1 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/25 00:39:33.52 jYCVPHBVo 1/385

艦これのSSです。
書簡体、対話体、それぞれの形式で書く事があります。
いくつかオリジナル要素が登場します。
作品内に前作品の設定が一部反映されており、世界観が一部リンクされています。
一部、過剰ではありませんがバイオレンス的表現が混ざる場合があるのでご注意下さい。
各艦娘の相関図等、若干違う部分もあると思いますが二次創作観点からご了承下さい。



【艦これ】提督「暇っすね」
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1404/14040/1404046254.html
http://ayamevip.com/archives/42382809.html

【艦これ】提督「暇っすね」Part2
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1404/14042/1404294340.html
http://ayamevip.com/archives/46130372.html

【艦これ】提督「暇っすね」part3
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1404646553/
http://ayamevip.com/archives/46130818.html

【艦これ】提督「暇じゃなくなった」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1411557252/
http://ayamevip.com/archives/46159190.html

【艦これ】提督「暇暇ひ~ま~ひ~ま~」【番外】(※同時更新)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1421240310/
http://ayamevip.com/archives/46189915.html


上記五作品は過去作品になります。

元スレ
【艦これ】提督「バリバリ最強No.2」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1422113973/

2 : 以下、名無しにかわりましてSS速... - 2015/01/25 00:40:06.95 jYCVPHBVo 2/385




~ハズレ鎮守府~



-仮面-

加賀「何を訳の解らない事を呟いているのですか」

提督「んあー、業績の話」

加賀「なるほど。ですが、些か血迷った発言にも感じます」

提督「血迷ったってお前…」

加賀「これが今月の提督の業績表です」ピラッ…

提督「何も見えない」

加賀「現実を直視して下さい。提督は近隣区画の鎮守府の中で下段から数えて一番目です。数字の上では一番ですけれど、あえて皮肉を言った方が宜しいですか?」

提督「言うな!」

加賀「百歩譲って最強は良いとしましょう。しかし言うに事欠いてNo.1ではなくNo.2とは意味が解りません」

提督「だってNo.1業績っていつもエリート提督じゃん?最強の水上打撃艦隊と空母機動艦隊備えてるじゃん?」

加賀「その直に他人と自分を比較する癖、いい加減やめては如何ですか。寧ろ比較事態が無意味です」

提督「と・に・か・く!まずはNo.2な訳よ!」

加賀「どちらにしろ机上の空論、砂上の楼閣、絵空事に変わりはありませんね」

提督「相変わらず辛辣だねぇ…」

加賀「何か問題でも?」

提督「あぁ、もういい。もういい!今日のスケジュールは!?」

加賀「…本日は遠征任務のみです。応援依頼のあった輸送船団の海上護衛任務、こちらが主任務となります」

提督「ああ、そう…で、面子は」

加賀「私、加賀と長良、漣に満潮、変わりありません」

提督「ですよね。お前等四人しか居ないもんな」

加賀「他に何かありますか」

提督「んー…」ジー…

加賀「…私の顔に、何かついていて?」

提督「いや…別に」

加賀「はぁ…これだけは言わせて頂きますが、あなたが私の提督なのは別に構いません。それなりに期待もしましょう。ですが、それだけの事です。先にも言いましたが、現実を直視して下さい。こんなハズレの鎮守府にきたという自覚と、諦めも重要だと私は思っています」

提督「ハズレねぇ…」

加賀「…では、失礼します」ペコリ スッ…

提督「はいはいっと…」


ガチャ…パタン…


提督「はぁ、全く何だかなぁ…」

3 : 以下、名無しにかわりましてSS速... - 2015/01/25 00:40:40.88 jYCVPHBVo 3/385

そこは外れた鎮守府。

大本営をはじめとし、他の鎮守府ではそこをハズレ鎮守府と呼ぶ。

問題児とされた艦娘や提督の行き着く陸の孤島。別名、海軍の墓場。

主要な任務など皆無に等しく、回される仕事の大半は良くて護衛任務。

無しが基本当たり前。

最も酷いのは演習の的役。

彼がこの鎮守府に着任した切っ掛けは定かとなっていない。

何かしでかした訳でも軍法に反した訳でもない。

彼は自ら進んでこのハズレ鎮守府へと来たのだ。

ここに進水している艦娘は僅か四名。

一人目は加賀型一番艦、正規空母ネームシップの加賀。

嘗ては一航戦の加賀として同じ一航戦の赤城と共に第一線を支え続けたと言われている正規空母の加賀。

しかし彼女は戦場において作戦指示を無視し、無茶とも言える特攻を仕掛けて敵味方問わずに多大な被害を出すと言う大惨事を引き起こした過去がある。

それが原因となり、加賀は大将第一艦隊に所属していたものの、即時解任。

解体処分こそ免れたものの、この遠方の地である陸の孤島、海軍の墓場たるハズレ鎮守府への左遷が決まった。

二人目は長良型一番艦、軽巡洋艦ネームシップの長良。

数々の戦場をたった一人で駆け回り、制圧してしまうという偉業を成し得た過去を持つ。

だがそれは組織にとってあってはならない、してはならない行いの一つだった。

彼女の行動の端々でその被害を被り轟沈してしまった艦娘も居ると聞く。

水雷戦隊の指揮統率力は群を抜いていたと言われているが、上記の通り自ら作戦を逸脱する行為が目に余り結果として彼女もまた左遷扱いとなった。

4 : 以下、名無しにかわりましてSS速... - 2015/01/25 00:41:07.75 jYCVPHBVo 4/385

三人目は綾波型九番艦、駆逐艦漣。

周りからは変わり者と言われ、彼女に好意を寄せる艦娘は殆ど居なかったと言われている。

提督を提督・司令官とは呼ばずにご主人様、と呼ぶのも他の艦娘には理解を及ぼさない原因となった。

普段からこんな調子のため、戦闘時もその風変わりな発言や行動が災いし、仲間達との連携が計れずに一艦隊を瀕死の状態へと追いやる事態が発生する事になる。

これを好機とし、当時漣が所属していた鎮守府の提督は、厄介払いをする意味で責任を取らせる名目で漣をこのハズレ鎮守府へと左遷させた。

最後の四人目は朝潮型三番艦、駆逐艦満潮。

常に罵詈雑言が絶えない、そんな感じの艦娘。と言うのが提督の第一印象だった。

満潮はハズレ鎮守府に来る前は西方にある鎮守府の第一水雷戦隊の一員として大活躍をしていたと聞く。

前線で戦果を上げる事に至高の喜びを得ていた様で、入渠後早々に戦地へ戻ろうとしたりと何かとじゃじゃ馬が過ぎていた面もあったようだ。

ある日、敵泊地目前という所で身内の艦隊に損害が出てこれ以上の進軍が難しいと言う局面に立った。

だが敵は目前、ここで叩かなければ直に雲隠れされ、次に出会う頃には再び戦力を整えられてしまう。

進軍すべきと進言する満潮に対し、水雷戦隊旗艦はこれを拒否、だが提督からの命令は追撃せよとの事だった。

提督からの命令は絶対。

水雷戦隊旗艦は苦虫を噛み潰したような表情でそれでも了解と呟き、大破する仲間を囲うようにして進軍した。

やがて岩礁の陰に身を潜める残存部隊を発見し、追撃に出るも満潮が突出しすぎ、大破していた艦娘が絶好の的として集中砲火を浴びる結果となり、更にはその護衛をしていた二人の駆逐艦娘も共に被害を被り、結果として三名轟沈、二名中破、一名小破というとんでもない結果で帰投する事になった。

提督の命令なのだから仕方がない、そう思っていても水雷戦隊旗艦は自らに及ぶ責任から逃れる為に満潮を出汁に使い、責任転嫁をした。

陣形を保ち、無理に前に出るような勇み足さえなければ時間は掛かっても確実に全員無事で戻る事が出来た。

今回の失態は満潮による独断行動による弊害であった、そう証言したのだ。

結果として提督はこれを鵜呑みにし、満潮は解体処分こそ免れたものの厳罰としてこのハズレ鎮守府へと左遷させられる羽目になったのだ。

5 : 以下、名無しにかわりましてSS速... - 2015/01/25 00:41:34.38 jYCVPHBVo 5/385

提督「…ま、つまる所はみ出し者の集団って訳なんだが…」ペラッ…


提督は手にしていた資料に目を落としながら小首を傾げる。


提督「加賀も長良も漣も満潮も、どいつもこいつも中将クラスかそれ以上の鎮守府の艦隊に従事してんだよなぁ」

提督「ちょいとミスしたって内容でないのも確かだが、くくっ…こんな紙切れで事の顛末、その全てが明らかになりますかって話だ。改ざんし放題だからなぁ…流石は、大本営様って所か。それとも…」


パサ…


提督「まっ、俺がそれをどうこう言う身でもないか。何はともあれ、来たからにはやる事やらにゃあ男が廃るってもんだ。やれるだけやって、ダメならさっさとトンズラこくだけさ」ニヤッ…

提督「そろそろ、猫被るのも飽きてきた頃だし、準備に取り掛かりますかねぇ…」カチン…シュボッ…

12 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/25 13:10:13.15 qI3V5UwMo 6/385

-悪辣-

長良「よしっ、張り切って頑張りましょう!」

加賀「張り切るのはいいけれど、勝手に航路を外れないように注意願いたいものです」

「まぁまぁ、どーせ暇防衛なんだからさ、適当にやっちまうのねっ!」

満潮「あんたその喋り方いい加減ウザイんだけど」

「あらら~?満潮ちゃんったら、ご機嫌斜め?斜め?おこ?おこなの?それとも激おこ満潮ちゃんキタコレ!?」

満潮「マジウザッ…!ねぇ、加賀!別にコイツ居なくても護衛任務とか出来たんじゃないの?」

加賀「原則として護衛任務は軽巡洋艦一名、駆逐艦二名に他一名の計四名が基本になります。三名では護衛不可能なのよ。諦めなさい」

満潮「はぁ!?何それ、私じゃ力不足ってこと!?」

長良「取り敢えずさ~、もう直任務も終わるんだし、仲良くやろうよ。任務中くらいはね?」

加賀「同感です。無駄口を叩く暇があるなら周辺の警戒を密に願いたいものです」

13 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/25 13:12:08.92 qI3V5UwMo 7/385

提督「…はぁ、そうですか」

依頼人『お宅んところの艦娘、どうなってんのさ!口喧嘩ばっかりで、深海棲艦の奇襲がなかったから良いようなものの、もしもあったらあんなんで本当に守ってもらえるかも怪しいね!』

提督「誠に、申し訳ございません。以後、このような事がないように指導を徹底させますので…」

依頼人『頼むよホントにさぁ!次もしも護衛してもらって同じようならこっちも報酬や資材の分け前考えさせてもらうからね!そこんとこ、きっちり認識しといてよ!!』


ブツッ……


提督「~~っ!はぁ、やれやれ…人間、カルシウム不足が祟るとやばそうなのは理解したな。うるせぇうるせぇ」


ガチャ…


加賀「お呼びですか、提督」

提督「おう……他はどうした?」

加賀「長良は外を走っています。漣はケーキを作りたいと…満潮は一言『ウザイ』といって自室へ篭りました」

提督「あぁ…そう…」ニガワライ

加賀「ご用向きは何でしょうか」

提督「ん、取り敢えずお前一人じゃ意味がないんでな。全員集めてから言う」

加賀「ですが、他の三名があなたの言う事を素直に聞くとは到底思いませんが?」

提督「そうか…」ガタッ…

14 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/25 13:13:02.57 qI3V5UwMo 8/385

加賀「…?」

提督「それなら…」スッ…


ガシッ…


加賀「っ!?かはっ…な、何、を…!」

提督「言う事を聞かせるまでだ…おっと、すまない。加賀は幾らか業務的だが従ってくれていたな」パッ…

加賀「けほっ…」

提督「憲兵、もしくは大本営に事の顛末を報告したければして構わない。虐待を行う提督には厳正なる処分が下されるからな。良くて永久追放、最悪死刑だ。くくっ、とんだ不始末を働いてしまったな」

加賀「あなたは、一体…」

提督「提督さ。階級は大佐。元々は中将だったんだがねぇ…」

加賀「」(中将ほどの階級の人物が、二階級も階級を落とすほどの罪とは…)

提督「加賀にしては珍しい。人を観察する目と言うのは得てして妙でな。それぞれに異なった色合いを見せる」

加賀「…!」

提督「さて、取り敢えずは従わない三名の躾からか。一つ、後学までに参考にしておきたいんだけど、艦娘って言うのはこういう場合、どんな罰が一番堪えるのかね?」

加賀「何を…」

提督「色々とあるだろう。拷問は言わずもがな…偏に拷問と言っても男女でその在り方は様々だ。特に、君達みたいにうら若い者であれば性的な拷問も視野に入るだろう?だが艦娘となると少々毛色が変わるのかもしれない。そう思ったまでの事だ」

加賀「暴力で捻じ伏せるという事ですか」

提督「んー、個人的には余りしたくはないんだけど、どうしても従わないのであれば選択肢の一つに数えざるを得ない、と言う判断だな」

加賀「もしその手法を取ると言うのならば…」チャキッ…

提督「ほぅ…」ニヤッ…

加賀「この場で打ち抜きます」

提督「…解った。解ったよ…怖いねぇ。どちらにしろ俺が出向かないとお高い彼女達は話に聞き耳を立ててくれない訳だから、出向くしかないだろう?それとも、このまま二人でずっとこうしてるか?」

加賀「着任して一週間。飄々とした態度だったあなたからは想像も出来ない豹変振りです。一体何者ですか」

提督「……答えて欲しいか?」

加賀「当然です」

提督「そうか。なら断る」

加賀「なっ…」

提督「人間、やれと言われるとやりたくなくなる。言えと言われたら言いたくなくなるって訳だ」

加賀「ふざけた事を…」ギリッ…

提督「だがこれだけは教えてやろう。この鎮守府は、スペシャリストの集まりだという事だ」

加賀「は…?」

提督「さて、それじゃ俺は他三人を迎えに行ってくる」スタスタ…

加賀「あっ…ま、まだ話は…!」


ガチャ…パタン…


加賀「一体、彼は…」

15 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/25 13:13:30.82 qI3V5UwMo 9/385

長良「はっ、はっ、はっ……とっとと…!ふぅ…」タッタッタ…

提督「随分と精が出るな」

長良「あっ……」

提督「上官の呼び出しを無視して持久力トレーニングとはいい度胸だ」

長良「あ、あはは…いやぁ、加賀さんから後で聞けばいっかなー、なんて…」

提督「なるほど。無駄を省くという奴か」

長良「流石司令か……」

提督「死ね」

長良「……え?」

提督「上官に従えない奴は不要だから死ね」

長良「え、ちょ…」

提督「何だ、言ってる意味が理解できないか?死ねと言ったんだ。規律を乱す奴を置いておいてもそれこそ無駄というものだ。つまりお前の理論で言う所の無駄を省くという奴だ。無駄なものは排除するに限る。お前は無駄なものだから死ね、とそういう事だ」

長良「な、何よそれ!私が無駄って!」

提督「はぁ、俺も舐められたもんだよ。こんな小娘に俺の言葉は無駄だと言われ、シカトされるんだからな」

長良「だ、だって…!どうせ、こんな鎮守府に居たって意味ないじゃないですか!毎日トレーニングしたって、やる事は遠征任務だけで…だったら、司令官の話だって聞く意味ないじゃないですか!」

提督「ふむ、なるほど。理には適ってる。が、ならば何故お前は毎日こんな整備もされていない様なグラウンドで走り込みを行う?」

長良「そ、それは…気を、紛らわせるためで…」

提督「お前の言葉を借りるならどうせ遠征任務だけなんだ。深海棲艦と戦う出撃任務などない。そんな体力作りは不要だろう。違うか?」

長良「……」

提督「ふっ、どうせ大方いつでも舞い戻れるように訓練でも積んで戦力の維持を図っているんだろうが、それこそ無意味。無駄と言うものだな」

長良「なっ…!」

提督「ここはハズレ鎮守府らしいじゃないか。一度ここに納まったら最後、死ぬ以外でここから出る事は無理だ」

長良「そ、そんな…」

提督「だがまぁ、この整備もされていないグラウンドをよくもまぁあれだけ速く走れたものだ。その点に関して俺はお前を高く評価する。これから先も、変わらずこうしてチャンスを伺って居たいならまずは俺に従え。この鎮守府では俺が上官であり、お前は部下だ。上官から指示が出たならそれに頷け。首を横に振るな。解ったらまずは執務室へ来い。生憎、俺はお前一人に時間を全て割いてる暇がない。次に来なかった場合は容赦しない」

長良「…わかり、ました…」

16 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/25 13:14:06.76 qI3V5UwMo 10/385

「ふんふふ~ん♪たらりら~♪」


ガチャ…


「あら?」

提督「飽きもせずに良くやる」

「あらあら、ご主人様じゃないですか♪」

提督「俺はお前の主人になったつもりもメイドを雇ったつもりもない」

「細かい事ぁいいんですよぉ♪それとご主人様?調子に乗ると、ぶっとばしますよ♪」

提督「面白い。是非ぶっ飛ばしてみてもらおうか?」


ガシャァァァン…


「あっ…!な、何してくれてやがりますかぁ!?」

提督「ふっ、言っておくが駆逐艦だろうが何だろうが上官に逆らう奴に容赦はしないぞ」

「いくらご主人様でも、お痛が過ぎるんじゃありませんかねぇ!」

提督「これはお痛でもなければ我が侭でもない。そもそも俺はお前の上官だ。言葉の違いを教えてやる。これは躾と言うんだ。身を美しくすると書いて躾だ。だから余り横暴な真似を俺にさせるな」

「なっ…!?さ、先にいちゃもんつけてきたのそっちじゃん!」

提督「その前に、歯向かったのはお前だ」

「はぁ!?」

提督「俺は話があるから執務室へ来いと言ったんだ」

「そんなの、加賀さんから後で聞けばそれでいくない?」

提督「はぁ、揃いも揃って馬鹿ばっかりか。馬鹿か?史上空前の馬鹿か?長良といいお前といい、ホンット救い難いレベルの馬鹿だな?この世に居るかどうかしらんが、仏と言うのはここまで馬鹿を量産させてなんとする」

「馬鹿馬鹿ってちょーメシマズなんですけど!」

提督「戯け、俺の方がメシマズだ。ケーキ作りも大概にしないと以後禁止にするぞ」

「なっ、そんな権利…」

提督「あるんだよ。俺はこの鎮守府の提督だ。お前の上官だ。お前は俺の部下だ。指示に従わないのなら別に構わんが、その場合は不要と見做し即時解体処分にしてやる」

「解体、処分って…冗談、だよね?」

提督「すまないが事実だ。それが嫌ならさっさとこの場を片して執務室へ来い」

「……」

17 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/25 13:14:33.50 qI3V5UwMo 11/385



コンコン…


満潮「ウザーイ」


コンコン…


満潮「あぁもうっ!ウザイわね!何よ!誰!?」


ガチャ…


満潮「え、ちょ…!」

提督「全く、どいつもこいつも…」

満潮「ちょ、あんたねぇ!もしも着替えてたらどーすんのよ!馬鹿!変態!スケベ!」

提督「安心しろ、俺が興味あるのは大人の身体だ。お前みたいな貧相なガキに興味はない。そもそも海軍の軍規に反して駆逐艦の艦娘に手を出すとか言う馬鹿の心境が俺にはいまいちよく解らん。極めてロリコンに近いのか、はたまた特殊な性癖の持ち主なのか、どちらにしろ理解に苦しむね」

満潮「だ、だから何よ!勝手に入ってこないでよ!」

提督「大概にしろ小娘」バンッ

満潮「ひっ…!」ビクッ

提督「おっと、これではただの恫喝になるな。今のは非礼だったな、詫びてやる。すまんな」

満潮「……」

提督「ツンケンするのは別に構わんが時と場合を弁えろ。俺が執務室へ来いと言ったら来い。上官命令に無駄なプライドを翳して逆らうな。次に逆らったら相応の罰を加える。宣言してからの行使だ、次からは容赦しない」

満潮「れ、連絡とか、そんなの別に…加賀使えば、それでいいじゃないのよ…!」

提督「便利屋加賀パート2か。馬鹿なのか、阿呆なのか、単細胞にも程があるぞ。身の程を弁えろ戯け。園児ですら言われた事はキッチリこなすぞ、このろくでなし」

満潮「な、何よその言い方!あんた提督向いてないんじゃないの!?提督なら艦娘のアフターケアくらいしても当然じゃないのよ!」

提督「ははははっ!何がアフターケアだ、笑わせるな!ケアするほどの仕事もしてないだろ。便所掃除くらいしてからほざけこのナマケモノが」

満潮「…うるさいわね」

提督「くくっ、反論できなくて罵倒に覇気がないぞ?」

満潮「ウザイのよッ!!」

提督「ほぅ、まだそれだけ元気があれば十分だ。だが次からは先も言ったとおり容赦はしない。サービス期間は今この瞬間だけだと思えよ。この後、執務室に来なかった場合は最悪解体処分もあると思って行動しろ」

満潮「は、はぁ!?なにそれ…意味分かんない」

提督「なら理解できるようにする事だ。言っておくが俺のモットーは有言実行だ。やると言ったらやるって事だ。解体処分と言ったら本気でやる。あとから何を喚こうが命乞いしようが知らん。こんな辺鄙な場所で無様に果てたいなら一生ここにいろ。後で解体処分の為にもう一度だけ尋ねてやる。それが嫌ならさっさと執務室へ来い」

満潮「……わかったわよ」

18 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/25 13:14:59.90 qI3V5UwMo 12/385

加賀「……」

長良「……」

「……」

満潮「……」

提督「さて、四人揃って意気消沈しているところ申し訳ないが、早速クレームだ」

加賀「……」

提督「解ってると思うが、先の遠征任務で護衛した船団の船長からのクレームだ。警護中に身内同士で喧嘩沙汰を起こしてくれたんだってな。そりゃあ大層なお怒り具合でな。奴さんのカルシウムもゼロだったよ」

加賀「申し訳ありません。私の監督不行き届きです」

提督「が、別に俺はそんなのはどうだっていい。こんなものは話の繋ぎだ」

長良「え…?」

提督「言いたい奴には言わせておけばいい」

「それ、どういう意味なの?」

満潮「説教する気ないなら、何で呼んだのよ」

提督「いい質問だ。お前等問題児にもう一度だけ脚光を浴びるチャンスをくれてやる、と言ったらどうする?」

加賀「脚光を浴びる…?」

長良「それは、どういう意味ですか」

提督「今日、一人新たに着任する艦娘が居る。ヒトヨンマルマルには到着するだろう。もうあと三十分もすれば着任するな。五名居ればまぁ、形にはある程度なるだろうからな」

加賀「どういう事ですか?」

提督「俺はな、相手の悔しがる顔を見るのが大好きなんだよ」ニヤッ…

加賀「…不愉快な笑みです」

提督「くくっ、はいはい。飄々と過ごすのも飽きたからなぁ…ふぅぅ……」カチン…シュボッ…

加賀「……」

提督「そこでだ。分不相応にもハズレ鎮守府と言われるここにはそれぞれに秀でたスペシャリストが勢揃いしている、という事に俺は気付いた訳だ」

加賀「は…?」

提督「全く…各鎮守府のクソ虫、ウジ虫、ゴミ虫提督共はこんなにも見る目がないときた。実に…じ・つ・に、馬鹿ばっかりで、ひっっっじょうに俺は今愉快だ!」

満潮「何、言ってんのよ、こいつ…」

「解らない…」

長良「私も…」

28 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/25 19:47:56.22 qI3V5UwMo 13/385

提督「加賀、お前は空母と言う特性上、艦載機を通して先を見る能力がある。加えて必殺必中の極めて精巧且つ強力な一撃を放てる火力!今まで見てきた空母の中でもお前は群を抜いている。他が一拍置くタイミングすらもお前にとっては無駄な所作になる。周りと連携が取れなくて当然だな」

加賀「……!」

提督「長良、お前の足の速さは軽巡の枠を優に超えている。それだけじゃない、一発の火力と次発装填の早さ、他の軽巡には凡そ真似はできんだろうな。戦艦クラスとタイマン張って打ち勝てるだけのポテンシャルを秘めている奴はそうはいない」

長良「えっ…?」

提督「漣、くくっ…お前は本当に面白い奴だな。そのコミュ障がなけりゃ今頃は大出世だっただろうよ。周りとの連携が計れず大破した連中が居るって?馬鹿を言え、お前の計算通りだったのを周りが勝手に崩しただけだ。結果を見ればそんなのは火を見るより明らかだ。見る目が無いとか抜けているとか、そんな生易しいレベルじゃないな」

「」(この人…)

提督「満潮、お前は本当に駆逐艦か?くくっ、笑えてくるよな。お前が大破進軍を進言した事になってるんだってなぁ。その場で言えば良いものを、更に後から全ての濡れ衣被されてお役御免でここに不時着、見事な転落しきった人生じゃないか。お前が居たから全滅回避できたんだろ?普通じゃまず有り得んよ。あの状況から一転して全てを殲滅して尚、三人も残って帰還するなんてまず信じられん」

満潮「」(こいつ、本当にウザイ…!)

提督「因みにこの後着任してくるのは高雄型四番艦、重巡洋艦の鳥海だ」

加賀「鳥海…?確か、金剛型の霧島と知略を競えるだけの頭脳を持っているとか…」

提督「ほぅ、流石は加賀。だが俺に言わせりゃ鳥海の戦略は霧島なんて目じゃないね。あいつの頭脳は一歩先の未来すらも視る。凡庸な連中相手じゃ、あいつの知略は半分もその実力は発揮できゃしない」

加賀「結局、その鳥海を含めた私達五名を、あなたはどう利用するつもりですか」

29 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/25 19:48:23.50 qI3V5UwMo 14/385

提督「オブラートに包むって言葉を知らない奴だなぁ。ま、別にいいけど…俺はあのエリート提督がこの上なく嫌いなんだよ。俺も周りに理解されなかった口でな。戦略が毎度突拍子もないと、艦娘を無駄に轟沈させるだけの無能提督ときたもんだ。じゃあなんで俺は中将になれたかって話だ。くくっ、目に物を見せてやる」トントン…

長良「目に物…?」

提督「まずはこの数字だ。業績…ひっっっじょうに下らない。こんなものを何万何億何兆稼ごうが知った事か! だが、取り敢えずはエリート君の背中を掴まない事には始まらない。故にNo.2と言う訳だ」

「No.2…?」

提督「おう、バリバリ最強のNo.2をまずは目指す」

満潮「はぁ?何それ…普通No.1じゃないの?」

提督「あっさり抜いたらザマァ感がねぇだろ、ダァホ。エリート君の吠え面拝んだ時が、お前等が栄光の凱旋を果たした瞬間だ。どうせ今のままじゃお前等は腐って寂れて廃れるだけだ。だったら騙されたと思って、俺にその命の全てを預けろ。俺の命令には従え。これからは心行くまでお前等の思い通りに事を運んでやる」


ツカ ツカ……ガチャ……


??「その話が本当で、この先に道が続くと言うのであれば、私はその話に乗りましょう」

提督「きたか、鳥海」

鳥海「お久しぶりです、司令官さん」

「ご主人様と、知り合いなの?」

鳥海「ええ、改めまして…高雄型四番艦、重巡洋艦の鳥海です。宜しくお願いしますね。加賀さんに長良さん、それから漣さんに満潮さん?」

満潮「私達の事は既に解ってるって訳ね」

提督「さて、と…じゃあ早速だが、お前等は今日から一週間、演習のみを行え」

加賀「なっ…」

長良「演習だけ!?」

「それ、どういう…」

満潮「ふざけんじゃないわよ!大体……」

提督「あぁあぁ、待て待て待て待て。煩いから黙れ。話は最後まで聞け、猿か?言われて即座に脊髄反射する猿なのか?全く……いいからつべこべ言わずにこのカリキュラムに沿って演習はやれ」ピラッ…

加賀「これは…」

鳥海「私が事前に司令官さんから伺った情報を元に作りました」

提督「個々で内容は全て違う。相手を想定した上で無論演習は行え。妥協は許さん。それを全てこなした上で、その後直に実戦へ移る。最終調整と言う奴だ。実際にその項目をやれば解る、やらなきゃ解らずじまいでそのまま終わりだ。だからまずはやれ。反論は認めん、以上だ」

加賀「…了解しました」

長良「はい、了解です」

「はーい…」

満潮「解ったわよ…」

鳥海「では、私もカリキュラムに沿って演習を開始します」


ガチャ……パタン…


提督「……はぁ~あぁ、仮面を被るのも楽じゃない、が…それ以上に楽しい、か……」ニヤッ…

30 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/25 19:48:57.97 qI3V5UwMo 15/385



-計画-

加賀「鳥海さん」

鳥海「何か?」

加賀「あの、提督と言う人物は一体…」

鳥海「…あぁ、ふふっ、やっぱり気になりますよね」クスッ

加賀「その含み笑いは多少なりともやはり、何かを知っていると解釈して宜しいのでしょうか」

鳥海「あらら…洞察力は流石ね。いいわ、私の知ってる限りで教えて上げる」


彼は別名、仮面の男、なんて呼ばれていた時期があります。

ご覧になった通り性格は極めて自分勝手で上から目線、自信家で言動も暴力的。

以前着任していた鎮守府でもそれは変わりありませんでしたね。

ただし、彼の立てる戦術や艦娘の性能を見抜く眼力は他の提督には無い特異なものがあると言えます。

一切の妥協を許さず、自らの出した結論だけしか信じず、それ故に周りからは白い目で見られる。

決して自分の本心、本性は相手に晒さない。

私もあの人の本音と言うのを聞いた事がありません。

それ故に、仮面の男、等と言う呼称がされていたのかもしれませんね。


加賀「以前は中将だったというのは…」

鳥海「本当です。ただ、剥奪されたのではなく、自ら進んでその地位を捨てた、と言う風に聞いてます」

加賀「自ら、進んで…?」

鳥海「意味が解りませんね?では、私も演習の準備があるのでこれで失礼します」

加賀「……」


そこは外れに外れた陸の孤島。

誰も見向きもしない、はみ出し者が寄せ集められた海軍の墓場。

誰が言ったのか、外れと出来損ないのハズレを掛けたハズレ鎮守府。

そんな墓場に、一癖も二癖もある提督を筆頭とし、戦場で汚点を刻んだ五名の艦娘が漂着する。

曰く付きの五名は誰からも理解されない、誰からも信用されない、誰からも重用されない、誰からも認知されない。

行き着くべくして行き着いた、最後の鎮守府。

提督を含めたこの六名が、このハズレ鎮守府が後に大本営をも揺るがす大事を成し遂げる。

36 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/26 20:43:31.95 Q+nTDy3jo 16/385




~逆襲の狼煙~



-思惑-

加賀「────以上がこの一週間のデータ全てです」

提督「……近海の深海棲艦相手にチームワークを検証した結果は?」

加賀「…良い作戦指揮でした。こんな艦隊なら、また一緒に出撃したいものです」

提督「ふっ…」ニヤッ…


ピリリリリ……ピリリリリ……


提督「っと…小言か罵倒か、どっちかなっと…」

加賀「…?」


ガチャ…


提督「はい、もしもし?」

??『…その声は、ふっ…君、本当にまだ生きてたんだねぇ…驚いたよ。ハズレに漂着したって風の噂で聞いてはいたけど、まさか世迷言じゃなく真実だったとは…』


ピッ……カチャ…(スピーカーON)


提督「ちっ、大本営じゃねぇのか。嫌味なら切るぞ」

??『そう邪険にしないでくれよ。うちはこれからアルフォンシーノ方面への進軍を考えていてね。最終調整を行いたいので、君のところの艦隊で『試し撃ち』をさせてほしいのさ。錬度を上げる意味もあるんだけどね?』

加賀「……」ピクッ…

提督「調整ねぇ…」チラッ…

加賀「……」

提督「構わないよ」

??『おぉ、そうか。何、病院送りにしない程度には抑えるように、うちの艦隊にも通達は出しておくさ。精々当たり所が悪くて死ぬって事だけはないように頼むよ?あはははは!』

提督「はっはっは!」

??『!?』

提督「いやぁ、悪い悪い…調整相手に間違って怪我させちゃわねぇかこっちが心配してたからなぁ。いや結構、じ・つ・に、結構!それだけ大胆に寝言ほざけりゃ問題ないだろ。頼んできたのはそっちだ、時刻は明日のヒトサンマルマル。一秒でも遅れたら実弾で演習だ」

