関連
榛名「榛名だってイチャイチャしたい」【前編】
――――
――執務室
提督「……」カリカリ
提督「榛名、これ今日の開発目標と担当な」
榛名「はい」
提督「それからこれが演習の編成と遠征予定」
榛名「はい」
提督「主力級が観艦式行ってるから、有事に備えて今日は出撃はなし。通達よろしく」
榛名「承知しました」
提督「あ、悪いけどついでにお茶買ってきてくれないか? もう残り少ないからさ」
榛名「お茶……ですね? わかりました。では、行ってきますね」
パタパタ
提督「ふぅ……」
ドア<コンコン
霧島「失礼します」
提督「霧島? どうかしたか」
霧島「本日は提督にお願いがありまして……」
提督「お願い?」
霧島「はい。榛名が秘書官を勤めるようになってしばらく経ちましけど……榛名、よく働いていると思いません?」
提督「そうだな。正直夕張と比べても遜色ない働きぶりだよ」
霧島「そうでしょうとも!」ウンウン
霧島「だったらご褒美……あげてください」
提督「……ご褒美?」
霧島「ええ。そういうのって大事だと思います」
提督「それはそうかもしれないが……ご褒美とか夕張にもあげたことないんだけど」
霧島「……それはいけませんね」
霧島「日頃の感謝を表すのって大切ですよ。些細なことかもしれませんが、そういう積み重ねをしないことが亀裂を生むんです」
提督「……怖いこと言うな」
霧島「そして、気付かぬうちに亀裂が大きくなり、いずれは」
提督「わー! わかった!」
提督「確かにお前の言うことはもっともだ。いい機会だし、これを気に何かする」
霧島「ぜひそうしてください」ウンウン
提督「お前も何か考えといていいぞ」
霧島「へ?」
提督「言ったろ? いい機会だって」
提督「確かに榛名には特に感謝しているし、夕張は俺にとって特別だ」
提督「でも、俺はお前達みんなに感謝している。なら、お前達みんなにご褒美をあげるのが道理だろう」
霧島「……嬉しいです」
霧島「けど、そういうのほどほどにした方がいいですよ」
霧島「提督が私達を家族のように大切にしてくださっていることは嬉しいです」
霧島「ですが……提督は男性で私達は女性です」
霧島「あまり見境なくみんなに優しくしては……そのうちヤラれますよ?」
提督「……肝に命じるよ」
――酒保
榛名「お茶、お茶……」
榛名(提督が好きなのは……)
榛名「あった」
明石「あら? いらっしゃい榛名さん。珍しいですね」
榛名「明石さん。お疲れ様です」
榛名「少しお使いを頼まれちゃって」
明石「ああ、提督のお茶ですか。他にも何かどうです? いろいろありますよ」
榛名「そうですね……」
榛名(そう広くはない店内。所狭しと様々な物が並んでいる)
榛名(ふと目に入ったのは医薬品コーナーだった)
榛名(風邪薬、栄養剤、漢方薬、胃腸薬、睡眠薬、傷薬……薬って、こんなにいろいろあるんだ)
榛名「……」ジー
榛名(睡眠薬……)
明石「? 榛名さん、調子悪いんですか?」
榛名「あ、いえ……その」
榛名「……」
榛名「……睡眠薬を頂きたいのですが」
明石「なんです? 寝れないんですか?」
榛名「寝れないわけじゃないんですが、眠りが浅いと言うか……疲れが抜けないと言うか」
榛名「今はあまり疲れを残したくないので」
明石「あー。榛名さん秘書官の仕事も始めましたもんね」
明石「生活リズムが変わったので体が驚いているのかも」
明石「それなら、これなんておすすめですよ。ぐっすり眠れると思います。効き目も早いので、寝付けない時も良いですよ」
榛名「ありがとうございます」
明石「良くならないようでしたら、一度ちゃんと診てみましょうね。ずっと薬に頼るのはやっぱり良くないですから」
榛名「……はい。ありがとうございます」
――――
――
榛名「提督? 用があると霧島に聞いたのですが……」
提督「ん……まあ急ぎの用というわけではないのだが、ずるずる後回しにするものでもないからな」
提督「まずはこれ」スッ
榛名「?」
提督「遅くなったが改ニ祝いだ」
榛名「え……よろしいのですか?」
提督「大したものではないが……」
榛名「とんでもありません! 榛名は凄く嬉しいです」
提督「それから、それとは別に……なんだ、欲しい物とかしてほしいことがあれば、できるだけ工面する」
榛名「……急にどうしたんです?」
提督「まあ急にそんなこと言われてもそうなるよな」
榛名「功績を上げたりしたわけでもないですし……こんな、優しくしていただく理由がありません」
提督「そんなに深く考えなくていい。改二祝いは改二になった奴全員に渡しているし、もう1つはお礼だ」
榛名「お礼、ですか?」
提督「ああ。榛名が秘書官を兼任するようになって、俺も夕張も以前より随分余裕ができた。そのお礼だ」
榛名「しかし、秘書官の仕事は榛名から言い出したことです」
榛名「夕張さんだって頑張っていますし、榛名だけ何かをいただくわけには……」
提督「ん……まあ榛名ならそう言うと思ったよ。もちろん観艦式から帰ったら夕張にも何かするつもりだ」
提督「だから、気にせず言ってみろ」
榛名「そうですか……」
榛名「」ハッ
榛名「あれ、今なんでもするって……」
提督「言ってないね」
榛名「……ですよね」シュン
榛名「……」
榛名「それなら、あの……提督の机で業務をさせていただきたいのですが……」
提督「え? そんなことでいいのか? 確かに秘書官の机よりも俺の机の方が多少立派かもしれないが……そんなのご褒美とかじゃなく、いつでも代わってやるよ?」ヨイショ
榛名「あ、待ってください! 違うんです」
提督「?」
榛名「そうではなくて、その……提督の隣で……」
提督「……え?」
榛名「……」ニコニコ
提督「……」カリ,カリ
提督(どうしてこうなった)
提督(榛名は今俺の机で執務を行なっている)
提督(そして、俺も俺の机で執務を行なっている)
提督(つまるところ、寄り添うように座って執務を行なっている)
榛名「……ふふっ」カリカリ
提督(……近い)
提督(少し動いただけ、ペンを走らせるだけでも互いの腕が、肩が触れる)
提督(その度に彼女は嬉しそうに頬を緩め、ふわりと漂う彼女の甘い香りが鼻腔をくすぐった)
榛名「……」サラッ
提督(髪をかき上げる仕草に胸が高鳴る)
提督(かき上げたことで覗く首筋がいやに扇情的だ)
提督「……ん?」
提督(肩に紐が見える)
提督(……サラシじゃない、だと)
提督(サラシはサラシでクるものがあったが、榛名がブラをしていると思うと……正直ドキドキする)
提督(いったいどんな柄だろうか。形状は。良くない妄想がどんどん膨らんでいく)
提督「」モンモン
提督「」ハッ
提督(いや、こういう考えは良くない。俺には夕張がいるわけだし、他の人に目移りするなど……)チラッ
榛名「……」
提督(しかし榛名は本当に美人だな)
提督(どちらかと言えば可愛い系の夕張と違い、美しいという言葉がよく似合う)
提督(艶やかな黒髪は毛先に向かって流れるように伸び、彼女の動きに伴ってさらさらと舞う様には嘆息せずにはいられない)
提督(綺麗な頬のラインにきめ細かい白皙の肌。音を立てそうなほど長いまつげに縁取られた瞳は橙色に煌き、まるで宝石のようだ)
提督(その落ち着いた柔らかな物腰は、ともすれば姉である金剛よりも大人びた雰囲気をまとわせ、古き良き日本の女性というものを強くイメージさせる)
提督(大和撫子、そんな言葉がぴったりと当てはまる彼女は結婚すればさぞ良い妻となるのだろう)
榛名「……あの、提督」
榛名「そんなに見つめられると流石に恥ずかしいのですが……」
提督「す、すまない。もう見ないから」
提督(いけない。夕張一筋と言っているのにこんなんじゃ偉そうなことは言えない。気をしっかり持たなければ)
榛名「……」ミテホシクナイワケジャナイノニ
榛名「……」
榛名「あの、提督。喉乾きませんか? 榛名、お茶をお持ちします」
提督「そ、そうだな。お願いする」
榛名「はい。すぐにお持ちしますね」
――――
――
榛名「……」
榛名(榛名の目の前には用意したお茶と……明石さんのところで買った艦娘用の睡眠薬がある)
榛名(艦娘と言っても、心まで一息に強靭になるわけではない。特に新兵のころは、戦闘の恐怖に眠れない日々が続く娘も多い)
榛名(これはそんな彼女たちのための睡眠薬だ)
榛名(基本的な成分は普通の睡眠薬と変わらない。ただ、"少し"強く効くようになっている)
榛名「……」
榛名(足柄さんたちはこんな意味で言ったわけじゃない。彼女たちの応援を榛名が曲解しているだけだ)
榛名(これのどこが積極的なのか、ガンガンいくって一体どこに向かっていっているのか)
榛名(そう自分に問いかけながらも、はぁ、はぁ、と荒い呼吸が止まらない)
榛名(心臓は早鐘のように鳴り、薬を握った手の平はじっとりと汗ばんで気持ち悪い)
榛名「」ゴクッ
榛名(この薬を入れれば、提督はちょっとやそっとじゃ目覚めない)
榛名(その間なら榛名は提督に何だってできる)
榛名(なんだって、できるのだ)
榛名「榛名は臆病で、卑怯で……悪い女です」
榛名「お待たせしました」
提督「ああ、ありがとう。いただくよ」ゴクッ
榛名「……」ジッ
提督「……」カリカリ
提督「」ゴクゴク
榛名「……」カリ,カリ
提督「……」カリカリ
――――
――
提督「」ウツラウツラ
榛名「……」ドキドキ
提督「」スー
榛名「……」カリカリ
提督「」スー
榛名「……提督?」チラッ
提督「」スー
榛名「提督」ツンツン
提督「」スー
榛名「……」ゴクッ
榛名「ん……はぁ」ドキドキ
榛名「提督……お休み、ですよね?」
提督「」スー
榛名「……提督」サワ
榛名「……」ナデナデ
提督「ん……」
榛名「」ビクッ
提督「」スー
榛名「はぁ、はぁ……」
榛名(提督は間違いなく眠っている。薬は問題なく効いているようだ)
榛名(さわさわと頭を撫でると、少し固い短い髪の毛が指の間をすり抜けながら榛名の手をくすぐった)
榛名「……」ナデ
提督「」スー
榛名「……好き」
榛名(椅子の上で眠る提督に覆いかぶさるように、榛名は彼の膝に跨った)
榛名(無防備なその姿に良くない感情がふつふつと湧き上がってくる)
榛名「提督、好きです」
榛名「……好き、です」
榛名(その言葉を口にする度に、邪な欲望が大きくなり、溢れだした感情が榛名の呼吸を荒くさせた)
榛名「……はぁ」
榛名(両手で提督の頬を掴み、力なく垂れた顔をそっと持ち上げる)
榛名「ごめんなさい提督……榛名はもう、我慢できません」
榛名(小さな寝息と、まるで榛名を誘うようにほんの少し開いた唇)
榛名「はぁ……提督、好き」
榛名「好き……好きです」
ちゅっ
榛名(瞬間、電流が走ったようだった)
榛名(唇から伝わるゾクゾクとした痺れるような快感)
榛名「え……ふぁ」
ちゅっ
榛名「んむ……」
榛名(何度唇を重ねても、もっと、もっと……って唇を離すことができない)
榛名「ん……ぷは、ちゅ」
榛名(頭がくらくらする)
榛名「キス……気持ちいい」
榛名(唇を重ねながら半開きになった唇をチロチロと舐める)
榛名(まるでマーキングをするように、たっぷりと唾液を塗りつけ、提督を汚していく)
榛名「はぁ。ちゅ、れろ……」
榛名(唇の間に舌を滑り込ませると、つるつるの歯とその奥の提督の舌に榛名の舌先があたった)
榛名(絡ませたい、と思った)
榛名(唇を押し付けるようにして舌を奥へと伸ばす)
榛名「ん……ふ……」
榛名(唇同士が擦れる感触が心地いい)
榛名(肌に当たる彼の鼻息が擽ったい)
榛名(無抵抗な提督の舌を捕まえてつつき、絡ませ、じっくりと味わう)
提督「んぐ……」
榛名(提督が小さく呻くのがわかったが、止まらない)
榛名(絡めた舌が、擦れる唇が、体から伝わる体温が……)
榛名(全てが気持ちいい)
榛名(今まで味わったことのない官能に、快楽に、ずぶずぶとはまってしまう)
榛名「ぷは……」
榛名(いけない。これ以上は本当におかしくなる)
榛名(……我慢、できなくなる)
提督「ん……」スー
榛名(下着……濡れてる)
榛名「榛名……変態だ」
榛名(……着替えてこなくちゃ)
――――
――
提督「ん……あれ、また寝てしまってたのか」
榛名「ええ。いつの間にか」
提督「おかしいな……途中までそんな眠気は感じてはいなかったはずなんだが」
榛名「きっと気付かないうちに疲れが溜まっていたんですよ」
提督「そうだろうか……最近は休憩の時に仮眠をとったりもしてるのに」
榛名「……本日はお早めにお休みになったらいかがでしょう?」
榛名「出撃もありませんし、急ぎのものだけ済ませてしまえば大丈夫だと思います」
提督「……ん。そうするか」
榛名「提督は十分過ぎるくらい働いてます。ちゃんとご自愛くださいね?」
提督「ああ。ありがとう、榛名」
榛名「……」
榛名(よくもまあすらすらと嘘が出てくるものだ)
榛名(そんな自分に嫌悪感もあるが……それと引換に心が満たされたのも事実)
榛名「……」スッ
榛名(唇にそっと手を触れる)
榛名(さっきまで、本当にキス……してたんだ)
榛名「……」ドキドキ
榛名(残ったのは確かに感じた快楽の余韻と提督と触れ合えた多幸感……それらに比べれば罪悪感なんて、ほんの少ししかなかった)
榛名「……気持ち良かった」ボソッ
榛名(この睡眠薬が想像以上に効くことがわかった)
榛名(提督も怪訝に思っているから頻繁には使えないだろうけど……)
榛名(薬は、まだまだ残ってる)
榛名「」ペロ
榛名「……また、したいな」
――――
――
榛名「~♪」フンフン
霧島「……」メガネフキフキ
霧島「榛名、良いことでもあった?」
榛名「うん」エヘヘ
霧島(提督は上手くやってくれたみたいね)
霧島「……」ヨシ
霧島「あら? 榛名、そんな髪留め持ってたっけ?」
榛名「あ、んふふ……提督に頂いたんだ」ニコニコ
霧島「へぇ……」ジー
霧島(シンプルだけど、小さな宝石があしらってある。高級感もあるし、素材も悪くなさそう)
霧島「良かったじゃない」
榛名「うん。榛名、毎日これつける!」
霧島("ご褒美"がしょうもない物だったらまた乗り込んでやろうかとも思ったけど、これなら及第点かな)
ドア<バーン
金剛「榛名、いるー?」
榛名「はい。ここに」
金剛「お弁当箱買ってきました! これで女子力アピールしまショ!」
霧島「どうしてまた急に?」
金剛「男をつかむなら、まず胃袋をつかめ! デース!」
榛名「確かに昔からそう言いますが……以前、榛名は一度料理をご馳走していますよ?」
金剛「ノー! せっかく練習したのに一度きりなんて勿体無いワ!」
金剛「ここで改めて榛名の料理好きをアピール!」
金剛「それを繰り返すうちに提督の胃袋が榛名の手料理を求め始めるはずデース!」
