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キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」七冊目【前編】

240 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/25 23:16:09 1yX 131/405

廃墟への道

ドスドスドス

グレーテル「……キモオタお兄ちゃん、大丈夫?……重くない……?疲れない……?」

キモオタ「平気ですぞwww二人は到着してからウォッチで呼びますからなwwwそれに今の我輩はただのデブに非ずwww体重を気にするとはグレーテル殿も乙女ですなwww」コポォ

キモオタ「裸王殿との絆の魔法『muscle』は民の願いを形にする為の強靭な筋肉、そして逆境をも撥ね退けるタフネスを得る事が出来ますからなwww少々走った程度では息切れすらしませんぞwww」コポォ

グレーテル「キモオタお兄ちゃん……現実世界の大人なのに……魔法、使えるのね……すごい……」

キモオタ「とはいってもwww魔法具ですからなwww我輩自身に魔力があるわけではないでござるwww」コポォ

グレーテル「私と一緒だね……私にも魔力があったら……お姉ちゃんの所にもっと早く着けるのにな……」

キモオタ「焦りは禁物ですぞ、とはいえwww本当はシンデレラ殿との絆の魔法『step』で加速したいところでござるがwwwグレーテル殿をおぶっている状態で転んでは大惨事ですからなwww」

グレーテル「【ラプンツェル】に【シンデレラ】……裸王っていうのは……【裸の王様】かな……?友達、いっぱいいるのね……」

キモオタ「おとぎ話の世界ではちょっとしたリア充レベルに友人はいますぞwwwおとぎ話もたくさん読みましたしなwww」

グレーテル「そっか……私も、たくさんのおとぎ話読んだよ……私のおとぎ話は、もう無いけど……」

キモオタ「先ほど、ラプンツェル殿に【ヘンゼルとグレーテル】のおとぎ話を教えてもらいましたぞwww我輩はグレーテル殿のおとぎ話もちゃんと知ってるでござるよwww」コポォ

グレーテル「そっか……私たちの為に聞いてくれたのかな……でも聞かない方が、よかったよ……」

キモオタ「……グレーテル殿?」

241 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/25 23:17:46 1yX 132/405

グレーテル「もっと楽しいお話はいっぱいあるよ……誰も悪い人なんか居ない……だれも辛い思いなんかしない……幸せだけしかないおとぎ話……」

キモオタ「それは……やっぱりグレーテル殿もあのおとぎ話を憎んでいるのでござるか?」

グレーテル「……どうかな?……でも私たちのおとぎ話聞いたなら……私やヘンゼルお兄ちゃんが……大人が嫌いな理由、わかったよね……?」

キモオタ「……わかったでござる、童話展では事情も知らず無責任に大人を頼れなどと言って申し訳ありませんでしたな」

グレーテル「いいの。キモオタお兄ちゃんがそう言ってくれたから……私は助けてって言えたの……」

グレーテル「それに……大人は嫌いだけど……キモオタお兄ちゃんの事は……ちょっと好き……」

キモオタ「それはありがたいですなwwwしかし、我輩が特別なわけではないのでござるwwwこれを機にもっといろんな大人を頼ればいいですぞwww」

グレーテル「それは……無理だよ……キモオタお兄ちゃんはちょっと特別なの……他の大人は……やっぱり嫌い……」

キモオタ「しかし……これから先、全ての大人を信用できずに生きていくというのは、辛いと思うのでござるよ」

グレーテル「辛い事って……大人を信用できない事じゃないよ……辛いのはね……いらないって言われる事なの……」

グレーテル「私のうちは貧乏だったけど……ごはんがちょっとしか食べられなくても、可愛いお洋服無くても……平気だったの……パパやヘンゼルお兄ちゃんが居て……ちょっとイジワルでもお母さんがいて……それで幸せだったの……」

グレーテル「だってね……お家が無い子も家族が居ない一人ぼっちな子もたくさんいるのよ……でも私にはお家も家族もある……だから幸せだったの……」

キモオタ「……」

グレーテル「でもね……パパとお母さんはそう思ってなかったみたい……私やヘンゼルお兄ちゃんがいたら……ごはんが足りないって……このままじゃ自分たちが死んじゃうって……」

グレーテル「だから……ヘンゼルもグレーテルもいらないって……捨てちゃったの……私がね、ずっと幸せだと思ってたものって……」

グレーテル「パパ達にとっては不幸なものだったの……それを知っちゃったときね……我慢したけど、泣いちゃった……」

242 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/25 23:20:16 1yX 133/405

グレーテル「その時、ヘンゼルお兄ちゃん言ってた……大人は勝手だって……いつだって辛い目にあうのは子供たちの方だって……」

グレーテル「私もそう思うの……お母さんは私たちの事好きじゃないかもって思ってたけど……それでもパパは私たちの事好きだと思ってた……でも助けてくれなかったの……暗い暗い森の奥に、二回も置き去りにされたよ……」

グレーテル「だから……嫌いになったの……それから会う大人もみんな悪い人ばっかり……」

キモオタ「……それはもう、相当辛い思いをしたのでござろう。両親に捨てられ、魔女に利用され……お主らの境遇はあまりに辛すぎますぞ……
例え、ハッピーエンドになったとしても……それでは埋め合わせできぬほどの辛い生活だったのでござろう……二人が大人を憎むのも当然でござる……」グッ

グレーテル「それにね……私もいろんなおとぎ話を読んだけど……大人って、みんな悪い人だなって……やっぱり思ったよ……それって、どこの世界も一緒なの……」

グレーテル「マッチを売る女の子のお父さんは……ひどい暴力を振るったよ……?」

グレーテル「笛吹きがネズミを退治しても……街の大人は約束を守らなかったよ……?」

グレーテル「優しい灰かぶりのお姉ちゃんを……新しいお母さんはいじめたよ……?」

グレーテル「ラプお姉ちゃんだって……本当のお父さんに魔法の野菜と交換されたんだよ……?優しいお父さんはそんなひどい事しないよ……?」

グレーテル「村の為だって言って……優しい弥平パパを殺したのだって……村の大人だよ……?」

キモオタ「弥平……殿?」

グレーテル「優しい大人……私達に優しくしてくれたお父さん……でも、女王さまと弥平パパ……とキモオタお兄ちゃん以外は……どのおとぎ話の大人もみんな悪い人だよ……」

キモオタ「グレーテル殿も我輩の友人も、なんら現実世界の人間と変わらぬ友人でござる。しかし…それでもおとぎ話は作られた物語でござる、誰かに聞かせる為に作られた以上は…」

キモオタ「やはり、物語を盛り上げる状況が必要なのでござろう。主人公が気持ちよく逆境を撃ち払ったり、幸福を手にする展開……その為には、わかり易い悪役の存在が便利なのでござろう……」

グレーテル「……物語を盛り上げる為……それ、ヘンゼルお兄ちゃんも言ってた……現実世界の作者さんのせいで……私たちはあんな苦しい思いをしたんだって……」

243 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/25 23:22:56 1yX 134/405

グレーテル「私達を作った作者さんはね……【ヘンゼルとグレーテル】を盛り上げる為に……私達を貧乏な兄妹にしたの……パパ達に嫌われる運命にしたの……魔女に酷いことされる人生にしたの……」

グレーテル「お金持ちの兄妹が……パパに愛されて、魔女にも会わないおとぎ話って……きっとつまらないから……貧しい兄妹が酷い目にあう方が……盛り上がるから……」

キモオタ「そんな風に考えるのは……作者殿が何を考えてお主らを生み出したかなど、知りようがないでござろう?悪い方に物事を考えてはいけませんぞ」

グレーテル「でもね……作者さんが私たちでは考えつかない素敵な理由で……おとぎ話を作ってくれてても……やっぱり私たちの辛い人生を決めたのは、作者さんだよ……?」

キモオタ「物語の大きな筋は決められていますからな、確かにおとぎ話の主人公からしたら……作者は自分の運命を決めた存在になりますな」

グレーテル「……それって、悲しいな。最初っから運命が決まってるって……やだな……」

グレーテル「……どんなに頑張っても……変えられないの……」

グレーテル「【ヘンゼルとグレーテル】が無くなっちゃったから……私は運命から逃げられたけど……それでもこうやってお姉ちゃんがさらわれて、お兄ちゃんに置いて行かれて……」

グレーテル「どんなに頑張っても……良くしようとしても……運命から逃れてても……幸せになろうとしちゃいけないのかな、私がおとぎ話の主人公だから……」

キモオタ「…そんなことは、無いでござろう」

キモオタ「お主もヘンゼル殿も、おとぎ話の主人公でござるが…我輩にとっては現実世界の人間もおとぎ話の世界の人間も変わりありませんぞ、その境界線などものすごく曖昧でござる」

キモオタ「努力とは簡単には報われないものでござるが……それでも、お主の思いや努力は無意味にはならんでござろう」

キモオタ「気を落とさぬよう、グレーテル殿。我輩やヘンゼル殿と一緒に、司書殿を助けたいから一緒に来たのでござろう?ならば、ここはひとつ誘拐犯どもに目に物見せてやりますぞwww」コポォ

グレーテル「うん……ありがとね、キモオタお兄ちゃん……」

・・・

244 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/25 23:24:22 1yX 135/405

少し前 廃墟

ヘンゼル(……脅迫状に書いてあった場所は恐らく、ここだ)コソコソ

ヘンゼル(廃墟とはいっても結構大きな建物みたいだ…一周したところ、覗ける部屋にあいつは捕えられてなかった。奥の部屋か……一階じゃないのかな?)

ヘンゼル(人の気配はする、あいつを除いて二人……)

ヘンゼル(……)

ヘンゼル(誘拐犯には腹が立つけど、あいつを助けだす方が先決。どこかから忍び込んであいつだけ助けてってのが理想だけど…でも、そう簡単にはいかないか…)

ヘンゼル(それにしても現実世界の奴らは……大人は本当に姑息だ、誘拐なんて卑劣な手段を使う事もだけど)

ヘンゼル(僕やグレーテルを来させるように仕向けた、子供なら抵抗も出来ないと思われたんだろうけど)

ヘンゼル(僕には魔力がある……たとえ誘拐犯とやりあっても有利なのはこっちだ)

ヘンゼル(この世界には存在しない『魔力』の前には大人と子供なんて差は些細な事だ)

ヘンゼル(僕の家族に手を出した事、後悔させてやらないとね)

ヘンゼル「いつまでもこうしてられない、あいつもグレーテルも待ってる。ここは正面突破が一番かな……」ダッ

バタンッ!

ヘンゼル「おい!僕達にふざけた手紙をよこした奴、居るんだろう!隠れるなんて姑息な事はやめてもらうよ、さぁ出て来てもらおうか!」

245 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/25 23:26:26 1yX 136/405

小柄な男「喚くんじゃねぇよ、こっちはずっと待っていたんだぜ?隠れなんかしねぇよ」

ギィギィ

小柄な男「しかし随分と威勢のいいガキだな、大人しげな外見に騙されるところだったぜ」クックック

強面グラサン「……」

ヘンゼル「あんた達が、あいつを誘拐した犯人だよね?」

小柄な男「ああ、そうだぜ。だが、おかしいぞ、俺様はこう要求したはずだ。二人で来いとな…おい、妹はどうした?」

ヘンゼル「妹は部屋に残してきた。連れてくる理由がなかったからね」

小柄な男「おいおい…お前は大人しげに見えるが随分と利口そうに見える、いわゆるインテリ系だと思っていたんだが…やっぱり脳みそはガキだな」ハァー

小柄な男「状況理解してんのか?お前の姉ちゃんは俺様が監禁してる、あいつを殺そうがどうしようが俺の自由だ。それを助けるチャンスをお前達に与えてやってるんだぜ?」

小柄な男「これは取引なんかじゃねぇ、俺様からお前達への命令だ。勘違いすんじゃねぇぞ」

ヘンゼル「あんたこそ勘違いしないで欲しいね」

小柄な男「あぁ?」

ヘンゼル「僕はここに取引に来たわけじゃないんだ。本当は…あいつだけそっと助け出せればそれでいいと思っていたけど……予定変更だ」

ヘンゼル「元々廃墟なんだ、多少壊れても…中で男が死んでいても誰も困りはしないよ」ググッ

スッ

246 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/25 23:27:27 1yX 137/405

ヘンゼル「一気に距離を詰めて、捕える…!」ギロッ

小柄な男「おい、近寄るんじゃねぇクソガキ!あいつを殺しちまってもいいのか!?」

ヘンゼル「誰が殺すの?あんたには出来ないよ、死人に人殺しなんてできないから」ダダッ

ゴゴゴゴゴ

小柄な男「なんてやつだ…!人質がいるんだぞ!わかってんのかテメェ、恐ろしくねぇのか!あの女がどうなっても…」

ヘンゼル「五月蠅い。僕は今凄く腹が立ってるんだ。それに僕の大切な家族を……」

ヘンゼル「『あの女』なんて呼び方するな」ヒュッ

小柄な男「チッ…!我がしもべ!俺様を守りやがれ!そのガキを止めろ!」

ヒュバッ ガシッ

強面グラサン「……小僧、悪ぃがここは引け。加減、出来ねぇぞ」シュウゥゥゥ

ヘンゼル「……っ!」ババッ

ヘンゼル(なんだ…?思わずのけぞってしまった。こいつの威圧感…あの小柄な男とは段違いだ)

小柄な男「これだからガキは…!考えが甘いから嫌になんだよ!おい!まだだぞ!そいつを俺様に近づけるなよ!」チッ

247 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/25 23:31:53 1yX 138/405

小柄な男「おいクソガキ!何故テメェがそんなに余裕なのかしらねぇけどな、優位はまだこっちにあんだぞ?」

ヘンゼル「そうかな?クソガキの攻撃にビビっていた奴に優位があるかな?」

小柄な男「あの女は別の部屋に閉じ込めてある。お前は俺達に他の仲間が居ないと踏んで強気で出たみたいだがなぁ…お前の奇襲は失敗だ、もうお前が反抗的だってのはわかった」

小柄な男「先手必勝で俺達を殺せればその策も上策だったろうがなぁ、あまり舐めた真似してっと本当にあの女を殺すぞ!」チッ

ヘンゼル「……」

小柄な男「だが俺の目的はあの女を殺す事じゃねぇ、チャンスをもう一度やる。妹を連れてもう一度来い」

ヘンゼル「何故、金を要求するでもなく僕の妹を連れてこいなんて言うんだ?あんたは身代金目的なんじゃないのか?」

小柄な男「俺様はただな、生意気なガキが俺の命令に従わないのが腹立たしいだけだ」

ヘンゼル「…そんな理由で、わざわざ僕達を呼び出すの?普通じゃないと思うけど」

小柄な男「答えろ、ガキ。戻って妹のグレーテルを連れてくるか、あるいはここで俺様のしもべにやられるか」

ヘンゼル「僕がなんていうか予想できてるだろう?だったら、答えなくてもいいんじゃないかな」

小柄な男「ああ、面倒なうえに腹の立つクソガキだ……」ギリッ

小柄な男「おい、俺は少し休む、相手をしてやれ、ただし殺すなよ?そいつを捕えりゃあ妹に対して上等な人質に出来るからな、捕えてあの女とは別の部屋に閉じ込めておけ」

ヘンゼル「逃げるんだ?自分じゃクソガキに勝てないから手下に任せるんだね」

小柄な男「あの女はまだ利用価値があるから生かしてやる、お前もだ。だが、まだそいつに勝てるとでも思ってるなら考えを改めろよ?」

小柄な男「俺様のしもべはそこらのチンピラとはわけがちがうんだぜ?」クックック

248 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/25 23:34:02 1yX 139/405

ヘンゼル「……」ジリジリ

ヘンゼル(あの男が言うように、確かにこいつは……ただの力自慢なんてわけじゃなさそうだ)

強面グラサン「……小僧、ここは引きやがれ。お前じゃあ俺には勝てねぇ、それに……もう一度いうが加減もしてやれねぇ」

ヘンゼル「あんた、あの男よりずっと強そうなのに。なんで手下みたいな事してるの?」

強面グラサン「理由は言えねぇ、だが……今は逆らえねぇ。小僧が妹を連れに戻るなら手出しはしねぇ、だが立ち向かってくるなら捕えるしかねぇぞ?」

ヘンゼル「……じゃあ捕えなきゃね、出来ればだけど」

強面グラサン「やむを得ねぇか、来い小僧。殺しはしねぇが、多少痛くても我慢しやがれ…テメェが決めた事だ」

ヘンゼル「あくまで捕えるつもりなんだね、僕はあんたを殺すつもりで行くけど?」

ゴゴゴゴゴ

ヘンゼル「あんたの強さくらいわかるよ、出し惜しみして勝てる相手じゃないってこともね」

強面グラサン「……妖術、いや西洋のガキなら…魔法ってやつか…」ボソッ

ヘンゼル「なんでこんな気迫を放てるあんたが姑息な真似をするのか解らないけど、まぁ大人なんてそんなものだから別段不思議でもないね」ダダッ

ヘンゼル「どっちにしろ、僕がやることは変わらない。あんたが何者だとしてもね」ダダッ

強面グラサン「……」スッ

249 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/25 23:40:58 1yX 140/405


ヘンゼル「さぁ、どうするの?避けなくて良いの?僕は手加減なんかしないよ?」ダダッ

強面グラサン「小僧が手のひらで練り上げた力、俺にぶち当てるには近づかなきゃなんねぇだろ?」

ヘンゼル「そうだね、だったらどうだっていうんだ?僕は本気だ、あんたが逃げず避けずだって言うなら……容赦なんてしないよ」ダダッ

強面グラサン「小僧は俺が逃げも避けもしねぇから容易く近づけていると思ってるだろうがなぁ、俺がお前を敢えて近づかせてるとしたら……やべぇと思わねぇか?」

ヘンゼル「あんた、僕が近付くのを狙って…!」ダダッ

強面グラサン「近ければ近いほど、攻撃の狙いは定まる。小僧にはまともな実戦経験がねぇだろ?虚勢を張っても丸わかりだぞ?」

ヘンゼル「黙れよ…!もう目の前まで来たんだ、このまま全力の魔力をあんたに撃ち込んであの小柄な男を追いかける!」ググッ

強面グラサン「すまねぇな、師匠。罪の無い奴に暴力を振るうなっていうあんたの教え……守れなかったぜ」

ヘンゼル「何をブツブツといってるんだ、もう終わりにしよう。この腕が使い物にならなくなろうとも、僕はあいつ等を守る…!」

強面グラサン「悪ぃが、俺にも守るもんがあるんだ。そりゃあ譲れねぇ…ほんの少しばかり本気出させてもらうぜ」キンッ

ビュオ

ヘンゼル「こいつ、どこにあんな棒なんて隠し持って……っ!」ググッ

強面グラサン「天を穿て、大地を抉れ!その伸縮自在なる姿を見せやがれ…!さて、下手に動くなよ、急所は外してやる……だから少しの間、眠って居ろ小僧ッ!伸びろッ……!」

ヘンゼル「……っ!」

強面グラサン「如意棒ッッ!!」

ヒュガッ

265 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/27 23:10:22 LPB 141/405

ヘンゼル「うグッ…!」グイッ

ドガシャアアァァァ



強面グラサン「……自分の事情で罪の無ぇ童を傷付けるたぁ、俺はもう僧を名乗れねぇな」スッ

強面グラサン「気は進まねぇが、一先ずはこの小僧を捕えておくしかねぇか。……ん?」

ゲホゲホッ

ヘンゼル「ハァハァ…どういうことだよ…これは……」ゼェゼェ

強面グラサン「驚いたな、急所を外したつってもあの一撃で意識が保てるたぁ……壁に叩きつけられる直前に魔力を放って衝撃を軽減したってぇ訳か」

ヘンゼル「あんたには、衝撃を軽減出来てる風に見えるの?」ゲホゲホ

強面グラサン「如意棒の一撃を至近距離で受けてそれだけ喋れるんなら十分だと思うけどな」ザッザッ

グイッ

ヘンゼル「離せよ…僕はまだ負けてない…!」ゴゴゴゴゴ

強面グラサン「やめときな。小僧、魔力の制御が不完全なんだろ?自分でも完全に制御できねぇから、反動に耐えられず腕を壊しちまう」

ヘンゼル「だから何なの?両腕が潰れてもあんたを殺せればあの小柄な男は魔力なしだってどうにかなるよ」

ヘンゼル「あんたを殺せば僕は妹達を救える。左手だけ残っていれば魔力の圧縮だって出来る、僕は十分あんたを殺せる」

ヘンゼル「殺さなきゃ助けられない。離さないってなら、その腕ごとあんたの全身にありったけの魔力をぶち込んで…殺してやる」キッ

266 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/27 23:16:02 LPB 142/405

強面グラサン「がむしゃらで強気で傲慢、どんな奴でも自分の力さえありゃあ勝てると思ってんのか…小僧」

ヘンゼル「思ってるんじゃない、真実だよ。僕はそこらの魔女なんかより強い魔力を持ってるんだ、あんたを殺す事なんか簡単だ」

強面グラサン「そうかい、そこまで言うんなら本当に俺を殺してみるか?」

ヘンゼル「…言われなくたってそうするつもりだよ。だから離してよ」ググッ

強面グラサン「いいのか、離しても?自由になっちまえばお前が俺を攻撃しない理由がなくなるぜ?」

ヘンゼル「……何、それ」

強面グラサン「小僧はビビってんだ。俺を殺そうと思えばいくらでも隙はあった、だがそうせずお前は殺す殺すと口だけだ」

強面グラサン「俺がお前をヘンゼルだと知っているように、お前もまた俺が何者か想像が付いただろうからな、ビビっちまうのも無理無ぇ」

強面グラサン「だからお前は怖気づいて俺を攻撃出来ねぇんだ。捕まってるから殺せない、なんてもっともらしく自分自身に言い訳してんだ」

ヘンゼル「……っ」ギッ

強面グラサン「恥じる事なんかねぇよ、まともな思考だ。まだビビれるくらい理性を保ててんなら、まだ間に合うから逃げろ。これ以上向かってこられちゃあ、もう俺はお前の相手するしかねぇ」

ヘンゼル「……確かにあんたは、おとぎ話の世界ではきっと最強だよ。優れた体術、豊富な妖術…伸縮自在の魔法具『如意棒』を操る、猿人」

ヘンゼル「怖気づいたのは素直に認める。だけど……」

ヘンゼル「それでもあんたを殺すのを諦めたつもりは無いよ…!」ゴゴゴゴゴ

267 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/27 23:17:47 LPB 143/405

ビュオッ スッ

強面グラサン「小僧の血気盛んな所、大昔の俺を見てるようで気恥しいが……」トンッ

ヘンゼル「ぐ…っ」ドサッ

強面グラサン「お前みたいながむしゃらな奴は嫌いじゃねぇ。小僧もいい師匠を持って道を間違えなけりゃ必ず強くなれるだろうぜ…って、今の俺にそんな事言う資格もねぇな」

ヘンゼル「僕は……諦めない……あいつを、グレーテルを……幸せに……!」ググッ

ガンッ!

強面グラサン「悔しいのはわかるぜ、俺も今の状況は悔しい…だが、瓦礫に八つ当たりなんざしてどうなるってんだ、小僧が傷つくだけだぞ」

ヘンゼル「……八つ当たりくらいさせてよ。それに僕の右腕をどうしようと僕の勝手だよ、どうせまともに動かないんだから」

強面グラサン「魔力を撃ちだした反動でただでさえボロボロなんだ、くだらないことで傷を広げるんじゃねぇよ。血、出てんじゃねぇか」

ヘンゼル「敵のくせにグチグチと五月蠅いよ。僕を捕らえるならさっさと牢にでも納屋にでも運んで閉じ込めれば…?」

強面グラサン「…ああ、そうするぜ。このままほっておいたら瓦礫に頭でも叩きつけて自害でもしかねねぇからな」

ヘンゼル「しないよ、そんなこと。僕は今だってあいつ等を助けることしか考えてないよ、それとお前達を出し抜く方法をね」

強面グラサン「ああ、そうかい。奥に殺風景な部屋があったな、そこに閉じ込めておくか……」グイッ




ボタボタボタ……

268 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/27 23:18:49 LPB 144/405

しばらく後、廃墟前


キモオタ「ぶひぃぃー!www到着しましたぞ!www」コポォ

グレーテル「おぶってくれて……ありがとね……キモオタお兄ちゃん」ストッ

キモオタ「なんのなんのwwwにしても近くで見ると相当な廃墟っぷりでござるなwww」

グレーテル「行こう……お兄ちゃんもう着いてると思う……お姉ちゃんも心配……」

キモオタ「そうですな、しかししばしお待ちをwwwラプンツェル殿!到着しましたぞ、準備は良いですかな?」ピッピッ

ラプンツェルの声「オッケー!私もティンクも準備バッチシだよー」ニコニコ

キモオタ「そうでござるかwwwではおはなしウォッチで呼び出しますぞwww」コポォ

ピカー スタッ

ラプンツェル「おー、本当に一瞬で移動したね!魔法使いの作る魔法具は不思議で便利でかっこいいなぁー…私もお願いしようかな!?」

キモオタ「あまりよその魔女を褒めるとゴーテル殿がガチ泣きしますぞwww」コポォ

ティンカーベル「もー!二人とも騒ぎ過ぎだよ!悪い奴らにバレたらどうするの!もっと緊張感持って!」プンスカ

ラプンツェル「あはは、ごめーん」ヘラヘラ

キモオタ「すまんでござるwwwさて……では、ここからはキッチリ気合い入れて司書殿救出に向かいますぞ」

269 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/27 23:20:21 LPB 145/405

ラプンツェル「うんうん、でさでさ、どういう作戦で行くかきめてる?」

キモオタ「まずはざっと中の様子を見てみますかな……ティンカーベル殿、頼みますぞ。なるべく向こうにばれないように」

ティンカーベル「オッケー、ちょっと見てくるー」フワフワー

フワフワー ヒラヒラー フワフワー

・・・

キモオタ「どうでしたかな?何か解りましたかな、ティンカーベル殿」

ティンカーベル「四人くらいの人の気配がしたから、ヘンゼルと司書さんを省いて悪い奴等は二人だと思うよ!窓からじゃ司書さんのいる部屋は見つからなかったから、奥の方かな?」

ティンカーベル「あ、あと正面から入ったところの広い部屋に人影が見えたよ、一人だけ!」

キモオタ「なるほどwwwではティンカーベル殿には引き続き司書殿を探して貰うでござる、無理しないように頼みますぞwww」コポォ

ティンカーベル「うん、じゃあ先に忍び込んでくる!グレーテル、司書さんもヘンゼルも絶対無事だから、絶対みんなで帰ろうね!」

グレーテル「うん……私も、頑張って……悪い人たちやっつける……かまど、だよ……」

ラプンツェル「ねーねー、それだと私たちは正面から入って悪い奴をやっつけるんだよね?その間、グレーテルはどうするー?」

キモオタ「我輩としては…まぁ、安全なところに居て欲しいのでござるが……」チラッ

グレーテル「ううん……私もお姉ちゃん達助ける、恐いのちょっと治まったから頑張れるよ……あの魔女の時みたいに……助けるの」

キモオタ「この様子じゃあ止められませんなwwwでは我輩の作戦を説明するので聞いていただきたいwww」コポォ

・・・

270 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/27 23:21:59 LPB 146/405

廃墟内

スッ

グレーテル「……」キョロキョロ

グレーテル(うす暗くて……よく見えないけど……壁とか壊れてる……お兄ちゃんやお姉ちゃんは……居ない……)

ザッ

強面グラサン「嬢ちゃんがグレーテル…だな?」

グレーテル「うん……私が、グレーテルよ。お兄さんがお姉ちゃんを誘拐した……悪い人……?」

強面グラサン「俺が直接さらったわけじゃあねぇが…まぁ、悪い奴の仲間だってのは否定できねぇ」

グレーテル「お姉ちゃんと……ヘンゼルお兄ちゃんは……?」

強面グラサン「お前等の姉は無事だ、安心しろ。だが、ヘンゼルって小僧は……少し無理しちまってな、生きてはいるがボロボロだ」

グレーテル「……あなたが……ヘンゼルお兄ちゃんに……酷いことしたの……?」

強面グラサン「…結果としちゃあそうだな、だがお前の兄貴は俺に立ち向かって来た。お前の兄ちゃん……まぁ、あれだ、勇敢だったぜ」

グレーテル「当たり前だよ……ヘンゼルお兄ちゃんは私の自慢のお兄ちゃん……だれよりかっこよくて、強いのよ……」

強面グラサン「お前もここに来たって事は、姉ちゃんを助けに来たんだろ?あいつが出した脅迫状の取引に応じる為にここに来た、そうだろう?」

グレーテル「少し……違うの……取引なんて……するつもりないの……ここにはかまど、無いけど……」


グレーテル「悪い人、私がみんな退治する……お姉ちゃんもお兄ちゃんも……私が助ける……」

271 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/27 23:24:26 LPB 147/405

