※関連
最初: 美琴「す・・・好きです!!付き合ってください!!」上条「何やってんだ、御坂」
前回: 上条「1に愛情!」美琴「2に愛情!」心理「3、4がなくて?」垣根「後藤さん」一同「誰だよ」【中編】
上条(どうしよう)
上条は考えていた
今、美琴と二人で風呂にいる
それだけなら大した問題ではない
二人の年の差は2つだし、何より二人は恋人だ
こういうことも当たり前
問題なのは、全裸の美琴が怯えながら上条に抱き着いていること
慎ましいながらも確実に柔らかい膨らみ
少しくびれた、優しい丸みの腰
そしてなんだか濡れている下半身
もちろん、濡れているのはシャワーを浴びたからなのだが
美琴「・・・当麻、お化けいない?」
目を閉じたまま美琴が尋ねる
先程からずっとこんな感じだ
シャワーも上条がやってあげた
上条「・・・怖いのか?」
美琴「うん・・・もういや」
上条「・・・お化けをいなくする方法な、俺の言うことを聞くんだけどさ」
美琴「わ、分かってる」
上条「じゃあ・・・とりあえず目を開けてくれよ、お化けなんていないから」
上条が美琴の頭を撫でる
美琴「目開けたら・・・当麻がゾンビになってるとかないわよね」
上条「なんだその展開」
美琴「ん・・・あ、いつもの当麻だ」
美琴が怯えながらも目を開く
上条「じゃあ・・・顔を洗いましょうか」
美琴「目も開けてたほうがいいかな?」
上条「はい?なんで?」
美琴「目も・・・清めないといけないかな?」
なんだか重要な勘違いをしている
可愛い勘違いをしている
上条「まぁ・・・美琴が不安なら」
美琴「うん、じゃあ洗うわね」
美琴が石鹸を泡立て、顔につける
美琴「にゃぁぁぁ!染みる!」
上条「だったら目・・・閉じたら?」
美琴「だ、だってそしたら目にお化けがひっついちゃうよ!?」
上条「そ、それは困るかもな」
美琴「だから、私はガマンするもん!」
そう言って、美琴は顔を洗い続ける
上条(申し訳ないけど・・・なんか可愛い)
美琴「ぷはっ!終わった」
シャワーで泡を洗い流し、美琴が頭をプルプルと振る
子犬みたいで可愛いな、と上条が考える
美琴「じゃあ・・・次は?」
上条「うーん・・・体はもう全部洗ったから・・・っと、まだ洗ってないとこがあるな」
美琴「ど、どこ?」
慌てたように美琴が尋ねる
上条「そこ」
上条が指差すのは美琴の秘部
一瞬にして美琴の頬が染まる
美琴「な、なんでここ・・・そ、そりゃ・・・」
上条「俺が命令してるんだぞ?逆らったらお化けが来ちゃうなぁ」
上条がニヤニヤと笑う
もはやお化けとかは関係なかった
全裸の美琴に抱き着かれた時点で理性なんて無くなっていたのだから
今さら彼女に一人でさせたところで問題はない
そう考えてしまうこと自体が問題なのではあるが
美琴「あぅ・・・当麻のエッチ・・・」
上条「自分で洗えよ、じゃないと」
美琴「わ、分かったわよ!」
上条「あ、ちゃんと脚広げてよく見えるようにな」
美琴「ふぇっ!?わ、分かった・・・」
美琴が上条から視線を逸らし、一人でするときの体勢になる
上条「・・・まずはどこを触るんだ?言って」
美琴「む、胸・・・」
上条「胸のどこ?」
美琴「ち、乳首・・・ぃっ!」
美琴が自分の乳首を摘む
ビリビリとしたいつもと違う電気が彼女の頭を駆け抜ける
美琴「あっ・・・いやぁっ・・・」
上条「こーら、喘ぎ声抑えたらダメだからな」
美琴が命令をきくのを良いことに、上条はどんどん要求していく
普段は恥ずかしがってやってはくれないが、今は素直になっている
美琴「くふぁぁぁぁ!ダメ、もうダメ!」
上条「じゃあ一旦手を放して」
美琴「えっ・・・?」
美琴が泣きそうな顔で上条を見つめる
頂上の一歩手前
あと一度触れれば、すぐにでも上り詰めてしまいそうなのに
なぜか上条はそれを良しとはしてくれなかった
美琴「やだ・・・もうイきそう・・・ねっ、当麻?」
上条「はい、しばらくそのまま」
美琴「な、なんでよ!?まだイって・・・」
上条「言うこときかないとお化けが来ちゃうけど・・・まぁイきたいならしょうがないな、やれば?」
冷たく上条が言い放つ
傷ついた
いや、傷ついたはずだ
現に、少しは美琴もショックだった
でもそれ以上に、なぜか彼女は興奮している
上条が自分を焦らしていて
自分はなんでも従うことしか出来なくて
ふと上条のそれに目をやる
かなり硬くなっている、辛そうに見える
美琴「・・・当麻」
甘えたような声で、美琴が上条を呼ぶ
上条「・・・ごめんな、お化けとか関係なくなってるな」
さすがに今の状況を申し訳ないと思ってしまう
お化けをダシにしてこういうことをやらせるのはかわいそうかもしれない
上条「・・・無理して従わなくていいよ、お化けだってウソなんだし」
美琴「ウ、ウソだったの!?」
上条「・・・美琴が可愛いからついからかっちゃってさ」
美琴「さ、最低・・・」
美琴が少し蔑むような目で上条を見つめる
上条「・・・最低、か」
美琴「え、あ!?傷ついた!?その、最低なんかじゃないわよ!ただ・・・ちょっとその、あの・・・」
上条「・・・いや、元はといえば俺が悪いけどな」
ばつが悪そうに、上条が頭をかく
美琴「・・・で、でもせっかくだから従ってあげるわよ」
上条「ん?いいのか?」
美琴「・・・相手が当麻ならなんだっていいって言ったでしょ?」
上条「あぁ・・・じゃあまだ触っちゃダメだからな」
美琴「んゅっ・・・ま、まだダメなの?」
上条「もっと辛そうな美琴が見たい」
上条が美琴の下半身を凝視する
床のタイルに、だらし無く愛液が垂れていく
少し粘性があって、糸を引いていて
それがたまらなく官能的だ
上条「どう?焦らされるの好きなんだろ?」
美琴「す、好きじゃないわよ別に!」
上条「・・・触りたい?」
美琴「!触りたい!」
上条「じゃあダメ」
美琴「えぇっ・・・」
美琴が自分の胸を見る
その頂きは、かなり辛そうに立っていた
あと一回
あと一回触れられたら快感を得られるのに
ここまで焦らされてしまっては簡単にはイくことはできないだろう
触れたい
だが、従わなければ上条は怒るだろう
もちろん、怒るといっても本気でキレるわけではない
拗ねる、といったほうが的確な表現ではあるだろう
美琴「・・・当麻のバカ、もう辛い・・・」
美琴が消え入りそうな声で訴える
上条「・・・俺のこと、愛してる?」
美琴「愛してる・・・愛してる、すっごく・・・」
素直な気持ちを上条に伝える
すると、上条は美琴の真ん前に寄ってきた
そして
上条「ありがとな、美琴」
彼女の乳首に、歯を立てた
若干痛いのではないか、という力加減で
美琴「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
信じられないほどの快感が頭を突き抜けた
白くなる、なんてものではない
むしろ意識が無くなりかけるのだから黒くなる、ではないだろうか
美琴「あぁぁぁぁぁぁ・・・」
涎が美琴の口から流れ出す
だらし無いということは分かっていた
それでも押し寄せる快感の波に耐えることなんて出来ない
美琴「あぅっ・・・いきなり・・・何してるのよ・・・」
まだ思考が虚ろな頭
そんな頭が辛うじて組み上げたのは非難の言葉だった
上条「・・・俺が堪えられませんでしたよ」
美琴「あぁ・・・頭がクラクラする・・・」
ガチガチ、と口が奮える
こんな快感は初めてだった
もしかしたら本当に自分はMなのかもしれない
そんなことが頭をよぎる
美琴「お、お願い・・・ちょっと待って・・・」
上条「続けて」
美琴のお願いなんて上条の耳には届いていない
彼女を快感に狂わせることが出来そうで、興奮しているのだ
美琴「・・・はい」
美琴もそれに従う
なんだか、ご主人様とペットみたいだな、と感想を抱く
将来そういう夫婦にはなりたくないが
上条「・・・美琴、どう?」
美琴「もうダメ・・・触っただけでイきそう」
上条「・・・いいよ、イっても」
美琴「当麻、こっち・・・来て」
上条は先程美琴が達してから一旦放れていた
上条「ん・・・どうかしたか?」
上条が美琴のそばに寄る
美琴「べ、別に特別用事があるわけじゃないんだけどさ・・・」
美琴が上条の肩に頭を乗せる
上条「ど、どうした?」
美琴「・・・落ち着く」
ぽつり、と美琴がつぶやく
こうやって甘えられると、上条としても心臓に悪い
かなり心拍数が上昇している気がするのだ
上条「・・・美琴、イってくれ」
美琴「うん・・・っ!」
美琴が自分の胸を触る
いつも上条がしてくれるように、激しく
その光景はかなり卑猥なものだった
見ているだけでも、上条のそれは硬くなってしまう
上条「・・・美琴、イった?」
美琴「はぁ・・・当麻、今日は・・・エッチするの?」
上条「したい・・・めちゃくちゃしたいですよ」
美琴「分かった・・・私もしたいもん」
美琴が上条の唇を探す
達したばかりでクラクラするため、簡単には見つけられないようだ
そんな彼女のあどけない姿に上条はつい抱きしめてしまう
美琴「ふぁぁっ・・・ど、どうしたのよ」
上条「・・・美琴、幸せだよ」
美琴「!わ、私のほうが幸せなのよ!」
上条「そうか?俺はお前と付き合う前からこういうことしたいなぁ、って考えてたけど」
上条が頬を染めながらつぶやく
好きな人ともしかしたら、と考えたりするのはわりと普通のことだろう
美琴「こ、こんなことするのとか想像してたの?」
上条「・・・オカズはいつも美琴さんでした」
自販機蹴ってる時に太ももはよく見えてたし、と上条が続ける
美琴「へ、変態じゃない・・・」
上条「だから!それほど俺は美琴と一緒になりたかったんだってば!」
上条がつい大声を出してしまう
美琴「わ、私だって当麻のことずーっと昔から好きだったわよ!」
上条「昔ってどれくらい?」
美琴「・・・妹達の件の時から・・・もうそれからは虜だったわよ」
美琴が耳を真っ赤に染める
美琴「・・・当麻のことばっかり考えてて・・・授業とかも集中できないことがあって・・・」
上条「それは問題だろ」
美琴「な、何よ!それに・・・当麻からメールが来たりしたら嬉しかったし・・・」
上条「あ、それは俺もだったな」
美琴「で、でもやっぱり私のほうが好きだと思うけどな!」
美琴はいつになく必死なようだ
上条「はぁ・・・そんなにか?」
美琴「そ、そんなによ」
上条「へぇ・・・」
上条が美琴の顔を凝視する
恥ずかしいのだろうか、すぐに目を逸らしてしまうが
上条「・・・まぁ、うれしい限りですよ」
美琴「・・・当麻は、その・・・私以外を・・・オカズにしたりしたの?」
突然
美琴が関係ないことを切り出す
先程オカズにしていた、というのの延長線上だろう
上条「ん?あーいや・・・記憶にある限りでは美琴だけだな」
上条は記憶喪失である
そのため、昔もしそういうことをやっていたとしても記憶にあるわけがない
そして、記憶のあるうちでは美琴以外で抜いたことはなかった
自分一人で、ということ自体あまりしないのも理由の一つではある
だが、それ以上に彼は美琴を心から愛している
彼女以外で抜こうなんて思わないし、彼女でしか抜くつもりはない
美琴「・・・そ、そう」
上条「でもなんでそんなこと聞くんだ?」
美琴「わ、私以外で・・・そういうことやられてたらイヤだから」
美琴が上条の腕にしがみつく
上条と同じように、彼女の独占欲も相当なものだった
自分の彼氏が自分以外をオカズにするのさえ許せないなんて
上条「・・・うれしいけど、なんだかエッチな悩みだよな」
美琴「う、うるさいわね!」
上条「まぁまぁ、俺としては美琴がそんなふうに独占欲を見せてくれるのは嬉しかったりしますよ?」
優しく、美琴の頭を撫でる
上条「だから・・・今はかなり幸せです」
美琴「・・・私だけのものだもん」
ぎゅっ、と抱き着く力を強める
美琴「当麻が好きだって言っていいのも、当麻が素敵だって思うのも」
美琴「・・・当麻が、愛していいのも」
美琴「私だけだからね?」
上条「わざわざ言われなくても、俺は美琴しか愛せないですよ」
ニコリ、と上条が笑う
その笑顔に嘘偽りはない
美琴「・・・よかった、当麻は女の子の知り合い多いから結構悩んでるのよ?」
上条「そ、それは申し訳ありません」
美琴「でもまぁ・・・今の約束くらい信じてあげるわよ」
上条「サンキュー」
もう一度、美琴の体を抱きしめる
二つの鼓動が胸で響いている
上条「・・・はい、またやってくださいね」
美琴「も、もう?」
上条「まぁまぁ、いいじゃないですか」
美琴「・・・たまには普通にイチャイチャしたいんだけどなぁ・・・」
そう言いながらも美琴は下半身をいじる
美琴「んゅっ・・・はぁ・・・ね、当麻?」
上条「なんですか?」
美琴「手・・・握って?」
上条「?」
わけがわからないまま上条が手を握り締める
美琴「・・・えへへ//」
上条「・・・手の暖かさをオカズにするとはマニアですね」
美琴「!?ち、ちが・・・ふゅっ!」
美琴が息を大きく吐く
上条「・・・お疲れ様」
美琴「ふにゃぁぁぁ・・・」
疲れた、というふうに美琴が上条に寄り添う
上条「・・・よいしょっと」
上条が美琴の体をシャワーのまん前まで運ぶ
そして、優しくお湯で洗う
美琴「あ・・・あったかい」
上条「美琴さんはエロエロですからね」
美琴「あ、あったかいの意味が違うわよ!」
上条「あはは!」
美琴「うー!!」
美琴が顔を真っ赤に染めて、浴槽へと入る
上条「あれ?もういいのか・・・」
美琴「くらえぃ!!」
浴槽のお湯を、ぴゅっ!と勢いよく飛ばす
手で水鉄砲をする要領だ
上条「どわぁ!?や、やったな!」
上条もシャワーで応戦する
美琴「うわ!!卑怯!」
上条「ははは!!数がものをいうのが戦いだ!」
美琴「くー!!くらいなさいよ!」
上条「無駄無駄無駄ァァァ!!!!!!!!!!!!!!」
そんなやり取りを、20分はしただろうか
美琴「くしゅん!!!」
上条「・・・調子に乗りすぎたな」
二人は湯冷めしていた
上条「・・・コーヒー飲むか?」
美琴「うん、ありがと」
美琴はテレビを見ていた
なぜか、今も「怖い話」系の番組をやっている
他局に便乗したのか?と思いたくなるほどナイスなタイミングだ
上条「あ、学校の怪談・・・か」