金剛「そうなったらもうこっちのモノネ!」
金剛「毎日弁当を作って正妻アピールも良し!」
金剛「提督の部屋で直接ご馳走するも良し!」
金剛「料理上手をアピールして損はないワ!」
霧島「それはそうですが……ん?」
霧島(金剛お姉さまの手に本が……)
金剛「」つ"胃袋神話"
霧島(……神話)
榛名「はい! 榛名頑張ります!」
金剛「応援してるからね!」
――――
――
榛名「提督! 榛名、今日はお弁当を作ってきました!」
夕張「むむ……」ジー
提督「お、おう」
夕張「むぅ……」ウーン
榛名「夕張さんの分もあるので一緒に食べましょう!」
夕張「あ、はい。ありがとうございます」
提督「じゃ、いただきます」
夕張「ます」
榛名「はい!」
提督「ん……」モグモグ
夕張「ん~、美味しい!」パァァァ
提督「ああ、相変わらず絶品だな」
榛名「良かった」パァァァ
夕張「ってそうじゃない!」ガタッ
提督「」パクパク
榛名「?」モグモグ
夕張「なんか最近榛名さん近くないですか!? 積極性増してませんか!?」
夕張「え、何? はっ」
夕張「もしかして私がいない間に何かありました!? 浮気!?」
榛名「うふふ……」サス
夕張「何でお腹さすってるんですか!?」
榛名「楽しみですね、ぱぱ?」
提督「誰が誰のパパ!?」
夕張「ちょっと提督!?」ガシッ
提督「いやまて夕張! 俺には覚えがない!」
夕張「どういうことなんですかぁ!? 説明してください!」ガクガク
提督「ま、待って、待て夕張!」ガクガク
榛名「ふふっ」クスクス
夕張「むっ」ピタッ
榛名「冗談です」
夕張「……」
提督「だから話を聞けと……」グラグラ
榛名「でも、本当にしたいって……思ってますよ?」
提督「なっ」
夕張「っ」
提督「いや、榛名。俺は」
榛名「あ! 榛名お姉様と約束があるんでした! 失礼しますね!」
タタタッ
提督「ぬぅ……」アレー
夕張「むぅ……」
――――
――
提督「……」カリカリ
榛名「……」カリカリ
提督「……榛名、なんか近くない?」
榛名「気のせいだと思います」
提督「そうだろうか……」
提督(最近、榛名が近い)
提督(デスクワークをする時はもちろん、工廠や演習で現場に向かう時もご飯を食べる時も……彼女が秘書官を務める時は、何をするにも俺にひっついてまわる……)
提督(嫌なわけではないが、正直落ち着かない。夕張に対する後ろめたさもある)
提督「そうかな……榛名の香りを感じるぐらいには近い気がするんだが」
提督(そう思ってやんわり伝えようとすると)
榛名「……榛名臭いでしょうか」
提督「そんなことはない。むしろいい匂いがするぐらいだけど」
榛名「いい匂いだなんて、榛名感激です!」
提督「いや、そういうことじゃなくてね」
榛名「あ、提督、喉が乾きませんか? 榛名、お茶をお持ちしますね!」タタッ
提督(なんやかんやで話が途切れ)
提督(かと言って、直接伝えようとすると)
提督「なあ榛名」ズズッ
榛名「はい! なんでしょう?」トナリニスワル
提督「……近い」
榛名「え……」
提督「その、離れてくれないか」
榛名「……」ウルッ
提督「っ……」
榛名「……」ジワッ
提督(こうやって泣きそうな顔をするのだ)
提督「嫌なわけじゃない。でも、やっぱりちょっと近いというか、いろいろ困るから、その……」
榛名「……意識、していただけてるのですか?」
提督「うぐっ……」
提督「……」ガシガシ
提督「榛名、前にも言ったと思うけど俺は」
スッ
榛名「言わないでください」ピト
提督(拒絶の言葉を吐き出しかけた俺の唇は、彼女の人差し指で塞がれていた)
榛名「わかってます。でも、榛名が提督を好きでいることは榛名の自由……ですよね?」
榛名「榛名は提督のことが好きです。ですから、たくさんアプローチすることにしたんです」
提督「榛名、それは「好き」」
榛名「好きです」ジッ
提督「う……」カァァァ
提督「……」コマッタ
榛名「……こうして想いを募らせることも、いけないことでしょうか」
提督「そんなことはないが……」
榛名「でしたら、もう少しこの気持ちを抱かせてください。すぐに忘れてしまえるほど簡単なものではないんです……」
提督「……」
榛名「もちろん、夕張さんと別れてくれなんて言うつもりもありません」
榛名「ただ、提督の寵愛をほんの少し榛名にも注いで頂ければ……なんて」
提督「それは難しい相談だが……」
榛名(榛名が言葉を遮るからか、提督の優しさか……提督は苦い表情をしつつも榛名を強く拒絶したりはしない。こうして秘書官も続けさせてくれている)
榛名(その提督の優しさにつけこんで榛名はこうしてアプローチを続けている)
榛名(あの秘め事を繰り返すようになって、少し……積極的になれたのかもしれない)
提督「……」
榛名(でも、困ったような表情をする提督を見ると、それが正しいことなのかはわからなかった)
榛名(……結局榛名は自分のことしか考えていないのかもしれない)
――――
――
榛名「提督……ごめんなさい」
榛名("いつものように"眠った提督に唇を重ねながら、小さく謝罪する)
榛名「榛名、提督を困らせてますよね……」
榛名(でも、それでも……と思ってしまう)
榛名(榛名は提督に必要とされたい。もっと触れ合いたい)
榛名「いつまでも榛名をお側において欲しいんです」
榛名(提督は返事をしない。眠っているから当然だが……)
榛名「ん……ぷは」
榛名「……」モンモン
榛名(最近、どうも満たされない)
榛名(こうして提督に触れて、重なりあって、それは榛名が望んでいることで、幸せなことのはずなのに)
榛名(なのに、日に日にもやもやは高まるばかり)
榛名(提督の体温、吐息、その唇……それをどれだけ味わっても満たされない)
榛名「……」
榛名(理由はわかっている)
提督「」スー
榛名(提督が眠っているから、意識がないままだからだ)
榛名「提督……」
榛名(だらりと垂れた提督の腕を掴み、榛名の腰に回す)
榛名(力ないその手は榛名を包み込んではくれない)
榛名「……」ギュッ
榛名(榛名は提督の意志でそれをして欲しいのだ)
提督「」スー
榛名(抱きしめて欲しい)
榛名(愛を囁いて欲しい)
榛名(愛を紡いだその口で、榛名の唇を奪って欲しい)
榛名「……」
榛名(どうしたら良いのだろう)
榛名(どうしたら、提督は振り向いてくれるのだろう)
榛名(……このままアプローチを続ければ、いつか提督は応えてくれるのだろうか)
榛名「……後ろ向きな考えは良くない、ですよね」
榛名「……」ナデ
榛名「榛名だって、イチャイチャしたいですから」
提督「」スー
榛名「……ちゅ」
榛名(最後にもう一度唇を重ねて立ち上がる)
榛名「……」
榛名(提督にタオルケットをかけ、少しだけ乱れてしまった服装を整える)
榛名「仕事、しなくちゃ……」
――――
―― 医務室
提督「……どうだ? 何かわかったか?」
明石「まあ……断定はできませんが」
提督「そうか、良かった。最近意図せず眠ってしまうことが多くて本当に困っていたんだ。原因がわからなければ対策もできないからな」
提督「夕張や榛名のおかげで今のところ実務に影響はないが、今後もそうとは限らないからな」
提督「それで、どうなんだ? もしかして病気か何かか?」
明石「……最初はそう思いました。不眠症があるように、逆に眠りすぎてしまう過眠症なんて病気もありますから」
明石「そこまではいかないにしても、ストレスなどでそれに近い症状が出てるのかと思ったんですが……」
提督「……」
明石「……」ウーン
明石「提督、最近何か薬を服用したりはしていますか? 風邪薬とかアレルギー薬とか……睡眠薬、とか」
提督「いや、飲んでないが……だいたい睡眠薬なんて飲んでたら、眠くなるのは当たり前だ。こんな相談をしに来たりはしない」
明石「ですよね……」
提督「なんだ? 何かあるならはっきり言ってくれ」
明石「……単刀直入に言いますと、何か薬物を使われた可能性があります」
提督「……」
提督「は?」
明石「その――」
ダダダッ
ドア<バーン
提石「「」」ビクッ
夕張「……」
提督「お? え? 何?」
明石「夕張さん……?」
夕張「……」ツカツカ
提督「夕張?」
提督「急にどうした。怒ってるのか?」
夕張「これ、見てください」ガサガサ
提督「……青葉の新聞か?」ドレドレ
明石「……」ノゾキコミ
提督「……え?」
明石「あら……」
夕張「……」
提督「何、この……これ」
明石「ほぅほぅ……榛名さんも大胆ですねぇ」
夕張「……どうするんです?」
提督「どうするって……」
明石「犯人、見つかっちゃいましたね」
提督「……」
――――
ーー 掲示板前
ザワザワ
榛名「……」
榛名(どうして、なんで)
榛名("それ"をする時は他に人がいないことを確認して、執務室に来そうな人の予定も把握して、鍵もしめて……タイミングは見計らっていたはずなのに)
榛名(鎮守府通信【号外】とかかれたそれには、榛名がしたことと眠った提督の唇を奪っている榛名の姿が写っていた)
榛名(最早日課にもなりつつあったあの甘い秘め事は、榛名が望まない形でこんなにもあっさりと露呈することとなった)
ザワザワ
榛名(みんなが榛名を見ている気がする)
榛名(脂汗が浮かび、眼の焦点が合わない)
榛名「ち、違うんです……榛名、榛名は……」
榛名(振り返り、絞り出した声は自分でも驚くほど震えていた)
夕張「……榛名さん」
榛名「」ビクッ
榛名「ゆ、夕張さ」
夕張「提督が呼んでます。一緒に来てくれますね?」
榛名「っ」
榛名「……はい」
――執務室
提督「……」
夕張「……」
榛名「……」
提督「……さて」
榛名「」ビクッ
提督「呼ばれた理由はわかるな?」
榛名「……はい」
夕張「釈明があるなら聞きます」
榛名「……その、ごめんなさい!」
提督「……」
榛名「ごめんなさい。最初はほんの出来心だったんです……」
榛名「提督をもっと近くで見たくて、触れたくて……」
榛名「……最初は、提督がお昼寝をした時に隣に座って抱きついてたんです」
榛名「でも、段々エスカレートしてしまって……提督がもっとぐっすり眠ってくれたなら、いろんなことができるって思ってしまったんです」
榛名「それで……薬を使いました」
提督「……」
榛名「……普通に、気持ち悪いですよね」
榛名「寝ている間に……それも、薬まで使って」ジワ
榛名「ごめんなさい……本当に」ポロポロ
夕張「……」
榛名「ごめんなさい。どうか、嫌わないでください……」
提督「……別に嫌いになってはいない」
提督「むしろ、そういう行動には萌えすら感じるぐらいだが……」
夕張「……」ゲシッ
提督「痛い!」
提督「とは言え……実際に自分が当事者になると、正直気分の良い物ではないな」
榛名「ごめんなさい……」
提督「反省してるならいい。今回のことは、はっきりと拒絶してこなかった俺にも責任があるだろう」
提督「これ以降、こういうことは一切無しだ。俺は榛名の気持ちに応えることはできない。いいな?」
榛名「……はい」
提督「……今回のことに対する榛名の処分だが、他の奴らの手前もある。不問とするわけにはいかない」
提督「次の出撃まで……2週間ぐらいか。それまで榛名を謹慎処分とする」
榛名「はい……はい?」
提督「どうした」
榛名「それだけ……ですか?」
提督「ああ。言っただろう。今回のことは俺にも責があると」
榛名「ですが……」
提督「いい。もう下がりなさい」
榛名「っ」
榛名「……ありがとうございます。失礼します」
夕張「榛名さん」
夕張「提督はこう言ってますけど、私は怒ってます」
夕張「いくらなんでも薬を盛るのはやり過ぎです。謹慎中自分がしたことをよく考えてください」
榛名「はい。ごめんなさい……」
ドア<パタン
提督「……はぁ」
夕張「……」
提督「……青葉、いるんだろ」
青葉「ばれましたか」
提督「今回のこと……記事にしたのはあまりに軽率だったんじゃないのか。俺か夕張に伝えるだけで良かったのに」
青葉「あまりの出来事に興奮してしまって……すみません」
夕張「記事にしてしまったのは今更どうしようもありません」
提督「ああ。だが青葉、お前が記事にしたんだ。事態の収集もしっかりやれ」
提督「間違っても、今後榛名が皆から距離を置かれることがないように」
青葉「わかりました」
青葉「……でも提督、薬盛られて唇奪われたのに、案外ケロッとしてますね」
青葉「榛名さんのこと、嫌いになったりはしないんですか?」
提督「……こんなことで榛名を嫌いになるわけないだろ」
夕張「はいはい。提督は役得ですもんね。榛名さんのキスできて!」
提督「う……悪かったよ。でも、俺だって本意じゃない」
夕張「それは……わかってますけど」
提督「……今回のことは正直驚いたし、気分が良いものではないのも事実だ」
提督「だが、榛名を嫌いになることはない」
夕張「……提督は甘すぎます」
提督「榛名を嫌いにならないのはお前だって一緒だろ?」
夕張「……それは、そうですが」
青葉「ほほぅ……そのお二人の言葉、記事にしちゃったりして」
提張「「駄目だ」です」
青葉「……ですよね」
――執務室の廊下
榛名「……」シャガミコミ
榛名(嫌われた。きっと)
ドア<ハルナサンノコト、キライニナッタリシナインデスカ
榛名「」ビクッ
榛名「ひぐっ」ジワ
榛名(怖い。提督の答えを聞くことが。その言葉を聞くことが)
榛名(でも、榛名はその場から動かず聞き耳を立ててしまっていた)
ドア<ハルナヲキライニナルコトハナイ
榛名「え……」ドキッ
榛名(……予想外の言葉に胸が高鳴った)
榛名「……」ドキドキ
榛名(同時に湧き上がってきたのは強い後悔と、夕張さんへの嫉妬、そして、抑えがたい情欲だった)
榛名(提督の言葉が嬉しかった)
榛名(諦めようとしていたのに……吐き出すことのできない気持ちが今にも溢れだしてしまいそうだ)
榛名(提督はどうしてこんなにも榛名に優しくしてくれるのだろう)
榛名(愛おしい。狂ってしまいそうなほどに)
榛名「……」
榛名(夕張さんはその提督の愛を一身に受けているんだ)
榛名「……ずるい」
榛名(ずるい。ずるい)
榛名(榛名だって提督と重なりたい)
榛名(繋がりたい)
榛名(愛されたいのに……)
足柄<実際のところさー、榛名がその身体を使って誘惑したらコロッといくんじゃない? 意外に>
榛名(前に足柄さん達と飲んだ際、彼女たちが言っていた言葉が頭に反芻する)
陸奥<……コロッとはいかなそうだけど、なし崩し的に関係は持てそうよね>
榛名(思えば榛名は、提督に言葉や態度でアプローチこそすれ、直接的な"誘惑"というものはしていない)
榛名「提督と、関係を……」
榛名(舌の根の乾かぬうちにそんなことをしては、今度こそ榛名は信用を失うかもしれない)
