関連
暦「火憐ちゃん、ごめん」【前編】
暦「火憐ちゃん、ごめん」【後編】
754 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/04/23 09:00:22.96 POrMouLH0 631/743ふと思い付いた短編あるので、ちょっと書きます
お昼過ぎくらいまでには、投下致します
759 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/04/23 13:45:44.30 0GT2MdEX0 632/743短編できました。
投下します。
760 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/04/23 13:46:24.32 0GT2MdEX0 633/743時系列的には、これから書く後編の先のお話になります。
と言っても、後編のネタバレ的な話ではありません。
そろそろ一年の終わりも近づいてきた。
十一月に入ってから、もう一週間、二週間程は過ぎただろうか。
そんなある日。
休みの日。
日曜日。
こんな風に、何か思う時は必ず、厄介な事が起きるのだ。
そう、厄介な事。
いや、厄介な事は既に起きてしまっているので、先程の様に思っただけなのかもしれない。
つまり。
具体的に言うと、今年の八月のあの時と同様、妹達はまたしても僕の事を起こしに来なかったのだ。
暦「……なんかありそうだな」
真っ先に思い出すのは、今年の八月にあった事。
同じ失敗を繰り返したくは無い。
今年の八月は火憐や月火の件で大分、それらは学んだ筈だ。
かと言って、怪異の所為だと決めて掛かる訳にも行かない……よな。
どうするか。 僕が取るべき行動は?
考えても仕方ないな。 まずは何かしらのアクションを起こすとしよう。
そうと決まれば、とりあえずは二人に事情聴取だ。
今の時刻は朝の八時。
もう二人は起きている筈なので、僕はのそのそと部屋から這い出て、階下へと向かう。
暦「おーい、百合姉妹居るかー」
しーん。 と聞こえそうな程の静けさ。
うーん。
返答無し、ね。
さぁ、いよいよ面倒な事になりそうである。
てか、どうでもいいけれどさすがに朝は寒いな。 もうちょっと厚着でもするべきだったか。
と、恐らくは暖房がかかっているであろうリビングへと足を向けた所に、でっかい方の妹、阿良々木火憐が目の前に現れた。
火憐「ふん。 兄ちゃんか」
視線を向けると、火憐は仁王立ちに腕組み。 待ち構えてたと言わんばかりの姿勢だ。
暦「いやいや、何で朝から喧嘩腰なんだよ。 てか、起こしに来いよ」
起こしに来い。 とは随分偉そうではあるけれど、火憐の場合はこれでいい。
こいつはこう言えば「ごめん兄ちゃん、次から気を付けるぜ」とか言うのだから。
しかし。
火憐「嫌だね。 あたしは兄ちゃんを起こす道具じゃねえんだ」
お?
おおお?
ええええええええ?
今、え?
暦「え、えっと。 火憐ちゃん?」
火憐「ふん」
あれ、なんかこれ、マジで怒ってない?
暦「あー。 ええ、火憐……さん?」
火憐「わりいが、兄ちゃん。 あたしと月火ちゃんはもう起こしには行かない。 今日から兄ちゃんとは敵だ!」
阿良々木火憐、十五歳。 中学三年生の十一月のある日。 ぐれた。
マジかよ。
お前、何今更ぐれてるんだよ。
暦「……僕、何かしたっけかな」
独り言の様に呟く。 いや、実際独り言なのだけれど、火憐から何かしらの反応を期待していたのもある。
火憐「じゃあな」
しかし火憐はそれだけを言い、自分の部屋へと向かって行ってしまった。
なんだよこれ!
とりあえず、落ち着け僕。
まずは……これが例のアレなのかどうか、確認だ。
一応、火憐の逆鱗に触れないように忍び足でトイレへと向かい、電気を消す。
暦「……おい、忍、起きてるか?」
声を掛けると同時、忍から返答。
忍「朝から騒々しいのう……儂はこれから寝る所なんじゃが」
恐らくは僕の動揺の所為で寝れなかったのだろう。 まあ、無理もない。
暦「緊急事態なんだよ、聞いてくれ」
暦「……今、今っつうっか、今日か」
暦「火憐ちゃんの様子がおかしいんだけど、これって……あれって事か?」
僕が言うあれとは、つまりは怪異。
すぐに怪異に繋げるのもどうかと思うけれど、僕の火憐があんな風になるなんて……何かがあったとしか思えない。
忍「たわけ。 別に何も起きとらんよ。 本来はこうして、教えるのもどうかと思うんじゃが」
忍「生憎、儂は眠いのじゃ。 今回のは怪異では無い、以上じゃよ。 それじゃあ儂は寝る」
と忍は言い捨てた。 呆れた声で。
怪異じゃない……のか。
なら、火憐は何であんなぐれちゃったんだよ!
その後、忍に助けを求めようとしたが、それ以降影の中から返事が返ってくる事は無かった。
くっそ、どうするかな。
ああ、そうだ!
暦「月火ちゃんなら、何か知っているかもな」
ファイヤーシスターズの参謀担当。 それに火憐と仲がかなり良い月火に聞けば、何かしらは分かるだろう。
この家の中で火憐の事を一番知っているのは、間違いなくあいつだ。
との結論を出し、僕はトイレから出ると(一応、忍び足で)そのままの足でリビングへと向かった。
二階にある僕の部屋から出る時に、火憐と月火の部屋からは人の気配を感じなかったので、恐らくあいつはリビングに居るだろう。
そしてリビングへ到着。 所要時間、約三十秒。
暦「おーい。 月火ちゃん」
ソファーにいつもの様にだらしなく寝そべる月火を見つけ、声を掛ける。
月火は一度、僕の方に顔を向け……向けて。
『本当に心底嫌そうな顔をして、顔を逸らした』
うわー。
うわあー。
暦「あ、ええっと。 月火ちゃん?」
と、僕が月火の前に回りこみ、顔を覗き込みながら話し掛けると、月火はソファーから立ち上がり。
月火「……ちっ」
舌打ちをして、リビングから出て行った。
暦「……」
大変だ。
大変だ!!!!!!!
