1 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 14:22:41.86 k5/+0LA+o 1/670

この二次創作はライトノベル『とある魔術の禁書目録』の登場人物、一方通行を主人公にした
平成能力者浪漫譚です。でも人斬り抜刀斎とか喧嘩屋とかは登場しません。

【本編】

一方通行「フラグ・・・ねェ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1285654962/

上記のスレが本編最初のスレです。こっからグダグダと続いていきます。


【本編のエピローグ・続編】

蛇足 とあるフラグの天使同盟
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1307804166/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 弐匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1310210981/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 参匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1313069422/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 肆匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1316009458/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1319277226/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 陸匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1322982536/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 七匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1327741451/


上記のスレからの続きとなっています。もしお暇でしたら、ご一読を。


以下、留意点など。


・更新は基本的に三日以内です。時間帯は不安定。
・キャラ崩壊が起きています。ご注意ください。
・地の文と台本形式、両方でお送りします。
・誤字脱字のバーゲンセール。発見した方は厳しく指摘してやってください。
・書き溜めは多分尽きる事は恐らくないでしょう。

元スレ
蛇足 とあるフラグの天使同盟 捌匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1334985761/



【関連】

◆本編

1スレ目
一方通行「フラグ・・・ねェ」【1】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【2】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【3】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【4】

2スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【3】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」  風斬「そうですよ!」【4】

3スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」  エイワス「まだそんな事を言っているのか」【3】

4スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」  垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【3】

5スレ目
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【1】
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【2】
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【3】

6スレ目
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【1】
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【2】
一方通行「そンなフラグはヘシ折ってやる」  ヴェント「・・・・・・あ?」【3】

7スレ目
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」【1】
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」【2】
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」【3】

8スレ目
とあるフラグの天使同盟【1】
とあるフラグの天使同盟【2】
とあるフラグの天使同盟【3】

9スレ目
蛇足 とあるフラグの天使同盟

◆蛇足(続編)

1スレ目(9スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 壱匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 壱匹目【後編】

2スレ目(10スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 弐匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 弐匹目【中編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 弐匹目【後編】

3スレ目(11スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 参匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 参匹目【後編】

4スレ目(12スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 肆匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 肆匹目【後編】

5スレ目(13スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目【中編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目【後編】

6スレ目(14スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 陸匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 陸匹目【中編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 陸匹目【後編】

7スレ目(15スレ目)
蛇足 とあるフラグの天使同盟 漆匹目【前編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 漆匹目【中編】
蛇足 とあるフラグの天使同盟 漆匹目【後編】


【注意】

この蛇足(後日談)は【未完結】です。
あらかじめご了承ください。

2 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 14:24:03.32 k5/+0LA+o 4/670



                   【登場人物紹介・『天使同盟(アライアンス)』の構成員】


【一方通行(アクセラレータ)】


このSSの主人公。学園都市最強、超能力者(レベル5)第一位の『一方通行』の能力を持つ白髪の少年。
第三次世界大戦を経て大天使ミーシャ=クロイツェフに好意を抱かれてしまった哀れで幸せな男。
『第一九学区事件』後、ひょんな事から垣根帝督と衝突してしまうが、その事もあって一方通行は
他人(特に異性)との交流について真剣に考えるようになる。現在はフラグを立てた女性陣と真剣に
向き合い、自分という存在と方向を確立しようと奮闘している。


【ミーシャ=クロイツェフ】


『神の力(ガブリエル)』。本作のヒロインにして『天使同盟』の顔。水を司る本物の大天使。
第三次世界大戦で意思疎通をした一方通行に好意をよせ、以後は彼と共に人間界で生活する。
『第一九学区事件』で周囲の仲間達に救ってもらった後も学園都市に居座り自由奔放に暮らす。
現在、フィアンマと打ち止めを巻き込んで一方通行に贈る『サプライズ』を進行している。


【風斬氷華(ヒューズ=カザキリ)】


『天使同盟』に咲き誇る一輪の花。『天使同盟』内でも比較的常識を持ち合わせている健気な女の子。
油断をするとつい風斬がヒロインなのではないかと勘違いしてしまうほどヒロインをしている、はず。
『第一九学区事件』後も好意を寄せる一方通行相手になかなか積極的になれずにいるが、健気に彼を
遠くから見守っている。風斬氷華専用ルートが蛇足にて確定した。

3 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 14:24:40.15 k5/+0LA+o 5/670


【エイワス】



物語の都合上、出番が少なくなっているため、最近プリキュアへの転職を考えるようになった。



【垣根帝督】


学園都市第二位の超能力者(レベル5)、『未元物質(ダークマター)』の能力を持つ少年。
『第一九学区事件』で脳をひどく損傷し、能力と魔術が使用出来なくなってしまった。
現在はドレスの少女と共に過去に訪れた魔術サイドの地へ足を運び、能力と魔術を
取り戻す修行に専念している。一方通行同様、異性との向き合い方がわからないでいる。
一方通行との衝突の末、何の間違いか垣根帝督専用ルートが蛇足にて確定した。


【フィアンマ】


『天使同盟』最後の構成員。ローマ正教『神の右席』のリーダーを務めていた最上級魔術師。
様々な経緯を辿った末、『天使同盟』唯一の魔術師として加盟する事になった。
組織内でも比較的常識人ではあるが、それでもたまに意味不明のボケに走ってしまったりする。
現在はミーシャと打ち止めの協力を受けながら、とある『計画』を進行中なのだが…………。

4 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 14:25:22.11 k5/+0LA+o 6/670



                    【閲覧可能エンドルート一覧】



・【風斬氷華育成計画 -AIM Simulation-】

・【兎追いしかの街 -Wonder land-】

・【闇喰らわぬもの祈るべからず -Saint-】

・【俺より強い奴に I need you -Advance-】 

・【???】 

・【第一位と第二位の垣根を越えて -Identity-】

・【???】

・【???】

・【???】

5 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 14:26:06.82 k5/+0LA+o 7/670


テンプレはここまでです。

では前スレにて投下を開始しますので、しばらくお待ち下さい。

7 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:02:59.03 k5/+0LA+o 8/670


前スレが残ってる間こっちがこのままじゃ何だか寂しいので、
小ネタ投下しまーす。

8 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:03:31.60 k5/+0LA+o 9/670


――【ミーシャ=クロイツェフ】


ガブリエル「あのロシアの雪景色を、私は未だ鮮明に思い起こす事が出来る。
      右方のフィアンマに召喚され、兵器を携えた人類に理不尽なまでの
      攻撃を実行し、多くの人間に涙を流させ、大地を破壊し尽くした。
      そんな時だった。 私の前に、『天使』が立ちはだかったのだ。
      雪と同化しそうな程に白く、白い天使。 だがその背に背負うは
      闇をも塗り潰す漆黒の翼。 ―――――それが私と彼の出会いだった」

一方通行「オマエ何普通に喋ってンの!?」

ガブリエル「本気を出せば人類の言語を扱うくらい、容易い」

一方通行「常に全力でいろ!」

10 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:04:19.44 k5/+0LA+o 10/670


ガブリエル「この世に降りて私も長い。 いい加減、人間言語も慣れてきた」

一方通行「そりゃ重畳」

ガブリエル「だが、こうして私が通常の人間の如く言葉を振る舞う機会は滅多にない」

一方通行「どォいうケースでオマエは普通に喋るンだよ」

ガブリエル「貴方と二人の時だけ」ギュッ

一方通行「ぎゃああああ抱きつくなァ!!」ミシベキバキバキバキ……

ガブリエル「あのロシアの地で私は胸を貫かれた―――貴方の『魅力』という矢に」

一方通行「そもそもの大前提であるそこが怪しいモンなンだよな」

11 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:05:01.37 k5/+0LA+o 11/670


ガブリエル「その言葉の意味するところは?」

一方通行「あの時、俺とオマエは殺し合いをしてただけだろ」

ガブリエル「しかしその向こう側の世界で、私と貴女は『対話』を交わした」

一方通行「覚えがねェな」

ガブリエル「ならばそれで構わない。 私だけの想い出として、その記憶を保持し続ける」

一方通行「……そォかい」

ガブリエル「礼を言う」

一方通行「どォいたしまして」

12 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:05:47.27 k5/+0LA+o 12/670


ガブリエル「あー、やっぱ普通に喋るのダルいわーマジで」パネェワー

一方通行「今のは聞かなかった事にしといてやる」

ガブリエル「時に。 私はいつまでこのガウン……という衣服を着用しなければならないのか」

一方通行「学園都市にいる以上は着続けてろ」

ガブリエル「衣服など、コミュニケーションをとる際には障害にすらなり得るというのに」

一方通行「召喚される時代を間違えたなオマエ。 石器時代にでも降りてりゃ
     全裸でのコミュニケーションが……いや、あの時も服はあったか」

ガブリエル「私の名はミーシャ=クロイツェフという」

一方通行「どっかのシスターみてェな会話方式を用いるンじゃねェ。 なンだ急に」

13 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:06:45.20 k5/+0LA+o 13/670


ガブリエル「だが貴方は私を『神の力(ガブリエル)』と呼称する」

一方通行「ミーシャってのは……よくわかンねぇが、間違った名前なンだろ。
     だったらガブリエル呼びで正しいじゃねェか。 不満なのか?」

ガブリエル「不満? 逆だ。 嬉しい、そう呼んでくれて」

一方通行「そォか。 じゃあガブリエル呼びは継続させてもらうぜ」

ガブリエル「fuditmgttiaediehhnrz……」

一方通行「あーノイズノイズ」

ガブリエル「失礼。 ミーシャという名は、サーシャ=クロイツェフという
      魔術師の器に宿った際に名乗った名前である事は説明したか」

14 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:07:35.25 k5/+0LA+o 14/670


一方通行「どっかで聞いたよォな覚えがあるな」

ガブリエル「そこで貴方に二択を迫ろう」

一方通行「急になンだよ……」

ガブリエル「この本来の私の姿である、青白く、形容し難い肢体の姿と。
      サーシャ=クロイツェフの姿を借りた私。 どちらが好みか」

一方通行「あァ? ンだそりゃ……、解答を拒否したら?」

ガブリエル「暴れる」

一方通行「説得力と迫力が両立する脅しを吐けるのはオマエだけだよ。 ……、」

15 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:08:40.46 k5/+0LA+o 15/670


ガブリエル「……」ドキドキ

一方通行「……………………サーシャの姿のオマエかな」

ガブリエル「ちょっとロシア行ってくる」

一方通行「待てこの冗談だクソったれ!! 今のクソ不気味なオマエこそガブリエルだ!」

ガブリエル「どうせそれも、本心ではないのだろう」プイッ

一方通行「オマエが疑心暗鬼なンざ一〇〇年早ェンだよ!」

16 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:09:28.80 k5/+0LA+o 16/670


ガブリエル「普通に喋る私とノイズ混じりのたどたどしい言葉遣いの私、どちらが好みか」

一方通行「後者」

ガブリエル「xbwtuhawjkkygygwxznsgfnwkxibcepcncwiebgfswxbdnthkjpszmhtkwg
      dehcgrceaunkxphfzjbcwzjhicthfkrjmawxtkarjxjgppjggutrjsieuwsf
      ueypscgyneekewdzbkphhagabrbyhtsjzizxmibjnpckkjszemrwxecttsjf
      cumfiuishgaywfuegznhaxjfpjfugjzbhcmxdmiriragwafgibdamdhawnkh
      gigmdwnmpfmshzxjaehkyhskyerxwnhrekjwfmpgtrtrfhgmuffbbibyseft」

