1 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/12 20:57:01.01 RSZRDO/q0 1/98

そう言って千石は僕の入っている布団に入ってきた。 おもむろに。

撫子「布団に入ろっか。 暦お兄ちゃんも寒いでしょ?」

「そう思うんなら暖房でも付ければ……」

撫子「だ、駄目だよ暦お兄ちゃん! 節電! 今は節電なんだよ!」

「まあ、確かに世の中そう言われてるけどさぁ」

撫子「そうだよ! ニュース見てないの!? 日本には今、電気が足りないんだよ」

「し、知ってるよ。 人並みには」

撫子「そうだよ……。 日本のみんなのために、暦お兄ちゃんは撫子と一緒のお布団に入るしかないんだよ」

「そ、そうか。 それは仕方ないな」

スケールがでかい話だ。

元スレ
撫子「ふ、ふう。 何だかこの部屋寒いね」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1318420620/

2 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/12 21:01:10.08 RSZRDO/q0 2/98

確かに季節は秋。

暖房をつけようかと思案することも少なくない。

しかしこの部屋はどうも異常である。

ああ、この部屋って言うのは阿良々木家にある僕の部屋のことじゃない。

今僕は千石の家に遊びに来ているのだ。

しかし寒い。

どのくらい寒いのかというと……そうだな、

僕が入って来る直前まで冷房をフル稼働していたかのようにこの部屋は冷えきっている。

3 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/12 21:13:04.43 RSZRDO/q0 3/98

そしてクローゼット付近は、特に……

撫子「お兄ちゃん」

「な、なんだ?」

撫子「そんなに気になるの?」

「いや…、そうじゃないけどさ」

強制的にクローゼットから意識を剥がされた。

なんといえばいいか、クローゼットの中に大量の氷か保冷剤が詰め込まれているかのような冷気である。

5 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/12 21:32:57.59 RSZRDO/q0 4/98

撫子「そ、そうだ! あったかい飲み物持ってくるね」

「ん? ああ、悪いな」

撫子「飲み物だけで足りなかったらシャワー浴びてきなよ」

「ええっ!?」

撫子「体ごと。 温かいよ」

確かにそうかもしれないが……実はもう足とか結構冷えてしまってるし。

しかしそこまでお世話になるわけにはいかない。

7 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/12 21:45:56.16 RSZRDO/q0 5/98

コトン。

コトン。と2つ、コップが置かれた。 この部屋にあったらしい。 

台所から取って来るんじゃないのか、準備がいいなあ千石は。

撫子「紅茶でいいよね? 紅茶しかないの。 あとの飲み物は全部切らしてて、水道水くらいしかないんだよ。」

ずいぶんと極端なラインナップだなおい……。

まあ人の家で好き嫌いを言うようなことはしたくない。

紅茶か……あまり自分の家では飲まないけど、不味いということはないだろう。

千石は500mL程のサイズの可愛い水筒を取り出した。

撫子「淹れたばかりだから、温かいよ」

阿良々木「おお、気が利くなあ」

もう作ってあるとは。

9 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/12 21:57:17.73 RSZRDO/q0 6/98

撫子「はい、暦お兄ちゃんはこっち。」

千石は紅茶が入ったカップを僕の前に差し出す。

なかなかお洒落なヤツに見える。 詳しい知識は持ってないけど。

僕はそれを受け取って、

「千石。 お前友達結構いるんじゃないのか」

千石「ええ?」

はあ?という顔をされた。

「いや、慣れてるなーって思ってさ。 お客さん?が結構来るんだろ」

11 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/12 22:10:22.85 RSZRDO/q0 7/98

ミスを見つけました。
>>1で「僕の入っている布団に」とありますが
暦お兄ちゃんはまだそんなとこにいません。
ごめんなさい。

12 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/12 22:20:12.66 RSZRDO/q0 8/98

あれ、違ったかな。

千石が少し返答に迷っていたので僕は紅茶を飲んだ。 

千石「……そ、そんなことないよ。 暦お兄ちゃん以外は、あんまり」

「ああ、でもうちの妹達とかは気をつけろ。 何か壊されたりしてないか?」

千石「ううん、そんなことないよ。」

「そうか。 ……しかし対応がいいな。 いい家内さんになれるぞ」

千石は自分のカップにも紅茶を入れるところだったが、カップを倒して紅茶をこぼしてしまった。

13 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/12 22:30:36.88 RSZRDO/q0 9/98

僕が紅茶を飲み干してからの千石はいつもより明るく、元気だった。

第一段階成功!みたいな顔をしているのは気のせいだろうか?

僕にはよくわからない。

それからは部屋でできる遊びの開発とかやってた。

いや、本気で考えると結構面白いんだよ。

将棋の駒を何枚か積み重ねて軍儀をしていたところで、僕は強烈な眠気に襲われた。

(大丈夫? 暦お兄ちゃん)

千石の声が聞こえるが、遠い。

15 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/12 22:38:04.11 RSZRDO/q0 10/98

(大丈夫? 具合悪いのなら、お布団使う?)

いや、大丈夫だ、そこまで世話をかけるわけに……は……

……。

僕の意識はそこで途切れた。

次は場面変換して、千石の家に来る少し前のところから回想していきたいと思う。



今日はここまで。
多少、偽物語ネタが入ります。
それでも良ければまた見てやってください

20 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/14 22:55:06.36 SJPyQKqn0 11/98

ええと……、

そもそも何故僕が千石の家にお邪魔しているか

ええと、千石の家に来る前からだな

今日の朝から回想してみよう

その時の僕は戦場ヶ原や羽川に言われた通り、朝っぱらから自室で問題集に取り組んでいた。

アニメ「化物語」放映時から時間も経っているので忘れられている設定かもしれないが、

僕は彼女と同じ大学に進学するという明確な目標がある。

ドドドドドドドドド

廊下からジョジョ的な音声が近づいてきた。 うるさいなあ。

21 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/14 23:03:59.79 SJPyQKqn0 12/98


僕の部屋のドアが、ばーん!と大きな音をたてて開く。

直前までのドドドドはコイツの足音だった。

火憐「兄ちゃん!」 べたんッッ!!  ミシッ……

僕は無視して勉強を続けようとした。

……ええと、音だけじゃ状況がつかみにくいと思うから説明を挟もう。

まず「兄ちゃん!」と大声で叫んでるのはうちのでっかい方の妹、火憐。

べたんッッ!! っていうのは火憐がものすごい勢いで土下座した際に発生した効果音。

ミシッ…… っていうのは床の悲鳴である。

僕はいいけどさ、壊したら怒られるのお前だからな。

火憐「お金を貸してください!」   

「……………はぁ。 いくら欲しいんだ」

火憐「えっ、ええっ!?」

22 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/14 23:11:28.92 SJPyQKqn0 13/98

ビビる火憐。 こいつの会話を止めるのは面白い。

火憐「いいのか? 兄ちゃんのおこづかい借りても」

「たまにはいいだろ。 ちゃんと返すなら、な」

珍しいこともあったもんだ。 

無駄にプライドが高いから僕に助けを求めることなんて滅多にしない妹が。

火憐「さすがだぜ話が分かる! 無理だったら身体で払う覚悟で来たんだけど」

「お前には一生金を渡さん!」

マジでやめてくれ。 まさか家の外でもそういうこと言ってんじゃないだろうな?

