8月上旬。今日も隣人部の面々はクーラーの効いている部屋で、全力でダラダラ過ごしていた。
夏休みの宿題を黙々とこなしていく俺。一方、他の奴はというと。
不機嫌な顔で読書に興じていたり、ディスプレイに向かって「いつでも一緒だからね」「大好きだよ♥」とか話しかけながらギャルゲーに没頭していたり(傍から見ればかなり危ない)、ぼけーっと突っ立っていたり、ノートに壮大な叙事詩を書いたり(但し何と書いてあるかは読めない)、マニアックなカップリングの薄っぺらい本にハァハァしていたりした。
ちなみに今日は幼女シスターのマリアは仕事でいない。
小鷹「しかしまぁ…夏休みだというのに、こんなんでいいのか」
夜空「ん?何がだ」
小鷹「せっかくこうして皆で集まってる訳だし、何か夏休みらしいことをした方がいいんじゃないか」
夜空「例えば?」
元スレ
小鷹「隣人部コミケに行く、の巻」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1312715228/
小鷹「えーっと…すまん思いつかない」
自分から言い出して思いつかないというのも変な話だが、
10も20もアイデアが出るならとうに俺はリア充の仲間入りを果たしていると思う。
理科「ふふふ、夏休みといえばコミケですよ!」
突然目をキラキラさせながらポニーテールの眼鏡少女が身を乗り出してきた。
夜空「コミ…なんだそれは」
俺はなんとなくニュースとかで見たことがある。東京のほうで催されるアニメとか漫画の祭りで数十万人もの人がくるとかなんとか。
理科が今手に持っている薄っぺらい本…いわゆる同人誌というやつも大量に売り買いされてるらしい。
小鷹「あーあれか…でもあれすげー人来るんだよな」
理科「そりゃ年に2回しかない国内最大のオタクイベントですから!あそこでしか買えないグッズや同人誌もたくさんありますし」
夜空「なんでわざわざ人が多いところに行かなきゃならんのだ…」
小鷹「というか理科、お前人混み苦手じゃなかったっけ?」
理科「苦手ですよ。理科、前に一度行こうとしたんですけど、電車のあまりの人の多さに一駅でダウンしちゃいました」
小鷹「なんだそれ」
思わず脱力する。
理科「でもリア充ではない残念な人々が集う最大のイベント…隣人部的には参加する価値は大いにあると思いますけど」
小鷹「うーむ、まぁ…」
確かに底抜けに明るい集団が跋扈していそうな海水浴場に行くよりはハードルは随分低そうだ。
それに俺も小鳩が見ているアニメや、漫画(最近はヤンキー漫画ばっかりだが)に関してはそこそこ知ってるので割と楽しめるかもしれない。
小鷹「ま、ここでダラダラ過ごすよりは良いかもな。行ってみるか」
幸村「あにきがそうおっしゃるのでしたら、わたくしもご一緒させていただきます」
小鷹「おう。小鳩お前も」
そう言いかけてふと中学生(見た目はほとんど小学生)がそういう類のイベントに行っていいのかどうか疑問に思った。
理科「大丈夫ですよ。最近は小さな子供が来るのも全然珍しくないですし。ウェッヘッヘ…」
小鷹「お前行ったことないんじゃないのか…あとその変なおっさん臭い笑いやめろ」
小鳩「ククク…大勢の人間が一斉に集う…真祖の血が騒ぐな…」
相変わらず意味不明な言葉を発しているが、乗り気であるのはなんとなくわかった。
小鷹「夜空、お前はどうする?」
夜空「勿論却下だ。貴様等で勝手に行って来い」
予想できた反応。人混みもあるけど、こいつアニメとか漫画とは無縁そうだしなぁ…。
理科「星奈先輩はどうですか?」
星奈「……」
無反応。ギャルゲーに集中しまくっているらしい。
テレビのディスプレイを後ろからのぞく。そこにはスタッフのエンドロールと共に黒髪の少女の笑顔が映し出されていた。
星奈「ううっ…ぐすっ…ひっぐ…加奈子…かなこぉ…」
鼻水を垂らしながら号泣する金髪碧眼少女。正直ちょっと引く。
すると横から理科が顔を出した。
理科「あ、これって最近発売された今年最強の呼び声高いギャルゲーですね。
確か病気にかかって余命いくばくも無い妹と最後の時間を過ごすとかいうストーリーの」
小鷹「へぇ…」
理科「出た直後から高い評価を得ていて、PSPへの移植もあっさり決定したとか。今年のコミケでも沢山グッズがでるみたいですね」
星奈「ふぇ?マ、マジで!?」
小鷹「とりあえず鼻水拭けよ…」
