2 : 以下、名... - 2015/08/06 18:15:35.46 YVsZSNZuO 1/353



昼休み



八幡「………」ウトウト



結衣(ヒッキー、やっぱり今日も眠そう…… 先週末くらいからずっとだよね)

結衣「ほんと、どうしたんだろ…」

三浦「なにが?」

結衣「えっ?」

三浦「えっ?」

結衣「……あたし今なんか喋ってた?」

三浦「ため息つきながらばりばり喋ってたけど」

結衣「うそ!? え、えっと、なんでもないから気にしないで!」

三浦「それ気になる言い方だから。まーいいけどさ」

結衣「ごめん…」

結衣「……」チラッ


八幡「………」コクン コクン


三浦「……」

三浦「なんだ、またヒキオのことか」

結衣「ぅええ!? ゆ、優美子なんで分かったの!?」

三浦「…まーほら、結衣とは付き合い長いし」

結衣「うう… そ、そっかぁ」

三浦(サルでも分かるし)


元スレ
結衣「ヒッキーがまたあくびしてる…」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1438852453/

3 : 以下、名... - 2015/08/06 18:16:10.33 YVsZSNZuO 2/353



三浦「で? ヒキオがどうかしたの?」

結衣「うーん、それが分かんないんだよね…」

三浦「は?」

結衣「最近いつもと様子が違くて、ぜったい何かあったと思うんだけど」

三浦「様子〜?」



八幡「………」ウト ウト



三浦「……」

結衣「……ね?」

三浦「……どこが?」


4 : 以下、名... - 2015/08/06 18:16:44.14 YVsZSNZuO 3/353



結衣「えー? 全然違うじゃん」

三浦「ごめん結衣、あーしには全然わかんない」

結衣「うそっ?」



八幡「………」カックリコックリ



結衣「ほら、あんなに眠そうにしてるし」

三浦「いやそれは分かったけど。ヒキオは去年から昼休み大体いないか寝てるかじゃなかった?」

結衣「違うよ! ヒッキーは机に伏せて寝たふりしてただけだもん。あんな風に本当に眠そうなヒッキーじゃなかったよ」

三浦(知らねー…)

三浦「ま、結衣がそう思うならそうなんじゃないの」

結衣「うん……どうしたんだろ、ヒッキー」

6 : 以下、名... - 2015/08/06 18:17:27.85 YVsZSNZuO 4/353



三浦「てか、たまたま夜更かししただけじゃん? あーいうネクラってキモいゲームずっとやってたりするっぽいし」

結衣「ちょっ、優美子! 言い方ヒドすぎ!」

三浦「あ、ごめん。つい」

結衣「もうっ… 何度も言ってるけどヒッキーはそんなんじゃないからね!」

三浦「あーあー、だからごめんってば」

結衣「確かに、ネクラだし、たまーにキモいことするけど」

三浦「合ってんじゃねーか」



7 : 以下、名... - 2015/08/06 18:18:13.32 YVsZSNZuO 5/353



結衣「今日だけじゃないんだよね。たぶん先週末…くらいかな、そのあたりから毎日眠そうで」

三浦「ふーん?」

結衣「はぁ… 気になるなぁ」

三浦「直接ヒキオに聞けばいいじゃん。部活もまだやってるっしょ?」

結衣「なんかね、そういう感じじゃないっぽくて」

三浦「…はぁ?」

結衣「実はね、一昨日の部活のときヒッキーに聞いてみたんだ。なんか眠そうだねって言ったら、『そんなことない』って」

結衣「そしたら、ゆきのん……したさんがね」

三浦「別に気ぃ遣わなくていいよ」

結衣「ご、ごめん」


結衣「ゆきのんとヒッキーでまたいつもみたいなやり取りがあった後、『お前が心配してるようなことじゃない』って」

結衣「ヒッキーがそう言って、でもやっぱりちょっと怪しいから、あたしがもっかいヒッキーに聞いてみたときにね」

結衣「ヒッキーがあたしの髪をこう、くしゃってして、少し脇見しながら『本当、そういう感じじゃねえから』」

結衣「って!」

三浦「あ、そう…」

結衣「しかもね、そのあと」


結衣「『心配してくれてありがとな』」(イケボ)


結衣「って!!」クワッ

三浦「ひっ!?」ヒキッ

結衣「ヒッキー、めったに『ありがとう』なんて言わないからさー…ちょっとびっくりしちゃったんだよね……えへ…えへへ……」

三浦「へ、へぇー」

三浦(え、なにこれノロケ?)


8 : 以下、名... - 2015/08/06 18:18:58.17 YVsZSNZuO 6/353



三浦(結局その後メチャクチャヒキオ観察日記聞いた)



キーンコーン



結衣「あっ、予鈴だ」

結衣「ありがと優美子! 話してちょっとスッキリしたかも!」

三浦「そりゃよかった」



八幡「………」スカー

戸塚「はちまん、5時間目移動教室だよ。はちまーん」

八幡「………」スカピー

戸塚「はちまん! 起きて、はっちまーーん!」ユッサユッサ

八幡「はうあっ!!」

戸塚「あ、よかった。やっと起きた」

八幡「お、おう、戸塚か… 夢の中で天使の呼び声がかかったからてっきり最期のお迎えと思ったぜ」

戸塚「あはは、はちまんは相変わらず面白いね。早くしないと5時間目遅れちゃうよ? 行こ?」

八幡「ああ、起こしてくれてサンキューな。3年でも戸塚が同じクラスで俺は全く幸せ者だ」

戸塚「大げさだなぁ」


結衣(ヒッキー、彩ちゃんとはいつも通りみたい)


三浦「結衣、ぼけっとしてるとあーし達先行くよ」

結衣「あっ! ま、待ってよ〜!」


9 : 以下、名... - 2015/08/06 18:19:45.15 YVsZSNZuO 7/353



カーン コーン



結衣「むにゃっ…」

先生「それじゃ、各自今日のところよく復習しとけよー。たぶんテスト出すからな」

結衣「へっ!?」

結衣(やばっ、途中から寝てて全然授業聞いてなかった!)

結衣(ノートどこまで取ってたっけ)チラッ

結衣(………)

結衣(ほとんど文字ふにゃふにゃで読めないし…てか、よだれめっちゃついてるし……)パタパタ

結衣(後で優美子かヒッキーに教えてもらお…)


16 : 以下、名... - 2015/08/06 21:04:07.39 KEYhL1OZO 8/353



部室



ガララッ


結衣「やっはろー!」

雪乃「ごきげんよう、由比ヶ浜さん」

結衣「会いたかったよゆきのーん!」ダキッ

雪乃「だ、だから抱きつくのはやめなさいと言っているでしょう!」

結衣「ごーめーんー。でもクラスじゃゆきのんに会えないし、寂しいんだもん」

雪乃「もう…」

結衣「……3年生でも、別々になっちゃったね」

雪乃「もう2ヶ月以上経つじゃない。それにあなたと彼は再び同じクラスなのだし、皆がみんなバラバラになったわけではないわ」

結衣「あたしは3人とも同じクラスがよかったなぁ」ギュー

雪乃「仕方ないわ。3人とも同じクラスとなると、かなりの低確率になるから。それより離れなさいと…!」

結衣「いいじゃんもうちょっと! ゆきのん分がたまるまでだから!」

雪乃「そんな成分は存在しないと思うのだけれど…」


18 : 以下、名... - 2015/08/06 21:04:52.29 KEYhL1OZO 9/353



雪乃「な、ならば私の問いに答えなさい。それで答えられなかったらすぐに離れること」

結衣「ええ!? ゆきのんの出す問題なんて無理に決まってるじゃん!」

雪乃「大丈夫。これまで習った範囲の、比較的簡単なものにするから」


雪乃「そうね、私たちに関連したものにするわ」

結衣「私たち?」

雪乃「由比ヶ浜さん、『千葉市立総武高校3年生の特定の3人が、次年度全員とも同じクラスになれる確率』を求めてちょうだい」

結衣「か、確率! 数学かぁ…えーっとえーっと…」

雪乃「制限時間は2秒」

結衣「ふぁあ!?」

雪乃「冗談よ。時間は気にせずゆっくり考えていいわ」

結衣「も、もう! びっくりさせないでよ〜」


20 : 以下、名... - 2015/08/06 21:06:01.48 KEYhL1OZO 10/353



結衣「え、えーっと、まずクラスの数が…」

雪乃「……」

結衣「…で、2年生のときあたしとヒッキーが同じクラスだったから…」

雪乃「ちっちっちっちっちっちっ」

結衣「あれ? これは関係ないや。どうしよ、まずゆきのんがA組になったとして…」

雪乃「ちっちっちっちっちっちっちっ」

結衣「えっと…それから……」

雪乃「ちっちっちっちっちっちっちっちっ」

結衣「………」

雪乃「ちっち」

結衣「だぁーー!? ゆきのん、そのタイマーの音みたいなのやめて!!」

雪乃「あら? 時間は無制限だから気にしなくて良いのだけれど」

結衣「無制限でも気になるし! 気になって全然計算に集中できないよ!」



21 : 以下、名... - 2015/08/06 21:06:45.49 KEYhL1OZO 11/353



雪乃「この問題に計算なんて必要ないわ」

結衣「そりゃゆきのんレベルになったら計算なんて要らないくらい簡単なのかもだけど…あたしじゃ…」

雪乃「違うわ、由比ヶ浜さん。本当に計算なんて必要ないの。これがヒントかしらね」

結衣「えっ? どゆこと?」

雪乃「……」

雪乃「そろそろ、答えを聞いていいかしら?」

結衣「ちょっと、ちょっと待って! 計算しないのがヒントってどういうこと!?」

雪乃「そのままの意味よ。困ったわ、ヒントのヒントをあげてしまうともう答えを言っているようなものだし」

結衣「え、えぇ〜?」


八幡「まあ、つまりは問題文をよく読めってことだよ」


結衣「!?」ビクッ

雪乃「比企谷君…」



23 : 以下、名... - 2015/08/06 21:07:29.42 KEYhL1OZO 12/353



八幡「なんつーか、雪ノ下らしくない問題だな」

結衣「ヒッキー!!」

雪乃「部室に入るならまず挨拶からしてほしいのだけれど。心負荷が前後共に増大するわ」

八幡「悪うござんした… チッス」

結衣「やっはろー! ヒッキー!」

雪乃「ごきげんよう。それで、口ぶりから察するに貴方は答えが分かっているのかしら?」

八幡「まあ、そういうことだな」

結衣「ほんと!? すごいよヒッキー、いつも数学ゴミみたいな点数なのに」

八幡「ゴミ言うな。小町かお前は」


八幡「問題文をよく読め…まあ今回の場合はよく聞けだが、それがヒントだ。いわゆるひっかけ問題ってやつだよこれは」

結衣「そ、そうなの? ゆきのん」

雪乃「そうね。計算が不要というのは、まさにそういうことかしら」

24 : 以下、名... - 2015/08/06 21:08:17.87 KEYhL1OZO 13/353



八幡「由比ヶ浜、雪ノ下の言った問題文は覚えてるか?」

結衣「たぶん… えっと、私たち3人が進級したときに同じクラスになる確率を求めればいいんだよね?」

八幡「はいアウト」

結衣「なんでっ!?」

八幡「アレだな、俺の想像以上に由比ヶ浜は雪ノ下の術中にハマってたのが分かった」

結衣「ゆきのんの…? ど、どういうこと?」

雪乃「……」






結衣「ゆきのん……あたしを………騙してたの?」

雪乃「……………」






八幡「いやそこシリアス感演出するところじゃないから。いつから演劇部になったのお前ら」

結衣「うー! だってわかんないんだもーん!」

雪乃「私はそもそも何も喋っていないのだけれど…」

26 : 以下、名... - 2015/08/06 21:09:09.29 KEYhL1OZO 14/353



八幡「話が進まんから俺が説明する。いいか由比ヶ浜、雪ノ下が問いかけたのはこうだ」

八幡「由比ヶ浜さん、『千葉市立総武高校3年生の特定の3人が、次年度全員とも同じクラスになれる確率』を求めてちょうだい」(裏声)

雪乃「はり倒していいかしら。あと今すぐ私へのペラプリン静注を所望するわ。吐きそう」

結衣「ヒッキー超キモい…」

八幡「しまった、余計に話が進まないどころかライフが一気に削り取られちまった…」


八幡「まあ、それはともかく由比ヶ浜。どうだ? 気が付いたか?」

結衣「うん? 気が付いたかって… だ、大丈夫だよヒッキー! さすがに気失うほどキモくはなかったし!」

八幡「」

雪乃「ぷっ」


八幡「なんなの? いつの間にか由比ヶ浜まで俺の精神壊滅を目論む側に回ったの?」

結衣「えっ? ……あ、問題のことか! ごめんヒッキー! ほんとごめん!」

八幡「お前はもう少し文脈から判断できるようになってねお願いだから」

結衣「はぁい…」

雪乃「……っ…!!………!!」プルプル

八幡(雪ノ下がツボってやがる…)


27 : 以下、名... - 2015/08/06 21:10:10.30 KEYhL1OZO 15/353



八幡「……」カキカキ


八幡「で、だ。由比ヶ浜の桃と相反する小さな脳みそでも理解しやすくするために、雪ノ下の問題を文章に書き出してやったわけだが」

結衣「言い方ひどくない!? てか桃ってなんだし!」

八幡「ほら、よく読んでみろ」


『千葉市立総武高校3年生の特定の3人が、次年度全員とも同じクラスになれる確率』


結衣「う〜〜ん?」

八幡「どうだ?」

結衣「………」

八幡「………」


結衣「ヒッキーって意外と字キレイだよね」

八幡「まあ文字については昔いろいろ学んだ…ってそうじゃねーから」

八幡「字体はどうでもいいから文章を読めよ。文節に区切るくらいの勢いでしっかり読めよ」

結衣「ぶん…せつ? ぶん…節…分? 豆まきは2月だよ? ヒッキー」

八幡「どうしちゃったの? 一色よりも遥かにあざといのかそれともリアルなアホなのか、お兄ちゃんかなり心配…」

雪乃「もしもし警察ですか。クラスメイトの異性に対し兄妹設定で卑猥な行為を強要しようとする変質者がいるのですが」

八幡「もういやこの2人」



31 : 以下、名... - 2015/08/07 01:06:28.30 uAn3XqV00 16/353



八幡「ここだよここ! 学年! よく見てみろ」

結衣「ふむふむ…?」

八幡「……」

結衣「……」


結衣「…! あ、あぁ〜〜〜〜!!」


結衣「さ、3年!! 3年って書いてあるよ、ヒッキー!」

八幡「……ま、そういうこった」

結衣「な、なんだぁ。確率なのに計算しないってそういうことかぁ」

八幡「ああ。枕詞に『答えは“簡単”です』って付けるひっかけ問題と同レベルだろ。由比ヶ浜に出すものとはいえ、雪ノ下らしくない問題って言ったのはそれ故だ」

八幡「高校3年の次年度… 卒業後に同じクラスになるなんてこと、あり得ないからな。答えはゼロだ」

結衣「あはは、なんで気づかなかったのかな…」

八幡「けど、そこがさすがは雪ノ下ってとこだろうな」

雪乃「……」

32 : 以下、名... - 2015/08/07 01:07:56.87 uAn3XqV00 17/353



八幡「雪ノ下は由比ヶ浜に2つ罠を仕掛けていた」

結衣「わな?」

八幡「まあわざわざ2つに分けなくてもいいんだが」


八幡「1つ目は、事前に席替えの話題が出た際に『低い確率になる』と言っておいたこと」

八幡「結構な低確率になることは直感でも分かるが、重要なのは『計算』を意識するよう仕向けることだ。それにより解答者はあくまで確率の計算問題として処理するようになる。今回は事前の会話で布石を打ったというより後から利用したってだけだろうけどな」

結衣「ふ、ふーん」


八幡「で、2つ目。ここも事前の話題が絡むっつう意味では同じだが、登場人物を3人にしたことで奉仕部3人とリンクさせ、『クラス替え』イコール『2年から3年への進級』と解答者に問題文をすり替えさせたんだ」

八幡「雪ノ下が由比ヶ浜の注意を最も遠ざけたいのは『高校3年』の部分だからな。俺らの4月のクラス替えに結びつければ、頭の中のイメージは勝手に高2から高3のクラス替えに限定されちまうわけだ」

結衣「ふ、ふーん」


八幡「由比ヶ浜、理解できてる?」

結衣「う、うん、余裕! つまり、詐欺ってことだよね!」

八幡(あ、余裕で分かってないご様子でいらっしゃる)


八幡「ま、そんなわけで答えはゼロ。お前らしくない捻くれた問題だったな、雪ノ下」

雪乃「そうね。さすが比企谷君、見事な不正解だわ」

八幡「ああ………」


八幡「………は?」


33 : 以下、名... - 2015/08/07 01:10:30.53 uAn3XqV00 18/353



八幡「聞き間違い…じゃないな。どこぞやの難聴系ラノベ主人公とは構造が違うぞ俺の耳は」

雪乃「ええ。もう一度不正解と言って欲しいのなら、言ってあげるのもやぶさかではないわよ? 不正谷君」

八幡「もう言ってんじゃねえか」

八幡「つーかなにその名前? 間違えたどころかイカサマしてるみたいで評判悪くなりそうだからやめて。元々良い評判もないけど」

雪乃「見事な不正解よ、不正谷君」ニッコリ

八幡「結局さらに言うのかよ! そしておそらく今週一番の良い笑顔!」



結衣「ゆきのん、なんで違うの? 理屈は難しくてよくわかんないけど、あたしもゼロでいいかなって思ったんだけど」

雪乃「ゼロという解答が少なくとも2つの可能性を考慮していないからよ」

結衣「ま、また2つのなんだ…」

雪乃「とりあえず、先に正解を示すわ」



雪乃「『現状では不明』」



結衣「んっ?」

八幡「なんだそりゃ」

結衣「えっ?」


34 : 以下、名... - 2015/08/07 01:16:55.53 uAn3XqV00 19/353



結衣「ど、どゆこと? 今の答えなの?」

八幡「そのつもりなんだろ」

雪乃「言い方はいろいろとあるけれど、方向性としては『答えが分からない』というのが答えね」

結衣「…?」

雪乃「なので揚々と講釈を垂れてた比企谷君ご自慢の回答は無残にも蹴散らされる結果となったわけなの。プッ」

八幡(コイツ、俺の回答聞いてから答え変えやがっただろ……)


