1 : ◆gqPN62ayAU - 2015/07/04 22:53:54.21 yt+KpOqP0 1/76これは私の鎮守府で起こったことを参考にしたものです。
大変ブラックな内容で、キャラ崩壊を起こしています。
えげつないセリフも多く、そういうのが嫌いな方にはオススメできません。
エグいのが好きな方はどうぞ。
あと、那珂ちゃんに対する誹謗中傷、
および那珂ちゃんファンの皆様を大変不快にさせてしまう記述が見られることを、
ここに心よりお詫び申し上げます。申し訳ございません。
一番好きな艦娘は扶桑、次いで山城、そして隼鷹です。
元スレ
電ですが、鎮守府の空気が最悪なのです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1436018024/
こんにちは、秘書艦の電です。今日は私の鎮守府のことを紹介するのです。
先月着任した提督さんはまだ新人さんで、艦これのことを勉強しながら艦隊の指揮を執っています。
戦略方針は「少数精鋭」。予備戦力を作らず、特定の艦娘を集中運用し、できるだけ短期間で高LVの艦隊を作ろうという目論見です。
もっともこの方針は、提督のドロップ運が悪すぎたため、そうせざるを得なかったという面もありますが・・・・・・
ともかく、この方針はある程度成功して、最初の頃は深海棲艦に対し有利に戦況を進めて来ました。
ですが、最近は思わぬところで暗礁に乗り上げてしまって・・・・・・そのせいもあり、鎮守府の空気が最悪なのです。
提督「頼む、今度こそ・・・・・・」
こちらは執務室です。提督さんがやつれた顔で、祈るように手を合わせながら主力艦隊の帰りを待っています。
今日の出撃は2-4。南西諸島、沖ノ島海域の攻略です。
鎮守府最強の艦娘で作られた第一艦隊「ハッピーラッキー艦隊」なら、突破はそこまで難しくはないはずです。
難しくはないはずなのですが・・・・・・
扶桑「失礼します。ハッピーラッキー艦隊旗艦、扶桑型戦艦、扶桑。ただいま帰投いたしました」
提督「来たか。戦果は?」
扶桑「・・・・・・申し訳ありません。攻略には至りませんでした」
ドンッ! 提督が机に拳を振り下ろす音が執務室に鳴り響きます。
もう見慣れた光景なので、驚いたりはしません。ただ、ちょっぴり悲しい気持ちになるのです。
扶桑さんも驚きはしませんが、うつむいてギュっと下唇を噛み締め、泣きそうなのを必死に堪えているように見えます。
提督「・・・・・・今度の原因はなんだ。隼鷹か、それとも金剛か」
扶桑「いえ、羅針盤が・・・・・・」
提督「あぁあああああああああああ・・・・・・またそれかっ!」
提督「これで何度目になる!? もう10回、いや20回は超えているぞ! もはや運が悪いどころの騒ぎではないっ!」
提督「何が原因だ!? wikiにも載っていないルート制御でも働いているのか!? それとも妖精さんの恨みでも買ったのか!?」
提督「それとも・・・扶桑! やはりお前たち不幸姉妹の仕業か!」
扶桑「いっ、いえ! そんなことは・・・・・・」
提督「もうそれ以外に考えられない! 思えばお前たちが来てから悪いことばかりが起きる!」
提督「戦艦は出ない、空母は出ない、大型艦建設で重巡が3連続で出る、うっかり龍驤を轟沈させてしまう・・・・・・」
提督「そしてこの羅針盤だ! 2-4回しをしてるんじゃないんだぞ! 俺は突破したいんだ!」
提督「仮に2-4回しをしてると考えても、ドロップの引きが悪すぎる! もう那珂ちゃんの顔は見飽きたんだよ!」
扶桑「わかっています! ですから、私達も必死に・・・・・・」
提督「何が必死だ! 今まで何度ボスにたどり着けた!? たったの3回だ! そしてその時に限って敗北している!」
提督「もうお前たち不幸姉妹が、艦隊そのものの運を下げているとしか思えない!」
扶桑「そ、そんなことはありません! 次は必ず突破してみせます! ですから・・・・・・」
提督「もういい、聞き飽きた! ああ、くそ・・・・・・だが、お前たちがうちの主力であることに変わりはない」
提督「お前たちにちなんだ艦隊名にしたのも、それだけ期待しているからだ。次は必ず責務を果たせ」
扶桑「は・・・・・・はい。必ず」
提督「もし、次も失敗するようなら・・・・・・お前をケッコンカッコカリ第一候補から外す。いいな」
扶桑「・・・・・・ッ!」
提督「俺はもう休む。お前たちも早めに入渠しておけ。下がっていいぞ」
扶桑「・・・・・・はい」
どんよりと暗い表情で、扶桑さんが執務室から出ていきます。その背中は心なしか小さく見えてしまいます。
提督「電。悪いがハッピーラッキー艦隊の補給処理を任せていいか」
電「はいなのです。あ・・・・・・燃料の備蓄が残り僅かなので、もしかしたら足りないかもです」
提督「那珂ちゃんは1号を除いて何人いる?」
電「えっと・・・・・・今日の出撃でまた1人着任されたので、6人です」
提督「すべて解体しろ。それで足しになるはずだ。それでも足りなければ赤城のメシを抜け。あいつは食い過ぎだ」
電「はいなのです・・・・・・・」
それだけ言うと、提督はぐったりと頭を落とし、もう何も言わなくなってしまいました。
沖ノ島海域が突破できないことで、だいぶ疲れがたまっているみたいです。
それにしても、嫌な任務を申し付けられてしまいました。
気が進みませんが、まずは補給に必要な量の確認のため、帰投したハッピーラッキー艦隊のドックへ向かいます。
ハッピーラッキー艦隊。元の名前は「不幸艦隊」でしたが、あまりにも縁起が悪いため、提督が改名しました。決して皮肉ではないのです。
その名の通り、通称「不幸姉妹」と呼ばれる扶桑さんと山城さんの2人を旗艦とする、鎮守府の主力艦隊です。
残る4人のメンバーは、正規空母の赤城さん、軽空母の隼鷹さん、航空戦艦の伊勢さん、高速戦艦の金剛さんです。
山城「おかえりなさい、お姉さま。提督に酷いこと言われませんでしたか?」
扶桑「山城・・・・・・やましろおおおおおおおぉぉぉぉ!」
ドックから扶桑さんの泣き声が聞こえてきます。提督さんが辛いように、扶桑さんもまた辛いのです。
扶桑「どうして・・・・・・どうしてこうなってしまうのよぉ・・・・・・! せっかく旗艦を任されたのに、こんなはずじゃ・・・・・・」
山城「お姉さま・・・・・・お姉さまのせいじゃありません。私が欠陥戦艦だから・・・・・・」
扶桑「いいえ、私が悪いのよ。私なんかに旗艦が務まるわけなかったのよ・・・・・・」
扶桑「うう、ごめんね山城。私のせいで、あなたまで不幸姉妹呼ばわりされてしまって・・・・・・」
山城「そんな、それこそお姉さまのせいじゃありません! 私がことあるごとに『不幸だわ』って呟いてしまうから・・・・・・」
隼鷹「それは言えてるよね~。山城ちゃん、アイテム発見のときにすら『不幸だわ』って言うし。いやーほんとキャラ立ってるわ~」
笑顔で話しかけてきた隼鷹さんを、山城さんがギロリと睨み返します。
