関連
蛇足 とあるフラグの天使同盟 捌匹目【前編】


320 : VIPに... - 2012/05/10 19:24:49.15 jGXZpMUV0 222/670

あァン?これまで以上のカオスだァ?

もっとやれお願いします

326 : VIPに... - 2012/05/11 17:42:59.15 4YD0kZ+DO 223/670

大丈夫

エイワスもガブも存在自体がカオスだし

328 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:41:09.63 hGYtV+Xlo 224/670

>>326
まあ確かに……、そう考えるとカオスな話なんていつものことですよね。
少し過剰に表現しすぎました。これまでこのSSを読んで下さっている方から
すれば結局いつもの『天使同盟』かもしれませんね。

皆様こんばんわ、今日も更新を開始したいと思います。

今回で『グループ』の話は一旦終わり。一方通行と土御門が密会をします。
土御門がわざわざ一方通行だけを誘って話しておきたいその内容とは。
大体予想はつくと思いますが、ていうか予想されていて、そして当たっていますが
どうか最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

では、よろしくお願いします!

329 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:41:37.94 hGYtV+Xlo 225/670



――――――――――――――――――――――


「ここでいいだろう」

「……?」


道中、会話らしい会話は交わされなかった。学園都市、深夜もいいとこの時間帯である。
雪は未だに降り続け、その美しさにもいい加減飽きが訪れ、雪によってもたらされる寒さに
うんざりとした気持ちさえ一方通行には湧いてきていた。


『グループ』での久々の仕事を終えた後、土御門元春に案内された場所は第一〇学区の
喫茶店だった。しかしこの時間帯に喫茶店が営業しているはずもなく、そもそもここは
既に閉店して数ヶ月が経った、客も居なければ店員もいない寂れた無人喫茶と化している。

330 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:42:21.76 hGYtV+Xlo 226/670


土御門は店内のカウンターを乗り越え、更に奥へと歩いて行く。
訝し気に思いながらも、一方通行は彼の後を着いて行った。


「第一〇学区でもここはスキルアウトの連中がほとんど近寄らない場所だからな。
 オレ達みたいな訳アリの連中が密会するにはうってつけの場所なんだよ」


言いながら土御門は業務員専用の事務室の扉を開いた。
その先に広がる光景を目にした一方通行はくだらないと言わんばかりにため息をつく。


「改めて思うが、この街はやっぱ何も変わっちゃいねェ」

「そう言うなよ。 まさかオレ達みたいなのが堂々と二四時間勤務の
 ファミレスやネットカフェを利用する訳にもいかないだろう?」

331 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:43:01.13 hGYtV+Xlo 227/670


一見、そこは小洒落たバーの店内に思える。実際に小さなカウンターはあるし、
その奥にはどこから取り寄せたのか、ありとあらゆるアルコールが均等に
並べられてり、宣伝すれば街の隠れた店として人気が出そうな程であった。

喫茶店の中に小さなバー。質の悪い冗談というか、土御門や一方通行のような
こういう場面転換に慣れた人間でなければ混乱してしまっていただろう。
暗部なら誰もが一つは構える、いわゆる隠れ家のような場所だった。


「座れよ」


着席を促し、なぜかポケットから拳銃を取り出し一方通行の手元のカウンターに
わざわざ放り投げると、土御門はバーカウンターの奥へ移動する。

332 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:43:36.27 hGYtV+Xlo 228/670


「一応聞いておくが……何か飲むか?」

「煮え湯でも飲まされンのか?」

「ははっ、そういう冗談。 以前のお前なら絶対に吐かなかっただろうな。
 もっとも、煮え湯云々は使い方が違うんじゃないか? オレ達の間に
 信頼関係なんか築かれてないだろ。 ああ、言っておくが挑発じゃないぞ」


いつも通りの軽快な口調に、しかし一方通行は警戒した。
土御門とはこれまで何度か仕事を共にしているが、仕事後にこのような行動、
しかも二人だけというシチュエーションは無かった。

土御門は冷蔵庫の中から適当にドリンクを取り出し(見たところ酒ではない)、
グラスを持って一方通行の隣に腰を下ろす。

333 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:44:25.05 hGYtV+Xlo 229/670


「改めて、久々のお勤めご苦労様」

「そンなに死にてェのかオマエは」

「"今のお前じゃ"迫力に欠けるな。 ……っと、忘れてた」


何やら意味深な発言に一方通行はわずかに眉をひそめたが土御門は無視し、
おもむろに立ち上がると両腕を挙げて降参するような体勢をとった。


「なンの真似だ? 無抵抗を示すにゃシチュエーションとタイミングがおかしいだろ」

「いや、どちらもベストだぜい。 オレはこの通り武器を持っちゃいない、
 唯一所持してた拳銃はその通り、お前の手元に置いてあるしな。
 当然、このカウンターの奥に大量の武器を隠してましたなんてオチもない。
 さっきの信頼関係がどうこうの話じゃないが、確認してくれて構わないぞ」

334 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:45:06.18 hGYtV+Xlo 230/670


「必要ねェよ。 あったところで俺がやる事ァ変わンねェからな。 それより、」


茶番くさい土御門の素振りに苛立ちながらも一方通行は先を促す。


「言いてェ事があンならさっさと話せ。 前置きが長げェンだよ」

「そうだな、お前を怒らせてもオレには何のメリットも生じない」

「あ?」


目の前の金髪グラサンを蹴り飛ばしてさっさと帰ろうかと思ったが、
結果的に一方通行が行動を起こす事は無かった。

335 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:45:48.67 hGYtV+Xlo 231/670





「『天使同盟(アライアンス)』。 あんな化物共に牙を剥かれたら、オレなんてひとたまりもない」




土御門の発言を受けて一方通行がまず行ったのは、手元にある拳銃に視線を移す事であった。
今ここで拳銃を構え、不敵に笑う土御門の脳天をぶち抜き始末する事は造作も無い。

が、一方通行は動かない。なぜならここで土御門を亡き者にする理由と必要性を感じなかったからだ。

336 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:46:27.72 hGYtV+Xlo 232/670


「…………おや。 どうやらオレはまだ生きてるようだが?」

「……………………、……、………………オマエは一つ勘違いをしている」

「拝聴しようか」


未だに諸手を挙げ続ける土御門を睨みつけながら、一方通行は冷静な口調で言った。


「…………"俺達の間で掲げてた秘匿主義は、とォの昔に破錠してンだよ"」

「だが最低限、素性の隠匿は務めてるんだろ? お前から明かす事は避け、
 しかし相手から尋ねられたらTPOにもよるが素直に答える。 これは
 お前達のような怪物が集まっているから生じている余裕だろうけどな」


ふぅ、と軽く息をつき、土御門は手を降ろして改めて席につく。

337 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:47:47.27 hGYtV+Xlo 233/670


「…………個人での調査か? だったら大したモンだ」

「お前に褒められてもなぁ。 ま、そうだよ、オレ個人の調査で
 知るに至った。 『天使同盟』、その正体。 だがな、別に
 信じてくれとは言わないが、今の今まで生きた心地がしなかったぞ」

「何を怯えてやがる? オマエにゃイギリス清教っつゥ後ろ盾があるだろォが」

「おいおい、その頼りの後ろ盾がお前達『天使同盟』に抱き込まれてるんだぞ?
 それに個人的意見だが、今のイギリス清教ほど信用性の無い組織も存在しない。
 こうしていつも通りに振る舞ってはいるが、これでもギリギリなんだぜい?」


それは、全てを把握し、理解し、"知っていて"、かつ"知った"者同士の会話であった。


土御門元春は『天使同盟』の素性を知っていた。これに対し、一方通行は別段驚く事はない。
彼が『天使同盟』のどこまでを知っているのか、一方通行の興味が惹かれる事もない。

338 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:48:41.12 hGYtV+Xlo 234/670


最初から全てを知っていた訳ではなく、土御門も秘術を尽くして嗅ぎ回っての現状らしい。
だというなら納得だと、一方通行は思った。


「いつから調査してやがった?」

「『第一九学区事件』の後かな。 暗部の仕事が入って、あの事件で暴れ回ったらしい
 連中の素性の洗い出し。 結局そいつらの詳細までは掴めなかったが、他方向から
 調査する事で分かる事もある。 例えばこの一端覧祭、……悪いが笑っちまったぞ。
 お前達、派手に動き過ぎだろう。 お前からしちゃ面白くないんだろうが、どうやら
 主役の大天使様がそうはいかないらしいな。 あれだけファミレスに通っていれば
 嫌でも噂は立つ。 そこから過去へ辿って調査すればオレ程度の人間でも見えてくるのさ、」


グラスに注いだドリンクを一口含み、笑みを浮かべて土御門は言った。

339 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:49:33.16 hGYtV+Xlo 235/670


「お前達の素性がな。 さすがに長点上機学園主催『特別講座』の宣伝はやりすぎたな」

「チッ、後の祭りってレベルじゃねェぞ。 未だに公になってねェのが奇跡なンだよ」

「ははは、それは言えてるな」


今度こそ土御門は笑ってみせた。嫌味を含まない、正直な苦笑。
対して『天使同盟』発起人である一方通行は表情を歪めて髪を掻くしかない。


「一方通行、ミーシャ=クロイツェフ、ヒューズ=カザキリ、『ドラゴン』……エイワス、
 垣根帝督、右方のフィアンマ。 ……構成員を知った時、オレは世界の終わりを予感したね」

「何度かそォいう感じの感想はもらってるが、大袈裟過ぎるってンだよ。
 俺達が暴れたってせいぜい滅ぼせるのは街の学区程度の規模だったろォが」

340 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:50:21.08 hGYtV+Xlo 236/670


「お前が聞いてないだけかもしれないが、あの事件は完璧に全世界を巻き込んでた。
 ……まぁその話は聞いたにしろ聞いてないにしろ、オレの口から偉そうに垂れる
 話じゃない。 それより、どうだ? 魔術サイドは。 オレの事は誰から聞いた?」

「前者については広すぎて面倒だって感想しかねェよ。 後者だが……、
 情報提供者の素性を俺から聞いて、制裁するってンなら言えねェな」

「そこまでオレも必死じゃないさ。 そんな事したらお前が黙っちゃいないだろ?」

「……オマエらのとこの聖人だよ」

「おう、ねーちんかよ。 そういや学園都市に来てたが、やっぱ『天使同盟』絡みか」


本当に細かい部分までは把握していないが、それでも大体の事情と現状は知っているらしい。
たった一人でそこまで深く情報を掴んだこの土御門という男の手腕に、一方通行は驚かされたが
それを表に出す事はなかった。

341 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:51:27.97 hGYtV+Xlo 237/670


「俺からも聞きてェ事がある」

「素直に喋る保証はないぜい?」

「正味問題ねェ、素直に話せる案件じゃねェからな」


よく見ると手元にある土御門の拳銃に弾が込められていない事に気付いた
一方通行は小さく舌打ちをした。その上で、続ける。


「俺と結標や海原の野郎との会話でオマエも気付いてるだろォが、
 統括理事長の"二人"、あのクソ共の現状について、どォ考える」

「俺は『予知能力(ファービジョン)』も持ってなければ名探偵でもないんでな。
 『ドラゴン』という綱を辿ってもエイワスの存在くらいしか知り得なかったし、
 アレイスターも例の事件で何らかの痛手をお前達に負わされた、程度の推測
 しか出来やしない。 ……が、それでも街の状況くらいは何となく読めてる。
 でなけりゃこうしてお前とこんな話が出来るはずがないしな」

342 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:52:40.41 hGYtV+Xlo 238/670


『滞空回線(アンダーライン)』の存在を危惧して土御門は言っているのだろう。
あの最先端過ぎる科学技術があればこの二人がどこでどう警戒網を巡らせようとも
会話の内容が筒抜けだ。

だがそれは『滞空回線』を受信する側が正常であればの話。


「ザルだろ。 今、この街は」

「アレイスター、エイワス共に街の管理が行える状態じゃねェ、と」

「十中八九な。 こういう言い方しか出来なくて悪いが、『天使同盟』を
 隠れ蓑にしてきたお前に、ある日突然上層部が介入してきた。 偶然に
 してはあまりにもタイミングが"臭すぎる"し、しかしだからと言って
 意図的とも思えないな。 半ば厄介者と化していた今の統括理事長に
 お前と暗部の繋がりを断たれていたんじゃないか?」

343 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:53:37.25 hGYtV+Xlo 239/670


「そしてそれは俺と暗部の繋がりだけの問題じゃなくなってくる。
 姿を見せねェやりたい放題の統括理事長エイワスが動けねェ今、
 上層部と暗部が調子に乗ってバカやらかす可能性が浮上する」

「そうなりゃお前が守りたがってる大事な者も、オレにとってかけがえのない
 大事な者もくだらない飛び火を被る。 無論、それだけに留まらないだろう。
 事は学園都市全体にまで規模が膨らみ、街全体がひっくり返っちまうだろうな」


だから、と土御門は前置きして、


「上層部と、そこから派生する暗部を全て潰そうって考えてるんだろ?」

「……………………………………」

344 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:54:22.28 hGYtV+Xlo 240/670


一方通行が反論しなかったのは土御門の指摘がとんだ的外れだったからではない。
むしろ真逆。図星。

ヴェントと別れた直後、『グループ』の電話の男から仕事の指令が飛んできた時から、
既に暗部殲滅の考えが一方通行の頭には浮かんでいた。


「力でねじ伏せるつもりか? 『天使同盟』なら容易だろうが……」

「力だけならな。 だがそれは現状、不可能に近い。 矛盾しているよォだが、
 暗部を潰せるその力が今は散り散りになってンだよ。 ガブリエルや風斬、
 フィアンマに声をかけりゃ恐らくは協力してくれるだろォが、俺としては
 出来るだけそれは避けてェ、……それでも最後は頼っちまうかも知れねェが。
 元暗部の垣根やエイワスなら話は別だが、そいつらは今動けねェときてる。
 垣根は俺が原因でもあるが学園都市にはいねェし、エイワスも連絡がつかねェ」

「……それは知らなかったな。 第二位の目撃情報は何度か傍受しているから
 垣根帝督もこの街にいるもんだと思ってた。 しかし、ならどうするんだ?
 潰す潰すと言うは容易いが、無策で潰せる程暗部も温くはないぞ。 エイワス
 や『天使同盟』のバックアップ無しじゃいくらお前でも実行は出来ないだろう。
 言うまでもないとは思うが――――」

345 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:55:18.38 hGYtV+Xlo 241/670


「ナメてンのか。 言われるまでもなく、オマエら『グループ』は使わねェよ。
 それじゃ本末転倒だろォが。 使わねェっつか、使えねェンだよクソボケ」

「はっ。 まさかお前みたいな人間が、お前だけじゃなくオレ達まで『闇』から
 救い上げようとしてくれるとはな。 『天使同盟』の影響で丸くなったのか?」


危うくジャケットの懐から拳銃を抜きそうになった一方通行だが、これまた
図星であるし本人も自覚している事なのですんでのところで思いとどまった。


「ついでだクソ野郎。 暗部が潰れりゃオマエや結標、海原にも影響が及ぶだろ」

「だからさっき、結標と海原との会話で二人の抱えてるもんを『再確認』したのか」

346 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:56:02.24 hGYtV+Xlo 242/670


またしても図星だった。土御門にいいようにからかわれている気がして
一方通行としては非常に面白くなかった。
結標淡希が抱える少年院の仲間、海原光貴が抱える魔術組織の同胞。
上層部に盾にされているそれらを、暗部を潰せば解放する事が出来る。

ついでだと彼は言うが、"丸くなった"一方通行の心中は果たしてどうだろうか。


「それにオマエにとっちゃ意味のねェ影響だろ。 オマエは"あっち"にも属してる」

「お前が頑張ってくれるだけで荷が軽くなるなら儲けものってもんさ。
 もっとも、その影響でオレの大事なものに被害が及ぶってんなら……
 天使だろうが何だろうが、オレはお前達に牙を剥く事になるけどな」

「オマエの大事なもの、」

347 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:56:48.89 hGYtV+Xlo 243/670


「きゃわいいきゃわいい妹がいるんだにゃーこれが♪
 たまにオレの部屋にも寄ってきてくれて、健気なんだ。
 カミやんが住んでる部屋の横なんだけど」

(……あの学生寮か)

「舞夏ってんだが……、手ぇ出すんじゃないぜい」

「ふざけンなクソ野郎」


軽い口調で言うが、サングラスの奥から覗く瞳は真剣味を帯びていた。


「とにかく、そういう所にまで飛び火が被る事態を避けたいんだ」

「……だから、そォならねェよォに今、策を練ってンだろォが。
 こォしてオマエと喋ってる暇なンざ本来ねェンだぞ」

348 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:57:45.02 hGYtV+Xlo 244/670


「分かってるよ。 今日ここにお前を呼び出したのも単なる釘刺しだ。
 それとオレ個人の『確認』も兼ねてたんだ。 お前が『闇』から足を
 洗うのは勝手だが、だったらそれ相応の立ち位置は用意してなきゃならない。
 ……だがまぁ、余計な世話だったようだな。 お前にはもう、『天使同盟』
 という立派な、立派すぎておっかない居場所がある」

「何様のつもりだオマエ、ここで死ぬか?」

「お前が抜けてた穴埋めをさせられてたんだ、これぐらい許容してくれよ」


忌々しげに一方通行は舌打ちしてみせた。本当に、どれだけ話してみても
この土御門という男の本質が理解できない。これならまだ天使だの何だのと
いう人外と関わりあっていた方がマシだとさえ思う。


ともあれ、これで一方通行の胸にのしかかっていた蟠りが少しは解消された。

349 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:58:33.49 hGYtV+Xlo 245/670


まずエイワスの状態。土御門も根拠こそ無いが、一方通行と同じ推理を立てていた。
あの金髪無敵怪人に何らかのアクシデントが発生し、一見何の変哲もないこの街の
システムはガタガタに崩れてしまっている。昨日、いや一昨日の『暴徒』による
誘拐事件がそれを裏付けている。

一番の早道はエイワスに直接面会してニ、三発ボコって目を覚まさせる事だが、
それが出来れば一方通行がこうして頭を悩ませる事が無かったし、そもそも
暗部からお呼びがかかる事も無かった。


(第三次世界大戦の時に暗部を潰せればベストだったが……悔やンでる場合じゃねェ)


学園都市暗部の殲滅。これまで『天使同盟』問題と個人の抱える問題ばかりに
執着して目にもくれなかったが、暗部を無くせばその後の行動に付随する負担が
かなり軽減される。打ち止めや番外個体を脅かす影も霧散するし、自分自身も
これ以上クソったれな仕事に付き合わされる事が無くなる。

350 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 18:59:28.50 hGYtV+Xlo 246/670


ただ、言うは易く行うは難し。暗部の組織などあとどれだけの数が存在するか
不明瞭であるし、それら全てを潰そうとなるとそれこそ街を巻き込む戦争に
発展しかねない。ならばブレイン、暗部に関わっている上層部を潰せば自然と
根も枯れるだろうが、これだってそう簡単に実行出来るはずもない。


考えなえれば、ならない。イギリスへ向かうまでに、暗部を潰す手段を。


「それに、」


と言ったのは頭の中で対暗部殲滅用作戦を組み立てている一方通行ではなく、
何やら気味悪くニヤニヤと笑みを浮かべてくる土御門であった。

351 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 19:00:12.71 hGYtV+Xlo 247/670


「お前にはまだ、暗部だの何だのがカスに思えてくる重要な案件が残ってるしなぁ?」

「あ? なンの話だよそりゃ」

「んん~? しらばっくれても無駄だぜい? オレ聞いちゃったもんにゃー♪
 例えばほら、お前雪の降る夜の街という最高のシチュで前方のヴェントと―――」


瞬間、一方通行は今度こそジャケットの懐から拳銃を取り出し、土御門に躊躇なく発砲した。
土御門は顔を青くしながら信じられない速度でカウンターの奥に飛び移る。


「アブネッ!!!」

「ちっ」

352 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 19:01:00.78 hGYtV+Xlo 248/670