そんなわけで隣人部一同はコミケに参加することが決定した。(ただし夜空・マリア除く)
コミケ当日。朝の6時半。遠夜駅前。
集合場所には既に俺と小鳩以外の面々が揃っていた。
幸村がメイド服、理科が白衣+制服なのはもう突っ込まないことにする。
両方ともコスプレと思われるだけだろうし、問題は無い…はず。
星奈はピンクのキャミソールにフリルのついたスカート。
そして黒のオーバーニーソックス。
もともとのスタイルの良さもあるが、思わず一瞬見惚れてしまったのは認める。
幸村「おはようございます、あにき」
理科「遅いですよ~小鷹先輩」
星奈「何やってんのよ、もう」
小鷹「すまん…っていやいや集合時間通りだろ」
理科「本当はもっと早くてもいいくらいなんですけどね」
最初に理科が提示したのは5時半だった。しかし流石にあまりに早朝だと俺としても、
小鳩としてもきついので頼み込んで1時間遅くしてもらった。
理科「まったく、コミケは戦場なんですよ。ストライクガムダン×オヴァ弐号機の新刊が売り切れたらどうするんですか!」
星奈「そうよ、もし加奈子のグッズが買えなかったらあんたのせいだからね!」
小鷹「はぁ…すんません」
テンションの高い2人を横目に小鳩はというと。
小鳩「あんちゃん…ねむい…クク…我は悠久なる時を生きる闇の王、レイシス…ねむい」
かなり眠たそうだった。
急行列車に揺られること1時間。東京に近づくごとにいかにもオタクとわかる集団が増えてきた。
乗換駅に着いて、なんとかぎゅうぎゅう詰めの空間から解放される。
小鷹「疲れた…ってうおっ!」
猛然と一つの方向へ向かってダッシュする乗客。駅員が「走らないでくださーい!」と注意を呼びかけているにも関わらず走りまくっている。
小鷹「なんじゃこれ」
小鳩「ククク…餌に群がるハイエナ共め…」
幸村「すごいですねー(棒)」
星奈「さぁ、あたし達も行くわよ!」
小鷹「ん?ちょっと待ってくれ!理科がいない」
すると携帯が鳴った。
小鷹「もしもし?」
理科『小鷹先輩…すみません、理科降りれませんでした…うぇっぷ』
小鷹「つーことは…まだ電車の中か?」
理科『はい…前回のリベンジを果たしたかったんですけど、マジ吐きそうなんでこのまま帰ります…』
小鷹「えっ」
理科『では…GOODLUCK!…おええっゔぼおえっ』
ピッ。切れた。強烈な嘔吐ヴォイスを残して。
何しに来たんだ…。まぁ、とりあえずあいつは大丈夫だろう…たぶん。
星奈「なにボケーッっとしてんの?はやくー!」
小鷹「お、おう」
そして先程よりもさらに満員の電車に乗り込み、ようやく会場に一番近い駅に到着。
小鷹「し、死ぬかと思った…」
恐るべき満員電車から小鳩(と一応星奈)を守るため背中に強烈な物理的プレッシャーを与えられつつも何とか耐え忍んだ。
その一方幸村は平然な顔をしていた。タフだなおい…。
そして駅の改札を出ると、アホみたいな長蛇の列ができていた。
小鷹「どこまで続いてるんだこれ…」
星奈「なんであたしが庶民共と同じように並ばないといけないのよ」ツカツカ
小鷹「っておいどこに行く!?ちゃんと並べって」
星奈「むぅー」
小鳩「あんちゃーん…へとへとなんじゃ」
偉大なる夜の血族の真祖もバテ気味だった。
列は先が全く見えないが、ゆっくりと確実に進んでいく。
まるでカメが歩くようなペースではあったが、どうにか待機場所に到着。
小鷹「やっと座れる…」
幸村「あにき、イスをお持ちいたしました」
そういうとカバンから折りたたみ式の小さなパイプ椅子を取り出した。100円ショップとかで見たことがある。
小鷹「おお、サンキュー」
星奈「ちょ、ちょっと!なんで小鷹がイスで貴族のあたしが地べたなのよ?」
幸村「星奈のあねごにはこちらを差し上げます」
それはどうみてもコミケのカタログだった。
手ぶらなのに一体どこから出したんだ幸村。
星奈「はぁ…いいすわり心地…ってんなわけないでしょ!」
幸村「まぁまぁまぁ」
小鷹「ってかお前、それだと思いきり見えると思うんだが…」
星奈「何が?」
小鷹「何がって…そりゃあ」
スカートに目をやる。正直長さ的にかなりきわどいと思う。
星奈「な…な…///きゃあああああ!小鷹の変態バカアホ鬼畜陵辱主人公!」
小鷹「忠告しただけでなんでそこまで言われる!?」
(きちく…?)
(りょうじょく…?)
