001
僕は高校三年生の春から怪異というものに行き遭い、その存在を知る事になった。
例えば鬼。それは僕が勝手な想い偽善で救ってしまった化物。
例えば猫。それは家庭への想いから生まれてしまった人格。
例えば蟹。それは大事な想い、思いを―重さを奪った神様。
例えば蝸牛。それは家族を想い、永遠に迷う事になった幽霊。
例えば猿。それは大事な想い人がゆえに生まれたけもの。
例えば蜂。偽善を貫く、たった一つの想いから招いたもの。
例えば鶯。かけがえのないものに憑いていた、火鳥。
どんな怪異にも思い、想いがあり、また、その怪異に様々な想いをよせた。
僕が救ってしまった鬼、キスショットアセロラオリオンハートアンダーブレード。―今は忍野忍と名のる鬼。
彼女と僕はリンクしていて、普段は僕の影に潜んでいる。だから彼女は僕の気持ちを読み取ることができる。だけど、僕自身は彼女の気持ちがよく読み取れない。
いや、それは普段僕が活動している時間と彼女の活動時間が合わないだけかもしれないからかもしれないけれど、たまたま一致したときでもそれを読み取るのは、なかなかできないもので。
だから僕は今回のことが起きるまで全く気にもしていなかった。怪異が―忍が僕に対して、沢山想いを抱えている事を。
―違う、知っていたけど知らない振りをしていただけだ。僕が都合のいいように。
これから語る、出来事によって僕は忍との関係を思いなおした。
お互いに癒えない傷があることを。背負っていくべき傷があることを。
そしてどうやって忍と付き合っていくべきなのかを。
元スレ
阿良々木「忍と出遭えて、良かった」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1321709321/
002
「デートをします」
「…………………」
「違うわね。こうじゃないわ。デートを……」
「ストップ、戦場ヶ原!その下りはもういい!前にやったろ!」
いきなりデートをします、と言い放ったのは僕の恋人、戦場ヶ原だった。
因みにこの下りは化物語[下]に載っているので……ってそんなことが言いたいんじゃなくて、僕はこいつがいきなりデートをすると言ったことに言いたい事がある。
落ち着いて状況を整理しよう。こいつは今、何て言った?デート?
「……阿良々木君、語りで私を放置プレイだなんて、寂しいわ」
「語りは瞬時に想った事なんだから、放置にはなっていないし、それにそこを突っ込んだら色々と問題が出てくるから!」
「ヘビネタ?」
「確かに重いネタではあるけれど、その言い方はおかしいだろ!」
正しくは……あれ、なんだっけ。
「全く、浅学菲才は相変わらずね」
「地の文がつつぬけている!?」
……お前の毒舌も、治ったり復活したり忙しいな。
「じゃあ、もう一度仕切りなおしね。」
「阿良々木君、デートをします」
「……はい」
できるだけ平坦に返したつもりだけど、内心はウキウキしていた。
実は戦場ヶ原とは星を見たあの日以来のデートはまだ、していない。今はもう卒業してから三ヶ月は経ってしまっているから相当長い間デートはしていない。
……本家はまだ卒業後の完結をしていないのにこんなことしていいのか?