美琴「け、結構怖いわよ?」
上条「俺、あんまそういうの怖くないんだよな」
二人分のコーヒーをテーブルに置きながら、上条がつぶやく
美琴「こ、怖くないの!?」
上条「だってお化けなんていないし」
美琴「わ、分からないじゃない!天使だっているのよ!?」
上条「でも天使は怖くないし」
美琴「て、天使とお化けは一緒じゃないもん!」
上条「えぇ・・・」
美琴「ひぃっ!!」
テレビの中の映像を見て、美琴が声を上げる
上条(うわ・・・どう見ても影と実像が合ってないし・・・合成だろ・・・っていうかお化けに影入れようとしてる時点でもう素人・・・)
美琴「当麻ぁ!!」ウルウル
上条「」
美琴「こ、怖い」ギュッ
上条「だ、だだだだ大丈夫ですよ美琴さん!?」ドキドキ
美琴「・・・」
美琴「なーんだ、と、当麻も怖いんじゃない」
上条「いや、これは別のドキドキですよ」
美琴「ど、どどどどういう意味よ!?」
上条「あ、画面見てみな」
上条がテレビを指差す
これまた、合成としか思えない、窓に映る骸骨の顔・・・
だが
美琴「にゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
美琴には効果抜群のようだ
上条「おー、すげぇなこりゃ」
美琴「すごくないすごくないすごくない!!!」
上条「はぁ・・・そんなに怖いか?」
美琴「だって!!生首!!」
上条「そういうポシェットだよ」
美琴「そのネタ誰もわからな・・・にゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
今度は、「足の間に人の顔」というなんともベタな画像が画面に映る
上条「はぁ・・・俺、もう寝るな」
美琴「わ、わわわわわわわわ私も!」
上条のあとを追って、すぐに美琴も布団に入る
上条「じゃ、そろそろ・・・」
美琴「ね、ねぇ・・・当麻?」
上条「ん、なんだ?」
美琴「エッチ・・・」
上条「あ、そうだったそうだった」
ニコリ、と笑ってから上条が美琴の服を脱がせていく
そして、二人の熱い夜は過ぎていく
美琴「ねぇ当麻」
上条「なんだ?」
美琴「当麻って・・・お化けとか怖くないの?」
上条「あぁ、全然怖くない」
美琴「・・・じゃあ、何が怖いの?」
美琴が不思議そうに訊ねる
上条「怖いもの・・・か」
じっ、と上条が美琴を見つめる
美琴「?」
上条「なんでもないよ、おやすみ」
美琴「え、お、教えてよ!?」
上条「今度な」
上条(・・・怖いもの、か)
上条は考えていた
隣ではもう、美琴が寝息を立てている
スヤスヤ、と無防備に
上条(・・・怖い、か)
小さく上条が笑う
こうやって、美琴と一緒にいられる日常が大好きだ
そして、こんな日々が毎日続くと信じている
上条(・・・こんな平和な毎日がなくなるのが怖いな)
いつか
もしいつか、この幻想が壊れてしまったら
それを考えるのが怖かった
上条(・・・)
真っ暗な部屋の中
天井に向かって右手の拳を突き上げる
上条(・・・もし、この平和な日常がいつか壊れるなんて思ってるなら)
ぽん、と軽く右手を自分の額に当てる
上条(そんな幻想、ぶち殺せばいいだけだな)
もう一度小さく笑って
上条も、夢へと落ちた
さて、次は未元定規withアイテムで焼肉
かな
垣根「あぁ、そういえばこの前アイテムの輩と焼肉行くって約束したな」
心理「あら、いつ?」
垣根「風紀委員手伝ったとき」
心理「あぁ・・・そういえばそうだったわね」
興味なさそうに心理定規が雑誌をめくっていく
垣根「・・・なんの雑誌?」
心理「フッション、あなたには興味ないでしょうけど」
垣根「また服買うつもりか?」
心理「見てるだけでも楽しいものよ」
垣根「へぇ・・・」
心理「・・・それで、焼肉は?」
垣根「今から行かないか?」
心理「今から?」
心理定規が雑誌から顔を上げる
垣根「おうよ、今から滝壺に連絡とってみる」
心理「・・・なんで滝壺さん?」
垣根「あいつが一番まともだから」
垣根が携帯を取り出す
心理「まぁ・・・それもそうね」
垣根「あー、滝壺?焼肉行かないか?」
垣根「そうそう、浜面以外・・・あ?浜面も連れて行きたい?」
垣根「ちっ・・・まぁいいか」
垣根「おう、じゃああとでな・・・いつもの場所で」
心理「・・・いつもの場所って?」
心理定規が首を傾げる
彼と滝壺はそんなに遊ぶというほどではない
街で偶然出会ったら連れまわす、程度ではないか
垣根「あれだよ、映画館」
心理「あぁ・・・絹旗さんが荒ぶる場所ね」
垣根「そうと分かれば行くぞ」
垣根が財布を取る
心理「はぁ・・・仕方ないわね」
垣根「アイテムのやつらはいじりがいがあって面白いからな」
心理「あなたね・・・」
はぁ、と心理定規が溜め息をつく
垣根「いやぁ、スクールとアイテムが仲良くしてるとか、ゴーグル野郎が知ったら泣くだろうな」
心理「・・・彼はいろいろと不憫だったわね」
心理定規が溜め息をつく
垣根「あー、腹減った、早く行こうぜ」
心理「はいはい」
心理定規も手早く準備を済ませる
垣根「では、レッツゴー!」
心理「からかって遊んでみましょう」
浜面「焼肉は嬉しいけどよ・・・」
映画館の前
浜面は泣きそうになっていた
麦野「泣くな、いいじゃねぇかよ」
絹旗「超楽しみですね」
滝壺「かきねはお金持ちだから」
浜面「そういう問題じゃねぇ・・・」
浜面はあの二人が苦手だ
アイテムみたいに、常にガキっぽければ問題ない
だが垣根はたまにものすごくクールだし、心理定規なんて魔性だ
あんな二人と話しているだけで疲れてしまう
浜面「・・・あいつらは苦手なんだよ」
垣根「俺も俺も」
浜面「うわぁ!?お前いつからいたんだよ!?」
垣根「あぁ?そこでなんでツッコむんだよお前は」
浜面「は、はぁ?」
麦野「よぉ、今日は奢ってくれるんだって?」
垣根「約束したからな」
絹旗「約束を守るとか超偉いですね」
滝壺「はまづら、これが男」
浜面「お、俺もがんばってるよ毎日!?」
心理「がんばってるだけじゃダメよ」
浜面「おわっ!?アンタもどっから出てきたんだよ!?」
心理「おはよう」
麦野「よう、じゃあ早速行こうぜ」
垣根「あいよー」
麦野「・・・さて、着いたわけだな」
絹旗「あー・・・超混んでましたけど、ラッキーにも座れましたね」
滝壺「かきねが予約しててくれてよかった」
垣根「まぁ、こういうのは早めにな」
心理「早く食べましょうよ」
浜面「・・・あ、あぁ」
心理「なに?」
浜面「いや・・・」
麦野「浜面は彼女いるくせに未だに襲いもしない童貞だからな、お前に迫られて焦ってるんだよ」
心理「あら、そうなの?」
浜面「ちげぇ!!童貞だけどあとはちげぇ!!」
垣根「それ、自分を追い込んでるよな」
垣根が席から立ち上がる
垣根「ほれ、飲み物なにがいい?」
絹旗「あ、超気が利きますね」
滝壺「はまづら、見習って」
浜面「・・・分かったよ・・・」
浜面も席から立つ
垣根「なぁ浜面」
浜面「なんだよ」
二人はドリンクバーの前に来ていた
垣根「お前、まだ滝壺とやってないのか?」
浜面「な、なんでいきなり!?」
垣根「さっき言ってただろぉが」
浜面「いやいや!!そんな個人情報言わないからな!」
垣根「やってないんだな」
垣根が絹旗の分をついでいる
コーラを選ぶ辺りは、絹旗を子供扱いしているのだろう
浜面「・・・ま、まだいいだろ」
垣根「まぁな、別にいいと思うぜ」
浜面「・・・おい、麦野はアイスティーが好きなんだぜ?」
垣根「あ?そうなのかよ」
垣根がアイスティーをつぐ
浜面「・・・そのアイスコーヒーは?」
垣根「心理定規の分だよ」
浜面「へぇ・・・」
垣根「なぁ、浜面」
浜面「・・・なんだよ」
垣根「・・・お前、ハーレムだよな」
浜面「はぁ?上条のダンナのほうがヤバいだろ」
垣根「分かってねぇなお前・・・」
垣根が肩を落とす
垣根「あのな、滝壺は天然、麦野は年上、絹旗は妹」
浜面「あ、あぁ」
垣根「その全ての属性を兼ね備えてるハーレムだ、死ね」
浜面「」
垣根「ほれ、行くぞ」
垣根が飲み物を運んでいく
その後ろを、浜面もついていく
麦野「あ?遅かったな」
垣根「混んでたんだよ」
心理「アイスコーヒー?」
垣根「あいよ」
滝壺「麦茶?」
浜面「おうよ」
絹旗(・・・これが、以心伝心・・・)
絹旗「・・・ところで、垣根はなんで青汁なんですか?」
垣根「青汁は美味いんだよ」
浜面「・・・そうか?健康には良さそうだけど」
麦野「・・・なんか見てて吐き気がするんだけど」
垣根「そんなことはないんだけど」
心理「語尾をわざわざ合わせなくていいわよ・・・で、何食べる?」
心理定規がメニューを開く
滝壺「全部食べたい」
垣根「全部って食いきれないだろ」
浜面「・・・とりあえず豚と牛とイカと黒豚でよくないか?」
垣根「そうするか」
垣根がチャイムを鳴らす
絹旗「・・・垣根は、誰かに奢るのとか好きなんですか?」
垣根「はぁ?なんで」
絹旗「いっつも奢ってくれるじゃないですか」
麦野「なんだよ、絹旗は垣根にお熱か?」
絹旗「超違いますから!」
心理「あら、奪わないでよね?」
絹旗「超違いますから!!!!!!!!!!!!!」
垣根「・・・別に奢るのが好きってわけじゃないけどな」
垣根が苦笑する
垣根「俺ってあんま金使わないんだよな」
浜面「果てしないウソだな」
滝壺「でも、超能力者はたしかにお金が余るかもね」
垣根「そうそう」
麦野「だから奢って使う、か」
垣根「それで誰かが喜ぶな儲けもんだろ」
絹旗「・・・なんか、昔とずいぶん違いますね」
心理「あら、あなたたちも変わったじゃない」
麦野「・・・いろいろあったからな」
垣根「お、来たぜ」
垣根が体を起こす
店員が肉を運んでくる
麦野「・・・なんか、こうやってアイテム以外とつるむのは変な感じだな」
垣根「そうか?お前らももうちょっとネットワークを広げろよ」
滝壺「そういえば、かきねはたくさん友達がいるけどなんで?」
垣根「はぁ?・・・そうだな、最初は偶然上条と出会ったのがきっかけだな」
垣根が昔を思い出す
遊園地で心理定規と遊んでいたときに出会った
あの頃は、垣根と心理定規は付き合ってはいなかった
上条と美琴も、お互いに名前では呼んでいなかった
垣根「・・・いろいろあったなぁ、ばあさんや」
絹旗「・・・そんな無茶振りされても超困るんですが」
垣根「ちっ、お前好かれないだろ、だから浜面にフラれるんだよ」
絹旗「超違いますから!!!」
浜面「なんだ、お前俺のこと好きなの?」
絹旗「ちげぇって言ってんですよこの超浜面!!!」
浜面「ひぃっ!!」
心理「・・・賑やかね、というかあなたも大変そうだわ」
麦野「・・・まぁな」
心理「・・・あなたは、彼氏とか興味ないの?」
麦野「・・・なんで」
心理「・・・あぁ、そういうこと」
心理定規がクスクスと笑う
麦野は、浜面と滝壺を見つめていた
浜面「はい、滝壺」
滝壺「あーん」
絹旗「・・・超イチャイチャしやがって・・・垣根、あーん!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根「だが断る」
絹旗「きーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
麦野「・・・あいつもな」
心理「いいんじゃない?いつかはその思いも消えるわよ」
麦野「それ、絹旗にも言われた」
心理「叶わなかった夢はただの物語になってしまうんですって」
麦野「・・・なんだそりゃ」
心理「垣根が言ってたのよ」
麦野「・・・そうかい」
心理「・・・私、あなたみたいな人は嫌いじゃないわ」
もう一度、心理定規が笑う
麦野「・・・なぁ」
心理「なに?」
麦野「・・・いったいさ、どこに答えなんてあるんだろうな」
ぽつり、と麦野がつぶやく
麦野「・・・私が探してたのは、幸せになる方法だったんだ」
心理「彼はその近道だったってだけでしょ」
心理定規が笑う
麦野「・・・そうだな」
心理「・・・一つ言えることは、あなたはまだこれからってことよ」
心理定規が垣根を見つめる
彼女は、もうその答えを掴みかけていた
心理「幸せになりたいのなら、不幸に目を向けてはいけないわよ」
心理「・・・さ、こんな話はやめて焼肉にしましょう」
麦野「・・・分かったよ」
垣根「さ、焼くか」
浜面「なんか焼肉は久しぶりなんだよな・・・」
心理「あら、あなたは貧乏そうだものね」
浜面「あぁうるせぇ!!どうせ貧乏だよ!」
麦野「これだからヒモは」
浜面「ヒモ!?俺がヒモなの!?」
滝壺「大丈夫、そんなはまづらを私は応援したいと思っている」
浜面「まだしてはくれてないんだ!?」
絹旗「超うるさいです、黙っててください」
浜面「ひ、ひでぇ・・・」
垣根「はぁ・・・アイテムはいつもこんな賑やかなのか?」
麦野「まぁな」
麦野が肉にかじりつく
浜面「あぁ・・・美味いな・・・」
絹旗「垣根、本当におごってくれるんですか?」
垣根「当たり前だろ・・・ここまでしといて奢りませんなんて言うほど鬼畜じゃねぇよ」
麦野「・・・ふーん」
垣根「なんだよ、俺が変わったのが不満か?」
麦野「・・・毒されたもんだなと思ってさぁ・・・」
垣根「その毒はかなり甘いもんだぜ?」
垣根が含み笑いをする
垣根「お前だってもう少しでその毒が回るんだ」
麦野「もう回ってるよ・・・」
はぁ、と麦野が息を吐く
垣根「そうだな・・・てめぇは無防備だ」
麦野「・・・無防備になったんだよ」
垣根「気を張らなくてもいいからか」
麦野「そうだな・・・それもあるよ」
垣根「いいこった」
心理「でも、麦野さんはもう少しぴしってしてたほうがいいんじゃない?」
麦野「なんで」
心理「あなたの魅力って、大人っぽいところじゃないかしら」
心理定規がアイスコーヒーを一口飲む
ほどよい苦さが口に満たされる
浜面「・・・アンタが言うのか・・・」
心理「あら、私はそんなに大人じゃないわよ」
垣根「いや、十分大人だろ」
絹旗「・・・魔性っぽいです」
心理「ほめ言葉として受け取っておくわ」
麦野「・・・大人、か」
滝壺「麦野はスーツとか似合いそうだね」
浜面「いや、足がちょっと・・・」