しかも周りの人がヒソヒソ話を始めてるし…なんてことだ。
小鷹「お、あんなところにコンビニがあるぞー(棒)お前ら、何か欲しいものあるか?ついでに買ってくるぞ」
幸村「あにき、パシリならこのわたくしめが」
あまり自分でパシリと言うのはどうかと思う。
小鷹「いいんだ!ちょっと見て回りたいし」
幸村「そうですか」
小鳩「ふふふ…我は供物を欲している…ペプツという名の供物を」
星奈「椅子。座高の高いやつ。あとすっごく冷えたカルプスソーダ」
小鷹「へーい…」
コンビニに入ると、そこは恐るべき人の波でごった返していた。
あと、なぜか栄養ドリンクが数え切れないほど並んでいた。そんなに大変なイベントなのかこれは。
長い長いレジの列にうんざりしながら、三人のところへ戻る。
小鷹「ほれ、ペプツとカルプス」
小鳩「あんちゃん、ぬるい…」
星奈「…全然冷えてない」
小鷹「あれだけ客がいたら、そりゃそうだろう…」
冷える前に次から次に売れていく。自販機もたぶん一緒じゃないだろうか。
これなら氷を詰めた水筒でも持ってくればよかったなぁ…。
星奈「イスは?」
小鷹「無かった。つか、ホームセンターじゃないから、コンビニは」
星奈「むー、使えないヤンキーね」
…とりあえず君らは感謝の言葉というのを知った方がいいと思う。
結局星奈は「しょぼいし、低いからやっぱりいらない」ということでパイプ椅子を拒否し、みんな公平に地べたに座ることに。
そして10分後。
小鷹「暑い…」
小鳩「ククク…灼熱の太陽め…だが我はたとえ5000万度の業火に身を焼かれようとも…あちぃ」
幸村「暑いですね」
普通に暑かった。太陽の光を遮るものは何も無く、そしてこの人の多さ。
今更ながら軽い気持ちでここへ来たことを少し後悔する。
星奈「ねぇ、小鷹」
小鷹「ん?」
星奈「えっと…そ、その…ひ、日焼け止め塗ってよ」
小鷹「なんで俺がお前に日焼け止めを塗らないといけないんだ…」
星奈「しょ、しょうがないでしょ!家でする時間なかったんだから///」
小鷹「いや、そういうことじゃなく」
幸村「何ならあにき、わたくしが代わりにあにきにサンオイルを塗ってさしあげますが」
小鷹「話がややこしくなるんで、とりあえず黙っててくれ、うん」
幸村「…」ショボン
下を向き、しょぼんとする幸村はちょっと可愛かった。
星奈「ねぇ、小鷹~」
小鷹「わかった、わかったよ」
しかし夜空がいないと結構大胆な発言するな、こいつ…。
星奈からブランド物と思しき高級そうな日焼け止めを受け取り、フタを開ける。
小鷹「えーっと…どこから塗ればいいんだ」
星奈「はい」
そう言って右腕を差し出す星奈。
つーか、白っ!小鳩に塗ったときも思ったけど、なんでこいつらの肌はこんなに白いんだろう。
これだけ白いと紫外線の影響をモロに受けるのは間違いないと思う。
小鷹「じゃ、じゃあ塗るぞ」
ペタペタ
スベスベで陶器みたいに白い華奢な腕。思ったよりも細い…。
普段肉肉言われてるから、何だか意外だった。
右腕、左腕とクリームを塗り終わる。
星奈「ん…じゃあ次は首の後ろおねがい」
ほのかに顔が赤みがかっている星奈は背中を向けて髪をのける。
小鷹「お前髪長いんだし別に必要ないんじゃ」
星奈「う、うるさいわね!念のためよ、念のため//」
小鷹「へいへい」
…ゴクリ。某お化けのP太郎ではないが、思わず息を呑む。うなじってこんなに色気があるもんなのか…。
肩越しに見える自己主張の激しい『それ』も気になってしょうがない。
小鷹「こ、この辺でいいか」
星奈「うん」
自分でもよく解らない妙な動揺を抑えるために素早い手つきで塗っていく。
すると。
星奈「きゃはははははは!く…くすぐったい!」
小鷹「へ?」
ヌリヌリ
星奈「きゃははは、そ、そこはダメ!!あん、あひゃははは!!」
…もしかしてこいつ、首筋が凄く弱いんだろうか。
小鷹「ちょ、おとなしくしろって」
幸村「あにき、あにき」
小鷹「な、なんだ幸村」
幸村「まわりをごらんください」
小鷹「げっ!」
周囲の人々の視線が一斉に俺(と星奈)に集中していた。
幸村「流石です、あにき。やはりあにきは大衆からいちもくおかれるそんざいなのですね」
どんな勘違いだ。
よく見れば周りの人間はほとんどが黒髪で、その中でも俺と星奈(と小鳩)は嫌でも目立つプリン頭と金髪。
いや、それ以前に異性でつるんでる奴らがほとんど見当たらない。
答え=完全に浮いている
小鷹「星奈、あとは自分でやってくれ…」
星奈「えー…しょうがないわね。何かさっきから愚民共がこっち見てるけど、
あたしの神々しさにやっと気がついたのかしら?気分がいいわ」
だからどんな勘違いなんだ。
そして30分後。日が陰って若干だが暑さはマシになった。
小鷹「そういえば星奈と幸村は何買うか決めてるのか?」
幸村「わたくしはあにきのおそばに居られたらほかに何もいりません。
私欲は忠義につくすもののふにとって不要なものです」
小鷹「そうか…」
正直反応に困る。
星奈「あたしは加奈子の抱き枕!最悪他のが買えなくなってもこれだけは絶対手に入れるわ!」
抱き枕って確かアニメやゲームのキャラがプリントされた布に中身を詰め込んで楽しむ?やつだっけ。
レベル高いなおい。
星奈「抱き枕があれば寝るときも勉強するときもいつでも加奈子といられるのよ!