八幡「まあ、なんとなく予想つくけどな」

結衣「ヒッキーわかったの? すごい!」

八幡「少なくとも1つは、だが」

雪乃「あら、それなら説明してもらえるかしら」


八幡「あー、答えが分からんっつうことはつまり、確定していない未来に対して、現在ある条件を基に場合分けができないってことだ」

結衣「ごめんヒッキー、もうわかんない…」

雪乃「比企谷君、もう少し噛み砕いて説明してあげなさい。あ、だからと言って由比ヶ浜さんを物理的に噛み砕くのは駄目よ」

結衣「ゆきのん!?」

八幡「しねえし怖えよ」


35 : 以下、名... - 2015/08/07 01:18:40.48 uAn3XqV00 20/353



八幡「言うなれば屁理屈だ。例えば…そうだな」

八幡「あー、俺と由比ヶ浜が一手だけじゃんけんして、勝ったほうが昼飯を奢られるとする」

結衣「おっ、それイイかも」

八幡「例えばの話な。で、由比ヶ浜がタダで昼飯を食える確率は?」

結衣「え、えーっと、じゃんけんなら勝ちか負けだから…1/2…だよね?」

八幡「そっからかよ…」

結衣「え!? 違った?」

雪乃「由比ヶ浜さん、一手だけということはあいこもあるのよ」

結衣「あ、そっか。じゃあ1/3?」

八幡「ああ。それで正解」

結衣「やった!」


八幡「と考えそうなもんだが、実は不正解だ」

結衣「ええぇー!? なんで!?」


36 : 以下、名... - 2015/08/07 01:21:05.23 uAn3XqV00 21/353



八幡「問題をよく思い出せ。聞いているのは由比ヶ浜が『じゃんけんに勝つ』確率じゃない。『タダで昼飯を食える』確率だ」

結衣「え… 一緒じゃない? あたしが勝ったらヒッキーが奢ってくれるんでしょ?」

八幡「ところがどっこい、俺は約束を守らず奢りを拒否したのであった」

結衣「えー!? ヒッキー、約束破るなんてサイテーだよ!」

雪乃「人間のクズね」

八幡「……」

八幡「そうでなくとも、仮に突然俺が不登校になって生涯お前と会わなくなったら? 昼飯なんざ奢れないだろ」

結衣「えっ………」

雪乃「人間のクズね」

結衣「そ、そんなことさせないし! もしそうなったとしても、あたしがヒッキーを家から引っ張り出すもん!」

八幡「お、おう。そうか」


八幡「まあ、他にもあるだろ、じゃんけんのあと俺にヤンデレの彼女が出来て他の女と昼飯食うとぶっ殺される的な」
結衣「それはないかな」
雪乃「人間のクズね」

八幡「…………」


37 : 以下、名... - 2015/08/07 01:22:35.29 uAn3XqV00 22/353



八幡「とにかく理由なんざ何でもいい。そういう前提に含まれない事象が挟まることで因果関係が崩壊しちまう。だから『まだ分からない』が答えになるって話だ」

結衣「うーん…?」

八幡「あー… 今回の場合だったら例えば、その3人とも卒業できずに留年したら同じクラスになる可能性があるだろ?」

結衣「あ、なるほど! 確かにそうだね!」


雪乃「初めからそういう風に説明すればよかったと思うのだけれど」

八幡「俺も今そう思った」

結衣「え? どゆこと?」


雪乃「さて、1つはそのようなマイナス方向の可能性で合っているわ。さすが比企谷君、全身から湧き出る負のオーラに即した例が最初に出たということね」

八幡「ほっとけ。つーか他の可能性が分からん。1つはマイナスって言うくらいならもう1つはプラスの可能性なんだろうけど」

結衣「あ、それならあたし思いついたかも」

八幡「あん?」

38 : 以下、名... - 2015/08/07 01:24:39.51 uAn3XqV00 23/353



結衣「大学にもクラスがあるとこって結構あるよね?」

八幡「そりゃあると思うが、それがどうした?」

雪乃「やはり、どこかの誰谷さんと違って由比ヶ浜さんはとても良いところに着目しているわ」

八幡「まじかよ。誰なんだろうなーその、どこかの誰谷さんって。俺だな」

結衣「だからさ、もし、もしだけど……」

結衣「あたしとゆきのんと、それからヒッキー! 3人全員が同じ大学に受かったら、みんな同じクラスになれるかもしれない!」


結衣「ってことだよね?」



八幡「………いや、それはいくらなんでも無いだろ」

結衣「な、なんでだし! あたしがバカだから? ヒッキーやゆきのんと同じ大学には行けないって意味!?」

八幡「それもあるな」

結衣「うわあぁぁん、ゆきのーん!!」

雪乃「ノーコメントね」

結衣「否定してくれないっ!」


39 : 以下、名... - 2015/08/07 01:25:47.20 uAn3XqV00 24/353



結衣「うっ、ぐすっ。ゆきのんまで…」

雪乃「……」

八幡「……」


ポンッ


結衣「えっ…」

雪乃「『まだ分からない』わ。由比ヶ浜さん」

結衣「ゆきのん…!」

雪乃「センター試験までは半年以上あるわ。それに受験の天王山と呼ばれる夏休みも始まってすらいない」

雪乃「巻き返しのチャンスはまだあるのだし、由比ヶ浜さんがやる気なら私も手伝うから」

結衣「ホントに!? ありがとう! 大好き、ゆきのん!」ダキッ

雪乃「だ、だから抱きつくのは…!」

八幡「さーて、来たばっかだけどゆららららゆるくなってきたし俺はそろそろ帰るわ」

結衣「えっ」

40 : 以下、名... - 2015/08/07 01:29:32.83 uAn3XqV00 25/353



結衣(ヒッキーはどう思うのかな… あたしが3人で同じ大学に通いたいって言ったら)


八幡「じゃ、また明日な」


ガラッ


結衣「ヒッキー!!」


八幡「あ?」


結衣「え、えっと…」


結衣(無理だ、ってすぐ言われるかな。いくらゆきのんに教えてもらっても、あたしがバカだから、今から頑張ったところで追いつけやしないって… そう思うのかな)


八幡「…なんもないなら帰るぞ」


結衣「あ、えっと!……も、もしあたしが…ね?」


八幡「おう」


結衣「その……3人で…」


八幡「………」


結衣「………」


結衣「…ううんごめん、なんでも! また明日ね、ヒッキー!」


八幡「…ああ、またな」



ガララッ


41 : 以下、名... - 2015/08/07 01:34:08.68 uAn3XqV00 26/353



八幡「あー」


結衣(ヒッキー! ほんとに戻ってきちゃった)

結衣(もしかして、さっきのこと…!?)



八幡「すまん雪ノ下、伝え忘れてた」


雪乃「なにかしら?」

結衣(ですよねー…)ガクッ



八幡「平塚先生から伝言。先生が今日用事あって早く学校出るから、17時までに鍵返しに来いとさ」


雪乃「そう。分かったわ」


八幡「そんだけだ。じゃあな」


結衣(あっ、せっかくヒッキー戻ってきたのに)

雪乃「ええ。また明日」

結衣(でもまたさっきみたいに言えないかもだし… なんでかよくわかんないけど、聞くのが怖い…のかな)


42 : 以下、名... - 2015/08/07 01:37:31.54 uAn3XqV00 27/353



結衣(はぁ…)



雪乃「どうしたの比企谷君? 立ち止まったりして」

結衣「…えっ」


八幡「………」


雪乃「もしかして3歩歩いて歩き方を忘れてしまったのかしら。それなら教えてあげるわ。まず右手と右足を一緒に前に出すの」


八幡「勝手にヒトをトリ頭にするんじゃありません。しかもあからさまにちゃんと歩かせる気が無いときてる」



八幡「そうじゃなくてだな、伝言もう1個あったんだわ」


雪乃「また? 私に?」


八幡「いや… なんつーか、お前の最も親しい総武高の女子宛てになんだが」


雪乃「はあ」

結衣「……」

結衣(ゆきのんの、って……… えっ?)


43 : 以下、名... - 2015/08/07 01:41:12.34 uAn3XqV00 28/353



八幡「まあなんだ、その」

八幡「『可能性はある』ってな」


結衣「!」


八幡「ついでに『だからそんな辛そうな顔すんな』って付け足しといてくれ。あ、これ平塚先生じゃなくて俺の友達からだから」


雪乃「あら、そう」


八幡「つーことでよろしく。じゃ、今度こそまたな」


雪乃「ええ」

結衣「…! ヒッキー!」


ガララッ ピシャッ


結衣「あ……」

雪乃「……」



雪乃「……と、『比企谷君の友達』が貴女に伝えたいそうだけど?」

結衣「…うん」

雪乃「つくづく素直になれないわね。彼も、貴女も」

結衣「……うん」

雪乃「ふふっ」

結衣「えへへへ」






結衣「ってかゆきのん、あたしのこと学校で一番仲いいって思ってくれてるってことだよね? 嬉しいよーゆきのんっ!!」ダッキィィ

雪乃「っ!? ち、違っ……いえ、違ってはいないけれど…! どうしてそういう所は頭が回るのかしら?」

結衣「なんでもいーよ! ゆきのんゆきのん〜!」スリスリ

雪乃「ひゃいっ! く、くすぐったいからよしなさい、由比ヶ浜さん!」

結衣「よいではないか、よいではないかー♪」




八幡(廊下まで聞こえてんぞおいごちそうさまでした)

49 : 以下、名... - 2015/08/07 19:40:10.30 Q7I/Nq2pO 29/353



雪乃「ところで由比ヶ浜さん」

結衣「うん?」

雪乃「今日この後、時間はある?」

結衣「この後? んー、特に予定はないし暇…かな?」

雪乃「今日、貴女のお宅にお邪魔しても良いかしら?」

結衣「へっ、うち…!? 」

雪乃「ダメかしら」

結衣「い、いいけど、どうして急に?」

雪乃「そうね…」

結衣「……??」


雪乃「じゃあ、勉強会を開きたいのだけれど」

結衣「じゃあって何!? てか、もうやるの!?」

雪乃「ええ。思い立ったが吉日、と言うでしょう」

結衣「うっ、で、でもまださっき話したばかりのことだし…」

雪乃「善は急げ、と言うでしょう」

結衣「そ、そうだけど…」

結衣「あ、ほら! 急がば回れ! って言う」

雪乃「ダブると同級生から敬語で話されるそうなのだけれど。得も言われぬ感覚なのでしょうね」

結衣「うわあぁん! ちゃんとやるから見捨てないでゆきのーーん!!」



50 : 以下、名... - 2015/08/07 19:41:27.49 Q7I/Nq2pO 30/353



放課後



雪乃「由比ヶ浜さんの家は少々久しい気がするわ」

結衣「たしかに。もしかして3年生になってからは初めて?」

雪乃「そうかもしれないわね」



結衣「着いた! ゆきのん、いらっしゃ…」

結衣「あーー!」

雪乃「?」

結衣「ごめんゆきのん、やっぱちょっとだけ待って! いまあたしの部屋すごい散らかってて…」

雪乃「私は気にしないのだけれど」

結衣「い、いいいーからっ! ゆきのん、もうサブレは平気になったんだよね? サブレと遊んであげてて! すぐに終わらせるから!」


バタンッ!


雪乃「?」


51 : 以下、名... - 2015/08/07 19:42:45.58 Q7I/Nq2pO 31/353



雪乃「どうしたのかしら? 由比ヶ浜さんはそこまで散らかすタイプではないと思っていたのだけれど」



サブレ「ワンワン!」パタパタ


雪乃「あら、サブレ」


サブレ「クゥーン」ハッハッハッ


雪乃「……」


サブレ「?」ハッハッ


雪乃「……」ガサゴソ



雪乃「丁度良いところに」シュルルルル


サブレ「!?」ビクリンコ





結衣(あ、あぶなー! ヒッキーの写メプリントしたやつ出しっぱだったの、気づいてよかったぁー!)

結衣(しかも半分盗撮だし、いくらゆきのんでもバレたらさすがにドン引きするだろうし… いやーあぶなかった!)


52 : 以下、名... - 2015/08/07 19:44:39.21 Q7I/Nq2pO 32/353



結衣「ゆきのーん! お待たせ、入って入って!」


雪乃「おじゃまします」

結衣「ヘイらっしゃい!」

雪乃「まるでお寿司屋さんね」

結衣「へっへ。お客さん、何握りやす?」

雪乃「鉛筆かしら」

結衣「ひえぇ〜… ゆきのん真面目すぎ! 少しはノッてくれてもいいのに」

雪乃「上手い返しをしたつもりだったのだけれど…」


結衣「あれ、そういえばサブレどこだろ?」

雪乃「さて、早速だけど始めましょう」

結衣「あ、うん」

結衣「ところでゆきのん、サブ」

雪乃「生きているから安心なさい。それで由比ヶ浜さん、この問題なのだけれど、例年の傾向では試験必出と言える分野に含まれているのよ」

結衣「そ、そうなんだ… あれ、ゆきのん? 生きてるって?」

雪乃「苦手な科目こそ傾向を押さえて効率よく学習することがうんぬんかんぬん」

結衣「ねえ、サブレは? サブレはー!?」




サブレはスタッフが美味しくいただきました(大嘘)


53 : 以下、名... - 2015/08/07 19:46:42.99 Q7I/Nq2pO 33/353



2時間後


雪乃「次に極小値を求める場合なのだけれど、分かりにくければまずはグラフを見繕って…」

結衣「……、……」ウト ウト

雪乃「由比ヶ浜さん?」

結衣「へあっ!」

雪乃「大丈夫? とても眠そうにしているわ」

結衣「へっ!? そ、そんなことないよっ」

雪乃「どこまでやったか言える?」

結衣「もももちろん! えーっと」

結衣「……」

結衣「び、ビブンセキブン!」

雪乃「……」

結衣「…イイキブン…」

雪乃「……」

雪乃「今日はここまでにしましょうか」

結衣「ごめんね、ゆきのん…」


54 : 以下、名... - 2015/08/07 19:50:23.23 Q7I/Nq2pO 34/353



雪乃「いいのよ。初日から無理する必要はないわ。徐々に集中できる時間を伸ばしていきましょう」

結衣「う、うん」

雪乃「それじゃあ、そろそろお暇するわ。ごめんなさい急に押しかけて」

結衣「そんな! 勉強教えてくれてるんだしむしろ… てか、ちょっと待ってゆきのん!」

雪乃「?」

結衣「えっと、少しだけお話していかない?」

雪乃「お話? 何か要件があるのかしら」

結衣「ううん、そーゆーのじゃないんだけど…… 学校でもあんまりゆきのんと2人きりで喋ったりすることないし、たまにはどうかなーって」

雪乃「……」

結衣「あ、ううん! ゆきのん家遠いしもう帰るよね! ごめんね、わがまま言ったりして」

雪乃「いえ。私は全く構わないのだけれど」

結衣「…!!」



55 : 以下、名... - 2015/08/07 19:52:06.18 Q7I/Nq2pO 35/353



結衣「…ほんとに?」

雪乃「ええ」

結衣「ほんとに帰らなくて大丈夫? ゆきのん」

雪乃「まだ20時にもなってないのだし、小一時間程度なら問題ないわ。それより私が長く居座って迷惑じゃないかしら」

結衣「ぜんぜん! っていうか今日お父さんもお母さんも帰るの遅いから、逆にいてほしい的な!」

雪乃「そういうことなら、もう少しだけお邪魔させてもらうわ」

結衣「やった!!」

結衣「あたし飲み物とお菓子もってくるね! 待っててゆきのーん!」ガバッ


タタタッ


雪乃「ふふっ。さっきの眠気はどこへ飛んで行ったのかしら」


雪乃(由比ヶ浜さんは明るく元気なときこそ、由比ヶ浜さんって感じね)

雪乃(きっとあの人も、そんな彼女だから……)




結衣(ゆきのんはどれが好きかな〜? お煎餅よりはもっと洋風なのがいいよね? たぶん)ガサゴソ

結衣「〜〜♪」

68 : 以下、名... - 2015/08/08 16:23:55.24 T/Ahswn90 36/353



結衣「はいどーぞ、ゆきのんっ」

雪乃「ありがとう」

結衣「クッキーがよかったんだけど無くて、代わりに鳩サブレにしちゃった。口に合わなかったらごめんね」

雪乃「いいえ。つかぬ事を聞くけれど、これは市販品かしら」

結衣「うん。お父さんがよく買ってくるやつだよ」

雪乃「そう。いただくわ」ポリ

結衣「どーぞどーぞ」

雪乃「ええ、素朴な味で美味しいわ」

結衣「よかったー! あとね、あたし初めて自分で紅茶いれてみたんだ! アールグレイ!」

雪乃「……」


雪乃「つかぬ事を聞くけれど、これは市販品かしら」

結衣「?」

結衣「まあティーバッグだしそうだけど… さっきからどうしたの? ゆきのん」

雪乃「いいえ。でも市販品といえど、お湯を注いだのは由比ヶ浜さんということになるのよね」



69 : 以下、名... - 2015/08/08 16:27:25.66 T/Ahswn90 37/353



結衣「? そうだよ?」

雪乃「そう」

結衣「…はっ!」

結衣「も、もしかしてゆきのん! あたしがいれたからってすっごくマズい紅茶になってるなんて思ってない!?」

雪乃「思っていない」

結衣「そう? ならいいんだけど…」

雪乃「わけがないわ」

結衣「ゆきのーーん!?」


雪乃「由比ヶ浜さん、ティーバッグの使い方は知っているわよね?」

結衣「あ、当たり前だし!」

雪乃「なら、どうやって淹れたか教えて頂戴」

結衣「もー、いくらなんでもバカにしすぎだよ」


結衣「まず袋をやぶって中身をカップに入れるでしょ?」

雪乃「待ちなさい」


71 : 以下、名... - 2015/08/08 16:30:20.90 T/Ahswn90 38/353



雪乃「出だしからいきなり間違っているのだけれど」

結衣「ええ!? だってカップ麺の粉末スープだって上からお湯かけて、ダマにならないようにするよ?」

雪乃「…貴女は今すぐ辞書で『抽出』という言葉を引くところから始めるべきだわ」



雪乃「茶葉は溶けないのよ。熱いお湯をかけて成分を抽出して、茶葉本体は袋の中に残ったままで良いの。つまりは茶漉しの代わりね」

結衣「な、なるほど〜」

雪乃「少し茶葉を踊らせて適度に抽出したら、濃くならないようにこうやって引き揚げて」

結衣「あ! このヒモってそのために付いてたんだ!」

雪乃「なんの為だと思っていたのかしら」

結衣「かわいいからかなーって…」

雪乃「そう…」


72 : 以下、名... - 2015/08/08 16:32:58.41 T/Ahswn90 39/353



結衣「ゆきのんはミルクいれる?」

雪乃「結構よ。ストレートのほうが香り高いから」

結衣「そっか。そのままでもいいんだけど、あたしはミルクティーにしたほうが好きかな」

雪乃「好みはそれぞれだと思うわ」



結衣「あ、そういえばヒッキーのことなんだけど」

雪乃「由比ヶ浜さん、食事中に汚い言葉を使わないと教わらなかったの?」

結衣「ヒッキーは汚くないよ!?」

雪乃「食事が不味くなることに変わりないわ。それで、彼がどうかしたのかしら」

結衣「ひどいなーもう… 」

結衣「ヒッキーさ、この頃ちょっと変なんだよね」

雪乃「変、というと、変質者? 変態? 大丈夫なの由比ヶ浜さん? 今すぐ警察に連絡してから弁護士に相談しに行ったほうが」

結衣(うわぁ、ゆきのん的なヒッキーのイメージってどうしてこんな最低なんだろ…)


73 : 以下、名... - 2015/08/08 16:37:22.62 T/Ahswn90 40/353



結衣「そんなんじゃなくて、ヒッキーが最近ずっと眠たそうって話」

雪乃「ああ、確か前に部室で彼に尋ねていたわね」

結衣「そうそう。あれからもやっぱり授業中とかお昼休みとか、あくびばっかしてずーっと眠そうにしてるんだよね」

雪乃「いつも通りの比企谷君じゃない。特に昼休みなんて教室にいないか、いても寝ているかなのでしょう」

結衣「優美子とおんなじこと言ってるー… 寝たふりじゃなくてほんとに眠そうなの!」

雪乃「よくもそんな違いが分かるものね」

結衣「そりゃわかるよ、いっつも見てるし」

雪乃「あら…… へえ?」

結衣「……あっ、違くて、ほら! 同じクラスだから! 毎日会ってるって意味だから!」

雪乃「はいはい」

結衣「あーゆきのん信じてない!!」

結衣「ほ、ほんとだよ? 消しゴムわざと落として拾うスキにヒッキーのほう見たりなんか全然してないし!」

雪乃(涙ぐましいわね…)



74 : 以下、名... - 2015/08/08 16:39:42.14 T/Ahswn90 41/353



結衣「それでゆきのん、何か知らない?」

雪乃「そうね」

結衣「……」


結衣「え、もしかして知ってるの?」

雪乃「………いえ、知らないけれど」

結衣「なんだー」ガクッ

雪乃「彼のことだからライトノベルかゲームに熱中して夜更かししているのでしょう、きっと」

結衣「あれ、ゆきのんもそう思うんだ?」

雪乃「私も、ということは、由比ヶ浜さんも?」

結衣「ううん。それも優美子がおんなじこと言ってたなーって。案外ゆきのんと優美子って似てるのかも?」

雪乃「………」カチャッ ズーッ

結衣「ちょっ、そんな嫌な顔しないでよー!」

雪乃「紅茶に渋いところがあっただけよ」

75 : 以下、名... - 2015/08/08 16:43:00.90 T/Ahswn90 42/353



雪乃「由比ヶ浜さんも、もう一杯いかがかしら?」

結衣「あ、うん」

雪乃「ミルクも入れるわね。はい、どうぞ」スッ

結衣「ありがと!」


結衣「そっか、ゆきのんも知らなかったかぁ。さすがのゆきのんでも知らないことあるんだね」

雪乃「当たり前じゃない。むしろ比企谷君に関して言えば、貴女の知らないことを私が知っているとは考えにくいわ」

結衣「んー…?」ズー


雪乃「由比ヶ浜さん、彼のことを好きなのでしょう?」

結衣「ぶぅぇえぇっ!!?」ブー


76 : 以下、名... - 2015/08/08 16:44:25.38 T/Ahswn90 43/353



雪乃「……」ビッシャァァ…

結衣「へ、な、え、な? なな、な?」ポタポタ…


結衣(ななな、なん… え? うそ? ゆ、ゆきのん? え? なんで?)

