学校
いろは「アレガデネブアルタイルベガ~君は指差す夏の大三角~♪」
八幡「季節外れ過ぎだろもう冬だぞ。つかお決まりネタだからって大四角にしてんじゃねえ。アレガって何だアレガって」
いろは「アレガシリウスプロキオンベテルギウス~君は指差す冬の大三角~♪」
八幡「リズム外れ過ぎだろメチャクチャ早口になってんじゃねえか。つか年中見られるのかよアレガ」
いろは「もー、細かいですね比企谷先輩。A型ですか?」
八幡「うるせーなその通りだよ。それと血液型性格診断は嫌いだ」
いろは「あはは、誰も本気で言ったりはしていませんって。こういうのはネタですよネタ。お話の」
八幡「あいにく、そういう対人コミュニケーション法とかには疎いんでな」
いろは「知ってますけど……あ、それと一つ言っておきますけど、年中見られる星は存在しますよ普通に」
八幡「え、そうなの?」
元スレ
雪乃「私とデートをしなさい、比企谷くん」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1385889253/
いろは「えぇ、全ての星が比企谷先輩と同じというわけではないんですよ」
八幡「おいこら、俺だって年中見られるわ。みんな見てねえけど居るんだよ」
いろは「私は見ていますよ、比企谷先輩の事。もしかしたら雪ノ下先輩や結衣先輩よりもよく見ているかもしれません」ニコ
八幡「そりゃ光栄だ。あとで葉山辺りに自慢しに行こう。一色いろはが俺にメロメロだってよ」
いろは「やめてください」
八幡「正直でよろしい」
いろは「もう、相変わらず捻デレてますねぇ、比企谷先輩。もしかして、ただ単にラブソングが嫌いだから突っかかってきたんじゃないですか」
八幡「別にそういうわけじゃねえし、捻デレてもねえ」
いろは「そうですか? ほらこの季節、クリスマスソングなんかを聴くと、モテない男子は破壊衝動に駆られると言うじゃないですか」
八幡「それこそネタだネタ。ある程度まで行くと、もはやそこまで気にならなくなるんだよ。そんなネウロの電子ドラッグみたいな事にはなってねえ」
いろは「ふむふむ、そういうものなんですか。勉強になります」
八幡「そんなもん勉強してどうすんだ」
いろは「出来るだけ大勢の人の気持ちは分かっておいた方がいいでしょう。ほら私、生徒会長ですし」
八幡「ご立派な事で」
いろは「ちなみに比企谷先輩は星とかは好きですか? 今の季節だと冬の大三角以外にもオリオン座とか」
八幡「……嫌いではねえけど」
いろは「あれ、意外です。てっきり輝いて見えるものは全て敵だとか言い出すかと思っていました」
八幡「なに俺、暗黒属性かよ。んな事ねーよ、星空見て人並みの感想くらい持つわ。まぁ、空見上げる事なんて少ないけどな」
いろは「どっちかというと、比企谷先輩は足元の方をよく見ている感じですね」
八幡「ほっとけ、足元ちゃんと見てないと危ないだろうが」
いろは「足元ばかりというのも、それはそれで危ないですけどね。やっぱり顔は下げるより上げた方が前向きっぽいですよね」
八幡「人それぞれだろ。それに俺は後ろ向きってわけでもねえ。後ろなんざ見たくねえ。トラウマばっかだしな」
いろは「それは言い過ぎでしょう。何かないんですか、楽しい思い出とかも」
八幡「戸塚」
いろは「はい?」
八幡「俺の楽しい過去の思い出は全て戸塚で形成されている。俺の過去は戸塚だ」
いろは「なんだかカオスな事言い出しましたね比企谷先輩……」
八幡「そういや苦しい時に、戸塚の笑顔を浮かべたりするな。過去いいな。過去サイコー」
いろは「あー、はい、戸塚先輩への愛はよく伝わりましたから」
8 : 以下、名... - 2013/12/01(日) 18:20:49.96 CSiK4JXf0 4/46もしかして蛇の続き?
