オタク「だ、だだ誰ですかあなたは!?」
死神「私か? 私は死神だ」
オタク「そ、そんなこと信じられないですよ……」
死神「それじゃこれでどうだ?」
オタク(こ、これはァ!? 掴まれていないのに……首が絞められる感覚ッ!!)
オタク「ング……!!」
死神「これで信じたか?」
オタク「ゲホッ……!! 解放された!?」
死神「さて――さっきの願い、叶えてやってもいいぞ?」
元スレ
オタク「こんな世界……なくなってしまえ!」死神女「その願い、叶えてやろうか?」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1456772408/
オタク「ね、願いって……」
死神「先程言っていたではないか。こんな世界はなくなってしまえ――と」
オタク「そ、それは……」
死神「現実世界では『気持ち悪い』などと罵られ」
オタク「――!?」
死神「インターネットという仮想世界で罵詈雑言、誹謗中傷を他人へ浴びせることによって、現実世界の不満を解消している」
死神「そんな日々を送っているようだな」
オタク「ど、どうしてそれを……!?」
死神「私はなんでもお見通しだ。死神だから」
オタク「そ、そんな……」
死神「それで――どうする!?」
オタク「――!!」
死神「貴様を馬鹿にしている人間を消すことだってできる」
オタク「け、消すのはさすがに……」
死神「それじゃそいつが他人から嫌われるように呪いをかけてやってもいいぞ?」
オタク「それは……」
オタク「ま、まぁ……それくらいなら」
オタク(主犯格のあいつさえいなくなれば、俺は……)
死神「そうか。分かった」
死神「だが――願いを叶える代わりに、私の願いも聞いてもらうぞ?」
オタク「え……!?」
死神「貴様、名を何という?」
オタク「お、オタクですけど……」
死神「分かった」
死神「オタク――私と契約を交わせ」
オタク「け、契約!?」
死神「そうだ。願いを叶える代わりにな」
オタク「それは、なんで……」
死神「仕方ない。話すしかないか」
死神「現在私たち死神は戦争中なんだ」
オタク「戦争?」
死神「死神同士戦っている。バトルロイヤルだ」
オタク「それはなぜ……?」
死神「生き残った最後の一人のみが死神の王となることができる」
死神「王になれば好き勝手、自由にできるのだ」
死神「私はそんな、王を決める闘いに参加した」
オタク「それじゃ、なぜ俺と契約を?」
死神「闘いの会場はここ、人間界となった」
死神「人間界では使える能力や力が制限されるようになっている。通常の力は使えない」
死神「だから契約が必要だ」
死神「人間の負の力を吸収し、それを己の力へ変える」
オタク「負の力……」
死神「そう、お前が持っているような負の感情――それが私の力となるのだ」
死神「だから私と契約しろ」
オタク「ちょ……!!」
オタク(なぜ顔を近づけてくるんだ!?)
オタク「ま、待って下さいよ!!」
死神「どうした?」
オタク「そ、それって……契約したら俺も闘いに巻き込まれるってことじゃないですか!」
死神「そういうことになるな」
オタク「おかしいでしょ!!」
死神「なぜだ? お前の願いを何でも叶えてやるんだから当たり前だろう」
死神「ちなみに願いは後払いだがな――王になることができれば何でも願いを叶えてやれる力が手に入る」
死神「だから今はその力は持っていない」
オタク「だったら尚更無理ですよ!!」
死神「どうしてだ? 私が見たところ、お前は強大な負の力を秘めているようだ」
オタク「……!?」
死神「憎悪、嫉妬、呪い――個人が個人へ向ける感情」
死神「しかし、お前は個人を通り越して最早世界を呪っている」
死神「その感情は私にとって最高の武器、力となるのだ」
死神「だから私はお前に目を付けた。お前と組めば私は勝ち残れる」
死神「――というわけだ」
死神「お前は自分の願いを叶えることができる。私も王となり同じく何でも好きにできる」
死神「だから、契約しろ」
死神「お前しかいない」
死神「ちなみに契約できる人間は一人だけ。一度契約を交わしたら変更や解消は不可……だ」
死神「さあ……!!」
オタク「ちょ、ちょっと!!」
オタク(このままじゃ闘いに巻き込まれてしまう――どうすれば!?)
オタク(待てよ……。何でも願いを叶えるとは言っていたが)
オタク(この死神女自身が嫌がる願いなら……諦めてくれるかもしれない!!)
オタク(この人が嫌がるような願い……)
オタク(わ、分かったぞ……!!)
オタク(自分で言うのはなんとも虚しくなるが――俺はこの上なくキモい!!)
オタク(顔はもちろんのこと、スタイルや性格、趣味、全てにおいてプラスな面は一つもないッ!)
オタク(そんな俺がこの女へ――エッチしろなどと言った暁にはどうなるか!!)
オタク(俺は自分のキモさを利用するぜ!! さすがに諦めてくれるだろう!!)
死神「さあ、契約――」
オタク「分かりました。その代わり、俺の願いは……」
死神「ほうほう、何でも叶えてやるぞ?」
オタク「あなたとエッチさせてください‼!」
死神「……ッ!!」
死神「エッチ……だと!?」
オタク「はい!!」
オタク(どうだ! これで諦めてもらえるだろう!)
死神「……」
死神「分かった」
オタク「――は?」
死神「お安い御用だ――それじゃ契約成立だな」
オタク「ちょ……!!」
オタク「むぐ――」
オタク(き、キスをしただとおおおおおおおお!?)
死神「これで契約は完了した」
死神「どうした?」
死神「ほう、お前……。もしかしてこれがファーストキスだったか?」
死神「童貞坊や、良かったな。初めてが私で」
死神「私が王になったら好きなだけエッチさせてやるからな」
オタク「――ッ」
オタク「そ、そんな……。馬鹿な……」
死神「まあ、動揺するのも無理はないか」
オタク「契約方法がキス……だと……!?」
オタク「もし死神が男だったらどうなって――」
死神「さて、それじゃ私はお前のもとにいさせてもらうぞ?」
オタク「は?」
死神「力を供給させてもらわなければいけないからな」
死神「近くにいた方が効率がいい」
死神「そのうち向こうから勝負をしかけてくるだろう」
死神「お前と組めた時点で勝利は確定だ」
死神「向こうから出てくるのを持っていればいいだろう」
オタク「か、勝手に話が進んでいる……」
オタク「どうしてこうなった」
カーチャン「ちょっとオタクうるさいよアンタ!!」
オタク「や、やば……! か、隠れて下さい」
死神「……」
オタク「押入れへ隠れて!! こっちです!!」
死神「……」
オタク「ちょっと!!」
カーチャン「だからうるさい言ってるでしょ!! 何時だと思ってるの!!」
オタク(やば――見つかった!!)
