588 : SS寄稿... - 2011/12/08 21:40:09.06 jfA6RdFf0 1/31新刊発売日までに間に合った。32レス借りる。新約2~新約3の間の妄想SS。
cpは通行止め。
元スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-34冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1320320521/
……泣いていたな。
不測の事態でも潜り抜けた死線の数々から身に着けた冷徹な観察眼がそう教える。学園都市最強の超能力者、一方通行は一人になってしまった室内の天井を睨み付けながら、冷静に思考を費やしていた。
彼がいるのは、暫定保護者の立場でもある『警備員』である黄泉川愛穂のマンションに居候している自室と割り振られた一室である。あまり生活感を感じさせない小奇麗に片付いた空間で、虚空を睨み続けていた一方通行の口から声が迸った。
「クソがっ」
無意識に、小さく吐き出された汚い言葉。現状に対する行き場のない苛立ちから発せられた物だ。
いくら冷静に冷徹に物事を判断できようが、対処法が見つけなければ意味がない。これが血で血を洗う殺し合いならば話は違ったかもしれない。"暴力”というカデコリーに置いて誰よりも精通しているのが一方通行だったから。
だから今回の場合には、逆の結果を齎していた。彼が最も苦手とする分野のカデコリーだ。
人と人のコミュニケーション。心と心の触れ合い。
元から寡黙で、他者を拒絶する性質の彼にとっては最も苦手な分野の類だった。
(どォしろってンだ)
一方通行は忌々しげに表情を顰める。
一人ぼっちの自室。一人だけになってしまった空間。ここには先程まで一人の少女がいた。
打ち止めと呼称を与えられた、陽射しの下が似合い、人を温かく和ませる笑顔をいつも浮かべていて、消えない血と硝煙の臭いと死を纏った自分とは正反対の存在。そんな少女がこの部屋にいたはずだったのだが、今はいない。
(あのクソガキは……泣いてたンだよな)
口論の末に、ドアも閉めずに飛び出していった後姿が脳裏を通り過ぎていった。頬を濡らす雫と、怒りと悲しみの感情を混ぜた金鳴り声が耳と瞼の裏に焼き付いて離れやしない。
飛び出していった……逃げられたのだ。
自分の声は聴きたくないと。自分の姿を視界に納めたくないと。どれだけ突き放そうが、拒絶の意思を示しても、頑として拒み続け離れようとしなかった相手から。
(どォすりゃいいンだよ)
こんな経験は初めてだった。
いつだって最後には、"一方通行”という人間を受け入れてくれた打ち止めが、向こうから拒絶してきたのだ。
まるで普段とは真逆の立居地に陥った一方通行は嘲りの笑みを零す。
「ザマァねェな」
たった一人の少女に拒絶されたぐらいでこの慌てよう。学園都市最強の超能力者が聞いて呆れるものだ。
誰かが知れば、こう評すことだろう。――弱くなったと。白熱し白濁し白狂していた化物ならば悩まず切り捨て、最強の頂きに君臨していただろうと。
下らねェな。
一方通行は一言で思考を切り捨てた。もはやそんなモノに興味も価値も見出せない。第三者からの評価など論外だ。
大事なのは一つ。
ただ打ち止めという少女を守りきるということだけ。その為だったら、ガラにもない事すらやると決めたのだから。
だから、
「悩んでても仕方ねェ。追いかける」
追いかけて誤解を解く。それ以外に選択肢は元よりないのだ。
ふと気づいた。立場が逆になったが変わらない物もあると。
「いつだって振り回されるのは俺の方か」
もしくは両方か。あのクソガキも同じように困った事があるのだろうか。新しい疑問が浮かぶが、今は必要のない疑問ゆえにフタをする。
ギシッとスプリングの音が軋む音がベッドから鳴る。どう説得するか具体策までは導き出せていないが、行動は決まった一方通行は腰掛けていたベッドから立ち上がった。愛用している現代風の杖を握り締め、おそらくは外に飛び出していった打ち止めを追いかけるために自室を出ようとした所で、開けっぱなしになっていたドアから悪意に満ちた人物が通せんぼうするように、一方通行の前に立ちはだかった。
「なンの用だ」
「あなたの顔を覗きにきたの。今まで従順だった娘が反抗期になってお困りな親御さんの表情ってどんなのかなーって」
「暇な野郎だ」
「そんなこと言っちゃってー。内心じゃどうしようどうしようって慌てふためいてる癖に。この前テレビで観たドラマみたいかな。娘が授業参観に来て欲しいってお願いして、その日は会社があると断って泣かしちゃう親御さんと」
何かを比喩する物言いと、込められた嘲笑が一方通行の癇を煩わせる。忌々しいとはこの事か。
そもそも彼と打ち止めが喧嘩した理由というのが、一方通行がまた打ち止めから離れるという事から始まったのだった。
「大変だねぇ我侭な娘をもった親御さんは。最終信号を守るためにわざわざ動くってのに、それを理解して貰う所か、拒絶までされちゃうんだから」
「……オマエには関係ねェだろ。ややこしくなるから出てくンな」
「それは心外だなぁ。次の目的地はハワイだっけ?世界でも有名なリゾート地だし、ミサカ一度行ってみたいと思ってたんだよね」
来ンな、とそもそも連れて行く気なんか一切無い一方通行は言葉を挟もうとして、先に遮られた。
「そもそも八つ当たりはやめてよね一方通行。さすがにあの暢気な司令塔だって、理由も言わず黄泉川達と大人しくしてろなんて言われたら怒るに決まってるじゃん。それを私のせいにされるのは理不尽じゃない?」
確かに、それで失敗したとは一方通行も気付いている。
だからと言って懇切丁寧に全てを説明したからと言って、あの少女が納得するとは思えなかった。自分の為に危険な場所に行くと知ったら、間違いなく止めようとすることだろう。どうやっても打ち止めが泣くような未来しか見出せない。結局、行き着く先は同じなのではないか?
