1 : ◆3dKAx7itpI - 2011/02/19 00:00:29.22 DwLBiC7ao 1/508
このSSは、とある魔術の禁書目録に出てくるキャラクター、一方通行(アクセラレータ)を中心とした
もうあまりほのぼのとは言えない感じの二次創作物です。
一方通行「フラグ・・・ねェ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1285654962/
↓
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」 風斬「そうですよ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1289310136/
↓
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」 エイワス「まだそんな事を言っているのか」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294928027/
↓
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」 垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1295564748/
上記のスレからの続きとなっています。もしお暇でしたら、ご一読を。
以下、留意点など。
・投下は基本的に三日おきです、多分。そしてかなり気まぐれに投下するので質悪いです。
・第三次世界大戦は終結。その後のお話です。
・キャラ崩壊しまくりな上に、設定も弄りまくっています ←これ一番重要、ご注意ください。
・地の文が多めになってきました。
・書き溜めはありますが恐らく速攻で尽きます・・・・・・
元スレ
一方通行「フラグだと? って事ァ」 レッサー「私はあなたが好きって事です♪」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1298041227/
【関連】
1スレ目
一方通行「フラグ・・・ねェ」【1】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【2】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【3】
一方通行「フラグ・・・ねェ」【4】
2スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」 風斬「そうですよ!」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」 風斬「そうですよ!」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」 風斬「そうですよ!」【3】
一方通行「フラグ・・・・・・なのかァ?」 風斬「そうですよ!」【4】
3スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」 エイワス「まだそんな事を言っているのか」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」 エイワス「まだそんな事を言っているのか」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・じゃねェだろ」 エイワス「まだそんな事を言っているのか」【3】
4スレ目
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」 垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【1】
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」 垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【2】
一方通行「フラグ・・・・・・だろォな」 垣根「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」【3】
――――――――――――――――――――――
垣根帝督もまた、エリザリーナ独立国同盟の居住区を闊歩していた。
一方通行たちとは別の方向へ、ワシリーサを捜しているのだ。
道中、すれ違う民間人に度々挨拶をされ、若干戸惑う彼の姿は物珍しいものがあった。
「やけにフレンドリーだなここの連中は。 むしろ俺たちなんかは畏怖の対象で見られるべきだと思うが」
『アライアンス』号で今行われている事を知らない垣根は頭に疑問符を浮かばせていた。
挨拶ならともかく、たまにお礼を言われたりもしているのだ。
だがさして気にすることもなく、垣根はワシリーサを捜し歩く。
「どーこにいやがんだあのババア。 部屋は分かんねえし・・・・・・
エイワスにでもパシらせて探させるかぁ?」
到底不可能な事を考えつきながら、しかし本当にワシリーサの居場所が分からない垣根は
適当にその辺の民間人に尋ねてみようと、目についた商店に近づこうとしたとき、
「サーシャちゃああああああああああああん!!? どこに行ったのよおおおおおおおお!!?
カモオオオン!! カムバックラヴァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
全世界に轟くんじゃないかという、これでもかと言う程に分かりやすい大声で赤い修道服を着た
シスターが居住区の中心で愛を叫んでいた。
垣根はうんざりとした顔で白いため息をつき、ざくざくと雪で覆われた道を踏みながら彼女に近づく。
「捜した捜した、捜したよん。 オイ、ちょっと付き合えよ変態女」
「ッ!? 垣根の坊や・・・・・・? ・・・・・・!!!」
ギュルン、とワシリーサの首が垣根の方へと向いた。やたら不気味な動きだ。
彼女は垣根の顔を憎悪に満ちた表情で睨みつける。
「ああ?」
「まさか・・・・・・貴様かぁぁぁああああああああああああああああ!!!?」
と、ワシリーサが絶叫した次の瞬間、垣根の顔面に彼女の見事なライダーキックが決まっていた。
「ぶごっっ!!?」
「サーシャちゃんは返してもらうわよ!! このド悪党がああああああああああ!!!」
何が起きたのか状況も理解出来ないまま起き上がろうとする垣根に、ワシリーサは追撃のキックを
喰らわせようとする。その見事なまでの上段回し蹴りは某ライダーカブトを彷彿とさせた。
だがその回し蹴りが垣根を捕えることはなかった。
ゴキィィン!!、と金属と金属がぶつかり合ったような音が響いたかと思ったら、
垣根の体は白い無機質な翼に覆われており、ワシリーサの蹴りを弾き返していたのだ。
「いやんっ!? 何すんのよ垣根の坊や!!」
「こっちのセリフだクソボケ。 朝からハシャいでんじゃねえよ年増が」
バランスを崩してしまったワシリーサはなんとも間抜けな体勢で転んでしまう。
蹴りの勢いが勢いなだけに派手にコケてしまった彼女の修道服が大きくめくれ上がり、
その下の生唾を飲み込んでしまいそうなほど色っぽいガーター付きの下着が丸見えだ。
「誰が得するんだよ、テメェのパンチラなんざ」
「サーシャちゃん以外には見せまいと思ってたのに・・・・・・悔しいっ! でも――」
「バカやってねえで、ちょっと付き合えよ」
ビクンビクンする前に割って入る垣根。ワシリーサに見せつけるようにヒラヒラと
指先で動かすそれは、徹夜で作りこんだ例のルーンだった。
起き上がり、パンパンと付着した雪を払いながらワシリーサは垣根の持つソレを見る。
「なぁに? ルーンの手直しくらい自分でしなさいってお姉さん言ったでしょ?」
「だからもうそれは出来たんだっつの。 だから次のステップに進むんだよ。
お前相手ならいい感じに特訓できそうじゃねえか」
「特訓? 垣根の坊や、週刊少年ジャンプの読み過ぎじゃないのかにゃーん?」
ヒョイっと垣根が持つルーンを奪いとり、鑑定するように見るワシリーサ。
ふむふむと頷きながら数秒ほど見定めた彼女は、
「・・・・・・・・・・・・そのジャケットに忍ばせてるルーンも全部こんな感じ?」
「ああ。 狂ったように何度も何度もチェックしたからな、間違いねえよ」
ジャケットの裏に仕込んであるホルダーを見破られた事に、大して驚きもせず垣根は言う。
「そうねぇ。 まぁこれなら合格ライン突破ってとこかしら?
あなたって意外と努力家さんなのねん♪」
「茶化してねえで、付き合ってくれんのかどうなのか答えろ」
「私の将来の相手はサーシャちゃんって決めてるの!」
「そっちじゃねえよ耄碌ババア。 特訓だ特訓」
ようやくワシリーサのテンションが垣根のテンションに追いついたのか、
一息ついて彼女は彼に向かってニヤリと笑ってみせた。
「使い方も兼ねての『実戦訓練』ってところかしらん?」
「最初から分かってんだったらさっさと話進めろコラ」
「でもぉ~・・・・・・、それよりサーシャちゃんを捜す事のほうがお姉さんにとっては大事なんだけど」
「特訓に付き合ってくれたらサーシャの生着替え写真くれてやるよ。
俺がどうにかして上手い事撮ってきてやっから」
「マジすか!!? 垣根さんマジパネェっす!! 私でも入手困難撮影難事な
サーシャちゃんの生着替え写真集とか・・・・・・はぁはぁ、あらやだ、濡れてきちゃった」
「『写真集』とは言ってねえだろ。 何さりげにグレード上げてんだよアホ」
股をむずむずと動かしながらジュルリと涎を拭うその姿はとても修道女だとは思えなかった。
しかしそんなワシリーサの姿を見ても垣根は呆れもしなかった。
こういう彼女の言動や仕草は全てブラフ、猫かぶりだとわかっているからだ。
ただ、サーシャに対する異常なまでの愛は本物だろうが。
「返答は?」
「オッケ! 交渉成立! 特訓でも何でもお姉さん付き合っちゃう♪
その代わり、サーシャちゃんの生着替え写真、マジで割と切実に頼むわよ」
「どんだけ必死なんだよお前・・・・・・、気持ち悪いな」
ともあれ、何とかワシリーサは特訓に付き合ってくれるようだ。
彼女の場合、元よりそのつもりだったのかそうでなかったのかは定かではないが。
全く以て、掴めない女性である。
「こっちへいらっしゃい、丁度イイカンジの場所があるのよ。 誰にも邪魔されないような地下空間がね。
昔は防空壕的なものとして使われていた場所なんだけど、無駄なくらい広い空間だからバンバン魔術使い放題よん♪」
「地下空間か・・・・・・、まさにお誂え向きな場所ってことだ」
おいでおいで~、と手招きをしてくるワシリーサの姿に、なぜか少し恐怖に似た感情を覚える垣根。
もしかすると自分は今から世にも恐ろしい体験をすることになるのかもしれないと危惧したが、
杞憂だろうと自分で自分を納得させる。
だがその悪寒は、物の見事に的中することになる。
――――――――――――――――――――――
一方通行とサーシャ=クロイツェフは居住区にどっしりと据えた巨大豪華クルーザー、
『アライアンス』号の麓へと辿りついていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「第一の私見ですが、随分と賑わっているようですね」
分かっている。
そんなことは指摘されるまでもなく分かりきっている。
まず船の周りの様子がもうおかしい。
人。人。人。
人間という人間で溢れかえっていた。
船へ向かう民間人や子供たちがやたら楽しそうにしていた点からして
こういう光景は予想できていたが、しかし、それにしても賑わいすぎだろう。
ロシアには古くから伝わる『復活大祭』、パスハとも呼ばれる大規模な祭日が存在する。
これは『イイスス・ハリストス』と言う、つまりはイエス・キリストの復活を祝う祭りなのだが、
この祭日には実に一〇万人もの人々が集まる大規模な祭りなのだ。
現在、『アライアンス』号を中心に集まっている独立国同盟の民間人たちの数も
それに匹敵するのではないかと一方通行は思った。
復活大祭とは趣きが違い、ここに集まっている皆はただ単純に用意されていたサプライズを
楽しむかのような雰囲気で、あちらこちらでどこから用意したのかも分からない
豪勢な料理を手に立ち食いをする人々や、船を見上げてキャッキャと喜ぶ子供たちがいた。
「・・・・・・朝から元気なこった」
一方通行は呆れたように項垂れ、ロシアに来て何回目かも分からないため息をつく。
「第二の私見ですが、立食パーティのそれと似たような雰囲気ですね。
補足説明しますと、こんな早朝から酒を嗜む者まで出てきています」
よっぽど気分が高揚しているのか、船の麓に集まっている軍人たちは
酒を飲み会の勢いでぐびぐびと飲みまくり、騒いでいる。
「いつからこンな事になったンだ?」
「第一の解答ですが、深夜の三時頃には既に大人たちがここで盛り上がっていたようです。
補足説明しますと、その後、民間人の子供たちも早朝にそれを知り、
いざここへ来てみたらこうなっていた、とあなたに会う前に聞いています」
そんな夜遅くから騒いでいたのか、と一方通行は呆れを通り越して笑いそうになった。
「おはよう! あなた、あの船の持ち主でしょ? 感謝するわ!」
「おお、噂の少年じゃねぇか! こんなでっけぇプレゼント、聞いたことねぇぞ!」
「ほらほら、いつまでもこんなとこにいないで、上に行って騒いできなさい! わははは!」
民間人から次々と感謝の言葉を投げかけられる。中には未成年の彼に
酒を勧めてくる者もいた―――ロシアでは十六歳から飲酒が可能らしい―――。
「・・・・・・・・・・・・ここにいたら埒が明かねェ。 とりあえず船に行くぞ」
「第二の解答ですが、了解しました」
一方通行とサーシャは船の中にある駐車場の入り口を使って船内へと入っていった。
巨大豪華クルーザー『アライアンス』号の船内も、外と変わらないご機嫌な雰囲気に包まれていた。
相変わらず立ち食いで豪華な料理を楽しむ者。立食パーティよろしく、金属製のトレイに
ワインやシャンパン、各種ドリンクを乗せて配っている者。船の構造について調べている
工業関係の人間であろう者。プライベーティアとの抗争の勝利を祝い乾杯をしている軍人。
一方通行たちが乗ってきた、親船最中から借りたケータリングカーに偽装した軍用トラックで
料理を作っている民間人までいる。
「第三の私見ですが、プライベーティアとの抗争を終え、無事に国を守ることが出来た
その祝いとしてこのような催し物が行われているようですね」
サーシャ=クロイツェフはキョロキョロと船内を見回しながら述べる。
そんな私見を聞くこともなく、一方通行は周りの民間人たちから持て囃されていた。
主役登場、といった感じである。
「あーあーはいはい、分かったから触ってくンじゃねェよ・・・・・・」
心底面倒くさそうに民間人をあしらう一方通行は、この騒ぎの主犯であろう
『天使同盟』のジェネラルマネージャー様がどこにいるのかと目を光らせていた。
二人がラウンジに到着すると、ようやくそこに見知った顔が居た。
「むぐっ。 あ、おはようございます一方通行さん、サーシャさん」
頬に食べ物を詰め込みぷっくりと膨らませているのは『新たなる光』の構成員、レッサーだ。
彼女はどこから持ってきたのか、パーティに用いられる大きな円状のテーブルに腰掛け、
さながら女王様気分でシャンパンをグイッと飲み干す。
「っぷは。 いやー朝からこんなどんちゃん騒ぎってのも悪く無いですね!
ささ、一方通行さんもいっちゃってください! よっ! 独立国同盟の救世主・・・・・・あ痛ッ!!?」
何様のつもりだ、と一方通行はレッサーの頭に思い切りゲンコツを喰らわす。
そしてそのまま片手で彼女の顔を鷲掴みにした。図らずもひょっとこみたいな顔になってしまう。
「ひゅ、にゃにしゅるんでしゅかぁ・・・・・・!?」
「肉塊にされなかっただけでもありがたく思えこのマセガキ。
一体全体どォいう事なンだァこりゃ?」
「ぐみゅ・・・・・・ふひゅ」
「第四の私見ですが、それじゃ喋りたくても喋られないかと思われます」
サーシャに指摘され、パッと手を離す。レッサーは涙目でヒリヒリと痛む頬を擦りながら、
「乱暴はいけませんよ乱暴は・・・・・・。 どういう事って、何言ってんですか?」
「やっぱあのクソったれのエイワスが主犯なのか」
「え? このパーティの事なら主催者はあなたでしょ? エイワスさんもそう言ってましたし」
「はァァ・・・・・・・・・・・・!?」
「第一の質問ですが、そうなのですか? もぐもぐ」
「ふざけンじゃねェよボケ、俺がこンなモン主催するわけ・・・・・・って何メシ食ってンだオイ!!?」
「第三の解答ですが、朝食がまだでしたし、せっかくなので・・・・・・。
補足説明しますと、このグリルチキンすごく美味しいですよ」
「ンな補足説明いらねェンだよ!!」
ちゃっかりとテーブルに置かれていた料理をむぐむぐと頬張るサーシャに激昂する一方通行。
しかし、それにしてもその一方通行が主催者とはどういうわけなのか。
「・・・・・・考えるまでもねェ、エイワスのクズ野郎、俺をダシに使いやがったな」
「ありゃりゃ、それじゃこのパーティはエイワスさんが持ってきたサプライズなんですね。
なんでも、この船をエリザリーナ独立国同盟にプレゼントするみたいですけど」
「あァ? プレゼント? ・・・・・・エイワスはどこにいやがる」
「第四の解答ですが、甲板にいますよ。 ほら」
サーシャがグリルチキンで指した方を見ると、甲板で民間人と会話をしているエイワスの姿があった。
どこか誇らしげな雰囲気で佇んでいる様子が一方通行の癪に障った。
「ちょっとアイツと話してくる」
「はーい。 んー♪ この海鮮サラダもすんごく美味しい♪」
「第二の質問ですが、料理の食材はどこから仕入れているんですか?」
「最初からこの船に保管されていたらしいですよ? 何でも、
現代科学でも解明できないような冷凍保存で食材の細胞組織を全く壊すことなく
新鮮な状態で維持されていたとかって」
「第五の私見ですが、さすがは学園都市からやってきただけのことはありますね」
「私はイギリスから着いて来たんですけどね。 あー美味し♪」
食材の保存はどう考えてもエイワスの仕業だが、その保存方法は
学園都市ですら掻い暮れ解明出来ない方法だ。
それはもはや冷凍保存というより"時間停止"の概念に近かった。
しかし一方通行ら『天使同盟』がそんな話を聞いたところで、もう驚くことはないだろう。
そんな『天使同盟』のリーダー、一方通行は甲板で独立国同盟の民間人達と談笑している
エイワスを睨み殺すかのような勢いで抗議していた。
「エェイワァァスくゥゥゥゥゥゥゥン・・・・・・!!? 状況の説明を要求するぜェ?
