私こと上条当麻の細やかな人生は幼少期より不幸の連続だった。生まれて間もなく、父は唐揚げを喉に詰まらせて死んだ。
レモンを丸ごと唐揚げと一緒にたべたことが原因らしい。
元スレ
上条「右手から唐揚げが出る能力か……」
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唐揚げ死。顔も思い出せない人間が唐揚げで死したことには悲しみよりも、むしろ間抜けさへの侮蔑の気持ちのが強い。
いや、唐揚げ死なんてわけのわからない死因で母をノイローゼにまでした点を考慮すれば憎しみのが強いかもしれない。
思わず、向こうの席で唐揚げを食べていた女子中学生を睨んでしまう。さわやかなレモンの香りが鼻腔をつき、目頭が熱を帯びた。
真っ白な紙の上、ある種不自然なくらい香ばしく油に照り、揚げものの食感の軽さをたたえるそれも学園都市の技術による加工食品なのだろうか……。
30分以上前に頼んだラザニアが運ばれてこないがために、携帯も持っていなかった俺は唐揚げの魔力に逆らうことはできない。
「………ちっ」
父の敵等というつもりはない。しかし唐揚げを見ると腹のなかで何かが蠢き鼓動が早まる……。
唐揚げ……。
俺が幼稚園のころに精神を病んでしまった母には、最早人間と唐揚げの区別はつかなかった。
あの頃は俺が家に帰るなり頭からレモンを振りかけてきたものだ。
あのとき目に染みた酸性の痛みが脳裏から離れたことは一瞬とてない……。
唐揚げ……!
「ちょっとアンタ……、何でこっちみてんの?」
唐揚げの主、女子中学生が可憐な見た目の中学生にしてはドスの効いた、重みのある声で話かけてきた。
とっさに目をそらす。唐揚げに意識が集中しすぎて女子中学生を忘れていた。
「すいません……」
「あのね、すいませんじゃなくてさぁ、何でかって聞いてるんだけど……?」
ますますドスの効いた、まるでチンピラがコンビニ店員にわけのわからないイチャモンをつけるようなオーラで声をかけてくる。
無論、じっと相手を見ていたこちらにも責任はあるのだからチンピラとは違う。ここはひたすら謝るほかあるまい。
「すいません……」
「だからさぁ、あんた何でこっち見てたわけ……」
きっと何でなんて聞いといて、こちら理由を言ったらわけわからんでまたイチャモンをつけるタイプだなあなどと一瞬脳裏を過る。
いや、その考え方はよくない。そうは言ってもこちらにも非はある。謝ろう。素直に理由を言って謝ろう。
「その、唐揚げが……気になって……」
「はぁ……?」
「唐揚げ、気になるんだ……」
女子中学生が唐揚げのバケットからレモンを一つ摘まんで手に握り、こちらのテーブル、向かい側に腰かけた。
レモンの匂いがして、軽い吐き気と動悸を感じる……。意識が遠くなる。心臓の熱の異様な上昇。
「すいません……、これからは気を付けるんで……」
「これから?あんたに会うことなんて金輪際ないに決まってんじゃない!」
「すいません、あの本当にすいません」
相手の荒い語気はどうでもいい。これから会う会わないなんてもっとどうでもいい。だから早く納得して帰れ。レモンをしまってくれ。
「謝るくらいなら、最初からやめときなさいよ」
「すいません……」
「ねえ、レモンの通電実験ってやったことある……?」
「へ?あの、理科とかでやる?」
「そうそう、イオン云々を抜きにしてもレモンは電気を通しやすいの……」
「はぁ……」
「でさぁ、私、あれをもう一度やってみたいの」
「学園都市なら24時間開放の実験施設とかあるし、いまからでも……」
「でもねぇ、学園都市の正規実験じゃ刺激が足りないじゃない……?」