「……理不尽なのはオマエらの方だ」
目の前の番外個体にしろ、怒って泣いて逃げ出した打ち止めにしろ、一方通行を困らせることに限っては超がつく一流だ。
なのに死んでも守りたい存在なんだから頭が痛い。
「いいから退け。クソガキを追うのに邪魔だ」
「えーいいじゃん。あんな我侭なお子様なんか放っておこうよ。それよりミサカと二人でハネムーンの準備しようぜ。それともミサカみたいな熟れた肉体より、未成熟な果実の方が第一位はお好みなのかな。この変態!!やっぱり小さいのが趣味なのね!!だからこのミサカの事は平気な顔で腕をへし折ったのか!!」
「……オマエ、その口閉じねェとおしゃぶりが上手なツラにしちまうぞ」
「いまだってあなたをイカせるぐらいにはテクニシャンなつもりだけど。なんなら試してみるペロペロペロペロって」
よしぶん殴ろう、と首筋に指を這わせようとして気付いた。
目の前の下品な女の様子がおかしい。おかしいのはいつもだが、どうやらそれ以外にも異常が見受けられる。
こちらをからかい遊んでフザけていたように思っていたのだが、何故か悪意という背徳感を満たすというためでなく、それ以外の不必要な必死さを感じるのだ。
具体的には顔を真っ赤にして、身体を「むずむずむずむずむずむずうずうずうずうずうずうずむずむずむずむずむずうずうずうずうずうずうずむずむずうずず――――ッ!!!!」と揺れていたりした。
「ほ、ほらっ!はっ、はやくミサカと準備しようぜ!ミサカと一緒にハネムーンの準備するううぅぅぅううううううううううう!!」
無言だった一方通行に痺れを切らしたのか、近づいてくると折れた腕をギブスで巻いたほうでアピールするように何度もぶつけてくる番外個体。
以前にも一度、似たような光景があったはずだ。
「何がしてェンだ、オマエ?」
……数分後。
相手にしていられないと押し退けていった一方通行は考える。無駄な時間を過ごしたようだが、全てが無駄では無かったと。
不測の事態でも潜り抜けた死線の数々から身に着けた冷徹な観察眼は伊達じゃない。どうやらあのクソガキは、相当お怒りなのは間違いないとしても、早く追いかけて来いと思っているのは事実なのだとも。
心の片隅で、どこか救われた気がした一方通行は行動を開始する。どこに逃げたか分からない少女を探しにと。
「ミサカもう死にたい……」
第一位が居なくなり、ネットワークの影響から開放された番外個体の鬱を知りもせずに。
――――
一方通行は陽射しの下を歩きながら、逃げ出していった少女を捜索していた。
学園都市は広いが当てが無い訳じゃない。所詮は子供の足だ、行動範囲は限られている。感情的になって飛び出したのもあって、綿密な計画があって逃げ出していった訳じゃない。基本的に金銭を所持していない打ち止めは、必要になるなら黄泉川や一方通行が面倒を見ている。今回の場合、そこまで冷静さがあったはずはないのだから交通機関を使う可能性も限りなくゼロだ。
(加えて……)
皮肉にも番外個体から入手したデーターもある。
ミサカネットワークという妹達のありとあらゆる脳内情報の集合体は、同時にネットワークそのものが巨大な『一つの意思』として振舞うのを一方通行は経験上知っていた。つまり番外個体のあの目的不明な行動は、逆算するとネットワークを統括する司令塔が『何で追いかけてこない。何で自分を引き止めない』という苛立ち等で構成された感情を抽出した結果なのだろうと推測できる。要約すると『構えよ』というとこだろうか?