麦野「あぁ?」
浜面「」
垣根「麦野は年上好きにはたまらんかもな」
麦野「年上好きな男なんてなかなかいないだろ」
心理「あら、どうかしらね」
滝壺「結構いると思うよ」
垣根「・・・麦野、お前はもう少しおしとやかになれば完璧だぜ」
麦野「・・・そ、そうか」
少し麦野が顔を赤くする
絹旗「・・・垣根、私はどうすれば?」
垣根「そうだな・・・」
うーん、と垣根が唸る
絹旗の魅力はなんだろうか
垣根「まず、お前はパンチラをやめろ」
絹旗「な、見せないんですよ!?超計算されてるんですよこの角度!」
垣根「それでもだ」
心理「彼氏ができたら、他の男に見られないか不安になるんじゃない?」
垣根「第一、軽い女に見える」
浜面「あ、それは分かるな」
絹旗「うーーー!!!」
垣根「だから、ガードを高くしろ」
絹旗「ど、どんな風にですか?」
垣根「まず、短パンだな」
垣根が思い浮かべるのはもちろん美琴だ
あのガードの高さは異常だろう
垣根「そして、もう少し落ち着け・・・お前はガキっぽすぎる」
絹旗「ま、まだ中学生の年齢・・・」
垣根「お前、心理定規と同い年くらいだろ」
浜面「え、そうなのか?」
浜面が二人を見比べる
絹旗「なんですか!!」
心理「あら、何かしら」
浜面「その反応の時点で大きな差が現れてるな」
垣根「だろ?」
麦野「たしかに、絹旗は妹キャラにするにしても中途半端だよな」
絹旗「な、なんでですか!!!」
垣根「力強いし」
絹旗「妹が強くてもいいじゃないですか!!!」
垣根「じゃあ、浜面のことお兄ちゃんって呼んでみろよ」
絹旗「仕上おにいちゃん!」
浜面「・・・微妙」
絹旗「なんでですか!!」
垣根「はぁ・・・心理定規、お前も言ってみろよ」
心理「仕上お兄ちゃん」
浜面「」ドキン
滝壺「おいはまづら」
浜面「あぁ違う!!なんか妹がほしいなぁって昔から思ってて!」
滝壺「じゃあなんできぬはたのときはドキンてしなかったの?」
浜面「あ、い、いや・・・」
滝壺「な ん で」
浜面「」
垣根「滝壺は意外とヤンデレもいけそうだな」
麦野「・・・私よりも、な」
心理「・・・あ、黒豚美味しいわね」
絹旗「超ちくしょう・・・」
垣根「・・・そういえば、浜面って意外とモテるよな」
浜面「そうか?」
垣根「アイテムは全員浜面のこと好きだろ?」
麦野「ち、ちげぇよ!!」
絹旗「超心外です!!ていうか侵害です!!!!」
浜面「そこまで否定されるとこっちも悲しいなぁ!!!」
心理「あら、素直じゃないわね」
ぽつり、と心理定規がつぶやく
心理「別に誰かを好きになることは恥ずかしいことじゃないわよ?」
絹旗「だ、誰が浜面なんか・・・」
垣根「じゃあ誰が好きなんだよ?」
絹旗「今はそういう相手はいません!!」
心理「あら、じゃあ私はどうかしら」
絹旗「へ?はははははははい!!!???」
心理「冗談よ、あなた達はいじり甲斐があって面白いわね」
クスクス、と心理定規が笑う
麦野「・・・性格悪いな・・・」
心理「あなたと似てるかしら」
麦野「あぁ!?」
浜面「挑発に乗るなよな・・・」
垣根「・・・まぁ、アイテムは一応全員いい女だけどな」
麦野「・・・お前さ、そうやって誰にでも可愛い可愛い言うのはやめたほうがいいよ思うわよ」
絹旗「そうですよ、超誤解を招きます」
垣根「知ったことかよ・・・お、ゲソうめぇ」
心理「・・・でも、可愛いとはあんまり言わないんじゃない?」
垣根「あぁ、可愛いってことは相手に好意を持ってるって思われるからな、いい女だと思うぜ、くらいが距離も取れるし一番いい」
滝壺「かきねに言われたら期待する子もいると思うよ?」
垣根「そうか?」
浜面「・・・お前はかなりモテそうだよな」
浜面が溜め息をつく
彼だって、そういう経験をしてみたいのだ
垣根「いやいや、俺は心理定規一筋だし」
心理「あら嬉しい」
絹旗「・・・」
垣根「なんだよ」
絹旗「私も・・・彼氏がほしいです」
垣根「はぁ?」
垣根「いや、彼氏がほしいとか言われても」
絹旗「いい人はいませんか!?」
心理「・・・そういうのは見つけるものよ」
麦野「そうそう、根本が間違ってる」
絹旗「でも、超ほしいんです!」
浜面「そういうのは好きになるんであって、最初から好きになりたいもんじゃないだろ?」
浜面の一言に一同が凍りつく
滝壺「はまづら、カッコイイ」
絹旗「超キメぇ」
麦野「ねーわ」
垣根「こりゃひでぇや」
心理「まぁいいんじゃない?」
浜面「」
垣根「はぁ・・・彼氏ねぇ・・・絹旗はどういうのが好みなんだよ?」
絹旗「熱く語っていいですか?」
垣根「遠慮する」
絹旗「まず、優しい人がいいですね」
垣根「ゼロにする」
絹旗「麦野もそう思いませんか?」
麦野「優しすぎてもダメじゃない?ある程度引っ張ってくれないと」
垣根「・・・引っ張るねぇ」
浜面「引っ張るっていうと?」
絹旗「こう・・・たとえば、迷っているときに決めてくれたり!」
浜面「迷っているときに・・・ってさ、それは自分で決めるもんじゃないか?」
垣根「・・・まぁ、でも子供のうちは大人な男に憧れるかもな」
絹旗「こ、子供!?」
垣根「そうそう、そういうところは麦野も子供っぽいけどな」
麦野「・・・いいだろ、男らしいのに憧れても」
心理「私もそういうのは憧れるわね」
垣根「はぁ?お前もか・・・」
滝壺「男の子にはわからないよ」
垣根「これだから女はわからねぇ・・・」
垣根が椅子にふんぞり返る
麦野「じゃあお前の理想は?」
垣根「俺ねぇ・・・」
浜面「バニーか?」
垣根「お前はそうなんだな」
浜面「ち、ちげぇよ!?」
垣根「俺ね・・・」
絹旗「垣根は・・・どうせ心理定規のこと、とか言いそうですね」
垣根「まぁそれもあるけどさ、理想はちょいと違うぜ?」
心理「あら、そうなの?」
垣根「理想は・・・もうちょい甘えてくるヤツかな」
心理「あら、もしかして甘えてほしいタイプなの?」
垣根「お前はあんまり甘えてこないだろ」
心理「あなたとはそういう軽い関係にはなりたくないもの」
浜面「・・・なんだこの空間」
絹旗「・・・垣根はホントどこかのイケメンみたいです」
麦野「・・・気にいらないくらいにメルヘンなときもあるけどな」
滝壺「かきね、かきねは心理定規以外だったら誰と付き合いたいの?」
垣根「あぁ?」
垣根が少し眉をひそめる
心理「そうね、参考になりそうだから教えて」
垣根「・・・姫神かな」
心理「あら、吹寄さんじゃないの?」
垣根「えー・・・あれはちょっと大変そうだろ?」
垣根が青汁を飲む
いまさらだが、コーヒーにすればよかったなと後悔する
垣根「姫神って普段はそこまで干渉してこなさそうだろ?心理定規もそうじゃねぇか」
心理「束縛はしたくないもの」
垣根「そういう、なんていうかあんまり縛り付けすぎない人がいいな」
絹旗「・・・男ってそんなものでしょうか」
垣根「人にもよるだろうけどな」
麦野「・・・浜面、お前は?」
浜面「理想か・・・」
浜面が少し静かになる
浜面「大人っぽい人だな・・・落ち着いてたら最高」
垣根「落ち着いてたら・・・か」
麦野「・・・私とかか」
浜面「え?麦野はまだガキっぽい・・・」
麦野「あぁ!?」
浜面「そ、そういうとこが!!」
心理「はいはい、麦野さんも大人気ないわよ」
浜面「これだよ!!こういうのが好みなんだ・・・」
滝壺「はまづら、とりあえず表に出よう」
浜面「ひぃっ!?」
垣根(ダメだなこいつ)
心理「・・・私がいいのかしら」
クスクス、と心理定規が笑う
その仕草はどこぞの貴婦人のようだった
浜面「これだろ!?なぁ垣根、これがいいよな!?」
垣根「お前には滝壺がいるだろ」
浜面「滝壺は一番だよ!?ただ理想は・・・」
滝壺「//」
麦野「・・・心理定規はまた例外だろ」
絹旗「・・・なんか、魔性過ぎます」
心理「そうかしらね・・・」
絹旗「・・・そうだ、ちょっといいですか?」
絹旗が何かを心理定規に耳打ちする
心理「・・・いいけど・・・」
絹旗「よし!!じゃあそろそろお開きにしましょうか!」
垣根「?そうだな・・・まぁいっぱい食えたけど」
浜面「どうかしたのか?」
絹旗「なんでもないです!!」
垣根「支払っとくから・・・」
絹旗「あ、心理定規さん借りますね!」
垣根「あぁ?」
心理「ごめんなさいね、あとで構ってあげるから」
垣根「いやいいけど・・・なんだよ?」
絹旗「内緒です!」
浜面「・・・なんか、すばやく立ち去っていったな」
麦野「・・・なんとなくは分かるけどね」ハァ
滝壺「きぬはたもがんばるんだね、応援しよう」
垣根(・・・ムダなのになぁ)
絹旗「よし!!着きました!」
心理「・・・ねぇ、別にいいんだけど、どうしてビジネスホテルなの?」
絹旗「か、勘違いされるようなこと言わないでください!!」
心理「はぁ・・・大人っぽくなるレクチャーをしてほしいのよね?」
絹旗「はい!」
心理「・・・そうね、まずは・・・」
心理定規が絹旗の服装を見る
ニットのワンピース
そう、あまり大人っぽいという感じはしない
彼女の年相応ではあるだろうが
心理「・・・まず、その危険地帯が見えそうなのはやめなさい」
絹旗「パンチラは正義ですよ!?・・・っていうかあなたも結構な露出度ですよ?」
心理「胸はどうせ目に付くものじゃない」
はぁ、と心理定規が溜め息をつく
心理「・・・それはあんまり大人っぽくないわよ?」
絹旗「い、色気を出すのが大人ではないんですか?」
心理「・・・分かってないわね、鎖骨や肩・・・そういう、一見あまり色気のなさそうなところで色気を出すのが大人よ?」
心理定規が、ドレスの肩紐をずらす
その瞬間、なぜか絹旗はドキリとしてしまう
心理「どう?」
絹旗「こ、これは・・・」
心理「いいものでしょ?」
心理定規が絹旗のアゴに手を当てる
絹旗「あ、あの!?」
心理「・・・ホテルに来たってことは、そういうこと?」
絹旗「違いますから!からかわないでください!!」
心理「あら、そんなので慌ててもダメよ?」
絹旗「ぬぅっ!!これも・・・上手くかわすのが大人ですね・・・」
心理「そうそう、分かってきたわね」
絹旗「・・・あとは、なんですか?」
心理「そうね・・・性格かしら」
心理定規が少し間をおいてから答える
心理「あなたはもう少し、怒鳴らないようにしたらいいわよ」
絹旗「だ、だって!」
心理「ほらそれよ」
絹旗「う・・・」
心理「大人ってのは、少しだけ感情を抑えるものよ」
絹旗「・・・そ、そうですね・・・」
心理「いい、もう少し抑えてみればわりと大人っぽくなるわよ?」
絹旗「・・・わ、分かりました・・・」
心理「あと、やっぱり恋をすると大人になれるんじゃないかしら」
絹旗「・・・恋、ですか・・・」
絹旗がぽつりとつぶやく
彼女だって、恋はしたことくらいはあった
心理「・・・したことは?」
絹旗「い、一度・・・ですね」
心理「・・・そう、叶わなかった恋ね」
絹旗「な、なんで分かるんですか!?」
慌てながら絹旗が訊ねる
心理「・・・浜面君でしょ?」
絹旗「・・・はい」
心理「まぁ、新しい恋もすればいいんじゃないかしら」
絹旗「そ、それで大人になれますかね!?」
心理「えぇ、なれるわよ」
クスクス、とまた心理定規が笑う
絹旗「・・・そ、それで・・・大人になれるんですか」
絹旗が顔を真っ赤にする
絹旗「・・・こ、恋って・・・どういう相手にしたらいいですかね?」
心理「そう・・・ね、独り身の人のほうがいいかも」
絹旗「でも、あんまりいないですよ?」
心理「・・・土御門君は?」
絹旗「うわ・・・あのグループだったにゃーにゃー野郎ですよね?」
絹旗が顔をしかめる
別に間違ってはいないのだが
心理「・・・ああいう子は好みじゃないかしら」
絹旗「・・・噂では妹に手を出してるみたいですよ?」
心理「あら、そうなの」
絹旗「はい・・・」
心理「その友達に青髪君っていう子がいるけど?」
絹旗「どんな人ですか?」
心理「そうね、変態」
絹旗「もうイヤです、超お断りです」
心理「じゃあ・・・そうね」
心理定規が考える
彼女には他に知り合いがいただろうか
砂皿はステファニーなんちゃらといい感じになっているのでなし
元暗部には他にめぼしいのがいない
かといって、それ以外にめぼしいのがいるわけでもない
心理「そうね・・・なかなかいないかも」
絹旗「・・・そうですよねぇ・・・」
絹旗が大きく溜め息をつく
心理「あ、そろそろ帰りましょうよ」
絹旗「はい・・・」
心理「そのうち見つかるわよ、あなたは素敵じゃない」
絹旗「が、がんばります!!!」
絹旗「はぁ・・・超悩みます」
心理定規と別れたあと、絹旗は一人で街を歩いていた
絹旗(・・・素敵な人というのは、超いないものですね)
浜面ももちろん、素敵ではあった
しかし滝壺にベタベタだし、なんだか好きだと言うのもはばかれた
こう、もっと素直に甘えたくなるような人がいたら
そう考えていたとき
誰かと肩がぶつかった
偶然、直前に気づいて能力を解放していたため相手も大怪我にはならなかった
絹旗「あいた・・・」
「あぁ、これはすみません!」
絹旗「あ、いえ・・・」
絹旗が相手の顔を見る
イケメンだ
かなりのイケメンだ
なんかさわやかだ
めちゃくちゃなさわやかだ、擬人化されたキシリトールみたいなさわやかさだ
絹旗「あなたこそ超大丈夫ですか?」
「?はい、なんともありませんが・・・」
絹旗「そうですか・・・それはよかったです」
「・・・それより、こんな夜中にあなたみたいな女性が一人で歩いていては危険ですよ?」
絹旗「あ、でも私は・・・」
「よかったらお送りしますよ?」
絹旗「で、でも・・・」
絹旗が少し慌てる
絡まれても困りはしないだろう
しかし、こういう風に優しくされるのはあまり慣れていなかった
絹旗「・・・じゃ、じゃあ・・・お願いします」
海原「えぇ・・・あ、自分は海原光貴といいます」
絹旗「・・・絹旗最愛です」
海原「では行きましょうか、絹旗さん・・・どちらへ?」
絹旗「家へ帰ろうかと」
海原「おや、そうでしたか」
絹旗「・・・あの、時間はいいんですか?」
海原「自分は時間がありますので」
絹旗「・・・ありがとうございます」
海原「絹旗さんは・・・おいくつですか?」