榛名「でも――」
榛名(どうせ叶わない恋なら……)
――廊下
提督「はぁ……」
提督(何だか大変なことになってしまった)
提督(あんなことがあったとわかっても、榛名のことは嫌いにならない。それは嘘偽りない正直な気持ちだ)
提督(だが、気分の良いものではなかったのも事実だし、それ以上に困惑してしまって思考がぐちゃぐちゃだった)
提督(夕張にも申し訳ないことをした。口に出して非難してくることはないが、ずっと難しい顔をしているし、一度ちゃんと話さないと――)
グイッ
提督「ほわぁっ!?」
バタン
提督「は?」
ガチャ
提督「え?」
榛名「……」
提督「は、榛名? 何故ここに、それにこの部屋は……」
提督(榛名に引き入れられた部屋は普段あまり使われる事のない空き部屋だった)
提督(薄暗い部屋の中、今しがたドアの鍵を閉めたであろう榛名がぼんやりと佇んでいる)
提督「……榛名、お前には謹慎を言い渡したはずだ」
榛名「……」スッ
提督(無言で足を踏み出す彼女に思わず後退る)
提督「榛名……?」
提督(部屋が薄暗いせいで彼女の表情がよく見えない。だが、ただならぬ雰囲気の彼女に気圧され、距離を取るように少しずつ後ろに下がっていた)
榛名「……提督、ごめんなさい」グッ
提督「うわっ」トン
提督(一気に距離を詰められたかと思うと、肩を押され壁に追いやられていた)
榛名「……」ギュッ
提督(俺の動きを封じるように手を取り、体を密着させてくる)
提督「……榛名、どういうつもりだ」
榛名「ごめんなさい。でも、榛名……榛名は……」
提督「待て、待て榛名。こういうことは無しだとさっき言ったはずだ」
榛名「ごめんなさい。ごめんなさい。でも、提督が榛名を嫌いにならないなんて言うから。優しくするから」
提督「なっ、聞いてたひぅ!?」
榛名「ちゅ……」
提督(首筋に榛名の唇が触れる)
提督(振り払おうと腕に力を込めるが、動かない)
提督(彼女の手の平は優しく、だが確実に俺の手を絡み取り、拘束具か何かのように動きを封じていた)
榛名「はぁ……提督」
提督(密着したことで彼女の姿が、表情がよく見える)
提督(首筋に吸い付きながら、彼女は蕩けた瞳で俺を見上げていた)
提督(豊かな2つの膨らみを俺の胸に押し付け、下腹部を擦り付けるようにして密着してくる)
提督「っ、は、榛名!?」
榛名「んっ……はぁ……」
提督(優しく擦り寄せられた鼻先が首筋を撫でる)
提督(時折吐き出される甘い声がどうしようもなく官能をくすぐった)
榛名「……榛名は我慢できません。諦めようとしてたのに、どうして、どうして……ああ、提督、ごめんなさい」
提督(彼女はごめんなさい、と繰り返しながら益々体を密着させてくる)
提督(柔らかな唇が頬に軽く重なり、暖かい吐息が耳をくすぐった)
提督「榛名、離れろ」
提督(少し強い口調でそう言うが、彼女は聞く耳を持たず、その命令に抗うように体を重ねてくる)
榛名「んっ、ふ……」
提督(すらりと伸びた彼女の脚が俺の太腿の間に滑りこんだ)
榛名「……あっ、はぁ……ふぁ……」
提督(体をぐいぐいと押し付け、"自分の"を俺の脚に擦り付けくる)
榛名「んくっ……ひ……う、っ……」
提督(耳元で囁かれる蕩けたようなその声音と淫靡な甘い香りが理性を溶かしていくようだった)
提督(熱を帯びた彼女の吐息が耳を包む度に背筋にゾクゾクとした快感が走り、喘ぎ声も相まって俺の頭はもはや冷静とは言えない状態になっていた)
提督「榛名、止め「お願いします」」
提督(俺の言葉に被せるように彼女は言った)
提督(静かだが、有無を言わせぬはっきりとした言葉だった)
提督(動きを止めた彼女は熱い吐息を漏らしながら俺の耳元に唇を寄せる)
榛名「お願いします。一度だけでいいんです。榛名を、抱いてください」
提督(まるで懇願するような、今にも泣きだしてしまいそうな……そんな声だった)
提督「……」
榛名「……駄目ですか。もちろんこのことは誰にも言いません。本当に一度だけでいいんです」
提督「……駄目だ」
榛名「どうしても、ですか?」
榛名「提督だって男性です。こういうこと、嫌いじゃないですよね……?」
提督(彼女は妖しく微笑みながら、身体をゆっくりと擦りつけてくる)
榛名「っ…んっ……あっ」
提督(俺の胸には2つの豊満な胸が淫らに潰れた形で押し付けられ、太腿にはじんわりと熱をもった彼女の秘所が当たっていた)
榛名「……あぁ…てっ……提督っ」
提督(彼女が身体を擦り付ける度にそれらは俺に強く押し付けられ、熱を帯びた吐息が耳をくすぐった)
榛名「……ふふ」チラッ
榛名「大きくなってますね……榛名で興奮してるんだ……嬉しい」スッ
提督(悔しいが、事実だった)
提督(身体は正直だ、なんてその分野ではもはや使い古された言葉だが、自分が身を持ってそれを体験することになるとは思わなかった)
提督(だが、榛名みたいな美人に密着され、妖艶な喘ぎ声を耳元で囁かれて反応しない男なんて果たしているのだろうか)
提督「っ、違う。これは……」
提督(いくら夕張が好きだと言っても、正直に反応してしまう自分に腹が立つ)
榛名「提督も苦しい、ですよね? 手で触ってあげます。ゆっくり……ですけど」
提督(彼女のしなやかな指が、すっかり張ってしまったズボンをなぞる)
提督(ゾクゾクとした快感ともどかしさを感じながら、目の前の彼女を欲望のままに組み敷きたいという欲求が頭をもたげるのがわかった)
提督「ぐっ……」
提督(頭を振ってその気持ちを押し出す。俺には夕張がいるのだから)
提督「榛名、止めてくれ」
提督(ゆっくりそう言うが、その声は自分でも驚くほど弱々しかった)
榛名「どうしてそんなこと言うんですか? 直接……触ってほしくないんですか……?」
提督「駄目だ。止めろ」
提督(言いながら開いた手を動かし、何とか彼女を突き放そうともがくが、彼女はこれ以上ないぐらいに身体を密着させ益々俺の自由を奪っていく)
榛名「駄目ですよ、提督。だって、提督のここ……こんなに苦しそうです」
提督(優しく股間を撫でていた白い指がおもむろに俺のそれを掴んだ)
提督「っ」ビクッ
榛名「本当は提督だって、したいんですよね? ね……? そう言ってください。お願いです」
提督(彼女の唇が首筋を這う。彼女の指は握る強さを増していき、溜まった血液がドク、ドクと脈打っていた)
榛名「はぁ……榛名と、して頂けます……よね?」
提督「だ、駄目だ。榛名、それはできない……一度だってやってしまったら――」
提督(吐き出しそうになった言葉を呑み込む)
提督(俺は今何を言おうとした。"こんなこと"を考えること自体が、夕張への裏切りに他ならないのに)
榛名「あ……」
提督(が、彼女には出していないその言葉が聞こえてしまったようだった)
提督(彼女の口角が小さく上がり、腕を掴む手に力が入る)
グイッ
提督(腕を引かれたかと思うと、肩を押され尻もちをついてしまう。そのまま間髪入れず彼女が覆いかぶさってきた)
提督(肩を押さえつけられ、彼女がのしかかって来る)
榛名「駄目ってどういうことですか? なんですか? ちゃんと説明してください」
提督「それは……」
榛名「どういうことですか?」
榛名「榛名と一度でもやってしまったら、どうなっちゃうって思ったんですか?」
提督「は、榛名……」
榛名「それは、榛名で欲情していただけたってことですか?」
榛名「本当は榛名と……したい、ってことですか」
提督(はだけた服、上気した頬、じっとりと湿った秘所……)
提督(そのどれもが扇情的で、手の届く場所にあった)
提督(今こうしている間も彼女からは確かな好意を感じるし、それ故に彼女が囁き、肌を重ねて俺を誘惑する様はクるものがあった)
提督「……」ゴクッ
榛名「……ああ、良かった」
榛名「榛名、本当は不安だったんです」
榛名「提督にとって榛名は魅力的じゃないんじゃないかって。提督は榛名を求めてくれないんじゃないかって」
榛名「でも、提督にとって榛名はちゃんと魅力的だったことですよね?」
提督「……確かに榛名は魅力的だ。だが、それと榛名と"したい"かは別の話だ」
榛名「……嘘です」
提督(彼女は言いながらゆっくりと腰をくねらせた)
提督「っ」ビクッ
榛名「だって、提督のここ……こんなに固くて大きくなってます」
提督(下着越しでもわかるくらい濡れている彼女の"そこ"が容赦無く俺を刺激してくる)
提督(乱れたスカートの隙間から彼女の下着が見え隠れし、彼女が動く度に豊満な胸が揺れた)
榛名「ん……あっ、わかりますか? 榛名の、ここも……もうこんなに濡れて……」
榛名「ごめんなさい、はしたないですよね……でも、榛名は提督のこと思うだけでいつも……」
榛名「……いいですよね? 入れちゃっても」
提督「っ……だ、駄目だ」
榛名「提督、我慢しなくていいんです。榛名ももう、我慢したくありません」
提督「榛名、止めてくれ」
榛名「提督、キス……しますね」
提督「榛名!」
榛名「」ビクッ
榛名「てい、とく……?」
提督「駄目だ榛名。止めてくれ」
提督「俺は、夕張を裏切りたくない」
榛名「あ……」
榛名(提督の悲しげな表情に、頭に登っていた血が一気に引いていく)
榛名「そんな……どうして、そんな顔をするのですか」
提督「……」
榛名「提、督……」
榛名(ああ、榛名は愚かだった。少し考えればわかるはずだった)
榛名(いくら提督が優しくたって、自分を無理やり犯そうとしている相手に微笑んでくれるわけがない)
提督「……」
榛名(確かに榛名は提督と繋がりたかった)
榛名(そのためなら強引に押し倒してしまっても、と思った。強姦のような形になってしまっても構わないと)
榛名(でも、でも……)
榛名「あ、榛名……なんてことを……」
榛名(榛名は提督にそんな顔をして欲しかったわけじゃない)
提督「榛名……」
榛名(提督に……そんな目で榛名を見て欲しかったわけじゃない)
榛名「あ、ああ……榛名……榛名は……っ、ごめんなさい!」
榛名(どうしてもっと早く気付けなかったのだろう……)
榛名「ごめんなさい、ごめんなさい」
榛名(榛名は提督に甘え過ぎていた)
榛名(提督なら受け入れてくれるんじゃないかってそう思っていた)
提督「……」
榛名(目先の欲望を満たすことで頭がいっぱいで……自分に都合の良い未来、行動を正当化するための言い訳しか考えていなかった)
榛名「ごめんなさい」
榛名(結局榛名は、自分のことしか考えていなかったのだ)
榛名「もうしません。もう、しないから……だから。嫌いにならないでください……お願い、します……」
榛名(こうして今も自分のことを考えてる。本来なら、提督に嫌われる榛名のことではなく、榛名に襲われた提督を心配すべきなのに)
榛名「ごめん、なさい……」
榛名(榛名は本当に……どうしようもなく卑屈で、卑怯で、下衆な女だ)
榛名(こんな榛名が提督に愛されようなんて、それこそおこがましいことだったのかもしれない)
提督「……」スッ
榛名「てい、とく……?」
榛名(気付いたら、提督に抱き寄せられていた)
提督「ごめん。応えてやれなくて」
提督「ありがとう。俺をこんなにも好きになってくれて」
榛名「提督……」
榛名「ごめんなさい。榛名、もう提督にご迷惑はかけません」
榛名「でも、今だけ……もう少しだけ、こうさせてください」
――――
―― 廊下
提督(あの後、榛名は目一杯泣いた)
提督(その間、彼女は何度も謝り、最後にお礼を言って彼女の自室へと帰っていった)
提督(ごめんなさい、と繰り返しながら泣きじゃくる彼女を前に、せめて胸を貸してやる以外にどうすれば良かったのか……そうしたことが正解だったのかはわからない)
提督「はぁ……」
提督(半ば強姦にも近い形で彼女に襲われたにも関わらず、彼女に対して嫌悪感は抱かなかった)
提督(むしろ、戸惑いの方が大きい)
提督(まさか榛名が、あんなことをするとは思わなかった)
提督(その辺の有名人よりよっぽど見目麗しく、礼儀正しく、事務も戦闘もそれなり以上にこなす能力もあり、人徳も人望もある)
提督(そんな彼女が、それをした)
提督(それだけ……追い込んでしまっていたということなのだろうか)
提督「謹慎中に多少心の整理ができてくれていればいいのだが……」
提督(……夕張には何も伝えていない)
提督(伝えられなかった。榛名に押し倒されたなんて、どうして言うことができるだろうか)
提督(我ながら女々しくて嫌になるが、夕張に嫌われるかもしれないと思うとどうしても口にできなかった)
提督「……榛名も、こんな気持ちだったのだろうか」
提督「……」
提督(彼女の謹慎は昨日で終わった。幸か不幸か今日の秘書官は夕張だ)
提督(だが、彼女は今雑務に追われ、執務室に来るのは遅くなる。もちろん、その雑務を命じたのは俺だが……)
提督「榛名に会ったら、どう声をかければいいんだ……」
提督(思わず口に出してしまう。真面目な彼女のことだ。謹慎明けの報告、もちろんこの前のことの謝罪も兼ねて彼女は執務室を訪れるだろう)
提督(榛名のことを嫌いになったわけじゃない。でも、あんなことがあった手前、どういう顔をして彼女に会えばいいのかわからない)
提督(自然と執務室へ向かう足も重くなってしまう)
提督「……」ピクッ
提督(予想通り彼女は待っていた。執務室の前で)
榛名「おはようございます。提督」
提督「……ああ、おはよう」
榛名「あの、先日は本当にご迷惑を……」
提督「その話はいい。お互い、辛くなるだけだろう」
榛名「ですが……」
提督「無かったことにはできないが、俺はもう許した。全部今まで通り……とはいかないだろうが、俺は榛名を信頼している」
榛名「……ありがとうございます」
提督「……とりあえず、入ろうか」
提督「秘書官を止める?」
榛名「はい」
提督「……そうか。榛名がそれを望むなら構わない。だが、もしこの前のことを気にしてるなら――」
榛名「提督」
榛名「提督のその優しさは美徳かもしれませんが、あまり気を持たせるようなことはもう仰らないでください」
提督「む……」
榛名「いいんです。元々、秘書官をやりたかったのは提督の気を引きたかったからで……それも無理だってわかりましたから」
提督「……」
榛名「そろそろ、踏ん切りをつけないといけないと思ったんです」
提督「そうか……」
榛名「提督には……もちろん夕張さんにも、本当にご迷惑をおかけしました」
榛名「でも、もうやめます。これからはその分今まで以上に働きますので。雑務も戦闘も……何なりとお申し付けください」
提督「……わかった。では早速だが、今日は出撃予定がある。いけるか?」
榛名「はい。榛名は大丈夫です。お任せ下さい」
提督「よし。期待している。ただ、無理だけはしないようにな」
