関連
錬金術師「経営難に立ち向かう事になった」銃士「その4!」【前編】
…
……
…………そして1週間後…………
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――――【 2月23日 錬金術師のお店 】
…ボスンッ!!
運び屋「…それでは、これで3回目の納品が完了です。」
運び屋「今回も有難うございました」
錬金術師「んむ」
運び屋「それじゃ…」ペコッ
クルッ、ザッザッザッザッ……
…………
……
…
錬金術師「…」
錬金術師「……うし!やっと3度目の納品が完了だ」
女店員「これで2月分は終わりだし、1か月分が終わったわけかぁ」
銃士「始まった頃こそ不安もあったが、3回目となるとさすがに慣れてくるな」
新人鉱夫「そこまで素材の仕入れに苦労もしませんし、安定してますよね」
錬金術師「だが、ハンティング素材の10kgにおけるカルキノスは、いつまでも安定するわけじゃない」
錬金術師「早い段階で次のものに移らないといけないな」
銃士「そうだね。カルキノス狩りも慣れてきたし、次からは新素材の探索もしていこうか」
錬金術師「あぁ、それがいいな」
女店員「…で、店長。」
錬金術師「あん?」
女店員「10日程前に言ってた、新しい営業の話はどうなってるの?」
錬金術師「あ、それな」
女店員「うん」
錬金術師「…とりあえず、試作段階のものは一部出来てる。」
女店員「はや!」
錬金術師「えーっと、ちょっと待ってろ。倉庫から出してくる」クルッ
タッタッタッタッ……
女店員「…時々忘れるけど、店長は世界の名だたる錬金術のエキスパートなんだよね」
銃士「あぁ、時々忘れてしまうがな」
新人鉱夫「…はい」
タタタタッ…!
錬金術師「…おいしょっと」
…ゴトォンッ!!ガラガランッ!
女店員「うわっ、何これ!」
銃士「…これは」
新人鉱夫「わわっ!凄いです!!」
錬金術師「…商店街は店ごとによって違いがあるからなー」
錬金術師「だけど、共通して使えるモンを用意はしてみたぜ」
女店員「えーっと、商店街にサンプル品で渡すのはコレ?」スッ
錬金術師「あぁ、ソレだ」
女店員「結構小さいけど、これは…何?」
錬金術師「それの初動は、魔石を組み込んで動く、マジックランプだ」
女店員「…え、ただの明かりってこと?」
錬金術師「バカいえ、その辺のランプと一緒にすんな」
女店員「何が違うの?」
錬金術師「…ま、そこにスイッチがあるから…押してみな」
女店員「うん、わかった」ソッ
……カチッ!パァァッ!!
女店員「きゃっ!?」
銃士「うわ、明るいな…」
新人鉱夫「…うわ、凄く淡い光でキレイですね」
錬金術師「…明るいだけじゃないんだがな」
女店員「え?」
錬金術師「…ちょっと、スイッチの横にある"つまみ"を右に回してくれないか」
女店員「これ?」スッ
錬金術師「そう、それだ。あまり回し過ぎないように、軽くな」
女店員「えーと…」
…グリンッ
錬金術師「…そう、その程度でいい」
女店員「…うん。」
女店員「それで、まわしたらどうなるの?」
錬金術師「…感じないか?」
女店員「何が?」
錬金術師「…ほら、このランプの周りから……」
……
…
ポォォォッ…!
…
……
女店員「……あっ」
銃士「何か、暖かい…?」
新人鉱夫「ほんのり、部屋全体へ暖かさが広がってるようです…」ホクホク
女店員「店長、これは…」
錬金術師「…名付けて、マジックエアーコンダクターだ!」
女店員「まじっく…」
銃士「えあー…」
新人鉱夫「こんだく…たー…?」
錬金術師「これと同じく、魔力で空調出来るものは既にあるんだが…」
錬金術師「俺が造ったこれは、なんと魔石の変更だけで空調を行うことができるんだ!」
女店員「え、えーと…」
新人鉱夫「つまり…?」
銃士「…なるほど」
錬金術師「魔石ってのは、どんな種類があるか覚えてるか?」
女店員「えーと、火、水、風、雷とか…だっけ。」
錬金術師「ま、大体そんなもん。魔石には、それぞれの属性魔力が含まれて出来ているっつーことだ」
女店員「うん。」
錬金術師「このマジエアコンは、その属性別の魔石を交換するだけで空調を行うことができるって話さ」
女店員「じゃあ、今入ってるのは…火魔石?」
錬金術師「正解。水を入れれば、部屋全体を涼しくすることが出来るぜ」
女店員「…風とか雷を入れたら?」
錬金術師「基本属性以外を入れても、魔力導線が反応しないようになってる。」
錬金術師「雷とか放電されたら困るだろ…」
女店員「そ、そっか…」
銃士「…凄いな。」
錬金術師「ククク、銃士。これが凄いのはココからだ」ニタッ
銃士「どういうこと?」
錬金術師「無論、儲ける事もしっかり考えてる。」
錬金術師「実はな、これに入れなければならない魔石は、うちで錬成した魔石しか使えないんだよ」
銃士「!」
女店員「…ってことは!」
新人鉱夫「もしこれが導入されれば、うちで造る魔石だけが材料ってことになるんですね!」
錬金術師「そーいうこと!」
錬金術師「だから、このマジエアコンには、サンプルとして1ヶ月くらい持つ火と水魔石が1個ずつ入ってる」
錬金術師「このマジエアコン自体を無料で配り、継続して使いたい場合は魔石を買って下さい…ってことだな」
銃士「…上手いこと考えたね」
銃士「確かに、それなら魔石の儲けで売れるかもしれない……」
女店員「…でも、錬成された魔石だけの販売で利益って出るのかな?」
女店員「もし仕組みを解析されて、他の錬金術を使える人から魔石をもっと安く売られたりしたら……」
錬金術師「ここまで小型している分、他のサードパーティにはその技術力は絶対にあり得ん。」
錬金術師「…俺ですら、ここまで小さく、安全面も考えて造るために夜通しやったくらいだからな」フワァ…
女店員「なるほど…」
女店員「今のところは、ほぼ完ぺきの仕上がりってことなんだ」
錬金術師「あぁ。完璧だ」ニカッ
女店員「すごい…♪」
錬金術師「……して、次。」
錬金術師「新人鉱夫に配ってもらう分だが……そこに転がってる丸いのを拾ってくれるか?」
新人鉱夫「えっと、これですね」スッ
…コロコロ…
新人鉱夫「…ドーナツ状ですね。これはなんですか?」
錬金術師「以前から言ってた採掘用、パワーアップユニットだ。」
錬金術師「かなり小型化させて、魔石消費も抑え、前に使っていた自動採掘機より遥かに進化してるぜ」
新人鉱夫「もしかして、この穴の中にピッケルを通すんですか?」
錬金術師「その通り。」
錬金術師「柄の部分へ遠し、スイッチを入れるとしっかりと柄に張り付く。」
錬金術師「そうすれば刃の部分に魔力を帯びさせ、あとは岩に振るだけで簡単に崩せる」
新人鉱夫「…す、凄いですね。」
新人鉱夫「……って、まさかこれも」
錬金術師「…うちの魔石しか使えん仕様だ。」
錬金術師「つまり、それ自体は無料で配布してー…とは、言いたいんだが……」
新人鉱夫「無料じゃない…と?」
錬金術師「…そればかりは、コストが酷くかかりすぎるんだ」ピクピク
新人鉱夫「…で、ですよね。」
錬金術師「今のままだと、値段は1個で30万ゴールド近くなっちまうんだよ」
新人鉱夫「た、高いですね…」
錬金術師「だからそれは、コストダウンをなんとかするまでに待ってくれるか…。」
錬金術師「コストダウンの開発にも金を使うし、他の契約が上手くいって金が入ったらすぐに着手するわ」
新人鉱夫「はい、分かりましたっ!」
錬金術師「……で、最後」クルッ
銃士「お、私だな」
錬金術師「…銃士から貰ったメモによると、素晴らしいことばかり書かれていた」
銃士「…あぁ」ハハ…
女店員「あ、それ私たち聞いてなかったんだけど…!」
新人鉱夫「そうですね。少しだけ気になってました」
錬金術師「…見せなかったというか、見せないほうがいいかなと思ってたんだが」
女店員「どうして?」
錬金術師「…生々しすぎた」
女店員「え…」
錬金術師「…」
女店員「た、例えば……?」
錬金術師「…例えば、壊死をさせずに保存させる装置とかかな」
女店員「え、壊死って」タラッ
錬金術師「…素材対象の魔物を討伐した際に、遠くまで運ぶクエストの際に素材が腐っちまうんだと。」
錬金術師「傷の部分から腐っていくから、そうしないように保存させたいらしい」
女店員「あぁ、なんだそういうこ……」
錬金術師「それに加え、"自分の腕を吹き飛ばされた際、もしもそれがあったら今も左腕は残ってたかもしれません"」
錬金術師「"魔物だけでなく、自分の四肢等の肉体が吹き飛んだ際にも応用が出来ると思うのです…"」
錬金術師「そういう意見もありました」
女店員「」
新人鉱夫「」
銃士「…確かに、応用が利くよね。それを造ったの?」
女店員「そ、そんな非現実的な意見を冷静に…」
銃士「はは、私にとっては現実的な意見なんだけどね」
女店員「そ、それはそうだけどさぁ…」
錬金術師「いや、それを造るのはさすがに無理だ。」
錬金術師「さすがに武器や魔法毎に傷の種類も異なるし、魔物が持つ特性も考慮せにゃならん…。」
錬金術師「何十、何百、何千、何万パターンとあるものを認識させ壊死させないようにするのは無理だろう…」
銃士「確かにね…」
錬金術師「……だが、この意見を筆頭に、錬金術に望むもののほとんどが…」
銃士「生命にかかわること…だね」
錬金術師「そういうことだ」
銃士「…ざっと聞いた感じ、ポーションを含む回復薬なんかの意見も多かったかな?」
錬金術師「やはり、冒険者たるもの命と隣り合わせ。」
錬金術師「……体力がどれだけ重要なのか理解したしな」ハハ…
銃士「あはは、一緒のずっとハンティング付き合ってくれてたからね。」
銃士「2回、3回のハンティングで店長も少しずつ逞しくなってきたんじゃない?」
錬金術師「マジか、かっこよくなってきた?」
銃士「うーんそうだね、もう少し…もうちょっとだけ慣れたら…世界一かっこよくなるかも?」
錬金術師「なんだと…!頑張るしかないな……!」
銃士「うんうん」
錬金術師「ははは!」
女店員「…」ズキン
新人鉱夫「…」
新人鉱夫「…!」ハッ
新人鉱夫「そ、それで店長さん!その、冒険者用に作ったっていう試作サンプルはなんですか!?」
新人鉱夫「は、早く気になりますっ!」
錬金術師「…あ、気になる?」
新人鉱夫「はいっ!教えてください!」
錬金術師「んーとな、これは以前…母さんが造ったものを再度俺が練り直してやってみたものなんだ」
…トンッ
銃士「…えっ」
新人鉱夫「……これって」
女店員「小さい…瓶…?」
錬金術師「このビンの下部に、精製した特性の魔石が埋め込んである。」
錬金術師「無論、この魔石…これもうちでしか加工できない商品だ」
銃士「…この瓶を何に使うんだ?」
錬金術師「これはな、俺の経験を活かしつつ…冒険者にも使って貰える品だぞ」
銃士「ふむ?」
錬金術師「えーっと…」
錬金術師「…」キョロキョロ
錬金術師「…やべ、忘れてた。ちょっと待っててくれ」クルッ
タタタタタッ……
銃士「…?」
女店員「?」
新人鉱夫「?」
タタタタタ…タッタッタッ……
錬金術師「…ふぅ。これだこれ」スッ
…コトンッ
銃士「え、アカノミのポーション?」
女店員「これをどうするの?」
錬金術師「まず、これをまずフラスコに注ぐ…」スッ
トクトクトクッ……
銃士「…」
女店員「…
新人鉱夫「…」
錬金術師「…すると!驚くなよっ!?」
銃士「するとっ?」
女店員「何が…」
新人鉱夫「……起きるんですかっ!?」
…シーン
錬金術師「……まぁ、目に見えて反応はないんだが」
女店員「」
銃士「」
新人鉱夫「」
錬金術師「…まぁ、とりあえず銃士でいいか。」
錬金術師「飲んでみてくれるか」スッ
銃士「…この瓶に入れただけで何か変わるの?」
錬金術師「まぁまぁ」
銃士「じゃあ…」スッ
……クピッ
錬金術師「…」
銃士「…うん、味もいたって普通のアカノミのポーションだけど」
銃士「…」
銃士「……って、えっ!?」パァッ!
錬金術師「…くくっ」
銃士「な、なにっ!?」ギュウウウンッ!!
女店員「どうしたの!?」
新人鉱夫「どうしました!?」
銃士「……っ!?」ピキッ…!
銃士「す、凄いっ!これだけの量で、全身へアカノミの効果が染み渡っていく!」ピキピキッ!
銃士「店長、これって!」
錬金術師「それは、うちの母さんが前に開発したことがある"高速吸収ポーション瓶"を改良したものだ。」
錬金術師「底についた魔石がポーションへ凝縮し、短時間で超回復の効果がある」
銃士「ちょっ、これって…凄い…っ!」
銃士「これは凄いよ店長っ!瓶と魔石さえあれば、市販品のポーションでも超回復効果になるってことだろう!」
錬金術師「さっきも言ったが、魔石はうちのオリジナルじゃないとダメ」ハハハ
錬金術師「マジエアコン、パワーアップユニット、超回復瓶、この3つはうちの精製魔石で動くことができる。」
錬金術師「つまり……」
女店員「別々の魔石を生成しなくていいから、時間効率もいいし……」
新人鉱夫「うちのお店のオリジナルのみで、サードパーティからの販売を危惧しなくていい……。」
銃士「普通の魔石さえあれば造り出せるもので、コスパも最高……」
錬金術師「…文句の付けどころ、ないだろ」ニヤッ
女店員「…ッ!」
女店員「……て、店長っ!」バッ!!
錬金術師「うおっ!?」
…ギュウッ!
女店員「凄いよ店長っ!こんな短期間でこんなに生み出せるなんて…!」
女店員「わ、私も頑張るねっ!絶対に魔石とか売れるようにするっ!!」
錬金術師「……お、おうっ。そんなに嬉しかったか…!」
女店員「うんっ!」
銃士「…」
銃士「…っ!」ズキッ
新人鉱夫「…ッ!」ハッ!
錬金術師「そ、それじゃ…えーと…」
新人鉱夫「て、店長さん!僕のパワーアップユニットも是非早めに完成させてくださいね!」ババッ!
新人鉱夫「期待してますからっ!!」
錬金術師「お、おう…?」
新人鉱夫「ほ、ほら倉庫に行きましょう!」
新人鉱夫「僕も一生懸命手伝いますから……!」
新人鉱夫(胃に穴があきそうです。早く、店長さんをこの場から離さないと~っ……!)クスンッ…
錬金術師「そ、そうか?」
錬金術師「少し休みたかったんだが、お前がそこまで言うなら……」
新人鉱夫「えぇ、是非っ!是非完成させてください~っ!」
錬金術師「う、うむ…」
新人鉱夫「それでは行きましょう、精一杯、とってもお手伝いしますからっ!」
錬金術師「そ、そうか…。」
トコトコ………
……
…
女店員「…」
銃士「…」
女店員「…」
銃士「…」
女店員「…」チラッ
銃士「…」チラッ
女店員「…!」ハッ!
銃士「…!」ハッ!
女店員「……あ、あはは」
銃士「はは、ははは……」
女店員「…が、頑張ろうね」
銃士「あぁ、頑張ろう…」
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
――――それからわずか5日後。
4回目の納品を終了させたのち、新製品となるサンプルが全て完成した。
気が付けば、2月28日。
もう、2月終わり…春も近い3月の目前に、新製品のサンプルを配るべく、準備を開始。
店長たちは会議を行い、新製品の展開を区切りよく翌日、3月1日より配布することに決定。
そして、中央商人との納品準備を進めつつ、いよいよ来たるは3月1日………。
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――――【 3月1日 錬金術師のお店 】
錬金術師「……っし!」パァンッ!!
錬金術師「今日から、新たな新製品…サンプル配りだ!」
錬金術師「サンプルっつーか、魔石の購入促すための配布だから…そう言っていいのかわからんが。」
女店員「…うんっ、商店街にはこちらのアイテムが無償提供ですっていうのと」
銃士「魔石の購入で、今後の利用が可能になること…」
新人鉱夫「その際は、お店へ来ていただくようにしてもらうこと!」
錬金術師「…それぞれ、頼んだぞ!」
女店員「うんっ」
銃士「あぁっ」
新人鉱夫「はいっ!」
錬金術師「俺は残って、本体側の道具を制作しておくわ。」
錬金術師「もしかすると、それぞれの魔石じゃない本体側の需要が増えたら困るわけだし」
女店員「わかった」
新人鉱夫「はいっ」
銃士「あ、それも承知したんだけど、えーっと……」
錬金術師「ん?」
銃士「女店員と新人鉱夫はそれぞれ近いが、私はまた中央都市まで行かねばならないからな…。」
銃士「三人とはまた少し離れるけど、今回はギルドへ預けて、メンバーに配布して貰うように促すから…、」
銃士「今回はすぐに戻ってくるよ」
錬金術師「一人だけ遠くまで悪いな。気を付けていってきてくれよ」
銃士「もちろん」ニコッ
錬金術師「無論、お前ら二人もな。気を付けて」
女店員「うんっ、もちろん」
新人鉱夫「ありがとうございますっ」
銃士「それじゃ……」クルッ
女店員「行ってくるよ~」
新人鉱夫「行って参ります!」
錬金術師「おう」フリフリ
ガチャッ……バタンッ!
