ウイモノガタリ
『初物語』
――第嘘話 ひたぎドッグ
※
化物語SS。18禁注意。恋物語ネタバレ過多。書きだめ完結済みです。
元スレ
【18禁】戦場ヶ原「私を抱いて欲しいのよ」貝木「は?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361024393/
001
戦場ヶ原ひたぎの語りで物語が幕を開けるものだと思ってスレッドを開いた読者諸君。お前達はひとり残らず騙された。
この件からお前たちが得るべき教訓は、「嘘を嘘と見抜けない人間には(掲示板を使うのは)難しい」という事だ。
もっともこれは、掲示板だけには限らんだろう。嘘を嘘と見抜けない人間にはそもそも生きていく事すら難しいと思うが。
見た物を簡単に信じるな。自分の本音など 口に出すな。他人の言葉は疑って聞け。見ざる言わざる聞かざるだ。
それが出来ない者こそが俺のような詐欺師に騙されることになる。
ここで言う俺とはつまりこの俺、貝木泥舟という事になるが、これから俺が語る物語も疑って聞く事をお勧めする。
俺の言う事など世の中で最も疑って良いと言えるほど、嘘にまみれているからだ。
例えるならば、そもそもがフィクションであるアニメーション作品の、そのまたさらに二次創作の作品くらいに信憑性が無い。
そんな物いくら本人が本物だと言いきった所で、何の真実にはなり得ないからな。それでも構わんと言うのなら、話を進めていこう。
これから俺が語るのは戦場ヶ原ひたぎという女と、 この俺、貝木泥舟の一夜の蜜月の物語だ。
早速「蜜月」などと うそぶいてはみたものの、まぁ、下種な言い方をしてしまえばただの猥談と言えるような物だ。
苦手な者は早々に立ち去った方が良いだろう。
また、そうなってくると当然意味合いとしては「NTR物」というジャンルになるらしい。
戦場ヶ原の相手は阿良々木でしかあり得ん、という考えの者も、即刻立ち去って欲しい。
更に付け加えて言うならば、今回の物語は時系列的に「恋物語」の後の話となっている。いわゆる「ネタばれ」という物が
多分に含まれていると考えても良い。そこも注意して頂きたい。
俺は詐欺師だが、仕事以外の所で他人に恨まれるのは出来る事なら避けたいと思っている。
無駄に恨みを買ってしまっては、いつどこでそれが詐欺の邪魔になるか解ったものでは無いからな。
だからこそ当然、時にはこうして正直に注意を促したりする事もある。
もっとも、このスレタイ自体が実は真っ赤な嘘で、
次のレスからは何事も無かったかのようにアイドルマスターのほのぼのSSが始まる可能性もあるわけだが。
……いや、さすがにそれは無いから安心しろ。
そもそも「エロい物」を期待してスレッドを開いたであろうにも関わらず、スレタイ通りの台本形式ですらない上に
中年の語り形式の地の分で始まるという、嫌がらせのようなスレッドだ。これではスレタイ詐欺と呼ばれた所で何の反論も出来ない。
詐欺は俺の得意分野だがな。
果たして最後まで読むような酔狂な者がどれほどいるかなど想像も出来んが。
それでは。
そんな敬虔なる読者諸君に向けて。戦場ヶ原ひたぎとこの俺、貝木泥舟の一夜限りの恋物語を語ってゆこう。
戦場ヶ原と俺の間で恋物語なんて色気ある物が成立するはずも無いのだが、そこは俺の生き様である詐欺を目いっぱい働かせて。
虚実入り乱れ、ある事無い事織り交ぜて、正々堂々正面切って大ボラ話を語らせて貰おう。
最後まで読んだ者が、戦場ヶ原の痴態を見て満足するか。阿良々木の奴に「ざまぁ見ろ」と浴びせかけスッキリするか。
そういった気持ちになって貰える事を俺は心から願おう。俺に心なんてものが存在すれば、であるが。
遊び半分、おふざけ半分の俺の話を、話半分聞いていってくれ。
――もっとも、この俺が貝木泥舟であるという事からして嘘かも知れないがな。
002
季節は秋を終え冬へと差し掛かっていた11月末。
戦場ヶ原ひたぎからの無茶苦茶な依頼を受けた懐かしいあの元旦から、もうすぐ1年が経とうとしていた、ある金曜日の事。
その日、俺は大阪にいた。
大阪にいた理由は、俺が長年大ファンをしているの阪神タイガースの試合を見に行くためである。
――というのはもちろん嘘なのだが。そもそもこの時期はオフシーズンだしな。勿論阪神タイガ ースのファンと言うのも嘘だ。
邪な生き方をしている俺のような人間が、あの縦縞の軍団をどうして好きになれるものか。
俺が阪神で好きな選手はマイク・グリーンウェルくらいだ。
実際には俺は大阪に仕事に来ていた。商人の町というだけあって疑り深い人間が多いこの町では詐欺が働きにくいのだが、
それでも金を使う時は大きく使う連中だ。一度詐欺が成功すれば非常に良い稼ぎになる。
年末に散財する癖のある俺はその前に荒稼ぎをしてやろうと言う算段だ。
もっとも、ここまでの話も実は全て嘘で、俺がいるのは大阪でも何でも無いかも知れないが。
時系列さえ嘘かも知れない。実際にはこれは俺が高校生の時の話で、この後俺の前に臥煙遠江が現れて
『おや貝木くんじゃないか、奇遇 だな。しかし相変わらず不吉な面構えをしているねアンタは』
なんて話し始めるかもしれない。さすがにそれは無いのだがな。
ともかく俺はどこかは知らんがとあるコーヒー店で、ホイップクリームとキャラメルシロップが山ほど浮かんだコーヒーを片手に
仕事の算段を進めていた。俺は甘い物が好きなのだ。
B4の大き目のノートを広げ、そこに今働いている詐欺の取引相手、関連会社、そこに関わっている人間を書いて相関図を作っていく。
詐欺を働くために接触した会社の社長の名前を書き、その横に似顔絵を描いてゆく。タヌキのような顔をしたタレ目のオヤジの顔だ。
ふむ。自分でもこれは上手く描けたと思う。アナログなやり方だが俺はこう やって仕事をするスタイルなのだ。
無論俺は機械が苦手という訳では無い。スマートフォンだって使いこなしているし、
パソコンだってタブレットだって仕事の際には使用する。
ただ、こうやって手を動かして、自由に文章も絵も書き込めるノートの方が使い勝手が良いから使用しているだけだ。
何でもかんでも電子化すれば良いという物では無い。
そういえば電子書籍という物は意外と普及しているようだが、あれこそ俺に言わせればナンセンスな物だ。
月並みな言い方だが、本というのはやはり1枚1枚のページが紙になって重なっていてこその物であると思う。
実用で言ってもページの厚さで自分がどこまで読んでいるかが 感覚的にわかったり、
推理小説を読む際に書き込みをしてみたり出来るしな。俺は最初の登場人物紹介に顔のイラストを描き込むのが好きだったりする。
まぁともかく。本を、文章を、物語をタブレットやパソコンなんぞで見る連中の思考など俺には一切理解できないという話だ。
――何だろうか。ふと、俺の話にツッコミを入れる人間が居ない事に何やら危機感のような物を覚えた気がする。どうでも良い事だが。
そんなどうでも良い事を考えながら仕事をしていた時に。俺は電話を受けた。
女子大生から電話を受けた。
『もしもし、貝木?』
それは随分と聞き覚えのある、相も変わらず刀で切りつけるような鋭い声だった。
003
『もしもし、貝木?私よ、私』
「戦場ヶ原か。何の用だ」
『そう、私、戦場ヶ原よ。実は今車で人を撥ねてしまって。示談金として100万円必要なのだけれど、大至急振り込んでくれる?』
この女、詐欺師相手には笑えない冗談をぬかしてきやがる。
笑えない冗談は嫌いではないが。
「……何の用だ戦場ヶ原。俺はお前と遊んでやれるほど暇ではない」
『あら、つれないのね。私と貴方の仲でしょう。冗談のひとつくらい乗って欲しい物だわ』
そんな風に非常に下らんやりとりから始まった電話ではあったが、俺は戦場ヶ原から電話がかかって来た事に驚きと危機感を覚えていた 。
こうやってこいつから電話がかかって来た事は、以前。今年の元旦にもあったが、その結果俺は非常に非情な酷い目にあったからだ。
第一この女がこの俺に頼って電話をしてくるような時には、それ程までに「ヤバい」状況に陥っているわけだし。
またぞろ巻き込まれるのは正直言って気が乗らん。
しかしそんな俺の動揺を悟られるのも癪なので、あくまでクールを装って応答する。
「前置きはいらん。用があるなら早く話して貰おうか」
『まったく、本当につれないわね。知り合いの女子大生から電話がかかってくるなんて、
貴方のような中年からしたら飛び上がって喜ぶような事でしょうに』
「切るぞ」
『ちょ…ちょっと待って。ごめんなさい、ふざけ過ぎたわね』
さんざん人をおちょくったかと思えば、あっさりと謝りやがった。どうやら用があるのは確かなようだ。
しかしこうやってふざける余裕があるという事は、前回と違ってそれほど危機的な状況にある訳では無いのだろうか。
いや、それならばわざわざ俺に電話をかけてくるはずも無い。まだ警戒心は捨てるべきではないだろう。
「それで、何の用だ戦場ヶ原」
『……私が貴方に連絡するといえば、仕事の依頼に決まっているでしょう』
やはりそうか。
戦場ヶ原からの依頼。
繰り返すようだが、俺は以前こいつからの依頼を受けて酷い目にあっている。
『神を騙せ』などという荒唐無稽な依頼を受けた俺は、さんざん時間をかけて手回しをした挙句、結局騙す事自体には失敗して
危うく神に殺されかけたのだ。あの仕事で俺が得をした事など、せいぜい綾取りが上手くなった事くらいだ。
まぁ、しかし。最終的には戦場ヶ原からの依頼は別の形で完遂する事が出来たのだがな。
無論、『騙すことには失敗した』などという話は戦場ヶ原は知らないのだから、奴の中では俺は『神さえ欺く詐欺師』という
最上の評価を得ている事になるのだろうが。過大評価も甚だしい事だ。
「それで、神さえ欺く詐欺師の俺に今度は誰を騙して欲しいんだ。国か?世界か?地獄の鬼か?
俺に騙せん奴などこの世に存在しないのだから何でも言ってみろ」
しまった。つい自称してしまった。
何を言っているのだ俺は。国も世界も地獄の鬼も騙せるはずが無いだろう。
これでは自信過剰どころか、どこぞの中学二年生が患う悪い病気にかかっているようだ。
今更ながら恥ずかしくなってくる。これだから俺は俺のこういう所が信用出来ない。
これでは戦場ヶ原の奴に電話越しに笑われても何も言えないではないか。奴は意外と笑い上戸なのだ。
――ところが戦場ヶ原は、俺のそんな戯言を気にするでもなく、何と言うかバツが悪そうに、歯切れ悪くこう言った。
『いえ、その、実は今回は貴方に詐欺を働いて欲しい訳では無いのよ』
「……何?」
詐欺ではな い?詐欺師に電話をかけて仕事の依頼と言っておきながら、依頼の内容は詐欺では無いだと?
何を言っているんだこの女は。ピザ屋に電話をかけて「ピザが食べたい訳では無い」とでも言うような物だぞ。
こいつはこんな訳のわからん事を言うような女だっただろうか?
「詐欺では無いと言うのなら何の用だ。まさかとは思うが戦場ヶ原。お前、電話をする相手を間違えているのではないか?」
『いえ、そういう訳では無いのよ。なんというか、確かに貴方にお願いするのはお門違いだとはわかっているのだけれど……
これは貴方にしか、貝木にしか頼めない事なの』
「……ほう。何だ、早く言ってみろ」
『ええと……その、何と言うか……』
いつになく躊躇しているというか、本当に歯切れが悪い。一体この俺に何を依頼すると言うのだろうか。
あまり急かすのも逆効果になりそうだったので暫く黙っていると、ようやく意を決したのか戦場ヶ原は口を開いた。
『貝木、貴方に』
『私を抱いて欲しいのよ』
004
すぐさま俺は電話を切った。
今のはきっと何かの間違いだったのだろう。戦場ヶ原が間違っていたのか、俺が間違っていたのかはわからんが、
間違っても間違いではないはずが 無い事は間違いない。そうであってくれ。
あるいは実はアイツは昼間から飲みの席に居て、俺の事をふざけてからかっているに違いない。
今頃、腹をかかえて爆笑している事だろう。迷惑な話だ。
しかしそんな俺の予想とも願望とも裏腹に、携帯はもう一度戦場ヶ原からの着信を知らせる。
無視してやっても良いのだが、この携帯は今働いている詐欺でも使っている仕事道具だ。戦場ヶ原は電話が通じないとなると
相手が出るまで何百回でも電話し続ける女だから、着信拒否をしたところで別の電話から何度も電話してくる事は目に見えている。
それでは結局この携帯が使い物にならなくなるのと同義だ。それを避けたいがため、さんざん躊躇した挙句に、仕 方なしにもう一度
電話に出てやる。あくまで仕方なしにである。
「誰だ」
『戦場ヶ原よ!勝手に電話を切らないでくれる?気持ちはわからなくも無いけれど!』
「一体誰に電話をかけているのですか?私は西東という者ですが」
『西東でも鈴木でもなくて、私は貴方に!貝木泥舟に用があるのよ!』
珍しく声を荒げている。こいつがこんなに取り乱しているなど珍しいな。
もしかしたら今俺が話しているこの戦場ヶ原は、俺が知っている戦場ヶ原では無いのではないか?
戦場ヶ原ひたぎではなく戦場ヶ原ぷに子とかいう全くの別人ではないのか?
そんな疑問すら浮かんでくるほど、今日の戦場ヶ原は余裕がないというか、どうにも奴らしく無い。
『……ごめんなさい、いきなりこんな事を頼まれたら不審に思うのは当然よね。
だけど貝木、私は真剣なの。ふざけている訳じゃない。私は貴方に依頼して、お金を払って、貴方に抱いて欲しいのよ』
「……どうやら本気のようだな。理由も状況も一切見えては来ないが、それだけは解った」
『ありがとう。理由は直接会って説明するわ。この依頼、受けて貰えるかしら?』
「それを決めるのは話を聞いてからだな。そこまで言うからには余程の理由があるのだろう」
『感謝するわ。それで貴方は今、どこにいるの?』
「大阪だ。道頓堀の近くの ホテルに拠点を作って仕事をしている。来るのなら難波駅まで来い」
結局とんとん拍子に、会って話す方向で話を進めてしまった。しかし、ひとつだけ釈明をさせて欲しい。
俺は決して戦場ヶ原を抱きたいがために、喜び勇む気持ちをひた隠しにしながら、嫌そうに話を進めている訳では無い。
そりゃあ俺だって精神はともかく体は健康な男だ。いわゆる性欲という物も確かにある。
知り合いの外面だけは美人な若い女が「抱いて欲しい」と電話をかけてきたなら、
それこそ飛び上がって喜んでもおかしくないと思われるだろう。
しかし俺にとって戦場ヶ原ひたぎという女は、結局どこまで行っても「知り合いの子供」でしかない。
あい つも今年で19になっただろうが、そんな事は関係が無いのだ。
俺の中ではあいつはいつまでも、昔詐欺を働いた家庭の生意気な子供でしか無いのだから。
ただ今回はそんな知り合いの子供が、いつになく切羽詰まった様子で訳のわからん事を頼んできたのだ。
善良とは程遠いながらもひとりの大人として、話しくらい聞いてやっても構わんという気にもなる。
ただ、それだけの話だ。こればっかりは嘘では無い。
『大阪ね、わかったわ。前と違って行きやすいから助かるわね』
「俺だっていつでも日本の端ばかりに居る訳では無い。むしろ人の多い繁華街こそ詐欺が働きやすいからな」
前回戦場ヶ原から依頼を受けた時には 、意味も無く「沖縄にいる」などと言ってしまったばかりに
わざわざ京都から沖縄まで飛行機で向かうハメになってしまった訳だが。俺だって毎回そんなつまらん嘘ばかりつく訳では無い。
前回が沖縄だったから今回は北海道だ、などと言ったら、あいつはまた何の躊躇も無しに北海道に向かう事だろう。
この時期にわざわざあんな寒い所に行く事になってはたまった物では無い。
ともすれが戦場ヶ原の奴と一緒にカニでも食べるハメになってしまうかも知れんしな。それは出来れば避けたい物だ。
『良かったわ。前回が沖縄だったから今回は北海道だ、なんて言われたらどうしようかと思っていたもの。
ともすれば貴方と一緒にカニでも食べるハメにな ったら困るものね』
……ついに人の心まで読むようになったのか?