榛名「ありがとうございます! 提督の艦娘として……今まで以上に提督のお役に立てるよう頑張ります!」
――――
――
夕張「榛名さん」
榛名「……夕張さん? 何か御用でしょうか」
夕張「秘書官、止めるんですか」
榛名「はい」
夕張「……提督と何かありましたか」
榛名「……そう、ですね」
榛名「……」
榛名「提督を……強姦しようとしました」
夕張「ご……はい?」
榛名「軽蔑してくれていいです」
夕張「……」
夕張「……本当、ですか」
榛名「はい」
夕張「それを馬鹿正直に言うなんて……いったいどういうつもりですか」
榛名「……このまま隠し続けても良いことにはならないと思ったので」
榛名「もっとも、こうして夕張さんに尋ねられなければ言うつもりはありませんでしたが」
夕張「……」
榛名「言ってしまえば、少しは楽になると思ったんですが……そう上手くはいきませんね」
榛名「どうして榛名はあんなことをしてしまったのでしょう」
夕張「……そんなこと、私に聞くなんて喧嘩売ってます?」
榛名「そんなことは……でも、ちょっと意地悪したいなって思ったのは事実です」
夕張「なっ」
榛名「榛名は夕張さんが羨ましいんです」
榛名「夕張さんが提督と付き合いが長いことも、夕張さんが旗艦であるために本当に頑張っていることもわかってます」
榛名「そんな夕張さんを心から尊敬していますし、好意的な気持ちを持ってます」
榛名「……でもそれ以上に、提督の寵愛を一身に受ける夕張さんが本当に妬ましいです」
夕張「っ……」
榛名「ごめんなさい。榛名は、榛名が思ってたより綺麗じゃなかったみたいです。今回のことで、それが身にしみてわかりました」
榛名「提督に薬を盛ったり、挙句の果てには押し倒して誘惑して交わろうともしました」
榛名「……でも、勘違いしないでください」
榛名「提督は何もしていません。榛名が無理矢理しようとしただけで、提督はずっと榛名の誘惑を拒んでました」
夕張「……」
榛名「どれもそれもきっと夕張さんのためです」
榛名「榛名はそれが……凄く羨ましい」
夕張「榛名さん……」
榛名「それに気付いてしまった時に榛名はわかったんです」
榛名「……もう榛名には勝ち目がないって」
夕張「……」
夕張「提督のこと、諦めるってことですか……?」
榛名「……はい」
榛名「今まで本当にご迷惑をおかけしました」
夕張「……」
榛名「……榛名たちももう、今まで通りにはできないかもしれませんね」
夕張「そう……かもしれませんね」
――――
――
夕張「提督、第一艦隊帰投しました」
提督「おう、お疲れ様」
夕張「こちら、報告書です」
提督「ありがとう」ペラ
提督「……最近の榛名は以前にも増して本当に凄い働きぶりだな」
夕張「ええ。まさに鬼神の如し、です。正直私の練度もいつ追い抜かれるか……って感じです」
提督「これなら、近々行われる大規模作戦でも期待できそうだな」
夕張「そうですね。赤城さんや金剛さんも調子いいですし……大和さんなんて次の出撃はいつだーってそわそわしてますよ?」
提督「……まあ大和は例によって、決戦兵器だから頻繁には出せないとは思うが」
夕張「でも、今回のは今までで最大規模って話ですし」
提督「ああ、総力戦になるだろう。もちろん大和の出番もある。そのつもりで準備を進めてくれ。みんなにもそう通達を」
夕張「はい」
提督「……夕張」
夕張「はい?」
提督「……いや」
夕張「なんです?」
提督「……」
夕張「……榛名さんのことですか」
提督「……ああ」
夕張「大丈夫です。私は提督のこと嫌いになったりしませんよ」
提督「夕張……だが――」
夕張「榛名さんに犯されそうになった、ですか?」
提督「」ピクッ
夕張「……榛名さんから聞きました」
提督「そう、か……」
提督「すまない。俺から言い出せなくて……」
夕張「いえ……言えませんよね。そんなことは」
提督「本当にすまない……」
夕張「大丈夫です」
夕張「思うことが無いわけじゃありません。でも……」ギュッ
夕張「嬉しかったです」
夕張「榛名さんとしないでくれたこと」
提督「……疑わないのか?」
夕張「私は提督を信じてます。これまでもこれからも」
夕張「今更疑ったりしませんよ」
提督「……ありがとう」
夕張(これで提督を独占できる)
夕張(でも、と思う)
夕張(……どうしても榛名さんの顔がちらついてしまうのだ)
夕張(後ろめたい気持ちはある。でも、恋人を、好きな人を独り占めしたいって思うことは当たり前……のはずだ)
夕張(榛名さんのこともみんなのことも大好き。けれど、それとこれとは話が別だ)
夕張(提督のことは譲りたくない。何より、榛名さんを拒絶してくれた、私を選んでくれた提督の気持ちを素直に受け取りたい)
夕張(……そう思うことはいけないことなのだろうか)
夕張(……ううん)
夕張(私は、間違ってない……よね)
夕張(私は提督の恋人、なのだから)
――――
――
夕張(榛名さんが提督から離れたことは、様々な憶測を伴って瞬く間に鎮守府中に広まった)
夕張(彼女たちの関心のほとんどは、"結局のところ提督と榛名さんがどういう関係にあったのか"、"何故離れるに至ったのか"ということだった)
夕張(榛名さんはそのことに関して固く口を閉ざしているようだし、私も提督も語るつもりはない)
夕張(このままほとぼりが冷めてくれれば……と思うけど)
夕張(問題は……)
祥鳳「……」
金剛「……」
夕張(榛名さんの提督への接し方が変わったことで、提督に好意を持っていた子達に少し不穏な空気が流れ始めたこと)
榛名「……」
夕張(榛名さん自信に何処か無理してる様子があること)
榛名「」スタスタ
祥鳳「……」タタッ
夕張「……」チラッ
夕張(……それに気付いていながら何もしない私自信だ)
祥鳳「……」タタタ
祥鳳「あの、榛名さん」
榛名「はい?」
祥鳳「……提督のこと、諦めたんですか?」
榛名「諦め……」
榛名「……」
榛名「……そう、ですね。榛名はこのまま身を引こうと思ってます」
祥鳳「本気ですか」
榛名「はい。榛名はこれ以上、提督に嫌われたくないんです」
祥鳳「嫌われるって……提督がそう言ったのですか」
榛名「いえ。提督は変わらず榛名に接してくれています。信頼している、とも……」
祥鳳「だったら」
榛名「だからこそ、です」
榛名「榛名は卑怯で汚い嫌なことをしました。それでも提督は榛名を信頼していると……嫌いにならないと仰ってくれたんです」
榛名「そんな提督に、どうしてこれ以上のご迷惑をかけることができるんです?」
祥鳳「……それは、今でも提督のこと好きってことですよね」
榛名「……」ニコ
祥鳳「……わかりました。榛名さんがそれでいいなら何も言いません」
祥鳳「でも、私は諦めませんから」
榛名「……」
榛名(『諦めない』そう言って立ち去る祥鳳さんを榛名は見送ることしかできなかった)
榛名(……提督のことが今でも好き。そんなことは自分がよくわかってる)
榛名(だからこそ……好きだから、離れたのだ。この気持ちを押し込めるために)
榛名(近くにいたら、榛名はまた何かをしてしまうかもしれない)
榛名(抑えがたい欲求が出た時、こと提督のことに関して榛名は自制できる自信がない)
榛名(そんな榛名では、絶対に嫌われてしまう)
榛名(こんな榛名じゃ提督に嫌われちゃうから)
榛名(……きっと、今ぐらいの距離がちょうどいいはずなのだ)
榛名「……」ギュッ
榛名(でも、榛名の身体も心も覚えている)
榛名(提督の側にいた時の、寄り添った時の、触れた時の……あの温もり。多幸感)
榛名(榛名がそれを味わうことはもう無いのだと思う度、榛名の心は少しずつ淀んでいく)
榛名「……」スゥ
榛名「はぁ……」
榛名(大きく深呼吸する。失恋なんて、誰もが経験すること。辛いのは榛名だけじゃない。だから……)
榛名「榛名は、大丈夫」
霧島「榛名」
霧島「今日も出撃なの?」
榛名「うん」
霧島「……最近調子良いのはわかるけど、流石に多過ぎない? たまには休まないと……司令に頼み辛いなら私から頼んでみようか?」
榛名「勘違いしないで霧島。これは榛名がお願いしてるの」
霧島「お願いって……」
榛名「提督は適度に休みを入れようとしてくれてる。それを無理言って出撃させてもらってるの」
榛名「……今はともかく戦っていたいから」
霧島「榛名……」
榛名「心配しないで霧島。榛名、負けないから」
提督「……」ペラ
夕張「どうしたんです? 難しい顔して」
提督「ん……榛名のことなんだが」
夕張「はい」
提督「少し心配だ」
提督「この報告書の通り、結果は以前よりも良いぐらいだがな」
夕張「ふむ……」
提督「榛名たっての願いで、積極的に編成に組み込むようにしてる」
提督「榛名は練度も高いし、ウチではお前に次いで旗艦経験もあるから……榛名が艦隊にいることは俺としても安心できる」
提督「榛名自身、ここ最近の活躍は申し分ないし、士気も高い。榛名のことだ、きっと体調管理も万全だろう」
提督「けど、最近は本当に出ずっぱりだ。休むよう促しても断られるし……そこはかとなく危うさを感じる」
夕張「危うさ……そう、ですね。なんとなくですが、私も感じてます」
提督「今まで以上に戦果を上げてるし、何かミスがあったというわけでもないから……榛名がどうしても、と言う以上出撃させてきた。だが、流石に心配になってきた。杞憂で済めば良いが、万が一があっては困る」
夕張「はい」
提督「休むよう命令を出すのは簡単だが……」
提督「金剛を呼んでくれ」
金剛「ヘーイ! 提督ぅ! お呼びですかー?」
提督「ああ。少し相談があってな」
金剛「相談? 任せてください!」
提督「榛名についてなんだが……最近出撃が多いだろ?」
金剛「ハイ。榛名の活躍ぶりは姉としても鼻が高いデス」
提督「ああ。だが、どうも休もうとしなくてな……少し心配なんだ」
提督「休むよう金剛からもそれとなく促して欲しい」
金剛「hmm……それはもちろん構いませんが、私が言うよりも提督から言った方が榛名は言うことをきくと思いますよ?」
提督「もちろん俺からも言うが……」
提督「俺が休むよう強く促したら、確かに榛名は休もうとするだろう。"命令"として」
提督「今の俺達の関係はきっとそういうものに近い」
提督「……自惚れかも知れないが、榛名が今こうして頑張っているのも俺とのゴタゴタを清算しようとしてるから……だと思ってる」
夕張「提督……」
提督「元々勤勉な榛名にしたって、最近のは度が過ぎてる。俺だって馬鹿じゃない。それぐらいの考えには辿り着くさ」
提督「それで榛名の気が済むなら、と思って出撃させてきたが……」
金剛「流石に心配になってきた……と?」
提督「……ああ」
提督「榛名がしたことは……俺はもう許したつもりだ。だから、そんなことのために無理をしてほしくない」
金剛「その言葉を提督が直接伝えてあげた方が良いと思いますが」
提督「……それは」
提督「……」
提督「本当に俺が声をかけていいのだろうか」
金剛「どういう意味です?」
提督「今更優しい言葉をかけて、気を持たせるようなことをして……それは尚更榛名を傷つけてしまうだけじゃないのか」
金剛「それは……」
提督「榛名は優しく責任感が強い。俺の言葉を聞いても、はいそうですかとなるとは思えない」
提督「むしろ……」
夕張「提督に気を使わせてしまったと気に病み、殊更に戦果を求めるかも……」
提督「ああ。そうなっては意味が無い」
提督「だからお前を呼んだ。金剛、迷惑をかけてすまないが……よろしく頼む」
金剛「……迷惑、なんてことはありません。榛名は私の大切な妹ですから」
金剛「でも……。いえ、わかりました。榛名のこと、今まで以上に気に掛けておきます」
――――
――
金剛「榛名」
榛名「お姉様。何か?」
金剛「最近調子良いみたいですネ!」
金剛「But 最近は根を詰めすぎだと思います。少しは休んだほうがいいよ?」
榛名「お気遣いありがとうございます。ですが、休養は夜ちゃんと取っていますから」
金剛「No! 睡眠と休養はイコールじゃないよ」
金剛「どうしてそこまで出撃したいの?」
榛名「出撃したい……と言うよりは、榛名は戦果をあげたいんです」
金剛「それなら十分あげてるでショー?」
榛名「……いえ、まだまだです」
金剛「榛名?」
榛名「……榛名は戦わないといけなんです」
金剛「ふむ……?」
榛名「榛名は取り返しのつかないことをしました」
榛名「そんな榛名が今も変わらず提督のお側にいれるのは、榛名が艦娘として有用だからです」
金剛「有用って……」
榛名「強くない榛名に、提督のお役にたてない榛名に価値はありません」
金剛「提督がそう言ったのですか?」
榛名「いいえ。ですが……榛名は提督に必要とされたいんです」
榛名「だから榛名は戦って、戦って、提督に勝利をお届けしたい」
榛名「それで提督が喜んでくれるなら、必要だと言ってくれるなら、ほんの少しでも……褒めてくれるなら――」
榛名「榛名は、大丈夫です。大丈夫なんです」
金剛「榛名……」
金剛「……榛名が大丈夫でも、私は心配です」
金剛「もちろんバリちゃんも、提督だって本当に心配してます」
榛名「提、督も……?」
金剛「Yes! 榛名のこと、心配してたよ?」
榛名「榛名を、心配……」
榛名(どうしよう。そんなつもりじゃなかったのに……)
榛名「……」
榛名(嬉しい。嬉しい)
榛名(提督は本当に優しい。こうして離れてもなお、どんどん好きになってしまう)
榛名(喜んでもらいたい。気に入られたい)
金剛「榛名?」
榛名「」ハッ
榛名(違う。それは、駄目だ)
榛名「ごめんなさい、お姉様。榛名……少し休みます」
榛名「ご心配ありがとうございます。でも、榛名は大丈夫ですから」
金剛「榛名」
榛名「わかってます。お姉様の仰るようにちゃんと休みも頂くようにします」
榛名「お姉様にも夕張さんにも……もちろん提督にもご迷惑をかけるわけにはいきませんから」
金剛「……」フム
榛名「それじゃ、榛名は部屋に戻ります」
金剛「榛名」
金剛「休むのはもちろんいいことです。でも、勘違いしないでください」
金剛「私にはいくらでも迷惑かけていいんだからネ!」
榛名「……ありがとうございます、お姉様」
――――
――
提督「さて、第二次SN作戦もいよいよ佳境に入る」
提督「ここまで本当によくやってくれた。次の出撃で本作戦は終了となる」
提督「FS作戦。連合艦隊での出撃となる。編成は先立って伝えた通りだ。旗艦は第一艦隊を榛名、第二艦隊を夕張に任せる」
提督「先遣隊の情報では、戦艦棲姫が2体に加え、新たな姫級が確認されている」
提督「残念ながら、ここまでの戦いで我が鎮守府の備蓄資材は潤沢は言えないが……」
榛名「大丈夫です」
赤城「ええ。油断も慢心もありません」
