賢者「か、完成した! 研究NO.333、虫でさえ人間並みの知能を得られる秘薬!」
賢者「ふ、ふふ、私に不可能はない!」
賢者「……」
賢者(なぜだろう、以前ほど研究を完成させた事に喜びを感じられない)
賢者(いっそ虚しい)
賢者(研究に没頭するために街を離れ、大量の物資を詰め込んだ塔を建て、湧きあがるアイデアに身を任せた充実した研究の日々……)
賢者(なのに、今の私は酷く虚しい……)
賢者「き、き、気の迷いだよね! て、天才にも気の迷いくらいあるものだよね!」
賢者「そ、そ、そうだ! 気晴らしに散歩にでも行こう!」
賢者(直接塔の外に出るのも3年振りだし、たまには日の光を浴びるのも悪くないはず)
元スレ
賢者「せ、世界を救えば私も愛されキャラになれるよね」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1434124226/
賢者「う……っ」
賢者(緑の青さが眩しい)
賢者(塔の周りも整地したはずなのに、もう随分雑草が生い茂っている)
賢者「あ、後で綺麗にしとこう……」
賢者(そうだ、確か近くに村があったはず)
賢者「ふ、ふふ、た、たまには私の溢れんばかりの知恵で、お、お、愚かな凡人達の悩みでも、か、解決してやろう!」
賢者(そう、別に寂しいとかではなくて、持つ者の義務として持たざる者を助けようというだけ。それだけ)
賢者「こ、この天才的な頭脳を私一人のために使うのも、つ、つ、罪というものだし!」
賢者(しかし、いきなり天才の私が現れて大騒ぎになりはしないだろうか)
賢者(まあ、これも持つ者の宿命と甘んじて受け止めてやろうではないか)
賢者「ふ、ふふ……」
賢者(村の外れまでやって来たが、これ以上進む気がしないのは決して人間と久しぶりに会うのが怖いとかそういうわけではなく)
賢者(ただ、その、よく考えれば普段着のまま出て来てしまったから一旦塔に戻ってから)
賢者(いや、外に出るための服をどこか別の町で購入してから、いや、その服を買うための服はどうすれば?)
賢者「と、と、とにかく今日は日が……」
「てりゃーっ! 死ねー!」
賢者「!?」
子供A「どうだ、この悪い魔物め! この勇者が成敗だ!」
子供B「あー! ずるいー! 僕が勇者様だよ!」
子供A「やだ! 勇者様は絶対に俺だ!」
賢者(なんだ、子供の遊びか。突然死ねなどと言うから、うっかり死にたくなる所だった)
賢者「き、き、君達? こここ、言葉には気を付けるようにし、した方が、い、い、いいよ?」
子供A「……」
子供B「……」
賢者(なんだか警戒されているようだ。やはり着替えて来るべきだった)
賢者「い、いや、私はあの怪しい者ではなくてね、あ、ああっと……そ、そうだ、勇者というのは誰なんだい?」
子供A「姉ちゃん、勇者様を知らないの?」
子供B「勇者様は魔王を倒して世界を救ってくれるんだよ?」
賢者「ま、魔王? せ、せ、世界を救う?」
子供A「……」
子供B「……」
賢者「あ……う……」
賢者(なぜこの私が子供にこのような馬鹿にした目で見られなければならないのだ? この歴史的天才の私が?)
賢者(大体世界を救うなどという妄言など理解しない方がむしろ知的な人間だと言えるのではないか?)
賢者「う……うう……」
子供A「はあ、しょうがないな-。俺が教えてやるよ」
子供A「あのなー、魔王ってのはすげえ悪い奴でなー、魔物に命令して人間をたくさん殺してるんだ。ようは魔物の王様なんだよ」
子供B「それでそれで、勇者様は仲間と一緒に魔王を倒すために旅をしてるんだよ! もう悪さをしてる魔王の部下を何人も倒してるんだ!」
子供A「あ、それ俺が言うつもりだったのに! ……と、とにかく、勇者様は英雄なんだよ!」
賢者(どうやら私が研究に勤しんでいる間に、外の世界では魔物の統率者などが現れて大変な事になっているらしい)
賢者(だが、人間など多少減っても放っておけば増えるものだし、私以外の人間が全員死のうと塔での私の生活に支障はない)
賢者(ふむ、脳に無駄な情報を増やしてしまった。以前開発した忘却薬を用いて無駄な記憶を削除しておこう)
子供B「僕ね、勇者様大好き!」
賢者「……っ」 ドクン
子供A「俺も俺も! なんてったって世界を救ってくれるんだからな!」
子供B「お父さんもお母さんも、勇者様は凄い人だって言ってたし!」
子供A「みんな言ってるよな! 父ちゃんも勇者様みたいな立派な人になれって毎日言うんだぜ!」
賢者「ぐ……っ」 ズクッ
賢者(なんだ、この胸の奥から湧き上がるものは)
賢者(嫉妬? 私がその勇者とかいう訳の分からない人間に嫉妬しているのか? なぜ?)
