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341 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:04:13.92 +eefCC9Go 180/508



――――――――――――――――――――――


イギリス、ロンドンの一角にはとある大きな公園が存在する。
その公園と隣接するように、イギリスの首都の一区画を丸々開けて鎮座する巨大な建造物があった。


バッキンガム宮殿。


英国女王のエリザードが住む、説明不要の有名な宮殿だ。


しかし現在、宮殿の主であるエリザードはフランスへ出張しているため不在である。

そこで宮殿の留守を任せれているのが、三大王女の中で『人徳』を評されている第三王女、
ヴィリアンと、その護衛についている傭兵、ウィリアム=オルウェル。

そして三大王女の中で『軍事』に秀でている、第二王女のキャーリサ。
三大宗派の一つ、『騎士派』のトップである騎士団長(ナイトリーダー)の四人だった。


キャーリサは宮殿の中でも特別広い会議室の中央にある机に突っ伏していた。


342 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:04:52.22 +eefCC9Go 181/508



「・・・・・・・・・・・・。 おい、騎士団長」

「はっ。 いかがなさいましたか」


第二王女に名を呼ばれ、速やかに彼女の側に歩み寄る騎士団長。


「暇なの」

「・・・・・・・・・・・・」


キャーリサは軍事活動の時や戦闘時に着ているいつものボンテージのような赤いドレスではなく、
とても二十代後半の女性が着ていいものではなさそうな簡素なTシャツとミニスカという王女らしからぬ出で立ちだった。


「暇って・・・・・・、キャーリサ様。 そのセリフ、一体これで何度目ですか?」


騎士団長はもはや呆れ飽きたとでも言いたげに額に手を添えため息をつく。


343 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:05:58.88 +eefCC9Go 182/508



「二十九回目。 だってマジで暇過ぎて暇過ぎてお腹と背中がくっつきそーだし」

「それ腹減ってるだけじゃねえか!!! ていうかついさっき食事したばかりじゃないですか!!」

「ヴィ~リア~ン・・・・・・・・・・・・」

「え、えっと・・・・・・じゃあまたこの携帯ゲーム機で遊びませんか?」


『何か面白いことやって』的な視線を送ってくる次女に、妹である三女のヴィリアンは
若干パニクりながらも必死で姉の要望に答えるべく、手に持っていた『4DS』と名のつくゲーム機を差し出す。


「それ超つまんないの。 次世代中の次世代ゲーム機とか謳っておきながら目新しさはやり始めの時だけ。
 なんか目はチカチカしだすし騎士団長やウィリアムは下手糞すぎるでちっとも盛り上がらないし」

「下手で悪かったですね」

「・・・・・・この手の娯楽は、私には難しすぎます」


344 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:07:03.87 +eefCC9Go 183/508



騎士団長はジトーっとキャーリサを睨み、ウィリアムはウィリアムで
木の年輪のように、丸く何重にも配置されているテーブルに腰を降ろし、
腕を組んで目を閉じている。彼も相当暇なのだろう。


とはいえ、こうして暇を持て余すという状況は、それだけ今の英国が平和であるという証拠に他ならない。
かの第三次世界大戦時、キャーリサはイギリス全軍を率いる総指揮者として第一線で戦い、
騎士団長もそれに続き、死闘を繰り広げた。


戦争終結直後こそ総指揮者としての後始末が山積みで多忙ではあったが、
今はご覧の有様。騎士団長は呆れているが、今のこの平和な一時を噛み締めるのも悪くはないだろう。


345 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:07:59.32 +eefCC9Go 184/508



「あー。 姉上は?」

「リメエア様は今月と十二月に開催される英国での催し物の計画についての会議に出ていかれました。
 ・・・・・・って、これも今日説明したはずですが」

「そーだっけ。 そーいうのって普段はお前がやってるんじゃないの、ヴィリアン」


ピコピコと一人ゲーム機で遊んでいたヴィリアンはピクッと反応してゲーム機の蓋を閉じる。


「あ、ええ。 催し物についての会議は毎年私が参加していたんですが、
 なぜか今年は姉君が出ると言ってきて・・・・・・、問題は無さそうでしたので許可しました」


ちなみにイギリスで行われる有名なイベントは、十一月は『ロード・メイヤーズ・ショウ』
十二月はロンドンで行われる『トラファルガー・スクエア・クリスマス・ツリー』などがある。


346 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:09:10.05 +eefCC9Go 185/508



「あの姉上が催し物の会議にね・・・・・・。 珍しい事もあるの」

「そうですね・・・・・・、今まではそういう知らない顔の方々ばかりがが集まる会議なんて
 絶対に行かなかったのに・・・・・・」


キャーリサは前髪を指でくるくると弄りながら退屈そうに息を吐いた。


しばらく沈黙が続くバッキンガム宮殿の会議室。
そこに、その沈黙を破るように口を開いたのはやはりキャーリサだった。


「・・・・・・・・・・・・。 "あいつら"、また来ないかな」

「? あいつら、と言いますと」


347 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:09:49.54 +eefCC9Go 186/508



騎士団長が尋ねる。そこへ補足説明をするようにウィリアムが口を開いた。


「・・・・・・・・・・・・『天使同盟(アライアンス)』、でありますか」

「そ。 変なヤツらだったけど、あいつらがいる間は暇を感じることは無かったの」

「・・・・・・奇遇ですね」


今度はヴィリアンが言葉を放つ。


「私も・・・・・・、なぜか急にあの方達の事を思い出しました」

「お前も? ねー・・・・・・、何か私もさっきふと思い出したの。 面白かったなー」


と、キャーリサの隣にいる騎士団長が訝しげな表情に変わった。


348 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:11:22.34 +eefCC9Go 187/508



「どーしたの」

「・・・・・・いえ、その。 ・・・・・・私も、」

「思い出していたのであるか」


ウィリアムが尋ねるとコクリ、と難しい表情で騎士団長は頷いた。
どうやらこの場にいる四人全員が『天使同盟』の事を思い出していたようだ。


キャーリサは悪だくみを考えてそうな顔をしながら言う。


「こーいうの、なんて言ったっけ。 シ、シンクロ・・・・・・、」

「・・・・・・シンクロニシティ、ですか?」


349 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:12:17.91 +eefCC9Go 188/508



「それそれ、共時性だったか。 なーんか妙だし」

「・・・・・・個人的な意見を述べさせていただきますが、『虫の知らせ』、と言いますか・・・・・・。
 なぜか予感めいたものが脳裏をよぎりました」


予感。


どこかもやもやとした予感が四人の頭をかすめていた。
この妙な現象、実は同じロンドンの地にいる二人の魔術師にも起きているのだが、
今の四人は知る由もない。


「・・・・・・もしかして、また遊びにくるんじゃないですか?
 何だかそんな気がしないでもないんですけど・・・・・・」

「あいつらが?」

「は、はい・・・・・・」

「・・・・・・そんな事になったら、また私の気が滅入ります」


騎士団長の言葉に三人はクスクスと笑う。


しかし、そんなヴィリアンの予想は歪んだ形で現実のものとなる。


350 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:13:20.59 +eefCC9Go 189/508



「失礼します。 キャーリサ様、騎士団長、ウィリアム殿はおられますでしょうか?」


会議室の出入口である巨大で荘厳な両開きの扉の向こうから、声が聞こえた。
バッキンガム宮殿に勤務するイギリス軍の兵士だ。


「いるぞ。 入ってこい」

「はっ。 失礼します」


騎士団長からの入室許可を得た兵士は、ゆっくりとドアノブを回し、会議室に入ってきた。


「?」


その兵士を見て、一瞬キャーリサの表情が変わった。
が、彼女はそのまま兵士に話しかける。


351 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:14:25.72 +eefCC9Go 190/508



「どーした? まさかとは思うが、『客人』でも来たんじゃないだろーな?」

「は? いえ、客人ではないのですが、これを――――」




と、室内を囲む木製のテーブルの一部が突然、バキャッ!!!と大きな音を立てて砕け散った。
そのすぐ近くにいたヴィリアンが小さな悲鳴を上げるが、幸い彼女には怪我ひとつ無い。




「っ!!?」


キャーリサに何かを言おうとした兵士の目の前にズンッ!!と巨大な影が舞い降りた。
そしてその影は常備している巨大な"大剣"を並行に思い切り振り、その兵士の首を
斬り落としてしまう寸前のところでピタリと停止させる。


352 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:15:57.05 +eefCC9Go 191/508



「ウィリアム!!?」


騎士団長が叫んだ。キャーリサは相変わらず椅子に座っていたが、その表情は
さっきまでとは比べ物にならないほど険しくなっている。


「ひ・・・・・・、ひっ・・・・・・!?」


机から跳躍し、その巨大な大剣、『アスカロン』をガタガタと震えて恐怖する兵士の首に向けたのはウィリアムだった。
彼もまた、キャーリサと同じく警戒心を最大まで高めた表情をしている。

さっきまでののんびりとした空気から一転、少し動いただけで全てが壊れてしまいそうなほど
ピリピリとした雰囲気に、ヴィリアンはどう行動すればいいのか分からずその場で固まっていた。


「・・・・・・どーしたのウィリアム。 その兵士の態度でも気に食わんかったのか?」


あくまで冷静に、いつも通りの態度でキャーリサは尋ねた。その顔はなぜかサディスティックな笑みになっている。
しかしウィリアムはわずかに首を横に振り、こんな事をした理由を告げた。


353 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:17:07.88 +eefCC9Go 192/508





「・・・・・・この者、何者かの手によって『操作』されているのである」




それを聞いたヴィリアンは思わず口に手をやり、顔を青くした。
騎士団長もウィリアムの言葉を聞いた直後に気がついたらしい。その手には『フルンティング』が握られている。

そして最初から気付いていたのか、キャーリサはギシッと椅子に背もたれながら言った。


「とりあえず解放してやれ、ウィリアム。 確かにそいつは操られてるみたいだが、
 私たちに危害を加えるよーな真似をするつもりはないらしーし」

「・・・・・・承知しました」


キャーリサの命令を聞き、ウィリアムはゆっくりとアスカロンを兵士の首から離していく。
兵士は何がなんやらといった表情で、そのままへなへなと床に尻餅をついてしまった。


「あ、あの・・・・・・何か失礼を働いてしまったのでしたら、どんな処罰でも受ける次第ですが・・・・・・」

「・・・・・・いや、すまない。 私の早とちりであった」


震える声で謝罪を申し出る兵士の言葉を聞き、訝し気な表情を浮かべたウィリアムだが、
やがて兵士に背を向けてヴィリアンの元に歩いていった。


354 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:19:50.83 +eefCC9Go 193/508



ヴィリアンはこの兵士が操られていると聞いて最初こそ驚愕したものの、今は首を傾げていた。
一見すると何の変哲もない、いつもこの時間帯に宮殿の周りを警備してくれている一兵士だ。


しかし今、改めてよく見てみると確かにこの兵士はいつもと様子が少し違っていた。


まず、目に光がない。
どう表現したらいいのか、いわゆる『ハイライト』と呼ばれる光がこの兵士の目には無かった。
どういう現象が起きればこんなことになるのか、この部屋はあらゆる角度に電気の光が届いているため、
普通ならこんなことは起こらないはずだ。

そして喋り方、口調は普通なのだが、目はどこを見ているのかわからないような虚ろな目をしており、
先ほどウィリアムに攻撃されかけた時も、ひどく怯えてはいたが表情は全く変わらない、フラットな表情だった。



「・・・・・・なんだこりゃ、魔術による精神操作ならこいつからその類の魔力を感じるはずなんだが、
 これは魔術じゃないし。 もっと・・・・・・、漠然とした膨大な何らかの力・・・・・・か?」


355 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:21:02.49 +eefCC9Go 194/508



「私も同意見です。 こんな力は感じたことがない・・・・・・しかも巧妙に隠蔽されていますね。
 並の魔術師ならまず気付かないでしょう。 よく気付けたな、ウィリアム」

「ここで兵士の教育を任されている身である私が、このような異変に気付けぬわけがないのである。
 例え我が身に宿った聖人としての力と、魔術師としての力を失っていたとしてもな」


ヴィリアンにはよく理解出来ないが、どうやらこの兵士は魔術ではない、不可思議な力で操られているらしい
という事だけは何とか把握できた。

三人に観察されている兵士は、さっきまでの出来事がまるでなかったかのように
ただボーッと虚空を見つめ続けているだけだ。


「と、とりあえず何か話しかけてあげてはどうでしょう・・・・・・?
 この方、あなた達三人に用があっていらしたみたいですし・・・・・・」

「そーだな。 おい、聞いてるか? 私たちに何か用件があるんだろ?」


腕を組み、王女らしくふんぞり返った格好でキャーリサは兵士に尋ねた。
すると、兵士はビクン!とまるで電源を入れられた機械人形のように顔を上げ、
凍ったままの表情で三人に用件を伝える。


356 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:21:58.95 +eefCC9Go 195/508



「・・・・・・・・・・・・。 はっ、つい先ほど、キャーリサ第二王女様、騎士団長、及びに
 ウィリアム=オルウェル殿にこれを渡して欲しいと頼まれましたので、参上させていただいた次第であります」


と言って、兵士は腰に巻きつけてある布のポケットからゴソゴソと何かを取り出し、
手を前に差し出した。





それは一見、どこにでも売っているような普通の白い封筒だった。





357 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:22:53.21 +eefCC9Go 196/508



「・・・・・・手紙、でしょうか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


騎士団長の疑問にキャーリサは答えず、その封筒をとりあえず受け取った。
他の二人もそれに習い、兵士の手からそれを受け取る。

キャーリサは一通り白い封筒を調べると、封は開けずに兵士に質問する。


「・・・・・・この封筒、『つい先ほど私たちに渡して欲しい』、と言われて渡されたんだったな。
 答えろ、これを持ってきたのはどんなヤツなの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「これは命令だ、答えろ。 一体どんなヤツから受け取った封筒なの」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


英国の第二王女からの命令にも関わらず、兵士は一向に口を開こうとしない。
その後も騎士団長、ウィリアム、ヴィリアンを交えて問い詰めてみたが結果は同じだった。


358 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:24:20.60 +eefCC9Go 197/508



完全に操り人形だった。いくら話しかけても、これでは壁に向かって独り言を言っているのと同義である。
キャーリサは深いため息をつき、頭をポリポリと掻きながら兵士に告げる。


「・・・・・・わかった。 確かに封筒は受け取ったの。 お前はもう下がれ」

「了解しました」




途端、糸の切れた操り人形のように兵士は力なくその場に倒れこんでしまった。




「っ! だ、大丈夫ですか・・・・・・!?」


ヴィリアンが慌てて兵士のもとに駆け寄る。まさか、用が済んだからと言って
この兵士を操っている何者かが彼を殺してしまったのでは・・・・・・?と嫌な想像をしてしまう。


359 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:25:18.01 +eefCC9Go 198/508



しかし、


「・・・・・・・・・・・・あ、あれ。 寝て、る・・・・・・?」


兵士から聞こえてきたのは、すーすーと言う安らかな寝息だった。
とりあえず脈を調べて生きている事を確認すると、ヴィリアンは静かに安堵する。


「・・・・・・不気味ですね。 こんな手の込んだ事をして、何のつもりなんでしょう」


騎士団長は目を細めてその手にある白い封筒を見つめる。
見た目はどう見ても普通の封筒なのだが、どこか異様な雰囲気を醸し出している気がしないでもない。


ともあれ、まずはこの封筒の中身を調べないことには話が進まない。
三人は普通の方法では開封出来ないと理解し簡単に調べ、封をしている虹色に輝く正方形のシールに
指を触れることで開封することが出来た。

そして各々は閉口したまま、黙々と中の手紙を読んでいく。


360 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:26:13.35 +eefCC9Go 199/508



「・・・・・・・・・・・・あ、あの、差し支えなければ手紙の内容を教えていただけませんか?」


四人のうち、唯一封筒を受け取っていないヴィリアンがオドオドしながら尋ねてきた。
手紙の内容が気になるのも無理はない。彼女もまた、英国三大王女の一人なのだ。
こんな無茶苦茶な方法で郵送されてきた手紙で、もし母国が危機に陥るような事態に発展でもしたら堪らない。


「・・・・・・。 操作されていたこの兵士は無事のようです。
 こんな方法で手紙を送ることになった事と、イギリス軍の兵士を玩具のように扱ってしまった事に
 ついての謝罪文が最初に書かれています」


ヴィリアンにそう答えたのはウィリアムだ。相変わらず硬い表情で手紙を読み続けている。
彼の言葉を聞いてヴィリアンはとりあえずほっと息を吐く。

一方の騎士団長は、ウィリアムとは違いひどく困惑しているような表情を浮かべていた。


「・・・・・・なんということだ。 とてもじゃないが信じられん、これはもはや
 『十字教の終わり』などというレベルの問題ではない・・・・・・!!
 この手紙の送り主の名がここに書いていなければ鼻で笑って捨てているところだぞ・・・・・・」


361 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:27:23.99 +eefCC9Go 200/508