(……ガキはガキか。ダダ捏ねてンじゃねェよ)
厳し気に引き締められていた口元が緩んだのに無自覚な彼は、そこのまま分析を重ねていく。
打ち止めは"一方通行”の全てを拒絶したわけじゃない。考えるのも小っ恥ずかしいが、追いかけられるのを、説得されるのを待っているはずだ。
もちろん、それだけじゃないだろう。
怒りは本物だ。悲しみも嘘じゃない。感情が一面性や二面性で表せる物じゃない。人を愛したからこそ、人を殺すなんて常軌を逸脱した殺人鬼なんて異常者が有り触れているのが世の中。……一方通行には愛は理解出来なかったが。
(裏路地や複雑な場所も除外していい。後は該当する条件を当て嵌めて、虱潰しに探せば見つけれる)
カツンカツンと現代風の杖が、心持ち速めの音を刻みながら捜索は続く。
公園。開けた空き地。売店。休憩所。
第一候補に挙がった順番に処理していきながら、一方通行は同時に観察していた。
自分が勝ち取った平和の光景を。
『新入生』という新たな『闇』は、間違いなく潜んでいる。だが、目に映る範囲は『闇』の臭いは感じられない。かつて、どこにいようが感じていた不穏感が払拭されている。
平和だ。平和だからこそ、
「ッチ」
派手な舌打ちが響いた。
気に食わない。その光景こそが彼を非情に苛立たせる。間違いなく『闇』は存続しているのに、かつては『暗部』の最深部で活動していた一方通行に動きを悟らせないのだ。
勝ち得た光景は幻想だった。
マヤカシだ。仮初の平穏。今までと何が変わった?良い所、〇九三〇事件前と同列だ。
(それだけじゃねェ)
『闇』は学園都市内だけに留まらない。
外の世界。『超能力』とは違うベクトルの不可思議な力である『魔術』があり――『グレムリン』と名乗る連中が世界の裏側で暗躍している。
『ラジオゾンデ要塞』の事件は記憶に新しい。たった一人の人間を捜索するために、地球すら滅ぶ可能性を許容する性格破綻者の集団。これまで壮絶な殺し合い潰し合いを演じてきたのが、小さな社会での小競り合いに感じられるスケールの圧倒的な差。襲い掛かってきた徒労感と無気力感は嘘だと誤魔化せなかった。
――大海の中の井の蛙。
これが現状の己の立位置だと、学園都市最強の超能力者は吐き捨てた。
(情報が足りねェ。『闇』と手を切った今、必要な情報を手に入れるには己の目と足で稼ぐしかない)
何かが足りないのは解っている。
何かが欠けているのは知っている。
(何が足りないのか。何が欠けているのか。それも解らねェンじゃ、守ることすらも儘ならねェ)
それが一方通行の背を後押した。
レイヴィニア=バードウェイという魔術師がいる。年齢と外見の割りに知性に溢れ、上から目線で講釈する生意気な少女が放った言葉。
(関係ねェよ。俺は俺のやりたいようにする。そこに他者の思惑なンかは挟む余地がない)
悪党に興味はない。善人になれたとすら思えない。好んでヒーローを目指そうと思えない。
ただ、守る。
一方通行にとって『大切』にしたいと思う者を守るだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。どの道へ進むべきか、それすらも見定まっていない中途半端な状態だが、譲れない条件は存在する。
(その為にも……)
カツン、と杖が音を止めた。
「打ち止め……」
見つけた。
三箇所目の公園のベンチに、俯きながら居心地が悪そうに座っている。
人気が少ない寂れた公園だ。周囲には人影すらない。一方通行が進入した砂を踏む音に反応した打ち止めの小柄な体躯がビクッと揺れる。
(さァ……どォする)
見つけはした。
だが具体的な解決策は導き出せてはいない。こういうのは苦手だ。
それでも、
「面倒掛けさせンな。探したぞクソガキ」
一方通行は臆せず声を投げ掛けたのだった。
――――
「帰ンぞ。打ち止め」
どう言葉をかけようと思って、結局は無難な言葉しか選べなかった。それでも彼としては気を使ったつもりなんだろう。ぶっきら棒に聴こえるかもしれないが、普段よりも幾分かは柔らかい響きを持って接している努力が垣間見れていた。
「……ヤダっ!ってミサカはミサカはあなたなんかの言葉は聴きたくないっ!!」
「――ッ」
枯れそうな声で叫ばれた。否、すでに枯れ尽くした後のひしゃげた掠れ声。逃げ出した後、どれだけ泣いていたのか。
否定しようもない拒絶に、一方通行は痛みを覚えたように表情を歪める。彼はそのことに気付かない。気付く余裕が無ないのかもしれなかったが。
「……なンで、オマエはそンなに嫌がンだよ」
「あなたこそ、あなたこそ何で気付いてくれないの、ってミサカはミサカは――ッ!」
「俺にどォして欲しいンだ?」
「……知らないもん、ってミサカはミサカはあなたが自分で考えてって言う」
一方通行は舌打ちするのは我慢した。
これだからガキは苦手なのだ。理屈や理屈が通じやしない。
「……本当に分からないの、ってミサカはミサカは疑問を投げてみる」
「……、全部説明すりゃ納得すンのか?」
だったら説明してやると一方通行は口を開く。痺れを切らしたのもあるし、番外個体と会話した際にも、これは不味かったと薄々感じてはいたのだから。
打ち止めは無言だった。何も反応を示さない。正解なのか不正解なのか。分かりやすいぐらいに分かる態度は完全に鳴りを潜めていた。
一方通行は訥々と説明していく。
『魔術』、『第三次世界大戦の裏側』、『ラジオゾンデ要塞』、『その黒幕であるグレムリン』。