加奈子…ハァハァ…あたしはいつもあなたと一緒だからね…♥」
なんつーか、端的に言うと、キモかった。
星奈「あと『いもせつ』のアリスちゃんグッズもいいわねっ」
小鷹「いもせつ?」
星奈「『恋する銀髪オッドアイの妹はせつなくてお兄ちゃんを想うとすぐHしちゃうの』の略。知らないの?」
知らんそして何故真顔でそんないかがわしいタイトルをはっきり言えるのか、理解に苦しむ。
そして、星奈はカバン(やけにデカい)からパッケージを取り出した。
どうみてもエロゲです、本当にありがとうございました。
星奈「この子がアリスちゃん」
銀髪ツインテールでオッドアイ。何かすげー既視感があるんですが…。髪の色は違うけど。
星奈「本当にかわいいわよね!最初はツンツンしてるんだけど、次第に(以下略)」
しばらく星奈先生による熱弁が続くが、どうでもいいので聞き流す。
小鷹「…小鳩は『鉄の死霊術師』が目当てなんだよな」
小鳩「ククク…偉大なる闇の王である我は供物を欲している…禍々しき死霊を呼び起こす血塗られた呪いの道具を…」
小鷹「よしよし、一緒に見て回ろうな」
ふと、星奈が持ってきたカバンに目を向ける。やたらと大きいが、何が入ってるんだ?
星奈「あ、これ?コスプレ衣装よ」
俺の視線に気がついて星奈が答える。
小鷹「えっ、お前コスプレするつもりなのか」
星奈「ハァ?なんであたしが愚民の為に身を晒さないといけないのよ」
小鷹「じゃあ何のために持ってきたんだ?」
星奈「そんなの決まってるじゃない」
と、星奈は小鳩のほうを向いてニッコリと微笑んだ。
星奈「小鳩ちゃんにお着替えしてもらう為よ!」
小鷹「…やっぱりか」
まぁ部室だと夜空がいるしな…コスプレしてもらうには格好の舞台というわけか。
小鳩「うう…あんちゃ~ん…」
みるみるうちに不安の色を浮かべるわが妹。
星奈「怖がらなくていいのよ~小鳩ちゃんの為にとっておきの衣装を用意してきたんだから!