ということは、封筒には記載されていなかった送り主の名は手紙に書いてあるということだろう。
しかしその名を見ても、騎士団長は手紙の内容について半信半疑のようだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・確かに、普通に考えれば悪戯程度にしか思えんが、
 例え冗談でもこの手紙の内容は悪戯で済むレベルじゃなくなってるの」


そしてキャーリサですら、手紙の内容を見て頬に一筋の冷や汗を流していた。
手紙を摘む指先に無意識に力が入り、紙には皺が出来ている。

そんな三人の様子を見て、ヴィリアンは手紙の内容を知るのが少し怖くなってしまった。


騎士団長がキャーリサに尋ねる。


「・・・・・・キャーリサ様。 この手紙、信じるに値するものでしょうか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


その問いにしばらく無言だったが、やがてキャーリサは口を重々しく開いて言った。


「・・・・・・『ブリテン・ザ・ハロウィン』や第三次世界大戦が"おままごと"のよーに思えてくるな。
 本当にこの手紙の通りになれば、魔術サイドはある意味『崩壊』の道を辿ることになりかねないし」

「同意見です」


彼女の言葉に、ウィリアムも首を縦に振る。


362 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:29:30.08 +eefCC9Go 201/508



続けて騎士団長が手紙に視線を向けたまま質疑する。


「"これ"が事実になるのなら魔術サイドに膨大な影響が及ぶことは確かに想像に難くないですが、
 それでもこの手紙を鵜呑みにしていいとは私には思えません」

「そんな事はわかってるの。 でもこれが本当に起きるのなら、
 私もさすがに黙ってはいられないな」


そう言って、キャーリサは手紙をぐしゃぐしゃに丸めてしまった。
手紙を完全に破棄する意志を送ることで、この手紙は塵となって消える、と手紙に書いてあったからだ。

実際、キャーリサが丸めた手紙は役目を終えたかのようにふわりと宙に浮き、幻のように消え去ってしまった。


「まったく・・・・・・。 さっきまで暇だ暇だと喚いてた自分が笑えてくるの」

「・・・・・・どうされるおつもりですか」


363 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:31:10.27 +eefCC9Go 202/508



騎士団長も彼女に習い、手紙をバラバラに破る。その紙片は雪のように溶けて消えていった。
ウィリアムもヴィリアンに手紙を読ませた後、同じように手紙を消した。
手紙の内容を把握したヴィリアンの顔色はとても優れているとは言いがたいものとなっている。


「ヴィリアン、この手紙のことは他言無用を貫け。 いいな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、は、はい」


一瞬悩むような仕草を見せたヴィリアンだが、キャーリサの言葉に頷いた。
他言無用、恐らくキャーリサはこの事を第一王女のリメエアや英国女王のエリザードには話さないつもりなのだろう。


「しかし、エリザード様にすら報告しないというのは如何なものかと・・・・・・。
 そもそもこの手紙の内容が事実だとして、我々が取れる行動があるのでしょうか?」

「あるの。 まぁこれはもうある種の賭けになるけどな」

「では・・・・・・、」

「ああ。 乗ってやる、この祭りに」


364 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:32:26.96 +eefCC9Go 203/508



はぁ、と騎士団長は首を横に振りながらため息をついた。
キャーリサが最初からこう答える事を分かっていたのだろう。彼は引き止めることはしなかった。


「姉君・・・・・・」

「ヴィリアン、母上にはテキトーに言ってごまかしといて♪」


ど、どうやって・・・・・・とあたふたするヴィリアンを無視して、キャーリサはウィリアムの方を向く。


「お前はどーするの。 私個人から言わせてもらうと、お前は来ないほうがいーと思うがな」

「・・・・・・それは、私が聖人としての力も、魔術師としての力も失い、
 戦力にならないから、でございましょうか?」

「いやいや、そーいう意味じゃないし。 聖人としての力が無かろーが魔術師としての力が無かろーが
 今のお前の戦力は十分イギリス軍の中でもじゅーぶん抜きん出てるの」


365 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:33:37.83 +eefCC9Go 204/508



キャーリサは不安気に自分とウィリアムの顔を交互に見るヴィリアンに一瞬だけ目を向け、


「ただ、下手をすれば二度と英国の地を踏めなくなるかもしれん。 それだけの事だし」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


これから彼女たちが向かわんとする場所は、そういう危険が生まれる可能性があるところなのだ。
そこへ向かい、もしウィリアムの身に万が一のことがあれば、彼は二度とヴィリアンには会えなくなってしまう。


「ウィリアム・・・・・・」


今にも泣きそうな顔で見つめてくるヴィリアン。

無理もない。ついさっきまで一国の王女が暇を持て余すくらい平和な時間が流れていたのに、
例の封筒が届いたとたんこの展開だ。ヴィリアンは一瞬、封筒の送り主を恨んでしまいそうになったが
短い間とはいえ一緒に過ごした『彼ら』の事を想うと、とてもそんな気持ちにはなれなかった。


366 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:34:53.11 +eefCC9Go 205/508



「ヴィリアン様」


心のなかのもやもやした気分をどう消化すればいいのか分からないでいるヴィリアンに、
ウィリアムは優しく声をかけた。


「ヴィリアン様、心配には及びません。 私は未来永劫、貴女の側に仕えると心に決めております。
 事が済んだら、必ず貴女の元へ帰る事をここに誓わせていただきたい」

「・・・・・・・・・・・・、」


ヴィリアンは何かを言いかけたが、こうなったら意地でも自分の決意を曲げないウィリアムの事を
誰よりも理解している彼女は半ば諦めたように、しかし彼の言葉に安心したかのように笑みを浮かべ、


「・・・・・・約束、ですよ?」


なるほど、国民から『人徳』を評価されているのも納得のあどけない笑顔を見せてそう言った。


367 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:36:29.66 +eefCC9Go 206/508



「さて、それじゃ善は急げだ。 騎士団長、辞退するなら今のうちなの」

「嫌だと言っても引っ張って連れてく気でしょう、あなたは」


そう言う騎士団長は、しかしどこか覚悟を決めたような勇ましい顔つきになっていた。


「軍隊を動かしますか? 動かすならそれなりの理由を考えなければなりませんが」

「必要ないの。 わざわざ死体の山を作りにいくようなものだし。
 ただちょっとお前にはやってほしいことがある」

「?」

「移動要塞型霊装『グラストンベリ』と『グリフォン=スカイ』、
 用意できるだけ用意してこい。 ほら、駆け足駆け足!」


マジかよ・・・・・・と呟く騎士団長などお構いなしで手をパンパンと叩き催促するキャーリサ。
言われた通り騎士団長は駆け足で会議室から出て行った。


368 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:37:56.28 +eefCC9Go 207/508



「しかし理由もなく霊装や要塞を使用すれば、さすがに各国から抗議が殺到するのでは?」


至極真っ当な意見を述べたのはウィリアムだ。
彼はアスカロンの調子を確かめるようにその刃を指先でなぞる。


「私はイギリス軍の総指揮者だぞ? 武装の使用許可なんて私があとからいくらでも捏ち上げるの。
 軍力の全使用権限はこーいう時に使わないとな」


それ完全に職権濫用罪じゃ・・・・・・、とヴィリアンは誰にも聞こえないようツッコミを入れる。
しかしこうなってしまったキャーリサを止められる者など今この場には存在しない。
ストッパーである英国女王エリザードは運良く――運悪く?――不在なのだ。


しかし、そうまでしても彼女が『死地』へ赴く理由は二つある。


369 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:39:18.07 +eefCC9Go 208/508



「手紙の内容通りの事が起きるというなら、私も一国の王女として止めないわけにはいかないし。
 下手すりゃ世界全域に影響が及ぶ事態を指を咥えて待ってられる性分じゃないの」


この事態が『死地』のみで収められる事態ならキャーリサはわざわざ自分から動くことは無かっただろう。
だがこれはもう、その『死地』だけに収まる規模ではないと彼女は確信していた。

ウィリアムはフッと笑い、キャーリサに確認するように尋ねる。


「・・・・・・それだけが理由じゃないでしょう?」


それを聞いてキャーリサは悪戯っ子のような笑みを浮かべて言った。


370 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:40:18.72 +eefCC9Go 209/508



「あぁ。 "ウサギ"のヤツにも久々に会ってみたいし。 ある意味ベストタイミングなの」

「この件に関わっている人物は、どれもこれも問題がありすぎる。
 貴女とは理由が多少違いますが、それなら私も放ってはおけませんからね」


そして最後にヴィリアンも決心をつけたのか、三人の帰還を祈りながら言った。


「・・・・・・母上への言い訳、しっかり考えておきます」

「よろしく。 頼りにしてるの、可愛い可愛い私の妹」


ちょっと着替えてくる、とキャーリサも会議室から出て行った。
ヴィリアンとウィリアムは倒れている兵士を介抱し、部屋へ連れて行く。





ごく近い将来、『死地』になるであろうその場所に、役者はどんどん集まっていく。


茶菓子の用意を忘れるな。


間もなく始まる『お茶会』は、豪華で愉快なものになりそうだ。





372 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 22:46:59.72 +eefCC9Go 210/508




                          【次回予告】



『そんな大声で喚いたら周りに迷惑なんだよ、とうま』
―――――――――――禁書目録を司るイギリス清教のシスター・インデックス




『誰のせいで喚いてると思ってんだ!!? お前だよお前!! そこのシスターさん!!
 あなたのせいで四〇〇人もいた福沢諭吉センセイは数日で絶滅しちまったんですよ!!』
―――――――――――学園都市の無能力(レベル0)の学生・上条当麻




379 : VIPに... - 2011/03/01 23:27:28.47 h1bpiHH/0 211/508

ところで、ウィリアムが失ったのは「神の右席」としての力と聖人としての力であって、
普通にルーンとかを使う能力は残っていた気がするんだけど?

380 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 23:34:01.32 +eefCC9Go 212/508

>>379
ここのSSでのウィリアムは『魔術師としての力も失った』と言っていますが、
これはもうマジでショボい魔術しか(しかもそれすら満足に)使えない状態を指しています。


描写不足でした、大変申し訳ありませんでした。

383 : VIPに... - 2011/03/01 23:48:47.55 VdRZLzFAO 213/508

並みの魔術師程度の力は有る
アスカロン振り回す力はもう無い

だった気がする

386 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/01 23:58:59.92 +eefCC9Go 214/508

>>383
アスカロンに関しては確かにミーシャのテレズマを取り込んだ際は持ち上げることすら叶わなかったです。

しかしその後、彼は宮殿で軍の兵士達を指導する立場になり、
自身の肉体も鍛えまくり、数日でアスカロン程度(200キロ)なら振り回せるようになった!

これで決まりだ。(CV.立木 文彦)


・・・・・・アスカロンだけは見逃していただけたらありがたいのですが・・・・・・!ごめんなさい。
これで大暴れする描写があるので・・・・・・

392 : VIPに... - 2011/03/02 00:53:22.87 w3knsWzU0 215/508

別にそこまで鍛えなくても、一般兵レベルに「身体能力を20倍にする」鎧が支給される英国なら何とかしてくれると思うけどな。

408 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 22:45:49.83 KFa0IyOzo 216/508



――――――――――――――――――――――


科学の頂点と言っても過言ではない街、学園都市。


その第七学区では一人の不幸な少年と、この街に似合わない白い修道服を来た少女が
買い物袋をぶらぶらと下げて帰路についていた。


「ふっふふん、ふっふふん、ふっふっふ~ん♪」


白い修道服を来た銀髪のシスター。その頭に十万三〇〇〇冊もの魔道書を収めた
通称『魔道書図書館』と呼ばれる少女、インデックスはすこぶるご機嫌な様子で歩道を歩いていた。


「今日は久しぶりのお鍋なんだよ! 楽しみだな~」

「い、インデックスさん・・・・・・。 楽しみにするのはいいけどウチの家計は今現在、
 この十一月の空より寒いことになってるからね? しばらくは食パンの耳だけの
 生活になると思うけど我慢してね?」


409 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 22:46:54.95 KFa0IyOzo 217/508



財布の中身を見ながら、そもそも中身がないことを再確認し、がっくりと項垂れるツンツン頭の少年は上条当麻。

彼は学園都市公認の無能力者(レベル0)であるが、その右手には『幻想殺し(イマジンブレイカー)』と呼ばれる
異能の力なら何でも打ち消せる不思議な力を宿している。


インデックスの――何時もの――我儘に付き合わされ、今日の上条家の食卓はなんとフグ鍋。
一般家庭でもなかなかお目にかかれない豪華な料理だ。


上条当麻は別に裕福な家庭に生まれてきたわけではない。そもそも彼は学生寮で生活している高校生であり、
その生活資金は両親から毎月送られるお金で得ているのだ。

なぜそんな一般高校生がフグ鍋――しかも超最高級品、と広告があった代物――などという贅沢なものを
用意出来るのかというと――――。


「・・・・・・ちくしょう。 ここ数日間の俺の食生活はセレブそのものだったんだ。
 あいつが、いや『あの御方』が恵んでくださった大量の諭吉様のおかげで
 テレビとかでしか見たことない料理をたらふく食える生活を送っていたんだ・・・・・・」


410 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 22:48:10.89 KFa0IyOzo 218/508



十一月某日。上条当麻が学校から寮に帰宅すると、そこにはいつもの同居人、インデックスと
もう一人、意外すぎるほど意外な人物が来訪、いや"降臨しておられた"。



学園都市最強の超能力者(レベル5)、第一位の一方通行(アクセラレータ)だ。



彼が帰宅した後に上条当麻はインデックスから話を聞いたのだが、『本当に遊びに来てくれただけなんだよ』の
一点張りであんまり詳細を話してはこなかった。

ただ彼女の表情を見ると、本当に楽しくお喋りをしてたんだろうなということは分かった。
二人にどういう接点があるのかは知らないが。


411 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 22:49:20.34 KFa0IyOzo 219/508



そしてここからが重要。一方通行は上条宅にある食材を全て使ってインデックスに料理を振舞っていたのだが、
その食材代だとか言って上条に約四〇〇万円ほどの『端金』を渡し、帰ってしまったのだ。

四〇〇万。一般人にとっても十分大金なのだが、上条当麻にとっては本気で天からの贈り物としか思えない金額だった。
事実、上条はその時の一方通行が『天使』にしか見えなかったし、それはそれであながち間違いというわけでもない、のか?


四〇〇万の札束を神棚のように装飾し、インデックスと二人で手を繋いで小躍りした記憶が今となっては微笑ましい。


「・・・・・・そう、微笑ましかったんだけどさ」


しかし、


「なぁぁぁぁんでその四〇〇万円もの大金があって上条さんの家計が氷河期に突入しちゃうんですかぁ!!?
 しかも数日! たった数日で預金残高ゼロ!! あり得ねえだろ手品かよ!!? いや、理由は分かってる!!
 こんなことになったのも全部全部何もかもお前のせいなんだよインデックスぅぅぅぅ!!!」

「?」

「不幸だぁーっ!!!」


第七学区の中心で、少年は不幸を嘆いた。


412 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 22:51:46.98 KFa0IyOzo 220/508



「そんな大声で喚いたら周りに迷惑なんだよ、とうま」

「誰のせいで喚いてると思ってんだ!!? お前だよお前!! そこのシスターさん!!
 あなたのせいで四〇〇人もいた福沢諭吉センセイは数日で絶滅しちまったんですよ!!
 そりゃ俺もこの数日間のセレブ生活を満喫して浮かれてたのは認めるけどさ・・・・・・、
 総合的に考えたらやっぱ一番の原因はお前の食費なんだよ!!」


一方通行大統領から寄付していただいた四〇〇万円は、彼の言う通り数日で預金残高から
姿を消してしまっていた。

原因も概ね彼の言う通り。金=食の錬金術に必要な素材というプロセスをその十万なんたら冊の本が
ぶち込まれている脳に組み込んでいるインデックスは、まさに七つの大罪、『暴食』を擬人化したような女になっていた。


しかし反面、上条当麻にも非はある。


彼も彼で学園都市の第四学区で世界各国のあらゆる高級料理を堪能し、第十五学区にある高校生じゃまず入れないであろう
十つ星級のフルコースに舌つづみを打ち、一ヶ月ほど前にテロ組織による占拠事件が発生した第三学区の
高級サロンを一室借りちゃったりと、もうやりたい放題もいいとこだった。


413 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 22:53:04.19 KFa0IyOzo 221/508



貧乏人が急に大金を手に入れると金遣いが荒くなるという話は耳にしたことがあるかもしれないが、
上条とインデックスはそれを地で実行してしまったのだ。

結果、ものの数日で上条当麻の預金残高はどの角度から見ても、どの可能性を考慮してもゼロと表示されていた。


「あれは夢だったのか・・・・・・、あの数日間は所詮桃源郷でしかなかったのか・・・・・・。
 いやまぁ俺も調子に乗って個室サロンとか借りたりしてたからあんまり強くは言えないけど・・・・・・、
 それでもお前の食費の削りっぷりに関してだけは物申したいっ!!」