錬金術師「…」フリフリ…
錬金術師「…」フリッ…
錬金術師「…」
錬金術師「……っ!」フラッ
…ガクッ!
錬金術師(参った…。今回は少しやり過ぎたな……)ゼェッ…!
錬金術師(魔石の精製も含め、俺は魔力が多いほうじゃねえし……。)
錬金術師(開発の度にこうだ…。)
錬金術師(アオノミのポーションも飲みすぎると中毒を起こすし、回復にも時間がかかる…っ。)
錬金術師(くそっ、少しまた休むか……)
……コンコン
錬金術師(…んむ、客か?)
錬金術師「……はい、どうぞ」
……ガチャッ!
錬金術師「いらっしゃいま……せ……って!」
…ザッ
親父「…」
錬金術師「…親父かよ!」
親父「…どうした、膝を落として。疲労か?」
錬金術師「う、うるせぇ…。何の用だ……」
親父「何、お前が本格的に始動したと聞いたからな…?」
親父「その様子と、少しお前に用事がある」
錬金術師「世界一多忙な人間が、よくもまぁ…こんな所へおいでませ…」
親父「…店員は出払っているのか」キョロキョロ
錬金術師「営業にな…」ギロッ
親父「……例のオリジナルの製錬魔石の道具の件か」
錬金術師「!」
親父「…知らないわけがないだろう」
錬金術師「んだよ…!邪魔しにきたのか…?」
親父「…まさか、そんなわけなかろう」
親父「今日はお前に、"店長"としての用事も兼ねて様子を見に来たんだ」
錬金術師「…あァ?」
親父「お前では、今回の件…扱いきれんだろう」
錬金術師「…何っ」
親父「お前の開発した各道具、魔石の精製の販売のみ展開はさすがだ。」
親父「だが、それはお前の店では扱いきれんことになる」
親父「現に…お前が倒れているのが良い証拠だ。」
親父「確実にパンクするぞ」
錬金術師「……ば、バカ野郎っ!」
錬金術師「俺を誰だと…!俺は俺らだけで、これを成功させてやるっつーの…!」
親父「……2億。」ボソッ
錬金術師「ッ!?」
親父「特許をよこせ。そして、開発方法を教えろ。それを2億で買い取ってやる」
錬金術師「に、2億ゴールド…!?」
親父「お前の開発したモノには、それだけの価値を見出した。」
親父「サードとして魔石を販売するのも可能だが、うちの錬金術開発ではそれ以上のコストがかかるだろう。」
親父「お前がその技術を提供してくれるなら、2億の金を支払う」
錬金術師「……はっ!俺の技術に2億か…!」
親父「悪い話ではないだろう?」
錬金術師(……2億があれば、新たな事業への開発費用にもなる…。)
錬金術師(だ、だが……)
錬金術師(ようやく軌道に乗り出し、あの3人が楽しそうに仕事をし始めたっつーのに……)
錬金術師(それを…取り上げることなんか……)
親父「……2億では足りぬか?」
錬金術師「……ち、違う」
親父「…」
錬金術師「お、俺には俺にもプライドがある。これを売るわけにはいかない…!」
親父「……金よりプライドか?」
錬金術師「少なくとも、今回の件で俺はアンタを見返せるくらいにはなると思っていた…!」
錬金術師「だから、それを買われちゃ意味ないんだよ……」
親父「…お前が、俺の戦略以上に上手く立ち回れると?」
錬金術師「魔石1個はたかだか1,000ゴールド。」
錬金術師「それに俺が手を加え、3,000ゴールドで販売を行う事が出来る…。」
錬金術師「俺の販売した各アイテムは、やがて広まって魔石だけでなくその道具すらも売れるようになるはず…。」
錬金術師「そうなれば、俺だけの技術として更なる展開を見出すことが可能だ。」
錬金術師「……そこまでいけば、アンタだって俺を認めてくれるだろう?」
錬金術師「もう、俺に関わるなと心から言えるはずだ!」
親父「……俺が認めるも認めないも、俺次第だぞ?」
錬金術師「!」
親父「…ここで俺に特許を渡せば、それで認めると言っても…良い。」
親父「どうだ?」
錬金術師「!?」
親父「…」
錬金術師「…」
錬金術師「ど、どうして急にコレだけのことで…。」
錬金術師「アンタが俺の開発したものに固執する!?」
親父「……お前は、事の重大さに気づいていないらしいな」
錬金術師「なんだと…?」
親父「今回お前が開発したアレと魔石のコンビは、今までなかった新たなシステムだ。」
親父「いや、存在はしていたが…お前の開発したものはそれ以上の存在のもの。」
親父「仮に月に魔石が3000個以上、アイテムが1000個以上と仮定。それぞれを捌けるというのか?」
錬金術師「……そ、そんなに注文が来るわけ」
親父「最初はな。」
錬金術師「!」
親父「お前が配ったサンプル品の方法で、まず間違いなく今回のアイテムは世間へと浸透する。」
親父「そうなれば、こんな小さな店で一人で開発できるほど…容易ではないぞ」
錬金術師「うっ…」
親父「…お前だって薄々感づいているはずだ。」
親父「自分がこれ以上、どこまでやれるのか、今回の開発がどれほどのものなのか……。」
親父「限定生産の手もあるが、それでもお前は必ずや倒れるだろうな。」
親父「そうなれば、迷惑をかけるのはお前自身ではない…お前のいう大事な店員とやらではないのか…?」
錬金術師「…ッ!」
親父「…さぁ、決めろ。俺にそれを委ねるか…否か…」
錬金術師「…っ!!」
親父「……さぁ」
錬金術師「…っ!!!」
親父「………さぁ」
錬金術師「くっ、くそぉっ!!うるせぇぞっ!!」
親父「さぁ……」
錬金術師「…なん…で……!」
親父「さぁ…!」
親父「………さぁっ!!!」
錬金術師「う、うるせぇぇぇっ!!」
……………
………
…
…
………
……………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夕 方 】
錬金術師「!」ハッ!
…ガバッ!!
錬金術師「はぁ、はぁ……!」
錬金術師「はぁっ……!」ハァハァ…!
錬金術師「……あ?」ハッ
カァ…カァ……!
錬金術師「あ…夕方……?」
錬金術師「……やべっ、いつの間にか…倒れて…たのか……」クラッ
錬金術師「夢だったのか…っ」
…ガチャッ!…
錬金術師「ッ!?」ビクッ!
女店員「てんちょ~!全部配って来たよ~♪」
錬金術師「あ…」
女店員「……って、店長っ!?」
錬金術師「…あ、いや。ちょっと足を滑らせてな」ハハ…
女店員「…えぇ、大丈夫?疲れてるんじゃないの?」
錬金術師「あーそうだな、明日からまたサボるか…?」ハハハ
女店員「…もうっ!」
女店員「……全く、ほら。起き上がらせるから手ぇ貸して」スッ
錬金術師「あ、あぁすまんな…」スッ
…ガシッ、グイッ!
女店員「…きゃあっ!?」グンッ!
…ダキッ…
錬金術師「うおっと…!」
女店員「…ッ!」ボフッ…
錬金術師「す、すまん。引っ張っちまったな…」
女店員「…う、ううん」カァ…
錬金術師(……く、くそっ。疲れてるんだな…。)
錬金術師(さっきのも夢だったが、ああいう現実が起きそうなことを内心分かってるんだ…。)
錬金術師(このままだと…夢じゃなく、本当に俺が倒れてコイツらに迷惑かけちまうってこと…を……)ギュウッ…
女店員「…て、てんちょ?」
錬金術師(お、親父に頼めるわけもないし…。)
錬金術師(中央商人さんにこれ以上迷惑もかけたくねぇし、かといって俺一人でどうにかなる問題じゃあない…)
女店員「…ど、どうしたの?」
錬金術師(開発まではスムーズだったのに、本格始動で俺の体調にガタがくるとは…)
錬金術師(な、何とかいい方法はないものか……)
女店員「て、てんちょ…」
錬金術師「…あ」ハッ
女店員「ず、ずっと抱きしめられてるとその…ね…?」
錬金術師「あ、い、いやっ!すまん!」バッ!
女店員「う、ううん…」
錬金術師「わ、悪いな。ちょっと考え事して無意識に……」
女店員「…そ、そっか」
錬金術師(……折角、ここからだっていう時に俺のせいで崩れさせるわけにはいかない…。)
錬金術師(俺自身、普段は面倒くさがりだって分かってるが、こういう始まりの中途半端は嫌なんだよな…)イラッ
錬金術師(何か、いい案を早く考えないと……)イライラッ…
錬金術師(何かないか、何か…。何か……!)ギリッ…
女店員「て、てんちょ?なんか顔色が……」
錬金術師「あァッ!?」クワッ!
女店員「ッ!?」ビクッ!
錬金術師「…」
錬金術師「……あっ」ハッ
女店員「え、えっと…その……」ビクッ…
錬金術師「い…いや……ち、違う!今のは…!」
女店員「その…えっと…」ブルッ…
錬金術師「ち、違うっ…!違うんだよっ!!くそォっ!!」
錬金術師「す、すまん…ッ!」
錬金術師「裏で…少し休む……。すまん……」
女店員「…っ」コクン…
錬金術師「くそっ…!」クルッ
タッタッタッタッ………
………
…
女店員(…ッ)ポツン…
女店員(て、店長……。あんな顔、初めて見た……っ。)
女店員(まるで、店長のお父さんみたいな…感じだった……。)ブルッ…
女店員(私、何かしたのかな……)
女店員(それとも、疲れてて……。)
女店員(…)
女店員(ダメ…。また…分からないよ……。)
女店員(こ、こんな時、銃士ならきっと…上手く声をかけてたんだろうな……)グスッ…
女店員(どうしよう…。なんで、最近…すぐに涙が……ッ)
ポロッ…ポロポロ……
女店員「…っ」
…ガチャッ!
新人鉱夫「ただいまですー♪」
新人鉱夫「…」
新人鉱夫「……って、女店員さーん!?」ビクッ!
女店員「ひぐっ…」グスッ…
新人鉱夫「…どどど、どうしたんですかっ!」
新人鉱夫「店長さん、店長さ~~んっ!!」
女店員「…あっ!」ハッ
女店員「…っ」ゴシゴシッ!
女店員「い、いいのっ!新人鉱夫、気にしないでっ!」
新人鉱夫「き、気にしないでって…!」
女店員「大丈夫だから……っ」
新人鉱夫「で、でもっ…」
女店員「大丈夫だから…っ」
新人鉱夫「えぇっ…」
女店員「ごめんなさいっ……」
新人鉱夫「で、ですけど……」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 お店の倉庫側 】
ゴロンッ…
錬金術師(だ、ダメだ、くそっ……!)
錬金術師(こうして本格的に関わると、やっぱりすぐに感情的になっちまう…!)
錬金術師(女店員らが仕事が出来る環境が出来たっつーのに、俺がこんなんじゃ…!)
錬金術師(……頭、冷やさねぇと。)
錬金術師(必ず、いい方法はあるはずだ…。)
錬金術師(絶対に、何か。考えろ……。)イラッ…
錬金術師(考えろ、考えろ、考えろっ……。)イライラ…
錬金術師(考えろ……)イライライラッ…
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日(3月2日) 錬金術師のお店 】
錬金術師「…ッ!」ボリボリッ…
錬金術師「くそっ、頼りたくはねぇし…。だけど……」ブツブツ…
新人鉱夫(…なんか、店長さん昨日の夕方から機嫌が悪いですね。)
新人鉱夫(あのあと女店員さんはすぐに帰っちゃいましたし、一体何があったんでしょうか…?)
新人鉱夫(まさか、恋仲で何かあったとか…そんなことは……)
…ガチャッ!
錬金術師「ん…」
新人鉱夫「あ…」
女店員「お、おはよう…ございます」
錬金術師「…はよ」
新人鉱夫「おはようございますっ♪」
女店員「…て、店長……さん」
錬金術師「ん…」
女店員「き、昨日はその…ごめん…なさい……」
錬金術師「……俺が悪いんだ、気にするな」
女店員「そ、そう…ですか…。有難う…ございます……」ペコッ
錬金術師「…」
錬金術師「……あ?」ピクッ
女店員「ッ!」ビクッ
錬金術師「……お前、なんで」
女店員「な、なに……。あっ…、な、なんです…か…?」
錬金術師「…んで、敬語に戻ってるんだ?」
女店員「な、なんでって…その…。私のせい…で…だったかなって……」
錬金術師「……あー?」
錬金術師「急に戻すんじゃねーよ、気持ち悪い」
錬金術師「いつものままでイイっつーの」フリフリ
女店員「気持ち…悪い……?」ドクッ…
錬金術師「あぁ、気持ち悪いって。お前は普段のままでいいから」
女店員「ご、ごめんなさい……っ」
錬金術師「…あ?」
女店員「ごめんなさいっ…!」ダッ!
ガチャッ、バタンッ……!
錬金術師「……あ、おいっ!?」
新人鉱夫「…!」
錬金術師「…なんだぁ?」
錬金術師「…」
錬金術師「……新人鉱夫、なんであいつ…」
新人鉱夫「……て、店長さんのバカァっ!!」
錬金術師「」
錬金術師「……へっ!?」
新人鉱夫「て、店長さんもきっと悩んでたんでしょうけど…!」
新人鉱夫「女店員さんも色々と不安だったんですよ!!」
錬金術師「な、なぬっ…」
新人鉱夫「追いかけてください、早くっ!!」
錬金術師「…俺が?」
新人鉱夫「な、何があったかは知りませんけど!」
新人鉱夫「昨日、女店員さん泣いてたんですよっ!!!」
錬金術師「!」
新人鉱夫「……きっと、最近…色々とあって…。」
新人鉱夫「店長さん、だから……!」
錬金術師「わ、わかった。すぐ追いかける…!」
新人鉱夫「急いでくださいっ!」
錬金術師「へ、へいっ…!」ダッ!
タタタッ、ガチャッ……バタンッ……!
新人鉱夫「…」
新人鉱夫「…い、勢いに任せて馬鹿なんか言っちゃった……。自己嫌悪です……」ハァ
新人鉱夫「……で、でも店長さん、いつもの口調に少し戻ってましたね。」
新人鉱夫「僕は、二人が戻った時に温まるようにお茶でも淹れておきましょう…」クルッ
トコトコトコ……
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 お店の外の森 】
タッタッタッタッ…!
女店員(またやっちゃった、また逃げた、また泣いてるっ…!)グスッ…
女店員(どうしよう、どうしようっ…!)
女店員(わかんないよ、私がどうしたいのか、私が何を想っているのか…!)グシュッ…
女店員(気持ち…悪い…。何でもない、いつもの一言だって分かってるのに、妙に突き刺さって…。)
女店員(……涙が、止まらないよっ…)
女店員(店長が頑張ってるのに、私がこんなに気持ちがおかしいんじゃ、ダメなのも分かってるのに…っす)
女店員(なんで…。なんでっ……)
…ガシッ!!!
女店員「ッ!?」
錬金術師「お、女店員っ!」ゼェゼェ…!
女店員「えっ…!?て、店長…さ…」
錬金術師「店長でいいっつーの!足はえぇよお前…!」ハァハァ…!
女店員「…っ!」
錬金術師「ど、どうしたんだよ…。急に逃げて…!」
女店員「…っ」
錬金術師「き、昨日のことか!?」
錬金術師「あれは…本当に悪かった…。考え事をしてて…つい…」
女店員「ち、違うよ……」ボソッ
錬金術師「な、何っ…」
女店員「私が、店長の気持ち理解しないで色々やって、怒らせただけだから…っ」
女店員「だから、今日はその…敬語で…やれば怒らせないかなって…思って…でも……」
錬金術師「ち、違うっ!お前は悪くないっての!」
女店員「違わないよっ…」
錬金術師「あれは俺が倒れて!!その…!夢を見て…さ……」
女店員「……えっ?」
女店員「た、倒れた……?」
錬金術師「…あっ」ハッ
女店員「た、倒れたってどういうこと…!」
錬金術師「い、いやその…!」
女店員「あの時、転んだって…」
錬金術師「…っ!」
女店員「ウソだったの…?」
錬金術師「い、いやその…!」
女店員「なんで…」
錬金術師「…ッ!」
女店員「わ、私は頼れない人間だったのかな……っ」
錬金術師「…ッ!」
錬金術師「…」
錬金術師「……」イライラッ
錬金術師「あっ……!!あぁぁぁっ!もうっ!!」ブチッ!
女店員「えっ…?」
錬金術師「あぁぁぁああっ!!面倒くせぇぇっ!!」
女店員「っ!?」ビクッ!
錬金術師「馬鹿野郎がっ!!」グイッ!
…ギュッ!!