??『なっ!?き、貴様……』

提督「あぁあぁ、はいはいはいはい。煩いから黙れ、この薄らハゲ脱糞野郎。電話越しでも臭うとかぶっ飛びすぎだろ。黙って糞して明日でも待ってろ。時間はさっき通達した通りだ。反論は許さん」


ブツッ……



37 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/26 20:43:58.50 Q+nTDy3jo 17/385

加賀「……」アゼン

提督「ん、何だよ」

加賀「…いえ、何でも…」

提督「電話してきたのは北方に陣を構えてる北提督だ」

加賀「はい、声でどなたかは直に解りました。以前にも、同じ事を言ってきた事がありましたから…」

提督「そうか」

加賀「ですが、あそこまで馬鹿にして明日本当に来ると思っているのですか?」

提督「そりゃあ来るだろ。あいつは元来、馬鹿にされたままじゃ引き下がれない単細胞だ。あわよくば、と間違えただ何だといちゃもん付けつつ、実弾ぶっ放してくるかもしれねぇな」

加賀「そ、それは…」

提督「まぁだが、先に手を出すのはあっちだ。どっかのドラマでもビシッとスーツで決めてやってたろ。やられたらやり返す、倍返しだ!ってな」ニヤッ…

加賀「ドラマの役者さんはそんな不遜な笑みは浮かべません」

提督「ちっ、うっせぇんだよダァホ。っていうか、お前も相当神経図太いな。この間あんだけの目に遭ってまだ俺にそんな口利けるとか、そうそういねぇぞ」

加賀「あの程度の恫喝では私の意志は挫けません」

提督「言うねぇ…で、話を戻すが先の実戦、お前の見解は?」

加賀「鳥海さんの戦術は完璧でした。長良も漣も満潮も、十分な錬度で深海棲艦を撃滅。型に嵌らない、それでいて特定の型を持つ、その型に嵌ると尋常ではない強さが発揮できると想定されます」

提督「矛盾した表現だが概ね当たってる。その通りだ。型に嵌らないってのは、言わば海軍で推奨されるお飾り陣形の事だ。だが、お前等にとってこの陣形自体が枷でしかない訳だ。各々が独断で縦横無尽に暴れまわるってのは、傍から見ればどえらいもんだろうがそれすらも計算の内…鳥海が提唱したあの戦術なら、お前等に向かう所敵は無しって訳だ」

加賀「ですが良かったのですか。勝手な出撃と勝手な資材消費は経費申請報告書に記載した場合、虚偽申請のしようもありません。仮にしたとしても、当然の如く暴かれるのは目に見えています」

提督「その為に明日、北と一戦交えるんだろうが」ニヤッ…

加賀「では、まさか本当に明日、北提督の率いる艦隊は実弾を使用してくると?」

提督「ああ、十中八九必ずな。北のおぼっちゃんの事だ、盛大にぶちかましてくれるだろうよ。さっきはああは言ったが、こっちは敢えて模擬弾だけで応戦する。解ってると思うが…」

加賀「…正直、頭にきていた所です。そもそも的になどなりたくはありませんから。徹底的に打ちのめします」

提督「そいつは重畳。他の奴等にも明日の演習の件を通達しておけ」

加賀「解りました」

38 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/26 20:44:35.53 Q+nTDy3jo 18/385




満潮「ちっ、悔しいけど美味しいから尚更ムカつくわ…」パクッ…

「あら~、別に食べなくてもいいわよ?」モグモグ…

満潮「うっさいなぁ…一言多かったのは悪かったわよ」モグモグ…

鳥海「栄養バランスも非常にいいですね」モグモグ…

長良「漣のご飯は最高だよー!」モグモグ…

加賀「流石に気分が高揚します」モグモグ…モグモグ…

満潮「なんか加賀、食べる速度早くない…?」

加賀「……気のせいです」

長良「ふふっ…でもさぁ、こうやって皆で顔を合わせてご飯って、何時以来だっけ」

鳥海「…?」

加賀「そうですね。かなり久しぶりだと認識しています」

鳥海「今までは、各々の部屋で?」

満潮「そうよ」

鳥海「何故?」

「だって、喋る事別にないもん」

長良「あはは…まぁねぇ、どこかギクシャクもしてたしねぇ」

加賀「提督の配慮、と言うべきでしょうか。食事は全員で摂る事、と通達がありましたから」

鳥海「ホント、素直じゃありませんね。あの人は…結局の所、私達が一つにならなければ彼の描く理想には遠く及ばないという事なのでしょう」

満潮「何が理想よ。アホ面晒して調子に乗ってるだけじゃん。あぁ、もうマジウザイ!」

提督「アホ面で悪かったな、このクソチビ」

満潮「げほっ」

「うわっ、汚なぁ!」

鳥海「あらまぁ…」

39 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/26 20:45:07.73 Q+nTDy3jo 19/385

満潮「いきなり後ろから声掛けてくるんじゃないわよ!このアホ面オヤジ!」

提督「んだとテメェ!誰がアホ面だこのクソチビまな板!」

満潮「私は満潮ですー!名前ちゃーんとありますー!あんたみたいなアホ面オヤジと一緒にしないでくれる!?」

提督「ぶっ殺すぞこのクソガキャ…」

加賀「子供ですか、あなたは…」

提督「大人だ!ふざけんな!」

加賀「はぁ…」

長良「あはははっ」

提督「何が可笑しいんだよ!」

長良「だって、二人してさぁ!」クスクスッ

提督「待て待て待て待て。今二人って言ったか?ふざけろ、俺は可笑しくない。可笑しいのはこのクソチビまな板であって断じて俺ではない。むしろこのクソチビまな板以外にありえない。存在しない」

満潮「あーっ!もうマジなんなのこいつ!ほんっと腹立つ!」

「あれあれ、満潮ちゃん、またおこなの?激おこ?プンプン丸?ムカチャッカいっちゃう?やっちゃう?」

満潮「ちょっと、加賀っ!あんたも澄ましてないで何とか言いなさいよ!」バンバン

加賀「関わると碌な事にならなそうなので、傍観に徹します」

提督「見ろ、自らの無様を曝け出した結果だ。俺が正しいと証明されたな、クソチビまな板」ドヤァ

鳥海「」(ホント、飽きないわねぇ…)クスッ…

満潮「はっ!言ってなさいよ。いつか吠え面かかせてやるんだから!」

提督「ほぅ、それはじ・つ・に、面白い!楽しみにしてよう!あぁ、そうだ!明日の演習で一人で三人分仕留める事が出来たらお前に俺の吠え面を公開してやろう!」

満潮「…言ったわね。文字通り拝ませて貰おうじゃないの、アホ面オヤジの吠え面をねっ!」

長良「あ~あ……」

「ご主人様、それは墓穴かもよぉ?」

提督「え?」

加賀「明日が楽しみです」

提督「え、いや…おい、待て待て待て待て。おい、どういう意味か答えを言え」

満潮「ふふん、吠え面の準備だけして待ってなさい!」

提督「なんて連中だ…信じられん」

満潮「べー、だ!」

提督「こ、の…ク・ソ・ガ・キ……ッ!」

40 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/26 20:45:34.55 Q+nTDy3jo 20/385

-実力の差-

提督「……」

鳥海「時間ですが…」

加賀「北鎮守府の面々は一人として現れていません」

提督「ちっ…」


ピリリリリ……ピリリリリ……


提督「北のビチクソ野郎だな…」


ピッ……


提督「…はい、もしもし」

北提督『やあ、ゴミクズの提督さん』

提督「時間も厳守できない奴に言われても何とも思わねぇって」

北提督『くくっ…何言ってるのぉ、もう演習は始まってるんだよぉ…』

加賀「……」チリッ…

長良「加賀さん?」

加賀「…哨戒任務に向かわせておいて正解でした。警戒中だった艦載機の一団が対空砲火にて制圧されました」

満潮「まさか、奇襲!?」

「うわぁ、メシマズ状態。何それ、感じ悪ぅ…」

北提督『ゴミ集積場に寄せ集められただけのクズ共が!的役になれるだけでもありがたいって気になってもらいたいもんだねぇ!スクラップにされて然るべきクズなんだからさぁ!』

提督「…結構。じ・つ・に、結構!好きなだけ小細工して来い。その分、負けた時のお前の無様具合は俺の想像を優に超えてくれるだろう。吠え面掻く準備だけして糞でもしとけ薄らハゲ脱糞野郎!」

「どうもでいいけどぉ、言葉が汚いですよ、ご主人様ぁ」

提督「っせぇ!」

北提督『……上等だよ。叛乱を企てたとしてこの場で全員雷撃処分にしてやる!!』


ブツンッ……



41 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/26 20:46:00.41 Q+nTDy3jo 21/385

提督「よし、いってこい」

鳥海「はいはい。それじゃ加賀さん、音頭お願いしますね」

加賀「一航戦、出撃します」

「ほいさっさ~♪」

満潮「満潮、出るわ」

長良「よしきたー!任せといて!」

鳥海「さぁ、行きましょう!」

加賀「…相手はこのまま直進、これは…」

鳥海「どうかしましたか?」

加賀「不愉快です」

長良「どうかしたの?」

加賀「相手は聨合艦隊です」

満潮「はぁ!?」

「え、ちょっと言ってる意味解んない」

加賀「つまり、数で私達を蹂躙する気なのでしょう。先の無線で言っていたように、言われ無き罪とやらで私達を雷撃処分にでもして自分の手柄として功績を手中に収める、と言った所でしょうか」

鳥海「…なるほど。非常にそれは不愉快ですね。なら、こちらも相応の対応をしてあげれば良いのではなくて?」

満潮「それじゃあ、暴れて良いって事よね」

「ご主人様も見てる事だし、すこ~し本気出しちゃおっかなぁ♪」

加賀「けれど、相手空母の主力が出てくるなら…流石に、慎重に攻めたいところだわ」

長良「そこは加賀さんに任せるよ!私達は…」

満潮「海上を…!」

鳥海「制圧します!」

48 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/27 20:45:47.72 /bh8DKUco 22/385

空母艦娘1「相手の空母は加賀って言っても、たかが一人よ。こっちが制空権を奪えない道理は無いわ」

空母艦娘2「一気に蹴散らして上げようじゃない!」

軽空母艦娘1「こっちは空母四人よ」

軽空母艦娘2「制空権は貰ったも同然ね!」

加賀「不愉快です」

空母艦娘1「か、加賀…!」

加賀「一つ、訂正があります」スッ…

空母艦娘2「て、訂正ですって!?」

加賀「確かに艦載数ではそちらが上…事実として制空権を優勢に導く事は困難かもしれません。ですが、それと現状の優劣は別だという事です。あなた達程度の錬度で私の優秀な子たちが蹂躙できるとは到底思えません」

軽空母艦娘1「言わせておけば…!」

軽空母艦娘2「だったら望み通りに蹂躙して上げようじゃない!」

加賀「…言葉の意味を理解しているのですか?」クスッ…

軽空母艦娘1「何を…!」

加賀「蹂躙の意味です。これが、蹂躙するという事の実演です。鎧袖一触よ。心配いらないわ」ビュッ…

49 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/27 20:46:20.86 /bh8DKUco 23/385

目にも止まらぬ速さで矢を放つ。

相手空母群は一瞬何が起こったのかさえ理解しなかった。

放たれた矢は彼女達を追い越し、後方で無数の艦載機へとその姿を変えると一気に急上昇。

上空で旋回してから今度は一気に急降下爆撃を開始する。

その間、四人はただ呆けていただけ。

その判断が実戦であれば命取りにさえなるのを知らない、甘い考えが起こす気の緩み。

たった一投。

僅か一矢。

それだけで加賀の率いる艦載機達は軽空母の艦娘二人をまさに鎧袖一触、一撫での下に葬った。


ボゴオオオォォォォォォン


空母艦娘1「なっ…!」

空母艦娘2「え……?」

軽空母艦娘1「きゃあっ」 大破

軽空母艦娘2「そ、そんな…」 大破

空母艦娘1「これは…模擬弾…!?」

空母艦娘2「よくも…!」


瞬く間すら惜しくなる。

それほどまでに短い僅かな間。

時間にすればほんの数十秒。

それだけで加賀と自分達に歴然とした差がある事を思い知らされて尚、彼女達は加賀へと立ち向かう。

だが、それは実戦で言えば死路。

勇猛果敢と言うに相応しくない愚行。

かつて謳われた一航戦の一翼、鎧袖一触の加賀。

それはかつてではない。

健在であり、既にそれは現実としてそこにある。

謳われてなどいない、今尚紡ぎ続けている。

一航戦の加賀を伝説と呼ぶ者は、過去の亡霊のみ。

しかし彼女の実力、これはそのほんの一部に過ぎない。

50 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/27 20:46:47.08 /bh8DKUco 24/385

空母艦娘1「以前に見たことがある、翔鶴さんや瑞鶴さんに匹敵するくらいの強さだってことなの、加賀は…」

空母艦娘2「まさか…鶴姉妹より上位の空母艦娘なんて…」

加賀「……」ピクッ


ボヤキに近いその一言は加賀にとっては耳障りでしかなかった。

彼女がこの世で最も嫌う事、それは比較をされる事。

中でも二航戦や五航戦と呼ばれる姉妹達と比べられるのが最も加賀は嫌った。

それは嫌悪ではなく、ただ純粋に比べられるという行為そのものに対しての嫌気だった。

中でも一航戦の後釜と言われている五航戦の姉妹に対しては殊更辛辣に当たる事が加賀は多い。


加賀「五航戦の子なんかと一緒にしないで」ビュビュッ


加賀と同じ、一航戦の名を背負う赤城ですら容易に真似できない、加賀だからこそ成せる脅威の技術、速射。

本来、加賀のスタイルは一矢入魂。

一発一発に己の念を籠めるが如く、驚くべき集中力を発揮して放たれる一撃必殺と呼称するに相応しいものだ。

故に放たれた艦載機は狙い違わず目標を撃滅する。

だが今のは一呼吸の間に、二度の射手を行うもの。

精密性は無論欠けるが放たれる艦載数は通常の倍、つまりやり方次第で一気に複数艦の相手を撃滅に追い込めるほどの驚異的な破壊力を秘めている。

これが加賀が基本の型に嵌らない、周りとの連携を取れないとする所以の一つ。

二条の放たれた矢は敵前で無数の艦載機へとその姿を一変させ、大空へと一斉に舞い上がる。

イメージは既についている。

真上への急上昇から狙いを定めた艦爆隊による一斉爆撃。

次に艦攻隊による敵上空から急降下、対空砲が放たれるより早く、より速く、描く姿はまさに獲物を狙う鷲。

空の覇者、加賀の強さを絶対とし、それを知らしめるが如く、放たれた艦載機達による一方的な攻撃が始まる。

まさに、これこそ蹂躙と称するに相応しい圧倒的戦闘力。


ボゴオオォォォォォォン


加賀「それでも、狙いは外しません。みんな優秀な子たちですから」

空母艦娘1「は、発艦すら…できないなんて…」 大破

空母艦娘2「バケモノ……」 大破

加賀「射法八節、その理に準じれば基礎を基礎とし、極める事のみに心血を注げば良いだけの事です。あなた達には私を詰る権利は無論、二航戦や五航戦を引き合いに出す資格すらありません。分を弁えて下さい」

51 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/27 20:47:27.63 /bh8DKUco 25/385

提督「ヒュ~♪やるねぇ、加賀は…ありゃあいつだったかなぁ、一度だけ赤城の戦闘を見た事があったが、赤城が柔なら加賀は剛か…利を活かし、盤上全てをひっくり返せる赤城に強さで一気に捻じ伏せる加賀…くくっ、確かに一航戦の二人が揃えば鬼に金棒、才色兼備…智勇と武勇が合わされば怖いもんはねぇわ。最強と言われるに足る所以、ここに一つ見つけたり、だな」



提督「あれが一航戦の赤城…」


赤城「敵艦、捕捉しました」


提督「でもって…その赤城を要するあの艦隊を指揮するのが、噂の大佐の枠を超えた大佐殿か。元はブラックで有名だった鎮守府だ…それを僅か二年とちょっとでここまで纏め上げたわけだから、まぁ確かに手腕としちゃあ大佐で納まる器じゃなさそうなのは目に見えて解るか…」


とある提督「陣形はそのまま単縦陣。瑞鳳は赤城に続け、発艦準備だ」

瑞鳳「はい!」


提督「…見てて虫唾が奔るな」


今では四方山の鎮守府で語り草になっている、海軍史上類を見ない叛乱事件。

その渦中にあって最終的に収束へと導いた張本人。

風に乗る噂には必ず尾鰭が付いて回るというが、実際に見て彼が感じたのはそれとは別の感情だった。

見てて虫唾が奔る……そう感じたのは単にそこに流れる空気が彼にそぐわないものだったから。

艦娘達と和気藹々と過ごす、それはどこの鎮守府にも見て取れる光景だろう。

過去の確執があったからこそ、今のあの鎮守府が存在していると言ってもいいかもしれない。

だが提督にとってそんなのはどうでもいいことだった。

時は流れ時代は変わり、深海棲艦も為りを潜めて久しい今、この海軍と言う組織は緩みだしていると実感した。

あの事件以降、名を馳せた鎮守府は他にも幾つかある。

前元帥の愛娘が治めている、精鋭揃いと名高い鋼鉄の艦隊。

不滅・不屈を信条とし、決して揺るがない鋼の意志を持った不動の艦隊。

本来はそこに名を連ねるはずだった、もう一つの歴戦の艦隊。


提督「気付いてるのか、このうねりの中に混ざった異物を…時代は、平和を求めちゃいねぇって事だ。あんたが作ったこの平和は、悲しい事に続きゃしねぇんだ…」

52 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/27 20:47:53.24 /bh8DKUco 26/385

-生まれる疑念-

北提督「なんだ、これは…なんで!?」

満潮「はぁ、手ごたえのない子っ!それで私達を本気で倒せるって思っちゃってる所がウザイのよッ!!」

重巡艦娘「く、駆逐艦のクセに…!」 大破

軽巡艦娘「くっ…鬱陶しい!」 中破

「逃げられないよ!漣はしつこいからっ!!」ドン ドン

軽巡艦娘「しまっ……」


ボゴオオォォォォン


軽巡艦娘「ぐっ…こい、つ…!」 大破

戦艦艦娘「どうして、私の、装甲が…!」 中破

長良「走り込み、してないからじゃない?」

鳥海「軽巡や重巡が戦艦に敵わない、なんて道理は何処にもありませんよ」

長良「遅すぎるよ。遅い!全然遅い!そんなんじゃ私を捉える事なんて絶対無理よ」

北提督「なんなんだ、こいつらは…」

提督「お前等がゴミクズだって蔑んでた連中さ。原石とゴミの意味を履き違えるなよ。実弾使ってそのザマじゃ実戦でもどうせ沈んでた連中だろうよ。アルフォンシーノは前海戦の折に激闘があった海域だ。未だにエリートクラスの深海棲艦も生息していると聞く。そんな場所にお前等程度の錬度の艦隊が突っ込んだ所で、遊び相手にもなりゃしねぇだろうよ」

北提督「き、貴様ぁ!口を慎めよ、俺は北を任されている少将様だぞ!」

提督「だからどうした脱糞野郎!階級と賢さは必ずしも比例なんざしねぇんだよ。そら見たことか、そのバカ面に備わってる両目で現状をよぉく見てみろ。見たか?見えてるか?飾りじゃねぇなら見えるよな?いい加減認識しろ、ゴミは自分達でクズは自分達であるという事実を認識しろ。解ったらさっさと白旗でも上げて吠え面でもかいてろこのゴミクズが!あぁ~、じ・つ・に、愉快だ!そのバカ面を拝めただけでも結構!大いに結構!」

北提督「お、の、れぇぇ……ッ!」

53 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/27 20:48:23.40 /bh8DKUco 27/385

??「……見たか?」

??「あぁ、見た」

??「で、これどう報告するのかしら?」

??「どうも何も、見たままを告げればいいだろう。結局の所、私達の任務はそこに集約される」

??「つってもなぁ…演習戦に故意に実弾を使用する疑いがあるってタレコミがあって、きてみりゃ北鎮守府の違反行為ときたもんだ…正直、まだハズレ鎮守府がやらかしてくれた方が幾分かましだったんじゃねぇのか」

??「どちらにしても違反に変わりはない。深海棲艦の脅威が著しく減少しても尚、まだその全てが解決した訳ではない中で、内部の治安悪化にはホトホト嫌気が差す」

??「そうねぇ…平和は平和だけど、各地の鎮守府でこうも質が落ちる、と言うのは幾らか懸念材料かも」

??「しかもあの野郎、少将だろ。将官があんなんで佐官連中以下に示しなんて付く訳がねぇ。下手すりゃ艦娘にも叛乱の兆候が見えたって不思議じゃねぇぞ」

??「事実は小説より奇なり……と単に括れる内容でもないからな。摩耶、私はこのまま生の情報を持って一度大本営へ戻る。貴様は引き続き通達のあった鎮守府の動向監視に務めろ」

摩耶「ったくよぉ、ホントお前は人使い荒いな」

??「それとも、妹をもう少し見ていたいか?」

摩耶「幾らお前でもそれ以上言ったらぶっ飛ばすぞ」

??「…ふん」

摩耶「」(鳥海、どうしてお前、こんなとこに居るんだよ…)

??「私はどうしましょう?」

??「手が空いてるなら摩耶を手伝ってやれ。こんな小細工に等しい行為、叛乱にも入らん。海軍内部に闇がまだ存在するのなら、肥大化する前に阻止しなければならない。私達はその為に存続された海軍の暗部だ」

??「解ったわ」

62 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/28 20:59:02.75 Zf7w/nyxo 28/385

「あれ、もう終わりなの?うっそぉ、メシマズ~」

満潮「連携の『れ』の字も取れてない雑魚艦隊とか、倒した内にも入らないわね」

長良「息切れすぎ!足遅すぎ!勝負も戦いも拮抗しなきゃ演習なら楽しみないじゃん!成長してるかどうかを見るのが演習の醍醐味じゃん?まぁ、連携の確認とかもあるだろうけどさぁ、はぁ…なんかつまなかったなぁ」

加賀「ストレスしか溜まりませんでした」

鳥海「」(倍の数を相手にしてもたじろぐ所かほぼパーフェクトで任務完了。スタミナが切れてる様子もない。何より奇襲を受けた状態から制空権を奪われても尚、戦局の優勢を貫いた個々の実力。まさに、少数精鋭)

提督「実弾使った割に、随分とこっちの被害は少ないじゃないか。北の将軍様」

北提督「ぐっ…く、そ…!」

提督「しっかし、北の将軍様ともあろうお方が…演習に実弾を持ち込み、あまつさえそれを艦娘達に使用する事を強要するとは…いやぁ、これは…ははっ、実に、じ・つ・に、宜しくない。海軍規定の軍法に接触しているのをご存じないのか、はたまた無視したのか…どちらにしろ、お前の未来は断たれたな?」

北提督「お、まえ…まさか…!始めから、これが狙いで…!」

提督「冗談…お前みたいな小物の座なんて俺にはどうでもいい事だ。一緒にするなよ、脱糞野郎。格の差を馬鹿なお前に教えてやっただけだ。空いてた座席に納まっただけのボンクラと、実力を示して狙った座席を物にしてきた奴の差って事だ」

北提督「このハズレ鎮守府が、狙ってくる場所だって?あははははっ!お前こそ、馬鹿なんじゃないのか!?」

提督「吠えてろバカ面。どの道お前は懲戒処分だ。演習に実弾を持ち込むなんて新米提督でもやらかさないミスだからなぁ…間違えました、で済ませれる事案じゃない。その垢塗れの汚ぇ首でも洗って待ってろよ」


その後、事の顛末を見ていたとされる第三者の通報により、北提督は大本営から派遣されてきた憲兵によってその身柄を拘束され、彼の言葉に従った艦娘も同様にして大本営へと連行されていった。

最後まで『俺はハメられた』と叫び続ける北提督の言葉だけが、虚しく周囲に響き渡っていた。

63 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/28 20:59:35.33 Zf7w/nyxo 29/385

提督「」(…三人居たな。情報が早いっていうか、目の付け所が鋭いっていうか…下手を打てば俺の首も易々と飛ぶって事か。面倒な連中だ…だが、これで内部への疑念は確実に広がるだろう。あの新鋭の時のような、禍々しくどす黒い野望や欲望に塗れた連中がゴロゴロと顔を出す…良くも悪くも、どちらも今後は慎重に事を運ぶんだろうが…さて、次はどうしたもんかねぇ)

加賀「提督」パサッ

提督「ん?あぁ、演習報告書か。バカ正直に書けってか?」

加賀「それがあなたの仕事の一端だと思うけれど」

提督「はいはい、然様にございますよっと…」カキカキ…

加賀「それと…」

提督「んだよ、まだ何かお小言かよ」

加賀「北提督の一件、何故こうも迅速に事態が露見し、早急な処罰が決まったのでしょうか。腑に落ちません」

提督「…聞きてぇか?」

加賀「自力で探れなくはありませんが、労力に伴わないのであれば時間を無駄にする事になります。その間、私はこの鎮守府を離れての独断の捜査を敢行する事になるでしょう。仰ってる意味が提督になら解ると思うのだけれど…どうかしら?」

提督「ったく、小賢しい奴だ。以前の言葉遊び、根に持ってやがんな」

加賀「さぁ、どうかしら?」

提督「ちっ、わぁかったよ。海軍には公にしている査察団ってのは存在しねぇ。代わりに諜報部隊、隠密部隊、密偵部隊って三つの三大暗部が存在する。これらは日本陸軍の与り知らないまさに影の組織だ。だが先の大叛乱としても知られる新鋭中将の一件以来、諜報部隊は壊滅している。厳密には長が退いて自然消滅の流れだ」

加賀「今回、その暗部が動いたというのですか?」

提督「あぁ、だろうな。気配を殺し、目視できる限界の位置を見極めての監視…密偵部隊だろう」

加賀「…それだけの情報を知っているあなたは、この期に及んで一体何をしようと言うのですか…」

提督「言っただろ。バリバリ最強のNo.2を目指すんだよ」

加賀「………」

提督「他に用がないなら出てっていいぞ。他の鎮守府がどうかは知らんが、俺は秘書艦のお前に執務を手伝うように要請など出さない。が、代わりにその空いた時間を使って自分を磨け。これは命令ではない。だから言われたからといって別にする必要はない。しかし、しなかった場合は自然とそのツケは回ってくる。まぁ、お前が思うよう好きにやれ」

加賀「…解りました。では、失礼します」

64 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/28 21:01:50.33 Zf7w/nyxo 30/385

-蠢動-

はじめは小さな違反行為だった。

資材運用に関する報告書の虚偽申告。

だがこれは運営部の見落としによって指摘されずに済んだ。

この時に彼は思った。

ああ、僕はツイている、と。

次に彼は、同期の競争相手である佐官将校の一人を邪魔だったからと言う理由で訓練を利用して事故に見せかけて殺害してしまう。

この時は彼も憲兵に呼ばれ度重なる事情聴取を受ける事になったが、この時も状況証拠のみで物的証拠が見つからないとして事故死として処理されてしまう。

この時も彼は思った。

ああ、これはもう僕に授けられた一種の力の一端かもしれない、と。

小さな悪事から始まって彼は己の強運をもって度重なる障壁を一つ、また一つと綺麗に剥がし落としていく。

邪魔な者は蹴落として、不要な物は処分して、そうやってコツコツコツコツ、小さな悪事を積み重ねていった。

そんな折に海軍でこれから後も語り草になるであろう大事件が起こった。

ある中将提督による大規模叛乱事件。

彼はここに来て岐路に立たされた。

便乗して表に出るか、それとも裏方に徹して力を蓄えるか。

結論から言うと彼は後者を選んだ。

お陰で彼が未だに知らない情報までがどさくさに紛れて彼の元に転がり込んでくる事になった。

まだ見ぬ情報の山、まさにこれこそ宝の山。

彼は寝る間も惜しんでそれらの山に喰らいついた。

気付けば彼は、人の皮を被った怪物となっていた。

65 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/28 21:11:20.66 Zf7w/nyxo 31/385

??「ねぇ、一枚岩を崩すには、どこから着手するのが利巧だったかな?」

??「それをボクに聞くの?」

??「野暮だったかな?」

??「野暮だね。だって、ボクは回りくどい事しないから」

??「そうだったね。君は……」

??「一つ…」

??「ん?」

??「気になった事がある。お前は内部から穴を空けて、中身をスッカスカにしてから内側に向けて切り崩すって言ってた。事実、海軍はジワジワと内部から腐食が進行している。お前が撒いた種が着実に成長している」

??「それで?」

??「…その種を踏み潰した奴がいる」

??「……根拠は?」

??「気付いてるクセに…」ニヤッ…

??「まだね…まだなんだよ。まだ、手強い鎮守府は沢山在る。それらを衰退させていかない事には、磐石には程遠いんだよ。磐石って言うのは堅固でしっかりしていてびくともしない事を言う。現状はまだ、揺らぐんだ」

??「不動、鋼鉄、進撃、新月、中でも新月と呼ばれる艦隊は…あれは怖い。噂が本当かは解らないけど…」

??「元は深海棲艦だって奴かい?確かに、その全てが謎に包まれている艦隊だからね。僕でも情報を手に入れる事ができてない、唯一の艦隊だ」

??「不動、鋼鉄、進撃についてはいくつか情報が上がっているね?」

??「中でも要注意は進撃の艦隊。ここの提督、本当に厄介だよ。大本営で何度か見かけた事があるけど、あれの腹を探るのはいくらかリスクが伴いそうだ。率いている艦娘も最優と呼ぶに相応しい面々…」

??「ボク、あの艦隊嫌いだ」

??「君が感情で物事を判断するのは珍しいね。どれも頓着無くイケる口だと思っていたのに…」

??「ボクに宿っている古の記憶がね、言ってるんだ…次に出会うその時こそ、今度こそ完全な地獄の底へ落としてやろうって…だからかな。嫌いだけど、嬉しい」

??「ふふっ、僕はそんな君が愛しく思う。やはり、君は最高だ」

??「褒めてもボクから愛は生まれないよ」

??「だからこそ愛しい。そうだろう?」

??「そういう所、嫌いだ」

??「ふふっ、褒め言葉だね」

66 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/28 21:11:52.86 Zf7w/nyxo 32/385

闇は常にそこにある。

深く底がない、水底のような更に深い所にひっそりと潜む。

水面に顔は殆ど覗かせない。

闇は光が天敵だから。

それでも水面に上がるのは、闇と言うのはどこまでも底なしだから。

貪欲で、際限が無く、理性も働かない。

だから何処までも深く根を下ろし、気付いた頃には引き返せないほどびっしりと辺り一面に根を張っている。

何故気付けないのか。

何故引き返せないのか。

闇は暗がりで活動する。

木の葉を隠すには森の中。

闇は影に同化する。

だから気付けない。

だから気付いた頃には引き返せない。

何故かって…その頃には既に一面に根を張っているから。

影に潜んで静かにゆっくりと蠢動する。

モゾモゾと影の輪郭に沿ってはみ出さない様に、ジワジワと影と同化する。

そして影と一体化した時、闇は本性を現す。

67 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/28 21:12:23.45 Zf7w/nyxo 33/385




