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【艦これ】提督「バリバリ最強No.2」【前編】
-夢-
それは、遠い遠い遥か昔。
私の中に微かに残る、それでいてはっきりと刻み込まれた忌むべき記憶。
誰にも話した事はない。
聞かれれば話したのかもしれないけれど、聞かれないのだから自ら進んで話す必要は無いと思っている。
紅く染まった空は、夕焼けだったのかすらも解らない。
硝煙の香りと頬を濡らす汗。
その汗を一瞬で干上がらせる熱風と、そんな感傷など蹴散らす果てしない爆撃の嵐。
あの時、私は成す術も無くただ沈み行く仲間達を見る事しか出来なかった。
最後の最後まで奮戦したあの子たちに『頑張ったわね』と労う事すら出来なかった。
後悔の念は今も尚、根深く私の中にわだかまりとなって巣食っている。
『一航戦の誇り…こんなところで失うわけには…』
『…貴方を残して…沈むわけにはいかないわ』
『やられたっ…誘爆を防いで!』
『なんでまた甲板に被弾なのよっ!痛いじゃない!』
『やられました!艦載機発着艦困難です!』
『誘爆を防いで!飛行甲板は大丈夫!?』
加賀の深層心理には仲間を救いたい、助けたい、守りたいと言う護の感情が多い。
だがこれは加賀に限った話ではない。
少なくとも、この鎮守府に集った全員は言ってしまえば過保護なほどに身内を守りたいと願う傾向がある。
長良の独断先行。
指揮官の命令を無視してまで自らの身を危険に晒そうとする、無謀とも言えるし全体の指揮系統を混乱させる、言わば許されない行為を平気で行おうとする。
いい方向へ考えるとつまりはそういう事になる。
満潮の過剰なまでの闘争心。
自分がやらなければ、自分がやれば、誰かに頼る前にまずは自分で何とかする。
その結果として存在するのが今の満潮だ。
ある種の強迫観念にも似たその使命感は、満潮を強く前へと押し出す。
鳥海の徹底された戦術用法。
作戦には指揮官がつきものだ。
あらゆる策を張り巡らせ時に強行突破し、時に奇襲を仕掛け、仲間達の進むべき道を作っていく。
だから鳥海は常に最善を選択し、最良を導き出し、絶対とも言える解無き解を追い求め続けている。
漣の飄々とした性格。
戦場は常に死と隣り合わせであり、いつ自分が沈むかも解らない。
そんな中にあって一人笑顔を見せる者がいる。
張り詰めた糸を解すように、高まった緊張を沈めるように、彼女の言葉や仕草は仲間達を精神的な苦痛から解放する。
誰にも居なくならないで欲しい。
そんな隠された想いが漣の一挙手一投足には籠められている。
そして加賀も、常に完璧であろうと気を緩めない性格。
妥協を許さず己ならず周りにも厳しいのは誰よりも辛酸の味を知っているからなのだろう。
二度とあんな思いはしたくない。
誰にもあんな思いはさせたくない。
それこそが、加賀が完璧であろうと邁進する原動力の全てなのだ。
加賀「……また、あの夢」ムクッ…
上半身を布団から起こし、両手を毛布の上に出すと気付いてもいなかったのか、小刻みに手は震えていた。
グッと握り拳を作ってそれを強引に諌め、加賀は布団から出て窓越しに空を眺める。
加賀「今度は、夢と同じにはなりません。私が、必ず変えて見せます…」
提督「」ペラ……
極秘と書かれたその資料は、提督が今までに独自に纏め上げた艦娘と深海棲艦、その歴史の全て。
未だ謎が多い両者の関係、その背景、目的などが独自の視点で細かく記載されている。
そんな中に艦娘について調べた項目に『夢』と題された項目が存在する。
切っ掛けは前の鎮守府で彼の秘書艦を勤めていた扶桑の一言だった。
『覚えのない記憶、と言うのかしら…確かにここ最近で起こった出来事じゃないのは確かなのに、何故かそれがとても大切な事で、忘れてはいけない何かだと直感的に感じたの。時折、夢で見るんです』
初めは何を言ってるのかと鼻で笑ったものだが、後々調べて解った事は、扶桑が夢で見ていた内容、記憶として断片的に覚えている事実、フラッシュバックのように突然思い出されるもの、色々とある中で全てに共通している事はそれ等が全て実際に扶桑の身に起こっていたという事だ。
提督「大本営では認知してるのかすら怪しい事実だ。だがこいつは、場合によっては艦娘の精神を一発で破壊する。完全な諸刃の剣……凄惨な最期を遂げている艦娘がそんなものを夢で見ようもんなら、確実に廃人にならぁな」パタン…
提督「…だが、これを乗り越えた艦娘ってのは、文字通り名実共に全ての力を取り戻す、か…」
提督「じゃあ深海棲艦はどうなんだ…あいつ等にも同じ環境があるのか。あるとして、もしもそれがキーワードに……」
コンコン……シツレイシマス……ガチャ……
看護士「あーっ!もう、寝てなきゃダメって言ってるじゃないですか!」
提督「」(ちっ、うるせぇのがきやがった…)ガサッ…
看護士「あっ、今何隠したんですか!もしかしてエロ本とかですかぁ?」
提督「女のクセに節操の欠片もねぇヤツだな。ごちゃごちゃ言ってないでさっさと検認して失せろ」
看護士「もー、満潮ちゃんの口が悪いのって提督さんの口の悪さが影響してるんじゃないですかー?」
提督「ざけんなダァホ。あいつは元からだボケ」
看護士「はぁぁヤダヤダ。そうやってすーぐ相手が悪い事にするの。女の子にもてませんよー」
提督「女に好かれてぇって年でもねぇんだよクソッタレが。いいからさっさと失せろよ、口軽女」
看護士「むっかぁ!注射針適当なところに打ち込んで薬剤流し込んでやろうかしら…」
提督「それただの医療事故だろうが!つーかテメェ、故意にやったらただの殺人だぞ」
看護士「にゃははは、冗談に決まってるじゃないですかぁ。仕事に関連する事でそれを悪用だなんて天地がひっくり返ったってしませんってば。私だってこの仕事に誇りを持ってますからね!」
提督「ちっ…胡散臭ぇ女だ」
加賀「…………」キリキリ…
ビュッ
タンッ
満潮「へぇ」
加賀「何か用ですか」
満潮「んー、別にこれと言ってあるわけじゃないけど。ただ、加賀って真面目だなーってね」
加賀「真面目?言っている意味がよく解らないのですが」
満潮「別に深く考えなくたっていいわよ。それよりもさ…あのアホ面オヤジ、そろそろ退院でしょ」
加賀「ええ、そうね」
満潮「西提督の一件以来、なんか拍子抜けするくらい静かじゃん」
加賀「追撃の心配がなくなったのはいいのかもしれないけれど、腑に落ちないのは確かです」
タッタッタ……
加賀「……」チラッ…
長良「あぁ、やっぱりここだった!って、あれ満潮も?」
満潮「な、何よ…」
加賀「出来れば道場では走らず歩いてくれると助かります」
長良「あぁ、ゴメンね!っと、そうそう…鳥海さんがね、加賀さんにっていうか、皆にかな?話があるって」
加賀「急を要す感じですね。解りました。汗を流した後に向かいます。どこへ向かえばいいのかしら」
鳥海「取り敢えず全員にって事だし、作戦室とかでいいのかな」
加賀「解りました」
満潮「んじゃ、先に私はいってるわ」
加賀「ええ、解りました」
鳥海「いきなり呼び出してごめんなさいね」
漣「久々に何か任務でも届いたですか?」
鳥海「それならまだいいんだけど…直接関係があるかどうかは定かじゃないわ。ただ、少し気になる情報だったから」
パサッ…
加賀「調査報告書?これは、この鎮守府のものではありませんね」
長良「っていうか、ここで調査なんてまずしないもんね」
満潮「あんた、まさかパクッ……」
鳥海「人聞きの悪い。コネのある鎮守府の艦娘から情報提供してもらったのよ。それよりほら、見て」
漣「深海棲艦の活性化に伴う、新たな鬼・姫クラスの深海棲艦を確認。正式種別は水鬼…」
加賀「タイミングが不自然すぎますね」
長良「どーゆうこと?」
加賀「そもそも、深海棲艦の沈静化が起こったのはここ数年の出来事です。私も噂程度で、実際に目の当たりにしたわけではありませんが、鬼や姫と呼ばれた深海棲艦の上位種、これ等の艦娘化が起こったと言われています」
鳥海「深海棲艦の艦娘化……私も聞いた事がありますが、実際にこの目で見た事はありません」
長良「そんな事、ありえるのかな」
満潮「そもそも深海棲艦って何なのよ」
漣「私達艦娘が殲滅するべき、人類の敵じゃないんですかー?」
満潮「じゃあ深海棲艦はどうやって生まれたのよ。何処から来て、どう繁殖して、何を最終目的にしてるのよ」
漣「うっ…そ、それは…」
加賀「……以前に提督へ何とはなしに伺った事があります。下らない事を言うなと一蹴されるかと思っていたのですが、予測に反してあの人は自身の推論を私に聞かせてくれた事があります」
満潮「うっそ…」
鳥海「あの司令官が…」
加賀「提督の仰った推論は次の通りでした」
艦娘には過去に戦果を上げた実在する軍艦の名がそれぞれに付けられている。
そして軍艦の魂とも言えるそれ等断片的な記憶こそ、艦娘が内に秘めている感情の動力源ではないか。
実際にフラッシュバックや夢と言う形で今を生きる艦娘の中にも過去の映像を記憶している者がいるという。
しかしそれ等軍艦の魂は今を生きる艦娘にとっては言わば忌まわしき残照。
消し去りたい、もしくは二度と思い出したくない苦い記憶。
もしもそれを克服した者がいるとしたら、その艦娘こそ名実共に真に覚醒した存在となるのかもしれない。
しかしそれ等を立証する手立ては現在ない。
加賀「最後にそう締め括り、結局は自らが幻想した戯言だと断じました」
長良「私達に秘められてる…」
満潮「忌まわしい記憶…?」
漣「ちょっと言ってる事が解らないですねぇ」
鳥海「司令官も確証があるわけじゃなく、あくまで自らの言葉だけで導き出した推論と言う事ね」
加賀「故に戯言と一蹴したのでしょう。どこまでが本心なのかは解らないけれど。取り敢えず、話を戻しましょう。深海棲艦の活性化についてです」
満潮「あぁ、うん。かなり逸れたね」
加賀「鳥海が入手したこの情報が確かだとすれば、いよいよ私達だけの現時点での戦力では対応が難しくなるわ」
鳥海「これに関してはもう、司令官の言葉をもらうしかないわ」
漣「悔しいですけど賛成ですー」
長良「よし、それじゃ司令官さんを迎えにいっちゃおうか!」
満潮「え?うん、まぁ…いけば?」
長良「えっ」
満潮「そのさ、『えっ!?満潮は行かないの!?』みたいな顔っ!やめろ!」
長良「すごっ、思ってた言葉一言一句そのまんまだよ…」
満潮「何処に驚いてんのよ…っとにもう。っていうか私この間いかされたんだし、今度は鳥海か長良か漣が行きなさいよ」
漣「えー、めんどっちぃですよぅ」
長良「え?私は別にいいよ?」
鳥海「開口一番に罵倒浴びたら思わず殴りたくなっちゃいそうで、そこが怖いですね」
加賀「…はぁ、じゃあいいです。私が迎えに行きますから」
長良「えーっ!それじゃいいって、私がいくよー!」
漣「むっ、なんかそこまで張り合われるとなんというか…じゃあ、私が恭しくご主人様迎えに行くでも構いませんよー?」
鳥海「ホントにもう、嫌々なら誰が行っても同じでしょうに…それなら私が行きますよ」
満潮「何この流れ…」
チラッ……
満潮「やるかバカタレ!」
ジー……
満潮「うぅ…なんなのよ!」
漣「……で?」
満潮「わ、解ったわよ!だ、だったら私が行こうじゃないのよ!」
四人「「どうぞどうぞ」」
満潮「っ!?」
加賀「解りました。連日私が向かっていたのでその発言は助かります。満潮にお譲りします」
満潮「はぁ!?」
長良「そこまで力強く言われちゃ仕方ないねぇ。譲るよ」
満潮「んなっ!」
漣「横取りされたみたいで嫌なんですねー。どうぞどうぞー」
満潮「何よそれ!」
鳥海「皆さんがそこまで仰るなら…いいでしょう。この鳥海、意地を張らずに自ら辞する覚悟です。満潮に委ねます」
満潮「ふざけんなっ」
加賀「では私は飛行甲板の手入れがありますので、これで失礼します」
長良「私は装備清掃~」
漣「おぉっと、もう直お料理番組の時間!」
鳥海「私も資料の整理と編集をしておこうかしら」
満潮「~~~~~~~~~~~~~~ッ」
この日、提督は無事退院し鎮守府へと戻ってくる。
青筋を立てた満潮が怒号の篭った声で出迎えてきた事に顔をしかめていたそうだが、些細な事だ。
再び提督を含めて六人揃ったハズレ鎮守府の面々。
一難は去ったが未だ謎が多く腐った膿は海軍から絞りつくされてはいない中で入手した深海棲艦の情報。
そしてここから、悪魔達の猛攻が始まる。
~前兆~
-事件-
『────緊急入電。この通信は一部鎮守府各位へ通達しています。各鎮守府の提督はこの通信を受信後、速やかに艦隊を編成し、出撃準備及び任務の遂行をして下さい』
所属等未確認聨合艦隊による大本営強襲事件が発生しました。
敵の主力隊はある事件の主犯格を大本営より拉致、連れ去ったものと思われます。
今回の任務は特例であり、全体への通達はされておりません。
敵の戦力は未知数、艦種及び陣形等あらゆる情報に不足が生じている状況です。
各鎮守府は細心の注意を払い、現時点で持てる最大戦力を投入してこれを追撃。
泊地と思われる敵戦力群を発見し次第撃滅して下さい。
作戦名:未確認敵艦隊を捕捉し、これを撃滅せよ!
??「どう思う、これ」
??「どう、とは?」
??「んー、だからぁ…一部鎮守府になんで私達まで入ってるのかなって」
??「それだけ信頼が厚いという証拠ではないのか。事実、あなたの功績は目覚しいものがある。今更あなたを贔屓目で見るような無粋な者はいないと私は思っているよ」
??「はぁ、ホントあんたは煽てるの上図よね」
??「ふっ、役得かな。さて、改めて聞こうか。どうするのだ、鋼鉄提督」
鋼鉄「やってやるわよ。大体、大本営に喧嘩吹っかけてられた上に犯人を見す見す逃したとあっちゃ海軍の名折れよ」
??「決まりだな」
鋼鉄「見せてやりなさい。貴女が率いる最強の艦隊を!」
??「いいだろう。ならば改めて指示を頼む」
鋼鉄「旗艦長門は第一戦隊を即時編成し今回の作戦に従事せよ!」
長門「了解した。戦艦長門、出撃する!」
??「……だとよ。どうにもきな臭ぇ話だぜ。お前等の意見も聞きたいからこうして集まってもらった」
??「不穏な動き…大本営でも戦力を把握できなかったって言うのが気になるわね」
??「行けと言われれば行くさ」
??「だね。それが私達の仕事だし!」
??「決めるのは提督でしょ?行くの?行かないの?」
??「意見、聞くまでもなかったんじゃないかしら?」
??「ふふっ、ざぁんね~ん♪」
??「ったく、揃いも揃って他力本願な奴ばっかりだなぁ、おい」
??「協調性はあるよ?って事で、任務通達をさぁどうぞ、不動提督!」
不動「伊勢、日向、蒼龍、飛鷹、筑摩、阿賀野。海軍に喧嘩売ってきた馬鹿共にお灸を据えてやれ!」
伊勢「そうこなくっちゃ!そうと決まれば、早速行きましょうか!」
日向「鈍っている体を解すには丁度いいかもな」
蒼龍「慢心はダメだからね!」
飛鷹「この作戦って、他にも通達着てるのかしら」
阿賀野「阿賀野達でびしぃって決めちゃえばいいんだよぉ」
飛鷹「相変わらずあんたの言葉って締まりないわねぇ…」クスッ
筑摩「阿賀野さんはのんびりやさんですからね」クスッ
阿賀野「もう、阿賀野はのんびりじゃないよ~!」
不動「だぁー!もううるせぇ!さっさと行ってきやがれ!っとによぉ、進撃の坊主んとこの艦娘が羨ましいぜ」
飛鷹「あら、随分な言い方」
日向「聞き捨てならないな」
伊勢「ほら日向、また置いてっちゃうぞー!」
筑摩「さぁ皆さん、気を引き締めましょう」
阿賀野「よ~し!」
蒼龍「リラックスできてるんだか、出来てないんだか、わっかんないなぁ」クスッ
元帥が信頼を寄せる鎮守府が続々と出撃の準備を始める中、ある大将が率いる鎮守府にも個別で通達が送られてきていた。
そこは嘗て、アイアンボトム・サウンドと呼ばれ数多くの死闘が繰り広げられた歴戦の大海。
そして以前まではある深海棲艦達の泊地も建造されていた場所。
今はそこに鎮守府が建てられ、大将が居を構えている。
月下の艦隊を率いる大将第漆将、新月提督。
鋼鉄提督と進撃提督、それぞれに直接の面識があり階級は上だが関係では後輩に当たる人物。
双方が共に信頼を寄せる頼もしい後輩でもある。
その鎮守府には正規の艦娘は極少数しか着任されていない特異な鎮守府でもある。
そして新月自身もまた特異な存在と言えるのかもしれない。
新月「どう思う?リコリス」
リコリス「全く、直そうやって私の顔色を伺う…」
新月「だ、だって仕方ないだろう?僕には圧倒的に経験値が不足してるんだから…」
アクタン「しんげつー!あそぼっ!あそぼっ!」タッタッタ
新月「あはは、アクタンは今日も元気だなぁ」
アクタン「づほ達、今日はえんせーなんだって!」
新月「うん、そうだよ。瑞鳳と、暁ちゃん達だね」
アクタン「えんせーって何するの?」
新月「物資を運んだり、民間人の護衛をしたり、色々だよ」
アクタン「わたしにもできる?」
新月「あはは、そうだね。今度暁ちゃん達と一緒に行って見ようか?」
アクタン「いくーっ!」キラキラ
リコリス「ほらアクタン、彼はちょっと忙しいから、ピーコック達と遊んできなさい」
アクタン「わかったー!」ビシッ
リコリス「ふふ、敬礼はいいわよ、別に」
新月「アクタンは和むねぇ…」
リコリス「ほんっと、進撃もまた随分な提督を寄越してくれたものよね」
新月「僕だって最初は驚いたんだよ?けどまぁ、アクタンにも懐いてもらえたみたいだし、今の所は万々歳だね。あとは、僕がこんな境遇じゃなければ尚よし、なんだけど…こればっかりは、どうしようもないからね」
新月は見た目が非常に幼く見える。
彼が大将と言う器に収まったのは鋼鉄と進撃、二人の提督の口添えが非常に大きかった。
一つはこの鎮守府に滞在する最大戦力の一端を担うリコリス達超弩級大型艦載機場を艤装に持つ艦娘達との橋渡し。
進撃経由で紹介され、真っ先にアクタンが新月に懐いたのが切っ掛けとなる。
進撃の紹介ならと快諾したのがリコリス達だ。
新月自身は提督の器で言えばまだまだ未熟な方に入る。
階級をそのままイコール器で考えるなら、進撃は中将、鋼鉄は大将、新月はいいとこ中佐クラスだ。
しかしこのリコリス達を率いる艦隊を指揮するという点から、新月は大将としてその位に就いた。
そして新月は生まれて間も無く両足が不自由であり、車椅子生活を余儀なくされている、と言う点も一つの特異点だ。
今では嘆く事もなくなったが、昔は相当に荒れていたと言う。
新月「進撃先輩の鎮守府からわざわざ瑞鳳ちゃんや暁ちゃん達を移籍させてくれたのはある意味助かったんだよ」
リコリス「主にアクタンの相手でしょうけどね」クスッ
新月「ただ、アクタンは怒ると凄いからね。さて、話が脱線しちゃったよ。えーっと…うん、取り敢えず表立って動くって言うのは余り良くないと思うんだよね。だから、周辺海域の哨戒に留めるって事でどうかな? そこでもしも動きがあれば進撃先輩や鋼鉄先輩に通信で知らせる」
リコリス「良いんじゃないかしら。瑞鳳達は遠征でいないから、仕方ないわよね。私とポート、フェアルストの三人で周辺の警戒に当たるわ」
ポート「久々の海かしら?」
フェアルスト「この地に入り込んでくるって言うのなら、丁重にお帰りいただかないとね」
リコリス「平和を平和のまま享受出来ないなんて、不憫よね」
ポート「それじゃ、行きましょうか」
フェアルスト「ピーコック、私は少し出てくるからアクタンの事お願いね」
ピーコック「ちょっ……!大体姉妹のあんた達がアクタンの相手しないってどーなのよっ」
アクタン「ぴーこっくぅ、次はレップウで遊ぼう」ブラブラ…
ピーコック「ちょ、だからぶら下がらないでよ!」
リコリス「それじゃ、行ってくるわ」
ピーコック「は、話を聞きなさいよ!」
ポート「」グッ
ピーコック「無言で親指だけ立てるなっ!」
フェアルスト「」グッ
ピーコック「ちょ……」
リコリス「」グッ
ピーコック「」ピキッ
新月「あ、あははは…」
アクタン「?」
-失態-
元帥「内部の腐食、深海棲艦の活性化、そして……今回のキメラ男奪還の為の襲撃……くそっ!」バンッ
大和「…………」
コンコン……
大和「…はい」
オオヨドデス……
大和「どうぞ」
ガチャ……
大淀「失礼致します。第二秘書艦ビスマルク及び、暗部大本営直営隊全員の招集を確認しました」
元帥「作戦室へ移動する」
大和「はい」
元帥「待たせた」
ビスマルク「別に問題ないわよ」
大和「本来であれば大将各位への通達もなさる予定でしたが、事は公にするべきではないという元帥のご提案です」
【大本営直営隊密偵部隊】Secret Agent Fleet:SAF
那智「大本営直営隊密偵部隊。通称サフ、旗艦那智以下摩耶、祥鳳、参上した」
摩耶「ホント、面倒ごとが尽きないねぇ」
祥鳳「暗雲立ち込めるという奴ですね」
【大本営直営隊戦闘部隊】Special Duty Battle Fleet:SDBF
足柄「大本営直営隊戦闘部隊。通称サドバフ、旗艦足柄以下多摩、不知火、ただ今到着よ」
多摩「にゃ~、言ったとおりになってきたにゃ」
不知火「余計な発言です」
【大本営直営隊警護部隊】Security Fleet:SF
妙高「大本営直営隊警護部隊。通称エスエフ、旗艦妙高以下雲龍、磯風、到着致しました」
雲龍「ここを直接狙ってくるなんて、上等じゃない」
磯風「不愉快な敵だ」
大和「皆さん、本当にご苦労様です。ついてはこれまでの経緯を簡単に私の方から説明させて頂きます」
本来であれば件の男は陸軍の管轄する投獄牢へ搬送する手筈となっていました。
しかし、内容が内容である事と出来る限り近場で監視を続けるという名目上、海軍で管轄する絶海の牢獄へ護送先が変更となりました。
これは現在ここにいるメンバー及び、上層部にしか通達されていなかった情報です。
この情報が、何処かから漏れてしまったのが事の発端です。
エスエフのメンバーはその当時、西提督の一件で鬼怒達の護衛をしており手隙の状態ではなかったのを考慮し、別の護衛メンバーを急遽見繕う形になりました。
ですが、これが不味かったのでしょう。
護送航海途中で件の未確認艦隊の襲撃を受けて護送艦隊は全滅。
キメラの男はまんまと脱走を成功させるに至った訳です。
足柄「解せないわね」
那智「同感です」
妙高「私達の鬼怒さん達の護衛は長期に渡るものではなかったはずです。実際、ハズレ鎮守府から護送して間も無く、警護対象からは外れています」
雲龍「何故、私達の到着を待てなかったのかしら」
大和「そこが私も引っ掛かっています。本来であればエスエフに一任すべき事案内容ですから」
元帥「内部にねずみが存在した。そう考えるのが最も辻褄合わせにはしっくり来る」
ビスマルク「それで、私達を招集したのはどういった理由なのかしら?」
元帥「一つは大本営の内外問わずの警戒強化だ。これ以上、失態を晒し続けるわ訳には行かない」
大和「もう一つは、この事態がどこから起こったのか、その発生源を突き止める事です」
不知火「故意に起こったと?」
大和「私達は、そう睨んでいます」
ビスマルク「つまり元帥には確証とまでは言わないけど、それに近い何かを掴んでいると見ていいのかしら?」
元帥「火元の特定はどちらにしろ早急になさなければならない。周りの火を消していても火元が消えてなければいずれはまた元通りに燃え盛るだけだ」
ビスマルク「まぁ、それもそうね。という事は、その辺りの事実確認に適しているのは……」チラッ
那智「我々サフが適任でしょう」
摩耶「オッケー。出し抜かれっぱなしは癪だからな。相手の鼻っ柱折るだけじゃ物足りないってもんだ」
祥鳳「ですが情報が些か少量ではありませんか?取っ掛かりと言うものがなくては、証拠も集めようがありません」
那智「だから動くんだ」
妙高「那智、わかってると思うけど…」
那智「解ってます、姉さん。何時如何なる場合においても気を緩めない事。最善は尽くせ。けれど無茶はするな。この命は、私一つのものではないのだから」
妙高「」ニコッ
足柄「祥鳳が言うように、手元にある情報は少ない。確実に何かが歪んでるわ。那智、絶対無理はダメよ」
那智「はい」
この小会議から一週間後、サフのメンバー三名は重傷を負って艦娘病院へ搬送される事になる。
三人とも意識不明の重態で予断を許さない状態で発見された。
傍らには血塗れの一枚の紙が添えられ、そこには『これ以上の詮索は身を滅ぼすだけだ』と記されていたという。
-宣戦布告-
提督「…………」カチンッ……シュボッ……
提督「……はぁぁぁ、やだねぇ、怖い通知ばかりでよ」トントン…
加賀「どう思われますか」
提督「どうも何も、命令が降りてこねぇんなら、俺等にゃあどうでもいいこった。最も、奴さん等は今必死だろうがな」
加賀「提督」
提督「んだよ。非難でもするか?」
加賀「現時点での私達の戦力と深海棲艦側の戦力を比べて、どちらが上と思いますか」
提督「はぁ?」
加賀「別に深海棲艦側が比べる相手じゃなくても構いません。例えば……そうですね、名立たる艦隊がありますが、進撃の艦隊、不動の艦隊、鋼鉄の艦隊、月下の艦隊、字を持つ艦隊は往々にしてありますが、どこと比べて私達はどれだけの戦力があると考えられますか」
提督「何を言ってやがる。てめぇが最も嫌うジャンルをてめぇから聞いてくるとか脳みそ沸騰でもしてんじゃねぇのか」
加賀「理解はしています。ですが、今は個人の意地を通している場合ではないと判断しました」
提督「…ほぅ。確かにいつ何時ここも標的になるかもわからねぇしなぁ…だが、他とてめぇ等を比べるなんざ笑わせるな」
加賀「……?」
提督「確かに俺ぁてめぇ等の実力を見抜いたが、それに胡坐を掻けとは一言も言ってねぇ。今のてめぇの発言はまさに己の力に溺れ酔った者の発言だ。くくっ、じ・つ・に愉快だ。てめぇはそんな落ち度を見せねぇと思っちゃいたが、存外大した事はねぇみたいだな」
加賀「それは…」
提督「てめぇの口癖じゃねぇのか。他と比較するのを最も嫌うのはよ」トントン…
提督「だがまぁ、後学までに知っておくに越した事はねぇだろうがな。敢えて聞かなかった事にしてやるよ。こいつぁ俺の独り言だ────」
それぞれの艦隊にはそれぞれに特色がある。
顕著なのは不動んとこの艦隊だ。
あそこはとにかく防衛が強い。
事防衛戦に至っては俺が知る限りじゃ百戦錬磨の防御力を誇る。
まさにイージスの盾ってヤツだぜ。
攻撃力に特化してるのは鋼鉄の艦隊だろう。
一度は崩壊の一途を辿ったと言われてたが、地獄の底から這い上がってきたあの女は最早前元帥の娘なんて肩書きで
納まるような簡単なヤツじゃねぇ。
秘書艦でもあり第一艦隊の旗艦も努める長門の強さはまさに一騎当千の強さがあるなんて言うくらいだからな。
同じ戦艦で言えば進撃んところの戦艦榛名、こいつも奇抜だって聞いた事がある。
金剛型四姉妹を揃える中でも飛び抜けてるのがこの榛名だって話だ。
他にも粒揃いの優秀な艦娘があそこには揃ってる。
恐らく今演習でお前等が戦えば、今上げた三つの艦隊には凡そ歯が立たんだろうな。
加賀「一矢報いる事も、出来ませんか」
提督「無理だな。断言してやる。極端に言えばあいつ等は完成型、てめぇ等は発展型だ」
ピー ピー ピー……
提督「あん?」
加賀「電文です。……これは」
提督「んだよ」
加賀「どうぞ」スッ…
■召集令状■
本日ヒトサンマルマルにおいてこの令状を各位へ通達する。
本題は追って大本営にて通達予定である。
令状を受け取った提督は秘書艦を随伴の上で直ちに大本営へ集合されたし。
尚、この令状に拒否権は無いものとする。
海軍大本営元帥 智謀
提督「んだこりゃ…」
加賀「簡素な内容が返って興味を引きますね」
提督「病み上がりに大した仕打ちを考えてくれるぜ…」
加賀「どうなさるおつもりですか?」
提督「…鳥海を呼べ」
加賀「では…」
提督「出向いてやろうじゃねぇか」
加賀「解りました」
ザワザワ……
提督「ちっ…」
加賀「…………」
『ねぇ、あれって加賀じゃないの?』
『あぁ、敵味方問わずに大虐殺やらかした殺戮空母ね』
『近寄っただけで大破させられるんじゃない?ちょっとあんた、行ってみて来てよ』
『冗談でしょ!死んでも近寄りたくなんてないわよ』
提督「お前、相当ヤンチャしたみてぇだな」
加賀「…雑音に傾ける耳はありません」
提督「くくっ…言うじゃねぇか。っと…」
大淀「……お待ちしておりました。『白夜』提督」
加賀「」(白夜…?)