僕の印象にも関わってくるんだよ。

23 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/14 23:21:30.80 SJPyQKqn0 14/98

火憐「オイオイ見くびるなよ。 あんたの妹はそんなクソビッチじゃないぜ」

……どうしてそういう単語を覚えるかなあ。

いや、覚えるのはいいけど使うな。

火憐「しかも『金を渡さない』じゃ逆効果だろ。『一生俺が養ってやる』って言った方が、
   
   身売りを止めるのに効果的じゃないか」

「お前を養う気になる奴の気が知れねーよ。 で、お金ね。 いくらだ?
  
  この前親戚のおじさんからもらった臨時収入があるから……」

火憐「ちょ、待てよ兄ちゃん、あたしがビッチだと決定で話を進めんな!」 

いや、決定してないが。 

ていうかなんでその話題引っ張るんだよ。

24 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/14 23:31:39.66 SJPyQKqn0 15/98

「あ! もういいです。 いいですから。 やりまくりとか思ってないし」

家族とそういう話はもう生理的に駄目である。

距離を置きたい。

火憐「そ、そうだ! やっぱり口で言っても説得力がないしっ! あたしの処女膜が
   
   ついてるかどうか、見せてやるからちゃんと確認……

僕はクソビッチをぶん殴った。

26 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/14 23:39:34.32 SJPyQKqn0 16/98

僕は暴力で物事が解決するとは思っていないが、

我が愚昧は普段から僕が怒りそうな言葉を意図的に選んでる感があるので、

むしろそれを生きがいにしてそうなので、

どうしてもムカつくものはムカつくのである。

火憐「ぐふぅっ!」

手加減はしたが、そのクソビッチは殴られた衝撃で大きくのけ反り頭から床に落ち……

ない!

腹筋と背筋を駆使し、その体勢のまま止まる。

27 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/14 23:48:35.51 SJPyQKqn0 17/98


ブリッジ直前の姿勢で。

両手をゆっくりと回転させる。 なんだ? 水泳のクロールとは逆だし……

ああ、なんかの映画で。

火憐「マトリックス!」

「……」

火憐「く、くそっ! やはり古かったか!?」

僕のリアクションが冷めている様子を見て初めて、火憐はダメージを受けたようだった。

力尽き、仰向けに倒れる。

火憐「ぐっ……、負けたぜ兄ちゃん」

勝負なんてしてないがな。

28 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/14 23:58:57.40 SJPyQKqn0 18/98

くだらないって思ったけど、中学の時ってみんなそういうノリだったよな。

なんて。 よくわからないフォローを頭の中でしていると、

火憐「ああ、月火ちゃんから伝言だぜ兄ちゃん。 いや、月火ちゃんじゃねーけど」

「ん?」

火憐「なんか、せんちゃんの家に行けってさ」

はいはい、また面倒事を押しつけて………って、千ちゃん、千石?

30 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/15 00:04:34.49 sW6rSMx60 19/98

「せんちゃん、って千石のことだよな」

火憐「ああ、でも最近は月火ちゃんも「撫子」って下の名前で呼んでるんだっけ」

「そうか。 ……まあ、行きたいのは山々なんだけどな」

怪異のこともあったし、様子を見に行ってやりたい。

火憐「行きたいって? あれ、お兄ちゃん最近せんちゃんと会ってたっけ?」

「偶然、本屋でばったり会ってな」

これ嘘ではないけど、怪異のことまではもちろん言わない。

31 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/15 00:16:52.48 sW6rSMx60 20/98

火憐「あと、できるだけ薄着で来てくれってさ」

「はあ?」

火憐「ちゃんと温めてあげるから大丈夫。 らしい」

「……よくわからないけど、千石がそうして欲しいっていうなら。」

なんだかとても危険なことに巻き込まれそうな予感がするのは気のせいだろうか。

たぶん、春休み辺りから色々あったし、それで神経質になっているだけだろう。

32 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/15 00:35:45.65 sW6rSMx60 21/98


それから僕は電話をかけた。

結局その日に千石の家に向かうことになるのだが、

忍野にも言われたように僕という人間はトラブルに巻き込まれやすい。

そのトラブルの対策をあまりせずに家を出た僕にも非はあるが、それは後々話そう。

久しぶりに勉強から解放された僕は、さぞ気の抜けた間抜け顔をしていたことだろう。



今日はここまで。
季節は秋にしたのはミスだったか
ミスばかりですいませんね

41 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/20 00:01:33.67 vQpmvwMf0 22/98

撫子「もしもし。 こ、暦お兄ちゃん。」

「ああ、あのさ。 月火からの伝言で聞いて電話したんだけどさ」

撫子「うん。 うん。」

千石にしては非常に低いトーンの、落ち着いた声だった。

まるで何か覚悟を決めたような、目をつけた獲物を自分の狩猟パターンに引き込もうとしているような、そんな声だった。

「確かに、今度遊びに行くって約束だったしな」

撫子「来てくれるの?」

「ああ。 今日でいいか?」

撫子「うん。 一日で全部やっちゃう。」

ははは。 そんなにやりたい遊びがあるのか。 可愛いやつだ。

42 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/20 00:07:45.07 vQpmvwMf0 23/98

撫子「あと、自転車は使わないでほしいな。」

「ん……? なんでだ」

撫子「撫子の家、近いし……ほら、ゆっくり来てもいいよって意味だよ」

「ああ、準備とかもあるしな」

撫子「あと、誰にも言わないで来てほしいな。 月火ちゃんたちは知ってるからもういいけど」

「はあ……。 そうだな。 僕も受験生の身だからちょっと大きな声では言わない。 言えない。」

撫子「言わないでね。 ぜったい、秘密。」

「ああ」

43 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/20 00:13:50.26 vQpmvwMf0 24/98

……とまあ、千石との電話はこんな内容だった。

ここで疑り深い人は、『僕が千石の家に向かった際の痕跡を可能な限り消そうとしているかのような、そんな意志を感じるぞ!』 

とか言い出しそうだが、それは考えすぎというものだろう? 邪推もいいところである。

確かに、僕も疑り深い性格ではある。 あった。

しかし僕は物語が進むごとに、変わりつつあるんだ

友達が増え、他人を信頼することができる主人公的なキャラに。

……そもそも千石がそんなことをする必要なんてないだろう

44 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/20 00:18:25.05 vQpmvwMf0 25/98

本来は戦場ヶ原と羽川が交代で僕の勉強を見てくれているのだが、羽川は今日は用事があるとかでお休みなのだ。

だから勉強をサボっていいというわけではないが、たまには許して欲しいもんだ。

遊ぶだけじゃないぜ。 

基本的に口数が少ない千石に怪異絡みの異常がないかチェックするには、一緒にいてちゃんと見てあげることが大事だし。

よし、言い訳完成。

あと何があったっけ……ああそうだ。 火憐に金を貸したんだった。

ファイヤーシスターズの名に懸けて必ず返すらしい。

長話したらまた処女に懸けてどうとか言いだしそうな気がしたのでさっさと家を出た。

45 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/20 00:28:14.92 vQpmvwMf0 26/98

徒歩。 徒歩である。

千石の家は結構阿良々木家に近いということは最近知った。

今度は千石がウチに来てもいいな、妹たちも喜ぶだろうなんてことを考えていると。

目の前でピンクの巨大なリュックサックが歩いていた。

よく見ると八九寺だった。

ツインテールの小学生、八九寺真宵である。

八九寺か……どうしようかな。

今、千石の家に行く途中だしなぁ……千石を待たせちゃ悪いし。

でもまあ、ちょっと抱きつく時間ぐらいならあるだろう。

うん、抱きついてもいいに違いない。

行け! 僕!

