※関連
最初: 美琴「す・・・好きです!!付き合ってください!!」上条「何やってんだ、御坂」
前回: 上条「1に愛情!」美琴「2に愛情!」心理「3、4がなくて?」垣根「後藤さん」一同「誰だよ」【前編】
上条「ぶぁぁー・・・シャワーが気持ちいいー・・・」
美琴「あったかいー・・・」
二人が体をくっつけてシャワーを浴びる
先程までのトラブルで冷えた体はすっかり暖かさを取り戻していた
そのため、だんだんと現実が目に入ってくる
目の前には愛する人の無防備な姿
さらに、もっと言えば体の距離はゼロだ
暖かさを取り戻した体が、また別の熱を得る
気がつけば、どちらからともなくキスをしていた
シャワーを浴びるために風呂に入った
それが、なぜだかこんなことをするために入ったようになっている
上条(・・・んなことどうでもいいよな)
ただ、こうやって二人で愛し合うことができれば
そんな細かいことは気にもならなくなっていた
美琴「・・・ね、さすがにまだ体洗ったりしなくてもいいと思うのよ」
上条「ん、元はといえば着替えるついでに体あっためるだけのためだからな」
美琴「・・・だからね」
美琴がぎゅ、と上条に抱き着く
美琴「・・・こういう過ちを犯したりしてもいいと思うんだ」
上条「・・・そうかもしれませんね」
上条が美琴の胸に手を伸ばす
普段の彼女なら少しくらい抵抗を見せるはずだった
しかし、なぜか今はすんなりと受け入れている
上条「・・・なんか、抵抗しないんだな」
美琴「今日は特別・・・二人で楽しめたから」
上条「歌ったりとかか?」
美琴「・・・久しぶりに愛情を確認できたって感じだったもん」
上条「たしかに・・・あんなふうに面と向かって真剣に話したのはかなり久しぶりだな」
美琴「だから・・・いいのよ」
上条「・・・風呂から出たほうがいいかな?」
そう尋ねている間も、上条は手の動きを止めはしない
美琴「・・・こ、ここまでしといて一旦お預け?」
上条「ん、美琴は焦らされるの好きだろ?」
美琴「で、でも・・・」
上条「風呂から出ないとゴムがないからなぁ」
上条が苦笑する
さすがに避妊もせずそういうことをするつもりはない
美琴「・・・いつか・・・結婚したら、ゴムしないでやるのかな」
上条「ん、結婚?」
美琴「さっき言ってたじゃない・・・忘れたの?」
上条「あぁ、それで美琴さんが暴れたんでしたね」
美琴「・・・それは忘れなさい」
美琴が恥ずかしそうにつぶやく
上条「・・・でも今は・・・な」
美琴「・・・うん」
上条「じゃ、あがりましょうか」
上条と美琴が脱衣所へ出る
すぐにバスタオルを手に取り、自分の体を拭く
最近はめっきり寒くなってきたため、早めに体を拭かないと湯冷めしてしまう
上条「・・・美琴、拭き終わったか?」
美琴「ん、もうちょい・・・」
上条「あ、じゃあ拭きますよ」
上条が無理矢理美琴からバスタオルを奪い取る
美琴「え、ちょっと・・・んっ!」
まずは胸から拭きだす
というよりも、そこに触れるのが目的だったわけだが
美琴「あん・・・あっ・・・はぁ・・・」
上条「バスタオル越しでも感じるのか?」
美琴「わ、私が胸弱いの知ってる・・・はぁっ・・・でしょ・・・」
上条「んー・・・でもまさかそんなにここが好きとは」
ツンツン、と胸をつつく
少し弾力のある、整った形の胸だ
美琴「・・・ふぁっ・・・んゅっ・・・くぁっ、ねぇ・・・やっ・・・」
揉む度に、美琴が声を上げる
乳首も、その周りも
全体が美琴の弱点なのだ
耐え切れなくなった上条がそっと舌を這わせる
唾液を塗り付けていくかのように淫らに舌を動かす
時々、乳首に歯を立てるようにしてかじりつく
それだけで美琴は体をビクビクと震わせる
甘い香りが上条の脳内に満たされる
歯止めが効かなくなり、どんどん責めていく
片方は手で強く弄る
もう片方は舌でいじめ、時々強く吸ってみる
強弱のつけられたその愛撫に、もはや美琴は限界寸前だった
美琴「あっ・・・あっあっあっ!」
クチュ、と美琴の下半身が音を立てる
タラリと垂れた愛液はそのままフローリングに落ちた
上条「・・・ベッド行こうか」
美琴「うん・・・って、なんでまだ触って・・・っ!」
上条「ん、美琴・・・ちゃんと歩かないと」
美琴「アンタが・・・ひゃんっ・・・いじくり回すから上手く歩けないのよ!」
上条「言い訳は良くないですよ?」
美琴「言い訳じゃ・・・はぁっ・・・」
上条「ったく・・・じゃ捕まっててな」
上条が美琴の体を抱き上げる
自ずと二人の下半身が近づいてしまう
というよりも若干接している
こうやって局部と局部が直に触れ合う経験はしたことがなかった
いつもゴムをつけるため、上条の生のそれの感覚を下半身で味わうのは初めてだった
別に挿入されたわけではない
外に少しだけ接しているだけだ
しかし、なぜか美琴の頭はぼーっとしてしまう
もしもこれを生で入れられてしまったら
彼女はどれほど乱れてしまうのだろうか
想像するだけで恥ずかしくなるほどだ
美琴「・・・あ、ベッド」
そんなことを考えているうちに上条が美琴をベッドに連れてきていた
ドサリ、と優しく美琴の体をベッドに寝かす
そのすぐ横に上条も寝転ぶ
上条「・・・なぁ美琴、どこに触ってほしいんだ?」
美琴「な、なんでそんなことわざわざ聞くのよ?」
上条「美琴の口で言ってほしい」
まっすぐ、上条が美琴を見つめる
その体はとても美しく、上条の目を釘付けにさせる
美琴「・・・言ったら、当麻は興奮する?」
上条「・・・いや、言いたくないなら・・・」
美琴「ねぇ、当麻はSなんだよね?やっぱり興奮しちゃうの?」
上条「・・・言っとくけど、美琴だから興奮するんだぞ?」
上条が一応、付け足しておく
そんなことを言わなくても美琴は分かっているはずだが
美琴「・・・当麻、私の乳首・・・いじめて?」
上条「ん、よく出来ました」
上条が美琴の乳首を軽く噛む
普段は焦らしたりもっと強く噛んでいたずらしたりする
しかし、なぜか今日は素直に美琴の要望を叶えてあげたかった
美琴「はぁっ・・・当麻、いい・・・あっ・・・」
上条「・・・好きだ、美琴」
一旦口を放してから上条がつぶやく
そしてまた彼女の胸を口に含む
もう上条の唾液でキラキラ、と光っていた
自分がこんなにも素晴らしい美琴の体を好き放題にしているのだ、と考えただけで肉棒が硬くなってしまう
襲いたくなる衝動を無理矢理抑えて、ずっと胸を責め続ける
美琴「あ・・・!・・・イった・・・」
上条「ん、お疲れ様」
ニコリ、と上条が微笑む
本当に美琴は胸が弱い
他の誰かに触られたりしないよな、と上条は一瞬考えてしまう
彼はかなり独占欲が強いらしい
上条「じゃ・・・俺もお願いしていいか?」
美琴「うわ・・・かなり大きくなってるわね」
上条「美琴のエッチなところ見せられ・・・」
言葉の途中で美琴に唇を奪われた
どうも恥ずかしいことをあまり言われたくはないらしい
上条「・・・で、どうするんだ?」
美琴「ん、前からやってみたいことあったのよね」
美琴が上条の肉棒に手を伸ばす
だが、なぜか直接は触れない
それがじれったくて、上条は少し不機嫌になってしまう
上条「なぁ、なんかしてくれるんじゃないのか?」
美琴「やってほしい?」
上条「ん、やってほしい」
美琴「じゃ・・・いくわよ」
パチパチ、と美琴の手先から電気が出た
上条「うぉぉぉぉっ!?」
電気の刺激が彼の肉棒を襲う
一気に最高の硬度まで持って行かれてしまう
美琴「どう?いいんじゃない?」
上条「だ、だからって・・・ちょっと待って!今敏感になってんだよ!」
上条が美琴の腕を右手で掴む
その瞬間、電気は消えてしまう
美琴「あ、何すんのよ」
上条「ちょっと待てよ・・・はぁっ・・・」
美琴「・・・手でされたほうがいい?」
上条「あぁ・・・そっちのほうがいろいろとありがたいです」
上条が苦笑する
あんな責め方を続けられたらすぐに達してしまう
美琴「じゃ、口でいいかしら」
美琴は上条の返事も聞かずにその肉棒をくわえる
上条は様々な刺激をその小さな体積で感じ取る
舌の暖かさ、歯の感触、そして頬の内側の柔らかさ
上条「・・・美琴、きつくない?」
美琴「ん」
美琴が肉棒を口にしたまま頷く
こういう行為にも慣れてきたらしい
何度も上条のために尽くしているのだから当たり前といえば当たり前なのだ
上条「ふぅ・・・美琴、ちょっと放して」
美琴「ん・・・どうしたの?」
美琴が口を放し、上条の目を見つめる
まだ限界が来た、という感じではないのだが
上条「・・・素股、やってみない?」
美琴「・・・なんかアブノーマルなこと言い出すわね」
上条「テクパトルがわりといいもんだって言ってたからさ」
上条が申し訳なさそうに頭をかく
美琴「まぁ・・・二人とも気持ち良くなれるし悪くはないかもね」
上条「だろ?」
美琴「ん・・・いいわよ」
美琴がベッドの上で四つん這いになる
中々にそそる光景だ
上条「じゃ・・・失礼して」
美琴の足の間に上条が肉棒を差し込む
前後させると、少しクチュクチュという卑猥な音が鳴った
美琴「あ・・・な、なんか擦れてる」
上条「ど、どうですか?」
美琴「・・・あ、頭がボーってしちゃう」
上条「俺も・・・」
ぐいぐい、と美琴の腰を体に引き寄せる
真上から見ると一瞬、本当に挿入されているかのように見えてくる
上条「・・・こ、これはなかなかに・・・」
美琴「な、なによ?」
上条「エ、エロい光景ですよ」
美琴「んっ・・・はぁ、そう・・・?」
上条「・・・なんかテクパトルがハマるのも分かる気がする」
美琴の体温は体を通して感じることができる
それに、この体勢だとよく背中が見える
そう、テクパトルにはもってこいだろう
ちなみにテクパトルは別に素股が好きなわけではない
ただ本番が出来なかったときに代わりとして数度行っただけなのだが
上条「・・・んっ」
美琴「はぁ・・・あ、そこいい・・・」
上条「お、ここですか?」
美琴の下半身のコリコリとした突起を上条が突いてみる
ビクビク、と美琴は気持ち良さそうに体を震わせる
上条もまた、美琴の愛液で温められたせいで限界寸前だった
上条「こ・・・これは・・・」
美琴「・・・イきそう?」
上条「あ、あぁ」
美琴「いいわよ、一回スッキリしなさいよ」
上条「・・・なんか、エッチですね」
美琴「・・・言ったでしょ、今日は特別」
上条「お、そりゃ嬉しいな」
美琴「・・・!!」
上条「あ、今イっただろ・・・」
美琴「いいから・・・早く来なさいよ」
上条「じゃあ遠慮なく」
腰の動きを早め、上条がラストスパートをかける
