夫「ただいまー」
妻「お帰りなさい、あなた!」
妻「!」ピクッ
妻「…………」クンクン
妻「なんなの!? この香水の匂いは!? あたしという者がありながら!」
夫「るっせーな! キャバだよキャバ!」
妻「ぬわんですってぇ! ――許さんッ!」
妻「ぶった斬ってやるッ!」
妻は刃渡り30センチはある包丁を握り締めた。
元スレ
DV夫「ブン殴ってやる!」ヤンデレ妻「ぶった斬ってやる!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1479298429/
妻「シェアアッ!」
ザシュッ!
刃が夫の首筋を切り裂いた。おびただしい量の血が噴き出す。
夫「ぐう……ッ!」ブシュゥゥゥ…
妻「…………」ニヤ…
夫「――なあんちゃってな」
妻「!?」
夫「よぉく覚えとけ……人間は首を切られたぐらいじゃ死なんッ!」ヌリヌリ…
止 血 完 了
妻「木工用ボンドで止血!? 考えたわね……!」
夫「日曜大工は男のたしなみよッ!」
夫「たかが香水ぐらいでキレてんじゃねーよ! ブン殴ってやるッ!」
グシャアッ!
夫は素早い踏み込みから、渾身の右ストレートを妻の顔面にブチ当てた。
妻「…………ッ!」ボタボタ…
夫「おやおや、鼻血まみれだなァ~」
妻「クックック……」
夫「!?」
妻「あたし鼻炎気味だから、むしろ鼻の通りがよくなったわ。ありがとう」スースー
夫「てめえ……!」
妻「だけど、きっちりお礼はさせてもらうわよ」
妻「右手に……包丁ッ! 左手に……カッターナイフッ!」
妻「二刀流ッ!」ジャキーンッ
夫「来やがれ!」サッ
妻「シェアアアアッ! ――シャアッ!」ビュオオッ ビュアッ
妻の両手から鋭い斬撃が繰り出される。
夫(速いッ! だが見切れねえほどでもねえ! こっちからも反撃――)
ズドンッ!
夫「が……ッ!?」
妻のつま先が、夫の股間にめり込んでいた。
妻「かかったわね」ニタァ…
夫「て、てめ……ッ!」
夫(こいつ、二刀流で攻めると見せかけて、金的蹴りを……ッ!)
妻「うふふ……これでもう子供作れないわねえ」
夫「……そいつはどうかな?」
妻「なにッ!?」
夫「あいにく俺のタマはチタンよりも頑丈でね」
夫「あの程度の蹴りじゃ、潰すどころかひびを入れることもできねェよ」キーンッ
妻「ぬう……ッ!」
夫「だが痛いことは痛いんだ。激痛なんだ」
夫「夫の大事なタマを潰そうとしたクソ女には、教育してやらなきゃなァ~~~~~!」
夫「フンッ!」ズボッ
妻「ふがっ!?」
夫は人差し指と中指を、妻の鼻の穴に押し込んだ。鼻フックである。
妻「ふがが……ふがっ、ふがっ」
夫「俺のターンはまだ終わってねえぜぇ? このまま――背負い投げッ!」グインッ
ブオオンッ!
妻「ふがぁっ!」グインッ
ズドォンッ!!!
轟音とともに、妻の全身は床に叩きつけられた。
妻「ぐ……!」
夫「普通の夫婦なら、ここで決着にするところだろう」
夫「だが……俺は違うッ! かけさせてもらうぜ、追い討ちッ!」
夫「オラァッ! オラァッ! ――オォラァッ!!!」
ドゴッ! ドゴォッ! ドボォッ!
夫の蹴りが、倒れている妻の腹に突き刺さる。
夫「どうだァ!? 俺の蹴りはァ!? 答える余裕もねえかァ!?」
夫「ヒャーッハッハッハッハァァァ!!!」ブオッ
ドグシャァッ!
しかし――
妻「ふう……」ムクッ
夫「…………!」ビクッ
夫「な、なぜ!? お前の内蔵は破裂……いや爆裂したはず!」
妻「あの程度の蹴りじゃ、あたしの腹筋を貫くなんてとてもとても……」
夫「…………!」ビキビキッ
みるみるうちに夫の顔面に、枝分かれした太い血管が浮かび上がる。
夫「……亭主を侮辱するかァァァッ!!!」
妻「愛してるわァァァッ!!!」
ドカッ! ザシュッ! バキィッ! ザシッ! ドゴッ! ズバッ!
