関連
キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」六冊目【前編】


312 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 22:46:35 r1T 110/376

桃太郎「うぅ……拙者の『鬼屠り』が……侍の魂がキラッキラに……」ウワアァァ

人魚姫「ねぇ赤ずきん、桃太郎あんまり嬉しそうじゃないけどなんで?フツーあんなキレイにデコって貰えたら嬉しくない?」ヒソヒソ

赤ずきん「周囲の目を気にするタイプなのよ、こういう細工は彼の国であまり見かけないから」

人魚姫「なるほどねー、桃太郎は派手なの苦手なタイプかー…オッケー!じゃあその腰の巾着と服もデコってあげるよ、今度はシックな感じにしてあげっから安心しなよ、ほら貸して!」

桃太郎「いや渡さないよ!?きび団子の袋や羽織まで煌びやかにされたらもう拙者何者なんだよ!全身キラキラさせて犬猿キジつれて…道化師か!勘弁してくれよもおおぉぉ!」ウワアァァ

赤ずきん「落ち着きなさいな。私はその刀良いと思うわよ?美しい貝殻と無垢な宝石で彩られた、唯一無二の刀…。悪鬼征伐の英雄に相応しいと思うけれど」

桃太郎「……唯一無二って言えばそうだけど、本当か?本当に良いと思う?」

赤ずきん「ええ、素敵だと思うわよ。帝への申し開きなんて何とでもなるでしょう?あなたはあの世界の英雄なのだからもっと堂々としなさいな」

桃太郎「そりゃそうだけど…うん、ちゃんと説明すればお咎めもない…よな?!うん、なんか落ち着いてきたわ…取り乱してすまん、人魚姫」

人魚姫「いいっていいってー、次からデコる前にちゃんと確認するからー。あっ、じゃあきび団子?の巾着貸してよ、バッチリデコってあげっからさ!」ワクワク

桃太郎「い、いや…拙者は刀だけでいいや…。それより赤ずきんも武器持ってるからそれに細工を施してやってくれ、どうやら赤ずきんはその細工を気に入っt」

赤ずきん「いいえ、私は必要ないわ」ゴソゴソ

桃太郎「えっ……なんでお前マスケット隠して……」

赤ずきん「そろそろお茶の準備が出来た頃合いでしょう。赤鬼を手伝ってくるわね。人魚姫、悪いけれどデコレーションは桃太郎の持ち物に施してあげて頂戴」スタスタ

桃太郎「ちょっ…」

人魚姫「りょーかいー、じゃあその間に桃太郎の巾着デコるよ、ほら早く出して欲しいんですけどー」ワクワク

桃太郎「おいいぃぃ!拙者を囮にするとかずるいぞ赤ずきんお前ええぇぇ!!」ウワアアァァ

313 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 22:48:54 r1T 111/376

・・・

赤鬼「おーい桃太郎、人魚姫!茶が入ったぞ、休憩にしようじゃないか」

桃太郎「うむ、頂戴するとしよう…」キラキラ

赤鬼「刀の件は赤ずきんから聞いてはいたが…思ったよりあれだな……すまん、オイラがちゃんと見てなかったせいだ」ペコッ

桃太郎「いや、お主が気にすることはない…拙者の刀は鬼ヶ島より凱旋を果たせし『鬼屠り』…眩き煌めきを放つなど造作もない事…」キラキラ

赤鬼「お、おう…そういう納得の仕方なのか……」

桃太郎「という事にしておけば体裁も保てるというもの……否、ということにでもしなければ拙者の胃がもたぬのでな」キリキリキリ

赤ずきん「もうあの国では英雄だというのに相変わらずなんだから…」ズズー

人魚姫「そんなことよりこの飲み物マジでいけるね、もう一杯ある?」

桃太郎「そんなこと!?」ガーン

赤鬼「おう、おかわりはたくさんあるぞ!…ところで人魚姫、赤ずきんにいろんな洋服や装飾品を試して貰ったみたいだが何か得るものはあったか?」カチャカチャ

人魚姫「んっ、まーねー…やっぱりあたしの作るアクセは人魚用だなってのはすごく感じたかなー…そのまんま人間が使うってのはむずかしいっぽいかもねー」モグモグ

314 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 22:50:58 r1T 112/376

赤鬼「ほう、やっぱり違うか?オイラ達鬼と人間の違いと比べれば人魚と人間の方が似ているように思えるが、肌の造りとかな」

人魚姫「それは立場が違うからそう見えるだけっしょー?あたしには人間と鬼の方が近く見えるけど?だってさ、あたし達は水中で暮らすけど人間も鬼も陸で暮らしてる訳じゃん?」

赤ずきん「確かにそこは重大な違いね、なにしろあなた達には足がないわけだもの」

人魚姫「そうそう、その代わり水中では人間よりマジで早く長く泳げるけどねー…まぁそれはいいとして、姿が違えばアクセの扱いも変わって来るじゃん?なんだっけ、さっき教えて貰った足に着けるアクセ」

赤ずきん「アンクレットかしら?」

人魚姫「それそれ!人魚の国にはないアクセだし、そういう人間の世界だけのアクセも勉強しなきゃなって思ったかなー。逆に人間には尾鰭につけるアクセなんかも必要ないわけだしいろいろと覚えること多いっしょ?」

桃太郎「話に聴いてはいたが…人魚姫は装飾品の研究に随分と熱心なのだな…」

人魚姫「そりゃねー、アクセで生計立てるのは私の夢だかんねー」

赤鬼「オイラは装飾品なんざ詳しくねぇんだが…人間の事を都合に入れなくてもお前さんの作る細工は繊細で綺麗だと思うぞ?それとも装飾品ってのは人魚の世界じゃあ人気ないのか?」

人魚姫「ちょーっと赤鬼?それは失礼っしょー?あたしのアクセは立場隠して売ってもらってるんだけどさ、ぶっちゃけチョー人気あんだからね?」イラッ

赤鬼「ぬぅ、すまん…そういうつもりじゃなかったんだが」

人魚姫「まぁいいけどさー、ぶっちゃけ完全に手作りだから数作れないからレアなんだ、だから欲しがってる娘達に行き渡らないのがちょっと悪いなーって思うんだよね」

桃太郎「しかし、人魚達に人気があるのならばなおさら人間を相手にする必要などないのではないか?」

315 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 22:52:59 r1T 113/376

人魚姫「んー……まぁそうなんだけど、これはあたしのもう一つの夢って言うか……えっと、あたしがさ、桃太郎の刀デコるのに使った貝殻あるでしょ?」

赤ずきん「ええ、綺麗よねあれ。あんな綺麗な貝殻見たこと無いもの」

人魚姫「あの貝殻はね、ほとんど陸に打ち上げられることがないんだよねー。海流とか?そーいういろんな関係で海底の特定の場所でしか採れない陸では超レアな貝殻なわけ。海底では特別レアってわけじゃないけど」

桃太郎「どおりで……拙者の国で見る貝殻よりも煌びやかな訳だ…希少なものならばそれも納得出来るというもの……」

人魚姫「逆にさー、宝石とかは海底ではレアかなー?だって難破船の貨物から拝借したりしなきゃなんないっしょ?」クスクス

赤ずきん「海底と陸では環境が違いすぎるものね」

人魚姫「そーいうこと、私は陸でしか採れない宝石や植物を使ったアクセも作ってみたいと思ってるわけ!海で採れる素材だけじゃ限界があるっしょ?」

赤鬼「なるほどな、そこで人間向けの装飾品を作って自分の腕を認めてもらいたい…という所か?」

人魚姫「そゆこと!私がキレイでカワイイアクセ作れるって解ってもらえたら、アクセが欲しい人間が宝石手に入れるの協力してくれるじゃん?それに人間に海底の貝殻を捕ることは難しいけどあたしだったら簡単なわけっしょ?」

赤ずきん「…陸に上がれない人魚と海底で自由が利かない人間が手を結んで両者が利益を得る。なるほどね、意外といろんな事考えているのね人魚姫」

人魚姫「それ、ちょっとバカにしてんでしょ?」イラッ

赤ずきん「あら、そんなことないわよ?」クスクス

316 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 22:55:24 r1T 114/376

人魚姫「とにかくさぁ、私は人間に出来ないことが出来る。その逆も同じ、だったら協力するしかないっしょ?住んでるところが違うとか種族が違うとか関係ないじゃん、その方がぜったい楽しいっしょ!」

赤鬼「おぉ……!」

人魚姫「赤鬼?どーかした?」

赤鬼「うおおおぉ!そうだぞ、そのとおりだ人魚姫!!」ガバッ

人魚姫「うわっ、なんなの赤鬼、急に立ち上がったらびっくりするっしょ!」

赤鬼「種族間の壁なんざ取っ払うべきなんだよな!別種族に恐怖心や疑念を抱く必要なんてこれっぽっちもねぇんだ。同じ生物として仲良く暮らせないわけがねぇんだから!」

人魚姫「へぇー、赤鬼もあたしと同じ考えってわけねー。うんうん、そう思うっしょ?もっとお互いにさぁ歩み寄って生きていけばいいと思うのね」

赤鬼「その通りだ。これを夢物語だと言う奴が多いが…そんな事はねぇ!現に鬼のオイラだって人間である赤ずきんとも友達だ、キモオタや妖精のティンクだって協力して旅をしてる!」

人魚姫「うんうん、人間と人魚が仲良くするなんて今更無理だって大人の人魚は言うけどさ、そんなことないっしょ!だって今、私は人間の赤ずきんと桃太郎、それに鬼の赤鬼と一緒にお菓子食べてダベってるんだからさ」

赤鬼「おうよ、オイラ達はもう友達だ!だから別種族でも歩み寄れる!そうだろう?」

人魚姫「そうそう、赤鬼わかってんじゃーん!じゃあこの勢いで港の方に出てみるのもいいんじゃね?」ケラケラ

赤ずきん(彼もまた人間と鬼の共存を望んでる。人間と人魚が手を結ぶことを望む人魚姫とは共感できるものがあるんでしょうね…)

赤ずきん(だからこそ赤鬼は人魚姫の気持ちがわかるのでしょうけど……実際はそんなに容易い事じゃない)

317 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 22:58:24 r1T 115/376

桃太郎「だが……人魚姫よ、言葉にして良いことなのか解らぬが……」

赤ずきん「……」

桃太郎「この世界の人間と人魚の間には確執があるのではなかったか……?」

赤鬼「うむ……そうだったな」

人魚姫「あー…うん、まぁ、そうだけどさー」

桃太郎「拙者は…お主が夢に向かう様もまた戦う者の立派な姿だと思う。人々に恐れられている鬼にも赤鬼のような善人が多いことも知っている、他種族同士が歩み寄ることにも賛成だ」

桃太郎「だが……この世界の人間は人魚に憎悪を持たれるほど嫌われている、拙者が口にするのもおかしな話だが……若いお主が一人で事を成すのは危険ではないのか?」

人魚姫「……」

赤ずきん「私も桃太郎と同意見ね」

赤鬼「おい、赤ずきん…!」

赤ずきん「もちろん、私は赤鬼の考えは正しいと思っている。だから彼の目標のためなら協力は惜しまないつもりよ。私自身もそれを望んでいる。けれど……」

赤ずきん「それでも、あなた達の夢は…あなた達に望んでいる共存は容易い事じゃない。現にあなたのお姉さんは私たちを殺そうとした。人間だからと言う理由でね」

人魚姫「それは…!マジで悪かったと思ってるけど、あたしは…!」

318 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 22:59:43 r1T 116/376

赤鬼「おい、そりゃあ事実だが何もそれを今言わなくても…」

赤ずきん「ごめんなさい、私は決して責めている訳じゃあないの。ただ、考えてみましょう…お姉さんは何故人間だからって私たちを殺そうとしたのかしら?」

人魚姫「姉ちゃんは……人間を憎んでる。人魚の中でもその気持ちはきっと、強い」

桃太郎「……あの人魚は海を荒らされたり自分の仲間の人魚が被害を受け、人間へ恨みを持っていたのだろう。だからこそ人間全体を憎んでいた…」

赤ずきん「赤鬼が村人から鬼だからと言う理由で恐れられ避けられていたようにあの人魚もまた私たちが人間だったから憎かった、だから殺そうとした…」

赤ずきん「悪鬼の被害を受けた村人も、人間から被害を受けたであろう人魚姫のお姉さんも、加害者側の種族へ恐怖や憎悪を向けている。正直に言うと、その気持ちはわかる……」

赤鬼(そうか……こいつの家族や街の住人は……)

赤ずきん「……私は大切な人をみんな狼に喰い殺されて失っている。例え目の前に、人間に対して友好的な狼が現れたとしても……」

赤ずきん「私はきっとその狼を信用できない。もしかしたらマスケットを向けてしまうかもしれない……いいえ、きっと向けてしまうでしょうね」

人魚姫「……じゃあ赤ずきんは、種族が違えば歩み寄ることはできないって言いたいわけ?」

赤ずきん「いいえ、そうじゃない。ただ、あなたのお姉さんが人間を殺したいほど憎んでいるのは、人間から被害を受けたからでしょう?」

人魚姫「心当たりっていうか……原因は知ってる」

赤ずきん「だったら、あなたもその被害に遭うかもしれない。危険な目に遭うかもしれない。そう思うと私はあなたの友達として…一人で軽々しく動くのを止めなければいけない。あなたのためにも」

人魚姫「あー、うん…赤ずきんが言いたいことは…わかる」

赤ずきん「あなた達人魚とこの国の人間に確執を話してくれないかしら?確執の原因が分かれば、人魚と人間の仲を取り持つ手助けが…あなたの望みを叶える手助けが出来るかもしれないから」

人魚姫「……そこまで言ってくれてんなら教えない理由なんてないっしょ、それにあんたたちは姉ちゃんの被害に遭ってるし無関係じゃないしね」

人魚姫「…話すよ、人間と人魚の間になんで確執があるのかをさ」

319 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 23:02:59 r1T 117/376

人魚姫「……昨日の夜、赤ずきんと桃太郎が姉ちゃんに眠らされたじゃん?」

赤鬼「ああ、そうだ。それでお前の姉の執事がオイラの所に来たんだ」

人魚姫「そうそう、姉ちゃんが赤鬼を騙して殺そうとしたとき、あの執事はなんて言って毒薬を渡してきたか…覚えてるっしょ?」

赤鬼「確か、不老不死の薬だと偽ってオイラに毒を飲ませようとしたんだったな」

赤ずきん「そんなことがあったのね……あなたが命を狙われただなんて私は聞いていないけれど……」キッ

赤鬼「余計な心配かけたくねぇからだ、隠してて悪かった。で……不老不死の薬だとあいつは偽ったんだったな、それがどうした?」

人魚姫「そっ、不老不死の薬。私たち人魚は人間達がそれを欲しがってるって事を知ってるんだよ、だから姉ちゃんもそれなら騙せると思ったんじゃね?」

赤鬼「不老不死……人魚の肉を口にすると得られるという噂は耳にするが……」

桃太郎「うむ、確かに拙者の国でも人魚の伝説は存在する……そして、それには必ず『人魚の肉を食べると不老不死になる』と…そのような文言が出てくる」

人魚姫「そゆこと、人間は人魚の肉を食べると不老不死になれるって信じちゃってるってわけ。そんなの根拠のないバッカバカしいデマだってのにさ」

赤ずきん「という事は、あなた達の仲間は……」

人魚姫「想像の通りって感じ?人間に捕らえられて殺されちゃったってわけ……もちろん人魚を食べたって不老不死になんかならないってのにさ」

320 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 23:05:02 r1T 118/376

赤ずきん「あなた達人魚は、得られもしない不老不死のために人間達に捕らえられて殺されている……ということかしら?」

人魚姫「まっ、そういうこと。今では襲われる人魚はかなり減ったけどもっと昔はマジで酷かったらしいんだよね、一年間に数十の人魚が人間に殺されたんだって」

桃太郎「ふむ……不老不死に憧れるが故に虚ろな希望にすがってしまうのだろう。情けのないことだ」

人魚姫「他にも見せ物にされたりさ、声のキレイな人魚は歌を歌うためだけの奴隷にされたりって事もあったって聞くんだよね、マジで酷い話っしょ?」

赤ずきん「……」

人魚姫「人魚はさ、海では人間よりも早く泳げるけど捕らえられて船の上にでも叩きつけられたらほとんど自由なんか効かないんだよね、殺されたのもほとんどが若い女の人魚だったって聞くしさ」

赤鬼「むむっ、女子供を狙うとは許せんな…!」

赤ずきん「あなた達鬼の種族も似たような被害にあっていたわね。以前、青鬼に聞いたわ」

赤鬼「ああ、鬼の場合は角だったな……角が万能薬になると言うデマが流行ったことが過去にあってな、あの時も狙われたのは女子供だった」

桃太郎「同じ人間として恥ずべき事だ…そして許せぬ、真に征伐が必要なのはそういった悪意を持つ人間であろう」

赤ずきん「同感ね……」

人魚姫「二人ともさ、あんま気にしないでよ。だってあんたたちは良い人間じゃん?被害を受けているのは人魚なのにそうやっ怒ってくれるんだからさ。悪いのは人間っていう種族じゃなくてさ、その中の一部っしょ」

桃太郎「その通りではあるのだが……我々人間が外道な振る舞いをしたことは事実。すまぬ……」

321 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 23:05:54 r1T 119/376

人魚姫「でも、他の人魚が私と同じふうに考えてる訳じゃないんだよねー」

赤鬼「人魚を殺す人間がいる……だから人間という種族は全て悪だと決めつけている奴が多いという事だな」

人魚姫「そうそう、あたしの姉ちゃんみたいにね……それにそういう考えを持った人魚の方がずっと多いんだよねー、私みたいな人間にも良い人はいるって考えはチョー少数派」

桃太郎「しかし、一部の悪人の所行とはいえ人間が人魚にした仕打ちを考えれば確執が生まれるのもやむを得ぬ事なのやもしれぬな……」

人魚姫「……これが人魚が人間を憎んでいる理由、他にも海を汚されたとか海の仲間が酷い目にあったとか理由はあるけどさ、一番の理由はこれっしょ」

赤鬼「オイラ達鬼と人間の関係に似ている部分が多いな……これは容易く解決できる問題ではないかもしれん」

赤ずきん「……でも、なんだか……」ボソッ

赤鬼「……赤ずきん?」

赤ずきん「いいえ、なんでもないわ……ところであなたのお姉さんが昨日私と桃太郎を眠らせた歌声…あれはなんなの?」

人魚姫「ああ、あれは姉ちゃんの能力。姉ちゃんは眠りに誘う歌声を持つディーヴァだからさ」

赤鬼「昨日も言ってたがそのディーヴァってはいったい何なんだ?」

人魚姫「美しい歌声で海の平和と人魚の安全を守る正義の歌姫って感じ?でもそんなにはただの表向きの姿なんだよね」

赤ずきん「表向きって…どういうことなの?」

人魚姫「それは表面上の建前ってこと、確かに人魚も海の仲間も守ってる……でもディーヴァは歌姫なんかじゃない」




人魚姫「人間を殺すための兵器なんだよ」

322 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 23:10:41 r1T 120/376

赤ずきん「人間を殺すための兵器……?」

人魚姫「人魚の国の王族は女にだけ特別な力が宿る…って赤鬼には話したっしょ?」

赤鬼「ああ、歌声に特別な力が宿るんだったな?」

人魚姫「そうそう、王族の女の人魚…今は国王の娘だけ、つまりあたしを入れて6人いる人魚の姉妹だけってこと」

人魚姫「あたしたち姉妹はそれぞれが特別な歌声を持ってんの。どれも他の姉妹とは違うけど、人間に影響を与える歌声って所は共通してんのね」

人魚姫「赤ずきん達を眠らせた一番上の姉ちゃんは歌声を聞いた『人間を眠らせる』。一度眠ると姉ちゃん以外には起こすことが出来ない…まぁあたしは別としてね?」

人魚姫「二番目の姉ちゃんも他の姉ちゃんもみんな特別な歌声を持ってるんだよね、魅了させたり幻を見せたり体を麻痺させたり視力を奪ったり…海の上でそんなことされたらどうなるか、考えなくてもわかるっしょ?」

赤ずきん「まぁ、想像するのは容易いわね……」

人魚姫「その特別な歌声を使って海を守る役目を人魚の国ではディーヴァって呼ぶんだよ、姉ちゃん達はディーヴァとしていろんな海域へ向かってんの。このあたりの海域は一番上の姉ちゃんの担当って事かな」