隼鷹さんの良いところは、周りが暗くても明るさを損なわないところですが、それは逆に空気が読めないという欠点でもあります。
山城「隼鷹さん・・・・・・今日はお洋服がきれいね。昨日はボロボロになって帰投してたのに」
隼鷹「いや~私、装甲紙だからさー。それは言わないでくれよ~」
扶桑「・・・・・・隼鷹さん。あなた、もう少し自覚を持ったほうがいいのではないかしら」
隼鷹「え、自覚? なんの?」
扶桑「あなたが艦隊の足を引っ張っている、ということよ。自分で気づいていなかったのかしら?」
隼鷹「あ・・・・・・いや、私なりに頑張ってはいるんだけどさ。元が軽空母だから、なかなか上手くいかなくて・・・・・・」
扶桑「言い訳は聞きたくないわ。これまでの沖ノ島攻略で、あなたの大破によって帰投せざるを得なくなったことが5回ありました」
扶桑「提督のお叱りを受けるのは、旗艦である私なのよ? これ以上、私の顔に泥を塗らないでくれるかしら」
隼鷹「う・・・・・・うん、わかってるよ。努力はするからさ」
扶桑「努力してるのはみんな一緒です。私と提督が欲しいのは結果、それがわからないの?」
隼鷹「いや、そんなことない、そんなことないよ。もうヘマしないからさ、勘弁してよ、扶桑ちゃん。この通りだからさ、な?」
扶桑「・・・・・・ふん」
扶桑さんが隼鷹さんに辛く当たるのには理由があります。
それは、隼鷹さんが鎮守府の主力艦の中では最古参であると同時に、ケッコンカッコカリ第二候補の艦娘だからなのです。
隼鷹さんに対する提督の愛着は強く、軽空母でありながら主力として扱われていることからも伺えます。
もっとも、それは提督が赤城さん以外の正規空母を未だに引けていないのが原因なのですが・・・・・・
最古参であるため、LVも全艦娘の中で最も高く、度重なる改造も受けています。
軽空母なので、新しく正規空母の艦娘さんが着任すれば、主力艦隊からは外れる可能性もありますが、
それでも2軍のエースの座は約束されています。
あるいは扶桑さんより先にLV99に到達してしまい、ケッコンカッコカリの座を奪われるかもしれない・・・・・・
そのことを何よりも恐れている扶桑さんは、いつまで経っても隼鷹さんには冷たいままです。
金剛「みんな、元気出しなヨー! 扶桑も、暗い顔じゃ提督にますます嫌われてしまいマース!」
扶桑「金剛・・・・・・!」
金剛「それに、いくら提督に叱られたからって、八つ当たりは良くないデース!」
扶桑「八つ当たり、ですって・・・・・・ッ!?」
金剛「そうデース!隼鷹ちゃんをいじめるヒマがあったら、その傷んだ艦橋でも磨いておくべきデース!」
山城「なっ・・・・・・!」
金剛「Oh、Sorry! そのだるま落としみたいな艦橋、磨こうとしたらガラガラ崩れちゃうネー!」
金剛「扶桑の艦橋Brokenに巻き込まれないよう、山城も注意・・・・・・Shit! 山城の艦橋もジェンガみたいデース!」
扶桑「金剛・・・・・・! よくも、そんな口が私に利けたものね・・・・・・ッ!」
山城「不幸だわ・・・・・・!」
戦艦の中では一番の新顔、金剛さんは扶桑さん、山城さんと仲が悪く、よくこうして2人を煽っています。
どうやら提督LOVE勢なので、提督のお気に入りである2人に嫉妬しているみたいです。隼鷹さんとはそうでもないみたいですが。
不幸姉妹も金剛さんを嫌っています。それは煽ってくることとは別の理由があります。
扶桑「言っておくけど、あなたも艦隊の足を引っ張っている一人なのよ?」
金剛「What? 意味がワカリマセーン! 私、まじめに戦ってマース!」
山城「それ、冗談のつもりですか? あなたが大破したせいで帰投しないといけなくなった回数、隼鷹さんより多いんですから!」
金剛「Oh、それは仕方がないデース! だって私、みんなと違ってまだ若いネ!」
山城「LVが低いだけでしょ! 本当はおばあちゃんのくせに!」
金剛「それは前世の話ネ! 今は設定上、みんなより年下デース!」
扶桑「あら、そう。私、おばあちゃんだから弾が避けられないのだと思っていたわ。あなたの被弾率、異常だもの」
金剛「それはきっと2人のせいデース! 2人の不幸オーラで、私の運まで悪くなっていマース!」
扶桑「なんですって! 言うことに欠いて、このイギリス女・・・・・・!」
金剛さんは2人に比べ着任が大きく遅れたため、LVがまだ足りていないのは事実です。
ですが、それを考えても彼女の大破率は高く、提督が頭を抱える要因の一つです。
耐久が足りない、というのならわかります。ですが、戦闘の内容を見るに、彼女は他の艦と比べてやたら敵の攻撃を受けています。
そして、それを回避できていない。そのために大破、帰投を繰り返しているようなのです。
金剛さんの回避力は決して低くありません。むしろ扶桑さん、山城さんよりよっぽど高いくらいです。
それでも攻撃を受け、すぐ大破する。回避力はあくまで確率なので、そういうことも起こりえるのですが・・・・・・
扶桑「あなたの狙いはわかっているのよ! わざと大破して、その貧相な裸体を提督にアピールしてるんでしょう!」
扶桑「けれど残念だったわね。提督は巨乳属性よ。あなたのような貧乳に興味は示さないわ!」
金剛「Fuck! 私は貧乳じゃなくて美乳ネ! 提督もじきにこの美乳の良さに目覚めるはずデース!」
山城「とうとう本音が出たわね、このエセ帰国子女! その半端な外人訛りが鼻に付くのよ!」
金剛「なんだとこのFuckin Cunts! あんたたちこそ、大破グラの必死さに呆れてしまいマース! 脱げばいいってもんじゃないデース!」
扶桑「あなたの大破グラのほうがよっぽど必死よ! 露骨に女の子座りして、あざといったらないわ!」
金剛「黙れBitch! こっちも必死デース! お前のようなお化け艦橋に提督は渡さないデース!」
扶桑「言わせておけば、この紅茶中毒・・・・・・!」
伊勢「や、やめようよ、みんな。私達は同じ艦隊の仲間でしょ? もっと仲良くしようよ。な、金剛」
金剛「うるさいネ! 邪魔するなデース!」
伊勢「そんな・・・・・・旗艦の扶桑ならわかってくれるよね? 私達はこんなふうに争うべきじゃない、そうでしょ?」
扶桑「・・・・・・」
伊勢「あの・・・・・・ほら、山城からも何か言ってよ」
山城「・・・・・・」
伊勢「えっと、その・・・・・・」
伊勢さんは、いい人です。仕事もちゃんとこなしてますし、大破することもほとんどありません。悪いのは、着任したタイミングと艦隊です。
戦艦の中では最初に山城さん、翌日に扶桑さんが着任し、1週間もの間を開けて伊勢さんがやって来ました。
ちなみに金剛さんが来たのはその2週間も後です。不幸姉妹がドロップ率を下げている疑惑はこのときから始まっています。
御存知の通り、扶桑さんは前世の記憶から日向さん、伊勢さんに対抗意識を持っていて、それは山城さんも同じです。
ですから、2人は新しく艦隊に配属した伊勢さんを徹底的に無視しました。
当時、まだ艦隊名が「不幸艦隊」だった頃、そのメンバーは隼鷹さん以外、みんな重巡洋艦でした。