大まかに、だが些細な事も残さず説明していく。これだけ彼の口から、打ち止めという少女に語られた事はこれが初めてだろう。
必死だった。ここまで必死なのが彼自身にも理解できてはいない。いくら『守るべき存在』だとしても、ここまでアフターケアをする必要性は本来なら皆無だろう。
欠けたモノに、彼はまだ気付きはしない。
そして。説明を終わった――
「オマエらを――オマエを守るためだ、打ち止め」
――そう締めくくって。
「そっか……そうなんだ、ってミサカは理解したって言ってみる」
「そォだ。理解したンなら――」
――帰ンぞ、と続けようとした一方通行の言葉は、最後まで口にされる事は無かった。
「あン?いま、なンて言った?」
「あなたの言い分は分かった、でもミサカはミサカはイヤだって言ったの」
「あのなァ……」
「大体、あなたはいつもそうだ、ってミサカはミサカは愚痴を漏らしてみる」
涙腺がまた緩みかけているのだろうか。
少女の瞳が不安定に揺れ始めていた。
「ミサカだって気付いてる、ってミサカはミサカはあなたがいつもミサカ達を守ってくれてるんだって」
出会ってからずっと。
いつだって、離れ離れで傍に居てくれない時でも。
少年は少女を守ってくれていた。そんな素振りすら見せずに、当たり前のように。
「あなたは優しいから、ってミサカはミサカはあなたに迷惑をかけたくないって思うの」
でも。
でもね。
「ミサカ……ミサカはおかしくなっちゃったのかな、ってミサカはミサカは今までは我慢できてたのに」
少女の目尻から一筋の雫が伝って、ポタッっと地面に染みを作った。
言葉の途中からベンチから立ち上がり、対面していたからその様子が一方通行にはよく分かった。
「もう無理だよ、ってミサカはミサカは素直にこの気持ちを吐露してみる」
少女は言う。
本心を、今まで何度も伝えてきて、だけど最後には我慢して折れてきただろう本心を。
「あなたに危険なことをして欲しくない、ってミサカはミサカは心配してて」
「もうどこにもいかないで欲しい、ってミサカはミサカはずっと心細くなってて」
「ずっとずっとあなたと一緒にいたい、ってミサカはミサカはこれまでも思ってたのに」
それなのに。
それなのに。
「あなたはいつだってミサカ達を守ってくれるけど、ミサカの想ってる事なんて気付いてくれないんだ、ってミサカはミサカは訴えてみる!!」
強く叩きつけたような叫びだった。
堪えて抑えて耐えて、それでも溢れ出した想いの激情は、寂れた公園の端から端まで轟かせるぐらい響く。
我侭だという自覚は少女も持っている。だからこそ、これまでは締め付けられるような痛みを抱え込みつつも我慢していた。告げれば困ってしまうだろうから。今、目の前で言葉も無く呆然と立ち尽くす彼が想像していたイメージと重なっている。それを確認した少女は、ごめんなさいという言葉を思うが。
「あなたも一緒にいたい、ってミサカはミサカは初めてあなたが言ってくれた時嬉しかったのに。なのに……っ!!」
爆発してしまった感情に歯止めは利かなかった。
ごめんなさい、と謝るよりも責め立てる言葉が口から勝手に飛び出してきてしまう。
「あなたは嘘つきだ、ってミサカはミサカはもう何を信じたらいいのか分からないもん!」
止まらない。言い過ぎだと後悔するけど止まらない。
本心からの言葉じゃないと打ち止めは後悔するも、もう何が本心なのかすら、そもそも何を伝えたかったのかすら失念していた。
悲しみや怒りが頂点に達すると、理屈や道理など突き抜けてしまう。遅かれ早かれ、誰だって一度は経験する事態であり。それが少女の場合は今回だけだった話である。
一方通行は無言だ。無言のまま、打ち止めを見据えたままで。
何も、言ってくれはしなかった。
慰めてくれるのを期待していたのだろうか。叱ってくれるのを望んでいたのだろうか。
ただ確かなのは。
彼は一言も与えてはくれなかったという事だけだった。
「もういいよ……ってミサカはミサカはうな垂れてみる」
思考がグルグルと渦を巻いていて方向性が定まらない。涙で霞んだ視界はボヤけて不鮮明。
「優しくなんかしてくれなくてもいい、ってミサカはミサカは変な期待なんか持たせないで欲しいって言う」
ああ終わった、と打ち止めは思った。
嫌われてしまったと思う。本当は真逆なのだ。もっと優しくして欲しいのに、どうしてこうなったのか。
理解できずとも、言葉は突き動かされるように放たれた。
「あなたなんか、ミサカはダイッキライだ!!」
また一筋、少女の悲しみの雫が零れ落ちていった。
――――
(……痛ッてェーなァ)
凍結していた思考が回復してから、まず感じたのは痛みだった。
弾丸どころか、その気になれば核爆発すら難なく『反射』してかすり傷一つすら負わない一方通行は、胸をポッカリと――心臓ごと抉り取られたような感覚に襲われていた。
(あァ……本当に)
これまでに経験したことがない痛みだった。
物理的にも精神的にもだ。『反射』を突き抜けてくる化物共に傷を負わされようが、ここまでじゃなかった。悪意という嘲笑を投げてくる雑魚共の言葉など心に微塵とも響かなかった。
悪意という悪意を知り尽くした、痛みという痛みを与え与えられてきた筈の第一位でさえ知らない痛み。
(本当に……痛ッてェーなァ)
どうしてこんなに痛むのか。
どうしてこんなに――心が軋んでしまうのか。
(安くなったな俺も)
知らない痛みで当然。今まで知ろうとすらしなかったのだから。
知ろうともしなかったし、知っている相手はこの痛みを与えようとはしてこなかったから。
守られていたんだろう、きっと。
