第天話『まよいエンジェル』
みたいな?
元スレ
八九寺「お久しぶりです。阿良々木さん!」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1332809403/
001
今から話そうとしている話はちょっとした日常に舞い降りた天使の様な奇跡。
もしかすると夢じゃなかったのかなんて思ってしまう程に儚くて、でも美しい物語だ。
吸血鬼もどきの僕が語るにはあまりに眩しくて温かい。それでも僕は語らないといけないんだ。
そう。
僕の友達。八九寺真宵の為に。
002
「お久しぶりです。阿良々木さん!」
気のせいだろうか。今、後ろから八九寺の声がしなかったか?
八九寺真宵。『鬼物語』で消えた幽霊。ってこんなメタな発言をするのは僕の役割じゃない!それこそ八九寺の立ち位置だ!
「阿良々木さんのくせにシカトですか?アホなんですか?」
「僕の八九寺はそんな事言わなっ!八九寺ぃ!?」
背中に背負う大きなリュックサック、まるで触覚の様なツインテール、食べてしまいたい程すべすべな脚、今でも感触が思い出される控えめな胸。
間違いない。八九寺だ。
「わたしはあなたのものになった覚えはありませんーーー綺羅々木さん」
「人をどこぞの銀河美少年みたいに言うんじゃない!もし僕が八九寺にとってイケメンで、どうしても結婚したいと言うなら別だけど何度も言っているように僕の名前は阿良々木だ」
「失礼。噛みました」
「違う。わざとだ」
「かみまみた」
「わざとじゃない!?」
「揉みました」
「寧ろ揉ませてくれ!」
と、言い切るよりも速く僕の手は八九寺の未発達な乳房へと伸びていた。別に揉みたい訳じゃなかったさ。目の前に八九寺がいたんだ。消えてしまったと思っていた 八九寺が。
あの大好きな八九寺が。
揉むのが礼儀だろう?
「………あれ?」
いつもだったらここで噛み付かれたり、暴れたりするんじゃないのか?偽物?いや、この胸の大きさ、揉み具合は八九寺のもので間違いない。
ベストハチクジニストの僕が間違える筈がない。
「これだから童貞は」
ニヤニヤと笑う八九寺は僕の知っている八九寺ではないような気がして、でもやっぱり八九寺がいる事に喜びを隠せない僕は八九寺が、八九寺真宵が大好きだ。
愛してると言っても過言ではない。
「童貞で悪かったな!戦場ヶ原とはピュアで健全なお付き合い中なんだよ!」
でも口から出る言葉はなんて残酷なんだ。僕が童貞であるのはあくまで僕のせいでしかないし、まして戦場ヶ原に問題がある訳がないのだ。
僕がヘタレと呼ばれてしまう事にもなるほど納得がいく。
「ではわたしで童貞を捨てますか?」
あれ?これではまるで僕が童貞であるがゆえに彼女を裏切り目の前の女子小学生で童貞を卒業する流れじゃないか!
「おい!八九寺をそんな事言う子に育てた覚えはない!」
「阿良々木さんに育てられた覚えもないですけどね!」
いやいや、僕はそういうことが言いたいんじゃないんだ。八九寺なら分かってくれるだろうと思っての事だよ?今の言い方では愛がない。愛が無いんだよ八九寺。
「わたしは阿良々木さんだからこんな事を言っているんです」
「僕が知っている八九寺は嫌ったフリをしながらも僕を愛していた筈だ!自ら受け入れるなんてちゃんちゃら可笑しいね!」
でも、八九寺は表情一つ変えずに、ならその手をわたしの胸から離したらどうです?なんて言ってしまうんだから恐ろしいよな。
離さないけど。これは月火ちゃんの時みたいに胸が僕の手を揉んでいるんだ。そうに違いない。
「阿良々木さん。今からわたしはひとり言を言います」
「へ?独り言?」
「黙って聞いてください!」
003
「わたしはあの時成仏した後、天国と呼ばれている場所に行ったんです。
「そこではどうやら昇ってきた魂の中から天使というものを決めるらしかったのです。
「天使になった魂は地上に降りて誰か一人の………一人だけの願い事を叶えなければならないそうで、その願いを叶える事が出来れば自分も一つ願いを叶えてもらえる………。
「わたしは天使に選ばれました。願いを叶えたい相手がいたからでしょうか?たった一人だけ、なかなか伝えられなかったけれど心から会いした人が。
「いえ、本人曰く人ではないそうですが。
「これでひとり言はおしまいです!ご静聴ありがとうございました」
八九寺の真剣な顔を見てしまっては、それって僕の事か?なんて聞ける筈もなくただ八九寺を見つめる事しかできなかった。
004
「ところで阿良々木さん。いつまでわたしの胸を揉んでいらっしゃるのでしょうか?」
「何を言っているんだ八九寺!これはお前の胸が僕の手を揉んでいるんだ!」
「ちゃんと責任を取ってくださるなら直に触っていただいても構いませんよ?」
責任?食べられるのかそれは。月火ちゃんの胸だって直に僕の手を揉んできたんだから八九寺もそうなんだ。それに八九寺にこれからの時間の中で会えるかなんて分からない。冥土の土産に揉まれよう。
この判断が本当の冥土へ僕を連れて行ってしまう事になるとは思っていなかったんだ。正しくは天国か?