賢者(いいや違う、これは断じて嫉妬などではない。そう、私はただおかしいと思っているだけだ)
賢者(私の方がその勇者とかいう人間よりも、よほどこの世界のためになる事ができるというのに)
賢者(この頭脳を駆使すれば、世界を救うことなど造作もないというのに)
賢者「……なんで、そいつばかり……」
子供A「ん、どうかしたのか姉ちゃん?」
賢者「な、な、なんでもない……ちょ、ちょっと胸がムカムカするだけで……」
子供B「大丈夫? 僕、誰か呼んで来るよ!」
賢者「い、いい! か、か、帰って休めば、すす、すぐ良くなるから!」
子供A「でも姉ちゃんの家遠いんだろ? 村で休んでいった方がいいぜ」
賢者「す、すぐそこだから! あ、あそこの塔! だ、だ、だから誰も呼ばなくてもいい!」
子供B「塔……」
賢者「あ、ああ、わ、私はそこの塔に住んでいるんだ。だから人は呼ばなくて……」
子供A「近寄るなっ!」 バシッ
賢者「い、痛っ! な、何するんだ!」
子供A「村のみんなが言ってたぞ! あそこの塔には頭のおかしい奴が住んでるって!」
子供A「いきなりあんな所に邪魔な塔を建てて! それっきり挨拶にも来ずに怪しい事をしてるって!」
子供A「いいか、お前なんて勇者様が来たら絶対退治してくれるんだからな!」
賢者(おかしい。この子供は何を言っているのだろう)
賢者(私はただ研究に没頭するために塔を建てたのだから)
賢者(それも正式な手続きに基づいて国の許可を得て建てたのだから)
賢者(勇者とやらに退治される覚えもなければ、頭のおかしい呼ばわりされる覚えもない)
賢者「わわ、わ、わ、わた、わたしししし、私は、そ、そ、そ、そんななな、そんなこりょ、こ、ことはしししっ!」
子供A「……っ! 行くぞっ!」 タッタッタッ
子供B「ま、待ってよっ!」 タッタッタッ
賢者「ま、まっ、まっ!」
賢者(なぜあの子供達は逃げる? 私が何をした? 私は何もしてないのに、なぜ?)
賢者「あ、う、う……ま、待って、に、逃げないでよぅ……っ」 ポタポタ
賢者(別に悲しくなんてない。ただ、そう、目に入ったゴミを取り除くために眼球を洗浄しようと肉体が反応しているだけで、悲しくない)
賢者「う、うぅ……うぅ……っ」 ポタポタ
賢者(やっぱり、悲しい)
「こっちにいるんだな!?」
「うん! 塔に住んでるって言ってたから間違いないよ!」
賢者「ひ……っ!?」
賢者(人が来る。無根拠に私を悪人だと決めつけた大人達が私を捕まえに来る)
賢者「に、逃げ、に、逃げなきゃぁっ!?」 ドテッ
賢者(足が縺れる。急いで立って、走って、走って!) ヨタヨタ
「あれ! あれだよ!」
「よし、お前らはここで待ってろ!」
賢者「ひっ、ひっ、ひぃ……っ」 ヨタヨタ
賢者(来る、来る、来る! 逃げなきゃ、殺される、嫌だ、私は悪くない、悪くないのに、嫌だ!)
賢者「こんなの、やだぁ……!」
賢者(なんでみんな私を嫌うんだ。なんでみんな私を愛してくれないんだ)
賢者(どうしてみんな、私を勇者みたいに愛してくれないんだ)
賢者「はあ、はあ……」
「クソ、開かない! ……次に見かけたら絶対に……」
賢者(助かった……)
賢者「あ、あは、あはは、はは! はは……う、う……うぅ……」 ポタポタ
賢者(この世界はおかしい)
賢者(なぜ私ばかりがこんな目に遭う?)
