― 裁判所 ―
裁判官「さて、被告人よ」
裁判官「あなたは電車内において、この女性の尻をさわりましたか?」
男「さわりました」
裁判官「そちらの女性、あなたはさわられましたか?」
女「さわられてません」
男「ウソつくなァァァァァ!!!」
元スレ
男「尻をさわりました」女「さわられてません」裁判官「やってませんな」
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男「さわっただろうが!」
男「たしかに俺はこの右手で、アンタの尻をさわった! なで回した!」
裁判官「――とおっしゃっていますが?」
女「いえ、さわられていません」
男「まだ言うかァァァァァ!!!」
男「さわったんだ! 俺は! たしかに! この右手で!」
裁判官「しかし……被害者がさわられてないといってるのです」
裁判官「あなたがいかにさわったと熱弁を振るおうと」
裁判官「あなたの証言だけであなたを罰することはできませんなぁ」ニヤニヤ
男「な、なぜだ……!? なんでだよ!?」
裁判官「疑わしきは罰せず」
裁判官「ようするにグレーじゃダメってことです。ブラックじゃなきゃね」
男「なに言ってやがんだァ!」
男「俺はブラック! 俺はドブラックだ!」
裁判官「見たところ、黄色人種で、甘党で、勤めてる企業もホワイト企業のようですが」
男「うるせェェェェェ!!!」
男「おっ、おい! 検事さんよ!」
検事「ん?」
男「ん、じゃないよ! なんでさっきから何も言わないんだよ!」
男「アンタ……俺を起訴したんだよな? にっくき性犯罪者として!」
男「だったら証明してみせてくれよ、俺の犯行をさァ!」
検事「不可能だ」
男「なっ……!」
男「どういうことだよ!?」
男「このままじゃ、俺の無罪が決まっちまうぞ! 裁判に負けちまうんだぞ!」
男「それでもいいのかよォ!」
検事「かまわん」
男「なにいってんだ! もっと粘れよ!」
男「もし、俺が無罪になったら」
男「アンタは無実の俺を裁判にかけた検事として、処分されちまうぞ!」
検事「無論、覚悟している」
男「くっ……!」
男「バカヤロウ! 諦めるんじゃねえよ!」
男「アンタ、なんのために検事になったんだ!?」
男「俺みたいな極悪人を、牢獄に叩き込むためじゃなかったのか!?」
検事「そんなわけがなかろうッ!」
男「!?」ビクッ
検事「検事とは、すなわち“剣事”!」
検事「いかなるものをも断ち切る剣の如く!」スパンッ
検事「“罪”という鎖に捕われてしまった人々を救うのが務めなのだ!」
検事「検事たる者、起訴した被告人は全て無罪にすべし! 罪を憎まず人も憎まず!」
男「ええい、お前はもういい!」
男「弁護士! 弁護士ィィィィィ!」
弁護士「なんだい?」
男「なんだい、じゃないよ!」
男「お前には高いギャラ払ってんだ! 仕事をしろ、仕事を!」
弁護士「仕事……過払い金の請求かい?」
男「ちげーよッ!」
男「今、俺が痴漢をしたかしてないかの裁判が行われている!」
弁護士「ほう、そうかい」
弁護士「あ、今のは法曹界とかけたダジャレね」
男「ハハッ」
男(くそっ、ちょっと笑っちまった!)
男「しかし、俺の無罪放免が確定しようとしている!」
男「何とかしろ! 俺を救え!」
弁護士「イヤだね」
男「なにっ!」
弁護士「なぜなら私の仕事は君を弁護して、無罪にすることだ」
弁護士「なんでわざわざ、無罪判決を得られる流れを変えなきゃならないんだい?」
男「き……詭弁だッ!」
男「いいからやれ! でないと金は払わねえぞ!」
弁護士「分かった、分かった。やるだけやってみるよ。どうせ無駄だけど」
弁護士「裁判官、異議があります」
裁判官「却下します」
弁護士「ね?」
男「もっと頑張れよォォォォォ!!!」
裁判官「さて、どうやら意見も出尽くしたようですし」
裁判官「そろそろ判決を言い渡しますかな」ニコッ
男「ま、待てっ! 待ってくれ!」
男「俺は……俺はたしかにやったんだよ! さわったんだよ!」
裁判官「あなたもなかなかしつこいですねえ」ニヤニヤ
検事「おっと、そういえば証拠品を出すのを忘れていた」
男「証拠!?」
検事「実は君が乗っていた電車に、一人変わった乗客がいてね」
検事「ちょうど君が痴漢をしたと主張する時刻に、車内をビデオ撮影してたらしいんだ」
男「おおっ!」
裁判官「その者はどうしましたか?」
検事「不特定多数の肖像権を無断で侵害したということで、独断で島流しの刑に」
裁判官「ふむ、素晴らしい対応です」
男「撮影した人の末路は気の毒だけど……今はそれどころじゃない!」
男「そのビデオを再生してみろ!」
男「俺の犯行の瞬間が映されてるはずだ!」
裁判官「それは面白い」
裁判官「検事、再生をお願いします」
検事「御意」
~ 映像 ~
男『……』
女『……』
男「お、俺だ! ほら見てろよ、これから尻をさわるからな!」
女「……」
裁判官「……」
検事「……」
弁護士「……」
男『……』
女『……』
男「ほら、いけっ! やれっ! 右手を出せっ! もしかしたら左手だったかも!」