夕張「いつも通り、きっちりしっかりやってきますから」
提督「ああ、信頼してる」
榛名「必ず勝利をお届けします」
提督「夕張」チョイチョイ
夕張「はい?」
提督「榛名のこと、何かあったらフォロー頼むな」
夕張「はい」
提督「もちろん、他の皆も」
夕張「もちろん」
提督「それから、お前も無理はするな」
夕張「……わかってます」
夕張「……」キョロキョロ
夕張「あの、提督」
提督「ん?」
夕張「行ってらっしゃいのちゅーを……んー」
提督「なっ、お前」
夕張「んー!」
提督「……」キョロ
夕張「ん……それじゃ、頑張ってきますね」
提督「ああ、気をつけてな」
夕張「艦隊帰投しました」
提督「ああ、お疲れ様」
夕張「まったく、今回ばかりは正直無理だと思いましたよ……」
夕張「時雨ちゃんが決めてくれなればね!」ガバッ
時雨「わっ」
夕張「もう時雨ちゃんホント最高っ」ギュー
提督「ああ、最高だよ時雨」ワシャワシャ
時雨「ちょ、ちょっと……」
夕立「むぅ~、夕張さん! 提督さん! 夕立も頑張ったっぽい!」グイグイ
提督「わかってるよ。夕立もお疲れ様」ナデナデ
夕張「夕立ちゃんも偉い!」ギュッ
夕立「」ムフー
榛名「……」ギリッ
提督「お前らもお疲れ様」
大和「……」
赤城「……」
提督「なんだ。元気ないな」
榛名「……申し訳ありません」
提督「何故謝る?」
榛名「それは、私達第一艦隊が何の戦果もあげれなかったからです」
提督「……まあそうだな」
提督「第一艦隊には戦艦、正規空母の主力級を集結させている」
提督「それは夜戦前に勝負をつける……或いは、夜戦までに敵主力を無効化し、第二艦隊の負担を減らす狙いもある」
提督「今回お前達はその役目を完璧に担えたとは言い難い」
榛名「……はい」
提督「だが、俺はお前達が頑張っていることを知っている。それこそ死に物狂いでな」
提督「戦争なんだ。過程が良ければいいなんて言えない。結果が全てだ。負けたら何も残らない」
大和「はい……」
提督「でも、お前達はみんなこうして帰ってきてくれた。誰一人欠けること無く、勝利して、だ」
提督「それは間違いなく誇るべきことだ。言っただろう? 結果が全てだ。お前達は勝った。今はそれでいい」
提督「各々反省点はあるだろうが、それは次に活かしてくれればいい
んだ」
提督「それに……お前達が無事だったことが俺は何より嬉しいよ」
赤城「提督……」
提督「ほら、辛気臭いのは終わりだ。俺達は勝ったんだぞ」
提督「さっさと風呂入って休め。明日は祝勝会だ」
赤城「!」ガタッ
赤城「一航戦、赤城! 寝ます!」タタッ
提督「いや、だから先に入渠しろと」
加賀「赤城さん、私も」タタッ
提督「……はぁ、慌ただしい奴らだな。榛名たちも早く休みな」
榛名「……はい。失礼します」
―― 祝勝会
榛名(祝勝会と言う名の宴会はまさに大騒ぎだった)
榛名(みんな笑顔で、今回の大規模作戦の成功を誰もが喜んでいる。今回の作戦はそれだけ難しいものだったということなのだ)
榛名(それを誰一人失わず完遂した提督も、私達を取りまとめ、率いた夕張さんもはやはり凄い)
榛名(それに引換え榛名は……)
榛名「……」
霧島「榛名」
榛名「霧島?」
霧島「お疲れ様。隣いい?」
榛名「うん」
霧島「」ゴクゴク
榛名「」コクコク
霧島「……嬉しくない?」
榛名「え?」
霧島「なんだか難しい顔してるから」
榛名「……今回、榛名はあまり戦果をあげれなかったから」
霧島「そんなことないと思うけど」
榛名「ううん。榛名はやっぱりまだまだだなって思ったよ」
榛名「皆を率いた夕張さんも、敵の総旗艦に止めをさした時雨ちゃんも……本当に凄いって思った」
霧島「時雨は今回のMVPかもしれないわね。あそこで代わる代わる揉みくちゃにされてるし」
榛名「でも……」
霧島「ん?」
榛名「でも……それが榛名じゃなかったことが、凄く悔しい」
霧島「……また次頑張ればいいじゃない。ほら、榛名も呑んで。今はお祝いの場なんだから」
榛名「うん……」
隼鷹「お二人さん、呑んでるぅ~?」ヒック
榛名「うわ……」
霧島「面倒なのが来た……」
隼鷹「あひゃひゃ、こいつは手厳しいねぇ!」
隼鷹「ま、呑んで呑んで……あたしの酒が飲めねってのかい!?」
霧島「いや、何も言ってないじゃない」
隼鷹「確かに」ドッ
霧島「」イラッ
隼鷹「そんなことよりさぁ……提督知らない? いないんだよねぇ提督がさぁ」
霧島「そういえば……」
榛名「あ、じゃあ榛名、ちょっと探して来るね」スッ
霧島「あっ、じゃあ私も」
隼鷹「おっと、あたしを置いてくってのかい!?」グイ!
隼鷹「一緒に飲もうぜぇ? せっかくお酒と同じ名前してんだからさ」
霧島「ちょっと、お酒臭いから離れなさい」
隼鷹「かぁ~、そんなこと言うなよ~」
霧島「は、榛名助けて」
榛名「頑張って」ススッ
霧島「え、ちょっと! 嘘でしょ?」
隼鷹「なんだよぉ……」クスン
霧島「……」シカタナイ
霧島「霧島の名、伊達ではないことをお見せしましょう!」
隼鷹「ひゅ~! 素敵! 抱いて!」
榛名「……」
榛名(提督を探すといったものの、会うのが少し怖い気がした)
榛名(……いろんな感情が渦巻いて、今どんな顔して会えばいいのか、ちゃんと笑顔を作れるのかわからない)
榛名「……」
榛名(結局、榛名は中途半端なのだ。気持ちの整理もつけないまま、戦うことで気を紛らわしてるだけ。だから大事なところで戦果がだせない)
榛名「でも、気持ちの整理なんて……あ」
夕張「――――」
榛名(廊下の向こう、曲がり角のところに夕張さんが見えた。彼女なら提督の居場所を知ってるかもしれない)
榛名「夕張さ――」
榛名(出しかけた言葉を呑み込む)
榛名(彼女は物陰で抱き合っていた。提督と)
夕張「ん……」チュ
提督「お前、誰かに見られたら」
夕張「大丈夫です。みんな、宴会に夢中ですから」
夕張「最近忙しくてこうして2人でゆっくりできることなかったじゃないですか」
提督「それは、そうかもしれないが……」
夕張「5分だけ。ね? そうしたら、戻りましょう?」
提督「……そうやってねだられたら断れないな」
夕張「ふふ、提督……」チュ
榛名「……あ」
榛名(気付いたら逆方向に駆け出していた)
榛名「……」
霧島「あ、榛名おかえり。提督は?」
榛名「……もう少ししたら戻ると思う」
隼鷹「ひゅ~、やったぜ! みんなに報告だぁ!」ダッ
霧島「きゃっ、ちょっと、私も!?」
榛名(隼鷹さんに引っ張られて席を離れる霧島を横目に、席に座ってお酒を流し込む)
榛名(動悸が止まらない。胸が痛い。苦しい)
榛名(どうして)
榛名(これは榛名が望んだことのはずなのに)
榛名(提督と夕張さんの仲が深くなることが、提督の眼に榛名が映らなくなっていくことが、こんなにも苦しいなんて)
榛名(榛名が身を退けば退くほど、提督のために戦えば戦うほど、尽くせば尽くすほど、提督の中から榛名がいなくなっていく)
榛名(そういうことなんだ)
榛名(辛い。辛い……)
榛名「」グッ
榛名(でも、それでももう……榛名は諦めるしかないんだ)
金剛「……」
―― 祝勝会後 廊下
金剛「榛名」
榛名「……お姉様?」
金剛「大丈夫? なにかあった?」
榛名「え?」
金剛「なんだか無理してるように見えたから……」
榛名「っ……そんなことありません。榛名は大丈夫です」
金剛「本当?」
榛名「……ええ、榛名は大丈夫です」
金剛「嘘。今だって怖い顔してるよ。気付いてる?」
榛名「え……」
金剛「榛名。私には取り繕わなくていいんだよ? 辛いなら辛いって、ちゃんと言って欲しい」
榛名「お姉様……」
金剛「……私、最近榛名の笑顔見てません」
榛名「そう、でしょうか」
金剛「……やっぱり提督のこと?」
榛名(さっき見た提督達の姿が頭をよぎる)
榛名「違います」ズキッ
榛名(お姉様はきっと本気で榛名を心配してくれている。でも、お姉様が提督のことを口にする度に胸が苦しくなった)
金剛「提督のこと……本当はそんな簡単に諦められるものじゃなかったんでしょう?」
榛名(夕張さんと抱き合う姿が、唇を重ねる姿が、幸せそうな笑顔が頭を埋め尽くしていく)
榛名(苦しい。止めて欲しい。榛名は諦めなくちゃいけないのに)
榛名「……だとしても、榛名はもういいんです」
金剛「本当? 榛名、本当はまだ提督のこと」
榛名「やめてください!」
金剛「」ビクッ
榛名「そんなこと言われなくたって榛名が一番わかってるんです!」
榛名「でも仕方ないじゃないですか!」
榛名「榛名はもう拒絶されてしまった! なのに、諦められるとかまだ好きなのかとかどうしてそんなことを聞くんです!?」
榛名「これ以上榛名にどうしろって言うんですか!」
金剛「榛名……」
榛名「……」ハァハァ
榛名「ごめんなさい。もう、諦めさせてください……」
榛名「榛名はこれ以上提督に迷惑をかけたくない」
榛名「失望されたくない」
榛名「――嫌われたく、ないんです」ジワッ
榛名「だから……」ポロポロ
金剛「ごめん。ごめんなさい榛名」ギュッ
榛名「う、うぅ……あっ、ああぁぁぁ」ポロポロ
金剛「ごめんね。辛かったね……」ナデナデ
榛名「あああぁぁぁああああ」ギュー
金剛「……」ヨシヨシ
――――
――
榛名(あの後、榛名はお姉様にしがみついて大泣きしてしまった)
夕張「今日の出撃は戦闘哨戒です」
夕張「先日大規模作戦を行いましたが、反攻が無いとは限りません。敵艦隊の動向を調査し、接敵した場合は可能な限りこれを撃破します」
夕張「哨戒ルートですが――」
榛名(今思えば誰かに見られてもおかしくない状況だったが、私たちの様子に気付いた比叡姉様と霧島が上手いこと人払いをしてくれたらしい)
夕張「……榛名さん、聞いてます?」
榛名「」ハッ
榛名「大丈夫です。すみません」
夕張「珍しいですね。ぼーっとするなんて。調子が悪いなら無理せず言ってくださいね?」
榛名「いえ、榛名は大丈夫です! 行けます!」
夕張「なら、良いんですが……こほん」
夕張「本作戦の説明は以上です。何かありますか?」
北上「な~し」ヒラヒラ
赤城「特にありません」
金剛「No problemネ!」
加賀「問題ないわ」
夕張「では、準備に取り掛かってください」
――海上
榛名(ひとしきり泣いたことで気持ちの整理ができたと思いたいが、そう上手くはいかないものだ)
榛名(あれから数日が経ったのに榛名の心には未だぐずぐずが残っていて、それがどうしようもなく榛名を苦しめる)
赤城「――!」
榛名(それでも榛名は戦わなくてはならない。今までの償いのため、提督のため……そう思ってこれまで頑張ってきたのだから)
夕張「ーーーー」
榛名(でも、榛名は見てしまった)
金剛「――」
榛名(榛名に見せたことのない笑顔で)
榛名(榛名にかけたことのない幸せそうな声音で)
榛名(榛名に触れた時とは違う優しげな手つきで)
榛名(夕張さんを抱き寄せる提督を)
榛名(接吻を交わす2人の姿を)
北上「――い! 榛名!」
榛名(今思い出しても胸が苦しい。叫びだしてしまいたいほど、心が痛い)
榛名(どうして榛名じゃないんだろう)
榛名(諦めるなんて嘘だ。戦果を求めてる理由だって、償いのためだけなんかじゃない。榛名は提督に見て欲しくて、提督の一番になりたくて)
榛名(榛名だって本当は……ずっと前から、今だって――)
夕張「榛名さん避けてっ!」
榛名「」ハッ
榛名「しまっ」ズッ
榛名(夕張さんの声に、榛名が我に返った時にはもう遅かった)
榛名(目の前に迫っていた敵の砲弾は榛名の顔を掠めると、そのまま榛名の右舷装備に直撃した)
榛名「きゃぁぁぁぁ!」
榛名(爆発が起こり、艦が揺らぐ)
榛名(右舷の砲塔が吹き飛び、爆発がまた新たな爆発を呼んだ)
妖精1「敵砲弾、右舷に直撃! 第一、第二砲塔大破!」
榛名「くっ……第三、第四砲塔回頭! 当たらなくても良いです! 牽制してください!」
榛名「消化急いで! 誘爆を防いでください! 両舷全速!」
榛名「っ!?」ガクン
妖精2「右脚艤装、応答ありません!」
妖精1「敵、第二射来ます!」
妖精2「右舷艤装完全に沈黙、駄目です! 艦の水平を保てません!」
榛名(冷たい海水の感触と共に、右足が沈むのを感じた。右脚の浮力も推力も失ったせいで右半身が酷く重い)
榛名(グラリ、と視界が傾き、右脚が波に包まれる)
榛名(幸か不幸か、榛名の姿勢が崩れたことで、敵の砲弾は榛名の横を掠めて海の中に消えた)
榛名(大きな水柱が立ち、榛名の身体を揺らす。)
榛名「っ……左脚機関最大! 右舷艤装を全て破棄」
妖精「しかし、そんなことをしては艤装の加護が半減してしまいます!」
榛名「このまま的になるよりはマシです!」
妖精「~っ!」
榛名(軽くなった身体を左足の推力で何とか立て直す)
榛名「主砲! 砲撃開始!」
夕張「っ……金剛さん! 榛名さんがやばい! フォローして!」
金剛「言われなくても!」
ズッ
金剛「っ」
戦艦ル級「……」ズズズ
金剛「Shit」
夕張(ル級に阻まれて金剛さんの足が止まる)
夕張「っ」チラッ
駆逐イ級「――!」ザパァッ
夕張「ちっ」
夕張(海から飛び出してきたイ級を避け、20.3cm連装砲で土手っ腹に風穴を空ける)
夕張「」クルッ
夕張(舞い上がった爆煙を抜け、振り返りざまに榛名さんと対峙している戦艦タ級へ艦首魚雷を放った)
夕張「赤城さん!」
夕張(私がそう声を上げた時には、空を赤色のリボンのエンブレムをあしらった艦載機が空を舞っていた)
夕張(艦載機が金剛さんの行く手を阻んでいたル級へ次々に爆撃していく。同時に幾つかの艦載機が榛名さんの方へ向かうのが見えた)
赤城「……」ウィンク
夕張(流石、よく見てるなぁ)
妖精「敵、砲撃を確認!」
榛名「回避します!」
榛名(敵の砲弾が榛名の顔の真横を通り過ぎていく)
榛名「っ」
榛名(榛名の顔の真横を掠めた砲弾は、榛名の頬を切り、同時に幾束かの髪の毛を引きちぎっていった)
榛名(引きちぎられた何本かの髪の毛と一緒に、髪留めが落ちていくのが見えた。提督に頂いた、大切な髪留め)
榛名(普段は大破しても取れることはないのに。艤装を半分破棄したのがよくなかったのだろうか)
榛名「駄目っ」
榛名(思わず手を伸ばすが届かない)
榛名(嫌だ、と思った)
榛名(アレを失ってしまったら、提督へのこの気持ちまで失ってしまう。そんな気がした)
榛名(叶わなくたって、馬鹿みたいだって、榛名はまだこの気持ちを失いたくない)
榛名(立ち止まり、海の中に手を伸ばす)
妖精「敵、砲撃を確認! 着弾まであと――」
榛名(妖精が何か言っているが、耳に入らない)
榛名(伸ばした手の先で、榛名の想いが海へ落ちていく)
榛名(上手くいかない)
榛名(どうして……?)