雪乃「……」

結衣(そんな、た、確かにあたしは、ずっとヒッキーのこと… でも、でもでも、そんなこと誰にも、一言も話したことないよ!?)

結衣(なんでだろ…いつからだろ… やっぱり、ゆきのんはなんでも知って…)


雪乃「ゆ、由比ヶ浜さん」

結衣「ひゃ、ひゃいっ!?」

雪乃「あの」

結衣「な、なななにかななにかな? 別にっ、ヒッキーのこと? す、すすすすきとか好きとかスキとか////」

雪乃「タオルを貸してほしいのだけれど」

結衣「あ…」

結衣「そ、そうだねごめん! すぐ取ってくるねっ!!」

77 : 以下、名... - 2015/08/08 16:47:31.37 T/Ahswn90 44/353



雪乃「……」フキフキ

結衣「ごめんなさい…」

雪乃「いいのよ。私の話すタイミングが適切ではなかったのもあるから」

結衣「ほんと狙い澄ましたかのような……じゃなくて、それでもあたしが悪いよ。拭けたら制服すぐシミ抜きと洗濯するね」

雪乃「いいえ、構わないわ。そろそろ帰るつもりだったから」

結衣「いやいや、すぐ洗わないと残っちゃうよ! それに外寒くないけど風邪引いちゃうかもだし」

雪乃「でも替えの服を持ってきていないわ」

結衣「あたしの貸すし! あ、てゆーかそれならシャワー使ってってよ」

雪乃「ありがたい申し出だけれど、さすがに申し訳ないわ。時間も時間だし」

結衣「でも悪いのはあたしだから… えーっとえーっと… 」

結衣「あっ! じゃあいっそ泊まってくのは? どう?」

雪乃「えっ」


78 : 以下、名... - 2015/08/08 16:50:52.71 T/Ahswn90 45/353



結衣「うちはぜんぜん大丈夫だよ。それに、別にお泊まり久々だけど初めてじゃないじゃん! ねっ? いいよね、ゆきのん?」

雪乃「以前は予めご両親の了解を得ていたもの。急にだと余計にご迷惑がかかってしまうわ」

結衣「そっか… ゆ、ゆきのんがイヤなら無理にってわけじゃないけど…」ギュッ

雪乃「!?」

雪乃「そのやり方はずるいと思うのだけれど……」


雪乃「…分かったわ。週末でもあるし、お言葉に甘えさせてもらうわ」

結衣「やったぁ!」

雪乃「ただ、姉さんに一言連絡させて頂戴」

結衣「うんっ」


79 : 以下、名... - 2015/08/08 16:54:11.52 T/Ahswn90 46/353



結衣「あれ、でもゆきのんっていま陽乃さんと住んでたっけ?」

雪乃「いいえ一人暮らしだけど。あらぬ誤解を招かないように、よ」

結衣「へ? 誤解って?」

雪乃「なんでもないわ」

結衣「え! なんか気になる! なに? ゆきのん、何の誤解?」

雪乃「……」

雪乃「それより由比ヶ浜さん、早くお風呂に入りましょう。一緒に」

結衣「あ、うん…… うん!?」


80 : 以下、名... - 2015/08/08 16:56:35.66 T/Ahswn90 47/353



雪乃「どうしたの?」

結衣「ゆきのん、今『一緒に』って?」

雪乃「ええ。貴女もほら、制服の胸元に紅茶が染みて透けているじゃない」

結衣「きゃああ!? ほ、ほんとだ! これもすぐ洗濯しなくっちゃ!」

雪乃「と言うわけでさっさと一緒に入りましょう」

結衣「いぃいやいや、だからって一緒に入らなくても…」

雪乃「由比ヶ浜さん、『効率』という言葉は知っているわね?」

雪乃「効率というのは作業効率や時間効率があるように動作そのものおよびそれにより費やされる時間に対しても存在し今回の場合具体的に云えば身体殊に手の届きにくい背部を洗う作業効率の上昇そして結果的に要する時間の短縮さらに電気又はガス代の節約に貢献可能という意味でくどくどくど」

結衣「え、ちょっ」


雪乃「それとも」

雪乃「私とでは嫌…ということかしら?」ウル


結衣「!!」ドキン!


結衣「そんな、イヤどころか、ゆきのんから誘ってくれるなんてすごい嬉しいけど… ってかひょっとしてそれさっきのお返し!?」

雪乃「まあ早い話がレリゴーということよ」グイッ

結衣「わああ!? 待って着替え! 着替え持ってくるからぁ!」

結衣(な、なんかゆきのんが積極的だ〜〜///)

88 : 以下、名... - 2015/08/17 03:15:50.77 p/k7jJwA0 48/353



お風呂で特になにもなかった後


結衣「ふー、さっぱりしたね」

雪乃「ええ。いいお湯でした」

結衣「ゆきのん、髪はドライヤーで乾かす派?」

雪乃「長さもあるからタオルドライにすることもあるけど、最終的にはドライヤーで乾かすことが多いわ」

結衣「じゃああたしゆきのんの髪乾かしたい! あ、トリートメント持ってくるね、洗い流さないやつ」


結衣「〜〜♪」ヌリコミ

結衣「ゆきのん、すっごい髪キレイだよね。もしや毎日美容室通ってたり?」

雪乃「まさか。これといって特別なことはしていないわ」

結衣「えー、あたしけっこう頑張ってるけどこんなサラサラになれる気がしないよ…」

雪乃「そうかしら。あら? このトリートメントの香りに覚えがあると思ったけれど、いつも由比ヶ浜さんからする香りはこれだったのね」

結衣「へっ? そ、そうかも?」

雪乃「甘くてとても由比ヶ浜さんらしい、良い香りね」

結衣「えへ、ありがと… なんか恥ずかしいけど! あ、そろそろ乾かすね!」


89 : 以下、名... - 2015/08/17 03:18:39.96 p/k7jJwA0 49/353



ゴーーー


結衣「ゆきのん、熱くない?」

雪乃「問題ないわ」

結衣「よかった。てか、同じトリートメント使ったら、ゆきのんもあたしと同じ匂いになっちゃうかもね!」

雪乃「ふふ、なきにしもあらずね」

結衣「ヒッキーに、目つぶって匂いだけでどっちでしょう! ってやったらどうなるかな?」

雪乃「………世にも恐ろしいことを平然と言わないで欲しいのだけれど」

結衣「あ、ご、ごめんっ!」

雪乃「背筋が凍ってお風呂の余熱が一気に冷めてしまうところだったわ」

結衣「そ、そうだよねー! 犬じゃないんだし、匂い嗅がれるなんて……」

結衣(嗅がれるなんて………)


結衣(ヒッキーもあたしの匂いとか分かるのかな)

結衣(ゆきのんも分かるんだもんね。わざと嗅いでるとかじゃなくても、自然と覚えられてたりして)

結衣(逆にヒッキーの匂いってどんなだろ? 男の子だから芳香剤の香りもないけど、かといって運動部の人の男!って感じのやつもないし)

結衣(今度ちょっと近くで嗅いでみようかな? …って、あたしなに考えてんだろ!?)


雪乃「ゆ、由比ヶ浜さん? 同じところに当てすぎではないかしら?」

結衣「わああ! ご、ごめーん! せっかくの髪が傷んじゃうとこだった!」

雪乃「大丈夫よ。完全に乾くには時間がかかるし、そろそろ交代しましょう」


90 : 以下、名... - 2015/08/17 03:20:24.14 p/k7jJwA0 50/353



ゴーーー


雪乃「ブラシ付きにしてみたけれど、力加減はこのくらいで良いかしら?」

結衣「うんっ、気持ちいいよ。ゆきのん髪とくの上手だね!」

雪乃「それなら良かったわ」



ゴーーー


結衣「…あのさ、ゆきのん」

雪乃「なに?」

結衣「さっきの……あたしがヒッキーのこと、って話なんだけど」

雪乃「ええ」

結衣「えっと、い、いつから…?」

雪乃「そうね、1年前くらいかしら」

結衣「いちっ… そんなに!?」


91 : 以下、名... - 2015/08/17 03:23:57.25 p/k7jJwA0 51/353



雪乃「というのは流石に言いすぎかもしれないけれど、いつからか明確に覚えていないくらいには前からよ」

結衣「そんなに前からバレてたんだ…」

雪乃「むしろ隠しているつもりだったことに驚きだわ」

結衣「えー!? あたしそんなにわかりやすかった!?」

雪乃「貴女との関わりと並の感性を持っていれば誰でも、くらいにはね」

結衣「それじゃ、もしかしてヒッキーも実は気づいてたり…」

雪乃「由比ヶ浜さん、頭は熱くない?」

結衣「あ、うん。大丈夫!」


ゴーーー


雪乃「彼はある意味で並外れた感性を持ち合わせているから」

結衣「へっ?」

雪乃「比企谷君よ。というよりは、気づいたとしても『そうではない』と自分に言い聞かせているのでしょうね」

雪乃「つまり、結局は貴女の好意には気づいていない状態になるのではないかしら」

結衣「そ、そっか…」

92 : 以下、名... - 2015/08/17 03:26:41.58 p/k7jJwA0 52/353



ゴーーー


結衣「……」

雪乃「……」

結衣「ゆきのんってさ」

雪乃「はい」

結衣「なんだかんだで、けっこうヒッキーのこと詳しいよね」

雪乃「…それはまあ、遺憾ながら奉仕部としてはそれなりに長くの付き合いになるもの」

結衣「そうだよね……そうだけど」

結衣(あたしだって…)

雪乃「けど?」

結衣「ん… あたしも同じくらい奉仕部で一緒にいるし、クラスも同じだから、ヒッキーといる時間はゆきのんよりも多いかなって思うんだけど」

雪乃「…?」

結衣「なんとなく、ゆきのんのほうがヒッキーのこと、ちゃんと『知ってる』って気がするんだ」


93 : 以下、名... - 2015/08/17 03:29:57.12 p/k7jJwA0 53/353



雪乃「解せないわね。『ちゃんと知っている』というのはどういう意味で言っているの?」

結衣「えっと、身長とか、好きな食べ物とか、そういうプロフィール的なのじゃなくて… なんていうのかな」


結衣(あれだ…… ゆきのんとヒッキーの掛け合いを見てたりするとたまに感じる)

結衣(表面上は仲が悪く見えるはずなのに、なんとなく伝わってくる不思議な感覚)

結衣(相手のことをほんとに分かってて、どこか奥の方で通じあってるんじゃないかなっていう……そんな気持ち)


雪乃「もしや、以心伝心、とでも言いたいのかしら」

結衣「あたしもよくわかんないんだけど… それに近い感じかも」

雪乃「……ありえないわね。彼の行動は常に周囲を拒絶するものだし、問題の解決手段としても常軌を逸している場合が多い」

雪乃「私の理解を超えるものが殆どで、私としても、またおそらく客観的にも誉められるようなものではないでしょう」

雪乃「故に、彼と私が相入れることも、疎通しているということもないわ」


94 : 以下、名... - 2015/08/17 03:31:18.56 p/k7jJwA0 54/353



結衣「…ほんとにそうかな」

雪乃「…?」

結衣「たしかにヒッキーはクラスじゃ浮いてるし、ひねくれてるし」

結衣「奉仕部の依頼のときは自分を犠牲にするようなやり方ばっかりで、本当にそれが一番いい解決だったのかは分かんないし。だけど…そんなヒッキーに助けられた人はいっぱいいると思う」

結衣「あたしも、ゆきのんも含めてね」

雪乃「それは…」

結衣「それにヒッキーもだんだん変わってきてる。ただ一緒にいるからってだけじゃなくて、ヒッキーのほうからあたし達との距離を縮めてくれてるって感じることだってあるし」

結衣「ゆきのんもそう思ってるんでしょ?」

雪乃「……」

95 : 以下、名... - 2015/08/17 03:33:53.94 p/k7jJwA0 55/353



結衣「あたしが知った口聞いていいことじゃないかもだけど、ゆきのんとヒッキーはたぶん元々似てるところがあったんだと思う」

結衣「ゆきのんはヒッキーとよく喧嘩…というかヒッキーに対して冷たいし、知らない人が見たらすっごい仲悪く見えるんだろうけど、ほんとは違うよね?」

結衣「ゆきのんだって、心の中では…」


カチッ


雪乃「ちょ、ちょっと待ちなさい、由比ヶ浜さん」

雪乃「話の方向性が見えないわ。私と比企谷君が以心伝心か否か、という話だったのよね?」

結衣「あ、うん…ごめん。ゆきのんとヒッキーが通じあってるっていうのは、やっぱりあたしがそう感じてるってだけかもなんだけど」


96 : 以下、名... - 2015/08/17 03:35:53.47 p/k7jJwA0 56/353



結衣「うまく順番に話せないから、あたしが気になってること聞いちゃうね」

雪乃「そうしてもらえると助かるわ」

結衣「うん。前置きができなくて、すごいいきなりかもなんだけど…」

雪乃「ええ」



結衣「えっと…… ゆきのんは、ヒッキーのこと…好き?」


雪乃「……」


ガシャン!


結衣「わっ」

雪乃「!」

結衣「ゆ、ゆきのん?」

雪乃「ご、ごめんなさい。貴女の家のドライヤーなのに」

結衣「ううん大丈夫! あたしこそごめん、やっぱいきなり過ぎたよね…」

雪乃「ええ… どうしてそういう話になったのかしら」


100 : 以下、名... - 2015/08/20 05:49:45.96 QQgXjzXT0 57/353



結衣「その……やっぱりさっきの繰り返しになっちゃうんだけど」


結衣「ゆきのんはヒッキーとは合わないっていつも言ってるし、ぱっと見だと仲悪いように見えるんだよね」

結衣「でもゆきのんもずっとヒッキーと関わってきて、助けたり、助けられたりしあううちに、ヒッキーのこと心の奥ではちゃんと認められるようになったと思うんだ」

結衣「それでいてヒッキーのほうも変わろうとしてる気がして、お互いの距離もちょっとずつ縮まってきてて」



結衣「あたしの勝手な予想なんだけど… もしかして、もしかするとなんだけど……」

結衣「ゆきのんもヒッキーのこと、好きになってるんじゃないかー…なんて」

雪乃「……」


結衣「ま、まあそれならそれでいいのかなって! もしも2人ともヒッキーが好きだったら、みんなで仲良くやればいいんだもん!」

雪乃「由比ヶ浜さん…」

結衣「あ、あははは……」

101 : 以下、名... - 2015/08/20 05:52:34.60 QQgXjzXT0 58/353



結衣「ごめん、今のはちょっと…ウソ」

雪乃「……」

結衣「ほんとはね、怖いんだ。もしもあたしみたいに、ゆきのんもヒッキーのこと好きになってたらって思うと」


結衣「ゆきのんは超美人だし、家事も勉強も何でもできるし。それに比べたら、あたしの良いとこなんて全然ないし」

雪乃「そんなことはないわ」

結衣「ううん。あたしもいろいろ頑張ってるし、ヒッキーのこと知ろうとしてるけど… 」

結衣「やっぱりゆきのんのほうが、ヒッキーのこと『知ってる』感じするんだ。そんなゆきのんがライバルになっちゃったら、絶対勝てっこない、って……」


雪乃「…それで貴女は、私が比企谷君に好意を抱いているかどうか気にしている、ということ?」

結衣「うん…」

雪乃「なるほど。そういうことなら少し合点がいったわ」

103 : 以下、名... - 2015/08/20 05:55:24.30 QQgXjzXT0 59/353



雪乃「そうね、さっきはああいったけれど、たしかに私は彼のことを認めているのだと思うわ。良い部分も、悪い部分も含めて」

雪乃「普段のやりとりに大きな変化はないようで、彼が私たちに歩み寄ってきていることも、彼自身が変わろうとしていることも気付いているわ」

雪乃「そして、そのことを悪く思っていない……いえ、嬉しいとすら思っている自分がいるということにも」


雪乃「近頃の彼に魅力を感じないと言ったら嘘になるわ。少なからず好意を抱いていることも認めます」

結衣「!!」


結衣「じゃ、じゃあやっぱり、ゆきのんも……」

雪乃「でもその好意は、あなたのそれとは違うわ」

結衣「…えっ?」



104 : 以下、名... - 2015/08/20 05:59:51.12 QQgXjzXT0 60/353



雪乃「陳腐な言い回しをするけれど、LoveではなくLikeということよ」


雪乃「いいかしら由比ヶ浜さん。私が彼に抱いているのは、あくまで仲間、百歩譲って友人としての好意に過ぎないわ」

結衣「そうなの…?」

雪乃「そうなの。貴女が抱いているようなしゅきしゅき比企谷くんだいしゅきという好意、すなわち愛情とは似ても似つかない非なるものということよ」

結衣「ちょ、ゆ、ゆきのーん!!///」

雪乃「あら、違った?」

結衣「うっ…た、たしかにあたしのはラブのほうの好きだけど、そんなバカっぽい言い方しないでよー!」

雪乃「まあ、つまりはそういうこと」


雪乃「だから安心しなさい。私が由比ヶ浜さんの恋路を邪魔するようなことはないから」

結衣「そ、そっかぁ… よかった…えへへ」

雪乃「というか嫌よ。私が比企谷君ラブで言い寄っている図なんて、想像しただけで上履きに大量のゴキブリが詰められていた時と同じくらいの寒気がするわ」

結衣「いやあぁあ!? なにその恐怖体験!? こわっ!!」


105 : 以下、名... - 2015/08/20 06:03:09.74 QQgXjzXT0 61/353



カチッ

ゴーーー


雪乃「途中だったわね。乾かしてしまいましょう」

結衣「あ、うん! お願いします!」


雪乃「それで、邪魔者がいないと分かったところで、これからどうするの?」

結衣「邪魔者だなんて… えー、どうしよっかな」

雪乃「いろいろアプローチする方法はあると思うけれど、重要なのはタイミングではないかしら」

結衣「タイミング?」

雪乃「貴女と彼の場合、出会って間もないというわけでもないから、勢いのままにというのはもう難しいと考えられるわ」

結衣「んー、たしかに」

雪乃「ただ、自然と芽生える情熱的な恋のようには行かないけれど、勢いをつけるきっかけを作ることはできる。タイミングなんてものはその中に勝手に転がり込んでくるものよ」

結衣「ええっ? つまり…どゆこと? どうすればいいの?」

雪乃「手っ取り早く且つ手堅いのは、世の中の男女がよく用いている手法ね。それを応用するの」


106 : 以下、名... - 2015/08/20 06:04:55.46 QQgXjzXT0 62/353



雪乃「由比ヶ浜さん、来週の土曜日は空いているかしら?」

結衣「え? 明日じゃなくて…来週の? 今のところ特に予定とかはないけど」

雪乃「その日、貴女と比企谷がデートをします」

結衣「ふんふん」


結衣「……へ?」


雪乃「来週の土曜日、お昼から由比ヶ浜さんと比企谷が2人きりでデートをします」

結衣「ちょおっ、ゆ、ゆきのん!!」

雪乃「なにかしら?」

結衣「デデデートって…なんで急にそんな話になってるの!?」

雪乃「どうしてそんなに慌てているのかしら。2人で出かけるのはなにも初めてではないでしょう?」

結衣「そうだけど、その、いきなりすぎるし… デートとか言われると…」


107 : 以下、名... - 2015/08/20 06:10:02.23 QQgXjzXT0 63/353



雪乃「想いを伝えるには何かきっかけが必要。そしてそのきっかけは、当事者が2人で行動し、かつそれなりのイベントがある環境で生じやすいものだわ」

雪乃「よって休日に学校以外、言うなれば非日常の場所で2人きりでデートするというのは、気持ちを告白する手段としてはベターだという考えのもとの提案なのだけれど」

結衣「なるほど… っていうか、そこで告白するの前提なんだ!?」

雪乃「いかがかしら?」

結衣「うっ… えと、まだ心の準備が…」

雪乃「そう」


雪乃「私なりに真剣に考えた結果なのだけれど…」シュン


結衣「えっ」


雪乃「羞恥を忍び、言い慣れない言葉を用いてまで説いてしまった苦労が水の泡ということね……誠に残念…」シュン

結衣「ゆ、ゆきのーーん!? わかった、わかったから! あたし、土曜日にヒッキーとデートする!」

雪乃「…本当?」ウル

結衣「こ、告白は、できるかわかんないけど! がんばってみるっ!」

雪乃「由比ヶ浜さん…」



雪乃「それでチョロヶ浜さん、段取りなのだけれど、まず彼を勧誘するところからね。あ、髪はもう乾いたと思うわ」ケロッ

結衣(しまった! また演技だった!?)