死神「……」
オタク「こ、これはそのあの実は彼女がふじこjぁxhjまかmjf@い」
カーチャン「何言ってるの? あんた一人で騒いでないで早く寝なさいよ」
カーチャン「いい加減にしないと明日の朝飯と昼飯と晩飯抜きにするからね。じゃ――」
オタク「――ッ!?」
死神「安心しろ。お前以外からは見えないように力を使っている」
オタク「そ、それを早く……言ってくれれば……」
死神「だが、この力もずっと使えるわけではないからな」
オタク「え?」
死神「力を使えば当然消費する。消費された分を補うにはお前の負の力『ダークサイド』が必要だ」
死神「だから、最善な状態を保つためにも」
死神「お前は随時、何かを呪い続けろ」
オタク「そ、そんな無茶な」
死神「お前の呪い、不満、嫉妬、憎悪……そういった負の力が私を強くするのだ」
死神「じゃ、私は寝るから――明日から頑張るぞ、オー」
オタク「軽ッ!? 圧倒的軽量ッ!?」
オタク(押し入れで眠っちまった……。○ラえもんかよ……)
オタク(死神、名を死神女)
オタク(死神同士のバトルロイヤル……)
オタク(人間界では力が制限される。そして――)
オタク(戦闘をしなくても、何もしなくても力、生命力はどんどんなくなっていくみたいだ)
オタク(だから死神は人間と契約し、負の感情を吸収し己の力や生命力へ変換することで生きながらえることができるらしい……)
オタク(だから負の力を多く持っている人間を選ぶ必要がある……)
オタク(それが俺だったわけか)
オタク(夢じゃ……ないんだよな……)
オタク(負けたら、俺は死ぬのかな?)
オタク(いや、死神女は『勝負に負けて消えるのは私だけだ』と言っていたし)
オタク(だけど――怖いなぁ)
オタク(俺……どうなってしまうんだろう)
オタク(夢や幻であることを信じ……もう寝るとしよう)
オタク「ふぁ……むにゃ……ドルカツ二期はよぉ……」
死神女「おい、朝だぞ」
オタク「むにゃ……もうちょっとぉ……」
死神女「おい」
オタク「あと五分――」ムニュ
オタク(ムニュ!?)
オタク「――あっ」モミッ
死神「起きろ、童貞」
オタク「……ッ!?」
オタク「夢じゃ……なかった……」
カーチャン「何やってんの!! 学校に遅れるよ!!」
死神「ほら、彼女もそう言ってるぞ」
オタク「か、隠れて!」
カーチャン「あんた昨日から何か変だよ!? 病院へ――」
オタク「いや、大丈夫問題ない!!」
死神「思い出したか。私は今、お前以外からは『見えない』、『聞こえない』ように力を使っている」
オタク(そうだった……俺は……)
オタク「学校、行くか……」
オタク「あの、何でついて来るんですか……?」
死神女「だから、近くにいないと力をもらえないだろう?」
オタク「なんか監視されてるみたいで安心できませんよ……」
死神女「安心しろ。ちゃんとトイレとかそういう時は席を外すから」
オタク「当たり前でしょ!?」
生徒「ねぇ……あの人……」
生徒「関わっちゃだめよ……」
オタク(そうだった……。他の人間から死神女が『見えない』、『聞こえない』ように力を使っているんだった)
死神女「そういえば、早く私に力をくれ。このままじゃ衰弱してしまうだろう?」
オタク「そんなこと言われたって……」
チャラ男「ウェーイ、オタクくぅん!!」ドン
オタク「痛ッ――!」
チャラ男「今日も負のオーラ放ってるねぇ!」
チャラ男「陰キャがいると教室が暗くなっちまうんだよなー」
生徒「アハハ……!!」
オタク「ご、ごめん……」
オタク(クソ……!! チャラ男のやつめ!!)
オタク(あいつと同じクラスになったことが運の尽きだ……)
オタク(あいつさえいなければ……。俺は静かな学校生活を送れるのに)
オタク(どいつもこいつも……。俺をあざ笑いやがって)
オタク(傍観者になりやがって!)
オタク(自分たちは関係ないような顔して、幸せそうな生活を送りやがって……!!)
オタク(こんな世界なんて、人間なんて死んじまえ!!)
死神女「いいぞー、ダークサイドを感じるッ!!」バアアアアアアアアン!!
オタク(何やってるんすかあなた……)
死神女「凄い力だ……。いいぞ、もっと私に力をくれ」
オタク(はあ、くれぐれも暴走しないで下さいよ?)
死神女「おっと、先生とやらが来たようだぞ?」
オタク(人間界のことをよく知っていますね……)
死神女「退屈だなー、誰かにいたずらしてやるかな」
オタク(無駄な力を使わないで下さい!!)
死神女「お、私の伴侶としての自覚を持ったようだな」
オタク「は、伴侶ッ!?」
先生「ホームルームを――おい、オタクどうした?」
オタク「あ、いえすみません……」
生徒「アハハハハ!!」
死神女「私とお前は最早伴侶だ。そうだろう?」
オタク(違います!!)
死神女(エッチしたいんだろ?)
オタク(こいつ……直接脳内にッ!?)