強面グラサン「兄貴も同じような事言ってたぜ、だが……すまねぇが俺はお前を捕えなきゃなんねぇんだ」

グレーテル「……無理よ、私は……あなたには捕まらない……から……」

強面グラサン「兄妹ってのは似るもんなのか、二人とも強情っつうか…強気すぎやしねぇか」

グレーテル「……そう、かな…?でも、無理よ……?」

強面グラサン「あの小僧ならともかく、嬢ちゃんが俺から逃れられるたぁ思わねぇがな」

スッ

グレーテル「……ラプお姉ちゃん、お願いね」

ラプンツェル「まっかせて、グレーテル!ラプお姉ちゃん頑張るよ!」ピョン

強面グラサン「やっぱり他にも居たってか、だがそんな距離からどうやって小娘を守るつもりだ?」

ラプンツェル「へへーん、グレーテルは守らないもんね!今だよグレーテル!伏せてっ!」ファサッ

グレーテル「うん……」スッ

ラプンツェル「私自慢の長い長い髪よ!グレーテルをいじめるあの恐いオジサンをぐるぐるっと縛り上げちゃえ!!」ファッサァー

ヒュルルヒュル バツンッ

強面グラサン「何…っ!?その異常な長さの髪の毛、テメェただの人間じゃあねぇな!?なにもんだテメェ!」ギリギリッ

ラプンツェル「ふふん!私は『高き塔の髪長姫』ラプンツェルだよっ!」フンス

272 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/27 23:26:19 LPB 148/405

強面グラサン「ラプンツェルだと…!?どうしておとぎ話の世界のテメェがこんな場所にいやがる!」ギリギリッ

ラプンツェル「ナイショだよ!教えてあげられるのは、私がグレーテルのお姉ちゃんで皆を助けに来たって事だけかな!」

キモオタ(いつの間に姉にwwwそれよりもwww知らない間にwww謎の二つ名を勝手にwwwゴーテル殿達の真似ですなアレwww)コソコソ

キモオタ(しかし、あのグラサン殿の反応は、やはりおとぎ話の世界の住人でござるか……このまま拘束がうまくいかねばプランBにシフトせねば……)

ラプンツェル「グレーテル、作戦通りだよ!囮とか大変だったでしょ、今のうちにこっちに戻ってきてー!」

グレーテル「ううん……平気、キモオタお兄ちゃん反対してたのに……私がやるってわがまま言ったから……でもうまくいった……」

強面グラサン「ググッ…クソッ!どうなってやがんだこの髪の毛、俺の腕力でも引きちぎれねぇだと!?」ギリギリギリッ

ラプンツェル「魔力が流れてる特別な髪の毛だからね!どんな力持ちでも引きちぎるなんて出来ないよ!あっ、でも刃物だったら簡単に切れちゃうけど」

グレーテル「……なんで……それ……言っちゃうの……?」

ラプンツェル「あっ、今のなし!嘘だからね!刃物でも無理だからね!」チラッチラッ

強面グラサン「自らバラすたぁ少し油断が過ぎねぇか、髪長姫よ。だが俺もお前と同じおとぎ話の住人だ、刃物を持ち出すなんざそんなまどろっこしい事する必要はねぇ」

グレーテル「どうする……つもりなの……?」

強面グラサン「テメェの髪の毛が俺の身体を縛りあげるなら、抜け出せばいい。それだけの話じゃねぇか。そうだなぁ、例えば」

強面グラサン「蜂にでも変化して、この髪の毛の拘束からは逃れるってなぁどうだ?」

ドロロンッ

273 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/27 23:28:34 LPB 149/405

ブーン

ファサファサファサ……

ラプンツェル「恐いオジサンが消えちゃった…!あっ、そっか、あの蜂に変身したんだ!」

グレーテル「……ちっちゃくなれば……ラプお姉ちゃんの髪の毛から逃げられるもんね……」

ドロロンッ

猿人「っとまぁ、こんなもんだ。ついでに元の姿に戻っておくか、もう現実世界の人間に変化している必要もねぇからなぁ」

ラプンツェル「やっぱり外の世界はすごい…!初めて見た!毛むくじゃらの……オサル人間っ!ほらほら、グレーテル!オサル人間だよ!」ユサユサ

グレーテル「あの人、おとぎ話の住人って言ってた……変化が得意な猿人さん……あの人、オサル人間なんて……可愛い呼び名が似合う人じゃないよ……きっと」

ラプンツェル「……?グレーテルはあのお猿さんのおとぎ話知ってるの?」

グレーテル「うん……私、あの猿人さんのおとぎ話も読んだ事……あるよ……ずっと前に、だけど」

グレーテル「おとぎ話【西遊記】の主人公……変化の術や雲に乗る術、いろんな妖術が使えるし……いろんな魔法具持ってる、それに力もとっても強いし素早いの……」

グレーテル「きっと……全部のおとぎ話の中でも一番強いかも……あの猿人さんの名前……知ってるけど、なんてよんだらいいのかな……?」

ラプンツェル「名前知ってるんでしょ?名前で呼んだらいいんじゃないの?」

猿人「あぁ…俺の名前はいっぱいあってな、どの名で呼んだらいいかってのはそういう意味だろ?」

ラプンツェル「イッパイアッテナ……?変な名前だねー」フーン

グレーテル「違うよ……たくさん、名前があるって事だよ……あの猿人さん……すっごく長い時間、何年も何年も生きてるから……」

274 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/27 23:30:52 LPB 150/405

ラプンツェル「名前がたくさんあるってすごいねー!私なんかひとつだよー」ニコニコ

グレーテル「一番有名な……名前、孫悟空……でいいのかな……?」

猿人「好きに呼びゃあいい。今の俺には、どの名前を名乗る資格も無ぇからよ、ただの猿人と呼んでくれるのがありがたいがな」

グレーテル「どの名前も名乗れない……?それって……悪い事、しちゃってるから……?」

孫悟空「……おしゃべりは終いだ、嬢ちゃん。俺ぁお前を捕えねぇとなんねぇんだ、観念しやがれっ!」ググッ

ヒュヒュッ

ラプンツェル「させないよっ!もっかい私の髪の毛で……!」シュルルルルッ

孫悟空「ありゃあ不意打ちだったからくらっちまっただけだ、テメェがラプンツェルだと解った以上、その髪の毛の拘束はもう通用しねぇ!」ビュバッ

パシパシッ

ラプンツェル「あぁん、全部弾かれちゃう……!グレーテルっ!」グヌヌ

グレーテル「……」スッ

孫悟空「さぁ、グレーテル。嬢ちゃんの兄貴も奥の部屋に捕えてある、大人しく捕まってくれ。嬢ちゃんまで怪我させるのは忍びねぇ」スッ

グレーテル「孫悟空さん……もう一度言うけど……私は、お姉ちゃん達を助けに来たの……」

グレーテル「このマッチで……お姉ちゃん達助けるの……かまどに火をつけるより、もっともっと凄いマッチ……」

シュボッ

275 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/27 23:32:50 LPB 151/405

孫悟空「こんな時にただのマッチなんざ擦らねぇよなぁ……ってぇなると、まさか【マッチ売りの少女】の幻覚を見せるってぇマッチか!」

グレーテル「そうなの……流石、物知りね……」

グレーテル2「今、孫悟空さんが……見てるのは……」

グレーテル34「魔法具の……マッチの幻覚なの……」

グレーテル51「孫悟空さんには……私が……グレーテルがたくさんいるように見えるよね……?」

グレーテル79「私もそうよ、へんな感じ……でも、こんなにいっぱいいたら……」

総勢約100体のグレーテル「「「どれがホントの私か……わかんないよね……?」」」

孫悟空「なるほど、お嬢ちゃんを助けてくれてるやつはラプンツェルだけじゃねぇってか…上等じゃねぇか!」ニヤッ

コソコソ

キモオタ「っと、ラプンツェル殿、ラプンツェル殿。こっちですぞ、危険な役割をさせて申し訳ありませんでしたな」コソコソ

キモオタ「やはりおとぎ話の住人でしたな、当初の予定通りどこかのタイミングで我輩が奇襲を掛けた方がいいですな。強そうな猿人殿でござるが高速移動とタフネス、両方使えばなんとか……」

ラプンツェル「あっ、キモオタ!マッチの幻覚って凄いね!本当にグレーテルがいっぱいいるよ!みんな可愛い!」

キモオタ「ちょwwwなんで目をつぶっていないでござるかwwwマッチを取りだしたら目をそらすように説明したのにwww」

キモオタ「とにかくあの猿人…孫悟空殿にこの空間はグレーテル殿だらけのロリ部屋に見えてるはずでござる、幻覚のグレーテル殿にまぎれて我々はこの隙に抜け出して司書殿やヘンゼル殿を……」

孫悟空「おい……もう一人、隠れてやがるのは知ってるんだぜ?どうせこの幻覚に紛れて、この部屋を突破するつもりだろうが……甘いッ!」

孫悟空「嬢ちゃんが百居ようが千居ようが、俺にだって似たような事は出来るんでなぁ!」

ブチッ フーッ

276 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/27 23:35:54 LPB 152/405

パラパラ……ムクムクムクッ

ウキッウキキキキッ

ラプンツェル「こんどはたくさんのお猿さんが…!グレーテルと同じぐらいに増えたよ!?」

キモオタ「毛を引き抜いて…吹き飛ばしましただけで、無数の孫悟空どのが!?」

グレーテル「やっぱり……その妖術、使えるんだ……キモオタお兄ちゃん、ダメだよ……あっちのは幻覚じゃないもん……」

孫悟空「わかってるじゃねぇか、無数のお嬢ちゃんと違って無数の俺じゃあ絵的にムサイがよぉ……こっちは幻覚じゃねぇ、実体のある分身だぜ?」

孫悟空「テメェら倒すんじゃねぇ、捕まえるんだぞ?幻覚の嬢ちゃんなら捕まえられずに消えちまうはずだからな!」

分身孫悟空達「「「うおおおぉぉぉっ!」」」ウキキッキッ

ボウンッボウンボウンボウンボウン

キモオタ「こ、このままだとグレーテル殿が…!まさか相手も分身できるとは……完全に失策でしたぞ!」

孫悟空「さぁどうする、このまま嬢ちゃんは捕えさせてもらうぜっ!」バッ

ラプンツェル「キモオタ!なんとかしないとグレーテルが捕まっちゃうよ!私の髪の毛はもう通用しないって言われちゃったし…」

ワーワー

孫悟空「最後の一人……本物のグレーテルは嬢ちゃん、テメェだ!」ズバッ

グレーテル「……っ」グッ

277 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/27 23:38:37 LPB 153/405

孫悟空「安心しろ、大人しく捕まれば痛い目にはあわずにすむ…!」

キモオタ「ぶひいいいぃぃ!させませんぞぉぉぉ!!」

孫悟空「この声……っ!?」

ドスドスドス

キモオタ「ぶひいいぃぃぃっ!グレーテル殿は捕えさせませんぞおぉぉ!!!」ババッ

グレーテル「キモオタお兄ちゃんが……私の盾に……!」

キモオタ「グレーテル殿は我輩の大事な友人、傷付けさせはしませんぞぉ!」ググッ

孫悟空「おい……どういうことだ……?」ピタッ

グレーテル「……?」

ラプンツェル「なんだか…様子がおかしいね、動揺してるように見えるよ?」

孫悟空「こいつも幻覚か…?いや、こいつは確かに現実だ……何故だ、何故お前がここに居んだよ…!」

キモオタ「と、突然どうしましたかなwww」コポォ

孫悟空「どうしましたかなじゃねぇ!現実世界の人間の服なんか着やがって…お前はお師匠達と【西遊記】の世界に残ったんじゃねぇのか!?おいテメェ……答えやがれ!」グイッ




孫悟空「…猪八戒!なぜテメェが現実世界に居やがるんだ!」

キモオタ「ちょwwwどういうことですかなwww」コポォ

278 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/27 23:42:47 LPB 154/405

今日はここまでです

  猪  八  戒  

【西遊記】
粗暴な孫悟空がやりたい放題ヤンチャした結果、お釈迦様に叱られて
ありがたい経を手に入れる旅に行くおとぎ話
あらすじ、あったほうがいいかな?

ヘンゼルとグレーテル。とある消滅したおとぎ話編 次回に続きます

295 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/29 23:30:23 Ti0 155/405

西遊記ざっくり登場人物

三蔵法師
三人の守護者を引き連れてありがたい経を手に入れる為に西域へと旅する僧。その肉を食べると不老長寿になれると言われており、悪い妖怪どもに命を狙われる

孫悟空
守護者の一人。粗暴、乱暴、唯我独尊の暴れ猿。天界人ですら手に負えない為お釈迦様の手によって長らく封印されていた。高い身体能力、妖術、魔法具と総合的にハイスペック。亀仙流とは無関係

沙悟浄
守護者の一人。水の妖怪で日本では河童のイメージが強い。他の二人の守護者と比べてキャラが薄い

猪八戒
守護者の一人。元は天界を追放された天界人。修行の為に人間界の女性の胎内に魂を送り込み人生をやり直す。という予定だったが豚の胎内に魂を入れてしまうという痛恨のミスによって誕生した。豚の妖怪。

玉龍
三蔵法師の愛馬。その正体は龍であり、馬のほかには人間の女性に変化する事が出来る。原作ではめっぽう影が薄い

296 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/29 23:32:30 Ti0 156/405

随分と前 西遊記の世界 集落

・・・

ワーワー ガヤガヤ ワーワー ガヤガヤ

「うわぁぁ!法師様!守護者様!助けてください、見た事のない妖怪が集落にっ!」
「あのうすっぺらい紙切れみたいな妖怪が…次々と民家を壊してもう手がつけられんのじゃぁ!!」
「この集落はもうダメだ!逃げるしかねぇぇ!!」

三蔵法師「落ち着いて、街の皆さま落ち着いてください!あの妖怪は私の守護者達が食いとめます。ですから安心して避難を……」

ワーワー ギャーギャー

三蔵法師「お願いします、落ち着いて!みなさん落ち着いてください!どうか、どうか落ち着いて行動してください!皆さん!」

ギャーギャー ワーワー

三蔵法師「…駄目です、突然の襲撃で皆さんは大混乱。私一人では避難の誘導が間に合わないっ…!」

スッ

トランプ兵「…Target lock on」ガチャッ

三蔵法師「しまった……!いつの間に背後を……!?」

ビュバッ

孫悟空「ッらぁ!テメェ、紙切れ風情が俺の師匠を狙ってんじゃねぇぞコラァ!あの紙切れ野郎を叩きつぶすぞ!伸びやがれ、如意棒!!」ヒュババ

297 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/29 23:35:32 Ti0 157/405

ドガシャァァ

トランプ兵「…error」ドサッ

三蔵法師「助かりました、悟空。しかし、敵の多い事……この数では流石のあなた達でも危ういのでは…?」

孫悟空「師匠!!弱気になってんじゃねぇ!!師匠は集落の奴等を逃がす役目をやってりゃあいいんだ、あの紙切れ共は俺達がぶちのめす!あんたは守護者を信じてやがれ!」ググッ

三蔵法師「…そうですね、弟子のあなたに鼓舞されているようでは私も僧としてまだまだです」スッ

孫悟空「それと…猪八戒!こいつらは俺達で食い止めるって言ったの忘れちまったか!?今のトランプ兵士取りこぼしたのテメェだろ!!しっかりしろブタァ!!」

猪八戒「ちょwww確かに我輩でござるけどwww豚ってwww直球すぎますぞwww」コポォ

孫悟空「コポォじゃねぇ!!こいつら……このトランプ兵共はおそらく【不思議の国のアリス】の世界から送られてきた刺客だ…!」

孫悟空「誰だかしらねぇが悪意を持って俺達のおとぎ話を襲ってやがる!こんな雑魚共さっさと倒して、親玉を叩かねぇと…!」ギリッ

猪八戒「確かにそうですな。しかし、この猪八戒の一撃を耐えるとは敵も中々やりますぞ……我輩、どうやら本気を出す時が来たようでござるな」キリッ

孫悟空「初めっから本気で行けやブタァ!」ガスッ

猪八戒「ブヒャッ!wwwちょwwwいつもながら孫悟空殿は手厳しいwww」ヒュババッ

沙悟浄「おい。二人ともふざけている場合か?このトランプ兵ども……話には聞いていたが次から次へとキリが無い。次々と潰さねば、ジリ貧だ」シャキンッ

ザッザッザッザッザッ

トランプ兵達「「「……」」」ザッザッザッ

孫悟空「…お師匠にはああ言ったが、確かにすげぇ数だな……こいつぁ、気合い入れ直さねぇとなぁ!!」パンパンッ

298 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/29 23:38:36 Ti0 158/405

沙悟浄「しかし、この数ではまともに戦っていても埒が明かない。一度に燃やしてしまうか、大水で押し流すか…一網打尽の策を練るべきだ。後者ならば、私の得意とするところだが……」シャキン

猪八戒「それは名案でござるなwwwしかし、この辺りに海や湖はおろか小川すらありませんからな……この大軍を押し返す程の大水などありませんぞ?」ドスドスドス

孫悟空「それに焼き払うのも考えもんだぜ。集落もまとめて焼き払うことになっちまうからなぁ、逃げた住民共が帰るところが無くなっちまったら話になんねぇ」ビュオンビュオン

沙悟浄「それは道理だが、しかしこのままだと…我々はおろか、このおとぎ話【西遊記】の存在すら危うい。何とかせねば……」ギギッ シャキン

孫悟空「引くのは趣味じゃねぇ、力任せの正面突破しかねぇか……おい!玉龍、こっち来れるか?」

玉龍「んーっ?はいはーいっ…こっちはちょーっとだけ余裕あるッスよー…っとぉ!」ピョコン

ピョンピョンピョーン

玉龍「おまたせッス、悟空センパイ!いつもは法師様の愛馬ッスけど…今日は久々に女の子モードの玉龍ちゃんッスよ~♪どうっすか?かわいいッスか?セ・ン・パ・イ♪」スリスリ

孫悟空「刀剣持って擦りよるんじゃねぇ!ったく…なことはどうでもいいんだよ、テメェは元々龍だから目は利くだろ。確認しろ、集落の連中は大方避難できてんのか?」

玉龍「そうッスねー……とりあえず避難完了ってところっすかね。あっ、法師様もこっちへ急いでるッスね」ピョンピョン

孫悟空「そうか、ってこたぁ多少は大暴れしてもよさそうだな……!よし、八戒!悟浄!一気にこいつr」

玉龍「センパイセンパイ、それは良いんスけど。うち、お礼言われてないっッス。ごほうび欲しいッス」プクーッ

孫悟空「毎度毎度、面倒臭ぇ奴だなテメェは…ありがとよ、玉龍!助かったぜ!…ほら、これでいいだろ!」ワシャワシャ

玉龍「えへへ~♪なんだかんだでセンパイは優しいから大好きっすー♪」スリスリ

299 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/29 23:40:20 Ti0 159/405

玉龍「でもあれッスよね、如意棒伸ばして物見台代わりにでもすれば自分で確認できるッスのに…わざわざうちに頼むってことは…ッスよ?」

玉龍「いやー、うちがお手伝いしないといけないほどピンチな戦いだっていうのに…センパイはうちに会いたくて仕方がないんスね?ふふっ、うち嬉しいッス!」フフフッ

孫悟空「いいか、八戒と悟浄。俺が敵の中心に突っ込んで如意棒で一気に蹴散らす。そのまま突き進むから八戒は右、悟浄は左から討ち損じを始末しながら前進してだな…」ビュオンビュオン

猪八戒「ちょwww玉龍殿は完全にスルーでござるなwww」ガキーン

孫悟空「おう、玉龍は無視しろ。こいつは普段戦わねぇから緊張感ってもんがねぇんだ、無視しろ。とにかくだ、目の前の敵に集中して一気に叩いて……」

ザッザッザッザッザッ

沙悟浄「ちょっと待ってくれ悟空…どうやら、それは無理そうだ」

玉龍「やばいッスよセンパイ!援軍ッス……それも倍じゃきかない数ッスよ!」

猪八戒「ちょ…ただでさえ苦戦しているというのに、倍以上の援軍ですと!?」

孫悟空「おいおい…どこの誰だか知らねぇが、随分と舐めた真似しやがるじゃねぇか…!」ギリッ

玉龍「どうするッスか、センパイ?もう集落が燃えるとか言ってる場合じゃないッス!ここは火を放って一網打尽にするッスよ!」

孫悟空「仕方ねぇか…だがその役目はテメェらに任すぜ。俺ァちっと頭に来ちまったからよぉ…テメェらはここで雑魚を相手してろ」ググッ

沙悟浄「どうするつもりだ?」

孫悟空「決まってんだろ!このトランプ兵どもを差し向けてやがる親玉を探し出して…ぶちのめす!そうすりゃあ騒ぎもおさまらぁ!」

猪八戒「し、しかし親玉の場所も解らんというのに…無茶が過ぎますぞ、悟空殿!」

ブォン

ドドドドドドドドド

300 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/29 23:44:21 Ti0 160/405

玉龍「これは…なにが起きてるッス!?どんどん集落の建物が崩れていくッスよ!!」

沙悟浄「いや…建物だけでは無い、山も木々も…大地すらも崩れていく。これは、おそらく……」

孫悟空「クソッ…どうなってんだ、どうなってやがんだこりゃぁよぉ!」

ザザッ

三蔵法師「……世界の消滅、おとぎ話【西遊記】の消滅が始まったのです」ハァハァ

孫悟空「消滅だと!?待てよ師匠、おとぎ話の消滅ってのは物語が立ち行かなくなっちまったり主人公や重要人物が死んじまったときじゃねぇのか!?俺達はピンピンしてんだろうが!」

三蔵法師「恐らく、我々がこの後に倒す筋書きだった妖怪が倒されてしまったのでしょう…金角銀角、牛魔王…あの強き者共がやられるとは…」

孫悟空「雑魚共が…!今からでも遅くねぇ!俺がひと飛び親玉を探し出してやらぁ!」

三蔵法師「もう間に合いません。許しませんよ。悟空。」

孫悟空「なんでだ!!その親玉のせいで俺達のおとぎ話は消えちまうんだぞ、思い知らせてやらなきゃ気がすまねぇ!!俺も、師匠もこいつらも消える!それを黙って見てろって言うのか、不抜けも大概にしろよこのハゲがぁ!」

三蔵法師「愚か者、あの者達はトランプ…紙札の兵士です、火を放てば倒せるでしょうが同時にこの辺り一帯は焦土と化します、トランプ兵が逃げ回りでもすれば避難できたとはいえ人々にも被害が及びます、火は放てません」

孫悟空「もう世界が消えちまうってのにそんな心配してどうすんだ!集落の奴らを助けても、もう結局はこの世界と一緒に消えちまうんだぞ!」

三蔵法師「どうせ世界が消えるから……結局は死ぬのだからあの者達を助けなくて良いなど、そんな正義がありますか?」

三蔵法師「結果が決まっていても、この世界が消える瞬間まで…あの者達が苦しみ怯えるという感情は現実のものなのですから。それを救う事が僧の務め。我々は最後まで人々を守る為に戦うのです」

孫悟空「だがよぉ…!どうすりゃあいんだ!トランプ兵から集落の奴等を守りきっても結局はこのおとぎ話は消えるんだぞ!?」

三蔵法師「……では、こうしましょうか」スッ

301 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/29 23:46:50 Ti0 161/405

三蔵法師「この【西遊記】の世界はじきに消滅します。ですが人々を見捨てる事は出来ません、私と八戒と悟浄が最期の時まで人々を守り続けます。頼めますね?」

沙悟浄「正直、心残りはありますが…元々償いの旅、私の様な化け物の命で人々の魂を救えるのならば喜ばしいことです」

猪八戒「ちょwww決死の覚悟wwwしかしお師匠殿がそう仰るのならばwwwこの猪八戒、どこまでもお供しますぞwww」コポォ

孫悟空「……おい、師匠。俺の名前が無ぇじゃねぇか。テメェ、まさか…俺を逃がすってんじゃねぇだろうなぁ!?答えろコラァ!」グイッ

三蔵法師「師匠の胸ぐらをつかむとは何事ですか…?」

孫悟空「黙りやがれぇ!テメェの魂胆はわかってんだハゲコラァ!!」

三蔵法師「玉龍、本来の姿である龍へと変化しなさい。悟空を連れ、別のおとぎ話へ」

玉龍「……わかったッス。センパイ、行くッスよ」スッ

孫悟空「行きたけりゃ一人で行きやがれ!俺ぁ逃げねぇからな!テメェらが最期まで命を燃やすってぇなら俺だって同じだ!舐めんじゃねぇぞ!」

三蔵法師「逃げるのではありません悟空。私はそこまで逃げ腰では無いですよ、これは……逃走ではないのです」

孫悟空「どういうことだよ師匠?」

三蔵法師「何者かがこのおとぎ話を攻撃している。それは確実です、しかしこのおとぎ話だけを攻撃しているのでしょうか?……答えは否、ですね」

三蔵法師「親玉は他のおとぎ話にも攻撃を仕掛けるでしょう。何の目的があっての事かは解りませんが……」

三蔵法師「ですから、他の世界へあなたを差し向けるのは逃がす為ではありません…わかりますね?」

302 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/29 23:48:37 Ti0 162/405

孫悟空「師匠は俺に……別の世界へ渡って、他のおとぎ話を救えっていうのか…?」

三蔵法師「そうです、沙悟浄や猪八戒も優秀な我が守護者ですが……あなたは別格です」

三蔵法師「おとぎ話の世界でもその強さは段違い。あなたならば、他の者では敵わないような敵でさえ薙ぎ払えるでしょう。ここで私達と共に朽ちて良い存在ではありません」

三蔵法師「あなたは以前、斉天大聖などという畏れ多い名を名乗っていたではないですか。天にも等しい大聖者なのでしょう?ならば、おとぎ話を救う事など容易いのではありませんか?」

孫悟空「……しかし、お師匠よぉ…俺は守護者だ。あんたを護る役目がある。だから行けねぇ」

三蔵法師「悟空……」

猪八戒「いやはやwwwわかってませんなぁwww悟空殿はwwwこれだから山猿は困りますぞwww」コッポォ

孫悟空「あぁ…?」

猪八戒「師匠殿は【西遊記】のみならず、別のおとぎ話の住人達をも救おうと考えているのいるのでござるよ?しかし自分にはそれが出来そうもない…」

猪八戒「故に、悟空殿に頼んでいるのでござろうwww我々守護者は師匠殿の肉体を守るだけが仕事ではないのですぞ?www」コポォ

孫悟空「どういうことだ?師匠の身体を妖怪共から守る事が俺達の役目だろうが」

猪八戒「それももちろんそうでござるがwww肉体だけではなく、想いや願いを護る事もまた守護者の務めでござろうwww」

孫悟空「師匠が叶えられなかった想いや願いを護る事も……俺の役目って言いたいのか、八戒」

猪八戒「そうですぞwwwしかし、所詮はお山の大将でござるからなぁwww元天界人の我輩の方が適任かもしれませんなwww」コポォ

303 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/29 23:50:36 Ti0 163/405

猪八戒「兄弟子が怖気づいているのなら仕方ないですなwww我輩が代わりに玉龍殿と別のおとぎ話の世界に行くでござるwwwうはwww玉龍ちゃんペロペロwww」

玉龍「ブタはお呼びじゃないッス。うちより後輩なんスから調子に乗んなッス」プイッ

猪八戒「ちょwww態度wwwがwww違うwwwさて、それはいいとして……どうしますかな?悟空殿?wwwここまでブタに言われて引き下がるわけ無いでござるよねwww」

孫悟空「おい、八戒…」スタスタ

猪八戒「なんでござるかなwww」

ボカッ!