11 : 以下、名... - 2013/12/01(日) 18:23:13.10 5rMJwGJn0 5/46>>8
だな
15 : 以下、名... - 2013/12/01(日) 18:24:43.88 CSiK4JXf0 6/46じゃあとりあえず前スレ貼っとくか
【蟹】八幡「階段を登ってたら雪ノ下が落ちてきた」
http://ayamevip.com/archives/44456625.html
【蝸】八幡(なんだ迷子か……?) 留美「……」
http://ayamevip.com/archives/44456777.html
【猿】八幡「どうした由比ヶ浜。その左腕」 結衣「え、えへへ……」
http://ayamevip.com/archives/44469974.html
【蛇】戸塚「八幡、助けて!」 八幡「どうした戸塚!?」
http://ayamevip.com/archives/44479582.html
八幡「お前なんかの過去はさぞかし輝かしいものなんだろうな。思い出は美化されがちという感覚は俺には全く分からないが」
いろは「そんな事もないですよ。私にだって枕に顔を埋めて足をバタバタしてしまうような過去はあります」
八幡「そういうものなのか。完璧なリア充ライフ送ってるお前がな」
いろは「そういうものです。それに現状が完璧だとも思っていませんよ」
八幡「はぁ? サッカー部のマネージャーから一年生で生徒会長だろ。お前これ以上何求めるんだよ、国か?」
いろは「そんな野望ありませんって。確かに現状が出来すぎという感はありますけど、人間というのは強欲なもので、他にも色々求めて中々満足する事がないんですよ」
八幡「色々、ねぇ」
いろは「はい。例えば比企谷先輩を羨ましいと思う点もありますよ。国語の学力とか、葉山先輩のクラスメイトだとか」
八幡「羨ましいとか初めて言われたぞ俺」
いろは「直接言わないだけで、結構みんな思っている事だと思いますよ。比企谷先輩、なかなかイケメンですし、男子ならそこを羨んでいる人も居ると思います」
八幡「ばっかお前、にやけるからやめろ。イケメンが台無しだろ」
いろは「大丈夫です、その発言で既に台無しですから。それで、話を戻して星を見上げるという事についてですが」
八幡「いや、俺はもう過去の素晴らしさに気付いたから、星を見上げる必要はない。これからもずっと下を向いて後ろ向きに生きていこうと思う」
いろは「おぉ、それなら比企谷先輩にピッタリです。実はその星を見上げるという行為、前向きに見えて後ろ向きだったりもするんですよ」
八幡「は?」
いろは「いえ単純な話で、星は凄く遠くにあるっていうだけなんですけどね。アレガは知りませんけど、デネブは1800光年、アルタイルは16光年、ベガは40光年」
いろは「あ、光年……っていうのは光が一年で進む距離ですよ」
八幡「文系型でもそのくらいは知ってるわ。で、星が凄く遠くにあるからって何で後ろ向きなんだよ。遠くを見るってのは前向きな感じがするけどな」
いろは「見るっていうのはその対象が発した、あるいは対象に反射した光が目に届くって事です。そして星から出た光は何年もかけてこの地球までやって来ます」
いろは「例えば、今デネブが発した光は1800年後に地球にやって来て、私達の目に届いて“見る”事ができます」
いろは「逆に、今見えるデネブからの光というのは、1800年前に地球に向けて放たれたものなので、私達は1800年前のデネブの姿を見ているという事になるんです」
八幡「……なるほどな、そう言われると後ろ向きっぽい感じがする。どっちにしろ今の季節じゃデネブは見えねえけどよ」
いろは「いえいえ、デネブ……というかはくちょう座は、位置の関係で頑張ればこの時期にも見る事ができるんですよ?」
いろは「ちなみにこれって星に限った話でもなくて、もっと身近な話なんですよね。例えば、私は今0.00000何秒か前の比企谷先輩を見て話しかけているんです」
八幡「あー、これだけ近くに居ても、俺に反射した光がお前の目に届くまでにはどうしてもタイムラグが出来るってわけな」
いろは「はい。光の速度が有限である為に、私達は過去しか見る事ができないんですよ。今この瞬間を見る事はできません」
いろは「仏陀なんかも『過去を追うな』とか言ってますけど、自分も過去を見ながらそれを言ったと考えると中々シュールですよね」
八幡「仏陀にケンカ売るとかお前何様だよ」
いろは「生徒会長様です」
スタスタ……
八幡(結局、一色が言いたかったのは、『実はみんな後ろ向きなんだぜ』とかいう屁理屈だったんだろう)
八幡(もちろん俺はそれで納得する事はないし、この目に映るものが全て過去のものだったとしても、『だから何だ』という感想しか出てこない)
八幡(だがまぁ、“星”と“過去”というワードからは、あの日のことが思い出される)
八幡(俺のどろどろに濁った高校生活の中でも、微かな光を放っている、あの半年前の思い出が)
半年前 職員室
平塚「……おい何だこの職場見学希望場所。読み上げてみろ」
八幡「じ……自宅……です」ビクビク
平塚「聞こえないぞ。もっと大きな声で」
八幡「自宅です!」ドンッ
ドゴォォ!!!
八幡「ごっ……は……」ガクッ
平塚「はぁ……なんで君はこうなんだか。まさか本気でこんなものが通るなどとは思ってはいないだろうに」
八幡「ぼ、某忍者に自分の言葉は曲げるなと教わったもので……」
平塚「あ?」ギロ
八幡「すみません、何でもないです。書き直します」
平塚「別に私も主夫というものを全否定するつもりはない。だが比企谷、君は少々甘く見ているところがあるんじゃないか?」ハァ
八幡「甘くって……人生をすか?」
平塚「主夫をだ。特に子供が小さい時なんていうのは本当に大変だぞ」
八幡「……いやでも先生だって子供を持つ親の大変さなんて知らないんじゃ…………」
平塚「…………」
八幡「ひ、ひっ……しゅ、しゅみませ……」ビクッ
平塚「うぅぅ……!」グスッ
八幡「えっ!?」
平塚「あぁ、そうだよ……どうせ私はこれからも結婚なんてできないんだよ。この前の合コンでも……!」グスグスッ
八幡(やべえ、新しい傷作ったばっかだった。メッチャ凹んでる)
ザワザワ……ヒソヒソ……
八幡(周りの先生方もすげえ見てきてる! 生活指導泣かせる生徒とか洒落になんねえだろ!!)
八幡「あー、え、えっと、先生。ぶっちゃけ、先生は結構、その、綺麗だと思いますし、公務員ですし、そんなに焦る必要もないと思いますけど……」ダラダラ
平塚「君はそう思うか!!」クワッ
八幡「は、はひぃ!」ビクッ
八幡(こえーよ! あと怖い! どんだけ鬼気迫ってんだこの人!!)
