやつ遅いな」
葉隠「ここで立って待っていても無駄だべ。更衣室の中で待つことにするべ」
大和田「……いや、不二咲じゃ男子更衣室に入れないだろ?」
葉隠「じゃあ不二咲っちが来たら知らせてほしいべ」
大和田「はあ? どうして俺がそんなパシリみたいなことを……」
葉隠「よろしく頼むべ」
大和田「ちょっ、人の話を聞けよ!」
生徒証をかざし、男子更衣室に入った葉隠。
葉隠「よし、今の内に準備をしておくべ」
<更衣室前>
大和田「はあ、どうして俺はあんなやつの言葉に従っているんだよ……」 ポツーン
大和田(………………)
大和田(過去、兄貴、秘密、二十四時間後、暴露、殺人、強さ、弱さ……) グルグル
大和田(俺はどうすれば……)
――――――――――――――
葉隠『大多数の強い人間っていうのは、弱い自分を認め克服して……それを繰り返して弱い部分をなくした人間だべ』
葉隠『自分の弱さを認めるのに遅いも早いもないべ』
葉隠『だからもし大和田っちが自分の弱さを嘆いているなら……今からでも遅くない。向かいあうのをオススメするべ』
――――――――――――――
大和田「……っ!?」
大和田(どうして俺はあんなやつの言葉なんかを思い出しているんだよ……!)
大和田(あんな胡散臭いやつの言葉なんか間に受ける必要はねえ!)
大和田(必要は……ねえ………………けど……)
不二咲「どうしたの、大和田君?」
大和田「……! 不二咲っ!」
不二咲「何かボーっとしてるようだったけど、大丈夫?」
大和田「……ああ、大丈夫だ」
不二咲「そう。……良かったあ」
大和田(何弱いところを見せているんだ……)
大和田(俺は強いんだ。……強い強い強い強い強い強い強い)
不二咲「あれ? そういえば葉隠君はまだなんだね」
大和田「…………ああ、葉隠なら男子更衣室に入っていったぞ」
大和田「ちょっと待っとけ。今呼んでくるから」
不二咲「えっと……」
不二咲「………………」 ギュッ!
不二咲「そ、その必要はないよ!」
大和田「……はあ? どういうことだよ?」
不二咲「そ、それは……こういうことなんだ」
男子更衣室の入り口横に付けられたパネルに生徒証をかざす不二咲。
大和田「!? おまえそんなことしたらマシンガンが!」
ピー、ガチャッ!
大和田「!?」
大和田(扉が開いた……!?)
大和田「ど、どうして……!」
不二咲「えっと………………それは更衣室の中で話すね」
<男子更衣室>
ガチャ。
葉隠(準備が終わったちょうどそのとき扉が開いた)
葉隠「おおっ、不二咲っち。やっと来たか」
不二咲「……葉隠君は驚かないんだね。何となくそうだろうな、って思ってたけど」
葉隠(あ。……そういえばまだ不二咲っちが本当は男だって分かっていないんだから、男子更衣室に現れた時点で驚かないといけないんだったべ)
不二咲「それも占いなの?」
葉隠「……そ、そうだべ!」
葉隠(本当に占い師って職業は便利だべ)
大和田「それにしても不二咲、どういうことだよ? 何で男子更衣室に入れたんだ?」
不二咲「それは……」
――――――――――――
葉隠『けど……今の不二咲っちはどうだべ』
葉隠『ある部分で駄目なら、別のところで頑張ろうとする不二咲っちは……現状に逃げずに立ち向かえている』
葉隠『きっと今なら昔逃げた自分の弱さにも立ち向かえるべ』
――――――――――――
不二咲(うん、葉隠君の言う通りだ……)
不二咲(二十四時間後には秘密が強制的に明かされる……それは契機なんだ)
不二咲(弱かった自分を変えるのは……今!)
不二咲「僕は……本当は男なんだ」
大和田「お、男? マジかよ……」
不二咲「う、うん……騙しててごめんなさい……」
大和田「で、でもよ……どうしてだ? どうして急に秘密を打ち明ける気になった?」
不二咲「……え?」
大和田「だってよ……ずっと守り通してきた秘密だろ? そいつを知られてしまったら……オメエは……」
不二咲「そうだけど……変われると思ったんだ」
不二咲「あの強い葉隠君が……僕も変われるって言ってくれたんだ」
不二咲「だからそれを信じて……勇気を出して、『嘘に逃げている弱い自分』を壊そうと思ったんだ!」
大和田(『嘘に逃げている弱い自分』……?)