こいつひょっとして詐欺師の才能があるのかも知れない。
『ともかく、午後の講義が終わったらすぐにそちらに向かうわ。本当はすぐに向かうのが礼儀なのだろうけど、
生憎私も大学生だから許して欲しいわ。19時前にはそちらに着けると思うから。駅に着いたらまた電話するけど、いいかしら?』
「ああ、構わん。俺もまだ仕事が残っているしな。それまでには終わらせておいてやろう」
『助かるわ。それじゃあ――』
そう言って電話を切る直前。いつぞやと違ってハッキリと、戦場ヶ原は口にした。
『よろしくお願いするわ』
今度こそ電話が切れた。
――まったく、あいつは本当に、つまらん女になったものだ。
俺は携帯電話をポケットにしまうと、ひとまずノートの端に「戦場ヶ原ひたぎ」と書いて、似顔絵を描き始めた。
005
その後喫茶店での作業を終えた俺は、そのままの足でノートに書き記した会社に出向き、狸顔の社長を相手に架空の商談を行った。
戦場ヶ原の事は気になったが、大坂の商人は考え事をしながら騙せるような甘い連中では無い。
俺の口八丁手八丁のプレゼンでどうにか商談をまとめ終えると、時刻はもう18時半を回っていた。
結局、戦場ヶ原の件を考える暇は無かったが、どうせこの後直接本人から話は聞けるのだ。
後手に回るのは俺の主義では無いが今回ばかりは仕方のない事だと諦めるとしよう。
そうして難波駅までタクシーで向かっている途中。俺の携帯に着信があった。
……しかし改めて思うが、今回の俺は迂闊という他無いだろう。前に戦場ヶ原から依頼を受けた携帯番号を、
今回俺は変える事無く使い続けていたのだから。
もっとも、あの女がその気になれば、番号を変えた所で調べ上げて電話をしてきたのだろうが、
何やら奴の都合の良いように事が進んでようで癪に触るという物だ。そもそも俺は詐欺師なんかをやっているのだから、
携帯の番号などそれこそ衣替えのように季節が変われば変えてしまうのが常なのだが、
最近は俺も上手く立ち回って詐欺が出来ているおかげで一年以上も番号を変えないでいた。
全く、俺が好調だという時に限って厄介な話が舞い込んで来る。俺の日頃の行いが悪いとでも言うのだろうか。
いや、俺の日頃の行いは言い訳のしようも無く悪いに決まっているのだが。
『貝木?着いたわよ』
「ぷに子か。早かったな、俺ももうすぐ駅に着くところだ。構内の喫茶店にでも入って待っていてくれ」
『誰よ、ぷに子って……。私はそんなメイドロボットのような名前では無いわ。
それじゃあ、えっと。構内のチャオプレッソという店に居るわ。
今日の私は私服だから、そうね……。帽子と眼鏡を付けているから、それを目印にして頂戴』
しまった。あいつJRの方の難波駅に来たのか。俺が向かっているのは東海電鉄の難波駅だというのに。
しかし確かに指定しなかった俺が悪いのだから、仕方なしに「わかった」と返事をして電話を切り、
タクシーの運転手に行き先の変更を告げた。
……しかし、帽子と眼鏡か。あいつの事だからまた悪目立ちするような格好なのだろうか。
俺は念のため用意しておいた紙袋の中身を確認していると、程なくJR難波駅の入り口に到着した。
そしてタクシーから降りた俺は、駅構内のチャオプレッソという喫茶店に向かう。一度利用した事のある店だったので迷う事は無い。
落ち着いた雰囲気の店で、カプチーノを注文すると可愛らしいラテアートを描いてくれる所だったと記憶している。
そんな洒落た喫茶店の中で、依頼人はすぐに見つける事が出来た。
戦場ヶ原は確かに眼鏡と帽子を被っていた。
帽子はともかくとして、眼鏡だけ見れば何の変哲も無い黒ぶち眼鏡なのだけれど。
だがしかし、頭に被った帽子と眼鏡が組み合わさった事で、その外見は非常に目立つ物になってしまっていた。
一言で言うと――食い倒れ人形だった。
丸い黒ぶち眼鏡に、赤と白のストライプが入った三角帽子。
それは、紛う事無き食い倒れ人形……正式名称「くいだおれ太朗」そのものの格好だった。
服装はいかにも女子大生といった感じの、それなりにお洒落な格好をしているものだから
それが余計にアンバランスな外見となり、異彩を放っている。
――やられた。俺は直感的に、そう感じてしまった。
前回は奴がパーティーグッズの鼻眼鏡を装着し、俺はアロハシャツを着てそれを迎え撃った。
結果としてあれは俺の勝ちだったと記憶しているが、(何がどう勝ちかは、この際置いておいて欲しい)
その勝因は「沖縄」という土地柄を利用しての「アロハ」という武器があったからだ、と俺は考えている。
しかし今回の戦場ヶ原は、前回俺に敗れた理由をしっかりと把握していたのか。
大阪のシンボルである「くいだおれ太朗」を使って俺にリベンジを仕掛けてきた。
同じ轍は踏まない。成程、戦場ヶ原ひたぎ。 さすが一筋縄ではいかんと見える。
……が。
ああ、ほら。早速他のテーブルの客に絡まれているじゃないか。
沖縄の閑散とした喫茶店ならともかく、この大阪でそんな面白おかしい格好をして待っていたら、
ノリの良い人間に絡まれるに決まっているだろうが。
わざわざそんな物まで用意する頭があるにも関わらず、なぜそこまで気が回らなかったのか。
やはりまだまだ甘いな、戦場ヶ原ひたぎ。
だが、その心意気は良し。売られた喧嘩は転売して儲けを出すのが俺の信条だが、今回ばかりはその心意気を評価してやろう。
この貝木泥舟。正々堂々手段を選ばず真っ向から不意討ってご覧に入れよう。
俺は絡まれている戦場ヶ原を無視する形で 店を離れ、駅のトイレで着替えを始める。
元々着ていた背広とシャツを予め用意していた紙袋に入れ、代わりに取り出したのは縦縞のユニフォーム。
阪神タイガースの応援用ユニフォームだ。
半袖のそれを素肌の上に身に付けると、次はメガホンを首から下げ、キャップをしっかりと目深に被る。
セットしたオールバックは崩れてしまうが、背に腹は変えられないという物だろう。
一体何が俺をそこまでさせるのかって?
決まっているだろう。俺は戦場ヶ原には決して負けたくないのだ。
しかも依頼を受けるという立場上、相手にイニシアチブを握られる事は全力で阻止しなければならないからな。
この時点で既に、俺と戦場ヶ原の駆け引きは始まっている。勘違いするな、あくまでこれは仕事なのだ。
最後に鏡で自分の姿を確認する。誰だこいつは。
ただでさえ長身で細身の俺が縦縞のユニフォームを着ることで、なんだか更に細長く見えて針金のようになっている。
おおよそスポーツマンとは言い難い顔の上には野球のキャップ。これがまた恐ろしく似合っていない。
極めつけは半袖から伸びた俺の腕。さすがに室内と言えど11月末に半袖なんかを着ているものだから、
鳥肌がびっしりと立っている。もう自分でも目も当てられないような惨状の男が、鏡の前には立っていた。
最終確認を済ませた俺は、メガホンを両手に持った上で、依頼人の元へと向かった。
絡んできた客 は追い返したのか、1人悠々とコーヒーを飲む食い倒れヶ原の前に。
俺は正面から堂々と、普段通りのクールな表情を保ちながら、戦場ヶ原の対面となる席に腰を掛けた。
「ぶふっ!!」
食い倒れヶ原が飲んでいたコーヒーを噴き出した。
「済まんな、今日はナイタ―があるからお前の分のチケットも用意していたら遅れてしまった。
ところで俺は外野手のマット・マートンのファンだが、お前は誰のファンだ?」
涙目になった戦場ヶ原は、おしぼりで口元を押さえながら必死で笑いを堪えている。
それでもチラチラと俺の腕を――鳥肌がびっしり立っている俺の腕を見ながら、また苦しそうにうつむき始めた。
ふはははは。
よし、勝った。
正直今回は同じ地方色を利用した勝負だった事もあり、互角の戦いになると予想したのだが。
どうやらこの俺の鳥肌が勝負の決め手となったようだ。残念だったな戦場ヶ原。そんな大仰な名前をしているお前だが、
戦場におわす勝利の女神が微笑んだのはこの俺だったという訳か。
俺は頭の中でマット・マートンとハイタッチをする程の喜びを抑えながら、当然のような顔で店員にカプチーノを2杯注文した。
というか誰だマット・マートン。道中で読んだスポーツ紙で名前だけ覚えてきた選手だったから、
俺が頭の中でハイタッチした奴の顔は、国籍不明の外国人だった訳だが。
「ち ょ……ちょっと……」
ようやく少し喋れるようになるまで回復した食い倒れヶ原は、息も絶え絶えに話し始めた。
「貴方、いつの間にタイガースのファンになったのよ。邪な貴方が縦縞の軍団を好きになるだなんて、
天地が90度傾かない限り無いと思っていたのだけれど」
「他人のスポーツ観戦の趣味にケチを付けるのは感心しないな。
第一、お前は俺がボーダーのTシャツを着ている所なんて見た事が無いだろう」
もっとも、俺が阪神タイガースのファンだという事からして既に、真っ赤な嘘な訳だが。
勿論シーズンでは無いからチケットを用意して遅れたと言うのも嘘だ。
「それにしても髪が伸びたな戦場ヶ原。私服姿も久々に見たが、金持ちの娘のようで似合っているぞ」
眼鏡と帽子には決して触れない。これは相変わらず俺が人間として小さいからではなく、戦場ヶ原の私服を見たのは
本当に久しぶりだったので、そちらの話題を選択したまでだ。
それに髪も最後に会った時に比べればかなり伸びていた。出会った頃のように腰まで、とは言わないが、
十分にロングヘアーと言って遜色のない物になっていたしな。
「ええ。貴方に私服を見られるのは嫌だったけれど、さすがに大学1年生の冬にもなって高校の制服を着るのは無理があったから。
苦汁を舐める思いでこうして私服で来てやったのよ。しかし何で高校の制服と言うのは一度卒業した人間が着ると、ああも
イメクラっぽくなるのかしらね。ほんの数か月前まで自分が毎日あの服を着ていたと言うのが信じられないくらいだわ」
知るか。
というか女子大生の口から「イメクラ」なんていう単語が飛び出す方がよっぽど信じられないくらいだ。
ともあれ、こんな恰好で長々と無駄話をするつもりなど無い。俺はいよいよ本題となる依頼についての話をしようと身構えた時、
注文していたカプチーノが運ばれてきた。
「お待たせしました、カプチーノお二つでございます」
店員が俺と戦場ヶ原、それぞれの前にカプチーノを置いたその時。俺達はそれぞれのカップを見て吹き出した。
「ぶはっ!!」
「くふっ!?」
――負けた。
俺たちの完全敗北だった。
カプチーノの上には、この店ご自慢のラテアートで。
くいだおれ太朗と阪神タイガースのロゴが、綺麗に描き込まれていた。
006
「貝木、夕飯は食べたの?」
カプチーノを飲み終え早々に店を後にした俺たちは、道頓堀を歩きながら次の店を探していた。
本当は先ほどの喫茶店で話をしたかったのだが、あれほどの大敗を喫した相手のホームグラウンドで真面目に話が出来るほど
俺も戦場ヶ原も恥の無い人間すでは無かった。あんな格好をしていて説得力が無い事はわかっているが。
それに、あれ以上2人揃ってあの格好でいたら、また他の客に絡まれてしまう危険もあったからだ。
今回の件で俺たちが得た教訓は、関西人にはどうあっても敵わないという事だったからな。
そんな訳で俺たちは逃げ出すように、そそくさと店を後にし。
戦場ヶ原は眼鏡と帽子をゴミ箱に放り込み。
俺はユニフォームの上からシャツと背広を着て、駅を出たのだった。
そうして移動している最中。戦場ヶ原がそんな事を聞いてきたのだった。
「いや、今日は朝からコーヒーしか口にしていないな」
「そう。私も朝食をとったきりだったから、お腹が空いているのよ。
せっかく大阪に来たのだから、お好み焼きでも食べたいのだけれど。
勿論、経費として奢らせて貰うわ。付き合って貰えるかしら?」
「構わんが、俺は人の奢りとはいえ安い店に行くのは御免だぞ。話の内容も内容だからな。
個室のあるような高級店ならば行ってやらん事も無い」
あくまで上から物を言うのを心がける俺だった。
先ほどの勝負では2人揃って店に敗北してしまったから、会話のイニシアチブもうやむやになってしまったからな。
ともすれば忘れてしまいそうになるが今日俺が戦場ヶ原に会っているのは、この女の訳のわからん依頼を受けるためなのだから。
――いや、まだ受けるかどうかは決めていないのだが。
「その点は安心して欲しいわね。私は元々、いわゆる良い所のお嬢さんだったのよ。舌だって肥えているし、
店を選ぶ目も確かだと自任しているわ。実は予め、店に当たりは付けているのよ」
戦場ヶ原はそう言うと、スマートフォンを片手に俺を先導し始める。
そうしてたどり着いたのは、成程。有名店ではあるが確かに良い店だった。細かい事を言ってしまえば銀座にも支店があるので
大阪でしか食べられない店と言う訳ではないが、戦場ヶ原は気にしていないようだったし。俺も店のクオリティとしては
合格だったので大人しく店に入ってやる。なにより店名の一部に『ぷれじでんと』なんて大仰な名を付ける所が気に入ったしな。
「予約した戦場ヶ原です」
店に入るなり、そう言った戦場ヶ原。この女、いつの間にか予約してやがった。
手回しの良さは褒めてやりたい所だが、これはさっきから俺が言っているイニシアチブを握るという意味では非常にマズかった。
個室に案内された俺はいち早く上座に座る事で、かろうじて上下関係を誇示する。
……なんだろう、先ほどから俺がまるで意地っ張りの子供のように見えているのではないだろうか。
いや、そんなはずは無い。俺はあくまで大人として、無理な依頼を持ちかけようとする子供を窘めているだけなのだ。
「さあ、鉄板焼きを食べましょう。鉄板焼きを。お好み焼きに焼きそば、ステーキや海鮮焼きもいいわね。
お洒落なサラダやマリネもあるけど、そんな物が食べたいのならフレンチレストランにでも行けばいいわ。
任せなさい。実は私はお好み焼きを焼く事を得意としているのよ」
言うが早いか戦場ヶ原は次から次へと注文をしてゆく。
あっという間にテーブルの鉄板にお好み焼きとステーキ、焼きそばが並んだ。
お好み焼きは店員が焼いた物が運ばれてきたのだが、それを見た戦場ヶ原は何やら怒っているのか
ヘコんでいるのかわからんような微妙な表情を浮かべて、店員に礼を言っていた。
しかし気のせいか。今日の戦場ヶ原はやけに感情豊かと言うか、有り体に言えば、はしゃいでいるように見える。
これも阿良々木の奴と付き合った影響なのだろうか。だとすれば本当に、つまらない女になってしまったのだな。戦場ヶ原よ。
それから俺たちは鉄板いっぱいに並べられた料理を食べながら、まずは戦場ヶ原の近況を聞くことにした。
高校を卒業した戦場ヶ原は無事に、阿良々木と同じ大学に通っている事。
その2人を殺そうとしていた千石は改心したのか、無事に家に帰って中学生に戻ったという事。
もっとも奴は半年ほど行方不明扱いになっていたのだから、帰って来た時には町中が大騒ぎになったそうなのだが。
最近はもう阿良々木の事など忘れてしまったかのように、学校から帰っては家に籠って何かしているらしい。
まぁ、その「何か」は俺と千石しか知らない秘密なのだから、余計な口は挟まないでおいてやったが。
あとは羽川翼が本格的に世界を巡る旅に出たという事。あの女が日本に居ないというのは何やら安心できる情報だ。
いや、別に俺自身が羽川翼に何か危害を加えられたとか、そういう事は無いのだが。直感的にアイツは「ヤバい」と感じているだけだ。
そして阿良々木と戦場ヶ原は大学の近くで同棲を始めたそうだ。
しかしせっかく2人で同棲を始めたというのに、
常に阿良々木の影に潜んでいる旧キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードのせいで
なかなか2人きりになれないという話を聞いた。その話は心底どうでも良いのだが……。いや、待て。
「まさかとは思うが戦場ヶ原。俺に抱いて欲しいと言うのは、その寸止めの生活で溜まりに溜まった欲求不満を
解消したいから、などと言うつもりか?」
だとすれば、さすがに心優しい俺も付き合ってやる事は出来ない。大学生カップルの性生活の不満を何故俺が解決してやらねばならんのだ。
「いえ、そういう事では無いの。私達の性生活はいたって順調よ。あの吸血鬼幼女もさすがに空気を読んでいるのか、
阿良々木君に釘を刺されているのかはわからないけれど、私達がそういう雰囲気になるといつの間にか居なくなっているし。
最近はあの子がイエスノ―枕のようになっているわ」
知るかそんな事。
というか、なれの果てとはいえ怪異の王をイエスノ―枕扱いとは。
まさか俺が吸血鬼相手に同情する日が来るとは思わなかったぞ戦場ヶ原。
「ならば何故お前は、俺に金を払ってまで抱いて貰おうなどと持ちかける。今自分で性生活は順調だと言ったばかりだろう」
「その……そこが問題なのよ。順調だからこそ、それが問題になっているという状況なの」
ようやく本題に入るようだ。随分と長い前置きだったな。
……と、話を始める前に。
既にテーブルの上の鉄板がほとんど空になっていたので、俺は追加で注文をする。
無論これらの支払いは戦場ヶ原なのだが、一切遠慮してやるつもりは無い。
おおかた、中年の俺が相手ならば鉄板焼きを食べさせてしまえば、すぐに油で胃をやられて
何も食べなくなるだろうと言うような姑息な目論見があったのだろう。
しかし舐めるなよ戦場ヶ原。俺の胃腸は好物の肉を食べるために常に健康を保っている。
この俺に飯を奢るなどと舐めた事を言った事を後悔させてやろう。
ほどなくしてテーブルの上には、スペシャルミックスのお好み焼きと、150gの鉄板ステーキが並んだ。
どうだ。さっきお前が頼んだ量には及ばないが、値段だけ言えば同じくらいに頼んでやったぞ。
大学生のお前には手痛い出費だろう。
「よくそんなに食べられるわね。さすがに私はもう粉物は無理よ。お肉だけ少しいただこうかしら」
だがしかし戦場ヶ原は何も文句を言うでもなく、俺が勝手に注文した肉を勝手に切り分け食べ始めた。
……妙だな。俺が知っている戦場ヶ原の性格ならば、ここではむしろこんな事を言うはずだ。
『まったく、ふざけた根性ね。その鉄板焼きのお金は私の財布から出ているのよ。私のお金、即ち私の命。
貴方は今私の命を食べているというのに、何を勝手に注文して食べようとしているのかしら。
まるで虫けらのような図々しさね。どう?私のお金で勝手に食べるお肉は美味しいかしら?虫』
こんな感じだろうか。
しかし俺の前でちびちびと肉を食べるリアル戦場ヶ原はそんな態度など一切せずに、どころか
「ビールは頼まなくて良いの?私に合わせてウーロン茶なんて飲む必要は無いのよ」
などと、この俺に対して気遣いまでしてくる始末だった。
一生恨むと公言している相手であるこの俺に、気遣いだと?