~ロスト・シップ~



-吠え面-

今、提督は逃げている。

元はと言えば身から出た錆なのだが、ここぞとばかりに追跡者は容赦無く襲い掛かる。

提督はその包囲網を掻い潜り、今現在は使用されていない空き倉庫に身を潜めていた。


提督「くっそ…あいつ等、ここぞとばかりに…」


一人悪態をついているとスピーカー放送がオンになり、鎮守府内に艦娘の声が響き渡る。


加賀『提督、あなたともあろう方がこの期に及んで敵前逃亡とは、示しが付きません』

鳥海『ご自分で仰った事なんですから、そこは呑んで頂かないと困りますね』

長良『司令かーん、こっちから探しに行っちゃうぞー?』

『っていうか既に満潮ちゃんが出動しちゃってるので、ご主人様乙でーす♪』

提督「あんの野郎共ぉ…っ!」


ガチャ…


提督「……っ!」

満潮「バレバレだし。入っていくところ見えてたし。ばっかねぇ…」

提督「よ、よし、解った。落ち着け。まずは落ち着こう。ここは運命共同体としてそれぞれの意見を平等に交換し合い、互いにそれぞれ益をもたらす選択を築こう」

満潮「うっさい!散々偉そうな事言って、恫喝紛いの真似までしてた奴が何言っちゃってんのよ。さっさと…」ガシッ

提督「うおっ」

満潮「こっちにきなさいよ!」


ズルズルズルズル……


「あはははっ!ご主人様、小さい子に襟首掴まれて引き摺られるってどんな気分ですか?」

提督「喧しいわ!さっさとはな……」


ポイッ


提督「せっとぉ!」ズザザザザッ

長良「うわぁ…顔面からいったよ…」

鳥海「あらあら…」

満潮「ふんっ!」パンパン

加賀「さぁ提督、満潮が待ち望んでますのでさっさと終わらせてしまいましょう」

提督「ぐっ…お、お前等はなんなんだ!」

「ただのけんがーく♪」

68 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/28 21:12:51.64 Zf7w/nyxo 34/385

提督「するな!失せろ!」

満潮「私が呼んだのよ。一人じゃ何されるか解ったもんじゃないもの。ね、変態さん?」

提督「語弊を招く表現をするな!」

満潮「さっ、早い所あんたの吠え面ってのを拝ませてもらおうかしら?」

提督「にゃにおぉ~…!」

鳥海「前回の演習戦、満潮さんの撃墜数は前十二隻中五隻、次点は加賀さんの四隻です。残り三隻を私達で仲良く等分して一隻ずつ、合計で十二隻、勝利ランクで言えば文句なしのSクラスです」

満潮「ふふん、なんだっけ、え~っと……明日の演習で一人で三人分仕留める事が出来たらお前に俺の吠え面を公開してやろう!だったっけ?」ニヤッ…

提督「似てねぇよ!」

満潮「似たくないわよ!」

提督「じゃあ真似してんじゃねぇ!」

満潮「喧しいわ吠え面司令官!さっさと吠え面見せなさいよ!」

提督「ぐぬぬぬ…!」

鳥海「映像には残しませんので思う存分にどうぞ」

加賀「約束は果たして然るべきです」

「ワクテカ!」

長良「さぁ、司令官、どうぞ!」

提督「これは罠だぁ!」

満潮「んなわけあるかぁ!」ブンッ


バキィッ


提督「ぐはっ」

満潮「あっ、思わずノリで殴っちゃった…」

長良「あ、鮮やか…あははは…」ニガワライ

提督「い、いてぇ…クソガキと侮っていた…だ、だが…今の一撃で帳消しにしてやろう」

満潮「へ?」

69 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/28 21:13:33.86 Zf7w/nyxo 35/385

提督「ふふふ…いや何、艦娘が上官に対し暴力を振るうのも、上官が艦娘に対して暴力を働く行為も、共に処罰対象となる訳だが…俺はひっっっじょうに心が広い。だからこの件はこれ以上追求しない。これで終わり!不問! 後腐れ無し!以上!反論は……」

「異議有り!」

提督「はぁ!?」

「本件と吠え面には確固たる関連性がありません!被告は本件を前面に押し出し、不当に吠え面の件をないものにしようと画策している節が見受けられます!」

提督「なんで裁判風なんだよ!」バンバン

鳥海「クスクス……」プルプル

長良「あはははははっ!」

加賀「……」プルプル

満潮「…加賀、あんた今ちょっと笑ったでしょ」

加賀「…何の事ですか」マガオ

満潮「絶対笑ってたでしょ…」

加賀「気のせいでは?」

「って事でご主人様♪さっさと吠え面かまして下さいませ♪」

提督「そうまでして俺の吠え面を拝みたいか」

満潮「っていうかあんたが条件含めて言ったんでしょうが!」

提督「…記憶にございません」ボソッ

満潮「…は?」

提督「記憶にございませんっ!」クワッ

満潮「んなぁっ!?」

提督「記憶にございません!!」ダンダン


散々悪態をついて駄々を捏ねて逃げ回って白を切り通したものの、結局最後は再び満潮に殴り飛ばされ、彼は断腸の思いで彼女達に変顔、もとい吠え面を披露する羽目になった。

76 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/29 21:47:35.01 2zwRWqcMo 36/385

提督「くそっ、実に…じ・つ・に、不愉快だ!」

加賀「解りましたから早い所提出書類を纏めてくれると有り難いのだけれど」

提督「さり気無くお前も写真とってたよね?ねぇ?」

加賀「…知りません」

提督「こいつ…!」

加賀「鎮守府にはそれぞれ個性が備わっています」

提督「あぁ?んだよ、薮から棒に」

加賀「提督の個性を反映させたような艦娘や鎮守府が出来上がるというのは珍しい事ではありません」

提督「何がいいてぇんだよ」

加賀「あなたの性格が他のみんなにも反映されているのではないかしら」

提督「だから?」

加賀「自業自得です」

提督「俺様の威厳が!」

加賀「知りません」

提督「くそが…!」

加賀「下らない話題はここまでにして、そろそろ本題に移りたいのだけど、良いかしら?」

提督「くだらな…って、お前ってあれだね、人の心を抉る才能あるね」

加賀「ここ数週間という短い期間で立て続けに発生している事案です。事案通達表くらいには目を通しておいてもらえると助かるのだけれど、あなたでは無理だと思ったので」

提督「無視な上に更に抉りにくるか、こいつ…」

加賀「事案内容は次の通りです」


・遠征任務に出撃した艦娘がそのまま行方不明になる。

・鎮守府の夜警に務めていた艦娘が忽然と姿を消す。

上記事案に際して共通点が多く見受けられるのが以下のものになります。

・天候は必ず雨、海も時化っており見通しは極めて悪い。

・艦娘が一人で居る時の発生率は八割強である。

77 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/29 21:48:28.49 2zwRWqcMo 37/385

加賀「これら事案は纏めてロスト・シップ事件と呼称され、各鎮守府には警戒を怠らないよう通達が促されていますが、当鎮守府にこの事案報告が来たのは事件発覚から二週間目の朝です」

提督「……」カチン…シュボッ…

提督「すぅー…はぁー…まぁ、あれだろ。どうせハズレ鎮守府には該当しようがしまいがどうだっていいって上からの認識による通達遅延だろ。気にする必要はねぇな」

加賀「あなたはこれをどうみますか」

提督「そうだなぁ…質問に質問で返しちまうが、艦娘がその気になった場合、人は何処まで対抗できるとお前は思う」

加賀「場合によりけりではないかしら」

提督「つまり?」

加賀「奇襲の類で警戒が遅れていれば、錬度の高い艦娘と言えども不意は衝かれて然るべき、という事です」

提督「それでも艤装を纏った艦娘相手に人が生身で挑もうなんて酔狂起こせる奴がいるとすれば、そいつは頭のネジがぶっ飛んでるラリッた野郎かただの馬鹿だ。じゃあ次の質問だ…艦娘を鹵獲したとして、これをどう利用もしくは何を目的に鹵獲する?」

加賀「現海軍は艦娘を尊重する理念が強く見受けられます。如何様なミスを起こそうと、こういった鎮守府をわざわざ設けてまで解体処分を行わずに存命させているのが何よりの証拠です」

提督「それで?」

加賀「犯人がどんなタイプかでその理由は幾重にも変わると思います」

提督「至極最もだなぁ…じゃあ、利己的理由で鹵獲した場合を回答してみろ」

加賀「艦娘はその身形から若い女性、幼い子が多いのは周知の事実です。考えるだけでも吐き気を催しますが、ようはそういう目的で鹵獲するのが最も自然に思うわ。それ以外で利己的理由となると、幾らか理由付けが希薄になる気がするけれど…」

提督「…研究、実験、調査」

加賀「……?」

提督「利己的理由で思いつく単語だ。新鋭の再来って訳だよ」

加賀「なっ…」

提督「どの場合も艦娘が傷付けられた形跡は無い。文字通り煙の如く消え失せている。それはつまり、実験として利用する為だ。研究サンプルってのは傷つけずに置いておくのがセオリーだろ」

加賀「では、提督はそれが犯人の狙いだと…?」

提督「さぁて、どうだかな。一般論だ、一般論。けどまぁ、マッド野郎の吠え面を見るには退屈しない事案だな」

78 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/29 21:48:58.18 2zwRWqcMo 38/385

-ディストピア-

「いやあああああああああ……!!」


薄暗い部屋に響く若い女の叫び声。

これで何度目の悲鳴かは解らない。

しかし決して終わる事の無い悲鳴。

周囲は消毒液や薬品の匂いで充満しており、空気の換気が十分に行われていないのはよく解る。


ジャラッ……


鉄と鉄が擦れ合う音。

ジャラジャラと音を軋ませ、鉄の鎖はそれが動く度に重く冷たい音を響かせ繋がれている者に地獄を見せる。


「うっ……うぅ……」


すすり泣く声、これも若い女の声。

ここはある男の聖域とも呼べる神聖なる領域。

何人たりともこの空間を侵食する事は許されない。

この空間に繋がれている娘達は、運が良ければ彼の手によって生まれ変わる。

大抵は、実験に失敗したという名目上処分されるが。

それまでにありとあらゆる実験と称した拷問の数々を受けるが、大体は拷問途中に発狂して自滅する。

薬品投与から始まり肉体的苦痛・快楽を与えるものまで、ありとあらゆる手法で拷問は行われる。

しかしどの研究も男を満足させるには至らなかった。

79 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/29 21:49:27.03 2zwRWqcMo 39/385

「ふふ、ふふふ…足りないなぁ。変だなぁ…ねずみ、かなぁ?」ニタァ…チラッ…


??「」(あの男、私に気付いてる…!)

「何処に居るのか知らないけど、君……艦娘、だよねぇ?凄いなぁ…まるで昔、日本に居たっていう忍みたいじゃないかぁ…ふふっ、どこかなぁ…」

??「」(これ以上は、不味い…合流地点まで戻らないとだね)



進撃「…川内が戻らない?」

??「はい。合流地点で待っていた艦隊が時間になっても川内さんが戻らないと、今し方通信で…」

進撃「無理無茶するなって言葉にあいつが反発するとはとても思えないが、やっぱ内部潜入は危険すぎたか…」

??「どうしますか、提督」

進撃「調査中の艦隊、旗艦は確か霧島か」

??「はい」

進撃「霧島に今しばらくは川内の到着をその場で待つように伝えておいてくれ。ただし、待っても来ないからと言って早まった行動は絶対に取らないように釘を刺しておくんだ。その間に俺は元帥に事の顛末を伝える」

??「解りました!」


秘書艦を伝令役に任命した後、進撃提督は急ぎ元帥直通の番号に連絡を入れる。

余談だが、本来元帥直通の番号を把握しているのは限られた一部の者だけになる。

一つは大将クラスの将官提督。

一つは元帥付の秘書艦娘二名、秘書艦娘補佐官二名、秘書艦娘書記士二名。

上記二つのパターンに限られる。

大将は第壱将から第拾将まで、全部で十名。

秘書艦娘は全部で六名。

合計で十六名が元帥直通の番号を把握している事になる。

しかしこの中以外で、二名だけ例外的に元帥への直通番号を把握してる人物がいる。

一人は進撃提督。

先の新鋭中将提督叛乱事件を解決に導いた張本人である。

彼は大佐だが、その業績と元帥自身が彼を心から信頼しているという事で元帥直通の番号を知らせてある。

もう一人は中将クラスの提督で、前元帥を父に持つ鋼鉄提督。

女性の身でありながら物怖じする事がなく、破天荒な性格でも知られており、彼女も進撃提督同様に先の大叛乱事件での功績、現元帥への信頼が厚い事で特例的に元帥直通の番号を把握している。

80 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/29 21:50:18.44 2zwRWqcMo 40/385

進撃「…元帥、嫌な予感は的中しているかもしれません。やっと平和が訪れたと思っていたんですけどね」

元帥『こちらでも人物の特定は済んだ。やはり提督の座を剥奪された人物だったよ。当時の罪状は艦娘に対する性的虐待及び非人道的思想に基く拷問虐待…正直、目に余りすぎる行為の数々だ。これは、新鋭に匹敵する海軍の闇の部分のもう一端とも言える』

進撃「発見できてないだけ、そんなのは数多に及ぶんでしょう。新鋭の場合が顕著すぎた、そう考えるべきです」

元帥『かもな。済まないがこいつの件は君に一任する。危険な任務だが、どうか頼む』

進撃「智謀さんから頼むって言われて断ったら後が怖いでしょう」

元帥『ふっ、減らず口を…先の件だが、川内の身に危険が及ぶと判断した場合は躊躇するな。君の従える全戦力を一気に投入してでも救出しろ』

進撃「解りました。では、失礼します」


ブツン…


ガチャ…


??「提督、霧島には提督の言葉をそのまま伝えておきました」

進撃「ああ、サンキュー。折角暇だったのにさぁ…無駄な面倒は御免被りたいもんだよ」

??「また直そうやって暇暇って…川内さんが危機的状況かもしれないんですよ!」

進撃「へぇへぇ…まぁ、確かに川内が危険に晒されるのは俺としても困る。全戦力は流石にここが空になるから難しいが、主力を送り込むくらいはしておかないとな。榛名、出撃命令だ。お前を旗艦として赤城、飛龍、陸奥、衣笠、神通は準備が整い次第抜錨。途中、霧島達と合流したらそこで聨合艦隊を編成、目標は川内の救出だ」

榛名「はい!」

86 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/30 22:03:03.76 azXAa6f9o 41/385

-裏と表-

提督「例の事件で進撃の艦隊が動き出したって?」

加賀「はい」

提督「へぇ…じゃあ今回は進撃様に面倒ごと処理してもらって万々歳だな」

加賀「エリート提督への足掛かりが滞りますよ」

提督「僅かな差だ」

加賀「塵も積もれば山となる。僅かな差も日を追えば莫大な差として生まれ変わると思うけれど?」

提督「…てめぇ、何が目的だ」

加賀「別に、目的なんてないけれど。何を勘繰っているのかしら」

提督「ふっ、くく…よせよせ、俺の真似事のつもりか。俺を相手にプロパガンタなんて百年早ぇよ。図が高ぇ」

加賀「……」ギリッ…

提督「進撃が出張ってくるって事は、そこの艦娘が出撃するって事だ。あいつはとにかく熱い男だ。普段は飄々と構えてるくせに、いざてめぇんとこの艦娘や身内知り合いが窮地に陥りゃ烈火の如く怒りやがる。で、お前が今回無駄に食い下がる一つの理由…大方、赤城が出張ってくる可能性があるからだろう?」

加賀「……」ピクッ

提督「はい図星。一航戦の一翼、堅忍不抜の赤城か。そんなに会いたいか」

加賀「……」

提督「黙ってちゃ解らん、答えろ」

加賀「会いたいです」

提督「そうか。なら好きにしろ」

加賀「ぇ……?」

提督「ただし、何の通達も受けていないこの鎮守府の艦娘がノコノコと出向いた挙句に任務の邪魔でもしようものなら、俺の首は無論飛ぶ可能性が高いが、お前への処罰も相当なものになるだろうな。それだけで事足りればまだ御の字だ。残りの四人だが、こいつらも漏れなくお前の身勝手な行いによって見事なとばっちり食らって皆で仲良く、はい合掌!こうしてハズレ鎮守府はその短い人生に終止符を打ったのでした、と」

加賀「……」

提督「どうだ、少しは考え無しの行動は慎もうって気になったか」

加賀「…出過ぎた真似でした」

提督「……はぁ、ったくよぉ、ちっとは欲に目覚めたかと思えば直これだ。もっとぶつかって来いよ。なんだそりゃおい…お子ちゃまの主役争いの駄々っ子じゃねぇんだぞ。拗ねたツラして何か変わるのかダァホ」

加賀「思った事を言葉にしただけです」

提督「ツラも鉄面皮なら性格も鉄製かよ。バーナーでこんにゃく並みに柔らかくしてやろうか、おい」

加賀「余計な世話です」

提督「くくっ、そう拗ねるな。ようはあっちが表立って動くならこっちは裏方として動けば良いだけだ。主役は進撃に譲ってやれ。こっちは裏だ」

加賀「裏って…」

提督「帯同には鳥海と長良を同行させろ。頭脳と足は必須だ。そこにお前の火力を備えれば万が一に際した時に一点突破くらいは可能だろう」

加賀「では…」

提督「辛気臭ぇツラで居られるよりはましだ。とっとと行ってこい」

加賀「…ありがとうございます」

87 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/30 22:03:42.59 azXAa6f9o 42/385

満潮「…で、何!?」

提督「あぁ?別になんもねぇって、執務作業終わったから談話室でテレビでも見ようと思ってきたら、お前等が居たってだけじゃねぇか」

「ご主人様、お料理番組好きなの?」

提督「んなわけあるかダァホ。チャンネル変えようとしたらてめぇがおぞましい剣幕でこっち見てくっから仕方なくこの番組終わるまで待ってんだよ」

「さっすがご主人様♪お優しいのねぇ☆」

提督「片方のお下げ斬り飛ばしてバランス取れなくしてやろうか、コラ」

「も~、直そうやって心にも無いことを~」

提督「ちっ、鬱陶しい奴だなぁ、ったくよぉ…」カチン…シュボッ…

満潮「あのさぁ、あんま目の前でタバコ吸うのやめてくれない?臭いから」

提督「やなこった」

満潮「むっかぁ…!」

「そう言えば加賀さん、鳥海さん、長良さんでさっき何か話し合ってたけど、何なんでしょう?」

提督「ミッションインポッシブルだ」

満潮「は?」

提督「表で主役が活躍するから裏方役で出張ってくんだよ」

「はいぃ?」

提督「あぁもううっせぇな、料理番組でも見てろよ!つーか、お前等二人はちゃんと入渠済ませてあるんだろうな」

満潮「はぁ?いきなり何よ」

88 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/30 22:05:47.45 azXAa6f9o 43/385

「この間の演習で少し確かに掠りはしましたけどぉ、別にあれくらいじゃ要りませんって。ねぇ、みっちゃん?」

満潮「馴れ馴れしい変なあだ名つけないでよ、全く…」

提督「じゃあ二人とも入渠は済ませてねぇのか」

満潮「漣も言ってたでしょ。掠った程度で別に艤装壊れたとかじゃないし、ほっときゃ自然にこんなの…」

提督「いいからさっさと入渠して来い」

満潮「だからぁ…こんなの、ドック入りにはまだ早いって…」

提督「ゴチャゴチャ抜かさずさっさといけっ!」

満潮「……っ」ビクッ

「……っ」ビクッ

提督「……ちっ、余計な事で声出させんじゃねぇよ。ざけやがって…いいか、掠り傷程度ってんなら入渠にもさして時間とらねぇだろう。さっさと入ってそれから遊ぶなり寝るなり好きな事やれ。ったく、胸糞悪ぃぜ…」ガタッ…


スタスタスタ……


「こわぁ…」

満潮「な、何なのよあいつ…」

「はぁ、ご主人様って怒るとマジコワだし、入っとかないとダメですよねぇ」

満潮「なんか屈するみたいで気に入らないわ…」

「またまたぁ、そんな事言ってご主人様がブチギレしたらみっちゃんの所為ですよー」

満潮「だからそのみっちゃんっての止めなさいよ!」

「うーん、じゃあ…みーちゃん?」

満潮「伸ばしただけでしょうが!」

「みーすけ」

満潮「殴り飛ばすわよ」

「High tide?」

満潮「英訳してんじゃないわよ!」

「も~、要望多すぎですぅ」

満潮「もうっ、ほら!早い所入渠済ませるわよ、漣!」スタスタ…

「ふふっ、ほいさっさー♪」タッタッタ…

89 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/30 22:09:28.26 azXAa6f9o 44/385

-鳥かご-

川内「くっそぉ…この建物、どうなってんのよ。きた時と同じルートを遡ってる筈なのに…」


彼女は進撃鎮守府に所属する川内型一番艦軽巡洋艦、そのネームシップ川内。

彼女は今、作戦任務を終えて撤退行動中なのだが、そこで不測の事態に見舞われていた。


「忍の艦娘さぁん、どこかなぁ?逃げれないよぉ…この建物からはねぇ」ツカ ツカ…

川内「」(あいつ…!)

「どうせ近海に仲間が居るんだろう?別に電波妨害はしてないから、通信手段があるなら呼べばいいんだよ。私もね、サンプルは多い方が嬉しいって常々思っているんだ。人って言うのは性格が十人十色、皆同じではないように艦娘もまた十人十色、同じ色はしてても性格までは似ないだろう?そこがいいんだ。それに加えて、艦娘には特別な記憶が備わっている…何十人目だったかなぁ、あれは…ある時、突然うわ言の様に喋り始めてね」

川内「……」

「私も最初はまた壊れたかと少し興味を削いだんだけど、聞いてるとどうも違う。増強剤を投与し続け、情報全てを吐き出させたあとはまぁ、望み通りに殺して上げたんだけどね?あれは興味深かったぁ…興奮さえもしたのは久々だった。虫の息だったのに堪り兼ねてその艦娘を滅茶苦茶に犯してね…気付いたら死んでたよ。まぁ、殺してって言ってたんだし、約束は守ったよね」

川内「もう喋らなくていいよ。胸糞悪いから」

「ふふっ、なぁんだちゃんと近くに居るんじゃないか。独り言だったら流石にちょっと格好付かなかったからある意味これは助け舟だね」


スタッ……


川内「あんたは人なんかじゃない。獣以下だ」

「ふふっ、獣か。随分だなぁ…っていうか、君も結構…ふふ、いい身体にいい顔してるねぇ。善がり狂う様はさぞ見ものなんだろうなぁ…それとも、もう所属の鎮守府で提督とくんずほぐれつなのかな?」

川内「もう喋らなくていいから。あんたは私が殺処分にする」

「私を殺処分?出来るのかい?」ニタァ…

川内「武装も何もない奴に、私が遅れを取るとでも?」

「ここは陸だよ?君は艦娘…海上でしか艦娘は本領を発揮できないっていうのは、既に立証済みだよ。つまり、君は鳥かごの中の哀れな雛鳥って事さ。ここは私の聖域…招かれざる客には相応の咎を背負ってもらう。が、君は艦娘という事で、特例処置を施そう。大人しく私の実験に付き合うのであれば、解体処分は勘弁してあげてもいいよ。最も、私の暇潰しも兼任してもらうから、ショック死の可能性は否定できないけどね?」

川内「じょーだん…趣味でもなければタイプでもないっての」

「だから屈服させるのが楽しいんじゃないか。そこも含めた実験と研究なんだから」

川内「この、下衆が…!」

「それは私にとって褒め言葉。そういう悪態つく子を捻じ伏せる時が一番興奮できるよ。俗に言うレイプってやつだ。理不尽な力で捻じ伏せ弄る。艦娘って言ったって結局は陸じゃその程度なんだよ」ニヤニヤ…

川内「絶対に、許さない…!艦娘に定められた禁忌を破ってでもあんたは私が倒す…っ!」

90 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/30 22:09:55.65 azXAa6f9o 45/385

加賀「概要を説明します。目的地は南西方面にある無人島付近、そこにある廃れた研究施設です」

鳥海「研究施設?」

長良「深海棲艦の泊地とかじゃないの?」

加賀「違います。お二人とも、最近艦娘が失踪するという事件が頻発してるのは既にご存知と思います」

鳥海「ロスト・シップ事件ですね」

長良「あー、怪談話にしてはちょっとねぇ…」

加賀「攫われたであろう艦娘の所在がその研究施設にあるという情報を得ました」

鳥海「けど、そんな重要な任務をこのハズレ鎮守府に赤レンガが依頼してくるはずありませんよね?」

長良「悔しいけど、その通りだよね。なのにどうして私達が準備して抜錨するのかなって話、だよね?」

鳥海「ええ、長良さんの仰るとおりです」

加賀「申し訳ありません。初めに謝っておきます。これは、半分以上が私の我が侭によるものだという事を前提に話をさせて頂きます」

鳥海「我が侭?」

長良「えぇ!?加賀さんの我が侭とか、すっごい貴重っていうか夢でも見てるんじゃないかってレベル…」

加賀「……その任務を任されているのは進撃鎮守府との情報を得ました。誰が出撃しているかまでは流石に把握していませんが、私が今回無理強いしたのは一つの願いを叶える為でもあります」

鳥海「なるほど…進撃鎮守府で思い浮かびました。あそこには加賀さんと同じ一航戦である堅忍不抜の赤城さんが着任されている鎮守府でもありましたね」

長良「えっと、どーいう事?」

鳥海「…会いたいんですね、赤城さんに」

加賀「ええ…ただ、顔を遠くから見るだけでもいいんです。ですので、その施設へ直接潜入するなどの行為にまで発展するかは現時点では考察に入っていません。ただ、顔を見たい…それだけです」

長良「そっかぁ…そういう事なら、協力しない訳にはいかないよ、ね?鳥海さん!」

鳥海「ふふ、ええ…困っている仲間が居るのなら助ける。当たり前の事じゃありませんか」

加賀「…ありがとうございます」ペコリ

鳥海「それにしても、益にならないと解っていながら承諾した司令官さんも随分と人間的に成長されましたね」

長良「ね~、あの司令官が許すとは思えない内容だもん」

加賀「辛気臭い顔で近くに居られるのが目障りなようです。余り感情を表に出す事が無いので、その違いに気付く辺りがあの方らしいとは思いますが、流石にちょっとイラッときました」

長良「あははっ!加賀さんがイラッとくるんだから、多分私や他の子だったら大爆発だねぇ」

鳥海「では行きましょう。もしもの場合には無論備えるんですよね?」

加賀「はい。あくまでもこちらからは動きませんが、止ん事無き事態に際してはその限りではありません。責任は全て私が引き受けます。遠征任務の最中など適当な理由をもって援軍として駆けつけます」

長良「よしっ!それじゃあ行きましょー!」

91 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/30 22:10:42.58 azXAa6f9o 46/385

榛名「霧島!」

霧島「榛名、皆、着てくれてありがとう。やっぱり川内からの応答が無いのよ」

赤城「それじゃ皆さん、何か不審な点が無いか偵察お願いしますね」ビュッ

飛龍「こっちは周辺警戒お願いね!」ビュッ

陸奥「あれ、木曾に利根さん、時雨ちゃんは?」

霧島「施設近海まで偵察に向かってるわ。もう直戻ると思うけど」

神通「姉さんに限って、と思う所はありますが…やっぱり心配です」

衣笠「まぁ、そうだよね。出来るなら早い段階で突入したい所だけどさ、榛名ちゃんどーする?」

榛名「来る途中に深海棲艦は居ませんでしたけど、逆にそこが不気味なんですよね。それに川内さんは任務に関しては時間厳守を重んじる人ですから…赤城さん達の偵察機から報告があり次第、私達も突入したいと思います」

陸奥「おっけー。体は解してあるからいつでも大丈夫よ」

衣笠「神通、大丈夫?無理してない?」

神通「はい。それに、姉さんだって頑張ってるんです。私が心配顔のままでは逆に姉さんに申し訳ありません」

衣笠「そっか、神通は強いね」

陸奥「大丈夫よ。川内ならきっと、大丈夫」

神通「はい…!」

赤城「皆さん…」チリッ…

榛名「赤城さん?」

赤城「施設周辺に深海棲艦を確認しました。ですが、これは…」

飛龍「どうかしたの?」

赤城「異質、としか表現のしようがありません。陸地に深海棲艦が沸くなんて…」

衣笠「え…!?」

飛龍「霧島、利根さん達は戻らない」チリッ…

霧島「え?」

飛龍「こっちもどうやら突如出現したらしい深海棲艦、それと交戦中だ」

榛名「聨合艦隊は無理ですね。隊を二手に分けましょう。利根さん木曾さん時雨ちゃんの援軍に向かう隊と川内さんを救援に向かう隊、二手に分けます」

赤城「どう分けますか?」

榛名「霧島、衣笠さん、飛龍さんで利根さん達の援軍に向かって下さい。私と赤城さん、陸奥さんに神通ちゃんで川内さんの救出に向かいます」

陸奥「了解よ」

神通「はい!」

赤城「飛龍さん、くれぐれも…」

飛龍「うん、慢心はダメ!ゼッタイ!注意は怠らないよっ!」

赤城「はい!」

92 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/01/30 22:11:22.33 azXAa6f9o 47/385

長良「この辺り、だよね」

鳥海「はい」

加賀「…みつけました」チリッ…

長良「さっすが加賀さんの艦載機!」

加賀「ですが、これは…」

鳥海「難有り、でしょうか?」

長良「むむ?」

加賀「隊を二手に分けてそれぞれ別行動を取るようです。片方は、先遣隊の援軍へ、もう片方が施設内部へ突入するみたいですね」

鳥海「どちらを選ぶかは、加賀さんにお任せしますよ」

加賀「…行き先は決まっています。施設側です」


海軍が生み出した闇の数々。

人の咎が生み出す欲望の数々。

それら怪物を押さえ込み御した者だけが真の悪魔として世に降臨する。

果たして悪魔として覚醒を果たした怪物は何人居るのか。

これはまだ、その足掛かりにしか過ぎない。

96 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/01 00:04:11.48 sxOR46ybo 48/385




~聖域~



-黄泉比良坂-

川内「くそっ」サッ…

「あはははっ!良く動くなぁ…素晴らしいサンプルだ。活きも良し、屈服させた時を想像しただけ射精ものだ」

川内「あんた…その、身体は…」

「あぁ、これかい?」ズルッ…

川内「まさか、それ…深海棲艦の艤装か!」

「ご名答。細胞のサンプルを幾つも育成してね。自分に合うものを幾重にも研究して、合致したものを自らに投与してこうして生やしたって訳さ」

川内「道理で…あんた一人でも艦娘を襲撃できたわけだ」


ボゴオォォォン ボゴオォォォン


「……!誰だ、私の聖域へ無粋な砲撃を行う奴は…!」ギリッ…

川内「ははっ、そりゃあ私の仲間に決まってるでしょ。私が定時を過ぎても戻らないんだから突入に作戦内容を変更してたって何ら不思議は無いねぇ」

「許さん…私の、私だけが…許されるんだ。この、領域では、私が神だ!聖域を侵す者は何人たりとも生かしては帰さない!君も、君の仲間も、纏めて全て私の研究サンプルに加えてやる!神に逆らった罰を、与えてやる」

川内「何が神だよ、ふざけないで欲しいね。提督の地位を剥奪されただけの、あんたはただの犯罪者さ!」

「犯罪者だと…?それこそふざけるなよ、艦娘風情が…!」

川内「その艦娘風情にこれからあんたは倒されるんだよ。寝言がこれ以上通用するなんて思わない事だね。時代劇風に言えば、ここが年貢の納め時って奴さ。大人しく縛に付いた方が賢明だよ」

「時代劇風と言うなら、こういうのもお約束なんじゃないかな?」パチンッ


ゾロゾロゾロ……


川内「げっ」

「斬り捨て御免って奴?いや違うかぁ…死人に口無し、かな?」ニヤッ…



赤城「なんて禍々しい佇まいでしょうか…地獄にあると言う死後の世界、黄泉比良坂を髣髴とさせます」

榛名「余り長居したいとは思いませんね」

陸奥「ホント、これじゃ地獄の入り口って言われても頷くわ。まんま、地獄に来ているみたいだもの」

神通「心なしか空気も重いです」

赤城「ですが足踏みしている暇はありません。私はここで周辺の哨戒を担当します。いざと言う時に退路を絶たれては元も子もありませんからね」

榛名「解りました」

赤城「くれぐれも、目的を違わないで下さい。私達の任務は川内さんの救出です。現状でこの施設の男を捕縛できるだけの戦力が無いと判断した場合は、無理せず撤退して下さい」

陸奥「勿論よ。病院送りは二度と御免だしね」

神通「はい…!」

97 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/01 00:08:14.29 sxOR46ybo 49/385




ツカ ツカ ツカ……


ザワザワ……


スッ…


??「ご用向きは何でしょうか」

提督「大佐程度のペーペー提督には元帥殿はお目通しすら叶いませんか、大淀さん」

大淀「白々しい言い草ですね。元白夜の艦隊を指揮されていた提督さん?」

提督「明けの明星は非常に美しいんですよ。薄っすらと照る太陽が顔を覗かせるほんの前、東の空に現れる彼女の輝かしさといったら、そりゃあもう太陽すらも出てくるのを躊躇うほどだ」

