男娼「まあ僕は顔も体も綺麗で、高い値がついてるけど」
男娼「でもさ、こんな色っぽい青年と人生を過ごせるんだよ?安いもんじゃない?」
少女「はあ」
男娼「今お金がないんなら、一生懸命働けばいいじゃないか!」
少女「はい」
男娼「だからさ、僕を身請けして…」
少女「身請けどころか男の人を買うことすらできない貧乏なんですよ」
男娼「…ねえ、おねがーい」
少女「はあ…」
男娼「考えてみるだけでも価値はあると思うよ?ねっ、ねっ」
少女「わかりましたかんがえてみます」
男娼「棒だなー…。まあ、いいや。そろそろ夜の準備するね。ばいばい」
少女「はあ。さようなら」ペコ
男娼「また明日もお願いね~」
バタン
少女「…よ、っと」
少女(長話しちゃったなあ…)
元スレ
男娼「身請けしてくんない?」 少女「そんなお金ないですね」
http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1431844971/
店主「お、少女ちゃん今日も薬届けてくれてありがとね」
少女「仕事ですので」
店主「ところでいっつも男娼と何話してるの?随分親しげだけど」
少女「いや、親しくないですね」
店主「そう?でもあいつがあんなに楽しそうに話すのって、君くらいしか」
少女「全然、仲良くないですね」
店主「…そ、そう?」
少女「あの、彼に言っておいて欲しいんですけど」
店主「ああ」
少女「私はあなたの所にだけ薬を届けてるのではなく、区域ノルマがあるので」
少女「いつまでもしょうもない話で引き止めるのはやめてください、と」
少女「…できればやんわりと、伝えてください」
店主「分かった。すまんね、いつも」
少女「いえ」
少女「彼はごひいきですし、いいんです」
店主「あ、そうそう。二階座敷の奴が風邪っぽくてさ」
少女「ええ」
店主「できれば明日、咳止めを持ってきてくれないかな」
少女「…診察もしますよ。気管の病気、今流行ってますし」
店主「おお、助かる。じゃあよろしくね」
少女「はい。毎度ありがとうございました」ペコリ
店主「さよならー」ヒラヒラ
カツ
少女「…ふぅ」
少女(…もう、夕方か)
少女(楼に明かりがつき始めた。こればっかりは、綺麗なんだよな)
少女(この楼が神聖なものにさえ見える気がする)
少女(やっぱり、ここを最後の配達にしてよかった)
少女(あの男娼、いっつもいっつも長話してくるもの)
「なあ、今日はどうする?」
「そうだなあ…この前の女郎はあんまり良くなかったし、鞍替えするかな」
「今日こそあのお方にお目通りするの。お小遣いいっぱい持ってきちゃった」
「ええ、ずるいわよぉ」
少女「…」
少女(…色街に行く人は)
少女(理解できないな)
少女(性欲のためにお金をどぶに捨てるなんて、私には到底できない)
少女(だって生きていくのにいっぱいいっぱいだもの)
ガチャ
少女「…ただいま」
弟「あ、ねーちゃん!おかえりー」
少女「おっ、熱は下がったみたいね。良い子にしてた?」
弟「うん!ちゃんと寝てたよ」
少女「そう。じゃあ、ご褒美あげなきゃねー」ガサ
弟「!」
少女「はい、棒付き飴。溶けないうちに食べなさい」
弟「やった!やったー!」
少女「暴れないの!熱出るわよ」
弟「おねえちゃん、ありがとう!」クスクス
少女「…ん」
少女(生きていくのに、いっぱいいっぱいだもの)
少女(私は、この子を守らないといけないし)
少女(…男娼はいいなあ。どれくらいお金がもらえるのかな)
弟「ごちそうさまでしたっ」
少女「弟、薬を飲みなさいね」
弟「…う」
少女「今日は鼻水が出てないから、粉薬はいらないわね。はい、これ二錠と液薬飲んで」
弟「はあい…」
少女「文句あるんならさっさと病気よくしなさいよー」
弟「わかってるよお」グビ
弟「…うえ」
少女(…あー、明日薬補充しに行かなきゃなあ。切れそうだったし)
弟「はい、飲めたよ。あーん」
少女「おりこうさんでした」ポン
弟「ねえ、おねえちゃん」
少女「んー?」
弟「今日、ちょっと遅かったね?」
少女「…んー」
少女「今日は膝の悪いおばあさんの診察に手間取っちゃって」
弟「そうなんだー。ああ、あの町外れのおばあさんだね」
少女「ん、そう」
少女(まあ、嘘だけど)
弟「…僕も外に出たいなー」
少女「まあ、発疹が出なくなったらね」
弟「んー」
少女(…稼がなきゃなあ。いい加減、本腰入れて治療したいし)
少女(もっと大きな病院で、こいつの手術ができたら。すぐにだって…)
弟「おねえちゃん?」
少女「…あ、なんでもない。それより今日はもう寝なさい」
弟「はーい」
少女(…おかねほしいなーーー)ワシャ
弟「…すぅ、すぅ」
少女「…」ワシャ
少女(やばいなー。あんまり薬の売り上げ良くないぞ)
少女(皆ケチって適当なので済まそうとすっからなあー。くそー)
少女(診察代もケチるしさあー…。ふざけんなよな。ひよっこ薬師だからって舐めんなよ)
少女「…ん」
少女(あれ、明日の販売リスト。こんなに高い薬、誰が)ピラ
少女「…げ」
男娼
少女「まーたあいつか」
少女(肌のきめを整える薬、一箱…。こんなん男が飲むもんじゃねーっつの。どこぞの夫人か)
少女(…ま。利益回収できるし、いいんだけど)パタン
少女「~っ」ノビ
少女(…つかれるわ。…もっといっぱい、稼がなきゃいけないのに)
男娼「…」
店主「おーい男娼」
男娼「はぁ」チラ
店主「はぁじゃないわ、お客だぞ」
男娼「…はぁあ…」
店主「おうこら、お前お客の前でそのため息つくんじゃねーぞ」
男娼「分かってますってば」ノソ
男娼「…あ」
店主「ん?」
男娼「今日僕が買った薬、捨てといてくださいね」
店主「ああ。いいけど」
男娼「ぅーい、めんどくせぇー」ノソノソ
店主(…あいつ、なんで必要のない薬いっつも買ってるんだ?)
少女「…」カツカツ
「やっぱハズレだったじゃねーか」
「そうかー?いや俺は結構よかったけどなあ」
少女(朝帰りとは良いご身分だこと)
少女(こちとら疲れた体引きずって配達なのにさあ)
店主「おっ、少女ちゃん。今日は早いね」
少女「はい。あの、男娼さんを」
店主「はいはい。おーい、男娼ー」
「…あーい?」
店主「薬師さんが来てくれたぞー」
「今行くー」
店主「すまんな、あいつ朝まで客の相手しててな」
少女(うえ…。あんま聞きたくない情報)
店主「いつもの座敷で待っててくれ。すぐ行かせるから」
少女「はぁい」
ガラ
男娼「おは」
少女「お早うございます。昨日処方したお薬の効き目はいかがでしたか」
男娼「いきなり色気のない挨拶しないでよぉ」
少女「(なんだコイツ)…はあ。すみません」
男娼「聞いてよ、昨日のお客さ、とんだ好色ババアでさー」
男娼「もう腰痛いのなんのって。今日座敷あがりたくないんだよねぇ」
少女「では、これが今日のお薬です」コト
男娼「え、聞いてるー?」
少女「腰痛があるんですよね。聞いてますよ」カチャ
男娼「…む」
少女「では、こちらを朝夕と一錠づつお飲みください。切れるころにまたご注文を」
男娼「はいはーい」
少女「では、これで」
男娼「えー。待ってよお、もう少し話そうよ」
少女「すみません、今日は予約が立て込んでてですね」
男娼「ちょっとくらいいいじゃーん。ほら、お菓子いる?美味しいよ」
少女「いりません。では」
男娼「待ってって」ガシ
少女(……あああ…)
男娼「僕さ、腰が痛いんだよね。追加で診察とかできない?」
少女「できますけど、予約外ですので」
男娼「いくらでも払うよ。やってやって」ゴロン
少女(…だ、っる)イラ
少女(…と、いけないいけない。客を選べる立場じゃないわね)
少女「…じゃあ、失礼します」ポス
男娼「全部脱いだほうがいいかな?」
少女「腰のとこだけ服をあげてください」
男娼「ちぇ」スル
少女「失礼します」スッ
男娼「…」
少女(…男のくせに、細い腰だな)
少女(白くて、女の子よりはがっしりしてるけど…)
少女「えっと、どこが痛いですか」
男娼「わかんない」
少女「…。ここですか?」
男娼「んー、違うかな」
少女「…では、ここの横側ですか」
男娼「違う気がするー」
少女「…」
男娼「どしたの?触ってよ」
少女(クソが)
男娼「…」クス
少女(正直言うと、触りたくない)
男娼「あー、もう少し右かも」
少女(彼をけなす訳ではないけれど、彼の体は)
男娼「下、だよ」
少女(誰の物かわかんない手垢だらけなんだろう)
男娼「…もっと下かなあ」
少女(媚びたような声も、顔つきも、身のこなしも、なんか不潔に感じるし)
男娼「…」
少女(…いや、別に。差別してるわけじゃないけど、けど)
男娼「やだ、きわどい所触るんだね」クス
少女「は、あ?」
男娼「そういうことがしたいんなら、夜に来てくれれば大歓迎なのにさ」
少女「…」バッ
少女「あ、あなたが下のほうだと言うから触ったまでです。別に変な意味はありません。微塵も」
男娼「…ふふ」
少女「…触診したところ、これといって異常ありませんし」
少女「一時的な疲労だと思われます。えっと、必要なら湿布を処方しますけど」
男娼「んー、じゃあお願いする」ゴソ
少女「…えーと」
男娼「一番高いやつにしてよ」
少女「はあ」
男娼「…」
少女「では、お会計です」
男娼「ん。ありがとね」
少女(…あっさり引くのな)
男娼「あ、そういえばさぁ」
少女「はあ」
男娼「身請けの話、考えてくれた?」
少女「さようなら」
バタン
男娼「…」クス
少女「はい、口を開けてください」
新人男娼「…あ」
少女「奥がはれてますけど、まあ大丈夫です」
少女「この薬を3日も飲めば大丈夫になりますよ」
新人「そっすか。ありがとうございます」
少女「お大事に」ペコ
新人「はい」
少女(…やりやすいもんだ、他の男娼は)
少女(けど、まあ)
少女(ここの空気は、嫌いだ。甘ったるいのに、濁ってる気がして)
少女(男娼の顔も、覇気がないのに変な色があるし)
店主「じゃあね、少女ちゃん」
少女「さようなら」
少女(…できれば一生、訪れたくない場所だ)
少女「…」ノビ
少女(外の空気、うまー)プハー
「おーい」
少女「…」ビク
「おーい、くすりうりさーん」
少女「…」チラ
男娼「あ、こっち見た」
少女「…(げっ…)」
男娼「今日は、ありがとうねー。楽しかったよー」ヒラヒラ
「…おい、あれは●●楼の」
「まあ、あの女の子…」
「俺見たぜ、一番上の座敷から出てきたんだ」
男娼「また、よろしく、ねえー」クスクス
少女「…」
少女(あんっの…野郎っ…)ギリリ
少女(わ、私があの男を買った客みたいな目で見られてるじゃない!くっ…)
男娼「…」ニヤニヤ
少女(絶対、ぜったい分かっててやってる…!)