オタク(はぁ……やっと昼休みだ)
オタク(いつもの場所へ行こう……)
死神女「お前はいつも一人でお昼を食べているのか」
オタク「死神にまで同情されるなんて……」
オタク(一番端っこにある空き教室。選択授業の時ぐらいしか使われない)
オタク(だから俺はここで昼食をとっている)
死神女「空き教室なのに誰も来ないのか」
オタク(そう、俺のように誰か来そうなもんだが……ここへは誰も来ない)
オタク(もしかして俺がいるから――だったりな)
オタク(はぁ……死にてぇ)
死神女「いいぞ! もっと私に力を――」
オタク「静かにしてくんねぇかなぁ」
オタク「ムシャムシャ、むぐっ」
死神女「私にも一口くれ。腹減った」
オタク「え? 腹減るんですか?」
死神女「別に食わなくても大丈夫だが、腹は減る」
オタク「大丈夫じゃないでしょそれ……。訳が分からないよ」
オタク「まったく、しょうがな――」
イケメン「あ、あの……。オタクくん」ガララ
オタク「――ッ!?」
オタク(あぶねぇー、見られるところだった)
オタク「ど、どーも……」
イケメン「そんなよそよそしくしないでいいのに!」
オタク(ったく、また来やがったよ……。イケメンの野郎)
イケメン「ねえねえ、この間の『ごちねこ』見た!?」
オタク「いや……。俺あーゆーの嫌いだし……」
オタク(そう、実はこいつもイケメンのくせにオタクというふざけた野郎だ)
オタク(出会いは突然に――放課後書店でラノベの新刊を探していたらコイツと出くわした)
オタク(それがきっかけで付きまとわれることに……)
オタク(俺はもうオタクとかそういう負のイメージがついてしまっているので今更どうしようもできないが)
オタク(イケメンはオタクであることを隠して生きているようだ)
オタク(そしてファンクラブができるほど女子にはモテる)
オタク(まったく――憎い奴だ)
死神女「いいぞ、もry」
オタク(しかし、俺とは好きな作品の傾向が全く違うので分かり合えない)
オタク(なのにも関わらず――)
イケメン「オタクくんも見てよ! 絶対はまるから!」
オタク(こうして『唯一のオタク仲間』と認識しているのか、やたらとつきまとってくるのだ)
オタク(自分は本性を隠して、人からも気に入られて……。俺はこういう奴が大嫌いだ)
オタク(まったく、あいつのおかげで昼食を十分に味わえなかった……)
死神女「お前はあいつのことが嫌いなのか? 向こうはお前を気に入っているみたいだったが」
オタク「やかましいんすよ。俺は騒がしい人間は好きじゃないので」
オタク「それに、オタクの中にも派閥がありましてね」
オタク「本当のオタクは他人に作品を押し付けたりしない」
オタク「薦めることと押し付けることは違う」
オタク「まったく……」
オタク(早く今日よ終われ……)
チャラ男「お、オタクくんじゃん! 帰ったのかと思ったよー!」
生徒「ハハハハ!!」
オタク「……」
オタク(早く授業始まれ)
オタク(はぁ……。やっと一日が終わった)
死神女「君は生きていて楽しいのか?」
オタク「余計なお世話です」
オタク(俺にはアニメと二次元美少女さえいれば……。あとは漫画とかゲームとかラノベとか)
オタク(それでいいんだ)
オタク(人間には向き不向き、タイプというものがある)
オタク(俺はアクティブなタイプじゃなかった――それだけのことだ)
オタク(それだけのことなのに……)
オタク(俺って……生きていて楽しいのか? 意味があるのか?)
チャラ男「お、オタクくん!」
オタク(なんだよ放課後まで……。今日はやたらしつこいな)
チャラ男「ちょっといいかなー?」
オタク「な、なにか用かな……?」
チャラ男「あのさー、オタクくんって最近イケメンと一緒にいるよねー?」
オタク「え……?」
オタク(どうしてそれを?)
チャラ男「昼休み、二人で空き教室にいるっしょ?」
オタク「そ、それは……」
オタク(向こうからつきまとってくるだけで……)
チャラ男「それでさー、一つだけお願いがあるんだけどさー」
オタク「ね、願い……?」
オタク(どういうことだ? このチャラ男が俺にお願い?)
チャラ男「イケメンについて教えてくんねー?」
オタク「……!?」
オタク「そ、それは一体どういう意味で……?」
チャラ男「秘密とか――弱みを」
チャラ男「知ってたら、教えて欲しいなーみたいな?」
オタク(弱み……だと!?)
オタク「な、何で……かな?」
チャラ男「俺、あいつのこと嫌いなんだよねー」
オタク「――ッ!!」
チャラ男「チヤホヤされてさー、マジうざいんだよね」
チャラ男「オタクくんはあいつと友達なん? 違うっしょ?」
オタク(お、俺は……)
オタク「う、うん……」
死神女「……」
チャラ男「じゃあさー、あいつ潰すの協力してよ。オタクくんもあいつみたいな人間は好きじゃないっしょ?」
チャラ男「それに、もし何か弱みとか秘密とか教えてくれたら」
チャラ男「もうオタクくんをいじるの止めるからさー。そして持ち上げてあげるっつーか?」
オタク「そ、それは……」
オタク(この野郎……。外道だ畜生だ)
オタク(でも……。静かに過ごせるなら……)
死神女「……」
オタク「う、うん……」
チャラ男「マジッ!? さすがオタクくん分かってるぅ!!」
チャラ男「それじゃ、どうにかしてあいつの弱みとか秘密とか探ってくんねー?」
チャラ男「頼んだよっ! じゃーねっ!」
[翌日、昼休み]
イケメン「オタクくん!」
オタク(また来たよ……)
イケメン「昨日の『戦これ』見た!?」
オタク「いや……。クソ過ぎて3話で切ったから……」
イケメン「いやー、昨日の水着回最高だったよ!」
イケメン「切るのはもったいないよ!」
オタク(こいつの秘密――オタク、しかも萌え豚だということをチャラ男へリークすれば)
オタク(俺は誰にもいじられずに静かな日々を……)
オタク(そうだ。別に俺はこいつがどうなろうと関係ない)
オタク(こいつが一方的につきまとってきてるだけなんだから)
オタク(むしろせいせいする)
オタク(俺とこいつは友達でも何でもない)
オタク(だから――)
[帰宅後]
オタク「はぁ……」
死神女「いいぞオタク。その調子でもっと私に力を――」
オタク「バトルロイヤルとか言いながら、闘いが起きる気配が微塵もないんですけど……」
オタク(まあ、その方がいいけどさ)
死神女「そうでもないと思うぞ」
オタク「……?」
死神女「やはりお前と組んで正解だな」
オタク「どういうことですか?」
オタク「だいたい、もっと他に適切な人間がいたと思うんですけど」
オタク「人間界とか範囲がでかすぎでしょ……」
オタク「だったらもっと紛争地帯とか、カオスなとこにいる人間と組めばよかったのに」
死神女「そんなことをしてどうする? 契約した人間が死んでも失格なのだぞ?」
オタク「え?」
死神女「だから人間同士で命のやり取りをしているような場所へは行かない」
死神女「確かに憎しみなどの度合いはそちらの方が強いかもしれない」
死神女「だが、先程も言ったように契約した人間が死んでしまったら元も子もない」