桃太郎「ちょ、ちょっと待ってくれ……海を守るとは言うがディーヴァってのは意図的に人間を殺しているというのか…!?」

人魚姫「そうだよ、だから兵器だっていったっしょ?姉ちゃん達は人間を殺すためにあちこちの海で歌ってる。こうやって話してる今もきっとどこかの海でどれかの姉ちゃんは船を沈めてる」

赤鬼「……っ!」

人魚姫「さっきも言ったじゃん?ディーヴァは人間を殺すための兵器。姉ちゃん達に人間殺しを命じたあたし達の父親……人魚の王は仲間の命を奪った人間を決して許さない」

323 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 23:13:05 r1T 121/376

人魚姫「人間が人魚を殺すなら、その前に人間を殺す…海に平和を守るために。そーいう理由で姉ちゃん達はディーヴァを命じられて、それに従ってんの」

赤鬼「それじゃあオイラ達鬼の時と一緒じゃねぇか…復讐のために無関係な人間を襲えば、人間は人魚を憎むようになる!その繰り返しだ、そうなっちまったらもう簡単には止められないんだぞ!」

人魚姫「そんなこと……あたしにだってわかるんだけど?けどあの人たちはそれが解ってないんだよ。それか、解ってるけどもう後に引けなくなっちゃってるのかもしんないけど」

桃太郎「しかし、このままでは状況は悪化する一方……何かしらの手を打つ必要がある。早々に」

人魚姫「だけどさ、だったらどうすりゃいいの?末娘のあたしがあの人に意見して通ると思うの?無理に決まってんじゃん」

人魚姫「だってもう人魚は…ディーヴァは無差別に人間を殺してる。もう、人魚はただの被害者じゃないんだからさ」

赤ずきん「なるほどね……人魚は人間に仲間を殺された。その復讐のために国王は人間を殺すディーヴァという役割を設け、あなたのお姉さんがそれを担っている。ということね?」

人魚姫「……そゆこと、なんであんな事してんのかあたしには理解できない。復讐なんかしたって、殺された人魚は帰ってこないのにさ」

324 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 23:16:01 r1T 122/376

赤ずきん「……けれど、あなたも王の娘ならディーヴァになるように命じられているんじゃないの?」

人魚姫「命じられているどころじゃないんだよね。人魚は15歳になると一人で海上に出ることが許されるからさ、たぶん15歳になったらすぐにでもディーヴァやらされると思うんだよね」

桃太郎「そのようなしきたりがあるのだな…いや待て、お主まだ15歳ではないのに海上に上がっているではないか……?」

人魚姫「あはは、それはほらバレなきゃいいわけだし誕生日明日だし問題ないっしょ!」

赤鬼「明日だと!?明日にはディーヴァにされるかもしれないのか!?」

赤ずきん「あなた、随分と余裕なのね……」

人魚姫「まぁ元々家を出るつもりでいたからね、これから一度王宮に荷物を取りに行ったらもう帰らないつもりってわけ。まぁさ、なんにしても」

人魚姫「あたしは絶対にいいなりになるのは嫌……でもあの人からしたらあたしの歌声の利用価値は他の姉ちゃんの比じゃないんだよ」

桃太郎「眠りから覚めさせる歌声……か?」

人魚姫「それは応用しただけじゃん、あたしの歌声は思うように『人間を操れる』歌声。あたしが目覚めろと命令したら目覚めるし、眠れと命令したら眠る」

人魚姫「あたしが死ねって命令して歌えば、人間はそれに逆らえない。あたしの歌を聴いちゃったらね」

325 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 23:20:16 r1T 123/376

赤鬼「うむ、なんとも恐ろしい能力だな…」

人魚姫「でも安心していいって、歌声の効果があるのは人間だけだしあたしは人間を殺すためには絶対に歌わないからさ」

桃太郎「しかし、娘を危険な目に遭わせてまで復讐を遂げたいと思うものなのだろうか…?」

人魚姫「娘と思ってないんだって、あの人は。父親はあたしのことも姉ちゃん達みたいに兵器としてしか見てないんだよ、憎い人間を自在に操れる便利な兵器ってね」

人魚姫「でもあたしはディーヴァにはならない。絶対にね」

赤ずきん「……それで、なにか考えはあるの?家を出てもどうやって生活していくつもり?」

人魚姫「だからほら…とりあえず家を出たらさ、アクセで生計立てるんだって」

赤ずきん「そうは言っても陸に上がれないのだから海中で売るしか無いけれど…それだと居場所がすぐに知られてしまうわよ?」

人魚姫「あーっ、そっか。でもちょっとだったら蓄えもあるしいけるっしょ!」

桃太郎「しかし、その通貨は人魚の国の物なのだろう?商店に出入りしていてはいずれ見つかるのではないのか?娘が戻らなければ王も捜索するであろう?」

人魚姫「……」

人魚姫「あれっ……もしかして、あたしヤバいんじゃね……?」

赤ずきん「結局、具体案は無いわけね……」

人魚姫「とりあえず、浅瀬にはあまり人魚は寄らないから…しばらくはなんとかなるけどさ……どうにかしなきゃヤバいよマジで……」

326 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 23:26:38 r1T 124/376

赤鬼「まぁ、今後どうするかは一緒に考えてやるとして…明日はお前の誕生日なんだろう?まずはその祝いをやらねぇとな!」

人魚姫「えっ…マジで!?あたしの誕生日祝ってくれんの?」ワクワク

赤鬼「おう!オイラとしては若い娘が家を出るってのは反対だが…事情が事情だ、明日はうまいものでも食って祝おう。それからのことはじっくり考えればいい、そうだろ赤ずきん!」

赤ずきん「ええ、もちろん……協力はするけれど……」

赤ずきん「……赤鬼、あなた忘れていないわよね?明日が人魚姫の誕生日だということがどういうことか」ボソボソ

赤鬼「ああ、明日…王子を助けた人魚姫は声を失う…その先どうなるかも忘れちゃいねぇ。大丈夫だ、でもいいだろう?誕生日に旨いもんを食うくらい悪いことじゃねぇ」ボソボソ

赤ずきん「…それならいいけれど。あまり楽しい思い出を作りすぎると私もあなたも人魚姫も……」ボソボソ

赤ずきん「……いいえ、何でもないわ」ボソボソ

赤ずきん「折角ですもの、私は甘いお菓子でも見繕ってくるわね」フフッ

桃太郎「うむ……是非共に祝いたいところだが拙者はそろそろ国に戻らねばならぬからな…すまぬが祝いは二人に存分にしてもらってくれ、人魚姫よ」

人魚姫「桃太郎これないのは残念だけどさ、今年は誕生日祝って貰えるなんて思ってなかったからチョーテンションあがるんですけど!」

赤鬼「がっはっは!じゃあ明日は楽しみだな!今日と同じ時間にまたくるから忘れないようにしてくれよ、人魚姫」

赤ずきん「それと家を出ていくならくれぐれも気をつけなさいね、怪我なんかしたら大変よ」

人魚姫「オッケーオッケー!チョー楽しみ…!じゃああたし遅くならないうちに荷物まとめなきゃだから帰るね、また明日ね赤ずきん!赤鬼!桃太郎もまたね!」ヘラヘラ

赤ずきん「ええ、また明日」

赤鬼「おう、じゃあな人魚姫!」

桃太郎「うむ、またいずれ会おうぞ…!」

・・・

327 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/24 23:48:56 r1T 125/376

海底 珊瑚の王宮 王座の間

スゥ

髪の美しい人魚「失礼いたします、お父様」

人魚王「……随分と遅かったな、私の呼びつけには最優先で応じよ」

髪の美しい人魚「はい、承知しました。お待たせして申し訳ありません」

人魚王「明日はアレが齢15となる日、ディーヴァとしての指導は済ませてあるのだろうな?」

髪の美しい人魚「はい、済ませてあります。少々反抗的ではありますが……」

人魚王「反抗的……だと?」ギロッ

髪の美しい人魚「はい、改めさせるよう言いつけてはいるのですが……未だにアクセサリー制作などという趣味を捨てられないようで……」ヒュッ

ガゴッ

髪の美しい人魚「きゃっ……お、お父様何を……」ゲホゲホ

人魚王「アレの反抗的な態度を改めさせ、ディーヴァとして使えるようにするのが貴様の役目であろう」ギロリ

髪の美しい人魚「も、申し訳ありません…お父様…」

人魚王「指導者としても三流、兵器としても妹に劣るなど…貴様に存在意義があるのか疑わしい、そう思わないか?」

髪の美しい人魚「い、いえ…私はまだディーヴァとして戦えます、ですから…」

人魚王「私を失望させるな。明日は陸の王国の王子が参加する船上パーティが行われると情報が入っている。わかっているな?失敗は許さぬ」

髪の美しい人魚「はい、必ずやお父様の期待に応えてご覧に入れます……」

人魚王「当然だ。貴様は私の命令に従い、人魚の国を平和に導けばいい。ただそれだけだ、わかっているな?」

髪の美しい人魚「はい、ディーヴァは海の平和のために歌うもの…無様な失敗は致しません」

341 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 22:36:27 QTZ 126/376

海底 珊瑚の王宮

執事魚「姫様…!またそのような痛々しいアザを…!すぐに手当を致します!」

髪の美しい人魚「いいえ結構、喉は無事ですから。私はディーヴァです、歌うことが出来れば腕の傷など……それよりも明日の仕事の準備を……くっ!」ズキッ

執事魚「無理をなさらないでください!腕もまともに動かせていないじゃないですか!」

髪の美しい人魚「……これは不甲斐ない私への罰です。お父様の期待を裏切った罰……」

執事魚「国王様は何事も私情を挟まず国家のために邁進する立派なお方…とはいえ娘である姫様をここまで強くぶつ必要は無いでしょうに……」

髪の美しい人魚「この程度の痛み、国民の多くを失ったお父様の痛みと比べれば……人魚全体の苦しみと比べれば……些末なものです」

執事魚「とは言いましても痛いものは痛いですよ…」

ペタペタ

執事魚「…はい、治療は済みました。疼くようでしたら鎮痛剤をお飲みくださいね」スッ

髪の美しい人魚「……一つ聞かせて欲しいの、国王に従属するものとしてでなく……私の執事として」

執事魚「はい、なんでしょう…?」

髪の美しい人魚「……私は存在価値が無い人魚なのでしょうか?」ボソッ

342 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 22:37:47 QTZ 127/376

執事魚「姫様……お気を確かに。国王様は姫様の為を思うがこそ厳しく接しておられるのです。厳しいお言葉も姫様を思えばこそなのです」

髪の美しい人魚「それは……理解しています。ですが私は本当にディーヴァとして海の平和を守れているのでしょうか…?」

髪の美しい人魚「お父様のなさることは全て正しい。私も全力で国の為に尽力してきたつもりです…しかしふと、自信を失ってしまって…」

執事魚「お気持ちはわかります、でも大丈夫です!自信持ってください。姫様のおかげで我々海の仲間は平和に暮らせているんです」

執事魚「もしもお疑いでしたら外の景色をご覧ください、海底に広がるこの豊かな自然と、平和に暮らす人魚の民や我々魚類達の姿を!」

髪の美しい人魚「そうですね……私たちの住むこの世界はいつも美しい。大勢の人魚が笑顔で行き交い、この雄大な海に生きる全ての生き物達と争うことなく暮らしているのですね」

執事魚「そうですとも!こんな光景陸じゃ見れませんよ、愚かな人間は他の動物を食べるために殺しているっていうんですから、信じられませんよ」

髪の美しい人魚「あまりに野蛮……そのような蛮行がまかり通っているから海を荒らし、人魚を殺すのですね…!」

執事魚「ええ、まったく理解できません……」

髪の美しい人魚「どこまでも野蛮で残酷な種族…!私の友人達も、そして大勢の人魚もあの卑劣な人間共に殺された…!」

343 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 22:39:02 QTZ 128/376

執事魚「あの種族だけは絶対に許せませんよね…!この王国も十年ほど前までは人間に多くの人魚が殺され、海が荒らされていましたからね…しかし今では被害は見違えるほどに減少しました!」

執事魚「それは姫様の歌声のおかげです!貴方様がこの海域に立ち入る愚かな人間を駆逐してくださるおかげでどれだけの海の仲間が…そして人魚が救われているか!」

髪の美しい人魚「本当に……私の歌声は、大勢の人魚を救えているでしょうか?」

執事魚「もちろんです!」

髪の美しい人魚「ありがとう……情けない姿を見せてしまいましたね、もう大丈夫です」

執事魚「いいえ、情けないだなんて…姫様は海を守る正義の歌姫!どうか胸を張ってください!」

髪の美しい人魚「ええ、ありがとう」ニコッ



髪の美しい人魚「……それと、お行儀が悪いですよ?立ち聞きなんかせず出てきなさい人魚姫」

人魚姫「……」スッ

執事魚「に、人魚姫様!?いつからそこに…!?」

髪の美しい人魚「ほんの少し前、人間共がいかに野蛮か話していた頃からでしょう。そんな風にこそこそとしてやましいことでもあるの?」

人魚姫「やましいことなんか無いんですけど?……っていうかマジで意味わかんない」イライラ

344 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 22:40:22 QTZ 129/376

髪の美しい人魚「……何の事を言っているのかしら?」

人魚姫「姉ちゃんの事を言ってんの!その腕……またアイツに殴られたっしょ!?アイツ、マジ許せない…!」

髪の美しい人魚「人魚姫!お父様のことをアイツなどと…!訂正しなさい、失礼ですよ!」

人魚姫「アイツの言いなりになったりしてどうかしてんだよ姉ちゃんは!アイツはあたし達の事を道具だとしか思ってない!歌声で人間を殺す兵器!だから姉ちゃんの事だって平気で殴ったりできんだよ!」

髪の美しい人魚「お父様は誰よりも私達人魚のことを考えておいでです!それだというのにそんな失礼な物言いを…!お父様に申し訳ないと思わないの!?」

人魚姫「思わないね、だってあたしは間違ってないじゃん!あの人がおかしいんだよ!」

髪の美しい人魚「人魚姫……あなたはお父様を誤解してます。きっと、ディーヴァへの理解が浅いからそのような考えに至るのでしょうね」

人魚姫「誤解?違うじゃん!ディーヴァこそアイツの言いなりで動く兵器じゃん!」

髪の美しい人魚「いいえ、ディーヴァは正義の歌姫…海の平和と人魚の平穏を守る者。そして野蛮な人間を征伐する役割を担う誇り高い役目」

髪の美しい人魚「そしてもう人間に襲われる人魚が現れないよう、先手を打ち人間を駆逐する平和の要といえる役目」

髪の美しい人魚「その要が醜態を晒せば人間の思うがままにされてしまう……ディーヴァのミスが大きな嘆きと悲しみを生み出す。不手際があれば相応の罰則があって然るべきです」

345 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 22:43:11 QTZ 130/376

人魚姫「だからそもそもそれがおかしいって言ってんの!人間にだって良い人いるじゃん!だから他の方法をさ」

髪の美しい人魚「あなたはまだ若いからそんな夢物語を恥ずかしげもなく口にするけれど……一体、どれくらいの人魚がそれに賛同すると思う?」

髪の美しい人魚「殺された人魚には家族がいる、友達がいる、志を同じくする仲間がいる…残された人魚はその悲しみを背負って生きていくのです、憎しみと一緒にね。人間を許せる人魚なんて貴方を含めても片手の指で足りるわよ?」

人魚姫「だから…人魚を殺した人間は一部の悪い人間で…!」

髪の美しい人魚「それはあなたの希望でしょう。仮にそうだとしても…人間にとっては殺す人魚は誰でも構わなかった。ならば私達も自衛の為に人間を殺すとなったとき、その人間が善人だとか悪人だとか考慮する必要はないでしょう」

髪の美しい人魚「先に無差別な殺戮を始めたのは人間。そんな輩に同情するなんて、あなたの方こそどうかしているわよ?」

人魚姫「同情じゃない!私は人魚と人間が共存する方法が…」

髪の美しい人魚「そんな事を口にするのはやめてちょうだい。あなたの友人の何人かは人間にさらわれたのでしょう、そんな輩と共存?」

人魚姫「だって赤z……人間だって、他の種族だってそれを望んで…」

髪の美しい人魚「はぁ…あなたももう15歳でしょう?いつまでも夢のようなことを言っていてはダメなの、貴方は明日の誕生日で栄えあるディーヴァになるの、そんなことじゃあ困るのよ」

人魚姫「…もういい!!姉ちゃんはきっといつか後悔するんだから……!!」ザバザバ

執事魚「あ、人魚姫様…!すぐに追いかけましょう、あんな状態の人魚姫様を国王様に見つかってはまた姫様に責任が……!」

髪の美しい人魚「……困った妹。いいわ、今日だけは好きにさせてあげましょうこの海の支配者はお父様ですもの、どれだけ反抗しても決して逃げ切ることは出来ない。行くあてだってないんだもの、じきに戻ってくるでしょう」

髪の美しい人魚「それに先に手を出したのは人間共、私達の殺戮にはあいつらのそれとは違い正義がある。私達人魚の行動は間違っていない」

髪の美しい人魚「あの子はそれがわからない……誰よりもその正義を執行する歌声を持っているのに……それなのにお父様に反抗して……」

髪の美しい人魚「お父様のなさることに間違いはない、私達姉妹はお父様の言うとおりにしていればいい…どうしてそれがわからないのかしら……」

346 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 22:44:55 QTZ 131/376


翌日 人魚姫の誕生日
港町の菓子店

カランカラーン

赤ずきん「宿の主人が教えてくれたのはここね……」

赤鬼「おぉ、店中に甘い匂いが…どれもうまそうだ。やっぱりオイラの国の菓子とは全然違うなぁ、なんかこう華やかって感じだよな」

赤ずきん「あら、あなたの国の甘味も私は好きよ。ぜんざいだったかしら?あれは気に入ってるのよ」

赤鬼「おぉ、ぜんざいとは渋いな……」



店のおっさん「はいはい、いらっしゃーい、何をお探しで?」パタパタ

赤ずきん「友達の誕生日のお祝いにフルーツのタルトが欲しいの。オススメはあるかしら?」

店のおっさん「そうだなぁ、それならリンゴのタルトだな!今年は甘くていいリンゴが採れてるんだ、ちょっと地味だが味は保証するぞ」

赤鬼「ならそれを貰おう。あぁ、すまんが適当な大きさに切っておいて貰えるだろうか?あと支払いだが…いくらだ?」

店のおっさん「あいよ!えっと、じゃあリンゴのタルトひとつで……」カチャカチャ

赤ずきん「……」キョロキョロ

店のおばさん「あいよ、お嬢ちゃん。切っておいたからね、落とさないようにするんだよ」ニコッ

赤ずきん「ええ、ありがとう。…ところで少し聞きたいのだけど、構わないかしら?」

店のおばさん「ん?こんなおばちゃんでよけりゃあ何でも聞いとくれ」

赤ずきん「それなら聞かせて頂戴。あなた、人魚って知っているかしら?」

347 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 22:46:07 QTZ 132/376

赤鬼「……どうした、赤ずきん?そんな事聞いて」

赤ずきん「…おばさんの知っている人魚のことで良いから教えて欲しいの」

店のおばさん「人魚ってあれだろう?下半身が魚で海に住むっていう……昔話に出てくるやつかい?」

店のおっさん「そういやぁガキの頃、おふくろの話す昔話によく出てたっけなー懐かしいなぁ、お嬢ちゃん昔話が好きなのかい?」

赤ずきん「…そうじゃないの、実際の人魚の話よ」

店のおばさん「実際って……」

赤ずきん「…姿とか、噂とか……なんでもいいのよ」

グイッ

店のおばさん「……お客さん、本当は人魚なんか居ないって言って良いのかい?お嬢ちゃんの夢を壊さないかい?」ヒソヒソ

赤鬼「…ん?本当は居ない…?」

店のおばさん「だってそうだろう、あんなのはただの伝説で作り話だ。実際には人魚なんか居ないんだから…でもお嬢ちゃんが信じてるなら夢を壊しちゃあかわいそうだろう」ヒソヒソ