男娼「また来てねぇ」ヒラ
少女「…」ダッ
少女「…っ」
少女「くそっ…」ダダダ
老婆「今日はやけに荒っぽいのね」
少女「へ!?」
老婆「ふふ、嫌なことでもあったのかしら?」
少女「や、い、いや。どうして。そんな」
老婆「だって触診の手がちょっと怒ってるみたいなんだもの」クス
少女「す、すみません…」
老婆「…ふふ」
少女「う…」
老婆「大方、男の子にからかわれたってところかねえ」
少女「…ご、ご名答」
老婆「うふふ。歳とると勘が鋭くなるわね」
少女「…」
老婆「恋人かしら」
少女「いえ、最低な客です」
老婆「あらあら。ふふ」
少女(…おえ。吐き気がするくらい嫌だ。あんなの)
少女(顔さえよけりゃ、何しても良いっておもってるような奴だし)
老婆「あんまり、頑張り過ぎないようにね」
少女「…え」
老婆「あなたのこと心配よ。17歳なのに、こんな大変な仕事して。弟も養って」
老婆「…普通なら、学校行ったり遊んだりしてる年頃なのにね」
少女「あはは、私無理なんかしてないですよ。毎日、充実してます」
老婆「そう」
少女「ありがとうございましたー」
バタン
少女(…たしかに最近ちょい疲れてる、かな)
少女(でも、本当、弟は今が大事な時期だし…。お金もっと入れなきゃ)
少女「…ってか、暗っ」
少女(ちょっと設定件数多かったかな。早く帰らなきゃ)タタ
少女(…しゃーない。近道だし、色街通っていこ)
ザワザワ
少女(…日が暮れてから通るのもまた、勇気いるよな)
「ねえねえお兄さん、こっちおいでよぉ」
少女(…呼び込みに引っかかるのはやだなあ。走るか)タタ
女「…あの、彼を」
少女(お)
店主「分かりました。おい、男娼」
男娼「…はーい」ノソ
少女(うっわ、一日の終わりにめちゃくちゃ嫌な物を見てしまっ)
男娼「…」チラ
少女(た……)
男娼「…」クス
男娼「では、行きましょうか」
女「は、はいっ…」
トントン
少女「…な、んだあれ」
少女(なんだあの含み笑いは。…うう、嫌だ)
少女(やな感じだな、まじで)ムス
弟「おかえりなさいっ」ギュ
少女「う、お」
弟「お、遅いよ!なにやってたのっ」
少女「ごめん、今日はちょっと仕事多かったの」
弟「心配したんだよ。もう…」
少女「ごめんよー…。今ご飯作るね」
弟「ん…」
少女「今日はね、ごひいきの老婆さんからカブいただいたんだ。好きでしょ」トントン
弟「…」
弟「ねえ、おねえちゃん」
少女「なあに」
弟「僕ね、ちょっとくらいならお仕事手伝えるんだよ」
少女「…」
弟「例えば、おねえちゃんの薬の箱持ってあげたり、診察のお手伝いしたり、とか」
少女「あのね、弟」
弟「ぼ、僕。咳だって収まってきたし、体も大分良くなってるんだよ?手伝いたい」
少女「…はあ」
少女「それは安定期だからなの。小康状態保ってるだけ」トン
少女「…ここで無理すると、もっとひどいことになるよ」
弟「けど、おねえちゃんだって疲れてるし」
少女「…私が?疲れてる?あはは、そう見えるー?」
弟「見えるよ」
少女「…む。若いのよ、こっちは。こんなの全然平気だし」
弟「僕、おねえちゃんについて行きたい」
少女「駄目よ」
弟「無理はしないし、足手まといにもならないもん。助けになるから」
少女「…」
少女「るせぇ、がきっ」ムニュ
弟「ひ、ら!?おれえちゃん、いらいっ!」
少女「馬鹿にすんなよ。私一人であんたを食わせるくらい、どーってことないのっ」ムニニニ
弟「む、やめれよお…!」
少女「あんたは家でゆっくり養生すんの!もっと元気になってから、手伝ってくれればいいわ」
弟「元気に、なってから?」
少女「そ。あんたの病気が治ったら、嫌っていうほど働いてもらうわよ」
弟「…」
少女「それまで、休むの。いい?」
弟「う、ん」
少女「私は大丈夫だから。あんたが少しでも良くなるのが、一番の薬だから」ナデ
弟「…」
少女「さ、食べよう。お皿出してー」
弟「…ねえちゃん」
少女「ん?」
弟「おねえちゃん、ありがと。大好き」ギュ
少女「うん。私も、こんな優しい弟がいてくれて嬉しい」ギュ
弟「でも、無理はしないでね」
少女「あったりまえでしょ」
少女(…負けないわ)
少女(この子がいるから。何をされたって、私は負けない)
少女(あの男娼に何をされたって)
少女(お金さえ払ってくれればそれで耐えられるんだから)
弟「…すぅ」
少女「…」ナデ
少女「…あんたは私が、守るから」
少女「…ふふ」
少女(明日も仕事、がんばろ)パン
少女「…」
「ね、ちゃん。ー…ちゃん」
少女「…ん、ぅ」
弟「ねえちゃん!おきてっ」
少女「うわ!?」ガバ
弟「もう朝だよっ。どうして机で寝てるの」
少女「う、うわああ!マジか!やばいっ」バタバタ
弟「ちゃんとベッドで寝なきゃ…」
少女「うるっさいわねー!ね、眠かったのよ!そこどいて!準備するから」バタバタ
弟「…」
少女「ああ、朝ごはんは台所にあるからっ。じゃあ、私行って来る!」
弟「え、でも」
少女「今日は朝一で仕事入ってるのよ!ばいばい!」
バタン
弟「…」
弟「…あ、れ?」
少女(ああああ何やってんの馬鹿馬鹿馬鹿)ダダダ
少女(もう、寝坊とかありえない!体も痛いし…。くそ、何で寝オチなんか)
少女「はぁ、はあっ」
少女「…すみませんっ。遅れてしまって…」
夫人「まあ、いいですけど…。主人の薬は?」
少女「あ、はい。えっと、あれは…」ゴソゴソ
少女「…」
夫人「どうかして?」
少女「…す、すみません。少し待ってください」
夫人「…」
少女(やば、忘れてきた、か…?)
夫人「あのね、料金は注文した時に渡したわよね?」
少女「は、い」
夫人「今日ないと困るんですけど…。早くなさって」
少女「…っ」
少女「あのっ…」
……
…
少女「…」
少女(しにたい)ジャリ
少女(結局夫人は激怒で、お金はチャラだわ顧客一人失うわ…)
少女(私、世界一の馬鹿だ。もういやだ)フラ
少女(…ふらふらするし)
少女「…」ヨロ
「…大丈夫?」
少女「…へ」
男娼「顔、真っ青だけど」
少女「…大丈夫、です」
男娼「…」
少女「あの、今日の薬…」
男娼「来て」グイ
少女「!?」
少女「なっ、なっ」
男娼「しー。見つかったらヤバい」
少女「なっ、なにやってるんですかっ。離してくださいっ」
男娼「腕つかんでるだけじゃない。ウブなんだなあ、君」
少女「…」
男娼「まあそう睨まない。こっちの部屋入って」ドン
少女「う、わ…」
男娼「ん。侵入成功」
少女「ち、ちょっと!」
男娼「ここで待ってて。くれぐれも逃げたり、大声だそうとしたりしないで」
少女「はあ?あの、だから」
バタン
少女「…」
少女(…なんなのよ!?)
少女(ってかここ、客とる個室じゃん!何考えてんのあいつ)
少女(か、帰りたい。凄い帰りたい)ソワソワ
ガチャ
少女「!」ビクッ
男娼「くす。びっくりしなくてもいいじゃん、僕だよ」
少女「あ、あのっ。私…」
男娼「はい、これ」ズイ
少女「…なん」
男娼「君、朝も昼も食べてないでしょ?馬鹿じゃないの」
少女「い、いりません」
男娼「は?飢えで今にも死にそうって顔してるけど?」
少女(…たしかに、貧血っぽいのはこのせいか)
少女(けど、こいつに恩売られるのは無理。裏がある、確実に)
男娼「別にお金とらないし。食べて」
少女「…」
男娼「くーえ」
少女「でも、その」
男娼「…ああもう」ガシ
少女「む、っ!?」
男娼「はい、あーん」
少女「~~っ」バッ
男娼「痛。なにすんのさ」
少女「い、いきなりっ。人の顔を掴まないでくださいっ」
男娼「君がなかなか食べないから。食べさせてあげようと思って」
少女「…っ」
男娼「もう一回しようかな」
少女「い、いただきます。ありがとうございますっ」
男娼「…ふふ」
少女(…もうやだよお。帰りたいよ)モグ
男娼「…」ジッ
少女(めっちゃ見られてるし…)
男娼「ねえ」
少女「は、はい」
男娼「美味しい?」ニコ
少女「…」
少女「は、はい」
男娼「ここってさ、座敷遊びもできるから料理も美味しいんだよね」
少女「そうなん、ですか」
男娼「君知らないだろうけど、結構格式高い男娼楼なんだよ、ここ」
少女「はあ」モグ
少女(…何が違うのか、よく分からんけど)
男娼「食事するだけでこんくらいする」スッ
少女「んむっ!?」
男娼「あ、これはヒラの男娼の場合ね。僕くらいの売れっ子だとこんくらい」スッ
少女「……」ガタガタ
男娼「一晩過ごすのはもっとエグい値段だよー」
少女「け、結構です。言わなくて」
男娼「…あはは」
少女「…ごちそうさまでした」コト
男娼「君って本当、面白い食べ方するよねえ」
少女「は、あ?」
男娼「ああ、生きてる~って感じの食べ方するよね。なんか、子どもみたい」クスクス
少女「…」イラ
男娼「あ、可愛いってことだよ?」
少女「…はあ(背中がかゆい)」
少女「あ、その。お代」
男娼「いらない」
少女「でも」
男娼「だってさあ、これめっちゃ高いよ?持ち合わせないでしょ」
少女「…ぐ」
男娼「その代り、一個お願い聞いて」
少女(…はいだと思ったもう嫌な予感しかない)
少女「…何でしょう」
男娼「ここにいて」
少女「はあ?」
男娼「言い忘れたけど、ここ僕の個室なんだよね。僕、夕方まで暇だしここにいて」
少女「……」
男娼「何て顔してるの、君」
少女「…ぃ、や」
男娼「やらしいこと考えたでしょう?」
少女「…っ」ギリ
男娼「あはは、冗談冗談。でも、本当そういう意味じゃないんだ」
男娼「僕毎晩ヤってるんだよ?昼間でしたくないもん」
少女(最…低。品がない)
男娼「単純に、僕の話し相手になってほしいんだよね」
少女「はなし、あいて?」
男娼「そ。僕、売れっ子で顔も良いし、嫉妬買われてるみたいで」
男娼「この楼でまともに喋れる人間いないんだよね」
少女(性格のせいじゃないかしら?)
男娼「だから君、僕と歳も近いし、話し相手になってよ」
少女「…まあ、それなら。もう配達もありませんし」
男娼「そっか」
少女「はい」
男娼「…」
少女「…」
男娼「…」
少女「…」
男娼「何やってんの、何か話しなよ」
少女「え」
男娼「僕から話振るのめんどいし。何か言って」
少女「……」
少女「と、いいますと…?」
男娼「何か僕に質問とか、ないの?」
少女「(ねーよ)え、と」
少女「あ、その。お名前は?」
男娼「男娼。ってか、知ってるじゃん」
少女「…そうでした」
男娼「そういえば、君の名前知らないや。何て言うの?」
少女「…少女、です」
男娼「ふーん。しょうじょ」
男娼「…なんか地味な名前だね」
少女「…」ビキ
男娼「はい、次」
少女「…おいくつですか」
男娼「18。君は?」
少女「17です」
男娼「おお、一個違いなんだね。でも君、もっと子どもかと思ってたよ。小さいし」
少女「…」ビキィ
男娼「次ー」
少女「…え、と」
男娼「…」
少女(やばい、こいつに興味がなさすぎて聞きたいことがない)
男娼「ちょっと、残念だな」
少女「は?」
男娼「君、少しは僕に興味もってくれてると思ってたのに」
少女「…はあ?」
男娼「だってそうでしょ。僕、容姿も良いし、気さくでしょう?」
男娼「薬だって店で一番多く買うし。君の目にもうすこし留まってると思ったんだけど」
少女「…」
男娼「違うの?」
少女(なん、か)
少女(急に、空気が変わった気が)
男娼「ねえ、どうなの」ズイ
少女「や、大切なお客様です…。けど、特別なその、感情はないです」
男娼「ふうん」
男娼「つまり」
男娼「ただの金づるってこと?」
少女「ちっ違いますよ!」
男娼「…ふうん」
少女「だからですね、お客様に対して好きとか嫌いとか、別個な感情はないんですよ(大嘘だけど)」
少女「…皆さん全員、大事なんです。はい」
男娼「…」
男娼「あっそう」
少女(なんでちょっと不機嫌そうなんだよ。面倒くさ)
男娼「…」
男娼「…君、何処に住んでるの?」
少女「町外れです」
男娼「家族は?」
少女「弟と二人暮しです」
男娼「へえ。…親は?」
少女「…ええと、大分前に亡くなりました」
男娼「…」
少女「すみません、重い話で」
男娼「ううん。僕もそうだし」
少女「そうなん、ですか」
男娼「僕の両親、借金あったみたいでさあ」
男娼「死んだらそれが分かって、僕がカタにされちゃったんだよねえ」
少女(…重い。こっちのほうが断然、重い。てか何笑ってんだ)
男娼「まあ野たれ死ぬよりマシだよね。やっぱ顔がいいと得だね」ケラケラ
少女「あ、はあ…」
男娼「結構稼げるんだよねえ。男娼って。他の仕事するのが馬鹿らしくなるくらい」
少女「…」
男娼「何、その顔。怒ってる?」
少女「いえ」
男娼「君、顔に出やすい人だね。面白い」
少女「怒って…ません」
男娼「そう?僕にはそう見えないけど」
少女「…」
男娼「…あ」
男娼「そういえば、身請けの返事を聞いてなかった」
少女「ま、また!?」
男娼「…」
少女「あ、う。またその話ですか」
男娼「うん。どう?僕の残りの人生、買ってよ。身請けして」ニコニコ