「夢なんかじゃないんだよ! 今日だってフグ鍋だし、とうまはちょっと贅沢言い過ぎかも」


もはや反論する気にもなれなかった。贅沢だと?どの口がそんな事を言うのだろうか。

・・・・・・と言っても上条も自分で言っている通り、あまり強くは言えないのだ。
止めようと思えば止められたはずのインデックスの暴走を、浮かれまくっていた自分は
あえて止めなかったのだから。

上条は自分の心に深く、深く反省の言葉を刻む。たかが高校生があんな大金を急に手にしたら
こうなってしまうのだ。一方通行はただの高校生ではないので除外。


414 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 22:53:55.82 KFa0IyOzo 222/508




お金って、怖い。



「とうま、とうま」

「・・・・・・ん」


インデックスは横断歩道の前でくるんと振り返り、満面の笑みで言った。


「でも私は、とうまと一緒にご飯が食べられるなら食パンの耳だけの生活になっても
 全然平気なんだよ! とうまが一緒に居てくれたら、どんなご飯でも美味しいかも!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


反則だろう、と上条は思った。


415 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 22:54:46.76 KFa0IyOzo 223/508



そんな天使のような笑顔を振りまかれては、言いたいことも言えなくなってしまう。
この笑顔はさすがに『幻想殺し(イマジンブレイカー)』でも打ち消せない。『幻想殺し殺し(イマジンブレイクブレイカー)』である。


上条はそんな掟破りのインデックスを見て今までの嘆きを払拭し、
はぁーっ、と大きなため息をついて、自分もニコリと笑ってみせた。


「・・・・・・そうだな。 俺もお前と食えるメシならなんでも美味いよ」

「うん!」


二人は横断歩道が青に変わると、手を握り合って渡っていった。


上条当麻はロシアでの第三次世界大戦の時に奇跡的に生還し、インデックスの元へ帰ってきた。
いや、あれは言うなれば二度目の『死』と言っていいかもしれない。北極海に落ちてからの出来事を今ここで語る気はないが、
あんな事があった上で、上条当麻はインデックスの元へちゃんと帰ってきたのだ。


もう、手放さない。


上条はインデックスの元に帰って、そう硬く決意した。
二度と彼女を危険な目に遭わせないためにも、その右手をギュッと握りしめて。


416 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 22:56:15.33 KFa0IyOzo 224/508



上条当麻とインデックスは結局、学生寮に着くまで握った手を離さなかった。
帰る途中、偶然出会った青髪ピアスにひゅーひゅーと茶化されたりしたが、もう慣れっこだ。


「さて。 最後のセレブ生活を締めくくるために、フグ鍋を堪能しますか!」

「わーいわーい! たらふく食い散らかしてやるんだよ!」


食い散らかすのは勘弁して~、と上条当麻は苦笑いしながら部屋の鍵を取り出す。


と、


418 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 22:56:58.47 KFa0IyOzo 225/508






「失礼」





ふと、寮のエレベーターがある方向から声が聞こえた。

最初、上条は空耳かと思った。エレベーターの方を向いてその声の主を確認するまでは。
なぜなら、その声は人の声にしてはあまりにも美しく、透き通っていたから。


「?」


二人は同時にキョトンとした表情を顔に貼り付ける。
突然声をかけられ、上条の手には取り出されたままの鍵がプラプラと揺れていた。


419 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 22:58:30.25 KFa0IyOzo 226/508



「いや、申し訳ないね。 今から食事だったかな? タイミングが悪かったか」

「え? あぁ、いや・・・・・・」


上条はその声に最初は耳を疑ったが、次は目を奪われた。
別にその人物が特別美しかったわけではない。美しかったもなにも、突然話しかけてきたその人物は、






全身を真っ白なローブで包んでおり、顔はおろか肉体の一部も見えない容姿だったのだから。





420 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 23:00:28.14 KFa0IyOzo 227/508



「え、と・・・・・・。 俺たちに何か用か?」


とりあえず上条は差し当たりのないように話しかける。
白のローブは――男か女か、見た目でも声でもなぜか分からないのでこう表現する他ない――見た目は
完全に怪しさ全開だったが、上条は数ある事情でこういった出で立ちの人物には慣れている。

インデックスの方を見ても、相変わらずキョトンとしているだけで別に警戒まではしていないようだ。
そしてその身に『完全記憶能力』を宿している彼女がこんなリアクションなのだから、知り合いとかではないのだろう。
もっとも顔も何も見えない容姿では完全記憶能力があっても知り合いかどうか分からないかもしれないが。


無論、上条当麻の知り合いにもこんな人物は存在しない。


「確かに用件があって来たわけだが・・・・・・、上条当麻。 君にではなく、
 その隣の・・・・・・禁書目録。 彼女に少し用があってね」


422 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 23:01:30.90 KFa0IyOzo 228/508



「私?」


名前を呼ばれ、ますます彼女の頭の『?』が増えていく。

そもそもなぜこの白のローブは自分たちの名前を知っているのか。
いや、この者が魔術サイドに位置する者なら無理はないかもしれない。
上条当麻とインデックスは、魔術サイドであるならある程度名が知れ渡っているからだ。

特にインデックスは、その名を知らない魔術師などいないと言っていいだろう。


「ああ。 一応断っておくが、禁書目録の頭脳に眠る魔導書が目当てで訪れたわけではない。
 まずはそこを理解し、納得してもらいたい」


上条は今更その可能性に気付き警戒するが、どうやら本当に十万三〇〇〇冊の魔導書が狙いではないらしい。


「今の言葉は嘘ではない。 なんなら今すぐここで確認してみるといい。
 私は『イギリス清教』に所属する魔術師だ」

「い、イギリス清教・・・・・・?」


イギリス清教と言えば、隣にいるインデックスはもちろん、その他大勢の魔術師が所属する大規模組織だ。
上条当麻もこの魔術組織とは色々と関わってきている。


423 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 23:03:32.83 KFa0IyOzo 229/508



「私もイギリス清教所属の魔術師なんだよ。 でもあなたのことは知らないかも・・・・・・」

「無理もない、私はごく最近に所属が決定した未熟な魔術師だからね。
 禁書目録、あなたとは比べるのもおこがましい下っ端だよ、私は」


人は、相手の言葉からある程度の真偽を考察することができるが、この白いローブを纏った者からは
『真実味』も『嘘臭さ』も伝わってこなかった。
真実でもあり、嘘でもある。そんな矛盾が、この者の言葉には含まれている気がした。


「お名前を聞いてもいい? 同じ仲間なら仲良くしたいから知っておきたいんだよ」


ニコッと無垢な笑みで名前を尋ねるインデックス。イギリス清教に新たな仲間が加わった事を
素直に喜んでいるのだろう。

ローブの人物は名を尋ねられ、少しの間無言だったが、


424 : インデックスは魔術師じゃなくてシスターだ・・・・・・、失礼しました。  ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 23:04:41.37 KFa0IyOzo 230/508



「・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・・・・クイト」


二人に聞こえないような声で何か呟いていた。

そしてローブの人物は改めて二人に名乗る。




「私はイギリス清教に所属する魔術師、名はクイトだ。
 魔法名は『fibber800』。 よろしく、禁書目録、上条当麻」




そう言って、クイトは手を差し伸ばしてきた。握手の意だ。
その手にはこれまた見事なほどに真っ白な手袋が着けてあった。


425 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 23:06:01.43 KFa0IyOzo 231/508



「よろしくなんだよ、クイト!」


インデックスは警戒心ゼロの笑顔で小さな手を出し、クイトと握手を交わす。


「よ、よろしくな。 俺は上条・・・・・・って、あんたにゃ自己紹介は必要ないみたいだな」

「よろしく頼むよ、『幻想殺し』」


上条も手を出し、クイトと握手を交わす。

念のため、最後の警戒として上条は"右手"で握手をしたのだが、何も起こらなかった。


「ふ、警戒しているな。 いや、すまない。 無理もないが・・・・・・」

「あっ、いや・・・・・・ご、ごめんな!! そういう性分っつーか・・・・・・あはは」


426 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 23:07:05.57 KFa0IyOzo 232/508



「構わないよ。 彼女を守るためだものな」


心の奥の奥、そのまた奥すら覗いているようなクイトの発言に少し背筋がゾッとする。
声質は穏やかなのだが、クイトは今まで出会った中でも飛び抜けて異質な魔術師だと上条は思った。


「とりあえずこんなところで立ち話もあれだし、クイトも一緒にフグ鍋食べるんだよ!」

「うん? いや、私は何もそこまで世話になるつもりは・・・・・・」

「遠慮しないでほしいんだよ! いいでしょ、とうま?」


427 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 23:07:52.92 KFa0IyOzo 233/508



「ん? ああ、構わないぞ。 今日は、ていうか今日も奮発して買い物したからな。
 量だけはあるんだ。 つっても、そんな豪華なメシも今日で最後だけど・・・・・・」


何か逃れようのない現実を思い出したのか、上条は若干ションボリしながら
手に持っていた鍵で扉を開ける。


「ほら、いこっ!」

「何だか申し訳ないな。 そんなつもりじゃなかったんだが」

「いいっていいって。 ほら、入れよ」

「すまない。 ではお言葉に甘えさせてもらおう。 ・・・・・・・・・・・・ふふ」


こうして、奇妙な魔術師クイトを混じえた上条宅の最後の――豪勢な――食卓が始まった。


429 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/02 23:17:23.62 KFa0IyOzo 234/508




                          【次回予告】



『む? ありゃ、貴方はステイル=マグヌスじゃあねぇですか。 お久しぶりですね』
―――――――――――元『ローマ正教』のシスター・アニェーゼ=サンクティス




『よろしければステイルさんも食事を摂られてはいかがでございましょう?』
―――――――――――元『ローマ正教』のシスター・オルソラ=アクィナス




『・・・・・・何の冗談ですか、それは』
―――――――――――イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師・神裂火織




『冗談でもシャレでも何でもない、これからごく近い未来に起きるであろう事・・・・・・らしいよ』
―――――――――――イギリス清教『必要悪の教会』の魔術師・ステイル=マグヌス




446 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:34:18.83 1n05JhUQo 235/508



――――――――――――――――――――――


『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔術師、ステイル=マグヌスはロンドンのランベスに足を運んでいた。
相変わらず長い赤髪をなびかせ、相変わらずその口には煙草が咥えられていた。


彼の目の前には今、旅館のような建造物がそびえ立っている。


イギリス清教徒の為に設けられた『必要悪の教会』の女子寮である。


「まったく・・・・・・『あの手紙』の内容には驚かされっぱなしだったけど、
 まさかここにも彼らが関わっていたなんてね・・・・・・」


手紙とは、ロンドンの街を散歩していたときに郵便配達員から受け取った白い封筒に入っていたものだ。
途中で同行してきたローラと一緒にその手紙を読み、今までの人生の驚愕な出来事ベスト3に余裕で
ランクイン出来るほどの内容がその手紙には記されていた。


447 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:35:23.72 1n05JhUQo 236/508



その手紙にはこんな事も書いてあった。




『「必要悪の教会」の女子寮、と言えば分かるかね? 神裂火織やオルソラ=アクィナスなどが住まう寮だ。
 もちろん、彼女たちも我々に関与している。 しかしこちらの都合が悪く、彼女たちにはこの手紙を
 渡す事が出来なくなってしまってね。 良ければ、君が彼女たちに手紙の内容を伝えてほしい。
 後の行動については彼女たちが決めるだろう。 それでは、"お待ちしているよ"。』




このメッセージのあとに、手紙を書いた者の名前が書いてあったのだが・・・・・・。


「世界を引っ掻き回しているのと同義だな・・・・・・。 次はフランスにでも行くつもりかヤツらめ」


彼が『死地』へ向かう前にここを訪れたのは、こういった理由があったからだ。


448 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:36:15.65 1n05JhUQo 237/508



ステイルは忌々しげな表情を浮かべ、女子寮のドアをノックする。


「はぁ~い」


絶賛平和ボケ中で~す、的な呑気な返事が聞こえてきた。
もちろん、ステイルは声の主など考えずとも分かっている。


「・・・・・・『必要悪の教会』所属の魔術師、ステイル=マグヌス、と言えば分かるかな。
 用件があってここを訪れた。 話を聞いてもらいたいんだけどね」


ガチャリ、と扉が開く。


出てきたのは元ローマ正教のシスターにして、現在最も某超能力者とのフラグが進行しているシスター、
オルソラ=アクィナスだった。


449 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:37:13.64 1n05JhUQo 238/508



「まぁ、あなたは・・・・・・。 先日はお世話になったのでございますよ」

「覚えていてくれてたか。 ・・・・・・まぁいい、あがっても?」

「ええ、どうぞどうぞ」


オルソラは全人類を幸せに出来そうな満面の笑みでステイルを迎え入れた。


「失礼する」

「む? ありゃ、貴方はステイル=マグヌスじゃあねぇですか。 お久しぶりですね」


女子寮に入ってすぐ、いの一番に声をかけてきたのは同じく元ローマ正教のシスター、
アニェーゼ=サンクティスだ。


「久しぶりだね。 相変わらず妙な修道服だ」

「貴方にだけは言われたくねぇですね」


ステイルは一旦外に出て魔術を使って煙草を完全に消し炭にし、
改めて女子寮にあがっていった。


450 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:38:06.93 1n05JhUQo 239/508



想像通り、中には大勢のシスター達が忙しなくぱたぱたと走り回っていた。
どうやら食事の時間が近いらしく、食堂では料理が盛られた皿がシスター達の手によって並べられていく。


「よろしければステイルさんも食事を摂られてはいかがでございましょう?」


オルソラが親切に尋ねてきた。


「いや、ありがたいけど僕は結構だよ。 話はすぐに終わる、終わらせる。
 あと、出来れば神裂火織も呼んできて欲しいんだけど、今ここに―――」

「おや? ステイルじゃないですか。 どうしたんですこんなところへ」


噂をすれば何とやら。
ステイルの背後から声をかけてきたのは『天草式十字凄教』の女教皇、神裂火織だった。


451 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:39:08.73 1n05JhUQo 240/508



「やぁ、神裂。 いいタイミングだ」

「?」

「ちょっと話があるんだけど、いいかな。 オルソラやアニェーゼ、
 他のシスターも耳に入れておくといいかもしれない。 いや、
 是非聞いていって欲しい案件なんだけど」


それを聞いて、元アニェーゼ部隊のアンジェレネ、ルチア、その他大勢のシスターが
ステイルの方を見て注目する。さっきまで騒がしかった食堂が、水を打ったように静かになった。


「そこまで緊張の糸を張ってもらわなくても・・・・・・。 ・・・・・・だが、
 これでもちょうどいいくらいか。 皆、これを見て欲しい」


ステイルは遠くにいるシスターにも見えやすくするために、
例の"白い封筒"を手に持って上へ掲げる。


452 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:39:58.97 1n05JhUQo 241/508



「ふ、封筒・・・・・・?」

「なんですかそれは? イギリス清教からの?」


アンジェレネとルチアが不思議そうにその封筒を見上げる。
周りにいたシスター達もゆっくりとステイルの方に近付き、封筒を目視した。


「この封筒には手紙が入っている。 送り主は・・・・・・、言えば分かると書いていたが、
 まさか君たちも"彼ら"に関わっているとはね。 『最大主教』め、
 そういう大事な事は事前に伝えてほしいと何度も言っているだろうが・・・・・・」

「何の手紙なのですか? ステイル」


ぶつぶつと愚痴るステイルは勿体振るような事はせず、封筒の中身を取り出してその手紙を読み上げた。


453 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:41:05.89 1n05JhUQo 242/508





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




絶句、とは今のこの女子寮内にいるシスター達の事を指すのだろう。


ステイルは手紙の内容を全て読み上げると、記述されていた方法で手紙を消し去った。
キャーリサ達がやっていたのと同じ手法だ。


「・・・・・・何の冗談ですか、それは」


神裂は若干顔を青ざめさせながら、冗談ではないと分かっていても尋ねた。


「冗談、だととてもユニークだったんだけどね。 残念ながらこれは『最大主教』のお墨付きだ。
 冗談でもシャレでも何でもない、これからごく近い未来に起きるであろう事・・・・・・らしいよ」


454 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:42:01.17 1n05JhUQo 243/508



シスター達は徐々にザワつきはじめ、各々の不安を独り言で、
あるいは近くにいるシスター達と相談していく。


「十字教の・・・・・・終わり?」

「そんな・・・・・・急すぎます」

「ほ、本当に悪戯じゃないんですかそれ・・・・・・?」


アンジェレネは顔面蒼白で体を震わせながらステイルに質問した。


「あ、あ、あの・・・・・・・・・・・・」

「ん?」

「か、彼は・・・・・・」

「彼?」

「あ、あくせら・・・・・・・・・・・・」


震える声で、それでも一生懸命に言葉を紡いでいく。


455 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:46:23.33 1n05JhUQo 244/508