「殺す気かテメェ!! 今のは間違いなく殺意込みの発砲だっただろ!?」

「あァぶち殺す気マンマンだったぜ土御門ォ……、オマエどこでそれを知ったァ!!?」

「い、いやこれはマジでたまたまなんだにゃー。 暗部の依頼が来て集合地点に向かう
 途中にお前とヴェントが居るのを見てな。 まず『神の右席』がフィアンマ以外に
 来てた事を知らなかったし、何があったのかと様子を窺うだけのつもりだったんだぜい?
 そしたらお前、あんな展開になっちゃって―――ちょ、おい能力はやめろマジで死ぬって!!」

「何だったら呼ンでやろォか? 『天使同盟』の残存勢力をここによォ……?」

「国一つ潰せるような勢力を私怨で使う気かにゃー!? 他言しないからホント許して!!」


ふーふー、と獣のように荒ぶる吐息をどうにかして落ち着かせた一方通行は
乱暴に腰を下ろし席についた。しばらくして、ガタガタと全身を震わせながら
土御門が恐る恐るカウンターから顔を覗かせる。

353 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 19:01:47.06 hGYtV+Xlo 249/670


「……ま、まぁこれでオレの話は終わりだ。 オレは協力もしないが
 邪魔もしない。 せいぜい、お前の危惧する通り本末転倒にならないよう
 気をつけてくれ。 当然、『天使同盟』の情報をリークする事もしないし
 オレから関与する事もない。 "いつかその時が来たら"、話してくれよ」

「………………、チッ。 二度と会う事もねェだろ」

「そう願ってるぜい」


一方通行は拳銃をしまい、カウンターの土御門に背を向けてその場を後にしようとした。
しかし、


「あ、……」

「……何だ」

「いや、まぁ……これは独り言だから適当に聞き流してくれ」

354 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 19:02:23.25 hGYtV+Xlo 250/670


本当に独り言を呟くように、土御門は一方通行と目も合わせずこう言った。




「『天使同盟』とイギリス清教に繋がりがある事は当然オレも把握してる。
 まあだからこそ言っておきたいし、そして余計なお世話なんだろうけど」

「?」

「イギリス清教最大主教、ローラ=スチュアート。 ……"あの女には気をつけろ"」




一端覧祭開催から六日目の朝がやってきた。イギリス清教最大主教、ローラ=スチュアートとの謁見まで残りわずか一日。

355 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 19:07:20.31 hGYtV+Xlo 251/670


今回はここまでです。


Q. 土御門は具体的にどうやって『天使同盟』の素性を知るに至ったんですか?
  いつから?どういうルートで?手段は?例えばあの日、土御門は何をしていた?

A. そ  ん  な  こ  と  聞  く  な  。


という訳で、土御門はやっぱりというべきか、知ってました。
まあ知ったからってどうなるもんでもないですけど……まあ彼なら
知っててもおかしくないかなと思ってそういう立場にしてみました。

さて次回からいよいよ、そして実質的に『一端覧祭編』最終章、六日目に突入します。
これまで結構マジメなお話が続いた一端覧祭だけに、六日目は頭おかしい内容になってます。
そんな六日目の主役を務めますは、一方通行でもミーシャでも風斬でもなければ、
エイワスでも垣根帝督でもありません。

あの男です。あいつがそれはもうとんでもない事を(結果的に)やらかします。バカです。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

356 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/05/12 19:08:10.28 hGYtV+Xlo 252/670




                          【次回予告】



「それでは火野ちゃん、よろしくお願いするのです」
上条当麻のクラスの担任――――――月詠小萌




「お前に『奇跡』を披露してやる」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ




357 : VIPに... - 2012/05/12 19:08:32.81 1NSbVFnU0 253/670

>>1乙!!
そういやまだ一端覧祭やってたんだな…

365 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 13:55:52.09 B8CtpJH4o 254/670

>>357
まあ一端覧祭なんてのは名ばかりですけどね。文化祭なんて実際一日目くらいしか
まともにやってないし、あとは私の都合で開催しているだけに過ぎないという……。
例えば風紀委員体験講習とか、こういう時じゃないとやりにくいかなと思って。

こんにちわ、更新を開始します。

今回から名ばかりの一端覧祭は六日目に突入します。そして事実上、これが最後の
一端覧祭となる……のかな?主役はフィアンマ、つまりフィアンマパートです。
月詠小萌の部屋に世話になったフィアンマはついにあの『計画』を実行に移します。

それでは、よろしくお願いします!

366 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 13:56:19.96 B8CtpJH4o 255/670



――――――――――――――――――――――


一方通行はイギリスへ向かう前に、学園都市に蔓延る『闇』を払拭すると決意した。
どんな形であれ『闇』はせいぜい背負う事しか出来ないと考えていた彼だが、
背負うだの抱えるだのといった綺麗事では進めないと自覚したが故の、決意。


ミーシャ=クロイツェフは交流を深めていった。『天使同盟』だけで満足していた
自分と決別し、自分を受け入れてくれる『友達』を作るために。これまでも何人か
そういう人間との交流もしてきたが、御坂美琴はその明確な第一歩なのかもしれない。


風斬氷華は求めた。一端覧祭開催以来、各々が別行動を取る『天使同盟』の現状に
寂寥感を覚え、いつかまた六人が集まって笑顔を振り撒きながら過ごせる日常を。

367 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 13:57:18.08 B8CtpJH4o 256/670


エイワスは傍観するしかなかった。己の存在を支える『核』を失い、もはや
傍観者として君臨する事も難しくなったが、それでも観察を続けるしかない。


垣根帝督は苦悩した。『天使同盟』と一時的に離別し、改めて魔術という法則と向き合い、
しかし魔術のエキスパートである少女に非情なる現実を思い知らされ、方向性を見失った。
これから先自分はどう生きていけばいいのか、根本的な原理すら霧がかってしまっていた。


これが、一端覧祭開催六日目までの『天使同盟』の経緯。明確な目標を掲げて進む者、
異常ながらも楽しかった日々を渇望する者、耐え忍ぶ者、苦しみながらも道を模索する者。
一方通行、ミーシャ=クロイツェフ、風斬氷華、エイワス、垣根帝督は今日も生きていく。


そして――――――。

368 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 13:58:06.37 B8CtpJH4o 257/670





「……………………朝、か」




『天使同盟(アライアンス)』の新参者にして現在最後の構成員。

元ローマ正教『神の右席』の魔術師。最強クラスの力を所持する『神の如き者(ミカエル)』の象徴。

右方のフィアンマもまた、一端覧祭六日目の朝の日差しを鬱陶しそうに浴びていた。


「結局徹夜になってしまったな。 いや、むしろこれほどの術式構成を二日で
 完成できた事に驚くべきか。 もっとも、俺様一人では不可能だったが」

369 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 13:58:48.13 B8CtpJH4o 258/670


フィアンマが居る場所は何の変哲もない、といえば嘘になるが、第七学区の一画に建つ
木造二階建てアパートの一室であった。部屋には今も煙草のヤニの匂いが微かに残っており、
少し室内を移動するだけでも苦労するほどビールの空き缶や衣服が無造作に放られている。

眠気は無いといえばこれもまた嘘になるが、ともあれフィアンマは二日間に及んだ精密作業で
蓄積した疲労を和らげるために窓を開けて外の空気を吸おうとしたが、


「……っと、いかん。 今この窓は開放出来んのだったな」


すんでのところで窓を開けるための手が止まった。別に窓を開ける事で外の冷たい空気が
室内に入り込み、傍のベッドですやすやと寝息をたてる見た目小学生の高校教師、月詠小萌を
起こしてしまうのではと気を遣った訳ではない。

370 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 13:59:40.26 B8CtpJH4o 259/670


フィアンマの眼の前にある窓には、奇怪な文字が綴られていた。外の景色を窺う事すら
難しい量の文字が、黒のインクでビッシリと窓を染めてしまっている。
窓だけではない。部屋の中心部に置かれた丸テーブルから始まるこの奇怪な文字の羅列は
這うように床に流れ、そこから台所、トイレの扉、天井と、室内全域に至っている。
床に物が無造作に転がっていなくとも歩くのに苦労する状況だ。

それも二日前、フィアンマが小萌先生の部屋に(無断で)お邪魔し、一人でせっせと
文字を綴っていた時よりも細かくだ。外出時に不便だという事で玄関の扉だけは
かろうじて文字の支配から逃れている。


「むにゃ」

「……起きたか」

「んあ……んー、火野ちゃん。 おはようございますー」

371 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:00:28.20 B8CtpJH4o 260/670


と、室内の様子を改めて確認しているフィアンマの耳に甘ったるい声が届いた。
小萌先生、起床である。どう見てもお子ちゃま用のパジャマに身を包んだその
未成熟な肢体の小萌先生が年上だと、フィアンマはこの二日間の同棲を経ても
未だに信じる事が出来なかった。『実は魔術結社から派遣された妖精なのですー』、
と言われても余裕で納得出来る。


「ふああ……寒い寒い~……」

「壁、迂闊に触れるなよ」

「はわわ、そうなのでした。 昨日ついに『完成』したのですよねー」

「正確には月詠、お前が就寝してから俺様が最後の調整を加え、たった今完成したところだ」


小萌先生は寝ぼけ眼で室内を見回し、うんうんと感慨深そうに首を縦に振った。

372 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:01:27.52 B8CtpJH4o 261/670


室内を埋め尽くす文字の正体は魔方陣。中央の丸テーブルには文字というか、
円形の不気味な模様が描かれている。そこが二人が協力して作り上げた術式の核。


大天使ミーシャ=クロイツェフ主催、『一方通行へのサプライズ』計画の要であった。


「これでその……ミーシャちゃん? が用意したサプライズが一方通行ちゃんに
 届くのですよねー? 『天使同盟』にとって必要なステップですから、ここで
 しくじってたら元も子もないのですが……本当に不備は無かったですかー?」

「一応お前にも簡単に魔術の法則を説明したはずだが……やはり理解は出来んか。
 そんなお前に不備の有無を指摘しても意味はないだろうが、あり得んよ。
 俺様が何度も何度もチェックしておいた。 この魔方陣の正確性に問題はない」


二日前の夜、小萌先生がフィアンマとの同棲を許可した時、彼女は魔術をフィアンマから知った。
そして、それだけではない。

373 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:02:43.54 B8CtpJH4o 262/670


魔術というオカルトと呼ばれる法則が存在し、フィアンマがその力を行使する者だという事。
『天使同盟』という組織の存在、構成員、『天使同盟』が今も学園都市に潜伏している事。
ミーシャ=クロイツェフという天使の存在、その天使がある計画を企てているという事。
その計画にフィアンマと打ち止め、番外個体という少女も加担しているという事。
計画成就のためには儀式を執り行う場所とが必要であり、小萌先生の協力が欠かせないという事。
ミーシャが提案した計画が一方通行という人間のための素敵なサプライズ(笑)だという事。


それら全てを余す事無くフィアンマは開示し、しかし小萌先生が理解出来た事柄は
自分が協力したらミーシャも一方通行も幸せでみんなハッピー、とかいう確証も保証もない、
そもそもフィアンマはそこまで言ってないというものだけで、魔術だの何だのはよく分からなかったようだ。

『天使同盟』に関しても一切他言しないと約束してくれて、それどころか自分も会いたいなどと
言い出す始末。フィアンマもここまでのお人好しには出会った事がなくただ困惑するばかりで、
それでもこの小さな教師に感謝したのだが、

374 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:03:22.29 B8CtpJH4o 263/670


「ちょっと顔洗って歯を磨いてくるので、待っててほしいのですー」

(……計画の概要をほぼ理解出来ないでいる月詠をこのまま巻き込んでしまってもいいのか……?)


これから行う魔術、大魔術はしくじれば全世界を崩壊させてしまう危険極まりないものだ。
『御使堕し(エンゼルフォール)』、そこにフィアンマが計画成就のために手を加えた改良版、
『御使堕し(改)』。ここらで小萌先生に手を引かせてもいいのだが、あのお人好しは意地でも
最後まで付き合うと言って聞かないだろう、とフィアンマは浅くため息をついた。


(……まぁ、ここまできて今更手を引けは無いだろうな。 乗りかかった船だ)


いよいよ、である。

375 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:04:22.67 B8CtpJH4o 264/670


これより、フィアンマはミーシャ主催のサプライズ開始のテープを切る。
『御使堕し(改)』。本来の『御使堕し』の効果を大幅に変更し、副作用とも言える
魂の入れ替わりを未然に回避する術式を組み込んだ、前代未聞の新大魔術。

これが成功したら魔術サイドの歴史に新たな一ページが加わるだろうが、これはあくまで
ミーシャ、フィアンマ、打ち止めが一方通行のためだけに行うものであり、魔術サイドに
公になる事はない。公にしても魔術サイドに余計な混乱を起こすだけだ。


チャンスは一度きり。失敗して『んじゃもう一回』はきかない。というか失敗したら
世界が果たして今のままを維持しているかどうかも保証出来ない。
ミーシャから一方通行へのささやかなプレゼント、という何だか気の抜ける目的だが
フィアンマの掌はじっとりと汗ばんでいた。

と、そこでフィアンマはやらなければならない事を思い出し、ゴシゴシと歯を磨く
小萌先生に尋ねた。

376 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:04:55.77 B8CtpJH4o 265/670


「月詠」

「ふぁえ?」

「儀式を執り行う前に打ち止めに連絡しておかなければならんかった。 電話はあるか?」

「ぅあー、そうなのでした。 そこに置いてあるので使ってくださいなのですー」


小萌先生が指さす方向に目を向けると、そこには今時珍しいダイヤル式の黒電話が床に置いてあった。
フィアンマは打ち止めの携帯番号を思い出しながらダイヤルを回す。ニ、三回くらいのコール音の後に、


『もっしもーし、どなた? ってミサカはミサカは確認してみるんだけど』

「俺様だ」

377 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:05:23.30 B8CtpJH4o 266/670


『フィアンマ? どこから電話してるのってミサカはミサカは首を傾げてみたり』

「説明すると長くなるから省略させてもらう。 それより、これから"始めるぞ"」

『ッ! ついにこの日がやってきたか……ってミサカはミサカはキャラを変えてごくりと生唾を飲んでみる』

「気構える必要はないだろ。 お前は予定通り、『変化を確認したら』携帯電話を握りしめて
 待機していればいい。 ミーシャが上手く事を運び、お前の携帯電話に本命のメールが届いた
 その瞬間、お前の仕事は本格的に始動する。 余裕があれば俺様も協力するが基本的にはお前の
 交渉術が鍵を握っているんだ。 せいぜい、"こっちの世界に興味を惹く"ように尽力するんだな」

『任せとけよ相棒、ってミサカはミサカは心配性の相棒を安心させてみる』


そういやそんな設定あったな……と呆れながらフィアンマは受話器を置いて通話を終えた。

378 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:06:18.16 B8CtpJH4o 267/670



――――――――――――――――――――――


「……さて、」


フィアンマは改めて丸テーブル……、小さな小さな儀式場と化してしまった
丸テーブルの前に座った。歯磨きと洗顔を終えた小萌先生も彼の対面側に
ちょこんと座り込む。


「ステップその一、なのですよー。 『御使堕し(笑)』の発動でしたよね?」

「あぁ。 あと一応訂正をしておくが『御使堕し(改)』だ、どういう言い間違いをしている」

379 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:06:59.35 B8CtpJH4o 268/670


そう言うとフィアンマは静かに瞼を閉じた。形容し難い沈黙が室内を支配し、
小萌先生の表情もここぞとばかりに引き締まる。部屋中に綴られた魔方陣の文字は
まるでこの部屋だけが不思議な異空間になり果てたのかと錯覚させる。
だが一端覧祭で賑わう外からの喧騒が、あくまでここは現実世界なのだと再認識させてきた。


「……月詠。 術式を発動させる前に『アレ』をここに用意しなければ」

「アレ? ……ハッ! うっかりしてたのですー!」


床に描いた魔方陣の一部を踏み消してしまわぬよう慎重に立ち上がり、
小萌先生はタンスへ向かった。引き出しの中から何かを取り出し、そそくさと
丸テーブルの下へ戻ってくる。

小萌先生が持ってきたのは、牛乳瓶より少し小さめサイズの透明な空きビンであった。

380 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:07:47.50 B8CtpJH4o 269/670


「このビンの中に……ええっと、」

「"サーシャ=クロイツェフの魂を収める"。 ……出来ればそんなどこにでも売ってそうな
 ビンではなく、魔術的な下拵えをした霊装を用意したかったのだが、今の俺様にそんな
 物を用意するコネは無い。 まさか街を出て魔術サイドに用意させる訳にもいかんしな」


ビンの中に魂を入れる。仮に誰かがフィアンマの言葉を聞いたとして、成る程と理解できる
人間はこの時点ではいないだろう。加担者の小萌先生ですら、魂を入れるというのがどういう
意味なのか分かっていないのだから。


「魂の定義は俺様ですら未だに理解できんものだが……今から魂について
 研究を進めていては埒が明かん。 多少の不安要素は目を瞑るしかない」

381 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:08:30.39 B8CtpJH4o 270/670


小萌先生は丸テーブルの中央、魔方陣の中心点にそっと空きビンを置いた。


「それでは火野ちゃん、よろしくお願いするのです」

「任せておけ。 ここまで付き合ってくれた礼と言ってはなんだが、」


フィアンマは普段あまり浮かべる事のない、薄く、しかし優しさに満ちた笑みを浮かべて言った。




「お前に『奇跡』を披露してやる」




382 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:08:56.30 B8CtpJH4o 271/670


小萌先生はニッコリと微笑み頷いてみせた。
フィアンマは深く息を吐き、今一度計画内容を頭の中で確認する。


―――――これより始まる『御使堕し(改)』、及びミーシャ主催サプライズ計画の概要は以下の通りだ。


Step1. フィアンマが『合図』を送る。その合図を感知したミーシャ=クロイツェフは
    一時的にアストラル体(器を脱いだ魂と同義)となり、地球圏外へ『飛ぶ』。


Step2. ミーシャ(アストラル体)が宇宙空間を泳ぐ『星の欠片』の門へ向かい、一度別位相へ『還る』。
    ミーシャは別位相にて一方通行へ贈るサプライズの『準備』を整える。

Step3. 『星の欠片』を介してミーシャが別位相に還った事を確認したフィアンマが『御使堕し(改)』を発動。
     別位相へ還った大天使ミーシャを再び現世に『召喚』する。
     ※不安要素その一。ここで『御使堕し(改)』が失敗したらミーシャは二度と現世に降りられなくなる。

383 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:10:08.47 B8CtpJH4o 272/670


Step4. 無事に現世へ降りる事が出来たミーシャ(アストラル体)はそのままサーシャの下へ直行。
    本来の『御使堕し』通り、魂の入れ替わりを行う。移転先はミーシャの要望でサーシャ=クロイツェフ。
    ※不安要素そのニ。ここでサーシャに拒否されたらアウト。サーシャの懐の深さに賭けるしかない。


Step5. ミーシャはサーシャの肉体を得る事で降臨。入れ替わり、サーシャの魂が弾き出される。
    その魂が別の人間に乗り移る前に小萌先生の部屋に引き寄せ、ビンの中に封じ込める。


Step6. ミーシャが別位相で行った『準備』が成功していれば打ち止めの方に"ある変化"が訪れる。
    フィアンマがミーシャの顕現を安定させ、かつ打ち止めが『成功』すれば全て完了。
    ミッションコンプリート。お疲れ様でした。


「………………………………」

384 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:11:08.94 B8CtpJH4o 273/670


確認してみればしてみるほど、荒唐無稽な計画である事を自覚させられた。
あまりにもギャンブル性が強すぎる。Step4など特に顕著だ。
予めサーシャに連絡の一つでも入れておけと言いたい、とフィアンマは今更ながら愚痴をこぼしたくなった。


特に重要で不安なのがStep2~3である(もっとも、重要かつ不安要素なのは全Stepに当てはまるが)。
別位相でのミーシャの『準備』が空振りしたらフィアンマの苦労は全て水泡に帰してしまうし、
万全の調整を施しているとはいえ元ネタは大魔術『御使堕し』、この魔術の副作用とも言える
魂の入れ替わりを阻止出来なかった場合、世界は混乱の渦に巻き込まれてしまうのだ。

しかもタチの悪い事にその混乱を認識出来るのは術者であるフィアンマのみであり、
本来の『御使堕し』を強引かつ無茶にアレンジしているため術式を解除して魂の座標を
元に戻す方法も取れる保障はない。

385 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:12:05.19 B8CtpJH4o 274/670


仮に全ての手順が滞り無く遂行できたとしてもそれで幸福を得るのはミーシャと、
サプライズを受け取った一方通行であり(一方通行が喜んでくれる保証も勿論無い)、
最も功績の大きいであろうフィアンマには何の儲けもありはしない。


ハイリスクノーリターン。今すぐここでフィアンマが匙を投げても責められる者はいないだろう。


(……だというのに、計画を投げ出そうという気が起きん俺様は相当にどうかしているな)


それでもフィアンマはやる。大天使様のワガママに、全力で応える姿勢を崩さない。


彼には、それしかないから。第三次世界大戦という争乱を引き起こし、失敗し、
その後の世界の行く末を見る事でしか存在理由を持たない彼には、そのために
『天使同盟』などという組織に加盟した彼には、他に手段などないから。

386 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:12:47.45 B8CtpJH4o 275/670


見守るしかない。ミーシャ提案のサプライズが一方通行に、そしてこの世界にどう影響を与えるのか。


(…………世界の行く末を見る? それが、俺様が『天使同盟』に加盟した理由。 ……?)


