1 : ◆k6VgDYkyGI - 2011/10/21 19:42:31.35 aYv84ioOo 1/63※ご注意
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元スレ
女騎士「姫の自慰を目撃してしまった」
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1.
私がその声を聞かなければ、違う未来が待っていたのかもしれない。
しかし、結局のところ、“一旦起ってしまったことは永久に起こり続けるより他ない”。
私があの時点から出発する限り、どう足掻いても結末は変わらなかったであろうし、
実際的に考えて、全てが終わってしまった今となっては、別の可能性を考えるのも無意味だろう。
それでも、私は思い出さずにはいられない。
あの晩、姫の部屋から苦しそうな悲鳴、そう、その時は悲鳴と思った声が
聞こえてきた、あの晩のことを。
姫の名を叫んで部屋に闖入した私が見たのは、四つん這いになって、自らの股ぐらをまさぐる姫と、
その驚きに見開かれた両の眼だった。
「……」
「姫様……」
事態の飲みこめない私と、絶句する姫。しかし、すぐに姫の口から金切り声が上がると、
私の身体は咄嗟に廊下へと飛び出していた。
思ったとおり、近衛兵たちが悲鳴を聞いて駆けつけて来ている。
すぐにその内のひとりが、その状況下で当然すべき模範的な質問を投げかけてきた。
私は適当な返答をしてすぐに彼女らを追い返すと、一度息を吐いてから姫の部屋の扉を開けた。
扉がいつもより重く感じたのは、結果が過程に優先すると私が信じていたためだ。
例え、主君の危機を感じ取った従僕として相応しい行動を選択したとしても、
それが主の面目を汚したのならば、それは刎頸に値する愚挙だ。
従って、私は姫に処断されなければならない。
そんな風に、当時の私は考えていたと思う。
その時の私は、それが冷静な判断であると考えるほど動転していたのだ。
部屋に再び足を踏み入れると、姫はベッドの中で毛布にくるまっていた。
「姫様」
跪き、呼びかけても返事はなかった。
姫の沈黙が何を語っているのか聞き取るのに、あまり時間はかからなかったと思うが、
その意味に気づいた刹那、私は心臓を拳で殴られたような鈍い痛みを覚えた。
闇の中に放りこまれた私の瞳孔は拡大し、そして、己の愚見と失態を呪った。
姫は恥辱に打ち震え、私に消え去って欲しいと願っているのだ。
自らの痴態を見られた相手に身体を晒すことは、
傷口をさらに剣で切り刻まれる苦痛以外の何物でもないではないか。
従者ならば姫の感情を第一に慮るべきであるのに云々と私は考え、私は急いで立ち上がった。
そして、盛り上がった毛布の塊に非礼を詫びると、そのまま慌てて部屋の外に出た。
廊下は暗く、人の気配もせず、蝋燭の炎が辺りを仄かに照らしているだけだった。
自分の心臓がどくどくと強烈に波打っているのに気づいたのは、その時だ。
私はそこで初めて、自分が、猛烈な混乱の渦中にあることに気づいた。
2.
私は物心ついてから殆どの時間を、姫のために捧げてきた。
姫の従僕であるという文脈に沿えば、私の命など使い棄ての駒である以外に塵芥ほどの意味も持たない。
しかし、明言しておかなければならないのは、
私にとって、そうあることこそ最大の誇りであるということだ。
私は姫に心酔し、所従として傍らで傅くことに無上の仕合わせを覚えていた。
若干17歳という若さでありながら、姫は人を惹きつける強い魅力を持ち、民草の偶像になってすらいた。
誰にでも平等に接し、包みこむように優しく、
そして、年上かつ同性の私ですら見惚れさせる肉体的、精神的な美しさを有していた。
それらを語るには、姫が暗殺されかけた際の逸話を挙げるのが最も適当だろうと思う。
今から一年二ヶ月前の独立記念日、姫は旧王立広場に集まった大勢の民衆に向かって、
壇上で華々しい祝辞を披露していた。国にとって最も重要な意味を持つ祭日ということもあり、
慣例として、その場には、他に貴族院や王室の要人が多く列席していた。
もうひとつ慣習化していたのは、この祭日が人々の熱情を煽り狂乱に駆り立てることだった。
目抜き通りでは弦楽器と打楽器が狂騒し、彼らは皆、血が滾るのに任せて歌と踊りに終日明け暮れた。
全て恒例の光景ではあったが、その年にはひとつ小さな変化があった。
城の警護兵たちが街の監視及び警邏に当たっていたのだ。
前年に、熱に当てられた一部の人間が暴徒化し、大きな被害が出たことから取られた措置だった。
さらに同時期、隣国が国境線上で示威行動を取っていたために、安全保障上、
軍備をそちらに割かざるを得なかったという偶然も重なり、
元々決して厚いとは言えなかった旧王立広場の警固は、例年よりもかなり手薄になっていた。
姫の演説が終わる間際(聖典から福音書7:1を引用していた途中)、
壇上に反体制過激派の男が乱入できたのは、これらの要因が大きく関わっていたと考えられる。
男が現れた瞬間、壇上の人間は戦慄し、壇下の観衆は騒然となった。
男の眼は血走り、興奮のあまり短剣を持つ手は震えていて、口から意味不明な言葉を撒き散らしていた。
姫の傍らで護衛の任に就いていた私は、直ちにこれを制圧、男を地面に叩き伏せると、
周囲を見渡して追撃の手がないかどうかを確認した。
姫は他の衛兵に囲まれて無事、二人目の下手人は今のところ現れていない。
私がさらに警戒を強めて走査していると、要人のひとりが半狂乱になって叫んだ。
今すぐに、この男の首を斬り落とせ。破壊分子がどうなるか、この国の法を周知させる絶好の機会だ。
うわずった声を上げたその要人の顔は青ざめていて、ほとんど正気を失っていた。
何をしている、早くしろ、早くだ。
怒鳴りつけられたその要人の従者は、慌てて腰の剣を抜きながらこちらに近づいてきた。
彼は、男を組み伏せる私のすぐ側まで来て仁王立ちになった。
そして、両手で剣を掴むと、断罪器具を頭上高く振り上げた。
男が暴れて首を上下左右に振り回したため、私は男に意識を向け、関節を極める腕に力をこめた。
だから、私は次の場面を直接見てはいない。
そこで、場面を正確に描写するために、ここは一部、同じ場に立ち会っていた私の同輩の眼を
借りることにする。
件の従者が剣を握る手に力を込め、まさに振り下ろそうとする瞬間、その剣はぴたりと止まった。
姫が素手で、抜き身の刃を掴んだからだった。
勢いがついていなかったので傷は浅いようだったが、すぐに姫の手から紅い血が流れ、刃をつたった。
常軌を逸した姫の行動は、旧王立広場にいた人間をひとり残らず驚愕させ、あらゆる言葉を奪った。
沈黙に呑みこまれた場の異様な気配を感じた私は、ふと顔を上げ、
そこで初めて何が起きたのかを把握した。
姫は従者の眼を真っ直ぐ見据えて、言った。
『この国の姫の名に於いて命じます。剣を納めて下さい』
従者は自分がしたことにうろたえ、平伏して罪を詫びたが、姫はなだめるように語りかけた。
『其の方は主の命令を誠実に遂行しようとしました。そんな忠良な者を誰が罰せましょう。
何ひとつ思い煩うことなどありません。この傷は、私が私自身に刻んだ贖罪の印なのです』
それから姫は跪き、私に取り押さえられている男に、血塗れの手を差しだした。
『貴男を追いつめたのは、我々為政者の責任です。この私の命を我々の国に捧げること、
そして、この血を以て、我々の罪を雪ぐことをどうか許して下さらないでしょうか』
男は一瞬固まり、それから小さく呻き声を上げると、頭を地面に叩きつけた。
こわばっていた男の身体から力が抜けていくのを私は感じた。
姫、ご乱心なさいましたか、何をしている、誰でも良い、早く殺せ、この薄汚い男を。
私は男のこめかみに短剣の柄を叩きつけて気絶させると、
すぐさま自分の服を破り取って姫の手の止血にかかった。
『姫様、ご無理を』
巻きつけた緑色の布が、瞬く間に赤黒く染まってゆく。
『女騎士、私はまだ、許可をいただいていませんでした……』
言葉を流血させ、嘆く姫。
要人はまだ喚いていた。
殺せ、その男のせいで、姫が傷物になったのだ。
そう、そのとおりだと私は思った。
出来るなら私がこの手で、この男を嬲り殺す。
さらに、別の要人も便乗した。
仰るとおり、権威に楯突く輩は報いを受けるべきだ!