……今日の戦場ヶ原は変だ。俺の知っている戦場ヶ原ではない。やはり目の前に居るこの女は
戦場ヶ原ひたぎに瓜二つの別人、戦場ヶ原ぷに子ではないのだろうか。本気で疑わしくなってきた。
アルコールを入れて鈍った思考で相手を出来るはずもないではないか。ウーロン茶で構わん。
「それじゃあ、本題に入るわね」
と、本当に戦場ヶ原ひたぎか疑わしい女の口から、ついに今回の依頼の詳細が語られる。
『私を抱いて欲しいのよ』
世界中の誰よりも憎い相手であるはずのこの俺に、事もあろうか自分を抱くように依頼する。
正気の沙汰とは思えん。
そこには本当によっぽどの、自分か阿良々木の命か、それに準ずる何かが懸かっているのだろうか。
「実は私ね、高校卒業の頃ぐらいまでは、阿良々木君と二人の時はベタベタに甘えていたのよ」
「は?」
本題とやらは、そんなどうでも良いノロケ話から始まった。
007
そこからの話は非常に長ったらしい、阿良々木と戦場ヶ原のノロケや余計な話の混じった大層かったるい話だったので
俺が要約して話してやる事にしよう。
高校卒業くらいまでの戦場ヶ原は、阿良々木と二人きりになるとデレデレのドロドロ……
阿良々木の言葉で言うと「ドロデレ」というような状態だったらしい。
なんでも、二人でいる時には阿良々木の事を「暦きゅん」などという、ふざけた愛称で呼ぶ程だったという。
俺にはそんな戦場ヶ原など想像も出来んがな。
しかし大学進学を果たし同棲を始めたあたりで、戦場ヶ原はさすがにそんな関係ではマズイと思い直したとの事だった。
ただでさえ大学生カップルの同棲など堕落しやすい環境なのだから、戦場ヶ原が手綱を握ってやらないと阿良々木の奴は
すぐに落ちぶれてしまうと考えての事だったそうだ。
そこで戦場ヶ原はいわゆる「ドロデレ」状態になる前の関係性。これも阿良々木の言葉を借りるなら「ツンドラ」というような
接し方に差し戻そうとしたのだという。その関係性と言うのは、戦場ヶ原がさながら絶対的な主人となり、阿良々木がその犬となるような
主従関係にも似た関係性だったとの事だ。なるほど、ドロデレの戦場ヶ原よりもそちらの方が遥かにに想像し易い。
しかし、いざその接し方に直した所で、以前のように上手く主従関係を作る事が出来なくなっていたのだという。
その理由と言うのは
「その……。私が阿良々木君に、ベッドの上では敵わないという事を彼が知っているからだと思うのよ」
帰ろう。
俺はそこまで話を聞いたところで、すぐさま席を立ち上着を着始めた。
全く、よくぞここまで我慢して話を聞いてやったものだ。珍しく俺は俺を褒めてやりたい気分でいっぱいだった。
しかしここまでが限界だ。よく頑張ったな、俺。さあ今すぐに店を出て、全力疾走で逃げよう。
この色ボケヶ原(文字にすると非常に読みにくいな)は元陸上部らしいが、大丈夫だ。俺の方が足は早い自信がある。
俺が努力を重ねた末に編み出した独自走法、貝木ストライドはきっとこの時のために編み出されたのだろう。そうに違いない。
「ちょ……ちょっと待って!私は真剣に話をしているのよ!最後まで話を聞いてちょうだい!」
「離せ戦場ヶ原。俺はお前と阿良々木の性的なノロケ話を聞きに来た訳では無い。そういう話は同級生の女子にでも
存分に話せば良いだろう。中年の俺にはもう限界だ」
「ごめんなさい、私が悪かっ たわ!でもお願いよ話を聞いて、本当に貴方にしか相談出来ない事なのよ!」
「…………」
全く、うるさい奴だ。これ以上こんな大声で喚かれては、店員や他の客までやって来てしまう。
俺は詐欺師で犯罪者なのだ。あまり目立つような真似をするのは避けたい。
仕方がない、ここは俺が大人になって最後までこの子供の話を聞いてやる事としよう。
「勘違いするなよ。これはあくまで俺のためで、お前のために話を聞くのではないのだからな」
言って。席に座り直してやる。
「……中年男性のツンデレというのも、なかなか新しいわね」
――?何を言っているんだこいつは。
「ともかく……話を続けるわね。座って。
私が昔、宗教団体の下種野郎にレイプまがいの事をされかけて、そういった行為に拒否反応が出る体だったのは知っているわよね?
そのトラウマ自体は、私はなんとか自力で克服したのよ。
さすがに同棲まで始めて体を許さないと言うのは、阿良々木君に対してあまりに酷という物でしょうしね。
それで、同棲を始めて程なくして、私は阿良々木君にこの身を捧げたのよ。忘れられない夜だったわ。
――ああ、ごめんなさい!立ちあがらないで、ノロケ話をするつもりじゃなかったの。謝るわ。
それからというもの、週に何度もお互いの体を求めあう日々が続いたのよ。若さというやつね。
だけど私がようやく痛みにも慣れて純粋に行為を楽しめる体になってみて、気付いたの。
私、ベッドの上では阿良々木君に一切の主導権を握られて、いいように弄ばれてしまうという事に」
「…………続けろ」
帰りたい。
「阿良々木君がああ見えて性的には非常に倒錯した趣味を持つ腐れ紳士野郎だっていう事は知っていると思うけど……知らない?
自分の彼氏とはいえ酷い物なのよ、あれは。女子小学生に中学生、実の妹に外見年齢8歳の金髪幼女までカバーしたかと思えば、
羽川さんの巨乳や神原のスパッツにまで興奮するような、まさに変態性癖のオーソリティーのような男なの。凄まじいでしょう?
だから私も体を許すようになったら一体どんな鬼畜なプレイを強要されるのかと覚悟を決めていたのよ。
しかもベッドの上での主導権まで完全に握られているのだから。恐怖で気が気じゃなかったわ。阿良々木君に隠れて色々と
アダルトなビデオを見て予習を重ねたもの。いつ、どんなプレイを迫られても対応できるようにね」
「…………それで?」
帰りたいよう。
「だけど阿良々木君、信じられない事にベッドの上になると本当に紳士的なのよ。私をお姫様か何かのように扱ってくれて。
無茶なプレイどころか、底抜けに優しく、天井知らずの愛情を以て抱いてくれるのよ。
だから私は主導権を握るどころか、いつも阿良々木君に身も心も溶かされてドロドロのデレデレにされてしまうのよ」
「…………そうかい」
もうひと踏ん張りだ。頑張れ貝木泥舟。
「だから私は彼のイニシアチブを握る事が絶対に出来ないのよ。どれほど辛辣に暴言を浴びせても、夜になったら結局
ドロデレになって暦きゅん暦きゅんって甘えてしまうのだから。これでは確かに従える事が出来るはずが無いわ。
犬の言う事に逆らえない主人なんて、威厳も何もあった物ではないでしょう。
……だけどこのままじゃ絶対にダメ。
もう大学が始まって半年以上が経つけれど、阿良々木君、確実に堕落し始めているわ。勿論、私もね。
これでは阿良々木君を幸せにすると誓った羽川さんに合わせる顔が無いもの」
……?
どうしてそこで羽川の名前が出てくるのだろうか。
ここまでさんざん話を聞いてきたが、そこだけはさっぱり話が読めん。
やはりあの女は底が知れん。出来れば二度と関わりたく無いものだ。
「それで……何故お前は俺に金を払ってまで抱いて欲しい?今までの話ではまだ想像が出来んのだが」
「あら、意外ね。ここまで話せば察しの良い貴方の事だからわかると思ったのだけれど……。
そうね、ここからが本当の本題なのよ」
ようやく本当の本題に入るのか。いくらなんでも前置きが長すぎるだろう。
というか、ここまで読んでくれている者が居るのか、いよいよもって怪しくなるぞ。
「阿良々木君を従えるためには、まず、私がベッドでの阿良々木君の攻めに屈さないようになる事が絶対条件なのよ」
「そんなに簡単に屈するのかお前は?お前ならベッドの上だろうが下だろうが、主導権を握るなど簡単だと思うのだが」
「それが無理なのよ。我ながら簡単に屈してしまうわ。即落ち2コマといった所ね。
だから私はそんな体を何とかする方法を考えた末に――場数を踏む、という結論に至った訳よ」
ふむ。ようやく話が読めてきた。
「こればっかりは座学では何の役にも立たないという事は痛感しているもの。一度でも阿良々木君以外の経験豊富な男に抱かれれば、
優しさばかりでテクニックの上ではヘタレ野郎の阿良々木君の 攻めなんて耐えきる事が出来ると思うのよ」
「お前の考えはなんとか理解する事は出来たが……なぜその相手が俺なんだ?
わざわざ俺のような中年なんぞに頼まなくとも、大学など経験豊富な若い男が山ほど居るだろう」
「それじゃあダメなのよ。大学なんて狭いコミュニティでそんな事をしたら、
戦場ヶ原は腐れビッチの肉便器だっていう噂があっという間に広まってしまうわ。
それならばお金で繋がった相手の方が、ずっと信用出来るもの」
「なるほど、その考えも理解した。だがそれでも、俺に依頼する理由にはならんだろう?
金を払って抱いてくれる男というのは、その道のプロとう連中がいるはずだが?」
「ええ。女性用の風俗と言うやつね。でもダメよ。それだって危険すぎる」
「……何故だ?」
「私のような絶世の美女を一度でも抱いたら、虜になってしまうに決まっているじゃない。ストーカーになるか、
彼氏の存在を嗅ぎつけて、阿良々木君にバラすとでも脅迫して関係を迫るであろう事なんて容易に想像できるもの」
ああ、やっぱり帰りたくなってきたぞ。
「まぁ……たとえバラされた所で、私の愛する、私を愛する阿良々木君は私の行いをすべて許し、
脅迫してきた屑野郎を完膚なきまでに叩きのめしてくれるのでしょうけれど……。出来ればそんな荒っぽい事にはしたくないのよ。
その点、貝木。貴方なら信頼できるわ。詐欺師の貴方を信頼というのは滑稽な話だけれど。まして騙された私が言うなんてね。
それでも貴方は依頼であれば真摯に対応するだろうし、間違っても私に溺れるような事は無いと思っているもの」
もはや、どこから突っ込んでやった方が良いのかわからんが。
さんざん時間をかけて、俺の心を何度も砕きそうになりながら。そうして戦場ヶ原はようやく、
全ての理由を、説明を終えたのだった
「ふん……。本当に滑稽だな戦場ヶ原。詐欺師の男を買春しようなどという奴は世界中を探してもお前だけだろうよ」
「ええ、お門違いなのはわかっているわ。
貴方はあくまで詐欺師であって、対価を払えば何でもするような悪魔ではないもの。
だけどね貝木。私にはもう貴方しか頼れる人がいないの。本当に、貴方だけ……」
戦場ヶ原はそんな事を言うと、俺にこんな頼みをする自分の滑稽さに情けなくなったのか。
俯いて、涙を流しているようだった。
「ふん、泣き脅しか。まったくもって滑稽極まりないな戦場ヶ原。どうやら俺はお前の事を買いかぶっていたようだ。
つまらん。本当につまらん女になったな戦場ヶ原。お前にはガッカリだよ。俺にはそんなつまらん女を抱くような
趣味は無いのでな。悪いがこれで帰らせてもら――」
「何よ。自信が無いの?」
――――馬鹿な。一転して挑発をしてきやがった。見ると、戦場ヶ原の瞳は涙どころか潤んでいる様子すら無い。
なんて女だ……。俺が言うのも何だが、性根が腐っているとしか言いようがない。手段など最初から選ぶつもりは無いようだ。
こいつ本当に詐欺師の才能があるんじゃないのか?
「神をも欺く天下一の詐欺師である貝木泥舟さんは、小娘ひとり満足させられないような残念な男なのかしらね。
女の扱い方まで偽物の嘘っぱちだなんて、詐欺師としては完璧だけど男としては終わっていると言わざるを得ないわ。
それとも貴方、夜だけはあらゆる女に騙され続けているのかしらね?満足させたと思っているのは、貴方だけだったりして」
それにしても、なんて安くて下品な挑発だ。大安売りの大バーゲンにしても酷過ぎる。
値切り文化が息衝く大阪とは言え、ここまで下品な値切りは無かったという程の安さと下品さだ。
いくらなんでも、こんな子供のような挑発に乗る中年男性が 。プロの詐欺師がいるわけ無いだろうが。
「ふざけた事を言うな戦場ヶ原。この俺に満足させられない女などこの世にいるはずがないだろう」
いた。クソ安い挑発にまんまと乗ってしまう、プロの詐欺師の中年男性がそこにはいた。というか俺だった。
ふざけているのは俺だ。俺はいったい何を言ってやがる。
「じゃあお金を貰って私を抱いて、一晩しっかり満足させた上で阿良々木君の攻めに耐えられる体にするなんて
赤子の手を捻るより簡単という事ね?」
「当然だ。俺は赤子の手など捻った事は無いが、そんな事は俺がアブラゼミを騙す事よりも簡単な事だ」
いや、俺はアブラゼミを騙した事も無いぞ。というかどうやるんだ、アブラゼミを騙すって。
「阿良々木の攻めから解放されるなんて甘っちょろい事を言っているようだが、
俺に言わせてもらえばお前の方こそ気を付けろと言いたい所だ。今まで俺のテクニックを味わってきた女は、
すべからく俺の虜となっているからな。全てが終わってから阿良々木の元へ帰らないとでも言いだしたところで、
俺は一切の責任を取る事は出来ん」
……ああ、またやってしまった。どうやら俺は戦場ヶ原相手だと無駄な虚勢を張ってしまう癖があるらしい。
そして、こうなってしまっては俺の口はもう俺自身にも止める事は出来ない。
しかし参ったな。これでは俺が自分のテクニックに絶対の自信を持っている痛々しい中年にしか見えんではないか。
行為が終わった後に「良かった?ねぇ良かったよね?」と聞くような陳腐な男と同義だ。
これ程自分の事を嫌いになったのは、いたいけな中学生を相手に詐欺を働いて小銭を稼いでいた時以来だ。
無論それは嘘なのだが。
「そう、良かったわ。さすがは私の見込んだ男ね。私が阿良々木君よりも貴方に夢中になるというのは
ありえない事なのだけれど、それでも心強いわ。それじゃあ是非お願い―――」
「待て」
……危なかった。
危うく感情に任せてこいつの依頼を受けてしまう所だった。
詐欺師が子供の口車に乗せられた挙句に感情に任せて取引をしてしまうなど、あってはならん事だからな。
「確かに俺には可能だとは言ったが、それをやるかどうかは別問題だ。第一そんな事をした所で俺に何の得がある。
俺が損得でしか動かない人間だという事は他ならぬお前が一番痛感しているだろう。
まさかお前は、絶世の美女である自分を抱けるのだからそれで十分だろうとでも言うつもりか?だとしたら自惚れるな。
高校を卒業して大人になったつもりかも知れんが、はっきり言って俺にはお前は子供にしか見えていないぞ。
お前の彼氏と違って俺は子供相手に欲情するような趣味は無いからな。お前の体など俺にとっては全くの無価値だ」
そう言って、はっきりと。突き放してやる。
俺と戦場ヶ原の関係性を再確認させてやるように。
大人と子供。
無理な依頼を頼まれる側と、その依頼人。
――詐欺師と、そのかつての被害者。
俺が言いたい事が伝わったのか。それとも自分の体が無価値と言われた事にプライドが傷ついたのか。
戦場ヶ原は腹立たしいような、悔しいような、そんな顔を浮かべて黙り込んでしまった。
こいつがこんな顔をするのも珍しいな。改めて思うが、俺にこんな交渉を持ちかけるという事自体が
この女にとって相当なストレスになっているのだろう。普段の鉄面皮が全く機能していないぞ。
「……お金なら、払うわ」
そうしてしばらく黙りこんだ後、戦場ヶ原は絞り出したように呟いた。
「お金なら払う。それならば貴方も決して損にはならないでしょう」
「金……金か。お前はさっき俺が金を払えばなんでもする人間では無い、と言った気がしたのだがな。
あれは俺の気のせいだったか」
そう言ってやると、また戦場ヶ原は黙り込んでしまった。
いや、今の返しは正直言ってしまえばただの嫌味でしか無いのだがな。
しかしそれでも、こうして黙ってくれたおかげで、ゆっくりと考える事が出来る。
何を、だと?