一瞬、フィアンマの頭に自分でも理解不能な『疑問』が浮かんだ気がしたが、
彼はその疑問らしき何かを払拭し気を取り直す。


「合図を送る」


瞬間、フィアンマの右肩辺りから空気が膨張し爆発したような炸裂音が発生した。
その肩口から出現するは彼の力の象徴。第三の腕、『聖なる右』。
長さが不揃いな四本の指を蠢かすその真っ赤な腕を見て、小萌先生は腰を抜かしてしまった。


「はわわわわわ………………、ど、どうなってるのですかこれは……」

387 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:13:30.99 B8CtpJH4o 276/670


第三の腕の出現に呼応するように、丸テーブルに描かれた魔方陣が赤く発光し始めた。
そこから波紋のように赤い光が範囲を広げ、部屋中に綴られた文字に伝わっていく。


(ミーシャが今どこにいるのかが気掛かりだが……せめて外にいてくれよ)


第三の腕の指が不気味に震えた。四本の指の一本が天井に向かって突き出された。
その指から伸びる爪の先端がほんの数瞬、激しい光を放つ。
恐らくこの学園都市のどこかにいるであろうミーシャへの『合図』だ。


(まずこれに気付いてもらえん事には何も始まらんのだが……クソッ、頼むぞ……)


気がつけば最初の段階から運試しの形になってしまっていた。
『合図』に気付きアストラル体と化したミーシャをいつでも感知出来るよう、
フィアンマは全神経を研ぎ澄ます。

388 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:16:15.98 B8CtpJH4o 277/670


今日はここまでです。ちょいと中途半端ですが。

具体的な内容を見てもフィアンマ達が何をしようとしているのか分からないと
思いますが、今この段階で理解されても困るので重要な部分はわざとぼかしています。
まあ分かる人にはオチとかも全て分かるでしょうけれど、お楽しみに。

ここから先はしばらく儀式実行です。そしてもちろんほぼギャグパートです。
フィアンマは真剣ですが、やってることは馬鹿馬鹿しいのでギャグということで。
長い目で見てもらえると助かります。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

389 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/05/15 14:16:58.10 B8CtpJH4o 278/670




                          【次回予告】



「こいつは、『本物』。 ……私はそこを疑いたくない」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)――――――御坂美琴




「cltc『門』……、問題無し。 ld帰還、私の―――世界」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・水を司る大天使『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ




「おおおーっ!!? あ、アレがミーシャちゃんなのですかー!?」
上条のクラスの担任――――――月詠小萌




「『御使堕し(改)』…………、発動」
『天使同盟』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ




393 : VIPに... - 2012/05/15 16:42:55.09 Da2T8Q2To 279/670

おつ
合図とかメールじゃダメだったのか

403 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:13:40.99 q+h8ix+ro 280/670

>>393
い、いや……そこはほら、魔術的に!非科学でやった方が映えるかなと思って!
ていうかフィアンマ携帯持ってましたっけ?そういうとこ忘れるとかあり得ないですよね……筆者として。
いや携帯持ってなかったとしてもあの小麦粉霊装で……しかもそれなら魔術っぽい……、……。

科学も魔術も超越した手段なんですよ、右腕でのお知らせは!それで納得しろ!


暴言もいいとこの>>1です。今日もはりきって更新したいと思います。

今回も引き続きフィアンマパート。果たして彼は無事に『御使堕し(笑)』、もとい『御使堕し(改)』を
発動させるに至れるのでしょうか。そしてミーシャの突然の帰還に御坂は……といったお話。

それでは、よろしくお願いします!





404 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:14:17.86 q+h8ix+ro 281/670



――――――――――――――――――――――


賽の一投目。フィアンマの最初の賭けはとりあえず勝ったようで――――


「!」

「ん? どうした?」

「離せと言っていますのにこの化物!!」


朝の常盤台中学、女子寮の一室。

御坂美琴はベッドの上でストレッチをして体をほぐし、白井黒子は二本の長いツインテールを
グイグイと引っ張って遊んでくるミーシャ=クロイツェフに何度も肘鉄を食らわせていた。

405 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:14:58.35 q+h8ix+ro 282/670


その時であった。ふと、白井の艶やかなツインテールが魔の手……もとい天使の手から解放された。
ようやく飽きたのかと思った白井だったが、何やらミーシャの様子が少しおかしい。
部屋の窓、その先の景色をジッと見据えたままピクリとも動かなくなる。


「……………………………………」

「どうしたのよ? 何か興味が惹かれるものでも見つけた?」


言いつつも、しかし美琴は返事を返さないミーシャに漠然とした不安を感じた。
ミーシャが人間なら『お腹がすいたのか』とか『どこか具合でも悪いのか』と
尋ねていただろう。しかし相手は自称天使、例え天使でなくとも人外である事は
間違いのない存在だ。

406 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:15:52.27 q+h8ix+ro 283/670


人間である自分には想像も出来ない『何か』にミーシャが気付いたのか、と。
今も窓の外の景色を見ているのではなく、彼女にしか感じ取れない何かを
察したのではないかと、あまり愉快でない推測が次々と浮かんでくる。

美琴は再度、恐る恐る質問してみる。


「……何かあったの?」

「―――――――――、」

「このオモチャがしっかりと機能すればミーシャさんの仰りたい事も伝わりますのに……」


やはりミーシャの口から言葉はおろか、未だに慣れないノイズが発せられる事はない。
白井が指でくるくると回している美琴印の発明品、『ガブリンガル』もあれから何度か
改良を加えたが、結局クソの役にも立たなかった。もっとも、ミーシャの言葉を他の
言語に翻訳して音声を出力するという技術を独自に生み出した時点で相当なものだが。

407 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:16:22.98 q+h8ix+ro 284/670


「…………ctso始動utx」

「え?」


そこでようやくミーシャの口(にあたる部分)がわずかに動きを見せた。
が、消え入るような不明瞭の声は美琴や白井には理解が追いつかない。

代わりにとでも言うようにミーシャは携帯電話を取り出す。
そこで美琴と白井は眉をひそめた。ミーシャが手に持つ携帯電話の
裏面……に付着している胡散臭い呪符に綴られた奇怪な文字が赤く発光していたからだ。


何それ? と美琴が聞く前に彼女の携帯電話が着信音を発した。
新着メール通知。相手は言わずもがな、目の前でポチポチと携帯を打鍵していた大天使。

408 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:17:08.08 q+h8ix+ro 285/670



『ごめんなさい。 ちょっと還る』

「は?」


思わずメールの文章に対して聞き返してしまった。横から首を出して
覗いてきた白井も眉間にシワを寄せて訝しむだけだ。内容について考察する
暇もなく次のメールが届く。一度にまとめて送信しろよ、と美琴は心の中でツッコんだ。


『ほんの少しだけ、今の私とはお別れ。 でもまたすぐ、会いに行くから』

「え……ちょ、何? お別れって? 還るって……アンタどこに還るのよ?」


『帰る』ではなく『還る』、という表現に美琴の中にあった漠然とした不安が確信に変わった。
お別れ――――それはこの天使が元居た場所、或いは世界に帰るという意味ではないのか。

409 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:18:13.54 q+h8ix+ro 286/670


せっかく友達になれたというのに。協力して友達を救ったというのに。白井も交えて、ようやく
ミーシャという人外がいるこの環境にも適応出来てきたというのに。


すぐに会いに行く、という文章など目に入らなかった。そんな保証がどこにあるのか。
ミーシャが天使であるなどと美琴は今も半信半疑であるし、非科学の法則が存在する事を
何となく理解してもだからどうしたと、今でも言ってのける事が出来る。

還るという文章に、美琴は寂しさとは別に、理由もろくに説明しない
一方的な離別に対する怒りが込み上げてきた。


「ちょっと待ってよ!! 急にこんな事言われても―――――」

410 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:19:05.14 q+h8ix+ro 287/670


しかし色々な感情が織り交ざった美琴の言葉は、


「………………な、……」


確かに『個』として存在していたミーシャの肉体が不定形なアストラル体へと
変貌する際の激しい発光によって遮られてしまった。


仮に幽霊というものがこの世に存在していたら、実はこんな感じじゃないかと思わされるその姿。
球体かと思った次の瞬間にはアメーバのような形容し難い形になり、かと思いきや現存する
数学知識では表現出来ないような立体型へ姿を変えたり、とにかく安定していなかった。
その塊の中に、ミーシャが持っていた携帯電話が重力を無視してふわふわと浮かんでいる。

ただ"ミーシャだったそれは"、蜃気楼のようにゆらゆらと揺蕩い、先とは違う
落ち着いた光を放っていた。それがミーシャ=クロイツェフの魂、厳密には
『天使の力(テレズマ)』の塊と化した彼女である事を、学園都市の人間である
美琴と白井が分かるはずもない。二人はただポカンと、開いた口を塞ぐことも
忘れて凝視し続けるだけだった。

411 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:19:59.33 q+h8ix+ro 288/670


「……ミーシャさんとは、どこかの能力者が生み出した立体映像か何かでは
 ございませんの……? わたくし達をからかって面白がるという目的で
 こんな事を……。 そ、そうとでも考えなければ納得いきませんの……」


目の前で起きた非科学オンパレード現象に対する白井の感想も妥当と言えばそうだった。
だが美琴は違う。そうは思わない。この現象を説明してみろと言われてもまるで不可能であるし
する気もないが、それでも、


「……そんなんじゃないわよ」

「お姉様?」

「こいつは、『本物』。 ……私はそこを疑いたくない」

412 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:21:48.13 q+h8ix+ro 289/670


半信半疑ではあるものの、しかし美琴もどこかで認めていたのかもしれない。
そんな気持ちを思わせる発言だった。

ミーシャの手に触れた時に感じた、否、贈られた純水な『愛』を、美琴は信じて疑わなかった。
存在自体は疑わしく思ってはいるが、あの感情だけは間違いなく本物だった、と。
あれは科学やオカルトなどという物差しで測れるものではない。生命ならば誰もが抱き、有する、
当たり前の感情。それをミーシャが持っていた以上、ミーシャは偶像などではなく『本物』。
目の前の不定形な塊には困惑せざるを得ないが、そこだけは揺るがなかった。


「ミーシャ」


名前を呼ぶ。返事はない。この姿では言葉を話すことも叶わないのだろうか。
それでも美琴は続ける。さっきまでの怒りなど何処吹く風、彼女は柔らかい
笑顔を見せながら言った。

413 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:22:26.02 q+h8ix+ro 290/670


「一から一〇までワケ分かんないけど……ちゃんとまた、戻ってきなさいよ?」


やはり返事はない。だが、力強く頷いてくれたような気が美琴にはした。
そしてミーシャだった光の塊は楕円状に形状を変化させ、




勢い良く窓…………ではなく、部屋の壁をまるまる一面吹き飛ばし、耳を劈くような
轟音と共に天高く舞い上がって行った。壁の破片やガラスが外に散らばってしまったが、
幸いその周囲に人はいなかったようで、怪我人などは出なかった。




414 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:22:55.49 q+h8ix+ro 291/670


「あんのクソボケがぁぁー!!! 飛んでくにしてももっと穏便に飛ぶ方法があったでしょ!?」


派手すぎる『帰宅』に憤慨する美琴だったが、むしろ何故この状況でプンスカと怒ってられるのかと
茫然自失の白井は外気から流れてくる冷たい空気を浴びながらそう思った。

だが二人を襲う嵐は留まる事を知らない。


「………………貴…………様……ら………………」


背後。部屋の出入り口の扉が、いつの間にか開放されていた。
現実とは思えぬ程の悪寒と恐怖を背中に感じながら、美琴と白井は振り返る。

415 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:23:31.73 q+h8ix+ro 292/670


常盤台中学女子寮寮監。そのキリッとしたメガネの奥に潜む瞳は確認出来なかったが、
室内の惨状に対し明らかに憤っている事だけは、アレだけの非科学的現象を目の当たりに
したばかりの二人でも容易に察することができた。




「かしこまれいッッッ!!!」




停学処分さえ下らなかったのは幸運としか言い様がない。

416 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:24:15.14 q+h8ix+ro 293/670



――――――――――――――――――――――


「おおおーっ!!? あ、アレがミーシャちゃんなのですかー!?」

「あの莫大な『天使の力』……間違えようがない、前哨戦は滞りなくクリア……」


第七学区の木造二階建てアパートの一室で、フィアンマと小萌先生も窓からそれを確認した。
まるで隕石が"逆流"したかのような、常軌を逸した光景。距離からして同じ第七学区の
某所から飛翔したアストラル体のミーシャを肉眼で確認したフィアンマは、


(宇宙空間の『ベツレヘムの星』、……『星の欠片』と『聖なる右』をリンクさせる)

417 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:25:04.79 q+h8ix+ro 294/670


丸テーブルに戻り、魔方陣を見据えながらミーシャに負けず劣らずの魔力を精錬する。
これでフィアンマ達が仕上げた術式の効果に従い、ミーシャは宇宙空間に存在する
『星の欠片』へ誘われるように移動していく仕組みだ。

彼の肩口から生えるように現出している第三の腕が痙攣を引き起こしたように震えた。
あまりに不気味で禍々しいその挙動に見ていた小萌先生が若干顔を青くしている。

すると室内を埋め尽くす魔方陣の文字の赤い発光が明滅し始めた。
まるで『警告』。本来の『御使堕し』にはあり得ぬ現象。これ以上踏み込めば
もう後戻りは出来ないと、術者のフィアンマに強く牽制しているようにも見える。


(リンク完了。 ……『星の欠片』は正常に機能しているな、"欠片"という時点で
 正常とは言えんが……ともあれこれであの天使を一度セフィラに還す事が出来る)

418 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:25:42.13 q+h8ix+ro 295/670


だがフィアンマは止まらない。こんな所で停滞している場合ではない。
賽は投げられた。魔方陣の赤い明滅は確かに警告とも捉える事が出来るが、
魔術サイドにおいて『赤』の象徴といえばフィアンマの『右』に出る者はいない。

この男は止まらない。大魔術の前に臆する事はない。


(ミーシャがセフィラの座に戻り、『準備』を整え終えるタイミングを間違えるな……。
 ヤツがまだ戻っていない時に『御使堕し(改)』を発動させてしまったら終わりだ。
 『準備』の最中に発動してもまた然り。 全意識を宇宙に、星に向けろ――――)


ミーシャが宇宙へ飛翔して数分。学園都市はにわかにざわついていた。
それも必然、朝っぱらから突然訳のわからん発光体が腹の奥に響き渡る程の
爆音と共に晴天へ飛んでいったのだ。学園都市はおろか、下手をすれば日本各地で
今頃緊急報道が行われているかも知れない。

419 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:26:53.88 q+h8ix+ro 296/670


「こ、これ……街中で騒ぎになったらどうするつもりなのですか……?」

「学園都市の連中にとっても今のは確かに不可解な現象だが、"それまでだ"。
 そこからあの光の正体や目的、そして俺様達の事情にまで至る事はない」


ただ願うはミーシャ飛翔時に目撃者が居なかったという事。
もしくは目撃者が居て、しかしその人物がミーシャと交流していない事。
……残念ながら前者も後者もぶっちぎりでシカトされているのだが。


フィアンマはそれらの懸念事項を全て置き去りにし、集中力を高め続ける。
それに呼応するように魔方陣と文字の発光が激しくなっていく。
彼の顔を流れる大量の汗を、小萌先生は手術時の助手の如くタオルで拭き取っていく。


そして『星の欠片』とミーシャ=クロイツェフは―――――。

420 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:27:40.49 q+h8ix+ro 297/670



――――――――――――――――――――――


宇宙。


ある意味、ここも現世と切り離された異世界。地球という惑星から得られる
エネルギーを無視してこの空間に儀式場を作ったら新たな効果が期待出来る
のではないかと魔術サイドでも稀に囁かれる、未だ未知なる世界。

地球だけではなく、太陽、月。惑星だけではなく人工衛星、宇宙ステーション。
更に太陽系から離れても人類が進出させた最新科学が宇宙を泳いでいるだろう。


そのどこまで行っても星と闇が広がる海に、

421 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:29:04.84 q+h8ix+ro 298/670


「cxtuj発見pzutz」


声が響いた。音が伝播するはずのないこの宇宙で、その音を聞く存在も無いが、
確かに響いた。声の主は学園都市、地球から飛翔してあっという間に大気圏を
突破した謎の発光体、大天使ミーシャ=クロイツェフ――――のアストラル体。


ミーシャは宇宙に到達して間もなく、かつて『天使同盟』の全員が血眼になって
探し出し、そして死守した天使の玄関。

『星の欠片』を発見するに至った。発見したというか、地球でフィアンマが
彼女を儀式場まで誘導しているだけなのだが。

422 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:30:09.92 q+h8ix+ro 299/670


「…………」


『第一九学区事件』の、最後の最後で牙を剥いてきた圧倒的存在、太陽を
睨むように一瞥すると、ミーシャは体内(としか表現しようがない)に収めた
携帯電話を確認する。本体裏側に貼りつけたフィアンマお手製の呪符のような
札は尚も不気味に赤く光を放っていた。地球から離れてもフィアンマの魔力が
働いている証拠だ。


そして視線を正面に構える。『星の欠片』。よく観察してみると
欠片の下方部分に何か鋭いもので穿ったような痕がある。
恐らくあの事件の際、垣根帝督が創りだし、一方通行が投擲した『槍』の痕跡だろう。

以前にフィアンマが打ち止めと番外個体の前で指摘した通り、『星の欠片』は
科学と魔術で混成された『槍』という未知なる異物が干渉した影響で不安定な
状態になっていた。それを確認出来るのはミーシャとエイワス、フィアンマぐらいしか居ないが。

423 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:31:08.89 q+h8ix+ro 300/670


「vioz感謝ryml」


だがミーシャは改めて心の底から感謝の意を、既に遠く離れた地球に居る仲間達へ贈る。
確かに不安定ではあるが、この処置を施してもらえなかったらミーシャはとっくに消え去って
しまっているのだから。


「? ……、」


……ただその『槍』が"『星の欠片』に刺さっていない事"にミーシャはわずかな疑問を覚えたが、
今はそれどころではないため彼女は浮かびかけた疑問を棚上げにした。

424 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:31:35.29 q+h8ix+ro 301/670


「cltc『門』……、問題無し。 ld帰還、私の―――世界」


『星の欠片』に近づくにつれてミーシャの言葉に混じるノイズが減少していく。


玄関。この先に広がるは、もはや人間言語では表現出来ない、未知という
言葉すら陳腐に思える天界が存在する。


ミーシャは迷わず突き進んだ。自分の存在確立のため、そして最も大事な一人の少年の幸せを願って。

425 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:32:12.15 q+h8ix+ro 302/670