ゴスロリ、魔法少女、制服(夏バージョン)…」
カバンから次々と衣装を取り出す星奈。よくこれだけ揃えたな…前々から準備してたのかもしや。
星奈「そ、そして…し、白スク…ハァハァ…♥」
小鳩「いやぁぁぁぁぁ!!」
鼻息荒く、血走った目で白いスクール水着(ご丁寧にゼッケンに『こばと』と書いてある)を掲げながら迫ってくる星奈。
なんという残念な奴だ…。おまわりさんこっちです。
小鷹「ま、まぁコスプレの話はおいといて…まずどこを回るか決めないとな」
持ってきたカタログを取り出す。『くろねく』以外にどこを見て回るかは、前もって決めていなかった。
星奈「ふん、甘いわね。あたしはもうどこのブースやサークルをどういう順で回っていくか、とっくに決めてるわ」
そういうと十枚程の紙を取り出した。
小鷹「うわぁ…なんだこれ」
そこには赤ペンで巡回するルートがびっしりと書き込まれていた。
小鷹「お前どれだけ力入れてるんだよ…」
星奈「『獅子はウサギを狩るにも全力を尽くす』ってことわざがあるじゃない♪」フフン
小鷹「獅子っつーかどっちかというと牛…」ボソ
星奈「あ゙あ゙!?」
小鷹「…何でもない」
それからしばらくすると、突然拍手が沸き起こった。
時計を見ると10時、開場の時間だ。とりあえず周りに合わせて一緒に拍手する俺たち(星奈以外)。
しかし勿論すぐに建物に入れるわけではない。
ゆっくりのろのろとした動きで進んでいく列。10時半を過ぎた頃にようやく会場内へ着いた。
小鷹「はぁーやっと着いたぜ…」
星奈「はい、小鷹パス!」
小鷹「…って重っ!!お前自分のカバンくらいなぁ…ってもういねえし!!」
忽然と姿を消す星奈。恐らく抱き枕目当てで猛ダッシュしているに違いない。
※会場では走らないで下さい。
幸村「あにき、よろしければわたくしがおもちしますが」
小鷹「え?でも」
幸村「…」
なぜか目をウルウルさせながら俺を見つめる幸村(メイド服)。
小鷹「じゃあこっち持って貰ってもいいか?」
幸村「はいっ」
なぜそんなに嬉しそうなんだ。…こっちとしては罪悪感がわく。
まずは鉄の死霊術師グッズを買うために企業ブースへ移動する。
どこまで伸びているのかわからないほど延々と続く某有名魔法少女アニメの列を横目に、目的のブースを探す。
あった。思ったよりも並んでない。
小鷹「よかったなー小鳩」
小鳩「ククク…我が黒魔術で人除けの結界を張った甲斐があったというものよ…」
15分くらい待って、あっさり購入することができた。拍子抜けだ。
小鳩「ふふ…ようやく手に入れたぞ…この血塗られし呪われた魔術道具(ブラッディカースドインプルメント)を…
ふはははは!わーい!」
半分中二病じみているが、喜んでいるようで何よりだ。
しかしタオル、下敷き、うちわ、テレカ、クリアファイルで計5000円とは…なかなかいい値段してるよなぁ。
なんて思いながら後ろを振り返ると、そこには神妙な面持ちで一体のフィギュアを見つめる幸村の姿が。
プレートには『戦国SARABA 真田幸村 1/8スケール』。
小鷹「お前、これ欲しいのか?」
幸村「か、過度のしよくはもののふにとってあるまじきもの…真の男とは」
フィギュアをガン見しながら言われても説得力が無い。
小鷹「幸村…我慢はよくないぞ」
幸村「…うぅ///」
頬を赤らめながらもじもじする幸村。くっ…かわいい…だがコイツは男だっ…男なんだ…。
幸村「わかりました。…では目的を達成次第、わたくしは腹を切って果てるしょぞん」
小鷹「果てなくていいから!大騒動になるから!」
幸村「介錯人は…」
小鷹「頼むから話を聞いてくれ!」
面倒くさいことになりそうだったので俺は幸村の手を取り、そのブースに並んだ。
そして。
幸村「あにき、このご恩は一生忘れません」
普段から色々と世話になっている(主にパシリ方面)ことも含めて、俺は真田幸村フィギュアを買ってあげた。
最初幸村は納得しなかったが、鎌倉時代の御家人の御恩と奉公の話を持ち出して説得した。
…なんか無理やりな気もするけど。
買ったフィギュアを眺める幸村の表情はとても純真で、好奇心に満ちた子供のような目をしていた。
名前になってるだけあって思い入れがあるんだなぁと思った。
一方星奈は。
星奈「あ~づ~い~…」
星奈「つーか何この長い行列…なんで神であるあたしが愚民と一緒に炎天下で並ばないといけないのよぉ」
携帯を取り出す。
プルルルル
星奈「…つながらないわね。もう一回」
プルルルル
小鷹『もしもし』
星奈「も、もしゅもしゅ!?ワ、ワタクシ柏崎星奈ですけど!…ちょっと頼みがあるの」
小鷹『…なんだ』
星奈「ジュース買ってきて」
小鷹『あのな、俺はお前の使いっ走りじゃねーぞ』
星奈「ご褒美に踏んであげるから」
小鷹『いるかそんなもん!』
星奈「もしくは小鳩ちゃんを柏崎の養子にしてあげるから」
小鷹『お前の個人的願望だろそれ!あーもー…ちょっと待っとけ』
というわけで自販機で買った全く冷えてない聖地のオレンジジュースとかいうドリンクを手に星奈のもとへ。
小鳩と幸村は日陰で待機してもらっている。
小鷹「えーっと星奈は…あれか」
待機列のちょうど真ん中あたり、地味な服の男ばっかりの中でやたら浮いてるのですぐわかった。
星奈「ありがとっ!小鷹」
屈託の無い笑みに困惑する。こいつ笑ってれば普通にかわいいのにな…。