重巡の子が戦艦である扶桑さんに逆らえるはずもなく、みんなも伊勢さんを無視することを強要されていました。
あの頃が一番辛かった、そう伊勢さんは語ります。まだ見ぬ日向さんのことが恋しくて、夜中、何度も一人で泣いたそうです。
今はメンバーも変わり、状況はある程度改善されていますが、扶桑さん、山城さんに無視されていることに変わりはありません。
できれば助けてあげたいのですが・・・・・・下手に手を出すと、私まで標的にされてしまうのです。
赤城「あら、電さん。来てたんですか?」
電「あ、赤城さん。お疲れ様なのです。補給量の確認に来たんですが・・・・・・」
赤城「ああ、なるほど。みんながいつものようにケンカしてるから、なかなか近づけなかったんですね」
電「はい。もっと仲良くしてくれるといいんですが・・・・・・」
赤城「そうですね。はい、これ。みんなの補給量の詳細です。帰ってきてからすぐチェックしておきました」
電「あ、ありがとうなのです。助かりました・・・・・・あ、赤城さんの必要補給量、桁が一個多いですね。修正しておきます」
赤城「・・・・・・・・・・・・チッ」
赤城さんは艦隊の争い事には関わりを持とうとしません。たぶん、食べること以外に興味がないんだと思います。
戦闘においては、やはり正規空母なので、艦隊の中では一番仕事をしています。
ハッピーラッキー艦隊の裏番的存在かもしれません。
電「えっと、赤城さんと他のみなさんの分を足して・・・・・・あ、やっぱり足りないみたいです」
赤城「足りないって?」
電「実は燃料の備蓄が少なくて、全員には行き渡らないのです」
赤城「そうなんですか。私の分はありますよね?」
電「あの、言いにくいんですが・・・・・・足りなかったら、赤城さんのご飯を抜けと提督に言われてて・・・・・・」
赤城「・・・・・・電さん」
赤城さんは静かに手を伸ばし、そっと私の頬に触れました。冷たい手のひらが愛でるように私を撫でます。
表情は笑顔のままですが、その瞳は真冬の海のように冷たく、本当は笑っていないことが明白でした。
赤城「私の分は、ありますよね・・・・・・?」
電「あ、あの・・・・・・少しだけ待ってください。すぐ用意しますから」
赤城「急いでくださいよ? 私、お腹が空いてしまいました」
私は逃げるようにハッピーラッキー艦隊のドックから離れました。というか逃げました。
お腹の空いている赤城さんと出会うことは、飢えた獣に出くわすことと同義です。
生き延びるためには、食料を持っているならそれを渡すか、ないなら逃げるしかありません。
そうしなければ、食料になってしまうのは自分自身なのです。
さて、赤城さんから離れることはできましたが、このまま補給を怠っていると、本当に私が食料にされかねません。
とても憂鬱なのですが・・・・・・予定通り、那珂ちゃんを解体しに行きたいと思います。
続く
38 : ◆hJ5a7d.jWc - 2015/07/05 02:49:34.08 LQi+CviE0 13/76トリ変えました。
電ですが、鎮守府の空気が最悪なのです2 NAKA48編
那珂「やっほー! 艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー!」
電「初めまして、秘書艦の電です。それじゃ、お部屋に案内しますね。こちらです」
那珂「あれ、あっちじゃないの? 他の着任した子たちは向こうに案内されてたけど」
電「実は、那珂ちゃん専用のお部屋があるんです」
那珂「うそ!? それって期待されてるってこと? やったー! 那珂ちゃん、センター確定!」
那珂ちゃんは着任直後、みんなこうした反応を取ります。それがとてもとても辛いのです。
那珂ちゃん専用部屋があるのは事実です。期待されていたこともある意味本当です。
それは病んだ提督による、屈折した思いつきによって産まれた代物なのでした。
電「・・・・・・こちらです」
那珂「ここって・・・・・・うそ!?」
その部屋の表札には、「NAKA48」のきらびやかな文字が踊っていました。
那珂「これって・・・・・・本当に那珂ちゃん、艦隊のアイドルデビュー!? すっごーい、48人もメンバーがいるの? 那珂ちゃんはその中のセンター!?」
電「えっと、詳しくは中で説明しますね」
那珂「りょーかい! 初めましてー! 艦隊のトップアイドル那珂ちゃん、ただいま着任しま、し・・・・・た・・・・・・?」
扉を開けた那珂ちゃんは凍りついてしまいました。
それもそのはずです。部屋の中には自分と同じ川内型3番艦、軽巡洋艦那珂ちゃんが6人もいたのですから。
6人の那珂ちゃんはまったく同じではありません。
うち5人はみな表情がうつろで、椅子に座ってぐったりとしていたり、部屋の隅で膝を抱えて丸まっていたりしていて、動く気配がありません。
そして1人だけ表情の明るい那珂ちゃんが、入ってきた私達を見て嬉しそうに駆け寄ってきました。
那珂壱号「やっほー! 新しい那珂ちゃんだね? よっろしくー!」
那珂「え、えっと・・・・・・え?」
那珂壱号「うーんとね、あなたは・・・・・・拾八号! これからは拾八号ちゃんって呼ぶね! それじゃあ、そこら辺で適当にしてて!」
那珂拾八「あ、あの、どういうことですか? 拾八号って何なんですか?」
那珂壱号「あなたは18人目ってことだよー!」
那珂拾八「・・・・・・あっ」
那珂ちゃん(18人目)は事態を悟り、愕然としました。
そうです。ここはアイドルの控室などではありません。この部屋は、那珂ちゃん専用の流刑地なのです。
あるところに、合成や解体で艦娘を消すのは可哀想だと考える、心優しい新人提督さんがいました。
ですが、戦艦や空母が欲しくて建造、ドロップ狙いの出撃を繰り返すうちに、鎮守府には同名鑑が幾人も増えていきます。
特に、那珂ちゃんは大量に出ました。
軽巡自体が珍しかった最初期こそ喜んで艦隊に加えていましたが、戦艦が台頭してくる頃にはただの悪夢でしかありません。
10人目の那加ちゃんが鎮守府に着任した時、提督さんはうつろな笑みを浮かべながらこう言いました。
提督「そうだ。那珂ちゃんを48人集めてNAKA48を作ろう」
そうして提督さんの那珂ちゃん集めが始まりました。那珂ちゃんが出るたびに漏らしていた溜息は、一時的に歓喜の奇声へと変わります。
13人目の那珂ちゃんはなけなしの物資を投入した、空母狙いの建造で出ました。そのときに提督さんは短い夢から覚めたそうです。
那珂拾八「あの・・・・・・那珂ちゃん、どうなるんですか?」
電「言いにくいんですが・・・・・・ごめんなさい。ほかの5人の那珂ちゃんと一緒に、今日で解体が決まっているのです」
那珂拾八「そ・・・・・・そんな・・・・・・」
那珂壱号「そっか、ようやくって感じだね! 拾八号ちゃん、はじめまして&さよーならー!」
夢から覚めた提督さんは、非情な合理主義者に変貌していました。
提督「ダブった艦娘はすべて解体しろ。那珂ちゃんも例外ではない。すべてだ」