孫悟空「テメェ毎度毎度…うまい事挑発して俺の事焚きつけやがって…!間抜けで能天気のくせにそういうところ気が周るのが腹立つんだよブタがぁ!」

猪八戒「ちょwww何も殴らなくともwww」コポォ

孫悟空「だがまぁ、決心はついたぜ。……ありがとな、猪八戒」ソッ

猪八戒「例には及びませんぞwwwそれではさらばですぞwww」ドゥフ

沙悟浄「…いろいろと世話を掛けたな、悟空」

三蔵法師「……あなたの良さは熱い心を持っているところですが、悟空は加減が苦手すぎます。落ち着いて、事に臨みなさい」

孫悟空「ああ、お師匠。俺は守護者として…あんたの想いを、おとぎ話の世界を救ってやらぁ!行くぞ、玉龍!!」スッ

玉龍「わかったッス!それじゃあ行くッスよセンパイ!玉龍ちゃん女の子モードからドラゴンモードにモードチェンジッスよー!」ファアアァァァァ

孫悟空「よっし、どんなおとぎ話でも構わねぇ!この孫悟空様が、全部まとめて救ってみせらぁ!!」

キィィィィンッ



三蔵法師「達者で……私の愛する弟子よ」

ドドドドドドドド

・・・

・・・

304 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/29 23:52:28 Ti0 164/405

現在
現実世界 廃墟



孫悟空「オラァ!なんとか言いやがれこのブタがぁ!!」グイグイ

孫悟空「テメェはあの時!消滅する【西遊記】の世界に沙悟浄と師匠と一緒に残っただろうが!なんでここに居るのか答えやがれぇ!!」

キモオタ「ちょwww何の事だかさっぱりですぞwww誰でござるかwww猪八戒殿ってwww」ガクガクガク

グレーテル「猪八戒はね……【西遊記】の登場人物……孫悟空さんの旅の仲間なの……豚の妖怪なのよ……」

キモオタ「なるほどwwwそれは納得でござるwwwってwwwなんで我輩毎度ブタに間違えられるのかwww」コポォ

ラプンツェル「あっ、私ね、鏡持ってるよ!使う?」ニコニコ

キモオタ「ちょwwwどういう意味でござるかそれwwwナチュラルにそれは酷いですぞwww」コポォ

孫悟空「なにをごちゃごちゃと……!あの時俺をあんなふうに焚きつけておいて、まさか自分だけ逃げだしたんじゃねぇだろうな!?答えろ八戒!!」

キモオタ「だからwww我輩はその猪八戒殿では無いというのにwww」

孫悟空「テメェみたいなブタが世界に二人もいてたまるかってんだ!しらじらしい嘘をつくんじゃねぇ八戒!」

キモオタ「駄目でござるよこれwww孫悟空殿どうしたら信じてくれるのかwww」

グレーテル「孫悟空さん……そのお兄ちゃんはね……キモオタお兄ちゃんっていうの……猪八戒さんじゃないのよ……?」

孫悟空「テメェ、しかし、なあ……おい、この小娘の言葉は本当なのか?八戒」

キモオタ「本当でござるって先ほどから言ってるのにwwwいやwww八戒殿ではないでござるけどwww」

305 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/29 23:54:50 Ti0 165/405


・・・

孫悟空「おとぎ話の世界の消滅を防ぐために旅をしている……現実世界の人間ってぇわけか……」

キモオタ「そうでござるよwwwようやく信じてくれましたかなwww」

孫悟空「お前等の話はまぁ、嘘じゃないだろう。それは信じてやるけどよぉ……いや、やっぱりお前は八戒だろ?」

キモオタ「なんでwwwまだwww半信半疑www」

孫悟空「ラプンツェルの話を聞いた限りじゃあ確かにおとぎ話の世界を救う人間ってのは嘘じゃなさそうだが……こうも瓜二つだってのは偶然に思えねぇ……」

キモオタ「そんなに似てるのでござるかwww」

孫悟空「ああ、似てる……しかしだ、つい話しこんじまったけどよぉ……テメェは俺の敵だってことには変わりねぇんだ」ググッ

孫悟空「グレーテルを捕えて、テメェらを始末しねぇとあいつの命が危ねぇ。護るべきもん護れなくて何が守護者だって話だからな……」

キモオタ「まさか…人質でも取られていて……だからこんな悪事を……?」

孫悟空「ああ、そうだ。弱いとでも何とでも言いやがれ、八戒。だが俺ぁあいつを見殺しになんかできn」

キモオタ「なんでそうと言わないでござるか!」

孫悟空「……あぁ?」

キモオタ「お主が真の誘拐犯に人質を取られていて、本意ではない悪事に加担しているのであれば……我輩見過ごせませんぞ、なんとか人質を助ける方法を考えますぞ!」

孫悟空「いや、テメェには関係のねぇ話だ。だから俺は……」

キモオタ「何を言ってるでござるか!人質など卑劣な行為ですからなwwwお主の友人に瓜二つなのも何かの縁www我輩、お主の人質救出に協力しますぞwww」

306 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/29 23:57:57 Ti0 166/405


孫悟空「……信用、出来るのか。こっちの八戒は」

ラプンツェル「うん!私の事も助けてくれたし、シンデレラや桃太郎も助けてくれたって言ってたよ!大丈夫!悟空のことも助けてくれるよ!」ニコニコ

孫悟空「……八戒にそっくりなのは、外見だけじゃねぇってことか。キモいところも節介焼きでお人好しなところまで瓜二つとはな……」

キモオタ「どうかしましたかなwww」コポォ

孫悟空「いいや、なんでもねぇ……どっちにしろこのままじゃ平行線だったんだ。ここはひとつテメェを信用してみるぜ、よろしくな現実世界の猪八戒」ニッ

キモオタ「ちょwwwもう猪八戒殿はいいでござるwwwキモオタでござるよwww」

孫悟空「おう、キモオタだな。だがまぁあまり深くは話せねぇが……事情の説明はしておかねぇとな……あー、どこから話したもんだろうな……」



グレーテル「……」トテトテ

グレーテル(このあたりの瓦礫……血で濡れてるの……)ペトッ

グレーテル(そこから……点々と血が落ちて……奥の部屋に続いてる……)

グレーテル(これって……もしかしてヘンゼルお兄ちゃんが捕まっちゃう時……よくわかんない廃墟の奥からでも帰り道をわかるようにする為に……わざと落としたんじゃないかな……)

グレーテル(……だったら)

グレーテル(これをたどって行ったら……ヘンゼルお兄ちゃんが捕まってる部屋に……行けるかな……?)

グレーテル(……)

グレーテル(……きっとそうなの……この血の跡を辿って行ったら……ヘンゼルお兄ちゃん助けられる……)

グレーテル(待っててね……ヘンゼルお兄ちゃん……今度も、私が助けてあげるからね……)

グレーテル(私はお兄ちゃんの妹……魔女も誘拐犯も……私が全部燃やしつくして……殺しちゃうから……)

グレーテル(だから……また私と一緒に、ずっと一緒に居てね……ヘンゼルお兄ちゃん……)


スタスタスタ

307 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/07/30 00:03:53 TeT 167/405

今日はここまで

玉龍って絵本の西遊記とかだと結構省略されててマイナーっぽいけど
普段は馬で目立たないけど実は龍って設定が好きすぎる

ヘンゼルとグレーテル。とある消滅したおとぎ話編 次回に続きます

328 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/02 22:56:00 e1D 168/405

墟 建物の奥

グレーテル(ヘンゼルお兄ちゃんは……とても賢いの、それに簡単には諦めないの……)

グレーテル(森に捨てられちゃったときだって……私は泣くことしかできなかったけど……お兄ちゃんは、ちゃんと帰り道が解るように目印落としてたの……)

グレーテル(今は悪い人に捕まっちゃったみたいだけど……こうして目印を作ってるって事は……お兄ちゃんは諦めてない……)

グレーテル(捕まっても……もう一度立ち向かう準備してる……私と家族を護るために……お兄ちゃんは、絶対あきらめないの……)

グレーテル(だから……私も、頑張るの……お兄ちゃんの、妹だから)

スタスタスタ

グレーテル(……血の跡、この部屋の前で止まってる……)グイグイ

ギィィィッ

ヘンゼル「…っ!グレーテル!?」バッ

グレーテル「お兄ちゃん縛られてる……それに右手血だらけ。早くロープをほどいて、それから右手治さなきゃだね……」ホドキホドキ

ヘンゼル「なんで来たんだ!僕は部屋の中に居ろと言ったじゃないか。今すぐにここを出るんだ!あとは僕が何とかする」

グレーテル「……お兄ちゃんはすごくて賢い……だからなんとかできるなら、もうやってる……なんとかできないから、縛られたままここにいたんだよね……?」

ヘンゼル「そんな事はどうだっていいんだ、グレーテル。あの男の狙いは僕とお前だ、敵側には孫悟空だって居る…ここは危険なんだ、僕に構わず早く逃げて欲しい」

グレーテル「……うん、逃げる……でもそれは……みんな一緒に……だよ。私一人で逃げるなんて……嫌なの……」

329 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/02 22:59:50 e1D 169/405

グレーテル「……お兄ちゃん、行こう……ロープ、解けたの……」パサッ

ヘンゼル「グレーテル、助けに来てくれた事は感謝するよ。でも、ここからは本当に危険だ、頼むから先に一人で逃げて欲しい」

グレーテル「……嫌なの。私、お兄ちゃんと一緒に居るの……いっぱい頑張るから、私を足手まといって……思わないで……」

ヘンゼル「そうじゃない、お前は足手まといなんかじゃない。あの魔女に捕まった時も今回も、捕えられた僕を二度も救ってくれたじゃないか。お前は自慢の妹だ」

ヘンゼル「だからこそ、逃げて欲しいんだ。またグレーテルが酷い目にあうのは耐えられない、またお前を救えなかったら僕は……自分を許せない、絶対に」ググッ

グレーテル「……お兄ちゃん、お菓子の家での事……私、本当にもう気にして無いよ……?だから、いつまでも自分を責めるの……やめて欲しいの……」

ヘンゼル「いいや……家に帰れなかったのも、易々と魔女に捕えられた事も、お前にひもじい思いをさせた事も、魔女を殺すなんて決断をさせた事も全ては僕の責任だ」

ヘンゼル「だから僕はお前には幸せになってもらいたい、幸せにしないといけない。グレーテルはもう十分すぎるほど辛く苦しい思いをした、これ以上苦しい思いをする必要なんてないんだ」

ヘンゼル「だから、お前を危険な事に巻き込みたくない。お前は自分の幸せだけ願って暮らしてくれればいいんだ、グレーテル」スッ

グレーテル「……違うの、お兄ちゃん。私は、お兄ちゃんと一緒に……」

キィッ シュバッ

ヘンゼル「……っ!伏せろ!グレーテル!」

グイッ

グレーテル「うぐっ…」ガシッ

小柄な男「自ら助けに来るたぁ、兄貴思いな奴だ。良い妹を持ったなぁ、クソガキ……いいや、ヘンゼルよぉ!」ニィッ

330 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/02 23:02:03 e1D 170/405

グレーテル「んーっ……んーっ……」ジタバタ

小柄な男「今度こそ状況を理解したよなぁ、ヘンゼル?」

ヘンゼル「……あんた、今度はグレーテルを人質にするんだね」ゴゴゴゴゴ

小柄な男「使えるもんはなんだって使うぜ、グレーテルは俺が捕えた!生かすも殺すも俺次第だ。さぁ大人しくしろよ、さもねぇとこいつの軟肌が真っ赤に染まる事にn」

グレーテル「……離してっ」ガジッ

小柄な男「うぉっ…クソがッ!何しやがんだこのガキッ!」ブオンッ

ガシャーン

グレーテル「んぅっ……ゲホゲホッ……」ゲホゲホ

小柄な男「クソ小娘が!この俺様の腕を齧りやがって……兄妹揃ってふざけたガキ共め!」ギロッ

ヘンゼル「僕の妹になんて事するんだこいつ……!」ヒュバッ

小柄な男「不意を突いただけで調子に乗るなよクソガキ!お前にどんな魔力が宿ろうと子供が大人に敵うはずがねぇだろうが!!」スッ

ヘンゼル「そういうセリフ、僕は大嫌いだ。もうグレーテルはあんたの手を離れた、この距離だったらその小さな身体をひしゃげる事くらい簡単だ!」ゴゴゴゴゴ

小柄な男「粋がりやがって…!お前等兄妹はもう俺の手のひらの上も同然なんだからよぉ!もう面倒な駆け引きはする必要無ぇんだ!」

スッ

グレーテル「ゲホゲホ……藁の……束…!だめ……お兄ちゃ…その……オジサン……」ゲホゲホ

小柄な男「テメェら二人を同時に口封じ出来るならよぉ!もう俺様の能力を隠す必要なんざねぇ!」シュバッ

331 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/02 23:04:57 e1D 171/405


小柄な男「おらよ、クソガキ…!ガキの分際で大人に立て付いた罰だ!」スッ

シュルッ シュルルッ

ヘンゼル「っ…!藁が首に撒きついて…!いいや、こんなもの構うもんか、グレーテルを傷付けた罰を受けるのはあんたの方だ!」ググッ

小柄な男「おっと、もうテメェと正面から戦ってやる理由なんざねぇぜ!」スタタッ

ヘンゼル「逃げるつもり?さっきといい今回といい随分と弱腰なんだね…でも逃がさないよ、僕は」スッ

小柄な男「クックッ、滑稽ったらねぇぜ。そんな挑発はもう意味がねぇんだぜ、ヘンゼル」ススッ

グレーテル「お兄ちゃん、ダメ……!この人の正体、解ったの……この人の能力……藁を黄金に変える魔法だよ……!」

小柄な男「余計な事を言うんじゃねぇ…っと、だがこれでテメェの首にも装着完了だぜ。グレーテル」シュルッ

ヘンゼル「藁を黄金に変える能力…?あんた、まさか……おとぎ話【ルn」

小柄な男「おっとそこまでだヘンゼル!グレーテル!テメェらはもう俺様の名前を叫ぶ事が出来ねぇ!誰かに伝える事もだ!俺様とお前等はもう契約を結んだ!」

小柄な男「その黄金の首輪は俺以外には外せねぇ、壊せねぇ!しかもいつでも締め付けてお前等を殺せる!つまりお前等の生殺与奪は俺様にある!」

小柄な男「そこでお前等の記憶する『俺様の名前』と『ヘンゼルとグレーテルを生かす権利』を交換だ…!俺様がお前等を生かしている間、お前等は俺様の名を口に出来ねぇ!」

ヘンゼル「契約だって?あんたは名前を呼ばれれば魔力を失う、そんな一方的な契約に従う必要なんかないよ、××××……!」パクパク

グレーテル「××××……言えない……私も、あのオジサンの名前知ってるのに……名前、言えない……」

ヘンゼル「どうなってるんだ…!僕達はこんな契約に応じたつもりは無い!こんな一方的な契約なんかありえない!」

小柄な男「アッハッハ!それがありえるんだヘンゼル!相手の承諾なんざ必要ねぇ、わずかでも求めてるなら契約は結ばれる、俺様に主導権のある契約!これはそういう能力なんだからよぉ!」アーッハッハッハ

332 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/02 23:07:06 e1D 172/405

ヘンゼル「あんたは確か黄金を渡した対価として王妃の子供を要求したんだったね…ああ、どおりでクソ野郎だと思ったよ」ギリッ

小柄な男「口の減らない野郎だな、ヘンゼル…テメェは状況判断が苦手みてぇだからよぉ、よく説明してやる」

小柄な男「テメェらの首には俺が藁から精製した黄金が巻きついている、こいつを外す方法は俺の名前を叫ぶ以外に無ぇ。万一、俺が名前を当てられる以外の方法で倒されれば…」

小柄な男「テメェがまた粋がって俺を攻撃して、俺が倒れれば…その首輪はテメェらの首を締め付ける。肉に食い込み骨を砕き千切るまでな」

ヘンゼル「……っ」ギリッ

小柄な男「流石にもう手は出してこねぇな。そりゃあそうか、今までは何とか俺を殺せば勝ちだったが……もう俺を殺す事は妹を手に掛ける事と同じだからなぁ!」

小柄な男「本当はさっさと殺してしまっても良かったがな、どうやらグレーテルが連れてきた連中に魔力持ちが居るみてぇだ。この魔力のでかさ、おとぎ話の住人だな?」

グレーテル「……」

小柄な男「だんまりか、まぁいい。本当はテメェらを殺して心臓を食って終わりのつもりだったが、そいつもついでに頂こうじゃねぇか」

小柄な男「そいつが俺様の名を知っているかどうかは気になるところだが……こいつ等の様にもう黙らせちまった方が早ぇな」クックック

ヘンゼル「……」

小柄な男「アッハッハ!随分と大人しくなっちまったなぁ!そりゃあそうだ、その魔力持ちさえ殺せばもう今度こそ俺の名前を知っている奴なんかいない!お前らも俺の名前を口に出来ない!」

小柄な男「つまりよぉ、もう俺様に恐いものはねぇってことだ!アーッハッハッハ!」アーッハッハッハ




グレーテル「お兄ちゃん……」ボソッ

ヘンゼル「大丈夫だグレーテル、今は機会を待とう……あいつを倒す手はまだ、残ってる」ボソッ

333 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/02 23:09:23 e1D 173/405

廃墟 キモオタ達のいる部屋

・・・

ラプンツェル「そっか、じゃあ悟空のおとぎ話も誰かに…多分だけど、アリスに消されちゃったって事だね?」

孫悟空「ってことになっちまうか、大体は今話した通りだな。【不思議の国のアリス】のトランプ兵の襲撃、同時にどこかの重要な妖怪がやられちまったせいで【西遊記】は消滅した」

キモオタ「そして孫悟空殿と玉龍殿の二人は他の世界へ移動したと…そういうことでしたな」

孫悟空「そういうこったな、俺には他にも世界移動する手段はあんだがよ…お師匠の事だ、玉龍に連れていかせねぇと俺が【西遊記】に残ると思ったんだろうぜ」

ラプンツェル「悟空って頑固そうだもんねー」ニコニコ

キモオタ「すると孫悟空殿が人質に取られているというのは、その玉龍殿ですかな?」

孫悟空「いいや、違ぇな。玉龍もこの世界のどこかに監禁されちまってるが…あいつの事はさほど心配しちゃいねぇよ」

ラプンツェル「えーっ?でも孫悟空にすっごく懐いてる女の子の龍なんでしょー?心配してないってひどいよ、きっと悟空に会いたがってるよ?」

キモオタ「確かにwww龍とはいえ女子を邪険に扱うなどwwwいくら悟空殿がリア充でも許される行為ではありませんぞwww」コポォ

孫悟空「あいつは守護者じゃねぇがお師匠に着き従ってた期間は俺の次に長いからよぉ、捕えられた程度で騒ぐ必要無ぇってことだ。あいつもお師匠の従者である事には違いねぇ」

キモオタ「悟空殿の話ですと【西遊記】では旅の途中で悪い妖怪に襲われ放題でしたからなwww慣れているという事でござるかwww嫌な慣れでござるがwww」

孫悟空「おう、それにあいつにとって玉龍は世界移動が出来る唯一方法だ、飯くらいは食えてるだろう。それに姿を変えていても龍だからな、そんなやわじゃねぇよ」

孫悟空「それとな、テメェら勘違いしてるみてぇだが玉龍は…」

ラプンツェル「でもでも、玉龍ちゃんが人質じゃないってなると人質に取られてるのってだれー?」

334 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/02 23:11:53 e1D 174/405

孫悟空「あいつの名は…わりぃが伏せる。だが、俺と玉龍がおとぎ話の世界を旅するうちに出会った娘だ」

キモオタ「ふむ…娘を人質に取るとはポピュラーながらに外道な輩ですな」

孫悟空「あの男のおとぎ話は既に消滅しちまっているらしい、だからこそ好き放題やりやがる」チッ

ラプンツェル「私は【ラプンツェル】のおとぎ話残ってるけど好きな事してるよー?やりたいことしてー、好きな物食べてー…」ニコニコ

キモオタ「ちょwww話が進まないのでちょっとラプンツェル殿は静かにしてていただきたいwww」コポォ

孫悟空「……続けるぜ、そいつのおとぎ話であの男は人質を取りやがった。殺されたくねぇなら要求を飲めってな…それが俺が護衛となり玉龍で現実世界へ行く事、ってなわけだ」

キモオタ「あれほど多彩な技を持つ悟空殿だからこそ護衛に選んだのでござろうが、それほどの力を持つ悟空殿が逆らえないとなると…なにか魔法がからんでますな?」

孫悟空「あの男の能力は特殊なもんでな、藁を黄金にする。俺があいつを殺せば人質の娘の首に巻かれた黄金がそれに反応して締め付けちまって殺す仕組みだ」

ラプンツェル「首ぎゅーってされちゃったら死んじゃうね……でも、悟空ってすっごい力持ちだから壊せないの?その首輪」

孫悟空「無理に壊そうとすればあいつに締め付けられちまう、それはできねぇ。だがな、あいつを無傷で助ける方法がひとつだけあんだよ」

キモオタ「ほう、してその方法とは……?」

孫悟空「あの男の名前を当ててやりゃあいい、そうすりゃああいつは魔力を失っちまうらしい。そうすりゃあ契約も切れる、あいつを縛る首輪も消えるってぇ事だ」

ラプンツェル「なーんだ!名前当てるだけだったら簡単だね」ニコニコ

孫悟空「…おいラプ公!テメェ本当に俺の話聞いてやがったのか!?簡単ならもう解決してんだよ!」

335 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/02 23:14:07 e1D 175/405


キモオタ「名前が当てられないから悟空殿はやむなく従っているのでござるよwwwラプンツェル殿www」

ラプンツェル「あー、そっかー、消滅しちゃってるから現実世界じゃあ知る事が出来ないって事だもんね…じゃあさ、私のママに聞いてみよ?教えてくれるよ!」

孫悟空「…あいつは魔力の感知に長けてやがる、下手におとぎ話の世界に連絡を取ったり移動するのは避けてぇな」

キモオタ「言ってしまえば…人質を殺したとしてもその者にはなにも失うものが無いでござるからな、玉龍殿を盾に悟空殿を従えるなとという手段もありそうでござるし」

ラプンツェル「現実世界には無くて、おとぎ話の世界には行けないって……それってもう調べようが無いよ!?困っちゃったね……」ムムム

孫悟空「ようやくかよテメェ……つまりはまぁ、そういう事だ。だがよぉ、偶然ここに来たお前達に聞くぶんならバレやしねぇだろ?おとぎ話の住人のお前たちなら知ってると思ってなぁ」

キモオタ「ふむ……我輩、ティンカーベル殿といろいろとおとぎ話読んでおりますが藁を黄金にするなどと言うおとぎ話は初耳ですな……」

ラプンツェル「私はなんだか知ってるような気がするんだけど……ごめん、ちょっと思い出せないなー」

孫悟空「そうか……まぁ、ダメ元みてぇなもんだ。気にするんじゃねぇよ」

キモオタ「落ち込むのは早いですぞwwwグレーテル殿なら詳しいかもしれませんぞwwwいろいろとおとぎ話読んでいたらしいですからなwww」コポォ

孫悟空「おっ、そいつぁ好都合だな。ってぇ……グレーテルはどこに行ったんだ?」

ラプンツェル「あれー……?ちょっと前は居たと思ったけど……」

ザッ

小柄な男「おう、悟空。随分と仲良く敵と談笑してるじゃねぇか」ギロッ

孫悟空「……っ」クッ

336 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/02 23:15:57 e1D 176/405


小柄な男「まぁいい、聞かせてもらったぜ。そこの髪の長いアホっぽい娘……お前、ラプンツェルなんだってなぁ?」

ラプンツェル「アホっぽい……!なんでそんな風に言うの?もう!キモオタ、なんか言い返してやってよ!」プンス

キモオタ「まぁまぁラプンツェル殿、ここは堪えるでござるよ…あやつこそ、司書殿を誘拐し悟空殿から人質を取った張本人でござろう」

ラプンツェル「そっか、あいつが悪者ってことだね…!」キッ

小柄な男「まぁいい、テメェは俺の名前を知らないみてぇだからな。とんだ杞憂だったぜ」

ラプンツェル「ふーんだ!名前呼ばれただけで弱くなっちゃうんでしょ!私は知らないけどグレーテルならきっと知ってるんだからね!」

小柄な男「そいつぁ残念だな、こいつ等は確かに俺の名前を知っていたがよぉ…もうこいつ等は俺の名前を口にできねぇ!テメェらに伝える事もな!」

ヘンゼル「……」クッ

グレーテル「……ごめんなさい、キモオタお兄ちゃん……」

キモオタ「ヘンゼル殿もグレーテル殿もボロボロで……お主!二人に何をしたんですかな!?」

小柄な男「なんてことねぇよ、こいつ等の兄妹愛を利用しただけだ。こいつ等はお互いが俺に殺されない代わりに俺の名前を口に出来ない、そういう契約を結んだだけだぜ」

孫悟空「えげつない野郎め、こんなガキを利用するたぁ…」チッ

小柄な男「何とでも言え、もはやこいつの魔力は俺のものも同然だ。だが…折角だからな、もうひとつ心臓を食っちまおうって考えだ」

小柄な男「おい、アホ女。テメェの心臓を俺に寄越せ、そうすることで俺はさらに強い魔力を得られる」クックック

337 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/02 23:17:56 e1D 177/405

ラプンツェル「嫌だよ!魔力のおかげで私の髪の毛は長いし好きなように動かせるんだもん、それに心臓なんかあげたら死んじゃうでしょ!」プンス

小柄な男「ったく、なんでこんなアホに強い魔力があるんだかわからねぇな…俺様の様な向上心のある奴が持つべきだろ」

キモオタ「あの者、ラプンツェル殿の魔力を狙っているのでござるな、悟空殿の言うとおり魔力を感知する能力に長けているという訳でござるか……」

孫悟空「魔力をもった奴の心臓を食えば、その力を得られるってぇ訳だ。だからあいつはヘンゼルやラプ公の心臓を狙ってやがる」

ラプンツェル「魔力が欲しいから他の人を殺しちゃうとか…すっごく悪い奴だよ!あいつ!」プンス

小柄な男「チッ。そこまでアホでもねぇか、そういう事なら孫悟空…あの女を殺して心臓を俺によこせ」

孫悟空「……断る。って言ったなら、どうするつもりだ?」

小柄な男「当然、許さねぇな。あの小娘を殺す、望むならこのガキ共もなぶり殺しにしてもいいぜ」

孫悟空「……」ギリッ

ラプンツェル「悟空…そんな事しないよね?私達、もうお話したからお友達!だから…大丈夫だよね?」

小柄な男「悟空!!テメェは俺のしもべだろうが!俺があのアホ女を殺せと言ったら、殺すしかねぇんだよ!」

孫悟空「……クソッ!」ググッ

キモオタ(何か…考えるでござる、お話ウォッチは使えないでござるし、サイリウムも……下手に動けぬでござるが、このままでは……)

クシャ クシャ 

キモオタ「……?」

338 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/02 23:20:00 e1D 178/405

グレーテル「……」ジッ

クシャ クシャ

キモオタ(グレーテル殿…?我輩の方を見ているでござるが……この音は一体?何かビニールの擦れるような……)ジッ

グレーテル「……」クシャ…スッ

キモオタ(グレーテル殿が持ってるのは……我輩があげたミニスニッカーズの包み紙のゴミ……後で捨てるつもりで撮っていたのでござるか……?)

キモオタ(しかし、何故…今包み紙など……。もしや、我輩への何かしらのメッセージでは……?)