348 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 22:49:50 QTZ 133/376

赤ずきん「……どうなの?」

店のおっさん「あのなぁお嬢ちゃん、実はなぁ…あのおばさんは昔人魚だったんだ!」ババーン

赤ずきん「……」

店のおっさん「もう二十年以上は前かねぇ…俺達がまだ若かった頃、そりゃあもうアイツはこの街でも有名な美人でなぁ……波打ち際のマーメイドなんて言われてたんだぞー?」

赤ずきん「悪いけれど、そういうのが聞きたい訳じゃないのよ」

店のおっさん「それがもう今じゃアレよ、砂浜に打ち上げられたウミウシだよ。お嬢ちゃんはあんな風になるんじゃ…あいたたたたっ!」ギュー

店のおばさん「あんたはまた余計なこと言って!誰がトドだって!?」ギリギリギリ

店のおっさん「言ってねぇ!そこまで言ってねぇってのに!」

ギャーギャー

赤鬼「おい、こりゃあ一体…?」

赤ずきん「どうやら、最初に確認したとおり、この世界の人間にとって人魚はあくまで伝説……実在しない種族という認識のようね……」

349 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 22:51:30 QTZ 134/376

海上 船の上

ギーコギーコ

赤ずきん「赤鬼、思い出して頂戴。私達がこの街で最初に話した旅人は人魚なんかいないと言っていたでしょう?」

赤鬼「おう、言っていたな。だがそもそも『人魚姫』のおとぎ話じゃあ人魚は人間に姿を見せられないんだ。だったら人間が人魚の存在を知らなくて当然……と、気にもとめなかったが」ギーコギーコ

赤ずきん「ええ、だから私もそのときは気にとめていなかったのだけど…」

赤鬼「だが人魚姫の話だと『不老不死を求める人間の手によって人魚が殺されている』という事だった……それだとおかしいよな」

赤ずきん「そうね、人魚側は仲間を襲う人間に憎しみを持っているけれど……人間は人魚の存在を信じてすら居ない。明らかに矛盾するわね」

赤鬼「人魚姫が嘘をついているようには見えんし、あの夫婦も隠し事をしているようには見えなかったからなぁ。最初にあった旅人もだ」

赤ずきん「あの菓子屋の夫婦、二十年以上昔からここに住んで居るみたいに言っていたけれど、その頃はまだここが港町として栄えていた頃……」

赤鬼「そうだな、大きな港町で流通するには物品だけじゃねぇ、情報だって行き交う。もしも人魚の肉で不老不死になれるなんて情報があれば…ましてや何十人もさらわれるなんて規模で人魚の捕獲が行われていたなら……」

赤ずきん「必ず、噂になっているはず。けれど噂どころか、人魚の存在すら認知していない。それを踏まえて考えれば、いくつかに可能性が考えられるけれど…」

赤鬼「悪い奴が内密に人魚を捕獲していたとかか?」

350 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 22:53:26 QTZ 135/376

赤ずきん「そうね…人魚の存在を認知しているわずかな人間が存在していて、極秘で人魚を捕らえていた……というのは少し考えにくいわね」

赤鬼「それもそうだな……悪人が捕らえた人魚を売りさばけば必ず噂になる、例え貴族や王族相手に商売したとしてもさすがに全く情報を止めるなんて出来ねぇだろうしな」

赤ずきん「たとえば王族が極秘で捕獲していた……うーん、それだと一過性じゃなくて長い間人魚が捕らえられ続けている理由が説明できないわね。実際は不老不死にならないのだから、それが解ればもう人魚を捕まえる必要がないわけだものね」

赤鬼「どうにも難しいな……」

赤ずきん「あるいは……そもそも人間は人魚を捕らえていない。ただの誤解という可能性かしら?なんらかの事故を人間の仕業だと思いこんでいるとかね」

赤鬼「もしも、誤解だとしたら……悲惨だぞ」

赤ずきん「そうね……ただの誤解で憎しみ続けていたとしたらね。けれど、仮に誤解だとしてもこれも長い期間に渡って人魚が消えている理由が説明できないのよ…」

赤鬼「どちらにしても人魚姫にはまだ言わない方が良さそうだな」

赤ずきん「ええ、まだ黙っておきましょう。ただ、基本的に人間は人魚を認知していないというのは確実ね」

赤鬼「……なんつぅか、一筋縄じゃいかないもんが絡んでる気がするんだよな……」

赤ずきん「同感ね……厄介なことにならなければいいけれど」

ギーコギーコ

351 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 22:54:54 QTZ 136/376

秘密の入り江

ズズッ

赤鬼「よし、舟はこれでよし。あとは火を焚いて湯を沸かして……薪は昨日桃太郎が集めてくれた奴がまだ使えるな」

赤ずきん「私も手伝うわね。それにしても人魚姫はまだ来ていないのかしら」

赤鬼「オイラ達も少し遅れちまったから人のこと言えないがな」ガハハ

ザバー

人魚姫「っていうかもう居るし!赤鬼も赤ずきんもチョー遅いんですけど!」

赤鬼「うおっ、驚いたな。海中に隠れていたのか?」

人魚姫「隠れてたんじゃなくてさ、待ってる間に貝殻集めしてた感じ?待ちすぎてこんなにたくさん採れたんですけどー?」ドッサリ

赤ずきん「遅くなったのは悪かったわ、けれど大目に見て頂戴。約束通り、甘いお菓子を用意してきたんだもの」フフッ

赤鬼「茶の支度もじきに出来る、船縁で待ってるといい」

人魚姫「おー、人間の世界のお菓子かぁ…!赤ずきんが準備してくれたんだし、食べるっきゃないっしょ!」ワクワク

352 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 22:56:08 QTZ 137/376

赤ずきん「はい、リンゴのタルトよ。人魚姫、誕生日おめでとう」ニコッ

人魚姫「うんうん、あんがとね!で…リンゴ?なにそれ?タルトも初めて聞いたし」

赤ずきん「赤い果実ね、甘くて少しだけ酸っぱいの。それをバターや砂糖…小麦粉なんかを混ぜた物に乗せて焼いた物よ」

人魚姫「ふーん?よくわかんないけど美味しいことはわかったからいいや。っていうかチョーいけるねコレ」モグモグ

赤ずきん「……まぁ、気に入ったなら良かったわ。それと桃太郎からプレゼントを預かっているのよ」ゴソゴソ

人魚姫「プレゼント?桃太郎来れないって言ってたのに気が利くじゃーん!」ウキウキ

赤ずきん「はい、彼の住む日ノ本で使われているアクセサリーらしいわよ」スッ

人魚姫「へー、見たこと無いアクセじゃん。細長いけど、何の素材だろうこれ…木でも鉱石でもないっぽいけど……ねぇ、これなんて言う物なの?どうやって使うの?」ジッ

赤鬼「ガハハッ、人魚姫は装飾品のこととなると目つきが変わるなぁ…そいつはかんざしだ、オイラ達の国では人間の女が髪をまとめるのに使うんだ」

人魚姫「へぇー、かんざし…そういうアクセがあんだねー。なんか武器にもなりそうじゃん、刺さりそうだよねこれ」ヘラヘラ

赤鬼「おいおい、きっと上等な代物だぞ。大切にしてやってくれ」

人魚姫「そうなの?なんか気使わせちゃった?」

赤ずきん「そんなこと無いでしょう。『心ばかりの祝いの品だが、お主の夢が叶うことを願っている』って言っていたわよ、桃太郎」


赤鬼「贈り物にさり気ない激励の言葉を添えるとは、なかなかに男前だな桃太郎は」

赤ずきん「良い意味でも悪い意味でも周囲を気にしている彼だから、そういう気遣いは得意なのかもしれないわね」

人魚姫「ってか、男前ってどういう意味?」

赤鬼「若い奴は馴染みがない言葉なのか?まぁ、簡単に言うといい男って事だな」

人魚姫「なるほどね、じゃあイケメンのことじゃん!あっ、イケメンといえばさここに来る途中でマジでイケメンな人間見たよ」

353 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 22:58:47 QTZ 138/376

赤ずきん「それって……もしかして立派な船に乗っていたかしら?」

人魚姫「そうそう!船もチョー豪華なやつでさ、あれきっと陸の上の王子か何かだと思うんだよねー。でさ、ちょっと見てたんだけどもうあたしのタイプでさー、桃太郎よりずっとイケメンでさー!まぁ桃太郎もイケメンだけどタイプの違うイケメンっていうか……」

赤鬼「……赤ずきん、そりゃあおそらく」ボソッ

赤ずきん「王子ね。今のところ、元の物語の筋にそっていると
いう事だけれど……」ヒソヒソ

赤鬼「うむ、気になることが多いが……王子を助けなければこのおとぎ話はこの時点で消えてしまうからな、気をつけねぇとな」ヒソヒソ

人魚姫「…ちょっと!折角話してんのになにヒソヒソしてんの?あーっ、あたしの話信じてないっしょ?」イラッ

赤鬼「いやいや、そういう事じゃなくてだな…」

人魚姫「もう、マジでイケメンだったんだって!…じゃあこうしよっ!今からその船の所まで行こう、そしたら二人とも信じるっしょ?」

赤鬼「いや、オイラ達はお前の話を信じてないわけじゃないんだぞ?ただ……」

人魚姫「いいから行くよ!どーせ赤鬼はあれっしょ?イケメンに嫉妬してるんでしょ?」ヘラヘラ

赤鬼「ぬぅ、赤ずきん…オイラは失礼なことを言われたと思うんだが…」

赤ずきん「何を気にしているのよ…どちらにしても私達が行かなければ彼女も来ないでしょう、早く船を出しましょう」スタスタ

赤鬼「まぁ、それもそうだな…じゃあ案内してくれ人魚姫」

人魚姫「オッケー!時間的にそんなに沖に出てないと思うから、しっかり着いてきてよ?」ザバザバー

354 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 23:00:26 QTZ 139/376

海上 国の所有する船近く

ギーコギーコ

人魚姫「ほら、遠くに見えてきたっしょ?あの船、さっきは甲板のとこにイケメンが居たんだよね!」スゥー

赤ずきん「あなたさっきから何回イケメンって言うのよ……」

人魚姫「だって名前わかんないししかたないっしょ?じゃあ仮に王子って呼ぶ事にしよっかな」ヘラヘラ

赤鬼「仮も何もお前…というかあまり近くまではいけないぞ?この舟じゃあ近づきすぎると転覆しちまう」

人魚姫「えーっ?なんとかなるっしょ?」

赤ずきん「人魚のあなたと違って転覆でもしたら大事なのよ、ここから陸まで泳ぐなんて…私には、私達には無理よ」

355 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 23:01:13 QTZ 140/376

人魚姫「それじゃ仕方ないかー……でももうちょっとくらいならいいんじゃね?」

ユラユラー

赤鬼「いや……やめておこう。あの船様子がおかしい」

人魚姫「ん……マジだね、あんなフラフラしてたら岩場に衝突しちゃうじゃん…!もしかしたら船になにか異常があったんじゃ……」

赤ずきん「あれ、船の向こう見てみなさい…!どうやらこちらには気がついていないようだけど」

ユラユラー

髪の美しい人魚「……」ザブンッ


赤鬼「あの人魚…ってことはこの船が沈む原因はあいつか!」

人魚姫「姉ちゃん……!じゃあこの船マジでヤバいじゃん…!もう姉ちゃんが歌った後なんだこれ!」

ユラユラー



ゴシャアアァァァ

356 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 23:03:35 QTZ 141/376

ゴシャアァァァァ

赤鬼「岩場に衝突した!やべぇぞ!」

人魚姫「姉ちゃんの手口だ!船員みんな眠らせて岩場や他の船に衝突させる…!助けるっきゃないっしょ!」スィッ

赤鬼「助けるってお前…!オイラもそうしたいがきっとものすごい人数だぞ!?」

人魚姫「わかってる!とりあえず目を覚まさせなきゃマズイっしょ!あたしの歌を聴いた人間は『眠りから覚める』……!それっ!」ラーラララーララー

赤鬼「だが、流石にあの船の連中を救うのはこの小舟じゃあ無理だぞ!?」

赤ずきん「目が覚めたならなんとか瓦礫に捕まってでも耐えられる。私達は急いで港まで行きましょう!救助を呼べば助かるもの!」

赤鬼「ああ、急ぐぞ!しっかり捕まってろ赤ずきん!」ギコギコギコー


スゥー ゴボゴボゴボ


人魚姫「……っ!赤鬼!今、沈んでいく人影が見えた!引き上げなきゃ…!」

赤鬼「そっちは任せる!人魚姫!落ち着いたらあの入り江で落ち合おう!」ギコギコギコー

人魚姫「わかった!今助けるかんね…もうちょっと頑張ってよ?」

ザブンッ

357 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 23:06:28 QTZ 142/376

ザバァッ


人魚姫「ハァハァ…間に合った…!」

王子「ゲホゲホッ……うぅ……」

人魚姫「この人、さっきのイケメンだ…なんとか意識はあるっぽいけど……とにかく陸に連れて行かないとマジヤバいかも…!」

ザバザバー

王子「うぅ……皆の者……無事で……ゲホゲホッ」

人魚姫「意識が朦朧としてるっぽいのに、他の人の心配してるなんて……ただのイケメンじゃないんだ」

王子「……皆を……救ってくれ……ゲホゲホ」

人魚姫「うんうん、任せて!あたしがみんなを助けるっきゃないっしょ…!」


ザバザバー

ザバザバー

ザバザバー

358 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 23:09:05 QTZ 143/376

砂浜

人魚姫「ハァハァ……とりあえず、王子は意識もあるしここに寝かせておいて……と」スッ

人魚姫「あたしに足があれば…!でも、今そんなこと言っても仕方ないか」

王子「……うぅ、皆の者……ゲホゲホッ……」

人魚姫「安心して王子、赤ずきん達が助けを呼んでる!あたしも戻って、絶対あんたの仲間助けてあげるから」

王子「うぅ……ゲホゲホ」

ガサガサッ

人魚姫「誰か来た…!じゃあね、王子。あたしは船に戻るけど、きっと通りがかった人が助けてくれっからね!」

ザブンッ

王子「……ゲホゲホッ……ゲホゲホッ……」


ガサッ

359 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/03/31 23:19:04 QTZ 144/376

ガサッ



ドロシー「おー、ずぶぬれ王子はっけーん♪」ヘラヘラ

ライオン「うわぁー、本当に居たよ。怪我してない?大丈夫かな?」オロオロ

ドロシー「こいつが人魚姫の相手かー…確かにイケメンかもね!まぁ私の好みじゃないけどー、とりあえず助けてやんなきゃねー」ケラケラ

ライオン「あわわ、王子様だいじょうぶかな!?体冷えるとまずいよ、まずは着替えさせてあげてから暖かくしてそれからそれから……!ああぁ!どうしよ!?まずいまずい!」ワタワタ

かかし「落ち着ケ!お前が取り乱してどうするんダ!とりあえずこいつを早く運ぶゾ!」

ブリキ「……ならば俺が抱えよう」グイッ

ドロシー「よろしくー!ブリキはやっぱ頼りになるぅー!」ヘラヘラ

ライオン「ぼ、僕も手伝うよ!頼りになるところドロシーちゃんに見せなきゃ、僕は勇気があるライオンになりたいんだからこういうときに頑張るんだ…!」

ドロシー「うんうん!ライオンのそういうとこ私好きだよー!」スリスリ

ライオン「え、えへへー」ニヘラッ

ドロシー「でも楽しみだよねー、赤ずきんと赤鬼に会うのがさ!あいつら私達がここに来てるって知らない訳じゃん?夢にも思わないわけよ、このおとぎ話で会うことなんかさ」

ドロシー「だから【人魚姫】も絶対消滅させないって信じてるんだよね、きっと!そーんな油断してるあいつらがさぁ……」



ドロシー「私達が王子を助けたって知ったら、どんな顔すると思う?あははっ!すっごい楽しみだなぁー」ヘラヘラ

387 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:05:51 TNJ 145/376

数時間後……
港町

ザワザワ ザワザワ

「身元の確認をお願いします!みなさんどうか落ち着いて、落ち着いて我々の指示に従って行動を──」
「病院への搬送は大怪我をされている方が優先です!傷の浅い方はこちらで治療します!」
「手が空いてる奴いるか!こっちへ来てくれ!」

ザワザワ ザワザワ

赤鬼「どうやら海に投げ出された乗客の救出は落ち着いたみたいだな」

赤ずきん「……そうね。あとは怪我人の治療と身元確認、私達の出る幕はないわね」

赤鬼「ああ、どうやら役人が先導してくれてる。あとは任せてオイラ達は入り江に向かおう、人魚姫もそこに向かってるはずだ」ザッ

タッタッタッタッ

じい「お待ちくだされ、そこのお二方……!」

赤ずきん「…あら、私達に何か用事でもあるの?」

じい「事情は聞きましたぞ!船の沈没する場面に偶然居合わせ、いち早く救助を要請してくださったと…」

じい「あの船は王族や貴族…多くの高名な方々が乗船しておられました、もしも被害が更に大きくなっていたかと思うと恐ろしい…そこで国王様が是非あなた方にお礼がしたいと」

赤鬼「いや、オイラ達は助けを呼んだだけだ。礼を言われるようなことはしていない、それに用事もある。国王には申し訳ないが……」

388 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:06:44 TNJ 146/376

じい「はははっご謙遜を!ご都合が悪いようでしたらすぐでなくとも構わないとの事です、国王様より預かった書面をお渡ししますので。お時間のあるときに番兵にお見せください、すぐに城へとお通しします」スッ

赤鬼「むむっ、そこまで言うのなら…また明日伺わせて貰おうか」

じい「ではそのように国王陛下にお伝えしておきます」

赤ずきん「…ねぇ、王子もこの船に乗っていたのでしょう?救助はされたのかしら?」

じい「はい、おかげさまで…海岸で倒れているところを通りがかりの少女が助けてくださいまして、ただいま治療中です」

赤ずきん「そう、わかったわ」

赤ずきん「…人魚姫、王子を海岸まで無事に運べたようね」ヒソヒソ

赤鬼「うむ、それを通りがかりの娘が介抱する…話の筋は変わっちゃ居ないな」ヒソヒソ

赤ずきん「ええ……では、行きましょうか赤鬼。彼女が待ってるものね」

赤鬼「うむ……ではオイラ達はこれで、国王への挨拶は明日させて貰う。どうかよろしく言っておいてくれ」

じい「はい、かしこまりました。お待ちしております」

389 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:09:17 TNJ 147/376

秘密の入り江

ギーコギーコ ザザァ

赤ずきん「人魚姫、もう到着しているかしら?」キョロキョロ

赤鬼「海の中にも……潜っていないみたいだな。船より早く泳げるんだ、オイラ達より早く来ていると思ったが」

赤ずきん「すぐに来るでしょう、待ちましょう」ストンッ

赤鬼「おう、そうだな…」

赤ずきん「……」

赤鬼「……なぁ、赤ずきん。人魚姫のことなんだが……」ドスッ

赤ずきん「……人魚姫がどうしたの?」

赤鬼「やっぱりよぉ、なんとかならないもんか?このままだと人魚姫は泡になって消えちまうだろ?オイラ達で助けてやれねぇか?」

赤ずきん「……彼女を助ければこのおとぎ話が消えてしまう。それは最初に話したじゃない」

赤鬼「それは理解してるんだ、だが……あいつは一生懸命夢を追ってるだろう?人間との関係だって改善しようとしてる、他人事には思えないんだよ」

赤ずきん「……私達の都合でおとぎ話を勝手に消したりすれば、やっている事はアリスやドロシーと同じになってしまうわよ?」

赤鬼「そうかもしれねぇが……お前だって、人魚姫に消えて欲しくないだろう?」

390 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:11:09 TNJ 148/376

赤ずきん「……あなただから言うけれど」スタッ

赤ずきん「人魚姫に消えて欲しくない、それが私の本音よ」

赤ずきん「けれど…最初にも言ったけれどおとぎ話が消えるのだって嫌なの。私にはどちらか選ぶなんて……彼女と親しくなった今では、できない」

赤鬼「……」

赤ずきん「今のところ、気がかりなところはあるけれど本来の筋通りにお話が展開してる。異変が起きていないなら、私達はおとぎ話の筋に干渉しちゃいけないのよ」

赤ずきん「乱暴な言い方だけれど…このまま何もしなくてもおとぎ話は結末へと向かっていく、人魚姫は本来の結末の通り泡になる。私達はそれを見守るだけ」

赤ずきん「きっと、私達に許されているのはそれだけよ。結末がどうあれ人魚姫を見守る、それしかできない……しちゃいけないのよ」

赤鬼「…すまん、お前も辛いのに余計なことを口にしちまった」

赤ずきん「いいのよ、私もあなたと気持ちは同じよ。せめて、ずっと彼女に支えになりましょう、あの子が消えてしまう瞬間まで」

スゥー ザバザバー

人魚姫「…あっ、二人とも早いじゃん。ちょっと遅くなった、マジゴメンねー」ゼェゼェ

赤ずきん「なんだか、随分と疲れているようだけど…?」

人魚姫「王子を海岸まで運んだ後さ、船まで戻って…溺れた人を助けたりしてたんだよ、船が来るまでの間ね」

赤鬼「そいつは大変だったろう…だがおかげで大勢の人間が死なずに済んでいたぞ。あの規模の船が沈んだにしては被害はかなり抑えられていたらしいからな」

人魚姫「それなら良かったけどさー…一応、人間にはあんまり見られないように気を使ってたからチョー疲れたー」

赤ずきん「あの騒ぎの中で更に人魚が出たなんて騒ぎになれば大変だものね」

人魚姫「まぁね、まぁでもさー、王子や人間のみんなが助かってマジで良かったよー」ニヘラ

391 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:13:24 TNJ 149/376

赤鬼「しかし、お前の姉が人間を殺すために動いているのは聞いたが…実際に見ると壮絶だったな、あんなデカい船が沈んじまうんだから」

人魚姫「…あんなのがあちこちで行われてるんだけどさ、でもあたしが何を言っても『お父様ーお父様ー』って言ってて聞かないんだよ姉ちゃん。なんなのあのファザコン!」バンッ