一方通行「やっぱこの方が落ち着くな」


~~~


エイワス「見給え、あの仲睦まじさ。 あの光景に私は一定の価値を見出すよ」

フィアンマ「魔術サイドの人間から言わせれば異様としか言えんがな」

垣根「なあ風斬。 あの二人のイチャつきぶりを見たお前の心境をグラフで表してみろ」

風斬「微笑ましさ六〇%、羨望一九%、嫉妬……一八%、殺意九〇〇%」

垣根「限界超えちゃった」

17 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:11:01.24 k5/+0LA+o 17/670


――【一方通行】


垣根「実を言うと俺、一方通行の事すげえ嫌いなんだよな」ケラケラ

一方通行「……そォか」

垣根「え?」

一方通行「まァ、別に構わねェけどな。 人に嫌われンのは慣れてる」

垣根「あ、あれ?」

一方通行「だが同じ『天使同盟』である以上、メンバーの一人である
     オマエと分かり合おうと歩み寄る努力を俺は怠らねェよ」

垣根「あの、一方通行さん?」

18 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:12:03.76 k5/+0LA+o 18/670


一方通行「いつかオマエが俺に心を開いてくれる事を、俺は信じて生きていく」

風斬「一方通行さん……」

エイワス「人間とは実に不便で、悲しい生物だ。 表面上の交流だけでは
     永遠に分かり合えない。 相手の心、芯を理解しなければ本当の
     絆を結ぶには至らないのだ。 ふふ、これが神が与え給うた試練か」

フィアンマ「人は一人では生きていけんとよく言うがな。 相手を理解しようと
      歩み寄るその本能が、それを裏付けているのかもしれん」

ガブリエル「sxff応援eeidfd」

垣根「いやいやちょっと待って!! ちょっと待てよテメェら!!」

一方通行「どォした、垣根クン」

垣根「何そのよそよそしい呼び方!? え、これどういう流れ?」

19 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:12:47.21 k5/+0LA+o 19/670


風斬「ど、どうかしましたか……垣根(?)さん」

垣根「なんで疑問形なんだよ!? 俺は垣根帝督だ! いやそうじゃなくて、」

フィアンマ「やかましいな、何だというんだ」

垣根「この流れはおかしいだろ! 俺が最初にああやって嫌な事言って、
   一方通行が『言われるまでもなく俺だってオマエなンざさっさと
   くたばればイイと思ってるよクソ野郎』とかそんな感じで返して、
   俺がさらに減らず口叩いて喧嘩に発展するって流れだろこれは!」

エイワス「おやおや、これはこれは」

ガブリエル「zxa拳ywj会話hdrf」

フィアンマ「この天使の言う通り、確かに喧嘩もコミュニケーションの一種だな」

20 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:13:32.88 k5/+0LA+o 20/670


風斬「あ……やっぱり垣根さんも、一方通行さんとそういう形で
   コミュニケーションを取りたいって思ってるんですね」

垣根「あぁ……いやまぁそこまで深くは考えてねえけどよ……」

一方通行「なンだオマエ、そォいう魂胆だったのか。 でも安心しろ、」

垣根「あ?」

一方通行「俺はオマエとそォいう形であろォと無かろォと、会話なンざ
     死ンでもお断りだと常々思ってるよこの腐れゲス野郎が」

垣根「ほ、本当か……?」

一方通行「当たり前だろ。 今すぐここで意味もなく自害してくンねェかなって思ってる」

21 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:14:46.32 k5/+0LA+o 21/670


垣根「そうか……ならいいんだ。 やっぱお前はそうでなくちゃよ」

エイワス「あぁ、これはさすがに気持ち悪いな」

垣根「うるせえよ!」

フィアンマ「ふん。 しかし、お前のような人間が『天使同盟』の生みの親とはな」

風斬「ふふ、リーダーですもんね……一方通行さんは」

一方通行「ちっ……腹立たしい事に、いつまでも経っても後悔の念が
     生じねェンだよな……。 こンな集まり作っちまった事に対して」

エイワス「ほう、一度も後悔したことがない、と」

垣根「あん? リーダーって事に対してはもう認めちまってんのかよテメェ」

22 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:16:23.15 k5/+0LA+o 22/670


一方通行「認めるもクソもあるか。 そもそも『天使同盟』のリーダーって何だよ、何すンだ?」

エイワス「何を言う。 リーダーである君が我々を導いてくれなければ、
     我々はただ路頭に迷うだけの愚かで醜い化け物ではないかね」

一方通行「何が導けだ、オマエらいつもどっかで好き勝手やってンだろォが!」

垣根「そろそろ本格的に俺達の立ち位置を決めてくれよ、リーダー」

一方通行「どォいう意味だ」

エイワス「一方通行、君が『天使同盟』をどう捉えていようと、『天使同盟』は
     もはや一つの立派な軍事組織だ。 同盟が軍事組織と化するのは稀だが、
     構成員が構成員だけにこれは避けられない事態だと私は考える」

一方通行「軍事組織……。 なら俺は差詰め元帥ってところか? 堅苦しいな、リーダーでイイ」

23 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:16:53.86 k5/+0LA+o 23/670


フィアンマ「ついにリーダーである事を認めたか……」

ガブリエル「eduu私rpdjub」

一方通行「ガブリエルは……戦闘員」

エイワス「しかも陸海空、そして宙も活動範囲の戦闘員か。 オールラウンダーだな」

垣根「俺は?」

ガブリエル「umnf特攻xrgfhz」

フィアンマ「特攻隊が適任だと言っているぞ」

垣根「一人なのに特攻隊!?」

24 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:17:24.15 k5/+0LA+o 24/670


風斬「あ、あの……私は?」

エイワス「君は夜伽が適任ではないかな。 ついでに戦闘員も兼ねて」

一方通行「ぶっ」ゲホゲホ

風斬「? "よとぎ"って……何ですか?」キョトン

垣根「戦闘員を兼ねた夜伽って何だよ……たくましすぎるだろ……」

フィアンマ「……あまり聞きたくないが、俺様は?」

垣根「魔術専門軍師とかどうよ」

フィアンマ「想定よりまともな役職だな」

エイワス「私は一般幕僚と特別幕僚を全て賄うとしようか」

一方通行「だったら……」

25 : 小ネタ  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:18:23.80 k5/+0LA+o 25/670



・一方通行/リーダー
・ミーシャ=クロイツェフ/陸海空宙戦闘員(オールラウンダー)
・風斬氷華/戦闘員兼夜伽(リーダー専属)
・エイワス/一般幕僚及び特別幕僚(参謀長)
・垣根帝督/神風特別攻撃隊(単独)
・フィアンマ/魔術専門軍師


エイワス「これが『天使同盟』だ」ドヤァ

一方通行「誰と戦ってンだよ俺達は!?」

フィアンマ「エイワス一人で回っているようなもんだろこの組織……」

垣根「戦闘員もミーシャだけで充分じゃねえか……」

風斬「あ、あの……リーダー専属の夜伽ってつまりどういう事ですか……?」

エイワス「こんな荒唐無稽な組織だが、どうだろう一方通行。 少しは後悔したかね?」

一方通行「いや、むしろちょっと楽しいと思っちまった。 絶対手放さねェからなオマエら」

26 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/21 15:19:23.82 k5/+0LA+o 26/670


小ネタの割には投下量が多めになってしまいました……。

これで主要メンバーのネタは終わりましたかね。それでは、失礼しました。

33 : VIPに... - 2012/04/21 18:43:25.80 TeIWTF+U0 27/670

スレ建て乙!!
文字化けしなくてよかったよかった

50 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:25:52.39 ZLrNHC2Do 28/670


垣根帝督の魔法名の話題ですか、とても面白く、そして参考になります。
参考になるっていうか……ちょっとハラハラしながら閲覧させていただきましたww

皆様こんばんわ、>>33様の仰るとおり、前スレの失態を踏まずに済みました。
新スレ、蛇足8スレ目の最初の更新を開始します。
このスレでもさっそくの支援をありがとうございます!

小ネタも思いの外楽しんでいただけたようで何よりです。ただこの小ネタの存在を
私が忘れていたというあり得ないボケもあり、投下が遅れた点については謝罪申し上げます……。
また機会があれば、こういうショートショートを挟んでいきたいと思っております。

さて、今回は垣根帝督とバードウェイの議論を一旦休憩します。
パトリシア、ステイル、心理定規の様子だったり、バードウェイが
この議論をどう考えてるかだったりをお送りします。

それでは、よろしくお願いします!

51 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:26:40.54 ZLrNHC2Do 29/670



――――――――――――――――――――――


パトリシア「ステイルさんは、あれからどう過ごしていらっしゃったんですか?」ピコピコ

ステイル「ん?」ピコピコ

心理定規「あぁー、ドリフトし損ねた……」カチカチッ

パトリシア「一〇月に勃発した第三次世界大戦、私はとにかく早く終わって欲しいと
      切に願ってました。 学園都市とロシアが対立した理由は私にはよく
      分かりませんでしたけど。 もしかしたらあの戦争にステイルさんも巻き
      こまれてるんじゃないかと不安で不安で……」

ステイル「……なぜ僕があの戦争に関わっていると思った?」

52 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:27:12.61 ZLrNHC2Do 30/670


パトリシア「あ、いえ……関わるのではなく、巻き込まれてるんじゃないかなって……。
      以前に起きた、えっと……"るーん"? がどうとか言う物を巡った争いと
      第三次世界大戦が私には何だか似たような雰囲気に思えて……」

ステイル「……」

心理定規「く……、こんな時にバナナなんて必要ないのよ……」イライラ

パトリシア「……あの、私すごく失礼なこと言ってたりします?」

ステイル「いいや、」

パトリシア「じゃ、じゃあ……」

ステイル「僕も君と同じだよ。 戦争なんてくだらない争い、早く終わってしまえば
     いいと、君と同じようにただひたすら願っていた。 ……心からね」

53 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:27:48.71 ZLrNHC2Do 31/670


パトリシア「そうですか……。 ふふ、良かった」

ステイル「?」

パトリシア「ステイルさんも私と同じ事を、同じ時期に願ってたんだなって思うと……」

ステイル「思うと?」

パトリシア「……ええっと」

心理定規「運命を感じる~!!」

パトリシア「そ、そう……いやいや! え!? な、何ですか急に!?」

心理定規「もしかして私、邪魔かしら?」

パトリシア「そ、そんな事ないですけど? ど、どうして……?」

54 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:28:47.67 ZLrNHC2Do 32/670


心理定規「赤コウラ飛んでったわよ」

パトリシア「え……、あ!」カチカチッ

心理定規「また一位いただき~」

パトリシア「くぅ……、最後の最後で油断しました……」

心理定規「こういうゲームもやってみると結構楽しいわね」

パトリシア「ステイルさん、また最下位ですね」クスクス

ステイル「このテの娯楽はほとんど経験が無いものでね……」

心理定規「さっきの話なんだけどさ、」

パトリシア「?」

55 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:29:31.05 ZLrNHC2Do 33/670


心理定規「戦争なんて起きたら、早く終わってほしいと思うのが普通なんじゃない?」

パトリシア「そ、そうですけど……」

心理定規「だったらお二人さんの当時の願いがかぶるのを運命とするには弱いんじゃないかしら?」

パトリシア「そ、そうですよね……」シュン

ステイル「さっきから運命運命と言っているが、何の話だ?」

パトリシア「なな、なんでもないですよなんでも!」アセアセ

心理定規「面白いわねあなた」

パトリシア「か、からかわないでください! 私は別にそんな気は……」

56 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:30:21.85 ZLrNHC2Do 34/670


心理定規「申し訳ないけど、私にそういうごまかしは通用しないわよ」

パトリシア「え?」

心理定規「心の距離を詰めようと奮闘してるあなたの心情が何となく見えちゃうのよ」

パトリシア「ま、まさか……学園都市の能力……ですか?」

心理定規「そんなとこかな、私には人の心の距離が見えるし、操作出来る」

パトリシア「なんて乙女チックな能力!」

心理定規「あなたとこの男の心の距離はまだ遠いわね。 フラグ、ちゃんと積み立ててる?」

パトリシア「そんな機会がありませんし、私は別にそんなつもりじゃないって……」

57 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:31:34.30 ZLrNHC2Do 35/670


心理定規「自分にウソついてもしょうがないでしょ」

パトリシア「うう~……お姉さんといいあなたといい、どうしてこんな……」

ステイル(トップに出てもすぐに青のコウラが……一位になる意味あるのかこのゲーム)ピコピコ

心理定規「ロシアで限界を超えた私なら或いはあなたの心の奥底に眠る
     想いを成就させる事も出来るけど……。 所詮は幻想なのよね」

パトリシア「は、はあ……。 ……?」

心理定規「何でもないわ。 ……にしても、話し込んでるわねあっちは」

ステイル「相手が相手だからな、垣根帝督も必死なんじゃないか?」

心理定規「ふうん。 よっぽど"あっち"の領域にお熱って訳ね」

58 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:32:33.98 ZLrNHC2Do 36/670


パトリシア「お姉さん達、一体何の話をしてるんだろう……」

心理定規「あれもこれも手に入れたいなんて男の話、聞く価値ないわよ」

ステイル「ずいぶんと垣根帝督を気にかけているんだな」

心理定規「一応、彼とは学園都市に居た頃からの付き合いなんだけどね。
     今回彼と同行しててつくづく思うのよ。 彼、本当に私の手に
     届かないどこか遠くへ行っちゃったんだなって」

ステイル「そう思うのも無理はない。 法則と法則の間には深い溝が―――」

心理定規「んー、そうなんだけど、そういう事じゃなくて」

ステイル「?」

59 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:33:52.00 ZLrNHC2Do 37/670


心理定規「彼、周りが見えてないって感じなのよね」

ステイル「……"こちら"側に夢中になりすぎてか? そこまでの魅力が
     こちら側の領域にあるとは僕には思えないんだけどね」

パトリシア(こちら側の領域ってなんだろ……)ピコピコ

心理定規「どう言い表したらいいのかわかんないけど、何だかそれは少し寂しい気もする」

ステイル「寂しい?」

心理定規「最初はそんな垣根帝督をつまらないと思ってたんだけど、最近そう思うのよ。
     当たり前かも知れないけど、もう暗部の頃の垣根帝督はいないのよね」

ステイル「……?」

心理定規「そう思うと、何だかキューって、胸が締めつけられる」

60 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:34:49.45 ZLrNHC2Do 38/670


ステイル「……どうして君は垣根帝督に同行したんだ?」

心理定規「……さぁ、」

心理定規「何故かしらね」

パトリシア「……と、とりあえずゲームに集中です、集中!」

心理定規「私、パトリシアの事からかえる立場じゃないのかも」

パトリシア「?」

心理定規「どこに行ったのかしらね、……彼」

心理定規「……」

心理定規「何で私は着いていったのかな」

61 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:35:58.49 ZLrNHC2Do 39/670



――――――――――――――――――――――


小休止である。時刻はそろそろ昼に差し掛かるところだった。


マーク=スペースは部屋にいる垣根達に軽い食事を振る舞うため、エプロンを装備し
キッチンでフライパン片手に料理をしていた。途中、彼の様子に気付いたパトリシアが
手伝いを申し出たが、部屋から突き刺すように飛んできた"ボス"の視線に感づいた彼は
丁重にお断りする。


(……適当にコンビニで何か買ってくるって選択肢の方が良かったんじゃねえかこれ……。
 ついボスに促されてキッチンに立っちまってるけど、あんな大勢の人間に配膳しなきゃ
 ならねえ軽食なんてもはや軽食じゃねえだろう。 俺も料理が得意って訳じゃねえし、
 これでボスの口に合わなかったらなんて言われるか分かったもんじゃねえな……)

62 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:36:49.43 ZLrNHC2Do 40/670


食欲をそそる香ばしい匂いを漂わせながらフライパンの上で転がるウインナーを
見つめながらマークはここまでの経緯で積み重ねた疲労を吐き出すように息を吐く。

『明け色の陽射し』のアジトを担うここ、石造りのアパートメントの一室に
あれだけの数の人間が訪問してくるなど初めての事であった。

今回はたまたまパトリシア=バードウェイが居たためこのアジトも本当にただの
アパートの一室と化していたのだが、例えばこの部屋の現状が例の『暴徒』殲滅の
作戦会議室なる場所となっており、そこに垣根帝督ほかイギリス清教の魔術師が
近付いてきていると判明した場合どうなっていたか、想像するだけで頭痛が起きる。

ましてや相手は魔術サイドとは領分の違う科学サイド、学園都市の能力者が二人。
そして幾度と無く対立している対魔術師組織イギリス清教の魔術師が三人である。
パトリシアが居なければ有無を言わさずここら一帯は戦場となっていたかもしれない。


(そんな連中とコタツを囲んで科学と魔術に関する議論を交わすとはな……。
 この組織に属して俺も長いが、まさかこんな日が来るとは想像もしなかった。
 これも第三次世界大戦……と、学園都市のあの事件による影響の余波なのか)

63 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:38:05.84 ZLrNHC2Do 41/670


ここまでの議論の時点で既に『明け色の陽射し』、というかそのボスである
レイヴィニア=バードウェイは学園都市の人間である垣根帝督に助言めいた
言葉を何度か贈っている、贈ってしまっている。イギリス清教の魔術師に
対しても彼らにとって有益になりかねない情報を与えてしまっている。

科学サイドの学園都市はもちろん、実を言うと"魔術結社ではない"『明け色の陽射し』の
魔術師であるマーク=スペースにとってはイギリス清教との交流も避けたいものであった。
彼は科学と魔術の領分に関してきちんと区別したいという考えをもっており、その考えを
ボスであるバードウェイにも度々厳しく説いている。その度にキツいお言葉を受けたり
右から左へと聞き流されたりしているのだが、これもマークの役割だから致し方無いのだ。

故に垣根帝督らがここへ訪問しようと考え、近付いてきている事を彼はすぐに察するべきであった。
そもそも、数ある『明け色の陽射し』のアジトからどうやってボスが居るこの部屋を突き止めたのか、
垣根帝督がこの場所を突き止めるために使役した『部下』とは一体何者なのか。垣根らと議論を交わして
いるときは浮上する余地すらなかった疑問が、小休止を挟む事によって次々と頭の中に生まれてくる。

64 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:39:47.57 ZLrNHC2Do 42/670


(連中がここを襲撃しようと目論んでいたら俺やボスは後手に回っていたな……。
 やはりパトリシア嬢の存在を考慮した上でも防衛術式の一つでも展開させておく
 べきだったか。 幸い、連中は本当にボスへ相談しに来ただけのようだが……)


と、そこでマークは眉をひそめた。フライパンの上にあるウインナーの数が
明らかに少なくなっている。ボーッと考え事をしながら調理していたため
途中で落としてしまったのかと慌てたが、


「あちちっ」

「うおあっ!? ぼ、ボス!」


はふほふと熱々のウインナーを口に含みながらバードウェイが台所の隅っこにしゃがみ込んでいた。

65 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:40:47.97 ZLrNHC2Do 43/670


「少し焼きすぎじゃないのかマーク。 これでは我が組織の調理担当は務まらんぞ」

「いつ私が調理担当になりましたか! ていうか術式で気配消してつまみ食いしないでください!」


威厳こそあれどこんな風に、たまにトップとしての立場を忘れたかのように
子供じみた真似をするバードウェイに呆れながら、マークはウインナーを小皿に盛り付ける。


「…………ところでボス」

「ん?」

「垣根帝督のことなのですが」


マークは表情を切り替えてシリアスな雰囲気を醸しながら話を切り出した。
それを受けてもバードウェイは退屈そうにあくびをしてマイペースを保っている。

66 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:41:28.29 ZLrNHC2Do 44/670


「これ以上彼に踏み込んだらいよいよ『明け色の陽射し』としての体裁を保てなくなると
 私は考えます。 今回彼が持ち込んできた案件、どう考えても我々が関わるべきもの
 ではない。 魔術と科学の境界線を半ば強引に踏み荒らし、天使はおろかあのエイワス
 との繋がりを持つ彼は我々にとっても危険分子でしか―――」

「認識が甘いぞ。 お前、あの第三次世界大戦で一体何を学んできた?」


出来の悪い生徒にうんざりしながら指導する教師のように、バードウェイはつまらなそうに言った。


「あのくだらん戦争で魔術と科学を二分する境界線は崩壊したと言ってもいいだろう。
 ああいった世界規模の争いは必ず新たな勢力を生み出すきっかけとなる。 今回の
 戦争の影響の産物が『天使同盟』なら、その一部である垣根帝督が魔術か科学かの
 どちらかのみに属しているはずがない。 ヤツらは、そういう集まりなんだろうさ」

67 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:42:39.58 ZLrNHC2Do 45/670


「それは両サイドのどちらかではなく、世界全体としての見解では?
 我々『明け色の陽射し』は魔術結社ではなくとも、魔術サイドの組織
 として存在していなければならないはずです」

「垣根帝督がここへ来た時点で『明け色の陽射し』の立場は揺らいでしまったのさ。
 言ってしまえば運の尽き、垣根帝督がこの私を訪ねた時点でそれは確定した。
 そして我々の立場を揺るがす材料をあの男はどうやら持っているようだしな」

「……ロシア成教本部で起きた襲撃事件、ですか。 まさか彼もあの時に……」

「それは考えにくい。 あの男がそれほどの力を持っているならわざわざ私に
 相談という形で近付かなくても、その力で真正面からここを潰せばいいだけだ。
 私が垣根帝督の訪問を拒否したとしても、『暴力』であの男は片付けられる。
 ヤツが私の妹に気を遣う理由もないしな。 だがそうはしなかった、恐らく
 『天使同盟』は"そういう"連中ではないんだろう。 リーダーの一方通行とか
 いうのがそういった行動を禁止する方針を定めているのかもしれない」


ま、仮にここを襲撃してきたとしても私が返り討ちにしてやるけどな、と
バードウェイは邪悪な笑みを見せて付け加えた。マークはため息をつくしかない。

68 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:43:35.91 ZLrNHC2Do 46/670


「しかし……彼、垣根帝督もそうですが。 あのような未知と脅威を誇る
 力を持った少年を討ってしまえる一方通行という存在。 我々が主力と
 している『天使の力(テレズマ)』の根源、ミーシャ=クロイツェフ。
 第三次世界大戦の引き金を引いた右方のフィアンマ。 十字教を終焉に
 導くような知識を世に放ったエイワス。 以上のような連中が集う組織の
 一部として存在しているらしい風斬氷華という『何か』。 その気になれば
 今すぐにでもこの惑星を消滅させられるような組織が、本当に裏もなく我々
 の下へやって来るという事があるんでしょうか?」

「お前はずいぶんと『天使同盟』を評価しているんだな」

「評価というより危険視ですよ。 そしてせざるを得ない」

「ふん。 まぁ、そんな危険分子である『天使同盟』がのこのこと
 我々を訪ねてきて下さったんだ。 この状況をいかに楽しむかで
 今後のヤツらの印象も変わってくるんじゃないか?」

「どうするおつもりですか?」

「普通だよ。 普通に、歓迎する。 まだ互いに話も終わってないしな」

69 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:44:49.20 ZLrNHC2Do 47/670


それが、『明け色の陽射し』のボスであるレイヴィニア=バードウェイの決断であった。