なーに勝手に独立国同盟の居住区をメチャクチャにしたお船でパーリィ洒落こンでンですかァ!?」
『おや、主賓のご到着だ。 それでは皆様、ご注目。
今回独立国同盟にこのクルーザーをプレゼントするという大盤振る舞いなアイデアを実行してくださったのが
この方、学園都市が誇る最強の超能力者、序列第一位の一方通行にございます』
大仰な仕草でマイク片手に一方通行の紹介をするエイワス。そのアナウンスを聞いて
船内だけでなく地上に居る民間人がワーッ!!と盛大な拍手を送ってきた。
大勢の人間から贈られる祝福と感謝の拍手に、学園都市最強が少したじろぐ。
「お、オイ、オマエ何考えて――――」
エイワスは一方通行の言葉などガン無視でアナウンスを続ける。
『改めて説明すると、今回のこのクルーザー衝突事故は全て我々『天使同盟』に責任がある。
その詫びといっては失礼だが、まず今回の事故の謝礼としてこのクルーザー本体、各施設、
所有権を全てエリザリーナ独立国同盟に譲渡するものとしようではありませんか』
「質問! この船にはボウリング場やカラオケ、ビリヤードなんかが揃いに揃った
レジャー施設も設けてあったが、そいつも全部くれんのかい?」
既にほろ酔い状態の民間人の男が挙手で質問した。
『もちろんだ、それだけじゃないぞ。 この船に積まれていた食料、燃料、武装、各パーツ、
全てを無償でプレゼントする旨である。 遠慮しないでいただきたい』
そのアナウンスで再び大きな拍手と歓声が鳴り響いた。
「ひゅー!! さっすが学園都市の親善大使! 俺たちには出来ないことを平然とやってのけるッ、
そこにシビれる! あこがれるゥ!!」
「あーくんカッケェっす!! マジハンパないっす!!」
「ああいう男性に抱かれてみたい・・・・・・・・・・・・」
「白いおにーちゃん! 本当にありがとう!」
数の暴力とはまさにこの事。いやこの場合は暴力と言ってしまっては彼らに対して失礼だろうか。
しかしこうも一方的に賞賛されてしまうとエイワスに向けて発射しようとしていた怒りも冷めてしまう。
「く、そ・・・・・・」
とは言ったものの、一方通行は別にそこまで怒り心頭だったわけではない。
別に独立国同盟の民間人達がこの船でどんちゃん騒ぎをしてようが勝手だと思っているのだが、
こんな方法でこの国に迷惑をかけたことを、ちゃっかり帳消しにしようとしてるエイワスがちょっと腹ただしいだけだ。
『それでは皆の衆、引き続きパーティを楽しむが良い』
その一言で辺りは元の楽しげな雰囲気に戻っていった。
まさかここら辺にいる民間人、全員エイワスに操作されているんじゃないだろるなと勘ぐる一方通行。
「さて、おはよう一方通行。 昨日は風斬氷華のふくよかな胸に包まれていい夢は見られたかな?」
「あンな状況でぐっすり寝てられるほど俺は人間出来てねェよ」
「なんだそのチェリーボーイのような発言は。 なんなら私が君の初めてを奪ってしまうぞ?」
「オマエが本気でそォして来たら恐らく抵抗できねェからやめろ」
念のため説明しておくが、『恐らく抵抗出来ない』とは単に力の差で抵抗出来ないという意味であって、
エイワスが夜這いしてきても抵抗しないという意味ではない。
「ンなくっだらねェトークしに来たンじゃねェンだよ。
オマエこの船コイツらにくれてやンのか?」
「別に構わんだろう? この船は既に役目を果たしている、あとは粗大ゴミにしかならんよ」
約三〇〇億円で購入したクルーザーを『ゴミ』扱いするエイワスの器量といったら、
一方通行は額に手を添えて短く息を吐くしかない。
ただその三〇〇億という巨額は全て学園都市、即ちアレイスター・クロウリーが収める予算から
"勝手に"引き落とした金なのだが。
「帰りはどォすンだよ?」
「んん? ・・・・・・ふふ、何とでもなるさ、その辺に関しては私に一任してくれないか?」
「チッ、まァ別に構わねェけどよ」
どうせまた何らかの方法で帰りの『足』を持ってくるのだろう。
一方通行はそう考え、適当に返事をした。
「・・・・・・・・・・・・足など必要もなくなるさ。 ここから帰る時には、恐らくな」
エイワスが何か言ったような気がして、一方通行はエイワスの方を向くが、
金髪の化物はニコリと柔和の中に不気味さを併せ持つ笑顔を見せつけてくるだけだった。
「・・・・・・他に誰か来てねェのか?」
風斬氷華は部屋で寝ているのを確認しているが、その他の構成員は見ていない。
垣根辺りなんかはここで酒でも飲んでるんじゃないかと踏んでいたが、
「私と君以外には『天使同盟』は来ていないよ。 皆それぞれ別行動をとっているようだな。
今日は特にやることもあるまい? 出発の目処が立つまで君ものんびり過ごせばいい」
「やることねェって・・・・・・・・・・・・、・・・・・・ねェな」
昨晩に聞きたいことは大体聞いているため、あとは帰るだけなのだが
今自分がいる船を独立国同盟に贈呈するとなると帰るに帰れない。
「居住区に突っ込んだ時の瓦礫やらなンやらがだいぶ片付いているみてェだが」
「私が真夜中に掃除した、民間人にも手伝ってもらってね。
ただ船にある部屋が並ぶ場所はまだ片付けが終わっていないんだ」
「・・・・・・そこ、片付けるわ。 暇だしな」
「おや、助かるよ。 優しいな君は」
「オマエもやるンだよボケ。 マセガキにも手伝わせるぞ」
一方通行は部屋でゴロゴロとするためにちゃっちゃと船に残った瓦礫の山を片付けることにした。
【次回予告】
『だから私は・・・・・・、その、なんて言われても前を向いて生きていくしかないんです』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・風斬氷華
『・・・・・・・・・・・・アホらし』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・『前方』のヴェント
――――――――――――――――――――――
一方通行が『アライアンス』号で暇を持て余している頃、『天使同盟(アライアンス)』の良心、
風斬氷華は起床していた。
「・・・・・・・・・・・・ん、んん・・・・・・」
半目開きの寝ぼけた顔でゆっくりとベッドから起き上がる人工天使。
風斬は自身の力でいつも愛用しているメガネを『現出』させ、装着する。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、あ」
頭の中にある三角柱の核もようやく目を覚ましたのか、カチャ、という小さな音とともに
通常運転を始めた。それに応じるかのように風斬は昨夜の出来事を思い出す。
(ひぅぅぅぅ・・・・・・!!! わ、私、なんてことを・・・・・・!!!!)
焼けた鉄板のように顔をボンッ!と真っ赤にした風斬はあまりの恥ずかしさに悶えまくり、
布団を体に包ませて横長の枕に顔を埋めてしまった。
しかしその枕にまだ『彼』の残り香があると風斬の鼻腔が知らせ、
更に『ひぇぇぇ・・・・・・』と転がり、そのままベッドから落下してしまった。
一人で何をやってんだろうかこの娘は。
(私、昨日・・・・・・結局抱きついたまま寝ちゃったんだ・・・・・・)
両手をわなわなと震わせながら風斬はまるで黒歴史を思い出した人間のようにあうあう言っている。
本人の言うとおり風斬は昨夜、一方通行を抱き枕にしてそのまま寝入ってしまったのだ。
スラリとした細い体格の彼は風斬にとってはベストな抱き心地だったのだろう。
一方通行の写真を両面プリントした抱き枕を突きつければ高く買い取ってしまうかもしれない。
と、そんな誰得にも程がある抱き枕の想像をしていると風斬も居住区の異変に気付いた。
「・・・・・・な、なんだろ? なんだか賑やかだけど・・・・・・」
ベッドに上がり、ロシアの寒気で生じた壁の窓の結露を裾でコシコシと拭ってから外の様子を見てみる。
しかしその窓から直ぐ目の前に別の建造物が隣接して建っており、外の様子を窺えなかった。
「なんかお祭りでもやってるのかな・・・・・・。 あ、一方通行さんも居ないし・・・・・・」
彼の名を独り言で発しただけで顔を紅潮させる風斬は、まさに恋する乙女そのものだった。
ひとまず彼の行方を知るために風斬は一瞬で衣服を『現出』させ、パジャマから可愛らしいコートに着替える。
「他のみんなもどっか行っちゃったのかな・・・・・・、少し寝過ぎたかも」
一般的な睡眠時間と変わらない時間寝ていたので、寝過ぎという事はないだろう。
風斬は化粧室の鏡の前に立ち次々とマフラーを現出させ、どれが似合っているか品定めを始めた。
「~♪ どんなのなら褒めてくれるかな、一方通行さん」
さっきまでの恥らいによる悶えのテンションも何処吹く風。風斬は鼻歌混じりで
一方通行が気に入ってくれそうなマフラーを選んだ。
「・・・・・・・・・・・・うん。 こ、こんな感じかな・・・・・・?」
風斬が選択したマフラーは黒を基調にしたカラーのマフラーだ。
そこにマーブル模様で加わっている白色が丁度いいアクセントになっている。
「さて、と・・・・・・。 今日も頑張ろう」
『天使同盟』は既にロシアでやることを終えているのに一体何を頑張るというのか。
風斬の場合は言わずもがな、一方通行への積極的なアプローチである。
昨日のレッサーとの会話で初めて自分が一方通行に向けている感情を『ソレ』だと自覚し、
レッサーからはもっと積極的にとアドバイスを貰った風斬は、とにかく張り切っていた。
一瞬、あの例の『桃色ノート』の中身が脳裏をよぎるが、
「・・・・・・あ、あんなデタラメ、信じるもんか・・・・・・。 本当だとしても覆してみせる・・・・・・」
ふるふると頭を振り、桃色ノートとニヤケ面の聖守護天使を頭から追い払う。
さて、と風斬は気持ちを切り替え意気揚々と部屋の扉を開けた。
「きゃっ」
「?」
今日も元気に一方通行と過ごそうと考えていた風斬には悪いが、運命のルーレットは気紛れだ。
この日、風斬氷華という名のボールが一方通行という名のポケットに入ることはないようだ。
「あ、あの、ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「! ・・・・・・チッ」
少し勢い良く扉を開けてしまったため、扉の前にいた誰かにぶつかってしまったようだ。
風斬は慌ててその人物に近付き安否を確認した。
「って、あれ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
風斬の目に映った人物はよく見たら、否、よく見なくても一目で判別出来た。
頭の先から足首まで、全身がほぼ真黄色という奇抜なファッション。
その整った顔にはピアスが数点付けられており、舌先から伸びるチェーンがジャラリと音を立てている。
「ヴェントさん?」
「・・・・・・何よ」
元『神の右席』の一員、『前方』のヴェントは心根から欝陶しそうな顔で科学の人工天使を睨みつけていた。
意外な人物に出会った事に面食らった風斬だが、とにかくまずは彼女の身の心配だ。
「あの・・・・・・、ごめんなさい。 大丈夫ですか・・・・・・?」
「ちょっとぶつかっただけでしょ、なんともないわよ別に・・・・・・」
京劇のような濃い化粧を施している目でギロリと睨まれ、風斬は少し怯んでしまう。
(うぅ・・・・・・、怒らせちゃったかなぁ・・・・・・)
実際本当にヴェントは怪我などしておらず、扉がぶつかっただけでいちいち激昂するつもりもないのだが、
風斬のオロオロとした様子を見て若干のイライラとほんの少しの違和感を感じた。
「・・・・・・人の心配してんだ? 『堕天使』」
「はい・・・・・・。 だ、堕天使・・・・・・ですか・・・・・・?」
そんな奇妙な呼ばれ方をしたことがない風斬は首を傾げながら困ったように笑ってみせる。
その笑顔がヴェントの抱く違和感を更に増幅させた。
「堕天使でしょうが。 人間に作られた紛い物の天使、冒涜の象徴だろ」
「は、はぁ・・・・・・。 ぼー、とく・・・・・・?」
ともあれ、二人は居住区の大通りへと歩いて行く。
これが漫画やアニメなら風斬の頭の上にはインテロゲーションマークが二つ三つ浮かんでいるだろう。
人間に作られた紛い物の天使というのは風斬自身も自覚しているが、冒涜の象徴とはどういう意味なのか。
「アンタは神に創られたワケでもない、人間の手によって創られた不恰好な堕天使野郎って言ってんのよ。
今は『あの時』みたいに醜いバケモノにはなってないようだけど」
「そ、そうですね・・・・・・私は人の手で創られた天使・・・・・・。 天使とは呼べないんでしょうけど」
ヴェントと並んで歩いている風斬は何となく察する。
元とはいえ十字教の魔術師であるヴェントは、聖なる存在である天使を真似て創られた
人形のような自分があまり好きではないのだろう、と。
そして風斬は言った。
「あの・・・・・・ごめんなさい。 私は確かにあなた達魔術師にとっては許せない存在なのかもしれません。
でも、もう私は私を受け入れました。 こんなバケモノでも接してくれる人間はいるんだって分かったから。
だから私は・・・・・・、その、なんて言われても前を向いて生きていくしかないんです」
さっきまでのオドオドとした雰囲気は、その時だけは影も形もなくなっていた。
風斬の目は、真っ直ぐ、ヴェントの目を見つめていた。
ヴェントも同じように風斬を睨み続けたが、やがて目を逸らしため息をついた。
「・・・・・・・・・・・・アホらし」
「え、え?」
何かまずい事を口走ってしまっただろうかと、風斬は再び臆病な彼女へと戻ってしまう。
「あーあ、アホらしい。 っていうか、これじゃ私がクソったれのクズ野郎みたいじゃない。
ま、あながち間違っちゃいないんだけどさぁ」
「ええ? よ、よくわかりませんがそんな事ありませんよ、あるわけないじゃないですか!」
「はいはい、おべんちゃらは結構結構」
「ほ、ホントですよぉ・・・・・・、自分をそんな風に蔑まないでください・・・・・・」
マジで言ってんのかコイツ、とヴェントは訝し気に風斬を見るが、
どうやらこの人工天使は世辞を言えるようなバケモノではないらしい。
実際、自分で自分を蔑むヴェントを心配そうに見ている、うるうると瞳を揺らしながら。
「えーと・・・・・・、えと・・・・・・、ほ、ほら。 ノートにもヴェントさんの事書いてありましたし」
「はぁ? ノート?」
「あああああああああああ何でもない何でもないです・・・・・・・・・・・・!!!」
何をそんなにパニクっているのか、風斬は目を回しながら必死でヴェントを励まそうとしている。
指を顎に当てながらうーん、うーんといい感じの言葉を模索するその姿にヴェントは思わず失笑した。
「・・・・・・なーんだそりゃ、なんなんだよそりゃあ?」
「ほぇ?」
「そんな風に振る舞ってれば人間っぽく見えるってか?」
「そ、そんなつもりじゃないですよ・・・・・・、ヴェントさんが元気ないからこうやって・・・・・・」
「余計なお世話よ、堕天使」
言って、ゲシッと風斬の足を小突く。
「あうっ!?」
それが丁度いい具合に膝裏にヒットし、風斬はそのままガクンと崩れ落ちてしまった―――いわゆる膝カックンだ―――。
「な、なにするんですかもう・・・・・・!」
「なーんか、アンタ見てるとムカつくのよ」
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
「謝んなっつーの、余計にイライラする」
「うう・・・・・・」
ヴェントはしょぼくれながら立ち上がる風斬をつまらなそうな表情で見た。
「ホント、ムカツクわね」
「すみま・・・・・・、あ、う・・・・・・」
そう言われて更に落ち込む風斬の事など構わず、ヴェントは続けて言う。
「アンタ見てると、私がどれだけ小さい生き物かまじまじと見せつけられてるみたいだわ」
次はどんな罵詈雑言が飛んで来るかとビクビクしていた風斬は、
ヴェントの口から出たセリフにキョトンとする。
「え・・・・・・?」
「アンタ、しっかり自分を制御出来てるのね。 どうやってんの?」
科学についての知識が乏しいヴェントから見ても、今の風斬氷華が『安定』の域にいる事くらいは分かる。
しかし彼女は例の『0930』事件で暴走状態のヒューズ=カザキリをその目でしっかり確認しているのだ。
あんなバケモノが今ではすっかり臆病な女の子、イメチェンにしては劇的すぎる。
「どうって言われても・・・・・・、うーん、自分でも何で今、この世界に現出できてるのか
よくわかんないんですよね・・・・・・。 一方通行さんと一緒に天使さんと喧嘩しちゃった時に
力を使い果たしたはずなんですけど、改めて言われるとわかんないですね・・・・・・」
どっかの金髪召使さんによれば、風斬氷華がこの世に現出していられるのは
『一方通行やその他の人間たちと共に過ごしたいという気持ちが、風斬氷華を
この世に留まらせている』との事。
しかし夢のない話をしてしまうが、現実的に―――風斬や天使などが現実的かどうかはさておき―――
AIM拡散力場の集合体である彼女が現出できるエネルギーを全て使い果たしてしまえば
想いが強かろうがどれだけ願おうが消えてしまうのだ。
それでも尚、風斬がこうして日常を送れている理由は・・・・・・、言うまでもないだろう。
「わかんないって・・・・・・アンタ自身の話でしょうが」
「そうなんですけど・・・・・・、こうして現出してられるだけで嬉しいから、
そこまで深く考えたことないんです。 私、あんまり頭良くないし・・・・・・」
えへへ、と抜群にキューティクルな笑顔を付け足して言う風斬。
疑うまでもないが、彼女は無理をしていたりごまかしてたりしている様子は無いようだ。
「・・・・・・・・・・・・、ふーん。 何か、やっぱムカツクわね」
「な、なんでですかぁ・・・・・・!?」
目尻に涙を溜めながら指をつんつんしていじける風斬。
ここで苦笑でもすれば少しは場が和むのだろうが、そういう馴れ合いは好まないヴェントは
あくまでも風斬に対して突っ慳貪な態度をとった。
馴れ合いは好まないと思っておりながら、では昨日の一方通行とのやり取りはなんなのか?