絹旗「あ、14歳です」
海原「なるほど・・・どちらの学校に?」
絹旗「え、あ!!柵川に通ってます!」
適当にうそをつく
まさか、暗部にいたからまともに学校とか行ってません、とは言えない
海原「そうでしたか・・・やはりお一人で暮らしていられるんですか?」
絹旗「いえ・・・と、友達と」
海原「それはうらやましい」
海原が微笑む
絹旗「・・・でも、みんな超わがままなんですよ!?」
海原「おや、そうなんですか?」
絹旗「浜面と滝壺さんは超イチャイチャしてますし、麦野はいっつも私のこと怒ってくるし!」
海原「あはは、そうですか」
絹旗「・・・みんな、とってもわがままです」
はぁ、と絹旗が溜め息をつく
海原「・・・でも、絹旗さんはそのお友達さんが大好きなんですね」
絹旗「・・・なんでですか?」
絹旗が首を捻る
どうして、彼にそんなことがわかるのか
海原「そうやって、愚痴をこぼして・・・それでも一緒にいられるのは、好きだからですよ」
絹旗「・・・そ、そうですかね?」
海原「えぇ、きっと大好きなんではないですか?」
ニコリ、と海原が笑う
なぜか、胸がドキリと跳ねる
絹旗「そ、そうですね・・・大好きです」
海原「悪いところと同じくらい、いいところも言えるのではないですか?」
絹旗「いいところのほうが結構・・・いえ、超多いですよ!」
海原「ははは、そうですか・・・絹旗さんはお優しいんですね」
絹旗「そ、そうですかね!?」
海原「えぇ・・・優しいと思いますよ」
絹旗「え、あ!!つ、着きました!!」
アイテムのメンバーで住んでいるマンションの前に着いた
海原「おや、ではこれで・・・」
絹旗「あ、あの!!海原さん!」
海原「はい、なんでしょうか?」
絹旗「こ、今度お礼を・・・その、したいんですけど・・・」
海原「あぁ、ではこれが自分の電話番号ですので」
サラサラ、と海原が携帯番号をメモする
海原「では、また」
絹旗「は、はい!!」
ペコリ、とお辞儀をして、絹旗はマンションの部屋へと帰る
絹旗「超ただい・・・」
麦野「絹旗ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
絹旗「は、はい!?」
麦野「てめぇ、彼氏か!?あれは彼氏か!?」
絹旗「な、なにがですか!?」
麦野「あ!れ!!だ!!!よ!!!!」
麦野が窓の外を指差す
海原が来た道を引き返しているところだった
絹旗「あ、あれはさっき出会ったばかり・・・」
麦野「うるせぇ!!言い訳するな!!」
絹旗「超ホントです!!」
麦野「だとしても初日から家教えるとかビッチかよ!!!!!!!!!」
絹旗「違いますからぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
滝壺「よかったね、きぬはた」
浜面「あぁ・・・でも」
麦野「裏切り者ぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」
絹旗「か、勘弁してくださいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!」
浜面(幸せは、まだまだ遠いぜ、絹旗)
ていとくんたちの焼肉編終了
絹旗は可愛いよ
次は・・・番外通行+打ち止めかな
一方「・・・冬か」
番外「冬だね」
少し寒い部屋の中
二人は、ソファーに寝転がっていた
キッチンからは不穏な音がしている
一方「・・・今からでも逃げていいと思うか?」
番外「間違いなく泣くね、上位個体」
一方「・・・はァ」
そう、キッチンには打ち止めが立っている
打ち止め「あー!!ちょっと焦げた!ってミサカはミサカは苦戦してみたり!」
いきなり、一人で料理がしたいと言い出したのだ
別に危険なことではない、この家には炊飯器しか調理器具がないからだ
黄泉川はいつもそれで調理している
使い方を覚えれば怪我なんて心配ない
一方通行は、そう思って許可してしまった
しかし、どうやって炊飯器でお米を焦がすのだろうか
おこげを作るためではなく、ただのミスで
一方「おい・・・大丈夫なのか?」
打ち止め「だ、大丈夫だよ!ってミサカはミサカは・・・あー!!!」
番外「・・・ねぇ、大丈夫?」
打ち止め「だ、大丈夫・・・てミサカはミサカは苦笑してみたり・・・」
一方「・・・食えるもン作れよ・・・」
一方通行が溜め息をつく
番外「ねぇ、ミサカも手伝うよ?」
打ち止め「ふ、二人に食べてほしいの!ってミサカ・・・わーっ!!」
一方「・・・おい、どうした?」
打ち止め「ハンバーグがなぜか真っ二つにぃぃぃ!?ってミサカはミサカは混乱してみたり!!」
一方「はぁ・・・ダメだなこりゃ」
番外「うん」
二人が呆れたように頷く
打ち止め「うー!!!」
一方「貸せ、俺もやる」
番外「ミサカも」
結局、キッチンには三人が立つ羽目になった
打ち止め「ねぇ、ってミサカはミサカは呼びかけてみる」
一方「・・・なンだよ」
打ち止め「あんなこと言うのって、普通料理が上手い人なんだよね?ってミサカはミサカは確認してみたり」
番外「・・・うん」
打ち止め「・・・」
三人は、炊飯器を見つめていた
その中は、阿鼻叫喚の地獄絵図
もしもどっかのシスターが見ていたら「私でもさすがにこれは食べられないんだよ」と白旗を上げるほどの大惨事だった
まずそう、とか美味そう、とかの問題ではない
なぜかハンバーグが液体になっていた
なぜかお米が黒になっていた
どうしてだろうか
一方「・・・なァ、第一炊飯器だけってのが間違いじゃねェか?」
番外「そ、それは同感」
打ち止め「ミ、ミサカたちのミスじゃないもんね!ってミサカはミサカは開き直ってみたり!」
一方「・・・これは食えたもンじゃねェな」
番外「捨てようか」
一方「あァ」
生ゴミとして廃棄してしまう
もったいない、とは思わない
食べられるものではないからだ
一方「・・・出前でもとるか」
番外「うん」
打ち止め「そうだね・・・ってミサカはミサカは頷いてみたり」
番外個体が出前の電話をする
結局、打ち止めの初めての料理は失敗だった
打ち止め「・・・ごめんね、ってミサカはミサカは二人に謝ってみたり・・・」
一方「・・・気にすンな、俺達だって下手だったンだからよ」
番外「むしろ上位個体の年齢で上手くできるほうがすごいけどね」
打ち止め「ミサカのほうがお姉さんだもん!ってミサカは」
一方「いいから食え」
テーブルの上には出前でとった寿司が置かれていた
番外「ま、ミスったおかげで寿司が食べられるなら悪くないかもね」
ケラケラ、と番外個体が笑う
打ち止め「そ、そうだよね!ってミサカはミサカは無理矢理笑顔を作ってみる!」
一方「反省しろよ・・・炊飯器洗ったの俺だぞ」
番外「偉い偉い、あとで気持ちいいことしてあげるから」
一方「はァ!?」
打ち止め「な、なんという破廉恥な会話なんだ!ってミサカはミサカは驚愕してみたり!」
番外「ん?ミサカと一方通行はいつもやってるんだよ?」
一方「てめェ!言うンじゃねェ・・・」
打ち止め「うん、知ってるよ?ってミサカはミサカは頷いてみたり」
一方「あァ!?なンでお前・・・」
打ち止め「いや、あんなに毎日声上げてたらバレるよ、ってミサカはミサカは呆れ顔!」
番外「ありゃま、マジか」
一方「忘れろ!今すぐにでも忘れろ!」
打ち止め「どうしようかな・・・ってミサカはミサカはにやけてみたり!」
一方「忘れろ!」
番外「まぁまぁ、怒らないで寿司でも食べようよ」
番外個体がマグロを食べる
打ち止め「あ!ミサカのマグロが!」
番外「マグロはミサカのもんなんだし!」
打ち止め「年下に譲るのが普通だよ!ってミサカは」
番外「ミサカのほうが年下だもんね!」
打ち止め「あ、あぁ!待って、マグロは・・・」
一方「おい番外個体・・・」
番外「なに?ミサカよりも上位個体のほうが大切なわけ?」
一方「うるせェな、家族を大切にできないようなヤツなンざこっちからお断りだ」
番外「え、あ!ウソウソ!上位個体食べていいから!だからミサカのこと嫌いにならないで!」
一方「あァ、お前は優しいヤツだ」
一方通行が番外個体の頭を撫でる
少しぎこちない笑顔を浮かべる番外個体は幸せそうだ
打ち止め「・・・なんだかどっちにしろ損だったかも、ってミサカはミサカはため息をついてみたり」
一方「はァ?マグロは食えたじゃねェか」
打ち止め「・・・鈍感バカ、ってミサカはミサカは吐き捨ててみたり」
一方「なァ、ロリにバカって言われたもォ生きていけない」
番外「とりあえず目を覚ましてよ」
一方「あのなァ・・・何がバカなンだよ」
打ち止め「わからないのがバカなんだよ、ってミサカはミサカは答えてみたり」
一方「・・・わかンねぇ」
番外「さすがだね」
ニヤニヤ、と番外個体が笑う
一体何がおかしいのだろうか
打ち止め「・・・ミサカに玉子ちょうだいね」
番外「いいよ、なんかかわいそうだし」
一方「なァ、なンなンだよ?」
番外「分からなくていいんだよ、アナタは」
打ち止め「ねぇ、食べ終わったらどうするの?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」
一方「食い終わったら・・・そォだな」
一方通行が顔をしかめる
この家には一応ゲームはある
しかし、一方通行はあまりゲームは好きではない
そんなことをしたって時間の無駄だと思っている
一方「どっか出掛けるか?」
打ち止め「え、ホント!?ってミサカはミサカは尋ねてみたり!」
一方「あァ、ヒマなンだから問題ねェだろ」
打ち止め「ありがと!ってミサカはミサカは抱き着いてみたり!」
ぎゅっ、と打ち止めが一方通行に抱き着く
胸の感触なんてない
普通ならそれはマイナスになることだろう
だが一方通行の業界ではそんなことはない
むしろご褒美に近い
一方「・・・抱き着くな、興奮する」
打ち止め「うわ、素直な意見だね、ってミサカはミサカは距離を置いてみたり」
番外「ほらほら、早く食べて出かけよう!」
一方「そォだな」
一方通行が寿司を食べる
ワサビが少し効いていて、それがおいしかった
一方「で、どこに行くンだよ」
番外「うーん・・・ミサカはデパートに行きたいかな」
打ち止め「ミサカも服が買いたい!ってミサカはミサカはお願いしてみる!」
一方「分かった分かった・・・はしゃぐンじゃねェよ」
一方通行がため息をつく
マンションから出てすぐ、二人にはしゃがれてしまっている
これではデパートに着く前に気力が失せてしまいそうだ
番外「へっへーん!ミサカは今日買ってほしいの決まってるからね!」
一方「あァ、ワンピースだろ」
番外「な、なんで知ってるの!?」
一方「お前いつも見てただろ、雑誌とかで」
打ち止め「・・・ミサカがほしいものはなーんだ!?ってミサカはミサカは尋ねてみたり!」
一方「あァ?お前はあのカエルのキャラ物かなンかじゃねェのか?」
打ち止め「・・・違う、ってミサカはミサカはため息をついてみたり」
一方「なンだよ、なンでため息ついてンだよ」
打ち止め「はぁ・・・いいよ、行こう」
大きくため息をついてから打ち止めが先に行く
番外「・・・複雑なお年頃だね、上位個体も」
一方「・・・はァ?」
番外「いいからいいから」
番外個体もその後を歩いていく
ただ、一方通行だけは事情が分からなかった
打ち止め「えっと・・・洋服は2階だね、ってミサカはミサカは確認してみたり!」
番外「早く早く!」
一方「・・・こっちは杖ついてるンだよ・・・」
二人のペースに合わせた一方通行はかなり疲れていた
ただでさえ大変な杖をつきながらの歩行なのに、二人はまったくそれを考慮してくれていない
番外「あぁもう!遅い!」
一方「・・・だったらお前らだけで行けよ・・・」
そう言いながらもお互いが一緒に行こうとするあたり、仲のいいカップルだ
打ち止め「じゃあまずは番外個体のからでいいよね、ってミサカはミサカは仕切ってみたり!」
一方「勝手に仕切るンじゃねェ・・・まァそれでいいけどな」
番外「ミサカも異論なし、行こう!」
三人がエスカレーターに乗る
こんなにも普通の日常、一方通行には少し退屈だった
昔の生活があまりにも色々な悪い刺激に溢れていたため、腑抜けてしまう
一方(・・・悪くはねェけどな)
小さくつぶやいてから、一方通行は前を行く二人の背中を見つめる
本当に退屈な、普通の日常だった
一方「・・・なァ、なンでワンピースだけ何個も買うンだよ」
一方通行は番外個体に尋ねていた
色違いを5つ
2つくらいなら百歩譲って許すとしよう
しかし5つも買うのはおかしい
こう見えて、一方通行はかなりオシャレには詳しい
ブランドはよく知っているし、自分自身も服のセンスはさほど悪くはない
昔はオシャレなんてしなかったが、最近はその知識を活かしてなかなかのイケメンっぽくなっている
だからこそ、オシャレに疎い番外個体には苛立ちにも近い違和感を覚えていた
番外「いいじゃん、気に入ったんだから」
一方「・・・飽きたらどォすンだよ」
番外「飽きないよ、ミサカは長続きするタイプだから」
ケラケラ、と番外個体が笑う
打ち止め「じゃーん!ミサカも番外個体とおそろい!」
一方「・・・お前は一着だけだな」
打ち止め「ううん、5着!」
一方「なンでだよ!」
一方通行が頭を抱える
おかしい、この二人にはオシャレのオの字もないのだろうか
番外「まぁいいじゃん、あんまりカリカリしてないでレジ行こう」
一方通行を無視して、二人はレジに並ぶ
一方「・・・俺が間違ってるのか?」
一方通行はつぶやいていた
もちろん、これに関しては彼が正しいだろう
番外「もう!早く!」
一方「あァ・・・」
ため息をつきながらも、一方通行はレジへ向かう
「以上、11点で38460円になります」
一方「・・・」
無言のまま、一方通行が現金で支払う
何か引っ掛かる点があるのだが
番外「はいはい、帰ろう帰ろう」
それに気づかれないようにするためか、番外個体が彼を急かす
打ち止め「ほら早く!ってミサカもミサカも急かしてみたり!」
一方「あァ・・・」
一方通行がもう一度レシートを見つめる
ワンピースが計10着
そして、Tシャツが1着
一方(・・・Tシャツ?)