榛名「榛名はただ――」
金剛「榛名!」
榛名(伸ばした手は、お姉様に握られていた)
榛名(そのまま引っ張られて、敵の砲弾をすんでのところで回避する)
金剛「どうして立ち止まるの!? 死ぬ気!?」
榛名「……」ポロポロ
金剛「榛名?」
榛名「提督に頂いた髪留めを……無くしてしまいました」ポロポロ
榛名「榛名は……っ。ごめんなさい」
榛名「まだやれます!」
金剛「榛名……」
金剛「……」ブチッ
タ級「」ズズズ
金剛「ぶち殺し、確定デース」
夕張(どうやら金剛さんは無事榛名さんと合流できたようだ。赤城さんの艦載機がタ級へ爆撃しているのも見える)
夕張(崩すなら、今かな)
夕張「北上さん!」
北上「はいよ~」ジャカッ
北上「酸素魚雷40門、一斉射~」
夕張(40もの魚雷が水面を這い、爆発と水柱が次か次へと立ち上る)
北上「ひーふーみー……あ、ごめん。撃ち漏らした」
夕張(彼女がそう言うが早いか、水柱の間を縫うようにして飛ぶ艦載機があった)
夕張(赤城さんのものと色違いの青色のエンブレム)
加賀「鎧袖一触よ。心配いらないわ」
夕張(艦載機から放たれた魚雷が敵に突き刺さり、残った敵を沈めていく)
赤城「付近に敵影なし」
夕張「了解。各自、戦闘態勢のまま待機」
夕張「赤城さんと加賀さんは偵察機で付近の警戒をお願いします」
夕張「榛名さん!」
榛名「……」ボロボロ
夕張(……思ったより損傷が酷い。今回はここまでかな)
夕張「」ピピッ
夕張「はい、夕張です」
榛名「ゆ、夕張さん。榛名はまだいけます」
夕張「ええ、そうです」チラッ
夕張「……わかってます。では」
夕張「今回はここまでです。この海域を急ぎ撤退します」
榛名「そんな、待ってください! 榛名は大丈夫です! まだやれます」
榛名(嫌だ。戦いで役に立てなければ、榛名は――)
夕張「榛名さん、わかっていると思いますが、大破で撤退はウチの掟です」
榛名「ですが!」
夕張「榛名さん」
榛名「っ」
夕張「撤退です」
榛名「……わかりました」
夕張「榛名さんを中心に輪形陣を敷きます。先頭は金剛さん、北上さんは私と殿を。両翼は一航戦のお二人に任せます」
―― 執務室
提督「……ひとまず、無事で良かった」
榛名「ありがとう、ございます……」
提督「報告は聞いている。戦闘中に考え事か?」
榛名「申し訳ありません」
提督「……その、俺のことか」
榛名「っ……いえ、違います。榛名の個人的なことです」
提督「そうか……内容がなんであれ、戦闘に集中しないのは良くない」
榛名「はい。ごめんなさい」
提督「今回は無事だったが、次はそうはいかないかもしれない。悩みがあるなら、俺でも誰でも良い。相談してくれ」
榛名「……ですが、これは榛名が自分で解決しなければならないものですから」
提督「だったら出撃前に言ってくれ。戦闘に集中できないようであれば、出撃は差し控える」
榛名「そんなっ」
提督「榛名がいくら出たいと言っても、万全でないなら出すわけにはいかない。そんな危険を犯させることはできない」
榛名「そんな、それでは……」
提督「……榛名、お前が最近頑張っているのはその、俺にあんなことをしたからか?」
榛名「」ビクッ
榛名「そ、それは……」
提督「だとしたら、そんなに思いつめなくていい」
提督「言ったはずだ。俺はもう許したと」
提督「そんなことのために必要以上の危険を負う必要はないんだ」
提督「頼むから、無理だけはしないでくれ」
榛名「提督……」
榛名「どうして……どうしてそんなに優しくしてくださるのですか……」
提督「大切だからだ」
榛名「どうして、そんなことを言うのですか」
提督「……これまでずっと一緒にやってきただろ。そうでなくても、俺たちのためにこんなに頑張ってくれているお前を大切に思わないなんて俺には無理だ」
榛名「榛名は提督に酷いことをしました。卑怯なことをしました」
榛名「艦娘としてだって、こうして被害を出して……お役に立ててません」
榛名「それでも、提督は榛名を大切だと、仰るのですか」
提督「そうだ」
榛名「……」
提督(沈黙がヒリヒリと肌を焼くようだった)
提督(彼女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。嬉しそうな悲しそうな辛そうな……そんな複雑な表情だった)
提督(そんな彼女を見ると、俺の心もまたズキリと痛む。もしかしたら、俺はまた榛名を苦しめているのか)
提督(それでも伝えたかった。たとえ恋人としてじゃなくても、榛名が十分大切な存在だということを)
榛名「提督にとって榛名は……なんなのですか」
提督「大切な――」
榛名「大切な部下? 仲間? 友人?」
榛名「大切ってどういう意味……?」
榛名「榛名はその言葉をどう受け止めればいいのですか……」
提督「それは……」
榛名「……提督は、榛名をどう思っているのですか」
提督「……」
榛名「……榛名は、提督が好きです」
提督「……榛名」
提督(彼女の頬には涙が伝っていた)
提督(俺を好きだと言って泣いていた)
榛名「榛名は、提督が好きです……」
榛名「榛名を導いてくれるあなたが、支えてくれるあなたが、いつも気にかけてくれるあなたが、優しく話しかけてくれるあなたが、榛名はどうしようもなく好きなんです」
榛名「提督が榛名を大切だというその意味も、提督には夕張さんがいることだって本当はわかってます。でも、だからってどうしたらいいんです?」
榛名「榛名だって忘れようとしました!」
榛名「でも、いくら忘れようとしたって、諦めようとしたってこの気持ちはなくならない。日増しに増えていく気持ち、欲望……榛名は」
榛名「あなたを好きになるほど卑屈になって、苦しくなって……汚い自分に気づいてしまう。でもそのどれもあなたと一緒にいれば受け止められた」
榛名「あなたと一緒にいることが、幸せだったんです」
榛名「だから……だから」
榛名「榛名はあなたに必要とされたかった」
榛名「あなたにとっての一番になりたかった」
榛名「でも、恋人としても、女性としても一番にはなれない」
榛名「だから、艦娘として、兵器として……あなたの、あなたのための武力として、榛名は一番になろうと思ったんです」
榛名「でも、上手くいかない」
榛名「FS作戦でも、敵の旗艦を撃ちぬいたのは時雨ちゃんで……榛名が率いた第一艦隊は有効打すら与えることができなかった。今回だって……榛名はほとんど役にたってない!」
提督「そんなことはない。榛名は必要だ」
榛名「……どうして」
提督「っ……」
榛名「どうして、榛名じゃないのですか……」
提督「榛名……」
榛名「……榛名じゃ、ダメなのですか」
榛名「榛名では、ダメなのですか」
提督「……駄目だ」
榛名「っ」
榛名「どうして、どうしてですか……榛名だって提督を誰より愛しています」
榛名「秘書官の仕事もできます。きっと提督のお役にたてます。支えることができます」
榛名「戦闘だって……今以上に強くなって、きっと提督に勝利をお届けします」
提督「……榛名。そういうことじゃないんだ。わかるだろ」
榛名「……」ポロポロ
榛名「そう、ですよね……榛名……すみません」
提督「」ズキッ
提督「だが榛名、俺は」
榛名「やめてください!」
提督「」ビクッ
榛名「提督には夕張さんがいる! なら、どうして榛名に優しくするんです!? 好意を向けてくれるんです!?」
榛名「もうこれ以上榛名に優しくしないでください!」
提督「榛名、俺は」
榛名「嫌だ! 聞きたくない!」
榛名「どんなに好きになったって、あなたは榛名の想いに応えてはくれないのに!」
提督「っ」
榛名「あ……っ、ごめんなさい!」ダッ
ドア<バタン
提督「榛名……」
夕張(諸々の雑務を終えて執務室に帰ってきた時だった)
夕張(中から榛名さんの声が聞こえた)
夕張(泣いているような、そんな声だった)
ドア<バタン
榛名「……」
夕張「あ……」
榛名「っ」タタッ
夕張(部屋を飛び出してきた彼女と一瞬目があったが、彼女は何も言わず走りさってしまった)
夕張「……」
夕張(榛名さん……泣いてた)
夕張「……」
提督「……」
夕張(執務室に入ると、呆然と立ち尽くす提督がいた)
提督「夕張……」
夕張(彼もまた、辛そうな顔をしていた)
夕張「……提督」
叢雲「ちょっと、次の遠征のことなんだけど」
提督「……」
夕張「……」
叢雲「……何この空気」
――――
――
叢雲「……ふぅん。ま、なるべくしてなったって感じじゃないの」
提督「っ……」
叢雲「あんた、踏み込み過ぎ。榛名が大事なのはわかるけど、タイミングってもんがあるでしょ。今回は最悪」
提督「しかしこのままでは」
叢雲「心配なら出撃だけ控えさせる命令を出すだけで良かったでしょ。今回のことを嗜めるのはあんたじゃなくてもできたはずよ」
提督「む……」
叢雲「夕張、あんたもよ」
夕張「うん……」
叢雲「気付いてたでしょ。どうして出撃させたの?」
夕張「……それで榛名さんの気が済むならって思って。榛名さんなら多少調子が悪くても大丈夫かなって……」
叢雲「あんたにしては少し浅慮だったんじゃない?」
夕張「うん……ごめん、なさい」
叢雲「私に言ってもしょうがないでしょ」
夕張「……うん」
提督「……」
叢雲「あんたはもう少し榛名を……女性として見るべきよ」
叢雲「あの娘は女性として大切にされたいの。わかるでしょう? それができないなら必要以上に踏み込むべきではないわ」
提督「……ならどうすれば良かったんだ? 冷たくすれば良かったのか? それが無理なら受け入れるしかなかったと?」
提督「だがそれは夕張に対して不義理になってしまう。俺は……夕張だけを愛そうと努力したつもりだ。でもそれは間違いだったのか……?」
夕張「提督……」
叢雲「はぁ……榛名に冷たくするって選択肢はないわけね」
提督「……それは」
叢雲「あんたのその……心に決めた一人を……夕張を愛し抜こうとする姿勢は正しいものだと思う」
叢雲「でも、なら尚更榛名に対して優しくすべきではなかったわ。少なくとも今は……ね」
提督「だが、それは」
叢雲「冷たくしろとか酷いことをしろって言ってるわけじゃない。必要以上に優しくするなって言ってるのよ」
提督「む……」
叢雲「あんたが榛名を家族のように大切に思っているのはわかってる。でも、それを今のあの娘に押し付けてもあの娘が苦しむだけだってこと」
叢雲「……この際だから言っておくけど、私達にとって一人の女として愛されるって言うのは本当に嬉しいことなのよ」
提督「……」
叢雲「艦娘になった時点で私たちの身体はもう普通の人とは違う。きっと、完全に元に戻ることもないでしょう」
提督「叢雲……」
叢雲「……そのこと自体にもう後悔はないわ」
叢雲「けど、こうなってしまった私達を……今後、あんたと同じように愛してくれる人が現れる保証はない」
叢雲「私達は化物と変わらないから」
提督「っ、それは違う!」
叢雲「本当にそうかしら」
叢雲「病気には滅多にならないし、身体能力もちょっと引くぐらい底上げされて、おまけに若さも保てて……ふふ、ここだけ言えば至れり尽くせりね」
叢雲「でも、それだけじゃない。敵の砲撃で傷だらけになった身体が、吹き飛んだ四肢が、"お風呂"に入るだけで治り、あまつさえ高速修復剤などというよくわからない液体を身体にかけただけで1分と経たず元通りになる」
叢雲「正直、自分でも気持ち悪いと思うことがあるわ」
叢雲「かつて私達が人間だったことなんて、もうほとんどの人にとって関係ないの」
叢雲「私達を人と扱わない奴らなんていくらでもいる。実際にそういう扱いを受けてきた娘だってたくさんいるわ」
叢雲「でも、そんな中で……あんたは私達を大切だって言ってくれた」
叢雲「怪我をしたら心配してくれる。悪いことをしたら叱ってくれる。意見が食い違ったら喧嘩してくれる。楽しかったら一緒に笑ってくれる……まるで家族みたいに」
叢雲「そして――」チラッ
夕張「……」
叢雲「……実際に艦娘を一人の女として愛してくれている事実がある」
叢雲「夕張があんたを独占したいのも、榛名があんたに執心するのも……正直わからないでもないわ」
叢雲「でも、この状況をそのままにして良い理由にはならないわ。どうするのか決めなさい」
夕張「……」
提督「……」
―― 榛名の部屋
榛名(逃げ帰ってきてしまった。提督に暴言を吐いて、喚き散らして……)
榛名(榛名はどうすれば良かったのだろう)
榛名(失恋なんて誰もが経験してるはず……なのに、榛名はどうしてそれを消化できないの)
榛名「提督……」
榛名(前はその名を呼ぶだけで、考えるだけでも幸せだったのに)
榛名「っ、う……」ジワ
榛名(溢れ出る気持ちがただただ辛い)
榛名(どうして、なんで)
榛名(榛名は何のために頑張ってきたの……)
榛名「榛名、榛名は……」
金剛「……榛名?」
榛名「お姉様……?」
金剛「どうしたの? 大丈夫?」
榛名「お姉様……」ジワ
榛名「……榛名はもう、大丈夫じゃ、ないです」ポロポロ
金剛「……少しは落ち着いた?」ヨシヨシ
榛名「はい……ごめんなさい」
金剛「構いません。それで……提督と何かあったの?」
榛名「……榛名が一方的に我儘を言ってまた提督を困らせてしまいました」
金剛「やっぱり……諦められない?」
榛名「……難しいです」
金剛「そう、ですか……」
榛名「……最初、提督に榛名の気持ちを打ち明けた時、無理だって言われたんです。夕張さんを裏切れないから、榛名とそうなることは無理だって」
榛名「でも、榛名は諦められなくて……必死で頑張れば、認めてもらえる。褒めてもらえる。もしかしたら榛名のことも受け入れてもらえるって思ったんです」
榛名「だから……榛名頑張ったんです。秘書官の仕事も。戦いだって」
榛名「……でも、提督の隣にはいつも夕張さんがいて」
榛名「……」
金剛「榛名……」
榛名「だから、榛名は諦めようと思って……酷いことも、してしまいましたし……」
榛名「でも……この前、見ちゃったんです」
榛名「榛名に見せたことのない笑顔で」