と、聞いたら有刺鉄線付きハンマーでタコ殴りにされそうだ。
そしてヴェント本人も一方通行とのやり取りを思い出し、複雑な表情を浮かべる。
「一つ聞きたいんだけど、アンタがこの世界に居続ける理由って、"白いの"にある?」
「しろいの?」
「一方通行のコトに決まってんでしょ」
三角柱の核が口から飛び出るかと思った。
垣根やエイワス、レッサーに続き、ヴェントにも自分が抱く一方通行への想いを見破られてしまった。
いとも簡単に、言うなら二ピースしかないパズルを組み立てるかのように、容易く。
「どど、どうしてわかったんですか・・・・・・? 私が、その・・・・・・一方通行さんのこと・・・・・・」
「え・・・・・・そうなの? いやそこまでは考えが及ばなかったんだけど」
「ええええ!? 言い損じゃないですかぁ・・・・・・!」
勝手に派手な自爆をかましてしまう風斬。十五年ぶりに現れた使徒に匹敵する自爆っぷりだ。
もうバレバレな既成事実なのだが、それでも初心な風斬の乙女心は知られたら恥ずかしいという
小、中学生のような未熟さなのだ。
その証拠に、数えるのも面倒なほどの回数が積み重なっている風斬の顔真っ赤タイムが既に始まっていた。
ヴェントは改めて確認するため、風斬に再度質問する。
「アンタ、あの白いののコトが好きなの?」
「あううう・・・・・・、その、ハッキリそう聞かれると答えにくいと言いますか・・・・・・その、」
「イライラすんなぁホント、好きなのかそうじゃないのか、ハッキリ意思表示しろよ」
「ご、ごめ・・・・・・あ、う・・・・・・、・・・・・・す、す・・・・・・」
テロップでも表示してくれなければ聞き取れないような超がつくほど小さな声で風斬は答えた。
「好きなの?」
再三聞かれた風斬はさすがにもう声に出して言う気力は無くなったようで、
小さくコクコクと頷いた。その顔はもう茹で立てのタコみたいに赤く染まりきっている。
「あっは、好きなんだ、あんなのがぁ!? ハッ。 ふうん・・・・・・、笑えるわ」
「な、何で笑うんですか・・・・・・・・・・・・」
特別な訓練を受けたとしか思えない、醜悪で極悪で毒々しい笑みを浮かべるヴェントに
風斬は少しムスッと膨れてしまう。
ヴェントはこうして相手をおちょくったり敵意や悪意を抱かせる事にかけてはスペシャリストだ。
かつて彼女が行使していた魔術に、『天罰術式』というものがある。
ヴェントに対し敵意や悪意を抱いた者を、場所や距離問わず昏倒させてしまうという反則的な魔術だ。
彼女が施している化粧にも、相手に嫌悪感を抱かせる要素として一役買っている。
現在は天罰術式を行使するのに必要な霊装が無いので発動は不可能なのだが、
こうして相手につい嫌悪感を抱かせてしまうような言動や仕草は癖として彼女の身に染み付いているようだ。
「何であんなのがいいワケ?」
「お、教えません・・・・・・」
つーん、とそっぽを向いて風斬は黙秘権を行使する。彼女にしては珍しい意思表示だった。
「ふうん、アンタそういう顔も出来るの」
「そ、そうです・・・・・・。 ヴェントさんはイジワルだから教えません・・・・・・」
「堕落の人形が。 そんな人間臭い仕草が出来るのも白いののおかげってか?」
「?」
「努めてんでしょ? 人間と過ごすなら自分も人間らしくしなきゃいけないってさぁ。
『あの時』のお人形さん状態じゃ白いのもさすがに引いちゃうもんねぇ」
「あ、一方通行さんはそんな事しなくても、どんなバケモノだろうと受け入れてくれる人です・・・・・・!」
「なるほど、そういうところに惚れちまったってか」
「あ、・・・・・・・・・・・・」
ヴェントの安い挑発にまんまと引っかかった風斬はシュン、と項垂れた。
こういった口頭でのやり取りでは風斬はヴェントに遠く及ばない。
ヴェントはしてやったりといった顔でニヤニヤと笑っていた。
しかしそこで風斬はかすかな違和感を覚え、首を軽く傾げた。
とりあえずそれを解消するために今度は彼女からヴェントに問う。
「・・・・・・ヴェントさんって、そういう事に興味あるんですか?」
「は?」
「あ、いえ・・・・・・その、今みたいに私と一方通行さんの事よく聞いてきたから・・・・・・
そういう、恋愛とか興味あるのかなって」
「ケンカ売ってんの?」
「そ、そんな事ないです・・・・・・! ごめんなさい・・・・・・」
ちょっと威嚇しただけですぐ涙目になるな、とヴェントはうんざりとため息をつき、
しばし閉口してから風斬に答える。
「アンタみたいなのが乙女やってんのが面白かったから、聞いてみただけよ」
「そ、そうですか・・・・・・。 ・・・・・・本当にそれだけ?」
「どういう意味よ?」
風斬が抱いた違和感の正体は、自分と一方通行の事について問い詰めてくる
ヴェントの態度だった。
昨日今日と総合してもあまりヴェントと会話をしていない風斬だが、
それでも本来、ヴェントというこの女性がそういった色恋沙汰―――それも他人の―――について
興味を抱くとは思えないのだ。
風斬はあの『桃色のノート』の内容を思い出す。
彼女はノートの内容を隅から隅まで記憶しているわけではない。『パラメータ』が記載されたページは
大体把握しているが、『対象者』との関係、経緯が詳しく記載されたページは
オルソラ=アクィナスを除いて閲覧していないのだ。
しかし、だからこそ気になる。『パラメータ』のページには風斬の隣を
不機嫌な様子で歩くヴェントの名もしっかりと記載されていたのだ。
「え、っと・・・・・・。 ヴェントさんも一方通行さんの事が気になってるのかな、って・・・・・・」
ヴェントはずっこけた。
今時、そんなリアクションをする者などいないだろう、と言えるコケ方で。
「ヴェ、ヴェントさん!? 大丈夫ですか・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何? なに? 今なんてった?」
盛大にコケてしまったため、ヴェントは額を思い切り地面にぶつけてしまっていた。
しかし彼女はゆらりと起き上がると、そんな事はお構いなしに風斬を驚愕の表情で睨む。
「え? あ、いやだから・・・・・・ヴェントさんももしかしたら彼の事・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・んなワケねぇだろ」
ヴェントは赤くなった額をスリスリと撫でながら、スゥっと息を溜めて、
「んなワケねぇだろうが!! アンタバッカじゃねぇ!? 何でそうなる!?
なーんでそうなるんだっつーの!! 思考回路がショート寸前なんじゃないの!?
ホント、堕天使って愉快で素敵な頭の構造してんのね!!! アホバカ死ね!!!」
「うう・・・・・・ヒドイです・・・・・・」
ガトリング砲のように次々と飛んでくるヴェントの暴言に風斬はひどく落ち込んでしまった。
違うなら違うと一言で締めてくれればいいものを、これでは逆効果だろう。
「ち、違うならなんでそんなムキに・・・・・・」
「ムキになんかなってねぇし!!! ていうか何!? さっきの会話から
どうやったら私が白いのを気に掛けてるなんて結論に至るのよ!?」
あまりの怒号に周りの民間人たちが何事かと視線を送っているのがムキになっている証拠である。
風斬は空腹から来るイライラで怒り狂った狼のように吠えるヴェントをなんとか宥める事に努めた。
【次回予告】
『迎え。 来る。 近い。 離別。 拒否。 嫌。 嫌。 嫌。 ・・・・・・嫌』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・ミーシャ=クロイツェフ
『・・・・・・ミーシャ、あなた一体・・・・・・・・・・・・』
―――――――――――エリザリーナ独立国同盟の中心的人物・エリザリーナ
『一本足の家の人食い婆さん―――――』
―――――――――――元『殲滅白書』のシスター・ワシリーサ
『ごっ、がああああああああああああああああああああああああッッ!!!?』
―――――――――――『天使同盟』の構成員・垣根帝督
――――――――――――――――――――――
「・・・・・・ん。 とりあえず朝の仕事はこんなものかしらね」
ここは独立国同盟にある軍事施設のオフィスルーム。
エリザリーナはふぅ、と一息つくと目の前にあるノートパソコンの電源を落とした。
彼女はゆっくりとした動作で腰掛けていたチェアから立ち上がると、
石で出来た無骨な壁にある窓の方へ向かい、外の様子を眺める。
「とりあえず、みんなが明るくなってくれて良かったわ」
外では至る所で独立国同盟の民間人が飲めや食えやと盛り上がっている。
民間人の子供たちも、笑顔で船に向かって走っていた。
エリザリーナは今朝五時頃、エイワスに『話があるから来て欲しい』と言われて
側近であるベラッギとロンギエを連れて居住区に鎮座する巨大豪華クルーザー『アライアンス号』へと
向かっていた。
そこで待っていたエイワスからの、予想だにしなかったサプライズ。
それはこの豪華クルーザーをエリザリーナ独立国同盟に贈呈するというものだった。
いきなりのとんでもプレゼント発言に面食らうエリザリーナと側近の二人だったが、
『天使同盟』来訪で独立国同盟に多大な迷惑をかけた事への詫びとして、
船に備え付けてあるあらゆる機器、食料、燃料、施設の全てを明け渡し、民間人たちに
喜んで欲しいと言われたら断るわけにはいかなかった。
実際、クルーザーにあった機器や食料、燃料は独立国同盟にとっても大変ありがたい物であり、
あらゆるレジャー施設は大人も子供も楽しめるようなものばかりで
結果的には独立国同盟にとって大きなプラス要素となったのだ。
(・・・・・・でも、まだ客室へ続く通路を塞いだ建造物の瓦礫の掃除が終わっていないわね。
今やるべき仕事も一応キリがいいところで終わったし、そっちも手伝いに行こうかしら)
クルーザーには数多くの客室が設けてある。
居住区に突っ込んだ時に建造物の瓦礫やらなんやらが客室へ通じる道を塞いでしまっているため、
独立国同盟の工業関係に通じた民間人たちで今も撤去作業を行っているだろう。
エリザリーナはオフィスから廊下へ出てクルーザーがある居住区へ向かう。
「?」
と、廊下の突き当たりに異形の存在が見えた。
それは力なく壁に寄りかかりながら座っており、頭を垂れて意気消沈しているようにも
具合が悪くて座り込んでいるようにも窺えた。
「・・・・・・・・・・・・、ミーシャ=クロイツェフ?」
見紛うはずもない。
体表をすべすべした布で覆い、器官を全て布の凹凸で表現している不気味な顔。
髪にみえるそれは、頭から後ろにラッパのように流れる布。
全身に金色の葉脈のような模様が走ったその姿は、
ミーシャ=クロイツェフ。『神の力(ガブリエル)』と呼ばれる大天使だった。
エリザリーナは明らかに様子のおかしいミーシャの元へ駆け寄った。
「どうしたの・・・・・・? 具合でも悪いのかしら?」
と、聞いたはいいものの、果たして本物の天使であるミーシャに人間と同じような
対応をしてもいいのだろうかとエリザリーナは悩む。
しかしそれを考慮しなくてもミーシャの様子がおかしいことは明らかだった。
第三次世界大戦で見せたまさに天使の如き覇気も、『天使同盟』の一員として
独立国同盟に訪れ、無邪気な仕草を見せた人間らしさも、
今のミーシャからは全く感じられない。
(医者に・・・・・・、見せても無駄よね。 天使の身体まで対応できる医者がいたら
是非紹介してほしいところだわ)
学園都市には『冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)』と呼ばれる凄腕の医者がいるが、
例え彼でも天使を治療することは出来ないだろう。
ミーシャの体調を調べられる、或いは治せる存在がいるとすれば、それは――――。
「・・・・・・エイワス!」
エイワス。聖守護天使の称号を持つ、天使よりも更に上の領域に立つ存在。
あの金髪の怪物ならば、ミーシャに何らかの処置を施せるかもしれない。
と言うよりも、エイワスに出来ないことなどこの世に存在するのかという疑いすらある。
エリザリーナはエイワスについてそれほど詳しいわけでもないが、
それでもエイワスなら今のミーシャの状況をどうにか出来るという確信があった。
(エイワスは今クルーザーにいる。 でもここからでも呼べば恐らく・・・・・・)
努めて冷静になり、エイワスを呼ぶために声を出そうとした時。
スッと、エリザリーナの口を優しく柔らかな動作で塞ぐ手が伸びた。
「・・・・・・?」
それは言わずもがな、ミーシャ=クロイツェフの青白い滑らかな手だった。
彼女は人差し指を立て、エリザリーナの唇に触れる。
「な、何・・・・・・? エイワスは呼ぶなと言う事?」
ミーシャがとった意外な行動に驚きを隠せないエリザリーナ。
こうして近くで見ると、ミーシャの呼吸は明らかに乱れており―――呼吸をしているかどうかは別として、
どう見ても正常な体調ではない事は火を見るより明らかだ―――とても放っておける状態ではない。
にも関わらず、
「kvwfjdcv平気pabxdwug」
そう言って、ミーシャはわずかに首を横に振った。
その表情はエリザリーナを安心させるために、ニコリと微笑んでいるようにも見えた。
「何を言っているの? どう見ても辛そうな状態じゃない。
無理はしないで、エイワスを呼べばきっと何とかしてくれると思うから」
「gpgcdv駄目pidfcvcs」
「ミーシャ・・・・・・・・・・・・」
不思議なものだ。
第三次世界大戦の時は、ロシアを滅茶苦茶に荒らしまわったあの大天使を、
今はこうして親身になって心配している自分が、とても不思議だった。
「迎え」
「え?」
エリザリーナは耳を疑う。ミーシャの『言葉』に驚いたのではない。
その声が信じられないほど透き通っており、全くノイズが混じっていなかった事に対して驚いたのだ。
「迎え。 来る。 近い。 離別。 拒否。 嫌。 嫌。 嫌。 ・・・・・・嫌」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!」
そして今度こそ、エリザリーナはミーシャの『言葉』に驚愕する。
「『迎え』・・・・・・? 『離別』? 『嫌』・・・・・・? ・・・・・・どういう事?
・・・・・・ミーシャ、あなた一体・・・・・・・・・・・・」
「秘匿。 要求。 彼。 皆。 心配。 ・・・・・・、・・・・・・・・・・・・」
ミーシャは口をモゴモゴと動かしながら言葉を紡いでいく。
エリザリーナは彼女から出てきた言葉の意味をよく考え、答えを導きだしていった。
「・・・・・・・・・・・・、・・・・・・。 『この事は誰にも言うな。 なぜなら「天使同盟」の皆が心配するから』。
・・・・・・そういう事かしら?」
ミーシャはエリザリーナの言葉を聞き、やがてコクリと頷いた。
「馬鹿な・・・・・・・・・・・・」
今、目の前にいる本物の大天使は、こんな状況でも他人を、『人間』を心配しているというのか。
天使とは神が創りだした人形、機械、ロボットであると、魔術サイドでは認識している。
だがミーシャのこの姿は、魔術サイドの常識を地殻から捲り上げるように覆すものだった。
「けど、このままだと・・・・・・!!」
「pfgvjgc平気qpxvsfhi」
ミーシャは壁に手を添え、その衰弱しきった体を支えながらヨロヨロと立ち上がる。
その際、彼女の腰から伸びる布の裏からノートとスケッチブックが落ちた。
「?」
「―――――――――」
天使の所有物にしてはやけに身近なそのノートとスケッチブックにエリザリーナは怪訝な顔を浮かべる。
ミーシャは床に落ちたそれを今にも倒れそうな弱々しい動作で拾い上げようとする。
必死に拾おうとしているのが如実に窺える。よほど大切な物なのだろう。
「・・・・・・はい、どうぞ」
エリザリーナはノートとスケッチブックを拾おうと屈むミーシャを制止し、
代わりに拾いあげて彼女に手渡してあげた。
正直、いち魔術師として天使が人間界で書き記す情報が気になったが、エリザリーナはあえて詮索せず
ミーシャの手にそれらをしっかりと持たせた。
「大事な物なのでしょう? だったら無くさないようにしないと」
「pdkbjgr感謝mcfhrugh」
「でもやはり放っておけないわ。 エイワスに伝えるのが駄目だと言うのなら、
せめて私が使っているそこのオフィスルームで休んでいなさい」
そう言ってエリザリーナはミーシャの背中に手を添え、体を支えてあげながら
さっき出たオフィスへと歩を進めていった。
エリザリーナは何の気無しにミーシャの顔を見ると、彼女は廊下の天井を見上げていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
エリザリーナも釣られて天井を見上げるが、そこには簡素な電球が均等に並んでいるだけだ。
天使が興味を抱きそうなものは何一つ見当たらない。
それでもジーッと天井を見つめるミーシャに、彼女は思わず問いかける。
「・・・・・・、どうしたの? 天井に何か面白いものでもあったかしら?」
「―――――――――――、・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ミーシャは何かを言いかけたが、エリザリーナの問いには答えずただ『上』を見つめ続けるだけだった。
エリザリーナは意味がわからず訝しんだが、やがてミーシャが言っていた言葉を思い出す。
(・・・・・・・・・・・・『迎え』。 『離別』。 ・・・・・・・・・・・・、!!)