「あまりそこには触れないほうがいいわ、良々木君」
「語りの文をまた読みやがって!そして僕の名前をミュージカルみたいに歌いあげるな!」
「失礼、噛みました」
「……お前がやるのか」
……そのネタは勘弁してくれ。あいつ、天国で元気してっかな。あるかも分からないけど。
「そんなことより、いつになったらデートの話をさせてくれるの?」
「お前が語りにつっこまなきゃ進むよ!」
「じゃあ、話させてもらうわ。……あ、ノープランだったわ」
「まとまってから誘えー!」
がっかりだった。逆に言えば楽しみが増えたんだけど。
「まあ、待ってるよ」
「……本当に甲斐性無しだわ、阿良々木」
「ついに呼び捨てになった!……っていうかそれって」
「もちろん、阿良々が決めるのよ。それくらいは分かるのね」
「もう色々ツッコミどころがありすぎてもたねえよ……」
んー……。つーかこいつはどんなとこ行くと喜ぶんだろうか。パッと思いつかない辺り、本当に甲斐性無しかもしれないな、僕……。
「どこでもいいわ、阿良々木君が決めたところなら」
「それは甲斐性が無い奴に言う台詞だ!」
「え?ないじゃない」
「もう確定してたんだな……」
穴があったら入りたい。彼女にこんな気を使わせる彼氏……。
「墓があったらはいりたいだなんて、そんなに死にたいのかしら……」
「穴だよ穴!墓と穴をどうやったら間違えるんだ!」
「やだ、阿良々木君。こんなところで穴穴叫ばないで頂戴。恥ずかしいわ」
「お前は何を想像しているんだ!?」
今戦場ヶ原と僕は昼食がてら大学の食堂にいたのだった。
「冗談はともかく、楽しみに待っているわ。日付は今週の日曜日でお願いするわ。時間は……まあ、私の機嫌が良い時間に設定してね」
「お前の機嫌を僕は四六時中把握していること前提なのかよ……」
「阿良々木君と一緒なら、機嫌なんかいつでもいいに決まってるでしょ?それじゃあ、また後でね。阿良々木君」
「あ、ああ……またな、戦場ヶ原」
不意打ちだった。本当に、あいつは僕にはもったいないぐらいの女だとつくづく思う。
僕と戦場ヶ原の授業の日程はほぼ同じだけど、羽川が入学したときに全ての単位が僕のペースで取れるかつ、戦場ヶ原と一緒に居れるという条件を取り入れた完璧な日程を組んでくれた。感謝と驚きだけが募った。
羽川は旅立った。
八九寺は成仏し、神原は高校で最後の一年間を過ごしている。
僕が深く関わった人は今、自分で選んだ道を進んでいく。それは、僕が思っているよりも凄い速度で。
だから僕も進まなくてはならない。次出会うとき、僕一人だけ取り残されていては笑い話にもならない。
―まあ、それはそれとして、戦場ヶ原とのデートどうすっかな。
「なあ、忍」
僕は忍に相談しようと思って、忍に声をかけた、だけど。
「しの……ぶ?」
遅すぎる、気づくのが。
忍が僕の影から消えている。
003
「嘘だろ……?勘弁してくれよ……」
落胆した声で言った。忍とリンクが切れるというのは僕にとってはとても恐ろしいことであり、絶望という奈落へ落とされている様な気分になるくらいのことであったからだ。
そんな気分が前にも経験したような言い方だと思うが、その通りだ。僕は一度前にこの感覚を体験したのだ。
こうなってしまっては大学の講義なんか受けてる場合じゃなかった。すぐさま近くの駐輪場まで駆け、思い当たる場所を探し回った。
とは言え、思い当たる場所なんか実際少なすぎて困る。
かつて何度も行き来した塾の跡地、ミスド、僕の家。
三つ周ったところでもう当てがない。大体、いついなくなったかも分からないのだから手がかりは0に等しい。冒頭で言ったとおり、忍と僕では活動している時間が違うのだ。昼間はいつも寝ている忍が静かなのはいつものことだと、思っていた。