彼女達はそんなもの、買っていただろうか
一方「おい」
番外「さぁ早く帰るよ!」
打ち止め「おう!ってミサカはミサカははしゃいでみたり!」
一方「・・・」
今は聞いてくれなさそうだと判断し、二人の後を歩く
20分ほどでまたマンションに帰ってきた
番外「ただいま!」
打ち止め「ただいまー!」
一方「・・・ただいま」
番外「さて、一回洗濯・・・」
一方「待てよ」
一方通行が袋から購入した商品を取り出す
彼女達のワンピース、そして
一方「このTシャツ・・・なンだよ?」
男物のTシャツ
ドクロがデザインされている、若者が好みそうなTシャツだ
番外「・・・アナタってさ、そういうの嫌いだっけ?」
一方「・・・わざわざこンなもン選ンだのかよ」
打ち止め「うん・・・あ、でも二人で必死に・・・」
一方「・・・なンだよこのガキっぽいデザイン」
一方通行が呆れたようにTシャツを見る
たしかに、大学生くらいになったら恥ずかしくて着れないようなデザインだ
番外「あ・・・ゴメン、余計なお世話だったよね」
打ち止め「・・・その、ミサカたちも・・・」
一方「・・・でも買ったならしょうがねェな」
番外「!着てくれる!?」
一方「・・・もったいないからだからな」
打ち止め「ありがと!ってミサカはミサカは喜んでみたり!」
一方「・・・うるせェ、俺は風呂入るからな」
一方通行が風呂場へ向かう
一方「・・・なァ」
番外「ん、なに?」
打ち止め「どうかしたの?ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」
一方「・・・」
一方「ありがとよ」
そう言ってから、一方通行は脱衣所の中へ入っていった
番外「・・・なんだ、素直じゃないね」
打ち止め「あの人はそういう性格だもん、ってミサカはミサカは苦笑してみたり」
番外「・・・でもよかった・・・あ、そうだ!」
番外個体が立ち上がる
打ち止め「?どうしたの?」
番外「ついでにもう一つサプライズ!」
番外「手料理、もう一回挑戦してみようよ!」
幸せな日常
幸せな家族
そういうのも悪くはない、とシャワーを浴びながら、一方通行は考えていた
ていとくん風邪編
垣根「・・・悪い」
心理「・・・いいわよ、無理しないで寝てなさい」
垣根はベッドの上にいた
顔が不自然なほど赤くなっている
いつもの彼の気丈さも、今はほとんど見られなかった
残っている気丈さも、心理定規に微笑みかけることで使い果たしてしまう
心理「・・・38度・・・結構あるわね」
垣根「・・・旅行と重ならなかったのは不幸中の幸いだな」
垣根は風邪をひいていた
今朝、体がだるいと言ってベッドから起きなかった
不審に思った心理定規が体温を計ったら案の定、というわけだ
心理「・・・寒くなってきたからかしらね・・・何か飲みたいものとかある?」
垣根「いい・・・水置いといてくれ、寝とくから」
心理「・・・寝とくってあなたね・・・」
垣根「お前にうつしたくねぇんだよ・・・」
頭痛がするのだろうか、時々顔をしかめながら垣根がつぶやく
心理「・・・分かったわ、何かあったら呼んでちょうだい」
心理定規が垣根の部屋から出ていく
思えば、昨日の夜から少し調子がおかしかった
いつもは飲んでいるワインを飲まず、心理定規が話し掛けてもどこか上の空だった
心理(でも風邪だったとはね・・・)
心理定規が知る限り、彼は風邪をひいたことはなかった
体が丈夫なのか、何かしら能力でも応用しているのか
とにかく理屈は分からないが、今までは健康そのものだった
心理「・・・大丈夫かしら」
前に、心理定規が風邪をひいたとき、垣根はつきっきりで看病してくれた
だが本人が一人がいい、と言っているからには無理にそばにいるのも悪い気がする
心理「・・・早く良くなりなさいよ」
ぽつり、と心理定規がつぶやく
その横顔は悲しそうだった
垣根(・・・眠い)
垣根は目を閉じていた
眠気が彼を襲う
しかし、彼は寝たくはなかった
風邪のとき、イヤな夢を見てしまうのはよくあることだ
彼だって例外ではない
昔から、風邪をひくと決まってイヤな夢を見てしまう
垣根(・・・眠い)
それでも、眠気は容赦なく襲ってくる
体がだるい
頭がぼーっとする
気がついたら、彼は眠りに堕ちていた
垣根(あーあ、またイヤな夢かよ)
垣根は心の中で悪態をついていた
彼が今いるのは、スクール時代の隠れ家
もちろん夢の中だ
そして目の前には心理定規がいる
こんな夢は、よく見ることがあった
風邪ではなくても、よく見る夢だ
なのに決して慣れることはない
心理「・・・仕事ね」
垣根「あぁ、行くぞ」
行きたくはないのに
口が勝手に動く
心理「・・・ねぇ垣根」
垣根「なんだよ」
心理「・・・帰ってきたらワイン・・・飲まない?」
垣根「あぁ・・・今日は付き合ってやるよ」
素っ気なく垣根が答える
それなのに、なぜか心理定規は嬉しそうに笑っている
垣根(・・・ホント、この頃から俺が好きだったんだな)
呆れてしまうと同時に、うらやましくもあった
こんな昔から、明確に自分の気持ちを把握していた彼女が
垣根「・・・こっから二手に別れるか、お前はゴーグル馬鹿と合流しとけ」
心理「あら残念」
垣根「冗談ぬかしてんじゃねぇよ」
そう冷たく言い放ってから、垣根は翼を広げる
今は綺麗だ、と思える自分自身の能力
しかし、この時のそれは醜い殺戮兵器に過ぎなかった
垣根(・・・待て、たしかこのやり取りをした仕事って・・・)
覚えている
この前、心理定規も夢に見たと言っていた
彼女がスキルアウトに一矢を報われた仕事だ
戻れ
そう体に命じても、彼にはどうすることも出来なかった
気がつけば、目の前にはスキルアウトの死体があった
今でもそんな光景に抵抗はない
作り出そう、とは思わないがこんな光景は今もどこかで作り出されているのだから
それに、そんなことは気にしていられなかった
急いで隠れ家に戻る
心理「あら、遅かったわね」
垣根「うるせぇな・・・ワインは?」
心理「あるわよ」
心理定規がテーブルを指差す
赤ワインだろう、なかなか高そうなものだ
心理「・・・ねぇ、背中・・・見てもらえないかしら」
やはり
やはり、その質問が来た
垣根「あぁ?なんでだよ」
心理「スキルアウトにやられたのよ・・・狂ったヤツでね、能力使っても止められなかったわ」
垣根「やられたって?」
心理「鉄パイプで背中をね・・・ゴーグルのあいつと別行動してたのが間違いだったわ」
心理定規が苦笑する
垣根「そんなもん誰かに見てもらえよ」
心理「なんで男に見せなきゃならないのよ」
垣根「・・・俺も男なんだけど」
心理「あなたにならいいのよ」
今思えば、この言葉もそういう意味だったのだろう
当時の彼は耳も貸さなかったが
心理「ねぇ、見てくれないかしら」
垣根「しゃあねぇな」
垣根が心理定規の背中に回る
垣根「脱がすぞ」
心理「えぇ」
ドレスをめくり、脱がせてしまう
上は下着をつけていなかった
当時の自分はよくもまぁ堪えたものだな、と感心する
だが堪えた、というより堪えるしかなかったのだろう
彼女の背中には紫色の痣があった
しかも一週間くらいすれば治るかな、なんて思える痣ではない
ヘタをしたら一生傷痕が残るのではないか、と思うくらいのものだ
垣根「・・・痛そうだな」
心理「・・・残るかしら」
垣根「・・・」
素直に答えてしまえば、彼女は傷つくだろう
人一倍、美しさに気を使う彼女は
当時の垣根も、優しさというか情けは持っていた
垣根「・・・いや、多分治ると思うぜ・・・時間はちょっとかかるだろうけどな」
心理「そう・・・よかった」
垣根「・・・なんか塗るか?」
心理「遠慮しとくわ、皮膚の表面にも傷がついてるから」
たしかに、痣の上には鋭い切り傷があった
鉄パイプで殴られたなら痣だけだろ、と思うかもしれない
しかし、あまりに強い力で殴られた場合は切り傷さえも出来てしまうのだ
つまり、彼女はそれほど強い力で殴られたわけだ
垣根「・・・悪いな」
心理「あら、何が?」
垣根「俺のミスだ」
心理「・・・そんな顔しないで、私のミスなんだから」
垣根「・・・今日は寝とけ、睡眠が一番大事なんだよ」
心理「えぇ、そうするわ」
心理定規がベッドへ向かう
ドレスを脱いだまま
垣根「・・・いや、着ろよ」
心理「ヒリヒリするのよ、着てると」
垣根「言っとくけど、俺はまだしばらくこの部屋にいるんだよ」
心理「あら、襲いたいなら襲ってもいいわよ?こう見えても私処女だし」
垣根「・・・興味ねぇよ、さっさと寝ろ」
ため息をついてから、垣根が本棚に並べられている資料を漁る
普段なら次の仕事に備えて簡単に土地の造りを頭に叩き込むものだ
だが今は違う
噂で聞いたことのある、「負の遺産」というものを調べているところだ
垣根(そうだ・・・たしかこの時俺はかなり責任を感じていた)
垣根「あったあった・・・なんだよ、割と近いんだな」
裏の情報によると、一部のスキルアウトがその負の遺産なるものを所有しているらしい
所有、というよりもそれを応用した薬品を作っていると言ったほうがいいだろうか
そのシステムを応用すれば大抵の傷は簡単に治せるらしい
垣根「・・・ちっ、めんどくせぇが・・・」
垣根が本棚に資料を戻す
ベッドでは、心理定規が小さな寝息を立てている
垣根「・・・明日の仕事帰りにでも行ってくるか」
垣根「今日の仕事は・・・あ?なんだよ、ただのゴミ処理か」
翌日、垣根は仕事の依頼を確認していた
もちろん、ゴミ処理というのも文字通りの意味ではない
心理「・・・どうする?数だけは結構多いみたい・・・」
垣根「俺だけで十分だ」
垣根がソファーから立ち上がる
ふかふかとしていたソファーが少し恋しいが、そんなことで駄々をこねるような人間ではない
心理「ちょっと待ちなさいよ・・・効率が落ちるんじゃないかしら?」
垣根「うるせぇな・・・お前は背中の傷が泣くほど痛むんじゃないか?」
心理「・・・足手まといってこと?」
垣根「そうだ・・・俺が出払ってる間に依頼が来たらゴーグル馬鹿に頼んどけ」
つまらなそうに言ってから、垣根がドアへと向かう
心理「待って垣根」
垣根「待てるわけねぇだろ、仕事だ」
心理「・・・ワイン、用意しとくから・・・早く帰ってこないと先に飲むわよ」
垣根「・・・分かったよ」
バタン、とドアを閉める
外の眩しい日差しが垣根を照らす
垣根(この頃は・・・日差しが鬱陶しかったな)
垣根「さて・・・行くか」
地面に唾を吐いてから、垣根が作業へ向かう
垣根「呆気ねぇな、ホント」
暗部に関わりすぎたスキルアウトの処理
それがこの日の仕事だった
スキルアウト自体も少しは闇に染まっているのだが、垣根達に比べたらかわいいものだ
垣根「・・・さて、じゃあ」
ポケットの中から地図を取り出す
赤い丸が付けられている場所
そこに、負の遺産と呼ばれる代物がある
垣根「・・・何やってんだろうな、俺」
垣根(あいつを助けたいんだよ)
垣根「んなことしたってなんも変わらないじゃねぇか」
垣根(変わるんだよ、変えられるんだ)
垣根「・・・ちっ」
もう一度唾を吐いてから、垣根は歩き出す
わざわざ翼を広げる気はしなかった
垣根「めんどくせぇが・・・それ以上に」
垣根「俺のミスであいつが傷ついたのがムカつく」
目を細めながら、化け物が狩りを始める
「た、助けてくれ!」
垣根「おいコラ、負の遺産とかいうヤツはどこにあるんだよ」
「う、うるせぇ!あれは高く売れるんだよ!」
「てめぇなんかに横から取られてたまるか!」
垣根「よこせって言ってんだよ、喚くな」
「くそ!」
スキルアウトの一人が垣根に銃を向ける
だが、その前にその男の肩から下が吹き飛んだ
「・・・は?」
垣根「俺は言ってんだよ、よこせ」
「うわぁぁぁ!」
「な、なんだよあの翼!?」
「知るかよ・・・おい、応援呼べ!駒場さんのとこなら・・・」
垣根「今さら小便チビってんじゃねぇ」
翼で、二人のスキルアウトを押し潰す
生死を確認する必要なんてない
生きていようが死んでいようが、当時の彼には関係なかった
垣根「教えろ、そしたら見過ごしてやる」
「こ、この先の部屋・・・そこの机の上から二段目に一つある!」
一人が震えながら答える
垣根「最初から言えばいいのによ」
そのスキルアウトの横を通り過ぎ、垣根が歩く
「・・・させるかよ!」
だが、すれ違ってすぐに、相手は銃を垣根に向かって撃った
翼で体を覆うだけ
それだけの動作で、垣根の体は守られる
「あ・・・あ・・・」
垣根「残念、ゲームオーバーだなお前」
翼を振り下ろす
ゴシャリという鈍い音がしたが一瞥もくれない
白かった翼の先が少し赤く染まっている
だが、一旦分解してからもう一度構築するだけでそんな些細な問題は解決する
垣根「・・・ムカつくな」
周りのスキルアウトはもはや戦意を失っていた
垣根「おー、これかこれか」
机の中にはたしかに小さなビンが入っていた
今時塗り薬をビンに入れるのはどうなんだろうな、と考えながらも垣根は引き返す
垣根「・・・いや待てよ、でもこれがホントにそれかは分からないわけだよな」
手の中にあるビンを見つめる
先程潰したあの男が嘘を言っていた可能性もある
垣根「・・・試してみるか」
最初に翼で潰した二人の男の元に行く
運がいいのか、二人とも生きているようだった
垣根「さーて・・・どっちがいいかな」
垣根が二人の男を見比べる
そのうち一人は首から十字架のネックレスを下げているのが特徴的な男だった
垣根「十字架ねぇ・・・たしか十字教じゃ右が聖なる方角だったっけか」
何かの本で読んだような知識だった
垣根「オッケー、右な」
右の男の腕に少しだけ薬を塗る
すると、しばらくしてからブクブクとその場所が泡立った
垣根「無理矢理細胞を溶かし、再構築させる・・・か」
「あぁぁぁぁぁぁ!」
垣根「おーおー、痛そうだなおい」
火傷にも似た痛みなのだろうか
皮膚が溶けたことのない彼には分からないが、腕だけでこんな喚き方だ
垣根「ちっ、あいつの傷はもっとでかいのによ」
そう吐き捨ててから垣根が建物を出る
「てめぇ・・・あとで覚えとけよな!」
後ろから誰かが言っているが気にはしない
帰ろう、と前を見つめたその時
ポケットの中の携帯が鳴った
相手はゴーグルの少年らしい
垣根「なんだよ、心理定規がどうかしたか?」
『違うよ、依頼が入った』
垣根「あぁ?それはそっちでなんとかしろよ」
『分かってる、一応確認を入れたかっただけだから』
垣根「どんな依頼だ?」
『18学区にあるスキルアウト本部の処理』
垣根「・・・18?」
垣根が後ろの建物を見つめる
ここも18学区、そしてスキルアウトのたまり場
垣根「もしかして、五階立ての黒塗りのマンションか?」
『よく分かったね』
垣根「マジかよ、お前ついてるな」
左手で薬のビンを回しながら垣根が笑う
垣根「俺よ、ちょうどその建物の真ん前にいるんだよ」
『・・・君が受け持ってる依頼は18学区じゃなかったはずだけど』
垣根「野暮用で寄ってたんだよ、で?処理しちまえばいいんだな?」
『やってくれるの?』
垣根「あぁ、普段ならめんどくせぇからやらないところだが・・・」
左手を握り締める
心理定規を救うことの出来る、負の遺産がそこにはある
垣根「今の俺は機嫌がいいんでな、やっといてやるよ」
『頼んだよ』
プツリ、と会話が切れる
垣根「・・・悪いな、気が変わった」
後ろを振り向き、垣根が笑う
建物の中からは、怯えるような声が聞こえる
またあの化け物が暴れるのか、と
垣根「感謝しろよ、今の俺は機嫌がいいからな」
翼を広げる
先程とは比べものにならないほど、大きな翼だ
垣根「特別に、第二位の本気ってヤツを見せてやるよ」
垣根「・・・ホント、呆気ないな」
目の前ではマンションが燃えていた
直に警備員が来ることだろう
そうなると面倒なことになるため、早めに垣根が立ち去る
垣根(・・・そうだな、この頃は殺しもただの仕事だったんだ)
垣根「・・・いいね、今日はわりと楽しい日だった」
垣根「・・・待ってろよ、心理定規」
心理「・・・あら、おかえりなさい」
垣根「よぉ・・・ゴーグル馬鹿は?」
心理「とっくに帰ったわよ、あなたが代わりに仕事をしてくれて楽だって」
垣根「今日はな」
心理「・・・あなた、三日もどこに行ってたの?」
垣根「なんだ、そんなに経ってたか」
垣根が時計を見る
最初の仕事から、たしかに三日経っていた
垣根「いろいろ野暮用がな・・・」
心理「・・・ワイン、飲んじゃったわよ」
垣根「・・・あっそ」
あんまり期待はしていなかった、と言ってから垣根がソファーに座る
垣根「あぁそうだ、お前に土産があるぞ」
心理「あら、なに?」
垣根「いいもんだよ」
垣根がポケットからビンを取り出す
心理「・・・ビン?不老不死の薬かしら」
垣根「バーカ、ちげぇよ」
心理「じゃあなんなの?」
垣根「負の遺産とかいうヤツらしくてな、細胞の再構築を無理矢理促せるらしい」
垣根が心理定規にビンを渡す
垣根「お前の傷も治せるぜ・・・まぁ痛みはそれなりみたいだけどな」
心理「・・・もしかして、これを取りに行ったから・・・」
垣根「ちげぇよ、ついでに持ってきただけだ」
心理「・・・ありがとう」
垣根「・・・使えよ」
垣根が顎でビンを差す
心理「・・・ちょっと席・・・外してもらっていいかしら」
垣根「なんで」
心理「痛がってるとこなんて恥ずかしくて見られたくないもの」
垣根「分かったよ・・・」
垣根が別の部屋へと向かう
垣根(・・・このあとだったよな、たしか)
垣根「ちっ・・・明日は仕事が多いな」
依頼を確認しながら垣根が舌打ちをしていた
隣の部屋はまだ静かだ
垣根「・・・」
あのスキルアウトは、かなり苦しそうにしていた
だが心理定規は痛みというものに慣れている
もしかしたら普通に堪えているのかもしれない
そう思ったが
「ぐっ・・・!」
聞こえてしまった
苦しそうな心理定規の声が
何を彼は考えていたのか
彼女だって、ただの少女だ
いくら殺しに慣れていても
いくら痛みに慣れていても
それでも、たった一人の小さな少女だ
なにが
なにが彼女なら大丈夫、だろうか
垣根「・・・」
垣根「・・・行くか」
別に、彼に出来ることがあるわけではない
彼が行ったところでどうにかなるわけではない
だが、なんとなく、彼女の傍にいてやりたかった
垣根「入るぞ」
部屋に戻ると、真っ先に目に入ってきたのは、ベッドの上で苦しそうにしている心理定規の姿だった
額や腕に無数の汗が浮かんでいる
それに、何かが溶けるようなジュワリという音
あのスキルアウトは表面の切り傷だけだった
しかし彼女は違う
内出血があったということは、体の中の血管も溶けているのだろう
指先に塩酸がついた、なんて痛みではない
切り落とされた腕の断面をそのまま鉄板に押し付けられたような痛みのはずだ
それでも、出来る限り声を出さないようにしている
なぜ?