大和田(それは俺が弱いって言いたいのか……? 俺のやっていることが逃げだっていいたいのか……?)
不二咲「だけどさ、葉隠君と大和田君は強いから、きっとモノクマにどんな秘密をばらされてもヘッチャラなんだよね?」
大和田「……だから言えっていうのか? 本当に強いなら……秘密を言えっていうのか?」
不二咲「え?」
大和田「皮肉か……? 俺が強いって……皮肉か?」
不二咲「ち、違うよ。葉隠君も大和田君も本当に強い人だし……」
大和田「なら、俺はどうすれば良かったんだ……?」
大和田「秘密をバラして全部台無しにすりゃ良かったってのか?」
不二咲「ど、どうしたの……?」
大和田「なんで俺にそんなことを言ったんだ? 俺への当て付けか?」
不二咲「僕はただ……大和田君に憧れていて……」
大和田「そうだよ……俺は強いんだ……」
大和田「強い……強い強い強い強い強い強い強い」
大和田「オメェよりも!」
大和田「兄貴よりもだああああああああっ!!」
大和田が腕を振り上げる。
その瞬間。
葉隠「やめるべ!!!!!!!!!」
不二咲と大和田の間に、葉隠が身を投げ出した。
葉隠(結局、俺は大和田っちを説得できるとは思えなかった)
葉隠(最初は出来ると思っていたけど……生で大和田っちが思い詰めているのを見て、これは無理だと思った)
葉隠(だから説得することを諦めた)
葉隠(と言っても、不二咲っちが殺されることを防ぐのを諦めたわけではない)
葉隠(説得するのが駄目……?)
葉隠(それなら体を張ればいいんだべ)
葉隠(けど、俺なんかが大和田っちを抑えられるわけがないから、こうして今、大和田っちの前に身を投げ出した)
葉隠(進路を変えることはもうできない。これで大和田っちは不二咲っちじゃなくて、俺を攻撃するだろう)
葉隠(けど、俺だって死ぬのは嫌だ)
葉隠(だから一つ前もって準備をしておいた)
葉隠(それは……男子更衣室からダンベルを全て撤去すること)
葉隠(一周目の時の凶器はダンベルだった……その他凶器になりそうなものは全てプール側に全部出している)
葉隠(これで大和田っちは自らのこぶしを振るうしかない)
葉隠(………………)
葉隠(とはいえ、苗木っちを一発KOしたこぶしだ……)
葉隠(痛くないわけがないけど……気合で耐えるべ)
葉隠(あっ、もう)
ゴスッッッッッ!!!!!!!!!!!!
「…………ん…………」
「……れ…………は…………」
「………………くれ君…………」
葉隠(何か……声が……)
不二咲「葉隠君! 葉隠君!」
葉隠「どう……したんだべ……不二咲っち」
不二咲「!! 気が付いたんだね、葉隠君! 大丈夫!?」
葉隠「たぶん大丈夫だべ……」
葉隠(そう言ってから体を起こす……)
葉隠(起こす……? ……どうやら俺は更衣室の床に横になっているようだ)
葉隠(どうしてそんなことに……って)
葉隠「そういえば大和田っちはどうしたんだべ?」
不二咲「……葉隠君を殴った後、急に冷静になったみたいで更衣室から出て行ったよ」
葉隠「そうか……」
葉隠(俺を殴った後に出て行った……これも予想通りだべ)
葉隠(そもそも俺が大和田っちと不二咲っちの会話に口を挟まなかったのは、大和田っちを逆撫でしないため)
葉隠(全く敵意を抱いてなかった俺を間違って殴ったら、そこで頭が冷えると思ったから)
葉隠(綱渡りのような賭けだったけど……上手くいったみたいだべ)
葉隠「それで大和田っちが出て行ってから、何分くらい経ったんだ?」
不二咲「えっと、十分くらいかな」
葉隠(十分……)
葉隠(苗木っちが殴られたときはもっと気絶していた時間は長かったはずだ)
葉隠(ということは……大和田っちも手加減してくれた……?)