少女「…(だめだ、頭おかしいこいつ)」
少女「重ね重ね申しますが、私にはそこまでの財力はありません」
男娼「大丈夫、一括じゃないもん」
少女「無理です」
男娼「そんなぁ。愛があれば、なんとでもなるよ」
少女「あ、い?」
男娼「うん」
少女「何を言ってるのか、さっぱりです」
男娼「僕のこと好きになればいいじゃない。で、身請けを」
少女「あの」
男娼「ん?」
少女「……あなたのお客さんに、頼めばいいじゃないですか」
男娼「…僕の?」クス
少女「私あなたと何の関係もないですし。身請けする義理ないですから」
少女「あなたを気に入ってる女性に買ってもらってください」
男娼「…」
少女(…あ)
男娼「君、わかってないなぁ」クスクス
少女「…」
男娼「もう、今日は帰っていいよ」スッ
少女「ご、ごめんなさい」
男娼「何で謝るの?」
少女「私、あの。不快なことを」
男娼「ふかい?…何が?」
少女「だ、って」
男娼「…?良くわかんないや。いいよ、もう帰って」
少女「気分を悪くされたんですか?…私」
男娼「帰って、いいよ」
少女「…」
少女「はい…」
男娼「ん」
少女「…」
バタン
少女(おわ、ったああ)
少女(はい終わった。でかい顧客もうひとり失ったー)
少女(昨日決めたばかりなのに。なんでこんなに馬鹿なんだ私)ヨロ
店主「お、少女ちゃん。ごくろうさ…」
少女「今までありがとうございました…」
店主「え」
少女「さようなら…」フラァ
店主「…な、なんだ?」
新人「あの子、どうしちゃったんすかね」
店主「わ、分からん。お前、何かしたか?」
新人「自分すか?何にもしてないっすよ」
店主「…死にそうだったな」
新人「…確かに」
少女「…あはは…」フラフラ
ガチャ
少女「…ただいま」
弟「お、おねえちゃん!お帰りっ」ダッ
弟「何でこんなに遅いの!?心配したんだよっ」
少女「…」
弟「それに、おねえちゃん…。この薬、忘れて」
少女「ごめんね、弟」
弟「…え」
少女「私、だめな姉ちゃんだ」
弟「…おねえちゃん?」
少女「…」
弟「泣いてるの?」
少女「…」
弟「何かあったの?」ナデナデ
少女「…っ」
弟「僕になにか、できることがあったら…」
少女「…ふふ」
少女「なんでもなーい!ごめん、今すぐご飯作るねっ」バッ
弟「…」
……
…
中年女「…ぐあ…」ゴロン
男娼「…」ムク
男娼「ふぁーあ…」
男娼「…」ボリボリ
中年女「…ふふ。男娼ー…」ムニャ
男娼「…」
ガラ
新人「あっ」
男娼「おっ」
新人「あの、お客さんは…?置いて出ていいんですか」
男娼「寝てるから別にいいんじゃない?」
新人「はあ…」
男娼「いびきうるさいし、こっちは休めたもんじゃないよね」
新人「…あの」
男娼「はい?」
新人「今日、何かあったんですか。その…薬売りの女の子と」
男娼「…」
男娼「何か、って?」
新人「いえ、あの子今日死にそうな顔で店から出てきたから…」
男娼「へえ」
新人「何か、あなたとあったのかなあ、なんて」
男娼「…」
男娼「気になるの?」
新人「へ?」
男娼「あの子のこと」
新人「…や、いや。そういうわけ、では」
男娼「じゃあ別に知らなくていいでしょ」
新人「…」
男娼「あのねえ、君」
男娼「君は体を売る職をしてるのに、どうしてそう、色恋を捨て去れないのかなあ」
新人「い、いやだから俺は…」
男娼「人を好きになんかならない方がいいよ。不幸になるだけなんだよ」
男娼「…自分も、相手も」
少女「…」カリ
少女(顧客二人失ったのはデカすぎるな)
少女(…明日は、足を伸ばして顧客開拓にでも行こうかな)
少女「…」ガリガリ
少女(…頭痛い)
少女「…はぁ」
少女(…男娼って)
少女(もうかるのかなー…)
弟「…」
少女「はぁあ…」ボフ
弟「……」
少女「んじゃ、今日も留守番よろしくね」
弟「…おねえちゃん、顔色悪いよ?」
少女「そうかな?」
弟「疲れてるんなら、休んだ方がいいよ…」
少女「…」
少女「弟、私疲れてなんかないよ。大丈夫!」
弟「…」ギュ
少女「だから、いい子で待ってるんだよ。そろそろ街に検診にも行けるし…」
少女「あ、そうだ!街で何かお土産も買おう!で、美味しいものも食べよう!」
弟「…でも」
少女「お姉ちゃんがんばるから!弟、ちゃんと何して遊ぶか決めとくんだよ!」
弟「おねえちゃん、待っ…」
バタン
弟「…」
少女「…はぁー」
少女(実は交通賃が足りなかったりするのだ)
少女(けど定期健診だからサボれないし。うん、今日も稼がなきゃ)
少女(私が頑張らないと。弟を守ってやらなきゃ)
少女「…」クラ
少女「…」
少女「気合入れろ、気合」ボソ
弟「…」
弟「おねえちゃん、大丈夫かな…」
弟「…」
弟(僕、手伝えるのに)
弟(これじゃ、おねえちゃんのほうが体壊しちゃう)
弟(…僕が、足をひっぱるから)
弟「…」
カタ
弟(おねえちゃんが保存してた、傷薬…)
弟(これ、町で売れるよね?…僕でもできるよね)
弟「…」ギュ
弟(おねえちゃんを、助けなきゃ!)
ガタッ
男娼「…あー」ゴロン
店主「おいお前、暇なら店先の掃除でも手伝わんか」
男娼「やだ」
店主「…」
男娼「そんなことしたら手が荒れちゃうじゃん。新米か見習いの子どもにでもさせなよ」
男娼「それに今日、僕お休みでしょ?何で働かなきゃいけないのさ」ゴロ
店主「ぐぬぬ…」
男娼「はぁーあ」
男娼(…あ、あの子に今日来てって言うの忘れてた。つまんないの)
男娼「…」ムク
店主「どこか行くのか?」
男娼「散歩」
店主「おい待て。行くんなら、小間使いと一緒に行け」
男娼「逃げやしないさ。僕がそんなことする気力があると思うの?」
店主「…」
男娼「昼には帰ってくる。じゃ」
男娼(外に出たの、久しぶりだなあ)
男娼「…ごめんくださーい」
商人「あいよー」
男娼「ひさしぶり」ヒラヒラ
商人「お、男娼さんじゃないですか。長い間お目にかけませんで」
男娼「最近客の入りがよすぎて、疲れてんだよね」
商人「ははあ、そりゃ羨ましい」
男娼「どこが。…あ、はいこれ」
商人「おっ。査定ですか?」
男娼「うん。早くしてね、さっさと帰って寝たいから」
商人「はいはい。…おお、今回も良いものを」
男娼「そうなの?」
商人「こっちのキセルは象牙ですね。こっちのは、東国の宝石…」
商人「いやはや、あなたには頭が下がります。買取商にここまで状態の良い品を卸してくださるとは」
男娼「早くしてってば」ゴロ
商人「はいはいただいま」カチャ
商人「しかし」
商人「こんなに女客が男娼に貢ぐなんて、聞いたことがありませんよ」
男娼「ふーん」
商人「普通、逆でしょう?」
男娼「馬鹿らしいな。何で僕が客に贈り物してまで媚びなきゃいけないの」
商人「はは、流石。色街屈指の男娼が言うことは違う」
男娼「…」
商人「しかし、一つくらい使ってもいいのでは?勿体無いですよ」
男娼「だって、汚いから」
商人「は?」
男娼「なんでもない」
商人「そうですか?…あ、額が出ましたよ。これでどうです」
男娼「ふざけてるのかな?」
商人「ぐ…」
男娼「ここに丸、一個付け足しなよ」
商人「せ、殺生なっ!」
男娼「じゃあいいや。他のところに持ち込む」
商人「ごめんなさい嘘です」
男娼「どうすんの?」
商人「…」パチパチ
商人「じゃ、じゃあこれで」
男娼「…ん。まあ、いいや」
商人「ありがとうございます。では、お納めください」
男娼「はーい」ノソ
商人「しかし、これだけ実入りがいいと…」チャリ
商人「借金なんてもうとうに返し終わってるのではないですか?」
男娼「黙秘」
商人「…身請けなんか、お誘いがあるんでは?」
男娼「…うるさいなぁ」
商人「へへ、すみません」
男娼「…まあ、考えてる所ならあるさ」ムク
商人「へ?」
男娼「ばいばい。今度はもっと値段交渉勉強しときなよ」ヒラヒラ
商人「…は、はあ」
男娼「…あの狸」ジャラ
男娼「言わなきゃ正規の値段にしないんだからなあ。性根腐ってるな」
「…ほら、あの方。あそこの楼の…」
「まあ…本当。綺麗な顔ね」
「は、話しかけてもいいのかしら」
「嫌だわ。私、緊張しちゃう…」
男娼「…」
男娼(帰ろ)スタスタスタ
「くすりは、いりませんかー?」
男娼「…ん」
「けほっ、薬は…。いりませんか?」
男娼(なんだ、あのガキ)
男娼(薬売りの真似事かな。それにしても、薬が必要なのは自分の方に見えるけど)
「…ごほっ、ごほっ。…っ」
男娼「…(やだなあ、移る病気だろうか)」
「…ひゅー、っ…ごほっ…!!」
男娼「…」
男娼「ねえ、ちょっと…」
……
…
男娼「ただいまー」
店主「おお、遅かったな…って」
男娼「布団と湯と手ぬぐい、あと熱さまし用意してね」スタスタ
店主「いや待て待て待て」
男娼「なにさ?」
店主「その、お前がおぶってる子どもは何だ?」
男娼「僕の子ども」
店主「ははっ、笑えない冗談だな。客を孕ませたなんて家の楼の名が…」
男娼「冗談だって。こいつ、色街の道でいきなりぶっ倒れたんだよ」
店主「は?…うわ、本当だ。すごい顔色」
男娼「熱がすごいからとりあえず引っ張ってきたんだ。あそこで気絶なんかして、日が落ちてごらんよ」
男娼「…あー、気持ち悪い。きっと人買いに攫われてたよ」
店主「はあ…」
男娼「使ってない座敷あったでしょ?そこ使うね」スタスタ
店主「ああ、まあ。いいけど」
男娼「早く言ったもの持ってきなよ、グズ」
店主「てめっ…」
弟「…」
弟「…ぅ」
弟「…!」バッ
弟「…あ、う…」ズキ
男娼「あー、何やってんの。起きるんじゃない」
弟「ここ、どこ。僕っ…」
男娼「あんた、色街の真ん中で気絶してたんだよ。考えらんないね」
弟「いろまち?」
男娼「…あれ。いくら子どもでも知らないはずないでしょ」
弟「…」
男娼「…ま、いいや。とにかく寝てなよ。まだ熱あるし」
弟「でも、僕」
男娼「あーもう、じゃあ体だけ起こしてろ。煩いガキだなあ」
弟「…」ムク
男娼「ったく、何で僕がこんなこと」ブツブツ
弟「あの、ここは」
男娼「…まあ、どこでもいいじゃん」
弟「あなたは…?」
男娼「通りすがりの色男だよ。てかさあ、まず看病してくれてありがとう、だろ」
弟「あ、ありがとうございます」ペコ
男娼「ん。まあ暇だからいいよ。…で」
男娼「あんたさあ、あそこで何やってたの?」
弟「…薬、売ってました」
男娼「場所悪過ぎない?こんなところで薬買う奴なんかいるかね。精力剤ならともかく」
弟「せいりょくざい?」
男娼「…」
男娼「質問に答えてくんないかな?」
弟「え、っと。僕、おねえちゃんのお手伝いしようと思って。それで」
男娼「へえぇ。ひどい姉貴もいるもんだなあ。こんないかがわしい町で弟に商売させるなんて」
弟「…ち、違うんです。僕が悪いんです…」
男娼「…」
男娼(しっかし、細いし白い子どもだな。まるで全然外に出てないみたいだ)
弟「僕が、おねえちゃんの言うこと聞かないで無理ばっかりするから…」
男娼「!」
弟「…っ。ひくっ、…っ…」
男娼「何、泣いてるの」
弟「だ、って…。ぐすっ」
男娼「あー。こらこら、泣くな。男が簡単に涙するんじゃない」
弟「ううっ…おねえちゃぁん…」ポロポロ
男娼「うわぁ、もう…」ガリガリ
弟「僕っ、くすりもっ、売れなかったしっ…。発作まで、おこしちゃってっ…」ヒック
男娼「…」
弟「…おねえちゃんが、僕のせいで、またっ…」
男娼「いくら」
弟「…へ…?」
男娼「薬全部でいくらなの?」
弟「…」
男娼「買う。から、早く。計算もできないの?」
弟「で、でも」
男娼「早くしろっ」
弟「は、はいっ」
弟「本当に、いいんですか?」
男娼「いいんだよ。探せばどっか傷くらいあるだろ」
男娼「はいこれ、落とすなよ」ヂャリ
弟「う、はい」ズシ
男娼「…もうここで商売しちゃいけないよ」
弟「どうしてですか?」
男娼「あんた、見たところ先天性の病気だろ。家で休んでる間は平気でも、いきなり外なんか出たら」
男娼「…そりゃ、そうなるよね」
弟「…」
男娼「…君、何て名前なの」
弟「…お、弟です」
男娼「家は?」
弟「あっちの、町のはずれのほうです」
男娼「ふふん。なるほどねぇ」クス
弟「?」
男娼「やっぱり、君がそうなのか。はは、なんだか似てる」
弟「あ、あの?」
男娼「ま、ゆっくりしていきなよ。夕ご飯もご馳走するからさ」
弟「でも、家に…」
男娼「今から帰ったって、道で倒れて死ぬだけだよ。いいから、いなよ」
弟「…ありがとう、ございます」
ガチャ
少女「たっだいまー。弟、今日はお仕事上手くいったん…」
少女「…」
少女「弟?」
少女「お、弟?何処にいるの?おーい」
少女(いつもならお迎えしてくれるのに。部屋かな)ギィ
少女「…いない?」
少女(いたずらのつもり?にしても、…)
少女「…え」
少女(あいつの鞄と靴が、無い…)
少女「…」
バンッ
少女「…お、弟っ…!?」ダッ
少女「はぁ、はぁ」タタタ
少女(ど、何処に行ったの?あの子っ)
少女(前に行ったことあるお店かな?それとも、公園…?)