キモオタ(スニッカーズ…カロリー…チョコレート…何を伝えようとしているでござるか…いや、もしや……我輩がグレーテル殿にスニッカーズをあげた時は確か……)

――焦らなくて良いでござるよ。ミニスニッカーズでも食べて落ち着くでござるwww

キモオタ(焦らなくても大丈夫、落ち着いても良い……という事ですかな……?何か、グレーテル殿に考えが……?ここは、ひとつ……)

キモオタ(ミニスニッカーズを……チラリ) チラッ

グレーテル「……」コクン

キモオタ(グレーテル殿には何か策があるのですな……ならばここは、たとえこの場しのぎであろうとも……グレーテル殿を信じて)

バッ

キモオタ「いやいやwwwちょーっと待っていただきたいですなwww我輩に提案があるのでござるがwww」コポォ

小柄な男「なんだテメェは…現実世界の奴か、お呼びじゃねぇ。すっ込んでろ」

キモオタ「ちょwww我輩を邪険に扱わないで欲しいですなwwwお主にとっても悪くない話ですぞwww」コポォ

339 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/02 23:23:09 e1D 179/405

キモオタ「実は我輩、魔法具を二つも持っているのでござるよwwwこのおはなしウォッチとサイリウムでござるwww」コポォ

小柄な男「ほう、現実世界の人間の癖にそんなもんもってやがるのか…丁度良い、そいつも俺に寄越せ、有効に使ってやるからよ」

キモオタ「それはいいのでござるがwwwラプンツェル殿もヘンゼル殿もグレーテル殿も我輩の友人www死んでしまうのは嫌でござるwww故に、我々にチャンスを頂きたいwww」

小柄な男「チャンス、だと?」

キモオタ「そうですぞwwwどうやらお主の名前を当てればお主の魔法を無効に出来るらしいでござるが……お主の名前を考える時間を我々に頂きたい」

キモオタ「そのかわりwwwもしもチャンスを貰ってもお主の名前が当てられなかった場合は我輩は友人の死を受け入れるでござるし、この魔法具も差し上げるでござる」

小柄な男「俺にうまみが薄いな…そんな要求無視してその魔法具を奪っちまってもいいんだぜ?」

キモオタ「そういうことでしたら今すぐこの魔法具はたたき壊すでござるwww」コポォ

小柄な男「……いいだろう、時間を与えてやったところでテメェらは俺の名前にたどり着けない、絶対にな」クックック

キモオタ「ありがたき幸せwwwそれでは制限時間でござるがwww」

小柄な男「今が夕時か……ならば深夜零時だ、日付が変わるまでにここに来い。ただし…廃墟から出られるのはデブ、テメェだけだ。そしてこの現実世界から出る事は許さねぇ」

キモオタ「十分ですぞwwwそれでなんとか探し当てるでござるwww出来れば悟空殿とヘンゼル殿グレーテル殿もこちらに預けていただけるとwww助かるでござるwww」

小柄な男「どうせ無駄な足掻きだ、好きにしやがれ。ただし、逃げたり約束を破れば悟空の人質を殺す。いいな?」

キモオタ「わかりましたぞwww」

340 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/02 23:25:04 e1D 180/405

小柄な男「忘れるんじゃねぇぞデブ、零時だ。その時間になっても名前が当てられなけりゃあこいつ等の魔力もお前の魔法具も俺のもんだ」

キモオタ「どうぞご自由にwww」コポォ

小柄な男「せいぜい無為に時間を過ごしてやがれ、俺は酒でも飲んで時間潰しだ。いいか?魔力に動きがありゃあ俺にはすぐにわかる、約束を違えりゃあ即座に人質を殺す…この廃墟の中を偵察して回ってる小さな魔力の反応にも、気が付いてるんだぞ?」

キモオタ「おおふwww気が付いていましたかなwww廃墟内にお主の名前のヒントが無いかとwww探っていたのでござるwww」

小柄な男「せいぜい残された時間で別れを惜しんでやがれ、もうこの結果は覆らない。俺の名前は誰にも知られてねぇんだからな」クックック

スタスタスタ

ラプンツェル「あいつ、行っちゃったね。じゃあ頑張って名前当てないとね!」フンス

孫悟空「だからさっき話しただろうが、そりゃあ到底無理だ。だけどよぉ、あそこまで言うってこたぁキモオタには何か策があるんだろ?」

ヘンゼル「この人には策なんかないよ、どうせね」フイ

孫悟空「そんなわけねぇだろうが。魔法具を手放す、友人を見殺しにするとまで言ったんだぜ?策もなしにあんな大口たたけねぇだろうが」

キモオタ「ところがどっこいwww我輩はノープランなのでござるなwww」

ラプンツェル「あはは、やっぱりそんな事だと思ったよー」ニコニコ

ヘンゼル「……」ハァ…

孫悟空「ノープランってテメェ……考えなしにあの大口叩いたってのか!?」グイッ

341 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/02 23:27:32 e1D 181/405

孫悟空「テメェ…!こっちには人質がいるんだぞ!適当な事ぬかしてその場しのぎしてんじゃねぇぞ!ブタァ!」グイグイ

キモオタ「ちょwwwおちwwwついwwwてwww確かに我輩はノープランでござるがwwwグレーテル殿の考えた策があるのでござるwwwそうでござるよねwww」

ヘンゼル「グレーテル…あいつに何か伝えたの?」

グレーテル「うん……大丈夫だよって……なんとかなるよ……って、ちゃんと伝わって……よかったの……」

孫悟空「んだよ…驚かせやがる、それじゃあその策って奴を教えやがれ、キモオタ」

キモオタ「いやwww内容は解らないでござるwwwただグレーテル殿が大丈夫って言っていたでござるからwww大丈夫かなとwww」

孫悟空「テメェ…!あんな子供が大丈夫っていったからって、策の内容も聞かずそれを信じたんじゃねぇだろうな!?」

キモオタ「ちょwwwまさにその通りでござるけどwww」コポォ

孫悟空「この…クソブタ野郎が!脳みそまでブタかテメェ!子供の話を鵜呑みにしてんじゃねぇ!!」

ラプンツェル「まーまー、悟空もそんなに怒鳴っちゃダメだよー、キモオタが大丈夫って思ったなら大丈夫だよ」ニコニコ

孫悟空「ラプ公テメェわかってんのか!?あの男の名前が当てられねぇとお前は殺されちまうんだぞ!?」

ラプンツェル「それはヤだけど、キモオタは前も私たちの事助けてくれたから私は信じてるよ。それに、キモオタはただキモイだけじゃないから大丈夫だよ、きっとー」ニコニコ

孫悟空「…ったく、まぁこうなっちまった以上はあいつの名前を必死になって探すしかねぇな…」

グレーテル「孫悟空さん……大丈夫よ……私たちも、人質の人も助かる方法……あるの……」

342 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/02 23:31:59 e1D 182/405

孫悟空「そいつは本当か?お前の考えを話して見やがれ、なんで大丈夫だなんて言えるんだテメェは?」

グレーテル「うん……あのね……あのオジサンの名前、私たちは話せないけど……知る事が出来る方法、あるの……」グイッ

ヘンゼル「待って、グレーテル。何を話そうとしてるか解ってるけど、それは軽々しく他人に話す事じゃないよ……それとも、こいつ等の事信用してるの?」

グレーテル「うん……ラプお姉ちゃんもキモオタお兄ちゃんも私を助けてくれたよ……孫悟空さんも……無理やり手伝わされてるだけ……」

ヘンゼル「大人なんか信用したら駄目だ、あの時決めただろう」

グレーテル「良い大人だっているんだよ……弥平パパや女王さまと同じだよ、だから……話そうよ、私たちの事……ね?」

ヘンゼル「……僕は、信用できない」

キモオタ「ヘンゼル殿……我輩を信じれないのは、我輩に至らない部分があるからでござろう」

キモオタ「しかしですな、我輩が策の内容も聞かずにグレーテル殿を信じたのはその場しのぎだけではござらんよ。先ほど、グレーテル殿が言ってくれたのでござるよ、童話展で」

キモオタ「信じてくれてるから信じると、信じないと信じてもらえないと…でござるから、我輩はグレーテル殿を信用したのでござる。我輩を信じてくれているグレーテル殿が大丈夫と言っているのなら、必ず大丈夫であると思った故」

ヘンゼル「……そんなのは、ただの……耳触りの良い言葉なだけだよ。信じるとか信じないとか……」

キモオタ「ヘンゼル殿は我輩を信じれなくても、グレーテル殿ならば信じられるのではござらんか?」

ヘンゼル「……」

キモオタ「ならば我輩ではなくグレーテル殿を信じて…我輩に頼ってみて欲しいでござる」

グレーテル「……お兄ちゃん、私の事……信じて……大丈夫、だから……」

ヘンゼル「……確かに、あの男の名前を当てる方法がある。でもそれには僕達の過去から離さないといけない。少し長くなるけど、最後まで聞く覚悟があれば聞けばいい」

キモオタ「おお、ヘンゼル殿…!」

ヘンゼル「勘違いしないで欲しいね、僕は今だってあんた達を信用してない。グレーテルを信用して話すだけだ」

ヘンゼル「それに丁度良いよ、僕達がどうしてあんた達大人を信用できないかも係わる話だから。これを聞けばグレーテル達ががどれだけ辛い思いをさせられたか解るよ。それに…」



ヘンゼル「あんた達現実世界の人間が、作者が……どれだけ非道な奴らかって事もね」

353 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/05 22:44:27 l4v 183/405


孫悟空「おい待ちやがれ、俺達は零時までにあいつの名前を当てなきゃなんねぇんだ。テメェ等に考えがあるってのは信用するけどよぉ、悠長に昔話なんざしてる時間はねぇぞ!?」

ヘンゼル「僕だって話したくて話すわけじゃないよ。それに慌てる必要なんかない、僕達はあの男の名前の手掛かりなんか探さなくて良いんだから」

キモオタ「それはどういう事でwwwござるかなwww」コポォ

グレーテル「お姉ちゃんをね……探せばいいの……そうすればね、あのオジサンの名前……解るから……」

キモオタ「それはつまり…捕えられている司書殿も、あの者の名前を知っているという事ですかな?」

グレーテル「そうよ……お姉ちゃんも知ってるの、あのオジサンの名前……だからお姉ちゃんを助ければ……全部解決なの……」

ヘンゼル「あんたはさっき名前を探る為…なんて言ってたけど、あの賑やかな妖精はこの廃墟のどこかに捕えられているあいつを探してる。そうだよね?」

キモオタ「その通りですぞwwwティンカーベル殿は司書殿を探しているでござるwww先ほどはとっさに嘘をつきましたぞwww流石に人質を探しているとは言えなかったでござるからwww」

キモオタ「しかし、考えて見れば司書殿が別の場所に捕えられているという可能性も否定できぬでござるな…」

孫悟空「そりゃあねぇな。あの娘はあいつがこの廃墟のどこかに捕えてやがる、それは間違いねぇぞ。場所まではわからねぇがな」

グレーテル「だったら……ティンクちゃんに任せよう……少し待っても見つからなかったら……みんなで探そう」

ヘンゼル「あからさまにあいつを探したら怪しまれるかもしれないし、静かに探すべきだと思うけど…まぁその時は仕方ないね」

ラプンツェル「ねぇねぇ、でも私ちょっとおかしいことに気が付いたよ!司書さんって現実世界の女の人でしょ?どーして消えちゃったおとぎ話の事知ってるのー?」

354 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/05 22:46:43 l4v 184/405

孫悟空「そういやぁそうだな、あいつのおとぎ話は消滅してると言ってやがった。現実世界の娘が知ってるってなぁおかしい話だ」

キモオタ「本来ならばそうでござるがwww我輩は特に不思議に思いませんぞwww」コポォ

グレーテル「どうして……?」

キモオタ「司書殿にはヘンゼル殿とグレーテル殿と言うおとぎ話の住人が居るでござる、恐らく二人に教えてもらったのでござろうwww」コポォ

ラプンツェル「そっか!消えちゃったお話でも誰かに教えてもらえばいいんだもんね!」

キモオタ「その通りでござるwww我輩が消滅した【ヘンゼルとグレーテル】の内容をラプンツェル殿に教えていただいたようにwwwおとぎ話を知っている人物に聞けばいいのでござるwww」

孫悟空「それもそうだな、そう考えりゃあおかしい話ってわけでもねぇな」

ヘンゼル「僕やグレーテルの過去に何があったか、それを話すのならなんであいつがそのおとぎ話を知ってるのかだって解るよ」

ヘンゼル「僕はまだあんた達大人を信用してないけど…グレーテルが信じているというなら、話しておかないといけない事だ……気は進まないけど」

ラプンツェル「気が進まないなら私が代わりに話してあげよっか?【ヘンゼルとグレーテル】のおとぎ話の内容なら私も知ってるから!」フンス

ヘンゼル「何か勘違いしてるみたいだけど……僕がこれから話すのはあくまで僕とグレーテルの過去の話だ、おとぎ話なんかじゃない」

孫悟空「あぁ?だからよぉ、テメェ等兄妹の過去の話が【ヘンゼルとグレーテル】なんじゃねぇのか?」

ヘンゼル「あんた達が知ってるのは、作者が現実世界の奴を楽しませる為に…教訓を与える為に作った『おとぎ話』だよ。そんな作り話は僕達の過去じゃないよ」

グレーテル「……」コクコク

ヘンゼル「今からあんたたちに聞かせるのはおとぎ話なんかじゃない。貧しい家に生まれた少年ヘンゼルがその妹グレーテルと一緒に必死に生きてきた…これまでの人生の記憶だ」

ヘンゼル「大人に見捨てられ、利用され、絶望して……作者にもてあそばれた無様な兄と不憫な妹の人生の物語さ。繰り返すけど、これはおとぎ話じゃない」



ヘンゼル「僕…ヘンゼルとグレーテルにとってはまぎれもない現実の出来事だよ」

・・・

・・・

355 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/05 22:49:05 l4v 185/405

随分と昔
ヘンゼルとグレーテルの世界 森

カコーン カコーン カコーン

父親「ふぅ…ようやくひと区切りついたな。ヘンゼル、切り出した木材は運び終えたかい?」

ヘンゼル「うん、木材は全部積み終えたよ。薪も縛って荷車に積み終わった」

父親「相変わらず仕事が早い、要領の良い子だ。偉いぞ、ヘンゼル」ハハハ

ヘンゼル「だってパパがいつも言ってるからね、真面目に努力をしていれば神様は必ず見てくださってるって。正しい行いをしていればきっと幸せな未来を約束して下さるって」ニコッ

父親「ああ、そうだとも。どんなに貧しくとも正しい行いをしていれば神様はきっとよくしてくださる。さぁ、仕事はひとやすみして昼ご飯にしよう。ほら、これはヘンゼルの分だ。一人でお食べ」スッ

ヘンゼル「うん、ありがとう。でも、お昼にパン一個食べても良いなんて、ちょっと贅沢だね」フフッ

父親「きこりは力仕事だから多少はな。しかし、パン一個が贅沢……か。まぁ確かにそうか、普段は一日に一切れ二切れのパンを食べられればいい方だからな……」

ヘンゼル「うん、家で仕事をしているグレーテルは今日もスープ一杯しか食べてないよ、きっと。」

父親「そうだろうな…」

ヘンゼル「だからこのパンは食べずに持って帰るよ、グレーテルに食べさせてあげたいから。でも母さんには内緒だよ?怒られちゃうからね」ニコッ

父親「お前も腹を空かせているだろうにグレーテルの為に……お前はとても優しい立派なお兄ちゃんだな」ナデナデ

ヘンゼル「あはは、やめてよ子供じゃないんだから。僕は平気だよ、だからパパも気にせずに自分のパンを食べたら良いよ」

父親「……ああ、そうだな。でも実はな、パパの分のパンはもう食べてしまったんだ」ハハハ

356 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/05 22:50:18 l4v 186/405

ヘンゼル「お昼までにパンを食べちゃうなんてパパは食いしん坊だね」クスクス

父親「そうだな、おっとこの事母さんには内緒だぞ?叱られるからな」アハハ

ヘンゼル「わかった、大丈夫だよ。じゃあ今日は二人で小川の水を飲んでそれを昼食にしよう、僕が汲んでくるよ」

父親「それじゃあ頼もう、川に落ちないように気をつけるんだよ」

スタスタ

ヘンゼル(……僕は知ってる)

ヘンゼル(今朝、出がけにパパが母さんから貰ったパンは一個だけ。本当は二人で一個、僕の分け前は半分だけのはず)

ヘンゼル(それなのに自分はもう食べたなんて言って、自分の分まで僕にくれたんだ)ザブザブ

ヘンゼル(本当は…パパにもパンを食べて欲しいけど、こうやって森に手伝いに来れない女の子のグレーテルは丸ごと一個のパンにありつける機会なんて無い)ザブザブ

ヘンゼル(……だからこのパンはグレーテルに食べさせてあげよう。グレーテルは僕の大切な妹なんだから)

ヘンゼル(…大丈夫。パパはいつだって僕達に優しいし真面目にお仕事をしている、その姿を神様は必ず見てくださってる)

ヘンゼル(パパも僕もグレーテルもどんなに貧しくても正しい行いをして生きてる、だから神様はきっといつか僕達を幸せにしてくださるんだ)

ヘンゼル「さてと、これだけ汲めば…お腹が空いてるのをごまかせるくらいには飲めるかな?よし、パパの所に戻ろう」

スタスタ

357 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/05 22:52:41 l4v 187/405

ヘンゼル「パパ、水汲んで来たよ」スッ

きこりのおっさん「……やぁ、久しぶりだねヘンゼル君」

ヘンゼル「あ、はい…お久しぶりです…」

ヘンゼル(よくパパと一緒に居るきこり仲間のオジサンだ。いつもはちょっとアレなくらい元気な人なのに今日は静かだ、どうかしたんだろう?)

父親「ああ、ありがとうヘンゼル。すまないがパパはおじさんと話がある、お前は向こうで水飲んでなさい」

ヘンゼル「…うん、わかったよ」スタスタ

ヘンゼル「……」チラッ



父親「亡くなった娘さん、確かうちのグレーテルと同い年だったな……」

きこりのおっさん「……そうだ、でもうちの娘はグレーテルちゃんみたいに女の子らしくなくてな……どちらかっていうと活発すぎるくらいで……いっつも外で喧嘩して帰って来てなぁ……」

父親「……そう言ってたな」

きこりのおっさん「前はもっとおしとやかに…なんて思ったもんだが、病気になっちまってからは人が変わったように口数もへっちまって、いつも虚ろな目をしていてな……」

父親「……」

きこりのおっさん「うちみたいな貧乏な家じゃ医者もまともに呼んでやれねぇ、薬も買えねぇ、出来る事と言ったら栄養のあるもんを食わせてやるくらいだったけど……それすらもしてやれなかった」

父親「こればっかりは仕方無い……この国は未曾有の大飢饉だ。穀物も野菜も酷い不作…栄養のある物どころか、粗末な穀物粉ですら俺たち貧乏人には貴重なんだ」

358 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/05 22:54:35 l4v 188/405

きこりのおっさん「俺は不甲斐ない父親だ、病気を患っていて腹を空かしてる娘に…肉の一切れも、甘い果物の一つも食わしてやれなかった…!」

父親「肉も果物も…今はとんでもない贅沢品だ。お前は悪くないよ…」

きこりのおっさん「この大飢饉で食い物に困ってるのはうちだけじゃない。言っちゃ悪いがヘンゼル君だって、前に会った時より随分と痩せているだろ?」

父親「うちは二人も子供が居るからな、正直なところかなり厳しい。子供達にも相当我慢させてしまってるからな…」

きこりのおっさん「大人も子供も…食うものが無くて辛い思いをしてるんだ。なんだって神は俺達にこんな仕打ちをするんだ…!」バンッ

父親「憤りはわかるが…仕方のないことだ、そんな事を言っても……」

きこりのおっさん「俺は、飢饉が憎い!子供らに満足に飯を食わせてやれないこの状況が…憎い!飢饉でさえ無けりゃ、うちの娘は死なずに済んだかもしれないんだぞ!?」

父親「……」

きこりのおっさん「いや……うちの娘はまだ幸せな方かもしれないな、ベッドの中で死ねたんだから。聞いた話だとこの森にも随分口減らしの為に人が訪れてるって聞くからな…」

父親「……よせ、そんなものただの噂だ。食べ物に困って老人や子供を山奥や森の奥に置き去りにするなんて……まともな奴のする事じゃあない」

きこりのおっさん「状況がまともじゃないんだ…誰もそいつらを責められねぇよ。ただ、お前は…ヘンゼル君やグレーテルちゃんを大切にしてやりなよ、俺みたいに娘が死んでから後悔しても遅いんだ」

父親「……ああ」




ヘンゼル「……」ゴクッ

359 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/05 22:56:04 l4v 189/405

ヘンゼルとグレーテルの世界 兄妹の家


父親「ただいま。おーい、今帰ったよ」

継母「あぁ、お疲れ様…どうだい、高値で売れそうな質の良い木材は取れただろうね?」

父親「ああ、ヘンゼルがしっかりと手伝ってくれたから仕事がはかどったよ」

継母「へぇ、そうかい、夕飯の支度をしてあるから…さっさと片付けてキッチンへ来なさいね」フイッ

父親「じゃあ僕は荷車を片しておくから、ヘンゼルは先にキッチンへ行っておきなさい」

ヘンゼル「わかった、悪いけれど荷車の片づけはパパにお願いするね」

トテトテトテ

グレーテル「お兄ちゃん!おかえりなさい!それとおつかれさま!」ニコニコ ギューッ

ヘンゼル「ああ、ただいま。良い子にしてたかい、グレーテル」ナデナデ

グレーテル「うん、良い子にしてたんだよ!お裁縫のお仕事も頑張ってやったし、お洗濯もお掃除もちゃんと手伝ったの」ニコニコ

ヘンゼル「そうか、うん…母さんには嫌な事言われなかったかい?」

グレーテル「もぉー、お兄ちゃんは心配性だね。今日はあんまり言われなかったの、だから平気だよ!心配しなくてもいいの」ニコニコ

ヘンゼル(今日はって…じゃあいつもは?なんて、聞けない)

グレーテル「お兄ちゃんもたくさん頑張ってると思って、私も今日はいーっぱい頑張ったよ!だからお腹すいちゃった」ニコニコ

ヘンゼル「……そうか、偉いね。じゃあキッチンへ行こう。パパもすぐに戻ってくるだろうから、待たせたら悪いからね」

・・・

360 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/05 22:58:52 l4v 190/405


夕飯後 ヘンゼルとグレーテルの部屋

グレーテル「ふんふんふーん~♪」ゴソゴソ

グゥー

ヘンゼル(夕ご飯を食べたばかりなのにお腹が空いたな。やっぱり昼ご飯に水だけというのは無茶だったかな…)

グレーテル「お兄ちゃん?どうかしたの?どこか痛いの?」オロオロ

ヘンゼル「平気だよ、何でもないから気にしなくて明日の支度を続けると良いよ」ナデナデ

グレーテル「そうなの?でも、なんだかお兄ちゃんボーっとしてたよ?」

ヘンゼル「それは、あれさ、えーっと…そうだ、なんだかグレーテルが少し嬉しそうだったから何かなって思ってね」

グレーテル「えへへ、つい鼻歌歌っちゃった。今日の夕飯、お豆のスープだったから嬉しかったんだ。ごちそうだよ」ニコニコ

ヘンゼル(今日の夕飯は一切れの薄いパンと、痩せた豆が一粒二粒入ったお湯のようなスープだった。)

ヘンゼル(こんな質素な食事でも…グレーテルには好物の豆が入っているだけでごちそうなんだ、それがたった萎びた小さな豆二粒でも)

ヘンゼル「グレーテルは豆が好物だったもんね、具の入ったスープなんて久しぶりだったからね」

グレーテル「うん!いつか…一度だけで良いから、スプーンですくいきれないくらいいっぱいお豆が入ったスープ、食べてみたいな。でも、すごく贅沢かな」ニコッ

ヘンゼル(僕はグレーテルの笑顔が大好きだけど、それを見るのは…とても辛い)

ヘンゼル(グレーテルのその願いは、きっと叶わないんだ。たかが豆をお腹いっぱい食べたいなんていう願いすら叶わない。だから僕は妹に嘘をつかないといけない)

ヘンゼル「そんなことないよ、グレーテルが真面目にキチンと頑張れば神様が助けてくださる、いつかきっとお腹いっぱいに豆のスープが食べられるよ」ニコッ

361 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/05 23:00:58 l4v 191/405

グーッ

グレーテル「えへへ、食べ物の話してたらなんだかお腹すいちゃったね。ごはん食べたばっかりなのに、変なの」クスクス

ヘンゼル「そうだ、豆のスープは無いけど…とっておきのお土産があるんだ、グレーテルびっくりしちゃうよ、きっと」ゴソゴソ

グレーテル「お土産!なにかなぁ…今日はお兄ちゃん森に行ったからもしかして綺麗なお花とか?」ワクワク

ヘンゼル「どんなにきれいでも花は食べられないだろう?だからもっと素敵なものだよ、ほら!切ってないまるごとのパンだよ」スッ

グレーテル「……」グシグシ

ヘンゼル「グレーテル?目なんか擦ってどうしたんだい?」

グレーテル「うん、ホントに…本物だね。切ってないパンなんて凄く久しぶりに見たから、もしかしたら幻かもって思っちゃった」エヘヘ

ヘンゼル「あはは、幻って…そんなわけないよ、ちょっと硬いけれど…全部グレーテルのだから、全部食べて良いんだよ」

グレーテル「でも、もしかしてこれって…お兄ちゃんのお昼ご飯のはずだったんじゃないのかな?それを私の為に我慢したの?」

ヘンゼル「違うよ、僕のお昼ご飯は…ほら、パンが二つあったんだ。だから一個はグレーテルの分、兄妹なんだからはんぶんこするのはあたりまえだよ」ニコッ

グレーテル「そっか…だったら、このパンは私が好きなだけ食べても良い?」ニコニコ

ヘンゼル「グレーテルのものなんだから、遠慮せずに全部食べたら良いんだよ」

グレーテル「そっかぁ…私が好きにしていいんだったら、はんぶんこにするからお兄ちゃん半分食べてくれる?」ニコニコ

362 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/05 23:02:21 l4v 192/405

ヘンゼル「いや、僕はお昼に食べたからいいよ。それよりもグレーテルが…」

グレーテル「私はお兄ちゃんと一緒にパンが食べたいの、一人で食べてもおいしくないよ。二人で仲良く食べたほうがずっと美味しいよ」ニコニコ

ヘンゼル「…そういう事なら、半分貰おうかな」ソッ

グレーテル「はい、どうぞ。えへへ、それじゃあいただきまーす」モサモサ

ヘンゼル「うん、いただきます」モサモサ

グレーテル「お兄ちゃんのお土産のパン、おいしいね。きっと夕飯のパンと同じなのにずーっとおいしいよ」ニコニコ

ヘンゼル「グレーテルの言ってた事、本当なんだね。二人で食べた方がおいしいって」

ヘンゼル(これは嘘じゃない。口の中には硬くて、パサパサしたあまりおいしくないパン。だけど、今はなんだかいつもよりもおいしい気がした)

グレーテル「えへへ、だから私が言ったでしょ?二人で食べた方が…ケホケホ」ケホケホ

ヘンゼル「あぁ、パンだけじゃのどを通らないよね、水を汲んできてあげるよ。ちょっと待っていてね、グレーテル」スクッ

グレーテル「うん、ありがとうね。お兄ちゃん」ニコッ

スタスタ

継母「…どうするってんだい!このままじゃ…一家そろって飢え死しちまうよ!」バンッ

父親「もう少し静かにしてくれ、子供たちに聞こえてしまう。二人に心配を掛けたくない」

ヘンゼル(パパと母さん……何の話をしてるんだろう)コソコソッ

363 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/05 23:04:24 l4v 193/405

キッチン

継母「心配かけたくないだって?今更そんな風に父親面してどうすんだい、もう家中をひっくり返したって食べ物はここにあるだけなんだよ!?」

継母「萎びた野菜くずと古い穀物粉、乾燥しちまったパンがいくつかだ。これじゃあ新しいパンも焼けやしない」

父親「わかってる。でも仕方がないだろう、うちだけじゃない…国中が飢饉で大変なんだから…」

継母「そんなこと知ってるさ。でもね、近頃は木材もなかなか売れない。木材を売った金でいくらかの穀物粉を買っても…何日もつのかわかったもんじゃないんだよ!」

父親「そんときは、お前…俺達の分を減らして、ヘンゼルとグレーテルに食わしてやるしか…ないだろう」

継母「そんなことをしたって…三日四日しのげるだけさね。今のうちには二人も子供を養ってる余裕は無いんだよ。こうなりゃあいっそ森の奥に二人を置き去りにしてくればさしあたり二人分の食料が浮くってもんさ」

父親「この状況が辛いのは何もうちだけじゃないんだぞ、なのにお前はよくもまぁそんな事を……」

継母「そうさ、うちだけじゃない。よその家だって食べ物に困って年寄りやら子供を口減らしにしてんだ…なにも子供達を森に置き去りにするのはうちだけじゃないのさ、誰も責めやしない」

父親「それは……そうかもしれんが……しかし、あの二人が可哀そうだ」

継母「例えこのまま四人で暮らしても、近いうちに四人とも飢え死にだ。だとしたら、あの二人を森に置き去りにする方が…お互いに未来があるってもんさ」

父親「森には獣だって出るんだ、僕達はともかくあの二人を森に捨て置いて…子供たちになんの未来があるっていうんだ」

継母「バカだねお前さん。考えてもみなよ、森にはきこりだって狩人だってくるんだ。森の中を子供が歩いていれば不憫に思った優しい人が拾って育ててくれるかもしれないじゃないか」

父親「……」

継母「このままじわじわと死に近づくか、あの二人が幸せになる可能性にかけるか…もうそれしかないんだ、さぁ決めとくれ」

364 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/05 23:07:07 l4v 194/405