星奈「…まっず!なにこれ」ウエー
…実に残念だ。
小鷹「にしてもすげーなこれ。スロープの下まで続いてるし」
星奈「なんか加奈子の抱き枕以外にもここでしか手に入らない限定グッズがたくさんあるみたい。
限定、限定っていったらすぐに飛びつく…つくづく愚かしいわね」
お前もその限定抱き枕に飛びついてるんじゃないのかというツッコミはあえてしない。
小鷹「じゃ俺戻るから」
星奈「え…待ってよ!」
小鷹「ん?」
星奈「…あつい」
知らんがな…。
小鷹「言っとくがずっとうちわで扇ぐ役とか御免だからな」
星奈「むぅー。小鷹の癖に生意気」
小鷹「扇ぐなら自分でやってくれ。そもそもこんな直射日光地獄で効果あるのか微妙だけどな」
さっきもらった新作アニメの宣伝らしきものがのっているうちわを渡す。
小鷹「じゃな」
星奈「ふん…いじわる」パタパタ
小鳩「ククク…よく戻ってきた我が眷属よ…」
幸村「おつかれさまです」
二人と合流し、今度はサークルが集まるエリアへ移動する。
事前に少し調べた情報だが、この1日目はいわゆる一般的な同人誌が多いらしい。
逆に3日目は…まぁ説明するまでもない。
小鳩「ククク…これはなかなか公式設定にきちんと準拠しているではないか…」
小鳩「ヘルブレイズバスターのモードが間違っている…冒涜だ…!」
鉄の死霊術師(通称くろねく)の同人誌に片っ端から目を通していき、批評する小鳩。
こいつくろねくに関してはガチもんのマニアだからなぁ…。
あまりにもズバズバ直球で感想をいうのでサークルの人も困った顔をしている。
小鳩「だから聖騎士キャロルはこんなセリフいわへんってゆってるやろー!!」ウガー
しまいには素が出てしまうほどキレていた。
すみませんくろねくサークルの皆さん…こいつガチオタなだけなんです。悪気はないんです…。
小鳩が気に入った数冊(全体数から見てかなり少ない)を購入し、フロアを出ようとしたとき。
小鳩「あ、あんちゃん!うち、あれが欲しい!!」
指差した先には、くろねくの主人公ゲルニカ(だったと思う)が勇ましく戦うイラストのでかいタペストリーがあった。
小鷹「い、いちまんえん…」
高っ!有名なサークルが描いたやつなのかわからないけど…これは流石に。
小鳩「うゔ~」
涙目で懇願する小鳩。
…しょうがない、しばらくは食費を削るしかないな。
その頃、星奈は。
星奈(もうちょっと、もうちょっとで加奈子が…)
長い行列で延々と待たされ、ようやく自分にまわってきたそのとき。
スタッフ「すみません!加奈子抱き枕完売でーす!!」
星奈「………………………………へ?」
完売でーす…
完売でーす………
完売でーす……………
あ、ありのまま今起こった事を話すわ!
『ずっと並んで待っていたら、目の前でちょうど一番欲しいものが売り切れた』
な、何を言ってるのかわからねーと思うがあたしも何が起こったのかわからなかった…。
星奈「ってふざけんじゃないわよぉおおおお!!」ドガア
スタッフ「ちょ、ちょっとお客さん落ち着いて!」
星奈「こっちは一時間以上もずーっとクッソ暑い中待ってたのよ!それなのに、なんで!どうして?(´;ω;`)」
スタッフ「も、申し訳ありません!ですが」
星奈「うわーーーーーーーん夜空のアホバカうんこ阿婆擦れビッチ野郎ーーーー!!!!」ダダダダダ
スタッフ「あ、行っちゃった…一応明日とあさっての分は用意してるんだけどな」
~~~
夜空「…何だか今実に不愉快な八つ当たりをされた気がするが」
マリア「なー夜空ーポテチくれよー」
夜空「わかった。じゃあ今すぐコンビニへ行ってポテチを買って来い。もちろん貴様の自腹で」
マリア「ポテチを買って来たら、ポテチをくれるんだな!?」
夜空「ああ」
マリア「わーい!!」ダダダ
夜空「…やはりアホだなあいつ」
星奈「うわぁぁん…ひっく…ぐすっ…加奈子…あたし…あなたに嫌われちゃったの…?どうして…」
オタA「あ、あのー」
星奈「ふぇ?あんた確かあたしの前に並んでた…うふふ」
オタA「?」
星奈「よくも、よくもあたしの加奈子を奪い取ったわね…!!」ユラリ
オタA「ま、待った!まさかそんなに欲しがっていたなんて…。あのー良かったら一つ売ってあげようか?」
星奈「へ?」
オタA「保存用として買った分だけど、なんか悪いし」
星奈「マ ジ で!!!い、いくら?10万?20万?50万?それとも米ドルのほうがいい!?」
オタA「…いやさっき売ってた値段でいいけど」
星奈「ほ、ほんとに!?キャーあんた最高!今度特別にニーソックスで縛ってあげるわ!!」
オタA(すっごい美少女なのに何なのこの人…)
そんなこんなで抱き枕をゲットした星奈であった。
俺と小鳩と幸村はくろねくタペストリーを買った後、特にあてもなくいろんなサークルをぶらぶら見て回った。
俺は各国のジョークを集めた同人誌を購入した。もちろん俺のお笑いトークをさらに磨くためであることは言うまでもない。
幸村はマニアックな日本史を扱う本を真剣に見入っていた。
いつの間にか時刻はもう午後2時。
星奈に電話する。
プルルルル
小鷹「もしもしー」
星奈『いやっほう!国○最高!!!』
ピッ ツーツー
星奈『ちょ、ちょっといきなり切らないでよバカ!!』
小鷹「なんでそんなテンション高いんだ…」
星奈『加奈子の抱き枕も手に入ったし、アリスちゃんグッズも余裕で買えたわ!