ハッとする。
恐らくだが、たかが人間が至った浅ましい推理であったが、エリザリーナは思う。
(もしかすると、ミーシャ=クロイツェフは近いうちに人間界から消え去る・・・・・・?
元の位階へと『還る』ために・・・・・・、いや。 『嫌』だと連呼していた様子からすると、
彼女は元の『座』へ戻る事を拒んでいる。 彼女の意志ではない・・・・・・・・・・・・)
そして昨晩の食事で『天使同盟』と意見を交換し合った際に出た、『ベツレヘムの星の欠片』。
ミーシャ=クロイツェフが位階へ還るための『門』が残っている空中要塞の残骸。
(・・・・・・ベツレヘムの星の欠片に何か異変が? ミーシャが見ている天井には何も無い。
だとすれば見ているのは天井では無く・・・・・・、『空(そら)』?)
そして、プライベーティアとの抗争の件で事後報告をしにロシア政府の元へと
足を運んだ際、軍事関係の人間から聞いた確証のない情報。
(学園都市から放たれている気象衛星が何らかの不具合を起こしている・・・・・・)
垣根帝督によればそれは『ひこぼしⅡ号』という名称の気象衛星だったはずだ。
それが『何らか』の不具合を起こしているらしい。
「まさか」
思わず声が出てしまう。ミーシャがこちらを向いてきたが、エリザリーナは
何でもないと言って適当にごまかす。
(・・・・・・・・・・・・だとしたら、彼女は、ベツレヘムの星の欠片は)
もしエリザリーナの推理が的中しているとしたら、
ミーシャ=クロイツェフが見上げているものは、『空』ですらない。
――――――――――――――――――――――
エリザリーナ独立国同盟の地下に存在する、かつて防空壕として使用されていた地下空間。
誰かが手を加えたのか、空間の広さは東京ドームの四分の三という大きさだ。
天井もドームのように緩やかなカーブを描いており、電気もちゃんと通っている。
この地下空間を利用すれば様々なイベントが開けるくらい申し分ない場所だった。
そんな地下空間では今、床に鮮血が飛び散り、人の呻き声が響いていた。
「・・・・・・・・・・・・っ!! ぐ、おあ・・・・・・・・・・・・!!!」
学園都市の超能力者(レベル5)であり、『天使同盟(アライアンス)』の構成員、垣根帝督は
口からボタボタと鮮やかな『紅』を吐き出していた。
その手にはギリリと握り締められたルーンの札。
彼の周辺には何らかの魔術を行使した痕跡が見られる。超能力者が魔術を行使したことによって
脳が拒絶反応を起こし、垣根は体のあらゆる部分から出血していた。
「いや~ん、垣根の坊や。 特訓する前からこんなんじゃダメダメよん♪」
女の声がした。
全身を真っ赤な修道服で包んでいる彼女の名はワシリーサ。
その名はロシア民話のヒロインから拝借しており、偽名ではないかと言われている。
ワシリーサはロシア成教の特殊部隊『殲滅白書』に所属していたシスターだ。
今でこそフリーの魔術師ではあるが『殲滅白書』最強の魔術師としての実力は健在である。
垣根帝督に魔術の特訓に付き合って欲しいと頼まれたワシリーサは、己が溺愛する元『殲滅白書』の魔術師、
サーシャ=クロイツェフの『生着替え写真』を貰い受ける事を条件に特訓の付き添いを受諾した。
で、いざ特訓開始。垣根帝督は魔術をさっそく使ってみるが、結果は前述通りの有様だった。
「ぐふっ・・・・・・げっほ!! ・・・・・・はぁ、クッソ・・・・・・」
「大丈夫ぅ? 最初の懸念だった『能力者が魔術を使うと死に至る』ってステップは
クリアしてるみたいだけど、そのまま無理したら結局おっ死んじゃうかもよん?」
「・・・・・・う・・・・・・、っせえんだよ」
垣根は呼吸を整え、十五メートル程先で醜悪な笑みを浮かべている修道女を睨みつける。
まるで垣根の『敵』であるように挑発的な態度を取るワシリーサ。これも特訓の一環なのだろうか。
「いくぞ」
垣根は口に付着している血を拭い、頭からダラダラと流れてくる血を拭い、ルーンを手に構えた。
そして今度は、しっかりと魔術が発動した。
「わぁお♪」
「反撃してもいいんだぞ」
魔術発動と同時に出現した『それ』を手に持って走ってくる垣根の言葉に『おっけー♪』と軽く返事をするワシリーサ。
「一本足の家の人食い婆さん―――――」
童女のような歌声が地下空間に響いた。
瞬間、ワシリーサの歌に合わせて千切れた影を纏う怪物のような老婆が姿を現す。
老婆は少しだけ腕を動かすと、垣根の目の前に巨大な炎の塊が出現し、馬鹿げた威力で爆発、炸裂した。
「ごっ、がああああああああああああああああああああああああッッ!!!?」
ゴミクズのように二回、三回と地面をバウンドし吹き飛んでいく垣根。
そんな彼の姿を見てワシリーサは言った。
「やっと魔術で戦える領域に突入したわね。 ここからは私も容赦ナ・シ・よん♪」
そう言うワシリーサの笑みは、隣にいる老婆よりも『魔女』らしい笑みだった。
「ク、ソ・・・・・・がぁぁ!!!」
垣根は体のダメージも気にせず、起き上がりワシリーサに向かって駆ける。
「ダーメダメ♪ 突貫一筋じゃ私に触れる事すらできないにゃん」
一方のワシリーサはあくまで余裕の態度をとり、顎先を軽く動かす。
それを合図にワシリーサが呼び出した老婆が地面を蹴って垣根の元へ動いた。
老婆の動く速度は、骨がむき出しになっているだけのその脚から出る速度とは思えないほど速い。
(二番煎じが通じねえ事くらい・・・・・・!!!)
垣根は自分の魔術で現出させた『それ』を持つ手を思い切り振りかぶり、
「わかってんだよクソボケ!!!」
振りかぶった体勢のまま、駆ける足に急ブレーキをかけて停止した。
(いやぁん、フェイント?)
ガリガリに痩せこけた老婆の魔の手を垣根は掻い潜るように避ける。
そしてそのまま老婆の脇を通りぬけ、本命であるワシリーサへ飛ぶように駆けた。
老婆は垣根の方へ振り向き追うが、とても間に合いそうにない。
(当たる・・・・・・ッ!!)
垣根は一気にワシリーサとの距離を詰め、手に持つ『それ』を彼女の頭に叩き込むため更に振りかぶる。
と、
「ッ!!?」
違和感。垣根は腕を上げたまま振り落とそうとしない。
目と鼻の先にいるワシリーサはニヤ~っと意地の悪そうな笑みを浮かべていた。
「残念無念また来週~って感じ? エイワスから貰った本に書いてあったっしょ?」
垣根は振り上げている自分の腕の方へ目をやる。
そこには自分の魔術で現出させた『それ』が綺麗サッパリ消えてなくなっていた。
「あなたが今使った魔術は、ルーンだけじゃダメよ。 ちゃーんと『呪文』を唱えなきゃ、」
ワシリーサは吐息がかかるほどの距離まで垣根の顔に近付き、
「ね♪」
グシャァッ!!!と、垣根の脇腹へ尋常ではない速度の蹴りをブチかました。
「ご、ぼ・・・・・・ッ!!」
魔術を使ったわけでもないのに内臓から血が昇ってきてそのまま口まで達し、吐き出される。
蹴られた際、非常に嫌な音がしたのを垣根は聞き逃さなかった。
恐らく肋骨が何本か折れたのだろう。その折れた骨の破片が内蔵に突き刺さったのだ。
さっきまで自分がいた場所から真横へと『飛んでいく』垣根。
ふいに、背中辺りに寒気を感じた。
(く、そ・・・・・・!!)
一本足の家の人食い婆さんだ。
『バーバ・ヤーガ』とも呼ばれるその老婆は、信じがたい速度でぶっ飛ばされている垣根と
並行するように移動している。
背中に妙な熱を感じた。さっき喰らった不可思議の爆破だ。
「ぐおああああァッ!!!」
炎の塊の爆破は背中に直撃し、今度は前方へと吹き飛ばされる。
信じられないことに、ワシリーサから脇腹へ蹴りをもらってからまだ足が地に着いていない。
そして垣根は顔から地面へと激突した。地面の汚らしい土が目や口に容赦なく入り込んでくる。
普通ならここでもう決着なのだろうが、ワシリーサは容赦しない。
「垣根の坊や、ボーッとしてると、ホラ♪」
ゲボッ、と咳き込んでいた垣根が後ろへ目をやると、老婆は尚も垣根に追撃を喰らわせようと突進してきていた。
どこから持ってきたのか、いつの間に持っていたのか、老婆の右手には古臭い木材で出来た『杵』があった。
それを見て垣根は即座に理解する。
あれは餅をつくためにある杵じゃない。『人間を食べやすくするために肉をグズグズにすり潰すための杵』だと。
「―――――――――ッ!!」
声を出すのも億劫な状態で歯を食いしばり、垣根は素早い動作でジャケットの裏に忍ばせている
ホルダーからルーンを一枚取り出し、魔術を発動する。
「む、」
ワシリーサは少しだけ驚いた。垣根帝督は既に、簡単な魔術の詠唱なら『詠唱破棄』を行使出来るほどになっていた。
ついさっきまで魔術を使っただけで血反吐をブチ撒いていた能力者が、恐るべき速度で成長していた。
詠唱破棄で呪文を省略した垣根は速攻で魔術による攻撃を行う。
予想外の攻撃速度に老婆は防御が間に合わず、まともに喰らってしまった。
魔術を使ったため、例に漏れず出血してしまう垣根だが、そんな事はお構いなしに、
「う、おおおおおああ!!!」
脇腹の激痛も跳ね除け、ワシリーサに続けてルーンによる魔術攻撃を発動した。
しかし、魔術を使ったことによる反動で眼球から血が吹き出し、照準が狂ってしまう。
「惜っしい~☆ その辺にも対応できるようにしないとね♪」
飛んでくる魔術攻撃をあっさりと避けたワシリーサは、地面を蹴って垣根の元へ特攻を仕掛ける。
眼球からの出血で視界が真っ赤に染まった垣根の目に、真っ赤な修道服を着たワシリーサは
カメレオンのように赤い視界に溶けこみ、図らずも姿を消してしまっている。
しかしそんな状態の垣根にもワシリーサは躊躇わず、彼の顔面にブンッ!!と足の爪先を食い込ませた。
グチュッ、というあまり耳にしたくない音が地下空間に響く。
垣根はそのまま仰向けで倒れるが、まだ意識は残っているようだ。
ジャケット裏のホルダーからゴソゴソとルーンを取り出そうとしている。
「その根性だけはもう認めちゃうけどさぁ~♪」
ワシリーサは歌うように言う。
「今日は早いとこ降参しとかないとぉ・・・・・・。 死ぬぞクソガキ?」
垣根はワシリーサを視界から外し、左へ目を向けた。
そこには一本足の家の人食い婆さんが杵を両手で持ち、思いっきり振りかぶっているところだった。
地下空間に再三、生々しい音が鳴り響いた。
老婆の杵は垣根の頭に直撃し、彼の意識を完璧なまでに根絶させた。
その威力は、攻撃した老婆の杵が粉々に砕け散るほどの威力だった。
垣根の頭が杵のように砕けなかったのは不幸中の幸いか、それともワシリーサの慈悲か。
これにて、本日の訓練は終了。
【次回予告】
『か、垣根くぅん・・・・・・、生きてたら返事してほしいな~・・・・・・』
―――――――――――元『殲滅白書』のシスター・ワシリーサ
『私がイギリス流のファッションをコーディネートしてあげてもいいんですよ?
スタイリスト代はもちろんいただきますけどね~♪』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』の構成員・レッサー
『オイ、オマエが朝起きたらガブリエルのヤツはもういなかったンだよな?』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)
『その通りです。 どこへ行ったのかはわかりませんが、
恐らく独立国からは出ていないですよ』
―――――――――――元『殲滅白書』の魔術師・サーシャ=クロイツェフ
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ほ、本当に死んじゃってたりしないわよねぇ?」
ワシリーサの顔が若干青ざめる。
一切の手加減はするなと、特訓の前に垣根に言われていたため、ワシリーサはその通りにした。
彼女の攻撃には容赦など微塵も欠片もありはしなかった。
ドシャッ、と物が倒れるような音がした。もちろん、それは物ではなく垣根帝督が倒れた音なのだが。
「か、垣根ちゃ~ん。 大丈夫かにゃーん・・・・・・?」
マジで殺してしまってたらどうしよう、とワシリーサに焦りが生じる。
いくら容赦をするなと言われたからって、これはやりすぎだろうか?
彼女は昔、サーシャ=クロイツェフに魔術のノウハウを少しだけレクチャーした経験があるのだが、
ここまで体当たりな特訓を受け持つのは初めてだったため、加減がよく分からなかったのだ。
恐る恐る垣根に近づく。彼はピクリとも動かない。
「か、垣根くぅん・・・・・・、生きてたら返事してほしいな~・・・・・・」
縁起でもない事を言い出す修道女。そして垣根が倒れこんでいる元までゆっくりと近付き、
その場で膝をついて安否を確認してみる。
「げっ」
死んだ、とワシリーサは思った。
死んだ、これは死んだ。間違いなく死んだ。デッドオアアライブなら有無を言わさず前者だ。
垣根の頭からは、あのワシリーサですらちょっと引いてしまうような量の出血が見られた。
魔術の行使による出血もあるのだろうが、こうなってしまってはどれがどの原因での出血なのかわかりゃしない。
彼の顔は肌色だったはずだが、今は顔中が鮮やかな朱色で染められており、
一般人が見たらまず迷いなく一一〇番で通報し、殺人事件として受理されるだろう。
一本足の家の人食い婆さんが管理している『命の水』でもぶっかければ生き返るかなと呑気な事を思いつくが、
あれは魔女のエピソードの内容から生み出された霊装であり、一本足の家の人食い婆さんと
ワシリーサにしか効果が無いことに気づき、ガクッと頭を垂れる。
為す術がないワシリーサは、『天使同盟(アライアンス)』の方々にぶっ殺される事も覚悟で正直に事を伝えようとした時、
かすかに、声が聞こえた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いてえ」
男の声だった。
ワシリーサはバッと垣根帝督の方に顔を向けると、すかさず話しかけてみた。
「生きてますか?」
「・・・・・・・・・・・・らしい、な。 俺も・・・・・・しぶといなぁ・・・・・・オイ」
「復ッ活ッ」
「?」
「垣根帝督復活ッ! 垣根帝督復活ッ! 垣根帝督復活ッ! 垣根帝督復活ッ! 垣根帝督復活ッ! 垣根帝督復活ッ!」
突然、ワシリーサが垣根の復活を確認するように彼の名を連呼し始めた。決して頭がおかしくなったのではない。
ともあれ、生きていた。垣根帝督は生きていた。
はふぅ~、と安堵の息をつくワシリーサ。なんとか『客人』を殺してしまわずに済んだようだ。
彼の驚愕に値する生命力に感謝だ。さぁ、急いで垣根帝督に十四キロの砂糖水を飲ませなければ。
にしても、よくもまぁあの猛攻を受けて生きていられたものである。
さすが脳だけになっても復活した、常識の通用しない男―――常識が通用しないのは彼の能力だが―――。
伊達に学園都市の暗部『スクール』のリーダーを務めていたわけではないのだ。
「めんごめんご、やりすぎちった♪」
テヘ☆、と舌を出してごまかすワシリーサ。
彼が無事であると知った途端のこのテンション、彼女もまた図太い神経をしている。
「構わ、ねえ・・・・・・。 俺が、・・・・・・言った事だし、な」
ひゅう・・・・・・ひゅう・・・・・・と虫の息で言葉を何とか紡いでいく垣根。
どうやら会話が出来るくらいは意識が戻ったらしいので、ワシリーサはさっそく話をしていく。
「でわでわ、今回の特訓はお終いって事で。 それでね、今回の評価と今後の課題なんだけどぉ」
ワシリーサは立ち上がり、膝についた土をパンパンと払いながら続けていく。
「まず、誰の教えも無しに詠唱破棄を行った点は素直に賞賛するわ。 素晴らしいわよん。
よっぽど勉強したのね、この短時間で凄まじい成長速度を見せてるわ」
「世辞なら・・・・・・、いらねえよ。 今後の課題、を・・・・・・さっさと言えババア」
言われて、ワシリーサはムスッとしながら地面に仰向けで倒れている垣根を爪先で小突く。
「ぐ、お・・・・・・ッ!!!」
「続けるわよ? それでも詠唱破棄については九〇点ってところね。 残り十点は後述するわ。
で、ダメな点なんだけど、まず魔術がどうこう以前にあなたは猪突猛進過ぎ。
今まで能力頼りで戦ってきたのが原因かしらん? それとやっぱり、まだあなたは
魔術の特性について理解してないわね。 ルーンを用いた魔術って言っても、
呪文をキチンと唱えなきゃ中途半端にしか現出できない魔術もあるの、分かるでしょ?