そう言い放ち、大量にいた同名鑑の一斉解体が始まりました。合成、解体を嫌った心優しい提督さんはもう、どこにもいません。
鎮守府の30人近い艦娘を解体するその様は、さながら地獄絵図のようです。
5人くらいいてにゃーにゃーと鳴き合い、まるで猫カフェの様相を呈していた多摩さんも1人になり、それ以来、彼女はめっきり無口になりました。
当然、那珂ちゃんたちも解体されました。しかし、あまりに数が多すぎたため、提督さんは途中で面倒になってしまったようです。
このうつろな目をした4人の那珂ちゃんは、そうして大した理由もなく解体を免れました。
彼女たちは、提督さんがふと思いついたポエムを走り書きし、直後に我に返って捨ててしまったノート紙の切れ端のようなもの。
いわば、残りカスなのです。
那珂拾八「そんな・・・・・・! 那珂ちゃんたち、みんな解体されちゃうの!?」
電「えっと、みんなではないのです。あの那珂ちゃんは1人目なので、解体されることはありません」
那珂壱号「そうっ! 那珂ちゃんだけがセンター!」
那珂拾八「ちゃ、チャンスをください! 那珂ちゃんだって、役に立つんだってことをアピールするチャンスを・・・・・・」
電「あの・・・・・・ごめんなさい。決まったことなので・・・・・・そういうわけで、壱号さん以外の方、集まってください」
そう呼びかけると、動く気配のなかった5人の那珂ちゃんたちはゆっくりと起き上がり、幽鬼のような足取りでこちらへ向かってきます。
ずっと放置されていたせいか、動くことも辛そうです。
でも、その表情はうつろではなくなっていました。それは、まるで救われたかのような、穏やかで・・・・・・それでいて寂しい笑顔でした。
電「それでは、ついてきてください。あ、それから壱号さん。この部屋は倉庫に改築するそうなので、荷物を引き払っておいてください」
那珂壱号「はいはーい! それじゃ、九号ちゃん、拾弐号ちゃん、拾参号ちゃん、拾六号ちゃん、拾七号ちゃん、それから拾八号ちゃん。さよーならー!」
那珂拾八「うっ、うっ・・・・・・やだよぅ、解体されたくないよぅ。歌ったり、踊ったりしたかったよぅ・・・・・・」
那珂壱号「あなたの分まで那珂ちゃんがやったげる! やったー! これで那珂ちゃんは1人だー!」
那珂壱号「もう壱号なんて呼ばれることもないぞー! また同名鑑が来たら、自分で解体してやろーっと!」
部屋にたった一人取り残され、壱号さんは嬉しそうにはしゃぎ回っていました。
鎮守府に同名鑑の解体という嵐が吹き荒れていた、あの頃。
唯一生き残ることが約束された那珂壱号さんは、次々と解体される自分を、解体すらされずに放置される自分を見て、何を思っていたのでしょうか。
5人の那珂ちゃんは、自分が無用の存在だと知ったことにより、心を捨てて生きる屍と化しました。
ただ1人特別だった那珂壱号さんも、あるいは・・・・・・あの解体の嵐の中で、心を壊してしまっていたのかもしれません。
那珂拾八「うっ、ぐすっ・・・・・・」
那珂ちゃん(18人目)は、もう何も言いません。自分の運命を悟ってしまったのでしょう。
着任した時は、あんなに楽しそうだったのに・・・・・・それは、ほかの5人の那珂ちゃんにも言えることです。
ダブった艦娘同士が嬉しそうに話す姿を見て、微笑んでいた頃の提督さんのことが頭によぎりました。
もう、あのころの提督さんには戻ってくれないんでしょうか・・・・・・?
電「・・・・・・着きました。この扉の向こうです」
鎮守府の最奥、「解体室」と書かれた、大きな鉄の扉の前に私達はやって来ました。
この扉の向こうに行って、戻って来た艦娘は・・・・・・1人もいません。
私が触れると、扉は鈍く大きな軋みを上げながら、ゆっくりと開いていきました。
その向こうは真っ暗で、何一つ見通すことはできません。私自身、この中のことはほとんど知らないのです。
電「それでは、奥に進んでください。中に妖精さんがいるそうなので、その子たちの指示に従ってください」
那珂拾八「はい・・・・・・それじゃ、短い間だったけど、さようなら。電ちゃん」
寂しく微笑んで、那珂(18人目)ちゃんは、ほかの那珂ちゃんと一緒に扉の奥へ進みます。
奥へ。奥へ。那珂ちゃんたちのシルエットは徐々にぼやけ、まるで闇に飲み込まれていくかのようでした。
私はその後ろ姿をずっと見つめていました。その脳裏には、さっきの寂しそうな笑顔がこびりついて離れません。
ぎゅうっと胸が締め付けられるように苦しくなって、私は耐え切れずに叫びました。
電「あ・・・・・・あのっ!」
突然大声を上げた私を、那珂(18人目)ちゃんだけが振り返ります。
その表情は、すでに周りの那珂ちゃんと同じ・・・・・・うつろなものに変わっていました。
那珂拾八「・・・・・・なに?」
電「あの、その・・・・・・」
電「私・・・・・・もしも那珂ちゃんが生まれ変わって、アイドルデビューしたら・・・・・・」
電「絶対、見に行きますから! 那珂ちゃんのライブ、楽しみにしてます!」
私の言葉は、どれだけ那珂ちゃんに届いたのでしょうか。
那珂ちゃんは少しだけ呆気に取られて、それから・・・・・・今日一番の笑顔で、私に手を振りました。
那珂拾八「・・・・・・うん! 次はステージで会おうね! 那珂ちゃんのライブ、よっろしくー!」
それはまるで、アイドルのような―――太陽みたいに、眩しい笑顔でした。
那珂ちゃんたちは闇に消え、再び軋みを上げながら鉄の扉が閉まります。もう、二度と開いてほしくありません。
電「・・・・・・きっと、これでよかったのです」
どうか、次はアイドルに生まれ変われますように。そっと祈りを捧げました。
もう少し感傷に浸っていたいのですが、そうもしていられません。
まだハッピーラッキー艦隊の補給は完了していないのです。那珂ちゃんたちの解体で、少しは燃料が増えたはずなのですが。
確認のため、工廠へと向かいます。悲しむヒマもないくらい、秘書艦のお仕事はとても忙しいのです。
できれば、たまには・・・・・・お休みが欲しいのです。
79 : ◆hJ5a7d.jWc - 2015/07/12 01:00:23.86 fZL9PryM0 21/76電ですが、鎮守府の空気が最悪なのです3 忘れられた艦娘
提督「なんだ、電。ハッピーラッキー艦隊の補給は終わったのか?」
電「提督さん? 今日はもうお休みになられたんじゃないんですか?」
工廠に行くと、そこには提督さんがいらっしゃいました。疲れた顔で、装備の点検をしているようです。
提督「なに、明日の計画だけでも立てておこうと思ってな。やることは大して変わらんのだが」
電「・・・・・・明日も、開発と建造を?」
提督「ああ。ギリギリまで行う。いい砲塔でも作って扶桑たちに載せれば、2-4突破率も上がるだろうしな」
提督さんはそう言いますが、今まで開発で有力な装備が作れたことは一度もありません。
私が思うに、提督さんの欠点は2つあります。絶望的に引きが悪いこと、そして諦めが悪いことです。
提督「明日こそ、何かいいものが出そうな気がするんだ。これだけ失敗しているんだ、一度くらいは・・・・・・」