この依頼を受けるか、蹴るか――それを考えるに決まっているだろう。
008
さて。静かになった所で俺は自問自答を開始する。
普段は鏡の中の自分に向かって問いかけるといった作業なのだが、今はさすがに戦場ヶ原の前なので、頭の中だけで行う事にした。
今の戦場ヶ原の前でブツブツとひとり言など始めたら、下手したら動揺のあまり泣いてしまうかもしれないからな。
それはそれで見てみたい所ではあるが。
それでは。
改めて貝木泥舟。俺は戦場ヶ原のこの依頼を引き受けるつもりか?
――NOだ。普通に考えればこのようなふざけた依頼、断って当然だ。
長々と話を聞いてそれらしい理由を述べられた所で、結局の所これは大学生カップルの我儘な、
ノロケ混じりの悩み相談なのだから。そんな物に大人が付き合ってやる道理などあるはずも無い。
ならば何故俺は悩んでいる?
口ではあんな事を言って いたが、やはり俺は戦場ヶ原を抱きたいのだろうか?
いいや、答えはNOだ。
俺は嘘吐きの詐欺師だが、さっき戦場ヶ原に言った事は嘘ではない。あいつの体に俺は何の価値も感じていない。
それでは俺は憎まれ口を叩きながらも、純粋に戦場ヶ原の力になってやりたいとでも思っているのか?
無論、これも応えはNOだ。
俺は戦場ヶ原に対して特別な感情など一切持っていない。何度も言うようだが、俺にとってあいつは
ただの昔詐欺を働いた家庭の娘。知り合いの子供でしかないのだ。
ならば戦場ヶ原が神原駿河の敬愛する先輩だからか?
それもNOだ。
いくら俺が駿河の奴を気に掛けていると言っても、その先輩の色恋沙汰まで面倒を見てやるなど過保護もいい所だ。
さすがにそこまでしてやるつもりは無い。
ならば俺はいったい何故――
……いや、これ以上無理に言い訳を考える事も無いな。
俺がこの依頼を「受ける」という選択肢を捨てきれない理由。それは何の事は無い。
この俺が阿良々木の奴に、ただのつまらん、ちっぽけな「恨み」にがあるから。それだけだ。
恨み。
そう、恨みだ。そんな言い方をすれば何やら大げさに聞こえるだろうが、実の所そんな大した物でもない。
まずは去年の夏、阿良々木と戦場ヶ原の手によって俺は一つの詐欺を台無しにされた。
もっともこの時の恨みは阿良々木を影縫の奴に売った事で、俺の中ではかなり消化出来ているのだが。
しかしもうひとつ。こちらの恨みは解消していない。
忘れるものか、元旦に戦場ヶ原から受けた依頼。神を欺く依頼。ひとりの少女を騙す、依頼。
阿良々木の事が好きで好きで仕様がなかった女子中学生が、神の力を持って阿良々木と戦場ヶ原をぶっ殺す。
その計画を止めて欲しいという依頼だった。
前述の通り騙す事には失敗したが、女子中学生を止めて神の力を奪い取る事には成功したので
結果として俺は阿良々木と戦場ヶ原の命を救っているのだ。
しかもキツイ山道を毎日登らされるわ、騙し損ねた女子中学生に拘束されて足で蹴られるわで、
正しく体を張って、命がけで護ってやったのだ。泣いて土下座して感謝して貰っても良い程の事をしてやったつもりだ。
しかしその仕事の最後、全て片付いた後に俺と女子中学生の前に現れた阿良々木の奴は、事もあろうかこの俺に
「その子に何をした」
「もう二度とこの街に来るんじゃなかったのか」
などと抜かしやがったのだ。
阿良々木は俺が戦場ヶ原からの依頼で動いている事を知らないのだから仕方がないのではないか、と思うかもしれないが
ハッキリ言ってしまえばこの場合は阿良々木の無知こそが罪だ。
自分と恋人の命がかかっている状況で、恋人が独自に動いている事 に1カ月以上気付かず、挙句解決されてまで気付かなかった事。
それが阿良々木の罪なのだ。
こんな無知で愚鈍な男が戦場ヶ原の恋人なんかをどうして務められているのかと、
あまりに解らな過ぎて腹を立てたものだ。
しかも単純にあの事件の元凶は他でもない阿良々木暦だったからな。
奴がいなければ俺がボコボコにされる事も無かったし、その時折れた歯を差し歯にする金も払わなくて済んだ。
恨むなという方が無理な話だろう。
こんなでっかい恨みがあるのだから、そいつを晴らすためになる事ならやってやりたくなるのだった。
俺がこの依頼を受けて戦場ヶ原の思惑が成功すれば、結果として奴ら二人にとって俺は感謝されるような親切を働いた事に
なるのかも知れない。しかしそれでも、戦場ヶ原を抱いている時だけに限って言えば、俺は阿良々木に対して
『ざまぁみろ。お前の大好きな女は、お前が大嫌いなこの俺が抱いてやっているぞ。どうだ、悔しいだろう』
と思う事が出来るだろう。
……小さい。
改めて考えると、どれだけ人間の小さい事を考えているのだ俺は。大学生のガキ相手にムキになる中年など見るに堪えん。
アブラゼミの方がよっぽど寛大なのではないだろうか。7年も土に籠って我慢している奴らに比べて、
1年前の事をいつまでもズルズルと引きずっている俺はなんとちっぽけなのだろう。
――だがしかし。
それで良いのではないだろうか。
小さくてちっぽけな動機であっても、それによって俺の気が晴れるのなら。俺の中で引きずっている事を解消出来て、
おまけに金まで貰えるのであれば、それは俺にとって渡りに船なのでは無いだろうか。
例えそれが俺の名のように泥の船だったところで、結局俺の手元には金が残るのだ。何も悪い事は無い。
俺は俺のために、阿良々木に『ざまぁみろ』と言いたいがために。
この依頼を受けて戦場ヶ原を抱く事は、可能だろうか。
答えは――YESだ。
「わか った。引き受けよう」
そうして俺は自分の中で折り合いを付け、戦場ヶ原にそう宣言した。
実に論理的な思考が出来たと思う。さっきまでの感情に駆られて依頼を引き受けようとしていた俺に比べて大きな進歩だ。
最終的に感情の問題になったような気もするが、気のせいに決まっている。
まったく、さすがは俺だ、この短時間で確実に進化している。やはり戦場ヶ原が俺に追いつく事は一生出来ないだろうな。
くっくっく。
「え……?本当?本当に一晩、私に付き合ってくれるの?」
「引き受けると言っただろう。いくら俺が嘘吐きの詐欺師でも、金になる依頼を受けるかどうかまで嘘を言う事は無い。
お前があまりに情けなく みっともなく懇願するのだからな。心優しい俺が見るに見かねて言う事を聞いてやる気になったんだよ」
などと嘘を吐いてやる。
「ありがとう……!本当に感謝するわ」
「するな。俺はただ単にお前から金を貰って依頼をこなすだけだ。感謝される理由など無い。
それで、お前が俺に払う金と言うのはいったい幾らだ?」
「ええ……。それなんだけどね」
と、具体的な金の話になった所で、途端に戦場ヶ原は渋り始める。
なんだ?今更になって金が惜しくなったのか?
「いいえ、そういう訳じゃないの。具体的な金額なのだけれど……前回は貴方に10万円で詐欺を働いて貰ったでしょう?
勿論それが破格のサービス価格だったというのは理解しているわ。
だけど今回私が貴方に依頼しているのは、貴方が普段している詐欺とは全く違う業務内容じゃない。
だから何と言うか、基準。相場がわからないのよ。いったいいくら払えば良いのか見当がつかないの。
そこで出来ればなんだけれど、金額は貴方が指定してくれないかしら?その……私が払えそうな範囲でお願いしたいのだけれど」
なるほどな。そういう事か。
確かに詐欺師を相手に買春を行う時の相場など、予想出来るはずもない。というか相場があるほど事例が無いだろう。
ひょっとしたら本当に世界初なんじゃねえのか。
しかしこの俺相手に言い値で構わないと言うなど 、本当に下手に出ているな戦場ヶ原。
何だかんだで俺に無理を言っているという自覚はあるのだろう。
しかし金額……金額、か。
どうしたものかと俺も一度考えた末―――
「2万でいいぞ」
そう言った。
「えっ……2万!?それでいいの!?」
すると戦場ヶ原の奴は心底驚いた顔で聞き返してきやがった。
まあ、俺の事だからその10倍くらいの金額は吹っかけてくると予想していたのだろうが。
「ああ、構わん。というのも、俺はあくまで詐欺のプロであって、女を抱くプロでは無いからな。
専門外の事をするのに普段通りの報酬など受け取れんよ。多額の報酬を要求したところで、プロでは無い俺が
それに見合ったサービスを提供出来るかも怪しい所だからな。その代わり戦場ヶ原、例えお前の思惑が
上手くいかなかったとしても、返金には応じないからそのつもりでいろよ」
「なるほど……わかったわ。貴方の事だからその10倍くらいの金額を吹っかけてくると予想していたから、正直助かるわ。
返金を要求する事もしない。それで契約成立ね。私は貴方を今夜一晩、2万円で買うわ。」
「ああ、それでいい」
こうして俺こと貝木泥舟は戦場ヶ原ひたぎに、2万円で売春をする事になった。
……改めて文字にしてみると酷いな。
中年の男が売春する話など、どこの誰が読みたいと思うのだろうか。
「ふふ、さしずめ ホ別ゴ有20k、といった所かしら」
そして何を言っているんだこの女は。
009
かくして商談を終えた俺たちは店を後にした。会計は勿論、戦場ヶ原持ちだ。必要経費なのだから当然だろう。
そういえば阿良々木の奴は戦場ヶ原と飯を食いに行く時などは奢ってやっているのだろうか?甲斐性が無さそうだからな、奴は。
いや、全く興味が無いのだけれど。
「それじゃあ貝木、ここで渡しておくわ」
そうして会計の際。ついでとばかりに戦場ヶ原は俺に2万円を渡してきた。
これで商談成立だ。会計をしているこの店の店員も、まさかこれが女子大生が中年を買春している金だとは思うまい。
いや、そんな風に思う奴がいる訳無いのだけれど。
などと思いながら店の外に出る。
「戦場ヶ原。ちなみに言っておくがホテル代は別にいらん。
俺が宿泊しているホテルがダブルの部屋だからな。そこを使って構わん」
「あら、至れり尽くせりね」
「勘違いするな。俺はお前の金銭事情のせいで安ホテルに泊まらされる事を危惧しているだけだ。
俺は高級ホテルに泊まるのが好きだが、安ホテルに泊まるのは死ぬほど嫌いなんだよ」
そう言って俺はホテルに向かって歩き出す。
――と、
「待って、貝木。このまますぐにホテルに向かうつもり?まだ21時前よ。少し早いんじゃないかしら」
「……何?ならばどうだと言うんだ。どこかで無意味に時間を潰すのもナンセンスだろう。
それならまだホテルに行ってしまった方が良いんじゃないか」
「何も無意味に時間を潰す訳じゃないわ」
と、戦場ヶ原は似合わんウインクなどをして
「私、大阪観光をしたいのよ」
……その後俺たちは道頓堀の周辺で、名所という名所を巡りまくった。
その時の戦場ヶ原のはしゃぎっぷりと言ったら、酷い物だったがな。
心斎橋のモールでウインドウショッピングをして。(既に多くの店が閉まっていたが)
グリコのネオンと並んで写真を撮り。(シャッターは基本的に俺が押してい る)
たまたまその時道頓堀に展示されていた「くいだおれ太朗」と並んで写真を撮り。(帽子と眼鏡を捨てた事を後悔していた)
有名な蟹料理屋の動く看板と並んで写真を撮り。(いや、お前が蟹と並んで写真なんて撮っていいのか?)
道頓堀周辺の歩いて回れる範囲だけだったが、絵にかいたような大阪観光をしたのでは無いだろうか。
大阪城に行けなかった事には不満そうだったが。
――ちなみに何故俺がそんな大学生の観光に付き合ってやったかと言うと。
『あら、私は言ったわよね?貴方を今夜一晩、2万で買うと。貴方はそれを承諾したはずよ。
つまりこの一晩の内なら貴方は私の観光にも付き合う義務がある わ。お金はもう受け取ったでしょう?
