関連
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」【1】
レッサー「あ、あの、・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
サーシャ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
エリザリーナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ワシリーサ「そんじゃ、あなた達とはここでお別れって事になるのかしら?」
一方通行「あァ、そォいう事だな」
風斬「そうですね・・・・・・こんな突然だとすごく名残惜しいですけど・・・・・・」
サーシャ「・・・・・・・・・・・・そう、ですね。 こうなった以上、いつまでもこんなところに
いるわけにはいかないですよね」シュン
ワシリーサ「言っとくけど、私とサーシャちゃんは行かないからね。
アレイスターなんてワケの分からない野郎の前にサーシャちゃんを向かわせられるわけがないもの」
サーシャ「わ、ワシリーサ・・・・・・私は・・・・・・」
一方通行「分かってる、オマエらはここにいろ。 俺達に付き合う必要はねェよ」
サーシャ「で、でも私はミーシャにまだ何も・・・・・・!!」
一方通行「あのバカには俺達からよろしく伝えておいてやる。 何も心配はいらねェ」
サーシャ「う・・・・・・・・・・・・」
風斬「サーシャさん、私たち、これで永遠にお別れってわけじゃないですよ・・・・・・?」
サーシャ「風斬氷華・・・・・・」
風斬「また遊びに来ますから、絶対に。 約束です」ニコッ
サーシャ「約束・・・・・・」
一方通行「・・・・・・また買い物行くンだろ? 今度はもっと大勢でよ。
次はちゃンと買い物するって俺とも約束しただろ? だから首洗って待ってろ」
サーシャ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ウルウル
一方通行「あーあー、泣くンじゃねェぞ頼むから。 ・・・・・・ったく、ガキだなオマエは」
サーシャ「・・・・・・・・・・・・!! な、泣いてないですっ!!」ゴシゴシゴシ!!
ワシリーサ「きゃわいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!! 今の!! 今の写真に撮っときゃ良かったぁぁぁぁ!!!」
一方通行「結局オマエは最後までワシリーサだったな・・・・・・全くブレねェ・・・・・・」
垣根「・・・・・・オイ、ワシリーサ」
ワシリーサ「む? あ! そういえば垣根ちゃん、カメラ持ってたっしょ! あれ私に――――」
垣根「色々世話になったな。 また遊びに来てやっから、覚悟しとけよ」
ワシリーサ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 んふ、楽しみにしといてあげる♪」キャピッ
垣根「うっわ・・・・・・おばさんのウィンクとか誰が得するんだよ・・・・・・」オエェ
ワシリーサ「次会ったら覚えとけよクソガキ」
エイワス「ここに置いてある荷物などはどうする?」
エリザリーナ「・・・・・・私が後日、学園都市宛に届けておいてあげるわ。 "全員分の荷物"、また必要になるでしょ?」
一方通行「すまねェな。 そォしてくれ」
エリザリーナ「・・・・・・本当に申し訳ないわ。 私がもっとしっかりしていれば・・・・・・」
一方通行「気に病むンじゃねェよ、ガブリエルのヤツが気にしちまうだろォが。
・・・・・・暇が出来たらオマエらも今度学園都市に来い。 『天使同盟』総出で歓迎してやるよ」
エリザリーナ「・・・・・・了解。 頑張ってきなさいね」ニコッ
風斬「あ、ショッピングセンターで買った荷物・・・・・・」
エリザリーナ「それも私が手配しておくから心配しなくていいわよ」
風斬「あ、ありがとうございます・・・・・・!」ペコッ
エイワス「一方通行」
一方通行「あン?」
エイワス「・・・・・・カチッとな」カチッ
一方通行「オイ、俺のチョーカーに何しやがっ・・・・・・、充電が満タンになってやがる・・・・・・」
エイワス「今回の戦いは恐らく熾烈を極める。 戦闘準備は万全でないとな」
一方通行「ふン」
垣根「ていうかどうやって学園都市まで向かうんだ? 船はもう使えねえし、
そもそものんびり海や空から戻る時間はねえんだろ?」
エイワス「一方通行と垣根帝督は私の背中に乗りたまえ。 風斬氷華、
君はそのままヒューズ化して学園都市に向かうんだ」
風斬「わかりました」
一方通行「間に合うのか?」
エイワス「『ドラゴン』を侮るなよ一方通行。 その気になれば地球を十六時間で一周出来る速度を出せる」
一方通行「カイリューかオマエは。 つかオマエの場合十六時間どころか一秒もいらねェだろ」
レッサー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、あ、・・・・・・」
一方通行「あ?」
レッサー「え、えと・・・・・・私、・・・・・・・・・・・・」
風斬「?」
垣根「何だよ、なんか問題でもあるか?」
レッサー「い、いえ・・・・・・別に・・・・・・・・・・・・」
一方通行「つーかよォ、マセガキ」
レッサー「は、はい・・・・・・?」
一方通行「いつまでそこでボーッと突っ立ってンだ? さっさと準備しろよ」
レッサー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・?」ポカン
風斬「レッサーさんは私の背中に乗ってください。 安全に飛行しますから大丈夫ですよ」
レッサー「え、いやでも・・・・・・」
垣根「何だよテメェ、この期に及んで及び腰になっちまったか?」
レッサー「そ、そうじゃないですよ! でも、何で私も・・・・・・?」
一方通行「はァ? 今更何を言ってンだオマエは」
サーシャ「・・・・・・・・・・・・レッサー」
レッサー「どういう事ですか・・・・・・?」
風斬「?」
エリザリーナ「・・・・・・・・・・・・レッサーは『天使同盟』じゃないんじゃなかったかしら?」
風斬「え? ・・・・・・・・・・・・あ、」
垣根「そういやそうだったな。 こいつイギリスの時からいたからすっかり溶けこんでて違和感無かったわ」
レッサー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一方通行「・・・・・・そォだったか? まァ、そンな事ァどォでもいいンだけどよ」
レッサー「わ、私・・・・・・」
一方通行「来ねェのか?」
レッサー「・・・・・・・・・・・・私は、一緒には行けません。 皆さんとはここでお別れです」
一方通行「・・・・・・・・・・・・」
垣根「んだよ、ここまで来たらもう勢いで一緒に着いてこいよ」
レッサー「私も出来ればそうしたいですけど・・・・・・私にはイギリスで帰りを待ってくれてる『仲間』がいるんです」
風斬「あ・・・・・・」
一方通行「・・・・・・『新たなる光』、だったか」
レッサー「はい。 ベイロープもフロリスもランシスも、私の帰りを待ってくれています。
だから私はイギリスに帰らなくちゃいけません・・・・・・。 ここで『天使同盟』の旅が
終わるなら、私もこれ以上皆さんと一緒には居られません・・・・・・」
一方通行「・・・・・・・・・・・・」
一方通行「・・・・・・まァ、そりゃそォだよなァ」
レッサー「い、一緒に行きたいって気持ちは本当ですよ! ただ私には・・・・・・」
一方通行「分かってるっつの、何度同じこと言えばいいンだよオマエは。
・・・・・・そォだな、じゃあオマエはイギリスで待ってろ」
レッサー「え・・・・・・?」
一方通行「アレだろ? イギリスに何かヤバい事件やらが起きたら俺達に助けて欲しいって事言ってただろ?
それれはもォ約束した。 だがそれ以外にも、ただ遊びにいくってだけの理由でイギリス行ったって
いいンだろ? 逆にオマエが学園都市に来るって方向でもいいけどな。
とにかく、風斬もさっき言ってたがこれで今生の別れってワケじゃねェンだ。 だから待ってろ」
レッサー「・・・・・・・・・・・・うゆ・・・・・・」グスッ
一方通行「げ・・・・・・(泣くぞ、すぐ泣くぞ・・・・・・絶対泣くぞほォら泣くぞ・・・・・・)」ギクッ
レッサー「うわあああああああああああああんっ!!!」ダキッ
風斬「きゃっ」ギュッ
一方通行「あ、そっちか。 ・・・・・・つかこンな事で泣くンじゃねェよいちいち大袈裟だな」
レッサー「ふえええええええええええん・・・・・・!!!」ポロポロ
風斬「ふふ、よしよし・・・・・・」ナデナデ
垣根「つかお前そんなにホイホイ約束しちまっていいのかよ?
こりゃアレイスターぶっ殺した後もスケジュールがパンパンだな」
一方通行「オマエはスケジュールの内には入れてねェけどな」
レッサー「絶対・・・・・・、ぐしゅっ、また絶対会いに来てくださいよ・・・・・・? えぐっ」グスッ
風斬「もちろんですよ、またすぐ会えますから、ね?」ナデナデ
レッサー「うん・・・・・・うん・・・・・・!」ヒック
垣根「オイ、そろそろお涙頂戴してる場合じゃねえぞ」
一方通行「あァ、分かってる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」チラッ
ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ギロ
一方通行「・・・・・・事が済ンだら、迎えに行く」
ヴェント「!」
一方通行「悪いが少しの間待っててくれ。 オマエとの約束もちゃンと守るからよ」
ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一方通行「すまねェな」
ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・その必要はないわよ」ボソッ
一方通行「?」
エイワス「・・・・・・・・・・・・」
エイワス(やはり、空気が変わっている。 もう"アレ"は現世に降りてきているのか。
学園都市で一方通行を迎えるために・・・・・・・・・・・・)
エイワス「やれやれ、困った方だな」
ヴェント「・・・・・・エイワス」
エイワス「ん?」
ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
エイワス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ヴェント「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
エイワス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふー・・・・・・」
エイワス「仕方がないな。 君も大概、頑固な人間だ」
ヴェント「うるさい」
――――――――――――――――――――――
エイワス「しっかりと掴まっておけよ、二人とも」
一方通行「すっげェまぶしい、すっげェまぶしいンですけどコイツの背中ァァ!!!」ペカー
垣根「翼がすげえウザいんだけど、これどうにかならねえのかよ!!
つか何でお前翼一枚だけそんな膨らんでるんだ? なんか包んであんのか」ブワッサァ
エイワス「少し事情があってな、我慢したまえ。 では間もなく離陸するぞ」
風斬「じゃあ皆さん! また必ずお会いしましょうね!」
サーシャ「必ず無事で・・・・・・。 ミーシャにも必ずよろしく伝えておいてください・・・・・・!!」
ワシリーサ「ま、せいぜい頑張ってきてねー」バァーイ
エリザリーナ「一段落着いたら連絡をくれると嬉しいわ。 それじゃあね」
レッサー「さよならー!! 必ず、必ずまたイギリスに足を運んでくださいよー!!」バイバーイ
一方通行「世話になったな」
こうして『天使同盟(アライアンス)』のロシアでの旅は幕を閉じた。
そして同時に、これで『星の欠片』を巡る旅も幕切れとなった。
だがこれで彼らの物語は終わりではない。彼ら『天使同盟』にはまだ最後の試練が待ち構えている。
ミーシャ=クロイツェフの救出、それ即ち、『星の欠片』に残る儀式場の『門』の保護。
それを行うためには、学園都市の頂点に君臨する最強最悪の魔術師、アレイスター=クロウリーを
退けなければならない。
『天使同盟』とアレイスター=クロウリー。
『時代』を手にするのは、そして『願い』を成就するのは果たしてどちらか。
――――――――――――――――――――――
警備員(アンチスキル)の才郷良太と杉山枝雄は人がごった返す昼の学園都市で見回りの仕事をこなしていた。
連日徹夜で勤務していた二人は眠気を払うために目をシパシパさせながら料理店が立ち並ぶ第四学区を歩き回っていた。
はぁ、とため息をつき、才郷は杉山に話しかける。
「何か異常は?」
「本日も異常なし。 戦争が終わってからというもの、平和そのものだよなあ。
・・・・・・唯一、異常と言えるのはこの洒落にならねえ寒気だけど。 っくしゅ!!
なんか今日は特別寒いんだよなぁ。 なんなんだこれ?」
「見回りなんてさせるなっつーんだよな~・・・・・・いつもなら監視衛星が動いてるから
俺達がこんなガードマンみたいな事する必要ねえのによ。 『天使同盟(アライアンス)』だっけ?
今回のハッキング事件をやらかしたヤツ。 ふざけたことしてくれるよな」
『天使同盟』によるハッキングが原因で各国を始め学園都市が飛ばしている監視衛星も全て乗っ取られており、
現在の学園都市は警備が非常に甘くなっていた。
おまけに『風紀委員(ジャッジメント)』と『警備員(アンチスキル)』という学園都市の二大警察的組織の
データベースやその他もろもろもなぜかハッキングされているため、才郷と杉山はこうして
普段指示されることのない見回りを行っているというわけだ。
才郷は未だに『天使同盟』への小さな怒りが晴れないようで、ぶつぶつと愚痴っている。
「今日は本来非番だったから家でゆっくり酒でも飲もうかと思ってたのによ~・・・・・・一体どういうヤツらなんだ?
『天使同盟』って。 さっさと捕まえてくれねえとこの分じゃ明日もまた見回りだぞ」
「捕まえてくれって、捕まえるのは本来俺達の仕事だろ?」
「そりゃ学園都市内に『天使同盟』がいるならな。 けどこいつら、俺の勘だと
『外』のヤツらだぞ。 例の戦争の時に『金色の肋骨』とか出してた
オカルト集団。 ああ違いねえ、きっとそいつらだ」
くっそー!、と才郷は両手を丸めてパキポキと骨を鳴らす。
オカルト集団の情報などろくに警備員に回ってきていない上に、オカルトというのが
どういうものなのかもロクに知らないくせによくそんな闘争心を燃やせるな、と杉山は口には出さないがそう思った。
そして杉山は言う。
「まあアレだ。 オカルトがどうとかはともかく、一回どんなヤツらなのかは見てみたいよな、
『天使同盟』。 さっきからヤツらとかあいつらとか言ってるけどそもそも単独犯かも知れないし。
なにより天使って部分が神々しさっつーか・・・・・・胡散臭さを加速させてるよなー」
「天使だろうが悪魔だろうが俺の休日を奪った罪は重い! ・・・・・・・・・・・・、
でも、天使かぁ・・・・・・。 仮に実在するとしたら、やっぱ全裸の子供に羽根が生えてる感じなのかな」
「ベタだなー、その天使のイメージ」
からかう杉山に軽く蹴りを入れる才郷。そして、
「本当にいるんなら、一度でいいからこの目で天使ってのを拝んでみてえもんだな」
そんな才郷のささやかな願いは、すぐに叶う事になった。
突如として第四学区、いや、学園都市中、下手すれば日本列島全域に響いたんじゃないかというほどの爆音と、
直下型地震というにはあまりにも『近距離すぎる』激しい震動が学園都市を襲ったからだ。
「~~~~~~~~~ッッッ!!? ―――ッ!! ――――杉や―――・・・・・・ッッ!!!」
「―――――――――――――――――――――――ッッッ!!! 耳が・・・・・・」
爆音というが、しかしそれにはもはや『音』は無かった。
世界から音が消える瞬間を才郷と杉山は体感した。
震動でバランスを崩しその場に倒れた才郷と杉山に、今度は遅れて凄まじい烈風が襲いかかってきた。
建造物の瓦礫や地面のアスファルトの破片が容赦なく二人を蜂の巣にせんと猛スピードで飛んでくる。
才郷と杉山は反射的に身を屈め、奇跡的に難を逃れることが出来た。
きーん・・・・・・という耳鳴りが頭と聴覚を巡り、爆風が収まってからも二人はしばらく聴覚を失ったままだった。
(第四学区じゃない・・・・・・その隣、第一九学区か!? 一体何が・・・・・・!!)