赤ずきん「お父様…あなたの国の王ね、そこまで慕われているなら余程の善政を敷いているのでしょう?」

人魚姫「まぁ人魚の国だけ見ればね。平和だし豊かだし、みんな人間を恨んでるから人魚同士で争いなんて滅多にないしさ」

赤鬼「人間という共通の『敵』がいるから団結できてるわけか…」

人魚姫「でもさ、そのために姉ちゃんに厳しくあたったり人間を殺してるんじゃ意味ないと思うんだよね。やっぱり共存が一番だと思うんだけどなー、人間ってやっぱり悪い人ばっかりじゃないっしょ」

人魚姫「だってさ王子抱えてるときね、うわ言のようにずっとみんなのこと心配してたんだよね。そんな人が悪い奴な訳ないし」

赤ずきん「自分も意識が朦朧としているというのに立派ね」

人魚姫「マジでそれ!もうあたし惚れちゃった!」テレテレ

人魚姫「王子なら絶対解ってくれると思うんだよね。そりゃあびっくりするかもだけど人魚とも仲良くしてくれるっしょ!」

人魚姫「それに王子はチョーイケメンだし!」ヘラヘラ

赤ずきん「それは善悪と関係あるのかしら…?」

392 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:15:32 TNJ 150/376

赤鬼「まぁ男前と善人に関連があるかは置いといてだ、惚れちまうほど魅力ある奴に巡り会えたってのには喜ばねぇとな」ガハハ

人魚姫「そう思うっしょ?だからさ、あたしはもう一度王子に会って話がしたいんだ」

人魚姫「王子に会ってさ、私が助けた事を伝えれば絶対に友達になれるっしょ!人魚のあたしに人間の友達が増えれば、あたし達が仲良くできればすべての人魚と人間だって協力できる…!」

人魚姫「っていうか、あたしとしては友達ってより彼氏になってくれるのが一番良いんだけど」ヘラヘラ

赤ずきん「あら、真面目に種族間の事を考えていると思ったら結局そこなのね」クスクス

人魚姫「いいじゃん別にー!それにもちろん種族同士のことだってマジメに考えてっからね?でも好きになったもんはしょうがないじゃん!」

赤鬼「ガハハッ!いやいや、オイラは良いことだと思うぞ?結構じゃねぇか、それこそ惚れちまうのに種族やら関係ねぇんだからな」ガハハ

人魚姫「赤鬼はホントに良いこと言うじゃん!マジでそれだよねー」


クスクスクス……


赤ずきん「……っ!」ガチャッ

赤鬼「笑い声…!オイラ達の他に誰か居るぞ!?」グッ

ザバァ

???「ここ数日、このあたりで魔法具の気配がすると思っていたが……海面へ上がってきたのはどうやら正解だったみたいだねぇ」クスクス

赤鬼「魔法具だと…?お前、何者なんだ!?」ググッ

393 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:17:27 TNJ 151/376

???「やけに暑苦しい奴がいるじゃないか。落ち着きな、私はお前達と交渉がしたいだけさね」

赤ずきん「交渉…?魔法具と言っていたけれど、あなた……」ガシャッ

人魚姫「…あんた、もしかしてオヤジや姉ちゃんに命令されてあたしを連れ戻しに来たっての?」

???「いいや違う。私は何にも縛られない魔女、人魚の王相手でも私は従うつもりはないのさ。むしろお前に協力するために来たんだ、人魚姫」

海底の魔女「私は海底の魔女、お前の願いを叶える者さ」フフッ

人魚姫「海底の魔女…!姉ちゃんが昔教えてくれた、海底に住む膨大な魔力を持った人魚がいるって……あんたがその魔女ってわけ?」

海底の魔女「そうだ、本来ならお前が来るのを海底で待つつもりでいたが……どうやら面白い客人が居るようだったからねぇ、こちらから出向いたんだ」チラッ

赤ずきん「……私達を客人だなんて呼び方をするという事は、あなたも他の世界の魔女達と同様におとぎ話の事情を知る者なのね?」

人魚姫「おとぎ……?なにそれ?」

海底の魔女「ああ、そうさ。だからお前達の事も知っている。だからこそここに来たんだ、だが少し待っていてくれ、まずは本来の仕事を済ませてしまおう」フフッ

人魚姫「っていうか、何をごちゃごちゃ言ってるわけ?あたしの願いを叶えるってどういう意味なの?」

海底の魔女「願いを叶える、そして救ってやる。人魚姫、お前は人間の王子に恋をしたと言ったな?」

394 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:19:54 TNJ 152/376

人魚姫「そうだけど……あっ、もしかして王子に魔法をかけて私に事を好きにさせてやるとか言うつもり?言っとくけどそんなの嫌だからね!」

海底の魔女「そんな無粋なことはしないさ、だが人魚のお前がどうやって王子に近づく?考えはあるのか?」

人魚姫「そりゃ、赤ずきん達に王子を海につれてきて貰うとかいろいろあるじゃん?」

海底の魔女「そうか、それは無理だ。今海底がどうなっているか知っているか人魚姫?お前が人間を助けている間に何があったのか」

人魚姫「…はっ?どういうこと?」

海底の魔女「お前はあの船が沈むときに歌を歌っただろう?あれを聞いていた奴が…海の中から見ていた奴が居たんだ」

人魚姫「は?意味わかんないんですけど…?別にあたし的には見られたって問題ないけど?」

赤ずきん「そうかしら……人魚の王族の姉妹は歌で人間を操れるのでしょう?眠りの歌で船を沈めたあなたの姉の後、追うようにあなたも歌声をあげた……人間を救うために。それを見られたんでしょう?」

赤鬼「うむ……オイラ達からしたら人間を助けるのは当然だが、人間を恨んでいる人魚からしたら大問題だ。王族が憎き人間を救った…その事は当然、王の耳にも入るだろうな」

人魚姫「あっ……それヤバいかも……」

海底の魔女「そうだ、お前の父親は激怒している。もう兵士に命じてお前の捜索を開始しただろう、時間はあまりないぞ?あの王に捕まればどうなるか想像するは容易いだろう?」

人魚姫「……もう、二度と自由にはなれないだろーね」

海底の魔女「そうだな、この海にお前が自由でいられる場所はもはや存在しない。捕まれば拘束でもされてただ歌い続ける事になるだろうな」

395 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:22:30 TNJ 153/376

人魚姫「……絶対嫌、アイツの言いなりは…!」クッ

海底の魔女「つくづくお前は可哀想な奴だ、憧れた夢を持っていることも親に反抗することも、素敵な男に恋をすることも…年頃の娘なら当然のことだというのに」

人魚姫「はぁ!?あたしは可哀想なんかじゃ……!」バッ

海底の魔女「いいや、可哀想さ。優れすぎた歌声を持っているせいで、王族に生まれたせいで、恋の相手が人間だというせいでなにもかもが許されない…」

人魚姫「……」クッ

海底の魔女「だが、問題は無い。すべてを解決する方法が一つある」


人魚姫「……教えて」


人魚姫「あんたは私を助けてくれるんでしょ?あたしが人殺しにならなくて済む方法を、あんたは知ってんでしょ!?」

海底の魔女「簡単なことさ。歌声がお前を縛るなら手放せばいい、家系がお前にとって苦痛なら捨ててしまえばいい、人魚であることがお前を苦しめるなら人間になればいい」

人魚姫「人間に……なれるっての?」

海底の魔女「私の魔法ならばな。人間になれば陸へ行ける、人魚の追っ手も来ないんだ。捕まりたくはないだろう?それに王子に会いに行くことだってできる、王子に会いたいだろう?」

人魚姫「アイツの言いなりは嫌、絶対捕まりたくない。それに王子に会いたい、会って伝えたい…!あたしが助けたって事、王子を好きになっちゃったって事も…!」

海底の魔女「だったら人間になるしかない。お前も人間になりたいだろう?」

396 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:24:11 TNJ 154/376

人魚姫「アイツから逃げられるなら、王子に会えるならあたしは人間になりたい」

人魚姫「でも……あたしは人間と人魚が一緒に暮らせる世界にしたいんだ、もう争わないためにさ。それを考えるとちょっと迷っちゃうんだよね……」

海底の魔女「やれやれ、もういいだろうそんなこと。人間になればそんな事考える必要ないんだ、そもそも共存なんか考えるだけ無駄さね」

赤鬼「おい、無駄なんて言い方が……!」ガバッ

赤ずきん「……赤鬼、耐えましょう。この話は私達が口を出して良いものじゃないわ」

海底の魔女「何を悩む必要がある?共存なんて出来もしない夢を追って、自由を失うのか?」

人魚姫「……そうじゃないけどさ、でも……」

海底の魔女「ほう、そうかい…あくまで共存を目指すと言うか?それは結構な事だが……人間や鬼には人魚の追っ手を退くことなど出来ないぞ?海にいては結局は捕まる」

人魚姫「……」

海底の魔女「人魚であることに固執して自由と仲間を失い兵器となるか、人間になって自由と仲間を守るか。考える必要があるかも疑わしいが……決断するんだ、時間はあまりない」

人魚姫「……」




人魚姫「……わかった。あたしを人間にして、海底の魔女」

397 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:26:48 TNJ 155/376

海底の魔女「賢明な判断だ。人魚のままではお前は幸せになれないんだからねぇ」クスクス

人魚姫「……じゃあさ、早く人間にしてよ。あたしの決心が鈍くなっちゃう前にさ」

海底の魔女「そう慌てるな、この薬を飲めばお前の美しい尾びれは二本の白い足に変わり、お前はたちまち人間へとなれる。しかし、注意することがある」スッ

人魚姫「注意すること……?」

海底の魔女「そうだ、実はこの魔法は口で言うほど簡単な魔法じゃない。種族を捨てると言うことは何代もの間に培われた絆、親や家族から受けた愛情を捨てることになる。この魔法を完成させるには…それを補う新たな強い愛情と絆が必要なんだ」

海底の魔女「お前が理解しやすいように言うならば『王子と結婚する必要がある』ということだ、それが王子との強い絆を示す契りになる。それが出来なければ……王子がお前以外の女と結婚したり、お前と王子との結婚が絶望的になれば」

海底の魔女「お前は存在を維持できず、泡となって消える」

人魚姫「……泡!?なにそれ、結局消えるんじゃん!」

海底の魔女「なに、無事にお前と王子が結婚できればお前は人間のままでいられる。それとも諦めるか?愛される自信がないということか?」

人魚姫「……わかった、その魔法の薬貰う。あたしの想いは絶対に王子に伝わるからさ、結婚できれば問題ないんでしょ?」

海底の魔女「ああ、そうだ。では、こいつを渡す前に対価を受け取るとしよう……人魚姫が持っている価値ある物と薬を交換だ」

398 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:29:34 TNJ 156/376

人魚姫「価値ある物……宝石ならアクセに使ってるのがあるけど……あんまり価値のあるもんじゃないよ?あたし、お金もそんなにないし」

海底の魔女「そういう形のあるもんじゃない。お前は素晴らしい声を持っているだろう?それと交換だ」ニヤッ

赤鬼「なぁ、魔女よ。そいつはちょっと足下見すぎだぞ。もっと何か他のもんじゃ駄目なのか?」

赤ずきん「……赤鬼」グイッ

赤鬼「だがよぉ……あんまりじゃねぇか……」

海底の魔女「この魔法には私の血も必要だ、素人のお前達にはわからんだろうが高度な魔法なんだ。それに本来魔法というのは容易く使って良いもんじゃない、ましてや種族を捨てるならば尚更さ」

人魚姫「声と交換って……あたしはもう喋れないって事?」

海底の魔女「その通りだが、案ずるな。声が無くてもお前には美しい容姿がある、想いを伝える澄んだ瞳がある、声が無くとも何ら問題はない。むしろディーヴァの呪縛から逃れられるんだ」

人魚姫「……でもさ、この声は兵器になる。あんたが悪いことに使わないとも言えないじゃん」

海底の魔女「お前の声を譲り受けても私には人間を操ることなど出来んから安心しろ。ただ海底での退屈しのぎに歌でも聴こうと思っているだけさ、そうでもしないと薄暗い海底じゃ退屈なのだよ」

人魚姫「……わかった、アクセ作る技術とかだったら困るけど声だったら……いいよ、声が無くたって王子と結ばれてみせるから」

海底の魔女「うむ、では口を開きなさい。お前の声と魔法の薬…交換成立だ」

シュォォォォ

399 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:31:04 TNJ 157/376

シュオオオォォォ



海底の魔女「……よし、確かにお前の声は受け取ったぞ」スゥッ

人魚姫「……っ」パクパク

赤鬼「おお、本当に声を失っちまったんだな…何か言いたそうだがまったく聞こえんぞ…」

海底の魔女「では次は魔法の薬を飲む番だ。吐き気がするほど苦いが、一息ですべて飲み干すんだ」スッ

人魚姫「……」トントン

赤ずきん「何?私に何か伝えたいの?」

人魚姫「……」ゴソゴソ パキンッ

スッ

赤ずきん「これ、約束していたあなたの鱗ね…?」

人魚姫「……」ヘラヘラ

赤ずきん「これで新しい魔法具を作ってもらえる。ありがとう、人魚姫」ニコッ

人魚姫「……」ニコニコ

400 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:32:33 TNJ 158/376

海底の魔女「さぁ、もういいだろう?薬を飲み干すんだ人魚姫、きちんと効果が出ているか確かめなきゃなんないからねぇ」

人魚姫「……」コクコク

ゴクリゴクリ

人魚姫「……!?…………っ!」ジタバタ

海底の魔女「喉が焼けるような感覚があるかもしれんが、じきに治まる。少しの間我慢をするんだ」

赤鬼「おい!そういう事は先に言ってやれ!おい大丈夫か!?」

人魚姫「……っ!……っ!!」ジタバタ

シュオオォォォォ

赤ずきん「人魚姫の尾びれが二つに分かれて…!」

シュオォォォ

人魚姫「……!」スラッ

赤鬼「おぉ…魔法の力ってのは毎度ながらすごいな……どこから見ても人間にしか見えんぞ」

海底の魔女「ふむ、どうやら成功のようだね、きちんと二本の足が生えた。その変わりお前は水中で呼吸は出来ない、以前ほど深く潜ることも出来ない。だが……陸の上を自由に歩くことが出来る」

海底の魔女「お前はもう間違いなく人間になったんだ、人魚姫」

401 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:37:28 TNJ 159/376

赤鬼「しかし、なんだ……人魚姫、お前の下半身はもう尾びれじゃないわけでだな…なんつうか」

人魚姫「……?」

赤鬼「…いや、いい。風邪引くからお前はこの外套を羽織っていろ……」ファサッ

赤ずきん「そうね、どこかの国王じゃないのだから裸でいられては困るわね」

人魚姫「……」ヘラヘラ

海底の魔女「さぁ、これでお前との契約は果たせた。いいか?きちんと王子と結婚をする事だ、でなければお前は泡になるしかないんだ」

人魚姫「……」コクコク

海底の魔女「さぁ、次は赤ずきんだ…私はお前に興味がある。その歳で魔法具をいくつも持っているんだからねぇ」クスクス

赤ずきん「……人魚姫から声を受け取ったように、私の持つ魔法具を狙っているのかしら?」

海底の魔女「その通りさ、外の世界から客が来るなんて珍しいからねぇ、さぞ珍しいものを持っているんだろう…さぁ、お前の願いをお言い」

赤鬼「おい、赤ずきん…相手にすることねぇぞ?余分な魔法具なんてねぇんだから」ヒソヒソ

赤ずきん「そうね、でも一つだけ頼みたいわね。人魚姫と会話できないのは不便だわ、なんとかならないかしら?」

海底の魔女「そうさねぇ、声を返すとなるとお前の魔法具では割に合わない、かといってその可愛い瞳をふたつとも抉るのは嫌だろう?」クスクス

赤ずきん「当然でしょう、私と赤鬼にだけ彼女の声が届けばいいのよ」

海底の魔女「厳密には声ではないが……人魚姫が伝えようとしている思念を飛ばすことは可能さね」

赤ずきん「それで構わないわ、頼めるかしら」

海底の魔女「よかろう。ではお前の持つ魔法具を見せてもらおうかね……」

402 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:39:48 TNJ 160/376

海底の魔女「ほう、そのずきんには並々ならぬ魔力が注がれておるようじゃな、この魔力の破調は移動系統の魔法か。マスケットも同様…ふむ、これらを創り出した魔法使いは相当な術者だな」

海底の魔女「あとは、お前が小瓶に入れて隠し持っている魔法具があるねぇ?こいつは……」

赤ずきん「悪いけれど、どれも手放せないのよ。他で手が打てないかしら?」

海底の魔女「ほう、これほどの魔法具そうそう手放せんか、しかし他ねぇ……他には特に……んっ?」

海底の魔女「なんだ…?魔力の気配が他にもあるじゃないか…そのポケットの中身を見せてみるんじゃ、他の物より魔力は薄いが……」

赤ずきん「あぁ、もしかしてこれの事?」

スッ

海底の魔女「むぅ、なんだこれは…!?鉱石を掘った人形のようだが見たことのない種類の鉱石だ、こんなものはこの世界にはないぞ…!」

赤ずきん「そうなの?確かに特別なものと言っていたけれど」

赤鬼「おい、赤ずきんそれって……」

海底の魔女「妙な形状だが、使われている鉱石はかなり上等なものだ!いいや、それだけじゃない…この鉱石、魔力が定着しやすい素材だな、これがあれば魔法具を作る際の魔力定着を補助することが出来る…」

海底の魔女「赤ずきん、こいつをどこで手に入れた!?なんなんだ一体!?」

赤ずきん「それは私達が世話になっている王から貰ったもの……名前は確か……」



赤ずきん「おしゃべり裸王くんよ」

403 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:41:41 TNJ 161/376

マッスルラリアーット! ワガナハラオウ!

海底の魔女「なるほどな、部分的に圧迫することで声が再生される仕組みか……この様な上等な鉱石になんと馬鹿馬鹿しい魔法を……」

赤ずきん「これを対価にするわ、これでは足りないかしら?」

赤鬼「おい、良いのか赤ずきん?裸王に悪いぞ」

赤ずきん「けれど、ここで使わなかったとしても私は長者に譲るわよ?持っていても荷物になるもの、それに裸王は気にしないでしょう」

赤おに「そりゃあそうだが…」

海底の魔女「うむ、対価はこれで良かろう。しかし、かけられている魔法は解くから返すことは出来んぞ?」

赤ずきん「ええ、構わないわ。好きにしてちょうだい」

赤鬼「……裸王、すまん。オイラには止められねぇみたいだ」ボソッ

海底の魔女「よし、では交渉成立だ。お前達二人だけ、人魚姫が伝えたい思念を受け取れるようにしてやろう」

パアアァァァァァ

404 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:46:44 TNJ 162/376

・・・

赤ずきん「人魚姫、なんでもいいから私達に言葉をかけてちょうだい」

人魚姫『なんでもって……あぁ、とりあえず服って奴、着たいんだけど?人間になったら急に寒くなってさー』

赤鬼「うむ、街へ戻ったら探してきてやろう」

海底の魔女「その様子、どうやら聞こえているようだな」

赤ずきん「ええ、ありがとう。これが対価の『おしゃべり裸王くん』よ、受け取って頂戴」スッ

海底の魔女「確かに…では私は海底に戻るとしよう、また願いがあれば私を頼ると良い。もちろん対価はいただくがな?」フフフッ

ザブンッ

人魚姫『行っちゃったねー。まぁ声は無くなっちゃったけどさ、人間になれたしいっか。でもこうやって赤ずきんと赤鬼と話出来るってのはマジで嬉しい、あんがとね赤ずきん』ニヘラ

赤ずきん「いいのよ、私がやりたくてやったことだから」

赤鬼「よし、じゃあとりあえず街へ戻るか。宿も一人増えたくらいなら何とかなるだろう、それに人魚姫もいつまでも海岸に居ちゃまずいだろう?さぁ、船に乗ってくれ」

人魚姫『そーだね、陸の上行くのチョー楽しみだなぁー…』グイッ

ズキズキッ!!