死神女「そのような争いが起こらないような、秩序が保たれている場所」
死神女「加えて人が密集しているような場所が、私たちが闘う場所としては好ましいのだ」
死神女「ある程度平和な方が、人間は内に不満を溜めるのだ」
死神女「ということは――お前がいるようなこの世界に死神も集まる可能性が高い」
死神女「いずれ闘いは起こるだろう」
死神女「お前の周辺でな」
死神女「さて――お前はどうするんだ?」
オタク「どうする……?」
死神女「ああ。何か取引をしているようであったが」
オタク「あぁ……。そういうことですか」
オタク「俺は……別にイケメンには何の感情もないんで」
死神女「チャラ男という奴の提案に賛同するのか」
オタク「友達でも何でもないですし」
オタク「それに……ああいう人間は嫌いなので」
オタク「むしろせいせいしますよ」
オタク「やっと静かな日々が送れるのかと思えば」
オタク「俺も人間だけど……俺は人間が嫌いです」
オタク「金、権力、地位……。ないものを欲しがって、時には汚い手段で手に入れようとする」
オタク「生まれたらいずれ死ぬのに。死んだら全てなくなるのに」
死神女「だからこそ欲しがるのではないか」
オタク「そうですね……。でも、だから嫌いなんです」
オタク「もちろん自分もその一部ですけど」
オタク「俺はそんな人間が、俺自身が、世界が嫌いなんです」
死神女「ほうほう……。人間とは面白い生き物だな」
死神女「興味が沸いたぞ」
カーチャン「オタク! 夕飯できたから降りてらっしゃい!」
死神女「私の分も残しておいてくれないか」
オタク「……」
[数日後の放課後]
オタク「はぁ……」
死神女「ため息ばかりついていると幸せが逃げるぞ」
オタク「死神に言われたくないですよ……。それに幸せって何ですかね……食えるんですか?」
チャラ男「うーっす、オタクくん!」
オタク(ゲッ……。やばい)
チャラ男「あれからどんな感じー?」
死神女「時間が来たようだな」
オタク(俺は……)
チャラ男「結構時間経ったけど、何も行動してないってことはないよねー?」
オタク「う……それは……」
オタク(俺は……俺は……。あいつのことなんて)
チャラ男「早く話して楽になっちゃいなよ」
オタク(刑事ドラマかっ!)
オタク(なんてツッコミを入れている場合では……)
オタク「あ、あの……」
チャラ男「お、何か情報掴んだ感じ? いいねー、さすが!」
オタク「イケメンくんは……」
オタク(これでいいんだ、俺は)
オタク「イケメンくんは――」
イケメン「オタクくん!!」
オタク「……ッ!?」
チャラ男「……」
イケメン「どうしたの? 二人とも」
イケメン「僕の名前が聞こえたような気がしたんだけど……」
チャラ男「チッ……」
チャラ男「それじゃオタクくん、また明日よろしくぅ!」
イケメン「あ、行っちゃった……」
オタク(助かった……のか?)
死神女「チャラ男とやらの提案に賛同したんじゃなかったのか?」
オタク「そうですけど……」
死神女「良心の呵責を感じている」
オタク「……」
オタク「良心なんて……自分とは程遠い世界の感情ですよ」
死神女「それでは何なのだ?」
オタク「それは……」
死神女「金、権力、地位……。お前も人間の一部だった」
オタク「そうですよ、そうですとも……」
オタク「俺は人間が嫌いだ」
オタク「だけど、そんな嫌いな人間の一部である自分自身も嫌いだ」
オタク「死んでしまいたい」
死神女「死ぬのは許さんぞ」
オタク「でも……。そんな勇気もない臆病者だ」
死神女「……」
オタク「そうさ、俺は人間だ」
オタク「金も権力も何もかも欲しい」
オタク「俺はそんな人間を憎む。自分自身を憎む」
オタク「だから――汚い人間が嫌いだし、汚い行為も嫌いだ」
オタク「どうせ元から嫌われていた」
オタク「これ以上どうなろうと知ったこっちゃない」
オタク「決めたよ――俺」
死神女「そうか。まあ、せいぜい頑張れよ……童貞」
オタク「童貞は余計ですよ……」
死神女「なんだ、卒業していたのか」
オタク「……」
オタク「童貞ですよ……」
[翌日、放課後]
チャラ男「へぇー、俺を裏切るんだぁ!」
オタク「そ、そういうわけでは……」
チャラ男「せっかくいじるの止めてたのにねぇ」
チャラ男「そんなことしたらどうなるか……分かるよね?」
オタク「それは……」
チャラ男「こうなるよ!?」ドスッ
オタク「う゛ッ……!!」
オタク(腹パン……だと……!)
オタク「ゲホッ、ゲホッ……!」
チャラ男「さっさと教えてよー、何か知ってるんでしょ?」
オタク「俺は……何も知らない……!」
チャラ男「へぇ……」
チャラ男「陰キャの癖に強がらない方がいいよ?」ドスッ、ドスッ
オタク「う゛……! ガハッ……!」
オタク「お゛れ゛は゛! お前みたいな外道にはなりたくない……!」
チャラ男「……」
チャラ男「なるほどねぇ……」
チャラ男「お前、調子のってっと殺すから」
オタク(ははっ……。ここまでか……)
オタク(あ、俺が死んだら死神女も――まぁ、いいか)
オタク(俺が知ったことではない)
死神女「……」
オタク(ほら、死神でさえ傍観者だ)
チャラ男「ぶっ殺す――」
オタク(オワタwwww)
イケメン「やめるんだ!!」
チャラ男「……ッ!?」
イケメン「オタクくんに手を出すことは僕が許さない!!」
チャラ男「……」
イケメン「大丈夫かい? オタクくん」
オタク「な、何で……」
イケメン「何でって、当たり前じゃないか」
イケメン「同志だから――それで充分だ」
オタク「俺……イケメンくんと好きな作品被ったことない……のに」
イケメン「そんなことは関係ないさ」
チャラ男「あのさ、どいてくんない? そいつ殺せない」
イケメン「どうしてオタクくんをいじめるんだ」
チャラ男「……」
チャラ男「もういいわ」
チャラ男「イケメンくん、俺さー、もともとはあんたを潰そうとしてたのよ」
イケメン「……!?」
チャラ男「女子からチヤホヤされて、いい気になってさー。すげぇうぜーのよ」
イケメン「いい気になってなどいない!」
チャラ男「そういう善人みたいな態度もうぜーから」
チャラ男「オタクくんに何か探るように頼んどいたのにさ」
チャラ男「約束破ったから、その罰を与えているわけよ」
イケメン「オタクくん……。僕のために」
オタク「そ、そんなことは……」
オタク(途中まであんたを売ろうとしてたのに)
チャラ男「ま、もういいや」
チャラ男「二人同時に潰せるいい機会だし。やっちゃいますか!」
オタク「イケメンくん……! 逃げてくれ……!」
イケメン「同志を見捨てて逃げるわけにはいかない!!」
チャラ男「死ね――」
イケメン「待て……!」
チャラ男「……?」
イケメン「君は、僕がチヤホヤされているのが気に入らない――そう言ったね!?」
チャラ男「……」
イケメン「だったら……これでどうだい!?」
チャラ男「……!?」
イケメン「君たち――僕はオタクだ!」ドン
オタク(いつの間に女子の取り巻きが……!!)