父親「…二人を森に置き去りにすれば、優しい人が助けてくれるだろうか……」

継母「きっと助けてくれるさね、あんただって森で見知らぬ子供が歩いていたら助けちまうだろう?」

父親「……そりゃあそうだが」

継母「さぁ、どうするんだい?森に置き捨てるなら早い方がいい、何なら明日にでもね」

父親「……仕方ないことだ」

継母「それじゃあ、いいんだね?」

父親「ああ、明日だ。明日、ヘンゼルとグレーテルを…森に連れていく」



ヘンゼル(……何故、何故そんな結論になってしまうんだい、パパ)

ヘンゼル(優しい人なんか、現れるわけないじゃないか…この国の人はみんな飢饉に苦しんでいるのに、見知らぬ子供を養う余裕なんてどこの家にだってないよ)

ヘンゼル(それともそんなの口実で、本当は僕達の事なんか……いいや、そんな事疑っちゃいけない。自分の子供を必要ないと思う大人なんて、いないもんね)

ヘンゼル(……とにかく、この事はグレーテルには言えない。なんとか、僕が何とかしないと…)

グレーテル「…お兄ちゃん」ギュッ

ヘンゼル「…グレーテル。お前、どこから聞いていたんだ…?」

グレーテル「……私達を置き去りにしたら、優しい人が助けてくれるかなってところから、だよ」ジワッ



グレーテル「ねぇ、お兄ちゃん…私達、本当に捨てられちゃうの…?」ポロポロ

365 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/05 23:09:39 l4v 195/405

ヘンゼルとグレーテルの部屋

グレーテル「ぐすっ…ぐすん……ひっくひっく……」

ヘンゼル「グレーテル…もう泣きやもう、泣いたって。どうにもならない…」

グレーテル「だって、私達…明日には森の奥に捨てられちゃうんでしょ?」

ヘンゼル「……きっとね。一度決まってしまえば、あの母さんの事だ。なんとしても僕達を捨てさせるだろう」

グレーテル「私ね…お家が貧乏でもご飯が少ししか食べられなくっても平気だよ?お兄ちゃんもパパもいるし、ちょっと意地悪だけど母さんもいるもん…」

グレーテル「でも、パパ達は…平気じゃなかったんだね。私は家族の事大好きだけど……パパ達は、私の事なんか好きじゃないんだね」ポロポロ

ヘンゼル「グレーテル、そんな事言っちゃいけない。娘の事が嫌いな父親なんか、いるわけないじゃないか」

グレーテル「でも、パパは決めたよ?私とお兄ちゃんを捨てちゃう事…」

ヘンゼル「パパは…少し間違えた選択をしちゃっただけなんだ。僕達の事を嫌いでこのことを決めた訳じゃないよ」

グレーテル「本当…?私、パパに嫌われてないの…?」

ヘンゼル「ああ、大丈夫。僕だっている。僕は何があってもグレーテルの事を大切に思っているよ。僕はグレーテルのお兄ちゃんなんだから」

366 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/05 23:11:38 l4v 196/405

グレーテル「…うん、私もお兄ちゃんの事。好きよ」ニコッ

ヘンゼル「うん、それに安心しても大丈夫だよグレーテル。僕に考えがある」

ヘンゼル「明日僕等は森に奥に置き去りにされるけど…なんとしても家まで帰ってくるんだ」

グレーテル「でも…お家に帰ってこられても、また捨てられちゃったりしないかな?」

ヘンゼル「大丈夫さ、グレーテルはパパの事好きだろう?」

グレーテル「うん、大好き」コクコク

ヘンゼル「僕だってパパの事が大好きだ。だから僕はもっとパパの事、信じてみようと思う」

ヘンゼル「さっきのは母さんに良いように言いくるめられて、それでつい間違えた選択をしちゃっただけだよ。僕達を捨てた後きっとパパは後悔する」

ヘンゼル「そうに決まってるさ、パパはお腹が空きすぎてちゃんと物事が考えられないだけなんだ。だから後で絶対に悔むよ」

ヘンゼル「だから僕達がなんとか家に帰れば、パパは反省してもう僕達を手放そうなんて思わないよ」

グレーテル「そっか、そうかも…やっぱりお兄ちゃんは賢いね」ニコッ

ヘンゼル「僕達はパパの事が大好きだ、パパだって僕達の事を愛してくれているんだ。少し選択を間違えたくらい、どうってことないんだ」

ヘンゼル「さぁ、グレーテル。明日に備えて今日はもうお休み、後の事は全部お兄ちゃんに任せたら良いんだよ」

グレーテル「うん、ありがとう。お兄ちゃん、おやすみ……あのね、お兄ちゃん…お兄ちゃんは、私の事置いて行ったりしないでね…?」

ヘンゼル「当然だよ、そんな心配しなくても平気だよ。兄妹だろう?」

グレーテル「うん、私、安心した。じゃあね、おやすみ」ニコッ

367 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/05 23:15:53 l4v 197/405


二人の部屋が見える庭

ヘンゼル(そうだ、大丈夫だ…こうやって目印の小石を集めて、明日はこれを落としながら森へ入る。それを目印に帰ればいいんだ)ヒョイヒョイ

ヘンゼル(うん、平気だ。パパは僕達の事を愛してるんだ。今回の事は、ちょっと母さんに言いくるめられただけだ)

ヘンゼル「うん、そうだ。そうに違いないんだ……パパはちょっと間違えただけ、本気で僕達を捨てようなんて思ってない…」

ヘンゼル「そうじゃないと……こんなの、あまりに悲しすぎる……僕はともかく、グレーテルが…なんであんな健気な女の子が、こんな酷い目に会わないといけないんだ……」

チラッ

グレーテル「……すぅすぅ」スヤスヤ

ヘンゼル「…大丈夫だからね、グレーテル。お兄ちゃんが、お前を不幸になんかさせない」

ヘンゼル(……神様)

ヘンゼル(……パパと一緒に居たいと願う事は…僕やグレーテルが望んでるのはそんなに贅沢な事ですか?)

ヘンゼル(昔、町に出かけた時神父さんは仰ってました。生きていると辛いことや苦しい事があるけれどそれは神様が僕達に与えた試練だと)

ヘンゼル(その試練を乗り越えれば…日々真面目に暮らしていれば、きっと神様は僕達を幸せにしてくださると。そう神父さんは仰いました)

ヘンゼル(僕達はどうやら明日、パパ達に森の奥へ捨てられます。それが神父様の仰っていた試練だというのなら…僕は何としても乗り越えます、だから…)

ヘンゼル(神様。僕は幸せにならなくったって構いません、だから妹のグレーテルには…どんな小さな物でも良いです。大きなものは望みません)

ヘンゼル(豪華な家も高級な料理も立派な洋服もいりません、慎ましく暮らせる場所と少しの食べ物…少し贅沢を言えば豆のスープを毎日。そんな些細なもので良いんです、だからどうか…)




ヘンゼル(神様。どうかグレーテルには…幸せを与えてください)

375 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 22:44:09 4CO 198/405

現実世界 廃墟

・・・

ヘンゼル「そして僕とグレーテルは翌日、深い森の奥深くに置き去りにされた」

グレーテル「……小さなパンを渡されて……パパが迎えに来るまで大人しくしてるんだよ……って言われたの……でもね、暗くなっても、パパは来なかったの……」

ヘンゼル「あの時はまだ、もしかしたら思い直すかもしれない…なんて愚かな希望にすがっていたよ。僕もグレーテルもまだ父親なんてものを信じていたからね、その時は」

グレーテル「……うん。でも……思い直してくれなかったの……」

キモオタ「しかし……我輩、解せませんな。先ほどラプンツェル殿におとぎ話を聞いたときにも思ったのでござるが、いくら飢饉とはいえ我が子を捨てるなど…」

ラプンツェル「うん、私もそれは思うよー!森に捨てちゃうなんて酷いなって、それも同じ気持ち!」

キモオタ「そうでござろう?そもそも食料に困っているからと言って口減らしなどという行為が行われていること自体がおかしいのでござるよ。多少我慢してでも家族で暮らせる事を優先するのが本当でござろう?」

ヘンゼル「あんたの立場から見たらそうだろうね。こんな裕福な国で暮らしていたら貧困や飢えなんて現実的じゃないもんね…飢饉の苦しみなんか想像もつかないに決まってる」

グレーテル「うん……キモオタお兄ちゃん……お腹が空いて困るって事……よくわかってないなって……私、思うの……」

キモオタ「いやいや、わかってないとか裕福だとか言う問題では無くてでござるな…貧しい時にどうするかという気持ちの問題でござって…」

孫悟空「だからテメェはその飢えてる奴の気持ちが理解できてねぇんだろ?だから口減らしって行為がおかしいとか言えるんじゃねぇか」

キモオタ「ご、悟空殿まで…我輩だって空腹の辛さくらいわかるでござるよ!だからこうしておかしいと思っているでござろう…!」

376 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 22:46:59 4CO 199/405

ラプンツェル「ねーねー、キモオタ。私、うまくいえないけどさー…私もキモオタも、本当の本当にお腹が空いた事って無いんじゃないかなー?」

ラプンツェル「私はずーっと塔の中で暮らしてたけど食べ物に困った事は一度も無かったよ、でもねー現実世界に来てすっごく驚いちゃったんだ!どこにでも食べ物が売ってるから」

キモオタ「まぁ…コンビニやら屋台やらチェーン店やらでお金さえあればどこでも食べ物にはありつけますからな…」

ラプンツェル「でしょー?アイスクリームとかお菓子とかお腹がすいたらすぐに手に入るでしょ?それって凄いけどさー、だからこそ現実世界のキモオタやママに大切に育ててもらった私にはよくわかってないと思うの、本当にお腹がすくって事ー」

ラプンツェル「ヘンゼル達が経験した事ってさ、私達が考えてるよりずーーっと辛いことだったのかも」

キモオタ「……確かに、そうかもしれませんな。この飽食の時代、普通に生活して居ればこの日本で餓死など考えられませんからな」

ヘンゼル「言われてようやく気が付くんだね。それだけ食べ物があるこの状況が当たり前になってるんでしょ、本来は一日に三回も食事ができるだけでも感謝すべき事なのにね」

グレーテル「この世界のごはん……おいしい。コンビニのお菓子もおいしい……でも、それって私達にとってはすっごく……特別な感じ、全然普通じゃないの……」

孫悟空「俺もこいつら程じゃねぇが、旅の途中にまともに飯にありつけねぇ時期もあったからな。この現実世界には食い物であふれてやがるから、いまひとつ理解しがたいかもしれねぇ。だけどよぉキモオタ」

孫悟空「おとぎ話の世界ってのはこの世界より何百年も昔の世界が舞台になってんだよ。この世界と違って飢饉や飢えや貧困なんてのはかなり現実的だ、へたすりゃこいつらみたいにそれが日常ですらある」

孫悟空「テメェは口減らしなんてのはおかしいって言ったがな…今日の飯にも困ってる奴にとっちゃあ口減らしでもしねぇとどうにもならねぇ。それは現実なんだぜ?」

キモオタ「しかし、食料に困って家族を見捨てる……など、やはり我輩には受け入れられませんぞ…」

孫悟空「誰だって受け入れられねぇに決まってんだろ、だがそうしねぇと一人残らず飢え死にだ。それを防ぐには口減らししかねぇ」

孫悟空「便利なこの世界が悪いとはいわねぇがな。常に飢えと戦い、食いもんがねぇばっかりに死や別れを覚悟しねぇといけねぇ…そういう世界もあるって事だ、こいつらの世界みたいにな」

377 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 22:48:57 4CO 200/405

孫悟空「それにな、キモオタ。こいつらには聞かせられねぇが……森への置き去りならまだ良い方だ」ボソッ

キモオタ「ファッ!?悟空殿は何を…実の父親に森に捨てられたヘンゼル殿とグレーテル殿がまだ良い方ですと!?」ボソッ

孫悟空「口減らしってのはな、ようは養う必要のある奴を減らす行為だ。死なせるつもりで森に置き去りにするのも口減らしだが…」ボソッ

孫悟空「絞殺…首を絞めて殺したり、土に埋めて殺したりな……直接手を下す手段ってのもわりと一般的だ」ボソッ

キモオタ「じ、実の親が飢えを理由に我が子を直接…!」ボソッ

孫悟空「ある程度育ってる子供なら殺さずに養子や身売りに出す親もいる。ヘンゼルみたいに若い男なら肉体労働の為に売られる事もある」ボソッ

キモオタ「……なんという」

孫悟空「だが女はそうもいかねぇ。となると…グレーテルなんかは特に愛嬌がある顔達だ。そういう娘は娼婦として店に売られる、いくらかの金で身体を売る為にな」ボソッ

キモオタ「い、いくら切羽詰まっているとはいえその様な行為が許されるはずがないでござる!」バンッ

孫悟空「落ち着け。テメェの憤りはわかるぜ。だがよぉ…こいつぁある種の親心でもあんだよ、辛かろうが悲しかろうが肉体労働してりゃあ食いぶちは少なからずある、身体を売って金持ちの男に気に居られりゃあ玉の輿。飢え死ぬよりはマシな人生を送れるかもしれねぇってな」ボソッ

キモオタ「そんなものは…詭弁でござる。そんなものは…単なる言い訳でござろう!」ヒソヒソ

孫悟空「そうでも思わねぇと親の方もまともでいられねぇのさ。そういう意味ではこいつ等の親父も時代の被害者ってわけだ」ボソッ

孫悟空「しかしだな、どんな理由があろうとこいつ等にとって自分達が捨てられた事は事実だ。ふてぶてしい態度だがよぉ、実の父親に見放されたヘンゼルは相当な心の傷を負ってやがる……」ボソッ

孫悟空「そうでなけりゃあ…あんな風に大人を憎んだりしねぇからな。俺達に出来るこたぁ、今はとにかくこいつの言葉に耳を傾けてやることだぜ」ボソッ

378 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 22:50:30 4CO 201/405

孫悟空「気は進まないなんざ言っていたがよ、それでもヘンゼルは俺達に…憎い大人に過去を語るって決めたんだ。多少は心を許してくれてんじゃねぇか?」ボソッ

孫悟空「もしもそうだってぇなら、俺らに出来るこたぁあいつの話をしっかり聞いて導いてやることだぜ。まぁ…あいつの様子じゃあ一筋縄じゃあいかねぇだろうがな」

キモオタ「悟空殿、お主…なんというか、その見た目と粗暴な物言いからしてもっと自分主義というかKYというか…まわりに気遣い出来ないタイプだと思っていたのでござるがwww人は見かけによりませんなwww」

孫悟空「あぁ?人は見かけによらねぇって…テメェだって外見はブタだろうが!」バシッ

キモオタ「いやいやwww人間ですぞwww言うほどブタでもないでござろうwww」

孫悟空「猪八戒と瓜二つの時点でブタだろうがテメェは。まぁ、それはいいがよ…俺も昔は自分の力だけ信じてたような口だからなぁ、まぁ見てられねぇよ」

キモオタ「我輩も激しく同意ですなwww」

ヘンゼル「……何をあんた達はぼそぼそ話してるの?」

キモオタ「いやはや、話の腰を折って申し訳ないwww続けてくだされwww」

孫悟空「おう、悪ぃな。続けてくれ」

ヘンゼル「……あいつ等に捨てられた僕とグレーテルは暗くなるのを待った。お月さまが昇って、それから家に帰る事にした」

グレーテル「お兄ちゃんが目印に落とした石……月灯りに照らされて光るの……だから夜になるの待つしかなかったの……」

ラプンツェル「でもさー、目印があったら迷わないから簡単にお家に帰れたんだよねー?よかったよかった」コロコロ

ヘンゼル「簡単に帰れる?そんなわけないでしょ…何の為に僕達を森の奥まで連れて行って捨てたの?確実に捨てる為だよ?」

キモオタ「嫌な言い方でござるが、両親としては簡単に戻られては意味が無いでござるからな…簡単には戻れなくて当然と言えば当然なのでござろうけど…」

ヘンゼル「僕達はあくまで帰り道がわかってるだけ。そこから実際に家に帰るまでは…容易くなんて無かった。そうだよね、グレーテル」

グレーテル「うん……大変だったの。ラプお姉ちゃんは……野犬って……知ってる……?」

379 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 22:52:06 4CO 202/405

ラプンツェル「もちろん知ってるよ!お湯を沸かす道具でしょ?お茶を飲むときとかに火にかけt」

孫悟空「野犬…か、熊や狼と比べりゃあそうでもねぇが…それでも丸腰の子供二人の手に負えるような獣じゃあねぇ。襲われちまったのか?」

グレーテル「ううん……でもね、何匹もの野犬がね……茂みからこっちを見てたよ……ギラギラ光る眼で……」

キモオタ「二人が倒れるのでも待っていたのでござろうか……いやはや、恐ろしいでござるな……」

ヘンゼル「おとぎ話の【ヘンゼルとグレーテル】だと『二人は目印の小石を辿って家までたどり着きました』なんて軽い一言で済ませるだろうけど…」

ヘンゼル「真夜中。人気のまったく無い道、月灯りに照らされた小石だけが頼りだ。少し先の道の様子なんか全く分からない…飲み込まれそうな闇が続いてる」

グレーテル「恐くて……怖くて……でもあたりは全然見えないの……私がここに居るってこともなんだかハッキリとわかんなくなっちゃう気がして……必死に掴んでたお兄ちゃんの手を離しちゃったら……もう、死んじゃうって……思った」

ヘンゼル「僕も必死にグレーテルの手を握ってた。情けない話だけど……グレーテルを護るっていう強い意志が無かったら諦めてたと思う。もし一瞬でも手を離してしまったら僕は正気が保てなかったかもしれない」

グレーテル「何時間も……何時間も……ずっと歩いたの……お兄ちゃんを困らせちゃいけないって……泣かないように頑張って……弱音なんかはかないように飲み込んで……」

ヘンゼル「それでも握ったグレーテルの手はずっと震えていて、僕は不安にさせまいと自分自身の震えを隠すので精いっぱいだったんだ」

ヘンゼル「なにしろおぼろげな月灯りに照らされた道しるべはあまりにも儚くて、目をそらせば見失ってしまいそうだった」

ヘンゼル「それでも僕はそのささやかな希望を見逃すわけにはいかなかった」

ヘンゼル「僕はグレーテルのお兄ちゃんだからだ。何があっても妹を護らなくちゃいけなかった、大好きな妹だから」

380 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 22:53:13 4CO 203/405

グレーテル「ずっとずっと……歩いて歩いて……森から出られて……そこからは街道を歩いて……やっとお家にたどり着いたの……」

ヘンゼル「疲れて疲れて、眠い目をこすりながら…それでもどうにか歩いてすがるように家のドアを叩くと僕等の父親が走って僕らを出迎えた」

グレーテル「ごめんね、ごめんねって……何度も謝りながらね……無事でよかったって……泣きながら私たち二人の事を抱きしめたの……あの時は、嬉しかったの……もう、全部終わったんだって思った」

ヘンゼル「父親は僕等を捨てた事を反省してるように見えた、だから僕もそれを見て安心してしまったんだ」

ヘンゼル「ああ、僕等の父親は自分の過ちに気が付いてくれた。もうこんな事は二度とないんだ、もう間違えた選択をしたりしない。ずっと家族一緒に暮らせる…そう思った」

ラプンツェル「でも、確かその後って…」

キモオタ「……ラプンツェル殿」

ラプンツェル「……でも」

孫悟空「あー……どうなっちまうか解ってると尚更堪えるなこいつぁ……」

グレーテル「そうだよね……みんな、このあとどうなるか……知ってるもんね……」

ヘンゼル「本当に甘かったよ。僕もグレーテルも…しばらくは元の生活が続いたけれど、それはほんの数日で終わったんだ」

ヘンゼル「信じられるかい?あれだけ反省した風に見せて、泣いて…抱きしめて…それなのにその反省は数日持たなかった」




ヘンゼル「僕等が帰ってから数日後、あの二人はまた僕達をもう一度捨てる計画を立てたんだ」

382 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:04:49 4CO 204/405

ヘンゼル「キッチンを覗き見ていた僕達は目を疑ったよ」

ヘンゼル「怒鳴る母親に僕達の父親は何一つ言い返せず…もう一度僕達を森に捨て置く事に納得したんだ」

グレーテル「もう……私はその時は……泣かなかった……泣けなかったの……もう、信じられなくて……涙すら出なかったの……」

ヘンゼル「僕は父親の決断に失望したと思う、ひどく怒っていたと思う、悲しかったと思う、辛かったと思う、言ってやりたい事もたくさんあったと思う。でも……その時の僕の感情はただ一つだった」

ヘンゼル「ああ、もうこの人はダメなんだっていう諦め。この人は頼れない、この人は信じられない…信じちゃあいけない。もう、一言の言葉すら信用しちゃあいけない」

キモオタ(慕っていた父親に失望し…頼る事を諦めてしまうというのは子供にとってどれだけ辛いことなのでござろうか…?)

ヘンゼル「もうこんな男は父親じゃない。こいつじゃあグレーテルを幸せに出来ない。グレーテルを守れるのはもう世界中で僕だけだ、そう思った」

グレーテル「私も……もう、私の家族は……お兄ちゃんだけしかいないんだって……思ったよ……」

ヘンゼル「こいつ等は僕達が邪魔で殺そうとしている、それも二回目だ。だったら…僕達だって黙って殺される必要は無い」

ヘンゼル「僕が二人を殺す。そう誓った、どうせもう赤の他人なんだ…必ず僕は森からもう一度生還して、こいつ等を殺してその家にグレーテルと二人で暮らそうと思った」

グレーテル「それを静かに私に話すお兄ちゃんを見て……私はちょっぴり怖かったけど……でも、反対しなかったの……」

グレーテル「もう……私に優しくしてくれたパパは、大好きなパパは世界中のどこを探しても見つからないって……解ったから……」

グレーテル「私が……一緒に居たいのは……そのときは、もうお兄ちゃん一人だったから……」

383 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:06:24 4CO 205/405

ラプンツェル「パパの事信頼できなくなっちゃうなんて…辛かったよね、悲しかったよね…寂しかったよね…!」ギューッ

グレーテル「ラプお姉ちゃん…?」ムギュー

ヘンゼル「ちょ、やめてよ…なんで抱きついてくるんだ。まだ話の途中なんだけど?」ムギュー

ラプンツェル「私には最初からパパ居ないけど…今まで大好きだった人の事が信じられなくなるなるって、すっごく辛いと思うよ!」ギューッ

ラプンツェル「これからは私も二人のお姉ちゃん!これでもう寂しくないでしょ?ねっ!困った事あったら何でも言ってね!全部ラプお姉ちゃんにまかせてよ!」フンス

グレーテル「……うん、ありがと……ラプお姉ちゃん……でも、私たちもう……寂しくないから平気だよ……?」ギュッ

ヘンゼル「……やめてよ。僕は寂しくなんかない。憐れみなんていらない」

スッ

ヘンゼル「そもそもさ、まかせてって言えるほど、あんたは立派な大人なの?キモオタお兄さんは現実世界の人間って時点で信用できないし…孫悟空とラプンツェルもそうだ」

ヘンゼル「あちこちで好き勝手やった上に待遇が気に食わないからって天界で大暴れして大迷惑かけた猿人を信用しろっていうの?」

孫悟空「テメェ……痛いところを突きやがるじゃねぇか……」

ヘンゼル「それに初対面の男を夜な夜な部屋に連れ込むような女の人、グレーテルに悪い影響与えるとしか思えないけど」

ラプンツェル「えっ?ダメなの?」

キモオタ「言い方に明らかに悪意があるでござるがwwwまぁ、言ってしまえば世間的にはダメでござろうなwww」

384 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:07:54 4CO 206/405

グレーテル「お兄ちゃん……ダメだよ……そんな突き放すような事言うの……」

ヘンゼル「グレーテルこそダメだよ、どういう相手かもよく知らないのに優しくされたくらいで信用したら痛い目にあう。魔女の時だってそうだった事忘れたの?」

グレーテル「……それは、そうだったけど……」

ヘンゼル「僕達は【西遊記】も【ラプンツェル】も良く知ってる。だけど、あんた達がどういう人間なのかまでは知らない…なのに頼れとか信用しろとか簡単に言うでしょ?」

ヘンゼル「出会って数時間の相手を信用しろ?そんなの無理な話だよ。仮に…仮にだよ?あんた達が例外的に良い大人だったとしても、それは今判断できない」

キモオタ「確かに、それは道理かもしれませんな…あのような経験をしてるのならば尚の事でござる」

ヘンゼル「それに何かを企んでる大人はたいてい子供にやさしく接してくる。僕等を騙した魔女がそうだったみたいに」

孫悟空「テメェ等を食う為に菓子で出来た家におびき寄せたんだったか?」

ラプンツェル「お菓子の家かぁ…でも私も憧れちゃうよ、お菓子大好きな人にとっては夢だもん!あ、でも悪い魔女に食べられちゃうのはヤだなー…」

グレーテル「あの魔女ね……ただ私達を食べる為に捕まえたんじゃないの……魔法の力の為……なの」

孫悟空「魔法の力…だと?」

キモオタ「そう言えばwwwヘンゼル殿は魔力を持っているのに森から帰る為に一度も使ってませんなwwwそれが関係するのですかなwww」

ヘンゼル「僕の魔力は生まれ持ってのものじゃないから、まだ持ってなかったんだよ。僕はそこで…お菓子の家で魔力を手に入れたんだ」

孫悟空「ヘンゼルの魔力は相当なもんだ、後天的な要因であそこまでの魔力を手に入れたってのは興味あるぜ」

ヘンゼル「……話の続きをしてあげるよ、僕達が再び捨てられた森の中で…何日も何日も迷った挙句に見つけたお菓子の家での話を」

ヘンゼル「僕はそこで魔力を手に入れ…そして、僕はそこで自分の世界がおとぎ話だったと知る事になったんだ」



ヘンゼル「同時に、作者なんて言う忌むべき存在が現実世界に居る事もね」

・・・

385 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:10:05 4CO 207/405

ヘンゼルとグレーテルの世界 お菓子の家

・・・

人喰いの魔女「フェーッフェッフェッフェ!もう逃がさないよガキ共がぁ!」ガシッ

ヘンゼル「クッ……!離せ!あんた、優しいおばあさんのふりをして僕達を騙したんだな!?」ウググ

人喰いの魔女「そうさ!だが気付くのが遅かったねぇ!わざわざお菓子の家なんていう胸焼けしそうなもんまでこしらえて、あんた達が来るのを心待ちにしていたんだ…感づかれて逃げられたらつまらないからねぇ!」フェッフェッフェ

人喰いの魔女「だがもう捕まえた!逃がしやしないよ…あんたもグレーテルもねぇ!」フェッフェッフェ

ヘンゼル「やっと優しい大人に助けてもらえたと思ったのに…やっと助かったと思ったのに…!本性は悪い魔女だったなんて…!」ギリッ

人喰いの魔女「フェッフェッフェ!魔女なんざ悪者と相場が決まってるのさ、それに話に聞いていた通りヘンゼルには利用価値がありそうだ」フェッフェッフェ

グレーテル「お兄ちゃん!お兄ちゃん!魔女さんやめてっ!お兄ちゃんを離してあげて!」グイグイ

人喰いの魔女「ええい、離さんか小娘!お前には用などないんじゃい!」ゲシッ

グレーテル「げほっ……ハァハァ、お兄ちゃ…」ボタボタ

ヘンゼル「グレーテル!あんた、妹に何をするんだ!このっ…!」ググッ

人喰いの魔女「随分と威勢のいいガキだねぇ…だが少し肉付きが悪いみたいだ、もうちょっと太っていないと食いでが無いからねぇ」グイッ

スタスタスタ

人喰いの魔女「暴れられちゃあ面倒だ。さぁて、この納屋に入っていてもらおうかね」ドサッ

386 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:11:43 4CO 208/405

人喰いの魔女「感謝するんじゃぞ?しばらくお前には大量の食事を与えてやるからのぉ、しっかりと食って肉を付けるんじゃ」フェッフェッフェ

ガチャン

人喰いの魔女「そしてお前が丸々と太ったらワシがお前を食ってやろう、フェッフェッフェ!楽しみじゃわい!」

ヘンゼル「出せ…!出せ!こんなところに閉じ込められたら僕はグレーテルを護れない!グレーテルを…!」

グレーテル「お兄ちゃん!お兄ちゃん…!」

人喰いの魔女「ええい、やかましいガキめ!ワシはビィビィうるさい小娘は大嫌いなんじゃい!」ビュオ バシンバシンッ

グレーテル「痛いっ…!やめて、やめて…!」ジワッ

ヘンゼル「やめろ!痛がってるだろ!妹を傷つけたら僕が許さないからな!」ガシガシ

人喰いの魔女「フェーッフェッフェッフェ!いくら威勢良く吠えたところでお前はもうその特別な納屋からは出られん!もうワシの食糧なんじゃよ」フェッフェッフェ

ヘンゼル「僕があの時お菓子の家を目指そうなんて言わなければ…!」

人喰いの魔女「フェッフェ!悔やんでも遅いわい!じゃがいずれワシの血肉となるお前へのせめてもの弔いとしてグレーテルはワシの屋敷に置いてやろう。このワシの奴隷としてのぉ!」フェッフェッフェ

ヘンゼル「奴隷…僕の可愛い妹を奴隷だって!?グレーテルに酷いことしたら僕がお前を殺すからな…!いつか、絶対に」ギロッ

人喰いの魔女「おお、恐ろしい恐ろしい!だが無理じゃ、お前はこの納屋から逃げられない。時折妹の泣き叫ぶ声が聞こえるかも知れんが……フェッフェッフェ!まぁ安心せぇ!」

人喰いの魔女「さぁ来るんだグレーテル、ワシがお前を立派な奴隷に仕立て上げてやるからねぇ。さぁ、まずは屋敷の掃除からだ、もたもたするんじゃないよグレーテル!」グイグイッ

グレーテル「いや…お兄ちゃん!お兄ちゃん助けて…!私、奴隷なんか嫌だよ…!」グイッ

スタスタスタ

387 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:13:27 4CO 209/405

納屋


ドンッ!バンッ!ガコン!