人魚姫『……っ!!』ドシャッ

赤鬼「うおっ、大丈夫か!?歩き慣れてねぇからバランス崩したのか?」

赤ずきん「ほら、立てそう?手を貸すから、少しずつ慣れていきましょう」

人魚姫『なにこれ……人間は歩く度にこんな激痛に耐えてるわけ?足をナイフで刺されたみたいな痛みが走ったんだけど…』

405 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/07 23:56:36 TNJ 163/376

赤ずきん「いいえ、そんな事はないわよ?歩くと、足が痛むの?」

人魚姫『そう、ちょっと無いくらい痛いんだけど』

赤鬼「そいつはおかしいな、普通はそんな事無いぞ?」

人魚姫『マジで?じゃあ薬の副作用とか、そもそも慣れるまではこれなわけ?さすがにキツいんだけど…足抉れるかと思ったし』ズキズキ

赤鬼「あの魔女…大事なことばかり言わない奴だな。よし、移動するときはオイラが肩に乗せてやろう!」

人魚姫『マジで?サンキュー赤鬼!』ヘラヘラ

赤ずきん「ちょうど明日は城へ挨拶へ行く予定だものね、王子に会うこともできるでしょう」

人魚姫『うん、明日には王子に会えるんだね、マジでドキドキしてきた!』

赤鬼「じゃあ明日に備えて今日は宿に戻って休まないとな」



赤ずきん「ええ、明日が楽しみね。人魚姫」ニコッ

406 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/08 00:08:25 PHD 164/376

城 客間

ドロシー「ふぅーっ!このベッドふっかふかぁー!あはははっ!」ビョーンビョーン

かかし「ドロシーお前はしゃぎすぎだゾ!旅先でテンション上がる子供カ!」

ライオン「む、無理無いよぉ。だって明日には赤鬼さんと赤ずきんちゃんが謁見に来るんでしょ?じいやさんが王子様に言ってたの聞いたもんね」

ドロシー「そーそー!楽しみだー!ふぅーっ!」ビョーンビョーン

かかし「お前もう降りロ!オレはもう明日に備えて横になりたいんダ!」

ドロシー「えーっ!?アリスに借りたトランプで遊ぼうよ!」

かかし「それ武器だろうガ!まったく、ブリキもなんとか言ってやレ!」

ブリキ「……程々にしておけドロシー。明日はなにをするつもりなんだ?」

ドロシー「んー?特にすごいことしないよ?ただ王子にさ、教えてあげるんだよ」

ライオン「お、教えるって、何を教えるのかな?」

ドロシー「真実を教えてあげるんだよん♪私が助けたにはただ砂浜にいた王子を介抱しただけだよって。どーせ明日はあいつらと一緒に人魚姫もくるっしょ?だからさぁ、謁見の場で教えてあげんだよ」



ドロシー「王子を海から救ってあげたのは人魚姫だよ。ってね!」ニヤニヤ

407 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/08 00:10:04 PHD 165/376

今日はここまでです レスありがとねー

人魚姫は人間になって声を失ってるから赤コンビにだけ思念が送れます


人魚姫編 次回に続きます

419 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:04:13 vO0 166/376

翌日
城 王座の間

じい「おお、赤鬼様!赤ずきん様!お待たせしております、実は国王様の到着が遅れておりまして…今しばらくお待ちいただけますか?」

赤鬼「いや、構わんです。こちらこそ急に人数が増えてしまって申し訳なかった」ペコッ

じい「いえいえ!そちらの姫様もあなた方のお連れ様、我々の恩人であることには変わりませんよ」ホホッ

赤ずきん「それより、私のマスケット……謁見中は預けておくようにって言われてしまったのだけど、返してもらえないかしら」

じい「申し訳ありません。王座の間には緊急時を除き、武器の持ち込みはご遠慮願っておりまして…」

赤ずきん「そう……仕方ないわね。普段から持ち歩いているからかしら、なんだか無いと落ち着かないのよ……」

人魚姫『っていうか赤ずきん、それさぁもう依存症じゃん?ちょっとヤバくね?』ヘラヘラ

赤ずきん「裸王の所では持ち込み平気だったから、少し納得いかないわ…」ソワソワ

赤鬼「裸王のところが特殊なんだ、少しの間の辛抱だろう。ところで人魚姫、足は平気か?やはり痛むのか?」

人魚姫『んーまぁ、立ってるだけなら平気ー。でも歩くのはしんどいかも、切られるような刺されるような痛みって感じ?』

赤ずきん「事情を話して椅子を借りてきましょうか?」

人魚姫『いーって、じっとしてたらそこまでじゃないし。でも歩くときは肩貸してよねー?』ヘラヘラ

タッタッタッ ガチャッ

王子「失礼する!客人はおられるか?」キリッ

じい「はっ、はい、こちらの方々です…。しかし王子、もう動いてもよろしいのですか?」オロオロ

王子「医者には止められたが、折角我々の恩人が足を運んでくれたんだ。横になっているわけにはいかないさ」ニッ

王子「待たせてしまって申し訳ない。王の到着が大幅に遅れているため代わってこの私にあなた方への礼をさせていただきたい」

王子「申し遅れた、私はこの国の王子。この度は海難救助の協力感謝する!あなた方のおかげで多くの命が救われた」ペコッ

420 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:09:46 vO0 167/376

王子「あれは我が国所有の船、被害が抑えられて本当に良かった。死人でも出れば我が国の沽券に関わるからな、本当に助かったよ」

赤鬼「いえ、役人の方々の迅速な対応があったからです……申し遅れました、私は赤鬼と申す者。こちらが赤ずきんと…我々と旅をしている姫です」

赤ずきん「…赤ずきんです」ペコッ

王子「赤鬼と赤ずきんか、私と話すときは楽にしてくれて構わないよ。そして、そちらの美しい娘さんが……?」

人魚姫『あたしは人魚姫。よろしくー!っていうか王子、思ったより元気そうじゃん!大きな怪我無くて良かったねマジで』ニヘラー

───

王子視点

人魚姫「……」ニコニコ

───

王子「……?彼女は、私に何か伝えたいのかな?」

421 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:13:12 vO0 168/376

人魚姫『あれ?……って、そっか。王子には声聞こえないんだっけ。じゃあ赤鬼、伝えてもらっちゃっていい?』

赤鬼「おう。ええっとだな…姫は声が出せない病を患っているんだ。元気そうで良かったですと言いたいみたいだな」

人魚姫 コクコク

王子「なんと、そのような病を……では苦労も多いだろう、困ったことがあれば私を頼るといい。君たちは私達の恩人だ、なんでも言ってくれ」ニッ

人魚姫『赤ずきん!聞いた?何でも言っていいってさ!あたしが「好きだから彼氏になって欲しい」って言ってるって伝えてくれない!?』バッ

赤ずきん「……そういうことは伝言だとしても口にするものじゃないのよ。それに何でもってそういう意味じゃないと思うわよ?どうしても伝えたいなら赤鬼に頼んで頂戴」

赤鬼「お前、オイラに振るんじゃあない……勘弁してくれ」

人魚姫『えー?二人とも固すぎるっしょ!じゃあさ、それはまたでいいからこれは伝えてよ「王子を助けたのはあたしだよ」って事』

422 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:15:16 vO0 169/376

赤ずきん「……そうね」

赤鬼「うむ、それはだな……なんというか、あれだ」

赤ずきん「……」

人魚姫『えっ?なになに?どーしたわけ?なんか都合悪いわけ?』

赤鬼「なぁ、赤ずきん……わかってはいたがマズいぞ。本来のおとぎ話【人魚姫】だと声を失った人魚姫は王子に自分が助けたと伝えるすべがない。だから自分が王子を助けたという真実が伝えられず、失恋した」ヒソヒソ

赤鬼「だが、オイラ達が干渉したせいで伝える手段ができちまってる…さっきみたいにオイラ達を伝言役に使えばいいんだからな」ヒソヒソ

赤ずきん「それでも……どうにかやり過ごすしかないじゃない。人魚姫が王子を助けたって伝えて二人が結ばれたら、このおとぎ話は本来の結末を迎えなくなる」ヒソヒソ

赤ずきん「本来は結ばれることがない二人が結ばれたら『失恋した人魚姫は泡になって消える』という状況にならない、それだとこのおとぎ話が消滅してしまうもの……」ヒソヒソ

423 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:16:05 vO0 170/376

赤鬼「むむ…友人の恋路を応援できないってのは…辛いが…」ヒソヒソ

赤ずきん「……仕方がないわよ、うまく誤魔化しましょう」ヒソヒソ

王子「なにを二人でヒソヒソと話しているんだい?姫は何と?何か伝えたようだが」

赤ずきん「いいえ、何でもないのよ。ところで……王子は海岸に打ち上げられているところを救助されたのだったかしら?」

王子「ああ、そのようだ。情けないが溺れて気を失っていてね……」

王子「そこを通りかかった優しい少女が助けてくれたんだ。ちょうどいい、君たちにも紹介しておこう」

赤鬼「紹介しておこうって……今、城にいるのか?」

王子「助けてくれたお礼に城の一室を貸しているんだ。まるで妹のように私によく懐いてくれてね、さっきもこの部屋の様子をしきりに気にしていたよ」ハハハッ

赤ずきん「通りがかった娘が現れるのはもっと先のはず……」ボソッ

王子「きっとまだ部屋の外にいるよ。さぁ、客人に挨拶しておくんだ。入っておいで、ドロシー」

ガチャッ

424 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:18:51 vO0 171/376

ドロシー「ぱんぱかぱーん♪ごしょーかいにあずかりましたドロシーちゃんでーす!」パンパカパーン


ゾクッ


赤ずきん「なん……ですって……?」

赤鬼「おい、どう言うことだ……!」

人魚姫『えっ?なになに?どうしたの?あの娘、二人の知り合いなわけ?』

王子「さぁドロシー、我が国の恩人たちを紹介するよ。一番背の高い彼が赤鬼だ。そしてずきんの娘が……」

ドロシー「あぁ王子、わざわざ紹介しなくても大丈夫だよん?あれだよ、部屋の外から聞き耳立ててたから」ニヤニヤ

王子「そうかい?君と赤ずきんや姫は歳もそんなに離れていないだろう、折角だからみんなと仲良くするんだよ?」ナデナデ

ドロシー「はいはーい!わっかりましたー♪」ヘラヘラ

ガチャッ

兵士「失礼します!国王様が到着なさいました!まもなくこちらへ向かわれるとの事!」ビシッ

王子「そうか、では私は出迎えに参る。皆はここで待っていてくれ」スッ

425 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:21:11 vO0 172/376

赤ずきん「なんで、あんたがこの世界にいるのかしら?」キッ

ドロシー「ふふっ、行きたいところにはどこだって行くのがドロシーちゃんスタイルなのですよ。私にはこの魔法の靴があるからねー」ニヤニヤ

赤ずきん「王子に近づいて何を考えているの……?今度はこの世界を消すつもり?」ギリッ

ドロシー「クスクス、そんな怖い顔しないでよー?ねぇ、王子がさっきなんて言ってたか聞いたよね?仲良くしようよ!私達はおとぎ話の主人公だっていう共通点があるんだしさ」ヘラヘラ

赤ずきん「あんたは私の大切な人たちの仇よ、あんたなんかと仲良くするもんですか…!」キッ

ドロシー「そっかぁ、駄目かぁ……私はね、実は赤ずきんには仲間意識感じてるんだよ?だってさ私のおとぎ話【オズの魔法使い】も消滅しちゃってるの。わかるよー?自分のおとぎ話がなくなっちゃうのって辛いよね?」ションボリ

赤ずきん「……白々しいこと言わないで、誰が私のおとぎ話を壊したのよ…!」ギリッ

赤鬼「……もしかして、お前のおとぎ話も誰かに意図的に消されちまったのか?」

ドロシー「そうだよー、だから同じ境遇の赤ずきんと仲良くなりたかったんだ……でも嫌われちゃったよ、ふぇぇぇ」ポロポロ

人魚姫『ちょ、あの子泣いてんじゃん…何があったかしんないけどさ、赤ずきん友達になったげなよ』

赤ずきん「……いいえ、騙されないで人魚姫」

赤鬼「うむ、でもなぁ、あいつがやってきたことは許せねぇが……ドロシー、お前も辛い思いをしているんだな……」



ドロシー「……プッ…くくっ……あははっ!なんつってね!赤鬼はすぐに同情してくれるから騙しがいがあっておもしろいよ!あはははっ」バンバン

426 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:23:34 vO0 173/376

赤鬼「……っ!嘘泣き……!」

人魚姫『可哀想だと思ったらとんでもない子じゃん!チョー嫌な感じなんだけど!』イライラ

赤ずきん「…分かり切っていたことでしょう?あなた達は優しすぎるの、あいつがしてきたことに同情の余地なんてないのよ」

ドロシー「まーまー全部が全部ウソじゃないから許してよん♪【オズの魔法使い】が消滅してんのは本当だもんねー。まぁ、私が自分でブチ壊したんだけどさ!」ゲラゲラ

赤鬼「自分で自分のおとぎ話を消しちまったっていうのか…!?」

ドロシー「そうそう、くっだらないおとぎ話だったからね!オズに頼んで欲しいもの貰うためにブリキとライオンとカカシと頑張って旅したってのにさぁ、唯一の希望だったオズが魔法使いじゃなくてただの詐欺師だったんだよ?」

ドロシー「私、すごく頭来てさぁー…だって私と親友を騙しやがったんだよあのオッサン。だからボコボコに蹴り殺してやったらおとぎ話も消えちゃった!クスクス、まぁあんな奴に頼らず、あたし達は欲しいものを探し出すから良いけどね!」ヘラヘラ

ドロシー「でさ、おとぎ話の主人公とか言ってもさぁ、良い事なんて一つもないよね!嫌な目に遭ってばかりだよ。確か、言いつけ守らずに寄り道したせいでおばあちゃんとセットで狼に食べられた馬鹿な子のおとぎ話があったよね?ああ、あれは自業自得か!」ヘラヘラ

赤ずきん「……ええ、そうね。自業自得だと私も思う。でもあんたみたいな悪人に言われる筋合いはないわ。答えなさい、あんたは何をするためにここの世界にいるのか」ギロッ

ドロシー「だからさぁ、おとぎ話の主人公は嫌な目に遭ってばかりだって言ったでしょ?赤鬼だって親友と二度と会えなくなったし、人魚姫だって泡になって消えちゃう訳じゃん?」

人魚姫「はっ?なんでそんな事知って…っていうか泡になんかならないし!」イラッ

ドロシー「だからさ、私は可哀想な人魚姫に幸せになって貰おうと思ってこの世界に来たんだよ」ニヤニヤ

赤ずきん「幸せになって貰う為、ですって…?」ハッ

427 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:25:28 vO0 174/376

赤ずきん「……っ!赤鬼、あいつを捕まえてここを出ましょう……!」

赤鬼「ど、どうしたいきなり?」

赤ずきん「躊躇無くおとぎ話を消す奴が、人魚姫を幸せにするって口にしたのよ?私たちにはそれがどう言うことかわかるでしょう!」ダッ

赤鬼「……ああ、わかるぞ!そうさせちゃあマズいな!」ダッ

人魚姫『えっ?なになに?急にどうしたっての!?』

ガチャッ

王子「皆の者、待たせたね。国王の支度が整った。もうまもなくこちらに……」

ドロシー「王子王子!私、王子に言ってないことがあるんだよ、聞いて聞いてー!」ピョンピョン ギュー

王子「何だ、抱きついてきたりしてご機嫌だねドロシー。赤ずきん達と友達になれたのかい?」ハハッ

ドロシー「そういうんじゃなくてさ!今思い出したけど、昨日王子を海岸で見つけたときに海の中へ消えていく人影を見つけたんだ。きっと泳いで王子を海岸まで運んでくれたんだと思うんだよね!その人!」

王子「本当かい?それならその人こそ私の命を救ってくれた一番の恩人だな……是非礼をしたいが……」

赤ずきん「ドロシー!やめなさいっ…!」バッ

ヒョイ

ドロシー「でね王子!こっからがすごいとこ!その王子を助けてくれた女の人、なんとそこにいるお姫様なんだよ!私も王子を助けたけど……」



ドロシー「溺れていた王子を海岸まで運んでくれた王子の命の恩人はそのお姫様。そうだよねっ?お姫様?」ニヤニヤ

428 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:28:12 vO0 175/376

赤ずきん「……っ!」

赤鬼「マズいぞ…」ボソッ

王子「姫、それは…本当なのかい?でも確かにあの場に船で居合わせた赤鬼達と一緒にいたであろう君なら、溺れていた私を海岸まで運んだという事も可能だね。どうなんだい?」

人魚姫『そう!そうだよ!あたしが王子を助けて海岸まで運んだんだ!…よかった、ちゃんと王子に伝えられた…!』コクコクコク

王子「頷き…肯定と解釈していいんだね?そうか、君が私の命の恩人というわけだったんだな。気がつかなくて済まなかった」ペコッ

ドロシー「それにね、ドロシーちゃんの見立てによりますとー…ズバリ!お姫様は王子に恋してる!そうでしょ?もう好きだって言っちゃおうよお姫様!」ヘラヘラ グイグイ

赤ずきん「ドロシー!いい加減に…!」キッ

ドロシー「あれぇ?友達の幸せを邪魔すんの?」ニヤニヤ

赤ずきん「……っ!」

王子「こらこら、ドロシーからかうんじゃない。そんなデマカセを言っては姫も迷惑じゃないか。すまない、姫…気分を害しただろう」

人魚姫 フルフル

人魚姫『そんなこと無いって、むしろきっかけを作ってくれて感謝しなきゃね』ニヘラ

人魚姫『あたしは王子のことが好き、大好き。だから、王子の彼女になってずっと側にいたい』ニコニコ

429 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:30:41 vO0 176/376

王子「赤ずきん、姫は何と…?」

赤ずきん「……」クッ

人魚姫『赤ずきん、マジでお願い。これだけは、あたしの気持ちだけは王子に伝えて欲しいんだ。伝言、頼めない?』

ドロシー「ほらぁ、あんたには姫の気持ちが分かるんでしょ?気持ちを代弁してあげなきゃ、友達でしょ?」クスクス

赤ずきん(やられた。言えるわけ無いじゃない、伝えればきっと王子と人魚姫は結ばれる。おとぎ話が消えていくのを見るのはもう……)ギリッ


赤鬼「王子、姫は…王子のことを好きだと言っている。恋仲になってずっと側にいて欲しいと。そうだな?」

人魚姫 コクコク

赤ずきん「赤鬼…っ!どうして!?」

赤鬼「これ以上は不振がられる。ドロシーの発言を許しちまったオイラ達の負けだ、もう誤魔化しきれない……ドロシーが誘導してる以上、この結果は避けられない。もう次の手を考えるしかないだろう」ボソッ

赤ずきん「……くっ」

ドロシー「ほらほら!王子はどうなの?姫は頑張って気持ちを伝えようとしたんだから、女の子に告白させておいて無碍にしちゃ王子どころか男として失格だよ?」クスクス

王子「そうだね。姫、まずは今一度謝っておこう。君が助けてくれたとも知らずにいた事を。君は海へ飛び込んでまで見ず知らずの私を救ってくれたんだ、君の美しさはその容姿だけではないことはよくわかったよ」


王子「私から、改めて交際を申し込ませていただきたい。心美しき姫よ、私の側にいてくれないか、そして一生を共にする伴侶となって欲しい」

430 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:33:31 vO0 177/376

王子「この申し出、受けてくれるかい?」

人魚姫『もちろん…!王子と恋人同士になれるなんて夢みたい、でもこれはマジで夢じゃない!そうでしょ?赤ずきん!赤鬼!』コクコクコク

赤鬼「おう……良かったじゃねぇか人魚姫」ニッ

赤ずきん「……そうね」

ドロシー「そうだよねー、赤ずきん!私も二人を結ぶキューピッドになれて嬉しいよ」ヘラヘラ


ガチャッ バターン


国王「いやはや!話は聞かせて貰ったぞ!いや、その前に待たせて済まなかった!客人よ!」ゼェゼェ

王子「父上!お待ちしておりました、唐突ではあるのですが実は……」

国王「みなまで言わずともこの目でしかと見た!我が息子が立派な男となった所をな…この娘さんがお前を助けてくれた恩人なのだな?」

人魚姫 コクコク

431 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:34:55 vO0 178/376

国王「うむ、芯の通った良い目をしている。それに本人同士が決めたことなら他人が口出すことなどできまい」ハハッ

人魚姫 ニコニコ

国王「客人よ、改めて礼を言おう。救助に協力して貰った上に、我が息子に相応しい女性に巡り会わせてくれた。お主達には…」

ドロシー「よかったよかった♪じゃー私は邪魔になったらいけないから部屋に戻ろっと!王子も姫もお幸せに、また後でね王子!」ヘラヘラ

スタスタ

赤ずきん「待ちなさいドロシー!あんたにはまだ話があるのよ!」タッタッタ

赤鬼「お、おい!赤ずきん!…国王に王子すまん、オイラ達はこれで失礼する!」

国王「むむっ!?そりゃあ構わぬが……」

人魚姫『ちょ、赤鬼!あたし喋れないからどっちかに残って貰わないとマジで困るんだけど…!』

赤鬼「すまねぇ!今はあいつをほおっておけねぇんだ!」ダッ

赤鬼(雪の女王のときもだが、あいつは意外とすぐに熱くなっちまうから…一人でドロシーの相手なんかさせられねぇぞ!?)