核ミサイル攻撃?第一九学区にあるどこかの研究機関が不慮の事故で爆発した?それとも単なる自然災害?
違う。どれも見当違いにもほどがあった。
程なくしてざわざわという喧騒が周りから起こっていく。当たり前だ、これほどの爆音と衝撃で
平気でいられる人間がいるはずがない。もしかしたら怪我人も出ているかもしれない。
そして、才郷は確かに、ほんの一瞬だが確かにその目で見ていた。
(・・・・・・一瞬見えた、空から降ってきやがった・・・・・・なんだあの・・・・・・羽、根・・・・・・!?)
そう。
彼が見たそれこそ、つい先ほど彼が望んでいた『天使』だった。
二人は屈んだまま腰をあげることも出来ず、しばらく経ってから入ってきた無線の通信傍受音が聞こえるまで
屈んだ体勢から動くことが出来なかった。
――――――――――――――――――――――
学園都市の第一九学区。
他の学区とは違い発展が遅れ、比較すればするほど古い街並みが目立つこの学区は、
今現在、もはや古い街並みどころか空爆された跡地のような荒れ果てた廃墟と化していた。
「ひどいことをする」
第一九学区の爆心地へ、その声の主は何でもないように裸足で近付いていく。
男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える不気味な容姿のその『人間』。
学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリー。
その身に纏う緑色の手術衣が、彼の奇怪さを余計に際立たせている。
「確かに第一九学区は開発が大幅に滞った『時代遅れ』の街だが・・・・・・それでもまだ利用価値はあったというのに。
いや、これは私の落ち度なのだがね。 私がここにいなければ『君』はここには落ちてこなかっただろうし・・・・・・。
もっとも、もし私が学生たちが多く集まる、譬えば第七学区などに居たら君はどうするつもりだったんだ?」
そう言いながら呆れたように笑うアレイスターは、別に独り言を呟いているわけではない。
彼の目の前、それこそ本当に核ミサイルが落ちてきたかのような巨大なクレーターがべっこりと出現している、
その中心点。
そこにいる『天使』に向かって言葉を投げかけているのだ。
「守る。 彼ら。 仲間vjru。 友達。 全てseit。 全て」
「天使の口から出てくる言葉とは思えんな。 なるほど、エイワスが興味を持つのも納得出来る。
守る・・・・・・か、立場が逆転しているな、『天使同盟』。 元々は彼らが君を守る立場じゃなかったか?
まあ、そんな事ももう考える必要がない段階まで事態は進んでいるのだが」
守る、と彼女はほとんどノイズの無い、はっきりとした言葉でそう言った。
彼女。天使。水を司る、天界から降り立った本物の大天使。
『神の力(ガブリエル)』。ミーシャ=クロイツェフ。
ミーシャは今自分がいる第一九学区一帯に超音波を発した。他に誰かがこの学区に潜んでいるのかどうかを確認しているのだ。
反応があった。ほとんど人がいなくなっているこの第一九学区で、"目の前のアレイスター以外の生体反応が確認できた"。
数は・・・・・・一〇〇、一〇〇〇、それ以上?パッと見回しただけでは分からない、一体どこにそんな数の人間が潜んでいるのか。
中には何やら機械的な反応もあった。・・・・・・ロボット?ミーシャには理解できなかった。
そしてミーシャはアレイスターの顔を正面から見据えたまま右腕を前に突き出す。
その掌にピキパキキキキ・・・・・・と、虚空から氷で出来た剣が出現した。
「私を殺すか、ミーシャ=クロイツェフ。 戦いの前に少しだけ君と会話をしてみたいと思ったのだが・・・・・・
貴重なサンプルが取れそうだしな。 しかし、それはさすがに欲が深すぎるといったところか」
「ssrjg貴方、を、ここで討つ」
対して、アレイスターもアクションを取ってみせた。
アクションというほど、それは大きな動きではなかった。軽く指を動かし、虚空からある筈もない物を
その手で掴みとる。気付けば、ついさっきまで無かった物が出現していた。
アレイスターの手の握り方からして、それは杖。
『衝撃の杖(ブラスティングロッド)』、フィアンマを撃破するときに使った『存在自体が疑わしいあやふやな幻覚』ではない。
正真正銘、第七学区の『窓のないビル』から手元に送ってきた、本物の、現実に存在する銀色の杖。
アレイスターが『衝撃の杖』に魔力を送り込むと、杖は銀色から透き通った透明色に変色していき、
その先端の花のつぼみのような部分がゆっくりと円状に開いていく。その中心部はエメラルドグリーンの輝きを放っていた。
「では・・・・・・学園都市にお越しいただいた早々で申し訳ないのだが・・・・・・ミーシャ=クロイツェフ。
そろそろ君には元ある『位階』へとお還り願おうか。 これでも私はここの統括理事長を勤めていてね。
学園都市に入り込んできた『異物』は私が責任をもって排除しなければならないのだよ」
「vfep私の事はkbrti好きにしていいjfiw」
ゴオッッ!!!、とミーシャは背中から生やしている氷の翼を更に肥大化させて、
ハッキリと、宣戦布告した。
「でも、彼らに手は出させない――――――――」
歴史史上最強最悪の魔術師と、『神の力』を統べる大天使は正面から激突した。
ミーシャ=クロイツェフが学園都市に降り立った時のものとは比べ物にならない衝撃波が
第一九学区の廃墟化をさらに加速させていった。
【次回予告】
『では、健闘を祈る。 グッドラック』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・エイワス
『っとと、めちゃくちゃ人が混んでんな・・・・・・。 警備員の指示があってもこの混乱っぷりかよ。
ちくしょう・・・・・・何だったんださっきの揺れは。 インデックス、絶対俺から離れんなよ』
―――――――――――学園都市の無能力者(レベル0)・上条当麻
『・・・・・・行ってみよう、とうま』
―――――――――――禁書目録を司るイギリス清教のシスター・インデックス
――――――――――――――――――――――
『天使同盟(アライアンス)』の構成員。一方通行、風斬氷華、エイワス、垣根帝督の四人は
日本海上空を横断していた。
現在時刻は日本時間で午後二時を少し過ぎたところだった。
ロシアからわずか数分で日本海上空まで辿りつくとなると、相当な速度で飛行している事が窺える。
一方通行と垣根帝督はエイワスの背中に乗っていた。音速を超えるスピードで飛んでいるため
普通ならこの二人は一瞬で吹き飛ばされているだろうが、風斬氷華の鱗粉の光のような物を
全身を覆うように散布してその身を守っている。
一方通行は焦燥を含んだ声でエイワスに尋ねた。
「おいエイワス!! 学園都市まであとどれくらいだ!?」
「慌てる必要はない、あと数分もすれば学園都市の制空権に侵入出来る」
応えたエイワスの声色は普段どおり、不気味だがどこか綺麗に透き通った声だった。
そしてそんな声のままエイワスはボソッと呟く。
「・・・・・・・・・・・・ふ、アレイスターめ。 "もう始めている"」
「なに・・・・・・!? ガブリエルと交戦してンのか!?」
「そのようだ、第一九学区だな。 ・・・・・・ところで、学園都市に到着する前にいくつか言っておきたいことがある」
猛スピードの飛行による風切り音で大声を出さないと耳に届かない状況にも関わらず、
エイワスの声はすんなりと三人の耳に届いていた。
「申し訳ないことに私は学園都市に到着してもしばらくの間は参戦できない。
"最後のおつかい"が残っていてね。 それを処理しなければならない」
「そ、そんな・・・・・・!? あなたが戦ってくれたらアレイスターだってどうにでもなるんじゃないんですか!?
そうしたら天使さんだってすぐに助けられるのに・・・・・・!」
エイワスの急な発言に捲くし立てる風斬を、一方通行は片手で遮った。
「・・・・・・その"おつかい"も、ガブリエル救出のために必要な事なンだな?」
「必要どころか、これを成し遂げなければ恐らくミーシャの救出は不可能だ。
もちろん、それも私のシナリオ通りに事が進めばの話になるがね」
エイワスが学園都市に到着して行う事が、ミーシャ=クロイツェフ救出の最大のポイントになるという。
それをしなければ恐らくミーシャは救えないと、あのエイワスが言うのだからよほど大事な事なのだろう。
「構わねェ。 アレイスターのクソ野郎は俺達でなンとかしてやる」
「俺は最初からそのつもりだけどな」
一方通行の言葉に垣根も同意する。風斬はしばし不安そうな表情を浮かべていたが、
やがてその表情を引き締め、力強く頷いた。
「理解してくれて助かるよ。 私も事が済み次第、戦闘に加わるつもりだ。
それと補足説明しておくが、"敵はアレイスターだけではないようだ"。 用心したまえ」
そんな会話をしているうちに、四人はあっという間に日本列島、学園都市上空付近に突入していた。
ここからではまだ学園都市内の様子は詳しく窺えない。
「それと、一方通行」
何層も重なる雲の先にボンヤリと見える学園都市を見据えながらエイワスは一方通行に言った。
「『神』が君を依代にしようとしている。 実際"降りられたら"抗えないだろうが・・・・・・
まあ一応、警告はしておいたぞ?」
「あァ?」
警告、という何やら穏やかではない言葉を放つエイワスだったが、
現時点での一方通行にはエイワスの言っている意味が理解できなかった。
「間もなく上空三〇〇〇メートル、私はこれから"荷物"と共に目的地へ先行するが、一方通行、垣根帝督。
着陸の準備は出来ているかね?」
「問題ねェよ、今すぐここから振り落としてもらって構わねェ。
風斬、垣根、ションベン行くなら今のうちだぞ」
「も、もうっ! あなたはこんな時に・・・・・・!!」
「・・・・・・ハッ、間に合ってるっつうの」
「では、」
こんな時にこそ必要なふざけ合いをしている三人に、エイワスは微笑みを浮かべて言った。
「健闘を祈る。 グッドラック」
ドウッッ!!!!、と。
エイワスは流星のように夜空を駆けながら一足先に『目的地』へと急降下していった。
金髪の怪物の背中に乗っていた一方通行と垣根は上空三〇〇〇メートルの空へ放り出されてしまう。
しかし風斬はそんな二人に手を差し伸べる事は無かった。
一方通行は投げ出される瞬間に電極チョーカーのスイッチを切り替えて背中に四本の竜巻を接続し、
垣根帝督は『未元物質(ダークマター)』による六枚の白い翼を背中から現出させて飛んでいたからだ。
「第一九学区だったな。 人払いとか出来てんのかよ」
「なるよォになンだろ。 とにかく最優先はガブリエルの救出だ、周囲に雑魚が居たら容赦なく蹴散らせ。
『星の欠片』はひとまず置いといて、アレイスターは必要ならぶち殺す、必要ないなら放置、これでいいだろメルヘン野郎」
「必要なくてもぶっ殺してえとこだが、・・・・・・ひとまずそれで納得してやる」
「じゃ、じゃあ降下しましょう! 天使さんが待っています・・・・・・!!」
日本時間午後二時。『ゲーム』開始
『天使同盟(アライアンス)』は約一週間ぶりに学園都市へと"帰還"する。
――――――――――――――――――――――
学園都市は騒然としていた。
突如として発生した第一九学区からの謎の大爆発。
学園都市全域を比喩ではなく揺るがせたその現象は、第三次世界大戦からまださほど日が経っていないせいか
大勢の学生や大人たちの心に大きな不安を植えつけていた。
現在、全警備員(アンチスキル)と風紀委員(ジャッジメント)によって全力の警戒避難体制が敷かれ、
的確で素早い指示の下、学生達の避難活動が行われていた。
第一九学区と隣接している第四学区、第六学区、第一四学区は全面立ち入り禁止、
残る学区に住んでいる住人達も地下シェルターが備えてある各学区へと避難指示が出されていた。
ほぼ全ての住人が外へ出て緊急事態として急遽運転が始まった電車やバスに乗って
安全なシェルターへ避難していく。
各学区の中でも特に住人の数が多く、雑多な雰囲気を持つ第七学区で、上条当麻は同居人のインデックスを連れて
人混みにもみくちゃにされながら地下シェルターへ繋がる入り口へと足を運んでいた。
「っとと、めちゃくちゃ人が混んでんな・・・・・・。 警備員の指示があってもこの混乱っぷりかよ。
ちくしょう・・・・・・何だったんださっきの揺れは。 インデックス、絶対俺から離れんなよ」
「うん。 ちゃんとスフィンクスも連れてきてるし、平気なんだよ。 ・・・・・・・・・・・・」
白の修道服を来た銀髪のシスターの懐から、にゃあという今の雰囲気とはかけ離れた鳴き声が聞こえてきた。
「とうま」
「何だ?」
「・・・・・・ここから遠いところ、さっきの話してた第一九学区ってところ。 そこから異常なほどの魔力が
感知できるんだよ。 それも一つじゃない、二つ、三つ・・・・・・、・・・・・・? 魔力じゃない、何か変な力も感じるかも」
「ま、魔力!?」
上条は愕然とした。インデックスの言っている事が本当なら、今宵のこの騒ぎを引き起こしたのは
魔術師だという事になる。
第七学区から第一九学区までの距離はかなり遠い。そんな距離からでも感知できるほど魔力を秘める
魔術師とは一体どんな化物なのか、上条は考えるだけで背筋が凍った。
「今まで私たちは魔術に関するいろんな事件に巻き込まれてきたけど、
今回のこの騒ぎはそれらとは比にならない程の事件かも・・・・・・」
インデックスは何も上条の不安を煽るためにこんな事を言っているのではない。
ただ単純に、真実を述べているだけだ。
確かに上条当麻はインデックスというシスターと出会ってからというもの、様々な魔術に関する事件に遭遇していった。
何度もひどい怪我を負い、何度も命の危機に晒されてきたが、それでも守るべき者のために彼は生き延びてきた。
そんな上条が体験してきたどの事件よりも、今回のコレは危険度が違いすぎると魔道書図書館を司るシスターは言う。
だが彼もそれは肌で感じ取っていた。理解していた。
今、第一九学区で起こっている何かは、間違いなく世界規模クラスの大事件であると。
学園都市内で起きている事だというのに、世界全体の危機を上条は本能的に察知した。
(どうする・・・・・・?)