ヘンゼル「くっ…壊れろ…!壊れろ!」ガンッ!

シーン

ヘンゼル「どうなってるんだ…見た目はただの木製の納屋なのに…どれだけ叩きつけてもびくともしない」ジンジン

ヘンゼル「特別な納屋って言ってたっけ…魔法でもかけてるのかも、僕を逃がさない為に」ギリッ

ヘンゼル「でも…僕は絶対にこんな扉ぶち破ってグレーテルを助けるんだ!あんな狡猾な大人に捕まって、いまだって何をされてるか解らない…!」

ヘンゼル「僕の責任だ…!どんな酷い事をされるだろうか…食事も貰えず家事をさせられるかもしれない、怪しい魔法の実験に利用されるかもしれない、他の悪い大人に売り飛ばされるかも……」

――お兄ちゃん!お兄ちゃん助けて…!

ヘンゼル(何が…お兄ちゃんだ。妹を助けられないどころか危険にさらして…何が、何がお兄ちゃんだよ…!)

バンッ!ゴンッドンッ!

ヘンゼル「クソッ!クソッ!僕がパンクズじゃなくてもっとしっかりした目印を付けていれば…!お菓子の家なんか無視していれば…!きっとこんな目には会わなかったのに!」

ヘンゼル「僕が…もっと警戒していればグレーテルは不幸にならなくて済んだんだ!僕があんな魔女を信用したから…!大人は信用できないって解っていたのに、優しい言葉に騙されてしまったから…!」

ヘンゼル「全部大人が悪いんだ…!あいつらは困ったら子供を捨てて、都合の良いように利用して…助けてなんかくれない、味方になんかなっちゃくれない…!」



ヘンゼル「もう二度と大人なんか信じない…!グレーテルの幸せの為にも…僕はもう大人なんて…信用しない!!」バンバンッ

388 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:15:17 4CO 210/405

その日、夜遅く
人喰いの魔女の家

グレーテル「あ、あの…魔女さん、お掃除終わりました。それと、キッチンのお片づけも」

人喰いの魔女「ああ、そうかい。じゃあ今日はもう仕事は無いよ、ったくお前がとろいからこんな時間になっちまったじゃないか。明日はニワトリが鳴くより早く起きて朝食の支度からじゃぞ?」

グレーテル「はい…わかりました。それと、私…どこで寝たらいい、ですか?それと、ご飯…欲しい、です」

人喰いの魔女「ああ、そういやあ朝から何も食べてなかったっけねぇ…だが役立たずの奴隷にやる食事なんか無いからね。これでもかじっておればいいじゃろ」スッ

カランッ

グレーテル「ザリガニ…の殻」

人喰いの魔女「なんだい?文句があるなら食わなきゃいい、この屋敷にある食料はワシとあのヘンゼルを太らせる為のもんだ。お前にはそれで充分じゃ」

グレーテル「…はい」

人喰いの魔女「それとお前には寝床なんざないからね、書庫の隅にでも転がってねていりゃあいいさね」フェッフェッフェ

グレーテル「…わかりました」

人喰いの魔女「さぁて、ワシはワインでも一杯ひっかけてから寝ようかね…」フェッフェッフェ

バタン



グレーテル「泣いちゃ……ダメ、お兄ちゃんはもっと辛いんだ…だから、泣いちゃダメ……」ポロポロ

389 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:16:44 4CO 211/405

書庫

グレーテル「魔女さんはここで寝なさいって言ってたけど、ベッドもソファもない…」グスングスン

グレーテル「でも、凄い数の本…もしかして、全部魔法の本かな?」

ズラーッ

グレーテル「これが全部魔法の本なら…もしかしたら、この部屋のどこかにお兄ちゃんを助けられる魔法とか書いてあるかも。私でも使えるような魔法とか…ないかな」スッ

グレーテル「うん…お兄ちゃんも大変なんだ、助けを待ってるだけじゃダメ…私も少しずつ魔法の本読んで…勉強しよう。妹だもんね」

グレーテル「ザリガニの殻も…頑張って食べなきゃ、残したら何も貰えなくなっちゃうかもしれないから」

モグモグ

グレーテル「うっ、ぺっぺっ……これ食べられるものの味じゃない…でも、頑張らなきゃ。我慢して食べなきゃ……死んじゃったら何にもならないから……」

モグモグ

グレーテル「……うぇっ」ゲホゲホ 

グレーテル「残しちゃダメ……もどしちゃダメ……なんでも食べないと生き延びれない……私が死んじゃったらお兄ちゃん助けられない……」

グレーテル「でも……お水欲しい。魔女さんに見つからないように…お水貰おう。でも確か井戸は枯れてるって言ってたから…キッチンの裏に回らなきゃ」

スタスタ

390 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:21:47 4CO 212/405

キッチン

グレーテル(キッチンでは魔女さんがお酒飲んでるんだっけ…見つからないようにそっと……)コソコソ



人喰いの魔女「フェーッフェッフェ!まぁさかこんなところであんな特異体質の子供を見つけられるなんて本当にラッキーじゃわい」グビグビ

人喰いの魔女「この森に放たれたワシの使い魔…野犬共が言っていた通りじゃったな。それにしてもうまくあの二人を騙せて良かった良かった」フェッフェッフェ

グレーテル(とくいたいしつ?お兄ちゃんの事かな……?)コソコソ

人喰いの魔女「認めたくないがワシもすっかり衰えた。目も大分霞んで調合やら細かい作業には難儀していたが…これからは役立たずのグレーテルに細かい作業を全部させりゃあいいからのぉ!」フェッフェ

グレーテル(……)

人喰いの魔女「じゃがあんな奴隷なんぞよりもヘンゼルじゃ」グビグビ

人喰いの魔女「太らせる為と偽ってあいつに魔力を帯びた食材で作らせた料理を毎日食べさせ…体内に魔力を蓄積させる」ホロヨイ

人喰いの魔女「すると不思議な事に、あいつの体内でその魔力は何倍にも膨れ上がる。ヘンゼルは生まれついて魔力を持っていないが…あの特異体質は魔力との相性が凄まじく優れている」

人喰いの魔女「取り込んだ魔力を自分のものにし、それを際限なく増強させることができる。何億の人間が居たとてそんな特異体質一人いるかいないかじゃからな、本当に運が良かった」

人喰いの魔女「そうして魔力を高めさせ…十分に魔力が蓄積したら膨大な魔力ごとあいつを食べちまう、そうすりゃあその膨大な魔力はワシのもんさね!」

人喰いの魔女「フェッフェッフェ!笑いが止まらんのぉ!フェッフェッフェ!」

グレーテル(そういうことなんだ…だったら多分、しばらくはお兄ちゃんは食べられない。なんとか助ける方法考えなきゃ)コソコソ

391 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:22:59 4CO 213/405

それから一カ月 納屋

・・・

ヘンゼル「……」

ヘンゼル「……僕達の父親だった男は、本当にうそつきだ」

ヘンゼル「良い行いは神様が見てるなんて言っていたけど……神様なんて、この世界のどこにもいない」

ヘンゼル「……あれからもう一カ月。誰も助けに来ない……毎日納屋を壊そうとするけど……壊れない……逃げられない……」

ヘンゼル「たまに、屋敷の方から怒鳴り声が聞こえる……あの魔女の声……怒鳴り声が向けられているのはきっと……」

ヘンゼル「……」

ヘンゼル「……グレーテル。何も出来ない、ダメなお兄ちゃんで……ごめん」ポロポロ

チチチ チュンチュン

ヘンゼル「……小鳥。ああ、あの時僕が目印にしたパンクズを小鳥が食べさえしなければ…僕達は助かっていたかもしれないのに……小鳥さえいなければ、僕達は幸せになれたのに……」

チュンチュン

小鳥「心外、心外。それじゃまるで、私達が悪者みたいだ」パタパタ

ヘンゼル「っ!?……なんだ、この小鳥」スッ

小鳥「聞き捨てならない、聞き捨てならない。私は役目をキチンとこなしただけ、それを悪く言われるのは許せない」

392 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:24:16 4CO 214/405

ヘンゼル「役目…?いや、何を言ってるんだあんた…もしかして、あんたが僕が目印にしたパンクズを食べたのか…!」キッ

小鳥「何その目、何その目!そうだよ、私がパンクズを食べた。でもなんで私が睨まれるの!」

ヘンゼル「僕の計画に穴があったのは認める、でもあんたが余計な事しなけりゃあ僕達はこんな目にあわなかったんだ!」

小鳥「納得いかない、納得いかない!なんで私がこんな風に怒鳴られなきゃなんないの!」

ヘンゼル「そりゃあ怒りたくもなるよ、あんたのせいで僕達は魔女に捕まったんだぞ」

小鳥「筋違い、筋違い!私を恨むのは筋違い、だってそういう役割だ。君の撒いたパンクズを食べて帰り道をわからなくするのが私の役目、私に与えられた役」

ヘンゼル「役割?筋違い?あんたまさかあの魔女の仲間…?」

小鳥「違うよ、違うよ。ああ、でも察したよ。君は知らない、何も知らない。この世界がおとぎ話の世界だってこと、全然知らない」

ヘンゼル「……おとぎ話の、世界?あんたは何を言ってるの?」

小鳥「作り物だよ、作り物だよ。君が過ごしてるこの世界は普通の世界なんかじゃあない、現実世界で作られたおとぎ話の世界だよ」

ヘンゼル「だから…その意味がわからない。現実世界?なんなのそれ。おとぎ話の世界?この世界が、おとぎ話だって言うの?」

小鳥「そうだよ、そうだよ。おとぎ話だよ。君と妹が主人公の【ヘンゼルとグレーテル】というおとぎ話さ」

ヘンゼル「なんなのそれ……僕達の住んでいる世界はおとぎ話で……僕等はその主人公?」



ヘンゼル「【ヘンゼルとグレーテル】……?いや、そんなの信じられないよ」

393 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:26:28 4CO 215/405

小鳥「真実、真実。信じられなくてもこれが真実。この世界は現実世界に存在するおとぎ話そのもの、だからこの世界は作られた世界。私はその登場人物。君はその主人公の一人」

ヘンゼル「……」ジッ

小鳥「信じてない、信じてない。その目は信じてない!私は嘘なんか言ってないのに!」

ヘンゼル「そんな突拍子もない事信じられないよ、どうせ僕を騙すつもりだろう」

小鳥「ホントに心外、ホントに心外!だったらこれからどうなるか、教えてあげたら信じる?」

ヘンゼル「僕達がこのあとどうなるか…知ってるの?」

小鳥「もちろん、もちろん。知ってるよ、君は助かるよヘンゼル。ちょうど今日、もう少ししたら君は助かる」

ヘンゼル「……本当かい?ここまでそんな気配無かったのに」

小鳥「本当、本当。私は今さっきここに来た、でも……今朝方、君の太り具合を魔女が見に来たはず。そして君はそれを軽くあしらった、きっと魔女はいつもよりイライラして屋敷に帰った」

ヘンゼル「ああ、その通りだけど…見てたの?」

小鳥「見てない、見てない。見てないけど、このおとぎ話はそういう展開。展開通りにお話が進むのがおとぎ話、だから私はどうなるか知ってる。魔女は怒って君を食べようとしてる」

ヘンゼル「…じゃあ聞かせて、僕とグレーテルはどうなる?誰が助けに来てくれるのか、あんたは知ってるの?」

小鳥「もちろん、もちろん。知ってるよ、もうすぐここには彼女が来る、君の可愛い妹が君を助けにやってくる」



小鳥「絶対、絶対。君の為に走って助けにやってくる、魔女を殺してやってくる。グレーテルがやってくる」

394 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:38:50 4CO 216/405

ヘンゼル「…なんだよそれ、やっぱり嘘じゃないか」

小鳥「なんなの、なんなの!なんで信じてくれないの、そういうの凄く心外!」

ヘンゼル「グレーテルがあの魔女を殺すって?いいや、そんな事は出来ない。あの子は優しい子なんだ」

小鳥「そうは言っても、そうは言っても…そういうおとぎ話だ、仕方ない。それにグレーテルは君の為にたくさん努力して我慢した」

小鳥「耐えてた、耐えてた。私は見た。毎日ザリガニの殻とお水だけ、硬い床に転がって少しだけ眠ってあとはずっと働きづめ」

小鳥「つぶやいてた、つぶやいてた。お兄ちゃんも頑張ってるって、呟いてた…毎日隠れて本を読んで、君を助ける方法を探してた」

小鳥「魔女は酷い、魔女は酷い。叩かれてあざになってるとこもあった。食事が貰えない日もあった、そんな時は腐った生ゴミを漁ってでも必死に生きようとしてた……全部は君の為」

ヘンゼル「……」

小鳥「信じてくれる?信じてくれる?」

ヘンゼル「仮に、グレーテルが本当に魔女を殺して僕を助けに来るとして…その悲惨な奴隷生活が全部本当だとしよう。…それじゃあ聞くけど、この世界はおとぎ話なんだよね」

小鳥「そうだよ、そうだよ。現実世界で作られたおとぎ話の世界だよ」

ヘンゼル「ってことは作り話だ…その現実世界ってところの誰かが作った、作り物のお話って事だ。ということはつまり…作者が居る、そうだね?」

小鳥「うん、うん。そうだよその通り、現実世界に住む作者がこのおとぎ話を作ったんだよ」

ヘンゼル「その作者が…このおとぎ話を作った。僕とグレーテルが親に捨てられ、魔女に騙されて、奴隷にされ、監禁される……こんな悲惨な物語を……!」



ヘンゼル「僕達の悲惨な人生を歩ませた……!自分勝手に無責任に…!僕達の苦しみなんかお構いなしに…僕達が不幸になる物語を作ったんだ!」

395 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:41:02 4CO 217/405


小鳥「あれ、あれ……ヘンゼル?そういう考えになっちゃうの…?それはダメ、そんな風に思っちゃダメ」

小鳥「これはおとぎ話、おとぎ話。私たちは役者。作者が作ったおとぎ話を滞りなく進める為に与えられた役割をそれぞれがこなすんだよ」

小鳥「そうだよ、そうだよ。だから私はパンクズを食べた、君の両親は君達を捨てた、魔女は君を捕えた。全部作者の筋書き通り、それに逆らうような真似は…」

ヘンゼル「逆らうよ、僕は。なんで見ず知らずの現実世界の奴の為に、僕やグレーテルがこんな酷い目にあうのか解らない」

小鳥「おかしい、おかしい!主人公の君がそんな考えに至るなんて…もしかして異変?私、言っちゃいけない事言っちゃった?ねぇねぇ、とにかく筋書き通りにしよ」

ヘンゼル「聞かせて、その作者は僕達にどんな結末を用意したのか」

小鳥「…宝石、宝石。魔女を倒した君達は魔女の持つ宝石を奪って家に帰る。家には父親だけ居て、継母はもう死んでる。幸せに暮らせる」

ヘンゼル「……なにそれ。宝石やるから悲惨な人生でも耐えろって事?そして今更あの父親と暮らせ?大人ってのはどこの世界でも卑劣で自分勝手なんだね」

小鳥「い、いいじゃない、いいじゃない!ハッピーエンドだ!だから逆らったりしちゃあダメ。この世界が無くなっちゃう!」

ヘンゼル「そっか、理解したよ。筋書き通りに行かなくなると、この世界…おとぎ話は消えるんだね。だったらもう意地でもそんなハッピーエンドもどきの結末には辿りつかない。こんな世界消えてしまえばいい」

小鳥「ああ、ああ……ダメだよ!ダメダメ!私達はおとぎ話の住人なんだからちゃんとおとぎ話の展開に沿って……」

ヘンゼル「おとぎ話の世界だろうが関係ない……僕の人生は僕のものだ、他人に指図なんかさせない」



ヘンゼル「僕の結末は、僕自身が決める。見知らぬ他人の為に、決められた未来なんか選択しない」

396 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:42:14 4CO 218/405

バタバタバタ

グレーテル「……お兄ちゃん。助けに……来たの……待ってて……すぐに、開けるの……」ギィギィ 

ヘンゼル「その声…グレーテル!本当に助けに来てくれたんだね……!」

バタンッ

グレーテル「……お兄ちゃん、私……頑張ったよ……頑張って……あの魔女、殺したの……」

グレーテル「お兄ちゃんと……一緒に居たかったから……あの魔女、殺したの」

ヘンゼル「……ああ、よくやった。僕の為にやってくれたんだよね…ありがとうね、ありがとう。グレーテル」ギュッ

グレーテル「……うん、お兄ちゃんの妹だから……そう思って、頑張ったの……」ギュッ

ヘンゼル「さぁ、グレーテル。ここから逃げよう、こんな馬鹿げたおとぎ話の世界以外のどこかに」

グレーテル「おとぎ……話?なんの……こと?」

ヘンゼル「小鳥、僕達は作者なんかの思い通りには動かない。でもそうなると世界は消える、何か方法は無いの?」

小鳥「もうだめ、もうだめ……きっと君は説得できない。私は悪くない!うっかり話した私は悪くない!だから私は逃げる…!」

ヘンゼル「待ってよ、逃げ道があるんだね。その場所はどこだい?」

小鳥「知ってる、知ってる。私は別のおとぎ話に続く門を知ってる、魔女の屋敷の枯れ井戸の底。偶然偶然、別の世界につながってる…私はそこから逃げるんだ」

ヘンゼル「枯れ井戸の底だね……いこう、グレーテル。僕達は今度こそ誰かに利用される人生から逃れられる」

397 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:44:02 4CO 219/405

魔女の屋敷 枯れ井戸

ヘンゼル「小鳥が一目散に飛び込んで…帰ってこない。この枯れ井戸が別の世界につながっているというのは信用してもよさそうだ」

グレーテル「……おとぎ話の世界……私達が主人公のおとぎ話……まだちょっと信じ切れてないけど……お兄ちゃんが言うなら間違いないよね……」

ヘンゼル「うん、僕も半信半疑だったけど…もう信じないわけ無いはいかない」

グレーテル「でも……お兄ちゃんの話だと……私達がここから別のおとぎ話に行っちゃうと、この世界は消えちゃうね……」

ヘンゼル「構わないよ。おとぎ話っていうからにはその作者は誰かに聞かせる為に話を作った…僕達を作った」

ヘンゼル「だったら面白い話を書こうとするはずだ。できるだけ不幸な兄妹がとにかく悲惨な目にあって…申し訳程度の幸せを手に入れる。そんな話をね」

ヘンゼル「作者は僕達を利用して話を盛り上げたんだ。面白い話なら有名になれる、だから僕達はその作者の勝手な欲望の為に不幸な人生を歩まされた」

グレーテル「それって……酷いね……」

ヘンゼル「そうだよ。でも、もう僕達はそれに気が付いた。見知らぬ現実世界の奴に付き合ってやる必要は無いよ」

ヘンゼル「だから僕はこのおとぎ話を捨てて、お前を幸せにする。別のおとぎ話の世界で」

グレーテル「……今度こそ……幸せになれるかな?私と、お兄ちゃん」

ヘンゼル「ああ、きっと……いや、絶対僕がそうして見せる」

グレーテル「うん……私はお兄ちゃんの言う事だったら信じられるよ……だから、行こう」

ヘンゼル「ああ。これで僕等は誰にも縛られない…おとぎ話の展開にも結末にも縛られない……自由に生きる事が許されるんだ。じゃあ行こう、勇気を出して枯れ井戸に飛び込むんだ」

グレーテル「……うんっ」スッ


ピョン

398 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/09 23:46:44 4CO 220/405

別のおとぎ話の世界 氷と雪に彩られた銀世界

・・・

ビュオオオォォォォォ

ヘンゼル「なんだこの世界…!どこを見渡しても氷と雪…一体どこのおとぎ話だ…?」

グレーテル「お兄ちゃん……私ね……寒いよ……」ブルブル

ヘンゼル「こんな極寒の地…いつまでもこんな恰好のままいたら…!」

グレーテル「……お兄ちゃん」ギュッ

ヘンゼル「どうしてこんなに僕達は酷い目にあうんだ…ようやくあの馬鹿げた世界から逃げ伸びたのに、今度はこんな場所にほおりだされて……!」

グレーテル「……ねぇ、お兄ちゃん……大丈夫……だよね……?今度こそ……なれるよね、幸せに……」

ヘンゼル「ああ、絶対に…僕が絶対にグレーテルを幸せにする。吹きたければ吹雪よ吹けばいい!僕はもうどんな逆境だって越えて見せる、自分とグレーテルだけ信じて……どんな困難だろうが撥ね退けて」

ヘンゼル「今度こそ幸せになってやるんだ…!」



ビュオオオォォォォ

???「……っ」ピクッ

???「膨大な魔力の気配…?それに感じ慣れてない人の気配がする。恐らく、宮殿裏の大地だな」

スッ

???「ああ、ちょうどこの部屋から見えるな。何故、あんな場所に別世界のおとぎ話の住人がいるんだろうな…しかし、あのような格好で野外に居ては長く持たないだろう」フム

???「……どうやら可愛い少年と少女のようだ、それならひとつ挨拶をしなくてはいけないな」フフッ

416 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 22:54:35 L4X 221/405

ビュオオォォォォ


グレーテル「……」ガクガク

ヘンゼル(この世界はなんていうおとぎ話なのか?どれからどうするか?考える事は多いけど……今はとにかくこの吹雪を凌ぐ事を考えよう、じゃないと凍えてしまう)ブルブル

ヘンゼル「……グレーテル、こっちへおいで。僕を風よけにするといい、きっと少しはましだよ」スッ

グレーテル「でも……それじゃあ、お兄ちゃん……寒いでしょ……?」

ヘンゼル「そんな事気にしなくていいんだ、グレーテルはスカートなんだから僕より寒いだろ?」

グレーテル「うん……それだったら……甘えるね……」スッ

ヘンゼル「いいかい、グレーテル。もう少しだけ、もう少しだけ我慢して…吹雪が防げる洞窟か何かを探そう。そこで吹雪が収まるのを待つんだ」

グレーテル「うん……わかった……」ボソッ

ヘンゼル(魔女のもとでの生活はよほど苦しかったんだろう…グレーテルは一か月の間にだいぶ変わってしまったみたいだ)

ヘンゼル(一カ月ぶりにあった妹は一切笑わなくなってしまった。自由に喋る事すら許されなかったのか、言葉を口にするにもゆっくりで詰まりがちだ。以前のような明るさは無く、どことなく影を背負っているように見えた)

ヘンゼル(だからと言ってグレーテルが僕の大切な妹である事は変わりない。だけど一カ月でこんなに変わってしまったのは僕がしっかりと護れなかったから…そのせいだ)

グレーテル「見て……お兄ちゃん、あれ……」クイクイッ

ヘンゼル「…!?」

ドスドス

白熊の群れ「グルルル……」フシューッ

ヘンゼル「あいつら僕達を狙ってる。どうやら運命はよっぽど僕達を不幸にしたいんだ」

417 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 22:56:26 L4X 222/405

ドスドスドス

白熊の群れ「……グルルッ」フシューッ

ヘンゼル(品定めをするように僕達の様子をうかがってる…下手に走り出せば追われる、そうなればどれくらい逃げられるだろう?いいや、数分…食いちぎられるのが遅くなるだけだ)

ヘンゼル「……グレーテル、僕が引きつける。だからその隙にお前は…」

グレーテル「……イヤ。私は……もうお兄ちゃんとずっと一緒に居る……例え……食べられちゃっても……一緒なの……離れ離れは嫌だよ……」ギュッ

ヘンゼル「……グレーテル」ギュッ

ヘンゼル(死んでしまう事よりも、兄と離れ離れになる事が辛いなんて。どれだけ辛い経験をすれば…そんなに考えにたどり着けるだろう)

白熊「グルルルッ……グォッ!」バッ

ヘンゼル(こんなに慕われている僕は幸せ者だ。だけど…それでも僕はグレーテルと一緒に居ることよりも、お前が幸せになる事の方が大切なんだ)

白熊「ベアアアアァァァァッ!!」ブンッ

ヘンゼル(だから、こんなところで…こいつらの餌になるなんて結末はあり得ない。グレーテルの結末はハッピーエンドしかあり得ないんだ)

ゴゴゴゴゴ

ヘンゼル「ケダモノめ、僕の大切な妹に近寄るな!」ヒュッ

418 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 22:59:26 L4X 223/405

ゴゴゴゴゴ

グレーテル「お兄ちゃん…?」

ヘンゼル(なんだ…身体の底から何か力がみなぎってくる…あの熊を倒そうと思った途端だ。手のひらに何かのエネルギーが集まるのがわかる…なんなんだこの力…こんな得体のしれない力に頼ってもいいのだろうか…?)

白熊「グルル……ベアアァァァ!!」ビュオッ

ヘンゼル「…っ!どうなっても知ったもんか!この力でグレーテルが助かるなら…その正体なんてなんだっていい!」

ドゴシャアアアアァァ!

白熊「ベ、ベアッ」ドサァ

ヘンゼル「っ…ぐあぁぁ……っ!」ベキベキバキ

グレーテル「お兄ちゃん…!右腕……酷い傷……!」オロオロ

ヘンゼル「……平気だよ。それに一匹倒せただけだ、まだ…敵は残ってる」ゼェゼェ

ヘンゼル(あの熊の攻撃は喰らってない、それなのに右腕がピクリとも動かない。まさか力の反動なんだろうか…?)

白熊の群れ「……グルルルッ」ザワザワ

ヘンゼル(今ので白熊達は警戒してるけど、じきに襲ってくるだろう。熊を一撃で沈めるこの力…きっと左腕でも同じ事が出来るだろうけど、反動を考えると軽々しく使えない。まだ白熊は数匹残ってるんだ)

ヘンゼル「左腕一本犠牲にしてでも残りの白熊を一掃する方法……何かないのか……」ボソッ

グレーテル「お兄ちゃん……私、やってみる……練習だとうまくいかなかったけど……」

ヘンゼル「無茶だよグレーテル。お前が何をするつもりか知らないけど、そんな危険な真似させるわけには…」

グレーテル「お兄ちゃんだって危ない事した……だから私も……頑張る……元々、お兄ちゃんの為に頑張って覚えた……魔法だから」

419 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 23:00:39 L4X 224/405

ヘンゼル「魔法…?そうか、あの小鳥が言っていた努力って…」

グレーテル「魔法書……たくさん読んだ……一度も上手くいった事、無いけど……今は一人ぼっちじゃないから、うまくいく気がするの……」

ヘンゼル「やめておこう、グレーテル。魔法なんて誰にでも使えるようなものじゃない。きっと無意味だよ」

グレーテル「うまくいかなくても……お兄ちゃんだけ辛い思いさせるの……イヤ。だから……頑張る……。うまくいくように……手、握ってて……いい……?」

ギュッ

ヘンゼル「…一度だけだよ。それで無理なら僕がもう一度不意を突いて、その隙に逃げる。いいね…?」

グレーテル「わかった……頑張る……」

スッ

白熊の群れ「グルルッ……ベアアアァァァァ!!」ババッ

グレーテル「……真夏のお日様……真冬のストーブ……真夜中のランプ」

グレーテル「……熱い熱いかまどの炎、私とお兄ちゃんをいじめる熊さん達を……焼きつくして……!」スッ

ポワッ…メラメラメラメラァ!!