あの時は詠唱破棄で済ませようとしたんでしょうけど、魔術にも『格』があるわけよ」
くどくどと、まるで説教のように戦績を述べていくワシリーサ。
ボロクソにされた垣根の耳にちゃんと届いているのだろうか。
「一本足の家の人食い婆さんをフェイントで掻い潜った後にあなたが使った魔術、
あれって結構上等な魔術なのね? 未熟者のあなたはまだそれを詠唱破棄出来ない。
だからあの時、あなたの手から"あれ"は消えたのよ。 おk?」
返事がない、ただの屍のようだ。
それでも構わずワシリーサは続ける。
「そこが詠唱破棄についてのマイナス十点ってわけね。 呪文の省略は効率いいけど、
その分しっかりと呪文の知識をそのかち割れた頭に叩き込まないとダメダメってこと♪
んで、一本足の家の人食い婆さんにブチ込んだ魔術に威力が無さ過ぎ。
あの場面でもっと強力な魔力を精製していれば、魔女に一太刀浴びせられたかもしれないのに。
魔力の精製はしっかりと正確に、そして強力に。 能力者だから踏ん張って精製すると
肉体が風船みたいに破裂しちゃうかも知れないけど、それを覚悟でこうして特訓してんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・、ああ」
今度はちゃんと返事が聞こえた。ワシリーサの言葉が右から左ということはなさそうだ。
「よろしい♪ というわけで今後の課題は、
『詠唱破棄を極めたいならもっと自分の使う魔術についての知識を得ること』、
『能力者特有の拒絶反応を恐れずに、しっかり魔力を精製すること』、
『猪突猛進な攻撃方法は避け、きちんと上手く立ち回りを意識すること』、
こんなもんかにゃーん。 おわかりいただけたかしら、垣根の坊や?」
「う、・・・・・・」
「ようは自分の生み出す魔力の質と、自分の使う魔術の特性を知っとけっつー事よん。
能力者特有の拒絶反応はもう仕方が無いわ、私でもどうしようもないもん。
今後、魔術を使うときについて回る障害だけど、乗り越えなさい」
「う、るせえないちいち・・・・・・、わかってるっつってんだろ・・・・・・」
「口答え禁止ー!」
今にもぱっくり割れそうな垣根の頭にチョップを入れるワシリーサ。殺す気か。
「んじゃ、今日はここまでね。 あなたが望むなら二十四時間いつでも特訓してあげるわよ。
その分、サーシャちゅわんの生着替え写真は多めにもらうけどね~」
くだらない約束を確認するように言う修道女に、しかし垣根は口答えをする気力すら残っていない。
「じゃ、私はサーシャちゃんをチュッチュしに地上に戻るけど、どうする?
運んでいってあげ・・・・・・、・・・・・・いやん、カッコイー♪」
ワシリーサが言葉を言い終える前に、垣根は自力で立ち上がっていた。
数々の死亡フラグを乗り越えてきたこの男、案外マジで不死身なのかもしれない。
「いい・・・・・・、自分で、帰る・・・・・・。 またすぐ付き合わせるからな」
「君みたいな熱血くんも嫌いじゃないわよん。 あのウサぴょん君もこんな感じなのかにゃー」
そう言ってワシリーサは一本足の家の人食い婆さんを消し、機嫌よくその場を後にした。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・、ハッ、熱血、か・・・・・・。 似合わねえ・・・・・・)
自分に苦笑する垣根も、しばらく休んだ後、地上へ戻るのだった。
絶望的な程の差を見せつけられた少年は、その悔しさをバネに苦難を乗り越えられるのだろうか。
こんな方向での努力などしたことがない垣根は、まだ分からないでいた。
――――――――――――――――――――――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「つまり! トレンドとは先の先のそのまた先まで見据えて把握するものなのです!
今でこそ私は『新たなる光』でお馴染みのコスチュームを着込んでいますが、
こう見えてもけっこうオシャレさんなんですよ? 今度イギリスに来ません?
私がイギリス流のファッションをコーディネートしてあげてもいいんですよ?
スタイリスト代はもちろんいただきますけどね~♪」
「第一の質問ですが、あなたの目から見たら私のこの衣装はどうなんでしょう?」
「そーですねぇ、確かに奇抜だとは思いますが、イマイチ『華』が無いといいますか、
もうちょっとこう・・・・・・・・・・・・、ねぇ一方通行さん、どう思います?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おーい、一方通行さん? 聞いてますか?」
「・・・・・・・・・・・・あ、あァ?」
一方通行はいわゆる『虫の知らせ』のようなものを感じていた。
ここはエリザリーナ独立国同盟の居住区、その中心部に鎮座する巨大豪華クルーザー
『アライアンス』号のラウンジだ。
居住区に突っ込んだのが原因でクルーザー内に備え付けてある客室への通路を
塞ぐように建造物の瓦礫が崩れ落ちていたのだが、一方通行とレッサー、サーシャ=クロイツェフ、
その他大勢の独立国同盟の民間人の手によって、ほぼ完璧に撤去作業が終わった。
エイワスはというと案の定というか何というか、『用事を思い出した』と一言言い残し、
一瞬でクルーザーから姿を消してしまっていた。
エイワスはこのエリザリーナ独立国同盟、ロシアに来てからというもの、
どこか忙しなくあちこちを移動している気がする。
それがどうしたと言われれば別に何でもないしどうでもいいはずなのだが、
一方通行は要領の得ない何か違和感のようなものを感じていた。
その違和感を感じた直後に思い浮かんだのは、なぜか『神の力(ガブリエル)』、
ミーシャ=クロイツェフの顔だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちょっと、一方通行さん?」
「・・・・・・ンだよ」
瓦礫の撤去作業を終えた一同は、民間人たちで盛り上がりまくっている立食パーティに
参加していた。参加していたというよりは、やることがないためここに居残ったというだけなのだが。
「さっきの話、聞いてなかったんですか? サーシャさんの服の事なんですけど」
レッサーとサーシャ=クロイツェフは何やら衣服、ファッションについて熱い議論を交わしていた。
お前がファッションの何を知ってんだ、と言いたくなるようなレッサーの知ったかぶりと、
そんな話に純粋な気持ちでうんうんと頷いているサーシャがいたような気がする。
正直さっきから頭をぐるぐると這い回る違和感が鬱陶しすぎて話などまるで聞いていなかった
一方通行なのだが、そこを気付かれレッサーに怒られてしまった。
「コイツの服装がどォかしたのか、今更ツッコミ入れてもしょうがねェだろ」
「そうじゃなくて、サーシャさんには他にどんな服が似合うかなーって話してたんじゃないですか!」
「・・・・・・第二の質問ですが、どうかしたのですか? さっきからあなたはどこか上の空といった様子ですが」
サーシャに指摘された一方通行はしばし逡巡した後、彼女に質問してみる。
「オイ、オマエが朝起きたらガブリエルのヤツはもういなかったンだよな?」
「第一の解答ですが、その通りです。 どこへ行ったのかはわかりませんが、
恐らく独立国からは出ていないですよ」
なぜ言い切れる、と聞くとサーシャには何となく、ボンヤリとだがミーシャがどこにいるのかが分かるらしい。
『御使堕し(エンゼルフォール)』の件以来、『天使の力(テレズマ)』による指先の震えてしまうなど、
"そういう体質"になってしまっているらしい。本人は御使堕しの件に関しては記憶が無いのだとか。
(御使堕しとか言われてもよくわかンねェが、コイツが言うならとりあえず間違いはねェ、か)
しかしそれを聞いても一抹の不安は拭えない。
「第三の質問ですが、ミーシャがどうかしたのですか?」
「・・・・・・・・・・・・、いや。 なンでもねェよ」
ミーシャの話題を終えると、今度はレッサーが話しかけてくる。
「私から提案なんですが、ここで一つ。 サーシャさんの服を買いにショッピングに行きませんか?」
人差し指を立てながら意気揚々にショッピングへ誘ってきた。
サーシャが慌てて間に割って入ってくる。
「第一の私見ですが、何もそこまでしていただかなくても結構です」
「まぁまぁ遠慮しないで! ロシア東部にある街をご存知ですか?
世界中から一目置かれてる超巨大なウィンドウショッピング施設がありまして」
「いや、あの、」
「私も夏頃にそこで店開いてたんで、案内出来ますよ!
どうです? あの街はぶらぶら歩くだけでも楽しいですし、
ここはいっちょレッツ買い物! と洒落込もうではありませんか!」
「あの、」
にゃっはっは!と腰に手を当てて機嫌よさげに笑うレッサー。どうしてこんなに得意げなのだろうか。
サーシャが遠慮して断ろうとするもレッサーは全く耳を貸さず次々と本日の予定を組み立てていく。
話半分に聞いてみたが、なぜかその予定に一方通行自身も組み込まれていた。
「一方通行さん、確かこの船に一台車がありましたよね? それに乗せてください!
あ、大丈夫ですよ、ここから街への道のりも私がナビしますんでー♪」
「第二の私見ですが、私はまだ行くとは言って―――――」
「ついでにそこで昼食も済ませちゃいましょう。 ここじゃのんびり食べられませんし、
料理の味はここに出てるのより劣るでしょうが、街にもレストランがありますから」
「いやだから――――」
早くもハイテンションなレッサーとおろおろするだけのサーシャとは対照的に、
一方通行は先ほどと同じく彼女たちの話など馬耳東風でボーッとしていた。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
どうしてもミーシャの事が気になる。冷静に考えてみると、今までの彼女なら
こんな豪勢な料理が出ている場所に向かわないはずがないのだ。
料理が無くてもミーシャならこれだけの数の人間が楽しげに騒いでいたら、
釣られた魚の如くふらふらと立ち寄って来るに決まっている。
だが現在のところ、この船内でミーシャは見かけていない。
あの天使が人混みに紛れられるわけがないし、見逃しているということはないだろう。
「・・・・・・・・・・・・クソッ、なンなンだこりゃ。 胸騒ぎっつーのかァ?」
「ん? 何か言いました一方通行さん? ていうか今の話聞いてました?」
「あ? ・・・・・・、いや別に」
「そうですか。 それじゃ、行きましょう!」
「どこにだよ」
「やっぱり話聞いてないじゃないですか!!」
やだー!!と耳元で騒ぐレッサーに一方通行はげんなりといった表情を浮かべた。
どうやらロシア東部に位置する巨大商業施設に向かうため、車を出せとの事らしい。
と、一方通行が唐突にレッサーに話しかけた。
「・・・・・・オマエよォ」
「はい?」
「いい加減、そォいう風に無理して明るく振る舞うのやめたらどォなンだ?」
「・・・・・・は?」
「・・・・・・チッ。 なンでもねェよ、バカが・・・・・・」
「?」
今の一方通行の発言はどういう意味があったのか。
レッサーは後に知ることになる。
垣根「してぇ・・・・・・・・・・・・。 試合してェ~~~~~・・・・・・」
てなわけで今日はここまでです。
垣根帝督が復活したのはいいのですが、今度は一方通行が何やら不穏な雰囲気を感じ始めています。
じわじわと、ゆっくりですが最終章が近づきつつありますね。
次回更新はいつも通りです。
今日もここまで読んでくれた読者様に四キロの果糖が入った十リットルの水を。飲むん、だッ
では、ありがとうございました!
【次回予告】
『実際、ワシリーサのクソ野郎はかなり強い魔術師だった。
そんなヤツ相手に能力無しでやりあうなんざ、死亡フラグとしか思えねえってんだろ』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』の構成員・垣根帝督
『何言ってンだオマエ。 ・・・・・・・・・・・・まァ、でも』
―――――――――――『天使同盟』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)
『あなたをオフィスに入れるかどうか迷ったのは・・・・・・、ミーシャに口止めされていたからよ』
―――――――――――エリザリーナ独立国同盟の中心的人物・エリザリーナ
「というわけで、お願いしますね!」
「第一の質問ですが、これは強制イベントなのですか・・・・・・?」
「いいじゃないですか! たまには女の子らしく、サーシャさんも
いっぱい服買ってオシャレしてみましょうよ!」
「第一の私見ですが、あなたが私の何を知っているのですか・・・・・・」
しかし最後にはサーシャも折れ、渋々ながらショッピングに参加する事にした。
レッサーは生意気に一方通行に向かって他のメンバーも招集するよう命じる。
「風斬さんや垣根さん、ミーシャも呼んでくださいよ。 特にミーシャは
あんなポンチョだけじゃ不憫です。 天使なんですからそこはもっと
神々しさを兼ね備えた衣服を着させてあげるべきでしょう!」
全裸がデフォの大天使に何を言ってンだか、と一方通行は舌打ちをしながら腰を上げる。
ここまでテンションの上がりきった鬱陶しくてしょうがないレッサーを黙らせるには
結局ショッピングに付き合ってやるしかなさそうだ。
「エリザリーナさんにも一応声掛けてくださいね、忙しそうならいいですけど。
あとヴェントさんとワシリーサさんと・・・・・・」
「つまりは全員じゃねェかクソボケ。 ・・・・・・ったく、オマエらは車乗って待っとけ」
「あぁ、第二の私見ですが、ワシリーサは呼ばなくても結構ですよ。
彼女が来てはこの買い物の意味が無くなってしまいます」
はいはい、と適当に返事をして一方通行は船を降りていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「つーかなンで俺まで買い物なンざに付き合わなくちゃいけねェンだ?」
生返事で了解してしまったが、今更になって非常に面倒な事を引き受けたと後悔する。
女性の買い物は非常に時間がかかる、と聞いたことがある。
一方通行は打ち止め(ラストオーダー)くらいしか女性と買い物になど行ったことがないが、
打ち止めはまだ適当に菓子やデザートをねだってくるだけだから時間はかからない。
だが今回は年頃の若い女が二人、しかも衣服の買い物ときた。
膨大な時間を浪費してしまうことは想像に難くない。
(まァ暇だしな・・・・・・、最悪俺は車ン中で寝てりゃいいか)
若い女の子二人とショッピングに行くのが面倒くさい、とブチ殺したくなるような
贅沢をほざきながら一方通行は残りのメンツを集めに居住区を歩いた。
まずはさっきからなぜか気になってしょうがないミーシャを探そうと垂れていた頭を上げると、
「・・・・・・・・・・・・あン?」
よたよたと、放っておけばそのまま倒れてくたばってしまいそうな歩き方をした男が視界に入った。
壁に手を当てながら脇腹をもう片方の手で抑え、足を引きずりながらゆっくりと歩を進めるその男は、
「オイ、垣根か?」
「? ・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・、チッ。 テメェかよ」
一方通行はギョッとした。
振り向いたその顔は、垣根帝督かどうか一目見ただけでは分からないほどボコボコに腫れ上がっていた。
垣根帝督はしばらく一方通行の顔を虚ろな目でジッと見つめ、舌打ちをして背を向ける。
「オイ待てよメルヘン野郎。 オマエそれどォしたンだ」
「何でもねえよ、テメェにゃ関係ねえ事だ」
「なンでもねェのにそンな頭がバックリ割れるわきゃねェだろボケ」
垣根の横に並んで杖をつく一方通行。よく見ると垣根は全身からジワリと出血している様子だ。
「・・・・・・? 何があった、話せ」
「うるせえっつってんだ」
バン!!、と一方通行は垣根が歩く道を遮るように壁に手をつける。
垣根は心底面倒くさそうに再度舌打ちをした。
「話せよ」
「・・・・・・・・・・・・うっぜえな。 マジで何でもねえって。
ちょっと階段から転んだだけだ」
「どンなアクロバティックな転び方したらそンなンになるンですかァ?