賢者(そうだ、私は憎まれているんだ。この世界から憎まれている)
賢者(だから私はこんな目に遭うんだ)
賢者(世界の憎しみが私を殺そうとしているんだ)
賢者「ゆ、赦してよぉ……わ、私を赦してよぉ……っ」 ポタポタ
賢者(どうすれば赦してくれる?)
賢者「ひ、ひ、ひひ……そ、そうだ……! そうだ、そうだ、そうだそうだそうだっ!」
賢者「せ、せ、世界を、世界を救えばいいんだ! そうすれば赦してくれる! みんなも許してくれる!」
賢者「そうだよねぇぇぇぇぇぇっ!?」
賢者「……世界を救うなんて私には簡単にできるんだ……」 ブツブツ
賢者「魔王を倒すくらい簡単に……毒物を……いや遠隔魔法で……」 ブツブツ
賢者「ダメだ……魔王を倒してもまた別の統率者が現れるかも……」 ブツブツ
賢者「統率者……統率……される者……魔物……そうだ……」 ブツブツ
賢者「魔物……魔物がいなくなれば……魔物だけを殺す毒……」 ブツブツ
賢者「でも……魔物がいなくなれば……次は人間同士が……」 ブツブツ
賢者「人間……人間が殺し合う……人間が減る……それが悪なら……」 ブツブツ
賢者「魔物を消すと同時に……人間を増やせば……そうだ……」 ブツブツ
賢者「ふ、ふふ! そうだ、これだ、これだ、これだ!」
賢者「これで私も愛される! みんな私を認めてくれる! ふふ、あはははははっ!」
賢者「何が勇者だ! 本当に愛されるべきなのはお前じゃない、私なんだ! 私なんだっ!」
賢者「はあ……はあ……」 ドサッ
魔物A「フギッ、ギギッ!」
賢者(研究用に保存しておいた魔物では少々不安があったので野生の魔物を捕まえてきたが……)
魔物B「フギギギィ!」 魔物C「フギーッ!」 魔物D「グギャギャ!」 魔物E「ガウアッ!」 魔物F「ブオーッ!」 魔物G「キキキキッ!」
魔物H「ヒヒヒーンッ! 魔物I「ヒョー!」 魔物J「ケキョー!」 魔物K「グァッグァ!」 魔物L「ミニャー」 魔物M「オオーン!」
賢者(これでは足りないかもしれない。また狩りに行くのは面倒だが、この研究に失敗は許されないのだ)
賢者(次はもっと多くの素材を……できればより強力な魔物を捕まえて来なくては……) ユラッ
賢者「ふ、ふふっ、そ、それじゃあ、まずは解剖から始めようね!」 ガシッ
魔物A「フギッ!? ギギッ、ギッ!?」
賢者「だ、大丈夫、き、君達の犠牲がより多くの成果に繋がるんだから、な、何も心配しなくていいからね? えへ、えへへ」 ザクッ
魔物A「ギギャアアアアッ!」
賢者「こ、こ、これで私は愛される……愛される……」 ザクザクッ
『……あの子は、本当に私達の子供なんだろうか』
『あなた』
『わかってる、お前を疑ってるわけじゃない。だが、あまりにも私達とあの子は違いすぎる……』
『……』
『なあ、以前あの子を引き取りたいと言ってきた方がいただろう?』
『王都の学園の方と言っていたけれど、まさか』
『その方が、きっとあの子のためさ。私達といるよりも、ずっと』
『……そう、ね。ええ、その方があの子のため……』
『僕らはな、お前みたいな生意気なガキが嫌いなんだよ』
『ガキの癖に偉そうな事ばっか抜かしやがって』
『俺達の頭が悪いだとか言ってくれたよなぁ? この頭が、ええ、俺のよか良いって? この頭がよぉ!』
『おら豚の真似だ、鳴けよ! ああ、聞こえねえぞ!』
『おい、豚が服着てるぜ! こりゃおかしいよなぁ!』
『豚ってのはてめえの糞を食うらしいぜ?』
『はははっ!』『あははっ!』『ははっ!』『はははっ!』
『……で、話というのはそれだけかね?』
『それは君と彼らの問題だ、自分でどうにかしたまえ』
『そもそも』
『私は君の才能に金を出したのだ』
『君という個人には何の興味もないのだよ』
『そして、結果を出せなければ君はここから出て行く事になる』
『私達の関係は』
『それだけだ』
賢者「ひっ!?」
賢者「あ、あ、あ、ああ……ゆ、夢……夢……そう、夢……」
賢者(夢はただの記憶の再生に過ぎないのだから、何も怯える必要などない)
賢者「そ、そうだ、研究を続けないと……」
賢者(その他の動物と魔物の違いは恒常的に魔力を生成し続ける機関の有無であり、魔物と呼ばれる種の有害性もまたその魔力により得られる強力な身体的能力)
賢者(或いは超常的な力の具現であり、この機関さえなければその他の動物との違いはなくなるが、この機関は生命維持に関わるものであり、第二の心臓とも言える)