113 : 以下、名... - 2015/08/26 00:51:44.64 8O/vuJfx0 64/353



結衣の部屋


雪乃「いいのかしら、私がベッドを使ってしまって」

結衣「いーのいーの、ゆきのんはお客さんなんだから!」

雪乃「そう? 立ったまま眠るのでも構わないのに」

結衣「なにそのワザ!? すごっ!!」

雪乃「小さい頃に習得したのよ。嘘だけれど」

結衣「ゆきのんの過去に一体なにが…って、なんだウソかぁー…」

雪乃「由比ヶ浜さん? 貴女はとても騙され易いわ。デートといえど、あの男に騙されて変なところに連れ込まれないようにしなさい」

結衣「ゆ、ゆきのん/// ヒッキーはそんなことしないよ! てかまだ行くと決まったわけじゃないし」

雪乃「それもそうね」


114 : 以下、名... - 2015/08/26 00:53:29.65 8O/vuJfx0 65/353



結衣「それじゃ、そろそろ寝よっか」

雪乃「もう一度聞くけれど、本当にいいの? 由比ヶ浜さんが布団で、私がベッドで寝てしまって」

結衣「ゆきのん気にしすぎ! いいんだって。あたしもたまにはお布団で寝てみたいし」

雪乃「そういうことなら、ありがたく頂戴するわ」

結衣「うん!それじゃ電気消すね。 おやすみ、ゆきのん」

雪乃「ええ。おやすみなさい」


パチッ



結衣(…えへ、久しぶりのお泊まりってテンションあがるなー)

結衣(明日はお休みだし、もうちょっとゆきのんとお喋りできるかな?)






雪乃「………」



115 : 以下、名... - 2015/08/26 00:58:05.31 8O/vuJfx0 66/353



チクタク



結衣「ゆきのん」

結衣「………」

結衣「ゆきのーん… まだ起きてる?」

結衣「………」


結衣(もう寝ちゃった?)

結衣(寝つきいいなぁ。もしかして疲れてたのかな)


結衣(…あたしも寝よっと)



グスッ



結衣(……えっ)


結衣(な、なに? なんの音? なんか、鼻をすするような音…)

結衣(空耳かな)



グスッ ズズッ



結衣(!?)

結衣「ゆ、ゆきのん…?」




雪乃「………」



結衣「ゆきのん…… 泣いてる…の?」



雪乃「………」





116 : 以下、名... - 2015/08/26 01:01:00.22 8O/vuJfx0 67/353



結衣「………」


ノソリ


結衣(壁のほう向いちゃってるけど…)

結衣「ゆきのん、起きてるんだよね?」ボソ


雪乃「………」


結衣「………」

結衣「なか…入っちゃうよ?」


雪乃「………」


結衣(偉い人が言ってた。沈黙は肯定だって)

結衣「お、おじゃましまぁーす」ノソノソ


雪乃「……」




117 : 以下、名... - 2015/08/26 01:05:04.99 8O/vuJfx0 68/353



結衣「ね…… ほんとは起きてるんでしょ?」

雪乃「……」


雪乃「どうしたの…由比ヶ浜さん」

結衣「…! ゆきのん!」

結衣「どうしたの、はこっちのセリフだよ…!」


雪乃「なんのことかしら」

結衣「だって… ゆきのん、今泣いてたよね…?」

雪乃「………」

雪乃「いいえ、泣いてなどいないわ」

結衣「うそだよ… だって声聞こえたもん。ゆきのんがすすり泣く声…」

雪乃「……聞き間違いよ」

結衣「そんなわけない! それならこっち向いてよ…ゆきのん」

雪乃「………」


クル


118 : 以下、名... - 2015/08/26 01:10:25.38 8O/vuJfx0 69/353



結衣「ほらやっぱり… 暗くてしっかり見えないけど、ゆきのん目赤っぽいし、こすった跡あるし」

雪乃「………」

結衣「どうしたの? あたし、もしかしてゆきのんに何か嫌なことしちゃった…?」

雪乃「………」

結衣「………」

結衣「そうなの? 黙ってたらわかんないよ…」


雪乃「…いいえ、由比ヶ浜さんが原因ではないわ」

結衣「ほ、ほんと? なら、どうして?」

雪乃「大したことではないから、気にしないで頂戴」

結衣「ゆきのん……」

結衣「あたし、ゆきのんに悩みがあるなら力になりたい。アドバイスなんてできないかもだけど、お話聞くだけでも違うと思うし…」

雪乃「由比ヶ浜さん」

結衣「な、なに?」

雪乃「ありがとう。心配してくれてとても嬉しいわ」

結衣「…!」


119 : 以下、名... - 2015/08/26 01:15:52.24 8O/vuJfx0 70/353



雪乃「でも大丈夫。本当に大したことではないの」

雪乃「それに、情けない話でもあるから……今は深く追及しないで欲しいというのが正直なところかしら」

結衣「ゆきのん… ほんとに、ほんとに大丈夫?」

雪乃「ええ。醜態を晒してしまったわね、ごめんなさい」

結衣「そんなことないよ… 辛い時は我慢しないで、泣いていいんだよ? ゆきのんだって女の子だもん」

結衣「あたしがゆきのんを助けてあげられることなんてほとんどないかもだけど… それでも、ゆきのんが素のままでいられるような、本音でなんでも話せるような相手になりたい!」

雪乃「由比ヶ浜さん…」

結衣「だから… あたしはいつだってゆきのんの味方だから…」

結衣「大丈夫って言うゆきのんを信じて今はもう聞かない。でも、いつか……ちゃんと話してね」

雪乃「ええ。話すわ、いつか時が来たとき…必ず」


結衣「約束だよ。ゆきのん」

雪乃「もちろん。約束するわ」


120 : 以下、名... - 2015/08/26 01:18:40.95 8O/vuJfx0 71/353



雪乃「由比ヶ浜さん」

結衣「うん?」

雪乃「ありがとう」

結衣「…ううん。言ったじゃん、あたしはゆきのんの味方だって」

雪乃「…そうね、頼りにしているわ」

結衣「えへへ、ゆきのんから頼りにされちゃった」


雪乃「………」



雪乃「やっぱり私も少しだけ、言わせてもらおうかしら」

結衣「…えっ?」


ギュムッ


結衣「むぶっ!?」

雪乃「…少しだけ我慢して頂戴」

結衣「むー! むー!?」

結衣(ゆ、ゆきのん!? 急に抱き…てか、ちょっと苦しいよー!)



121 : 以下、名... - 2015/08/26 01:22:38.57 8O/vuJfx0 72/353



雪乃「………」

結衣「むー! んむーー!!」モゴモゴ


雪乃「ごめんなさい。貴女には、すでに嘘を付いているわ」

雪乃「でも…本音なんて言えないのよ。言ってしまったら、貴女を……貴女と彼を……混乱させてしまうだろうから」



結衣(なに? なんかゆきのん喋ってるような… 全然聞こえないよー!)


雪乃「私は、彼が望む道を知ってしまった。私にそれを阻む権利など…ありはしないのだから」


雪乃「………」




雪乃「由比ヶ浜さん」


雪乃「どうか、私の分まで…」


122 : 以下、名... - 2015/08/26 01:30:32.15 8O/vuJfx0 73/353



雪乃「……」


スッ


結衣「ぷはあっ! はあ、はあ……」

結衣「ゆ、ゆきのーん!!」

雪乃「どうしたの? 息が荒いようだけれど」

結衣「えぇっ!? ゆきのんがいきなり頭ぎゅーってするからじゃん。苦しかったんだよ?」

雪乃「ごめんなさい、手が滑ったの」

結衣「そ、それはさすがに…ない…」

雪乃「………」フム


結衣「え、本当はなんだったの?」

雪乃「そうね、由比ヶ浜さんの髪がひょっとすると私よりサラサラなのではないかと思って確かめたくなったのよ」

結衣「へっ…? いやいや、ゆきのんに比べたら全然…… って、それだけ?」

雪乃「それだけよ。触って確認したり、味見してみたり」

結衣「ふーん………… んっ!? 味見!!?」


123 : 以下、名... - 2015/08/26 01:34:59.84 8O/vuJfx0 74/353



雪乃「てっきりオレンジの味でもするかと思っていたけれど、そんなことはなかったわ」

結衣「えーー!? ほんとにあたしの髪食べちゃったのー!?」

結衣「…なーんて」


結衣「また冗談なんでしょ。いくらあたしでもさすがにもう騙されないし!」

雪乃「……」

結衣「ね、ゆきのん? ね? 冗談なんだよね?」


雪乃「……」


結衣「えっ……… あ、あれ? ゆきのん?」



雪乃「ごめんなさい、私もう寝ないと…」

結衣「ゆきのんー!? う、うそだよね!? あれー!?」


129 : 以下、名... - 2015/09/15 05:19:39.55 kGFk+QEzO 75/353



月ヶ浜



八幡「………」ドクショ


結衣(ヒッキー、今日はずっと眠そうじゃないや。やっぱり気のせいだったのかな)

結衣(そ、それよりデート! この前ゆきのんと約束したもんね、デートに誘わないと!)



キーンコーン



結衣「ね、ね! ヒッキー!」

八幡「げっ…」

結衣「げっ…てなんだし! 部活いくよね?」

八幡「あ、俺今日用事あんだわ。悪いけど雪ノ下に休むって伝えといてくれ」

結衣「え、そーなんだ… うん、わかった。バイバイ」

八幡「ああ」


結衣(帰っちゃった。ま、明日でもいいよね)


130 : 以下、名... - 2015/09/15 05:21:40.76 kGFk+QEzO 76/353



火ヶ浜



ガララッ


結衣「やっはろー!」

雪乃「あら、ごきげんよう」



ザーーー



結衣「今日は雨かー。傘持ってきたけど、やむまで帰りたくないなぁ」

雪乃「どうしても濡れてしまうものね。雨が止んだタイミングで依頼も来なそうだったら、早めに帰るのも一考かしら」

結衣「そだね。ところで、ヒッキーまだ来てないの? 部室のほうに歩いてったと思ったんだけど」

雪乃「いいえ、部室には来ていないわ」

結衣「そ、そっか。後でくるのかな」



ザーーー



雪乃「……止まなかったわね。そろそろ下校時間だし、帰りましょうか」

結衣「……うん」


131 : 以下、名... - 2015/09/15 05:23:17.27 kGFk+QEzO 77/353



水ヶ浜



結衣(今日こそヒッキーをデートに誘わなきゃ! ようし、がんばれ、あたし!)



キーンコーン



八幡「……」ガタッ


結衣「ヒッキー! 今日もすぐ帰っちゃうの?」

八幡「ん? あー、まあそうだな。少しだけ部室寄ってくけど」

結衣「そーなんだ。じゃああたしも一緒に」

グイッ

優美子「結衣ー、あんた今日日直でしょ。何サラッとさぼろうとしてんだし」

結衣「へ? …あ、やば! そうだった!」

八幡「ドンマイ。先行ってるわ」




タッタッタッ

ガララッ!


結衣「はっ、はっ…!」


雪乃「……比企谷君なら5分程前に帰ってしまったわ」

結衣「そ、そっかぁ…」ガクッ


雪乃「今日もまだ誘えてないのかしら?」

結衣「うん… クラスだとやっぱり言い出しにくいというか、ヒッキーが嫌がりそうだから」


132 : 以下、名... - 2015/09/15 05:25:47.97 kGFk+QEzO 78/353



結衣「この頃早く帰ってばっかだし、タイミング逃しちゃうんだもん」

雪乃「そういえば最近いつも用事があるみたいね」

結衣「うん… うん? あれ? てか、おかしいよね?」

雪乃「…なんのことかしら」

結衣「土曜日のことで頭いっぱいで忘れてたけど、ヒッキーこの前からずーっと用事用事って、早く帰ってるよ? やっぱり変だよ! 絶対なにかある!」

雪乃「そうね。彼なりに事情があるのでしょうね」

結衣「……? ゆきのん、なんか前よりヒッキーに甘くなってない?」

雪乃「さあ、そうかしら」

結衣「だっていつもだったらヒッキーが部活休むことにすごいいろいろ言ってたのに…それどころか、休む理由を聞こうともしてないよね」

雪乃「由比ヶ浜さん…この前話したことは覚えている?」

結衣「この前って、お泊まりの?」

雪乃「ええ」


133 : 以下、名... - 2015/09/15 05:27:29.16 kGFk+QEzO 79/353



雪乃「私はあの日『比企谷君のことを認めている』と言ったわね。その言葉を口にしてから特に、今までの自分を少し見つめ直してみたの」

結衣「…うん」

雪乃「結果、今までの私は比企谷君に対して、ほんの少々きつくあたっていたことに気がついたわ。彼の意見や行動を縛ってしまっていたことにも」


雪乃「だから、罪滅ぼしとは違うけれど、しばらく彼を自由にさせることにしたの」

結衣「自由に?」

雪乃「都合の良い言い方をすれば、彼の意思を尊重しているということよ」

結衣「ヒッキーの意思を…… そっかぁ」


結衣「じゃ、あたしも無理しないでデートはまた今度に…」

雪乃「貴女は早く誘いなさい」

結衣「ひ、ヒッキーの意思を尊重してるの!」

雪乃「伝えてすらいないのに彼の意思がどこに介在しているのかしら?」

結衣「あうっ。だ、だってー! 声かける以前にどうやって誘うか思いつかないんだもーん!」


134 : 以下、名... - 2015/09/15 05:29:30.10 kGFk+QEzO 80/353



雪乃「あきれた… 唆したのは私だけれど、そこまで何も考えていないとは予想外だったわ」

結衣「そんなぁ! ゆきのん他人事だと思ってー…」

雪乃「他人事……ね」ボソ

結衣「えっ?」

雪乃「いえ、なんでもないわ」


雪乃「まあそうね、提案者である以上、何も協力しないというのも無責任というものだし」

結衣「…ゆきのん!」

雪乃「まずは誘い方だけれど、そもそも由比ヶ浜さんはどこに行きたいの?」

結衣「行きたいとこかぁ。んーー…」

結衣「まずスイパラでしょ? あとカラオケと、あ! 駅前に出来たエステがすごい評判よくて高校生でも行きやすいらしいから行ってみたくてー」

雪乃「……そこに彼が一緒に行ってくれると思う?」

結衣「……思わないかも」



135 : 以下、名... - 2015/09/15 05:31:01.16 kGFk+QEzO 81/353



結衣「ヒッキーと2人で行けそうなところかぁ」

結衣「うーん……」

結衣「………」


結衣「なんかどこも『めんどいから行かない』って言いそう」

雪乃「そうね」


雪乃「そこで質問を変えるわ。由比ヶ浜さんはどこでどのような告白をしたいのかしら?」

結衣「ぅええ!? こ、告白…/// それも全然考えてなかったし、いきなり言われても…」

雪乃「あくまで理想よ。夜景の見える観覧車のてっぺんで や、物語のように白馬に乗って など、色々あるでしょう」

結衣「へぇ……」

雪乃「…なに?」

結衣「や、ゆきのんって意外と乙女ってゆーか…ロマンチックなのが好きなんだなって」

雪乃「た、例えばの話よ!」


136 : 以下、名... - 2015/09/15 05:32:59.71 kGFk+QEzO 82/353



結衣「てかそれって、どっちかといえば告白されるシチュじゃない?」

雪乃「…しまったわ。たしかにその通りね」

結衣「ゆきのんだったらする側でも似合いそうだけどね!」

雪乃「それは、褒められているのかしら」


雪乃「まあ、この際告白されるほうでも良いわ。貴女の希望は?」

結衣「うーん、やっぱり、コレ!ってのが思いつかないや。ゆきのんみたいなのもすごくいいけど」

結衣「そんなに特別なことしてくれなくてもいいかなぁ。2人きりで、できれば暗くて静かなところで、ちゃんと『好き』って言ってくれたら…すごい嬉しいかも」

雪乃「……なるほど」

結衣「…変かな?」

雪乃「いいえ。貴女の性格からして意外ではあるけれど、だからといって変ではないし、とても素敵な希望だと思うわ」

結衣「えへ、ありがと」


137 : 以下、名... - 2015/09/15 05:35:45.19 kGFk+QEzO 83/353



雪乃「希望が無いのなら、それはそれでいいわ。無理に進路変更する必要がなくなっただけね」

結衣「うん?」

雪乃「比企谷君はいわゆるデートスポットとなる場所はことごとく拒否すると予想される」

雪乃「なら、スタートは単に話があるとか言って喫茶店に呼び出し、ゴール地点である告白地点にあれよあれよと引きずり込む算段よ」

結衣「なるほどー! さすがゆきのん!」


結衣「それで引きずり込むって、どうやって?」

雪乃「そこは…ほら、由比ヶ浜さんがお願いするとか桃を使うとか、なんとかすればいいじゃない」

結衣「そこはあたし任せなんだ!?」

結衣(ゆきのんってめっちゃ頭いいのに、たまに雑ってゆーか…協力してくれてるのに言うのもあれだけど。ってかまた桃…?)


138 : 以下、名... - 2015/09/15 05:37:26.73 kGFk+QEzO 84/353



雪乃「でも由比ヶ浜さんの場合は特にゴール地点がないから、決まった場所への進路変更が必要なくなったという訳よ」

結衣「あ、そっか。でもそしたら、結局あたしがぶっつけ本番でなんとかしなきゃってことだよね?」

雪乃「ええ。協力すると言った割に無計画のようで悪いのだけれど、私はそれで良いと……実をいうと、むしろその方が良いと思っていたわ」

結衣「えっ、なんで?」

雪乃「それが貴女の魅力を最も引き出せるからよ」

結衣「魅力…?」


雪乃「由比ヶ浜さんのキャラクターとしてあるのは、『明るい』 『笑顔が可愛い』 『親しみやすい』だったり」

結衣「そ、そうかな… 照れるなぁ」

雪乃「そのほか『アホの子』 『桃』 『見た目ビッチ』などがあるのだけれど」

結衣「ちょおーー!!?」

雪乃「やはり人を惹きつけるのは前者ね。由比ヶ浜さんの明るさや元気さにはたくさんの人が元気づけられているし、フレンドリーな性格も馴染み易くてグッドよ」

結衣「えへ、えへへへ」

結衣(…はっ! サラッと発言を揉み消された!)