言い訳ならもっと上手い言い訳をしろよ第二位」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
垣根はうんざりとした表情でため息をつく。と、同時に激しく咳き込み始めた。
喉を痛めているのか呼吸器官、もしくは肺がやられているのか、どちらにせよひどく辛そうだ。
「ゆっくりでいいから話せ」
「げほっ、・・・・・・はぁ、はぁ。 ・・・・・・・・・・・・ハッ、俺の心配してくれてんのかよ?」
「何があったのか話したらおとなしく死ンでいいぞ」
「チッ。 ・・・・・・マジで大した事じゃねえよ。 ・・・・・・ちょっとワシリーサのヤツとな」
「ワシリーサ? あの変態とやりあったのか?」
「・・・・・・ムカつく事言われたからよ、喧嘩しただけだ」
ワケのわかんねえ魔術でボコボコにされちまったがな、と肩をすくめて言い足す。
ただの喧嘩にしてはあまりにも度が過ぎてると言っていい怪我をしているが・・・・・・。
「あの女、どォいうヤツだかわかってンのかオマエ。
大体、『未元物質(ダークマター)』使ってンならそンなひでェ状態にゃならねェだろ」
「能力無しでやったんだよ。 ちょっとワケありで」
「・・・・・・ただの喧嘩で能力使わないなンてワケがどこにあるンだボケ」
「いちいちうるせえな。 ・・・・・・ハッ、これもお前から言わせりゃフラグか?」
「あァ・・・・・・?」
「実際、ワシリーサのクソ野郎はかなり強い魔術師だった。
そんなヤツ相手に能力無しでやりあうなんざ、死亡フラグとしか思えねえってんだろ」
「何言ってンだオマエ。 ・・・・・・・・・・・・まァ、でも」
一方通行は一拍間を空けて、鼻で笑った。
「フラグ・・・・・・だろォな」
「ハッ・・・・・・・・・・・・」
垣根帝督はバツの悪そうに地面へ目を向けて呟いた。
「ち・・・・・・くしょ・・・・・・う」
「・・・・・・?」
拳を握り、震える垣根に一方通行は訝しげな視線を送るが、彼は続けて言った。
「・・・・・・詮索してくんな、今だけは」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「お前にもやらなきゃなんねえ事があるように、俺にもやらなきゃなんねえ事があんだよ。
放っておいてくれ、わーかったかぁ? あークソ、口ん中ズッタズタで
喋るのも億劫だわ。 俺は部屋で休んでっからな。 来んなよ」
言いたいことだけ言って、垣根はふらふらとした足取りで帰路についた。
一方通行は追求しようかどうか考えたが、垣根の背中から『マジで着いてくんな』という雰囲気が
ひしひしと伝わってくるのを感じ、彼を追うのはやめておいた。
その代わり、
「オイ、垣根」
「あん?」
「"オマエがこそこそと何をしよォとしてンのかは知らねェが"、勝手に死ンだりするンじゃねェぞ。
それと勝手にどっか消えたりしても許さねェ。 これだけは肝に銘じとけアホ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
垣根は少し間を空けて答えた。
「ああ」
軽く手を振り、今度こそ垣根は部屋へ戻っていった。
(チッ、ガラじゃねェっつーの・・・・・・)
先ほど垣根に言ったセリフを思い出し、バツの悪そうに舌打ちをしながらポリポリと頬をかく。
一方通行はとある軍事施設の廊下を杖をつきながら歩いていた。
エリザリーナが使っているオフィスルームがある施設だ。
彼女を買い物へ誘おうとしてここに来たのだが、恐らくは無理だろう。
独立国同盟を率いる者としては、今のこの状況でショッピングになど付き合ってられるはずがない。
民間人たちは未だに居住区の船の事で盛り上がっているようだが、エリザリーナはそんな事に
うつつを抜かしている場合じゃないのだ。
プライベーティアとの件での後始末がまだまだ山のように残っている。
「・・・・・・・・・・・・、俺だ。 入るぞ」
ミーシャを探しがてらここを通りかかった一方通行は、無駄だと分かっていても
一応誘ってみるかとオフィスのドアをノックし、彼女に呼びかける。
そして返事はすぐに来たのだが、
『あ、一方通行・・・・・・!? ちょ、ちょっと待ってちょうだい』
「?」
声の主は間違いなくエリザリーナなのだが、その返事は何やらとても慌てた様子だった。
着替えでもしているのかと勘ぐったが、返事から二、三秒ほどでまた声がかかる。
『ごめんなさい、もういいわよ』
何のために待ってくれと言ったのかわからないほど、早い段階で入室許可が出た。
意味がわからず首を傾げる一方通行だったが、大して気にもせずオフィスへと入っていった。
「よォ、なンだったンだよ? 待ってくれとか言っといて――――――」
入ってすぐに、一方通行はその紅い眼を皿のように見開いた。
そこには、ソファの上でぐったりと寝そべっているミーシャ=クロイツェフの姿があった。
「・・・・・・ガブリエル?」
一方通行は何かを言いかけたエリザリーナなど無視してミーシャの元へ駆け寄る。
自由奔放で無邪気ないつもの彼女の姿は影も形も無い。
一方通行にあれだけの好意を抱いている天使は、彼が近寄っても反応すらしなかった。
眠っているのだと思ったが、そもそもミーシャは『睡眠』という概念など持ちあわせていただろうか?
「一方通行」
「何があった・・・・・・?」
まさかついさっきと垣根にした問いかけを二度も行うことになるとは思わなかった。
ミーシャに一体何があったのか。外部からの遠隔攻撃?説明不可能な魔術による干渉?
科学サイドの頂点に立つ一方通行に天使の異常事態の理由など皆目見当もつかない。
「どォしてコイツがこンなにぐったり倒れてやがる? 誰かに何かされたのか。
さっき俺がここに入る前に待たせたのはなぜだ?」
「一方通行、落ち着いて聞いて。 私にも分からないのよ、私が廊下に出たら
彼女が壁に寄り添って倒れそうになっていたから介抱したの」
一方通行はエリザリーナの顔を睨みつけるように見るが、彼女が嘘をついているようには思えない。
エリザリーナは話すべきかどうか逡巡するような仕草を見せたが、やがてこう言った。
「あなたをオフィスに入れるかどうか迷ったのは・・・・・・、ミーシャに口止めされていたからよ」
「口止め? コイツが俺に何を隠してやがるってンだ」
「今のこの状況よ。 どうやら彼女、あなた達に自分の疲弊しきった体を見せて心配させたくなくて、
今までもずっと隠してきたんだと思うわ。 すぐにエイワスを呼ぼうと思ったのだけどそれも止められたわ」
自分達を心配させまいと黙っていた?口止めしていた?
意味が分からない。原因は不明だがこうなるまで相談もせずに黙っていたミーシャと、
こうなるまで気付くことが出来なかった自分に腹が立つ。
「クソが・・・・・・、ふざけやがって。 どォしてこンな事になってンだ」
「彼女を開放したときと比べたら今はだいぶ落ち着いているから、
目が覚めたら多分また安定した状態になるとは思うけど・・・・・・」
「原因は?」
「こっちが聞きたいくらいよ。 口止めされてるけど、やっぱり放ってはおけない。
悪いけどエイワスを呼んできてもらえるかしら?」
「いねェよ。 アイツ、こォいう肝心な時にいなくなりやがって・・・・・・」
こういう時だけエイワスに頼る自分に歯噛みする一方通行だが、
悔しかろうがなんだろうが現時点でミーシャの事について一番詳しいのはあの聖守護天使だけだ。
しかしそのエイワスは今、ここにはいない。ロシアどころか、あれが今この世界にいるのかどうかも
分かりはしない。エイワスなら平気で散歩感覚で平行世界を行き来出来ても不思議ではない。
しかし、こうなったらもう買い物どころではない。一刻も早くミーシャを回復させなければ。
一方通行は他に天使について詳しい者がいないか考え、とりあえず『天使同盟』のメンバーを
全員集合させロシアから発つ準備を整えさせようとしたが、
ふと、目の前でしんどそうに寝ていたミーシャに動きがあった。
「! ガブリエル――――――」
一方通行はミーシャの顔を覗き込むようにするが、
その瞬間、突然ガバッ!と跳ね起きたミーシャの額が思い切り一方通行の顔面にクリティカルヒットした。
「ごっ・・・・・・、ご・・・・・・!!?」
「ミーシャ! 大丈夫?」
いやこっちの心配もしろ、と一方通行はツッコミを入れようとしたが、
大天使様のヘッドバットは信じられないほどの威力だったようで、激痛に悶える一方通行は声が出せない。
そのまましばらくオフィスの床をゴロゴロと転がりながら痛みが引くのを待ち、
目尻に涙を溜めながら起き上がった一方通行はずんずんとミーシャの元へ歩み寄った。
「よォ・・・・・・眠り姫。 いい夢は見れたかよ?」
「pfjegnd貴方mzlaqsh」
もはや一方通行とのやり取りで定番となった『天使のハグ』をすかさず行おうとするミーシャ。
さっきまでの衰弱しきったミーシャの姿が頭に浮かび、一瞬素直に抱きつかせてやろうかと考えたが、
「相変わらずで、お約束だな・・・・・・。 抱きつくな」
電極チョーカーのスイッチを入れ、ベクトル操作全開のデコピンで押し返した。
ソファを吹き飛ばし、そのままノーバウンドで壁に激突するミーシャ。
「容赦無いわね」
「クソ・・・・・・、さっきまでのか弱い天使ちゃンはどこ行ったんだよ。
元気満々じゃねェかこの狸が」
狸、とは言ってもさすがにさっきまでのミーシャの容態は演技などではないだろう。
いつも通りの元気な姿の彼女を見てこっそりと安堵の息をつく一方通行。
デコピンされた額をすりすりとさすりながらムクリと起き上がったミーシャは
無言で、無表情でエリザリーナをちらりと見る。
「あ、・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『まさか一方通行に自分が倒れてた事言ったんじゃねえだろうな? あ?』と暗に示しているのか、
ミーシャからじわりと漂う得体のしれない重圧に思わず一歩後退るエリザリーナ。
しかしこの天使に隠し事は無理だろうな、と正直に一方通行が来てからの顛末を話そうと
口を開こうとしたエリザリーナだが、突然横から割り込んできた声に遮られた。
「で、どォすンだよエリザリーナ」
一方通行が問いかけてくる。一体どうするのか、と。
しかし当のエリザリーナは何がなんやらさっぱり分からない。急にどうするのだと
言われても、何のことを指して言っているのか理解出来ない。
ミーシャの事ならさっきも言ったように体調悪化の原因はエイワスにしかわからないと
結論が出ており、そのエイワスが今ここにいないのだからどうしようもない。
「え、えっと・・・・・・?」
一方通行とミーシャの顔を交互に見ながら冷や汗を流す。
自分は今、何を求められているのか。ここで一発ボケでもかませばいいのかと考え始めていると、
「買い物だよ買い物。 ロシア東部ンとこにあるショッピングセンター街。
そこで買い物するかどォか誘いに来たンだろォが俺は」
「あ、あぁ・・・・・・・・・・・・」
もちろんエリザリーナはそんな事は一切聞かされていない。
だが彼女はすぐに把握した、これは一方通行からの『フォロー』なのだと。
ミーシャから口止めをされていたことを知っている一方通行が気を利かせてくれているのだ。
「いや、・・・・・・悪いけど私はまだ仕事が残っているから行けないわ。
例の船についてもっと皆と話し合わなきゃいけないし・・・・・・」
「そォか」
精一杯アドリブを聞かせてエリザリーナはなんとか答える。
アドリブと言っても、買い物へ誘う事は一方通行の本来の目的でもあるためきちんと意味は通っている。
未だにミーシャがこちらをジーッと見ているのが正直怖くてしょうがない。
だがやがて、納得してくれたのかミーシャはエリザリーナから視線を外し、
一方通行に――多分――問いかけた。
「zbddngh買物ieufgwsc」
今度は一方通行の方をジトーっと見つめるミーシャ。なぜか正座で。
「マセガキのヤツが急に買い物行こうなンて言い出しやがってな。
仕方ねェから俺の同伴することにしたンだよ」
それを聞いた途端、ミーシャは右腕をビシィ!と元気よく天へ上げた。
一瞬、星でも降らせるのかと背筋が凍ったが、どうやらただの挙手のようだ。
自分も一緒に行きたい!と言葉ではなく仕草で表している。
そうと知った一方通行は『あァー・・・・・・』と面倒くさそうに頭を掻いて言った。
「いや・・・・・・オマエは無理だろォ、あの街は。 あそこは『半公開型AR』っつって・・・・・・
なンて言やァいいンだ。 下手したら街全体にオマエの個人情報が映っちまうっつーか・・・・・・、
いや、あそこのARは個人情報の隔離レベルを設定出来るンだったか・・・・・・?
つっても天使に個人情報もクソも・・・・・・。 エイワスがいりゃなンとかなるンだが・・・・・・」
ロシア東部にあるショッピングセンターについて、ミーシャにも分かるように情報を整理していく。
ブツブツと独り言のように、簡潔に分かりやすく言葉を選んでいく一方通行はやがて、
「結論、無理」
「ojbmvnadyaqwdfqwfpkgjsecndf」
それを聞いて、やだやだやだやだやだやだやだやだとノイズをまき散らしながら床に転がって駄々をこねまくるミーシャ。
彼女が駄々をこねただけで軍事施設が不気味に揺れ、オフィスの床に亀裂が走った。
ついでに駄々をこねて暴れる彼女の腕がオフィスのパソコンを繋いでいるケーブルに触れ、
電源がシャットアウトしてしまった。エリザリーナのただでさえ悪い顔色が、より顔面蒼白になっている。
恐らく整理していた書類やらなんやらのデータが全てリセットされてしまったのだろう。
予想通りの反応に一方通行は短く息を吐き、再び電極チョーカーのスイッチを入れ、
片足でミーシャの背中を軽く踏んづけた。それだけで彼女はピクリとも動けなくなる。
「ったく、ここでおとなしくしてろってンだ」
「vdefhdscb渋々cbchvyef了解qafzxmcnidv」
意外にもミーシャは素直に退いた。一方通行の言葉にコクコクと頷き、
彼が足を離しても悄然とソファに座るだけで、それ以上駄々をこねてきたりはしなかった。
(・・・・・・やっぱりまだ身体に負担が掛かってンのか? クソ・・・・・・)
一方通行は誰にも気付かれないような仕草で舌打ちをする。
ミーシャはそのままソファに寝転がると、床に落ちた毛布を被り、恐らくだが『就寝』した。
「ミーシャはここで休ませておくから、買い物ならあなた達で楽しんできなさい」
「あァ・・・・・・、って、俺は別に行きたくて行くンじゃねェっつーの」
「そう」
どことなく無理をしている感じで毒づく一方通行を見てクスッと微笑むエリザリーナ。
行きたくなければ行かなければいいのに。そういうところがあるから、
「本当、優しいのね」
「もう一隻くらい船突っ込ませてやろォか? ていうかオマエ、マジで来ねェのかよ」
「え?」
エリザリーナは意外な誘いにキョトンとする。さっき断ったはずだが、尚も一方通行は
自分を買い物へと誘ってくれた。
「正直、オマエも着いてきてくれりゃ助かるンだがな」
「まさかこんな細身の女に荷物持ちさせようって腹じゃないわよね?」
自分も買い物へ来てくれたら助かるという言葉に、エリザリーナはほんの少しドキッとしてしまうが、
大方、一方通行だけじゃ荷物を持つのが面倒だから自分にも荷物持ちをさせようとしているのだろう
と、彼女は判断する。
だが、
「そンなンじゃねェよ。 オマエなンかに荷物持たせたら綿飴持たせただけでも腕が折れちまいそォだ。
そォいうンじゃなくて、単純に着いて来てほしかっただけだ」
「・・・・・・何で私なのかしら?」
「察しろクソボケ。 言わせンじゃねェよ」
おやおや、これは一体どういう風の吹き回しだろうか?"あの"一方通行がこうもストレートに
女性をショッピングへ誘うなど、今までに見られなかったパターンだ。明日は星でも降るのだろうか。
エリザリーナもそう思ったのか、ほんのりと頬を赤らめ目線が泳いでいる。
どうしたらいいか答えに迷っているらしい。
「え、ええと・・・・・・。 本当にごめんなさいね、私はまだやらなきゃいけない仕事があるから・・・・・・。
ほら、今のミーシャの騒ぎでロシア政府への報告書のデータが全てリセットされてしまったし・・・・・・」
「そォかよ。 ガブリエルに代わって詫びとくぜ、このクソ天使め・・・・・・」
顔に落書きでもしたろか、と一方通行は寝顔になっているのかも分からないミーシャを睨みつける。
「じゃ、来れねェンだな?」
「ええ、ごめんなさい」
「構わねェよ、無理言って悪かったな」
そう言って一方通行は本当に残念そうな顔をする。マジでどうしちまったのだろうかこの白いのは。
女性にデートを断られてションボリするようなキャラじゃないだろうに。
そんな彼の顔を見てエリザリーナもさすがに戸惑いを隠せないでいた。
(意外と積極的な子なのかしら・・・・・・? 異性からあんな事言われたの初めてだからわからないわ)
昨晩の『風斬事件』で一方通行も女性に対する態度と、女性が抱く気持ちを少しは考えるようになったのか。
だとしたら大きな進歩である。フラグを立てるだけ立てといて放っときぱなしでは意味が無い。
今の彼ならもしかすると順調にフラグを消化していけるのではないだろうか?