提督「最速嫌味ありがとよ。このクソメガネ」
大淀「そちらは嫌味に切れがありませんね。まだ傷が痛みますか?」
提督「ほざいてろ、万年三番手の引き篭もり軽巡が。まだ香取の方が有用性あるんじゃねぇのか」
大淀「……多少は英気が養われているようで安心しました。不愉快極まりないですけどね」
コンコン……
大淀「ハズレ鎮守府の提督及び秘書艦加賀、到着しました」
元帥『通せ』
ガチャ……
パタン……
扉を潜った先には六つの影。
どれも個人的に知ってる顔ばかりだったが、それでも提督の顔に驚きの色がありありと浮かび上がった。
??「んだぁ…落ちぶれ白夜じゃねぇか」
??「場を弁えなよ。それに、余り人を貶める発言は良くない」
??「…………」
元帥「来ないものと思っていたが、存外興味が無いわけでもなかったか」
提督「うっせぇ」
元帥「さて、顔見知りもそうでないにしろ、各々の紹介からまずは済ませようか」
まずは左手から順に紹介する。
彼は階級は大佐、新鋭の叛乱事件の際に尽力してくれた功労者、進撃提督だ。
秘書艦は高速戦艦の榛名。
私が最も信頼を寄せる一人として今回召集した。
次、つい最近第拾将として大将十名の一人に名を連ね、今尚功績を挙げ続けているエリート提督。
秘書艦は航空戦艦の山城。
次、現時点で最も大将の器に近い男、エリート提督と並び評される戦力を誇る心悸提督。
秘書艦は正規空母の天城。
最後に────
提督「トリに置いて盛大に罵る気かよ。ったく面倒臭ぇ……俺ぁハズレ鎮守府の提督だ。こっちは秘書艦の加賀。ただそれだけだ。手前様方のような仰々しい歴史は塵一つありゃしねぇよ」
エリート「…随分な言い回しじゃないか、白夜」
心悸「けっけっけ……てめぇよ、まだ根に持ってんじゃねぇだろうな?」
提督「……」
山城「……久しぶりね、ろくでなしのクズ。まだ生きてるなんて、心底驚いたわ」
提督「山城…」
エリート「やめないか、山城」
山城「失礼しました、提督」
進撃「元帥、これはなんの集まりで何をさせようとしてるんですか」
元帥「それは…」
エリート「進撃君、だよね」
進撃「は、はい」
エリート「改めてはじめまして。僕はエリート提督です。君も話は聞いてると思うけど、ここ最近の深海棲艦の動き、これがまた活発になったって話だ。それとは別に、大本営に牙を剥いた連中が居る」
心悸「で、今手隙の俺等にお声が掛かったって訳だ。くくっ、だがよ…白夜のオッサン…あんたが呼ばれたのは、お門違いってもんじゃねぇのか?見す見す艦娘を見殺しにした指揮官と、敵味方問わずに虐殺の限りを尽くした殺戮空母……鬼に金棒所の話じゃねぇだろ」
天城「あの、提督…余り、その、他者を蔑む発言はよろしくないかと…」
心悸「チッ…はいはい、解ったよ」
榛名「」(あの人が、赤城さんの言っていた加賀さん…)
大和「全員、言葉を慎んで下さい。元帥の御前です」
エリート「これは失礼しました」ペコリ…
心悸「申し訳ございませんね」プイッ
進撃「……」
提督「……」
元帥「足並みが揃うなどとは思っていない。階級も担当区域も違う者達だ。烏合の衆と言っても過言ではない。だがそれでも、今この場においては共闘してもらわなければならない」
心悸「共闘、ねぇ…」ニヤッ…
エリート「共闘自体はいい提案と思います。しかし彼が居るのは何故なのか、その説明が先ではありませんか、元帥」
元帥「ここ最近起こった事件、その先駆けとして関わった者だからだ」
エリート「…………」ピクッ
心悸「…………」ギロッ
提督「やれやれ、目つきと空気が良く変わるねぇ…」ニヤッ
エリート「つまり、例のキメラの男、そして西の提督の暴乱に関わっていたと?」
元帥「そうだ。同じ理由で進撃提督にも助力を賜っていた」
進撃「」ペコリ
心悸「流石は新鋭の叛乱を鎮圧した大英雄様だなぁ。その後も活躍するなんざ、いよいよもってエース級じゃねぇのよ」
進撃「いえ、そのような事は…自分はただ、指揮を執っただけですから。本領を発揮したのは彼女達艦娘です」
心悸「くくっ…謙遜すんなよ。少なくともそっちのオッサンよりはよっぽど優秀だぜ」
チャキッ…
心悸「っ!」
加賀「言葉を慎みなさい。あなた方がそう望むのであれば、その言葉通りに敵味方問わずの爆撃を敢行します」
心悸「てめぇ…ッ!艦娘風情が…!」
エリート「心悸っ!」
心悸「……ッ」
エリート「言葉が過ぎたよ。過去は過去だ…それを今ここで詳らかにする必要は確かに無い。ここは僕に免じて許してくれないだろうか」
加賀「あなたの顔がどれほど広いのか知りませんが、あなたの謝罪でこれまでの侮辱の帳消しになるとは到底思えません」
提督「くくっ」
エリート「…言ってくれるね」
大和「いい加減に…」
榛名「止めて下さい!」
天城「…っ!」
山城「……」
榛名「担当される鎮守府は違えど、同じ場に籍を置く皆さんがどうしていがみ合うんですか!」
進撃「榛名…」
榛名「加賀さんも、矛を収めて下さい」
加賀「聞けません」
エリート「解った。素直に謝罪しよう。この通りだ、許して欲しい」ペコリ…
心悸「エ、エリーt……」
エリート「君も蒔いた種だろう。君も、提督と加賀へ謝罪すべきはずだ」
心悸「くっ……」
天城「提督…」
心悸「解ったよ…済まなかった。言葉が過ぎた…謝罪する。この通りだ、許して欲しい」ペコリ…
提督「」(これだよ…その場限りの非は素直に認める…エリートほど小賢しい奴ぁ何処を探しても絶対に居ない。その事実に気付くのに俺は遅すぎた。今更何を況や……全ては奴の掌の上の出来事として処理された。全ては俺の詰の甘さ、俺の未熟さ、俺の偽善ぶった性格、俺の…浅はかな行動の全てが、今へと繋がる)
加賀「…提督」
提督「くくっ…じ・つ・に、下らない!活劇、喜劇、三文芝居は大いに結構!金にも成らない無駄な演技はこの際不要だ。好きなだけ罵れ。好きなだけ罵倒しろ。吠えた分だけ俺様が貴様等を須らく嘲笑ってやる!」
元帥「おい、提督…!」
提督「いいか、良く聞け海軍!」
俺達は貴様等海軍から忌み嫌われる存在だ。
凡そどの鎮守府は愚か艦隊にすらも同意を得られない落ちこぼれ。
貴様等が見放し、見捨て、ゴミ捨て場に遺棄した存在…それが俺達だ。
存在価値等は元から皆無!
この場にそぐわなくて当然!
例え全てが敵に回ろうと、今俺が信じるのはあの場に居る五人以外はありえない。
俺様の命を懸けててめぇ等に落とし込んでやる。
これから起こる事象に目を背けるな。
紡がれる言葉には一言半句も漏らさず耳を澄ませ。
俺様の従えるこいつ等の動きに刮目しろ。
そして思い知れ。貴様等海軍に────
提督「────目に物を見せてやる。行くぞ、加賀」
加賀「…はい」スッ…
提督「」(こうも早くにあの糞野郎の背に手を掛けれるとはよ…くくっ、これが笑わずに居られるか? 否、まだ笑う時じゃねぇ。今はまだ、ほくそ笑むだけだ。声を出して笑うにはまだ早ぇ…)
タッタッタッタ……
提督「?」チラッ…
進撃「はぁ、はぁ…て、提督!」
提督「進撃…咎めにでもきたのか。元帥の御前であんた何してんですかってよ」
進撃「あなたの、艦隊だったんですね」
提督「あぁ?」
加賀「…………」
進撃「彼女は、一航戦の加賀でしょう」
榛名「提督、いきなり走り出して……あっ」
提督「だったらなんだ」
進撃「やっぱり…あ、いや、うちに在籍してる赤城から、聞いたんです。あの、キメラの男と交戦した時に、そこにいる加賀と共闘したと…」
提督「…それで?」
進撃「まぁ、それは…話の取っ掛かりでしかないです」
提督「何が言いてぇんだ」
進撃「以前に、聞いた事があります。眠らずの部隊、白夜の艦隊…他の艦隊の追随を許さない圧倒的な持久力を持ち、津波のような波状攻撃を得意した艦隊戦術。一度動けば並大抵の事では止まらない、沈まない」
提督「俺に俺の昔話聞かせて何がしてぇんだ。足の裏でこねくり回すぞ若造が…!」
進撃「私は、子供の頃にあなたに会ってる」
提督「」ピクッ
加賀「……」
進撃「違いますか?」
提督「覚えちゃいねぇよ。てめぇがガキの頃がどうだったかなんて、俺が知る訳ねぇだろうが。行くぞ、加賀」スタスタ…
加賀「失礼致します。……あと、赤城さんを宜しくお願いします」ペコリ
榛名「行っちゃいましたね」
進撃「榛名…」
榛名「榛名の直感ですけど、あの方々はなんだか大丈夫なような気がします」
進撃「何だよ、それ」
榛名「ふふっ、さぁ何でしょう?」
提督の過去を知るらしいエリート提督と心悸提督。
去る提督の背中を静かに凝視し続けるエリート提督。
冷たい視線だけをその背中へ注ぎ続ける、提督と因縁のある山城。
歯を食い縛り、提督の背を睨み付ける心悸提督と心配そうな視線を送る天城。
唖然とただ見送るだけの進撃提督とその秘書艦榛名。
小さくため息をつく元帥。
それぞれの思惑が交錯する中で不敵な笑みを見せるのは提督ただ一人。
その提督と関係がある口振りを見せた進撃。
まだ顔合わせをした段階。
しかし、うねりと言う波は小波となって勢いを増し、やがては巨大な尾を引く津波と化ける。
これはその最初、ほんの始まりの部分。
そしてこれを皮切りに、ハズレ鎮守府が歴史を創る。
~悪魔の計画・前編~
-血の海-
何故そうなったのか。
どうしてこうなったのか。
小さな歪は気付けば大きな亀裂となり、表に出る頃にはどうしようもない状況となっていた。
数多くある組織の中で、完全な潔白を主張できる強大な権力を持った組織が存在するのだろうか。
否、恐らくは大なり小なり詳らかには出来ないような事柄が存在しているのだろう。
今のこの、海軍のように。
不動「……全員、大破撤退だと……」
古鷹「ロストがいなかっただけ、良かったと思うしかないよ」
矢矧「今は全員、艦娘病院へ搬送が済んでいるわ。意識不明者は伊勢、蒼龍、飛鷹の三名…」
不動「何が、起こった…」
古鷹「解らない。ただ、最後に通信してきた日向さんの言葉は、判然としないって感じだった」
日向『筑摩と阿賀野が奇襲から最速で戦闘不能にさせられた』
古鷹『えっ!?』
日向『こいつ等は、一体何なんだ…』
古鷹『日向さん!日向さん大丈夫なんですか!?』
日向『……ガガッ……まない………に、えんを……くれ………』
古鷹「通信障害が発生し、その後の通話は不能に。それで急ぎ矢矧さんたちと最後に確認が取れたポイントへ向かってみたら……」
矢矧「水面を漂う六人を発見した」
不動「あいつ等が、手も足も出せずにやられたってのか…」
矢矧「提督、現状では私達はこれ以上の戦線維持、及び戦闘続行は不可能です」
不動「くそったれがッ!!」
鋼鉄「長門…ッ!」
長門「すまない…油断や慢心をしていた訳ではない、だが…」 中破
酒匂「わ、私がいけないんです!長門さん、私を庇って…」 小破
長門「お前は悪くないよ、酒匂。それよりも、翔鶴と瑞鶴、天龍と龍田の姉妹達が心配だ」
鋼鉄「被害の規模は、どれくらいだったの?」
長門「私が中破、酒匂は小破で済んだが、前述の通り、鶴姉妹と龍姉妹の四名が大破だ」
鋼鉄「なんて、こと…!一体、何が起こったの…」
長門「恐ろしいほど錬度の高い連中だったのは確かだ。そして恐らく、今回の一件も深海棲艦が絡んでいる」
鋼鉄「けど、貴女達をそこまで追い詰めれるのに、何故トドメを刺さなかったのかしら…」
長門「くっ…さて、何故かな。殺気は無論あったが、本気で殺(と)りにきている感じは見受けられなかった」
鋼鉄「いいわ、とにかく二人はまずは入渠して身体を休めて」
リコリス「こいつ等…」
フェアルスト「まさか、これほど?」
ポート「水面下で動いていたのね。リコリス…」
リコリス「ええ、私達だけじゃ勝ち目が無い。物量で確実に負けるわ。それだけじゃない…」チラッ…
??「愚カナ、子たち…けど安心ナサイ。直に、マタ……昔と同じ憎しみヲ、刻み込んでアゲル」
リコリス「あんな奴、今まで見た事がないわ…」
ポート「私達よりも更に上位だというのかしら」
フェアルスト「どちらにしても、緩い平和は取り敢えずお預けのようね」
リコリス「撤退よ。私達だけでは、あの数はもう捌き切れない」
??「逃げるノカ。艦娘に成り戻った無様ナ棲鬼共ッ!」
リコリス「何とでも言うがいいわ。これは戦略的撤退と言う奴よ。それと、心変わりするなら今の内よ? ここから後は、冷たい深海の感触しか残らないんだから…!」ギロッ
フェアルスト「この海域を侵そうと言うのなら、沈めて上げるわ。ここを貴女達の墓標にしてあげる。水底を恐れないというのなら、進んでくるといい。その全てをアイアンボトム・サウンドへ捧げなさい!」
ポート「二人とも、行くわよ」
??「……小賢しい、成り損ナイの艦娘風情ガ…ッ!」
??「今はいいわ、程ほどにね。私もこの目で見るのは初めて…あれが、月下の艦隊の一端。ふふっ、ゾクゾクしちゃうわね」
??「ヒトの分際デ、何故貴様は我々に手ヲ貸す」
??「そりゃあ、海軍…それも期待の持たれてる鎮守府の数々が邪魔だからよ。さっき不動の艦隊と鋼鉄の艦隊は無力化させるに至ったって報告があったし、上々じゃないかしら…出来れば、あの月下の艦隊も沈黙させておきたいけど」
??「無理ダナ。ああは言ったが、奴等の戦力ハ侮れないモノがある。仮に無力化出来たとシテも、こちらの損害モ並大抵では決シテ済まないノハ明白だ」
??「まぁ、それもそうね。さて、と…あと残ってるのは進撃ちゃんの所と、チョロチョロと五月蝿いネズミ共…そ・れ・と…ふふっ、例の掃き溜め達ね」
『おかしいとは思わないかい?こちらに非があったのは確かだが、素直に謝罪をしたにも拘らず、僕等を避けるようにあの場から立ち去った。それに聞けば彼の束ねる艦娘達は、そのどれもが一癖も二癖もあるような猛者の集まりと聞く』
『一体、何が言いたいんですか』
『バァカ…暗に遠回しに言ってやっただけだろうが。首謀者はあいつだってよ』
『なっ……』
『あの地へ集められた艦娘達は、海軍を酷く嫌うか憎むかしている。相応の処罰を下されながらも、根底に突き刺さった憎悪と言う燃料は空にはならなかったようだね』
『元帥さんよ…丁度戦力になる俺等が集まってんだ。きな臭ぇ芽は早々に摘む。あーだこーだと面倒臭ぇ議論なんざ俺の性には合わねぇんだよ。サクッと決めようぜ…』ニヤッ
『元帥、貴女も…同じ意見ですか』
『…疑わしいのは事実だ。ならば…』
『なら、俺が真偽を確かめます』
『何…?』
『良いのかい、僕等の艦隊が戦線に加わらなくて』
『構いません。俺の艦隊だけで、抑えてみせます』
『くくっ、頼もしいこって…』
進撃「────ついては、これより無力化作戦を敢行する」
榛名「提督、本気ですか…?」
進撃「あの人の真偽を確かめる。赤城、神通、木曾、北上、夕立、時雨…準備を整えて抜錨の準備だ。ただし、決して撃滅はするな。出来るなら捕縛する。無力化させてしまえば後はどうとでもなる」
赤城「提督…」
進撃「確かめて来い、赤城。俺も実際にこの目で見て、加賀があんな事をしたとは到底思えなかった。直感だけどな」
赤城「ありがとうございます、提督」
-四面楚歌-
鳥海「赤紙の、通達書…」
長良「えぇ…!?」
漣「マジですか…」
満潮「なんでよ…何なのよ、それ!」
現在の海軍には三つの通達書が存在する。
その中の一つ、通称赤紙。
遥か昔の戦時中、通称赤紙と呼ばれた召集令状があった。
軍隊が在郷将兵召集の為に出した令状である。
しかし現在の海軍ではこの赤紙は意味が違う。
排除通告。
鎮守府単位での消滅をこれは意味する。
提督「ちっ…実力行使って訳かよ」
加賀「この鎮守府を放棄しますか?」
提督「馬鹿か、てめぇは。んな事したら相手の思うツボだろうが」
加賀「……」
長良「でも、なんでいきなり」
提督「事情を少しでも知ってる俺等をこの機に乗じて抹殺しようって腹だろうよ。くくっ……めでたくこれで、俺等は海軍(みうち)からも深海棲艦(てき)からも忌み嫌われる存在になったって訳だ」
満潮「ホンット、災難ってレベルじゃないわね」
提督「降りかかる火の粉は全て払う。だが絶対に身内に手は掛けるな」
漣「それって~、結構常識的な発想だと思いますけど~?」
提督「解ってねぇようだから教えてやるがな…手を抜いて制圧できる相手なら俺様だってここまで冷や水被った顔はしねぇんだよ。これから制圧に来る相手は恐らく難敵もいいところの相手だろうよ。下手すりゃ元帥の抱える艦隊が直で迫ってくるかもしれねぇ。だとしたら、お前等じゃ勝ち目はねぇよ」
満潮「そんなの…やってみなきゃ…っ!」
鳥海「近代化改修、ですか」
漣「へ?」
加賀「艦娘の強化を前提とした強化法ですね」
提督「ちっ…ったく、余計な知識だけは豊富だな、くそが」
鳥海「元帥の抱える艦隊であれば、錬度は申し分なし。そこから更にその近代化改修によって更なる強化が施され、まさに鬼に金棒といいたいのよね」
提督「解ってんなら…」
長良「だからって指咥えて負ける時を待ってるのは私達じゃないよね」ニコッ
提督「てめっ……」
満潮「あーはいはい、お腹抉られちゃって弱気になってた人はちょっと黙ってなさいって」
提督「なっ」
満潮「相手が何だろうが知ったこっちゃないわ。やってやるわよ。やらなきゃ終わりっていうなら、死に物狂いで勝ちにいってやる。あんたがいつも言ってる事じゃない。見せてやるわよ……目に物を見せてやる!」
提督「」(…本当にこれを送ってきたのは大本営…元帥からの一便か?あの時、俺は敢えて離反する素振りを取った。反発し、反論し、暴発気味にあの場から撤退して見せた。絶対にあの野郎なら食い付く…そう信じて賭けに出た。だが釣れたのが赤紙…?腑に落ちねぇ所の話じゃねぇだろ)
満潮「ち、ちょっと、何黙ってんのよ!」
提督「…好きにしろ。くくっ、てめぇ等の骸くらいは掻き集めて同じ場所に置いてやるよ」
『始まったね。無益な争いが…』
『まさか本当に戦わせるとはね』
『後は時間を見て漁夫の利って訳か』
『僕は別の方面を見てくる』
『蛇蝎の奴が向かったほうか?』
『そうだね。ある意味そっちの方が難敵だ』
『後は私達で事足りるよ。きっちりトドメを刺して、楽にしてあげよう』
『てめぇはたださっさと仕事終わらせて飯食いてぇだけだろうが』
『ははっ、それもあるね。動くと腹が空く。道理じゃないか』
孤独を匂わせる、そんな感覚に囚われる夢を見た事がある。
静寂が辺りを支配し、空は何処までも黒ずみ、湖面すらも黒く染まる。
そこにただ一人、立ち尽くす。
オレンジに染まったあの時のものとは違う、圧倒的に心を締め付け閉じ込めるような感覚。
己を保つ事さえ困難な緊迫した状況、そして少しでも意識を逸らせばたちまち自身すらも周りの漆黒と同化する。
それだけは、それだけはなってはならない。
意識を刈り取られる訳には行かない。
強く持て。
自らを、心を、意思を、信念を、想いを、前に踏み出す勇気を。
全てを備えたその時こそ、自らを凌駕した何かを手に入れられる。
そんな抽象的で不安が残る夢に比べれば、今のこの判然とした状況はどれほどのものか。
比べるべくも無い。
何がこようと、何が現れようと、何が起ころうと、この心が揺さぶられる事は二度とない。
だから、その人が眼前に現れても眉一つ動く事はなかった。
赤城「加賀さん…」
神通「この方々を、無力化させるのは少し骨が折れそうです」
北上「おぉおぉ、壮観だねぇ…」
木曾「一目で解る錬度って奴だな」ニヤッ
夕立「それでもやるっぽい!」
時雨「うん、全力を尽くすよ」
加賀「…………」
鳥海「空母機動部隊ですね」
長良「強そうだねっていうか、強いの確実か」
満潮「だから何よ。全力でぶっ潰すんだから!」
漣「手加減無しです!」
-好敵手-
それぞれがそれぞれの相手を見定め、それ以外に焦点が合わなくなる。
二人にとっては更なる集中が互いを高めていた事だろう。
世界にただ二人だけ。
この大海にたったの二人、それ以外は障害物でしかなくなる。
互いが互いを認め合い、切磋琢磨してきた日々が思い起こされるも即座に霧散する。
良く笑い、大らかな心で周りを包み込む赤城。
厳しく、予断も隙も許さない凛とした姿勢を崩さない加賀。
二人の顔は今、悲しみを帯びて共に歪んでいる。
だが、それすらも表面には出さない。
何故なら、そこは戦場だからだ。
赤城「矛を納めて下さい、加賀さん。今ならまだ間に合います」
加賀「聞けない相談です」
赤城「何故ですか?」
加賀「」ギリッ…
赤城「私達はあなた達を撃滅する為に着た訳ではありません!ですから……」
加賀「引けません」スッ…
赤城「加賀さん…!」
加賀「ここは…ここだけは!例え赤城さん、あなたが相手であっても…ここは譲れません!」カッ
ビュッ
ビュッ
目を見開いた加賀が動く。
だがそれに遅れを取らず、即座に赤城も反応して矢を射る。
ダダダダダダッ
互いの矢から姿を覗かせた艦載機群はそれぞれが一機ずつ互いを撃滅しては撃ち落されていく。
スッ……
無言のまま加賀は人差し指、中指、薬指にそれぞれ矢を挟んで背に備える矢筒から引き抜く。
弓を縦ではなく横に沿え、二本の矢をそこに番えて一気に放つ。
同時に赤城は斜め上空へ向かって一矢を放つ。
ビュッッ
赤城「流石加賀さんです…そうきましたか」
険しい表情で赤城は加賀の放った矢の軌跡を見て彼女の作戦を理解する。
だがその上で打った手だ。
赤城もまた、旧知の仲であろうと手を抜く事はしない。
それこそ最大の侮辱になってしまうからだ。
全力を持って彼女の姿勢に応える。
同じ部隊の一員だったからこそ、戦友であるからこそ、旧知の仲であるからこそ、そして誰よりも信頼できるからこそ────
赤城「慢心してはダメ。加賀さん、全力で参りましょう!」
加賀「臨む所です」
バッ
一瞬早く、既に構想を練っていた加賀が振り翳した腕を真っ直ぐ振り降ろし、赤城を指し示す。
加賀「鎧袖一触よ。心配いらないわ」
赤城「……っ」バッ
加賀「敵機側面より強襲。更に直上からの波状攻撃です」
赤城「なっ…私の艦載機群が…!」
加賀「私の狙いを理解していたのなら、もっと集中的に狙うべきです。赤城さんの狙い、その上をいかせて頂きます」
ボゴオオォォォォォン
二人の上空で一際大きな爆発が起こり、赤城の放っていた艦載機達が次々と撃墜されて水面へ浮かぶ。
残った残存兵力で加賀は追撃に出たのだ。
上空へ矢を放った赤城に合わせ一方は側面へ、もう一方は上空へ軌道修正させて指示を出して攻撃と防御を一気にこなす。
赤城「くっ…直上…直上!?」バッ
ボゴオオオォォォォォン
直撃こそ避けたものの、赤城の片腕の袖が大きく焼けて裂ける。
ビリッ ギュッ
それを赤城は自ら更に裂いて腕に巻きつける。
そして再度前を向いた赤城には微塵も隙は無かった。
赤城「上々ね、加賀さん」 小破
加賀「みんな優秀な子たちですから」
赤城「攻撃と防御を一気に行うなんて発想、無い訳じゃないけど実行できるものとは思いもしませんでした」
加賀「同じ過ちを、私はもう絶対にしません」
赤城「え?」
加賀「今のこの艦隊ならば、私は全力で力を振るえると自負できます」
赤城「加賀さん…」
鳥海「突出してこない所を見ると、結構考えて動くタイプかしら?」
神通「戦術の基本です。提督から任された以上、矢尽き刀折れるまで、私は諦めませんよ」
鳥海「」(目が…物語ってるわよね。彼女は強い…少なくとも、私が今まで出会ってきたどの軽巡よりも、下手をすれば長良を軽く凌ぐほどのメンタリティとバイタリティを持ってるかもしれない)
対峙してから既に数分が経過する。
それでも彼女達は未だ微動だにせず海面を揺蕩う。
互いに自然体で構えもせず、各々を真っ直ぐに見据えるだけ。
動かないのではなく動けない。
そう考えていたのは鳥海だった。
微塵の隙も無い。
動き出しの糸口すら、神通から見出せない。
奥歯をかみ締めていた表情がフッと緩んで鳥海は小さく笑う。
鳥海「そうね…あり得ない事が起こるのが私達よね。ここからは、もう計算だけで全てが丸く収まるなんて思わないわ」
神通「……」スッ
静かに神通が腕を上げて砲塔を差し向ける。
それに応えるように鳥海も真っ直ぐに神通を見据えて主砲を構える。
神通「砲雷撃戦…」ジャキッ
鳥海「砲雷撃戦!」ジャキッ
神通「開始します!」
鳥海「やるわよ!」
ドン ドン ドン ドン
互いに一斉射を合図として動き出す。
二人とも時計回りに、砲撃と同時に動き出した。
ザバァァァン
ザバァァァン
一瞬先刻まで居た場所へ各々の放った砲撃が着弾して水飛沫を上げる。
速さは神通、正確さでは鳥海が一枚上手を行く。
鳥海「くっ…!」(速い上に、あの速さでブレが少ない斜線って何なのよ…!)バッ
神通「……っ!」(動きを止めたら、直に狙い撃ちされる。止まったら、ダメ…!)ザッ
互いに止まる事無く、流動的に戦闘を展開していく。
撃っては離れ、間合いを見て予測し、観測射撃を行う。
それでも決定打を双方共に打てずにこう着状態へと移りつつあるかのように見えた。
鳥海「このっ…!」ドン ドン
神通「まだ…!」サッ
ボゴオォォォォン
だが、鳥海は理解していなかった。
僅かなズレ。
細心の注意を払って神通は鳥海との間合いを一歩、また一歩と狭めていた。
神通の狙いは鳥海の無力化。
それは撃滅と言う意味ではなく、文字通り戦闘続行を不可能にするという事。
鳥海の纏う艤装の完全破壊。
だが神通もまた、ここで墓穴を掘る事になる。
神通「……っ」スッ…
鳥海「」(何、あの構えは…っていうか、ちょっと待ってよ。なんで、こんなに近いのよ…!)サッ…
神通「ふっ!」ビュオッ
大きな一歩、神通の構えは剣術の型に名を連ねる居合いの構え。
初速は静かに、淀み無く素早く、音を置き去りにするが如く、放たれた一刀は宛ら弾丸の如く。
狙い定めて目標を一瞬の内に沈黙させる。
ボゴオオォォォォン
鳥海「きゃあっ」 小破
神通「なっ」
鳥海「くっ…!被弾箇所は……こ、これは……!」
ボロッ……
神通の誤算、単純な距離の見誤り。
だがそれは鳥海の第六感が働いた事により偶然起こってしまった失敗。
僅か半歩、鳥海は後方へとたじろぐ形で退いていたのだ。
それ故に切っ先のみが鳥海の艤装を直撃し中途半端に破壊され誘爆が引き起こされた。
鳥海「あんな艤装、見た事が無い…独自にカスタマイズされた艤装とでも言うの…?」
神通「」(見誤った…まさか、あそこから半歩後ろに下がるなんて…解らない内に沈黙させるはずだったのに…)
鳥海「顔に似合わず怖いわね、あなた…」
神通「よ、余計なお世話です!」
鳥海「練り直しね、戦術の…」
木曾「悪ぃが多勢に無勢なんて寝言は止めろよ」
北上「嫌ならさっさと降参するこったぁね」
唯一、多対一と一人で二人を相手にしなければならなくなった長良。
しかし元々彼女が本領を発揮していたのはこういう状況での事だ。
たった一人で複数を殲滅する馬力と火力、そして立ち回り。
故に強敵二人を眼前に捉えても長良の腰は引ける所か普段よりも身軽になっていた。
長良「冗談!」グッ…
木曾「おっ」
北上「むっ」
長良「海には岩礁はあっても信号はないからさ。気の済むまで私は駆け抜けるよ!よーい……」
木曾「おいおい、こいつまさか…」
北上「あっはっは、木曾っちの考えきっと当たってるよ…」
長良「どんっ!」ザッ
木曾「野郎…!速ぇ…!」
北上「迂闊だったかも…これじゃ照準が絞れない」
木曾「面白ぇ、俺が止める。北上は構えて待ってろ!」ザッ
北上「あっ……もう、すぅぐ熱くなるんだから…」
長良「ん」
木曾「よう!スピード勝負なら乗るぜ?」ジャキッ
長良「」(この速さの中で構えるのか、凄いなぁ…)クルッ ザンッ
木曾「うおっ」ザザザッ
木曾の反射神経に驚嘆しながらも更にその上を行くかのように長良は併走していた木曾に逆らいその場でフルブレーキ、方向を直角に転換させて木曾の側面を正面に捉えて主砲を構える。
長良「でも狙いの正確さは漣には及ばないね」ジャキッ
ドン ドン
木曾「くっ」(どんな反射神経してやがんだ!)サッ
ボボボボボンッ
長良「次っ」ジャキッ
北上「うんにゃ、そうやりたい放題って訳にはいかないっしょ」
長良「えっ」
北上「準備はオッケーだよ、木曾っち」ニヤッ
木曾「へへっ、んじゃま…」
北上「ギッタギッタにしてあげましょうかね!」
ザザザッ
長良「」(不審な点は、一件見当たらない…)キョロキョロ
木曾「どうした?ビビッたか?まぁよ、今から貴様に本当の戦闘ってヤツを、教えてやるよ」バサァッ チャキッ
長良「え、と、刀剣…!?」
木曾「やれ、滑走台だ、カタパルトだ、そんなもんはいらねえな。戦いは敵の懐に飛び込んでやるもんよ。なあ?」ザッ
長良「」(くるっ!)