クチュクチュ、という音は部屋に響いていた
もしかしたら隣の部屋にまで聞こえるのでは、と思うほど大きな音だ
それだけ美琴の愛液が多いのだろう
美琴「あぁぁっ!!はぁっ!」
上条「・・・イくっ!」
ビュルッ、と肉棒から精液が飛び出す
美琴「・・・熱い・・・」
上条「はぁ・・・なんか普段より疲れるんですけど・・・」
上条がベッドに寝転がる
けだるさと開放感で、頭がチカチカとする
美琴「・・・私も・・・」
上条「美琴ー」
上条がゴロゴロ、と美琴の元に転がっていく
そして、ぎゅっとその体を抱きしめる
美琴「ん、当麻ちょっと汗かいてる」
上条「美琴もな」
美琴「・・・熱いね」
上条「でもエアコンはなぁ」
ははは、と二人が苦笑する
上条「・・・はぁ、もうちょい待ってな」
美琴「わ、分かってるわよ」
上条「美琴は今すぐやりたいんじゃないか?」
美琴「んなことないわよ!」
上条「・・・あ、美琴さん、おなかに・・・」
上条が美琴のおなかを見つめる
さきほどまでの行為のせいで、そこには精液が飛び散っていた
美琴「・・・ドロドロしてる」
おなかに手を這わせ、美琴は虚ろな目をする
上条「・・・あ、舐めるんですか?」
美琴「・・・なんでそんな考えになるのよ」
上条「なんか手に取ったから」
美琴「違うわよ・・・ちょっと汚れちゃったなって思っただけ」
上条「あー・・・そういうことですか」
美琴「・・・まだ5時なんだ」
上条「ん、もうそろそろみんなも帰りだす頃かな」
上条が時計を見つめる
一端覧祭は明日まで
今日はこうやってずっと二人きりで愛し合ってもいい気がしてきた
上条「・・・よいしょっと」
美琴の体を引き寄せ、その胸をいじりだす
美琴「・・・もうやるの?」
上条「こうやってるとなんか落ち着きます」
美琴「もしかして・・・マザコン?」
上条「え、なんで?」
美琴「胸って母性の表れみたいだし・・・」
美琴が上条に答える
つまり、それが好きと言うことは・・・
上条「んー・・・というよりもこれをやってるときの美琴が好きだな」
グリグリ、と乳首をいじめる
それだけで美琴は遠くに連れて行かれそうになる
上条「・・・どう?」
美琴「・・・気持ちいいわよ」
後ろ向きなので、顔は分からないが
きっと真っ赤になっていることだろう
上条「・・・やわらかいなぁ」
美琴「ちょっと小さいんじゃない?」
上条「小さいかな?」
上条が首を捻る
上条が知る限り、美琴より胸の小さい知り合いは何人かいた
某ロリっぽい先生とか某暴食シスターとか
もちろん、美琴より大きい胸の持ち主が多いことは事実だ
しかしそのほとんどは美琴より年上
一概に比べるのもおかしいだろう
上条「美鈴さんって胸、大きいだろ?」
美琴「・・・それで?」
上条「だから将来、美琴も大きくなるんじゃないか?」
グリグリ、と上条はまだ手を動かしていた
美琴「・・・そうだといいな」
上条「でもさ、このままでも十分じゃないか?」
中学二年生ならこんなものだろう
むしろ、若干は大きい部類に入るかもしれない
グラマラスというよりもスレンダーなタイプなので、あまり大きすぎても不釣合いになってしまう
上条「・・・いい大きさですよ」
美琴「そ・・・そう・・・っ!」
はぁっ、と息を大きく吐いてから美琴が体を震わせる
上条「・・・イきましたね」
美琴「・・・いちいち言わないでよ」
上条「確認ですよ」
美琴「・・・当麻は?」
上条「んー・・・ちょっと待っててな」
上条がベッドから立ち上がりタンスへ向かう
いつもはそこに「コンドーム」があるはずだ
二人はまだ恋人の身であるため、ちゃんと避妊をしようと決めていたのだ
しかし
上条「あれ、ない」
美琴「え?」
箱は空っぽだった
不幸
いつの間にか、コンドームを使いきっていたのだ
それから10分後
二人は近くのスーパーへ向かっていた
ここには一応コンドームも売っている
それを買うのはついでで、今日の食材を購入するのが目的だ
目的は、あくまで食材だ
食材だ、いるのはあくまで食材だ
上条「・・・食材だ!」
美琴「・・・中途半端なとこで終わったわね」
上条「う・・・不幸です・・・」
美琴「・・・はぁ」
美琴はさきほどからずっと溜め息をついている
二人で愛の再確認→ラッキースケベで噴水に落ちて服がビショ濡れ→そして・・・
の完璧な流れ
なのに最後だけ「ゴムがありませんよぷぷぷのぷー」というものだ
誰かが呪っているのでは、と思うほどナイスなタイミングでの欠陥
上条(青ピあたりの呪いだろうな・・・)
美琴「・・・でも昼間はいい雰囲気だったから許すわよ」
上条「・・・あと一息でしたね」
完璧な夜
それを過ごすための材料は揃っていたのに
上条「でも・・・こういうのも俺たちらしくないか?」
美琴「んー・・・当麻には不幸がお似合いかもね」
上条「それはやめてくれよ・・・」
美琴「お似合いじゃない」
あはは!と美琴が笑う
どうも機嫌は直ったようだ
上条「で・・・今日は何を食べますか?」
美琴「うーん・・・ちょっといいものが食べたいかな」
美琴がいろいろとビジョンをめぐらせる
焼肉?すき焼き?
美琴「・・・鍋がいいんじゃない?寒いし」
上条「お、いいな」
美琴「じゃあさっさと行きましょう」
美琴が嬉しそうに駆けていく
スーパーに入ると、見覚えのある一家がいた
テクパトル「・・・はぁ、最近は肉が高いな・・・」
19090「ですが、かわりに野菜が安くなっていますよ?」
御坂妹「テっくんからしたら貴重な蛋白源は大切なんですね」
10039「マッチョは大変ですね、クスクス」
テクパトル「口に出してまで嘲りを表すな」
20000「ねーねー、結局今日は何食べるの?」
テクパトル「・・・何がいい?」
トチトリ「あれだ、日本のヤミナーベが食べてみたい」
テクパトル「闇鍋は食事と言うより罰ゲームだ・・・」
上条「おーっす、みなさん仲良しで」
テクパトル「あれ?上条か・・・あのあとどうなったんだ?」
上条「・・・まぁいつもの不幸でてんやわんや」
テクパトル「ふーん」
美琴「みんなも今晩の買い物?」
13577「はい、何を食べるか意見が分かれています」
17600「ようお姉様、今日の歌は素晴らしかったぜ」
美琴「あ、ありがと」
テクパトル「しかしあんな大胆な歌を歌うなんてな」
上条「あれ?テクパトルって歌詞カード持ってたっけ?」
テクパトル「俺はもともと英語圏出身なんだがな・・・」
テクパトルが溜め息をつく
14510「ねぇねぇテっくん、あの歌はどんな意味があったんですか?」
テクパトル「ん、まず最初の・・・」
美琴「ダメ!!なんか恥ずかしいから!」
御坂妹「これは逆に知りたくなってしまう反応ですね」
上条「いやいや、本当にやめてくれよ・・・」
テクパトル「ま、二人がそう言うなら言わないよ」
テクパトルがまた陳列棚に目を移す
上条「・・・うわ、肉がまた高くなってる・・・」
テクパトル「なんでも今年は少し生産数が減ってるんだとよ」
テクパトルが肉を適当に取る
「ニュージーランド産」と書かれた肉も、なぜか高くなっていた
上条「輸入品も高くなるのか?」
テクパトル「輸出する側からしたら、少しでも高く売りたいんだろ」
はぁ、とテクパトルが溜め息をつく
テクパトル「日本が肉不足で悩んでたらここぞとばかりに高く在庫を売りつける、残飯処理と金儲けの一石二鳥だ」
上条「・・・なんか、生々しい話だな」
テクパトル「俺はそういう話は得意なんだよ」
二人が力なく笑う
美琴「所帯じみてるわね・・・」
19090「もうすっかりお父さんです」
トチトリ「昔のあいつを知ってるとどうもギャップに苦しむよ」
トチトリが苦笑する
美琴「ねぇ、昔のテクパトルってどんなだったの?」
トチトリ「うーん・・・」
昔のテクパトルをトチトリが思い出す
「おい、さっさと動けよ・・・お前らが動かねぇと上がうるさいんだよ」
「なに?一人、二人死んだくらいで騒ぐな」
「情けない顔だな、死にそうになったとたんに命乞いか」
トチトリ「簡単に言えば、クズ?」
美琴「クズ・・・」
トチトリ「あぁ、人の命をなんとも思わなかったし部下には荒かったし・・・」
トチトリ「私とショチトルの体いろいろ弄繰り回し・・・」
そのとき
バキリ、と音がした
19090号が手の中にあったカゴの取っ手を握りつぶした音だ
トチトリ「お?」
19090「・・・弄くり・・・回した?」
トチトリ「あぁ、もうそれはひどいくらいに・・・あれ?」
19090「テっくん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
上条とお肉会談を開いていたテクパトルが肩を震わせる
テクパトル「な、なんだ!?」
19090「テっくんは・・・トチトリやショチトルの体を弄繰り回したんですか!?」
テクパトル「てめぇトチトリ!!何ウソついてやがんだ!!」
トチトリ「えー、だって私のことなんか骨抜きにしたもん、中とかいじりまくって」
テクパトル「そういう言い方がややこしいんだよ!!!」
上条「な、なんの話?」
テクパトル「いいか19090号、トチトリはちょっと妄想癖があるんだ!!!」
19090「は、はぁ・・・」
トチトリ「おーい」
テクパトル「黙ってろ」
美琴「ねぇねぇ、テクパトルってなんか可愛そうな人じゃない?」
御坂妹「ラッキースケベをスケベと思いませんもんね」
10039「というより、もはや迷惑がってますし」
美琴「いや、そういう意味じゃなくて」
20000「テっくんはいろいろ冗談が通じないんだよ」
17600「真面目でいいじゃないか」
美琴「あ、このお肉いいんじゃない?」
上条「高いから!」
テクパトル「・・・そういえば、二人は晩飯どうするんだ?」
テクパトルがトチトリとの言い争いを終え、二人に問いかける
上条「そうだな・・・どうしようかな」
美琴「鍋か焼肉・・・かしら」
テクパトル「じゃあどうせだし俺たちと食べないか?」
美琴「え、いいの?」
テクパトル「あぁ、二人がいいなら」
上条「じゃあ遠慮なく」
なんか大切なことを忘れている気がする
しかし、今の二人はそんなことを忘れていた
美琴「・・・そういえばテクパトルたちの家でご飯食べるのは初めてね」
御坂妹「家、といっても病院の一角ですが」
19090「カエル医者さんが優しく提供してくれています」
テクパトル「先生には世話になるなぁ」
上条「あぁ、あのナース大好きな先生か・・・」
テクパトル「?なんか言ったか?」
上条「いや、関係ないよ」
テクパトル「?」
上条が今晩の食材を選んでいく
今晩の食材
今晩?