イケメン「しかも……萌え豚だ!! キモオタだ!!」
取り巻き「うそ……!! あのイケメンくんがオタクぅ!?」
取り巻き「そんな……。信じられない!!」キャー
イケメン「ほら……。これで……どうだい?」
チャラ男「あんた……」
オタク「そんな……。イケメンくん、オタクってことを……」
オタク(俺以外には隠し通していたのでは)
イケメン「そうさ。これでいいんだ」
イケメン「僕は臆病者だった」
イケメン「だから、ありのままでいるオタクくんが羨ましかった」
オタク「そ、そんな……」
イケメン「ある意味僕は卑怯者でもあったわけだ」
イケメン「だけど、これでやっと楽になれた」
イケメン「僕はこれで、ありのままでいられる」
イケメン「みんなの悲鳴でさえ、心地よく感じているッ!」
イケメン「これで……いいんだ」
イケメン「さあ、これでもう僕たちには用済みだろう!」
チャラ男「……」
チャラ男「そうだけどさ」
チャラ男「まだ俺の気が済まないんだよねっ!」
イケメン「そ、そんな!!」
オタク(くそ……!! ここまでか……!!)
取り巻き「でも……。そんなイケメンくんも素敵よね!」キャー
オタク(何だ……!? 悲鳴が黄色い声援に変わった!?)
取り巻き「イケメンなのにオタクとか、ギャップ萌えだよね!!」
取り巻き「みんなの前でカミングアウトしたイケメンくん男前ぇ!!」
取り巻き「それに比べて、あのチャラ男とかいう奴キモくね!?」
取り巻き「まじ女々しいよね! 悔しかったら自分も努力しろっつーか」
チャラ男「――ッ!?」
取り巻き「やり方がマジで汚いよね、最ッッ低!!」
オタク(い、イケメンは……何をしてもプラスに働くというのかっ!?)
オタク(イケメンくん……なんて妬ましい男っ!!)
オタク(でも、そこに痺れるry)
取り巻き「かーえーれ、かーえーれ!!」
オタク(帰れコールまで起きたぞこれ何てドラマ!?)
チャラ男「――ッ!!」
チャラ男「くそっ! 覚えてろよ!」
オタク(どこのかませだよ――行っちまった)
死神女「まあ、お前にしては頑張ったな」
オタク「せめて助けて欲しかったですけど……」
死神女「人間同士のいざこざなど私は知らん」
死神女「それに、いい感じで負の力も頂いたぞ」
オタク「あなた……最初からそれを狙って」
死神女「やだなーそんなわけないじゃないですかー(棒)」
オタク「最低だ……」
死神女「死神にとってそれは褒め言葉だ。ありがとう」
オタク「……」
死神女「さて――よくやったぞ、オタクよ」
オタク「ど、どういうことですか?」
死神女「まあ、それはすぐにでも分かるだろうさ」
死神女「初戦が楽しみだな」
オタク「……?」
死神女「前祝でもしておくか?」
オタク「は?」
死神女「というわけで、私はちょっくら○スバーガーへ行ってくる」
死神女「頑張ったお前に何か買ってきてやろう」
死神女「だから――お金をちょうだい?」
オタク「……」
オタク(死ね)
死神女「残念でした死神なので人間みたいに死ねません」
[翌日]
イケメン「オタクくーん! 昨日の『銀色クリア』見たぁ!?」
オタク「ちょ……!!」
オタク(昨日までは昼休みだけだったのに!)
オタク(オタクをカミングアウトしてからは休み時間にも堂々と来やがった!!)
オタク「あれは……。内容がほとんどない日常ものだし……」
イケメン「それがいいんじゃないか!!」
オタク(何だよこれ……)
オタク(それにしても――昨日の今日で凄い変わりようだな)
オタク(チャラ男のいじりはピタリと止んで)
オタク(更に、クラスの連中の『標的』は俺からチャラ男へと変わっているような気がする)
オタク(いや、気のせいではない)
死神女「チャラ男とやら、見る影もないな」
チャラ男「……」
死神女「どうやら、奴が築いてきた関係は全てそういうものだったらしい」
死神女「奴がお前に忍び寄って来たみたいな……そんな表面だけの関係だったようだな」
死神女「誰も奴に手を差し伸べようとはしない」
死神女「人間とは、面白い生き物だな」
オタク(まるで他人事みたいに)
死神女(他人事だぞ?)
オタク(……)
イケメン「それでね、アリスちゃんがかわいくて――」
オタク(これが『嵐の前の静けさ』じゃなければいいんだけどな)
オタク「何もなかった……。良かった……」
オタク「さっさと帰るか」
オタク「ん……? あれは……」
取り巻き「イケメンくーん! 一緒に駅前のパフェ食べに行きましょー!」
イケメン「いやー、ちょっと今日は――あ、オタクくん!」
オタク「げっ……」
イケメン「そういえば今日『GAO』の新刊発売日だよね!?」
イケメン「一緒に書店に行こうよ!」
オタク「ちょ……! 俺は別に……!」
イケメン「いいからいいから!」
取り巻き「あ、イケメン君待ってぇ――!」
オタク「あの……ここは……」
オタク(書店とは全く逆方向だぞ?)