レモンを持って女子中学生が俺の横に立つ。ちょうど頭の上にレモンがくる形、血の気が引いて動悸と熱で腹部に嫌な緊張が走る。
「人間でやってみたかったんだ……」
「やめ……、」
「ちょこっとビリっとするだけだから、まあファミレスで失神なんて大した恥辱でしょうけど」
相手が頭の上であれを潰す。最初に匂い、匂いがする。口や鼻を抑えた俺の手を突き破って無理矢理そこを犯そうとする。
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そして、汁が……
「うわあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
もうどうにもならない。身体を思いきって中学生のほうに投げる。怯んだ相手はレモン汁がたれる寸前で搾るのをとめた。
そのまま一気に出口を目指す。レベルは知らないが、風紀委員の勢力も強く、客のいるファミレスで能力を使うような馬鹿ではないだろう。
「ちっ……」
と思った俺が馬鹿だったらしい。右ももに不快な感触が走り、腱が機能をとめた。そっと右もものあたりを撫でる。
「いてぇ……!」
店頭に飾ってあった、普段使いにはむかないであろう鉄製のフォークにナイフにおまけにスプーンまでが足に刺さっている。
どうやら腱が切れたのか、力をいれてもダランとした足は緊張を取り戻さない。
「手間、かけさせるじゃん……」
「いてえ……」
わけがわからない。唐揚げを見ていてレモンかけられそうになったから逃げたら殺される。
本当に全くわけがわからない。血が抜けている感覚なのだろうか。足の筋肉が脈打つ気がする。相変わらず足に力は入らない
何度足を見ても刺さっている。こんなわけのわからない状態でも痛みは止まない。熱を帯びてズキズキと痛み出す。
「いてえよぉ……」
恐怖と痛みのダブルパンチに、気づけば涙を流していた。情けないことだが俺は痛いのも怖いのも耐えたりできない。
「痛いよぉっ!」
「あひゃ!馬鹿みたい!キモっ!!キモぉっ!」
後ろからあの女子中学生の声がする。嫌だ。怖い。嫌だ。左足と両手で必死に這っていく。
「嫌だ。嫌だ。逃げなきゃ……」
出血でズボンがグッショリ重くなっている。真っ赤な右足がピカピカの床にひっかかっる気がする。
もしかしたら糞尿も垂らしているのかもしれない。女店員は失神、他の客は逃げ出してしまったのだから恥ずかしくはない。
「ひゃあっ!キモいなぁ!」
嘲笑する声と一緒に、ナイフとフォークが仲良く左足にやって来た。
しかし左足の腱は無事。早く出口に、誰もいないファミレスから人目のつく場所に逃げなきゃ。
「逃げ……なきゃ……」
振り向かずにひたすら這う。逃げる途中で落としたであろう残飯にまみれながらひたすらに這う。
出口が見えた。店の外なら……。
「残念でしたぁ!」
女子中学生が俺の右手を踏みつける。激痛とともに、ピキュリーンっと何かが弾けるような音が店内に響いた。
「うへあっ!」
「あんたの骨って、折れっと変な音すんのねー」
やっちまった。こいつは完全にやっちまった。先ほどの音は骨折の音でも何でもない。もっと嫌な音だ。
右腕に熱くてべとついた感触が走る。女子中学生はついに俺の能力を発動させてしまった……。
そう、右手から……
「ちょっとのことぐらいで、どうしてこんなひどいことするんだ……?」
「私、あんたみたいなのをいたぶるのが趣味だから、理由はそれだけ」
「……だったら俺の能力を使っても問題ないな。てめえみたいな邪悪でレモン臭いやつは殺してやるよ!」
俺の能力で右手から唐揚げが出てきた。それを口に運び、勢いよく飲み込む。そして俺は一時的にだが唐揚げという死の幻想(モチーフ)を得た。
ここからが俺の能力の、真骨頂……!