少女(あの体で遠くに行かれたりなんかしたら…っ)
少女「はぁ、はあっ」
少女(どうしよう、どうしよう、どうしようっ…)
少女「…」
少女(色町にまで来たのに、どうして何処にもいないの?)
少女(弟…)
「何やってんの、君」
少女「…え」
男娼「泣いてるの?みっともないなあ」
少女「…っ」
男娼「もう夜だよ。色町に来たってことは…ああ!」
男娼「ようやく君も決心がついたんだね。いや、我慢できなくなったってことかな?」ニコニコ
少女「気持ち悪いこと言わないでよっ!」
男娼「…何。何怒ってるのさ」
少女「今…忙しいのよ!私に話しかけないでっ、どっか行きなさいよっ!」
男娼「…忙しいって」
男娼「もしかしてこれ探してた?」クル
弟「…すぅ、すぅ」
少女「…」
男娼「色々あって僕が預かってたのだけれど」
少女「…」ヘナ
男娼「うわ。大丈夫なの」
少女「よか、った…」
男娼「…」
少女「し、死ぬかと思った。心配で、私っ…」ポロ
男娼「あー、と。ちょっと、ここで泣かないで」
少女「おとうとぉっ…よかったぁあ…」ポロポロ
男娼「…姉弟そろってこんなんだからなぁ」
少女「…っ。うわぁああ…」
……
…
少女「…」スン
男娼「まだ鼻水出てるけど」
少女「嘘ですよね」
男娼「ちぇ。可愛くない女」
少女「…で」
男娼「うん?」
少女「どうして弟と、あなたが」
男娼「こいつ、あんたを助けようと思って薬売りの真似事してたんだよ」
少女「…」
男娼「それで、発作で倒れたのを僕が拾った」
少女「…ありがとうございました」ペコ
男娼「この子恐ろしいほど馬鹿なんだね。でも、それ以外は君にそっくりだ。見た瞬間分かったもの」
少女「…」
男娼「君、この子のために働いてるんだ」
少女「そう、ですね」
男娼「…ふーん」
少女「その、弟を。連れて帰ります。ご迷惑かけました」
男娼「…」
男娼「やだ」
少女「は?」
男娼「やだ」
少女「あの、ふざけてるんなら」
男娼「本気なんだけど?」
少女「…」
男娼「この子さあ、色町に売りなよ」
少女「…は?」
男娼「まあまあ綺麗だし、ウブなかんじが受けると思うよ。なんなら僕の楼に入れよう」
男娼「僕が色々教え込んであげるから。きっと売れっ子にな」
少女「…っ」
パシン
男娼「…」
少女「…」
弟「…ん、」パチ
男娼「はは。…顔はやめてよ。商売道具だ」
少女「…うるさい」
男娼「何怒ってるの?」ニヤ
少女「もう一回殴られたくなかったら、弟を返して」
男娼「だから嫌だって。僕が仲介するから、売って」
少女「…っ」
弟「おねえちゃん…?」
少女「!」ピタ
弟「おねえちゃん。…あれ、ここ、どこ?」
少女「…」
男娼「あ、起きたの」
弟「あっ、男娼さん…。ごめんなさい、僕」
男娼「いいよ。熱も大分下がったみたいだし」
少女「触らないでっ」
男娼「…」
少女「弟、おいで」
弟「う、うん」
少女「…」ギュ
弟「む。おねえちゃん、痛い、よ…」
少女「…帰ろう」
弟「うん…」
少女「おぶってあげる。行こう」グイ
弟「あ、おねえちゃん。この人ね、僕を…」
少女「…あんた」
男娼「なあに?」
少女「今度、私の弟に汚い手で触ってみなさい」
少女「…殺すから」
男娼「…」
男娼「ふふ、怖ぁい」クスッ
少女「行くよ」
弟「お、おねえちゃ…」
男娼「…」クル
少女「…」スタスタ
弟「おねえちゃん、どうしたのっ」
少女「…馬鹿!!」
弟「!」
少女「だから言ったのよ!外に出ちゃ駄目だって!私が、どれほど…」
弟「…っ」
少女「心配したと、思ってるのよっ…」ギュ
弟「ごめんなさい、僕。…ごめんなさい…」
少女「もう二度としないで。お願い。私、あんたがいないと…」
弟「うん、もうしない。…絶対、一人で外に出ない」
少女「…約束だよ」
弟「うん…」
少女「…あと、もうあの男に近づいちゃ駄目だから」
弟「男娼さんに?どうして?いい人なのに」
少女「いい人?あいつが?」
弟「だって、僕を」
少女「やめて。もう、聞きたくない。…あいつは、最低なの。弟をきっと傷つける」
少女「お姉ちゃんが守るから。あんなクズからは、絶対」
弟「…」
少女「さ、帰ろう」
男娼「ただいまー」
店主「おう、…て、何だその顔」
男娼「ちょっとね」
店主「お前…明日に響かないようにしとけよ」
男娼「わかってるよ」
店主「あの坊やはどうしたんだ?」
男娼「ああ、あのお荷物?」
店主「お荷物?」
男娼「…そ。あの子のお荷物、…あいつなら、帰ったよ」
店主「…そうか」
男娼「…はぁ、羨ましい」ボソ
店主「何か言ったか?」
男娼「別に。寝る」
店主「お、おう…」
店主(…なんか目がヤバかったような)
弟「…すぅ、すぅ…」
少女「…んー」ノビ
少女(つかれたー…)
少女(ったく、とんでもないことしてくれるわね)
少女(…無事だったから、いいけど。いや。或る意味無事じゃないわ)
少女(男娼…。何なのよ、あいつ)
少女(あんなクズに、うちの弟を…。ああ、ムカつく)
少女「…」ナデ
弟「…ん」モゾ
少女(…あれ?)
少女(何、このお金。…そういえば、薬売ってたって)
少女(全部売れたの?あはは、ありえない。それにこれ、いくらなんでも多すぎ…)
少女「…」
少女「あいつが?」
少女(いや、ありえない、よね)
少女「…」
少女(本当に、何なの…)
……
…
少女「じゃ、いってきまーす」
弟「いってらっしゃい」
少女「いい、外に出るんじゃないわよ?今日は絶対安静」
弟「う、はぁい…」
少女「明後日は検診だものね。それまでに良くしておこう」
弟「おねえちゃん」
少女「ん?」
弟「…頑張ってね」ニコ
少女「…おう!」
バタン
少女(あー、かわええ)
少女(この笑顔で何日だって頑張れる気がする)
店主「はあ、休みぃ!?」
男娼「うん」
店主「馬鹿も休み休み言えよな。お客待たせてどうする」
男娼「でも、頬が腫れてるんだもの」
店主「昨日の傷か?」
男娼「そんなとこ」
店主「おい、その湿布はがしてよく見せてみろ」
男娼「…」
店主「おら」グイ
男娼「…や。痛いっ…!!」
ザワ
「ちょっと店主さん、なにやってるんですか!?」
「男娼さまの頬をつねるなんて!嫌がっているでしょう!?」
ギャーギャー
店主「な、いや。違…」
男娼「…酷い経営者だ。こんなに痛いのに、休みもくれないなんて…」
「かわいそうよ!!」
「泣かないで、男娼さまぁ!!」
男娼「…」ニコ
店主「…休め」
男娼「ありがとうございます」
男娼「…」カラ
新人「どこに行くんですか?」
男娼「君に話す利点、ある?」
新人「…」
男娼「夕方には帰る」
新人「…」
男娼「…」
「いらっしゃいませ」
男娼「…切花の束を、3つ」
「はい…。あの、種類は?」
男娼「どうでもいい。任せるよ」
「かしこまりました」
男娼「…」
「お会計、…になります」
男娼「はい」チャラ
「ありがとうございました」
男娼「…」
「…ああ、死んでら」
「こっちの女もか?」
「見りゃ分かるだろ。心中、かねえ」
「子どもを残して夫婦ふたりだけでぽっくり、か?」
「こいつ、どうするか」
…おじさん
「なんだ」
…お母さん、どうして返事しないの? お父さん、動かないの?
「…いいか、坊主。よく聞け」
「おい、やめとけ」
「けどよ」
…死んでるの?
「…」
…へえ
「坊主?」
人って、こうやって死ぬんだ
「…笑って、んのか」
「…な、なんだ。気味悪いぞ」
ふふ。…あはは
「おい、親が死んでるんだぞ?分かってんのか?」
「…嬉しいか」
「はあ?」
…うん。嬉しいよ。うれしい、はは
「お前知らないのか、こいつ、よく裸足で外でて泣いてたろ」
「血だらけになってることもあったしよ…」
「まじか…」
「つまり、そういうこった。…しかしな、坊主」
ふふ、あはは
「お前の父ちゃんな、俺らの所からお金借りてたんだよ。分かるか?おかね」
…くすくす
「それを返さなきゃなんねーんだ。だから」
「言ったってわかんねーよ。連れていこうぜ」
「ああ、まあ、そうだな」
…あはは…
「可哀相になあ、虐待までされて借金のカタかよ」
「けどまあ、綺麗な顔してるし高く売れるだろ。残りは働いて返してくれりゃいいさ」
…
……
…
少女「ありがとうございましたっ」
老婆「すっかり遅くなっちゃったわね。気をつけて帰るんだよ」
少女「はい、大丈夫です。それじゃあ、次の診察までお大事に」
少女(…臨時収入、臨時収入)ニマー
少女(診察が結構入るようになったもんなぁ。えへへ、いい調子かも)
少女「…」
少女(遅いし、ここ通るか)
少女「…」タタタ
少女「…」チラ
少女(…今日は店に出てないんだ)
少女(せいせいするわ。何か変な病気にでもかかって死ねばいいのに、あいつ)
少女(…)タタ
少女「ただいまー」
少女「…ん」
少女「弟、ただいまー」
少女「……」ゾワ
少女「お、弟っ!?」バッ
弟「…」
少女「な、なんだ。いるんなら返事しなさいよ」
弟「…」
少女「おとう、と?寝てるの?」
弟「ね、ちゃ」
少女「…弟?」
弟「…ごほっ」
ビチャ
少女「…え」
少女(なに、これ。赤いの…)
少女「お…とう、と」
弟「…がはっ…」
少女「…っ!」バッ
少女(体中に赤い斑点…!まさか、こんな大きい発作が…!何年も来てなかったのに!)
弟「ごほっ、ぐ、ううっ…!」
少女「弟、大丈夫!体に力入れないで。いいよ、咳我慢しないで!」
少女(ど、どうしよう。どうしよう…!とりあえず、発作時の薬っ…)
少女「弟、これ!飲んでっ」
弟「…っ。ぐ…」
少女「吐き出しちゃだめ!飲みなさい!」
弟「がはっ…!」
ビチャ
少女「……!」
弟「おねえ、ちゃ…。くる、し…」
少女「大丈夫…!大丈夫だからっ」ギュ
少女(薬じゃだめだ…!病院、行かなきゃ…)バッ
少女「弟、すぐ治してあげるからっ」
バタン!