イケメン「さてと」
オタク「あの……」
イケメン「ここまで来ればいいかな」
オタク「……?」
イケメン「オタクくん、突然だけど――君が欲しいものって何だい?」
オタク「え……?」
イケメン「人望、名声、富……それとも、アニメの円盤とか?」
オタク「ど、どういうことかな……?」
イケメン「僕はね、全てが欲しい」
イケメン「富も名声も、何もかもが欲しい」
イケメン「でも、簡単には手に入らない」
イケメン「何かを手に入れるためには、相応のリスクはつきものだ」
イケメン「だから……。僕は全てを手に入れるために戦うことにしたのさ」
オタク「――ッ!!」
オタク「イケメンくん、まさか……」
イケメン「どうやら君も、僕のように全てを欲しているみたいだね」
イケメン「君の傍にいるであろう死神にも告げておくよ」
イケメン「姿を現したらどうだい?」
オタク「……!!」
オタク「そ、そんな……」
死神女「ほう、そうきたか」
オタク「――ッ!!」
イケメン「女の死神か」
死神女「私はここにいるぞ? そちらも姿を現したらどうだ」
イケメン「……」
死神男「よう、死神女」
オタク「そ、そんな馬鹿な……!!」
死神女「ほう、どこかで見たツラだな」
死神男「初戦がお前となんて、実に味気ないな」
死神女「それはこちらのセリフだ」
オタク「な……!! これは……!!」
オタク「イケメンくん……どうして!?」
イケメン「だから、僕は全てが欲しい――それだけさ」
イケメン「だから、君を利用させてもらった」
オタク「……!!」
イケメン「もともと人望はあったけど」
イケメン「チャラ男くんからいじめられている君を助けてあげれば、更に人望は厚くなるし」
イケメン「そのまま君の死神も倒して、僕は高みへと一歩近づく」
イケメン「一石二鳥さ」
イケメン「まさか君も死神と契約していたなんてね」
オタク「み、見えないはずじゃ……!!」
死神女「ああ、そうだな」
死神女「だが、死神と契約している者に至ってはその限りではない」
オタク「……!?」
死神女「他人から見えないような力を使っても、見えるような力を使われれば、完全に気配を消すことは難しい」
死神女「どうやら奴は索敵にも力を注いでいたらしいな」
死神女「行き過ぎた物欲……。強欲という負の感情がもたらした力だ」
オタク「そんな……」
イケメン「チャラ男くんから救ってあげたんだ。感謝して欲しいくらいだね」
イケメン「君は静かに暮らすことができて、僕は願いへと近付くことができる」
イケメン「だから、僕のために負けてくれないかな?」
死神男「そういうわけだ」
オタク「そ、そんな……」
死神女「そうは問屋が卸さないぞ」
死神女「私にもこいつにも、野望があるからな」
死神男「……」
イケメン「へぇー、君は何がしたいんだい? オタクくん」
オタク「そ、それは――」
死神女「私とエッチだ!!」
オタク「ちょ、ちょっとあんた……!!」
死神男「……」
イケメン「……」
死神男「それは流石に」
イケメン「ドン引きだね……」
オタク「ち、違うんですよ言葉のあやというかなんというか!!」
死神女「何だ、あれは嘘だったのか童貞坊や」
オタク「もうあなたは黙っててくださいお願いだから!!」
死神男「まあ、なんにせよ」
イケメン「勝つのは僕たちだ」
死神女「弱い犬ほどよく吠えるとはこのことだな」
イケメン「……」
死神男「それじゃー、どちらが『弱い犬』か」
イケメン「決めようじゃないか!!」
オタク(く、来る!!)
オタク「ど、どうするんですか!!」
死神女「まあ、そう焦るな」
死神女「契約したあの日から、お前の力をたっぷりといただいた」
死神女「私の番だな」
死神女「それじゃ、私たちも行くぞ」
オタク「わ、私『たち』!?」
死神女「行くぞ」チュッ
オタク「むぐっ――」
オタク(な、なぜキスをしたッ!?)ズキュウウウウウウウウウン
死神女「変身」
オタク(ちょ……!! その掛け声はまずいって!!)
死神女「君の力を最大限活かすためにああしたのだ。他意はない)
死神男「行くぞ!!」
死神女「気分はどうだ? 坊や」
オタク(こ、この感覚はッ!?)
死神女「今、お前は私と一体化している」
オタク(そ、それはどういう……!?)
死神女「私と一体化したお前は、一部の感覚を私と共有しているのだ」
死神女「そうした方が闘いやすい。向こうがお前を殺しにきたら大変だろう? お前が死んだら自動的に私も終わりだ」
死神女「いちいちお前を庇っている暇もないしな」
オタク(感覚を共有って……。それじゃ痛みも!?)
死神女「安心しろ。多分大丈夫だ」
オタク(そこは言い切って下さいよ!!)
死神女「どうやら向こうもそういう戦法で来たみたいだな」
死神男「すぐに終わりにしてやるよぉ!!」
死神男「フッ!! ハァッ!!」シュッ シュッ
死神女「……」スッ スッ
死神男(こいつ――早いッ!!)
死神男「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」
死神女「――ッ」スゥゥゥゥゥゥ
死神女「嫉妬の一撃ッ!!」ズン!!
死神男「――ガハッ!!」
死神女「嫉妬のように拳をジリジリとめり込ませ……押し込むッ!!」ギュウウウウウウウウウウウウ
死神女「嫉妬の弾丸だッ!!」
死神男「ングァッ!!」
死神女「話にならんな。お前の力はその程度か」
死神男「クソアマがッ!!」
死神男「これで……どうだ!!」
死神男「全てを呑み込む――強欲の業火ダァッ!!」ゴオオオオオオオオオオオオオ
死神女「――ッ!!」
死神女「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
死神男「強欲火炎放射器だァッ!! ヒャッハー!!」
死神男「強欲の炎は簡単には消えんぞォ!! 苦しんで消えろォ!!」
死神女「クッ!! 殺ry」
オタク(まずいですよ!!)
オタク(熱っ……!? 見事に丸焼きにされてますよ!!)
オタク(いや、熱いじゃすまないでしょうよ!!)
死神女「自分で自分にツッコミを入れるな……」
オタク(ぶ、武器なんてずるいぞ!!)
オタク(火炎放射器とか……消毒する気かッ!!)