姫はすっと立ち上がり、要人たちをきっと睨め付けると、よく透る声を張り上げて啖呵を切った。
『今日は我が国が生まれた日です! そんな日に死者など出してはならない、違いますか!』
その一撃は、要人どころか衆人をも圧倒し、勝負をあっけなく終わらせた。
彼らは完全に気圧されていて、傍目から分かるほど汗を噴きだし、ふるふると震えていた。
一連の出来事はすぐさま民衆に広まり、どこへ行っても姫の話で持ち切りになった。
あれは単なる政治的なパフォーマンスにすぎないとか、血を流す以外に方法はあったろうとか、
姫の行動を疑問視する人間もいたが、大部分は姫の行いを好意的に受け止めていた。
何故なら、紛れもなく姫は自ら身体を張ったのであり、
文字どおり、その血を以て統治者としての責任を贖おうとしたからだ。
詭弁を弄してばかりの政治屋たちにうんざりしていた大衆が、自らの主張を、己の行動に因って
簡潔に明示した姫に魅力を感じるのは自然なことだったのだろう。
こうした事例をとおして、民は様々な肯定的単語で姫を表現しようとした。
勇敢、誠実、実直、清廉、潔白、清純、純真、純潔、そして、貞淑。
言語はその意味において広がりを持ち互いに重なり合う面を有するから、
人々や私が、その最後の単語に思い至るのも無理からぬことだった。
事実、他の貴族たちと違って、姫の醜聞は一度として流れたことがなかった。
姫の供回りは小間使いから側近に至るまで全て女性だけだったし、
その美しさに惹かれて群がった蛾たちに、姫は見向きもしなかった。
もし姫が不純な王女だと思われていたなら、同性を嗜好する者だという悪評が立ったかもしれない。
しかし、姫が民衆から好意を持って受け入れられていたがために、そうした姫の振る舞いは逆に、
品行方正で貞潔な貴人という印象を人々に植えつけたのである。
そして、私もまた、姫の無垢を信じて疑わない人間のひとりだった。
だからこそ、あの夜、姫が自室で自慰に耽っていたという事実は、
主観時間を完全に凍結させるほどの衝撃を私に与えた。
そこに、姫に恥辱を与えたという激痛を伴う自責の念も加わったことで、翌朝になって、
ようやく再び心が時を刻み始めても、動揺した心は収まる気配さえ見せることはなかった。
何故、あの時、私は軽率にも姫の部屋に入ってしまったのか。
何故、貞節と純潔の体現である筈の姫が、眼を悦びに満ち溢れさせ、
口から涎が垂れていることも構わず、一心不乱になって自らを胸と性器を弄んでいたのか。
頭を働かせるほどに、私の思考は後悔と疑問とが争鳴する混沌の巣と化とした。
誤解のないよう言っておかねばならないが、後者に関して、
私は、姫が自涜していたことを問題にしていたのではない。
確かに、一般的には、自涜は道徳的な罪であり、偉大なる父への反逆だとすら言われる。
しかし、私にとって、常人の規範など何の価値も意味もなかった。
私の行動原理、思考の根幹は全て、姫の守護というただ一点から出発していたからだ。
姫のためなら、私は彼に弓引くことすらしただろう。何の躊躇もなしに。
私が混乱していた真の理由は、私が心に抱いていた姫の幻影と、
あの晩に目撃した姫の有様(ありよう)が、あまりにもかけ離れていたことにあった。
仮に、姫の本質が淫乱だと私が考えていたのであれば、私の気は、ああまで動転しなかっただろう。
黙って姫を辱めた処罰を受けるのを待っていた筈だ。
つまり、問題の核心は、私の中に清らかな姫と淫らな姫が二人同時に存在したことであり、
そして、両者の間に埋めがたい溝が、深い闇を湛えながら横たわっていたことだった。
まぶたの裏で4度目か5度目の記憶の再生が終わり、改めて慚愧の苦さを味わった後、
私はこの出来事に意味を見出さなければならないことを悟った。
早急に、二つの極にいる、互いに孤独な二人の姫を、またひとつに縒り戻さなければならない、と。
私は間もなく厳罰を受けるだろう。しかしその前に、自分が“誰”に裁かれているのかを
正しく認識していなければならない。自らの首を刎ねる主君の顔を見ながら死なねばならない。
それが真に仕えるということであり、私は最後までそうありたいと願った。
私はそのためにまず、同性の知り合いたちに、とにかく自慰についての所感を聞いて回ることにした。
その性行為に関する知識を、私は殆ど持たなかったからだ。
彼女の内の誰かが、あの姫の両手の動き――あのあり得ない所作――について手がかりをくれる筈だ。
私はこの調査が徒労に終わらないことを最後まで願っていたが、
その望みは最後まで実ることなく、あっけなく荼毘に伏した。
彼女たちは殆ど羞じらいつつ首を横に振るだけだったし、質問を質問で返されることもあった。
ある同輩は言った。
女騎士様は、肱挙についてはどうお考えですか。
大変な快楽を味うことができると、どこかで耳にしましたが。
もし私がそれを得るとすれば、例えば御徒の際に姫の傍らにある時だろう。
姫への畏怖と畏敬が、姫を守らねばという使命感と緊張感が、私の下腹部をくすぐるのだから。
女騎士様らしいご冗談ですわ。やはり、それは罪ということでしょうか。
我らが父もそう仰っていると聞いたことがありますし、きっとそうなのでしょうね。
こうした無意味な例外を除けば、不審な目を身に受けながら収集したわずかな情報は、
全てが感情論で占められていた。
穢らわしい、いやらしい、恥ずかしい。
彼女たちの個別具体的な意見は、抽象化された一般論と何も変わることはなく、
結局、この日、私の中の疑問、“何故二人の姫がいるか”について答えが得られることはなかった。
夜に再び、姫から直接のお呼び立てがあるまで。
3.
「私がどうして貴女をここに呼んだか、分かりますね」
姫は何かためらっているような様子で、そう言った。
「はい。昨晩の件でしょうか」
緊張のせいで記憶が飛んでしまっているが、私の第一声は、かなり張りつめていたと思う。
私は、姫に叱責された経験も、夜中に二人きりで会話をした経験もなかった。
「ええ、そのとおりです」
初めて、憧れの姫が、その口から直接、私に罰を与える。
私は胸を握り潰されるような息苦しさを感じていたが、
そこには、胸をなで下ろした時に覚えるような、ある種の解放感も同居していた。
許されざる罪に、正当な裁きが下されるのだ。
しかも、その正義の行使者が姫ならば、もう何も言うことはない。
私は不安と安堵が混じりあった、ぎくしゃくした声色で言った。
「如何なる罰も受ける所存です」
わずかに沈黙を挟んで、姫は問うた。
「何を罰するというのですか?」
姫の前に跪き低頭していた私は、姫の驚きを含んだ声を聞いて、思わず顔を上げた。
不思議そうな表情をしている姫に、私は返答した。
「私は……、私は、姫様に二度も屈辱を感じさせたのです。姫様のお姿を窃視し、そればかりか、
浅はかにもそのまま立ち去らずに再度お声をかけ、耐えがたい不快感を」
そこで言葉を切った。
姫の両の眼が丸くなっていたからだった。
すぐに、姫は穏やかに私を見つめ、静かに言葉を紡いだ。
「貴女らしいですね。いつも私のことを第一に考えてくれる」
しかし、姫が紡いだ糸は、私の頭の中でもつれ、絡まって団子になり、思考の行方を奪った。
「それが私の務めです」
私には、そう返すのが精一杯だった。
「しかし、ここに貴女を呼んだのは、貴女を咎めるためではありません。
私には、罪を犯していない人間に罰を与えることはできませんから」
それでも、と喉まで出た台詞を私は飲みこんだ。
今は姫の真意を汲み取るのが先だ。
「女騎士、貴女を呼んだのは、貴女に折り入って頼みたいお願い事があるからなのです」
「何なりとお申し付け下さい」
私は常套句で返したが、姫は言いかけてやめるということを二度した後も、
やはりその一歩が踏み出せないといった様子で、口をもごもごさせていた。
さらに暫くの静寂があってから、ついに姫は意を決したように言った。
「昨日、私が何をしていたか、貴女の口から全て話して下さい。出来れば、出来るだけ具体的に」
私は驚きのあまり、声が震えるのを必死に抑えながら応えた。
「姫様、僭越ながら」
「何でしょうか」
「私が如き一雑兵が語るべき類の事柄ではないかと存じます」
「貴女は私の、最も信頼の置ける侍者です。貴賤は問題ではありません」
先ほどとは打って変わり、姫はきっぱりと断言した。
しかし、と言いたくとも、従僕にこれ以上の反論は許されない。
私は拳を握り、親指の爪を人差し指の皮膚に食いこませた。
勅命だとしても、言えばそれは姫を辱めることになる。
「本当に、宜しいのですか」
「ええ、お願いします」
そして、もう一度、少し恥じらいながら。
「お願いできますか?」
「それでは申し上げます」
私は、絞り出すように言った。姫の前で嘘は言えない。
「姫様は、昨晩、この部屋で……、自らを慰めてらっしゃいました」
口に出した途端、己に対する強い嫌悪の念を覚えた。
「女騎士」
「はい」
再び、沈黙。
「女騎士は、私を穢らわしいと感じますか?」
「いいえ」
「偽りなく?」
「私は姫様の御前で偽りは申しません。確かに、驚いたこと自体は否定致しません。
しかし、それは普段の姫様からは想像できないお姿だったからです」
私は姫の眼を見据えて言った。
「性欲は万人に共通する本質です。そこに穢らわしさという概念を入れるのは、
恣意的な意味づけに過ぎないと、私は考えております」
澱みなく言い切ったつもりだったが、姫は静かに微笑を湛えているだけだった。
「自慰に耽溺する女は罪人と呼ばれ、蔑まれて然るべきではありませんか」
柔らかな声で、姫は淡々と自らを卑下した。
「世界中の人間が、あるいは、至高者(いとたかきもの)が、
姫に侮蔑の眼差しを向けようと、私は彼らには従いません」
対する私の口調は、自然と熱っぽく、感情的になっていた。
姫が自らを貶めることなどあってはならない。
「姫様、私にとって姫様は姫様です。他の何者でもなく、私が唯一命を捧げる方です」
たとえ姫が虐殺者になったとしても、姫は私の全てだ。
天体の運行が不変であるように、私にとってその定理は永遠に変わらない。
「女騎士、こちらに」
姫が手招きをしたので、私はベッドに腰かける姫に近づき、足元に跪いた。
「違います、女騎士」
姫はベッドの上をぽんと叩いた。
「隣に座ってくれますか」
私は気後れしながらも、姫の命を遂げようと、
「失礼します」と断りを入れてから姫の隣に腰を下ろした。
刹那、私は甘い鈴蘭の香りを聞き、同時に、何か柔らかいものが、私の身体に当たるのを感じた。
反射的に視線を向けると、姫が私に抱きついていた。