46 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/20 00:34:42.43 vQpmvwMf0 27/98

「八九寺いぃぃぃーーーーー!」

八九寺「う、わああああ!?」

がしり。 羽交い絞めとまではいかないが、八九寺の確保に成功した。

素早く死角から忍び寄るのがコツである。

「んんーーー! いい声だ! 本当にもう、この声を聞くためだけに生きているんだぜ、僕はぁ!」

八九寺「うわあぁぁああ!」

「可愛いなあ! 可愛いなあ! やっぱり小学生は最高だぜ!」

八九寺「ぎぁやああああああ!!」

がぶり。

「痛い! 何すんだこいつ!」

痛いのも、何すんだこいつも、僕だった。

47 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/20 00:44:10.16 vQpmvwMf0 28/98

まあ、まあまあまあ。 こんな感じでいつも通りのやり取りだった。

八九寺「いつも通りのメニューに加えないでください! 次もやるよって言ってるようなものじゃない
ですか!」

「ラッキーアイテム八九寺と会えるなんて今日はツイてるなあ。
 いや本当に、『また怪異絡みのトラブルに巻き込まれるんだろうな』なんて考えてた自分が愚かだった。
 僕の人生にトラブルなんてなかったんだ。 あるのはTO LOVEるだけだ!」

八九寺「まずはそのダークネスな性格をどうにかしてください阿良々木さん」

………あれ。 阿良々木さんって、噛まずに

八九寺「あ、間違えました。 えー……ガガヶ木さん」

わざわざ噛み直すな。

49 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/20 00:56:38.17 vQpmvwMf0 29/98

八九寺「……ガガヶ木さん」

「二回も言うな八九寺。 僕はそんな前衛的ファッションの最前線を行くアーティストみたいな名前じゃない。 僕の名前は阿良々木だ」

八九寺「失礼。 噛みました」

「いいや、わざとだ」

八九寺「はみ出した」

「何を!?」

八九寺「はみゅっ いっッ……」

「マジで噛んだ! うわ、痛そう……」

50 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/20 01:08:45.93 vQpmvwMf0 30/98

八九寺「ヒリヒリします……」

「ドンマイドンマイ」

口内炎とかにならなければいいけど。

八九寺「ふう。 ところでレディー・ガガさんはファッションの怪異だと思うのですがどうでしょう」

「引き続きそのネタでいくのか……。 まあ、確かに凄まじいものがあるよな。」

僕もテレビでちらっと見た程度だから詳しくは知らないけど。

服をコロコロ変える月火とかはああいうタイプに憧れたりするのかな。

八九寺「そういえばあのお方は、衣装やツアー、PVに使ったお金や震災への寄付がすごくて、自身は結構な借金持ちだそうですよ

「えっ……そうなのか?」

借金って、んなわけないだろ。 あんだけテレビに出まくっておいて

51 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/20 01:20:52.32 vQpmvwMf0 31/98

八九寺「億単位ですよ。 ガガさん本人も『私は全米ナンバー1を五枚も出してるのよ! お金がないわけないじゃない』みたいな感じで、プロデューサーに言われるまで知らなかったらしいです」

「スケールがでかい話だな。 ていうかいきなり金の話かよ。 止そうぜ」

「知らないんですか阿良々木さん。 お金より大切なものなんて、この世にはないんですよ」

「八九寺、僕はお前を助けたい。 悩みがあるなら聞こう。 何があった?」

お金。 金か。 

ふと、朝のことを思い出した。

そういえば火憐も「金を貸せ」だったよな。 

なんだろう。 金が絡んだトラブルでも起きてんのかな。

52 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/20 01:31:32.08 vQpmvwMf0 32/98

しかしなんていうか、リアルなのは嫌なんだよな。

戦場ヶ原の時だったか、十万円稼いで来いとかさ。

思うに、物語って言うのは現実空間から離れて楽しめるという贅沢な遊びなんだ。

だからそういう生々しい額出して現実っぽくなると嫌がる人もいる。

三億ベリーとかにしてくれれば子供から大人まで楽しめるアニメになったことだろう。
                          ワイセツ  
八九寺「阿良々木さんもそのうち懸賞金がつきますよ。 猥褻罪とかで。」

「うっ……そこまでひどいことしたかな」

八九寺「してます」

確かに八九寺が見えるのは僕や羽川だけじゃないみたいだから、今後は気をつけないとな。

53 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/20 01:50:47.70 vQpmvwMf0 33/98


八九寺「ところで阿良々木さんはこんな朝早くにどのような予定で?」

「ん? ……ああそうだ、もう行かないとな。」

歩きながらのやり取りだったので、遅刻したわけではないが。

「悪いな八九寺。 用事がある」

八九寺「ええ、多分そうなのだろうとは思っていましたよ。 せいぜい警察に捕まらないように日々を生きてください」

「ははは、気をつけるよ」 

ひどい別れ文句だったが、小学生に抱きついたりした高校生男子は何かを言い返せるわけでもなかったので考えるのをやめ、大人しく千石の家の門をくぐった。

「いらっしゃい、暦お兄ちゃん。」

がちゃり。

がちゃり。

59 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/28 23:32:34.93 aeROg1tg0 34/98

がちゃり。

という音は、まあ原作を読んでもらえればわかるのだが、千石の家の鍵をかけた音だ。

それを――、その音を二回繰り返すのだけど、千石は戸締りをしっかりする方らしく、二重ロックが基本なのだ。

うん、偉い偉い。

そんな、僕と千石しかいない家の階段を進む。 

両親は二人とも家にいないそうだ。

おっと、ここで「女の子と家で二人っきりだなオイ」とかなんとか思った輩もいると思うが

そりゃあラノベの読みすぎってもんですぜ。

僕はそんな野生動物みたいな思考はしていない。

60 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/28 23:39:13.92 aeROg1tg0 35/98

千石は僕の妹の友達である。

つまり感覚としては妹と二人でいるようなものだ。

えっと、質問をしよう。

『あなたは妹と二人っきりになりました。 妹を襲いますか?』

な? 襲わないだろ?

僕は妹に対してそういう感情を抱いたりはしないのだ。

せいぜい胸を揉んだりする程度で。 うん。

とまあ、そんなこんなで千石の部屋に通され、ようやく最初の場面に戻るわけだ。

61 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/28 23:47:22.58 aeROg1tg0 36/98

とにかくその千石の部屋で。 僕は。 気を失った。

いや、強烈な眠気に襲われたのか。

寝た気がしない。 休んだ気がしない。

「……らぎ……起き……」

うなされていた僕に。

僕に声をかける、誰かの声が聞こえた。

「阿良々木くん、阿良々木くん。」

62 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/28 23:59:00.16 aeROg1tg0 37/98

「阿良々木くん。 起きなさい、起きて。」

ううん、そうしたいけど身体がだるいんだ。

「あら嫌だ――まさか本当に身体の調子悪いの?」

ああ、そうらしい。 ううう、喋るのもつらい……。 これは異常だ。

「ちょっと待って。 阿良々木くんが病気になった時とかにやろうと思っていたこと……ええと」

……なんだよ。 お粥でも作ってくれるのか? 