夜?
上条「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
テクパトル「どした?」
上条「い、いや、なんでも!!!」
上条が慌てて手を振る
上条(忘れてた・・・コンドームもついでに買うんだった!)
妹達の前でさすがにそれを買う勇気は無い
かといって、このまま買わなければ少なくとも明日まではお預けだ
上条(どうしようどうしよう!?)
テクパトル「なぁ義姉さん、今日は何が食べたい?」
美琴「うーん・・・鍋でいいんだけど」
トチトリ「お、ヤミナーベか」
テクパトル「だかそれはしないからな」
美琴「当麻は何がいい?」
上条(どうする!?どうしよう!?そのようにすれば!?)
美琴「当麻?」
上条「や、やっぱり買えないよな!?」
美琴「?ご飯は買わないと」
上条「あ、あぁそうだな!」
上条が慌てて意味の分からない反応をする
テクパトル「どうした、なんか慌ててるな」
上条「いや、なんでもない!」
19090「じゃあ・・・何を食べるか・・・決めないといけませんね」
20000「なー、何食べるんだよー」
17600「早く決めろよこのリア充」
上条「おいおい!!17600号ってそういうキャラじゃないよな!?」
御坂妹「こら、何を食べるか早く決めなさい」
上条「・・・な、鍋でいいですよ」
はぁ、と上条が溜め息をつく
テクパトル「じゃあ・・・」
テクパトルは慣れた手つきでどんどんと食材をカゴに入れていく
上条「な、慣れてるな」
美琴「・・・なにこのお父さん・・・」
テクパトル「んー・・・みんなは入れてほしい食材あるか?」
20000「おいしいもの」
19090「じゃあ・・・水菜を」
上条「・・・なんか、いろいろあるな」
美琴「はぁ・・・ていうか何鍋にするの?」
テクパトル「あぁ・・・それも決めてなかったか」
トチトリ「?ヤミナーベ・・・」
テクパトル「みんなは何がいい?」
13577「すき焼きがいいです」
20000「はー?あんな味の濃いのいやだし、ここはシャブシャブだろ」
御坂妹「ちっちっち、ここはチャンコ鍋でさっぱりと」
14510「ジンギスカンを」
テクパトル「・・・チャンコかシャブシャブかすき焼きのどれかな」
14510(ちっ)
テクパトル「はい、じゃあ多数決なー」
テクパトルがそれぞれの鍋の、どれがいいかを手を上げさせる
テクパトル「・・・シャブシャブが人気だな」
上条(・・・くそ、どさくさにまぎれてゴム買わないと・・・)
20000(こいつ、ゴム買いたいとか思ってそうだな)
美琴「ねぇ、シャブシャブのタレはあるの?」
テクパトル「ゴマとポンダレはあるぞ?」
トチトリ「ヤミナーベは?」
テクパトル「それはタレじゃない」
上条「うーん・・・じゃあ、これくらいでいいんじゃないか?」
上条がテクパトルの持っているカゴを見つめる
テクパトル「じゃ、帰るか」
20000「チャンコって小さなヤを抜かすと危ないよな」
テクパトル「黙れ」
上条(よし・・・今の間に・・・)
上条「あ、俺ちょっとトイレ行ってくるな」
テクパトル「あぁ、レジで待ってるから」
上条(よーし!一人になれましたよ!)
上手い策略で一同と別れた上条は、スーパー内の薬局にやってきていた
上条(えーっと・・・あったあった)
お目当ての商品を見つけ、上条が手を伸ばす
と、誰かの手とぶつかった
19090「あ」
上条「お?」
上条「お?」
19090「・・・あ、あの・・・」
上条「あ、あれ?さっきまでテクパトルたちと・・・」
19090「お、お義兄様こそ、お手洗いでは・・・」
二人が手を伸ばしたのは紛うことなき「コンドーム」だ
上条「お、お前も必要なのか?」
19090「テ、テっくんは今レジですから」
上条「お、女の子に買わせるってなかなかにひどいな」
19090「ミサカが勝手に買いに来たんです・・・」
上条「あ、あぁ・・・なるほど」
19090「・・・」
上条「・・・」
非常に気まずい
こういう状況は初めてだった
これが赤の他人だったらどれほどマシだっただろうか
しかし、彼女は友達だ
自分の彼女の妹なのだ
上条「・・・お前も、大人になったんだな」
19090「・・・はい」
それだけの会話を済ませた二人は、まるで何もなかったかのようにコンドームをレジに持っていく
傍から見たら二人が恋人のように見えるだろう
だがそういうわけではない
「これください」の言葉がかつてこれほど緊張する意味合いをもったことがあっただろうか?
とりあえず、無事に買うことは出来た
上条「・・・ただいま」
テクパトル「よっ・・・って19090号と一緒か?」
19090「あ、偶然会ったもので・・・」
テクパトル「へぇ・・・」
テクパトルが不思議そうな顔をする
上条「いいからいいから、俺腹ペコなんだよ!」
誤魔化すように上条が手を振る
テクパトル「ん、じゃあ急いで帰るか」
美琴「じゃ、お邪魔することになるわね」
トチトリ「狭いところだが気にしないでくれ」
テクパトル「お前が言うな・・・」
はぁ、とテクパトルが溜め息をつく
少しスーパーから歩くと、テクパトルたちが居候している病院にたどり着いた
上条「なんか・・・懐かしいな・・・」
美琴「懐かしいって・・・」
上条「いやー、何度と無くここにはお世話になりましたよ」
上条が苦笑する
それに、記憶があるかぎり最初にいた場所はここだ
テクパトル「お前はケガしまくるからな」
上条「不幸ですね、うん」
そう言いながら上条は懐かしい入り口・・・
ではなく裏口へと連れて行かれた
上条「あれ、こっちからも入れるのか?」
テクパトル「お前な・・・同じ顔した人間が何人もいたら怪しいだろ」
テクパトルがすぐ後ろを歩く妹達を指差す
上条「あ、それもそうか」
美琴「こっちって、従業員入り口?」
テクパトル「まぁそうなってるな」
テクパトルが答えながら長い螺旋階段を登る
4階まで上がったところで病院の中へと入る
上条「あれ?お前たちの部屋って最上階だろ?」
テクパトル「ここからはエレベーターだよ」
テクパトルがエレベーターの前に立つ
この4階は現在、入院患者は一人もいない
そのため無関係な人に見られる心配がないのだ
テクパトル「さすがに階段で最上階まではいけないからな」
美琴「それもそうね」
トチトリ「ここまで登るのもわりと疲れるがな」
上条「・・・あぁ、本当に懐かしい・・・」
美琴「当麻が妹達の件で怪我したときもここに入院したんだもんね」
上条「そうそう、あのときのクッキーは美味しかったなぁ」
昔を思い出しながら二人もエレベーターに入る
車椅子でも乗れるようになのか、エレベーターはかなり広かった
この大人数で乗っても全く狭く感じない
御坂妹「・・・この生活にももう慣れっこですね」
19090「最近は外出する時間も増えましたからね・・・」
10033「いい傾向ですよね」
トチトリ「外出したら負けかなと思っている」
テクパトル「やめろ・・・上条たちはいつも来るときは普通に来るんだっけ?」
上条「そうそう、ついでにあの先生にもあいさつしたりするよ」
美琴「リアルゲコ太ね!」
上条「その呼び方はどうかと思う・・・」
テクパトル「ははは、たしかに似てるな」
上条「っと、着いたみたいだな」
エレベーターの表示が最上階になる
美琴「んー・・・なんか病院の匂いね」
トチトリ「私はこの独特の雰囲気は好きだな」
テクパトル「いるよな・・・注射とか好きなヤツ」
20000「硬いのを入れられちゃうのが好きなんだよ」
テクパトル「とりあえず減点な」
20000「」
上条「えーっと・・・あぁあった」
テクパトルたちの部屋の前に立つ上条
何度かこの部屋には訪れていた
美琴「・・・じゃあ、お邪魔します」
テクパトル「あぁ、どうぞ」
テクパトルが鍵を開ける
見慣れた光景だ
テクパトル「はー・・・今日はいろいろ楽しかったな」
19090「お姉様の演奏とかですね」
美琴「ん・・・そうね」
御坂妹「あ、そういえばあの歌詞は・・・」
美琴「だからダメだって!」
上条「・・・とりあえず、俺とテクパトルで鍋の準備はしとくか」
テクパトル「そうだな、みんなはテレビでも見ててくれ」
美琴「ん・・・じゃあお言葉に甘えて」
御坂妹「手伝いがほしくなったら言ってくださいね」
上条「あいよー」
ミサカたちとトチトリはテレビの前で座りながら談笑していた
美琴「んー・・・どうでもいいんだけど、この25時間テレビって偽善的よねー」
19090「そんなこと言ったら消されてしまいますよお姉様・・・」
10039「だって高額のギャラが出されるのにチャリティーとか言ってるんですよ?」
美琴「そうね・・・24時間ダウンタウンのトーク聞いてたいわ」
トチトリ「それはそれで恐ろしいことになりそうだな」
10039「あー、25時間枠がムダですね・・・」
20000「まぁまぁ、こんなチャンネル変えようぜ」
美琴「・・・はぁ、あんまりいい番組はないわね・・・」
20000「仕方ないよ、だってこんな時期だよ?」
御坂妹「もう少ししたら年末特番が増えますがね・・・」
トチトリ「あー、くそー、ヒマー」
19090「・・・ミサカはテっくんを手伝いに行ってきます」
美琴「ん、私も」
二人が立ち上がってキッチンへ向かう
そこでは、男二人が真剣な会話をしていた
テクパトル「上条、あの歌の歌詞は分かったか?」
上条「あぁ、美琴から歌詞カードもらったからな」
テクパトル「そっか、よかったよ」
上条「?何が?」
テクパトル「・・・あの歌、義姉さんの気持ちそのままみたいだからな」
上条「ん、俺もあんな気持ちだよ」
テクパトル「うらやましいな、ホント」
テクパトルが笑う
とてもうらやましそうに
テクパトル「・・・お前たちは、綺麗な人生を歩んできたんだからな」
上条「綺麗だったかどうかはわかんないけどな・・・」
テクパトル「綺麗に違いないさ」
上条「・・・そうかな」
トントン、と野菜を切る音だけが響く
上条「・・・形になった夢さながら、か」
テクパトル「お前の右手で壊さないようにな」
上条「あぁ、壊さないように抱きしめるよ」
テクパトル「・・・それがいい」
上条「・・・お前は、19090号に歌とか贈ったりしないのか?」
テクパトル「あまりそういう歌は聴かないんでな」
上条「・・・もったいないぞ」
テクパトル「わざわざ歌に乗せるほどでもあるまい」
上条「・・・なんで?」
テクパトル「お互いの思いは分かってるからな、素直に伝え合ってるし」
上条「いいな、そういう関係」
テクパトル「そうか?」
上条「あぁ、俺たちはいちいち口にしないと分からないからさ」
ははは、と上条が笑う
テクパトル「・・・口に出来るのは純粋だからだろ」
上条「・・・お前も、口にするじゃないか」
テクパトル「そうだな・・・」
上条「・・・19090号と将来のこととか考えてるのか?」
テクパトル「おいおい、こっちの事情に深く突っ込みすぎじゃないか?」
上条「義弟夫婦だからな」
テクパトル「夫婦ってな・・・」
上条「でもさ、結婚するんじゃないのか?」
テクパトル「・・・したいさ、そりゃな」
テクパトルが手を休める
包丁の音も消え、キッチンに静寂が戻ってくる
上条「でも、なにかひっかかりがあるのか?」
テクパトル「・・・ちょっとな」
19090(ひ、ひっかかり・・・ですか?)