少女「はぁ、はっ」タタタ
弟「…」
少女(…冷たい)
少女(お願い、死なないで。お願い。一人にしないで)
少女「はあ、はあっ…!」
……
…
医師「かなり、まずいですね」
少女「…」
医師「吐血と斑点は、かなりの重症であるしるしです。入院しましょう」
少女「弟は…」
医師「今は一時的に薬で良くなってはいます。けれど、ここまでとは」
医師「…最近激しく体力を消耗することはありましたか?」
少女「…、はい」
医師「うーん…」ガリ
医師「そろそろ、根本的な治療が必要ですね。彼も成長期ですし…」
少女「それって、ここでですか」
医師「いいえ。街の大きな病院でないと駄目でしょうね。紹介状を書きます」
少女「…」
医師「つかぬことを聞きますが、お金の工面はできますか?」
少女「…大丈夫、です」
医師「そうですか。では、とりあえずここに一週間入院。その後に、街に移しましょう」
少女「…お願いします」
少女「…」
少女(お金、どうしよう)
少女(…もう、やだ)
少女(どうしてこんなに、辛い思いばっかり)
少女(…神様…)
少女「…はは」フラ
少女「…」
少女(色町の明かり…。綺麗、だな)
少女「…そっか」
少女(そうだよ)
少女「…私、はは。…馬鹿だなぁ」
少女(…最初から、こうすればよかったんだ)
少女「…」フラ
……
…
男娼「はい、詰み」パチン
店主「…げ」
男娼「よっわいね、ほんと」
店主「うーん…。もう一回。もう一回だ」ジャラ
男娼「はあ?もうやだよ。疲れた」
店主「そんなこと言うなって!なあー!」
男娼「…はぁ…」
ジャリ
男娼「…ん」
男娼(あれ、あの女)
「…」フラ
男娼(…何やってんだ、あいつ。こんな夜中に)
店主「よっしゃ、今度は何賭ける?俺は…」
男娼「ごめん、散歩してくる」
店主「は?」
男娼「…」ダッ
店主「おいちょ、男娼!?」
男娼「はぁ、はぁ」
男娼(やばい、見失った)
男娼(気のせい、だったのか?いや。絶対違う)
男娼(…なんで、こんな所に)
男娼(勘が当たってるなら、きっとあいつは…)
男娼(街道での個人の身売りは禁止、だもんな。だとしたら裏道か)ダッ
男娼「はぁ、はあ」タタ
……
…
ポツ
少女(…あ)
ポツ ポツ
少女(雨だ)
サアア…
少女「…」
「おにいさん、遊んでいかない?」
「いいじゃないの、ねぇ~」
少女(…吐き気、する)
「…おい」
少女「…は」
男「あんた、いくらだ」
少女「…」ス
男「それくらいでいいのか?」
少女「…」コクン
男「分かった。買おう」グイ
少女(…待ってて、弟。姉ちゃんが、あんたを助けるから)
「…いやいや、それちょっと安すぎじゃない?」
少女「…え」
男娼「安いでしょー。それじゃ鉄砲女郎と変わんないじゃん」
男「なんだ?おめぇ」
男娼「通りすがりの色男ですが」
男「はぁ?」
男娼「ちょっとおじさん、これ正規の値段から随分と外れてるでしょ」
男娼「むらむらすんのは分かるけどさあ、ちゃんと相応のお金は用意して色町においでよ。遊びのやり方、もっかい勉強してきな」
少女「…」
男「な、てめっ…」
男娼「僕、3倍出すけど」
男「はぁあ!?」
男娼「その値段の3倍であんたを買う。あっち行って、ほら」
男「ああ!?てめえさっきからデカい口…」
男娼「あんたは別の女で済ませなよ。ケチ助平」
「…なにー?喧嘩ー?」
「あはは、女郎巡ってんのか?」
クスクス
男「…ちっ」
男「…はん、いいぜ。そんな汚い女くれてやる」
男娼「…」ギロ
男「…っ」ジリ
男娼「行くよ、ほら」
少女「…」
男娼「あーあー。恰好わるいのー」クスクス
男娼「いるんだよねえ、ああいう遊び分かってない無粋な変態がさあ」
少女「…」
男娼「…君、びしょ濡れだね」
少女「…」
男娼「服もヨレてるし、髪もぼさぼさだし。よく買われたもんだ」
少女「…邪魔、しないでよ」
男娼「邪魔?」
少女「折角、お客がついたのに。…邪魔しないで」
男娼「は?何言ってんの?客は僕に変更になったんですけど?」
男娼「ほら、お金。僕が君を買った。分かる?」スッ
少女「…っ」ギッ
少女「馬鹿にしないでよ!何であんたに…っ」
男娼「…はっ」
男娼「小娘が大した覚悟もないのに、身売りしてどうすんの?」
少女「覚悟なら、ある!」
男娼「じゃあ客選べる身分でもないだろ。偉そうな口叩くな、素人が」
少女「…っ」
男娼「もう、濡れちゃうから早く行こう。めんどい」グイ
店主「はい、では良い夜を」
女「ねえ店主さん、男娼は今日入ってないのぉ?」
店主「悪いね、あいつ今日は風邪でして…」
男娼「ただいまー」
店主「」ブホ
女「あっ、男娼っ…!…て、え」
男娼「やっぱ今日働く。お客さんついた」
少女「やめろ、離せ!変態!死ねぇええ!!」
店主「…」パチクリ
男娼「暴れるなって。もう諦めなよー」
少女「やだ!帰る!やだああ!」
店主「お、おい。お前」
男娼「はいこれお金。彼女が今日はお客さんだから。じゃ、そういうことで」ヒョイ
少女「やあああああ!店主、さん!助けっ…!」
店主「楽しい夜を~」ヒラヒラ
少女「……!!」
店主「…あの子案外羽振りいいんだな」ホクホク
女「い、嫌がってるように見えたけど?」
店主「そういう…そういう性癖なんじゃない?」ホクホク
女「…」
男娼「はい、入って」ググググ
少女「やだ。絶対、やだ!」ググググ
男娼「分かってないなあ、君。僕は君を買ったんだよ。高額で、しかもここの座敷代まで払って」ググググ
少女「あんただけは嫌!ぜっっったい!!」ググググ
男娼「だーかーら、客を選べない隠した娼婦が大きい口叩くな。おらっ」ブン
少女「や、うわっ…!」ドサ
バタン
少女「……っ」
男娼「はあ、疲れた」
少女「…死ねっ…」
男娼「とりあえずお風呂入ろう。君を担いで来て汗かいたし。君は君でびしょぬれだし」
少女「嫌」
男娼「拒否権ないよ。契約成立したもん」
男娼「ほらほら、洗ってあげるから怖い顔しないの」
少女「触らないでよっ!」バシ
男娼「えーどうして。僕がここまで積極的にしてやってるのに」
少女「…っ」ジリ
男娼「…はぁ。そんなに僕が嫌いなの?傷つくんだけど」
少女「…」ジリ
男娼「分かった。お風呂は君一人で使っていいよ。僕は体拭くだけで良い」
少女「…い、嫌」
男娼「どろどろで座敷汚されるのも嫌なの!はよ行け!」
少女「…っ」
男娼「何もしない。絶対。神に誓って」
少女「…」カチャ
男娼「ごゆっくり」
バタン
男娼「…はぁ」
少女(…くそ)
少女(何でこんなことに)
少女(あいつだけは、本当に無理。知り合いだし、性格最悪だし)
少女(知らない人だったら、きっと割り切れてたのに…)
ザバ
少女(…)
少女(選ぶ権利なんかないか)
少女(…モノみたいだな、娼婦って)
少女(…)
少女(あいつも?)
少女「……」
少女(…あ)
少女(…手、震えてる)
少女(ああ、そっか)
少女(あの男の人に声、かけられたとき)
少女(…本当は、めちゃくちゃ怖かったんだ)
少女「…」
男娼「早かったね」
少女「な、なんで上、着てないんですか」
男娼「君が風呂場を占領してたせいなんですけど」ゴシ
少女「…すみません」
男娼「あはは。なんか、落ち着いたみたいだね」
少女「…」
男娼「よいしょ」パサ
男娼「はぁ、すっきりした」
少女「…」
男娼「何つったってんの?こっち来なよ」
少女「…は、あ」
男娼「座って」
少女「…」スト
男娼「…それ、似合ってるね」
少女「は?」
男娼「その夜着。店のなんだけど、大きさもあってるし。似合ってる」
少女「…」
男娼「なにその顔」
少女「なんでもないです(よくこんなサラっと恥ずかしいこと言えるよなー…)」
少女(…結構広い部屋なんだな。改めてみると)
少女(…ベッドでか)
少女(…)
男娼「どこ見てるの?」
少女「!い、いえ」
男娼「…んで」
少女「はい」
男娼「あんな所でなにしてたの?」
少女「…」
男娼「いや、意地の悪い質問だね。やってたことは大体想像つくよ、けど」
少女「…あなたに話すことではない、です」
男娼「…」
男娼「弟のこと?」
少女「…」ギュ
男娼「ははあ、図星だね」ニマ
少女「あなたには…関係ありません」
男娼「あるさ」
少女「ど、どうして」
男娼「だって君は僕の身請け人だもの。関係大有りだよ」
少女「あのですね、私はあなたを身請けするつもりは」
男娼「弟がどうかしたの?何かあった?」
少女「…き、聞いてます?」
男娼「その話はまあ置いとこうよ。あのガキどうしちゃったの。発作?」
少女「…」
男娼「まあ、君が僕のことを快く思っていないのは知っているけれど」
男娼「一人で抱え込むよりは、誰でもいいから話す方がいい。幾分楽になる」
男娼「僕ね、君のことがどうしようもなく気になるんだよ」
少女「…ど、どうしてです」
男娼「んー」
男娼「よく分からない。けど、気になる」
少女「はあ…」
男娼「話してくれないかな?」
少女(…掴めない男の人だ。この間までは死ねば良いって思ってたのに)
少女(なんか、友人と喋ってるみたいな感覚にすら陥るんだから)
少女「…」
少女「弟が」
少女「今日家に帰ったら、吐血していました」
男娼「…」
少女「病院に駆け込むと、一命は取り留めたけど、大きな発作だったと言われて」
少女「今までの小康期はそろそろ終わるから、手術が必要だと…言われました」ギュ
男娼「そんなに悪いの、あの子」
少女「遺伝病で…。手術をしないと成人まで生きられないです」
男娼「その手術のお金、どうなのさ」
少女「想定していた額より遥かに高額でした。…貯金なんて、半分にも満たなくて」
男娼「ふうん」
少女「だから、…薬売りなんかより効率的な方法で、お金を稼ごうと思いました」
男娼「へえ」
少女「…以上です」
男娼「なかなか可哀相なお話だったよ。君、絵に描いたような不幸な人生を送ってるんだね」
少女「…」ギッ
男娼「睨まないでよ。ああ、怖い」
男娼「僕も今まで座敷で色んな人間見てきたけどさあ」
男娼「君の生い立ちって、まんま男娼のそれと似ているよね。あはは、僕ら似ているよ」
少女「…」ギュ
男娼「怒っているの?だってそうじゃないか」
男娼「そんな大変なお荷物、捨ててしまえばいいのに。僕みたいに汚い仕事に落ちたいの?」
少女「お荷物なんかじゃありませんっ」
少女「…あなたには分からないでしょうね。弟は、私にとって…」
男娼「…」ボリ
少女「…何なんですか、あなた。人をそんなに馬鹿にしたいの」
少女「さっきから…助けてみたり、慰めてみたり、…けなしてみたり」
男娼「さあ。どうしてだろう」
少女「…お金、いりません」
少女「帰ります」
男娼「待ってよ」
少女「嫌です」スタスタ
男娼「僕に啖呵切ったってどうしようもないじゃないか。お金は。どうするの」
少女「これは私の問題です。あなたには関係ないし、もう関わらないでください」
男娼「連れないことを言うなあ。僕、考えがあるんだけど」
少女「結構です」ガラ
男娼「…」
ガッ
少女「!」ビク
男娼「行かないで」
少女「…い、嫌」
男娼「……」グイ
少女「う、わっ」グラッ
ドサ
少女「い、痛っ…!なにすんのよっ」
男娼「行かないで、って言ってるじゃないか」ギシ
少女「…っ」
少女「ど、退いてよ」
男娼「嫌」ギシ
少女「ひ、人を呼ぶわよ」
男娼「ここは郭だよ?声なんか聞こえないし、聞こえても誰も助けないさ」
少女「やめて。…お願い、離れて」
男娼「なに、怖いの?」
少女「……」ゾワ
男娼「君、たかが男に跨られただけじゃない。…娼婦はもっとすごいことをするんだよ?分かってるの?」
少女「…っ」ブン
男娼「よい、しょ」ドサ
少女「ひ、きゃ……っ!?」
男娼「こうやってさ、何処の誰かも知らない男に」
男娼「…こんな風に、されるんだよ?」サワ
少女「……っ!」
男娼「あれ、泣いてる」クス
少女「嫌。…やめて…」
男娼「あはは、君、可愛いなあ」
少女(…声が、でない)
少女(思いっきり叫びたいのに、暴れたいのに、動けない)
少女(…嫌だ。誰か…)
男娼「…ふっ」
少女「!」ビク
男娼「ねえねえ、耳くすぐったい?…それともふーってされて、きもちいい?」クスクス
少女「…」
男娼「君、すっごく温かいね。…それに、やわらかい」ギュ
少女「…ひっ」
男娼「良い匂い。…綺麗な匂いがする。汚れてない、綺麗な」
少女「や、だ。おねが…」
男娼「お客がみーんな、君みたいな人だったらいいのに」スリ
男娼「そしたら僕、汚れないでいられるだろうね。…ね、そう思わない?」
少女(…何、言って)
男娼「…羨ましい」
少女「…え」
男娼「うらやま、しい…」ギシ
少女「…!」
少女「な、何」
男娼「…」モゾ
少女「……い、や。嫌っ…」
男娼「なんて」
男娼「ねー」パッ
少女「…え?」
男娼「あはは、びっくりした?君、予想以上にウブだったんだね」
少女「…」
男娼「まさかキスもしたことない?その歳で?あはは、子どもみたいだ」
少女「…」
男娼「悪かったよ。ちょっとからかいたくなっただけー」
少女「あ、…」
男娼「何。続きしてほしいの?」
少女「そんなわけないでしょ!」バン
男娼「おお、復活した」
少女(なんっっだこいつ!!ふざけんな!)カァ
男娼「まあまあ怒らないで。君が話を聞かないでどこか行こうとするのがいけない」
少女「…っ」
男娼「話ってはね、こういうこと」ガサ
少女(…なにこれ。箱?)