基本、彼は自分とは関係なさそうな危険なことには首を突っ込んだりはしない。
というか、普通の人ならそれが当たり前だろう。
しかし上条当麻は『幻想殺し(イマジンブレイカー)』という不思議な力を秘めた右手を見つめながら葛藤していた。
このまま放置しておいていい騒ぎなのか、魔術関連なら自分も向かうべきではないのか。
けれど向かえば、隣で不安そうな表情を浮かべているインデックスに危険が及ぶのではないか。
現にこうしている今も遠くの第一九学区の方からは大きな爆発音や得体のしれない音が絶えずここまで届いている。
ギリリと歯軋りをする上条に、インデックスはそっと彼の手を握って言った。
「・・・・・・行ってみよう、とうま」
「インデックス・・・・・・。 で、でも今回の事件は俺達には関係の無い事件だ!
魔術師だって、そう、何も悪いヤツだとは限らない。 案外第一九学区の研究所かなんかが
大爆発を起こしただけかもしれないし、魔術師だってたまたまそこに居た可能性だって・・・・・・」
「だから、それを確かめにいくんだよ。 とうまもこのままじゃ収まりがつかないんでしょ?」
図星だった。
インデックスは上条の心中を完全に察していた。察していながら、彼女は柔和な笑顔でそう言ってきていた。
「インデックス・・・・・・」
「大丈夫なんだよ。 私に何かあっても、とうまが守ってくれるよね?」
インデックスの表情にはまだ不安が残っていたが、その目は上条当麻という今までずっと自分を窮地から
救ってくれた男を信じている真っ直ぐな眼差しだった。
「・・・・・・・・・・・・ああ、行こう! インデックス」
「うん!」
意を決した二人はまずこの馬鹿みたいな数の人混みをどう切り抜けようかと考える。
と、そこで聞き慣れた声が上条の耳に届いた。
「おーいカミやん! こっちやこっち!!」
その野太すぎる少年の声は、この人混みの中でもバッチリと聞こえてきた。
上条はインデックスの手を握って声のした方へ人波をかき分けて進んでいく。
「青髪! お前まだ避難してなかったのか」
「それはカミやんも同じやろ! 人がせっかくええ気分で寝とったっちゅーのに・・・・・・
なんなんやこの騒ぎは。 まさかまた戦争が始まったゆーんやないやろな!?」
『三バカ(デルタフォース)』の一人、青髪ピアスはやたら量の多い手荷物を抱えながら
肩で息をしている。
余談ではあるが、大天使ミーシャ=クロイツェフにサムズアップを教えたのは彼である。
ただ単にミーシャが彼のサムズアップを目撃しただけなのだが。
「ん? 吹寄も一緒だったのか」
「何よその言い方は。 それより、私たちも早く避難するわよ。
第一九学区の騒ぎがこっちにまで飛び火してきたらたまらないわ」
相変わらず広めのおでことスタイル抜群の肢体が特徴的な吹寄制理は
背中にパンパンに膨らんだリュックサックを背負っていた。健康関連グッズでも詰まっているのだろうか。
そんな彼女は上条の手を握っている修道女を見て目を見開いた。
「・・・・・・ん? この子、どこかで・・・・・・」
「インデックスっていう俺にとって大事な人だ。 それより頼みがあるんだけど」
『大事な人』、というキーワードに顔を真っ赤にするインデックスを無視して、
上条は吹寄と青髪ピアスに言った。
「インデックスが抱えてる猫をお前らで預かってて欲しいんだ。
俺達はちょっと用事がある。 ここから離れなきゃなら―――」
その時、ズズゥゥゥン・・・・・・!!!、という爆発音が遥か遠くから聞こえてきた。
それに呼応するように地面が揺れ、周りにいる大勢の学生達から悲鳴が多数上がってくる。
第一九学区の騒ぎは勢いを増す一方のようだ。
「・・・・・・・・・・・・ッく!! 大丈夫かお前ら!?」
「うう・・・・・・もう、なんなのよこれは・・・・・・!!! もうすぐ『一端覧祭』が始まるっていうこんな時に
・・・・・・当日に向けて頑張った私の苦労が水の泡だわ・・・・・・!!」
「あかんな、こんな事になるんやったら大枚叩いてカナミンのブルーレイBOX買うとくんやった・・・・・・」
「とうま・・・・・・」
一層大きくなった喧騒に顔をしかめながら、上条は続けた。
「インデックス、スフィンクスこっちに渡せ。 ・・・・・・ほら、この猫をお前らで預かっててくれないか?」
「預かれって・・・・・・、貴様はどうするのよ!」
「俺達はちょっと行かなきゃいけない所があるんだ」
「こんな時にか? どこへ行くゆうねん」
それを言ったらこの二人は必ず制止してくる。今の上条にとってはその時間ロスすら惜しかった。
上条は半ば強引に吹寄にスフィンクスを押し付けると、インデックスの手を取って人混みの中に潜り込もうとした。
「ちょ、ちょっと待ちなさい上条当麻!! 貴様は―――、」
「あ、・・・・・・」
と、ふいに青髪ピアスが声を出した。上条と吹寄が眉をひそめながら青髪の方を向くと、彼は空を見上げていた。
気がつけば周りにいる学生たちもざわつきながら同じように空を見上げている。
上条とインデックス、そして吹寄も釣られて学園都市から見える曇った空を見ると、
「な、なんだあれ・・・・・・!?」
「・・・・・・・・・・・・流れ星?」
吹寄が言った『流れ星』という言葉はあながち間違いでもなかった。
皆が見上げる空から、"三つの光"が今まさに学園都市へ墜落せんと急降下しているところだったからだ。
上条達がいる距離からでは落ちてくるそれが何なのかは確認できなかった。
ただそれは、方向的に間違いなくこの騒ぎの渦中である第一九学区へ向かっていることだけは分かった。
「―――――ッッ!!?」
上条が声を上げる前に、もはや本日何度目になるかも分からない激しい爆音と震動が、
三つの光が見えなくなった数秒後に学園都市中へ駆け巡った。
戦況は、更に熾烈を、極めていく。
――――――――――――――――――――――
「・・・・・・・・・・・・オマエか」
「と、言うと?」
『人間』は上空から舞い降りてきた『三つの光』に睨まれていた。
舞い降りてきた、という言い方は間違いかもしれない。その『光』は宇宙から飛来した隕石のように
この第一九学区へと『衝突』してきたのだから。
「テメェがアレイスターなのかって聞いてんだよ」
もう一つの『光』が凄むような声色で言及してくる。
アレイスター=クロウリー。学園都市の統括理事長。
そして世界最高の魔術師である彼は、そんな言葉を受けても薄い笑みを崩さないでいた。
「天使さんは・・・・・・? ミーシャ=クロイツェフがここに来ているはずです・・・・・・!」
更にもう一つ、他の二つより一層光を放っているソレが、不安と憤怒が混じった表情を浮かべながら
アレイスターに問いかける。
「・・・・・・それよりまずは、挨拶をしようじゃないか。 初めまして、『天使同盟(アライアンス)』。
私は学園都市の統括理事長を勤めている、アレイスター=クロウリーという者だ。
こうして直に会うのは初めてだな。 私があまり外に出ないというせいもあるが・・・・・・。
私の存在はちゃんと認識できているか? こうして外出する事はあまりないものだからそれだけが心配だよ」
一方通行。風斬氷華。垣根帝督。
『天使同盟』の三人はついに、かつて魔術サイドの頂点に立っていた、そして現在は科学の頂点に君臨している人間、
アレイスター=クロウリーと接触した。
三人はその姿をしっかりと頭に刻みこむようにアレイスターの顔を睨む。
垣根帝督は、アレイスターが原因で発生した学園都市の悲劇を垣間見て、『闇』に堕ちていった。
風斬氷華は自身の身体をアレイスターに利用されて、かつて学園都市に、そして大切な友に甚大な被害を及ぼしてしまった。
そして一方通行は、何があっても守ると決めた打ち止め(ラストオーダー)を、アレイスターの計画の一旦として
散々利用され、振り回され、絶望の淵に追いやられた。
そして、それはまだ終わっていない。今も尚、三人はアレイスターの掌の上で踊らされている。
三人はその舞台から降りるために、こうしてここでアレイスターの前に立ち塞がっているのだ。
「アレイスター=クロウリー」
「何だ? 一方通行。 しかしこうして直接肉眼で君を確認すると、その成長ぶりが窺えるな。
まさかこんなにも早い段階で君と、君たちと対面することになるとは想定の範囲外―――」
「ガブリエルはどこにいる」
アレイスターの言葉を無視して、一方通行は尋ねた。
怒り狂うでもなく出合い頭に飛び掛かるでもなく、極めて冷静な様子で。
それでもアレイスターの表情は変わらなかった。彼は顔に笑みを貼り付けたまま答える。
「『神の力(ガブリエル)』、か。 ミーシャ=クロイツェフという誤った名前ではなく、
天使としての名で呼ばれることは彼女にとっては非常に嬉しい事なのだろうね」
「言葉が通じてねェのかクズ野郎。 呼び方なンざどォでもいいンだ、
ガブリエルはどこにいるのか聞いてンだよ」
それ以上の余計な言葉は紡がせない、と暗に示した威圧感をアレイスターは感じた。
やれやれ、と彼は杖を振って一方通行達の斜め後ろへと杖の先を向ける。
「なかなかに執念深かったよ。 最後まで君たちを守るために、彼女は懸命に戦った。
まったく・・・・・・これで天使だというのだから笑わせる。 滑稽極まりないな」
明らかに侮蔑の意を含んだアレイスターの言葉を無視して、三人は杖の先の光景を視界に収めた。
そこに映るは五階建てのビル。しかし五階から三階辺りまでの部分は粉々に吹き飛んでしまっている。
だが、その下、一階の部分が壊れて空いた穴から見えたそれを見て、一方通行は目を見開いた。
「気をつけたまえよ、"今はあんな状態だが"じきに目が覚める。 その時のミーシャが、君たちの見てきた
ミーシャだとは考えない方が身のためだ」
そこには、見るも無残なボロ布のような姿に成り果てたミーシャ=クロイツェフが地面に倒れたまま動かなくなっていた。
【次回予告】
『・・・・・・それで、どうする? このまま君たちが引き下がるというのなら私は何もしたりしない。
エイワスがいないようだが・・・・・・ふふ、今度はどこで何を企んでいるのやら』
―――――――――――学園都市統括理事長・アレイスター=クロウリー
『覚悟は出来てンだろォなオマエ』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)
『ごめんね・・・・・・ごめん・・・・・・なさい・・・・・・』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・風斬氷華
『bploa平気uydrv』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・ミーシャ=クロイツェフ
「て、天使さん!!!」
風斬は悲痛な叫びを上げながらミーシャに駆け寄ろうとするが、それを一方通行は片手で制した。
だが彼の視線も、垣根の視線も、そのままピクリとも動かないミーシャに向いたまま固定されている。
「死んではいないから安心していい。 もっとも、天使に死の概念など存在しないのだが。
本当に大変な"作業"だったよ、二度ほど致命傷を受けそうになってひやりとした」
「・・・・・・・・・・・・アレイスター・・・・・・!!!」
風斬は今まで一度も見せたことのないような激昂の表情を浮かべる。
それに呼応して彼女の背中から生えている雷光のような翼が激しく音を立てて紫電を撒き散らし、
頭上に浮いている、外周部に鉛筆のような棒が生えた輪が肥大した。
「怒り、か。 ヒューズ=カザキリ、やはりエイワスと同じ生産ラインで生まれた"人形"だけの事はある。
その仕草、表情、どれもが豊かで見ていて飽きないな」
「・・・・・・・・・・・・ッッ!!!」
一方通行が風斬の肩を掴んでいなければ、彼女はすぐにでもアレイスターに襲いかかっていただろう。
それほどまでに、風斬の『心』は憤激で満ち満ちていた。
「あ、一方通行さん・・・・・・離してください!! どうして天使さんがあんな目に・・・・・・。
一方通行さんや垣根さんはなんとも思わないんですか・・・・・・!!?」
目に涙を浮かべながら、震えた声で風斬は言う。
自分たちを守るために、そしてアレイスター個人の勝手な理由でボロボロにされて
倒れているミーシャを見ても、一方通行と垣根は何も感じていないのかと。
「・・・・・・それで、どうする? このまま君たちが引き下がるというのなら私は何もしたりしない。
エイワスがいないようだが・・・・・・ふふ、今度はどこで何を企んでいるのやら」
しかし、
「・・・・・・アレイスター」
風斬の肩から手を離し、涙を流す彼女の目元をそっと指で拭うと、
一方通行はアレイスターの方を振り返って言った。
「覚悟は出来てンだろォなオマエ」
ボンッッ!!!、という炸裂音と共に、一方通行の背中から翼が噴出した。
その翼を染め上げるは黒。怒りと憎悪に満たされた一方通行が放つ、全てを蹂躙し破壊し尽くす最強の翼。
それを合図に、垣根も背中から無機質な白い翼を六枚展開する。
学園都市第二位が誇る未知なる元素、『未元物質(ダークマター)』の翼を。
一方通行も垣根帝督も、アレイスターに対して言いたいことが沢山あっただろう。