美琴(なんか、隠し聞きはよくないんだけど・・・)
テクパトル「あいつとの間に子供が生まれたら・・・きっと、浅黒い子が生まれるだろ?」
上条「あぁ、そうだな」
テクパトル「それってさ・・・イジメられないかなって思ってさ」
上条「?なんでだよ?」
テクパトル「子供ってのは単純だからな」
テクパトルが苦笑する
人間の醜いところを誰よりも知っている彼だからこそ
そういう問題に気がつくのだ
上条「肌の色の違い・・・か、でもそれだけか?」
テクパトル「もちろんそれだけじゃないさ、俺は人として間違った行為をしてきた」
テクパトル「そんな俺が幸せになっていいのか、とたまに迷うのさ」
上条「今のお前は変わったんだろ?」
テクパトル「そうだな、でも迷ってしまう」
上条「・・・」
テクパトル「はぁ、本当は結婚したいし子供だってほしいんだぞ?」
上条「なんだ、ならいいじゃないか」
テクパトル「そうやってパっと決められる辺りお前はバカだよ・・・」
上条「う・・・バカもたまにはいいもんだぜ?」
テクパトル「・・・そうかもな」
19090(・・・テっくんとの子供だったら、美月は絶対に守ってみます・・・)
美琴(・・・いろいろ問題があるわね・・・)
上条「・・・よし、だったらお前たちの子供は俺と美琴の子供と仲良くさせるよ!」
テクパトル「・・・そうか、それは嬉しいな」
上条「だからさ、悩むなよ」
テクパトル「・・・あぁ、分かった」
上条「・・・なんか、こんな会話って父親同士みたいじゃないか?」
テクパトル「そうだな・・・もう幼稚園児の父親って感じだ」
苦笑してから、テクパトルがまた野菜を切り出す
テクパトル「・・・ところで、19090号と義姉さんはなんで立ち聞きしてるんだ?」
美琴「ふぁっ!?」
19090「き、気づいていたのですか!?」
上条「あれ、いたのかよ」
物陰から二人がそそくさと出てくる
美琴「そ、その・・・立ち聞きするつもりはなくて・・・」
19090「て、手伝いに来たら偶然・・・」
テクパトル「はぁ・・・分かったよ」
19090「お、怒ってますか?」
テクパトル「いや、ただなんか恥ずかしいかな」
美琴「・・・アンタも真剣に考えてるんじゃない」
テクパトル「当たり前だろ、子供の恋愛じゃないんだから」
上条(お、大人だなおい・・・)
19090「・・・テっくん、その・・・」
テクパトル「ほれ、手伝ってくれるんだろ?」
テクパトルが少し立ち位置をずらす
隣に19090号が立てるように
上条「・・・優しいな」
テクパトル「そうか?お前も義姉さんと二人だとこういうことやるだろ?」
美琴「当麻はそこまでさりげなくはやらないわよ」
美琴が苦笑する
上条なら、もっと後ろから抱きしめたりするだろう
上条「・・・あの、それは悪口?」
美琴「うーん・・・ノーコメントで」
テクパトル「ははは!!やっぱ二人は仲良しだな」
テクパトルが大声を上げて笑う
上条「・・・どこに笑う要素が・・・」
テクパトル「いやいや、ほほえましくてな」
テクパトルが目元の涙を拭う
そこまで彼が大笑いするのは珍しかった
美琴「・・・ほら、口動かしてるなら手を動かしなさい」
美琴は少し顔を赤くして野菜を切っていく
上条「よし、俺が一番早く野菜切ってやるよ!」
テクパトル「ふん、俺のほうが早く切れるがな」
19090「おっと、ミサカもなかなかの腕前ですよ?」
美琴「私だって!」
四人がくだらない競争を始める
たくさんの野菜がどんどん切られていく
笑いながら、でも真剣に
上条「あいた!!!指切ったーー!!!」
美琴「当麻ーーー!!!!!」
19090「ば、絆創膏を!」
テクパトル(冷静に考えれば俺たちなにやってるんだろうな)
御坂妹「なんかキッチンがにぎやかですね」
13577「ちくしょう・・・ミサカも行ってみたいです・・・」
17600「キッチンにはそんなに大人数は入れないぞ」
トチトリ「あー、しりとり!」
20000「リンデロン」
トチトリ「終わったな、っていうかそれ分かる人いるのか?」
御坂妹「・・・あ、そういえばトっちゃんは正月はどうするのですか?」
トチトリ「またこっちに来るよ、だって正月は日本がいいからな」
10033「餅とか美味しいですからね」
トチトリ「そうだな・・・おせちも食べたい」
17600「トチトリがいれば楽しいかもな」
トチトリ「お、あおあおあおあおあおあおあお!?」
御坂妹「お、これはなかなかに恋の予感ですね」
14510「はぁ、うらやましいですね」
テクパトル「みんなー、準備できたぞー」
19090「食卓に来てくださいねー」
御坂妹「はーい、行きますよ」
トチトリ「」チーン
17600「トチトリ、行くぞ」ズルズル
トチトリ「引っ張られるー」
上条「ふー、痛かったな」
美琴「大丈夫、当麻?」
上条「包丁での傷はすぐくっつくからな」
美琴「綺麗な傷口は再生が早いものね」
トチトリ「なぁ・・・そういう話は食事前にはしてほしくないんだが」
上条「あ、悪い」
19090「じゃあ、いただきましょうか」
テクパトル「ん、いただきます」
ミサカ一同「いただきます!!!」
上条「肉肉!」
美琴「もう、肉ばっかり食べると太るわよ?」
テクパトル「肉肉・・・」
19090「もう、お肉ばっかり食べるとマッチョになっちゃいますよ?」
17600(なにかおかしい)
上条「あ、そういえば今日面白い番組があるんだぜ?」
10033「ん?さっきまではそんなものありませんでしたよ?とミサカは・・・」
上条「夜にな、一端覧祭のVTRが流れるんだよ」
テクパトル「あぁ、そういえばそうだったな・・・」
美琴「そうか・・・たしか見られなかったスケジュールを見られるからかなり人気なのよね」
上条「全部の曲がやっちまうんだろ?他のバラエティーは涙目だよな」
そう言いながら上条がテレビをつける
美琴「そうよね・・・この時間は学園都市の中のテレビは全部内輪受けだから」
テクパトル「外のコマーシャルなんてやるんじゃなくて、中の企業ばっかCMするからな」
19090「あ、このチャンネルはどうですか?」
適当にチャンネルを回す
すると、なにやら見覚えのあるVTRが映っていた
これは
御坂妹「あ、お姉様の演奏ですね」
美琴「」
あの、美琴の感動のステージだった
御坂妹「テっくん、この歌詞はどういう意味なんですか?」
テクパトル「ん、ここは、君はまるで形になった夢のようだ・・・」
美琴「言うんじゃないわよ!!チャンネル変えて!」
美琴がリモコンを奪い取り、チャンネルをザッピングする
しかし、どのチャンネルも同じ映像だった
美琴「な、なんでよ!?」
テクパトル「それほど人気だったんじゃないか?」
20000「おー、垣根も歌上手いよねー」
トチトリ「ほう、これは真っ直ぐな歌詞を選んだな」
美琴「垣根よ!垣根に無理矢理歌わされたのよ!」
17600「恥ずかしがることじゃないぜ、お姉様」
19090「そうですよ、人を好きになるのは素晴らしいことです」
美琴「だ、だからって・・・って何どさくさにまぎれて当麻は録画ボタン押してるのよ!?」
上条「あとで焼き増ししてもらっていい?」
テクパトル「あぁ、いいぞ」
美琴「こらー!!」
上条「はぁ・・・上手いなぁ・・・」
テクパトル「ん、観客もうっとりしてたもんな」
美琴「もういや・・・」
20000「毛布なら貸すよ?」
美琴「うん、貸して・・・」
美琴が毛布で顔を覆う
上条「お!!美琴が歌いだした!」
19090「これはみんなで注目しましょう!」
美琴「やめてよ!」
上条「か、可愛いなぁ・・・」
テクパトル「あ、肉肉」
トチトリ「いやぁ、本当にほほえましいカップルだな、爆ぜろよ」
上条「なんでだよ!?」
テクパトル「・・・いい歌詞だな・・・」
19090「あ、終わりましたね」
上条「あ、次は長点上機だな」
上条が画面にくらいつく
能力を使ってさまざまな現象を引き起こしている
テクパトル「うわ・・・こりゃどういう能力だ?」
上条「たぶん・・・トリックアートだと思う」
テクパトル「あの視覚操作系か?」
上条「あぁ・・・でも、他の能力も混ぜてるんだと思う」
美琴「これ、たぶん光学系よ、視覚操作だけじゃないと思うわ」
上条「へぇ・・・そうなのか?」
美琴「うん、大能力者じゃないかしら」
トチトリ「なぁなぁ、なんの話?」
19090「能力・・・ってトっちゃんはあまり知らないんですね」
17600「まぁ気にするな」
御坂妹「しかし、派手なパフォーマンスですね」
20000「まぁ大覇星祭と違って能力やりたい放題だからね」
上条「すげぇな・・・」
美琴「うーん・・・でも私からしたらそうでもないかな」
テクパトル「そりゃ常盤台にはたくさんヤバいヤツがいるからな」
美琴「ヤバいヤツって・・・」
上条「でも、このパフォーマンスは人気だろうな」
VTRにはたくさんの観客が映っている
みんな、かなり目を輝かせている
上条「こりゃ、来年はまた新入生が増えるな」
美琴「そうね・・・うらやましい」
御坂妹「はぁ・・・おなか一杯です・・・」
19090「寝転ぶと牛になりますよ?」
御坂妹「モーモーミサカです」
20000「なにそのマスコットみたいな名前」
上条「はぁ・・・ちょっと喉渇いたな」
美琴「ねぇ、飲み物もらっていい?」
テクパトル「あぁ、ジュース持ってくるよ」
テクパトルが立ち上がって冷蔵庫へと向かう
テクパトル「リンゴジュース・・・?なんでワインがあるんだよ?」
テクパトルが首を傾げる
買った覚えはない
つまり、ミサカたちが買ったのか
テクパトル「おい、誰かワイン買ったのか?」
トチトリ「あー、それ私のだぞー」
テクパトル「はぁ?」
トチトリ「ちょうどよかった、持ってきてくれよ」
テクパトル「お前、酒飲むのか?」
トチトリ「あぁ、酒は最高だね」キリッ
テクパトル「どや顔はやめろ」
上条「お、ブドウジュースもらいー」
美琴「うん、美味しい」
テクパトル「ほれ、19090号」
19090「ありがとうございます!」
テクパトル「はい、10032号も注ごうか」
御坂妹「・・・じ、自分で注げますから!!」
テクパトル「」
テクパトル「なぁ、これが親離れなのか?」