ここまで彼の心境が変化すれば期待もしてしまうというものである。
(チッ・・・・・・)
そんな、ショッピングへの誘いを断られた一方通行の今の心境はというと、
(エリザリーナが着いて来てくれりゃ俺も少しは楽出来たンだがな・・・・・・。
ハッキリ言ってマセガキやサーシャみてェな『ガキ』は性に合わねェ。
事あるごとにいちいち騒ぎやがるからなァ。 それに比べたらエリザリーナみてェな
『大人』は、『大人』なだけに『大人しい』から気持ち楽なンだよな。
女なら尚更そォだ。 扱いやすいっつったらアレだが・・・・・・助かるって言い方が正しいか)
やっぱりそういうオチかよ。
風斬の件があって一方通行も女性に対する考えが多少は変わってきているようだが、
この程度ではまだ完璧とは言えないだろう。完璧になる必要はないのだが。
それにしてもこの白髪の少年、どうやら年下よりは年上の方が一緒に居ると楽、とのことらしい。
もしかしたら意外と年上の女性が好みなのかもしれない。そうなるとフラグを立てた人物の半分以上が
消えてしまうことになるだろう。
これではフラグの消化などまた夢の夢というものだ。やはり心は成長の兆しすら見せていないのか。
だが、
(・・・・・・ま、たまにはレッサーみてェなとにかくうるさいガキ相手ってのも悪くねェか。
うるせェガキには慣れてるしな)
一方通行は短く息を吐き、
(・・・・・・ンで、あとはレッサーの方をなンとかしてやンねェとな。 あのバカ、
性に合わねェ事しやがって・・・・・・)
どうやら一方通行はレッサーに対して何か違和感を感じているようだ。
一体どうしたというのだろうか。
しかし、昔の一方通行ならこんなことすら思わなかっただろう。嫌々ながらも彼はもう
レッサーやサーシャの買い物の付き合ってあげると決めているのだ。
昨晩の『風斬事件』で深く反省した一方通行は、女性に対する態度や考え方が
ほんの数ミリ程度だが、やはり変わっていっている。
「邪魔したな、コイツの事頼むわ」
「ええ。 ついでにミーシャにも何か色々買ってきてあげたらどう?
あなたからのプレゼントならきっとどんな物でも喜ぶわよ」
「しょうがねェな・・・・・・。 それと、ついでのついでだ。 オマエも何か欲しいモンあるか?」
「え?」
「今から行くショッピングセンターは知ってンだろ? ロシア東部の実験都市。
あそこなら大抵のモンは揃ってるはずだ。 今のうちに言やァパシってきてやる」
外見が同じなだけで中身は別人なんじゃないかとエリザリーナは思った。
少なくとも第三次世界大戦時の彼は、自分たちを助けてはくれたものの、
ここまで人思いな人物だっただろうか?
「・・・・・・ありがとう。 そうね、私は何でもいいわ」
「あ?」
「私も、あなたがくれるものなら何でも喜ぶわよ、きっと」
あの例の『桃色ノート』があればエリザリーナの項目に何らかの変化があっただろうか。
まだ不安定で危なっかしい程度だが、これは恐らくもう『立っている』・・・・・・と考えていいだろう。
「後悔すンなよ? ふンどしでも俺がやりゃあ着てくれンのか」
「馬鹿なこと言ってないで早く行きなさい」
セクハラレータのセクハラ発言にボン!と顔を赤くしたエリザリーナは
それを悟られまいと早々に一方通行をオフィスから追い出した。
「・・・・・・、変な子ね」
クスっと笑うエリザリーナはパソコンを立ち上げ、報告書の復旧作業に専念することにした。
【次回予告】
『モチのロンでしょ! あの人絶対カネ持ってますよ、第一位ですもん。
なはははははー! ほら、サーシャさんもどうぞ。 これ聞こえてるのかなぁ』
―――――――――――魔術結社予備軍『新たなる光』の構成員・レッサー
『・・・・・・わ、わははははー・・・・・・、やったー』
―――――――――――元『殲滅白書』の魔術師・サーシャ=クロイツェフ
『俺のベクトル操作ナメンな。 その気になりゃオマエの顔だけぶっ潰して
他への衝撃を無効にするなンて芸当も出来たンだ』
―――――――――――『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・一方通行(アクセラレータ)
――――――――――――――――――――――
と、いうわけで一方通行は再びエリザリーナ独立国同盟の居住区を雪を踏みしめながら歩いていた。
早朝は『天使同盟』からのサプライズプレゼントに民間人が大いに盛り上がっていたが、
今はもうそれほどでもなくなっていた。
かと言ってお開きになったわけでもないらしく、子供は船の室内プール目当てに大はしゃぎで走っていたり、
大人たちも船のこれからの使い道などについて色々と話し合っている。
「結局、俺とマセガキとサーシャの三人かよ・・・・・・」
一方通行はオフィスを出た後、買い物へ行くメンバーを集めるために
レッサーに頼まれた人物を捜していた。
まず垣根帝督だが、彼は行かないだろうと思って声はかけなかった。ていうかあんな状態じゃ行けないだろう。
次にワシリーサ。サーシャが割と真剣に同行を拒否していたので彼女も同じく声はかけず。
エリザリーナは先ほど誘ってみたが案の定仕事に追われておりこれもダメ。
オフィスに同室していたミーシャも買い物など行かないで体を休めておかせたほうがいいだろう。
エイワスは、と思ったがアイツ誘われてない。
残るは風斬氷華と『前方』のヴェントの二人なのだが、これが捜しても一向に見つからないでいた。
船にいるのならレッサーが―――どうにかして―――自分に連絡するはずだし、
居住区にいる民間人に―――心底面倒だが―――散々聞き回ったが居所は掴めず。
ヴェントは風斬の事を『堕天使』と呼び、心なしか忌み嫌っていたような雰囲気だったが、
ちょうどその二人がいなくなっているという事に一方通行は少し嫌な予感を感じる。
(まさかあの二人、どっかでやりあってンじゃねェだろォな)
もちろん、やりあってるというのは『戦っている、戦闘をしている』という意味合いである。
しかし片や人工天使、片や一流どころの騒ぎではない魔術師だ。
戦闘でもしていたら居住区などものの数分で焼け野原になっているだろう。
どこかで話し込んでいるに違いない、と決め込んだ一方通行は二人の捜索を諦め、
結局三人でロシア東部の巨大商業施設へ向かうことにした。
雪の上を長時間杖でつきながら歩くというのは第三次世界大戦時にも体験しているが、非常にしんどい。
これから女の子二人の買い物に振り回されるのだろうと考えると頭痛すらしてきそうだ。贅沢なことに。
と、船へ向かって歩いていると一方通行のイライラを
メーターが振り切るまでアップさせるような出来事が起きた。
『一方通行さーん!!! おっそいんですけどー!!? どこにいるんですかぁ!!?
どっかで女でも誑し込んでるんじゃないでしょうねぇ!? 聞こえてますかー!!?』
エリザリーナ独立国同盟中に響き渡るようなレッサーの爆音が居住区を駆け巡った。
ピー、ガガ、ガーとノイズが混じった音も含まれている。
「・・・・・・・・・・・・ッッ!!?」
思わず電極チョーカーのスイッチを入れ、音を『反射』しようとしたが
こんなゴジラの咆哮のような音を『反射』してしまったら周りの民間人たちが大変なことになる。
『早く来ないとお昼になっちゃいますよ~!! あ、そうだ! 買い物ついでに
お昼ごはんもショッピングセンターで食べちゃいましょう! もち、一方通行さんの
奢りでね! みゅふふふふふふふ~~~、早く来ないと出費が重なるだけですよ~!』
『第一の質問ですが、お金は全て一方通行が?』
『モチのロンでしょ! あの人絶対カネ持ってますよ、第一位ですもん』
『第二の質問ですが、第一位だからと言って―――――』
『ダイジョブダイジョブ! なはははははー! ほら、サーシャさんもどうぞ。
これ聞こえてるのかなぁ』
『・・・・・・わ、わははははー・・・・・・、やったー』
周りから槍のように突き刺す視線とセットでクスクスと笑い声が聞こえてきた。
どうやらあのクソったれのクソガキ共は、船に備え付けてある拡声器――恐らくエイワスによる改良版――を使い、
どこかをほっつき歩いているであろう一方通行にも声が届くように最大音量に設定して喋っている。
一方通行はその顔にありったけの明るい笑顔を、そしてその胸にありったけの殺意を込めて、
電極チョーカーのスイッチを入れてベクトル操作の力による跳躍でクルーザーまで飛んでいった。
――――――――――――――――――――――
レッサーは整備室にある拡声器のスイッチを切り、ご機嫌な様子で一方通行を待っていた。
サーシャ=クロイツェフを連れてひとまず甲板まで移動する。
「こんなもんですかね。 まったく一方通行さんってばどこで道草食ってんだか・・・・・・」
「第三の質問ですが、あんな呼び方じゃ迷惑だったのでは?」
「あれくらいしないと来ないですよ。 あの人は面倒臭がりですからね」
やれやれ、手間がかかる子ですと保護者のようなセリフを言ってレッサーは肩をすくめる。
ラウンジに来てみると独立国同盟の民間人が何人か耳を塞いで屈んでいた。
どうやら先のレッサーによる爆音で、耳及び脳を少しやられたらしい。
皆が皆、レッサーとサーシャの方をジロリと睨む。
「あ、あはははー・・・・・・いやいや、ご迷惑をおかけしました」
「第一の私見ですが、犯人はこのレッサーです」
二人はペコペコと頭を下げながら駆け足で甲板へと向かった。
「ちょいとやりすぎちゃいましたかね~」
「第二の私見ですが、ちょいとどころではありません」
今度はサーシャがやれやれ、と言って肩をすくめる。
と、
「うん?」
サーシャが空を見て首を小さく傾げた。
「どうしましたサーシャさ・・・・・・、なんですあれ」
レッサーも習って空を見ると、何かが甲板へ墜落しようとしていた。
かなり上空の方にそれはある。ミサイルか何かかと二人は警戒したが、
「レッサァァァァちゃァァァァァァァン!!!!? ちょォォォっとおイタが過ぎるンじゃ
ないのかにゃァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!??」
今まさに甲板へ墜落しようとしているのは、学園都市特製の真っ白ベクトルミサイルだった。
「あ、あくせら・・・・・・・・・・・・!!?」
「第三の私見ですが、私は先に避難しておきますね」
「ちょっ!!? 私を見捨てるつもり―――」
我先にと逃げ出したサーシャを引き止めようとしたが、もう遅かった。
上空七〇〇〇メートルという高さから突貫してきた真っ白ミサイルこと一方通行は、
そのままレッサーの顔面に必殺の『直立型ベクトルドロップキック』をぶちかまし甲板の床をビスケットのように
砕いて、バキバキと嫌な音を立てながら船底まで落下していった。
その威力はまさに爆撃。一方通行という名のミサイルはレッサーを踏みつけたまま地面にまで達し、
落下地点にクレーターを作り出した。居住区に震度三くらいの揺れが二、三秒続いた。
幸い、居住区の建造物に被害はなく、甲板を貫いた穴は不可思議なくらいに綺麗な穴を開けているだけだった。
その穴の周りは、これまた不思議なことにヒビ一つ入っていない。
恐らくベクトルを上手く操作して船への被害を最小限に抑えたのだろうが、まったく、器用なものである。
レッサーの顔に穴が開いていなければいいのだが。
「悪い子にはオシオキが必要だよなァァ? んン?」
「いだだだだだだだだだ!! ちょ、ちょっと待って・・・・・・!!!」
「ああァ? どォされてェンだァ? リクエストくらいなら聞いてやるぜェ?」
「そ、そうですね。 じゃあ後ろから優しく抱きしめてもらえると私のあなたに対する
好感度がぐーんと上がると思いますよ・・・・・・ってあ痛たたたたたたたたたたっ!!?」
リクエスト通り、一方通行はレッサーの両腋から腕を通し、後ろから力一杯羽交い絞めにした。
そのまま彼女の両腕をぐいいっと後方へ引っ張り、そのまま関節技(サブミッション)を美しく決める。
レッサーは胸を思いっきり前に張る体勢になってしまい、苦痛からかそれ以外の理由からか、
顔が真っ赤になっていた。
「うぎぎぎぎぎぎ!!! ご、ごめんなさいごめんなさい!! ギブギブギブ~~~~!!!!」
「聞こえませェ~ン。 もっと大きな声で」
「ぎ、ギブ~~~~~~!!!!!」
レッサーの悲痛な叫びと懇願を聞き、一方通行は仕方がないといった表情で
彼女にかけていた関節技を解除した。そしてそのままレッサーの尻にケンカキックをぶち込む。
顔から地面に突っ込んだ彼女のミニスカが背中まで捲れ、可愛らしいデザインのパンツが丸見えになるが、
一方通行はそれを見ても平常通り全く反応なしだ。
「み、みみみみ、見ましたね!!?」
「見ざるを得ねェだろォが」
「見物料として日本円で一〇〇〇万ほどいただきます! 痛ッ! じょ、冗談ですよ・・・・・・」
くだらない事を言うレッサーの頭に渾身のチョップを入れる。
「ていうか私、生きてるんですか? あんな上空から蹴り喰らったのに」
「俺のベクトル操作ナメンな。 その気になりゃオマエの顔だけぶっ潰して
他への衝撃を無効にするなンて芸当も出来たンだ」
一体どうベクトルを操作すれば上空七〇〇〇メートルからの蹴りで
レッサーの顔を潰さないように出来るのか。
実際、レッサーは関節技の痛み以外は全くの無傷だった。
「くだらねェ真似しやがって・・・・・・、大恥かいちまっただろォが」
「だって一方通行さんが何時まで経っても戻って来ないんだもーん」
「ほンの数十分くらい待てねェのかクソガキが・・・・・・。 まァいい、行くぞ」
そう言ってレッサーの手をつかみ即席クレーターから船へ向かう。
彼女は突然手を掴まれた事に少し驚きながら、
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。 他のメンバーは?」
「どいつもこいつも、オマエらの買い物なンざ付き合ってらンねェとよ。
ついでに俺もパスしていいか?」
「ダメです! あなたは着いてきてください。 ていうか皆さん薄情すぎやしません!?
人望ないのかなぁ~私」
「オマエなンかに人望があると今まで思ってたのか? めでてェ構造してンなァ、オマエの頭」
「・・・・・・・・・・・・人望、無いですかね?」
「・・・・・・あン?」
「いえ。 さぁーて! んじゃ薄情な皆さんは置いといて、とっとと買い物に行きましょう!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、バカが」
「ん? 何か言いました?」
「別にィ」
居住区の民間人から心配する声をかけられたが適当にごまかし、
クレーターの出来た所はあとで直しとくと言い残して二人は船の駐車場へ足を運んだ。
駐車場には一台の車が停まっている。見た目はポップでキュートなケータリングカーだが、
これは学園都市の統括理事会の一人、親船最中から借りた軍用トラックを偽装したものだ。
「第一の質問ですが、無事ですか?」
「なんとか・・・・・・。 一方通行さんってば容赦ないんですから」
「オマエに素晴らしい四字熟語をプレゼントしてやる。 自業自得だ」
サーシャ=クロイツェフは一足先にトラックへ乗り込み、暇を持て余していた。
後ろの荷台から『天使同盟』が持ち込んでいた学園都市製のドリンクをちゅーちゅー飲んでいる。
「いい身分だな。 何様のつもりだ」
「第一の解答ですが、元天使様です。 ・・・・・・補足説明しますとジョークですが」
あながち冗談にもなっていないが、一方通行は無視して運転席に乗り込んだ。
「ちょいと。 私はどこに乗ればいいんでしょうか?」
「あァ? 後ろの荷台にでも行ってろ」
「一方通行さんが運転席でサーシャさんが助手席で、私は一人荷台でお留守番しろと?」
「第一の私見ですが、荷台以外に場所を確保できませんよ」
うむむ、と悩むレッサーを横目に一方通行はエンジンをかけ、ショッピングセンターまでの
道のりを得るため備え付けのナビを慣れた手つきで操作する。
「・・・・・・かなり遠いな。 帰りは多分夕方過ぎてンぞ」
「第二の私見ですが、帰りは夕方ではなく真夜中になるかと予想されます。
補足説明しますと、女性のショッピングとは時間のかかるものなのだそうで」
「他人事みてェな口ぶりだな。 オマエも結構ノリ気じゃねェかよ」
「第三の私見ですが、こうなったらなるようになれ、です。
補足説明しますと、今日は沢山買い物をしようと活き込んでいます」
あれだけショッピングを嫌がっていたサーシャだが、今はもう気持ちを切り替えているらしい。
恐らくレッサーから貰ったものなのだろう、ショッピングセンターの薄い商品カタログを片手に
どれを買おうかと悩んでいる。こういう所はやはり女の子だ。
「えいっ♪」
「ンあっ!?」
と、車での居場所に悩んでいたレッサーが突然一方通行の席に強引に座り込んだ。
彼女のお尻が一方通行の股を圧迫し、変な声が出てしまった。
「・・・・・・マセガキ、ドロップキックじゃ物足りなかったか?」
「ここでいいです、私はあなたの膝上に座りましょう」
「オーケー、イイ答えだァ」
一方通行は自分の股に座るレッサーの首に腕を回し、そのまま締め上げた。
「うぎゅ!? がっ、にゃ、何をする・・・・・・んですか・・・・・・!!!」
「このまま気持ち良ォくしてやンよ、天国で木原クンによろしくなァ。
あ。 アイツは地獄行きだな多分」
「木原って誰・・・・・・うぐぐ、離してぇ・・・・・・」
これ以上締めるとマジでGo to hellしてしまいそうだったので、一方通行は
根負けしてレッサーの首から腕を解いた。
「ぜぇ・・・・・・はぁ・・・・・・!! ふふふ、私の勝利です」
「ふざけンなよクソったれが・・・・・・マジでここに居座るつもりか」
「いいじゃないですか! こんな可愛い少女がこんな至近距離で座って
くれてるんですよ? 夢のようなドライブでしょ?」
「死ね」
すりすりと頭を顔になすりつけてくるレッサーに殺意を覚えながらも―――彼女の髪のシャンプーの匂いだろうか、
やたら甘い匂いが鼻をつく―――、一方通行はナビをセットし終え、ゆっくりとアクセルを踏んだ。
かくして一方通行、レッサー、サーシャの三人は独立国同盟から離れ、
ロシア東部に位置する巨大商業施設、世界各地から注目されている次世代ショッピングセンターへ向かう。
民間人の何人かが笑顔で『いってらっしゃ~い』と言ってきた。
どんだけ仲睦まじいんだよ俺たちは、と一方通行は心の中でツッコンだ。
「第二の質問ですが、一方通行は運転免許を持っているのですか?」
「運転に必要なのはカードじゃねェ。 勘だ」
サーシャの当然の疑問にどこぞのスキルアウトとは違う意見を述べ、一方通行は無免許とは思えない運転技術で
滑らかにトラックを走らせる。雪の上での走行だろうと物ともしない。
「私も『新たなる光』の皆とこうやって車で移動することがあったんですけど、
やっぱドライブっていいもんですよね~♪」
レッサーは現在、一方通行が座る運転席に彼に重なるようにチョコンと座っている。
自分の腰の形とジャストフィットしているのか、彼女はすこぶるご機嫌が良いようだ。
「いや~何だかこの『座席』、クセになりそうですね。 今度から
ここを私の拠点にしちゃってもいいですか?」
「後ろから刺される覚悟があンならなァ」
後ろから刺される覚悟があるなら誰でも一方通行の股に座れるという事か。
そんな彼はナビをチラチラ見ながら自分の股に居座っているレッサーを、面倒くさそうに
腰を動かして位置をずらそうとする。
「あっ・・・・・・」
「ヘンな声出してンじゃねェ!! ロシアの雪原のど真ン中に放り出すぞ!!」
「あ、ちょ、ちょっとあんまり暴れないでくださ・・・・・・んっ」
「もう殺していいよなァコイツ・・・・・・」
どうせこれも色仕掛けの演技なのだろうと一方通行は無視した。
だが彼は知る由もないが、レッサーは割と本気で尻周辺に"イケナイ"違和感を感じており、
しかし今更荷台へ移動することも出来ず、若干しどろもどろになっていた。
「あぅ・・・・・・、何だか暑いですね」
「冗談だろ? ここがどこだか分かって言ってンのか」
「うひゅぅ・・・・・・・・・・・・」
「だっ、ちょ、オイ!! あンま腰動かすな! 事故りてェのか!?」
乱れかけたハンドル操作を慌てて元に戻す。
レッサーの尻はなぜか異常なほどにぴったりフィットしており、それが逆に気持ち悪かった。
「・・・・・・第三の質問ですが、私、お邪魔でしょうか?」
「何言ってやがンだ急に」
助手席に座るサーシャの目が、所構わずイチャつくカップルを見るような蔑んだ視線だった。
「あァークソ面倒くせェ・・・・・・。 マセガキ、ナビ見て案内しろ」
「ほいほい。 とりあえずはひたすら直進でしょうね~、まずはモスクワまで行きましょう。
ていうか音声ガイド機能オフになってますよこれ?」
「なンで機械音声の指図なンざこの俺が受けなきゃいけねェンだ」
変なプライドを持つ学園都市最強の超能力者(レベル5)がここにいた。
「第四の質問ですが、今日の買い物代は本当に全て一方通行が支払ってくれるのですか?」
「・・・・・・チッ。 少しくれェなら奢ってやる」
「聞きましたかサーシャさん! いやぁ~やっぱデキる男は違いますね!