そしてそれは、『天使同盟』に対する『明け色の陽射し』全体の対応という事になる。
垣根帝督を、『天使同盟』を歓迎する。だがそれが友好的な歓迎とは限らない。

マークは食事の用意を進めながら見た目一二歳前後の金髪少女に尋ねる。


「話とは? 彼が魔力を取り戻す手段は『未元物質』の発現にかかっている、
 という結論がついさっき下ったはずですが。 『槍』の話題になった時に
 私に視線で合図を送ったのも、ボスもその結論で話を収束させようと考えた
 からだと私は受け止めましたが……違うんですか?」

「その話はそれで終わりだし、垣根帝督自身もロシアで薄々気づいていたと
 示唆する発言をしていただろう。 だからそれはもういい。 ただな、
 あの男は魔術という法則の根本をまるで理解していないよ。 あいつは
 魔術が使えりゃそれでもう魔術師であるという短絡的な考えで思考放棄してる」

70 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:46:38.21 ZLrNHC2Do 48/670


「法則ではなく、魔術の本質を理解していないと」

「周りに魔術の本質を説いてくれるような親切心あふれる魔術師がいなかったのかな。
 まぁフィアンマがそんな事を教えてくれるとは限らないし、垣根帝督が『天使同盟』
 として世界各地を回り、その時に出会った魔術師もわざわざそこまで世話をする義理が
 無いからなぁ。 せっかくだ、この私がその役割を担ってやる。 ロシアでの一件で
 ストレスが溜まっていたし、丁度いい吐き溜めが現れてくれた、せいぜい利用してやるさ」


それを聞いてマークは垣根帝督に少しだけ同情すると同時、バードウェイに気付かれぬよう
ホッと安心したように息をついた。

やはり彼女は完全敗北を喫したロシアでの一件を根に持っていたのだ。
白いローブに身を包んだ得体の知れない魔術師。垣根帝督の話を聞いた今なら
あの魔術師の正体もマークはある程度察する事が出来た。バードウェイなら
完璧に正体を見抜いているかもしれない。

71 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:47:24.69 ZLrNHC2Do 49/670


あの時味わった理不尽な敗北で湧き上がった憤りを垣根にぶつけてやる、とバードウェイは言う。
だが本当に、その言葉通りに彼女が垣根にああだこうだとストレスをぶつける事はないだろう。
魔術の概念についてこれから垣根と話をする。彼に概念を説く過程でストレスを発散させる算段
なんだろうなとマークは適当に推測した。


「味にこだわる必要性が無くなってよかったなマーク。 恐らく、これから
 始まる議論は超一流レストランのフルコース料理でも味が劣化してしまう」

「……ですねえ。 暴徒の案件処理も終わっていないこの状況で、勘弁してほしいものです」

「無知に対して教えを以って説き伏せる楽しさをお前は学んだ方がいいな」


それも遠慮しておきます、とマークは肩をすくめて呟いた。

72 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:55:24.83 ZLrNHC2Do 50/670


Q. >熱々のウインナーを口に含みながらバードウェイが台所の隅っこにしゃがみ込んでいた。

A. 何かおかしなところでもあるんですかねえ……。

おかしなところといえば、>>62のマークのセリフの言葉に意味が同じものが……。
『影響』だけでお願いします。すみません。

さて次回は再び徹底議論。『槍』の話はひとまず終わったと言っても、
『未元物質』の話自体はまだ続きます。今度は魔術ではなく、能力が
使用出来なくなった点について議論します。まあ正確には能力は復活しつつありますが、はてさて。

次回更新は三日以内。

それでは、新スレもどうかよろしくお願いします。ありがとうございました!

次のスレでついに本編のスレ数に追いつく……なんてこったい。

73 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/24 09:56:22.34 ZLrNHC2Do 51/670




                          【次回予告】



「垣根帝督、お前の中の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』はどこへいったんだ?」
魔術結社『明け色の陽射し』のボス――――――レイヴィニア=バードウェイ




「俺が……俺の現実を自ら否定した、だと……!?」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・学園都市第二位の超能力者(レベル5)『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督




「『自分だけの現実』が存在し、かつそれを観測できて能力者は能力を行使することが出来るのよ」
『クラッカー』の構成員・『心理定規(メジャーハート)』の能力者――――――ドレスの少女




77 : VIPに... - 2012/04/24 20:08:27.18 EfGBi8oDO 52/670

乙!

もはや蛇足(無駄な付け足し)の表現は正しくないくらい濃い内容になってきたな


楽しいから問題ないぜい!

かの龍玉も「もうちょっとだけ続く」からが本番だったじゃないか

83 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:25:34.40 Cp7WUTOso 53/670

>>77
で、ですよね……あの漫画も結局延ばし延ばしやっといて尚大人気なのですから……
まあ引き合いに出す漫画が高レベル過ぎる気もしますけど。

こんにちわ、更新を開始します。

そろそろゴールデンウィークですね。皆様は何かご予定がありますでしょうか?
……多分これ、去年の今頃も同じような事言ってるんだろうなあ~……。

今回は、というか今回でバードウェイとの議論はおしまいです。
垣根パート自体はあとちょっとだけ続きますけど。
バードウェイから提示された結論を受けて、垣根帝督は何を思うのでしょうか。

それでは、よろしくお願いします!

84 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:26:36.67 Cp7WUTOso 54/670



――――――――――――――――――――――


垣根「……さて、どうしようか」

心理定規「まだお話を続けるつもりなの?」

垣根「……お前、何でここにいるんだよ」

心理定規「んー、パトリシアへの気遣い? なんて」

垣根「?」

ルチア「あの……申し訳ございません、私までご相伴に預ってしまって」

マーク「いえ、気になさらず。 お口に合うかどうかは保障しかねますが」

85 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:27:28.32 Cp7WUTOso 55/670


レイヴィニア「さっきつまみ食いした時も思ったが、うん、イマイチ」モグモグ

マーク(クソガキ……)

テオドシア「ステイルはこっちに来ないのマスか? まぁパトリシアの監視
      ……もとい面倒を見なければならないので仕方ないデスけど」

垣根「あー。 じゃあとりあえず俺が魔術を行使するためには『未元物質』を
   取り戻さなきゃならねえって結論が出たところで、また一つ頼みが――」

レイヴィニア「その前に、だ」

垣根「あん?」

レイヴィニア「ロシア成教本部の襲撃の件、お前は我々を襲った魔術師を知っている事を
       示唆するような発言をしていたな。 大体予想はつくが、言ってみろ」

垣根「予想ついてんなら言う必要なくね? お前鋭いし、多分それであってるぞ」

86 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:28:13.74 Cp7WUTOso 56/670


レイヴィニア「まぁ十中八九あいつだろうなというのはあるが、念のために聞いておく」

テオドシア「ちょい待ち、それ『必要悪の教会』の私が聞いても構わないのデスしょうか?」

ルチア「どういう意味ですか?」

テオドシア「一応私、イギリス清教からそのロシア成教襲撃事件の犯人を
      突き止めるよう調査依頼が出されてるのマスけど、ここで
      垣根帝督が口にした人物のことを本部に連絡しちゃうかもデス」

垣根「別にいいけど、報告したところであいつをどうこう出来るとは思えねえな」

心理定規「気になるー、誰だれー」

垣根「お前にゃ関係ねえよ」

心理定規「仲間外れはよしてよね」

87 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:29:01.08 Cp7WUTOso 57/670


レイヴィニア「で?」

垣根「エイワス、らしいんだけど」

レイヴィニア「………………やっぱりな」

マーク「それは事実ですか?」

垣根「根拠はねえよ、ただ俺の部下がそう言ってただけ」

テオドシア「…………報告すんのやめとこ」

垣根「それでいいのかイギリス清教……。 まぁ賢明だと思うぜ」

レイヴィニア「クソッ、正体を知ったらだんだん腹が立ってきた」イライラ

マーク「言い訳の余地もない大敗北でしたからねえ」

88 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:29:38.56 Cp7WUTOso 58/670


レイヴィニア「あの時の私はたまたま調子が悪かっただけだ! それに聖人ババァも邪魔してきたし」

マーク「彼女も一生懸命戦ってくれたじゃないですか……」

垣根「機会があったら俺の方からお灸を据えておこうか?」

レイヴィニア「必要ない! ったく……だから他の組織と手を組むような真似は嫌だったんだ」

マーク「イギリス清教やロシア成教と一時的な共同戦線を組もうと言い出したのはボスじゃ……」

レイヴィニア「ていっ」ビシッ

マーク「うぐぅ」

垣根「にしても、何でロシア成教を攻撃したんだろうな?」

89 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:30:28.83 Cp7WUTOso 59/670


レイヴィニア「『天使同盟』にはフィアンマも加盟していると言っていたな。
       恐らくはフィアンマの右腕を回収しに来たんだろう」

垣根「そうなのか?」

マーク「本人から聞き及んではいないのですか?」

垣根「ある日突然やって来たからなフィアンマの野郎は」

マーク「……もしや、そんなノリで他の構成員達も?」

垣根「『天使同盟』に加盟条件とかねえぞ。 あ、でも他が推薦しても
   一方通行が拒否ったら基本的にお断りだな。 最終的には一方通行が
   折れて加盟するって流れなんだけど、あいつ誰だっけ……イギリスから
   ロシア行く時に来たうるせえ女のガキ。 あいつは最後までダメだった」

マーク「自ら加盟を望むとは、失礼ですがその女性も物好きなんですね」

90 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:31:53.73 Cp7WUTOso 60/670


レイヴィニア「誰だそいつ?」

ルチア「イギリス→ロシアというと、あなた達が女子寮から出て行った時に?」

垣根「ああ、そん時に俺らの船に乗ってたんだよ。 名前なんて言ったかな……」

心理定規「思い出せないならその程度の存在だったって事じゃない?」

垣根「でもあのガキ、一応ロシアで別れるまでは『天使同盟』の補助員みてえな
   立場になってたからな。 『天使同盟』として一緒に活動したヤツって
   正規構成員を除けばあのガキだけだし。 個人的には加盟もOKなんだが」

テオドシア「名前忘れてるクセに」

垣根「ロシアで別れた時なんか結構ドラマチック(笑)な雰囲気だったから、
   そう簡単に忘れるはずねえんだが……なんかパンダみてえな名前」

91 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:33:27.40 Cp7WUTOso 61/670


レイヴィニア「とにかく、ロシア成教の件については拝聴した」

垣根「根拠も証拠もねえけどな」

レイヴィニア「さてそれで、お前の案件なんだが」

垣根「ああ。 『未元物質』の演算能力の回復な、今んとこ順調っぽいけど」

レイヴィニア「どのような方法で能力の再生を行なっている?」

垣根「戦闘だよ、ただひたすら戦闘。 良くも悪くも、俺の能力は
   大体が戦闘で使用されてるからな。 演算能力を戻すなら、
   環境も慣れ親しんだものにしておくべきだと思ってそうしてる」

心理定規「だったら第一位と戦った方が近道になるんじゃない?
     あの超能力者、あなたの能力が通用しないらしいしさ」

92 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:34:06.65 Cp7WUTOso 62/670


垣根「魔術も似たようなもんだろ。 ま、あまりにしょぼい魔術だったら
   『未元物質』で対応出来ちまうし、ワシリーサやテオドシアレベルの
   魔術師相手なら一筋縄じゃいかねえから丁度いい刺激になるんだよ」

テオドシア「いや~、照れるマスね」テレテレ

心理定規「実際、今どれくらいまで回復してるの?」

垣根「レベル4の能力者程度なら軽くあしらえる程度には戻ってる。
   だが本質である肝心の翼がどうやっても現出しねえんだよな」

マーク「実戦訓練を繰り返すだけで能力を取り戻せるのですか?」

垣根「それは――――」

レイヴィニア「『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』」

93 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:34:36.83 Cp7WUTOso 63/670


垣根「、っと……」

心理定規「よくご存知ね、魔術師さん。 それは私達側の感覚で捉える世界なんだけど」

マーク「……本当によろしいのですか、ボス」

レイヴィニア「さっきも言っただろ、もはやこれまで通りの認識では
       この世界でやっていけんよ。 第三次世界大戦の産物
       であるこいつと関わった以上、我々も魔術サイドだけに
       こだわっているわけにはいかない。 理解出来るだろ?」

マーク「今に始まったことではないのは承知ですが……頭を抱えるレベルですね」

レイヴィニア「だがこの干渉は妹を巻き込む事と同義しない、それも分かってるな」

マーク「無論です」

94 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:36:56.56 Cp7WUTOso 64/670


垣根「先に言われちまったが、学園都市で開発される能力には
   『自分だけの現実』っつー独自の土台が必要になってくる」

テオドシア「ロシアで演算能力の事は聞きましたが、それは初耳デスねえ」

ルチア「同じく……。 一体何ですかそれは?」

垣根「じゃあついでに説明しておこうか、このお子ちゃまは知ってるみてえだけど」

レイヴィニア「…………………………」

マーク「…………………………………」

垣根「……ん? 何だよお前ら」

レイヴィニア「いや、何でもない。 話してみろ」

95 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:37:54.57 Cp7WUTOso 65/670


垣根「『自分だけの現実』ってのはいわば可能性世界のことだ」

ルチア「可能性世界……?」

垣根「世界っつっても、自分の中にだけ存在する小せえ世界なんだけどな」

心理定規「例えば垣根帝督なら『「未元物質」を現出させる可能性』、
     私なら『他者との心の距離を調節できる可能性』かしらね」

垣根「本来の現実とは違う、テメェだけの現実を観測して俺達は能力を発動できるんだ」

心理定規「言ってしまえば妄想力なのよ。 自分は炎を操れる~、と思い込めば
     やがて自分の中に存在する少し常識から外れた現実が観測できるの。
     垣根帝督とか、レベル5にもなると常識から大きく外れてるんだけど」

テオドシア「よーわからんデスねえ」

ルチア「自分の中にある『自分だけの現実』を観測するなんて事ができるんですか?」

96 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:39:04.31 Cp7WUTOso 66/670


垣根「普通の人間には不可能だが、それを可能にしちまうのが学園都市の開発なんだよ。
   さらにAIM拡散力場なんてものも絡んでくるんだが……これはまぁいいだろ」

心理定規「どんな世界が観測できるか、そもそも観測が出来るのかどうかは
     個々の資質によるんだけどね。 『自分だけの現実』が存在し、
     かつそれを観測できて能力者は能力を行使することが出来るのよ」

テオドシア「魔術師の私達が聞いてもまるで理解出来ないデスマスね」

垣根「こればっかりは能力者独自の感覚だからな、仕方ねえよ」

レイヴィニア「その土台を糧に能力を発動するのが学園都市の能力者」

垣根「そういうこった」


レイヴィニア「……ふん、滑稽というかマヌケというか、呆れるな」

97 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:40:02.03 Cp7WUTOso 67/670


垣根「あ?」

心理定規「あら、能力者はお嫌い?」

レイヴィニア「科学サイド自体あまり好かんが……そうではない」

垣根「何が気に入らねえんだ?」

レイヴィニア「お前、滔々とその現実とやらについて語っておきながら気がつかんのか?」

垣根「…………何だよ」

レイヴィニア「能力はどうやって発動するんだ」

垣根「今さっき説明しただろ。 まず『自分だけの現実』を観測して操作―――」

レイヴィニア「お前は『未元物質』という能力が発動できんらしいな」

98 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:40:50.48 Cp7WUTOso 68/670


垣根「………………」

心理定規「……ああ、そういうことね。 言われればその通りだわ」

テオドシア「?」

レイヴィニア「垣根帝督、お前の中の『自分だけの現実』はどこへいったんだ?」

垣根「…………俺の、現実……」

ルチア「その『自分だけの現実』が消失してしまったから垣根帝督は能力を……?」

心理定規「そうなるわね。 当たり前の事すぎて深く考えもしなかったわ」

垣根「……全くだ。 あって当たり前の世界だったからな……」

テオドシア「でもある程度は能力を発動できるようになってマスよね?」

99 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:41:43.68 Cp7WUTOso 69/670


レイヴィニア「そうだな。 それが事実なら、『自分だけの現実』は完全に消失したわけではないらしい」

心理定規「そんな事ってあるの?」

レイヴィニア「知らんよ。 その辺はお前達の分野だろう?」

垣根「……俺の『自分だけの現実』は、どういう状態になっちまってるんだ?」

レイヴィニア「それこそお前にしかわからん事だろう」

ルチア「『自分だけの現実』の状態を調べる手段は無いのでしょうか?」

心理定規「あるわよ、学園都市に『自分だけの現実』の状態をチェック出来る機材が。
     けど私が知ってる機材は学園都市暗部の所有物だしねえ、手が出せないかも」

テオドシア「そもそもどうして垣根帝督の『自分だけの現実』は無くなっちゃったんデスしょ?」

垣根「…………魔術による影響、か」

100 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:42:35.19 Cp7WUTOso 70/670


レイヴィニア「いや、魔術を使っただけで個人の可能性を否定すると同義の被害が発生するとは思えんな」

垣根「だったら……」

マーク「……『原典』、でしょう」

垣根「……! だが『原典』の汚染は俺の演算能力を完全に奪ったわけじゃ―――」

レイヴィニア「正確には『原典』を用いて―――お前が自ら壊したんだ、垣根帝督」

垣根「俺が……俺の現実を自ら否定した、だと……!?」

レイヴィニア「魔術発動の際の魔力精製と『原典』による汚染、この二つの、
       『自分だけの現実』とは全く違う法則が『自分だけの現実』
       という土台を根元から崩してしまったんだよ」

心理定規「魔術だけならそんなことにはならないって訳?」

101 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:43:35.14 Cp7WUTOso 71/670


レイヴィニア「私も話に聞いただけで実際にその人間を見た訳じゃないんだが……。
       学園都市の能力者の中には能力者でありながら魔術を使用する奴が
       何人か存在するらしい。 もしかしたらお前も心当たりがあるんじゃないか?」

垣根(………………一方通行。 だがあいつは……)

レイヴィニア「だがそいつらは例外なく、無意識に"セーブ"している」

ルチア「セーブ……? 法則を振るう加減を制御しているという事ですか?」

レイヴィニア「その通り。 魔術か科学か、どちらかの法則に偏りすぎて
       しまうとどちらかの法則を発動することが難しくなるんだ。
       魔術に浸りすぎると『自分だけの現実』という土台が崩壊する。
       一体自分にとって何がその現実なのか、脳が理解出来なくなる」

心理定規「科学と魔術を有する人間は偏りを無意識に調整していると」

レイヴィニア「意識的に行なっている人間もいるかも知れないがな」

102 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:44:53.90 Cp7WUTOso 72/670


マーク「しかし垣根帝督の場合はその制御が不完全なのです。 いや、不完全すぎる」

レイヴィニア「魔術を扱う能力者が完全にどちらをも扱う事は出来ない、絶対にな。
       機会があったら見せてもらえばいい。 どれだけセーブしようが
       能力者が魔術を使用すると必ず肉体に何らかの副作用が生じるだろう」

マーク「そしてそれが度を超えると……その人間は死に至ります」

ルチア「……」ゾクッ

レイヴィニア「定められた法則の領域を犯しすぎた人間への罰則と言って問題ない」

垣根「……」

レイヴィニア「垣根帝督。 お前が求めているモノはお前が想像する以上に過酷なんだよ」

心理定規「でもさぁ、今例に出た魔術を使う能力者って垣根帝督も当てはまるでしょ?
     垣根帝督が現状こんな事になってるのも、魔術を使っちゃったからっていう
     のは分かるけど、だったら最初に魔術を使った時点で『自分だけの現実』が
     壊れちゃうんじゃないの? 垣根帝督は制御が出来ないヘタクソらしいし」

103 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:46:07.47 Cp7WUTOso 73/670


マーク「魔術の行使にだけ留めておけば肉体へ掛かる負荷が襲う、程度で済んだでしょう。
    それだけでも死に至る危険性はありますが、土台の崩壊までには至らない」

ルチア「だったらなぜ垣根帝督は能力が……?」

マーク「そこで『原典』なんですよ。 先もボスが説明したように、『原典』は
    魔術サイドの観点からしても未知で満ち溢れています。 そんな代物を
    彼は無理やり脳に刷り込んでしまった。 ただでさえ魔術という別の
    法則で『自分だけの現実』に負担がかかっている状況で『原典』の毒。
    通常なら廃人と可してしまうところですが、彼の場合は土台の崩壊で済んだ」

レイヴィニア「魔術行使のリスク+『原典』の汚染というスペシャルコンボに、『自分だけの現実』は耐えられなかったんだ」

テオドシア「いやでも垣根帝督の『未元物質』は徐々に復元しつつあるのデスけど」

レイヴィニア「そう、だから不思議なんだよこの男は」

マーク「魔術と科学の制御が不完全な彼は肉体への副作用によって死んでしまってもおかしくない。
    偏りすぎは破滅をもたらします、特に魔術側への大きな偏りは能力者には致命傷です。
    彼の話を聞く限りだと彼もそのテの人間のようですが、現にこうして生きています。
    これは我々からしても実に不可思議な現象です。なぜ彼はこうして生きていられるのか」

104 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:47:38.74 Cp7WUTOso 74/670


心理定規「だってさ。 あなた何で生きてるの?」

垣根「…………」

心理定規「……? ねえ、垣根帝督」

レイヴィニア「能力開発の詳細は知らんが、『自分だけの現実』が中途半端に
       存在するなどという事は実際にあるのか?」

心理定規「どうだろ。 私も今日初めて気付いたし」

レイヴィニア「そうでないのなら、やはり『未元物質』は復元しつつあるという事になるが……」

マーク「……」

レイヴィニア「『未元物質』復元の理由が魔術師との戦闘訓練だとしたら、"気が進まんな"」

テオドシア「?」

105 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:48:45.78 Cp7WUTOso 75/670


レイヴィニア「『未元物質』復元は即ち、『自分だけの現実』の再構成に繋がる。
       お前の中の、お前だけの世界が元に戻りつつあるという訳だ」

ルチア「どうすれば垣根帝督が能力を取り戻せるのか……という話ですか?」

レイヴィニア「それが今話している議題だろう?」

垣根「……」

心理定規「教えてくれるの? ていうか方法が判明したのかしら?」

レイヴィニア「私は魔術師だ。 能力云々は専門じゃないんで憶測の域を出ないがな」

垣根「……どうすれば、取り戻せる」

レイヴィニア「死ねばいい」

ルチア「は……はい?」

106 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:49:40.88 Cp7WUTOso 76/670


レイヴィニア「正しくは『死』を求めればいいんだ。 本当に死んでしまっては