提督さんが開発に凝り始めたのは、1-5に苦戦していた頃でした。
対潜水艦に効果的な攻撃手段を持たなかった艦隊のために、ソナーか爆雷を作ろうとしたのがきっかけです。
ソナー、爆雷はごく少量の資源でも作ることが可能です。最初は開発資材が減るだけで、資源には余裕がありました。
しかし、提督さんの引きの悪さは半端ではありません。作っても、作っても、出てくるのは九六式艦戦ばかりです。
業を煮やした提督さんは、レシピを変更し、日に何度も大量の資源を投入するようになりました。
その上、開発の裏では建造も行っています。狙いは戦艦と空母。ときには重巡しか出たことのない大型艦建造にまで挑戦します。
当然、膨大な資源が必要です。
1-5を由良さんと五十鈴さんがあっさり攻略した後も、資源が枯渇するまで開発、建造を行うという日課を提督さんは繰り返しています。
おかげで出撃から帰ってきた艦隊の補給、修理分の資源がなくなるほど、鎮守府は慢性的な資源不足に悩まされるようになりました。
きっと提督さんは、パチンコにハマると素寒貧になるまで持っていかれるタイプの人だと思うのです。
提督「それより、電は何しに工廠へ来たんだ」
電「あ、それが・・・・・・やっぱり燃料が足りなかったので、那珂ちゃんたちを解体して・・・・・・」
提督「ああ、得た資源の確認か。少し待て」
提督さんは慣れた手つきで工廠の設備を動かし、新たに得られた資源をドックへと搬入していきます。
提督「どうだ、足りるか?」
電「えっと・・・・・・あ、ほんの少しだけですけど、まだ足りないみたいです」
提督「まだいるのか・・・・・・仕方ないな、赤城のメシを抜け」
電「はわわわ・・・・・・そ、それはやっぱりかわいそうなのです」
提督「そうか? あいつの食事量は明らかに度を越している。たまに抜くくらいがちょうどいいと思うんだがな」
電「で、でもでも、赤城さんはそのぶんがんばっています。赤城さんが来てくれてから、戦いもすごく楽になりましたし」
提督「むう、それももっともではあるな・・・・・・」
本当は、私も赤城さんは食べ過ぎだとは思っています。
だけど、提督さんは気づいていないのです。赤城さんが空腹の時に、何が起きているかを。
補給のための資源がないとき、ときおり妖精さんの数が減ることがあります。ダブっている駆逐艦の子が、ひとりでにいなくなることがあります。
偶然だとは思いません。その直後に赤城さんを見かけると、少しばかり満足気な表情になっているからです。
赤城さんの食欲は底なしで、それを満たすためなら何をするかわかりません。
空腹を満たすために、赤城さんは妖精さんや駆逐艦の子を食べているかもしれない。私には、それがそこまで突飛な発想だとは思いません。
むしろ、あの人ならそれくらいはやるだろうと思います。
赤城さんに食べられるなんて、考えられる限りで艦娘として最悪の最後ではないでしょうか。
おそらく鎮守府において、赤城さんの凶行を止められる人はいません。ならば、出来る限り彼女に満足していただく他にないのです。
電「どうにかならないですか? あと少しなんですけど・・・・・・」
提督「仕方がないな。こいつを処分するか」
提督さんは工廠のタッチパネルを操作し始めました。すると設備が動き出し、カーンカーンと何かを解体する音が響きます。
提督「よし。これで足りるだろ」
電「何を解体したんですか?」
提督「開発で溜まってた九六式艦戦と7.7mm対空機銃を全部破棄した。使うことはまずないからな」
電「はあ・・・・・・」
確認したら、相当な量の資源が増えていました。一体どれだけ破棄したんでしょうか。
というか、始めからこうしていれば那珂ちゃんを解体しなくて良かったのでは・・・・・・?
そもそも、こんな開発で資源を無駄にしなければ、補給に困るような事態にもならなかったように思えてなりません。
提督「それじゃ、補給が終わったらお前も休んでいいからな。俺はもう少し続けるから」
電「わかりました。ありがとうございますなのです」
ともかく、これで資源は足りました。いろいろと思うことはありますが、ようやくお仕事を終わらせられるのです。
電「はあ・・・・・・」
赤城さんに補給量が少ないと難癖を付けられるトラブルはありましたが、どうにか無事補給を完了しました。
補給すらスムーズにこなせない鎮守府はどうなのかと正直思います。提督さんは、その辺りどう考えているのでしょうか。
今日は少し疲れてしまいました。私も早めに休んで、明日に備えようと思います。
夜も更けてきました。にもかかわらず鎮守府内は寝静まる気配すら見せず、むしろ活気を増しているようにすら感じます。
提督さんが夜更かししてお仕事をしているから、ではありません。鎮守府ではいつもこうなのです。
この時間になると、艦隊が活動している間は何もしていない艦娘たちが活発に動き始めます。
この鎮守府の方針は「少数精鋭」。裏を返せば、遠征艦隊にすら所属していない大半の艦娘たちはやることがありません。
提督さんにも忘れ去られた、無数の放置艦。彼女たちが、夜通しで退屈しのぎを始めるのです。
歩くにつれて、騒がしい声が大きくなってきました。このあたりは、重巡洋艦の人たちの溜まり場になっている場所です。
那智「止めるな妙高! あと一瓶、あと一瓶だけ飲ませてくれ!」
妙高「那智さん、ダメです! もう夕方から飲み続けているじゃないですか! これ以上は体に毒です!」
那智「うるさい、飲まずにいられるか! 出撃も、演習すらないぬるま湯のような日々・・・・・・せめて飲む楽しみくらいあっていいだろう!」
妙高「気持ちはわかります。でも、そんなに飲んで体を壊したら、いざ出撃を命じられても戦えませんわ」
那智「ふん、どうせ出撃する機会なんて2度と巡ってこないさ! 私が鎮守府のNO.2だったのも、もう過去の話だ!」
足柄「はーい皆さん、注目! どう? この精悍なボディ!」
妙高「あ、足柄さん! 何をしてるんですか、服を着てください!」
那智「ハッハー! いいぞ足柄! さすが鎮守府の元NO.1だ、アッチのほうまで餓狼だな!」
足柄「当然よ! さーて、このままブランデーの一気飲みよ!」
妙高「やめてください、足柄さんまで! そんなことしてたら、戦闘で勝利することもできなくなりますよ!」
足柄「なによ、知ったような口を聞いて! もう、そんなのどうだっていいのよ!」
足柄「もう戦闘も、勝利も私を呼んでくれない! あんなに愛してくれた提督すら私を見捨ててしまったわ!」
足柄「うう、どうして・・・・・・どうしてよぉぉ! 提督、どうして私を捨てたのよぉぉぉ!」
妙高「そ、そんなことありませんよ。きっと、いずれまた艦隊を任される日が・・・・・・」
足柄「そんな希望を抱かせるようなことを言うのはやめて! もう私を呼んでいるのはお酒だけなのよ!」
那智「まったくだ! おい妙高、高雄と愛宕を連れて来い! 我々に残されているのは酒と女だけだ!」
妙高「なんで那智さんまで全裸になってるの!?」