男娼「僕さあ、お金の管理とかめんどうで全部こうやってベッド下につっこんでんだよね」パカ
少女「!?」
男娼「幾ら位あるかなあ…」
少女(なな、何だこの大量の紙幣は…。こんなの、見たことない)クラ
男娼「…ん。結構ある」ポフ
少女「…」ポカーン
男娼「はい」
少女「は?」
男娼「これ」ズイ
少女「…」
少女「え、何?」
男娼「鈍いなあ君。あげる、って言ってるの。これで手術させなよ」
少女「…」
少女「ええええええええええ!?」
男娼「良い反応だ。あはは」クスクス
少女「だ、駄目です。絶対、こんな大金!受け取れません!」
男娼「じゃあどうすんの?死ぬよ、弟くん」
少女「…っ」
男娼「それに誰がタダでなんて言った?君には代わりにしてもらうことがあるよ」
少女「え…」
男娼「君はどうも他人に恩を売られることが嫌いなようだからね。条件付きなら、悩まないでいいだろ」
少女「で、も」
男娼「言っておくけど、娼婦で稼ごうなんて甘い考え捨てた方がいい。君の体が壊れる」
少女「…」
男娼「分かってる?君にはこれしかないの。…僕に頼るしかないんだよ」
男娼「…僕しか、いないの」ニコ
少女「…」ギュ
少女「…わ、私」
男娼「うん?」
少女「何を…したら。そのお金、くれるんですか…」ギュウ
男娼「…」クス
男娼「逆に、何ならしてくれるのかな?」
少女「それ、は」
男娼「君は僕に何をしてくれるの?」
少女「…」
少女(弟が、助かるなら)
少女「何でもします。…私にできること、全部」
男娼「…へえ」
男娼「そう。君、弟思いなんだね。本当に」
少女「…」
男娼「君はお金で今まで散々見下してた男娼に買収されちゃったわけだ」
男娼「あはは、なんだかちょっとぞくぞくするね。気分がいいかも」
少女「…」
男娼「ねえ、悔しい?お金で自分の未来が買われるのって、どんな気持ち?」
少女「…っ」
少女「…私は、弟のためなら、なんでもできます。悔しくなんかありません」
男娼「…」
少女「だから…。どうぞ、好きなように言ってくれて構いません。私は、何とも思いませんから」
男娼「君、綺麗だね」
少女「…は?」
男娼「なんでもない」
男娼「んじゃ、契約成立ってことね。はいどうぞ」ポイ
少女「う、わっ」ズシ
男娼「君に貸した額は大きい。その分、君は僕の言うことを聞いてくれるんだね?」
少女「は、はい」
男娼「…分かった。じゃあこれからは毎日楼に来て。いい?」
少女「分かり、ました」
男娼「ふふ。いい子」
男娼「じゃ、早く弟のところに行ってあげなよ。心配でしょ?」
少女「…」コク
男娼「ばいばい。また明日」ヒラヒラ
少女「…あ、あの」
男娼「ん?」
少女「本当に、ありがとうございます。あなたは私と弟の恩人です」ペコ
男娼「…」
少女「…さようなら」
バタン
男娼「…はあ」
男娼「変な子」ボフ
男娼「…」ポリポリ
男娼(さて、どう扱ってやろうかな)
男娼「…ふふ」
医者「…は?転院?」
少女「はい。今すぐ。首都の病院に移送してください」
医者「それは可能ですが、お金かかりますよ」
少女「…これで」
医者「…」パチパチ
少女「お願いします。弟を助けてください」
医者「わ、分かりました。…ええと、手術も行っていいんですね?」
少女「はい。必要な治療、全部してください」
医者「はい。では今日当たりに移送しますが…付き添いますか?」
少女「…いえ。私は、ここに残ります」
医者「そうですか。準備をしてきますので、良ければ弟さんとお話してきてください」
少女「はい。ありがとうございます」ペコ
バタン
少女「…ふー」
少女(やっちまったかな。…いや、でも。弟の命が助かるんなら全然気にならないや)
少女(弟。…頑張ってね。きっとすぐよくなる)
弟「…」
少女「よっ」
弟「あ、ねえちゃん…」
少女(…顔色、悪いな。辛そう)
弟「僕…ごめんなさい。また、具合悪くなっちゃって」
少女「気にしないの。生きてたんだから、セーフよ」
弟「…僕、どうなってるの?」
少女「…大きい発作が起こったの。ちょっと危ないみたい」
弟「…」
少女「でも、大丈夫。私がなんとかするから。あんた、今日から首都の病院に入院ね」
弟「え、で、でも」
少女「手術も受けてもらうわ。これが終わったら、嘘みたいに良くなるんですって」
弟「でも…」
少女「お金なら何も心配しなくていいの!えへへ、がっぽり稼ぐ方法見つけちゃったから」
弟「ほん、と?」
少女「うん。…ただ、首都には私は行けない。あんた一人なの。そこが心配」
弟「僕、大丈夫。平気だよ」
少女「本当?寂しくない?」
弟「うん。男だもん」
少女「…」クス
少女「じゃあ、暫くばいばいだ。お互い頑張ろうね、弟。…いつだって応援してる」
弟「僕も。おねえちゃん、ありがとう」
バタン
少女「…」
少女「大きくなったもんだ」
少女(…本当は、付き添いたいけど)
少女(…いや。贅沢なんか言わない。きっと成功するもん)
看護婦「あ、少女さん、ですよね」
少女「はい?」
看護婦「連絡が入っています。…今すぐ来て、と。差出人は…」
少女「…」
少女「分かりました。ありがとうございます」
看護婦「え?あ、はい…」
少女「…」
少女(負けるもんか)
少女(絶対)
少女「…」
男娼「はい、詰み」パチ
店主「がぁああ…」
少女「あ、の」
男娼「…早かったね。ようこそ」
少女「…」
店主「お?少女ちゃん、今日は呼んでなかった気が…」
男娼「彼女、僕が買ったのさ」ジャラ
男娼「これから毎日僕の召抱えになってくれるんだって」
店主「は?」
男娼「ね、少女?」
少女「…はい」
店主「おいおい、どういうことだ」
男娼「まあ君に話すことじゃないさ。失礼するよ」
店主「…?」
男娼「おいで」
少女「…はい」
店主「…何なんだ、おい?」
バタン
少女「…」
男娼「弟、どうなった?」
少女「今日の昼に、首都の病院に移されることになりました」
男娼「へえ。良かったじゃないか。もう安心だね」
少女「はい」
男娼「…」
ムニ
少女「ひ、たっ!?」
男娼「君さっきから辛気臭い顔をしてるなあ。こっちまでげんなりしちゃうよ」グイ
少女「ごめん、なさっ。やめれくらはい!」
男娼「いつもどおりの顔してくんない?あの取り澄ました顔。僕、君のそういうのが好みだ」
少女「…こ、こうですか」
男娼「うん。そうそう」ニコ
少女「…で、私は何をすれば」
男娼「うーん、そうだなー」
男娼「…なんだろ」
少女(…え、考え込んでる?)
男娼「あはは、勢いで言っちゃったから具体的に何をさせるか考えてなかった。どうしよう」
少女「え」
男娼「とにかく君を手に入れたかったわけだからなー。うーん」
少女「…」
男娼「あ、じゃあまず着替えてもらおうかな。そのほうが僕の召抱えってかんじがするし」
少女「はあ」
男娼「…これ、かな」ピタ
少女「…」
男娼「うーん、色がイマイチ。こっちか」ピタ
少女「あの」
男娼「うん?」
少女「私、どうしてこんな高級な服屋さんにいるんでしょうか」
男娼「だから、君の服を選びに来たんじゃない。…あー、これも駄目だ」
少女「悪いです。…こんなの」
男娼「何言ってるの?これ僕が好きでやってることだから。口答えしないで」
男娼「…うん、これがいい」
少女(なんだこの生地は…。つやつやしてる)
男娼「試着室で着て出てきなね。僕もう会計しとくから」スタスタ
少女「は、はい…」
……
…
少女「…」
男娼「君、白が似合うね。やっぱり」
少女(…どこかのお嬢様が着る服だろうか。値段聞きたくもない)
男娼「えーと、次はー…」
男娼「そうだ、ご飯。お腹空いたし」グイ
少女「え、ちょ」
少女「……」ゲソ
男娼「結構美味しかったねー。僕、普段はあんな下品に脂のった肉は食べないけど」
少女「は、あ」
男娼「君、お肉嫌いだった?」
少女「いえ。大好きですけど」
男娼「それなら良かった。もう食べなくていい?」
少女「だ、大丈夫ですっ。十分ですっ」
男娼「そう。じゃあ、次はー…」
少女「あの」
男娼「なに」
少女「これ、何か違う気がします」
男娼「何が」
少女「私、あなたに色々奢らせてるみたいじゃないですか?私はあなたの召抱えなんですよね」
男娼「うん、そうだね」
少女「だったらこう、何か命令とかするんじゃないですか」
男娼「命令?僕はただ、言うことを聞けって言っただけだけど」
少女「…」
男娼「君は逆らわずそれを聞けばいいんだって」
少女(何かおかしい)
男娼「…ね、君何か欲しいものはあるの?」
少女(絶対おかしい)
男娼「ねえってば。あ、この髪飾り可愛い。買おう」
少女(こいつは頭がおかしい)
男娼「君手入れすれば美人じゃないか。あはは、人形みたいだよ」
少女(…)
男娼「ねえ、さっきから何をぼうっとしてるの?」
少女「い、いえ」
男娼「…ふうん。まさか、弟のこと考えてた?」
少女「え」
男娼「やめてよね、それ。今、僕の抱えなんでしょ、君は」
男娼「だったら余計なこと考えないで。僕に集中してくれない?」
少女「…はい…(違うんだけど)」
男娼「分かったんならいいよ」ニコ
男娼「あー、楽しかったー」ノビ
少女「…」
男娼「ね、こういうの何ていうか知ってる?」
少女「はい?」
男娼「想い合ってる男女が一緒に行動するんだよ。でーと、って言うんだよ」
少女「デート…って」
男娼「そうでしょ?」ニコ
少女(…確実に違う。けど、否定したらなんか怖い)
少女「そうですね。デートですね」
男娼「ふふ。まあ、一日中ってわけにはいかないけど。仕事あるし」ギュ
少女「!」
男娼「デートでは、手を握るものでしょ?これで帰ろう」
少女「…」
男娼「ちゃんと握って」
少女「わ、分かりました」キュ
少女(…夕方だ)
男娼「…」
少女(夕日の中にお風呂上りの遊女、早くに来る客、それから…)
少女(…なんか、この風景も悪くない、気がする)
男娼「ねえ」
少女「はい」
男娼「君はこの景色、どう思う」
少女「色町の、ですか…。他の町と変わりなく、良いものだと思いますけど」
男娼「そう」
少女「男娼さんは…どう思いますか」
男娼「汚い」
少女「…」
男娼「ヘドが出そう。ここは檻だ。人も景色も汚いよ。…勿論僕も」ギュ
少女「…どうして」
男娼「ん」
少女「笑いながら、そんなことが言えるんですか」
男娼「あは、笑ってた?やっぱり?」
少女「この町、嫌いですか」
男娼「僕はここに売られたんだよ?好きになれると思う?」
少女「い、いいえ」
男娼「…君を初めて見たときも、夕方だった気がするな」
少女「そう、でしたっけ」
男娼「うん。薬の訪問販売に来たんだ。ちっちゃいのに大きな薬箱抱えてさ」
男娼「二階から見てても笑えたね。なんか滑稽で」
少女「う…」
男娼「でもなんか、君だけが綺麗に見えたんだよね」ボソ
少女「…ど、どういうことですか」
男娼「わかんない。けど、僕を買う客でも、身を売る奴らとも、確実に違う空気を持ってた」
少女「…」
男娼「この子は懸命に生きてるんだなー、って思った」
少女「そう、ですか」
男娼「その時、この子に身請けしてもらおうって考え始めたんだ」
少女「…そこだけは、謎なんですけど」
男娼「僕も。良くわかんない」
少女「はあ…」
男娼「…あ、もう着いちゃった」
少女「あ、本当だ」
少女「あの、私は」
男娼「ねえねえ店主ー」
店主「あ、お前何処行ってたんだよ!もう店準備始めるぞ!」
男娼「無粋なこと聞くなよ。ね、二階に一つ使ってなかった部屋あったよね?そこ借りていい?」
店主「ああ?好きにしろよ。だから早く準備しろっ。今日こそ働いてもらうぞ」
男娼「はいはーい」
少女「…」
男娼「二階にさ、空き部屋があるんだ。白い扉の部屋。そこで寝泊りして」
少女「え、は?」
男娼「家から通うのも面倒でしょ。そうしなよ」
少女「いえ、でも」
男娼「え?拒否しちゃう?」
少女「…」ブンブン
男娼「じゃあ僕仕事の準備するから。じゃあね」ヒラヒラ
少女「…」
少女(マジか…)
少女(…私がいてもいいんだろうか、そもそも)
「おーい、俺の白粉どこだよ」
「帯誰か貸せよー」
少女(…へえ。男娼ってこんな風なんだ、普段)
少女(普通の男の人とそんなに変わんないのね)
少女「…」ウズウズ
少女(外に出るな、とは言われてないもんね)カチャ
少女「…」
見習い「あっ、そこどいてくださいね」トテ
少女「あ、ごめんっ」
少女(…あんな小さい子まで働いてるの?何か、凹む…)
少女(…うわ。なんだ、きらきらしてる。…いい男ばっかり)
182 : 名無しさ... - 2015/05/24 19:24:18 HYZ 111/322あれ?ひょっとして和風な世界観?
