＜城＞
国王「余は再婚することになった」
国王「今日から彼女がこの国の王妃となり、お前の新しい母親となる」
王妃「よろしくね」
義弟「お兄様と呼ばせて下さい」
王子「ど、どうも……」
王子（継母と新しい弟、か……）
元スレ
王子「継母が俺を亡き者にしようとしている」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1463574631/
王子（母上が病気で亡くなってから十年余り……）
王子（父上が新しい妻を迎えるのはいい。色々と寂しかったろうしな）
王子（問題は……俺だ）
王子（継母としては、あの連れ子の義弟を王位につかせたいというのが本音だろう）
王子（そうなると、俺はジャマだ）
王子（――となると、継母の取る行動は……只一つ！）
＜食堂＞
王妃「今日は私自ら、ディナーを作ってみたわ！ さ、食べて食べて！」
国王「おお……ありがとう」
義弟「三大欲求の一つ、“食欲”を満たすとしましょうか」
王子「いただきます」ｽｯ…
王子（うっ！？）
王子（なんだこのスープ！？ 明らかに味がおかしいぞ！）
王妃「どう？」
国王「う、うむ……お、おいしいよ……」
義弟「個性的な味ですね。素材の風味が独創性によって見事に封印されています」
王妃「ホント！？ たっぷり味見したかいがあったわ～！」
王子「……」
王子（味見はしたようだし、他の二人のスープはコメントからしてまともな味なようだ）
王子（ってことは、継母は俺だけ……俺のスープだけ変な味に……！）
王子（――毒殺するために！）
王子「ごちそうさま」ｶﾞﾀｯ
王妃「あら、もういいの？ ほとんど食べてないじゃない」
王子「……」ｽﾀｽﾀ ﾊﾞﾀﾝｯ
王妃「もしかしてダイエット中なのかしら？ 太ってるようには見えないけど……」
王妃「じゃあ二人で彼の分も食べてね」
国王「う、うむ……」
義弟「地獄への招待状、ですね」
＜王子の部屋＞
王子（あ～腹減った。勉強でもして、気を紛らわすか……）ｶﾘｶﾘ
王子「……」ｶﾘｶﾘ
コンコン
王子「どうぞ」
王妃「今日ほとんど食べてないでしょ。お夜食作ってきたわ」ｷﾞｨｨ…
王子「……いりませんよ（毒が入ってる食い物なんか）」
王妃「あらそう？ お夜食は太るっていうしねえ」
王妃「ところで、お勉強？ 頑張ってるわね～」
王子「ええ、まあ」
王妃「どれどれ……。民を統治するにはどうすればいいか、ねぇ……」
王妃「難しいことやってるのね～」
王子（難しいよ、なにしろ俺はあんたに命を狙われてるんだからな）
王子（王になれるか、いや大人になるまで生きていられるかすら怪しい）
王妃「だけど民を統治するコツはやっぱり義理と人情よ！ これっきゃない！」
王子「はぁ……（人を暗殺しようとしてる奴に、義理や人情を説かれたくねえよ）」
王子「話はそれだけですか？ なら出ていってくれませんか。勉強のジャマなんで」
王妃「ご、ごめんなさいね」
王妃「じゃあせめて応援させてちょうだい」
王子「は？」
王妃「フレー！ フレー！ お、う、じ！」
王妃「フレッ、フレッ、王子！ フレッ、フレッ、王子！」
王子（うるせーなぁ、もう……！）
王子（こうやって俺のストレスをためて、衰弱死させるつもりか……！）
王子（見え透いた手を……！）
三日後――
＜馬小屋＞
王子「こんなところに呼び出して、なんの用です？」
王妃「勉強ばかりじゃ体がなまっちゃうわ！ たまには乗馬でも、と思ってね」
王子「はぁ……」
義弟「馬小屋特有のこの匂い……病みつきになってしまいますね」ｸﾝｸﾝｸﾝｸﾝ
王子「だけど俺、あいにく馬に乗ったことがないんですよ」
王妃「そうなの？ じゃあ最初は私と一緒に乗りましょう」
王子（気は進まないけど……断る理由も思いつかないし、しょうがない）
