1 : 以下、名... - 2016/04/11 18:14:11.71 SziaXQKR0 1/7

「……やっちゃったなぁ」

(今日は午後が開いたからって、昼寝をするんじゃなかった)

(特にやる事もないし……どうしよう)

(……うん、どうせしばらくは眠れないんだ)

(よし)

「散歩にでも行こうかな」

元スレ
男「とある平日、春の夜に」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1460366051/

2 : 以下、名... - 2016/04/11 18:26:21.06 SziaXQKR0 2/7

(もうすっかり春だなぁ)テクテク

(冬が終わって、緩やかに包み込んでくる、春の夜の空気だ)

(そう言えば、夜に散歩するなんて初めてだな)

(お、駐車場に猫が)

「……おお、もう一匹」

(なんだなんだ? 次々と遭遇するじゃないか)

(夜は猫の時間って訳か……目が光ってて怖い)

(……そう言えば、こんなに静かな道も珍しいな)

(僕の足音だけが響く、真っ暗な世界)

(まるで僕だけがそこに存在しているようだ)

グウゥウウゥ……

「……」

(……とりあえず、何か食べたい)

3 : 以下、名... - 2016/04/11 18:48:09.24 SziaXQKR0 3/7

アリガトウゴザイマシターッ

(さて、どこで食べようかな)

(……お、丁度良い公園がある。ベンチに座らせてもらおう)

(通報されたら困るけど)ヨイショッ

「いただきます」パン

「うまっ……焼き鳥うまっ……」

(ふう、おでんも美味しい……ちくわがあって良かった)

(身体の芯に沁みるねえ)

「へえ、ドーナツも思ったよりちゃんとしてる」モサモサ

(最近のコンビニは、こんなものも置いてるんだなぁ)

(……あれは北斗七星? よくわかんないけど)

(……昔は、友人達と夏の夜、旅行先で星空を眺めたりしたなぁ)

(彼らは今、どうしているんだろう)

(……また会いたいな)

「……ごちそうさま。さて、行くか」スッ

4 : 以下、名... - 2016/04/11 19:08:25.67 SziaXQKR0 4/7

たん たん たん たん

(春の朧月がほのかに照らす夜、一人僕の足が奏でる音)

(辺りには誰も居ないけれど、それが何だか妙に居心地が良い)

(「他者」に介入されない、僕の夜)

(たまには、そんな夜があっても良いんじゃないか)

(ああ、でも桜がもう散りそうだな)

(緑が大分混ざってきてる。葉桜に世代交代はもうすぐだろうな)

「……ん」

(普通に通り過ぎる所だった。こんな所に……!?)

「――おぉ……」

(それは小さな公園だった)

(遊具はブランコと埋まったタイヤだけ、後は小さなベンチが一つ)

(しかし、そこには見事な桜が咲き誇っていた)

「夜桜、か……」

(ぼろぼろの灯りが、その夜桜をより幻想的なものにしていて)

「……良いなぁ」

(きっと、この公園はあまり使われていないだろう)

(今じゃなければ、誰にも見向きもされないかもしれない)

(その「今」に巡り合えた事に感謝しなくては)

(さて、そろそろ出ようかな)

「バイバイ、また来るよ」

5 : 以下、名... - 2016/04/13 22:35:58.06 rBGFuxEt0 5/7

(静かだなぁ)テクテク

(……お、木に植物の蔓がびっしり絡まってる。すごい生命力だなぁ)

(ッ……ああ、この音は猫除けの機械か。この超音波みたいなの)キーッキーッ

(ん、あれは?)

(あ……池だ)

「おお、これは良い……」

(静かな池に、ぷかりと浮かぶ大きな満月)

(水面に映る風景というのは、どうしてこんなにも心に響くのだろう)

(今この緩やかな月を見れているのは、僕だけだ。何だか申し訳ない)

「……静かだなあ……落ち着く……」

(良い所を見つけてしまった。また暇な時は来てみよう)

「……満足だ。さて、次はあっちへ行こうかな」

6 : 以下、名... - 2016/04/13 22:40:46.45 rBGFuxEt0 6/7

たん たん たん たん

(散歩は好きだ)

(普段は見えない部分が、のんびりと歩いていると突如見えてくる)

(僕らが忙しさに追われ、見えていない部分。それが浮き彫りになるから不思議なものだ)

(それが夜だと、一層景色が違って見える)

(いつからだろう? 夜が平気になったのは)

(子供の頃は、真っ暗な景色が、ひどく怖かった)

(見知った道でさえ、未知の世界のように感じていた)

(友人と行った知らない場所。夕方になり、陽が暮れかけるだけで、不安に心を掻き毟られていた)

(家にたどり着き、家族の顔を見るだけで、ほっとしたものだ)

(あの時から、どれだけの時が経ったんだろう)

(勿体ないな、あの学生時代。やる気が起きなくて、ただぼんやりと日々を過ごしていた)

(何をするにも自由だったあの時代。あの時に、何か大切な事を忘れてきてしまった気がする)

(子供から大人になるその隙間。僕らは、その隙間に何かを置いてきてしまうのではないか)

(……だけど、きっと、それでいいんだろう)

(そうして失ったものを、僕らは時折懐かしむ)

(それが出来ているうちは、僕らの心には余裕があるはずだ)

「……さて、そろそろ戻るか」

(静かな世界。春の夜の暖かさに包まれながら、僕は一人、歩き出した)

7 : 以下、名... - 2016/04/13 22:43:20.80 rBGFuxEt0 7/7

相変わらず短いですが、終わりです。ありがとうございました。

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