―マズイ。これは相当マズイ。
忍を見つけられなかった時の未来を、僕は別の形で体験している。あんな未来は勘弁して欲しい。
羽川のあの一件の時のように神原達に協力を仰ぐか……?正直、あまり気が進まない……。
彼女らは今自分の道を進むのに精一杯頑張っているのだ。こんなことで邪魔はしたくない。
その時だった。僕がどこかで聞いた事のある口調が耳を通り過ぎた。
「どうしたんですか、阿良々木先輩?そんなに慌てて。何か良い事でも、ありましたか?」
「…………扇ちゃん?」
004
彼女の名は忍野扇。
―春休みから今まで、ずっと世話になってきた忍野メメという男の、甥だ。
「……なんでだ?今は高校に行ってるはずの時間じゃ……?」
「……あ!あっ、あはは。ちょっと面倒だったんで今日はふけたんですよー。はあ……危ないなぁ、ったくもう」
忍野さながらの下手な嘘だった。正直、この子にはあまり近づきたくない。
「……で、どうしたんですか先輩?」
「お前もおじさんみたいに見透かしたような言い方をするやつだな、やっぱ」
「まあ、気にしないでください」
「……言えば、何かしら解決策をくれるのか?」
「そうですねー……助け舟ぐらいはだしときましょう、色々と面倒なんで」
どうも要領をえないな。怪しすぎる、一週周って普通に見えるぐらい怪しい。
「さっさと終わらして欲しいんで教えてくださいよ、何があったのか」
とりあえず僕は迷っていてもことは進まないと踏んで、扇ちゃんに賭けることにした。
005
「はぁん。客観的に見れば簡単な話、嫉妬ってやつじゃないですか」
「……嫉妬?忍が、僕に?」
「嫌だなあ、先輩。それじゃあまるで忍ちゃんが戦場ヶ原さんのことが好きみたいじゃないですか。あってますけど、先輩を独占している戦場ヶ原さんに嫉妬したんでしょ?」
「ああ……まあそういうことになるな。だけど、その程度で……家出、っていうのかな?するほどなのか?」
「一つ先輩に聞きたいんですが、先輩は忍ちゃんのことをどう思ってるんですか?」
「それは……僕が、背負わなければならないものであって……責任っていうのがあると思って……」
「……ふうん。ま、要するにお荷物ですかね」
「……は?そんなわけ、ないだろ。僕にとって忍は……」
忍は……なんだ?僕にとって、忍はなんなんだ?ただの怪異か?いや、それは違う。だって僕は少なからず彼女を助けたんだから、そんな小さな存在ではない。
いや、助けたというのはおかしいか。僕が都合の良く、彼女を不幸にさせたんだ。
だけど。彼女はそれを拒まずついてきてくれた。時間はかかったけれど。
そんな彼女の事を僕はどう思っているっていうんだ?そんなこと、あんまり考えてなかったぞ……。
これは結構深刻なんじゃないかなんて、今更思ってどうするんだよ……。
「まあ、先輩がどう思ってるかなんてこの際そこまで問題じゃない……とは言い切れませんが、忍ちゃんの方は、先輩の事どう思ってるんでしょうかねぇ」
それだ。
そうだった。
問題は僕がどう思っているかなんかじゃない。
忍が僕の事をどう思っているかだった。
だとしたら……だとしたら聞きたい。
聞かなきゃならない。
「扇……ちゃん?」
「なんでしょう、先輩」
厭な笑顔で、僕を呼んだ。だけど、幾ら厭でも聞かなきゃならない。
「忍は、何処にいるんだ?」
「さあ……見当ぐらいはつきますが、何処にいるかは知りませんね」
更に厭な言い方をするな、コイツ。忍野以上に面倒かもしれない。というか、それって殆ど分かっているような言い方じゃないか。
「北白蛇神社って、知ってますか?あそこって―って、もう居ないのか。せっかちだなあ。何かいいことでも、あったんでしょうかね」
僕は言い終える前に自転車を飛ばしていた。
最後に扇ちゃんが言いかけた言葉は、風に消えていった。