大淀「中身の無い詩人を気取った所で何も変わりません。自らその地位を捨てておきながら、この地に足を踏み入れる神経を疑います。話題転換の様は相変わらずと、そこだけは褒めておきます」

提督「やれやれ…ロスト・シップに関する重要な情報がある、って言えばそれじゃあ通してくれますかね?」

大淀「……」ピクッ


ガチャ…


大淀「大和さん…!」

大和「元帥が通してよいと」

大淀「ですが、彼は…!」

大和「元帥のご意思です。構いません」

提督「だ、そうですよ。秘書艦娘補佐官殿」

大淀「…解りました」スッ…


パタン…


元帥「久しぶり、と言うべきですか。白夜提督」

提督「開口一番嫌味から入るとは、流石は智謀元帥…」

大和「口を慎みなさい。元帥の御前です」

提督「やれやれ、お堅いねぇ…」

元帥「簡潔に内容をお願いします。要点の伴わない会話は疲れるだけです」

提督「じゃ、ズバリ。ロスト・シップ事件、こいつについて一つ提案がある」

元帥「……」

98 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/01 00:10:04.62 sxOR46ybo 50/385

提督「お宅等は当時、新鋭の事件に掛かりっきりで耳にも入れてなかっただろうがね。別にあの当時起こっていた事件が新鋭の叛乱だけだった訳じゃあない。二年も前から艦娘の失踪事件は続いていたって訳さ。汚点は雪がれないってね。野放しにした期間が長すぎたんじゃないかね?」

元帥「だからこうして今、対処を急がせています」

提督「わかっちゃないねぇ…それが遅いってんですよ。向かわせてるのは進撃の艦隊でしょう。あいつ等は優しすぎる。必ず撃ち漏らす…ここで逃せば確実にあの闇は肥大する。そうなってからじゃ、全部後手に回るぜ?」

元帥「私は彼を信頼している。君と違ってね」

提督「別に俺ぁあんたにゴマスリに来た訳じゃない。信頼してもらおうなんて欠片も思っちゃない。ただ、忠告しにきただけだよ。アレじゃダメだってね。お宅も俺みたいなおっさんよりは進撃君のような若い方が好みなのは解るがねぇ…」ニヤッ…

元帥「落ちる所まで落ちた発言ですね。それに、彼等を派遣したのは好く好かない等関係のない、文字通り彼等なら任務を全う出来ると考えての処置です。それ以上の良策が君に用意出来るとでも?」

提督「うちの連中なら三人も居ればきっちり仕事をこなすね」

元帥「なんだと…?」

提督「少なくとも逃す事はしない。最低でも殺処分で任務を終えると俺は確信を持って言える。まぁ、別に後手からの更に後手へ回っていいってんならそれでいいんだけどな。俺は所詮、ハズレ鎮守府を任されているだけの見放された提督だ。雑魚が何を況や、お宅等にはなんて事はないでしょうよ。まさに書いて字の如く、蚊帳の外で蝿がブンブン喚いてるってとこですか?」

元帥「……一々言い回しが過ぎますね。そこまでして今更に功績を欲するというの?この期に及んで?」

提督「…落ちた地位を取り戻すには相応に努力が必要だと認識しただけさ」

元帥「ふふっ、お為ごかしを…寝言にも及ばんな。私を相手に丁々発止のやり取りか…無粋な真似だ」

提督「無粋で結構。俺は俺のやり方を曲げるつもりは毛頭無い。だから、俺は中将の地位を捨てたのさ。白夜の艦隊にはその理念に反する者が多過ぎたんでね」

元帥「君の理念だと?面白い。ならばその興に乗ってやる」

大和「元帥…!」

元帥「構わん。私は進撃提督を信じているし、例え逃したとしても彼を責めるような真似はしない。それに今回与えた任務は彼の鎮守府に所属する艦娘の救出命令だ。犯人自体は地の果てまで追って必ず捕らえる気概だ」

提督「だったら、うちの連中がその犯人を捕らえようが殺そうが、別に文句はありませんよね」

元帥「好きにすればいい。ただし、それによって生じたあらゆるやっかみ事をこちらへ決して持ち込まないと今この場で確約してもらう。例えどれだけ不利な状況であろうと、それを受け入れてもらうぞ」

提督「結構。じ・つ・に、結構!そうでなけりゃ人生に張りなんてものはない。ひっっっじょうに俺は今満足している!その一言で十分さ…見ておけ、目に物を見せてやる」

99 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/01 00:10:51.84 sxOR46ybo 51/385

長良「あれ、なんか上空で火花散ってない?」

鳥海「そのようです」

加賀「あれは…赤城さん」グッ…

長良「えっ!空母の中でも加賀さんとタメ張れる位凄いって言う!?」

加賀「比べられるのは不愉快です。ですが、赤城さんの腕が一流なのは認めます」

鳥海「どうするんですか?」

加賀「……」

鳥海「眼前には四面楚歌の艦娘が一人、それは貴女の良く知る正規空母の赤城。私達は救援に迎えるだけの力を持ち、射程距離にいる。で、もう一度だけ聞きますけど、どうするんですか?」


ブブブブ……


長良「あれ、無線?はいぃ?」ガチャ…

提督『腑抜けた返事してんじゃねぇ!』

長良「ふぁっ!?」

鳥海「し、司令官さん!?」

提督『どうせ加賀の事だから仏頂面で棒立ちしてると思ってな』

加賀「……」ピクッ…

長良「」(ず、図星だぁ…)

鳥海「」(毎度この司令官さんは、千里眼でも両目に仕込んであるんでしょうか…)

提督『お前等各自に一つずつ聞くぞ。加賀、お前が赤城と組めば周辺に沸くであろう敵はどう処理できる』

加賀「…完膚なきまでに跡形もなく殲滅できます」

長良「おぉ…!」

提督『鳥海、お前の目算でその施設に潜入してから離脱までに掛かる凡その時間は何分だ』

鳥海「…外面のみで内部は見えません。だから中がどうなっているか…」

提督『御託はいいんだよ!何分掛かるかって聞いてんだからさっさと答えろこのアホメガネ』

鳥海「…三・十・分・で・す・!」イラッ…

100 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/01 00:11:18.63 sxOR46ybo 52/385

提督『さっさと言えよアホタレ』

鳥海「申し訳ありません………………死ね」ボソッ

提督『おいこら、今なんつったおい!』

鳥海「風の音では?」

提督『ちっ……おい、長良。今立ってる場所から東西南北キッチリ把握できてるな?』

長良「うん、バッチリ!」

提督『風の向きと風速は』

長良「南南西、風速はっと……うん、2mってとこかな」

提督『内部に潜入して即座に周囲の空間把握は可能か』

長良「走り回ってれば直じゃないかな?」

提督『上等だ。じゃあ走り回れ。でもって、その中にいるであろう怪物を生け捕りにして来い。てめぇ一人じゃ確実にミスるだろうから鳥海はサポートに回れ。一つ忠告しておくが、長良を絶対に見失うなよ、鳥海』ニヤッ…

鳥海「え?あ、はい…」(どういう事よ)

加賀「どういう風の吹き回しですか」

提督『元帥様からのお達しだ。言っただろ、進撃の艦隊は表舞台の主役を演じてんだ。俺等は裏方、舞台袖からせっせと主役のサポートをしてやるんだよ。で、最後に残るのは後片付け、大掃除って訳だ。俺達ゃ掃除屋だ』

鳥海「また随分とアンニュイな表現ですね」

提督『うっせぇんだよ。生け捕りが無理なら始末しろ。そいつは生かしておいたら後が厄介だからな。いいか、これは命令だ。俺の目が黒い内はテメェ等全員生き残れ。くだらねぇ死に様は見せ付けるな。どうせ死ぬなら誰もが認める大義を成して死ね。それが嫌なら生きて帰ってきて見せろ』

長良「ふっふーん、上等だよね!」

鳥海「ここでカラスの餌になるくらいなら、這ってでも帰りますよ」

加賀「ありえません。生き残る以外の未来は、見えていませんから」

提督『はっ、そいつは上等だ。だったら行け。掃除を始めろ!』

106 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/02 22:19:33.76 6FsocMaOo 53/385

-疾風迅雷-

赤城「第一次攻撃隊、発艦して下さい!」ビュッ


ヒュン ヒュン ヒュン


一人、孤軍奮闘を続ける赤城だが、いつ終わるとも解らない持久走的展開。

こういう展開こそ赤城は内心最も嫌っている。

いつ終わるか解らない。

それは燃料や弾薬的危惧は勿論だが、突き詰めれば勝利への光すらも霞む事にある。

赤城は苦虫を噛み潰したような表情で撃墜した先から蛆の如く沸いて来る深海棲艦にイラ付き始めていた。


ボゴオォォォォォォン


何度目かの爆音が響き渡り、噴煙と硝煙の香りが辺りを支配する。

自ら巻き起こした強風に髪の毛を乱され、それでも赤城は一点を見据えて何度目かの構えを取る。

だが死角から飛び込んできた深海棲艦に気付くのに遅れ、赤城は態勢を大きく崩して転倒してしまう。


赤城「くっ…不覚…!」ザッ…

重巡リ級EL「シ、ネ…!」

赤城「この、程度…!」ググッ


強引に体勢を立て直そうと身体を捻った次の瞬間、彼女とリ級ELの間に何か影が割り込んだのを赤城は確認する。

それは赤城の応答や反応を待たずに、一気にリ級ELの胴体部分を艤装諸共一発の砲撃で破砕する。

107 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/02 22:22:22.89 6FsocMaOo 54/385



ボゴオオォォォォォン


ザザザッ…


??「邪魔邪魔♪」

??「長良さん、そのまま直進です!」

長良「オッケー!じゃあね、赤城さん!」ダッ

赤城「ぁ……」アゼン…


白い鉢巻にショートポニーテール。

白を基準にした赤茶色のラインが入ったセーラーチックな羽織に朱色の袴、片手で易々と扱っていたのは単装砲だっただろうか。

一瞬の事で赤城もそこまで目視するに至らなかった。

そして自分の事を知っていたという事も彼女にとっては言葉を詰まらせる要因の一つだった。

後から続いてきた紺のセーラーに赤いリボン、真っ白なミニスカートを靡かせた知的なイメージ漂う艦娘もまた赤城を一瞥だけして目の前を一気に横切る。

彼女の口から発せられた『ナガラ』と呼ばれた名に、赤城は覚えが全くなかった。

だが、赤城を本当に唖然とさせたのは次に現れた艦娘だろう。


加賀「包囲を突破します。赤城さん、構えて下さい」

赤城「…っ!加賀、さん…!?」

108 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/02 22:23:01.38 6FsocMaOo 55/385

川内「このっ…離せっ!!」ググッ…

「いいねぇ、いいよ…その強気な目、そそるなぁ…」ニヤッ…

川内「下衆が…!」

「下衆で結構。多勢に無勢だったね。元々こいつ等は君達艦娘鹵獲用の作業用ロボットみたいなものなんだ。一匹一匹は雑魚だけど、こうして蛆の如く際限なく沸いてくれば艦娘もやがては戦意を失い、隙が生まれ、捕らえられてジ・エンドって訳さ。まさに!今の君の境遇がソレだよ」

川内「この、変態野郎…!」

「さっきから誉めちぎってくれるね。もしかしてそっちの口もイケるのかい?」

川内「……!」ギリッ…

「今この場で弄って遊んでもいいんだけど、さっきの音がどうにも気になる。大方、君を救出に内部へ侵入もしている事だろうし、どうせだからお仲間全員、仲良く皆で私の夜伽を手伝ってもらおうじゃないか」

川内「はぁ…ホント、うちの提督とは雲泥の差だよ、あんた。お前みたいな腐った奴が治める鎮守府に行き着かなくて本当に良かったって思うよ」

「なんだと?」

川内「危ない橋も時には渡って見るもんさ」ニヤッ…


──主砲!砲撃、開始!!──


「…っ!」


ボゴオオォォォォォン


榛名「川内さん!」

陸奥「無茶しすぎよ!」

神通「姉さん!」

川内「皆、ありがと」スタッ…

109 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/02 22:23:28.02 6FsocMaOo 56/385

「ちっ…」

榛名「貴方が今回の一連の事件の首謀者ですね」

「だったらなんだ」

榛名「今回は…悔しいですが撤退します。ですが、必ず貴方には罰を受けて頂きます」

「くくっ…この手の聖域なら幾らでも建造可能さ。その頃には、君の所の艦娘の一人や二人は私の虜になってるかもしれないねぇ…」

陸奥「反吐が出るわね」

神通「……!」

「逃げたまえよ。私は一向に構わない。次はもっと根深い深淵の闇を披露しよう…」

榛名「陸奥さん、先導して下さい」

陸奥「了解よ」ダッ

神通「姉さん、動けますか?」

川内「何とかね。榛名、感謝するよ、ホントにさ」

榛名「ええ、川内さんを見捨てたりするもんですか」ニコッ


最後まで警戒する榛名を尻目に、陸奥から始まり最後に神通がその場から次々と離脱する。

一歩、二歩と歩を後退させ、榛名も離脱の姿勢に入った次の瞬間だった。


ボゴオオォォォォッ……


榛名「っ!?」


ガシィッ


榛名「これは…手……!?」

「逃げても良いとは言ったが、ただで逃げれるとは一言も言ってないよ。せめて君くらいはここに残って私の暇潰しの相手をしてくれない事には、フラストレーションしか溜まらないじゃないか」

榛名「離し、な…さい!」バッ

「くくっ」


ガラガラガラ……


榛名「退路が…!」

「これはこれは…君と私を繋ぎ止めるラビリンスの出来上がりじゃないか。さぁ、心行くまで楽しもうか」ニヤァ…

110 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/02 22:23:54.82 6FsocMaOo 57/385



──敵、発見!砲雷撃戦、用意!──


榛名「えっ!?こ、声…どこから……」キョロキョロ


──主砲よーく狙ってー…撃てーっ!!──


ボオオォォォン ボオオォォォン ボゴオオォォォォォォン


「くっ…!」


パラパラパラ……


距離を取って対峙していた榛名と男、その間を綺麗に引き裂くようにして真ん中の地面に大きな亀裂が入る。

それが幸いしてか、榛名の足を鷲掴みにしていた手も消えている。

そして亀裂を生んだ原因、その正体が砂埃の中にシルエットとなって浮かび上がる。


榛名「だ、誰なんですか!?」

??「私達は…」

??「掃除屋です」

??「ここから先は…」

??「私達にお任せを」

111 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/02 22:24:45.76 6FsocMaOo 58/385

-完全無欠-



ザザザザッ


バッ


ビュッ


ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン


ボゴオオォォォォォォン


息の合った攻防一体とも言える究極の足運び。

一人が放ち攻勢に出れば、一人が下がり防衛を築く。

互いが互いを信頼すればこそ成せる脅威的な連携の数々。

僅か二人、空母の二人だけで何十隻と迫り来る深海棲艦の群れを一矢の下に掃討する。


赤城「上々ね」

加賀「みんな優秀な子たちですから」


既に赤城に先程までの焦りはない。

むしろ最初よりも冷静に、かつ大胆にすらなっている。

二人は共に弓を携えたまま一気に駆け出す。

赤と青、それぞれの袴が靡いて揺れる。

宛ら二条の閃光が走り抜けるが如く、深海棲艦との間合いを同時にずらして、再度構えた弓から同時に矢を放つ。


ザッ


ビュビュッ…


赤城「艦載機のみなさん、用意はいい?」サッ…

加賀「いきます」サッ…

赤城「敵機直上、急降下!」

加賀「敵機側面より突撃。薙ぎ払って下さい」


斜め前方、上空高く舞い上がった赤城の艦載機はそこから一気に急降下、無数の爆撃を放ちながら深海棲艦の群れへ一斉に襲い掛かり、加賀の放った一矢は大きく大きく弧を描いて深海棲艦群側面で艦載機へその姿を変えるとそのまま低空飛行を維持して雨霰の如く攻撃を展開する。

112 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/02 22:25:13.87 6FsocMaOo 59/385



ボンッ


ボボボンッ


ボボボボボゴオオォォォォン


宛らそれは連鎖して炸裂する火薬の如く、端から順々に爆発を起こして深海棲艦が殲滅されていく。

そして残った一群の只中へ、その時を待っていたと言わんばかりに二人の空母が真っ直ぐその一群を見据えて弓に矢を番え、それを放とうと待ち構えていた。


ビュッッ


無言で放たれた矢はその姿を艦載機へと変えて、群がる深海棲艦へ最後の攻撃を仕掛ける。


ダダダダダダダダッ


ボゴオオォォォォォン


何度目かの大爆発。

ついに二人の空母だけでその場に出現していた深海棲艦の群れ、その悉くを完膚なきまでに制圧してしまった。

116 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/04 20:41:14.18 OIw/5g32o 60/385

-画竜点睛-

未だ砂埃でその姿が見えない二つのシルエット。

榛名は声だけを頼りに記憶を掘り起こして見るが、どれも聞き覚えのない声。

そんな榛名の考えなど露知らず、二人の内一人が榛名へ声を掛けた。


??「拘束は解けてるはずです。急ぎ脱出組に合流して下さい」

榛名「けど、あなた達は…!」

??「だいじょーぶ。これが私達の仕事だからね」


榛名の問いにもう一つの影がそう答える。

それと共に体勢を崩していた男も持ち直し、薄っすらと映るシルエットを睨み付ける。


「お前等…この艦娘達と同じ鎮守府の者じゃないのか」

??「あははっ、違う違う。進撃提督さんの所に所属できたらどれだけ幸せかなぁ」

??「ある意味、確かにそうかもしれないわね。さて、榛名さん…ですよね?どうぞ、ここは私達に任せて先を急いで下さい」

榛名「けど…」

??「言ったでしょ。これが私達の仕事なの」

??「巻き込まれてからじゃ遅いですよ」

榛名「感謝します…!」ダッ

「折角のサンプルを…邪魔な連中だなぁ…!」


ボゴオオォォォ……


亀裂の生じた箇所から深海棲艦の艤装と思える無数の顎と砲塔が顔を覗かせる。


「冥土の土産に、お前達の顔は覚えておいてあげるよ」


ビュオオォォォ……


多数の砲撃によって生じた崩落箇所から風が吹き込み、舞っていた砂埃を一掃する。

今までシルエットのみだった二人の姿が、そのお陰で漸く輪郭を帯びて姿を形作る。

117 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/04 20:41:44.35 OIw/5g32o 61/385

長良「建物そのものがもしかして…」

鳥海「どうやらそうみたいね。まるで深海棲艦の泊地よ…」

「所属を名乗れ、艦娘共ッ!」

長良「そう言われて答えるわけないでしょ!」

鳥海「趣味が悪すぎます。あなたには、ここで倒れてもらうのが一番かもしれませんね」

「どいつもこいつも…どうしてこう、私の邪魔をしたがるのか…」

鳥海「倫理から逸脱しているからでしょう」

「倫理…?倫理だって?アハハハハッ!私は私の掲げた倫理に従って行動しているんだ。逸脱しているって? だったらお前達も倫理からは逸脱した存在だ!私の定めた倫理からはな!ここは、私が司る聖域だ。この聖域で認識されるべき倫理、それは私が定めた倫理のみだ!」

長良「話し合いはこれきっと平行線だよ」

鳥海「そうみたいね」

「跪け、艦娘共!」ザッ

鳥海「長良、タイムリミットまであと十五分。いける?」

長良「うんっ、できるだけ頑張る!」ジャキッ

鳥海「そうね。じゃないと、後が面倒そうだものね」ジャキッ

118 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/04 20:42:11.65 OIw/5g32o 62/385

赤城「加賀さん、ありがとう」

加賀「……赤城さん、あなたが無事ならそれでいいの。私はただ……」

赤城「…?」

加賀「いいえ、過去は過去、と言う事なのかもしれません。今はただ、あなたが無事で本当に良かった」ザッ…

赤城「ま、待って下さい、加賀さん!」

加賀「今の私は、まだあなたと正面を向いて対等に話をできる存在ではありません。話は、聞いている筈です」

赤城「けど…」

加賀「いいんです。それでも…私は一航戦の誇り、忘れはしません」ニコッ

赤城「……」コクッコクッ

加賀「では、失礼します」ダッ


横顔に一瞬見せた加賀の微笑、それだけを残して多くは語らず加賀は赤城に背を向けた。

その背を見えなくなるまで赤城は目で終始追い続けた。

そして彼女の背後から今度こそ聞き覚えのある声が掛けられる。


榛名「赤城さん!大丈夫でしたか!?」

赤城「榛名さん…ええ、私は大丈夫。川内さんは…」

川内「ごめんね、ドジッちゃったよ。まさかあそこまで規模がでかいとは思わなくてさ」

神通「けど、無事で本当に良かったです」

陸奥「よし、それじゃ飛龍達の援護に向かいましょ。折を見てここから迅速に撤退!」

榛名「はい!」(結局、あの声達は誰だったんだろう…)

119 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/04 20:42:51.37 OIw/5g32o 63/385

「ぐっ…!」

鳥海「思ったとおり…」クスッ…

長良「まさかこの艤装、男と繋がってたなんて…」

「おのれ、艦娘風情が…ッ!!」ジャキッ ジャキッ ジャキッ


男が忌々しげに両手を振り上げると周囲に展開されている艤装が一斉に蠢き出す。

しかしそれは鳥海と長良にとっては想定済みの動作。

鳥海の動きに合わせて長良もそれに連動して動く。

そうする事で男の照準をずらし、容易に砲撃を回避できるようになる。


ボボボボボンッ


そして垣根を掻き分けるが如く、一つまた一つと確実に男の艤装を粉砕していく。


ボゴオオォォォォォン


「があっ……!」


艤装を破壊する度に男の悲鳴はその声量を増していく。

そしてついに、男は自らを支えきれずに地面に膝をつく。


「あ、がぁ……ッ!」

鳥海「巨躯を支えるだけの精神力と体力が不足しすぎてますね。それでは最初のインパクトはあっても後が続きません」

長良「あとはねぇ、かなり単調。途中からは私でも先が読めるくらいにユルユルだったよ」

鳥海「悪く思わないで下さいね。これも、命令の範疇ですので…」ジャキッ


ドン ドン


鳥海はそういうと何の躊躇もなく男の両足を艤装で撃ち抜いた。


「────ッ!!!!!!!」


もはや声にすらならない悲鳴を上げて男は暫くのた打ち回った後で、何の言葉も発する事無く意識を失う。


鳥海「残り五分です」

長良「これ担ぐのはちょっと抵抗あるなぁ…」

鳥海「それは私も同じですが…あの司令官さんからネチネチ言われるよりは一時の苦と捉える方が良いかも、ですよ」

長良「うっ……た、確かに…そうかも」

120 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/04 20:43:23.92 OIw/5g32o 64/385

-運否天賦-

加賀「…………」


目を閉じ、ただジッと待つ事数分、加賀は静かに閉ざしていた目を開いてゆっくり振り返る。

そこには気絶した男を担ぐ長良と鳥海の二人が微笑を湛えてそこにいた。


加賀「お見事です」

鳥海「そっちは、どうだったの?」

長良「満足できましたか?」

加賀「そうですね。久々に文字通り、羽を伸ばし羽ばたかせる事が出来た気分です。流石に気分が高揚します」

長良「あはっ、加賀さんの気分高揚頂きまーしたぁ!じゃ、気分上々で、私達も戻りましょうか!」

鳥海「ふふ、そうですね」



満潮「おっ、戻ってきた」

「お帰りなさいでありまーす!」

加賀「ただ今戻りました」

長良「たっだいまー!」

鳥海「戻りました、司令官さん」

提督「ほう、こいつはまたでけぇ土産と一緒じゃねぇか。重畳の至りだ。それと加賀、ちっとツラ貸せ。場所は弓道場だ。今回の一件、その報告書を纏めた後で構わん」

鳥海「こ、これ報告書に纏めるんですか!?」

提督「あぁ?んだよ、文句でもあんのか?」

長良「え、だって…非公式って話じゃなかったっけ?」

提督「ダァホ。てめぇ等の頭の中は揃いも揃ってWindows95のままなのか?アップデートってしないんですか? フリーズしてるんですか?スタックですか?バイオス大丈夫ですか?って話だボケ。俺が連絡入れた時点で既に公式なものに変わってんだよ、アホタレ共」

鳥海「了解致しましたぁ」イラッ

長良「あ、あははは…」(鳥海さん、顔怖すぎだって…)

加賀「解りました。では報告書に纏め次第、弓道場へ向かいます」

提督「それと鳥海、そいつは今から大本営の奴呼ぶからそれまでお前が面倒見ておけ…つってもまぁ、そこまで派手に痛めつけたんだ。そう易々とは起きんだろうがな」ニヤッ…



画して、今回ハズレ鎮守府の面々は公式か非公式か定かではないにしろ、ついに形ある勝利を収める事になった。

そして直接的・間接的にそれぞれに交わったハズレの艦隊と進撃の艦隊。

この運命が吉と出るか凶と出るか、それはまだ誰にも解らない。

確かな事、それはハズレ鎮守府が密かに、だが確実に今前進しているという事だけだ。

125 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/06 17:47:37.70 nNbvBqLco 65/385




~アフターケア~



-始動-

満潮「…これ、どういう事よ」

「漣の頭脳を持ってしても解読不能なのです」

長良「天変地異起きて海面干上がったりしないよね、これ…」

鳥海「稀、というかもはや奇跡です」


ガチャ…


加賀「お待たせしました」

長良「あ、加賀さん!これ、これ!これどういう……」

加賀「訝しく思うのも最もです」


今、五人が目の当たりにしているのは月毎業績表一覧。

艦娘にとっては直接的に関連はしないが、間接的には関連する。

そう、これは提督の評価そのものであり階級に添う働きをしてない場合は降格処分にされる。

艦娘の指揮、作戦、任務方針、錬度の維持及び向上、様々な項目がある。

中でも一括りに業績として数字に反映され、ランキング化してある項目、五人はそこに目を奪われていた。


鳥海「司令官さんの指定席、最下位からまさかの司令官さんが脱出…」

「もしかして、ですけど…この間加賀さん達三人で成した任務のお陰って奴なんですかね、これ」

満潮「だ、だからって何百人もいる中でいきなり真ん中近くまで順位なんてあがる!?これじゃまんま、もうここハズレ鎮守府とかじゃなくなるじゃない。海軍の墓場なんて呼ばれてるから艦娘だって新規着任してこなかったトコよ?」

長良「流石に真ん中くらいまで業績伸ばしてれば、そこそこ新規で新しい艦娘が着任もしてくるでしょうしねぇ…」

加賀「それらの内容も含めて、改めて私から今回の一件について説明します」

126 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/06 18:07:00.71 nNbvBqLco 66/385




提督「おせぇ」

加賀「別に時間指定されていませんでしたから」

提督「ちっ」

加賀「それで、私をわざわざここへ連れてきたのはどういう訳かしら」

提督「今回、お前等が手掛けた仕事で風向きが大きく変わるって事を教えておいてやる」

加賀「風向きが変わる…?」

提督「そう、表向きは変わらずに裏向きにな。お前等が手土産に持ってきたあの男だが、優にここ数ヶ月だけの犯行じゃねぇ。過去に遡って一番古いので二年前。そこから艦娘の失踪事件ってのは偶発的に起こっていた」

加賀「二年も、前から…」

提督「その中であの男が企てたであろう件数は余裕で二桁はいってる」

加賀「その事実と今回の一件で何がどう大きく変わるというのかしら」

提督「一つは俺の業績。だが先にも言ったとおり、表向きはそれだけで何も変わらない。ここがハズレって事は周知の事実であり、それ以上にもならなければそれ以下にもならないって事だ。現在艦娘は着任法の下に定まり、決められた法に則って各鎮守府へ着任している。起因するのがこの提督業績表だ。この表によって相応の任務をこなせるであろう艦娘を割り振り、局地的に戦力が集中しない配慮がなされている」

加賀「ですがそれではここが『ハズレ』と呼ばれる所以がなくなります」

提督「だから初めに言っただろ。表向きは変わらない。が、裏向きには変わるってな。ここに新規で艦娘が着任する事は万に一つも今後はありえない。最も、やらかす奴がいれば話は別だろうがな。前置きが長くなったが、結論を言うとだ……この鎮守府、強いては俺達にとって表向きのこれら一部の法に関する適用が一切されない」

加賀「……は?」

提督「例えば着任法。俺の業績が伸びて順位が上がれば必然的に新規の艦娘が着任する。が、ここは海軍の墓場とも呼ばれるハズレ鎮守府。艦娘自身が突飛もねぇ馬鹿を自分からしでかさない限り艦娘が着任する事はない。矛盾を孕んだこの状況下で何が適用されるのか……裏向きの法が適用される。ハズレ鎮守府には表向きの法、この場合は着任法は適用されねぇ訳だ」

加賀「それでは……」

提督「そう。今回の仕事で恐らくこの提督業績表に名を連ねる俺の名前は順位を跳ね上げる。だが、別にここに新規で艦娘が着任してくる事はねぇ。そしてもう一つ…順位を上げる毎にえぐい任務が増える」

加賀「えぐい、任務…?」

提督「後ろ盾一切無し、命の保障無し、不測の事態は大いに有り!つまり、誰もが敬遠してやらねぇような仕事(モン)がこの鎮守府にゴロゴロと転がり込んでくるってスンポーだ」

加賀「私達を…捨て石にすると…?」

提督「……海軍の表向きはな。理屈はこうだ────」

127 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/06 18:51:29.52 nNbvBqLco 67/385




提督「────見ておけ、目に物を見せてやる」

元帥「…目に物、か。君の昔からの口癖だったな。ならばこの一件で君の艦隊が見事例の男を殺処分、もしくは捕縛して帰還した場合、特例処置を設けてやろう」

提督「んだと…?」

元帥「これは言わばこの場に居る私と君、二人だけで交わされる秘匿の契約だ。表向きではない、裏向きの海軍として交わされる法的処置の力が及ばない、口だけで交わされる極めて薄っぺらで庇護されない、形だけのもの」

提督「てめぇ……」

元帥「伸るか反るかは君が決めろ。代わりに私は君達に他の鎮守府では与り知らない特別任務を定期的に発令する。その任務で君達が死ぬようであれば証拠諸共海軍の方で元凶含めた一切合財を君達と共に抹消する。表に出れば、どれもが海軍にとっては不祥事となりかねない、そんな危険な代物だ」

提督「智謀さんよぉ、あんた随分黒くなったんじゃねぇのか」

元帥「新鋭の一件で学んだんだよ。翳す正義は人によってその色が変わる。だが君も知っている通り、表に出てはならない事実と言うものがあるのは知っているはずだ。隠密の一件がまさにそれだった。世間的には知れ渡るはずもないが、海軍界隈となると話は別だ。巡り巡って陸軍の上層にまで内容が及べば、それこそ海軍の権威は完全に地に落ちる」

提督「だから隠蔽するってか」

元帥「法に接触しない、ギリギリのラインで善を保つ他に現状手立てがない以上、これが最善と私は認める」

提督「くくっ……」

元帥「…?」

提督「…結構。おぉ~いに、結・構!じ・つ・に、素晴らしい!面白い!海・軍・らしい!実に濁ったやり方だ! だが俺は俺のやり方でその全てをきっちり耳を揃えてお前等に解決済みとして報告書に纏めてやる!お前等がゴミだと、クズだと蔑んだ連中を従えて俺達の名を全鎮守府に知らしめてやろう!後から何を言おうが知るか。お前等全員、吠え面を掻く準備だけして提督の椅子に踏ん反り返ってろ!」バンッ

大和「なっ……」

提督「…目に物を見せてやる。反論は許さん、以上だ」

128 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/06 19:32:00.31 nNbvBqLco 68/385




加賀「…大見得切った訳ですか」

提督「啖呵切った分、最初のてめぇ等の仕事は二百点満点だろ」

加賀「何故、それを私に告げたのかしら。別に私達とあなたの間に信頼関係などないはずでは?」

提督「ああ、その通りだな。だから見限りたければいつでも見限れ。口には出さなかったが、智謀の女狐さんなら何だかんだと愚痴りながらもてめぇ等の面倒くらい見るだろうよ」

加賀「今までのあなたの態度を鑑みればどちらに身を委ねるか、なんて解りそうなものですけれど…」

提督「くくっ…仰るとおりで」

加賀「けれど、私は仲間を見捨てるような真似はしません」

提督「ほぅ…」

加賀「私自身はあなたにどう使われようと構いませんが、他の四人がどうかは知る所ではありません。他の四人がもしもあなたの方針に従わないというのであれば、私は仲間の意見を尊重するまでです」