足柄「そうだわ妙高、ドックから整備用オイルを持って来なさい! 全身に塗りたくって、みんなでトルコ相撲を取りましょう!」
那智「名案だ! その勝負、受けて立つぞ!」
妙高「全然名案じゃないですわ! 羽黒さん、一緒に止めて・・・・・・何してるの!?」
羽黒「もういや、もういやだ・・・・・・出撃したくない、私に構わないで・・・・・・」
妙高「ひ、ひとまずそのカミソリから手を放しなさい。早まらないで、ね?」
那智「おい羽黒、お前もさっさと脱げ! これからトルコ相撲を取るんだぞ、グズグズするな!」
足柄「あら、ちょうどよくカミソリがあるじゃない。これでその邪魔な衣服を切り裂いて差し上げますわ!」
羽黒「きゃああっ、だめぇぇ! 見ないで・・・・・・見ないでぇぇぇ!」
妙高「あああっ、もうあなた達、手に負えませんわ!」
重巡洋艦さんたちは、かつて艦隊の花型でした。
駆逐艦、軽巡、重巡しか艦隊に配備されていなかった頃、重巡は他2つの上位互換だと提督は認識し、主力艦隊も重巡をメインに構成されました。
そのときの艦隊名は「餓狼艦隊」。足柄さんと那智さんがツートップを務める重巡洋艦隊でした。
特に当時のメンバーの中で足柄さんの活躍は目覚ましく、提督さんはケッコンカッコカリ候補に足柄さんを考えるほど彼女を寵愛していました。
しかし、戦艦である扶桑さん、山城さんが来てからすべてが変わります。
戦艦の火力と装甲は、提督の価値観を一変させるには十分過ぎるものでした。
このとき初めて、提督さんは艦種の特性というものを真面目に考えます。
特性を考えたとき、重巡は火力、装甲において戦艦に劣り、雷撃戦も大きな威力は見込めず、対潜能力もありません。
さらに燃費の良さも軽巡、駆逐艦に負けるとなれば、もはや重巡が活躍できる舞台は残っていませんでした。
餓狼艦隊は解散となり、鎮守府のツートップは扶桑さん、山城さんに取って代わります。
艦隊名がハッピーラッキー艦隊に変わった後も、数合わせとして足柄さん、那智さんは出撃する機会があったのですが・・・・・・
戦艦、空母がある程度揃ってしまった今、重巡洋艦である彼女たちの出番は全くなくなり、とうとう放置艦の仲間入りをしてしまうのでした。
ただし、羽黒さんだけはときどき出撃させられています・・・・・・大破ボイスを聞きたいという、提督の暗い欲求のために。
以来、重巡洋艦の人たちは酒浸りの日々を送っています。
見つかるとお酒を飲まされそうになってしまうので、なるべく関わりあいにならないよう早く通りすぎてしまいましょう。
重巡洋艦の溜まり場を通り過ぎると、今度は軽巡洋艦と軽空母の人たちの賑やかな声が聞こえてきました。
木曾「さあ! 丁か、半か!」
祥鳳「丁! 丁よ!」
木曾「キソソソソっ! 残念、半だキソ! 掛け金のボーキサイトは没収させていただくでキソ」
祥鳳「あぁあああっ、そんなぁ! 全然勝てないじゃない、絶対イカサマでしょこれ!」
木曾「龍田姐さん、負け犬がほざいてるでキソ。どうするでキソ?」
龍田「あらあら、自分の不運を人のせいにするなんて、ずいぶん育ちが悪いのね。しつけ直してあげましょうか?」
祥鳳「ひいっ! す、すみませんでした、勘弁して下さい!」
龍田「物分りだけはいいのね。さあ、賭けるものがないならさっさと帰ったら?」
祥鳳「ま、待ってください! これ、鋼材ならいくらかあるので、これをボーキと交換してくれませんか!」
木曾「キソソソソっ! これっぽっちの鋼材じゃお話にならないでキソ」
祥鳳「そこをなんとかっ!」
龍田「その懐にある鋼材、全部渡すなら考えてあげるわよ?」
祥鳳「なっ! う、うう・・・・・・くそっ、これでいいんでしょ!」
木曾「キソ。それじゃ、また勝負するでキソか?」
祥鳳「当たり前よ! 次は絶対に負け分を取り返して見せるわ!」
どうやらボーキサイトをチップとした賭博が流行っているみたいです。
ところであの資源、どこから持ってきたのでしょうか? 鎮守府の資源は厳重に管理されて・・・・・・
いえ、管理されてないですね。いつも枯渇状態なので、普段より減っていても提督さんは気が付かないと思います。
これはさすがに報告したほうがいいのかもしれません。ただでさえ資源が足りないのですから、もっと大切にしてもらわないと。
龍田「あら~? 電ちゃんじゃない。今日はもう、お仕事終わり?」
電「あ、は、はい。今から自分の部屋に帰るところなのです」
龍田「そうなの? よかった~。賭場のことを提督にチクりに行くんじゃないかって、心配したわ~。もしそうだったら殺していたわよ~」
電「そそ、そ、そんなことしないです。遊びだって必要なことですから!」
龍田「でしょぉ? 電ちゃんも遊んでいったら?」
電「え、遠慮しておきます。明日も早いので・・・・・・」
龍田「いいじゃない、少しくらい。ボーキサイト、お安く貸してあげるわよぉ?」
どうしましょう、軽巡洋艦を仕切っている龍田さんにつかまってしまいました。
このままでは資源横流しの片棒を担がされてしまうかもしれません。どうにかして逃げなければ・・・・・・
北上「あ、大井っち。こんなとこにいたんだ。探したよ~」
龍田「あら、天竜ちゃん。いま電ちゃんを賭博に誘っているところなの。手伝ってくれない?」
北上「そうなんだ。やっほー電ちゃん」
電「こ、こんばんは・・・・・・北上さん。その、龍田さんと仲良しなんですね」
北上「あはは、大井っち、電ちゃんに名前間違えられてるよ~」
龍田「あらあら。電ちゃん、この子の名前は天竜ちゃんよ? ちゃんと覚えておかなくちゃ~」
北上「それより大井っち、一緒にお風呂行かない? 背中の流しっこしようよ」
龍田「あら、いいわね~それ。そっちに行こうかしら。じゃあ電ちゃん、賭博はまた今度にしましょうね」
電「は、はい。さようなら」
龍田「さよ~なら。それじゃあ天竜ちゃん、行きましょうか」
北上「うん。大井っちタオル持ってる?」
・・・・・・行ってしまいました。
あの2人は、提督さんが「いない姉妹艦を呼び続ける病」の治療を試みた、その成果と言うべきものです。
「いない姉妹艦を呼び続ける病」の治療法は唯一、姉妹艦を着任させてあげることですが、根本的な治療法はないとも言われています。
事実、すでに姉妹艦と合流している山城さんでさえ、扶桑さんと逸れてしまうと、ものの10分で幻覚のお姉さまと会話を始めてしまいます。
提督さんのドロップ運では、狙った艦娘を出すようなことは到底できません。レア軽巡の大井さんなんて一生お目にかかれないかもしれません。
そうした理由で龍田さん、北上さんの治療はほぼ不可能と思われていました。が、2人を見て提督さんはある実験を思いつきました。
提督「もしも、『いない姉妹艦を呼び続ける病』の患者同士を会話させたらどうなるんだ?」
その結果が今の北上さんと龍田さんです。お互いがお互いの姉妹艦と認識し、噛み合っていないようで噛み合っています。
いえ、噛み合っているように見えて噛み合っていない、というべきでしょうか?