今までよくも散々利用してくれたなとか、何度自分の大切な人達を傷つけ悲しませれば気が済むんだとか、
アレイスターの目的とは何なのか、『プラン』とは一体なんなのか、
学園都市の人間をゴミのように扱いやがって、いい加減にしろ、何様のつもりだ。
しかしそれらを全て放棄し、一方通行達はアレイスターに明確な殺意を向けた。
そして、
「やはりそうなってしまうか・・・・・・。 至極残念だ」
「垣根」
「ああ」
二人はほぼ同時にアスファルトの大地を踏みしめ、アレイスターに突撃した。
学園都市の第一位と第二位。科学サイドの龍と虎が、学園都市最強のタッグが、アレイスターへ牙を向ける。
「天使さん・・・・・・!!」
一方通行と垣根がアレイスターとの戦闘を開始した頃、風斬氷華はミーシャの下へ駆け寄っていた。
無残な姿に成り果てたミーシャを見て、今まで堪えてきた涙腺に限界が訪れる。
風斬は大粒の涙を流しながら倒れているミーシャの側で屈み込んだ。
「天、使さん・・・・・・。 どうしてこんな・・・・・・」
風斬はミーシャの頭を抱え、優しく頬を撫でながら声をかける。
彼女の流す涙が天使の顔に落ち、そのまま頬を伝って流れていった。
そこだけを見ると、まるでミーシャも涙を流しているように見える。
「ごめん、なさい・・・・・・ごめんなさい、私、あなたの本当の気持ちなんて、ちっとも・・・・・・」
「氷、華」
「!」
声がした。水のように透き通ったその綺麗な声は、どこかで聞いたことがあった。
普段はその声にひどいノイズがかかっている為、あまり耳に出来ないその天使のような声色は。
紛れもない、本物の大天使から発せられたか細い声だった。
「天使さん・・・・・・!」
「氷華」
風斬の表情が綻ぶ。天使には死の概念が無いとアレイスターは言っていたが、
それでもここまでボロボロになったミーシャがまた目を覚ましてくれるとは思えなかった。
嬉しさの反動で風斬の瞳から更に涙が溢れ出す。
ミーシャはその水晶のような彼女の涙を指でそっと、極めて優しく暖かな動作で拭ってあげた。
そして嗚咽を発する風斬の頭を『人間愛』に満ちたその手でゆっくりと撫でる。
あまりにも愛に満ちたその行為を受け、風斬はついにミーシャの胸に顔を埋めて泣き叫んでしまった。
「氷華。 大丈夫」
「ううう、ううううううう・・・・・・!!!」
「大丈夫」
何らかの力で弾き返されたのか、ミーシャの腹には彼女自身が作り出したのだろう氷の剣が三本も貫通している。
一体何が大丈夫なのか。五体満足とはいえ、全身の至る所に裂傷を負っているミーシャの、どこが大丈夫なのか。
死んだりしていないから心配はいらないという意味なのか、それとも『星の欠片の事なら大丈夫』とか、そういう意味か。
何も伝わらない。動作は優しくても、ミーシャの言葉はまるで機械音声のように感情が無かった。
「ごめんね・・・・・・ごめん・・・・・・なさい・・・・・・」
「bploa平気uydrv」
風斬の背後で凄まじい爆発が起きた。一方通行達の戦闘が激化していっているのだろうか。
それによって発生した烈風を背で受けても、風斬はただひたすら涙を流しミーシャに謝罪の言葉を繰り返す。
風斬はミーシャの胸から顔を上げ、ゴシゴシと目元に残った涙を拭う。
拭っても拭っても零れてくる涙を、彼女はギュッと強く瞼を閉じることで強引に止める。
そして無理矢理な笑顔を作って言った。
「逃げましょう、天使さん。 こんな危険なところからは早く離れたほうがいい・・・・・・。
エイワスさんが言うには、ここにいる敵はアレイスターだけじゃないみたいです。
さっきからあちこちで銃声みたいな音も鳴ってますし・・・・・・ここは危険すぎます」
「氷華」
「大丈夫です。 アレイスター・・・・・・あんな悪いヤツなんて私たちでやっつけちゃいますから。
それで、『星の欠片』もみんなで知恵を絞れば絶対に打開策が見つかるはずです。
まだ時間はあります。 だから急いでここを・・・・・・」
と、風斬がミーシャを抱えて第一九学区から離れようとした時、
『繋がった?』
風斬の頭の中に、不思議な声が響いた。
「え・・・・・・?」
『良かった、聞こえてる』
風斬は忙しなく首を動かして辺りを見回す。
しかし風斬の『耳』に届く音は、さっきから断続的に聞こえてる戦闘の騒音だけで、
頭の中に響いてきた澄明な声とはまるで違っていた。
澄明。
「え、もしかして・・・・・・」
『驚かせてごめんね、氷華』
信じられなかった。でも疑いようがなかった。
頭の中で響いているにも関わらず、全くと言っていいほど不快感が無いその声の主は、
ミーシャ=クロイツェフのものだった。
彼女の声に驚いたのはさっきのと合わせて二度目だ。
まず先程の声は全くノイズが混じっていなく鮮明に耳に届き、その事実だけでも驚愕に価するのに
今度は脳内、しかもかなり流暢に言葉を紡いでいる。
しばらくリアクションを取ることを忘れていた風斬はやがて我に返り、
「て、天使さん、どうやって・・・・・・?」
『逃げて』
風斬の疑問を無視して、ミーシャは逃走を促しながらボロボロの身体を引きずるように動かす。
腹に刺さった氷の剣を引き抜き、ミーシャの無茶な行動を止めようとする風斬を片手で制しながら、
彼女は続けた。
『アレイスター=クロウリーも言っていたけど、もうじき私は私じゃなくなる』
「どういう・・・・・・事ですか・・・・・・?」
『私はoebyhju言うfetyxを・・・・・・ごめんなさい。 ・・・・・・・・・・・・、私は水という属性を司る天使。
いいえ、もうすぐ私は「天使」ですらなくなる』
崩れたビルの壁に手をつきながらミーシャは精一杯言葉を紡いでいく。
『天使という存在でありながらこのetghvs、・・・・・・この人間界へ依存し、定着した私は、もう天使ではなくなる。
「神」に見捨てられ、そして人間にすら破れた私は堕落する。 堕落した天使に待っている末路は―――』
言いながら、ミーシャは手で頭を抑えながら俯いた。
天使が天使でなくなる。彼女の身に、何か危険な前兆が起き始めているのだろうか。
それでもミーシャは立ち上がった。自分のせいで、自分がアレイスターに敗北したことで
招いてしまった、この悲劇を食い止めるために。
風斬はミーシャの言っていることが理解できなかったが、それでも今のミーシャが
これ以上動いたらさらに大変な傷を負ってしまうことだけは分かった。
「天使さん、そんな身体で動いたら・・・・・・!」
『彼と、帝督が・・・・・・。 彼らを止めないと。 あの魔術師は人間の身でありながら既に"私達"と
同じ領域に佇んでいる。アレイスターは"神ならぬ身でありながら、既に天の意志に到達している"・・・・・・』
風斬は眉をひそめた。今ミーシャが言った言葉のどこかに、聞き覚えのあるワードが混じっていた気がする。
しかし今はそんな曖昧な記憶を探っている場合ではない。
「動いちゃいけません! これ以上無茶をしたら本当に――――、」
無理やりでもミーシャを食い止めようとしたとき、
風斬達の目の前の景色が『歪曲』した。あまりにも巨大なその爆発は、
彼女たちの視界を白一色に染め上げる。
粉々になった地面から吹き出る粉塵で激しく咳き込む風斬。
段々と元の色を取り戻していく風斬の視界には、またしても信じがたい光景が広がっていた。
「あ、一方通行さん・・・・・・垣根さん!!」
爆発の正体は、学園都市の第一位と第二位は地面に叩きつけられた、ただそれだけの事だった。
だが冷静に考えてみて欲しい。
片やこの世に存在しない物質を自由自在に生み出し物理法則を捩じ曲げる『未元物質(ダークマター)』。
片やこの世に存在する全てのベクトルを自由自在に操作できる『一方通行(アクセラレータ)』。
第三位以下のレベル5の差を凄まじく突き放す最強のトップ2が、まとめて地面に伏しているという状況はあまりに絶望的だった。
「が、はァ・・・・・・ッ!?」
「・・・・・・・・・・・・ぐ・・・・・・、」
一方通行の背から噴出していた禍々しい黒の翼も、今ではその勢いが著しく霧散している。
垣根帝督の背から現出していた無機質な白の翼も、今では所々が砕け散り、見ただけで痛々しさが伝わる。
二人は身体の至る所から出血しながら苦痛の表情を浮かべてよろよろと地面から立ち上がる。
その先。晴れてきた粉塵から見える人影。
「クソ・・・・・・ったれがァ、どォなってンだちくしょう・・・・・・!!」
「テメェ・・・・・・"魔術じゃねえだろそれ"」
二人はその人影に視線を向ける。
粉塵の奥から歩いて来る緑色の手術衣の魔術師を見て、風斬は驚愕するしかなかった。
アレイスター=クロウリーは、第一位と第二位を相手にしながら未だ無傷で君臨していた。
「そ、んな・・・・・・」
「風斬、オマエはとりあえずここから離れ――――、・・・・・・!?」
今度は後ろを振り向いた一方通行が驚愕する番だった。
ついさっきまで屍のように倒れて動かなかったミーシャ=クロイツェフが、
ふらふらと頼りない足取りでゆっくりとこちらに歩いて来るのを見たからだ。
そんな彼女の姿を見て、一方通行は拳を強く握りしめて歯噛みする。
正直、見ていられなかった、見たくなかった。
出会ってから今日まで、常に天真爛漫に振る舞ってきたミーシャ=クロイツェフと、
現在こうして瀕死の状態で、それでも自分たちを守ろうとするミーシャ=クロイツェフを
どうしても同義したくなかった。
風斬は死に物狂いで伝えてきたミーシャの言葉を彼らに伝える。
「あの、天使さん・・・・・・もうすぐ"自分が自分じゃなくなる"って・・・・・・」
「?」
一方通行と垣根は反応できなかった。自分が自分じゃなくるとはどういう意味か、
天才的頭脳を誇る二人の頭でもそれは理解出来ない。
代わりに、世紀の大魔術師がその答えを口にした。
「さっきも言っただろう? 間もなくミーシャ=クロイツェフは天使として存在できなくなると。
それは『星の欠片』の消滅によって彼女が『位階』へ還る事を意味しているのではない。
知っているか? 自身の存在を見失い、堕落し、暴走した天使の事を――――――――」
「ecnasef討asncfui」
「きゃっ!?」
ドンッ!!、とアレイスターが語っている途中で、ミーシャは翼も生やさず跳躍してアレイスターに飛びかかった。
一方通行と垣根の頭上を飛び越え、掌に集めた『天使の力(テレズマ)』をアレイスターに喰らわせるために。
対するアレイスターの行動はひどく単純だった。手に持っている杖をほんの少し振り上げ、
「――――――『悪魔』と呼ぶのだよ。 申し訳ないが私はそんな物を相手にしている暇はないのでね。 ・・・・・・・・・・・・"散れ"」
コツン、と。『衝撃の杖(ブラスティングロッド)』の先端を地盤が捲れたアスファルトの大地にぶつけた。
アレイスターの鼻先まで接近したミーシャの掌が、彼に届くことはなかった。
咲いた花の花弁のように広がっている『衝撃の杖』の先端が、逆再生するようにつぼみへ戻ると、
またそこから猛烈な勢いで"咲き開いた"。
その薄い金属のような物質で構成された"花"の中心部に埋め込まれている水晶のような塊が
一瞬だけ激しく発光した。
瞬間、アレイスターを中心に爆発的な衝撃波が発生し、それは球状に広がって
付近にいたミーシャ=クロイツェフ、一方通行、垣根帝督を飲み込んだ。
「―――――――ッ」
声を発することも許されなかった。その圧倒的な破壊力は一方通行の『反射』など軽々と突き破り、
垣根帝督の『未元物質』の防御を押しのけ、ミーシャ=クロイツェフの『天使の力』を蹂躙する。
その球状の衝撃波は視認できるほどに色濃く、強力で、周囲にある建造物を粉々に砕き、
数秒も経たない内に半径約一キロメートルもの範囲に拡大した。
さらにその爆発によって生じた暴風が、第一九学区という街を破壊していく。
『第一九学区にはまだ利用できる価値がある』と言っていたアレイスターの言葉とは裏腹に、
彼は何の躊躇いもなく自らが作り上げていった世界を破砕していった。
(・・・・・・それぞれが上手く別の方向へと散ったか。 これでいい、エイワスとの戦闘に備えるためにも、
私が今ここで無駄に消耗するわけにはいかないしな。 垣根帝督は『ファイブオーバー』と"その中身"に
相手をさせていればいい。 一方通行は十中八九、ミーシャ=クロイツェフと接触するために
彼女を捜し求める。 そして今、この第一九学区に潜んでいる"『天使同盟(アライアンス)』以外の鼠"は
・・・・・・・・・・・・全てを終えた後に私の方で処理するか)
一方通行、垣根帝督、ミーシャはアレイスターの前から姿を消していた。
先程のアレイスターの攻撃で跡形も無く消滅したわけではない。アレイスターが故意に
彼らを散り散りにしたのだ。
アレイスターがいる地点の周囲は、もはや地獄絵図と化していた。
ついさっきまで密集していた建造物は森林伐採をしたかのように綺麗に吹き飛んでおり、
その衝撃波は遙か数キロ先に立ち並ぶビルやマンションが確認できるほどの規模だった。
「さて、」
アレイスターはパシン、と杖の先端を掌へ軽く叩きつけながら笑みを浮かべる。
「それで、見苦しくも今の私の魔術に耐え切った君は、どうするかね?
