1 : 以下、名... - 2015/07/13 22:12:07 uSX5h9hw 1/20

ガタンゴトン…… ガタンゴトン……

『次の停車駅は“○×市役所前”、“○×市役所前”でございます』



早朝、通勤ラッシュでごった返している電車内でそれは起こった。



「そこの女」

「なにか?」

「これより……貴様のケツをさわる」

「ほう……」



突然の宣戦布告。

これにより、この電車は交通機関ではなく、戦場と化した。

元スレ
男「これより……貴様のケツをさわる」女「ほう……」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1436793127/

2 : 以下、名... - 2015/07/13 22:15:14 uSX5h9hw 2/20

ざわめく他の乗客たち。

「ヒューッ! 始まりやがったぜ!」

「この緊張感、たまんねえ!」

「みんな、詰めろ! 詰めるんだ! リングを作るんだよォ!」



ワァァァ…… ワァァァ……



満員電車にもかかわらず、乗客たちは我先にとさらに互いを押し合う。

まもなく、車内にはかなりの広さのスペースが出来上がった。

『リング』である。

3 : 以下、名... - 2015/07/13 22:17:45 uSX5h9hw 3/20

宣戦布告をしたからには、男は次の駅に到着するまでに女の尻にさわらねばならない。

さもなくば、男の敗北である。

この電車が次の駅にたどり着くまでにかかる時間は、およそ4分。



「いざ」サッ

「いつでも」ジリ…



乗客A「いよいよ始まる!」

乗客A「どっちも体勢を低くして、まるでレスリングでも始めるみたいだ!」

乗客B「当然だろうな」

乗客A「!」

5 : 以下、名... - 2015/07/13 22:19:43 uSX5h9hw 4/20

乗客B「この揺れ動く、不安定な電車内……」

乗客B「通常のファイティングポーズでは、よろめいてしまう」

乗客B「あのように腰を落とし、重心を低く保つのは理にかなっているといえよう」

乗客A「なるほど……」



「……」ジリ…

「……」ジリ…



徐々に、両者の間合いが縮まっていく。

緊張が極限まで高まる。

6 : 以下、名... - 2015/07/13 22:22:46 uSX5h9hw 5/20

ギャンッ!!!



男は電車の床を踏み抜く勢いで、猛然と駆け出した。

驚異的な瞬発力で、女の背後へと回り込もうとする。



ギュルンッ!!!



しかし、女もフィギュアスケートを思わせる猛回転で、背後を取らせない。

7 : 以下、名... - 2015/07/13 22:29:23 uSX5h9hw 6/20

ギャンッ!!!

ギュルンッ!!!

ギャンッ!!!

ギュルンッ!!!

ギャンッ!!!

ギュルンッ!!!



乗客A「男がものすごい速さで回り込もうとするが、女も回転してそれをさせない!」

乗客B「まるで……地球と、その周囲を回る月、だな」

乗客B「こんな朝っぱらから、天体観測をさせられるとは思わなかった」

8 : 以下、名... - 2015/07/13 22:31:43 uSX5h9hw 7/20

ギャンッ!!!

ギュルンッ!!!

ギャンッ!!!

ギュルンッ!!!

ギャンッ!!!

ギュルンッ!!!



乗客A「いったい……いつまで続くんだ?」

乗客A「運動量では男が上だし、男のスタミナが尽きるのが先か!?」

乗客A「それとも回転しまくってる女が目を回すのが先か!?」

乗客B(二人とも、そんな初歩的なミスは犯すまい……)

乗客B(そろそろだ……そろそろ、男が仕掛ける頃だ!)

9 : 以下、名... - 2015/07/13 22:34:57 uSX5h9hw 8/20

(――今だッ!)

「白蛇の牙(スネークハンド)!!!」



シュルンッ!



乗客A「うおおおおっ! 腕がしなやかに伸びた!」

乗客A「蛇のような動きで、右手が女の尻を目指してく!」

乗客B「そう……今まで激しく動き回っていたのは、このための布石」

乗客A「布石……!」

乗客B「回り込まずとも尻にさわれる、あの技をヒットさせるためだったのだ!」

10 : 以下、名... - 2015/07/13 22:37:35 uSX5h9hw 9/20

「ちいっ!」バババッ

「ぬぅ!」



オオォォォ……!



男の芸術的な技を、女もかろうじてかわす。歓声が上がる。



「外したか……」ザッ

「……危ないところだった」ザッ



乗客A「す、すげえ……!」

乗客B「予想外だったろうが、よくぞかわした。一進一退、だな」

11 : 以下、名... - 2015/07/13 22:41:16 uSX5h9hw 10/20

非常に惜しい攻撃ではあったが、“白蛇の牙(スネークハンド)”の代償は大きかった。

女は技を警戒し、回転だけでなく、フットワークを使い始めたのだ。



「……」バッバッバッ

「……」バッバッバッ



乗客A「うおおおお! どっちも速い!」

乗客A「この光景はなにかに似ている……。そう、あれだ! カバディだ!」

乗客B「ふむ、インドの国技だな」

乗客B「男はそうたやすくは、間合いに入れなくなったな」

12 : 以下、名... - 2015/07/13 22:44:57 uSX5h9hw 11/20

宣戦布告から3分経過――

すなわち次の停車駅までは残り1分!