いやいや、大変すぎる。
なんて事だ。 これは、どうやら、あれだ。 あれ。
僕の妹達が『ぐれた』。
えーえーえー。
マジで!?
あのいっつも兄ちゃん兄ちゃん言ってる火憐が!?
お兄ちゃん、妹のおっぱい触り過ぎって言ってる月火が!?
暦「うわああああああああああああ!!」
意味も無く叫んでみたのだけれど、それに突っ込みを入れる妹達も、そこには居なかった。
時間経過。
僕は現在外出中である。
あのぐれた妹達とは、とてもじゃないが居辛いので。
ううむ。
なんとか元に戻ってもらいたい物である。
とりあえずは、今年の母の日に避難してきた公園に居るのだけれど、これからどうすっかなぁ。
つうか、火憐ちゃんはすげー分かりやすく怒ってたけど、月火ちゃんの切れ方怖すぎるだろ。
マジさ、あんな可愛い見た目なのに、あの舌打ちとか本当にびびるぜ。
それには多分、何か原因があるのだろうけれど。
しかし、こんな急にぐれる事ってあるのだろうか?
ましてや、あの二人だぜ。
兄大好きの、あの姉妹がぐれるなんて……
やばい。 僕はこれから、あの二人にびびりながら暮らさないといけないのかな。
いやいや、そんなマイナス思考では駄目だ。
そんな諦めの姿勢でどうするんだ、阿良々木暦。 これは多分、僕にしか解決できない事だ。
そうだ。 もっとプラス思考、前向きに考えないと。
とりあえずの案だけれど。
壱……妹達には、常に敬語で話す。
弐……お風呂は必ず先に譲る。
参……妹達が好きなおかずの時は、僕の分をあげる。
四……お金を貸してと言われたら、貸す。 というかあげる。
伍……妹達がイライラしている時は、僕で発散してもらう。
……後ろ向きすぎるわ!
どう考えても、前向きにならねえぞこれ!
暦「……はあ」
なんて。
溜息をついても、誰も助けは来ない。
今回のは多分、僕自身で何とかしろとの事だろう。 誰の意思かは分からないけれど。
つってもなぁ。
まず、するべき事を考えるかな。
うーん。
考えられるのは。 いや、真っ先に考えるべきこと、か。
それは勿論、原因が『何か』とか曖昧な物では無く、僕に原因があるんじゃないかって事だ。
その可能性が一番高い。 もっとも、僕自身には現時点で心当たりが無いのだけれど。
まあ、回想しよう。
よし、そうと決まればまずは昨日の朝の事を思い出す。
ええっと、今日は日曜日だから……土曜日か。
昨日の朝は確か、いつも通り起こしに来てくれたんだよな。
以下、回想。
妹達の目覚ましにより、僕は大分早い時間に起きれた。
その時間を上手く使う為、僕は勉強に励んでいたのだ。
んで、月火から「ご飯だよ、お兄ちゃん」って呼ばれて、家族全員で朝ご飯を食べた。
その後は、確か。
月火「ねえねえ、お兄ちゃん」
リビングで月火とテレビを見ていたら、横からそんな声がする。
発信源は勿論、月火である。
暦「ん?」
月火「ゲームしよう、ゲーム」
はあ? 何言ってんだ、こいつ。
暦「ゲームっつってもな、僕は一人用のゲームしか持って無いぞ」
月火「知ってるよ。 お兄ちゃん、寂しい人間だもん」
暦「月火ちゃんのその発言に対して、僕は大人だから何も言わないが、月火ちゃん」
暦「知ってるって事は、何か考えがあるんだな?」
ここで「え? 何も考えてないよ?」とか言ったら、胸を揉んでやろう。
あれ、僕ってこんな、妹の胸を揉むキャラだったっけ。 まあいいや。
月火「もっちろん! 月火ちゃんに任せなさい!」
自信満々に言う月火。
無い胸を張るんじゃねえよ。
けど、案を考えていたのは褒めてやろう。 優しいなぁ、僕。
暦「それで、月火ちゃんに任せてもまともな案が出ないとは思うけれど、一応は聞いてやろう」
僕の発言を待っていたかの如く、言い終わるのとほぼ同時に月火は口を開く。
月火「トランプ!」
暦「やだ」
それに返す僕の速度も、中々目を見張る物だった。
てか、何が楽しくて朝っぱらから妹と二人でトランプなんてやらないといけないんだよ。
しかも、月火の言うトランプってトランプタワーじゃん。 僕はそんな器用じゃねえしな。
月火「良いじゃん良いじゃん、やろうよ」
暦「……一応、トランプの何のゲームをするか聞いてやろう」
月火「ババ抜きだよ」
あれ、トランプタワーじゃないのか。 意外だな。
暦「まあ、やらないけどな」
月火「よし、分かった。 じゃあ、今からお兄ちゃんのエッチな本をゴミに出してくるよ」
暦「はは。 僕がお前に見つかる様な場所に隠すと思うか? ハッタリもいい加減にしろよ、月火ちゃん」
月火「……さ、さすがだね、お兄ちゃん。 私のハッタリを見破るだなんて」
月火は驚き、後ずさる。 うわー、白々しいリアクションだなぁ。
もうこの時点で、あまり良い未来に転びそうには無いんだけど。
月火「仕方ないから、机の裏に貼り付けてある本だとか。 後は辞書の中身をくり抜いて仕舞ってある本だとか。 そっちだけで我慢してあげるよ」
ばれてるじゃん!! 僕のプライベート丸分かりじゃん!!