女「……」
裁判官「ずっと腕を組んでいますね」
検事「……」
弁護士「……」
男『……』スタスタ
女『……』スタスタ
男「あれ!?」
女「……」
裁判官「結局、何もしないまま二人とも電車を降りましたね」
検事「……」
弁護士「……」
男「なんだこれは!?」
男「ちがうんだ! 俺はたしかにさわった! さわったんだ!」
裁判官「しかし、映像ではずっと腕を組んでいましたが……」
裁判官「尻をさわろうとする動作など、これっぽっちも行っていませんでした」
男「こんなものはCGだッ! 捏造だッ! イカサマだァァァ!」
女「だけど、それを証明することはできないわよね」
検事「うむ」
弁護士「今の映像で、我々の立場はますます有利になったねえ」
裁判官「これでまた一歩、あなたの無罪に近づいた、というわけですな」ニヤニヤ
男「く……くそっ! くそっ! くそぉぉぉぉぉっ!」
男「こうなったら!」ササッ
女「!」
男「もらった!」ナデナデ
女「……」
男「どうだ!? たった今! さわったぞ、尻に!」ナデナデ
女「……」
男「どうだぁぁぁぁぁ! これで現行犯! ハッハッハ、参ったか!」ナデナデ
裁判官「ちょうど目にゴミが入って、見てませんでした」ゴシゴシ
検事「消しゴムを落としてしまった……」ササッ
弁護士「立ちくらみが……」クラッ
男「なにィィィィィ!!?」
男「だったらァ!」ガシッ
男「これでどうだ!」モミモミ
女「……」
男「今度は胸だぁぁぁぁぁ! これは致命的ィィィィィ!」モミモミ
男「Dカップ……いや、Eカップはあるかな? ハーッハッハッハッハ!」モミモミ
女「……」
裁判官「合意の上ですか?」
女「はい、合意の上です」
裁判官「ならばよろしい」
男「なにィィィィィ!!?」
男「おいっ! いつアンタが合意した!?」
女「ついさっきです」
男「ウソつけ! してないだろ!」
女「しました」
男「合意してないっていわなきゃ、尻や胸以外もさわっちゃうぞ!」
女「どうぞ」
男「ちくしょォォォォォ!!!」
男「傍聴席の皆さん!」
男「俺はやったんです! 信じて下さい!」
ブゥー! ブゥー! ブゥー! ブゥー! ブゥー!
男「!」
「やってないんだろ!?」 「いい加減、潔白を認めろ!」 「見苦しいぞ、冤罪者!」
ブゥー! ブゥー! ブゥー!
男「なんでだよ……なんで誰も信じてくれないんだ! 俺はさわったのに!」
裁判官「静粛に! 静粛に!」カンカンッ
妻「あなた……」
少年「パパ……」
男「おおっ、愛する妻と一人息子よ!」
男「お前たちなら分かるよな!?」
男「なんの罪もない女性の尻と胸をさわった俺を許せないよなァ!?」
男「離婚したいよなァ! 親子の縁を切りたいよなァ!?」
妻「いえ……私はあなたのこと、信じてるから……」
妻「たとえ、不倫されても、家庭内暴力を振るわれても……信じてみせるわ」
男「疑えぇぇぇぇぇ!」
男「もっと疑うんだァァァァァ!!!」
少年「ボクもだよ!」
少年「もしパパが莫大な借金をこさえて死んじゃっても、相続放棄なんかしないよ!」
少年「だってパパのこと……大好きだから!」
男「放棄しろォォォォォ!!!」
課長「やぁ、裁判はどうかね?」
男「課長! 来て下さったのですか!」
男「実はわたくし、痴漢の容疑で裁判にかけられておりまして……」
男「有罪になるかどうかは微妙なところですが、もうクビですよね!?」
男「裁判沙汰になった時点で、会社のイメージダウンに貢献してるんですから!」
課長「いや、クビにはならない」
課長「仮に君が有罪になろうと、無罪になろうと、クビになることはないのだよ」
課長「君のイスは残り続けるのだよ……永久にね」
男「なんですって!? なぜ!?」
課長「一日も早く、君が職場復帰することを祈っておるよ」
男「くっ!」
男「かくなる上は!」
男「傍聴席に、幼女発見!」ババッ
幼女「おじちゃん、なあに?」
男「ハグしてあげよう」ギュッ
幼女「きゃっ」
男「よっしゃ、事案発生!」
男「大の男がいたいけな幼女に抱きつく! これはもう事案でしょう!」
男「G・A・N! G・A・N! G・A・N! G・A・N!」
男「さぁ、皆さん! これでもう決定的です!」
男「この俺を罰して下さい!」
裁判官「……」
男「なんですか? 裁判官」
裁判官「もう……諦めるんだ」
男「!」
裁判官「いくらやっても無駄なんだ」
裁判官「帰りたまえ。君の愛する家族のもとに、君を待つ職場に……」
男「あ……あ……」
裁判官「判決! 被告人に無罪を言い渡す!」カンッ
検事「やったぁ!」
弁護士「勝訴だぁ!」
女「正当な判決ですね」
妻「おめでとう、あなた!」
少年「よかったね、パパ!」
幼女「わぁ~い」
男「……」
こうして、皆が喜びあう中、私一人だけうつむく形で裁判は終わった。
裁判終了後、私は職場に復帰し、愛する家庭に戻った。
そして、平凡ながら幸せな生活を送り続けている。不満は全くない。
しかし、それでも私は生涯言い続けるだろう。
男「それでも俺はやったんだ!」
――と。
おわり