そして突然、堰を切ったように肩を震わせて、姫は泣きだした。
私は上手く状況が把握できず、ましてどうしたらいいのかなど、まるで検討もつかなかったが、
辛うじて姫の身体に腕を回し、しっかりと抱き寄せることだけはできた。
姫はそれに応えるように、私を強く強く抱きしめた。
絹のような肌理の細かい柔肌が、私にぴったりと押しつけられると、
姫の長く、黄金色に煌めく髪が、さらさらと私の髪と重なった。
密着して見る、いつもの美しい姫の姿。
私が自分でも意外なほど冷静でいられたのは、その時の姫の姿が、とても小さく見えたからだ。
母親にすがってぽろぽろと涙を流す、齢は十を越えていないくらいの少女。
平時の気丈で、凛とした姫からはかけ離れた姿だった。
私は、少女の頭を優しく撫でた。
まるで母親が娘にそうするように。
すると、少女は私の膝に跨り、身体と身体が正面から密着するような格好で抱きついてきた。
少女は顔を私の胸に深く埋めたままぽつりと「良かった」と言った。
彼女の胸は強く波打ち、弾んでいた。
「女騎士に軽蔑されたと思い、一日中気が気でなかったのです」
しゃくり上げながら姫は言った。
「如何なる不条理をなされたとしても、私が姫様への忠誠心を失うことはあり得ません」
不思議にも、私の声色は自然と、なだめるような響きを帯びていた。
姫はそこで顔を上げた。目は充血していて、頬に涙が流れた跡があったが、
それさえも姫にとっては、美しさを際だたせる構成物に過ぎなかった。
「その言葉に偽りはありませんか」
「一点の曇りもなく」
私の返答を皮切りにして、ゆっくりと姫の告白が始まった。
公人として人目に触れる事の重圧、政治につきものの権謀術数、自分を取り巻く成金たち、
上下関係しか存在しない城内、肉体はおろか主義主張まで自由にならない国家体制、
そして、腐敗し堕落しきった為政者たちと、民衆の不満の緩衝材、偶像として利用される自分。
やがて、姫は自ら快楽を以て、それらから逃避するようになった。
初めて行為に及んだのは、十歳の時。
布団を丸めて抱きついて寝ていたら、偶然、股に挟まった部分が擦れ、快感を覚えた。
それからは毎夜、寝る段になっては、性器を弄ぶようになった。
少しして性教育が始まると、自分がどんな大罪を犯していたのかを知った。
自慰は下劣な行為だと教育係が言ってショックだった。
だが、一度快楽の甘味を知った躰は言うことを聞いてくれない。自然と、指は股ぐらに伸びていった。
むしろ、貞淑であることを求められ、実際そうでなければならない筈の自分が、
淫靡な世界に堕ちていることに、背徳的興奮を覚えた、と姫は言った。
そう考える度にいやらしい汁は滴り落ち、指をもっと深くまで入れるようになった、と。
姫の告白は、私が丸一日抱いていた疑問と違和感をあっけなく霧散させた。
そもそもの前提として、「何故」と問うこと自体が間違っていたのであり、
私の思考は、姫が貞淑であるという自身の固定観念により混迷し空転していただけだったのだ。
姫は、「これでも、私を姫と呼んでくれますか」と呟いたが、
その声色は紛れもなく、呼んでほしい、と言っているように聞こえた。
「お言葉ですが、愚問かと存じます、姫様」
あの時の姫の安堵した顔を、私は今でも忘れない。
「私の主は“貞淑”などという目に見えぬ概念ではありません。
私は姫様ひとりに、姫様だけに仕える一介の騎士。内実が私の拙劣な邪推と異なったとしても、
その存在がある限り、私は永遠に姫様の忠実なる僕です」
私は、微笑みながら、そう付け加えた。
これから何が起こるのかも知らずに。
「ありがとうございます」と少女のように――いや、その少女はゆっくりと息を吐いた。
そして、初々しく顔を紅潮させて、唐突な質問を投げかけてきた。
「女騎士は、私のことが好きですか」
私は再三に渡る慮外の言葉に、またも一瞬たじろいだが、ともかく素直に頷いて言った。
「はい」
少女は私の回答を反芻し、吟味しているようで、身体をもじもじさせていた。
そして、少し間を置いて、照れながら、たどたどしく言葉を発した。
「最後に、もうひとつだけ」
「何なりと」
再度、暫くの沈黙が流れる。
「私の愚行に理解を示してくれた貴女にしか、頼めないことです」
姫の素顔を見られたことで舞い上がっていたという理由もあると思う。
私は楽観視していたのだ。
蓋は開けられ、その黒い筺の中身は全て日の目に晒された。
これ以上虚を突くような仕掛けが出てこよう筈もない、と。
姫の潤った、艶めかしい唇が動いて、静寂を破った瞬間、私は言葉を失った。
私の唖然とした顔を見て、姫も失言したと思ったのだろう、その顔は刹那に青ざめた。
はっと我に返った私は、可能な限り動揺を押さえつけて弁明した。
「申し訳ありません、姫様」
「いいのです。やはり無理なお願いでした。私がどうかしていました」
「いえ、是非、私をお使い下さい」
私は支離滅裂な返事をしていた。
姫は無言でうつむくと私の膝から下り、そのまま窓の方へよろよろと歩いて行った。
「姫様」
私に後ろ姿を見せたまま押し黙る姫を見て、私は悟った。
次の言葉が、今晩姫が私に告げる最後の台詞になるだろうことを。
しかし、そうしたどす黒い絶望を纏っていたという事実を考慮しても、
その後、私が取った行動は、完全に常軌を逸していたとしか思えない。
いくら姫の信頼を取り戻すためとは言え、姫をベッドに押し倒して寝間着を剥ぎ取るなどということは、
一従者に許される所行では決してないからだ。
だが、私はした。
姫が手の届かない場所に行ってしまわないように、姫の「最も信頼の置ける侍者」であるために、
私は、私自身の手で破滅への歯車を稼働させたのだ。
言うまでもなく、姫は急襲に面食らい、小さく声を上げた。
しかし、すぐに私の意図を理解したのか、私が姫を下着姿にしている間も抵抗しようとはしなかった。
下の寝間着を脱がすと、ショーツが濡れていて、わずかに染みが広がっているのが分かった。
私が下から姫の顔を見上げると、姫と私の視線が交差した。
姫の顔は桜色に染まっていて、目尻には涙が溜まっていた。
しかし、その瞳は艶を帯びており、明らかに私を求めていることが看て取れた。
私は姫から体を離し、そのままベッドに座りこんで姫と向き合った。
花嫁を想起させるようなレースの付いた純白の下着姿のまま、
姫はベッドのヘッドボードに身体をもたせかけ、私に見せつけるようにおずおずと足を開いた。
すでに姫の息は上がっていて、荒くなっていた。
私と見つめ合いながら、姫はその手をブラジャーの下に滑りませ、初め、さするように、
そして次第に荒く、その小ぶりな胸を揉みしだいた。
もう片方の手はショーツを上から擦っていて、徐々に動きを早めていた。
姫は声を押し殺そうとしているようだったが、婀娜(あや)っぽい唇から吐息が漏れていた。
明らかに、自制の箍(たが)は外れていた。
ブラジャーは捲れ上がり、ふっくらした乳白色の胸の中心で充血した乳首が尖っていて、
それを姫のか細い指が摘み、こねくり回していた。
ショーツは穿かれたままだったが、薄手のシルク生地がびっしょりと濡れているせいで、
姫の性器がくっきりと浮かび上がっていた。手がその中を激しく嬲っている。
ぐちゃぐちゃとぬめるような水音に、姫の発する甘く淡い嬌声。
快楽に堕ちきったその蠱惑的な眼は私を捉えて放さなかった。
気づけば、私は完全に興奮していた。
頭の天辺からつま先まで、経験したことのないような火照りが体中を襲った。
呼吸は荒くなり、無意識に内股がもぞもぞと動いた。
他人の性行為を直に観るのはもちろん初めてだったし、あろうことかその初めてが姫だったのだ。
私が憧れ、畏敬し、見惚れていた、あの姫だったのだ。
私の下腹部では欲望が溜まりきっていて、今にも溢れださんとするような状態だったが、
ただ観ているように申し付けられた私は、じっと耐えて命令に服した。
意外にも、この異様な御意はすぐに終わった。
姫は小さく叫び声をあげて四肢をぴんと張ると、なお息を荒げながら、
そのまま溶けるように身体を弛緩させた。
「姫様!」
私は姫の異常を感じ取り、慌てて姫に近づくと、その華奢な身体を抱きかかえた。
かすかに見開かれた姫の瞳は光惚としていて、口元からは涎が糸を引いて地面に垂れ、
身体は軽く痙攣を起こしていた。
該当する症状の急性疾患を急いで検索している私の頬に、姫の手がそっと触れた。
「ちゃんと見ていてくれましたね」
「姫様、お身体は!」
「はい、女騎士のお陰で、ちゃんと絶頂を迎えました。こんなにすぐ来たのは初めてです」
姫は頬を染め、瞳を潤ませながら、嬉しそうに返事をした。
それを聞いた私は不可解な顔をしていたに違いなく、姫はそれを察して言った。
「自慰にも終わりがあるのです。快楽が最高潮を迎える時が」
私は面食らったが、姫の発言から見て私の使命は達せられたと思い、
そこで初めて一息ついた。
下着が乱れたまま私の腕の中にある姫が言った。
「私は、ずっと貴女に憧れていました」
「光栄です、姫様。ただ、私見ではありますが、私は姫様の憧憬に能う人間ではないかと存じます」
「過小評価と言わざるを得ません、女騎士。
貴女は鋭利な刃に似て美しく、凛々しくあって、その上文武を極めている俊傑です。
しかも、そのような誇るべき自己を差しおいて、私に尽くしてくれている」
私は気恥ずかしさのあまり二の句が継げなかった。
それまでは、他人から肯定的な評価を受けても、気にしたことなど全くなかったのに。
「そんな貴女だから、夜の私も見てほしいと妄想していたのです。
まさか、このような形で現実になるとは思っていませんでしたが」
私も思っていなかった。
「時に女騎士。貴女は私の自涜を観て、何を思いましたか?」
「美しく淫靡でした。私も興奮致しました」
姫は冗談めかして質問を重ねた。
「その言葉に偽りはありませんか?」
「一点の曇りもなく。このような甘美な感情が溢れたのは初めてです」
「甘すぎたりすることはありませんでしたか?」
「もっと堪能したいと感じさせるほどでした」
そして、姫は再び、少しためらいがちに続けた。
「もしも、その気持ちに偽りがないのなら――」
もちろん、私は、姫の発言を全て聞き取ることはできた。
しかし、言葉そのものと、言葉が意味するところは決定的に異なる。
声の響きが鼓膜を叩いたとしても、脳はあらゆる情報を直ちに捌ける訳ではない。
私は無意識に、はい、と首肯してから、姫の言葉の続きを理解した。
「そして、女騎士がそれを望むなら、明晩、またここで会いましょう」
4.