「あ、一方通行さんは・・・・・・?」

「一方通行・・・・・・? あぁ、あの白い髪の能力者かい?
 うん・・・・・・、まぁこれが現実になるのだというなら、彼も動くだろうね」

「あの垣根帝督という男も、ですか?」


今度はルチアが質問してきた。


「垣根帝督だけじゃない、風斬氷華も、もしかしたらその他に彼らに関わっている
 人間たちも全て行動を起こすかもしれない。 これは、それほどの事態だ」

「・・・・・・ふざけやがって、何だったんですか。 ここに来たときはあの人達、
 そんな素振りなんか見せずに楽しんでたじゃねぇですか・・・・・・」


456 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:47:22.86 1n05JhUQo 245/508



アニェーゼは拳を握り震わせながら毒づく。
一方通行とファッションについて熱く語った時、彼らと共に食事をし、大いに盛り上がった時。
彼らはこれから先に起こる事態に不安を抱えているような気配は微塵も見せなかった。

それは手紙に書いてあった現実とは思えない事態を知らなかったからだろうか。
それとも、知っててあんなに明るく振舞っていたのか。


神裂がステイルに尋ねる。




「・・・・・・この手紙の通りだと、この『はっきんぐ』とやらが発生したときは
 もう残された時間は無い、という合図という事ですね?」

「らしいね。 僕も『はっきんぐ』とやらについては全く詳しくないんだけど、
 『はっきんぐ』が起きれば後はもう時間の問題という事なんだろう」




『はっきんぐ』とは恐らくあのハッキングの事だろう。
手紙にはなにやら、そんな物騒な事も書かれているらしい。


457 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:48:45.40 1n05JhUQo 246/508



ステイルはシスター全員に手紙の内容が伝わったことを確認すると、


「そういうわけだ。 君たちがどう行動をとるかは、君たちで決めるといい」


そう言って寮の出入口に向かっていった。


「ま、待ってくださいステイル!! あなたはどうするのですか!?」


神裂が堪らず大声を上げてステイルを呼び止める。
ステイルはハァ、とため息をつき、振り向きもせず言った。


「・・・・・・僕は『最大主教』の指令で嫌でも向かわなければならないんだよ。
 ま、僕に選択権があったとして・・・・・・・・・・・・。 それでも僕は向かっただろうけどね」


僕も相当頭が悪いらしい、とステイルは自分で自分に苦笑する。


458 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:49:43.99 1n05JhUQo 247/508



すると、手紙の内容の事でざわざわと喧騒が起こる中、諭すような包みこむような、
とても優しい声がステイルの耳に入ってきた。


「・・・・・・ステイルさん」

「なんだい、オルソラ=アクィナス」


オルソラはゆっくりとステイルに近付き、背を向けたままの彼に言う。


「・・・・・・私たちはこれまで、自分たちが出来ることはどんな状況でも行って、貫いてきたのでございます。
 ブリテン・ザ・ハロウィンの時も、第三次世界大戦の時も、変わらず」

「・・・・・・そうだね。 話は聞いてるよ」


それが、元ローマ正教の、『必要悪の教会』の女子寮に住むシスターたちの生き方。
彼女たちは自分がどれだけ危機的状況に陥ろうとも、人々を救うため、
時には強大な敵に立ち向かうため、行動してきた。


459 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:51:06.11 1n05JhUQo 248/508



しかし、




「でも、今回の件に関しては私たちは恐らく力添えが出来ないのでございますよ。
 例え現地に行ったとしても、足手まといにしかならないでしょう」



「し、シスター・オルソラッ!!」


アニェーゼがオルソラに激昂した。
まだ何もしていないのに、まだ何も起きてはいないのに、自分たちが無力であると
決めつけるような彼女の発言に怒りを覚えた。


「そんなもん、やってみねぇ事にはわからねぇじゃねぇですか!!
 いつだって私たちはそうしてきたでしょう!? 何だってんですか一体!!?」


だがオルソラはアニェーゼに何も言わず、ただ首を横に振るだけだった。


「オルソラ・・・・・・!!」

「この件に関してだけは、私たちが参加しても一方通行さんの・・・・・・彼らの邪魔になるだけです。
 私たちは戦えないのでございますよ。 彼らの邪魔をしないことが、私たちにできることでございます」


その言葉を聞いて、アニェーゼは唇を噛み締めることしか出来なかった。


460 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:53:26.26 1n05JhUQo 249/508



「ちくしょう・・・・・・、何だって今更"あのクソ魔術師"が出しゃばりやがるんですか・・・・・・!!
 魔術サイドの面汚しが・・・・・・!!」


しかしアニェーゼもまた、理解はしていた。

自分たちでは、自分が率いるアニェーゼ部隊ではその"クソ魔術師"には束になっても敵わないだろうと。
理解しているからこそ、無力な自分を恨んだ。


「・・・・・・神裂、君はどうするんだい?」


ステイルは振り向いて神裂に尋ねる。
神裂は世界で二十人といない『聖人』だ。それでも微力なのだが、戦力にはなる。


461 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:56:25.24 1n05JhUQo 250/508



「・・・・・・・・・・・・私は。 ・・・・・・・・・・・・」


神裂火織の魔法名は『Salvele000』。その意味は『救われぬ者に救いの手を』。


戦地へ向かう事が出来るのなら今すぐにでも行きたい、と彼女は考えていた。
だが後ろにいる大勢のシスター達の事を思うと、あと一歩のところで決断することが出来ない。

シスターだけではない、神裂が率いる『天草式十字凄教』。
もし自分が戦地へ向かい、万が一のことがあれば、もう彼らには出会えないだろう。


神裂はしばらく閉口し、そして答えた。


「・・・・・・すみません。 もう少しだけ、あと少しだけ考える時間をください」

「時間が残されているとは思えないけどね。 けど、それなら僕はもう行くよ。
 これから向かう死地には、『あの子』もいるんだ」


462 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:57:23.83 1n05JhUQo 251/508



ステイルの言葉に神裂はビクッと肩を震わせる。
彼の言う『あの子』は、神裂もよく知っているとある少女の事だ。


「・・・・・・・・・・・・少し、時間をください」

「わかった。 それじゃ、邪魔したね」


ステイルはフッと笑い、出入口のドアノブを掴む。
彼の背中からは"これでお別れだ"、という儚い雰囲気が伝わって来るようだった。


と、その時、


「待ってください、ステイルさん」


463 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:58:05.92 1n05JhUQo 252/508



オルソラ=アクィナスがステイルを引き止めた。
その顔には、なぜか温和な笑顔が浮かんでいる。


「なんだい?」

「一つ、頼みたいことがあるのでございますよ」

「・・・・・・一応聞いておこうか」


オルソラは一度だけ、周りにいるシスターたちを一瞥し、ゆっくりと話した。


「確かに私たちは戦う事も手助けをすることも出来ないのでございます。
 ・・・・・・けど、それでも私たちに出来ることが一つだけあるのでございます」


464 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 22:59:06.93 1n05JhUQo 253/508



「?」


ステイルと同じように、周りのシスターたちも疑問の表情を浮かべる。


「ドラコ=アイワズ」


オルソラはかつて、この女子寮に突如来訪したトンデモ組織の一員の名を挙げて言った。


「あの方に、言伝を頼まれて欲しいのでございます」


シスターたちにも出来る事。それを行うためにはどうしてもあの物知りな聖守護天使の協力が必要だった。


その出来る事こそが、後の一方通行の心の支えになろうとは、まだこの世界で知る者は誰一人いない。


466 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/03/03 23:07:17.74 1n05JhUQo 254/508




                          【次回予告】



『・・・・・・それで、その『毒』ってのを止める方法は無いのか?』
―――――――――――学園都市の無能力(レベル0)の学生・上条当麻




『な、なんか脳みそクチュクチュされてるみたいかも・・・・・・・・・・・・』
―――――――――――禁書目録を司るイギリス清教のシスター・インデックス




485 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:19:26.51 Rxev5jluo 255/508



――――――――――――――――――――――


「う~ん!! 美味しい!! すっごく美味しいかもこのフグ鍋!!」

「お、おいインデックス・・・・・・、お客さんの前でそんなドカ食いすんなよ・・・・・・」

「いや、私に気を遣う必要はないよ。 微笑ましい光景じゃないか」


学園都市の第七学区。とある男子学生寮の一室では豪華な料理が振舞われていた。


学園都市の無能力者(レベル0)、上条当麻と、イギリス清教所属のシスター、インデックス。
そして突然来訪してきたイギリス清教の新入り魔術師、クイトの三人は
上条の部屋で豪華なフグ鍋を囲み、わいわいと団欒の時を過ごしていた。


486 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:20:05.24 Rxev5jluo 256/508



「あああ・・・・・・、普段はお目にかかることすら無いフグが・・・・・・
 まるでビデオの早送りのように消えていく・・・・・・」


上条当麻は学園都市最強のレベル5、一方通行大明神から授かった大金を使い、
普段の彼らには縁遠いフグを大量購入してその鍋を食べているわけだが、


「んまいっ! んまいっ! ん~~~~~~まいんだよっ!!
 ほらほら、とうまもクイトも遠慮しないで!」

「何で俺が買ってきた食いもんを俺が遠慮しなきゃならないんですかっ!
 お前の食うスピードが早すぎて手もつけられねぇんだよ!」

「・・・・・・ふむ。 フグ鍋か・・・・・・。 たまには鍋物も悪くないかもな」

「ん? クイト、なんか言ったか?」

「いやいや、こっちの話だ」


487 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:21:14.88 Rxev5jluo 257/508



インデックスがその頭に所有する十万三〇〇〇冊の魔道書。
それについて話をするために真っ白なローブで全身を包んだこの怪しげな魔術師は
学園都市にやってきたという事らしいが・・・・・・。


「それでクイト。 お前、インデックスの魔道書について話をしに来たんだよな?」

「ん? いいのかね話題を持ち出しても。 食事中は遠慮しておこうと思ったのだが」

「気にすることはないんだよモグッ! 気兼ねなく話すといいかもパクッ!」

「口に物を入れながら喋るんじゃありませんっ!」


グツグツと煮えたぎる鍋に臆することなくヒョイヒョイとフグを口に放りこんでいくインデックス。
彼女の側ではスフィンクスと呼ばれる三毛猫も、それに負けじとフグの身をガツガツと食い散らかしている。


「そうか? ではさっそく本題に入らせてもらおうか」

「どんとこい! なんだよ」


488 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:22:32.34 Rxev5jluo 258/508



今の彼女はすこぶる機嫌が良いらしい。上条が行儀の悪さをガミガミと指摘しても
彼女の耳は右から左だった。


「禁書目録、君が神の右席に所属する魔術師、『右方』のフィアンマによって
 魔導書の制御を奪われ、一時的に意識不明の状態に陥っていた事は分かっているね?」


ピタっと。


規則的に動いていたインデックスの手が止まる。
クイトの言葉を聞いた上条もシリアスな雰囲気を感じ取ったのか、手に持っていた割り箸を静かに置いた。


489 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:23:17.90 Rxev5jluo 259/508



「・・・・・・もちろん覚えてるんだよ。 例え完全記憶能力が無くったって、
 一生忘れることはないかも」


第三次世界大戦に上条当麻が参加せざるを得なくなった最大の原因。

神の右席、『右方』のフィアンマによって『自動書記(ヨハネのペン)』の遠隔制御霊装を奪取され、
『首輪』が無い状態で魔道書の知識を引き出されてしまった事により、彼女の身体に重大な負荷がかかり、
戦時中は意識不明の状態だったのだ。


「しかし、上条当麻の活躍によって遠隔制御霊装はフィアンマの手を離れ、
 君は元の平和な日常へ戻ることが出来た・・・・・・。 ここまでは正しいかね?」

「うん。 とうまには今でも感謝してるんだよ。 大好きだもん」


インデックスの言葉に上条は頬を赤らめながらポリポリと頬をかく。


490 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:24:31.42 Rxev5jluo 260/508



「よろしい。 ・・・・・・それで、だ」


ここからが本題の本題、といった感じでクイトはコホンと咳をする。


「その後、君の頭の中にある魔道書に何か異変は無いか?」

「?」


インデックスは首を傾げた。十万三〇〇〇冊の魔導書を寄越せと言われた事は散々あるが、
異変がないかと問われたのは初めてだった。


「魔導書に異変って、どういうことだ?」


インデックスの代わりに上条が質問する。


491 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:25:55.40 Rxev5jluo 261/508



「魔道書じゃなくとも、そうだな・・・・・・。 禁書目録、君自身の肉体には
 何か異変を感じたりはしなかったか? 頭痛や目眩、吐き気など、何でもいい」

「う~ん・・・・・・特にそんな症状は無かったかも。 どうして?」


当然の疑問を投げかけるインデックスに、クイトはしばらく無言だった。
上条もクイトが何を言いたいのかよくわからないでいる。


「私が今日、君たちの元へ訪れたのはそれを調べるためなんだが・・・・・・。
 どうやら今のところ、禁書目録の肉体にも魔道書にも問題は無いようだな」

「今のところって・・・・・・どういうことだよ? まるでこれから先は分からないみたいな
 言い方じゃねぇか。 インデックス、何かヤバい病気にでもかかってるのか?」


上条の表情には明らかな焦燥が見て取れた。
当然だ、同居人でもあり、今や上条当麻にとって最も大切な女性であるインデックスに
何か大変な事が起きようとしているというのなら、心配するなと言う方が酷である。


492 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:26:31.64 Rxev5jluo 262/508



しかしそんな彼などお構いなしに、クイトは淡々と彼らの疑問に答えた。





「病気とはまた類が違うのだがね。 実を言うと、遠隔制御霊装によって降りかかった負担の
 残留がまだ禁書目録の肉体に潜んでいる可能性があるんだ。 もしそれが再発した場合、
 禁書目録の頭に眠る魔道書の『毒』が滲み出て、それが彼女の頭、最後には全身に巡り、
 言いにくい事だが・・・・・・死に至る可能性もある、というわけだ」





クイトの説明を聞いた上条は思わずガタン!と立ち上がる。
当のインデックスもフグ鍋を堪能する事などすっかり失念してしまい、目を皿のように開いていた。


「な、・・・・・・なんだよそれ!! 本当の事なのか!!?」


493 : 残留している可能性がある、が正しいですね。 ごめんなさい。 ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:28:10.98 Rxev5jluo 263/508



「君の目の前でこんな嘘をつくと思うかね?」

「ちょ、ちょっと待ってほしいかも! 私は長いこと十万三〇〇〇冊の魔道書を保管してきたけど、
 そんな話は聞いたことがないんだよ!!」

「当然だろう。 これは君が所属するイギリス清教の中でも遠隔制御霊装の存在と君の『首輪』の存在に並ぶ
 トップシークレットの案件だ。 『最大主教(アークビショップ)』であるローラ=スチュアート、
 そして私しか組織の中で知る者はいない」


言葉もなかった。


ついさっきまでの楽しい和やかな空気はどこへやら。室内は極寒の地と相違ない
冷めた雰囲気に包まれてしまう。


「私としてもこの事実を君たちに伝える事に抵抗があったのだがな、
 禁書目録と、そして上条当麻。 君たちの事を考えるといつまでも隠しているわけにはいかない。
 『最大主教』もそう判断して、私に言伝を一任してきたのだよ」


と、言う事は今この部屋にいる魔術師、クイトはローラ=スチュアートと同等の
地位をイギリス清教内に持っているということになる。

上条はそんな事知る由もないが、インデックスは別だ。
クイトを見る彼女の目が一気に変わった。


494 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:29:47.13 Rxev5jluo 264/508



「・・・・・・クイト、あなたは一体何者なのかな?」

「さっき名乗ったはずだが? 完全記憶能力を有する君なら覚えているだろう」

「で、でもそれだとイギリス清教におけるクイトの立場は、『最大主教』のそれと
 ほぼ同じって事になっちゃうんだよ!」

「申し訳ないが、その辺に関する情報をむやみやたらと喋るわけにはいかないのだよ。
 私はごく最近にイギリス清教への所属が決まった三流魔術師だとしか、今は言えない。
 だが、これから私が言う魔術についての説明を聞いてもらえれば、私の立場についても理解出来るはずだ」


それはインデックスだけでなく、上条にも分かっていた。
このクイトという魔術師が、三流なわけがない。新入りだというのは本当かもしれないが、
それでもそこらにいる魔術師とは格が違う。

そう、思わせるような雰囲気がクイトには確かにあった。


495 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:30:54.45 Rxev5jluo 265/508



「・・・・・・とりあえず、まずは落ち着いて欲しい。 私の事などどうでもいい。
 どうしても納得出来ないのであれば、今すぐここでイギリス清教に確認をとってもらって構わない」


しかしインデックスは行動しなかった。
なぜならイギリス清教の魔術師が、いや、イギリス清教の魔術師でなくとも
あのローラ=スチュアートをダシにして虚言を吐くとは思えなかったからだ。

そんな事をすればクイトはイギリス清教そのものを敵に回す事になってしまう。


「・・・・・・確認なんて、そんな事しないんだよ。 クイトもイギリス清教の魔術師なんでしょ?
 私は仲間を疑うようなことはしない。 ・・・・・・もうしたくないんだよ」