19090「テっくん、テーブルクロスの端っこをいじるのはやめてください・・・」
テクパトル「これが、父親の末路なのか?」
19090「大丈夫ですよ、テっくん」ヨシヨシ
17600「なにやってんだテっくんは」
トチトリ「あいつのああいうとこはあんまり見たくないな」
17600「なんだ、昔のテっくんのほうがいいのか?」
トチトリ「いや・・・ただギャップがな」
17600「まぁ、いつもは真面目だぞ?」
上条「ん、トチトリはワインか?」
トチトリ「いやぁ、大人の嗜みだよ」
テクパトル「二十歳も超えてないのになにが大人だよ・・・」
トチトリ「うるせぇロリコン」
テクパトル「ロ・・・」
テクパトルが頭に青筋を浮べる
だが、たしかに年齢差では一番差の激しいカップルではある
トチトリ「あーあー、年が離れてると結婚とか・・・苦労するぜ?」
テクパトル「うるせぇ!!なんでお前にそんな心配されなきゃなんねぇんだよ!?」
上条「そういえば、テクパトルはもう成人してるもんな」
20000「あぁ、普通にお酒飲めるんだ」
美琴「妹達は年齢はあんまり関係ないから大丈夫よ?」
19090「あ、愛に年齢は関係ありません!」
テクパトル「なんで必死にフォローされてる感じなんだよ!?」
トチトリ「うるせぇロリコン」
テクパトル「あぁ!?」
トチトリ「ロリコン、あ、もしかして私を家に泊めたのも・・・」
テクパトル「ちげぇよ!!」
トチトリ「あぁ、胸が小さくないとダメなのかテクパロリ」
テクパトル「なんだその意味のわかんない悪口!?」
トチトリ「うるせぇよ、原典に処置を施したんだ」キリッ
テクパトル「・・・」プルプル
トチトリ「お、怒っちゃった?怒っちゃったの?テクパロリ」
テクパトル「俺を一方通行と一緒にするなぁ!!」
上条「なんか兄弟みたいだな、あの二人」
美琴「ホントに昔いがみ合ってたの?」
19090「・・・さぁ」ムスッ
20000「あ、ヤキモチ?」
19090「・・・」
17600「おーいテっくん、それ以上イチャイチャしてると19090号がヤキモチ妬くぞ」
テクパトル「イチャイチャじゃねぇよ!」
トチトリ「ははは、私はトチロリ、10歳の少女」
テクパトル「100%ウソじゃねぇか!!」
トチトリ「え、ロリコンは真のロリと偽のロリを見分けられるの?」
テクパトル「お前ここぞとばかりに俺をけなしてるだろ!?」
トチトリ「復讐さ」キリッ
テクパトル「スケールが小さいんだよ!」
テクパトルが頭を抱える
そういう反応がさらにトチトリを楽しませるのだが
小さい頃からあまりそういうけなしあった経験のない彼には分かるわけもない
19090「楽しそうですね、テっくん」
テクパトル「助けてくれよ!」
20000「誰か男の人呼んでー」
10039「この中にお医者様はいませんかー」
10033「いないようですね、ではパイロットの免許をもたれてる方は・・・」
テクパトル「パイロットが倒れたのかよ!?ってちげぇ、俺の疑惑を晴らしてくれよ!」
上条「はー・・・トチトリ、ワインって美味しいのか?」
トチトリ「あぁ、美味しいぞ」
美琴「・・・ホント?」
上条「あぁちょっと待って!美琴は飲んじゃダメだぞ!?」
美琴「わ、分かってるわよ!」
20000「ミサカたちは戸籍がないから年齢制限なしー」
テクパトル「ダメだからな!!!」
17600「ミサカはいいだろ、酔わないし」
テクパトル「・・・まぁお前はいいかもな」
10033「特別扱いですか!?」
トチトリ「・・・ロリを酔わせて・・・」
テクパトル「ちげぇよ!!」
トチトリ「17600号、私と飲もうか」
17600「お前とはそれはそれで危険を感じるな」
トチトリ(ちっ、バレたか)
17600「おい、目が怖いぞ」
上条「はぁ・・・ジュース美味いな」
美琴「はい、当麻」
上条「お、サンキュー」
テクパトル「はい、19090号」
19090「テっくん、ジュースをあーんしてください」
テクパトル「なんで無茶振りするんだよ・・・」
御坂妹「はぁ、テっくんと19090号のイチャイチャは見ていてイライラします」
14510「テっくん、早くどこぞのラブホにでも行って下さい」
テクパトル「なぁ・・・最近娘達が冷たいんだ・・・」
トチトリ「そりゃ、親がロリコンならな」
テクパトル「だからちが・・・って、ちょっと待て」
テクパトルがテレビを凝視する
さきほどまでは全く面白くなさそうな劇のVTRが流れていた
しかし、今は
テクパトル「・・・あれ、垣根だよな?」
上条「は?」
垣根が映っていた
しかも、なぜかステージの上でバイオリンを構えていた
美琴「・・・ねぇ、垣根って高校に籍はあるの?」
上条「い、一応あるんじゃないか?」
テクパトル「あ、なんか頭に巻いてるハチマキに書いてある」
17600(なんでハチマキなんだよ)
垣根の頭のハチマキには
「垣根帝督は、レッドブルとゲータレードを応援しています」
と書かれていた
上条「きったねぇ!!あれでいくらか金取るんじゃねぇの!?」
美琴「はぁ・・・なにやってんのよあいつ・・・」
垣根「えー、では次の曲・・・as long as i've got you」
上条「なぁ、なに言ってたんだ?」
美琴「曲名よ」
テクパトル「C.R.E.A.Mの元ネタじゃないか」
19090「?でも綺麗なメロディーですね・・・」
テクパトル「・・・はぁ、落ち着くな」
上条「なんだ、垣根ってバイオリンも弾けるんだな」
御坂妹「とても上手いですね・・・」
美琴(・・・私よりも上手い・・・)
トチトリ「あー、ワインうめー」
19090「何のワインですか?」
トチトリ「ロゼだよ」
17600「あぁ、ほんのりした甘みがいいな」
テクパトル「俺ももらっていいか?」
トチトリ「ロリ・・・じゃなかった、ロゼが好きなのか?」
テクパトル「てめぇな・・・」
トチトリ「ははは、気にするな」
ミサカたち、上条、テクパトル、トチトリ
少し変わった組み合わせ
そのメンバーの夜は、少しずつ過ぎていく
美琴「あ・・・もう遅いじゃない・・・」
ふと美琴が時計を見る
もう午後の10時を回ろうとしていた
テクパトル「ん、たしかに・・・ちょっと長引いたな」
上条「悪いな・・・そろそろ帰るか」
テクパトル「おいおい、いまさら帰るって結構暗いぞ?」
美琴「うーん・・・でも別に危なくはないわよ?」
19090「お姉様もお義兄様も泊まっていってはくれないのですか・・・?」
上条「は、はぁ!?」
上条が驚いたような声を上げる
なぜか他のミサカも期待に満ちた目をしていた
御坂妹「今日は泊まりなんですか?」
美琴「あ、いや・・・」
トチトリ「なんだ、家に帰って二人でしたいことでもあるのか?」
美琴「な、ないわよ!」
20000「どうせ二人でギシアンする予定だったんだろ?」
上条「違うからな!」
テクパトル「なら泊まっていっても問題あるまい・・・風呂もためてるぞ?」
美琴「でも・・・」
美琴が言葉を濁す
あまり広いとは言えない居住スペースだ
ミサカ達だって全員一部屋ずつあるわけではないだろう
そこに二人がお邪魔してもいいのだろうか
上条「・・・みんなは不便にならないか?」
17600「水臭いな、そんなことないさ」
13577「賑やかになるなら嬉しいですよ!」
美琴「じゃあ・・・今日は泊まろうかな」
美琴が少し苦笑しながらつぶやく
19090「じゃ、じゃあミサカと一緒に風呂に入りましょう!」
御坂妹「ミサカも入ります!」
美琴「はいはい・・・みんなで入ればいいでしょ?ちょっときついかもしれないけど」
17600「ミサカは遠慮しとくよ、ゆっくり入りたいからな」
トチトリ「私もあとで、みんなで楽しんでくれ」
美琴「うん、みんな行きましょう」
ミサカ一同「はい!」
美琴を先頭にして、ぞろぞろと風呂に向かう
残ったのは四人・・・いや、五人だけだった
アレイ「・・・上条当麻」
上条「あれ、なんだよお前いたのか」
アレイ「なぁ、私に触ったら治ったりしない?」
上条「ん、消えるかもな、地球のガンは治る」
アレイ「・・・遠慮しとく」
そんな会話をしただけでアレイスターは黙ってしまう
テクパトル「・・・姉妹、か」
上条「あぁ・・・美琴は妹達にとってお姉さんだからな」
17600「ずいぶんと大変だよな、お姉様も」
上条「でもみんなかけがえない妹だと思ってるはずだよ」
17600「分かってるさ」
ははは、と17600号が笑う
トチトリ「・・・姉か」
テクパトル「うらやましいよな、俺達には家族なんていなかったから」
上条「今はたくさんいるじゃないか」
トチトリ「年下の家族がな」
テクパトル「・・・お前はよっぽど俺をロリコンにしたいようだな」
またテクパトルとトチトリが睨み合う
17600「そこまでにしとけ、二人とも」
トチトリ「そうだな・・・」
テクパトル「・・・血のつながった家族か」
上条「・・・でもさ、妹達にとってはお前も大切な家族なんだぜ?」
テクパトル「分かってるさ」
上条「・・・お前はさ、19090号と結婚したらどうするんだ?」
テクパトル「他のミサカも連れて暮らすさ、いまさら別れられるわけないからな」
迷いなどない、という感じでテクパトルが答える
テクパトル「・・・もちろん、他のミサカもいつかは誰かと一緒になるかもしれないな」
上条「・・・そうだな」
テクパトル「その時は精一杯応援してやるつもりさ」
17600「・・・テっくんは優しいからな、ミサカ達を自由にいさせてくれる」
17600号がジュースを口にする
少し酸っぱさのあるオレンジジュースだった
上条「・・・テクパトル、今日一緒に風呂入らないか?」
テクパトル「いいけど・・・どした?」
上条「ちょっと二人だけで話したいことがあるんだよ」
テクパトル「・・・ここでは無理な話か」
テクパトルが17600号とトチトリを見つめる
他人には聞かれたくない話
それはいくつかのパターンに別れる
一つは相談
誰かに悩みを打ち明けるなんて、情けないと感じるのが男だ
出来るかぎり他人には聞かれないようにしてしまう
しかし、上条はそこまでウジウジと悩むはずではない
一つは告白
これはありえない
とりあえず、ありえない
一つは喧嘩
しかしテクパトルと上条は友達だ