次の日の昼、「今晩は猫を見る必要はありません」という姫からの言伝てが届いた。
私は戸惑いを覚えた。
第三者である使者に言伝てをする以上、私たちの関係を悟らせないような文言になっているのは
至極当たり前のことだった。
重要なのは、これら文字の羅列が、姫の意図を何も語っていないことだ。
私は真っ先に推測した。昨日の夜の一言は、姫様の気の迷いだったのではないか。
通常起こり得ないことが起きて、非現実に放りこまれた時、人は本能的に、
可能な限り元あった平凡な日常を取り戻そうとする。
何故なら、経験則として、そこに紛れもない平穏があると知っているからだ。
だとすれば、昨晩、自分をあり得ない世界に堕とした元凶である私と逢いたいと
姫様が思わないのは、他に道を取りようがない必然の結果だと言える。
そう思案する一方で、私はかすかな希望を棄てられずにもいた。
「今晩は」
この言回しなら、「今日は何かしらの理由があって無理である。明日以降に再び呼び立てる」。
そう解釈しても妥当性を欠かない。
その日公務で特に多忙だった姫に会って問い質すことが不可能だったため、
私は時間をたっぷりかけて、連なった記号が示すであろう解釈を一通り検証した。
しかし、それが終わった後、私は何故か自分の心に穴が空いたような虚無感に囚われた。
不意に、私の口から、ぽつりと言葉が漏れた。
「今晩は猫を見る必要はありません」
その日は、警衛や哨戒ではなく、武芸の訓練に当たることになっていたから、
私は意識的にそれに集中することで現実から目を背けた。
安直な逃避。人はそう指摘するだろう。
しかし、私は自らの殻に閉じこもり、目と耳を塞ぐことしかできなかった。
結局、私は信用されていなかったのだろうか?
「私のことが好きですか」という問いに意味はなかったのか?
私は姫様の「最も信頼の置ける侍者」ではなかったのか?
気を抜けば、極めて不条理なものまで含んだ、無数の疑念が胸の空洞から心に入りこんできた。
私は雑念を薙ぎ払うように剣術の手合わせに打ちこんだ。
姫様には姫様のお考えがあるのだ。私が何を悩む必要があるだろうか。
前提からして、私のような賤しい出自の者が姫様に夜伽を任されたのが間違っていたのだ。
私は、特別な存在になれたと独り合点し舞い上がっていただけ、ただ、それだけだ。
ふと我に返ると、私は対戦相手の喉元に模擬刀の切っ先を突きつけていた。
怯えきった眼をした相手が、女騎士様、と震えた声で言った。
見れば、その場にいた全員が動きを止め、驚いた様子で視線をこちらに向けていた。
その日の訓練は、そこで終わった。
そんな心の空白が、私の手を性器に導いたのかもしれないと思う。
その夜、私はベッドに仰臥していた。
半ば闇の中に溶けたこんだ天井を見上げながら、
今この時間も、自室で自慰に耽溺しているであろう姫の姿を思った時、私の脳裡に、ある考えが閃いた。
姫様が自慰によって性欲を満たしているならば、私もまた同様の行為をすることにより、
姫の部屋と私の部屋という物理的な隔たりを超えて、快楽を共有することができるのではないか。
私の頭は古い滑車の如くがたんがたんと回った。
精神が長さや重さを持たず、無限に広がり行くものならば、そう考えても何ら不自然ではない。
そして快感は精神に含まれ、あるいは属するのだから、
時間さえ同一ならば、私たちはどこにいようとも同質の感覚を得ることができる。
私はそう結論づけた。
これが如何に破綻した理屈かを指摘するのは容易いだろう。
しかし、正確な論理が常に人を救うとは限らないのもまた事実だと、私は思いたい。
私は姫とありたかった。
ただ、それだけを望んだ。
だから私は、生まれて初めて、片手を胸に、もう一方の手を性器に当てたのだ。
私の願望が落胆という結末に収束するのに、そう時間はかからなかった。
元々、大きいだけで何の役にも立たず、常々邪魔だと厭わしく感じていた胸を揉みしだくのは
いささか抵抗があったし、いざあれこれとこねくり回してみても、
少しくすぐったいだけで特に快感を覚ないことが分かり、私は失望した。
女陰に関してもそれは同じだった。姫がしていたように膣内に指を入れようとするものの、
裂け目はきつく閉じていて一本すら入らず、むりやり押しこんでみるも嘔吐感を覚える始末だった。
方法が悪いのだと試行錯誤する決意を固めた時、部屋をノックする音が聞こえた。
私は慌てて寝間着を整えると、どうぞ、と言って相手を促した。
扉がきしんだ音を立てて開くと、その陰から、か細い声が聞こえた。
「夜分遅くに失礼します」
姫は、そう言ってそろそろと部屋の中に入ると、後ろ手に扉を閉めた。
眼前の途方もない事態に追いつけていない私を見て、姫が心配そうに問いかけてきた。
「大丈夫ですか、女騎士?」
深く泥にはまり込んだ脚を引き抜くように、私は何とか自失から脱出し、返答した。
「はい、姫様。申し訳ありません、まさか姫様が私などの部屋にいらっしゃるとは
思い及びませんでしたため、お見苦しい姿をお見せしました」
「構いません。謝るべきは私の方です」
ふと、部屋の仄暗さと同じくらい暗鬱としている姫の顔が目に入った。
「何を仰います、姫様。如何なる場合であろうと、
私が如き従僕に向かって、そのようなことを仰るべきではありません」
私は立ち上がりながら言った。
「謝罪に貴賤は無関係です」
姫はそう言い切って、静かに私の方に近づいてきた。
私は言葉を呑みこんで椅子に手をかけた。
「姫様、趣のない腰掛けで恐縮ですが、こちらに」
「女騎士が立っているのなら私も立っています」
やがて私たちは、息がかかるくらいの距離で向かい合う格好になった。
姫は私よりも一回り小柄なので、うつむいた姫の頭頂部だけが目に入った。
不意に、姫が私の袖を掴んだ。
「私の弱さ故です」
姫様はお強い方です、そんな台詞が一瞬頭をよぎったが、私は傾聴することを選んだ。
その声に、消えかけた蝋燭のような儚なさがあったからだった。
「今朝になって、私は自責の念にかられました。
昨日は熱に浮かされて、大変なことをしでかしてしまったと、そう思いました。
他ならぬ貴女に、私の痴態を見せつけるなど、狂気の沙汰と言う他ありません」
そう言って姫は袖を握る手に力をこめた。
「私は、昨晩の私の言動が、如何に陶酔したものであったか、冷静さを欠いたものであったかを思い、
恥ずかしさのあまり、貴女に合わせる顔がないと考えました」
姫の声に涙が混じる。
「だから、私はあの言伝てを、自分のことしか考えていない、身勝手な言葉を送ったのです。
私は、あまりにも軽率で浅薄でした。淫らな私を受け止め、気遣ってくれた貴女を
逆に蔑ろにするような言動をしました。貴女の心を傷つけるようなことをしました。
今更、こんな私を許してほしいなどと都合の良いことは言いません。
ただ、謝らせて下さい。本当にすみませんでした、女騎士」
最後の方はしゃくり上げていたため、姫の言葉はほとんどかすれていた。
泣きじゃくる姫を、私は無言のまま抱き寄せた。
昨日の夜と全く同じように。
背中に腕を回してしっかり抱きしめると、梳くように静かに髪を撫でた。
姫は一瞬ためらった後、同じように私の背中を掴み、顔を胸にぴったりと埋め、再び泣いた。
恐らく、ちょうど一日前、姫の中に少女の面影を見出した時、すでにその思いは芽吹いていたのだろう。
姫を抱きしめた刹那、私ははっきりと、姫を慈しんでいる自分に気づき、思わず息を呑んだ。
姫の一面が畏敬の具現であることは以前と変わりないが、
今、彼女は私にとって、いたわるべきひとりの人間でもあった。
換言すれば、私は、姫の二重性を理解し、受け入れることができたのだ。
崇高な王女であり、年相応の女の子でもあるという、絶対と相対が共存する矛盾を。
私はなお頭をゆっくりと撫でながら言った。
「姫様、お忘れですか?