006
「……よう、忍」
「頭が高いぞ、吾が眷属よ」
僕が到着した頃には忍の姿ではなかった。どちらかというと春休みの頃の姿に近い。だけど、完全にキスショットアクセラリオンハートアンダーブレードというわけでもない。
「忍、早く帰ってきてくれよ」
「帰る場所などない。だが、還るべき場所ならあるかもしれんの」
「下らない洒落はよせよ。死ぬなんて言ったら、許さないぞ」
「別に許してもらわなくとも構わん。儂はもう、貴様の下に居る吸血鬼ではない。伝説の吸血鬼、キスショットアクセラリオンハートアンダーブレードじゃ」
「……貴様っていう言葉は目上に使う言葉だぞ、忍。もう一つ、お前はどうやってその姿になった?」
戻ったというより、なったというほうが正しいだろう。第一、僕はこの姿に見覚えはない。発達段階の様な気がする。
「この場所にはまだ怪異の存在が増す力があるのじゃ、それだけのこと。して、その名で呼んで良いと誰が言った?」
「知らねえよ。強いて言うなら、僕が僕に言った」
「……屁理屈をこねおって……。万死に値するぞ」
「こんぐらい、お前と俺だったら、なんでもないだろ」
「だから!さっきから言っておるじゃろう!もう儂と主は上下がひっくり返っておるのじゃ!口を慎め、吾が眷属よ!」
感情が、感情が乱れている。キスショット、もとい忍野忍がこんなにも僕に感情をぶつけている。
「いいようのない、感情が溢れてしまうのじゃ。儂は……主を愛している。だから、だからこそじゃ。主はあのツンデレ娘を愛しているのだから、邪魔をしてはいけない。だったら―今度こそひっそりと死ぬべきなのじゃ」
僕はその言葉を聞いて、とうとう答えを出すべき時なのだと察した。
猫。
蟹。
蝸牛。
猿。
蛇。
蜂。
鶯。
鬼を除いて僕はこの怪異に行き遭ってきた。もちろん、立ち遭っただけでもあるものはあったけど。
じゃあ、なぜこんな怪異達に行き遭ってきたのか。それは、キスショット―つまり忍に初めに行き遭ったからだ。
行き遭ったことが間違いかといえばそれは完全な間違いだ。
だけど。
それでも。
今となっては、僕にとっては、決して間違いなんかではなかった。
忍が居たから今まで助かった事は数知れず、逆に言えば忍が居たから起きた事だってあった。それを一緒に乗り越える事ができたのは、いつだって彼女と僕という関係がなりたっているからこそだった。
「忍、僕にとってお前がどんな存在か、考えたよ」
「僕にとって、お前は、相棒のようなもんだ。それは恋ではないかもしれないな。相棒、そんな言葉じゃ表せない」
「決して切れない、愛、遭い、相の絆だ」
「だから、そんな悲しい事を言うんじゃねえよ、忍」
言っただろ―忍。
お前が明日死ぬのなら僕の命は明日まででいい――お前が今日を生きてくれるなら、僕もまた今日を生きていこう。
この言葉に、偽りは無い。今でも、何百年経とうとも、何千年、何万年、何億年経とうとも変わらない。
「帰ってきてくれ、忍。お前がいないと、僕は駄目だ」
「………………全くもって、莫迦な主様を持ったものじゃ…………」
僕が背負うべき傷なんて、ちゃんちゃらおかしい話だった。
二人で背負うべき傷だった。そして―二人で紡ぐ、絆でもあった。
「莫迦過ぎて話しにもならん」
「…………はい」
「なあ、主様。一つ。一つだけ頼みたい事があるのじゃ」
「なんだ……?」
「あの日のように、儂と本気で殺しあってくれんかの」
007
「…………は?」
驚愕。その二文字しか浮かばなかった。
「だから、殺し合いじゃ」
「な……なんで……そんなことできるわけ、ないだろ」
「嫌というなら、儂は主様の元へは戻らん」
そんな両極端な話があってたまるか!大体、その条件はのんだところで叶わない!