第一喧嘩をする理由なんて心当たりはない
ならば最後の一つだろう
何か大切なことを確認したいから
他人という、第三者を介入させずに
二人だけで真剣に話したいのだろう
テクパトル「・・・気になるな、なんの話なのか」
上条「大したことじゃないさ」
二人の男は苦笑した
そして、少し時間は流れ
他の全員が風呂に入り終えたため、最後に上条とテクパトルが入ることになった
ちなみにミサカ達はとても嬉しそうだった
美琴と一緒の時間を過ごせるなんてなかなかない機会だ
それが幸せだったのだろう
彼女達の笑顔を見ているだけで、上条は幸せだった
彼にとっては、大切な友人達なのだから
テクパトル「はぁ・・・風呂は落ち着くよな」
シャワーを浴びながら、テクパトルがつぶやく
上条「そうだな・・・一日の出来事を思い出したり出来るからな」
テクパトル「いいことばかりの毎日とは限らないけどな」
上条「・・・なぁ、テクパトル」
テクパトル「大切な話ってやつか?」
上条「あぁ、ちょっとな」
テクパトル「・・・なんだ?」
上条「・・・妹達のこと・・・どれくらい知ってるんだっけ?」
テクパトル「大体は知ってるぞ、一方通行がLevel6になるための実験で・・・殺されたこと、軍事用のクローンとして元々は作られていたこと」
上条「・・・あいつらが、調整を受け続けなきゃいけないことは?」
テクパトル「知ってるさ、ここはそのための病院でもあるからな」
テクパトルがシャワーを止める
一瞬だけ、いやな沈黙が流れる
シャワーからお湯が垂れる音
上条やテクパトルが少し動く度になる音
そんな些細な音でさえも、この沈黙の中では大きく聞こえてしまう
もしかしたら、冷や汗が床に落ちるだけで音がなってしまうのではないか
そんなことさえ考えてしまう
テクパトル「・・・つまり、基本的にあいつらは短命なんだろ?」
上条「・・・そういうことだな」
テクパトル「・・・それを確認したかったのか?」
上条「あぁ・・・19090号といつか結ばれるんだとしたら、それも肝に銘じておかなきゃならない」
テクパトル「いまさらだな・・・そんなこと、アイツを守ると決めたときから百も承知だ」
上条「・・・辛くはないか?」
テクパトル「辛いさ、俺達みたいな普通の人間よりも繊細なんだから」
かつて、19090号はミサカ達特有の理由から生まれたウイルスに苦しんだことがあった
そのとき、テクパトルは何もすることが出来なかった
あんな思いを、またいつかしなければならないのだろうか
テクパトル「・・・出来ればさ、あいつらの・・・ネットワークとか無くして、少しでも体の負担を減らしてやりたいんだよ」
上条「・・・少しも、か」
テクパトル「悪あがきだとしてもさ」
上条「・・・それが普通だと思う、特に相手が大切な恋人ならさ」
テクパトル「・・・人間はいついなくなるか分からない、あいつらはその可能性が少し高いだけなのさ」
はぁ、と小さくため息をついてからテクパトルが浴槽に浸かる
彼の体積の分だけ、お湯がこぼれ落ちる
なんとかの原理だっけ、なんて全く関係のないことを上条が思い出す
テクパトル「・・・上条、俺はあいつらを守るって決めたんだよ」
上条「俺も出来るかぎり協力するよ」
テクパトル「そりゃ頼もしいな」
上条「・・・悪いな、ヘンな話なんかしちまって」
テクパトル「・・・いや、必要な話には違いないさ」
上条「・・・テクパトル、辛いかもしれないけど頑張れよ」
テクパトル「あぁ、やってみるだけやってみるさ」
上条「それでこそお前だよ」
テクパトル「全く、いつから俺はこんなお人よしになっちまったんだろうな」
上条「・・・昔のお前を知ってるわけじゃないけどさ、今のお前はとってもいいヤツだと思うよ」
テクパトル「それは光栄だな」
上条「・・・妹達のこと、俺からも頼むよ」
テクパトル「義理の兄だからか?」
上条「友達だからだよ」
上条がまっすぐ、テクパトルの目を見つめる
彼がかつて助けた妹達
そして、そんな妹達を今守ってくれているテクパトル
わがままかもしれないが、テクパトルに預けていたかったのだ
かつて、上条が体を張って助けたかけがえのない命を
その灯を
テクパトル「友達として、か」
上条「あぁ・・・頼めるか?」
テクパトル「なにバカなこと言ってるんだよ、上条」
テクパトル「俺はあいつらを家族として守ってきたんだぜ?これからだってそうし続けるのさ」
風呂場で、二人は笑っていた
妹達の幸せを誰よりも願う二人が、無邪気に笑っていた
19090「あ、おかえりなさい」
テクパトル「おっす・・・みんな何してたんだ?」
トチトリ「ん、ワイン飲んでた」
上条「ま、まさかみんなに飲ませたのか!?」
トチトリ「いや、私と17600号だけな」
上条「な、なんだ」
トチトリ「なんだ、お前の彼女にも飲ませてほしかったか?」
上条「んなわけないだろ!?」
美琴「でも・・・なんかいい匂い」
トチトリ「お、だろだろ?」
上条「誘惑するな!」
トチトリ「いやいや、美味しいんだぞ?」
17600「んー、美味だな」
20000「酔わせて襲って生ませて!」
上条「生ませないからな!」
上条が顔を真っ赤にする
10039「テっくんはお酒飲まないんですか?」
テクパトル「そうだな・・・俺は別にあるから」
トチトリ「あ?冷蔵庫に持ってるのか?」
14510「初耳ですね・・・」
テクパトル「ちょっと奥に隠してるからな」
テクパトルがアレイ蔵庫に向かう
アレイ「望みの品はなんだ?」
テクパトル「ビールだ」
アレイ「プランを?」
テクパトル「短縮」
アレイ「よし、受け取れ」
上条(なんだその暗号)
テクパトル「よっと・・・ツマミツマミ・・・」
19090「・・・ビールですか?とミサカは確認します」
13577「うえ・・・それって苦いんですよね?とミサカは少し苦しそうな顔をしながら・・・」
上条「そうなのか?俺は美味しいと思うけど・・・」
美琴「え、飲んだことあるの?」
上条「まぁ・・・いろいろありまして」
テクパトル「どうだ、上条も」
上条「いやいや!!さすがに人前で堂々と罪は・・・」
テクパトル「気にするな、トチトリも飲んでるし」
トチトリ「ビールなんて苦いだけだ」
テクパトル「そうか?苦味が美味いんだよ、小童が」
トチトリ「うるさいな、ロリコンが」
テクパトル「・・・」
トチトリ「・・・」
上条「じゃ、じゃあ!!俺もちょっと飲ませてもらおうかな!」
気まずい雰囲気を感じ取った上条が仲裁に入る
テクパトル「ん、はいどうぞ」
美琴「・・・ねぇ、苦くないの?」
上条「いや、普通に美味しいぞ?」
上条がゴクリ、と一口飲む
こういうのが好きなあたり、もう彼はおっさんなのかもしれない
テクパトル「ぷはー・・・どうだ、スルメいるか?」
上条「なんかオッサンみたいだな」
テクパトル「お前が言うなよ」
19090「・・・テっくん、飲みすぎはダメですよ?」
テクパトル「分かってる分かってる」
17600「お、ミサカもスルメもーらい」
テクパトル「ロゼとスルメは合わないだろ」
トチトリ「17600号の行動に文句を言うな!!」
テクパトル「なんでだよ!?」
10033「はぁ・・・ミサカたちはジュースでいいですよ」
アレイ「私も飲みたいのだが」
テクパトル「ダメだろ、お前は」
美琴「・・・どうなの?味のほうは?」
上条「美味いぞ?美琴にも飲ませてあげたいな」
美琴「の、飲ませてくれない?」
上条「で、でも苦いぞ?」
美琴「・・・だ、大丈夫」
テクパトル「・・・なんか卑猥に聞こえるな」
17600「あの二人は天然エロだからな」
19090「・・・テっくん、ミサカも・・・」
テクパトル「お前はダメだからな!!」
20000「なーなー、ミサカは?」
テクパトル「お前は酔ったらもっとまずいからな・・・」
御坂妹「ミサカは・・・」
テクパトル「あぁもう!!ダメだからな!」
上条「どうだ、美琴?」
美琴「・・・」ポーッ
上条「み、美琴?」
美琴「・・・当麻ぁ・・・」トローン
上条「よ、酔ってる!?たった一口ですよ!?」
美琴「んふふー♪」
テクパトル「あ、酔ったな義姉さん」
17600「まったく、弱いなぁ」
トチトリ「こりゃ面白いことになるぞ」
20000「飲みたいなぁ・・・飲みたいなぁ!!」
御坂妹「テっくん、ミサカたちも酔っ払ってテっくんを困らせてみたいです」
テクパトル「困らせないでください」
上条「み、美琴さん!?何するつもりですか!?」
美琴「熱いの・・・」
上条「だー!!脱ぐなぁ!!!」
テクパトル「義姉さん脱ぐんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
19090(あ、今の隙にちょこっとお酒を・・・)
トチトリ(ふはは、カオスになるぜこりゃ)
美琴「んー?テクパトルも構ってほしいのかなぁ?」
テクパトル「おい上条!!お前が責任を持てよな!?」
上条「決まってるだろ!」
テクパトル「あぁもう!!おい、みんな手伝って・・・」
御坂妹「うへへー、いい気持ちですねー」
19090「あー・・・テっくんー・・・」
10039「おえ・・・吐きそうです・・・」
10033「スルメうめー」
14510「ふひひ、テっくんを困らせてやりますよ・・・」
20000「ペロペロしたいお!!」
13577「・・・熱いです・・・」
テクパトル「ちょっと、出かけてくる」
上条「奇遇だな、俺もそんな気がしてきた」
美琴「え・・・当麻・・・私をおいていくの?」
上条「ちょっとお酒を買いに行くだけですよ!?」
美琴「あ、じゃあいっぱい買ってきてね?」ニコッ
上条「は、はい!」
そんな騒動から、上条は一刻も早く逃げ出したかった
テクパトルも同じだ
だから、適当に言い訳をして逃げてきたのだ
上条「はぁ・・・しばらくは帰れないな」
テクパトル「適当に酒は買ったし、問題ないだろ」
上条「そうだな・・・しばらく時間つぶすか」
二人は酒を買ってから、近くの公園に来ていた
どうしてこうなったのか、とか悔やむことはたくさんある
しかしとりあえず、避難は成功した
上条「はぁ・・・もう二度とミサカDNAは信じない」
テクパトル「昔から酒は弱いんだろ・・・17600号は特殊なだけだ」