>>182和洋折衷ってかんじ?そこらへんは良く考えてないよ。想像にお任せします
少女「…」
店主「おいおめーら、早く準備しろっ。客入るぞ」
少女「…」キョロキョロ
「…ちょっと、そこの子」
少女「は、はいっ」ビク
青年「あなた見ない顔ね。…何なの?厨房の子?」
少女「い、いえ。私、は」
青年「そもそも店主、女の子を雇う主義じゃなかったけれど」ジロジロ
少女(な、なんだこの人。女の人、みたいな恰好してるけど。…男、だよね)
青年「まあいいわ。暇ならちょっとこっち手伝ってくれないかしら」
少女「え、えっと」
青年「早く。忙しいのよ、こっちは」グイ
少女「え、え、え」
青年「うちの坊やがねー、私の今日の衣装に水こぼしやがったのよー」
青年「私身支度しなきゃいけないし、あなた乾かしておいてくれない?」
少女(えええええ)
青年「はい、これ」ドサドサ
少女「…」
青年「はい、早く早く。私お茶引きになっちゃうわ」
少女(おちゃびき?なんだそりゃ)
少女(あーあ、皺もついちゃってる。大変だ)
青年「ふんふーん」
少女(…男の人でもお化粧するんだ。しなくても十分恰好いいのに)
少女(あいつもするのかな。なんか笑える)
青年「何にやにやしてんの?終わったのっ」
少女「は、はい只今っ」
……
…
青年「あら、綺麗になるもんね。卸したてみたいだわ」
少女「ど、どうも」
青年「ありがと。これお駄賃にあげるわ」ポン
少女「…あ、ありがとうございます。(あ、飴…)」
青年「あなたまさか新参の男娼見習い?服が女っぽいけど、私と同じ路線?」
少女「はっ!?」
少女「わ、私女ですけど」
青年「あらそう。ごめんなさいね、間違えちゃった」ケラケラ
少女(…か、髪が短めだから間違えたんだよな。そうだろうな)ドキドキ
青年「まあ、ここでのお仕事は大変だろうけど頑張ってね」
少女「は、はあ」ペコ
青年「あ、私青年って言うの。ここの楼の一番の売れっ子なのよー」
少女「え、あなたが」
青年「そ。じゃあね」
バタン
少女「…あ、あれが一番?」
少女(いや、確かに背も高くてスタイル良くて色っぽいけど。…女っぽくないか?)
少女(…あいつ、青年さんに負けてるのかぁ…)ニヤ
少女「…くす」
少女(そうね。なんだか可愛げのない性格だし、とっつきにくいもの)クスクス
青年「ふんふーん」トタトタ
店主「青年、遅い」
青年「まあ、いいじゃないの~。間に合ってるんだし。よいしょ」
男娼「…」
青年「あらぁ、男娼ちゃん今晩は。今日も一番に来てるのね」
男娼「どうも」
青年「今日は寒いわね、お互いお茶引きにならないよう頑張りましょうねー」
男娼「…」ペコ
青年「…ところで」
青年「店主さん、さっき女の子が廊下うろうろしてたけど、何?雇ったの?」
店主「いんやぁ。ありゃ、あいつのだよ」
男娼「…」
青年「は?…どうゆうこと」
男娼「…確かに。僕のです」
青年「情婦、ってこと?あなたそういう柄だったかしら」
男娼「…彼女は」
店主「いらっしゃいませー!ほら、無駄話やめろ」
男娼「…」
少女「…」
少女(暇)
少女(店が開店したのか、人の声が多くなったけど)
少女(…お、音とか漏れないだろうな。気が気じゃないぞ)
ガチャ
少女「!?」ビク
見習い「…」ソォ
少女(…え、さっきの男の子だ)
見習い「あ、あのっ」
少女「は、はい?」
見習い「あなたが、少女さん、ですか?」
少女「う、うん」
見習い「…男娼さんから、あなたのお部屋にこれを届けるよう、言われました」ズイ
少女「あ、ありがとう(ご飯、か。そういえば食べてないな)」
見習い「…」ジー
少女「えと」
少女「そうだ。これ、あげる」
見習い「…あめ。…い、いいんですか?」
少女「うん。(青年さん、なんかごめん)どうぞ」ニコ
見習い「…」
見習い「…」カァ
少女「えっと、外どうなってるの?」
見習い「あ、もう店が開いてます。お客さんも座敷に入り始めました」
少女「そ、う」
少女「じゃあ外には出れないね。私今、暇してるんだ」
見習い「…ぼ、僕もです」モジ
少女「一緒にいてもらっていいかな?ちょっと居心地悪くて不安なんだ」
見習い「!」パァア
少女「私、少女。君は?」
見習い「み、見習いですっ」
少女(…かわいいなー。背格好は弟と同じくらいか)
見習い「…」ジー
少女「…ど、どうしたの」
見習い「少女さんは…何者なんですか?」
少女「何者も何も…えーっと」
少女(確かにこの店の人たちからしたら、不思議な立ち位置だね)
見習い「…男娼さんの、恋人って本当ですか?」
少女「こっ…いや、違う。違うから」
見習い「え、じゃあどうしてこんな所に囲われてるんですか?」
少女「囲われてる、って…。これには色々事情があるのよ」
見習い「…じじょう?」
少女「話せば長くなるんだけど…」
見習い「へぇー…。いいお姉さんですね」
少女「いや、情けない限りだと思う」
見習い「僕たちの店も、お客さん以外の人の出入りが少なくて」
見習い「昼にたまに来るあなたが、結構話題だったんです」
少女「え、そうなの?」
見習い「はい。だから男娼さんがこの部屋に入れちゃったときも、結構騒ぎになっちゃって」
少女「…なんか、恥ずかしい、けど」
見習い「けど、何だか男娼さんらしくないや」
少女「何が?」
見習い「あの人、あんまり人に固執しないんです。割り切ってるみたいで」
見習い「こうまでしてあなたを傍に置いておきたかったのかな、って」
少女「…それが疑問なんだ」
少女「何で私もあんなにあの人が絡んでくるのかがわかんないのよ」
見習い「さあ…」
少女「…男娼って」
少女「どんな人?」
見習い「え、っと…。お客さんは凄く多くて、憧れの先輩です」
見習い「けど、何だか…。あんまり周りの人と仲良くしないですね」
少女「…分かる」
見習い「たまに、すごく怖い雰囲気出してる時があるんです」
見習い「そういうときは、あんまり近づきたくないかな、なんて」
少女「そうなんだ」
見習い「け、けど。あの人本当に、仕事はものすごく上手なんですよ」
少女「…」
少女「あなたは、ここに何年いるの?」
見習い「僕ですか。2年ちょっとです。まだ全然ひよっこで」
少女(…この子も、男娼になるんだ。こんなあどけない子が)
少女(何があったんだろう、この店の人たちは。…誰にも、守られてこなかったのかな)
見習い「少女、さん?」
少女(…私、何か失礼なこと考えてたのかな、彼らに)
見習い「…あのぉ」
少女「なんでもない。…ね、札遊びしない?私、持ってるから」
見習い「…はい!」
青年「あらぁ、お姉さま~。また来てくださったの。嬉しい」
男娼「…」
新人「今日男娼さん、不調っすね」ボソ
店主「今日はなんかぴりぴりしてるもんなー…」
「…あの、彼を」
店主「はい、かしこまりました」
新人「げ、言ってる傍からかよ」
店主「男娼!お連れしなさい」
男娼「かしこまりました」スッ
店主「…お前、気合入れろよ」ボソ
男娼「分かってるよ」
店主「…」
新人「ああ、早くお客さんつかないかな…」
少女「…」
見習い「すぅ、すぅ…」
少女「…ん」ムク
少女「ふぁ…」
少女(あ、…。何時の間に寝てたんだろ)
見習い「…」スゥ
少女「よいしょ、と」パサ
少女(…やっぱ可愛い)ポンポン
少女「…」
少女(…静か、になった気がする)
少女(…もう真夜中だもんね。えーっと、そういうコトはもう終わって寝てるのかな)
少女(…お皿、片付けにいこうかな)カチャ
キィ
少女(音、立てないようにしなきゃ)ソロ
少女(…店先も誰もいない。やっぱ、皆寝て…)
ギシ
少女「…」ビク
「…あっ」
少女「……」
「ん、っ…!」
少女「………」
少女(ひ、冷や汗が、出る)ドキドキドキドキ
「ああっ…!」
ギシ ギシ
少女(そ、外でなきゃ良かった!盗み聞きしたみたいじゃん!か、帰ろう!)クル
少女「…あ」
少女(音がする方、男娼の部屋だ)
少女「…」
「は、あっ…。男娼っ…」
ギシ
少女(…なに、やってんの)
少女(なんで、部屋に帰らないのよ)
少女(なんで…男娼の部屋の方に行くの、私は)
少女「…」ソッ
「…なに。もうお終いなの?」
「もう、やっ…」
「もっとしてって言ったのは、そっちのほうじゃない」
少女「……」
少女「…」
少女「…」
少女(あの人は)
少女(どういう気持ちで)
少女(毎晩毎晩…)
「…っ、ぁああっ…!」
少女「!」ビクッ
少女(な、何やってんだ、私は。馬鹿みたい…)クル
少女(そう、皿。皿返しに来たんだった)タタ
……
…
少女(やっぱ、厨房にも誰もいないのね)カチャ
少女「…はぁあ…」
少女「ここで寝泊りとか…無理だろ…神経減るわ…」グタ
少女「もうこの空気感に慣れないもん…。無駄に緊張するし…」
少女「…あー」ワシャ
少女「寝よ、もう。…はあ」ヨロ
少女(…明日どういう顔して男娼に会えばいいのかな)
少女「…」ソロ
少女(…あ、れ)
少女(…私の部屋の扉、開いてる?)
少女(…ちゃんと閉めたと思ったんだけどなー)キィ
少女「…え。暗…」
ガッ
少女「!!」
「どこ行ってたの」
少女「なっ、なにっ…!」
「どこに行ってたの、って。聞いてるんだけど」
ドサ
少女「だ、誰!?やめて、離して!」
「…どこに、行ってた」
少女(…っ、カーテン、開け…!)シャッ
男娼「…」
少女「だ、男娼、さん…」
男娼「うん」
少女「び、びっくりしたぁ…。な、何やってるんですか。離してください」バッ
男娼「何処行ってたのさ」
少女「お、お皿を返しに行ってたんです。それより、あなたこそどうしてここに」
男娼「…」
少女「あれ。見習い君は?」
男娼「部屋に返したよ」
少女「そう、ですか。…で、何かご用ですか」
男娼「仕事終わったから。君に会いに来ようと思って」
少女「…お客さんのところいなくていいんですか」
男娼「いいよ、別に。寝てるし」
少女「はあ…」
男娼「こっち来て」
少女「…」
男娼「抱いて」
少女「…」
男娼「目で抗議するの、やめてくんない?」
少女「あ、のですね。お仕事で疲れてるだろうし、寝たほうが」
男娼「抱いて」
少女「…」
男娼「…あ、そっちの意味じゃなくて。抱きしめて、ってこと」
少女「ああ、そっちですか…」
少女「って、えーと」
男娼「早くして」
少女「…は、は…い」
少女「…こう、ですか」キュ
男娼「ううん」
少女「…」
男娼「君、弟を抱きしめることくらいするでしょ。あんな風にしてよ」
少女「ど、どうして急に」
男娼「ちゃんと頭に腕を回して。ぎゅう、ってしてよ」
少女「…」
男娼「早く…」
少女「…」ギュ
男娼「…はぁ…」
少女(何この状況…。や、やだ)
男娼「…もっと、ぎゅってしてよ…」
少女「は、はい」ギュ
男娼「…君、あったかい」
少女「…」
男娼「…」
少女「男娼、さん?」
男娼「…このまま、抱きしめててよ。…寝てたって構わないからさ。僕のこと、離さないで」
少女「…」
男娼「…」
少女(…子どもみたいな顔、するんだな)
男娼「…少女ぉ」
少女「はい」
男娼「……離れないで」
少女「…はい」
……
…
少女「…」
少女「…ん」ゴロ
少女(朝、か)
少女(…って、何だ。あれから記憶がない。まさかあの状況で爆睡したの!?)バッ
少女「…」
少女「な、何もない、よね」
少女「…男娼、何時の間に帰ったんだろう」キィ
男娼「あ」
少女「え」
男娼「今起こしに行こうと思ってた。君、寝すぎだよ」
少女「す、すみません」
男娼「全く。しかも身支度もしないまま外に出てるし。それでも女?」
少女「…」
男娼「朝ごはんだから。下に下りてきて。ちゃんと着替えてよ」
少女「はい」
男娼「じゃ」スタスタ
少女(…昨日のことには触れない、のね)
男娼「…」ピタ
男娼「君さ、男の前で無防備に寝ないほうがいいよ」
男娼「…何かあったら、どうするのさ」ニヤ
少女「…」
男娼「危機感なさすぎなんじゃない?びっくりしたよ」
少女「ご、ごめんなさい」
男娼「いきなり目を閉じたと思ったら寝息たてるんだもん。何か萎えた」
少女「なっ…」
男娼「あと」
男娼「…見習いと一緒に寝ないで」
少女「え」
男娼「寝ないで」
少女「は、はい」
男娼「じゃ」スタスタ
少女「…」
少女(何、なんだ。朝から)ムカ
少女(……昨日の、一体)
少女「…」
少女「ま、いいか」
少女(…朝ごはん、下でって)
少女(私男娼と混じってご飯食べるの?いいの?)