       元も子もないが、死に近づく事でこいつの『自分だけの現実』は
       再構成を進めていく。 能力の演算は脳がその全てを処理する。
       まあ……死ねは些か言葉が過ぎているかも知れんが、リアルの『死』の
       感覚を刷り込ませ、脳を刺激し『自分だけの現実』を呼び起こすんだ」



―――あと一〇〇回くらい死にかければ能力を取り戻せるのではないマスでしょうか。



テオドシア(げ……、あの時の冗談が冗談じゃなくなってるし……)

レイヴィニア「机上の空論にも程があるけどな」

心理定規「どうしてそんな結論に至ったのかしら」

107 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:50:49.25 Cp7WUTOso 77/670


レイヴィニア「垣根帝督、お前は以前に一度"死んだ"と話していたな」

ルチア「あ……一方通行に殺されたとかいう、あの話ですね」

垣根「……それがどうした」

心理定規「あなた、さっきからテンション低くない?」

レイヴィニア「ふん、"自覚"したんだな」

心理定規「?」

レイヴィニア「学園都市的には死んだ事にはなってないと言ったが……、
       脳だけ摘出されてあとは破棄なんぞ、死んでいるも同然だ」

垣根「……」

レイヴィニア「その一方通行とかいうヤツに殺された日、お前の中の現実は壊れてしまったんじゃないか?」

108 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:52:41.34 Cp7WUTOso 78/670


テオドシア「……? でも復活してからも能力は使えたのデスよね?」

レイヴィニア「エイワスの手によって復活したはいいものの、その後しばらく、
       例えばお前はある種の精神的不安定に蝕まれてはいなかったか?」

垣根「……!」

心理定規「……そうなの?」

マーク「死を体験した後に還ってこれるというケースは非常に稀ですからね。
    普通の人間ならパニック状態に陥っていても不思議ではないでしょう」

レイヴィニア「恐らくその時からもう既に、お前には『死』がまとわりついていたんだ。
       『天使同盟』に加盟した時点で、『自分だけの現実』の崩壊が運命付けられて
       いたんじゃないかと私は考える。 一気にではなく、徐々に壊れる形でな」

垣根「…………」

109 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:54:19.83 Cp7WUTOso 79/670


レイヴィニア「……『お前に俺の何がわかる』、的な反論も無しか? つまらんな」

マーク「ボス」

レイヴィニア「分かってる。 だがお前はその『死』を糧にした。 死を糧にして、
       そこから『自分だけの現実』を再び構成した。 それによって復元
       した『自分だけの現実』を土台に、『未元物質』を発動してるんだ」

心理定規「学園都市も裸足で逃げ出すぶっ飛び理論ね」

レイヴィニア「だから憶測の域を出ないと言っているだろう。 ……もっとも、」

垣根「……」

レイヴィニア「的外れ、という訳でもないみたいだがなぁ?」

ルチア「死は生物にとっての終着点ですよ? それを力の糧にするなんて……」

110 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:55:10.16 Cp7WUTOso 80/670


レイヴィニア「だがこの仮説は、垣根帝督が魔術に魅了された動機の裏付けにもなる」

テオドシア「と、いうと?」

レイヴィニア「誰かから最初に魔術の話を聞いた時、垣根帝督は十中八九
       能力者が魔術を使う危険性についても説かれたはずだ。
       最悪の場合死に至る、そのリスクにこの男は"惹かれてしまった"」


―――なんで能力者がマジュツを使うと死ぬんだ?

―――それは、能力者が脳開発をされているからです。 いわゆる、拒絶反応が起こって……


垣根「……俺は」

心理定規「ようは死にたがりって事?」

111 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:56:37.26 Cp7WUTOso 81/670


レイヴィニア「常に死を傍に置いていないと自己を保てなくなっているんじゃないか?
       死を体感する事で生を実感出来るなんて話は結構あるだろう。
       死という根本的概念が垣根帝督を垣根帝督たらしめているんだ」

垣根「……」

レイヴィニア「つまりもっと死に近づけば……それこそ『原典』の海に飛び込みでもすれば
       『自分だけの現実』も或いは再構成する事が出来るだろうが……。 こんな
       話をしてしまっては今までと同じようにという訳にはいかないだろうな」

マーク「『禁書目録』の知識に一切のフィルターを介さず閲覧するという無茶な
    行為も、死が行動原理であろう彼なら納得できてしまうというものです」

レイヴィニア「だがそれを自覚した今、実行に移すのは非常に難しいぞ?」

垣根「……」

レイヴィニア「何度でも言うが、これは事実ではなくあくまで推測だぞ」

112 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:57:25.40 Cp7WUTOso 82/670


垣根「……能力についてはそれで構わねえよ。 『未元物質』の話はそれで解決って事でいい」

レイヴィニア「ん?」

垣根「なら……魔術は。 魔力はどうやったら精製出来るようになるんだ」

ルチア「な……、垣根帝督。 あなたはまだそのような事を―――」

レイヴィニア「……呆れて物も言えんな。 話を聞いてる間にも思ったが、お前は本物のバカだよ」

マーク「我々の意見を聞いて尚、魔術を求めますか」

垣根「それしかねえんだよ俺には。 あいつらと……『天使同盟』と付き合っていくには、
   能力だけじゃ足りねえんだよ!! もっと力を得て強くならねえと…………」

レイヴィニア「魔術をナメるなよクソガキ」

垣根「何……?」

113 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:58:43.36 Cp7WUTOso 83/670


レイヴィニア「いいか、よく聞け。 魔術というのはな、才能の無い人間が才能のある
       人間に追いつくために開発された技術なんだよ。 脳を弄られて才能を
       開花したような天才であるお前のために作られた法則じゃないんだ。
       お前みたいに、死と同伴した好奇心でホイホイと手に出来るような力じゃないんだよ」

垣根「好奇心だと……!?」

レイヴィニア「危険性を承知で求めているから更にタチが悪い。 お前みたいな、能力も魔術も得たい
       などという『強欲』にまみれた人間の存在そのものが、魔術に対する『冒涜』だと断言していい」

垣根「冒……涜……」

114 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 11:59:24.79 Cp7WUTOso 84/670




―――あなたの生き方はとても強欲だと私は思うデスマス。能力と魔術、
   このどちらかの領域に立って人は生きていくものデスしょ。

―――あ、あなたはどこか魔術という法則を軽んじている傾向が見られます。
   魔術結社のアジトに立ち寄って、そこで魔術を冒涜するような物言いを
   働いてしまったらトラブルの原因になります。

―――冒涜的かどうかはともかく、魔術を軽視しているという点には頷ける。



ルチア「! あ……」

テオドシア「……」

115 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 12:00:43.54 Cp7WUTOso 85/670


レイヴィニア「明確な理由もなくワガママなガキみたいに魔術が使いたい魔術が使いたい。
       己が信念、敵に突きつける武器、位階、それら全ての意味を含めて誓言する、
       魔術師という存在の柱とも言える『魔法名』も持たんお前が何をほざくか」

垣根「……」
       

レイヴィニア「結論を述べよう。 魔術サイドからはもう足を洗え」


垣根「……」

レイヴィニア「『未元物質』を取り戻す作業なら、ここまで来たら私も付き合ってやってもいい」

116 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 12:01:30.96 Cp7WUTOso 86/670


マーク「……」

レイヴィニア「死がどうこう言ってきたが、それでもお前は生きているんだ。
       どういう経緯であれ再び享けた生を雑に扱う必要はない」

垣根「……」

レイヴィニア「話は終わりだ。 私は少し外へ出てくる、お前達は適当に寛いでおけ。
       パトリシアもいるしな、構ってやってくれ。 マーク、行くぞ」

マーク「……了解です」


            ガチャ  バタン

117 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 12:02:29.96 Cp7WUTOso 87/670


垣根「……………………」

心理定規「あっはは、怒られちゃったねえ」

垣根「……」

心理定規「……………………どうするのよ」

垣根「……」

テオドシア「ていうかまだ話終わってないのデスけどねえ、個人的に」

ルチア「…………垣根帝督」

垣根「……あー面倒くせえ」

ルチア「?」

垣根「ちょっと一人にしてくれ」

118 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 12:07:02.89 Cp7WUTOso 88/670


今回はここまでです。ちょっとだけ投下量多めになっちゃいました。

まあ要するに、『能力はまだ望みがあるけど、魔術のことはもう忘れろ』というのが今回の垣根パートの締めです。
垣根、こっぴどく叱られてしまいました。それと、今まで散々あった死亡フラグ云々の場面は伏線でもなんでもないですよ。
死亡フラグはギャグとして割り切って、今回の『死』の話はまた別モンだと考えていただければと思います。

意気揚々とアジトに赴いた垣根でしたが、終わってみれば何だコレ……な雰囲気になってしまいました。
魔術は捨てろと言われ、彼はどう進んでいくのでしょうか、というか進んでいけるのでしょうか。

……という感じで、次回、垣根パート一旦終わりです。思ったより短かったですかね?

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

119 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/27 12:07:52.29 Cp7WUTOso 89/670




                          【次回予告】



「垣根帝督と話していた時のバードウェイ様はとても楽しそうデスしたねえ~。
 まるで見たこともないようなオモチャをプレゼントされて喜んでる子供のような」
イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師――――――テオドシア=エレクトラ




「…………何が言いたいのかなテオドシア君? もしアレなら今ここで天使呼ぶけど?」
魔術結社『明け色の陽射し』のボス――――――レイヴィニア=バードウェイ




「クソッ! 何も見えなくなっちまった……、全部投げ出しちまいてえ」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・能力も魔術も失った少年――――――垣根帝督




「垣根帝督……」
元ローマ正教のシスター――――――ルチア




131 : VIPに... - 2012/04/28 21:06:26.13 mMQusrqfo 90/670

数日かけて本編の頭から読み直してきて今追いついた
改めて乙!

ところで本編初期の番外通行にニヤニヤしたんだが、ヴェント編の番外個体の態度からすると、もうフラグはなくなってるんだろうか
番外個体可愛かったから、一方通行に番外個体にも向き合って欲しかったが

132 : VIPに... - 2012/04/28 22:09:23.42 tU6aMHns0 91/670

新スレおめでとうなの
ていとくん最大の見せ場ってあとどれくらい?

133 : VIPに... - 2012/04/29 02:40:28.94 NNyrbmx80 92/670

>>132
5年後くらいじゃないかな

136 : VIPに... - 2012/04/30 00:26:36.31 liq3UdKS0 93/670

>>133  それは垣根があまりにも不憫だ・・・
垣根涙目・・・

137 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:17:17.39 heCG1Wtho 94/670

>>131
なんていうか少なくとも、このSSの番外個体や打ち止めはフラグとか
そういうものを超越している存在にあります。上手く言えないのですが、
恋愛感情などとうに超えているような、そんな存在になっています。
番外通行とか書きたかったですけど、そのテのSSはありふれてて私なんかが
介入できる余地がなく……。出番自体はまだありますのでご安心を。

>>133
そうですね、10年後くらいに……というのは冗談で。
最大の見せ場はまだ先ですが、出番はちょろちょろありますよ。
本編SSではかなり主人公しちゃってたので、今は抑え気味ですが。


おはようございます、皆様。更新を開始したいと思います。
今回で一旦垣根パートは終了です。ただ苦悩する垣根と、
『暴徒』の件について少し触れていきます。

それでは、よろしくお願いします!

138 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:18:36.14 heCG1Wtho 95/670



――――――――――――――――――――――


「ちょっとお待ちになってくださいな、小さなボスさん」

「……何だ?」


垣根帝督との話し合いを終えたバードウェイは部下のマーク=スペースを
引き連れて街へ出ていた。そこに背後から軽い調子の声が飛んでくる。
『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師、テオドシア=エレクトラだ。
その少し後ろには難しい顔をした同組織の魔術師、ステイル=マグヌスの姿もある。

テオドシアは真冬の大気を受け、肩を抱いて大袈裟に震えながら
白い息と共にバードウェイへ言葉をかけた。

139 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:19:42.60 heCG1Wtho 96/670


「垣根帝督の案件は片付いたのデスしょうけど、まだ私達からのお話が終わってませんデス、はい」

「お前達はただあの男に同伴してきただけじゃないのか?」

「イギリス清教から連絡が入ったんだよ。 暴徒と交戦中の『明け色の陽射し』と
 合流し援護するようにってね。 その時僕達はロシアにいたからイギリスに到着
 した時には事が済んでしまっていたようだけど」


ステイルの言葉を聞いたバードウェイはあからさまに不機嫌な表情を浮かべた。
要請もしていない援護をイギリス清教が彼らに送っていた事実が面白くないのだろう。


「イギリス清教の援護など我々に必要だと本気で思っているのか?
 まぁ、我々が暴徒相手に"やりすぎないよう"牽制しろという意味の
 派遣指令なら納得がいくというものだがな」

140 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:20:33.47 heCG1Wtho 97/670


そう言いながら見せるバードウェイの邪悪な笑みは、垣根帝督との会話では
ほとんど出てこなかったものであった。


「……私達が暴徒と接触している時にイギリス清教からその指示が
 出たとしたら、あなた達がイギリスに到着するまでの時間が早過ぎる
 気がするのですが……。 座標指定移動術式でも使って来たんですか?」


マークの疑問に、煙草の煙を吐きながらステイルがつまらなそうに答える。


「学園都市にはトンデモ技術で開発された音速旅客機があるんだよ。
 腹に力士を乗せたような苦しみと共に僕達はここへ来たという訳だ」

「あの飛行機、色々と不思議だったデスよね。 客室乗務員が居ない
 という点はともかく、パイロットも私達に顔すら見せてこなかった
 し、機内アナウンスや機内サービスも来る気配が無かったマスし」

141 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:21:22.82 heCG1Wtho 98/670


「あんな旅客機で機内サービスを受けてもありがたみが無いけどね……」


航行中の状況を思い出してしまったのか、ステイルの顔が若干青ざめている。


「それで? わざわざ学園都市式の愉快な空の旅を自慢しに私を追いかけてきたわけじゃないんだろう?」

「ええ。 いやデスから最初の方に言った暴徒についてなのデスマスけど」


話が本題に戻ってもテオドシアの気軽な雰囲気は変わらない。


「よろしければ暴徒に関する情報、出来れば構成員の詳細や使用魔術の系統、
 規模、拠点の数、今後の行動などなど、そんな感じの情報を提供していただ
 ければ我々『必要悪の教会』も嬉しい限りなのでございマスけど~、どうデス?」

「それはひょっとしてギャグで言っているのか?」

142 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:22:10.37 heCG1Wtho 99/670


ごますりをしながら下手な態勢で情報提供を要求しているように見えるが、
テオドシアの場合どこか裏で何かを企んでる感がその作り笑顔に滲みでている。
が、それとは関係なくバードウェイの対応は冷たいものだった。


「イギリス清教から我々との連携指示を受けたとか何とか、そういう話らしいが?
 ボスの私から言わせてもらおう。 我々『明け色の陽射し』はお前達イギリス清教
 に戦力的価値を全く見出しておらん。 期待もしてない。 だからお断りだ」

「僕としてもこんな連中と手を組むなんて意向は命令されても御免被りたいね」


そこだけ聞くとバードウェイに対して敵意剥き出しで反論しているように思えるが、
ステイルはただ単に自分の意見を正直に口にしているだけである。

143 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:23:26.76 heCG1Wtho 100/670


「暴徒なんて所詮、誰かが起こした何らかの現象にあっさり感化されて暴走
 しているだけの、無能の集まりでしかない。 加えてその暴徒を生み出して
 いるのがあの『黄金結社』サマなのだから呆れて物も言えないというものだ」

「我々『明け色の陽射し』と『宵闇の出口』を同列視している時点で
 お前という存在の浅い底が見えてきそうだな。 ローラの犬が」

「暴徒を逃した失態を部下に押し付ける程度の器なんだね、『明け色の陽射し』のボスは」

「……言うようになったじゃないか。 リチャード=ブレイブの一件で
 我々が姿を現した時のビビりっぷりが影も残っていない。 お前も
 あの第三次世界大戦で何かを得たクチか? だがその程度ではお前達に
 協力してやろうという気持ちにはなれんな、もっと頑張ったらどうだ?」


バチバチバチ……といつの間にか口論に発展してしまったステイルとバードウェイの
間に火花が散る。ステイルが咥える煙草の先端が異常に燃え上がり、バードウェイは
その視線だけで相手を押し殺さんと目に見えない力で対抗する。

144 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:24:19.72 heCG1Wtho 101/670


さてどうこの場を収めようかとマークが思案していると、


「…………科学サイドの垣根帝督には不必要なくらい肩入れしてたクセに」


ボソッと。注意しなければ聞き取れない程度の声量で呟いたテオドシアの言葉に
バードウェイの表情が氷のように凍りついた。


「…………なになに? 何か言ったかなクソババァ、垣根帝督が何だって?」

「なーんか、私達とあなたじゃ『格』が違うみたいな口ぶりでいらっしゃいマスけどぉ、
 結局あなたも私達と同じく、垣根帝督が秘める『未知』に少なからず興味を抱いた
 魔術師に過ぎないんじゃないかなぁ~って、あー別にこれはただの独り言デスけどね?」

145 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:25:13.61 heCG1Wtho 102/670


もはや隠すつもりもないらしい。テオドシアは嫌味全開の笑顔で"独り言"を呟く。
対するバードウェイも笑顔ではあったが、そのこめかみには青筋がひくひくと走っていた。


「マーク……魔術剣の用意は出来てるだろうな?」

「肩入れし過ぎである点は事実です。 それに、彼女はただ独り言を
 呟いているだけですのに、いちいち反応するボスもどうかと……」

「ま、マーク?」


いつもは何だかんだで味方側の立場でいてくれるマークまでもが、
まるで寝返ったように四十路前のバ……お姉さんに同意するような物言いをする。

146 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:26:01.52 heCG1Wtho 103/670


「垣根帝督と話していた時のバードウェイ様はとても楽しそうデスしたねえ~。
 まるで見たこともないようなオモチャをプレゼントされて喜んでる子供のような」

「て、テオドシア……そろそろ」


最初はもっと言ってやれみたいな気持ちだったステイルが顔に冷や汗を浮かべながら
『さすがに挑発しすぎ』と言いたげにテオドシアを止めようとする。
バードウェイの実力を垣間見ているステイルだからこそ、ここでバードウェイに
キレられたらマズいとヒヤヒヤしているのだ。さっきまでバードウェイに対して
挑戦的だった彼もさすがに許容出来ない範中であるらしい。


「…………何が言いたいのかなテオドシア君? もしアレなら今ここで天使呼ぶけど?」

「あなたの好奇心を揺さぶってくれた垣根帝督が『明け色の陽射し』を訪れる事に
 なったのも、キッカケは私達の情報提供デスよ? 主にステイルが垣根帝督に
 『「明け色の陽射し」には見た目以上にガキでワガママで高慢ちきだけど実力は
 確かなクソガキがトップに君臨してる』って言わなきゃ、垣根帝督があなた達に
 そこまでの興味を示す事はなかったんじゃないかなぁ~なんて思ったり」

「ちょ、オイ!! 僕はそんなこと言ってな―――――ごはぁ!!?」

147 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:26:57.06 heCG1Wtho 104/670


瞬間、ステイルが正体不明の攻撃によって地面に押し潰されてしまった。
バードウェイは微動だにしていなかったが、この流れだと攻撃の正体は
彼女の魔術によるものだろう。その証拠にマークは額に手を当ててため息をついている。

理不尽な粛清を受けた同僚の事など意にも介さずテオドシアは続けた。


「感謝しろとまでは言いマスせんけど、借りを返す程度の気持ちで
 結構デスので私達に情報提供してくれませんか?」

「結局それが本音だろうが、まったく……」

「よろしいのですか? ボス」

「ま、こんな私でも第三次世界大戦の時に世界のために一肌脱いだ前例があるしな。
 状況も状況だ、暴徒の件に関してのみの協力もやぶさかではない。 仕方なく、な」

「よっ、御大将。 それでこそバードウェイデスよね」


そんな訳でひとまずバードウェイはイギリス清教と一時的な戦線協定を結んだのだった。
ステイルは死んだ。

148 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:27:54.81 heCG1Wtho 105/670



――――――――――――――――――――――


別にそんな話をするために遠路はるばるイギリスに足を運んだ訳じゃない。
別に説教や小言を受けるために『黄金』系魔術結社に接触した訳じゃない。
ただ魔力を再び手にするためのコツなんかをちょっと教えてもらえたら。
ただ魔術に関する面白い話の一つや二つでも聞けたら。

こんなシリアスな空気を吸うために自分は『天使同盟(アライアンス)』を抜けたのではない。
失った物を、落っことしてしまった物を取り戻そうとしただけ。それが今回は魔術だっただけ。

魔術を使った自分に感謝してくれた人がいたから。

魔術を使った自分を叱咤し、真剣に心配してくれた人がいたから。

感謝される事がこんなにも嬉しく、暖かいものだとは思わなかったから。

怒られるという事がこんなにも大事で、心配されるという相手の心遣いがありがたいものだとは思わなかったら。

149 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:28:43.21 heCG1Wtho 106/670


ただ、それだけ。




「だったら何でそう反論しねえんだっつー話だよなぁ」

「え?」




『明け色の陽射し』のアジト、石造りのアパートメントの一室。ベランダである。
垣根帝督は誰かに話しかけたつもりではなく、気がつけばそんな言葉が口から漏れただけなのだが。
少し離れた場所、彼と同じくベランダから外の景色を眺めていたルチアが彼の言葉に反応した。

150 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:29:26.01 heCG1Wtho 107/670


「……一人にしてくれって、俺言ったよな?」

「す、すみません……」

「別にいいけど。 あの女みてえにお前もパトリシアとゲームしてりゃいいのに」


そう促されても、ルチアはベランダから移動する事はなかった。
ただジッと遠い目をしている垣根帝督の横顔を見つめている。


「怒られたなぁ」

「そうですね」

「ったく……何だよあのガキ。 あんなのが組織のトップ張ってる『明け色の陽射し』って
 色々問題があるんじゃねえの? 俺はただ相談しに来ただけだってのに、何をムキになって