榛名「榛名にかけたことのない幸せそうな声で」
榛名「榛名に触れた時とは違う優しげな手つきで」
榛名「夕張さんを抱き寄せる提督を……そっと口付けを交わす姿も」
榛名「榛名はそれが本当に辛くて、悔しくて」
榛名「榛名は提督を諦めようとしてたのに、何度もそう言い聞かせていたのに……諦めたくないって思っちゃったんです」
榛名「でも、やっぱり提督には断られてしまって……」
榛名「……」
金剛「……」
金剛「榛名は本当に提督のことが好き、なんですね」
榛名「……提督は本当に優しくしてくれたんです」
榛名「榛名が初めてここに来た時も、その後も」
榛名「本当に……榛名が提督に薬を盛った時も気にしなくていいって、もし秘書官を続けたいなら構わないってそう優しく言ってくれるんです」
榛名「FS作戦で榛名が期待に応えられなかった時も大丈夫、無事でよかったって」
榛名「今回も榛名を家族のように大切だって言ってくれて……」
金剛「うん」
榛名「でも、榛名はそれが何より辛かった」
榛名「だって、榛名は提督のお嫁さんになりたかった」
榛名「夕張さんように隣にいたかった」
榛名「でも、榛名がどんなに頑張ってもあそこにはいけない……ほんの少しの望みすら榛名には残されてない」
榛名「それがわかったら、今まで自分が何のために頑張ってきたのか、どうして戦ってきたのか、何がしたかったのか……わからなくなっちゃったんです」
金剛「……榛名は提督のために戦うって、そう言ってたじゃない」
榛名「違う……違うんです」
榛名「榛名は本当は、提督のために戦っていたわけじゃない」
金剛「え……?」
榛名「全部、自分のためです」
榛名「榛名はただ、提督に褒めて欲しかった」
榛名「認めて欲しかった」
榛名「必要だと言って欲しかった」
榛名「好きに、なって欲しかった……!」
金剛「榛名……」
榛名「戦果をあげれば、提督は褒めてくれる。また榛名を呼んでくれる。だから榛名は戦って、戦って……提督に求められたい自分のために頑張っていただけです」
榛名「榛名は卑怯者です」
榛名「提督にあんな酷いことをしたのに、結局は自分のことばかり考えて……提督に応えて貰えないってわかってしまったら、途端に戦いたくなくなってるんです」
榛名「こんなのこの国を守る軍人として、艦娘として失格です。提督にだって軽蔑されてしまう」
榛名「提督を好きになるまではこんなに辛くなることなんてなかったのに……」
榛名「……榛名が横恋慕したから、恋をしたからいけなかったのでしょうか」
榛名「榛名が提督を好きにならなければ……提督にご迷惑をおかけすることもなかったし、夕張さんとギクシャクすることもなかったし、こんな……辛い気持ちになることもなかった」
榛名「……」
榛名「榛名は、恋をしてはいけなかったのでしょうか……?」
金剛「榛名」
榛名「榛名は――」
金剛「榛名!」
榛名「」ビクッ
金剛「恋をしていはいけないなんて、そんなことありません」
榛名「お姉様……?」
金剛「……たしかに今の榛名の考えは軍人としては間違ってるかもしれません」
金剛「でも、榛名が今戦いたくないって思ってしまうことは何もおかしくない。人としておかしなことは言っていない……私はそう思います」
金剛「普通のサラリーマンだって辛いことがあったら働くのが嫌になります。子供だって学校を休みたくなります。そんなの、皆一緒です。だから榛名、そんなに自分を卑下しないで」
榛名「お姉様……」
金剛「好きな人に褒められたいって、必要だと思われたいって考えることの何がいけないの?」
金剛「そのために頑張ることだって、素敵なことだと私は思います」
金剛「確かに、恋は辛いことも苦しいこともたくさんあります。不安で眠れなくなる時だって、悲しくて泣いてしまう時だってあるでしょう」
金剛「でも、それと同じくらい……ううん、きっとそれ以上にたくさんの幸せを感じたはず」
金剛「秘書官になれた時も」
金剛「料理が美味しいって言ってもらえたときも」
金剛「プレゼントを貰った時も」
金剛「榛名は本当に嬉しそうでした」
榛名「……」
金剛「毎日提督のところに向かうだけで……毎日幸せそうに笑ってましたよ」
榛名「それは……」
金剛「榛名……私は恋をしたことが間違いだなんて言って欲しくない」
金剛「大変だし、辛いこともきっとたくさんある。でも、それでも……恋をしたってことを、それぐらい誰かを好きになったってことを大切にして欲しい。自分が抱いたその気持ちを否定しないで欲しい」
金剛「だって、恋は自分を幸せにするためにするものなんだから」
榛名「お姉様……」
榛名「でも……それなら榛名はどうしたらいいんです?」
榛名「辛い……辛いんです。幸せになんか、なれてない……!」
榛名「こんな気持ちをずっと持ち続けろと言うのですか!?」
金剛「大丈夫。榛名のその気持ちはちゃんと報われると私は思いますよ?」
榛名「そう思ってくれるのは嬉しいです。でも、そんな根拠のないことを言われたって何の慰めにも、解決にもなりません」
金剛「……提督は秘書官を続けてもいいって言ってくれたんでしょう?」
榛名「それが何の関係があるって言うんです?」
金剛「それは、凄いことだよ」
榛名「え……?」
金剛「榛名は正直取り返しのつかないことをしたと思います」
金剛「でも、それを踏まえてですよ。嫌いにならない。ましてや、そばにいてもいいって言ってもらえるなんて……それだけですごいことなんですよ?」
榛名「……そう、でしょうか」
金剛「諦めたくないのでしょう? なら、もう少しだけその気持ちを大切にしてみない?」
榛名「ですが……この気持ちを抱いていたって、榛名はもう……」
金剛「でも……諦めたらどんな想いもそこで終わってしまうから」
榛名「……」
金剛「建前とかじゃない、榛名の正直な気持ちで良いんだよ。諦めるなら、私もそれをサポート……って言ったら少しおかしいかもしれませんが、榛名を支える努力をします」
榛名「……本当は諦めるべきなんだと思います」
金剛「うん」
榛名「でも……でも、提督への気持ちは消えないんです。消えてくれないんです……!」
榛名「榛名は、提督に触れたい、撫でられたい、求められたい!」
榛名「榛名は諦めたくない! この気持ちも消したくないです!」
金剛「……なら、大丈夫。提督もバリちゃんも……私達が思っているよりずっと、榛名のこと大好きみたいですから」ニコッ
榛名「え?」
金剛「ね? バリちゃん」
ドア<ガチャ
夕張「……バレてましたか」
金剛「」ニコ
金剛「じゃあ、私は行きますね。バリちゃん、榛名のことよろしく頼みましたヨー?」
ドア<バタン
榛名「夕張、さん……」
夕張「……少し、お話しましょうか」
――――
――少し前 執務室
叢雲「それで、結局どうするわけ?」
夕張「私は」
提督「俺は」
夕張「……」
提督「……」
夕張「提督はどうしたいんですか?」
提督「……今まで言ってきたことに嘘偽りはないよ」
提督「俺は、お前が嫌がることはしたくない」
提督「けど――」
夕張「このまま榛名さんを放っておくのも嫌、ですか?」
提督「う、すまない……」
夕張「……欲張りですね。提督は」
夕張「私が嫌だと言ったらどうするんです?」
夕張「榛名さんを放っておくことができるんですか?」
提督「……お前が嫌だと言うならそうする」
夕張「嘘ですね」
夕張「今の榛名さんをそのまま放っておけるほど、提督は割りきり上手じゃないです」
提督「そんなことは……」
叢雲「ない、とは言い切れないんじゃない。今のあんたを見てるとさ」
提督「……そう、だな」
提督「……」
提督「結局俺は、夕張に良い顔をしたくて、でも悲しそうにしている榛名を見るのも辛くて……」
提督「そうやって、自分の気持ちが楽になるように動いていたのかもしれないな……」
夕張「提督……」
提督「……今まで散々綺麗事を言って、お前を悩ませて、榛名を傷付けてきたと思う」
夕張「それは……仕方ない、です」
夕張「結局私たちは自分のために生きてると思うんです」
夕張「私が提督を独り占めしたいのも、榛名さんが薬を使ってまで提督と触れ合おうとしたのも……自分のことを第一に考えていたから」
夕張「だから提督のその気持ちを咎めるつもりはありません」
夕張「でも……悲しそうな榛名さんを見たくない、というのが本心であるなら、"これからどうするのか"をちゃんと決めてほしいです」
夕張「提督が私だけを見てくれようと努力してくれるのは嬉しいですけど……今はどうすべきか、じゃなくてどうしたいかを教えてください」
提督「……どうしたいか、か」
提督「……」
夕張「……」
提督「俺は夕張を幸せにしたいと思ってる」
提督「……だが同時に榛名にも幸せであって欲しい」
夕張「つまり、そういうことだって受け取っていいんですね」
夕張「……本当に欲張り。私が一番って言ってくれてるのに、結局提督は榛名さんを切ることはできないんですね」
提督「……すまない。だが――」
夕張「ここに来て撤回はなしですよ」
提督「っ」
夕張「別に怒ってるわけじゃありません。でも、はっきり言葉にして欲しいことはありますよ?」
提督「……」
夕張「提督、榛名さんを抱いてください」
夕張「そして、私達をまとめて幸せにしてください」
提督「夕張……」
夕張「夕張も榛名も俺が幸せにする、と言ってください」
夕張「榛名さんにも幸せになって欲しい、じゃなくて俺が幸せにすると言ってください」
叢雲「……本当にいいの?」
提督「え?」
叢雲「こいつが榛名を抱いても」
夕張「うん……たとえそうなったとしても、結局私が提督を好きなことはきっと変わらないと思うから」
叢雲「……わかってると思うけど、それは」
夕張「うん。公に重婚を認めることになるって」
夕張「榛名さんだけを特別扱いはできないもんね……」
夕張「でも、"それ"を認めるのはここの人たちだけですよ? 外に女を作ろうものなら……」
提督「……そんな予定もアテもないが」
夕張「ならいいですけど。もし"そう"なる気があるなら、提督が私たちを皆まとめて幸せにするってちゃんと約束してください」
夕張「複数の女性を囲うって言うんですから、それぐらいの覚悟は決めてもらわないと困ります」
提督「……お前はそれでいいのか?」
夕張「それを聞くのは卑怯ですよ」
提督「っ、すまない……」
夕張「……結局のところ、このまま榛名さんがすり減っていくのを見るのが私も辛いみたいです。こんなこと言ったら、同情なんてしないでって怒られそうですけど……」
叢雲「……ホント、どうかしてるわ。あんた榛名のこと好きすぎじゃない?」
夕張「あはは……でも、きっとこれで良いんです。皆で一緒に幸せになれるなら……きっと、その方が良いと思うから」
提督「夕張……」
夕張「でも……私が一番じゃないと嫌ですからね」
提督「……わかった。俺も腹を括るよ」
夕張「ええ」
提督「……」
夕張「提督?」ジトッ
提督「……夕張も榛名も俺が幸せにする。約束だ」
――――
―― 榛名の部屋
榛名「……」
夕張「……」
榛名「……どうして、こんなことになってしまったのでしょうね」
榛名「榛名が我慢できなかったから、それとも榛名が提督に恋をしてしまったからでしょうか?」
夕張「そんなことは……」
榛名「……最初は側にいられるだけで良かったんです。本当ですよ?」
榛名「そうしている間にいつか、ほんの少しでも榛名の方を見てくれれば……そんな希望があるだけで良かったんです」
榛名「……でも、どうしてでしょう」
榛名「側にいるのが当たり前になったら、もっともっとって。榛名、どんどん我慢できなくなってしまって」
榛名「それで――」
夕張「榛名さん……」
榛名「……」ジロリ
榛名「……どうして」
榛名「どうして、提督の隣にいるのが榛名じゃなかったのでしょうか……榛名だって、きっと提督を支えられたのに」
夕張「……」
榛名「どうして夕張さんなのですか? ずっと提督の笑顔を独り占めして、愛されて……なんで、戦艦の榛名ではなく、軽巡の夕張さんがっ……!」
夕張「それは……」
榛名「ごめんなさい。榛名酷いこと言ってますよね。でも……でも、それでも! 榛名はそう思わずにはいられないです!」
榛名「だって! 榛名は提督に拒絶されたのに、こんなに好きなのに! なのに夕張さんは……どうして夕張さんは愛して貰えるの!? 榛名と夕張さんで何が違うの!?」
夕張「……」
榛名「……榛名は夕張さんが妬ましい」
夕張「榛名さんだって、提督に愛されてますよ」
榛名「……は?」
榛名「どうしてそんなこと言うんですか……?」
榛名「どうして? 夕張さん、榛名が提督に拒絶されたの知ってますよね」
榛名「なのに、どうして? そうやって、榛名を馬鹿にするのですか。そのためにここに来たのですか!?」
夕張「違います。私は――」
榛名「いいです!」
夕張「っ」
榛名「慰めなんていらないです! 特に夕張さん、あなたからは……!」
夕張「榛名、さん……」
榛名「……ごめんなさい。もう出ていってください。大好きだったはずの夕張さんに……これ以上酷いことを言いたくない」
夕張「悪態ぐらいいくらついてくれても構いません。でも、少し私の話も聞いてください」
榛名「嫌です! もう榛名に構わないでください!」
夕張「大丈夫です。嫌なことではないはずですから!」
榛名「なんなんですか!? これ以上榛名に惨めな思いをさせないでください!」
夕張「そんなつもりはありません! ただ、提督と――」
榛名「嫌です!」
夕張「話を聞いてください!」
榛名「提督となんだっていうんです!? 今更提督に会えるわけないじゃないですか! どんな顔をして会えって言うんです!? それともなんですか、夕張さんが榛名と提督の仲を取り持ってくれるとでも言うんですか!?」
夕張「そうですよ!」
榛名「だったらもう榛名に――え?」
夕張「提督との関係を認めるって言ったんです!」
榛名「な、何を言って……?」
夕張「はぁ……少しは落ち着きました?」
榛名「……ほ、本当に認めてくれるんですか?」