暦「は、ははは。 し、しかたないなぁ。 月火ちゃんがそこまで言うなら、やってあげない事も無い……かな。 はは」
月火「いいよいいよ。 お兄ちゃん気にしないで、たかが妹の分際の私なんかの遊びに付き合わなくて良いんだよ」
暦「……すいませんでした、遊ばせてください」
土下座である。
月火「よろしい」
と、こうして僕は半ば強制的に、二人ババ抜きをする事になったのだった。
暦「それはそうと月火ちゃん、火憐ちゃんはどうしてるんだ?」
月火「よっ……え? 火憐ちゃん?」
暦「うん、火憐ちゃん」
うわ、ババだ。 にやけてるんじゃねえよ、このチビ。
月火「ジョギング中だよ、ジョギング」
暦「へえ。 この寒い中、あいつもよく走る気になるな」
月火「寒いからこそ、じゃない? 火憐ちゃんらしいよ」
そうだな。 火憐なら多分、そう思ってる所だろう。
お、ババを引いてったな。 ざまあみろ。
月火「まあ、私は暖かい家の中で、兄妹仲を暖かくする役目って所かな」
うまくねえからな。 それに、別に僕とお前の仲は暖かくなって等いない。
だって、一枚だけ飛び出させたり、一枚だけに集中して目線をやっていたり、やる事が姑息なんだもん。
そして、そんな罠に引っ掛かる僕でも無いがな!
暦「そりゃ、お疲れ様のありがとう」
真似してやった。 いつかの月火の真似。
月火「あ?」
月火は一瞬で表情を怒り、無表情、笑顔に切り替える。
月火「友達を作ると、人間強度が下がるから」
暦「僕が悪かった、月火ちゃん。 この話はやめよう」
お互いの為にも、それが賢明な判断である事は間違い無い。
そんななんとも言えない空気が場に流れた時、その空気を壊してくれる、なんとも有難い奴が来た。
火憐「たっだいまー。 っと、なんだ、トランプか?」
我が家で一番熱い奴、阿良々木火憐がジョギングから無事、帰還した様である。
暦「強制的にな。 火憐ちゃんもやるか?」
火憐「いやー。 あたしはいいや、後ろで見学させてもらうよ」
そう言い、火憐は僕の後ろへと座り込む。
見ておけよ、火憐。 お前の可愛い可愛い相棒がボコボコにされる所を。
と格好付けてみたのにも理由がある。
僕の手札は残り二枚。
月火の手札は残り三枚。
そして次は、月火がカードを引く番である。
僕の手札には、当然ババは無い。
つまり、圧倒的に僕の方が有利、と言う訳だ。 まあ、二人なのだから運が絡んでくる訳だが。
しかし、僕には作戦がある。 ふふん。
やがて、月火がカードを一枚持っていく。
当然、そのカードはペアとなり、月火の手札は残り二枚。
暦「ははは。 悪いが月火ちゃん、勝たせてもらうぜ」
月火「うぐぐぐ。 絶対負けない!」
そうして、僕はカードを引く。 月火の手札から。
……ババだった。
月火「はっはっは! 残念だったね、お兄ちゃん」
何勝ち誇ってるんだよ、まだ勝負は終わっちゃいねえぞ!
暦「まだ分からねーぜ、月火ちゃん。 お前が負ける可能性だって、十分にあるんだよ」
月火「ふふん。 じゃあさ、お兄ちゃん。 何か賭ける?」
ん、珍しいな。 月火の方から賭けを申し出てくるなんて。
暦「えらく強気じゃねえか」
暦「まあ、そうだな。 何を賭けるんだ?」
月火「おやつのケーキだよ。 お兄ちゃん」
暦「別にいいぜ。 僕は負けても、昨日の分も合わせてもう一個あるし、問題ねえからな」
月火「甘いね。 お兄ちゃんはその二個とも賭けるんだよ」
なんだその不公平な賭け。
暦「おいおい、そりゃあ理不尽だろ。 なんで僕だけそんなリスクを負わないといけないんだ」
月火「違うよ。 私もケーキを賭ける……確かにそれだけじゃ、理不尽だよね。 私は一個だけで、お兄ちゃんは二個なんだから」
そんな分かりきってる事を頭良さそうに語られてもな、反応に困る。
月火「だから、私は火憐ちゃんの分のケーキも賭けるのさ!」
火憐の分?