――――――――――――――――――――――


緊張の糸が極限まで張り詰めていた。生唾を飲むことすら躊躇われる、
呼吸でさえも儀式の阻害になってしまうのではと思える。


「………………」

「………………」


真冬の朝にも関わらず、フィアンマの全身は汗でぐっしょりと濡れていた。
そんな彼に対し、両手を組みながら無言で励まし続ける小萌先生。
正直今の状況を何一つ飲み込めていない彼女だが、魔力の過剰な精錬行為で
衰弱している彼の傍にいてあげる事が、今自分に出来る一番の行いだと確信していた。

426 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:33:09.78 q+h8ix+ro 303/670


肩から現出している赤い腕、その四本の指が、何かを探るように音もなく蠢いている。


やがて、


「………………セフィラの感覚。 この反応、『イェソド』か!」


およそ一般人が聞いても理解できない言葉をフィアンマが叫んだ。
『聖なる右』がさらに強く光を発し、小萌先生はもう彼の姿を直視
する事すら出来なくなってしまう。


(この時点で既に『奇跡』だな……ミーシャめ、無事に還ったか。 ならば携帯電話は……)

427 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:33:50.89 q+h8ix+ro 304/670


本人にしか感知できない事だが、フィアンマはミーシャ=クロイツェフの『帰還』を確認した。


(ここからミーシャを再び堕ろす……。 超遠距離召喚、難易度は三次大戦の比ではないが、)


そこでしばらく閉じられていたフィアンマの瞳がおもむろに見開かれた。

次の瞬間、小萌先生は本日何度目かも分からない『非科学』を目の当たりにする。
ただの黒い墨で綴ったはずの魔方陣の文字が……、生き物のように蠢き、そして
宙に浮かび始めたのだ。

トリックアートを鑑賞しているような錯覚。均等に並んでいた文字は浮遊し、
フィアンマと小萌先生を取り囲むように凄まじい速度で渦巻き始めた。

428 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:34:34.03 q+h8ix+ro 305/670


「動くなよ」


言われなくとも、と小萌先生は無言で頷いてみせる。恐らくこの渦巻く文字に触れたら
構成していた魔術的な仕組みが崩れてしまうのだろう。二人はこの文字が生み出す台風の目に
居る状態だった。それだけならまだしも、文字は赤く光っているためまるで血の壁に取り囲まれた
ように思え、小萌先生はわずかに身震いした。


そして、


「頼むぞ『神の力(ガブリエル)』……そして『神の如き者(ミカエル)』よ」

429 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:34:59.60 q+h8ix+ro 306/670


暴風のように荒れ狂う文字の渦中、フィアンマは思い切り深呼吸をして唱えた。




「『御使堕し(改)』…………、発動」




一端覧祭開催から六日目。フィアンマに、ミーシャに、そして一方通行に訪れるは『奇跡』か『悲劇』か。

430 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:35:53.18 q+h8ix+ro 307/670


                  ~Information~


【ようこそ、全人類の皆様方 -Welcome to ALLIANCE-】がアンロックされました。


・【風斬氷華育成計画 -AIM Simulation-】

・【兎追いしかの街 -Wonder land-】

・【闇喰らわぬもの祈るべからず -Saint-】

・【俺より強い奴に I need you -Advance-】 

・【???】 

・【第一位と第二位の垣根を越えて -Identity-】

・【ようこそ、全人類の皆様方 -Welcome to ALLIANCE-】

・【???】

・【???】

431 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:39:53.81 q+h8ix+ro 308/670


なんかエンドルートの空き枠が増えたり減ったりしていますが、ようやく安定しました。
上記のやつで確定です。9つですね。ご迷惑おかけしました。

てなわけで今回はここまでです。

意外な場面でアンロックされましたが、意表を突くことができたでしょうか。
まあ各ルートの投下なんてまだ遥か先のことなのでどうでもいいと思いますが……。

ついに発動した『御使堕し(改)』。この無茶で無謀で無理くさい大魔術は
無事に成功を収めることができるのか。
成功するならわざわざフィアンマパートなんて題したりしな(ry

次回更新は三日以内。次回予告は下記のようになってますが、相変わらずフィアンマパートなのでご安心を。

それでは、今日もありがとうございました!

432 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/05/18 12:40:19.59 q+h8ix+ro 309/670




                          【次回予告】



「お、第一位発見~」
新生『アイテム』の構成員・学園都市第四位の超能力者(レベル5)『原子崩し(メルトダウナー)』――――――麦野沈利




「ううぅ~……、何で第一位と……何の超罰ゲームですかこれ……」
新生『アイテム』の構成員・大能力者(レベル4)『窒素装甲(オフェンスアーマー)』――――――絹旗最愛




「……まァイイ。 その話、乗った」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)




442 : VIPに... - 2012/05/18 19:38:12.76 mXcJcXxl0 310/670

>>1乙!!
ていとくんの槍は気絶したせいで消えちゃったんだっけ?

443 : VIPに... - 2012/05/18 21:43:37.21 ulzrYSnDo 311/670

おつ
これはフィアンマルートなのかガブリエルルートなのか

444 : VIPに... - 2012/05/18 22:56:26.78 G03y2UGqP 312/670

それにしてもルート二つは確定的な人がいるからわかるけどあと一つはわからんなぁ
エイワスかフィアンマかいっそアレイスターかもう上条さんでいいかセトが出るか影が薄いメインヒロインか
あと並ぶ順番も全く謎だ

449 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:29:23.53 WFc6FdLOo 313/670

>>442
本編の最後の最後で、エイワスは消えたと発言しています。
しかし蛇足にてフィアンマが打ち止めと番外個体に『星の欠片』について
説明した際、彼は欠片とのリンクで『槍』が"刺さったまま"健在していると
言っています。そして前回、ミーシャは宇宙で欠片から"抜けた"『槍』を
目撃しています。

この齟齬が実は今、垣根を悩ませている案件に関わってくるのですが……それはまたいずれ。

>>443-444
前回解放されたルートはフィアンマルートです。
ルート一覧の順番は特に意味はありません。まぁなんとなく
この順番がいいかな……程度にしか考えてません。ごめんなさい。

というわけで今日も更新、フィアンマパートです。
ついに発動した『御使堕し(改)』がもたらす影響とは……的なお話。

それでは、よろしくお願いします!

450 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:30:17.90 WFc6FdLOo 314/670



――――――――――――――――――――――


確かに常盤台中学辺りの方角から謎の飛行物体が青空へ飛翔していき、
それに気付いた街の人間たちが若干の騒ぎを見せていたはずなのだが、


(…………さて、どォする)


学園都市最強の怪物、一方通行にとってそれは完全に意識の外の出来事であった。
なんだか今日は朝から騒がしい……程度にしか今の状況を捉えていなかった。

一端覧祭開催から今日でもう六日目。明日の最終日を終えれば、学園都市は
またいつもの日常に切り替わる。まるでこの一週間など夢であったかのように、
学生たちはそろそろ迫ってきた進学に向けての準備を整えなければならない。

451 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:31:03.89 WFc6FdLOo 315/670


だが一方通行はそんなものとは全くの無縁。むしろ彼が今考慮しなければならないのは、


(学園都市暗部の壊滅……。 上層部へのダメージがそれに繋がるが、……簡単な話じゃねェ)


深夜から早朝にかけて土御門元春と交わした会話内容を頭の中でリピートしながら
一方通行は現代的なデザインの杖をつき、第七学区を歩いて行く。

『天使同盟』の巣窟と化したあのアパートには帰らなかった。否、帰れなかった。

今も恐らくあのアパートには前方のヴェントがいる。五日目の夜に彼女の心情に
薄々気付いた一方通行は、そんなヴェントが今もいるであろうアパートに帰りづらく
なっていた。この辺り、彼もやはり人間である。

452 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:31:52.81 WFc6FdLOo 316/670


そしてヴェントの事について真剣に考えようとした矢先の『闇』だ。これではろくに、
いや下手に彼女はおろか魔術サイドの人間と交流出来なくなってしまう。まずは暗部を
解体させなければならない。そしてそれ以外に、一方通行がこの一端覧祭で得た
数々の異性との交流。垣根帝督と暗に交わした約束もあり、ヴェントも含め、一方通行は
そろそろ『総合的に』解答を示さなければならない。

なぜならあと明後日、もしくは明日の夜に、彼はイギリスに赴く事になっているからだ。
そのイギリスの件で関しても、先の土御門との会話で懸念事項が増えてしまい、
一方通行はあらゆる案件に対して深く考察していかなければならない状況下にあった。


そんな試行錯誤の渦に翻弄される彼の背中に、


「お、第一位発見~」

「朝から超不吉なものを目撃してしまった感がありますね」

「……オマエらか」

453 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:33:17.01 WFc6FdLOo 317/670


声がかけられた。元暗部組織『アイテム』の構成員、麦野沈利。そして絹旗最愛。

『敵対組織「天使同盟」』として接触したあの時の殺伐した雰囲気は今はもう無く、
麦野は普通の知り合いに接するような気軽さで彼の下へやってくる。
隣にいた絹旗は何とも不機嫌そうな表情を浮かべていたが、一方通行は気に留めない。


「大天使サマとは一緒じゃないの? お前基本一人なのか」


麦野は尋ねた。その大天使様は既に宇宙に向けて発射されたのだが、当然知る由もない。


「オマエこそ、残りのバカップル二人はどォした。 まさか
 オマエらがあいつらに気ィ遣ってやってるなンて事ァねェだろ」

454 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:33:53.97 WFc6FdLOo 318/670


「気を遣ってるというか、気を遣わされてるって感じですかね。
 あなた達と一悶着あった後、超浜面と滝壺さん、更に仲睦まじく
 なってしまいまして。 こう……近寄るスキも無いと言いますか」


肩をすくめて絹旗は首を横に振った。どうやら今日も浜面仕上と滝壺理后は
二人だけの世界を満喫しているらしい。
あの二人が結ばれた瞬間に一方通行は立ち会っているのだが、今なら素直に思えた。

浜面と滝壺が羨ましい、と。


「……結構な事じゃねェか」

「お前ヒマなの? だったら適当にその辺ブラつかない?」

「えー、何が超悲しくて第一位なんかと……」

455 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:34:42.85 WFc6FdLOo 319/670


その時、麦野の誘いはひとまず置いといて一方通行は別の事を考えていた。


彼女達『アイテム』は、一方通行が現在抱えている暗部の問題をクリアしている。
第三次世界大戦で手にした暗部脱出の鍵を手にし、彼女達は何の変哲もない日常を
謳歌している。


自分もそういう手段で『闇』から抜け出せないだろうか? という案が頭をよぎった。
もしくは『アイテム』の協力を受けて『グループ』も暗部から……と一瞬考えたが、


(寝惚けンな)


一方通行は己に一喝した。クソ以下のアイデアだった。外見では判断し難いが、
彼も相当に追い詰められている証拠であった。

456 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:35:49.79 WFc6FdLOo 320/670


まず『闇』から抜け出すのではダメ。一方通行の場合、『闇』を解体しなければならない。
そして『アイテム』への協力要請。論外である。暗部解体のために暗部から抜けだした
彼女達を巻き込んでは本末転倒もいいとこ。『闇』から解放されて弛緩しかけている彼女達を
利用する真似など、外道もいいとこである。


「おい聞いてんのかよ第一位? この私とデート出来るなんてまず巡り会えない幸運だよ?」

「超不運の間違いじゃないですかね。 しんどいだけの買い物に付き合わされ……あ痛たたッ!」


『窒素装甲(オフェンスアーマー)』展開中であるはずの絹旗に麦野の容赦無いチョップが切り込まれる。
一方通行は白い目でその光景を見ながら、しかし息抜きも必要だという結論に至り、あわよくばヴェントの
件について相談でもしてみようかという気持ちで彼は言った。

457 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:36:28.18 WFc6FdLOo 321/670


「……まァイイ。 その話、乗った」

「よし、それじゃとりあえずファミレス行こうか」

「ううぅ~……、何で第一位と……何の超罰ゲームですかこれ……」


という訳で一端覧祭六日目は『アイテム』の構成員、麦野と絹旗を交えて過ごす事に――――――


―――――ならなかった。結論を述べる形になるが、そうは問屋がおろさなかった。

458 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:36:55.97 WFc6FdLOo 322/670



――――――――――――――――――――――




『御使堕し(改)』、発動――――――――――――!




まず異変が起きたのは地上でも無ければ宇宙の『星の欠片』でもない。
高度約二〇キロ地点の空でそれは起きた。


そこに出現したのは、円、というか、『陣』。
『第一九学区事件』のあの現象を彷彿させる円形、一般人が見ても、
いやその分野に極めて詳しい魔術師が観察してもそれが何なのか理解すら出来ないだろう。

459 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:37:58.00 WFc6FdLOo 323/670


なぜならそれは魔術だが、たった今新たに誕生した新大魔術だからだ。


まず高度二〇キロとなると、人の目に映らない。成層圏と呼ばれるエリアだ。
人工衛星のカメラでも不可思議な法則で生まれたその円形を捉える事は不可能である。
よってこの現象は世界中の誰一人として認識することは叶わないのだ。半径約五キロ
という巨大さを誇っていながら、誰一人、魔術サイドの観測局でも、不可能なのだ。

しかし早速ではあるが、上記の説明に訂正を加えなければならない。
誰一人認識出来ないと言ったが、実は一人、世界でただ一人、この現象を
認識はおろか、観測さえ可能とする人間、魔術師が存在する。


(『月の象徴』を感知。 セフィラそのものに悪影響は……及んでおらんな。
 "繋がった"……ここまでは順調、予定通り……。 既にオリジナルの『御使堕し』とは
 かけ離れた現象ではあるが……俺様が組み込んだ術式の効果と寸分の違いも無い。
 ……魔方陣の展開終了を確認。 魔術サイドには悟られておらん、これなら……!)

460 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:38:42.52 WFc6FdLOo 324/670


学園都市、第七学区。ありふれた、どこにでも建っていそうなボロっちい
木造二階建てアパートの一室は、とんでもない事になっていた。


「ひ、火野ちゃん……」

「不安要素など……ふん、杞憂だったな……!! 楽勝だ……これなら……!」


右方のフィアンマ。そして月詠小萌。現在、『御使堕し(改)』の実行中。


室内に渦巻いていた真紅に輝く魔方陣は、もはや渦どころの騒ぎではなくなっていた。
四方八方三六五度、あらゆる角度に方角に、荒れ狂う怨霊が如く吹き荒んでいる。
非物理的なものであるせいか、荒れ狂う奇怪な文字はさっきから幾度と無く小萌先生の
小さな肉体を通過しているが、彼女に肉体的なダメージはない。

461 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:39:52.36 WFc6FdLOo 325/670


それでも得体の知れない不安が起因して浮かぶ小萌先生の怯えたような表情が
晴れる事はなく、それとは対照的にフィアンマの顔にはわずかな笑みがこぼれていた。
だが全身は汗に覆われ、室内は不気味な赤の発光に包まれているため確認しづらいが、
その顔も疲労からか青ざめてしまっている。


「火野ちゃん……、ほ、本当に大丈夫なのですかー……?」

「杞憂と言った。 あとはミーシャを"堕ろし"、ロシアに居るであろう
 サーシャ=クロイツェフの肉体へ誘導し、器を手に入れればいいだけだ」

「あ、あの……仮にそのサーシャちゃんがロシアにいなかったら……?」

「心配はいらん。 以前の『御使堕し』でミーシャは一度サーシャに
 乗り移っている。 一度乗り移った媒介は得てして以前に入れ替わった
 魂を"引き込みやすい"。 という効果をこの『御使堕し(改)』は有している」

462 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:41:10.41 WFc6FdLOo 326/670


……と、思う―――とフィアンマとしては付け加えたかった。
確証は無い。ただ信じるしかない、己の技量と奇跡を。

つまりロシアにサーシャがいなくとも、サーシャが存在していれば何ら問題はないという事だ。
味を占めた、という表現は良くないが過去に一度乗り移っている肉の器に惹かれるように、
ミーシャの魂はサーシャの下へ引き寄せられていくとフィアンマは言う。


「そろそろビンを構えておけよ月詠……」

「は、はいなのです!」


指示された小萌先生は小さな両手でしっかりと丸テーブル中央に設置されたビンを握る。
その際に蓋の役割を担うコルクを抜き、サーシャ(の魂とやら)がここへ来てもいいように
いつでもウェルカム状態を整えた。


「……降りろ……。 ………………降り、ろ…………」

463 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:41:54.92 WFc6FdLOo 327/670


そしても著しい体力と魔力の低下で呼吸が荒くなってきたフィアンマが呟き、

その呟きはやがて、懇願するような叫びに変わった。


「……降りろ、ミーシャ=クロイツェフ。 再びここへ帰って来い!」


高度約二〇キロの地点に展開した魔方陣が、地上のフィアンマに呼応するように
赤い輝きを放った。


だが、


「な……なんだ……!?」

「ひ、火野ちゃん?」


しかしここでまず"最初の"、想定の範囲外の出来事がフィアンマを襲う。

464 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:42:35.32 WFc6FdLOo 328/670



――――――――――――――――――――――


『御使堕し(改)』の予想だにしない現象はまず、


「あ? なんだよアレ」


深夜〇時過ぎ。イギリスはランベスのアパートメント、暗闇に包まれた
その一室で寝転がっていた垣根帝督に牙を剥いた。

465 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:43:11.67 WFc6FdLOo 329/670


「……ん、何?」

「いや、あれ」


垣根がベランダ、その先の外へ指を向ける。まだ寝入っていなかった
ドレスの少女、そして彼らの会話が耳に入り目を覚ましたルチアと
パトリシア=バードウェイが彼の指差す方向に視線を移すが、


「……? 何かあるのですか? 特に異変は見受けられませんが」

「マジで言ってんのか? そこ、空にふわふわ光が飛んでるじゃねえか」

「網膜剥離の前兆でも起きてんじゃないの? 何も見えないわよ」

「私にも……何も見えませんが。 それよりもうお休みになった方が……」

466 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:43:38.25 WFc6FdLOo 330/670


垣根以外の人間にその『光』は見えていないようだった。
しかし気のせいとは思えなかった。現に今も垣根の目には、上空から雪のように
ゆっくりと降りてきた小さな『光』が一つ、まるで何かを探し求めているように
右往左往しながら宙で漂っている光景が映っている。

すると、


「?」


ギクリ、と垣根の体が一瞬強張った。何故、と問われてもこの時の垣根は答えられないだろう。
うろうろと彷徨っていた『光』が急に動きを止め、こちら―――垣根の方を一点に見据えていたからだ。
ただの『光』にしか見えないはずの"それ"から何故視線を受けたように感じたか、これもまた不明である。

467 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:44:21.00 WFc6FdLOo 331/670


「なっ…………!!」


そしてその『光』は恐るべき速度で―――――壁もドアも透過して、垣根の胸を貫いた。


「が、ぁっ…………!!?」

「ちょ、ちょっと。 どうしたのよ?」


『光』が見えない女性陣からすれば、急に垣根が胸を押さえて悶絶したようにしか見えない。
三人は神妙な面持ちで彼の突然の動作をただ見つめるしかない。

468 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:44:58.35 WFc6FdLOo 332/670


そして当の垣根は混乱していた。確かに今、突然『光』に胸を貫かれ、例の『暴徒』による
遠距離攻撃型魔術でも食らってしまったかと危惧していたのだが……、


「………………、……、……………………? な、んだ? ダメージは、無い……?」


しばらく穴も何も空いていない胸を押さえて周囲を警戒していたが、
追撃はやって来なかった。痛みも無い、体調に変化もない。


(クソ……何だってんだ?)