死神男「ハハハッ! 負け犬はお前の方だったなぁ!」
イケメン(僕たちの勝ちだァ!)
死神女「ンアアアアアアアアアアアアアア……!!」
オタク(このままじゃ……!!)
オタク(ん……!? あれは!)
オタク(ここは――そうか!)
オタク(イケメンくん、わざわざ人目につかない場所を選んだ)
オタク(そこがこの公園だったわけだ!)
オタク(視界の端、公園のため池へ!!)
オタク「池があります!!」
死神女「池なんかで火炎放射の炎が消えるかアホがッ!!」
死神女「だが――飛び込むぞあえて!!」
死神男「逃がすかァ!!」
イケメン「待て!」
死神女「待てと言われて待つかアホがッ!」
死神女「とうッッ!!」ザブーン
死神男「クソ……!! どこへ潜りやがった!?」
イケメン(まあ、そう焦ることはないよ)
イケメン(力尽いてそのうち浮いてくるだろう)
死神男「そうだな……。高みの見物といくか!」
死神女「ゴボボボボボボ」
オタク(なんとか火は消えたけど)
オタク(もしかして)
オタク(あなた泳げないんですかァッ!?)
死神女「ゴボボボ、ゴボボ、ゴボ(笑)」
オタク(これじゃ○ラえもんならぬドザえもんだな――じゃないよ!!)
オタク(全然うまくないし!)
オタク(くそ……!! 勝利は確定なんじゃなかったのかよ!!)
オタク(人を巻き込んでおいて……)
オタク(俺も俺だ……ほんとに情けない)
オタク(人には向き不向きがある……そうだった)
オタク(何もかもが馬鹿らしい)
オタク(どうせ最後にはみんな死んで終わるのに……むきになって)
オタク(何かを欲しがって、誰かにすがって)
オタク(何もかも馬鹿らしい……)
オタク(でも、俺は……ここで終わるのか?)
オタク(このまま何も成し遂げずに、負け犬のまま……やられっ放しでのたれ死ぬのか?)
オタク(それは……)
死神女「……ボッ(泣)」
オタク(俺は何もかも憎いッ! 幸せな人間ども、欲にまみれた人間ども、そんな人間の一部である自分自身も!)
オタク(だから俺は憎む、妬む、呪う! 人間を世界を自分自身を!)
オタク(せめて)
オタク(せめて童貞捨ててからじゃねぇと――死んでも死にきれねぇ!!)
オタク(俺は死神女とエッチするんだあああああああああああああああああ)
オタク(よろしくお願いしまあああああああああああああああああああああす!)
死神女「……」
死神女「ボッ!(喜)」
死神男「なかなか浮いてこないな」
イケメン(まあ、気長に待とうじゃないか)
イケメン(待つのも一興――ってやつさ)
死神男「ま、そうだな」
死神男「……」
ザァッ
イケメン(――ッ!?)
死神男「水面に波紋ッ!! 遂に浮いてきたなぁ!?」
死神男「もう一度丸焼きにして――」
死神女「馬鹿め!!」
死神男「……!?」
死神女「地の利を得たぞ!!」プカー
死神男「どこが……?」
イケメン(ひょっとすると、馬鹿かな?)
死神女「フハハハ……!!」
死神男「何がおかしい」
死神女「強欲の炎か……。面白い!」
死神女「だが――ここは水面!」
死神女「サルでもその意味は分かるッ!!」
死神男「ああ」
死神男「だが――目の前にプカプカ浮いた状態で言う言葉じゃないぞ?」
死神女「……」
死神男「燃えろォ!!」
死神男「遊びは終わりだァ! 泣け! 叫べ! そして――」
死神女「馬鹿めぇ!」
死神女「私は……」
死神女「約束に命を懸ける女――○パイダーマッ!」
オタク(違うだろ!!)
死神女(お前の力、確かに受け取った)
死神女(やはり私の目は正しかった――お前のダークサイドは本物だ)
死神女(お前の力、使わせてもらう)
死神女「行くぞ……」
死神男「燃えろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
死神女「お前の強欲を消火するぞッ!」
死神女「喰らえ――欲を消すのも欲!」
死神女「強欲のウォータースロワー!!」
死神男(何ッ!? 放水砲を具現化しやがっ――)
死神女「死神女、またの名を早撃ち○ック!」
オタク(その二つ名はまずいッ!!)
死神女「高圧の強欲水を喰らええええええええええええええええええええ」
死神男「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ブッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
死神男「ユニバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアス!!!!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
死神女「……」
死神女「やったか?」
オタク(余計なフラグは建てないで!)
死神男「――ッ」チーン
死神女「ホントにやったな」スウウウウ
オタク(一体化が……解けていく!?)
オタク「元に戻った……」
死神女「私の○内はどうだった?」
オタク「いい加減にしないと、そろそろ怒りますよ……」
死神男「クソ……! この俺が……負け犬だったのか?」
死神男「そんな……」
死神男「あぁ……。これが欲望の成れの果て……」
死神男「欲望の彼方には――無欲という欲望があったのだな」
死神男「カハッ……」スゥゥゥゥゥゥ
死神女「地獄で出直してきな」
オタク「死神男が消えていく……」
イケメン「……」
オタク(死神が消滅して、その中から出てきたのはイケメンくん……)
イケメン「僕は――負けたのか」
イケメン「ああ……僕は負けたのか」
イケメン「いっそうのこと死んでしまいたいよ」
オタク「……」
オタク「俺も……君と同じだ」
イケメン「……?」
オタク「俺も、最初は君を利用しようとしたのだから」
イケメン「利用?」
オタク「うん。チャラ男くんから『イケメンくんの秘密を教えればいじるのを止める』と持ち掛けられた」
オタク「それに応じたんだ。俺は」
オタク「最低な人間だろ?」
イケメン「……」
イケメン「ハハッ」
イケメン「最低な人間……か」
イケメン「君は自分の力でそれに気付くことができたじゃないか」
オタク「……?」
イケメン「少なくとも僕は……今、この瞬間まで」
イケメン「自分が最低な人間だとは気付かなかったよ」
イケメン「君に気付かされたよ……」
イケメン「僕は、最低な人間だということに」
オタク「少年漫画のようにはいかないけれど」
オタク「最低な人間は最低な人間らしく生きていこう。これからは」
イケメン「……」
イケメン「そう……だね……」
死神女「なあ、オタク――」
オタク「……?」
死神女「どうやら、さっきの放水で」
死神女「池の水をほとんど使ってしまったようだ」
オタク「……ッ」
池の鯉「――ッ」バシャバシャバシャ
オタク「……」
オタク「オラ、しーらね」
――
[数日後]
オタク「ホワイトラグーンの二期はよぉ……」
オタク「むにゃむにゃ……」
死神女「おい、起きろ」
オタク「ぶひぃ……」
死神女「おい」
オタク「うーん……」ムニッ
オタク(ムニッ!?)