「ううん、おしいわ。 でもそういうアプローチもいいわね。 あっつあつのお粥を阿良々木くんの顔に乗せたらどんなリアクションをするのかしら」

僕はリアクション芸人じゃないんだよ。 ていうか誰だって同じリアクションを取るわそんなの
      ネギ
「風邪の時は葱を肛門に突き刺すと早く治る、という話を聞いたことはないかしら」

……あったらどうするんだよ。

63 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/29 00:05:21.37 ToaktZUT0 38/98


「もう、嫌だわ阿良々木くんったら……レディにこれ以上恥ずかしいことを言わせる気なの?」

なんで照れてんだよ! たった今『肛門』とか言った癖して今さらどんなレディ気取る気だ! 

「照れもするわよ。 恋人の恥ずかしい穴にこんなに太い葱をアレするなんて。」

ちょっ……もう用意してある!? ていうかお前、そういうドSなキャラ卒業して丸くなるんじゃなかったのか!?

「こんなの嗜虐的行為のうちに入らないわ。 大丈夫よ、実際に試した人も多いはずだし、ネギの成分は本当に身体にいいのよ。――でも愚かで虫の様な阿良々木くんは無知だから知らないのかしら」

お願いだからマジでやめて! 洒落になんないってそんなの!

65 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/29 00:18:58.92 ToaktZUT0 39/98

「洒落にならない、か。 確かにその可能性もあるわ。 阿良々木くんは吸血鬼だったわよね」

え? ああ……成り損ないだけどな。

「ニンニクは嫌い?」

……いや、それは僕も試したけど平気みたいだ。 太陽の光も平気だしな。

「ニンニクはネギ科の植物なのよ。 知ってた?」

イヤ、知らなかったっていうか。 考えたこともなかったな

「それならいいじゃない。 洒落にならなくなくなくない? まずは服を脱ぎなさい。」

なにがいいんだよ! 断固抵抗するぞ僕は!

「恋人の服を脱がすのって緊張するわね、ふふふ」

全然ロマンチックなシーンじゃないし! 本当に楽しそうだなお前!

66 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/29 00:30:33.29 ToaktZUT0 40/98


「阿良々木くんだってそうじゃない? 恋人に『服を脱げ』なんて優しく言われたらドキドキしてしまうでしょう?」

違う意味でドキドキしているよ! ホラー映画とか見ている時のドキドキだこれは!

「手をどかしなさい。 そのトランクスを降ろすから」

やなこった!

「私はね、」

「私は阿良々木くんに『服を脱げ』と言われたらどんな状況でも全裸になれる自信があるわ」

え……

「隙あり」

ズルッ

うウアアアアアアア!?

67 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/29 00:35:06.93 ToaktZUT0 41/98

「やめろおおおおおおおおおお!!!」  

僕は目覚めたらしい。

目覚めたということは夢だった、悪夢だった。

汗びっしょりである。

急いで自分の体の無事を確認する。

あれ、手が動かない。

が、しかし僕は仰向けに寝ている状態で。

特に何かをされてはいないことがわかると息を整える。

68 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/29 00:39:54.51 ToaktZUT0 42/98

「はあ、はあ……。 ひどい夢だった。 夢って、え? 夜?」

暗い。 何も、見えない。

僕はアイマスクをしているようだ。 こんなもの、僕は滅多にしないんだが

つまり昼なのか? 僕はどこにいる?

どうやら姿勢は、寝た状態らしい。 姿勢は毎晩寝ているときと変わらない自然体。

気を失う以前の記憶をかき集める
。 家を出て――そうだ、千石と――

「う、……う?」

僕は、手足が縛られていた。

「暦お兄ちゃん」

鈴が鳴るような声。 

「千石……?」

69 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/29 00:44:11.31 ToaktZUT0 43/98

「千石か。 寝ていたのか僕は。ごめんな。 ひ、ひゃッ……!」

下腹部を触られた。

妙な悲鳴をあげてしまった。 女の子か僕は。 らぎ子ちゃんか。

直前に見ていた夢のせいでスキンシップが怖い。

撫子「ふふふ。 暦お兄ちゃんの、腹筋」

「千石? 千石だな。 僕はどうしたんだ、寝ていたのか? 千石の部屋で。 本当に悪いな。 ああ、でもこのアイマスクは一体なんなんだ? 何も見えないんだけど」  

撫子「ううん。 心配ないよ。 暦お兄ちゃんが気持ちよさそうに寝ていたのを、ずっと見ていただけだもん。 撫子は幸せだよ」

そ、そうか。 まあ、怒ってはいないようなのでよかったが。

撫子「一人で、起きれる?」

「え? ええと……、なんか力が入らなくてさ。 どういうことかわからないけど、無理みたいだ。」

何を言っているんだ僕は。

体がだるいのは事実だが、手足を縛られているのだ。

動けるわけがないだろう。

70 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/29 00:51:51.19 ToaktZUT0 44/98

最初は『僕の体は無事』だと思ったのだが、あれはその、僕の肛門に関しては無事という意味であり。

……なんかもう、寝起きの頭にはきついな。

何から考えればいいのかわからない。

「……起きれない。」

撫子「そっ――そうかぁ! あっ、そ、そうなんだ。 風邪気味なのかな?」

なんか一瞬テンションが上がった気が。

撫子「じゃあ、撫子が看病してあげるしかないね。 うん。 これは完全に仕方がないよね。」

「ええっ」

ははは、千石は優しいなあ。

優しい子のはずだが……。

これ、どう考えても僕を縛ったの、千石だよな?

71 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/29 00:59:24.01 ToaktZUT0 45/98

だってこの部屋には多分、僕と千石しかいないし。

二人だけの声しかしないし……

―――いや。 待てよ?

「戦場ヶ原! 戦場ヶ原だな!?」

誰かのイタズラだ。 これは。

だとすればまずあいつ。

「ああ、そうか。 千石とは話したこともなかったか! なら月火か! それとも火憐か!」

72 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/29 01:04:26.13 ToaktZUT0 46/98


可能性は高いと思った。

あいつらならやりかねないし、一応僕には、受験勉強をサボって遊びに来たという弱みのようなものもある。

「そこにいるんだろ! 」

千石が乗ってきた。

別にリズムに乗ってきたDJ-NADEKOみたいな意味合いではない。

物理的に、僕の体の上にのしかかられた。

「せ、千石?」

撫子「ごめんね、重い?」

「いや、そんなことはないけどさ。 なんで、乗るの?」

撫子「駄目?」

「いや、駄目じゃないけど……」

73 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/10/29 01:11:27.01 ToaktZUT0 47/98

絵的に良くない。 ベッドの上で男女が重なっちゃ駄目である。 

まあ絵的っていっても、僕には見えないんだけど。

「……このアイマスクを外してくれ千石」

撫子「誰もいないよ。」

「え? いや、だって……」

撫子「暦お兄ちゃんと撫子だけ。 あとは誰も来ない」

「……」

ここで僕は、というか本当に今さらだが、部屋が寒くないことに気づく。

千石がすごく薄着でいることを肌に伝わる感触で感じ取ったからだ。

ピンクのキャミソールだけの千石が黒電話を持っているシチュエーションがまぶたの裏――否、アイマスクの裏に浮かんだ。

81 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/09 22:32:54.44 +EaVZ87k0 48/98


身動きができず、何も見えない真っ暗の状態に置かれると人間は普通、恐怖を感じるのだろう。

しかし今の僕はただただ混乱しているだけだった。

いや、正確にはそれだけでなく。

薄着の千石の感触と体温を楽しんでいなかった、と言えば嘘になる。

ほんとにもう、無防備だなあ千石は。

同じクラスの男子とかにこういうことしちゃあ駄目だぞ。

襲われたりするぞ。

82 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/09 22:45:08.87 +EaVZ87k0 49/98