夕張「私が身を引くってことじゃないですよ。2人まとめて愛してもらうってことです」
榛名「でも、それは……」
夕張「安心してください。提督も了承してます」
榛名「……」
夕張「……本当は私だって不本意ではあるんですからね」
榛名「なら、どうして……」
夕張「……」
夕張「榛名さんは、この鎮守府の主力艦隊の要です」
夕張「金剛さんでも長門さんでも大和さんでも赤城さんでもなく、あなたが精神的支柱なんです。わかりますか?」
榛名「そんな、榛名なんて……」
夕張「いいえ。皆認めているんですよ。それこそ大和さんも赤城さんも長門さんも……海外から派遣されてきたビスマルクさんですら、ここの"エース"が榛名さんだってこと」
榛名「……」
夕張「もちろん、提督もです」
榛名「提督も……」
夕張「あなたがそんな調子では、艦隊の運営に支障が出ます」
榛名「だから……」
夕張「……と、言うのが発表する建前です」
榛名「え?」
夕張「本当のところは結局……私も提督も榛名さんのことが大好きってことですよ」
榛名「夕張さん……」
夕張「私たちは艦娘です。いつ死ぬかわかりません」
夕張「もちろん簡単に死ぬつもりはありませんが……私達の仕事は戦争ですから」
夕張「砲弾、魚雷、爆撃……いつ私達がその餌食になるかわからない。戦場に出たら、私たちはいつだって死と隣り合わせです」
夕張「だからこそ、得られる幸せは精一杯噛み締めなきゃいけない。それは榛名さんだって同じなんです」
榛名「でも……本当に良いんですか?」
夕張「……本当は私、ずっと迷ってたんです。重婚についてどうするべきか」
夕張「薬の件の後、榛名さんが身を引いてから、提督を独り占めできて……最初はこれでいいかなっても思ったんです」
榛名「はい……」
夕張「……でも、時折見せる榛名さんの悲しそうな表情気付いてました。見て見ぬ振りをしてたんです」
夕張「さっき、榛名さん自分が卑怯だって金剛さんに言ってましたよね。私も同じです」
夕張「口では榛名さんを家族だ大切だって言いながら……私はやっぱり提督を独り占めしたかった」
榛名「そんな……それは当然の権利です。だって、夕張さんも提督もお互い愛しあってます。榛名とは立場が違います」
夕張「……私、思ったんです。やっぱりみんな幸せになるべきだって」
夕張「私達こんなに頑張って、命がけで戦ってるのに……望みが叶わないなんてあんまりだと思いません?」
夕張「そりゃ、全部叶えるなんて無理だと思います。でも、叶えられる望みなら叶えないと……私が少し我慢することで、榛名さんの望みが叶うなら、幸せになれるなら……」
夕張「きっと今まで難しく考えてたんです。私が感じているこの幸せを皆で共有できるなら……きっと、その方が良いんです」
榛名「夕張さん……」
夕張「……とは言え、同じ人のそばにいたいと思ったら、お互い迷惑かかっちゃうと思います。気にしないとは言えませんが……今はこれでいいと思うんです」
夕張「限度とか、色々問題は出てくるかもしれませんけど、とりあえず今は……ね」
榛名「……ありがとう、ございます」
夕張「」ニコッ
夕張「一緒に、幸せにしてもらいましょうね?」
夕張「でも、正妻の座は譲りませんから!」
榛名「……はい」
夕張「それじゃ、行きましょうか」
榛名「行くって……」
夕張「もちろん、提督のところへですよ?」
榛名「ふぇっ、い、今からですか?」
夕張「ええ。全は急げと言いますし……」
夕張「……」
榛名「で、でも……その」
夕張「……私達はこれから」
夕張「3Pをします」
――提督の部屋
夕張「――と、言うわけで連れてきました」
提督「……夕張」
提督「本当に、いいんだな」
夕張「……くどいですよ。提督」
提督(夕張は溜め息をつきながら近づいてくると、俺の首に腕を回した。そのままそっと唇を重ねてくる)
夕張「ん……」
提督「……夕張」
夕張「私が一番じゃないと嫌ですからね。たとえ榛名さんがいても、提督の初めての奥さんは私なんですから」
提督「ああ。わかってる」
榛名「……」
夕張「ほら、榛名さんも来てください」
榛名「夕張さん……でも」
夕張「もちろん、嫌ならいいんですよ?」
榛名「っ、嫌……なんてことはないです。たとえ2番目でも提督に愛して頂けるなら、榛名は……」
提督「……榛名」
夕張「なら……私はしばらく席を外しますね」
榛名「え……?」
提督「は?」
夕張「初めてが3Pなんて、嫌でしょうし……いろいろ積もる話もあるでしょうから」
榛名「夕張さん……」
夕張「頃合いを見て戻ってきますから、その時は私も混ぜてくださいね」
ドア<バタン
提督「……」
榛名「……」
榛名「あの」
提督「その」
提督「……」
榛名「……榛名は提督に謝らなければなりません」
提督「……」
榛名「さっきのことも、これからのことも」
榛名「きっと本当に辛い選択をさせてしまったのだと思います。申し訳ありません」
提督「……俺の方こそ、何も考えず榛名に無神経なことを言ってしまっていたと思う。すまなかった」
榛名「とんでもないです! 提督の優しい言葉……榛名は嬉しかったんです」
提督「榛名……」
榛名「でも……それと同じぐらい辛かったのも事実です。榛名が提督と結ばれることはないと思っていたから」
提督「……」
榛名「……提督」
榛名「無理なら無理と言ってくださっても大丈夫です」
榛名「こうして榛名を愛そうとしてくれた……お二人の気持ちだけでも、榛名は嬉しいです」
提督「いや……夕張と決めたんだ」
提督「榛名、お前が望むなら……俺もお前を愛してみる」
榛名「提督……」
提督「卑怯な言い方ですまない。だが、やはり俺にとっての一番は夕張だ」
提督「榛名のことを一番に愛することはできないと思う……これまでも、そういう対象として見ないよう努力してきたつもりだ」
榛名「……はい」
提督「でも、それでも、だ。榛名がその……俺とそうなることを望むって言うなら……俺のことを愛してくれると言うなのなら」
提督「俺もその気持ちに応えよう。精一杯榛名のことを愛すると約束する。夕張だけじゃない。榛名、お前も……俺がちゃんと幸せにしてみせる」
榛名「はい……はいっ」ジワ
榛名「ありがとうございます……十分です。提督に愛して貰えるなら、榛名は一番じゃなくても大丈夫です」ポロポロ
榛名「榛名は提督を愛しています。好きです。提督じゃなきゃ、嫌なんです」
提督「……ありがとう、榛名」ギュッ
榛名「あ……」
提督「俺も榛名のことを好きになる」
榛名「う……あ……嬉しい、嬉しいです」ギュッ
榛名「榛名、榛名は……」ポロポロ
提督「すまなかった。今まで」
榛名「う、うぅ……あっ、ああぁぁぁ」ギュー
提督「……」ナデナデ
――――
――
榛名「……申し訳ありません」
提督「いいよ。俺の胸ぐらい、いくらでも貸すさ」
榛名「ありがとう、ございます……」
榛名「……」
榛名「榛名……もう一つ提督に謝らなければならないことがあります」
提督「うん?」
榛名「……提督に頂いた髪留めを無くしてしまったんです」
提督「あの戦闘でか?」
榛名「はい……」
提督「……そんな辛そうな顔をするな」
提督「さっきも言っただろう。榛名が無事だったことが嬉しい、と。髪留めはまた買えばいい」
榛名「……ありがとうございます、提督」
榛名「……」
榛名「提督……」
提督(榛名が潤んだ瞳で見つめてくる)
榛名「その……榛名を、抱いてください」
提督「榛名……」
彼女は頬を染め、恥ずかしそうに俯きながら俺にしなだれかかってきた。
頭半分ほど身長が低い彼女は俺の首筋に顔を埋め、ゆっくりと深呼吸すると意を決したように顔をあげる。
榛名「……榛名、わかったんです」
提督「え?」
さらさらの前髪から覗く大きな瞳はしっとりと潤み、少し上目遣いで覗きこんでくる仕草はまるで機嫌を伺いながら擦り寄ってくる犬のようにも見えた。
榛名「榛名は提督を榛名のものにしたいんじゃないんです」
彼女の瞳に吸い込まれたようにそこから視線を外せずにいると、彼女はますます身体を密着させ、柔らかな腰や胸をゆっくりと擦りつけてきた。
榛名「……榛名が、提督のものになりたいんです」
提督「」ゴクッ
薄い桃色の瑞々しい唇。柔らかく甘い匂いのする肌。
押し付けられた豊満な胸から伝わる蕩けてしまいそうなほど魅惑的な感触。
情欲を沸き立たせるには十分過ぎるほどの身体が目の前に差し出されていた。
榛名「提督……どうか榛名の身体に触れてください」
榛名「唇も胸もお尻も脚も好きなところを提督の手で……」
榛名「私の身体の全ては提督のものです」
提督「提督の印をたくさんつけてください」
榛名「提督の匂いをたくさんつけてください」
榛名「他の誰でもない。提督が、あなたが好きって……あなただけなんだって、身体にも言わせてください」
榛名は顔を紅潮させながらそう口にした。
理性がとろとろと溶けて崩れていくようだった。
提督「……榛名」
彼女の肩に手を置くと、彼女は目を閉じ唇を差し出した。
そっと顔を寄せながら、頭を色々な重いが駆け巡るがそれをぐっと押し込める。
夕張にあれだけのことを言わせて、榛名にこれだけ思われて、愛の言葉まで囁き、幸せにする約束までしたのに今更後に引くことができようか。
彼女達を愛すると、幸せにすると決めたのだ。
榛名「ん……」
唇に柔らかな感触が伝わる。少し湿った、柔らかい唇の感触。
榛名「……あ。はぁ……幸せです。提督、もう一度して頂けますか……?」
提督「ああ」
榛名「ん……んん、ちゅ……」
彼女を強く抱きしめてこちらから唇を重ねる。
彼女の蕩けた瞳が、背中に回された手が興奮をかきたてた。
今まで押し込んでいた欲望が、堪えていた情欲が溢れだして止まらなかった。
もう今更止まることは無理だ。
榛名「んんっ! んっ……あ……」
唇を割り、舌を侵入させると榛名の身体がビクンと跳ねた。
が、特に拒む事無く舌を受けれてくれる。
提督「榛名……」
榛名「提督、んむっ」
彼女は歓喜の声を漏らしながら、こちらの舌の動きに合わせて舌を絡ませ、身をよじらせた。
舌を離そうとすると、彼女から舌を絡めてくる。
唇を重ねたまま榛名と部屋の一番奥の布団に移動し、そのまま押し倒していた。
提督「ん……榛名」
榛名「提督……」
お互い荒い呼吸を繰り返しながら見つめ合う
提督「すまない。あれだけ偉そうなことを言っておきながら……」
榛名「いいえ。嬉しいです。榛名で興奮してくれたんですよね?」
榛名「この日のことをずっと待ってたんです。提督に求めて頂ける日をずっと、ずっと……」
提督「榛名……」
瞳を潤ませながら噛み締めるようにそう言う彼女がどうしようもなく愛おしく感じて俺はもう一度彼女に優しく口付けた。
――――
――
――――
―― 翌日
提督(朝食を食べに食堂に入ると、視線が一気に集まるのを感じた)
榛名「♪」スリスリ
夕張「……」ギュッ
提督(原因は間違いなくこの2人……に抱きつかれている俺だろう)
提督(食堂内がざわつくのがわかる)
叢雲「……ちょっと、入り口で立ち止まらないでくれる」
提督「ん、ああ……すまん」
叢雲「……」チラッ
叢雲「」フン
叢雲「」スタスタ
提督「……」
青葉「て、ててて提督!」バタバタ
青葉「これは……何事ですか? どういうことですか? 説明してください!!」
提督「これは――」
榛名「そういうことですよ」フフン
青葉「そういう……そういうこと!? それはつまり、SEXしたってことですか!?」
提督「声が大きいよ!」
榛名「ええ。昨夜はたくさん……しるしつけてもらいました」テレッ
夕張「ふぅぅぅん」
提督「いや、あの……途中からお前も混ざったよね?」
青葉「だ、だだだ大事件じゃないですか!」
青葉「夕張さん公認ってことですか!? 重婚を認めるということですか!? 今後他の人が提督と関係を持つ可能性もあるということですか!?」
夕張「ちょっと、あまりいっぺんに質問しないでください」
青葉「く、詳しくお願いします!」
夕張「……わかりました。提督、席取っといてください。少し説明してきますから」
提督「ああ。わかった」
パタパタ
提督「……慌ただしいな」
榛名「仕方ありません。それだけ皆びっくりしているんです」
提督「そうか……」
提督「……」チラリ
榛名「?」ニコッ
提督「う……その、榛名。少し離れて」
榛名「こうして寄り添うのはダメ、ですか……?」
提督「駄目、ではないが……今は周りの目もあるし」
榛名「いえ、榛名は大丈夫です!」
提督「や、俺が恥ずかしいと言うか……」
榛名「ですが、榛名ももう提督のお嫁さんなんですから、もっともっとこうやってイチャイチャしたいです」
提督「……」ムゥ
提督「その、正直に言うとまだ少し戸惑ってる」
提督「昨日も言ったかもしれないが……今までは、そう見ないようにしてたんだ」
提督「美人だと思っていたし、意識したことがないわけじゃない。でも、俺には夕張がいるし……あくまでも提督として接しようと努めてきた」
提督「だから、急にこう距離が縮まると、頭が追いつかないというか」
提督「どうしたらいいかわからない。情けない話だけど」
提督(そう言う俺に榛名は優しく微笑むと、さらに身を寄せてきた)
榛名「だったら、尚更たくさんイチャイチャしましょう」
提督(ふわりと彼女の甘い香りが舞う)
榛名「戸惑いがなくなるぐらい慣れれば良いんです」
榛名「ですから、こうして……」
ギュッ
榛名「たくさん、練習しましょうね」
おわり
439 : ◆0EJWPPUT0k - 2016/04/15 01:08:32.69 5DiXcpvXo 298/299本当に長い間、ありがとうございました
恋愛経験の乏しい自分にはこういう話は少し難しかったようです
次はもう少し緩い話を書けたらなって思います
441 : ◆0EJWPPUT0k - 2016/04/15 01:27:10.59 5DiXcpvXo 299/299
祥鳳「夜伽にきました」
或いは
叢雲「秘書艦と初期艦」
的な話をぼんやり妄想してるので、その時はどうかよろしくお願いします