賢者(つまりこの魔力機関は魔物の中枢であり、特異性そのものであるのだから、そこに別の因子を組み込む事で……)
賢者「ふ、ふふ、後は因子を用意してそこに魔法式を組み込めば……」
賢者「こ、これで理論は完成した。後は実験を繰り返せばいいだけ」
賢者「は、はやく足りない素材を捕獲して来なくちゃ。だ、だって、もうすぐ私は赦されるんだから……」
賢者(そう、私の人生が満たされないのは世界が私を憎んでいるからなんだ)
賢者「ふ、ふふ、愛を捕まえに行こう……」
賢者(私は世界を救う。世界は私を赦す。簡単な事なんだ。私には簡単な事なんだ)
賢者「もうすぐみんなそれに気付く、もうすぐ、ふふ、もうすぐ……」
「……ここが、そうなんですか?」
「はい。どうか、どうかお願いします! 私達をお救いください!」
「心配しないでください。僕達が必ず……」
賢者「は、はは……はは、はは、あははっ!」
賢者「で、できた! できた、できた、できた! できた!」
賢者「完璧に! 完全に! 何の間違いもない! これで世界を救える!」
賢者「ねえ、凄いでしょ!? 私凄いよね? みんな誉めてくれるよね! ね?」
賢者「後はこれを最初の感染者に投与すれば……!」
「そこまでだ」
賢者「……き、き、君、だだ、だ、誰?」
勇者「僕の名前は……勇者。君を止めるために来た」
賢者「え?」
賢者(勇者。今、この男は勇者と言った?)
賢者(みんなに愛されている、あの勇者? 私に成り代わって愛されている、あの勇者?)
賢者「お、お、お前が、な、な、なん、なんで?」
賢者「あ……」
賢者「そ、そ、そうか、わ、私の、私の研究を盗むつもりなんだ!」
賢者「まま、また、また私の居場所を奪うつもりなんだっ!」
賢者「さささ、させない、させない、させない、絶対にさせないっ!」
賢者「おお、おま、お前になんて、う、う、奪わせないんだからっ!」
勇者「……」
戦士「おい勇者、もういいだろ。さっさとやっちまおうぜ」
僧侶「いいえ、その前に捕らえられている人達の居場所を聞き出しましょう」
魔法使い「みんな、気を付けて! その女、見た目よりもかなり危険な相手よ!」
勇者「待って。……ねえ、僕には君の言っている事が全然分からないんだけど、その研究っていうのは何なの?」
賢者「と、とぼけるなっ! わ、わ、私には分かってるんだから! お前が私の……」
賢者「私の、魔物を人間にする研究を奪おうとしている事はっ!」
勇者「……」
賢者「魔物と人間という二つの種族がいるから争い合う事になる! なら一つになればいい!」
賢者「そうすれば争いはなくなる! そうすれば世界を救える! そうすれば私は愛される!」
賢者「お、お前は、お前はその功績まで奪おうとしてっ!」
勇者「……そう、それが君のしている事なんだね」
勇者「僕にはそれが良い事なのか悪い事なのか分からないよ。でも」
勇者「村の人達を連れ去ったのは、悪い事だ」
賢者「は?」
戦士「ネタはあがってんだよ。お前が村の人間を連れ去って、まあ、大方生きちゃいねえんだろ?」
僧侶「戦士さんっ!」
戦士「お前の御大層な研究とやらの犠牲にでもされたんだろうが、そういうのは悪党のやる事なんだよ。分かるか?」
賢者「は、はは、あはは!」
勇者「何がおかしいの?」
賢者「君達の言葉があまりにも意味の分からない事ばかりだから笑えたんだよ!」
賢者「村人を連れ去った?」
賢者「連れ去ったよ? 実験に使ったよ? それがどうしたの?」
賢者「魔物だって実験に使ったし、たくさん死んだよ?」
賢者「でも仕方ないよね、世界を救うためなんだから」
戦士「おい勇者、いつまでキチガイの戯れ言に付き合うんだよ」
賢者「黙りなよ、人殺しさん」
戦士「は?」
賢者「君達は人殺しそのものじゃない? 私の研究は魔物も人間も等しく救うのに、君達は殺してるだけ」
賢者「それも、私の研究で人間になるはずの彼らを。君達は人間を殺してきたんだよ、愛される資格なんてない!」
賢者「おまけに私は君達よりもずっとずっと多くの人間を救うのに、その邪魔をしようとしてる!」
賢者「君達こそが本当の悪党じゃないか!」
戦士「……」
賢者「はあ……はあ……ふ、ふ、ふふ、まあいいか」
賢者(もう私の研究は完成した、後はこれを実際に魔物に投与するだけでいい)
賢者(そうすれば対象の魔力機関が自動的に因子を培養してくれる)
賢者(最初の一匹にさえ直接投与すれば、後は勝手に拡散していく。世界中に、余す所なく、すべての魔物に!)
