関連
暦「月火ちゃん、ありがとう」【前編】
暦「月火ちゃん、ありがとう」【中編】

652 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 12:58:13.86 a0ZAlFEm0 586/882

翌日。

僕は現在、あの廃墟へと来ている。

理由は勿論、昨日の出来事を忍野に聞く為だ。

あれから再び考えたのだけれど、月火は一旦家で待機させる事にした。

やはり、いつどこであの化物が出てくるか分からないし、月火も月火でゆっくりと考える事があるだろうし。

絶対に、外には一歩も出ない様に言い付けて。

月火の話は後ほど聞く予定だが、先に忍野とも話す必要はありそうだ。

僕も一応、この一件については考えている事もあるので、最終的には月火をここに連れて来なければならないのだけれど。

653 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 12:59:05.30 a0ZAlFEm0 587/882

忍野「や。 待ちくたびれたよ」

「その台詞も少し飽きてきたな。 で、早速だけど忍野。 昨日の事について聞きたい」

忍野「せっかちだねぇ。 まあ、それくらいしか話す事も無いし、良いんだけどね」

だったら最初から文句言うんじゃねえよ……

忍野「忍ちゃんからも聞いているだろ?」

「ああ。 大体はな」

忍野「なら僕から改めて言う事も無いかなぁ」

「いや、必要だろ!」

忍野「ええ、はあ。 分かったよ、説明しよう」

すっげえ面倒臭そうだなぁ。

654 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:00:46.72 a0ZAlFEm0 588/882

忍野「まず、阿良々木くんの妹ちゃんがいつ入れ替わっていたのかってのは、分かるかい?」

「……それが分かれば、僕も苦労しねえよ」

忍野「じゃあ、質問を変えよう」

忍野「阿良々木くんは、いつ入れ替わっていたと思う?」

「いつ入れ替わっていた……か」

いつ、だろうか?

今思うに様子がおかしいと思ったのは、朝。

昨日の朝の事だ。

月火が一人で出掛けると言った、その時。

655 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:01:22.42 a0ZAlFEm0 589/882

「僕も記憶を辿り辿りだから、正確な事は言えないかもしれないけど」

忍野「いいさ。 構わないよ」

「多分、昨日の朝からじゃないかな」

忍野「……なるほどね」

「今思い出して、明らかに変って言えるのがその時なんだ」

忍野「ハズレだよ、阿良々木くん」

んだよ、もうちょっとタメを作ってから言って欲しい物だ。 どこかのクイズ番組よろしく。

「だとすると」

656 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:01:49.83 a0ZAlFEm0 590/882

それなら、いつからだろうか。

ああ……てか、ちょっと考えれば分かるけれど、朝出掛けた時だ。

その時に入れ替わっていたってのが、一番可能性としてはあるよな。

夕方には、なんだか月火の様子がおかしかったし。

……僕の部屋での月火とか。

いやいや、別にあれが記憶に強く残っているって訳じゃねえよ?

まあでも、目がとろんとした月火は可愛かったけどもさ。

もう一回やってくれないかな、あいつ。

657 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:02:48.59 a0ZAlFEm0 591/882

「月火ちゃんが出掛けている時に入れ替わって、ドッペルゲンガーとしての月火ちゃんが帰ってきた?」

忍野「残念だけど、それもハズレだ」

忍野「阿良々木くんはさ、物事を一点だけしか見てないんだよ。 もうちょっと平面的に捉えれば、すぐに分かる事だよ」

忍野「僕のこの質問の意味だとか、考えてみなよ」

忍野の質問の意味?

なんだよ、ただの嫌がらせじゃなかったのか。

それにしても、改めて考えてみて、この質問に意味なんてあるのだろうか?

忍野「正解を言おうか、阿良々木くん」

「……なんか負けた気分で嫌だけどな」

658 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:03:15.42 a0ZAlFEm0 592/882

忍野「はは。 単純に考えればすぐ分かる事さ」

忍野は煙草を咥えながら、僕に向けて言う。

忍野「君はさ」

忍野「どうして、入れ替わっているという前提で物事を考えているんだい?」

何?

入れ替わっているという、前提?

「ちょ、ちょっと待ってくれ、忍野」

「それは必要な前提だろ? それに、それならどうして忍野はそんな質問をしたんだよ」

忍野「だから、阿良々木くんは勘違いしやすいからねぇ」

うわ、昨日のあいつと台詞が被ってる。

まあ無理もねえか、忍野その物って訳だしな。

659 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:03:42.86 a0ZAlFEm0 593/882

忍野「ちっちゃい妹ちゃんは入れ替わっていないんだよ」

忍野「阿良々木くんが変だと感じた妹ちゃんは、紛れも無く君の本当の妹ちゃんだよ」

は?

月火が、入れ替わっていない?

最初からずっと、月火は月火のままだって?

「いや、それならおかしくねえか?」

だって、そうだろ。

ならどうして、僕は変だと思わなかったんだよ。 ドッペルゲンガーの特性で、そうなったんだろ。

僕も、忍も、火憐も。

660 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:04:10.35 a0ZAlFEm0 594/882

忍野「忍ちゃんは判断基準が違うからだよ。 分かるだろ?」

忍が変だと思ったのは、匂い。

月火の匂いが二つある事を変だと思わなかった。

片方がドッペルゲンガーの匂い故に。

忍野「でっかい方の妹ちゃんは、それが変だとは思わなかったからじゃないかな?」

あん?

火憐が、それを変だと思わなかった?

「だから、それはドッペルゲンガーの特性でなったんだろ?」

忍野「残念ながら、阿良々木くん」

忍野「ドッペルゲンガーが入れ替わっていなかった以上、その特性は殆ど出てないんだ」

忍野「さっき言ったじゃないか。 物事を平面的に捉えろってね」

忍野「でっかい方の妹ちゃんは、それを変だと思わなかった」

忍野「それだけの事さ」

661 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:04:45.65 a0ZAlFEm0 595/882

忍野「怪異の所為でも無い。 ただ単純に、そう思っただけの事だよ」

「いや、それがありえないんだって言ってるんだよ、忍野」

「火憐ちゃんが、あの状態の月火ちゃんを放って置く訳がねえだろ?」

「だって、火憐ちゃんは」

僕より、月火の事を理解している。

そう、か。

それならば、火憐が月火の行動を受け入れていたのも、納得ができる。 出来てしまう。

何故なら、火憐は僕よりも月火の事を理解しているから。

そして、本当に火憐が月火の事を変だと感じたのは、その前。

月火が僕を避けているという、その一点だけだ。

けど、それもまた怪異の所為では無い。

662 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:05:18.94 a0ZAlFEm0 596/882

単純に火憐は月火の様子がおかしいと、怪異の所為でも何でも無く、普通にそう感じただけなのだ。

そしてその様子がおかしいというのが、火憐曰く「兄ちゃんを避けている」って事だ。

そうだとするならば。

それが、月火の悩みでもあるのだろう。

そうすれば繋がる。 全部。

月火は何かしらの僕に関係する事で悩んでいて、それが原因でドッペルゲンガーに出会った。

そして、その願いは僕と離れたいとの事なのだろう。

それが心の奥底で想っていた事、なのだろう。

663 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:06:09.81 a0ZAlFEm0 597/882

「……そうか」

忍野「分かったかい。 阿良々木くん」

忍野「ちっちゃい妹ちゃんは、ドッペルゲンガーと入れ替わっていない。 これは確定しているんだ」

「分かったよ。 忍野」

「月火ちゃんの行動を僕はいつも通りだと思っていた。 そういう事だろ」

忍野「さあ。 それは阿良々木くん自身が考える事さ」

そうだろうな。

僕は月火の行動を変だと思わなかった。

一人で出掛けるのも、僕の部屋で妙な雰囲気だったのも、夜に一人で出掛けたのも。

心のどこかで、それは普段の月火だと。 そう思っていたから、僕は月火の行動を受け入れていたのだろう。

664 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:06:40.08 a0ZAlFEm0 598/882

それは、火憐の想いとは全然違う。 方向性は、完全に違う。

火憐は月火の事を理解していたから、受け入れた。

あの時火憐は寝ていたけれど。

恐らく起きていたら、夜出掛けると月火が言った時に間違い無く、あいつは止めた筈だ。

そこが、僕との違い。

僕は月火の事を理解していなかったから、受け入れた。

だから、夜出掛けると言った時に僕は止めなかった。

その行動すらも、僕は受け入れた。

665 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:07:11.47 a0ZAlFEm0 599/882

「……でも、忍野」

忍野「ん? なんだい」

「僕はどうして、月火ちゃんの行動が変だと思えたんだ? そうじゃなかったら、今頃僕は家で、未だにゆっくりしているかもしれないんだぞ」

忍野「簡単な話さ。 とは言っても、気付かせてあげた忍ちゃんは寝ている訳だから、証人は居ないんだけどね」

「……忍が、僕に気付かせたって言うのか?」

忍野「そうだよ。 君がこの物語を終わらせようとした所で、忍ちゃんはおかしいと思ったんだろうね」

忍野「だから、君の心に動揺を与えた。 それで阿良々木くんは気付けたんだよ」

そうだったのか。

……僕の周りはお人好しだらけかよ、ほんとに。

後で、あいつにはお礼を言わないとな。

666 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:07:37.86 a0ZAlFEm0 600/882

「僕は、何にも分かっていなかったんだな」

忍野「そういう事だ。 物事を見る時はもう少し、視野を広く持つべきだね」

「……最低だな」

忍野「はは。 おいおい、阿良々木くん」

忍野「僕は別に、君を責めている訳でも無いし、悪いと言っている訳でも無いんだぜ」

忍野「それは当たり前の事だよ。 でっかい妹ちゃんは、ちっちゃい妹ちゃんと仲が良いんだろ? ならそうであって当然だ」

忍野「僕が言いたいのは、阿良々木くんは視野が狭いからもう少し広く見ようってだけさ。 それが」

忍野「今回のあいつを殺す鍵にも、なるんだからさ」

667 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:08:15.95 a0ZAlFEm0 601/882

そうだった。

今は、ぐだぐだ悩んでなんていられねえんだ。

まさか忍野に慰められるとは思わなかったけれど、こいつの言う通りかもしれない。

仲が良い奴が理解していて当たり前。

それなら僕は、これから月火と仲良くなれば良いだけの、それだけの話。

深く考える必要は無い。

ただ、それだけの事。

考える必要は無いけれど、話す必要はある。

それで少しでも月火の事が理解できるのなら、僕はいくらでも歩み寄る。

あいつは多分引くだろうが、その分寄って行けば良いだけの事。

668 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:08:47.93 a0ZAlFEm0 602/882

「忍野、教えてくれ」

「あの化物、お前の姿をした化物を殺すには、どうすればいいか」

僕がそう言うと、忍野は笑い、答える。

忍野「オッケー。 それじゃあ本題に入ろう」

忍野「あの格好良い化物をどうやって殺すか、だ」

前半がうまく聞こえなかったけれど、多分すげえどうでも良い事だ。 聞き返さないでおこう。

忍野「あの格好良い化物を殺す方法なんだけど」

「なあ、忍野」

忍野「ん? どうしたんだい」

「化物の前に余計な物が付いているから、省いてくれ。 鬱陶しい」

ツッコミをせずにはいられなかった。 僕は案外我慢強く無いのかもしれない。

669 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:09:47.48 a0ZAlFEm0 603/882

忍野「はは、良いね。 そのツッコミ待ちだったんだよ。 ようやくいつもの阿良々木くんだ」

そうかよ。

僕には好きで付けている様にしか聞こえなかったけどな。

忍野「それで、その化物だけど」

忍野「忍ちゃんにも軽く聞いているとは思うよ。 結論から言うと」

忍野「阿良々木くんが絶対にやらない方法で、殺す」

「僕が、絶対にやらない方法?」

忍野「そうだ」

忍野「阿良々木くんが取りそうな方法は、全部ばれていると考えた方が良い」

忍野「なんと言っても、この僕自身だしね」

忍野「だから、正確に言うと」

忍野「僕が「阿良々木くんなら絶対にこの方法は取らないだろうな」って方法で、殺すしかない」

670 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:11:08.38 a0ZAlFEm0 604/882

忍野「言って置くけど、チャンスは一度だけだよ」

「忍野が考える、僕が取らない方法か」

忍野「失敗したら、次は無い。 同じ方法は勿論使えないし、その後に他の方法を考えても、可能性があると感じた時点で僕は対策を取るだろうね」

忍野「だからその方法を考えて、それに加えてチャンスは一回のみ」

忍野「失敗したら、僕達の負けさ」

って言われてもな。

僕が絶対に取らない方法って、何だ?

671 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:11:35.54 a0ZAlFEm0 605/882

「忍野には見当が付くか? 僕が取らない方法」

忍野「おいおい、僕に見当が付いたらそれは取る方法だろ?」

全く以ってその通り。 ぐうの音も出ない。

「考えなきゃいけないな……明日までに」

残されている時間は、多いとは言えない。

忍野「それは完全に阿良々木くん任せだよ。 僕はこれ以上何もアドバイスは出来ない」

全く、とんだ賭けだな。

けど、なんとかしないといけない。

月火は僕が死ぬのを望んでいないから、死ぬ訳にはいかない。

672 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:12:03.50 a0ZAlFEm0 606/882

忍野「ところで阿良々木くん。 話が変わるんだけど」

忍野「妹ちゃんには、阿良々木くんの体の事とか、その辺りの話はしたのかな?」

「いや、それはまだしていないよ」

忍野「そうかい」

「なあ、そういえば忍野は昨日、月火ちゃんのドッペルゲンガーと会っているんだよな?」

忍野「うん。 そうだけど、それがどうかしたのかい?」

「そいつは、何か言っていたか?」

忍野「いいや、特には何も言っていなかったかな」

「そうか……」

673 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:12:48.94 a0ZAlFEm0 607/882

「でも、そのドッペルゲンガーが僕を殺してくれと、忍野のドッペルゲンガーに願ったんだよな?」

忍野「そうみたいだね。 そうじゃなければ、僕の偽物は出てこなかっただろうし」

「やっぱり、分からないんだよなぁ……」

忍野「君の妹ちゃんが、どうして阿良々木くんを避けているか。 かな」

「ああ。 一つだけ、思い当たる事はあったんだけどさ、それは多分自意識過剰っつうか」

「『傲慢』だと思うんだよ」

忍野「はは。 『傲慢』ね。 それを阿良々木くんは悪い事だと思っていると」

「だってそうだろ。 七つの大罪とか言うくらいだし」

674 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:13:24.45 a0ZAlFEm0 608/882

忍野「何度も言うけど、それが物事を一点しか見れていないって事なんだよ」

忍野「阿良々木くんの言い方から察するに、多分こんな事を言われたんじゃないかな」

忍野「君の優しさは、自分自身を傷付けている。 って」

こえー。

僕の言い方のどこからそう思ったんだよ、こいつは。

羽川の比じゃねえよな。 あいつが尊敬しているだけあるよ。

「言われたよ。 全く同じ事を妹に」

忍野「はは、やっぱりか」

675 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:14:00.21 a0ZAlFEm0 609/882

忍野「そうだねぇ」

忍野は少しだけ考える素振りを見せ、僕に向けて再び口を開く。

忍野「阿良々木暦は、頭が悪い。 そして、他人の為なら自分に命を何とも思っていない」

忍野「見ず知らずの他人でも、助けを求められれば迷わず手を指し伸ばすだろう。 それで自分が死ぬ事になろうとも」

「忍野? 何言ってるんだ、急に」

「つうか、いくら僕でも見ず知らずの他人にほいほいと手は出さねえよ」

忍野「忍ちゃんの事は?」

それは。

そうかもしれないけどさ。

でも、僕は……今忍野が言っていた様な、そんな奴では無いんだ。

676 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:14:28.56 a0ZAlFEm0 610/882

忍野「分かるかい、阿良々木くん」

忍野「これは僕が阿良々木くんに対して『傲慢』になったとして、だよ」

忍野「僕も一応は、阿良々木くんの性格は理解しているつもりだ。 だからさっき言った様に思いはしない」

「……ああ」

忍野「良い気分では無いだろ?」

「まあ、そうだな。 だからこそ、僕はその思い当たる事を前提とは出来ないんだよ」

忍野「はは」

忍野「それは違うよ」

忍野「僕と阿良々木くんは他人だ。 そんな他人に見透かされても、嫌な気分だろうさ」

いつも見透かした様な事ばかり言う癖に、良く言うよ。

677 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:15:51.42 a0ZAlFEm0 611/882

忍野「しかし、それ以前に君と妹ちゃんは家族だろ?」

忍野「家族に対しては『傲慢』で居ても、僕は良いと思うけどね」

それが、家族だろ? と、忍野。

確かに、確かにそれはありなのかもしれない。

以前、影縫さんに僕が言った様に。

家族には迷惑も掛ける、借りを作る事もある、秘密を持つ事もある、恩を返せない事もある。

しかし、家族に対して『傲慢』ってのはありなのだろうか。

僕は月火に対して『傲慢』でいて、良いのか。

678 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:16:34.76 a0ZAlFEm0 612/882

忍野「一つだけ言わせて貰おう、結構酷い事だけど良いかな」

「酷い事なら言われ慣れてるから、心配いらねえ」

忍野「阿良々木くんは多分、こう考えているんだろうさ」

忍野「僕はあいつらの事をちっとも理解出来ていない。 そんな僕があいつらに分かった様な口を聞いても、良いのだろうか」

忍野「なんてね」

忍野「ああ、これも『傲慢』に値するのかな。 阿良々木くん」

「……いや、その通りだよ。 僕はそう考えている」

忍野「それは良かった。 んで、それは僕から言わせると」

忍野「その行動、考え方は、君が理解しようとしていないからなんだ」

679 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:17:27.93 a0ZAlFEm0 613/882

忍野「簡単に言うと、自分から距離を作っているのさ。 いや、その場から動こうとしていないってのが、正しいかな」

動こうとしていない。

理解しようとしていない。

忍野「別に僕も、君達兄妹の関係にぐだぐだ言うつもりは無いけど」

忍野「阿良々木くんは自分の優先順位を下位にし過ぎだ。 人類皆平等なんて事は言わないけどさ」

忍野「家族ってのは、もっと思った事を言える仲だと思うぜ」

680 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:18:26.56 a0ZAlFEm0 614/882

「……それも、仕方ないだろ」

「こんな言い方をするのもあれだけど、あいつらは怪異なんて物には関わりが全然無かった」

「なら、一番関わりがある僕が、気を使わないと駄目じゃねえか」

忍野「そういう考えもありだけど、それは君の気持ちかい?」

「そうだ。 最初から関わるべきじゃないだろ、怪異なんて」

忍野「……なるほどね。 まあそんな考えもありなのかな」

忍野「ま、僕が言いたいのはこの位だよ。 後は経験して学べばいい」

681 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:19:24.06 a0ZAlFEm0 615/882