死神女「おい童貞、わざとやってるだろ」
オタク「あっ――」
オタク「お、おはようございます……」
死神女「起きろ、学校に遅れるぞ」
オタク「はあ……。もうあんなの二度とごめんだ」
死神女「ところがどっこいしょーいち、俺たちの戦いはこれからだ★」
オタク「……」
オタク「ん? あれは?」
イケメン「……」
取り巻き「ねぇ……イケメンくんどうしたんだろう?」
取り巻き「なんか、ちょっと最近感じ悪いというか……。そこもかっこいいけど」
取り巻き「きっと、孤高の人を目指してるのよ」
取り巻き「え? 登山でもする気なのかしら? アルピニスト?」
取り巻き「私たちも、イケメンくんの邪魔にならないように……これからはそっと見守ってあげましょ?」
オタク「……」
取り巻き「でも、なんだか熱が冷めちゃった感じ」
取り巻き「あー、分かる分かる」
取り巻き「私たち何であんなに熱くなってたのかしら」
取り巻き「あ、ねぇねぇ! ○年○組の○○くんって知ってる?」
取り巻き「あ、あの童顔のイケメン?」
取り巻き「そーそー! ○○くんいいよね!」
取り巻き「いいよねぇ! 時代はベビーフェイスよ! キャー!」
取り巻き「あ、○○くんよ! 行きましょ――」キャー
イケメン「……」
イケメン「あ……。オタクくん……」
オタク(なんか憔悴しきってる!?)
死神女(いや、悟りを開いたように清々しく見える気もするぞ)
オタク「僕はね、気付いたんだ」
オタク「……?」
イケメン「欲望を突き詰めていったら……急に何もいらなく思えてきたんだ」
イケメン「全てを手にしたような人間は燃え尽きて無欲になる――そんな事例は聞いたことがあるけれど」
イケメン「僕は全てを手にしなくても、気付いたんだ」
イケメン「手に入れてしまえば、それに価値はなくなる」
イケメン「だから、手に入れない方が……夢は夢の方がいいってね」
イケメン「そう思ったら、最低限必要なこと以外必要ないと思えてきてね」
イケメン「欲望を追いかけていたら、いつのまにか『欲はいらない』という欲が生まれ、無欲になっていたわけさ」
イケメン「それじゃ、またね……」
オタク「……」
オタク「なるほど――分からん」
チャラ男「……」
オタク「……」
生徒「チャラ男さぁ、さすがにイケメンくんには敵わねーって!」
オタク「……!」
生徒「まず第一にタイプが違うじゃん。分類がさぁー」
チャラ男「お、おう……」
生徒「まあ、よく反省して次に生かすことだなー」
チャラ男「お、おう……。そうだな!」
オタク「……」
オタク(これで良かったのか)
オタク(いや、俺はこうして静かな日々を過ごせるようになった)
オタク(これでいいのだ)
オタク(いやー、今日は平和な一日だった)
死神女「おい、後ろからチャラ男が近付いてきてるぞ」
オタク「え……」
チャラ男「オタクくん……」
オタク「あっ……」
チャラ男「ごめん――ごめんさなさい」
オタク(今更謝られてもなぁ)
オタク「もういいよ」
チャラ男「――ッ!?」
オタク「静かに過ごせるようになったし」
オタク「これ以上関わらないでもらえたら」
オタク「以前のことはいいからさ」
オタク「じゃ――」
チャラ男「あっ……!」
死神女「――あれで良かったのか?」
オタク「……」
死神女「まあ、お前の負の感情がもらえるから」
死神女「ああいう胸糞エンド寄りの方が私は好きだ」
オタク「ホント好き勝手言いますねあなた」
オタク「バッドエンドが好きならそういう○ロゲでも買ってきましょうか?」
死神女「今までの仕返しでもしてやればせいせいしただろう?」
オタク「いいんですよ、これで」
オタク「どうせ反省するのは今だけですよ」
オタク「あと何年後に俺という人間そのものを果たして覚えているかどうか」
オタク「そんなもんなんですよ、人間は」
オタク「汚く、馬鹿馬鹿しく――」
死神女「けれど、面白い」
オタク「……」
死神女「そうだろう?」
オタク「……」
オタク「否定は……しません」
オタク「だけど、俺はこれからも」
オタク「こんな世界を呪い続けると思います」
オタク「世界を、人間を、そしてその一部である自分自身も」
死神女「殊勝なことだな」
死神女「しかし――呪い、憎しみと愛は表裏一体だ」
死神女「行き過ぎた愛は呪いや憎しみに変わることもある」
死神女「その逆も然り」
オタク「ただの言葉のあやじゃないですかね」
死神女「そうとも言う」
死神女「まあ、お前の呪いは私の力になる。これからもよろしく頼むぞ」
死神女「勝負を勝ち残り、王になるその日までな」
死神女「そして、全てが終わったその時に……」
オタク「……?」
死神女「お前の呪いが、愛に変わっているといいな」
オタク「……」
死神女「いや、変わっているとも」
死神女「なんせ、私とエッチするんだからな」
オタク「ちょ――!!」
死神女「何だ? 単語だけでそんなに狼狽するとは……流石童貞坊やだ」
オタク「どど、どうていちゃうわ!」
死神女「……」
死神女「まぁ、これから闘いはより激しくなるだろう」
死神女「どんどん死神が集まってくるに違いない」
オタク「勘弁してくださいよ……」
死神女「だから、これからもよろしく頼むぞ? 坊や」スッ
オタク「あ――」
オタク(唇、やわらか――)
死神女「この前の勝負、勝利した褒美だ」
オタク「……」
オタク「もう、何が何だか……」
オタク「こんな世界……なくなってしまえ」
死神女「ふふ……」
死神女「その願い、叶えてやろうか?」
くぅ~疲