しかし得体の知れない気味の悪さだけが、いつまでも彼の胸にのしかかっていた。
そして――――――。

469 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:45:39.12 WFc6FdLOo 333/670



――――――――――――――――――――――


「……あン? なンだありゃ?」

「ん?」


同時刻(と言ってもここは朝だが)、麦野、絹旗と共に第七学区を歩いていた
一方通行もまた、垣根が目撃した謎の発光物体を視界に捉えた。
『光』はイギリスで垣根が見た時と同じく、光に群がる羽虫のように不規則な軌道を
描いて空中をひゅんひゅんと飛び回っている。

470 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:46:51.93 WFc6FdLOo 334/670


「何ですか急に立ち止まって。 空を仰いで超感傷に浸りたくなってんですか?」

「このタイミングで俺が感傷に浸る意味がわからねェよ。 いや、アレ。
 オマエら見えねェのか? 光る球体が飛び回ってるだろォが」

「はぁ? …………何も見えないけど」

「超ヤバいクスリでもキメてるんですか? 私にも見えませんが」


一方通行は二人の反応に眉をひそめた。周囲を見渡してみるが、
大勢の通行人の中にその『光』を見て騒いでいる人間は見当たらない。
どうやら垣根のケースと同様、一方通行にしか『光』は見えていないようだ。。


(……なら『天使同盟』関連の現象か? 意図が見えてこねェが……)

471 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:48:02.97 WFc6FdLOo 335/670


とりあえず、という気持ちで『光』の正体を推測してみようと試みた彼だったが、


「―――――――――、あ、ァ?」


刹那。まさに一瞬の出来事であった。


その瞬間になぜ一方通行が『訳のわからぬ「光」に胸を貫かれた』と認識出来たかというと、
『光』の軌跡が尾を引いて自分の胸を通過していった痕跡が目下にあったからだ。
やはりこれも(一方通行は知る由もないが)垣根のケースと全く同じであった。

472 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:48:45.10 WFc6FdLOo 336/670


「チッ!!」

「?」


遠距離からの攻撃。これまで散々実戦の状況に身を置いてきた一方通行ならばそう直感するのも無理はない。
彼は即座に首元の電極チョーカーに手を添え、スイッチを切り替えて能力使用モードで臨戦態勢に入る。
一方通行のただならぬ雰囲気に麦野と絹旗も表情を『切り替え』、周囲に意識を巡らせるが、


(……………………追撃がこねェ? 攻撃ではない? なら、なンだ今のは?)

「……ねえ、つい私らも乗ってみたけど、結局なに?」

「戦争帰りの兵士じゃないんですから、そう気を張ってちゃ超身が持ちませんよ?」

473 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:49:29.18 WFc6FdLOo 337/670


二人の言葉を無視して一方通行は先程自分の胸を貫いた『光』を探してみるが、
当然というか、やはり見つけるには至らなかった。
胸に痛みはない。電極にも異常は発生しておらず、能力は問題なく使用出来る。


(どっかの誰かさンが俺への悪戯目的に放ったモンでもねェだろ。
 それにしちゃ地味過ぎるし、意味が分からねェからな。 ……)


あれこれと考察しても無駄に疲れるだけだと判断した一方通行は思考を放棄するが、


ここからわずか数分後。もっと今の現象について深く考えておくべきだったと後悔する事になる。

474 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:52:28.35 WFc6FdLOo 338/670


今回はここまでです。

さて、さっそくイレギュラーが発生しました。
これが失敗なのか否かは現時点では判断できませんが、
一方通行どころかイギリスにいる垣根にまで、その影響は及んでいます。
彼らの胸を貫いた『光』の正体、そしてその意味とは……てな感じで。

そして確認しておきますが、このお話はギャグパートです。

次回は舞台がロシアに移ります。なんだか忙しくなってきました。
久しぶりにロシア成教のあの子が登場、そして偉いことになります。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

475 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/05/21 20:53:00.00 WFc6FdLOo 339/670




                          【次回予告】



「………………私、妊娠してる」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ




482 : VIPに... - 2012/05/21 23:06:46.74 +VlIsSl80 340/670

ガタッ

ていうか、『槍』の挙動から垣根サイドに繋げる構想が既にあるのか
このSSはほんとすげえな

500 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:37:12.30 dYYN7Lwvo 341/670

>>482
いやそんな大それたもんでもないですよ、このSSは……。
例えばオルソラなんか当初は(本編に)登場する予定すらなかったですし、
結構その時の思いつきで書いた話も多いですww

おはようございます、今日も更新を開始したいと思います。

前回、ついに発動した『御使堕し(改)』。不安要素てんこ盛りの
大魔術でしたが、やはり異常事態が発生してしまいました。
学園都市の一方通行はおろか、イギリスの垣根にまで及んだ『光』の現象。
この現象の意味するところは……そしてサーシャの運命は、という感じでしょうか。

それでは、よろしくお願いします!

501 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:38:07.08 dYYN7Lwvo 342/670



――――――――――――――――――――――


垣根帝督、一方通行ときたら当然、この男も。


「ッ!?」


フィアンマは荒れ狂う文字の嵐など問題とするに当たらないと言わんばかりに
飛んできた正体不明の『光』にその胸を貫かれていた。
二人同様、もちろんフィアンマにもダメージはない。だが、


「ど、どうしたのですか火野ちゃん……?」

502 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:38:58.08 dYYN7Lwvo 343/670


まず、小萌先生には今の現象が目視出来なかったらしい。おもむろに手を胸に
持っていくフィアンマの行動がいまいち理解出来ないでいるようだ。
今、この部屋で『光』を見たのはフィアンマのみという事になる。

そしてその『光』の正体は科学サイドのエキスパートである一方通行と垣根帝督には
看破出来なかった。皆目見当もつかなかった。なぜならこの現象は魔術サイドの領分、
世界は大きく二分して、魔術と科学に隔てられているのだから。

にも関わらず、


(今の光は……何だ?)


魔術サイドのトップクラスに位置する魔術師、右方のフィアンマは困惑していた。
同時に、ある種のストレスを感じていた。

503 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:39:40.30 dYYN7Lwvo 344/670


フィアンマでさえも先の『光』の正体が分からない。フィアンマにすら分からないのなら
この世界に『光』の正体を説明出来る者など居ないのかもしれない。


だがそこは、流石『神の如き者』を扱う常軌を逸した魔術師と言えるだろう。
『光』について具体的な解釈は出来ない彼であったが、しかし大凡、何となく、
ぼんやりとではあるが『多分ああで、こうなんだろうな』程度の推論を立てる
事は出来た。


(現時点の状況では情報が不足し過ぎていて推測のしようがないが……、
 今の光が俺様の『御使堕し(改)』によって出現したのだろう、という
 事は理解出来る。 これは推測ではなく、確信と断言して問題ない)

504 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:40:38.38 dYYN7Lwvo 345/670


現在進行形でフィアンマが実行中の大魔術、『御使堕し(改)』はこの世に
現存するどの魔術書にも、況してや『禁書目録』にも記載されていない、
ミーシャのサプライズのためだけにフィアンマが発案した全く新しい魔術だ。
そしてフィアンマは『神の右席』の魔術師という身分上、少々偏ってはいるものの
魔術という法則の知識を膨大に、その頭脳に貯蓄している天才である。


「……火野ちゃん」


そんな彼が新たな魔術を開発、実行し、そんな彼が知り得ない魔術的現象が
彼の目の前で起きたのだ。あの『光』が『御使堕し(改)』の影響で発生した
何かであるというのは明々白々であり、彼がその結論に至るのもまた当然だ。


しかし、腑に落ちない。

505 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:41:20.40 dYYN7Lwvo 346/670


若干のストレスが生じてしまう。『光』の原因を看破するに至り、
だがその『目的』が然しものフィアンマも全く予想出来ない。


(何故俺様の胸を貫いた? いや、身体部位などどこだってよかったのかもしれん。
 目的の対象に干渉さえすればそれで達成出来たと考えた方がいいだろうか……?
 だが、果たしてその目的、結果、理由は? 術者である俺様のコントロール下から
 外れて、術者である俺様自身に干渉するなど、本来の『御使堕し』からかけ離れた
 現象だ。 今俺様が発動している魔術の影響で発生した事は灼然たる事実。
 ならば何故、術者である俺様にあの光の正体がわからん? ……それ即ち――――)


イレギュラー、ということなのだろう。


腰掛け仕事的、当座凌ぎで急造した大魔術。そもそものベースが強大な大魔術である事という
リスクと、セフィラへの干渉、しかも純然たる『天使の力』が二つも組み込まれた荒唐無稽の術式。

506 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:42:19.24 dYYN7Lwvo 347/670


その弊害。フィアンマが危惧していた、想定の範囲外の現象、副作用が起きた。
想定の範囲外というか、想定そのものが不可能であるが故、未然に防ぐ事も出来ない
厄介極まりないアクシデント。


(やはり完璧に、何の障害も発生させんまま術式を実行するには至らんかったか。
 しかしその想定の範囲外の度が過ぎるぞ。 俺様、もしくは世界そのものに何らかの
 悪影響が及ぶ副作用ならまだ納得出来るが、……月詠の様子を見る限りではあの
 光が世界規模の大災害を起こしているようには思えん。 ……それがまた不気味だが)


もっとも、魔方陣が超局地的竜巻の如く荒れ狂う現状の室内では外の様子を窺うどころか
ここから動く事すら許されないため確認しようがないのだが、外に何らかの大規模な現象が
起こっていればこの室内にも変化があっていいはずである。何せあの『光』は室内の状況など
お構いなしにフィアンマの胸を貫いたのだから。

507 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:43:39.20 dYYN7Lwvo 348/670


(……胸を貫く、という行動。 ……意味するは何だ? マーキング的要素を含む何か?)


『光』の考察をしている暇で術式の次の過程をさっさと踏むべきなのだが、
フィアンマにはあの『光』の行動の一連がどうしても"不吉"に思えてならず、
嫌な予感が拭えず、魔術の失敗など思慮の外で考察を続けた。


(あるいは胸という位置に重要な意味合いがあるのか? だとしたら……胸は魂、心の位置。
 対象の情報を解析する自動制御型術式の類? 科学サイド風になぞらえるならスキャニングか。
 そう仮定して、光は俺様の心から何を読み取った? 思考、知識―――それとも、『個性』か)


だとすれば気味の悪さより一層際立ってくる。己の全てを覗き見られた感覚は、
改めて思い返してみればあったような気がしないでもない、とフィアンマは
更に沸き上がってくるストレスに思わず舌打ちをした。

508 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:44:37.92 dYYN7Lwvo 349/670


自分というプロフィールを全て読み取り、しかし情報を得てそこからどうするのか、
それが分からない事も彼の苛立ちを募らせていく。自分が発動した魔術なのに、
その際に生じた現象の効果が分からないという事実に忸怩たる思いも生じてくる。


「火野ちゃん」


と、そこでようやく、フィアンマの耳に小さな教師のか弱い声が届いた。
さっきからずっと彼の偽名を呼び続けていた小萌先生はようやくこちらに
視線を寄越してきたフィアンマに、しかし安堵する事はなく不安げな顔で見つめ返す。

509 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:45:08.36 dYYN7Lwvo 350/670


「……問題はない。 魔術の行使を続行する」

「無理はダメですよ?」

「無論だ。 ……すまん、少し、落ち着いた」


『天使同盟』が『天使同盟』の都合でやっている事で他人を不安にさせてどうする、
とフィアンマは迷ったが最終的に『光』に関する考察を保留し、術式の続行に
専念することを決めた。


「ミーシャちゃんは帰ってきたのですかー?」

「俺様が組み込んだ術式の通りに経過が進行していれば降りてくるはずなんだが……、
 その直前の光の影響で召喚に何らかの支障をきたしたか……? 遥か上空の『門』を
 さっきから『聖なる右』経由で監視しているが、一向にあのクソ天使が帰ってくる
 気配がない。 このステップで躓いたら元も子もない、いやどこで躓いてもダメだが」

510 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:45:53.26 dYYN7Lwvo 351/670


このままミーシャ=クロイツェフが帰ってこれなかったらとんでもない失態を背負う事になる。
『天使同盟』の全員に、そしてミーシャが交流をしてきたその他の人間に何を言われたか
分かったものではない。隣に小萌先生がいなかったら全てを投げ出してしまっていたかもしれなかった。
不安だけが、過ぎていく時間と共にただ募っていく。

だが、杞憂であった。


「ッ! 来たか」


高度約二〇キロ地点に出現している魔方陣が、エンジンに火を付けたように回転し始めた。
地上にいるフィアンマの赤く悍ましい第三の腕が尋常でない質量と力を感知し、痙攣にも
似た動きを見せる。


そして上空の魔方陣から、凄まじい輝きを帯びたミーシャ=クロイツェフのアストラル体が
大地を貫かんと下界へ、恐ろしい速度で降下していった。

511 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:46:34.58 dYYN7Lwvo 352/670


(チッ、あのクソ天使、どれだけテンションが上がっているんだ!? 予想以上に
 スピードが速い!! …………が、所詮は器無き魂、俺様の力で制御出来る)


フィアンマは肩から伸びるように出現する『聖なる右』に指示を送った。
それに呼応して、第三の腕は最初にミーシャへ合図を送った時のような
発光をし始める。


(行け、サーシャ=クロイツェフの下へ。 ここがお前の最後の踏ん張り所だ)


ミーシャ発案サプライズ計画はStep4、サーシャ=クロイツェフとの交渉へと移行する。

512 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:47:36.39 dYYN7Lwvo 353/670



――――――――――――――――――――――


偶然とは誰かの明確なる意志が原因で生じるものである、らしい。
故に偶然は『偶然』生じる事はないという事になる。
人の意志が生み出すのならばそれはもう偶然ではなく故意なのではと
思うかも知れないが、その人間の思慮とはかけ離れた、まるで別件の何かが
発生したらそれは偶然と呼べるのではないだろうか。


「はふぅ~……」


学園都市では今、フィアンマという人間の個の意志がとてつもない強さの意志を
発し、念じ、願っていた。意志。それは時に思いも寄らない偶然を生み出す。
左様であるならば彼の強い、強すぎる意志は世界のどこかで何らかの偶然を
生み出しているかも知れない。何せフィアンマの意志の強さと言ったら、それはもう
意志というか願いというか、『呪い』と言って差し支えない。

513 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:48:54.71 dYYN7Lwvo 354/670


『頼むからサーシャ=クロイツェフが意味もなく無人かつ広い場所で一人でいてくれますように』。


フィアンマが念じるその呪いは、果たして『偶然』にも叶ったのだった。
今も世界で跳梁している確率という概念を、彼が強引に歪めたのではと疑えるくらい、あっさりと。


「第一の私見……おっと、つい人前で振る舞う口調がこぼれてしまいました。
 今は私一人なのですから、あんな面倒な口調でキャラを装う必要はないのでした」


なんかとんでもない独り言をほざいたような気がしないでもないが、そこはひとまず置いておいて。


サーシャ=クロイツェフは露天風呂でそのどちらかと言えばまだ未成熟の身体を
露天風呂という場所で癒していた。

514 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:50:42.91 dYYN7Lwvo 355/670


ロシア。エリザリーナ独立国同盟領土から少し外れた、普段はあまり人が立ち寄らない
雪山の麓にある天然の露天風呂が満喫出来るジャパニーズ銭湯である。


かつてここを訪れた『天使同盟(アライアンス)』とその連れと共に、色んな意味で
思い出に残る時間を過ごしたサーシャにとって、やはり色んな意味で思い入れのある憩いの場。
憩いの場であると同時に、いつもサーシャの傍にいる金メダル級の変態クソシスターが居る場合は
これ以上なく危険な場所と化すのだが、


「今日はワシリーサも珍しく出張っていますし、思う存分羽を伸ばせます」


まだ幼さが残る顔に無垢な笑顔を浮かべながら、サーシャは独立国領土内に"停泊"している
超巨大メガヨット『アライアンス』号で見つけた水面を走るひよこのオモチャを眺めている。
この光景をワシリーサが見たらそれはもう某汎用人型決戦兵器の咆哮に負けず劣らずの歓喜の叫びを
轟かせているだろう。

515 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:51:43.09 dYYN7Lwvo 356/670


そんなワシリーサは現在、サーシャの口にした通り珍しくこの場に居なかった。
いや居たら居たでサーシャに追い出されているだろうが、実はこの露天風呂の死角に
いつかの第一位と第二位のように潜んでいるということもなく、ワシリーサは普通に
一人のシスターとしてロシア成教の本部に足を運んでいるのだ。

一応サーシャもワシリーサも『殲滅白書』としての立場が残っているが、
第三次世界大戦で同胞に対する裏切りに近い行為を起こした二人(というかワシリーサの独断だが)に
同組織の魔術師達はいい顔をしなかった。元直属上司のニコライ=トルストイの影響もあって
部隊にも戻れず、エリザリーナ独立国同盟で隠れるように生活をしていたのだが、『第一九学区事件』から
数日後の事だった。ロシア成教の総大主教であるクランス=R=ツァールスキーから招集命令が下ったのだ。

それを好機とみたワシリーサが総大主教と交渉し、どうにか『殲滅白書』へ正式に戻してほしいと
頼み込んでいるようだ。もっとも、クランスの姿が見たいがためだけにワシリーサも奮闘しているのかも
しれないが……、しかし自分のために居場所を取り戻そうとしてくれる彼女の姿に、サーシャは素直に感謝をしていた。

516 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:52:49.54 dYYN7Lwvo 357/670


(普段からああなら私も純粋に尊敬できるのですが……、頼りになるけど、相変わらず困った上司です)


ともあれ、自分の裸体を見て鼻息を荒くする変態修道女がいないのだから、今のうちに美しい
雪景色が一望出来るこの露天風呂を満喫しようとサーシャは改めて大きく息をつき、


「……、うん? ――――――――――うわっ」


叫ぶ暇も、戦闘態勢に移る暇も与えられなかった。


空の向こうから何か、ぼんやりと光る何かが見えたと思ったら、次の瞬間にはそれが
自分に向かって『墜落』し、湯船を派手にぶちまけてしまったのだ。

517 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:53:39.09 dYYN7Lwvo 358/670


お湯の雨がしばらく、浴場に降り注いだ。幸い男湯にも利用客はいなかったようで、
この墜落事故が何事かと騒ぎになる事も無かったが、


「あ、あ、わっ、う――――――は、ぁ、……? う、ぎゅ? な、何……」


サーシャ本人は騒がずにはいられない。もくもくと立ち上がる湯気で視界が確保出来ず、
先の飛来物の正体が何なのかも分からず、そして何やらやたらと身体が重い。背中に
何かがのしかかるような重さではなく、極度の疲労に陥った際の気怠さに似た重みだった。

より厳密に言うと、気のせいかその……下腹部辺りが特に重い、気がした。
湯気と混乱でまだ詳しく確認できないサーシャだが、全身の気怠さから一つ
飛び抜けた重さが、下腹部から感じられた。

518 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:54:36.73 dYYN7Lwvo 359/670


呼吸が上手く行えないのは混乱のせいかお腹の苦しみからか、答えは恐らく両者だろう。

湯気が晴れる前に更にもう一つ、原因不明の現象がサーシャ=クロイツェフを襲う。
"意識が、保ちにくい"。彼女は率直にそう思った。意識が薄れていくとかそういうものではなく、
何か別の意識が介入し、それに蝕まれていくような、想像するだけで恐ろしい感覚。
足元がおぼつかず、よろよろと湯船から上がろうとするが上手く歩けない。

操作系術式を食らい操られる寸前にそんな感覚に襲われる、とサーシャは以前に変態上司から
聞いたことを思い出す。つまりこれはどこかの魔術師による遠隔攻撃なのか。
混乱した頭を冷やすことに努めながらサーシャは警戒心を高めていく。

519 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:55:27.51 dYYN7Lwvo 360/670





『突然の事で驚いたと思う。 貴女には素直に非礼を詫びたい』

「のわぁっ!!?」




声がした。精神を乗っ取られた時にありがちな『頭の中から声がする』、という類のものではなかった。


『今の私の立場からこのような物言いは相応しくないが、まずは落ち着いてほしい』

「―――――と、"私自身がそう仰っていますが、どうしますか私"!?」

520 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:56:15.84 dYYN7Lwvo 361/670


そう。その声は音源不明ではなく、あろうことかサーシャ自身の口から発せられていた。
端から見ればサーシャが一人でコントを繰り広げているようにしか見えないだろう。
人によっては病院に連絡してくれるかもしれない。