忍野「とりあえず一度、阿良々木くんが言う「思い当たる事」ってのを妹ちゃんに話してみると良いよ」

忍野「君の体の事とか、怪異の事とかもどうせ話すんだろ?」

「ああ。 そうは伝えてある」

一応、伝えてある。

その時の月火の反応。

もしかしたら、あいつは。

いや、考えるだけ無駄か。 月火は良いと言っていたから、僕はそれを受け止めるだけだ。

682 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:19:55.74 a0ZAlFEm0 616/882

「優先順位で思い出したんだけどさ」

忍野「ん? 何かな」

「忍野。 月火ちゃんの一つ目の願いってのは、結局何だったんだ?」

「それと、昨日忍とも話したんだけど。 願い事の優先順位ってのはどうなっているんだ?」

忍野「一つ目の質問については、分からない。 いや、答えは知っているけどさ」

忍野「それは僕の口から言うべき事じゃない。 分かるだろ?」

まあ、そうするべきだとは思うけど。

683 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:20:28.68 a0ZAlFEm0 617/882

忍野「んで、二つ目の質問だ」

忍野「優先順位は一番目の願い事からだよ」

なるほど。

だからこそ、月火のドッペルゲンガーは二番目の願い事を叶えている……いや、正確には叶えようとしている。

それをしているという事は、既に一番目は達成されているって訳だよな。

忍野「ただし、これには例外があるんだよ」

「例外?」

忍野「うん。 そして、その例外が起きた場合だけ順序は逆になる」

684 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:20:58.08 a0ZAlFEm0 618/882

忍野「けど、その例外を言ったら一番目の答えになっちゃうからなぁ」

忍野「伝えられるだけの情報を教えておくと」

忍野「あの妹ちゃんの姿をしたドッペルゲンガーは、一番目の願い事を叶えていなかった」

忍野「その例外が起きて、順序が逆になっていたからさ」

ええっと。

つまりは、月火の一番目の願い。 それが何かって事だよな。

そしてそれが、例外に関係しているって事だ。

考えても僕には分からないし、知る為には月火に聞くしかないか、やっぱり。

685 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:21:35.90 a0ZAlFEm0 619/882

忍野「それだけだよ。 今言える事は」

「けど、忍野の姿に変わる事も出来ただろ? そうすれば別に、もう一匹のドッペルゲンガーに願わなくても済んだだろ?」

忍野「うーん。 まあ、そうなんだけどさ」

忍野「あのドッペルゲンガーは、卑怯だったね」

卑怯? どういう事だ。

忍野「願いを叶えなければならない。 けど、自分の手は汚したく無かったんだろう」

忍野「もしかしたら、あのドッペルゲンガーは全て分かっていたのかもしれないね」

686 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:22:04.17 a0ZAlFEm0 620/882

「……全て分かっていた?」

忍野「こっちの話さ。 そうそう、あの怪異はひと言、最後に言っていた」

忍野「お兄ちゃんを宜しくお願いしますって、丁寧に頭を下げてね」

「なんだよ、それ」

忍野「さあ? 本心では阿良々木くんを殺したく無かったんじゃないかな」

「けどな、忍野。 仮に、もしそうだとしたら、もう一匹のドッペルゲンガーに頼む事も無かっただろ?」

忍野「かもしれない」

687 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:23:02.27 a0ZAlFEm0 621/882

忍野「けど、こうも考えられる。 物事を平面的に捉えれば」

忍野「あの怪異は、今のこの状況になる事が分かっていたんじゃないか? 阿良々木くんが本当の妹ちゃんの気持ちを察して、問題を解決するんじゃないかと」

「僕と月火ちゃんの関係を正す為に、そうしたって言うのか?」

忍野「それはなんとも言えないよ。 怪異は出会ったら出会いやすくなる。 それもあいつは分かっていた」

忍野「だからこそ、じゃないかな」

だからこそ、月火のドッペルゲンガーは願ったのか。

これから先、月火を僕が導いて行ける様に。

けど、それは少し僕の考えと違う。 違ってしまう。

この考えが正しいのかは分からないけれど、うまくやれば全部が『無かった事』になる。

それは何よりも、望まれている事なのではないだろうか。

688 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/08 13:23:38.61 a0ZAlFEm0 622/882

忍野「ま、僕達がいくら話しても、本当の所を知る奴はもう居ない。 考えても無駄な話だ」

忍野「んで、話を戻すけど阿良々木くん」

忍野「いつ、君の事は話すつもりなんだい?」

「ああ、一応全部が終わったら話すとは言ってあるんだけど」

忍野「だけど?」

「……忍野、一つ頼みがあるんだ」


第十四話へ 続く

696 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:12:28.55 EhK+UTCD0 623/882

廃墟からの帰り道。

ポケットの中で、携帯が揺れているのに気付いた。

誰だ? あまり時間があるとは言えない状況だってのに。

携帯を開き、画面を確認。

どうやら電話では無く、メールか。

僕のアドレス自体、知っている奴は多くは無いけれど。

From 小妹
Sub 神社で待ってる

おいおい。

おいおいおいおい。

家から出ている時点で僕の言い付けは既に守られていないじゃねえか!

697 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:13:08.14 EhK+UTCD0 624/882

ああ、そうだ。 そうだった。

あいつはそうだ。

『言う事を聞くけど守らない奴』だった。

つうか、神社って事は……昨日の場所だよな?

呼ぶにしても、何でそんな場所を選ぶんだよ、あの馬鹿。

まあ、でも。

どの道、自転車は置きっぱなしな訳だし、寄って行く予定ではあったんだけどさ。

にしても、縁起が悪いな。

いや、神社に対して縁起が悪いって言うのは、なんかしらの悪い事がこの身に起こりそうな感じがする。

言い換えよう。 縁起が良い。

うーん。

良くねえよやっぱり!

698 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:14:17.39 EhK+UTCD0 625/882

時間経過。

「お前な、なんでよりによってこんな場所を指定するんだ……」

息を整えながら、文句。

階段の終わり。 一番上の段に、月火は座っていた。

月火「良いじゃん別に。 あのお化けは今日は出ないんでしょ?」

「つってもだな。 絶対に出ないとも言い切れないだろ」

月火「大丈夫だよ」

「何を根拠に言ってやがる!」

月火「私に何かあっても、お兄ちゃんは駆けつけてくれるし」

699 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:15:28.24 EhK+UTCD0 626/882

うぐ。

その笑顔でその台詞は反則だろ。

「……まあ、良いか」

若干の恥ずかしさから、顔を逸らしながら僕は言う。

「ところで、何で月火ちゃんは制服を着ているんだ?」

月火「なんとなく?」

「んだよそれ。 つうか、この場面を第三者に見られたら、僕はどう思われるんだろうな……」

月火「安心して、お兄ちゃん。 私がしっかり言ってあげるから」

「何て?」

月火「この人変質者です。 助けてくださいって」

「捕まるじゃねえか!」

700 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:16:10.25 EhK+UTCD0 627/882

月火「あはは」

はあ。

前よりなんだか素直というか、毒気が抜けたというか、そう思っていたのだけれど。

案外、そうでもないかもしれない。

「で、呼び出したって事は話があるんだろ?」

月火の隣に僕は腰を掛け、溜息混じりにそう言う。

月火「うん。 その通り」

月火「お兄ちゃんは聞きたいんでしょ、私の願い事」

「……ああ。 聞かないといけないとは、思ってる」

月火がどう想い、どう考えているのか。

その辺りはきちんと話して、すっきりとした気持ちであの化物とは戦いたい。

701 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:16:36.04 EhK+UTCD0 628/882

月火「おっけー。 じゃあ話すよ」

「おう、でもちょっと待ってくれ」

月火「むう。 折角話す気分だったのに」

「悪い悪い。 一応僕も、月火ちゃんが何を願ったのか考えてみたんだよ」

702 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:17:02.29 EhK+UTCD0 629/882

一つだけの思い当たる事。

それを言わない事には、多分僕は進めない。

忍野に言われたからってのも勿論あるけれど。

これを言う事によって、月火との関係がどうなるって訳でもないのだ。

少し考えれば分かる、簡単な話だったんだ。

身を引いていたのは、僕の方。

これを言ったら月火は嫌な気分になるだとか、そんな事を延々と考えていたから。

それはやはり、僕の思い込みでもあるのだろうな。

見る人から見れば、卑怯という事になるのだろう。

なら、まずは一歩。

月火に対して少しだけ『傲慢』になってみよう。

703 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:18:07.36 EhK+UTCD0 630/882

月火「ふうん。 お兄ちゃんに当てられるとは思わないけど……」

「かもな。 まあ予想なんだけどさ」

「あの化物が、願いを二つ叶えるってのは知ってるよな?」

月火「うん。 知ってるよ」

月火「最初に会った時、そう言っていたからね」

月火「一個目が、そのまま伝えた事」

月火「二個目が、心の奥で願っている事」

月火「だったよね?」

「そう。 その通りだ」

704 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:18:40.10 EhK+UTCD0 631/882

「で、一個目の願いってのはさすがに分からないんだけど」

「二個目の願いは、僕と距離を置きたい。 みたいな感じだったんだろ?」

僕がそう言うと、月火は顔を下に向け、小さく頷く。

月火「だと思うよ。 そう想ってたのは確かだし」

「そっか」

月火「でも、これだけは言って置くけど、お兄ちゃん」

月火が顔を僕の方へと向ける。

その顔を見て、何を言おうとしているかは分かった。

「僕の事が嫌いな訳じゃない」

「か?」

月火「あははは。 さっすがはお兄ちゃん」

「偶然だよ。 なんとなくってだけだ」

705 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:19:27.25 EhK+UTCD0 632/882

月火「へえ、そっか。 で、続きは?」

「ああ」

「で、そうだとすると一つ思い当たるんだ」

「なあ、月火ちゃん」

「月火ちゃんは僕と離れるのが嫌で、それをさっさと済ませたいから、そう想っていたんじゃないか?」

それが、唯一思い当たる事だった。

月火の性格からして。

嫌な事を、先に済ませようと思って。

月火「うーん」

苦笑いと言うよりかは、半笑い。 そんな顔をしながら、月火は言う。

706 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:19:57.11 EhK+UTCD0 633/882

月火「前言撤回。 過小評価してたよ」

月火「やっぱ、お兄ちゃんには適わないや」

月火「これなら、私がわざわざ説明する必要も無いんじゃないかな?」

「あるさ。 月火ちゃんの口からは、まだ何も聞いちゃいないから」

とは言った物の。

内心、凄く安心していた。

思い当たる事が本当だったから。

しかし、この安心感は結局、僕が勝手に生み出しているだけなのだろう。

707 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:20:49.68 EhK+UTCD0 634/882

月火「お兄ちゃんと一緒に居たい」

「あん? どうした、急に」

月火「それが一つ目の願いなんだよ。 言いたく無かったけどさぁ」

月火「言って置くけど、お兄ちゃんが大好きって訳じゃないからね。 ただ、最初に思い浮かんだのがそれだったってだけ」

月火「火憐ちゃんとお兄ちゃんが妙に仲良かったし、そう願ったんだろうね」

いやいや、それはつまり僕の事が大好きって訳じゃねえか?

まあ、言ったら言ったでこいつは怒るだろうし、言わないけどさ。

「そうか。 それが一つ目か」

月火「でもさ、不思議なんだよね」

708 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:21:20.77 EhK+UTCD0 635/882

「不思議って、何が?」

月火「一つ目と二つ目、矛盾しているでしょ?」

矛盾している? 一つ目と二つ目。

僕と一緒に居たい。

僕と離れたい。

「……ああ、本当だ」

そういう事かよ、忍野。

これがあいつの言っていた例外って奴か。

「なるほど。 それが、どうやら例外らしいな」

月火「例外……って?」

709 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:21:52.37 EhK+UTCD0 636/882

「願いを叶える順番が逆になるんだとさ。 つまりは二番目から叶えられる」

「僕と離れたいって願いの方から叶えられるんだよ」

月火「なるほどー。 でもさ、こうして今もお兄ちゃんと一緒に居られてる訳だし、案外一つ目も叶っているかもね」

僕もそうであって欲しいとは思う。 まあ別に、そんな願いなんて関係無く、そうしてやる。

「だと良いけどな」

月火「……ふうん」

「何だよ、人の顔をジロジロ見るな」

月火「なんかさぁ。 お兄ちゃんも性格変わったよね」

「僕が? 何でそう思うんだよ」

月火「いやいや、だって絶対に言わないじゃん。 私がさっきみたいな事を言った時に「だと良いな」なんて」

710 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:22:48.39 EhK+UTCD0 637/882

「そうだっけ?」

月火「そうだよ。 昔のお兄ちゃんだったら「うるせえボケ」くらい言っていたよ」

「僕ってそんな酷い事を言う奴だったのかよ!」

月火「言うだけでは済まないね。 おまけで「顔貸せよ、暇だから殴る」とも言っていた筈だよ」

「月火ちゃんから見た僕って最低だな! 気持ち良いくらいの最低っぷりじゃねえか!」

月火「そして、私は泣く泣く顔を差し出すんだよ……泣く泣くね」

月火「ごめんなさい、お兄ちゃん。 お兄ちゃんの拳を痛めて申し訳ありませんって」

「僕はとっとと警察に捕まるべきだ!」

月火「それが今までのお兄ちゃんだよ。 これが事実なんだよ!」

「……そろそろ止めようぜ。 ありもしない事実で自分が嫌いになりそうだ」

月火「全て現実なんだよ。 受け止めないと」

「そんな現実いらねえ!」

711 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:23:33.57 EhK+UTCD0 638/882

閑話休題。

月火「でも、お兄ちゃんの性格が前より素直になったって言うのは本当だよ?」

「そうか? 僕自身、全然分からないけどなぁ」

月火「そうなんだ。 でも、火憐ちゃんも「兄ちゃんは変わった」って良く言ってる位だし」

ふうん。

「けど、そう言うけどさ。 月火ちゃんも変わったよな?」

月火「私が? どういう風に?」

「なんつうんだろ、前よりこう……丸くなった?」

712 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:24:40.67 EhK+UTCD0 639/882

月火「え、それはもしかして、太ったって言いたいの?」

「太ったって言うよりは、丸くなっただな。 丸くなった」

月火「太ったって意味じゃねえか!」

月火の貫手が、脇腹に突き刺さる。

月火も月火で本気で攻撃してきた訳では無いので、痛いというよりかはくすぐったいって感じだが。

「いやいや、月火ちゃんは痩せてるよ」

月火「ほ、ほんとに?」

「うん。 枯れ草みたいだ」

月火「それ、どう考えても貶してるよね」

「ごめん、間違えた。 正しくは骨と皮だけみたいだ」

713 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:25:06.33 EhK+UTCD0 640/882

月火「やっぱり貶してるじゃん!」

二度目の貫手。

多分来るだろうとは思っていたので、回避。

「落ち着け、月火ちゃん」

月火「それをお兄ちゃんが言うのか……」

「僕はいつだって、どんな時でも月火ちゃんの味方だぜ」

月火「台詞は凄く格好良いけれど、今までの言動の所為で台無しだね」

「今までの台詞から急に格好良い事を言う事によっての、ギャップ狙いだよ。 分かるだろ」

月火「それを自分で言っている時点で、ただの最低野郎だけどね」

714 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:25:45.22 EhK+UTCD0 641/882

閑話休題。

いやはや、月火と話すとマジで話が進まない。

そろそろ僕は話を進めたいのだけれど。

「んで、真面目な話だけどさ」

「性格が丸くなったって話だよ。 僕が言いたいのは」

月火「私の性格が? 前々から、もうこれ以上無いってくらい球体だったと思うけど」

どこがだよ。 モヤッとボール並に刺々しかった気がするんだけど。

「まあ、誰でも変わるって事だろうな。 性格なんて」

月火「基本の部分は変わらないと思うけどね。 変わるのは良い事なのかな?」

「さあ。 それもまた、周りの人だとか、生き方に寄るんじゃねえのかな」

715 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:27:41.29 EhK+UTCD0 642/882

月火「へえ。 だったら、私の変化は良い変化だよ」

「はは、ならそれは僕のおかげだな」

半分以上。 八割方は冗談でそう言ったのだけど。

月火「だろうね」

なんて。

いつもの様に月火は言う。

「へえ。 じゃあ、僕の変化も良い変化かもな」

月火「それって、私のおかげかな?」

「だろうな」

716 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:28:12.85 EhK+UTCD0 643/882

僕が月火と同じ様に言うと、月火は嬉しそうに言う。

月火「真似しちゃって。 ま、良いんだけどね」

それに答える僕も、多分嬉しかったんだと思う。

「なら最初から言うな」

「ま、なんつうかさ」

「とにかく、月火ちゃんの話が聞けて良かったよ」

月火「そう? あれ、もしかしてお兄ちゃん。 私に嫌われてるとか悩んでた?」

「無い無い。 そんなんで一々悩んでねえよ」

月火「ふうん。 へえ」

んだよ、こっち見るんじゃねえよ。

717 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:28:53.01 EhK+UTCD0 644/882

月火「けどさ」

月火「まさか、こんな事になっちゃうなんて、さすがの月火ちゃんでも想像できなかったなぁ」

月火「あのお化け、お兄ちゃんを殺すだとか、言っていたよね」

月火「そんな事、願ってなんていないのにさ」

「捻くれた化物なんだろ。 月火ちゃんと一緒で」

月火「何か言った?」

「素直な月火ちゃんの願いを捻くれた受け取り方をして許せないって言った」

月火「せめて文脈は同じ様にしようよ」

「……無理だろ」

月火「そう? 私なら出来るよ」

「ほう。 やってみ」

718 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:29:26.93 EhK+UTCD0 645/882

月火「捻くれた化物なんだろ。 月火ちゃんと違って」

確かに同じ様な感じではあるけど、もっと捻って欲しいな。

「捻くれた化物なんだろ。 僕と違って」

月火「捻くれた化物なんだろ。 僕と一緒で?」

やかましいわ。

「……つうか、何だこれ。 何の会話だよ」

月火「さあ? わっからない」

月火はそう言うと、楽しそうに笑う。

釣られて僕も、ついつい顔が綻ぶ。

719 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:30:41.06 EhK+UTCD0 646/882

「僕は」

「月火ちゃんの事も、火憐ちゃんの事も、大好きだぜ」

月火「急に何言ってるのさ。 そんなの知ってるよー」

「はは、そうだったな」

「だから、もっと一緒に居たいし、死にたくは無い」

「でも、いつかは離れる事にはなるだろうけどな」

月火「うん。 分かってる」

月火「そりゃ、いつかは皆ばらばらだよ。 そんなの分かってる筈だったんだ」

月火「けど、何で願っちゃったんだろうね。 お兄ちゃんと一緒に居たい。 だなんて」

月火「お兄ちゃんと離れるのが嫌で、その嫌な事を先に済ませたくてさ」

月火「なのに、そんな想っている事とは違う事を願っちゃってた」

両手を地面に付け、空を見上げながら。

720 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:31:16.29 EhK+UTCD0 647/882