垣根(そうだ・・・こいつは俺が心配しないように・・・)
近づいても、何かが出来るわけではない
傍にいても、楽にしてやれるわけではない
だが、彼は彼女の傍に寄った
心理「あぁっ!」
唇を噛み締め、必死に痛みに耐えている
彼のミスのせいで
垣根「・・・悪い、心理定規」
そう言ってから、彼女の手を握り締める
何も出来ない
ただ、手を握ることしか出来ない
悔しかった
こんなにも彼を思っている少女一人守れないことが
垣根「心理定規・・・!」
心理「垣根、入るわよ」
心理定規が垣根の寝ている部屋に入る
お盆の上にはお粥とスポーツドリンクがあった
心理「・・・寝てるのかしら」
起こさないように、そっと枕元にお盆を置く
垣根「・・・悪い・・・心理定規・・・」
心理「何・・・って寝言かしら」
心理定規が垣根の寝顔を見る
うなされているのか、かなり汗をかいている
垣根「悪い・・・悪い・・・守ってやれなかった・・・」
心理「・・・垣根」
そうか、と心理定規は理解する
きっと彼はあの時の夢を見ているのだ
彼がずっと責任に感じていたあの時の夢
心理「大丈夫よ、垣根」
だからこそ、心理定規は垣根の手を握り締めた
彼があの時してくれたように
今度は彼女が守るために
強く、強く
ただ、彼を悲しませないために
垣根「・・・心理定規?」
心理「あ、目が覚めた?」
垣根「・・・あぁ、イヤな夢を見てた・・・」
心理「えぇ、分かってる」
垣根「・・・悪いな」
心理定規が自分の手を握っていることに気づく
垣根「・・・すまない、迷惑かけた」
心理「好きでやってるのよ、気にしないで」
垣根「・・・お前がこの前見た夢をさ、今度は俺が見たんだ」
心理「えぇ、なんとなくそんな気がしてたわ」
垣根「・・・やっぱり風邪は怖いな」
はぁ、とため息をつく
こういう夢なんか、見たくもなかった
心理「・・・あの時のあなたは・・・今と同じでとても優しかったわ」
垣根「・・・そうかな」
心理「素直じゃなかったけど」
クスクス、と心理定規が笑う
なぜ笑うのか、と垣根は不機嫌になる
心理「でもね・・・あの薬、本当に痛かったから・・・助かったわ」
垣根「・・・傍にいてやったのがか?」
心理「えぇ」
垣根「・・・ああいうことしか出来なかったんだよ」
心理「あれだけでよかったのよ」
垣根「分からねぇな、女心は」
心理「そう・・・熱計りなさい」
垣根に体温計を渡す
大人しく計りだすあたり、相当気が滅入っているのだろう
いつもならジョークの一つでも言いそうなのだが
心理「・・・垣根」
垣根「なんだよ、喉痛いんだからあんまりしゃべらせんな」
心理「・・・早くよくなってよ、旅行までには」
垣根「旅行がなけりゃ治らなくてもいいみたいな言い方だな」
心理「そんなことないわよ、旅行はただのオマケ」
優しく、心理定規が垣根の頬に触れる
変な熱さと嫌な汗を手の平が感じ取る
心理「・・・あなたが辛いと私も辛いもの」
垣根「じゃあ早くよくならないとな」
垣根が力無く笑う
ピピピ、と体温計が鳴った
垣根「あーあ、熱上がってるな」
心理「・・・薬、買ってくる?」
垣根「苦いのはイヤだね、メルヘンじゃねぇ」
小さく笑ってから垣根が目を閉じる
垣根「・・・またさ、イヤな夢・・・見ちまうのかな」
心理「・・・私が傍にいてあげるから大丈夫よ」
垣根「・・・ありがとよ」
そう言って、垣根は静かになる
すやすや、と寝息が聞こえてきた
心理(よほど疲れてたのね・・・)
彼の頭に熱冷ましを貼り、今度は部屋から出てはいかなかい
ずっと手を握っていた
心理「少しでも・・・いい夢が見られるといいわね」
垣根(・・・ちょっと待て、俺はこれまたイヤな夢を想像してたんだが)
垣根はため息をつく
ソファーに座っている
目の前には心理定規がいる
なぜか、テーブルには食事がある
この光景にも見覚えがあった
垣根が一方通行に殺害されたと思われた後、帰還した
たしかその時だ
自ら命を断とうとしていたのを心理定規に止められて
そして一緒に暮らし始めて一日目
忘れはしない
心理「・・・よかった、目が覚めてあなたがいなかったらどうしようかと思ってたわ」
垣根「・・・どっかに行きたいわけでもないよ」
心理「・・・よかった」
ニコリ、と心理定規が笑う
たしかこの前日まではかなり荒んでいたはずだ
顔には出さないものの、今すぐにでも垣根に抱き着きたかったのではないか
垣根「・・・てかさ、なんでベッドが一つしかなかったわけ?」
心理「あら、私は今まで一人暮らしだったのよ?他に一緒に寝る男もいなかったし」
垣根「それは分かってるけどよ・・・」
はぁ、と垣根がため息をつく
この日の朝は、目が覚めたら隣に可愛い心理定規の寝顔があった
寝起きというのは全く頭が働かない
一瞬受け入れそうになったあと、飛び起きて逃げ出した覚えがある
垣根だって年頃の男ではあったのだから
心理「・・・垣根、つまり私はまだ処女よ?」
垣根「耳寄りな情報だけどいらねぇよ」
心理「つまんないわね」
垣根「うっせぇな・・・昨日の今日で気分が優れないんだよ」
朝食もあまり摂る気にはならなかったはずだ
垣根(・・・この頃はまだ、自分がこいつに対して持ってた感情がなんなのかも知らなかったな)
心理「食べないと体に悪いわよ?昨日もあんまり食べてないんでしょ」
垣根「そうだけどさ」
心理「・・・ね、ねぇ」
垣根「あぁ?」
垣根が心理定規を見つめる
視線が合うと、向こうから逸らしてしまう
垣根「なんだよ、顔が赤いぞ」
心理「・・・昨日の言葉、覚えてる?」
昨日
つまり、垣根が帰還した日のことだろうか
垣根「・・・うるせぇ忘れろ・・・あの時は必死だったんだよ」
眉をひそめてから垣根がパンを一口かじる
焼いてから少し時間が経ったのか、冷えてしまっていた
垣根「・・・忘れろ」
心理「あら、人によってはあんなのプロポーズにも取られるわよ?」
垣根「お前はそういうのとは違うだろ」
心理「結構嬉しかったんだけど」
垣根「・・・知るか」
垣根(懐かしいな・・・この時はもう心理定規のことだけ守りたかったんだよな)
垣根「ったくよ、帰ってきて最初の飯がトーストと目玉焼きかよ」
心理「作ってあげただけ感謝しなさいよ、一人暮らしだったからそんなに食材もなかったんだし」
垣根「・・・一人暮らしとか不安じゃなかったのか?」
心理「暗部はもう無くなったもの、心配はないわよ」
垣根「・・・お前さ、もうちょっと警戒しろよ」
心理「それに、これからはあなたが守ってくれるんでしょ?」
垣根「・・・ちっ」
忌ま忌ましそうに振る舞うが、自然と顔が緩んでしまう
こんな日常が、当時の彼にはまだ新鮮だった
垣根(・・・いいな、こういう夢なら悪くない)
そう笑ってから、また垣根は目を覚ました
心理「あら・・・おはよう、今回は短い睡眠だったわね」
垣根「なんだ、お前ずっといたのかよ」
心理「少しでもためになったらと思ってね」
垣根「・・・おかげでいい夢が見られたよ」
心理「それはよかったわ」
垣根「・・・悪いな、キスしてやりたいんだけど風邪が移るから無理だ」
心理「どうしたのいきなり?」
垣根「いいだろ別に」
心理「・・・そうね」
心理定規が垣根の頬にキスをする
心理「これなら大丈夫でしょ」
垣根「・・・俺がしたかったんだよ」
心理「じゃあ早く体を良くしないとね」
そう言って笑ってから、心理定規が立ち上がる
心理「ご飯・・・って言ってもお粥だけど、食べる?」
垣根「あぁ、頼む」
心理「ちょっと待ってて」
部屋から出て行く彼女の背中を見つめる
なんだか、母親のようにも思えるほどの頼もしさだ
垣根「・・・ありがとよ」
そうつぶやいてから、彼女が持ってきてくれたスポーツドリンクを一口飲む
いつもより、甘いような気がした
垣根「・・・お粥ってさ、味気ないよな」
心理「仕方ないでしょ」
垣根「ここにレッドブルとか混ぜたら美味いかな?」
心理「やめてちょうだい」
垣根「・・・はぁ、ちくしょう・・・醤油うめーなぁ!」
心理「無理においしそうに食べなくてもいいわよ・・・お粥なんて美味しいものじゃないんだから」
垣根「お前が口移しで食べさせてくれたら美味しいかもしれないけどな」
心理「いやよ、風邪が移るじゃない」
垣根「・・・冗談だっての」
お粥を冷ましながら口に含む
やっぱり、味気ないのが寂しかった
垣根「はぁ・・・病気のときは栄養!とかいうけど正直炭水化物しかないよな、お粥って」
心理「ご飯食べるより楽に食べられるでしょ?結果的にはプラスじゃない」
垣根「精神的にはマイナスなんだよ」
心理「・・・一口食べるたびに私が一枚脱ぐとか言ったら?」
垣根「なんか例の麻雀ゲームみたいだな」
心理「それを言わないで・・・冗談なんだし」
垣根「やっぱな、第一今お前に脱がれたとこで相手はしてやれないからな」
心理「分かってるわよ」
心理定規がわざとらしくため息をつく
垣根「・・・お前は何食べるんだ?」
心理「お粥よ」
垣根「はぁ?無理に合わせなくていいっての」
心理「前に私が風邪ひいたとき、あなたもお粥だったじゃない」
垣根「・・・あの時はお粥が食いたかったんだよ」
垣根が目を逸らす
自分のそういう行動を思い出すのは恥ずかしいものである
心理「なら、私もお粥が食べたいのよ」
垣根「嘘つくな、いいから別のもん食えよ」
心理「あなたとお揃いのものが食べたいって言ったら?」
垣根「くだらねぇな」
垣根が呆れたように言う
心理「いいでしょ、私の勝手なんだから」
垣根「いいけどさ・・・」
垣根が顔をしかめる
彼女には無理をしてほしくたかった
垣根「食いたくないなら食わなくていいんだぜ?」
心理「もう、あなたもしつこいわね」
垣根「・・・じゃあ食え」
心理「それでいいのよ」
心理定規もお粥を食べだす
猫舌なのか、入念に冷ましてから口に含んでいる
垣根「お前って猫舌?」
心理「猫舌ってほどじゃないけど・・・熱いのが得意ってわけではないわね」
垣根「へぇ・・・知らなかったな」
心理「よかったわね、私をまた一つ知れたのよ」
垣根「・・・覚えとくよ」
垣根がつまらなそうに返事をする
心理「・・・旅行は明後日からね」
垣根「たぶんただの風邪だからな、明日にはよくなるさ」
心理「だといいんだけど・・・イヤな予感がするわ」
垣根「フラグ建てるなよな・・・」
心理「冗談・・・あつっ!」
心理定規が少し顔をしかめる
どうやら話に熱中しすぎてお粥を冷ますのを忘れていたようだ
垣根「おい、大丈夫かよ」
心理「はぁ・・・ごめんなさい、驚かせちゃったわね」
垣根「・・・猫舌なんだな」
心理「・・・かもしれないわね」
クスクス、と二人が笑う
垣根「はぁ・・・お前といるとホント楽しくていいな」
心理「・・・なんだか、ドキッてする一言ね」
垣根「あぁ?お前はこういうことなんて言われ慣れてるだろ」
心理「あら、あなたにしか言われないわよ」
垣根「・・・そうなのか?」
心理「あなた以外の男に興味なんてないもの」
垣根「そりゃ光栄だな」
心理「はぁ・・・今度はちゃんと冷ますわよ」
心理定規がより慎重にお粥を冷ます
ふーふー、と息を吹き掛ける動作がかなり可愛らしい
垣根「・・・俺のも冷まして」
心理「あら、甘えたい気分なのかしら」
垣根「うるせぇ、冷ましてくれよ」
心理「仕方ないわね」
心理定規が垣根の分も息を吹き掛ける
心理「はい、あーん」
垣根「ん」
垣根がスプーンから口へお粥を移す
ちょうどいい感じに冷めていた
垣根「・・・もう一回」
心理「あら、甘えてばかりね」
垣根「いいだろ」
心理「はい」
垣根「ん」
そんなやり取りを繰り返していくうちに、なんだか垣根はだんだん体が楽になってきた気がした
垣根「・・・そろそろ寝るかな」
心理「そうね、もう遅いし」
垣根「ありがとよ、元気になった」
心理「・・・早くよくなってね」
心理定規が垣根にキスをする
優しい温もりだった
垣根「あいよ・・・じゃ、おやすみ」
心理「えぇ、おやすみ」
垣根がそっと目を閉じる
いい夢を、見られるだろうか
垣根「あ?ここは・・・」
垣根が周りを見渡す
見覚えのないところだった
垣根「・・・てか、体が思うように動く」
今日見た、他の夢とは違った
垣根「・・・なんだこりゃ」
垣根が目の前にあるテーブルを見つめる
そこには、写真があった
映っているのは垣根と心理定規
ただ、どちらも今より大人になっている
垣根「・・・なるほどね」
未来の夢だろうか
垣根「・・・家は引っ越すんだな・・・」
ふーん、と垣根が感心したように唸る
垣根「・・・未来、か」
垣根「・・・結婚してるんだな、俺らも」
俺らも
そう言ったのは、きっと他のカップルもそうだろうから
垣根「・・・見たくないな、この夢も」
ぽつりと垣根がつぶやく
未来なんて知ってしまったら面白くない
垣根「・・・結婚できてるって知れただけで儲けもんだよな」
小さく笑って、垣根が目を閉じる
真っ暗な世界に、彼は落ちた
垣根(・・・心理定規と結婚、か)
垣根(・・・メルヘンだな)
垣根「おー!全快って感じだな!」
翌朝
ベッドから起きた垣根は体を伸ばしていた
心理「あら、よかったじゃない」
垣根「お前の介抱のおかげだな」
垣根がなんども心理定規にキスをする
唇やおでこ、頬や鼻の頭
すぐに心理定規は真っ赤になる
心理「や、やりすぎよ」
垣根「いいだろ、昨日の分も持ち越したってことで」
心理「・・・悪くはないけど」
垣根「ならいいってことだ」
ケラケラ、と垣根が笑う
心理「・・・ね、ねぇ・・・その、抱いてくれない?」
垣根「は?なんで」
心理「・・・昨日のあなたが可愛かったからよ」
垣根「・・・まぁいいけどさ、理由が納得いかねぇな」
垣根がため息をつく
垣根「今晩でいいだろ?朝からやる気はねぇし」
心理「私だってそのつもりで言ったのよ」
垣根「了解、じゃあ・・・」
垣根が時計を見つめる
まだ朝の7時だ
垣根「どっか出掛けるか?旅行に必要なもんとか買っといたほうがいいだろ」
心理「そうね、じゃあ行きましょう」
冬のある朝
少し狭い道を、二つの影が並んで歩いていた
一方その頃
上条「・・・不幸だ」
上条は頭を抱えていた
何が不幸って、それはまぁいろいろだ
垣根の風邪が治ったという知らせだけが唯一の幸運だ
まず、美琴を怒らせてしまった
もちろん、マジギレという感じではなく恥ずかしくて怒っている、という感じだが
上条(・・・寝ながらにして服を脱がせてしまったとは・・・)
自分は真性の変態だな、と溜め息をつく
美琴「・・・し、したいならそう言えば・・・その・・・」
上条「いやいや・・・ですから」
美琴「言い訳はなし!!」