口が勝手に動く。サーシャの意に介さず、言いたい放題言ってくれる。
サーシャの喉から放たれるその声は、しかし彼女とは似ても似つかぬ透き通った美声であった。
……一応断っておくが、別にサーシャの声が汚いと断じている訳ではない。

結局頭の中で現状を整理出来ぬまま、先に湯気の方が晴れていった。

視界が広がる。周囲に変化は見当たらない。謎の敵性魔術師の姿はおろか、
相変わらずこの浴場にはサーシャ一人しか居ない。声は二種類響いているのに。

そしてサーシャはある変化を見つけた。

521 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:57:00.25 dYYN7Lwvo 362/670


「…………………………………………」


さっきから妙にずっしりとした重みを感じるその下腹部に視線を落とし、彼女は絶句した。


「………………私、妊娠してる」




膨らんでいたのだ。さながら妊婦の如く、ぽってりと、サーシャの下腹部は膨らんでいた。




522 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:57:42.38 dYYN7Lwvo 363/670


「うわっ、うあああああああああああ!!! わ、わ、わ、ワシリーサ!! ど、だ、
 だ、第一の質問ですがど、どうしましょう!? に、妊娠してしまいました!!!」


極限までパニクったサーシャが頼ったのは、さっきまで居ないことに安心していた変態上司であった。


『落ち着いて、サーシャ=クロイツェフ。 貴女は身篭った訳ではない』

「い、いやこれはもうどう見ても妊娠………………おや? この感覚……」


と、ここでようやく、ようやくサーシャから激しい混乱が抜けていった。
あれだけ狼狽していた彼女の精神に落ち着きを取り戻させたのは、さっきから
落ち着けと説く訳のわからん謎の声ではなく、感覚。

523 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:58:25.48 dYYN7Lwvo 364/670


それは、とても懐かしい、しかしそら恐ろしい、不思議な感覚であった。
膨らんだ下腹部を摩りながらサーシャはこの味わった事のある感覚が何であるか、
半分くらい蝕まれてしまっている記憶を辿って思い返してみる。


大した時間はかからなかった。夏。八月がもう終わろうかという時期。
しかしサーシャにはその辺りの時期の記憶がすっぽりと抜け落ちている。
にも関わらず彼女がその日の事を想起出来たのは、


「だ、第二の質問ですが、あなたは……………………」


光の塊としてサーシャに突撃してきた何かの意識と記憶を"共有"しているため。
共有といってもその全ての記憶が読み取れる訳ではないが、薄ぼんやりとなら
あの八月下旬の出来事が思い出せる程度の……そんな、共有レベル。

524 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 08:59:11.71 dYYN7Lwvo 365/670


意識が蝕まれているのではなく、介入によって増えただけだ。その未知の違和感を
サーシャは蝕まれていると勘違いしてしまったのだ。

そして現在、共有している記憶はともかく感覚を、サーシャは覚えている。
懐かしいと思える。何故なら彼女はこの不思議と暖かく、抱擁感溢れる存在と
"直接触れ合った事があったから"。


「ミーシャ=クロイツェフ………………ですか?」

『正しい。 無沙汰である、私の友達―――サーシャ=クロイツェフ』


大天使ミーシャが、サーシャの口を借りて久方ぶりの挨拶をした。

525 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 09:03:25.41 dYYN7Lwvo 366/670


今回はここまでです。

これでサーシャが妊娠どうのこうの言ってた理由がわかったかと思います。
決して私が『ボテ腹サーシャちゃんってのもいいんじゃね』と興奮して
このようなシチュエーションを書いた訳ではないので、勘違いなさらぬよう。
私はそこまで変態ではありませんので。ええ。

さてサーシャに憑依(?)することができたミーシャは彼女との交渉に望みます。
魂よこせという無茶すぎる要求にサーシャは答えてくれるのでしょうか。
そしてフィアンマまでも貫いた『光』の正体を放置しておいても大丈夫なのでしょうか。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

フィギュアメーカー『アルター』から発売する一方通行がイケメンで素晴らしいですね。
欲しいところですが、もう飾る場所なんてない……。

526 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/05/24 09:04:28.94 dYYN7Lwvo 367/670




                          【次回予告】



「ならば吐き出せ。 己の魂を」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・水を司る大天使『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ




「いや何さらっと恐ろしいこと言ってるんですか」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ




「頑としてそこを動くな。 その空きビンに魂をホールインワンしてやる」
『天使同盟』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ




「ふぇ? 何か叫び声が聞こえたような―――――――」
上条当麻のクラスの担任――――――月詠小萌




529 : VIPに... - 2012/05/24 12:21:19.91 IL6qaH8IO 368/670

魂よこせってか器よこせじゃね?

538 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:19:11.56 UcF6Yn9Uo 369/670

>>529
確かに、これは失敬。魂よこせだと天使じゃなくて死神ですねww


皆さんこんにちわ、マリテニのやりすぎで親指を痛めた>>1です。
日曜日の更新でございます。

一応言っておきますが、言うまでもないかとは思いますが、
サーシャのキャラ付け云々はギャグですからね!
原作のサーシャはこんな適当なキャラではないのでご注意ください!

さて今回はミーシャとサーシャが久々に再会し、奇妙な状況で喜びをわかちあいます。
サーシャは今回のサプライズに協力してくれるのでしょうか?

それでは、よろしくお願いします!

539 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:19:53.52 UcF6Yn9Uo 370/670



――――――――――――――――――――――


他の誰かがこの光景を眺めていたら、それは一人でコントの練習に励む
不思議な金髪の女の子だと認識していただろう。無論、覗きが発覚すれば
問答無用で『水よ、蛇となりて剣のように突き刺せ』の餌食であるが。




「―――――――ふむ、一方通行へのサプライズ……ですか」

『良ければ詳細を拝聴し、協力してほしい。 否、貴女の協力なくして
 この計画の成就は無い。 報酬を望むなら、制限なしで捧げる事を誓う』

「第一の質問ですが……誓うとは、ちなみに何に?」

『……、………………。 神』




540 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:20:41.49 UcF6Yn9Uo 371/670


天使が神に誓うって、それはただの直談判なのでは……とサーシャは呟くようにツッコミを入れた。
今のがミーシャなりのボケなのか、もしくはマジなのか、判断に困る発言だった。


ミーシャの派手な墜落で何事かと人が大勢集まってくるという事態はなんとか避けられたらしい。
あれだけの爆音が響き、しかし今も尚この露天風呂にはサーシャ=クロイツェフただ一人である。
正確にはサーシャと――――もう一人、


「それにしましても、挨拶が遅れましたがお久しぶりです、ミーシャ」

『今更か』


その切り込むようなツッコミはどこで覚えてきたのだろう、と困惑気味に笑いながら
サーシャは妊婦のように膨らんだ下腹部を湯船の中で摩る。その姿だけを見ると
本当に妊婦だと錯覚してしまいかねないが、ミーシャも言った通り、サーシャのお腹に
新たな生命は宿っていない。

541 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:21:29.75 UcF6Yn9Uo 372/670


宿ったのは、ロシアで交流を深めた、親友と言って大言壮語でない大天使。


いつだったか、現象管理縮小再生施設で上司のワシリーサと交わした、

『「神の力」の「天使の力」(ややこしすぎる)を体内に宿した場合、
 受胎告知のを引き受けた天使という説が反映され、下腹部が膨らむ』

という会話をサーシャはうんざりとした表情を浮かべながら思い出した。


八月の終わり頃、どうやらサーシャは『神の力』をその身に宿しどこかで
活動していたようだが、その時のサーシャの下腹部がどうだったとかは、
一切明らかになっていない。無論、本人も知らない。

ただ仮の話になるが、当時あの『現場』にいた数人の人間に尋ねれば、
恐らく『別に膨らんでなかったけど』的な答えが返ってくるだろう。

542 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:22:07.68 UcF6Yn9Uo 373/670


(けど実際……こうして膨らんでいる訳ですから、何でしょう……ちょっと恥ずかしい)


優秀な魔術師だろうと、サーシャちゃんだって立派な乙女なのだ。
そりゃそれ相応の身体部位が出っ張れば羞恥の一つや二つは感じるだろう。


『どうした。 ぽんぽんに耐え難い痛みを感じるか』

「お腹の事をぽんぽんと呼称するあなたの俗っぷりに私はもうどうリアクションを
 すればいいのか分かりかねますが、しかし第一の解答として答えさせていただき
 ますと、痛みはありませんよ。 補足説明すると、少し重みを感じますが……」

『ならば吐き出せ。 己の魂を』

「いや何さらっと恐ろしいこと言ってるんですか。 ……で、"その話なんですけど"」

543 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:23:08.46 UcF6Yn9Uo 374/670


何か嫌な感じで本題に引き戻されてしまったが、サーシャは落ち着いて話に乗った。


「学園都市で発動している『御使堕し』……『御使堕し(改)』に従い、私とあなたの魂を入れ替えろと」

『少しの間、貴女の肉体を器として扱う無礼を先に詫びておく』

「まだ了承してないのですが……」

『断ればあのロシア民謡のヒロインをここに呼ぶ』

「脅しに出た!?」

『冗談、だ。 しかし、ぜひとも協力を願いたい』 

544 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:23:52.96 UcF6Yn9Uo 375/670


うーん……、とサーシャは考え込み、顎の部分を湯船に浸してぶくぶくした。


「しかしその……、第ニの質問ですが、今も発動中である『御使堕し』の術者は
 あの右方のフィアンマなのですよね? あの男が『天使同盟』に加わっている
 という事実だけでも業腹なのですが、更にそんな男に協力しろとなると……」

『フィアンマは信頼出来る。 私の計画に加担してくれた事がそれを裏付けている。
 他の仲間も、彼を信用している。 もう、かの戦争のような真似は彼はしないし、
 そのような気もないだろう。 仮にそういう事を企てていて、実行しようとすれば』

「すれば?」

『グシャ……、っと』

「もっと具体的に言ってくださいよ怖いです!!」

545 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:25:21.45 UcF6Yn9Uo 376/670


そうでなくともフィアンマ現在、極度の疲労でグシャってなりそうなのを二人は知らない。

サーシャ=クロイツェフはミーシャ、フィアンマ、打ち止め等が絡んだサプライズの
一部始終を聞いた。最終的に一方通行へどのようなサプライズが披露されるかまでは
ミーシャが『秘密』と言って教えてくれなかったのだが、まぁそこは重要ではないのだ。

サーシャが考慮すべき問題は魂の入れ替え。武装兵器の換装とは訳が違う、
存在の入れ替えと言える行為の可否を今ここで下さなければならない。
どうやら数日考えせて、とは、ミーシャの話を聞く限りではいかないらしい。
ここで即決しろという大天使様からのムチャぶりにサーシャは頭を抱えた。
ていうか事前に連絡しろよ、って思った。


「第三の質問ですが、魂の入れ替え時に私が消滅、霧散する等の危険性はありますか?」

546 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:26:03.27 UcF6Yn9Uo 377/670


『その点に関してはもう我々を信頼してもらうしかない。 しかし術者はフィアンマ、
 安全面には関しては太鼓判を押して保証出来る。 急な申し付けである事は重々承知だ』

「………………第四の質問ですが、もう、今、即刻決断しなければならないのですよね?」

『貴女はただでさえ、以前に私をその身に宿している。 その副作用は
 後にフィアンマが処置を施してくれるだろうが、今こうして再び私が
 貴女の身に宿り続ける危険性は、説明するまでもないと判断する』

「……………………そして私の魂、私は学園都市へ、……」


学園都市に赴く事が出来れば、またあの愉快な仲間たちと交流できる。
ただその時、自分が一体どういう姿なのか、仮の器が用意されているのか、
サーシャは分からない。ミーシャにも聞いたが、不明であると申し訳なさそうに返ってきた。

547 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:26:48.81 UcF6Yn9Uo 378/670


安全面に関しては問題ない、とはいえ未知の恐怖が付随するこのギャンブルに、サーシャは、


「………………承知しました。 他でもないあなたの頼み、引き受けます。
 魂の入れ替えを承諾します。 そして私は学園都市へ向かうとしましょう」

『え……、マジで?』

「何ですかその『うわマジで引き受けたよこのバカ……』みたいなニュアンスの返事は!?
 ちょっとあなた本当にミーシャ=クロイツェフなんでしょうね!? いえ、この『天使の力』の
 総量からしてミーシャ以外あり得ませんが……しかしあなた、口調が右往左往してますよね。
 どうやら『天使同盟』以外の人間と交流していると窺えますが……ああ、でも不安になってきた。
 今一度確認しますがこれ、世界を巻き込んだ私に対する大掛かりなドッキリではないですよね?」

『世界を巻き込んでそんな不躾を働く理由と勇気は私にはない、安心して』

「どの口が言うんですか……まあ私の口が言ってるんですけど……」

548 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:27:35.68 UcF6Yn9Uo 379/670


ともあれ、サーシャ=クロイツェフは魂の入れ替えを許可してくれた。
恐るべき器の大きさ。ミーシャはこれ以上ない感謝の気持ちを全て伝えきれないことに
悔しさすら感じていた。


『本当に、……本当に感謝する。 私は、良き友人を持った』

「いえ、私も少しだけですが、楽しそうだなと思っていたりもするので。
 では時間も押しているようですし、早速始めま――――――――――」


と、言いかけた所で、


「サーシャちゃぁぁぁぁぁぁん! 今帰るから待っててね~!」

549 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:28:16.69 UcF6Yn9Uo 380/670


遥か、遥か遥かはるか遠方から、そんな黄色い、いやサーシャにとってはどす黒い声が飛んできた。
『殲滅白書』最強(自称)のシスター、ワシリーサである。
ミーシャを身に宿しているサーシャは特に聴力が強化されているため、ワシリーサの声がおよそ
三〇〇〇〇メートル前後の位置から飛んできている事が分かった。愛が伝播し過ぎである。


「バカな……早すぎる! マズいです、ヤツが帰ってきます!
 ミーシャ、魂の入れ替えに要する時間はどれくらいなのですか!?」

『大丈夫、すぐに終わるから心配はいらない』


ミーシャは狼狽しまくるサーシャを安心させるような声色で、

550 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:28:52.42 UcF6Yn9Uo 381/670





『では、先に学園都市へ貴女を送る――――――――


 ―――――――――――私も後から、追いつくから」




意識が、分離した。前者の声色と、後者の声色が変化していた。


『うわっ、あ、私がもう一人? いや、これは私の肉体を私が魂視点で
 眺めているという事…………って、のわあああああああああああ!!』

551 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:29:27.44 UcF6Yn9Uo 382/670


一瞬の出来事、という表現すら霞む程にそれは一瞬であった。
気付いたらサーシャの視界に"湯船に浸かるサーシャの姿"が映っており、
それが魂と化し分離した自分が見ているのだと認識したと思ったら、
景色が"飛び"、サーシャの魂はロシアの空を突っ切って飛翔していった。


「サーシャちゃん♪ ってなにィィィィ!!? サーシャちゃん自ら私へヌード提供だと!?」

「………………"解答一"。 この裸体はあなたへ捧げるために晒しているのではない」

「うん? この感じ……むむむ、サーシャちゃんじゃあないわねえ」

「恐るべき速度の看破に驚愕すると同時に、わずかながら気味の悪さを感じる」


ミーシャ=クロイツェフは、サーシャ=クロイツェフの姿で、
瞬間移動の如く帰ってきたワシリーサに、極めて冷静な口調で対応した。

552 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:30:40.90 UcF6Yn9Uo 383/670



――――――――――――――――――――――


本来の『御使堕し』で発生する魂の入れ替わりは大規模に、そして一瞬で終わる。
それこそドミノ倒しのように、止める間もなくその魂は別の人間へと憑依し、
追い出された魂もまた、別の人間に器を求めるように入れ替わっていく。


ミーシャとサーシャの入れ替わりも、だから一瞬で済んだのだが、


「どうやら入れ替え作業は滞りなく終了したようだな。 サーシャ=クロイツェフ、
 当然ミーシャから説明を受けての承諾だったのだろうが……よく引き受けたもんだ」

「と、言いますと……?」

553 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:31:13.72 UcF6Yn9Uo 384/670


「段階はいよいよ終盤、いや、ある意味これがラストフェイズだ―――サーシャの魂をここへ引き寄せる」

「引き寄せる、ですか」

「というか既に誘導している。 誰かの魂と入れ替わられてもかなわんのでな」


フィアンマが言い終えると同時、彼の肩から伸びる『聖なる右』が一際大きな動きを見せた。
もうすっかりこの状況に慣れたのか、小萌先生は暴風のように荒れ狂う赤き文字の渦中でも
のんびりとした調子で第三の腕を見つめる。


とぷん、と。川に小石が落ちたような音がアパートメントの一室で小さく鳴った。
フィアンマの禍々しい赤の腕が、彼と小萌先生を取り囲むように吹き荒んでいる
魔方陣に突っ込んだのだ。

回転稼働する洗濯機の水の中に手を入れるイメージが一番近いだろう。

554 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:31:44.18 UcF6Yn9Uo 385/670


「それにはどういう意味があるのですかー?」

「詳しく説明しても理解はできんだろう。 要するに、サーシャ=クロイツェフの魂を
 操ってここへ―――月詠が今持っている空きビンの中へ誘導するのに必要な行為なんだ」


冷静かつ平たい説明をするフィアンマだが、その口調とは裏腹に息は絶え絶え、
肩は疲労で上下に弾んでいる。少し小突いただけで倒れてしまいそうだ。
だがそれでも中断する訳にはいかない。ここで力尽きたら現在こちらに向かっている
サーシャの魂は、見えない何かに引っ張られるように誰かの肉体めがけて飛んでいってしまう。

そうなってはお終いだ。オリジナルの『御使堕し』ならともかく、この非合法な仕組みで
発動した『御使堕し(改)』で魂の入れ替えが起きた場合、どうやって元に戻せるのか分からないし、
元に戻す手段が果たしてあるのかどうかさえ定かではないのだから。

555 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:33:04.29 UcF6Yn9Uo 386/670


瞳を閉じ、サーシャの魂の気配を探る。肉体という壁が無い分、彼女の気配を感じるのは容易い。
何せサーシャの力の源が一糸纏わず露出しているのだ。力の露呈を阻害する衣服や肉体は
存在しない。


「……………………」


滴る汗を無視し、フィアンマは第三の腕でサーシャを誘導しつつ、その気配を探る。


(斜角では対応しづらい……やはり空きビンと魂の角度はゼロである事がベスト。
 全くのゼロとはいかんだろうが……多少の誤差はアドリブで補うしかあるまい)


学園都市からロシアまでの距離は言うまでもなく長い。が、今回距離に関する問題は
無に等しいと言って過言ではない

556 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:33:43.38 UcF6Yn9Uo 387/670


サーシャの魂の移動速度は学園都市製の音速旅客機をはるかに凌駕している。
まさにあっという間の到着となるだろうが、この凄まじすぎる速度を
フィアンマがコントロールする事が出来ないのがネックだった。

音速を超える速度で飛来してしまえばこんなアパートは粉々に吹き飛んでしまうだろうが、
魂に質量は存在しないのでそこも問題ない……と、フィアンマは考えている。
そもそも魂とは何なのかが具体的に証明されていない世の中である。質量がどうのこうのなど
考えるだけ無駄だ。


「月詠……」

「は、はい」


フィアンマがぼそりと、消え入りそうな声で小萌先生の名を呼んだ。

557 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:34:28.99 UcF6Yn9Uo 388/670


「空きビンを持って……そこから三歩、いや二歩……半、下がれ」

「え、ええっと……」


きゅぽん、というこの場にそぐわない間抜けな音がした。小萌先生が空きビンの
コルクを抜いたのだ。ピンポン球大程度の口。質量の無い魂なら口の大きさも
関係はないのだろうか、と小萌先生は不安を覚えながらもフィアンマの指示に従う。


「こ、この辺ですか?」

「そこから一歩も動かず、空きビンを掲げてみろ」

「ほい」

558 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:36:00.14 UcF6Yn9Uo 389/670