ボゴオオォォォォォン
ザバアアアァァァァン
長良「うわぁっ!え、な、何ぃ!?」
北上「ありゃ、外れた?」
長良「え、ちょ、ちょっとちょっと…」(何今の、海面が爆発した!?まさか機雷……)
木曾「余所見かよ。余裕だなあ、おい!」ビュオッ
長良「うひゃあっ」ヒョイッ
北上「地味に良く動くなぁ…んでも、その方があたしゃありがたいけどね~。木曾っち、追い込むよ~」
木曾「おう!まぁその前に…」チャキッ
長良「あ、あの刀剣はヤバイ…かなぁ。どーしよ…」
木曾「恨むなら貴様んとこの提督恨めよ。つってもまぁ、別に俺達は貴様等を撃滅する為に来た訳じゃねぇ。だから事と次第によっちゃあ見逃してもいいぜ?」
長良「い、今更ですか!?」ガーン
北上「木曾っち、それさぁ…最初に言わなきゃ意味ないじゃ~ん」ジトー…
木曾「う、うっせぇな!元はと言えばコイツがいきなりかっ飛ばしてきたからだろうが!」
長良「なはははは…まぁでも、私達は司令官を誰一人として疑っても居ないし、信じてるから」
木曾「…何?」
長良「それで裏切ったら、恩を仇で返してるのも一緒だよ。私の信条、受けた恩は形で返す!」ジャキッ
北上「言うねぇ…痺れるねぇ!そーいうの、お姉さんは共感持っちゃうよぉ!んでも負けてもらうけどね~」ジャキッ
長良「なっ…!」
北上「四十門の酸素魚雷は伊達じゃないからねっと」バシュン バシュン バシュン
長良「くっ」ザッ
北上「ふふん」ニヤッ
不敵に笑う北上、放たれた魚雷は北上が指定した方角へと真っ直ぐ伸びていくが、長良からは照準が僅かにずれる。
しかし────
ボゴオオォォォォォン
長良「きゃあっ」 小破
木曾「くくっ、容赦ねぇでやんの…」
北上「岩礁はあっても確かに信号は無い。んでも、信号に変わるモノなら用意できるんだなぁ」
木曾「うちの姉貴は性質悪ぃぜぇ…降参すんなら今の内ってな」
長良「くっそ…あったまきた!」
北上「ありゃ、闘争心に火を点けただけかもしんないわ…」
木曾「へへっ、面白ぇ…まぁあれでゴメンナサイじゃ、骨があるも何もあったもんじゃねぇからな」
満潮「赤い方、私が行くわ」
漣「ほいさっさ~♪それじゃ私はあっちの黒い方だね!」
夕立「時雨!」
時雨「うん、一気に攻めるよ」
先手必勝。
夕立と時雨の作戦はタッチ&ゴー作戦だった。
目標を認識した段階で一気に決着をつける。
長期戦に持ち込まず瞬殺で対象を沈黙させる作戦。
しかしその作戦は今回相対する二人には見事にハマらなかった。
ビュオッ
空を裂く、という表現があるが満潮はまさにそう表現するに等しい動きを見せる。
海面を割って、風を切り、空を裂く。
夕立と肉薄するのにそう時間は要らない。
まさに一瞬。
そんなデタラメな動きの中で反動を物ともせずに主砲を構える姿を何とか捉え、夕立の顔つきが変わる。
夕立「し、島風と同じ…ううん、下手したらそれより速いっぽい!」
時雨「何なんだ、あの子は…!」
満潮「相手が何だろうが知ったこっちゃないわよ。目に見える敵は全て私がぶっ潰して上げるわ!」
夕立と時雨、二人の企てた奇策は策に移る前に潰された。
異常とも言える満潮の単身先行による奇襲によって、ただ二人の範囲に侵入を許したというだけで敢え無く散った。
そして彼女が二人のお株を奪う。
満潮「先手必勝よ!」ドン ドン
夕立「時雨!」ドンッ
時雨「うわっ」ザバァッ
ボゴオオォォォォン
夕立「けほっ、こほっ……」 小破
満潮「直撃を避けたっての!?」ザザザッ
夕立「夕立、突撃するっぽい!」キッ
満潮を睨みつけ、夕立の表情に険が刺す。
それと同時に時雨も動く。
狙いは否応無く漣へ視線を移し手にする主砲を構え直した。
漣「むっ」
時雨「この借りは後で返そう。今は…君だ。いくよ!」ザッ ドン ドン
バッ
ボボボボボボボボンッ
漣「ふふん、当たらなければどうという事は無い!ですよ!」
時雨「そうかい?なら、この晴天の中で唯一雨を降らせようか」バッ
漣「はいぃ!?」
時雨「雨はいつか止むさ。でも、この雨は降り続ける…僕からのささやかな挨拶だ、いくよ!」
時雨が上空へと放り投げた無数の筒、それは夕立ご用達の時限式魚雷。
接触で炸裂はせず、時間経過で爆発を引き起こす特注品だ。
バシッ ドゴッ ブンッ バシィッ
ある物は弾き飛ばし、殴り飛ばし、蹴り飛ばし、手に持ち替えて更に時間差で投げ飛ばし、縦ではなく横に向けての無数の魚雷と言う雨が漣に向かって文字通り降り掛かる。
漣「僕っ子恐るべし…けど!」サッ ドン ドン
ボンッ
ボボボンッ
飛び来る魚雷から更に距離を取りつつ、漣は直近の物から適時確実に主砲で魚雷を破壊していく。
漣の強み、それは正確無比の射撃能力。
動かない状態での固定射撃なら言わずもがな、移動しながらの射撃すらもその照準はブレを全く見せない。
時雨「なっ…!」
漣「五月雨の 降り残してや 光堂。なんちゃって♪」
時雨「言うね。僕、結構芭蕉の句が好きなんだ。君の強さは認めるよ。でもね、提督の艦隊の一員として、君には絶対に負けないよ。止まない雨は無い…けど、先刻通りこの雨は降らせ続ける」ババッ
再び、今度は先刻の倍以上もある数の魚雷を一斉に散りばめる。
そしてさっきよりも更に速く、鋭く、時雨の動きが洗練されて舞い上がった魚雷の数々が宙からブレて消えていく。
水中を進む魚雷のそれとは一線を画す速度。
まさにそれは海上を駆ける弾丸。
ボンッ
ボボボボンッ
漣「や、やばい…!」グッ
全てを御せず、漣は咄嗟に両腕を前面でクロスさせて完全な防御姿勢を取る。
その直後、一瞬にして彼女の姿を掻き消すように残りの魚雷が一斉に着弾と共に爆発を起こした。
ボゴオオオォォォォォォン
時雨「朝比奈の、紋を十ずつ十寄せて、百人力の鶴の紋なり。今の僕は進撃の艦隊の代表としてきているんだ。例えどんな理由があろうと、ここで負ける訳にはいかないのさ。君にはここで、沈黙してもらうよ」
漣「むぅぅ……危なかった」 小破
時雨「あの中を掻い潜ったのかい?凄いね…素直に感心するよ」
漣「思い出したですよ。進撃さんの艦隊には駆逐艦で飛び抜けてるのが何人か居る…僕っ子さんはその中の一人。結構物騒なあだ名多いですよねぇ。みっちゃんと交戦してるのは紅の悪魔、なんて呼ばれちゃってますし~」
時雨「彼女の前でそれは言わない方がいいよ。本気で怒るから。ああみえて結構甘えん坊な所があって繊細なのさ」
漣「僕っ子さんだって随分なあだ名あるじゃないですか」
時雨「飛雨の時雨…飛雨を魚雷や主砲の砲撃に見立てたあだ名らしいね。中々詩的で僕は好きだよ。まぁでも、好んで名乗ろうとは思わないけどね?」クスッ…
漣「怖いですねぇ」
時雨「君達と相対するに当たって、僕も提督に頼んでもらって色々と調べたさ」
漣「む?」
時雨「君の事も勿論ね。奇抜の一言で片付けられているけど、僕からしてみれば飄々とした態度とは裏腹の表情を見せる君を一概に奇抜の言葉で済ませる訳にはいかないよ。まさに昼行灯…最警戒だ。さて、お喋りはこれ位にしてそろそろ二回戦と行こうか」ジャキッ
漣「上等ですよ。今日の漣は趙本気モードですよ。狙いは外さないです!」ジャキッ
各地で動きが激しくなり、提督たちの下にも避け難い戦いがもたらされる。
相手は元帥から絶対の信頼を預かる進撃の艦隊。
果たしてこの交錯は吉と出るか凶と出るか。
~悪魔の計画・後編~
-海を駆る乙女達-
提督と進撃提督の艦隊が激突した頃、一歩退いた所で一人の男が口元を歪めて艦隊を率いて待っていた。
男の名は心悸。
今回の進撃の言葉を利用し、彼を嗾けた張本人。
彼の艦隊が提督の艦隊を撃滅すれば良し。
せずとも沈黙させられるのならそこを利用して自らの手でトドメを刺す。
その際、現場を目撃していた進撃の艦隊も同様に葬り去る算段で彼はそこに居た。
そしてもう一人。
心悸とは反対側に位置取り、彼と二人で提督達を挟撃する算段でそこに陣取る艦隊がある。
通称、鮮血の艦隊と呼ばれ畏怖される艦隊。
艦娘達も好戦的で敵と認めた相手へトドメを刺す事を全く躊躇わない艦隊だ。
それらを指揮するのは百貫と呼ばれ、物腰穏やかな性格だが並外れた巨躯を持っている提督。
その物腰や表情からは到底想像もできないような冷徹な言葉が数々生み出されている。
百貫「出だしは互角…それにしても、一人少ない状態でハズレの方は良く頑張るね。まぁ、指揮を執ってるのがあの元白夜の艦隊の提督じゃあ頷けるものがあるけど…手負いになっちゃ私の艦隊からは逃げられないよ」
空母艦娘「提督、布陣は完了しました。いつでも強襲を仕掛けられます」
戦艦艦娘「あの二つの艦隊がまさか離反を企てていようとは…ハズレはともかく、進撃の方は目に余りますね」
重巡艦娘「でもだからこそ、早い段階で芽を摘まれるのでしょう?余計な手間を省く、いつも提督が仰っています」
百貫「ははっ、君達は物分りが良くて助かるよ。何より、こんな血生臭い争いはさっさと終わらせて美味しい物を腹一杯食べたいだろう?彼等を潰せば、当面は面倒ごとがグッと減る。これは喜ばしい事だよ」
ピー ピー ピー
百貫「おっと…はいはい、どなたかな?」
心悸『すかしてんじゃねぇよ。そっちは準備整ってんだろうな?』
百貫「やあ、君か。勿論、そっちはどうなんだい?」
心悸『いつでも乗り込めるぜ。ただまぁ、どうせ勝手にドンパチやって手負いになってくれるんだ。そこまでは精々見届けてやらないとあいつ等の面目も立たねぇだろうよ』
百貫「何だかんだ言って、卑劣で悪辣なのは彼に次いで君が二番目に私は思うね。性格がそのままでてるよ」
心悸『うっせぇよ。色欲キメラだって大概だろうが。むしろあいつの方がよっぽどエグイね』
百貫「ははっ、そこには同意する。さて、不動さんと鋼鉄さんには黙ってもらった事だし、彼等にも黙ってもらおう」
心悸『こいつ等の場合は永遠に、だけどな』
百貫「くふっ…同意する」ニヤッ…
提督「」トン トン トン……
ピー ピー ピー
提督「…………」
ピー ピー ピー
提督「ちっ」
ガチャ……
提督「誰だ」
進撃『俺です』
提督「その声は進撃か。上官の前じゃ猫被って一人称が『私』だったのにな。化けの皮剥ぐのが早いんじゃねぇのか」
進撃『大事と小事で割り振るなら小事です』
提督「くくっ…敵は本能寺に在りってか?」
進撃『そういう言い回し、余り好みませんね。まぁでも、むざむざ利用されっぱなしっていうのも俺の性に合わないんで』
提督「てめぇ……解ってて嗾けて来たのか」
進撃『相手の言葉尻に噛み付くのが得意なもので。あなたの艦隊を沈黙させれるならそれでも良し、無理な場合でも相応の策は練っていたつもりです』
提督「一応聞いてやるよ。大英雄のクソガキがひけらかす戦術って奴をな」
進撃『大本営で会った時もそうでしたけど、言葉に常に棘を含みますね』
提督「っせぇよ。俺ぁてめぇみたいな奴が心底気に食わねぇんだよ。見てるだけで虫唾が奔る。こうしててめぇと直に会話をしている事が極めて不愉快だ。じ・つ・に、不愉快だ!いいか、俺様の機嫌が変わらねぇ内に弁舌に捲くし立てろ。だるく感じたらその場で通話を切る。横槍挟まれても御託は抜かすな。反論は認めん。以上だ、さっさと抜かせ」
進撃『想像以上に俺様だな…』ボソッ…
提督「通話切るぞ、じゃあな」ブツン
…………ピー ピー ピー
提督「ちっ」
ガチャ……
提督「うるせぇんだよクソガキ、死ね」
進撃『…目標は二つ。恐らく相手はこちらを絶対に逃がさない布陣で待機してます。ただ相手にとって誤算があるのは俺達に援軍の手立てがある、と言う点です。厳密には俺の艦隊に対しての援軍ですが、相手方からしてみれば俺の艦隊は事のついで、あなたの艦隊とあなたを潰すついでに手負いになるであろう俺の艦隊も潰せれば尚よしって所でしょう』
提督「」(野郎、スイッチ入るとさまになるじゃねぇか)
進撃『強硬手段に出るのは恐らく俺もハズレ鎮守府近海にまで顔を出すから。あなたの首と揃えて始末する気でしょうね』
提督「…相手が何か解ってて言ってんのか」
進撃『そんなもの解りませんよ。ただ相手からわざわざ顔を出してくれるんだから否が応でも解るものでしょう。悪役の常套手段ですよ。冥土の土産に正体明かすってアレです。だから逆手にとって土産だけもらって冥土には相手に行ってもらう事にします』
提督「言うじゃねぇか。だがてめぇんとこの艦隊と俺様の艦隊は既にぶつかってる。これを制すのは最早不可能だ」
進撃『提督の艦隊を出来る事なら沈黙させ、捕縛する事…それが俺が今回出した任務内容です』
提督「はっ、そいつはまたご丁寧にありがとよ。てめぇ等如きに心配されるほどあの馬鹿共は落ちぶれちゃいねぇよ。上等だよ。それだけ大層な作戦立案が出来るならその後の展開も大方予測できるだろうよ」
進撃『こちらが弱った所に総攻撃を仕掛けてくる、が最も有体です』
提督「ダァホ、そんな事ぁ基本だろうが。具体性を示せつってんだよこのボンクラすかしっ屁野郎」
進撃『んなっ』
提督「くくっ、あの野郎に組してるってんなら体の随所に渡るまで刻み込んでやる。馬鹿が誰に喧嘩売ってんのかを再認識させた上で地べたに這い蹲らせ、生まれた事を後悔するほどぶちのめす!じ・つ・に、面白い!ゴミが必死になる様ほど滑稽なものはない!俺は今、ひっっっじょうに気分がいい!進撃、てめぇにも見せてやる…目に物ってやつがどんなもんかってのをな!」
進撃『…………』(時折居るんだ…反目して、一件不規則で、道を踏み外しているように見える。決して組織の傀儡にならない、我道を貫く傾奇者…性格こそ違うけど、まさに俺が目指す、この人は究極系かもしれないな)
提督「おら、すかしっ屁野郎、ヒントはくれてやったろうが、さっさと具体性を示せ」
進撃『勘違いしないで下さいよ。今から計画練ってたんじゃ二人とも海の藻屑でしょう。既に、手は打ってあります』
??「行きますよ」
??「当然でしょ」
??「売られた分はきっちり返させて貰う」
??「そうね、ただし…漏れなく倍にして返すわ」
??「絶対に許さないんだから!」
??「ただでは済まさん!」
提督「んだと?」
進撃『急ごしらえだったんですけどね。是非参戦したいって子達が多かったもんで』
提督「はぁ?」
進撃『これ、嫌味ですけど…結構、俺は元帥始め各方面に人望あるみたいなんで』ニヤッ
提督「…ちっ、言ってろすかしっ屁野郎が。ならそっちの指揮はてめぇに任せてやるよ。しくじったらてめぇんトコの鎮守府に核弾頭ぶち込んでやる。全身洗って死ぬ準備も整えとけ」
進撃『じゃあ作戦が成功したらこっちの言い分、幾つか聞いてもらいますよ』
提督「ほざいてろ、クソガキ」
進撃『って訳で、俺はこれからそっちの援軍側の指揮を執ります。提督はこちら側の方をお願いします』
提督「あぁ!?」
進撃『それと、そちらにいる鳥海に伝えて上げて下さい』
提督「んだよ、次から次へとうっせぇ野郎だなてめぇは!」
進撃『────────』
提督「……なんだと」
赤城「くっ…まだです。この程度では、まだ…!一航戦の誇り、例えあなたが相手であろうと失う訳にはいきません」
加賀「それでこそ赤城さんです。だからこそ、私もこの身に括った一振りとも言うべき一航戦の誇り。この身を逆に切り裂こうとも揺るがしはしません」
鳥海「艦娘の中には近接格闘に秀でる子も居るって聞いたけど、まさか剣術とはね…」
神通「艦娘である前にこの身に宿る信念は軍人のものです。刀剣こそ軍人の誇りではありませんか。この一刀、己の魂を乗せて全力で振り抜きます」
長良「全身全霊、一気に叩く!」
木曾「へへっ、いいねぇ…そういう姿勢、アリだな」
北上「暑苦しいのは木曾っちだけでいいんだけどね~。ま、やってやりますか~」
夕立「許してって言っても許さないっぽい~!」
満潮「だ~れが言うか!逆に言わせてやるわよ!」
漣「漣、出る!」
時雨「時雨、行くよ!」
──薄らアンポンタン共、よく聞け──
加賀「なっ」
赤城「こ、これは…」
鳥海「司令官、さん…?」
神通「両艦隊の回線に通信って…」
長良「…っとっと!な、何!?」
木曾「んだぁ、このムカつく言い回し…」
北上「ウザ~」
満潮「あんのアホ面オヤジ…!」
漣「はぁ、もう…空気読んで下さいよ。ご主人様ぁ」
夕立「え、えぇ?」
時雨「これは…」
提督『今から特別に貴様等の指揮を俺様が執る。解ったら双方共に武装を解除し、これから俺様が言う作戦に従事しろ』
北上「あのさ~、何処の誰とも解らん人の命令とか聞くと思ってるの?」
提督『そうか。ならば貴様は勝手に死ね』
北上「んな!」
提督『馬鹿で目先のモノにしか事を構えず、無い脳みそすらその1%も使わない木偶以下の貴様等にも解り易い様に言う。単純な事だ。従わない、従えない、理解できない文字通りの馬鹿は死ね。死相の出てる奴の面倒までは見きれんからな。球磨型三番艦重雷装巡洋艦の北上』
北上「むっ」
提督『ノータリンの貴様でも褒められる部分はあるから冥土の土産に教えてやる。盤面に散りばめた幾重もの罠の数々、そのまま放置すれば文字通りの馬鹿と嘲笑ってやるが、貴様ならこれをその後の展開でどう使うか位は理解できるだろう』
北上「」(こいつ、罠の存在に気付いてたの!?)