提督「なるほどね…」

加賀「ですが、悔しい事に他の四人があなたの意見を蔑ろにして否定的な意見を述べるとは到底思えない…というのが正直な感想です。結論を申し上げます。大なり小なりの確執はありましたが、これも運命の一つなのだとするのなら、私はその全てを受け入れます。あなたの言葉を借りるのなら、目に物を見せてやる、と言った所です」

提督「くくっ…そいつは重畳の至り────」

129 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/06 19:55:30.63 nNbvBqLco 69/385




加賀「────伸るか反るかは皆さんに委ねます。ただ、私はどうであれここに残るとだけ伝えておきます」

鳥海「きたばかりで行く宛てなんてないもの。はぐれ艦娘なんてごめんだし、私も勿論残るわよ」

長良「司令官はちょっと苦手だけどねぇ…私も残留かな?何気に、私は皆と居るの楽しいから!」

「私はご主人様一筋ですので、移籍とか考えられませんねー♪」

鳥海「え…?」

「…冗談ですよ。あんなおっさんに恋心なんてある訳ないじゃないデスカ」

長良「ぶふっ」プルプル

満潮「ここに居る時点で行く宛てなんてないの解りきってるし、衣食住が揃ってるって点じゃまぁ、残っても別にいいんじゃないの。仕方なくだけど」

「相変わらずみっちゃんはツンツンしてますねー」

満潮「うるっさいわね!だからそのみっちゃんって止めなさいよ!ぶっ飛ばすわよ!」

「だが断る」キリッ

満潮「……こい、つッ!」ピキピキ…

長良「あははははっ!」

鳥海「はぁ、また?ほんとあなた達懲りないわねぇ」クスッ…

「流石みっちゃん!ツンツンしながらも結局同意しちゃう!そこにしびれる!憧れぇ~……ないっ!」ババァァァーーーン

満潮「殺すっ!」

「いや~ん♪」キャッキャ タッタッタ……

満潮「待ちなさいよ、漣!殺すから、待てこらーっ!!」ダッ


ドドドドドドドッ……


長良「あははっ、殺すって言われて待つ人なんていないのに…満潮面白いなぁ」

加賀「真面目な話をしてるというのに……あの緊張感のなさ、少しどうにかして欲しいのだけれど」

長良「まぁまぁ、以前のギクシャクよりはさ、良いんじゃないかな?」

加賀「全く…」

鳥海「それで、こういう結果ですけど早速次の任務はあるんですか?」

加賀「いいえ、現時点ではまだ何も。それ所か今日は丸一日通して私達は自由行動が可能なようです」

長良「えっ!?」

鳥海「え、そ、それってつまり?」

長良「えーっと…休暇?」

加賀「そうですね」

鳥海「嘘みたい…」

加賀「確かに、私も最初聞いた時は聞き返しました」

長良「休みかー。あっ、それじゃあさ……」

130 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/06 20:36:24.33 nNbvBqLco 70/385




-今時の子たち-

長良「い~やっほ~ぅ♪」ピョンピョン

鳥海「出掛けるなんて遠征以外じゃ何時以来かしら」

加賀「たまにはこういう時間を設けるのも必要です」

「まさかの展開」

満潮「ふんっ、何よ!別に行きたいなら四人で行けば良いでしょ!」

「そうなると、鎮守府にはみっちゃんとご主人様の二人きりですよ?」

満潮「うっ…」

加賀「流石の私もそれはお勧めしません」

「でーすよねー?」


今五人は息抜きと称してモール街へ足を伸ばしている。

勿論、普段の服装ではなく私服に着替え、艤装も全て取り外している。

加賀は紺青のシャーリングパンツにクリーム色のタートルネック、その上から紺青のブルゾンを羽織っている。


鳥海「それにしても…」マジマジ…

加賀「な、何か…」

鳥海「あぁ、いえ…普段は和の加賀さんしか知りませんでしたから、これはこれで新鮮ですね」

加賀「それなりに、服には頓着します」ボソボソ…

長良「おぉ、加賀さんがちょっぴり照れてる!」


人一倍キャッキャしている長良はロットンシャツにデニムのスカート、その上にこちらは白のダウンブルゾンを着込んでいる。

鳥海は黒の長袖ワンピース、鉛白色のコットンダッフルコートを着込んでいる。


満潮「それで、どこ行くのよ」

「どこでもばっちこーい!デス!」


腕を組んでちょっぴり不機嫌を装う満潮。

白のブラウス、紺のサロペットにピンクのアウタージャケット、黒のニーソックスと言う出で立ち。

その横でニコニコしている漣は結構派手だ。

赤と白の縞々セーターにバーバリーチェックのプリーツスカート。

白と黒の縞々タイツにモコモコしているミニブーツ。

アンバランスさ具合がにじみ出ている。

131 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/06 21:00:14.27 nNbvBqLco 71/385



長良「漣はまた随分とド派手な格好だよねぇ」

「んー、そうですかね?」

加賀「……これは」ジー…

鳥海「どうかしたの、加賀さん」

加賀「いえ、別に」プイッ

満潮「加賀、あんた今……」チラッ…

加賀「満潮、それ以上は流石の私でも…」ギロ…

満潮「うっ…」

長良「あっ、なーんだ、加賀さんお腹空いてたの?」

加賀「……!///」ギクッ

満潮「ば、ばか…!」

加賀「だ、大丈夫です」

鳥海「ふふっ、今日くらいは無礼講で良いんじゃないかしら。それに腹が減っては戦は出来ぬって古人も仰ってたくらいですからね。まずは腹ごしらえをして、それから繰り出しましょう」

「さーんせー!」


五人は近くにある食処へ足を運びそこの料理に舌鼓を打つ。

ただ何よりも今のこの瞬間がとにかく楽しくてしょうがなかった。

当たり前の事を当たり前のようにやる。

今まではそれすら間々ならなかった彼女達にとって、その当たり前の事がこの上ない幸せに思えた。

美味しいものを食べて、他愛ない話に華を咲かせ、一喜一憂して一日を過ごす。

どこにでもいる女の子達と変わらない、そんな姿がそこにはある。

そしてそこには、普段の険しい表情を見せる艦娘は一人も居なかった。

ただ純粋に、今を楽しむ少女達がそこには居た。

134 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/07 21:46:23.32 SRklzXEWo 72/385



長良「あははははっ!いや~、満潮の剣幕に今の男の子達逃げてっちゃったねぇ」

満潮「ふんっ、何よ!まるで私が悪いみたいじゃない!」

「いやぁ、シチュエーションとしては私のお姉ちゃんに何汚い手で触ろうとしてるのよ!みたいな?」

満潮「は、はぁっ!?///」

鳥海「あら、私って満潮のお姉ちゃんなのかしら?」

満潮「ばっ…だ、誰があんたの妹になるか!///」カー…

加賀「その場合、高雄型五番艦重巡洋艦満潮、になるのかしら」

長良「おぉ、グレードアップ…」

「やったね!みっちゃん!お姉ちゃんが増えるよ!」

満潮「うるっさいわね!」

鳥海「でも、うん、そうねぇ…私はああいうの、ちょっと苦手だから助かったかな?加賀さんだったら────」


加賀「何か相談?いいけれど」

加賀「私の顔に、何かついていて?」

加賀「用がないなら退いて欲しいのだけれど」

加賀「邪魔よ。そこを退いて」

加賀「いい加減にしてくれるかしら」


鳥海「────って淡々となんだか往なしそうよね」

加賀「私を何だと思っているのですか」ムスッ

「地味に似てる…!」

加賀「似てません」

長良「いやぁ、結構真に迫ってると思ったけどなぁ」

加賀「いいえ、似てません。ここは譲れません」

鳥海「いいえ、似てます。ここは譲れません」

満潮「くくっ……」プルプル

長良「あははははっ!ウケるぅ~、似てるぅ~!」

「侮り難し鳥海さん」

135 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/07 22:07:53.51 SRklzXEWo 73/385

加賀「……に、似てる似てないは別として……そんな普段、ぶっきら棒ですか、私」

鳥海「ふふっ、けどそこが加賀さんの味じゃないかしら?キャッキャしてるのは、こっちの三人に任せておけば良いと思うわ。私はね?」

満潮「ちょっと、そこに私を混ぜないでよ!」

鳥海「あら、結構漣といいコンビだと思うわよ?」

「イェーイ♪」

満潮「じょーだんでしょ!?絶っっっ対にイヤ!」

「ひっど~い!」

満潮「ひどくない!」

「みっちゃんのいけずぅ~」

満潮「だからみっちゃん言うな!」

長良「お~…ベストコンビだね、これは…」

加賀「確かに」

鳥海「ふふっ」


この日、彼女達は文字通り、朝から晩まで羽目を外した。

鎮守府への帰宅が夜遅くになったにも拘らず、提督は一言も何も言わなかった。

これが彼なりの艦娘への労い方なのかもしれない。

136 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/07 22:28:10.55 SRklzXEWo 74/385

-交わり-

「ふんふ~、ふふふふ~ん♪」ジャッ ジャッ

長良「ふぅ~、おつかれーっと…」

「朝錬も大変ですねぇ」

長良「ふふ、朝から良い汗掻いて、ご飯沢山食べて、栄養補給したらまた走る!うん、これだよね」

「うへぇ…私にはおおよそ不可能な作業工程ですぅ…そもそもこんな寒い中走るとかもう、無理です」

長良「走ってれば体ポカポカしてあったまるよ?」

「そこに辿り着く前におこたに直行です~っと、完成!」

長良「おぉ!それじゃ皆を呼んでこよう!」

「加賀さんは多分弓道場で、鳥海さんは資料室、で…みっちゃんは自室でグータラしててー、ご主人様はしらな~い」

長良「あはっ、おっけー!探して見るよー!」


加賀「朝食準備ありがとうございます」

鳥海「助かりました」

満潮「うぅ、眠い…」

「あれ、ご主人様は?」

長良「うーん、それが何処に行っても見つからないんだよねぇ」

加賀「どちらにしろ後から顔を覗かせるでしょう。先に食べておきましょう」

長良「さんせー!もうお腹ペコペコ~」

満潮「そういえば、あのアホ面オヤジならさっき外にいたわよ」

長良「えぇ、外かぁ…見てなかったなぁ」

加賀「ご飯が冷めます。あの人は放置しておきましょう」

鳥海「ふふっ、辛辣ね」

137 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/07 22:45:42.64 SRklzXEWo 75/385





カチン……シュボッ……


提督「……ふぅー」


いつからだったか。

煙草を吸うようになったのは。

海軍に入隊した頃は、確か吸っちゃいなかったのは確かだ。

いつからだったか。

転機になったのは。

あのガキと会った時だ。

いつからだったか。

斜に構えるようになったのは。

人の闇を、知った時だ。


提督「空はこんなに、青いのにってか…なぁ、扶桑。ったく、眩しいくらいの晴天に嫌気が差すぜ」


ザッ…


提督「ん…?」

加賀「いつまでそうしているつもりですか。漣が朝食を用意してくれています。他のみんなは既に食べ終わってますので、後はあなただけです。片付けもありますから、早々に終わらせてくれると助かるのだけれど」

提督「あぁ、飯か」

加賀「…?」

提督「ん、何だよ」

加賀「感傷にでも浸っていたのですか」

提督「んだよ、おっさんが感傷に浸っちゃ世も末とでも言いてぇか」

加賀「聞く気はなかったのですが、扶桑…と言うのは、記憶が確かなら扶桑型一番艦戦艦、ネームシップの扶桑で間違いありませんか」

提督「て、てめっ……」

加賀「申し訳ありません」

提督「……ったく、タイミング最低だぜ」

加賀「あの…」

提督「扶桑は以前の鎮守府で俺の秘書艦だった艦娘だ」

加賀「……え?」

提督「ただ、それだけだ」クルッ……スタ スタ スタ……

138 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/07 22:46:11.70 SRklzXEWo 76/385




元帥「これは……」

大和「どうかしましたか、元帥」

元帥「気紛れと言えば気紛れさ。過去の報告書を眺めていて不審な点に気付いた」パサッ…

大和「二年前の…これは、任務結果報告書ですか?」

元帥「ああ…執筆者の項を見てみろ」

大和「白夜……」

元帥「で、こっちがここ最近提出されたハズレ鎮守府の遠征結果報告書だ」

大和「……?」

元帥「ふっ、不審点が解らんか。私は元々書記士を志していた事があってな。何の因果か、今はこの椅子に座っているが、だからこそ気付いた点がある。今手の空いている秘書艦娘書記士はどっちだ?」

大和「第二書記士の三隈は現在手が離せないのは伺ってますね」

元帥「そうなると第一書記士の鳳翔になるな」

大和「どうなさるおつもりですか?」

元帥「人には筆跡と言うものがあってな。勿論、お前達艦娘にもある。あぁ、因みに大和、君の字はとても綺麗で非常に読みやすい」

大和「ふふ、それは誉れですね」

元帥「鳳翔に頼んでこの二枚の報告書の違いについて抜粋してもらう。これが糸口となれば、もしかしたらまた一つ海軍の膿が滲み出てくるかもしれないな」

139 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/07 22:46:42.76 SRklzXEWo 77/385




進撃「所属の知れない艦娘に助けられたって?」

榛名「はい。少なくとも二人居たのは確かです」

衣笠「そんな事あったんだ」

陸奥「全然気付かなかった」

神通「はい…」

川内「じゃあ、私達以外にもあそこに潜入してた艦娘がいたって事?」

飛龍「私の目にも引っかからないなんて…」

赤城「…………」

進撃「どうした、赤城」

赤城「あ、いえ…その、艦載機を飛ばしていたのに存在に気付けなかったなと…申し訳ありません」

榛名「赤城さんは入り口で深海棲艦と交戦してたんですから、それは仕方ありませんよ」

陸奥「そうね。あれもこれもなんて無理よ」

飛龍「ゴメンね。索敵は念入りにって、私が言ってた事だったのにさ」

赤城「いえ…飛龍さんだって利根さん達の援軍へ駆けつけていたんです。気付けなくてもそれは致し方ありません」

進撃「まぁ、報告は解った。木曾に利根に時雨、霧島も無事だったみたいだし、結果オーライだ。その点については俺から元帥に報告書として上げておく。取り敢えず皆お疲れさん」

140 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/07 22:47:22.07 SRklzXEWo 78/385



進撃「ふぅ」

赤城「提督」

進撃「おっ、どうした赤城。まだ何かあったか?」

赤城「あの、提督は加賀さんを、ご存知でしょうか」

進撃「加賀?」

赤城「はい」

進撃「確か元エリート鎮守府に籍を置いていた一流の腕を持った正規空母だってのと、お前と同じ一航戦を名乗ってるってのは知ってるぞ。何でも任務先でミスを犯して、その鎮守府からは除名されたって聞いてるが」

赤城「加賀さんが、ミス…?あ……ありえません!加賀さんが除名処分を受けるほどのミスとは、一体どれだけヒドイものだったんですか!?」

進撃「あ、いや…俺も詳しく聞いた訳じゃないんだよ。管轄場所も違うしな。俺達の居るここは南西諸島区域、でもってエリート鎮守府があるのは中部区域だ。本当は俺も中部地区の提督として昇進異動の話はあったが、ここに留まらせてもらったって経緯がある。なんせ西方や南方、中部区域ってのは将官クラスの提督が治める鎮守府で残存している深海棲艦もリコリス達に賛同しない連中が多く犇いているらしくてな。第二弾三の鬼や姫、レ級のような難敵が生まれても不思議はないと言われている所だ」

赤城「では、加賀さんは…彼女は今、どこにいらっしゃるんですか!?」

進撃「ど、どこって…流石にそれは、問い合わせてみないと解らないよ。しかしなんだって急にその加賀の事を知りたがるんだ?確かに同じ一航戦同士、思う所はあるかもしれないが……」

赤城「…居たんです」

進撃「居た?何処に」

赤城「今回の任務で赴いた孤島施設に、加賀さんが居たんです!」

進撃「何…?」

赤城「加賀さん以外に二人、所属不明の艦娘は居ました。榛名さんの言っていた二人の内一人は『ナガラ』と呼ばれていました。ですが私には聞き覚えも何もない名前です」

進撃「ナガラ…ながら、確か……」ガタッ…


ガラガラ……ゴトッ


進撃「な、な、なが……これか、長良型軽巡洋艦一番艦の長良」

赤城「軽巡洋艦…?そんなはずはありません!」

進撃「は?」

赤城「私が相手取っていたのはどれもクラスで言えば重巡洋艦クラスです。錬度は確かに拙い部分は多かったと思いますが、それでもエリート級の強さと耐久力を誇っていたと記憶しています。そんなのを相手に、僅か一発…たったの一発、幾ら急所に撃ち込んだと言っても艤装諸共一撃で粉砕なんて…」

進撃「軽巡の艦娘が重巡クラスの深海棲艦を僅か一撃で瞬殺、か…確かに聞く限りじゃ俄かには信じ難いのも解るが、実際の所どうなのかって話だな」

赤城「それは、どういう事ですか?」

進撃「軽巡が重巡に勝れない、なんて道理はないって事さ。話は取り敢えず解った。お前が望むなら加賀についても調べるが、どうする?」

赤城「是非、お願いします」

148 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/10 23:47:20.95 RJlD94pmo 79/385

-日常へ-

提督「……」トントン…バサッ…



元帥『早速、君の鎮守府向けの仕事が舞い込んだ。場所は西方海域にあるリランカ島。敵戦力は……君なら想像に難くはないだろう?なんせ、数年前まで君が受け持っていた区画だ』

提督「ちっ……嫌味かよ」

元帥『例の男を喋れる程度に治療を施し、連日拷問にかけた』

提督「何…?てめぇ等…!」

元帥『…と言ったら、君はどういう反応を示すのかと思ったが、思いのほか人然とした反応で安心したよ。する訳ないだろう。だが罪人に変わりはないからな。最低限の対応とだけ言っておく。その男からの卑しい情報だが、本当かどうかの真偽を確かめてもらうのが今回の任務だ』

提督「真偽だと?」

元帥『男が言うには、各区画に点在する鎮守府の内、最低一つは何かしらの問題を抱えていると言った。直近のもので一番顕著だったのは北提督の不祥事だ。詳しいよな、君ならば…当事者なのだから』

提督「ハズレ鎮守府には人権も何もないらしくてな。ああいう暴挙を平気でできる神経に驚かされたもんだ。だが、もっと驚いたのはここまで海軍が腐敗していたって事実だ。どれだけの膿を溜め込めばこれだけの異臭を放てるんだろうな、智謀さんよ…宛ら膿の温床、蜂窩織炎(ほうかしきえん)だぜ」

元帥『……返す言葉もないよ。その点については弁解の余地もない。だからこそその膿を今回出し尽くす。目下暫定ではあるが見定めている鎮守府は三件ある。一つは南西海域、一つは北方海域、最後が西方海域だ。中でも西方海域は急を要するという判断が下された』

提督「それで?」

元帥『その中で今回の男の供述に繋がる。現時点で唯一合点がいっているのがその西方にある鎮守府だ。内容は次の通りだが、文字通り真偽は定かとなっていない』


艦娘を奴隷として使役し、十分な休息も与えず連日資源採取に出撃させているらしい。

錬度を上げるという名目で出撃しているにも拘らず、特定の艦娘のみを成長させ残りを数合わせだけに考えてこれをむざむざ見殺しにしているらしい。

上記に付随して利用価値無しと判断した艦娘を錬度も装備も不十分と解っていながら無謀とも思える海域へ半ば強制的に出撃させ、情報だけを仕入れさせて見殺しにしているらしい。

149 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/11 00:13:19.48 RM+hLB6so 80/385



元帥『嫌疑があるのは西を治めている中将提督。何かといい噂の聞かない男だ。別名ハイエナ』

提督「知ってるよ。確かにいい話は聞いた事がねぇな。だが何でそいつの情報をあの男が知ってやがる」

元帥『言葉を濁しているが、何かしらを知っているのは事実だろう。ただ、あいつはこういった』


──私達はね…罪で構成された一つの集合体なんだよ。組織じゃない…集合体だ──

──私はこんな所で死にはしない。海軍、覚えておけ…私は、何度でも自らの欲を満たそう──


提督「つくづく救えねぇクズ野郎だな」

元帥『君にクズ呼ばわりされては世も末か』

提督「あぁ!?」

元帥『だがそう思えるほどに墜落した男だ。万人が君と同じ意見だろうな』

提督「で、そのハイエナの真偽をどう確かめろってんだ」

元帥『近々、再びまた彼が出撃をするようだ。そこで事の顛末を、真実を見極めてもらう』

150 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/11 00:15:18.71 RM+hLB6so 81/385




提督「…ちっ、忌々しい。よりにもよって、西方海域…リランカ島とはよ」


ガチャ…


加賀「失礼します。お呼びですか、提督」

提督「仕事だ」

加賀「仕事、ですか」

提督「前回の様な温い海域とは話が違う。心して挑め」

加賀「……場所は、何処でしょうか」

提督「西方海域、リランカ島だ。任務の内容を伝える────」


加賀「────これが今回の任務の概要になります。これらの証拠を集め、ハイエナと呼ばれている西提督の悪行が定かなものかどうかを検証するのが目的となります」

鳥海「こんなの、艦娘のする仕事なのかしら…」

「絶対違うと思うけどなぁ」

長良「うーん…」

満潮「けどこれ、秘密裏に動かなきゃヤバイって事よね。加賀や鳥海には不向きなんじゃないの?」

加賀「遠距離の目には成れますが、不自然に艦載機や水偵・水観が飛行していては相手に警戒心を与えてしまいます」

鳥海「潜水航行可能な艦娘でも居れば別でしょうけど、選り好みできる身分じゃないものね」

長良「いざと言う時の瞬発力ならやっぱり私達水雷戦隊だね」

鳥海「私と加賀さんも距離を置いて構えてはおきましょう」

加賀「そうですね。長良、漣、満潮、お願いできますか?」

「はぁ、ご主人様のご命令とあらば、漣は火の中水の中~っと」

満潮「どーせ拒否権ないんでしょ。やるわよ…やってやるわ」

長良「まぁ…水雷戦隊の指揮なら任せてよ!」


任務と呼ぶには余りにも不可解なその内容に、五人がそれぞれに不信感を抱く。

それとは別に、西方海域に特別な想いを抱く提督。

そして今回捕らえた男の口から漏れ出た悪意を含んだ言葉の数々。

罪で構成された一つの集合体…その意味する所が何なのか、まだ彼等は知る由もない。

そしていまだ自らの欲・願望を吐き出そうとし続ける男の抱く桁違いの欲望に対する執念。

これらの事件は、まだその入り口すら顔を覗かせてはいなかった。

151 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/11 00:15:49.97 RM+hLB6so 82/385




~悪の枢軸~



-大罪-

その男は常に抜け道を探って生きてきた。

だらけ、怠け、放棄する。

これといった欲はないが楽はしたい。

だから抜け道を探る。

そうして行き着いたのがギブアンドテイクの関係。

中将と言う階級は何かと便利で、男の自由を大いに拡大させた。

自らは動かず、じっと待って横から攫う。

結果が全てで奪われた方は大抵喚き散らす。

だがそんなものは気にしない。

そう、男にとって目の前にある結果が重要であり、後ろで喚いているのはどうでもいいからだ。

どれだけ喚こうが結果が出てしまえばそれは自分のもの。

他の誰のものでもない。

そうして与えられたものは自らの手足として、糧として上手く利用する。

その手足を今度は見返りとして提供する。

厳密には、結果として不要となったものを材料として提供する。

男には本当に欲がない。

物欲も、食欲も、性欲さえもない。

唯一、睡眠欲だけは稀に欲する事があるようだが、言い換えればそれは体の防衛本能に他ならない。

自ら進んでとは行かない。

一度、壊れた艦娘が夜伽の相手にと迫って来た事があった。

だが男にはそれが何をしたいのかさっぱり解らなかった。

むしろ邪魔だった。

まさに要らぬ世話。

だから彼はその艦娘を殺した。

不要になったからだった。

自分にとって楽できる存在ではなくなった瞬間から、それは結果として無用の長物と成り果てた。

それでも彼は中将へとのし上がった。

結果が全てを物語る実例として。

付いたあだ名は、ハイエナだった。

155 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/14 21:38:24.03 +XmQikoTo 83/385

??「ふ~ん、そうなんだ。彼、捕まっちゃったの…じゃあ、もう提供しても意味ないね。まぁ…元からさぁ、こんな戦争兵器の何に欲情するのか意味が解らなかったんだよね~。たまにあるじゃない、なんか人以外の動物とか、なんか穴の空いてる無機物に一生懸命腰振ってるような連中…あれとかと一緒だよね~」

艦娘「……お茶でございます」コトッ…

??「う~ん、ご苦労様ぁ~。じゃあ、お前は早く艦隊編成して資材調達してきてよ。カレー洋ね。後さ~、潜水艦の連中にはまたオリョールに向かわせて~。あっちにはもう了承得てるからさ~、取り敢えず最低でも一匹死ぬまでは戻ってくるなっていっといてね~」

艦娘「……畏まりました」ペコッ…

??「で、何~?俺んとこの情報が漏れてたんだっけ?まぁさ~、君んとこもそうだけど、俺等に逆らうとか、もう相当バカじゃん?いいよ、逆に捕らえて遊ぶから~。え?油断?ふはっ…何それ美味しいの?言ってんじゃん。きたら潰すよ?いや、マジで……俺の平穏壊そうとするヤツとか、生かしておくわけないじゃ~ん」

??「うん~、じゃ…またね~」ガチャ…

??「はぁぁ~~……めんどっちぃなぁ~。邪魔すんなよ…ホント、うざいわ~」ガタッ…

??「ったくさぁ、海軍なんて温床…そんなあっさり手放すワケないのに、正義感ぶって調子に乗っちゃうヤツとか、相当頭の中に蛆が湧いてるんだろうねぇ…さて、どうやって潰そっかなぁ……」

156 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/14 21:57:40.77 +XmQikoTo 84/385

-疑念と確信-

満潮「…………」

「どーしたんですかぁ、みっちゃん?」

満潮「だからその……はぁ、別に何でもないわよ」

長良「満潮が考え事なんて珍しいね」

満潮「あのさ、その…何も考えてません的な言い方なんなわけ!?」

長良「あははは、ごめんごめん。いやでもさ、満潮って結構パパッと物事決めるイメージあるし、悩む事ってあんまないんじゃないかなーってね。勝手な私のイメージだから、あまり気にしないでよ」

満潮「あんたらは結構順応してるみたいだけど、不思議に思わないわけ?」

長良「えー?何が?」

「むむ?」

満潮「あのアホ面オヤジよ。平気で艦娘を恫喝・脅迫してくるし、無茶振り甚だしいじゃない。私達の事だって表沙汰になんて殆どなってないはずなのに、あんな詳細に内容知ってるし…」

長良「……」

「そ、それは、まぁ…」

長良「んー、でもなぁ…」

満潮「何よ」

長良「あぁ、これは単純に私の直感?なんだけどさ。司令官って、元はあんなんじゃなかったんじゃないかなーって」

満潮「はぁ?」

長良「ぞんざいな扱いってされて初めて相手の本性に気付く事ってあるじゃん。私は、前の鎮守府がそうだった────」

157 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/14 22:15:39.90 +XmQikoTo 85/385



別に初めから反目してた訳じゃないんだよ。

ただ、私はこうした方が良いって、司令官に何度も言ったの。

けど、司令官の言葉は私の提案の全てを否定する言葉だったんだよね。

そんなの実際に出来る訳がない。

超人でもなきゃ無理に決まってる。

秘書艦でもない艦娘のクセに偉そうに抗弁を垂れるな。

黙って従え。

だから私は私が提案した作戦が出来るって事を示した。

初めて反目した瞬間だった。

けど、私の作戦についてこれる他の艦娘がいなかった。

結局、私は単独先行しすぎて後方に取り残された他の面子が大打撃。

その結果だけを見て司令官はそら見た事かと更に私への非難を集中させて、気付けば私はここにいたって訳さ。

159 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/14 22:23:00.35 +XmQikoTo 86/385



「メシマズなお話です…」

満潮「…………」

長良「その時の司令官の目、他の艦娘が私を蔑むように向けてきた視線。あれは正直キツかったなぁ…でもね、だからかな…今の司令官、確かに言葉は悪いし直に怒鳴るし、何かといちゃもん付けてくるけど、本音じゃないって直感的に解っちゃうんだよね。きっと、心根は優しい人なんだろうなって…あっ、こ、これは司令官には絶対内緒だからね!?絶対ドヤされるから!」

満潮「……私はさ、あのアホ面オヤジも言ってたけど、濡れ衣なのよ」

「みっちゃん?」

満潮「普段からやりたい放題やってたツケが回ってきたのかなって思って、その時は諦めもあった。今思えば胸糞悪すぎて暴れ回りたいくらいだけど…でも、その時は『あぁ、これで私の人生も終了か』って感じでしかなかった」

「い、言えば良かったんじゃ…」

満潮「ふふ、言ってどうなるのよ。私は大破した仲間から敵の注意を逸らす為に前に出たんです。だけどこっちに敵は注意を注がず、大破した味方に集中砲火を浴びせてきてどうにもならずに撤退したんです。だから私は一つも間違っていません。寧ろ褒めて下さい。とでも言えっての?」

「あ、えっと…」

満潮「…ごめん。あんたに当たったってお門違いよね。実際、弁解なんてあってないようなものだったわ。だって濡れ衣着せてきたのはその鎮守府の秘書艦だった奴よ。そこの司令官が最も信頼を寄せる艦娘の言葉と、普段から問題行動が絶えない面倒ごとを抱える艦娘の言葉じゃ、どっちを信じるかなんて火を見るより明らかでしょ」

長良「…だから、満潮は司令官が怖いの?また、いつ裏切られるか解らないから?」

満潮「あんたはその直感だかであのアホ面オヤジの事信じてんでしょ。けど私はそんなのない。私はまだ、あの男を信じれるだけの準備がない。それ所か、疑ってすらいる…」

「それで、良いじゃないかなって、私は思いますよ!」

160 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/14 22:23:35.32 +XmQikoTo 87/385


満潮「…はぁ?」

「疑っておけばいいんですよ。気の済むまで疑って、疑い尽くして、疑う部分がなくなるまで、徹底的に疑いまくってやればいいじゃないですか」

満潮「な、何よそれ…」

「私は、こういう性格ですから…初めこそ、いじられ役と言うか、そういうポジションに収まってはいました。でも、日が経つに連れて、周りは馴れ合い始めて、距離を置く人も増えてきて、気付けば孤立してました。仕方ないですよね、だって…本音とか建前とか、使い分けるの難しいじゃないですか。だからいっその事、私は建前だけで、本音を隠すように、なりました…」

長良「漣…」

「提督をご主人様、なんて呼ぶのもそうです。建前なんです。そうやって他人と違う事をして気を引く振りだけして本音は隠す。振りだけで、そうする事で、自分から壁を作って、こっちにこないでってオーラ出すんです。ふふっ、おかしいですよねぇ…そうしてる内に、気付けば周りとは連携は愚かコミュニケーションすら取れなくなって、思った事とは別の事を口走ってたり、はぐらかしたり、まぁ…思い返すとただただ黒歴史ですねぇ…」

満潮「…まぁ、頭じゃ解ってるのよね。疑問はあるし、疑わしいとも思うけど、信じてみたいって…」

長良「ん…」

「ですねぇ…」

長良「まぁ、さ…がんばろ!私達の事、少なくとも本気で解ってくれてるのってここの皆と司令官じゃん? だったらさ、私達艦娘がする事は一つだよ。勝って勝って勝ちまくる!勝利!勝利!大勝利!ふふっ、良い響きだよね、勝利ってさ!」

満潮「ほんと、あんたお気楽よね」

長良「えへへ~、まぁそれが取り得?くよくよしてても始まらないからね!」

「っと…そろそろ、問題の場所ですよー」

長良「この辺りは、確かカレー洋だね」

161 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/14 22:25:54.33 +XmQikoTo 88/385