月火「弱い所、見せちゃったなぁ」

空を見上げていた顔を僕の方を向け、最後にひと言。

月火「でも、やっぱりまだお兄ちゃんとは離れたく無い」

僕と離れるのが嫌で、けれどもその嫌な事を先に済ませたい。

僕と一緒に居たいけれど、居たくない。

表面上の願いと、深層心理の願い。

どっちがより重要で、どっちがより大切なのか。

それは答えが出ない問題だ。 それに価値を付けられる物でも無いのだ。

月火の矛盾した願いを叶える方法は、無いと思う。

月火自身も分かっているだろう。

いつかは僕も、火憐も、月火もあの家から出て行く訳だし。

けど、はっきりと言ってくれた。

まだ離れたく無いと。

だったら僕は、その頼みを引き受けるだけだ。

721 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:32:10.04 EhK+UTCD0 648/882

「僕に任せとけ」

僕が月火にそう言うと、月火は笑い。

月火「うん。 任せた!」

と言いながら、僕の脇腹に貫手。

なんでだよ。 空気読めよ。

「……もうちょっと空気読もうぜ、月火ちゃん」

月火「いやいや、こういう重い空気ってのは、どうも苦手なんだよね」

「それには同意だけどさ。 なんつうかなぁ」

月火「だから私はいっつも火憐ちゃんと居るんだよ」

「ああ、そうなのか。 って結構酷い事言ってるぞ、それ」

月火「冗談冗談」

と、さぞ愉快そうに笑いながら月火は言うのだった。

722 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:32:37.64 EhK+UTCD0 649/882

月火「けど、任せたとは言った物の」

月火「勝てるの? あのお化けに」

月火「昨日も嫌々見てたけど、ぼこぼこだったよね」

こうストレートに言われると、なんか情けなくなってしまうじゃないか。

間違ってはいないんだけどさ、もっとオブラートに包んで欲しい物だ。

「なんとかするしか、無いだろうな」

「忍野……あのアロハのおっさんが言うには、僕が絶対に取らない方法を使えって言うんだけど」

「わっかんねえよなぁ。 そんな事言われても」

月火「お兄ちゃんが絶対に取らない方法かぁ……」

723 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:33:10.56 EhK+UTCD0 650/882

指を唇に当て、月火は考える。

ふむ。

なんだか、そんな姿を見ていたら悪さをしたくなってくる。

いや、悪って言葉を使うのはあれなので、良って言葉を使おう。 よいさ。

響きが格好悪い。 やっぱ悪さでいいか。

「おら」

月火の脇腹をつまんでみた。

月火「ひっ! な、なにすんの!?」

「おお、良い反応だな。 弱点か」

月火「真面目に考えてたって言うのに……」

「月火ちゃんが真面目に考えていると、脇腹をつまみたくなる病気なんだよ、僕は」

724 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:33:38.43 EhK+UTCD0 651/882

月火「それは深刻だね、病院に行った方が良いよ」

「そんな症状を治してくれる病院はあるのか?」

月火「あるよ。 聞きたい?」

「ああ、是非とも」

月火「私が知っている所だと、真っ白なお部屋に」

「あれ、治ったかもしれない」

月火「そう? 私にはそうは見えないけど」

「いや、大丈夫。 本当に」

月火「そっかぁ。 残念だ」

何が残念だよ! 恐ろしい奴だ。

725 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:34:16.71 EhK+UTCD0 652/882

閑話休題。

月火「それで、真面目な話だけどさ」

月火「私の方でもその方法、考えておくね」

「期待してるぜ、参謀さん」

軽く言って見た物の、実際僕よりも月火の方が良い方法を考えそうではある。

そう思えてしまう程に、こいつは頭の回転が良いから。

まあ、良すぎるってのもあるけれど。

月火「任せといて、お兄ちゃん」

「おう」

「さて、それじゃあ帰るか」

月火「だね。 今日もおんぶかな?」

「しねえよ。 自分で歩け」

726 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:34:45.17 EhK+UTCD0 653/882

月火「むう」

「つうか、お前スカート短いんだよ。 そんな状態でおんぶしたら、ワカメちゃん状態になるぞ」

月火「……改めて聞くと嫌な状態だね、それ」

月火「こういう時は、火憐ちゃんのジャージが羨ましくなるよ」

嫌な羨ましがられ方だな、それ。

「あーそうだ」

「自転車だ、僕」

危ねえ。 すっかり忘れる所だった。

月火「なら二人乗りだね。 それならスカートでもギリ大丈夫だ!」

そうなのだろうか。 女子のスカート事情については詳しくは分からないので、なんとも言えないけれど。

今度戦場ヶ原にでも聞いてみるか。

「ったく、仕方ねえなぁ」

727 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:35:13.32 EhK+UTCD0 654/882

時間経過。

「おい、フラフラしてるぞ」

月火「いや、そんな事言われても!」

二人乗りで妹に自転車を漕がせる兄がそこに居た。 僕だ。

月火「なんでこうなるの! 普通逆でしょ!」

必死に漕ぎながら、怒る月火。 実にプリティー。

「じゃんけんの結果だろ。 男女平等主義者なんだよ、僕は」

月火「そんな主義いらない!」

いやあ、しかし。

周りの視線が冷たい。 冷たいというか、痛い。

728 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:36:12.43 EhK+UTCD0 655/882

「そんなんじゃ家に着く前に日が暮れるぞ」

けど、そんなのはお構いなしだ。 家から離れた場所だし。

家の近くまで行ったら、兄らしく「そろそろ代わろうか、疲れただろ?」なんて声を掛けてから僕が漕ぎ、近所で悪い噂が広まらないよう作戦は立ててあるのだ。

月火「正に悪って感じだね……お兄ちゃん。 今度火憐ちゃんに成敗してもらわないと」

「はっはっはっは」

月火「むかつく笑い方だ!」

で。

そんな僕の高笑いも、あまり続かなかった。

「お? 兄ちゃんに月火ちゃん。 何してんだよ」

と、横から声が掛かったからである。

729 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:36:43.03 EhK+UTCD0 656/882

火憐「見た限り、兄ちゃんが月火ちゃんに自転車を漕がせて、高笑いしている様に見えたんだけど」

やべえ、成敗される。

月火「火憐ちゃん! このお兄ちゃんは悪いお兄ちゃんだよ。 成敗して!」

火憐「マジかよ! 分かったぜ、月火ちゃん」

「待て! これにはちゃんとした理由があるんだ!」

火憐「言い訳は聞かねえ!」

成敗された。

730 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:37:50.52 EhK+UTCD0 657/882

時間経過。

「で、火憐ちゃんはどうしてこんな所に?」

火憐「ん? ああ、ジョギングの途中だよ。 最近走るのが楽しくてさ」

僕にはとても理解できる感情じゃないな、それ。

月火「暇があれば走ってるもんね、火憐ちゃん」

「この馬鹿みたいな暑さの中、元気だなぁ」

火憐「暑さくらい問題にならねえよ。 燃える女だしな」

そうかよ。

火憐「で、兄ちゃんと月火ちゃんは何してるんだ?」

「あー。 ええっとだな」

月火「自分探しの旅って感じかな。 まあ、私はお兄ちゃんのそれに付き合ってあげてる感じなんだけど」

月火「ね?」

731 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:38:23.19 EhK+UTCD0 658/882

「お、おう。 その通り」

説明に困っている所だったし、正直助かった。

けど、自分探しの旅って。 春休みの事もあるし、僕がそれを趣味にしているみたいじゃねえか。

火憐「ふうん。 まいいや」

火憐「兄ちゃんも月火ちゃんも、帰る所だったんだろ? 一緒に帰ろうぜー」

「なんだ、ジョギングはもう良いのか?」

火憐「うん。 丁度あたしも帰る所だったし」

「そっか。 じゃあこっからは自転車は押して行くか」

火憐「いや、それには及ばないな」

あ? 何言ってんだ、こいつ。

火憐「兄ちゃんと月火ちゃんは後ろに乗ってくれ、あたしが漕いでやるよ」

732 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:38:55.04 EhK+UTCD0 659/882

との事で、再出発。 自転車の三人乗り。

一番前に火憐。 次に僕。 一番後ろに月火。

法令に引っ掛かっている所の話では無いと思うが、楽には楽である。

この並び順に関しては、月火の「私、一番後ろが良いな」との言葉による物なのだけれど、ついでに月火はこんな事を言っていた。

火憐には聞こえない様に、小さな声で「火憐ちゃん、汗臭そうだし」と。

それもそうだ。 走っていたのだから。

で、僕もマジでそれを聞いてから一番後ろにしたかったのだけれど、まさか当人の前で「どうぞどうぞ」なんてやる訳にも行かず、渋々この並び順って訳だ。

733 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:40:34.87 EhK+UTCD0 660/882

「しかし、速いなぁ」

火憐「日頃から鍛えてるからな。 兄ちゃんが後十人増えても行けるぜ」

それは多分、自転車が持たないと思うけどな。

火憐「そうだ。 帰ったら遊ぼうぜ」

「また急だな……」

月火「良いじゃん良いじゃん。 賛成ー」

「って言われてもな。 僕はちょっと忙しいんだよ」

火憐「んだよ、ノリ悪いなぁ」

月火「大丈夫だって、お兄ちゃん。 私も手伝ってあげるんだし」

734 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/09 13:41:01.66 EhK+UTCD0 661/882

火憐「ん? 何の話?」

月火「こっちの話ー! 何でも無いよー」

火憐「ふうん? ま、良いや」

火憐「で、兄ちゃん。 良いだろー?」

月火「良いでしょ? お兄ちゃん」

やはりあれだ、二対一では分が悪い。

「あーもう。 分かった分かった。 遊んでやるよ」

結局、僕はこんな感じで流されてしまうのであった。


第十五話へ 続く

741 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:01:19.61 edH4LBuP0 662/882

夜。

ソファーで並んで座ったり、僕の部屋だったりでは無く、今日は火憐と月火の部屋。

「それで、何して遊ぶんだよ」

結局はそれだ。

遊ぶ遊ぶと言っても、その遊ぶ内容を考える所から僕達兄妹の遊びは始まるのだ。

火憐「さあ? 何して遊ぶ?」

言い出したのは火憐なのだから、せめて一つくらいは考えて欲しい。

だけど、火憐だからまあしょうがねえか。

742 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:01:50.80 edH4LBuP0 663/882

月火「それについては、今日は月火ちゃんが考えておきました」

「前回はそれで失敗してるけどな」

月火「同じ失敗を踏まないんだよ、私は」

はいはい。 で、何だろうか。

月火「ずばりね。 普通の会話にある制限を付けようかと思うんだ」

「制限?」

火憐「って言うと、何々を言ったら駄目。 みたいな感じ?」

ゴロゴロと転がりながら、火憐が言う。

743 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:02:25.72 edH4LBuP0 664/882

月火「うん。 けど、ただ単純に禁止ワードを作るのもあれだから」

月火「私はお兄ちゃんの事を兄ちゃんって呼んで、火憐ちゃんの事は月火ちゃんって呼ぶ」

月火「同じ様に、それぞれの呼び方を変えるんだよ」

はー。

って事は、僕は月火を火憐と呼んで、火憐を月火って呼べばいいのか。

火憐「あたしは兄ちゃんの事をお兄ちゃん、月火ちゃんの事を火憐ちゃんって呼べばいいんだな」

火憐「……なんか、自分の名前を呼ぶってのは気持ち悪いな」

月火「だからこそだよ。 あ、勿論間違えたら罰ゲームね」

満面の笑み。

罰ゲームって言葉を言う時、凄い楽しそうだなぁ。 こいつ。

744 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:02:59.24 edH4LBuP0 665/882

「一応聞いておくけどさ、罰ゲームの内容は?」

月火「しっぺで良いんじゃない?」

ふむ。 ってなると、怖いのは火憐に対して間違えた時か。

月火のしっぺは何回か受けた事があるのだけれど、正直言って可愛い物だし。

「ま、良いか。 んじゃあやろうぜ」

火憐「おし、じゃあ月火ちゃん。 合図してくれ」

月火「ほいほい。 じゃあ、スタート」

こうして、良く分からないゲームは始まった。

745 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:03:29.28 edH4LBuP0 666/882

「そういや、夏休みの宿題とかどうなってるんだ?」

火憐「……」

月火「……」

「あー」

「やってないんだったら、しっかりやっておけよ。 僕みたいになっちまうからな」

火憐「……」

月火「……」

「あはは」

火憐「……」

月火「……」

あのさぁ。

746 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:04:02.35 edH4LBuP0 667/882

「なんか喋れよ! なんで僕が演説しているみたいになってんだよ! 新学期の校長先生か!」

火憐「って、言われてもなぁ」

月火「うん。 黙ってれば安全だし」

「ゲームにならねえだろうが!」

月火「いやいや、一人で喋ってるのを見ているのも楽しいから、大丈夫だよ。 お」

月火「お、面白いから」

惜しい。 上手く回避しやがった。

「つっても無表情じゃねえか、お前ら」

お? この「お前ら」っての便利だな。

747 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:04:36.80 edH4LBuP0 668/882

火憐「無駄な考えはしない様に努めているからな。 そうなるのも当然だよ」

「そんな事に努めなくて良い! お前は仙人か!」

月火「はあ……よし、分かった。 潔く会話に参加するよ。 仕方ないなぁ」

いやいや、そんな渋々言われてもな……そうするのは当たり前じゃねえのか。

月火「でもさ、ちょっと気になったんだけど」

「ん?」

月火「あー。 ええっと」

月火「……兄ちゃんが言っている「お前ら」っての、ずるくない?」

おお。

月火が僕の事を兄ちゃんと呼んでいる。

どちらかというと可愛い系の月火が、火憐の様に僕の事を呼ぶと、なんか新鮮だ。

748 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:05:03.74 edH4LBuP0 669/882

「そうか? んじゃあ。 火憐ちゃんに月火ちゃん」

月火「同じじゃん!」

火憐「おいおい兄ちゃん、それは卑怯だぜ」

「んだよ。 分かった分かった。 二人同時に呼ばなければ良いんだろ?」

火憐「おう」

月火「いや、普通に会話してるけどアウトだよ。 アウト」

「ん?」

思考。

そういや、火憐の奴普通に僕の事を呼んでいたな……

自然過ぎて、気付かなかった。

749 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:05:36.99 edH4LBuP0 670/882

月火「って事で、月火ちゃんアウトー」

ん?

「あれ。 アウトになっている間も、呼び方間違えちゃ駄目なのか?」

月火「勿論。 だから兄ちゃんも気を付けてね」

「……承知した」

怖い怖い。 そんな落とし穴があったなんて。

つうか、完璧に後付けのルールだよな。 恐ろしい奴だ。

「あーつうかさ、この場合は僕がかれ……月火ちゃんにしっぺをすれば良いのか?」

月火「うん。 そうだね」

おし。

750 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:06:13.74 edH4LBuP0 671/882

「オッケー。 じゃあ、腕捲くれよ」

火憐「うう、お手柔らかに頼むぜ」

「言っておくが、僕のしっぺはかなり痛いぜ。 歯食いしばれ」

前置きをして、構える。

月火「いけいけー」

そして野次を飛ばす月火。 後でどうなっても知らないぞ、お前。

んで。

パチン、という軽快な音と共に、火憐の腕にしっぺ。

火憐「いっ!」

火憐「くっそ、覚えとけよ……に、に」

火憐「……お兄ちゃん」

751 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:06:45.05 edH4LBuP0 672/882

あれれ。

やべぇ。

可愛い。

いつもは男勝りな火憐が「お兄ちゃん」って言うだけで結構な物があるのだけれど、それに加えて恥ずかしそうに言う物だから、ぶっちゃけて言うと可愛い。

これがギャップ萌えって奴だろうか。 僕も見習わないとな。

月火「それじゃあ、気を取り直して再開再開!」

「おし、じゃあ何かお題を決めて話そうぜ。 そっちの方が面白そうだし」

火憐「お題かぁ。 んじゃあさ」

火憐「兄ちゃんは何故、朝起きないのかって事について話そうぜ」

さすがの僕も見逃さない。 本日二度目のしっぺ。

752 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:07:10.91 edH4LBuP0 673/882

火憐「……うう」

月火「もう、月火ちゃんしっかりしないと駄目だよ。 話が進まないよ」

「全くだ。 つっても、火憐」

言ってから気付く。

火憐ちゃんには難しいかもなぁ。 なんて言おうとしたのだけれど。

せめて、言い切れば良かったのだ。

変な所で止めた所為で、月火に勘付かれてしまった。

いや、そもそも言い切ったとしても、月火なら気付いていたのだろうが。

753 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:07:50.81 edH4LBuP0 674/882

月火「どうしたの? ねえ」

「いや、あー。 ははは」

月火「そうだ。 良い言葉を教えてあげる」

「ん? 何だよいきなり」

あれ、気付かれてないのか?

月火「諦めも肝心」

ばれてた。

754 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:08:23.83 edH4LBuP0 675/882

で。

火憐「うおらっ!」

物凄く気合いの入った掛け声と共に、火憐からのしっぺを受ける。

月火のしっぺが「ぺちん」だとすると、僕のしっぺは「パチン」だ。

そして、火憐のしっぺはと言うと、ドゴン。

いやいや、冗談とかでは決して無い。 マジで腕折れたかと思ったもん。

「いてえ……」

「なあ、つき、火憐ちゃん、この罰ゲームやっぱり不公平だろ」

月火「そう? 間違えなければ良いだけだよ。 『兄ちゃん』」

755 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:09:18.73 edH4LBuP0 676/882

月火「後さ、さっきから何回か言い掛けてるけど、それを見逃してあげてるのは感謝してね」

って言われてもな。 お前くらいだよ、そんな器用なのは。

「僕のしっぺが三だとして、お前のは一だ。 んで火憐ちゃんのは百くらいあるだろ」

月火「いや、五十くらいじゃない?」

火憐「あたしを何だと思ってるんだよ! 盛っても五くらいしかねえよ」

いやいや、それは逆の意味で盛りすぎだ。

月火「よし、それじゃあ兄ちゃん、もう一回しっぺだ」

「は? おい、何でそうなるんだ」

月火「読み直せば分かるよ」

……文字として残るって不便だなぁ!