「インデックス・・・・・・」


インデックスも上条も、とりあえず冷静になるよう努めた。
上条はゆっくりと腰を降ろし、胡座をかく。


496 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:31:40.20 Rxev5jluo 266/508




「信じてもらえて助かる。 実を言うとそこが一番の懸念だったのだ。
 信じてもらう事が出来なかったら、私はイギリス清教を追放されていたからね」

「え・・・・・・!?」

「それほどまでに、この件は重要だということだ。 理解してほしい」

「うん。 了解したんだよ」


インデックスはニコっと笑って承諾した。
クイトが上条の方を見ると、彼も頷き、話を続けるよう促す。


「・・・・・・それで、その『毒』ってのを止める方法は無いのか?」

「うむ。 今のところ彼女に何の症状も起きていないようだから安心していい。
 しかしこれから先、『毒』が彼女の身体も心も蝕んでいく事態は避けられない」

「それはどれくらい先の話なの?」


497 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:32:56.40 Rxev5jluo 267/508



「・・・・・・今年の年末には、『毒』の侵食の前兆が起きているだろうな」

「年末だって・・・・・・!? クソ、すぐそこじゃねぇか!!」


ギリリ、と上条は歯噛みする。確かに年末など目と鼻の先だ。
クイトがこの事実を教えてくれなかったら上条は最悪の大晦日を迎えていただろう。


「そう、だから私がここに来たのだ。 『毒』の侵食を止める方法を持ってね」

「!! 本当か!!」


上条の顔が一気に綻ぶ。じわじわと絶望が迫ってきたこの状況で救いの道があるというのだから無理はない。
インデックスも内心ドキドキしながらクイトの言葉を待った。


「侵食を止めるためにはある魔術を使うのだが・・・・・・、それはまだ魔術サイドには全く広まっていない、
 新たに発見、生み出された魔術なんだ」

「じゃ、じゃあ私の魔道書にも載ってない・・・・・・!!?」

「そうだ。 十万三〇〇〇冊の中にも存在しない、未知なる魔術」


『魔道書図書館』とも呼ばれるインデックスですら知らない、新たに誕生した魔術。
それを使って『毒』の侵食を止めるのだとクイトは断言する。


498 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:34:09.76 Rxev5jluo 268/508



「え、でもそんな魔術・・・・・・お前、使えるのか?」


上条は疑問に思った。
インデックスですら知りえない魔術を、果たしてこの新入りの魔術師が行使出来るのかと。

しかしそんな上条の心配もすぐに払拭される。


「もちろん使える。 でなければここに来る意味が無いだろう?
 そして口頭で伝えるだけで使える魔術なら、電話一本で済む話だ」

「そ、それはそうかも・・・・・・」

「更に付け加えると、この魔術は世界でも私しか使用できない魔術だ」

「え、・・・・・・ええっ!!?」


インデックスの『毒』を消し去ることが出来る魔術を行使出来るのがこのクイトだけ。
その事実にさすがの上条も驚きを隠せなかった。
・・・・・・なんだか少し、胡散臭い気がしないでもないのだが。


499 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:37:55.46 Rxev5jluo 269/508



「お、お前やっぱりすごい魔術師なんじゃねぇか・・・・・・!?」

「そう言われると照れるのだがね。 ちなみにこの魔術は私が考案し、実現した代物だ。
 魔術名はまだ無いのだが・・・・・・そうだな、さしずめ『貸出無料(アカシック・フリー)』と言ったところか」

「そ、その魔術に応用性はあるの・・・・・・?」

「皆無と言っていい。 この魔術は『禁書目録に眠る十万三〇〇〇冊の魔導書から漏れる毒を払拭する』、
 という効果のみだ。 その他の毒の治療などには一切効果がない、いわば君専用の魔術なのだよ」


インデックスのためにだけ作られた魔術、『貸出無料(アカシック・フリー)』。

その魔術は一切の応用性を持たず、本当にただ十万三〇〇〇冊の魔道書にある『毒』を消すためだけに
存在する、超インデックス特化の魔術だった。

それを考え出し、実用化出来るまでに至らせたのがこのクイトという魔術師だという。


「これで私が『最大主教』と同等の立場を得る事が出来た理由が分かったかね?
 イギリス清教にとっての君の価値は、この魔術しか使えない私ですら、
 『最大主教』だけが知りうる情報を得ることが出来る立場になれるほどなのだよ」


500 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:39:24.06 Rxev5jluo 270/508



「お前、その『貸出無料(アカシック・フリー)』って魔術しか使えないのか?」

「未熟、だからね」


そう言って苦笑いをするクイト。表情が見えないので苦笑いかどうかは判断しにくいが。


「では、早いとこ治療を始めようか。 せっかくの食事の時間が台無しになる前に」

「あ、あぁ。 頼むよ」


クイトは立ち上がり、向かい側にいたインデックスの前で膝をつくと、ゆっくりと彼女の頭を撫でた。

上条はゴクッと生唾を飲んで見守る。自分の右手に宿る『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が
邪魔になるのでは?とクイトに尋ねたが、『その程度の力は障害にならないから安心したまえ』、と
言って彼を追い出すような事はしなかった。


501 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:40:22.39 Rxev5jluo 271/508



・・・・・・『幻想殺し』でも打ち消せないような魔術とは、一体どういった物なのだろうか。


「少し違和感が走るかもしれないが、我慢してほしい」

「う、うん。 わかったんだよ」

「・・・・・・がんばれよ、インデックス」


クイトがインデックスの眼前に手を近づけると、彼女はビクビクと目を閉じながら
体を小刻みに震わせた。やはりちょっと怖いのだろうか。


「では、『貸出無料(アカシック・フリー)』を発動するぞ」


ゆっくり、ゆっくりと、クイトはインデックスの頭、額の方に白い手袋を着けた手を近づける。
その手は魔術が発動したせいか、不健康そうな青白い"輝きすぎるほど輝いた"光を放っている。


そして、上条当麻は我が目を疑った。


502 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:41:45.89 Rxev5jluo 272/508



「え・・・・・・? ・・・・・・げぇっ!!!?」

「ど、どうしたのとうま!!? んみゅ、な、何か変な感じかも・・・・・・」


上条は思わずクイトを止めようとしたが、それではインデックスを治療出来ないため
寸前のところで自身を制止させた。


彼がパニックに陥りそうになるのも無理はない。
インデックスは目を閉じているため状況が分かっていないのだろう。






クイトの手が、インデックスの頭にズブリと刺し込まれ、何かを揉み込むように指を動かしているのだ。






503 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:42:46.14 Rxev5jluo 273/508



「ちょ、ちょっとオイ!!! それ大丈夫なの!!? それ大丈夫なのか!!?」

「と、とうま!! どうしてそんなに慌ててるの!! ひぅっ!!?
 な、なんか脳みそクチュクチュされてるみたいかも・・・・・・・・・・・・」

「おいいいいいいいいいいィィ!!!? マジで平気なのかそれ!!?
 手ェ抜いた時に脳みそが出てきたりしたら上条さん何するかわかりませんよー!!?」


しかし手が刺し込まれた部分からは出血は無いし、脳漿がどろりと出てくるような事も無かった。
クイトは無言のまま、インデックスの頭にぶち込んだ手をモゾモゾと動かしている。


「あっ! 魔導書を開いてるの!!? ダメだよ、そんな事したらあなたが――――!!!」

「『原典』ごときが、この私を殺せるわけがないだろう」


クイトが何かを言ったようだが、インデックスには聞き取れなかった。


505 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:43:46.01 Rxev5jluo 274/508



上条は両手で目を塞ぎ、指と指の隙間から覗くようにしてそのおぞましい光景を見ていた。
インデックスの側にいる三毛猫、スフィンクスはこんな状況でも呑気にフグ鍋を堪能している。


やがて、事を終えたクイトはその手をゆっくりと慎重に引き抜いていった。


「い、インデックス!!! 大丈夫か!!?」

「う、うーん・・・・・・・・・・・・」


散々頭の中を掻き回されたせいか、インデックスはくるくると目を回してふらついている。
クイトはと言うと、手の調子を確かめるようにプラプラと軽く振るっていた。


「インデックス、しっかりしろ!! お、おいクイト! これって成功してるのか!!?」

「安心していい。 魔術は無事に発動し、『毒』を取り除いた」

「・・・・・・・・・・・・あ。 とうま、なんだか頭がスッキリした気分なんだよ」


506 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:46:10.90 Rxev5jluo 275/508



目をパチっと開いたインデックスは、心なしか最高級のマッサージを施されたように活き活きとした表情になっている。
なんだか肌もつやつやてかてかしているように見えなくもない。
どうやらクイトの言う通り、『貸出無料(アカシック・フリー)』は無事に成功したようだ。


「よ、良かった・・・・・・。 一時はどうなることかと」

「禁書目録。 十万三〇〇〇冊の魔導書に異変は無いかね? 一冊でも消失したりしていたら事だ」

「・・・・・・、・・・・・・。 うん、大丈夫。 ちゃんと十万三〇〇〇冊揃ってるんだよ!」


それは良かった、とクイトは安心する。相変わらず表情は伺えないが。


「なんだか血行が良くなった気がするかも!」

「サロンじゃねぇんだから・・・・・・、でもホント良かった。 これで『毒』の侵食は始まらないんだな?」

「なにせ初の行使だからね、その辺りは下手な事は言えない。 ただ向こう一年は平穏に過ごせるはずだ。
 万が一何かが起きた場合は、すぐに私に連絡して欲しい。 イギリス清教にでも構わないよ」


その言い様は魔術師というよりは医者だった。
ともあれ、これでしばらくは『毒』に悩まされる心配はないらしい。


「とうまー!」

「あはは・・・・・・、やったな! インデックス」


わーいわーいと、上条とインデックスは両手を繋いで喜びを分かち合っていた。


507 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:48:35.96 Rxev5jluo 276/508



「なぁ、クイト。 これって俺が右手でインデックスの頭を触ったりしたら効果が消えちゃったりしないのか?」

「先程も言ったが、『幻想殺し』程度では何の障害にもならんから安心したまえ。 例え君が彼女の脳を
 直接右手で触ったとしても問題はない。 その場合は魔導書が消えるかもしれんがね」

「そ、そんなグロい事しねぇよ・・・・・・・・・・・・。 でもそれなら安心だな」

「ふ。 なんだ、君は禁書目録の頭に頻繁に触れる事があるのかね?」

「いや、ほら。 撫でたりする時とか・・・・・・、って!! 何言わせんだよ!!!」

「これはこれは、お熱いことだ。 私はお邪魔虫のようだな」

「もう・・・・・・、とうまのバカ」

「ああああああああいいやいやいや、まぁこれはだなそのそういう事ではないと言いますかえぇっと・・・・・・」


上条は顔を真っ赤にしながらあたふたと騒ぐ。
インデックスも頬を赤らめながらプクーっと膨らませ、上条を上目遣いで睨んでいた。


508 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:49:58.73 Rxev5jluo 277/508



本当に、仲睦まじい事この上ない。


「さて。 これで私の用件は済んだ。 御暇させてもらおう」

「え? もう帰るのかよ?」

「禁書目録の治療が終わったことを『最大主教』に報告しないといけないからね。
 それが終わってもまだ私には『茶会』の予約が入っている。 未熟者でも多忙なのだよ」

「残念なんだよ・・・・・・。 いっぱいお礼したかったのに」


二人は本当に残念そうな顔でクイトを見つめていた。
人が良いというか何というか、本当によく出来た人間だなとクイトは思った。


「フグ鍋、ご馳走様。 とても美味しかったよ」

「こんなものでいいんならまた食べに来るんだよ!」

「こんなもの!!? こんなものって事ないだろ!!? どんだけ贅沢なんだよお前は!!」


509 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:51:13.28 Rxev5jluo 278/508



「あぁ。 また是非、寄らせてもらうよ。 "今度は遊びに"、ね」

「うん!」

「あぁ、いつでも来いよ。 上条さんは基本的に暇ですからね」

「その暇がいつまで続くのか、見物だな」

「?」


最後の言葉は聞こえなかったが、二人は笑顔で立ち上がり、
クイトを玄関まで見送ることにした。


510 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:51:51.54 Rxev5jluo 279/508



「じゃあ。 本当にありがとな、クイト」

「礼には及ばんよ、むしろこちらが礼を言いたいくらいだ」

「イギリス清教のみんなにもよろしく言ってほしいんだよ! ありがとね!」

「もちろんだ。 では、失礼する」


クイトはそう言って、玄関から外に出て行った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


上条は何となく、閉まったドアをすぐに開けてクイトの姿を確認しようとした。


だが、そこにはもう誰もいなかった。


512 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 00:59:44.14 Rxev5jluo 280/508




                          【次回予告】



『ぷはっ!! ・・・・・・はぁ、はぁ。 来たるなら来たるって連絡くらいせいなのよ!!
 あと写真撮るなー!!!』
―――――――――――イギリス清教の最大主教(アークビショップ)・ローラ=スチュアート




『別に構わんだろう? 女同士、裸の付き合いといこうじゃないか』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・エイワス




531 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 20:54:13.75 Rxev5jluo 281/508



――――――――――――――――――――――


学園都市にはいわゆる、都市伝説というものが存在する。


虚数学区・五行機関。


数ある学区の中の『始まりの研究所』であり、それをプロトタイプとして
関連施設を増設していった結果が学園都市であるという都市伝説だ。


『天使同盟(アライアンス)』に所属する少女、風斬氷華はこの学区の住人であり、
その実態は学園都市に住む能力者から発生するAIM拡散力場の集合体である。

彼女曰く、そこは『陽炎の街』との事。


そんな虚数学区を、『天使同盟』の一員であるエイワスは闊歩していた。


532 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 20:55:04.13 Rxev5jluo 282/508



「・・・・・・ふむ。 久々に来てみたが、こうして見るとなかなかよく出来ているじゃないか。
 アレイスターが創り出した『科学の星幽界』・・・・・・。 ふふ、おこがましいと思っていたが、
 ここの"擬似アストラル体"も精密とはいかないまでもよく出来ている」


エイワスは独り言を呟きながらゆらゆらと蜃気楼のようにゆらめく歩道を音もなく歩いて行く。
その途中、エイワスは自身の右手を見て、調子を確かめるように握ったり閉じたりした。


「・・・・・・早いところローラ=スチュアートに接触しなければな。
 『衛星』の掌握はほぼ終わらせているし、あとは彼女の協力を得られるかどうか次第だ」


誰が聞いても理解出来ない様な事を言い、エイワスはイギリスへ"飛ぼう"とした。


と、その時、


「ん?」


533 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 20:55:50.00 Rxev5jluo 283/508



虚数学区では決してあり得ない、機械音が流れてきた。
エイワスが懐に閉まっている、どこにでも売ってそうな携帯電話の着信音だ。
どうやら誰かがエイワスに電話をかけてきているらしい。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


エイワスは『非通知』と表示された携帯電話のディスプレイを見て、軽く冷笑する。
そして応答ボタンを一度押して、電話先の相手に挨拶をした。


「久しぶりだね、ステイル=マグヌス。 まさか君から連絡をしてくるとは思わなかったよ」

「・・・・・・・・・・・・よく僕からだと分かったね」


535 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 20:57:32.20 Rxev5jluo 284/508



電話をかけてきたのは『必要悪の教会』所属の魔術師、ステイル=マグヌスだった。

電話なので彼の表情は窺えないが、恐らくは怪訝な顔をしているのだろう。


「『適当に番号をダイヤルすれば私に繋がる』、と手紙に書いてあったが・・・・・・
 一体どういう仕組みなんだか。 ワケがわからない」

「ふふ・・・・・・。 それで、何の用かな? 私はこれでも多忙でね、用件があるなら手短に願いたい」

「言われなくてもそのつもりだ。 まず一つ、あの手紙は何の冗談だ?」


手紙とは言わずもがな、あの白い封筒に入っていた手紙の事だ。
やはりというか何というか、手紙の送り主の正体はエイワスだった。


「冗談に思えたかね? それなら君には悪いニュースを知らせなければならんが」

「・・・・・・・・・・・・クソッ。 人類を弄ぶのも大概にしておけよ、化物」

「酷い事を言う。 ・・・・・・で? 聞きたいことはそれだけじゃないのだろう?」


こっちの伝えたい用件など予想するまでもないからさっさと話せ、とも聞こえる発言に
ステイルは軽く舌打ちをしながらエイワスに話した。


536 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 20:58:56.83 Rxev5jluo 285/508



「ロンドンの・・・・・・、『必要悪の教会』の女子寮に住むシスター達の事なんだけどね」

「協力は出来ない、と言ってきたのだろう? 構わんよ、彼女たちを戦力に加える気など
 我々は毛頭考慮していないからね」


一体この金髪の怪物はどこまで世界の現状を把握しているのか。
ステイルとシスター達との間で行われたやり取りを、エイワスは既に把握していた。


「その通りだ。 けどね、オルソラ=アクィナスが意外な申し出をしてきたんだよ」

「うん?」


さすがのエイワスもそれは予想外だったらしい。
とある超能力者との距離が抜群に縮まっているシスター、オルソラ=アクィナスの申し出とは何なのか、
エイワスはほんのわずかに興味を持ち、ステイルの言葉の続きを待った。