いくら貴方が詐欺師と言っても、契約はきちんと守って貰わないと』
あろう事か戦場ヶ原は俺の言質を取って従わせたのだ。
……いや、これはもう詐欺だぞ。あの女、ついに詐欺師を詐欺にはめやがった。
というか俺は既にこの道頓堀観光だけで相当に疲れた。妙にテンションの高い戦場ヶ原を相手に延々歩きまわったり、
写真を撮ってやったりと大忙しだ。これだけで2万円分くらいの働きをしたんじゃないのか俺は。
しかし何なんだこの戦場ヶ原のはしゃぎっぷりは。まるで初デートにうかれる女子大生ではないか。鬱陶しい。
「ふぅ……満足したわ。それじゃあホテルに向かいましょうか」
戦場ヶ原がようやくそう言った時には、時計の針は既に23時を指していた。
この寒空の下で2時間も歩いていたのか俺たちは。
まあ、戦場ヶ原がナンパ橋の上で声をかけてきた連中に対して、眼球にペンを突きたてようとして騒ぎになり
俺まで巻き込んで全力で走って逃げると言うようなドタバタ逃走劇まで演じさせられたのだ。
そのくらいの時間は経っていて当然か。
「ふふ……あれは傑作だったわね。ナメとんのかいワレ!だなんて、本当に漫画のような台詞を言うものだから
思わず笑ってしまったわ。それにしても貝木、貴方意外と足が速いのね。正直驚いたわよ」
ああそうかい。それは良かったな。それより俺はあの逃走劇のせいでかいた汗がすっかり冷えてしまって、
凍え死にそうだ。早いとこ温かいホテルの部屋に入りたいんだよ。
そうしてようやく俺たちは、俺の宿泊している高級ホテルのロビーへと辿りついた。
隣を歩く戦場ヶ原の顔が、心なしか緊張しているように見える。
……ふん。気のせいだな。こいつがそんな可愛い女なはずがあるかよ。
010
「1801号室の貝木だ」
フロントにそう告げ、ホテルマンからカードキーを受け取る。
それからすぐに俺の後ろにいる戦場ヶ原に気付いたようで。
「ご予約されていた、お連れ様でしょうか?」
と確認をされた。
「ああ 。チェックインの時に名前はもう伝えているだろう」
「はい。貝木ひたぎ様ですね?ごゆっくりどうぞ」
「……は?」
――とまぁ、さすがに戦場ヶ原は声にこそ出さなかったものの。
豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしたかと思うと、不審に思われてはいけないと思ったのか
「よろしくお願いしますわ」
と、似合わん作り笑顔をホテルマンに向け。俺と腕を組んでフロントを後にした。
エレベーターに乗ったところで戦場ヶ原は俺の腕を振り払うと、人でも殺しそうな目で睨みつけてきやがった。
「……ちょっと、どういう事よ。何故私の名前で予約を取っているの?」
「たまたまだ。俺は二人用のダブルルームをシングルユースするのが好きなんだが、予約状況によっては
断られる事があるからな。予め二人分の名前で予約を取って、相手が遅れている事にして一人で使っているんだよ」
「そういう事情なのはわかったけれど、どうして私の名前を使っているかを聞いているのよ」
「たまたまだと言っただろう。俺は知り合いの女の名前を適当に使っているだけに過ぎんよ。今回は貝木ひたぎだが、
この前は大学時代の同期の女の名前だったし、その前は高校の時に家庭教師をしてくれていた人妻の名前だった。
生憎だがお前の名前を使ったのは偶然としか言えんよ。気分を害してしまって悪かったな」
「…………本当よ。気に食わないわね」
なにやら途端に不機嫌になってしまった。まあ俺のような人間に名前を勝手に使われたら不愉快にもなるか。
しかしまぁ、今日はこのまま一晩こいつと二人で過ごさねばならんのだ。愉快に機嫌を取ってやらなければならんか。
などと考えている内に、部屋の前に着いてしまった。仕方ない、機嫌を取るのは後回しだ。ひとまず中に入って暖を取りたいしな。
「着いたぞ。……どうした、入って来い」
ドアを開けて部屋に入り、振り返ると。先ほどまでの不機嫌そうな顔はどこにいったのか。何やら不安そうな、緊張したような顔で
入口に立ちすくむ戦場ヶ原の顔が目に入った。
……なるほどな。俺は戦場ヶ原の事を鉄面皮どころか全身鉄で出来ている鉄人間のような奴だとは思っていたが、
あくまでそれは俺の勝手な想像であって、実際はそういう訳では無いのだろう。
こいつがただの、19歳の女子大生である事こそが事実なのだ。
抱かれるために男の部屋に入る、という状況に、さすがに緊張も不安も出てしまうのだろう。
……仕方がない。今日のこいつは依頼人だ。エスコートしてやるのも仕事の内だろう。
「そう硬くなるな。なぁに、俺は大人だからな。取って食うように襲いかかったりはしない。
それよりこの部屋の夜景は中々の物だぞ、戦場ヶ原。この位置からならお前の大好きなグリコのネオンも見下ろせる」
「……貴方が私に優しいなんて気持ちが悪いわね」
憎まれ口を叩きながら部屋に入って来た戦場ヶ原は、不安や緊張の色が少し薄れているように見えた。世話の焼ける女だ。
しかしこいつは人を罵倒しながらでないと喋れないのだろうか。
もしかして照れ隠しなのか?どうでも良い事なんだがな。
荷物を置いた戦場ヶ原は手持ちぶさただったのか、言われた通りに夜景を眺めている。
そういえばこいつは昔から星を見るのが好きだったな。田舎暮らしで見慣れていないだろうが、夜景も好きなのかもしれない。
「夜景が堪能できたのならシャワーを浴びて来い。お互い汗もかいているだろうし、お好み焼きの油の匂いが染みついているからな 。
俺もお前も油臭い相手と抱き合うような趣味は無いだろう」
「全く……せっかくこんな夜景があると言うのに、貴方はロマンチックな台詞ひとつ言えないのかしら」
「こんな夜景なんかよりもお前のほうがずっと綺麗だぞ、ひたぎ」
「………………私が悪かったわ」
心底気持ちが悪いといった顔をした戦場ヶ原は、支度をしてすぐにシャワー室へと消えて行った。
失礼な奴だ。折角俺が詐欺を働く時にしか見せないようなリップサービスを披露してやったというのに。
……さて。
いよいよ今から、俺は戦場ヶ原を抱く訳だ。今更ながらに実感が沸いてきた。妙な気分だ。
妙な気分――そう、本当にそう表現するのが最も適切だろう。
戦場ヶ原ひたぎ。
蟹に行き逢った娘。
金持ちの娘。
不幸な娘。
信じた男に、騙された娘。
思えばそうだな。阿良々木の前では戦場ヶ原の初恋の相手は俺だ、などと言ってうそぶいたが、俺に騙されるまでのあいつは
俺に好意こそ向けていなかったが、尊敬の目のような物は向けていたように思う。俺の自惚れでないのであればな。
久々に再開した戦場ヶ原の話し方というか雰囲気というか、安っぽい言い方をすれば「キャラ」のような物は、
どこか俺の影響を多分に受けているように思えた。
だからこそ俺はあいつの事を「女」として見る事が出来ないのかも知れない。
知り合いの子供というのは方便だな。どちらかと言えば親戚の子供……いや、それも違う。
もしかしたら俺はあいつを自分の娘のように感じているのではないだろうか。
――さすがにそれは笑えない冗談だ。
本当に、笑えない。
下らん事を考えている内に戦場ヶ原のシャワーは終わったのか、ドライヤーの音が聞こえてきた。
いかんな、俺も準備をしなくては。
戦場ヶ原からの電話を受けた後、俺は万が一依頼を受けた時の事を考えて、色々と用意をしていたのだ。それらの最終確認を行う。
……俺の戦場ヶ原に対する想いなど、どうでも良い。俺は今日は依頼を受けて、仕事として、戦場ヶ原ひたぎを抱く。それだけだ。
むしろ俺としては戦場ヶ原の心境の方がよっぽど興味があるがな。殺したいほどに憎い相手に抱かれるなど。
まったくもって人生何が起きるかわかったものではない。
「……お待たせ」
シャワー室から出てきた戦場ヶ原は、バスローブ1枚の格好だった。
もったりとしたタオル地のバスローブ。わずかに体のラインが浮かび上がっていて多少は色気を感じさせる。
ふむ。意外だな。この女の事だからてっきり全裸で堂々と出てきそうな物だが……
いや、そういった俺のイメージは勝手な想像だとさっき思い直したばかりだったな。
こいつは結局ただの19歳の女子大生なのだ。
シャワーを浴びてバスロー ブを着たせいか、また緊張したような顔になっている。
「ああ。では今度は俺が入ってこよう。ところで戦場ヶ原、ワインは飲めるか?」
「え?ああ……お酒は人並みには飲めると思うけれど」
「そうか。ならばそこに備え付けのワインセラーがある。好きな物を飲んで待っていろ」
言って、俺もシャワー室に向かう。
なに、少し酒でも入れば緊張も解けるだろう。
今日の俺はとことん大人として、あの女子大生をエスコートしてやろう。
紳士的にな。
011
シャワーを終えた俺の目に飛び込んできたのは、ワイン1本を空にして2本目のボトルに手を付ける 戦場ヶ原の姿だった。
「あら貝木、随分と長風呂だったじゃない。待ちくたびれて1本空けてしまったわ」
いや、俺の入浴時間は15分くらいだったはずだが……。
「それにしても貴方、写真を撮るのが上手いわね。ほら、ライトアップされた蟹の看板を背負って撮っているのに
私の顔も看板も綺麗に映っているわ。あまり高価なデジカメでは無いから正直映りに期待はしていなかったのだけれど」
「……俺の写真の腕を褒めるのは結構だが、そんなペースで飲んで大丈夫なのかお前は?ワインは飲みやすいが意外と回りやすいぞ」
「大丈夫よ。大学の新歓とかいう浮ついたイベントでさんざん飲まされたけれど 、結局最後まで酔わなかったわ。
さすがに疲れて途中で眠ってしまったけれど……起きてから阿良々木君に聞いても、私は全然酔ってなかったと言っていたし」
その証言はどうにも信用できんのだが。
しかしまあ、確かにこの女が酒に弱いイメージは無いな。大学を卒業して社会に出たら、
仕事帰りにワインとチーズでも嗜む生意気なOLにでもなりそうな感じだ。酒は元々強いのだろう。
「ねぇ、貝きゅん」
訂正しよう。こいつ、酔ってやがる。
「人を買春のような呼び方で呼ぶな。俺の名前は貝木だ。買春しているのはお前の方だろう」
「失礼。噛みました」
「違う。わざとだ」
「かみまみた!」
「わざとじゃない!?」
「蟹が下?」
「さっき撮った写真の事を言っているのなら、下に映っているのはお前だ戦場ヶ原!
もっとも完全に否定し切れる程お前が蟹じゃないとは言い切れないが、蟹は上だ―――!!!!!」
…………と。
阿良々木の奴だったらこんな風に親切にツッコミを入れるのだろうが。
生憎と俺はそんなおふざけに付き合ってやれるほど人が良い訳ではない。
俺は良く見れば潤んだ目をして顔を赤くしている戦場ヶ原から手早くワイングラスをひったくると、
そのままの流れで戦場ヶ原の体を持ち上げた。
「きゃあ!?ちょ、ちょっと!?」
「お前はもう飲むな。少し横になっていろ」
言って、ベッドに横たえてやってから、冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出し枕元に投げてやる。
「酔いがさめるまで何もしないぞ。俺はホテルに連れ込んだ女を酔わせて抱くような趣味は無い。
緊張しているのかも知れんが、酔って記憶が曖昧になったら、わざわざ俺に抱かれる意味が無くなるだろう。何をやっているんだお前は」
自然、攻めるような口調になってしまった。
いかんいかん、今日の俺は紳士的にこいつをエスコートすると決めたばかりだというのに。
「……ごめんなさい」
さらにバツが悪そうに謝られてしまった。いかんな、やはり俺は紳士になどなりきれないのだろうか。
「貴方の言う通りよ。私、緊張しているの。……笑っちゃうでしょう?いつも生意気な口ばかり叩くこの私が。
今から貴方に抱かれる事に緊張している。本当につまらなくなったわね、私」
どころか、悟られたくないであろう事まで自白させてしまった。
本物の紳士がこの場にいたら殴られてしまう程に紳士失格な俺だった。
ううむ、やはり俺には紳士など向いていない。それでも俺なりにこの女の事を気遣ってやらないとな。
「……いや、笑わんよ。お前がどれだけ虚勢を張った所で、所詮は19歳の小娘だ。そんな事、俺はわかっているからな。
小娘なら緊張もするし、空回って酔い潰れる事もあるだろう」
「今日の貴方は本当に優しいのね……。調子が狂うわ」
「大人の男だからな、俺は。これから抱く女に対して優しくするなど、紳士の嗜みという物だ」
「ふふ……何よ、それ」
言って、横になった体勢のまま、俺の方を向く戦場ヶ原。
「ねぇ、貝木。お話をしましょう」
012
改まって『話をしよう』などと言われたものだから思わず身構えてしまったが、
蓋を開けてみたら何の事は無い。ただの雑談だった。
戦場ヶ原の酔いがさめるまで、1時間。俺たちは下らない雑談に興じた。
戦場ヶ原がついこの間まで通っていた高校の話。
大切だという友人たちの話。
大学に入ってから出来た交友関係の話。
ゼミで出来た友人と初めて飲み会をしたという話。
……こいつの交友関係は広くは無いが、濃い人間が多いようだ。
それに対して俺も俺自身の高校や大学時代の話をしてやった。
勿論、ほとんどが嘘なのだが。戦場ヶ原も話半分と言う感じで聞いていた。
それでも俺が高校時代に神原駿河の母親と知り合いだったという話には信憑性があったらしく、
大層驚いていたがな。
大学生時代の忍野の話なんかも食いつきは良かった。
というか、あの時のサークルのメンバーも濃い人間ばかりだったからな。
興味は沸いてくるだろう。
ただ。
お互いに怪異の話はしなかったし。
俺と戦場ヶ原が出会った頃の話。すなわち、俺が 戦場ヶ原一家を騙した頃の話は
二人とも示し合わせたように。暗黙の了解のように避けていたのだが。
ともかくそんな風に1時間。俺たちはダラダラと、下らない、楽しいばかりの雑談をしていた。
その姿は傍目に見たらどう映るのだろうか。
普通の恋人同士のように、映るのだろうか。
――――どうでも良い事だがな。
「ありがとう……。もう大丈夫そうよ」
そうして話がひと段落した所で。戦場ヶ原はベッドから起き上がった。
顔の赤みも大分引いたようだし、雑談のおかげか、もう緊張もしていないようだった。
確かにもう、大丈夫なようだな。
「そうか……。それじゃあ、始めるか」
「ええ」
始めよう。この俺、貝木泥舟が。
戦場ヶ原ひたぎを、一人の女として扱う。
恐らくこれが、最初で最後の夜だろう。
「よろしく、お願いするわ」
013
ベッドの上。戦場ヶ原の隣に腰かけた俺は、まずその細い体を正面から抱きしめた。
「んっ……」
お互いにバスローブ1枚しか着ていない。戦場ヶ原の柔らかい体の感触が伝わってくる。
「戦場ヶ原……」
「な……なに?」
「今から俺はお前に、1匹の怪異を憑かせる」
「―――えっ?」
がぶりと。有無を言わさず、俺は戦場ヶ原の細い首筋に噛みついた。
当然、驚いたのか小さな悲鳴を上げる。
「ちょ……ちょっと、何をしたの!?」
「安心しろ。痕は残らん」
「そうじゃなくて、私に……一体何を憑かせたのよ!?」
「守手の犬」
「すでの……いぬ……?」
夕食をとった店で戦場ヶ原からの依頼を受けると決めた時から。
俺はどうやってこいつの依頼を完遂するかを考えていた。
幸い考える時間はたっぷり二時間もあったので、考えをまとめてからこっそりと準備をする時間もあったのだ。
阿良々木の攻めに耐えられるようにする、という依頼はしかし、
単に俺が抱いて満足させてやるだけでは完遂できないと、俺は考えていた。
何故なら戦場ヶ原が阿良々木にベッドの上で勝てない、と言っていた事の要因は、
本人も言っていたが単純に阿良々木のテクニックがずば抜けているという訳では無いからだ。
阿良々木の優しさが、阿良々木を想う戦場ヶ原の気持ちがあるからこそ、戦場ヶ原は阿良々木に骨抜きにされている。
ならば例え俺が阿良々木以上のテクニックを駆使して戦場ヶ原を抱いてやったとしても。
その後で阿良々木に抱かれた時に、そんな肉体的な快楽の差を気持ちで補われてしまっては。
結局のところまた、阿良々木との行為によって簡単に骨抜きにされてしまうだろう。
それでは意味がないのだ。
ではどうすれば良いのか。身体の快楽だけを与えても気持ちが伴わなければ意味が無いのなら、どうすれば良いのか。
それを考えた末に俺が出した結論は……
戦場ヶ原を、俺の犬にしてしまえば良いのだ。
「そう。守手の犬。こいつは忠犬の怪異だ。古くから存在する低級怪異でな。
主人が帰って来なくなっても言いつけを守り、自らが朽ち果てるまで門の番をし続けた哀れな忠犬のなれの果てだ」
「なぜ……そんな怪異を、私に……?」
「こいつは肉体が滅び主人の命すら忘れてしまった後も、その忠義心のみが残り続けて彷徨っている怪異でな。
そしてこいつは人に憑いた場合……。けしかけた人間に対して、無条件での敬愛と忠誠心を抱き服従してしまうのさ」
守手の犬。
捨ての犬。
既に居ぬ。
既に居なくなった主人に対する絶対的な忠誠心。それを植えつけられた戦場ヶ原は、俺の事を主人として尽くすだろう。
そう……。まるで、大好きな阿良々木に対してそうするように、な。
気持ちが伴わないのなら、それを植えつけてしまえば良い。
阿良々木に対しての気持ちと同じ物を俺に対して抱かせた上で、阿良々木がする以上の快楽を与えてやる。
そうすれば例え阿良々木と気持ちの伴った行為を行った所で、絶対的な快楽の差が正しく「差」として作用する。
それならばもう戦場ヶ原が阿良々木の攻めに屈する事など無くなるだろう。
例えその後どれほど二人の間に性的な欲求不満が出来たとしても、そんな物は俺には関係ないからな。
詐欺師である俺は元々アフターサービスなど専門外だ。もっとも、今やっている「仕事」自体が専門外なのだが。
「忠誠心……?私が、貴方に?貴方にしてはなかなか笑える冗談を言うのね……。
第一貴方は偽物なんだから、そんな怪異を使えるはず無いじゃない。確かに私は怪異に憑かれた事がある身だけれど、
偽物と解っている物にとり憑かれる程の愚か者ではないわ。私の彼氏じゃあるまいし」
「ふん……随分と饒舌だな、戦場ヶ原。どうした?何か良い事でもあったのか?よし。ではそうだな ……」
「お手」
.