139 : 以下、名... - 2015/09/15 05:39:02.13 kGFk+QEzO 85/353



雪乃「そして、それらは素のままの由比ヶ浜さんにこそ現れるものだと思うわ」

結衣「素のあたし…」

雪乃「貴女は周囲に対する適応力がとても高い。関与する誰に対しても差し障りのない応対ができるし、そんな貴女を嫌う人はまずいないでしょう」

雪乃「周りに歩調を合わせることはコミュニケーション上のスキルでもあるし、もちろん悪いこととは言わないわ」

雪乃「けれど貴女には本来の魅力というものがあって、それを引き出せないのはとても勿体無く感じるの」

結衣「えっ?」

雪乃「つまりは、自分に正直になって、したいことをしなさいということよ」

結衣「…そんなんでいいの?」


140 : 以下、名... - 2015/09/15 05:41:40.40 kGFk+QEzO 86/353



雪乃「こと彼とのデートに限ってはそれで良いと考えているわ。最初は話や飲食に付き合うということにして、それから由比ヶ浜さんがしたいことや行きたい場所を次の行動方針にする」

雪乃「貴女が彼の隣で楽しそうにしていれば、彼だって嫌な気はしないし、流れに任せていろんな所へ一緒に行ってくれるのではないかしら」

結衣「そう…なのかな。そしたら、ヒッキーも楽しいって思ってくれるかな?」

雪乃「ええ。貴女の笑顔には人をそうさせるだけの魅力があるわ」

結衣「えへ……ゆきのんが言うと、なんかほんとにそんな気がしてきた!」



141 : 以下、名... - 2015/09/15 05:43:45.11 kGFk+QEzO 87/353



雪乃「これでもう大丈夫そう?」

結衣「うん! ありがとゆきのん、明日こそがんばって聞いてみるね」

雪乃「いえ、今日よ」

結衣「へっ? でも今日はもうヒッキー帰っちゃったって言ってたよね?」

雪乃「別に直接会って聞く必要は無いでしょう。連絡先は知っているのだし、電話なりメールなり、手段は多数あるはずだわ」

結衣「あ、そっか。なんか忘れてたや」

雪乃「まあ、彼の場合は不通という可能性も十分あるけれど」

結衣「んー… それならまた明日にするけど、とりあえず今日! 聞いてみるよ!」

雪乃「ええ。ご武運を」


146 : 以下、名... - 2015/09/15 13:20:36.00 T+Z0A6M0O 88/353



由比ヶ浜宅


結衣「んーっと… まずヒッキー用事? おわったのかな?」

結衣「ま、とりあえずメールしてみよ」スッ スッ


『やっはろー! ヒッキー今だいじょーぶ??(・ω・)ノ』



10分後


結衣「返ってこないや。まだ終わってないっぽい?」




1時間後


結衣「まだかなー。てか、何の用事なんだろ」

結衣母「結衣ー! 晩ごはんはー?」

結衣「あ、今行くー!」




2時間後


結衣「ヒッキー…実は既読スルーだったり。メールだからわかんないけど」


147 : 以下、名... - 2015/09/15 13:30:53.51 T+Z0A6M0O 89/353



結衣「ぅえーい! こーなったら電話するし!」ピッ


prrrrrrrrrrr

prrrrrrrrrrr


結衣(……出ないかな?)


結衣(うーん、やっぱまだ用事中なのかも。てか、出たとして何から話せばいいんだろ?)

結衣(デート……ヒッキーとデート…)


結衣(……/////)


ピッ


結衣(……なんかはずかしくて切っちゃった)




148 : 以下、名... - 2015/09/15 13:34:59.22 T+Z0A6M0O 90/353



結衣(もう、何してんのあたし! ちゃんと誘いかた考えよ)

結衣(そーだなー…)


『ねーヒッキー、土曜日あたしとデートしない?』

『は? え、なにお前、新手の嫌がらせ?』


結衣(…ナシナシ! 急にデートとか言われても困るよね、あたしもそうだったし)



『やっはろー! ヒッキー、土曜日ひま?』

『悪い超忙しい。家事とかゲームとか自宅警備とか』


結衣(……外出たくないだけじゃん! ヒッキーのばか!)


結衣(むぐぐ、もっと遠まわしに聞かなきゃかな)


prrrrrrrrrrr


結衣「ひぇっ… 電話?」

結衣「えっ!? ひ、ヒッキーからだ!」

結衣(どどどどーしよう!? まだどうやって誘うか全然まとまってないのに… でもここで出ないのもあれだし…)


ピッ


結衣「も、もしもしヒッキー? あの、さっきの電話なんだけど」

結衣(出ちゃったー! もーこうなったら勢いでなんとかする!)


結衣「……」

結衣「あ、あれ? もしもし? 聞こえてる?」



女の声『あの、誰ですか? あなた』

149 : 以下、名... - 2015/09/15 13:40:02.11 T+Z0A6M0O 91/353



結衣「…へっ?」

結衣(知らない女の人の声…… かけ間違い? いやいやいや、ヒッキーのケータイからかかって来てたし)

結衣「あの、これヒッキ…比企谷くんのケータイですよね?」

女の声『そうですけどー、はっちんは今いないんでー』

結衣「えっ? はっちん?」

女の声『そ。あ、はっちんは八幡ね』

結衣「は、ははははちまん!? ……えっ? ええっ?」

結衣「その、ど、どういうことですか!?」

女の声『ん? 今、アタシんちでシャワー浴びてるとこ』

結衣「!!?」

結衣(ヒッキーが女の人の家で…シャワー…!?)

女の声『で? はっちんのケータイチェックしてたら、なんか電話かかってきたんで、出てみたんですけどー。何か用ですか?』

結衣「あ…う…えーと……」


結衣(なに、これ… これって、そーゆーこと?)

結衣(この女の人はヒッキーの電話であたしにかけてきてて、この人の家でヒッキーは今シャワー浴びてて…… )

結衣(それってつまり、ヒッキーはこの女の人と……)

150 : 以下、名... - 2015/09/15 13:44:13.24 T+Z0A6M0O 92/353



女の声『もしもーし?』

結衣「え、えーと…」

結衣(やば、なんて言えばいいのか全然わかんない…)


女の声『もしかしてあれですかー、はっちんのデートのお誘いですかー?』

結衣「っ!? なんでそれを…」

女の声『えっ?』

結衣「あ、いや…」

女の声『………』

結衣「………」

結衣「その、ごめんなさい…… あたし…知らなくて」


女の声『あの、本当にデートのお誘いなんですか!?』


結衣「……はい?」


151 : 以下、名... - 2015/09/15 13:45:17.76 T+Z0A6M0O 93/353



女の声『だって今、結衣さん言いかけましたよね? 肯定しかけましたよね? お兄ちゃんのデートのお誘いだって!』

結衣「それはー…… って、結衣さん? お兄ちゃん!?」

女の声『はい! あの、だからさっき結衣さんがお兄ちゃんにメールとか電話してきてたのって、デートのお誘いってことでいいんですよね!?』

結衣「………」

結衣(この人、さっきと声変わってるし、この声聞いたことあると思ったら…)


結衣「あ、あのー」

女の声『はい?』

結衣「もしかして、もしかしなくてもだけど……」

155 : 以下、名... - 2015/09/15 17:31:16.65 zA68QPN0O 94/353



比企谷宅


小町「あ、申し遅れました。愚兄に代わって妹の小町がお送りしております!」ビシッ

結衣『やっぱり小町ちゃん!? な、なんなの、さっきのやつ!』

小町「あははー、お兄ちゃんに彼女いるみたいな感じにしたら結衣さんがどんな反応するかなって……やっちゃいました!』

結衣『もう! もうったらもう! ほんとにびっくりしたんだからね?」

小町「すみません、まさかこんなので騙し通せるなんて思わなくって」

結衣『あう……』


小町「それで、それで! 本当なんですよね、デートのお誘いって!?」

結衣『え、いやー…そのー』

小町「それならそうと最初から言ってくださいよー! 全然OKですよ! いつですか? 今日ですか?」

結衣『いやいや! えと、あ、明後日の土曜日とか…ヒッキー空いてそう…かな?』

小町「結衣さん、休日のお兄ちゃんに何か予定があったらきっと空から犬が降ってきますよ」

結衣『なにそれ嬉し…くない! こわいよ!?』



156 : 以下、名... - 2015/09/15 17:35:56.78 zA68QPN0O 95/353



小町「まあとにかくお兄ちゃんは大丈夫なんで、明後日の土曜日、12時に駅前のカフェで待ち合わせしましょう!」

結衣『えっ!? いいの? 勝手に決めちゃって』

小町「いいんですいいんです! どうせゲームしてるか本読んでるかなんですから、外に連れ出してあげてくださいっ」

結衣『んー… でもやっぱヒッキーにちゃんと確認しないとダメじゃないかな』

小町「そのへんも含めて任せてください。 妹パワーで押し切っちゃいますんで!」

結衣『そう? えへ、頼もしいなぁ。ありがと! この頃ヒッキー早く帰っちゃってて、なかなか誘えなくて』

小町「あー、なるほど。お兄ちゃん、最近バイトばっかでしたからねー」

結衣『へー…… えっ?』


小町「なのに夜更かしして深夜アニメとか見てるもんですから、朝起きないったらないんですよ!」

結衣『ちょっ、小町ちゃん?』


157 : 以下、名... - 2015/09/15 17:38:45.91 zA68QPN0O 96/353



結衣『バイトって… ヒッキー、バイトしてるの?』

小町「はい、なんか、金が入り用になったーとか言って。つい最近ですけどね」

小町「妹的には脱専業主夫志望の第一歩かなってポイント高かったんですけど… あれ? てっきり結衣さんや雪乃さんは知ってるものかと」

結衣『ううん、初めて聞いたよ? なんか用事あるから部活休む、とは言ってたんだけど』

小町「…あのゴミいちゃん、お二人に無断でそんなことしてただなんて。すみません、お風呂あがったらみっちりお説教しておくんで」

結衣『あはは、いいよいいよ。ゆきのんにもあたしから伝えとくし、そしたらたっぷりお説教…というか、いろいろひどいこと言われちゃうと思うし」

小町「雪乃さんの言動は鋭いですからねー。わっかりました、とにかく土曜日のデートの件は任されましたので!」

結衣『うんっ。よろしくね、小町ちゃん』

小町「はーい! それでは結衣さん、おやすみなさい!」

結衣『ありがとね。おやすみ!』


ピッ


158 : 以下、名... - 2015/09/15 17:41:21.36 zA68QPN0O 97/353



ガチャ


八幡「ふー。さてさて風呂上がりのマッカンをば」

小町「あ、お兄ちゃんおかえり。小町のあとだからってお湯飲んだりしてないよね?」

八幡「ん、大丈夫だ。悪い味じゃあなかった」

小町「え、飲んだの? ちょっとそれはキモいの範疇を超えて別の類の何かだよ…」

八幡「冗談に決まってんだろ。お、コイツだけ妙にキンキンに冷えてやがるぜ。君に決めた」プシュ

小町「あ、そうだお兄ちゃんさー、結衣さんと雪乃さんにバイトしてること言ってなかったでしょ?」

八幡「……」ゴクゴク

小町「ダメだよ無断で部活休むなんて、小町的にポイント低いよ?」

八幡「待て小町。それ…ソースは?」

小町「結衣さん」

八幡「……は?」

159 : 以下、名... - 2015/09/15 17:46:12.93 zA68QPN0O 98/353



小町「お兄ちゃん、バイト帰りにケータイ見なかったの? 結衣さんからメール来てたでしょ」

八幡「そういや音楽聴いてたし一回も画面開かなかったな…… え? それで?」

小町「今さっき結衣さんから電話きてて、なんか急ぎかなと思って小町が代わりにお話したんだよ」

八幡「その中で俺がバイトしてるってバラしたわけか…」

小町「バラす? って、お兄ちゃんひょっとしてバイトしてるの隠してたの?」

八幡「いや、まあそれはいい。どうせ今日で最後だしな」

小町「あ、そうなんだ…… お兄ちゃん、慰めてあげようか…?」

八幡「なんでクビになった体で聞いてくんだよ。ただ短期だっただけだから」

小町「なーんだ。あ、それからお兄ちゃん土曜日に結衣さんとデートすることになってるから」

八幡「ああ」


八幡「…あ?」


160 : 以下、名... - 2015/09/15 17:49:19.95 zA68QPN0O 99/353



八幡「小町さんや、今なんて?」

小町「あさって、どようび、ゆいさん、でえと。オーケー?」

八幡「……」

八幡「あれだ、今時の女子は2人でデートとかよくあるらしいしな。いいんじゃね? 車と男に気をつけるのよ?」

小町「いや、お兄ちゃんのことだから」

八幡「……」

八幡「あれだ、千葉の兄妹は2人でデートとかよくあるらしいしな。よし小町、どこに行きたいんだ? お兄ちゃんがどこでも」

小町「通報するよ?」

小町「そうじゃなくってー、デートに行くのは、お に い ちゃ ん と 結 衣 さ ん!」

八幡「まじかよ…」


161 : 以下、名... - 2015/09/15 18:19:36.57 zA68QPN0O 100/353



小町「とにかくそういうこと! お兄ちゃんに拒否権はないよ。拒否したらこれまでの小町ポイント全部失効して赤の他人からリスタートだから」

八幡「それはつまり、兄妹という枠を超えて小町と結婚カッコカリすることも可能と…!」

小町「ほんとに通報するよお兄ちゃん…」


小町「それで、土曜の正午、駅のカフェで待ち合わせになってるから! ぜーったい行かなきゃダメだよ?」

八幡「いや、んなお前勝手に… 大体それ由比ヶ浜は」


小町「お兄ちゃん… 小町のお願い、きいてくれないの…?」ウル

八幡「そんなわけないだろ。よしいっちょ気合い入れてデートプランでも練るか」キリッ

小町「当日の服装とか髪型とかはまかせて、お兄ちゃん!」

八幡「しまったぜ」



八幡(前倒しだがしゃーなしだな…… いや、どちらかといえばむしろ丁度いいのか)

八幡(…連絡入れとくか)


162 : 以下、名... - 2015/09/15 19:34:56.70 vc8uk/VLO 101/353



結衣宅



ポスッ


結衣「ふいーー…」


結衣(直接は話せなかったけど、できたんだ。デートの約束……ヒッキーと)


結衣「へ、えへ… えへへへへ…」


結衣「ってぇ! なにひとりでニヤニヤしてんだし! あたしキモい!」


結衣(よく考えるともう明後日なんだよね。ゆきのんはああ言ってたけど、ほんとにいいのかな? ノープランで)

結衣(あたしの行きたいとこかぁ… あたしもヒッキーも楽しめるとこがいいな)


結衣「あ、そだ! ゆきのんに報告…」

結衣(…は明日でいっか。ゆきのん寝るの早そうだし、遅くに電話したら迷惑かも)



163 : 以下、名... - 2015/09/15 19:39:37.30 vc8uk/VLO 102/353



結衣(服、なに着てこっかなぁ。けっこう暖かくなってしたし、夏先取りでロングスカート? はまだ早いよね。クローゼット見てみよ)


ガラッ


結衣(無難にワンピかなぁ。ヒッキーにあんま私服で会ったことないし、着慣れてるやつのほうがハズさないよね)

結衣(んーでも、いつもよりちょっとオトナっぽいので攻めるのもアリかも。なんたって、デ、デートだし!)

結衣(思い切って買ったけど結局着れてないベアトップとか? それか逆にキャミとガウチョで明るめにー、とか?)

結衣(それとも〜〜…)


結衣「うぅーー! 決めらんないよ! ヒッキーのばか!」

結衣「いいや、今日はもう寝よーっと」


パチン


結衣(おやすみ、ヒッキー)



結衣「…でゅふっ」


結衣「……はっ!」

結衣(もー! 変な声出ちゃったし)

164 : 以下、名... - 2015/09/15 19:41:28.04 vc8uk/VLO 103/353



金ヶ浜



結衣「……」ボー


教師「そんなわけで関係代名詞にthatが使えないってことを考えると、使えるのはwhoseかwhomどっちだ? 誰か当てるぞー」

結衣「……」ボー

教師「一番ボーっとしてるやつに当てるからな…… はい、由比ヶ浜」

結衣「……」ボー

教師「…由比ヶ浜。おーい、由比ヶ浜!」

結衣「へあっ! は、はいっ?」

教師「使えるのはどっちだ?」

結衣「えっ、ヒールかパンプス…?」

教師「……what?」

結衣「わああ! 間違えました! ごめんなさいー!」


優美子(今日の結衣、なんかアホに拍車がかかってるし)


教師「由比ヶ浜、お前だけ特別に宿題。章末問題の4と5。週明けの授業中に解説してもらうからよろしく」

結衣「そ、そんなぁー!」

165 : 以下、名... - 2015/09/15 20:29:22.21 vc8uk/VLO 104/353



結衣(ダメダメだー、土曜のことばっか考えて今日の授業ぜんぜん頭に入んない!)

結衣(それもこれもヒッキーのせいだし… なんつって)チラ


八幡「……」zzZ


結衣(…完全に寝てるし)


結衣(この頃ずっとバイトしてるんだよね…… なんで急に? お金が必要になったみたいなこと言ってたんだっけ)

結衣(ってか、そっか分かった! ヒッキーが最近眠そうな日が多いのって、学校帰ってからバイトしてるからなんだ!)

結衣(ゆきのんも原因知らなかったし、あたし達に内緒でってことなのかな)

結衣(すごい気になるけど…クラスの人にも知られたくないことなのかも? なら聞くのは放課後のほうがいいよね)


八幡「……」zzZ



166 : 以下、名... - 2015/09/15 20:31:23.02 vc8uk/VLO 105/353



キーンコーン


八幡「……」ガタッ


結衣「あっ」

結衣(ヒッキー、今日もバイトなのかな)


結衣「待って待って!」

八幡「ん? ああ、由比ヶ浜か」

結衣「ヒッキー、あのね?」

八幡「おう」

結衣(……あ)

結衣(やっぱ、教室じゃ聞かないほうがいいかな。でもヒッキーこのまま帰っちゃうかも)

八幡「お前、最近呼んでおいて黙るパターン多くね? もしやそれリア充の間で流行ってんの?」

結衣「ち、違うし! そうじゃなくて…」

八幡「……」



167 : 以下、名... - 2015/09/15 20:42:11.75 vc8uk/VLO 106/353



八幡「そういや、悪かったな昨日」

結衣「えっ?」

八幡「俺に何回か連絡してたじゃん? 携帯見てなくて気づかなかったっつーか」

結衣「あ、ううん全然! 小町ちゃんが代わりに話聞いてくれたし」

八幡「みたいだな。小町から聞いた」

結衣「そなの? よかった! 小町ちゃん、ちゃんと伝えて……」

結衣(って! こ、これってデートの話じゃん!!)

八幡「……」

結衣「……」

結衣(どーしよ、なんて言えば…)


八幡「じゃあ俺帰るわ」

結衣「へっ? あ……うん」


結衣(すごいあっさり… 小町ちゃん、明日のことヒッキーに伝えてくれたんだよね?)



八幡「あー、由比ヶ浜」


結衣「うん?」


八幡「その…あれだ。また明日な」


結衣「…!」


結衣「うんっ! また明日ね、ヒッキー!」


168 : 以下、名... - 2015/09/16 00:23:30.36 a3/8q5B10 107/353



結衣「また明日……」


結衣(よかった。ヒッキーもちゃんとオッケーしてくれたんだ…えへへ)


結衣(そうだ! 部室に行ってゆきのんに伝えなきゃ!)


タッ


結衣(朝連絡すればよかったなぁ、心配してるかも。でもいろいろ考えてたら時間過ぎてちゃってたし)

結衣(…なんかゆきのんが恋しくなってきた! 待っててゆきのん!)




奉仕部前


結衣(着いたっ)

結衣「ゆきのーん! やっ…」

ガッ

結衣「あれ?」


結衣「鍵かかってる」

169 : 以下、名... - 2015/09/16 00:25:55.10 a3/8q5B10 108/353



結衣「電気ついてないし、ゆきのんまだ来てないっぽい?」


〜〜♪


結衣「おっ?」

結衣「メール…ゆきのんだ」


『今日、奉仕部は休業とします。連絡が遅くなってごめんなさい』


結衣「ありゃ」

結衣(ゆきのんが急に休むなんて珍しいなぁ。なんか用事できたのかな)

結衣(明日のことちょっと相談したかったのに)


結衣(…まいっか、かーえろ)


170 : 以下、名... - 2015/09/16 00:34:17.15 a3/8q5B10 109/353



結衣(優美子達はもう帰っちゃったよねー。いいもん、ひとりで帰るし)

結衣(そだ、ゆきのんに返事してなかった)

結衣(『りょーかい! U・x・U』っと)


結衣(あっ、ゆきのん犬苦手だったんだ… ごめーん!)