女店員「…ッ!!」
錬金術師「あぁぁもう、マジで面倒くせえ!」
錬金術師「本音もクソもあるか、女が面倒なもんってのは知ってたが、俺は面倒だっていうぞ!」
錬金術師「情緒不安定?不安?知るかっ!!」
錬金術師「女店員、いいか!早口で言う、よく聞けよ、いいかっ!!!」
女店員「え、えっ……!」オロッ…
錬金術師「倒れたのは事実だが、俺は誰にも迷惑をかけたくなかったから言わなかっただけだ!」
錬金術師「それに怒鳴ったのはお前のせいじゃなくて、俺が経営に関して悩むとああなっちまうんだよ…!」
錬金術師「やっぱり親父の血も流れてて、色々怒鳴っちまうし、声も荒げちまう!」
錬金術師「だけど、お前のことを別に嫌いとか気持ち悪いとか、そういうことじゃねえ!」
錬金術師「いきなりすぎるかもしれねえが、気にすんな!」
錬金術師「……隠し事をしてるのは悪かった、俺も謝る!」
女店員「て、てんちょ…」
錬金術師「……分かった、そうだったな。」
錬金術師「お前に色々隠し事したらダメだったな。これからはきちんと言うから…」
錬金術師「……な。機嫌治せ」
女店員「…っ」
錬金術師「俺は、お前の考えてる気持ちを俺は理解できねえし、つうか他人の気持ちも正直…疎い。」
錬金術師「だけど、お前が気持ちを素直に口に出来ないってことも分かってる。」
錬金術師「だからこそ、これからは少しでも、気持ちも考えられるように、俺ももっと大人になるから……」
女店員「…」
錬金術師「なっ…?」
女店員「…」
女店員「……ご、ごめん」
錬金術師「ん、だから謝ることは…」
女店員「銃士…ごめん…」
錬金術師「な、なぬ?銃士?」
女店員「…」グッ…
……ギュウウッ!!
錬金術師「!」
女店員「このあったかさは…ダメだよ……」
錬金術師「な、何だ!?」
女店員「…店長」
錬金術師「何だ…?」
女店員「…」
女店員「……っ」ドクンッ…
錬金術師「ん…?」
女店員「あの…ね………」ドクッ…
錬金術師「…どうした」
女店員「わ、私が…その、不安…だったのは…ね……っ」ドクッドクッ…
錬金術師「…」
女店員「て、店長…が……ね……」ドクッドクッドクッ…
錬金術師「うむ、俺が?」
ドクッドクッドクッドクッ……!
女店員「…」
女店員「…ッ」
…………ドクンッ!!
女店員「…」スゥッ…
女店員「…っ」
女店員「……や、やっぱりなんでもないっ!」
錬金術師「な、なんだって!?」ガクッ
女店員「ご、ごめんっ!何でもない…!ごめん……」
錬金術師「…あ、あぁそう?」
女店員「そ、それよりさっきの言葉通り…これからは本音で教えてね!」
錬金術師「お、おうよ。ちゃんと言うよ…」
女店員「じゃあ、お店に戻ったら…店長がなんであんな風になってたか教えてねっ。」
女店員「きっと、私も力になれるかもしれないから」
錬金術師「…分かったよ」
女店員「うんっ…。」
女店員「じゃあ戻ろっか…。」
女店員「それと、ここまで追いかけてくれて…ありがとう……」
錬金術師「…」
錬金術師「……へ、ヘックション!」
女店員「あ…」
錬金術師「…まだ外は寒いな。上着、ほれ」スッ
…パサッ
女店員「!」
錬金術師「…じゃ、帰るぞ。」クルッ
女店員「うん…」
錬金術師(……久々にこんなに大声あげたな。)
錬金術師(少し、スッキリした気がする…。)
錬金術師(…お前も、心から俺を心配してくれてるんだなって分かったよ。)
錬金術師(すまんかったな……)
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 錬金術師のお店 】
…グビッ
錬金術師「…あったけぇぇ!」ブルルッ!
女店員「新人鉱夫、わざわざ淹れててくれたんだ…」
新人鉱夫「はいっ!」ムフー
新人鉱夫「お茶菓子もあるので、まずは一息落ち着いてくださいっ♪」
錬金術師「あぁ悪いな。」
錬金術師「新人鉱夫も、少し休んでくれ。一緒に飲もう」
新人鉱夫「はい、じゃあお言葉に甘えて…」
錬金術師「…」グビッ
錬金術師「ぷはっ…。さて、銃士はいないが……」
錬金術師「ちょっと、お前らに話をしておきたいことがある。相談っつーか…」
新人鉱夫「は、はいっ!相談ですか?」
女店員「うん…」
錬金術師「まぁ知ってるだろうが、俺は昨日、情けないことに女店員に怒鳴っちまった…」ハァ
新人鉱夫「…」
女店員「…」
錬金術師「…言い訳になるが、俺はこういう事になるんじゃないかって思ってた。」
錬金術師「嫌でも親父の血があって、やっぱり心の奥底ではあぁなっちまうんじゃないかって…な」
女店員「…っ」
新人鉱夫「店長さん…」
錬金術師「…悪かった。まず、謝らせてほしい」
女店員「わ、私の方こそ…」
新人鉱夫「ぼ、僕も気づけなくて…」
錬金術師「いやいいんだ」
錬金術師「…それで次の、話の本題へ進ませてもらうな」
女店員「うん」
新人鉱夫「はいっ」
錬金術師「……じ、実は思った以上に…俺の身体にガタがきている」
女店員「店長…」
新人鉱夫「ど、どういうことですか!?」
錬金術師「その、実はな…」
錬金術師「錬金道具や魔石の生成時、身体の魔力を多く使ったり、集中が非常に多くなるんだ」
錬金術師「だから、身体のだるさや色々と疲労で休むことも多かった」
女店員「…っ」
錬金術師「今回の件は、今までの比じゃないくらいの量でな…。」
錬金術師「いけると思っていたんだが、どうやら俺にとっても相当な重圧らしい…」
女店員「そ、それで昨日…」
錬金術師「…倒れちまった。」
錬金術師「それで、どうにか上手く回せないかと考えていて、そこでつい…」
女店員「…」コクン
錬金術師「……隠していて悪かった。」
錬金術師「自業自得だな、怒鳴ったのも、気分が悪かったのも。」
錬金術師「…もっと早く、相談すべきだった」
新人鉱夫「……いえ、気付けなかった僕らにも責任があります」シュン
女店員「うん…。ごめんなさい…」
錬金術師「お、おいおい。だから、お前らは謝る必要はねーよ!」
錬金術師「人の気持ちを察しろなんて、難しいことなんだからよ」
新人鉱夫「で、でも…」
女店員「…」
錬金術師「…許してくれるなら、許してくれてそれで終わりにしたい。」
錬金術師「互いが互いに言い合ってちゃ、この話はずっと終わらないだろう…。」
錬金術師「今回の件、本当にすまなかった」
新人鉱夫「い、いえ!そんな、許すも何もないです!」
女店員「…」
女店員「…ふふっ。」クスッ
女店員「……店長、ゆるすっ!」
新人鉱夫「えぇっ!?」
女店員「…ね?」ニコッ
錬金術師「…」
錬金術師「…くくくっ。そうか、ありがとよ!」ハハハ!
女店員「うんっ。私も迷惑をかけてばっかりで、勝手で…。」
女店員「私のことも…許してくれるかな…」
錬金術師「……同じ答えだ。」
女店員「…えへへ」
錬金術師「…」ニヤッ
女店員「うんっ…」
新人鉱夫(…!)
新人鉱夫(……やっぱり、なんか二人は違うんですねぇ。)
新人鉱夫(二人とも気づいてませんけど、二人とも…凄いですよ。)
錬金術師「…さてまぁ、本題についてだが。」
錬金術師「二人とも、いい案があったら提供してほしい」
女店員「いい案…か」
新人鉱夫「今後、魔石の販売や錬金術頻度が増えたらどうするか…ですね。」
錬金術師「情けない話だが、正直…俺は今後の対応が非常に難しいだろう。」
錬金術師「大丈夫だと思っていた身体だったが、本当は厳しかったみたいでなぁ……」ハァ
錬金術師「こればっかりは生成術における、魔力の消費を抑えることも難しいし…」
錬金術師「どうやってか定期的な生産量を確保せんといかん」
女店員「サードパーティからの販売も抑えたいから、独占販売でいきたいってことだよね」
錬金術師「そうしないと、儲けが少ないシステムだからな。」
錬金術師「開発方法を外へ漏らすと、サードからの販売も増えてくるだろうし…」
錬金術師「出来るだけ独占しておきたいんだ」
新人鉱夫「でも、そのままだと店長さんが倒れてしまう…。」
女店員「だから、安定供給のために何とかしたい…か」
新人鉱夫「僕らで手伝えることは手伝いますが、魔石生成は難しいですし…」
女店員「鉄鉱石の製錬とはワケが違うから、量産には手伝えないね…」
錬金術師「…そういうことだ」
錬金術師「まぁ俺も考えてはいるが、すぐに回答も難しいだろうし……」
錬金術師「銃士が戻り次第、銃士にも考えて貰おうと思う」
女店員「だねっ」
新人鉱夫「それがいいと思います」
錬金術師「…んじゃ、俺は少し休むかなぁ」フワァ
錬金術師「休める時に、ちょっとでも休んでおくが吉なわけで……」
女店員「うん、それが良いと思う」
新人鉱夫「お客さんが来たら、呼びますよ」
錬金術師「はっはっは、客は早々来ねぇよどうせ。」
錬金術師「万が一、今回配ったサンプルに対しての客が来たとしても…」
錬金術師「オリジナルの魔石はストックがあるし、売れる本道具自体はある程度準備してある…。」
錬金術師「そこまで困るもんじゃねえしー……」
……コンコン
錬金術師「!」
女店員「!」
新人鉱夫「!」
錬金術師「…い、いや。」
錬金術師「そんな、まさか。そんなぁ…まさか…。」
錬金術師「今、普通の客が来たりするわけはねぇよなぁ……?」
女店員「でも、この流れって……」
新人鉱夫「…恐らく」
錬金術師「…」
錬金術師「ど、どうぞ~…」コソッ…
……ガチャッ!
アクセ職人「…どうも、お店は開いておりますか?」
錬金術師(……あ゛っ)
女店員(あ゛っ……)
新人鉱夫「…い、いらっしゃいませ…?」
アクセ職人「この間、営業して頂いた件なんですが…。」
アクセ職人「今、お時間はよろしいでしょうか…?」
錬金術師「……ど、どうぞ」ピクピク
アクセ職人「失礼します」
トコトコ…
錬金術師「ど、どうも……」
アクセ職人「……いえ、この間はわざわざどうもでした」
新人鉱夫「お茶、淹れ直してきます」クルッ
タタタタッ……
女店員(こ、このタイミングで…。大丈夫なの…!?)チラッ
錬金術師(む、無理だ。今の俺の体調じゃ、すぐの鉱石製錬すらも難しい……)ブンブン
女店員(私が出来る…かな?)チョイチョイ
錬金術師(鉄クズは余ってるが、製錬レベルが違いすぎて無理だ…)ブンブン
女店員(こ、断るの?)チョイッ
錬金術師(自信満々に言ったのに、断れねぇよ!)ブンブンッ
女店員(あ、あはは……)
錬金術師(……は、はは)
アクセ職人「そ、それで…えぇと……」
錬金術師「…あ、はいはい!」
アクセ職人「…この間の件ですが、実は…。」
アクセ職人「あれからすぐに、うちに卸していた業者がつぶれてしまって……」
錬金術師(…やはりか)
アクセ職人「…店長さん、まだあの時のお話は可能ですよね。」
アクセ職人「あの時、あのレベルの鉄クズを300ゴールドとおっしゃっていただきました。」
アクセ職人「……お願いします、契約をしてください」
錬金術師「…」
アクセ職人「…」ペコッ
錬金術師(…まずいな)タラッ
錬金術師(忘れていたわけじゃなかったが、このタイミングで来るか…普通……?)
錬金術師(仕事っつーのは波があるが、こういったこともあるんだよなぁ……)
アクセ職人「…あの」
錬金術師「……い、いや。可能ではあります」
アクセ職人「本当ですか!?」
錬金術師「…どれくらいのご希望でしょうか」
アクセ職人「あのサイズで、月100個です。今回はこちらからの契約ですので、契約料を多少上げて頂いても!」
アクセ職人「そうですね、400ゴールドでいかがでしょうか。」
アクセ職人「お願いいたします」
錬金術師「…月40万ですね。な、なるほど、承知しました…」ピクピク
アクセ職人「…あ、有難うございますっ!」
錬金術師「ただ、ちょっと今…在庫が少なくて。いつぐらいからのご希望でしょうか?」
アクセ職人「できれば、来週頭からなのですが…」
錬金術師「…」
錬金術師「……ら、来週」ピクピク
女店員(…ってことは、丁度、月曜日の納品か。)
女店員(中央商人さんとの契約もあるし、丁度いいといえば丁度いいけど……)
アクセ職人「無理でしょうか…」
錬金術師「…っ」
錬金術師「い、いえ…。何とかしましょう……」
アクセ職人「…有難うございますっ!」
錬金術師「け、契約書は近日中、納品前までにお届けいたします…」
錬金術師「それまで、お待ちください…」
アクセ職人「は、はいっ!」
錬金術師「…」ニ、ニコッ…
アクセ職人「それでは失礼します…っ!」
錬金術師「ま、またどうぞ~…」ピクピク
アクセ職人「…」ペコッ
トコトコ…ガチャッ、バタンッ!
錬金術師「…」
女店員「…」
タッタッタッタッ…!
新人鉱夫「…っと、時間がかかってすいませんでした!」
新人鉱夫「お茶です…って、もう帰っちゃったんですか?」
錬金術師「…ッ」バッ!
ガシッ、グイッ!
新人鉱夫「あっ、お茶を!?」
錬金術師「…んぐっ、んぐっ!」グビグビッ!
新人鉱夫「あああ、熱いですよっ!!」
錬金術師「……ぷはっ!」
…コトンッ!
新人鉱夫「の、飲んじゃった…」
女店員「て、てんちょ~…」
錬金術師「……さぁて、どうしたもんか」ハハハ…
……………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
店長の身体は、ここ最近の度重なる錬金術と魔力の消費で深刻なダメージを受けていた。
隠し通したかった店長だったが、女店員や新人鉱夫へようやく告白。
今後の量産を含め、どうにかするべく考えたものの…いい案はまとまらなかった。
更に、本来なら嬉しいはずの新たな契約も、更なる悩みの種へ。
……しかし、店長の心にはある思惑が。
それを伝えたのは、2日後の銃士が戻ってからだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 2日後(3月4日) お店 】
銃士「…」
銃士「も、戻ってきたら大変なことになってたみたいだね…」
錬金術師「…非常に不味い。」
女店員「うん…」
新人鉱夫「仕事が増えるのはいいですが、店長さんの手が回らないですね…」
銃士「…しかし倒れたとは。」
銃士「大丈夫だったのか?」
錬金術師「少しは回復したが、大量生産が出来るほど余裕はねぇ…。」
錬金術師「……不味いんだよな」
女店員「私たちじゃ、その錬金術を手伝えるわけじゃないし…」
新人鉱夫「そうですね…。小さいことならお手伝いできるのですが…」
銃士「うーん…」
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「……頼りたくなかったが、最終的に頼ることにはなりそうだな」ハァァ
女店員「え?」
錬金術師「……俺らで何とかできないかと思っていたが、ここまでまとまらないんじゃ仕方がない。」
錬金術師「前々から少しだけ、最終的な案として考えてたが……それを実行しないといけなそうだ」ハァァ
銃士「…なんだ、考えがあったのか?」
錬金術師「いや、だけど頼りたくないっつーか……」
女店員「でも、ここまで追い込まれてたら頼らざるを得ないんじゃ…」
錬金術師「それはそうなんだが…」
新人鉱夫「えっと…その頼るっていう、最終的な案の詳細は何なんですか?」
錬金術師「…ほら。」
錬金術師「錬金術で、俺の指示のもとなら変わらない出来を造れる人間ならいるだろう…?」
女店員「えっ、そんな人が…?」
錬金術師「正直、仕事としてはあまり巻き込みたくないんだが…ココまで来たら仕方ないというか…。」
銃士「…知り合いか?」
錬金術師「いや本気で、頼りたくはないんだが……」
新人鉱夫「…誰ですか?」
錬金術師「……忘れてるだろ。」
錬金術師「隣町、錬金術機関。機関長と、術士先生だよ…」
3人「……あぁっ!」
錬金術師「…こんなカタチでは尋ねたくなかったが、さすがに俺だけじゃパンクしちまう。」
錬金術師「自分を見極められないなんて、情けな過ぎてな……。」
銃士「…で、でもそれならいいんじゃないか!」
新人鉱夫「そうですよ、あの二人なら力強い味方になります!」
女店員「…しのご言ってられないね」
錬金術師「…」
錬金術師「……はぁ、仕方ないよな。」
錬金術師「明日中には契約書出さないといけないし、今日、高速馬車でサクッと行ってくるわ…」
女店員「うん…。アクセショップの人にだよね。」
銃士「はは…気を付けて。」
新人鉱夫「お留守番は任せて下さいね」
錬金術師「あぁ…。」
錬金術師「こんなこと話したら、どうせ機関長に怒られるんだろうな…」
錬金術師「"己の力も分からないなんて、それでもマスターの称号を持った男かっ!!"」
錬金術師「なーんて……」
……………
………
…
…
………
……………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 隣町 錬金術機関 機関長の部屋 】
機関長「…己の力も分からないなんて、それでもマスターの称号を持った男かッ!!」
錬金術師「」キーン
機関長「……ったく情けない!」
機関長「相変わらずの開発技量、その知識と腕には感服するが…」
機関長「最も必要な、自分の体力管理を怠ってどうするんだっ!!」ビリビリッ…
錬金術師「わ、分かってるっつーの!」
錬金術師「今回のは久々に失敗しちまったし、反省もしてるって…!」
機関長「はぁぁ…。マスターの称号が泣くぞ…」
錬金術師「ほら、俺ってば既にマスターの称号は返還したし?」キャピッ
…ゴツッ!!