上条「・・・月が綺麗だな」
上条がぽつり、とつぶやく
たしかに今日は満月だった
テクパトル「それを男の俺に対して言うな」
上条「?」
テクパトル「・・・なんでもないさ」
テクパトルも、じっと月を見つめる
上条「・・・テクパトルって、月は好きか?」
テクパトル「あぁ、大好きだ」
上条「なんで?」
テクパトル「なんでって・・・」
テクパトルが少し言葉を詰まらせる
19090号に美月、という名前をつけたのは彼だ
だがそれを上条たちは知らない
19090号との秘密、ということだ
テクパトル「・・・なんだか、神秘的じゃないか?」
上条「うーん・・・太陽よりは綺麗だけどな」
テクパトル「・・・太陽を神と祭っている人間には殺されそうなセリフだな」
上条「え、お前はそうなのか?」
テクパトル「・・・昔はな」
テクパトルがさきほど買ったビールを飲む
テクパトル「お前も飲むか?」
上条「・・・お酒はもう勘弁・・・コーラでいいよ」
ついでに買ったコーラを上条が空ける
テクパトル「・・・月はさ、太陽の光を浴びないと輝くことはできないんだ」
上条「たしかそうだったな」
上条にはよく理解できない話ではあるが、なんでも太陽の光を反射して輝いているらしい
テクパトル「・・・太陽がなければ輝くこともできない、それは人間と似てるからな」
上条「人間と?」
テクパトル「・・・他人がいなければ、自分は輝けないからな」
上条「そうか?一人でも人間は輝いてると思うけど」
テクパトル「そういう人間は太陽なんだろうな」
上条「・・・その太陽みたいな人間が、誰かを照らすってわけか」
テクパトル「・・・妹達は月みたいな存在さ」
上条「・・・人目にあまりつかず、ひっそりと輝くことしかできないのか」
テクパトル「そうだな」
周りの人間の助けがなければ永らえることもできない
なんとも儚い存在だ
上条「・・・さて、早く帰らないと怒られるな」
テクパトル「そうだな」
ベンチから立ち上がり二人が病院へ向かう
上条「・・・美琴も、月みたいな存在なんだと思う」
その帰り道、ぽつりと上条がつぶやく
上条「周りからは太陽だと思われてても、実際は儚い月なんだよ」
テクパトル「・・・だったらお前が太陽なんだな」
上条「・・・そうなれたら嬉しいな」
テクパトル「もうなってるさ」
テクパトルが笑う
上条「・・・俺さ、美琴を幸せにできてるかな?」
テクパトル「俺に聞いてどうする、答えなんて分かってるだろ?」
上条「そうだな・・・そうだよな」
テクパトル「帰ってから本人に聞いてみな」
そんな話をしていると、いつの間にか帰り着いていた
ドアの向こうからはなぜか騒がしい音がしている
上条「・・・いやな予感がするんだけど」
テクパトル「奇遇だな、俺もだよ」
二人が急いで部屋の中に入っていく
美琴「そーれイッキ!!イッキ!!」
20000「イッキ!!!イッキ!!!!」
トチトリ「・・・」グビグビ
10033「きゃー!!トっちゃんカッコイイ!!!」
御坂妹「しびれちゃいますよ!!」
トチトリ「ははは!!もっと持ってこい!!」
部屋の中では、酒盛りが行われていた
もう、みんな酔っている
17600号だけはチビチビ、と飲んでいるらしいが
美琴「あ、当麻!!」
19090「テっくん!!一緒に飲みましょう!」
気づかれてしまった二人
もう、逃げることは出来ない
女達が、酒を片手にやってくる
はぁ、と溜め息をついて二人は大声で叫んだ
さっきまでロマンチックだったのに、と思いながら
上条・テクパトル「不幸だーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
垣根「・・・なぁ、機嫌直せよ」
垣根は困った顔でため息をついていた
目の前には、少しふて腐れたような顔の心理定規がいた
心理「あら、別に機嫌は悪くないわよ?」
垣根「思いっきり悪いじゃねぇかよ」
心理「だからそんなことないってば」
心理定規が顔をしかめる
彼女が少し不機嫌なのには理由があった
今日の昼間
垣根は、常盤台の女子生徒と写真を撮っていたのだ
だがそれは大した問題ではない
心理定規だって、彼がそんなことをしたがる人間だということは理解していた
彼は女の子を少し困らせたりするのが好きなのだ
悪趣味、と思う人もいるだろう
だがいじられてる女の子も垣根のようなイケメンと話せるので、わりと嫌がったりはしない
そう、彼が常盤台の女子生徒とツーショットを撮ったのは些細な問題
その場限りで終わる問題だ
しかし、あろうことか彼はその中の何人かとメールアドレスを交換したらしい
浮気を疑うわけではないが、目の前で自分の彼氏が他の女とメールをしているのをニコニコ笑って見ていられるほど図太くはない
垣根「たくよ・・・さっきから言ってるだろ、別にやましい話なんかしてねぇから」
心理「あら、そのわりにあんまりメールの内容を見られたくはないみたいね」
垣根は携帯を若干体で隠すようにしていた
垣根「・・・いいだろ、プライベートだぜ」
心理「・・・そういうのが気に入らないのよ」
心理定規がまた顔をしかめる
一体どんな話をしているのか気になってしまう
メールの内容を見せて安心させてほしい
もちろん、それはただのわがままである
そんなこと、百も承知だった
それでも
心理「気になるのよ、仕方ないでしょ」
彼がメールで文字を打つ度に、彼女の不安は高まっていく
一文字一文字が岩のように乗っかってくるのだ
もしかしたら、愛を交わす言葉ではないか
もしかしたら、浮気のきっかけになるような言葉ではないか
そんなことを勘繰ってしまっても仕方ないといえばそれまでだ
垣根「んー・・・でもさ、常盤台のヤツらは俺にお前がいるなんて知ってるだろ」
心理「・・・世の中には略奪愛って言葉があるのよ」
垣根「一体俺達から何を略奪するんだよ・・・」
もう一度、垣根がため息をつく
たしかに不安にさせてしまう行動ではあるかもしれない
しかし、今のメールの内容を見られるのは少し照れ臭いのだ
垣根「な、俺は絶対にお前を捨てたりはしねぇよ」
垣根が心理定規の隣に座り、優しくキスをする
そのときに携帯を閉じているのが、彼女の不安を煽るのだが
心理「・・・はぁ、あなたがそういう男だっていうのは分かってるし、それがあなたの魅力だとも思うわよ?」
垣根「ならいいじゃねえか」
心理「でもね、たまに不安にさせてることは自覚しなさいな」
垣根「心配するな、自覚はある」
心理「・・・信じられないわよ」
垣根「・・・ったくよ、女心は難しいな」
心理「だからあなたは知ってみたいんじゃないのかしら」
垣根「まぁそうなんだけどさ」
心理「・・・私が教えてあげるって言ってるのよ?」
心理定規が垣根の頬に手を当てる
誘うような動作だ
垣根「おいおい、相手を全部知っちまったら楽しくないだろ?」
心理「・・・全部知ってほしいって思うのはわがままなのかしら?」
垣根「わがままじゃねぇさ、少しばかり青いだけだよ」
垣根が心理定規の手を取る
垣根「・・・気にするな、まぁ少ししたらメールの内容も教えてやるよ」
心理「あら、今はダメなのに?」
垣根「あぁ、後でならいいんだよ」
垣根が意味ありげに微笑む
心理「・・・信じてもいいのかしら」
垣根「それはお前が決めることだけどな」
心理「・・・分かったわ、信じてみるわよ」
はぁ、と心理定規がため息をつく
何度こうやってはぐらかされてきただろうか
垣根はいつもフラフラとしている
どこかに飛んでいってはふらりと帰ってくる
その度に、心理定規は待たされてしまうのだ
心理「・・・ねぇ、私のこと裏切らないわよね?」
垣根「それは信じてるってことか?」
心理「・・・質問してるのは私なんだけど」
垣根「・・・裏切るつもりのときに裏切るなんて素直に言うバカはいないだろ」
心理「・・・それでも言ってほしいのよ」
垣根「裏切るわけねぇだろ、ってか?」
心理「・・・そう言ってもらえたら、待っていられるもの」
垣根「俺が裏切ってたとしたら?」
心理「騙され続けたほうがいくらか幸せよ」
垣根「そりゃ大層なこった」
ごろん、と垣根がソファーに横になる
垣根「まぁよ、とりあえず言っとくけど、お前の損になるようなことじゃないぜ」
心理「あら、もしかしてサプライズか何かかしら」
垣根「それを言ったらサプライズじゃないだろうが」
心理「てことはサプライズなのかしら」
心理定規が一転して嬉しそうな顔になる
垣根「・・・だからそれは言わないんだよ」
心理「あら、照れ屋なのね」
垣根「うるせーな」
今度は垣根がふて腐れる
心理「そうならそうだって言ってくれたほうが気楽なんだけど」
垣根「黙ってろ、そこまで俺は優しくねぇんだよ」
心理「なに、怒ってるの?」
ニコニコ、と心理定規が笑う
こういうところが垣根を困らせる
自分でいうのも何だが、垣根はわりと大人なほうだ
ふざけているのはあくまでふざけようとしているからであって、根っこの部分はかなりクールな人間だ
クールというよりも冷めているのだが
だから、普段彼は自分の本性を見破られたりはしない
付き合っている仲間からしたら、「明るいヤツ」であって「明るく振る舞ってるヤツ」ではない
ところが心理定規だけは違う
昔からの付き合いだというのも理由の一つではあるが
それ以上に、彼女は垣根のことをよく理解している
聞くと、彼女は初めて会ったときから垣根に特別な感情を抱いていたようだ
ずっと彼のことを求め、ずっと彼のことを見つめてきたのだ
それゆえに、彼のことをよく理解している
こういうときも、すぐにサプライズだと気づいてしまう
それはある意味つまらないことだった
簡単に騙されてくれればその分サプライズも成功するのに
垣根「お前ってさ、他の男とは絶対付き合えないよな」
心理「あら、あなただってそうじゃない」
垣根「・・・似た者同士だって言いたいのかよ」
心理「そういうわけじゃないわよ?」
クスクス、と心理定規が笑う
気にくわない
垣根は自分が大人びていると思っている
なのに、彼女はそんな彼よりも大人なのだ
自分よりも上の人間なんて、数えるほどしかいないだろう
垣根「人間は自分にないものを持ってる人間を求める、か」