はあ? おいおい、こいつ本気かよ。
火憐がそれで、納得するとでも思っているのか。
と、思いながら後ろを振り向く。
火憐「ん? あたしは構わないぜ」
マジかよ。 意外だなぁ。
今日は月火の奴もなんか強気だし、火憐の奴も妙にノリが良い。
暦「オーケー。 その賭けは成立だ、月火ちゃん」
月火「よし、じゃあ負けた方が、相手にケーキを二つ献上。 成立だね」
ふふん。 馬鹿め。
先程も言った様に、僕には考えてある作戦があるのだ。
お前の性格なんて分かりきっているんだよ。 月火。
そう思い、カードを一枚飛び出させる。
この一枚、これこそがババである。
普通に持っている方のカードは当たり。 すなわち、こっちを引かれれば僕の負けだ。
月火の性格からして、恐らく僕の事は疑ってかかっているだろう。
それならば、ババかと思わせておいて、逆のカードが安全、けれど、その逆で……との答えに辿り着く筈である。
勿論、そんな短絡的な思考では無い。
が、最終的には、何回も何回も考えを巡らせて、こっちの飛び出ている方のカードを月火は取る筈だ。
それは月火と長い間一緒に居る僕だからこそ、分かるのだろう。
月火「んー。 なんだか、負ける気がしないよ、お兄ちゃん」
暦「ふっ。 それは勝ちが確定してから言うべきだな」
月火「もう確定している様な物だもん。 そりゃ言うよ」
月火「なんならお兄ちゃん、もしこの勝負にお兄ちゃんが勝てたら、一週間は私と火憐ちゃんのおっぱいを好きなときに、好きなだけ揉んでもいいよ」
暦「二言は無しだぜ、月火ちゃん」
月火「はいはい」
そう言い、月火は……普通に持っている方のカードを引いた。
月火「ほらね? ケーキありがとうお兄ちゃん」
な、なんだと。
おかしい、月火がそっちのカードを引くなんて。
暦「……マジかよ」
月火「どうしたの、お兄ちゃん」
落胆する僕の顔を覗き込み、月火が続ける。
月火「まあ、お兄ちゃんがどうしてもって言うなら、もう一回やってあげてもいいんだけどなぁ」
暦「……く」
火憐「あっはっは。 兄ちゃん残念だったなぁ」
火憐がそう言いながら、僕の後ろで高笑いをしている。
ん?
僕の『後ろ』で?
ちょっと待てよ、こいつらもしかして。
暦「いやあ、負けたよ。 兄ちゃんの負けだ」
月火「潔く負けを認めるんだね。 まあ、ケーキは貰うけど」
暦「うんうん。 やっぱり強いよ、月火ちゃん」
月火「でしょでしょ」
暦「それに『火憐ちゃんも大活躍だった』しなぁ。 『二人』の『作戦勝ち』って言った所かぁ」
火憐「へへ、そうだぜ兄ちゃん。 あたしと月火ちゃんの策に、兄ちゃんは見事に嵌められたんだ」
暦「そうかそうかぁ」
月火「うんうん……ちょっと火憐ちゃん!」
馬鹿め、手遅れだ。
暦「ようし、じゃあそこの正義の味方さん共。 正座しろ」
こうして、僕は月火のケーキと火憐のケーキ、自分の分と合わせて四つのケーキを獲得したのである。
回想終わり。
なんつうか。
僕、悪くなくね?
いや、確かにあの勝負には負けたんだけれど、それでもあいつらが悪い訳だし……
後ろで火憐が目線で指示を出して、月火がそれをヒントにババを避ける。 見事な連携プレイだった。
ってなる訳が無い。 卑怯すぎる。
もうあいつら、正義の味方じゃなくて悪の味方じゃねえか。 卑怯シスターズってか。
けど、それならなんで、あいつらの態度があんな風になっているのだろうか。
まさか、これが原因って訳でも無いだろうし。
やべー。 本格的に分からないぞ。
あの後、トランプの後に何かあったっけ……
ええっと、そういやあったな。
確か、昼過ぎくらいに僕が勉強している時だったかな、火憐が部屋に来たんだ。
以下、回想。
火憐「兄ちゃん、入るぜー」
と同時に蹴破られる。 僕の部屋の扉をいじめないでくれ。
最近では少しマシになった物の、百回入る内の一回程しか普通に開くという事が出来ない様だ。 一パーセントじゃねえかよ。
暦「なんだよ火憐ちゃん。 見て分かる通り、僕は今勉強中なんだ」
火憐「知ってるよ。 さっきのお詫びも兼ねて、お茶を淹れて来てやったんじゃねえか」
お茶? 火憐が?
暦「マジで? お前、そんな妹っぽい事出来たの?」
火憐「あたしは歴とした妹だ!」
いやはや、火憐に突っ込まれてしまった。
暦「そうだった、そうだった。 ついつい忘れちゃうんだよな」
火憐「そりゃあ、やべえぞ兄ちゃん。 勉強のしすぎじゃねえのか?」
暦「そうでもねーよ。 僕なんてまだまだだぞ」
火憐「ふうん。 ま、勉強も程々にしとけよ」
暦「おう。 しかし火憐ちゃん、今日はやけに気が効くな。 というか、火憐ちゃんってお茶を淹れる事、できたんだな」
火憐「いや、できねーよ?」
さっきと言ってる事、違くね?
まあ、火憐の場合良くある事なんだけれど、なんだか話が噛み合わない。
暦「……ん? じゃあこのお茶って」
火憐「月火ちゃんが淹れてくれたんだぜ。 何かぶつぶつ言いながら、楽しそうに」
絶対何か入ってるじゃねえかよこれ!
暦「あー。 えーっと、火憐ちゃん」
暦「実は僕、今はお茶って言うよりはコーヒーの気分なんだよ。 折角持ってきて貰って悪いんだけどさ」
火憐「あん? あたしが持ってきたお茶が飲めないっつうのか?」
もうさ、実の兄を脅すのやめてよ。 怖いから。
暦「僕も、僕も飲みたいんだ。 けどな、火憐ちゃん。 実は僕」
暦「お茶アレルギーなんだよ」
脅された恐怖もあり、咄嗟にとんでもない嘘を付いてしまった。
でも、さすがにばれるだろ、これ。
第一、朝ご飯の時に美味しそうにお茶飲んでたし。
火憐「……」
火憐「そ、そうだったのか! 兄ちゃんごめん! 気付かずにいた、あたしのミスだ!」
うわぁ。 罪悪感がやべぇ。
というか、そろそろこの妹の馬鹿さ加減が心配になってきたぞ!