気付かなかったし、気付いても何かが出来たとは思えなかったが。そう、今のように。
(親御さンか……マジで笑えねェ)
突き放していた少女に、いざ望みどおり突き放されただけでこの有様だ。笑えなかった。
昔の『無敵』を目指していた一方通行なら歯牙にもかけなかっただろう。昔の『悪党』を目指していた一方通行なら皮肉気に嗤いながら受け入れ陰ながら守っていただろう。
少し前までの――打ち止めに拒絶される――中途半端な立場になっていた一方通行も、同じように受け入れることが出来ると思っていた。やるべき事は変わらないと動じず前に進めると漠然と考えていたのだが。
どうやら。
違ったらしい。
(打ち止め……)
目の前には変わらず打ち止めがいる。
小さく喉を震わせながら嗚咽を零し、地面の染みは刻々と範囲を広げていっている。俯いている打ち止めの表情は一方通行から見えないし、向こうもこちらが見えていないはずだ。
一歩と半の距離が、凄まじく遠く感じた。手を伸ばせば届くのに、離れ離れであった時でも、ここまで距離が離れているとは感じなかったのに。
もう、何をやっても届かないと不安になってしまうぐらいの重さが一方通行の心に圧し掛かってきていた。
(認めてやるよ)
一方通行は微笑むような、苦虫を潰したような。両方を足して二で割ったような表情を浮かべた。
優しくも見えるし、苛立ったようにも見えるし、困ったようにも見えるし、諦めたようにも映る、無自覚の表情を。
(俺はオマエと一緒にいたいンだって)
それだけじゃない。その段階は、以前に通り過ぎたステージだ。
その一歩先を望んでいた。きっと、
(オマエと一緒に、同じ時間って奴を共有したいンだ)
楽しいことも、辛いことも。
幸せなことも、不幸せなことも。
有意義なことも、下らないことも。
丸ごと全部。可能な限り味わってみたいと思ってしまった。
時には甘すぎて顔を顰めるかもだし、時には面倒と一蹴するかもしれない、時には疲れて溜息も吐き出したとしても。
一緒の時間を共有したいと、切に望んだ。
(だったら)
そうだ。
なにを迷う必要性がある?
(オマエは何をすべきが分かってンだろ『一方通行』)
手遅れにはまだ早すぎる。
気付けはしたのだ己の心に。だったら後は伝えるだけ。
もう届かないなんて重圧はこのまま何も伝えなかった場合の結果であって、行動に移した後には別の解答が用意されているはずだ。
所詮は幻想(サッカク)だ。イヤなら押し通ればいい。今までそうしてきたのだから。
(――いくか)
呆然。
混乱。
動揺。
苛立ち。
痛み。
幾通りの感情のプロセスを解析し終えた一方通行は――、
「勝手に話を終わらせてンじゃねェよ」
漸く弾き出した結論を胸に、沈黙の壁を打ち砕いた。
――――
一方通行は静かに、だが微かに緊張を孕んだ声を発した。
結論が弾き出されたとは云え、苦手意識が消え去ったわけじゃない。今からが本番で、克服の一歩目だ。
誰しも初体験なんてそんな物だ。例外なんて有りやしない。だから多少の緊張はするし不安もある、それがよそよそしい態度として表に出力されたとしても、責めるのは酷というもの。
例え、泣いていた少女が声に反応して泣き面を晒して見上げれてば、何度目かも分からない不安を与えてしまったとしても。
一方通行を責めるのは酷というものだろう。
少女が不安や絶望に押し潰されそうであれば、少年も緊張や不安で一杯一杯だ。
片や、心無い罵倒をして自己嫌悪に沈み嫌われたと誤解し。
片や、どう自分の気持ちを伝えれば傷つけずに済むかと手探りな状態に必死で。
お互いに余裕がない。
気持ちは言葉にしなければ伝わらない。秘めているだけで伝わるなら、こんな事にはならかったのだから。
だから、
「オマエが本音を伝えたんだ。俺にだって言う権利はあンだろう」
「……」
「その……オマエが俺を嫌いなのはよく分かった」
「……っ」
打ち止めの喉元がグビリと蠢いた。
呻きに似た声無き声が、微かな音となって漏れる。
「オマエの言い分も理解した……つもりだ」
「……」
必死に言葉を探していた。
傷つけないように細心の注意を払って、筋道が通った解り易い言葉遣いを。
でも何か違和感を覚える。
自分が言葉を発する度に、守りたい少女の不安度が増しているのは気のせいか?
(落ち着けよ一方通行。クールになれ。結論を急くな)
打ち止めに悟られないように、肺に新鮮な空気を送り込み自らの不安を外へと排出した。
「心配を掛けたのは……悪かった」
「……」
誠実さを持って、ゆっくりと言葉にしていく。
ガラじゃないのは認知してるが、そんな羞恥心や自尊心など犬にも食わせちまえ。
「そんなモンは本来は不要な白物だが……」
――いや、違ェ。こんな事を伝えたいンじゃねェ。
思わず飛び出した皮肉に思考が停止しかけるが、たどたどしくも軌道修正を試みる。
「迷惑って言ってンじゃねェから勘違いすンな」
「……」
「……感謝、してる」
感謝、なんて言葉を口にしたのはいつ以来振りだろうか。
皮肉と悪意をトッピングした意趣返しという意味合いならあったかもしれないが、字面通りの意味合いでは無かっただろう。
『一方通行』と名乗るようになってからは、本当の意味で初めてかもしれない。
「……」
一方通行を知る人物なら、驚愕間違いなしのレア中のレアな言葉だったのだが……打ち止めは無言だった。
ちゃんと聞いているのか不安になる。何も反応を示さないことに気持ちが萎えそうになった。自分は正しく伝えられているのだろうか?