如何なる不条理をなされたとしても、私が姫様への忠誠心を失うことはあり得ません」
姫は少し身体を離して私を見上げた。
「偽りなく?」
「今、そのことを、自らの行動を以て示しているつもりです」
私は姫の目尻に溜まった涙を指でぬぐった。
悲しみに陰っていた姫の表情が次第に晴れてゆく様は、私の心を一層くすぐった。
私は改めて、自分の中に新たな行動原理が生まれ育ってゆくのを感じた。
「ありがとうございます、女騎士。貴女が貴女であってくれて、本当によかった」
あるいは、あの時初めて、私は人間らしさという性質を得たのかもしれない。
姫という方程式に条件を代入して行動の解を自動的に導き出す合理的な機械から、
感情という不条理かつ言語化不可能な動機でたなびく人間という何かに近づいたことは、
その後の私の有り様を大きく変えたと結論づけて良いだろう。
しかし、いずれにせよ、間違いなくその夜こそ私と姫の関係を真に始まらせたのであり、
同時に、この悲劇の序章を終わらせもしたのだ。
「姫様、そろそろお部屋にお戻りになった方が宜しいかと。夜半にこのような遠い場所まで姫様が
いらしていると知られれば、他の近衛が五月蠅く申すでしょう。お部屋までお付き添い致します」
「そうですね……。分かりました」
「時に、姫様」
「何でしょう?」
「今晩、猫は鳴くでしょうか」
5.
当然のように、私たちの行為はエスカレートしていった。
ただ視姦することから始まって、私が手淫するのを鑑賞しながら姫も手淫したり
(姫から気持ち良くなる方法を教えてもらった)、相手の性器をいじり合ったりもした。
触れる手はそろそろと上へと伸びてゆき、腹部をなぞり、胸に触れ、揉みしだき、乳首を撫で、
きゅっと摘むと、今度は口が手に取って代わった。
勃起した乳首に吸い付き、口に含み舌で転がす。それから鎖骨、首を舐め上げて、頬に接吻をしてから、
唇と唇を重ね合わせ、相手の口腔を激しく貪り合う。
やがて、口は再び下降していき、首、胸、脇腹、へそ、鼠径部を経て、女陰に辿りつく。
充血したクリトリスに口づけし、舌で弄んでから(姫の場合は大抵ここまでで絶頂する)、
しとどに濡れた陰唇を味わい、舌を膣内に進入させて散々嬲った後、粘液でびしょびしょになった口で
内股を汚し、膝頭からふくらはぎへ、最後に足のつま先まで進入し、足指を犯す。
もちろん、背後も全て、同様に指を這わせ、舌で舐め上げる。
私と姫の身体に、お互いの手と舌が触れていない箇所はなかった。
様々な方法で私たちは快楽を得たが、姫が最も好んだのは私の胸だった。
私の豊満――と姫は言った――な胸を両手でたっぷりと揉みながら、張った乳頭を音を立てて吸う。
私はそんな姫の頭をあやすように撫でるというのが、夜伽のひとつの因習になっていた。
私は、姫が母性を渇望していることを静かに理解した。
こうして、私は姫の“母親”になったが、私の役割はそれに留まらなかった。
私を年長者として見ていた姫は、ある日に、「大人になるとはどういうことでしょうか」
というような、素朴な相談を持ちかけてきた。
「私が如き蒙昧な者は、お答えできる資格を有しません」などという返答に姫が納得する筈もなく、
私は結局、あるだけの知識を振り絞って、姫の疑問に回答を与えた。
その日を境に、私は姫の悩みや相談を聞くようになり、結果、私は姫の“姉”になった。
また別の日、姫は言った。
「二人でいる時は、尊敬語を使うのはやめましょう。私たちは平等であるべきです」
もちろん、いくら姫の仰せだからと言って、こればかりは承伏できなかった。
自らが姫の下僕であり、その身分の境界は言葉に因って常時線引きされる必要がある旨を説明する私。
姫は姫で一歩も譲らなかったため、私たちの議論は次第に加熱していき、
仕舞いには、品を失わない痴話喧嘩の様相すら呈していった。
二時間に渡る激論の末に私たちが折衷した地点は、
①二人きりの時に限り、私は尊敬語でなく丁寧語を使う、
②そして同様の条件下で、姫を名で呼ぶという妥協案だった。
こうして、私は姫の“友人”になった(私が今、姫について尊敬語で語らないのはこのためである)。
以上の意味に於いて、私は姫の母親であり、姉であり、友人であり、そして従僕でもあった。
性交渉の際も同様に、姫はこれらの相を求めた。
私は母親として、姉として、友人として、従者として姫とまぐわった。
姫はそれらの性質を個別に欲することもあったし、四つ同時に所望することもあった。
それを指して異常だと人は言うだろう。
同性の近親姦を犯す異常性欲者であり、幼児退行すら見せる精神薄弱者だと。
しかし、私にはそんな些事はどうでも良かった。
私の価値観の基準は、姫そのものだったからだ。
姫がそうあるのなら、そこに何の問題もありよう筈がない。
そして、私自身も、姫に求められることにかつてない仕合わせを覚えていた。
そしてその幸福の中で、畏敬する人物の存在こそが性的興奮に必須だと、私は悟った。
機械的に胸や女陰をいじるだけでは快楽は得られない。精神の充足は不可欠なのだ。
気持ちよさを感じたいと思うならば、そこには姫がいなければならないのであり、
それが私という人間の快楽原則だった。
姫は己の冀求する物を私から得る。そして、私は姫から冀求されることで愉悦を得る。
この相互供給の構造は完璧に機能し、私たちの関係を閉塞した系の中に閉じこめた。
果てもなく誰もいない闇の中で、私たちは二人きりの孤独な自己満足にどっぷりと浸っていた。
私たちは紛れもなく歪んでいた。
私たちは、初めの内はある程度日を置いて性交していたが、
それはすぐに毎晩になり、やがて日中でも頻繁に唾液を交換するようになった。
一方はドレスの中、一方は兵士服の中に手を入れてまさぐり合い、獣のように互いを貪る。
どろどろに溢れ出した粘液を指で掬って、相手にしゃぶらせる。それから、手を搦め、再び唇を重ねて
口内で互いの快楽の証を混ぜ、飲みこむ。
私たちにとって、それは媚薬であり麻薬だった。
飲み下せば飲み下すほどに私たちの頭は蕩け、正常な判断力を失っていった。
私たちは、互いの唾液、汗、膣分泌液、そして涙が溜まってできた肉欲という沼に溺れ、
自らの理性を見棄てて溺死させた。
私たちは盛りのついた雌猫と化し、本能の赴くままに快感を享受しようとした。
安全な部屋から、人が来るかもしれない廊下に移り、厠、露台、階段、果ては中庭にも行った。
私たちは歪んでいた。
“正しから不(ず)”と書いて“歪”とするなら、やがて私たちの行為が見咎められるのは必定だった。
しかし、私たちは世間が糾弾するところの間違いを犯しながらも、それでも間違いなく幸福だった。
そう、あの時、私たちは確かに、仕合せだったのだ。
それがどんな異常な形を取っていたとしても。
6.
今思えば、二ヶ月近くも続いたのが奇跡だったと思う。
ある雨の日の午後、昼食を終えた他の兵士たちが休息を取っている時に、
私は直近の上司に呼び出された。
何でお前を呼びつけたか分かるか。使い古された桑製の机の上で太い指を組みながら、上司は言った。
お答えしかねます。
ふむ。上司は私の答えを聞くと、山のような図体を小さな椅子にもたせ掛けて、顎髭をかいた。
何故だ、女騎士。
その回答は、私の権利の範囲を超えているからです。
上司は眉間に皺を寄せ、古兵(ふるつわもの)を想起させる鋭い眼で私をじっと見据えた。
威圧の混じった沈黙に場の空気が張りつめた。
窓を軽く叩く雨音だけが部屋に響く。
少しの間を置いて、その静寂を上司が吹き飛ばした。
女騎士、お前は解任された。
はい。
理由は敢えて言わん。それがお前とあの方の望みだろうからな。
はい。
水の中に汚泥が落ちれば、それは自然と広がってゆく。そして、ひとたび急な流れが来れば、
一気に拡散する。出来るだけ早く汚泥を掬うことが、上の人間の務めだ。
はい。
上司は、再び巨躯を机に預けて続けた。
とはいえ、俺は、誰と誰がどんな関係を持とうと構わないと思っている。両者が仕合せである限りな。
人が人に一方的な欲望をぶつける場面を、俺は何度も見てきた。戦場や無法地帯には性別も年齢もない。
ただ弱い人間が強い人間の慰み物になる。それだけだ。
私は黙って頷いたが、上司の言葉に驚いてもいた。遠回しでも同性の交わりを肯定するなど、
堅物、無骨で有名なこの古豪が発する台詞とは思えなかった。
だが、それを知らん連中もいるということだ。あの方を政(まつりごと)に利用したい人間からすれば、
民衆に受けの良い彼女は、白いままでいてもらわなければ困る。その辺りは、お前なら分かるだろう。
はい。
命令では国外追放だが。
上司はそう言って、がたついた机の引き出しをこじ開けた。
しかし、俺はそれしか聞いていない。
小さな封筒を取り出すと、私に差し出した。
紹介状だ。辺境の小国だが、内外政共に優れた国家だ。俺の旧友が要職に就いている。ここに行け。
上手くいけば、また城内の仕事にあり付けるだろう。公用語は異言語だが、話せたな?