537 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 20:59:39.04 Rxev5jluo 286/508



ステイルは、オルソラから預かった言伝をエイワスに余す所無く伝える。





「――――――――――――――――――――――、」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・」

「―――――――、―――――――――。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふむ。 把握した」





エイワスはオルソラからの伝言を全て聞き終えると、ゆっくりと目を閉じ、思考を巡らせる。
途中、通りすがっていく虚数学区の住人達が不思議そうにエイワスを見ていったが、
金髪の怪物は気にも留めずオルソラ達に返す返事を考えた。


538 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 21:00:20.32 Rxev5jluo 287/508



「・・・・・・返答は?」


ステイルが尋ねる。


「・・・・・・・・・・・・そう、だな。 ならばシスター達にはこう伝えるといい」


エイワスはこれから先に起こるあらゆる事例の可能性を考え、
恐らくベストと思われる解答を伝えるようステイルに言った。




「『イギリスにある学園都市協力機関に今すぐ向かえ。 そして事が済むまでそこで待機していろ』。
 ・・・・・・・・・・・・これだけ伝えてくれればあとは問題ない」

「イギリスの学園都市協力機関・・・・・・? なぜシスター達をそんな場所へ?」




そんな瑣末事などどうでもいいだろう、とでも言いたげにエイワスは短く息を吐く。


539 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 21:01:21.50 Rxev5jluo 288/508



「戦力にもならない彼女たちが、それでも我々に助力したければ素直にそこへ向かうよう
 伝えればいい。 何、ちょっとした保険だよ。 そしてその保険は、恐らく一方通行の心の支えになる」

「・・・・・・? ・・・・・・わかった、意味はわからないがそれだけ伝えておくよ」

「そうしてくれたまえ。 では、"当日"はよろしく頼むよ、ステイル=マグヌス」

「ふん。 僕も生命保険に入っておけばよかったかな、あの子のために」


言って、ステイルは電話を切った。


「・・・・・・これで役者も舞台も完璧に整った、か。 あとはミーシャ=クロイツェフと垣根帝督次第だな。
 多少の狂いは生じるだろうが、大体部に影響はないだろう。 ・・・・・・・・・・・・くく」


これで『茶会』の下準備は全て整った、とエイワスは満足気に空を見上げる。


「・・・・・・当日は曇り、か。 快晴が望ましかったが・・・・・・、まぁ、その時は『空を割ればいい』、か」


このホルスの先住人には一体どのような未来が見えているのだろうか。
それが分かる者が果たしてこの世界に存在するのかどうか、それは定かではない。


エイワスはその場でスゥっと姿を消し、虚数学区いつもの景観へと戻った。


540 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 21:02:14.93 Rxev5jluo 289/508



――――――――――――――――――――――


イギリス、ロンドンにあるランベスの宮。


その『処女の寝室(ネイルベッドルーム)』と皮肉で呼ばれる住居のバスルームで、
イギリス清教の『最大主教(アークビショップ)』、ローラ=スチュアートは湯浴みを満喫していた。


「ふっふふん、ふっふふん、ふっふっふ~ん♪」


ここに誰かが入ってくる事などまずあり得ないと知っている彼女は、
清々しいほどのまっ裸で、ローラはジェット水流マッサージ風呂に足を入れて楽しむという
個人的にお気に入りの方法で足湯をしていた。


・・・・・・・・・・・・しかし彼女、これがどこかデジャヴな雰囲気を醸し出しているとは気付かないのだろうか。


かつて『処女の寝室』にあっさりと侵入してきたあの化物の事を。


541 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 21:03:41.84 Rxev5jluo 290/508







「ちーす」

「ん? ・・・・・・ふ、ふぇぇぇぇっ!!!?」






突然、謎の声がバスルームに響き、ローラが慌てて後ろを振り返ると、
そこには以前に自分の全裸写真をカメラに納めるというとんでもないセクハラを働いたホルスの先住人、
エイワスが笑顔で佇んでいた。


ローラは慌てるあまり、例の如くジェット水流風呂に足を滑らせて落っこちてしまう。


542 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 21:04:28.81 Rxev5jluo 291/508



「がっ!!? がぼがぼぼぼぼ・・・・・・・・・・・・!!!」

「ふふふ。 相変わらずユニークだな、君の挙動は」


記念に一枚、とエイワスは全裸でM時開脚の体勢のローラを一枚、パシャリとデジイチで撮る。
以前に撮ったローラの写真はマジでオークションに出品してしまったのだろうか?


「ぷはっ!! ・・・・・・はぁ、はぁ。 来たるなら来たるって連絡くらいせいなのよ!!
 あと写真撮るなー!!!」

「別に構わんだろう? 女同士、裸の付き合いといこうじゃないか」


とか言ってるエイワスはしっかりその身を『白い布の装束』で包んでいるのだからフェアではない。


543 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 21:05:21.14 Rxev5jluo 292/508



ローラは顔を真っ赤にし、全裸の肢体を隠すように身をよじりながらエイワスに尋ねた。


「・・・・・・それで、今回は何の用なりけるのかしら? 手紙ならもう読みきなのよ」

「分かっているよ。 そうではなくて、アレ貸してアレ」

「?」


アレと言われても何のことだかローラには分からない。

大体、『錬金術的要素を持つルシフェル』と呼ばれるこの怪物が何を貸せというのだろうか。
欲しい物があるならすぐにでも用意出来るのがこのエイワスという存在なのでは、と
ローラはジトーっとエイワスの顔を見つめていると、




「まだ君が保管しているのだろう? 『自動書記の遠隔制御霊装』。
 それをちょっと貸して欲しいんだけどね」




さらりと、恐ろしいことをあっさりと口に出してきた。


544 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 21:06:40.08 Rxev5jluo 293/508



「・・・・・・意外なりけるわね。 あなたほどの存在があんな"ちっぽけ"な物を要求したりけるとは」

「そう、私にとっては何の価値もないガラクタだが・・・・・・。 あれが必要な時が来るかもしれない。
 だから今のうちにレンタルしておこうと思って、今日はここを訪れたんだが」


あの十万三〇〇〇冊の魔道書を自由自在に行使出来る遠隔制御霊装をガラクタだと言いのけるエイワス。

自動書記の遠隔制御霊装は現在までに二つ確認されており、一つは上条当麻の『幻想殺し』によって
完全に破壊されたが、もう一つは未だにローラ=スチュアートが保管しているのだ。

それを貸せというエイワスの真意は一体。


「・・・・・・仮に聞きたるけど、嫌だと言ったら?」

「ん? 普通に奪う」


545 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 21:07:42.50 Rxev5jluo 294/508



そんなの当たり前じゃん、といった軽い口調で堂々と強奪宣言をする。
もはややりたい放題とかそういうレベルではない。


「だがそんな事をしたら君の立場が危うくなってしまうだろう? だからこうして
 許可を得るために来たのだと言っているのだよ」

「・・・・・・呆れたるわね。 『ホール=パール=クラアト』は放任主義なりけるのかしら?
 いくら"沈黙の神"と言われたる存在でも、黙って見ているにも程がありけるわよ」

「ほう? 意外に勉強熱心なのだな。
 オシリスの人間がそこまで知識を持っているとはね」


はぁ、とため息をついて肩をすくめるローラ。
どうやらその様子からして、素直に遠隔制御霊装を貸してくれるようだ。

彼女も彼女で、自分が楽しければそれでいいという考えなのかもしれない。
遠隔制御霊装を貸し出す事で手紙の内容が実現されるなら安い物だ、とローラは思った。


546 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 21:08:51.05 Rxev5jluo 295/508



「にしても、我が主をあまり悪く言わないでほしいな、ローラ=スチュアート。
 それに、今の私は言わば『フリー』の状態だ。 クラアトもアレイスターも
 私には干渉できない状態になっている。 放任主義というわけではなかろう」


そう言ってくつくつと笑うエイワス。今のどこに笑うポイントがあったのだろうか。


「貸したるには貸したるけど、あれうを使ったらまた禁書目録が昏睡状態に陥たるわよ?
 その辺に関してはちゃんと下準備したるのでしょうね?」

「心配ない。 先ほど禁書目録と接触し、彼女の脳と魔道書を隔離した」

「!? 魔道書を全て奪ったの!?」

「違う違う、そんな事をしても禁書目録に気付かれるだけだろう。
 言い方が悪かった。 整頓した、と言ったらいいのかな?」


547 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 21:10:20.87 Rxev5jluo 296/508



科学サイド風に説明してみよう。


インデックスの頭には『彼女本来の脳』と『十万三〇〇〇冊の魔道書』がある。
つまり『インデックス』というフォルダに『脳』と『十万三〇〇〇冊の魔道書』というデータがあるのだが、
『インデックス』というフォルダの中に更に二つ、フォルダAとフォルダBを作成し、その中にそれぞれ
『脳』のデータをフォルダAに、『十万三〇〇〇冊の魔道書』というデータをフォルダBへと振り分けて入れたのだ。


こうすることでインデックスは誰かに遠隔制御霊装を使用されても隔離されている『脳』に影響は出ず、
意識不明の状態に陥る事はなくなる・・・・・・らしい。


「遠隔制御霊装を行使しても禁書目録に気付かれぬよう、小細工を労したるわけね・・・・・・」


無茶苦茶な事しやがる、とローラは心の中で呆れ果てる。


「その点で言うと、確かに『右方』のフィアンマはアレイスターの言う通り、確かに惜しいところまで
 進んでいたわけだ。 まぁ私が禁書目録に施したアレは現世で言う『裏技』だからな。
 人間であるフィアンマにそこまでしろというのも酷というものだ」

「いや、知らぬけど」


・・・・・・それにしても、『先ほど禁書目録と接触し、彼女の脳と魔道書を隔離した』というエイワスの言葉。

先ほどというと、ついさっきまでインデックスと上条当麻の元に一人の魔術師が現れていたはずだが・・・・・・?


548 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 21:12:26.11 Rxev5jluo 297/508



ローラは両腕でそのなかなかに豊満な胸を覆い隠し、
ペタンとしゃがんだ体勢で言った。


「好きにせい。 持ってけ盗っ人」

「許可を得たのに盗っ人呼ばわりとは手厳しいな。 では、借りていくとしよう」

「さっさと出ていきたるのよこの変態」


エイワスは踵を返し、バスルームから出ていこうとする。


が、途中でその歩みを止め、くるりとローラの方へ振り返った。


「む・・・・・・。 まだ何か用がありけるの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


549 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 21:13:05.72 Rxev5jluo 298/508



沈黙が続く。

バスルームの中で音を立てているのはローラお気に入りのジェット水流マッサージ風呂の
水流音だけだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


睨み合う二人。ただエイワスだけは物凄く意地の悪そうな笑みを浮かべていた。


ローラに悪寒が走る。


「・・・・・・・・・・・・ま、待ていなのよエイワス。 あなたまさか・・・・・・、」


551 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 21:13:52.57 Rxev5jluo 299/508



その言葉を待っていたかのように、エイワスは懐からデジイチのカメラを素早く取り出した。


そして、某名人も裸足で逃げ出すほどの連射速度でシャッターをパシャシャシャシャ!!!!!
と切りまくる。


「ふふははははははははははは」

「きゃー!! きゃー!!!」


ローラは咄嗟に湯船に飛び込んで避難しようとしたが、
ゴツン!!と、何か見えない壁のようなものに頭をぶつけてしまった。


「なぬっ!!? 迷彩防壁術式!!?」

「逃がさんぞローラ。 『最大主教』のヌード写真だ、ここで撮らないでいつ撮る?」


言いながらもエイワスはシャッターを連打しまくり、彼女の艶めかしい肢体をデータに納めていく。


552 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 21:15:22.28 Rxev5jluo 300/508



「ははははははは、はーっはっはっはっはっは」

「いやーいやー!! きゃー!!!」

「ふふふふふ・・・・・・、ふはははははははは・・・・・・」

「ひゃあああああ!!! も、もういい加減止めいなのよー!!!」

「大量大量。 ゴチになったな『最大主教』。 では、結果報告を楽しみにしていたまえ」


数百枚くらいローラのヌード写真を撮ったエイワスはご満悦な笑みを浮かべ、
そのまま音もなくバスルームから消え去ってしまった。
恐らく今頃は遠隔制御霊装を持ち、イギリスからまたどこかへ移動しているのだろう。


ローラ=スチュアートはしくしくと涙を流しながら呟く。


「およよよよ・・・・・・・・・・・・。 エイワスめ、もし次に会ったらブチ殺したりけるのよ・・・・・・」


バスルームではその後しばらく、女のすすり泣く声だけが響いていた。


554 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/03/05 21:22:56.60 Rxev5jluo 301/508




                          【次回予告】



『えっ、わっ、け、携帯電話・・・・・・?』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・風斬氷華




『アンタ、堕天使のクセにそんなモン持ち歩いてんの?』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・『前方』のヴェント




『どうもどうも、レッサーちゃんです。 ヴェントさーん、風斬さんと一緒に来てくださいよ!
 全部一方通行さんの奢りなんですから、遠慮することないですって!』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』の構成員・レッサー




『オイ、マセガキ! ふざけた事言ってンじゃ―――』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




584 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:08:02.41 /EAbImxCo 302/508



――――――――――――――――――――――


「あぁ、あの白い髪の子でしょ? ちょっと前に女の子を連れて出掛けちゃったわよ?
 車に乗ってね。 なんだか随分楽しそうだったけど」

「そうですか・・・・・・、ありがとうございます・・・・・・」


風斬氷華はエリザリーナ独立国同盟の居住区で一方通行の居場所を聞き回っていた。


突如、拡声器から放たれたレッサーの馬鹿でかい声が聞こえ、独立国同盟の国境近くで
ヴェントと話し込んでいた風斬は様子が気になり居住区に来たのだ。


「ふん、愛しの彼に置いてかれちゃったわね。 あの白いの、女たらしこんでどこに行ったのやら」

「た、たらしこむだなんて・・・・・・、一方通行さんはそんな事しませんよ」


585 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:09:19.53 /EAbImxCo 303/508



しかし居住区を捜し回っても一方通行は見つからず、独立国同盟の民間人に聞き込みをしたところ、
どうやら彼は女性を連れて――どうやらレッサーとサーシャらしい――偽装トラックに乗って出掛けてしまったようだ。


「大方、デートとかそんなんでしょ。 男なんてそんなモンじゃない」

「で、デート・・・・・・」


風斬の表情が若干暗くなっていく。
昨晩、あんな事があったこともあり、今日は明るく彼に振舞おうと張り切っていただけに、
こうして置いてけぼりにされると完全に出遅れてしまった感がどうにも否めない。


(エイワスさんがいれば一方通行さんがどこに行ったか一発でわかるのに・・・・・・)


エイワスを完全にGPS扱いする風斬。どうやら今日もエイワスはどこかへお出かけ中のようだ。

そういえばミーシャ=クロイツェフもまだ見かけていないな、と風斬はこの二つの符号に
なんとも言えない嫌な予感のようなものを感じる。


586 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:10:03.12 /EAbImxCo 304/508



「ヴェントさん、あの・・・・・・今日天使さんを見ました?」

「天使? ミーシャ=クロイツェフなら見てないわよ」


ヴェントも見かけていないと言う。ミーシャは昨日、サーシャ=クロイツェフと共に
一夜を過ごしたはずだ。彼女ならミーシャの居所が分かるかもしれないと考えていると、


「!」


突然、風斬の着ているコートのポケットから機械音が鳴り響いた。


587 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:10:30.32 /EAbImxCo 305/508



「えっ、わっ、け、携帯電話・・・・・・?」

「アンタ、堕天使のクセにそんなモン持ち歩いてんの?」


風斬は慌ててポケットから携帯を取り出し、本体を開いて液晶画面を確認する。


「あ、一方通行さん・・・・・・?」


画面に表示されている着信先の登録名を見た途端、パァァっと彼女の表情が明るくなった。
風斬はすぐに応答ボタンを押して携帯を耳に添えた。


(コイツ・・・・・・人形のクセにわかりやすい性格してるわね)


そんな風斬を横目で見ていたヴェントはくだらなそうに鼻を鳴らした。


588 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:11:53.36 /EAbImxCo 306/508



『風斬か?』

「は、はい! おはようございます・・・・・・」


おはようございます、と起床の挨拶をしたら昨晩のベッドで自分がやっちゃった事を思い出し、
ボンッと顔が赤くなってしまった。


『オマエ今までどこにいたンだ。 捜しても見つかりゃしねェし』

「あ、はい、ごめんなさい・・・・・・。 さっきまでヴェントさんと国境付近でお話してました」


自分の名前を出され、ヴェントはチラリと風斬の方を見る。


「あの、一方通行さんは今どちらに?」

『ン。 航空機のコクピット』

「ああ、コクピット・・・・・・。 ・・・・・・って、えぇっ!!?」


589 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:13:14.11 /EAbImxCo 307/508