756 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:09:45.49 edH4LBuP0 677/882

火憐「へへへ。 まあ何回もやって、骨折ってのも悪いしな。 デコピンでも良いか? かっれんちゃん」

言い掛けたんだな、月火って。

つうか、しっぺで人を骨折させられるのってそうそう居ねえぞ。

この分で行くと、デコピンで頭蓋骨に穴が開いたりしそうで怖い。

月火「うん。 良いよー」

火憐「おし、ってな訳で行くぜ。 お兄ちゃん」

「……ああ」

死刑される瞬間の人ってのは、こんな気分なんだろうなぁ。

757 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:10:12.02 edH4LBuP0 678/882

「そろそろ、火憐ちゃんにも罰ゲームを与えたいな」

火憐「あん? あたしはさっきから受けてるぞ」

こいつ、マジで大丈夫かよ。 ルールその物すら忘れているんじゃねえだろうな。

「いや、だから逆だよ逆。 火憐ちゃんであって火憐ちゃんじゃねえだろ?」

火憐「は? 意味分からないんだけど、何言ってるんだよ」

うわあ、めんどくせー。

月火「そうだよ、何言ってるの?」

で、月火も月火で乗ってくるし。

758 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:10:41.53 edH4LBuP0 679/882

「だから! 僕が言ってるのは今はゲーム中だろうが! つまり火憐ちゃんであってそれは火憐ちゃんじゃねえんだよ! 分かるだろ!?」

火憐「いやいや、ゲーム中ってのは知ってるけどさ。 火憐ちゃんであって火憐ちゃんじゃないってどういう事だって聞いてるんだよ」

「お前じゃねえよ! 僕が言ってるのは火憐ちゃんじゃないんだ!」

火憐「じゃあ、誰の事?」

「……火憐ちゃんの事だ」

火憐「やっぱりあたしじゃん!」

殴って良いかな、こいつ。

月火「ちょ、ちょっとごめん。 面白すぎる」

こいつもこいつで、笑いを堪えられて無いし。

759 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:11:09.18 edH4LBuP0 680/882

「ああ、分かった! 畜生! 僕が言ってるのは月火ちゃんの事だ! お前じゃねえんだよ!」

火憐「アウトだアウト」

月火「アウトだね」

こいつら、マジで覚えとけよ。

760 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:11:59.35 edH4LBuP0 681/882

時間経過。

結局あれから、僕と火憐が罰ゲームを受けるだけで、一向に月火に間違える空気も感じられなかった為、兄と姉の権限によってゲームは中止となった。

こう言うと、僕と火憐が月火より上の立場に居る事が分かりやすいだろう。

月火「それにしてもお兄ちゃんに火憐ちゃん。 良い土下座だったね」

まあ、土下座したんだけれど。

物は言いようって奴だ。

火憐「あれだな。 慣れない事はするもんじゃねえや」

「ああ、珍しく同意見だ」

月火「そうかな?」

761 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:12:26.16 edH4LBuP0 682/882

「僕も火憐ちゃんも、そういうのには向いてないって事が良く分かった」

「つっても、火憐ちゃんは僕の事を嵌めたけどな」

火憐「そんな怒るなって。 月火ちゃんのしっぺなんて、大した事無いだろ?」

月火「そうだよ。 私は蟻も殺せない女子なんだよ?」

「うるせえ。 折り紙をしっぺ用に用意してる奴が何言ってるんだ」

月火「たまたまだよ。 偶然そこにあっただけ」

偶然そこにあるってのが、もう訳が分からない。

762 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:12:54.14 edH4LBuP0 683/882

「で、この後はどうするんだ?」

月火「うーん」

月火「とりあえず、お兄ちゃんの部屋に移動かな」

何だよ、そのとりあえずって。

「別に良いけどさ、僕の部屋はお前らの部屋以上に何もねえぞ」

火憐「確かになぁ。 けど、居心地が良いんだよ。 兄ちゃんの部屋」

火憐にとっては、どこでも居心地が良いのでは無いだろうか。

道路脇とかでも「居心地良いな、ここ」とか言い出しそうだし。

……さすがにそれは無いか。 いや、そうであって欲しくは無い。 我が妹が将来ホームレスにでもなりそうで。

763 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:13:25.50 edH4LBuP0 684/882

で、僕の部屋に移動したのだけれど。

火憐「……ううん」

「なんでこいつは寝てるんだ。 しかも僕のベッドだぞ」

月火「火憐ちゃん、寝付き良いからねぇ」

いやいや、そういう問題じゃねえだろ。

「こいつ、僕のベッドを自分のだと勘違いしてるんじゃねえだろうな」

月火「いや、そう思ってると思うよ」

月火「だってこの前「なんで兄ちゃんがあたしのベッドで寝てるんだよ」って言ってたし。 朝寝てるお兄ちゃんを見て」

「……はは」

764 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:13:51.84 edH4LBuP0 685/882

ついに阿良々木家の兄妹間にも弱肉強食の時代がやってきたか。

僕の私物は多分、根こそぎ無くなるのだろう。

「つうか、僕は今日どこで寝れば良いんだ。 また月火ちゃんと添い寝?」

月火「それでも別に良いけど。 三人で一緒に寝ない?」

それでも別に良いって、月火も随分と棘が無くなった物だ。

やっぱり丸くなったよなぁ。 こいつも。

「いや、三人で寝るって言っても無理だろ。 火憐ちゃんが一人で占領してるし」

月火「大丈夫だよ。 隅に押せば大丈夫」

お前、火憐の事を何だと思ってるんだ。

とか考えている間にも、月火は火憐の体をぐいぐいと隅に押す。

765 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:14:19.59 edH4LBuP0 686/882

月火「ほら」

「ほらって言われても……」

しばし眺める。

一番奥に火憐。 横に月火。

……無理だ!

色々と、無理だこれ!

「やっぱり、僕はソファーで寝てくる。 二人で仲良く寝とけ」

月火「良いじゃん良いじゃん。 兄妹仲良く寝ようよ」

「狭いだろうが。 僕は広々と寝たい気分なんだよ」

月火「じゃあほら、私は火憐ちゃんの上に重なって寝るから。 それなら大丈夫でしょ?」

いや、どう考えても大丈夫じゃないだろ、それ。

766 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:15:11.91 edH4LBuP0 687/882

「そこまでしなくても良いだろ。 てか、何で今日に限ってそんなしつこいんだよ」

僕がそう言うと、月火は窓の外に視線を移し、口を開く。

月火「そりゃ、そうだよ」

月火「明日、もしお兄ちゃんが殺されたらって思うと、そうなるよ」

ああ、そっか、そうだよな。

月火は、そういう奴だ。

767 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:15:50.92 edH4LBuP0 688/882

「馬鹿言ってるな。 お前のお兄ちゃんは不死身なんだよ。 月火ちゃんも見てるだろ?」

月火「……分かってるけどさ。 でも」

あー。

全く。 こうなってしまったら、僕も断るのが気が引けるじゃねえか。

「ったく、分かった分かった。 今日は三人で寝よう。 それで良いだろ?」

月火「うむ、よろしい」

何様だ。

で、結局流されるままに流されて、僕と火憐と月火の三人で寝る事となった。

768 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:16:23.74 edH4LBuP0 689/882

時間経過。

「月火ちゃん、起きてるか?」

月火「起きてるけど、何?」

「さっきは、ああ言ったけどさ」

「もし、僕が死んだら火憐ちゃんの事頼むぜ」

月火「嫌だ」

「……最後の頼みになるかもしれないんだから、そこは頷いとけよ」

月火「例え頷いたとしても、私は守らないよ? 知ってるでしょ、お兄ちゃん」

「そうだったな。 それもそうだ」

769 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:16:50.35 edH4LBuP0 690/882

横に居る月火は僕の方へ顔を向け。

月火「お兄ちゃんが死んだら、私も死ぬ」

聞く人が聞けば、すげえヤンデレだな、これ。

いや、殺して死ぬって言ってる訳では無いから、そうでもないか?

月火「ついでに、その時は火憐ちゃんも連れて行ってあげるね」

ヤンデレだ。

一番被害を受けているのは、間違い無く火憐だ。

770 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:17:17.54 edH4LBuP0 691/882

月火「ってのは冗談だとしてさ」

月火「……死なないでよね、お兄ちゃん」

と言われても、約束は出来無いよな。

それこそ、本当に死ぬかもしれないんだから、簡単に引き受ける事は出来無い。

「まあ、努力するさ」

月火「そっか。 頑張ってよね」

「お前らは心配だしなぁ。 やっぱり僕が死んだらお前らも死んでくれよ」

月火「恐ろしい提案だね……」

「いや、僕が死ななくても死んでくれよ」

月火「むしろ私が殺してあげるよ!」

「声でかいぞ、火憐ちゃんが起きたらどうするんだよ、全く」

月火「……誰の所為だと思っているんだろ」

771 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:17:48.65 edH4LBuP0 692/882

まあ、冗談はそこそこにして。

「僕がもし死んだらさ、泣くか?」

月火「泣くよ。 当たり前じゃん」

即答。

「……そっか。 なら、悪い事したよ」

月火「悪い事?」

「こっちの話だ。 気にするな」

春休みの事を思い出す。

あんな簡単に命を投げ出して、僕は何をしていたんだか。

あれから随分と時間は経っているけれど、火憐と月火は今も昔も、僕が死んだら泣いてくれたのだろう。

そう思うと、自分が無性に情けなくなり、どうしようも無く、この妹達に謝りたくなってしまう。

772 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:18:15.62 edH4LBuP0 693/882

月火「ま、良いや。 それよりお兄ちゃん」

月火が声を出さなければ、考えるに考えて、暗い気持ちになって僕は泣き出していたかもしれない。

兄が突然泣き出したら何だか心配させてしまうだろうし、月火が話し掛けてくれたのは幸いである。

月火「お昼に言っていた「お兄ちゃんが絶対に取らない方法」って、思い付いた?」

「あー。 そういや、全然考えて無かったな」

月火「だと思った。 実はさ」

月火「私、良い方法思い付いたよ」

遊んでいる最中でも、考えていてくれたのか。

僕は禁止ワードを言わない事に必死だったというのに。 いや、それでも言っちゃったんだけどね。

773 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:18:42.17 edH4LBuP0 694/882

「本当か? さすがはファイヤーシスターズの参謀さんだな」

月火「私を侮らないでよね、お兄ちゃん」

まあ、その内容自体にはあまり期待してないんだけれど。

月火「それで、その方法なんだけど」

そして月火は語る。

月火の考えた、僕が絶対に取らない方法を。

それを聞き、僕は。

「……はは、確かにそりゃ、僕が絶対に取らない方法だな」

774 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:19:12.66 edH4LBuP0 695/882

月火「でしょ?」

「それに、今月火ちゃんが言った方法の成功率を上げる物も、ある」

「だけど、それ以外の方法を取りたいってのが、正直な所かな」

月火「お兄ちゃんはそう言うと思ったよ。 でも、それ位しか無いと思うよ。 私は」

「かもしれない」

「……ふう。 分かった。 月火ちゃん、明日一緒にその方法を忍野に話してみよう」

月火「やけに素直に受け入れるんだね。 それは意外だなぁ」

「まあ、僕も成長してるって事じゃねえか?」

月火「いやいや、どうせ身長も私に抜かれるんだし、止まってるよ」

「身長の話なんかしてねえ!」

775 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:20:35.09 edH4LBuP0 696/882

そうだ。

その方法は、確かに納得できない物だ。

けど、僕には月火にも話していない方法。 最低の方法がある。

それを考えれば……今、月火が提示した案は最有力と言った所か。

月火「お兄ちゃん。 静かにしないと、火憐ちゃん起きちゃうよ」

「あ、ああ。 悪い悪い」

さて。

そうなってくると、月火も明日、あの廃墟へと連れて行くことになる。

結局連れて行くつもりではあったが、僕の予定では全てが終わった後の話だったんだけど。

いや、全てが終わる前、か。

まあ、大して状況は変わらないだろう。 どちらにしても。

776 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/10 13:21:11.52 edH4LBuP0 697/882

……そういえば。

忍野は僕が考えた方法について、珍しく猛反対と言った感じだった。

反対していると言うよりは、怒っているって言った方が近いのか?

けど、僕が折れないと分かったのか、最終的には承諾してくれたのだけれど。

「んじゃ、そろそろ寝るか」

月火「うん。 おやすみ」

「ああ、おやすみ」

そして、その日がやって来る。


第十六話へ 続く

783 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:21:21.44 NyxZy9W70 698/882

忍野「良いね。 それは確実に僕が予想出来ない方法だ」

開口一番。 珍しく静かに聞いていた忍野は、月火が出した案に賛成した。

忍野「しかし、兄妹でここまで違うと、どこで何を間違えたんだろうね? 阿良々木くん」

「うるせえ」

全く以って余計なひと言もあったのだが。

784 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:21:49.62 NyxZy9W70 699/882

月火「あの、忍野さん……で良いんですよね? 一つ、気になる事があって」

忍野「ほらー、阿良々木くんと違って、目上に対して言葉遣いもしっかりしてるし」

「僕に似たんだろうな」

可能性の一つを提示する僕。

月火「お兄ちゃんには似てない」

反対意見を唱える月火。

忍野「うんうん。 僕もそう思うよ、妹ちゃん」

賛同する忍野。

なんだこれ、僕帰って良いかな。

785 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:22:15.51 NyxZy9W70 700/882

てか、言葉遣いを言うのなら火憐もだろうが。 何で僕だけ責めるんだよ。

忍野「で、ええっと。 何かな?」

月火「あ、はい。 えっと、私の案を採用してくれるのは良いんですけど、大丈夫かなって」

忍野「……そう思うのも無理は無いか。 心配しているのは、成功するかどうかって事だよね」

月火「はい。 こんな私が出した案ですし」

こんな私って。

お前、絶対に何があっても地球の自転が止まったとしても、そんな事思ってねえだろ。

普段なら絶対に言わないであろう月火の言葉に思わず噴出しそうになってしまったが、なんとか堪える。

786 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:22:41.22 NyxZy9W70 701/882

忍野「確かに、そのままだと成功率は限りなく低い。 低いって言うか、ゼロだね」

月火「ゼロって、なら不採用?」

あー。

月火の奴、イライラしてるなこれ。

さっきまでの口調と、随分と変わった。

まあ、忍野の話し方にイライラしない方が無理か。

忍野「いやいや、そういう訳じゃない」

忍野「言っただろ。 そのままだとってね」

忍野「つまりはそこから、成功率を引き上げて行けばいい」

忍野「その辺りは僕が考えるよ」

忍野が考える。 いや、それってありなのか?

787 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:23:54.68 NyxZy9W70 702/882

「ちょっと待てよ、忍野」

忍野「ん?」

「忍野が考えたら、駄目じゃないか? それは予想されるんじゃねえのか?」

忍野「心配は要らないよ、阿良々木くん」

忍野「作戦の軸になっているのが、僕の思い付かない方法だろ? ならそこを変えない限り、あいつには予想できない」

忍野「まあ、予想は出来なくても予測はしているかもね。 けれど、この方法ならその予測を立てたとしても、本当に取ってくるとは思わないだろう」

ふむ。 なるほど。 確かに筋は通っているのかな。

788 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:24:22.06 NyxZy9W70 703/882

忍野「ところで、今の時間は……ええっと、何時だい?」

腕時計に目をやり、確認。

「十八時を少し回った所だな。 時間まで後七時間くらいか」

忍野「そうかい。 それだけあれば、なんとかなりそうだ」

忍野「妹ちゃん、僕は阿良々木くんと二人で話したい事があるからさ。 少し席を外して貰っても良いかい?」

忍野「隣に空いてる部屋があるから、そこで待っててくれ」

月火「……はい、分かりました」

月火さん、月火さん。 台詞と顔が噛み合って無いです。

そんな露骨に嫌そうな顔するなよ。 人見知りかお前は。

が、さすがの月火も断る事はせず、鞄を持ち、隣の部屋へと移動する。

789 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:24:47.68 NyxZy9W70 704/882

そんな月火が部屋から去ったのを確認すると、忍野は再び口を開いた。

忍野「阿良々木くん。 昨日言っていた事、本当にやるのかい?」

僕が忍野に頼んだ事。 だろう。

「言っただろ、忍野。 僕は考えを変えないし、それが一番良いと思うんだ」

忍野「いつもの僕なら「それはやめた方が良い」とか「おすすめできない」って言うだろうけどさ」

忍野「今回に限ってはこう言うよ」

忍野「それはやめろ」

790 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:25:14.14 NyxZy9W70 705/882

いつものふざけた感じは無く、僕の目を見て、忍野は言った。

それは恐らく、警告。

「そうは言ってもな、忍野。 僕がやろうとしている事は間違いかもしれない」

「けど、それであいつが救われるなら、僕はどんな事でもするつもりだ」

「それが何より、あいつの為だとも思うしな」

忍野「……そうかい」

忍野「まあ、良いよ。 ぶっちゃけた話、このまま阿良々木くんが意見を通すつもりなら、張り倒してでも止めたんだけどさ」

だから昨日はあんなに簡単に引いたのか。 確かに何か妙だとは思ったんだよ。

忍野「君の妹ちゃんと会って、話して、少し気が変わったよ」

791 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:25:39.28 NyxZy9W70 706/882

「何だ? 賛成してくれるのか?」

忍野「賛成はしない。 むしろ反対ってのは変わらない」

忍野「阿良々木くんも、少し痛い目を見て学べば良いって考えに変わっただけさ」

忍野が言っている言葉の意味は、深くは分からない。

だけど、僕の案には協力をしてくれるのだろう。

忍野「ま、そう言う訳で用意はしておくよ」

「……分かった。 頼んだぞ」

忍野「ああ、嫌々だけどね」

792 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:26:09.26 NyxZy9W70 707/882

忍野「ま、暗い話はやめよう。 阿良々木くんはこれから殺されるかもしれないんだし」

「縁起でも無い事を言うんじゃねえ」

忍野「ははは。 ま、妹ちゃんのおかげでなんとかなりそうだね」

忍野「少し考えを練るから、妹ちゃんと話してきなよ。 もしかしたら」

忍野「最後のお話になるかもしれないんだしさ」

だから、縁起でも無い事を言うんじゃねえって。 ったく。

そんな事を思いながら、いつもの様に笑う忍野に見送られ、部屋を後にした。

793 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:26:44.68 NyxZy9W70 708/882

月火「お兄ちゃん」

月火「お話は終わったの?」

部屋に入るとすぐに、月火が声を掛けてくる。

「ああ、一応な」

「てか、お前何してるんだ?」

月火は椅子に座り、何やらテーブルの上にノートを広げている。

夏休みの宿題……じゃあねえよな。 こいつはもう終わらせているだろうし。

あれ、つうか僕、宿題何もやってないじゃん。 やっべえ。

794 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:27:12.58 NyxZy9W70 709/882

月火「ずばり、作戦ノートだよ」

「作戦ノート?」

月火「そ。 あの化物に勝つ為、お兄ちゃんがどんな動きをすれば良いのかってのを書いてるんだ」

「へえ、どれどれ」

月火のノートを覗き込む。 うわ、何だコレ。

「月火ちゃんって、絵心無かったんだな」

月火「何か言った?」

「月火ちゃんって、絵心あったんだな」

月火「それもそれで、微妙に失礼だね……」

「月火ちゃんって、絵心ありまくりだな」

月火「馬鹿にしてるよね、それ」

795 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:27:43.80 NyxZy9W70 710/882

「つうか、昨日と同じくだりじゃねえか? これ」

月火「確かに、なんか身に覚えがあるやり取りだったよ」

「まあ、少しは休んどけよ。 月火ちゃん頼みでもある訳だし」

月火「大丈夫だって。 そんな心配は無用だぜ」

「なんの真似だよ」

月火「火憐ちゃんの真似」

「……そう言われてみれば似ているかも」

月火「でしょ? 毎日練習してる甲斐があったよ」

毎日練習しているのかよ。 無駄な努力だな。 何の為にもならないじゃねえか。

796 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:28:13.12 NyxZy9W70 711/882

「ん? って言うと、あれもその作戦ノートとやらか?」

月火の近くに置いてある鞄。

その中に、何冊も同じ様なノートが入っている。

月火「ああ、あれもその一部だね。 まあ、ボツ案なんだけどさ」

「へえ、見ていいか?」

月火「良いけど、全部お兄ちゃんが死ぬバッドエンドだよ?」

「見ないでおこう」

月火「それが良いね」

僕が死ぬエンドとか想像しないで欲しい。 せめてバッドエンドでも良いから、僕を生かしておけ。

797 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:29:09.29 NyxZy9W70 712/882

月火「それにしても」

「ん?」

月火「なんか、未だに信じられないなぁ。 夢を見ている気分だよ」

「僕もそうだよ。 つうか、信じられない度で言ったら、僕がこの体になった時の方だけどな」

月火「ふうん。 ああ、そっか!」

「どうした?」

月火「お兄ちゃんが自分探しの旅って言って、春休みに居なかったのってその所為かぁ」

鋭いなぁ。 それだけに、僕の考えも見破られてそうで。

月火「ところでお兄ちゃん」

「あん? 今度はなんだよ」

798 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:29:41.13 NyxZy9W70 713/882

月火は笑顔から一変、無表情で、僕に言う。

いつもの調子から、ガラリと変わって。

月火「話す気無いでしょ。 お兄ちゃんの体の事」

「……へ? なんつった、月火ちゃん」

月火「だから、お兄ちゃん。 私にその体の事、話す気は元々無かったでしょ?」

あ?