はい。少しだけ慣れが必要な程度だと思います。
言うまでもないが、お前の経歴は詐称されている。月並みだが、教養ある傭兵ということにしておいた。
新しい戸籍は封筒の中に謄本が入っている。偽名も確認しておけ。
熊並に毛深く大きな手から封筒を受け取ると、私は上司に尋ねた。
何故、私にここまでして下さるのですか。
上司は空を手で払いのけながら答えた。
今までの功績に対する俺からの餞別だ。細かいことは気にするな。
はい、分かりました。
全く細かくはないだろうと思ったが、無駄なので追求しようとは考えなかった。
それに、私にはもっと大切な質問があった。
上司、姫様はいかがお過ごしですか。
上司は肩をすくめた。
相変わらずだな。俺は、お前に自分の心配をして欲しいんだが。
つまり、憂うことはないと解釈して宜しいでしょうか。
城内でこのことを知っているのは、ほんの一部の人間だけだ。
そいつらには、俺から直々に言っておいた。口外したら、一族郎党皆殺しにするとな。
私は、この男なら本気でそうすることを知っていたし、
恐らく秘密を知る人間もそう思ったに違いないと思い、安堵した。姫の名誉は守られる。
その眼、安心したか。
上司は顎髭を引っぱりながらにやりと笑った。
私にはそれが全てです。
しかしな、自分を犠牲にして誰かを仕合せにしようとするのは、俺は好かん。もっと自分を
大事にしろ。お前にはその資格がある。
そうは思えません。上司も仰いましたが、私は汚泥です。姫の顔に泥を塗ったばかりか、御顔を
恥辱で汚しました。
俺が立場上そう言わねばならんことは、お前なら分かってる筈だ。
しかし、真実です。
いいか、お前が幾ら自分を卑下したところで何も変わらん。
上司は少し苛立ったように言った。
これから、お前はあの方に依らないお前を見つけろ。自分の人生は自分のために使え。分かったな。
私には分からなかったが、言い争いは何の益にもならないと悟り、無言で首肯した。
上司はそんな私の考えを見抜いたのか、半ば呆れたように鼻をふんと鳴らした。
あの方には、お前が退役になった理由は包み隠さず伝える。傷つかれるだろうが、それ以上に
あの方は嘘、偽りを激しく嫌うからな。
話は以上だ、女騎士。今までご苦労だった。
それが最良だと思います。それでは、私はこれで。
敬礼をして踵を返し、部屋を出ようと扉の取っ手に手を掛けた時、
上司が不意に後ろから私を呼び止めた。
何でしょうか、上司。
あの方は、お前がどこにいようと、お前の仕合せを願っている。だから、お前の命はもう、
お前だけの物ではない。意味は、分かるな?
その一言が私を引き止めた。
私は上司の部屋を出た後、そのまま街を出て僻遠の山間で自決をする代わりに、
雨に濡れながら下町の安酒場に行った。
店内は薄暗く閑散としていたが、それでも数人の客が、昼間から安酒を呷っていた。
彼らは、明らかに場違いな服装をした私にも興味を示すことなく、機械的にグラスを口に運んでいた。
びしょ濡れのままカウンターに座って、銘柄のないポートワインをボトルで頼むと、
私の格好を見て身分の高い人間だと判断したのだろう、店主が気を利かせて別の酒を勧めてきた。
今年は二級の赤が手に入りましてね。もちろんボルドーです。きっとあなた様には、
こちらがお似合いですよ。
銘柄がないのが良いんだ。今の私と同じ奴が。
不可解そうな顔のまま首を傾げる店主。
私はもう誰でもないんだ。誰でもない人間には、名前のないポートワインが相応しい。
私がそうと言うと、狂人の臭いを嗅ぎ付けたのか、彼は大人しく注文通りの品を運んできた。
自分の中にぽっかりと空いた虚無の穴を満たそうと、私は粗悪な液体をがぶがぶと喰らった。
しかし、いくら呑んでも全く酔えなかった。
私は訝しんだ。アルコールの過剰摂取が頭の働きを鈍化させるという話は嘘だったのか。
私は無茶苦茶な勢いで酒を喉に流しこんだが、その度に姫の記憶が目の前にちらついた。
その画を赤く塗り潰すため、赤い酒をさらに体内にぶちまけていると、突然、時計の針が壊れた。
記憶が時間の矢を無視して、過去と現在を振り子のように往来し始めたのだ。
それは、遠い過去へ遡ったかと思うと、今度は急に最近の映像を再生し、そして再び昔へ巻き戻った。
私はそれらを叩き割るために、さらにグラスに液体注ぎ、それを呷り続けた。
今日、お前の姫様が産まれた。
私を施設から引き取ったその日、養父(ちち)は言った。
お前は、姫様のために生き、そして死ぬのだ。お前という人間は、今日生まれたのだから。
物心ついたばかりの私は思った。人は二度生まれるのだ、と。
『女騎士、私はとっても嬉しいのです』
姫は髪飾りを髪に結えながら、屈託のない笑みを咲かせていた。
『ちょうど一ヶ月の記念日ですから、何か贈らなければと思ったのですが、
粗悪品しか用意できず申し訳ありません』
『貴女からの贈り物なら、私は何でも嬉しいのです。それでは、私からも何か渡さなければ』
はしゃぎながら、姫は言った。
はい、この家名を汚さぬよう、命に代えても姫様をお守りする所存です。
私は今日のお前を祝わない。なぜなら、今日からお前の真価が問われるからだ。兵士としての真価が。
義父の厳粛な声が古めかしい部屋に響いた。
『ここが、最初は一番気持ち良い部分ですよ』
姫は私の手を掴んで、そっとクリトリスに当てた。
触れた瞬間、私の口から変な声が飛びだした。
『すみません、痛かったですか?』
『いえ、名状しがたい感覚にびっくりしまして……』
ああ、お前があの人の娘か。獅子のような容貌と虎のような声が、私の声を硬直させた。
はい、義父がよく申しておりました。幾多の戦場で名を馳せた歴戦の猛者だと。
昔の話だ。そんな細かい話は気にするな。
細かい話なのですか? 私は思わず口に出していた。この手の人間は過去の偉業を誇る物ではないのか。
そんなことより、俺がお前の上司になるということの方が大事だろう。ともかく、よろしくな、女騎士。
いざ改まって向かい合うと、昨晩のようにはいかなかった。
私たちは気後れし、落ち着きなく身体をもじもじさせた。
始めるきっかけを掴むことができず、私も姫も顔を紅潮させ、ぎこちない雑談を交していた。
そんな間延びした状態が十数分続いた後、私は意を決して腕を伸ばし、姫の二の腕をがっちりと掴んだ。
口火を切らなければならないのは私だ。
『姫様、宜しくお願いします』
私の声は裏返っていた。
よくやってくれた、女騎士。巨躯を古びた机に預けたまま、上司は怒りを抑えながら言った。
私は、己の務めを果たしたに過ぎません。
警備部の連中には、俺からよく言っておく。耳ではなく体に聞かせておかないとな。
上司は巨大な拳をごきごきと鳴らした。あの方の命が危険に晒された。言い訳はさせない。
あの男はどうなるのですか。
奴が恩赦されたと“あの方は思っている”。俺たちに重要なのはそこだ。後は知らなくて良い。
『私は必死だっただけですよ』
口元は微笑んでいたが、眼には悲しみと怯えの色があった。
『私が何とかしなければならないと思って、体が勝手に動いていて、気がついたら剣を掴んでいて。
今だって、時折思い出して恐怖に打ち震えるんですよ。私は結局、臆病者なのです。
ただ、そんな私でも、人ひとり救えたのですから――』
恋人は作らないのか。
唐突な質問に、私は思わず問を聞き返していた。
だから、恋人を作ったりしないのかと訊いている。もうお前も良い歳だろう。
そんな考えが浮かんだことすらありません。私は思ったままのことを口に出した。
そうか、と義父はぽつりと呟いた。
私の目には、義父が、そのたった一瞬で急激に老けこんだように見えた。
『あの……』
一度目の絶頂を迎えた姫は肩で息をしていて、その白磁のような肢体には赤みが差していた。
『部屋の外へ、行きませんか?』
女騎士様は恋人など、お作りには? 同輩のひとりが、私に突然話を振ってきた。
恋人……。
女騎士様ほどの美貌をお持ちならば、言い寄る男も多いでしょう。
同輩は上目づかいに軽口を叩いた。
朧気だが、私を慕っている云々と話しかけてきた連中がいた気もするな。印象には残っていないが。
『本当に私などが、姫の唇を汚していいのでしょうか』
姫は頬を膨らませて怒った。
『何度同じことを訊くのですか!』
その顔があまりにもかわいらしく、私は思わず吹きだした。
お前にはすまないことをしたと思っている。ベッドに横たわったまま、かすれた声で義父は言った。
皺だらけの手を握ると、それは驚くほど冷たかった。
姫様だけに仕えるのが人生ではないと教えるべきだった。
そんなことはありません。貧民街でただ野良犬のように野垂れ死ぬだけだった私に、
お義父様は存在価値を与えて下さいました。
『私には姫が全てです』
事が終わり、いつものように顔を向き合わせながら姫の髪を撫でていると、不意に思考が口から漏れた。
『急にどうしたのですか、女騎士?』
私の出し抜けな台詞に、姫はきょとんとした。
『いえ、すみません。妙なことを口走りました。忘れて下さい』
私は慌ててそう濁そうとしたが、姫はにっこりと笑った。
『忘れたりしませんよ』
傍らに、爽やかな身なりをした青年が私を覗きこむようにして立っていた。
間違いない、あなた、姫様の直属のお仕えですよね?