僕だったからいいけどさ。

ここはしっかりと教育するべきか。

撫子「具合悪いのなら熱を計らないとね」

「ん? あ、ああ」

確かに僕は、若干風邪気味のようだ。

友達の家に出かけて、そこで風邪をひいた――なんてことは

今までの人生で一度もなく(ていうか、みんなないだろ)

しかし僕は不思議に思わなかった。

最初に部屋が寒かったから、それが原因かと思ったのだ。

83 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/09 22:54:46.76 +EaVZ87k0 50/98


撫子「ちょっと服、脱がすね」

びっくりした。

千石は僕の服の裾から腕を通し、体温計を入れてきた。

「お、おいっ。 くすぐったいって」

自分でできる。と言いかけたが、縛られているからそれは無理だと気付く。

「なあ千石、まずはこの縄をほどいて――」

85 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/09 22:59:57.36 +EaVZ87k0 51/98

いや、待てよと、ここで僕は気づく。

千石は……、

おそらく具合の悪くなった僕を自分のベッドで寝かせたはいいが、

男と二人っきりでいることがちょっと怖くなって、もしかしたら襲われるのではないかと、千石は思ってしまい

念のため、念のため手足を拘束しておいたというだけのことであろう。

多分そんな感じだ。

ああ、そうか、貞操観念はしっかりしていたんだ。

いいぞ、千石。

その心掛けは良い。 うちのクソビッチと交換したいくらいだ

87 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/09 23:10:09.09 +EaVZ87k0 52/98

謎はすべて解けた。

撫子「おでこくっつけていい?」

「いや、それは駄目だろ」

危ないよ。 いろいろ。

千石「だって、腋に挿した体温計だけじゃ、正確じゃないと思うし」

いやいや、ちゃんと数字を出してくれるんだから正しいだろ。

小学校の頃に何度も、学校を休めるように熱が出ることを祈り

でも割と健康でほとんど皆勤だった僕が言うんだから間違いない。

88 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/09 23:16:39.48 +EaVZ87k0 53/98

ピピピピ。 と、電子音。 

体温計が役目を果たしたようだ。

体温計が僕の体から離れ、

撫子「ああ――、完全に熱だね」

「うわ、マジか。」

僕には見えないけど。

「じゃあ、移したら悪いし帰るよ」

撫子「そ、その必要はないよ!」

「な、なんでだ」

撫子「えっと、ほら、微熱だし、ひどくないし」

89 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/09 23:23:06.69 +EaVZ87k0 54/98

撫子「熱だけど、撫子程度の力でも何とかできる熱なんだよ。 だから――、撫子の部屋にいるのが、最も適切なんだよ」

「そ、そうか? ええと――だけどあんまり近づくなよ千石。 こんなにくっついてたら流石に移るぞ」

撫子「大丈夫だよ超強いから、撫子。 風邪に対しては。」

なんだその設定。

SSなんだから、原作に書いてない設定増やしすぎるなよ。

90 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/09 23:28:04.48 +EaVZ87k0 55/98

撫子「と、とにかく。」

撫子「何かして遊ぼうか」

「どうしてそうなる」

強引にごまかされた感がある。 それ以外の感が無い。

しかしそもそも遊びに来たのは事実なんだよな。

「ていうか僕、動けないし」

撫子「ふっふっふ。 取り出したるはサクマ式ドロップスだよ。」

からん、からん。

どこかなつかしい、金属と何かがぶつかる音。

「ん?」

91 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/09 23:32:02.06 +EaVZ87k0 56/98

ああ、思い出した。

8種類くらいの飴が入っている缶である。

あの名作映画「火垂るの墓」にも登場したやつと同じようなものだと言えば、

わかる人も多いのではないだろうか。

随分と懐かしいものを。

いや、今でも生産されているんだろうけど。

撫子「飴の味を当てるゲームだよ」

ん、んー、なるほど。 アイマスクで視覚が使えないからこそのゲームか。

これなら手足が縛られている僕でもできるというわけだ。

考えたな、千石。

92 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/09 23:37:41.76 +EaVZ87k0 57/98

見えていればアメについてる色から味が分かるんだけど、そういえば味だけで当てることはできただろうか。

初めてかもしれないな。

僕の味覚が試されるわけだ。

撫子「じゃあ、飴を一個、口に入れるからね。」

からん、からん。

「よしきた。」

撫子「……もう少し口を閉じて」

93 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/09 23:42:18.83 +EaVZ87k0 58/98

「ほ……。 お、おう。」

歯医者さんの気分だったのだが、言われて少し顎を上げる。

撫子「もっと閉じて。」

「ん……そうか?」

撫子「うん。 もう少し。 唇を突きだす感じでも」

「あ、ああ。」

撫子「歯も、閉じるくらいでいいよ」

「え、ええ? まだ?」

撫子「うん。 やっぱり歯並び綺麗だね。」

「そ、そうすか。 どうも」

撫子「動かないで。」

「ハイ」

94 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/09 23:45:18.02 +EaVZ87k0 59/98


撫子「い、いきます……。」

そう言って。 ……なんでそんなに緊張してるような声なのだろう。

がしっ。

千石は僕の頭部を両手で掴む。

お、おおう……。 びっくりした。 

……しかしこれ、飴を口に入れるにしては口を閉じすぎではなかろうか。

まあ、開け過ぎても喉に飴が入ったら怖いしな。

千石の息が近くなった。

顔が、鼻の下あたりがくすぐったいんだが。

「ハア、ハア……」

……なんかハアハア言ってる。

95 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/09 23:52:58.12 +EaVZ87k0 60/98

「せ、千石、くすぐったい……、お前、顔近くないか?」

撫子「ご、ごめんなさい! 撫子の息の風速が凄くてごめんなさい!」

いてっ。

……いや、そこまでじゃないけど

撫子「飴落ちちゃった……違うのにするね」

「あ、ああ。」

撫子「で、でわ……」

もう一度トライ。 らしい。

……しかし、やはりこれ、何か違うことをやっている気がする。

千石の手の震えから、今行おうとしている行為の重大性がにじみ出ている……

気のせいだろうか。

まあ気のせいなのだろう。

人は目が見えないだけでやたらと不安になってしまうしな。

96 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/10 00:00:21.97 DWLO/37x0 61/98

撫子「な、撫子が勝ったら……」

「うん?」

撫子「暦お兄ちゃんが飴の味を当てられなかったら、何をする?」

……ん、ああ。 罰ゲーム的なものか。

「そうだなあ」

撫子「何を、してくれるの」

「ええと、そうか……じゃあ何かしてあげないとな」

撫子「な、何でもして」

『なんでもしてあげるから。』と、羽川に言われたことを思い出す。

「う、ううん。 千石が決めていいよ」 

と、僕はうっかり言ってしまった。

104 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 04:49:12.59 E0HaXpzZ0 62/98

何でもしてあげる。 飴の味を当てることができたら。

……いやいや。 しかし冷静に考えたら、飴の味を外すなんてことはないだろ。

これは賭けとかにならない。

勝負が成立しない。

飴を口に入れて、「ん? 何味だ、これ?」 なんて思ったことはあっただろうか。

一度に何種類か舐めるとかなら話は別だが。

「なあ、でも千石。 たぶん僕、味覚は一般人並みにあるから味は当てるぞ」

撫子「本当に? 味わって舐めてくれる?」

「味わうまでもないよ。」

105 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 04:53:13.85 E0HaXpzZ0 63/98