素直に『アストラル界』にでも還った方が懸命だと私は思うけどな」
「・・・・・・『虚数学区』の事ですか」
アレイスターがいる周辺には、雪のように淡く輝く綿のようなものが、
あれだけの爆風が起きたにも関わらず、ふよふよと漂っていた。
それは、光る鱗粉。
アレイスターが見据える視線の先にいる、科学の力で構成された人工天使、
ヒューズ=カザキリの翼から生み出されている光の鱗粉だった。
「素晴らしい反応だったな、私が『衝撃の杖』を展開させた時には、
既に君はその『擬似エーテル』の元素で壁を作っていたわけだ。
もっとも、一方通行達の壁を作るまでには至らなかったようだが」
「・・・・・・彼らは必ず無事でいます。 あなたのような人間に、彼らを討てるわけがない」
「ほう。 しかし現状はこの通りだが・・・・・・どう出るつもりだ?」
「私が・・・・・・・・・・・・、」
風斬氷華は行方が分からなくなった一方通行達の事を、今だけは考えないように
一度ゆっくりと目を閉じる。
そして、次に開いた時、彼女の瞳にはこれまで見せたことのないような勇ましい光が宿っていた。
「ここで私が、あなたを止めます。 アレイスター=クロウリー」
「愉快だよ、"人形"」
アレイスターは楽しそうな、とても愉しそうな笑顔を風斬に送り返した。
『人形』が、『人形師』に謀反する。
【次回予告】
『テ、メェ・・・・・・・・・・・・そのふざけた仮面は・・・・・・ッ!!!』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・垣根帝督
――――――――――――――――――――――
"目に映る光景が全てゴチャ混ぜになる瞬間"を、垣根帝督は久々に体感した。
今まで彼は能力者同士の戦闘では無類の強さを誇っていた。
こんな風に、景色がぐるぐると回転するほどの衝撃を喰らったのは一〇月九日の対一方通行戦の時以来だったか。
やがてアレイスターによる魔術での攻撃で吹き飛ばされていた自身の肉体が停止する。
全身がズタボロになりながらも、垣根は痛みを堪えて立ち上がった。
荒い呼吸を繰り返しながら、肺から奪われた酸素を急ピッチで取り込んでいく。
「ぜぇ・・・・・・はぁ・・・・・・クッソ・・・・・・!!! ・・・・・・どの辺だここは」
垣根は辺りを見回す。第一九学区外まで吹き飛ばされたという事は無いようだった。
何らかの衝撃でへし折れたのか、信号機の上に付けられていた看板に『第一九学区』と書かれていたので確認が出来た。
周りに"人の気配"は無い。どうやら相当の距離まで吹き飛ばされたようだ。
垣根帝督は拳を強く握り締めながら今自分が立っている三車線の広い道路のど真ん中で
口に溜まっていた血糊を吐き出す。
(アレイスターの野郎・・・・・・完全に遊んでやがる・・・・・・!!)
格の違い、というものを見せつけられた気がした。
お前のような人間などいつでも殺せます、というアピールをされた気がした。
魔術師、アレイスター=クロウリーは学園都市第二位の超能力者にそこまで思わせるほどの力を秘めていた。
しかもそれでいて、依然アレイスターは遊んでいる。
一瞬、背中に寒気のようなものを感じたが、垣根はブンブンと頭を振って無理やり払拭させた。
(とにかくアレイスターのクソ野郎を捜さねえと・・・・・・せっかくここまで辿り着いたんだ。
もうここまで来たら『天使同盟』なんざ必要ねえ。 あとは俺がアレイスターの首を掻っ切るだけだ)
垣根帝督にとって、『天使同盟』はアレイスターと直接接触するための『橋』だと、彼はこの時思った。
そして悲願は達成寸前のところまで来ている。アレイスターに出会えた、あとはそのアレイスターを殺すだけ。
だから、風斬氷華がどうなろうが知った事ではない。エイワスなど以ての外。
ミーシャ=クロイツェフが天界へ還ろうがどうなろうが、どうだっていい。
一方通行が殺されようが、垣根にとってはむしろ好都合だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
本当に?本当にそうだろうか?
垣根は『天使同盟逢引計画』で交わした一方通行との会話を思い出す。
(・・・・・・知るかよ、クソったれ)
ともあれ、まずはさっき居た地点まで戻ってみることにした垣根帝督。
しかしその最初の第一歩が踏み出される事は無かった。
「ッ!!?」
突然、垣根の眼前に迫ってきたのは、閃光。
垣根は恐ろしい反射速度で『未元物質(ダークマター)』の翼を前面に展開。
辛うじてその閃光を防ぐことに成功する。
『未元物質』の翼に触れた閃光は、凄まじい衝撃音を放ち消滅した。
垣根帝督はこの感覚に妙な既視感を感じる。
(・・・・・・今の攻撃、どこかで・・・・・・?)
実際に見たわけではない、と垣根はこの既視感について分析する。
直に見たわけではない、ただ何かの情報を得たときについでに得た情報のような、
なんとも言えない不思議な違和感だと思った。
そして、垣根が立っている道路の向こう側から何かが近付いてくるのを感じる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、なんだありゃ? 『駆動鎧(パワードスーツ)』・・・・・・か?」
人ではなかった。
垣根帝督に向かって真っ直ぐ近付いてくるそれは、誰が見ても『ロボット』を連想させる物体だった。
そして垣根はそこまで駆動鎧に詳しいわけではなかった。なので近付いてくるそれを完全に目視しても、
どういうタイプの物でどういう機能を備えているのか推測出来なかった。
ただ、垣根はその駆動鎧の外観を見て『カマキリ』を連想した。
その駆動鎧の全長は、およそ五メートルといったところか。
学園都市の駆動鎧は多種多様に存在するが、取り立てて巨大というわけではない大きさだ。
しかし異様なのは、その姿。カマキリを連想させるそのボディデザイン。
カマキリと言ってもその駆動鎧は二本の脚に二本の腕、そして二本の鎌を構えているという
妙な体勢をとっていた。
そしてパカッと開かれた装甲からは、それこそ虫のような薄い半透明の羽根が
人間の目では捉えきれないほどの速度で羽ばたいていた。
(・・・・・・あの羽根で空気を叩いて渦みてえな気流を生み出して、揚力を得てやがるんだな)
普通の科学力なら全長五メートル以上の機械の塊をあんな薄い羽根で浮かせる事など出来ないかもしれないが、
ここは学園都市だ。必要ならば本気でアニメに出てくるようなロボットも量産出来るかもしれない。
しかし垣根が一番気にかかったのはそんな小さな事ではない。
駆動鎧の背部に取り付けられているタンク、恐らくは銃弾か何かを収めておくような部分、ではない。
前脚の先端にある保護カバーから覗いている、束ねられた三本の銃身、でもない。
その前脚の保護カバーに刻印されている文字。
Gatling_Railgun'。
ガトリングレールガン。『超電磁砲』。
確かそれは、学園都市の超能力者(レベル5)第三位が冠する異名ではなかったか?
「ハッ」
垣根が失笑した直後、
――――――ッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!と、もはや銃声というものすら
聞こえないような暴風が第二位を粉々に砕くために襲いかかってきた。
直径一メートル程の弾丸が、一分間に四〇〇〇発を超える速度で、電磁力の原理を利用して撃ち出されていく。
垣根が立っていた地点で、巨大な爆発が発生した。
弾丸を撃っているというのに、爆発が発生した。
その現象が、このガトリングレールガンという駆動鎧の破壊力を如実に表していた。
「で? それで終いかクソ雑魚ども」
爆炎と爆煙の中から聞こえたのは、そんな言葉だった。
ボバッッ!!!、という衝撃音と共に"白い繭"が煙の中から飛び出してきた。
「『FIVE_Over. Modelcase_"RAILGUN".』、なぁ。 第三位の『超電磁砲』を
機械的に再現した駆動鎧か。 学園都市も面白えオモチャを作ってやがるじゃねえか」
繭がゆっくりと解けていく。そこから姿を現したのは、言うまでもなく学園都市第二位の超能力者だった。
垣根帝督は威力だけなら本家の『超電磁砲』を超える威力のガトリングレールガンを真正面から喰らっても
全くの無傷を維持していた。
彼は反射速度ではなく『予測』でファイブオーバーのガトリングレールガンを防御するため、
『あらゆる電力と衝撃、砲弾という物理的衝撃を遮断する法則』を組み込んだ『未元物質』を現出させたのだ。
これが、第二位の超能力。
第二位と第三位の間に立ち塞がる壁は、あまりにも巨大で強固だった。
本家『超電磁砲』より応用性が無いファイブオーバーだと尚更だ。
「俺を蜂の巣にしてえなら、そのオモチャをあと一〇〇体は持ってこい。
それらで一斉に襲い掛かれば俺にカスリ傷くらいは負わせられるかもな」
言うやいなや、垣根帝督は空中に停滞したまま『不可思議のベクトル』を組み込んだ烈風を六枚の翼から
発生させた。ファイブオーバーは完全自立AIではない。乗り込んだパイロットの脳を演算コアに指定し、
それを徹底的に補強する形で駆動用コンピュータが周囲を取り囲む、という方式になっている。
簡単に言えば人間が乗り込んである程度操作しなければならない駆動鎧であり、
人間である以上その反射速度には限界が存在する。
垣根の放った烈風は音速の域を超えていた。その上ノーモーション、更に『不可思議のベクトル』によって
原因不明の破壊現象が発生し、ファイブオーバーはあっという間に高価なガラクタと化してしまった。
「悪いな。 俺の『未元物質(ダークマター)』に、常識は通用しねえんだよ」
解体されていくファイブオーバーを空中から見下ろしながら垣根は独り言を呟く。
だが、それは独り言にはならなかった。
「そうか。 だが常識が通用しないのは"我々も同じだ"」
機械音声のような、しかしそれとはまた違う、妙な音質でそんな言葉が聞こえてきた。
破壊される寸前に、機体前面にあるコックピットハッチがグシャァッ!!、という音と共に開かれ、
そこからパイロットであろう男が飛び出してきた。
そのパイロットは空中に飛び出したまま、しかし地面に降り立つことはなかった。
「・・・・・・・・・・・・な、に・・・・・・!?」
ファイブオーバーを目の当たりにしても余裕の笑みを見せていた垣根帝督は、今度こそ驚嘆した。
駆動鎧のパイロットは全身を黒のコスチュームに包んでおり、それは暗部などでよく見かける
『警備員(アンチスキル)』の武装によく似た形状の出で立ちだった。
しかし、圧倒的に異なる部分がそのパイロットには見受けられた。
「テ、メェ・・・・・・・・・・・・そのふざけた仮面は・・・・・・ッ!!!」
「見覚えがあるか? 当たり前か」
パイロットは垣根と同じ高度で停滞したまま"翼を羽ばたかせ"、くだらなそうな声色で言った。
「貴様が今背負っている翼と"全く同じ素材"だからな、この仮面は」
パイロットの――恐らく男だろうか――装着している仮面は、白と金で装飾されており、
縦の長さが顔の二倍以上もある異様な形相だった。
白くのっぺりとしたその仮面には目や口などの穴が空いておらず、仮面全体がLEDデコレーションのように
発光し、色鮮やかな模様を描いている。
そのLED発光によって、白い仮面にはこんな文字が浮かび上がっていた。
Equ.DarkMatter。
確かそれは、学園都市の超能力者(レベル5)第ニ位が冠する異名ではなかったか?
「科学技術の性能と『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』、一体どちらが秀でているのかな?
貴様がいつまでも学園都市の第二位として君臨し続けていられると思ったら大間違いだ」
垣根帝督はこみ上げてくる怒りでこめかみの血管が破裂するかと思った。
目の前の仮面の男に怒っているのではない。
恐らくは、一〇月九日に『死』に至った垣根帝督の脳を利用してこの仮面を、猿真似の第二位を作り上げた
学園都市に。アレイスター=クロウリーに対して怒っているのだ。
「くふ、は、」
あまりの憤激に垣根は変な笑い声を漏らしてしまった。その怒りは、油断すれば
自身の人格まで歪めて、破壊してしまいそうなほどにまで高まっていた。
垣根は、漠然と思った。
この街はもうダメだ。
第四位は既に玩具にされている。ボロボロになった肉体を学園都市の技術の試験として改造し尽くしたことで。
第三位は既に玩具にされている。筋ジストロフィーの治療の為だと言われて提供したDNAサンプルのせいで、
彼女はこの世の『闇』の一部を垣間目撃し、絶望の淵へ追いやられている。
第二位は既に玩具にされている。今もこうして、『自分だけの現実』を利用されてアレイスターのために貢献している。
「第三次世界大戦時、ロシアに投入された『未元物質』の仮面と、"我々"の装着しているこの仮面は
既に絶対的性能差がある。 我々が装着しているこの『未元物質』は、貴様の『自分だけの現実』を
"一〇〇パーセント実現させることが出来る"。 貴様のオリジナルとこの仮面の応用性に差は無い」
仮面の男が何かを言っていたが、垣根の耳には右から左だった。
第五位はどうなのだろうか?確か『心理掌握(メンタルアウト)』だったか、あれもいずれはこんな風に
玩具として利用されるのだろうか。第六位は?七位は?こんな腐った街に居れば、いずれ彼らも食い物にされる。
そして第一位は?彼はアレイスターにとっての『第一候補(メインプラン)』だが、そう認識されている事こそが
既に彼の玩具として扱われているということではないのか。
今までこんな事を考えたことはなかった、と垣根は自身の思考に驚く。
アレイスターとの交渉権を手に入れ、隙をついてアレイスターの『プラン』を潰す。
その事ばかりを考えて、垣根は暗部として活動してきた。
そしてその野望は一方通行によって頓挫する。
エイワスの手によって『復活』した垣根は、『天使同盟(アライアンス)』と合流した当初は
本気で一方通行を始末しようと考えていた。
でも、今は―――――。
『―――――だったら、オマエもガブリエルを守れよ』
黄泉川愛穂という人物が提案したくだらないデート計画の時、一方通行は垣根に言った。
ミーシャ=クロイツェフを一緒に守れ、と。それが『天使同盟』の構成員の義務だと、彼は言っていた。
『オマエにはもォ帰る場所もあるし、帰りを待ってくれるやつもいる。
俺もオマエも、全く変わらねェってことだ。 わかったかこのメルヘン野郎が』
一方通行は言った。垣根にはもう帰るべき場所があると。帰りを待ってくれる人がいると。
垣根はその時なんと答えた?