葉隠(そういえば殴られる直前、俺の顔を見てなんかびっくりしてこぶしの速度が微妙に遅くなったような……なってないような……)
不二咲「それにしても、どうして大和田君はあんなに怒ったんだろう?」
葉隠「………………いつか不二咲っちも分かるときが来るべ」
葉隠(いくら占いという言い訳があるとはいえ、そんなに詳しく知っていたらおかしい)
葉隠(だから、そう言うしかなかった)
不二咲「そう……。あっ、葉隠君立ち上がれる?」
葉隠「そんなのよゆ……」 ガクッ
葉隠(……足がフラフラするべ)
不二咲「やっぱりさっきのダメージが大きかったんだよ。肩を貸すから、部屋まで行こう?」
葉隠「そうだな……」
葉隠(去って行った大和田っちが気になるけど、この体で出来ることなんて休むことくらいしかない)
葉隠(俺は不二咲っちの助けを借りて自分の部屋まで戻り、そのまま夢も見ないくらいぐっすりと寝た)
<翌朝>
葉隠「………………」 ムクリ
葉隠(………………)
葉隠「何か起きてしまったな……」
葉隠(どちらかというと俺は寝起きが悪いのだが、何故か今日は起きたすぐから頭が冴えていた)
葉隠「……それにしても……やったべ」
葉隠(昨日は殴られた痛みが大きかったから落ち着いて考えられなかったが)
葉隠(よく考えれば、今度こそ殺人を防いだのだ)
葉隠(殺される運命だった不二咲っちを、おしおきされるはずだった大和田っちを助けた……)
葉隠(……何とも言えない達成感だべ!!)
キーン、コーン、カーン、コーン。
葉隠「ん……チャイム?」
葉隠(何か放送でもあるのか……)
葉隠「………………」
葉隠(……って放送!?) ガタッ!
葉隠(まさか……また、イレギュラーが……!?)
モノクマ「オマエラ、おはようございます! 朝です、七時になりました! 今日も張り切っていきましょう!」
葉隠「………………」
葉隠「何だべ……驚かすなって……」 ホッ
葉隠(よく見ると、時計は確かに七時を指している)
葉隠(昨日寝たのも遅かったっていうのに、いつもより早起きしてしまったようだ)
葉隠(早起きしたっていうことは……)
葉隠「二度寝ができるってことだべ!」
ピン、ポーン。ピンポーン。ピンポン、ピンポン、ピ、ピ、ピ、ピ、ピンポーン。
葉隠「ああもう、何だべ!!」
葉隠(騒音に飛び起きると同時に、視界にちらりと入った時計を見ると……八時半)
葉隠(一瞬だと思ったけど、どうやら一時間半も経っていたみたいだべ)
葉隠「それだけ疲れていたってことか」
ピンポーン。
葉隠「……それにしてもさっきからこのドアベルは何なんだべ?」
葉隠「はいはい、今開けるべ」
石丸「おはようなのだよ、葉隠くん」
葉隠(ドアを開けるとそこには石丸っちがいた)
葉隠「おはようだべ、石丸っち」
石丸「ところで君は今何時なのか分かっているのかね?」
葉隠「えっと……八時半だべ」
石丸「そうだ! つまり朝食会はすでに始まっているのだよ!!」
石丸「早く支度をして来たまえ!」
葉隠「はいはい」
石丸「はいは一回! 短くはっきりと!」
葉隠「はい。……ところで石丸っち、他のメンバーはみんな来ているのか?」
石丸「葉隠くんが最後だ! 何と珍しいことに十神くんに腐川くんも来ているから、本当に最後だぞ!」
葉隠「そうだべか……」
葉隠(ということは誰も殺された人はいないってことだな……)
<食堂>
葉隠「おはようだべ……」 フワーッ
十神「そうかこれで全員か。……あの動機を前に殺人を実行したやつはいなかったてことか」
葉隠(ああ、十神っちはそれを確かめるために朝食会に……。相変わらず性格が悪いべ)
朝日奈「葉隠遅ーい!」
山田「そうですぞ」
葉隠「すまなかったべ」 チラッ
苗木「………………」
葉隠(苗木っちは変わりなし)
大和田「…………!」サッ!