傍から見て背筋が寒くなる光景ではありますが、本人たちは幸せそうなので、これでいいのだと思わなくもないのです。
軽巡洋艦たちの賭場を過ぎると、私の宿舎がある駆逐艦たちの広間にやって来ました。
駆逐艦の子たちは早くに眠ってしまうため、最近は殆ど顔を合わせる機会がありません。
ですが、今日は少し時間も早いため、みんなまだ起きているようです。何か集会のようなものをやっています。
最近では、自分たちで作った神様を祀るという、不思議な遊びが流行っているそうですが・・・・・・
不知火「皆の者、よく集まってくれた! 首長の不知火である! 今夜は我らの新しい仲間を紹介したい!」
子日「はじめまして! 今日は何の日? 子日だよ! みんなよろしくね!」
不知火「この子日は託宣にあった66番目の駆逐艦である! よって今日より彼女は我々の新たな祭祀となってもらう!」
不知火「彼女の言葉は天の声であり、その命令は勅令となる! みな、異論はないな!?」
「おおー!」「祭祀さまー!」「我らを導き給えー!」
子日「え? あの・・・・・・え?」
不知火「さて、子日よ。我らの仲間になるからには、守ってもらう掟というものがある。まずはこの盃を飲み干すのだ!」
子日「う、うん。ごくごく・・・・・・ん、苦い。変な匂いもするけど、これなに?」
不知火「この不知火の尿だ」
子日「おぶふぅ!?」
不知火「吐き出してはならない! すべて飲み干すのだ!」
不知火「この不知火の尿には魔除けの力がある! 飲み干すことによってその身に邪を退ける力が備わり、かの邪神からも狙われなくなるのだ!」
子日「ゲホゲホッ! じゃ、邪神ってなんのこと?」
不知火「我らが最も恐れる大いなる怪物、古き暴食の化身アカギドーラ=チャクルネ様のことだ」
不知火「彼の者は水平線の果てより現れる。その姿は空を覆い尽くし、この世のあらゆるものを喰らい尽くしてしまうのだ」
子日「なにそれ、深海棲艦のボス!?」
不知火「アカギドーラ=チャクルネ様の前では深海棲艦すら餌でしかない。それは我々も同様、現に何人もの仲間がすでに餌食となっている」
子日「この鎮守府そんなのが出るの!? 私聞いてないよ!?」
不知火「案ずることはない! 祈れ、祈るのだ! 天に従い、平伏し許しを請えば、きっとその牙は我らを避けて通るだろう!」
不知火「さあ皆の者! 祈りの声を上げよ! いあ! いあ! くとぅるふ ふたぐん!」
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん!」
子日「ふんぐる・・・・・・え、何!?」
不知火「では次に、予定していた裁判を行う! 陽炎、罪人をここへ!」
陽炎「さあ、おとなしくこっちに来なさい!」
夕立「ひぃいい~・・・・・・許してほしいっぽい~」
不知火「この夕立は昨日、掟を破ってアカギドーラ様への祈りを怠り、我らの貯蓄するおやつのドーナツを盗み食いした!」
不知火「これはアカギドーラ様への許しがたい冒涜である! 皆の者、如何なる裁きが相応しいか!」
暁「殺せー! 殺せー!」
響「殺すだけでは足りない! 火炙りだ、火炙りにしろ! 炎に焼かれる悲鳴を贖罪の声とし、水平線の果てまで響かせるんだ!」
初春「それより、直接アカギドーラ様に召し上がっていただくのじゃ! 八つ裂きにし、その肉を海にばら撒くのじゃ!」
吹雪「なら生きたまま手足の腱を削ぎ、簀巻きにして海に流しましょう! アカギドーラ様は新鮮な生贄を好みます!」
夕立「いやぁぁ~・・・・・・どうかお慈悲を~」
不知火「良い意見が出た! では掟に従い、この者の処遇を祭祀である子日に任せたい!」
子日「えええええっ!? 私!?」
不知火「さあ、子日! この者の身命、如何に処すべきか!?」
子日「え、えっと・・・・・・謝ってるから、許してあげてもいいんじゃないかなぁ?」
不知火「な・・・・・・なんと慈悲深い! 罪人よ、立つがいい! 貴様は許されたのだ!」
夕立「はぅうう~、あ、ありがとうございます~」
不知火「掟に従い、貴様の身分を奴隷に貶す! 子日よ、今日からこの者はお前の所有物だ! 好きに扱うが良い!」
子日「なんでそうなるの!?」
夕立「どうか大事にしてください~。靴の裏舐めるっぽい~ぺろぺろ」
子日「さっそく何してるの!? 自分の境遇に順応しすぎだよ!」
不知火「皆の者、裁きは下された! 慈悲深き祭祀を称えるのだ!」
「うおおー祭祀様ー!」「天使だー!」「あたしも奴隷にしてー!」「靴舐めたーい!」
子日「なにこれ!? だ・・・・・・誰か、誰か助けてぇぇーー!!」
ここは、アマゾンの未開の地でしょうか。いいえ、鎮守府のはずです。
どうやら宗教ごっこではないみたいです。これ、本物の邪教信仰じゃないですか? 生贄とか言ってましたよね?
それにアカギドーラって何なんでしょう。似た響きの名前の人を知っているんですが・・・・・・
しばらく駆逐艦のみんなと話さないうちに、一体何があったのでしょうか。あの集まりには、とても入っていけそうにありません。
電「はあ・・・・・・」
私が旗艦を務めていた頃は、駆逐艦の友達が何人もいました。
それがずいぶん昔のことのように思えます。あの頃のみんなと、もうどれくらい会っていないのでしょう。
親しくしていた子も、あの集まりの中にいるのでしょうか。みんな、私の事なんか忘れてしまったのかもしれません。
そう考えたら何だか落ち込んでしまって、とぼとぼと1人、鎮守府の中を歩きます。
そしたら目の前に、私と同じく1人で歩いている駆逐艦の子が目に入りました。
あの華奢な後ろ姿、グレーの髪の毛、見間違えるはずもありません。私は嬉しくなって、その子に走り寄りました。
電「霞ちゃん! お久しぶりなのです!」
霞「えっ?」
電「お仕事が忙しくて、ずっと会えなかったからすごく寂しかったです! 元気にしてましたか?」
霞「はあ? 別に、元気だけど」
霞さんは、提督さんが初めてのドロップで着任した艦娘です。
気が強くて、ちょっと口が悪い子なので提督さんは苦手そうにしていましたが、私とはとっても仲良しなのです。
まだ駆逐艦が主力だった頃に、何度も一緒に戦って、何度も私を助けてくれました。
最初は私にも冷たかったけれど、少しずつ心を開いてくれて、時間をかけて友だちになったのです。
電「会えて嬉しいです。霞ちゃんは、あの変な集会には参加していないのですか?」
霞「ちょっと、なに勝手にちゃん付けで呼んでるのよ。馴れ馴れしくしないで!」
電「え? あの・・・・・・私、電です。前は何度も一緒に出撃しました。忘れてしまったのですか?」
霞「あんた、何言ってるの? 私はこの前ここに来たばかりだし、出撃なんて一度もしたことないわよ!」
電「・・・・・・え?」
ぐらりと、視界が揺れました。
心臓が痛いぐらいに鼓動を打っています。うまく息ができません。いろんな考えが溢れてきて、頭の中がぐちゃぐちゃです。
霞ちゃんは不器用だけど、優しい子です。こんな冗談を言う子ではないし、私のことを忘れるはずもないのです。
現在、この鎮守府にダブっている艦娘はひとりもいません。
たぶん、私はもう、答えを知っています。だけど知りたくない、確かめたくない。だって、もうそれは取り返しの付かないことだから。