満潮「えーっと、通信、通信…」ガチャ…


プルルルルル……プルルルルル……


鳥海『こちら鳥海です』

満潮「あ、満潮よ。目的海域付近へ現着。周辺に目視できる影は無し。そっちの水偵達はどう?」

加賀『加賀です。艦載機のみなさんからの報告はまだありませんがもうそろそろで連絡が来る予定です』

鳥海『付近に点在する岩礁を利用して上手く身を潜めてて下さいね』

加賀『…きました。艦隊、陣形は単縦陣。ですが、これは……』

満潮「な、何よ?」

加賀『空母、戦艦、重巡クラスの艦娘が一人としていません。水雷戦隊です。数は…四隻』

長良「す、水雷って…え、しかもたったの四隻!?だってこの海域って…!」

鳥海『索敵も無しに進軍…?一体何を考えて…』

加賀『…この艦隊は、資材調達班、もしくは艦隊戦力調整班でしょう』

満潮「資材…」

「…調達?」

加賀『特定の海域には資材が備蓄された場所があります。それらを調達する為、速力の優れる水雷戦隊で確保に向かう事が間々有るそうです』

長良「艦隊戦力の方は?」

加賀『文字通りの意味です。錬度を上げるべく、より実戦形式に準じた戦闘を展開する事で演習よりも更に濃密な経験を経る事で艦娘の錬度を向上させようとするのが目的でしょう』

鳥海『カレー洋周辺には幾つか鉱山地区が点在しています。鋼材の採取には打って付かもしれません』

満潮「彼女達の前方に敵影…」

鳥海『私達は引き続きこのままこの距離で監視に務めるわ。三人はそこから生の情報を採取して下さい』

長良「はーい、任せちゃってー!」

168 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/18 21:25:18.96 RPydW+Zmo 89/385

-ハズレ-

それぞれの鎮守府にはそれぞれの決まりがある。

往々にしてそれは各鎮守府で定められた独自の決まりだ。

例えば料理当番は第一艦隊から週毎に順繰りに皆で作る。

鎮守府の掃除は第二艦隊から週毎に順繰りにする。

特定の秘書艦を設けず、月毎などで秘書艦を交代で皆で行う。

様々な決まりが各々の鎮守府には存在する。


・この鎮守府に着任したのなら、俺の命令には絶対に従え。

・従わないならその場で解体処分にする。

・逃げ出そうとした奴は問答無用で解体処分にする。

・大本営へ密告しようとする者、した者は特別念入りに拷問を加えた上で解体処分とする。


これが、その鎮守府での決まりだ。

逆らった者は一人として生きては帰れない。

鎮守府と言う鍍金で覆われた人の皮を被った怪物の住まう牢獄。

提督と言う王が君臨し、絶対王政の布かれたその牢獄では艦娘に自由など存在しない。

169 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/18 21:37:31.53 RPydW+Zmo 90/385




??「……全艦突撃。生きて、帰るよ。生きて……」


長良「うーん、ここからじゃ艦娘の種別までは解らないかぁ…」

「もう少し近付けば解りそうですけどね~」

満潮「…っていうか、なんかあれ、変じゃない?」

長良「うん?」

「隊列は別に乱れてないし、普通じゃない?」

満潮「開戦して間も無く突貫に等しい総攻撃って…艦隊決戦でもあるまいし、やっぱ変よ!」

長良「……左舷と右舷の確認もしてない。隊列こそ乱れてないけど、確かに異常かも……あっ」


ボゴオオォォォォォン ボゴオオォォォォォン ボゴオオォォォォォン


「うわぁ~、主砲乱れ撃ち!?大盤振る舞い過ぎじゃないですかねぇ」

満潮「ちょっとちょっと…あれじゃ神風よ。死ぬ気なの?あいつら!」

長良「……」ガチャッ…


プルルルルル……プルルルル……ガチャッ


加賀『何か?』

長良「加賀さん、艦隊指揮してるのって艦載機を通して特長とか解る?」

加賀『…恐らく軽巡クラスです。水雷戦隊の旗艦でしょう。身形は……両腕に主砲、白のセーラー襟元が水浅葱色、スカートも同じ水浅葱色ですね。ショートヘアーの茜色の髪の毛をした艦娘です』

長良「…ありがとう」

満潮「長良、どうかした?」

長良「多分、このままだとあの艦隊は全滅するよね」

「隊列だけで連携からっきしですからねぇ…」

満潮「まぁ、もって後数分じゃないかしら。どこかで撤退行動取らないと、本当に全滅するわよ、あれ」

長良「ごめん、自分事で…」

満潮「え?」

長良「多分…ううん、あの艦隊の旗艦、きっと私の妹なんだ…」

「え、ちょ…ガチですか、それ…」

満潮「あんた、まさか…」

長良「ごめんね!」ザッ

170 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/18 22:05:24.49 RPydW+Zmo 91/385



言うや否や、長良は脱兎の如く駆け出す。

聳える岩礁の合間を縫って、その距離はどんどん縮まっていく。

そしてついに、長良は艦娘達の前に立ち塞がる。


ザザザッ……


??「……え?」

長良「大事な妹こんなにされて、怒らないお姉ちゃんはいないよ!」

??「なが、ら…お姉ちゃん?」


満潮「あの、バカ…!」

「深海棲艦の勢力の方が上だよね。助けに行くしかないよ!フラグシップクラスが少なくとも一匹は居る!」

満潮「加賀、鳥海、聞いたとおりよ。長良が先行した。旗艦を努めてる艦娘がどうやら自分の妹らしくて、我忘れたって感じ」

加賀『致し方ありません。援護しますので、安全海域までの離脱を試みて下さい』

鳥海『長良に先の艦隊の先導を任せ、私達と満潮達四人で深海棲艦の注意を引き付けます』

「キタコレ!駆逐艦漣、出るっ!」ザッ

満潮「ったく、アニメの見過ぎよ!まっ、砲雷撃戦なら、私が出なきゃ話にならないじゃない!満潮、出るわ」ザッ


加賀「未だにあれほどの戦力を揃えられる深海棲艦側は、一体どれだけの戦力を温存させているのかしら」

鳥海「それでも、鬼や姫、レ級って言われてる怪物軍団が新たに台頭してないだけまだマシじゃないかしら」

加賀「それこそ不安材料です。まだ、台頭してきていないと言うだけで、水面下では虎視眈々と反撃の機会を伺っているのかもしれませんから」

鳥海「なるほど、三度目の正直から転じて二度ある事は三度ある、って感じかしらね」

加賀「何はともあれ、まずは眼前の敵を殲滅しましょう」

鳥海「ええ、そうね」


突然の出来事に呆然とする艦娘達、そして虚を衝かれたのか長良の登場に動きを止める深海棲艦。

長良は先頭に立って奮戦していた艦娘を改めて確認し、その表情を見る見る曇らせた。

一緒に走るのが好きで、天真爛漫を絵に描いたような快活な艦娘だったはずだ。

それがどうだ。

やつれた様に覇気の無い顔、疲労の蓄積が如実に伝わってくる程に疲弊しきった身形。

こんな状態で戦闘など誰がどう見ても無理に決まっている。

171 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/18 22:06:28.03 RPydW+Zmo 92/385



長良「鬼怒…」


何とか絞り出した声は掠れてしまった。

ショックと信じ難いその光景に、ただただ長良は歯を食い縛って目の前に広がる現実に耐えるしかなかった。


満潮「長良っ!」

「撤退行動急いでなのです!」

長良「…っ!鬼怒、急いで撤退するよ!他の皆も、急いで!」

鬼怒「でも…」

長良「でもじゃない!いくの!」グイッ

鬼怒「あっ…」

長良「ごめん、二人とも。ありがとう!」ザッ

満潮「さて、と…」

「いっちょやってみっかぁ~!ですね!」

鳥海「お待たせ!」

加賀「機先を制します」ググッ…


遅れて到着した加賀達。

それと同時に加賀は瞬時に状況を把握し、弓に矢を番えて構える。

鳥海は深海棲艦艦隊を見て種別、隊列を即座に把握、三人へ口頭で通達する。


鳥海「旗艦は重巡リ級FS、随艦には雷巡チ級ELが二隻、軽巡ト級EL、駆逐ニ級ELが二隻、計六隻!単縦陣よ!」

加賀「鎧袖一触よ。心配いらないわ」ビュッ


鳥海の敵情観察が終わると同時に加賀の弓から矢が放たれる。

その後を追うようにして、一拍遅れて満潮と漣が同時に動き出した。


満潮「奥まで一気に駆け抜ける!」

「任せてちょーだい!」

リ級FS「クチクカン、フゼイガ…!」ドン ドン

満潮「風情風情ってウザイのよッ!!」サッ

172 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/18 22:07:37.53 RPydW+Zmo 93/385

ボボボボンッ


満潮「あんたの相手は別よ。精々苦しみなさい!」

チ級EL1「ドコヘ、イクキダ!」ドン ドン

「キタコレ!」サッ


ボボボボボン


チ級EL1「ナッ……!」

「ふっふ~ん。当たらなければどうという事はない!」

満潮「漣!」

「ほいさっさ~♪」


バッ…


満潮の号令で二人が同時に左右に分かれる。

それを待っていたかのように矢から変化した加賀の艦載機達の一斉爆撃が開始される。


ボオオォォォン

ボゴオオォォォォン

ボボボボボオオォォォォン


開幕の一撃で雷巡チ級EL2と駆逐ニ級EL2の二匹を同時に葬り去り、更に追撃の姿勢を見せる。

爆撃を確認後、鳥海も動き出す。


鳥海「満潮、漣、奥は任せるわね!」

満潮「当然!」

「お~まかせ~!」

鳥海「さぁ、それじゃ私も行きましょうか!やるわよー!」ザッ

加賀「第二次攻撃の要を確認。目標捕捉しました」スッ…

鳥海「次の発艦まで凡そ二十秒…」ボソッ…

チ級EL1「チッ…ナニヲ、ブツブツイッテイル!」ジャキッ

鳥海「さぁ、何かしらね?」クスッ…


鳥海は右手で主砲を構え、左手に魚雷をむき出しのまま数本指に挟むようにして構える。

その魚雷を海面には投げ込まず、真っ直ぐにチ級EL1へ向かって投擲する。


ブンッ…


チ級EL1「ナッ…!?」


突然の行動に虚を衝かれたチ級EL1は一瞬、動きが止まる。

そしてその動きはそのまま命取りとなる。


鳥海「エリートだろうとフラグシップだろうと、そんなの何の役にも立たないわ」

チ級EL1「ナンダト…!」

鳥海「私の戦術用法の前では、全てが無よ!」ジャキッ

173 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/18 22:30:43.35 RPydW+Zmo 94/385



ドン ドン


構えた主砲を投擲した魚雷目掛けて放ち、それは見事魚雷へ命中するとチ級EL1の眼前で大爆発を起こす。


ボゴオオォォォォォン


チ級EL1「ガッ…!」 小破

リ級FS「コレイジョウ、スキカッテサセルカ!」サッ

鳥海「分別を弁えないのね。まだ抗うのには何か理由でもあるのかしら。深海棲艦、その全てが今では敵とは認識されていない中で、あなた達のように抗う存在がいるのがとても不思議でならないわ」

リ級FS「ダマレッ!ワレラノ、コンゲン…ソノイチブブンサエモ、シラナイカンムスフゼイガッ!!」

鳥海「根源、ですって…?」

リ級FS「オシエルギリナド、ナイ…カンムスハ、スベテ、ミナゾコヘシズメッ!!」ジャキッ

鳥海「そう、それは残念…時間だものね」スッ…


そう呟いて鳥海は一歩横に静かにずれる。

その後方には、既に矢を射抜き終わり、残心のみを残した加賀がいた。


鳥海「二十秒…それがあなた達に与えられた制限時間。律儀に密集してくれたのも、何かの縁かしらね?」

リ級FS「ナッ……!」

チ級EL1「ナ、ニ…!」

加賀「みんな優秀な子たちですから。狙いは外しません」スッ…


言いながら加賀は静かに弓を持たない右腕を真っ直ぐに振り上げる。

真っ直ぐに伸ばされた腕は一瞬制止し、また静かに今度は重巡リ級FS達を指し示すようにして振り下ろされる。


加賀「強襲です。敵機直上より急降下。薙ぎ払って下さい」サッ


加賀の放った艦載機の描く軌跡は赤城の得意とする戦法の一つ。

天高く放った艦載機が遥か上空より一斉に急降下し、艦爆と艦攻を一気に仕掛ける波状の一撃。

一矢で脅威の艦載数を放てる赤城と加賀だからこそ成せる芸術に等しいその攻撃手法。

声無き声が重巡リ級FSと雷巡チ級EL1の喉元から出るよりも早く、光の矢の如き攻撃が一斉に降り注ぐ。


ボゴオオォォォン

ボゴオオォォォン

ボゴオオォォォン


断続的に響く爆発音。

それだけで重巡リ級FSと雷巡チ級EL1が既に轟沈しているのが理解できてしまう。

それほどまでに苛烈を極める一極集中放火。

炎の海と化したその中を、悠然と加賀は歩く。

これほどの戦果を上げて尚、加賀は再びゆっくりと矢筒から矢を抜き放ち弓に番える。

174 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/18 22:35:05.79 RPydW+Zmo 95/385



加賀「上空の目を司ります。鳥海さんは先行した満潮と漣の援護へ」スッ…ビュッ…

鳥海「了解よ」ザッ



時間は僅かに遡る。

左右に分かれた満潮と漣、二人の狙いは軽巡ト級ELと駆逐ニ級EL。


ト級EL「キサマラァ…ッ!」ザッ

満潮「くるの?この先へ…」


軽巡ト級ELと距離を置いて対峙する満潮は腕を組んで仁王立ちの構えで不敵に笑う。

幾多の戦場を越えて生き延びた満潮だからこそ笑えるその状況。

彼女には勝利できるという強い確信と己の腕を信頼するだけの器がある。

だからこそ自分よりも火力、装甲、耐久と体格や強さで上回る相手にも臆す事無く立ち向かえる。


ト級EL「ワケノ、ワカラナイコトヲ…!」

満潮「訳が解らないって?ふふっ、なら教えて上げる」スッ…


満潮は丁度二人の対峙する間を指差して告げた。


満潮「その先にあるのは地獄よ。そこからこちら側へくるって言うのは、地獄に足を踏み入れるって事。大人しく深海の奥底で隠居してた方が良かったって想いを馳せるほどにね」


ト級EL「ザレゴトヲ、ホザクナッ!」バッ


満潮の言葉に激昂し、軽巡ト級ELが満潮へ恐ろしい速度で駆け寄る。

しかし満潮自身は慌てる様子も見せず組んでいた腕を解いて姿勢を自然体に戻しただけだった。


ト級EL「タタカウキガ、ナイノナラ…ソノママ、シネッ!!」ギュオッ


軽巡ト級ELの無数の顎が伸び上がり、満潮に襲い掛かる。

捕まればまず間違いなく捕食されるほどの、満潮と比べればおぞましい程にアドバンテージのある巨躯と艤装の数々。

だが満潮は薄っすらと笑みを浮かべただけでその突撃を横に移動して回避する。


バシャアアァァァァン


大粒の水飛沫が上がり、周囲の景色が海水のカーテンで一瞬閉ざされる。

そこから距離を置いたところで、満潮は腰を落とし、両手の指先数本を海面に添え、宛ら陸上のクラウチングスタートの様な格好で軽巡ト級ELを睨み付ける。

175 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/18 22:35:33.24 RPydW+Zmo 96/385



満潮「あんたさ、空…飛んだ事ってある?厳密には飛ぶんじゃなくて、舞い上がる、だけどね」

ト級EL「チッ…ネゴトガスギルッ!」ジャキッ

満潮「そう、寝言ね。私も最初はそう思ってたのよ。けどね、ある戦艦クラスの艦娘はそれを成すのよ」

ト級EL「ナニ…?」

満潮「それを知った時、私は感動したわ。それと同時に、私はまだまだねって思った。だから私は誰にも負けない最強の駆逐艦になるって決めたの」ザゥッ


海面を蹴り出す音。

それは海面に打ち付ける水飛沫の音とは到底違う、異質な音。

蹴り出され吹き散らされた水面は満潮の後方に飛沫を飛ばし、本人は凄まじい勢いで軽巡ト級ELへと迫る。


満潮「戦艦に出来て…」ヒュッ


ガッ


ト級EL「グッ…!」

満潮「私に出来ないはずがないッ!」ダンッ


低い姿勢から前のめりに満潮は身体を丸めて片足を軽巡ト級ELへ向けて伸ばす。

浴びせ蹴りの要領で軽巡ト級ELの艤装に踵を落とし、そこを足掛かりとして一気に今度は曲げていた膝を伸ばし、バネの様にしてありったけの力を込めて真下へと放つ。

重力に逆らい、下へと込めた力は軽巡ト級ELの艤装を踏み台として反発し、満潮の身体を上空へと舞い上げた。


ブワッ……


ト級EL「グァ……!バ、バカナ…ッ!」

満潮「あはっ、何これ、最っ高に気持ち良いじゃないのよ!」ジャキッ

ト級EL「オノレェ…!」ジャキッ

満潮「上空から降り注ぐのが艦爆艦攻だけじゃないのは、ある意味恐怖よね」

ト級EL「ダマレ、クチクカンフゼイガッ!!」

満潮「バカね。その駆逐艦風情にも勝てないあんたは何様よ。目に物を見せてやるわ!」ドン ドン


ボゴオオォォォォン


ト級EL「ガハッ……!」 大破


ザバァァン


満潮「沈みなさい、あなたの大好きな水底にね」ドン ドン


ボゴオオォォォォォン


着地と同時によろけている軽巡ト級ELにトドメの一撃を放ち、満潮は周囲を警戒する。

そして向けた視線の先には漣の姿。

182 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/19 22:18:23.41 DzEwrHE3o 97/385




「はぁ、みっちゃんがト級ELへ行っちゃったから、私が残りものってコトですよねぇ」

ニ級EL「キキッ……!」

「しかも人語喋らないじゃないですかー!ちょーちょーはっしのやり取り皆無じゃないですかー! もぅ、こうなったら徹底的にやっちまうのねっ!」チャキッ

ニ級EL「ギッ……!」ジャキッ

「かかってこい!」


ドン ドン


ボゴオオォォォン


駆逐ニ級ELから放たれた砲撃は漣の脇を通り抜けて後方で爆発を起こす。

その様子に駆逐ニ級ELだけが訝しむように疑問の声を上げる。

何故外れたのか。

狙いは定めたはずだ。

それなのに両脇を綺麗に通過して外れた。

ただ一人、漣だけが不敵に笑っていた。


「これが、漣の本気なのです!」

ニ級EL「ギギ……ッ」

「何言ってるか解りませんよぉ。まっ、これで終わりですからどうでもいいですけどねぇ」ジャキッ


手にする主砲を構え直した漣の目つきが変わる。

彼女の性格を大袈裟に例えるならまさに二面性のあるジキルとハイド。

普段はおちゃらけて場を和ませたりトラブルを引き起こす問題児だが、事戦闘に関しては違う。

満潮が好戦的な力と速さで相手を捻じ伏せる肉食獣だとするなら、漣は周囲の状況を一瞬で判断してその状況を有利に扱い相手を捕食する肉食獣。

満潮に漣、どちらにせよ草食動物のような皮を被った獰猛な生き物達という事だ。

一度ロックオンされてしまえば逃れる術は無い。

だから────


バッ


駆逐ニ級ELは状況を不利と判断して転進、一途逃げに転じるがその判断自体が既に勝敗を決していた。

薄っすらと口元を緩めて笑う漣は一歩二歩と歩き出し、徐々に駆けるモーションへと変わっていく。


「敵前逃亡だなんて、いつかのご主人様じゃあるまいし往生際が悪すぎです」スッ…


逃げる駆逐ニ級EL、その背に照準を合わせながらも漣の走る速度は変わらない。

左へ右へ、ユラユラと揺れる照準が射線を固定されてピタリと止まる。

183 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/19 22:18:49.84 DzEwrHE3o 98/385



「逃げられないよ!漣はしつこいからっ!!そこなのねっ!」ドン ドン


ボゴオオオォォォォォン


僅か一撃、逃げに回って完全に無防備だったとは言え、その背中を完璧に捕らえる射撃センスとブレない照準。

これが漣の本気。

ハズレ鎮守府。

通常の規格には到底納まらない。

そんなはみ出し者(ハズレ)達が集った結果、バラバラだったピースが揃うように、五人の連携はこれまでのどの艦隊よりも優れた連携と戦力を見せた。

184 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/19 22:19:26.79 DzEwrHE3o 99/385

-光明-

鳥海「流石と言うか、何と言うか、援護に向かうまでも無かったみたいね」

満潮「当然じゃない。多対一でもない限り遅れなんて取らないわ!」

「私は少し物足りなかったですけどぉ」

加賀「残存戦力の確認はありません。長良との合流を果たしましょう」


長良「皆、ごめん…ありがと」

加賀「何を謝っているのか解りません」

鳥海「ただ仲間を助けた、それだけでしょう?」

満潮「細かすぎ。そんなので一々ごめんとかありがとうとか要らないでしょ」

「出ました、みっちゃんのツンツン節!」

満潮「あんたねぇ…!」

「あははっ、はいはい~!もう言わないですよぅ!」

鬼怒「…………」

長良「あっ…鬼怒、もう大丈夫だからね」

加賀「…これで全てですか」

鬼怒「…ぇ?」

加賀「抜錨していた面子の話です。四名しか、居ないように見えますが」

鬼怒「間違い、ないよ。四人だけ…」

鳥海「この海域に四人だけって…正規空母は愚か軽空母も居ないじゃない」

長良「しかも、鬼怒達の兵装と体調は最低に等しいよ」

鳥海「…どうしますか。西鎮守府へ戻るというなら、そこまで随行して送り届けますが」

鬼怒「……ッ!」

艦娘1「いや…ヤダ、あそこにはもう、戻りたくない…!」

艦娘2「お願い、助けて…」

艦娘3「あそこは、地獄よ…」

満潮「え、ちょ、ちょっと…この怯えっぷり尋常じゃなくない?」

「ガチ、ですねぇ…」

加賀「……なら、一度私達の鎮守府へ連れて帰りましょう」

長良「えっ、い…いいの?加賀さん」

加賀「旗艦の権限を以て厳命します。軽巡洋艦鬼怒を初め、残り三名の艦娘を護衛退避させます。帰路での第二、第三の襲撃を想定し陣形は輪形陣。彼女達を中央に配置し、私達五名で周りを警護します」

鳥海「解りました」

長良「ありがとう!」

満潮「はぁ、それじゃさっさと戻りましょ」

185 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/19 22:19:53.23 DzEwrHE3o 100/385




加賀「────経緯は以上です」

提督「上々じゃねぇか」

加賀「…不本意ですが、あなたの思惑通りと言った所かしら」

提督「けっ、一々茶化すんじゃぇよ。結果論だが長良の姉妹艦を救出できたのはてめぇ等的にも僥倖だろうが」

加賀「…別の話題ですが、入渠ドックを合計で四つも揃えたのはどういう事です?」

提督「さぁな。上の命令だから俺の与り知る所じゃないね」

加賀「結果的に鬼怒たちを療養させるに至りましたが、腑に落ちませんね」

提督「ったくうるせぇ野郎だな、お前は…」

鳥海「お言葉ですが、提督が事前に心配して用意してくれていた、という風にしか見られないのですか?」

加賀「言葉を返すようだけれど、私は性別上女ですから野郎と言われても該当しないと思うのだけれど」

提督「うるっせぇ!ったく、ああ言えばこう言う。ホントうぜぇなおめぇ等は!」

満潮「そうやってすーぐ怒鳴る。あーやだやだ」

提督「けっ」

「長良さんは今とっても落ち込んでるんですから、ご主人様も言動にだけは気をつけて下さいよ~」

提督「はぁ?元はてめぇのミスでやらかしたおとぼけ女だろうが。それくらいで凹んだからってどーだってんだ」

満潮「ちょっと、それは言いすぎじゃ…!」

提督「バカかてめぇ等は!?いいか、あいつのどんな話を聞いて同情したのか知らんが、元を正せば悪いのは奴だ。それは何物にも変え難い事実だ。実際、あいつの単独先行が起こしたミスで艦隊は大打撃を受けた。もしもそこで、周りと同調して行動していれば被害は最小限で済んだはずだ。奴はここに来るべくして来た存在って事だ」

「だ、だからって何もそんな言い方しなくても…」

提督「じゃあ優しくすればいいのか。お前は間違ってない。運が悪かっただけだ。次がある、大丈夫だ。心配するな。失敗したら取り戻せばいい。前だけ向いて突き進め。そうやって悔いずに生きるのか」

加賀「…………」

提督「いい機会だからてめぇ等も覚えておけ」

186 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/19 22:20:20.26 DzEwrHE3o 101/385



間違ってたから艦隊は大打撃を受けたんだ。

全体を見て周りをもっと見ていれば良かっただけの話だ。

運の所為じゃねぇのは明白だろうが。

たまたま生き残っただけで次があったのはただの偶然だ。

それこそ運が良かっただけだ。

そもそも心配するような状況だったならこんなアホな失敗なんざしやしねぇんだよダァホ。

失敗したら取り戻せばいい?

冗談じゃない。

死んだ奴にしてみればその時点で終わりだろうが。

やり直し所の話じゃねぇ、失敗したら終わりなんだよ。

失敗ってのは『死』と同義だろうが。

特にてめぇ等にしてみればその意味は誰よりも解ってるはずだよなぁ?

戻ってこれた連中はただ運が良かっただけで最初に言った事に直結する。

……いいか、次はねぇんだよ。

そんなのは運良く残った奴の戯言だ。

反省点山盛りの状態でそれらを無視して前だけ向いて突き進むか?

だったら今度こそ取り返しの付かないミスをしてご臨終だな。

今回もそうだ。

感情に任せて突っ走った結果、たまたま運良く生き残っただけで過去の汚点、その改善は愚か失敗の教訓が何もなされていない、アホ丸出しの行動だ。


提督「いいか、てめぇ等がここにきたのは来るべくして来たって事を肝に銘じろ。じゃなきゃ今度こそ死ぬぞ。解ったら失せろ。それと長良にここに来るようにだけ伝えておけ」

加賀「…解りました。失礼します」ペコリ

187 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/19 22:20:49.80 DzEwrHE3o 102/385




コンコン…


提督「はいれ」


ガチャ…


長良「失礼します」

提督「おう、任務ご苦労」

長良「あの、鬼怒達は…」

提督「ちっ、わぁってるよ。依頼主は海軍のトップ、元帥だ。その元帥に報告する訳だから、揉み消されようものなら、それはもう海軍全てが腐ってるって事だ。だからてめぇはそうならねぇ事を勝手に祈ってろ」

長良「そ、そうじゃなくて!ここに、置くの?」

提督「わりぃがそれはねぇ」

長良「そ、そっか。そうだよね」

提督「…ったく、辛気臭ぇツラしてんじゃねぇ!」

長良「」ビクッ

提督「いいか、てめぇ等がどれ程の事を成したか、バカでアホで畜生のようなツラしてるてめぇにも解るように俺様が今から懇切丁寧に教えてやる」

188 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/19 22:21:16.52 DzEwrHE3o 103/385



それはハイエナの悪行、その証拠の一端を手中に収めた事だ。これは収益と言う意味で最もポイントが高ぇものだ。

なんせあの小娘共は生の情報を持ってる生き証人だ。

今回のてめぇ等の任務はハイエナの悪行を暴く事であって野郎の殲滅なんかじゃねぇ。

その作戦の中で結果として救ったのがあの四人だ。

でもって、救った中にたまたまてめぇの妹が居た。

ただそれだけだ。それ以上でもそれ以下でもねぇ理由だろ。

あいつ等が戻らねぇ事でハイエナの野郎も血管の一本や二本はブチ切れるだろうよ。

そうなりゃ更にボロが出る。

人間ってのは頭に血が上るとどうにも正常な判断、冷静な判断が出来なくなる生き物だ。

それを逆手に取る訳だ。

これはひっっっじょうに面白い状況と言える。

じ・つ・に、面白い状況だ。

この結果を導いたてめぇ等には褒美の一つでもやりたい所だが生憎と俺様にはそんな資産がないもんでな。

報告をもらった時点で仕方ねぇから入渠ドックを増設して待ってやってた訳だ。


長良「……ぇ?」

提督「解ったら大好きな妹の所にでもいって泣きべそかきながら回復するのを待ってろ。俺は優しい言葉、慰めの言葉ってのが大嫌いなんだよ。腹の足しにもならねぇそんな言葉を待ってるんだったら、そらお門違いってもんだ。それと、今回は結果的にいい方向へ向いたからそれ以上は余り言わねぇが…」

長良「え…?」

提督「これは命令だ。二度と勝手な行動を取るな。前の鎮守府での教訓を生かせ。勝手に忘れて殺すな」

長良「ぁ……」

提督「お前が正しいと思っていても、それが全体の正解じゃないのはお前が一番解ってると思ってたんだがなぁ。同じ過ちを短期間で二度も犯す辺り、お前は反省もしてなけりゃ命の重さも理解して無いらしい。そんな奴の面倒を俺は二度と見る気は無い。去ってくれて結構だ。それが嫌なら成長しろ。話は以上だ、反論は認めん。解ったらさっさと失せろ」

長良「……司令官」ゴシゴシ…

提督「んだよ。反論は認めねぇって……」

長良「ごめんなさい。それと、ありがと!」ダッ


ガチャ……パタン……


提督「……ちっ、んだよあれぁ……ぜってぇ反省してねぇだろうがくそが!ったく、割に合わねぇ仕事ばっかだぜ。回復した小娘共から情報仕入れなきゃまさに無駄賃払っただけになっちまう…」



奇しくも西の提督、ハイエナの下で使役されていたのは長良の妹、鬼怒だった。

都合良く、彼女の危機を救出した長良達だが、これが後に導火線の火の勢いを加速させる事になる。

193 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/22 20:03:19.75 u6zo0gzSo 104/385




~悪童~



-罠-

────ふふっ、そう…それは災難だったね。そうだよ、好き放題やりすぎた結果が北の提督だよ。

僕は最初から計画性を重視して行動するように促していたのに、簡単な挑発に乗ってノコノコと罠に嵌ったんだ。

助けないのかって?君は壊れて使えなくなった物を、既に新しい別の物があるのにわざわざ修理したりするかい?

その通り…あれは既にゴミさ。残しておいても糞の役にも立たないガラクタだよ。

キメラの彼は……そうだね、彼はまだ忠節心は残ってるはずさ。

君も、今後も今まで通り、怠惰な日々を送りたいなら僕に証明してくれないと。

自らは役に立つ存在なんだって所をさ。

何の為に僕が期間を労してここまで種を蒔いたのか、その意図を少しは汲んでくれないと……殺すよ?

言ってる意味、君なら解るよね?

そう、そうだよ…その通り。

プレゼントはキッチリと渡してあげてるんだ。

特別にSP代わりの頼りになる存在、もうそっちに到着してるだろう?

僕の愛する彼女じゃないよ。

君の下へ派遣したのは言わば妹達、その内の一人さ。

でもね、彼女だって幾多の死線を潜り抜けた歴戦の女神だよ。

だから、次に連絡をくれる時は僕を失望させないでくれよ?