葉隠(大和田っちは俺と目が合うと気まずそうに逸らした)
腐川「……どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう」
葉隠(腐川っちはぶつぶつとつぶやいている。……ジェノサイダー翔のことが今日明かされるとなれば、冷静でいろっていうのも無理な話だべ)
葉隠(その他のみんなは特に変わりがないように見える)
葉隠(こうして十二名揃って朝を迎えることができた)
葉隠(確かに動機の期限まではあと半日はあるけど、日中に殺人にかかろうにも、この二階までしか解放されていない状態では死角はあまりないし大きな音を立てようものならすぐに気づかれてしまう)
葉隠(日中の殺人は無いと考えていいだろう)
石丸「それでは諸君、手をあわせたまえ!」
石丸「いただきます!」
葉隠(ああ、やりきった……)
葉隠(第二の動機の提示を前に……誰も死なずに済んだんだべ……)
朝方に一度思ったことだったが、朝食を取る十一人の顔を見ると改めてそう実感する葉隠であった。
モノクマ劇場
モノクマ「うぷぷ、ここまでの物語どうだったかな?」
モノクマ「え? 葉隠が葉隠らしくないって?」
モノクマ「そうだね、妙に頼りがいがあったり、体張って不二咲クンを助けたり……」
モノクマ「けど、このssは葉隠クンが主人公なんだよ?」
モノクマ「だからこれくらいが普通……むしろ、CHAPTER1の方がおかしかったんだよ」
モノクマ「そうそう、ここまで読んでくれた人は当然疑問に思っているだろうね」
モノクマ「誰も死んでないじゃないか! ……ってね」
モノクマ「うぷぷ、人の死を望むなんておまえらも結構不謹慎だよね」
モノクマ「だけどCHAPTER2の予告で気づかなかったかな?」
モノクマ「あのときボクは『葉隠クンが殺人を防げないフラグだよね』って言った……」
モノクマ「そう! あれこそが『フラグだよね』って発言することで、『フラグがフラグじゃなくなる』フラグだったんだよ!!」
モノクマ「衝撃の事実ー!!」
モノクマ「……え、ややこしくて何言っているのか分からないって?」
モノクマ「もう、そこはフィーリングだよ、フィーリング」
モノクマ「というわけで次はCHAPTER3に行くのかな?」
モノクマ「殺人起きなくて飽きたとかいうよくあるご都合主義な理由で三階が解放されて」
モノクマ「次の動機、生き残ったクロには百億円を渡す、ってのが提示されて」
モノクマ「それによって動き出すセレスティア何とかさんを止めるために葉隠クンががんばるのかな?」
モノクマ「今回は不二咲クンも生き残っているからね。何かと頼りになるんじゃない?」
モノクマ「それでも狛枝状態の苗木クンとか、兄弟になっていない大和田クン、石丸クンが一周目と違う展開を引き起こして」
モノクマ「イレギュラーに怯えながら葉隠クンが頑張る……」
モノクマ「そんなCHAPTER3が来ると思っているなら……希望の持ちすぎだね」
モノクマ「絶望させたくなっちゃうよ」
モノクマ「だってまだCHAPTER2は終わってないんですから!!」ゲラゲラ
モノクマ「モノクマ劇場が入ったことで安心した? 安心した?」
モノクマ「だけどね、CHAPTER2が終わったなんてアナウンスはまだされていないんだよ?」
モノクマ「……え? けど、もう第二の動機、秘密の暴露まで殺人は起きないはずじゃないかって?」
モノクマ「じゃあ逆に聞くけど、秘密の暴露までに殺人が起きないといけないって誰が決めたの?」
モノクマ「むしろ秘密が暴露されることによって、疑心暗鬼が起きることだってあるのに」
モノクマ「……それに作者は予告でちゃんと書いていたよ?」
モノクマ「物語は一周目の向こう側へ、って」
モノクマ「これよりCHAPTER2は秘密の暴露を経てのコロシアイ学園生活を描いていきまーす!!」
モノクマ「今度こそはちゃんと人が死ぬよ。良かったね、不謹慎なオマエラ」
モノクマ「じゃあ、ばいなら」
続き
葉隠「強くてニューゲーム……って、俺がだべ!?」【中編】