木曾「おい、ざけんなよ!何様だテメェ!!」
提督『提督様だボケッ!提督に艦娘が逆らってんじゃねぇよこの片目眼帯口先女!』
木曾「んだとコラァ!!」
提督『悔しかったら生き残っててめぇが強ぇってのを証明して見せろ。やれ滑走台だ、カタパルトだ、そんなもんはいらねぇんだよな?懐に飛び込んでやるのが戦闘なんだろ?だったらやってみせろ!いつまでビビッてるつもりだ』
木曾「言わせておけば…ッ!」
提督『ビビリと言えばそこの赤服の軽巡は相当ビビリだよな?』
神通「……」
提督『大層な獲物担いでる割には一歩所か半歩も踏み込めちゃいねぇクソ芋じゃねぇか。先陣切ってカチこむのが軽巡の真髄じゃねぇのか。それで過去は華の二水戦とは片腹所か笑いすぎて膝付くってんだよ』
神通「」ギリッ…
提督『おら、水遊びが大好きな駆逐艦共。てめぇ等はいつまで水遊びしてるつもりだ。そんなもんは浜辺だけで結構、大いに結構!じ・つ・に、どうでもいい!存在そのものが邪魔だ!水遊びを続行するつもりならさっさと消えるか死ね』
夕立「むっかぁ…」
時雨「流石の僕も憤りを感じるよ」
夕立「私達がいつ水遊びしてたっぽい!?」
提督『寝言は寝て言えよ、この勘違い馬鹿が。駆逐艦の真髄を忘れたってんなら本格的に死んで生まれ変われよ、ぽい介女』
夕立「むっかぁ!」
時雨「僕達の真髄は夜戦だ。つまり、あなたが立てる作戦と言うのは、夜戦がキーポイント、と言う事かな?」
提督『ほぅ、少しは頭使ったか。だが的外れだ。それは後で説明してやる。さて、それと……おい、一航戦(笑)共』
赤城「」ピクッ
加賀「……」
提督『見せて貰おうじゃねぇか。資料通り、今も変わらぬ錬度を誇る歴戦の勇か否か。南雲機動部隊を名乗るのなら、南雲忠一海軍中将殿も納得の戦力を見せてくれるんだよなぁ、一航戦のお二人さんよ』
赤城「あなたは……」
スッ……
赤城「か、加賀さん…」
加賀「提督、流石に不愉快です」
提督『ああ、そうかよ。だが俺様はてめぇのご機嫌伺ってやるほどの器は持ち合わせちゃいねぇからよ。取り敢えず文句があるならまずは行動で示せよ。これからてめぇ等が行うのは撃滅戦でも殲滅戦でもねぇ。鎮圧戦だ。いいか、よく聞け木偶共────』
進撃『撃滅や殲滅は決してしないで下さい。相手が艦娘である以上は…』
提督『あぁ?』
進撃『あくまで俺達は云われない襲撃に遇った為に仕方なく応戦し、これを制圧・鎮圧したという体を貫きます』
提督『てめぇ、澄ました面してサラッと後腐れねぇ方法選ぶな』
進撃『面倒事がこの上なく嫌いなものでして』クスッ
提督『だがまぁ、てめぇのそれは杞憂だ。元帥の女狐はそこまで落魄れちゃいねぇよ。こいつは完全なる罠。俺様用にカスタマイズされた特注品の作戦って訳だ。てめぇ等はそれに利用されただけに過ぎねぇんだよ』
進撃『利用…?』
提督『女狐の差し金じゃねぇって事だよ。まぁ作戦自体は考えるのも面倒臭ぇ…てめぇのを採用してやる。ありがたく思うんだな』
進撃『どんだけ上からなんだよ…』ボソッ
提督『だぁってろ、このダァホ。一々楯突いた発言してんじゃねぇよ、ぶっ殺すぞ。これ以上の反論は認めん、以上だ』
提督『────解ったな。こいつは俺と進撃の意見の一致だ。反論は認めん。解ったら反撃の狼煙を上げろ!』
加賀「全く、相変わらず提督の言動にはイラつきますが…それでもあなたが居れば鬼に金棒とはこの事ですね」
赤城「…でも、正直ホッとしています。これ以上、加賀さんと争わなくて済みました」
加賀「……肩の怪我、大丈夫ですか」
赤城「これしき、『あの時』に比べればどうという事はありません」
加賀「赤城さん…」
赤城「さぁ、今こそ見せましょう。一航戦の戦いを!」
加賀「流石に気分が高揚します」
赤城「ふふっ」ニコッ
木曾「ったく、何なんだよ今のは…」
長良「私達の司令官だよ」
北上「え゛……あんなのが提督なの?うわー、うちらの提督が可愛く見えるわ~。あー、良かったー。あんなんじゃなくて」
木曾「大体、今さっきまで実弾ぶっ放してた同士で共闘しろなんてナシだろ」
長良「昨日の敵は今日の友、っていうじゃん?」
木曾「昨日所か今だろ!」
長良「じゃあ……今日の敵は今の友?」
北上「あんた、頭だいじょーぶ…?」
長良「司令官と進撃さんが共闘するって言ったんでしょ?だったら私達は司令官の言葉に従うだけだよ」
木曾「それがうちの提督の罠だって可能性を考えねぇのか?」
長良「ふふっ、悲しいけどね。私達にはそういう『嘘』は通用しないよ。『匂い』で解るんだ。直感って言えばいいのかな? その言葉や表情なんかでピーンとくるんだよ。ああ、これは嘘だ、とか罠だってね」
北上「」(そりゃあ、四面楚歌で周りからそんな扱い毎度受けてればある意味そういった感覚は研ぎ澄まされるか~)
木曾「おい、何黙ってんだよ」
北上「ん~、まぁ、多分そういう事なんじゃない?」
木曾「はぁ?」
北上「だぁからぁ、共闘すんでしょ、きょーとー」
夕立「共闘は別にいいけど誰が取り纏めるの?」
時雨「それは…」チラッ…
加賀「…………」
赤城「皆さん、通信は聞きましたね?」
木曾「あぁ、きいたよ。ムカついたけどよ」
北上「即席のこの部隊の指揮とかぶっちゃけ無理っしょ~」
満潮「あのアホ面オヤジ、何考えてんのよ…」
漣「何かしら考えてるとは思うんですけどねぇ…」
神通「この状況で、共闘といわれても…」
鳥海「死にたくないのなら、従った方が得策だと思いますよ」
神通「……」
提督『鳥海』
鳥海「司令官さん…?」
提督『お前、摩耶って姉妹居るな』
鳥海「…それが今関係あるんですか?」
提督『摩耶は大本営直属の秘匿部隊に所属している。通称サフ…旗艦を勤めるのは妙高四姉妹の一人、那智だ。予断だが、以前に貴様等に加勢したのもその派生部隊、通称サドバフ。こっちは餓えた狼なんて野蛮な異名が通る足柄が旗艦を勤める、武闘派集団だ』
鳥海「だから、それがどうしたと…」
提督『恐らく今俺様達を襲撃してる連中の差し金、もしくは当人達だろう。サフは数週間前に件の調査の最中に襲撃を受けている。那智、摩耶、祥鳳、三者共に意識不明の重態、今も生死の境を彷徨っている状態だそうだ』
鳥海「なっ……」
神通「……?」
提督『死の道を辿り後を追うなら別だがな、貴様には生憎と選べる時間と猶予がある。この場を切り抜け、雪辱を晴らすか? それとも、先の通りに混乱の渦中で死ぬか…まぁ、てめぇなら出す答えは決まってるだろうがな』
-七つの大罪-
百貫「こっちに向かってくる六人の艦娘がいる?」
戦艦艦娘「はい。どれも、所属先が異なります」
百貫「私達の動きに気付いていただと…いいさ、降り掛かる火の粉なら取り払わないとね。第一種戦闘準備」
戦艦艦娘「了解致しました」
百貫「空母さん、斥候の具合は?」
空母艦娘「錬度は極めて高い艦隊です。私の艦載機、その全てを撃滅されました」
百貫「…何?」
空母艦娘「このまま放っておけば、前と後ろからの挟撃を受ける形になります」
百貫「タイミングはずらされるか。仕方ないけど、まずは後方の憂いを消そう」
重巡艦娘「きます!」
百貫「……彼女達は、まさか……」
妙高「此度の艦隊指揮、僭越ながらこの妙高が預かり受けます」
足柄「たまの姉妹共演だもの、異論なんて私にはないわ」
長門「問題ない。私はただ、眼前の敵を倒すのみだ」
瑞鳳「空の目は任せて!」
利根「今更異論も何もない。こやつ等を止めねばならんし、吾輩等にはそれをするだけの借りがある!」
矢矧「ふふっ、私もこういうのは嫌いじゃないわ。さて、今日はどんな戦略を立てるの?」
妙高「細かい戦術は皆無です。この戦力を以て、真正面から敵戦力を無力化、制圧します!」
足柄「ふふっ、上等よ…!」ジャキッ
長門「瑞鳳、機先を制せ!」
瑞鳳「はい!さあ、やるわよ!」サッ
利根「合わせようか!」サッ
瑞鳳「攻撃隊、発艦!」ビュッ
利根「機を見て時を待ち幾星霜…この時のために、カタパルトは整備したのじゃ!」バッ
妙高「二人の艦爆艦攻隊と索敵機の発艦後、一気に攻勢へ転じます」ジャキッ
矢矧「ここからが私の本領発揮よ!」ジャキッ
長門「ビッグセブンの力、侮るなよ」ジャキッ
足柄「さぁ、覚悟しなさい。やり方を問わないあなた達の海戦術、それを今日を以て断罪して上げるわ!鮮血の艦隊!」
百貫「寄せ集めただけの烏合の艦隊が私の艦隊に喧嘩を売るのか?大本営直営隊の旗艦達に進撃、鋼鉄、不動の生き残り。まさに寄せ集めだね。スペシャルチームと呼ぶには些か艦隊錬度が劣るんじゃないのかな?どうして私が居るのか、それを何処で知ったのか……まぁ、今はいいさ。面倒事は後回し、それが私の信条でね。君たちを血祭りに上げた後で考えるよ」
ボゴオオオォォォォン
ザバアアアァァァァン
百貫「なっ…」
空母艦娘「私の艦載機が競り負けたですって…!?」
百貫「相手は、軽空母だろう!?」
瑞鳳「舐めないでよね!軽空母だって、頑張れば活躍できるのよ!さぁ、皆さん!」
長門「よし!」
足柄「那智を甚振ってくれた分、倍にして返すわ!さぁ行くわよ…戦場が、勝利が私を呼んでいるわ!」
妙高「海軍の提督の座に居ながらこのような瑣末な不祥事を引き起こし、あまつさえそれを棚に上げて口封じに出ようとは、言語道断にして悪辣非道の限りと判断いたします。合わせて内乱を引き越し、これを先導・誘導した罪は計り知れません」
百貫「……だから?」
妙高「だから…?事の重大性が理解できないのでしょうか?だとすれば、致命的と言わざるを得ませんね。なればこそ、これ以上の抗弁は意味を成しません。大人しく縛について頂きます」
百貫「縛?お縄につけって?この私を、捕らえると言うのか?戯言にしても余り好ましくない冗談だね。私が許す……こいつ等を全員、血祭りに上げろ」ニタァ…
戦艦艦娘「提督の御心のままに…」
百貫「私は次代の海軍の足場を担う存在だ。その私に歯向かうとは、くふっ……馬鹿を地でいく愚かな行為だと知れッ!!」
長門「馬鹿はお前だ!」
百貫「戦艦長門か…大局を見れないようでは底が知れるね。最も、鋼鉄の下に居る時点でお察しなのかもしれないね?」
長門「口を慎め。私の提督は少なくとも貴様のような落魄れ者ではない。比べられる事さえ不快だ。何より、貴様等の行った姑息な手段が何より気に入らない。矜持(プライド)すら失ったというのなら…その残り粕諸共、私が蹴散らしてやろう!」
百貫「潰せ……念入りに!」
戦艦艦娘「お任せを」ザッ
長門「そこを退けぇ!」ジャキッ
戦艦艦娘「聞けませんね」ジャキッ
長門「面白い、ならば力で押し通る!」ドォン ドォン
戦艦艦娘「全てをなぎ払う!」ドォン ドォン
ボゴオオオォォォォォォン
瑞鳳「絶対に負けないんだから!」
空母艦娘「軽空母風情が…!たまたまの撃墜に浮き足立って私と対峙するなんて、愚弄を通り越して滑稽、愚かよ」
瑞鳳「よくも、祥鳳を…!」
空母艦娘「祥鳳…?あぁ、あのマヌケな軽空母……」クスッ
瑞鳳「マヌケ、ですって…?」
空母艦娘「そうよ。艦載機をちょっと出しただけでいそいそと前に出てきて自分から罠にかかるんだもの。それをマヌケって表現しないで何をマヌケって言うのかしら?まぁ、マヌケっていうより、ただの馬鹿よね」
瑞鳳「…………」ギリッ…
空母艦娘「あなたも十分マヌケだから安心なさい。念入りに艤装を破壊した上でじっくりと甚振って水底へ沈めてあげる」
瑞鳳「…私が何か言われるのは別にいい。でも、私の大切な人たちを悪く言うのは絶対に許さない!」
重巡艦娘「提督の命令は絶対なのよ。だから、潔く死んでくれると嬉しいんだけど、どうかしら?」
妙高「矜持を捨てるだけならまだしも、忘れているようでは最早この言葉はそちらまで届きませんね」
雷巡艦娘「矜持、矜持って…古臭いのよ。したいようにして何が悪いの?私達の顔色しか伺えない何の取り得もない、ただの木偶人形同然の人間に!使われるなんて真っ平よ…それを提督は解ってくれてるの、だから私達は……」
足柄「いいわよ、それ以上はもう。泣こうが喚こうが笑おうが叫ぼうが…私が絶対に許さないから」
雷巡艦娘「あらら、ご立腹ね。那智さんの事かしら?」
足柄「…あなたがやったの?」
雷巡艦娘「重巡の子と一緒にね。無防備だったんだもの…思わず躊躇っちゃうくらいに…」クスッ
重巡艦娘「味気無かったわよ、あの子…睨む顔だけは一端だったから、少しイラッときて蹴り飛ばしちゃった」
足柄「勘違いしないでくれるかしら。あなた達程度が那智を倒した気になっているって言うのが気に入らないのよ」
妙高「力の差を、教えて差し上げます。合わせて、力の誇示の仕方も披露して差し上げます」
利根「吾輩の相手は主か」
航巡艦娘「さっきの軽空母の援護をしたのは貴様だな」
利根「はて、何の事かのう」ニヤッ
航巡艦娘「瑞雲程度を何機飛ばそうと、高が知れているわ」
利根「解っておらんのう…良かろう、お主に偵察機が何たるかをその身をもって知らしめてやろう。聞いて覚え刮目せよ。そしてその命尽きるその時まで、忘れるでないぞ?吾輩が利根である!主等に、終焉を齎す者じゃ!」
航巡艦娘「世迷言を…!」
利根「世迷言を奏でておるのはお主等じゃろう。筑摩が受けた分はきっちり清算させてもらう!」
矢矧「貧乏くじを引くのは決まって阿賀野姉ぇなのよね。けど、今回のはちょっと見過ごせないレベルよ。深海棲艦かと見紛うかのような卑劣な手段の数々…艦娘としての在り方すらも失ったというのなら、もはやそれは艦娘ではないわ」
軽巡艦娘「はぁ?雑魚だから負けた、ただそれだけの事よ。最新だか何だか知らないけど、結局は力よ。力こそ全て! 弱者には何も言う資格も、権利も、立場だってありはしない!同じ軽巡同士なら、今回は私が勝ったんだから阿賀野が弱者、私が強者という事実が成り立つだけよ。悔しいなら私に勝ちなさい」
矢矧「…私は、最後の最後まで暴れてみせる。もう絶対に、私の目の前では誰も沈ませない。全てを護りきる!」
軽巡艦娘「大見得切るのは結構だけど、私に勝ってからにしなさいよ。余り吠えてるだけだと、負け犬の遠吠えになるわよ?」クスッ
矢矧「言ってなさい。阿賀野型を軽巡と侮らないで!阿賀野姉ぇが受けた苦しみ、あなたに倍にして返してやるわ!」
海軍。
かつては陸海空と三竦みの形成を保っていた世界の軍事バランスは艦娘と言う海軍の切り札によって拮抗が消えた。
逸早く陸軍はこれに感応し、海軍を支援する形をとり、空軍もまた海軍と連携をとるようになった。
艦娘は世代を越えて周知の所となるが、それでも艤装を取り払った彼女達と一般人を区別する事は至難だった。
また、彼女達を一つの兵器、消耗品として『物』として扱う人間も増えた。
感情を持ち、自ら考え、人との丁々発止ができる存在。
人は、海軍の一部分はこれを恐れた。
中でも水面下でこれらの研究に没頭してきた提督達がいた。
深海棲艦とは、艦娘とは何なのか。
その根源を突き詰めようとする動きは、狂気を孕み、暴走を助長し、歯止めが利かなくなった。
やがて彼等は一人の悪意と出会いを果たす。
彼等はそれぞれに特徴的な闇を孕んでいた。
それが彼等を引き合わせ、小さいながらも濃縮された強大な闇を形成した。
小さく芽生えた悪意が増幅し、その矛先は深海棲艦だけに留まらず身内、海軍や艦娘へも向けられた。
人格を形成し、感情を持ち、自らの意思で活動する艦娘。
これを完全なる殺戮兵器として運用するには何をすればいいのか。
彼等の内一人が提唱したのがマインドコントロールだった。
手法としてはその艦娘の精神を一度崩壊させ、中身を空っぽにする事から始めるという。
そうして虚無となった状態で生死の境に仕切りが消えた状態を生み出し、新たに都合のいいように仕切りを作り変える。
まさに神も悪魔すらも恐れぬ行為。
それに成功した時、彼等は大いに沸いた。
そしてその行為に対して歓喜すると共に畏怖すら覚えながらも、それに心酔しきった自分達を実感していた。
そして彼等は自らを七つの大罪と呼ぶようになった。
人間を罪に導く可能性があると見做されてきた欲望や感情のことを指すもので、彼等自身もまさにその通りだと自覚し、その呼び名を大いに気に入った。
傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲。
期せずして彼等は七名存在し、それぞれに当てはまる罪を背負い、それを当然の如く振り翳し、闇をばら撒いた。
だが、この漆黒に染まった闇の水面を切り裂こうと、染まるまいとする艦娘や提督達も居る。
提督『────見ててやるよ、見せてみろ』
鳥海「了解。艦隊の指揮はこの私、鳥海が受け持ちます」
加賀「遅い到着ですね」
木曾「んだぁ、突然現れていきなりリーダー気取りかよ」
赤城「時間は余りありませんが、大丈夫でしょうか?」
神通「恐らく大丈夫です」
北上「神通っち、もう何か聞いちゃった系?」
神通「正直、ここで戦闘が終わっていて良かったと思います」
木曾「はぁ?」
夕立「ぽい?」
時雨「それは、どう言う事だい?」
鳥海「万全な状態で迎え撃てるという事です」
満潮「とはいってもねぇ…」チラッ
漣「そこそこ全員、燃料も弾薬も消費しちゃってますし、戦闘継続の時間には限界ありですよ~」
鳥海「問題ありません」
加賀「秘策有り、ですか」
鳥海「相手はこちらを寄せ集めの烏合の衆と見るでしょう。力と数で押し切ろうとするはずです」
赤城「ですが、物量で押し切るのは基本的な戦術であって相手がそう出て来るのも至極当然では有りませんか?」
鳥海「そうですね。極めてスタンダード。何の変哲も無い、非常に特色の無いつまらない戦術です」
時雨「つまらないって…」ニガワライ
鳥海「離艦の計……」
夕立「む?」
鳥海「遥か昔、中国で使われていた計略に離間の計、というのがあったそうです。これは身内同士を仲違いさせ、戦況を打破する計略戦術です。読みは一緒ですが、今回の戦術は相手の隊列そのものを断裂、分断させます」
木曾「へぇ…面白そうじゃねぇか」
鳥海「セオリー通りにしか動けない艦隊など、私の戦術の前では恐るるに足りません」
満潮「言うじゃん、鳥海」
鳥海「お見せします、戦術とは何か。戦場を支配するとはどういう事かを……」(摩耶、あなたが受けた屈辱、代わりに私が晴らして見せるわ)
-離艦の計-
心悸「あぁ?百貫と連絡がつかねぇだと?」
天城「は、はい…」
心悸「あの野郎、何してやがんだ…」
航戦艦娘「提督、ハズレと進撃の艦隊の動きが若干、様子が変わりました」
心悸「んだと?」
航戦艦娘「ですが、これは逆に好機と見るべきでしょう。斥候の話では大半が痛み分け、中・大破の状態であり、身動きが取れない状況にあるという報告でした」
心悸「ほぅ…あの進撃の艦隊を相手に痛み分けかよ。ハズレの分際で中々やるじゃねぇか。まぁ、確かに勝手に弱ってくれてるんなら、これ以上の好機はねぇな。一気に潰すぞ…百貫の野郎は後でシメりゃいい。どっちにしたってそれだけの深手負ってりゃ逃げる力なんざ残ってねぇだろ。嬲り殺しにしてやれ!」
航戦艦娘「了解」
天城「…………」
心悸「解ってんだろうな、天城。死にたくなかったら従え…てめぇには選ぶ権利なんざねぇんだからな」ニヤッ
天城「解って、います…」
心悸「てめぇの考える戦略には俺様も一目置いてる。だからこそ、日に三度のワガママを許してやってるんだ。死にたくなけりゃ死に物狂いで相手の首を取って来いッ!」
天城「……航空母艦天城、新生第一航空戦隊…抜錨致します!」
航戦艦娘「天城さん、戦果を期待しますよ」
天城「…解っています」
装甲空母艦娘「それじゃ始めましょう?私達の大好きな殲滅戦を…!」
重巡艦娘「死体に鞭打つみたいで気が引けるわね」
軽巡艦娘1「欠片もそう思ってないくせに」
軽巡艦娘2「ね~、むしろ率先してやる方でしょ」
重巡艦娘「くすっ…仲良しこよしのお遊戯艦隊を見てると虫唾が奔るのよ」
天城「手負いとは言え、相手はこちらの数の倍です。火力を一極集中させ、確実に一人ずつ倒します。私と装甲空母さんの艦載機発艦後、駆逐艦から順に殲滅していき、甲板を損傷している空母組を最後に回す形をとります」
航巡艦娘「相手方に戦艦型は居ないみたいだし、面倒そうな重巡型を私は狙うわ。構わないわよね?」
天城「……解りました。航戦さんは重巡型を撃滅後、戦列に戻る形でお願いします」
航戦艦娘「…これは、どういう事よ!?」
装甲空母艦娘「そんな、さっき斥候に放った時はまだ…」
天城「そ、そんな…居ない!?」
重巡艦娘「一体どうなって……あっ」
軽巡艦娘1「これは……」
軽巡艦娘2「まさか、おびき寄せられた…!?」
木曾「よう、コソ泥共」
満潮「ホント馬鹿ね。笑っちゃうくらいにさ」
神通「悔い改めてもらいます」
漣「計画通り……ッ!」ニヤッ
夕立「さあ、素敵なパーティしましょう?」
長良「よーし、全力全開っ!」
北上「おぉっと、これは壮観だね~」
時雨「凄いな、読み通りだ」
加賀「良い作戦指揮です」
赤城「凄い…相手の出方をここまで予測して動くなんて…」
鳥海『作戦名:離艦の計、発動します!各自、先の概要に沿って行動を開始して下さい。少なくとも相手は固まって行動しようと尽力するはずです。念入りに、料理して差し上げましょう』メガネキランッ
天城「それに、何故…どうして、手負いのはずでは…!」
鳥海『大方、上空ギリギリの距離から斥候に及んだのでしょう。ですがこちらには今、空母の中でも最高クラスの二人が揃っているんです。見落とす訳無いじゃありませんか。更に言えば、わざと逃し嘘の情報を与えるのも、非常に楽でした』
天城「まさか……嘘の、情報……そんな、それじゃ」
赤城「あなた達の策略に溺れる事無く、無事ご覧の通りです」
加賀「姑息な手段の数々…海軍の名折れと言うのもおこがましい限りです。命を惜しみ、保身に走り、私利私欲を求めて名声にのみ執着する。それほど名が重要?どれほどの価値が、その名にあるのかしら。高邁な精神は永遠なり、です」
天城「一航戦の、赤と青……!」
赤城「一航戦…!」
加賀「…出撃します」
動揺を露にする天城達を尻目に、赤城と加賀がその口火を切った。
天城「装甲空母さん、備えて下さい!!」サッ
装甲空母艦娘「言われなくたって…!」サッ
天城「負ける訳には、いかないんです!天城航空隊発艦、始め!です!」ヒュン ヒュン
装甲空母艦娘「一航戦が何よ…!名前先行の古参なだけでしょうが!」ヒュン ヒュン
鳥海『相手に空母が二人以上居るのなら、これを赤城さんと加賀さんの二人で封殺して下さい。制空権を奪ってしまえば、残された艦隊はもう、鳥かごに取り残された哀れな的に成り果てるでしょう』
赤城「艦載機のみなさん、用意はいい?」キリキリ…
加賀「鎧袖一触よ。心配いらないわ」キリキリ…
ビュビュッ
ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン
引き絞った矢を一点見据えて真っ直ぐに飛ばす。
一糸乱れぬ二人の呼吸と矢を放つタイミング。
まるで鏡面の絵を見るかのような互いの姿。
二条の矢が上空へと舞い上がり、無数の艦載機となって編隊を成して目標へ飛翔する。
ダダダダダダッ
ボゴオオオォォォォォン
装甲空母艦娘「なっ…!」
天城「そ、そんな…私の烈風達が…瞬、殺…」
鳥海『空母隊を制圧した後、次に狙うのは主戦力となる存在です。艦隊の主力を担うとなれば、相応の戦力を有します。つまり、戦艦や航空戦艦、居なければ継続して全体を支配しえる空母隊です』
木曾「おいおい、一人前に出すぎだろ」
長良「逆パターンは初めてだなぁ…」
神通「逆パターン…?」
長良「大体、私一人で大勢相手にしてたからね!」
北上「あはは、そんなのあたしは御免被るね。無理無理…」
航戦艦娘「くっ…あの重巡が司令塔なのは明白なのに…!」
木曾「頭を叩けばどうにかなるって考えがそもそもなってねぇんだよ」
航戦艦娘「たかが雷巡風情が…ッ!」
北上「軽巡や雷巡が戦艦に勝てないなんて道理、だぁれが決めんのさ」
神通「この場は、罷り通りません。お引取りを…」チャキッ
長良「はぁ~、刀剣の艤装なんて凄いなぁ…っていうかカッコイイなぁ」
木曾「あぁ?そんな珍しいもんでもねぇだろ。それよりも、あっちシカトしてやんなよ」ニヤッ
航戦艦娘「貴様等……!纏めて血祭りに上げてやるッ!!」ジャキッ
鳥海『挑発は程ほどに…ですがそこで戦艦クラスを制圧できれば勝ちは確定でしょう』
鳥海の弄した離艦の計。
まずは空を制圧する事から作戦は始まる。
制空権を奪い、相手から空の目を奪う事でこちらの正確な場所を特定させないようにする。
目視は出来ても正確な距離が把握できなければ精密な射撃は出来ないという事の表れだ。
次に一発が怖い艦娘を孤立させる事。
次発装填が遅いとは言え、戦艦クラスの艦娘に自由に砲撃を許しては一溜まりもないからだ。
今回の相手は航空戦艦、しかも鳥海にとっては嬉しい誤算として相手は単身先行してきていた。
多勢に無勢、と言う言葉があるが今回はまさにこの言葉がしっくりときただろう。
しかも相手は一癖も二癖もある連中ばかり、これを一人で制圧する事ができれば恐れるものは逆に無いのかもしれない。
航戦艦娘「く、そ……!なんで、私が、負けるのか…?」 大破
長良「航戦さんさ、自分の特性理解してないでしょ」
航戦艦娘「な、に…」
長良「私達艦娘はさ、それぞれに特性があるじゃない?それを理解してないようじゃ、誰と戦ったって勝てないよ」
神通「鳥海さん、こちら軽巡組は制圧完了しました。次のステップへ」
鳥海『ありがとうございます』
航戦艦娘「一体、何を……」
木曾「俺等にゃ提督以外に軍師がいるみてぇでな」ニヤッ