思わず納得しかけてしまった風斬は慌ててリアクションをとった。


航空機のコクピット?彼は車でどこかに移動したという話だが、これはどういう事なのか。


「あ、一方通行さん、空にいるんですか!?」

『あァ。 モスクワで一旦トラック停めてよ、そこから空港に個人でセスナ持ってるロシア人がいたから
 そいつに金払って買い取ったンだよ』


一方通行とレッサー、サーシャを乗せたトラックは現在、モスクワ空港に停めてあるらしい。
そこまでは別に問題ないのだが、なんと一方通行はその空港でロシア人が個人で所有していた
航空機を買ってしまったのだという。

エイワスも今まで散々、無茶苦茶をやってきたが、この第一位もなかなか負けず劣らずな事をする。


590 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:14:27.85 /EAbImxCo 308/508



「で、でも飛行機って・・・・・・一方通行さん、どこに行こうとしてるんですか?」

『レッサーやサーシャと一緒にロシア東部の原野にある「実験都市」に向かってンだよ。
 知ってるか? 巨大商業施設があるンだが』

「ちょ、ちょっと待ってくださいね」


ロシア東部にある商業施設など、風斬は知らない。
彼女は一旦耳から携帯を離し、ヴェントに問いかける。


「あ、あの・・・・・・ロシア東部の原野にある商業施設って知ってますか・・・・・・?」

「は? あの白いの、そんなところに行ってんの? ・・・・・・知ってるわよ、
 馬鹿げた規模のショッピングセンターの事でしょ」


行ったことはないけどね、とヴェントは興味無さそうに説明してくれた。


591 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:15:41.37 /EAbImxCo 309/508



「あの、ショッピングセンターがあるらしいんですけど・・・・・・」

『なンだ? 近くに誰かいるのか?』

「あ、ヴェントさんです。 彼女が教えてくれました」


そんなヴェントはプイっとそっぽを向くだけだった。


「あの・・・・・・じゃあレッサー達とお買い物をしに行ってるんですか?」

『そォいうこった、クソ面倒な事にな。 で、オマエも来ねェか? って事で
 連絡してみたンだが・・・・・・、どォだ?』


一方通行からの誘いに風斬は大して考えもせず即答した。


「い、行きます。 これからすぐに向かいますね」

『じゃあオマエは自力で飛ンでこい。 あンま人目に付くよォな場所は飛ぶなよ。
 俺も全速で今向かってるから多分こっちの方が到着は早いはずだ。 オマエも着いたら俺に連絡しろ』

「わ、わかりました・・・・・・。 あ、ちょっと待ってくださいね!」


風斬は再び耳から携帯を話すと、少し離れたところで退屈そうにしているヴェントに話しかけた。


592 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:17:21.23 /EAbImxCo 310/508



「ヴェントさん、あなたも一緒に行きませんか? お買い物」

「ハァ? 冗談でしょ、何で私までんなモンに付き合わなきゃなんないのよ」

「いや、その・・・・・・せっかくですし」

「行かないっつーの。 面倒くさい」

「そ、そんな事言わずに・・・・・・」


意外に粘ってくる風斬に頭の何かがぶち切れそうになるヴェント。
面倒なのはもちろんなのだが、それ以前に彼女は魔術師になって以来、まともにショッピングを
楽しんだことがない。買い物の楽しみ方を忘れてしまっているのだ。

しかし魔術師だろうが元『神の右席』だろうが、ヴェントだって一人の女の子なのだ。
たまには女の子らしく買い物の一つでも楽しみたいという気持ちが無いわけではないのだが、
やはりまだどこか、大人数で買い物を楽しむという行為に抵抗があるようだ。


593 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:18:01.08 /EAbImxCo 311/508



「・・・・・・行かないって言ってんでしょ。 何でそんなにしつこいのよ」

「すみません・・・・・・」

「もう私のコトはいいからさっさと行って来ればいいでしょ」


と、そこで風斬の携帯から何か声が漏れてきている事に気付いた。
風斬は耳に携帯を添えて応答する。


「あの、何か言いました?」

『ちょっとヴェントに変われ』


言われるがまま、風斬はヴェントに携帯電話を差し出した。
ヴェントは怪訝な表情を浮かべながらもそれを受け取る。


594 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:18:40.56 /EAbImxCo 312/508



「・・・・・・・・・・・・何?」

『オマエも来い。 さっきからレッサーが連れてこい連れてこいってやかましいンだよ。
 だから、・・・・・・オイ!! 勝手に中に入ってくるンじゃねェよ!!』

「は?」

『どうもどうも、レッサーちゃんです。 ヴェントさーん、風斬さんと一緒に来てくださいよ!
 全部一方通行さんの奢りなんですから、遠慮することないですって!』

『オイ、マセガキ! ふざけた事言ってンじゃ―――』

『それじゃ待ってますんで! あでぃおーす♪』


言いたいことだけ言ってきたレッサーはそのまま一方的に電話を切ってしまった。
あちらは随分と賑やかな様子だ。


「なんだってのよ・・・・・・」


会話が切れた携帯を睨みつけるヴェントを見て、風斬はクスっと笑う。


595 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:20:01.81 /EAbImxCo 313/508



「・・・・・・ね? せっかくですし、ヴェントさんも一緒にお買い物しましょうよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ヴェントはしばらく無言で考え、やがて風斬に言った。


「私が行ったってつまんないでしょうが」

「そんなことないですよ・・・・・・? みんなで楽しく遊びましょうよ」


ヴェントは思い出す。昨日、自分の部屋で白髪の少年が自分に向けて言った言葉を。


『オマエが抱えてる憎しみ、この一方通行が全て引き受けた』


あの言葉の真意を確かめるためにも、ここはとりあえず彼に会ってみたほうがいいかもしれない。
ヴェントはなるべく自分の都合の良いように解釈し、


「・・・・・・クソが。 行きゃあいいんでしょ行きゃあ。 あーメンドくさ」


渋々ながらも了解し、一方通行達のショッピングに同行することにした。


596 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:23:03.11 /EAbImxCo 314/508



――――――――――――――――――――――


一方通行達は空港で買った個人用の航空機を街の民間空港に着陸させ、
そこから徒歩でショッピングセンターに向かっていった。


ちなみに航空機を運転していたのは一方通行だ。
彼は航空機のコクピット内に入るやいなやそこら中にあったスイッチや機器等を一通りチェックし、
あっさりと未経験である航空機の操縦をやってのけたのだ。

その辺の対応力はさすがは第一位といったところか。


そして一同は風斬達の到着を待つため、一足先にロシア東部の超巨大商業施設の
入り口の前で屯していた。


597 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:24:48.46 /EAbImxCo 315/508



「第一の私見ですが・・・・・・、何というか、言葉もありませんね」

「ふふん、どうです? すごいでしょうこのショッピングセンター!
 なんたってここは元学園都市の協力機関だった都市ですからね、
 世界でも注目されている最新技術を余す所無く使用した最先端の街なんですよ」

「なンでオマエがそンなに得意げなンだよアホ」


今にして気付いたのだが、街の入り口付近にはこのショッピングセンター専用の
鉄道が走っているらしい。すぐ近くに駅があるのを彼らは確認している。


だったら航空機など使用せずともモスクワから電車で移動すれば楽だったのだが、
そもそも大金を支払って航空機というアシを手に入れたのもレッサーが原因だ。


598 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:26:10.10 /EAbImxCo 316/508



彼女は、

『モスクワからこのショッピングセンターまではかなりの距離があります、
 だから車での移動より飛行機の方が断然早いですよ! ほら、ちゃっちゃと手に入れて
 きちゃってください!』

などと言い出したものだから、一方通行もその時は素直に納得し、空港のATMから
自身の預金口座にアクセスして目が飛び出るほどの現金を手に航空機を買ったわけだ。


なので鉄道が通っている事に気付いたときはレッサーに憤慨しかけたが、
ろくに調べようともせず彼女の言葉にまんまと乗せられた自分も悪い、と一方通行は彼女を責め立てなかった。


にしても、


「クソ・・・・・・、無駄な出費だったな。 やってることがエイワスと変わらねェ」


600 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:27:21.75 /EAbImxCo 317/508



「航空機の事ですか? 別にいいじゃないですか、私たちにとっては大金でしたけど、
 あなたにとっては端金にもならないんでしょう?」

「そォだけど、そォいう問題じゃねェだろォが・・・・・・。 過ぎたことをグチグチ言う気も無ェけどよ」

「カッコイー! 女のためなら航空機の一機や二機くらいホイホイ買えちゃう!
 やっぱ男はお金ですよお金。 私、玉の輿狙っちゃおっかな~♪」


猫なで声で杖をついている一方通行の右腕に自分の腕を絡ませ、わざとらしく胸を押し付けてくるレッサー。
今ここでチョーカーの電源を入れれば血流操作で彼女を瞬殺出来る一方通行だが、
ぎりぎりのところで堪えた。


そんなアホ二人は放っておいて、サーシャは街の入り口から見える
景観に圧倒されていた。


「第一の質問ですが、なぜこの街はどこもかしこも画面だらけなのですか?」

「半公開型ARっつーシステムを使ってンだよ。 街の道路、横断歩道、ビルの壁面、
 店ン中の壁や床、何もかもが半公開型AR用のタッチパネルで出来てやがるンだ」

「ほー・・・・・・・・・・・・」


まるで田舎から上京してきた人のように、サーシャは感心しながらキョロキョロと
街の様子を眺めている。
ただし、ここでもサーシャの格好は目立ってしまっているため、
彼女は入り口の壁から覗き込むような体勢をとっていた。


601 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:29:35.80 /EAbImxCo 318/508



先ほど一方通行がサーシャに説明していた通り、このショッピングセンターは一風変わった特徴がある。
半公開型ARというシステムを使っており、街全体が巨大なウィンドウショッピング施設のようになっているのだ。


街の道路、ビルの壁面、サーシャが今触れている入り口の壁も、全てが半公開型AR用のタッチパネルに
なっており、そこに触れるだけで捜したい商品のカタログや、街の案内図など、何でも調べることが出来る。
ちなみにこの街の半公開型ARのモニタにはCMYKではなくRGBが取り入れられている。
RGBはパソコンの画面やデジタルカメラの画像などに利用されている表現方法だ。


つまりこの街は一日中、言ってしまえば年がら年中ピカピカと光っているため、
夜の闇などかき消されてしまうのだ。


「第二の私見ですが、目が悪くなりそうです」

「だろォな」


602 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:31:24.49 /EAbImxCo 319/508



サーシャは自分のすぐ側にあるモニタもタッチパネル式だと知り、二人に尋ねる。


「第二の質問ですが、この街の地図を表示するにはどうしたらいいのでしょう?」

「うん? 地図が見たいんですか? どれどれお姉さんに任せてみなさい」


レッサーは一方通行に絡ませていた腕を解き、サーシャの元に歩み寄った。
彼女は慣れた手つきでキーボード状のタッチパネルを表示させると、指をわきわきと動かしながら
タタン、とタッチパネルを軽快に叩く。


「ほれ、どんなもんだい」

「おおー・・・・・・、ありがとうございます」


表示された地図はまるで小学生が自由ノートに書いた難解複雑な迷路のようだった。
この街は必要な施設を取り入れられるだけ取り入れた結果、その規模がドーム球場六五〇個分という
ふざけた大きさになってしまっている。


603 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:32:29.98 /EAbImxCo 320/508



今現在、一方通行達がいるエリアはまだ普通の大きさなのだ。ホテルや免税店など
外から来る客に用意されたこの場所は都市部と同じくただ高層ビルが立ち並んでいるだけなのだが、
商業施設が集中して並んでいるエリアは『とてつもなく巨大な構造物』と化してしまっている。


「第三の私見ですが、ここは地図がないとほぼ一〇〇パーセント迷ってしまえる自信があります」

「そォ思うンなら俺から離れンなよ」


そんな彼の言葉に少し照れてしまうサーシャ。ただ子供扱いされているだけなのだが。


「私はこの街の地図を頭に叩き込んでありますから、迷う心配はないですよ」

「第三の質問ですが、レッサーはここに来たことがあるのですか?」

「ここで私、お店やってた事あるんですよ。 ・・・・・・って、言いましたよねそれ」

「オマエみてェなガキが経営出来る店がここにあるワケねェだろ。 なンて店だ?」

「『ニホンダルマ』」


604 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:34:41.96 /EAbImxCo 321/508



それを聞いて一方通行はくだらねェ、と鼻で笑った。


「第四の質問ですが、ニホンダルマとはなんですか? あの片目に筆で目を書くあれですか?」

「知らねェでいいンだよ、オマエがそンなくだらねェ事」


すぐそこにあるタッチパネルで検索すれば情報を得る事が出来るだろうが、
やめたほうがいいと一方通行はサーシャを引き止める。


「つーかその店はまだ存在すンのか?」

「多分あると思いますけどねー。 しばらくここに来てないからわかんないです。
 『新たなる光』の皆でやってるんですけど」

「そンな悪趣味な店名じゃ来る客も来ねェだろ。 もう潰れてンじゃねェの?」

「何を言いますか! 超大繁盛してましたよ! ・・・・・・そういえば夏頃に珍しい客が来たのをふと思い出しました」


605 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:37:09.72 /EAbImxCo 322/508



「珍しい客?」

「プライバシー保護のため詳細は伏せますが、なんと日本人の女の子です。
 中学生くらいの、茶髪の少女でした」


あの店名で寄ってくる日本人のガキなんて、ろくなヤツじゃねェだろォなと、
一方通行はその誰とも知らぬ少女に失笑した。


「第五の質問ですが、他のビルに比べてやたら飛び出ているあのクレーンのようなものはなんですか?
 ずいぶんと遠くにあるのでよく分からないのですが・・・・・・」


サーシャが指差す方向には、確かに工事現場などでよく見かけるクレーンのような
ひたすらに長い山なりの何かがあった。


「・・・・・・あれは、多分ジェットコースターのレールじゃないですか? 託児所の」

「託児所にあるジェットコースターがあンなバカみてェに高いコースになるわけねェだろ。
 本格的にテーマパークでも開こォとしてて、それの建設現場か何かじゃねェのか?」


少なくとも彼らから見て、そのジェットコースターのレールであろう物の高さは八、九〇メートルはある。
子供向けとは到底思えない構造だ。


「ま、ここは『実験都市』でもあるし、案外マジでその託児所のジェットコースターだったりしてな。
 ガキでも楽しめるよォなスリルマシンを設けてる、とかよ」

「あはは、そうかもしれませんねー」


そんなわけねーだろ、と一同は笑いあった。

608 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/03/07 23:45:09.74 /EAbImxCo 323/508




                          【次回予告】



『・・・・・・気付いてた、んですか・・・・・・』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』の構成員・レッサー




『俺を見くびるンじゃねェぞマセガキが』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)




620 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:24:12.74 hqGYnzPPo 324/508



とりあえず三人はショッピングセンターの前で風斬氷華とヴェントの到着を待つことにした。

サーシャは半公開型ARのタッチパネルにご執心なようで、さっきから両手の人差し指だけ
ピンと立てたまま、無我夢中でカタログやら新入荷商品の情報やらをチェックしている。


そんな彼女を視界に入れたまま、一方通行とレッサーはサーシャからほんの少し離れた場所にある
ショッピングセンター入り口付近のベンチに座ってボーッとしていた。


否、ボーッとしていたのは一方通行だけであり、レッサーは今、心の中で静かに覚悟を決めているのだ。


(・・・・・・言うとしたら、もう今しか無いですよね)


621 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:25:05.71 hqGYnzPPo 325/508



レッサーはチラリと横目で一方通行の様子を窺う。
彼はショッピングセンターに行き来する大勢の客を目で追っていた。絶賛暇を持て余し中ですと言わんばかりの
退屈そうな雰囲気がダダ漏れである。


レッサーというこの十歳前半の――自称、中学生――少女は、イギリスにある魔術結社予備軍、
『新たなる光』に所属している魔術師だ。


彼女は英国を愛する気持ちから、今までイギリスのために利用できそうな人物に
様々なアプローチを仕掛けていた。学園都市に住む上条当麻もその一人だ。


第三次世界大戦が終結し、結局上条当麻を手中に収める事が叶わなかったレッサー達『新たなる光』は、
次のチャンスをただひたすら、静かに待っていた。



そして、イギリスに『天使』が舞い降りた。



622 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:25:58.50 hqGYnzPPo 326/508