機関長「殴るぞ」プルプル
錬金術師「い、痛いっ!既に殴ってる!」プシュウッ…!
機関長「……しかしまぁ、事情は分かった。」
機関長「今後の対応が、自分じゃ出来かねるということだな」
錬金術師「生成魔石、マジエアコン、パワーアップユニット、超回復瓶を適宜制作。」
錬金術師「それに加えて、鉄クズの精製が100個。」
錬金術師「ついでに、毎週のハンティングで採ったカルキノスをある程度イジらなくちゃいけない」
機関長「…一人の人間の限界量を超え過ぎだ。」
機関長「普通なら倒れてるぞ」
錬金術師「だから倒れたんだって♪」キャピッ
…ゴチィンッ!
機関長「殴るぞ」プルプル
錬金術師「…」プシュー
機関長「…仕方ない。手伝えることは手伝おう」
錬金術師「お…いいのかっ?」
機関長「お前の頼みだ、断れるわけがないだろう」
錬金術師「…恩に着るよ」
機関長「だが、その前に…」ゴソゴソ
錬金術師「ん…」
機関長「…ほれ、うちとの契約書だ」ペラッ
錬金術師「……へいへい」
機関長「今回のことは、俺と術士先生、場合によっては白学士と錬成師を契約社員として扱ってもらう。」
機関長「各生成、製錬時に費やした時間による、時間給。それでいいな?」
錬金術師「へっ、それでいいのか?」
機関長「うちとしては、儲けが出るならいい」
錬金術師「…総売り上げから、割での計算のほうが高いぜ?」
機関長「そりゃそうだろうが、そこまでうちは貧乏じゃないから気にするな」
錬金術師「…それじゃお言葉に甘えるが。1時間辺りの金額はいくらにする?」トントン
機関長「800ゴールドでいい」
錬金術師「…やっす。錬金学生の特待学校でやるアルバイト以下だぞそりゃ」
機関長「もし5人が出る機会があれば、1時間で4500ゴールドになる。充分だ」
錬金術師「せめて1000ないとキツくないか?合計5000はいくぜ」
機関長「うちの機関は、研究が本分で…費用は国から貰っているからな。それ以上はいらんよ」
錬金術師「…言葉に甘えるぜ?」
機関長「よろしい」
錬金術師「…代わりに、何らかの理由で生成が出来なかった場合の損失は削除しておく」カキカキ
機関長「人災を含む、怪我による保険の部分もいらん」
錬金術師「おいおい、それは……」
機関長「俺らの腕で、そうそう事故が起きるものか…。」
機関長「それともなんだ、うちの機関は事故でも起こすと思うか?」
錬金術師「…起こすわけねえわな」カキカキ…
機関長「そういうことだ。よし、書いたか?」
錬金術師「こんな簡素で、いい契約したのは初めてだぜ」フゥ
機関長「あとで、3人には契約社員になったことを伝えておくぞ」
錬金術師「全くなんてオッサンだ。勝手に契約していいのかよ」
機関長「あいつらが話を受けたら、確実にお前にもっと有利な話で動くかもしれんからな。」
機関長「俺よりお前の方が慕われているくらいだ…。」
機関長「下手をすれば研究を疎かに、機関が潰れかねんし…勝手に契約させて貰う」フンッ
錬金術師「はっはっは、どーも」
機関長「…全く、これからは自分の体力を知ったうえできちんと仕事をするんだぞ」
錬金術師「わかってますよ~っと」ヒラヒラ
機関長「…はぁ。それじゃ、まずは何から手伝えばいいのか」
錬金術師「…とりあえず、製錬鉄クズを準備してほしい。」
錬金術師「オッサンの腕なら、恐らく俺のとそこまで相違ないモンが出来るはずだし…」
錬金術師「来週の頭までに100個。それ以後、常にストックがあれば嬉しいが…」
機関長「100個程度なら、1時間かからんな」
錬金術師「そりゃ集中製錬した場合だろうが…。」
錬金術師「休み休み…せめて1時間に20個ペースでやらんと、俺みたく倒れちまうぞ」
機関長「…1時間かからん。かかるわけがない。かかりませんっ」フンッ
錬金術師「子供かよっ!」
機関長「で、それだけでは他の者に仕事がないぞ?」
錬金術師「…あんたな、マジで1時間に100個ペースは倒れても責任はもたんぞ」
錬金術師「せめて、人数で割って100個を……」
機関長「早く、次の仕事内容は。来週までにやること、はよ」クイクイ
錬金術師「…」
錬金術師「……あと、ココに設計図を書いておくから。」
錬金術師「それにあわせて、さっきの3つの道具を造ってほしい…が……」
機関長「マジエアコン、パワーアップユニット、超回復瓶だな」
錬金術師「素材費用はそれぞれこっちが負担する。」
錬金術師「楽な順序は、超回復瓶、パワーアップユニット、マジエアコンの順だ。」
機関長「了解した。今後手紙で、1週間のうちにどれくらいのペースで制作してほしいか寄越してくれ。」
機関長「それに合わせ、こちら側で時間を割く。」
錬金術師「…おう、ありがとうさん」
機関長「うむ。では、今はそれだけか?」
錬金術師「まぁそれだけだな…。」フム
機関長「承知した。お前のものと完璧なオリジナルとはいかんだろうが、不満のない道具にはなるはずだ」
錬金術師「…おうっ、頼むぜ!」
錬金術師「だけど、マジで時間給で気にしてアンタが倒れることないようにな。」
錬金術師「それじゃ…時間もないし、失礼する。有難うな」
機関長「うむ、俺は1時間に余裕なんだっての」
錬金術師「そ、そうか。じゃあな…」
トコトコ……
ガチャッ…バタンッ……!!
機関長「…」
機関長「…はぁ」
機関長「……馬鹿モンが。」
機関長「見えていたぞ、両手にあった真っ赤な湿疹と、ペンを動かす時の手の震え……。」
機関長「とっくに限界を超えた証ではないか…。」
機関長「その努力を知ってる俺が、少しでも楽をさせてやらないでどうしようといおうか…ってな」
……………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして夜 錬金術師のお店 】
錬金術師「……ってわけで、契約してくれるそうだ」
女店員「良かったぁ…。少しは休めるね…」ホッ
銃士「ってことは、あそこの皆さんが一応、私らと一緒の店員ってことになるんだね」
新人鉱夫「へへ、少し不思議ですね」
錬金術師「まぁうちに来るわけじゃないし、そんな感覚もないだろうが……」
錬金術師「向こうで造ってくれたアイテムは基本的に俺が回収にいくから大丈夫だ」
女店員「…あっ。それなら私が行こうか?」
錬金術師「…いや、隣町まで大変だろ。重いモンもあるし、俺がやったほうが…」
女店員「ううん、私が行くよ。大丈夫っ」
錬金術師「…そ、そうか?」
女店員「うんっ!」
銃士(…ん?)
銃士(今までなら、"店長が頑張ってやる気出してるんだね!"とかだけで終わらせると思ったんだけど…)
銃士(女店員が率先してやろうとするのは…少し珍しいかな)
新人鉱夫(…なんか、店長さんと女店員さん、いい方向に向かってますね。)
新人鉱夫(喧嘩したあとの仲直りが上手く行った時ほど、距離が縮まるものもないですからねぇ……)
錬金術師「…んじゃまぁ、どうすっかなぁ」ポリポリ
錬金術師「今日は仕事終わりなんだが、次回納品は3月9日だし、明日は1日暇の予定だな」
女店員「お客さんを待ってることも仕事なんだけどね…」アハハ…
錬金術師「ん~…」
女店員「…納品分はもう終わってるんだよね?」
錬金術師「銃士とのハンティングは金曜日あたりに終日使ってやれば終わるし…」
女店員「新人鉱夫の鉱石もストックがあるし…」
銃士「…ふむ」
新人鉱夫「確かに、最近のことを考えると明日は…全員がお店に来てもやることが少ないですね」
錬金術師「…」
錬金術師「…ん」ピクッ
錬金術師「……ちょい、ちょっと待て。ちょっと待て」
女店員「うん?」
錬金術師「お前らさ、最近…休みとったか?」
女店員「休み?」
新人鉱夫「……休みですか?」
銃士「休みか…?」
錬金術師「そもそも、俺を除いて基本、全員週五日出勤だろ?」
錬金術師「…なのに、ここ最近は毎日、出張してるか出勤してるよな」
女店員「あ、確かに…」
新人鉱夫「…僕はここに住んでいるので、自然と出社状態になってますね」
銃士「出張だったけど、確かに仕事といえば仕事か…」
錬金術師「…」
錬金術師「……はぁ。こんなんじゃダメだな、俺以外も疲れてるだろうに…すっかり忘れていた」
錬金術師「そこはきちんとしねーとな」
女店員「…えっと、つまり」
錬金術師「週の真ん中が休みってのも普通にあるし。」
錬金術師「明日は全員、休日にしよう。店はクローズにしておく」
女店員「えっ!」
新人鉱夫「き、休日ですか?」
銃士「休日か…」
錬金術師「配布した道具の魔石はまだまだ消費されないし、オリジナル魔石の購入者もいないはずだ」
錬金術師「丁度いい機会だし、明日は全員の休みにしよう」
女店員「休日かぁ。考えてなかった……。出社でもいいような……」
錬金術師「しっかり休む日にしとけ」
女店員「う、うーん…」
新人鉱夫「えーと、じゃあ僕はどうしますかねぇ…」
錬金術師「寝坊していいぜ?」
新人鉱夫「でも、朝ごはんも作りますし結局…早く起きちゃいそうです」
錬金術師「たまにはのんびりしてもいいんだが…」
新人鉱夫「そうですかねぇ…」
女店員「…休日。お店もクローズかぁ」
銃士「明日は出勤しなくていいと…。」
女店員「…銃士、何かする?」
銃士「あぁそうか…。そうだな、二人で町にでも出てみるか?」
女店員「ショッピングするっ?」
銃士「…そうだな、私も欲しいのがあるし。一緒に行こうか」
女店員「うんっ♪」
銃士「1日まったりするのは久しぶりだな」
女店員「新しいカフェもできたみたいだし、そこも行ってみようよ♪」
銃士「うむっ」
新人鉱夫「二人はショッピングかぁ…。僕は……寝坊してもやることないかなぁ…」
錬金術師「…俺とショッピングするか?」
新人鉱夫「えっ」
錬金術師「えっ」
新人鉱夫「…店長さんとショッピングですか!」
錬金術師「い、いや。言ってみただけだ…」
新人鉱夫「…て、店長さんが良ければ行きたい…ですっ」
錬金術師「いやいや、嫌ならいいんだぞ?」
新人鉱夫「嫌なわけないですっ!いいんですかっ?」パァッ
錬金術師「お前が良ければ」
新人鉱夫「もちろんですっ!行きたいですっ!」
錬金術師「そ、そうか。じゃあ…明日は町に出るか……」
新人鉱夫「はーいっ♪」
銃士(……っ!)ゴゴゴ…
女店員(う、薄々思ってはいたけど……!)ゴゴゴ…
銃士(し、新人鉱夫って…)
女店員(新人鉱夫は…)
女店員(私より…よっぽど……)
銃士(私より…よっぽど……)
新人鉱夫「へへーっ♪」
新人鉱夫「楽しみです、店長さんっ!どこに行きましょうか~!」
錬金術師「お前が行きたい所も付き合うぞ。俺も行きたいところあるし」
新人鉱夫「はーいっ!僕の普段行く買い物場所とかも案内しますねっ♪」
女店員(女子っぽい!!)
銃士(女子力とやらが、高いのでは…!)
錬金術師「…」
錬金術師「……あっ」ハッ
新人鉱夫「どうしました?」
錬金術師「んじゃさ、どうせなら……全員で出かけないか?」
錬金術師「このままだと、どうせ町の中で4人で会うし」
女店員「!」
銃士「!」
新人鉱夫「!」
錬金術師「い、いや。仕事のことを忘れたい休日だろうが……。」
錬金術師「俺の顔を見たくないだろうし、無理にとは……」
女店員「…いくっ!!」
銃士「いこうっ!!」
新人鉱夫(…反応が早いですっ!)
錬金術師「…だけど、この面子じゃ仕事を忘れてリラックスを」
女店員「……この面子だから、リラックスできるっていうのもあるかも」
銃士「確かに、今はここにいないと少し落ち着かないというか」ハハハ
新人鉱夫「仕事が休日…っていうのは言葉が悪いですけど、そんな感じなのかもしれないです」
錬金術師「…そ、そうか?」
錬金術師「それなら、明日は全員で町に出てみるか……」
女店員(…本当は、休日って言われた時に店長を誘おうとしたけど)
銃士(お互いがいる手前、やっぱり言えないね……)
新人鉱夫(…と、思ってるんでしょうね)アハハ…
錬金術師「んじゃ、今日はこれで解散。」
錬金術師「明日はゆっくり10時くらいにでも店に集合してくれ。そこから町に行こう」
女店員「うんっ」
銃士「あぁ」
新人鉱夫「はーいっ!」
錬金術師「それじゃ、また明日。お疲れ~い」
女店員「お疲れ~!」
銃士「お疲れ様」
新人鉱夫「お疲れ様でしたっ!」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 3月5日 】
ガチャッ!
女店員「おはよう~!」
銃士「おはよう」
新人鉱夫「あ、おはようございますっ!」
錬金術師「…おっ、来たか」
女店員「うんっ。いつでも行けるよっ」
銃士「私もいつでも大丈夫だ」
錬金術師「…」
錬金術師「……へぇ」
女店員「うん?」
錬金術師「…お前、今日は髪型違うのな。」
錬金術師「横結んでる…サイドテールっつーの?」
女店員「あ、うんっ…。ちょっと今日は…ね」
錬金術師「へぇ、似合うじゃん。可愛らしいと思うぞ」
女店員「えっ…?そ、そうかな?」
錬金術師「恰好もいつもと違うし、なんか新鮮だな」
女店員「え、えへへ…」テレッ
錬金術師「…銃士も。いつもと違う冒険者の格好じゃないし、新鮮だな」
銃士「いつもは戦いに使ってた服だからね。普段だとこういう恰好してるんだ」
錬金術師「…その青いパンツに、黒いジャケット。ボーイッシュでかっこいいな」
銃士「あ、ありがとっ」
銃士(……やっぱり、可愛い恰好の方が良かったのかな。でも、私は似合わないし…)
錬金術師「なんつうんだろ、銃士は普段からボーイッシュだからあれだが……」
錬金術師「スカートとか、可愛らしい恰好でも似合うと思うぞ。」
錬金術師「いや、今が悪いっつってるんじゃないけど。それもすげーに合ってるけど、なんだろ……」
銃士「…そ、そうかなっ!?」
銃士「でも、私が女の子っぽい恰好したら…ちょっと変じゃないかなって思って……」
錬金術師「…いやいや、お前は女だろうが。女性らしい恰好で可愛くなるって」
銃士「…!」
錬金術師「今度見せてくれよ。きっと可愛いんじゃないか?」
銃士「う、うんっ…!」
錬金術師「いや、今も充分可愛いと思うけどな」ハハハ
銃士「あうっ…」
新人鉱夫(…両手に花、です!)
錬金術師「んじゃ、行こうか」
女店員「え、店長はその恰好で行くの?」
銃士「普段着じゃなくて、錬金師の格好じゃないか」
錬金術師「…いや。俺って、これかあの出かけた時のスーツってやつしか持ってないんで」
女店員「えぇぇっ!?」
銃士「本当に?」
新人鉱夫「……本当なんですよね、それが」
錬金術師「いや、そりゃな……。」
錬金術師「外に出る時は基本、錬金師の格好しかないだろ……」
女店員「…じゃあさ、店長の服とかも買おうよっ!」
錬金術師「え~…。俺、そういうの面倒なんだよなぁ」
女店員「…す、スーツの時にバリっと決めてたんだから、もっと恰好しっかりしたら恰好よくなるよ!」
錬金術師「…そうかねぇ」
銃士「確かに、店長はスラっとしてるし…背も高めだし、それなりに似合う服があるんじゃないか?」
錬金術師「そういうのはだりぃって……」
女店員「店長ってば、今は少し髪も長いしさ、色々髪型変えてみようよ?」
錬金術師「いやいや、いいって…」
女店員「そう…?」
錬金術師「マジで、俺はそういうの面倒くせーんだって。」
錬金術師「髪型とか、服装とか、散髪に服屋に行くの面倒な男って結構多いぜ……」
女店員「む~…」
銃士「勿体ないな…」
新人鉱夫「…そうですねぇ」
錬金術師「…」
錬金術師「……つうか、俺に時間とられてたら買い物も何もないだろうが。」
錬金術師「お前らの休みなんだから、お前らのしたいことしろって」
女店員「…じゃあ、店長改良で。」
銃士「店長を格好よくしよう」
新人鉱夫「店長さんのスタイルをチェンジしましょう!」
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「……マジで?」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 地元の町の服屋 】
…ガランガランッ!