撫子「イチゴ味かな、レモン味かな。 それとも、なでこ味かな」

「ん?」

……えー、ええと。

ああ。

ああ、ナタデココ味ね。 そう言いたかったのだろう。

いやあ、わかりづらい。 まったく、千石のボケはわかりづらいなあ。

非常に高度なやり取りが行われている。

なんとか対応できているのが不思議なくらいだ。

無理矢理感があるがまあ、よしとしよう。

しかし千石、そういうことは男子に向かって言わない方がいいぞ。

なでこ味ってお前、「私を味わって」みたいなこと言ったらさ。

勘違いする輩が出てくるからな。

106 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 05:03:04.38 E0HaXpzZ0 64/98

撫子「早くしようよ」

「あ、ああ」

急かされた。

撫子「暦お兄ちゃんは、舌は絡めるのが好きかな?」

「なんだそれ。 えっ、飴を舐めてる時の話か」

撫子「えっと……、うん。 それでもいいけど」

それでもってなんだ。

「飴はな……、いつもどういう風にって言われると、上手く説明できないなあ」

撫子「ふふふ。 指にも、絡めてよ」

「え? 何?」

107 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 05:10:49.87 E0HaXpzZ0 65/98

撫子「えっとね、さっきの『何でもする』の話。 飴を暦お兄ちゃんの口の中に入れるから、指も舐めて」

「そ、それが……『何でもする』ことと」

撫子「そうだよ。 約束だし、まさか断りはしないよね?」

「ま、まあそのくらいなら……。 でもそれ、面白いのか? 千石。」

撫子「もちろんだよ、面白すぎるよ。 暦お兄ちゃんが一生懸命私を舐めてるところを見ると、体が熱くなるよ」

「そ、そうか……。 お前、将来サディストになりそうだな……」

撫子「え?」

「なんでもない」 

撫子「じゃあ、しよっか。」

「お、おう」

しかし千石のやつ、たまに色っぽいよなあ。

ドキッとしてしまう。

108 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 05:19:10.63 E0HaXpzZ0 66/98

うーん……。

何故か貞操の危機を感じたり。

僕はなにか壮絶な思い違いをしているような気もするが……、

それらはやっぱり、気のせいなのだろう。

人間は視覚が使えないと不安に……、以下略。

「味わってね。」

と、そう言われた。

その時だった。 携帯が鳴ったのは。

112 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 17:13:28.36 E0HaXpzZ0 67/98



……結論から言うと、この話はここで終わりだ。

あとは後日談というかなんというか

ここからは本当に、ただの後片付けのような話である。

ええと、携帯が鳴ったところだったな。

113 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 17:17:47.14 E0HaXpzZ0 68/98

この音は僕の携帯だ。 メールじゃなくて電話のようだが。

僕に電話をかけるような物好きはかなり限定されるよなあ。

「……千石、僕、出ないと」

撫子「う、うん……」

千石は少しためらいながらも、僕の耳元に携帯を持ってきてくれた。

「もしもし、阿良々木くん」

「ん。 ああ、羽川か」

羽川「家にいないの、わかってるよ」

なっ……勉強してないのばれてる!

ううう、それがわかってるのなら、絶対怒られるよ……。

羽川が僕を怒る……

畜生、僕は……。

羽川に叱ってもらえる!

114 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 17:24:34.71 E0HaXpzZ0 69/98

「ええと羽川、僕はっ……」

羽川「いい? 落ち着いて聞いて。 火憐ちゃんの話。 火憐ちゃんが大変なの」

「は、はあ?」

なんでここであいつが出てくるんだ

羽川「すぐに帰って来て。 お願い。」

……。

どうやらここからはシリアスパートに入るようだ。

シリアスパートをちゃんと読みたければ傷物語(上)をお買い求めください。

115 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 17:25:58.20 E0HaXpzZ0 70/98

偽物語上でしたごめんなさい。

羽川「ごめんね阿良々木くん。 何でもいいからすぐ帰ってきて。」

「………。」

羽川「月火ちゃんも、教えてくれなかったの。 火憐ちゃんは今、喋れないし……」

「そ、そうか……って、え? 喋れないのあいつ?」

羽川「うん。 すごい熱なの。 全然動けないくらいひどいの」

「そんなにか……。 わかった。 すぐ行く。 まあ僕も今、全然動けないんだけど」

羽川「え?」

「え?」

116 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 17:27:43.17 E0HaXpzZ0 71/98

羽川「……阿良々木くんさ、今、どこにいるの?」

「ええと……まあ、いいじゃんそんなの」

羽川「……教えたくないならまあ、いいけど。 月火ちゃん曰く、『時間的にはもうとっくにラスボスの間に辿りついてる』とか」

「んん? ラスボス? なんのことだ」

素でわからない。

羽川「うん。 私もわからないけど――、それよりさ。 阿良々木くん、動けないの?」

「いや、なんていうか」

ええと……千石も、僕の妹が一大事だと知れば、普通に帰らせてくれるだろう。

「帰れるから。 体は動かせないし、目の前も真っ暗だけど帰れるから」

羽川「な、何それ? え? 本当に大丈夫なの!?」

117 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 17:30:22.03 E0HaXpzZ0 72/98

「大丈夫だって。 状況が状況だし、すぐに終わらせるから」

羽川「何を終わらせるの!? もしかして本当にラスボスと戦ってるの阿良々木くん!?」

「戦ってないよ。 ちょっとゲームしてただけだし、遊んでただけだし」

羽川「えっと……、それってつまり、ラスボスと戦ってるんでしょ」

「いやいや、違うって。 ゲームって言っても画面の中での話じゃない。 リアルの話」

羽川「現実でボス戦をやってるの?」

「ええい、とにかく行くから。 もう切るぞ。」

羽川「待って! 気になるから! 体を動かせなくしたり視界を奪うラスボスをどうやってすぐ終わらせるか気になるから!」

ピッ。

118 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 17:34:20.72 E0HaXpzZ0 73/98

ツー、ツー、ツー、

羽川のやつ、後半かなりキャラが違っていたな。

「……そういうわけだから、千石」

撫子「う、うん。 縛ってるの、解くから」

僕はあっさりと拘束と、アイマスクも外されて。

「……千石。 なんでそんなに服、はだけてるんだ」

撫子「え、ええっとぉ」

「ああ、いい、ゴメンな千石。 また来るから」

撫子「う、うん」

そんなわけで僕は自宅に向かう。

……なんか、羽川の電話が無かったらいろいろ危なかったような気がしないでもないが

そんなものはやっぱり気のせいなのだろう。

119 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 17:37:39.04 E0HaXpzZ0 74/98

―――後日談と言うか、今回のオチ。

いつものように火憐と月火に起こされる場面かと思えば、そうではなく。



「ていうか忍……お前ずっと見てただけだったのか」

「ああ、面白そうだから見ておったというか、半分寝てた。 邪魔するのも無粋だしの」

「面白そうって、お前……」

「あのままあの部屋にいて、命の危険があったわけでもあるまい」

「そりゃそうだろう」

「強いて死因を挙げるとすれば腹上死とかじゃろうな。」

「副上司? なんで急に役職の話が?」

「まあいい」

120 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 17:44:22.43 E0HaXpzZ0 75/98

「ていうか困ってもいなかったじゃろう。 JCの未成熟な体を堪能しているだけに見えたが」 

「JC言うな。」

僕はな……連日の受験勉強によるストレスから急に体調を崩し、部屋が寒く感じて

ぶっ倒れて看護される立場になり、千石は仕方なく、情けない僕を半裸で温めてくれたんだ。

『寒い時は体をくっつけて温めるのが良い』という知識を引っ張り出してな。

「なんじゃそのものすごい解釈!?」

121 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 17:48:50.71 E0HaXpzZ0 76/98