『守ってやるよ、ミーシャも、風斬も、「天使同盟」も、何もかも。
俺の居場所なんだろ? ぶっ壊されちゃたまんねえ』
そうだ。
やっぱり、違う。『天使同盟』は垣根をアレイスターの下へ辿り着かせるための『橋』じゃない。
『天使同盟』は、そして学園都市は、垣根帝督の帰るべき場所。
垣根の帰りを待ってくれている人がいる、大切な場所。
『協力してやる。 ――――――』
「―――――・・・・・・今度は嘘じゃねえ」
垣根帝督は怒りで沸騰しそうになっていた頭を冷静にする。
緩やかに息を吐き、全神経を研ぎ澄まして自分の状態をベストコンディションにする。
「守らねえとな」
「?」
『未元物質』の仮面を装着した男は、垣根が何を言っているのか分からなかった。
だが伝わらなくていい。それは、垣根が自身に言い聞かせた言葉なのだから。
ようやく追いついた。『天使同盟』の皆の気持ちに、ようやく追いついた。
守らなければ。学園都市を、『天使同盟』を、ミーシャ=クロイツェフを。
そのためには、目の前にいるクソったれの猿真似野郎を叩き潰さなければならない。
そして垣根の帰る場所を腐らせている、アレイスター=クロウリーという魔術師を討たなければ。
垣根は目の前にいる仮面の男を睨んだ。状況は実に把握しやすい。
倒すべき『敵』を倒せば、居場所は守れる。
「・・・・・・ふん。 何を決意したのか知らんが、そんな顔をしても無駄だ」
仮面の男は無機質な声でそう言った。
そしておもむろにサッと右腕を天に向かって上げる。
それを合図に、空中から、地上から、わらわらと何かが湧き出してきた。
「リクエストにお応えしようか、垣根帝督。 貴様は先ほど、
『俺を蜂の巣にしてえならそのオモチャをあと一〇〇体は持ってこい』、と言っていたな?」
湧き出してきたそれは、さっき破壊したタイプと全く同じ駆動鎧、『ファイブオーバー』。
そして目の前にいる白と金の仮面を被った戦闘員だった。
しかも『ファイブオーバー』や仮面の兵士は一人や一機ではなかった。
ニ、三、いや一〇、二〇・・・・・・・・・・・・。
「まぁ、今この周囲に配備されている『回収部隊(アンチツヴァイ)』は貴様の要望の一〇〇には満たないが・・・・・・、
それでも五〇以上は参戦できる。 どうだ? これなら貴様も少しは喜んでくれるんじゃないか?」
気がつけば、垣根帝督の周りには『ファイブオーバー』と仮面の軍隊が彼を取り囲むような配置で
出現していた。目の前の仮面の男の言ったとおり、合わせて五〇以上の数が確認できる。
『回収部隊(アンチツヴァイ)』。
『未元物質』の仮面の兵士と『ファイブオーバー』のみで構成された、"『第二候補(スペアプラン)』回収部隊"。
垣根帝督を"回収"するためだけにアレイスターの直接指揮で組まれた即席の部隊だ。
「わざわざ俺のためにこんなキャストを送り込んでくれたのか? 感謝しねえとな」
「必要ない。 貴様の脳さえ回収出来れば、貴様を殺しても構わないのだから。
そして我々はもちろん、貴様を殺すつもりでいる。 この仮面があればオリジナルはもう必要ない」
そして仮面の男は止めと言わんばかりに、垣根にこう告げた。
「『Equ.DarkMatter』を装着した兵士が一〇〇〇人、そして駆動鎧『FIVE_Over. Modelcase_"RAILGUN".』が五〇〇機。
ファイブオーバーに乗り込んでいるパイロットはもちろん全てが私と同じ、仮面の兵士だ。
合計一五〇〇の『回収部隊(アンチツヴァイ)』が、貴様の命に照準を定めている。
一〇〇は連れてこいと言っていた貴様のリクエストに応えられて我々も非常に嬉しいよ、垣根帝督」
そう言われても、垣根帝督の表情に変化はなかった。
『超電磁砲』の"応用性"を捨て、"威力"に特化した駆動鎧五〇〇と、垣根の演算パターンを完璧に
再現できる『未元物質』の仮面を装着した兵士が一〇〇〇人。
垣根帝督を回収するためだけに構成された即席部隊とはいえ、それはあまりにも豪華すぎる顔ぶれだった。
『回収部隊』だけで一国と戦争が出来るのではないかと思えるレベルの戦力だ。
「第一九学区に一五〇〇の勢力が揃ってやがるのか? どこにコソコソ隠れてやがるんだか」
「地下だよ。 さすがに全勢力を一斉に表へ出すことは出来ん。 学園都市の人間に目撃されても
困るし、何より我々は暗部だ。 全勢力で一気に攻めるなどという派手な真似はしない」
「ハッ、あんだけ銃声や爆撃音を鳴らしまくっておきながら何を言ってんだ」
「それは我々だけが原因ではない。 何やらこの第一九学区にワケの分からん"ネズミ"が何匹か紛れ込んで
我々の戦力を削いでいるとの情報が入っている。 ・・・・・・が、それは貴様には関係の無いことだ」
垣根は訝しげに眉をひそめた。
第一九学区に潜むネズミ。一方通行や風斬の事かと思ったが、彼らは『天使同盟』であって
アレイスターも予期せぬ来訪客ということはあるまい。
なら、誰か他に第一九学区に潜んでいる謎の勢力が・・・・・・?
「さて、ではそろそろ回収させてもらうが、構わないな?
申し訳ないが最期の一言を聞くほどの慈悲は持ち合わせていないのでな」
あちこちから奇妙な音が聞こえてきた。
ファイブオーバーが銃弾を装填する音、『未元物質』の仮面が白い翼を展開する音。
垣根はそれでも臆しない。その表情には、不敵な笑みしか見られなかった。
「来いよ猿真似野郎ども。 テメェらが俺の居場所を荒らすってんなら容赦はしねえ。
お前らに垣根帝督ってのがどんなヤツかを教えてやるよ!!!」
「攻撃開始」
第一九学区の一角から、色と音が消える。
垣根帝督が挑むは、五〇〇人の第三位と、一〇〇〇人の第二位。
彼はいつまで、第二位として君臨できるのか。
【次回予告】
『ガブリエル・・・・・・俺の声が聞こえねェのか!! 俺が誰だかわからねェのか!!?』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)
『うが、が。 う、ggggggggggggggg―――――――』
―――――――――――水を司る『大天使』・ミーシャ=クロイツェフ
――――――――――――――――――――――
無造作に腕を振るうだけで、辺りのビルが吹き飛んでいった。
乱暴に翼を振るうだけで、地殻がめくれ上がり、烈風が巻き起こり、
第一九学区の商店街を瓦礫の山に仕立て上げた。
掌から『天使の力(テレズマ)』を発射するだけで、ズン!!!という爆発音と共に
その地点に大きなクレーターが出来上がった。
それが、大天使の力。ミーシャ=クロイツェフの驚異。
そして彼女は今、天使ですらなくなりかけていた。
「nfgheaghbvuう、ううsqfiugうううううぐnhwevb」
ノイズだらけの呻き声を上げながら、ミーシャはひたすら暴れ続けていた。
アレイスターの魔術によって吹き飛ばされて来た場所は、第一九学区と第四学区の
境界線近くの場所だった。
ロシアでの一方通行との接触と、『天使同盟』での生活で手に入れたミーシャの自我は、
もはや風前の灯火と化していた。わずかに残った自我の葛藤と、間もなく訪れる自身の崩壊の恐怖とが
ぐちゃぐちゃに混ざり合い、ミーシャは自分というものを保てなくなっていた。
結局、アレイスター=クロウリーは倒せなかった。結果、一方通行達を巻き込んでしまう事となった。
その自責の念の一押しもあり、彼女の『悪魔化』を促進していく。
身も心もボロボロになってしまったミーシャ=クロイツェフは、
「見つけたぞクソ天使。 ・・・・・・ったく、学園都市をこンなに荒しちまいやがって。
これ誰が復旧費用出すンだァ? また俺に借金背負わせる気かよオマエは」
そんな声を聞いて、ピタリと破壊活動を止めた。
カツッ、カツッ、と突起物が地面を叩く音がする。靴底が地面を叩く音が、ミーシャの下へ近付いてくる。
ぐにゃぐにゃに歪んだ視界で、ミーシャはその音と声の正体を捉えた。
白よりも白い髪、白い肌。その白に浮かんでいる、真っ赤な眼光。
図らずもミーシャに自我というものを植えつけた張本人が、そこにはいた。
学園都市最強の超能力者(レベル5)、第一位の一方通行。
彼はミーシャから五メートル程離れた位置で歩みを止めた。
その体はアレイスターの攻撃によるものか、衣服は擦り切れ、露出している手や顔には
至る所に血が滲んでいた。
「帰るぞ、ガブリエル」
彼女の本来の存在を示す名を呼びながら、一方通行は言う。
「こンなところで暴れてたってしょうがねェだろ。 オマエはただでさえ目立っちゃいけねェってのに、
これ以上俺達を困らせンじゃねェよ・・・・・・バカが。 おとなしく黄泉川ン家にでも向かってろ。
アレイスターのクソ野郎は俺達でなンとかしておくからよ」
返事はなかった。ミーシャは両手で頭を抱えて呻くだけだった。
必死に何かに抗うように、背中から生えた水晶の翼を振り回して無差別に攻撃をする。
(ちくしょうが・・・・・・!!)
ミーシャの攻撃をギリギリで回避しながら、一方通行は下唇を噛んだ。
もう目の前の天使は一方通行すら見えていない、下手をすれば覚えてすらいないかもしれない。
ミーシャ=クロイツェフと呼ばれる天使が崩壊していってるのは、人間である一方通行にも一目瞭然だった。
『星の欠片』をどうにかすることで今のミーシャの状態も回復するとは思えなかった。
エイワスから、そしてアレイスターから聞いた話と、目の前の現実は完璧に一致していた。
もう、あの時のような、皆でバカをやって騒いでいたような日々には戻れないのかもしれない。
だとしたら、ミーシャはこのまま止まることはない。放っておけば『星の欠片』が消滅して
自身も消えてなくなるまで、こうして破壊行為を繰り返し続けるだろう。
ならば止めなければならない。それはつまり、本物の大天使と戦わなければならないという事だ。
「ガブリエル・・・・・・俺の声が聞こえねェのか!! 俺が誰だかわからねェのか!!?」
「うが、が。 う、ggggggggggggggg―――――――」
ちょろちょろと飛び回るうるさい蠅を追い払うようにミーシャは一方通行に向かって翼を振るった。
狙いがめちゃくちゃだった。爆発的に伸びた氷の翼は、一方通行には当たらず、明後日の方向へ飛んでいった。
だがその翼は一〇階建てのビルを突き破り、その瓦礫が地上にいる一方通行を押し潰そうと
雨のように降ってくる。
一方通行は首元に装着してある電極チョーカーのスイッチを弾くように切り替え、
背中に四本の竜巻を接続して瓦礫を周囲に吹き飛ばした。
レベル5第一位の超能力、『一方通行(アクセラレータ)』はこの世に存在するあらゆるベクトルを操作する。
そんな反則級の能力を用いても、果たして大天使にたった一人で立ち向かえるのか。
(クソが・・・・・・とりあえず今は錯乱しまくってるこのバカを止めるしかねェ。
だが出来るか? ロシアじゃ一度こいつに殺されかけてる、この能力だけで
こいつの暴走を食い止める事なンざ出来るのか?)
一方通行が決断に迷っていると、ふとミーシャの様子が変化した。
頭を俯かせ、猫背になり、だらりと両腕を下げた状態のまま動かない。
そしてゆっくりと一方通行の方を向くと、彼女の背中にある水晶の翼が一瞬で膨張し、展開した。
一〇〇メートル以上はあろうかというその巨大すぎる翼は、この学園都市に存在する全ての『水』に
接続して展開させているらしい。
その影響か、学園都市全域でビリビリと不安を煽るように低く重い震動が響いた。
「cvbtihbx攻撃tohrpf対象apfghb捕捉xaawpdi」
ゴォッッ!!!、という見えない殺意が一方通行とミーシャの周りに広がっていった。
呼吸が出来なくなるなるんじゃないかというほどの圧迫が一方通行の胸を襲う。
ロシア戦でも見せた戦闘モード。ミーシャは完膚なきまでに一方通行を殲滅するつもりのようだ。
「ガブリエル・・・・・・」
迷っている暇など無かった。一方通行はチョーカーのスイッチをオンにしたままミーシャの方へ
体を向けると、右腕に装着している杖を収めて背中の竜巻を更に膨張させた。
こうなったらもうやるしかない。味方の援護が望めない以上、たった一人で天使に立ち向かうしかない。
アレイスターの動向も気になるが、一方通行の、『天使同盟』の目的はあくまでミーシャの救出だ。
「btjoh貴方、dkvqeuda」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・クソッ」
ミーシャは全身をガクガクと震わせながら、一方通行に突撃する前に一言告げた。
「逃、げて」
「クソったれがァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」
それは、第三次世界大戦のリプレイだった。
学園都市の超能力者と大天使ミーシャ=クロイツェフの激突。
しかし、両者が胸に秘める想いは、あの時とはまるで違っている。
――――――――――――――――――――――
「はーまづらぁ!!! テメェもっとスピード出せコラ!! このままじゃ追いつかれちまうだろうが!!」
「アクセル底まで踏んでるっつーの!! ちくしょう・・・・・・人がいい気分で昼寝してたら
ワケの分かんねえ爆発が起きてテメェらからの呼び出しがかかって、
今じゃこうして『警備員(アンチスキル)』とカーチェイス!!? どこのアクション映画だっつの!!」
「はまづら、きぬはたから通達。 このまま真っ直ぐ進んで二つ目の角を左に曲がれば振りきれるって。
私達の乗ってる車の大きさならギリギリ入れる道幅の抜け道がある」
「だークソったれ!!! お前らしっかり掴まってろよ!!!」
同じ頃、学園都市の第六学区では小さな軽自動車一台と『警備員』の武装車両数台が
盛大な鬼ごっこを繰り広げていた。
今現在、第六学区には人や車は全く通っていない。それはこの騒ぎが原因でもあるが、
何より昨日、第一九学区と隣接する学区には全て避難指示が通達されていたからだ。
軽自動車は明らかに第一九学区に向かって走っていた。『警備員』が武装車両を持ち出して
追いかけてくるのも当然である。
「また爆発音! やっぱり第一九学区じゃ今、間違いなく『祭り』が行われてる。
学園都市の『闇』どころの匂いじゃないでしょこれは!!」
「なんでお前はこの状況でそんなハイテンションを保っていられるんだ!?
第一九学区がヤバすぎる状況になってんのは分かってんだろうが!!?」
「だからこそこのビッグウェーブに乗らなきゃなんねえっつってんの!