「……」バッバッバッ

「……」バッバッバッ



乗客A「そろそろ、次の駅につくけど……このまま決まっちまうか!?」

乗客B(いや……この区間には次の駅につく直前で、大きく揺れる地点がある)

乗客B(男がそこで仕掛けるのは間違いないだろう)

乗客B(だが、女もそれは承知のはず!)

13 : 以下、名... - 2015/07/13 22:47:05 uSX5h9hw 12/20

残り30秒――

運命の刻(とき)は来た。





ガッタンッ! グラッ……!





「痴ィッ!!!」ギュオッ





乗客A「仕掛けたァァァ!」

乗客B「今までで最大のスピードッ! これをかわすのは至難ッ!」

14 : 以下、名... - 2015/07/13 22:50:30 uSX5h9hw 13/20

「ハッ!!!」ヒュオッ



ガシィッ!



乗客A「うおおっ! 上にかわしたァ!」

乗客B「なるほど、吊り革につかまったか!」

乗客B(縦と横だけでなく高さを生かした立体的回避! 女の勝利、か!)

15 : 以下、名... - 2015/07/13 22:54:30 uSX5h9hw 14/20

(あとは着地して到着を待つだけ――)パッ

「!?」



ギュアッ!!!



着地寸前である女の背後に、男が回り込んでいた。



「吊り革から手を放し、着地するまでの……ほんのコンマ数秒」

「ここにこそ、真の勝機があった!」

「空中では自在には動けまい! ケツががら空きだァ!」

「白蛇の毒牙(ネオ・スネークハンド)!!!」ニュルッ



ジャキーン!!!



ついに、男の右手が女の尻に触れた。男の勝利である。

16 : 以下、名... - 2015/07/13 22:57:00 uSX5h9hw 15/20

「私の……負けだ」

「貴様こそ、なかなかだったよ」



ワァァァ……! パチパチパチ……



観戦者である乗客たちからも、惜しみない歓声と拍手が送られる。



乗客A「出勤前にこんな名勝負を見られるなんて、俺はなんてツイてるんだ!」

乗客A「くぅ……涙が出てきちまった……」グスッ…

乗客B「さて、と。仕事をせねばな」

乗客A「え?」

17 : 以下、名... - 2015/07/13 23:00:21 uSX5h9hw 16/20

乗客B「お二人とも、いい勝負だった。どちらが勝ってもおかしくなかったよ」

乗客B「さて、そちらの君」

「はい」

乗客B「私は刑事でね、現行犯逮捕させてもらう」サッ

懐から取り出されたのは、警察手帳と手錠。

「……分かっております」



ザワッ……

18 : 以下、名... - 2015/07/13 23:05:18 uSX5h9hw 17/20

乗客A「そんな! なぜ!? あなただって今の勝負には感動したはずだ!」

乗客B「それはそれ、これはこれ、というものだよ」

乗客B「“罪には罰を”だ」

乗客B「この原則が破られたら、法治国家は成り立たないのだよ」

「そのとおりです」

「覚悟の上でやったこと、悔いはありません」



ザワザワ…… ドヨドヨ……

名勝負に水を差されたとでもいうべき結末に、困惑する乗客たち。

しかし、異論を唱えられる者はいなかった。

たとえどんな名勝負を演じようが、男が痴漢であることは紛れもない事実なのだ。

19 : 以下、名... - 2015/07/13 23:08:29 uSX5h9hw 18/20

乗客B「さ、手錠をかけるぞ」

「はい」















「――待ったァ!!!」

20 : 以下、名... - 2015/07/13 23:12:58 uSX5h9hw 19/20

「罪には罰を? いいや、ちがう!」

乗客B「ほう、では君の答えを聞かせてもらおうか」

「そんなもの、もちろん決まっている」

「“罪には蜜を”だ」チュッ

「!」

「結婚しよう……。いいえ、結婚しましょう!」

「……ああ!」



ガシィッ!



人目もはばからず、抱き合う二人。

21 : 以下、名... - 2015/07/13 23:16:14 uSX5h9hw 20/20

ワアァァァ……! パチパチパチパチ……!



乗客A「おめでとう! おめでとぉう!」パチパチ…

乗客B「フッ……夫婦になるのであれば問題あるまい」パチパチ…



こうしてこの日、一組のカップルが誕生した。



『まもなく、“○×市役所前駅”に到着いたします』

『ご結婚なさる方は、こちらで婚姻届を提出するのがよろしいでしょう』







おわり

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