白熊の群れ「ベ、ベアアアァァァ!?」ボボゥ

グオオォォォッ

420 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 23:01:57 L4X 225/405


ヘンゼル「…っ!火の気の無い場所から無数の火柱が!魔法書読んだと言っても、独学でこんな強力な魔法を…!すごいじゃないか、グレーテr」

ドサッ

ヘンゼル「グレーテル!ど、どうしたんだ?まさか、お前の魔法にも僕の力みたいに反動が…」

グレーテル「……ううん、そんなの書いてなかったよ……でも、なんだか……気持ち悪い……頭がね、ボーってするの……」ゼェゼェ

ヘンゼル「グレーテル!もしかして寒さに耐えきれなくなったのか!?とにかくすぐに町を探さないと手遅れになる…!」

ザザッ

ラスト白熊「ベアアァァァ!」バッ

ヘンゼル「…っ!まだ一匹残っていたなんて!……こんな近くじゃ避けられない!切り裂かれる…!」クッ

ラスト白熊「グルルッ…ベアアア!!」ブンッ




雪の女王「困ったものだな、この地で私に無断で狩りを行うとは。それもこんなに可愛らしい少年と少女を相手に…」

パキパキパキッ……ペキペキッ……!!

ラスト白熊「」カチンコチーン

雪の女王「私の領域で狼藉を働いた罰だ。しばらく剥製気分を味わっているといい」スッ

421 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 23:06:11 L4X 226/405


ヘンゼル「白熊が一瞬で氷漬けに…!」

雪の女王「心配する必要は無いさ、死なない程度の氷結にとどめてある。それよりも危険なのはキミ達の方だ。この地を散策するにはあまりに軽装過ぎる」

ヘンゼル「……」ジリッ

雪の女王「どうかしたか?これ以上吹雪にさらされるのはキミもそこの女の子も危険だ。私の宮殿がすぐそこだ、そこで身体を温めるといい」

ヘンゼル「今の…魔法だよね?ということはあんたも魔女なの…?」

雪の女王「何を気にしているんだ?そこの女の子は随分と苦しそうだ、あまり長くは持ちそうにない今は宮殿へ運ぶ事が先決だ」

ヘンゼル「はぐらかさないでよ。あんたが魔女だというなら僕達はその宮殿には向かわない。魔女は信用できない」

雪の女王「フフッ、信用できないとは随分だな。何か魔女に嫌な思い出でもあったのか?だが…察しの通りだ、私は雪の女王。この地を統べる魔女だ」

ヘンゼル「やっぱり魔女なんだね…それなら信用なんかできない。僕達の事はほっておいてくれ」

雪の女王「そうはいかないな。キミもだが…この女の子もこのままだと一時間と持たない」

スッ

ヘンゼル「魔女め…!妹に触れるなっ!」ゴゴゴゴゴ

雪の女王「へぇ、やはり随分と膨大な魔力を持っているんだなキミは。だが、まだまだ制御不足だ。大方その潰れた右腕も自分自身の魔力に喰われたんだろう」

パキパキパキッ…!

ヘンゼル「クッ…!動けない!僕に何をしたんだ!」グッグッ

雪の女王「氷でキミの足を大地に縫い付けただけさ。この女の子の応急処置が終わるまで、そこで待っているといい」スッ

422 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 23:09:20 L4X 227/405


雪の女王「お嬢ちゃん。君の名前を教えてくれるかな?」

グレーテル「私は……グレーテル……お姉さんは……誰なの……?」ゼェゼェ

雪の女王「私は雪の女王だ。今から君を苦しめている冷気を取り払う、少しだけ我慢できるな?」スッ

グレーテル「私を……助けてくれるの……?冷気を取り払うって……なにしたらいいの……?」

雪の女王「少し口づけをするだけだ。君は力を抜いて楽にしているといい」スッ

チュッ

グレーテル「んっ……」スゥゥゥッ

ヘンゼル(あいつは魔女。油断しちゃいけない。だけど僕達だけじゃどうにも出来ない事も事実だ…ここは言われるままにするしかない…)

雪の女王「グレーテル。どうだ?まだ寒さを感じるか?」

グレーテル「ううん……寒いのは感じない……でも、まだ頭がぼーっとする……」

雪の女王「そうか、冷気吸収はうまくいった。しかしそれは詳しく調べて見る必要がありそうだ。まずは宮殿へ急ごう。次は君だ」

ヘンゼル「やめてよ、僕は寒さなんか平気だ。それよりも見ず知らずのあんたにキスされる方が苦痛だよ」

雪の女王「フフッ、年頃の少年には刺激が強い処置かもしれないな。安心するといい、これは愛情表現というより医療的処置に近い。君の身体からしばらく『寒さ』を吸い取るだけだ」スッ

ヘンゼル「…そうやって僕達を助けるふりをして利用するつもりなんでしょ?僕達はもう魔女なんか信じない、あんたの思い通りには…ならない」

雪の女王「フフッ、頑なだな。だが私を追い返しても二人がここで死ぬだけだぞ?キミもそのことには気が付いているんじゃないか?信用できようと出来まいと、生きるには私を頼るしかない」フフッ

ヘンゼル「……っ」ギリッ

雪の女王「そう警戒するな。魔女もキミが思うほど悪い輩ばかりではないさ」フフッ

423 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 23:11:36 L4X 228/405

しばらく後
雪の女王の世界 雪の女王の宮殿 客室




グレーテル「とっても……大きな宮殿だね……雪の女王さま……優しそうだったね……」

ヘンゼル「グレーテル、駄目だよ…まだ信用できるかどうか分からない。相手は魔女なんだ、油断なんかしたら何されるか解らない」

グレーテル「でも……あの恐い魔女とは……違う感じ。女王さまは……私達を心配して助けてくれた……そう思うの……」

ヘンゼル「助けてもらった事は事実だけど、でもあのお菓子の家の魔女だって僕達を助けるふりして酷い事をした。そう簡単に信用できないよ」

雪の女王「へぇ、お菓子の家の魔女ってのはどんな奴なのか聞かせてもらおうか?」クスッ

ヘンゼル「……っ!あんたいつの間に…!」ザッ

雪の女王「フフッ、待たせてしまったなヘンゼルにグレーテル。しかし、いくらなんでも警戒し過ぎじゃあないか?随分と飛びのいたぞ、今」フフッ

ヘンゼル「助けてくれた事には礼を言うよ。だけど、僕はまだあんたを信用したわけじゃ無い」

雪の女王「そうか、でもそろそろ温まって心も落ち着いただろう?警戒したままでも構わないから少し私と話をしようか。【ヘンゼルとグレーテル】の主人公達が何故ここに居るのか聞いておきたい」フフッ

ヘンゼル「……わかった。その代わり、僕達にもいくつか教えて欲しい事がある。別の世界へ来たのはこれが初めてで、勝手がわからないから」

雪の女王「ああ、構わない。私に答えられる事なら何でも聞いてくれ。グレーテルも何か聞きたい事があれば聞いてくれて構わないぞ?」フフッ

グレーテル「えっと……じゃあ……女王さまは魔女って言ってたけど……悪い魔女じゃないよね……良い魔女だよね……?」

雪の女王「フフッ、それはなんとも言えないな。良い魔女とも言えるし、悪い魔女とも言える」

グレーテル「えっと……どっち……なのかな……?」

雪の女王「少なくとも今の君とっては良い魔女だ。二人を助けた事に打算や企みは無いと誓おう。単なる親切心…善意での行動だ。あのままじゃ死んでいたからな、そんな子供をほおっておけない」フフッ

424 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 23:16:29 L4X 229/405

ヘンゼル「魔女は悪人だって相場が決まってる。あのお菓子の家の魔女もそんな風に言っていたけど…そこだけは僕も同感だ。良い魔女なんて信じられない」

雪の女王「それは随分と見識が狭いな。そもそも善悪なんて時代や境遇や立場でころころと変わってしまうというのに」フフッ

ヘンゼル「…僕は、あんたが僕達を利用する為に助けたんじゃないかと疑ってる。例えば僕が持っているらしい魔力とかグレーテルの魔法とかを奪う為に」

雪の女王「キミの魔力やグレーテルの魔法を私が欲しがっている?フフッ、笑わせるのはよしてくれヘンゼル」クスクス

ヘンゼル「可笑しい事ないでしょ、お菓子の家の魔女は僕の特殊な体質に目をつけて魔力を奪う為に僕を捕らえたんだ。グレーテルからさっきそう聞いた」

雪の女王「キミ達のおとぎ話の魔女は『人喰いの魔女』だったな、彼女ならば確かにヘンゼルの魔力を欲しがるだろう」

ヘンゼル「自分は違うって言いたいんだね。魔女なら誰だって魔力を手に入れたいものなんじゃないの?」

雪の女王「そうでもないさ、こう言うと嫌らしい感じになってしまうが『人喰いの魔女』は魔女の中でも魔力の弱い魔女だ。実際、彼女が強力な魔法を使うところを見たのか?」

グレーテル「見てない……お菓子の家を魔法で作って……それ以外は魔法らしい魔法……使ってなかった……」

雪の女王「だからこそ魔力を底上げしようとしたんだろう。でも私は違う、自画自賛になってしまうが私の魔力は相当高いからな。今更キミの魔力なんかいらないのさ、例え膨大でもね」フフッ

ヘンゼル「…その高い魔力を持つあんたが単なる親切心で僕達を助けたっていうの?なんのメリットがあって?」

雪の女王「キミはメリットが無ければ行動を起こさないのか?キミは何か勘違いしているが魔女だって普通の人間と同じだ。善意もあれば善意もある。初めてあった魔女に騙されてしまったから魔女全体を憎むというのは悲しい事だと思わないかヘンゼル?」

雪の女王「魔女にだっていろんな輩が居るさ、善人も悪人もいる。貧しい娘を舞踏会へ導く魔女もいる。努力を怠らない者には富を与える一方で傲慢で驕る者にはタールを浴びせる魔女だっている。出会ったばかりの娘を薪に変えて暖炉にくべる魔女だっている…いろいろな魔女が居るんだ」

雪の女王「キミ達は一カ月も人喰いの魔女に良いように利用されて辛い思いをしただろう。だがそんな魔女ばかりではないという事だけは覚えておくといい、キミに協力的な魔女も多いだろう。私もその一人だ」

425 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 23:18:55 L4X 230/405

ヘンゼル「……理解はできるけど、納得はできない。全てが悪人で無いとしても魔女という存在は僕の妹からたくさんのものを奪った。それは許しちゃならない事だ」

雪の女王「キミはグレーテルが随分と大切なんだな?」

ヘンゼル「当り前でしょ。兄妹なんだから、妹が大切じゃない兄なんていないよ」

雪の女王「そうか、ならばもっと柔軟に生きてみたらどうだ?魔女だから信じないなんてのはやめて、相手を一人の人間として見極めるべきだ、そして信用に値するかどうか決めればいい」

雪の女王「いいか、ヘンゼル。確かに君達はたくさん辛い思いをした。しかし両親への復讐心、魔女に対する怒り…それらはキミ達が未来を歩んでいく上で必ず足枷になる」

雪の女王「容易いことではないとは思うが、それらの負の感情はどこかで置いて行かないといけないものだ。今は無理だとしても、長い未来への旅路の途中……どこかで、な」

ヘンゼル「……」

グレーテル「ねぇ、お兄ちゃん……女王さまの事……信じてみよう?……私は、女王様……嫌いじゃないよ?」ヒソヒソ

ヘンゼル「……」

雪の女王「フフッ、すまない。思わず説教じみた事を言ってしまったな。さぁ、今度は私の質問だ。何故キミ達二人がこの世界に来たのか…もとのおとぎ話をどうしたのかも聞いておきたい」

ヘンゼル「わかった……話すよ。僕達が捨てられた事、魔女に捕えられている間の事、それとおとぎ話の世界の住人だってことと……作者の事も、全部」

雪の女王「作者の存在を知っているんだな。その様子だと恐らく君は自分の作者を恨んでいるんだろう」

ヘンゼル「そうだよ、当然恨んでいるよ。僕やグレーテルを酷い目にあわせた張本人だからね」

雪の女王「…まぁ、ひとまずはキミの話を聞かせてもらおう。何をするにしても話はそれからだ」

・・・

426 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 23:25:36 L4X 231/405

・・・

雪の女王「そうか、キミ達兄妹の身に何が起きたのかは概ね理解出来たよ」

ヘンゼル「全ては、あんたに今話した通りだ」

ヘンゼル「僕達は両親や魔女に良いように利用された。辛い思いもした。でもそれは全て現実世界の作者が仕組んだ事だった」

ヘンゼル「現実世界のおとぎ話が面白くなるように盛り上がるように、僕達を不幸にした。それが許せなくて、僕達は反発する事に決めた」

ヘンゼル「だから【ヘンゼルとグレーテル】のおとぎ話は僕達が消滅させた」

グレーテル「……私とお兄ちゃんはもう戻るところは無いの……だから別のおとぎ話の世界で……幸せになるの……」

ヘンゼル「そうだ、僕達は必ず幸せな結末をつかむ。僕達の人生はおとぎ話じゃないんだ、僕達の結末を決めるのは作者じゃない、僕達自身だ」

雪の女王「そうか…自らのおとぎ話を消してしまったか…」

グレーテル「女王さま……なんだか悲しそう……私たちやっちゃいけない事……したかな……?」ヒソヒソ

ヘンゼル「おとぎ話を消した事が正しいかどうかを決めるのは僕達だ、あいつじゃない。それにこんな立派な宮殿に住んでるあいつには僕達の気持ちなんか理解できないよ」

雪の女王「フフッ、聞こえているぞ?それに私にだってヘンゼルの気持ちはよくわかるさ」

ヘンゼル「そんなわけないでしょ?世界を消してでも不幸な人生を取っ払おうなんて考え、あんたに理解出来っこないよ。女王様のあんたに、子供の気持ちなんか解らない」

雪の女王「そうか?実は私も、ずっと昔にあるおとぎ話の主人公の境遇が納得できなくてね…ある貧しい少女のおとぎ話だったんだが」

ヘンゼル「…それで?あんたはどうしたの?僕達みたいにそのおとぎ話を消してやったわけじゃないでしょ?」

雪の女王「もちろん消してなんかいないさ。ただ……」

雪の女王「そのおとぎ話の作者に直接文句を言ってやったよ」フフッ

427 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 23:33:18 L4X 232/405

ヘンゼル「はぁっ…?作者に…直接、文句を言ったの?わざわざ現実世界にまで赴いて?自分のおとぎ話でもないのに!?」

グレーテル「なんだか……すごいお話だね……」

雪の女王「ああ、現実世界の時間の流れだとこの【雪の女王】のおとぎ話が作られ…この世界が構築されて数年たったくらいだったかな?まだ作者が生きていたころだ」

雪の女王「とはいっても現実世界に行ったのはただの興味本位だったんだがな。ただそこで、ある男が書きあげたばかりのおとぎ話の原稿を見つけてね」

ヘンゼル「あんたはそれを読んで…納得がいかなかったってこと?」

雪の女王「当時はな。とてつもなく悲惨で救いの無い話だと思った。現実世界の人間は生み出されたおとぎ話がある程度の知名度を得ればおとぎ話の世界が生まれる事を知らない」

雪の女王「だからこいつらこんな悲惨な物語が作れるんだ…と、私は柄にもなく頭に来てしまってな。初対面のアナスンの頬を打ってやったよ」ハハハッ

グレーテル「アナスン…?作者さんの名前……?」

雪の女王「アナスンは愛称だ。名はハンス・クリスチャン・アンデルセン。この世界【雪の女王】の作者であり、私が当時納得がいかなかった悲惨な少女の物語…【マッチ売りの少女】の作者だ」

ヘンゼル「【マッチ売りの少女】…?そんなに悲惨なおとぎ話なの?」

雪の女王「靴も買えない、食事もろくに摂れない、貧しい娘が父親の虐待に耐え、寒空の中裸足でマッチを売るが誰も買ってくれず……結局は幸せな幻に包まれて凍死する。そんなおとぎ話だ」

グレーテル「……私たちみたいに……一応でも……幸せな結末……用意されてないの……?」

ヘンゼル「やっぱり現実世界の作者はどいつもこいつもクズばかりなんだね。可哀そうな女の子が可哀そうなまま死ぬ、そんな悲惨な世界を生み出した。知らないなんて言葉じゃ済まされないよ」

雪の女王「ところがそうでもない。アナスンはマッチ売りの事を誰よりも愛し、そしてその幸せを願っていた。だからこそあの結末を迎えさせたんだ」

雪の女王「彼のおとぎ話への思いを聞いた私は…納得した。この作者は、決して少女を苦しめる為に物語を作り出したのではないと理解出来たからね」

428 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 23:35:03 L4X 233/405

ヘンゼル「……理解できないよ。空腹は辛いことだ、父親に裏切られるのだってそうだ、その作者が何を言おうとその子はその子にとっての現実で不幸なまま死んだんだ」

グレーテル「私も……よくわかんない……やっぱり悲しい結末じゃ幸せにはなれない……」

雪の女王「物語の悲惨さをそのまま受けとる、今のキミ達はそれでいい。素直に物事を感じ取ることもそれはそれで大切だ」

雪の女王「だが、いずれは…キミ達にもう一度話そう。私が納得した理由を、アナスンが何を思って物語を紡いだか。キミ達がもう少し精神的に大人になったらな」フフッ

ヘンゼル「なにそれ、まるでこれからもずっとあんたと居る事が決まってるみたいな言い方だけど?」

雪の女王「そうはいっても他に行くあてもないのだろ?この宮殿は広い、キミ達二人を迎え入れるくらいの事は容易いさ」

ヘンゼル「僕とグレーテルに……ここで暮らせっていうの?」

雪の女王「そうだな、強制はしたくないが…その方が良い。キミの魔力も、グレーテルの魔法も野放しにはできないからな」ボソッ

グレーテル「女王さま……一緒に暮らすって事は……私と女王さま……家族……?」

雪の女王「ああ、そうなるな。フフッ、グレーテルは私と家族になりたいか?」ナデナデ

グレーテル「……私、魔女って怖くてイジワルで嫌い……だけど女王さまは……悪い魔女に見えない……私、信じても良いかなって……思うの」スッ

ヘンゼル「……」

雪の女王「グレーテルは問題ないみたいだな、それで?キミはどうするヘンゼル」

ヘンゼル「あんたは魔女だ……僕は、やっぱりあんたを信用しきることは出来ない」

429 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 23:37:32 L4X 234/405

ヘンゼル「でも、まったく信用できないかっていうと……今ではそうでもない。少なくとも僕達に危害を加えるつもりが無いのは事実なんだろうと思う」

ヘンゼル「あんたの言うとおり僕達は行くあてもないし、きっと僕がどれだけ強がっても子供二人で暮らしていけるほど現実は甘くないんだろう。それにグレーテルがあんたにやたら懐いてる」

グレーテル「うん……女王さま……本当はすごく優しいの……なんとなくわかるよ……」スリッ

雪の女王「フフッ、嬉しい事を言ってくれるじゃないか」ナデナデ

ヘンゼル「だから…僕もグレーテルもしばらくの間はあんたの所に厄介にならせてもらう。ただ条件を一つつけさせて欲しい」

雪の女王「へぇ、条件?どんな条件を突きつけられるのかな?」フフッ

ヘンゼル「僕とグレーテルがあんたの事を信用できなくなったらすぐに出ていく、その際一切引きとめたり手を出さないと約束して欲しい」

ヘンゼル「その代わり僕の事が気にいらなくなったら雪原に容赦なく捨ててもらって構わない、でもグレーテルにだけは辛い思いをさせないでやって欲しい」

グレーテル「お兄ちゃん……あのね……私……」ボソボソ

雪の女王「ああ、わかったよヘンゼル。でもそう言う事ならこっちからも条件を出す」

雪の女王「一緒に住む以上は家族だ、私の事はあんたじゃなく女王と呼ぶ事。それとカイというキミより少し年上の少年が居るが宮殿の中では三人仲良くする事」

雪の女王「なるべく夕飯はみんなで食べる事。それと、私たちは主従なんかじゃないし同居人でもお客さんでもない。あくまで家族だ、それを忘れない事」

ヘンゼル「わかった、僕の条件を飲んでくれるなら従うよ」

グレーテル「うん……約束……」

雪の女王「それとここからは特に重要な話だが……これから言う事を二人には守ってもらう」

雪の女王「キミ達が持つ魔法の力についてだ」

430 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 23:40:37 L4X 235/405

雪の女王「具体的には『ヘンゼルの魔力』と『グレーテルの魔法』だな」

ヘンゼル「僕の持つ魔力とグレーテルの魔法…それがどうかしたの?」

雪の女王「結論というか最初に要点を言うとだな、キミ達が魔力や魔法を扱う事は非常に危険だ」

グレーテル「でも……さっき、ちゃんと熊さん追い払えたよ……?」

雪の女王「その代償としてヘンゼルは右腕を大怪我してグレーテルは倒れた。グレーテルがあの時倒れたのは寒さが原因じゃない」

雪の女王「どう話せば子供にもわかり易いだろうな……そもそもだな魔女や魔法使いと言うのは基本的に魔力を持っているものだ」

雪の女王「ただ魔力と言うのは簡単にいえばエネルギーの塊、それだけじゃ炎を出したり凍らせたりは出来ない。そのエネルギーを変換して炎や氷を打ちだす事が魔法だな。しかし、どんなに魔力を持っていても魔法を扱うセンスが無ければ魔法は使えない」

雪の女王「ヘンゼルの身体にはこの『魔力』が異常なほど渦巻いている。ただ、魔法を扱うセンスは皆無。こればかりは修行や鍛錬でもある程度までしか上げられない、おそらくどれだけ鍛錬してもまともな魔法すら使えない」

ヘンゼル「だったらさっき僕が熊を追い払うのに使ったのは何なの?」

雪の女王「あれは魔力を圧縮した言わばただのエネルギーだな。魔力であって魔法じゃない。強い力を持つがただそれだけだ。それにそれを操作するセンスも無いから負担が大きい」

雪の女王「一方のグレーテルは魔法を使うセンスがずば抜けて高い。それにあの魔法、言葉を連想させて術を出すタイプだな?」

グレーテル「うん……炎を出したいときは……炎みたいに熱いものの名前を連ねていくの……覚えやすいから……その魔法にしたの……」

雪の女王「その魔法の形式は初心者向けのようなものでな、確かに覚えやすくセンスさえあれば習得もしやすいが…複雑な事は出来ないし威力も劣る、言わば入門用だ」

雪の女王「だがグレーテルが出した炎は同じ魔法の一般的な威力をはるかに超えていた。正直、あの形式の魔法であの威力は私も出せない」

雪の女王「グレーテルは魔法のセンスだけで言えばその辺りの魔女をはるかに凌駕する」

431 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 23:42:27 L4X 236/405

ヘンゼル「すごいじゃないか、グレーテル。努力が報われたね」ナデナデ

グレーテル「……これで、お兄ちゃんの役に立てる……よね……?」

雪の女王「だがそうもいかない。グレーテルの魔法のセンスはずば抜けているが、本人の身体にはいっさいの魔力が流れていない」

ヘンゼル「もしかして…練習だとうまくいかないって言ってたのにあの時うまくいったのは、魔力を持つ僕が側に居たから?」

雪の女王「キミ達はあの時、手を握っていたんじゃないか?それならグレーテルの身体にヘンゼルの魔力が流れて適応したのも納得がいく」

グレーテル「じゃあ……お兄ちゃんと手をつないでる間は……私は魔法が使えるんだね……」

雪の女王「その通りだな。魔力を持つが魔法センスが無いヘンゼルと、魔力は持たないが魔法センスがずば抜けてるグレーテル二人が揃えばそこらの魔女魔法使いなんか敵じゃない」

ヘンゼル「…この力があれば、どんな困難だって乗り越えられる…!」

雪の女王「二人とも喜んでいるところ悪いが、グレーテルが魔法を使う事は禁止だ」

グレーテル「……どうして?」

ヘンゼル「折角才能があるのなら、使っていった方がいいと思うけど?」

雪の女王「あの時グレーテルが倒れた理由は中毒症状によるものだ」

グレーテル「中毒って……?魔法にもそんなのがあるの……?」

雪の女王「魔法と言うのは資質や体質に大きく左右される。グレーテルは魔力を持っていないだけじゃない、生まれつき魔力に弱い体質のようだ。だからグレーテルは耐えられない、自分の体内に一定以上の魔力を流される事に」



雪の女王「もしも許容を越えてグレーテルの体内に魔力が流れるような事があれば、その安全は保障できない」

432 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/13 23:45:05 L4X 237/405

ヘンゼル「……それなら魔法は使えない。いや、使わせられない」

グレーテル「……そっか、なんだか……残念……」

雪の女王「少しなら耐えられるだろうし、訓練で多少は更に耐えられるようになるだろうが…しかし、私の家族である以上はグレーテルの魔法使用は禁止だ」

雪の女王「どうしても魔法を使わなければいけないときは仕方がないが、それでも避けられる限りは避ける事。感情に任せて魔法を行使しない事」

雪の女王「わかったか?ヘンゼル、グレーテル。キミ達が手を繋げばそれこそ何でもできるかもしれないが、その代償はグレーテルが払う事になる。それを忘れないようにな」

ヘンゼル「わかった…使わなければ済む話だもんね、問題は無いよ」

グレーテル「うん……どうしても困った時だけ……約束する……」

雪の女王「よし、理解してくれたようだな。だったら大丈夫だろう。ああ、それと…最後に一つだけ」

ヘンゼル「なに?まだ決まりごとがあるの?多すぎると思うけど」

雪の女王「大切な事さ、いいか?二人とも今日から私の家族だ、だから家族には遠慮しない事」

雪の女王「困った事があれば相談する、一人で考え込まずに頼っても良い。だから自分が一人だなんて思わない事、わかったな?」

グレーテル「うん、わかった……女王さま……よろしくね……」

雪の女王「ああ、よろしく。それでヘンゼルはどうだ?約束できるな?」

ヘンゼル「家族だなんて言ったって血もつながって無いし今日会ったばかりなんだ、そうそう信用は出来ないよ。でもね女王……」



ヘンゼル「そうなれるようには……いつかはそうなれるように努力、してみるのもいいかなって…僕はちょっと、思ってるよ」

445 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/15 23:48:16 CQq 238/405


ヘンゼルとグレーテルが雪の女王の宮殿に住むようになってしばらく後
雪の女王の世界 雪の女王の宮殿 書庫

・・・

カイ「……」ペラッペラッ

トコトコ

グレーテル「カイお兄ちゃん……ちょっと……いい……?」

カイ「グレーテルか。なんだ、言ってみろ」

グレーテル「女王さまが絵本読んでくれるって……好きな絵本とって来て良いよって言ってくれた……だから……【マッチ売りの少女】探してるの……」

カイ「【マッチ売りの少女】か、あれはこの書庫には無いな。いや、あるにはあるけどあれを軽々しく棚から出すのもな……」

グレーテル「……?」

カイ「いや、何でもねぇよ。とにかくこの書庫にはお前に渡せる【マッチ売りの少女】は無い、女王に買って欲しいってねだってみろ」

グレーテル「でも……ここに住ませてもらってるのに……おねだりまでできない……しちゃだめだよ……」

カイ「あいつはお前に家族だって言ったんだろ?だったらそんな事気にしてる方があいつは傷付くぜ。住ませてもらってるなんて家族は言わないからな」

グレーテル「そうなの……?」

カイ「ああ。そうだな…『大好きな女王さまに読んで欲しいから新しい絵本買って』とでも言えば喜んで買ってくれるだろうさ」フフッ

グレーテル「うん……お願いしてみる……ありがとうね、カイお兄ちゃん……」トコトコ

446 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/15 23:50:47 CQq 239/405

カイ「さて、続きを読むとするか」ペラッ

スタスタ

ヘンゼル「カイ。読書の邪魔をして悪いけど、聞きたい事があるんだ」

カイ「…お前等兄妹は俺の読書邪魔しなきゃならない決まりでもあんのかよ…お前の妹なら女王に本を読んで貰うんだとよ、女王の部屋だろうから行ってみろ」

ヘンゼル「いいや、それはグレーテルから聞いた。僕は調べ事があるから断ったよ」

カイ「調べ事?ああ、なんだか知らねぇがその調べ事とやらに使う本がどこにあるか教えろって事か?」

ヘンゼル「そう。僕達の作者……【ヘンゼルとグレーテル】の作者が書いたおとぎ話の本を全て貸して欲しい」

カイ「お前等を書いた作者か。確かこの書庫にもあったと思うけどな…ああっと、なんて名前の作者だったか忘れちまったな」

ヘンゼル「グリム兄弟。ヤーコプ・グリムとヴィルヘルム・グリム。それが僕達を運命に縛り付けた、作者の名前だ。女王に教えてもらった」

カイ「調べるとお前は言ったけどよ……それは何のためにだ?復讐の為に調べるってなら、俺は教えてやれねぇぜ」

ヘンゼル「恨んではいるけど、そんなことの為じゃないさ。僕達の作者は現実世界の時間の流れでは随分と前に死んでしまったと女王は言っていたし、復讐なんかもう叶わない」

ヘンゼル「だけど、僕は知っておきたいし知っておかないといけない。僕達を苦しめた作者が他にどんなおとぎ話を書いたのか」

カイ「……いいぜ。案内してやるよ、着いてきな」

スタスタ

447 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/15 23:52:46 CQq 240/405