ハイエナ「くそっ、くそっ、くそっ!!何なんだよ、なんで俺があいつにここまで言われなきゃならない!」

ハイエナ「……提督、大佐……あいつ、死んだんじゃなかったのかよ……なんだよ。どうして、生きてる…」

ハイエナ「この事をあいつ等は知ってるのか?はぁ、もうど~でもいいや、知ってようと知ってまいと……」

ハイエナ「俺の、邪魔をしてさぁ…なんだよ。折角、気分良く過ごしてたのにさぁ…イラつくなぁ」

ハイエナ「ねぇ……あのゴミ共、まだ見つからないワケ~?」

秘書艦「…申し訳ございません。現在、動ける艦娘全てを動員して周辺海域の捜索に当たらせています」

ハイエナ「解ってると思うけど~、見つけ次第、手足壊した上で俺の所に運んできてね~」

秘書艦「……心得ています」

ハイエナ「解ってるならオッケ~、いいよ、下がって」

秘書艦「では、失礼致します」ペコリ…


ガチャ……パタン……


ハイエナ「…で、君は俺にどんな益をもたらしてくれるのさ?」

??「…そのまま椅子に座ってるだけでいいわよ。二日…遅くとも三日以内にはお目当ての生首、ぜ~んぶ揃えて持ってきてあげるから」

ハイエナ「生首のコレクション趣味とかないけど~、まぁ的当ての的にするくらいならいっかなぁ…」

??「まぁ、好きにすればいいんじゃないかしら。アタシにはその後の事なんてどーだっていいもの」

ハイエナ「うん~、じゃあここで待たせてもらうわ~」

194 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/22 20:13:18.91 u6zo0gzSo 105/385




-動きあり-

??「まさかこんな辺境地にまで足を運ぶ羽目になるなんてね」

??「致し方ありません。それが私達の主任務なのですから」

??「厭らしい目で見てくる奴等を相手にするよりかは幾分マシだ」

??「ふふっ、まぁ大本営からの勅命だもの。選り好み出来る立場じゃないんだから、そこは仕方ないわね」

提督「ったく、御託はいいからさっさと仕事片付けてくれませんかねぇ。優秀な優秀なそれはもうご立派な立場に在らせられるお三方様」

??「言葉を慎みなさい」

??「提督と言う立場なのですから、そこは言葉を選んで口にしては如何ですか?」

??「この男は元からこうだ。今更何を言った所で反対側にまでベクトルが傾く事は無いだろう」

提督「はぁやれやれ、これだから元帥直属の方々は…」

??「勘違いしないで頂戴。私達は大本営直営部隊よ」

提督「俺等にしてみりゃ五十歩百歩、目糞鼻糞、同じ穴の狢だ。文言変えたからって在り方が変わる訳でもあるまい?」

??「口だけは達者なようね」

提督「いえいえ、雲龍殿には敵いませんよ」

雲龍「減らず口を…妙高、磯風、四人の状態を確認してから大本営へ護衛しつつ向かうわよ」

妙高「畏まりました」

磯風「異論は無い」

提督「」(陸軍の憲兵よりも更に上の権限を持つ、海上の護衛艦隊か。たった三人、だが実力は優に聨合艦隊に匹敵するってんだから大したもんだぜ…)チラッ…

雲龍「…何か?」

提督「いいえ、別に。随分と厳重な事で」

雲龍「それが大本営からの勅命です。それと共に、元帥の意向でもあります。彼女達は今回の一件の被害者。その真偽を確認する為にも、横槍で彼女達を失う訳にはいかないというのが本音です」

提督「ハイエナを炙り出す為の貴重な餌って訳か」

妙高「言葉を選んで口にするべきです。と、申し上げたばかりですが?雲龍さんが申し上げたとおり、彼女達は被害者なんです。その彼女達を西提督の前に差し出すような、危険な立ち位置へ置く訳には参りません」

磯風「現時点では決定的な証拠に欠ける。状況証拠のみでは西提督を大本営へ強制出頭させるだけの材料が揃わない」

雲龍「だからこそ、彼女達の供述を元にして物的証拠、事例証拠等を精査し、確実に悪事を白日の下に晒す必要があるわ」

提督「なるほどねぇ…で、自分達にとっては不都合になりえる不祥事だけを綺麗に包み隠すと…」

磯風「はぁ、どうしても我等が隠蔽の何某かをしていると言う事にしたいみたいだな」

提督「事実隠してただろうが。そして今もまだ、隠してる」

磯風「……少なくともお前の言葉に確固たる証拠はない」

提督「へっ、そーですか」

195 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/22 20:13:46.53 u6zo0gzSo 106/385


鬼怒「すみません、お待たせしました」

長良「鬼怒、本当に大丈夫?」

鬼怒「うん、落ち着いたし、入渠ドックで体調も戻ったしね。ありがとね、お姉ちゃん。長良お姉ちゃんにまた会えて私本当に嬉しいよ。あの鎮守府じゃ、他の鎮守府の話題とか全く内容入ってこなかったからさ」

長良「そっか。でも、失態を知られるのもなんだかなぁ…」

鬼怒「ふふっ、お姉ちゃんの威厳、なくなっちゃうもんね?」

長良「もうっ」

雲龍「鬼怒、そろそろいいかしら?」

鬼怒「あっ、ごめんなさい!それじゃ、お姉ちゃん。また一緒に走ろうね!」

長良「うんっ!いつでもどこでも、私は待ってるよ!」


ガチャ……ピッ ピッ ピッ……


妙高「…はい。鬼怒以下三名の艦娘、帯同してこれより大本営へ帰還します。道中、襲撃の可能性も考慮の上でサドバフの出動もして頂いております。念には念を、という事ですね」

提督「」(サドバフ…?)

妙高「通達完了致しました」

磯風「では大本営へ向かおうか」

雲龍「…周辺海域に敵影無し。行くわよ」

196 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/22 20:17:46.07 u6zo0gzSo 107/385




加賀「今回の任務はこれで終わりですか?」

提督「ああ、一先ずはな」

加賀「一先ず?」

提督「ハイエナの野郎さ。あいつは元来、自分で動くって事をしねぇヤツだ。だからまずは艦娘を使って周辺海域の哨戒をさせつつ、鬼怒達の生存確認を急がせるだろうよ。だがあいつ等はてめぇ等が救出してうちへお持ち帰りだ。いねぇ事にまず間違いなく死んだのではなく、逃げたと勘ぐる。で、遅かれ早かれ俺達の存在に気付く」

加賀「まさか、確信だけで証拠も無しにこちらへ攻撃を仕掛けてくると?」

提督「ああ、ほぼ間違いなくな。北のアホと違って考える頭はあるが如何せん、ハイエナって野郎は怠惰で有名でな。何かと面倒くさがって行動を起こさない事が多い。だが、一つだけ重い腰を上げる時がある」

加賀「…自分の安寧を邪魔された時、ですか」

提督「ご明察。で、今回がまさにそのパターンだ。恐らく、いや十中八九あの野郎は顔真っ赤にしてくるだろうよ。そうなりゃ自分から土産ぶら下げてヘコヘコやってくるも同然だ。そこを捕らえて完全にこの件は終了……」ピクッ…


タバコの灰を灰皿へ落とし、提督は薄っすらと笑みを浮かべる。

彼にはその後の顛末が脳裏に明確に、鮮明に浮かび上がっていた。

だが、不意にそれらが霞がかって薄らいでいくのを感じる。

人の持つ五感以外で感性に近いその言い知れない感覚。

研ぎ澄まされた中で不意に来る衝動。

提督の持つ第六感がそのビジョンを薄めて警鐘を鳴らす。

────危険だと。


提督「……加賀、五人全員の艤装整備、入渠チェックは終わってるか」

加賀「…?ええ、問題ないと思うけれど」

提督「自慢じゃないが直感ってものには結構助けられた経緯がある」

加賀「直感?」

提督「俺の場合はな…左頬に引き攣ったようなシビレが訳も無く奔る。取り敢えず全員を作戦室へ集めろ」

加賀「直に集めます」

197 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/22 20:18:35.84 u6zo0gzSo 108/385




満潮「いきなり何なわけ?」

「も~、折角のお菓子作りタイムが~!」

鳥海「随分と忙しないですね」

長良「何かあったんですか、司令官」

提督「加賀には漠然と話したが、この作戦はまだ第一段階が終わっただけだ。それも俺の想定していたものとは別の角度で進行した。まぁ、帰結部分が早まった程度だからどうでもいいんだがな」

加賀「完結にお願いしたいのだけれど」

提督「ちっ、うっせぇヤツだなぁ。いいか、ハイエナの野郎は必ず今回の一件、何が起こったのかを突き止める。で、俺等の存在にも遅かれ早かれ気付く。野郎は必ず報復に動き出す」

満潮「報復って…私達に!?それ、完全な逆恨みじゃん!」

提督「正論が通用しねぇから言ってんだよアホタレ。あいつは自分の益の妨げになるのを最も嫌う。今回のように、邪魔が入るのはもっと嫌う。で、個人的に野郎は俺の事が嫌いらしい。だから必ず俺様に対しての報復行動を起こす」

「げっ…それ、私達ただのとばっちりじゃないですか」

提督「うっせぇ、俺の部下である以上諦めろ」

鳥海「はぁ…」

提督「おいこら、解りやすいため息吐いてんじゃねぇ!」

満潮「っていうか、あんたが画策したってなんで相手に解っちゃってるのよ」

提督「それこそ俺が知りてぇよ。どういうパイプ持ってんのか解らねぇがな…今回のこの嫌な感じは、間違いなく来る」

長良「鬼怒達の事で、来るって事なの?」

提督「だろうな。いいか…不測の事態を想定して動け」

満潮「不測の事態って…まさかここまで攻め込んでくる訳じゃ…」

「その、まさかなのです?」

提督「……とにかく、いつでも出られる準備はしてお……」


ザクッ……


長良「……ぇ?」

加賀「……!」

鳥海「し、司令……」

満潮「あ、あぁ……」

「ご、ご主人、さま……」

提督「がはっ……!」グラッ…

198 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/22 20:19:06.44 u6zo0gzSo 109/385



唐突に響いた鈍い音。

白い提督の制服の左脇腹、その辺りから滲み出るように赤い染みがじんわりと広がっていく。

ゆっくりと前のめりに膝を折り曲げて提督が崩れ落ち、その背後に白い髪、ショートヘアの青白い肌を持った少女が歪な笑みを浮かべて立っていた。

愕然と立ち尽くす五人を順番に一瞥し、少女は再びニタリと歯を剥き出しにして笑い、顔を上げる。

その両の瞳は真紅の輝きを帯びて静かな脅威を相手に放っていた。


??「安心して?まだ、死んでないから」

加賀「……提督ッ!」グッ

??「はいは~い、そこの空母さん、動かないでね?次、動こうとしたらこの男の首、そっちまで弾き飛ばすよ」

加賀「……っ!」ピタッ

??「うん、いい子いい子♪う~ん、でもちょっと来るの遅かったかなぁ…」

提督「て、めぇ……いつ、から……」

??「キミ達がここに集合して直かな?あぁ、それよりもさ、余り喋らない方がいいよ?結構深い手応えあったから。ゴメンねぇ…余り手加減とかした事ないから、これくらいかな~?って感じで適当に抉ったからさ。んでもって…」


バキッ


提督「がっ……!」ゴロゴロッ…ドンッ

??「ちょ~っと邪魔だから隅っこにいてねぇ」

長良「し、司令官!」

??「こんなオッサンの心配するより自分達の心配すれば?これからキミ達全員、分け隔てなく死ぬんだから」ペロッ…

199 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/22 20:19:33.81 u6zo0gzSo 110/385



自らの指先に付いた提督の血を舌先で舐め取り、少女は不敵に笑う。

しかし、改めて加賀達はその異質さに気付く。

少女と思っていた存在。

だが特徴的な青白い肌に白い髪、輝く両の真紅の瞳。

これだけで彼女がただの少女でない事を如実に物語っている。


鳥海「あなた、まさか…」

??「あれ、結構アタシって有名だった?最近は為りを上手く潜めていたと思うんだけどなぁ…少し前の世代が大暴れしてたのは記憶に新しいと思うんだけどね?」

加賀「戦艦…レ級…」


パチンッ


レ級EL「正解☆」


レ級ELは指を鳴らして加賀を人差し指で示しながらウィンクして答える。


レ級EL「なんていうのかしら、こういう場合…雇い先のクライアントからの命令なの♪とか言えばいいのかしら」

満潮「……」チラッ…

「……」コクッ…

レ級EL「…あら、駆逐艦ガールズで内緒話?」ニヤッ…

満潮「……」

レ級EL「そういう仲間外れ的なの、アタシ好きじゃないなぁ…」

満潮「なら混ざる?最も、あんたじゃ内容についてこれなさそうだけどね」

レ級EL「ふふっ、四肢切断の上で頭をスイカ割の要領でグシャッと潰して、胴体は原型なくなるまでグチャグチャに潰してあげましょうか?」

満潮「はあ?なにそれ、意味分かんない。アホ面オヤジをちょっと小突いたくらいで何調子に乗ってんのよ」

レ級EL「あら、提督でしょう、この人。上官を気遣う発言はあっていいと思うんだけどなぁ」

満潮「気遣う?なにそれ、美味しいの?その気遣うってヤツ」

レ級EL「ふ~ん…五人とも、それなりにはやるみたいねぇ…大口叩けるわけだ。でもね、前大戦時の先代とアタシ、同格に見られるのは困るのよ。少なくとも、近代化改修もまともに受けてない連中に負ける気はしないわ」

鳥海「…っ!」(どうして、深海棲艦が近代化改修の事を知ってるの?まさか、このレ級EL…西提督の、差し金!?)

205 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/25 21:28:16.37 axZU1K2Zo 111/385

-悪夢再臨-


『報告は確かなのか』

『間違いありません。例の新型が他の深海棲艦を随伴して艦隊を編成、この海域で暴れていると…』

『周辺区域の鎮守府は!?』

『情報を察知し、各々に艦隊を編成、討滅へ動いています。提督…』

『戦艦、レ級か…!』


──ザー……近隣の……守府、応……すか──


『…!緊急通信!』ダッ


ガチャ…


『こちら、西方海域担当の提督!所属と名前を…!』


──ザー……ら、不……属の…う型…番艦……風です!──


『ノイズが酷すぎる…くそ、風の名が付く艦種は…』

『駆逐艦だけです、提督』

『陽炎型の駆逐艦か!天津風は確か鋼鉄の艦隊。磯風は元帥殿の艦隊……残っているのは……初風、時津風、浦風、浜風、谷風、舞風……いや、一人だけ陽炎型じゃない、風の名が付く駆逐艦が居るか。島風…』


──ザー……ぐに、急いで……ッ!……ボゴオォォォン……ザー……ブツンッ──


『くっ……!おい…おいっ!どうした!?応答しろ!おいっ!!』

『提督…』

『くそ…!急ぎ出撃の準備を整えて迎撃体勢を取る!』

『了解しました!』

206 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/25 22:01:24.35 axZU1K2Zo 112/385

それは遠い記憶のように感じられるほど色褪せた映像として透写された。

記憶の片隅にある僅かな映像。

走馬灯のように記憶の中に根深く突き刺さったものが溢れるようにして脳裏に蘇る。

そして映像が白く染まり、辺りに喧騒が戻り、意識と共に痛覚も呼び起こされる。

脇腹に奔る焼けるような強烈な痛みに意識が跳ね上がるようにして覚醒する。

神経事鷲掴みにされたかのような、なんとも表現のしようのない痛みは否応無く意識を呼び戻した。


提督「ぐあ……!あ、ぁあ……く、そ…が……っ!」ゴロン…

提督「あい、つ等、は……」


ボゴオオォォォン……ドオオォォォン……


提督「やめ、ろ…てめぇ、等で……勝て、るワケが……」ズズッ…

207 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/25 22:03:28.28 axZU1K2Zo 113/385

レ級EL「しょっぱなの一撃は驚いたんだけど、でもまぁ…この程度かぁ…」サッ


ボゴオオォォォォォン


鳥海「くっ…!」

「速い…!」

満潮「反応速度もハンパない。何なのよ、こいつ…!」

加賀「これなら、どうかしら」スッ…

レ級EL「っと…艦載機か」スッ…


弓を構える加賀、それに合わせるようにレ級ELが片手を真上へ上げる。


ビュッ


迷わず放たれた加賀の一矢。

それに合わせてレ級ELも振り上げていた手を真っ直ぐ加賀を指し示すようにして振り下ろす。


サッ


ダダダダダダダダダダダッ


ボゴオオォォォォォォォン


レ級ELの背に備えられる艤装から無数の艦載機が出現し、それらは加賀の放った艦載機と真っ向からぶつかり合う。

競り勝った一団は、レ級ELの操る艦載機群だった。


加賀「くっ」


競り勝った残りのレ級EL艦載機からの艦爆艦攻を一身に受け、加賀の姿が一瞬にして煙幕の中に消える。


レ級EL「ざぁんねん…アタシの艦載機って結構優秀でしょ?」ニヤッ…

加賀「甲板に火の手が。……そんな、馬鹿な」 小破


ブンッ ブンッ サッ


腕を振り、風を巻き起こして火種を蹴散らし、加賀は凛とした表情で尚もレ級ELを見据える。


レ級EL「ヒュ~♪かっこいいねぇ…」

加賀「…頭にきました」ギラッ

208 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/25 22:04:05.69 axZU1K2Zo 114/385



加賀の瞳が一層強みを増して輝く。

決して驕っていた訳ではない。

油断もしていなければ、気を緩めていた訳でもない。

それでも機先を制された事への憤りを感じた。

今まで積み上げてきた信念。

己の腕を信じて、それに誇りを持って、決して揺るがない鉄の如き意志を持ち、最前線を駆け抜けてきた。

誰もが認めた一航戦としての誇りが、今この瞬間に打ち砕かれようとしていた。

決して緩めては来なかった兜の緒。

だがしかし、緩んでいたというのならそれは心の奥底に生まれた慢心。

今一度、加賀は己を律した。


レ級EL「まだやる気?」

加賀「皆、優秀な子たちですから。ここは……譲れません」

209 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/25 22:04:44.18 axZU1K2Zo 115/385




??「迂闊だったわ…まさか、あっちじゃなく、こっちを狙ってきてたなんて…」

??「多摩の直感、当たりましたね」

多摩「にゃ!言ったとおりにゃ。なんとな~く、護衛のほうは問題ないって思ってたにゃ。それでどうするにゃ?」

??「確かに…本来の任務とは食い違います」

??「妙高姉さん達には報告したもの、単独行動にはならないわ」

??「了承を得たと?」

??「う~ん、多分?」

多摩「……得てないパターンにゃ」

??「うふふ♪」

??「あなたと言う人は…」

??「それに、あれは前大戦で消滅したと思われていた新鋭が生み出した悪夢の一端、戦艦レ級、その第一進化を果たした存在よ。始末できれば良し、出来なくとも生体データの採取は必須でしょう?」

??「ものは言いようだな」

多摩「こじ付け、とも言うにゃ」

??「んもう!細かい事はいいのよ!さぁ、出撃よ!戦場が、勝利が私を呼んでいるわ!」

??「こうなってはもう止まらないわね。なら、徹底的に追い詰めてやるわ」

多摩「二人とも好戦的すぎるにゃ」

??「多摩の手も借りたいってね?」

多摩「にゃにゃ!多摩の手も借りたいって?しょうがないにゃあ。じゃ、多摩も出撃するにゃ!」

215 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/28 19:22:47.54 bHfPzMAuo 116/385




-敵の影-

??「ようこそ、諸君。僕らが治めるこの鎮守府こそ、まさに理想郷だよ」

??「前置きはいいよ。それよりも北のお馬鹿さん、陸軍に引き渡されたんだって?」

??「墓穴掘るにしても、デカ過ぎでしょう。欲が前に出すぎた結果ね」

??「西も今相当荒れ狂ってるよなぁ…あれ、大丈夫なんだろうな?」

??「プレゼントを贈ってあるから、それなりに対処するんじゃないかな。それよりも僕らが今すべきは一つ」

??「色欲くんの救出?嫉妬しちゃうわねぇ…あんな変態を助けたいだなんて…」

??「彼はただの欲塗れの人間じゃない。それは皆も既に解っているだろう?」

??「そりゃあ、北のお馬鹿さんよりは利口だと思うけど、大本営に捕まってる状態でどうするのさ。冗談抜きで元帥の抱える艦隊は強いよ」

??「だなぁ…」

??「だからこそ、皆を集めたんじゃないか。三人寄らば文殊の知恵ってね。僕一人でもやりようはあるけど、それだと結局どこかで足が付く。それを消す為には皆の協力が必要不可欠ってわけさ。どちらに転ぶにしても、ハイエナの今回の行動は既に露見してしまっている。あれを擁護するのは余り得策じゃない」

??「あら、それじゃあの怠け者ボウヤは見捨てちゃうわけ?薄情ねぇ…」

??「相変わらず君は辛辣だね。その蛇のような目、僕は好きだよ」

??「それはどーも、お坊ちゃま」

??「んで、どーすんだよ。さっさと決めてくれよ。俺ぁこういうの考えんのが苦手なんだ」

??「そうカリカリするもんじゃないだろう?心を落ち着かせないと、出てくるものも出てこなくなるよ」

??「けっ、てめぇは毎度食ってるだけだろうが。暴食野郎が」

??「艦娘の中には正義感の強い子も多数居るからね。そんな子達を堕落させるには、どうしても彼の力は必須。僕はそう見ている。ただ滅ぼすだけなら一斉攻撃を仕掛ければ良いだろうけど、それだけだと恐らく海軍を根底から滅ぼすだけで終わってしまうんだ」

??「つまり何か、潰すは潰すが、要所良く形は留めて要らねぇ部分だけ潰すって事か?」

??「いい嗅覚を持ってるね。その通り…あの存在自体は非常に有効利用が出来る代物だ。それをむざむざ無にしてしまうのは勿体無いと思わないかい?出来る事なら、僕らでそれを再利用するんだ」

??「だから内側からって事なわけね」

??「まぁ、それはいいんだけど…ハイエナの方はどうするのさ。援軍は送ったんだろう?それなのにさっきの口振りじゃもう用済みみたいな言い方をしているじゃないか。斬り捨てるのかい?北のお馬鹿さんと一緒に」

??「今後の展開次第だよ。僕が預けた子を上手に立ち回らせてれば、望みはあるかもしれないね。けど、単独先行させてしまっていた場合は……ふっ、残念だけど礎になってもらうしかないよ」ニヤッ…

??「やれやれ、君の悪い癖。その笑みが出ると必ずと言っていいほど何かを企めている顔だよ。私はその顔、嫌いだ」

??「表情一つで僕の考えを汲んでくれる君を、僕は非常に好いているんだけどなぁ」

??「ちっ、気持ち悪ぃ事言い合ってんじゃねぇよ。男同士で好きだ嫌いだってホモかよ。ったく……とにかくだ……エロ河童については保留、北のバカとハイエナのアホは状況次第で抹殺でいいんだな?」

??「ああ、構わない。まだ確信を得られても困るからね。内部からジワジワと蝕んでいくよ。気付いた頃にはにっちもさっちもいかない状況がベストだね」

??「そういえば、怠け者くんは何にご立腹なのかしら?」

??「さぁ、そこまでは僕も聞いてない。ただ、彼は自分の益の妨げになる奴をこの上なく嫌う傾向があるからね。彼の目に留まってしまったのなら、恐らく死ぬまで追い回されるだろう」

??「あら、あたし達ならともかく、あなたが相手を把握してないなんて珍しいわね」

??「把握する必要がないからね」ニヤッ…

216 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/28 19:23:24.13 bHfPzMAuo 117/385




加賀「ここは……譲れません」スッ…

レ級EL「面白そうじゃないの。アタシ一人に誰一人としてそっちは手も足も出ないのにまだ足掻くって言うんだから、最後まで足掻かせて上げるわよ。そして知るといい。可能性なんてものが微塵もないという現実を」ギラッ…


再度矢を番え直し、加賀が弦を引く。

その動作を全てレ級ELは不敵な笑みを湛えながら見守るが、不意にその表情が陰る。


レ級EL「…っ!」バッ


ボゴオオオォォォォォン

ボゴオオォォォォォン


加賀「なっ…」

レ級EL「誰…!」


一瞬の静寂を切り裂いて海面を無数の砲弾が貫き、周囲に水飛沫を撒き散らして加賀とレ級EL、双方の動きを止める。

そして加賀達とは反対の方向から三つの影が薄っすらと水平線に浮き上がり、それはやがて輪郭を帯びていく。

218 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/28 20:33:12.20 bHfPzMAuo 118/385



満潮「誰よ…」

「わ、解らないのです」

長良「援軍、なのかな」

鳥海「なら、いいんですけどね…」

??「あらら、命中には至らなかったか」

??「当然です。あれで終わるなら苦労はない」

多摩「にゃ~」

レ級EL「たった三人ですって…?誰よ、あなた達…」

??「妙高型重巡洋艦三番艦の足柄さんよ。覚えておきなさい?」

??「陽炎型駆逐艦二番艦不知火」

多摩「球磨型軽巡洋艦の二番艦、多摩だにゃ。暴れるにゃ!」

加賀「」(見た事がない…まさか、大本営の艦娘?)

足柄「あら、訝しい顔ね。加賀さん?でも大丈夫よ。別にあなた達に用があってきた訳じゃないのよ」チラッ…

レ級EL「目的はアタシってワケね」

足柄「ふふっ」

レ級EL「何が可笑しいのよ」

足柄「思いもよらない収穫だもの。そりゃあ、笑みも零れるでしょ?」

レ級EL「餓えた狼、か…」

足柄「解ってるなら、注意しないとね?不知火、多摩、戦闘準備!」

不知火「了解」

多摩「にゃ!」

レ級EL「あはっ…まさか、まさかとは思うけど…え、本気?まさか三人だけでアタシに挑むの?」

足柄「あら、後ろの空母さん達はもうシカトなのかしら?」

レ級EL「…………」チラッ…

加賀「まだ戦力に余力はあります。追撃は可能です」

鳥海「まだ何もしてないのに、白旗なんて揚げるもんですか」

長良「何が何でも勝つ!」

満潮「水底に送り返してやるわ」

「ぶっとばーす!」

多摩「やる気十分にゃ」

不知火「まだ、折れてはいないようで安心しました」

足柄「それなら、勝つわよ。変則的だけど…今回は特別。見せて上げるわ、戦闘を主任務に置く私達の実力」


足柄が主砲を構えると同時に、左右に展開していた不知火と多摩の二名も共に主砲を構える。

そして息を合わせたように足柄の号令で行動を開始した。

219 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/28 21:14:37.45 bHfPzMAuo 119/385



足柄「第一戦速、砲雷撃、用意!てぇーっ!!」サッ


ドン ドン

ドン ドン ドン


レ級EL「小賢しいわね」ビュオッ


ボゴッ ボゴッ……ボゴオオォォォォン


背にある艤装を自在に操り、レ級ELは差し迫ってくる砲撃の悉くを巻き起こした突風で軌道を逸らし誘爆させる。


不知火「何…!」

多摩「は、反則にゃ!」

足柄「へぇ…怪物認定は伊達じゃないって訳ね」

加賀「それで満足されては困ります」

レ級EL「何ですって…?」

加賀「言ったはずです。みんな優秀だと。この艦隊に劣っている者など、一人としていません」


バッ


足柄達の攻撃を迎撃し終わった直後を狙い、今度は鳥海達が一斉にレ級ELへと迫る。

鳥海と長良を後方に据えて先頭を二人の駆逐艦が仕切る。


満潮「何発でも、何十発でも…!」

「その澄ました顔が歪むまで撃ちまくってやるです!」

レ級EL「駆逐艦に何が出来るっての!」ザッ


足の軸を変えて即座に漣達の方へ向き直ったレ級ELだが、二人の駆逐艦はレ級ELへ突進はしなかった。

ただ左右に分かれて、シンクロするように同時に左右からのタイミングをずらした一斉砲撃が開始する。


ドン

ドン ドン ドン

ドン ドン

ドン


レ級EL「くっ、こいつ等…ッ!」


ボンッ

ボボボンッ


レ級EL「鬱陶しいなぁ…!」 被害軽微

220 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/28 21:48:32.13 bHfPzMAuo 120/385


「褒めても何もでませんよ~!」

満潮「ウザくて何ぼよ。徹底的に纏わり付いてやるわ!」

足柄「」(この子達、今まで見てきた駆逐艦の中でもトップクラスね。うちの不知火に引けを取らない。いいわね…)

多摩「足柄、追撃にゃ!」

足柄「ええ、そうね。不知火、多摩、レ級ELの動きに注視。加賀の束ねているあの艦隊は強い。必ずレ級ELの足許を掬うわ。その瞬間を狙い撃つ。乱撃戦は彼女達に任せましょうか。下手に突っ込んでこっちの足許見られても癪だしね」

不知火「解りました」

多摩「りょーかいにゃ!」

足柄「まだ、飛び掛る時じゃない。必ず好機が出来る。今は、牙を研ぐ時よ」チラッ…


足柄の視線の先、一切のブレも見せない、完璧な立ち姿で弓を引き絞ったまま動かない加賀。

先のレ級ELとの制空権争いで競り負けながらも、その闘志は尚燃え上がる。

更にその先に視線を移すと鳥海と長良が一斉射の準備に取り掛かりつつ射線の確保に向かっている。

てんでバラバラに見えるこの艦隊だが、その連携は微塵も狂わず綺麗に整っている。

各々が自分の役割、出来る事を把握してその範囲内で最大限のパフォーマンスを見せる。


バッ


装填分、全てを撃ち尽くすと同時に漣達は一歩後方へと後退し、それを合図とする様に今度は鳥海と長良が前に出る。

レ級ELに考える暇、体勢を整える暇、余裕を生ませない為に間隙すらも縫わせない徹底的な攻勢スタイル。


レ級EL「蟻がどれだけ群がったって象には敵わないでしょうが…!身の程を、弁えろ、艦娘風情がッ!!」ドォン ドォン


サッ

ボゴオオオォォォォン


闇雲に放たれたレ級ELの砲撃は鳥海達の上空を通過し、その後方で爆発を起こす。

自身でも気付いていない、それはレ級ELに余裕の現われが消えていた事を示していた。

221 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/28 22:20:20.25 bHfPzMAuo 121/385



レ級EL「鬱陶しい……!何なのよ、あんた達は…!」

鳥海「艦娘です」

長良「汚名を残した、ね」

鳥海「それでも、人が生きる過程の中で成長・進化を遂げるように…あなた達深海棲艦が同じように進化を果たすのと同じように、私達も生まれ変わる。成長し、進化し、強くなる!」

長良「ここから、私は挽回する!鳥海さん、加賀さんの射線確保を優先して下さい」

鳥海「任せなさい!いくわよ!」ドン ドン


サッ

ボボボボンッ


レ級EL「ちっ」

長良「私も鳥海さんと共に射線の確保に動きます。漣と満潮はスイッチする形で常に私達と交互にレ級ELの進路妨害に徹して!相手に余裕を与えないように!」

満潮「やってやるわ!」

「任せてちょーだい!」

鳥海「長良、あと一度よ!」ジャキッ

長良「はいっ」ジャキッ

レ級EL「思い上がりも甚だしいわ。全弾撃ち尽くして、そして絶望の中で水底へ沈めて上げるわよ!」ジャキッ

長良「……」ニコッ

鳥海「……」ニコッ


ドン ドン ドン ドン


レ級ELの言葉を受けた上で、二人は余す事無く砲弾の全てをレ級ELへ撃ち出す。

その間隙を縫って、今度は再び漣と満潮が同じく全弾一斉に発射する。

巻き起こる噴煙は倍化し、辺りの視界を一気に多い尽くす。

222 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/28 22:41:20.56 bHfPzMAuo 122/385



──だから、無駄だって言ってるでしょ!終わりよ。跪きなさい、愚かな艦娘風情はッ!!──


ビュオッ……


噴煙の中から木霊するレ級ELの声。

その声と共に突風が吹き荒れ、立ち昇っていた噴煙を蹴散らして視界が戻っていく。

だが、それと同時に長良の声が一際大きく響き渡った。


長良「加賀さんっ!!」

加賀「いい作戦指揮です。戦艦レ級EL…次の攻撃、防げるものなら防いで見なさい」ビュッ

レ級EL「……っ!」 被害軽微


番えていた矢を放ったかと思うと、加賀は既に第二の矢を弓に番えていた。


レ級EL「なっ…」

加賀「本来、このような行使はしません。ただし、それは事艦隊戦においてのみです」

レ級EL「あなた達だって、艦隊を編成してるじゃない!」

加賀「そうですね。一見矛盾を孕んではいますが、これがその答えです」ビュッ


初撃を放った直後、加賀は更にもう一発、矢を上空へ向かって放つ。

そこから更に加賀は矢を弓に番えて構える。


レ級EL「なっ…あ、あなた正気!?味方諸共、アタシを…」

加賀「諸共?冗談でしょう。狙いはあなた一人です。大丈夫、みんな優秀な子たちですから」ビュッ


一切の迷いも無く、加賀は三度目の矢を放つ。

三本の矢は段階を置いて第一順から次々と艦載機へとその姿を変えていき大空へと舞い上がる。


レ級EL「そんな数の艦載機…一度に出せば周辺がどうなるかなんて解りきってると思ったんだけど…もしかして、あんたバカなわけ?」

加賀「その台詞は後の展開を身をもって知ってから口にして下さい」


ババッ


加賀の放った無数の艦爆艦攻隊が一斉爆撃と射撃を敢行する直前、鳥海達が一斉に外へ向かって飛び退く。

鳥海と長良がそれぞれ放っていた水偵がタイミングを見て合図を送り、それを聞いた二人が駆逐艦達にもタイミングを知らせ、示し合わせた上で同時に退いたのだ。

223 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/28 23:05:00.02 bHfPzMAuo 123/385