北上「艤装は全部破壊したし、まぁ大人しくしててくださいなっと」
天城「ダメ、どれだけ放っても制空権を奪えない…」
装甲空母艦娘「くそっ、くそっ!なんでよ、どうして…あんな奴等より、優れているのに!!」ダッ
天城「装甲空母さん、迂闊に前に出ては…!」
装甲空母艦娘「黙りなさい!人間の娼婦と同じ分際で!!」
天城「……っ」
加賀「諦めが悪いですね」
装甲空母艦娘「五月蝿いッ!コロス……殺して、やる……ッ!!」ギロッ
赤城「あの、目は…!」
我を忘れたかのような装甲空母のその瞳に、二人は心当たりがあった。
キメラ男を制圧しに向かった先の泊地で無尽蔵に湧いて出てきたゾンビの如き深海棲艦の群れ。
今まで戦ってきた深海棲艦とは明らかに違うその様相を忘れる事などなかった。
加賀「既に、人を捨てていましたか。どちらにせよ、この勝負は決しました」ビュッ
無常にも放たれた矢は真っ直ぐ装甲空母へと飛来し手前で艦載機へと散開、一斉攻撃を開始する。
ボゴオオオォォォォォォン
装甲空母艦娘「カン、ムス、風情……ガ……」 轟沈
加賀「残り一人は話の手合いは可能と判断します」
赤城「鳥海さん、こちらもオールクリアです」
鳥海『感謝します』
主戦力を一気に奪い浮き足立っている艦隊を分断するのに労力は必要ない。
艦隊として固まる中心に一点放火を浴びせて物理的に艦隊の陣形を断絶。
そこからは各個が離れるように砲撃を夾叉させ、孤立するように誘導する。
結果として陣形は完全に崩壊し、互いの連携すらも取れない状況が生まれる。
夕立「ふふっ、より取り見取りっぽい?」
満潮「そうね、どれから狙ってやろうかしら」
漣「完全に射撃ゲーのノリですね~」
時雨「全く、緊張感が無いね」クスッ…
鳥海『空母組、軽巡組はオールクリアです。計略は成りました、あとは詰めるのみです』
満潮「オッケー。大体やり方が汚いのよ…自分達にとって都合が悪くなると直に証拠事消し去ろうとする」
漣「汚い方々の十八番ですからねぇ。ほ~んと、メシマズです」
駆逐艦娘「て、提督……!」
心悸「あぁ?あんだよ」
駆逐艦娘「ぜ、前線に出ていた天城艦隊……全滅しました!」
心悸「な、に……?」
駆逐艦娘「旗艦天城は艤装全てを破壊され捕虜に、それ以外の艦娘はその殆どが轟沈です……」
提督『聞こえてるかね、蛆虫糞虫塵虫野郎の心悸君』
心悸「……ッ」ガタッ
提督『てめぇの船は既に包囲されている。進撃のクソガキも直にもう一方の襟首もって合流するだろうよ。今回だけ言い訳を言わせてやるから十秒で言えよ、蛆虫君』
心悸「てめっ……」
提督『なぁんて言わせるわけねぇだろバァカ。頭の中身はお花畑かよ糞虫野郎が。発言が許されるのは人間までなんだよ塵虫。分を弁えろ虫風情の雑魚が』
心悸「提督ぅ……ッ!てめぇ……!!」
提督『悔しいか?あ?どうせてめぇの事だからギョロ目動かしてニヤニヤして椅子にでも踏ん反り返ってたんだろ? くくっ、馬鹿の典型だなお前。いや~、今俺様はひっっっじょうに気分がいい!貴様の馬鹿面を想像するだけでもう最っっっ高に楽しくて仕方が無い!じ・つ・に、結構!いや~、屑共の悔しがる顔ほど溜飲の下がるものはない』
駆逐艦娘「て、提督…どうしますか…」
心悸「くそが……くそがああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
提督『糞はてめぇだよ、心悸。身の程を弁えろ糞虫が。やっと面ぁ出してくれたんだ。こっちゃあ辛酸舐めすぎて最早感覚麻痺してるからよ。覚悟しとけよ……目に物を見せてやる』
鳥海が弄した離艦の計は完璧過ぎるほど完璧に決まり、天城達を一瞬の下に封殺、殲滅した。
後に赤城達は、あのまま戦い続けていれば勝敗の行方は本当にどうなっていたか解らなかったかもしれない、と零した。
即席で形成された艦隊をいとも容易く自分の描いた策に添って誘導する手腕と戦術用法の数々。
身内ですらも改めて驚嘆するほどの戦果を鳥海は上げた。
~牙城崩落~
-力の差-
浮き足立つ、という言葉がある。
先の大本営直営部隊、鋼鉄、不動の艦隊がそうだった。
不安や恐れで落ち着きを失い、逃げ腰になる。
一度生まれた恐怖はそう易々と拭えるものではない。
同じように、正体の解らないものに対する不安はその気持ちを助長させ、結果として本来のパフォーマンスを落とす結果になる。
だがそれを糧とし、力と変える者達もいる。
そういった者達にとって、力でねじ伏せようとするのは極めて逆効果となる。
反発する力が尋常ではなく、また決して屈しないという強い信念を備えている。
力に力で真っ向からぶつかって行く、純粋な馬力で雌雄を決する形となる。
結論として、単純明快だが力が強い方が勝つ。
提督の指揮した艦隊を智の艦隊とするなら、進撃の指揮した艦隊は勇の艦隊。
まさに智勇兼備の豪傑無比の艦隊である。
長門「言ったはずだ、邪魔をするなと」
戦艦艦娘「そんな、まさか…」 中破
長門「艦娘の矜持を捨て去っている貴様等に、この私が負けるものか!誇りを失い、悪の傀儡(かいらい)と成り果て、無法の限りを尽くす…そんなものは力などではない!」
戦艦艦娘「私達は、生まれ変わったのよ!新しい力を手に入れて、提督達が夢見る時代を築き上げるのよ!」
長門「『その姿』が生まれ変わったというのなら、そうなのだろうな。だが、それは最早進化ではない。新たな命として生み出された、貴様は深海棲艦だ!せめてもの手向けとして受け取れ、ここを貴様の墓標としよう」ジャキッ
戦艦艦娘「深海、棲艦だと…?ふざけるなッ!ワタ、シは……あ、アァ……そん、な…嘘、ダ……」
長門「一度は敗れ、私達を追い詰めた連中も貴様等と同じだったよ。見た目にそぐわない回復力と持久力に耐久力を備え、圧倒的な物量と火力で波状攻撃を受けた。成す術も無く艦隊諸共沈められそうになったほどだ。だが改めて思ったよ。私はまだまだ強くなれると…!」
戦艦艦娘「ドウして、ワタシは…艦娘ノ、はずナノに……ッ!」
長門「貴様の言う『進化』による代償なのだろうな。同じ戦艦の好として同情はしてやる。だが慰めなどはしない。そうなったのは貴様自身の甘えと抜かりだ。潔く沈め、水底へ…」
戦艦艦娘「負ける、モノかあああああぁぁぁぁァァァァァーーッ!!」グオッ…
長門「遅い!」ドォン ドォン
半ば我を忘れ、殺意のみで襲い来る戦艦艦娘。
しかし長門はそれに動じず、きっちりと相手の動きを見て主砲を構えて真正面から迎え撃つ。
ボゴオオオォォォォォォォン
結果、防御も何もしない無防備な状態で長門の砲撃を全身で受け止めてしまった戦艦艦娘はもんどり打って倒れる。
水面に少しだけ浮き、その姿はゆっくりと水面下へと沈んでいく。
その姿をしっかりと己の瞳に焼付け、長門は静かに顔を上げて百貫をその鋭い眼光で見据えた。
長門「敢えて上官に対する口の利き方をしない。この下郎め…艦娘は、貴様の都合のいい人形などでは断じてないぞ!」
百貫「くふっ……人形じゃなければなんだ?よもや人などとはいうまいな?」
長門「この期に及んでまだ…!」
百貫「戦艦長門、そんなに私があの艦娘を深海棲艦にしていた事実が憎いか?」
長門「当たり前だ!!」
百貫「そうか…しかしね、あれは彼女が望んでああなった結果だよ。自らの意思で、彼女はああなったのさ」
長門「デタラメを言うな!」
百貫「証拠は?」
長門「なに?」
百貫「デタラメだという証拠はあるのかい?」
長門「貴様…!」
百貫「くふっ…」ニヤァ…
空母艦娘「ほら、さっきまでの威勢はどうしたのよ!私を許さないんで、しょ!」ビュン ビュン
瑞鳳「……」サッ
ボボボボボボボボンッ
空母艦娘「逃げ回ってばっかりで、何が、できるって、言うのかしら!?」ビュン ビュン
瑞鳳「……」スッ…
ボボボボボボボボンッ
再三に渡る空母艦娘の間断無き艦爆艦攻に瑞鳳は防戦一方のように見えた。
だが、驚くべき事はその全てを被弾せずに回避しているという事だ。
瑞鳳には祥鳳を傷付けられたと言う大義名分もそうだが、他者に託された想いも背負っている。
飛龍『ゴメンね、瑞鳳。私もできる事なら蒼龍が受けた分を返したいけど……』
瑞鳳『任せて下さい。同じ空母組の好じゃないですか!それに私、嬉しいんです』
飛龍『え?』
瑞鳳『だって、赤城さんや飛龍さんみたいな一線で活躍している方達に『お願いね』って、ふふ…おこがましいかもしれないですけど、頼まれ事をされるっていうのが、なんだか認めてもらってるような気がして…』
飛龍『あはは、バカだなぁ。私だって赤城さんだって、瑞鳳の事もう随分前から認めてるよ?ううん、認めるとか認めないとか、そういうんじゃないよ。少なくとも私が知る中で、瑞鳳は間違いなくトップクラスの軽空母だよ』
瑞鳳『え、えぇ…!?///』
飛龍『だからさ、宜しくね。けど、慢心はダメ、ゼッタイ!オーケー?』
瑞鳳『…はいっ!』
瑞鳳「すー、はー…」チャキッ…
大きく息を吸い込み、ゆっくりと弓を起こして矢を番える。
瑞鳳はいつでも我武者羅で一所懸命で、努力を惜しまない子だ。
努力とは必ずしも実るとは限らないし、それが花開く瞬間もまた区々だろう。
それでも彼女の努力は報われて然るべきなのかもしれない。
その努力こそが、彼女の原動力であり彼女自身を支える大きな自信の表れでもある。
狙いは一点、瑞鳳の技の数々は一線を張る赤城達により手解きされたものだ。
これはその中でも瑞鳳が真っ先に会得した強襲技。
瑞鳳「アウトレンジ、決めます!」ビュオッ
斜め上空へと放たれた矢は空中で無数の艦載機へとその姿を変えて大空へと飛翔する。
シルバー、ブラック、ホワイト、色とりどりに塗装された艦載機は遅れて放たれた空母艦娘の艦載機と正面からぶつかる。
ボゴボゴボゴボゴボゴォォォォォン
空母艦娘「なっ」
空中で無数の爆発が起こり、爆煙の中から翼で煙を切り裂き出現したのは瑞鳳の艦載機群。
瑞鳳の表情が俄かに緩む。
彼女にははっきりと見えた。
艦載機を操る妖精と呼ばれる存在。
小さな仕事人、彼女達も立派な戦線を支える艦娘達のサポーターだ。
その彼女達からのサイン。
瑞鳳へ向けて親指を立て、ある者は敬礼し、そして瑞鳳の声を聞く。
瑞鳳「敵機直上より急降下!全てをなぎ払え!」バッ
空母艦娘「あ、ありえな……」
ダダダダダダダッ
ボゴオオオォォォォォォォン
空母艦娘の声を掻き消し、艦爆艦攻隊の一斉攻撃が空母艦娘を襲う。
攻撃の嵐が止んだ後には、なんとかその場に立つのが精一杯の空母艦娘が、瑞鳳を睨んでよろめきながら立っているだけだった。
空母艦娘「こんな、ハズでは……」 大破
瑞鳳「……」スッ…
無言のまま瑞鳳は矢筒から矢を抜き取り、弓へと番えてその切っ先を迷う事無く空母艦娘へ差し向ける。
長門の言葉が思い起こされる。
艦娘としての矜持を忘れ、悪に手を染め、堕ちる所まで堕ちる。
提督の為に、陸で暮らす人々の為にと尽力している艦娘達も居る中で、内部をかき乱そうとする。
瑞鳳にはそれも納得できなかった。
本気で怒った。
許せなかった。
そんな事の為に、祥鳳や蒼龍達が傷付けられたと言う事実が何より許せなかった。
瑞鳳「謝って…あなた達が傷つけた人達に、謝ってよ!」
空母艦娘「クダ、らない…ククッ、私は……力を、手に、イレタ……この、程度の傷、スグに……」
瑞鳳「そう…でも、それは力なんかじゃないよ。ただ堕ちただけ…あなたは、深海棲艦に成り下がったんだよ」
空母艦娘「ナニを、言っている……?」
瑞鳳「自分の姿すらも、認識できないの…?自分すらも解らない人が、他人をどうこう言う資格なんてないんだから!」
空母艦娘「ダマ、れ……!私は、栄誉アル、百貫中将提督ノ、艦娘ダゾッ!!」
瑞鳳「だったら私は、信頼置ける新月大将提督の切り込み隊長よ!せめて、私の手であなたを葬って上げる!」チャキッ
真っ直ぐに構え直した弓に矢を番え、瑞鳳は引き絞る指の力を解放する。
放たれた一条の矢は無数の艦載機となって海面を飛翔し、標的たる空母艦娘に向かって弾丸の雨を降らせた。
海面を水飛沫が伝い、空母艦娘を真っ直ぐに通過すると同時に彼女の体が幾度か跳ねるように後方へと押し戻される。
バシャアァァァァァ……
堪える事もせず、空母艦娘はそのまま仰向けに海面に揺蕩い、そのまま言葉を発する事無く静かに水底へと沈む。
矢矧「強さは実力だけで決まるものじゃないわ。それでも、結果論で言えばこの勝負は私の勝ちよね?」
軽巡艦娘「き、さま……!」 中破
矢矧「少し腑に落ちないのよ。阿賀野姉ぇを大破にまで追い込んだ奴が『こんなに弱い』はずはないのよね」クスッ…
軽巡艦娘「私が、弱い、ですって…!?」
矢矧「弱いじゃない。少なくとも私の相手にはならないわね。火力も無い、照準もブレるし、持久力もない……それだけならまだしも自分で戦術すらも組めないようじゃ、最早弱いなんて言葉で片付けるのも疑わしいわ。雑魚よ」
軽巡艦娘「付け上がるな、お前如きに…!」ザッ
矢矧「」スッ…
軽巡艦娘「この私が、負けるものかぁ!」ジャキッ
ドン ドンッ
サッ
ボゴオオォォォォォン
矢矧「狙いそれで定めてるわけ?そうだとしたら、お話にならないわね!」ザッ
矢矧は主砲を構え直すと同時に海面を蹴って一気に軽巡艦娘との距離を詰める。
それを迎え撃とうと軽巡艦娘も構え直して矢矧に向かい突撃を開始する。
ザザザザザザザザッ
互いに併走して同時に手にする主砲を構える。
ドン ドン ドン ドンッ
ボボボボボボボボボンッ
ザザザッ
岩礁を挟んで次の瞬間、軽巡艦娘の視界から矢矧が消える。
軽巡艦娘「なっ!?ど、何処に…!」
矢矧「障害物は有効利用しないとね?」
軽巡艦娘「っ!?」ザッ
背後から届いた声に軽巡艦娘は咄嗟に腕を振り回して反転しつつ無差別に主砲を乱射する。
ドン ドン ドン ドンッ
ジャキッ
しかし、そのどれもが空を凪ぐだけで物へと直撃する事無く通過する。
矢矧自身は軽巡艦娘の動きに合わせ、同じ角度で身体を反転させて彼女の背後を取ったまま砲弾の装填された主砲の砲身を軽巡艦娘の首筋へと宛がい止まる。
軽巡艦娘「あ、あぁ……」
矢矧「チェックメイト…あなたの負けね」スッ…
そう呟いた矢矧は狙いを逸らして軽巡艦娘の艤装に狙いを定め、バックステップと同時に砲撃する。
ドン ドンッ
ボゴオオォォォォォン
軽巡艦娘「きゃあっ」 大破
矢矧「私、余り器用じゃないのよ。腕の一本や二本は勘弁して欲しい所ね。それだけの業を背負ったんだから、当然よね?」
軽巡艦娘「……う、ぐっ、どう、して…なんで、殺さない、のよ……」
矢矧「あら、あなた死にたいの?勿論、あなたがそう望むのなら躊躇わないわ。でも、そうさせない為に私自身が止める」
軽巡艦娘「なん、ですって…」
矢矧「簡単に死んでもらったら困るからよ。きっちり責任とってもらわない事にはね?その状態で我を忘れないって事は、あなたは『アレ』を投与されて無かったみたいだし…尚の事、死んでもらう訳にもいかないわ」
利根「ふん、他愛無いのう」 被害軽微
航巡艦娘「おのれぇ…!」 小破
利根「鍛錬を怠り、自分よりも劣る者だけを弄り、そうして仮初の自尊心を確立させておったんじゃろうが…生憎と我輩にはその考えがよう理解できんでな」
航巡艦娘「我等が、弱いとでも言うのか!?」
利根「事実、弱かろう。お主等には死線を越えた者が発する気が全く感じられんのじゃ。それは言わば存在感そのもの。言ってる意味が解るか?艦娘や提督等が放つ光…練磨によってのみ沸き上がる、即ち闘志よ。主等はただの人形に過ぎぬ。深海棲艦を始めとし、如いては人や艦娘にまで手をかける殺戮人形じゃ。それの何処が艦娘か、恥を知れ!」
航巡艦娘「だからなんだ。知った事か!鉄屑同様に捻り潰し、二度とそのような口を叩けないようにしてやる!!」ジャキッ
利根の言葉に激昂し、航巡艦娘は主砲を構えて突撃の姿勢を見せる。
それに合わせて利根は腕に仕込んだカタパルトから艦載機を発艦させる。
航巡艦娘「小バエを放って何をする気だ」
利根「その小バエにお主はこれから打ちのめされるのじゃ」ニヤッ
航巡艦娘「戯言を…っ!」サッ
利根「戯け、阿呆が!我が艦載機から逃れられるとでも思うたか!」ジャキッ
航巡艦娘の行く先を観測し、利根の正確な射撃が放たれる。
放った艦載機から発せられる上空からの目。
鷹の目とも言える第三の目から齎される情報は利根の死角を皆無にする。
そして同時に、相手の状況を詳らかにし丸裸にしてしまう。
空を制圧する事の重要性を一瞬の後に航巡艦娘は理解する。
ドン ドンッ
ボゴオオオォォォォォン
航巡艦娘「がっ…!」 中破
利根「ふん、莫迦めが。空の重要性を軽視するからそういう目に遭う。戦場を舐めるな、青二才が!」ジャキッ
航巡艦娘「ただで、負けるかああぁぁぁッ!!」ジャキッ
利根「いいや、詰みじゃ。大人しく縛に付けぃ!」ジャキッ
ドン ドン ドン ドンッ
ボゴオオォォォォォン
ボボボボボボボンッ
利根「筑摩、お主の無念は代わりに吾輩が晴らしてやったぞ。なんせ吾輩の方がお主より少しお姉さんなのだからな。この結果は当然と言えよう」 小破
航巡艦娘「そんな、私、が……」 大破
重巡艦娘「っていうか、貴方達って姉妹なの?」
雷巡艦娘「あぁ、だからあの那智って子のことでご執着な訳ね」
妙高「……」
足柄「……」
重巡艦娘「ふふっ、そんな怖い顔しないでよ。こっちだって提督命令だったんだもの…逆らえる訳ないじゃない?」ニヤッ
雷巡艦娘「そうそう……それに、私達は相手を殺して何ぼじゃないのよ。邪魔をする奴は誰だって殺してやるわよ。それが例え艦娘だろうと、鎮守府単位だろうと、なんだろうとね!」
足柄「そう、それなら瑣末で不出来、プロとして見るなら半人前以下の低レベルな仕事内容ね。あなた達が襲撃した艦隊の艦娘は誰一人として轟沈はしてないわ。最悪大破がいい所…殺すって言うなら、確実に仕留めなさい?」
妙高「止めなさい足柄、失礼ですよ。その程度の実力しかないんですから」ニコッ
足柄「あはっ、それもそうね。ごめんなさいね?分不相応な成果を上げると、どうしても気が大きくなっちゃうものよね」
重巡艦娘「…言わせておけば!」
雷巡艦娘「いいわ、それなら貴女達はきっちりと息の根を止めてこの世から葬って上げるわよ!」
足柄「ですって、妙高姉さん?」
妙高「はぁ、仕方ありませんね。大本営直営隊としての実力、お見せしましょうか」
重巡艦娘「面白い…暗部と呼ばれる連中が正面切っての戦闘にどれだけ慣れてるのか、見せてもらおうじゃない!」
足柄「言っておくけど、伊達や酔狂で本部の代行者、やってる訳じゃないのよ…ねっ!」ザッ
妙高「私達はこの地位に誇りと名誉を以て臨んでいます。何れ訪れる平和、遠い未来に輝く光を支える為に!」ザッ
妙高と足柄、二人は同時に駆け出す。
それぞれ戦闘において大本営内でも指折りの二人だ。
極秘警護から要人警護、あらゆる防衛に携わってきたイージスの名を冠するに等しい盾、妙高。
テロの阻止から叛乱、暴徒、深海棲艦の侵攻を僅か三名で退けた事もある前線における矛、足柄。
元帥直属護衛艦隊を第一の手とするなら、彼女達は第二、第三の手。
常にその圧倒的な戦力を以て他を凌駕し圧倒する最高戦力の一端を担う。
認識を誤った者がどのような結末を迎えるのか、それが今から実践される。
ドン ドン ドン ドンッ
ボボボボボボボボボン
重巡艦娘と雷巡艦娘による砲雷撃を掻い潜り、二人は速度を落とす事無く一気にそれぞれとの距離を詰める。
初めに動いたのは足柄だった。
足柄「第一戦速、砲雷撃…!その身で思う存分に味わいなさいな!」ドン ドンッ
雷巡艦娘「ちっ!」サッ
ボボボボボボボン
真横に飛び退き、足柄の斉射をなんとか回避した雷巡艦娘だが、その空白の時間だけで足柄には十分だった。
餓えた狼、聞こえは悪いが事戦場においてこの狼と例えられた彼女の力は畏怖するものである。
ヒュッ
音も無く。
サッ
静かに。
ジャキッ
視野に納めた獲物を。
ドン ドンッ
狙い撃つ。
雷巡艦娘「なっ、いつの間に……!」
ボゴオオォォォォォォン
雷巡艦娘「うぐっ…」 中破
足柄「あら、結構丈夫ね。だ・け・ど…こんなんじゃ帰さないわ。突撃よ!突撃ぃー♪」ザンッ
軽快な台詞とは裏腹に姿勢を低くした状態から、凄まじい瞬発力を見せて足柄が一気に雷巡艦娘へ迫る。
左右にフェイントを混ぜて海原をまさに縦横無尽に駆け巡る。
雷巡艦娘「このっ、ウロチョロと…!」ドン ドンッ
サッ
ボボボボボボン
照準を絞らせない動きで足柄は一瞬の内に雷巡艦娘との差を再び詰めて主砲を構える。
その頃には先の不敵な笑みは消え、獲物を捕らえる狼の如き鋭い眼光を携えていた。
足柄「私、妙高姉妹の三女なんだけどね?自分を馬鹿にされるのはまぁ、頭にくるけどそこまでイラッとはこないのよ。ただ、姉や妹を貶されるのは我慢ならないのよね。あなた達、既に逆鱗に触れてるのよ。私達のね…!」
雷巡艦娘「何が逆鱗よ。ふざけんじゃないわよ!ちょっと素早い程度で、調子に乗ってんじゃないわよ!」ジャキッ
足柄「その程度の錬度で中将の艦隊ですって?鼻で笑っちゃうわね。腰の据え方、構え、狙い、定め、全部なってないわ! そんな見せ掛けだけの構えで撃った所で、日が暮れようと移動してる物には夾叉すらしないでしょうね」
雷巡艦娘「なっ」
足柄「特別講師を買って出て上げるわ。実践で教えて上げる。ありがたく思いなさいな!」ザンッ
尚も雷巡艦娘との距離を詰めて、足柄は手にする主砲を真っ直ぐに構える。
本来、移動しながらの射撃と言うのは射線の確定からして難しくなる。
ただでさえ反動のある砲撃を動きながら行おうと言うのだから、狙いを定めるのにも相当な集中力と忍耐力が必要になる。
つまり、それを卒無くこなすと言うのは言い換えれば射撃においてはスペシャリストの域にあるという事でもある。
足柄は他の姉妹達と比べるとどれもが何かしら劣っていた。
末っ子の羽黒には火力で劣り、足回りでは妙高に、対空への警戒では那智に遅れをとった。
だが、足柄はその持ち前の執念で粘り強さと言うものを身に付けた。
そしてそれは後付ではあっても足柄に一つの隊の旗艦を受け持たせるほどにまで昇華され、一つのスキルとして確立した。
餓えた狼、何事にも貪欲で、狙った獲物は逃さない。
負けてなるものかと言う執念こそが、彼女を支える一つのバックボーンなのだ。
雷巡艦娘「は、速い…!」
足柄「ボサッとしてていいのかしら!?弾幕を張りなさいな!最も、もう遅いけどね!十門の主砲は伊達じゃないのよ!」
ドン ドン ドン ドンッ
ボゴオオオォォォン
ボゴオオォォォォン
雷巡艦娘「あぐっ…!」 大破
足柄「推して知るべしってね。これは当然の結果よ。講義に入るまでも無かったようね」
時間は少し遡り、同時に動き出した妙高と足柄、先行したのは足柄だった。
その背を見送り、視線を重巡艦娘へ移して妙高は静かに足を止めて主砲を構える手を下ろす。
妙高「では、参りましょうか」
重巡艦娘「澄ました顔して、ホント気に入らないわね」
妙高「そうですか?これでも十分、憤りを感じています。だからと言う訳では有りませんし、余りこういう事はしたくないのですが、あなたに実力の差、と言うものを知らしめる事にしました」
重巡艦娘「はぁ?実力の差ですって?」
妙高「開始から五分間、私はここから一歩も動きませんので、どうぞご自由に砲雷撃を開始して下さい」
重巡艦娘「なん、ですって…!」ギリッ…
妙高「最も案山子になる気は有りませんので、防衛行動は取りますけどね?」
そういうと妙高は自然体で構え、真っ直ぐに重巡艦娘を見据える。
その表情、姿勢に重巡艦娘は激怒し一気に駆け出した。
重巡艦娘「舐めた真似を!殺してやる!!」ザッ
真っ直ぐに駆け出した重巡艦娘はその姿勢のまま主砲を構える。
そして何の躊躇いも無く一気に斉射した。
ドン ドンッ
それと同時に妙高も宣言通り、その場からは動かずに主砲だけを構えて狙いを定め引き金を引く。
ドン ドンッ
ボンッ ボボボンッ ボボボボボンッ
結論から言えば、妙高は重巡艦娘の放った全ての砲弾を己の主砲で残らず迎撃しきってしまった。
飛んできたのは余波として凪いだ爆風の欠片程度。
妙高の切り揃えられたボブカットの髪の毛が若干、靡いた程度だ。
それを見届け、重巡艦娘は愕然とした表情で動きが止まった。
妙高「鳩が豆鉄砲でも食らったような顔ですね。ですけど残り四分ですから、時間は有効に使った方がいいと思いますよ?」
重巡艦娘「くっ、戯言を…!」ザッ
重巡艦娘は妙高の言葉に我に返り、再び動き出し主砲を構え直す。
短絡的思考、と言えばそれまでだが最も理に適った手法、それは近距離まで近付いての射撃。
重巡艦娘はそれを実践しようと前へと出た。
だが妙高は変わらぬ姿勢で表情だけを少し綻ばせて問いかけた。
妙高「そんなに『遠くて』当たりますか?」
重巡艦娘「何、を…」
妙高「あぁ、そうですね。確かにそれ以上近付きすぎれば放った砲撃の爆風が自らにまで及んでしまうかもしれない。それは若干、宜しくありませんからその距離が丁度良いのかもしれませんね」
重巡艦娘「こいつ…っ!」ジャキッ
妙高「残り三分です」ジャキッ
重巡艦娘「死ねえええぇぇぇぇッ!!」ドン ドンッ
妙高「お断りします」ドン ドンッ
ボボボボボボボボボボンッ
殆ど同時、互いの距離は砲撃到達の時間にすればほんの僅かな時間しかない。
待ってから狙っていては自らの近くで爆発が起こり、最悪飛散した砲弾の破片を一身に受けてしまう恐れすらある。
妙高は相手の砲身の先、射線の予測点を見極め同時に砲撃を行ったのだ。
結果、互いの丁度中間で砲弾同士が接触し、大爆発が巻き起こる。
重巡艦娘「ぐっ…!」
妙高「……」
押し寄せてきた熱風に重巡艦娘は顔をしかめて片腕で顔を遮る。