ドサッ

カイ「グリム兄弟の書いたおとぎ話はこれで全部だ、用がすんだらそこの棚に戻しておけ」

ヘンゼル「随分とたくさんあるんだね。助かったよ、ありがとう、カイ」

カイ「ああ。あいつも言ってた通りこの書庫は自由に使えば良いけどよ、俺の読書の邪魔をするのは控えろ」

ヘンゼル「うん、悪かった、気をつけるよ」ペラペラッ

カイ「…なぁ、ヘンゼル。俺もあんまり野暮は言いたくないけどよ。過去の事、そんなに気にする事か?」

ヘンゼル「なんなの?突然、そんな事言って」

カイ「作者への復讐は叶わないって言ったけどよ、現実世界の人間に何かしらの報復が出来ないかって考えてるんじゃねぇのか、お前」

ヘンゼル「……」

カイ「お前達は【ヘンゼルとグレーテル】の世界を消滅させた。もう本来の結末に添う必要は無いんだろ?女王に聞いたぜ」

カイ「だったらもういいじゃねぇか。【雪の女王】の筋書きじゃあ俺はいつかはこの宮殿を後にする日が来るけどよ、お前達兄妹はそうじゃねぇんだいつまでも女王と一緒に暮らせる」

カイ「女王もお前とグレーテルが来てから家族が増えたと言って嬉しそうだ。それにお前達だってここでの生活に不満がある訳じゃあないんだろ?今、家族みんなが幸せならそれで十分だろうが」

ヘンゼル「カイ、大丈夫さ。僕は報復なんか考えちゃいない。それに女王には感謝してる、嘘じゃないよ」

カイ「……」

ヘンゼル「作者の書いた本を知っておきたいというのに深い意味なんか無いよ。おとぎ話の住人として純粋に興味があるだけさ」

カイ「そういうことならいいけどよ。ただ、一人で思いつめて無茶な事するんじゃないぞ。お前の妹も女王も俺も、そんな事望んでないからな」

スタスタ

448 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/15 23:55:10 CQq 241/405

ヘンゼル「……」ペラペラ

ヘンゼル(あの日、僕とグレーテルが悪い魔女の屋敷から逃げだして【ヘンゼルとグレーテル】を消滅させてからもう一カ月になるだろうか)

ヘンゼル(雪の女王は僕達に専用の部屋を与えてくれた、温かいベッドもそれぞれの机もある立派な部屋だ)

ヘンゼル(氷の宮殿の中は少し寒いけれど、温かい洋服も準備してくれたしあまりに寒い時は女王はあの時のように冷気を取り払ってくれた。僕はまだあの冷気吸収には慣れないけど)

ヘンゼル(宮殿での食事の準備はカイと僕達でやっている)

ヘンゼル(僕はこういうのは苦手だけど、カイは料理が得意らしい。口は相当悪いけど面倒見はいい奴だ、彼に料理を教わっているグレーテルは心なしか嬉しそうに料理をしている)

ヘンゼル(グレーテルが嬉しいなら僕も嬉しい。女王は僕達が料理をしているところをよく覗きに来るけど、なんだかんだ理由をつけてキッチンには入ってこない。カイが言うには女王は火がかなり苦手らしい、雪の女王と呼ばれるだけあると僕は納得した)

ヘンゼル(もう硬くなったパンを食べる事も、空腹をごまかす為に水をたらふく飲む事必要もなかった)

ヘンゼル(グレーテルは大好きな豆のスープを好きなだけ食べられるようになった。まだ遠慮して、少ししか食べないけど…それでも以前よりはずっと血色も良くなった)

ヘンゼル(女王は僕達によくしてくれてるし、カイはたまに嫌な奴だと思う事もあるけど基本的には悪い奴じゃない、グレーテルにだって意地悪しない)

ヘンゼル(そんな二人にグレーテルも懐いている。喋り方も変わらず以前の様な性格に戻る事もなかったけど、それでも幸せそうだ)

ヘンゼル(カイが言うように、僕もグレーテルもここでの生活には何の不満も無かった)

ヘンゼル(むしろ、僕は今では女王に感謝している。あの日、信用できなくなれば出て行くなんて言ったけれど、そんな心配は必要なかった)

ヘンゼル(女王は僕達の話を聞いてくれる、嬉しい時は一緒に喜んでくれるし、約束を破ったりすればキチンと叱ってくれた。世の中には悪い大人ばかりじゃない、魔女にも善人はいるんだと思った)

449 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/15 23:57:06 CQq 242/405

ヘンゼル(今でも、僕はあの父親だった男も悪い魔女も、作者の連中も許していない)

ヘンゼル(でも復習や報復をしようっていう気持ちは……まったく無いとは言わないけど。少なくとも今は考えていない)

ヘンゼル(憎しみは決して消えないけど、今はそれよりもグレーテルが幸せそうにしている事が僕も幸せでたまらないんだ)

ヘンゼル「……」ペラッ

ガバッ ギュッ

雪の女王「へぇ、グリム童話集か。自分達の作者の作品に興味を持ったのか?」フフッ

ヘンゼル「そうだよ、女王。何か用事?」

雪の女王「いいや、グレーテルに本を読んでやろうと取りに来たらキミの姿が見えたからな。私の事は気にせずにキミは読書を続けてくれ」フフッ

ヘンゼル「そう思うなら抱きつくのをやめて欲しいんだけど。後ろから抱きつかれて読書を続けられるほど僕は器用じゃないから」

雪の女王「そうなのか?カイは私に抱きつかれたままでも嬉しそうに読書を続けているぞ?なぁ、カイ?」

カイ「嬉しくねぇよ馬鹿。誤解を招く言い方はやめろ。それはお前を無視してるだけだ」

雪の女王「フフッ、まぁ良いじゃないか。こういう日常的なスキンシップも愛情表現として必要な事だ、そうだろグレーテル」フフッ

グレーテル「うん……だから女王さまが毎日何度も何度も私にキスするのも……なでなでするのも抱きついてくるのも……おかしい事じゃないよね……」

ヘンゼル「ちょっと待って、毎日そんな事されてるなんて初めて聞いたんだけど、僕」

ヘンゼル(前言撤回、不満はひとつだけある。女王がグレーテルを異常に可愛がっている事。これは流石に可愛がりすぎだ)

450 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/15 23:58:45 CQq 243/405

雪の女王「女の子の家族は初めてだからな、可愛がるのは当然だ。グレーテルは可愛いからな」ナデナデ

カイ「女王、あんたのスキンシップは過剰なんだよ。それより、食料庫の菓子が異様に減っていたんだが知らないか?」

雪の女王「悪いが知らないな。雪の妖精でも迷い込んでくすねて行ったんだろう。私たちは菓子なんか知らない、そうだよなグレーテル?」ナデナデ

グレーテル「うん、私達……食べてないよね……女王さま……」

カイ「…おい、ヘンゼル、お前も知らないのか?」

ヘンゼル「知らないよ、毎食キチンと食べてるのにお菓子まで勝手に食べたりしないよ」

ヘンゼル(今朝、グレーテルがカイには内緒だと言っていたキャンディの事だろうか。女王に貰ったと言っていたけど)

雪の女王「フフッ、犯人捜しをするなんて感心しないな。そんなことで家族の絆が揺らぐなら、女王の権限で今日はお菓子食べ放題にする。それで解決するだろう?」フフッ

グレーテル「お菓子……食べ放題……ビスケットも……?」

雪の女王「ああ、当然だ。さぁ、二人にも食料庫からお菓子を運ぶのを手伝ってもらおう」

カイ「おい、勝手な事を…無くなったらまた買い出しに行かなきゃなんねぇんだぞ?」

雪の女王「たまにはいいじゃないか。ああ、それと先に謝っておこう、昨晩キャンディを持ちだしたのは私だ」クスクス

カイ「そんな事だろうと思った。お前、グレーテルに甘すぎるんだよ、女王のあんたがそんなだからいくら備蓄があってもたりゃしねぇ…いざという時に困るだろ」

雪の女王「お菓子は子供を笑顔にする為の食べ物だ。子供たちが喜ぶなら隠しておくなんて勿体無いじゃないか。さぁヘンゼル、キミも手伝ってくれ」クスクス

ヘンゼル「…女王が決めた事なら従うよ、嬉しそうにしてるグレーテルをガッカリさせたくないしね」フフッ

・・・

451 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/16 00:00:29 aV7 244/405

それから数日後
雪の女王の宮殿 ヘンゼルとグレーテルの部屋


グレーテル「……お兄ちゃん……見て、この絵本……」スッ

ヘンゼル「絵本?ああ、これ僕達が初めてここに来た時に女王が言っていたおとぎ話じゃないか」

グレーテル「うん、そう……【マッチ売りの少女】……女王さまが買ってくれたの……」

ヘンゼル「そうか、よかったじゃないか。ちゃんとお礼は言った?」

グレーテル「うん……ちゃんとお礼できて偉いって……褒めてくれた……ずっと大切にする……」

ヘンゼル(少しだけ、グレーテルは笑ったように見えた。女王に贈り物を貰った事がよほど嬉しいんだろう)

ヘンゼル「ねぇ、グレーテル。この宮殿に住む事になってもう一カ月経つけど……グレーテルは幸せ?」

グレーテル「うん……幸せ……」ギュッ

グレーテル「お兄ちゃんも女王さまもカイお兄ちゃんも一緒……昔は辛いことも……悲しいこともいっぱいあったけど……今は幸せ……お兄ちゃんは……?」

ヘンゼル「お前が幸せなら、僕だって幸せだ。あの時、女王を信じ切れなかったけど…今は信じて良かったと思ってる」

ヘンゼル「いつか、女王にキチンと礼をしないとね。僕達に出来ることで」

グレーテル「女王さまに……お礼……ちょっとまってて、お兄ちゃん……私、女王さまにあげたいもの……あるの……」

ヘンゼル「女王にあげたいもの…?」

452 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/16 00:02:20 aV7 245/405

グレーテル「この本、見て……このあいだね……女王さまに教えてもらったの……」スッ

ヘンゼル「なんの本かと思えば、植物図鑑じゃないか。これがどうかしたの?」

グレーテル「この図鑑のね……えっと、このお花……見て……」ペラペラッ

ヘンゼル「陽の差し込まない場所に芽吹き、冷気を養分として成長する儚い植物、『氷雪花』…?」

グレーテル「この辺りの雪原には……お花全然咲いてない……でも町から普通のお花買ってきても……宮殿じゃすぐに駄目になっちゃって可哀そうだって……女王さま言ってた……」

ヘンゼル「氷で出来たこの宮殿には普通の花は飾れないからこの花を女王にプレゼントしたいってこと?」

グレーテル「うん……この雪原のどこかにもきっと生えてるって……女王さま言ってた……珍しい花だけど……寒ければ寒いところほど芽を出しやすいって……」

ヘンゼル「でも…難しいんじゃないかな?それに女王に言えば自分で見つけて取って来てくれると思うけど」

グレーテル「でもそれじゃ……プレゼントにならない……」

ヘンゼル「それは、そうだけど…」

グレーテル「女王さま……今日はお出かけしてるから夜まで帰ってこないよ……それにいってらっしゃいのキスしたから……寒いのも平気……」

ヘンゼル「させられたって言うのが正しい気もするけど。女王は居ないし、冷気も吸収してもらってるから行くなら今日…ってことか」

グレーテル「今日は吹雪も……おさまってるっていってた……だから、一緒に探しに行こう。女王さまへのプレゼント」

453 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/16 00:03:43 aV7 246/405

雪原

ザッザッザッ

ヘンゼル「グレーテル、寒くない?」

グレーテル「大丈夫……女王さまのキスのおかげ……寒くないよ……」

ヘンゼル「氷雪花の咲いてそうな場所は確か、陽の差し込まない場所で寒いところ…だったね」

グレーテル「宮殿の裏側……崖の底の方なら……きっと咲いてる……暗くて寒いから……」

ヘンゼル「崖の方まで行くのはやめようグレーテル。一応、カイには書き置きしておいたけど…何かあったらどうしようもないよ」

グレーテル「……お兄ちゃんが居るから……平気だよ……?」

ヘンゼル「頼ってくれるのは嬉しいけど、僕には制御できない魔力を打ち出すくらいしか出来ないよ」

グレーテル「でも……私が今、いつもご飯を食べられるのも……絵本を読んで暮らせるのも……女王さまやお兄ちゃんのおかげだよ……?」

ヘンゼル「僕は何も出来てないよ。女王が僕達によくしてくれてる、全部女王のおかげだ」

グレーテル「ううん、お兄ちゃんが……【ヘンゼルとグレーテル】の世界から……逃げようって言ってくれたからだよ……」

グレーテル「お兄ちゃんにも女王さまにも……ありがとうって気持ち伝えたいよ……だから今日は女王さまにありがとうっていうの……だからお花必要……」

ヘンゼル「……わかった、でも十分気をつけて行こう。危ない事に変わりは無いんだから」

454 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/16 00:05:44 aV7 247/405

崖の上

ヘンゼル「いくら寒くて陽が差し込まない場所に咲くとはいっても…下の方は暗いね、まだ昼なのに」

グレーテル「灯り……持ってくればよかったね……」

ヘンゼル「一度戻ってランプを持って来るにしても、崖まで来てる事がカイに知れたら引きとめられるだろうし…」

グレーテル「そうだ……お兄ちゃん。手、つないで……?」スッ

ヘンゼル「それは構わないけど……心細くなったならもう諦めて帰ろうか?」

グレーテル「寂しくないよ……?明るくする方法……思い出したの」

ギュッ

グレーテル「燈した蝋燭……擦られたマッチ……ピカピカ輝くランプ……崖の下、明るく照らして……」

ポウッ

ヘンゼル「駄目じゃないかグレーテル…!女王に言われてただろ、魔法を使うときはどうにもならないときだけだって…!」

グレーテル「どうにもならなかったよ……?このままじゃ……女王さま喜ばせられなかったから……魔法使ったの……大丈夫、ちょびっとだから……倒れたりしないy」

フラッ

グレーテル「あっ……」ズルッ

ヘンゼル「だから言ったじゃないか……僕につかまれ!グレーテルッ!!」グッ

ズルッ

ズサズサズササーッ

455 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/16 00:07:33 aV7 248/405

崖の下

ガサッ!ガサガサ-! 

ドサッ

ヘンゼル「……っ!グレーテル!大丈夫か!グレーテル!」バッ

グレーテル「あっ……お兄ちゃん……大丈夫……だよ、怪我してない……ちょっと擦りむいたくらい……」

ヘンゼル「そうか…よかった!無茶が過ぎるよグレーテル!勝手にあんな風に魔法使って…」

グレーテル「あの……ごめんね……私が、相談せずに勝手に魔法使っちゃったから……お兄ちゃんまで巻き込んじゃった……」

ヘンゼル「…もういいよ、気にしないで。それだけ女王に感謝の気持ちを伝えたかったんでしょ?」

グレーテル「うん……でも、言いつけ破ったのは……ダメだったね……これじゃ心配かけちゃう……」

ヘンゼル「半分は僕のせいだ。グレーテルだけが悪いんじゃないよ…でも洋服はボロボロになっちゃったし隠すのは難しそうだ、素直に謝ろう」

グレーテル「うん……でも……ここ、あの崖の下じゃないよね……?寒くないし、雪も全然積もってないし……お花も植物もたくさん生えてる……」

ヘンゼル「そうだね…鳥も飛んでる、それにこの森の匂い……あの雪原には森なんか無かったもんね」

グレーテル「私達……あの井戸に飛び込んで……女王さまの雪原に出た時みたいに……もしかして……別のおとぎ話に……来たのかな……?」


ヘンゼル「きっとそうだ、どこかはわからないけど少なくともここは僕達が居た【雪の女王】の世界とは別のおとぎ話の世界だ」

456 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/16 00:09:34 aV7 249/405

とあるおとぎ話の世界 森の中


グレーテル「……私が勝手な事しちゃったから……知らない世界に落ちちゃったんだ……」シュン

グレーテル「もう……あの宮殿には戻れないのかな……女王さまやカイお兄ちゃんには……もう会えないのかな……」ポロポロ

ヘンゼル「泣かないで、グレーテル。大丈夫だよ、きっとまた二人に会えるし、宮殿にだって帰れるよ」

グレーテル「本当……?嘘じゃない……?」グスングスン

ヘンゼル「ああ、嘘じゃない。女王なら僕達が勝手に宮殿の外に出て崖から落ちてしまった事くらい予想が付くはずだよ。そこで僕の魔力の気配が無ければ別世界に落ちてしまった事にも気がつけるはずだ」

グレーテル「うん……じゃあ女王さま……助けに来てくれるかな……?」

ヘンゼル「女王は現実世界に行った事があるって話していたし、別の世界に行く魔法が使えるはずだよだから、この世界に来る事だってできるよ。女王は僕の魔力を感知できるしね」

ヘンゼル「それに、女王は僕達の事を家族だって言ってくれた。絶対に助けに来てくれる、女王はあの男や悪い魔女とは違うんだから、信じて待とう」

グレーテル「うん……私たちは二人っきりの家族じゃないもんね……女王さまやカイお兄ちゃんもいるもんね……」

ヘンゼル「そうだよ、心配いらない。でも、女王達に凄く心配をかけちゃうのは間違いないから……叱られるだろうね」

グレーテル「それは……ちょっと怖いの……すっごく叱られるね……氷のおしおきだね」

ヘンゼル「うん、でもいつまでも森の中に居ても危険だから、一度近くの村か何かを探そう」

モクモクモク

ヘンゼル「…あっちの方にいくつか細く煙が上がってる、きっと村か何かがあるんだよ。そこを目指してみよう」

グレーテル「うん……わかった……そこで女王さま……待とうね……」

457 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/16 00:12:56 aV7 250/405

とあるおとぎ話の世界 近くの村

スタスタスタ

「おーい、草刈りおわったべー」
「よーっしゃ、そんじゃあ休憩にするだよ」
「わがった、向こうの連中にも声かけてやるだー」

スタスタ

ヘンゼル「畑仕事してる人、多いね。野菜作ってるのは間違いなく畑だろうけど……あの長い草は何のために植えてるのかな、麦に似てるけど違うみたいだ」

グレーテル「あの長い草も食べるのかな……?なんだか……女王さまの世界とも私たちの初めの世界とも……違う感じだね……」

ヘンゼル「そうだね、服もなんだか僕達のとは全然違うね。それに建物も全然違う形だ」

グレーテル「どこか……私たちの事泊めてくれるお家……探すの……?」

ヘンゼル「出来ればそうしたいけど。そう簡単にはいかないと思うよ、どこか空き家か何かあれば……こっそり軒先を借りれそうなものだけど……」

グレーテル「教会があればいいけど……無さそうだね……」

ザワザワ ザワザワ

「おい、なんだあの子らは…えらい奇抜な着物きとるぞ…見た事の無い童どもじゃ」
「んだんだ、あんな栗色の髪の毛は見た事ねぇだ。それにあの目ん玉みただか?瑠璃色っちゅうか恐ろしい色しとったわい…鬼の子か妖怪の類か…」
「ありゃあ恐らく妖怪の子供らじゃろう。村に災いを招くに違いねぇだ…よし、ワシが確かめてくるわい」

458 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/16 00:14:51 aV7 251/405

スッ

薄毛のおっさん「おぉい、そこの童らぁ……おまえらなにしとる?」

ヘンゼル「……グレーテル、僕の後ろに」ボソッ

グレーテル「うん……わかった……」スッ

ヘンゼル「何かな、僕達に何か用事かな?」

薄毛のおっさん「いんやぁ、この辺りじゃあ見ん顔じゃったからな……何もんじゃろうと思うてな」

ヘンゼル「…こことは違う所から来たただの子供だよ。行くあてが無くて、今晩雨風がしのげるところが無いかと思って探してるだけさ」

薄毛のおっさん「…そうか、しかしただの子供と言うにゃあ…随分と奇抜な着物じゃな?」

ヘンゼル「僕達にとってはあんた達の方がよほど奇抜だよ、そんな服は見た事が無いから」

薄毛のおっさん「それにその栗色の髪の毛もじゃし、瑠璃色の目ん玉……おまえら、本当に人間なんか?」

ヘンゼル「……何、その質問。人間に決まってるでしょ?」

薄毛のおっさん「ワシにはそうは見えんなぁ…童ども、妖怪の類じゃありゃあせんか?」

ヘンゼル「……」

薄毛のおっさん「やっぱりそうじゃな?妖怪の類なんじゃな?この村は小さな村じゃ……それに犀川の神様がじきに荒ぶる頃じゃ、お前等妖怪の童を村にいれるわけにゃあいかん」

グレーテル「さいかわのかみさま……?」

ヘンゼル「行こう、グレーテル。どうやらこの村に僕達の居場所は無いみたいだから」

459 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/16 00:16:58 aV7 252/405

村の若者1「逃がしゃあせんぞ、妖怪の類だとしたら他の村で悪さするに違いない」

村の若者2「そうじゃそうじゃ、この妖怪共を捕まえて懲らしめてやらにゃあならん」

グイッ

グレーテル「きゃっ……!お兄ちゃん……助けて……!」

ヘンゼル「おい!僕の妹から手を離せ!」ギロリ

薄毛のおっさん「見るんじゃこの恐ろしい目つき…!やはり妖怪じゃよ!妖怪のせいじゃよ!」

村の若者1「おい、オラはあの妖怪の小僧を捕まえる 。お前はあの妖怪の娘じゃ」

村の若者2「おおう、人間に迷惑ばかりかける妖怪共じゃ、ように懲らしめてやらんとな」

ヘンゼル「クソッ…!わからず屋の大人ばっかりだ…!見た目が自分達と違うからって妖怪だと決めつけるなんて…!」

薄毛のおっさん「ええい、早く捕まえるんじゃ。そうせんと何をするかわからんからな」

グレーテル「助けて……!お兄ちゃん……!」ジタバタ

ヘンゼル「やめろお前等…!汚い手でグレーテルに触るな!」

ザワザワ

おっさん「おぉい!お前等、何しとるんじゃ子供相手に大人が寄ってたかって!やめんかやめんか!」ズカズカ

460 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/16 00:23:36 aV7 253/405

薄毛のおっさん「おぅ、なんじゃい弥平か。止めんでくれ、こいつらは妖怪なんじゃ。懲らしめとる最中でな」

弥平「妖怪…?この童共が?なにか悪さでもしたってのか?」

村の若者1「弥平さん、悪さしてからじゃ遅いんじゃ」

村の若者2「妖怪ってぇのは悪さするもんじゃ、悪さをする前に捕えて懲らしめんとなぁ」

弥平「なんじゃそりゃ、つまりこの童共は妖怪かどうかはっきりせん上になんも悪さしとらんってことか?」

薄毛のおっさん「何を言っとるんじゃ弥平、見てみぃあの目ん玉!瑠璃色の目ん玉なんぞみた事ないじゃろ?」

弥平「そりゃあ珍しいが、遠い場所から来たんだとしたらそう言う事もあるんだろ。妖怪だって証拠にはならん」

薄毛のおっさん「弥平、お前は甘い奴じゃな!村のみんなが心配じゃありゃせんのか!見てみぃこの栗色の髪の毛を!こんな髪の毛見た事ありゃせんじゃろ!」

薄毛のおっさん「ワシらとこんなに外見が違うんじゃ、人間じゃありゃあせん!だとしたら妖怪の類じゃろうが!」

弥平「ほう、その理屈だと薄毛のあんたも妖怪ってことだな?この村には他に薄毛のもんはおらんからなぁ、ハッハッハ!やーい、このハゲ妖怪め!」

薄毛のおっさん「な、なにを言っておるんじゃ弥平!ワシの薄毛は関係ないじゃろ!今はこの童共n」

村の若者1「でも確かにおやっさんってちょっと他にないくらい薄毛だなぁ……他の連中は髪の毛あるのになぁ」ヒソヒソ

村の若者2「もしかしてあの童の珍しい色の髪の毛が気に食わなくてケチ付けただけなんじゃないか」ヒソヒソ

弥平「おっ、そうだな。そうに違いない!あの娘っ子の髪の毛綺麗だから、殺して自分のカツラにするつもりだったんだな!なんと悪だくみのうまい妖怪だ」ハッハッハ

461 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/16 00:25:44 aV7 254/405

薄毛のおっさん「そんなわけないじゃろ!わ、ワシの薄毛は生まれつきじゃ!その童共とは違うんじゃ……!」

弥平「それを言うならこの子供等の髪の毛も瞳の色も生まれつきだろう、ちょっと珍しいだけでな」

薄毛のおっさん「ぐぬぬ……そんな得体のしれん童のかたを持ちおって!ええい、何かあったらお前のせいじゃからな弥平!ワシは知らん!行くぞお前達!」スタスタスタ

村の若者1・2「親方ー、待って下さいよー!」

弥平「へいへーい、わかりましたよーっと……さて、大丈夫か童共?おっ、本当に瑠璃色の瞳だなぁハッハッハ」ニッ

ヘンゼル「…なんで助けたの?何かあったらあんたのせいにするってあのハゲ言ってたけど」

弥平「そりゃあ困ってる奴を助けるのに眼の色なんざ関係ないからな、その子もお前も言いがかりをつけられて困ってたんだろ?」

グレーテル「うん……助けてくれてありがとうね……えっと……」

弥平「おっ、オラの名前は弥平だ。この村で畑仕事して生活しとる。童共の名前はなんだ?」

ヘンゼル「僕の名前はヘンゼル、こっちは妹のグレーテル。理由があって別の世界…いや、別の場所から来たんだ」

弥平「へんぜるとぐれぇてる?変わった名前だ、でもまぁお前達の住んでた場所じゃあそれが普通だったんだろうなぁハッハッハ!」

ヘンゼル「…さっきのおじさん、僕達が自分達と違うって事に凄くこだわってたよね。そんなに人と同じじゃなきゃ不安なの?」

弥平「まぁ、年寄りにはそういう考えの奴が多いなぁ。外見が自分達人間と違う奴は人間じゃない。つまり妖怪や鬼だって考えだ、古い考えだが…」

弥平「ここは小さな村だ。正しいとか間違ってるってのは二の次で、古い考えや習慣、風習ってのは重要視されちまうんだ」

463 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/08/16 00:52:55 aV7 255/405

弥平「それより、童共。今晩泊まるあてがないんなら、ウチに来るか?なんももてなしなんざ出来ねぇけど」ハッハッハ

ヘンゼル「いいの…?そうしてもらえるなら助かるけど」

弥平「いいってことよ!うちの手伝いさえしてくれるってぇなら何日でも置いてやるぞ?」

ヘンゼル「手伝いくらいいくらでもするけど、僕達に何か求めてもそれ以上何もできないよ?」

弥平「ハッハッハ!ヘンゼルはおかしい事を言うなぁ、童に何かを求めるような大人いねぇよ」ハッハッハ

グレーテル「……弥平さん……良い人なんだね……」

弥平「よせよせ、グレーテル。子供を護ってやんのは大人の使命だ、そんで子供等はいつも笑ってるのが仕事。そういうもんだ!ハッハッハ!」

ヘンゼル「そう言う訳にはいかないよ、世話になるには何か礼をしないと……弥平さん、荷物持つよ。僕に出来るのはそんな事だけだから」

弥平「こんくらいの荷物平気だ平気。ヘンゼルは気にしぃだなぁ…ああ、そうだ、そんなに礼がしたいってならひとつ頼もうか」

ヘンゼル「なにかな?僕達に出来る事ならするけど」

弥平「ウチには一人、お前たちと同じくらいになる娘がいるんだがな?いつも家に一人でいるもんだから寂しそうだ」

弥平「そこでさ、お前達どっちでもいいから娘の遊び相手してやっちゃくれねぇか?オラは昼間畑仕事があるからなぁ」

ヘンゼル「だったら僕は畑仕事を手伝う、その子の遊び相手はグレーテルがしてあげてよ」

グレーテル「うん……弥平さん、この子の名前……なんていうの……?」

弥平「お千代って名前の娘だ。鞠つきが好きでなぁ、今頃も軒先で手毬唄でも歌ってるだろうよ」


続き
キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」七冊目【後編】

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