平塚「顔もスタイルもそこそこ、収入だって多くはないが、少なくとも安定はしている。それなのに……周りはどんどん結婚していくし……!」
八幡「そ、そういうタイミングは人それぞれだと思いますよ」
平塚「……そうだ、そうだよなぁ。いや、君の言うとおりだ。だが、どうしても焦りが……」
八幡(つか何で俺が相談乗ってるんだ、立場逆だろこれ)
八幡「えーと……男の方から何か言われたりしないんすか。原因みたいなの」
平塚「重い、とはよく言われる。この前もメールの返信でそう言われた」
八幡「ちなみに……どんなメール?」
平塚「これだ」スッ
『今日はとても楽しかったです、また機会があれば是非また集まりましょう。○○さんは技術職で働いているのでしたね。そういった職業はこの不景気な世の中でも常に多くの場所から求められる安定した素晴らしいものだと思います。もちろん○○さん自身の意識の高さも社会では強力な武器になるでしょうし、あなたならどのような場所でも力を発揮していくのでしょう。話は変わりますが、○○さんは子供はお好きですか? 私は好きです。職業柄ということもあると思いますが、やっぱり子供達のあの笑顔には心が癒されます。もちろん中には問題児などと呼ばれてしまう子達もいるのですが、そういった手のかかる子供達もとても可愛いです。○○さんは将来お子さんは何人欲しいですか? 私は少なくとも三人は欲しいです。きっと大変なんでしょうけど、それでもその苦労など気にならない程に幸せだと思うんです。正直最近になって家庭を持ちたいという気持ちがとても強くなってきています(笑)』
八幡「」
平塚「ど、どうだ……何かまずかったか……? お守り代わりに、私の名前と捺印を済ませた婚約届も机とかに入れたりしているのだが」
八幡(怖い重い堅い……あと怖い!)
八幡「……あー、先生。何と言うか、全体的に結婚願望匂わせすぎだと思うんですけど……」
平塚「なっ……そ、そうか!?」
八幡「はい。正直子供が何人欲しいとか訊いたりはやめた方がいいんじゃ……男としては必死過ぎてちょい引くっていうか……」
平塚「…………」ズーン
八幡「あ、いや、すげえ良い人だとは思いますけど! 手のかかる問題児が可愛いとか普通に嬉しいし!」
八幡(これじゃあ俺が先生いじめてるみてえじゃねえか。下手したら停学とかくらうんじゃねえの)
平塚「……ありがとう、比企谷。参考になった」グスッ
八幡「えっ、あ、はい……それなら良かったですけど……」
平塚「ふふ、いや、私は幸せ者だな。こんなにも私の事を考えてくれる生徒が居て」ニコ
八幡「っ!!」ドキッ
八幡(あれなんか鬼が女神にジョブチェンジしたぞ。誰だこの人。やべえ戸塚の次にドキドキする)
平塚「なぁ、比企谷。話は変わるが、また奉仕部に戻るというつもりはないか……?」
八幡「……それは」
平塚「あの子も……雪ノ下も君に救われていた部分はあった。君と話している時の雪ノ下雪乃は心から笑っていたと、私は思う」
八幡「気のせいっすよ。俺には弱者をいたぶる独裁者の笑みにしか見えませんでした」
平塚「はは、まぁ、あの子はあの子で素直じゃない所もあるからな。そうか、ならいい。無理強いはしないさ」
八幡「……最初に俺を入部させた時は結構強制的だったような気もしますけど」
平塚「あの時は君もふらふらしていたからな。だが、今は違う。きちんとした意思を持って入部を拒んでいるのが分かる」
八幡「…………」
平塚「君にも君の理由があるのだろう。話したい時にいつでも話してくれ。私はいつでも相談に乗るよ」ニコ
八幡「……うっす」
学校 廊下
八幡(実は俺が奉仕部に入ると、由比ヶ浜の左腕が解放されて雪ノ下をぶっ殺そうとしちゃうんですよー☆)
八幡「……なんて言えるわけねえ」
雪乃「何を言えないのかしら?」
八幡「っ……ゆ、雪ノ下……」
雪乃「久しぶりね比企谷くん。相変わらずの暗黒にまみれた目で安心したわ」
八幡「なにそれ俺の目は暗黒物質(ダークマター)かよカッコイイなおい。お前も相変わらずのエターナルフォースブリザードっぷりで安心したわ」
八幡(……って普通に受け応えてどうする)
八幡「話はそれだけか? じゃあな」スタスタ
ガシッ
八幡「……お?」
雪乃「ちょっと来なさい」グイグイ
八幡「…………」
雪乃「…………」グイグイ