 熱弁してるんだか。 あの辺やっぱガキだよな。 クソったれが、無駄足もいいとこだぜ」

151 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:30:49.37 heCG1Wtho 108/670


垣根の言葉には力が無かった。隣にルチアがいるためとりあえず何か喋っておこうという、
そんな空っぽの言葉だけが、イギリスの青空に吸い込まれていく。

言葉の内容はほとんどがバードウェイへの不満。だがそれも本音ではない事が
隣で聞いているルチアには理解できた。そもそも本当にバードウェイからの言葉の数々に
不満を抱いたのであれば、彼の性格ならその場で本人にぶつけているはずである。

思い知らされたのではない。

分かってた。最初から。

力を求め、その先の着地点が自分には無い事くらい、彼なりに理解していた。


「俺は一度死んだから、その後も死を求めて彷徨ってると。 ハッ、
 お前は既に死んでいるってか。 あのガキ、漫画の読みすぎだぜ」

152 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:31:53.80 heCG1Wtho 109/670


「死んだ人間は絶対に生き返りません。 あなたは今もこうして
 生きているのですから、正真正銘生きているのですよ」

「シスターが哲学語ってんじゃねえよ」

「哲学に魔術も科学もありませんよ」


くっだらねえ、と垣根はため息をついて後ろを振り返る。
そこにはガラス戸に背を預けてパトリシアとのゲーム対戦に熱中している
ドレスの少女の姿があった。


「あの女、もう魔術にゃ興味ねえとか言ってたのに、何で着いてきてんだろうな」

「……」

153 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:32:44.74 heCG1Wtho 110/670


「あいつも最初は『面白そうだから』って理由で俺に同行してたんだ。
 ……俺も似たようなもんかも知れねえ。 俺だって魔術に興味を
 持ったのは面白そうだからってのが理由だし。 信念とかなんとか、
 そんなご大層なもんを掲げなきゃ触れちゃいけねえ領域なのかよ魔術は」


魔術を使う理由。魔術は才能の無い人間が才能のある人間に追いつくために開発された技術。
それで言えば、自分は第三次世界大戦で魔術を使ったという一方通行に対抗意識を持って魔術を
使おうと考えた時期もあったかも知れない、と垣根は過去の記憶を振り返ってみる。

例えば『第一九学区事件』ではどうだっただろうか。垣根は当時の事をほとんど覚えていないが、
それでもミーシャ=クロイツェフを救うために血反吐を吐き散らしながら戦った。
天使を守るため、乃至は皆を守るため。自分の居場所である『天使同盟』を守るため。

立派な理由じゃないか、と垣根は失笑する。大事な何かを守るために危険な技術に手を伸ばす。
まるでヒーローだ。いや、ヒーローならそんな"邪道"に進まなくても守るべきものは守れるだろうか。
そんなヒーロー像を大義名分にして魔術を使う自分を予想して、垣根は気分が悪くなった。

154 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:33:48.23 heCG1Wtho 111/670


「己が信念、ねえ……。 魔術を使いたい、或いは使った理由なら色々とあるが、
 真の理由がそのどれにも当てはまってねえとあのガキは言いたかったのか。
 ごちゃごちゃと理由を並べてねえで、自分だけの信念を見出せって事なのかよ」

「……さっきの話に出てきた、『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』にも少し似ていますね」

「かもな。 学園都市の能力もその現実を見失っちまったら使えなくなる」


魔術も能力も使用する上で、結局は『自分』に依存している。当たり前の話だが。
魔術なら『魔法名』、能力なら『自分だけの現実』。魔法名が無ければ魔術が使えないという
訳ではないだろうが、信念をその名に乗せ、敵対者に名乗り、覚悟を示す事が魔術師なのだ。


「お前の魔法名って何なの?」

155 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:34:50.13 heCG1Wtho 112/670


「私には魔法名はありません。 私はシスターであって、魔術師ではありませんから。
 先の話の場合ですと、私はシスターという役職、立場に自分の信念を預けています」

「立場……か。 自分の存在と同義だよな」


その存在が一度消えてしまったから、死んでしまったから、自分は魔術が使えなくなったのか。
否、使う資格が無いのか。垣根はバードウェイから受けた言葉の意味を改めて考え直してみる。

魔術を使う使わない以前に、使う資格が必要ならば、自分は生きていなければならない。
今の垣根帝督は生きているし、死んでいる。矛盾しているようだが、垣根には自覚できた。

その中途半端な場所から『生』の方向へ脱出しなければならない。生きるためには明確な
目標が必要である。仕事を全うするため、人生を楽しむため、家族を養うため、恋人を守るため。
人間、誰しもが何らかの目標、信念を持って生きている。それが無い人間は今の垣根と同じく
死んでいるも同義なのだ。

156 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:35:50.71 heCG1Wtho 113/670


一方通行への対抗意識が消え失せた。ミーシャを守る必要性が無くなった。
だから魔術というもう一つの力が必要なくなったと自分の心が判断したのかと垣根は考える。


(だったらどうして……)


ならばなぜ、なお魔術という法則を自分は追い求めるのだろうかと垣根は自問自答した。
魔術に魅せられたから? 魔術を使うために生きるという目標があれば魔術が使えるのか。
だったらとっくに彼はその力を再び取り戻しているはずである。魔術を取り戻すために
学園都市を発ち、わざわざ『黄金』系魔術結社にまで接触したのだから。

一方通行に対する対抗心を再び燃やしてみるか。ミーシャを、居場所を守る必要が無いのなら
代わりの誰かを守ってみるか。ひたすら特訓に励んでみるか。バードウェイも、思い出してみれば
テオドシアも言っていた『死に近づく行為』で魂辺りが危険を察し、魔力を精製してくれるかもしれない。

157 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:37:00.90 heCG1Wtho 114/670


どれだ。

どれを選べば魔術を取り戻せる。選んで、しかしそれで失敗したらどうすればいい。
歩むべき道を失ってしまったら自己の存在が自覚出来なくなる、"死んでしまう"。

それに魔術以前に自分は能力も取り戻せていない。『自分だけの現実』すら掴めていない。
魔術も科学もない、ただの一般人。いや、一度死んでいる垣根は自分が一般人である事も自覚し難くなっている。

では垣根帝督とは一体何なのか? というもはや前提破錠、意味不明の疑問にぶち当たってしまう始末。


垣根帝督は―――――。




「わっかんねえよちくしょう!」




158 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:37:44.76 heCG1Wtho 115/670


髪を掻き毟って叫んだ。突然大声を張り出されルチアは小さな悲鳴を上げ、
室内でゲームをしていたドレスの少女とパトリシアが彼の背中をキョトンと見る。


「クソッ! 何も見えなくなっちまった……、全部投げ出しちまいてえ」

「垣根帝督……」


ルチアが彼の肩に優しく手を乗せるが、効果はあまり無かったようだ。
垣根は目を固く閉じ、唇を噛んで震えるだけだ。

何も無くなってしまう。『無』の恐怖が垣根の心を蝕んでいく。


そんな恐怖に震えるしかない自分に吐き気すら催す垣根。
その彼に対し何も出来ないでいるシスターのルチアもまた、静かに悔やむのだった。

159 : ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:40:56.40 heCG1Wtho 116/670


今回はここまでです。

これで垣根パートは一旦お終いです。カッコイイ垣根を描けなくて申し訳ありません……。
今回はただただ苦悩するだけの、言ってしまえば情けない垣根でしたね。
彼の悩みに対する解答は、すごく簡単なものなですが、あまりに簡単すぎて逆にわからないというものです。
垣根がそれに気付くことが出来る頃には、この蛇足SSも最終回直前に差し掛かっているでしょう。

さて次回はちょっと小話を挟みます。○○パートとか置くほど長い話ではありません。
軽く読み流していただけたらと思います。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

160 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/04/30 08:41:29.08 heCG1Wtho 117/670




                          【次回予告】



「いやあ、科学の街で眺める雪景色も悪くないですね」
『グループ』の構成員――――――海原光貴




「寒い上に視界確保が面倒になるだけの障害じゃない?」
『グループ』の構成員――――――結標淡希




「夢のない事を言うなよ。 ま、後者に関しちゃ同意するがな」
『グループ』の構成員――――――土御門元春




「…………くっだらねェ」
『グループ』の構成員―――――― 一方通行(アクセラレータ)




167 : VIPに... - 2012/04/30 12:42:53.36 kpHQWtJS0 118/670

>>1乙!

>垣根がそれに気付くことが出来る頃には、この蛇足SSも最終回直前に差し掛かっているでしょう。

えっ
もしかして最終回近いんかこれ・・・

あ、蛇足の最終回か、続編あるはずだから安心だね!

174 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:13:58.58 lmYf1d0ho 119/670

>>167
私の言う『最終回は近い』が本当だった試しがあるのか、それが答えだ……


こんにちわ、更新を開始します。
今回は非常に珍しい、つか初めての『グループ』主体のお話です。
つってもここからしばらく続く訳はなく、ニ、三回の投下で一旦終わりですけど。

もう忘れかけていた暗部の存在ですが、原作とは違いこのSSでは暗部はまだ健在。
『グループ』として呼び出された一方通行の心境は複雑なものでした。

それでは、よろしくお願いします!

175 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:14:33.33 lmYf1d0ho 120/670



――――――――――――――――――――――


学園都市は空から降り注ぐ幻想的な雪景色に染められていた。
一端覧祭開催から五日目の夜。いや、既に時刻は午前〇時を回っているため
正確には六日目である。

深夜の学園都市は街全体が色鮮やかな光のイルミネーションに包まれている。
その装飾と純白の雪が織り成す街並みは、もうすぐ訪れるクリスマスの雰囲気を想起させる。
もっとも、この時間帯に街を出歩く学生はほとんど居ないため、せっかく冬の季節が演出して
くれたこの美しい景色もあまり意味が無い点については残念としか言いようがない。

つまり現時点でこの景色を見ている人間は、とことん学園都市の規律に逆らうスキルアウトか
深夜勤務の『警備員(アンチスキル)』。相応の機関で開発や実験に没頭する研究者。

もしくは―――――。

176 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:15:06.02 lmYf1d0ho 121/670





「いやあ、科学の街で眺める雪景色も悪くないですね」

「寒い上に視界確保が面倒になるだけの障害じゃない?」

「夢のない事を言うなよ。 ま、後者に関しちゃ同意するがな」

「…………くっだらねェ」




――――――夜、『闇』こそが活動範囲であり領域である、学園都市暗部の人間くらいだろう。

177 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:15:50.09 lmYf1d0ho 122/670


「『グループ』、久々に全員集合ですね」

「というか、これまでは単に"一人"抜けてただけの状態だっただけよ」

「そうだな、久しぶりという言葉はお前に送った方がいいだろう。 ……一方通行」


言われて、一方通行はあからさまに舌打ちをしてみせた。
今は誰にも使われていない第一〇学区の廃墟ビル。せっかくの雪も、
辛気臭いビルのひび割れた窓から見たら台なしだな、と彼は思った。


『グループ』。学園都市暗部の組織である。


学園都市の機密情報漏洩阻止、リーク。公認されていない物資搬入ルートの確保、または破壊。
能力者の暴走抑止、及び始末。要人警護、或いは暗殺。秘密裏に遂行される実験への協力、乃至は破棄。

表舞台の人間には注文できない"裏の仕事"を請け負う闇の住人で構成された組織、暗部。
『グループ』は統括理事会直属の暗部組織の一つだ。構成員は四人という、少数精鋭で構成されている。

178 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:17:05.41 lmYf1d0ho 123/670


「最後に仕事を共にしたのは『ドラゴン』の件以来でしょうか?」


つまらなそうに窓へ視線を投げ続ける一方通行に柔和な声色で尋ねた少年、海原光貴。
線が細い、いかにも優男な雰囲気ではあるが、実は学園都市に潜り込んだ魔術師であり
その老人受けしそうな爽やかな笑顔も術式によって貼り替えた偽の顔だ。


「あの後すぐに戦争が始まっちまったからな。 上層部も街を守るのに
 手一杯で、暗部を動かす余裕が無かったんだろう。 ま、オレとしては
 そのまま風化してくれれば少しは楽が出来たんだが……そう甘くはないか」


土御門元春。明るい金髪に派手なサングラス、そして制服の下に着込んだ
アロハシャツという容姿はこの真冬でも変わりはなかった。
彼は能力者でありながら魔術サイドの組織の魔術師でもあるという稀有な存在だった。
魔術サイドと科学サイド、両方の闇に深く関わっている二重スパイである。

179 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:17:44.45 lmYf1d0ho 124/670


「戦争が終わっても学園都市の腐った部分は何一つ変化が無かったのだけどね。
 私達が三人でクソ以下の雑用を押し付けられている間、貴方は一体どこで何をしていたの
 かしら? 差し支え無ければ上手に仕事をサボれる方法を教えて欲しいのだけど」


軍用懐中電灯を右手で器用に回しながら、わずかに不満を含んだ声で一方通行に
声をかける少女の名は結標淡希。茶色の髪を耳より低い位置で左右に別けて結っており、
冬服のミニスカート、ピンクの布で胸を隠し、その上にブレザーを引っ掛けているこの
少女は学園都市の大能力者(レベル4)『座標移動(ムーブポイント)』を有している。
どっかの赤い魔術師がよくこの能力者と勘違いされているが、それはまた別のお話。


「残念ながら差し支えあるなァ。 戦争なンていう好機を前に上手く立ち回れなかった
 自分のマヌケっぷりを自覚しろよ。 その失態のツケの愚痴を俺にぶつけてンじゃねェ」


そして、一方通行である。海原の言う通り、彼が『グループ』の構成員として
活動したのは一〇月一七日、『グループ』として『ドラゴン』の情報を追った
あの忌々しい日が最後であった。こうして四人全員が揃うのは約二ヶ月ぶりの事だ。

180 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:18:45.84 lmYf1d0ho 125/670


「自分も気になりますね。 自分の場合、あなたがどこで何をしていたのか以上に、
 "なぜ今日この日まであなただけが暗部の構成員として招集されなかったのか"。
 まさか本当に上層部の裏をかいてサボっていたのではないでしょう? でなければ
 あなたがわざわざ今日ここに赴く意味が分かりませんからね」

「うざってェな。 なンだ、今日のお仕事はサボり魔の俺に対する説教とかですか?」

「そんなんじゃない。 海原も結標も、あまり人の事情を詮索するなよ。
 オレ達はただ集められて、上からの指示に従って仕事を片付けるだけの
 道具だ。 お前らだって普段どこで何をしてるか詮索されたくないだろ?」


土御門の言葉に、海原はやはり柔和な笑みで返し、結標はつまらなそうにそっぽを向いた。


「その割には、」


そっぽを向いたまま、しかし尚も結標は一方通行に探りを入れる。

181 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:20:20.74 lmYf1d0ho 126/670


「貴方、『グループ』の隠れ家を利用してるみたいだけど、何故かしら?」

「誰も使ってねェンだから問題はねェはずだろ、俺が勝手に利用しても」

「あのメガネの女が関係しているとか?」


そこで一方通行は初めて結標に視線を向けた。海原は結標の意味深な発言に
首を傾げる。土御門はなぜか、特に気にする素振りを見せない。
結標はうっすらと口元に笑みを浮かべながら更に続けた。


「風斬氷華……って言ったっけ。 貴方とは違って素直で人の良さそうな子だったわね。
 あの子と同居する場所にあの隠れ家を選んだのだとしたら貴方の趣味を疑うのだけど。
 あの時聞けなかった事、今ここで色々と聞いてもいいものなのかしら」

「いちいち人のプライベートを探ろォとする女に趣味がどォこォ言われたくねェな。
 野郎の人間関係を把握しておかなきゃ落ち着けねェ性根の腐ったババァかオマエは」

182 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:21:09.54 lmYf1d0ho 127/670


一方通行の言葉に結標は表情を歪ませる。二人の視線が交差し、その場の空気が
一瞬にして張り詰めたが、土御門と海原は動揺することなくその光景を眺めていた。
こんな殺伐とした雰囲気が、しかし『グループ』にとっては日常茶飯事。

『グループ』として集まった四人に和気藹々とした交流や馴れ合いなど一切存在しない。
以前からそうであるし、今回もまたいつも通りであると一方通行は改めて自覚する。


(……結標じゃねェが、しかし本当に何も変わってねェな。 この街の『闇』は)


そう、改めて、自覚せざるを得ないのだ。三人にとってはそうでなくても、
一方通行にとってはこうして招集されるのは本当に久々の事なのだから。

自然、一方通行の頭には疑問が浮かび上がる。

183 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:22:34.87 lmYf1d0ho 128/670


(だが何故、急に俺にお呼びの声がかかりやがった? あの電話の野郎……、
 まさかあのタイミングを見計らって俺に連絡を入れてきた訳でもねェだろ。
 俺と接触する機会がありゃ連中はこっちの都合なンざ構わず招集するはずだ)


例えば、第三次世界大戦終結直後である。ミーシャ=クロイツェフとの熾烈な戦闘、
そして打ち止めを救出するために己の体を犠牲にして酷使した魔術。

心身ともにボロボロになった当時の一方通行に接触し、学園都市側で回収する事だって
可能なはずなのだ。何なら相変わらず彼の能力使用権限と打ち止め、そしてその時ロシア
に居た番外個体を人質にして再び彼を『闇』に引きずり込めばそれで済んだ話。

だが実際にはそうはならず、一方通行は紆余曲折を経て打ち止めと番外個体を
学園都市に帰す事に成功した。そして遅れて帰国しようとした一方通行を待っていたのは――――。

184 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:23:42.05 lmYf1d0ho 129/670


(……上層部の連中が『天使同盟(アライアンス)』の存在に気付いた、
 もしくはその詳細を全て把握していたとしたらどォだ? 後者なら
 俺以上に手に負えねェ怪物に囲まれた俺においそれと接触出来るモン
 じゃねェ、上は必ず警戒する。 当時はアレイスターも居たしな)


だがそれは考えられない、と一方通行は自らの推測を否定した。
仮に学園都市の上層部が『天使同盟』の存在を発足直後から知っていたとしたら、
当時『天使同盟』の存在を面白く思っていなかった学園都市統括理事長、アレイスターが
あの手この手を駆使して潰しにかかっていたはずだ。

現に『第一九学区事件』で『天使同盟』はアレイスター一人に壊滅させかけられている。
あの時のアレイスターは"魔術師"であったが、"統括理事長"としてのアレイスターでも
『天使同盟』殲滅は可能だったのではないか、と一方通行は新たに仮説を立ててみた。

185 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:24:35.03 lmYf1d0ho 130/670


(アレイスターが上の連中に『天使同盟』殲滅の具体的な指示を送れば
 可能だったはずだ。 その頃の俺も暗部の影には警戒していたしな)


だが結果として、『天使同盟』に暗部の魔の手が襲いかかる事はなかった。
これは当時のアレイスターが『天使同盟』を脅威として見ていなかったからか、
アレイスターが学園都市の暗部や上層部では手に負えないと判断したためか、
理由はいくらでも考えられる。

そのあらゆる仮説の中から、一方通行は最も可能性の高い仮説について熟考してみた。


(抑止……。 『天使同盟』は発足時から既に保護されていた? …………エイワスの野郎に)

186 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:25:33.66 lmYf1d0ho 131/670


エイワスが『天使同盟』に加盟した時点で、エイワスとアレイスターは対立関係にあったという話を
本人が口にしていた事を彼は思い出す。対立、というよりはエイワスによる一方的な離反だろうか。
エイワスが『天使同盟』側に回った以上、然しものアレイスターも簡単に手出しは出来なくなる。
『天使同盟』そのものはもちろん、打ち止め達を脅しの材料として利用するのも難しいだろう。

そして一方通行は知る由もないが、そもそもアレイスターとしては天使の存在を学園都市に
知られると非常に面倒だったという事実もある。上層部に『グループ』を動かすよう指示すれば
必然的に一方通行も活動する事になり、上層部と天使の距離が縮まってしまうのだ。


そしてそこにエイワスという最悪の要素が加われば、一方通行を暗部として活動させる事は
困難どころか事実上不可能となってしまう。もっとも、その状況に陥る事で困るのは一方通行でも
アレイスターでもなく、上層部。学園都市統括理事会だけだろうが。

187 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:26:36.19 lmYf1d0ho 132/670


(エイワスの離反、行動によってアレイスターの目論見が抑止されていた。
 アレイスターが動けないのなら必然的に上の連中も下手に動けねェ。
 ……この仮説が正解だった場合、また新たな仮説が生まれてくるンだが)


まず、一方通行の『エイワスによる抑止説』は概ね当たりであった。

エイワスの行動原理は『興味と価値』である。しかもエイワスが抱く興味と
価値観はその他の生物とは似ている物もあればまるで違う物もあるのだが、
『天使同盟』は後者であった。無論、『天使同盟』の存在を知って興味を持つ
人間もいるだろうが、その人間とエイワスが抱く興味の方向はまるで別物だ。

当時のエイワス、否、現在のエイワスも言ってしまえば、『天使同盟』のためなら何でもやる。
この同盟を守るためならその辺の国の一つや二つは軽く滅ぼすだろうし、この同盟を守るためなら
他人が鼻で笑うような慈善事業にも額に汗をかいて一生懸命取り組むであろう。

188 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:27:44.93 lmYf1d0ho 133/670


その中に、恐らく『一方通行と暗部の繋がりを(期間は扠置いて)断ち切る』というものがあったのだ。
これまでにもそれを示唆するようなエイワスの発言があったような気がすると一方通行は振り返ってみる。
ならば、今から二時間程前の『グループ』の仲介役が口走った『ようやく繋がった』発言も納得出来る。

しかし、


(だったら今日、俺が『グループ』として招集されたのは……)


『抑止説』が的中していた場合に生まれる新たな仮説に、一方通行の胸の鼓動がわずかに早まった。


(エイワスが俺と暗部を再び"繋げた"。 もしくは……エイワスの身に何かがあった)

189 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:29:43.92 lmYf1d0ho 134/670


その二つの可能性について考える前に、一方通行は首の電極チョーカーのスイッチを切り替えた。
学園都市最強の超能力が問題なく発動出来る状態。電極に異常は見受けられない。
即ち、一方通行の能力は現時点では上層部によって奪われている状態ではないという事になる。

だからと言って安心はできない。今この瞬間、突如として能力を奪われるかもしれない。
一方通行の右腕に装着してある、『対能力遠隔操作用遮断ジャミング装置』でもカバーしきれない
未知の電波によってミサカネットワークの援助から乖離される可能性だって考えられる。
この段階ではまだ一方通行はその新種の電波(仮)による遮断攻撃に対抗できる策を持っていない。

そうする事で一方通行を無力化して拉致、或いはこの場で抹殺するために招集されたのかも知れない。
彼以外の『グループ』三人が(まず考えられないが)上層部とグルである可能性も否定は出来ない。
一方通行はわずかに視線を動かして三人の様子を見るが、そんな算段を立てているような様子は確認できなかった。

改めて、一方通行は『抑止説』から派生した仮説について推測してみる。

190 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:30:27.50 lmYf1d0ho 135/670