結衣(夜になったらゆきのんと電話したいなぁ。次返事きたら何時に帰るか聞いてみよっと)


結衣「……あれっ?」



八幡「…おう」


結衣「……おう」



171 : 以下、名... - 2015/09/16 00:38:39.05 a3/8q5B10 110/353



八幡「もう帰ったんじゃなかったのか」

結衣「えっ?」

八幡「いや… なんでもない。どうしたんだ?」

結衣「いやいや、それこっちのセリフだし! ヒッキーこそどしたん? 忘れ物?」

八幡「あーまあ…そんなとこだ。読みかけの本をな」

結衣「ふーん。あ、授業中に読んでたやつ?」

八幡「それそれ。机に入れたままなんだわ」

結衣「てか、読もうとして寝てたやつだよね」

八幡「…なんで俺そんなとこまで見られてんの? 監視役なの? Gメン的なの?」

結衣「た、たまたまだし! 全然ヒッキーのほうなんて見てないし! 見たくもないし!」

八幡「おいそれ地味に傷つくんだけど…」

173 : 以下、名... - 2015/09/16 08:18:35.81 SWaCeAMAO 111/353



結衣「それより、ほら! 急がないと遅れちゃうよ?」

八幡「あ?」

結衣「んっ? バイトでしょ?」

八幡「……ああ、小町から聞いたんだっけか」

結衣「あ、うん。詳しくは聞いてないんだけど、最近始めたって」

結衣「それでこの頃ヒッキーいっつも早く帰ってるんだよね?」

八幡「まあ、な」

結衣「それならそうと言ってくれればよかったのに!」

結衣「てかダメじゃん、あたしはいいけど部長のゆきのんにも言ってないんでしょ?」

八幡「あー……」

結衣「…?」

八幡「まあ、あれだな、うん。そんな感じ」

結衣「えっ… ゆ、ゆきのんは知ってるの?」

八幡「いや、だからそんな感じだって」

結衣「そんな感じ? ってどんな感じだし!」

八幡「悪い、バイトあるし急いで取りに行くわ。廊下は走れないしな。廊下走るな歩けよ乙女ってやつだ」

結衣「はっ? え、ちょ、ヒッキー!?」



174 : 以下、名... - 2015/09/16 08:34:09.27 SWaCeAMAO 112/353



結衣(ヒッキーがバイトしてるの、あたしには言わないで、ゆきのんは知ってる…?)

結衣(でもゆきのんはそんなこと一言も… それに、早く帰るのも、ヒッキーが眠そうにしてるのも分からないって言ってたし)


結衣「気のせい…かも?」


〜〜♪


結衣「!」

結衣「ゆきのんだ」


『もしかすると、部室まで行ってしまったのではないかしら? ごめんなさい。朝に送ったものが送信エラーとなっていることに気がつかなかったの』


結衣(あはは、ゆきのんたまにドジっ子だもんなぁー。『全然いいよ!』っと)

結衣(あ、あとそれから… 『ゆきのん今日いつ帰ってる? 電話で夜ちょっとお話したいんだけど(=゚ω゚)ノ』)

ピッ

結衣「よし、これでおっけー!」

175 : 以下、名... - 2015/09/16 08:40:30.14 SWaCeAMAO 113/353



トコトコ


結衣(ららぽにアクセサリーとかコスメとか見に行こっかな? でも今更な感じもするし)

結衣(いよいよ明日…… うー、楽しみだけどなんか不安になってきた)

結衣(ヒッキー今日もバイトっぽいし、ほんとは休みたかったりして)

結衣(てかヒッキー、わざわざ本取りに戻るとか、どうせ授業中に読むんだし月曜でいいじゃん!)

結衣(そんな続き気になるのかな? おもしろいんなら今度見せて…)



結衣「あ、やば。英語の宿題!」


結衣(すっかり忘れてたー…… 教科書置いてきちゃったし)


176 : 以下、名... - 2015/09/16 08:41:29.72 SWaCeAMAO 114/353



結衣「…戻ろ」


クルッ


結衣(はぁー、てかなんであたしだけ宿題なわけ? そりゃ全然授業と関係ないこと考えてたけどさ)

結衣(そんなのみんな同じじゃん。先生も他の人あてればよかったのに。戸部とか、戸部とか戸部とか)


結衣(ってだめだめ! これからがんばって成績あげて、ちゃんと大学行くんだもん、しっかりしなきゃ!)

結衣(がんばったらあたしも……行けるのかな、ヒッキーやゆきのんと同じとこ)



結衣(あれ、これもしかして、タイミング的に戻ってきたヒッキーとまたはち合わせたりして)

結衣(そしたらさっきと真逆なパターンになっちゃうや。あは、なんか変な感じ!)

177 : 以下、名... - 2015/09/16 08:42:28.35 SWaCeAMAO 115/353



校門前



結衣「……」ドキドキ



結衣(…なんて、そんなことないか)

結衣(ちょっと意識しすぎかも、あたし)


〜〜♪


結衣「あっ」


『何時かというのは正確には分からないけれど、そこまで遅くはならないと思うわ。電話で話すなら21時頃はどうかしら?』


結衣(やった!)

結衣(えーと、『かしこまりー! また後でね ▽・x・▽』っと)


178 : 以下、名... - 2015/09/16 08:45:23.77 SWaCeAMAO 116/353



結衣(ふふん。今日会えなかったぶんいっぱい喋っちゃうもんね)

結衣(…ってぇ! また犬の顔文字で送っちゃった!?)ガビーン

結衣(わ、わざとじゃないし! かわいいからつい…でも気をつけないとそのうちゆきのんに嫌われちゃう)


結衣(あっ!)



八幡「……」



結衣(昇降口にいるの、ヒッキー…かな? うん、ヒッキーっぽい!)

結衣(やっぱタイミング合っちゃった。会ったときどんな顔するんだろ?)

結衣(でも変なの、急いでるって言ってたのに。なんか、あそこで誰か待ってるー…みたい……な…)




結衣「…………えっ」






雪乃「待たせたかしら」

八幡「いや、別に」

183 : 以下、名... - 2015/09/16 12:41:55.48 wAEIDwZaO 117/353



結衣(ゆきのん……!? 先に帰ったんじゃ…)

結衣(それに、どうみても待ち合わせ…だよね? どうしてヒッキーと?)




八幡「せいぜい5分くらいだな。まあ俺もミスったしお互い様だろ」

雪乃「確かに、馬鹿正直に正面から堂々戻ってきたのは頂けないわね。今日は眼だけでなく頭まで死んでいるのかしら」

八幡「それフォローしてやった奴に返すべき言葉だと思う?」

雪乃「それはさて置き、勘繰られてはいないのよね?」

八幡「さて置くなよ。まあ…大丈夫だろ。なんせアホだし、鈍感だし」




結衣(なんか話してるっぽいけど… てかほんとに2人で帰る感じのフインキだし)

結衣(…! やば、こっちくる!)


ササッ

184 : 以下、名... - 2015/09/16 12:46:37.78 wAEIDwZaO 118/353



八幡「っつーか、駅で待ち合わせでよかったろ」

雪乃「全くだわ。わざわざ学校から向かうなんてリスクしかないもの」

八幡「速報。雪ノ下氏、認知症の疑い」

雪乃「軽々しく疾患名を用いて人を揶揄するのは避けたほうが良いと思うのだけれど。比企谷リポーターさん?」

八幡「だって学校で待ち合わせるっつったのお前じゃん」

雪乃「…さて? 記憶にございません」

八幡「速報。雪ノ下氏…っいでで!」ギュ〜

雪乃「……」

八幡「抓って黙らせるとか… いつもの達者な論理展開はどうした? 暴力に頼るなんて下衆の極みだぜ」

雪乃「かつてカノン氏は言ったわ、『圧倒的な暴力は論理に勝る』と」

八幡「知らねぇよ誰だよ…」




結衣(…………)コソ


185 : 以下、名... - 2015/09/16 12:48:51.87 wAEIDwZaO 119/353



結衣(思わず隠れちゃった…)

結衣(なんかゆきのん楽しそう……てか、ゆきのんからのボディタッチなんて久々に見た気がする)


結衣(………)

結衣(た、たまたまかも! ほら、ゆきのんも忘れ物したとか?)

結衣(あるある、偶然ってけっこう重なることあるよね! それかあくびみたいに移ったとか!)


結衣(………)



結衣(……ちょっとだけ、ちょっとだけ付いてってみよう)

186 : 以下、名... - 2015/09/16 12:53:14.25 wAEIDwZaO 120/353



八幡「まあ待ってる間に駅でエンカウントってのもあるしな、その方が言い訳しにくいぶん学校でよかったのか」

雪乃「当然その可能性を考慮してのことよ。貴方が駅前で人待ちだなんて妹さん以外あり得ないのだから、すぐバレてしまいそうだもの」

八幡「そういう辛辣な事実を突きつけるのやめてくれませんかねぇ…」





結衣(駅まで来たけど… どうするんだろ)




ガタッ ピンポーン

八幡「げっ、Suicaチャージしてなかった」

雪乃「恥ずかしい人… 待ってるから早くしなさい。あと2分で下り線が来てしまうわ」




結衣(家までは路線違うはずなのに… 2人でどっか行くんだ)


結衣(いやいや、ヒッキーもゆきのんもまっすぐ帰らないんだし! た、たまたま、たまたま!)



187 : 以下、名... - 2015/09/16 12:58:38.71 wAEIDwZaO 121/353



ガタン ゴトン


八幡「……」ドクショ

雪乃「すぐ乗り換えもあるというのに本を読むのね」

八幡「続き気になってな。読んでみたら意外と面白いんだわ、これ」

雪乃「…ふぅん」




結衣(………)

結衣(完全にストーカーになっちゃった…)





雪乃「忠告しておくと、この区間は揺れが多いから立ちながら読むのは危険よ」

八幡「大丈夫だ問題ない。つり革は俺が6人ぶら下がっても切れない設計らしい」

雪乃「いつぞやのトリビアの種ね」

八幡「人の心配するよか、運動音痴の雪ノ下さんこそ気をつけたほうがいいんじゃないっすかねぇ?」

雪乃「なっ、私は運動音痴ではないわ。ただ人より若干エネルギーの貯蔵量が少ないだけ」

雪乃「ほら、私の平衡感覚をもってすれば別につり革に頼らなくとも…」パッ

ガタンッ!!

雪乃「きゃっ!」ガシッ

八幡「うおっ!」



雪乃「……」ギュー

八幡「……」


八幡「…大丈夫か?」

雪乃「っ!」パッ

雪乃「え、ええ。その……助かったわ」




結衣(……あわ、あわわ)



190 : 以下、名... - 2015/09/16 17:12:39.97 XGnY7CHrO 122/353



雪乃「…こほん。ところで控えは持ってきたのよね?」

八幡「財布に入ってる。さっきチャージしたときにも見たから確実に」

雪乃「ならいいわ」




千葉駅


結衣(結局千葉駅で降りたけど… 2人ともこの辺に用あるんだ)

結衣(あ、あははー。ヒッキー何のバイトしてるんだろ。ゆきのんも、何の用事なんだろ)






店員「比企谷様ですね。ご用意できております。確認していただきますので奥の方へどうぞー!」

八幡「じゃあ、よろしく」

雪乃「何を言っているの? 貴方も見るのよ」

八幡「は? お前だけ確認すれば十分だろ」

雪乃「……貴方、本気でそれで良いと思ってるの?」ギロ

八幡「うっ…わ、わかったから睨むな。死ぬ」





結衣(あれは、ペットショップ?)

結衣(あっ… あそこ、前にヒッキーと2人で来たことあるお店だ)


結衣(そういえば… 珍しい猫もいっぱいでゆきのん喜びそうって……あたし言ったかも)


191 : 以下、名... - 2015/09/16 17:24:02.30 XGnY7CHrO 123/353



駅周辺



八幡「しかしまあ、この辺もだいぶ新しい店増えたな」

雪乃「そうね。人口が増えてきている影響もあるのでしょうけど」

八幡「……こうやって、人も街も移ろい行くんだろうな」

雪乃「たかだか高校生が何を語っているのかしら」

八幡「学生だろうが何だろうが、17年以上同じ所に住んでりゃベテランも同然だろ。そんくらい言える立場だっつの」

雪乃「その17年のうち、千葉駅界隈に存在したと言える時間は一体何%を占めるのでしょうね」

八幡「細けぇ奴だな… 地元愛があれば時間なんざ関係ねーから」

雪乃「……」コスコス

八幡「なに? お前ガムでも踏んだの?」

雪乃「いいえ。比企谷君なんかに愛される千葉がかわいそうで撫でてあげているの」

八幡「斬新すぎて何も言えねぇ……」




結衣(…………)トコトコ


192 : 以下、名... - 2015/09/16 17:29:00.49 XGnY7CHrO 124/353



八幡「しかし、もう夕方だってのに今日は暑い」

雪乃「予報で7月上旬並の気候と言っていたわ。梅雨時期で湿度も高いし、蒸し暑く感じるのも頷けるわね」

八幡「…お? 誂えたかのように屋台でアイス売ってるな。せっかくだし食う?」

雪乃「……」

雪乃「私は結構よ」

八幡「そうか。なら俺もいいわ」

雪乃「ただ、貴方がどうしても食べたいと言うなら仕方がないわ。私は金輪際必要ないのだけれど貴方がどうしてもと言うなら」

八幡「食いたいならそう言え!」



雪乃「〜〜♪」

八幡「お前、けっこう甘いもの好きな」

雪乃「ええ。ちなみに甘味を好む女性を前に自分のそれを献上しない男、並びに目が腐った男は大嫌いよ」

八幡「俺のを分けろって言うんですね、嫌でも分かります」

雪乃「べ、別に貴方と半分こなんかしたくないんだからね」

八幡「その台詞使うならせめて抑揚をつけろ。っつーか、え? 半分も奪う予定あんの?」






結衣(いいなぁ、おいしそう)

結衣(それにゆきのん、ヒッキーの食べてるアイス貰ってる…)


193 : 以下、名... - 2015/09/16 17:30:51.72 XGnY7CHrO 125/353



とある稲荷神社



雪乃「……」ゼェ ゼェ

八幡「いや、だから… 無理すんなって」

雪乃「だ、大丈夫と、言っている、でしょう…」

八幡「どうみても大丈夫じゃねえよ…」

雪乃「これしきの階段、私にかかれば、ノーダメージで…」ゼェ ゼェ

八幡「いや、普通の人は階段登るのにHPそこまで削らん」






結衣(なんか、神社まで来たし……)


結衣(………)

結衣(今日、お祭りやってたんだ…)

194 : 以下、名... - 2015/09/16 17:37:57.56 XGnY7CHrO 126/353



八幡「にしても、ここって常にこんな人多いのかよ… なに? パワースポット特集でもされたの? この神社」

雪乃「見て分からない? お祭りよ。そういえば家の近くに告知があったわ。今日、この辺りの神社でお祭りがあるとか」

八幡「うげぇ、知ってたら今日来なかったっての」

雪乃「今私のスマートフォンで調べてみたところ、金土日の三日間開催されているようね」

八幡「雪ノ下、今さら現代っ子アピールは寒いんじゃねぇかな」

雪乃「そんなつもりは毛頭ないのだけれど… っと、いけない。由比ヶ浜さんに返信し忘れていたわ」

八幡「あー… そういや俺も、由比ヶ浜に一応明日のこと確認しとくか」

雪乃「というか、用があるのは祭事ではないでしょう。ほら、あっちよ」

八幡「へーへー」






結衣(ヒッキーとゆきのん、登りきっちゃった)



結衣(………)


結衣(そっか、すごいなー。ヒッキー、神社でお仕事してるのかな)


195 : 以下、名... - 2015/09/16 17:40:08.06 XGnY7CHrO 127/353



結衣(巫女さんのお手伝いとかはよくあると思ってたけど、男子でも働けるんだぁ)

結衣(荷物整理とか、力仕事もありそうだもんねー)


結衣(ゆきのんも、たまたま用事がこの辺で、たまたまヒッキーと行く先が重なってたんだなぁ)

結衣(うーん、すごいや。すごい偶然。ゆきのんなら、こんな確率だって分かるのかな)


結衣(ゆきのん、すごいからなぁ… ほんとに計算できちゃったりして)

結衣(ヒッキーも…いつも大変だね。何してるかわかんないけど、今日もがんばってね)




結衣(……なんて)






結衣「………そんなわけ………ないじゃん……!」





201 : 以下、名... - 2015/09/17 00:48:23.61 QW0cQNRDO 128/353




結衣「っ…………」



ヘタッ



結衣(わかってた…… 途中から…わかってた……!)


結衣(ヒッキーが今日はバイトじゃないんだってこと…… ゆきのんの用事が、ヒッキーと出かけることだったってこと……)



結衣「……うっ………あぅっ……」ポロ ポロ



結衣(気づきたくなかった… 気づかないフリ…してた……)





結衣(これが……… 2人の『デート』なんだってこと……!)






結衣「うぅっ……うぁああああああぁぁん……!!」


202 : 以下、名... - 2015/09/17 00:55:20.99 QW0cQNRDO 129/353



八幡「っ!」バッ


雪乃「な、なに?」

八幡「なんか今一瞬、由比ヶ浜の声がしたような……」

雪乃「…私には聞こえなかったわ」

八幡「そうか。いや、悪い。気のせいだ」

八幡(…まさかな)

雪乃「不審な挙動は慎みなさい。バチが当たるわよ」

八幡「あ? そんなんで逐一怒ってたら神様やってらんねぇっつの」

雪乃「そうじゃなくて、祭囃子の太鼓のバチがここから台との距離と角度および奏者の腕の振りから推定して貴方の顔面に直撃するという予言よ」

八幡「なにそれ怖い… しかも予言かよ」

雪乃「それで、比企谷君はどれにするの?」

八幡「あー、なんか違うのかこれ。ぶっちゃけ似たり寄ったりでどれでもいい気が…」

雪乃「……貴方のその残念な態度を見ていると、この間の発言はまやかしだったのかと疑いたくなるのだけれど」


203 : 以下、名... - 2015/09/17 08:07:40.08 LzCQj68OO 130/353



結衣「…っ……ぐすっ…」



結衣(ばか…… ヒッキーも…ゆきのんも……ばかばかばか)


結衣(ゆきのん、ほんとは知ってたんだ… ヒッキーがバイトしてるってこと)

結衣(もしかしたらそのバイトも……全部ゆきのんのため…?)

結衣(そうだよね… 付き合ったら、遊びに行くお金とか記念日の贈り物とか、いろいろかかるだろうし)


結衣(それに、もしかするとヒッキーはゆきのんの相手に相応しくなろうとしてるのかも…… 社会勉強だもんね、働くのって)

結衣(働かない将来を考えてたヒッキーだけど、ゆきのんと付き合うってなって……考え方とかも変わったりしたのかな)




結衣(……なんでだろ…なんで教えてくれなかったんだろ)


結衣(………)


結衣(……もしかして…)


結衣(この前あたしが……『3人で同じ大学に行けたら』なんて………願ったから……?)



204 : 以下、名... - 2015/09/17 08:08:29.46 LzCQj68OO 131/353



結衣(………)


結衣(そっか……そうだよ……)


結衣(ばかなのは…あたしだ)



結衣(3人で一緒っていうのがうまくいくのは… ただみんなが試験に受かればいいってことじゃない)

結衣(3人の関係が壊れないのは、3人が3人のままでいるから……)

結衣(そこに2人だけの特別な関係がもし入ったら、どうやっても後の1人はそれまで通りにはいられない)

結衣(一緒にはいられるかもしれないけど… どうやったって何かが大きく変わっちゃう)


結衣(ヒッキーもゆきのんも、優しいから… 特にゆきのんはあたしの気持ち…知ってたから……だから……)



205 : 以下、名... - 2015/09/17 08:10:05.22 LzCQj68OO 132/353



結衣(でも……それはほんとに優しさ…なのかな)


結衣(秘密にしたら……あたしバカだし…全然気づかないまま過ごせるかもしれない)

結衣(けど、いつかはぜったい気づいちゃうんだよ…?)

結衣(優しさって言うなら……そのときのあたしの気持ちも……考えてよ)


結衣(………)




結衣(違う……!)