火憐「次から気をつけるよ。 悪かったな、兄ちゃん」
あ、あはは。
これ、ばれたらマジで月火に処刑されるな。
ま、まあ。 あんな話を聞いた後じゃそんなお茶なんて飲めねえし、仕方無いって事にしておこう。
棚上げ万歳。
回想終了。
これじゃん!
むしろこれしかねえよ!
あー、そういう事だったのか。
うわあ。
謝って済むのかな、これ。
うーん。
とりあえず、電話してみるかな……
即決即断。
僕は、恐る恐る、電話帳から月火の名前を呼び出し、発信する。
コール音が鳴る事もなく、電話は繋がった。
「お客様のご要望により、おつなぎすることができません」
いや、着信拒否されてた。
やべぇ。 本格的にやべえぞこれ。
帰ったら僕、殺されるんじゃねえの。 いやいや、マジで。
一応、一応火憐の方にも連絡を取ってみよう……
火憐の名前を電話帳から呼び出し、発信。
幸いにも、先程の月火の様に着信拒否はされておらず、コール音が鳴る。
数回鳴った後、電話は繋がった。
「はーい」
暦「あ、火憐ちゃんか? 僕だ」
「兄ちゃんか、何か用事か?」
「……ん? あ、やべ」
「敵が電話を掛けてくるなんて、良い度胸だなこら!」
何なんだよ! 最初普通だったじゃん……
暦「あの、火憐さん。 もしかして、昨日のお茶の事を怒ってたりします?」
「お茶? あー、月火ちゃんが睡眠薬入れてた奴か?」
え? 聞こえちゃいけない単語が聞こえたんだけど、今。
暦「え、睡眠薬いれてたの? あのお茶に?」
「あれ? 言ってなかったっけ。 まいいや。 んでそれがどうしたんだよ」
まいいや、で流すなよ。 火憐は大抵の事を「別に良いけど」とか「まあ、いいや」で流すのは分かってるけど、今のは流しちゃ駄目だろ!
暦「いや、僕があのお茶を飲まなかったから、二人ともぐれちゃったのかなぁって」
「ああん? あたしらがいつ、ぐれたんだよ。 それに、お茶を飲まなかったのは確かに月火ちゃんは悔しがっていたけど、別に怒ってはいねえよ?」
悔しがってたとか、それもそれでどうなんだよ。
けど、んー? あれ、違うのか。
ここはそうだな。 もう直接聞いちゃえ。
暦「じゃあ、何で二人とも怒ってるの? 僕、なんかしたっけ」
「自分の胸に聞きやがれ!」
と怒鳴られて、電話を切られた。
めんどくせえええええええええええ!
もうマジでめんどいんだけど!
せめて理由教えてくれよ!
くっそー。
やっぱりまだ、家に帰る訳には行かないよな……
他に何か、僕がした事……あったかなぁ。
うーん。
昼過ぎからは二人には会ってないし……最後に会ったのは、夜だっけ?
夜ご飯を食べて、んで……ああ、そうだ。
母親の方が、デザートだとか言ってプリンを買ってきたんだっけかな。
今更だけど、ケーキといいプリンといい、僕達兄妹はぶくぶくと太りそうである。
ああ、火憐はそうでもないか。 よく動いてるし。
まあ、そうだ。 その時の事を思い出そう。
もしかしたら、ヒントがあるかもしれない。
以下、回想。
夜ご飯を食べ終わり、現在は月火、火憐、僕と三人でソファーに並んで座り、テレビを見ている所だ。
月火「そうだ、お兄ちゃん。 トランプやらない?」
暦「なんで朝と同じくだりなんだよ! また嵌める気だろ!」
月火「へ? 私が? お兄ちゃんを? やだなーもう。 そんな事、一度だってした事無いじゃん」
着実に僕に似てきているよなぁ、こいつ。
火憐「んじゃあさ、プロレスごっこしようぜ」
暦「お前はやんちゃな中学生男子かよ! それにお前の場合、ごっこにならねえから!」
火憐「そりゃそうだろ、何て言っても、あたしは正義の味方だからな」
うるせーよ。 そっちはごっこだろうが。
最早、火憐にとっては前後の繋がりなんて不要なのだろう。 全てが正義の味方に繋がるのだから。
暦「とにかく、僕はゆっくりとテレビを眺めていたいんだ。 騒ぐなら部屋へ行けよ」
月火「はいはい、分かったよ……分かりましたお兄ちゃん。 火憐ちゃん、行こ?」
火憐「仕方ねえなぁ。 行くか、月火ちゃん」
そうそう、それで良いんだよ。
食後の一服くらい、ゆっくりさせろってんだ。
しっかし。
やけに素直だったな、あいつら。
素直、だったなぁ。
待てよ、あいつらが素直になる訳がねえ。
嫌な予感しかしないんだけど。
と、僕が考えていた所で、上から何やら声が響いてくる。