レ級EL「あなた達…ッ!」

足柄「斉射準備に入るわよ」

不知火「見事と言う他ない」

多摩「引き際と攻め時、解ってるにゃ」

満潮「だ~れがあんたと一緒に心中なんてするって言ったのよ」

「漏れなく全部あなた様へプレゼントしてやるです!」

鳥海「これが、あなたが艦娘風情と見下す私達の力よ!」


ボゴオオオォォォォォォォォン


一際大きな炸裂音が響き渡り、加賀の有する艦爆艦攻隊が一斉に攻撃を仕掛ける。

巻き起こる噴煙を切り裂き、海面を、空を、縦横無尽に艦載機が駆け回る。

攻撃が止む直前、長良の声が周囲に響いた。


長良「今です!」

足柄「いくわよ!」

不知火「了解」

多摩「にゃ!」


待ってましたと言わんばかりに、今度は足柄達が一気に前に出る。

最初は華を持たせるつもりだった。

危なくなれば直にでも割って入ってレ級ELの動きを寸断する予定だった。

ところが蓋を開ければ共闘するこの五人は予想を遥かに上回った強さを見せた。

嬉しい誤算と同時に、少しの不安を抱えながらも足柄は主砲の照準を合わせる。

224 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/28 23:05:33.55 bHfPzMAuo 124/385



レ級EL「ア、タシが…!こんなァ……ッ!!」 中破

足柄「敗因は、戦力を見誤った事ね」

不知火「不測の事態は常に考えるべきです」

多摩「それをしないのがお前達深海棲艦にゃ!」


ドン ドン ドン ドン

ボゴオオォォォォォォォン


尚も前に進もうとするレ級ELを真正面に捉え、三人の砲撃が一斉にレ級ELを襲う。

今度こそ、レ級ELは沈黙し、海の藻屑となって水底へと沈んでいった。

水面に浮かぶ剥がれ落ちたレ級ELの艤装の一部を拾い上げ、足柄は加賀達に向き直る。


足柄「ご苦労様。それと、中の提督さん、早く治療して上げないと出血多量で死ぬわよ」

「あ……」

満潮「ヤッバ、忘れてた…」

加賀「聞きたい事は往々にしてありますが、今は人命を優先します」

不知火「適切な判断ね」

多摩「うんうん」


足柄達は加賀達の背を見届けてからレ級ELの艤装を一瞥して大本営へ報告をする。

225 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/02/28 23:06:21.36 bHfPzMAuo 125/385



足柄「……こちら足柄です。大淀さんかしら?ちょっと面倒な事になったわね」

大淀『面倒、とは?』

足柄「通信じゃちょっと怖いわね。先の件と連動してる、とだけ言っておくわ。とにかく…任務は終了。今から投錨します」

大淀『解りました。元帥にもその旨、通達しておきます』


ブツン…


不知火「想定外の戦力差もあって今回は勝利できたけど、改めて戦艦レ級の恐ろしさを痛感しました」

多摩「殆ど奇襲に等しかったにゃ。あっちも加賀達を下に見て遊んでくれてたのが幸いしてるにゃ」

足柄「そうね。もしもあれが出だしから殺しに来てたなら、確実に全滅コースだったかもしれないわね」

多摩「けど、肝心なのは今回勝利したことじゃないにゃ。レ級が未だ存在していたという事実にゃ」

不知火「しかも単独。エリートやフラグシップクラス、鬼や姫、レ級と言った一部のクラスに属してる深海棲艦は往々にして高い知能と統率力を有しているはず。それが単独で、しかもあの鎮守府を狙ったというのが不思議」

足柄「ハズレ鎮守府…確か今回の任務、事の発端は西の鎮守府が行っている違法行為の証拠を発見する事、だったわよね」

多摩「そうにゃ。ただ、多摩達は基本武闘派だから途中からはサフに任務伝達をして引き継いでもらってたにゃ」

不知火「サフの抱えてる案件にはこの鎮守府も含まれていたはずです」

足柄「それこそ事の次いで程度だったはずよ。現にサフがここに着たのも、北の鎮守府絡みでたまたま交わっただけだし」

多摩「多摩の直感が言ってるにゃ。今回各地で起こってる事件。全て繋がってる気がするにゃ」

不知火「多摩の直感って悪いのばかり当たるから嫌い」

多摩「にゃにゃ!?」


相手の油断も手伝ってなんとかレ級ELの撃破に成功した加賀達。

放置されて安否の確認が取れない提督。

そして加賀達の窮地を救った足柄達と鬼怒達を護送していった雲龍達の詳細。

確実に解っているのは、闇の一端がまた一つ、顔を覗かせたという事だけ。

231 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/03/07 21:15:00.97 um3piFOoo 126/385




~不退転~



-不幸ですね-

『急いで最寄の救急病院へ電話をして下さい』

『し、止血ってどうするんだっけ!?』

『応急処置は私がやりますから、電話をお願いします』

『二人は毛布と清潔なガーゼをあるだけ持って来て下さい』

『解ったわ!』

『ほいさー!』


そんな喧騒とした声が聞こえたのは覚えている。

煩くて敵わなかった。

あと少しという所で意識も薄れ、安眠へと移行できると思っていた矢先の喧騒。

実に……じ・つ・に、不愉快極まりない。

だが暫くするとその喧騒も止み、今度こそ静かな安寧が訪れた。

そして、意識が完全に落ちて気が付くと────


提督「……どこだ、ここは」

加賀「気が付かれましたか、提督」パタン…


本を読んでいたらしい加賀は提督の意識が戻ったのに気付いて本を閉じて視線を移す。

視線を交わらせると、これがどうだ…心配の『し』の字もしていないという顔つきだ。

鉄面皮は健在らしい。


提督「ふん……死に損なったか」

加賀「減らず口が出る辺り、順調に回復しているようで何よりです」

提督「……あの、バケモノは、どうした……」

加賀「撃滅しました」

提督「……っ!?お前等、だけでか」

加賀「未確認の艦娘による援護がありました。恐らく大本営から派遣された部隊だと思われますが…」

提督「また、大本営、か」

加賀「主治医を呼んできます。目を覚まされたばかりですから、会話も身体に障るでしょう。お待ち下さい」スッ…

232 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/03/07 21:41:16.30 um3piFOoo 127/385



結果から言えば、俺はまさに生死の境を彷徨ったらしい。

眠気が襲ってきたのは死ぬ間際だったんだそうだ。

あそこで加賀達が応急手当をしていなければ確実に俺は目を覚ます事は無かったそうだ。

ったく、よりにもよってあいつ等に借りを作った事が悔やまれる。

こと、満潮と漣に関しては口煩くなるのが目に見えている。

直前に加賀から聞いた話では予期せぬ援軍があったという。

それに妙高が口にしたサドバフと言う単語。

少なくとも俺が上層部に関わりを持っていた頃には聞かなかった呼称だ。

恐らく何かのスペシャルチームの略称なのは明白だ。

雲龍達は警護部隊と言っていたな。

それ以外に、最初に遠方からこちらを監視していたのは恐らく密偵部隊だ。

当時の呼称そのままならば暗部と呼ばれるスペシャルチームだろうが、当時は暗部で統一されていたはず。

その中でも枝分かれして集団が形成されていた程度だ。

所謂部局と課室って奴だ。

暗部は部局で、その下に枝分かれして密偵、諜報、暗殺と並んでるのが課室。

そんなもんまで結成するって事は、智謀自身も内部の腐食が進行してるのをどうにかしようとしてたって訳だ。

前元帥ならまずそんな身内を疑うなんて所業はしなかっただろう。

かえってそれがヤツ等の温床になってたのが智謀としても頭を悩ませる原因か。

そして今回の西の一件。

まさか深海棲艦を手駒に加えてるとなれば、いよいよ新鋭の再来だ。

歴史は繰り返されるというが、こうも短期間で繰り返されたんじゃ進撃の立つ瀬もなくなるな。

233 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/03/07 21:41:43.57 um3piFOoo 128/385



ガチャ……


加賀「不幸でしたね、提督」


──不幸ですね、提督──


提督「てめぇ……」ムクッ…

主治医「あぁほら、動かないで。意識戻っても傷口は深いんだから、無理に動いたりしたら折角縫った箇所がまた開いてしまうだろう」

加賀「思った事を口にしただけです。他意はありません」

提督「ちっ……他の連中はどうした」

加賀「鎮守府を空にする訳にはいきませんから、鎮守府で待機してもらっています」

提督「つぅかてめぇ、なんで普段着なんだよ」

加賀「軍装はそれだけで目立ちますから」

主治医「ほら、提督さん。少し大人しくしてて下さい」

加賀「無事を確認できましたから、私はこれで失礼します。先生、後は宜しくお願いします。では」ペコリ


ガチャ……パタン……


主治医「…はぁ、今の子、艦娘って言うんでしょう?普通の子と何ら変わらないけど、何でも軍艦だかの記憶を内に秘めてる子だけがなれるっていう…」

提督「ったく、一般人にまで浸透してる知識かよ。世も末だぜ…」

主治医「癇に障ったなら謝ろう。だがね、我々にしてみれば関係ないのさ。彼女達も同じじゃないのかね」

提督「…………」

234 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/03/07 22:16:16.67 um3piFOoo 129/385


主治医「我々はこうして人命を助ける。彼女達も、今じゃ人が自由に航行もできない海に繰り出して人々を助ける。だからね、何故貴方がそうも彼女達に辛く当たるのか、私にはよく解らなくてね」

提督「あんたはメンタルカウンセラーか何かかよ」

主治医「いや、専門外だね。私のメインは形成外科だ」

提督「だったら根掘り葉掘り聞いてんじゃねぇよ」

主治医「提督さん、貴方…救急搬送されてきた時に何て言ったか覚えてらっしゃいますか?」

提督「はぁ?」

主治医「貴方はね…何もするな。このまま放置して殺してくれ。そう仰ったんですよ」

提督「…………」

主治医「さっきまで一緒に居た彼女、艦娘の加賀さんがね、これがまた辛辣でねぇ…ただの戯言ですから、処置をお願いしますって言い放ってね」クスッ…

提督「あの野郎……」

主治医「まぁ、ね。頼りにされてると、そういう事なんじゃないかな」

提督「…海軍提督には、幾つか守秘義務がある。てめぇもただの医者って訳じゃねぇだろ。海軍の人間を受け入れる病院なんてそう多くはねぇはずだ」

主治医「平成初期の時代はまだ病院も往々にしてオープンだったんだけどね。今じゃ格差をつけて各々の身分に見合った病院へ通うようになっているね。それもこれも、深海棲艦の出現で軍の機密事項が増えたのが原因さ」

提督「で?」

主治医「ふふっ、そう…私は元軍医だよ。階級は中佐だった。君が言うとおり、ここは海軍ご用達の病院だよ。だから何があったのかなんていうのは言われなくても解っている。艦娘の事もある程度把握はしているさ」

提督「ああそうかよ」

主治医「さて…それだけ喋れるんだから、後は無理せず療養してもらって傷を癒そうか、大佐殿」

提督「くそったれが…」

235 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/03/07 22:16:44.48 um3piFOoo 130/385




『不幸ですね、提督』

『そこは不運って言えよ』

『あら、そうですか?』

『不幸不幸って、本当にそう思ってるのか?』

『ふふ、さぁ…どうでしょうか?』

『ったく、何かにつけてお前は直に不幸自慢をするが、存外そうとも言えないんじゃないのか?』

『口癖、みたいなものだからかしら?』

『余り褒められたもんじゃない口癖だ』

『ふふ、それじゃあ少しだけ、意識してみますね。でもね、提督……やっぱり、こればっかりは、不幸、かな……』

『……すまない』

『やっぱり私、沈むのね……山城は無事だと良いけれど……』

『山城は…大丈夫だ。心配ない』

『それを聞いて、安心しました。提督、あの子の事、宜しくお願いね?』

『本当に……すまない』

『謝らないで、提督。根を詰めすぎては、身体に毒です』

『お前を、救えなかった…』

『提督と、お別れする時は、もっと…黒ずんだ空の下なら良かった……空は、あんなに、青いのに……』

『扶桑……ッ』

236 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/03/07 22:24:01.23 um3piFOoo 131/385




嫌な夢を見たものだと、静かに閉じていた瞳を開いて映し出された天井を凝視する。

痛みは……ある、が昨日ほどではない。

どちらにしろ一日二日でどうこう出来るような怪我じゃないのは明白だ。

今のポジションになってから初めてかもしれない。

鎮守府の心配などをしたのは。

柄にも無い、嘘ばかり、心にも無い、冗談が過ぎる、洒落にも聞こえない。

あいつ等ならばそんな罵声を飛ばしてきそうだが、今回ばかりは焦る気持ちが勝る。

予感と言うのは得てして妙で、大抵は悪い方向で的中する。

良い流れと言うのは個々がその目標へと向かって邁進する事で初めて生まれるが、悪い流れと言うのは何もせず、ただ佇んでいるだけでも生まれる。

最悪なのは、良い流れと違って悪い流れは生まれた直後から濁流のようにしてこちらを一気に押し流そうとする。

流れを変えるには相応の労力と知力と決断を要求される。

どれか一つでも欠ければ瞬く間に濁流の藻屑となってご臨終だ。

ただし、悪い流れは断ち切れさえすれば一転して一気に良い流れへと変わる。

戦艦レ級、その第一進化のエリートタイプを今回撃滅できたのはまさに僥倖と言うべきだろう。

惜しむらくはその場に自分がいない事だ。

短いスパンで必ずまた何かアクションが起こる。

その対処をあの五人が出来るかどうかでこの後の展開は大きく変わる。

241 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/03/08 20:04:31.59 FiPpLnnao 132/385




加賀「……」

鳥海「……」


今二人は各々で作成した相関図を広げて睨めっこをしていた。

打開策となるべき解決案を模索し、先の先までを読んで結果を突き詰め、今後の最善へ繋がる案を探っている。


鳥海「司令官は、西提督の仕業と断言されたんですね?」

加賀「そうです。どんな禍根があるかまでは説明されていません。けれど、西提督と提督の間には何かしらの因縁があるのだと思うわ。そして、その因縁は提督よりも寧ろ西提督が根深く強く恨むほどのものだという事です」

鳥海「海軍の人間が深海棲艦と繋がっていたという点……この問題は全体の縮図からしても大きすぎる問題です。私達だけであれこれを議論するのは過負荷が大きすぎますね」

加賀「なら、まずは目先の問題です。西提督に関する情報はもう得る事はできません。けれど……」トン…

鳥海「…今回の一件から予測する事は可能、という事ね」

加賀「話を戻します。提督は西提督と禍根が存在する。つまり今回の一件、ただ単にこれが鬼怒達が脱走を企てた、もしくは別の鎮守府の艦娘によるたまたまの救出などだったら西提督の反応はどうだったのか」

鳥海「憤慨はしても恐らくここまで大っぴらな行動には出なかったんじゃないか。加賀さんはそう考えるんですね?」

加賀「最も可能性が高いものを選別した結果に過ぎません。ですが、強ち的を外してはいないと考えます」

鳥海「じゃあそれを前提に、対象を再び提督へ戻すとすると…」

加賀「差し向けた刺客の報告が無い。連絡が付かない。苛立ちは恐らく短い時間で限界を迎えるでしょう」

鳥海「結論……」トン…

加賀「」コクッ…

鳥海「また、襲撃がある」

加賀「そこで幾つかの選択が生まれます。一つは誰か一人を連絡役に添えて提督の助言をもらう事。ですがこれは非常に連携の取り難い環境を生みます。余りお勧めは出来ません」

鳥海「もう一つ、今回の件を大本営へ通達して援軍を貰う事。ただし、相手は同じ海軍の将。それも中将クラスの西提督と言うのを加味すると、先に手を回されていた場合連絡を入れた時点で袋のねずみ…」

加賀「確率で言えば危険な橋を渡るものと推察できます。最後の一つ、私達だけで迎え撃つ」

鳥海「効率面で言えば申し分なし」

加賀「危険度で言えばこれが最も危険ですね。どれだけ取り繕おうとこちらは五名。相手が一艦隊でくるとは到底思えませんから、単純に見繕ったとしても私達の数倍は数を揃えてくるかもしれません。深海棲艦であるなら、ある程度の余裕も生まれるかもしれませんが、こと艦娘に至っては一筋縄ではいかないのが現実です」

鳥海「どの策を弄すにしても、一抹の不安は拭えませんね」

加賀「…………」ギリッ…

242 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/03/08 20:30:23.78 FiPpLnnao 133/385



提示、提案、考察、考慮。

あらゆる可能性とあらゆる事態を想定した上で決定を下す。

加賀はここにきて初めて自分に向いているものと向いていないものを自覚する。

『考える』『提案する』という事はこれほどまでに神経をすり減らし、それでも尚決まらないものかと。

その後に起こる結末如何で自分達の運命すらも左右しかねない決断。

まさに、運命の選択と言うものがこれほどの葛藤を自分の中に生み出すものかと戦慄した。

恐らく提示すれば皆一様に頷き、それに従ってはくれるだろう。

だが、それは命の選択と同じであり、間違えれば確実に死が訪れるのが加賀には明確に解っていた。

それは共に思い悩み、歯痒い表情を見せる鳥海とて同じ心境だっただろう。

自分だけではない、誰かの命も左右するかもしれない一つの命令。

その責を一途に背負う覚悟のある者だけが指揮官としての手腕を振れる。


加賀「……改めて敬意を表します」

鳥海「え?」

加賀「私達艦娘を指揮し、導き、勝利を手にする原動力を生み出す存在、提督。同じ立場を経験すればこそ、その偉大さと威厳、どれほどの責をその背に背負っているのかを痛感します」

鳥海「…らしくありませんね。加賀さんが泣き言を言うだなんて」

加賀「なっ…」

鳥海「けど、解りますけどね、そう言いたくなる気持ちは…でも、誰かがその責を背負わなければならない。今この場には私達五人しかいない。全体の指揮ともなれば、長良や満潮や漣に任せる訳には行かないでしょう。彼女達はまさに前線の主力です。そして加賀さん、あなたもです」

加賀「鳥海…」

鳥海「恨まれるなら、二人より一人の方がいいです。先に虚勢を張っておきます」

加賀「…は?」

鳥海「私の計算は狂わない。私の掲げる戦術用法に、穴なんてない。この戦略こそ、ベスト…!」

加賀「何故、そこまで…」

鳥海「ふふっ、司令官の野望を忘れたんですか?」

加賀「野望…?」

鳥海「まだ、私達はスタートラインから少し前に進んだだけですよ。バリバリ最強には程遠い。No.2はまだ雲の上。他の誰でもない、提督でなければここの艦娘は纏め上げるなんて無理だもの。秘書艦として、加賀さんは提督を支えて上げて下さいね」

加賀「あなたが全ての責を負うと言うのですか?戦術を編んだ上で、自らも出撃し、最前線に立つ覚悟だと?」

鳥海「頭脳では、他者を余り寄付けない自負があります。司令官の代役はお任せ下さい。加賀さんが思っている事、私が今考え思っている事、それは同じです。つまり、この後直に相手方の追撃が予測される。予め入渠も済ませ、各自の燃料や弾薬、艤装の調整は終わらせてあるのは謂わば僥倖です」

加賀「感謝します。けれど、この部隊で誰か一人でも欠ける事は想像できません」

鳥海「え?」

加賀「鳥海も勿論、長良も、漣も、満潮も、私が知る中では、みんな優秀な子たちですから。行きましょう」スタスタ…

鳥海「…ホント、あんな真顔で言われたらテンション上がっちゃうじゃない」クスッ…

243 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/03/08 20:35:47.34 FiPpLnnao 134/385




-修羅苦羅-

ハイエナ「…………」ワナワナ…


ガシャアアアァァァァン


ハイエナ「戻ってこないじゃん!何なんだよ!何だよ、あいつは!?なぁ!?」バンッ

秘書艦「……」

ハイエナ「俯いてないで何か言えよ…」

秘書艦「も、申し訳ありません」

ハイエナ「は?何それ、何謝ってんのさ。あのさぁ~、そういうイラッとくる顔、やめてよね~。マジ、殺したくなる」

秘書艦「」ビクッ

ハイエナ「遠征組二艦隊とも結局戻ってこない上にさぁ、一組は生きてるらしいじゃん。始末しろって言ったじゃ~ん」

秘書艦「ほ、本当に、申し訳、ありません…」ビクビク…

ハイエナ「どいつも、こいつも……ッ!」


コンコン……


ハイエナ「誰だよッ!」


ガチャ……


ハイエナ「……ぁ」

??「やあ、荒れてるみたいだね」

??「…………」

ハイエナ「そ、の、艦娘は…」

??「あぁ、彼女?彼女は僕の秘書艦だよ。一人でも良いって言ったんだけどね」

??「当然です。提督と行動を共にする事こそ、秘書艦としての務めですから」チラッ…

ハイエナ「ヒッ……」

??「ははは、どうしたのさ?そんな怯えた顔しちゃって…もしかして、僕の秘書艦と何か因縁でもあるのかな?」ニヤッ…

??「止めて下さい、提督。こんな魅力の欠片もない男、私の記憶の中にあるだけでもおぞましい」

??「ははっ、言うねぇ。まぁ、それもそうだよね。ハイエナ君……解ってるよね?」

244 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/03/08 21:16:44.28 FiPpLnnao 135/385


ハイエナ「ひ、秘書艦、お前……」

秘書艦「申し訳、ありません…」ペコリ

??「彼女は僕が提供した子だよ?誰がマスターなのか、それを理解しているだけさ。勘違いをしないで欲しいね。ハイエナ君、僕を余り怒らせるな…ただでさえ今、僕達の計画に支障が生まれようとしてる中で、こんな余計な真似をさせて、君は一体僕らにどう釈明するつもりだったんだい?」

ハイエナ「そ、それは…」

??「大方、僕が実際にここには来ないだろうと高を括っていたんだろう?その驚き具合がいい証拠だよ。実に滑稽。怠惰が過ぎたみたいだね。お陰で僕の進めている計画に支障がきたされた。その罪は当然償ってもらう。僕の大事な彼女の妹まで無駄にして、ホント無様だよ……君はもう用済みだ、死ね」

ハイエナ「ま、待ってくれ、もう一度だけ…!」

??「冗談だろう?そんな事したって無意味だ。僕はね、役に立たないのを見ているとイライラして仕方が無いんだよ。駒なんだから、君は…盤面を良く見てよ。ふふっ、チェックメート……君はキングの器じゃないよ。いいとこ、ポーン。そのポーンも最奥まで行けば化けるんだけど、まぁ…君程度じゃあね?」

??「提督、そろそろいいかしら?」

??「ん?ああ、そうだね。無駄話が過ぎたみたいだ。それじゃあ宜しく頼むよ。それと、秘書艦君」

秘書艦「は、はい…!」

??「解っていると思うけど、筋書きは説明できるよね?」

秘書艦「……て、提督は、不意に、侵攻してきた、深海棲艦によって絶命。鎮守府は、艦娘全てが遠征任務などに出払っており、発見が遅れる……」

??「はい、良く出来ました。安心してよ、ハイエナ君。君の仇は僕が取ってあげるからさ」ニヤッ…


闇は、より大きな闇の前では成す術もない。

呑み込まれた闇は呑み込んだ闇に解けて混ざり無へ還る。

空ろな瞳で見下ろす彼女にはどんな光景が映っているのか。

恐怖に歪むハイエナの顔が映ってるのか。

これから殺す相手など既に投影されていないのか。

遠ざかる男の背中。

俯き何かに耐える秘書艦。

無数の主砲の顎がハイエナを容赦なく捉える。

そして────


ボゴオオォォォォォン


その日、一つの鎮守府が大本営の名簿から抹消された。

完膚なきまでに建物を崩壊させられ、そこの鎮守府の長である提督の無残な死体だけが残される。

西鎮守府、提督は西提督。

別名、ハイエナと呼ばれ凡そ全ての提督陣、大本営の人間からも忌み嫌われていた男。

幸い、西鎮守府に在籍していた艦娘達に死傷者は出なかった。

そしてその事実は、ハズレ鎮守府にも緊急電報と言う形で大本営から知らされた。

245 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/03/08 21:59:47.20 FiPpLnnao 136/385




鳥海「西鎮守府が、深海棲艦の強襲を受けて壊滅!?」

加賀「…………」

満潮「うそでしょ…」

「ギャグにしては、ちょっとアレですねぇ」

長良「西提督は!?」

鳥海「……」

加賀「…西鎮守府に滞在する艦娘に死傷者は無し。西提督は、最後まで深海棲艦に臆す事無く立ち向かい、最期を鎮守府と共にした。西提督の顔を知っている者からすればこれ程あべこべな電文はありませんね」

鳥海「つまり、口封じという事?」

加賀「ただ、誰がどのような目的でこんな強硬手段に打って出たのか、皆目見当もつきません」

鳥海「提督はこの情報、もう知ってるのかしら」

加賀「解りませんが丁度今日、様子を伺いに病院へ行く予定ですから、この電文も持参します」

「あー、ご主人様のお見舞い、私達も行った方がいいんですかねー?」

満潮「なんでアホ面オヤジの見舞いなんてしなきゃなんないのよ」

長良「ま、まぁまぁ…」

「とかなんとか言っちゃってー、みっちゃんご主人様がやられた時の取り乱し具合結構いい感じでしたよー?」

満潮「」ピキッ…

鳥海「あら、心配なら行って来ていいですよ?ここ最近は忙しかったですけど、今はご覧の通り暇の極みですからね」

長良「じゃあ、大勢で行くのもあれだから、加賀さんと満潮の二人で今日はどうぞ!」

満潮「ちょっと!なんで私も行く事になってんのよ!?」

「にゅふふふふ…」

満潮「な、何よその気持ち悪い笑い方は…」

「いいえ~、別にぃ~?漣は何も~?」

満潮「こいつ、ムカつく…っ!」

「さてさて、漣はお菓子作りタ~イム♪」ルンルン

加賀「では、軍装では何かと目立ちますので普段着に着替えて来て下さい」

満潮「拒否権なし!?」

加賀「はい?」

鳥海「さて、と…じゃあ私もちょっと勉強しようかしら」スタスタ…

長良「わったしは走り込みー!」タッタッタ…

加賀「で…?」

満潮「む~~~……解ったわよ!行けばいいんでしょ、行けば!」

加賀「はぁ…行きたくないならそう言えばいいだけじゃないかしら」ボソッ…

満潮「何よ!?」

加賀「いいえ、何でもないわ。先に正門で待っているから急いで下さい」スタスタ…

246 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/03/08 22:09:00.48 FiPpLnnao 137/385




加賀「────と言う事で、こちらがその緊急電文になります」パサッ

提督「……確かに、あいつの顔を知ってりゃこれ程笑える内容もねぇわな。鎮守府のために戦って死んだって? ギャグにもなってねぇな。三文芝居も甚だしいレベルだ」

加賀「提督が危惧されたとおりならば、この後また直にでも西提督からの攻撃はあった訳ですが…」

提督「殺ったのは十中八九大本営じゃねぇのは解る」

加賀「では、西提督が組していた腐敗した組織の誰かだと?」

提督「ほぼ、間違いなくな。妙高やら大本営の暗部が動いていたんだ。遅かれ早かれ今回のハイエナの動きは制限され、あいつ自身も矢面に立たされるはずだっただろうよ。つまりは、その口封じだ」

加賀「…………」


コンコン……シツレイシマス……ガチャ……


看護士「提督さん、点滴の交換しますね。あら、若い娘さんがお二人も♪提督さんも隅に置けませんね?」

提督「はぁ?」

看護士「ふふっ、娘さんですか?」

満潮「はぁ!?冗談よしてよ、アホじゃないの!」

加賀「……」

提督「…今のはギャグか何かか」

看護士「あれ?」

提督「あれ?じゃねぇよ!どこが似てるよ!?」

満潮「似たくないわよ!バッカじゃないの!」

加賀「……」

看護士「あらま…お嬢ちゃん、お名前は?」

満潮「お嬢ちゃん言うな!私は満潮よ!み・ち・し・お!」

看護士「満潮ちゃんね。いい、満潮ちゃん?女の子なんだから、バカとかアホとか、そういう汚い言葉は余り使っちゃダメよ?こんなに可愛いお顔してるんだから、もっとお淑やかにしないと、ね?」

満潮「うぐっ……う、うるさいわね。ど、どーだっていいでしょ!///」

加賀「」(珍しくうろたえてますね。接点の無い人間相手だと、少なからず戦意が削がれるのでしょうか)ジー…

満潮「な、何ジッと見てんのよ!///」

加賀「いいえ、別に」

看護士「ふふ、お姉さんの方は少し寡黙で落ち着きがあるのね?年の功かしら?」

加賀「…別に、この子の姉という訳ではないのだけれど」

提督「ったく、いいからさっさと処置して失せてくれ」

看護士「ふふっ、はいはい。解りましたぁ」

247 : ◆vgbPh/qA6.0z - 2015/03/08 22:09:28.67 FiPpLnnao 138/385

提督「ったく……やっと帰ったか、あのクソ看護士」

満潮「……」

提督「…なんだよ」

満潮「私が出撃中に勝手に死ぬとかやめてよね」

提督「んだとてめぇ」

満潮「……っ」モジモジ

提督「んだよ気持ち悪ぃな…」

満潮「以前に!あんた、やたら入渠にうるさい時、あったじゃない。実際、入渠する時間だって、あれ三分もなかった。文字通り掠り傷だったのよ。なんで、あんな剣幕で入渠促したのよ」

提督「いきなりなんだよ、うっせぇな…」

満潮「私は、入渠が余り好きじゃない」

提督「何…?」

満潮「傷口に沁みるし、入ってる間、文字通り何も出来ないし…」

提督「んな事ぁ当たり前だ」

満潮「それでも、入渠中に身内がやられたりするくらいなら、私は入渠なんかしないで戦い続ける!」

提督「いきなり何の宣言だよ」

満潮「同じ事よ。あんたが戻るまで、あの鎮守府は私が守る。だから、戻ってからつまらない戦略たてないでよね、ふんっ!」タッタッタ…

加賀「」クスッ…

提督「何だありゃあ…」

加賀「満潮なりの心配の仕方ではないかしら。不器用な子ほど、思いや気持ちと言うのは曲解して伝えたりするものです」

提督「てめぇも何センチメンタルな事ほざいてやがんだ」

加賀「うわ言とは言え、あなたの本心を少しだけ聞いてしまったからではないかしら」

提督「てめっ……」

加賀「責めるなら私ではなく自身を責めて下さい。私には何の落ち度もありませんから。ただ……」

提督「なんだよ…!」

加賀「ただ、それでも二度と、死にたい等と、殺してくれ等と口にはしないでくれるかしら」

提督「…………」


私達艦娘は、皆慙愧の念を宿している事が殆どです。

それは古い記憶や覚えのない記憶、不意に見る夢として私達の中に深く刻み込まれています。

だからこそ、今の私達はこの瞬間を誰よりも誇りに思い、勇猛果敢に深海棲艦と対峙して戦う事が出来るのだと思うわ。

あなたが長良について語った言葉は私も同意する部分が多くあると感じたけれど、その長良も無意識でも過去の過ちや慙愧の念を宿しているからこそ、きっと無茶をしたり後先考えない行動に出てしまったのだと思うわ。

だから彼女を責めるなという訳ではないし、現実問題としてそれは直すべき問題点と認識するべきではあるけれど。

だからこそ、うわ言とは言えあなたの言葉に私は憤りを覚えました。

最も命の尊さを説いたあなたの口からその命を軽んじる発言がでるのだから、酷い有様と形容するほか無いわ。

別に過去に何があったのか全てを語れとは言わないけれど、少なくとも私達はあなたを上官として認めています。

人としての在り方は見習うに値しないのは諦めて下さい。

ただそれでも提督としての手腕とあなたの提唱する作戦は、私達で無ければ成せないものが殆どだと思うわ。

ですから、生きる為の選択をこれからもしてくれると助かります。


加賀「……では、言いたい事は言いましたから、私もこれで失礼します」


続き
【艦これ】提督「バリバリ最強No.2」【中編】

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