キィ
少女「…」ヒョコ
見習い「あ、少女さん」
少女「おはよう、見習いくん」
見習い「朝ごはんもうすぐですよっ。こっち、どうぞ」
少女「あ、うん…(男娼は…どこだろ)」
少女「皆こうやって集まって朝ごはん食べるの?」
見習い「ええ。朝はたいていこうですよ」
少女「へえ…。なんか、圧巻」
少女(一生にこれ以上の美男の群れを見ることはないだろうな)パチパチ
見習い「あ、すみません。こっちは僕のお師匠に空けてるんで、こっちに座ってください」
少女「え、お師匠?」
見習い「はい。僕、まだ店にあげられない新参小僧なんで。…色々教えてくれる先輩につくんですよ」
少女「へえ」
見習い「普段はお師匠のお世話したり、お稽古を受けてるんです」
少女「ふうん…。そういう手順なのね」
見習い「あ、お師匠だ!」
青年「ふぁあ…ねっむ…」ボリボリ
少女「あ」
見習い「お師匠、こっちです」
青年「…」
少女「ど、どうも。おはようございます」
青年「やっぱりあなた、男娼だったの?」
少女「ち、違いますよっ。昨日言ったじゃないですかっ」
青年「うふふ、冗談よぉー。何、もう見習いと仲良くなったの?」
見習い「仲良く、なんて…そんな」
少女「はい。色々教えてくれました」
青年「あらそお。まあ、良くしてやって頂戴ね」
見習い「…」モジ
少女「…あの」
青年「なあに?」
少女「男娼さんはどこにいますか?姿が見えないですけど」
青年「ああ、あいつ」
見習い「男娼さんは朝には降りてこないんですよ」
少女「そうなの?」
青年「ええ。野郎の群れでは食欲がそがれるんですって」
少女「…そ、そう」
青年「まあ、こんな待遇が許されるのは売れっ子だからねえ。ここの稼ぎ頭だもの」
少女(…それ、あなたじゃないの?)
少女「いただきます」
青年「いただきまーす」
見習い「いただきますっ」
ザワザワ
少女「…」ムグ
青年「まずい、でしょ」
少女「へ!?い、いえ。そんなことは」
見習い「分かります。僕も最初来た時、びっくりしましたもん」
少女「…ちょっと、うん。なんかしょっぱい、かな」
青年「そおよねえー!味も濃かったり薄かったり散々なのよ」
少女「厨房には、誰が」
青年「まあ下っ端の男娼がかわりがわりでやってるわね。お客に出す料理は基本仕出しなの」ズズ
青年「…うげ。辛い」
少女「そうなんですか…。なんか、大変なんですね」
少女(…夜に仕事するだけじゃないのね)
少女「…ごちそうさまでした」カタ
青年「ばいばい、少女ちゃん。またね~」ヒラヒラ
青年「ほら、早く食べなさい!さっさと稽古はじめるよ!」バシ
見習い「ひゃ、はい!」
少女(男娼…のところ、行くか)カタ
少女「男娼さーん」コンコン
「…どうぞー」
少女「失礼します」カチャ
男娼「ん」
少女「…って、え」
少女「なに、やってるんですか」
男娼「何って、掃除」
少女「…」
少女「そんな大規模な…年末じゃないんですから」
男娼「大規模?そうでもないよ。除菌薬までかけて2時間くらいで終わるしさ」ガサガサ
少女「…ま、まめなんですね」
男娼「そう?」
少女「…手伝いましょうか?」
男娼「んー…。じゃあ、お願いしようかなあ。布団干しておいてくれる?」
少女「はい」
少女「…」
少女(昨日、使った布団、か)
少女(…ここで、…その、仕事したのね)
少女「…よい、しょ」ボフ
男娼「…」ゴシゴシ
少女「…」ポン
少女「あの、男娼さん…」
男娼「…」ゴシゴシ
少女「…」
少女(…ベッドを、執拗に拭いてる…?)
男娼「……」ゴシ
少女「あの、次は何すればいいですか」
男娼「ん。ああ、ごめん。…埃はたいてくれる?」ゴシ
少女「わかりました(潔癖症なのかな)」
少女「…あ」
男娼「どうかした?」
少女「いえ。…この花瓶の花、綺麗だなと思って」
男娼「…ああ」
少女「でもこれ、ちょっとお水が少ないですね。入れましょうか」
男娼「別に、いいよ。どうでも」ゴシ
少女「でも折角綺麗なお花ですし。新鮮にしておきましょう」
男娼「…そうだね」ゴシ
少女「このお花…見ない種類ですね。何処の物ですか?」
男娼「花、好きなの?」
少女「まあ、結構」
男娼「…花屋で、買った」ゴシ
少女「へえー…。最近はこんな色のもあるんですね」
男娼「墓参りの献花のついでに、買ったんだ」
少女「…そうなんですか」
男娼「本当は2束だけ買おうと思ったんだけど。…なんか、1束余計に買っちゃったんだ」
少女「どうしてですか?」
男娼「…」ゴシゴシ
少女(…無口だな、珍しく)
少女「…」キュ
男娼「ありがと。捗ったよ」
少女「いえいえ」
男娼「…着替えるから、ちょっと出てもらっていい?見たいんならそれでいいけど」
少女「失礼します」
バタン
少女「…ふー」ノビ
新人「あ、少女さん」
少女「は、はい」
新人「近くの病院から、文が届いてますよ。どうぞ」
少女「ありがとうございます…」
少女(あ、弟の…ことね)
少女(…よかった。移送は無事出来たのね。手術は再来週、か。そっか)
少女(…退院の日位は、休みをくれるかな)
少女(頼んでみる価値はある、かも…)
男娼「何にやにやしてんのさ」ヒョイ
少女「うわああああああ!?」ビクッ
男娼「気味悪いなあ。何、これは。恋文かなにか?」
少女「い、いきなり取らないでください!返してください!」
男娼「…ああ。病院からのか」
少女「そ、そうですよ。もう、びっくりした…」
男娼「…」
少女「あの、返してください」
男娼「ん」ポン
少女「どうも」
男娼「…君」
少女「はい?」
男娼「呆れるほど弟思いだよね。…気色が悪いくらいだよ」
少女「な…」
男娼「さーて、今日は何しようかなー」ニヤ
少女「……」ムカ
男娼「あ、言っておくけど」
少女「なんですか」
男娼「…僕、君を手放すつもりはないよ。外にだって一人で出て欲しくないんだもの」
少女「…」
男娼「おいで。今日もやってもらうこと、あるから」
少女「は、はあ…」
少女「…」
男娼「ふんふーん」
少女「気になったんですけど」
男娼「なあに?」
少女「ここで働いてる人たちって…昼間は何をしてるんですか?」
男娼「んー、まあ暇だしごろごろしてるのが基本だよ」
少女(羨ましい限りだ)
男娼「けどまあ入りたての新参や見習いは、稽古をするけど。座敷遊びとか、あと…」
男娼「色仕掛けの、お稽古とか」クス
少女「…」
男娼「色仕掛けの…」
少女「二回言わなくていいです。聞こえています」
男娼「君、ほんっとに乾いてるなあ。何だか自信なくしちゃうよ」
少女「…余計なお世話です」ムス
少女「…男娼さんは」
男娼「んー?」
少女「弟子、とかとらないんですか」
男娼「いらない。面倒くさいし」
少女「は、はあ」
男娼「まあたしかに、弟子になりたいって新参は多いけどー」
男娼「弟子なんてお金かかるし邪魔だし、必要ないよね。うん」
少女「でも他の男娼さんにはほとんどいるみたいですけど」
男娼「やだよお。何で僕がわざわざ野郎を侍らせなきゃいけないのさあ」
男娼「…きもちわるい」ボソ
少女「え?」
男娼「やっぱり横にいてきもちいいのは、君みたいな可愛い女の子だよね」
少女「…」
男娼「あれ、赤くなってる」
少女「なってません」
男娼「なってるよ。苺みたい」ツン
少女「や、やめてくださいっ」
男娼「あはは。君からかうと面白いや。お客さんよりずっとウブだし」ケラケラ
少女「~っ…」
男娼「さて、と」
少女(…店先まで出てきた。何するのかな)
男娼「店主ー」
店主「あ?なんだ?今日も打つか」
男娼「やだよ。君恐ろしく弱いもの。外出するね」
店主「またかよ!お前最近多いぞ」
男娼「でーと、だもの。いいじゃない、ケチ」
店主「でーと?」パチパチ
少女「…(ち、違うぞ)」
店主「ああ、…おい、夕方には帰って来いよ」
男娼「はあい。行こう」
少女「は、はい」
……
…
少女「はぁ」ゲソ
少女(また大量の買い物と豪遊…。こいつ、借金とかどうなってんの)
男娼「ああ、気持ちよかったー。買い物ってきもちいいねえ」
少女「…こんなに買ってもらって、良かったんですか」
男娼「だって君の買い物楽しいから」
少女「はあ」
男娼「自分の買い物なんてほとんどしたことなかったんだけどねえ。やっぱ、女の子はいい」
少女「はあ…」
男娼「…と、もう日が落ち始めてる。僕、そろそろ準備しなきゃ」
少女「…」
男娼「何、その顔」
少女「え?…変な顔してましたか」
男娼「うん。なんか、寂しそうな顔してた」
少女「気のせいだと…思いますけど」
男娼「そうかな。僕、女の人以上に女の気持ちは分かるよ」
男娼「君…今、僕に仕事してほしくないって思ったでしょう」
少女「いえ、…いえいえ」ブンブン
男娼「本当ー?」ズイ
少女「は、はい。だって、私なんかがあなたの仕事に口出しなんて…」
男娼「…」
少女「できませんし…」
男娼「ふうん」
少女(え、そっぽ向いちゃう?)
男娼「ただいまー」
店主「てめえ、遅い!早く準備しろ!」
男娼「はいはい、うるさいなー」トントン
少女「あ、あの。私も何かお手伝い…」
男娼「あ、じゃあ部屋で着物準備しといて。ちょっと寄る所あるから」
少女「分かりました」タタタ
カチャ
少女(えーと、着物、着物)
少女(クロゼットの中かな。よいしょ)ギィ
少女(…おう。いっぱいあるけど、どれなのかな)
少女「…」フワ
少女(すごいいい生地。…それに、いいにおいする)
少女(…えーと、どうしよう。…)ゴソ
少女「…ん」
少女(なに、これ。……箱?宝石箱かな。綺麗)
少女「…」
少女「…」キョロキョロ
少女「…」パカ
少女「う、わー」
少女「綺麗…。すごい…」
少女(見たことない装飾品ばっかり。…あ、こっちは煙管?すごーい)
少女「…」
少女(私もお金あったら、こういうの着けてみたいなあ、なんて)
少女(…このピアスとか、可愛い。男でも女でも着けられそう)
少女(…当てるだけ、なら。いいかな)ピト
少女(鏡、は)チラ
少女「…」
少女「ふふ。…あはは」
少女(私になんか、似合わないよねー。こんなきらきらしたぜいたく品)クス
「…何してんの」
少女「!」ビクッ
「何、触ってんの」
少女「あ、男娼、…さん」
少女「ご、ごめんなさい。私…あんまり綺麗だったから」
男娼「…きれい?」
少女「は、はい。違うんです、盗もうとかじゃなくて、ただ触ってみたくて…」
男娼「それ、置いてよ。…今すぐ」
少女「…」コト
男娼「何で…何でこんな」
少女「男娼さん、本当に。…ただ、着けてみたかったんです。勝手に開けてごめんなさい…」
男娼「…」
少女「あ、の。男娼さん…?」
男娼「違う!!」
少女「…っ」ビク
男娼「そうじゃない!そういうことが言いたいんじゃない!」
男娼「何で触った!!何で、こんなものっ」バッ
少女「きゃ…っ!」
男娼「これ、これ…!汚いじゃないか…!何で君が、触っちゃ駄目だ。駄目っ…」ギリ
少女「い、たいっ…!男娼さん、離し…」
男娼「君の手が、君の…。汚れちゃう…!こんな物、触るなよっ!!」
ガシャッ
少女「ひ、っ…」
男娼「…っ」グイ
少女「な、にっ…」
男娼「…」ペロ
少女「…!」
男娼「…ぁ、っ…」チュ
少女「な、何やってるんですかっ!やめて!」
男娼「だって君が!君が、こんな汚い物触るから…!消毒しないと」
少女「嫌、だ…!こんなの!やめてってば!」
男娼「君の手、綺麗じゃないと、…駄目なんだ…。綺麗じゃないと…」
少女「…っ」ゾワ
男娼「あむ、…ちゅっ…」
「男娼ー!まだかよー!店開くぞー」
男娼「…!」
少女「はぁ、はあ…」
男娼「…」スル
少女「…っ」
男娼「ごめん…。ごめん、嫌だった?」
少女「…」
男娼「手…。これで、拭いて」ファサ
少女「…」
男娼「ごめん、少女…。僕」
少女(…さっきの顔じゃない。…いつもの男娼さんだ)
男娼「…ごめん」
少女「何で、こんなこと…」
男娼「…それ」
男娼「客から貰ったものなんだ」
少女「そう、ですか」
男娼「君に…触って欲しくなかった。こんな、汚い…もの」
少女「…」
男娼「…処分しておくから。もう、勝手に触らないで。お願い」
少女「ごめん、なさい」
男娼「君は悪くないさ」チャリ
「男娼-!」
男娼「今行くー!」
男娼「…じゃあ。君は昨日の部屋で待っていてくれればいいから」クル
バタン
少女「…」
少女(…指、熱い)
少女(男娼に、舐められたところが…熱い)ギュ
続き
男娼「身請けしてくんない?」 少女「そんなお金ないですね」【後編】