服屋の店員「…っしあぁせー!!」
女店員「ほら、店長。こっちこっち」
錬金術師「うえぇ、もうなんかやだ……」ズリズリ…
銃士「恰好よくなれるって!」
新人鉱夫「僕も欲しい服がないか探してみよっと…」
トコトコ…
服屋の店員「団体さんっすねー!」
服屋の店員「何かお探しっすか、コーディネイトしまっすよ~」
女店員「あ、大丈夫です。私たちでやるので」キッパリ
服屋の店員「そっすか。何かあったら声かけてくだせー」クルッ
トコトコ…
錬金術師「…すげえな」
錬金術師「ハッキリと"ノー"と、よく断れるな」
女店員「ファッション店員なんてああいうのが普通なの。」
女店員「それより、どんな服にしようかなぁ」
銃士「帽子とかも意外と似合いそうだ」
女店員「あっ、いいかも!」
銃士「これとかどうだろう」パサッ
女店員「似合いそうだけど、あそこにあるブレスレットとかと合わせる?」
銃士「あー、それも悪くないかも…。」
ワイワイ…キャッキャッ……
錬金術師「…」
錬金術師「……ちょっと、そこのソファで座ってよう」
トコトコトコ…ボスンッ!
錬金術師「…」
錬金術師「……はぁ」
トコトコトコ…
服屋の店員「失礼しやっす」ペコッ
錬金術師「ん…」
服屋の店員「サービスのコーヒーです。どうぞ」スッ
コトンッ
錬金術師「…お、有難う」スッ
…グビッ
服屋の店員「えーと…。そ、それで……。」
服屋の店員「あのー…」チラッ
錬金術師「ん?」
服屋の店員「……もしかすると、店長さんですかね?」
錬金術師「!?」ブフッ!
服屋の店員「…あ、やっぱりですか!」
錬金術師「げ、げほげほっ!て、店長って……」ゴホッ!
服屋の店員「…この間は、有難うございました!」
錬金術師「は、はい?」
服屋の店員「いや、実はですね!女店員さんに、マジエアコンを頂きまして!」
錬金術師「…あ、あぁ」
服屋の店員「あれがもう、大助かり!お客さんにも好評で!」
錬金術師「そ、そうですか。それは何より……」
服屋の店員「マジでどもっす!」
錬金術師「い、いえいえ…どういたしまして…ッス…」
服屋の店員「あれって、魔石の購入だけでこれからも使えるんスよね?」
錬金術師「えぇ、低稼働なら1ヶ月くらいはもちますよ」
服屋の店員「それじゃあ、消費される前に購入しにいきますね!」
錬金術師「はは、是非お待ちしております」
服屋の店員「他のお店にも配ったようですが、みんな有難いって言ってますよ」
錬金術師(……へぇ。なるほどな、これは良い情報だ。)
錬金術師(思った通りに、お客は動きそうだな……)
タッタッタッタッ……
女店員「…店長、店長っ!」
錬金術師「んあ」
女店員「服を決めたから、次は散髪に行こうっ!」
錬金術師「はい?」
女店員「銃士が支払ってくれるから、時間もかかるし先に私と床屋にいこっ♪」
服屋の店員「おけっす。おまちしておりまーす」
女店員「いこっ!」グイッ
錬金術師「お、オイッ……」グンッ
タタタタタッ……
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 町の床屋 】
チョキチョキチョキ……パサッ……
錬金術師「…なんで俺は髪を切られているんだか」
床屋の親父「ははは、恰好よくしますよ!」
錬金術師「はは…」
床屋の親父「…ふんふん♪」
錬金術師(…あいつらは、そこに座って何見てんだ?)チラッ
…チョコン
女店員「へぇ~…。ファッション雑誌最近見てなかったけど、こういう髪型が流行ってるんだ」
銃士「確かに中央都市でかなり多かったな」
女店員「髪染めも色々あるねぇ」
銃士「女店員は染めないのか?」
女店員「私はいいかなぁ」
新人鉱夫「じゃあ、僕は金髪のロン毛にしましょうか」
銃士「…」
女店員「…」
新人鉱夫「…無言でも、凄く伝わってきます」
床屋の親父「…ははは、ゆかいなお仲間ですね」
錬金術師「はは…。お恥ずかしい限りで……」
床屋の親父「……ところで。あなたは店長さんですよね?」
錬金術師「!?」
床屋の親父「いやぁ、この間いただいたマジエアコン!そこにも置いてありますが有難い限りで!」
ポォォォッ……
錬金術師「…そ、そうっすか。俺のこと知ってる人、多いですねぇ…」ピクピク
床屋の親父「女店員さんが、前から営業に来て…うちの店長は凄いんだって何度も言うもんですから」アハハ
錬金術師「!」
床屋の親父「すっかり有名ですよ」
錬金術師「…その割に、業績が伸びませんでしたけど」ククク
床屋の親父「ははは!」
錬金術師「……しかしそうですか。女店員がなぁ」
床屋の親父「えぇ」
錬金術師「…」チラッ
ワイワイ…
女店員「…でね、うんっ。これとか、きっと銃士に似合うよ!」
銃士「そ、そうかな…?」
女店員「うん」
銃士「今度買ってみようかな…。あそこの服屋にも置いてあったし…」
女店員「うんうん…」
女店員「…」
女店員「……ん?」チラッ
錬金術師「…」ジー
女店員「…」ニコッ
女店員「…」フリフリ
錬金術師「はは…」フリフリ…
床屋の親父「…あっ、店長さん!?」
床屋の親父「ちょっ、今動いたら……!」
…ザクッ!
錬金術師「…」
錬金術師「……ぬぅぅおおおおぉぉおっ!!!」ブシュッ…
女店員「て、店長っ!?」
銃士「店長っ!」
新人鉱夫「て、店長さーんっ!?」
…………
……
…
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 1時間後 町中 商店街 】
…ビシッ!!
錬金術師「…こ、この服が似合うか?」キラキラ
錬金術師「それに…髪も結構短くなっちまったが……」サワサワ
女店員「…!」
銃士「…!」
女店員「よ、予想はしてた…けど……」
銃士「ここまで…変わるとは…」
新人鉱夫「…かっこいいですよ、店長…さん…」
錬金術師「…そう?」キラキラ
女店員「…信じられない」
銃士「店長、さすがにびっくりするよ…」
新人鉱夫「なんか、モデルさんみたくなってますよ…!」
錬金術師「自分じゃ分からねーよ。」
錬金術師「……ん?」チラッ
通りすがりの女子A「…え、あの人かっこよくない?」
通りすがりの女子B「わっ、本当だっ!」
通りすがりの女子C「中央都市から来たのかな…?」
キャッキャッ…!
錬金術師「……マジでかっこいいのか?俺が?」
女店員「うん…。別人みたい…」
銃士「…」ゴクッ
錬金術師「じゃあ、ナンパとかっていうのしたら成功するかな」ハハハ
錬金術師「ちょっとそこの女子に……」クルッ…
女店員「だ、だめーっ!!」バッ!
銃士「だめだ店長っ!」
新人鉱夫(…これは、変身させちゃいけないタイプの人間です。)
新人鉱夫(二人も、二度と店長さんをかっこよくしようとはしないでしょうね……)
錬金術師「はっはっは、お嬢さん」
女子たち「きゃーっ!」ワイワイッ…!
ズリズリッ…!
女店員「て、店長~~っ!!」
銃士「だめだ、店長っ!暗黒面へ落ちてしまう…っ!」
新人鉱夫「…でも、仲良く出来ているようで何よりです。」ホクホク
新人鉱夫「今日は店長さんの1日でしたねぇ…。」ウンウン
新人鉱夫「あとは、みんなで洒落た料理店でも入って…休日も終わりですね……」シミジミ
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
その後、4人でレストランに入り食事を楽しむと、それぞれが家へと戻って行った。
次の日から納品分のアイテムを収集しつつ、
店長は今回の町の反応から、
"魔石の販売"と"マジエアコンを含む各アイテム"が1か月後より確実に売れると予想。
隣町錬金術機関と協力しつつ、不足していたストック分を少しずつ増やしていった。
……だが、そこで1つの問題が。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 3月17日 深夜 倉庫側 】
錬金術師「……やっべ」
新人鉱夫「どうしましょうか……」
…ゴチャッ!
錬金術師「…薄々思っていたが、倉庫側が…限界だ…」
新人鉱夫「寝るところがないですね…」
錬金術師「ストックを増やし過ぎたか…?」
新人鉱夫「い、いえ。でもこのくらいあってこそですよ…」
錬金術師「…そういや、倉庫のアイテムを増やしたのはいいものの……」
錬金術師「…出納帳の記載を最近全然してない気がするぞ」
新人鉱夫「あ…」
錬金術師「…マジエアコン、パワーユニット、超回復瓶、オリジナル魔石の、それぞれの制作費用。」
錬金術師「2月および3月中の収支の有無。」
錬金術師「……それに、隣町錬金術機関の契約料の支払い。」
錬金術師「女店員や銃士、新人鉱夫の給与振込も現金払いだったし……」
錬金術師「考えたら、全然記帳してねえよ!!」
新人鉱夫「…ど、どうするんですか?」
錬金術師「…記帳は必要だ。ちょっとバタバタしすぎて忘れてた…」
錬金術師「最後に記帳したのはいつだったか」
ゴソゴソ……
錬金術師「…っと、あったあった。」
錬金術師「えーっと……」ペラッ
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「……う、うおおおいっ!!」
新人鉱夫「!?」
錬金術師「2か月前どころじゃねえよ、かなり前から記帳してねえよ!」
新人鉱夫「…不味いですよね」タラッ
錬金術師「ち、ちょっと新人鉱夫!もう夜中で悪いんだが、記帳手伝ってくれ!」
新人鉱夫「は、はいっ!」
錬金術師「何に使ったか、どれをどれくらい使ったか…」
新人鉱夫「思い出す必要があるんですね!」
錬金術師「やっべぇ、マジで。これ最終的に親父に突き出すやつだからな…!」
新人鉱夫「た、大変じゃないですか!」
錬金術師「すぐに記帳しよう!どうせ寝るところもないし、やるぞっ!」
新人鉱夫「は、はいっ!」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして次の日 3月18日 朝 】
…チュンチュン!
ザッザッザッ…ガチャッ!ギィィッ……
女店員「…おっはよー!」
銃士「おはよう」
錬金術師「」チーン
新人鉱夫「」シーン
女店員「…って、店長~~~~っ!?」
銃士「新人鉱夫までっ!?ど、どうしたんだっ!?」
錬金術師「あ…あぁ……」ピクピク
新人鉱夫「既に朝…でしたね……」
女店員「ち、ちょっと!?」
銃士「二人で倒れてどうしたんだ!?」ボロッ…
錬金術師「…うっ」ガクッ
新人鉱夫「眠い…です……」ガクッ
女店員「ち、ちょっとおおっ!?」
銃士「し、しっかりしろ~~!!」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 20分後 】
女店員「……そういうこと。」
銃士「記帳をね…。そういや確かに、ずっとしてなかったね…」
錬金術師「挙句の果てに、倉庫がいっぱいで寝るところがない」
新人鉱夫「どうしましょうか…」
女店員「…店長、記帳は終わったの?」
錬金術師「思い出せる限り、2月分から終わったが」
女店員「ちょっと見せてくれる?」
錬金術師「ほれ…」ポイッ
…パサッ
女店員「えーっと……?」
…
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【 3月17日 現時点でのお店の経営収支 】
■収入
・2月以前、販売および臨時講師の700万ゴールド
・中央商人との納品契約(週1回で30万ゴールド)
→7回目で210万ゴールド
・アクセ職人との納品契約(月1回で40万ゴールド)
→1回目で40万ゴールド
<合計+950万ゴールド>
■支出
・2月以前の支出合計460万
・2月以降の3人の給料60万
・3月中の錬金術機関の契約給料合計15万(約)
・各アイテムの素材費用200万
<合計-735万>
■収支合計
・プラス215万ゴールド
(前回よりプラス25万ゴールド)
【 現時点でのお店の経営情報 】
■お店
・平屋1階建て
・少し広い倉庫
■店員関連
・店長補佐1名
・ハンター1名
・鉱石採掘師(鉱員)1名
・錬金師(契約社員)4名
■販売物
・自動採掘道具(20万ゴールド)
・鉱石類(鉄鋼1000、銀5万、エレクトラム20万ゴールド)
・ライフマナ回復ポーション(5000ゴールド)
・バターピーナツ(サービス)
・装備類の修理等(時価)
・マジックエアーコンダクター(10万ゴールド)
・採掘パワーアップユニット(10万ゴールド)
・超回復瓶(10万ゴールド)
・オリジナル魔石(1個辺り3,000ゴールド)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……
…
女店員「……うわ、なんか久々に見たよ」
銃士「新しい部分も記帳されてるね。前回と比べてプラス域にはなってるんだ」
女店員「ワイドレンジでチンがなかったら、もっとプラスだった気がするんだけど」
錬金術師「ワイドレンジピーナツ器だっての…。」
女店員「あはは…。でも、このペースならプラスを維持できるね?」
錬金術師「それはそうなんだが、恐らく魔石類やマジエアコン類が動くのは4月初頭からだし…」
錬金術師「それまでに、貯めた在庫をどうするかって話だ」
女店員「…倉庫がいっぱいなんだっけ」
錬金術師「寝るところもねえよ…。だが、これだけの量ないと不安なわけで…。」
女店員「だから、お店側でダウンしてたんだ…」
錬金術師「そーいうこと…。」
錬金術師「ふわぁぁ……。マジで疲れた……」
新人鉱夫「コーヒー淹れましょう…か……」
女店員「…さ、さすがにお店側で寝てていーよとは言えないからなぁ」
銃士「というか、今日の夜からどうするんだ?」
女店員「…そうだよね」
銃士「簡易な宿泊施設でもいいと思うが、二人で1万ゴールドは下らないだろうし」
錬金術師「んーむ…」
錬金術師「俺はココでいいから、新人鉱夫だけ宿泊施設に泊まらせるわ…」フワァ
新人鉱夫「えっ、いえいえ…!僕がお店側で寝ますよ!」
錬金術師「遠慮すんなっての。いいよいいよ」
新人鉱夫「でも…」
錬金術師「4月1日まで倉庫も空かない。それまで、新人鉱夫の分の宿、予約とるわ」
新人鉱夫「う、うーん…」
女店員「…うちのアパートに泊まってとはいえないし」アハハ…
銃士「…入れても三人だからな。四人はきついか」
女店員「雑魚寝ならなんとかなる?」
銃士「…ギュウギュウになるが」
女店員「…ギュウギュウ」
錬金術師「…あぁ、懐かしいな。」
錬金術師「そういえば倉庫の拡張の時、お前のアパートに泊まったっけ」ハハハ
女店員「…風呂まで覗いてね」ニコッ
錬金術師「」
女店員「…ね?」ニコッ
錬金術師「あ、暗黒の歴史をほじくり返すなっ!!」
女店員「…ねー」
新人鉱夫「…昔は店長さん、今よりヤンチャだったんですよねぇ」
銃士「ははは、そういやそんな事も聞いたことあったな」
女店員「あはは…。」
女店員「…」
女店員「………あ、そうだ」
錬金術師「んあ」
女店員「あ、あと1人なら寝れるし…。て、店長が良ければうちに…泊まる…とか……?」
錬金術師「えっ」
女店員「じ、銃士も良ければだけど」クルッ
銃士「…えっ、いや!わ、私は別に…いいけど……」
新人鉱夫(…攻撃的ですね!)
錬金術師「いやいや、だけどな」
女店員「店長なら一回うちに泊まってるし、別に今更…だし。」
女店員「っていうか、私の身体に入れ替わった時にも泊まってるし……」ジトッ
錬金術師「あ、あぁ…。そういやそうだな……」
女店員「大変な時期だから、お金も勿体ないし…。」
女店員「店長が良ければ、新人鉱夫に店を任せてうちに泊まっても…いいけど……とか」チラッ
銃士「う、うむ…。そうだな……」チラッ
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「……あ、だったら新人鉱夫のほ」
新人鉱夫「店長さん、僕は実は前からココで一人で寝泊まりしてみたかったんです」ペラペラ
新人鉱夫「ですので是非、僕はここで寝ますので、女店員さんたちとどうぞうどうぞ」ペラペラペラ
錬金術師「お、おう?ずいぶん早口な……」
新人鉱夫「た、たまには僕も一人でゆっくり休みたいなーとか思いますし!」
新人鉱夫「いい機会ですので、店長さんがどうぞっ!」
錬金術師「そ、そう…?」
新人鉱夫(…この流れから、本気で僕が女店員さんの家に泊まることになりかねません)ダラダラ
新人鉱夫(そしたら、絶対に僕じゃ寝れません…。む、無理ですから…!)カァァ
新人鉱夫(……それに、今は少しだけ何も考えず、静かに過ごせる夜が欲しいのが本音です…)
錬金術師「…し、しかしなぁ」
女店員「い、いいよ大丈夫っ!全然うちは大丈夫!」
銃士「…そうだな。大丈夫だ。私も一緒に夜を過ごした経験もあるし」
新人鉱夫(銃士さん、その言い方は……)カァッ
錬金術師「…お前らがいいならいいんだが。」
錬金術師「4月1日までになると思うし、2週間は滞在になんぞ?」
女店員「2週間…」
銃士「…か」
錬金術師「…そうなるだろ?」
錬金術師「やっぱり、普通に宿をとって……」
女店員「…だ、大丈夫っ!」
女店員「お布団も余分にあるし、着替えとかも私が洗濯もするしっ!」
錬金術師「…そうか?」
女店員「うんうん、だから大丈夫だよっ!」
女店員「今日の夜から大丈夫、うんっ!」
錬金術師「そ、そこまで言うなら…世話になるか……?」ポリポリ
女店員「うんっ」
銃士「賑やかになりそうだね」
新人鉱夫(…店長さんと、女店員さんと、銃士さんですか)
新人鉱夫(うぅ、怖いのもありますが…色々と想像しちゃいますね……)
新人鉱夫(い、いい、今の二人なら一緒にお風呂に入りかねないような……!)モンモン
新人鉱夫(……)
新人鉱夫(…うぅぅぅっ、ダメです!こんなこと考えてはっ!!!)ブンブンッ
女店員「じゃあちょっと、準備のために今日は少し早く帰りたいから…早退してもいいかな?」
錬金術師「あぁ、掃除とかもあるか」
女店員「部屋も少し空けられるところもあるし、そこも片づけちゃうから」
錬金術師「おう、了解した」
銃士「…晩御飯もいつもの量じゃ足りないな」
銃士「帰りに少し買い足しして行こうか」
女店員「あ、そっか。店長…何が食べたい?」
錬金術師「何でもいいかな。別に贅沢言うつもりもないし」
女店員「…でも」
錬金術師「いいから気にするなって。ただでさえ居候するみたいなもんなんだから」
女店員「ん~…」
錬金術師「そんなに言うなら、オススメでも作ってくれ」ハハハ
女店員「…そっか。じゃあ、任せて♪」
銃士「じゃあ私も手伝うよ。量も増えるし、大変だろう」
女店員「うんっ」
新人鉱夫(…愛されてますねぇ、店長さんっ。)
…………
……
…
それから、数時間後。
女店員は先に自宅へ戻り、片づけや準備を進めた。
そこへ、買い物を終えた銃士と店長がいよいよ女店員のアパートへ入り……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 女店員のアパート 】
…ガチャッ!