だが、今となってはもうどうでも良い事だ。いや、僕はまだ諦めたとかそういうのではないよ。だって、
………僕はまだ天国から戻ってきていないのだから。
005
「んっ…あれ、ここは何処だ?」
「やっと起きたんですね、ティロロ木さん」
「僕は恵方巻きに食べられた覚えなんてない!」
「失礼。噛みました」
「違う。わざとだ」
「かみまみた」
「わざとじゃない!?」
「ティロ・フィナーレ!」
「他人の必殺技真似するな!八九寺は厨二病になんてなっちゃいけない!」
で大砲の音が聞こえた気がする。いや、まさかね。
「それでここはどこなんだ?八九寺は分かってるのか?」
「天国ですよ。気付きませんでしたか?さっきの銃声も円環の何とかに導かれたって意味不明な事を言っている黄色いひとの仕業です」
怒られる!流石に八九寺でも怒られるよ!杏ほむ派の僕としては余り関係無いけど。
八九寺の言葉から察するに何故かマミさんは天国にいるわけであって、間違ってもティロ・フィナーレを撃たれないように気を付けないといけないよね。
「あまり驚かないんですね」
「そんな事より僕は八九寺が全裸で目の前に立っている事の方がよっぽど驚きだよ!」
何で裸なんだよ!天使って裸族かよ!八九寺のアイデンティティーのリュックサックまで無くなってしまうなんて信じられない!
「何言ってるんですか。阿良々木さんも何も着てないですよ」
「え?そんな訳ないだ………ろ?」
何で僕まで裸なんだよ。というか八九寺の裸を見て反応しちゃった僕の僕が恥ずかしいよ。どうすんだよこれ。
「阿良々木さんは小学生に欲情する変態なんですね」
「しないよ!八九寺だからに決まってんだろ!」
「えへへ…嬉しいです。阿良々木さん!」
こうなったらもうやけだ!やけだやけだ!八九寺が可愛いのが悪いんだ!いつもは僕を嫌っている様な反応しかできないツンデレであろう八九寺が好きですオーラを全面に出してるのがいけないんだ!
「はぁぁあちぃぃいくぅぅうじぃぃい!!」
「きゃっ!……阿良々木さん…」
何だよ。なんでそんな艶っぽい目で見つめてくるんだよ。いくら幼い女の子に触らずとも愛す事のできる僕でも我慢の限界というものがあるのだ!
「優しく…してくださいね?」
ぷちん。僕のちっぽけな理性はそんな一言で消し飛んだ。斧乃木ちゃんの『例外のほうが多い規則』もビックリだ。それくらい一瞬の出来事でした。
反省はしていない。
006
それからの記憶は全く残っていなかった。カスの様な僕でさえ少しは何か残っているっていのに。
残ってない?そんなこと言わないでおくれよ。
「で、僕はどうすれば帰れるんだよ。まさか八九寺まで分からないなんて事はないよな」
「阿良々木さんが何を言いたいのかさっぱり分かりませんよ…。帰る方法なんて無いですよ。天国ですから」
聞き間違えだろうか。変える方法が無い?パラレルワールドからも帰還した僕に帰れないなんて事があるのか?