(知るかよ……クソったれ)
……黙るな。口を開き続けろ。
不安を薙ぎ払い、萎えそうになる自分を叱咤しつつ、
「嘘じゃねェ」
「……」
「本当だ」
「……」
「俺も……」
「……」
「俺も、オマエと、一緒に居たい」
一言、一言、区切り強調した宣言。
誤解も、曲解も許さない台詞だった。ストレートだ。
なのに。
だってのに。
「…………」
どうして反応をしてくれないのだろうか。
無言だ。目線は合わされず、言葉は交差せず、気持ちは絡み合いすらしない。
壁に向かって念仏を唱えている気分だ。
やはり駄目なのだろうか?
自分はどこまで行っても『一方通行』で……かつては誇りや矜持としていた孤高が、今や鬱陶しいほどまでに耳障りなノイズを発してくる。
「何か言ったらどォなンだ?」
打ち止めからの反応という切り口が欲しかったから、呼びかけという催促を行なった。
耐え切れず零した弱音だったかもしれないと、心の奥底で自嘲しつつも一方通行は返事を期待する。期待するしか無かった。
「ちゃんと聞いてるよ……、ってミサカはミサカは相槌をしてみる」
――――
嬉しかった。
嬉しかった。
ここまで本音を聞けたのは初めてだったから。
自分の醜い言葉すら浅はかにも忘却の彼方へと押しやって。
嬉しかった。
嬉しすぎて、言葉が浮かばなかった。
でも。
一瞬だった。嬉しいのは間違いじゃないのに、それを覆い隠すほどの黒い黒いナニカが、全てを洗い流していった。
そんな言葉じゃ止められなかった。
そんな気持ちじゃもう止められなかった。
嬉しいけど、余計に辛くなってしまって。
間違いじゃないのに、正しいはずなのに、受け入れられなくて。
だって。
だって、ね?
期待して裏切られたらイヤだ。
あなたは優しいから、もしかしたらって期待しちゃう。
だから、だから。
聞きたくなかった。イヤだから……イヤだもん。
知ってる。
知ってるから。あなたのことなら、ぜんぶ知ってるから。言葉にしてくれたのは驚きだけど……だから嬉しくて、余計に辛い。
だって、
だって、ね……?
――あなたはそれでも行くんだよね。
知ってるから、その答えを聞きたくなかった。
優しくしないで欲しかった。期待を抱かせないで欲しかった。――希望なんか持たせないで欲しい。
「もうやめて!優しい言葉なんかミサカはミサカは聞きたくない――っ」
叫んでしまっていた。
理解不能。エラー。もう分からない。自分で自分が分からないし、信じたくもない。
だから、
背を向けて、逃げ出そうとした。また、逃げ出してしまった。
――――
「もうやめて!優しい言葉なんかミサカはミサカは聞きたくない――っ」
頭にきた。
血が上って、視界が真っ白になるかと思った。
黙っていたかと思えば、拒絶という叫びを浴びせられた。順序だって離せよ頼むから。
そして、
今。
「――っ」
目の前では呆然としていたクソガキが後ずさっていた。
逃げようとしているのか。
ふざけるな。
ふざけンなよ、クソったれ。
また追いかけっこは勘弁だ。逃げられるのも御免被る。
怒りからか、スローモーションのように再生される景色の中、少女が後退りから、完全に背を向ける姿勢になるのを見せ付けられて――クソったれが。
もういい。
言葉じゃ駄目だと分かった。理解した。
「だから――」
言葉で駄目なら。
後は行動で示すまでだ。もう何だっていい。言葉も行動でも実力行使でもその他のナニかでも全部交えてでも。
絶対に解らせてやる!!