「……どうした、戦場ヶ原。お手だ、お手をしろ。わかるか?お手は。お前のその右手……いや、右前脚か。
そいつを俺のこの掌に乗せるんだよ。利口な戦場ヶ原なら出来るだろう?さあ、やれ」
早速、犬と称した戦場ヶ原に命令を行う。
こんな事を言ったら案外短気なこの女は憤慨して俺にミネラルウォーターをぶっかけるかも知れない。
どころか殺されても不思議では無いな。戦場ヶ原ひたぎとはそんな女なのだ。
――ところが。
ところが戦場ヶ原は、そんな犬扱いをされたというのに、憤慨どころか……
俺から目を逸らして、何かを逡巡するようなそんな顔をしている。
そうして思い悩んだ末、ゆっくりと――おずおずと、右手で軽く作った拳を、俺の顔面に……ではなく
俺の差し出した掌に置いた。
「な……なん、で……」
「言っただろう、これが守手の犬の力だ。だが安心しろ、こいつは低級怪異だからな。
今夜一晩くらいで、すっきりと消えてしまうような物だ。後遺症の心配などするなよ」
お手をしている。戦場ヶ原が、この俺に。俺たちの関係性を知っている者からすれば信じられない光景だろう。
まぁそれでなくとも、バスローブ一枚の男女がこんな事をしている姿は、傍目にはどう映っているものか。
俺はチラリと、部屋に備え付けられている姿見に視線を移す。
……なるほど、如何わしい事この上無い絵面だ。
しかしこれでわかった。守手の犬はどうやら問題なく、戦場ヶ原に居着いたようだ。
もっとも戦場ヶ原の言うとおり、俺はあくまで偽物なのだから、そんな俺の遣う怪異も当然、偽物なのだが。
タネを明かしてしまえば、催眠術のような物だと思ってくれて構わない。
余裕たっぷりで見栄を張っていたものの、そんな粗末な偽物にあの戦場ヶ原が引っかかってくれるか、という事は、
かなり分の悪い賭けだった訳だが……。どうやら上手くいってくれたらしい。
やはり只の女子大生である戦場ヶ原は、場の雰囲気と体に少し残ったアルコールに都合よく飲まれてくれたようだ。
「ふむ……良い子だ、戦場ヶ原。褒美に褒めてやろう」
言って、俺は戦場ヶ原の頭を、撫でてやる。
主人が飼い犬にするように、わしわしと。可愛がるようにだ。
「ん……ちょ、ちょっと……やめてよ。こんな、子供みたいな……」
言って。恥ずかしそうに目を伏せる戦場ヶ原だったが、しかし。抵抗したり俺の手を振り払うような真似はしない。
「子供ではなく犬だと言っただろう」
念を押 すようにそう言って、俺は撫で続ける。
頭だけでなく、首を。耳を。
その度、戦場ヶ原は小さく声を上げる。ふむ、耳が弱いのだろうか?
そのままゆっくりと、時間をかけて体中を撫で回してやる。肩を、背中を、脇腹を。
しかしそれはあくまで飼い犬にそうするような手付きで。性的な部位などには一切触れずに、本当に可愛がるように。
流石に下腹部まで撫でてやると、戦場ヶ原はビクリと身をよじったりしたのだが。
しかし何分もそんな事をしている内に、バツが悪そうな顔をしていた戦場ヶ原は少しずつ。
目を潤ませ、顔も赤くなり。息を荒くしていった。
「どうした?戦場ヶ原。俺はただ犬であるお前を可愛 がっているだけだぞ」
「そ……そんな事を言われても……ああっ!?」
先程まで背中を撫でていた手を、そのまま――尻に持っていってやった。
今までのそれとは違う手付きで、思い切りいやらしく。
撫でる手付きから次第に、揉みほぐすような手付きで。
「や……ちょっと、んっ……!」
ぐにぐにと、俺の手で弄ばれる戦場ヶ原の尻。元々陸上をやっていた上に、今もスタイル維持のためトレーニングを怠っていないのだろう。
ハリのある、それでも柔らかい尻の感触が、バスローブのタオル地越しに伝わってくる。
俺は片手でその感触を味わいながら、もう一方の手で戦場ヶ原の首筋を、耳を撫でてやる。
元々荒くなってきていた戦場ヶ原の吐息は更に熱っぽさを増し。
火照った体の温度が伝わってくる。
「いやらしい奴だな、戦場ヶ原。ただ可愛がってやっているだけだと言うのに、発情したメス犬のようだぞ。
……ああ、今のお前は犬だったな」
「そんな……んっ、そんな手付きで触られたら……こうも、なるわよ……はぁっ」
「ふん、俺のせいとでも言いたいか。まぁ良いだろう。では戦場ヶ原、次の命令だ」
「脱げ」
.
「――っ!」
言ってやると、戦場ヶ原は少し身を固くし……
それでもしかし、俺の命令に逆らえない状態であるから、おずおずと。
自らの手で、自分のバスローブの帯紐を解き。
ゆっくりと、その裸身を露わにした。
「……これで、いいの?」
「ほう……」
露わになった戦場ヶ原の体は、なるほど。
美しいと――不覚にもそう思わざるを得ない物だった。
風呂上りで素肌に直接羽織っていたバスローブの下には、当然下着など見に付けておらず。
程よい大きさの胸は少し赤みを帯びて、下着無しでもしっかりと形を保つほど張りがあって。
モデルのようにくびれたウエストは、体系維持のための日頃の努力が伺える。
ぴっちりと閉じられた太腿の上から覗くアンダーヘアも、綺麗に整えられている。戦場ヶ原らしいな、と場違いな感想を抱いてしまった。
しかしこうして見ると、なるほど。自分で言う程の体をしている。これでは流石に俺も『子供』と称する事は出来ないだろう。
「ふん、言うだけの事はあるな、戦場ヶ原。いやらしい、いい体をしているよ」
「……お褒めに預り、光栄ね」
それでも懸命に生意気な口を叩く戦場ヶ原はしかし、表情からはすっかり余裕を無くしていて。
俺はそのまま先程のように、戦場ヶ原の体を……今度は直接素肌を、撫でてやる。
「ん……あぁっ、はぁっ……」
背中を、下腹部を、脚を。
先程までとは違い、はっきりといやらしく。愛撫としての触り方で、撫で回 してやる。
今まで一切触れてやらなかった、張りのある胸も。下から持ち上げるように手に取り、揉みしだいてやる。
「んうっ……!」
途端、ピクリと身をよじる戦場ヶ原。
引き締まった尻とはまた違う、柔らかい胸を、ゆっくりと、愛撫する。
「んっ……はぁ……はぁ……」
どんどん息が荒くなり、熱っぽさを増してゆく。しかしそれでも俺は、その胸の先端には触れてやらない。
ここに来てなお、俺は戦場ヶ原の決定的な部分には一切触れずに愛撫を行っていた。
「ん……ふっ」
更に時間をかけて、ゆっくりと。戦場ヶ原の体を攻め続ける。
若い阿良々木とは決して、こんな回りくどいプレイはしてこなかったのだろう。
熱っぽさを帯びる戦場ヶ原はもう、もどかしさを覚えて耐えきれなくなってくる頃合いだ。
「ね……ねぇ、貝木……お願い、もう……」
案の定、根をあげた。
「なんだ?主人に意見するのかお前は。まったく、どうしようもない駄犬だな」
勿論これはただの嫌味で、意地悪だ。俺は戦場ヶ原の体から一度手を離すと、ベッドの横に置いておいた鞄に手を伸ばす。
「だが俺は自分の飼い犬には優しい男だからな。お前が物足りないと言うのなら――」
「玩具で、遊んでやろう」
014
俺は鞄から、予め用意しておいた玩具……いわゆる、ピンクローターを取り出す。
「え……」
途端に不安そうな顔をする戦場ヶ原。
「どうした戦場ヶ原。こういった物を見るのは初めてか?」
「その……ビデオでは見た事はあるけれど、現物は……初めてよ」
正直に白状する戦場ヶ原。
まぁ、話を聞く限り阿良々木の奴はこんな物を使ってくる事は無かったのだろうな。
不安そうな戦場ヶ原を他所に俺はローターを手で包み込むように持ち、スイッチを入れる。
途端、ヴーンと……モーターの震度する音が響く 。
そのまま、ローターを掌で包んだまま、戦場ヶ原に近付いてゆく。
「そう不安そうな顔をするな。たかが玩具だ。きちんと遊んでやるから心配するな」
言って、耳元にローターの入った手を近付けてやる。モーターの振動音を聞かせてやるために。
不安そうに、しかし熱を帯びた視線を俺に向ける戦場ヶ原は恐らく、今からそれが自分の体を弄ぶ事を想像しているのだろう。
さて……。
こうやってローターを掌で包んでいたのは勿論、戦場ヶ原を焦らす意味もあったが、実はそれだけではない。
室内とはいえプラスチックで出来たローターは冷たくなってしまっているので、握ってやる事で俺の体温で温めてやっていたのだ。
折角火照った戦場ヶ原の体を冷たさで驚かせてしまっても、つまらんからな。
俺はこういった心配りも出来る男だ。まったく、自分の優しさに感心してしまうというものだ。
「では戦場ヶ原……玩具で遊ぶのも初めてだろうが、楽しませてやろう」
言って、俺は戦場ヶ原の。
すっかり充血して赤くなったその胸の先端に、激しく振動するローターを。
押し当てた。
「んっ……あぁっ!」
途端、ビクリと体を浮かし、仰け反る戦場ヶ原。
散々焦らされて敏感になった体に、その初めての刺激は強すぎるらしい。
しかしそんな事はお構い無しと、俺は戦場ヶ原の体をしっかりと抱きすくめて固定すると、執拗にローター で先端を攻め続ける。
「あぁぁぁっ!やっ、はぁぁっ!!」
暴れるように身じろぎしながら悶える戦場ヶ原。
普段憎まれ口ばかり紡いでいるその口も、開きっぱなしになって喘ぎ声を漏らすばかりだ。
あんまりじたばたと暴れる物だから俺も面倒になり、そのままベッドに押し倒してやる。
体全体で戦場ヶ原を固定しながら、ローターで左の乳首を執拗に攻め続ける。
「あぁっ、ダメ、こんな……んんっ!」
真っ赤な顔で悶える戦場ヶ原。
もう限界も近いように見えた所で俺は、空いてしまっている右の乳首を、舌でベロりと舐めてやる。
「やっ……あぁぁぁぁっ!!!」
途端、ビクビクと。
今までのそれとは比べ物にならないほどに痙攣して、戦場ヶ原はぐったりと大人しくなった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「なんだ、まさかお前、胸だけでイったのか?とんだ淫乱だな、戦場ヶ原ひたぎ」
「はぁ……んっ、言わない、で……」
「胸だけでイったのは初めてか?」
「ええ……こんな、こんな事……今まで一度も、無かったわ……」
やはり正直に、素直に答える戦場ヶ原。忠犬となった本能なのか、もう逆らう気力も無くなったのか。
俺の下に組み敷かれる形となっている戦場ヶ原は、トロンとした目で俺を見つめるだけだった。
「それは 良かったな。だが、わかっているだろうが、こんな物では終わらんぞ」
「ん……わかってる、わよ……」
015
一度体勢を整えた戦場ヶ原はベッドに座り、今までぴっちりと閉じていた脚を大きく広げ。
さらに自らの性器をその指で広げて、俺の眼前に見せ付けるようにしていた。
……無論、俺がそうするよう命令したのだが。
「おいおい……まだ触れてさえいないと言うのに、もうドロドロになってるじゃねぇか。いやらしい奴だな、戦場ヶ原」
どこぞのエロ漫画のような台詞でなじってやる。
しかし俺の言葉にしては珍しく一切の嘘は無く、まだ触れてさえいない戦場ヶ原のそこはもう 、完全に出来上がっていた。
充血して真っ赤になった穴がヒクヒクと動き、犬のように垂らした涎がシーツにシミを作っている。
恥ずかしげに黙りこくって涙目になっている戦場ヶ原の顔も合間って、とんでもなく扇情的な、
有り体に言ってしまえばエロい絵面になっていた。
扇情ヶ原ひたぎ
………いや、何でも無い。忘れてくれ。
ともかく俺はそんな戦場ヶ原の姿に、またしても不覚にも、見蕩れてしまっていたのだ。
しかし普段生意気で鉄面皮の女が、こんな風に俺の言いなりになって股を開いているというシチュエーションは中々良い物だな。
俺はいわゆる『萌え』という言葉は頭が悪そうで嫌いなのだが、きっとこういう感情の事を言うのだろう。
ところで思うのだが、『見蕩れる』の『蕩れ』という字は中々すごい字面では無いだろうか。
草冠に、湯。草冠に明るいの『萌え』よりも数段上を行くような気がする。
いつの日か『メイド蕩れー』だとか、『猫耳蕩れー』だとか、そんな風に使われるセンシティブな言葉になるのではないだろうか。
ふむ。こんな先鋭的な事を考えつくのは世界中でも俺くらいのものだろう。
後で戦場ヶ原の奴に教えてやるとしよう。
――と、話は逸れたが、そんな蕩れ蕩れの戦場ヶ原は焦らされていると思っているのか……涙目になっていた。
「ね……ねぇ、貝木……お願い、これ以上は ……」
「ふん、うるさい犬だなお前は。そんなにココをいじって欲しいのか?」
俺は全然別の事を考えていた事などおくびにも出さず、戦場ヶ原の下腹部に手を伸ばす。
だが、奴の言いなりになってやるのも面白く無いので、更に焦らすように。
広げられた性器の周りを、ゆっくりと、なぞってやる。
「ん……ふぅ……」
それだけで艶っぽい声を上げる。
しかしこれ以上焦らして戦場ヶ原の体が冷めてしまっても都合が悪いので、俺はいよいよ。
ヒクヒクと物欲しそうに口を開く、戦場ヶ原の穴に、人差し指を挿し入れた。
「ひぅっ……!」
にゅるりと、すんなりと。俺の指が飲み込まれる。
指一本、それも第一関節ぐらいまでしか入れていないというのに、それでも過剰なまでに反応する戦場ヶ原。
挿し入れた指の方にも、熱くなった肉がキュウキュウと、もっと欲しいと懇願するように絡みついてくる。
そのまま少しだけ、入り口を弄ぶように指を出し入れした所で――
すっかり濡れたその指で、充血してぷっくりと膨らんだ戦場ヶ原の女芯をなぞり上げた。
「っあぁ!」
堪らず腰を浮かす戦場ヶ原。
しかし俺は手を止める事はしない。太腿に手を乗せ押さえつけ、執拗にその敏感な部分を攻め続ける。
「やはりここが一番感じるようだな。だらしない顔になっているぞ」
「やっ、ダメ、はぁっ!やめ、やめ、て……!」
「なんだ ?止めてしまって良いのか?」
「……っ!」
しかしそう言いつつも、俺は戦場ヶ原を攻める手を止め、その体から一度離れる。
そしてベッドの横に無造作に転がしておいた『それ』を手に取り――
「せっかく、さっきの玩具で……遊んでやろうと思っていたのだがな」
「……っ!?ダメ……ダメよ、そんな……そんなので触られたら……!」
「駄目?何を言っている。俺の犬であるお前に拒否権などあるはずが無いだろう」
「そんな……っ、あぁぁぁぁぁぁ!!!」
拒否も抵抗も許さず。女芯に直接ローターで触れてやる。
最も敏感な部分を強烈に攻められた戦場ヶ原は、部屋中に木霊するような声で、叫ぶように喘ぎ始めた。
016
結局その後戦場ヶ原は、何度絶頂を迎えたかわからなくなる程に悶え続けた。
先程そうしたように押し倒し、固定した状態でローターを当て続け。
空いた手と口で胸を攻めてやったら、それはもう盛大によがりまくっていたものだ。
途中、戦場ヶ原の汁でベタベタに汚れてしまった俺の指を口に持っていってやった時など、本当に飼い主の手を舐める犬のように、
ペロペロと舐め出したのだから、それはもう傑作だった。
そんな風にしてさんざんイかされ続けた戦場ヶ原はもう、息も絶え絶えといった感じで、ベッドに四肢を投げ出していた。
「おいおい、まさかお前、そのまま寝ちまうつもりじゃないだろうな?流石に優しい俺でも……」
「ご、ごめんなさい……。大丈夫よ、まだ挿れて貰ってない、もの……」
ふん。挿れて貰う、か。
中々に可愛らしい事を言うようになったじゃあないか。
何にせよ俺はコイツが例え気絶でもしたところで、無理矢理突っ込んで起こしてやるつもりだったんだがな。
ひとまず俺は避妊具を取り出そうと鞄に手を伸ばした所で――
「大丈夫よ、そのままで……。私、ピルを飲んでいるから」
とんでもない事を言い出しやがった。
「なん――っ」
なんで、と聞こうとして、そんなもん阿良々木のために決まっていと思い至り、聞くのはやめた。
しかし、大学生カッ プルで避妊の為にピルを飲むだなんて、普通するか?