(前者……、エイワスが俺と暗部を再び繋げた可能性。 あり得ねェ話じゃねェ、
 あの野郎ならほンの気まぐれで上の駒として働く俺の姿を見て愉しもォと考えていても
 不思議ではねェ。 或いは俺が暗部として行動する事でエイワスが得をするよォな……、
 いや、それはない。 あいつは損得で動くよォなタイプじゃねェ。 ……ならば、)


残るは後者、『エイワス自身に何らかのアクシデントが発生した』ケース。
だがこのケースは前者に比べると起こり得ない、あってはならないケースでもあった。


(アクシデント……エイワスが何者かに、上の連中に消されちまった可能性は?
 確かエイワスは学園都市で作られた人形みてェなモンだ。 上があいつの
 システムの『核』を見つけ、破壊したとしたらどォだ? ……だがそれを
 エイワス自身がさせるとも思えねェ。 アレイスターは……動けないはずだ)


その他にも何十通りのケースを思案してみるが、どれもこれも憶測の域を出ない。
圧倒的情報不足であるが故にこれだという確信を得る事が出来ない。

191 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:31:39.69 lmYf1d0ho 136/670


(これまでエイワスが俺と暗部のラインを何らかの方法で遮断していた事は間違いねェ。
 そして今日、電話の野郎が俺と連絡を取れたという事は、どォいう理由か知らねェが
 エイワスからの妨害が無くなったって訳だ。 この事態を俺はどォ捉えればイイ……?)


『グループ』の仲介役に直接聞ければ話は早いが、言うまでもなくその手段は現実的ではない。
素直に吐くとも思えないし、何よりエイワスとアレイスター、『天使同盟』の事情を上層部が
知らなかったとしたら、一方通行はわざわざ自分から情報を提供するハメになってしまう。
少なくとも上層部は一方通行とエイワスに繋がりがある事実を把握しているはずだが、
その繋がりの中心に『天使同盟』がある事まで知られていたら非常に面倒な状況になる。


(仮に招集連絡を俺が無視していたらどォなっていた……? 俺の周りの人間を
 攫ってでも俺を動かそォとしたか? それとも俺がそォ考える事も連中は予測し、
 ………………クソったれが、完全に油断してた。 "片鱗"には触れてたのによォ)

192 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:32:35.74 lmYf1d0ho 137/670


オルソラ=アクィナス、アンジェレネと一緒に参加した風紀委員の体験講習。
その時に発生した誘拐事件で一方通行は学園都市の暗部が未だに暗躍を続けている
ことを誘拐犯の魔術師から聞いている。その情報をもとに、確信こそ得られぬものの、
そろそろ『グループ』も動き出すのではと推測する事も不可能ではなかった。

だが時既に遅し。こうして暗部の招集に応えた以上、今更抜けることは出来ない。
しかしそれについて一方通行は後悔していなかった。仲介役から電話を受けた時に
上層部が自分とその周りについてどこまで把握しているのか調べる必要があったため、
一方通行はあえて今回の招集に応じたのだ。

つまり彼が今考慮しなければならない点は、『学園都市統括理事長代理を務めるエイワスに何があったのか?』である。


「一方通行」

193 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:34:25.77 lmYf1d0ho 138/670


エイワスも学園都市の上層部の件も、どちらも蔑ろにはできない。
自分でも自信の持てる解答を見出さなければ―――そして暗部との『決着』を、


(決着? それは)


『決着』、それは即ち―――




「一方通行!」

「!」




194 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:34:54.00 lmYf1d0ho 139/670


と、そこで一方通行の思考が中断された。原因は名前を叫んできた土御門の声だ。


「どうした、何を呆けてる?」

「…………、なンでもねェよ」

「貴方が今回の仕事でくたばろうが知ったことではないけど、
 私の足を引っ張るような愚行は御免被りたいわね」

「分かってる」

「……意外、貴方でも素直に返答することがあるのね」


思考の渦に翻弄されていた一方通行は、ひとまず大きく息を吐いた。
グチャグチャになって溜まっていたわだかまりのようなものが白い息となって排出される。

195 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:35:33.80 lmYf1d0ho 140/670


(……エイワスの件については後回しだ。 杞憂である可能性の方が高いしな)


だが杞憂ではなかった場合、自分に何が出来るか考えようとしたが、それもやめておいた。
今は暗部として活動している最中である。万が一、あれこれと様々なこと考えて
意識を散らし、それが原因で死んでしまったらエイワスも『天使同盟』もクソもなくなる。

『闇』の誘いに乗ったのは一方通行自身。今は『グループ』の一人としての自覚を持つべきなのだ。


「おや、」


そこで海原が何かに反応した。彼の視線の先にはボロボロになった木製の机と、
その上に無造作に置かれているノートパソコンがある。

パソコンのディスプレイに何かが表示され、ほぼ真っ暗の室内にわずかな明かりが差した。

196 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:36:32.53 lmYf1d0ho 141/670


「どうやら今回の仕事内容について記載された情報が送信されたようですね」

「確認するぞ。 内容によって四人一組で遂行するか二手に別れて行動するか
 決める。 一方通行、結標、電極の状態は入念にチェックしておけよ」

「問題ねェ」

「同じく」


夜の学園都市。

一方通行。土御門元春。海原光貴。結標淡希。

二ヶ月ぶりに集結した『グループ』の暗躍が始まる。

197 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:39:55.08 lmYf1d0ho 142/670


『グループ』主体とか言っておきながら一方通行ばっかり目立つ話でしたね。
そんな感じで、今回の投下はお終いです。

ようやく一方通行もエイワスの異変に感づき始めました、遅いよ。
まあ気付いたところで彼に出来ることは現時点では何もないのですが。
エイワスを今、どうこう出来るのは次回予告に出てくる魔術師だけです。

次回は小話を挟みます。そして今回の『グループ』の話は長編ではないので、
仕事の内容云々とか一切省いてあっさり終わります。出番自体はまだありますけど。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

198 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/05/03 15:41:33.28 lmYf1d0ho 143/670




                          【次回予告】



「そこまで求められると、さすがの私も心が揺れてしまいかねないな」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・破錠の危機にある『ラプラス』の偶像――――――エイワス




「常軌を逸する程度であなたを手にできるなら、私はどこまででも道を踏み外すだろう」
世界最強最悪の大魔術師・学園都市統括理事長――――――アレイスター=クロウリー




「これが『一方通行(アクセラレータ)』か、黒夜のやつ……」
『クラッカー』の構成員・『駆動鎧(パワードスーツ)』のコレクター ――――――シルバークロース=アルファ




214 : VIPに... - 2012/05/05 01:58:47.56 ryCFAaTa0 144/670

乙なの
結標ってもう電極いらないのでは?

215 : VIPに... - 2012/05/05 08:39:28.80 gZXfyv5DO 145/670

あわきんの電極で疑問に思ったんだが、あわきんも一通さんみたいに脳に障害負ったの??

216 : VIPに... - 2012/05/05 16:18:16.68 wL3+WoxSo 146/670

>>215
あわきんはトラウマですよ。なんか能力を使った時に壁か床かに足の皮をめり込ませてしまって、
でめり込ませたのに気づかず歩いて足の裏の皮というか皮膚そのものがベリベリべりってもろに剥がれてそんな感じでトラウマになって自身を転移させるとそのトラウマで吐いたりするようになった。
で、そのトラウマを緩和するために低周波治療器を使って精神を安定させている。これがここで言う電極。
だけど暗部抗争15巻かの時にトラウマは克服したはずなんだけど。間違いだったらすまん

221 : VIPに... - 2012/05/05 16:41:25.20 s3ZVtijTo 147/670

>>216
能力で事故起こしたのは事実だけどそれでできなくなったのは自分自身の転移
これがLv5に至れない原因とされている
精神安定が必要になったのはですのおばさんと戦った直後に一方通行にキズモノにされたせい

218 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:39:08.95 1m3sZOM7o 148/670

>>214
え、あの電極もう使ってないんでしたっけ?マジかよやっちまったどうしよう。
でもまあ戦闘シーン無いし、別にいいか……ほら私、手元に原作ありませんから
そういう細かい事情調べられなくて……(言い訳)。

さて、冒頭から謝罪するハメになった>>1です。ごめんなさい。

上にラノベ何冊分云々の話題があがっておりますが、どうなんでしょうね?
台本形式のところを全部地の文に直して……4、5冊分かなと思ったことがありますが、
そんなに多いのかな。長ったらしいことは間違いありませんけども……。

今回は原作で言う行間といいますか、ちょっとした小話です。
全然出番なかったプリキュアと、ひそかに暗躍する顔面こんがりイケメンのお話。

それでは、よろしくお願いします!

219 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:40:02.84 1m3sZOM7o 149/670



――――――――――――――――――――――


この現状を甘んじて受け入れなければならない己の無力さを
悲観しているのかと思えば、別にそんな事はなく。


「まったく、ヴェントもやってくれる。 冷や汗をかいてしまったよ。
 まさかここで物語の幕が閉じてしまうのではないかとね。
 しかしシステムに頼らずこうして物語を追っていく感覚は新鮮で良いな。
 他の生物と等しい位置から読む先を予想出来ないスリルは刺激になるよ」


最先端すぎる科学技術で宙に表示されたモニターを閉じ、エイワスは満足げに息をついた。
冷や汗をかいたと言うが、その喜怒哀楽が全て混じったような形容し難い表情には微塵の
変化も見受けられない。

220 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:41:01.87 1m3sZOM7o 150/670


第七学区、通称『窓のないビル』。その内部から一方通行とヴェントのやり取りを
『滞空回線(アンダーライン)』を用いて鑑賞していたエイワスは、淡く輝く黄金の髪を
滑らかな動作で撫でながら後ろへ振り向く。


「余裕だな、エイワス」

「『待機』という選択肢以外ない今の私が狼狽する理由もあるまい?
 もはやこのビルから出る事も叶わん、外界との連絡手段も断たれた。
 そんな私に出来る事と言えばただ一つ、やはり『鑑賞』しかないのだよ」

「『観察』の間違いだろう」


振り向いた先に映るのは、巨大なビーカーにも見える生命維持槽。
その中にはたっぷりに満たされた弱アルカリ性培養液と、おびただしい数のモニター。
そして――――、

222 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:41:40.27 1m3sZOM7o 151/670





「さて、経過はどうだろうか? "学園都市統括理事長"、アレイスター=クロウリー」

「まだその肩書きに物を言わせる程の力は私には戻っていない、適当な事を言うなエイワス」




学園都市統括理事長にして最強最悪の大魔術師、アレイスター=クロウリーが
例に漏れず逆さまの体勢で浮かんでいた。

アレイスターは『第一九学区事件』でエイワスと衝突した後、敗北。
学園都市の全てのシステムを操作できるこのビルをエイワスに掌握され、
また戦闘で精根尽き果てた彼は統括理事長としての義務も果たせなくなり、
エイワスを統括理事長代理としての立場に就かせる事で街の維持を続けていたのだが、

223 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:42:46.77 1m3sZOM7o 152/670


「さっきも言っただろう? 私という存在の根幹である『ラプラス』が消失したと
 判明した今、私に価値は無くなった。 AIM拡散力場の残りカスも同義の私に
 統括理事長を務める力など無いが、しかし君の肉体修復が予定されていた時期より
 大幅に早く終了するという僥倖が重なった。 代理などという役目は意味を成さんよ」

「……統括理事長の役職についてはひとまず置いておくにしても、
 問題はやはり『ラプラス』だな。 『ラプラス』に異常が発生
 したどころか消失していたという事実と、その原因が判明した
 点については安堵するに足るが、しかしその原因が…………」


アレイスターは隠す事もせず思い切りため息をついた。無数に浮かぶモニターの
操作に疲れたというよりは、心の底から呆れ果てたという調子のため息であった。

224 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:43:57.01 1m3sZOM7o 153/670


『ラプラス』。学園都市が有する、『ドラゴン』が霞んでしまうレベルの超最重要機密事項。
アレイスターとエイワスのみがそのシステムの存在を知る、究極のブラックボックス。


あたかも未来を通ししてきたかのような発言、相手の心を読んだかのような物言い、
能力者や魔術師はおろか大天使でさえ子供扱いする最強にして最凶の戦闘能力、
無から有を生み出す神の如き所業、次元と次元を渡り歩き、どこにでも顕現できる移動能力。

全世界の原子の位置と運動量、演繹、概念、法則、因果律を全て掌握しているとされる『ラプラス』。
その『ラプラス』をシステムとして開発し、AIM拡散力場に組み込み現出したのがエイワス。
『ラプラス』というシステムがあるからこそ、上記のような自由奔放というレベルではない振る舞いが
出来ていたのだが、今のエイワスにはもうそのような力は僅かも残っていなかった。

一方通行が推測した『エイワス自身に何らかのアクシデントが発生』は見事に的中してしまっていた。
『ラプラス』は消失。肉体の修復が予測より早く進行し、ビル内での活動範囲が広がったアレイスターは
原因究明のため今自分が出来る範囲で行動を起こし、『ラプラス』消失の原因を見つける事が出来たのだが……。

225 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:44:57.78 1m3sZOM7o 154/670


「まさか『第一九学区事件』で既に『ラプラス』の消失が始まっていたとはな……」

「困ったものだな」

「あなたの不注意が原因だったのだろうが!! やはり"私が作ったエイワス"に
 聖守護天使(アウゴエイデス)級の"エイワス"を堕ろすのは無茶が過ぎたんだ!」


思わず怒鳴る、というかツッコミに近い感覚で声を張り上げてしまうアレイスター。
自身にすら価値を見出していないのんきなエイワスを前にすれば、然しもの彼も
平常心を失ってしまうのだろう。


『ラプラス』が消失した原因は、なんとその『ラプラス』を核に構成されているエイワス自身が破壊してしまっていたのだ。

226 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:45:54.28 1m3sZOM7o 155/670


『第一九学区事件』、エイワスとアレイスターはたった二人で神話の一ページに追加できそうな
スケールの違いすぎる戦闘を繰り広げていた。エイワスの恐るべき戦闘能力に追い詰められたアレイスターは
『ホルス』の法則をその身に宿し、圧倒的な力を以って反撃に移る。

逆に追い詰められてしまったエイワスは最終手段に打って出た。アレイスターが学園都市で作ったエイワスの"モデル"、
かつてアレイスターがエジプトのカイロで授かった『法の書』の知識を伝えた聖守護天使、即ち"本物のエイワス"を
AIM拡散力場で構成された『器』に降霊させ、顕現したのだ。

ホルスの一面である神の召使が降臨してしまっては、所詮人間であるアレイスターに勝ち目はない。
カイロで己に必要な知識を授けてくれた聖守護天使との再会に歓喜しながら、彼は敗北を喫した。


……が、エイワスが実行した別位相からの降霊儀式は筆舌に尽くし難い、狂気の沙汰と言って遜色ない暴挙であった。

いくら『ラプラス』が核と言っても、学園都市製エイワスは能力者が生み出す微弱なAIM拡散力場をベースに構成された
存在であって、そんな人の生み出した人形が次元の違う神のような存在を受け止められる器量を持っているはずがない。
結果として聖守護天使エイワスはアレイスターを瞬殺したためほんの僅かの間しか人形に降霊していなかったのだが、
その在るか無いかの降霊時間が災いし、『ラプラス』は水に溶ける砂糖のように静かに消失してしまったのだった。

227 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:47:07.57 1m3sZOM7o 156/670


「めでたしめでたし」

「何がめでたいものか! あなたと学園都市、仮に一から作り直したらあなたの方が時間がかかるのだぞ」

「うむ、私はその『ラプラス』の修復作業の経過を尋ねているのだよ、アレイスター」

「…………。 ……、芳しくないな。 魔術を否定して生み出した『負』の結晶。
 その『ラプラス』を今ここでもう一度復元するという作業は、とにかく"果てしない"。
 砂漠に広がる砂粒を全て数え終える程度の時間がかかっても不思議ではないな」

「結構」


『ラプラス』の復元。それはエイワスの完全復活も同義だ。
『天使同盟』に加盟したエイワスはアレイスターの制御下から離れ、好き放題に振る舞ってきた。
挙句の果てにはそのアレイスターを自ら撃破するというエゴイスティックぶり。正直に言って、
アレイスターが掲げる『プラン』に必要不可欠な存在という点を考慮してもエイワスを復活させて
得られるメリットが、デメリットに比べてあまりにも少なすぎる。

228 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:48:41.37 1m3sZOM7o 157/670


ハイリスクローリターン。下手すればハイリスクノーリターンである。
骨折り損のくたびれ儲け。骨どころか、復活した瞬間エイワスがアレイスターを
粉々にしてしまう可能性だってある。アレイスターが消えた学園都市の今後、
魔術サイドの動き、それらにエイワスが興味を持ってもおかしくはない。

だがそれでも、


「果てが見えなくとも、私は必ずあなたを復元してみせる」

「『プラン』のためか?」

「……………………"それもある"」

「ふふ、やはり酔狂だな君は。 主目的を見誤るなよ?
 『プラン』がついでになっては元も子もあるまい?」


例え見返りがなくとも、"エイワスが自分を選んでくれる事はない"としても、
アレイスター=クロウリーという魔術師は『プラン』のためにエイワスを復元させ、
アレイスター=クロウリーという人間は湧き上がる感情に従ってエイワスを求める。

229 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:51:16.39 1m3sZOM7o 158/670


狂愛。例えるなら、好きな人間のフィギュアを作ってそれを愛でる行為に近い。
アレイスターはそういう事をやっている。完全に常軌を逸脱してしまっている。
しかし何もかもを捨てたアレイスターには、それしか選択肢は残されていないのだ。


「そこまで求められると、さすがの私も心が揺れてしまいかねないな」

「常軌を逸する程度であなたを手にできるなら、私はどこまででも道を踏み外すだろう」

「では、私は引き続き観察を」

「言っておくがエイワス。 まもなくこのビルの全機能をあなたの修復に回す。
 この生命維持装置以外の機能をシャットダウンするぞ。 『滞空回線』もな」

「えっ」


常識には当てはまらない二人の会話から生まれた空気は、形容し難い不思議なものだった。
それ以降二人は言葉を交わさず、エイワスは『観察』に、アレイスターは『復元』に没頭する。
ビル内を満たすその沈黙は、少なくともアレイスターにとっては心地の良いものであった。


だから、気付かない。そう遠くない未来に訪れる『危機』に。


『ラプラス』を失ったエイワスは、未来で起きる現象を予知する事が出来ない。
その危険性が二人の身を、学園都市そのものを滅ぼす脅威を秘めていると。

230 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:52:37.25 1m3sZOM7o 159/670



――――――――――――――――――――――


「これが『一方通行(アクセラレータ)』か、黒夜のやつ……」


人間という生き物の中にはいわゆる、『自分を見失う』という現象が発生する例がある。


例えばそれは怒りである。ほんのはずみで、大したことのない理由で、視界が真っ赤に染まり、
周囲の人間からしても温厚、温和で通っているその人間が突然憤怒に身を任せ、暴挙を働く。
理由なんて無くたって人は狂ったような怒りに支配されることだってある。そして破壊の限りを
尽くしたその人間は『我を見失っていた』、と正気に戻って口にする。

231 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:53:11.10 1m3sZOM7o 160/670


例えば、それは行き過ぎた『改造』である。顕著な例を挙げれば整形だろうか。
顔は人間の個性を、おそらくは最も主張している部位だろう。人間の中には
『美』を追求して止まない個体も存在するが、整形手術は美を手にする方法の一つだ。
しかし度が過ぎると、元の顔が思い出せなくなる程にその個性は失われてしまう。
例としてはやや薄いものの、これも少なくないパターンの一つであると言える。


学園都市暗部『クラッカー』の構成員、シルバークロース=アルファはどちらかと言えば後者に
あてはまる人間といえよう。彼は過去に、制裁として顔を焼かれた経験がある。顔を焼く、つまりは
自分の強い個性を焼き払われたも同然の酷な裁きを、彼は過去に経験している。それから暗部として
活動していく内に学園都市の技術で修復された顔は焼かれる前のそれと全く同じものであったが、
過去の経験が己を醜悪という心情が歪めているのだと気付き、自分という個性を捨てた。

232 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:54:14.07 1m3sZOM7o 161/670


『どちらかと言えば』、と記述したのは彼が自己を見失ったのではなく、捨てたからだ。
似たようなものだが、しかし『喪失』と『破棄』は突き詰めるまでもなく意味合いが違う。
捨てて、だが自分の存在を保つ上でやはり個性を完全に破棄することは出来ない。
だから彼は『駆動鎧(パワードスーツ)』に拘った。あらゆる種類の駆動鎧で自分を着飾り、振る舞う。
別に駆動鎧でなくともいいのだが、暗部として活動するに学園都市の汎用兵器は何かと都合が良かった。
暗部はどこから捻出しているのか、金もある。自分が要求したスペック通りの駆動鎧を生産するばかりか、
必要以上に量産してくれる。シルバークロースにとって暗部は都合のいい最適な環境だった。


「しかし脳を演算コアに代用するシステムは……さすがにキツいものがあるな」


独り言とともに、シルバークロースの口から赤黒い血が吐き出される。
長髪を毟るように頭部を掴み、低い呻き声を出しながら壁に背を預けて落ちるように座り込む。
呼吸をしようとするが、その度に口から溢れる血反吐がそれを妨げてしまう。

233 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:55:55.63 1m3sZOM7o 162/670


「げ、ぁ…………。 ううぅ、ぐぷ……、………………はぁ、あぁ……」


数分ほど酸素を取り入れる作業と格闘し、ようやく息が整ったところで、
シルバークロースが履くズボンのポケットから小さな電子音が鳴った。
彼の携帯端末に、『クラッカー』の下部組織から連絡通知のメールが届いていた。
シルバークロースはメールの中身を確認し、つまらなそうに舌打ちをする。


「ふん、分かってはいたが……『超電磁砲(レールガン)』仕様のファイブオーバーの
 一部は『グループ』が回収していたか。 あの組織には第一位がいるはずだが、一体
 どの場面で使うつもりなんだ。 しかもスペックダウンを施されているというのに」

234 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:56:55.35 1m3sZOM7o 163/670


彼の『コレクション』の一つである駆動鎧、『FIVE_Over.Modelcase_”RAILGUN”』。
学園都市第三位の超能力者の規格を超えるために作られたこの駆動鎧は、『第一九学区事件』で
学園都市統括理事長に無断で全機出撃させられ、その五〇〇に及ぶファイブオーバー全てが
第二位の垣根帝督に破壊されてしまっていた。そのほとんどが回収不可能なまでに破壊されており、
どうにか稼働できる状態のファイブオーバーもあらゆる機関によって回収された。つまり本来の持ち主
であるシルバークロースの手元には一機も戻って来なかったという事である。


「ファイブオーバー……結局はレベル5の真似事の範疇から抜け出すことは出来なかった失敗作。
 模範レベルや稼働時間など考慮したところで、その気になれば無能力者でも破壊する事が出来る
 程度の代物。 やはり重要なのは元になったモデルなんだ、第三位では話にもならない」