銃士「ただいま~」
錬金術師「ういーっす」
タタタタ…
女店員「…あっ、おかえりなさい!」
女店員「と、いらっしゃい♪」
錬金術師「ういっす。マジで来て良かったのか?」
女店員「だから遠慮することないってば!」
女店員「…荷物とかも置いて、とりあえず座っていいよっ」
錬金術師「そ、そうか」
トコトコトコ…ストンッ
銃士「…さて、それじゃ。」
銃士「女店員と一緒に早速、料理でも作ろうか。晩御飯のメニューは何にする?」
女店員「ん~とね、今日はシチューでいいかなって。」
女店員「ルーで簡単なものだけど、銃士がとってきた材料でおいしく煮詰められるし」
銃士「そうか、それなら量もあるしね。」
銃士「ちょっと手伝う前に、部屋着に着替えたりしてくるよ」
タタタタッ……ガチャッ、バタンッ…
………
…
錬金術師「…」
女店員「店長はシチューとか大丈夫だよね~?」
錬金術師「ん、おうよ。大丈夫っつーか、むしろ好きだけどな」
女店員「そっか、よかったぁ。鶏肉をたっぷり入れた、特製のシチュー作るね♪」
錬金術師「そんな気を使わんでも…」
女店員「…だから、いいのっ!」
女店員「私がそういう風にやりたいだけだから、店長は気にしないでっ」
錬金術師「…迷惑かけてないならいいんだけどよ」
女店員「うん、大丈夫だよ」
錬金術師「それなら…いいか」
女店員「そうだよっ」
ガチャッ…タタタッ
銃士「…よし、着替え完了っ!」
銃士「女店員、私も手伝うよ。何からすればいい?」ビシッ
錬金術師「…お、銃士のエプロン姿を初めて見た」
銃士「はは、似合わないだろう?」
錬金術師「この間の事じゃないが、そういうのも可愛いと思うぞ」
銃士「!」
錬金術師「似合わないわけないだろ」ハハハ
銃士「そ、そうか…」テレッ
女店員(……むぅ)
銃士「それじゃ、料理の手伝いをするから…ゆっくりしててね」
錬金術師「はいよー」
錬金術師「……と、そうだ。女店員」
女店員「えっ…な、何っ?」
錬金術師「ここにある雑誌って読んでていいか?」ペラペラ
女店員「あ、うんっ。もちろんいいよ」
錬金術師「そうか。じゃあ遠慮なく」
…ペラッ
銃士「…」
銃士「…」
銃士「……ん?」ハッ
銃士「…………お、女店員…あのさ」ボソボソ
女店員「どうしたの?」
銃士「い、いいのか?」ボソボソ
女店員「何が?」
銃士「…あそこにある雑誌って、アレじゃないのか」
女店員「アレ?」
銃士「あの、本屋でこの間…買ったやつとか……」
女店員「…?」
銃士「月刊アルケミストの特集のやつとか、女店員が集めてる…ほら……」
女店員「…」
女店員「……あっ!?」ハッ
錬金術師「…お~、月刊アルケミストじゃねえか懐かしい。女店員も、こんなの読むのか。」ペラッ
錬金術師「そうそう…。昔は良く錬金術に関して、こういう雑誌で目を通したっけなぁ……」
ペラッ…パラッ……
錬金術師「…」
錬金術師「…ん?」
錬金術師「特集記事…。若き…マスターとなった伝説の…男の…………」
ダッ、ダダダダダダダダッ!!!
女店員「ったああああああぁぁっ!!」
…パシィッ!!ズザザザァッ!!
錬金術師「うおぉぉっ!?」ビクッ!!
女店員「ぜぇ、ぜぇ……!」
女店員「て、店長たんまっ!!」
女店員「これはその、あれだから、違うから待って!!」
錬金術師「…へ、へい?」
女店員「その、あれ、ヘソクリだから!」
女店員「ヘソクリが入ったりしてるから、ちょっと待ってぇぇ!!今整理するからっ!」
錬金術師「お、おう…」
女店員「…すぐ終わるからぁぁっ!」
バサバサバサッ!ガサガサッ…!!
銃士(…店長の記事や、昔の特集が組まれてる雑誌とかは少なくないわけじゃないからな)アハハ…
銃士(女店員てば、見つけるとつい手に取って、たまたま買っちゃってたんだよね…。)
銃士(錬金術の話は話題の種になるし、私が買ったのもあるけど……)
バサバサッ…!!
女店員(ここだけ片づけるの、すっかり忘れてたぁぁ…!)
……………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 1時間後 】
…カランッ
錬金術師「…ぷはっ!ごっそさん!」
銃士「ごちそうさまでした」
女店員「ごちそうさまでした」
錬金術師「あ~…マジで美味かったわ」
女店員「えへへ…」
銃士「ふふ、ありがとう」
女店員「…それじゃ店長。お風呂入る?シャワー?」
錬金術師「あ~…。普段はどうしてんの?」
女店員「私一人の時はシャワーだったんだけど…、」
女店員「銃士と住むようになってから、ハンティングの疲労も癒すためにお風呂にしてるよ」
錬金術師「…風呂か。」
錬金術師「俺は…どっちかっつーとシャワーでもいいんだが」
女店員「店長も折角なんだから、お風呂に入りなよ」
錬金術師「…いやいや、それはいいわ。」
錬金術師「俺は最後の風呂でも気にしないが、二人が前も後も気にするだろ?」
女店員「…ううん、気にしないよ」
銃士「そうだね、私も別にいいかな」
錬金術師「…そう言うならいいんだが。じゃあ最後の後風呂でいいよ」フリフリ
女店員「最初でもいいのに?」
錬金術師「お客さんっつー考えじゃなく、居候で考えてくれって。そっちのほうが俺も過ごしやすいからな」
女店員「…そっか。じゃあ私たちから先に入ろっか」
錬金術師「そうしてくれ」
銃士「それじゃいつも通り、私から先に入ろうかな」スクッ
女店員「タオルと着替えはいつも通りだしておいたから~」
銃士「ありがとう」
トコトコトコ…、ガチャッ!バタンッ…
錬金術師「…」
女店員「…」
錬金術師「…」
女店員「…」
錬金術師「…ふぅ」
女店員「…」
女店員「……ね、店長」
錬金術師「んあ?」
女店員「なんか、店長って変わったよね」
錬金術師「…あーん?」
女店員「この1年で、凄く変わったよ」
錬金術師「そうか?」
女店員「うん」
錬金術師「…面倒くせーし、動きたくねーし、変わってないだろ?」
女店員「ううん、全然変わった。」
女店員「1年前は、私のお風呂覗いたり、アパートに乗り込んで、折角作った料理にダメだししたりしてたのに」クスッ
錬金術師「…うぐっ」グサッ
女店員「それが今じゃ、全然優しくなったよ」
錬金術師「……そ、そう?」
女店員「うん…」ニコッ
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「……そうか。変わった、か」クク
女店員「悪い意味じゃないよ?」
錬金術師「はは、分かってるって」
女店員「へへ…」
錬金術師「……そうだな、色々あったからな。この1年」
女店員「そうだね、お父さんのことが始まったのは去年の4月だったっけ?」
錬金術師「そうそう。あっという間だったな」
女店員「お父さんが支払ってくれた2000万ゴールドで、私たちは犯罪者にならなかったんだよね…」
錬金術師「たかだか2000万だが、それがそれ以上に重くてなぁ…。」
錬金術師「そこから改めて親父を見返すために、長い時間はかかったがようやくここまでこれた」フゥ
女店員「うんっ」
錬金術師「……それで、もしかすると今回で全てが終わるかもしれん」
女店員「え?」
錬金術師「俺が開発し、量産してるものは親父を見返せるかもしれないってことだ」
女店員「…あっ。それじゃ、これで認められるかもしれないんだ」
錬金術師「ある程度稼いで、純益で見返したら…親父に設計図と販売の権利を渡してもいいと思ってる。」
錬金術師「そうすりゃ、いくら親父でも認めてくれるはずだ」
女店員「そっかぁ…」
女店員「…」
女店員「あっ、でも!これで終わりじゃないんだから、しっかりこれからもね!私も頑張るから!」
錬金術師「わかってるっつーの!」
女店員「へへ~♪」
女店員「でも、良かったぁ……」
錬金術師「何が?」
女店員「前も言ったことあるけどさ、昔…私は中央都市で働こうと思ってたから…。」
錬金術師「!」
女店員「だけど、今は店長も、銃士も、新人鉱夫も。」
女店員「皆がいて、毎日が楽しくて……」
女店員「だから、こんな風にしてくれた店長には有難う…だよっ」ニコッ
錬金術師「…」
錬金術師「……有難うか。」
錬金術師「それはちょっと、違う言葉かもしれないな」
女店員「え?」
錬金術師「…」
女店員「そんなことないよ、私が店長に感謝してるんだから」
錬金術師「……違うんだ」
女店員「…?」
錬金術師「…」
錬金術師「……っ」
女店員「…?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 お風呂場 】
…ドキドキ
銃士(う、うぅ…。)
銃士(何かとつい不安で、聞き耳を立ててしまってる自分が情けない……)ハァ
銃士(…私が入る前の話で、きっと二人には二人の繋がりがあるんだろうな。)
銃士(でも、私だって……。)
銃士(…)
銃士「……くしょんっ!」
銃士(うぅ…。い、いつまでも裸で聞き耳をたてても風邪ひいちゃうか…。)ブルッ
銃士(聞いていたいけど、こんなのはダメだよな。)
銃士(うん、私は私のままで勝負するんだ。よし、お風呂に入ってすっきりしよう!)クルッ
……ツルッ
銃士「へ……」
ガツッ…
…………ドシャア!
銃士「いっ、いたい……!」
銃士「うぅぅ、油断した……っ」
銃士「…っ」
銃士「…」
銃士「…」
銃士「…………って」
カチャッ……ギィィ……
女店員「じ、銃士……!?」
錬金術師「ハーイ。」フリフリ
銃士「た、倒れた拍子にドア…が……!!?」サァァ
錬金術師「…どうした、脚を広げて。風呂前のストレッチか?」
銃士「」
銃士「……ッ!!!」
……バババババッ!
ガチャッ、バタンッ!!!
銃士(……い、一度ならずまたこんなことを~~~~っ!!)
銃士(もうダメだ、もうダメだ……)
銃士(う、うわぁぁぁ~~~~~!!!)
ガタンッ、ゴロゴロゴロゴロッ……!!
銃士(み、水風呂でもなんでもいいから心頭滅却~~~!!!)
ドタドタドタッ、バシャアアンッ!!
…………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女店員「じ、銃士……」カァァ
錬金術師「銃士はハンティングで身体使うからな。ストレッチは大事だな」
女店員「ち、違うの…。違うから……」カァ
錬金術師「そうなのか?」
女店員「……そ、そうだよ!っていうか!」
女店員「店長はあれ見て何も思わないの!」
錬金術師「あぁ、キレイな身体だよな」
女店員「」
錬金術師「銃士にも言ったがな、運動してるだけあって締まってて。」
錬金術師「だけど、女性らしく柔らかさもあり、女性からしたら憧れる身体なんじゃねーのっと」
女店員「……店長」
錬金術師「んあ」
女店員「それはね、セクハラ……」
錬金術師「…む、俺なりに褒めたつもりだったんだが」
女店員「はぁ~…」
錬金術師「セクハラかー…」
女店員(セクハラといっても、銃士にとっては純粋な嫌さじゃなくて……。)
女店員(多分、恥ずかしいとか、そっちの嫌だけど……)
錬金術師「この間も言ったけど、女心はよーわからん。」
女店員「う~……」
錬金術師「ま、これからは分かろうとするけどな。努力はするさ」
女店員「う、うんっ…」
女店員(それは、それ以前の問題の気もするけど……)
錬金術師「…」
女店員「うーん……。」
女店員「……店長ってさ、女心といえばー…」
錬金術師「ん?」
女店員「女性と普通にお付き合いしたことってあるの?」
錬金術師「あぁ、あるよ」アッサリ
女店員「へぇ、そうなんだ」
錬金術師「まぁな」
女店員「へぇ…」
女店員「…」
女店員「……って、うそっ!?」ガタッ!
錬金術師「な、なんだよ!?」ビクッ
女店員「わ、私もアッサリ聞いたからあれだけど…」
女店員「今の言葉、冗談じゃないよね!?」
錬金術師「なんでこのタイミングで冗談を言うんだよ」
女店員「え、い…いつ!?まさか今も!?」
錬金術師「いや今はいねーよ。昔の話な」
女店員「昔って…」
錬金術師「俺がまだ親父の下だった時。将来の結婚のための先にお付き合いしとけとかで。」
女店員「そ、それでその人とはどうなったの?」
錬金術師「俺が親父のもとを去る時に、別れは告げたよ」
女店員「…店長は、その人のこと好きだったの?」
錬金術師「いきなりすぎた話だし、恋愛とかより親父の下で働くほうが大変でなぁ…」ハァ
錬金術師「付き合うっつっても中央都市でたまに遊んだり、友達って感じしかなかったな」
女店員「そ、そっか……」
錬金術師「…昔の話だ。今はどっかの大企業のご子息と結婚でもしてんじゃねーか?」
女店員「へぇ~…」
錬金術師「……今さら関係のない話だって。」
錬金術師「俺も色々体験してっからな、そのうち話もしてやるよ」
女店員「うん…」
錬金術師「それにしても……ふわぁ……」クァ…
女店員「あ…。店長、眠い…?」
錬金術師「まぁな…。疲労もたまってるし…」ムニャ…
女店員「お風呂まで時間もあるし、布団敷くから先に少し横になってたらいいんじゃないかな?」
トコトコ……ゴソッ…
錬金術師「あ~…。悪いな……」
錬金術師「少しだけ…な…」
女店員「うん、お風呂に入れるようになったら起こすね」
錬金術師「あぁ……」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 1時間後 】
錬金術師「…」グゥグゥ…
銃士「…っていうわけで、すっかりダウンしちゃったか」
女店員「うん、もう起きないね」アハハ
銃士「…相当頑張ってるからな。やっぱり眠くもなるんだろう」
女店員「…ふふ」
銃士「どうした?」
女店員「ううん、少し安心しちゃったから」
銃士「安心?」
女店員「私の部屋で、休めないんじゃないかって思ってたんだけど……」
女店員「なんか気持ちよく寝てるようで、安心したの」
銃士「あぁ…。そういうこと…」ハハ
女店員「…店長がしっかり休んで、仕事も捗る環境をしっかり作らないと!頑張るっ!」フンッ
銃士「そうだな、私もしっかりやるさ」
女店員「…4月から、たくさん売れたら嬉しいなぁ」
銃士「きっと売れるよ、店長が倒れてまで造り上げた作品なんだから。」
女店員「だねっ♪」
銃士「…」
銃士「……店長、か」
女店員「?」
銃士「何か寝ているところを見るだけで、私も安心するよ」
錬金術師「…」スヤスヤ
銃士「…ふふ、ダメだ。何か笑みがこぼれてしまう」
女店員「うんっ…。なんか分かるっ」
銃士「今が本当に楽しいんだろうな。なんだろう、分からないけど…ね」
女店員「うん、楽しいよね♪」
銃士「……きっと、店長のことを好きだからなんだろうな」
女店員「……うん」コクン
銃士「そしていつか、この気持ちも伝えないと思う…。」
女店員「店長に好きだって…伝えるんだよね」
銃士「正直、自信はないよ。だけど、伝えたい。私の心からの恋として…。」
女店員「うん…。私も、いつか絶対に……。」
銃士「…何も言わなくても、気持ちが伝わればどんなに楽なんだろう。」
銃士「口を開いて、小さな一言を発するのがこんなにも勇気がいる日が来るなんて思わなかったよ」
女店員「…」
銃士「…」
女店員「…」
銃士「…」
女店員「…」
銃士「…さてと!私らも、明日は早いし寝ようか」フワァ…
女店員「うんっ…」
…………
………
……
…
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師(……)
錬金術師(……そうか)
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日(3月19日) 朝 】
チュンチュン……
…ガチャッ
錬金術師「…ふぅ~。悪かったな、朝風呂入れてもらって」
女店員「ううん、昨日入れなかったから。それと、ご飯出来てるよっ。」
錬金術師「……ありがとうな」
女店員「え?」
錬金術師「いや、色々とわざわざ用意してくれてさ」
女店員「…だから、気にしないでいいんだってば!」
錬金術師「…そ、そうか。」
錬金術師「…」
錬金術師「そういえば、銃士はどこに行ったんだ?」キョロキョロ
女店員「銃士は、早朝に起きて軽くランニングしてるんだよ」
女店員「20分くらい走ったあとに戻ってきて、ご飯食べたら一緒にお店に行くって感じかな?」
錬金術師「へー…。さすがだなあいつも…」
女店員「店長も今度、一緒にランニングしたら~?」
錬金術師「…体力がないって言いたいのか!」
女店員「私と一緒に走る?なんてっ」
錬金術師「…はは、考えておくわ」
女店員「えへへ…。とりあえずご飯食べちゃおう♪」
錬金術師「んだな、いただきまーす」
女店員「いただきまーすっ♪」
…カチャカチャ、パクッ…
錬金術師「うむ、美味い……」
女店員「簡単なものだけど、美味しいならよかった」
錬金術師「昨日も言ったけどさぁ…。女店員も銃士も、新人鉱夫も……」
錬金術師「料理の腕はあるんだよなぁ」
女店員「店長もそれなりに出来なかったっけ?」
錬金術師「出来るっちゃ出来るが、前はずーっとピーナツばっか食ってたからな」
女店員「うわ、出た…」
錬金術師「バタ―、シュガー、味噌、焙煎、全部美味いぞッ!」
女店員「た、確かに美味しいけど…」
錬金術師「あとで店に戻ったら、久々に食うかな~」
女店員「出されたら食べちゃうし、太る~…」ガクッ
錬金術師「はっはっは、お前もやっぱりそういうのは気にするか」
女店員「当たり前でしょっ!」
錬金術師「はっはっは…。ま、朝飯食っちまうか」
女店員「うんっ」
パクッ…
錬金術師「…」モグモグ…
錬金術師「…」ゴクンッ…
錬金術師「…」
錬金術師「あ、そういえば…。女店員、ちょいといいか?」
女店員「なぁに?」
錬金術師「前に約束してた、銃士とお前と、一緒にそれぞれ遊びに行くっつー話あっただろ」
女店員「あっ、うん!覚えててくれたんだ!」
錬金術師「4月から忙しいし、来週の真ん中…木曜日に行くか?」
女店員「!」
錬金術師「水曜日は銃士のハンティングの道具に付き合おうと思う。」
錬金術師「だから木曜日に、なんだっけ…ショッピングだっけ?」
錬金術師「一緒に行きたがってたやつ…。お前が良ければだが、行くかー……?」
女店員「……いくっ!!」ガタンッ!!