王子「分かりました、よろしくお願いします」
王妃「あなたは一人でも大丈夫よね？」
義弟「ええ、孤高を貫かせていただきますよ」
王妃「しっかり私につかまってね」
王子（母上でもない女の体につかまるなんてゴメンだ……）
王妃「ハイヨーッ！」ｸﾞｲｯ
馬「ヒヒィ～～～～～～～～ン！」ﾌﾞﾋﾋﾝｯ
パカラッ！ パカラッ！
王妃「うぉっほう！ いい馬だわ、これ！」ｸﾞﾝｯ
王子「うおっ！？」ｸﾞﾝｯ
ドカラッ！ ドカラッ！
王子「うおわぁぁぁぁぁっ！！？」ｶﾞｼｯ
王妃「いいスピードだわ。さ、もっともっと飛ばすわよ！」
王子「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ！！！」ｷﾞｭｩｯ…
王妃「イヤッホウ！ 風よりも速く！ 音よりも速く！」
王子（やっぱりそうだ！ 継母は俺を落馬させて死なせるつもりなんだぁぁぁっ……！）
義弟「やはり乗馬はのんびり楽しむのに限ります」ﾎﾟｯｺﾎﾟｯｺ
＜城＞
王妃「二人にお洋服を作ったわ！」ﾊﾞｻｯ
王子「……どうも」
義弟「ちょうどイメチェンをしてみたい年頃だったのですよ」
王子（ふむ、デザインセンスは悪くない……）ｻｯｻｯ
王子（毒針が仕込んであるようなこともなさそうだ……）ｻｯｻｯ
義弟「さっそく試着いたしましょうか、お兄様」
王子「ああ、そうだな」
王子「ぐっ、ぐるじっ……！ 首がじまる……」ｷﾞｭｩｩｩ…
王妃「あらやだ！？ サイズおかしかった！？」
王子「ぐえっ……！ おええっ……！」ｷﾞｭｩｩｩ…
王子（こういうオチか……！ なんという巧妙な暗殺計画……！）ｷﾞｭｩｩｩ…
義弟「酸素のありがたみがよく分かる洋服ですね」ｷﾞｭｩｩｩ…
＜花壇＞
王子「あぁ～……苦しかった」ｹﾎｯｹﾎｯ
王子（こういう時は、花に水をやって心を落ち着けよう）
王子「ふんふ～ん」ｼｬｰ
王子「どの花もキレイに咲いてるな……よしよし……」ｼｬｰ
王妃「あら～、奇遇ね。あなたも植物を育てるのが好きなのね」
王子「（ちっ、なんでいるんだよ）ええ……気分が落ち着きますからね」
王妃「私もほら、食虫植物育ててるの」
食虫植物「……」ｷｼｬｧｧｧ
王子「！？」
王妃「こいつが飛んでる虫にパクッといく瞬間が、最高にゾクゾクするのよねぇ～」
食虫植物「……」ﾊﾟｸｯ
王妃「おっしゃ！」
王子「うぎゃぁぁぁぁぁ！！！」
＜王子の部屋＞
王子（うう……体調崩した……）
王子（あの継母が来てからというもの、心も体も疲れっ放しだ……）ｺﾞﾎｯｺﾞﾎｯ
王妃「大丈夫？ お薬作ってきたわよ」ｷﾞｨｨ…
王子（薬だと？ こりゃまたダイレクトに命を狙ってきたな。もっと工夫しろよ）
王子「……その薬、まずあなたが先に飲んでくれませんか？」
王妃「……？ いいわよ」ｺﾞｸｯ
王子（どうやら毒ではないようだな……）ｺﾞｸｯ
王子「ボォエッ！？」
王子「おえええええええええええっ！」
王子「なんだこりゃ！？ ヴォエッ！ まずっ！ うげえええええっ！」
王妃「いい薬ほどクソまずいのよ！ さ、飲んで！」
王子「ぐえっ！ おげえええええっ！」
翌日――
＜花壇＞
王子「……」ｽｯｷﾘ
義弟「おやお兄様、ごきげんよう。すっかり具合がよくなられたのですね」
義弟「母上は、あれで薬師の免許を持ってますからね。意外な才能というやつです」
王子「……なぁ」
義弟「はい、なんでしょう」
王子「お前の母は、俺を亡き者にするつもりだ」
王子「俺を排除し、お前を次期国王にするためにな」
義弟「なにをいってるのです、お兄様」
義弟「たしかに母上は母親としては低スペックですが、邪悪ではありません」
義弟「決してそのようなことは――」
王子「実の親に低スペックとかいうなよ！ 可哀想だろ！」