八幡「…………」
雪乃「…………」グイグイ
八幡(全く引っ張られねえ。こいつなりに頑張ってはいるんだろうが。まぁ……無理もないか)
雪乃「……比企谷くん、来て」
八幡「断る。何されっか分かんねえ」
雪乃「来ないのなら今ここであなたに襲われたと叫ぶわよ」
八幡「ひでえな!? わ、分かった、分かったからそんな息を吸い込んで準備するな!」
教室
ガラガラ
雪乃「この教室なら誰も来ないわ」
八幡「なんだ、奉仕部の部室じゃねえのか」
八幡(まぁ、俺としてはこっちの方が助かるが)
雪乃「二人きりだからって変な気は起こさない事ね。いざという時の対策はとってあるわよ」
八幡「どんだけ信用ねえんだよ俺。つか何の用だ? 奉仕部に戻れって事なら嫌だぞ。理由は前に言っただろ」
雪乃「確か、あなたが奉仕部に居ると、由比ヶ浜さんが私を殺しに来るから、だったかしら?」
八幡「なっ……なんで知って…………あぁ、もしかしてお前の姉か」
雪乃「えぇ、もう全部知っているわ。だから何も隠す必要はない」
八幡(どういうつもりだよあの人……)
八幡「……それなら分かんだろ。こうしてお前と会う事だってマズイんだよ。その体じゃぶっ飛ばされてお星様にされちまうぞお前」
雪乃「由比ヶ浜さんに知られなければいいのよ。あなただっていつもバレなければ犯罪じゃないと言っているじゃない」
八幡「言ってねえよ人を勝手に犯罪者にすんな。つか、知られないようにするってんなら、まず会わないってのが一番だろうが」
雪乃「……いやよ」
八幡「いや?」
雪乃「どうして私が我慢しなければいけないのかしら。私が何かやった?」
八幡「それは……」
八幡(俺の心は抉りまくってる気がするが)
雪乃「ねぇ比企谷くん。由比ヶ浜さんの件とかは関係なしに、あなたは私とは会いたくないのかしら? もしそうなら、大人しく引くのだけど」
八幡「…………」
八幡(何こいつ俺の事好きなの? 何が目的なんだよ全く分からねえ。まぁ、どう答えればいいかなんてのはハッキリしてる)
八幡「あぁ、そうだよ。由比ヶ浜とは関係なしに、俺はお前と会いたくないんだ。由比ヶ浜は口実に過ぎねえ」
雪乃「……そう」
ヴヴヴヴヴ……
八幡「お、悪い。電話だ」
雪乃「あなたのケータイが鳴る事なんてあるのね」
八幡「ほっとけ、アマゾンとかマックとか妹からもメール来るわ。って雪ノ下さんじゃねえか」
雪乃「え、姉さん?」
八幡(このタイミング……嫌な予感しかしねえ……)ピッ
八幡「はい、もしもし……」
陽乃『ひゃっはろー! 今ちょっといいかな? あ、ていうかまず雪乃ちゃんに代わってくれる?』
八幡「それなら最初から雪ノ下にかければ良かったんじゃ。つか何で俺とアイツが一緒に居るって分かるんですか」
陽乃『ふふ、そこは姉妹の絆ってやつだよ。それに、雪乃ちゃんにかけると、そのタイミングで比企谷くんと別れちゃうかもしれないじゃん』
八幡「……分かりましたよ。雪ノ下、ほら」
雪乃「私……? はいもしもし、姉さん?」
雪乃「えぇ、えぇ……いえ、でも、比企谷くんは……」
雪乃「それは、そうかもしれないけれど」
雪乃「……分かった、分かったわ。えぇ……そうね」
雪乃「はい、比企谷くん」スッ
八幡「ん、もういいのか?」
雪乃「えぇ。あなたにも話したい事があるみたいだし」
八幡「……そっか。もしもし?」
陽乃『あ、比企谷くん? もう、ダメじゃない雪乃ちゃんイジメちゃ』
八幡「別にイジメてなんか……」
陽乃『本当は全然そんな事思ってないのに、もう会いたくないとか言っちゃって。比企谷くん、結構雪乃ちゃんの事気に入ってたでしょ?』
八幡「どうしてそんな事が言えるんですか。いつもの『何でも知っている』ですか?」
陽乃『まぁ、そうなんだけど。でもそうやって自分を嫌な奴にしても、相手だって傷つけているっていう事に気付かないとダメだよ』
八幡「…………」
陽乃『雪乃ちゃんはほら、色々事情があって、中々気軽に話せる相手っていうのも居ないんだ。だからああ見えて、比企谷くんの事は本当に大切に思っているんだよ』
八幡「……分かりましたよ。ちゃんと言います」
陽乃『ん、それならいいんだ! いやー、私としても凄く嬉しいよ、危うく今後一切君からの相談を受け付けないと決める所だった!』
八幡(黒い黒い! 電話越しでも身震いするわ!)