ばれていた?

いつからだ。

いや、それを考えるのはまだ早計か?

余計な事は考えるな。

それよりも先に確認しておくべき事、月火は『その先にある事にも気付いているか』だ。

799 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:30:10.42 NyxZy9W70 714/882

「何言ってるんだよ、月火ちゃん。 僕はしっかりと」

月火「嘘だよ。 そんなの」

月火「お兄ちゃんの嘘ってさ、凄く分かりやすいんだよ。 だからすぐに分かる」

笑うというよりか、微笑むと言った方が正しいだろう。 そんな顔で、月火は言った。

「……そっか」

月火「それには、理由があるんだよね」

「ああ、そうだ」

僕の失敗だ。

月火の頭の良さを少し、侮っていた。

800 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:30:41.79 NyxZy9W70 715/882

月火「言い辛い事?」

「……そうだ」

月火「そっか」

「悪い、月火ちゃん。 騙す気は、無かったんだよ」

月火「知ってるよ。 お兄ちゃんの考える事なんて、私から見れば全部分かるもん」

月火「どうせそれも、私の為なんでしょ?」

黙って、頷く。

怒るかな、こいつは。

月火「そっか、じゃあ良いや。 変な事言ってごめんね」

怒らない、か。

801 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:31:55.67 NyxZy9W70 716/882

月火「でも、お兄ちゃん」

「……なんだ」

月火「ファイヤーシスターズの参謀を侮っていると、痛い目を見るからね」

月火「お兄ちゃんの秘密も、いつか暴いてあげよう!」

先程までの雰囲気に戻り、元気良く月火は言い放つ。

「はは、そうか。 用心しておくよ」

一昨日の夜、月火は僕に「お兄ちゃんの優しさは、自分自身を傷付けている」と言った。

そして、僕が「お前達は優しすぎる」と言った時には「優しいのはお兄ちゃんだよ」と言った。

802 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:32:31.61 NyxZy9W70 717/882

とんでもない。

僕なんかよりもよっぽど、こいつは優しい。

僕の優しさと言う物が、誰かを傷付ける物だとすると。

月火の優しさは『誰かを癒す』優しさなのだろう。

だから、だからこそ。




僕は、月火を守りたいと思うのだ。

803 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:32:59.47 NyxZy9W70 718/882

怪異なんかに、関わらせたくは無いと、思うのだ。

それが全てで、それ以上でも以下でも、無い。

月火「お兄ちゃん? 大丈夫?」

「うお! びっくりした……」

考えに集中しすぎて、月火に声を掛けられている事に全然気付かなかった。 悪い癖だなぁ。

月火「さっきのおっさん、私達の事呼んでるみたいだけど」

ん。 ああ、確かになんか声が聞こえる。 場所が分かってるんだから、歩いて呼びに来れば良いのに。

つうか、月火の奴も大概だな……

当人が居ない所で、おっさんって。

「おし、じゃあ行くか」

月火「ほいほい」

804 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:33:42.42 NyxZy9W70 719/882

僕と月火は忍野の部屋に入ると同時、声を掛ける。

「わりい、待たせたなおっさん」

月火「すいません、おっさ」

月火に足を踏まれた。 こいつ、踵で踏む物だから結構痛いんだよ。

ていうか、最初に言い出したのはお前だからな。

忍野「遅いよ。 待ちくたびれたじゃないか」

忍野「しかし、何だろうね」

忍野は僕と月火が影で何て言ってるのか知らないんだろうなぁ。 実に機嫌が良さそうだ。

805 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:34:40.13 NyxZy9W70 720/882

「ん?」

忍野「こう見ると、君達は兄妹って言うよりは、カップルって感じが近いよね」

馬鹿かこいつは。 何を言ってやがる。

月火「そ、そんな事無いですよ」

それで、何照れてるんだよ、お前は。

忍野「いやいや、だってさ。 身長とか似たような物だし」

忍野「妹ちゃんの方が、まあ小さいけどね。 阿良々木くんがいつもチビチビって言うだけはあるよ」

806 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:35:08.71 NyxZy9W70 721/882

月火「……あん?」

僕の方を睨む月火。 やめてください。

「言ってねえだろ! 僕のありもしない話をするんじゃねえ!」

忍野「あれ? そうだったっけ。 んじゃあ、僕のイメージの話だったかもしれないなぁ」

月火「……ちっ」

こわ。 月火さん、その舌打ち多分忍野にも聞こえてますよ。

忍野「ははは。 冗談冗談」

忍野「それじゃ、本題に入ろうか」

807 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:35:43.29 NyxZy9W70 722/882

忍野「さっきが十八時だったから、今は二十時くらいかな? 後五時間って所だね」

忍野「構想は殆ど出来ている。 後は君達が頭に入れて、うまくやれるかどうかだよ」

忍野「それじゃ、説明を始める」

忍野が考えた作戦は、とても単純な物であった。

単純であるが故に、それしか無いと思わせる方法。

要所要所で「頑張る」とか「なんとかする」って言葉が使われていたのには不安を覚えずには居られないが、事実そうするしかないので、僕も月火も首を縦に振るしかなかった。

808 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:36:13.29 NyxZy9W70 723/882

そんな作戦を頭の中で整理し、記憶する。

月火も真剣に耳を傾け、内容を頭に押し込んでいる様に見えた。

この作戦の鍵、支柱は月火でもあるのだから、プレッシャーは結構な物だろう。

「大丈夫か? 月火ちゃん」

月火「私は大丈夫だよ。 それより心配なのはお兄ちゃんだ」

「ああ。 いつも心配ばかり掛けて悪いな」

月火「良いよ。 お互い様って事で」

809 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:36:40.76 NyxZy9W70 724/882

それから、僕と月火は一度家に帰り、月火は部屋に荷物(多分、さっきの作戦ノートだろう。 結局何の役にも立たなかった)を置きに行く。

僕はというと、火憐と軽く話をして、出掛ける旨を伝えた。

火憐は「あたしも付いて行く。 問題事だろ?」と言っていたが、勿論連れて行く訳にもいかないので、その辺りはなんとか月火に宥めて貰ったのだけれど。

火憐と月火がどんな話をしたのかは、分からない。

あいつらなりに、納得のいく話し合いだったのは確かだとは思うが。

僕と月火が家を出る時には、火憐はすっかり気持ちが変わっている様で「兄ちゃん、月火ちゃん、いってらっしゃい」との言葉を贈ってくれた。

810 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:37:12.05 NyxZy9W70 725/882

そして。

時刻は二十五時。

場所は北白蛇神社。

忍に血を吸わせ、吸血鬼化。

観客は忍野と忍と月火。

大勢居てもあれなので、丁度良いくらいだろう。

手に心渡は持たず、素手同士の対決。

今日は月も綺麗に見える。

故に、天気も良い。

やがて、その時がやってくる。

811 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/11 13:37:38.04 NyxZy9W70 726/882

「よう」

目の前の奴に向かい、声を掛け。

「お待たせ。 阿良々木くん」

そいつも、返事をする。

「遅かったな、待ちくたびれたぞ」

僕はそいつにそう言い放ち。

「僕は時間にして四十八時間も待ってるんだぜ?」

そいつはそう返す。

「そりゃ、ご苦労様だな」

「ああ、構わないよ。 もう時間が来たんだし、過去の事なんて気にしないさ」

「そうか。 それじゃあ決着を付けよう」

「そうだね。 精々足掻いてくれよ、阿良々木くん」

それではそろそろ、化物同士のバトルパートと行こうか。


第十七話へ 続く

818 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:00:52.08 wQ9l4oiC0 727/882

「なんだい。 今日は観客が大勢居るんだね」

「たった三人だぜ。 恥ずかしがり屋か?」

「まさか。 見物料でも請求しようかと思っただけだよ」

「はっ。 どっかの詐欺師みたいだな」

「懐かしいなぁ。 とは言っても、僕自身は会ってないんだけどね」

「彼だったら多分。 こう言うよ」

「阿良々木、実に勿体無い。 お前の今日の見世物は、一人一万は取れるぞ」

「何と言っても、化物同士の見世物なのだから」

「お前は何の為に、無駄に戦う? 金も貰えず、今日の戦いで得る物は何だ?」

「こんな感じかな?」

819 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:01:42.83 wQ9l4oiC0 728/882

「言いそうな台詞だな」

まるで本人が目の前に居るかの様な、そんな錯覚を与えるほどに。

「で、何だっけ。 何の為に戦うかって?」

「決まってるだろ。 月火ちゃんの為だ」

「そうかい。 それは君に利益があるのかい?」

「ねえよ。 僕は多分」

「人の為じゃないと、戦えない」

「だろうね。 君はそんな奴さ」

820 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:02:12.64 wQ9l4oiC0 729/882

「唯一自分の為に戦ったのは、あの春休みくらいかな?」

「とは言っても、あれも別視点から見れば、忍ちゃんの為の戦いだったのかもね」

「どうだかな。 少なくとも僕は、自分の為に戦ったと思っているよ」

だから、だからこそ。

僕はもう、自分の為に戦わない。 戦えない。

821 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:02:43.28 wQ9l4oiC0 730/882

「この前、殴りあった時」

「あの時言っていた言葉の意味は、分かったみたいだね」

「僕が願われた事について」

「ああ、お前も随分と性格が悪い」

「まあ、忍野の性格だから、仕方ないんだろうけどさ」

「あんまそう言ってくれるなよ。 君の後ろで見ている彼が可哀想じゃないか」

「問題ねえよ。 あいつは一々そんなのは気にしない」

「はは、そうだったそうだった」

「けど、君が殺されそうになっている原因とかは、全部分かったんだろ?」

「紛れも無く、今君の後ろでのほほんと見ている彼女が原因なんだぜ?」

822 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:03:16.11 wQ9l4oiC0 731/882

「いいや、違うな」

「原因は僕だよ。 僕の頭がもう少し良ければ、こんな事にはならなかった」

「火憐ちゃんの時も、月火ちゃんの時も、僕が気付くのが早ければ、もっと早めに対処出来ただろうさ」

「そりゃ、あいつらも自業自得の部分はあるだろうさ。 けどそれ以上に、僕の所為なんだよ」

「それだけの話だ」

「阿良々木くんは、どうやら自分を責めるのが趣味なのかな。 どんな時でも君は自分を責める」

「いつか壊れるぜ。 そのままだと」

「いつ如何なる時でも他人に責任を押し付けない。 自分を責め、それを肯定する」

「それはつまり、自分自身を否定する事だ」

「そして、それを続ければいつかは自分を保てなくなる」

「それでも君は、自分が悪いと言うのかい?」

823 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:03:54.49 wQ9l4oiC0 732/882

「さあ? 難しい話は分からねえな。 けど、これだけは言える」

「家族や仲間を守らずに責任を押し付ける方が、よっぽど自分が保てなくなりそうだよ。 僕からしたら」

「それと、これから先の心配をしてくれるのか? お前の予定だと、僕は今日ここで死ぬんだろ? それとも何だよ、降参でもしてくれるのか?」

「はは、良い感じに狂ってるよ、君は」

「けれどまあ、悪い方の狂い方では無いと言えるかもね」

824 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:04:25.73 wQ9l4oiC0 733/882

「二つ目の言葉については、僕の失言だ」

「言われてみればそうだね。 君の将来を心配する必要は皆無だった。 ごめんごめん」

「そうか。 それじゃあそろそろ、ぐだぐだ話し合いを続ける必要もねえな」

「あんまり無駄話を続けていると、観客も寝ちまうからさ」

「分かったよ、阿良々木くん。 それじゃあ」

----------------------------始めようか。

825 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:05:02.66 wQ9l4oiC0 734/882

言葉と同時、空気が変わる。

どう来る?

正面から? それとも横から?

忍野は確か「足を見ろ」と言っていた。 とは言われても、足ばっか見てもいられない。

来るとしたら……

「ッ!」

化物は身を若干屈め、上に飛ぶ。

おいおい、上かよ!

826 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:05:38.32 wQ9l4oiC0 735/882

足を見るもくそもねえな、けれども。

落ち着け。 相手は飛んでいる、上空では動きなんてまともに取れやしない。

それなら、まずは回避。 間違っても防御は駄目だ。

判断すると同時、その場から離れる。

そして、化物が地面に着地すると同時、蹴り。

「うおらっ!」

さすがの忍野でも、着地と同時には先日の様な真似は出来ず、回避行動。

当たれば万々歳だったのだけれども、さすがにそう上手くもいかねえか。

827 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:06:20.13 wQ9l4oiC0 736/882

「なんだい。 前よりも多少は成長してるね」

「とは言っても、今のままじゃ僕に勝つのは不可能だよ。 阿良々木くん」

「一々喋らないと気が済まないのかよ。 けど、今のままじゃってのはそうかもな」

「大方「阿良々木くんが絶対に取らない方法」ってアドバイスでもあったんだろ? 僕に勝てる方法としたら、それ位しか無いしね」

やはり、ばれてるか。

「ああ、そうだよ。 でもだからといって、お前は結局それが予想できない。 そうだろ?」

「まあ、そうだね。 しかし可能性としては考えられるんだよ」

「例えば……阿良々木くんが実は応援を呼んでいて、今からここに他の専門家がやってくる」

「これは無いだろう。 君はそれは絶対にしない」

828 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:07:25.43 wQ9l4oiC0 737/882

「はは、どうだろうな。 お前がそう思うから、敢えて僕はその選択を取っているかもしれない」

「かもね。 まあさ、何が言いたいかって言うと」

「ありとあらゆる可能性は考えてある。 君が僕に勝つのは無理だよ」

「って事だ」

そう言い捨て、化物は距離を詰めてくる。

「……っ!」

マズイ。 話に気を取られ過ぎていた。 初動に反応出来ていない。

つうか、忍野の奴はまだ準備が終わらないのかよ。 こんなんじゃ一秒先には死んでるかもしれないぞ、僕。

そして。

メキ。 なんて不快な音が耳に入る。

829 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:07:54.42 wQ9l4oiC0 738/882

見ると胸のど真ん中に、化物の腕がめり込んでいた。

「がはっ……!」

くっそ、意識が飛びそうだ。

足元も安定しない。 たった一発のパンチで、視界まで揺れてやがる。

だけど、倒れる訳には行かない。

火憐風に言うのなら、つまりはベストコンディションって事だ。

いやはや、あいつすげえな……

「おいおい。 もう死にそうじゃないか。 大丈夫かい?」

化物は腕を引き抜き、少しだけ距離を取りながら言う。

830 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:08:23.64 wQ9l4oiC0 739/882

「……ふう……ふう……はっ。 心配なんて、いらねえよ」

「……つうか。 それよりも、精々自分の心配をする事だな」

「減らず口だねぇ。 でもさ、そんな状態じゃあ次の攻撃も避けられないと思うけど、良いのかい?」

「こうして、君が回復するのを待っている僕の優しさも、少しは理解してもらいたいよ」

「んな物、いらねえっつってるんだ。 お前じゃ僕には勝てない」

「それは何かな。 守るべき物があれば、強くなれるとかそういう話かい?」

「確かに、妹ちゃんは守られているんだろうね。 本来の望みから掛け離れた願いを叶えられそうになっている訳だから、それを阻止しようとしている阿良々木くんにさ」

「まあ、僕が君の立場だったら、真っ先に原因たる妹ちゃんを排除してるよ」

831 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:09:14.25 wQ9l4oiC0 740/882

「お前には分からないよ、一生な」

「はは、そうだろう。 だけどさ」

「だったら笑える話だと思わないか? 化物が守っている物が、金銀財宝では無く、ただの化物なんだから」

「阿良々木くんはそう思わないのかい? 君の妹は、化物なんだぜ」

「ちげえよ。 僕が守るのは、金銀財宝でも化物でもない……ただの妹だ」

「ぐだぐだ喋ってないで、さっさと来いよ。 そうすればどっちが強いかなんて、分かるだろ」

「そうかい。 じゃあ、遠慮無く」

832 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:09:44.18 wQ9l4oiC0 741/882

本来なら、時間を稼ぐべきなのだ。

けれど、そうする事が出来なかった。

僕の事は、別に何と言われても良い。 それだけの事をしたのだから。

だが、僕の妹の事を化物だと言われて、黙っていられるほど僕の器は広くない。 それだけは、許せない。

833 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:10:13.15 wQ9l4oiC0 742/882

そして、言葉通り、忍野の姿をしたそいつは目の前まで距離を詰める。

駄目だ、体が動かない。

立っているだけでも精一杯だ。 忍には限界すれすれまで血を吸わせたのだが、それでも回復が追いつかない。

そんな時。 次の瞬間には恐らく死んでいるであろうと思った時。

忍野「阿良々木くーん! 準備オッケーだぜー!」

なんて気の抜けた声が響く。

いやいや忍野。 合図を出すにしてもだな、もうちょっと格好良く決めようぜ、本当にさ。

834 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:10:39.78 wQ9l4oiC0 743/882

「ん?」

と、化物の動きは一瞬だけ止まり、顔を忍野の方へと向けた。

今だ。

これを逃したら、チャンスは無い。

動け、動け、動け。

「うぉおおおおおおお!!」

化物の首に腕を回し、足までも絡ませる。

そしてそのまま、地面に倒れ込む。

「くっ……」

一瞬だけ焦りを見せたが、すぐにそれも消える。

「ははは。 おいおい、阿良々木くんはそういう趣味だったのかい? 意外だなぁ」

835 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:11:52.71 wQ9l4oiC0 744/882