前から欲しかった藤林あかりのベッドシーツも、RIAのプレミアム設定資料集も!!んーもう最高♥』
小鷹「そりゃ良かった。そろそろ合流しようぜ、買うものは買っただろ」
星奈『りょーかい♪』
しばらくすると、たくさんの紙袋を持って胸をぶるんぶるん揺らしながら金髪少女が走ってきた。
ものすごくご機嫌なようだ。相変わらず喜怒哀楽の激しいやつだな…。
星奈「コミケって最高ね!来て良かったわーほんと」
小鷹「…さいですか。じゃ帰るか」
用も済んだことだし、閉会の時間までいる理由もない。
星奈「は?帰る?あんた大事なこと忘れてない?」
そう言って俺が持たされていたカバンから星奈が引っぱり出したモノとは…あの白スクだった。
星奈「コスプレよコスプレ!もちろん小鳩ちゃんの!」
小鷹「あー…」
こめかみを押さえる俺。正直疲れたからもう帰りたいんだけどなー…。
星奈「さ、小鳩ちゃん!あっちでぬぎぬぎしましょうねー」
一般的にかなり変態に思われる発言をしながら、小鳩に迫る星奈。
小鳩「や!」
星奈「そんなこと言わずに~おきがえしよっ♪」
小鳩「いやったらや!!」
露骨に嫌な表情で首を横に振る小鳩。
…とそのとき。
レイヤー「あら、あなたたち可愛いわね~もしかして姉妹?」
くの一の格好をした女の人(失礼ながら、結構歳いってそう)が話しかけてきた。
小鷹「いや、こいつらは別に」
星奈「やだ、し、姉妹だなんて//」
小鳩「こんなんが姉ちゃんなわけがなか!」
ま、俺だけプリン頭且つ日本人顔でこの二人は羨ましいほどの綺麗な金髪碧眼美少女だからなー…
そう見られるのも仕方ない。悲しいが。
レイヤー「よかったらコスプレしてみない?二人ともぜーったい似合うわよ」
星奈「え?あたしも?」
小鳩「うー…」
小鷹「せっかく誘ってくれてるんだし、やってみたらどうだ?」
星奈と小鳩が不毛なやりとりを続けるよりはマシだろう。
星奈「しょ、しょうがないわねまったく!今のあたしは気分がいいから
特別にこの神が創造したパーフェクトな造形美を披露してあげるわ!」
小鳩「あんちゃんがそーゆうなら…」
レイヤー「あと、そこのメイドの子も知り合い?あなたもどう?」
幸村「わたくしは…」
小鷹「こういう場だし、あんまり固い事言ってもしょうがないと思うぞー」
幸村「あ、あにき…//」
ぶっちゃけると、幸村のメイド服以外の姿は興味あったりする。
いや、ま、男なんだけども。
そんなわけで更衣室へ向かう3人を見送り(幸村が女子更衣室で大丈夫なのかはさておき)、
しばらくボケーッと佇むこと数十分。それぞれの格好で戻ってきた。
まずは星奈。スカートが短く、胸元もあいている露出度の高い魔女のような黒い衣装。
何のキャラかさっぱりわからんが、抜群のスタイルのよさ、白い肌と黒いコスチュームという対比も相まって非常に似合っている。
星奈「オーッホッホッホ!下賎な人間共め、このわたくしに跪きなさい!!」
小鷹「…」
星奈「…///」カアア
オタB「すげー!」
オタC「グレイシアだ!ほ、本物だ!」
小鷹「…お前、ほんとそーいう悪役似合うな」
星奈「バ、バカ!悪役じゃないっての!『ブラスタ』のグレイシアは、そりゃ最初は敵っぽい立ち位置だけど!