432 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:37:38 vO0 179/376

城 廊下

赤鬼「…居た!おい、赤ずきん!」

ドロシー「やっと来たよ、遅いじゃん赤鬼!せっかく気兼ねなく話せるように場所を移してやったんだからさっさと来てよさっさとね」クスクス

赤ずきん「ドロシーあなた…人魚姫の幸せの為なんてよく言えたもんね」ギリッ

赤鬼「ああ、王子と人魚姫が結婚しちまえばおとぎ話は消滅する。結局はお前はそれが目的だったんだろう!」

ドロシー「あったりまえじゃーん!何を今更言ってんのー?人魚姫が不幸になろうが泡になろうが私には関係ないしさ!」ケラケラ

赤ずきん「まだよ……人魚姫が泡になる条件は結婚できなかったとき、王子との結婚が絶望的になったとき。つまり、結婚してしまうまではまだおとぎ話は消えない」

ドロシー「だから?どっちにしろあのままじゃ結婚するでしょ、いい感じだったし!」

赤ずきん「私は諦めていないわよ、このおとぎ話の消滅をくい止めることをね」

ドロシー「それは好きにしたらいいけどさ、状況わかってる?」クスクス

赤鬼「厳しい状況だって言いたいんだろう、だがな…」

ドロシー「あー、違う違う!もっとお前達のメンタルにズカーンってくるタイプの状況じゃん。わかんないならドロシーせんせーが教えてあげようか?」クスクス

赤ずきん「……わかってるわよ、あんたのせいでどんな状況になったかくらい!」ギリッ

433 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:45:46 vO0 180/376

ドロシー「あんた達は人魚姫と友達になったみたいだけど、その友達とこのおとぎ話どっちを優先するのか教えて欲しいなぁ。ねぇ、答えてよ赤ずきんちゃん?」クスクス

赤ずきん「……」ギリッ

ドロシー「だよね!困っちゃうよね!そりゃそうか!人魚姫と王子が結ばれなきゃまだ諦めも付いたかな?結婚できなかった、でも元々の運命だからしかたないよねってなった?」クスクス

ドロシー「でも今は違うんだよね!人魚姫は王子と結ばれてる、恋人同士だよ!うらやましいよねぇ、ドロシーちゃん恋に憧れちゃいそうだよ、だってあんなに幸せそうな顔してたよ人魚姫」クスクス

ドロシー「で、どうすんの?結ばれちゃったからこのままじゃおとぎ話は消えるよ?それでいいじゃん!まぁあんた達の完全敗北だね?あの二人は幸せなまま消滅する世界に巻き込まれて死ぬけどさ!」

赤鬼「お前達は……おとぎ話が消せればそれでいいのか!」

ドロシー「うん、いいよ!それを阻止したいならそっちは頑張ったらいいよ!でもわかるよね?この状況で人魚姫を泡にするにはどうする必要があるかさ!」ヘラヘラ

ドロシー「赤ずきんちゃんには人魚の友達がいます!その娘とはいっぱいお話ししたり一緒にご飯食べたりして楽しく過ごしました!で、その友達は人間に恋をして自分の声を失ってまで彼に会いに行きました!」

ドロシー「素敵なおさげの女の子ドロシーちゃんのおかげでその友達は王子と恋人同士になりました!結婚できそうです!二人は幸せそうです!さぁ、赤ずきんちゃんはどうする?」ヘラヘラ




ドロシー「おとぎ話を救うために、大好きな人と恋人同士になれた人魚姫と王子の仲を引き裂いてあの幸せそうな笑顔を奪っちゃう?そのあと死んじゃうってわかってて、友達の幸せを奪っちゃう?」ニヤニヤ

434 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/12 23:55:53 vO0 181/376

赤鬼「……なんでそんな考えができるんだ、お前は俺たちを悩ませるために人魚姫を利用するのか!」

赤ずきん「悪魔…!あんたはなんでそんな事ができるのよ!」

ドロシー「私を罵る前にどうするか考えなくちゃね!もうちょっと時間はあるでしょ、せいぜい二人でよく話し合ったらいいよ」クスクス

ドロシー「もっかい選択肢を明確にしてあげるよ!あんたたちが選べるのは二つのうち一つだけ。このまま幸せそうな人魚姫と過ごして【人魚姫】を消しちゃうルート!」

ドロシー「それか友達を見捨てるどころか、幸せを潰してでもおとぎ話を守るルート!さぁ、選ぼう選ぼう!」ヘラヘラ

赤ずきん「……私は屈さないわよ、あんたなんかに……!」

ドロシー「その方が嬉しいね!楽しみが出来てさ!でもさ、これだけは言っとくよ」

ドロシー「おとぎ話を守ることを優先した場合、人魚姫を死に追いやるのは運命でも魔女でも作者でも現実世界の人間でもない……あんたたちだからね?」



ドロシー「さぁ私に見せてよ!苦労に苦悩を重ねた後、幸せな友達をどん底にたたきつけて殺す、無慈悲なあんたたちの姿をさ」クスクス

447 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:06:46 EwW 182/376

ドロシー「あっ、ごめんごめん!もう一つ選択肢があったね、全部投げ出して人魚姫もおとぎ話も見捨てて逃げちゃう!それでもいいよ?そのほうが赤ずきんも楽でしょ?」ヘラヘラ

ドロシー「だって【赤ずきん】のおとぎ話からもみんな見捨てて自分1人だけ逃げてきたんだからさ!もうおとぎ話を見捨てることに関してはベテランだもんね!」クスクス

赤ずきん「言わせておけば…!」グッ

ドロシー「あれ?いいの?あんたのマスケットは預けてるんだよね?武器もないのにドロシーちゃんに挑む?いいよ、私は靴を打ち鳴らすだけだから、いつでも相手になったげるよん♪」ニヤニヤ

赤ずきん「マスケットがなければ戦えないとでも思ってる?舐めないで、そのヘラヘラした顔を殴りつけてあげる」ググッ

赤鬼「やめろ!あいつはお前を挑発してんだ!お前だって頭では解ってるんだろう?ドロシーは王子にとっては介抱してくれた恩人なんだ、殴ったりしたら面倒なことになるぞ!」ガバッ

ドロシー「よくわかってんじゃん!あんたに殴られたら私は王子に泣きつくよぉ?いくらあんた達も恩人だって言っても王子は優しいから絶対に私の味方してくれるけど、どうする?」

ドロシー「そしたらどうやって説明する?おとぎ話のこと話してみる?このままじゃこの世界がなくなっちゃうって?そんなの信じてくれるかなー?どーせ子供の言い訳だと思われちゃうよね」クスクス

赤ずきん「くっ……!」

赤鬼「今ドロシーを殴ったらあいつの思うつぼだぞ!あいつがただ【人魚姫】を消したいだけなら昨日海岸で王子の息の根を止めることも出来たはずだ、だがあいつはそれをしなかったんだ。オイラ達を精神的に追いつめるためにだ」

赤鬼「ヘラヘラしちゃあいるが…こっちが思ってる以上に策を練った上で行動をしているんだドロシーは。これ以上、あいつの策に乗っちまったらまずい。最悪、人魚姫もおとぎ話も両方とも救えなくなるかもしれねぇ、だから今は耐えろ!」

赤ずきん「……こんなに近くにいるのに、殴りかかれば届きそうなほど近くにいるのに……」ググッ

赤ずきん「私は家族の仇を討つこともできない…!」ジワッ

448 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:14:55 EwW 183/376

赤ずきん「私はおばあちゃんやママを殺したあいつを見過ごせない、私のおとぎ話…私の世界を消したあいつを…このままほおっておくなんてできないのよ!わかって頂戴、赤鬼!」ワナワナ

赤鬼「熱くなるんじゃない!いいか、ドロシーを殴るのは今じゃねぇ。オイラ達は何のために力を付けようとしているんだ?よく思い出せ。いいか、もう一度言うぞ、あいつを殴るのは今じゃない」

赤鬼「だそうだ、今じゃないだけだ…力を付けて万全な状態で挑んだとき、あいつにお前の感情の全てをぶつけてやれ。だから今は堪えるんだ」

赤鬼「これ以上状況を悪くする必要はないだろ?今はドロシーよりも人魚姫だ。なっ?」

赤ずきん「……」ギリッ

ドロシー「クスクス、その今度がいつか来ればいいけどね?じゃあ私は親友達が待ってるお部屋へ帰りまーす♪また会おうね二人とも!その時は友達を売った感想でも聞こうかな?それじゃーねー」クスクス

タッタッタ

赤鬼「…仇を見過ごすのは悔しかっただろう、だがよく耐えた。ひとまず、あいつは今は手を出してこないだろう」

赤ずきん「……」ドンッ

赤鬼「難題をふっかけられちまったが…今後どうするかは後でじっくりと話そうじゃねぇか。だが今は人魚姫の所へ戻るとしよう、急に部屋を飛び出して心配しているだろうからな」

赤ずきん「……わかったわ、戻りましょう。人魚姫のいる王座の間に」

449 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:17:45 EwW 184/376

王座の間

人魚姫『赤ずきん!どーしたわけ?急に飛び出していってびっくりしたじゃん!』

赤ずきん「……悪かったわ、何でもないのよ」

人魚姫『ふーん?まぁ良いけどさ、っていうか二人がいない間チョー大変だったんだかんね!国王とも王子とも話せないからとりあえずニコニコして凌いだけどさー』ヘラヘラ

王子「赤ずきん…もしや、ドロシーと喧嘩でもしたのかい?彼女は遠慮なく言葉を放つからな、私も初対面でタメ口を聞かれたのはドロシーが初めてだ、だが許してやってくれないか」

赤ずきん「……王子、私は喧嘩なんかしていないから安心して頂戴」

赤鬼「ところで、国王の姿が見えないが?さっきはろくに挨拶もせずに飛び出してしまったからな…一言謝っておきたい」

王子「国王は少し前に出て行かれたよ、入れ違いになったんだろう。元々多忙な方だったが今回の事故で更にスケジュールに余裕がなくなったようだったから」

赤鬼「それは申し訳ないことをしたな、折角予定をあけて貰ったというのに」

王子「気にせずともいい、どうやら国王……いや、父上も姫の事を気に入ってくれたようだ」

人魚姫『国王の話は難しくてよくわかんなかったけどさ、優しそうな人だなってのはわかったよ。あとさ、少しだけどこの国のことも聞けたし』ヘラヘラ

赤鬼「この国のこと…何か話したのか?」

450 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:20:52 EwW 185/376

王子「あぁ、君たちも話には聞いているだろう?この国の港町は昔は大いに栄えていたという話さ」

赤ずきん「ええ、聞いているわ。確か、十年ほど前から急に海難事故が多発して船を出せなくなったのよね」

王子「そうだね、十年近く経過した今でも全くの原因不明さ。一時は国が傾きかけたそうだが、国王が自ら奔走してなんとか国民達が毎食食べていけるまでに経済は回復したけれど」

王子「依然として原因は不明。けれど国は以前のような賑やかな港を取り戻す事を諦めてはいないんだ。造船技術の向上や海域調査……私も主にこの方面で助力している」

赤鬼「ってことは、もしかして昨日の船もそれに関係してるのか?」

王子「そうだね、表向きには私が主催する貴族や王族を招待しての船上パーティ。だが本当の目的は別にあった。私は新たに作った船で安全に海を渡れば国民達に安心感を与えられると思ったんだ」

人魚姫『……でも、姉ちゃんが襲ったから失敗しちゃったんだ。ごめんね、王子…』ションボリ

王子「だが結果は知っての通り、裏目に出てしまったよ。私の見通しが甘かったんだ、逆に国民に不安を与えてしまった…王子としてあるまじき失態だ」

赤ずきん「王子は悪くない、国民のために港を再興したいという思いからの行動だもの。誰も責めたりしないわ」

人魚姫『そうそう!王子はむしろ立派じゃん!ちゃんと国の人たちのこと考えてんだからさ!さすがは私の彼氏だよ』コクコク

赤鬼「そうだ。姫も言っている、王子は国民の事を考えていて立派だとな。さすがは自分の恋人だと誇らしそうにしているぞ」ガハハ

人魚姫『赤鬼!そんなとこまで伝言しなくて良いっての!』ペシペシ

王子「そう言ってもらえるといくらか気が楽だよ。だが、私は諦めてはいないよ。かならずこの港町にかつての栄光を取り戻す!国民達のためにもね」キリッ

451 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:21:59 EwW 186/376

人魚姫『ねぇ、赤ずきん。王子に人魚のことどう思ってるか聞いてくれない?』

赤ずきん「……ええ、わかったわ。ねぇ王子」

王子「どうしたんだい?赤ずきん」

赤ずきん「あなたは人魚についてどう思う?そう姫が聞いているわ」

王子「人魚…というと、あの昔話や伝説で聞く人魚かい?」

赤ずきん「いいえ、実際の人魚よ」

王子「実際の……?」

王子(もしも実際に居たら、ということだろうか?)

王子「そうだなぁ……私は見たことがないけどもしも人魚がいるなら会ってみたいね。それに人魚は海に詳しい、この海難事故の原因も教えてくれるだろうしね」

王子「それに……もし本当にいるのなら協力して貰いたいな、安全に海を渡ることにね。人魚なら海の中の危険や危ない海流にだって対応できる。そのかわりに私たち人間は海では手には入らない物資などを提供する、そんな風に協力しあえたら素敵だね」

赤ずきん「あなたも、協力すべきという考えかしら?」

王子「そうだね、私はそう思うよ。お互いに幸せになれる、そんな素敵なことは他にないだろう?」

452 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:24:45 EwW 187/376

王子「とはいえ、人魚に会ったこともないのにこんな風に考えるのはおかしいかな?」ハハッ

人魚姫『そんなことない!王子、マジでかっこいいよ!そんな風に思ってくれるなんてさ!』ギュー

王子「や、やめないか姫!赤ずきんや赤鬼もいるんだ、急に抱きつくなど…!」ワタワタ

人魚姫『いいじゃん!あたしはさ、ものっすごく嬉しいよ!ちゃんと人間にも優しい人はいる、そしてそれがあたしが好きになった人なんだからさ!』ギューッ

赤鬼「……なんだったら、席を外そうか?」

赤ずきん「……」ジトー

王子「い、いや…二人とも居てくれて構わない」ワタワタ

人魚姫『…赤ずきん、赤鬼。マジで嬉しいよあたし!』ニコニコ

人魚姫『あたしはもう海の底には潜れないし声も出せない…けど王子が夢見る港の復興に協力したい!』

人魚姫『できるなら、人魚と人間の共存だってやっぱり目指したい。王子が…あたしの好きな人もそれを望むなら、あたしはマジ全力で手伝うよ』ニコニコ

453 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:27:21 EwW 188/376

王子「姫、もうそろそろ離れてくれないか…」ワタワタ

人魚姫『嫌だって伝えて!あたしは今、チョー幸せだからさ!』ヘラヘラ

赤鬼「嫌だとさ、王子。もう観念したほうがいいんじゃねぇか?」ガハハ

王子「やむを得ないか……わかった、ただし部屋の中だけだ。兵達に見られては示しが付かないからね」

人魚姫『仕方ないなー、王子は気にしぃだなー』コクコク

王子「どうもこういうのは苦手だ……赤鬼、君の国ではこういうのは普通なのかい?」

赤鬼「いや、人前では無いな。というかこりゃあ国どうこうより姫の性格だ」ガハハ

人魚姫『好きな人に抱きつくのに理由なんていらないっしょ?』ヘラヘラ

ワイワイ

赤ずきん「……」

赤ずきん(人魚姫、嬉しそう……)

赤ずきん(当然ね、ディーヴァの運命からも解放されて王子とも結ばれた。王子は人魚との協力にも前向き。人魚姫にとっては幸せな事ばかり)

赤ずきん(彼女が幸せならもちろん私も嬉しい、けれど…今の私は幸せそうな人魚姫を見るのが辛い)

赤ずきん(彼女の笑顔をまっすぐ見つめることが…私には出来ない)

454 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:29:38 EwW 189/376

赤ずきん(どうしたらいい……?)

赤ずきん(このままだとおとぎ話が消える。それを防ぐなら人魚姫を王子から引き離すことになる…そんなこと)

人魚姫『王子は意外と照れ屋だよねー、チョーうけるよー』 ニコニコ

赤ずきん(……できない)

赤ずきん(だったらどうすべきかしら……人魚姫の幸せを望めばおとぎ話が消える……私はそれも嫌)

赤ずきん(おとぎ話が消える…私の世界【赤ずきん】の時のように……)

──おばあちゃん「別の世界に赤ずきんだけでも逃げるんだ」

──狼「さっき喰ったの、お前の母ちゃんだったかもな」ゲラゲラ

──狩人「強く生きろ。お前の手で悲しみを振り払え」

フラッ

赤ずきん「……っ」ガタッ

人魚姫『赤ずきん!大丈夫!?』

赤鬼「うぉっ!?どうした!?どこか痛いのか?」

赤ずきん「……ただの目眩よ、大丈夫。考え事をしていたら…【赤ずきん】が消えた日のことを鮮明に思い出してしまったの。もう、平気」

455 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:31:46 EwW 190/376

王子「旅の疲れがでたのかな?今日は休むといい。城の客間をお貸ししよう、滞在期間中は是非そこを使ってくれたまえ」

赤ずきん「…そうね、折角だから姫はお城に泊めて貰いなさいな。その方が少しでも王子と一緒にいられるでしょう」

人魚姫『それは嬉しいけどさ、赤ずきん達はどーすんの?一緒に泊めて貰おうよ』

赤ずきん「私は赤鬼と話したいことがあるの、それにもう宿の予約をしているから……そうよね、赤鬼?」

赤鬼「あぁ、王子の好意は受け取らせて貰うが今日は町の宿に宿泊する事にする」

王子「そうかい?ならば止めないけれど……部屋が必要になったらいつでも言ってくれていいんだよ?すぐに支度をさせるから」

赤ずきん「ありがとう、王子。それと姫の事お願いね…あまり食事のマナーとか得意じゃないから大目に見てあげて頂戴」

人魚姫『残念なんですけどー、赤ずきん達と一晩中話できると思ってたんだけどなー?』

赤ずきん「いつだって話くらい出来るわよ。いつだってね……」

人魚姫『…?うん、まぁそれもそだね』

赤鬼「じゃあオイラ達はこれで失礼する。人魚姫、明日また城に来るからそれまで王子達に迷惑かけないようにな」

人魚姫『ちょっと、そんな子供に言うみたいに言わないで欲しいんだけど?人間のマナー分かってなくても空気くらいは読めるよ、だから心配しないでよね』ヘラヘラ

赤ずきん「……」

人魚姫『そんじゃ、また明日ね』ニコニコ

赤ずきん「ええ、また明日」

ガチャッ

457 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:35:01 EwW 191/376

港町 宿の部屋

赤ずきん「……どうしたものかしらね」

赤鬼「……そうだな、困ったことになっちまった」

赤ずきん「…だけど決断しなければいけないわ。私たちはどう動くか」

赤鬼「……おとぎ話を救うか、人魚姫を救うか……どちらにしても失う物がでかすぎる」

赤ずきん「ねぇ、赤鬼は……どう考えているの?」

赤鬼「……そうだな、まずオイラの考えを話そうじゃねぇか」

赤ずきん「えぇ、お願い」

赤鬼「オイラは昨日もお前に話したよな、人魚姫を助けたいと」

赤ずきん「ええ、そう聞いたわ」

赤鬼「今もその気持ちに変化はねぇ。昨日とは状況が変わっちまったが、むしろその気持ちは強くなってる。お前も見ただろう?あの幸せそうな人魚姫を……あいつを悲しませるなんて出来ねぇ」