妙高は先と変わらぬ姿勢のまま、真っ直ぐに爆発した地点を凝視する。
妙高は移動するもの、動くものを狙い撃つのに凄まじく長けている。
最早それは妙技では納まらず、特技と言うには語弊がある。
名実共に誰もが認める神業の域にまで達している。
彼女がイージスの名を背負う一つの理由がこの射撃スキルにある。
あらゆる侵入を迎撃し、あらゆる凶弾を撃ち落す。
決して崩れない、何ものをも寄せ付けない堅牢な盾。
これをイージスの盾と例えない訳にはいかない。
妙高「…残念ですが五分経過してしまったみたいです。潔く咎を認め、その場に折れればよかったと思いますよ」
重巡艦娘「ふざ、けるな…ッ!!」ジャキッ
妙高「五分では互いの実力の差を感じるには少なすぎましたか?で、あれば…」ジャキッ
妙高「致し方ありません…追撃戦に移行します!」
妙高は大本営の中でも極めて温厚、温和、平和主義者で通っている。
争いを好まず、四姉妹の仲でも羽黒に匹敵する程に争いを嫌う。
だからこそ、自分と真逆の思考、行動、発言をする者を酷く嫌う事がある。
顔には出さないし突っかかりもしないが、自らに及ぶ被害、身内や友に及ぶ被害が出た場合、彼女は修羅となる。
それでも、最後の最後まで仏の選択肢を残し続ける。
どこかで認め諦めるかもしれない、少しでも罪の意識があるのなら、それは争いにまで発展させるべきではない。
そういう思考から最後の最後まで彼女は対人に関してはその矛を収め続ける。
しかし、その彼女の言葉すらも届かない場合は最早どうする事も出来ない。
文字通り、力で捻じ伏せる他ない。
そして矛を抜き放ってしまった場合、妙高は少しでも早く終わるように、全力を尽くす。
妙高「終わらせます」ザッ
重巡艦娘「追撃ですって…?ふざけないで、殺してやる…!」ザッ
二人は同時に駆け出し、主砲を手前に翳してその距離を見る間に縮める。
ドン ドンッ
サッ
ヒュン ヒュン
先に仕掛けたのは重巡艦娘だったが、それを見越して妙高は斜め前方へと一際大きく踏み込んで射線から外れる。
結果、妙高の真横を重巡艦娘の放った砲撃が通過し、妙高自身は重巡艦娘の側面を捉える形になった。
重巡艦娘「しまっ……!」
妙高「…撃ちます!」
ドン ドンッ
ボゴオオオォォォォォン
有無も言わさぬ至近距離からの一斉射。
爆煙の立ち昇る中、ユラユラと揺れる影が浮かび上がり、それは力無く崩れるようにフッと消える。
ザバァァァ……
何かを打ち付けるような海面の音がその後に響き、妙高は静かに目を伏せてそこから視線を外した。
-禁忌-
百貫「さぁ、ほら…証拠を私の前に提示したまえよ、戦艦長門ッ!」
長門「まだ貴様はそんな戯言を…!」
進撃『じゃあ、証拠の提示をしましょうか、百貫中将殿?』
百貫「っ!?その、声は…君は、進撃か…!」
進撃『私の鎮守府の配属艦娘もその戦線には参列してるんです。鋼鉄さんと不動さんが手隙じゃないと言うのなら、私が代わりに指揮を執るしかないですからね。新月大将は忙しい方ですので…』
百貫「私が、深海棲艦と手を組んでいるという証拠があると言うのかい?」
進撃『別に深海棲艦と手を組まなくても、あなた達なら深海棲艦の細胞や艤装と言った類は幾らでも手に入れられるでしょう?』
百貫「何…?」
進撃『キメラの男……彼とあなた達は繋がっているんですからね!』
百貫「貴様……!」
進撃『もう言い逃れは出来ませんよ。一部の艦娘にはそれを強要或いは強制させ、艦娘と深海棲艦のハイブリットを生み出した』
百貫「…………」
進撃『キメラの泊地に存在したゾンビの様な深海棲艦の群れは研究によって生み出された艦娘の成れの果て。自我を失い、深海棲艦の特色が色濃く反映され、制御が利かなくなったものをその場に放ったんでしょうね。制御できるハイブリット型の深海棲艦艦娘を海軍内部へ送り込み、内部から海軍を壊滅させるのが狙いですか?』
百貫「」(…彼も言っていた。やはりこの男は、殺しておくべきだった。大佐の器じゃない頭のキレ、確実に私達の障壁になりうると言う彼の言葉は現実のものになった。ならば、今この場に置いて私にできることは……)
進撃『反論が無いのは肯定と受け取りますよ、百貫中将殿』
百貫「……そうだね、これはもう逃げ場がなさそうだ。ならば……」スッ…
進撃『…っ!長門、彼を止めろ!!』
長門「ッ!」
長門も異変に気付き、海面を蹴りだそうと前のめりになる。
だがそれよりも遥かに早く、百貫は腰に差していた軍刀を抜き放ち、その切っ先を自らの喉元へ突きつけ、一気に押し込んだ。
ズッ……
百貫「ぐっ…がはっ…!ぐ、ぐふふ……さ゛ら゛は゛……」ドサッ…
長門「こいつ…!」
進撃『……追い詰めすぎたか、くそ…俺はバカだ!手掛かりを見す見す死なせるなんて…』
瑞鳳「長門さん!」
長門「瑞鳳、無事だったようだな」
瑞鳳「勿論!」
矢矧「こちらも片付いてるようね」
長門「ああ、滞りなくだ。利根、妙高に足柄はどうした?」
利根「終わっておるわ」
妙高「お待たせ致しました」
足柄「ふふ、流石は選りすぐりの艦娘ね。全員無事で何よりだわ」
進撃『皆、済まない。証拠となるはずの百貫中将を見す見す自殺させる結果になった』
足柄「何ですって…!?」
妙高「…逆に言えば、それほどまでに統率された一群という事でしょう。己の貸した失態を自らの死で帳消しにする。早々真似のできる事ではありませんし、そこまでするという事は闇はより一層深いと見るべきでしょう」
進撃『後は、あちらさんの戦果に頼らざるを得ない』
足柄「ハズレ鎮守府の提督さんね」
進撃『みんなは残された百貫の艦隊の残存艦娘の保護と、無力化させた艦娘の監視を継続して欲しい』
瑞鳳「進撃提督は?」
進撃『俺は提督と合流し、事の顛末を伝える。まぁ、愚痴を聞かされに行く、とも言うな』
長門「心中察するよ。だがそれも仕事と割り切るべきかな、なぁ進撃提督」
進撃『へぇへぇ、解っておりますよ。鋼鉄艦隊の秘書艦様』
提督「おぉおぉ…随分と豪勢な作戦司令室だなぁ、おい。いくつがまともに機能するのかひっっっじょうに興味をそそる」
心悸「てめぇ…ッ!」
提督「よう糞虫君。俺様の想像通り、いい具合に歪んだ顔がこれまたひっっっじょうに俺様の曇った心を晴らしてくれる。いやぁ、じ・つ・に愉快だ!その顔を見るために俺様は生きてきたと言っても過言ではないのかもしれない」
心悸「ぶっ殺してやる!」
提督「ほざくなよ、捕虜に成り下がった分際で。せめて五体満足の状態でほざけ、この塵虫が」ニヤッ
鳥海「周囲の警戒、オールクリアです」
提督「おう、ご苦労。んじゃま、進撃のクソガキがくるまで語ろうじゃねぇか、糞虫心悸君」ドカッ
カチンッ……シュボッ
提督は手近にあった椅子を蹴り上げると、そこに大またを開いて座る。
胸ポケットからタバコとジッポを取り出すと火を点けて一服する。
提督「はぁ~…さて、と……で、誰の差し金だよ。居るんだろ?お前みたいな脳筋低脳スカタンポンがこんな仰々しい策なんて思いつくはずねぇからな。天地がひっくり返って宇宙旅行が貧困層でも出来るくらいの偉業が成されても、まずお前じゃ無理な発想だ。おら、答えろよ蛆虫君」
心悸「言うワケねぇだろ、死んで出直せよ白夜」
提督「くくっ、舌噛み切って自滅する勇気もねぇボンクラが偉そうに吠えてんじゃねぇよ。ただの遠吠えにゃ威嚇効果はねぇんだからよ、ちったぁ頭使えって。知恵を蓄える代わりにもやしでも栽培してんじゃねぇのか?」
鳥海「」(あなたに口で勝てる人が居るなら是非見て見たいです)
提督「……んだよ、その物言いたげな顔は」
鳥海「いいえ、別に?」
木曾「おう、ハズレの提督さんよ。うちの提督が到着した」
提督「そうか。まさか手ぶらじゃねぇよな?」
木曾「あぁ?手土産でも寄越せってのかよ。ったく、ゲンキンな奴だな、あんた」
提督「だぁほ、あんなクソガキの持ってくるガチの手土産なんぞ怖くて手も付けられねぇよ、バァカ」
木曾「チッ、口の減らねぇオッサンだ」
心悸「てめぇ、進撃と共闘してやがったのか!」
提督「人間ってのは学習するもんでな。一度殲滅戦を経験すると、次は同じ鉄踏まねぇように頭使うようになるんだよ。お陰で俺ぁてめぇらよりも頭の回りが以前よりも良くなったらしい」ニヤッ
ガチャ……
提督「よう、クソガキ」
進撃「お疲れ様です、提督」
心悸「進撃、てめぇ…」
進撃「百貫中将は死にましたよ、心悸中将」
提督「てめっ……」
進撃「将校剣を自分の喉元に突き立ててそのまま一気にやられちゃいました」
提督「やられちゃいましたじゃねぇだろ!てめぇ、その毒舌で一気に捲くし立てて追い込みやがったな…!」
心悸「百貫が、死んだ、だと…」
提督「どうやら、てめぇよりあいつの方が何倍も忠誠心は高かったみてぇだな?いや、てめぇの掲げる信念を曲げなかった。それに対する最大の誠意……ま、少なくとも暴れる事しか能のないてめぇとじゃ比べるべくも無いって事だ。何より、これで俺様は確信を持って行動が取れる。ようやく尻尾を掴んだんだ…くくっ、ここからはてめぇ等のシナリオじゃねぇ。俺様のシナリオ、俺様の計略、俺様の時間だ!」
心悸「ぐっ……」
進撃「提督、心悸中将をどうするつもりですか」
提督「あぁ?んなもん決まってんだろうが。口利けなくなるまでボコボコにした上で社会的に抹殺して生まれた事を後悔させ、生きている事を懺悔させ、死にたくなるまで徹底的に追い込んだ上で絶対に死なせねぇだけだ」
木曾「」(うっへぇ……どんな生き方すりゃこんな発想生まれんだよ)ヒクッ……
鳥海「」(キチガイとはこの人のために生まれた言葉に違い無いわよね…)ハァ……
進撃「」(鬼悪魔でもここまで無慈悲になれるのか疑うレベルだな…)ゲンナリ……
提督「んだよ、言いてぇ事あんなら口利けや!」
木曾「ははっ、いやもう好きにしろよ。俺はもうどーでもいいや。提督、俺は戻ってるぜ」
進撃「えっ」
木曾「あんだよ」
進撃「いや、なんでもない」
鳥海「私も捕縛した艦娘の処遇についての意見提案に赴きます。では」ペコリ
進撃「えっ」
鳥海「え?」
進撃「いっちゃうの?」
鳥海「はい」キッパリ
進撃「」(超帰りたいんですけど…)
提督「クソガキ、てめぇ百貫見す見す死なせといてまさか『じゃあ俺はこれで』とか言えるとでも思ってんのか」
進撃「解りました、解りましたよ…お供しますよ。死なば諸共、毒を食らわば皿まで、一蓮托生……何でもござれですよ。個人的に、俺も聞きたい事は山ほど有りますからね」
その後、心悸は文字通り私刑(リンチ)を受けたという。
だが肉体的ではなく、言葉による口撃によるものだったそうだ。
粗方収拾が付いた後、進撃の一報で元帥へ通達がなされ心悸と百貫による暴乱は一時の収束を見せた。
しかし心悸は最後までその計画の全貌を明かさないまま、獄中で自ら舌を噛み切り自害し果てた。
その報は提督にも直に知らされるが、彼にとっては予定調和だったようでさしたる驚きは見せなかった。
~光を求めて~
-更なる高みへ-
切っ掛けは、摩耶のお見舞いに赴いた艦娘病院での事だった。
私はこの頭脳さえあれば大抵の事は切り抜けられると、今までずっとそう信じて生きてきた。
窮地に立とうと、混迷の渦中に身を投じようと、この頭脳をフル回転させれば切り抜けられないものはないと。
姉妹で大本営への配属が決まった時、正直とても嬉しかったのを覚えている。
けど、私は希望する部隊への配属はされなかった。
古巣と言っても、既に解体され別の提督が鎮守府に着任し、そこにもう私の居場所はなかった。
ふふっ、結局紆余曲折を経て、また同じ提督の下に戻ったけど、相変わらずの俺様には辟易しますね。
あぁ、話が脱線してしまいました。
大本営の望まない部隊、望まない役職を押し付けられ、私は意固地になって自らその地位を捨てる事を決意しました。
摩耶には本気で怒られ、本気で心配され、本気で引き止められました。
でも、今ここにいる私が本当の私なのだと、今だから胸を張って言える気がします。
そんな決意を密かに秘めて臨んだ数々の戦場。
弄した戦術・戦略に他の艦娘達も当たり前のように応えてくれる。
これ程の喜びはいつ以来に味わうのかも解らない。
気付けば、私はここの皆を本当に愛しているのだと痛感しました。
でも、それ以上にやはり私は誰よりも摩耶を愛しているのかもしれません。
あの暴乱が終わって、いの一番で私は今ここにいます。
愛する姉妹を傷付けられ、愛する皆が同じ目に遭わないとも限らない。
以前に一度だけ、摩耶から電文が写真を添えて届いた事がありました。
『元気か、鳥海。あたしは晴れて艤装を改装して防空巡洋艦にバージョンアップだぜ。へへっ、写真添えてあるだろ? 軍装も改めたんだぜ?どーだよ、結構イケてるだろ!まぁ、ちっとばかしスースーするんだけどな』
お揃いだった白い襟に紺のセーラー、赤いリボンに白のスカート。
写真の摩耶は襟は同じ白でエメラルドグリーンのセーラーに襟とお揃いのワンポイントリボン、ミントグリーンのスカート。
チャームポイントなのか、セーラーと同じ色のミニハットを被っていた。
姉の高雄や愛宕と、色は違うけどお揃いのキャップ。
ちょっと可愛いとか思った私が憎い。
今回の暴乱を経験して、もう頭脳だけでは駄目だと改めて痛感した。
私は新しい力を得る為に、その糸口を得る為にここに居る。
提督「錬度としちゃ十分に戦力と見なせる訳だが、それでも尚、気概は変わらねぇってのか?」
鳥海「変わりません」
提督「だったらもう何もいわねぇよ。だがてめぇが思うような気楽なもんじゃねぇぞ。言い換えれば改造人間ってなもんだ。近代化改修と同じだけの苦労を伴い、それが吉と出るかも定かじゃねぇ。あとは、てめぇの心構え次第だ」
今、提督と鳥海は工廠室前に来ている。
一部の選ばれた中将以上の鎮守府には艦娘を強化する工廠施設が存在する。
無論、他の鎮守府にも存在はするがその規模と機能は大きく隔たりがある。
改修や改造、新しい武装の製造と多岐に渡る工廠室だが、ハズレ鎮守府に存在するそれは必要最低限の設備が揃うのみ。
故に艦娘の基本性能を向上させる改造ともなれば他の鎮守府以上の労力が伴ってしまう。
鳥海「では、暫くの間は全く戦力になりませんので」
提督「おう、死んだら墓くらいは作ってやるから安心して死んでろ」
鳥海「本当、あなたは昔も今も変わりませんね」
提督「ふん、それが取り柄でこれが俺様だ。反論は認めん」
鳥海「するだけ無駄でしょう。それじゃ、精々期待せず待ってて下さい。では」ペコリ
ピッピッピッ シャー ガチャンッ
鳥海は一礼して開かれた扉の中へと消えて行き、程なくして扉も再び閉じられた。
提督はそれを確認後、立ち入り禁止の札を下げてその場を後にした。
満潮「鳥海の更なる改修?」
漣「みたいですよ~」
長良「ほえ~、更にレベルアップするって事かな」
加賀「総合的な戦力強化という事でしょう」
ガラッ……
提督「あぁ?何してんだ、お前等」
満潮「見て解んないの?お茶してるんだけど」
提督「訓練日だよな?殴り殺すぞ、クソチビまな板」
満潮「あんた馬鹿?休憩してるって言ってるのよ、アホ面オヤジ」
漣「よっ、今日も始まりました!ご主人様とみっちゃんの夫婦漫才!」
長良「あははははっ!」パチパチパチ
加賀「はぁ…」
提督「ちっ、大層なご身分だな。だからと言って羽の伸ばしすぎもどうかと思うがね」
加賀「当事者としては、その後の成り行きが開示されないのは不服と言うものです」
提督「はぁ?」
加賀「今回の一件についてです」
提督「そんで休憩時間利用してチンケな憶測ごっこかよ」
加賀「しかしその後が気になるのも事実です」
提督「あぁ?そんなもん、お前等が気にしてどうにかなるのか?くだらねぇ気を回してる暇があるなら自身を鍛えろ」
漣「あ、ちょ、みっちゃん!それ、ダメなパターン!やばっ、ギブギブ…!ぐるじい……」パンパン
満潮「うっさい!絞め殺す!」ギリギリ…
長良「ヤバイ、ちょーウケる!」ケタケタッ
加賀「……あっちは放っておきましょう。話を戻します」
提督「…アホか、あいつ等は…」
加賀「戦闘が終わった後、主犯格の提督一名が現場で死亡。残る一人も獄中で自ら命を絶ったと聞いています」
提督「てめぇはどっからそういう情報仕入れんだよ」
加賀「」スッ…
提督「ケータイかよ!誰だよ相手は!」
ピッピッ…スッ…
【一航戦 赤城さん/カテゴリー:親友】
提督「あんのクソガキ……艦娘にいらねぇ情報をペラペラと…っ!」
加賀「それで、あなたは本丸をもう見据えて作戦を次の段階へ進めようとしているのではないかしら?」
提督「あぁ?」
加賀「その第一歩が鳥海の更なる改修ではないかと、私は思っているわ」
提督「んな大層なお題目はねぇよ。真面目一辺倒の鉄面皮空母ちゃんは直に勘ぐるみてぇだがな」
加賀「……」イラッ
提督「あいつが自分から言い出した事だ。もっと強くなるにはどうしたらいいのかってな」
加賀「彼女が自ら…?」
提督「あいつは元々、こんな所に居るような存在じゃあなかったんだよ」
加賀「それは、どういう意味ですか?」
提督「てめぇで本人に聞け。俺は執務室に戻る」
提督「…はぁ、ったく…着任当初は他人の『た』の字も気に掛けねぇ分際だったくせに、あーだこーだと口煩い」
カチンッ……シュボッ
提督「はぁ~~……進撃のクソガキが百貫死なせてなきゃあ、もうちょい情報は得られたんだろうが……」
提督「……いや、くくっ…そんな事ぁもうどうでもいいか。さて、と……」ガタッ…
戻ってきた少しの日常と示された艦娘の決意、そして落ちこぼれ認定の烙印を押された者達の心境の変化。
提督は人知れず小さく笑いをかみ締めていた。
相手を貶める事によって生じる冷笑ではなく、蔑む事によって生じる失笑でもなく、それは紛れもない笑み。
その笑みを残して、その日提督はハズレ鎮守府から姿を消した。
-友-
漣「みっちゃん、そっちはどうだったです!?」
満潮「居なかったわ」
長良「鎮守府周辺見てきたけど、何処にも居なかったよ」
加賀「……提督」
満潮「加賀、最後に会話してたのあんたでしょ。様子が変だったとかなかったの?」
加賀「普段と変わりなかったとしか言いようが無いわ」
満潮「あのアホ面オヤジ…!鳥海だってまだ工廠室から戻ってないのに」
長良「けどさ、本当に司令官は私達の事を見捨てたのかな?」
漣「…信じたくないです」
満潮「この状況で信じるも信じないも…」
漣「信じたくないです!」
満潮「さ、漣…」
漣「ご主人様は口は悪いし性根は腐ってるし自分勝手でワガママでクソを地で行く畜生ですけど…」
満潮「暴言しか今のところ確認できてないわね」
漣「ご主人様は絶対に私達を見捨てたりはしないと思うです!」
満潮「っとに…だったら、私達だけは疑っちゃダメよね」
加賀「緊急事態に変わりはありません。鳥海には悪いけれど、呼び戻してくるわ」
長良「あっ」
加賀「……?」
鳥海「その必要はありません」
漣「お、おぉ…!」
長良「露出が激しい…!」
鳥海「ど、何処を見てるんですか!全くもう…何はともあれ、鳥海、参りました。皆さんに心配を掛けた分とお礼、海戦にてお返しできればと思います」
加賀「鳥海、具合などは問題ありませんか?」
鳥海「ええ、大丈夫。工廠の妖精さん達の手助けもありましたから」
長良「いや~、でも軍装まで変わってるとは~」
満潮「まぁ、似合ってるんじゃないの?」
漣「エロさは格段にあがってるです」
鳥海「もう!」
加賀「緊張感の無さは相変わらずです」
鳥海「折角ですから、摩耶とお揃いのものにしてもらったんです」
加賀「摩耶…確か、彼女は」
鳥海「ええ、まだ意識が戻ってないの。でも、あの子は強い子だからきっと大丈夫って、私は信じてるわ」
加賀「そうですか。それなら、私からは別に何も言う事はありませんね」
鳥海「ふふっ…それより、皆さん集まってどうかしたんですか?加賀さんは私を呼びに来ようとしていたみたいですけど」
長良「あっ、そうそう!ねぇ、鳥海って司令官と少し前まで同じ鎮守府で上官と部下の関係だったんだよね?」
鳥海「はい、そうですね」
満潮「あのアホ面オヤジ、消えちゃったのよ」
鳥海「は?」
漣「だーかーらー!私達を放置プレイなのです!」
長良「でね、鳥海なら司令官の行き先とかわかんないかなーって」
加賀「取り敢えず、この鎮守府内や周辺には居ない事は確認済みです」
鳥海「そう言われても、別に私はあの人のお目付け役という訳ではありませんでしたし…」
長良「前の鎮守府じゃ鳥海はどういったポジションだったの?」
鳥海「第一艦隊の参謀を務めていました。白夜の艦隊、その中でも私の提唱する戦術についてこられるメンバーのみで構成され、白夜鎮守府の中では所謂、精鋭部隊と呼ばれる存在でした」
満潮「え、それちょっと凄くない…?」
漣「嫉妬するです」
長良「転落人生ってヤツかな?」
鳥海「もう少しオブラートに包んだ表現を覚えて下さい…とにかく、通称として謳われた白夜の艦隊はその当時では圧倒的な強さを見せていたと思います。メンバーは旗艦である航空戦艦の扶桑さんを筆頭に私鳥海、同じく航空戦艦の山城さん、軽空母の千代田さん、駆逐艦の睦月さんと弥生さん、以上が当時の白夜の艦隊第一艦隊です」
加賀「山城…」
鳥海「どうかしました?」
加賀「いえ、山城と言う名前に覚えがあったので」
鳥海「とにかく、司令官さんの足取りを調べたり行方を追うのは困難に思います」
長良「えーっ!それじゃ、どーするの!?」
満潮「何もしないってワケ?」
鳥海「ええ、厳密には。ただ、私達には私達にしか出来ない事があるじゃありませんか」
漣「私達にしか出来ない事?」
加賀「深海棲艦と戦う事、でしょうか」
鳥海「その通りです」
満潮「そりゃあ、そうかもしれないけどさ」
鳥海「今出来る事、それを私達は全力で行えばいいのだと思います。前線での指揮は私が受け持ちます。加賀さんは提督の代わりに決断をお願いします」
加賀「…………」
鳥海「私達は、成長しているはずです。前線での指揮は私が執ります。それによって生じた責任は全て私が請け負います。ですが、あなたが下した決断は全員で吟味した上で齎された結果です。誰があなたを責めようと思いますか。私達は戦友であり、仲間であり、同じ時を共有した友です。ここに、あなたを信じない者は誰一人としていません」
長良「私達の仲じゃん?っていうか、加賀は仲間を信じられない?」
満潮「別に取って食ったりなんてしないわよ。私だって信じてる。この鎮守府の面子は全員信じてるわ」
漣「一蓮托生ってやつですよ~。死なば諸共、世は情け!」
加賀「…ありがとうございます。私は、良い友を持ったようです。では、差し当たっての今後の方針について決定を下します。私はまず、この事を元帥へ報告しに大本営へ赴きます。提督の様子からして、まだ身内に敵は居る模様です」
満潮「尻尾だけってワケね」
漣「怖気しかしないです」
長良「司令官は目星付いてたのかな?」
鳥海「そうだとして、姿を晦ませたのが何かしらのサインだとするなら…」
加賀「何れ邂逅を果たせると思います。では、早速で申し訳ありませんが…」
鳥海「はい、留守はお任せ下さい。提督代理」
加賀「……」
鳥海「…何か?」キョトン
加賀「少し、その呼称はむず痒いです。では」ペコリ
満潮「あれってさ…」
長良「あははっ」
漣「照れてますね、絶対!これは貴重ですよ!加賀さんのテレ!ワクテカです!!」
-真実-
『一航戦、加賀。入ります』
ガチャ……パタン……
加賀「失礼します」
元帥「来る頃だろうと思っていたが…よもや艦娘が来るとはな」
加賀「我が鎮守府の提督の消息が途絶えました。今回はその報告と今後の方針についての指示を仰ぎに参上した次第です」
元帥「彼が消えた…?」
加賀「この場に着てまでつく嘘ではないと解ってもらえると助かるのだけれど」
元帥「一体、何があったんですか」
別にこれと言った事象が起こった訳でも、変化が生じた訳でもないと加賀は思っている。
強いてあげるなら、今まで以上に自分達の絆は強固なものになったと、その程度だろう。
提督自身に何か意識改革が起こったのかもしれないし、自らで何かを成そうとしているのかもしれない。
本当のところなど一つとして解っていない。
事実として眼前にあるのは忽然と消えた提督の消息とその所在、それだけだ。
加賀は何一つとして偽る事無く、事実の全てを詳らかに語った。
元帥「……そうですか。話は変わりますが、君は提督の過去と言うのを存じていますか?」
加賀「薮から棒ですね。それが今回の一件と何か関連があるのでしょうか?」
元帥「少なくとも、心悸と彼には浅からぬ因縁があるのは事実だよ」
加賀「……どんな因縁があるんですか?」
元帥「私が語ったと言うのは内密にしてもらうよ」
元帥はそれを前置きにして静かに口を開いた。
彼は元・白夜の艦隊と称された精鋭艦隊を率いる中将だった。
戦術眼では右に出る者は恐らく現時点を置いても居ないだろう。
彼の眼は常に未来を視ていたらしい。
白夜の艦隊は旗艦を航空戦艦の扶桑が務め、随艦に航空戦艦の山城、重巡洋艦の鳥海、軽空母の千代田、駆逐艦の睦月と弥生、六名により構成されていた。
航空戦に憂いがあるように見受けられる編成だが、千代田の戦力とそれを補助する扶桑と山城姉妹のサポートもあり、空での制空権争いも他と引けを取らない、優秀なものだった。
そんな精鋭揃いの艦隊が、とある海域において大敗を期し、撤退を余儀無くされる事態が発生した。
その撤退救出作戦発動の際に先陣を務めたのが心悸だ。
結果から言えば無残なものだった。
旗艦の扶桑を始めとし、山城、鳥海は大破、千代田、睦月、弥生はロストした。