「頑としてそこを動くな。 その空きビンに魂をホールインワンしてやる」

「あの……今更ですが、こんなビンだと魂がすり抜けちゃうのでは?」

「魂を収めた後に俺様がどうにかする、余計な事は気にするな」

「り、了解なのです……!」


そんな事が出来るのかどうかと問われれば、術者であるフィアンマにも答えられない。
そう出来るよう術式を組んだのがこの『御使堕し(改)』だが、テストもしていない
新大魔術の成功率など見当もつかない。

だが何度も覚悟した事だが、とにかくやるしかないのだ。

559 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:36:40.52 UcF6Yn9Uo 390/670


やがて、


『―――――――――――――――……………………ぁぁぁあああああああああ』

「ふぇ? 何か叫び声が聞こえたような―――――――」

「来るぞ」


フィアンマの言葉に小萌先生は慌てて、


「ま、ま、魔封波ぁぁぁぁぁ!」


と意味不明の叫び声を轟かせた。フィアンマの『何の呪文だ!?』というツッコミも
彼女の耳には届いていない。

560 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:37:22.13 UcF6Yn9Uo 391/670


『ああああああああああああああああああああ助けてええええええええええ!』

「入れ……」


どこからともかく―――というか直上、恐らくは真上から響く女の子の叫び声。
距離感が掴めない、どの辺りから聞こえる声なのかが不明瞭で、小萌先生は眉をひそめる。
その隣でフィアンマは願うように言った。


「入れッ!!!」


直後、部屋の天井から床にかけて一筋の閃光が走った。
サーシャの魂が上空から一直線に小萌先生の部屋を通過したのだ。

561 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:38:01.04 UcF6Yn9Uo 392/670


そう、"通過した"。




美しさすら感じるその閃光は――――果たして小萌先生の背後に走っていた。




「……あれ?」

「なっ……クソッ!! わずかにズレたか!!」


背中に何かを感じたのか、小萌先生はポカンとした顔で後ろに振り向く。
だが既に魂が引いた軌跡は消え去っていた。

562 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:38:36.40 UcF6Yn9Uo 393/670


フィアンマは位置的に閃光が見えていたため、空きビンの口への軌道がズレてしまった事を
認識し、もしかしたらとっくに地面に激突して粉々になっているかもしれないと不安に
なりながらもサーシャの魂を操作しようと舵の役割を担う『聖なる右』に意識を向ける。


ぴし、と。硬い物に亀裂が入ったような音がした。
その音は気のせいか、天井から聞こえたように思え、小萌先生は首を擡げる。


「あ」


そこで何かを見た小萌先生が言葉を紡ぐ前に、


まず天井ではなく―――部屋の床が派手な崩落を始めた。

563 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:41:40.75 UcF6Yn9Uo 394/670


今回はここまでです。

そうです、上の方でも言ってる方がいましたが、私も書き溜めてる時に
そう思ったので魔封波って言わせました。炊飯ジャーだったら完璧でしたね。

サーシャの器のデカさも大したものですが、しかしそれにしたって
小萌先生の家はろくな目に遭わねーです……原作一巻然り。
床の崩壊が始まったらあとはもう雪崩のように……理解いただけるでしょうか。
サーシャの魂の行方と共に、ご期待いただければと思います。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

564 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/05/27 16:42:11.54 UcF6Yn9Uo 395/670




                          【次回予告】



「正直、あなたとは二度と会いたくなかったのですが、そうも言っていれらませんね」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ




「俺様に言及したい事などいくらでもあるだろうが、話は後だ」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ




573 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:15:31.63 V3fIZP09o 396/670


おはようございます。更新を開始したいと思います。
支援レスをいつもありがとうございます。

さて今回はいよいよ一端覧祭六日目の"序章"がクライマックスを迎えます。
魂と化したサーシャをビンに収めることに失敗してしまったフィアンマ。
それどころか大魔術の悪影響なのか、月詠小萌のアパートが崩壊し始めてしまいました。

月詠小萌のアパートはもうダメそうですが、果たしてサーシャの魂の運命は……という感じです。

それでは、よろしくお願いします!

574 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:16:17.82 V3fIZP09o 397/670



――――――――――――――――――――――


高層ビルの解体に爆破という手段が用いられる事は、たぶんにある。
例えるならば小萌先生が体感したのは、その爆破解体した瞬間のビルの中の
それなのだが、これは些か比喩表現が大げさ過ぎると言えよう。
人間、生きている内に爆破解体するビルの中にいる事なんてそうそうない。
というか一度だってあってたまるか。小萌先生は死んではいないのだから。


もっと一般的にわかりやすい例えを用いるのならば、エレベーターだろうか。
それも降り。エレベーターが階下へ降りるとき感じる、わずかな浮遊感。
小萌先生が体感した感覚はこれに近い。実際はエレベーターのそれよりもう少し、
胃袋がせり上がる感があったが、スカイダイビングやバンジージャンプは一般的な
例えとしては行き過ぎているだろう。

575 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:16:47.68 V3fIZP09o 398/670



まあ要するに、


学園都市第七学区の一画。木造二階建てアパートの一室、月詠小萌宅の一室が崩壊を始めたのである。


「おいいいいいィィィ!!? せ、先生のお家がー!!!」

「ちっ!」


サーシャ=クロイツェフの魂が真上から真下へ綺麗に通過した。しかしそれはフィアンマの
目論見通り小萌先生が小さな手に持つ空きビンの中へではなく、それより少しズレた座標だった。
日常生活でほとんど聞く機会が無いであろう、アパートメントクラスの建造物ががらがらと
崩れる音が小萌先生の顔面を青く染める。

576 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:17:51.20 V3fIZP09o 399/670



この状況下で尚叫び嘆く事が出来る小萌先生の余裕っぷり(実際は混乱の極みにあるが)も相当だが、
小萌先生と同じく、床が崩落し半ば自由落下状態となっているにも関わらず舌打ちする態度を示す
フィアンマもやはり大物である事は疑いようもない。こんな惨事を招いたのも彼に一因があるというのに。


(床だけではなく、天井もか! しかし何故崩落が? 魂に質量があるはずないと
 踏んでいたが……認識が甘かったか? 魂そのものではなく、サーシャが有する
 魔力が物理法則を引き起こした? だとしたらこの程度の被害で済む訳がないが……)


と、天井も等しく崩れ落ち、その瓦礫が小萌先生の小さな体躯に迫っている事に気付いたフィアンマは、


「ッ!!」

577 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:18:31.98 V3fIZP09o 400/670



ぶん、と軽く腕を振った。彼の象徴たる右腕を。それに応えるように『聖なる右』が
数瞬遅れてその恐るべき力を発揮する。小萌先生を押し潰さんと迫っていた瓦礫は
溶岩に浸したかのように蒸発し消滅してしまった。

小萌先生がそれに対し感謝する暇はもちろんない。彼に救われたことにすら彼女はまだ気付いていない。
当面の危機を回避したフィアンマの頭に次によぎったのは、『サーシャ=クロイツェフの行方』と
『階下の部屋に住人がいるか』、である。

もちろんフィアンマとしては最優先に懸念したいのは前者。空きビンへの収納に失敗したサーシャの魂が
何らかの衝撃を受けて消滅でもしたら取り返しが付かない。超大規模な、しかし結果としてはただの殺人である。
だが後者の方も気掛かりではあった。もし階下の部屋に住人が居たら、瓦礫に飲まれて問答無用で死んでしまうだろう。


前者と後者の懸念事項を同時に晴らす方法を模索するフィアンマだが、そんなものは視線を
下に落とせば済む話だと気付いた。が、部屋の崩落からここまで現在約一秒。

578 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:19:28.78 V3fIZP09o 401/670


わずか一秒だが、木造二階建てアパートの崩落など二秒もあれば完遂してしまう。
つまり現時点で前者と後者の安全の有無を確かめる暇は存在しない。よって、


「月詠!!」

「ひ、火野ちゃ―――――むぎゅっ」


フィアンマは第三の腕を振るい少し離れた距離で落下していた小萌先生を引き寄せ、
自分の体に抱き寄せる形で確保し、一階へ着地する選択肢を取った。


遅れて、フィアンマの迎撃から逃れた瓦礫が雨のように地面へ降り注ぐが、
それも赤の一撃で全て吹き飛ばしてしまう。

579 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:20:05.01 V3fIZP09o 402/670



「怪我はしておらんか?」

「は、はい。 ありがとうなのです、火野ちゃん」


ここで部屋を壊された事に対し非難せず礼を言う辺り、小萌先生も大概お人好しである。


(サーシャ=クロイツェフの魂は―――――――?)


小萌先生の安全を確認し、どうやら幸いにも一階の部屋に住人が居なかった事を
察したフィアンマはようやくサーシャの魂の行方を追うに至った。
小萌先生を抱き寄せたまま忙しなく首を動かし周囲を見回す。アパートの崩落により、
当たり前だが二人は外へ追い出されていた。真冬の冷気が全身を撫でてくるが、
切迫した状況が二人に寒さを感じさせない。

580 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:20:39.56 V3fIZP09o 403/670



ぼひゅ、と。


「―――――――――ッ」


崩れ落ちた瓦礫の山から光が飛び出したかと思った時には、既にその光は
小萌先生の方へ向かって飛んできていた。彼女とフィアンマは密着状態に
あるため、その光がどちらに飛んできているかなど判断できるはずがないのだが、
『御使堕し(改)』の"術者"であるフィアンマには、


「クソッ、サーシャ=クロイツェフか!?」

『だ、第一の質問ですが……その声は右方のフィアンマ?』

581 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:21:20.41 V3fIZP09o 404/670


その光が小萌先生の魂との入れ替えを目的に漂うサーシャの魂だと判断する事が出来た。
一瞬『聖なる右』で消し飛ばしそうになったフィアンマだが、すんでのところで赤い腕を
急停止させ、小萌先生に向かうサーシャの魂の軌道を修正する事が出来た。

魂は小萌先生のすぐ傍を通過し、あらぬ方向へ飛んでいく。部屋の崩壊に伴って
魔方陣も完全に破壊されてしまっているが、フィアンマの魔力で魂の舵を取る事は
まだ可能であるらしい。


『う、く……ひ、引っ張られる……!?』


明後日の方向に飛んでいった魂は、しかし再び小萌先生を狙うようにUターンをし、
恐るべき速度で彼らの下へ向かってくる。

582 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:22:01.34 V3fIZP09o 405/670



恐らくこれがラストチャンス。フィアンマは直感した。


「月詠、"今度こそ"、見えるはずだ。 あの光が」

「え、……うわっ。 な、何ですかあの綺麗な光の……珠?」

「お前の下へ向かってくる。 空きビンを構えてそのまま封じ込めてしまえ!」


急にそんな事を言われても、と思う反面、小萌先生の体は勝手に行動を起こしていた。
説明している時間も、フィアンマが魂の軌道を修正する暇もない事を、無意識に察したのだろうか。
小萌先生は両手でしっかりと空きビンを握りしめ、突き出すように両腕を前へ持っていく。
サーシャ=クロイツェフの魂は導かれるように真っ直ぐと突き進み、

583 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:22:41.93 V3fIZP09o 406/670



しゅぽーん、と。惚れ惚れするくらい綺麗に空きビンの中に吸い込まれていった。


「蓋ァ!」

「は、はひ」


虫あみに捕らわれた蛾……否、蝶のようにビンの中で暴れる魂を確認した小萌先生は
フィアンマの一喝するような指示に従い慌ててコルクを取り出し、キュッとビンの口を閉じた。
そこでフィアンマがすかさず行動に出る。『聖なる右』をビンに向かって突き出し、"何かをした"。
何をしたかは小萌先生には分からなかったが、実はビンから魂が抜けないよう彼が術式を施したのだ。

584 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:23:25.35 V3fIZP09o 407/670



「………………」

「………………」


しん…………と不気味なまでに辺りが静まり返る。一端覧祭が今も絶賛開催中である事が嘘のように。
ビンの中のサーシャ=クロイツェフが『わーわー!! ぎゃーっ!』と叫んではいるが、如何せんサイズが
ピンポン玉大の魂なので声量が乏しい。ちなみに、どうやら全体の約半分が綺麗に崩壊したこの木造二階建て
アパート、今は小萌先生以外住人が居ないようだ。まさかこの騒ぎの隣で寝ていたり無関心でいたりは出来ないだろう。

ただ静まり返ったといってもそれはあくまでフィアンマと小萌先生が感じる雰囲気だけの話であり、
半壊したアパートの前を通る通行人の視線が色々な意味で痛々しい。というか通報されてもおかしくない。
早い所この場を立ち去ってしまった方が良さそうではあった。

585 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:24:03.94 V3fIZP09o 408/670



やがて、二人がようやく冬の外気に寒気を感じ始めた頃、二人は顔を合わせて互いを称え合うように言った。


「………………サーシャ=クロイツェフ、」

「ゲットだぜ。 なのですー」

『第一の私見ですが何を二人だけで完結しているのですか! ここから出してください!』


危うく全人類を巻き込む大騒動となりかけたこの『御使堕し(改)』によるミーシャのサプライズは、
小萌先生の自宅を除けばどうやら無事に全てのプログラムを終了する事が出来た。


はずだったのだが、やはりそうは問屋が卸さないらしい。

586 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:25:04.39 V3fIZP09o 409/670



――――――――――――――――――――――


「……上空の魔方陣が消滅していない? 魂の入れ替わりを俺様が強引に中断したからか?」


無論、空を仰いだところで『御使堕し(改)』の魔方陣を確認する事は出来ない。
相手は高度約二〇キロという途方も無い地点に出現しているのだから。

だが視認は出来なくとも、魔方陣があるか無いかの確認はフィアンマなら出来る。
『聖なる右』を通して感知できるし、何より彼は術者本人だからだ。
そんなフィアンマは全ての過程が終了したはずの大魔術がまだ発動状態である事に気付き、
漠然とした不安感を抱きながら眉をひそめた。

587 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:25:43.42 V3fIZP09o 410/670



「これが人間の魂……なのですかー? オーロラを球状に凝縮したらこんな感じになりそうなのです」

『だ、第一の質問ですが、あなたは一体?』

「ほえー……会話まで出来るのですか。 初めまして、先生は月詠小萌と言います」

『……ロシア成教「殲滅白書」所属の魔術師、サーシャ=クロイツェフです。
 まさかこのような状態で自己紹介をする日が来るとは思いませんでしたが』


何やらのん気に挨拶をしている小萌先生とサーシャだが、フィアンマの耳には届かない。
彼は第三の腕をアンテナのように動かしながら、ただ空を見上げて佇んでいる。
アパートを半壊させるという事故を起こした以上、早い内にここから消えなければならない
という考えは、今の彼の頭には無いらしい。

588 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:27:45.03 V3fIZP09o 411/670



(何だ……? 魔方陣そのものが、飽和している? こんな現象、予定には……)


それは喩えるならば、風船に絶え間なく水を注ぎ込むような感覚。
大量の水を風船に流しこめば当然風船は膨らんでいき、なかなか割れはしないものの
みるみるうちに大きくなり、ゴム膜が悲鳴をあげ、最後には破裂してしまう。

遥か上空に出現している魔方陣に、それと似たような現象が起きているとフィアンマは感じた。


(いかんな、またしても想定外の現象だ。 対処……しかしどう処理する? 
 あとはもう打ち止めの連絡待ちだ、俺様に出来る事など残っておらん)


鼓動が徐々に早まっていくのを感じる。

589 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:28:21.76 V3fIZP09o 412/670



(ヤバい)


嫌な汗がどうしても止まってくれない。


(よくわからんが、これはヤバい)


あと数秒で必ず爆発する爆弾の前でただ呆然と立ち尽くさざるを得ないような、
対処のしようがない状況に焦る。
爆弾は高度約二〇キロ地点。『聖なる右』で強引に消し飛ばす事も出来なくは
ないだろうが、それは爆破寸前の爆弾にハンマーを振り下ろすような愚行と同義である。
そんな衝撃を加えたらどうなるかなど、子供でも分かる。

590 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:29:17.64 V3fIZP09o 413/670



(しかし、ならばどうする? 放置していればその内消えるか?)


これが既存の魔術ならばフィアンマの知識の中に対処法があっただろう。
だがこれはその彼が開発した穴だらけの新大魔術だ。何をどうしたらどうなるか、
術者本人にも分からない。魔術とはまず開発し、その効力、影響をを全て調査し、
弱点、対処法などがあれば可能限り穴埋めして、完成に至る。魔術の全てが全て
そうやって完成していく訳ではないが、大凡は以上の通りだ。


「……」

「火野ちゃーん? さっきからボーッとして、どうしたのですかー?」

『右方のフィアンマ……話には聞いていますが、本当に「天使同盟」に……』

591 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:29:52.60 V3fIZP09o 414/670



二人に声をかけられ、何の気なしにそちらへ首を向けるフィアンマ。


その時だった。


「ッ!?」

「うひゃあ!? 眩し――――」

592 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:30:19.42 V3fIZP09o 415/670





視界が、世界が、白に染められた。それが上空の魔方陣が『炸裂』し、
そこから噴出した光が(恐らくこの街全体を)覆い尽くしたのだと即座に理解した
フィアンマは実に聡明であると言えよう。




593 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:31:48.01 V3fIZP09o 416/670



(しかもこの光は……『天使の力(テレズマ)』!? 『神の力(ガブリエル)』のものか?
 だが『天使の力』にしては……暖かく、柔らかい感じだが、この光の噴出がどこに、
 どのような影響を与えるんだ? クソ、今日はずいぶんと『光』に縁があるな……)


光の氾濫はほんの数秒で終わった。その光によって照らされたのは学園都市の辺りだけなのか、
または全世界に及んだのか、さすがのフィアンマにもそこまでは推測出来なかった
(恐らく後者だとフィアンマは考えているが、確信が持てない)。
きつく閉じていた瞼をフィアンマがゆっくりと開くと同時、彼の足に何かが当たった。


『つ、月詠小萌……もう少し丁寧に扱ってください。 割れたらどうなるか……』

「……サーシャ=クロイツェフ」

594 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:32:37.30 V3fIZP09o 417/670



足元に転がっていたのは、サーシャの魂を収めたビンだった。どうやら先の
光の氾濫に驚いた小萌先生が落っことしてしまったようだ。ビンに使用されている
ガラスは結構な厚さがあったため、割れるまでには至らなかった。

フィアンマはビンを拾い上げる。その際、中にいるサーシャが『ひっ』と短い悲鳴を漏らした。
その悲鳴は恐るべき力を有するフィアンマに対して怯えたのではなく、単に(サーシャ視点からすれば)
巨大な手が頭上――魂である以上、頭上もクソも無いが――に迫ってきたのが原因だろう。
虫や小動物に触れようと手を近付けたら逃げる事があるが、サーシャはそれと似たような体験をしたのだ。


『正直、あなたとは二度と会いたくなかったのですが、そうも言っていれらませんね』

「俺様に言及したい事などいくらでもあるだろうが、話は後だ」

595 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:33:37.51 V3fIZP09o 418/670


魔方陣は跡形もなく消え去っていた。あの光の氾濫は消える寸前に起きる現象だった……らしい。
らしい、と断言出来ないことに若干のストレスを感じるフィアンマだが、魔方陣が消えたことで
『御使堕し(改)』は完全に発動を終えた事になる。


ならば気掛かりなのは、世紀の大魔術は『成功』したのか、『失敗』したのか。


サーシャ=クロイツェフがこうして魂と化している点から鑑みて、ミーシャとの魂の入れ替えは
どうやら成功したと判断していいだろう。その後のサーシャ→他者の入れ替わりも、ビンに彼女の
魂を収めるという荒唐無稽の荒業でかろうじて阻止できている。

だがこれで『御使堕し(改)』が無事に成功したとは言えない。未知の大魔術である以上、
術者のフィアンマでさえ想定出来ないような、何らかの副作用が発生している可能性があり、
そしてその副作用が起きておらず、世界は何の問題もなく平常運行していると判断したその時、
初めて『御使堕し(改)』は成功したと断言出来るのだ。

596 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:34:07.65 V3fIZP09o 419/670


打ち止めからの連絡が無い以上、ミーシャ発案のサプライズ自体が成功したかはまた不明であるが。


「火野ちゃん」

「ん?」


声をかけられた。火野ちゃん、と。小萌先生が、フィアンマに話かけたのだ。
彼はサーシャが収められたビンから視線を外し、小萌先生を見る。

597 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:34:39.18 V3fIZP09o 420/670





「……………………………………………………………………………………………………………………………………」







598 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:35:06.48 V3fIZP09o 421/670



そして。




フィアンマは、『御使堕し(改)』がこれ以上ない失敗に終わった事を確信した。




599 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:38:12.65 V3fIZP09o 422/670


今回はここまでです。

というわけで、どうやら『御使堕し(改)』は無事に失敗したようです。
サーシャの魂を収めること自体には成功しましたが、大魔術の悪影響は
フィアンマの想像をはるかに凌駕するものでした。

あと>>593の後者は前者の間違いです。申し訳ありません。

次回は一端覧祭六日目の本番、メインパートをお送りします。
フィアンマが壊れに壊れまくります。ぶっ壊れます。
彼がなぜ失敗だと確信したのか、明らかになります。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!