「お前様は、あの……縛られたり、アイマスクされたりしたのについては……」

「ははは。 あれか、正しい判断だろ。」
 
「は、はあ?」

だって僕も男だし、服を脱いだ千石を見たらやっぱり何もしないとは言い切れない。

でも僕が体調を崩していたのは本当だ。

看病はしなければいけないだろう。

なら服を脱いだ千石を「見なければ」いい。

だからこそのアイマスクさ。

そして僕がアイマスクを取らないように、または僕が千石の体を好き勝手に触らないように拘束しておいたというわけだ。

最初はびっくりしたけどまあ、落ち着いて考えれば当然の対応だったというか、ね。

いやあ、なかなかの貞操観念、しっかりしているなあ千石は。

僕はドヤ顔で語った。

122 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 17:56:18.80 E0HaXpzZ0 77/98

忍は僕を見て絶句していた。

目を見開いて眉間にしわを集めまくっている。

これ程はっきり口をあんぐりと開けている人間を初めて見る。

あ、人間じゃなくて怪異か。

おいおい、どうしたんだ忍。

「ものすごいもの」を見た時のような目だ。

美しい吸血鬼の顔が台無しだぞ。

あれ、僕、そんなに変なこと言ったか?

123 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 18:09:31.38 E0HaXpzZ0 78/98

「しかしあれだけアタックされてそれだけしか感じないとは、さすがにあの娘には同情するのう」

「アタック? 攻撃的なことをするのは火憐とか戦場ヶ原とかだぜ?」

「……そうじゃな」

「?」

そんなこんなで、今回の話は終わりらしい。

……いいのか?

だって、僕が千石の家に行って遊んでたというだけの話なのに。

124 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/11/20 18:11:17.38 E0HaXpzZ0 79/98

おしまい

146 : SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) - 2011/12/15 05:00:06.26 9OpavCwB0 80/98

後日談というか、今回のオチ、その2。



「なあ神原。 お前を登場させたらストーリーが破綻したらしい」

神原「うむ。 あー、ええと、えへへへへ……」

「いや、照れるところじゃない。 褒めてない。 ストーリーが破たんってお前、何やったんだよ」

神原「いや、そうは言ってもだな阿良々木先輩。 本当に身に覚えがないというか……
何をしたと言ってもきっと、大したことではないのだ。 
私のような若輩者にできることなど、たかが知れているからな」

そういう、一応は謙虚な奴ほどいろいろやっていたりするんだよな

神原「まあ、阿良々木先輩との雑談に興じ過ぎて収集がつかなくなったり」

収集がつかないくらいかよ。

神原「あとは……そうだな、私の家に火憐ちゃんを連れ込んで、アレなことをしていた。」

「それのせいだ! その原因がメインだ!」

147 : SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) - 2011/12/15 05:05:15.61 9OpavCwB0 81/98

神原「ううん、私としてはそのルートに行きたかったのだが、するとやはり、千石ちゃんメインの話にはならないのだ」

「そりゃそうだろうな」

神原「原作では火憐ちゃんに異変が起きるわけだが、そこはアレンジして、
  『火憐ちゃんが私にいろいろされ過ぎて、体が火照って足腰が立たなくなる』
  でも良いと思うのだ」

「今さらだがな神原…。 SS速報vipって基本的にエロ禁止な雰囲気らしいぜ。」

神原「ええっ、ここにきて真面目になるのか、阿良々木先輩」

「僕が普段真面目じゃないみたいな言い方だな」

148 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/12/15 05:08:35.98 9OpavCwB0 82/98

神原「しかし、実に惜しいなあ。 対象年齢はvipスレと同じくらいでよいと思うのだが」

「まあ、な。でも今回は問題ないだろ。 別に大したことはないし。千石に看病されたりだけだし。」

神原「……千石ちゃんに?」

神原はここで怪訝そうな顔をした。

「ああ。 僕、風邪ひいちゃったみたいでな。 千石には感謝してるよ。 看病されたんだ」

神原「……一応聞いておくが、何かなかったのだろうか? 変わったこととかは」

「ん? 何かって? えーと、大したことはなかったけど」

それから僕は、千石の家で偶然眠気に襲われ眠ってしまったことや、
どうやら千石曰く熱が出てしまったこと、
千石が僕を看病してくれたこと、その際に仕方なく僕を縛ったこと、視界を奪ったこと、
気晴らしに飴を使ったゲームをしたこと、両手で僕の頭をつかんだ状態で飴を食べさせようとしたことなどを話した。

神原「あ、阿良々木、先輩……。 それは」

「うん。 千石は優しくていい子だろ?」

神原「…………そ、そうだな」

149 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/12/15 05:19:54.06 9OpavCwB0 83/98

ええと、元々は千石とうちの妹達(主に月火)が思いついたのだとか。

やっぱりうちの妹共も一枚噛んでいたのか。

今回のこの、なんというか。  

……え、なに? 後はお前たちが話すって?

月火「兄ちゃんは聞いちゃ駄目だから」

いいじゃないかい、別に聞いたって。

月火「駄目だよお兄ちゃん。 ここからは女の子だけの話だから」

「ううむ。 なんか卑怯だなーそんな言い方。 なあ千石……、」

撫子「ごめんね暦お兄ちゃん。 ルーズトークなんだよ」

…………。

いいかげんな話なんだな。

ガールズトークね。

152 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/12/15 22:16:15.91 9OpavCwB0 84/98

ええと、元々は千石とうちの妹達(主に月火)が思いついたのだとか。

やっぱりうちの妹共も一枚噛んでいたのか。

今回のこの、なんというか。  

……え、なに? 後はお前たちが話すって?

月火「兄ちゃんは聞いちゃ駄目だから」

いいじゃないかい、別に聞いたって。

月火「駄目だよお兄ちゃん。 ここからは女の子だけの話だから」

「ううむ。 なんか卑怯だなーそんな言い方。 なあ千石……、」

撫子「ごめんね暦お兄ちゃん。 ルーズトークなんだよ」

…………。

いいかげんな話なんだな。

ガールズトークね。

153 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/12/15 22:21:59.01 9OpavCwB0 85/98

そういうことならお前たちに任せようじゃないか。

しかし、化物語において、僕以外の視点の話ってどう思われているのだろうか。

まあそれは僕が、僕自身が体験することはできないというか、伝え聞くしかないんだけど。

それはさておき、女子同士の会話って実際どうなんだろうか?

月火「場合によってはとんでもなくエロい話とかするよ」

「マジか」

聞きたいよー。 いや、でもあまりにも下品な話は聞きたくないような。

揺れる男心である。

154 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/12/15 22:27:08.75 9OpavCwB0 86/98

ええと、ここからは撫子の視点で回想をします。

撫子の視点になるとどうなるかって?