206 : 以下、名... - 2015/09/17 08:11:18.76 LzCQj68OO 133/353



結衣(きっと、ヒッキーだってゆきのんだって…迷ってたんだ……)

結衣(2人が付き合ってるってこと……打ち明けてしまおうか、すごい悩んでたんだ…)


結衣(それなのにあたしが……あたしが…あんなこと言ったから……)

結衣(3人でいたいって気持ちに…2人が気づいてくれたから……)


結衣(それなのに…そんなこと思ってる…あたしなのに)


結衣(ヒッキーを好きだって…… ヒッキーと付き合いたいって……!)

結衣(……最低だ……あたし…すっごい自分勝手だ)


207 : 以下、名... - 2015/09/17 08:12:26.99 LzCQj68OO 134/353



結衣(そんなあたしが……2人のこと責めるだなんて……)



結衣(…………)





結衣(だけど……気づいたけど……)


結衣(…あたしがダメなのは……わかったけど……)



〜〜♪

〜〜♪


結衣(……メール…)

208 : 以下、名... - 2015/09/17 08:13:36.95 LzCQj68OO 135/353





『返事が遅れてごめんなさい。
21時頃と言ったけれど、実際に帰宅するのはもっと早いと思うから、帰る頃に教えるわ。
電話というのはきっと明日のことなのでしょう?
彼のことはともかく、貴女のことは本当に応援しているから。親友としてね。
では、また連絡します。』






結衣(ゆきのん………)


209 : 以下、名... - 2015/09/17 08:15:59.29 LzCQj68OO 136/353






『チッス。
明日の件、悪いな。また小町の企みかなんかか知らんけど、無理しなくていいから。下手すれば俺みたいなぼっちとあらぬ噂が立つかもしれねぇし。
とりあえず、集合は12時に駅前のカフェだっけか。
もうバイト休憩終わるから返せないけど、なんか変更あったら連絡くれ。そんじゃな。』






結衣(ヒッキー………)


210 : 以下、名... - 2015/09/17 08:17:16.35 LzCQj68OO 137/353



結衣(……………)




結衣(……………)








結衣「………ひどいよ…」











『ウソつき』






214 : 以下、名... - 2015/09/17 17:24:55.88 30sdiUgEO 138/353




結衣「………………」ズズッ



結衣(もう……帰ろっかな…)



結衣(ずっとここに座ってても意味ないし… ヒッキーとゆきのんもそのうち戻ってきちゃうだろうし…)



結衣(はぁ………)




トントン



結衣「…?」


215 : 以下、名... - 2015/09/17 17:25:53.93 30sdiUgEO 139/353



A「どーしたのー? こんなとこで寝てんの?」

B「うっわ、このコめっちゃカワイイじゃん!」


結衣「っ!?」



A「ねぇキミ、もしかして1人?」

B「俺らと遊ぼーよ! お祭り、何でも買ったげるよー?」


結衣「ひっ… いえ、あ、あの…」


結衣(ナンパ…!? しかも2人… 大学生かな… なんか怖い…!)



A「うわ、しかも……ロリ巨乳じゃん! めっちゃタイプなんですけどー(・・)!」

B「バカ、声でけぇよ。引かれんだろ」

A「わりーわりー! でもマジでやべぇよ、アガるわこのコ! お持ち帰りしてぇー!」


結衣「!!」ビクッ



216 : 以下、名... - 2015/09/17 17:26:59.80 30sdiUgEO 140/353



結衣「えっと、だ、大丈夫です! そーゆーのは…」


A「大丈夫〜? いま、大丈夫って言ったべ?」


結衣「へっ? 」


A「大丈夫、っちゅーことは、オッケー! ってことしょ?」

B「ヒュー♪ さっすがイマドキの女子高生はノリいいねぇ〜」


結衣「っ!?」

結衣「ち、違くて! 大丈夫っていうのは、ほんと、大丈夫ですってことで…」


A「はーん? 何が違うの? 大丈夫っつったらノープロブレムしょ? つまりはオッケーしょ? ニホンゴむずかしーよね、キミ国語苦手なん?」


結衣「あぅ……」



217 : 以下、名... - 2015/09/17 17:29:10.27 30sdiUgEO 141/353



結衣(うそでしょ… 大丈夫って言ったらフツー断ってるって思わない!?)

結衣(ちゃんと断らなきゃ。 でも『嫌です』なんてはっきりとは… てか、逆に喜びそうな気も…)


A「どうしたの? 黙っちゃってー。大丈夫! 怖くないよ! …あ、使っちった。ダ イ ジョ ウ ブ !」

B「もうさ、いいじゃん。楽しく遊ぼうってだけだぜ?」


結衣「だ、だからその…!」


A「ほーら、行くよん!」


ガシッ


結衣「わっ…!」



結衣「や、やめてくださいっ!!」ブンッ


バシッ!


結衣(痛っ! 今なんかに当たって…)



A「………………」



結衣「………あ」



219 : 以下、名... - 2015/09/17 17:30:25.38 30sdiUgEO 142/353



A「……ってぇーなぁー」


結衣「!!」

結衣「あ、の… す、すいません! 叩くつもりじゃ……」


A「っべーーわ。鼻キタわ、鼻。くっそいてぇ」

B「あーあ。暴力はダメだよ? 暴力は。学校で習わなかったかな?」


結衣「す、すいませんでしたっ!」

結衣「でもほんとに、わざとじゃなくて…」


A「あ"あ"!!!?」


結衣「きゃあっ!!」


220 : 以下、名... - 2015/09/17 17:32:24.13 30sdiUgEO 143/353



A「暴力にかわりねぇだろーがよ。あ?」


結衣「あ……あ………」ガタガタ


B「おいやめろって、泣きそうじゃねーか」

A「っせぇな。もうキレたわ。コイツ持ち帰ってヤんねぇと無理だわ、収まんねぇわ」

B「あー… そうなっちゃいます?」


結衣「……!……!」パクパク

結衣(だ、だめだ……怖くて声…出ない……)ポロ ポロ


B「ほらー! 泣いちゃったじゃんよ!」

A「知るか。泣けるだけマシだろうよ、今のうちに泣かせとけや」


結衣(で、でも周りの…人……けっこう見てるし…… 誰か助けに……)


B「……まあとにかくさ、早いとこ『家に帰して』あげよーぜ」


結衣(……えっ?)


B「なー? 『足にケガした』んだもんなー? 俺たちが『家まで送って』ってあげるからなー?」ニヤ


結衣(ちょ、なにこの人いきなり…… あたし手は痛いけど足なんか…)


結衣(……!)ハッ


結衣(そ、そんなっ!? 周りの人……さっきまで見てた人も……素通りして……!?)


221 : 以下、名... - 2015/09/17 17:33:23.94 30sdiUgEO 144/353



B「……」


B「わかる? 結局人間なんてそんなモンなんだわ」


結衣(えっ…)


B「去ってった奴ら、見たろ? アイツらは俺の嘘に騙されたと思う? ……いやいや、違うね」

結衣「…?」

結衣(ど、どーゆーこと…?)


B「アイツらは、俺の『嘘』っつー『理由』にすがって、逃げたにすぎないのよ」

222 : 以下、名... - 2015/09/17 17:34:48.58 30sdiUgEO 145/353



B「どうみても、さっきのAがやってたのは恐喝。んなもん通りすがりの奴にだって分かる」

B「だが、周りの奴らは誰も止めなかった」

B「キミ、そいつらがどんな心境だと思う? 『絡まれてる女の子を助けたい!』だと思う?」


結衣(………)


B「違うね。ぶっちゃけた話、過ぎ去る奴らは『関わりたくない』、立ち止まった奴らは『見つけてしまった』って思ってるのがフツーなんだわ」


結衣(…!? うそ、そんなこと…)


A「オメェあれだわ、心理学専攻感出しまくるのうぜーから早くしろよ」

B「いやこれ心理学ほぼ関係ねぇし。まあ待てって」

223 : 以下、名... - 2015/09/17 17:39:07.51 30sdiUgEO 146/353



B「そいつらはキミを助ける気なんてサラサラねぇ。助けることに憧れ、助けたいと思ったところで、『巻き込まれたくない』っつー保身ちゃんで上書きされちゃうモンなんよね」

B「だから俺はキミが足をケガしてる、俺らがキミを送ってあげる、なんて嘘をついたワケ。さて…どーなったでしょう?」


結衣(っ…… そんな嘘、騙されるわけない… でも実際、周りにいた人はみんないなくなっちゃったし…)


B「答えね。奴らはそれを聞いてこう考えた」

B「『なんだ、それなら連れて行こうとしているのも無理はない。だから自分は犯行現場なんて見ていない。放っておこう』ってね」


結衣(…!!)


B「つまり俺はまんまと嘘で奴らを騙したわけじゃあない。早い話、奴らが自ら望んで俺の嘘に騙された、っつーこと」

B「最初に言ったけどまあ、結局は俺の『嘘』を『理由』にして、関わりたくないこの場から『逃げた』ってこった」


結衣(相手の嘘を…理由に……)

結衣(そん…な……)


224 : 以下、名... - 2015/09/17 17:42:46.52 30sdiUgEO 147/353



A「もーーいいーー? もーいいしょ? 早くこの女ぶちヤりてぇんだけどぉお?」


結衣「っ!!」ビクッ


B「お前さー、どんだけ根にもってるん? まあ一旦昂ぶったら収まんないってくらい知ってるけどさ」


B「とりあえずクルマ出すから。あっち連れてこーぜ、ここはそろそろ危なくなる」

A「はい待ってましたー。行くわー、ワタシすぐ行くわ」

A「オラ立てよ!!」

グイッ

結衣「あぅっ…!」


B「胸ぐら掴むとかないわー、もうちょいレディを丁重に扱えや」

A「うんそれ無理。つーかさ、まじで鼻っていてーんだわ? わかる? ベンケーよベンケー」

B「弁慶の泣きどころは鼻骨じゃねぇよ」


225 : 以下、名... - 2015/09/17 17:45:11.30 30sdiUgEO 148/353



結衣(……さっきの言葉が頭から離れない)


結衣(今回のことだって… あたしが悪いんだって、せっかく気づいたはずなのに)


A「あー鼻血出そうだったわー。つーかこの桃見てても鼻血出そうだわーあひゃひゃひゃー!」

B「いいから早く連れてけよ」


結衣(なのに、最後になって…… 自分の辛い気持ちに…なんとか理由を付けたくて……)


グニッ

結衣「んがっ…!」


A「ほら、鼻。わかるしょ? これ殴られたら痛いしょ?」

B「おい…」

A「で? 僕チンになにか言うことは? まさかさっきので済ませたクチってか?」


結衣「…す、すいばぜん…でした…」


A「えーっ!? なにー!? きーこーえーなーーーい!」


結衣「すいば…せん……! すいばぜん……でした…!」



結衣(自分の痛みから逃げようとした……)

結衣(2人の嘘を……理由にして……!)

226 : 以下、名... - 2015/09/17 17:47:29.96 30sdiUgEO 149/353



A「あのさー、すいません? それ謝ってるー?」


結衣「ぅえ……?」


A「すいません、ねぇ。すいませんすいません。って、何を吸わない系? タバコー? そりゃダメしょ、高校生が吸っちゃあ」

A「さっきもそーだったけど? きみニホンゴ下手だべ? アーユーニッポンジン? そんなんで ダ イ ジョ ウ ブ ?」


結衣(そ、そっか… すいませんって… 間違ってるんだ)

結衣(ヒッキーとかゆきのんみたいに普段からちゃんとした言葉遣いしてないから… こんなときまで……)


A「おじょーちゃんが吸ってイイのはー、これしょ?」カチャ

B「っ…おい馬鹿やめ…」


ボロン


結衣(…!!?)


227 : 以下、名... - 2015/09/17 17:51:23.36 30sdiUgEO 150/353



B「くそ… んで家まで待てねーんかな」


結衣「あ……ぅ……」

結衣(こ、これっ…て…)クラッ



結衣(ごめん…ヒッキー。ごめん…ゆきのん)


結衣(何がごめんなのかも…もうよくわかんないけど…… あたしもう…ダメっぽい…)


結衣(今日……いろいろ失っちゃうかも)



A「んー? 見慣れてるんじゃないのかなーん? こんなイーカラダ、学校の男がほっとくわけないしょ?」


228 : 以下、名... - 2015/09/17 17:57:33.14 30sdiUgEO 151/353



A「お前100パービッチしょ? 顔も体も全部ビッチだもんなー」


結衣(ビッチじゃないし…って、いつも言ってたけど…… ヒッキー、ほんとにあたし…経験なかったんだよ?)


A「あ、もしかしてアレ? サイズにビビっちゃったべ? やーよく言われんのよ、おっきい!って!」


結衣(でもそれも…なくなっちゃうや……)


結衣(イヤだなぁ……初めてはヒッキーに…貰ってほしかったなぁ……)


B「おい! 先に車のれよ、ここはあぶねーっつったろ」

A「はー? だいじょーぶしょ別に。ちっとだけ! ちっとだけだから!」

B「かー、これだからお前は…」



229 : 以下、名... - 2015/09/17 17:59:36.14 30sdiUgEO 152/353



ドサッ


A「オラこっち向けよ」


結衣「……」


結衣(ごめんね2人とも…… ウソつき、なんて言って…)


A「はーい、お口あーんしましょうねぇー? 痛くないからねぇー?」クイッ


結衣「ぁがっ……」


結衣(………)



結衣(ばいばい………あたし………)











「待ちなさい」



230 : 以下、名... - 2015/09/17 18:05:09.68 30sdiUgEO 153/353



B「……!」

A 「……んー?」



結衣(……えっ…?)



「白昼堂々、何をしているかと思えば…」



A「んだテメェ」

B「チッ…」


結衣(この…声は…)



「そういう生殖行為紛いの野蛮な行動を往来で成し得るなんて、一体何処のジャングルから迷い込んだ呆けザルなのかしら」



A「……あ?」


結衣(この…毒舌は………!)







雪乃「あら、ごきげんよう由比ヶ浜さん。鳩が豆鉄砲ごと飲み込んだような顔をしているけれど、ちゃんと吐き出す手段は持ち合わせているのよね?」







結衣「…………ゆきのん…っ!!」


237 : 以下、名... - 2015/09/17 23:01:56.62 f7R7GAY5O 154/353



結衣「ど、どうして… なんで…?」


雪乃「どうして、はこちらが聞きたいのだけれど」


A「え? なに? むっちゃめんこいコ第二弾?」

B「あーあ…知り合いいんのかよ」


雪乃「……今はそれを尋ねている場合ではなさそうだから、後で聞かせてもらうわ」



雪乃「さて、そこの髪型が残念なキャピタルAのようなお猿さん?」

A「はぁー? 誰が残念な髪型だコラ」

雪乃「あら、よかった。サルという自覚はあるようね」

A「……テメェ」


238 : 以下、名... - 2015/09/17 23:05:52.22 f7R7GAY5O 155/353



雪乃「まずはそのだらしなく垂れ下がっている汚物をしまって、汚らわしい手を離しなさい。清廉潔白な私の友人にゴミ溜めの臭いが付着してしまう前に」

A「……なんっつー口の悪い女。先にテメェのクチにぶち込んじゃおーかな?」

結衣「っ! だ、ダメ! それは絶対ダメー!!」


雪乃「別に、構わないわ」

結衣「ゆ、ゆきのん!?」

A「うほっ、それでコイツが解放されるならーってやつ? 」

A「アッツいねー! クールに見せかけて実はガッツ? いいよいいよ、そーゆーのもタイプよ?」


雪乃「ただ、私は口に入れたものはよく噛むよう教育されてきたのよね。よって反射的に噛みちぎってしまう可能性がなきにしもあらずなのだけれど」

結衣「ひぃっ!」

A「このアマ……」

B(恐ろしいこと言いやがんぜ)

239 : 以下、名... - 2015/09/17 23:07:23.01 f7R7GAY5O 156/353



A「……まーいいわ、ずっと出しとくのもさみぃしな」ハキハキ

B(やっとしまったか)


A「んで? どぉーしちゃうわけ? そこのマナイタのおじょーちゃんは、このモモのおじょーちゃんを助けたげるぅーみたいな?」

雪乃「……」ピキ

結衣「も、桃? まな板…?」

A「あ、ちなみに俺はだんぜんモモ派だからー! あっちゃー! ごめんねー、マナイタちゃんもかわいいけど、なんつーか食後でいーわ! マジごめん!」

雪乃「そう。よかったわ、彼女には悪いけれど、イチモツだけでなく存在そのものが汚物同然の人に近寄るのは華の女子高生からすれば絶対的に拒否したいもの」

A「……」

雪乃「あ、ごめんなさいヒトではなかったわね。もう面倒だから…そうね、汚物さんで良いかしら?」


240 : 以下、名... - 2015/09/17 23:12:11.74 f7R7GAY5O 157/353



A「テメェ、礼儀ってモン知らねーべ? まずセンパイには敬語使えや」

雪乃「…? あの、今の短いフレーズの中に不可解な点が数多くあるのだけれど」

A「あ?」


雪乃「まずはアナタが礼儀という単語を知っていることに驚いたわ。言動や振る舞いどれを取っても礼儀作法の片鱗すら感じさせないものだから、てっきり礼儀というものの存在を認知していないのかと」


雪乃「次にセンパイ。先輩というのはある辞書で引くと『同じ学校や勤務先に先に入った人』とあるわ」

雪乃「アナタと私は面識がなく、学歴を明かした覚えもない。アナタが私の制服を見て判断することは可能でも、私がアナタから学歴を聞かされていない以上先輩というものを何かの引き合いに出すのは順序立った手法とは言えないわ」

雪乃「また広義には『年齢や地位などが上の人』のような意味もあるけれど、見た目で年齢が上だからといって先程同様にアナタの個人情報を知る由もないし、地位はそもそも比較対象が存在しないことから却下」


雪乃「最後に敬語だけれど、敬語というのは私の中では立場的に上の者に対して用いるもの、あるいは面識のない者・不特定多数を対象としたやり取りを円満に進行するために必要なものとして理解しているの」

雪乃「前項と同じく前者に関しては情報が得られないし、後者についてはアナタとのやり取りがまともに進行できるという考えはとうの昔に棄てているから全く不要というものだわ」

雪乃「そんなことはわざわざ説明するまでもなく、いくらアナタの脳みそが消費期限を20年ほど前に過ぎているからといってさすがに理解できていると思っていたのだけれど……過大評価だったのかもしれないわね」


雪乃「嗚呼困ったわ、このままでは会話はおろか碌にコミュニケーションも出来ない可能性があるもの。これが世に言う『コミュ障』という類の人間なのかしら」


雪乃「あら、私としたことが。ごめんなさい人間と間違えてしまったわ、コミュ障汚物さん」


A「………」


241 : 以下、名... - 2015/09/17 23:19:11.98 f7R7GAY5O 158/353



結衣(ゆきのんやばすぎ…)

B(この女、すげぇないろんな意味で)


A「クソが……ベラベラほざきやがって。喋りゃあ国語ができるってモンじゃねえんだよ、あ? 俺は文学部だぞ」

雪乃「…? 本当に理解に苦しむ発言しかしてくれないのね。アナタはいつどこで誰と何の国語の点数を競っているつもりなのかしら」

雪乃「それと文学部だから何? 『俺は東大生だぞ』と言って地下鉄で暴力事件を引き起こした青年と同じ心境であるのなら、実におめでたい頭であるというのが趣がある寸評と言えそうなものだけれど」

A「………」


A「もーいいわ、飽きたわ、お前」


グイッ


結衣「やっ…!」


雪乃「…っ!」



242 : 以下、名... - 2015/09/17 23:20:21.83 f7R7GAY5O 159/353



A「おいマナイタ女。お前とっとと消えろ。じゃねーとコイツの首締めてぶっ殺す」

結衣「あ…が……!」

雪乃「…!!」


B「おい! いくらなんでも血ィのぼりすぎだ!」

A「っせぇ!!!」ガッ

B「っつ!」


雪乃「くっ…」

結衣「ぅ……ゆき…のん……あたし…は…いい…から……」

A「かー、泣けるねー? 自分をギセイにしてってやつですか! モモの女の子は心も大きいねぇー!」

雪乃「卑怯な真似を…」

A「一方そのころ、マナイタのキミは? 自分が代わりにーとかやんねーわけ? 身も心もちっさいってのは可哀想だねー?」

雪乃「……」


243 : 以下、名... - 2015/09/17 23:21:49.03 f7R7GAY5O 160/353



雪乃「その言葉、そのまま返していいかしら?」

A「だと?」

雪乃「そういった姑息な手段に走る小物臭、それと先ほどまで露出していたアナタの残念な汚物も鑑みるに… 身も心も矮小なのはアナタだと思うのだけれど」

A「は……?」


スルッ


結衣「っ…! げほっ…… はぁ…はぁ…」



A「な、なーに言ってくれちゃったんかなマナイタちゃん? 俺の砲身見なかったわけ? え? 小さい? どゆことー?」

雪乃「実に不愉快だったけれど見てしまった上で言っているの。なんならもう一度確かめたほうが良いかしら?」

A「はー? いやいや、まじ意味わかんね」

雪乃「まあ、自信が無いなら別に結構よ。こちらとしても催吐リスクの高い滑稽な形状の汚物のために視細胞や神経を無駄に機能させるのは避けたいもの」


A「……誰が自信ねーって? ざけんなまじで」


244 : 以下、名... - 2015/09/17 23:23:53.13 f7R7GAY5O 161/353



A「おーけーオーケー…… じゃあもっかい目に焼き付けてみろや」スル


雪乃「…!」




ボロンッ


A「……オラ、どうよ? これでも小さいって? なんならテメェんナカぶっ込んで確かめたっていーんだ…」


雪乃「ふっ!」ピュッ


グサッ


A「ぜ………」



A「アーーーーーーッ!!?」



雪乃「今よ、由比ヶ浜さん! こっちへ!」



245 : 以下、名... - 2015/09/17 23:25:29.24 f7R7GAY5O 162/353



B「……!」


結衣「あ、うん!」タッ!