「――勝手に話を終わらせてンじゃねェえええええええええええ!!!!」
――――
背を向けて遠ざかっていこうとする打ち止めに対して、一方通行は獣の反射で飛び掛っていた。
愛用の杖をかなぐり捨て、首筋のチョーカーにも触れもせず、ただただ全力で飛び掛っていた。
能力が封じられているのを危惧しての咄嗟の判断も含めてだが、どちらかというと本能的な反射行動だった。端的に言って頭に血が上っていた彼はブチ切れていたから、そこまで冷静に判断が出来たか怪しい。ただ逃がさないと。それだけの意思を持って飛び掛っていた。
不自由な肉体が、空を舞う。自由が効く右腕が限界まで伸びきり――逃げていく打ち止めの右肩を抱き込むようにして掴んだ。
「――ひゃっ?!」
「――っ」
打ち止めに怪我を負わせないように、抱き込むようにして己の身をクッションにした一方通行は、そのまま二人して地面を滑るようにして叩きつけられた。
痛そうな鈍い音が響くが、機転を利かせたファインプレーにより、打ち止めは驚いたぐらいで怪我はないようだった。その分、一方通行は背中から襲い掛かる衝撃に息を詰まらせていたが。
「や、やぁ、離して!ってミサカはミサカは――」
「――暴れンな、クソガキ!」
小柄な身のどこにそんな力があるのは謎だが、腕と脚を振り回して下敷きになってしまった一方通行から逃れようともがいていた。一方通行は阻止しようと、右手を少女の右肩上から左脇下に差し込むとガッチリとホールドする。上半身の動きをそれで阻害し、下半身の動きを妨害するために右足を少女の両太ももに絡めるようにしてガッチリと固定した。
「にゃ、にゃなななな、ってミサカはミサカはあなたはどこを触ってるのって動揺してみる!!」
「オマエが暴れるからだろォがァ!」
幸いにも、ここは寂れ朽ちた公園だ。
周囲には人っ子ひとり居やしない。どれだけ騒ごうが、例え白い凶悪な面構えをした男が、見るからに幼い少女に襲い掛かるような構図に見えたとしても問題はない。
「ちょっ、そこは駄目、ってミサカはミサカは貞操の危機を感じてみたり!!」
「ふざけンなガキがマセたこと言ってンじゃねェ!!」
「ガキじゃないもん、ってミサカはミサカは反論してみるっ!」
「それがガキだって言ってンだよ、いいから暴れンなッ!」
逃げようとする打ち止め。押さえ込もうとする一方通行。
傍から見たら、恐ろしく絵的に拙い攻防は終わらない。決着よりも風紀委員や警備員が駆けつけるのが先かと臭わせる激しい攻防戦は、なんとか一方通行が優勢を維持しつつ続いた。
……どれくらい続いただろうか。
数十分の格闘の末、先に体力が尽きたのは打ち止めで、軍配が上がったのは一方通行だった。
二人とも服装は乱れ土に汚れてしまい、吐く息は荒く、打ち止めに限っては全身の疲労により小動物のように温かい腕に包まれてグッタリしていた。
「……」
「……」
「疲れた、ってミサカはミサカは恨みがましく言ってみたり」
「そォだな。俺もこんなのは一生ゴメンだ」
「……」
「……」
「離して、ってミサカはミサカはお願いしてみる」
「却下だ。逃げンだろ?」
「……」
「……」
「逃げないもん、っミサカはミサカはだから離して」
「それでも却下だ。こンままでいい」
ぎゅっと抱き込む力が強くなった。
熱と熱がより強く感じられた。
「他の人に見られたら犯罪者扱いだよ、ってミサカはミサカは指摘してみたり」
「ふんっ。他は関係ねェ。俺とオマエの問題だ」
「そっか……、ってミサカはミサカは頷いてみる」
「そォだ」
「……温いね、ってミサカはミサカは……」
「あァ……」
求め続けて、何度も失いかけた温かさ。
今だって遠ざかっていっていた居心地の良い温かさが、二人の気持ちに安らぎを与えているのは否定できなかった。
「ねぇ……、ってミサカはミサカは問いかけてみる」
「なンだ」
「質問していい、ってミサカはミサカは確認をしてみる」
「あァ」
「――あなたはそれでも行くんだよね、ってミサカはミサカは訊いてみる」
「そォだな。俺は、行く」
「やっぱり、ってミサカはミサカはあなたはそう言うと知ってた」
「よく分かってンじゃねェか」
温かい熱に包まれているはずなのに、どうしようもない寒さに身を震わせた打ち止め。
また傷つけたと気付いた一方通行は、不器用ながらも気遣うように強く抱きしめる。
「寂しいよ、ってミサカはミサカはあなたと一緒にいたいの」
「俺も、オマエと一緒に居たい」
「怖いの、ってミサカはミサカは危ないことするあなたを心配する」
「俺も、オマエが心配だ」
「それでも行くんだ、ってミサカはミサカはやっぱり理解できない」
「必要だからだ」
「泣くよ、ってミサカはミサカは警告してみたり」
「泣くな。困るだろ俺が」
「自分勝手だよね、ってミサカはミサカは頬を膨らませてみたり」
「オマエに言われたくねェよ」
平行線。
一緒に居たいはずなのに、どうしても重ならない一方通行の思い。
「そンなにオマエは一緒に俺と居たいのかよ」
「さっきから何度も言ってる、ってミサカはミサカは非難してみる」
「何で?」
「何でって、ってミサカはミサカは言葉に詰まってみたり」
「何で俺みてェな奴と一緒に居たいかが理解できねェ。俺は化物だぜ。人間としては欠陥品もイイとこだ」
「そんなことない、ってミサカはミサカは否定してみる」
化物なんかじゃない。欠陥品でもない。あなたは優しい人。