もっともあの時は忍野や大人八九寺に助けられなければどうなっていたか分からないが。
「わたしの胸を直に揉みたいという阿良々木さんの願いを叶え、阿良々木さんと離れたくないというわたしの願いが叶ったという事です」
「それはおかしいよ八九寺」
八九寺の胸が僕の手を揉んだのか、僕の手が八九寺の胸を揉んだのかは置いておくにしてもあれは八九寺が言わなければしなかったことだ。
「ぱみゅみゅ木さんの深層心理を読んだんですよ」
「僕は付けまつ毛なんて付けないよ!シリアスなシーンが台無しだよ!」
「失礼。噛みました」
「違う。わざとだ」
「かみまみた」
「わざとじゃない!?」
「つけました」
「八九寺は付けまつ毛なんて必要ないくらい可愛い!」
どうやら八九寺は絶好調みたいだ。こんなに噛み噛みするなんて。
「待て八九寺!僕はこんな事ではぐらかされたりはしない!僕の深層心理が八九寺の胸を揉みたいと思っていたなんてそんな訳ないよ」
そりゃ八九寺がいなくなってからもフラフラと八九寺を探しに散歩にでたり、夜な夜な泣いて忍に殴られたりしたさ。
でも、それでも、僕は八九寺を大切に思っていた。まして本気で八九寺を襲うなんて考えたこともなかった。
「わたしはわたしなりに考えたんです。阿良々木さんには本心の十分の一も伝えられなかったので」
「八九寺が僕に本音をぶつけてくれる気になったのは嬉しいけれど、それでも僕は帰らないといけないんだ」
戦場ヶ原が好きだから。
でも僕はそれを口には出せなかった。
だってあんな八九寺の顔を見てしまったから。あんな泣きそうな顔を見てしまったから。
「まあ少しくらいなら八九寺に付き合ってここにいることも構わないよ」
「阿良々木さん!」
なんだよ。そんな顔するなよ。そんな嬉しそうな顔されたら帰るに帰れないだろう。
抱きつくのは僕の特権だ。八九寺からそんな笑顔で抱きつかれてしまったら。
「八九寺!」
007
またやってしまった。僕の理性は何処に行ってしまったんだ。
「阿良々木さん激しかったです」
「………」
せめて今回も記憶が飛んでくれれば良かったのに。八九寺の全てが記憶に、身体に刻まれている。
「早かったですけどね」
「それは余計だ!」
「でも嬉しかったです」
それは良かった。いや良くない!僕の初めては戦場ヶ原とって心に決めていたのに!
それも帰れたらの話でしかなかったし、八九寺の笑顔を見たら心も動かされるってものだ。
「さて、阿良々木さんとの思い出も作ることができましたし、帰してあげますよ」
「ん?今なんて言った?」
帰してあげる?帰れるのか?帰れないと言ったのは八九寺であって、その八九寺が帰れると言うのだから本当に帰ることができるんじゃないだろうか。
「さっきのが本当に最後のわがままです。阿良々木さんを奪ってしまったら戦場ヶ原さんに殺されてしまうかもしれませんし」
確かに戦場ヶ原ならここまで追いかけてきてくれるような気もする。戦場ヶ原が同じ事になっていたら僕も追いかける。
「じゃあ、ばいばいです」
「ああ、またな」
008
「阿良々木くん!?」
そんな僕を呼ぶ声に起こされた。羽川だった。
見る限り僕の部屋なのに何で羽川がいるんだ?
「何で羽川がいるんだ?」
「お前様こそ何処に行っておったのじゃ!」
「忍!?」
そういえば八九寺と天国にいた時は忍は何処にいたんだ?まさかまたペアリングが切れてしまっていたのか。
「心配はいらん。ペアリングは切れておらぬよ」
「そうか」
「それにしても阿良々木くん、また冒険をしてきたみたいだね。行方不明だったのは三日間だからそれ程大きな問題ではなかったのかな?」
「僕にとっては大きな出来事だったよ」
小さな幸せの為の冒険だった。僕の大好きな小さな女の子の為の冒険だった。
「戦場ヶ原さんにはちゃんと謝ってあげてね」
「ああ」
009
今回のオチ。というか続き。
「阿良々木さん!」
翌朝、いつもだったら起こしに来てくれる月火ちゃんや火憐ちゃんではない声で起こされた。
「来ちゃいました!てへっ!」
そこには僕の大好きな友達がいた。アイデンティティーであるリュックサックは背負っていないけれど、紛れもなく…。
「おかえり八九寺」
010
オチじゃなかったのかって?続きって言ったじゃないか。
だからこれが本当のオチ。
八九寺が天使になったのは本当の話らしい。本人が言うには。
天使と言えど僕にしか見えない。というか僕ならば触れるし、聞こえるし温もりさえ感じることができる。
お願いがどうって話は嘘らしいけれど、僕と八九寺の間であったことが本当なのかどうかははぐらかされてしまった。
「阿良々木くん。他の女の匂いがするわよ」
戦場ヶ原の女の勘を信じるならば八九寺との事が本当だったということになるのかもしれない。
「具体的に言うなら十一歳くらいの少女を相手に理性を無くした挙句、記憶の無いまま少女の処女で阿良々木くんの童貞が捨てられたという感じかしら」
どこかで見ていたんじゃないのか?詳しすぎるんだよ、まったく。
「またエッチなことしましょうね阿良々木さん!」
八九寺の相手をしなければいけないのが今後の課題かな。二十四時間何処でも一緒にいないといけないなんて、忍がもう一人増えたみたいだ。
しかも遠慮が無い。何処でも僕を求めてくる。こいつ本当に八九寺か?
僕の最初の語りが台無しだけれど、八九寺がいるんだからこれで良いさ。
「阿良々木さん!ずっと一緒ですからね!」
「ああ!」
終わり