ガタッ…バシャッッ!
錬金術師「のぉぉおあああっ!!み、味噌汁ッ!!!あっぢぃぃぃぃいいっ!!」
ドタァンッ!ゴロゴロゴロッ!!
女店員「…あっ!?」
女店員「ご、ごめんっ!!今拭くからっ!」ババッ!
錬金術師「ば、馬鹿待て!」
女店員「私のせいだから、すぐに拭くから待って!」グイッ!!
…ゴシゴシッ!
錬金術師「あほ、待てっつーに!」
女店員「で、でも!」
錬金術師「そこは……」
女店員「…」
女店員「…あっ」
女店員「…」カァァッ
錬金術師「は、はは……」
女店員「きっ……!」
錬金術師「まずい、待てっ!叫ぶなっ!!」バッ!
…グイッ!ガバッ!!
女店員「きゃ…ッ!む、むぐぅぅっ!?」
錬金術師「朝から大声出すな、アパートなんだから、隣人に聞こえて誰か来たらどうする!」
女店員「むぐ~~~…!!」
錬金術師「ちょい、あまり大声を出すなっての!」グィィッ!
女店員「むっ、んむ、むぐぅ~~…!」
(ま、待って、わかったから…!)
女店員「…んむっ!?」ピクッ
(…って!?)
錬金術師「いいか、手を放すからまず落ち着いて……」
女店員「…む、むぐぅぅぅっ!!」
女店員「ん、んむ~~!」ブンブンッ
錬金術師「な、なんで暴れるんだっての!」グイグイッ!
女店員「んん゛~っ…!んんっ!(左手!)んん~!(左手ぇ~!)」
錬金術師「…」
錬金術師「…ん?」チラッ
…フニュッ
錬金術師「……あ、胸ぇ揉んでたわ」ハッハッハ
女店員「んんっ!!ん、んぐっ、むぅぅ~!」ブンブンッ
(わかったからぁ~!い、一回離して、落ち着くから~~!!)
……ガチャッ!
銃士「ただいま~」
女店員「」
錬金術師「お、戻ったか。お帰り~」
銃士「…」
銃士「……」
銃士「………て、店長?」
銃士「女…店…いん……?」
女店員「むむ、むぐぅぅぅ~~~!!」
(ち、ちがうの~~~!!)
…………
……
…
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして お店 】
銃士「…ということがあったんだ。驚いたよ」
新人鉱夫「あははは、店長さんたちらしいですね!」
女店員「むぅ~…」カァァ
錬金術師「…悪かったよ!」
女店員「う~…。で、でも私も悪かったから、文句はないよ……」
錬金術師「ん、んむ…」
銃士(し、しかし…。)
銃士(……店長に抱きしめられてたのはずるい気がするぞ)フゥ
錬金術師「……で、銃士」
銃士「う、うむっ!?」ハッ!
錬金術師「来週の水曜日なんだが、前に約束してた買い物に一緒に行こうと思うのだが」
銃士「え、あ…え?」
錬金術師「言ってなかったか?」
銃士「あ…いや、言ってた!言っていた…うんっ!」
錬金術師「4月前で暇になるのがその辺だし、一緒に町に出ようか」
銃士「う、うんっ…!」コクコク
新人鉱夫(嬉しそうですねぇ…)ホッコリ
女店員(つ、次の日は私と二人だもん……)
錬金術師「ほんじゃ、約束な」
銃士「分かった♪」
錬金術師「ういっす、よろしく」
銃士「楽しみだな~…」ホクホク
錬金術師「…さてと、それじゃ俺はストック制作の続きでもしますか」クルッ
女店員「えっ?」
女店員「店長、もう製作するとか…体力は大丈夫なの?」
錬金術師「まぁな…。最近は休むことが多くて、大分楽になった。」
錬金術師「造れる時に造っとかないと、後々が大変なんだ」
女店員「そっか~…」
錬金術師「だから、今はとにかくー……」
……コンコン!
錬金術師「む…」
女店員「!」
銃士「お…」
新人鉱夫「…お客さんですかね?」
錬金術師「誰だろうかね…。まだ客は来ないはずだっつーに……。」
錬金術師「とりあえずいらっしゃいませ、どうぞ~」
…ガチャッ!
???A「ども…」ギロッ
???B「こんにちわ」
錬金術師「ん……」
錬金術師「お客さん……ですかね?」
???A「…」ギロッ
???B「……よ、銃士っ」ビシッ
銃士「……えっ?」ピクッ
錬金術師「ん、銃士の知り合いか?」
銃士「か、火炎魔道!風剣士!」
火炎魔道「…お、おう銃士」
風剣士「ういっす」
錬金術師「なんだ、知り合いか」
銃士「知り合いって言うか、ギルドに所属してた頃の元パーティメンバーだよ!」
錬金術師「あ、なるほど」
銃士「ど、どうして二人がここに!?」
風剣士「火炎魔道が、お前に愛を伝えにな」
火炎魔道「ちげーーよっ!バカッ!!」
銃士「い、いやいや…。二人とも本当にどうしたんだ!?」
銃士「中央都市から、わざわざ来たのか!?」
風剣士「銃士、落ち着け。俺らはギルドから発注されたお使いの話で来ただけだ」
銃士「お、お使い?」
風剣士「お前から受け取った超回復瓶。あれが好評でな、追加で欲しいそうなんだ」
銃士「!」
風剣士「追加でギルド所属メンバー分で50本。造れるか?」
銃士「50本!」
風剣士「無理にとは言えないんだが……」
銃士「あ、待って待って。」
銃士「そういう話は、店長に聞いたほうが…」チラッ
火炎魔道「…」ジロジロ
錬金術師「…」
火炎魔道「…」ジロジロ
錬金術師「……なぜ俺は、この男に熱い視線を向けられているのか」
銃士「こ、こらぁぁ!火炎魔道っ!」
火炎魔道「…これがお前の言ってた男か」
銃士「…ちょっ!」
火炎魔道「確かにかっこいいといえばかっこいいがー……」
銃士「…ちょっと待てっ!!」
…ガシッ、グイッ!!
火炎魔道「ぐえっ!!」
銃士「…そ、そういうことは店長の前で言わないで欲しいんだ」ボソボソ
火炎魔道「お…」ドキッ
銃士「頼むから…」
火炎魔道「わ、わかったわかった…!」
銃士「…頼んだよ」パッ
火炎魔道「ぬぐっ…!」
風剣士「ったく、オメーが悪いぞ…火炎魔道」
火炎魔道「へいへい…」プイッ
火炎魔道(……銃士の声、耳元で感じられたぜぇ)ニヘラ
錬金術師「えーと、それで……」
風剣士「あ、失礼しました…。うちの火炎魔道はアレなんで気にしないでください……」
錬金術師「はは…」
風剣士「えっと…。それで、超回復瓶に関してなのですが」
錬金術師「はいはい」
風剣士「先ほども聞こえていたとは思いますが、50本を追加発注したいのです」
錬金術師「50本……。こちらは無償提供というわけにはいきませんが…大丈夫ですか?」
風剣士「勿論です。サンプル以降の道具については、販売になると既に銃士から」
錬金術師「承知しました。」
錬金術師「……ですが、ちょっと」
風剣士「何か問題が?」
錬金術師「実は、4月以降からの販売と考えていたのでコストを落とすことがまだ完全ではなく…。」
風剣士「と、いうと…」
錬金術師「現在、コスト上…1本10万程の値段になってしまうんです」
風剣士「10万…」
錬金術師「うちの店員たちにも話をしていなかったのですが、」
錬金術師「元々うちの新しい御三家として販売する道具は"従来あったものの改良品"であり、」
錬金術師「各々の元の道具に、改良を加えた形となります。」
錬金術師「ですので、それぞれが元々の値段に上乗せされた形になるのでどうしても高額になってしまうんです」
女店員「超回復瓶は、お母さんの開発した回復瓶の改良品だったっけ?」
錬金術師「そうそう。あれ自体が3万ゴールドで、色々組み込んだりして調整で値段も跳ねあがるんだ」
女店員「なるほど…」
風剣士「…それで、現在の値段が10万ゴールド…と。」
錬金術師「早い段階でそれぞれが5万までは落としたいのですが、どうにも上手くいかず…。」
風剣士「…そういうことでしたか」
錬金術師「ですので、50本というのはそちらにとって…」
風剣士「なら、問題ないですね」ニコッ
ゴソッ……ボスンッ!!チャリンッ…
錬金術師「へっ…」
風剣士「1枚10万ゴールドの金貨で持ってきました。」
風剣士「それで、50枚の支払い。それで大丈夫でしょうか?」
錬金術師「!?」
風剣士「もし割に合わない場合、上乗せします」
錬金術師「い、いやいやいや!」
風剣士「これで、造っていただけますか?」
錬金術師「そ、そりゃ造りますが…!」
風剣士「では、交渉成立で!」
銃士「……風剣士。この大金はギルドから出したのか?」
風剣士「あぁ、ギルドマスターが大変気に入ってね」
銃士「え、ギルドマスターが?」
風剣士「…すぐにでも欲しいと、金を余計に準備してきてたんだ」
銃士「へぇぇ……」
火炎魔道「……ふん、良かったな。店長とやら」
錬金術師「へ?そ、そりゃ……」
火炎魔道「ちげーよ、そういう意味じゃねえからな?」
錬金術師「ん…?」
火炎魔道「うちの中央都市東ギルドは、名実とともに世界一と言っても過言じゃないギルドだ。」
火炎魔道「そこにお前の造った道具が認められたってことは、世界中のギルドから注文が入るかもな」
錬金術師「いっ……!?」
女店員「…そ、それ本当ですか!?」ガタッ!
火炎魔道「当たり前だろ。うちの方針が、世界中のギルドの方針になるっつっても過言じゃねーし」
女店員「じゃあ、注文も殺到して……」
火炎魔道「だからそう言ってんだろ。聞こえねーのか…」フン
女店員(……むっ。なんかこの人、昔の店長みたいな感じ)
錬金術師「……さて、どうするかな。」
錬金術師「今のストックがそこまでないから、すぐすぐっていうのは難しいわけで……」
風剣士「自分たちは、ここへ3日ほど滞在するので…」
風剣士「それまでに造って頂くこと等は可能でしょうか?」
錬金術師「…3日ですか。」
錬金術師「なら、隣町の機関にお願いして造ればなんとかなりそうだな……」
風剣士「…」ペコッ
錬金術師「…かしこまりました。3日後の22日の早朝までに仕上げましょう。」
錬金術師「22日の朝に、お店へもう1度来てください」
風剣士「…有難うございます」ニコッ
錬金術師「いえいえ」
銃士「…風剣士と火炎魔道、この町に3日も滞在するのか?」
風剣士「一応な。この辺は自然も多いし、ハンティングがてらって感じか」
銃士「なるほどね。良い場所が多いから、楽しいよ」
風剣士「時間もあるし、自然と戯れるさ」
火炎魔道「……な、なぁ。銃士はどこに今住んでるんだっけか?」
火炎魔道「お前が良けりゃ、遊びに行っても……」チラチラ
銃士「私は、この女店員の家に厄介になってるからね」アハハ
女店員「…」ペコッ
火炎魔道「……なんだ、そうか」
錬金術師「俺も今は一緒に居候状態だが」ハッハッハ
火炎魔道「…」
火炎魔道「…は?」
火炎魔道「な、なん……だと……?」ブルッ
錬金術師「ちょっとワケありで、ご厄介状態で……」
火炎魔道「き、貴様ァッ!!」
火炎魔道「ひ、一つ屋根の下で女と過ごしてるっつーのかァ!!?」
風剣士(なんか、火炎魔道の言葉が古くないか)
女店員(久々に聞いた)
新人鉱夫(半ばハーレムですが、言葉が…)
銃士(ひ、一つ屋根の下か……。確かに……)ドキドキ
火炎魔道「お、おいおいおいっ!!ふざけんなよっ!!」
錬金術師「倉庫がいっぱいで、寝るところがなくてー……」
火炎魔道「な、なんてうらやま…けしからんっ!!」
錬金術師「いや、何もないから…」
火炎魔道「いーや、嘘をつくな!!」
火炎魔道「風呂を覗いたり、たまたまハプニングとかって言ってエロいことをしてるに違いないっ!!」
風剣士「思春期かよ」
火炎魔道「だ、だって男なら!そんな状態で何もないわけがないと信じるだろ!?」
風剣士「あのな」
火炎魔道「そうに違いないッ!!そうなんだよッ!!」
錬金術師「…ふむ?」
錬金術師「銃士と一緒に風呂入ったりとか……。」
錬金術師「ハプニングで今朝、女店員の胸揉んだりはしちまったが」
火炎魔道「」
銃士「」
女店員「」
新人鉱夫「」
風剣士「」
錬金術師「…」
錬金術師「……まぁ、狙ってやったわけではないので仕方ない」ハッハッハ
銃士「し…」
女店員「仕方なくなーーーいっ!!!」
新人鉱夫「ですっ!!」
風剣士「…それは、正直少しだけ羨ましく思ってしまった」コホンッ
火炎魔道「じ、じじ…銃士と風呂だと……!?」ピクピク
火炎魔道「ぶ…っ!」
火炎魔道「ぶっころぉぉぉおおおすっ!!!」パァァアッ!!
風剣士「お、おい…。お前、何で魔力を練って……」
火炎魔道「大…火炎ッ!!!」ピカッ!!
銃士「ちょっ、火炎魔道!!」
風剣士「バカ、待ておい!!!」
火炎魔道「魔法ォォォォッ!!!」ピカッ!
風剣士「ちっ…!」パァァッ!
…ドゴオオオォォォォオオオオンッ!!!…
…………
……
…
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 1時間後 】
風剣士「…そ、それじゃ失礼しました」ハァ
銃士「風剣士の咄嗟の魔法抵抗術がなかったら、店が粉々だったな…」
風剣士「落ち着かせるために、一回ぶん殴って気絶させてやったし…」
風剣士「旅館に戻って、目覚めた後もよく言いかせておくよ…」
火炎魔道「」チーン
銃士「そうしてくれ…」ハァ
錬金術師「…その、店や品物、店員たちが全員無事なのは嬉しい。」
錬金術師「だが、魔法抵抗術が俺だけ妙に弱かった気がするんだが」ブスブス…
女店員「店長が黒焦げ…」
風剣士「ま、間に合わなくて申し訳ない…」
錬金術師「い、いや。店を守ってくれただけ有難い…」コゲッ
風剣士「そうおっしゃっていただけると…。」
錬金術師「うむ…」ブスブス…
風剣士「そ、それじゃ、銃士…。」
風剣士「3日後にまた来るよ、また会おうな」
銃士「うん」
風剣士「では…」ペコッ
ガチャッ……バタンッ!