打ち止めは囁くように呟いて、前に回された頼りになる右の手の平に、小さい小さい手の平を重ね合わせた。
言葉は重ならないのに、思いは平行線なのに、この熱だけは一方通行じゃなく交じり合う。
不思議なものだ、と一方通行はほろ苦く笑みを浮かべてみせた。この笑みは少女にも、他にも、本人にさえ見られることは無かったが。
「優しくねェよ俺は」
一方通行(ケッカンヒン)に、そんな感情はインストールされてはいない。
もし、もしも。こんな欠陥品から優しさなんて欠落物を見出せたとしたのなら。
――拾ってきてくれたンだろ。
どこかのお節介共が。『一方通行』になる前の、記憶からも消去された本来の名前の時に失ったはずの感情を拾ってきてくれたのだ。
生きている内にどこかに置き忘れてしまった感情を、せっせと欠片と欠片を拾い繋ぎ合わせて届けてきたのだ。
打ち止めが。
黄泉川が。
芳川が。
番外個体が。
他にも多くのお節介共が。
自分がどれだけ。突き放そうが、受け流そうが、我関せずを貫こうが。
頼んでもいないのに、強引に空白となった欠落部分に埋め込んでいって。血となり肉と馴染むまで注ぎ込んでいってくれて。
確かに。
もう一方通行(ケッカンヒン)は、ブリキ(アクイ)の人形(バケモノ)では無くなってしまったのかもしれない。
欠陥(キズ)が癒えて、大切な傷跡になってしまったように。
「ずっと、一緒に居るか打ち止め」
「……嘘つき、ってミサカはミサカはどうせ行く癖にって言ってみる」
「嘘じゃねェ」
くだばっちまえ。
「打ち止め……オマエは俺の為なら傷ついてくれるか」
「あなたがそれで一緒にいてくれるなら、ってミサカはミサカは肯定してみる」
「だったらよォ……俺と離れ離れになってる間、傷ついとけ」
くだばっちまえよ。今は『オマエ』の出番じゃない。
「俺も離れ離れになってる間、一緒に傷ついてやるから」
「なにそれ、ってミサカはミサカは唖然としてみたり……」
「オマエが心配すンなら、俺も心配してやる」
「よく分からないけど、だ、だったらミサカが泣いてる時は、ってミサカはミサカは尋ねてみたり」
「早めに帰宅できるように努力する」
「……微妙に納得いかない、ってミサカはミサカは釈然としなかったり」
「納得しとけ。もしオマエが俺と一緒に居たいンだったら、な」
それができれば。
それでいいんなら。
「離れ離れだろォが、なンだろうがァ、俺達は」
どこだって。
いつだって。
「一緒だ打ち止め。距離なンか関係ねェ。例え世界の裏側にいようが、俺達は通じ合ってる」
一方通行じゃない。打ち止めじゃない。
気持ちは通じ合うし、思いは打ち止まることなく、お互いの中で結びつく。
だから、くだばっちまえ。
今だけはくたばっちまえ――『一方通行』。
「不満は」
「……もっと教えて欲しい、ってミサカはミサカは喜んでる時は?」
「一緒に喜んでやる」
今だけはありのままに。
どんなことだって、素直なキモチで言えるような気がした。
少しずつ注いで貰った感情という星屑を、元の持ち主にそっと返していくように。
「ミサカがあなたがダイキッライ、ってミサカがミサカが言ったら……?」
「ガキの我侭には慣れた」
「むぅー!ってミサカはミサカは大変ご立腹!」
そこには。
お天道様が輝いていた。燦々と煌く、守りたかった大切にしたかった温もりの導きが。
雨雲は通り過ぎ、最も似合う眩しいばかりの陽射しの少女。
「最後に一つだけ、ってミサカはミサカは教えてください」
え、とね。
躊躇は一瞬。少しばかりの臆病心と、溢れんばかりの期待心を乗せて。
「ミサカはあなたがスキ、ってミサカはミサカは伝えます」
――――
星空が広がる大海の空。
どこまでも、どこまでも吸い込まれそうな闇夜と、散りばめられた星屑が輝く下。
学園都市最強の超能力者である一方通行はいた。
彼は星空を見上げ、遥か遠い異境の地に思考を馳せる。
悪党に興味はない。善人になれたとすら思えない。好んでヒーローを目指そうと思えない。
中途半端で、優柔不断で、何者にすら成れていない己の立場。
そんな五里霧中に囚われ、前後不覚の身に陥っていた彼だったが、光明の道標を見つけたような気がしていた。
それは不確かであやふやな、形無きモノだったが。
間違いなく、尊ぶべき約束の誓い。今も色褪せず、欠如していた空白部分に、色濃く息づく芽吹き。
この道がどこに続いているのかの一端を掴めた気がした。
目指すべき目標と、その先の終着地点が。
「準備はいいのかい、親御さん」
「ついてくンのは勝手だが、足手纏いにはなンなよ」
「分かってるよ。最終信号とどんな『約束』をしたか知らないけど、このミサカが足手纏いになるはずないでしょ」
足手纏いにはならなくても、意図的に邪魔者になりそうではあるが。
強引についてくる事になった番外個体を尻目に、一方通行は歩き出す。
前方にはジェット機。次なる戦場へと案内する箱舟。
目的地はハワイ。
世界の裏を闊歩する住人達が暗躍する、次なるステージだ。
「行くぞ」
「はいはい」
新たな決意と誓いを胸に、
確かなる目標へと向かって、彼らは第一歩目を踏み出したのだった。
618 : SS寄稿... - 2011/12/08 22:15:06.72 jfA6RdFf0 31/31長々とどうもでした。>>616が微妙にズレててショック。
新約3が二日後発売。すっげぇ楽しみ。実際どうなんだろうな。
では新約3妄想はこの辺で終了して。またどこかで。次は『アイテム』で一本かな。ではでは