義弟「申し訳ございません、お兄様」
王子「……だが、俺はお前のことは気に入っている」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ
義弟「……」
王子「お前になら、王位継承権を奪われても納得できる」
王子「もし俺が死ねば、お前がこの国の次期国王だ。後は任せたぞ」ｻﾞｯｻﾞｯ…
義弟「お兄様……」
王妃が城にやってきてから一ヶ月――
＜食堂＞
王妃「シェフが体調悪そうだったから、今日もまた私がご飯を作ってみたわ～！」
国王「うん……以前よりもすごい味だ……」
義弟「もはやこれは、料理という枠を超越した異次元の物質ですね」
王妃「嬉しいわ、ありがとう！」
王子（この味……！ やっぱりこの俺をっ……！）ｵｴｯ
王子「いい加減にしろっ！！！」ﾊﾞﾝｯ
王妃「あら？ どうしたの？」
王子「あんたの料理はマズイ！ マズすぎる！ 食材への冒涜だ、こんなもん！」
王妃「ええっ！ ご、ごめんなさいっ！」
国王（おお……いいにくいことをズバッと！）
義弟（素晴らしい……さすがボクが兄と認めたお方……）
王子「ていうかあんたの狙いは分かってんだよ！」
王子「あんた、俺を暗殺するつもりなんだろ！？ 今みたく毒を盛ったりしてさ！」
王妃「毒だなんて、そんな……」
王子「俺を排して、自分の息子を王にするためになっ！」
国王「！」
国王「お、おい……なにをいっとるんだ！ 謝らんか！」
王子「父上は黙ってろ！ これは俺とこの女の一騎打ちだ！」
国王「むぐぐ……」
義弟「父上、ここは気の済むまでしゃべらせてあげましょう」
王妃「そんなことないわよ」
王妃「私はあなたに立派な王になって欲しいと、心から願っているわ」
王子「どうだか……今までだって散々俺の命を狙ってきたじゃねえかっ！」
王子「勉強を妨害したり、落馬させようとしたり、窒息させようとしたり……」
王子「あんたは俺を亡き者にしようとしてる！ 間違いないっ！」
王妃「そ、そんな……」
王子「……だけど、もういいよ。俺も命を狙われるのにはもう疲れた……」
王子「あんたの手を煩わせるまでもない。とっとと自分から死んでやるよ！」
王妃「なにいってるの！ そんなこといわないで！」
王子「うるさい！」
王子「こんなことになるんなら、俺なんか生まれてこなきゃよかったんだ！」
王子「俺が死ねば、天国にいる本当の母上も喜んでくれるさ！」
王妃「！」ｶﾁﾝ
王妃「この……バカ息子がァ！」
バシィッ！！！
王子「おぶぁっ！」
王子「いって……何しやがる！」ｼﾞﾝｼﾞﾝ…
王妃「生まれてこなきゃよかったぁ……？ 天国にいる母上が喜ぶぅ……？」
王妃「甘えたことばかりいいやがって……」
王妃「あんたの母が望んでることは、あんたが長生きすることに決まってるでしょうが！」
王妃「このタマナシプリンスが！ 根性叩き直してくれるわ！」
王子「やってみろよ……このアサシンクイーン！」
王妃「クキーッ！」
国王「あわわわ、どうすれば……！」
義弟「このもつれにもつれた紐をほぐすには……“決闘”しかありませんね」
＜決闘場＞
義弟「――お二人のレイピアはボクが用意しました」
義弟「刃には猛毒を塗っております。かすり傷でも与えれば、相手は死にます」
義弟「タマナシとアサシンで、心ゆくまで戦って下さい」
王子「ありがとう、さすが俺の弟、次期国王！」
王妃「これなら完全な決着をつけられるわね」
王子「あんたは俺を運動音痴と思ってるかもしれないが、剣術は得意なんだ」ﾁｬｯ
王妃「私も、母国の剣術大会では女子の部で優勝してるのよ」ｼｬｷﾝｯ
王子＆王妃「勝負！」ﾁｬｷｯ
国王「なんでこんなことに……！ 親子で殺し合うなんて……！」
義弟「もはや我々には、見守ることしかできないのです」
王子「せいっ！」ｼｭｯ