「うわ! お兄ちゃんこんな本読んでるんだ、火憐ちゃん、見てみ!」
「うわー! こりゃ引くぜ! いくら兄ちゃんと言ってもこれは引く!」
だよなぁ。
暦「何やってんだこらああああああああああ!!」
その時僕は、今まで出したことの無いタイムで部屋まで辿り着いたと思う。
くそ、ご飯直後だって言うのに走らせやがって。
んで、その最速タイムで僕の部屋を開けたんだけれど、火憐と月火は仲良くベッドに座っているだけであった。
月火「ほら、お兄ちゃんすぐに来た」
火憐「すげえな、やっぱ月火ちゃんの作戦はうまく行くよなー」
暦「おい、そこのゴミ二人。 嵌めたな」
月火「お兄ちゃん、まだ私が「ゴミ」ってあだ名を付けた事、恨んでるの? てかさ」
月火「人聞きの悪い事言わないでよ。 ただの女子中学生の会話じゃん」
暦「明らかに僕を呼ぶ為だったろうが! いや、そもそもそれ以前の問題だ」
暦「僕の部屋に勝手に入ってるんじゃねえよ!」
僕がそう言うと、月火は「やれやれ」と台詞が聞こえそうな位に腕を動かし、言う。
月火「やれやれ」
聞こえそうじゃない。 そう言っていた。 まあ、これはどうでもいいな。
月火「違うよ、お兄ちゃん」
暦「あん? 何が違うんだよ」
月火「私達が部屋に入ってるんじゃなくて、部屋が私達を入れてきているんだよ」
それを使われると、僕はもう何も言えないのであった。
時間経過。
暦「んで、火憐ちゃんに月火ちゃん。 暇なのか?」
月火「平和だからねぇ。 暇」
火憐「そうだなぁ。 兄ちゃん相手に戦いたいんだけれど、今日はあんま乗り気じゃなさそうだしな」
暦「いつもは乗り気みたいに言うな! 僕が乗り気だった事なんて、ただの一度も無いからな!」
暦「つうかさ、暇なら一つ、頼まれてくれよ」
既に自分の部屋に居るかの如く、ベッドに寝転び、リラックスし切っている火憐と月火に向けて言う。
火憐「お? 珍しいな。 兄ちゃんから頼み事なんて」
月火「へえ、お兄ちゃんが私達に? ついにファイヤーシスターズの偉大さが分かったのかな?」
断じてそんな事は無いのだけれど、ここは話を合わせておこう。
暦「まあ、そんな所だ」
暦「んで、頼みなんだけどさ。 ちょっくらコンビニ行って、ノート買って来てくれ。 さっき気付いたんだけど、もう残りが少なくってさ」
火憐「おっけーおっけー。 任せておけ、兄ちゃん」
大して悩む素振りも見せず、火憐は言った。
さすがは絶対服従と自分で言うだけはある。 良い返事だな。
月火「報酬は?」
ははは、月火の奴はしっかりしてるなぁ。
でもまあ、そのくらいだったら別に良いか。
僕も鬼では無いし。 中途半端に吸血鬼ではあるけれど。
暦「じゃあ、なんか好きなお菓子とか一つずつ買ってきていいぞ。 あくまでも常識の範囲内の金額の物にしろよ。 分かってるとは思うけど」
火憐「おう! んじゃあ月火ちゃん、行こうぜ」
月火「うまく使われてる気がするけど、まいいか」
こいつらも暇だったのだろう。 断る様な事はせず、承諾した。
そうして、火憐と月火は二人仲良く、コンビニへと旅立って行ったのだった。
ふう、これでやっと静かになったという物だ。
つっても、一人でする事もねえよなぁ。
……あ、そういやプリンが冷蔵庫にあるとか言ってたっけか?
暇だし食べておこう。 そうしよう。
僕は次にするべき行動を決め、一階へと向かう。
先程二階に駆け上がった速度は無いにしろ、早足で冷蔵庫の前まで行き、扉を開ける。
そこには三つのプリンが入っていた。
暦「なんだ。 あいつらもまだ食べてなかったのか」
その時は特に何も思わず、僕は自分の分のプリンを取り出し、ソファーに座りながらそれを食べたのだが。
ふむふむ。
意外とうまい。 というか、かなりうまい。
ううむ。
気付いたら、もう無くなってしまった。
そして、一つの考えが閃く。
なんだか、これをあいつらにあげるのは勿体ねえな。
なんて。
言い訳をさせてもらうと、魔が差したって奴だ。
思い立ったが吉日。 便利だな、これ。
さて。
冷蔵庫からもう一つのプリンを取り出し、ソファーで再びそれを食べる。
ふむふむ。
二個目でも全然いけるな。 うまいうまい。
あー。
もう無くなってしまった。
んー。
一個だけ残しておいたら、あいつら喧嘩になるんじゃね?
ならいっそ、最初から無かった事にしてしまえばいいんじゃね?