青年は私の隣の席に腰掛けた。
良ければ姫様のことを、詳しく話してくれませんか。僕、姫様が大好きなんです。
私は腰に差していた短剣を抜いて、青年の首を縦に割いた。
動脈を狙ったつもりだったが、手元がふらついてわずかに右に逸れたようだった。
青年は悲鳴を上げ、席から転がり落ちた。
私は青年に飛びかかって馬乗りになり、顔を五指で押さえつけると、
首にできた裂け目から指を突っこんで動脈を掻き出した。真紅のワインが飛び散り、私の顔にかかる。
お前如き下賤の者が、姫の名を語るな。私は青年に言い放った。
今度姫の名を口に出したら、これを引きちぎる。
私が指に力をかけると、青年は泣きながら何ごとか喚き散らした。獣が絶命する時の断末魔。
いいか、よく聞け。姫は私の代わりを見つけるだろう。私は使い棄ての駒なのだから。
姫は新しい仕合わせを見つけるだろう。姫はそうあらねばならないのだから。
しかし、やはりお前のような人間は死ぬべきだ。
私のような無価値な人間に姫のことを尋ねるなど、万死に値する。
私は明確な殺意を持って指に力をかけたが、それを客のひとりが止めた。
私の指は強い力で引き剥がされ、青年の動脈は解放された。かと思うと、今度は別の客
――店主だったかもしれない――に、羽交い締めにされ、私はそのまま青年から引き離された。
すぐに、青年は誰かに支えられて外へ出て行った。
そして、それを見届けた私が筋肉を弛緩させると同時に、私を取り押さえていた人間の力も弱まった。
すまないな、面倒をかけた。
そう言って、よろよろと立ち上がると、後ろ髪が顔にかかった。
水を滴らせていた髪は、いつの間にか髪が殆ど乾いていた。
あるだけの貨幣をカウンターに置くと、私は自分の物でなくなった両足をどうにか動かして、
己が前後不覚になっていることを理解しないまま、薄闇の酒場を抜け出した。
外では雨が上がっていて、夕日が眩しいくらいに輝いていた。
その時、橙色の陽光に包まれた私の頬に、ふと何かが流れ、そのまま口に入った。
恐らく彼の返り血だったろうと思うのだが、それが何だったのか、どうしてもよく思い出せない。
7.
語るべきことは殆どもう残ってはいない。
私は城内に戻り、自分の部屋で水を一杯だけ飲むと、ベッドに倒れ伏してそのまま泥のように眠った。
数時間の睡眠を取り、その後目を覚ますと、私はがんがん痛む頭に耐えつつ荷物を纏めてから、
最後に上司宛の手紙を書くために筆を取った。
そして、上司の厚意に対する感謝、それを返上する謝意、及び私の頼み事を便箋にしたため、
自分の机の上に置いた。
廊下に出て扉を閉めようとした私は、今まで暮らしてきた部屋を見た。
部屋は、初めてやって来た時のように、がらんとしていた。
机の上に二つ手紙があること以外、あの日見たのと、一つとして変わらない光景。
私は扉からそっと手を離した。
私の“今まで”は、ゆっくり、ゆっくりと見えなくなっていき、今際(いまわ)の際に一瞬きらめくと、
鈍い金属音とともに、現実がそれを永久に過去に閉じこめた。
二度と、私がこの部屋に入ることはない。
私はそれだけ用を済ますと、すぐに街を出た。
私には、別れを告げるべき友人も家族もいなかったから、国を追放されるといっても、
それは殆ど、ただ城門をくぐるだけの作業でしかなかった。
外界に出ると、私は上司が言っていた国とは真逆の方向に歩を向けた。
私には許せなかった。
姫の白無垢を甚だしく汚した元凶が、平和な国でのうのうと生活するなど。
確かに、私と姫は合意の下で肉体を重ねていた。
しかし、遡って考えれば、それら全ては、あの夜、私が姫を押し倒したことに端を発しているのだ。
私は疑いようもなく欲望に塗れた罪人であり、その罪は血の罰で雪がなければならない。
もうひとつ、私が上司の紹介状を机の上に残してきたのは、その他に、政治的な理由もあった。
いくら旧知の仲だと言っても、国家間のやり取りである以上、人事の便宜を図れば、
それは借り貸しの問題になる。上司にとって、それが将来、都合の悪い事態を招かないとも限らない。
私はもうひとつの手紙で、その旨を説明した。
唯一の心残りは、その同じ手紙で、私が上司と、そして何より姫に、嘘をついたことだ。
遠い親類が見つかりましたので、私はそこで過ごします。
そう私は書いた。
もちろん、私にそんな人間はいないし、それは少し調べれば分かることだ。
しかし、ここで大切なのは真実ではない。重要なのは、可能性を提示することだ。
恐らく姫は、私を心配してくれるだろう。
しかし、その不安を払拭する希望を、希望的観測を可能にする証言を私は書き残した。
『もしかしたら、書いてあるとおり、本当に親類縁者が見つかって、
そこで暮らしているのかもしれない』。
私の行方を掴めない姫はそう推測する筈だ。
もしも私の仕合わせを思ってくれるのなら、姫はきっとこう言う。
『女騎士のことです。きっと平穏に生活しています。私はそう願っています』
そして、少しずつ、あるいはすぐに、彼女は私のことを忘れ始めるのだ。
私の願いどおりに。
街を出てから、私は当てもなく、各地を幽霊のように彷徨い始めた。
順当にいけば、私はすでに己を野犬と虫の餌にしていた筈だった。
その結末を変えたのは、小さな容器に入った、使いかけの口紅だった。
関係を持ってから一ヶ月の記念として、私が姫に贈った髪飾り、その返礼として受け取った物。
とてつもなく高価だと知り、慌てて返そうと思うも、姫の気持ちを返上する訳にはいかないと
考え直し、大切に手元に置いておいた宝物。
城を出た最初の夜、焚き火の弱い明りが、荷物に紛れたそれを闇から浮かび上がらせた。
私は容器を取り出すと、漆黒の音しか聞こえない山中で、産まれて初めて、口に紅をさした。
その香りが鼻腔をくすぐった瞬間、姫との記憶が頭の中で弾けた。
姫の向日葵のような笑顔、恥じらった面差し、かわいらしい表情、
ぎゅっと握り替えしてくる掌と指の感触、さらさらと流れる美しい長髪の手触り、
抱きしめた時の肌の温度、涙の塩辛さ、口内の甘さ、膣分泌液のわずかな酸味、
蕩けた嬌声、はしゃいだ声色、悲しみを伝える囁き
――そして、私の名を呼ぶ声。
ありとあらゆる思い出が、怒濤の如く私の身体を流れてゆくと、
最後に、それは涙になって体外に排出されていった。
姫の中の私は死んだが、私の中の姫はまだ生きている。
姫が生きているのならば、私はまだ従者でいられるのかもしれない。
そして、私の中の姫を生かしているのは、この口紅だ。
私は欠かさず、紅をさそう。そして、この口紅がなくなった時、私は死のう。
その夜から何ヶ月、何年経ったのか、私にはもう分からない。
城にいた頃、金銭を殆ど使わなかったということもあり、持ち金は長旅に充分耐えうるほどあった。
そのため、旅費に困るということはなかったが、野盗が襲ってきた場合は、これを返り討ちにして
金品を奪いながら、私は各地を転々とした。
しっかり、唇を紅く染めながら。
そして、私は今、この机でこの物語を書いている。
もう、口紅がないからだ。
節約して使ってきたつもりだったが、この分では保って後二週間というところだろう。
この物語は誰の目にも触れられない、触れさせてはならない物語だ。
しかし、私は、最期にせめて、全てを言葉にしたかった。
頭の中にある形ない幻影でなく、文字に書き起こすことで、
確かにこの世界に存在するひとつの現実にしたいと思った。
私は間もなく誰でもなくなる。
私の中の姫が息絶え、「騎士」でなくなる。
男を知らない私は、「女」ですらない。
私の本名はすでに存在しない。
私という人間がいなくなるのだ。
だから、その前に私は、「
*
物語はそこで、ぷっつりと途切れていた。
私は再びそれを二、三度読み返すと、「女騎士」が寝ていたであろうベッドに寝転がった。
虚空を見上げながら、そういえば口紅をしていたかもしれない、と私は思った。
彼女がチェックインの手続きをしていたときだ。
顔はフードで隠れていてよく見えなかった。
しかし、唇には、薄汚れた服装には釣り合わない、鮮やかな色の口紅が塗られていたような気がする。
こんな安宿では、客が何の断りもなくチェックアウトするのも、忘れ物をするのもよくあることだ。
とはいえ、こんな風変わりな置き土産は初めてだった。
文字がぎっしり書きこまれた五枚の便箋。
机の引き出しの中に無防備に置き去りにされていた遺失物を、私はぼんやりと眺める。
この話は、創作だろうか。
私は考える。
ある小説家の、書きかけの文章。
それにしては、どうも不自然だ、と私は思った。
この『物語』には、固有名詞が一切登場していない。
ふつうの小説なら、少なくとも、この「女騎士」、「姫」、「上司」には
ちゃんとした名前があるべきだろう。
これが草稿であり、名前は後から考えるつもりだった……というのも、ない気がする。
ほとんど話は完成している。
この段階で、登場人物の名前を決めていないなんてことはあるだろうか?