後半になったら四天王の一人であるファナトゥスの洗脳がとけて(以下略)」
ブラスタって前に星奈がアレな朗読をさせられたゲームか。あのゲームまだ好きなんだな…。
星奈「オホホ、愚民共よ、もっとわたくしを崇めなさい!称えなさい!!」
なんだかんだでノリノリな星奈。こっちとしては肌面積が多いせいで直視しづらいんだよな…特に胸とか、胸。あと太もも。
そして小鳩はゴスロリ。見慣れたコスプレ…と一瞬思ったがいつものアレとはデザインが違う。
胸のところとヘッドドレスに薔薇。何か十字架も左右に描かれている。
もひとつおまけに黒い羽が背中についていた。
…不覚にもちょっとかっこいいかも知れないと思ってしまった。
小鳩「うう~…十字架はこの偉大なる闇の王が憎悪するシンボルだというのに…」
ブツブツ言いながらもまんざらではない様子。こいつゴスロリ好きだしなぁ。
そして、くの一のお姉さん(年齢不詳)は小鳩に何やら耳打ち。
小鳩は恥ずかしそうに俯きながら、やがて顔を上げると…ほとんど潤んだ目で。
小鳩「にゅ、にゅうさんきんとってるぅ?」
乳酸菌?なんだそr
星奈「ぎゃぼー!小鳩ちゃんかわいいいいいいいいいいいい!!!」
デジタルカメラを手に突然横から現れ、色んなアングル・体勢でシャッターボタンを押しまくる漆黒の魔女。
そのボヨンボヨンとダイナミックに揺れる肉は公序良俗的にスレスレなところだと思う。
※ただし本人は撮影に夢中
小鳩「うー…///」
星奈「ハァハァ…お姉ちゃん乳酸菌とる!!ヤグルトでもカルプスでもビルクルでもなんでも飲むわああぁぁぁ♥」パシャパシャ
コスプレイヤーがコスプレイヤーを撮りまくるって相当珍しい光景じゃなかろうか…。
周りの人を見ると、普通にドン引きしていた。
そして最後に幸村。
小鷹「…その眼帯は?」
幸村「どくがんりゅうまさむねです。これでまた一歩真のおとこに近づきました」
幸村的に徳川サイドについた武将のコスプレはいいのかとか色々思うことはあるけど、まぁいいやもう。
こうして隣人部(夜空・マリア・理科除く)のコミケ参加活動は華々しく?終了した。
星奈「ってちょっと待ちなさいよ。あんたもするの」
小鷹「は?」
星奈「ほらリーゼントと木刀」
何十年前のセンスかわからないリーゼントのカツラをかぶらされ、木刀を持つ。
星奈「おいゴルァ!って言ってみて」
小鷹「……………………ゴ、ゴルァ!!」
し~ん…
空気が凍り、静まり返るコスプレ広場。
オタD「ひ、ひぃいいい!!」
オタE「誰か助けて!!」
小鳩「……」ガタガタ
星奈「こわっ…」ブルブル
幸村「これぞにっぽんだんじのあるべきすがたです」
小鷹「ちくしょーーー!!」ダッ
ノリでコスプレなんてするもんじゃないと心の底から思った。
帰りの電車の中。行きよりは人が少なく、遠夜駅までの急行はなんとか座ることができた。
平日なので仕事中のサラリーマンやじーさんばーさんがじろじろと紙袋を見てくる。
だが疲れもあって、しばらくするとどうでもよくなった。
横を見ると小鳩と幸村がすやすやと眠っている。幸村まで寝てるとは…珍しいな。
そして星奈は抱き枕のシーツを撫でながら、ニヤニヤしている。
周りの目を少しは気にして欲しい…真面目に。
星奈「いやー楽しかったわね」
小鷹「俺は疲れもだいぶ溜まったけどな…」
星奈「また行きましょうね♪コミケ」
小鷹「ああ」
星奈「ぜったい、絶対だからね!」
あどけない笑みを浮かべる星奈。
…かわいい。
月並みな表現しかなくて申し訳ないが、その笑顔は本当に可愛いと思ってしまった。
これで性格が…普通だったらなぁ。
だったらなぁー…。
そんなことを思いつつ、俺は流れる窓の外の景色に目をやるのだった。
その頃理科は。
某ターミナル駅から少し歩いた通りにある執事喫茶。
店員「えーっと…これを読めばいいんですか?」
理科「お願いしまっす!!」
店員「ハ、ハイメガバズーカしゅごいのおお!!ボクのDTフィールドやぶれちゃうううう!!」
理科「ユ、ユニバアアアアアアアアアアアアアアス!!!」
あいかわらず変態だった。
おわり!