満身創痍だった扶桑達三名は後少しと言う所で敵の凶弾の雨に晒され、扶桑は自らの身を呈して山城と鳥海の身を守った。
無論、扶桑は吹き荒れる嵐のような凶弾の全てをその身に受けて轟沈したと聞く。
彼女が報われてたとするのなら、それは────
扶桑「敵の、撤退を、確認しました……」
提督「扶桑…!」
扶桑「提督……」
提督「待ってろ、応急要員の妖精は万が一を考えて連れてきている!お前を死なせるものか」
扶桑「提督……覚えて、ますか」
提督「何をだ」
扶桑「ずっと、昔に…小さな、男の子と…約束を、しました」
提督「約束…?」
扶桑「はい。その子の父親の乗る船が、深海棲艦に襲撃され……遺体すらも、揚がらず…彼は途方にくれていました」
提督「…………」
扶桑「だから、提督も、私も……あの子に誓ったじゃありませんか」
提督「ああ……」
二人『君に誓う。同じ悲劇は決して起こさない』
扶桑「……」クスッ
提督「……」
扶桑「提督」
提督「っ!」
扶桑「不幸ですね、提督────」
元帥「────今わの際で、提督の膝元で果てる事ができた事、なのかもしれんな」
加賀「今話にあった内容の何処に、心悸との交わりがあるのかしら」
元帥「ふっ、あぁすまない。私とした事が、無駄が過ぎたな。これでは本末転倒だ。あの時、先陣を務めたはずの心悸の艦隊はその全てが無傷、被害は軽微なもので凡そ前線に赴いていたとは思えなかったそうだ」
加賀「それは、つまり」
元帥「表向きは援軍として駆けつけ、本質は見て見ぬ振り、と言う訳だ。だが確たる証拠は無く、不問に処されている」
加賀「元帥から見て、不審に感じる点は何処でしょうか」
元帥「提督の入れ知恵なのか、君自身の意見なのか…そこは非常に興味をそそるが今は受け流す方が賢明かな? ふふ…そう邪気を孕んだ目を向けないでくれ。こう見えて友達は少ない方なんでね、これ以上嫌われても悲しくなる一方だ。君が思うとおりだよ。心悸にここまで計画性のある行動は取れない。私が彼を大将にしたいと考えたのも、理由の一つとして近くに置いて監視をする為でもあったのさ。実力は確かにあったが、その手段が私個人としては気に入らない。過去にも似た行為を行う輩が居てね。彼も元大将の位に座していた存在だったが、先の騒乱と合わせて進撃提督と私に出し抜かれてボロを出したと言った所だ」
加賀「では、やはり元帥も心悸の裏に隠れて彼自身を操っていた存在が居ると見ているのですね?」
元帥「相違無い。キメラ男の行方も掴めないばかりか、それに係っていた部隊の決壊事案。ロストが出なかったのは不幸中の幸いと言うべきだが、それで済ませられるほど優しいものではない。何より───」
加賀「───これ以上黙ってやられる道理はない」
元帥「ふっ……その通り、良い気概だ。伊達や酔狂で提督の下、秘書艦を務めていた訳ではないようだ」
加賀「…………」
元帥「さて、これは私の独り言だから君はそれをたまたま聞いていたという事で構わない」
加賀「は…?」
実は内々に調査を進行していく中で不審な点が幾つか浮上した。
一つは一部の中将率いる鎮守府の動きが局地的に活性化しているという事だ。
活性化しているのに戦果は伴っていない。
挙げられる理由として実戦を行っておらず、演習やある種の実験を定期的に行っているという事。
基本的に身内同士や同じ区画での演習戦等は大本営への報告は不要だ。
それによって生じた自損事故等については無論、自己申告の命が課せられるが、内々で処理してしまう鎮守府が殆どだな。
これらの戦果の伴わない活性化は鎮守府単位で見ればさしたる事はないが、全体として見ると非常に目立つ。
監視の対象として挙げられていたのは次の鎮守府群だ。
・煉獄の艦隊を指揮するエリート提督の鎮守府
・忌避の艦隊を指揮する蛇蝎提督の鎮守府
・鬼刻の艦隊を指揮する心悸提督の鎮守府
・鮮血の艦隊を指揮する百貫提督の鎮守府
・隷属の艦隊を指揮する元中将の位に就いていたキメラ男こと、キメラ元提督の要塞
この内、心悸の艦隊と百貫の艦隊は君達が制圧し、監視対象だった彼等も自らその命を絶った。
残るのは三名、エリート提督、蛇蝎提督、キメラ元提督だ。
中でもエリート提督は非常に狡猾でヘマをしない、尻尾を掴むのにも辛酸を舐め続けた。
だが、ついに糸口を掴んだ。と同時に、提督が姿を晦ましたわけだ。
加賀「狙いは、エリート提督ですか」
元帥「重ねて言おう。これは私の独り言だ。君がその後どういう決断を下し、どういう行動を取ろうと、我々海軍は一切の認知をしない。海軍界隈での認識として、落ちこぼれである君たちを我々が自ら先導し、道を示す事は許されない。期待を抱くのなら、潔くこの件からは身を引け。我道を貫くのなら、歴史に名を連ねずとも、私の記憶の中で君たちは英雄として認識し続ける」
加賀「地位や名声で全ての人が動くわけではないわ。そう、私達は存在を認識されない存在です。故に存在しない者。提督が言うであろう言葉を代弁させて頂きます」
好きなだけ利用するならすれば良い。
後で手放した事を一生後悔するほどの偉業を成して取り返しのつかない事態を引き起こしてやる。
一番なんぞ欲しい奴にくれてやる。
俺たちは常に二番手、人知れず一番手の裏を行く。
表舞台で躍りたいヤツは躍らせておけ、躍り終わった後で周りを見れば既に事は済んだ後だ。
合ってない目の焦点を必死になって合わせて見ておけ。
加賀「────目に物を見せてやる」
元帥「…………」
加賀「…では、失礼致します」ペコリ
ガチャ……パタン……
大和「……歴戦の勇、と表現するのがとても似合う艦娘だと思いました」
元帥「全く、黙ってじっと聞いてるだけなんて、君も少し意地が悪くなったんじゃないか?」
大和「加賀に敬意を表していただけです。他意は有りませんよ?」
元帥「ふっ……しかし、あの目を見る限り先の独り言は蛇足だったようだな」
大和「もとより、彼女達は自分達がするべき事を把握しているんだと思います。提督の行方を伺いに着たのも、何か情報が欲しい、と言うよりは知っているなら聞いておこう、くらいの考えなのかもしれませんね。実際にエリート提督の事などは寝耳に水、という表情でしたから」
元帥「かもしれないな。さて、それじゃ我々も動くとしよう。この海軍を内部から破壊しよう等、夢物語も甚だしいくらいの愚弄振りだ。ただ黙って見ているだけと思ったら大間違いだという事を証明してやる必要がある」
大和「例に漏れず身内を傷付けられてもいますから…戦意は全員、漏れなく充填完了しています。士気も極めて高いでしょう」
元帥「そうだな、先の騒乱で既に習わされている。これ以上、後手に回る必要も謂れもない。持てる戦力全てを出して、奴等を徹底的に叩き潰す。深海棲艦を利用した叛乱など、決して許すな!いけ、大和…第一第二艦隊、共に抜錨だ!」
大和「賜りました。旗艦大和、第一主力艦隊出撃致します」
-白夜-
提督「これまた随分と閑散としてて、まるで出迎える手筈にゃなってませんでしたって具合じゃねぇか」
エリート「当然じゃないか。ここは君のような分別の解らない俗物が本来は来ていい場所ではないんだ」
提督「やっと、てめぇの背を掴んだぜ、エリート君よ」
エリート「背を掴んだ?勘違いしないで貰いたいな?君はまだ、僕の背は愚か姿すら捉えていないよ」
提督「んだと…」
エリート「あの『事故』の中、生きていたという事実については褒めるべきなのかもしれないね。逆に言うなら、心悸には失望したとも言える。まぁ、余計な事を語らず潔く散ってくれたんだから、供養はしてやるつもりさ」
提督「百貫も心悸もてめぇの差し金だな」
エリート「証拠はあるのかい?なぁんて、今更言うつもりは無いよ。ここからは力で捻じ伏せる。最も、予定からは随分と航路で言えば逸れてしまっているからね。修正が必要になってしまった訳だよ」
提督「てめぇの差し金だな!?」
エリート「ふっ…らしくもない、怒声を発するのが君のスタイルだったかな?以前はもっと、穏やかじゃなかったかな?」
提督「だぁってろ。てめぇの言ってるのは白夜艦隊の白夜提督だろうが。俺ぁ白夜じゃねぇ」
エリート「では何だというのかな?」
提督「ハズレ鎮守府の提督様だ、覚えとけこの蛆虫糞虫脱糞野郎!」
エリート「くくっ、最早遺言だな。艦娘も連れず、単身乗り込んでくるなんて気が狂ってるとしか言いようが無い。それで?同じ人間同士なら組み伏せられるとでも?」
提督「てめぇが思ってるほど、今の海軍は甘くは無い。前元帥は確かに甘い考えが目立つところも多かった。だが逆にそれが野郎に全幅の信頼を寄せる引き金になっていたのも事実だ。カリスマ性は抜群だったろうよ。今の智謀をてめぇがどう分析してるのかしらねぇがな…あいつぁ女狐だ。愚策を弄した瞬間、摘まれるぜ?」
エリート「この僕が、道を誤ったと?」
提督「誤った?誤っただと?クックック……いやぁ、これはまたひっっっじょうに面白い!言うに事欠いて誤った、か。最早寝言だな、エリート君!ふ・み・は・ず・し・た…の間違いだろ。言葉くらいちゃんと使い分けろよ、バァカ」
エリート「全く…口の利き方を知らない俗物だ。単身で乗り込んできた事を後悔させて上げるよ」
提督「俺様を亡き者にしようってか?ククッ……大いに結構!だがな、うちの艦娘共を甘く見るなよ。あの時みてぇなヘマはもう起こらないし、これ以上てめぇの思う通りにシナリオは進まねぇ…」
エリート「脚本家でも気取るのかい?」
提督「クックック……三流役者のてめぇをキャスティングに加えるようじゃ脚本家にゃなれねぇだろ」
エリート「ほぅ…」ギロッ…
提督「てめぇはいいとこ舞台袖の小道具係だ。分を弁えろよ、三下以下のヘチマ野郎。ここから先の主役は、あいつ等だ。そのどぶ川よりも濁りきった汚ぇ目を目一杯に見開いて刮目しろ。その都合よく出来た聞こえない耳を極限まで澄まして一言半句も漏らさず全てを聞き取れ!てめぇが誰を敵に回したのか思い知れ。地獄の果てまで行こうと後悔させ続けてやる。そしてこれが最後だ…扶桑の分も含めて、きっちり落とし前つけてもらうぜ。目に物を見せてやる…!」
加賀「準備を整えて下さい」
鳥海「指針が定まったんですね?」
長良「準備なら万端!」
満潮「いつでも暴れてやるわよ」
漣「ガンガン行こうぜ!ですよ!」
加賀「私達の目標は極めて単純です。提督を発見し、これを鎮守府へ連れ帰る事」
鳥海「妨害は多そうですね」
加賀「何か問題でも?」
鳥海「ふふっ、いいえ?」
加賀「問題ないわ。みんな優秀な子たちですから」
長良「えへへ~、改めて言われると照れるね」
加賀「私の艦載機の子たちの話なのだけれど」
長良「ぶーぶー」
加賀「冗談です。私はみんなを信頼しているわ」クスッ…
満潮「ここまできて逆に信頼してくれてなかったら驚きよ」クスッ…
漣「で~すよね~♪」
加賀「では、いきましょう。一航戦、出撃します」
鳥海「戦術、戦略はお任せ下さい。さぁ、行きましょう!」
長良「よしきたー!任せといて!」
満潮「ふんっ、私が出なきゃ話にならないじゃない!」
漣「みっちゃん節頂きましたぁ~♪さてさて~、それじゃ漣も行きましょう!駆逐艦漣、出るっ!」
進撃「────って訳で、ここらで恩を売っておいても損はないだろうって事で、今回は皆さんにお話を持ってきた訳です」
鋼鉄「そうは言ってもねぇ、私の所と…」チラッ…
不動「…ああ、俺んとこはまだ不完全だ。戦力には悪ぃがあんまならねぇぞ」
進撃「だからこそ、無理言ってこいつにも着てもらったんですよ」
新月「先輩、人遣い荒いってよく言われませんか…」
進撃「安心しろ。一部にしか言われん」
新月「言われてるじゃないですか!もう、大体僕の艦隊は基本出撃許可を取るの大変なんですからね!」
進撃「それも知ってる。だから内密にだな」
新月「もうやだ、この先輩…」
不動「苦労してそうだなぁ、おい新月大将殿ぉ」ニヤニヤ
新月「そう思うんなら助け舟くらい出して下さいよ、不動さん!」
不動「だっはっは!まぁそうだわな。けどよ、生憎と俺は進撃の坊主がお気に入りでな、お前とじゃ天秤に掛けるまでもねぇんだわ」
新月「はぁぁぁ……」
鋼鉄「ほんと、新月くんは相変わらずね」
新月「鋼鉄先輩も同罪ですよ…」ムスッ
鋼鉄「あ、あれぇ…?」アセ
新月「取り敢えず連れてきてはいますけど、本当に大丈夫なんですか?」
進撃「なんとかなるなる、だいじょーぶ」
新月「」(絶対嘘だ…!)
鋼鉄「で、具体的には?」
進撃「ハズレの提督殿がどう動くのかは解りませんから、そこは考慮に要れずに話を進めます。恐らくですが、そろそろ智謀元帥も動くと思うんですよ。少なくとも、やられっ放しで黙ってるような人じゃないのは明白ですからね」
不動「まぁ、あの女狐がそう易々と汐らしくなるなんてなぁ夢物語だわな」
鋼鉄「今の発言、元帥に後で報告しておくわね~」
不動「……お前も大概だな」
進撃「鋼鉄先輩も茶々はそれくらいで」
鋼鉄「はいはーい」
進撃「幸い、うちの艦娘達は被害は殆ど受けていないのが不幸中の幸いです。まぁ、本来であればハズレ鎮守府への遠征時、そこで手負いになる予定だったのかもしれませんが、運はまだまだ味方してくれているみたいです。鋼鉄先輩の所はどうです?」
鋼鉄「そうねぇ…正直、うちの面子のみでの艦隊編成は絶望的と取ってもらって結構よ。まともに動けるのは長門、酒匂、隼鷹、まるゆの四人だけ」
不動「俺んとこも似たようなもんだぜ。古鷹、加古、矢矧、名取の四人だ」
進撃「新月の所は全員万端ってのは聞いてたけど、連れてきてくれたのは…」
新月「即戦力としては十分だと思いますよ。ただ、大所帯になるので必然的に数は制限されますけど…リコリス、ピーコック、フェアルスト、暁ちゃんとヴェールヌイちゃんの五人です。ポートとアクタン、瑞鳳ちゃん達には申し訳ないですがお留守番してもらってます」
進撃「制空権の争いにも海上戦の火力にもそれなら申し分無しだ」
──じゃあ、そこに一つ情報を付け加えて上げましょうか──
進撃「だ、誰だ!?」
ガラッ…
足柄「ほ~んと、自由人な人達は困ったさんが多いわね」
鋼鉄「あなた、足柄…!」
不動「おいおい、マジかよ…」
足柄「ふふっ、別に驚く事でもないでしょう?一度は一緒に肩を並べた仲なんだし?そう身構えなさんなって。それよりも、追加情報よ」ピラッ…
進撃「なんで用紙…」
足柄「これでも一応、大本営直営隊の一人なの。そんなのがベラベラと口頭で喋るのは都合上宜しくないのよね~」
進撃「さいですか。えーっと…え、これ、本当に漏らしていい情報?」
足柄「もうバッチリ、キッチリ、スッパリと鮮やかに情報漏えいレベルね」
不動「おいおい…」
足柄「まっ、何ていうのかしら。鬱憤晴らす機会設けてもらったのは事実だしね。そのお礼ってトコかしら。そんな訳だから、この事自体はオフレコよ、オ・フ・レ・コ。じゃ、私も戦列に加わるから、精々偶然を装いなさい?」
ガチャ……パタン……
進撃「はは…偶然ね。にしても…そうか、だからあの人たちは……」
鋼鉄「内部にこれだけの膿が溜まってたとなると、ちょっと放って置くわけにも行かないわよね」
不動「百貫や心悸、それに処罰された北のボンボンやハイエナまで同じかよ」
鋼鉄「残ってるのは、エリート提督に蛇蝎提督、そして…」
進撃「取り逃がした、キメラ男…」
鋼鉄「足柄の口振りから言って、智謀さんが動いたのは確定よね」
不動「俺等にまで無言とはまた随分とご挨拶だよなぁ」
進撃「何かと一人で背負い込むタイプみたいですね」
鋼鉄「まぁ、自分がトップである海軍を馬鹿にされてるんだから、当然と言えば当然よね」
進撃「敵はエリート提督、蛇蝎提督、そしてキメラ男……それぞれに艦隊が有されているとして、更に深海棲艦も配備されているとなればこちらも相応の戦力を揃えないと最悪、返り討ちなんて結果にもなりますね」
不動「女狐も動くんだ。そうなれば少なく見積もっても二艦隊分の戦力は期待していいんじゃねぇのか」
鋼鉄「ひよっこが言いたいのはそれを抜きにした上での戦力計算よ」
進撃「認識力高くて助かるんですけど、そのひよっこってのいい加減止めません?」
鋼鉄「あたしにしたらあんたはいつまで経ってもひよっこよ。ピヨピヨピー♪」ワシャワシャ
進撃「だー!もう、頭ワシワシすんの止めて下さい!」
新月「はは、まるで姉と弟ですね」クスッ…
不動「ククッ…っとに、このクサレ師弟共はよぉ…」
進撃「はぁ、もう放っといて下さい…で、俺達は鋼鉄先輩が言うように智謀元帥の艦隊を勘定に入れない形で話を進めます」
新月「不測の事態にも対応できるように、ですね」
不動「なるほどねぇ…」
進撃「これ以上、海軍がいいようにされる訳にもいかないんですよ」
鋼鉄「まっ、そうよね」
不動「どうせだ。また俺達でぶっ潰しちまおうぜ」ニヤッ
進撃「頼もしい事で」
新月「僕も微力ながら尽力させてもらいます」
進撃「んじゃ、早速榛名達を招集して艦隊編成と詳細な作戦を練りましょう」
~影の五人~
-先陣-
ビスマルクを旗艦とし、更に戦力強化を果たした布陣となった元帥直属護衛艦隊第二部隊。
またの名を淵源の艦隊。
ビスマルク「皆、準備は良いわね?」
プリンツ「はい!いつでもいけます、ビスマルク姉さま!」
イタリア「演習ばかりでアレだったけど、やっとわたし達の実力を示せるわね」
ローマ「そうね、でも姉さん余りはしゃぎ過ぎないで下さいね?」
Z1「さて、僕達も出撃だ」
Z3「ええ、われらの本当の力を見せる時ね」
ビスマルク「私達は主力の大和達に続く形で陣形を保つわ。いい?くれぐれも油断大敵よ。奇襲とはいっても、一度は大本営直営隊に大打撃を与えている連中だもの」
プリンツ「ビスマルク姉さまと一緒ならきっと大丈夫です!」
ローマ「独逸の重巡はホント、姉と慕うビスマルクにベッタリね」
イタリア「あら~、じゃあわたし達もベッタリする~?実の姉妹同士だし?」スリスリ
ローマ「っ!?ちょ、ちょっと!姉さん、ちかっ…近いから!メガネ落ちちゃうから!」
イタリア「そういえばビスマルクさん、大和さん達は?」
ビスマルク「彼女達は先刻、準備を整えて既に抜錨してるわ」
ローマ「ちょっと、それじゃわたし達出遅れって訳?」
ビスマルク「安心なさい。その為の高速部隊よ。よく言うじゃない、英雄は遅れてやってくるってね?」
イタリア「ふふっ、その言葉に見合うだけの戦果、上げましょうか」
進撃「これが、今俺達に出せる最高の戦力です」
不動「くくっ、壮観じゃねぇか、なぁ?おい!」
鋼鉄「そうねぇ…慢心する訳じゃないけど、それでもこの面子は頬が緩むわね」
新月「先輩達、本気で付いて行くんですか?」
進撃「提督の椅子に座って踏ん反り返るのは執務してる時だけで十分だろ。これは、海軍の誇りを懸けた戦争だ」
不動「おぉ、良い事言うじゃねぇか進撃のボウズ」
鋼鉄「そうねぇ…ご褒美に良い子良い子してあげましょうか?」
進撃「…………」
鋼鉄「じ、冗談だからそんな辛辣な目で見ないでよ…」
新月「なら、これも良い勉強になるでしょうから、僕もお供させてもらいますよ」
進撃「車椅子は押してやらないぞ」
新月「言っておきますけどね、車椅子生活で腕力にはこう見えて自信あるんですよ」
不動「はっはっは、活きの良い大将様だなぁ。頼もしいこった」
鋼鉄「あなたが発案者よ。きっちり締めなさい。進撃大佐」
進撃「よし…目標はエリート提督、蛇蝎提督、キメラ男の三名が率いる聨合艦隊だ。手加減は無用、慈悲も情けも捨てて挑め。『敵泊地、強襲作戦』をこれより発動する!各艦隊は進路を定め即時抜錨。目標を殲滅せよ!進めっ!!」
■第一艦隊
榛名
赤城
ピーコック
羽黒
川内
神通
■第二艦隊
長門
陸奥
リコリス
飛龍
暁
Bep
■第三艦隊
フェアルスト
比叡
霧島
衣笠
北上
木曾
榛名「私達の目標はエリート提督率いる煉獄の艦隊の制圧です」
赤城「一航戦の誇り、お見せします!」
ピーコック「まさかまたこうして肩を並べる事になるとは思わなかったわ」
羽黒「頑張ります!」
川内「変態野郎にリベンジしたい所だったんだけど、仕方ないかぁ」
神通「姉さん、油断はダメですよ」
長門「我々の目標は蛇蝎提督率いる忌避の艦隊だ。油断するなよ」
陸奥「久々ね、姉さんと一緒って言うのも、これはこれで気合入るわ」
リコリス「空の目は任せなさい。小バエ一匹すら見落としはしないわ」
飛龍「頼もしい限りだけど、私の友永隊も忘れてもらっちゃ困るな!」
暁「パワーアップした暁達の力、見せてやるんだから!」
Bep「ふふ、力が入りすぎてるよ、暁」
フェアルスト「私達の目標はキメラ男の率いる隷属の艦隊よ。悪趣味なものは綺麗に掃除しないとね?」
比叡「お姉さまの分まで、私!気合!入れて!いきます!」
霧島「戦術ならお任せ下さい!」
衣笠「衣笠さん、暴れちゃうんだから!」
北上「変態に興味ないんだけどな~」
木曾「っしゃあ!暴れまくるぜ!!」
進撃「エリート提督達の目論見は定かじゃありませんが、少なくとも邪魔となる俺達には牙を剥くでしょう。実際、鋼鉄先輩や不動提督への攻撃は行われ、俺も危うく同じ目に遭うところだった訳ですし…」
新月「それなら、どうして僕の所にはこなかったのか、ですよね?」
進撃「相手が躊躇した、もしくは戦力を見誤っていたか…リコリス達の報告じゃ撤退行動に移っても追撃してくる様子は見られなかったんだろう?」
新月「ええ、何かを見定めている…そんな雰囲気だったと言ってましたね」
進撃「ならまずは目先だ。お二人の艦隊を沈黙させたとは言っても、それは主力の話であって第二艦隊以降は無事な訳です。それらも全て殲滅しようとするのなら、間違いなく鎮守府諸共襲撃するはずだ。だから作戦従事に全ての艦娘を帯同させるわけにはいかない。少なく見ても、鎮守府を防衛できるだけの戦力は温存しなければならない」
鋼鉄「でもまぁ、相手もまさか提督連中まで進軍してくるとは想定しないでしょうね」
不動「元来、俺等は悪く言えば言うだけ言って執務室でただ待ってるだけってのが仕事だったからな。本丸自ら先陣切って雄たけび上げるなんざ昔のヨーロッパの合戦くれぇなもんだ。だがよ、進撃…俺等がこうして出張る意味ってのはぁ、実際のところどんな意味を持つ?」
進撃「一つは事実の確固たる確認です。この目で、耳で、事件の概要を余さず記憶する事。言い逃れを絶対にさせない為です。そしてもう一つは……」
鋼鉄「勿体振ってないで早く言いなさいよ」
進撃「ムカつく連中のツラをこの目で見て無様な姿を見ておく事」
不動「……は?」
鋼鉄「ちょっとあんた、ハズレの提督でも憑依してんじゃないの……」
進撃「とまぁ、あの人ならそう考えるだろうなと…」
不動「ハズレのクサレ野郎が居るってのか」
進撃「元はと言えば、全てはあの人を軸に動いていた事件ばかりです。悪く言わせて貰えば、俺達はその火の粉に中てられたも一緒です。そしてまだ終わりは迎えていない。心悸中将を追い詰めて尋問していた時も、あの人は黒幕の存在を吐かせようとしていました。ですが、あの余裕を持った態度は既に黒幕が誰なのか知っている素振りでもありました」
鋼鉄「なんですって?」
不動「順当にいけばエリートの野郎か」
進撃「はい。あの二人にどんな因縁があるのか、そこまでは流石に俺も知りませんがどちらも互いを嫌悪しているのは確かです」
不動「犬と猿、まさに犬猿ってワケだ」
新月「そんな可愛いものには見えませんけどね」
鋼鉄「どっちだっていいわよ、そんな例えは。ようは今、私達がどうするか…そうでしょ?」
進撃「その通りです。渦中があの二人だとしても、そんなの俺達には関係ありません。やられた借りを返す。その一点のみです」
新月「なら、彼女達の力戦を僕達はしっかりと見届けましょう」
不動「だな」
進撃「何より、執務室で通信だけの安否確認なんてのは真っ平ゴメンですからね。いざとなれば、前にだって出ますよ」
大淀「元帥、良かったのですか?」
元帥「何がだ」
大淀「元帥直属護衛艦隊第一部隊と第二部隊である開闢の艦隊・淵源の艦隊…それ等を抜錨させるほどなのかと」
元帥「いつも言ってるじゃないか。ものにはそれぞれに起源があり、その始まり次第でどちらにでも転ぶと」
大淀「つまり?」
元帥「つまり?ふふ、開闢の艦隊と淵源の艦隊は共に始まりを見てきた艦隊だ。それと同時に過ちを食い止める、海軍における第一の手。海上における過ちは海軍が決して許さない、という事だ」
大淀「少し、進撃提督の熱が移っているように感じられました」
元帥「ふっ、そうなのだろうな。毎年毎度、カリスマ性を秘めた提督と言うのは現れるものだ。前元帥を筆頭とし、進撃提督もそうだが、姿を晦ました提督もまたそんな内の一人だ。そして、渦中にもう一人…エリート提督……彼もまた、そういう人種に位置する存在だ」
大淀「自らを抜かす当たり、謙遜も程々が宜しいかと」
元帥「自らをそこに添えるのは傲慢と言うものだよ。誰かに添えられたのなら、それは甘んじで受け入れるけどね」
大淀「だからこそ、今の元帥があるのではないでしょうか」
元帥「では、そういう事にしておこう。君は相変わらずだな、大淀」
大淀「常に中立であれ…周りが右往左往するであろう時、人と艦娘で思想が交わらない時、如何なる時であろうと君は状況を常に客観的に見れるようにしておきなさい。その目は、海軍に於ける楔となるだろう。前元帥から倣わされた掟とも言える私にとって唯一無二の言葉であり、教えであり、信念です。ですが、一時の感情で私は二度、提督に対し感情のままに言葉を紡いだ事があります。まだまだ未熟、という事です」
元帥「…だからこそ、人も艦娘も成長し、進化してゆくのだろうさ」
-出闇、照らす光-
彼がこれまでに歩んできた道は業火に塗れ、血を滴らせ、悪鬼すらもその場に跪かせた。