ちんたらと地下シェルターなんぞに避難してられっか! こんな時の『アイテム』だろうが!!」
軽自動車の中でギャーギャーと喚く男女の声が響く。
運転席には浜面仕上、助手席には滝壺理后。そして後部座席には超能力者(レベル5)第四位、『原子崩し(メルトダウナー)』の
麦野沈利が居座っていた。
彼らは『アイテム』という名の組織。『アイテム』はかつて学園都市の暗部として活動していた組織だが、
第三次世界大戦以降は『闇』から解放され、学園都市で平和な日々を過ごしていた。
過ごしていたはずなのだが。
「麦野ォ!! もしこれで俺達全員ブタ箱行きとかになったらゼッテー許さねえからな!!」
「そうならねえようにテメェがここで踏ん張らなきゃならねえんだろうが!!
滝壺の前だ、しっかり男を魅せてちょうだいよ」
「大丈夫、私はこの状況で涙目になってるはまづらを応援してる」
ドンッ!ドンッ!、と背後に迫る武装車両から乾いた銃声が何度も鳴り響く。
浜面達の乗る軽自動車のタイヤを撃ち抜いて無理やり停止させようとしているのだ。
後部座席にいた麦野が窓から身を乗り出した。そしてじっくりと武装車両の位置を把握すると、
その掌から不健康そうな青白い閃光が迸る。
『原子崩し』。電子を『粒子』でもない『波形』でもない『曖昧なまま固定された電子』として操る能力。
それによって射出される光線は、いかなる遮断物をも濡れた和紙のように突き破る威力を持つ。
麦野はその光線を道路へ目掛けて発射し、爆破させることで武装車両をその勢いで横転させてしまった。
「これなら人死も出ないでしょ」
「俺達のワガママで『警備員』をぶっ飛ばすなよ!! 顔見られてねえだろうな!?
そうなったらマジで俺達、学園都市から逃げ出さなきゃならねえハメになるぞ!?」
「その学園都市が今、滅びようとしてるんだけど?」
そうやって口論を交わす二人を無視して、助手席にいる滝壺は携帯電話を耳に当てたままボーッとしていた。
彼らと同行していない『アイテム』の構成員、絹旗最愛の指示を聞いているのだ。
「はまづら、ここでインド人を右に」
「よし・・・・・・!!」
恐らく絹旗はどこかでパソコンでも弄って学園都市の全体図を見て指示を出しているのだろう。
昨今、『天使同盟(アライアンス)』なる謎の組織の手により『警備員』と『風紀委員(ジャッジメント)』の
データベースがハッキングされているわけだが、学園都市のマップくらいならアクセス出来るようだ。
浜面は電話越しの絹旗の指示に従い、素晴らしいハンドルさばきで軽自動車を左折させる。
『警備員』の武装車両も同じように左折するが、その瞬間に麦野の光線攻撃で吹き飛ばされてしまった。
これで残りの武装車両はニ、三台ほど。どうやら無事に第一九学区に到着できそうな流れだった。
軽自動車は第六学区の遊園地に強引に侵入し、尚も爆走し続ける。
助手席の滝壺が窓ガラスに貼り付きながらこんなことを言い出した。
「この遊園地、この前はまづらとあくせられーたとどらこの皆で一緒に遊んだとこだよね」
「確かにそうですけどね滝壺さん、今それどころじゃないんですよ!!」
「はぁ? 一方通行? 遊園地で遊んできたってのは滝壺から聞いてるけど、
第一位も一緒だったの? 意味わかんねえ」
言いながら麦野は残りの武装車両を全て片付けてしまった。
連射が聞かないその能力の性質上、だいぶ時間を割いてしまったがどうにか撃退に成功する。
「あくせられーた達は今なにしてるのかな」
「ロシアにいるって昨日電話があったけど・・・・・・さすがにまだ戻ってきてねえだろ。
あ、じゃあ第一九学区の騒ぎに一方通行達は関わってねえって事か・・・・・・。
やっぱり俺の考えすぎだったのかな」
「何が?」
浜面は難しい顔をしながら麦野の問いに答える。
「今起きてる第一九学区の騒ぎ。 俺、もしかしたら『天使同盟』ってヤツらの
仕業じゃねえかって漠然と思ってたんだよな」
「そりゃお前、この学園都市に住むほとんどの人間がそう思ってんでしょ。
私もそうだし、あのハッキング事件があって次の日にこれだ。 ほぼ間違いないね」
「いやそうなんだけどさ、その『天使同盟』って一方通行達のことじゃねえかって思ってたんだ。
根拠も何もねえただの勘だけどな。 ほら、滝壺は覚えてねえか? 一方通行が俺に偽装パスポート
作れって言ってきた時に俺達に見せてきた写真。 あれにロシアで出た天使も写ってたろ」
「あ・・・・・・、うん。 そうだね」
「何の話?」
「いやあ・・・・・・説明すると長くなるんだけどさ、とにかくこの第一九学区の件は一方通行が関わってると思ってた。
でもあいつ今ロシアにいるんだよな・・・・・・それが嘘ならまだ考えられるけど、本当なら一方通行達はこの件に
関わってない。 あいつは『天使同盟』じゃないって事になるんだ。 あー・・・・・・でも電話があったのは
朝だからな。 ロシアから日本って最速でどれくらい掛かるモンなんだろ?」
驚くべきというか当然というべきか、浜面仕上は一方通行が『天使同盟』の一人だという答えに"辿り着きかけていた"。
しかし彼はその推理を自ら否定する。一方通行は未だにロシアにいるのならこの第一九学区の事件は引き起こせない、と。
一方通行達が関わっていたらどうなのかと問われたら浜面も答えようがないだろうが、彼はあと少しで『天使同盟』の
全貌を知りうる存在となるところだった。
普段は頭が悪そうに見えるこのチンピラも、思わぬところで頭が働いているのだ。
「ワケの分からねえ話はいいからさ。 さっさと第一九学区に向かってよ」
「はいはい。 つかこの遊園地抜けて少し走ったらもう到着するぞ。
"戦闘準備"は出来てんのか?」
「大丈夫」
滝壺の言葉を最後に、車内にしばしの沈黙が訪れた。
戦闘準備。第一九学区内では今、とても穏やかでない事が起きていると三人は理解していた。
「よっしゃ。 じゃあ突入するぞ!!」
浜面は勢い良く軽自動車を真っ直ぐに走らせる。第一九学区まで残り数メートルといった距離。
そして、
ガシャァァンッッ!!!!、という交通事故が起きたような衝撃音と共に、彼らの乗る軽自動車が急停止した。
「が、はぁ・・・・・・!!?」
浜面はハンドルから飛び出てきたエアバッグに顔を埋めながら呻き声を上げた。
突然全身を襲った衝撃に悶えながらも顔を上げ、直ぐ様隣にいる滝壺に視線を向ける。
「大丈夫か!?」
「う・・・・・・、うん。 なん、とか・・・・・・」
「はーまづらぁ・・・・・・私の心配もしろよコラ」
どうやら滝壺も麦野も大怪我は負っていないようだ。浜面は安堵の息を吐く。
しかしなぜ急に車は急停止したのか?衝撃音からして何かに真正面からぶつかってしまったようだが・・・・・・。
三人はぐしゃぐしゃになった軽自動車から何とか抜け出し、外へ出る。
彼らの目に映った光景は、空爆でも受けたかのような惨状の第一九学区と、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なん、だこれ? ・・・・・・"壁"・・・・・・?」
あらゆる物から第一九学区への侵入を妨げるようにそびえ立つ、オーロラのように輝く半透明の光のカーテンだった。
【次回予告】
『・・・・・・私みたいな化物が、人を好きになっちゃいけないっていうんですか・・・・・・』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・風斬氷華
『幻想は人間とは相容れない。 立場を弁えたまえ、木偶人形』
―――――――――――学園都市統括理事長・アレイスター=クロウリー
――――――――――――――――――――――
何かを守るためなら、誰かを守るためなら、人は強くなれると知っていた。
「ん?」
上条当麻という少年は、誰かを守るためにその右手を握り締め、
どう考えても太刀打ち出来そうもない苦難に、何度も立ち向かっていった。
その結果、彼は幾度と無く人を救い続けていた。
「第一九学区全周囲に遮断術式の展開・・・・・・いや、これは『魔術』ではないな。
エイワスの仕業か。 まったく・・・・・・面倒なことをしてくれる」
一方通行と呼ばれる少年も、一人の少女を守り続けてきた。
その少女のためなら例え自身の命が脅かされる状況でも、彼はがむしゃらに、不器用に走り続けた。
そして一方通行には今、守らなければならない人が大勢いる。
だから彼女、風斬氷華も大切な人を守るために戦う決意をした。
ミーシャ=クロイツェフ。水を司る大天使を守るために、一方通行という、彼女に居場所を提供してくれた
少年を守るために。それだけじゃない、この学園都市にいる人間を、全ての大切な人を守るために、
風斬氷華は苦難に立ち向かった。
そうすることで、人は強くなれる。そんな例を何度も見てきた風斬だからこその決断だった。
何かを守るためなら、人は誰だって主人公になれる。
そのはずなのに、
「これでこの第一九学区に侵入する術は上空から降りてくるという手段しか無くなったわけか。
エイワスめ、『神浄』の成就を妨害するつもりだな。 ・・・・・・さて、それで。 君はどうするかね?」
そのはずなのに、
「ヒューズ=カザキリ」
なんで、自分は地面に倒れ伏せている?
「・・・・・・・・・・・・あ、・・・・・・ぅぐ・・・・・・」
圧倒的だった。あまりにも、理不尽なまでに、アレイスター=クロウリーという人間は強大無比だった。
魔術なのか能力なのかも分からない。仕組みも原理も法則も分からない。意味不明、理科不能の攻撃によって
風斬は為す術も無く沈められてしまった。
AIM拡散力場によって構成されている風斬氷華の体は、至る所に亀裂が入り、穴があき、陶器のように割れていた。
風斬は目の前に落ちているひび割れたメガネを緩慢な動きで手に取ると、手を震わせながらそれをかける。
「ふむ、まだ動けるのか。 まさか虚数学区が学園都市全体に展開しているのか?
虚数学区を動かした覚えはないのだが・・・・・・ふふ、これもエイワスの仕業かな?
それとも、君の『心』とやらが抱く『想い』から力が湧いているのか」
アレイスター=クロウリーが立っている場所には、綺麗な半球状のクレーターが出来ていた。
以前に彼の行使した魔術で一方通行、垣根帝督、そしてミーシャ=クロイツェフを散り散りに吹き飛ばした時に
発生したクレーターだ。
つまりそれから、風斬氷華との戦闘が始まって以来、"アレイスターは一歩もその位置から動いていないのだ"。
「見たまえ、ヒューズ=カザキリ」
周囲一帯を撫でるように、アレイスターは片腕をゆっくりと動かす。
「小癪だとは思わんか? エイワスの仕業だよ。 第一九学区周域の『境界線』を操作しているんだ。
これでこの第一九学区と外界は完全に遮断された。 見た目はただ輝く黄金のカーテンが
敷かれているだけのように見えるが、これで外部から第一九学区への干渉は出来なくなってしまった。
『回収部隊(アンチツヴァイ)』を予めここに配備しておいて良かったよ」
風斬はアレイスターの言葉など聞いていなかった。荒い呼吸を繰り返しながら、
ボロボロになった手で地面を押さえつけ、よろよろと立ち上がる。
「ただ不思議なことに、エイワスはこのカーテンをドーム状に展開していないんだ。
私はそこがどうも引っかかる。 エイワスならこの第一九学区という空間そのものを
異世界に仕立て上げ、この世から隔離してしまうくらいの芸当は出来るはずなのに。
この私の制御や、ホール=パール=クラアトの召使としての立場から一時的に離れたことで
エイワスは自由の身であるはずだ。 それくらいの事が出来なくてはおかしい。
なのになぜ境界を不完全なまま切り離し、放置する・・・・・・?」
風斬に尋ねているとは思えなかった。実際、そんな事を聞いても風斬は一割も内容が理解出来ていない。
そしてアレイスターも、風斬の方を向いていなかった。興味も無いものには目を向ける価値もないとでも言いたげに。
風斬は乱れた呼吸を強引に整え、そして右手を何かを握るような形に作る。
彼女の右手の内部から強烈な光が発せられると共に、そこに彼女の背中から生えている紫電の翼と
同じ材質で構成された雷光の剣が出現した。
ヒューズ=カザキリ。風斬氷華に追加モジュールを上書きする事で出現する人工天使。
だが以前から彼女の意志だけでヒューズ化する事が可能な状態にある。
その瞳と頭上に浮かぶ天使の輪は虹色に輝き、その長い髪は現在、美しい金色に染め上げられている。
人工天使とはいってもその姿だけを見れば、誰もが天使であると頷くであろう彼女も、
今はアレイスターの手によって目を覆いたくなるようなボロボロの姿に成り果ててしまっていた。
それでも剣を握り立ち上がる風斬に対し、アレイスターは呆れ果てたように深い溜息をついた。
「・・・・・・・・・・・・まだ私に立ち向かうか、"人形"」
「・・・・・・わ、私・・・・・・は・・・・・・、・・・・・・人形じゃない・・・・・・」
声を出すのも辛そうで、しかし風斬は続ける。
「私は・・・・・・化物かも知れない。 人間じゃない事は・・・・・・とっくに理解しています。
でも・・・・・・それでも・・・・・・そんな私を受け入れてくれる人達がいるんです」
「ふふ。 上条当麻と禁書目録、そして一方通行か?」
「その三人だけじゃありません・・・・・・、他にも沢山、私の事を人間のように扱ってくれる
人達に出会えました。 世界はこんなにも広いんだって・・・・・・知ったんです」
「人間のような口を聞く。 愉快だな」
アレイスターはようやく風斬のいる方へ振り返り、そして嘲笑う。
「それで、その人間たちの"虚言"に励まされ、それを糧にして私に立ち向かうと
言うのか。 人形」
「私は人形じゃない・・・・・・!!! それに、皆がかけてくれた私への言葉は嘘なんかじゃない!!