赤鬼「オイラは人魚姫の好きなように生きさせてやりてぇ、それは何も過ぎた願いじゃねぇと思うんだ」

赤ずきん「人魚姫の幸せを奪いたくない。それは私も一緒、けれど人魚姫の幸せを願えばおとぎ話は消えてしまう…」

赤鬼「それだ、おとぎ話の消滅…」

赤鬼「実はな…オイラは常々考えていたことがあるんだ」

赤ずきん「考えていたこと…?」

赤鬼「ああ、おとぎ話という存在についてだ」

458 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:36:09 EwW 192/376

赤鬼「おまえはどう思ってるんだ?おとぎ話っていう存在を」

赤ずきん「どうって……キモオタの住む現実世界の人間に作られた物語でしょう?」

赤鬼「そうだな、おとぎ話は現実世界の人間に作られた物語。オイラ達はその登場人物」

赤鬼「オイラは鬼に生まれて両親に育てられて、青鬼と親しくなって、金棒を使った武術や薬学を学び、人間との共存を夢見てあの村のはずれに家を構えた」

赤鬼「だが村人から恐れられて…なかなか打ち解けられずにいた。それは紛れなくオイラの人生だとそう思っていた。だがあの世界から旅立った後に道中でお前は教えてくれたな」

赤鬼「オイラ達が生活している世界は…現実世界の人間達が創り出したおとぎ話の世界だと言うこと、そしてオイラはそのひとつ【泣いた赤鬼】の主人公だと言うこと」

赤鬼「オイラが現実だと思っていた世界は別世界の人間によって作った物語に過ぎなかったってわけだ」

赤鬼「人間に恐れられるのも、青鬼が一芝居打ったのも、自分の事を一番考えてくれた親友を失ったことも、それに涙したことも全て最初から決まっていたんだ」

赤ずきん「そうね…私たちは考えて行動し、幸せなときも辛いときもあるごく普通の日常を過ごしているつもりだけど…」

赤鬼「それでもやはりおとぎ話ってのは作りもんだ。オイラ達がどう考えてどう過ごしても結末は決められている」

459 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:37:38 EwW 193/376

赤鬼「その事にオイラはずっと疑問を持っていたんだ。じゃあオイラ達は何のために存在するんだ?結末が決まっている世界を生きるためか?それが例え辛い未来でもか?考えたが納得できる答えは出なかった」

赤ずきん「それは…私にも正しい答えは分からない。けれどキモオタとティンクは【マッチ売りの少女】の世界で一つの答えを出したじゃない」

赤ずきん「おとぎ話は現実世界の子供達を正しく育てるために必要な物語。楽しいおとぎ話は子供達を愉快な気持ちにさせ、悲しいおとぎ話で心を育て、厳しいおとぎ話で教訓を与える」

赤ずきん「【マッチ売りの少女】のマッチ売りも、現実世界の子供達の優しい心を育てるために自分のつらい境遇が役立つならと、自らの運命を受け入れた。そうでしょう?」

赤鬼「それはそれで構わない、オイラの【泣いた赤鬼】が現実世界の子供達の心を打つなら…それは素晴らしいことだ。オイラみたいな過ちを犯して親友と会えなくなるなんて事がなくなるなら、それはオイラも嬉しい」

赤鬼「だが、現実世界の人間にとってはお話の中の出来事に過ぎない事でもオイラ達には現実だ。そうだろう?」

赤ずきん「そうね…つまりこういうことでしょう?」

赤ずきん「現実世界では【シンデレラ】はお姫様になる貧しい娘のおとぎ話。【裸の王様】は愉快な王が恥をかくおとぎ話。【マッチ売りの少女】は可哀想な女の子のおとぎ話。【桃太郎】は勇敢な侍が鬼退治をするおとぎ話……」

赤ずきん「けれど私たちにとってそれはすべて現実。優しくて姉のような王妃がいる世界も、変わり者だけど頼れる国王がいる世界も、友達と一緒に一人の少女の為に過ごした世界も、どこか頼りないけれど根は勇敢な侍がいる世界も……」

赤ずきん「どれも紛れもない現実。どれも語り継がれた物語なんかじゃない、この肌で感じた実際の出来事。あなたもそう言いたいのね?」

赤鬼「そうだ、確かにおとぎ話は現実世界にの人間が子供達のために作ったものかもしれない。だが、その中に生きるオイラ達にとっては全てが現実だ」

赤鬼「人魚姫もそうだ。現実世界の人間にとって【人魚姫】は恋破れて泡になる悲しいおとぎ話だが、オイラ達にとっては作り話でもおとぎ話でもねぇんだ」


赤鬼「親しくなった人魚の娘が、泡になって消える。そんな現実だ」

460 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:38:57 EwW 194/376

赤鬼「おとぎ話の消滅を防ぐことももちろん大事なことだと思うぞ。だがここまでの状況になっちまったら……あいつを不幸にする必要があるくらいならオイラはおとぎ話より人魚姫を選びたい」

赤鬼「あいつがあの幸せな状況から一転して死んじまうのはオイラにとってもあいつにとっても物語じゃなく現実だからだ」

赤鬼「友達が苦しんで悲しみ恋破れ、泡になって死んじまうなら……おとぎ話自体が消えちまってもいいんじゃねぇかと思う」

赤ずきん「……」

赤鬼「おとぎ話か人魚姫かどちらかしか選べないなら、オイラは人魚姫の幸せを選ぶ。そいつが身勝手な選択だとしても…だ」

赤ずきん「私は……私の選択は」

赤ずきん「あなたとは違う。私はおとぎ話か人魚姫かどちらか選ぶなら…」

赤ずきん「おとぎ話を選ぶ」

赤鬼「……」

赤ずきん「…それが非情で薄情な選択だと罵られたとしてもね」

461 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:42:22 EwW 195/376

赤鬼「…お前を罵るつもりなんかねぇさ、だが理由を聞かせてくれ」

赤ずきん「……仮にあなたの選択の通り人魚姫を救ったとしましょう」

赤ずきん「彼女はどうするの?口も利けない足も不自由な人魚姫を旅に同行させられないわ」

赤鬼「【シンデレラ】の魔法使いに相談して新たな世界に暮らして貰う、王子も一緒にだ。ここではないどこかで結ばれる、悪くねぇ未来だと思うぞ」

赤ずきん「そうなるわよね……でも、例え王子が側にいたとしても彼女は辛い思いをするわよ。この世界のことを忘れきれないから」

赤鬼「この世界のことを忘れきれない?そりゃあどういう意味だ?」

赤ずきん「……ある女の子の話をしましょうか」

赤ずきん「その女の子はおとぎ話の主人公だった。けれど元居た世界を失って別の世界を旅することになったの、元の世界から生き残ったのは彼女一人」

赤ずきん「始めその女の子は孤独だった。でも一度家族や友達を全て失ったからもう友達は作らないと決めていた、人付き合いも最小限にするように心掛けていたの。もう家族や友達を失いたくなかったからね」

赤ずきん「でも、ある時…あるおとぎ話で出会った者と仲良くなってしまった。それでもその女の子は深い関係を築かないようにと思っていたの、辛くなるのが分かっているからね…でも無理だった」

赤ずきん「楽しかったのよ。もう孤独じゃなかった、嬉しかった。それまでも親しくなった人は居たけど、彼らはそれよりも特別な存在になった…けれど女の子には気がかりなことがあったの」

赤鬼「……」

赤ずきん「友達との楽しい日々を過ごしていくうちに元居た世界の記憶が少しづつ薄れていることに気が付いたのよ」

462 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:48:33 EwW 196/376

赤ずきん「元の世界は消滅した。そのおとぎ話は現実世界にはもう存在しない」

赤ずきん「別のおとぎ話にならおはなしの内容を知っている人物はいるかもしれないけれど…その世界のことを知っているのは彼女だけ」

赤ずきん「元の世界の空の色を知っているのも、あの村がどんな村でどこのお店のおばさんが優しくて、どこの畑を耕しているおじさんが気むずかしいとか…些細だけど確かにあの世界を作っていたものの記憶が曖昧になってきてる」

赤ずきん「そんな些細なものでもあの世界の記憶が消えかけていることが恐ろしかった。だってそうでしょう?」

赤ずきん「その世界はもうその女の子の記憶にしか存在しない。その女の子が忘れてしまえば……存在どころか記憶も無い、もはや証明できないのよ、その存在を」

赤ずきん「わかるかしら?無くなってしまうのよ」

赤ずきん「ママと一緒に食べた料理の味とか、森のどこどこに綺麗な花畑があるとか、おばあちゃんに教えて貰った村の成り立ちとか」

赤ずきん「大切な物も些細な物も無くなってしまう。もとからそんな世界が存在していなかったかのように」

赤ずきん「今はまだ鮮明に覚えて居ても…そのうち大好きなママやおばあちゃんの笑顔まで忘れてしまうんじゃないかと怯えて、眠れない夜もあった」

赤ずきん「そんな風に…消えてしまった世界に未練が残ってしまう。そしてきっと怯えてしまうわ…大切な物を忘れてしまうんじゃないかってね」

赤ずきん「人魚姫は悪態を付いたりもしていたけど姉のことを『姉ちゃん』って呼んでいる以上…まだ優しいお姉さんの部分も彼女の中には残っている。そんな人たちを残して別の世界へ生き延びたとしても後悔する」

赤ずきん「今を凌いだとしても、人魚姫は辛い思いをしてしまう。この世界を思い出す度に」



赤ずきん「自分のおとぎ話を失うって、そういう事よ」

463 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:53:26 EwW 197/376

赤鬼「たとえ人魚姫を助けても、この世界への未練があいつを苦しめる……そう言いたいんだな」

赤ずきん「そうよ」

赤鬼「……確かにお前の言うとおりかもしれねぇ」

赤ずきん「そうでしょう?だから私たちがするべき事は…」

赤鬼「だが、お前は……赤ずきんはおとぎ話を失っても強く生きてるじゃねぇか?」

赤ずきん「……」

赤鬼「そりゃあ、元の世界を思い出して辛い思いをしたこともあるだろうが…自分と同じ思いをさせないようにと他のおとぎ話を救おうとしてるだろ?すげぇ事じゃねぇか」

赤ずきん「……」

赤鬼「自分のおとぎ話を元に戻すつもりなんか今更無いって言っていたけどよ、そうやって過去を振り払って前を向いて強く生きているじゃねぇか赤ずきんは」

赤ずきん「やめて…」ボソッ

赤鬼「お前は強いよ。おとぎ話を失っても強く生きてる。だからお前と同じように人魚姫だって多少の苦難なんか乗り越えられると思うぞ?」

赤ずきん「……く…ない」プルプル

赤おに「赤ずきん?」

赤ずきん「私は強くなんかない…!」

赤ずきん「強く生きてる?前を向いて生きてる?…そんなこと言わないで、私は……」



赤ずきん「とても、とても弱い…あなたが思ってるような強い女の子じゃないのよ…!」ポロポロ

464 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 22:58:25 EwW 198/376

赤ずきん「以前少し話したでしょう…私が一人で旅をしていた頃の話」

赤鬼「お、おう……【泣いた赤鬼】の世界へ来る前は一人旅をしてたんだったな」

赤ずきん「想像できる?私みたいな女の子が一人で旅をしていると周りがどう接してくるか…」

赤ずきん「不憫がられるの、何か可哀想な事情があるだろうとね。そのくせまともに相手をしてくれない商人や店も少なくなかったわ」

赤ずきん「さらわれそうになったことも身ぐるみ剥がされそうになったこともあったわね。だから宿に泊まれず野宿をしなければいけないときは一睡も出来なかった」

赤鬼「……」

赤ずきん「だから私は舐められてはいけなかったの。弱いと奪われる、だから弱くても強い振りをしなきゃいけない。人前で泣かない、子供っぽいしゃべり方はしない、大人相手でも怯まない…」

赤ずきん「そうしなきゃ旅なんか出来なかった。だから本当は過去なんか振り払えてない……後悔してばかり、後ろばかり見て歩いてる。【赤ずきん】の世界だって本当は……」ギリッ

赤ずきん「鬼神病にかかったあなたを止められず…鬼に襲われて足を折られて…今回は目の前にいるドロシーを殴ることすら出来ず、挑発されて…だから、私は強くない…!」ポロポロ

赤鬼「お、おい…感情的になるな、気持ちは分かるがそれはなにもお前が悪いわけじゃねぇだろう」

「いいえ、何もかも持っているあなたには分からないわよ…私の欲しい物を何もかも持っているあなたには…」ポロポロ

465 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 23:00:00 EwW 199/376

赤ずきん「あなたは仲間を守れる丈夫な身体を持ってる、敵を退けるだけの強い腕力もある…」

赤ずきん「外套を羽織っていても周りの人はあなたを一人前として扱ってくれる、子供扱いなんて決してされない…!」

赤ずきん「強靱な身体も強い腕力も私は持っていない…けれど私が強ければ…もっともっと強ければ…なんだって守れた!ママやおばあちゃんだって…人魚姫だって…!」ポロポロ

赤鬼「おい落ち着こう、な?お前の気持ちは分かるが…今はいろんなことがあり過ぎてちょっと興奮してんだ、まず落ち着いてだな…」

赤ずきん「わかるわけない…わかるわけがないじゃない…!」ポロポロ

赤ずきん「あなたは自分の【泣いた赤鬼】を失っていない…自分の世界を失っていないもの…それに鬼のあなたは人間の私よりも遙かに強い…そう、わかるわけがないのよ…」

赤ずきん「だってそうでしょう…あなたは強い鬼で私は弱い人間だもの…」



赤ずきん「あなたに私の気持ちなんか…鬼に人間の気持ちなんかわかるわけないのよ…!わかりあえる訳なんかないのよ…!」ポロポロ

466 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 23:08:45 EwW 200/376

赤鬼「……っ!」グッ

赤ずきん「……あっ」ポロポロ

赤鬼「……」

赤ずきん「ご、ごめんなさい…違うの…赤鬼、私…!」ポロポロ

赤鬼「…確かにお前の辛さをオイラは分かってやってなかった。大人びた言動をするお前を見て、そんな苦しみを背負っているなんて考えもしなかった…だが」

赤鬼「おまえの気持ちを分かってやりたいと思う気持ちは嘘じゃねぇ…だがお前を傷つけたのは確かだ、すまねぇことをした。許してくれ」

赤ずきん「…違う、あなたは悪くない…悪いのは私よ、だって…!」

赤鬼「わかってるさ、お前はオイラの友達だ。本気で人間と鬼が分かり合えないなんて思っちゃいないんだよな?ちょっと感情的になっちまってつい言っちまっただけだろう」

赤ずきん「でも…私…あなたを傷つけて…!」

赤鬼「なに、オイラは気にしちゃいねぇよ。だが、お前があんな事を言っちまうってのは相当精神的に追いつめられてるからだろうな…」

赤鬼「今日の所は話し合いはここまでだ、今日一日お互い一人で考えをまとめよう。オイラも人魚姫を救った後の考えが甘かったって分かった、もう少し考えをまとめてくる」

ガチャッ

赤ずきん「待って頂戴!私も、私も一緒に…!」

赤鬼「いや、人魚姫の未来がかかった大事なことだ。お互い冷静になるまで少し時間をおこう、また明日に城で落ち合おう」

赤ずきん「……でも」

赤鬼「大丈夫だ、オイラ達は喧嘩してる訳じゃねぇだろ?時間を置いて冷静になって、もう一度話し合おうじゃねぇか。そしたら今まで通りだ。お前は少し疲れてるのさ、何も気にすることはねぇんだ。また明日会おう、な?」ポンポン

赤ずきん「待って頂戴、赤鬼…!」

バタン

467 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/17 23:17:36 EwW 201/376

赤ずきん「……私は、私はなんで…!」ポロポロ

赤ずきん「いろんな事がありすぎて…つい感情的になって…でも」

赤ずきん「あれだけは……言っちゃいけなかったのに、鬼と人間が分かり合えないなんて…」

赤ずきん「そんなこと…思っていないのに…八つ当たりで赤鬼に投げかけちゃいけない事なのに…!」ポロポロ


── …だがお前を傷つけたのは確かだ、すまねぇことをした。許してくれ


赤ずきん「違う、悪いのは私。赤鬼を傷つけたのは私の方だ……だから」

赤ずきん「私は、私は赤鬼に優しい言葉をかけて貰う資格なんて……泣く資格なんて無いのに……!」

赤ずきん「……うぐっ……うぅ……うぇぇん……」ポロポロ

・・・
・・

496 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 22:34:27 GfN 202/376

雪の女王の世界 雪の女王の宮殿

ビュオオオォォォォ……

ファサッ

雪の女王「やれやれ、出掛けたときに限って急に吹雪かれるとは……今日はついていないな」フゥ

ガチャッ

カイ「遅かったじゃねぇか女王」

雪の女王「ただいま。カイ、良い子にしていたか?」ギューッ

カイ「抱きつくな。それで?用事は済んだのかよ?」

雪の女王「ああ、いくつかのおとぎ話に顔を出してきたんだ。協力して貰うためにね」フフッ

カイ「そうかよ、ならいいけどよ…それよりあんたに客人だぜ、娘が一人。応接間に案内してやったからあとは頼む」

雪の女王「ああ、分かっている。突然彼女の気配を感じたからね…これでも急いで帰ってきたんだ」

カイ「ああ、そういやぁ、あの娘は飲み物いらねぇとか言っていたがどうする?何か持って行くか?」

雪の女王「彼女にはホットミルクを頼む、メープルシロップを多めに入れてやってくれ。私は…コーヒー以外で適当に」

カイ「ああ、後で持って行く…だから早く行ってやれ。事情はしらねぇがひどく落ち込んでたぜ」

雪の女王「そうだな、急ぐとしよう」ファサ

雪の女王「彼女が私の元に訪れるとは余程追いつめられているのだろう……早く話を聞いてやらないとな」スタスタ

497 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 22:36:56 GfN 203/376

雪の女王の宮殿 応接間

赤ずきん「……」ボーッ

ガチャッ

ファサッ

雪の女王「フフッ、ようこそ私の宮殿へ。よく訪ねてきてくれたね赤ずきん、こんなに早くキミと再会できるとは嬉しいな」フフッ

赤ずきん「急に訪ねたりして悪かったわね……」

雪の女王「気にすることはないさ、今日はどうしたんだ?ただお茶をするために来たわけでもないのだろう?どうやら赤鬼も居ないようだしな」

赤ずきん「ええ、赤鬼は……その……今日は別行動なの」

雪の女王「そうか、それはどうやら君の目が真っ赤に腫れているのと関係があるみたいだな。聞かせて貰おうか、何があった?」

赤ずきん「私たちは【人魚姫】の世界で……どこから話したらいいかしら……」

雪の女王「全て聞かせて貰おう、ゆっくりでいいさ。そのうちカイが温かい飲み物を持ってきてくれる、少しは時間あるんだろう?落ち着いて話すといい、どんなに長い話になっても私は聞いているよ」

498 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 22:38:21 GfN 204/376

・・・
・・


赤ずきん「それで……──私は……──だから……──」ポツポツ

雪の女王「……ふむ、なるほどな」

ガチャ

カイ「邪魔するぞ、飲み物持ってきたぜ女王」

雪の女王「ああ、すまない。折角だから紹介しておこう、彼は私が預かっている少年カイだ。彼女は赤ずきん、二人とも仲良くするようにな」

カイ「ふーん…あんたが赤ずきんか、この宮殿寒いだろ?あいつの趣味はどうかしてるからな。ほらホットミルクだ、少しは暖まるぜ」コトッ

赤ずきん「えぇ……ありがとう、カイ」

雪の女王「フフッ、どうかしているとは随分だな。それでもシャンデリアの代わりがオーロラというのはシャレているだろう?」フフッ

カイ「どーだかな?ほら女王は熱いの駄目だろ、アイスティーだ」コトッ

カイ「じゃーな、俺は書庫にいるから用事があれば呼んでくれ。気が向いたら手伝ってやるから」

ガチャッ

赤ずきん「彼が、カイ…【雪の女王】の主人公ゲルダの友達であなたがさらってきたという少年ね」

雪の女王「そうだ、今はこの宮殿で私と共に暮らしている。悪魔の鏡の破片が突き刺さっているせいで性格がねじ曲がっているが……良い子だよ、少々口は悪いがな」フフッ

499 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 22:39:50 GfN 205/376

雪の女王「さて、それはいいとして……君が今話してくれた事が【人魚姫】の世界で起きたこと全てだと言うんだな」

赤ずきん「……ええ、話した通りよ。人魚姫との出会い、ディーヴァの存在、疑問が残る人間と人魚との確執、王子を助けたドロシー……そのあげくに私は赤鬼を傷つけてしまった……」