王妃「むっ！」ｷﾝｯ
王妃「そこっ！」ﾋｭｵｯ
王子「甘いな！」ｷｨﾝｯ
キンッ！ キィンッ！ キンッ！
国王「互角！ まったくの互角だ！」
義弟「ええ、一撃必殺という緊張感の中、二人ともよく戦っています」
王子「はっ！」ﾋｭｯ
王妃「ほぉっ！」ｼｬｯ
キィンッ！ ギャリッ！ キンッ！ チャキンッ！ キィン！
国王「決着が……つかない……！ エンドレス……！ 無限ループ……！」
義弟「父上、終わらない物事などありませんよ。そろそろ終焉（フィナーレ）です」
王子（ダメだ……向こうのがわずかに強い！ スタミナもなくなってきた……！）ﾊｧﾊｧ…
王子（やっぱり俺は、継母によって倒される運命にあるのか……！）ｸﾞﾗｯ
王妃「！」
キィンッ！
王子（今、俺はスキだらけだった！ なぜだ……なぜ突かなかった！？）
王妃「……」ﾎﾟｲｯ
王子（剣を捨てた！？ なんで！？）
王妃「突きなさい。ほんの少しでも突けば、あなたの勝ちよ」
王子「な……！ なんで勝負を捨てるんだよ！」
王妃「さっきあなたがスキを見せた時に分かったわ。私にはあなたを刺せない……」
王妃「かといってあなたの疑念を晴らす手段も持たない」
王妃「だから……突きなさい。それで全て解決よ」
王子（バカが……しおらしくなれば、俺がためらうとでも思ってるのか！？）
王子（今ここでこの女を突けば……俺は生き残れる！）
王子（もう暗殺にビビる必要もなくなる！）
王子（なのに、なぜ！？ なぜ突けないんだ！？）ｸﾞｯ…
王妃「どうしたの！ 突きなさい！ 私を少しでも疑っているのなら！」
王妃「それで王になれるというのなら！」
王子「ぐっ……ぐぐぐ……！」
王子（突けない……！ 手が動かない……！）ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ…
義弟「そこまでです」
王妃「……！」
王子「……！」
義弟「二人とも、本当はもう分かっているのではありませんか」
義弟「あなたたちは血が繋がっていないとはいえ、親子だと」
王妃「そうね……」
王子「……ああ」
王子（天国の母上……俺は今からこの継母を“母”と呼びます。どうかお許し下さい）
母『許す！』
王子（なんだ今の幻聴！？）
王妃「王子……」ｷﾞｭｯ
王子「母上……」ｷﾞｭｯ
ﾁｸｯ
王妃「いたっ！」
王子「いてっ！」
義弟「どうやら抱きついた拍子に、互いの剣が互いを傷つけてしまったようですね」
王妃「いやぁぁぁぁぁ！ これ、毒塗ってあるから死んじゃうじゃない！」
王子「やだっ！ 死にたくない！ 俺は王になるんだ！ な、何とかしてくれっ！」
王妃「そっ、そうだわ！ 私が薬を作ればっ！」
王子「おお、ナイスアイディア！ 早くっ！ 早くぅぅぅぅぅっ！」
王妃「こんなところに金色の薬草があるわ！ これを使えばっ！」ｶﾞｼｯ
王子「いだだだだっ！ それ俺の髪の毛！」
国王「ま、まずいよこれ！ 二人ともあの世行きじゃん！」
義弟「心配無用ですよ。毒なんか塗ってませんから」
決闘から二週間後――
王子「うおっとっと」ﾊﾟｶﾗｯﾊﾟｶﾗｯ
王妃「馬を操るのもだいぶ慣れてきたわね～」
王子「ここらでいっちょ競走しないか、母上」
王妃「あら、いい度胸ね。ほら、あなたも競走に参加しない？」
義弟「ボクはマイペース主義ですので、不参加を表明します」ﾎﾟｯｺﾎﾟｯｺ
＜食堂＞
王子「母上のメシ、ずっとよくなってきたな！ ちゃんと食べられる味だよ、これ！」
王妃「ありがとう！ あなたにマズイっていわれて以来、シェフに頼んで猛特訓したのよ！」
王子「母上……やるじゃん！」
王妃「てへっ！」
国王「この二人もすっかり仲良くなって、これでこの国も安泰だな」
義弟「おかげでボクたちの食生活も安泰になりましたね」
おわり