600 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/05/30 09:38:45.83 V3fIZP09o 423/670




                          【次回予告】



「どうしてこんな事になっちまったんだ、クソッ!! ちくしょう!!」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ




603 : VIPに... - 2012/05/30 10:25:51.35 1RBLeJlIO 424/670

乙です

面白いんだが、>>1がギャグパートと言い張る理由はいつわかるのか……?気になる

627 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:23:11.86 dxN9fr0qo 425/670

>>603
いや、既に……え?認識の違いでしょうか?
それともこの程度でギャグパートとは片腹痛いわとか、そういう意味でしょうか。
もしそうでしたら私の力量不足をお許し下さい……、でもここから更にカオスですので!

皆様こんにちわ、今日も更新を開始します。

さて、今回から話がワケわかんないことになります。
正直結構遊びました。書いてて楽しかったですが(もういつ書きためたか分かりませんが……)、
今思うと少し調子に乗りすぎたかもしれません。

まあとにかくいってみましょう。フィアンマが大魔術の失敗を確信した理由とは?

それでは、よろしくお願いします!

628 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:24:00.61 dxN9fr0qo 426/670



――――――――――――――――――――――




「あ?」




間の抜けた声を発してしまうフィアンマだが、しかし無理もない。


「火野ちゃん」

「は?」

629 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:24:46.19 dxN9fr0qo 427/670





「火野ちゃん。 ……kuec火野arjcちゃxlusp」



「は?」


火野ちゃん、火野ちゃんと。壊れたスピーカーのようにフィアンマの偽名を呼び続ける
小萌先生の声に、"どっかで聞いたことのあるノイズ"が混じっているではないか。


声が。

630 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:25:25.58 dxN9fr0qo 428/670



酷似しているではないか。何と、誰と、とは言わない。言うまでも、ない。


「kkedwm火野czhhgk如何rjddeywn」

「あ…………? あ…………?」


およそ人間の声帯から発声されているとは思えないその言葉、言語、ノイズ。
確かにフィアンマも小萌先生が人間なのか疑ったこともあったが、念を押すまでもなく
小萌先生は人間であるし、フィアンマもそれは理解している。こんな小さな体躯ながら
自分より年上であることに、やはり疑問を抱きはするがそれでも理解している。

631 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:25:55.82 dxN9fr0qo 429/670



「klxutr火野aitguちゃutん」

「あ……? あ……? あ……? あ……?」

「jgiyde火野apwujo……」

「あ…………………………う、」

「火野ちゃん@zztxfjtc-myws.co.jp……」

「メールアドレス風に俺様を呼ぶな!」


ツッコミを入れるフィアンマが冷静さを取り戻したのかといえば、そうではない。
今のツッコミは反射的に出たものだ。無意識に、彼の意思とは無関係に口から出ただけ。

632 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:26:37.37 dxN9fr0qo 430/670



「yjbvi火野dlptu」


そのノイズ混じりの声にフィアンマは驚愕を禁じ得なかったが、しかしそれに似た驚愕を
彼はこの数秒前に一度、味わっている。小萌先生の声を聞く前に一度、味わってしまっている。

フィアンマはまず"見て"、驚愕したのだ。声を"見る"ことは、何らかの技術を使用しなければ
不可能だ。そう。フィアンマは、見て、驚愕している。声を聞いて驚くよりも先に、それを見て、
『御使堕し(改)』が途方も無いスケールの失敗をしたのだと確信したのだ。


何を見たのか。


「つ、月…………詠……」

633 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:27:22.28 dxN9fr0qo 431/670



当然、小萌先生を見たのだ。


どこを? 小萌先生の、何を見て、彼は戦慄したのか?


「火野ちゃん」

「月詠…………お前、その顔は」




顔、だ。顔が。月詠小萌のあどけない顔が――――――作りかけの、ドールの顔のように変貌していた。




634 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:27:56.98 dxN9fr0qo 432/670


のっぺりとしたその顔は、そう、のっぺりとしているのだから何も無かった。
小泉八雲の『むじな』はあまりにも有名であるが、日本の怪談知識を富むんで
いないフィアンマは想起出来なかった。

そんな彼が、では何を想起したかといえば、天使以外の何があると言えるのか。
小萌先生の顔には人間にとって必須である器官が何一つ存在せず、それら全てを
皮膚の凹凸だけで再現しているという、ある意味怪談じみた恐ろしい顔になっている。
ここは怪談じみたではなく、神話じみたという表現が相応しいかもしれないが。


一般人が今の小萌先生を見たら絶叫してその場で気絶してしまうかもしれない。
蕎麦屋に駆け込むまでもなく、だ。だがフィアンマは驚き叫ぶことも、失禁することも、
気絶することもなく、ただ小萌先生を見つめ続けた。というか、視線を逸らす事が出来ない。


何が起きた? フィアンマの頭の中は、もうその疑問しかなかった。

635 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:28:36.67 dxN9fr0qo 433/670



「uw火野tfhちゃんppm火野msちゃeんrz火野dh火gc野uge」

「ひっ……」


そして今更、忘れていたかのように、遅れてきた恐怖がフィアンマの感情を支配し始めた。
怖い、と彼は思った。人間ではあり得ない構造で象られた顔で、人間ではあり得ない声を
発しながら自分の偽名を呼び続ける小萌先生を、素直に怖いと思った。

とてとてと、ゆっくり歩きながらフィアンマの下へ向かう小萌先生。
そんな彼女から逃げるように、彼も一歩一歩後退っていく。


『………………フィアンマ?』

「ッ! さ、サーシャ=クロイツェフ……」

636 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:29:25.35 dxN9fr0qo 434/670


フィアンマが持つビンの中から声がした。普通の声がした。
魂という時点で普通ではないが、それでも彼にとってサーシャ=クロイツェフの声は
至って普通の、人間の声だった。


『第二の質問ですが、どうかしたのですか? 先ほどから狼狽しているようですが』

「どうかしたのか……だと? あぁ、どうかしている、どうかしているだろ!!」


彼は叫んだ。ぐちゃぐちゃになった感情を一気に吐き出すように。


「顔!! 顔顔顔顔顔!! おかしいだろうが!? 分かるだろ、見えるだろ!?
 月詠の顔があのクソ天使とそっくりだろうが!? 瓜二つじゃねえか、あ!?
 声も!! 意味不明な方向から飛んでくるノイズが混じってやがる!!
 これでどうかしない方がどうかしているだろう!? これが異常でなくて何だ!?」

637 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:30:13.10 dxN9fr0qo 435/670


『顔……? 声……?』

「見えるだろ!? 見ろや!! どうしてこんな事になっちまったんだ、クソッ!! ちくしょう!!」


いつもの口調が乱れるほどの混乱っぷりを示すフィアンマ。小萌先生の顔に向けて
ビンを突きつける。サーシャは暫くの間沈黙を挟んで、


『月詠小萌と対面したのはついさっきですが……別に何も変化はないかと』

「あ……?」


ビンの中でふよふよと浮かぶ魂は、当たり前のように続ける。

638 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:30:52.61 dxN9fr0qo 436/670



『普通の顔じゃないですか、と私は言っているのですが』

「普通だと? まさか俺様以外には認識出来ないのか? お前、普通って……。
 お前の中の顔の基準では目も鼻も口もねえのが普通なのか!?」

『いえ、目も鼻も口もない事は魂と化した私でも視認できています』


でも、とサーシャは若干困ったような調子で言った。

639 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:31:28.79 dxN9fr0qo 437/670





『"それがどうかしたのですか"? 別に……普通の顔だと思いますけど。
 声も、言葉だって、普通に理解できる言語を用いているじゃないですか』

「かはっ……!」




危うく、卒倒しそうになった。フィアンマは過呼吸を起こしたかのように息を荒げる。

640 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:32:07.80 dxN9fr0qo 438/670



「かはっ……かはっ……かはっ……かはっ……かはっ……!」


これが普通だと、言う。サーシャは、何の躊躇いもなく、断言する。
これが、世界であると。普遍的な日常であると、彼女は言う。


「かはっ……!」


気がつけば、小萌先生はフィアンマのすぐ傍まで接近していた。
もはや何が何やらわからぬ状況に目を回し、がっくりと項垂れるフィアンマの頬を、


「lgblfi火野vlorちゃんspitj」


そっと、優しく撫でた。彼女はどうやらフィアンマを心配しているらしく、
彼も彼女の思いやりに気づく事が出来た。どうやら彼女は自分を『心配している"らしい"』と。
人間と接しているはずなのに表情から、声から、思いやりなのだと断言出来ない事に絶望を覚える。

641 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:32:55.36 dxN9fr0qo 439/670



「gfiy火野―――――」

「クソったれがああああああああああああああああ!!!!!」


フィアンマは脱兎の如く駆け出した。逃走。恐怖と混乱と、そして
慈愛にあふれた優しさを提供してくる"異形"に耐えられなくなった。

がむしゃらに走り続けるフィアンマ。決して振り向かない。
小萌先生もノイズまみれの声で彼を追いかけるが途中で躓き、どてっと転んでしまった。
逃げては何も解決しない事は分かっているが、


「ちくしょう……!!」


フィアンマは、走り続けた。

642 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:33:40.21 dxN9fr0qo 440/670



――――――――――――――――――――――


学園都市の地形をまだあまり知識として取り入れていないフィアンマは
自分が今どこにいるのかさえ分かっていなかった。分からないが、それでも
ただひたすらに科学の街を駆けた。視線を落とし、ろくに前も見ず、そのため
何度も何度も通行人と衝突しながら、彼はとにかく走り続けた。

体力に自信がある方ではない彼は一〇分ほど全力疾走したところで力尽きた。
大通りのど真ん中ではあるが、彼は構わず膝をつき酸素を補給する。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はっ……、っ……クソッ……」

643 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:34:21.75 dxN9fr0qo 441/670


いっその事この街から出て行きたかった彼ではあるが、しかしそれはあまりにも
無責任が過ぎるというものだろう。今、街を出るには彼はやり残している事が
多すぎる。打ち止めからの連絡、ロシアだかどこだかでサーシャと入れ替わったミーシャの
帰還待ち、そして―――十中八九己の過失で『変貌』してしまった、最後まで自分の愚行に
付き合ってくれた月詠小萌。


(考えろフィアンマ……考えろ。 思考を止めるな、考えるんだ……。
 考えず感じるだけで打破出来る領域を凌駕してしまっている……。
 考えるんだ……どうすれば月詠小萌を元に戻してやれる?)


フィアンマは、激しく後悔した。後悔し、悔み、そして自己嫌悪した。

644 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:35:06.65 dxN9fr0qo 442/670


かつて自分がここまで己の振る舞いに対し『失』を感じた事があったか?
と、彼は振り返る。その振り返る暇で小萌先生を元に戻す手段を練るべきだろうが、
それでも振り返った。
『失』。失敗、失意、失策、失態―――失望。自分という存在に、失望さえした。
第三次世界大戦。あの一件も最終的には失敗し、方法を間違えたと彼は認めているが、
それでも自分が起こしたあの戦争に対しここまで絶望する事はなかった。


己の行為で被害にあった被害者を直接、明確に認識していたわけではなかったからだ。
戦争を起こせばどれほどの犠牲者が出るか、もちろんフィアンマには理解出来ていたが、
その犠牲者一人一人の顔を、彼は確認した訳ではない。


認識するとしないで心境の変化にここまでの差が生まれるのか―――フィアンマは、後悔した。

645 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:36:07.37 dxN9fr0qo 443/670


「月詠……」

『フィアンマ』


幻想的な響きの声が聞こえた。フィアンマが小萌先生から逃走する際に持っていた
ビン―――サーシャ=クロイツェフの魂が、彼の名を呼ぶ。


『どういう経緯であなたが錯乱するに至っているのか私には分かりませんが、
 落ち着いてください。 ミーシャの計画が成功したのか否か、私はまだ
 聞かせてもらっていません。 こんな所で膝をついている場合ではないでしょう』

「……」

646 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:37:01.76 dxN9fr0qo 444/670


確かにそれも大事だが、とフィアンマは、しかしそれよりもまず小萌先生を
どうにかして元に戻す方を優先しなければとも考えた。あのまま放置するわけには
いかない。なぜかサーシャはあの小萌先生が正常であると確信しているらしいが
(直前に普通の小萌先生を見ているにも関わらず)、あのままでは彼女がこの街で
築いていた立場が危うくなってしまう。

彼女は自分が教師だと言っていた。今、あんなマネキンのような顔で、
呪いのビデオのノイズみたいな声の小萌先生が教室に入ってきたら
生徒は阿鼻叫喚するだろう。――フィアンマは名前を覚えていないが――、
吹寄制理が、姫神秋沙が、クラスの全員が、理不尽な涙を強いられてしまう。


阻止しなければ。己のくだらない失態で、無駄な涙を流させる訳にはいかない。
この時、フィアンマは初めて本当に真の意味で、純粋に人を救おうと決意した。

647 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:37:47.22 dxN9fr0qo 445/670



(月詠小萌を……救う。 必ず元に戻してやる!)


と、


「?」


ぽん、と肩を叩かれた。この時フィアンマは膝をついてがっくりと項垂れた、
土下座にも近い体勢だったため肩を叩いてきた人物が誰なのか窺えなかった。
少し首を動かしてみると、その人物の足が見えた。長めのスカート、どうやら
この街の学生らしいが、見たことのない制服だったので少なくともフィアンマの
記憶には無い女学生だ。

648 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:38:28.39 dxN9fr0qo 446/670


彼女のすぐ傍に、何やら屋台……というには些か規模が小さすぎるが、
商店を押して移動させるタイプの荷車が確認できた。恐らくこの一端覧祭で
宣伝活動のような事をしている一般学生なのだろう。


「…………? あ、あぁ……すまん」


なぜ肩を叩いてきたのかフィアンマは最初、分からなかったが、やがて理解に至る。
そりゃ一端覧祭の影響で多くの人が行き交う大通りで(それでもここら一帯はあまり
通行人がいなかったが)膝をついていれば邪魔になろうというものだ。


「邪魔をした。 非礼を詫びる」


よろよろと立ち上がり、膝の汚れをぱっぱと払ってフィアンマは女学生に謝罪する。
その際に彼は女学生の方へ視線を向けたのだが、冗談抜きで眼球が飛び出るかと思った。

649 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:38:57.54 dxN9fr0qo 447/670





「irbbnsk大efug丈夫wyntzeznj?」

「お、おう」




生返事が出てしまった。あまりにも、あまりにも出し抜けに虚をつかれたからだ。
その女学生の顔は、果たして例のアレだった。目も口も鼻もない、皮膚の凹凸で
それら器官が表現された、のっぺりとした顔。そして―――例の、あの声。

650 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:39:40.41 dxN9fr0qo 448/670



「あ、あぁ、あれぇ!!? あああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


獣のような咆哮。フィアンマの驚愕が世界中に伝播したのではと疑ってしまう程の
叫び声。小萌先生を何とかして元に戻そうというフィアンマの策が、思いが、
ガラスのように砕け散った。


「pncutど、どうしuyuたdyba大丈夫ですかzbaejyyz?」

「な……何故、こいつまで……!? いや、まず誰だこの女は、俺様は知ら―――」

「raseu……、eteepfhbsdyphdx?」

「え?」

651 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:40:16.87 dxN9fr0qo 449/670


おどおどしながら心配そうに話しかけてくる女学生に意味もなく吠えていたら、
後ろから声をかけられた。否、声をではなく―――もう聞き飽きたと言っていい
あのノイズをかけられた。


「tbnfcxxr」


男子学生だった。しかしその顔はやはり製作途中のドールのような顔であった。
なぜ男だと分かるのかといえば、顔では判別出来ないのだから服装や体格で
判断するしかない。のっぺりフェイスの男子学生は何の騒ぎだとこちらへ駆け寄った……のだと思う。


「これは……悪夢、なのか? 魔術師の仕業か……?」


魔術師の仕業だし、その魔術師はお前だ。

652 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:40:52.74 dxN9fr0qo 450/670


周囲を見回す。小萌先生から逃げる時は周りなど、ましてや通行人の顔まで
見ていなかったので気付かなかったが、


「……………………………………ぜ、全部。 全員、か、顔が……」


ミーシャが存在した別位相の世界の住人は、全員こんな顔なのかな。
と、フィアンマが呑気に考える事は、もちろんない。


喉が干上がった。全力疾走で失っていた酸素をせっかく肺に取り込んだのに
意味が無くなった。上手く呼吸が出来ない、胸が押し潰されそうな感覚。
この大通りを行き交う全ての人間の顔が、ミーシャ=クロイツェフのそれになっていた。
ホラー映画の撮影ですと言えば信じてしまうくらいの、筆舌に尽くし難い恐るべき光景。

653 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:41:37.41 dxN9fr0qo 451/670


小萌先生だけだと、何故思い込んでいたのか、フィアンマは自分の間抜けさに
憤りすら覚えた。小萌先生一人という事はない、そんな訳がない。たまたま自分の
近くに居て術式発動に加担していたからといって、『被害』が小萌先生だけで
済むはずがない、と。

でも、だからと言って、こんな事ってあるのか。


『第一の私見ですが、ここで騒ぎを起こしても何の得も無いでしょうフィアンマ。
 ひとまずここから離れ、計画成功の有無を確認しない事には終われません』


ビンの中にいるサーシャが、さも当然のように言う。
フィアンマは心の中で返答した。『成功か否かを確認するまでもなく、もう"終わっている"』と。
どれほどの範囲まで影響が及んでいるかは調査が必要だが、少なくとも最低限の結論は出ている。

654 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:42:19.22 dxN9fr0qo 452/670





学園都市は終わった。確認するまでもなく、学園都市に存在する全人類が"こうなっている"と、
フィアンマは得たくもないであろう確信を得てしまった。




655 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:42:57.92 dxN9fr0qo 453/670



「うわっははぁあああああああああああああん!!!!」


もう、走るしかなかった。その気になれば『聖なる右』の力でどこへだって
飛んでいけるフィアンマだが、そんな手段など思慮の外。


解決策を練るゆとりなんて、今の彼にはない。世界最強クラスの魔術師は、
世界最大クラスの失敗を犯し、(顔が)天使だらけの街を走り抜けていく。

656 : ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:45:46.82 dxN9fr0qo 454/670


やったねフィアンマちゃん! ミーシャが増えるよ!

そんな感じで、今回の投下を終了させていただきます。

やっぱりね、という方もいればこの展開に驚いてくれた方もいらっしゃ……ればいいなぁ。
いかがでしたでしょうか?学園都市の人間のほとんどがこうなってしまいました。
いかがでしたかっていうか、まだこの話続きますけど……。

さてどうするフィアンマ、といった感じで次回に続きます。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

ただ今回のこの現象、被害者はフィアンマだけじゃありませんよ。

657 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/06/02 14:46:12.59 dxN9fr0qo 455/670




                          【次回予告】



「一体全体………………何がどォなってやがンだァァァァァ!!!」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)




「うああああああああああクソったれ、意味わっかんねえぞコラァ!!!」
『天使同盟』の構成員・学園都市第二位の超能力者『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督






続き
蛇足 とあるフラグの天使同盟 捌匹目【後編】


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