雪の女王「世界を取るか友人を取るか悩んだ挙げ句別の友人を傷つけてしまい、それでいたたまれなくなってここに来た……か」

赤ずきん「……」

雪の女王「私は構わないが、何故ここに来た?話を聞いて貰うのならキモオタ達の方が適任だろう?そうでなくとも裸の王やシンデレラとも親しいのだろうキミは。彼等なら私よりも優しく接してくれると思うのだが」

赤ずきん「あなたなら……私を叱ってくれると思ったの」

雪の女王「あぁ、そういう事か……」

赤ずきん「彼等ならきっと私を優しく慰めてくれる。けれど私には優しくして貰う資格なんて無いもの……」

雪の女王「フフッ、私が優しくないみたいな言い方だな?」クスクス

赤ずきん「そういう意味ではないわ、あなたには聞きたいこともあったの。ただ、今の私はきっとひどい顔をしているから…彼らに合わす顔がないというのもあるわね」

雪の女王「そうか。だがキミはもう反省しているように見える、私があえて叱責する必要もなさそうだが……」

雪の女王「それでも私が言葉にすることで君の気持ちが引き締まるというのならあえて言うが、やはり話を聞く限りではキミが悪いな」

雪の女王「キミが精神的に追いつめられていていたのは分かるがそれは赤鬼だって同じだ。それで赤鬼に八つ当たりするのはお門違いだ」

赤ずきん「そうね、その通りよ……本当にね……」

500 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 22:41:45 GfN 206/376

雪の女王「自分の過ちに気が付いて反省している点は認める。だがそれでも吐き出した言葉は無かったことには出来ない。人間と鬼の共存を目指す彼にとってそれを否定する言葉がどれだけ胸を刺すか…キミなら想像できるな?」

赤ずきん「えぇ、きっとひどく傷つけてしまった。絶対に、絶対に口にしてはいけなかったのに」

雪の女王「それも旅を共にしている友人に言われたんだ、その衝撃は計り知れない。赤の他人に言われるよりもずっとだ」

赤ずきん「私……彼の信頼を裏切っちゃったかしら」ボソッ

雪の女王「どうだろうな…?明日会うのならばその時に謝罪の気持ちを伝えなければいけないな。以前と同じ関係でいられるかはわからないがな」

赤ずきん「ええ、必ず謝る……」

雪の女王「そうか、おそらく大丈夫だろう。彼はキミとは違って大人だ、子供の八つ当たりに傷つくことはあっても反省したキミを突き放したりはしないだろう」フフッ

赤ずきん「子供だと言われても今回ばかりは…何も言い返せないわ」

501 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 22:42:19 GfN 207/376

雪の女王「これに懲りたら今後は注意することだ。」

赤ずきん「……許してくれるといいのだけど」

雪の女王「なんだ、随分と弱腰なのだな?【裸の王様】の世界で私に啖呵を切ったのはどこの娘だったかな?」クスクス

赤ずきん「…余りの子供っぽさに自分で呆れてしまうわ。本当に傷ついているには彼なのにね。私は落ち込んでいてはいけない、しっかりしないと…」ググッ

雪の女王「…しかし、よかったじゃないか赤ずきん」

赤ずきん「よかったって…何がかしら?」

雪の女王「赤鬼のような仲間が側にいる事がだよ。キミが熱くなったら止めてくれる、八つ当たりをすれば受け止めてくれる。キミは彼の存在に大いに救われている筈だ」

赤ずきん「そうね…彼には感謝している。鬼ヶ島でも、ドロシーに挑発されたときも私をいつも助けてくれるから。でもだからこそ…何も出来ない自分が強調されるようで…彼を妬ましく思ったこともあったわ」

赤ずきん「実を言うとね、強くて頼れる彼の側にいることがたまらなく辛いときもあったのよ。自分の弱さを見つめてしまうから……」

502 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 22:43:40 GfN 208/376

雪の女王「フフッ、彼からしたらキミの事が羨ましくてたまらないだろうに、おかしな話だ」フフッ

赤ずきん「赤鬼が…私の何を羨ましがるのかしら?私は彼とは違って何も持っていないのに」

雪の女王「あくまで私の想像に過ぎないが……キミは人間だ、それは赤鬼がどんなに努力しても手に入らない。赤鬼が人間なら、村人に恐れられることもなかっただろう。身を隠して旅をする必要だってない…人間であることを羨ましく思うこともあったんじゃないか?」

赤ずきん「そんな事……考えたこともなかった」

雪の女王「物事は視点が変わればまるっきり違う物に見えるものさ。それは君たちが悩んでいる事でも一緒だ」

赤ずきん「視点が変われば…違うものに見える…」

雪の女王「そうだ。おとぎ話を選ぶか、人魚姫の命を選ぶかという選択…赤ずきんはおとぎ話を選んだ。それはキミが過去に自分自身のおとぎ話を失っていて、その苦しみを知っているからだ」

赤ずきん「…ええ、私も人魚姫には生きて欲しいけれどあんな苦しい思いはして欲しくない」

雪の女王「一方、赤鬼は人魚姫の命を選んだ。鬼と人魚、種族は違えども二人とも人間と共存したいという気持ちは同じ。赤鬼はきっと人魚姫の姿に自分を重ねているんだろうな」

雪の女王「人間の王子に恋をしてそれが叶った人魚姫。人間の友人を欲してそれが叶った赤鬼…難しく思えた共存への一歩を踏み出して未来に希望が見えてきた。だからこそ同じ境遇の人魚姫を幸せにしてやりたいんだろう」

赤ずきん「それじゃあ……私の選択も彼の選択もどちらも間違っていなくて、正解なんて無いって事になってしまうわよ?」

雪の女王「実際、その通りさ」

赤ずきん「……」

雪の女王「『世界を選ぶか友達を選ぶか』なんて正解の存在しない問題だ。どう感じるかは人それぞれ、正解も不正解もない…模範解答を探そうという方が間違っている」

503 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 22:47:12 GfN 209/376

赤ずきん「……だったら私達は一体どうすればいいのかしら?いつまでも答えのない問題をただ追いかけているわけにもいかないのに……」

雪の女王「それを決めるのは君たちだ。大方、ドロシーも君たちに答えのない難問を突きつけてひっかき回したいだけだろうな」

赤ずきん「本当に嫌らしい事をする娘よ、悔しいけれど」

雪の女王「では改めて聞くが、キミの選択は変わりないのか?」

赤ずきん「えぇ……私は、それでもやっぱりおとぎ話を選ぶ。人魚姫にあんな辛い思いをさせたくない。いつまでも消えたおとぎ話に未練を残してる私のようにはしたくない」

雪の女王「なるほどな……キミはそれで平気なのか?」

赤ずきん「平気かって……どういう事かしら?」

雪の女王「おとぎ話を守ると言うことは、友人である人魚姫を失うということだぞ?」

赤ずきん「……わかっているわ。私は最善を尽くして、人魚姫がなるべく苦しまないよう悲しまないようにするつもり…楽しい思い出を作ったり人魚姫の願いを叶えたり…」

赤ずきん「そして、私が王子と人魚姫を引き離す、そうして私が彼女に恨まれても仕方ないとも思ってる」

雪の女王「それだとキミが自ら悲しい結末へ物語を進める事になるが……そのことがずっとキミにのし掛かって…その心をへし折ってしまわないか?」

赤ずきん「本当に辛いのは人魚姫だもの、それを選んだことで私が弱音を吐いてはいけないの。平気よ、耐えてみせるわ」

雪の女王「決心が固いことは良いことだが本当に耐えられるか?私にはそうは思えない」

赤ずきん「……どうして、そう思うのかしら?私が子供だから出来ないと思っているの?」

雪の女王「そうじゃない。私は以前、おとぎ話を救った事で苦しみを抱えた少年を見ている」

雪の女王「だから、キミも【人魚姫】を救うことで苦しみや悲しみを背負うんじゃないかと思っているんだ。私の可愛い家族の一人…ヘンゼルがかつてそうだったようにな」

504 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 22:48:49 GfN 210/376

赤ずきん「それって…もしかしておとぎ話【ヘンゼルとグレーテル】の主人公?」

雪の女王「ああ、そうだ。事情があって彼はしばらく前までこの宮殿に住んでいたんだ。だがある日とある目的で宮殿を後にしたよ、妹のグレーテルと共にね」

赤ずきん「その、おとぎ話を救って…苦しむってどう言うこと?」

雪の女王「ヘンゼルとグレーテルはある日、別のおとぎ話に迷い込んでしまった。そのおとぎ話はある国の民話だ、現実世界で忘れられ始めていて今にも消えてしまいそうな状態だった」

雪の女王「そうとも知らず、ヘンゼル達はそのおとぎ話の主人公の女の子と父親と親しくなった。その女の子の家は貧しくて見知らぬ子供二人を養う余裕など無かったが、その父親はヘンゼル達を家族として向かえてくれた」

雪の女王「そして、その世界でヘンゼルがとった行動が偶然にもそのおとぎ話の消滅を防ぐことになってしまったんだ」

赤ずきん「消滅寸前のおとぎ話を…そうと知らず偶然救ってしまった。結果的に何かの代役をする形になったのかしら?」

雪の女王「その通りだ、彼の行動は些細なことだったが…それがきっかけとなった」

赤ずきん「彼は…ヘンゼルは一体何をしたというの?」

雪の女王「病気の女の子のために盗みを働いた。一掬いの米と一握りのあずき、それだけを地主の倉から盗み出したんだ」

505 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 22:49:44 GfN 211/376

赤ずきん「そんな小さな盗みでおとぎ話が救われたというの?」

雪の女王「ああ、小さな盗みだがそのおとぎ話では重要な出来事だった。ヘンゼルの行動がきっかけとなって、消えるはずだったおとぎ話は本来の筋へと軌道修正された。そして、そのまま結末へと物語は進んでいった」

雪の女王「途方もない悲しみと理不尽な苦しみが主人公の女の子に襲いかかる、悲しい結末へとね」

赤ずきん「悲しい結末…?それじゃあヘンゼルは…」

雪の女王「悔やんでいたよ、知らなかったとはいえ自らの行動でその女の子を苦しめてしまったとね。自分を責めていた、彼女を苦しめたのは自分だと」

赤ずきん「……」

雪の女王「彼と違ってキミは事情を理解した上でおとぎ話を救うことを選択している。人魚姫を失う決断はキミにとっても苦渋の選択だったと思うが、それでもキミはそれを選んだんだ。キミなりの覚悟もあるのだろうだが…」

雪の女王「…キミは本当に耐えられるか?抱える苦しみが大きすぎて身動きがとれなくならないか?」

赤ずきん「決断した以上は私はその選択に責任を持たなければいけないわ。だから、私は耐えてみせる。耐えなければいけないのよ」

雪の女王「私は、キミが望むのなら今からでもキミの代わりを手配できる。キミの住む所もだ。それでも…こんな辛い選択を強いられても旅を続けると言うんだな?」

赤ずきん「…もちろん。それ以外の答えはないわ」

雪の女王「……いいだろう。もうこの件では私は口を出さない、キミの覚悟というものを見させて貰うことにするよ」フフッ

506 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 22:51:36 GfN 212/376

赤ずきん「雪の女王、参考までに聞きたいのだけど…あなたならどうするの?私や赤鬼と同じ選択を強いられたら」

雪の女王「おとぎ話【人魚姫】か友人の人魚姫どちらかを選ぶ状況になったら…という事だな?これはあくまで私の視点での考えになる、参考にならないと思うが?」

赤ずきん「聞かせて頂戴、あなたは様々なおとぎ話に協力を求めてくれている。私より何倍も経験を積んでいるもの、是非聞きたいわ」

雪の女王「そうだな…結論を言えば、私はおとぎ話を救う」

赤ずきん「その理由はなんなの?」

雪の女王「簡単だ、人魚姫は泡になって消えても幸せになれる余地があるからだ。泡になった後彼女はやがて空気の精になるのだから」

赤ずきん「空気の精になることは知っているけれど……幸せになれるってどう言うこと?空気の精になってたとしても彼女は人間には見えなくなる、そんなの居ないも同然じゃないの?」

雪の女王「フフッ、子供のキミにはわからないさ」フフッ

赤ずきん「はぐらかさないで、泡になって消えるのに幸せになれるなんてそんな事、信じられないわ」

雪の女王「空気の精は人間には見ることが出来ない。そのあたりの空気に溶け込むように宙をさまようだけだ。しかし空気の精は人間が見える、彼女には周りが見える」

赤ずきん「でも、見えても…触ることも話すことも出来ないなら…意味なんかないんじゃないかしら?」

雪の女王「それでも愛する男の側にいることは出来る。例え永久に恋が叶わなくても、永遠に想いが届かなかったとしても…愛する者の笑顔をずっと近くで見ていられるならそれだけで幸せになれる……そういう恋もあるという事さ」

507 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 22:54:08 GfN 213/376

赤ずきん「例え実体を失って空気の精になったとしても、王子の側にいられるなら幸せ…という事?」

雪の女王「ああ、そのとおりだ。人魚姫はそれに幸せを感じるだろう。それこそがアナスンが彼女に与えた救いなのだから」

赤ずきん「アナスン…?どちらにしても私にはよくわからないわね……だって言葉を交わすことも触れることすら出来ないのに…本当に人魚姫はそんなことで救われるの?」

雪の女王「わからなくて良いさ、子供のキミには大人の恋愛は少し早いからな」フフッ

赤ずきん「…そうね、でも問題ないわ。いつかは私だって知ることになるでしょうから」ムッ

雪の女王「フフッ、まぁともかくだ…これが私の選択とその理由。もっともこれはあくまで私の考えだ、正解でも不正解でもない」

赤ずきん「参考にはさせて貰うわ。人魚姫が消えてしまうまでに私は出来るだけ彼女を幸せにしてあげたいから」

雪の女王「確か彼女は種族の共存を願っているのだったな?だが人間と人魚の間には不可解な確執がある…そうだったな?」

赤ずきん「ええ、人魚は人間に襲われたと主張していて人間を恨んでいるけれど人間は人魚の存在を知らない、王子ですら知らなかったから王族が隠しているとかではないと思うのだけど…どうもこの矛盾が拭えないの」

雪の女王「そうか、私には事の顛末が想像できたがな。人魚を襲っているのが何者か」フフッ

赤ずきん「……私があなたに話した情報だけでわかったというの?」

508 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 22:57:07 GfN 214/376

雪の女王「あくまで想像だがな。人魚は人間に襲われていると思っていること、しかし人間は人魚を知らない…その矛盾を解くことが出来れば全ての黒幕を突き止めることは簡単さ、キミにも出来る」

赤ずきん「簡単に言うけれど、あなた……」

雪の女王「人魚を襲っている黒幕が誰か…それが解れば共存の道が開けるかもしれないぞ?だったら人魚姫のためにキミが頑張らなければな」フフッ

赤ずきん「……けれど、結構考えたのよ?自然災害の可能性とか海に未知の怪物が居るとか…いろんな可能性を」

雪の女王「さっきの話ではないが、視点を変えて見ろ。それと先入観には捕らわれないこと」フフッ

赤ずきん「……」

雪の女王「さぁ、今日はもう帰った方がいい。あとは宿に戻ってゆっくりと考えてみると良いさ。赤鬼になんと言って謝るかも考えなければいけないだろう?」

雪の女王「それにあまりここに長く居ると、キミをつい凍り漬けにしてしまいそうだ」クスクス

赤ずきん「……それは嫌ね、おとなしく帰ることにするわ」スクッ

雪の女王「そうしてくれ、まだキミを飾る台座を造っていないんだ」フフッ

赤ずきん「あら、それなら作らない方がいいわよ。作っても無駄になるんだから」

雪の女王「フフッ、また来ると良い。次はキミ好みのうんと苦いコーヒーをご馳走するよ」

赤ずきん「それは楽しみね。それじゃあ私は帰る。それと、雪の女王……ありがとう」

雪の女王「ああ、相談事程度ならいつだって受けてやるさ。そのかわりしっかりとやっている姿を見せてくれよ?私がキミから旅を取り上げなくても良いようにな」クスクス

509 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 22:58:43 GfN 215/376

雪の女王の宮殿 女王の間

雪の女王「……いつになったらこの騒ぎは収まるのだろうか」フゥ

雪の女王「こんな騒ぎが起きているせいで彼女のような子供が友人を失う事を選択しなければいけない状況になっている。狂っているとしか思えない。子供達はもっと自由に暮らしても良いはずだ…」

雪の女王「そうだろう、アナスン…?」ボソッ

雪の女王「おとぎ話は子供達を苦しめるために存在するものじゃないのだからな……」

コンコンッ

???「女王様ー!ただいま戻りました!入ってよろしいか!?」

雪の女王「ああ、キミか…入って構わないぞ」

ガチャッ

白鳥「デンマークの美しき翼!この白鳥、ただいま任務を終えて帰還しましたー!」スワーン

510 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 23:00:51 GfN 216/376

雪の女王「相変わらず賑やかだなキミは」クスクス

白鳥「えっ!?やめてくださいよ女王様!『相変わらず美しい翼だなキミは』とか言うのは!当然ですからね、僕が美しいのは!なんたって白鳥ですから!ンナハハハッ!」スワーン

雪の女王「フフッ、それは失礼したな。それで、有事の際に協力して貰えるよう別のおとぎ話に向かって貰ったが…どうだったんだ?協力は得られそうか」

白鳥「バッチリでした!【金太郎】の金太郎さんと【ジャックと豆の木】のジャック君、それと【卑怯なコウモリ】の鳥類一派に協力をお願いして約束してくれました」

雪の女王「成果は上々だな、やはりキミの美しさのおかげか?」クスクス

白鳥「でしょうね!それはそうでしょうね!僕は白鳥ですからね!」スワーン

ブスリッ

白鳥「痛っ!美しい僕に針を突き立てるとか…どういうつもりだよ!?」

???「黙れ。貴様の手柄にしようとするからだ、殆ど私が交渉しただろう。貴様はただ軽口を叩いていただけだ」

雪の女王「あぁ、キミも一緒だな。お疲れさま」フフッ

親指姫「はい、この親指姫。女王様からの任務、一生懸命遂行いたしました。騎士道に恥じぬように!」ニコニコ

511 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 23:02:48 GfN 217/376

白鳥「女王様の前だと良い子ぶるんだもんなー、縫い針振り回してるだけのどこが騎士道だよ。一寸なんとかっていう奴に憧れてるんだかなんだか知らないけどさー」ブツブツ

親指姫「黙れ!騎士である私を侮辱するならば、この場で八つ裂きにしてくれるっ!」ブスリブスリッ

白鳥「おいやめろ!あんまり刺すと血で羽根が染まっちゃうだろ!僕のチャームポイントは美しい白さなんだよ!チャームポイントは美しい白さなんだよ!」

親指姫「二回言うな!私だけならいざ知れず、一寸法師様まで馬鹿にするとは…!恥を知れ、このアヒル!ナルシスト鳥類!」ブスリブスリッ

白鳥「言ったな!僕は正真正銘の白鳥だ!このエセ女騎士め!このままじゃピンクになっちゃうだろ!……あれっ?ピンクでも僕いけるんじゃね?女王様!ピンクでも美しいかな?どう?」

親指姫「クソッ…ポジティブな馬鹿は相手にしてられない……っ!」クッ

雪の女王「フフッ、君たちにお願いして正解だったよ。しばらくはゆっくり休んでくれ。そして、その後に行って欲しいところがある。頼めるか?」

白鳥「まっかせてください!僕がひとっ飛びいってきますよ!この美しき翼で!」スワーン

親指姫「はいっ!小さくとも女王様のお役には立ちます、なんだって申しつけてください!」

雪の女王「私は少し野暮用がある、だから君たちにはある人物に挨拶をしてきて欲しいんだ、この女王の代理としてね」



雪の女王「キモオタという現実世界の男の所だ。頼めるね?」フフッ

513 : ◆oBwZbn5S8kKC - 2015/04/22 23:06:36 GfN 218/376

今日はここまでです

【雪の女王】ざっくり内容
悪魔が作った鏡の破片が刺さって性格悪くなった少年カイ。
主人公ゲルダはカイを取り戻すため旅をします。
目的地はカイを連れ去った雪の女王の宮殿。

このssではゲルダに出番はおそらく無いので
性格悪くなったカイと女王が一緒に暮らしてるって事だけ認識しててください

人魚姫編 次回に続きます



続き
キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」六冊目【後編】


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