錬金術師「…」
錬金術師「……嵐のような男だったな」ゲホッ
銃士「元とはいえ、うちのメンバーが迷惑をかけて申し訳ない…」ハァァ
錬金術師「いや…。ま、気にするな……」
銃士「はぁぁ…。恥ずかしい……」
錬金術師「…だけど、ちょっと疲れた」
銃士「ごめん…」
錬金術師「銃士、お前に渡してた超回復瓶あったよな?」
銃士「あぁ、最初に造って私にくれたやつだよね」
錬金術師「それ、今持ってるか?つーか入ってる?」
銃士「そりゃもちろん…。ほら。朝も少し飲んだんだけどさ」
ゴソゴソ…スッ
錬金術師「…悪い、ちょっと飲ませて貰っていいか。エネルギーチャージだ」
銃士「えっ」
錬金術師「……って、嫌だよな。やっぱ倉庫の奥から」クルッ
銃士「い…!いや、いやいや!気にしないで!」
錬金術師「む…」
銃士「ほら、全然飲んでよ!っていうか、むしろ店長が嫌だとかじゃ…」
錬金術師「いや、普通に飲んでいいなら貰うぞ」
銃士「も、もちろん……」
錬金術師「じゃ……」グイッ
グビッ、ゴクンッ!!
錬金術師「……ぷはっ。」
錬金術師「…」パァァ
錬金術師「うしっ…。効くな、やっぱり!」
…コトンッ
銃士「…ち、ちょっと残ってるよ」
錬金術師「あ、すまん。さすがに全部は飲めないから、あとで俺が洗って入れ直しを」
銃士「…」
銃士「……っ!」グイッ
…グビッ!
錬金術師「お、おいおい。飲んでよかったのか?」
銃士「う、うんうん!全然!勿体なかったから!」
錬金術師「そ、そうか…」
銃士「うん…っ」
女店員(銃士…)
銃士(少しでも、店長との距離を縮めたいから。まるで学生のやり取りみたいだけど…)ハハ…
女店員(だけど、今の私にとっては羨ましかったかも…。)
銃士(負けない…)
新人鉱夫(うっ……)
新人鉱夫(……火花が。胃が。僕にも超回復瓶が100本欲しいです)シクシク
錬金術師「…うしっ。とりあえず一通りは落ち着いたし。」
錬金術師「少しばかり、ちょっと出かけてくるわ」スクッ
女店員「え、どこに?」
錬金術師「隣町錬金術機関。機関長らに、明後日くらいまでに超回復瓶の制作頼まないとな」
女店員「あ、そっか」
錬金術師「1本あたり3万と人件費がかかるが、約200万程の出費になるが、利益の500万を考えれば安いもんだ」
女店員「うん」
錬金術師「……夜遅くなるかもしれんから、18時にはあがってくれ。」
錬金術師「そんじゃあな」クルッ
女店員「いってらっしゃーい」フリフリ
銃士「行ってらっしゃい」
新人鉱夫「行ってらっしゃいです~」フリフリ
錬金術師「うい」
トコトコ…
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「……」フゥ
ガチャッ……バタンッ……
女店員「…」
銃士「…」
女店員「…」
銃士「…」
新人鉱夫(……戦争はどうなるんでしょう)ビクビク
女店員「…お客も来ないだろうし、みんなで掃除でもしてよっか?」
銃士「うん、私も手伝うよ」
新人鉱夫「…」
新人鉱夫「…」
新人鉱夫「……ほっ」
新人鉱夫(戦争が勃発しないかと、ヒヤヒヤしました……)
女店員(…)
女店員(ん~……)
女店員(なんか、出かける前の店長ってば……)
女店員(軽くため息ついたように思ったけど、なんか考え事してそうな感じだったなぁ……)
女店員(疲れてるわけじゃなさそうだから良いけど……)
女店員(……また、何か悩んでるのかな)
…………
……
…
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 それから数時間後 隣町錬金術機関 】
機関長「…うむ、承知した。」
錬金術師「うちのストックが10個程で、どう頑張っても40個足りなかったんだ」
機関長「明後日までに40個なら軽いものだ」
錬金術師「材料費はこれで」スッ
…チャリンッ
機関長「…10万金貨か。20枚もいらないぞ」
錬金術師「ざる計算だけど、前回からの支払いも含めてな」
機関長「ふむ…」
錬金術師「…色々と助かる。ありがとよ」
機関長「なんだ礼なんざ、お前らしくもない」
錬金術師「まぁ、色々考える機会があってな。まだまだ子供だなーって感じたわけよ」
機関長「…ほう。それはいいことだ」
錬金術師「…」
錬金術師「……それとさ、もう1つ。」
機関長「なんだ?」
錬金術師「…その、アンタにこんな相談していいのか分からないんだが」ポリポリ
機関長「だからなんだ」
錬金術師「あ、あのさ……」
機関長「だから何だと……」
錬金術師「……まさかとは思ったんだが、女店員と銃士って俺のことが好き…なのか?」
機関長「」
錬金術師「今、あの二人のアパートに寝泊まりしてるんだが…。」
錬金術師「たまたま会話聞いちまってさぁ……」
機関長「い……!」プルプル
錬金術師「……い?」
機関長「今更か、馬鹿ものっ!!」
錬金術師「」キーン
機関長「お前な、今更気が付いたのか!」
錬金術師「そ、そんなにか?」
機関長「全く…。お前は頭が良いのに、心底バカだと思うぞ…」
錬金術師「ひでぇ」
機関長「というか、分かってるだろうな。」
機関長「フレンド的なライクじゃなくて、愛するラブの意味だぞ。分かってるのか」
錬金術師「分かってるっつーの!」
錬金術師「……信じられねぇよ、俺を好きになる女性が二人もいるなんてな」
機関長(なぬ、二人…?)
機関長(……術士先生のことは黙っておくか)ハァ
錬金術師「……だから、それにどう応えたらいいか、分からん。」
機関長「応えるって…」
錬金術師「そもそも、好きだとかなんだとか、付き合うとか…考えたこともなかった」
機関長「…」
錬金術師「……二人とも、俺には勿体ないほどの女性だ。」
錬金術師「その気持ちを分かってても、どっちかに応えることなんか出来ないっつーかさ」
機関長「…お前は、銃士も女店員も、好きという気持ちは持てないのか?」
錬金術師「正直分からん」
機関長「ふむ…」
錬金術師「だから今は、時が流れるのを待つしかねーっつーかさ。」
機関長「…」
錬金術師「待ってるだけの男っつーのも、最低クセーが」ハハハ
機関長「…」
錬金術師「ま、そういうこと。気持ちがあれば、素直に俺も言うさ」
機関長「…」
機関長「……って、待て。」
機関長「お前、もしも…女店員に告白されたらどうするんだ?」
錬金術師「そりゃ、その時の気持ちで」
機関長「いや、違うだろう。」
機関長「お前、女店員とは…アレなんだろう…?」
錬金術師「…」
錬金術師「……あっ」ハッ
機関長「…それも含めて、相談かと思ったが。」
機関長「もしそうなれば、お前は応えられるのか?答えられるのか?堪えられるのか?」
錬金術師「そ、そうか……」
機関長「…あの件について、まだ話をしてないんだろう?」
錬金術師「そ、そりゃ……」
機関長「もし好きだと言われれば、お前はそれを伝えなければいけなくなるだろう」
錬金術師「うっ……」
機関長「もし付き合えば、お前は女店員の家族と話すことになるやもしれん。」
機関長「そうなれば…」
錬金術師「…!」
機関長「…話すべきこととなるだろう」
錬金術師「い、いやそれは別の…」
機関長「別の問題ではないのは、お前が一番分かってるはず」
錬金術師「…っ」
機関長「…昔から、お前は強気だったが優しい心を持っていた。」
錬金術師「…」
機関長「錬成師の時も、女店員の時も、術士先生、銃士、新人鉱夫の時も。」
錬金術師「…」
機関長「…恐らくだが、今回の件で親父との因縁はひと段落つくのではないか?」
機関長「さすれば、落ち着いたところで彼女らがお前にその言葉を…ということもあるかもしれん」
機関長「そうした時に、お前は…彼女や彼女の家族へしたことをきちんと言えるか?」
錬金術師「…」
錬金術師「……いえる、わけがねぇ」
機関長「…なら、女店員の告白を何があっても断るか」
錬金術師「……言えない以上、俺の気持ちがあっても…断るしかないだろうな。」
錬金術師「だけど、その理由もまた話せない。」
錬金術師「かといって、その告白の勇気に、ふざけて断ったら悲しませる……」
機関長「…」
機関長「……どのみち、いずれはバレる。」
機関長「その時に、お前の気持ちがどっちにあるかは分からん。」
機関長「受け入れようが、断ろうが、この話は…するべきだろう」
錬金術師「…ッ!」
錬金術師「い、言えるわけがないだろうが!」
機関長「…お前の口から伝えることが、大事だ」
錬金術師「…む、無理だ!」
機関長「お前がやったことだろう……。」
機関長「その責任の意味もある。それを言って、お前も、心から解放されるのがいいだろう」
錬金術師「……っ!」
錬金術師「……い、言えるわけねぇっつってんだろッ!!!」
錬金術師「"女店員の家族を破滅させたのは、俺がやった仕事だった"なんてこと!!!」
機関長「…っ」
錬金術師「お、女店員の家族はな……。」
錬金術師「……中央都市へ全員が引越し、俺の店で働くことなんかあるはずなかったんだ。」
錬金術師「俺が若い頃、親父のもとで最初で最後になった"他者を破滅に追い込み利益を得る"仕事。」
錬金術師「それが…女店員の家族だったなんて…!言えるわけ……!!」ギリッ
機関長「…それでお前は崩れていく家族に涙し、親父のもとを去るきっかけとなった。」
機関長「やがて、うちの機関へと入り……。」
機関長「錬金術師のマスターになったのち、女店員の家族を気になったお前は、自分で調べた。」
機関長「だが、女店員は中央へ働いてもお前に潰されたせいで、どこへも働き口がないことに気が付いた。」
機関長「それを察したお前は、丁度始めようと思っていた自分の店へ……、だったか…?」
錬金術師「……その、通りだよ」
ギリッ……!
機関長「…お前や俺が面倒を見たり、雇ったりしている人間…。」
機関長「それはお前と知り合い、お前自身で責任を感じた人たち……か。」
錬金術師「……っ」
錬金術師「……女店員とのことは、俺の性格で本人に感づかれそうになったことはある。」
錬金術師「1年前の親父との一件の前後から、特に……」
………
…
女店員「そんなの知ってますよ。私だって、本当は中央都市の一流企業に行きたかったんですから」
錬金術師「多少の賃金の高さはあったが、よくこんな店に働いてくれたわ」
女店員「中央都市に行くつもりでしたが、色々あって町に残りましたし…」
錬金術師「…知ってるよ」ボソッ
女店員「え?」
錬金術師「何でもねーよ。つーか、最近"社長"顔出さないな」
…
………
錬金術師「…それに、この間のクーに関しても。」
錬金術師「まさか、女店員の関連資料まで出てくるとは思わなかった……」
………
…
錬金術師「ま~しかし、今はそんな情報はいらな……」
…ペラッ
錬金術師「…」
錬金術師「…っ!」
バッ…バババッ!!サッ!
女店員「ん…?」
錬金術師「…そ、そんな情報はいらないな!」
錬金術師「だから、次々と錬金術関係だけ洗い出すか、怪しい人物を見つけてくれ!」
女店員「店長、今…何か隠さなかった?」
…
………
錬金術師「それ以外にも、アルスマグナとの副長の差し入れをしてくれた夜。」
錬金術師「昔話を聞きたいと、C.マスター時代の話をしながらしゃべりそうになったこともあった…。」
錬金術師「……それでもなんとか、隠し通してきた。」
錬金術師「だから、今さら…。」
錬金術師「ここまで隠し通してきたのに、今さら、どの口が本当のことを言えるんだよ……」
機関長「…っ」
錬金術師「……無理だ。」
錬金術師「もし告白されても、俺は女店員へは振り向くことは出来ない…。」
錬金術師「例えあいつが許すといってくれても、俺は自分を許すことが…絶対に出来ない…。」
錬金術師「……無理なんだよ」ブルッ
機関長「…」
錬金術師「……ただの相談が、こんな重い話にしちまって悪かったな」
機関長「気にするな。俺も、お前の気持ちを軽く見過ぎて発言してしまった」
錬金術師「……もし何かあれば、また来るよ」
機関長「うむ、いつでも来い…」
錬金術師「制作できた超回復瓶は、3日後の朝一で俺の店へ運送配達で頼む。」
錬金術師「……よろしく」
機関長「…了解した」
錬金術師「じゃ、また……」クルッ
ガチャッ、バタンッ……
機関長(……)
機関長(……そうか。)
機関長(悩みの種は増えているだろうが、ココこそがお前へ与えた試練なのかもしれん。)
機関長(……お前の辛さは俺もしっかり分かっているつもりだ。)
機関長(そして、お前はそこを越えれば、再び…本当の自由へと戻っていくはずだ。)
機関長(頑張れよ……)
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
様々な悩みに揉まれる中、ついに女店員と銃士の気持ちに気づいてしまった店長。
しかし、女店員との間にはとてつもない大きな隠し事があった。
それを話すべきか、否か。
店長は、口で言いたくないと訴えながらも、その日は確実に近付いているであろうことを理解していた。
……そして。
そんな最中、いよいよあの男が立ち上がるのだが……。
その男は店長を阻止すべく、あちらへ再び足を踏み入れる決断を下す…………。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央都市 セントラルカンパニー社長室 】
秘書「……例の3つのサンプルを入手しました」
親父「…マジックエアーコンダクター。」
親父「採掘のパワーアップユニット。」
親父「超回復瓶……か」
秘書「中央都市東ギルドが、既に超回復瓶の注文に入ったと情報も。」
秘書「これで、ご子息様のお店の売り上げは月辺り数千万へ跳ね上がるかと」
親父「…上手く造ったものだ」
秘書「4月の予想は、超回復瓶のみでそれの売り上げです。」
秘書「他の2種や、魔石の独占販売によって5月以降は億単位の売り上げになっていくものと思われます」
親父「…俺を見返すため、一度勢いづいたアイツは最後までやり通すだろうな」
秘書「……社長の目標は、再びご子息をわが社へ引き入れること。」
秘書「このままでは、ご子息を認めざるを得ません。」
秘書「そうなれば、我が社へ引き抜くことは出来なくなります。」
秘書「すぐにでも、対策を練るように指示を行った方がよろしいでしょうか」
親父「…ふん」
親父「認めるも認めないも、俺次第なのは分かるな……?」
秘書「…それでは、今回のことでもお認めにならないと?」
親父「…いや、今回のことは世界へ影響を与える一件だ。」
親父「これを認めねば、そう口外されたとすれば…世間より批判され、俺は立場を失いかねないだろう」
秘書「それでは、一体どうやって認めないと…」
親父「まぁ、俺は既に考えはまとめてある」
秘書「…どうなさるのですか?」
親父「簡単だ。俺が、息子の開発した道具と精製魔石を先行販売すればいいだろう?」
秘書「…!」
秘書「し、しかし社長。ご子息の造った道具と魔石は、ご子息にしか生成できないもので…。」
秘書「うちの錬金部門で開発を行えば、その技術と日数的に、莫大な費用もかかります。」
秘書「ご子息が、開発技術を公開するとは思えませんし……」
親父「あいつは、自分が造った商品がどれだけの価値かは理解している。」
親父「そこで、自分の身体を圧してでも必ず商品の量産は行うはず。」
親父「…だが、あいつが一人で多くの量を精製するのはまず不可能。」
親父「つまり…。どこかに生成魔石や道具の造りを依頼している場所があるということだと考えた。」
秘書「!」
親父「そこの目星は、大体ついている。」
親父「そして、俺の考えが本当かどうかも早急な調査のうえ……」
親父「そのまま"それを奪えば"いい…。」
秘書「そ、それは!!」
親父「奪ったそれを使って、俺らが先に量産し販売すれば…いい話だろう…?」ニタッ
親父「話に聞けば、まだ小さなサンプル配布程度しか行っていないらしいじゃないか……」ククク
親父「先に世界中の広報を通し、販売すればいい……」
秘書「しかし…!」
親父「…やはり、意地でもあいつはうちの会社へ引き込むべきだ。」
親父「"どんな手を使っても"…必ずな……」
秘書「し、社長っ!!」
秘書「お言葉ですが、今は昔と違います!」
親父「何…?」ギロッ
秘書「中央都市を含め、犯罪に関しては警備隊の捜査も及び、下手をすれば足がつきます!」
秘書「こ、こんな時代に罪を犯せば、社長ご自身が……!」
親父「足がつかない方法なぞ、いくらでもある……。」
親父「今もそいつらは俺から仕事を貰えないかと、心を躍らせているぞ…?」
親父「俺がのし上がってきた裏には、その人間たちの活躍があるんだからな……」ククク…
秘書「し、しかし…っ!」
親父「…"アルスマグナ"に連絡をとれ」バッ!
秘書「…ッ!!」
親父「副長が死んだおかげで、うちとの仕事もスムーズにやってくれるはずだ……」ハハハ!
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続き
錬金術師「経営難に立ち向かう事になった」銃士「その4!」【後編】