以前、余裕を見せる化物。

恐らく、こいつはこれすらも予想していた事なのだろう。

「この後は、あの専門家任せって訳か。 だけどさ、阿良々木くん」

「あいつがここに来るまでに、僕は君を殺して動けるまでにはなるんだぜ?」

「……そうかよ、それは驚きだ」

「けどよ、お前は一つ見落としてるぜ」

「見落としている? 何をだい?」

836 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:12:30.25 wQ9l4oiC0 745/882

「確かに、これは僕が絶対に取らない方法だよ」

「そして、今この状況でも、絶対に取らない方法だ」

「だけどな、化物野郎」

「今までの事があって、今があるんだ。 だから僕はこの方法を取った」

「今しか見てないお前じゃ、僕達には勝てないんだ」

「なるほど。 その言い方からすると、そういう事なんだろう」

「当然、それも予想しているさ。 だけど僕はそれを絶対に取らないと思っている。 今こうして、この状況になってもだよ」

「……君はその後の事を考えているのかい。 今でも今まででも無く、先の事だ」

「考えてあるよ」

「僕は-------------」

837 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:14:08.43 wQ9l4oiC0 746/882

小さな声で、目の前のこいつにしか聞こえない様に。

「ははは、おいおい。 それはやめた方が良いと思うぜ。 あそこに居る僕もそう言ってただろ?」

「言われたな。 どれが正しいのか、間違っているのかは分からない。 だけど」

「それであいつが救われるのなら、僕はどんな方法でも構わない」

「そうかい。 まあ良いさ」

「どうやら僕の、負けみたいだ」

「ああ。 じゃあな、化物野郎」

「それじゃあ」

「月火ちゃん、やってくれ」

背中に居る月火に、僕はそう声を掛け。

月火は無言のまま、心渡で僕もろとも、化物を突き刺す。

僕がそのまま意識を失う時。

「……精々、頑張れよ、阿良々木くん」

少しずつ消えていく意識の中、最後にドッペルゲンガーはそう言った。

838 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:14:49.52 wQ9l4oiC0 747/882

以下、回想。

今日の夜、廃墟での会話。

「それじゃあ、作戦会議と行こうか」

「まず、大筋は妹ちゃんの作戦で大丈夫だと思う」

「阿良々木くんが動きを止めて、妹ちゃんが止めを刺すって方法だね」

「妹ちゃん自身の手を汚れさせるなんて、阿良々木くんなら確かに取らない方法だよ」

忍野は言い、僕に顔を向ける。

こいつは『その後の事』を知っている筈なのに、いやらしい性格だよな、全く。

839 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:15:16.26 wQ9l4oiC0 748/882

「忍野。 その止めを刺す方法なんだけどさ」

「忍の刀、心渡を使おうかと思うんだ」

「……うん。 僕もそれでいこうかと思ってる。 あのブレードなら、一撃でも入れれば怪異その物であるあいつは死ぬだろうさ」

「だけど、それなりには阿良々木くんにもダメージはあるぜ? 多分意識はぶっ飛ぶだろうね」

「そうなのか? 前に体に仕込んだ時は、そうでもなかったけど」

「いやいや、別に怪異性があるからって話じゃないよ。 阿良々木くんなんて、殆ど人間なんだし」

「僕が言っているのは、単純にダメージの問題だ」

「それまでのやり取りで、それなりに負傷はしているだろ?」

ああ、そういう事か。

840 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:15:50.99 wQ9l4oiC0 749/882

「別に成功していれば、僕は意識が吹っ飛ぼうと、腕が吹っ飛ぼうと構わない。 それで終わるんだったらな」

「そうかい。 妹ちゃんは、どう思う?」

「私は、お兄ちゃんがそれで良いって言うのなら、やります」

「はは、信頼されてるね。 暦お兄ちゃん」

「それは千石だ。 後お前がそんな呼び方しても寒気しかしないから、やめろ」

「なんだい。 弟キャラでいこうと思ったのに。 ノリが悪いなぁ」

どう頑張っても、お前はおっさんキャラにしかなれねえよ。

「私はどう? 暦お兄ちゃん」

「やめろ! 月火ちゃんにそんな呼ばれ方すると、なんか背中が痒くなる!」

「ひどいなぁ。 まいいけどさ」

841 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:16:21.28 wQ9l4oiC0 750/882

「はいはい。 閑話休題。 話を戻そう」

忍野が手を叩き、再度話し始める。

「で、問題はタイミングだ」

「まあ、ばれない様に準備をするのは結構しんどいからね。 それまでは阿良々木くんには気合いでなんとか持ち堪えて貰わないと」

「気合いかよ……」

「一応、足運びを見ていれば良いと思うよ。 それで大体は動きが読めると思う」

「分かった。 なんとか頑張れって事だろ?」

「うん。 その通り」

「で、妹ちゃんに対する合図は僕が出す。 妹ちゃんが配置に付いたら、阿良々木くんの方にも僕が合図を出す」

「そうしたら、奴の動きを止めてくれ」

842 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:16:49.88 wQ9l4oiC0 751/882

「動きを止めるって言われてもな……具体的には、どうやって?」

「うーん。 抱きついて押し倒せば良いんじゃない? 阿良々木くん、得意そうだし」

「僕を何だと思っているんだよ! それにおっさんにそんな事をする趣味は無い!」

「妹である私にはキスしたり、おっぱい揉んだりするのに? 同じく妹である火憐ちゃんの事を押し倒したり、歯磨いたりしてるのに?」

「あ、あはは」

「ま、とにかくそんな感じで行こう」

「他にもやる事はあるけど、それは僕の方でやっておくよ。 君達は今の事だけ、頭に入れておいてくれ」

843 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:17:17.16 wQ9l4oiC0 752/882

回想終わり。

目が覚める。

ああ、やはり忍野の言う通り、意識を失っていたらしい。

辺りはまだ暗いし、時間はそれ程経っていないのだろうか?

まだはっきりとは見えないけれど。

突然。

ぽたり、と顔の上に雫。

844 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:17:45.56 wQ9l4oiC0 753/882

月火「お、お兄ちゃああああああああああん!」

おいおい、キャラ崩壊してるぞ月火。

月火「し、死んだかと思った……私の所為で、もしそうだったら、私」

「……馬鹿言ってるな。 月火ちゃんに殺される程ヤワじゃねえんだよ」

月火「でも、でもさぁ……」

涙目月火。

ありっちゃありだな、これ。

僕がそんな新しい可能性を見出しているとは知らず。

それからしばらくの間、僕に抱き着き、月火はわんわんと泣いていた。

845 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:18:13.84 wQ9l4oiC0 754/882

時間経過。

忍野「そろそろ帰ろうか。 まずは一旦、僕の家で良いかな?」

素直に廃墟って言えよ。 僕の家ってなぁ。

「そうだな。 月火ちゃん、歩けるか?」

月火「大丈夫だよ。 というか、その質問って私がお兄ちゃんにするべきじゃない?」

確かに、言われてみればその通り。

今日はどうやら月火も歩けそうではあるし、実際の所、僕はフラフラである。

まあ、けれども強がりたいのだ。 この妹の前では。

846 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/12 17:18:46.65 wQ9l4oiC0 755/882

「僕は大丈夫だよ。 それじゃ、行くか」

自然と、僕と月火は手を繋いで歩く。

月火の手は暖かく、僕の手は恐らく、冷たい。

そして、もうすぐで、この物語も終わりである。


第十八話へ 続く

853 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:01:34.66 iFn+j3S00 756/882

現在は、忍野の家。

家というよりかは、廃墟。

いや、むしろ廃墟でしかない。 家という単語を使うのは、かなり違う。

忍野「妹ちゃんは?」

忍野がそう、僕に尋ねてくる。

「今は隣で休ませてるよ。 あいつも疲れただろうし」

忍野「そうかい」

忍野は言いながら、窓の外に視線を移す。

854 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:02:03.43 iFn+j3S00 757/882

「しかし、我があるじ様よ」

「本当に、それをやるのか?」

忍は僕に向け、言う。

「ああ、やるよ」

「儂も賛成は出来んぞ。 そこのアロハ小僧同様、な」

「忍はそう言うと思った。 だけど、それで月火ちゃんが救われるなら、良いんだ」

一般的に見ても、間違っている事なのかもしれない。

だが、それで月火が怪異と関わらなくなるのなら、僕は迷わずやる。

「僕は」

「月火ちゃんの、記憶を消す」

855 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:02:32.31 iFn+j3S00 758/882

「……お前様よ」

忍野「良いよ、忍ちゃん。 自分で経験しなきゃ分からない事もあるだろうさ」

忍野「ほら、阿良々木くん。 君に頼まれていた物だ」

そう言いながら、忍野が手渡してくるのは布に包まれた花粉。

火憐の時の、あの怪異が残した花粉。

忍野「下準備は済ませてある。 後はそれを口に当てて吸わせれば良い」

忍野「ここ数日の事は綺麗さっぱり忘れる筈だ。 だから、今回の怪異……ドッペルゲンガーに纏わる事は、全て忘れられるだろうね」

856 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:03:06.56 iFn+j3S00 759/882

「悪いな、忍野」

怪異その物を忘れられれば、そこにあるという事にも気付かなくなる。

つまりは、関わらなくなれる。

それが月火にとっても、一番良い方法なのだ。

忍野「構わないよ。 それより一つ、聞いても良いかな?」

「ん? 何だよ」

忍野「まず、前回の怪異の時はでっかい方の妹ちゃんの記憶が消される事に、阿良々木くんは反対だったろ?」

「うん。 それは間違いないさ。 あの時は、そう思っていたから」

忍野「あの時は、か。 それで、今は違うと?」

857 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:03:53.00 iFn+j3S00 760/882

「ああ。 怪異その物を忘れれば、もう関わらなくて済むかもしれない。 生涯ずっとって訳にはいかないかもしれないけどさ、少なくとも知ったままよりは、関わらなくて済むだろ」

「だから、忍野のあの時の選択は正しかったんだろうな」

忍野「どうだか。 あれはなるべくしてなったんだよ。 忘れるという事も、怪異の特性の一部だったからさ」

「でも結果的に、火憐ちゃんは怪異と関わらずに済んでいる。 それなら、同じ様に月火ちゃんもなるだろ?」

忍野「そうだろうね。 それは間違いない」

忍野「けどそれが、阿良々木くんが言う「妹達を守りたい」って事なのかい?」

「少し、違うかな。 守りたいって言うよりは、守りたいって思う状況を作りたくない。 が正しいのかもな」

忍野「そうか。 だからこその、今回の記憶を消すって事なんだね」

858 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:04:20.97 iFn+j3S00 761/882

「そうだよ。 僕が思っているのは、それだけだ」

「……話は、もう良いか? あんまり待たせるのもあれだし」

忍野「うん。 もう止めはしない。 僕から言う事はそれくらいかな」

「分かった。 それじゃあ、ちょっと行って来るよ」

そのまま部屋を出ようとする僕に、後ろから声が掛かる。

忍野「ああ、一つだけ言い忘れていた事があった」

「ん? 何だよ」

859 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:04:47.26 iFn+j3S00 762/882

忍野「どんな結末になったとしても、君はしっかりそれを受け入れるんだ。 自分の行動に、責任を持ってね」

「そんなの分かってるさ」

忍野「なら、良いよ。 行ってきな」

860 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:05:39.88 iFn+j3S00 763/882

そして、僕は月火が居る部屋へと向かう。

ゆっくりと扉を開け、部屋に入るとすぐに、椅子に座る月火が目に入った。

「月火ちゃん」

月火「……お話は終わったの? って、これなんかデジャヴだ」

少しだけ眠そうに言う。 もう二時を回っているし、月火の年頃ではさすがにキツイか。

「僕の話、聞いてくれるか」

月火「うん。 良いけど、なんの話?」

「月火ちゃんは、気付いていたんだろ? 僕が何かを考えているって」

861 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:06:27.61 iFn+j3S00 764/882

月火「……まあ、なんとなくはね」

言い辛そうに。 そして少しだけ悲しそうに、月火は言った。

「そっか。 さすがはファイヤーシスターズの参謀だな」

月火「そりゃそうだよ。 お兄ちゃんは参謀を侮りすぎだ」

「……だな」

そして、僕は告げる。 妹に。

「月火ちゃん」

「今から、月火ちゃんの記憶を消す」

862 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:06:56.47 iFn+j3S00 765/882

この時、僕が予想していたのは、パニックになる月火だったのだけれど。

月火「そっか。 その手で来たかぁ」

月火「けど、良いよ」

月火は何でも無いように、そう言ったのだ。

あっさりと、僕の行為を肯定したのだ。

何でそうなる? おかしくねえか?

「なあ、もっと驚いたり、他のリアクションを取るべきだろ。 こんな事言われてさ」

月火「何で?」

「何でって、お前。 いきなりそんな事言われて、驚かないって方が無理もあると思うんだけど」

863 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:07:23.41 iFn+j3S00 766/882

月火「いや、一応は驚いてるよ。 けど、別に良いかなって」

「記憶を消すんだぞ? 別に良いかなで済む問題かよ」

多分、僕は月火に怒って欲しかったのかもしれない。

そうすれば、多少は気が楽になると思うから。

妹の記憶を消すってのは、良い気分では無い。

いや、そもそもそんな事、誰が誰に対してでも進んでやりたい事では無いだろう。

だけども、月火は怒らない。 いつもはすげえ怒りやすいのに。

864 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:08:17.04 iFn+j3S00 767/882

月火「それで済む問題だよ。 だって、お兄ちゃんが考えたんでしょ?」

「……そうだけど」

月火「なら、良いかなって思うんだよ。 前に言ったじゃん、お兄ちゃんのする事はいっつも正しいって」

「その時、僕は間違いだらけだって返したじゃねえか」

月火「なら私はこう返した。 私にとっていつも正しいからって」

「でも、他になんか言う事とか、無いのかよ」

月火「無いね。 皆無だよ」

月火「私はお兄ちゃんの言う通りにする。 それで良いでしょ?」

865 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:08:45.46 iFn+j3S00 768/882

「……はは。 お前は、火憐ちゃん以上の従順さだな」

月火「かもしれないし、そうじゃないかもね」

「……そうか。 ごめんな、月火ちゃん。 約束を破って」

月火「お兄ちゃんが約束を破るなんていつもの事じゃん。 何今更謝ってるのさ」

月火「それにどっちかって言うと、私の方が約束破ってるし。 一々気にしてどうするの?」

「そうだったそうだった。 月火ちゃんはそういう奴だ」

月火「いやいや、自分で言っておいてあれだけど、そう決め付けられるとちょっとイラってするね」

866 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:09:23.02 iFn+j3S00 769/882

「んだよ。 じゃあ言い方を変えてやる」

「月火ちゃんはそういう奴じゃないよな」

月火「なんか納得行かないなぁ……」

「じゃあどうしろって言うんだよ」

月火「うーん」

月火「どうもしなくて良いんじゃない? ていうか、やっぱり最初ので良いや」

なら最初から文句言うなって……

867 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:09:59.55 iFn+j3S00 770/882

月火「それにしても、火憐ちゃんどうしてるんだろ?」

「寝てるんじゃねえのか?」

「あれ、そういや月火ちゃんさ、家出る時になんて言ったんだ? 火憐ちゃんと話してたみたいだけど」

月火「決まってるじゃん。 お兄ちゃんの自分探しの旅に、無理矢理付き合わされてるって言っておいたよ」

「それが本当だとすると、僕はこれから、また死ぬか生きるかの戦いをしないといけないみたいだな」

月火「嬉しい事に本当だよ。 頑張ってね、お兄ちゃん」

「まあ、なんとかするしかねえか」

868 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:11:40.57 iFn+j3S00 771/882

月火「うんうん。 でもね、ただの自分探しの旅じゃないんだなぁ、これが」

「僕的には、自分探しの旅に種類がある方が驚きだよ」

月火「名付けて、最後の自分探しの旅」

「格好良いけどもな!」

つうかそれだと、その後僕は死にそうな予感がしてならない。

いや、これからあるだろう火憐の追求に、果たして僕は生き残れるのかまだ決まってはいないので、本当に亡き者になる可能性はあるのだが。

869 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:12:07.55 iFn+j3S00 772/882

月火「けどさ、正直な話」

月火「火憐ちゃんは大丈夫でしょ。 抱き締めれば一発だよ」

「その方法は出来れば避けたい……」

月火「それじゃあ、土下座しかないね。 お兄ちゃんお得意の」

「一応伝えておくが、月火ちゃん。 お前の土下座も中々の物だぜ」

月火「何言ってるのさ。 私の土下座なんて、お兄ちゃんや火憐ちゃんに比べたらまだまだだよ」

月火「お兄ちゃんは、週二くらいでしょ? 火憐ちゃんは週一かな」

月火「で、私は月一だし。 熟練度が違うんだよ」

「すっげえ嫌な熟練度だな……それ」

870 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:12:38.74 iFn+j3S00 773/882

月火「この前さー。 そんな話を友達としたんだよね」

え、お前土下座の話を友達としたの!?