…………
……
大の字になって、横たわる二人。
夫「ふう……」
妻「はあ……」
夫「…………」
妻「…………」
夫「メシにしよっか」
妻「すぐ支度するわ」
また別の日――
夫「おーい、ビールもう一本」
妻「ダメよ、飲みすぎよ」
夫「なんだと!?」ビキッ
夫「てめえ、亭主が飲みてえっていってんだから、とっとと出しゃいいんだよォ!」
妻「ダ~メ、たまには肝臓にも休日が必要よ」
夫「…………!」ビキビキッ
夫「この年中休日のクサレ専業主婦がァッ! ブン殴ってやるッ!」
夫はビール瓶を手に取ると、妻の頭めがけて殴りつけた。
ガッシャァァァンッ!
夫「へへへ……どうだ、効いたろ?」
妻「ククク……」
夫(笑ってる!?)
妻「愛する妻の忠告を無視するという蛮行……万死に値するッ!」
妻「愛するがゆえに……愛しすぎるがゆえに……冥土へ旅立たせてくれよう」ユラー…
立ったまま全身を脱力させる。
夫(なにがくるッ!?)
妻はビール瓶の破片をすばやくかき集めると、夫の顔面めがけて投げつけた。
グサササッ!
夫「ぐわあああああ……っ!」
夫「目に……目に刺さった! てめえ、なんてことしやがる!」
夫「クソがッ、失明した! 回復に数十秒はかかるッ!」
もちろん、こんな千載一遇のスキを逃す妻ではない。
妻「ウッシャアアッ!」ギュオオッ
ザグゥッ!
妻は包丁に全体重をかけるように突進し、夫の腹に刃を突き刺した。
妻「やったッ! やったわッ!」グリグリ…
妻「さあて、包丁を抜き――」グッ…
妻「!?」
妻(抜けないッ!?)グググッ…
夫「抜けねェよ、腹筋で止めてるからな」
妻「…………ッ!」グッグッ…
夫「亭主の腹を刺すたぁ、なんて腹黒い女だ……」
夫「そういう女には“おしおき”してやらねぇとなァ……」ニヤ…
夫「ふんっ!!!」
ガゴォッ!
夫のアッパーカットが妻の顎を打ち抜いた。
妻「…………」ブラーン…
夫「ヒャハハッ! 顎が外れてすげえツラになってるぞ! ムンクの『叫び』みてェだ!」
夫「これがホントのビッグマウスってやつだ!」
妻「ふふふ……」
妻「おかげでビッグマックを苦もなく食べられるわ」パクッ
余裕の表情でビッグマックを平らげる妻。
夫「なんという強がり……ッ!」
妻「これが強がりでないことは、あなたが一番よく分かってるはずよ」クス…
夫「~~~~~~!」
夫「ならば今度は脳を粉砕してくれるッ!」
夫「コークスクリューの拳でなァ!」ギュルルルッ
妻「今ッ!」ダッ
夫(タックルゥ!?)
ガシィッ!
妻は夫の下半身に抱きつくと、夫の体を掴んだまま、風呂場までダッシュした。
妻「ここがあなたの墓場になるのよ」
夫「決着は風呂場で、ってワケか……おもしれえ!」
夫「ホースを蛇のようにしてッ!」シュルルッ
夫はホースを巧みに操り、妻の首を絞めつける。
夫「絞ッ!」ギュゥゥ…
妻「…………ッ!」ミシミシ…
夫「ごめんなさいって言え。そしたら楽にあの世に送ってやるぜ!」ギュゥゥゥゥ…
妻「誰が……謝るもんか……愛してる……」ミシミシ…
妻「ぬんっ!」ボムッ
妻の首に巻きついていたホースが破裂した。
夫(こいつ……首の筋肉をパンプアップさせることで、ホースをちぎりやがった!)
すかさず妻は石鹸を手に取ると、反撃を開始した。
妻「石鹸こめかみ打ち!」
ドガッ!
夫「ぐっ!?」ヨロッ…
さらに両手に石鹸を掴み、夫の顔面を殴りまくる。
妻「ソォォォォォォォォォォォプッ!!!」
ガッ! ゴッ! ドガッ! ガッ! バキッ!