「ハァ?なに唐揚げ食ってんの……?」
「違う。今俺が食べたのは死の幻想(モチーフ)だ!」
「ハァ?アンタどこまで頭ゆるゆるなわけぇ?気違い中2とかキモいなぁ……」
「なんとでも言えばいいさ……!でも、お前は後悔するよ……!」
「うっせぇんだよ!唐揚げ野郎!」
もう終わりだよ気違い野郎とでも言わんばかりに、幾多もの、おそらくは致死量の雷光が俺に向かう。
「唐揚げくいながら炭になりやがれ中2気違いがぁっ!」
雷光に次ぐ雷光。俺の身体に凄まじいまでの光と熱の『ベクトル』が注ぐ。
『ベクトル』が
黒焦げの店内、女性店員の死骸と逃げ遅れたのか子供の右手が転がっている。
道の外にもカップルの、カップルだったであろう肉片が散らばっていた。
「らっきぃ!気に入らないやつついでにいっぱい殺れたぁ!」
「気違いはどっちだか……」
「ハァァァッ?」
俺がピンピンした面で立ち上がってるのが信じられない。表情でそう叫びながら中学生がこっちを向く。
「アンタ、あれだけの電気をくらっといて……!」
「食らっちゃいねえよ!不馴れなもんで受けるのに精一杯だったがな!」
「アンタ、何で?」
「なぁ?お前って怖いものあるか?」
「なにイッチャッテんの?」
警戒体制に移った中学生が、口ではまだ余裕ありげに返す。
「俺はな、唐揚げが怖い」
「前置きはまあいいだろう」
足にささったナイフやら何やらをベクトルで抜き、血流と筋肉を同じようにベクトルで正常状態に戻す。
「俺の能力は自分の死を受け入れることで、相手の死を取り込む能力。俺の死のトラウマを表象することで相手の死のトラウマを頂く」
「……」
「お前は過去現在未来のどこかで、コレやられるらしいな……」
右手にもったナイフに『ベクトル』を込める。
「お前をいかしておいたって、誰の益にもならないことは解った。今までお前にやられた人の分、俺の恐怖の分、お前をこの『幻想』で『殺し』てやるよ」
こいつの死の恐怖はこのベクトル能力らしい。さあ決めてしまおう。
「さあ俺と同じ恐怖(イタミ)を知れぇぇぇぇぇぇっ『一方通行(アクセラレータ)』!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇっ!」
ナイフ、死骸、瓦礫、飛ばせるだけの恐怖を相手にぶつける。器用に電撃で一つを落としていく。
「ちぃっ!」
「レベル5かよぉっ!」
だが、今の俺には
「俺には全部見えてんだよぉっ!!」
ベクトルの雷撃の間にナイフを差し込み、こちらも器用に肋の間を
「ナイフが抜けるぜぇ!」
「ギヒィっ!」
足裏のベクトル操作での高速移動。見える。全部見える。これが一方通行。ベクトル操作。
「終わらせてやるよっ!」
一瞬で相手の身体に触れて、ベクトルを……。
「このクソッタレ!」
「黙れビリビリィッ!」
ためにためたベクトルを放つ。
一ヶ月後ーー
「あんた、なんであの時私を殺さなかったの……?」
「理由なんて一つしかないだろうよ……」
「私は、ただの人殺しよ……?」
「ああ、間違いなくそうだろうな……」
「なら、どうして?」
「お前を殺すのが怖かった……」
「……?」
「レストランで何があったか覚えてないのか……?」
「焦らさないで早く言いなさいよ……///」
「お前、唐揚げ食ってただろ?」
「はぁ……?」
「お前を殺して、唐揚げが飛び散ったら嫌だなあと思ってさ……」
「あんた……!」
お前らは何が怖い……?
俺は…?
『俺は唐揚げが怖い』
完
72 : 以下、名... - 2010/12/06(月) 03:25:39.23 ga134YGWO 30/30次回、イカなんとかさんがやってきてやっと魔術も交差するよ!お楽しみにね!
次回「げそ揚げも唐揚げになるんじゃね?」
明日早いし、録画しといたミルキィ見て寝るけど次回も絶対見てくれよな!