これは、せめてもの僕からの優しさである。
一日一回は思うけど、良い兄だなぁ僕。
時間経過。
結論。
僕は火憐と月火の分のプリンも美味しく平らげ、ばれない様に今は証拠隠滅中である。
見つかったら、文字通りおしまいだ。
自分で言うのもあれだが、あいつらの分とかを盗み食いとかするのは結構あるので、証拠隠滅作業は慣れた物である。
そして、その慣れた手つきでプリンのカップを他のゴミの奥底に入れようとした、その時。
火憐「いよっしゃあ! 最高記録!」
月火「すごいよ火憐ちゃん、やっぱ火憐ちゃんの背中は、どんな乗り物より早いね!」
なんて。
火憐「ん? 兄ちゃん、何してるんだ」
月火「お兄ちゃん、その手に持っている物は、何?」
暦「あ、ええっと」
その日の夜、僕は生と死の堺を彷徨ったのであった。
回想終了。
間違いない。
これだ。
もうヒントって問題じゃねえ、答えじゃんこれ。
そりゃ、怒って当然だよなぁ……
はあ。
まあ、悪いのは僕だ。
こんな所に逃げてきて、それもまた、あいつらの怒る原因になっているんだろう。
仕方ない。 帰りになんか、美味い物でも買って行こう。
さすがに僕も、今のままの状態が続いたら泣いてしまいそうだ。
あいつらの前では、滅多な事が無い限り泣かないけどな。
なんて。
変な意地を張っても仕方ない。
そうと決まれば、帰らなければ。
と思い立ち、公園から外に出る。
偶然。
必然。
いや、どちらでもないか。
ただの、普通の出会い。
目の前から、僕があまり会いたく無い人がやってきた。
あまり会いたくない。 文字通り、できれば会いたく無い人と言う事。
暦「えっと、こんにちは」
暴力陰陽師、影縫余弦。
影縫「おーおー。 誰かと思えば、鬼畜なお兄やん」
何してるんだよ、この人。
てか、相も変わらず、塀の上を歩いているんだな。
暦「えっと、何か用事でもあったんですか? この町に」
影縫「んー? そういう訳ではあらへんで」
なら、マジで何してるんだよ。
影縫「うちがどこに居ようと、勝手やろ? ちゅうか、おどれ、おどれは何しにこんな所におるねん」
確かにそうかもしれないが、この人が居るってのは、あまり好ましい状況で無いのは間違いない。
暦「あ、僕は……何と言うか、家に居辛いと言うか」
影縫「ほお。 まあよく分からんけれど、何か事情があるっちゅう事やな」
暦「そんな所です」
僕がそう言うと、影縫さんは塀の上で腕を組みながら、なにやら「ふんふん、なるほどな」等と呟いている。
影縫「ちょいちょい」
と、言いながら僕を手招き。
手招きするだけで、これほどの恐怖を与えてくる人ってのも中々いねえよな。
暦「は、はい」
無論、それを無視する事もできず、頷く。
僕は傍目から見て、すぐに分かるレベルでびびりながら、影縫さんの方へ歩いていった。
影縫「とりゃ」
影縫さんはそんな可愛らしい掛け声を掛け、僕の胸にストレートを放ってくる。
やべえ、死んだこれ。
とか思ったのだけれど、意外にも、本当に意外にも、それは人が普通に当てる程度の、そんな威力だった。
暦「え、えっと?」
影縫「ちーと、黙っとき」
そう言われてしまっては、僕は許可が降りるまで喋れない。 そりゃもう、一生。
しかし、幸いにもその許可が降りるまでは、三十秒ほどであった。
影縫「なるほどな。 大体の事情は分かったわ」
え、テレパシーか何か使えるのかよ。 この人。
影縫「まー。 うちから出来るアドバイスなんて、無いも同然やけど」
影縫「一つ言わせて貰いましょか。 おどれ」
影縫「ええ妹さん達の兄やんで、幸せやろ」
何を言っているのだろうか、この人は。
つうか、妹って単語を出された時点で、全部理解された様な気がして怖い。
暦「僕がですか? そりゃまあ、あいつらは悪い奴らでは無いですけど、何か今日は反応が冷たいと言うか、敵対心を丸出しと言うか」
影縫「かっかっかっ。 心当たりとかは、ないんけ?」
暦「……今日一日、あそこの公園で考えて、思い当たる事が一つありました」
影縫「ほお。 んで、それは?」
暦「昨日、母親が買ってきたプリンを僕が全部食べちゃったんですよ。 あいつらの分も」
影縫「くだらんなぁ……」
影縫さんは心底呆れ果てた様な顔をして、そう言う。
暦「だから、帰りに何か買って行ってやろうかなって。 それで、機嫌が戻るかは分からないんですけど」
影縫「まー。 その気持ちは大事やと思うで」
影縫「けどな、鬼畜なお兄やん。 おどれの妹さん達は、そんなの大して気にしてへんと思うで」
うーん。
気にしてなかったら、あんな態度にはならないと思うのだけれど。
影縫「ま、ええわ。 そろそろ日も暮れるしな、早めに帰ったり」
影縫「妹さん達も、おどれが帰ってくるのを待っとる思うで」
なーんて。 そんな事を影縫さんはさっき言っていたのだけれど、帰ったら即、殴られかねない。
まあ、でも。
いつまでも外でぶらぶらしている訳にも行かないよなぁ。
結局。
影縫さんと別れてから、僕は近くのケーキ屋でちょっと値が張るプリンを二つ買った。
埋め合わせになればいいのだけれど。
そんな事を考えていた所に、着信。
電話かと思って携帯を取り出し、画面を確認すると、メールの方であった。
ええっと。 うわ。 月火だ。
小妹:無題
本文
帰ってヨシ
どうやら、帰宅の許可は降りたらしい。
僕って、色々と許可が降りなければ行動できない人生なんだなぁ。
そう感慨に浸りながら、家を目指して歩く事にした。
当たり前ではあるが、これを無視したらもっと酷い事になるのだろうから。
つっても、今もかなり酷い事なんだろうけどさ。
はあ。
人間、楽しいと思う事は一瞬で終わってしまう物だ。
そして、嫌な事というのは長く感じる物である。
更に言わせて貰うと、嫌な事を待つ時間もまた、一瞬で終わるのだ。
こう考えると、その待つ時間は楽しい時間、という事になるのだろうか?