妻「オホホ、顔面が泡だらけだわ! バブル崩壊で顔面崩壊ってやつね!」
夫「あいにくだったな」
妻「ぬっ!」
夫「俺はしがないサラリーマン……バブル崩壊どころか、リーマンショックだぜ!」
妻「おのれえ!」
夫「ええい、服がジャマだ! 風呂場ならやっぱ素っ裸で闘らねェとな!」ヌギッ
妻「とことんやりましょうや!」ヌギッ
ドゴォッ! バキッ! ガスッ! ドゴッ! ベキィッ! グチャッ!
…………
……
大の字になって、横たわる二人。
夫「ふう……」
妻「はあ……」
夫「…………」
妻「…………」
夫「背中……流すよ」
妻「ありがと」
さらに別の日――
夫「ただいまー」ガチャッ
妻「お帰りなさい、あなた!」
夫がドアを開けた――その瞬間であった。
バッ!
ナイフを持った強盗が侵入し、妻の首に刃先を突きつけた。
強盗「この女を殺されたくなくば……金を出せ!」ガシッ
妻「あ、あなた……」
夫「やめろッ! 金なら出す!」
強盗「素直でよろしい……だが、金をもらうまでこの女は人質だ!」
夫「分かった……」
夫「だが妻にナイフを向けるのはやめろ! そうだ! 代わりに俺を人質にしてくれ!」
夫「妻も通帳やカードの在り処は知ってるからな!」
強盗「……いいだろう」
妻「ダメよ、そんなの! あたしがこのまま人質になるわ!」
夫「……あ?」ビキッ
夫「てめえ……亭主が我が身を犠牲にしようとしてるのに、なんだその態度は」
夫「亭主に逆らうアマをこのまま生かしておく道理はねぇよなァ~」
強盗「え?」
妻「ふん……愛する亭主のためなら、亭主にも反逆するッ!」
妻「それがあたしの“愛妻道”よ」
夫「ほざけェッ!!!」
ブオンッ!
夫が超高速のハイキックを繰り出す。
狙いは妻ではなく、強盗でもなく、妻の首筋に向けられたナイフであった。
蹴りを受けたナイフは当然――
グサァッ!
強盗「うわあああああああああっ!!!」
妻「ぐ、ぬうう……ッ!」ブシュゥゥゥゥゥ…
妻の首から噴水のように血液がまき散らされる。
夫「ヒャァ~ッハッハ! 亭主に逆らった罰よッ! その出血量では助かるまいて!」
強盗「な……なんてことを! 私は金をもらえればよかったのに!」
夫「心配するな……お前にはなんの罪もない。金を渡したら、このまま帰してやる」
夫「この女の命と引き換えにブタ箱に行けるのなら本望よッ!」
妻「クックック……」
夫「!?」
妻は落ち着いた手つきで、針と糸を用意し、首筋を縫い合わせた。
止 血 完 了
妻「裁縫は……女のたしなみよ」
夫「バ、バカな……ッ!」
妻「人間は首を切られたぐらいでは死なん……あなたがいった言葉でしょぉ~?」
妻「ボケが始まったのかしらァァァン!?」
バキィッ!
夫「ぐぼっ……!」
お返しとばかりにハイキックを浴びせると、妻はすかさず包丁を装備した。
妻「心臓……いただき升ッ!!!」
ザクゥッ!
夫の胸に包丁が突き刺さった。
妻「決まったわ……ハートブレイク・ショット」
妻「あなたの死体は永久に冷凍保存して、一生愛してあげるわ……」
妻「――――!」ピクッ
ドクン… ドクン… ドクン… ドクン…
妻「な、なにッ!? 鼓動が止まっていない!?」
夫「よぉく覚えとけ……人間は心臓を刺されたぐらいでは死なんッ!」
妻(油断ッ!)
夫「むしろ、刺されたことで心臓が元気になっちまった」ドクッドクッドクッ
夫「反撃開始ィ!」
夫「亭主に逆らったことをあの世で悔いなッ!」ギュオッ
ズドンッ!
夫が妻の胸に右ストレートを浴びせるが――
妻「うっふっふ……」ニヤニヤ
夫(チィッ! デカイ胸に阻まれて、衝撃が心臓まで届かねェッ!)
妻「首も心臓もダメなら……狙いは皮膚ッ!」
妻「全身の皮膚をリンゴの皮をむくみたいに剥いて、人体模型みたくしてやるわッ!」
ザシュシュシュッ!