何故かって、そんなのは簡単な話、本気にはなれないからだ。
どれだけそれに近づけようとしても。
本心から思えない限りそうはならない。
「本気にさせる方法ならある。儂が主様を殺そうとすれば、抵抗せざる得ない」
「…………ガチかよ」
「大ガチじゃ。その前に主様には儂に血を吸わせろ」
「……分かった。それで気が済むのなら」
いいと思った。
戻ってきてくれるというのなら、いいと思っていた。
僕はそんな風に思いながら彼女に血を吸われ、かつての忌まわしき力、怪異に――吸血鬼に戻った。
008
「はぁ……はぁ……」
血だらけの足を引き摺ってこの町を歩く。時刻は深夜1時をまわった。
何が起きているのかと言えば、伝説の吸血鬼とその眷属との殺し合いである。
あいつは本気だった。手を抜けばこちらが一瞬で死んでしまう。軽い組み手だろうなんて考えていた数十分前の僕が恨めしい。
「どうした、主様。それが本当に儂の眷属の力かの」
「うるせえ……。休憩中だ……」
「随分長い休憩じゃ」
足が再生したところで、僕は忍に向かって足を蹴り上げる。それをまるで刀の達人の様にかわし、僕を全力で殴り飛ばす。
「―あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ―」
阿鼻叫喚。神原の時なんて比ではない、相手は伝説の吸血鬼だ。再生する無限地獄を何度も体験してきたが、今回は今までで一番酷い。
顔面の潰れた部分が再生すると、今度は向こうが足を蹴り上げた。その足を全力で掴み、体ごと回転させ、僕が忍をぶん投げる。山まで飛ばし、それを追いかけるように僕は跳んだ。
山の木々に激突し、血をありえない程吐く忍。だが、すぐ再生する。
ただ、ここで、ふと疑問が浮かぶ。
何故忍は僕を殺そうとする。もちろんそれもあるけど―忍は、何故かわせるはずの技をかわさないんだ。
そこまで考えて、忍が起き上がる。
「……やるのう、主様。楽しいぞ、実に楽しい。ふははははは」
「……僕はちっとも楽しくないよ」
「む、そうか……こうしていると春を思い出すな!」
「ああ、地獄を思い出すよ」
「そうか……地獄か。主様にとっては、地獄か」
……僕にとっては?それはどういうことだ、忍。
「簡単な事じゃよ、儂にとっては、久々に、毎日が、輝いていたのじゃ」
「……わけわかんねーよ」
「そりゃあ、そうじゃったの……じゃあ、最後に」
「儂を殺せ」
009
「何言ってんだよ……この殺し合いは……僕の影に戻る前の、いわゆる前戯みたいなもんだろうが!約束を破る気かよ!」
「…………ああ、破る気じゃよ。儂にはもう、未練が無いからの」
「ふざけんなよ!何にも意味がねえだろ!僕には未練があってもいいっていいのかよ!」
「……そんなつもりはないが、儂は思ってしまったのじゃ。―やっぱり儂はお前様を、完全な人間にしたい、と―」
僕は。
僕はいつだって戻りたいと思っていた。願っていた。
だけどそんな思いはずっと前に棄てた。忍の為に、棄てたのだ。僕はそのチャンスを、棄てた。
「…………んなもんいらねえよ…………人間になんて、なんなくていいんだよ僕は!お前の勝手な都合で、僕を人間に戻すな!」
「だったら!だったら、儂を生かしたのもまた主様の勝手ではないのか!それが許されるのなら、儂が主様を人間にする権利もあるはずじゃ!儂は、主様に幸せで居て欲しいという願いを叶えて――死にたい」
そうだ、僕に止めていい権利などない。僕の―僕が都合のいいようにこいつを生かしたように。こいつにも僕を都合の良いようにしていい権利がある。
吸血鬼にも涙はある。
それは人間のように透明ではなく、真っ赤な血だ。
彼女は流す、その血を。そして、僕も。