こいつは尽くす方だという事は知っていたが、それにしたってやり過ぎだろう。トラウマ云々言ってたお前はどこに行ったんだ。
いや、それともそんな俺の感覚が実は古くて、今時の大学生カップルでは普通の事なのだろうか?
……待てよ。あるいは戦場ヶ原が避妊なんていう責任重大な事を、あの間の抜けた阿良々木に任せておけない、という事なのかも知れない。
ふむ、こっちの考えの方が納得がいくな。
まぁ実際の所はどうだか知らんが、とりあえずこちらとしては楽だから構わんのだが。
万一の為にアフターピルまで用意していたのが無駄になってしまった訳だが、リスク回避のための備えが無駄になる事を
俺は損とは思わないの で、良しとしよう。
しかしお前、ゴ有はどうした。ホ別でも無いぞ。
「ふん……準備の良い事だな。それで、挿れて欲しいと言うのなら、何をボーっとしている」
「え……?」
「今のお前は俺の犬なのだろう。お前の知っている犬はそんな風に、仰向けのまま交尾をするのか?」
「あっ……ご、ごめんなさい……」
言って、戦場ヶ原はベッドの上でひっくり返り、俺に尻を向けて四つん這いの格好になる。
正直ここまで来たらもう、無理矢理に犬の真似をさせる必要なんて無いのだが……。
まぁ、気分というのも大事だろう。
「じゃあ……その、挿れ、んんっ……。お願い、します……。 挿れて、下さい……」
本当にエロ漫画もビックリな台詞を吐き、片手で自分の性器を広げ、懇願する戦場ヶ原。
潤んだ眼でこちらを見るその顔は、羞恥と期待に溢れていて――。
いや、そこまでしろなんて言って無いんだが……。
こいつ、普段は口が悪くてSぶっているが、本当はこっちの方が本性なんじゃないのか?
だとしたら依頼通りにしてやった所で、阿良々木の奴に勝つ事なんて不可能だと思うのだが……。
まぁ、どうでもいいか。
俺はあくまで依頼通りに戦場ヶ原を抱くだけだ。
こいつの本性のせいで上手くいかなかった所で、それは俺の責任じゃあ無いしな。
「……いいだろう、挿れるぞ」
俺はそこでようやく自分もバスローブを脱ぎ、露わになった俺自信をヒクヒクと口を開ける入り口に当てがう。
完全に出来上がった戦場ヶ原はもう、それだけでピクリと反応するのだが――そんな事はお構い無しに、ズブズブと挿入を続ける。
「あっ……あぁ、あっ……!」
まだ先端の部分しか挿入っていないというのに、戦場ヶ原の後頭部からはそんな情けない喘ぎ声が聞こえてくる。
こいつ、今どんな顔してやがるんだ――
ふと思い立って、再び部屋の姿見を見てみる。
うわぁ。
一言で言ったらもう、ドロドロだった。こいつをドロデレと称した阿良々木のセンスは褒めてや っても良いだろう。
姿見に映る戦場ヶ原は、四つん這いでだらしなく口を開け
――いやもう、舌まで出てるんじゃないのか?涎まで垂れてきそうだ。
お前、普段の鉄面皮はどこに落として来たんだ?本当にメス犬のようになっているぞ。
いや、さっきから散々メス犬と言っているが、俺は今までメス犬が交尾している様子なんて見た事が無いんだけどな。
それにしたって、ひょっとしたらメス犬よりヒドいんじゃあないか?こいつ。
それでも戦場ヶ原の名誉の為に言ってやると、
これは今まで味わった事の無いプレイを長時間強いられている事に加え、
俺が植え付けた怪異、守手の犬の影響も多分にある。
こうなってしまってはもう、どんなに理性の強い女でもこんな風にドロドロになってしまうだろう。
……これは依頼人のイメージ保護の為に言ってやっている事だが、別に嘘じゃあ無いぞ?
「ん……あぁっ……ひゃ、らめぇ……」
やっぱりダメだこいつ。
しかしそれでも俺の加虐心を刺激するには十分過ぎる姿で。
――ゆっくりと挿入していたそれを、戦場ヶ原の奥の奥まで、一気に突き入れた。
「ぁはぁぁぁぁぁぁっ!!」
それだけで。何度もイかされて絶頂の沸点が低くなっている戦場ヶ原は、簡単に達する。
俺の物を奥まで飲み込んだ戦場ヶ原の膣内は、 絶頂によってギュウギュウと締め付けてきて。燃えるように、熱い。
「あ……あぁ……はぁっ……」
もう体に力が入らないのか、四つん這いの姿勢も維持出来ず、うつ伏せにへたり込んでしまう。
それでも俺はお構い無しで、戦場ヶ原に覆い被さるようにして突き続ける。いわゆる寝バックという体位だ。
「やぁっ、はっ、あっ、あぁっ!」
ピストンする度に嬌声を上げる戦場ヶ原。
ドロドロになった膣内は俺にも確かに凄まじい快楽を与えて来たが、それに溺れて乱暴に突くような事はしない。
今日の俺の目的は阿良々木の与える快楽を遥かに越えるそれを、戦場ヶ原の体に教え込む事だ。
若いだけの男が するようなセッ○スはしない。
突く度に戦場ヶ原の反応を観察し、一番感度の良い所を重点的に攻めてやる。小刻みに、擦るように、押し込むように。
「やっ……あぁぁぁぁぁっ!!」
挿入してからだけでも何度目かわからない絶頂を迎えたようだ。内壁が俺から精液を搾り取ろうと、キュウキュウと締め付けてくる。
……これは流石の俺も長くは保たないかも知れないな。
ここまでしてやればもう戦場ヶ原は十分に満足しているかも知れないが、それでも後々になって
『あの男、早いのは足だけじゃ無かったのね』――なんて思われたら非常に癪だ。
悪いが戦場ヶ原、ここからは俺の男としての意地で続けさせて貰うぞ。
寝バックでの姿勢には疲れたので、繋がったままで戦場ヶ原を仰向けに転がしてやる。正常位の体位だ。
俺も少々居住まいを整えたら、再びピストンを再開する。そうすると体勢の関係で、さっきよりも深く膣内を抉ってやる事になる。
「やぁっ!、あっ、はぁっ、んぁああっ!」
さっきまでとはまた違う所を突かれる為か、一層激しく鳴き始める戦場ヶ原。
しかしこの体勢、さっきまでは布団に押し付けて見えなくなっていた顔が俺の方を向いているもんだから、あのだらしない顔が丸見えだ。
無論俺はムードを気にして照明を暗くする事などしていないので、焦点の定まらない涙目で涎を垂らす戦場ヶ原の顔がハッキリと見え る。
ううむ、恐るべし。守手の犬。
そういう事にしておいてやろう。
しかし仰向けになった事で、ピストンによって激しく揺さぶられる胸も露わになる。いやらしく、誘うように踊る二つの乳房。
そんな風に誘われたら構ってやらないと失礼に当たると、先端を摘まんで擦ってやる。
「ひっ――んっ!!!」
無論そんあ刺激を与えたら、またしても戦場ヶ原は絶頂を迎える訳だが――今度はもう、声も上げられずに悶えるだけだった。
流石にもう、俺も戦場ヶ原も限界が近い。
「そろそろ、終わりにするぞ」
聞こえているのかは知らないが、囁いて。
俺は最後に自分の射精のためだけに、激しく突き始めた。
相手の快楽など考えない、本当に自分本位な、女の体を穴としか捉えないような、粗暴で乱暴なピストン。
「あぁーっ!あっ、はぁっ!」
それを受ける戦場ヶ原もまた、獣のような声を上げる。
部屋中に、俺の腰が戦場ヶ原を打ち付ける乾いた音が響く程のラストスパートだ。
いよいよ射精感が高まり、俺も限界が近付いてくる。すなわち、終わりが近付いてきたのだ。
……しかし俺は最後に。終わりを迎える前に、戦場ヶ原に聞いておかねばならない事がある。
「どうだ戦場ヶ原。気持ち良いか」
「はっ、はいっ!きも、ちっ、いいっ!です!」
「そうか。では―――
阿良々木との時よりも、気持ち良いか?」
「――――阿良々木くんなんか、よりっ!全然っ、気持ち良いですっ――!!」
――ざまぁみろ。
どこかの誰かに向かってそんな言葉を吐き付けて。
俺は戦場ヶ原の膣内、その奥の奥に。
思い切り、射精した。
「ぁっ……はぁ……んっ……」
ドクドクと、自分でも驚く程に出ている。
それを一滴残さず搾り取ろうと、膣内もギュウギュウと締め付けてくる。
熱くなっていた俺の体温も急速に熱を失って。お互い荒げていた息も整ってくる。
……これで終わったのだ。
俺の中にあった阿良々木の奴への恨みも、あるいは……妬みも。
一緒に全て吐き出してしまったように消え去っていた。
……妬み?妬みって何だ。俺が阿良々木の何を妬むと言うのだ。
強いて言うなら今頃何も知らずに家で寝ているであろうその神経が妬ましい、と言った所かな。
戦場ヶ原も射精されている感覚がわかるのか。ようやく終わったピストンの余韻に浸っているのか。
ゆっくりと息を整えながら、恍惚とした表情で、俺を見つめている。
いや、違うな。それでもその表情には、どこか憂いのような――
何かを後悔するような、悔しいような――
そんな色を浮かべているように見えた。
「………どうした。今更になって自分の行いの不貞に後悔したか?言っておくが、流石にそんな事までは俺は面倒を見切れ――」
そんな憎まれ口を結局、俺は最後まで言う事は出来なかった。
なぜならば、俺の頭を掴んで引き寄せてきた戦場ヶ原に――
唇を、塞がれてしまったからだ。
「貝木―――さん―――」
そうして愛おしげに、俺の名を呼ぶ。
俺たちが初めて出会った、あの時の呼び名で。
騙し騙される前の――あの時の、呼び名で。
少女の顔をした戦場ヶ原ひたぎが。俺に、微笑みかけていた。
阿良々木。どうやら俺がお前についた嘘は、偶然にも真実を言い表していたのかも知れん。
……なに?どれの事を言っているのかわからん?ふん。確かに俺がお前に話した事は嘘ばかりだが、そのくらい自分の頭で考えろ。
だがしかし、今回の件でお前が得るべき教訓は――
女というのは意外と、初恋を忘れられない――という事だ。
016
後日談というか、今回の落ち。
俺はこういった事後報告というか、まぁ、前述もしたがアフターサービスというものが苦手なので、
正直言ってあまり長々と語るのは避けたい所なんだが――。今度ばっかりは俺も当事者であるのだから、
それは仕方なしに義務として。真面目に真摯に語らせて貰おう。不真面目に適当に聞いて貰いたい。
結局あの後、お互いに限界だなどと言いながらも、朝まで戦場ヶ原を可愛がってやった。
一晩という約束だったからな。時間いっぱいキッチリと、仕事をさせて貰ったさ。
……しかしその結果として俺も戦場ヶ原も揃って足腰が立たなくなってしまい。
結局翌日は一日中、二人で部屋から出れず、ぐうたら三昧で過ごす事になってしまっ た。
四の五の言わずに出て行けと言ってやりたかったが、六捨七入までしてやらないとアラフォーになってしまうような俺が
ヘロヘロになった腰で戦場ヶ原を追い出そうとした所で、十中八九で力負けしてしまう事は目に見えていたので。
仕方なしに大人しく一緒に寝てやって、夜になったら駅まで送ってやった。
あらからもう半年ほど経つが、その後――。あれほど格好つけて『これが最初で最後の夜だ』などと言っていた俺だったが、
結局戦場ヶ原は俺との夜が忘れられなかったらしく。月に一度くらいの割合で、俺に金を払って抱いて貰いに来るようになった。
――――なんて事には、ならなかった。
やはり、俺も知っていた通りに芯の強い女だった戦場ヶ原は、その後二度と俺に抱いて貰いに来るような事はせず。
俺とのプレイによって耐性を付ける事に成功したらしく、見事当初の目的通り、阿良々木の奴を服従させる関係を復活させたようだ。
――――なんて事にも、しかし、ならなかった。
……いや、言いたい事はわかる。いくらオマケのような後日談とは言え、こうも嘘ばかり吐かれてはたまらんと言いたいのだろう。
しかしまぁ、なんと言うか。こんな風に俺が嘯いたのにも、それなりに事情があると言うか、あまり話したくないと言うか――
というか実はさっき言った嘘二つは、それぞれ半分くらいは本当の事を言っていた訳なんだが――
「お邪魔するわよ」
.
そう言って、ガチャリと。戦場ヶ原ひたぎは、俺が今詐欺の拠点としている事務所の扉を開けると、ズケズケと入ってきた。
勝手知ったる他人の仕事場といった感じだ。
そうして俺の座るデスクの前までやってくると――。鞄から分厚い封筒を取り出し、俺の目の前に丁寧に置いた。
「それじゃあこれ、半年分の『恋人料』、360万円。ピッタリ入っているはずだけど、念のため確認して頂戴」
そう、これが……今の俺と戦場ヶ原の関係だった。
あの後、阿良々木の所に帰った戦場ヶ原は、しかし。主従関係の再構築には見事成功したものの、
もはや阿良々木相手では満足の出来ない体になっていた。その結果としてこの女、
なんと半月もしないうちに阿良々木の奴と別れてしまいやがったのだ。
「阿良々木君のことは人間としては今でも尊敬しているし、愛してさえいるわ。だけど、男としては駄目ね。
私の中の女が、雌が。こんな男ではサッパリ駄目だと本能から呼びかけているわ。という訳で阿良々木君、別れましょう」
そんな風に一方的に、正しく捨て去るように阿良々木を振ってしまったのだという。
俺は以前、戦場ヶ原と阿良々木のようなカップルは、意外と大学生にでもなればアッサリ別れてしまう物だと
予想した事はあるが……。まさかその矛先が自分に向いてくるとは思ってもみなかったぞ。
そして阿良々木。クリスマスを直前にした タイミングで恋人に振られるなど……。不憫であるとしか言いようが無い。
原因を作ったのが俺だという罪悪感もあるし、阿良々木の奴に今度会ったら肉でも奢ってやろうと思って――。
その阿良々木のせいで俺が面倒な状況に陥っているのだという事を思い出す。やはり肉など奢ってやるものかよ。
そうやって阿良々木を振った戦場ヶ原はその足で、まだ俺が滞在していた大阪のホテルに、単身で乗り込んできて。そして。
『恋人契約』の商談を、持ちかけられたのだ。
契約の内容は、こうだ。一晩2万円で買えるという実績を作ってしまった俺自身を、月単位で金を払う事で、
毎日、毎晩、 恋人として雇って――いや、買ってしまおうという商談。
無論そんな、俺の不利益にしかならなそうな依頼は断りたかったが……。
いきなり1ヶ月分即金で60万、目の前にチラつかされた事もあるし。
基本的に俺の仕事の邪魔はしないという条件付きだった事もあり、俺は依頼を受ける事にしてしまった。
どうせすぐに飽きると思っていたしな。
しかし、その結果が俺の目の前に出された半年分の契約金360万円だった。
どうやら当分は俺を離してくれないらしい。
ちなみに、一介の大学生である戦場ヶ原が何故そんな大金を用意できたかと言うと――
この女、俺の詐欺を手伝っているのだ。
「 恋人の仕事に首を突っ込むのはロクでもない女のする事だっていうのはわかっているけど、
もしも私に何か出来る事があったら手伝わせて欲しいの」
ある日こんな事を言ってきたのである。
戦場ヶ原が真っ当な、普通の生活を送る大学生だったなら。俺に契約など持ちかける前の戦場ヶ原だったなら、
詐欺の手伝いをしたいなどと言い出した瞬間にぶん殴ってやった所だろう。
しかしコイツはもう、金の繋がりとは言え俺の恋人だ。詐欺師の身内となってしまった以上、止めてやる道理も無かった。
金で繋がっている分、その辺の恋人同士よりも信頼が置けるしな。
詐欺を働く上で、若い女という手駒は非常に役に立つ。まして、知的な印象を与えて十代には見えない戦場ヶ原の容姿は、申し分無い物だった。
癪な話だが、おかげで俺の詐欺の効率は倍くらいに跳ね上がった物だ。
さすがにタダ働きをさせるのも気持ちが悪いし、俺が戦場ヶ原に借りを作るのも何か恐ろしい物があるので、
詐欺の収入から、働きに応じて分け前を与えてやっている。――そう、この女、その金を元手に俺を買っているのだ。
詐欺の片棒を担いで手に入れた金で、詐欺師の男を買う。
コイツ、俺が言うのも何だが、倫理観とか道徳とかって物が無いのだろうか……?