今の発言、取り消してください・・・・・・!!」
虹色の瞳に涙を浮かべながら風斬は叫んだ。化物であっても人形じゃない、
そしてこれまでの旅で出会ってきた"友達"全てを侮蔑するようなアレイスターの言葉に激怒する。
しかしアレイスターの表情から挑発するよな薄い笑みが消えることはなかった。
「取り消す? 事実を言ったまでなのにか? おかしな事を言う」
「あなたが皆の・・・・・・私の友達の何を知ってるって言うんですか!!」
「ヒューズ=カザキリ。 君は人形だ」
あくまで風斬氷華は人形だと言い張るアレイスターに、風斬は歯噛みする。
「確かに君はこれまでの、『星の欠片』を巡る旅で数々の人間と出会い、
触れ合い、そして親睦を深めていったのだろう。 そこは否定しない」
アレイスターはその手に持つ銀色の杖、『衝撃の杖(ブラスティングロッド)』を
指でツツー・・・・・・と撫でながら続ける。
「だが考えてもみたまえ。 果たしてその旅で出会った"友達"の言葉に
嘘偽りは一切無いと断言できるのか? それこそ、君はその人間たちの事を
全て理解しているわけではないだろう? 気遣い、同情、もしくは拒否感から
生まれた、ただの虚言である可能性を否定することなど出来はしないんだ」
風斬は下唇を噛みながらアレイスターの顔を睨みつける。
「・・・・・・そんなこと・・・・・・!!」
「化物とは所詮、そういう物なのだよ。 この世界の常識と異常は決して相容れない。
表層では仲睦まじく交流しているように見えても、深層ではそうではない。
そうでなくとも君はこの学園都市で私が作った人形だ。 人形は人間から一方的に
愛される事はあっても、人形の方から人間を愛するという事は決してあり得ない」
「な、何が言いたいんですか・・・・・・・・・・・・!!」
「君が人間に送る笑顔など、相手には決して届きはしない。
それが嫌悪であっても"好意"であっても、な。 君の好意は主に一方通行に
注がれているようだが・・・・・・・・・・・・、」
アレイスターは嘲笑しながら言った。
「君の想いが実ることは無いよ。 ヒューズ=カザキリ」
風斬氷華は何も言い返す事が出来なかった。
化物だからいくら愛想を振りまいても、それが相手の心に響くことはない。
例えそうではなくても、人形だから自分の気持ちが相手に届くことはない。
人形は人形らしく、ただ一方的に相手に愛され、飽きたら捨てられる。
「それが君という存在だ」
悔しかった。
これまで過ごして自分の思い出を、あたかも知ったように否定してくるアレイスターの言葉が悔しかった。
そして何より、何も言い返せないでいる自分が一番悔しくて、惨めだった。
「まぁ・・・・・・これはさっさと君に目を覚まして欲しいという私の願いでもあるのだがね。
君はこの学園都市に、そして私の『プラン』にとっても重要な存在だ。
いつまでも"夢"を見続けて幻想に浸かったままでいられては私としても困る」
自覚はあった。もしかしたらいくら自分が一生懸命に愛想良くしていても、
相手は何にも感じてくれはしないのではないかと。
例え一人の人間を愛したとして、その人間に一生懸命気持ちを送っても、
振り向いてはもらえないんじゃないかと。
自分が化物である事はとうの昔に理解している。そしてその現実もとっくに受け止めて、背負っている。
けれど、それでもわずかに、風斬の心にはその決心が揺らいでしまう『隙間』があった。
アレイスター=クロウリーはそこを突いたのだ。
いつまでも純情な少女が見るような夢から覚めて、この学園都市に"人形"として留まってもらうために。
あまりの悔しさに、風斬の瞳からはいつの間にか涙が流れていた。
あれだけ散々化物である自分を受け入れてくれた人達の支えがありながら、
こうしてアレイスターに言い包められてしまっている自分の現状が情けなさ過ぎて。
「・・・・・・私みたいな化物が、人を好きになっちゃいけないっていうんですか・・・・・・」
「『胡蝶の夢』に例えようか。 果たして人間と交流し人間に恋をする君が現実なのか、
それともこの学園都市に人形として、化物として縫い付けられている君が現実なのか。
どちらが夢で、どちらが現実なのか。 私は人間と交流し、人間に恋をする君が
夢で、人形としての君が現実なのだと言っている。 そしてそれは真実だ」
「ど、どっちも現実です・・・・・・!! 私自身じゃないあなたに、私の何が分かると言うんですか!?」
「分かるさ」
出来の悪い機械人形にいちいち説明をしなければならないのか、とでも言いたげな
仕草を見せながらアレイスターは告げた。
「君は私が作った人形なのだから。 "この時代"では君はただの幻想でしかない。
幻想は、人間とは相容れない。 立場を弁えたまえ、霞んだ木偶よ」
風斬氷華は膝から崩れ落ちた。虹色に輝いていた瞳からも光が消え、天使の輪も消失し、
背中から生える大小様々な雷光の翼も、学園都市の空に吸い込まれるように霧散していった。
結局、人形は持ち主には歯向かえないのか。いくら人形がああだこうだと喚いたところで、
その主が人形を縛り付けてしまえば全く動けなくなる。
それと同じことを、風斬はたった今アレイスターにしてやられた。
死刑宣告を喰らったも同然だった。今はただこうして存在出来てはいるものの、
アレイスターを討たない限り風斬はこの戦いが終わったら元の持ち主の下へ帰ることになるだろう。
そうなればもう、皆には会えない。旅で出会った数多くの友達とも、上条当麻ともインデックスとも、
エイワスとも垣根帝督とも、ミーシャ=クロイツェフとも。
一方通行とも、二度と会えない場所に帰されることになる。
「悲しむな、ヒューズ=カザキリ。 その悲しみすら、人形である君には必要のない物だったんだ。
これは私の落ち度だな。 申し訳ないと思っている」
言いながら、アレイスターは『衝撃の杖』を風斬の方へ突きつける。
それを受けても風斬はひび割れた地面にしゃがみ込んだまま、ピクリとも動くことはなかった。
ただその瞳から宝石のように流れる涙と、小さく鳴り続ける嗚咽だけが、壊れた機械のように繰り返されるだけだった。
『衝撃の杖』の中心部が激しく発光する。そこに込められた魔力は、
魔術師が見たら誰もが絶句するような凄まじく洗練された大量の魔力だった。
「今しばらく、虚数学区に帰っていたまえ。 そしてそこで自分自身という存在が
どういうものなのか、永い時間を掛けて見つめ直すといい」
「あ、・・・・・・イヤ・・・・・・。 イヤだ・・・・・・・・・・・・」
ふるふると首を振るも、風斬はもはや抵抗を見せなかった。
星のように輝く『衝撃の杖』の先端を、ただただ見つめることしか出来なかった。
「せめてもの慈悲だ、」
口ではそう言うが、アレイスターの表情に慈悲など欠片も見受けられなかった。
彼の顔にはフラットながらも、その中に愚かで惨めで、出来の悪いガラクタ人形を見下すような表情しか張り付いていなかった。
そして、
「せめてこの一撃で、今までの想い出が全て消え去るよう祈っている」
「"テメェが消えろ"」
ゴシャァァァァァァッッ!!!!!!!!!、という耳を劈くような炸裂音と共に、
風斬の視界は真っ白に染め上げられた。
「え・・・・・・・・・・・・?」
彼女の視界を覆っていた白はすぐに風と共に消え去っていった。
次に風斬の目に映った光景は、ヒュンヒュンと風を切りながら飛んでいく『衝撃の杖』と、
何らかの防御術式でも発動したのか、全身を金色のバリアのようなものに包んでいるアレイスター。
そして風斬が背後を振り向くと、そこには以前どこかで見たことのある『水晶のような氷で出来た帆船』と、
「ハッアァーイ、アレイスター。 こうして直に会うのは初めてよねえ?
あーいやいや、自己紹介は必要ないわよ。 そのクソみてえなツラ見たら
一発でアンタだってわかっちゃったから♪」
"少し前にロシアで別れた時と同じ"、ブラウンのロングスカートに細身の白いダウンジャケット。
綺麗な亜麻色のショートヘアが風に靡き、その舌の先に付けられている鎖の先には帆船と同じ
水晶の十字架がぶら下がっている。
「賊が。 今更私に何の用だ?」
「そのスッカラカンの頭で考えてみろクソ魔術師。 私がここに来る理由なんて
たかが知れてるでしょうが」
「ふ。 私の首でも取りに来たか」
「"友達"ってのを助けに来たんだよクソボケ」
『前方』のヴェント。ロシアで別れたはずの"友達"が、アレイスター=クロウリーに
『女王艦隊』による攻撃を仕掛けたのだ。
「ヴェント・・・・・・さん・・・・・?」
「よう"風斬"、三〇分ぶりくらい? 相変わらずメソメソしてやがんなぁアンタは」
ヴェントは第一九学区の道路に氷の帆船を現出させたまま、ツカツカと風斬の方へ歩み寄ってきた。
風斬は一瞬、幻ではないかと疑ったが、この威風堂々たる態度、化粧が無くなりより少女らしくなった顔立ち、
そして相変わらずの乱暴な言葉づかい。
間違いなく、ヴェントは学園都市に現れていた。
ヴェントは舌先からぶら下がっている鎖をジャラリと鳴らしながら苦笑する。
「ハッ、独立国同盟に居たヤツらには何も言わずにここまで来ちゃったわ。
これ終わったら電話貸してくんない? あんなヤツらでも、一応世話にはなったしね」
「え、あ、はい。 ・・・・・・って、そんな事言ってる場合じゃないです!」
風斬はゴシゴシと涙を拭って慌てながら立ち上がった。
なぜ学園都市にヴェントが来ているのか。間違いなくロシアで別れたというのに。
風斬は未だに自分の目を疑いながらヴェントに問う。
「ど、どうしてヴェントさんがここにいるんですか・・・・・・?」
「あん? 魔術師が学園都市に来ちゃいけねえ決まりでもあんの?」
「そうじゃなくて・・・・・・ヴェントさんはロシアにいたはずじゃ・・・・・・!?
どうやって学園都市に来たんですか?」
「アンタらのとこにいる金色の音速直行便に学園都市行きのチケットを発行してもらっただけ」
ヴェントの言葉の意味が分からなかったが、やがてそれはエイワスにここまで連れてきてもらったと
いう意味だと風斬は理解した。
「でもどうしてわざわざこんな危険な場所に・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・別に。 暇だったからね。 それにこんな状況だ、どうせアンタはまた
びーびー泣いてるんだろうなと思ってからかいに来たのもあるかしら。 案の定だったわね。
・・・・・・それと、そこにいる世界最高のクズ野郎の顔を拝めるチャンスでもあるし」
「ふふ、ひどい言われようだな」
肩をすくめて大袈裟なリアクションをとるアレイスターの余裕綽々ぶりに舌打ちしながら、
ヴェントは周囲の様子を軽く見回す。
「・・・・・・白いのは?」
「あ、一方通行さんも垣根さんも天使さんも・・・・・・アレイスターの攻撃でどこかへ飛ばされてしまいました。
恐らくみんなまだ第一九学区にいると思いますけど・・・・・・」
「ふうん。 ああ、そうだ。 エイワスからここに降ろしてもらってしばらく歩いてたら変な機械に
襲撃されたんだけど、あれ何? なんか白い仮面着けた気持ち悪い人間もいたし。
ま、適当にあしらいながら二〇匹くらいぶち殺してやったけどさあ」
「?」
キョトンとしてるところから見ると、風斬はヴェントを襲撃してきた謎の機械と仮面の兵士については
心当たりがないらしい。
そしてよく見ると、ヴェントの着ている服は既に所々が痛んでおり、手や脇腹にはじわりと血が滲んでいる。
その謎の勢力に襲撃された際に負った傷なのだろうか。
「だ、大丈夫ですか・・・・・・?」
「問題無いわよ。 ・・・・・・ていうかね」
ヴェントは厳しい目付きを風斬に送りながら言う。
「アンタが胸に抱いてる気持ちは、アレイスターなんかに
簡単に論破されるほど安いモンだったの?」
「そ、それは・・・・・・」
「アンタが私に話した事全部、あんなヤツに否定されて終わるような事じゃないでしょ。
白いのの事も、『天使同盟』も、アンタ自身も、何もかも」
ヴェントは風斬とアレイスターの会話を一部始終聞いていた。
まず風斬氷華を発見し、彼女が対峙している人間が何者なのかを判断するために
少しの間身を潜めていたのだ。
「こんな所で言い包められてヘコンでんじゃないわよ、風斬」
「・・・・・・・・・・・・。 ありがとう、ございます」
ついさっきも含め、ヴェントが初めて自分の名前を呼んでくれた。
そして彼女なりに身も心も崩れかけていた風斬を励ましてくれようとしている事が伝わり、
風斬の心に、瞳に、再び光が宿っていく。
「やれやれ・・・・・・ここまで大勢の『客』を招くつもりはなかったのだがな・・・・・・。
エイワスは少し欲が過ぎるよ。 これでは会場が保たん」
そう言いながらアレイスターは手で虚空を掴むような動作を行った。
それだけで彼の手には、さっきヴェントの攻撃で吹き飛ばされたはずの『衝撃の杖』が握られていた。
同時に、アレイスターの周囲に粘つくような何かが渦のように蠢いているのを風斬は感じ取った。
「・・・・・・・・・・・・この私にあれだけの事を言いやがったんだ、アンタは。
言うだけ言って、アンタがこの世からいなくなるなんて間抜けな結果になるだなんて
私はごめんだからね」
「え、それじゃあ・・・・・・」
「『天使同盟』には入んないっつーの。 けど、」
ベキベキベキベキッッ!!!と、アスファルトの地面に次々と亀裂が走ったかと思った瞬間には、
既に風斬とヴェントの周りには五隻もの『女王艦隊』の一部が出現していた。
地面から飛び出した船体の衝撃と、その船体のあまりの大きさに、その辺のビルが何棟か崩落する。
ぎちぎち・・・・・・と複数の帆船の側面に取り付けられた氷の砲身全てが、アレイスターへと照準を定める。
だがやはり、アレイスターの不敵な笑みが変化する事は無かった。
「とりあえずコイツをぶっ殺す手伝いは、してあげてもいいかな」
「・・・・・・・・・・・・お願いします」
風斬は再びヒューズ化し、その全身を輝かせた。
自分はまだ、戦える。こんなところで挫折している暇など無い。
こうしている間にも、ミーシャ=クロイツェフ消失の時が刻一刻と迫っているのだから。
かつて、九月三〇日に対立した科学を憎む魔術師と科学の人工天使が、
互いに手を取り合い、最強の魔術師に挑む。
【次回予告】
『見せてやるよ。 テメェらが知らねえ、俺が得た新たな『法則』をなぁ』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・垣根帝督
続き
一方通行「いいか、フラグってのはなァ」 ガブリエル「vbhti素敵apfrgt」【3】