陽乃『それじゃ、雪乃ちゃんを頼んだよー』プツッ
八幡「雪ノ下、お前の姉どうなってんだよ人間なのかあれ」
雪乃「あれでも一応人間よ。たぶん」
八幡「そっか……」
雪乃「…………」
八幡「…………」
八幡(き、気まずい! 何こいつなんで俺の事凝視してんの、すげーな俺にはできねえ)
八幡「……えっと、なんつーか、悪かった。さっきの会いたくねえとかそういうのはウソだ」
雪乃「っ……そ、そう」
八幡「むしろ、クラスの奴らとかと比べて話しやすいっていうか……まぁ、そもそも話す相手なんてほとんど居ないんだが……」
雪乃「それなら、私ともたまには話してくれるのかしら?」
八幡「あぁ……もちろん、由比ヶ浜にバレないようにってのは最優先で、その上で……って事なら……」
雪乃「比企谷くん」
八幡「な、なんだよ」
雪乃「ありがとう。とても嬉しいわ」ニコ
八幡「……なぁ、女子って誰でも三段階進化とかするもんなの?」
雪乃「は?」
八幡「あ、いや、何でもないです。こっちの話です」
八幡(平塚先生といい、何なんだ今日は。俺の心臓はそんなに強靭じゃないんだが)ドキドキ
雪乃「……それで、あの、比企谷くん。もう一つお願いがあるのだけれど」モジモジ
八幡「何だよ、まだ何かあるのか?」
雪乃「えぇ。その……私と、デ、デ……」
八幡「デデデ? カービィーの二人プレイがやりてえの? 俺あのゲームが二人プレイ出来るって最近まで知らなかったんだけど」
雪乃「ち、違うわよ。だから、えっと……デ……」
雪乃「デートをさせてくださいと地面に頭を擦りつけて頼めば考えてあげなくもないわよ」ドンッ
八幡「…………」
雪乃「…………」
八幡「……あのな、雪ノ下」
雪乃「ごめんなさい、私が悪かったわ。言い直しましょう」
八幡「お、おう」
雪乃「私と……デートをしていただけませんか……?」
八幡「…………」
雪乃「どうして私が比企谷くんにここまで下手に出ないといけないのかしら。心の底から不快よやり直しを要求するわ」
八幡「いや別に俺が言わせたわけじゃないからな……」
雪乃「……こほん」
雪乃「私とデートをしなさい、比企谷くん」
八幡「……それが完成形って事でいいのか?」
雪乃「えぇ、いいわ。完璧よ」ドヤッ
八幡「そ、そうか……あー」
雪乃「……ダメ?」
八幡「おいやめろあざといなお前そんなキャラじゃないだろ。俺の財産狙ってんのかよ」
雪乃「別にあなたの財産に興味はないけれど」
八幡「あ、あぁ、そうだろうけどよ」
雪乃「ただ、あなたには興味があるわ」
八幡「分かった、分かったから。お前の言うこと何でも聞きますから。これ以上のキャラ崩壊すてみタックルはやめろ」
夜 車内
ヴゥーン……
八幡「…………」
雪乃「…………」
陽乃「あっはっは、いきなり沈黙? 流石に早すぎるよ二人共」
八幡(おい待てなんだこの状況。何で俺高級車に拉致られてんの。どこに売り飛ばされんの)
八幡(落ち着け、落ち着いて今の状況を理解しろ。まず、俺は雪ノ下とデートするはずだった)
八幡(とりあえず家に帰って服とか着替えて、それなりの格好をするつもりだった)
八幡(そのつもりで学校から出たら…………車の中に連れ込まれた。そして発進。制服のままだぞ俺)
八幡「……何なんだよこれ」
雪乃「ごめんなさい。姉さんってかなり無茶苦茶な所があるから……」
陽乃「えー、私はいつだって雪乃ちゃんの為になる事しかしてないって」
八幡「それで、これからどこに……って高速!? いやマジでどこ行くの!?」
陽乃「はっはー、それを私が言ったら台無しでしょ。ていうか、デートなんだからいい加減二人で話しなさいって。私は空気だと思ってさ」
八幡(思えねえよどんだけ存在感ある空気だよ、空気の風上にも置けねえぞ。つかそもそも、デートに第三者って所からおかしいんじゃねえのよく知らねえけど)
雪乃「ではお話をしましょう、比企谷くん。最近全然話せなかったのだし」
八幡「よし分かった、まず俺はどこに売り飛ばされるんだ」
雪乃「あなたなんて売れるはずないじゃない、身の程を知りなさい」
八幡「……はい」
雪乃「……ねぇ比企谷くん。私だって本当はこういう事を言いたくないのよ。誘導するのはやめなさい」
八幡「一切誘導なんかしてねえけどな。で、どこ行くんだよ」
雪乃「秘密。着いてからのお楽しみよ」
八幡「本当に楽しい所なんだろうな……じゃあ、他には……」
雪乃「あなたの好きな女の子のタイプを訊きましょうか」
八幡「は?」
陽乃「きゃーきゃー!」
八幡(空気がうるせえ……)
雪乃「だから好きな女の子のタイプよ。ないの?」
八幡「いや、ないわけじゃないが……」
雪乃「そう。じゃあ教えてもらえるかしら?」
八幡(それを同年代の女子に言うとか抵抗ありすぎだろ何の罰ゲームだよ。仕方ねえ、ここは……)
八幡「戸塚」
雪乃陽乃「「え?」」
八幡「戸塚だよ。戸塚彩加。あいつこそ俺にとって理想の女子だ」
雪乃「男子じゃない。…………え、まさか」
八幡「違う、そうじゃない。もし戸塚が女子だったらもう今頃俺は告って玉砕してるって事だ」
雪乃「玉砕前提なのね……」