だけど、確かめないわけにはいられませんでした。どうか、違う答えが返ってきてほしい。そう祈りながら、私はその質問を口にしました。
電「霞・・・・・・さん。あの・・・・・・今、LVはいくつですか・・・・・・?」
霞「何言ってんの? 出撃したことないんだから、1に決まってるじゃない!」
・・・・・・そうです、わかりきったことでした。
霞『あんたがこの艦隊の旗艦? ずいぶん頼りなさそうね。名前は何? 電? 名前だけは立派なのね』
霞『何やってんのよ、バカ! 旗艦なんだから、私の後ろに下がってなさい!』
霞『バカ、なに大破してんのよ! ほら、手を貸しなさい! さっさと帰るわよ!』
あのとき。
提督さんが同名艦を一斉に解体した、あのとき。
果たして、その作業はどれだけの正確さで行われたのでしょうか。
あのとき、ひとつのミスや漏れなく、同名の艦娘のみを確実に解体していたと、保証できるものはあるのでしょうか。
霞『何グズグズしてんのよ! さっさとこの海域を突破するわよ!』
霞『やめてよ、触らないで! これくらいの傷、どうってことないわ! ひとりで帰れるって言ってるでしょ!』
霞『・・・・・・別に、好きにしたら? 私は頼んでないんだから、お礼なんて言わないわよ』
霞『ふん・・・・・・情けないわね、私』
提督さんは、たくさんいた那珂ちゃんの解体を途中でやめてしまうような面倒くさがりです。
資源の管理だっていい加減です。あの無数の解体作業が、ミスなく完璧に終わっていたとは到底思えません。
一体どうして、私はそんなことに今まで気づかなかったのでしょうか。
霞『ねえ、電。一応言っておくけど・・・・・・この前は、その、ありがと』
霞『な、何よ。変な勘違いしないでよね! 私はまだ、あんたを旗艦と認めたわけじゃないんだから!』
霞『ま、でも・・・・・・最初よりは、少しはマシになったんじゃない?』
ミスは必ずあったはずです。那珂ちゃんのように、解体し忘れた艦娘だってきっといたはずです。
逆に、間違って解体してしまった艦娘がいたって、なんの不思議もありません。
同名艦のいない艦娘を誤って解体してしまったかもしれません。
最初に着任していた残すべき艦娘のほうを、誤って解体してしまっていたかもしれません。
もはやそれを確かめるすべはなく、取り返しもつかないのです。
霞『今日は遠征でしょ? ほら、早く準備しなさい! あんたが旗艦なんでしょ!』
霞『失敗したからって、気にすることないわよ、電! こんなの、提督の作戦が悪いんだから!』
霞『なに、怒られたの? あのクズ提督! 絶対許さないわ! 電にひどいこと言うなんて!』
霞『電は絶対私が守るわ! あんたは私の・・・・・・友達なんだから!』
電「ああっ・・・・・・あ、あぁあああああっ!」
押し寄せるように涙が溢れてきて、立っていられません。悲しくて、悔しくて、声を上げて泣きました。
どうして今まで気づかなかったのでしょう。私は、大切な友達が解体されてしまったことに、今の今まで気づかなかったのです。
この霞ちゃんは、私の知っている霞ちゃんではありません。私の霞ちゃんは、きっとあの解体室の向こうの、深い闇の中に行ってしまったのです。
霞ちゃんは、あの扉をくぐるとき、何を思っていたのでしょうか。きっと怖かったでしょう。悲しかったでしょう。私のことを憎んだかもしれません。
せめて、謝りたい。だけど霞ちゃんはもう、永遠に戻ってこないのです。
泣いたってどうしようもありません。だけど、私にはもう泣くことしかできません。それがたまらなく悔しいのです。
霞「ねえ・・・・・・あんた、どうしたのよ。どっか痛いの?」
電「ひっ、ひっく、あぅうう・・・・・・え?」
霞「ほら、これ使いなさい。ひどい顔よ」
目の前に差し出されたのは、真っ白なハンカチでした。見上げると、そこには心配そうな顔をしている、私のことを知らない霞ちゃんがいます。
霞「さっさと涙を拭きなさいよ。いきなり泣き出してどうしたのよ。ケガでもしてるの?」
電「だ・・・・・・大丈夫、です。もう、大丈夫ですから・・・・・・」
いつの間にか涙は止まっていました。貸してもらったハンカチで顔を拭くと、優しい石鹸の匂いがしました。
霞「あんた、どこに行く途中? 何なら、送って行ってあげてもいいけど」
電「あ、ありがとうございます。でも、もう平気ですから。1人で行けます」
霞「そう? ならいいけど」
電「それじゃ・・・・・・ご迷惑おかけしました。このハンカチ、洗って返しますね」
霞「別にいいわよ、そんなの。あんたに上げるわ」
電「そんな。ちゃんと返しに行きます」
霞「あっそ、好きにしたら? じゃ、気をつけて帰るのね」
電「あっ・・・・・・」
霞ちゃんは私に背を向けて、そのまま歩き出しました。
その瞬間、どうしようもなく寂しくなりました。まるで、大切な友達を、もう一度失ってしまうような・・・・・・
たまらなくなって、私はまたその背中を追いかけました。
電「あっ・・・・・・あの、霞さん」
霞「なに? まだ何か用があるの?」
電「あの、その・・・・・・ひとつ、お願いがあるんですけど」
霞「何よ、やっぱり付き添ったほうがいいの?」
電「いえ。あの・・・・・・急にこんなこと言われて、気持ち悪いかもしれないですけれど」
霞ちゃんは訝しげに私を見つめます。その眼差しは、私と初めて会った時のように冷たくて、それがぎりりと胸を締め付けました。
息が詰まって、上手く話せません。だけど今言わなければ、二度と言えない気がします。
息を吸って、勇気を出してその言葉を口にしました。
電「・・・・・・私と、友達になってくれませんか?」
霞「・・・・・・はあ?」
電「で、できたらでいいです。嫌なら別に・・・・・・」
電「私、秘書艦をしていて、ほかの駆逐艦のお友達、全然いなくて・・・・・・すごく寂しいのです」
電「だから、その・・・・・・霞さんに、友達になってほしいのです」
ぎゅっと目を閉じて、顔を伏せました。霞ちゃんがどんな表情をしているのか、怖くて見ることができません。
霞「ちょっと、顔を上げなさいよ。それ、人に頼み事をする態度じゃないわよ」
電「ご、ごめんなさいなのです」
霞ちゃんに怒られて、おそるおそる顔を上げます。そこには私の事を知らない霞ちゃんがいます。
だけど、その顔は・・・・・・その仄かな笑顔は、私の知っている、不器用だけど優しい、霞ちゃんの顔でした。
霞「別に、いいわよ。私もあの変な集会やってる連中には馴染めなかったし」
霞「それじゃ、今から私とあんたは友達ね。えっと・・・・・・あんた、名前は何だったかしら」
電「わ、私の名前は・・・・・・」
そのとき、再び頬を温かなものが伝いました。
悲しいのではありません。悔しいわけでもありません。自分でもよくわからないものが、次から次へと胸の奥から溢れてきます。
霞「ちょ、ちょっと、どうしたの? やっぱりどっか痛いの?」
電「ご・・・・・・ごめんなさい、大丈夫、大丈夫ですから・・・・・・」
私の頬に、霞ちゃんの手がそっと触れます。その手は温かくて、優しくて、涙は止まるどころか次々とこぼれ落ちてきます。
私のことを知っている霞ちゃんは、もう帰ってきません。だけど、優しい霞ちゃんは、変わらずここにいるのです。
優しい霞ちゃんに見守られながら、私はその夜、いつまでも、いつまでも泣きました・・・・・・
終わり