上条「違うんだってば!」
上条が大声を上げながら頭を抱える
どうにか誤解を解きたかったが、どうせ納得はしてもらえないだろう
上条「・・・で、明日から旅行ですね」
美琴「うん、準備はできた?」
上条「ぼちぼち」
上条がバックに道具を詰めていく
上条「・・・金属は持っていけないよな」
美琴「あぁ、音楽プレイヤーとかなら大丈夫よ」
上条「・・・カミソリは?」
美琴「あー・・・向こうで買えば?」
上条「・・・不幸だ・・・」
美琴「・・・ゴムは?」
上条「・・・二人きりじゃないんですよ?」
美琴「わ、分かってるわよ!」
美琴が顔を真っ赤にする
上条「まぁいいけどさ・・・」
美琴「・・・だ、だって・・・」
上条「・・・そういえば、垣根たちは持って行くのかな?」
美琴「・・・心理定規が喘いでるの想像するのは、なんだか気が引けるわね」
上条「同感」
二人がどんどん荷物を詰めていく
上条「・・・そういえば、イギリスは久しぶりだな」
美琴「それもそうね・・・」
美琴が昔を思い出す
たしか、クリスマスに前にも行ったことがあった気がする
上条「・・・イギリスか」
美琴「・・・知り合いの女の子がいっぱいいるわね」
美琴が顔をしかめる
上条「ん、でも美琴にしか興味ありません」
上条が美琴を強く抱きしめる
そういうことだけで、美琴は幸せになってしまう
美琴「・・・そ、それと!!何がいるかしら!?」
上条「ごまかさなくてもいいですよ?」
美琴「ニヤニヤすんな!!!」
ビリビリ、と美琴が電撃を出そうとする
しかし上条の右手が触れているため、それは叶わなかった
美琴「うー!!」
上条「はいはい・・・あ、ヒマなときに読む本とかは?」
美琴「いらないんじゃない?観光とかするんだし」
上条「それもそうだな」
美琴「・・・楽しみね」
上条「あぁ」
二人が、小さく笑う
イギリス旅行
今年は二人だけではなく、垣根たちも一緒だ
いい意味で退屈はしないだろう
上条「・・・はぁ、楽しみすぎて待ち遠しいですよ」
美琴「うん・・・そうね」
イギリス
飯はまずいが、観光には最適と言ってもいいだろう
上条「・・・飯は・・・まぁいいか」
美琴「日本人の経営してるところがあればいいわね・・・」
上条「それかオルソラに作ってもらうか・・・」
美琴「・・・」
上条「?美琴に作ってもらったほうが美味しいけどな」
美琴「//」
上条「?」
美琴「・・・さて、準備も終わったし!」
上条「おぉ!?」
美琴「昼ごはんにしましょうか!!」
上条「・・・エッチじゃないんだな」
美琴「よ、夜にしましょう!」
上条「はーい」
上条がしぶしぶと立ち上がる
上条「・・・旅行、か」
美琴「旅行ね・・・」
上条「よーし!!!張り切って昼飯作るか!!」
美琴「うん!」
二人がキッチンへ向かう
そして、海外旅行は始まる
しかし、平穏に進むはずはなかった
イン「・・・うん、うん!!」
イン「分かったんだよ、明日なんだね!?」
イン「うん、絶対行くんだよ!」
小萌「どうしたのですかシスターちゃん?」
イン「明日からイギリスに行くんだよ!」
小萌「え、旅行ですか?」
イン「そうなんだよ!」
小萌の部屋の中
インデックスは嬉しそうにはしゃいでいた
小萌「でも、急ですね」
イン「うん、ステイルが誘ってくれたんだよ!」
小萌「なるほど・・・神父さんも積極的になってきたのですね」
ニヤニヤ、と小萌が笑う
イン「?どうかしたの?」
小萌「いえいえ、これは大人として見守ってあげたいのです!」
イン「?よくわかんないんだよ」
小萌「さぁさぁ、パスポートはありますか?」
イン「うん!着替えは向こうで用意してくれるらしいんだよ!」
小萌「なら、たいした準備は必要ないのです!」
イン「こもえ、お土産は何がいい?」
小萌「では、イギリスの美味しいお酒がいいのです!」
イン「じゃあスコッチウイスキーを買って来るんだよ!」
小萌「ジンもお願いしますね!」
イン「了解なんだよ!!」
その頃イギリス
ステイル「・・・やっと、あの子をイギリスに呼べたぞ!」
神裂「それはおめでとうございます・・・私も一緒でいいですか?」
ステイル「あぁ、また昔みたいにいろいろ回ろう」
神裂「ふふふ・・・あなたはそれ以外に目的があるのでは?」
ステイル「そ、そんなことはない!」
イギリスのある喫茶店
そこで、二人は話しこんでいた
ちなみに禁煙の店のため、ちょっとだけステイルは不機嫌でもある
ステイル「・・・ぼ、僕はただあの子と・・・」
神裂「いい加減素直になったほうがいいですよ、ステイル」
神裂が苦笑する
ステイルは昔から、インデックスを守っていた
それは、好意からくるものだっただろう
そんなこと、誰の目にも明らかだった
神裂「・・・そろそろ、いいんじゃないですか?」
ステイル「な、なにがだい?」
ステイルが慌ててしまう
タバコを吸えないため気を紛らわすこともできない
神裂「・・・もう分かっているでしょう?」
ステイル「・・・いや、その・・・」
神裂「はぁ・・・あの子は、上条当麻にはもう守ってもらえません」
ステイル「それは分かっている」
ステイルが眉をひそめる
彼からしても、その事実は辛かった
ステイル「・・・それがどうしたんだい?」
神裂「・・・あなたが守ってあげればいいのではないですか、昔のようの」
ステイル「・・・」
ステイルがより顔をしかめる
神裂「・・・ちょうどいい機会ではないでしょうか」
ステイル「あぁ、それは分かって・・・」
いる、と続けようとしたとき
ステイルの携帯が鳴った
ステイル「・・・上条当麻からだ」
神裂「おや、ちょうどいいタイミングですね」
ステイル「最悪のタイミングだ」
あからさまに嫌そうな顔をしながら、ステイルが通話をする
ステイル「なんだい」
上条『あぁステイルか、急に悪いな・・・』
ステイル「用件だけ言ってくれ」
上条『・・・明日からさ、そっちに行くんだけど・・・』
プツン、とステイルが通話を切る
ステイル(あぁそうか、聞き間違いか)
すると、またプルルと携帯が鳴る
ステイル「・・・なんだい」
上条『・・・なんで切ったんだよ』
ステイル「・・・ちょっと待ってほしい、さっきなんと言った?」
上条『だから、明日からそっちに旅行で行くんだよ』
ステイル「・・・最悪だ」
上条『・・・なんでだよ』
ステイル「・・・明日から、インデックスもこっちに来るんだよ」
上条『へぇ、ちょうどいいじゃねぇか』
ステイル「良くないね」
上条『あ、どうせなら一緒にどっか回ら』
プツン、とステイルが通話を切る
そのあとも電話が鳴るが、無視し続ける
神裂「・・・あの」
ステイル「・・・上条当麻が明日から来るらしい・・・」
神裂「・・・それはなかなか面白いですね」
ステイル「いや、最悪だ」
ステイルが肩を落とす
神裂「・・・まぁ、いいじゃないですか」
ステイル「良くない・・・」
神裂「彼も、恋人と二人きりになるでしょうし、問題ないですよ」
ステイル「そうだといいな・・・」
コーヒーを一口飲む
あまりにも苦かった
さっきまではあんなに美味しいと感じていたのに
ステイル「・・・帰ろうか」
神裂「えぇ、そうしましょう」
ステイル「・・・最低だ」
神裂「・・・がんばってください」
二人は、それぞれの寮へと帰っていく
ステイル「・・・イノケンティウス」
ステイルがイノケンティウスを呼び出す
イノ「なんだよ、こちとら眠いんだよ」
ステイル「・・・相談・・・乗ってくれるか?」
イノ「いいけど、なんだよ」
ステイル「・・・明日、インデックスが来るんだ」
イノ「抱けよもう」
ステイル「・・・上条当麻も来るんだ・・・」
イノ「・・・ほう、それは面白そうだな」
ステイル「・・・どうすればいい?」
イノ「前から思ってたんだけどさ、なんで俺だけにしか相談しないんだよ?」
ステイル「・・・他に友達いないから」
イノ「俺も友達じゃねぇよ」
ステイル「」
イノ「まぁいいか・・・で、どうすればいいかだったな」
イノケンティウスが腕を組む
イノ「そうだな、でも上条さんは彼女と一緒だろ?」
ステイル「なんでさん付けなんだ?」
イノ「いや、だってあの人強いしカッコイイじゃん」
ステイル「お前もか・・・」
イノ「とにかく、まずインデックスと二人になれるようにしろ」
ステイル「ど、どうやって?」
イノ「迷子になったのを装うんだ」
ステイル「あの子は完全記憶だ、不可能だね」
イノ「ちっ・・・じゃあ素直に二人になりたいって言えよ」
ステイル「そ、それができたら苦労しない!」
ステイルが頭を抱える
こういうことには本当に疎いのだ
ステイル「なぁ・・・僕はどうすればいいんだろうか・・・」
イノ「笑えばいいと思うよ」
ステイル「やめてくれ・・・」
イノ「笑エヴァいいと思うよ」
ステイル「そういうのはいらないんだ・・・真面目に答えてくれ」
イノ「そうだな・・・クリスマスだし、上条さんは彼女と出かけるだろ」
ステイル「たしかに・・・でもそれだけで大丈夫かな?」
イノ「いいか、クリスマスってのはカップルは二人になるもんだ、ずーっとな」
イノケンティウスが炎を吐く
上手く調節しているため、部屋の中が焼けたりはしない
イノ「・・・つまり、お前は必然的にインデックスと二人きりだ」
ステイル「だ、だが・・・緊張するな」
イノ「いいか、あくまで気丈に振舞え」
ステイル「気丈・・・か」
イノ「男ってのは、常に頼れる存在であるべきだ」
ふふん、と炎を吐く
彼は一体なんなのだろうか
イノ「こう、どっしりと構えてる男が好かれるのさ」
ステイル「・・・僕はダメかな?」
イノ「惜しい、だろうな、何かが足りない」
ステイル「何がだ?」
イノ「速さが足りないっ!!」
ステイル「真面目にしてくれ」
イノ「・・・とにかく、落ち着いてやれば大丈夫だ」
イノケンティウスが笑う
なぜか、とても頼もしく見える
イノ「お前は昔、インデックスとどうやって付き合っていた?」
ステイル「それは・・・」
イノ「その時は、スケジュールだなんだとか考えてたのか?」
ステイル「・・・いや、一緒にいるのが当たり前だった」
イノ「それでいいのさ」
ステイル「・・・あの子にはその頃の記憶はないぞ?」
イノ「だったらなんだ、記憶があったところでどうせお前は恋に臆病さ」
ちくり、とその言葉が胸にささる
なまじ、その言葉が当たっているだけに
イノ「いいか、お前にとってインデックスは当たり前の存在だろ?」
ステイル「・・・そうだな」
イノ「だったら深く考えるな」
イノケンティウスがまっすぐ、ステイルを見つめる
イノ「いいか、いつものようにやるんだ」
イノ「お前の記憶にある、インデックスとの思い出をなぞってみろ」
イノ「そこにはあるはずだ、当たり前の日常が」
ステイル「・・・その通りにすればいいのかな?」
イノ「そうだ」
ステイル「・・・そうか」
ステイルがそっと目を閉じる
インデックスとの思い出
彼が忘れるわけがなかった
そして、忘れたいとも思わなかった
イノ「どうだ、出来そうか?」
ステイル「あぁ、どうにか」
イノ「なら俺は帰らせてくれよ」
ステイル「すまないな、今度ジッポをプレゼントするよ」
イノ「サンキュー」
イノケンティウスが体を闇に溶かす
残ったのはステイルだけだ
ステイル「・・・そうか」
ステイルが小さく笑う
なんのことはない、考える必要などないのだ
ステイル「・・・告白するわけでもない」
ステイル「そんな勇気はまだない」
ステイル「だったら、気を張る必要もないか」
ステイル「・・・よし、寝よう」
つぶやいてから、ベッドへと向かう
特別に作られた大きなベッドだ
ステイル(・・・待っててくれ、インデックス)
ステイル(君が楽しめるように、いつもの日常を送るから)
そう考えてから、ステイルは目をつぶった
イギリスの夜景は美しかった
五和「・・・だから、私はそこは右だって言ったんですよ!」
イギリスのある居酒屋
なぜイギリスに居酒屋があるのかは分からない
日本人が経営していて、なかなか繁盛している
そんなことは、建宮にとってはどうでもよかった
建宮「・・・五和、飲みすぎなのよな」
五和「まだまだ飲みますよ!?」
建宮「・・・対馬、助けてほしいのよな」
対馬「こうなった五和はもう止められませんので」
建宮「あぁ!!誰かこの状況を助けてくれるヒーローはいないのよな!?」
建宮が頭を抱える
その時、五和の携帯が鳴った
五和「あぁ・・・?・・・!!!!!」
いきなり、しゃんと背筋を伸ばして通話を始めた
五和「はい!こちら五和です!!」
五和「あ、明日からですか!?あ、はい・・・」
五和「・・・はい、はい!」
五和「じゃあ建宮さんにも伝えておきますね!」
それだけ会話をして、五和が携帯をポケットになおす
建宮「・・・なんなのよな?」
五和「聞いてください!上条さんが明日からこっちに来るらしいんです!」
建宮「ほ、本当か!?」
五和「・・・彼女さんが一緒みたいですが」チッ
建宮(舌打ちが怖いのよな)
対馬「では準備をしたほうが・・・」
五和「いえ、明日からしばらく飲めなくなるので今日のうちに!!」
建宮「えぇ!?」
建宮が泣きそうな顔をする
建宮「・・・もうやめるのよな・・・」
五和「もっと持ってこい!!」
建宮「もうやめて!!」
対馬「・・・なんだか、楽しそうですね」
建宮「どこが!?」
五和「はぁ・・・あのですね、私は上条さんが好きなんですよ!!!!」
建宮「し、知ってるのよな!」
五和「ちくしょう・・・彼女とクリスマスに旅行だぁ!?」
対馬(もうダメね)
五和「いいですか!?私は上条さんが好きなんです!!」
建宮「知ってるのよな!」
五和「あぁ!?なんで知ってるんですか!」
建宮「はい!?」
対馬(押されてますね)
五和「・・・ちくしょう・・・」
建宮「な、なぁ五和・・・」
五和「なんですか」ギロ
建宮「い、いや・・・ほら、他の人は好きにならないのか?」
五和「・・・恋をして忘れろ、と」
建宮「いやいや!!そういうわけではないのよな!?」
五和「はぁ・・・じゃあ建宮さんでいいですよ」
建宮「かなりの投げやり!?」
五和「あぁ?恋をしろと言ったのはあなたですよ!?」
建宮「い、いや・・・俺以外の話なのよな」
五和「ちっ・・・どうせ私は好かれない女ですよ」
建宮「いやいや!!五和は素敵なのよな!?」
対馬(あーあ、見てられませんね)
五和「ちっ・・・そうやって気を持たせて・・・」グビッ
建宮「なんで!?なんでそんな思考!?」
五和「・・・私は・・・裏切られる運命なんでしょうか」
五和が突然真剣な顔になる
五和「・・・どうせ、私は幸せになれませんよ」
建宮(お、重い空気!?)