月火「で、そうしたらこう言われちゃった」

月火「「いや、普通の家はそんな土下座祭りじゃないよ」って」

「いやいや、それは無いだろ」

月火「だよね?」

恐らく、月火の友達は恥ずかしがってるだけだろうな。

というか、僕達兄妹ですら少ない方だと思うし。

「でも、その土下座祭りってのは良い響きだ。 なんか知らんけど」

月火「おお、私もそう思ってる所だった。 今度やろうよ、土下座祭り」

一体どんな祭りになるのだろうか。 想像できない。

871 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:13:16.99 iFn+j3S00 774/882

「月火ちゃんのチャレンジ精神には、時々驚愕するぜ」

月火「そうかな? 何でも試さないと、分からないでしょ?」

「いやまあ、そうかも知れないけどな」

月火「って事で、ほら。 ちゃっちゃと記憶消すのを済ませちゃおう」

「軽い感じで言うなよ。 僕も罪悪感はあるんだからさ」

月火「へえ。 私のおっぱいに触る時は、全然そんなの感じて無いみたいだったけど」

「そりゃお前、月火ちゃんの胸が僕の手を揉んだ訳だし」

月火「その言い訳、もはや逮捕されても不思議じゃないよ……」

872 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:14:34.69 iFn+j3S00 775/882

「それに、僕に胸を揉まれる時って、月火ちゃん嬉しそうじゃん」

月火「私がいつそんな反応をした!!」

いやいや、だってさ。

「それじゃあこの前のキスの時は? 夕方、僕の部屋で二人の時」

月火「あ、あれは。 その」

何照れてるんだよこいつ。 言い出した僕が恥ずかしくなるじゃねえか。

月火「……その、流されて」

月火「ってそんな事はどうでも良い!」

月火「よし! じゃあ無駄話はここまでで、終わらせよっか」

873 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:15:05.88 iFn+j3S00 776/882

「都合の悪い話を摩り替えやがったな」

月火「良いでしょ、別に」

「月火ちゃんが良いなら、僕は良いよ」

月火「お兄ちゃんはそうだよね。 私の事が大好きだもんね」

「……それ、同じ事を最近火憐ちゃんにも言われたなぁ」

月火「そうなんだ。 で、お兄ちゃんは何て返したの?」

「決まってるだろ。 同じ様に返すとだな」

「月火ちゃんの事は、超大好きだ」

874 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:15:33.88 iFn+j3S00 777/882

月火「……うん。 だよね」

笑いながら、月火は続ける。

月火「それじゃー、そろそろ頼もうかな」

月火の言葉に、僕は頷き、近くに行く。

月火「……あ、でもちょっと待って。 最後にお願い一つ、良いかな」

月火「お願いというか、提案かなぁ」

「良いよ、何でも」

月火「そっか、じゃあお兄ちゃん」

月火「キス、しよっか」

875 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:16:11.50 iFn+j3S00 778/882

月火は目を閉じ、僕に顔を近づける。

僕も黙って、そんな月火にキスをした。

月火「……さすがに恥ずかしいね」

「僕は別に平気だけどな」

月火「本当に?」

「多分」

月火「本当に多分?」

「……やっぱり少し、恥ずかしいかな」

月火「よろしい!」

だから、何様だって。

876 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:16:56.23 iFn+j3S00 779/882

月火「それじゃー」

「ああ。 これを吸えば、ここ数日の事を忘れられる」

月火「了解了解」

月火「じゃあ、またね。 お兄ちゃん」

「またな」

そして、僕は布を月火の口へと当てる。

次第に、月火の体から力が抜けていき。

「月火ちゃん」

僕に名前を呼ばれ、月火は僅かに反応をした。

877 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:17:26.31 iFn+j3S00 780/882

「……ありがとう」

その言葉は、届いていなかったのかもしれない。

僕がそう言った時には、月火は完全に意識を失っていたのだから。

けれども、そっちの方が良かったのだろう。

僕はとても、月火にお礼を言える立場になんて無い。

878 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:18:16.29 iFn+j3S00 781/882

時間経過。

「終わったよ、忍野」

忍野「そうかい」

忍野「妹ちゃんはそんな長い間、意識を失っている訳じゃないからね。 それにきっかけがあれば思い出す可能性もある」

忍野「とは言っても、強烈な事が無ければ、思い出す事も無いさ」

忍野「もう一度怪異に会ったり、それくらい強烈な事がなきゃね」

「分かった。 迷惑掛けたな、忍野」

忍野「そんな事を言っている場合じゃないよ、阿良々木くん」

忍野「これから大変なのは、君自身なんだから」

879 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:18:45.25 iFn+j3S00 782/882

忍野はいつもの様に笑う事はせず、無表情で僕にそう言った。

忍野「阿良々木くんは、軽く考え過ぎていると思う」

「軽くなんて、考えてねえよ」

忍野「違う違う」

忍野「今回の行動を取った時点で、僕にはそうとしか見えないって話さ」

「それがあいつの為にもなるんだよ。 怪異なんて、最初から関わらない方が良いって忍野も言ってただろ?」

忍野「言ったよ」

忍野「けど、自然に関わらないのと、無理矢理関わらなくするのは意味が違うんだよ。 阿良々木くん」

880 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:19:25.24 iFn+j3S00 783/882

「んな事言ったら、この前の怪異だって」

忍野「さっき言ったじゃないか。 あいつは、忘れる事まで含めて怪異だ」

忍野「考えてみなよ、阿良々木くん」

忍野「前回はそうならざるを得なかった。 だが、今回は人為的な物だろ?」

忍野「阿良々木くんの意思で、記憶を消したんだ」

人為。

確かに、意思だ。 それは僕の意思。

881 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:20:07.45 iFn+j3S00 784/882

忍野「それがどれ程の事か、分かるかい?」

「だけどな、僕は……月火ちゃんの為にも!」

忍野「それを妹ちゃんが望んだのか?」

月火は、それを望んでいたか。

「……それは、違うかもしれないけどさ。 今後起こる事を考えたら、そっちの方が幸せだろ?」

忍野「前に言ったじゃないか。 忘れたのかい、阿良々木くん」

忍野「物事を平面的に捉えろ。 ってね」

忍野「君の視点から見て、君の視点から考えただけじゃないか」

882 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:20:57.86 iFn+j3S00 785/882

忍野「そして、今の君にはこうも言える」

忍野「そのくだらない価値観を人に押し付けるな。 なんてね」

「僕は、僕は月火ちゃんの事を考えてやってるんだよ。 忍野に言われる筋合いはねえぞ」

忍野「ああ、それもそうだ。 僕にそれを言う権利は無いんだろうさ」

忍野「それに、もうやってしまった事だ。 話しても結果は変わらない」

忍野「……いや、そうでもないかな」

忍野「まあ、とにかくだ」

忍野「阿良々木くん。 あんまり話していて妹ちゃんが起きても困るし、そろそろ帰りなよ」

883 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:21:28.96 iFn+j3S00 786/882

「ああ。 そう……だな。 分かった」

「忍野、なんつうか」

「……悪かったよ。 僕は間違えたのかもな」

忍野「それは君が決める事だ。 僕の方こそ間違えているかもしれないし」

忍野「でも」

忍野「いや、これを言ったら元も子も無いか。 阿良々木くん」

「ん?」

忍野「君の周りは本当に、良い子だらけだよ。 もし、君がずっと一人ぼっちだったら」

忍野「君もここまで、優しくは無かったんだろうね」

884 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:22:03.60 iFn+j3S00 787/882

「……どっちにしても、僕は優しくねえよ」

忍野「はは、そうかいそうかい」

忍野「それでも、君の妹ちゃんは兄想いだよ。 それは分かるだろ?」

「そう、だな。 さすがにそれは……分かる」

忍野「それは多分、昔も今も『これから』も、だろうよ」

忍野「それじゃあ阿良々木くん、お疲れ様」

「おう、またな。 色々迷惑掛けた」

忍野「良いさ、構わないよ。 友達だろ?」

「はは、そうだったな」

885 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/13 13:22:38.13 iFn+j3S00 788/882

そして、僕は家へと帰る。

未だに眠る月火を背負って。

僕が忍野の言っていた言葉の意味。 それを知るのはもう少し後の話だ。

具体的には家に着くまでの間、思い知る事となる。


第十九話へ 続く

893 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 12:59:52.16 2KQRMJF/0 789/882

帰り道。

前に、火憐と怪異との問題が終わった後、帰った道。

その時と同じ道を歩く。 今度は月火をおぶって。

全く。 お前ら姉妹は本当に終わり方まで一緒だなんて、仲良しすぎるだろうが。

894 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:02:44.94 2KQRMJF/0 790/882

けど、これでこの長い物語も終わりだろう。

一歩一歩、僕は家へ向けて足を進める。

そして、やがて。

月火「……あれ、お兄ちゃん」

月火が目を覚ました。

895 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:03:13.13 2KQRMJF/0 791/882

「おう、大丈夫か?」

月火「……多分」

「気分も平気か?」

月火「どうだろ。 なんか変な気分だなぁ」

「……そっか、じゃあおぶられとけ」

896 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:04:05.15 2KQRMJF/0 792/882

月火「……嫌々だけど、仕方ないか」

真っ暗の中、外灯と月明かりだけが辺りを照らしている。

月火「なーんか。 夢を見てたのかな」

背中に居る月火が独り言の様に、呟いた。

897 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:04:44.64 2KQRMJF/0 793/882

「夢?」

月火「うん。 変な夢だけど、笑わない?」

「笑わない笑わない。 どんな夢だったんだ?」

月火「……お兄ちゃんに、助けられる夢」

僕に助けられる……か。

そういえば火憐も確か、似たような事を言っていたな。

そういう物なのだろうか?

898 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:06:09.64 2KQRMJF/0 794/882

「はは、なら感謝しとけよ」

月火「なんで夢の事でお兄ちゃんに感謝しないといけないのさ」

ちょっとだけ怒りながら、月火。

「……それもそうだな。 月火ちゃんの言う通りだ」

月火「分かればよろしい」

だから何様だよ。

899 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:06:36.12 2KQRMJF/0 795/882

月火「……けどね、お兄ちゃん」

「ん? 何だよ」

月火「最後、夢の最後なんだけどさ」

月火「殆ど覚えて無いし、なんとなくなんだけど」

次の言葉は、恐らく僕は予想していなかった言葉。

予想できなかった言葉。

900 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:07:18.48 2KQRMJF/0 796/882

月火「凄く、悲しかった」

……悲しかった?

「悲しかった? えっと……何で?」

月火「分からない。 けど、大事な物が消えていったみたいな、そんな気分」

901 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:08:11.17 2KQRMJF/0 797/882

待てよ。

ちょっと待て。

大事な、物。

月火にとって、何が大事か。

月火と怪異を関わらせない事だけを考えていて。

僕は、全く考えていなかった。

902 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:09:02.72 2KQRMJF/0 798/882

月火「なんだろうね。 分からないんだけどさ、嫌な気分だよ」

「嫌な、気分」

月火「うん。 何かを失ったみたいな、失っては駄目な物を失ったみたいな、そんな感じ」

月火「ごめんね。 急に変な事言っちゃって」

903 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:11:42.22 2KQRMJF/0 799/882

小さく笑いながら、月火はそう言った。

だけど、僕には悲しそうな顔にしか見えなかった。

僕は、何を思っていたんだ。

月火にとって大切なのは。

月火にとって信じる物は。

もしかして、もしかすると。

904 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:12:47.34 2KQRMJF/0 800/882

「な、なあ月火ちゃん。 僕も、夢を見ててさ」

月火「ほい? お兄ちゃんも見てたの?」

「あ、ああ。 そうなんだよ」

「それで、その内容なんだけど」

「僕が大切にしている人が居てさ、その人が僕と一緒に居たいって言ってくれてさ」

「で、それで。 化物が居て」

905 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:14:06.00 2KQRMJF/0 801/882

月火「……お兄ちゃん、大丈夫? もうちょっとゆっくり話してくれないと」

「あ、はは。 そうだよな。 悪い悪い」

「で、化物みたいな奴が居てさ。 そいつが僕の事を殺そうとするんだよ」

月火「ふむ。 ホラーだね」

「ああ、ホラーだ。 それで、色々とその大切にしている人ともあって、最終的にその化物を殺したんだ」

「最後はその大切にしている人が、化物を殺す形になってさ。 それは僕の中では、無しなんだよ」

906 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:15:26.08 2KQRMJF/0 802/882

月火「うん。 まあ、お兄ちゃんだしね。 分かるよ」

「だから、僕にはそうするしか無かったんだよ。 その方法を取るしか、無かったんだ」

月火「その方法……ってのは?」

「つまり、ええっとだな」

「僕は、最後に僕は……その人の」

「記憶を消したんだ」

907 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:17:03.13 2KQRMJF/0 803/882

月火「……なるほど」

「消さないと、また化物に会うかもしれない。 会いやすくなっちゃうんだよ」

「多分、その人にとっては地獄みたいな日だったと思う。 だから、そんな辛い物は消して、これからの為にもって思ってさ」

「僕はその人の事が、とても大切なんだ。 守りたいって、思うんだ」

「だから、僕は」

908 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:17:39.97 2KQRMJF/0 804/882

僕の言葉に、月火は何度か頷き、やがて口を開く。

月火「それは、正しいよ。 私は正しいと思う」

「そう……か」

月火「でも、思うってだけだよ」

月火「私はその人じゃないから、分からないけどさ」

909 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:18:05.30 2KQRMJF/0 805/882

月火「当たっているかもしれないし、当たっていないかもしれないけど」

少しだけ声量を抑え、月火は。

月火「それで記憶を消されるのは、絶対に嫌かな」

そう言った。

910 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:18:56.12 2KQRMJF/0 806/882

「そう、なのか?」

月火「その人は、お兄ちゃんの事が好きだったんだよね?」

「……うん。 まあ、そう言ってくれた」

月火「そっか。 なら、やっぱり嫌な事だよ。 それは」

月火「だってさ、これは結局私の視点からになっちゃうけど」

僕の首に回す腕の力を少しだけ強め、月火は続ける。

911 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:19:29.85 2KQRMJF/0 807/882

月火「その一つ一つが、大切な思い出なんだよ」

月火「地獄みたいな日だったとしても、これからその化物みたいなのに、また会うかもしれなくてもさ」

月火「その人にとっては、お兄ちゃんと過ごした時間がどの様な物であっても、どの様な形であっても、大切な思い出なんだろうなって」

月火「もしも私だったら、そう思うかなぁ」

月火にとって。

大切な、思い出。

月火「ま、結局は夢でしょ? そんな深刻な顔しなくたって、大丈夫だよ」

912 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:20:01.58 2KQRMJF/0 808/882

僕は、何をした?

月火の為に。

月火の事を考えて。

月火の事を想って。

913 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:20:29.18 2KQRMJF/0 809/882

いいや、違う。

それは、僕の勝手な価値観。

それを押し付けていただけだ。

月火の為にと決め付けて、僕がした行為は。

914 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:21:31.52 2KQRMJF/0 810/882

「……僕は」

それならば、何故。

何故、月火はああも簡単に僕の言う通りにした?

月火本人が断固として拒否していれば、もしかしたら僕もしなかったのかもしれないのに。

全くその様子は見られなかった。 それは、何でだ?

「な、なあ。 月火ちゃん」

月火「ほい?」

915 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:21:58.44 2KQRMJF/0 811/882

「その人はさ、僕がそれを言ったら、二つ返事で承諾したんだよ。 本当に嫌なら、拒否しているだろ? さっき月火ちゃんが言った様に、それを僕に伝えているだろ?」

けれども、月火は。

月火「うーん」

月火「無いんじゃない?」

「……どうして、そう思う?」

月火「決まってるじゃん」

916 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:22:33.70 2KQRMJF/0 812/882

お兄ちゃんのする事は、いつも正しいから。

その人も、お兄ちゃんの事を信じていたんじゃないかな。

月火はそう、言った。 あの時と同じ様に。

……そうだ。

月火は、そうなんだ。

917 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:23:13.74 2KQRMJF/0 813/882

「私にとって、いつも正しい」と、言っていたんだ。

だから拒否をしなかった。 僕の行動が正しい物だと信じて、拒否をしなかった。

僕の考えを正しいと思って。

僕の行動を正しいと思って。

自分の気持ちを抑えて、僕に従った。

918 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:24:25.46 2KQRMJF/0 814/882

そんな事を考えた途端、どうしようも無く涙が溢れてくる。

月火「お兄ちゃん、泣いてるの?」

「……泣いて、ねえよ」

月火「いや、そうは言ってもさ。 さっきから私の手に涙が落ちているんだけど」

「雨でも……降ってるんじゃねえか」

月火「空は綺麗だけど。 まあ、良いや」

月火「よっ」

そう言い、月火は僕の背中から降りた。

919 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:24:55.87 2KQRMJF/0 815/882

月火「もう大丈夫だよ。 歩ける」

「……そっか」

僕はこいつの為にと、記憶を消した。

月火の言う、思い出を消したのだ。

目の前で話した時。 最後に話した時。

月火は何を考えていたのか。

920 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:25:36.26 2KQRMJF/0 816/882

記憶を消されるのは嫌な筈だったのに。

僕との思い出を消されるのは嫌な筈だったのに。

その感情すらも、僕は読み取れなかった。

目の前で、こいつの目を見て話していたというのに。

921 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:26:20.82 2KQRMJF/0 817/882

「な、なあ、月火ちゃん。 ちょっと、聞いてくれ」

月火「ほい? 今度は何かな」

それ以上、僕は何も考えられず、ただ思った事を口に出す。

「その記憶を消したってのが僕で、記憶を無くしたのはお前なんだよ」

月火「……はい?」

922 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:26:49.49 2KQRMJF/0 818/882

「だから、お前のドッペルゲンガーが出てきてさ。 それで、そのドッペルゲンガーは二匹居てさ」

「最後はお前が僕もろとも、ドッペルゲンガーを刺して、それで最後にお前の記憶を僕は消したんだよ」

「な? 分かるだろ? 二日間だったけど、思い出すだろ?」

月火「えーっと。 ごめん、お兄ちゃん大丈夫?」

「僕は大丈夫だ! それより、月火ちゃんも化物の事を思い出しただろ!?」

923 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:27:26.13 2KQRMJF/0 819/882

月火「……疲れているのかな、お兄ちゃん。 本当に大丈夫?」

月火は苦笑いをしながら。

「だから……僕は」

「そうだ、忍!」

影に向け、僕は言う。

924 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:27:54.25 2KQRMJF/0 820/882

「おい、出て来いよ忍。 起きてるだろ? お前が出てくれば、月火ちゃんも思い出すんだろ? だってお前は、怪異なんだからさ」

しかし、影からの返答は無い。

「何また狸寝入りしてるんだよ! 早く出て来いよ!!」

怒鳴り散らす。

分かるさ、これは八つ当たりって事くらい。

けど、けど僕は。

925 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:28:29.86 2KQRMJF/0 821/882

外灯によって作り出された、地面にある影は未だに無言。

月火「お、お兄ちゃん? 落ち着いて、大丈夫だから」

「僕は落ち着いているさ! お前も忍を見れば思い出すんだよ!」

「忍! いつまでシカトしてるんだよ、出て来いって!!」

地面に膝を付け、影を叩く。

926 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:29:02.29 2KQRMJF/0 822/882

「おい、頼むよ。 頼むから……出てきてくれよ、忍」

何回も、何回も地面を叩く。

やがて、僕にだけ聞こえる様に、忍は。

「……お前様よ。 儂は出ない、妹御の前ではな」

927 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:29:36.30 2KQRMJF/0 823/882

「何でだ!! お前が出れば月火ちゃんも思い出すんだろ!?」

「あのアロハ小僧では無いがの。 自分の行動には責任を持たんか。 お前様がやった事は」

「いや……とにかく、儂も良い気分では無いんじゃ。 だが、お前様の為にも儂は姿を出さん」

僕が、やった事がなんだよ。

ああ、そうだ。 分かってる、分かってるさ。

928 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:30:04.62 2KQRMJF/0 824/882

怪異の所為でも無く、たまたまの事故って訳でも無く、月火が望んだ訳でも無く。

僕がした、僕が責任を持つべき行為。

そしてそれは、人間のしていい事では無い。

正しく化物の、怪異がするべき事。

ああ、そうか。

僕はもう、人間では無くなった。

929 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:30:48.55 2KQRMJF/0 825/882

「けど、けどさ。 このままじゃ、僕は……月火ちゃんは」

月火「お兄ちゃん、お兄ちゃん。 大丈夫だから、泣かないで」

月火が言いながら、背中から僕に抱きつく。

「うう……ううう……」

僕は何をした。 この妹に、月火に。

930 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:31:22.35 2KQRMJF/0 826/882

忍野や忍は分かっていたんだ。 こうなる事を。

なら、どうして無理にでも止めてくれなかったんだよ。

……違う、それは違う。 あいつらに責任を押し付けているだけだ。

それに、何度も言っていたじゃないか。 忍野も忍も、それはやめろと。

しかし僕は聞かなかった。 それがどれ程の事かも、分からずに。

931 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:31:50.41 2KQRMJF/0 827/882