当初、イギリスにあのミーシャ=クロイツェフが来訪しているという情報を聞いたときは
耳を疑ったが、実際にその目で確認すると彼女たちはすぐさま行動に移った。

ミーシャ=クロイツェフは何らかの理由で何人かの人間と共に行動をしていた。
あの天使がなぜそんな事を、とも思ったが、瑣末なことは気にしなかった。


とにかく、本物の大天使の力を利用することが出来れば、イギリスは安泰だ。
外の魔術結社から攻撃や圧力をかけられる事も無くなるだろう。


しかし彼女たちの天使を手に入れるための作戦は、白髪紅眼の化物によって頓挫してしまう。


それが今、レッサーの隣にいる少年。学園都市最強の超能力者(レベル5)、一方通行(アクセラレータ)だ。


彼の圧倒的な力によって『新たなる光』は壊滅的な被害を受けてしまった。
それにより、ベイロープ、フロリス、ランシスの三人は天使を諦める事を決めた。


だがレッサーだけは諦めなかった。
何せ天使だけでなく、この一方通行という少年も天使に負けず劣らずの力を持っていたのだ。
天使が無理でもこの少年なら、何とか利用出来るかもしれない。


そう思い、レッサーは一方通行が率いる『天使同盟(アライアンス)』と行動を共にすることを決めたのだ。



623 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:27:14.03 hqGYnzPPo 327/508



『天使同盟』というもうこれ以上はないと言っても過言ではない超巨大組織。
もしこれでこの組織を利用出来るチャンスを逃したら終わりだ。
利用しようとしている事がバレたら、本当に本気で『新たなる光』は壊滅してしまう。

壊滅ならまだいいが、下手をしたら『天使同盟』のジェネラルマネージャーでもある、あの聖☆おねえさんに
殺されてしまう可能性も十分に考えられた。





『私にとってはイギリスがこの先どうなろうと、
 言ってしまえばこの星がどうなろうと全く興味はないが―――』





だが聞いてみると、エイワスは『新たなる光』にもイギリスの行く末にもまるで興味がないらしい。
利用しようとしている事がとっくにバレていた上でこの発言だ。
いつも明るく振舞うレッサーでも、さすがに少しヘコんだ。


624 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:28:08.44 hqGYnzPPo 328/508



しかし、エイワスは続けてこう言った。




『―――彼はおそらく、そうは思わないだろう』




彼、とは。今自分の隣で大きなあくびをかましている少年、一方通行の事だ。

しかしレッサーは信じることが出来なかった。この白髪の悪魔が、果たして本当に
たかが一魔術結社予備軍の瑣末な願い事を聞いてくれるのか、と。


そして『天使同盟』の良心、風斬氷華にも自身の目論見を看破され――これはレッサー自身から吐露したのだが――、
レッサーは一方通行が本当にイギリスがピンチになった際に助けてくれるのかどうか、相談した。


風斬氷華は笑顔で、大丈夫だと答えてくれた。自分も貢献する、とまで言ってくれた。


625 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:29:25.87 hqGYnzPPo 329/508



思わず涙ぐんでしまった。利用というイメージの悪い方法でイギリスに貢献させようとしていた自分を
受け入れてくれ、その上背中を押してくれたのだ。


だからレッサーは今、運良く二人きりになれた状況で――一応サーシャもいるのだが――、
自分の気持ちをはっきりと一方通行に伝えようと覚悟を決めているのだ。






「・・・・・・わァーかったよ、ったく。 オマエから言えねェンなら俺から言ってやる。
 イギリスに何かあったら、俺が、俺たちが、すぐに駆けつけてやンよ。
 ・・・・・・・・・・・・これでいいンだろ?」






626 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:30:08.03 hqGYnzPPo 330/508



そしてレッサーは気持ちを固め、表情を引き締め一方通行の方を振り向いて・・・・・・、開口一番にイギリ・・・・・・。


・・・・・・・・・?・・・・・・・・・え?


「・・・・・・あ、あれ? はい?」

「聞こえなかったのか? 面倒くせェな」





今、彼は何と言ったのだろうか?恐らくは自分に話しかけてきたのだろうが、
何しろ唐突だったので上手く聞き取る事が出来なかった。


627 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:31:07.86 hqGYnzPPo 331/508



「アレだろ? 俺がオマエら・・・・・・なンて言ったか、『新たなる光』?
 に会った時にも言ってただろそンな事。 イギリスに何かがあった際に力添えして欲しいとか何とかってよォ。
 ったく、ロシアに着いてからいちいち俺の機嫌を窺うよォにチラチラ視線送ってきやがって。
 あからさま過ぎるンだっつーの。 まさか気付いてねェとでも思ったか? 認識が甘ェンだよクソボケ」

「あ、・・・・・・は、ぁ・・・・・・?」


エイワスだけじゃない、垣根帝督だけじゃない、風斬氷華だけじゃない。ミーシャ=クロイツェフだけじゃない。


一方通行も、とっくにレッサーの抱いている思いに気付いていた。
いつからだろうか、彼の口ぶりからしてロシアに着いた時から?


「もしもの時は、イギリスの為に力を貸して欲しい。 それがオマエの願いだろ。
 分かってンだよそンな事は。 オマエから言ってきた事なンだからなァ。
 大方、俺にお願いしても聞いちゃくれねェだろォから言おうかどォか悩ンでたってとこだろ」


とにかく彼は気付いていた。


628 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:31:59.26 hqGYnzPPo 332/508



レッサーはポカン、と一方通行の顔を見つめることしか出来なかった。


確かに、初めて彼と出会った時にもそんな事は言っていた、と思う。
ミーシャ=クロイツェフの力をイギリスのために利用させろ、と。
それを遊びだと言われて、ちょっとムカついた事もあった。


確かに、改めて一方通行にお願いをすること躊躇していた事はあった。
いや、ついさっきまで、現在進行形でその気持ちでいっぱいだった。


確かに、一方通行にお願いをしたところで断られてしまうだろう、と諦めかけていた。
イギリスで会った時も、圧倒的な力でねじ伏せられ、拒否された前例があるのだから。


629 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:32:49.11 hqGYnzPPo 333/508





それにしても。それにしたって。




「・・・・・・気付いてた、んですか・・・・・・」

「俺を見くびるンじゃねェぞマセガキが」


一方通行はロシアに入ってからも色んな人物と関わり、物事を考えていたが。
まさかちゃんと自分の事も気にかけていてくれているとは、レッサーは思わなかった。


そしてエイワスの言ったとおり。風斬氷華の言ったとおり。イギリスの為に力を貸してくれると、彼は言ってくれた。


630 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:33:43.35 hqGYnzPPo 334/508



「要はあれだろ? ヘルプっつーか、助っ人みてェなモンだろ?
 イギリスで魔術的要素が絡ンだ何らかの事件が起きたら、助けに来いって。
 そォいう意味なンだろ?」

「は、はい。 でも、なんで・・・・・・? イギリスであなたと戦った時は、
 あなたは拒否してきたじゃないですか」

「あン時はオマエら、ガブリエルを利用しよォとしてただろ。
 それにあン時の俺はちょっと頭がおかしくなってたからなァ」

「?」


首を傾げるレッサーを無視して、一方通行は続ける。


「だから、そンくれェの事ならいくらでもやってやるっつってンだ。
 俺たちもイギリスにゃ世話になってるからなァ(二度も)。
 まァ、オマエが言いづらくなっちまった原因は俺にもあるンだが」

「一方通行さん・・・・・・」

「これでいいだろ? ンな気持ち抱えたまま楽しくショッピングなンて出来るわけねェからな。
 ハイこれにて一件落着。 この話はオシマイだ。 分かったらいつも通りに振る舞えマセガキ」


631 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:36:59.98 hqGYnzPPo 335/508



そして一番驚いた事は、一方通行が急に。唐突に。突然この話を持ちかけてきた事だった。


車の中でも航空機の中でも、ショッピングセンターに着いてからも、
イギリスの話題なんて全く出てこなかったのに。そんな話は全然していなかったのに。


一方通行は舌打ちをし、地面の半公開型ARに流れている『本日の星占いランキング』を眺める。
照れ隠しか何かなのか、彼の表情は誰が見てもムスーっとしたものになっていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


レッサーはしばらく無言のまま一方通行の方を見つめていたが、
やがて歳相応の可愛らしい笑顔を浮かべて言った。


「ありがとうございます、一方通行さん。 よろしくお願いしますね」

「はいはい」


明るく振る舞いながらもどこか心に霧がかった何かがあったが
もうそれは払拭され、レッサーはすっきりとした表情を見せていた。


632 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:37:55.50 hqGYnzPPo 336/508



「では、そういうことで! 今夜は私の部屋でさっそく今後のイギリス事情について熱く語りましょう!」

「なンでそォなる。 俺は英国市民じゃねェンだぞ」

「いいじゃないですか! 二人でイギリスの未来を熱く語り、その後は他愛もない話で盛り上がって、
 いつの間にやら二人はいい雰囲気に。 そして何かの拍子でベッドに押し倒される私! あぁ・・・・・・いけない、」

「随分豊かな妄想力ですねェ」


レッサーの熱い妄想を適当にあしらいながらも、いつもの調子に戻ったレッサーを見て
一方通行は薄く笑みを浮かべた。


「もう私は一方通行さんの虜です。 すこぶる惚れちゃいました!
 気付かぬ内に私とあなたと間には立派なフラグが立っていたのです!」

「フラグだと? って事ァ」

「私はあなたが好きって事です♪」


633 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:38:57.28 hqGYnzPPo 337/508



雰囲気もクソもない告白を受けた一方通行。レッサーはズイっと体を寄せて
一方通行の顔を上目遣いで覗き込む。


「お返事は?」

「返事っつゥか、非常に嬉しゅうございます、はい」

「本気で受け取ってないでしょそれ!!」


これもまぁ、レッサーのいつもの冗談だ。と、一方通行は適当に応対した。


「私は本気ですよ!? 一方通行さん、どうせフリーなんでしょ?
 ほれほれ、このナイスバディでせくしぃな私を伴侶に出来ちゃうんですよ?」

「ナイスバディ? セクシー? 笑わすな、オマエちょっと風斬辺りの体つきをよく観察してこい」

「え。 なんでそこで風斬さんの名が? 体つきって、・・・・・・一方通行さん、まさか」


634 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:39:59.13 hqGYnzPPo 338/508



「オイ、クソみてェな誤解してンじゃねェぞ」

「く・・・・・・!! これは強力なライバルが現れましたね。 一方通行さんは風斬さんのような
 ホルスタインバディがお好みですか!」

「やっぱいつものオマエは鬱陶しくてしょうがねェな・・・・・・」


ギャーギャーと何か言い争っている二人を見て、タッチパネルに夢中になっていたサーシャが首を傾げている。


「ま、今はそれでいいでしょう。 でもいつか、あなたの方から私に振り向いてくれるように
 尽力しますからね! 覚悟はいいですかぁ~? むふふふふふ・・・・・・・・・・・・」

「三世紀くらいはかけねェと無理だなそりゃ」


じゃあ三〇〇年経ったら一方通行はレッサーに惚れるのだろうか。


635 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:40:55.64 hqGYnzPPo 339/508



と、レッサーは不意に自分の顔を一方通行の顔に近付け、


「ま、とりあえず先制攻撃って事で♪」



彼の唇に、軽く自分の唇を押し付けた。



「ンが・・・・・・ッ!!? またこのパターンかよ・・・・・・!!! マジでブチ殺すぞクソガキィ!!」

「"また"ってどういう事ですか? え? まさか既に、誰かと愛の口づけをー!!?」

「"愛の"はいらねェよ!! あァークッソ、なンなンですかァこのゴミみてェな展開は・・・・・・」

「にひひひひ」


636 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:43:44.61 hqGYnzPPo 340/508



レッサーの告白が果たして本気だったのかどうかは、本人にしか分からない。

しかしここ最近、『女性』を多少は意識してきた一方通行の顔はほんのわずかに紅潮していた。


(本当に、ありがとうございます。 一方通行さん)


さて、あとは風斬氷華とヴェントの到着を待ち、ショッピングを楽しむだけだ。


ちなみに先ほど一方通行が見ていた星占い。これは日本でやっている朝の情報番組を
こちらで流しているものらしい。日本時間で『明日』の占い結果も発表されていた。


結果は、


『明日のあなたの運勢は最悪! もしかしたらあなたの大事な物や人が全部離れていっちゃうかも!?』


との事だった。


637 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:44:45.62 hqGYnzPPo 341/508



そんなこんなで到着してから三十分くらいだろうか。
駅の方から見知った顔が二人、歩いて来るのを発見した。


「すみません、お待たせしました」

「風斬さん! ずいぶん早かったですね、ていうか早すぎません?」

「ええ、『飛んで』きたので」


そう言って笑顔を振りまいているのは風斬氷華だ。
まさか本当に飛んで来るとは、と一方通行も若干驚いている。


「一方通行さん、お待たせしました」

「別に待ってねェよ」


と、風斬の後ろからフラフラと不安定な足取りで歩いて来る女性がいた。ヴェントだ。


638 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:45:32.44 hqGYnzPPo 342/508



「テメェ・・・・・・堕天使、あとで覚えてろよ・・・・・・」

「?」


ヴェントの顔色がどこか青い。まるで『超音速旅客機に無理やり乗せられて大空を連れ回された』ような、
そんな乗り物酔いをしてしまった人のようだった。ほんの少し涙目になっている彼女の表情は珍しい。


「オマエ、そンな格好で来たのかよ。 目立ってしょうがねェじゃねェか」

「うるせぇよ白いの。 アンタだって人の事言えねぇだろうが」


というか、一人は真っ白頭髪に紅い眼の少年。一人はスカートから『尻尾』が伸びているアングロサクソン人。
一人はどういうファッションセンスを持っていたらそんな格好になるんだという、拘束着を来た金髪の少女。
一人は全身真黄色に包まれた一世紀以上前の衣服で、舌から鎖をぶら下げ顔中にピアスを留めている魔術師。


こんなのが集団で街を歩いたら、目撃者は仮装パーティでもやっているのかと勘違いしてしまうだろう。
この中でまともなのは風斬氷華だけだ。AIMを利用して衣服を自在にチェンジ出来る設定は少し卑怯である。


639 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:46:42.64 hqGYnzPPo 343/508



だから、


「よく考えたら風斬。 オマエは服とか買う必要は無ェよな?」

「え・・・・・・。 そ、そんな事ありませんよ。 AIMの暖かみの無い服より、
 人が作った服のほうが着てて心地いいですし・・・・・・」

「そォいうモンなのか? だったらいいけどよ」


一方通行が適当に納得すると、レッサーは高らかにショッピングの開始を宣言する。


「それじゃ、早速ショッピングと洒落込みますか! もちろん一方通行さんの奢りですからね!」


そこにサーシャも便乗して、


「よろしくお願いします、一方通行」

「ふざけやがって・・・・・・、俺はオマエらの財布じゃねェンだぞ・・・・・・」


640 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:47:44.88 hqGYnzPPo 344/508



しかし、両手に花どころの騒ぎではなくなっている今の一方通行の状況を
世の男性諸君が覗き見たら、誰もが第一位をぶん殴る術を習得したいと思うだろう。誰か木原数多にザオリクを唱えろ。


メインである、身体の構造以外は天然おっとり系少女の風斬氷華。
天真爛漫で、屈託の無い笑顔がぴったりのお調子者、レッサー。
寡黙で、喋ったとしてもその口調はどこか機械的。しかし小さな体躯と前髪で隠れている目があどけなさを彷彿とされるサーシャ。
どんな人間にも基本ツンツンしており、気に入らなければすぐに毒づく。しかし極稀に見せる『デレ』に定評のあるヴェント。


完璧なバランスである。そんな十人十色な女の子達を引き連れてショッピングを楽しめるのだ。
財布にくらいなったって問題ないだろう。ていうかなりたい。


「・・・・・・で、まずはどこに行きてェンだよ。 人多すぎンだろここ・・・・・・」

「うーん。 皆さんは何かリクエストありますか?」


レッサーが女性陣に尋ねる。


641 : ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:48:33.28 hqGYnzPPo 345/508



「わ、私は皆さんに着いて行きますので・・・・・・」

「第一の解答ですが、風斬氷華に同じです」

「帰りたい」

「気が合うなァ、ヴェント。 俺も帰りたくてしょうがねェ」

「じゃ、とりあえず適当に見ていきましょう! ええーと、カタログカタログ・・・・・・」


レッサーがタッチパネルを使ってありとあらゆる商品が記載されたカタログを表示させる。
女性陣は覗き込むように表示された画面を見る。約一名も本当は興味ないんだけど、的な感じで見てる。

それを遠目に見る一方通行は一体どれだけモノを買わされるのかと思うとため息しか出なかった。

しかし、現在独立国同盟にいる垣根やエリザリーナやワシリーサ。

そしてミーシャ=クロイツェフにどんなお土産を買ってきてやろうかと考えると、
一方通行の気持ちも多少は弾んでいった。


一行は街の『商業施設』エリアに向かう。


643 : 次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI - 2011/03/08 20:54:23.52 hqGYnzPPo 346/508




                          【次回予告】



『テレレテッテテー♪ 「痛みとか何かそんなんを和らげる札」~♪』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・エイワス




『都合良すぎやしねえか? またお前お手製のとんでもアイテムかよ?』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・垣根帝督






続き
一方通行「フラグだと? って事ァ」  レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【3】


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