賢者「これで、これで、これで私は……っ!」
戦士「フンッ!」 バリンッ
賢者「え……?」
勇者「戦士っ!」
戦士「正しいだの間違いだの、そんな御託を並べる気はねえよ。ただな、お前の考えは……気持ち悪い」
戦士「魔物は魔物、人間は人間。当たり前だろうが、そんな事は。魔物だって人間になりたいだなんて思ってるわけねえだろうが」
戦士「押し付けがましいんだよ、お前の存在は」
賢者「え……え……え……?」
賢者(私の、研究が? 世界が、赦されない? 私、え、私……)
魔法使い「ちょ、ちょっと、大丈夫なのっ!? 危ない薬か何かなんでしょう!?」
戦士「ああ? 人間に害はないんだろ? 何なら燃やしとけよ、そうすりゃ大丈夫だろ多分」
魔法使い「そ、そんな適当な……」
戦士「じゃあ他に何か考えがあるのかよ?」
魔法使い「……炎よ」 ボワッ
賢者「あ、あ、あ……ああああああああああああああああああっ!」 ジュッ
賢者(私の愛が、燃えちゃう、燃えちゃう!)
魔法使い「なっ!?」
勇者「ダメだ、やめるんだ!」 ガシッ
賢者「は、は、放っ、放せっ、放せぇぇぇぇっ!!」 ジュゥゥゥ
賢者(早く火を消さないと、愛されない、愛されない、愛されない! 愛されないのは嫌だ!)
賢者「ああああああああああああああああああああああああっ!」 ジュゥゥゥ
戦士「……狂ってやがる」
賢者「あ……あ……あ……」
魔法使い「勇者、どうするの?」
勇者「……僕の受けた依頼は、連れ去られた人を取り返す事と、事件を終わらせる事だよ」
戦士「見逃すってのか?」
勇者「村の人達には引き渡す。でも彼女を裁くのは僕の役目じゃないってだけ。……それに」
賢者「う……うぁ……あ……あぁ……」 ポタポタ
勇者「無抵抗の泣いてる人を殺すのが勇者の役目なら、僕は今すぐ勇者をやめるよ」
戦士「なら代わりに、あたしが殺してやるよ!」 ブンッ
勇者「……」 ガギンッ
戦士「……死んだ方がいい人間ってのはいるんだ」
勇者「それを決めるのは僕らじゃない」
戦士「ちっ、分かったよ。おいお前、勇者に感謝しろよ」
賢者「あ……あぁ……あぁ……」 ポタポタ
魔法使い「……もうダメね、これは」
賢者(私はただ、愛されたかっただけなのに)
賢者(世界を救って愛されたかっただけなのに)
賢者(どうして誰も私を愛してくれないの?)
賢者(どうしてみんな私を憎むの?)
賢者「あ……あぁ……あぁ……」 ポタポタ
勇者「こう言っても信じてもらえないだろうけど」
勇者「もっと早く君と会えてたら、君の助けになれたのかもって思うんだ」
勇者「……ごめんね、これも傲慢なのかな」
勇者一行は去り、一人の罪人が残る。
触れられる事を拒んだため治療されないままの焼け爛れた両手。
牢の中、死体のように弛緩した罪人の手は何かを乞うように投げ出されていたが、
彼女に施そうとする者は、そこには誰もいなかった。
23 : 以下、名... - 2015/06/13 01:08:33 nmmGiHYM 23/24救いもなければオチもない
24 : 以下、名... - 2015/06/13 01:11:59 nmmGiHYM 24/24教訓・田舎に住む時は挨拶回りは忘れずに