未だに激痛が走る頭に手を添えながら、シルバークロースはゆっくりと立ち上がった。
一般人はまず知らない、学園都市のとある地下施設。シルバークロースがコレクションを
保管する地下空間だ。その地下に、シルバークロースの独り言だけが虚しく、しかし不気味に
こだまする。

235 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 16:57:49.90 1m3sZOM7o 164/670


「第三位程度では、天使には立ち向かえない。 ……ヒーローショーの見学も悪くなかったな」


彼の血で濡れた携帯端末が着信を告げる。相手は同じ『クラッカー』の構成員である黒夜海鳥だった。


『おや、生きていたかシルバークロース』

「際どかったがな、ファイブオーバーを一度体験した過去が功を奏した。 ……それで、用件は何だ?」

『「グループ」がどうやら活動を始めた。 私は予定通りサンプルの一部を回収する。
 言うまでもないだろうが、お前はそこで待機だ。 「グループ」には接触するなよ』

「本当に言うまでもないな。 こんな状態で相対してもタカが知れている」


通話が切れた。シルバークロースは口元の血を拭う。その口には笑みがこぼれていた。


「もうすぐ暗部は、いや、学園都市そのものが変わる。 そのためなら、私は"何にでもなってやるさ"」

236 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 17:02:00.04 1m3sZOM7o 165/670


今回はここまでです。

少し投下量が少ないですが、なのでその分早めに投下しました。
物足りないと感じた方には申し訳ないとしか言えませんが……。

エイワスとアレイスターは相変わらずです。『滞空回線』も使えなくなった今、
ますます暇になるエイワスはきっと更にアレイスターをいじって遊ぶのでしょう。

シルバークロース=アルファって誰だよって読者もいらっしゃるようで、
今回の話はなら丁度よかったかもしれません。しかし原作の彼とは少しだけ
設定が変わって(いるような気がし)ます。根本的な部分は同じですけど。

次回は一仕事終えた『グループ』のお話です。改めて『グループ』の面々の事情を
確認し、もう暗部はアレするしかないなと思う一方通行の話をお送りします。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

237 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/05/05 17:02:48.31 1m3sZOM7o 166/670




                          【次回予告】



「貴方が風斬とかいう女とイチャついてた時だったかしら」
『グループ』の構成員――――――結標淡希




「イイから黙って答えろクソ女。 どォなンだよ」
『グループ』の構成員―――――― 一方通行(アクセラレータ)




「……どうやら本当に、自分の事情を把握しているようですね」
『グループ』の構成員――――――海原光貴




「俺達『グループ』は"そういう集まり"だろ? その事でいがみ合うのはよせよ」
『グループ』の構成員――――――土御門元春




249 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:37:31.13 uNwkOEdZo 167/670


こんばんわ、久々のゴールデンタイム更新です。
いつも支援してくださっていただき本当にありがとうございます。

さて今回は『グループ』です。仕事を終え、しかしなお暗部に関する
疑問が払拭できない一方通行。クソみたいな仕事でたまったストレスを
ぶつけるように、彼は上層部に食ってかかります。

それでは、よろしくお願いします!

250 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:38:12.15 uNwkOEdZo 168/670



――――――――――――――――――――――


以前の一方通行なら八つ当たりで学区の一つ二つは破壊していたかもしれない。


『お疲れ様でした。 今回はこちら側、相手側共に犠牲者が発生しませんでしたので、
 薬莢と血痕の処理のみを我々の方で行わさせていただきます。 あなた方が回収した
 学園都市研究機関の実験サンプルとデータは後ほど、いつもの方法で送ってください』

「了解だ。 そっちで後始末を請け負うなら、オレ達はもう解散して構わないな?」

『結構です。 いつも通り収集車をそちらへ向かわせます。 では、寒いので風邪には気をつけて』

「待てよ」

251 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:38:55.70 uNwkOEdZo 169/670


通信の終了を遮ったのは一方通行であった。ノートパソコンのスピーカーから
『何か?』、と例の電話の男が返してくる。


『グループ』が出向いた今回の仕事は、否、今回の仕事も、実にくだらない内容だった。
学園都市で研究を進めている特殊な植物の育成実験データ。そのサンプルとデータを
『外』へ流そうと企む研究員の捕縛、及びサンプルとデータの回収。

そんな案件は普段なら警備員辺りが担当するものであるが、『グループ』が出向くと
いう事はその実験やら植物のサンプルやらは所謂、あまり表沙汰には出来ない裏がある
内容、代物なのだろう。


今回は長い間ご無沙汰していた一方通行をも招集しての活動。何か大きな陰謀が
チラつく重大な仕事なのかと思いきや、結果を見ると結局いつもの暗部っぷり。
やる気も起きようがないこの仕事だが、時間だけはやけにかかってしまい、
気づけば早朝の五時を過ぎていた。一方通行だけではなく、残りの三人も
うんざりといった調子で珍しくあからさまに肩を落としている。

252 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:40:11.20 uNwkOEdZo 170/670


以前の一方通行なら八つ当たりで学区の一つ二つは破壊していたかもしれないが、


「お咎めは無しってか」

『と、言いますと?』


一方通行が抱いたのは『不自然さ』であった。第三次世界大戦から約二ヶ月、
未だ学園都市の『闇』から抜け出せないでいたはずの一方通行は『天使同盟』という
"隠れ蓑"に身を潜め、――恐らくだが――エイワスの妨害によってまんまと暗部から
身を離していた一方通行に、しかし『上』はその点について一切言及してこない。

この二ヶ月、一方通行がどう『闇』を切り離し、どう過ごしてきたのか。
学園都市第一位という便利極まりない"道具"を簡単には手放したくないだろう
『上』が詮索してこない事に、一方通行は違和感を覚えていた。

253 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:40:51.84 uNwkOEdZo 171/670


「……」

『何か気になる点があるのでしたら承りますが? 一方通行』


一方通行は慎重になるよう自分の頭に言い聞かせる。
もしこのノートパソコンの先にいる『グループ』の仲介役が全てを知っているのなら、
一方通行が『天使同盟』を立ち上げ、世界各地で色々な行動をしてきた事を知っているのなら、
それを踏まえた上であらゆる疑問点をぶちまけてみればいい。

しかし、

もし『上』がまるで何も知らぬマヌケだったとしたら?
この二ヶ月、ミーシャ=クロイツェフとかいう大天使、人外と
あれだけ街をムチャクチャに引っ掻き回したにも関わらず、
未だに『上』が『天使同盟』と一方通行の繋がりに気付いていないボンクラだとしたら?
何も知らない上で、ようやくコンタクトを取れた一方通行を今日の仕事に招集したに過ぎなかったら?

254 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:41:56.62 uNwkOEdZo 172/670


その場合、真のマヌケは一方通行になりかねない。『上』が必死こいて一方通行の秘密を
探ろうと奮闘する中で、わざわざ自分から相手が欲する情報を提供する事になるからだ。


果たして掌の上なのか。それとも無知か。


一方通行は――――、


「今まで暗部としての活動を無視してきた俺を、今日、急に呼びつけたのは何故だ?」


"カマ"をかけてみた。上層部の現状を罠で引き出す、姑息で下手な手段。
しかしそれが逆に、一方通行が本当に訳もわからぬまま仕事に呼び出された
バカな野朗だと演出させる。

255 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:43:00.13 uNwkOEdZo 173/670


『電話の男』は数秒間を空けて、


『参りましたね。 それは逆にこちらが尋ねたかった内容なのですが』


何でもないように、さも当たり前のようにそう返事をした。


この返事が"本当"なのか"カマかけ"なのか、一方通行は疑う事が出来る。


「どォいう意味だ? 俺ァてっきりお払い箱かと思って安心しきってたンだが、
 急に招集をかけられて呆気に取られちまったンだぞ。 俺みてェな危険分子が
 いなくとも仕事が回るよォになったのかと考えてたンだが……違うってのか」


相手の口から核心が漏れるのを待つ。

256 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:43:43.47 uNwkOEdZo 174/670


『とんでもない。 我々としては常に、あなたを必要としているのですよ。
 「グループ」は四人の内誰が欠けても成り立ちません。 一人でも欠ければ
 我々はあっという間に破錠してしまいます。 確かに我々は上からあなた方に
 指示を出している立場ですが、それはつまりあなた方なくしては我々も立場を
 保てないのです。 その辺りはあなたも既に理解しているものだと思ってましたが』

「その反吐が出そォなおべンちゃらは誰に習った? 俺がいねェ間に口が上手くなったなァ」


『グループ』の仲介役はくつくつと苛立ちを誘うような笑い声を漏らし、続ける。


『それで、あなたの質問に対する返答ですが……率直に申し上げますと
 我々でも原因が掴めていません。 かの第三次世界大戦終結直後に
 我々はあなたを回収するためにロシアへ赴いたのですが、あなたを
 発見するには至らず、それから数日後に「グループ」への仕事が生まれた
 ため一先ずあなたに連絡を入れたのですが……、何故か繋がらないのですよ』

257 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:45:13.35 uNwkOEdZo 175/670


「連絡を受けた気配すら今日まで感じなかったけどな。 そこまで俺が
 必要なら能力の使用権限をそっちで奪って俺を拉致りゃイイだろォが」

『それが可能でしたらとっくに実行しておりますが』

「……つまり、オマエらは今日まで一切、如何なる手段を以ってしても
 俺に干渉出来なかったっつー訳か。 どォしてそンな事になるンだよ」

『その原因が判明していれば苦労はしません。 下部組織の連中を派遣して
 街にいるであろうあなたを監視させる手も考えたのですが……、それに
 気付いたあなたが機嫌を損ねても面倒でしたので、そこは控えました』

「ずいぶンと言ってくれるじゃねェか。 何なら今ここでキレてやろォか?」

『遠慮をする必要がありませんから。 ですが、気に障ったのでしたら詫びましょう』

「チッ」

258 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:46:26.62 uNwkOEdZo 176/670


一方通行は忌々しげに舌打ちするが、当然相手の言葉に本気で憤っている訳ではない。
相手の言葉から状況をどう読み解いているかを悟られないための演技である。


『質問は以上ですか? でしたら今日はここで解散です。 しかし、一方通行。
 あなたとこうしてようやくコンタクトを取れた事に我々は大変歓喜しています。
 今後も「グループ」として活動し、我々に貢献してくれる事を願っていますよ』

「言ってろ」


そこで通信は途切れた。ノートパソコンの電源が静かに落ち、『グループ』の
四人が佇む廃墟ビルの一室が暗闇に支配される。


「さっきのやり取り、なに?」

259 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:47:24.01 uNwkOEdZo 177/670


一方通行に質問してきたのは軍用の懐中電灯を退屈そうに弄っていた結標淡希だ。


「『上』の連中が貴方と連絡を取れなかったって、どういう意味かしら?
 貴方、暗部からの招集を回避出来る策でも見つけたの?」

「仮にそォだとして、オマエは俺から教えを乞うのかよ?」

「冗談でしょ? 私は私で連中の裏をかけるような方法を模索するわよ」


そしていつものように睨み合う二人。だが結標はともかく、一方通行は
彼女の事など完全に見ていなかった。


先ほどの、仲介役とのやり取り。そこから一方通行が導き出した結論は、

260 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:48:17.67 uNwkOEdZo 178/670


(…………シロだな。 断言は出来ねェが、連中は十中八九"俺の事情"を把握していねェ)


上層部は何故一方通行と急に連絡が取れなくなったのか、本当に原因が掴めていない。
一方通行はそう判断するが、しかしそれでもハッキリと断言出来ない状況に苛立つ。
まだ分からない。学園都市の事だ、いくら彼が最強の超能力者だからといって、
そんな怪物を無力化し、無理やりにでも『闇』に引きずり込む手段はいくらでもあったはず。

その手段をあえて使わず一方通行を出し抜こうとしているケースも考えられたが、
一方通行は否定した。何故なら一方通行と暗部の繋がりを断ち切った原因に、
これまた断言出来ないがエイワス――もしくはアレイスターも――関わっているからだ。

いくら学園都市の上層部でも、学園都市最奥部の『闇』である『ドラゴン』の
裏をかく事などできない……はず、と。

考えられるケースはいくつもある。しかしそのどれもが一〇〇パーセントではない。
エイワス関連と上層部の情報が不足しているが故に生じる疑惑、迷い、新たな懸念事項。

261 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:49:20.41 uNwkOEdZo 179/670


「……あァ、そォいや結標」

「何よ」


さっきまでいがみ合っていた結標に、一方通行はできるだけ自然さを装ってこう尋ねた。


「以前、統括理事長とその代理の案件を気にしてやがったが、アレから
 『案内人』としての仕事が回ってきた事はあったか?」

「貴方が風斬とかいう女とイチャついてた時だったかしら」

「イイから黙って答えろクソ女。 どォなンだよ」

「……無いわよ。 言ってなかったかしら、あのビル、座標の指定が出来なくなってるって」

262 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:50:00.96 uNwkOEdZo 180/670


「……、その現象、今でも起こってンのか?」

「?」


予想外の質問だったのか、結標は怪訝に眉をひそめた。
だが一方通行の紅い瞳から窺える真剣味に何かを感じ取ったのか、
結標は茶化したりはぐらかしたりする事なく正直に答える。


「……あれからたまに『座標移動』を試みてみたけど、てんでダメだわ。
 まるで"そこに座標が存在しない"というあり得ない事態が起こってる
 のかと錯覚してしまうくらい、あのビルの座標が"見当たらない"のよ」


やれやれと言わんばかりに彼女は肩をすくめた。

263 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:51:18.23 uNwkOEdZo 181/670


一方通行は続けて尋ねる。


「……俺から聞いておいてこォいうのもアレだが、何故
 その後も『窓のないビル』への座標移動を試みたンだ?」


その言葉に結標は意外そうな表情を浮かべた。彼らの会話を
何の気無しに聞いていた海原光貴も似たような顔をしていたが、
土御門だけは腕を組んで壁に背を預けたまま何の反応も示さない。


「一応聞いておくけどこの会話、多分あのビルにも垂れ流しになってるわよ?」

「聞かれても問題ねェからさっさと答えろ」


結標は音もなく振り続ける雪が覗ける窓から例のビルがある方へ一瞬視線を配り、口を開く。

264 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:54:08.11 uNwkOEdZo 182/670


「第三次世界大戦後、世界中が戦争についてあれこれ報道したために
 世間が慌ただしくなった……というのはさすがの貴方も知ってるわよね?」

「それがどォした」

「それは学園都市の暗部も例外ではなかった。 あの戦争の後、貴方だけじゃなく
 私達も、他の暗部組織にもしばらく仕事が回ってこなかったのよ。 これは憶測
 だけど、あの戦争に学園都市の上層部も何らかの形で関わっていて、そのいざこざ
 が原因で上手く事が回らなかったんでしょうね。 けどそれ以上に、統括理事長
 アレイスター=クロウリーの失踪が連中にとっての大打撃になっているのでしょうけど」


そういう結標だが、実はその憶測には若干の間違いがある。
第三次世界大戦後に学園都市上層部が兵器の回収や情報規制に追われて
暗部組織にまともな指示が出せなかったのは事実。アレイスターの『失踪』により
統括理事会も学園都市維持に全力を注ぎ込まなければならなかったため、
暗部とはいえあくまで能力者、学生である彼らに干渉する暇が無かったのも事実。

しかし結標は知らない。アレイスターは厳密には失踪したのではなく『衰弱』しており、
その原因たる怪物、エイワスがまんまと統括理事長の座に就いている事を。
だが結局、今度はエイワスが『衰弱』に陥り、アレイスターが学園都市のシステムをフルに
回転させて修復に臨んでいることを。結標が危惧した『滞空回線』も、今は機能していない。

265 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:54:56.09 uNwkOEdZo 183/670


結標も当然、別の誰かが統括理事長に就任している『噂』を耳にしており、
以前に一方通行へその話を持ちかけている。が、彼女はその噂を信じていなかった。
情勢管理に付随する混乱をごまかすために上層部が捏造したダミー情報だと考えていた。


「あのビルは無論、ただそこにあるだけのビルじゃない。 『案内人』である私は
 そこを理解してるわ。 私が求めたのは情報よ、第三次世界大戦や『第一九学区事件』、
 一端覧祭で起きた不可思議な現象、それらの情報をあのビルから片鱗でもいいから
 掴めないかと度々『座標移動』を試みていた……ってだけの話」

「……」

「それと、『天使同盟(アライアンス)』についての情報もね」


それを聞いた時、自分は上手く動揺を隠せていただろうかと一方通行は思った。
結標の口から『天使同盟』の名が出た事には別段驚きはしない。このご時勢、
世界中の人間一〇〇人に聞いたら九〇人は『知っている』と答える程の知名度。
それが今の『天使同盟』だからだ。

266 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:56:02.67 uNwkOEdZo 184/670


だがそれでも『結標淡希は「天使同盟」についても探りを入れている』という
事実を知れば一方通行の心も少しは波立つ。それを察知されれば自分が『天使同盟』の
一人だと発覚しかねない。もはや今更そんな事を気にしても仕方がないくらいには
このトンデモ組織の正体は知られているが、それでも自分から明かすことは避けたかった。


(初春と佐天を誘拐したクソ共に『天使同盟』を名乗ったのは失態だったか……)


何の効果も無いかもしれないが、一方通行は話題を少しでも『天使同盟』から
遠ざけるため適当に話を切り替えた。


「そォは言うが、本命はそのどれでもねェンだろ」

「?」

「第一〇学区の少年院。 そこに今もぶち込まれてるオマエの連れを
 どォにかして解放してやれねェか。 その手掛かりを得よォってンだろ」

267 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:57:34.41 uNwkOEdZo 185/670


結標の表情が忌々しげに歪む。その顔には苛立ちと、自分の事情をある程度
知られているとはいえこうもあっさり自分の考えを看破された不甲斐なさに
対するストレスが程よくブレンドされていた。


「大戦後のゴタゴタの時が最大のチャンスだったろォなァ。
 そこで上手く事を運べなかった時点でオマエは無力だよ」

「悪いけど今の私、貴方の安い挑発を受け流せる程の余裕は無いわよ?」

「俺と同じだ」

「え……?」


軍用の懐中電灯を力強く握り締める結標だったが、最後の一方通行の
呟きを耳にして眉をひそめた。気のせいか一瞬、彼の表情に後悔の念が
浮かんでいたように見えたのは結標の考えすぎなのだろうか。

268 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 19:58:29.58 uNwkOEdZo 186/670


「ま、結標だけじゃなく一方通行にも、海原にも、俺にも、連中の盾として
 利用されてる大事な何かがあるって事だ。 そんな事は全員承知のはずだし、
 俺達『グループ』は"そういう集まり"だろ? その事でいがみ合うのはよせよ」


とりあえずといった形で土御門が話をまとめたが、しかし一方通行はそこで引っ掛かった。


(そォいう集まり……か。 こいつらを『闇』に縛り付けてる鎖は、やはり『人質』……)


一方通行はしばし考え込み、やがて自然に口からこぼれたように言う。


「オマエにも、そォいうモンがあるのか」

「おや、自分ですか? まさかあなたが自分にそんな事を尋ねるとは思いませんでしたが」

269 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 20:00:17.65 uNwkOEdZo 187/670


相手は海原光貴であった。彼はその柔和な笑みを一切崩すことなく、やや困ったように返す。


「そうですね、自分ももちろん例に漏れず抱えています。 元を辿れば
 自分が蒔いた災いの種ですが、ならばそれは自分が責任をもって摘み
 取らなければならないと考えています。 皆さんと同じ、何も変わりませんよ」

「……ショチトル、とか言ったか」

「? あぁ、そういえば皆さんは以前にショチトルが入院している病院へ
 来た事があったのでしたね。 いえ、その前に『ブロック』の件で接触
 しているのでしたか。 いやぁ、何故あなたが彼女の名を知っている
 のかと一瞬背筋が凍りましたよ、なにせ―――――」

「『暦石』、とかいう『原典』をあの女からオマエが引き継いだ過程で
 入院したンだったな。 『翼ある者の帰還』の内部で一悶着あったンだろ?
 潮岸と抗争した時も『原典』絡みで衝突したらしいじゃねェか、"エツァリ"」

「――――――……………………いや今度こそ、背筋が凍りましたよ」

270 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 20:01:26.27 uNwkOEdZo 188/670


海原の顔から笑みが消えた。二人の会話に結標は何の話をしてるのかとキョトンとした
表情を浮かべ、土御門は何故かニヤニヤと面白そうに口角を歪めている。


「自分、そこまであなたにお話しましたっけ? それともカマをかけられたのでしょうか?」

「イイや、カマかけじゃねェよ。 オマエにゃ悪いが知っちまっただけだ。
 信用してもらおうなンざ思ってねェが、この情報をネタにオマエを搖すろォ
 とか目論ンじゃいねェから安心しろ。 ……だが、大丈夫なのかよ?」

「…………何がです」

「『原典』ってモンがどンだけ危険な代物か、"あっち側"のオマエはよく理解してンじゃねェのか」

「ちょっと、何の話をしてんのよ」

271 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 20:03:09.10 uNwkOEdZo 189/670


なんか蚊帳の外な雰囲気を悟った結標が事情説明を要求するが、二人は無視した。


「自分を心配してくれているんですか?」

「俺がオマエの身の心配をするよォな人間に見えンのか?」

「返す言葉もありませんよ。 ……どうやら本当に、自分の事情を把握しているようですね。
 いや参りました。 『原典』の汚染に関しての返答ですが、今のところ問題はありません。
 ……しかし本当に、あなたは今日これまで一体どこで何をしていたのやら、気になります」

「ただの事故に過ぎねェよ、俺はオマエの身の周りの環境なンざ興味ねェからな。
 オマエが属する組織も女の件も、これ以上踏み込む気はさらさらねェよ」

「そうである事を願っています」

(……こォでも言っておかねェと、うるせェだろォからな)

272 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 20:03:45.82 uNwkOEdZo 190/670


海原は額の汗を拭い、彼にしては珍しく盛大にため息をついた。
個人的に外部の人間にはあまり知られたくなかった事情なのだろう、
一方通行が『翼ある者の帰還』に本気で興味が無い事を察して安心したらしい。




「さて、ずいぶんと長い間話し込んじまったみたいだが」




言いながら土御門が壁から背を離すと、残りの三人も別の意味で疲れたような
雰囲気を醸しながら各々解散の準備を始めた。

273 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 20:04:16.69 uNwkOEdZo 191/670


「今日はこれまでだ。 まだ話し足りないようなら、また次に招集された時に
 思う存分話せばいい。 たださっきも言ったが、あまり互いの事情に深く
 関わったりするなよ。 その分、自分が背負う負担が大きくなるだけだからな」

「誰に向かって説教垂れてンだオマエは」

「ん? 別に説教をしたつもりはないんだがな。 じゃあ、お疲れさん」


解散宣言と同時に、まず結標の姿が虚空に消えた。彼女の十八番『座標移動』である。