僕は、自分のした事に責任を持つしかない。

責任と、後悔を。

忍野は確かに言ってた。 どんな結末でも、受け入れろと。

しっかりと責任を持てと。

僕がするべき行動は、それしかない。

けど、今すぐは……無理だ。

932 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:32:18.09 2KQRMJF/0 828/882

月火「ほら、もう家に着くからさ。 一日ゆっくり寝れば大丈夫だから。 ね?」

「……あ、ああ」

僕にそんな優しくするな。

「悪い。 先に、家に入っててくれ。 少しだけ、風を浴びたら僕も入るから」

月火「……うん。 分かった」

僕の言葉に、そんな簡単に頷くなよ。

933 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:32:44.89 2KQRMJF/0 829/882

月火「それじゃあ、おやすみなさい」

月火は言い、家の中へと入る。

ああ、あああ。

駄目だ。 うまく立っていられない。

僕は間違いなく、月火の為だと思っていたのに。

何がいけないんだよ。 僕の行動は間違っていたのかよ。

934 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:33:11.11 2KQRMJF/0 830/882

……そうなん、だろうな。

いや、間違っていたなんて問題ですらない。

絶対にやってはいけない事だったのだ。 これは。

僕が最善だと思い、貫いた意志。

そして、今。

その貫いた意思にすら、後悔している。

935 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 13:33:44.98 2KQRMJF/0 831/882

もう、無理だ。

不可能だ。

僕はあいつらの、火憐と月火の兄で居る事は、もうできない。

最早ただの、怪異なのかもしれない。 人間ですら無い。

涙は止まらず、せめて零れないように、空を見上げる。

夜空に浮かぶ月は、皮肉にも綺麗に輝いていた。


第十九話 終

940 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:37:26.90 2KQRMJF/0 832/882

後日談というか、今回のオチにもならないオチ。

あれから、一週間ほど経っただろうか。

何もする気がせず、ただずっと部屋に閉じ篭る日々。

いつ寝たのか、いつ起きたのかさえ、自分で分からない。

941 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:38:22.79 2KQRMJF/0 833/882

妹……いや、火憐と月火は僕の事を心配してくれている。

それも普通の話なのだけれど、気を遣わせているのには胸が締め付けられる様な気分だ。

そんな訳で、火憐と月火は僕の部屋にはあまり来ない。 今の僕は、放って置くのが一番だと、そう判断したのだろう。

……こう言ってはあれだけど、正直それは助かっている。

今の状態で二人の顔を見たりすれば、おかしくなってしまいそうだから。

942 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:39:07.31 2KQRMJF/0 834/882

そんな二人は最初の一日を除けば、朝起こしに来る事も無く、用事が無ければ入ってくる事も無い。

僕は、火憐と月火と一緒にご飯を食べる気分も当然せず。

とは言っても、二人の声を聞くだけでどうしようも無く情けなくなり。

悲しくもなり。

そして同時に苦しくなり、涙がぼろぼろと出てくる様な今の状態じゃ、それは絶対に無理な話だが。

943 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:39:39.00 2KQRMJF/0 835/882

そういった理由もあり、毎日ずっとここに居るのだけれど、二人はそんな僕を未だに心配して、順番にご飯は運んで来てくれる。

引き篭もりって、こんな感じなのだろうか。

ええっと。

一週間、僕は何をしていたっけ。

944 : VIPに... - 2013/05/15 14:40:20.02 2KQRMJF/0 836/882

ある時は火憐と月火の部屋から、何だか喧嘩をしているっぽい声が聞こえた気がする。

ある時は火憐が部屋に来て、いつもの様に僕を叩き起こそうとした気がする。

ある時は月火がご飯を持ってくるついでに、何やら手紙を寄越してきた気がする。

ある時は火憐と月火が二人して、両親に怒られていた気がする。

ある時は下の階から、騒音が聞こえた気がする。

945 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:40:46.43 2KQRMJF/0 837/882

しかし、それらの事があっても僕は、ずっとここから動かなかった。

否。 動けなかった。

いいや、それも違う。 動こうとしなかったが、正解だろう。

しかしそんな僕でも、風呂には一応入っている。

皆が寝静まった頃に、見つからない様に。

946 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:41:37.18 2KQRMJF/0 838/882

一応は自分の家なのに、そんな事をしているだけで、なんだか笑い話だなぁ。

けど、僕は。

僕には。

そうするしか、無いのだ。

947 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:42:09.33 2KQRMJF/0 839/882

何もする事も無く、ただ無駄に時間を過ごす。

いや、何もしていない訳では無いか。

こうしてずっと、一日中後悔しっぱなしなのだから。

けど結局は、それで何かが変わる訳でも無いので、何もしていないのと同じか。

948 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:42:58.83 2KQRMJF/0 840/882

あの日から、忍とは会っていない。

忍は一度も姿を出していないのだ。

僕が話し掛けても、返答をしない。

会ってしまったら、話してしまったら、多分僕はまたくだらない頼みをしてしまうのだと思う。

だから、ある意味忍のその行動は、僕にとって幸いなのかもしれない。

949 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:44:30.90 2KQRMJF/0 841/882

そして。

最後の望みにと、これもまた夜中に全員が寝静まった所で、あの廃墟へも一応行ったのだけれど……忍野は既にこの町を去っていた。

それは多分、この町に来ていたという怪異が消えたからだろう。

火憐の時の怪異と、月火の時の怪異。

忍野は前回同様に、僕に任せても良いと思って出て行ったのでは無い。

こんな状態の僕に出来る事なんて、皆無だろうし。

950 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:45:33.22 2KQRMJF/0 842/882

もう流す涙も流し尽くし、後悔する毎日。

謝る事すら、僕には許されない。

月火にした事は、とても謝って済む事では無い。

それに、当人がそれを忘れてしまっているのだから、意味の分からない事だろう。

月火はあの日、僕と一緒に帰った日の事も殆ど覚えていないんだと思う。

何度か声を扉越しに声を掛けられた時も、その辺りの事は忘れている様子だったから。

あの花粉の効果がまだ残っていて、怪異に関する記憶を消そうとしているのかもしれない。

それももう、忍野が居ない今となっては分からない事だけど。

951 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:47:01.19 2KQRMJF/0 843/882

全て。

これらは全て、僕の責任で、僕が受け入れなければいけない事。

そして今は、それすら受け入れられずにこうして、部屋に閉じ篭っている。

本来ならば、今すぐ火憐と月火の元へと行って、いつも通り接してやるべきなのだろう。

僕が今の様な状態だから、あいつらに心配を掛けているのだから。

けど、それは出来ない。

953 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:47:34.71 2KQRMJF/0 844/882

だって、そうだろ。

最早。

僕は人間ですら無い。

ただの、化物。 怪異なのだから。

954 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:48:19.43 2KQRMJF/0 845/882

人の記憶を人が消すという事が、どのような結果を生み、どのような行為なのか。

いくら理解しようとも、いくら後悔しようとも、いくら嘆こうとも、結果は変わらない。

或いはあの忍野であったり、影縫さんであったり、羽川であったり。 そういう人達なら、変えられるのかもしれない。

しかし、助けを求める事も、出来ない。

956 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:51:33.30 2KQRMJF/0 846/882

ならば、自分でどうにかするしか無いのだが。

僕なんかでは、絶対に変えられない。

こんな僕でも、それにだけは確信が持てるのだ。

自分の事がとことん嫌いになったけれど、僕が何も出来ないという事だけは、胸を張って言えるだろう。

火憐なら多分「それ、自慢して言う事じゃねえよな」って。

月火なら多分「そんな事言ってて、悲しくないの?」って。

957 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:52:00.63 2KQRMJF/0 847/882

ああ、やめよう。

あいつらの事は考えない様にしよう。

じゃないと、またどうしようも無く辛くなってしまう。

前言撤回だな。 僕にでも出来る事があった。

自分自身が辛くなる事を考えない事だ。

それは多分、最低の逃げ道。

958 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:52:27.43 2KQRMJF/0 848/882

そして、別の事を考える。

もし、あそこで僕が忍野の反対に折れていたのなら。

もし、僕が月火との話で気が変わっていたのなら。

もし、僕が人の気持ちに気付ける様な人間だったのなら。

959 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:52:53.88 2KQRMJF/0 849/882

あまりにも遅い。

一週間経った今でも、責任を持つ事もせず、ただただ火憐と月火を避けている。

それなのに火憐と月火は毎日、出掛ける時には部屋の前で「行って来ます」と言い、僕にご飯を持ってくる時は「ご飯、置いておくよ」と言う。

僕に、構う必要なんて無いのに。

960 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:53:20.71 2KQRMJF/0 850/882

夏休みももうすぐ終わってしまう。

このまま、何もしない訳にはいかないだろうけど。

これだけいつまでも夏休みが続けば良いのにと思った事は、過去に無いだろう。

夏休みはどの様に過ごしましたか? と聞かれたら、僕はこう返す。

ベッドの上で、こうして膝を抱えて、後悔する事が日課でした。

いや、日課というか一日の殆どをそうしているのだから、それは過ごし方と言った方が正しいかもしれません。

なんて。

961 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:53:48.23 2KQRMJF/0 851/882

そして、そんな事を考えていた今日は最悪な出来事が起きてしまう。

あれから丁度一週間が経った今日。

僕がこうして部屋に閉じ篭るのを始めて、七日目。

突然。 唐突に。

ガチャリ。 と音がして、扉が開かれた。

962 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:54:15.43 2KQRMJF/0 852/882

ご飯を持ってくるにしては、時間がおかしい。

正確な時間は分からないけど、家中が静かな所から察するに、夜中の筈。

なら、何だ。 ついには両親のどちらかが、ぶち切れでもしたのだろうか。

963 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:54:42.59 2KQRMJF/0 853/882

「お兄ちゃん、入るよ」

と。

今、一番僕が会いたくない人物の声がした。

964 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:55:08.60 2KQRMJF/0 854/882

「電気も付けないで、気分が落ち込んじゃうよ」

やめろ、僕にそんな事を言われる権利なんて無い。

「本当に、大丈夫?」

心配するなよ。 僕がした事は、僕の所為なんだ。 月火が心配する必要なんて無いんだから。

「……悪い、出て行ってくれ」

冷たく、化物らしく、僕は言う。

965 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:55:34.64 2KQRMJF/0 855/882

「でも、毎日そうやってるのに、放って置けないよ」

やめろよ。 僕にそんな優しくするな。 僕に話し掛けるな。 僕はお前が思う様な奴では無い。

「頼むから、出て行ってくれ」

月火の顔を見る事もせず、言い放つ。

「断る。 お兄ちゃん変だよ?」

そりゃ変だろうな。 僕は人間じゃないのだから、当たり前だ。

966 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:56:00.84 2KQRMJF/0 856/882

そして。

ゆっくりと、月火が近づいてくるのが分かった。

空気で、感じる。 長年ずっと、一緒に居たから。

それが今は、苦しい。

やめろ、やめろやめろ。 僕に近づくな。

967 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:56:26.65 2KQRMJF/0 857/882

「たまには外に出ようよ。 どっか遊びに行く?」

「……出て行ってくれ」

それしか言えない。 僕が今一番望んでいる事と言ったら、月火に拒絶される事だ。

しかし、誤算があった。

部屋のカーテンを閉め忘れていたのだ。

今は夜だから、部屋は真っ暗なのだけど。

968 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:56:59.25 2KQRMJF/0 858/882

「お兄ちゃん」

そう言い、月火が僕の顔を覗き込む。

そして、月明かりで、見えてしまった。

月火の顔が、瞳が。

「……う」

声が漏れる。

969 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:57:27.85 2KQRMJF/0 859/882

やめろ、やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ。

僕をそんな目で見るな僕はお前に見られて良い奴じゃない僕に構うな僕に顔を向けるな僕の事を兄みたいに呼ぶな僕の部屋から出て行け僕のした事を許すな僕と一緒に居るな僕に優しくするな僕に近づくな僕は人間じゃないお前の兄でも無い僕はただの化け物だ僕がした事は許されない僕に気を遣うな僕の妹で居るな僕の事を拒絶してくれ僕の事は無視してくれ僕は。





僕は。

970 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:57:55.68 2KQRMJF/0 860/882

「出て行けっつってんだろ! 早く出て行けよ!!」

そして、月火を突き飛ばす。

軽い体は当然の様にベッドから転げ落ち。

「……あ、あああ」

声が漏れる。 呻き声のような。 僕の声。

971 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:58:24.16 2KQRMJF/0 861/882

何をしているんだ。 もう全て終わった。

月火の気遣いも、優しさも、気持ちも、心配も。

全て僕は、壊した。

972 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:58:50.51 2KQRMJF/0 862/882

そりゃ、そうか。

なんせ僕は、人間ではないのだから。

当たり前の事だ。

「……お、お兄ちゃん」

驚いていた。 無理もない。 普通。

973 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:59:16.76 2KQRMJF/0 863/882

そうか。

始めから、こうしていれば良かった。

僕の方から拒絶していれば、良かったんだ。

簡単な話じゃないか。

974 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 14:59:47.12 2KQRMJF/0 864/882

殴るなり、暴言を浴びせるなりしていれば、やがてこいつも愛想を尽かすだろう。

そう、だ。

それをすれば、こいつとも話さずに済む。

そう思い。 僕は月火に言葉を浴びせる。

暴言を吐こうと。

975 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 15:00:14.60 2KQRMJF/0 865/882

「……ごめん。 出て行ってくれ」

しかし、僕の口から出てきた言葉は暴言でも何でも無く、ただの普通の言葉。

ああ。

僕は結局、化物にもなりきれない。

こんな中途半端だから、今の状態なのだろう。

976 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 15:00:42.22 2KQRMJF/0 866/882

もう、どうでもいいや。

今まで、何よりも楽しいと感じていた月火との会話も。 やり取りも。

今の僕には、どうしようもない苦痛でしかなかった。

未だに呆然と床に座り込む月火に、それ以上は何も言わず、背中を向けて僕は目を瞑るのだった。


つきひドッペル 終了

977 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 15:01:10.27 2KQRMJF/0 867/882

以上で後編終了です。

979 : VIPに... - 2013/05/15 15:05:33.79 XgX12Zrz0 868/882

待ってくれ。救ってやってくれ、暦君を。
まだ後日談は終わってないんだろ?

980 : VIPに... - 2013/05/15 15:08:33.49 owmF70k7o 869/882

まさかの超絶バッドエンドだと……!?

いやいやいやまさか続き有りますよね?

986 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 17:33:04.11 2KQRMJF/0 870/882

長い長い長い長い、長い!

長すぎるんだって、毎回毎回。

もうちょっと簡単に纏められないのかな、お兄ちゃんは。

どうせお兄ちゃんはこう思っている筈だ。

お兄ちゃんの事だから、多分。

「この物語には救いが無い」

とか思っているのだろう。 お兄ちゃんが考えそうな事くらい、分かっちゃうから。

987 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 17:33:31.73 2KQRMJF/0 871/882

ついでに言うなら、多分。

僕じゃどうしようも無いとか、変えられないとか。 そんな感じの事をのたまっているのだと思う。

確かに、そうかもしれないけど。

いや、実際そうなんだけどさ。

お兄ちゃんって、本当に誰にも頼らないよね。

そんなの全部、私が変えてやる。

お兄ちゃんに変えられないのなら、私が変えてやる。

988 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 17:33:59.51 2KQRMJF/0 872/882

だから、私はこう思う。

「救いの無いを救いのあるに変える物語」

そう、思う。

私は、私の思う物語を書いていこう。

たまにはこういうのも、良いんじゃ無いかな。

989 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 17:34:25.25 2KQRMJF/0 873/882

というかだよ? 暗すぎるんだって。

物語は何事もハッピーエンドが良いと決まっている(私の持論)のに。 お兄ちゃんが話した物語はどうしようも無くバッドエンドじゃん。

私はそんなの認めない。 認めませーん。

ええっと。 それじゃあ始めようと思うんだけど、お兄ちゃんはいつもどんな感じで始めていたっけ?

うーんと……確か、こんな感じ。

990 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 17:36:57.90 2KQRMJF/0 874/882

お兄ちゃんのお話。

私の兄で。

高校三年生で。

格好良くて。

頭が悪くて。

優しくて。

妹にセクハラをして。

人を大切にして。

心配性で。

そして最高な、ただのお兄ちゃんの物語。

991 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 17:38:10.76 2KQRMJF/0 875/882

合ってるかな? 大丈夫だよね、多分。

まあ、大丈夫じゃなくても始めるんだけど。

この物語は、夏休みが終わる少し前から始まる物語。

ある日、私が何故かお兄ちゃんにおぶられてて、帰った後のお話。

その日を境に、お兄ちゃんは変わった。 変わり過ぎてしまった。

理由なんて物はまだ分からないけれど、それでも私はお兄ちゃんの妹なんだ。

992 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 17:39:08.51 2KQRMJF/0 876/882

だから、だからこそ。 なんとかしないといけない。

それをお兄ちゃんが必要としているか、不必要としているかは知らないけど。

少なくとも……私と、それに火憐ちゃんもお兄ちゃんを必要としているんだ。

だから語ろう。 私の一週間を。

お兄ちゃんの為に動き、お兄ちゃんの為に捧げた一週間の物語を。

993 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 17:40:49.70 2KQRMJF/0 877/882

……ひょっとして、私ってブラコンだったりするのかな?

いやいや、無い無い。 あり得ないよ、そんなの。

だって、妹が兄の為に行動を起こすなんて普通じゃない? そうだよね?

それに、もしも私がブラコンだったら火憐ちゃんなんてもっと酷いんだから。

……お兄ちゃんの部屋で、歯磨きしてたり。

994 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 17:41:25.45 2KQRMJF/0 878/882

あー嫌な事思い出した。 月火ちゃんイライラしてきちゃったよ。

あれは、未だに私の中では許せない行為なのだ!

……けど、本音を言うと、羨ましかったり。

いやいや、冗談だよ? さすがにないって、そんな事。

まあ、お兄ちゃんが「歯磨きさせてくれ」って頼んできたら、別に受けてあげても良いけどさ。

っていうか、いつの間にか話が脱線している。 まずいまずい。

995 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 17:42:06.12 2KQRMJF/0 879/882

えっと、とにかく!

今から話す物語は、ある一日から始まる。

お兄ちゃんの様子が変になった、朝からの一週間。

それじゃあ、ミッションスタートって事で。


つきひミッション 開始

996 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/05/15 17:56:02.30 2KQRMJF/0 880/882

という訳でまだもう少し続きます。

次スレ
月火「どういたしまして、お兄ちゃん」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368608077/

明日のお昼頃に、上記のスレにて第一話から投下致します。

乙ありがとうございました。

997 : VIPに... - 2013/05/15 17:58:30.54 18vIkV8do 881/882

俺達の期待をかっさらっていく月火ちゃんプラチナかっこいいぜ!

999 : VIPに... - 2013/05/15 18:00:39.14 3vEM1P410 882/882

明日を生きる希望が見つかった

記事をツイートする 記事をはてブする