八幡「当たり前だろ、もしオーケーされたら騙されたと思って身投げするわ」
雪乃「どれだけ卑屈なのかしらあなたは……でも、そう、戸塚くんね……」
八幡「つーかそんな事訊いてどうするつも」
雪乃「は、八幡……ぼく、その……実は……」
八幡「ぶっ!!!!!」
陽乃「あはははははははははははっ!!! ゆ、雪乃ちゃん可愛すぎる!!!」ガンガン
八幡「ハンドル殴んないでくださいよここ高速だから!」
雪乃「……な、何かおかしかったかしら」
八幡「落ち着け雪ノ下。おかしくなかった要素がない。いきなり何を血迷った。俺を鼻血で血まみれにする気かこえーな」
雪乃「だって……あなたが戸塚くんがタイプだって言うから……」
八幡「いや待て、お前が戸塚のモノマネをするのは色々危険だからやめろ。そもそも俺のタイプに合わせるとか、惚れすぎだろ俺に」
雪乃「…………///」
八幡「……そこで黙られると気まず過ぎて胃に穴が空きそうなんだが」
八幡(もう決まりじゃん、雪ノ下の奴完全に俺の事好きだろ)
八幡(それにしたって俺に惚れる要素あったか? あー、由比ヶ浜のあの一件か? けどあれだけで雪ノ下がコロッと落ちるなんて考えにくいだろ)
八幡(……そういや、平塚先生も雪ノ下は俺と話す時楽しそうだとか言ってたな。なに、この俺の会話スキルに惚れたの? すげえ趣味だぞそれ)
八幡「うーむ」
雪乃「比企谷くん?」
八幡「あー、いや、何でもねえ。そろそろ他の話題にしようぜ他の話題」
雪乃「……比企谷くんは訊いてくれないのね」
八幡「なにを?」
雪乃「私の好きな男のタイプ」
八幡「えっ、あ……じゃ、じゃあ雪ノ下の好きなタイプはどんなのだよ」
雪乃「比企谷くんみたいな人よ」
八幡「でゅふ」
雪乃「気持ちの悪い声を出さないでくれるかしら」
八幡「お、おう……すまん……」
八幡(ダメだ、もたねえ。なんだこれ、言葉で俺の心臓ぶち破ろうとしてんのかよこいつ)ドキドキ
雪乃「…………」ジー
八幡「……それはその、なんつーか、変わった趣味だな」
雪乃「そうかしら」
八幡「あぁ。それに滅多に居ないだろ俺みたいな奴なんて」
雪乃「そうでしょうね」
八幡「…………」
雪乃「…………」
八幡(なんだよ、何なんだよ、こいつ俺をどうしたいんだよ本当に)
陽乃「まーた会話止まっちゃって、中学生じゃないんだからもー」
雪乃「そんな事言っても……私だってこういう事は初めてで……」
陽乃「分かった分かった雪乃ちゃん。そういう事なら、このお姉ちゃんがとっておきの話題を振ってあげよう!」
八幡「え、ちょっ」
陽乃「ん、どしたの比企谷くん? もしかして何か雪乃ちゃんと話したい事でもあった?」
八幡「あ、いや、そういうわけじゃないんすけど……」
八幡(この人が振る話題とか嫌な予感しかしねえんだよ!)
陽乃「ふっふっふっ、ではでは、私が盛り上がる話題を一つ提供!」
陽乃「ぶっちゃけさ、比企谷くんってガハマちゃんの事はどう思ってるの?」
八幡「」チーン
雪乃「…………」
八幡(ほら凄まじい事訊いてきやがった!! 何笑顔で核爆弾投下してくれちゃってんのこの人!!!)
陽乃「んん? どうしたのかな比企谷くん、固まっちゃってー」ニヤニヤ
八幡「べ、別に固まってなんかいませんよ、いやホント」アセアセ
雪乃「それで、どうなのかしら、比企谷くん」
八幡「……どう……っていうのは?」
雪乃「とぼけないで。由比ヶ浜さんの事、あなたはどう思っているの?」
八幡「…………あー」
八幡(んな改まって訊かれても困るだろ普通に! いや可愛いよ? 由比ヶ浜普通に可愛いよ? それ言えばいいの? 違うだろ)
八幡「…………」
雪乃「どうしたのかしら。言いづらい、という事?」
八幡「そ、そういうわけじゃなくてだな、まぁ、なんつーか、あいつは俺にも話しかけてくる物好きで、頭悪くて」
雪乃「良くしてくれる人の事をそんな風に言うのは良くないわ」
八幡「……ごめんなさい」
陽乃「あははっ、雪乃ちゃん、比企谷くんのお姉さんみたい! あ、って事は私の弟って事にもなるね!」
八幡(この自称空気もう完全に空気じゃねえよ……むしろ空気乱しまくってるだろ)
雪乃「直接的に訊きましょうか。比企谷くん、あなたは由比ヶ浜さんの事を異性としてどう思っているの」
八幡「…………」
八幡(あーあー、ったく、こんな事本当は言いたくねえのに)
雪乃「どうしたの。もし私に気を使っているとかなら」
八幡「違う、そんなんじゃねえよ。由比ヶ浜の事は女子としてどうとか、そんな風には思ってねえ」
雪乃「……そ、そう。少し意外ね。あなた達は仲良さそうな気がしたから」
八幡「由比ヶ浜に限ったじゃねえけどな」
雪乃「えっ?」
八幡「もうそういうのはいいんだホント。そりゃ中学の時は興味津々だったけどよ、もう疲れたんだ」
雪乃「疲れた……?」
八幡「あぁ。恋とかそういうの、疲れんだよ。エネルギーを使うんだよ。好きな相手の一挙一動に喜んで、凹んで、そんで勝手に期待して、裏切られる」
八幡「お前には分かんねえ感覚だろうな。でもそんなもんだ。俺みたいな奴は特にな」