しかし、事実、作者は、人名や地名を何ひとつ明記していない。
なぜ?
理由はひとつしかないように思う。
この『物語』は、ノンフィクションなのだ。
昨日、宿帳に名前を書いていた女性が「女騎士」その人であり、
作中の事件が全て、実際に起きた出来事だとしたら、筋は通る。
固有名詞がないのは、作者――「女騎士」――が、万が一のことを想定していたからだ。
今まさに起きている、『この手紙が他人の目に触れる』という万が一の事態を。
だから彼女は、もし発見されても特定だけはされないよう、それらを一切書かなかった。
つまり、予防線を張ったのだ。
たしかに、ところどころに、特徴的なエピソードは見られる
(特に「姫」が暗殺されかけるくだりなど)。
だが、事の真偽を確かめるには、諸国を巡り、その国で起きた事件を調べて回らなければならない。
この話が作り話でないという保証がない以上、そんなことをしでかす奇特な人間はまずいないだろう。
彼女の言葉を借りれば、「姫の名誉は守られる」訳である。
彼女は、そう考え、具体的な人名や地名を明記しなかったのではないだろうか。
そこまで考えたところで、別の疑問が私の頭をよぎった。
しかし、もし、この物語が事実に即しているとしたら、この「女騎士」はどうなったのだろう?
部屋に荷物はない。こんな大切なものだけを残して、彼女はいったいどこに行ったのだろうか?
仮説① 突如やってきた強盗に拉致された。
文章が途切れているということは、誰かがとつぜん訪てきたということにちがいない。
予期せぬ訪問者がドアをノックした。だから、彼女はペンを途中で止め、慌てて紙を机の中に隠した。
そして、ドアの鍵を開けた瞬間、乱入してきた強盗に気絶させられ、身柄を捕えられ荷物も奪われた。
……これはないだろう。
作中にもあるが、彼女は相当の手練れだ。
たったひとりで諸国を旅し、山賊から逆に金を巻きあげるような人間が、強盗に倒されるとは思えない。
仮説② この手紙の存在を忘れて、私が知らない内に宿を出た。
これはさらにあり得ない。この便箋は、彼女にとって自分の命より重要なもののひとつだったはずだ。
机の中に残したままにするなど、まず考えられない。
では、一体なぜ?
彼女はどうして、どこへ消えたのか?
私はしばらく、あれこれと考えを巡らせたが、結局ありえそうな答えは何も思いつかなかった。
不意に、私は全てが馬鹿馬鹿しくなった。こんなことに時間を取ってる暇はない。
どうせこれは、どこかの作家が書いたフィクションにちがいない。
私はそう決めつけることにした。
さっさとこの部屋を掃除して、自分の部屋に戻ろう。
まだやるべき仕事は残っている。宿屋は急がしいのだ。
私は、ゴミ箱に捨ててしまおうと、今までの推理を便箋ごと手でくしゃくしゃに丸めた。
いびつな形のボールをゴミ箱に放りこむと、かさりという、謎が奈落に落ちてゆく音が聞こえた。
その刹那、私は、突拍子もない仮説をひらめいた。
が、次の瞬間には、その妄想のあまりの荒唐無稽さに、思わず笑ってしまっていた。
そんなことは、およそ起りうるはずがない。
まったく、どうかしてる。疲れてるのだろうか?
しかし、ふと立ち止まってその仮説をじっくり吟味してみると、
パズルのピースは驚くほど上手くはまっていった。
私は考える。
ドアを叩く訪問者。
ペンを止める彼女。
机の中に放りこまれた、読まれてはならない未完の物語。
それを残して、荷物をまとめ、部屋から出ていく彼女。
考えれば考えるほど、状況を説明する仮説が、これしかありえないことに気づく。
全ては推論の域を出ない。
一方で、可能性は恐らくこれしかない。
仮想的な真相は、こうだ。
昨日の夜、たしかに「女騎士」はノックに応じて扉を開けた。
しかし、彼女が見た訪問者は、強盗ではなかった。
彼女が本当に目撃した人物。
それは、あの「姫」だったのではないだろうか。
意外すぎる光景に、彼女の頭は真っ白になっただろう。自分の目を疑ったはずだ。
そして、それが本物の「姫」であると認識した瞬間、彼女は混乱し、思考力は吹き飛んだ。
彼女はそのまま、「姫」とその従者数名に連れられて、夢うつつの状態でこの宿を出た。
そして、彼女の荷物をまとめた他の従者たちは、机まで調べることをしなかった。
結果、便箋は机の中に残ったままになった……。
素手で剣を止めようとするほど行動力のある「姫」のことだ。
彼女の居場所を突きとめるために、密かに調査隊を組織したとしてもおかしくはない。
きっと、「姫」はずっと探していたのだ。
彼女が消えたその日から、ずっと。
そして、それほどまでに強く思っていたからこそ、「姫」は直接、彼女に会いにやってきた。
一刻も早く、彼女の顔を見ようとして。
(彼女に戻ってくるよう説得できるのは自分しかいない、と思っていたということもあるかもしれない)
夜、「姫」は鼓動が早まるのを感じながら、この部屋の扉をノックする。
中で人が動く気配がする。「姫」にとっては、永遠とも感じる時間が流れる。
やがて、ついに、ゆっくりとドアが開く。
そこには、容姿はいささか変わってはいるが、たしかに自分が探し求めていた「女騎士」がいる。
飛びつきたい衝動をこらえて、「姫」は「女騎士」の名を呼ぶ。
しかし、「女騎士」は顔を隠しながら、ベッドにへたりこむ。
『人違いです』
絞りだすように言う「女騎士」。
『私が貴女を見間違えることなどありませんよ』
『私のことなど知らないと、見たこともないと、言って下さい』
後ろ姿の彼女の声は涙ぐんでいる。
『お願いです』
顔を背け、ベッドに座っている「女騎士」の身体に、「姫」は静かに腕を回す。
しばらくして、「姫」の腕に「女騎士」の手がそっと触れる。
小刻みに震えているその手を、「姫」はしっかりと握りかえす。
『帰りましょう、エリザヴェータ』
「女騎士」は、成長した「姫」に、今度は自分が抱きかかえられながら、部屋を出ていく。
まだ、これが現実だという確信を持てないまま。
このようなやり取りが、昨日の夜、ここで行なわれたのではないか。
もちろん、全ては憶測の域を出ない。
しかも、この憶測は、「女騎士」の物語が事実であるという、さらなる憶測の上に成り立っている。
言いかえれば、この話は、私自身が創作したひとつの『物語』にすぎないのだ。
私は、ある『物語』から、また別の『物語』を生み出しただけだとも言えるだろう。
それでも、私は、私のこの『物語』が真実だと思いたい。
この世界には、ドラマチックなハッピーエンドが実在すると信じたい。
だから、私はゴミ箱から便箋を拾い上げる。
そして、くしゃくしゃになったそれをきちんと引きのばすと、部屋を照らす蝋燭にかざした。
またたくまに炎は紙を飲みこみ、机の上で灰色のもえかすになった。
誰にも読まれてはならない物語。
連なる文章に、意味を見出してはならない話。
存在してはならない記号の羅列。
私はあるべき場所に、便箋をしまったのだ。
そう遠くない未来、「女騎士」はこの宿に再び現れるだろう。
人目に触れてはならない物語を回収するために。
そして私はこう言うのだ。
『便箋ですか? どうだったかなあ。きっと燃やしてしまったと思います。
内容? なにか大事なことが書いてあったんですか?
すみません、私、文章を読むのは苦手でして』
安堵する「女騎士」の顔が、私の頭に浮かんだ。
――了――
64 : 『Her Knight in Their Nights』 ◆k6VgDYkyGI - 2011/10/21 22:44:20.95 aYv84ioOo 63/63ここまでお読み頂きまして、誠にありがとうございました。
約9割が地の文という、かなり異質な一次創作で、しかも内容・文体ともに非常にアクの強いSSでした。
ごく少数かと思いますが、面白さを見出して下さった方がいらっしゃいましたら幸いです。
お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、本作品は、米作家ポール・オースターの小説群を
オマージュしています。会話文を地の文で表現するのは、『幻影の書』の手法です。
また、作中内作品の形式を取っているのは、『Oracle Night』や『幽霊たち』などを
参考にしています。また、言語と同一性の問題も扱っているのも、オースターの影響によるものです。
小説(主に海外小説)とSSを折衷させ、さらにそこに1980年代から続く現代的な問題も絡めるという、
およそエンタメとはかけ離れた内容なので、ぶっちゃけ没にしようかと最後まで悩みました。
ただ、100人中ひとりくらいは、ほんのちょっと面白く感じてもらえるかなという思いもあり、
結果として投下に至った次第です。
不快に感じた方、わけ分かんねーよといらだちを覚えた方、いらっしゃいましたら申し訳ありません。
こうした形式のSSを書くのは、これが最初で最後だと思います。
まずあり得ないとは思いますが、逆に、楽しんで頂けたなら恐縮です。一応、製作裏話を
ツイッター(noname@globetazk)上に載せていますので、ご興味ありましたらご一読下さい。
言い訳のような後書きを含め、長々とお目汚し失礼しました。
◆k6VgDYkyGI
安易で突飛で荒唐無稽で飛びまくりで頭悪そうなくらい軽い俗悪がネットのssの悪いところでもあり気楽なとこでもあるけど、こういうしっとりと読めるネットのssも良いと思う