相対した者達は須らく地獄を垣間見、生を懇願し、望み叶わず朽ち果てていった。
容赦無く、躊躇い無く、許しを請おうとも一切を赦さず断じ、逃げようとも追い縋りトドメを刺す。
いつしか誰にとも無く彼の従える艦隊を地獄の使者、煉獄の艦隊と呼称するようになる。
自分が嫌う事は徹底的に避け、他者へとその全てを押し付ける。
罠へ誘い、罠へ貶め、罠に嵌った者達を容赦なく蹂躙する。
その悪辣非道な振る舞いに、いつしか周りが彼女を避けるようになった。
好かれたいとも思わない。
好こうなど到底思わない。
その考えは彼女が従える艦隊にも反映された。
避けたいのなら好きなだけ避ければ良い。
しかし、避けた先に何が待ち受けていようと、こちらには一切の非は無いものと知れ。
そう、それで例え命を落とす事になろうとも、恨むのなら自らが選んだ、回避した、逃げた先を恨め。
いつしか彼女の艦隊は忌み嫌われ、避けられるような艦隊、忌避の艦隊と言われ誰も交流を持とうとはしなくなった。
鬼刻の艦隊。または鬼哭の艦隊と呼ばれ恐れられた艦隊があった。
彼の艦隊が通った後には悲惨なまでの惨状と悲壮な呻きが木霊し続けたという。
虫の息であえて留め、苦しむ様を周囲に見せつけ、地獄をその場に形成する。
深海棲艦が相手であっても敵を哀れに感じるほどに、その絵は惨劇と呼ぶに相応しい状態となった。
表向きは仏の男、しかしその男の本性は残忍で狡猾、誰よりも血を好み、誰よりも残酷な未来を想像できる男。
従える艦娘達もまた、彼の理念に共感する狂える獅子だった。
彼等の進んだ海域、その後の海原は真っ赤に染まり、血の海と化す。
故にそう呼ばれて然るべき存在となる、鮮血の艦隊。
その男が生まれたのは偶然なのか、それとも必然なのか、だが恐らくは必然だったのだろう。
提督として地位を確立してからの行動は迅速であり、隠蔽する様子すらもなく顕著だった。
運良くその地獄より這い出た艦娘によって事実は露呈し、彼は海軍より追放を余儀なくされた。
だが、彼は生き延びた。
それは最早信念などではなく、執念をも凌駕し、怨念とも呼べる禍々しい念を宿して生まれ変わる。
捕らえた艦娘を一人ずつ料理し、自分好みにカスタマイズする。
精神を崩壊させ、自我を失い、壊れた艦娘は深海棲艦として仮初の命を与えて駒とする。
だが自我を保とうと精神は汚染され、ある意味造り替えられたと言っても過言ではないその存在達には既に未来などない。
ただその男の悦を満たし、従順な性格に躾けられ、文字通り手足となって使役される奴隷。
その悪臭が漂いそうな場を揶揄してか、彼の従える艦隊を海軍では隷属の艦隊と呼称した。
元来、元帥直属護衛艦隊とは元帥の威厳を象徴する為の言わば威嚇にのみ行使されるべき艦隊だった。
最高の錬度を誇り、最高の武装を備え、最高のメンバーで構成される最高の艦隊。
何ものをも寄せ付けず、何ものをも凌駕する。
常に至高であり海軍の誇る鎮守府群の頂点に君臨し続け、ただ一つの命を遂行し続けるワン・オブ・オーダーたる存在。
昔も今もその命は遂行し続けられ、不変的であり、これから先も揺らぐことは無い。
しかし、今そこに存在する元帥直属護衛艦隊は明確な意志を持ってそこに存在する。
大和「新生、と呼ぶに相応しい編成かもしれませんね」
大和は小さく微笑んで隊を成す他の五名を見て呟き、他の五人も小さくその言葉に頷いて返す。
その大和率いる第一部隊の眼前には無数の深海棲艦の姿が見て取れた。
大和「直、ビスマルクの第二部隊も到着します。この程度の火の粉、難なく払い進軍します!旗艦より各位、これより第一部隊は前線の道を切り開き、最奥に位置する本丸を討ち取ります。速度を落とす事無く、目標へ向かい突き進んで下さい。開闢の艦隊……突撃、開始です!」
大和の号令に全艦娘が臨戦態勢を取り、一点を目指して速度を上げて突撃を開始する。
前線を担う前衛隊を一撃の下に屠り、大和を先頭として単縦陣の陣形を崩さないまま、文字通り開闢の艦隊は進軍していく。
突き進めば突き進むほどに暗雲は濃くなり、視界は視野を狭め、やがて空の色を反映させたとは思えない、海原は紫煙の如き色と霧を立ち込めさせる。
そしてその先に、亡霊の如く揺らめく影の一群。
悪鬼の一味がその眼光を怪しくギラ付かせ、静かに佇み彼女達を待ち受けていた。
キメラ男「……この私にここまでの恥を掻かせた罪は重いなぁ。海軍…組織諸共、地獄の門を潜らせて上げるよ。あぁ……恐怖に歪む顔を早く見たい。いいね、君たち……以前に配った写真の艦娘達が居た場合は、行動不能に留めて私の前に引き摺ってくるんだ。それ以外は、ふふっ……好きに料理して構わない」
ル級改艦娘「仰せのままに、ご主人様」
タ級艦娘「了解致しました」
ネ級艦娘「お任せ下さいませ」
リ級艦娘「必ずや、ご主人様の意向に沿って見せます」
ツ級艦娘「勝利を、あなた様へ」
ト級艦娘「視界に映るその全てを、闇の色へ…」
キメラ男「いけ……エリートや蛇蝎の出る幕など無い。この私が支配する隷属の艦隊のみで十分だ。この海原を血で染め上げろ!」
待ち受けていたのは隷属の艦隊を指揮するキメラ男。
大和はそれを確認し、その表情を更に引き締めて備える艤装の砲塔、その全てを真っ直ぐにそちらへ差し向ける。
大きく息を吸い込み、後は声を発するだけ。
その刹那、横から彼女の言葉を全て飲み込ませるほどに鋭い声が飛ぶ。
──お前達の本丸はその艦隊ではないはずだ!──
大和「っ!?」
木曾「進め、開闢の艦隊ッ!!」
北上「こいつらはうちらの獲物だよっと」
比叡「ここはお任せを!」
霧島「ここより北北西、真っ直ぐに!風は1~3ノット、小波程度で緩やかな海域です!」
フェアルスト「出口を切り開くのが主力艦隊の勤めではないでしょう?さっさと行きなさい」
衣笠「ここは衣笠さん達にお任せ!」
大和「あ、あなた達…何故、この海域に!?」
木曾「喧嘩売られっ放しで黙ってられるほど俺等は優等生じゃねぇってコトさ」
比叡「散々引っ掻き回してくれた分、全力で!私が!お返しします!」
衣笠「そーそー。個人的にも私達はそこの艦隊と因縁あるもんね!」
霧島「ええ、のし付けて返しにきました」
北上「さぁさぁ、あんた達は行った行った~」
大和「……全く、常に自由で周りを振り回す。困った艦隊です」
フェアルスト「全くだな」クスッ…
大和「大和より第一舞台各位へ!本隊は進路を北北西へ、持てる速力を最大にして進軍します!」
大和の号令に彼女達の艦隊は一路進路を北北西へ変えて一気に突き進み、それを援護するようにフェアルスト達の歓待がその前に立ち塞がり進路の妨害を阻止する。
キメラ男「ちっ……新月の所に居る元・深海棲艦だった存在だな?確か、戦艦棲鬼……だったっけ?」
フェアルスト「……」
キメラ男「まぁなんでもいいや。邪魔をするならお前も始末するだけだ。虫の息で生き残れたなら褒美としてお前も私の実験のモルモットにしてあげるよ。光栄だろう?」
フェアルスト「…あなたはここで沈みなさい。沢山の鉄屑が眠る、この深い海の底で…永遠に光の届かない深淵の闇にその全てを抱かれ二度と海面に上がってこないように…!」
キメラ男「ほざけ、出来損ないが…!いけ、私の最高傑作達!」
フェアルスト「行くわ…この艦隊を、殲滅する!超弩級戦艦フェアルスト、眼前の敵を掃討する!全艦続けッ!!」
比叡「お任せを!」
霧島「ええ、成し遂げて見せましょう!」
衣笠「久々に暴れてやるんだから!」
北上「ギッタギッタにしてあげましょうかね!」
木曾「っしゃぁ!全部薙ぎ倒して俺達もその先へ進むぜ!」
加賀「…………」
??「因果カ何かカシラ…?」
加賀「ある意味私が相手で僥倖です。他の子たちだと、少し手間取っていたでしょうから」
??「コノ、空を……モウ…飛べないノヨ……同じ苦シミを、味わセテあげる……ッ!」
鳥海「やっぱり、居たのね」
??「当然だロウ。ここから先へは、何人たりトモ進ませはシナイ」
鳥海「いいえ、通らせて頂きます」
??「ソウか……ならば、此度ノ戦……始メテ…みるか…?」ニヤッ…
長良「なんかごっついの出てきたぁ…」
??「お前がワタシの相手ダト…?脆弱ナ軽巡一匹ガ、か…」
長良「軽巡だからって甘く見てもらっちゃあ困るなぁ」
??「つまり、前線ノ奴等ハ殲滅サレタか、見過ごシタ訳か……役に立たぬ、忌々シイ……ガラクタ共メッ!!」
満潮「何よ、あんた」
漣「そこをどいてくださいまし~?じゃないと、ぶっ飛ばしますよ?」
??「あははははははッ!ざぁんねん、ハズレ。君達はここでボクに殺されるんだよ。クジか何かで進路でも決めた? だとしたら相当、クジ運ないよねぇ?だって、ボクの居るこの進路に来ちゃってるんだから♪」
満潮「どっちがクジ運ないのよ」
漣「駆逐艦だからって馬鹿にしてると腹パン所じゃ済みませんよ~」
??「ふふっ……威勢は良し。なら、絶望をその身に刻み込んで上げるよ…ッ!」ニタァ…
────時間は少しだけ遡る。
加賀「それでは皆さん、先の作戦概要に沿って各自行動開始をお願いします」
鳥海「満潮と漣は、本当に大丈夫?」
満潮「問題ないわ。やってやるわよ」
漣「今回もまた、本気モードの漣をお見せしちゃいますよ!」
長良「えーっと、作戦は…」
加賀「満潮と漣以外は単独で各自、独自のルートを辿り敵領海深部へ侵入を試みます。恐らく、相手方も蜘蛛の巣の如く深海棲艦やハイブリット型の艦娘を配備して待ち受けているでしょう」
鳥海「けど今回はタイミング良く、進撃提督達が解りやすい具合に進軍を開始してくれてます。私達はこれを利用して相手の裏を掻い潜り、無用な戦闘を避けて一気に本丸へと近付く算段です」
加賀「各自、支給した装備等で戦力の強化は図れているはずです。ですが、油断は即死へと繋がります。慢心など言語道断です。何においても全力を尽くし、最善を選び、最良を成して下さい」
鳥海「無茶難題と私は思っていません。私達だからこそ成せると信じています。私達は艤装に例えるならば、主砲でも副砲でもありません。私達は、この海を駆る弾丸そのもの。ただ狙い定めた標的を貫くのみです」
長良「じゃっ」サッ
長良はニッコリ笑って片手を前に差し出す。
それに応えるように、加賀も静かに片手を差し出し、長良の上に添える。
加賀「言わずもがな、です」
鳥海「こういうの、嫌いじゃありませんよ」スッ…
加賀の差し出した更に上に、鳥海も小さく微笑みながら片手を添える。
そして互いに顔を見合わせていた満潮と漣も揃って片手を前に差し出し三人の上に重ねて添える。
満潮「やってやるわ」
漣「ご主人様的解釈なら【めにもの!】ですね!」
長良「あははっ、それ略しすぎだって。じゃ~……皆、いくよ!っていうかまぁ、加賀さん!音頭、音頭!」
加賀「相手が誰であろうと容赦する必要はありません。持てる全てを出し切り、再び出会いましょう。合縁奇縁ではあるけれど、私達の存在は必然であり、偶然ではないのだから」
鳥海「目に物、見せて差し上げましょう!」
長良「トーゼンだよね!」
満潮「タイプ別でしか把握・認識できないって言うんなら、その前提を悉く覆してやるわ」
漣「見せ付けて、知らしめて、唖然とさせてやるです!」
加賀「行きましょう。武運を願います」
最初に手を引き、身を翻して加賀が歩みを進める。
慢心はない。
微塵も油断はしていない。
緩んでいようがいまいが、兜の緒は嫌と言うほど締め直した。
決意の値は誰よりも一歩先を行く。
しっかりとした足取りで進み、そして小さく、しかし大きく息を吸い込み、凛と響く声でいつもの一航戦が顔を覗かせる。
加賀「一航戦、出撃します」
次に歩みだしたのは鳥海。
秘めた想いは誰をも凌駕するであろう。
しかし、今の彼女に微塵の疑いも憂いも何もない。
信じているのはただ一つ、生き残り再び愛する皆と再会する事のみ。
鳥海「さぁ…行きましょう!」
失敗もした。
悔やみもした。
消えてしまいたい衝動にも駆られた。
それでも今の自分が在るのは周りの皆やそれを解って導いてくれた存在が居たからだろう。
だから彼女は形に残す事で報いる。
今の彼女に、迷いは微塵も存在しない。
長良「よしきた!任せといて!」
誰も信じてこなかった。
これから先も誰も信じないはずだった。
でも、気付けば信じていた。
信頼していた。
心から安息を得られる場所を見つける事ができた。
その場所を、そこにいる仲間を守る為なら、彼女は進んで修羅となる。
満潮「私が出なきゃ話にならないじゃない!」
いつも本心を隠して生きてきた。
誰かのために動く事など一度もなかった。
自分を偽り、他人と距離を取り、決して自分を晒す事をしなかった。
今は違う。
偽る必要も、距離を取る必要もない。
ありのままの自分を全力で曝け出せる。
漣「駆逐艦漣、出るっ!」
それぞれがそれぞれに決意を秘めて力強い一歩を踏み出す。
彼女達の勇姿は決して語られる事はない。
彼女達の立ち位置は常に二番手。
脚光を浴びるのは一番手。
二番手はただ静かに自分の仕事をこなすのみ。
彼女達は海軍から忌み嫌われる存在。
行き着いた先は海軍の墓場と呼ばれるような場所。
しかしだからこそ、彼女達は誰よりも大きな輝きを放てる。
一番手の影で強い光を放ち続ける。
-借りの返し方-
蛇蝎「あらあら……まさか、たった六人だけできたの?」
薄っすらと浮かべた笑みは明らかに現れた六人を嘲笑し、馬鹿にしている笑みだった。
彼女を守るように前面に展開される六人の艦娘。
その脇と後ろには無数の深海棲艦が蠢いている。
陸奥「いやになっちゃうわね」
長門「ああ、全くだ」
暁「お、多い…」
Bep「やりがいはある」
飛龍「いつでも発艦準備は出来てますっ!」
リコリス「あの数を見ても別に怖気付きはしないでしょ?」
長門「ふっ、無論だ。むしろこの闘志はいつに無く燃え上がっている」
暁「長門…!」
Bep「…うん!」
長門「何より、巡り巡って漸く果たせなかった約束が叶った」
陸奥「ふふ、それもそうね」
飛龍「約束?」
長門「ああ、暁達と同じ土俵に立つ事。彼女達と共に肩を並べて戦う事だ。約束だったからな」
暁「成長した姿、見せるんだから!」
Bep「信頼の名は伊達じゃない」
長門「期待しているぞ。さて……」ザッ…
蛇蝎「身内同士、お別れの挨拶は済んだかしら?」
長門「別れの挨拶だと?」
陸奥「くすっ……冗談でしょ」
飛龍「ギャグにしてはキレがありませんねっ!」
リコリス「妹達が待ってるの。寝言は他所でお願いできるかしら?」
暁「一人前のレディは、まだまだ沢山やる事があるんだから!」
Bep「無論、先の会話は帰ったら何をしようか、と言う会議さ」
蛇蝎「ちっ……だったらその余裕の顔が恐怖に歪むまで、徹底的に追い詰めた上で深海へ沈めて上げるわ。前衛部隊、行きなさい!」バッ
長門「まずは敵の戦力を削ぎ落とす!いいか皆…我々は必ず帰還する。迷いは振り切り、前に突き進み、そしてその力を遺憾なく発揮しろ!艦隊、この長門に続けぇッ!!」ザッ
飛龍「ヨシ、出だしは!」サッ
リコリス「任せなさい!」バッ
飛龍「第一次攻撃隊、発艦っ!」ビュッ
リコリス「First Air Fleet…Go! Fly away!!」バッ
ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン
蛇蝎提督の叱咤する声と、長門の凛とした声が海原に木霊し、それが開戦の合図となる。
続けて飛龍とリコリスの二人による攻撃隊が飛び立ち、この瞬間に戦いの火蓋が切って落とされた。
人の本当の顔と言うのは解らないものだ。
裏表のない人間なんてものは、この世に存在しないのではないだろうか。
今、眼前に立つ男こそ、まさにそれを象徴するかのような存在と言えなくもない。
大本営で見た時とは別人と言っても過言ではない。
それ程までに『悪』を前面に出したようなその顔つきはそれだけで威圧感を迸らせる。
榛名「あなたは…」
エリート「ようこそ、我が鎮守府へ。けど、歓迎はしない。この場で皆平等に、深海の藻屑になってもらうよ」
ピーコック「何なの、こいつは…新鋭の時のような業の深さを持ちながらそれ以上の何かを孕んでいる…」
エリート「新鋭さんはまさに、僕等の象徴的存在だよ。最も、墓穴を掘ってあの様だ。君達の提督が力戦奮闘し、君達自身も勇猛果敢に戦った。その結果として、彼女は捕まり絶海の牢獄に今も収容されている。僕は常々思う。何故、人間とはこうも愚かで、無様で、無能で、同じ過ちを幾度と無く繰り返すのか?子供でも学習はする。大人になると学習機能が低下するのかどうかは解らないけど、少なくとも子供より物覚えは悪い。付け加えて、諦めも悪くなる。この、男のように……ッ!」ズルッ……ドサッ…
提督「…………」
赤城「彼は…!」
羽黒「ひ、ひどい…」
川内「ハズレの提督…!?」
神通「……」
榛名「なんて、事を…」
エリート「勘違いしないで貰いたいな。ここを襲撃してきたのは彼なんだよ?防衛対策を取って然るべきじゃないか。これは僕の慈悲だよ。今はまだ殺しはしない。この僕が海軍の頂上に立ちその全てを統べる時、改めて彼に罰を与える」
ピーコック「気分は既に海軍本部の最高権力者たる元帥かしら?」
エリート「ふふっ、いや何…例えそうだとしても、今の君達のように納得しない者達が多い。従わない者の方が明らかに多いんじゃないかな?だから、粛清と精査、支配と隷属という処置が必要になる」
ピーコック「恐怖で縛り付けるというの?」
エリート「目の前の現実を直視させて上げるのさ。そして何れ解る時がくる…そして知る。これが正しかったんだと。目的は後付で構わない。目の前に広がる現実が正しいと認識された時、手段は元より目的も正当化される」
ピーコック「傲慢の限りね。目的のためなら手段は選ばない…つまりはそういう事でしょう?」
エリート「ふふっ、元・深海棲艦だった存在か。よく抗弁をする。しかしこの目で生で見れる機会があるなんて僥倖だよ。だが、君は所詮深海棲艦としては出来損ないの存在に過ぎない。極まった存在が、進化を遂げた存在がどれだけ偉大なのか……僕が教えて上げるよ。刮目しろ…そして思い知るといい。煉獄の世界へ誘って上げるよ」
エリートが踵を返して奥に引き下がると同時に、幾つかの影が前に出てくる。
榛名「あなたは…!」
山城「邪魔なのよ。提督の前に立ち塞がる者、その全てが邪魔!」
榛名「どうして…何故、あなたはこんな真似に加担するんですか!」
山城「どうして、ですって?あなたに、私の何が解るって言うの!?たった一人、血を分けた姉を殺されて……そんなズレた事がいえるのは、失った事のない存在だけよ。だから等しく、皆平等に教えて上げるのよ。その身に刻み込んで上げるのよ。失う事の辛さ、悲しさ、悔しさ、その者が持つ本性の醜さを…!」
提督「……やま、しろ……」
山城「…まだ生きていたの?ふふっ、存外生命力だけならあなた、深海棲艦も上回るのかもしれないわね」
提督「……全く…反吐が、出る……」
山城「そこで歯軋りでもして見てなさい。今から目の前に居る艦娘達がどうなるのか…!」
提督「くくっ…」
山城「何を、笑ってるのよッ!!」
提督「そいつ等は、完成された、存在だぞ」
榛名「」(完成された存在?私達が…?)
提督「じ・つ・に……不愉快だ。不愉快すぎて、頭の中が…パンクしそうなほどに、怒りが、抑えきれん」
山城「はぁ?何を言ってるのよ。怒りですって?姉さんを見殺しにしておいて、どの口が言うのよ!お前が言うな!」
提督「……はぁ、おい。高速戦艦の、榛名…」
榛名「…は、はい!」
提督「俺様のことは、どうでもいい…そして、こいつ等は……」
バキッ
提督「がはっ」
榛名「あっ!」
??「余計な発言は控えてもらおう。貴様はただ、黙ってそこでこの場が地獄に染め上げられていくのを見ていれば良い」
提督「て、めぇ…」
ピーコック「いいわ、無理して体力消耗しても意味ないもの。そこで黙ってみてなさい」
提督「ちっ…」
赤城「彼女達は…」
川内「ホントにさぁ、どうしてこう…うちの提督みたいに平和を享受しようとしないんだろうね」
神通「全くです」
山城「平和ボケしたあなた達に言われても何も感じないわね。扶桑型戦艦山城。出撃します!」
??「教えてやる。脆弱な存在がどれだけ無価値な存在か。戦艦武蔵、いざ…出撃するぞ!」
??「改飛龍型の本当の力、見せてあげる!!航空母艦葛城、抜錨する!」
逆光に晒されシルエットのみだった内の二人が更に前に出てその姿が露になる。
軍装の色は違うものの、明らかに彼女達は艦娘だった存在。
山城「武蔵、葛城、手駒の深海棲艦はごまんと居るわ。好きに使って構わない。この場に居る全ての艦娘を根絶やしにするわ」
武蔵「異論はない。どの道、生かして帰す道理もない」
葛城「文字通り血祭りに上げるって感じ?どっちでも構わない。楽しめれば、それで!」
ピーコック「ハイブリット型の艦娘かしらね。注意するのはあの三人ね。いいわ、空の目は私が司る」
赤城「え?」
ピーコック「…話くらいは聞いてるわよ。この場にあの提督が居て、その部下である艦娘達が居ないって時点で変でしょう。どこかで足止めを受けているのか、はたまた死んだのか…私にはどうでもいい事だけど、あなたは違うんでしょう?」
赤城「ピーコックさん…」
ピーコック「経験者はかく語りきってヤツかしら?大事なら、手放さない事ね」ザッ
榛名「加賀さん、ですよね。大丈夫です。この場は榛名達にお任せ下さい!赤城さんはどうぞ、加賀さんの下へ!」
羽黒「……」コクッ
川内「行っておいで、こっちは大丈夫だからさ」
神通「必ずまた、会いましょう」
赤城「皆さん…恩に切ります」バッ
一歩前に出たピーコックとは逆に、赤城は反転してその場から離れていく。
山城「あははははっ!え、ちょっと何よ。え?一航戦は敵前逃亡って訳なの?聞いて呆れるわね!」
ヒュン ヒュン ヒュン ヒュンッ
ボゴオオォォォォォォン
山城「くっ…!」
ピーコック「言葉を慎みなさい。一航戦はあなたのような不遜な相手をしてる暇が無いのよ。不遜な輩の相手なら、この私がしてあげるわ。身の程を弁えなさい、俗物!ウェーク島陸上型基地ピーコック。その全てを焼き尽くす!」
山城「言わせておけば…」
葛城「あの相手は私がやる。空すらも、朱に染め上げてやるわよ」
ピーコック「…面白そうね。この私に航空戦を仕掛けるなんて……良いでしょう、けど後悔しても遅いわよ」
武蔵「さて、私の相手は残りの三匹か?だが気を付けろよ。これから始めるのはただの蹂躙だ。多勢に無勢などと言う生易しい反論なら聞く耳を持たん。そのような言い訳を口にする時点で弱者。この場に居る資格など微塵もない! 相応の覚悟を背負った者だけ、この私の前に立つが良い。ならば、その敬意に賞してこの私の手で海の藻屑としてやろう」
川内「言いたい放題言ってくれるね」
羽黒「沈むのは貴女のほうです!」
神通「世迷言です。貴女は勿論、深海棲艦その全て…矢尽き刀折れようと、殲滅して見せます!」
榛名「あなたの相手は、私がします!」
山城「大本営で見たときから気に入らなかったのよ。あなたの目、仕草、振る舞い、表情、何もかもが癇に障った。ここまで他人をイラつかせれるなんて、ある意味その分野に秀でた才能の権化ね。殺して上げるわ!」
榛名「絶対、負けません!」
後に大火の海戦と呼称されるこの戦いは、誰にも予測の出来ない事態を持って収束を向かえる事になる。
だが今は、それを知る者は誰一人としていない。
ただ、眼前にある事実を受け入れ、それに立ち向かう者、抗う者とに別れて苛烈な戦いが始まろうとしているだけだ。
487 : 以下、名無しにかわりましてSS速... - 2015/08/23 14:23:33.60 OzWWtXuG0 266/385乙!
ここで山城が敵として登場、ですか・・・
しかし、なぜ武蔵と葛城も敵に設定したのでしょうか?
488 : 以下、名無しにかわりましてSS速... - 2015/09/03 01:34:04.83 qImLL/GR0 267/385勝手ながら、敵について整理してみました。
傲慢→煉獄の艦隊を指揮するエリート提督(今のところ無傷、交戦中)
嫉妬→忌避の艦隊を指揮する蛇蝎提督(今のところ無傷、交戦中)
憤怒→鬼刻の艦隊を指揮する心悸提督(捕まって尋問されるも何やかんやで自害、故人)
怠惰→ハイエナ提督(口封じのために抹殺、故人)
強欲→北提督?(不正がバレて逮捕、獄中?)
暴食→鮮血の艦隊を指揮する百貫提督(自害、故人)
色欲→隷属の艦隊を指揮するキメラ元提督(一度捕まるも外からの助けで脱獄、交戦中)
こんな感じで合ってますか?
間違ってたら上書きしてください。
489 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/09/04 00:22:31.03 A+sXl/WEo 268/385皆様こんばんは
少しだけ更新します
>>487
>理由
余り既存の艦娘を敵として登場させるのは好きじゃありませんが
明暗がハッキリしている艦娘vs深海棲艦という構図よりも、艦娘vs艦娘という
形式だと、個人的に話を書きやすいから、というのが最も近しい理由でしょうか
敵として選抜した理由は今回は山城以外は殆どランダムです
>>488
わざわざそこまで読み取って頂きありがとうございます
添削箇所はございません、書き出して頂いたものそのままです
作中でそれらしい描写はしましたが、気にするほどの事もない程度のものだったので
そこまで理解して頂けている事に感激します
本当にありがとうございます
続き
【艦これ】提督「バリバリ最強No.2」【後編】