八幡「俺はそういう精神的ダメージに強いとか思ってるかもしんねえが、失恋とかそういうの、普通に傷つくんだ。きっついんだよ」
八幡「今まで何度も経験してきた。だから、もうなんて期待しない。青春ラブコメなんざ……いらない」
雪乃「…………」
八幡「…………」
八幡(こうなるよなぁ、やっぱり……陽乃さんは空気読んで黙ってくれてっけど、いや、けどこれは俺にしては真っ直ぐな気持ちなんだがな……)
雪乃「…………そう。ありがとう比企谷くん」
八幡「はい?」
雪乃「話してくれてありがとう。これって他にも誰かに話した事はあるのかしら?」
八幡「こんな事ぺらぺら話すか」
雪乃「それだけで嬉しいわ。あなたの考えている事を知ることができたのだから」ニコ
八幡「……そうですか」
八幡(だからその笑顔やめろ可愛いから)
二時間後
キキッ
陽乃「よし、到着!」
八幡「到着って山中の駐車場じゃないすか。なに俺埋められるの?」
雪乃「あなたはそんなに命を狙われる心当たりがあるのかしら」ハァ
八幡「お前からはそのくらい憎まれているかとも取れる言葉を、随分と浴びせられたと思うが」
雪乃「あれは好きな人につい意地悪を言ってしまうあれよ」
八幡「意地悪ってレベルじゃねえ」
雪乃「あれは“好きな人”につい意地悪を言ってしまうあれよ」
八幡「大事なことでも二回言わなくていいわ。つかそこ強調すんな、俺の照れ顔見ることになるぞ」
雪乃「それは恐ろしい脅しね。分かったわ、それじゃあ私は準備をしに行ってくる」
八幡「は、準備? つかお前一人じゃ大変だろ」
雪乃「大丈夫よ。比企谷くんはここで姉さんと歓談でもしていて」
陽乃「はーい! 気を付けてね雪乃ちゃん!」
八幡「あ、おい」
バタン
陽乃「……さてさて、歓談しようか?」ニコ
八幡「糾弾の間違いじゃないんですか」
陽乃「へっ、なんで?」キョトン
八幡「いやほら俺、雪ノ下に……」
陽乃「あー、青春ラブコメがどうのこうのっていうの? いいっていいって、雪乃ちゃんも言ってたじゃない、比企谷くんの考えている事を知れて良かったって」
八幡「……まぁ、それでいいならいいですけど」
陽乃「なになに、もしかして比企谷くんって女の人に罵られたいとかっていう性癖でも持ってるの?」ニヤニヤ
八幡「それはそれで人生楽しそうで良かったかもっすね」
陽乃「うわ、真面目に返されちゃったよ。でも私も面白い話聞けちゃったな。青春ラブコメなんざいらない、だっけ?」
八幡「理解できないですか?」
陽乃「そだねー、私は青春ラブコメしまくりだったし。ただ、要するにどうせ最後には傷つくなら、最初から何もしない方がいい、っていう事でしょ?」
八幡「はい。そんな負け犬根性っす。今までの人生から俺が得てきた教訓です」
陽乃「うーん、それじゃあ私が口出す筋合いもないかー。もしかして君が戸塚くんラブなのもそういう事なのかな?」
八幡「そういう事?」
陽乃「ほら、比企谷くんってそっち系でもないみたいだし、いくら戸塚くんが可愛いからって本気の恋愛に発展する事はないわけじゃん?」
陽乃「だから、安心して愛でる事ができる。絶対に叶わない恋に身をやつす事ができる、みたいな!」
八幡「……そこまで深く考えてないですよ。ただ戸塚はメチャクチャ可愛い、それだけです」
陽乃「そっかそっか、これは考えすぎだったかな。でもさ比企谷くん、今までの人生から得てきた教訓があるなら、これから得る教訓っていうのもあるんじゃないかな?」
八幡「雪ノ下陽乃さんは怖すぎるから注意しろ、とかですか?」
陽乃「あはは、もう、比企谷くんはそんな風に私を見てたのか、傷つくなー。そうだね、例えば今回の件から君が得るべき教訓は、雪乃ちゃんはとっても可愛いという事だよ」
八幡「前から知ってますけど」
陽乃「いいや、知らなかったね。君は雪乃ちゃんの可愛さを少しも知らなかったはずだ」
八幡「…………」
陽乃「ふふ、雪乃ちゃんならきっと君と上手くやれると思うんだけどなー。まっ、その辺りも口は出せないか」
八幡「雪ノ下さん」
陽乃「だから陽乃でいいってばー」
八幡「陽乃さん」
陽乃「……おろ?」
八幡「どうして、雪ノ下の重みを取り戻してやらないんですか」
陽乃「…………」
八幡「あなたならいくらでも方法を知っているでしょう。何でも知っているんですから」
陽乃「……そうだね、何でも知っているよ私は。雪乃ちゃんの蟹なんてちょちょいのちょいだね」
八幡「じゃあ」
陽乃「でもさ、だからといって、何でも教えるとは限らないでしょ? 手取り足取り手伝ってあげるだなんて、あの子ももう子供じゃないんだし」
八幡「それは……そうですけど。でも、そんなに雪ノ下の事を気にかけているなら、真っ先に解決してやらないといけない事なんじゃ」
陽乃「あれはね、雪乃ちゃんが自分で向き合って解決しなきゃいけない事なんだよ。私が何とかしてあげても、意味は無い」
八幡「…………そうすか」
八幡(厳しい所は厳しいんだな。流石金持ちのお嬢様ってところか)
バタン
雪乃「比企谷くん、準備できたわ」
八幡「おう。じゃあ俺も降りればいいんだな?」