夫「ぐ……ぬう……ッ!」
夫(マズイな……人体模型みたいになったら、会社に行く時ちょっと恥ずかしい!)
ザシュシュシュッ!
夫の皮が次々と剥かれていく。
妻「あァ~……あなた、皮がめくれても、やっぱりかっこいいわ」ジュルリ…
夫「亭主の皮をはいで喜ぶ……それがてめえの本性か! 化けの皮がはがれたな!」
ザシュシュシュッ!
だが、皮むきに夢中な妻は気づいていなかった。
皮膚を狙った攻撃では、致命傷にはならない。
致命傷にならない以上――
夫(せいぜい皮むきに夢中になりやがれ。全身全霊の一撃を浴びせてやる……!)ギュッ…
夫「うおおおおおおおおおおっ!!!」
妻「む!?」
夫は妻の一撃をさばくと、全力を込めたストレートを妻の腹に叩き込んだ。
ボゴォッ!!!
妻「グオオ……ッ!」ゲボッ…
夫(――よし! やはり皮むきに夢中で、防御がおろそかになっていた!)
妻「ぐ……ぐえええええっ!」
妻「おええええええっ……!」
もがき苦しむ妻を見て、夫は満面の笑みを浮かべる。
夫「そうだ……もっと吐けッ! 苦しめェ! のたうち回れェェッ!」
夫「苦しんで苦しんで苦しみ抜いたら、もっと苦しいトドメを与えてやるッ!」
強盗「ま、待って下さい!」
夫「――ん? なんだあんた。まだいたのか」
妻「おえええええっ……ごえええええええっ……! うげええええええっ……!」
強盗「やはり……!」
夫「おい、妻は俺のボディブローで苦しんでるんじゃないのか!?」
強盗「違います……!」
強盗「これは――“つわり”です!」
夫「つわり!?」
夫「なぜ分かる!?」
強盗「なぜなら私は産婦人科医だからです!」
夫「なぜ産婦人科医が強盗を!?」
強盗「つい出来心で」
夫「ならしょうがないな」
強盗「心当たりはありますか?」
夫「妻と喧嘩になって、ヒートアップして、互いに素っ裸になることはしょっちゅうだが」
強盗「おそらくその時の揉み合いで、偶然着床してしまったのでしょう」
夫「なるほど」
強盗「とにかく、病院で詳しい検査をしてみましょう!」
病院にて――
強盗「検査をしたところ、やはり妊娠しておられます」
強盗「三ヶ月……といったところでしょうか」
強盗「すくすくと元気に成長していますよ」
夫「そうですか……!」
妻「やったわね、あなた!」
夫「ああ、よくやった!」
強盗「ところで――」
夫妻「はい?」
強盗「あなたがたはしょっちゅう喧嘩をしているそうですが……」
強盗「もう喧嘩はしない方がよいでしょう」
強盗「お腹の赤ちゃんにもよくありませんからね」
強盗「そもそも夫婦が拳や包丁で戦うなど、とんでもないことですよ」
夫「むむ……たしかに」
妻「おっしゃる通りだわ……」
夫「分かりました!」
夫「もう喧嘩はやめよう……今まですまなかった」
妻「いいのよ、あなた」
夫「これからは仲良くしよう!」
妻「ええ、あたしたち、真のおしどり夫婦になりましょう!」
………………
…………
……
三ヶ月後――
夫「ただいまー」
妻「お帰りなさい、あなた!」
妻「香水の匂いがするけど……」クンクン
夫「ああ、今日飲み会があって、泥酔した女の子を介抱したからそれで移ったんだろう」
妻「ふぅん、それなら仕方ないわね」
夫「俺は浮気なんかしないよ。愛してるのは君だけさ」
妻「ありがと、あなた」
夫「お腹、ずいぶん大きくなってきたね」
妻「ええ……時折こうやって暴れるの。元気でしょ?」ボゴォッボゴォッ
夫「おおっ、すごい。将来が楽しみだな」
妻「でしょ? このままお腹を突き破ってくれれば、ヒッヒッフーの手間も省けるしね」ボゴォッボゴォッ
夫「早すぎる反抗期ってところかな?」
妻「ええ、“反抗期胎児”ってやつね」ボゴォッ
夫「それにしても……素晴らしい気性の激しさだね」
妻「いったい誰に似たのかしら?」ボゴォッ
夫「いったい誰に似たんだろうね」
―おわり―