対馬「そんなことないわよ・・・私も失恋の一回や二回」
五和「・・・対馬さんは美脚だからいいんですよ」
対馬「・・・五和は巨乳じゃない」
五和「・・・これも、上条さんには効きませんでした」
大きな溜め息をつく
決して効いていなかったわけではないのだが
五和「・・・建宮さん、男性は巨乳は嫌いなんですか?」
建宮「い、いや、俺はいいと思うのよな!」
五和「最低ですね」
建宮「」
建宮「・・・それより、上条はこっちにも寄るのか?」
建宮たちは天草式専用の寮にいる
そのため、わざわざイギリス清教の寮と行き来しなければならない
五和「はい、来てくださるみたいです」
建宮「なかなかハードなのよな」
建宮が日本酒を口に含む
洋酒も嫌いではないが、やはり日本酒に限るだろう
対馬「・・・五和、いいの?」
五和「大丈夫ですよ・・・諦めはついていますから」
五和が机に突っ伏す
五和「・・・諦めないとやっていけませんし」
建宮「・・・五和は強いのよな」
五和「弱いから目を背けるんですよ」
はぁ、と五和が溜め息をつく
建宮「・・・それでも、現実を見ているだけ偉いのよな」
五和「・・・そうですかね」
建宮「・・・俺はそう思うのよな」
五和「・・・建宮さん、私は大丈夫でしょうか?」
建宮「あぁ、大丈夫なのよな」
五和「・・・建宮さん、私は・・・明日、大丈夫だと思いますか?」
建宮「あぁ、大丈夫なのよな」
対馬「五和は強いもの」
五和「・・・よし、ウジウジするのはやめましょう!」
五和が顔を上げる
どこか晴れ晴れとしている
五和「じゃあ・・・もう少し飲みますよ!」
建宮「えぇ!?」
居酒屋の中
建宮の悲痛な叫びが響いた
垣根「・・・あー、あとシャンプーもか?」
心理「そうね、あと化粧水も」
垣根「・・・細かいんだよ、お前は」
垣根と心理定規はバッグに荷物を詰めていた
垣根「・・・楽しみだな」
心理「えぇ、とっても」
垣根「・・・ゴム、いるか?」
心理「一応ね」
垣根「はぁ・・・クリスマスくらいはメルヘンにいこうぜ」
心理「分かってるわよ」
垣根「・・・クリスマス、か」
心理「・・・えぇ」
垣根「・・・心理定規」
垣根が、心理定規に抱きつく
心理「あら・・・なに?」
垣根「嬉しいな、お前とまたクリスマスを過ごせるなんて」
心理「えぇ・・・幸せよ」
垣根「・・・好きだ」
垣根がキスをする
彼がこんなに素直に言葉にするのは珍しかった
心理「・・・どうしたの?」
垣根「たまにはいいだろ」
恥ずかしそうに垣根が言う
顔が真っ赤だ
心理「・・・私も好きよ」
垣根「知ってるさ」
心理「あなたよりもずっと昔から」
垣根「バーカ、それも知ってる」
心理「・・・どれだけ好きだと思ってるのよ」
垣根「さぁな」
心理「・・・世界で一番よ」
垣根「・・・一番、ね」
心理「あら、唯一でもあるわよ?でも昨日の垣根よりも今日の垣根のほうが好き」
垣根「なんだよそりゃ」
心理「分からないわ」
クスクス、と心理定規が笑う
垣根「・・・なぁ」
心理「なに?」
垣根「・・・クリスマスさ、二人きりになれるかな」
心理「なれるわよ、きっと」
垣根「上条は幻想をぶち殺すけどな」
心理「あら、関係ないじゃない」
心理定規が垣根の頬にキスをする
心理「これは幻想なんかじゃないもの」
垣根「・・・そうだな」
垣根「・・・そろそろ寝るか?」
心理「あら、抱いてくれるんじゃなかったの?」
垣根「あぁ・・・だったな」
垣根が心理定規のそばに行く
垣根「・・・愛してる」
言葉にすれば、形を持ってしまう
それでも、それでもだ
形を持たなければ、抱きしめることはできない
たとえ、いつか砕けるかもしれなくても
今は、その気持ちを抱きしめてほしかった
心理「私もよ」
垣根「・・・脱がすぞ」
心理「えぇ」
垣根が心理定規のドレスを脱がす
垣根「・・・ちょいと失礼」
心理「あら、なに?」
垣根が心理定規の後ろに回る
背中には、なんの傷も無い
垣根「・・・この背中・・・治ったんだな」
そっと、手を這わせる
昔に、あんな大怪我を負ったなんてわからないほどに
心理「あら、あなたのおかげよ?」
垣根「・・・そりゃよかった」
強く、彼女を抱きしめる
心理「あなたも脱ぎなさいよ」
垣根「はいはい」
心理「・・・あっ・・・はぁ・・・」
垣根「大丈夫か?」
心理「えぇ・・・結構久しぶりじゃない?」
垣根「・・・そうだな」
垣根「・・・お前さ、どこがいいんだっけ?」
心理「・・・さぁ」
垣根「教えないとわかんないんだけど」
心理「私の口から言わせる気?」
垣根「・・・まぁいいや」
垣根が心理定規の胸に手を伸ばす
魅力的な肢体
真っ白な肌
そして、彼を思う純粋な心
まったく、よくもまぁこの世の中にこれほど美しい人がいたものだと感心する
垣根「・・・綺麗だ」
心理「んっ・・・そうかしら」
垣根「あぁ、美しいよ」
心理「・・・なんだか恥ずかしいわね」
垣根「・・・そうかよ」
心理「・・・ねぇ、まだ?」
垣根「俺は早漏じゃねぇ」
心理「あら、気持ちよくないのかしら」
垣根「そういうわけじゃねぇよ」
垣根が眉をひそめる
心理「じゃあ早くなさいな」
垣根「・・・少しくらい楽しんでもいいだろ」
心理「・・・そうね」
心理定規がシーツの端を握る
心理「・・・私、そろそろなんだけど」
垣根「いいぜ」
心理「・・・っ!」
一瞬、彼女の体が揺れる
心理「・・・はぁ・・・疲れるわよね」
垣根「あぁ、結構な」
心理「・・・ねぇ」
垣根「なんだよ」
心理「・・・私、幸せよ」
そっと、心理定規が垣根の手を握る
その距離に、彼の手があることが
彼に愛してもらえることが
こうやって、共に夜を過ごせることが
そして
心理「・・・あなたに抱いてもらえることも」
幸せだった
垣根「・・・そうか、よかった」
心理「・・・愛してるわ、垣根」
垣根「俺もだよ」
ギシギシ、と部屋に音が響く
そして、熱い夜も終わりを迎えた
垣根「・・・寝るか、そろそろ」
心理「そうね」
服を着て、二人がベッドに入る
垣根「・・・なぁ」
心理「なに?」
垣根「・・・いい夢、見られるかな」
心理「えぇ、見られるわよ」
垣根「そうか、ならよかった・・・おやすみ」
心理「えぇ、おやすみ」
二人が目を閉じる
幸せな夜
外には、綺麗な月が浮かんでいた
とうとう、海外旅行は始まる
どたばたな、海外旅行が
上条「・・・おはよう」
美琴「うん、おはよう!」
上条「さて・・・空港に向かいますか」
美琴「そうね」
二人は朝食は食べずに、すぐに空港へ向かう
理由はあった
飛行機の中で朝食が出るらしい
そのため、食べていく必要がないのだ
上条「えっと・・・ここで垣根たちと待ち合わせだっけ?」
美琴「うん、待ってましょう」
空港のロビー
その中央にあれうソファーに座る
周りはちらほらと人がいる
やはり海外旅行が目的だろう
上条「・・・いいな、こういうの」
美琴「・・・そうね・・・」
イン「あれ?とうまとみこと?」
美琴「え、インデックス?」
上条「なんでお前・・・?」
イン「私はこれからイギリスに行くんだよ?」
上条「マジか!?俺もだよ!」
美琴「なんだ、一緒なのね」
イン「そうなんだ!これで楽しみが増えたんだよ!」
美琴「楽しみ?」
イン「二人の仲をジャマするんだよ!」
上条「おい・・・」
イン「まぁ冗談はおいておくけど・・・ヒマじゃなくなってよかったんだよ」
上条「そうだな・・・一人だと飛行機はな・・・」
垣根「おいーす、上条」
上条「あ、垣根」
心理「あら、そっちの子は?」
イン「私はインデックスって言うんだよ!」
垣根「あぁ?偽名か?」
イン「本名なんだよ!」
垣根「見たとこ、イギリス人か」
イン「え、分かるの?」
垣根「俺は垣根、垣根帝督だ、上条と友達やってる」
上条「垣根、こいつはその・・・」
イン「当麻に助けてもらったことがあるんだよ!」
インデックスが笑う
心理「・・・さすがフラグ男ね」
垣根「呆れたぜ上条」
上条「なんでだよ・・・で、こっちは心理定規・・・さん」
心理「呼び捨てはできないのね」クスクス
上条(なんか怖いもんな)
美琴「ほらほら、自己紹介は飛行機の中でもいいでしょ!」
上条「あ、あぁ!」
垣根「じゃあ行くか・・・インデックス、よろしくな」
イン「うん!垣根もメジャーハートもよろしくなんだよ!」
心理「えぇ、こちらこそ」
イン「・・・」
心理「あら、なに?」
イン「なんでもないんだよ」
インデックスが心理定規を見つめている
何か、驚いた様な顔だ
イン「みこと、ここにクールビューティーの極みがいたんだよ」
美琴「そうね・・・たしかにそうだわ」
心理「?」
垣根「おい早くしろよ」
心理「あぁ、ごめんなさい」
上条「じゃ、行くか」
美琴「うん!」
五人が旅客機に乗る
わくわくとする気持ちを抑えながら
美琴「・・・やっぱり、スチュワーデスさんに触るんだ」
上条「だから!向こうが転んできただけ!」
垣根「上条最低」
心理「そうね」
イン「はぁ・・・呆れるんだよ」
上条「違うんだ・・・」
美琴「バーカ」
早速、不幸が訪れてしまった
このメンバーでの海外旅行
不安は増すばかり
イギリスへと向かう旅客機の中
上条の叫び声が響いた
上条「あぁもう!!不幸だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
単発ネタ
初春「・・・彼氏がほしいです!」
初春は誓った
必ず、かの邪知暴虐なリア充どもを見返すと
初春「幸い、白井さんの携帯に入っているデータは抜き取りました!」
初春「さらに!!そこから分岐してさまざまなルートから、独り身男性の居場所を特定しました!」
初春「私にも!初めての春が来るかもしれません!初春だけに!!!」
ケース1
土御門元春の場合
土御門「にゃー!!にゃー!!にゃー!にゃーにゃーにゃーにゃー!!」
初春(ヤーヤーヤー!をにゃーで歌ってますね)
土御門「ん?たしかカミやんの知り合いの・・・」
初春「初春です、あなたは?」
土御門「土御門だにゃー」
初春(あぁ、こんな顔なんだ)
土御門「・・・で、なんの用かにゃー?」
初春「率直にききます、土御門さんは彼女はいるんですか!?」
土御門「彼女はいないけど、好きな人はいるぜよ、妹・・・」
初春「あ、近寄らないでください、さようなら」
土御門「は、走って逃げられたにゃー・・・」
ケース2
青髪ピアスの場合
青ピ「おもいでーのーこうーしゃとーもーいまはわかれのときがきたー」
初春「あの、すいません」
青ピ「な、なんやぁ!?ロリっこがボクに話しかけてきてくれるなんて!」
初春「ロ・・・あ、あの・・・あなたは?」
青ピ「ボクぁ青髪ピアス、好きなタイプはロリショタツンデレチアガールから巫女さんナース、婦警さん!興奮するシチュエーションは周りには友達がいるのにこたつの中でこっそりとチ」
初春「ごめんなさい、さようなら」
青ピ「え!?」
初春(・・・あの学校の生徒はもうやめておきましょう)
初春「さて次は・・・」
ケース3
海原光貴の場合
海原「えっと・・・たしかこの辺りでしたかね・・・」
初春(よし、さわやかイケメン!)
海原「もう少しですかね・・・」
初春「あの!」
海原「はい、自分でしょうか」
初春「はい、あなたのお名前は?」
海原「海原光貴ですが・・・なぜ?」
初春「私の名前は・・・」
絹旗「あ、海原さん!」
海原「あぁ、絹旗さん、おはようございます」
初春「」
絹旗「ごめんなさい、待たせちゃいましたかね?」
海原「いえ、今来たところですよ」
絹旗「じゃあ・・・」
初春「ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」
絹旗「あの・・・今走っていった人・・・誰ですか?」
海原「さぁ・・・」
初春(よし、まともに選んだら失敗しますからね)
ケース4
アレイスターの場合
アレイ「私のプランがプランプラン」
初春「ないですね」
アレイ「」
ケース5
エイワスの場合
エイワス「・・・」
初春「あ、あの・・・」
エイワス「なんだ」
初春「その頭の上に浮いてるのって・・・天使の輪ですよね?」
エイワス「天使か、なかなか陳腐な言い回しだとは思わないか?」
初春「なんでですか?」
エイワス「天からの使い、というわりに地上に降りる時間は少ない」
初春「はぁ・・・」
エイワス「ならば浮遊物体といったほうがいささかマシではなかろうか」
初春「夢がなくなります・・・あの、あなたは?」
エイワス「エイワス、知識を授けるものだ」
初春「私は初春です、エイワスと初春、なんか響きが似てますね」
エイワス「そうでもない」
初春「・・・」
エイワス「・・・君はいったいどうしてここに来た?」
初春「・・・彼氏がほしくて」
エイワス「愛情というものか」
初春「でも・・・なかなかいい人がいません」
エイワス「愛など、生まれるものだ」
初春「生まれるものなんですか?」
エイワス「最初から持っているものではない」
初春「つまり、好きになってから恋は始まる、と」
エイワス「君は順序を間違っているのだよ」
初春「そうなんですか・・・」
エイワス「愛など興味が湧かないがな」
初春「・・・じゃあ、私はこれで」
エイワス「あぁ」
初春「はぁ・・・彼氏なんて、簡単には・・・」
佐天「うっいはるー!!」
初春「ははは!!それは残像ですよ佐天さん!!」
佐天「そ、そんな!?私のスカートめくりが・・・」
初春「あ、そうだ・・・佐天さんも彼氏探ししませんか?」
佐天「なになに?面白そうじゃない!」
初春「じゃあ、行きましょう!!」
「ねぇ君可愛いねー」
佐天「えー、そうかなぁ?」
初春「裏切り者ぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
彼氏探し終了
単発ネタ
テっくん単発
アレイスターとの会話
テクパトル「・・・そういえば、お前がうちに来てなかなか経ったな」
アレイ「そうだな、未だに体は治らない」
テクパトル「治ったら出て行けよ」
アレイ「ここは近くに冥土返しもいるからな、居心地がいいのだよ」
テクパトル「俺がよくねぇよ」
テクパトルが冷蔵庫・・・というかアレイスターを開ける
アレイ「あぁん!!見ちゃ・・・」
テクパトル「黙らないと開けっ放しにするぞ」
アレイ「」
テクパトル「・・・」
アレイ「と、ところで・・・お前はビールが好きなのか?」
テクパトル「まぁな」
取り出したビールをその場で飲む
今日はミサカたちが調整のため、部屋には二人だけだ
アレイ「・・・私はあまり酒は好きではなかったな」
テクパトル「もったいないな」
アレイ「そうか?」
テクパトル「あぁ」
テクパトルがツマミも取り出す
テクパトル「こんなに美味しいのに」
アレイ「・・・私にはわからんな」
テクパトル「・・・その体じゃどっちみち飲めないだろうけどな」
アレイ「治せるらしいぞ」
テクパトル「は?誰が」
アレイ「冥土返し」
テクパトル「・・・治してもらえよ」
アレイ「そしたらここにいられなくなる」
テクパトル「・・・寂しいのか?」
アレイ「ミサカたちの着替えが見られるからな」
テクパトル「19090号だけのは見るな、あとも見るな」
アレイ「全部見られないのか・・・」
テクパトル「・・・治せよ」
アレイ「治したらここにいる言い訳がなくなるのでな」
テクパトル「・・・お前、普通に生きるつもりはないのか?」
アレイ「そうだな・・・だがこれも悪くは無いぞ」
テクパトル「なんで」
アレイ「ミサカたちにいっぱい触ってもらえる」
テクパトル「・・・」
アレイ「それに、なんだかんだ仲のいい家族ではないか」
テクパトル「・・・お前は家族を失っていたな」
もう一口、テクパトルがビールを飲む
アレイ「美味しいのか?」
テクパトル「あぁ美味い・・・お前が元に戻ったら一緒に飲んでやるよ」
アレイ「そうか」
静かな部屋の中で
男二人は、ひっそりとそんな話をしていた
単発終了
続き: 23スレ目 上条「海外旅行!」美琴「イギリス!」心理「ご飯がまずい」垣根「ひもじいよぉ」
※編集中です。近日中に公開します。