雪乃「えぇ。降り方は分かる? 足を順番に外に出すのよ。ドアの閉め方は」
八幡「分かるわ、どんだけバカだと思われてんの俺」
陽乃「それじゃ、ごゆっくり~」ニヤニヤ
八幡「あれ、雪ノ下さんは来ないんですか?」
陽乃「呼び方戻ってるし……行かない行かない、ここは空気読むって流石に。頑張ってね、雪乃ちゃん!」
雪乃「えぇ。ここまで送ってくれてありがとう」
八幡(……どうなんだよこれ。いや、デート的にはこれが正しいんだろうが)
数分後
八幡(それから俺はなぜか目隠しをされて、雪ノ下に手を引かれて山道を進んだ。引く力が弱いから、結構苦労したが)
八幡(ある程度まで進んだ所で、ビニールシートらしきものの上に寝るように言われて、一瞬本当に埋められるんじゃないかとも思った)
八幡(そして)
雪乃「目隠し、取っていいわよ」
八幡「……おぉ」
八幡(満天の星空、か。すげーな、こんなによく見える場所があるのか)
雪乃「どう……かしら。その、比企谷くんはこういうのあまり好きじゃないかとも思ったのだけれど、姉さんが強く勧めてきて……」
八幡「ん、いや普通に綺麗だと思……っておい雪ノ下、お前なに隣に寝っ転がっちゃってんの」
雪乃「ダメ?」
八幡「ダメじゃねえけど……もっと警戒心とか持てよ。女子力足りねえな。この言葉使い方分かんねえから間違ってるだろうけど」
雪乃「比企谷くんは信用しているわ。とにかく、喜んでもらえて良かった」
八幡「こういう言い方しちまうと元も子もないんだが、そうやって女子が自分の為に何かをしてくれれば、男は大抵どんな事でも嬉しく思うもんだ」
雪乃「そ、そう……」
八幡「そして舞い上がっちまって叩き落とされるんだ」
雪乃「結局そこに行き着くのね」ハァ
八幡「…………」
雪乃「…………」
八幡「なぁ、雪ノ下」
雪乃「なに?」
八幡「なんつーか、お前急にデレすぎじゃね。由比ヶ浜の件で俺が退部する時だってまだクーデレてたじゃねえか」
雪乃「……一度失って、本当に大切な人だったと気付いたのよ」
八幡「はっ、そんな寂しかったのか」ニヤ
雪乃「えぇ、寂しかった」
八幡「ばっかお前まともに返事するなよすげえ恥ずかしい」
雪乃「事実だから仕方ないわ。奉仕部であなたと活動していたあの時間は、かけがえの無い大切なものだった。あなたの事も……大事にしたい」
八幡「……すげえ変わってんなお前。俺と居て楽しいのかよ」
雪乃「楽しいわ。というか、幸せといった方がいいかしら。一生側に居たいくらい」
八幡「重いわ、プロポーズじゃねえか、平塚先生かよ」
雪乃「比企谷くん、このシチュエーションで他の女の人の名前を出すのはどうかと思うわよ」
八幡「……ごめんなさい」
雪乃「私は弱さは全て克服すべきものとして捉えてきた。でも、あなたは違った。あなたはその弱さすらも肯定して、いつも別の道を探していた」
八幡「どうせあんま褒められたもんじゃない道だけどな」
雪乃「私は嫌いではないわ。だってそれなら、この私の弱さも直さなくて済むから。私はこの弱さは直したくないから」
八幡「…………」
雪乃「訊いてくれないの? 『その弱さって何だよ』って」クスッ
八幡「そう言われると訊きたくなくなるな」
雪乃「あなたが居ないと寂しくてダメになってしまう所よ」ニコ
八幡「訊かなくても言うんじゃねえか」
雪乃「つまりこれってどういう事になるのだと思う?」
八幡「俺の事が好きで好きで仕方ないんだろ照れるなまったく」
雪乃「その通りよ、大正解」
八幡「…………」
雪乃「でもあなたは青春ラブコメなんていらないのよね。これは困ったことになったわ」
八幡「じゃあどうすんだよ諦めた方がいいんじゃね」
雪乃「いえ、それはありえない。あなたは今までの経験からその結論に至った、それならこれからの経験で別の結論に至らせるだけよ」
八幡「……すげえなお前」
雪乃「そうかしら。好きになった?」
八幡「元から結構好きだよ。ラブじゃなくてライクなライク」
雪乃「ふふ、ありがとう。私もあなたの事が好きよ。ライクじゃなくてラブよラブ」
八幡「そりゃどうも」
雪乃「…………」
八幡「…………」
雪乃「……ねぇ、比企谷くん。手を繋いでもいいかしら」
八幡「ダメだ」
雪乃「じゃあキスしてもいいかしら」
八幡「いやダメだろ。つか手を繋ぐのがダメでキスはオッケーってどんな奴だよ変人じゃねえか」
雪乃「……あなたがそうじゃない?」
八幡「……そうだな」
雪乃「…………」
八幡「…………」
雪乃「もう少し、近くに行っていい?」
八幡「おう」
それから俺達は、そのまましばらく無言で寝転がって、満天の星空をただ眺めていた。
二人の距離は近い。と言っても、触れ合う程ではない。触れるか触れないか、微妙な距離を保つ。
そんな曖昧な状態を、俺はどこか心地良くも思っていた。
この先も雪ノ下からのアタックは続いていき。
気付けば彼女の思惑通りに、俺は別の結論を選ぶ。青春ラブコメを肯定する道を選ぶ。
そして結局は、雪ノ下雪乃と恋人同士になるのだろう。
少なくともその時は……満天の星空をぼんやりと二人で眺めていたその時は、そう思っていた。
おわり