「それでも、僕は―お前と共に、お前と一緒に生きたいんだよ!忍!それがどれだけ辛い道だとしても構わない!だから、一緒にいろよ!生きろ!死にたい? それは叶わない願いだよ、忍。僕は皆を―不幸にする道を選ぶから……」
「お前が明日死ぬのなら僕の命は明日まででいい――お前が今日を生きてくれるなら、僕もまた今日を生きていこう……そう言ったから、な」
それは、永遠に誓った僕が、誰でもなく、僕自身に誓った約束だった。
「……………ならば、儂は主が死ぬなら儂の命は明日まででいい――主が儂と今日を生きてくれるなら、儂はまた今日も生きていく……」
醜い化物、吸血鬼たちは血を流し、口付けを交わす。
僕らにまた一つ傷が増えた。それは前のような深い傷ではない。
いや、深い傷だ。
――絆っていう、深い傷だ。
009
後日談、というか今回のオチ。
……話になっているかも危ういけれど、オチ。
あの後、忍は無事僕の影に戻ってきてくれた。
もう日の出が見えそうで、危うく燃えて消滅するとこだった。マジで危ない。
家に着くと、玄関で待ち構えていた妹達に拳骨を喰らう。流石に眠すぎて、大学を休んだ……のだが。
携帯を見ると戦場ヶ原から電話がかかってきていた。100件以上だ。
それも確認したのはもう夕方だ。恐る恐る電話をかけてみると、1秒も経たないうち―というのは大袈裟だが、一瞬で電話に出た。
「……なんでしょうか、戦場ヶ原さん」
大体予想がついていたから、少し畏まってしまっていた。
「阿良々木君、羽川さんが一生懸命考えてくださった日程をすっぽかしてどこへ行ったのかしら?阿良々木君、羽川さんが一生懸命考えてくださった日程をすっぽかしてどこへ行ったのかしら?」
「二回言わないでくださいお願いします!」
「仕方ないわね、羽川さんに連絡するだけで許してあげるわ」
…………一番重い罰じゃないですか、戦場ヶ原さん。
「詮索はしないけれど、どうせまた阿良々木君のことだから……ね」
「ね、ってなんだ!?」
「そんな阿良々木君が、好きなのよ。だから―そのままでいなさい。勝手に変わるなんて、許さないわ」
なんていうか……戦場ヶ原にはなんでも見透かされてるな。
僕が悩んでることなんてあいつにしたらどれだけちっぽけなんだろう。
「ああ、僕もそんなお前が大好きだ。戦場ヶ原」
「うわっ」
「うわっ、ってなんだよ!内心、ちょっと気持ち悪いな僕、とは思ったけど!」
「ふっ……」
「……もう何を言っても空回る気しかしねーよ……」
「阿良々木君」
「……はい」
「日曜日、とても楽しみにしてるわ」
それだけ言い残して戦場ヶ原は電話を切った。
「ふうん。……ラブラブじゃのう、主様」
「ああ、ラブラブだ、忍」
「まあ、器のでかい儂だから、ミスド5年分で許してやろうかの」
「そこは一年分で手を打って欲しいんだけどなあ!」
相も変わらず、元の掛け合いをする。
「そういえば、元の姿に戻ったな、お前」
「うん?なんじゃ。不服か?」
「なんだ、お前。知らなかったのか?」
「僕は意外と、その姿、好きなんだぜ」
ちょっと頬を染めてにやけた忍を見て、僕もつられてにやけてしまうのだった。
忍、お前と出遭えて良かった。ここにもう一度誓わせてくれ、お前と僕の生涯を共に歩む事を。
41 : 以下、名... - 2011/11/19(土) 23:47:02.71 v8HcDSLf0 19/19本家に全くもって追いつけて居ないような作風ですまない。
しかも途中投下が遅くなった、理由は少し路線を変更させて執筆って程でもないけど執筆させてもらったからです。
見てる人が居るかはわかんないが、自慰に付き合ってくれてありがとう、乙でした。
最後に、化物語シリーズ、最高