A「っ!! 逃がすか…」


ピュッ!

グサッ


A「アーーーーーーッ!?!?!?」


雪乃「させないわ」


B(あ、あの女、髪留めを飛ばしてんのか!? 人間業じゃねぇ……!!)




雪乃「由比ヶ浜さん!」

結衣「ぅゆきのーーん!!」



246 : 以下、名... - 2015/09/17 23:26:36.25 f7R7GAY5O 163/353



ダキッ


結衣「うあぁぁぁぁああん、ゆきのん! ゆきのーん!!」

雪乃「よしよし。怖かったでしょう」

結衣「うんっ…ごわがっだぁああああ……もうダメだと思っだぁぁ……」

雪乃「ええ……でも、まだよ」


A「……」ユラッ

B「……」


雪乃「このまま走って逃げても、相手は男性。追いつかれて連れて行かれるのが関の山ね」

雪乃(なにより、私の体力が持たないのだけれど…)

結衣「そ、そんな……」


247 : 以下、名... - 2015/09/17 23:28:19.82 f7R7GAY5O 164/353



A「わーかってんじゃん? 利口リコー、実にオリコー。まさかただで帰れるなんて思ってねーやな?」


雪乃「そうね。そちらには車という足があるし、人気のある祭り会場まで逃げようにも階段を登らないといけない」

結衣「ど、どーするの、ゆきのん!」

雪乃「現状、私たち2人の力だけではどうすることもできないわ」

結衣「うそ…」


A「ピンポーン! テメェらはもう逃げられませーん」

A「勇気リンリン勇み足でしゃしゃり出てきたわりにゃー諦め早ぇのな? 物分かりがよすぎるっつーのも気の毒なもんだわ」

A「まー痛い目見る前にこっちこいや。クルマまでは無傷で連れてったげなくもない的な? クルマまでは、だけどな! はっはー!」



248 : 以下、名... - 2015/09/17 23:33:21.26 f7R7GAY5O 165/353



結衣「ゆ、ゆきのん…ごめん。元々はあたしのせいなんだし…やっぱりあたしが…」

雪乃「馬鹿なこと言わないで。大丈夫、心配は無用よ」

結衣「…へっ?」


A「ほらほらどーしたの? 早くこいやこっち」


雪乃「………」

結衣「ゆきのん…?」



雪乃「いくつか、アナタに教えてあげなくてはならないことがあるわね」


A「…ああ?」


249 : 以下、名... - 2015/09/17 23:34:30.98 f7R7GAY5O 166/353



雪乃「ひとつ。今しがたアナタが使った『勇み足』だけれど、典型的な誤用ね。ただでさえ耳障りな話し方なのだからせめて用語は適切に用いて貰えないかしら」

A「……んだと?」


雪乃「正直指摘することすら恥ずかしくて憚られるのだけれど、アナタが日本語云々とぬかしていたものだからつい」

雪乃「文学以前に言語学習からやり直すことを推奨するわ。あ……それともひょっとして渾身のボケだったの? それなら拾ってあげられなくてごめんなさい」


A「…………」



250 : 以下、名... - 2015/09/17 23:37:09.99 f7R7GAY5O 167/353



雪乃「次にひとつ。私たちは逃げることもできないけれど、アナタの要求に従うこともないわ」

A「あ? なんだそりゃ」

結衣「ゆきのん、どゆこと…?」


雪乃「どちらに進んでも地獄行きの分かれ道があって、後ろからは時間という名の壁が押し寄せている」

雪乃「その状況でどちらか一方の道の選択に精を出すほど、私は愚かではないわ。だってどちらもイヤだもの」

A「は? おめーそれ、今の状況を言ってるつもり? 馬鹿?」

A「イヤだからって変わんねーから。こっちに来るか、向こうに逃げて捕まるかのどっちかだっつったしょ」

雪乃「少しは考えたらどう? 簡単なことじゃない。どちらの道もダメなら、別の道を探ればいいのよ」

A「はー? 何言っちゃってんの? この状況で?」


結衣「べ、別の道って?」

A「いやいや… んなモンねーから?」


雪乃「果たして、そうかしら」



雪乃「私たちがこの場から逃げられないのなら、アナタ達が立ち去れば済む話でしょう?」


251 : 以下、名... - 2015/09/17 23:38:13.24 f7R7GAY5O 168/353



B「…!」

A「………ファッ?」


A「ひゃははははははは!! ひははははははっ!! ハァーー? やべーー! ハァーーー??」

A「バカだわ! お前ガチモンだわ! 神聖おバカちゃんだわ!!」

結衣「ゆ、ゆきのん、そんなの無理だよ…絶対ないよ…!」

A「っべー! まじっべェーー!! 天才ぶっときながらなんだそら? おめーらじゃなくて俺らが帰る? パンが無いならってか?」

雪乃「今は6月だというのに… 時期を弁えない五月蝿いハエね」


雪乃「営業職は知っているでしょう? 身近なものでは訪問型のセールスかしら」

雪乃「彼らの相手はその商品を必要としている場合も勿論あるけれど、訪問の時点では不要と判断する場合や全く興味が無いことも多くある」

雪乃「そんな相手の思考を売り手の思惑通りに変えてしまうことこそが彼らの使命であり、そのためには有効な手段がいくつかあるのよ」


252 : 以下、名... - 2015/09/17 23:39:32.77 f7R7GAY5O 169/353



雪乃「目標は、相手に『そうするほうが良い』あるいは『そうしなければならない』と思わせること。でも相手は自らの状況を自らで判断し、『そうしなくて良い』と思っている」

雪乃「この状況を覆すべく利用するのは、一体何だと思う?」

A「は? 知るかんなの。つーか何、また長ぇハナシ? そろそろ問答無用でいーかな?」


雪乃「そうね、生物学的に知能の低いハエに質問しても時間と労力の無駄だったわ」

A「………」

雪乃「答えはこう、『相手の曝されている環境が危険であると示す』ことよ。この意味が分かるかしら? ……あら、私としたことが再びハエに質問してしまったわ」


A「いや……ねーわ。マジねぇーわコイツ」



253 : 以下、名... - 2015/09/17 23:40:54.31 f7R7GAY5O 170/353



A「ベラベラくっちゃべってっけどな、営業? 話術でなんとかってー魂胆だわ?」

A「いやいやムリムリ、もーいいもん。クソムカつくけどどーでもいいわ。だってこの後テメェで遊びまくるし?」


ザッ


結衣「…っ!」ビクッ


A「やれるモンならまじどーぞよ? おめーに何できんの? 喋んなきゃただのジェーケーしょ? オラとっとと俺らを立ち去らせてみろよ?」


結衣「ゆきのん! やばいよ逃げようよ、近づいてくるよ…!」

雪乃「………」



254 : 以下、名... - 2015/09/17 23:42:04.42 f7R7GAY5O 171/353



A「さっきテメェが自分で言ったとーりよ? テメェらじゃどーにもできねぇ、なぜなら力じゃ勝てねーからだ」


A「あー、最初からこーすりゃよかったわ。っべーーわ、時間クソロスったわ。暴力に対しちゃどーしよーもねぇもんな? だから必死に喋ってたんよな? アア?」


結衣「ゆきのんっ!!」


雪乃「…驚いた、私の言葉を少しでも覚えていられる知能があったのね」

結衣「ちょっ、こんなときに何言ってんの!? ゆきのんってば!」


A「ハッ! ここにきてまだ減らず口叩けるっちゃあ、もはや尊敬モンだべ? その折れねぇ精神とよーく回るクチだけは認めてやんよ」

255 : 以下、名... - 2015/09/17 23:43:46.61 f7R7GAY5O 172/353



A「で、遺言はそれでオッケーな。もーノンストップだからヨロシク」ザッ ザッ


雪乃「でも残念ね。言語を扱うのも、物事を記憶するのも、何事も正確に行うことが肝要なのよ」



結衣「ゆきのん、来るっ!!」

雪乃「………」


雪乃「最後にひとつ。『私たち2人の力だけでは』と私が言ったのを、アナタは聞き流してしまった」


B(…!!)


A「はいはい、あーあー聞こえなーい。そーれーじゃーあー…」

B( ……まさか!)

256 : 以下、名... - 2015/09/17 23:45:39.55 f7R7GAY5O 173/353



A「何しよーが今更おせぇんだよ!!」ダッ!


ガサッ!


B「っ!!」

B「おい!! 横っ…!」



A「オラ、つかまえ…」

結衣「ひっ!!」



ガッ



A「っ……あっ…!!?」グラッ



ズデーーン!!



結衣「…………っ」


雪乃「……」


結衣「………う?」

258 : 以下、名... - 2015/09/17 23:50:15.16 f7R7GAY5O 174/353




A「…っでぇええええええええ!!!!? ハナ…ハナぁあああああ!!!」

B(盛大にこけたなオイ…)




結衣「えっ……? あっ……!」

雪乃「…おみごと」





八幡「『土遁・心中斬首の術…の最初らへんの術』」






結衣「ヒッキー!!?」


雪乃「予想以上の良い働きだけれど、その技名は必要…?」


八幡「い、いいだろ別に! っつーか距離取るんだろ早くしろ! 俺が殺される」


261 : 以下、名... - 2015/09/18 00:18:39.12 990oQ8xmO 175/353




B「チッ…」ザッ


八幡「おっと動くな。っつーか動かないでくださいお願いします」


B「あん?」


八幡「これが見えないか?」スッ


B「……スマホがどうかしたか?」


八幡「いや、そうだけどほら、この中心とか。なんつーの、三角マーク?」


B「あんま目ぇよくねーかんな。見えねぇ」


八幡「そう…」


B「なんかすまん」


八幡「………」


262 : 以下、名... - 2015/09/18 00:20:15.50 990oQ8xmO 176/353



八幡「…おほん。あー、これはムービーだ」

B「ムービー?」

八幡「無論、さっきまでの一部始終を収めた、な」

B「…!?」


八幡「最近の携帯は画質が良い。方式はともかく、画質だけなら一昔前のビデオカメラなんて目じゃない程に鮮明に記録できる」

八幡「おまけに夏至に近い今日だ、この時間帯ですら街灯のひとつもついちゃいない。顔から何まで明瞭に記録できる」


B「全然気配なかったんだけど… いつからだ」


八幡「気配を消すのは慣れてるもんで。具体的には…」


八幡「『ボロン!』からだな……あいにく」


B「………」


B「まさに顔からナニまで明瞭に記録したわけな」

八幡「…座布団一枚」


263 : 以下、名... - 2015/09/18 00:22:06.50 990oQ8xmO 177/353



A「あーー死ぬ。血出るスンゼンだわこれ、つーか出てるわ中で」


八幡「!」


A「カンケーねーしょ? まとめて捕まえてぶっ壊せばいいわな」

B「いや、待て…」


八幡「察しのいい兄さんのほうはお気づきか? 最近の携帯のすごい所は、そのデータ通信の量と速度だ」

八幡「いま、このムービーはとある緑のアプリで既に送信待機中だ。送り先はウチの部活の顧問…… ここまで言えば分かるよな?」


B「一歩でも近づけば、ってとこか?」


八幡「まあそういうこった。あんたは話が分かって実に助かる」



結衣「ひ、ヒッキーすごっ……!」

雪乃「ぼっちスキルがこんな所で役に立ったわね」


八幡「お誉めに預か…ってねぇよ全然」


264 : 以下、名... - 2015/09/18 00:23:19.17 990oQ8xmO 178/353



八幡「で、だ。これは今回の顛末、すなわちあんたらの犯罪行為の証拠たりうる代物だろう」

B「…いよいよやべぇか」

B(……いや)


結衣「や、やった! 大逆転だよ、ゆきのん!」

雪乃「………」


八幡「これを送信されたくなかったら、速やかにここから…」





A「だぁーーーーかぁーーーーらぁーーーー!!!?」





結衣「ひゃっ…!?」


八幡「っ……」



265 : 以下、名... - 2015/09/18 00:26:18.49 990oQ8xmO 179/353



A「カーンケェーーネェーーて言った? 言ったべ? 言ったんだわ俺!!」


A「いいぜ? 送ってみろよオイ? そのショーコとやら! 今すぐ送ってみろよ?」


雪乃「…!」

結衣「えぇ!? な、何言ってんの、あの人」


八幡「気づきやがったか……」

結衣「えっ? えっ?」

266 : 以下、名... - 2015/09/18 00:31:41.89 990oQ8xmO 180/353



A「確かに? ヤベェーよヤベェなぁ? それ送られちまったら俺らオワリだわ」


A「じゃーさ、それ送ってみ? その瞬間、お前らも死亡確定すんじゃねーのっつー話ね」


結衣「……あっ……」


A「ハッハ! 桃のじょーちゃんのほうも気づいたしょ? 未だてめぇらが勝ったわけじゃねーんだわ」

A「そのムービーとやらはすげぇ武器よ。だがしかーし送っちまえばそれまで、もうてめぇらを守る力なんざ微塵も持たねぇーんさ」



八幡「………」


雪乃「比企谷君、気をつけて… これは綱渡り。一瞬でも判断を誤れば命取りになる」

八幡「わーってる」


267 : 以下、名... - 2015/09/18 00:35:35.11 990oQ8xmO 181/353



A「困ったなぁーオイ? こちとら爆弾のスイッチ握られて動けねぇ、だがそっちも使い捨ての爆弾しか持ってねぇ、一体いつ動くんすかねー? このセンキョー」


結衣「そ、それなら…このまま待ってればいつか助けが……」

雪乃「いえ、そう甘くはないわ」

結衣「えっ?」


A「ハーーッ! やっぱ切れんねーマナイタのじょーちゃん?」

A「たりめーしょ、時間が経てばこっちが不利なのは分かってんよ。それ分かっててじっと黙ってるってんならそりゃただの馬鹿だわさ」


A「だから今からそこの目が死んだシーマンみてーな男、おめーに要求する。そのケータイそのままよこせ。したら見逃してやる。ってな」


八幡「……」


雪乃「……ふっ」

八幡「おい笑うな空気読めよ」

雪乃「ご、ごめんなさい… だって………っ…!」プルプル

八幡「………」


268 : 以下、名... - 2015/09/18 00:37:21.83 990oQ8xmO 182/353



結衣「う、ウソだ…… ダメだよヒッキー! 渡したらそいつ絶対…!」

八幡「分かってる! 静かにしてろ」

結衣「あぅ…」



八幡「そう来るよな… んで、俺らがそんな要求に応じるわけがないのも承知の上なんだろ?」


A「まーーね? ダメもとよ、ダメもと! それでダメならー………しゃーねーわ。どのみちアウトになるってんなら、しゃーねーわ」


A「しゃーねーから…」




A「もっとダメもとで突っ込むしかねーやな」




雪乃「……!!」


八幡「……ちっ」



269 : 以下、名... - 2015/09/18 00:42:32.95 990oQ8xmO 183/353



雪乃(限界……!)

雪乃「比企谷君! 逃げて!」


八幡「ちっ」


A「ヒャッハァアアアーー!!!」ダッ!!



八幡(完全に追い詰められた時、玉砕覚悟で突撃ってのはよくあるパターンだ)

八幡(なるべくそうならないよう拮抗状態を保ちたかったが……こうなったが最後、現状でこれ以上は無理だろうな)


八幡「やむを得ねぇか……!」スッ


雪乃「比企谷君!! 何してるの、まさか戦うつもり!?」

結衣「ダメ!! 逃げてっ、ヒッキーー!!」


A「おほっ!? いぃーーねぇー!? ヤるってかぁああ!?」





八幡「…あほか」グッ


八幡「俺にそんな力は……ない!!」ブンッ!!



ガシャーン!!




A「みゃっ!!?」



270 : 以下、名... - 2015/09/18 00:43:44.73 990oQ8xmO 184/353



雪乃「……!?」

結衣「えっ…!?」

B「……!」



八幡「ふっ、はっ!」バキッ メキッ



A「お、オイオイ? どーしたお前オイ…」


八幡「…あーー、しんどいなこれ。疲れた」



A「ハ、ハハッ……やっちまったな、やっちまったなぁお前!」


A「自分のケータイ自分でぶっ壊してるやつ初めて見たわ!! ヤベェェエ!!」


結衣「ひ、ヒッキー…?」

雪乃「………」



271 : 以下、名... - 2015/09/18 00:48:55.24 990oQ8xmO 185/353



八幡「……6分半だ」


A「あ?」


八幡「知ってるか? 千葉県でとある場所に電話をかけ、そこからの人物が現場に現れるまでの平均所用時間は6分半なんだわ」

八幡「頑張っちゃいるが、この6分半ってのが結構長い。コンビニで弁当温めてもらったことはあるか?」

A「…は?」

八幡「あれ、たかだか1分待つだけで、店員と無言で対面する気まずい空間に永久に閉じ込められた気分になるだろ?」


A「……いや、なんねぇわ」


八幡「え、まじで…?」



結衣「そんなのヒッキーだけじゃ…」

雪乃「わかるわ」

結衣「えっ」

272 : 以下、名... - 2015/09/18 00:53:09.28 990oQ8xmO 186/353



八幡「…ともかくだ、俺はその場所に連絡した後、茂みに身を潜めてムービーを撮っていた」


八幡「そして現在、その6分半は既に経過している。平均より遅いが、まあここは少しはずれの神社の麓だからな」


B「お前、まさか……!!」


八幡「分かるか? 要は今までのやりとりは全て時間稼ぎだ。その人物がやって来るまでのな」




〜♪




〜〜♪




〜〜〜♪



273 : 以下、名... - 2015/09/18 00:55:25.50 990oQ8xmO 187/353



八幡「ナイスタイミングだ。聞こえてきただろ?」

A「……!!」

B「チッ…」



八幡「さて、どーしちゃいます?」


八幡「データが物理的に破壊された俺らには爆弾がない。けどそれは同時にあんた達が襲われる武器がなくなったことを意味する」


八幡「そして迫るは、法の下で奏でられる正義の旋律。そんな一刻を争う状況下で、俺らに構ってる暇があるだろうか? いや、ない」



八幡「分かるだろ。あんた達が今気にするべきは俺らじゃない。あんた達の相手は…………」





B「……ゲームオーバーだな」

A「……くそがぁああ!!」





八幡「国家権力だ」




続き
結衣「ヒッキーがまたあくびしてる…」【後編】

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