自分自身がかつて詐欺の被害者だったのだから、他人を騙す事に罪悪感は無いのか?と聞いてやった事もあったが……
「実際に騙す側になって、ようやくわかったわ。私、今から最低の事を言うけれど……騙される方も、悪いのよ」
なんて抜かしやがった。
「私はお父さんの事を尊敬しているファザコンだけれど、騙されたという一点に関しては擁護する事は出来ないわね。
あれに関しては騙した貴方も勿論悪いけれど、騙された私たち一家も間抜けであったと言わざるを得ないわ。一生の不覚ね」
なんて。そんな風にあっさりと。
こいつは一生引きずると思っていた俺たちの確執の原因すら、ついでとばかりに、アッサリと勝手に飲み込んだのだった。
本当に恐れいる。
そんな訳で堂々と。
こいつは大手を降って詐欺を働いているのだった。
詐欺の被害にあった者は、その後も一生被害者であり続けるというのが俺の自論だった訳だが……この女にそれは通用しなかったようだ。
俺が常々思っていた通り、戦場ヶ原には詐欺の才能があった。
最近では俺から盗んだノウハウで、独自の詐欺まで働いている始末だ。
それも、大学生活と両立しているのだから凄まじい。
……もっとも、こいつが俺と一緒になるために、学校も友人も家族も捨てて転がり込んで来るようなつまらん女だったのなら、
俺は逃げ出してでもこいつの要求を突っ張ねた事だろうが。
驚くべき事に、今でも阿良々木や羽川とも交友関係は保っているのだという。
……それで、戦場ヶ原に一方的に振られた阿良々木の奴なのだが。
なんと今は羽川翼と付き合っているらしい。
こうして言うと阿良々木が節操の無い駄目男のように聞こえるが、実際には羽川から迫ってそうなったらしい。
「私が阿良々木君と別れたって話したら、あの子次の日には帰国して阿良々木君に会いに来たのよ。
まぁ、アフガニスタン?から来たようだから、実際にはもう少し時間はかかったのだけれど。
そうして傷心の阿良々木君を優しく慰めて、その日の晩には押し倒して既成事実を作ってしまったと言うのだから恐れ入るわ。
心神喪失状態の阿良々木君に、それを断る気力なんて残っていなかったのでしょうね」
……傷心の所に近付いて、さっさと抱いてしまうなど……。
なんとも粗末な手口だが。目的のためには手段も選ばんとは、
羽川翼。やはり恐ろしい女だと思う。
「それにしても、これからが大変よ阿良々木君。羽川さん、完全に結婚を前提にしているもの。
阿良々木君がさんざん苦労して入った大学にもアッサリ編入しちゃうし、今は阿良々木君を理想の家庭の理想の旦那様にするために、
四六時中彼の人格を矯正する作業に執心しているわ。
羽川さんって家庭の事情から、理想の家庭の理想という物がとんでもなく高いもの。
しかもそれが普通と考えている節があるわ。
このまま進めば彼、数年後にはエリートサラリーマンにでもなっているでしょうね。
この間大学で二人を見かけたのだけれど、私なんて可愛らしく見えてしまう程に虐げられていたわよ、阿良々木君」
……なんとも恐ろしい話だ。
やはり今度阿良々木に会ったら、肉でも奢ってやる事にしよう。
奴にそんな自由な時間があればの話だが。
だがそれでも、羽川から逃げずにいるというのだから。案外阿良々木の奴には心地良いのかもしれんな。
元の鞘に戻ったかのように、羽川翼と共に居る事が。
まぁ、羽川が『自分も吸血鬼になる為にはどうすれば良いか』なんていう相談を忍野に持ちかけたと聞いた時には、
俺も背筋が凍ったものだがな。
――――だがまぁ、しかし。
そんな風に、淡々と。
俺達の関係は収束し、終息していった。
阿良々木の方は恐らく、奴か羽川が死ぬまで離れる事は出来んのかもしれないが……。
俺はせいぜい、戦場ヶ原が飽きるまで。またぞろ心変わりを起こして俺の元を離れてくれるその時まで、
戦場ヶ原と嘘っぱちの恋人関係を続けてゆくのだろう。
せいぜい、詐欺の腕まで奴に抜かされないように。
修練を欠かさないようにするつもりだ。
………もっとも、俺の懸念事項はもうひとつ、あるのだが。
「それじゃあ、また半年間……よろしくお願いするわ」
「貝きゅん♪」
――――まずはこのふざけた呼び名を矯正する所から、
俺はやってやらねばならないだろう。
『初物語』第嘘話 ひたぎドッグ
END
116 : ◆ZDIJ5Wgmv6 - 2013/02/17 23:36:47.84 5mxsXjhF0 93/112
という訳で、以上で完結です。
初SSで色々謝りたい事はありますが、見ていただいた方ありがとうございます。
地の文のおかげでアホみたく長くなってしまった事はすみません。ホントすみません。
全物語アニメ化と聞いてテンション上がって書きました。これを機に物語SS増えると嬉しいですよね。
恋物語とかもう、ガハラさんと貝きゅん、お互い好き過ぎるだろ!って気になりますよね。
なんかガハラさんが酷い女にしか見えないような気がするんだけども……というアナタ!
ガハラさんは素直になれない乙女だからそうなっちゃったんだよ!少なくともそんな解釈で書いてるよ!
あと>>1はガハラさん大好きだよ!
えろいところについて反省はしていない。
「俺のガハラさんはアヘ顔なんかしねぇよ!」
という方。あれはその、犬が悪いんです。(∪^ω^)わんわんお!
それでは、最後まで読んでくれた根気強い方。改めて、ありがとうございました。
また何か書いたら読んでやって下さい。
115 : VIPに... - 2013/02/17 23:35:33.24 /2QPNk4Eo 94/112寝取られた阿良々木視点はよ
120 : VIPに... - 2013/02/17 23:52:56.24 INC/QlWIO 95/112乙
NTR属性の俺としては、後日談は物足りないな
もっとドロドロして欲しかった
121 : VIPに... - 2013/02/17 23:57:53.11 BVhlZf6X0 96/112作者乙
正統派の俺には大ダメージだったぜ…(褒め言葉)
作者的には貝きゅん好きかもしれんが次回は是非こよこよを頼む!
122 : >>1 ◆ZDIJ5Wgmv6 - 2013/02/18 00:04:57.60 WE1ubK+30 97/112読んでくれた方、ほんとありがとうございました!
>>115
>>121
阿良々木くん視点なんてそんな、
あんな語彙力と言葉遊びのセンスの塊みたいな人の地の文書けません!
>>120
NTRって書いたものの、一応みんな幸せ(?)みたいな収束ENDになっちゃいましたね……。
まー少なくともダブルデートなんかは出来ないでしょうけど。
……ちなみに続きじゃないんだけど、完全に番外編で、この話の後の時系列での話書いていい?
エロなしで、2人でいちゃいちゃするような話ですら無いんだけど。
完全蛇足だし、書きだめ無いから書くなら台本形式になっちゃうんだけれど。
123 : VIPに... - 2013/02/18 00:07:13.09 Q9GJgIV4o 98/112こっそり見てる
124 : >>1 ◆ZDIJ5Wgmv6 - 2013/02/18 00:13:27.03 WE1ubK+30 99/112じゃあ、ひっそりと書いていきますー。即興で書くから時間かかるけど、ちまちま投稿してきますわ。
全然関係ない話だから、全部書き終えて読み終えても「なにこれ・・・」ってリアクションになるとオモ。
【ひたぎシュリンプ(辛)】
8月上旬。俺はひとつの大きな詐欺を行う為、戦場ヶ原と共に東京に来ていた。
現在時刻は夜の八時に差し掛かり、今日の分の仕込みを終えた俺たちは夕飯の店を探している所だ。
貝木「ふむ……。戦場ヶ原、お前何か食べたい物はあるか?」
ひたぎ「そうね……。今日は結局朝食以降 食事をとっていないから、何かガッツリとした物が食べたいわ」
貝木「昼飯なら食っただろう?」
ひたぎ「……私の中ではフレンチクルーラー1個は食事にカウントされないのよ。
軽食なら用意してある、なんて言うものだから期待したのに、まさか1人1つずつとは思わなかったわよ……」
貝木「何だ?お前、言うに事欠いてフレンチクルーラーに文句があるのか?ならば奢りだとは言ったが、
やはりあの時のフレンチクルーラー代は徴収させて貰うぞ。なぁに、5000円くらいで構わん」
ひたぎ「ミスタードーナツはどんなフェアーをやっているのよ……。それより夕飯を決めましょうよ」
貝木「それもそうだな……。ならば戦場ヶ原。お前、カレーは好きか?」
ひたぎ「カレー?いいわね。しっかりと食べるには適しているわ。さすが私の彼氏、チョイスが完璧だわ」
貝木「上から目線な彼女だな、全く。では俺の知っている店が近くにある。そこで構わんな」
・・・・・・・・
貝木「ここだ」
ひたぎ「へぇ……。もうやんカレー……?」
―――――――補足――――――――
羽川「もうやんカレーは、東京に拠点を置くカレー専門店の事だよ。たっぷりの野菜をドロドロになるまで
煮込んだ特性のカレールーは、仕込みから完成まで2週間もかかるんだって。
芸能人にもファンが多くて、テレビでもいっぱい紹介されてる有名店なんだよ」
暦「羽川は何でも知ってるなぁ」
羽川「何でもは知らないわよ、知っている事だけ」
―――――――――――――――――
ひたぎ「カレー、楽しみだわ」
貝木「ここのビーフカレーの肉は、牛一頭から1kgしかとれないホホ肉だからな。
そういった無駄に希少なくせに簡単に手に入る物が俺は好きなんだよ」
店員「お待たせしましたー。えび20辛炒め20ぴきになりますー」コトッ
ひたぎ「あら、先に一品料理が来たわね。いつの間に頼んだの?これ」
貝木「…………ふっ。なぁに、いいから食ってみろ。実のところ俺は、カレーよりむしろ
コレが食べたくてここに来たような物なんだよ」
ひたぎ「どういう事……?まぁ、食べて良いのなら頂くけれど。お先に、失礼するわね」
ひたぎ「」ハフッモグモグ
ひたぎ「…………!?」
ひたぎ(か……辛い!20辛って、辛さの単位の事だったのね……!いいえ、でもコレは……それ以上に……!)
貝木「ふっふっふ……どうだ戦場ヶ原。ウマいだろう?」
ひたぎ(そう!ウマいのよ! プリプリのエビが、たっぷりの油で、スパイシーな香りと暴力的な辛さで味付けされていて……!
すごい、舌から鼻から、このエビにすっかりやられてしまっているわ……!これは”美味しい”なんて言ったら失礼。
誠意を持って”ウマい”というべき物ね……!)モグモグ
貝木「何も言わなくて良いぞ、戦場ヶ原……。お前が今、そのエビにすっかりやられてしまっているのは解っているんだ。
そしてお前が、次に何を言うのか、何を欲しがるのかも……な」
ひたぎ(欲しがる……。そう。そうなのよ……)ハフッハフッ モグモグ
貝木「くっくっく。どうだ戦場ヶ原。そんな辛くてウマくて、油っぽい物を口いっぱいに放り込んだら……。
我慢できるはずが、無いよなぁ……?」
ひたぎ(うう……。欲しい……。今すぐにでも、欲しいけれど……!
でも、ここでそれを言ったら、また貝木に負けてしまう……!エビなんかに負ける訳には!)ハフッ
ひたぎ「……だ、さい……」
貝木「んん?何だ戦場ヶ原。聞こえんぞ?」
ひたぎ「飲ませ……くださ、い………」
ひたぎ「お願いですから、ビールを飲ませて下さい……!」
貝木(勝った)
貝木(そう。これは俺と戦場ヶ原の勝負なのだ。こいつは確かに、この間20歳を迎えたが……
基本的に、俺の前で酒を飲む事は禁じている。コイツは酒に弱い訳ではないのだが、飲みだすと止まらないからな)
ひたぎ(だけど、どうしても飲みたい時は―――。こうして、頭を下げなくてはいけない……!
いくら付き合っていても、やっぱりこの男に頭を下げてお願いするなんて、辱められているような気がするわ……。
しかも貝木は、私が悔しそうに頭を下げている姿が気に入ったのか……あの手この手で私が飲みたくなるよう誘導してくるし……!)
貝木「くっくっく……。やはりアッサリと堕ちたな、戦場ヶ原よ。お前は所詮その程度の女だ。
酒飲みたさに簡単に頭を下げる。おいおい、プライドという物が無いのか?お前は」
ひたぎ(く……悔しい!でも駄目、飲みたい……!さっきから口の中が、スパイスでピリピリと痺れているし……。
何より、こんな油っぽくて味の濃い物を食べたら、ビールを飲まなきゃ収まらないじゃない……!)
ひたぎ「は……はい。浅ましく、卑しい私に……。ビールを、飲ませて……下さい……!」ギリリッ
貝木「はっはっは、これはいいな。戦場ヶ原ぁ、お前の頭を下げる姿は実に爽快だ。俺ならこれだけで金を稼ぐ事も出来る程だぞ?」
ひたぎ「負けでいいから……私の負けでいいから、お願い、ビールを……!」
店員「お待たせしました、生ビールお二つでーす」
ひたぎ「……えっ?」
貝木「どうした、お前はコレが欲しかったんだろう?」
ひたぎ「えっ……?でもなんで、いつの間に……!?」
貝木「ふん。言っただろう、何も言わなくて良いとな。
お前がいつ、どんなタイミングで何を欲しがるか。俺にはお見通しなんだよ」
ひたぎ「なんで……」
貝木「自分の女の事くらい把握出来ないようでは、詐欺など働けんよ」
ひたぎ「やばい、私の彼氏、超かっこいい……」
貝木「そんな事よりもほら、こいつが欲しかったんだろう?」ゴトリッ
ひたぎ「あ……ああ……」スッ
貝木「いいんだぞ?飲んでも。ほら・・・・・・
乾杯だ」チンッ
ひたぎ「―――っ!!!」グイッ
ゴクッ。ゴクッ。ゴクッ。
ひたぎ(駄目……!こうなったらもう止まらない……!)ゴクッ
ひたぎ(辛さと油で馬鹿になっている口内を、ビールが癒してくれる……)プハーッ
ひたぎ(そうしてリセットされたらまた、あの刺激的な味を味わいたくなる……)パクッ
ひたぎ(そしてまた虜にされる……また飲みたくなる……まるで輪廻のようね……抜け出せる物では無いわ…)ハフッハフッ
貝木「良い食べっぷりだな、戦場ヶ原よ。ちなみにこのエビ、この後来るカレーと一緒に食っても
非常にウマいからな。想像してみろ、その味に更に、米が入ってくる事を……!」
ひたぎ「………!!」ゴクリ
ひたぎ「……貝木」
貝木「ビールのおかわりと、エビをもう1皿……だろう・わかっているさ。お前の事だからな」
ひたぎ「さすがね……。それで貝木、私改めて思ったのだけれど……」
ひたぎ「エビってとっても、美味しいのね」
――――ひたぎシュリンプ(辛) END
143 : >>1 ◆ZDIJ5Wgmv6 - 2013/02/18 01:41:42.15 WE1ubK+30 109/112貝きゅんとガハラさんが仲良くご飯食べる所書きたくってこうなった。
言われてみたら深夜に書いたらテロだったねコレ。さーさんです。
>>140 ワロタ
140 : VIPに... - 2013/02/18 01:37:47.84 xO0LygwD0 110/112ひたぎ「やりかねない…ッ…ビール一杯の為に……犯罪だって……ッ!!」
貝木「いや、お前詐欺師手伝ってるだろ」
144 : VIPに... - 2013/02/18 01:50:37.22 WDygugm4o 111/112乙
腹減った。
ところで、羽川視点が見たいです。
どうにもあっさり感が拭えなくて。
146 : >>1 ◆ZDIJ5Wgmv6 - 2013/02/18 02:02:05.55 WE1ubK+30 112/112>>144
西尾さんって肝心な所をやらなかったりするから、リスペクトって事で……。
これでもガハラさんにはかなり詳しく語ってもらったつもりなんだけどなぁ(^ω^;)
しかも羽川視点の逆レイプとか書けないお!神秘!
とりあえず貝木×戦場ヶ原のカップリングが書きたくって始めたスレでしたが、
お付き合いいただきありがとうございましたー。
あの2人ってお互い素直じゃないから、好きなのに憎まれ口叩き合ってて
貝きゅんはガハラさんへの好意を「嘘だ」「ありえん」って言って封殺しちゃうし。
ガハラさんの好意には「まさかな」って気付かないし、
ガハラさんはそれでイライラして更にキツく当たっちゃう乙女だし……
とにかく可愛いんだよお前ら!って事を書きたかったのです。
それを踏まえてもっかい読んでくれると嬉しかったりします。
明日あたりHTML依頼出しにいきますー。
重ね重ね、見て下さった方々、本当にありがとうございました!