まあ、結論。
いつまでも続けば良いなぁ。 と思ったことは、即ちすぐに終わると言う事だ。
テストが始まるまでの間とか、面接までの待ち時間とか色々あるけれど、大体が嫌な事では無いだろうか。
そして、家に帰りたく無いと思っている時は、帰宅時間は本当に一瞬なのだ。
……はあ。
本日何度目の溜息だろう。 今年の分はもう使い果たした気分である。
僕の視界には、阿良々木という表札。
とりあえず、土下座しとくか!
とか、勢いで入れれば良いのに、そんなノリで果たして乗り切れるかどうか。
ノリだけに、乗り切れる。 くだらねえ。
てか、扉を開けた瞬間に包丁とか飛んでこないよな。
マジでありえそうで、怖いんだけれど。
もしその場合、僕は土下座をする暇も無いのだろう。
まあ、なんつうか、一番怖いのは、これからもずっとあんな態度を取られる事か。
なんて。
家の前で立ち止まり、そんな事を延々と考える。
周りから見たら、それはもうかなりの不審者だっただろう。
と。
着信。
うーん。
このタイミングって事は、多分。
小妹:無題
本文
早く入れ
こええよ、どっから見てるんだよ!
くそ、僕には僕のタイミングがあると言うのに。
まあ、多分僕のタイミングで入ったら、それこそ夜になっているだろうけれど。
先程も言ったが、そんな事を延々と考えていたら妹達の怒りはどんどん蓄積されていくだろうし、仕方ない。
阿良々木暦。 ここは腹を決めて、参ろう。
さようなら、僕の友達。 今までありがとう。
別れの挨拶を済ませ、玄関の扉に手を掛ける。
ガチャ。 と鳴り、扉が開かれた。
僕にはもう、その小気味良い音は死刑宣告にしか聞こえなかったのだけれど。
恐る恐る、中に入る。
目の前には、二人の妹達。
暦「え、ええっと。 た、ただいま」
挙動不審なんてレベルじゃない。 それと、文章だからこの程度だが、実際には「たったたたた、たたただいま」みたいな感じだ。
僕はどこかのラッパーかよ。
さて。
何を言おうか。
どう謝ろうか。
とりあえずはやはり、土下座だろうか。
と思ったとき。
僕には本当に、予想外の事が起きた。
「兄ちゃん、誕生日おめでとう」「お兄ちゃん、誕生日おめでとう」
そう、二人の妹は僕に対して言ったのだから。
暦「へ?」
誕生日? 誰が? 僕が?
ん?
あれ、そういえば、今日は十一日か? って事は、僕の誕生日?
火憐「おいおい、兄ちゃん。 まさか自分の誕生日を忘れてたのかよ」
月火「あり得るね。 だってお兄ちゃん、私達の行動を自分の所為だと思っていたみたいだし」
暦「ご、ごめん。 状況が、よく分からない」
いやいや、マジで。
お前ら、怒ってたんじゃないのかよ。
月火「だから、今日はお兄ちゃんの誕生日でしょ。 それを祝ってあげようって作戦だったんだよ」
火憐「まあ、基本的には月火ちゃんの作戦だぜ。 あたしと月火ちゃんで、兄ちゃんに冷たくしておけば、勝手に家を出て行くって」
火憐「悪いことしたなぁ。 とは、思ってるけどな」
えーっと。
つまり、火憐や月火があんな態度だったのは、僕を家から出す為?
月火「それで、お兄ちゃんが家を出ている間、こうして準備をしていたって訳だよ!」
確かに、色々な飾り付けがされている。 僕は謝る事ばっかり頭にあって、気付かなかったけれど。
火憐「兄ちゃん、勉強で大変そうだったからな。 友達にもまともに祝って貰え無さそうだし、あたしと月火ちゃんで一肌脱いだんだ」
それで、そんな事をしたのは僕にばれない様、準備を進める為?
月火「ほらほら、そんな所にいつまでも居ないで、リビングリビング」
火憐「そうだぜ、兄ちゃん。 あたしと月火ちゃんで、料理も作ったりしたんだからさ」
月火「火憐ちゃん頑張ってたんだよー。 そんな努力を無駄にするお兄ちゃんじゃないよね?」
暦「あ、うん。 勿論」
うまく返せない。
てか、こいつら。 そうだったのか。
火憐「んー? あれ、兄ちゃん涙目になってんぞ」
月火「ほんとだ。 感動したの? 可愛いお兄ちゃんめ」
なんて。
僕の妹達は。
暦「……うるせえ、泣くか、馬鹿」
月火「そうだよねぇ。 お兄ちゃんは強い強い」
月火の奴め、子供扱いしやがって。
火憐「いーからさ、さっさと行こうぜ。 兄ちゃん驚けよ、プレゼントまで用意してやったんだぞ」
こうして、僕の一年間の内の一日が終わった。
なんでも無い、普通の日。
僕すらも覚えていなかった、誕生日。
最悪な一日だと思ったその日は、最高の一日で。
その日は本当に、一瞬の出来事であった。
こよみデー 終了
868 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/04/23 15:22:43.98 0GT2MdEX0 741/743以上で短編終わりです。
乙ありがとうございます。
883 : ◆XiAeHcQvXg - 2013/04/27 13:30:23.93 TzjkvvIT0 742/743暦「月火ちゃん、ありがとう」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1367036973/
スレッド立てました。
882 : VIPに... - 2013/04/27 10:21:29.95 esqc6iRKo 743/743スレタイが前編と対比になってて熱くなるな