自分の肉体の転移は困難であるはずだった彼女だが、どうやらその弱点も順調に克服しているらしい。
そして海原もいつもの優男な笑顔を見せつけて廃墟ビルから立ち去っていく。

274 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 20:04:43.73 uNwkOEdZo 192/670


「……、」


一方通行も面倒くさそうな調子で杖をつき、その場を後にしようとしたのだが、


「一方通行」

「あン?」

「……少し、いいか?」


そう言って彼を呼び止めた土御門の、そのサングラスの奥から覗く目を見て、
一方通行はやはり面倒くさそうにため息をつくのだった。

275 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 20:08:26.55 uNwkOEdZo 193/670


今回はここまでです。

ロシアで暗部が一方通行を見つけられなかったとか、その辺の話って触れた方が
いいのでしょうか?自分の頭の中だけでその辺の話を終えて満足しちゃってる
状態なんですが、そういうのはよくないってどこかで聞いたような気がして……。
まあ機会があればちょろっとやってみたいかなと思ったり思わなかったり。

あと結標が海原についてどこまで知っているのか、あまり自信がありません。
魔術師であることから所属の組織まで全部知ってるんでしたっけ?
だとしたら今回の話、かなり意味不明な内容になってしまうので心配です。

次回はまた小話を挟みます。風斬とヴェント、ミーシャと美琴で行間的なものを。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

276 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/05/07 20:09:09.11 uNwkOEdZo 194/670




                          【次回予告】



「アンタはさ、私と友達になれて幸せ?」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)――――――御坂美琴




「またいつか……『天使同盟』のみんなと一緒に過ごせる日が来ますよね」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・AIM拡散力場の集合体――――――風斬氷華




288 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:21:57.94 wLMunw9Jo 195/670


こんにちわ、真っ昼間から更新していきたいと思います。

今回はまた行間のような話を挟んでいきます。
ミーシャとの付き合い方を考える御坂、そして最近離れ離れな状況ばかりの
『天使同盟』に寂しさを感じる風斬。そんな彼女を遠回しに励ますヴェント。
風斬は久々の登場です。本当はもっと書きたいんですけどね……。

それでは、よろしくお願いします!

289 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:22:35.55 wLMunw9Jo 196/670



――――――――――――――――――――――


力の一環で雪をも自由に操れる存在にとって、今も夜の学園都市に
降り続ける雪はあまり興味を唆られないものなのかもしれない。


「………………」


ミーシャ=クロイツェフである。彼女は今夜もまた、空に浮かぶ月を眺めていた。
雪のせいで若干空色が悪く月も綺麗に映っていないが、睡眠という行為が必要でない
彼女はこうして毎晩月を眺める事が日課になっているため、空模様はあまり意に介さないのだ。

290 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:23:29.77 wLMunw9Jo 197/670


以前は―――『第一九学区事件』以前は、正確には月を見ているのではなく
この空の向こう、宇宙空間を泳ぐ『ベツレヘムの星』を、その一部である
『星の欠片』を眺めていた。己の存在を補助する"柱"に何らかのアクシデントが
発生し、突然自分が消えてしまわないかと少しだけ怯えながら、眺めていた。

眺めるといっても宇宙にある『星の欠片』を実際に肉眼で捉えられる訳もなく、
(ミーシャに肉眼があるかどうかは別として)、その『欠片』から感じる別位相の
わずかな『匂い』と『天使の力(テレズマ)』を感じ取っているだけなのだが。


「cyuij綺麗zefro」


あの壮絶な事件を経て、『天使同盟(アライアンス)』の"四人"が死に物狂いで『星の欠片』を
守ってくれたおかげでミーシャは消滅の危機に怯える必要は無くなった。故に夜空を鑑賞する
という行為も必要無くなったのだが、『星の欠片』を眺めている内に月そのものにも本当に
魅入られるようになり、現在の彼女はただ純粋に季節外れのお月見を楽しんでいるのだった。

291 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:24:25.34 wLMunw9Jo 198/670


『天使同盟』の"四人"が守ってくれた『星の欠片』。

厳密には守ったというより『応急処置』を施したに過ぎず、更に細かな調整を
加えないとミーシャの存在は安定せず、結局いずれは消えてしまうかもしれない
という状態なのだが、今の『天使同盟』は更に一人、非常に頼もしい仲間が増えており、
その仲間が『星の欠片』の安定に全力を注ぎ込んでくれている。


『天使同盟』各々の本当の目的や気持ちはともかく、一部からは『災厄』の如く
恐れ、畏れられる存在である自分を守ってくれている仲間がいる環境に、彼女は
改めて、これ以上ない幸福を感じていた。
そして、比較するつもりはミーシャには勿論無いが、その中でも彼女にとって特別な存在である少年。

一方通行。現世に降り、まず最初に興味を惹かれた人間。

ミーシャはフィアンマや打ち止めの協力の下、あるサプライズを彼に贈る計画を企てている。
そのサプライズの準備がもうすぐ完了する。ただの勘と期待ではあるが、ミーシャはそう思っていた。
それが成功したら一方通行は必ず喜んでくれる。ミーシャはそう信じて疑わない。

292 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:24:56.59 wLMunw9Jo 199/670


幸福を提供してくれた一方通行に、今度は自分から幸福を贈ろうという、健気で純粋な思考。
『天使同盟』から抱えきれない程の幸福を受け取った彼女からの恩返し。
そう考えるに至るまでに、ミーシャ=クロイツェフという大天使は幸福感に満ちている。

そんな彼女に最近、新たな幸福が舞い降りてきた。




「……まだ起きてたの? アンタって基本、寝ないのね」

「xkdi美琴laqec」




293 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:26:06.50 wLMunw9Jo 200/670


背後からかかる少女の声。ミーシャは外の景色が見える窓から視線を外し、
ゆっくりと後ろへ振り返る。


御坂美琴。学園都市、常盤台中学に所属する超能力者(レベル5)第三位の『超電磁砲(レールガン)』。


彼女が着るには少し子どもっぽいデザインのパジャマをミーシャが褒めたら、美琴は嬉しそうに笑ってくれた。
そんな美琴は眠たそうに目を擦りながらベッドを降り、ミーシャの隣に並んで外の景色を眺める。


「んー、なんか目が覚めちゃった。 今日……ってもうすぐ明日になるけど。
 今日はあれだけ夜更かししてアンタの翻訳機の調整をしてたのに、何でこんな
 時間に目が覚めちゃったんだろ……。 あぁ、翻訳機の完成はもう少し待ってね」

「diyuw必要alj無aoqte」

「そう? でもあった方が何かと便利だと思うんだけどねー」

294 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:26:53.93 wLMunw9Jo 201/670


そう言う美琴だがこうしてミーシャの雰囲気を察して、彼女が何を伝えようと
しているのか何となく理解できる領域にまで達している美琴が翻訳機の必要性を
説いても、イマイチ説得力に欠けてしまう。


「また月を見てたの?」


お姉様ぁ~……と、背後のベッドで幸せそうな笑顔を浮かべながら寝返りをうつ
白井黒子の寝言を聞きながら、ミーシャは静かに頷いた。


「アンタ毎晩月見てるわよね。 なんかロマンチックというか……自称天使の
 アンタにロマンチックとか言うのもヘンか。 あ、もしかしてアンタは天使
 だから天界から降りてきてて、あの月の向こうにこの世と天界を結ぶトンネル
 みたいなのがあって、その先にある故郷を懐かしみながら空を眺めてるとか?」

295 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:27:24.38 wLMunw9Jo 202/670


「vyrlkm大体cexnlhi」

「さすがにそれは無いかな? ま、それが事実だったとしても私とアンタの
 関係に大きな変化が訪れる事は無いけどね。 むしろアンタがマジの天使
 だったら友達代表として私を天界に連れて行ってみてほしいわよ」

「cpty歓迎lstrj」

「う、…………じ、冗談よ。 アンタ空飛べるから本当に月まで連れてかれそうだし」


じゃあウチ来る? 的な軽い調子で手を差し伸べてきたミーシャの誘いを
美琴は苦笑いしながら拒否した。例えこの空の先に天界への入り口があったとして、
そこにたどり着くまでに自分の命が保つ自信が美琴には無かった。

美琴は話題を切り替えるためにコホン、と咳払いを一つ。

296 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:28:12.49 wLMunw9Jo 203/670


「そういえばアンタ、昨日も今日もここに泊まってるけど大丈夫なの?
 保護者……ていうかお仲間さん? あの火野とかいう男が心配してる
 んじゃない? ……まぁ、帰って来ない事に不安を覚えるような男とは
 思えないけどさ。 一応連絡の一つでも入れた方がいいんじゃない?」

「lpres無問題txvpyf」


ノイズ全開の声で何かを呟くと、ミーシャは(どこに仕舞っていたのか)携帯電話を
取り出して美琴に見せつけてきた。それはこの携帯に送られたメールの一つであり、


『じゃあ今日も天使さんは御坂さんの所にお泊まりするんですね。
 了解しました、いつでも帰ってこれるように鍵は開けてあります
 ので。 あまり御坂さんに迷惑かけちゃダメですよ? 今日は
 麦野さんと絹旗さんが遊びに来てくれたので賑やかです♪』

297 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:29:00.48 wLMunw9Jo 204/670


午後一〇時頃のメールだった。送信者の欄には風斬氷華と表示されている。


「風斬氷華……、前も言ったかもしれないけど、アンタ意外と交友関係広い
 わよね。 風斬……もしかしてあの憎たらしい程大きな胸のメガネ女か?
 そして何故か聞いた事もないこの麦野って名前に何かを感じるんだけど……」

「itudw皆lpew友達qptcn」

「うーん、知れば知る程謎が深まっていくわねアンタの素性……。
 いや探ろうって訳じゃないんだけど。 本当に知りたかったら
 素直に尋ねるし。 『天使同盟』云々はもちろん除いてね」


ミーシャに関するあらゆる疑問を美琴は抱えているが、しかしそれを
本人に本気で尋ねた事は一度も無い。割とどうでも良さそうな情報や
聞いても差し支えなさそうな事なら美琴も適当に質問するが、
あまりにもプライバシーに関わりそうな事や美琴自身聞くのが恐ろしく
感じる事は聞かないようにしている。

298 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:29:34.63 wLMunw9Jo 205/670


それが、美琴が取るミーシャとの距離の取り方であった。
警戒しているのではない、嫌悪している訳でもない、不信感を抱いているとも違う。
急ぐ必要はない、と判断したためである。ゆっくり、ゆっくりと、時間をかけて
ミーシャ=クロイツェフという存在を知っていく。

そして自分を知ってもらう。

これまで人間と触れ合う時はこのようなコミュニケーションをとったりしなかった。
大体の人間が美琴を『常盤台の超電磁砲』として認識していたため、美琴が相手の
事を知らなくても相手は美琴を知っている、という状況ばかりだったからだ。
"どう知られているか、どう認識されているか"は人それぞれだったが。

……もっとも、それも昔の話であり、今の美琴は別け隔てなく様々な人間と
交友を深めている。ただ自分を知ってもらう難しさ、辛さをよく理解している
美琴は、十中八九人外であり人との繋がりを得るのがより難しいであろうミーシャに
仄かな親近感を覚えたのだ。美琴がミーシャと絶妙に距離をとっているのはその配慮である。

299 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:30:05.86 wLMunw9Jo 206/670


(……ま、私が勝手にそう思ってるだけだけど)


だがこんなミーシャにも結構な数の友達がおり、ではその友達とは一体どんな
人間なのか、ていうか人間なのか、その友人の中に一人や二人は人外がいるんじゃないか、
などとミーシャに対する更なる疑問と好奇心を抑えながら、


「じゃあ、とりあえず一つ聞いていい?」

「kucn何pyuv」


美琴は一つ、単純かつ純粋な質問をミーシャに投げかけてみた。

300 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:30:47.81 wLMunw9Jo 207/670


「アンタはさ、私と友達になれて幸せ?」

「getps無論sdhto」


即答であった。しかもお得意かつ久々のサムズアップ付きでの返答だ。
美琴はそのよくわからん仕草に呆れながらも、自分と友達でいられて
幸せだと答えてくれたミーシャに感謝するのだった。


あと数時間もすれば、一端覧祭は六日目を迎える。


その六日目。ミーシャ=クロイツェフの『愛』がこの街を支配する事になろうとは、本人も予想だにしなかった。

301 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:31:45.49 wLMunw9Jo 208/670



――――――――――――――――――――――


にも関わらず、である。風斬氷華はそれでも、胸にとんと残る寂寥感めいた
何かを払拭できた気にはなれなかった。


何が『にも関わらず』なのかというと、ここ第七学区のとあるアパートメント。
学園都市暗部組織『グループ』の隠れ家を担う一室……というが、実質はもう
『天使同盟』と愉快な仲間たちの住処と化してしまっているこの部屋に、
今日は『アイテム』の麦野沈利と絹旗最愛が遊びにきてくれた。

残りのメンバーである浜面仕上と滝壺理后は仲睦まじく一端覧祭をエンジョイ
しているらしく、その、所謂ラブラブオーラが介入を許さず、二人は近寄る事
さえ躊躇ってしまう始末だという。

302 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:32:40.31 wLMunw9Jo 209/670


そんな訳でここ数日お手すき状態である麦野と絹旗はよせばいいのに『天使同盟』などという
危険かつ怪しさ極まったイミフ組織のアジトにお邪魔し、勝手に夜まで騒いでお泊まりするに
至ったのだ。


「雪……綺麗だなぁ……」


と、風斬はこれまた勝手に寝床を占拠しご就寝なさってらっしゃる麦野と絹旗に
くしゃくしゃになった布団をちゃんと被せてやり、しんしんと降り続ける雪を
窓越しに眺めながら独り言を呟いた。


久々に遊び騒いだ風斬は若干の疲れも感じていたが、それ以上に人と触れ合って遊ぶ
楽しさが上回り、その興奮が冷めないため深夜の一時を回ってもまだ寝付けずにいた。
数時間前に常盤台中学の女子寮に泊まるという旨のメールを送ってきたミーシャと同じく、
こうして彼女も雪に彩られた夜空を眺めている。

303 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:33:24.22 wLMunw9Jo 210/670


麦野と絹旗を交えた食事やお喋りは真実楽しかった。


にも関わらず、である。風斬氷華はそれでも、胸にとんと残る寂寥感めいた
何かを払拭できた気にはなれなかった。


(最近……、)


ソファの上に転がっていたミニクッションを胸に抱きながら、風斬は表情を曇らせる。


(『天使同盟』のみんなと……遊んだりしてないな……)


最後に『天使同盟』が全員集結したのはいつだっただろうか、と風斬は過去の記憶を辿る。

304 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:34:11.74 wLMunw9Jo 211/670


もう一週間くらい前になるだろうか、一方通行とエイワスが新たな構成員、フィアンマを
連れてすき焼き屋にやって来て、そこで六人全員が集まったあの日以来だろうか。
いや、そこから少し時を進めて、一端覧祭初日に長点上機学園で特別講習を行った時以来だろうか。

だとすれば、まだそこから一週間も経っていない。しかし、それでも、風斬にとっては
皆で集まったその日が遠い過去の出来事のように思えてしまった。

別に麦野や絹旗がこうして遊びに来てくれたり、たまに外で上条当麻やインデックスと出会い
他愛のない会話を弾ませたりする事に何も思わない訳ではない。それはもちろん楽しい事であり、
風斬にとって充実した時間であるのは今更疑うまでもない。

例えそれが無くても、『天使同盟』の面々が帰ってこない日が続いても、
この部屋にはまだ風斬の友達が居る。
例えば麦野や絹旗と一緒に今も部屋で寝ているオルソラ=アクィナスやアンジェレネだったり、

305 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:35:06.01 wLMunw9Jo 212/670


「そんなツラ見せられたらこっちまで気が滅入るんだけど」

「あ……ヴェントさん。 起きてたんですか……?」


淋しげにしょんぼりと沈んだ顔をする風斬に、鬱陶しそうに話しかける魔術師、
ヴェントだったりと、昔とは違い風斬の周りには常に何人ものかけがえのない
友達が居てくれる。

ちなみにこのヴェント、今日(日付が回っているため正確には昨日だが)は普段より
帰ってくる時間が遅く、帰ってきても何やらそわそわと落ち着かない様子でろくに
食事も取らなかった。


「大方、最近『天使同盟』のみんなと遊んだりしてないな~とか考えてたんだろ?」

「うぅ……だって、寂しいものは寂しいですもん…………」

306 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:36:12.06 wLMunw9Jo 213/670


心境をあっさりと看破され、少しだけ頬を膨らませる風斬。
ヴェントは呆れたようにため息をつきながらソファに座る風斬の隣に腰を下ろす。


「んな事ほざいてる暇で会いにいけばいいだろ。 全員死んでる訳でもないし」

「それは……そうなんですけど……」


ヴェントの指摘通り、会おうと思えば『天使同盟』の一部とはいつだって会えるのだ。
一方通行は電話の一本でも入れればすぐにでも会ってくれるだろうし(と、風斬は信じている)、
ミーシャも迷うことなく一緒に居てくれるだろう。

ただエイワスは……正直に言って困難であった。この学園都市に居るのは間違いないだろうが、
この街のどこに居るのか、そもそもアレはどこにでも居てどこにも居ない訳のわからん人外なので
出会うという概念が果たしてアレに当てはまるのか、甚だ疑問ではある。

307 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:36:58.56 wLMunw9Jo 214/670


垣根帝督も難しい。一方通行とあのような衝突があった事もあり、もうしばらくは
この居場所へ戻ってこないであろうと風斬は考えている。

そしてフィアンマは最も予測しにくかった。『天使同盟』の新参者なだけに
風斬も彼の行動範囲を掴めないし、何を考えているのか、普段どこで何をしているのか、
皆目見当もつかないという意見が正直なところである。


「ところで……ヴェントさんは今日、どこに行ってたんですか?」

「ん……え、あ? え? わ、私? 今日? え、別に? 何が?」

「?」

「わ……私がどこで何をしてようがアンタには関係ないでしょ?」

308 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:37:44.00 wLMunw9Jo 215/670


そこまで深く追求するつもりもなく、風斬は単純な疑問をぶつけてみただけ
なのだが、何故かヴェントは顔を真っ赤にして慌てふためきごまかしてきた。


「あ……アンタが悪いのよ」

「え……?」

「アンタがさっさと手を打たないから……私が先んじたに過ぎないんだから」


ヴェントが一体何を言っているのかさっぱり理解出来ない風斬だったが、
彼女の様子に淡い不安を覚える。漠然とであるが『出遅れ感』のような
何かが風斬の胸をキュッと絞めつけてくる。

だがそんな正体不明の焦燥感より、今は瞭然としている寂寥感を拭いたい風斬。

309 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:38:36.92 wLMunw9Jo 216/670


「まさかもうこのままずっと……みんなと集まって過ごしたり出来ないのかな……」

「あ?」

「なんて……、あり得ないはずなんですけど……どうしても不安になっちゃって……」


たかが一週間前後。『天使同盟』が集まっていない状態が続いているだけだが、
風斬はそんな想像をしてしまうくらい寂しさに襲われていた。

『別』なのだ。今この部屋で過ごしてくれているヴェント、麦野、絹旗、オルソラ、アンジェレネ。
浜面仕上も滝壺理后も。上条当麻もインデックスも。最近知り合った五和という少女も。
この街で触れ合った多くの人間。外国で交流した様々な魔術師達。他にも、たくさん。
それら全員が平等に、風斬にとってなくてはならない大切な友人。

それと『天使同盟』は別だと、風斬は意識的に捉えていた。差別をしているのではない。
『天使同盟』の面々ももちろん大切な仲間であり友達だが、風斬にとって彼らはそれ以上の、
特別な存在になっているのだ。

310 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:39:34.28 wLMunw9Jo 217/670


依存。当然といえば当然だが、もはや『天使同盟』は風斬氷華の総てであり、全てだった。


「心配し過ぎよ」

「え?」

「アンタらみたいな化物が、他の何かに属せる訳がない。 他の何かに依存したり、
 ましてや同盟破棄をする訳がない。 アンタらみたいにある種"極まった"連中が
 どれだけ外部と関わろうとその色に染められる事はないわ。 どいつもこいつも
 キャラが濃すぎて塗り潰せない。 だからアンタらがこのままずっと離別したまま
 なんて状況は絶対に続かないわよ。 世間からすれば迷惑以外の何者でもないけど」

「……ヴェントさん……」

311 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:40:10.20 wLMunw9Jo 218/670


「……ま、仮にアンタらがバラバラになっても……アンタには、……」

「?」

「……………………な、何でもない。 もう寝る」


最後の方は小声だったため聞き取れなかった。ヴェントは不貞腐れたように
風斬から視線を逸らすと、麦野達が寝ている部屋へ去って行った。

しかし風斬にはきちんと伝わっていた。ヴェントが、彼女が彼女なりに、
不器用ながらも元気の無い風斬を励まそうとしてくれた思いを。
部屋に戻るヴェントを見送り、窓越しに見える雪を見て風斬は微笑み、

312 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:40:36.87 wLMunw9Jo 219/670



「…………そう、ですよね」


そして願い、信じるのだった。


「またいつか……『天使同盟』のみんなと一緒に過ごせる日が来ますよね」


『天使同盟』全員が再び集い、笑顔で過ごせる日が来ると願い、信じる。
そんな風斬氷華の想いが成就する日はやってくるのだろうか。

313 : ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:45:09.89 wLMunw9Jo 220/670


今回はここまでです。

こうしてみると風斬の最後のセリフなんか思いっきり『前フリ』なんですが、
はてさてまた再び六人全員が集まる日はくるのでしょうか。
垣根とは違い、やたらリアルなフラグを立てる風斬なのでした。

ミーシャの方でも六日目に何かが起こるフラグが立ってますが、
そしてもうすぐ一端覧祭六日目をお送りするのですが、正直言って投下するかどうか
悩むレベルのカオスっぷりです。ロシアの買い物パート以上のギャグ回だと思います。

次回は『グループ』最後のお話。一方通行と土御門が密会をします。
土御門が一方通行を連れ出した理由とは、的なお話です。よろしくお願いします。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

314 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2012/05/10 12:45:36.43 wLMunw9Jo 221/670




                          【次回予告】



「あ? なンの話だよそりゃ」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)




「んん~? しらばっくれても無駄だぜい? オレ聞いちゃったもんにゃー♪」
上条当麻のクラスメイト――――――土御門元春






続き
蛇足 とあるフラグの天使同盟 捌匹目【中編】


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