ふっふっふ。

要するに、撫子が心の中で突っ込みを入れたりとかできるんです。

すごいでしょ? 楽しいですよ。

月火「お兄ちゃんを誘うのはいいとして、まずどうするかだよね……」

撫子「うん。」

撫子の部屋で、月火ちゃんと話していた時の話です。

暦お兄ちゃんを誘う、1週間程前でしょうか。

撫子は月火ちゃんと遊んでいたんです。

155 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/12/15 22:42:36.95 9OpavCwB0 87/98

月火「……ちなみに予定ではどこまでいくつもり?」

撫子「えっ? いや……、出かけるんじゃなくて撫子の部屋に誘おうかなって」

月火「違う違う。 AかBかCまでやらせるのかDまで終わらせるのかってこと」

直球です。

月火「お兄ちゃん、いつもフラフラしているから、心配なんだよね」

撫子「心配。」

やっぱり月火ちゃんも、お兄ちゃんのことを気にかけているのでしょうか。

私は一人っ子だからよく知りませんでしたが。

月火「どこの馬の骨ともわからない女に捕まって欲しくないって言う気持ちはあるよ。
   優しい人ならいいけどさ。 性格が破たんしてて、携帯している文房具で
   常に虐待してきたりする人とかだったら嫌だよね」

何故そんな具体的な……。 いないでしょそんな人。

156 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/12/15 22:58:05.22 9OpavCwB0 88/98

月火「でもやっぱり、私に相談したのは流石というか。 やはり持つべきものは自分の兄に惚れてる友達だね」

月火ちゃんはいい言葉なのか悪い言葉なのかよくわからない台詞を言いながら立ち上がり、腕を組みます。

そのまま演説を始めるようです。

月火「ファイヤーシスターズと組むと、お兄ちゃんを攻略しやすくなるさまざまな特典が付いてきます!」

千石「お、おお……」

豪華な特典です。 やっぱり知りたいです。 暦お兄ちゃんのことなら、全部。

「兄ちゃんの体のどこをどう叩けばどの程度HPが削れるか!とか」

それは知りたくないです……。 どういう層に需要があるんですかその情報。

化物語のグッズはいろいろ出てるけど、格闘ゲームはたぶん出てこないだろうし。

撫子は暦お兄ちゃんにダメージを与えることに興味ないです。

月火「火憐ちゃん情報だし、正確だよ」

だから調べる必要がないと……。

160 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/12/25 22:55:14.30 Swzt53DU0 89/98

月火「なんだったら私の下着とか貸すし」

撫子「なんだったらって何……。 どうだったらそんなことを……」

私が月火ちゃんの下着を借りてどうしろと……。

月火「だからさ、展開によっては見せたりするんでしょ? お兄ちゃんに」

撫子「そ、それは……」

スクール水着とかブルマならまだいいけど、ちょっと怖いです。

月火「私のならお兄ちゃんは見飽きてるくらいだし」

ひどい兄妹です……。 いや、これは結構普通なのでしょうか? 

ひとりっ子の私には何が正しい情報か判断できません。

161 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/12/25 22:58:44.15 Swzt53DU0 90/98

月火「遠慮せずに借りてけって。 私の勝負下着」

例えば暦お兄ちゃんは、自分の妹の下着を私が穿いているのを見てどんな気持ちになるんでしょう。

メリットも何もないと思います。

たぶん普通に嫌がるでしょう。

ていうか「一体これはどういうことなのか」と変なショックを受けて

頭を抱えてしまうという展開が予想できます。

あ、そういえば「穿いている」という字ってカッコいいですよね。

ドリルで何かしてるみたいじゃないですか。

162 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/12/25 23:07:04.32 Swzt53DU0 91/98

月火「いやいや、でも私のと一緒にしておけば大丈夫だって。 ハズレはないよ」

撫子「そ、そうなの?」

月火「私って、ほら、お兄ちゃんの好みに合わせて選んでるから」

撫子「…………ええと」

絶句です。

どんな兄妹なんですか。

もう、いろいろと心配です。

でも本当っぽいから嫌です。

いつも話しているとわかるんですが、この姉妹のお兄ちゃん好きは度を超えています。

月火「いやー、でも実際、下着に関してはお兄ちゃんと同じ意見のことが多いというか。」

同じ意見のことが多いってつまり、そんな話をしょっちゅうしているってことでしょうか

月火「うん。 お兄ちゃんは本当に女性用下着のことをわかってるよ。 お兄ちゃん、パンツのことを本気で考えてる」

もはや悪口です。

163 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/12/25 23:12:42.77 Swzt53DU0 92/98


月火「部屋に連れ込んで二人きりになったら遠慮せずに攻めるんだよ」

撫子「……う、うん」

月火「せんちゃん、 …あ。いや、撫子ちゃんがシャイなのは知ってるけどさ」

月火「でも、撫子ちゃんになら、―――いいよ。」

……。

撫子「え、えええっ?」

月火「いや、だから。撫子ちゃんにならウチのお兄ちゃんをあげてもいいよ。 大丈夫だと心から思う。」

撫子「あ、ああはい。 そういうことですか」

私としたことが慌ててしまいました。

ちょっと違った方向の意味に聞こえたんですが、自意識過剰でしたね。

164 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/12/25 23:23:12.25 Swzt53DU0 93/98

でも、月火ちゃんからは信用されてるようで良かったです。

私は意気込んで、手に持ったビンをグッと握ります。

月火「……撫子ちゃん。 さっきから気になってたんだけどさ。 それ、持ってるの、何?」

撫子「え? ああ、これ。 睡眠導入剤だよ」

月火「………………そ、そう」

165 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/12/25 23:31:46.64 Swzt53DU0 94/98

薬局の人は撫子に、できるだけ難しい用語を使わずに説明してくれたんだけど。

最初は、『睡眠薬が欲しいです』って言ったんだけどね。

でも買えませんでした。 

『それに似たものならあるけど』とか言われて、これを処方された次第です。

よく考えたら危ないですからね。 撫子みたいな子供が睡眠薬くださいーなんて。

睡眠薬を一度に大量に飲んだら命に関わるって、ニュース見ていたりミステリー小説好きだったりすれば、みんな知ってるもんね。

睡眠導入剤がどういうものか撫子もよく知らないけど、話を聞く限り睡眠薬よりは弱いってことが伝わって来たよ。

強制的に眠らせるんじゃなくて、体をリラックスさせる程度みたいな言い方だったけど。

月火「……詳しいね」

撫子「いやいや、お店の人からちょっと聞いただけなんだよ。」

166 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/12/25 23:35:08.20 Swzt53DU0 95/98

月火「お店の人に聞いただけ?」

撫子「聞いたり調べたりしたよ。 どれくらいの量で何時間くらいは眠るのか、とか」

月火「ていうか撫子ちゃんさ……、どうしてそれ、買ったの?」

撫子「えっ……、それはもちろん眠るためだよ」

月火「本当に?」

撫子「眠る以外に、どうするの」

月火「誰を、眠らせるために買ったの?」

撫子「……撫子だけど?」

月火「……………………」

撫子「……………………」

月火「……まあ、いいや」

良かったみたいです。

良かったです。

167 : まどちくび ◆W8J6cxD/Bs - 2011/12/25 23:46:58.91 Swzt53DU0 96/98

そんな感じで作戦会議は終了し、暦お兄ちゃんを家に誘いました。

月火ちゃんから告白までの流れについてアドバイスももらいましたが

やっぱり撫子は撫子のペースでやりたいなと思い、少しだけ遊び方にアレンジを加えました。

ごめんなさい月火ちゃん。

そんなこんなでこのお話はおしまいです。

いいのかな?

だって、撫子が暦お兄ちゃんをお部屋に招待して遊ぶだけの話なのに。

168 : SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) - 2011/12/26 00:31:38.37 RSHBT/Ki0 97/98

ぜんぜんよくないです

169 : SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) - 2011/12/26 01:02:37.39 WSNkN9f1o 98/98

撫子恐ろしい

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