こういう男性に抱かれてみたい! 今日は狂ったように買い物しまくりましょう」
「抱かれてェなら今すぐここで抱いてやろォか?」
「うぎゅっ!?」
雪原を走るトラックから窒息しそうな少女の声が響いてきた。
「・・・・・・ン」
「どうしました?」
「そォだよ、風斬のヤツに携帯電話買ってやってるンだった。
ちょっと電話して誘ってみるか」
「そんなの早く思い出してくださいよ! もう出発しちゃってるのに!」
はてさて、一方通行の今日の出費はいくらになることやら。
【次回予告】
『馬鹿女、とは誰のことなりけるのかしら? ステイル=マグヌス』
―――――――――――イギリス清教の最大主教(アークビショップ)・ローラ=スチュアート
『あ、最大主教・・・・・・!!』
―――――――――――イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師・ステイル=マグヌス
――――――――――――――――――――――
某日。
イギリスのロンドンでも小さな変化が起ころうとしていた。
二メートルはあろう長身と、それに比例しているかのような赤く長い髪を
なびかせる『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔術師。
ステイル=マグヌスはロンドンの街を歩いていた。
(イギリス清教が『天使同盟(アライアンス)』と秘密裏に協定を結んでから何日か経過したが・・・・・・
今のところ、うんざりするような騒ぎは起きていないようだね)
ステイルは口にくわえた煙草を吸い、フーっと呼出煙を吐き出す。
彼が所属する『必要悪の教会』の大元である十字教旧教三大宗派の一つ、イギリス清教は
某日に『天使同盟(アライアンス)』と呼ばれる魔術結社でも科学サイドでもない、
一言で言えば『謎』の組織と非公式に協定を結んでいた。
イギリス清教の実質的なトップ、『最大主教(アークビショップ)』のローラ=スチュアートは
突如ランベスの宮に出現した『天使同盟』のジェネラルマネージャー、エイワスと
"適当な会話"を交わし、あっさりと手を結んだのである。
(まったくあの女・・・・・・、得体の知れない組織と何の疑いもなく
協定を結ぶなど・・・・・・。 またいつもの間抜けスキルが発動したとしか思えない)
ブツブツと過ぎたことを愚痴るステイルだが、実は彼もそんなに強くローラを責められなかった。
彼は前に一度、ローラからの指令で学園都市に滞在しているという『天使』の保護を
一任されたのだ。
半信半疑で学園都市へ赴いたステイルは、そこで本当に本物の大天使、ミーシャ=クロイツェフと遭遇。
当然ながら話し合いで和解することも叶わず、絶望的戦力差で戦闘を行うことになった。
結果としてステイルは無傷で済んだのだが――なぜか戦闘終了後、ミーシャに首をへし折られたが――、
そこで『天使同盟』の面々と出会い、話を聞いてミーシャの事は彼らに任せる事にしたのだ。
そして事後報告ついでにエイワスからイギリス清教と協定を結んだという事実の確認のため
ステイルはロンドンへ速攻で向かい、ローラを問いただした。
『どういう事も何も、事実偽りなきなのよステイル。 天使という強力な戦力を所持する
組織と手を結ぶ事は、イギリス清教にとっても大きなアドバンテージになりけるからね』
事の重大さを理解していないのか、いや理解しているからこそ彼女はのんびりと構えているのだろう。
その態度にステイルはイライラが収まらなかった。未だにこうして愚痴るほどに。
(確かに天使という強力無比な存在がいる組織と手を結ぶのはドでかい優位性となるが・・・・・・、
一方通行や風斬氷華、垣根帝督はともかくとしてあのエイワスは信用に足る存在か?)
ステイルは『天使同盟』の所属するエイワスが"あの"エイワスである事を知る数少ない魔術師だ。
彼は必要悪の教会の女子寮、オルソラ=アクィナスやアニェーゼ=サンクティスらがいる女子寮に
『天使同盟』が来たという報告をローラから受けている。
そこでは大した事は起きなかったようだが、『天使同盟』はやたらとイギリス清教に関わってきているため、
若干ながらステイルは訝しんでいた。
(もし仮に『天使同盟』が、いや、エイワスが我々イギリス清教を掌握してしまうような事態になったら
どうするつもりなんだ・・・・・・? いや、一方通行達が恐らくそうはさせないだろうが、
やはり今回の協定は軽率だったんじゃないのか・・・・・・あの馬鹿女)
「わっ!!」
「ひゃいいっ!!?」
「馬鹿女、とは誰のことなりけるのかしら? ステイル=マグヌス」
突然後ろから声をかけられ、驚きのあまり口にくわえていた煙草を落としてしまった。
後ろを振り向くと、そこにはイギリス清教の『最大主教』、ローラ=スチュアートが
どす黒いオーラを放ちながらニコニコと笑っていた。
「あ、最大主教・・・・・・!!」
「ご機嫌ようステイル。 私のことで随分と思い悩みけるようね・・・・・・?」
気配を消していきなり出てくるな!!と、ステイルは叫びそうになるのを堪える。
ローラはいつものように簡素なベージュの修道服で身を包み、その異常に長い黄金の髪を
くるぶしの辺りで一度折り返し、後頭部にある銀の髪留めを使って固定し、
更にもう一度折り返している。にも関わらずその髪は腰の辺りまで達していた。
「・・・・・・またあなたは護衛の一人も連れ歩かずにのんびりと・・・・・・」
「あら、たかが散歩に堅苦しき護衛など連れて歩むはずがなきなのよ」
しかしそれもいつも通りのことであり、ステイルはハァ、とため息をつくだけで
それ以上くどくどと説教はしなかった。
「『天使同盟』の事で考えたるのかしら?」
「ええ、まぁ・・・・・・。 彼らはあれからどうしているのか、ちょっと気になって」
その彼らは現在ロシアで観光旅行を満喫しています、と言ったら
ステイルはどういうリアクションを見せてくれるだろうか。
「あなたも何か『虫の知らせ』なりけるものを感じたの?」
「虫の知らせ?」
「予感、よ」
予感。
確かにそう言われればそんな気がしないでもない。
今日は特に仕事もなく普通に散歩をしていただけだったのだが、ふと頭に『天使同盟』の事が
思い浮かび、愚痴をこぼしていたのだから。
「・・・・・・予感、と言えるほど大袈裟なものではありませんがね。
何となく、漠然と彼らのことを思い出していただけですよ」
ステイルは黄泉川愛穂の家でとても暖かく歓迎されている。
『天使同盟』の事と同時にそれを思い出し、少しだけ心が和らいだのだが。
「私も、今しがた予感なるものを感じたわ」
「?」
いつになく真剣な表情を見せるローラにキョトンとするステイル。
だから、彼女から続いて出た言葉もすぐには意味が理解できなかった。
「来たるわよ、"決戦の時"が」
「決戦の・・・・・・、時?」
また妙なドラマかゲームに影響されたのか、とステイルは呆れかけたが、
ローラの表情はとても冗談を言っているようには見えなかった。
「ステイル。 イギリス清教と『天使同盟』が協定を結んだ以上、
あなたを『天使同盟』の為に駒として動かしたる事も私は厭わない。
この意味、理解出来ようものかしら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
理解程度なら言われるまでもなく出来ている。
しかしステイルは即答しなかった。
試されているというわけでもなく、これはローラからの単純な質問だ。
ステイルはすぐには答えず彼らの事を思い出していた。
異国の魔術師である自分を、最終的には受け入れた彼らのことを。
「・・・・・・分かっています。 例え嫌でも、あなたに命じられたら僕は動くしかない」
特に理由は無いが、ため息をついてわざと嫌味っぽく答えるステイル。
しかしそんな事は気にもせず、ローラ=スチュアートは静かに、しかし力強く、
ステイルの目を見て言った。
「ならばその覚悟、見せてもらいけるわよ」
『?』と頭に疑問符を浮かべることしか出来ない。今から何かをしてくるのかと、
ステイルはローラが何を言いたいのかイマイチ把握できぬままわずかに身構えた。
その時、
「あのー、すみませーん」
道路の向かい、反対側の歩道からそんな声が聞こえてきた。
どうやらその人物は二人に声をかけているらしい。
「?」
「はぁーい」
頭の疑問符が更に増えるステイルを無視し、ローラは陽気に返事をする。
声をかけてきた人物は道路に車が通っていないことを確認すると、早足でステイルたちの元に走ってきた。
その容姿からして、どうやらこの男性は郵便配達員のようだ。
郵便配達員の男は長身のステイルを見上げ、確認する。
「あの、ステイル・・・・・・マグヌスさんでいらっしゃいますか?」
「あ、あぁ・・・・・・。 そうだが?」
「あ、よかったー。 いやね、さっき急に"変な人"に頼まれたんですよ。
長い赤髪でやたら長身のステイル=マグヌスという名前の神父にこの手紙を渡すようにと」
「手紙・・・・・・?」
男は言われたとおり、ステイルに一枚の封筒を手渡す。
一見何の変哲もないただの白い封筒だ、手触りからして中に手紙が入っている事も分かる。
「それと、・・・・・・あなたはローラ=スチュアートさんで?」
「はいはい、私がローラ=スチュアートなりける者よ♪」
「あなたにも手紙を渡すようにと。 その"変な人"から」
ありがたきなのよー、とローラはにこやかにステイルと同じ白い封筒を受け取った。
郵便配達員の男は安心したように柔和な笑みを浮かべ、立ち去ろうとする。
「では、私はこれで」
「いや、ちょっと待ってくれないか」
と、ステイルは男を呼び止めた。彼は『はい?』と首だけ動かして足を止める。
「なんでしょうか?」
「その・・・・・・、"変な人"というのは? 特徴を教えて欲しい」
ステイルならともかく、『最大主教』のローラにまで手紙の受け渡しを注文する人物など、
彼の思い当たる中では『王室派』や『騎士派』のトップ、
あるいは『学園都市に潜む世界最悪の魔術師』くらいしかいない。
ステイルに尋ねられ、うーん・・・・・・と考え込む配達員の男。
どう答えたらいいのかわからないといった表情だ。
やがて彼はその"変な人"についてこう話してきた。
「特徴って言われましても・・・・・・、その人、"真っ白なローブ"で全身を隠していまして、
顔はおろか身体のどの部分も全く見えない容姿だったんで・・・・・・なんとも言えませんね」
「ローブ・・・・・・、顔を隠していただと? 誰なんだ・・・・・・?
その他に何か特徴はありませんでしたか? その、声とか」
「声、声・・・・・・。 あれ? 何ででしょう、よく覚えていないな・・・・・・。
男か女かもちょっとわからないです、本当にすみません」
「いえいえ、お勤めご苦労様なりけるのよ~」
では、と配達員の男は仕事に戻っていった。
ステイルはとりあえず封筒を裏返してみてみるが、そこには送り主の名も何も書いていなかった。
もっとも、白いローブで全身を隠しているような人物が名前など書くはずもないが。
「・・・・・・誰からの手紙なんでしょう、これ」
「さぁーて、それは開けてからのお楽しみなりけるわよ」
その様子からしてローラは手紙の送り主が既に分かっているようだ。
なんなんだ・・・・・・、とステイルは若干イライラしながら新しい煙草に火をつける。
「ここで開けても?」
ステイルは呼出煙を吐き出しながら尋ねる。
「別によいけれども、他人には見られぬよう注意したるのよ」
その言葉に若干緊張しながらも、ステイルは封筒を開けようとする。
開封口には虹色に光る、小さな正方形のシールが貼ってあった。
そこを指で触れると、まるで蜃気楼のようにその封をしていたシールは消えてなくなった。
(情報隠匿用の魔術か何かか? 見たことないものだったが・・・・・・)
そしてステイルは中身の手紙を取り出す。その手紙もその辺で売っていそうな普通の紙だった。
ローラも同じように指でシールに触れ、中身を取り出して読んでいく。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ステイルは煙草を吸うことを忘れてしまっていた。
ある程度の長さに達した煙草の先の灰がポトリと手紙に落ち、やっと気がつく。
「予想通り、と言いたるところかしらね」
「な・・・・・・!!! こ、こんな・・・・・・、これは・・・・・・!?」
手紙の内容を読んだステイルとローラの反応はまるで逆だった。
ローラはある程度予想がついていたらしく、意味深な笑みを浮かべていたが、
ステイルの方はというと、手紙を持つ手をふるふると震わせ、全身から嫌な汗を滲ませるだけだ。
ステイルは青ざめた顔でローラを見る。
「あ、『最大主教』・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
「さて、見せてもらいけるわよステイル。 あなたの覚悟を」
ステイルは地面を見つめ、くわえた煙草を噛みちぎる。
彼は間もなく、世界最大規模の『死地』へ赴かなければならない。
『天使同盟』のために。魔術師である自分を迎え入れてくれた、あの学園都市の人間たちのために。
【次回予告】
『だってマジで暇過ぎて暇過ぎてお腹と背中がくっつきそーだし』
―――――――――――英国三派閥の一つ『王室派』第二王女・キャーリサ
『それ腹減ってるだけじゃねえか!!! ていうかついさっき食事したばかりじゃないですか!!』
―――――――――――英国三派閥の一つ『騎士派』のトップ・騎士団長(ナイトリーダー)
『え、えっと・・・・・・じゃあまたこの携帯ゲーム機で遊びませんか?』
―――――――――――英国三派閥『王室派』第三王女・ヴィリアン
『・・・・・・この手の娯楽は、私には難しすぎます』
―――――――――――ローマ正教、禁断の組織『神の右席』の元一員・『後方』のアックア
続き
一方通行「フラグだと? って事ァ」 レッサー「私はあなたが好きって事です♪」【2】