心理「何いきなり言い出してるの?」
垣根「なんでもねぇよ」
垣根がつまらなそうに言う
彼に足りない、というよりも心理定規が持ちすぎているのだ
垣根「・・・お前、もう少し歳相応な性格にでもなったらどうだよ」
心理「あら、この大人びた性格が私の魅力なんじゃないのかしら」
垣根「・・・もういい、俺は寝るからな」
垣根がソファーから立ち上がって寝室へ向かおうとする
心理「お休みのキスはないのかしら」
垣根「いつもしないだろうが」
心理「そんなことで怒るなんて子供っぽいわよ」
垣根「さっきまでヤキモチ妬いてふて腐れてたヤツに言われたくねぇんだけどな」
心理「あら、ヤキモチを妬くのは子供だからじゃなくて女だからよ」
垣根「くっだらねぇな」
そう言いながらも、垣根が心理定規にキスをする
心理「あら、結局はやってくれるのね」
垣根「やらないとグダグダうるさいからな」
心理「ふふ、ありがと」
心理定規が嬉しそうに笑う
その笑顔を見ると、垣根も嬉しくなってしまう
垣根「ま、今日は特別だな」
心理「そうね、今日は私に迷惑かけたんだから」
垣根「迷惑かよ」
心理「えぇ、そうよ」
垣根がはぁ、と大きく溜め息をつく
垣根「じゃあな」
ヒラヒラ、と手を振って垣根が寝室へ向かう
心理「・・・はぁ」
残された心理定規は一人、ワインを飲んでいた
垣根がいないときはこうやって一人で飲むのが当たり前だった
心理(・・・はぁ)
ワインに映る心理定規の瞳は悲しそうだった
垣根はああ言っているが、彼女だって年頃の女の子だ
不安にはなることもある
心理(・・・本当にサプライズならいいけどね)
もしも浮気だったら
心理(はぁ、そんなこと分からないじゃない)
人間とは醜いものだな、と心理定規は思う
そして彼女だってそんな人間なのだ
心理(・・・私もそろそろ寝ようかしら)
そっとソファーから立ち上がり、寝室へ向かう
すでに垣根は寝ているようだ
心理「おやすみ、垣根」
そう言ってから、心理定規も眠りに落ちた
心理「・・・あら、また仕事?」
垣根「あぁ、めんどくせぇ」
心理「・・・後片付けかしら」
垣根「みてぇだな、ムカつく」
心理「・・・帰ったらワインでも飲まない?」
垣根「・・・お前だけで飲んでろよ」
心理(・・・これは、夢かしらね)
心理定規はなぜか宙に浮いていた
そして、目の前には過去の二人がいた
昔の思い出をこうやって見るというのは恐ろしいものだ
いくら手を伸ばしても、過去の自分を止めることはできない
心理「・・・そう、少し残念ね」
垣根「・・・いい働きしてくれんなら付き合ってもいいけどよ」
心理「あら、ありがとう」
心理(・・・待って、そこに行ってはダメよ・・・)
パンパン、と銃声が響く
垣根「つまんねぇ仕事だったな」
心理「えぇ、簡単な仕事押し付けるのはどうにかしてくれないかしら」
垣根「金なんて腐るほどあるんだからな、たまには休みでもくれっての」
心理「あら、私とどこかに行きたいのかしら」
垣根「んなわけあるか、バーカ」
心理「素直じゃないのね」
心理(・・・そう・・・こんな生活がずっと続いていたのよ)
人を殺して金を得る
そして、得た金はこれといって使うことも無く
ただ、惰性で殺し続ける毎日だった
垣根「あぁ?怪我した?」
心理「えぇ、ちょっとね」
垣根「ふざけんなよ・・・相手はただのスキルアウトだっただろうが」
心理「一人バカみたいに狂ったヤツがいてね、心理操作しても狂ったままだったのよ」
垣根「狂人は家族も敵も構わず殺す、ってか」
心理「撃ち殺したけど、こっちもちょっとね」
垣根「・・・どうされたんだよ」
心理「鉄パイプよ、無粋なヤツ」
垣根「ふーん・・・適当に治療しとけよ」
心理「背中を殴られたから手が届かないのよ」
垣根「知るかよ・・・ゴーグル野郎でも呼んどけよ」
心理「あら、男に素肌を見せろっていうのかしら」
垣根「いっつもオヤジとホテル行ってるじゃねぇか」
心理「何度も言ってるけど、あれはただ話してるだけよ」
垣根「あーそうかい」
心理(・・・そうね、こんなこともあったわ)
心理「ねぇ、傷・・・見てくれないかしら」
垣根「なんで俺なんだよ、男に素肌は見られたくないんだろ」
心理「あなたはいいのよ」
垣根「俺がよくねぇよ」
心理「欲情するのかしら」
垣根「なんでそうなんだよ・・・」
心理「で、見てくれるの?」
垣根「はぁ・・・しゃあねぇな」
心理定規の後ろに垣根が回る
垣根「うっわ・・・意外と強くやられたみたいだな」
心理「痣になってるかしら」
垣根「そうだな・・・まぁ残りはしねぇさ、ちょっと治るのに時間かかるだろうけど」
心理「・・・ならよかったわ」
垣根「・・・なぁ」
心理「なに?」
垣根「・・・ワイン、飲むか?」
心理「あら、どうして?」
垣根「いいから」
心理「・・・じゃあ、飲もうかしら」
心理(・・・きっと、責任を感じてたのね)
このときの作戦を立てたのは彼だったから
自分のせいで、心理定規が傷を負ったと感じていたのだろうから
心理(・・・今も昔もバカな人)
垣根「・・・ちょっくら行ってくるかな」
心理「・・・私も行くわよ」
垣根「お前、怪我してるじゃねぇか」
心理「・・・もしかして、気遣ってくれてるのかしら」
垣根「ちげぇよ、足手まといなだけだ」
心理「・・・そう」
垣根「・・・なぁ、ワイン用意しとけよ」
心理「・・・えぇ、早く帰ってこないと先に飲んどくわよ」
垣根「分かってるよ」
心理(・・・たしか、このときは垣根のバカ・・・3日も帰ってこなかったのよね)
なんでも、仕事が長引いたとか言っていた気がする
でも本当は違った
彼は
垣根「たっだいまー」
心理「・・・あら、遅かったわね」
垣根「ほれ、土産」
心理「・・・何よこれ」
垣根「知らねぇけどさ、なんかヤバい医者が開発した塗り薬だって」
心理「それで?」
垣根「痣とかも完璧に治るらしいぜ・・・まぁ塗ってすぐは少し痛いらしいけどな」
心理「・・・これを取ってきたから遅くなったの?」
垣根「・・・ちげぇよ、仕事のついでなだけだ」
心理「・・・ありがとう」
垣根「いいから早く塗れよ」
心理(・・・この薬、塗ってすぐは皮膚が溶けるような感覚がしたわね・・・)
心理(細胞の再生を無理矢理促させるみたいだったし、死ぬかと思ったわ・・・)
あの痛みは並々ならぬものだった
一人では、気が狂ってしまっただろう
でも、そのときは
心理(・・・知ってるわよ、あなたがずっと手を握ってくれてたこと)
垣根「・・・」
心理(あら、これは・・・知らないわね)
心理定規の知らない記憶
ただの夢だろうか
それにしては、なぜか現実味を帯びている気がした
垣根が一人、公園にいた
雨の中
ずぶ濡れになりながら
垣根「・・・子猫か」
垣根の足元には、子猫がいた
垣根「お前も一人なのか?」
心理(・・・これ・・・もしかして)
垣根がいなくなってから
それからの出来事なのだろうか
あの日、一方通行に敗北して
周りからは死んだと思われてからの出来事なのだろうか
垣根「・・・心理定規は、どうしてるのかな」
心理(・・・私?どうして・・・?)
心理定規には分からなかった
彼は、昔から自分を見てくれていたのか
垣根「・・・」
心理(どうして、そんな悲しそうな顔をしてるのよ・・・)
手を伸ばしてあげたかった
手を伸ばしてみた
なのに、彼には触れられない
心理(どうして・・・)
彼の目から流れる涙を拭ってあげたいだけだった
なのに
彼女の小さな手は、その頬には届かなかった
心理「垣根!!」
垣根「あ?どうしたんだよ朝っぱらから」
心理「・・・あ、朝?」
どうやら、目を覚ましたようだ
垣根「ったくよ・・・大声出すんじゃねぇよ・・・」
心理「垣根」
ぎゅっ、と心理定規が垣根に抱きつく
垣根「あぁ?浮気が不安か?」
心理「垣根、どこにも行かないわよね?」
垣根「はぁ・・・だから常盤台のヤツらはちょっと・・・」
心理「垣根、今・・・寂しくない?」
垣根「・・・はぁ?」
垣根がヘンな顔をする
心理「・・・ちょっとイヤな夢を見たから」
垣根「イヤな夢?」
心理「・・・昔の夢よ、あなたが泣いていたわ」
垣根「・・・俺が泣くわけないだろ、雨でも降ってたんじゃないか?」
そう言いながら垣根がベッドから起き上がる
心理「・・・ねぇ、今日はどうするの?」
垣根「一端覧祭の最終日だからな、二人で回ろうぜ」
心理「・・・ありがと」
垣根「・・・なぁ、大丈夫か?」
心理「どうして?」
心理定規が訊ねる
垣根「イヤな夢見たんだろ?」
心理「大丈夫よ」
垣根「じゃあさっさと朝飯にしようぜ」
心理「そうね」
朝食を済ませ、二人はまず学び舎の園へ向かう
心理「・・・ねぇ、なんで常盤台に行くの?」
垣根「いいからいいから」
垣根は笑っていた
心理「もしかして、サプライズ?」
垣根「それはついてのお楽しみ」
二人の、静かなデートが始まる
垣根「おー、相変わらず豪華だな」
心理「・・・昨日来たばかりじゃない」
二人は学び舎の園に来ていた
周りを行き交うのは、ほとんどが女子生徒だ
もちろん、今は一般解放中なので男子生徒の姿も見かける
普段は女子生徒だけの聖域だ
そのため、一般解放のときはここぞとばかりに男達がやってくるのだ
今日は最終日のためそこまで人が来ていない、というだけだ
垣根「・・・さーて、常盤台、常盤台・・・」
心理「ねぇ、結局常盤台の子達はなんなの?」
垣根「だーから教えねぇよ」
垣根がスタスタと歩いていく
心理「ねぇ、待ってよ」
垣根「・・・急げよな」
そう言いながらも垣根が心理定規の歩幅に合わせる
心理「・・・そういうところが大好きよ」
垣根「うっせーな・・・普通は女が男に合わせるんだよ」
心理「あら、それは差別だと思うけど」
そんな話をしながらも、着々と常盤台に近づいていく
垣根「お、そろそろ着くな」
心理「・・・ねぇ、何するの?」
垣根「あともうちょい待ってくれよ」
垣根が微笑む
心理「・・・はぁ、本当にサプライズなの?」
垣根「そうそう」
心理「・・・」
心理定規が首を捻る
常盤台の子に、わざわざ何を話していたのか
その答えは、常盤台に入ってすぐに入った
常盤台の中庭
昨日来たときは、ただ仮設ステージがあっただけだ
たしか、そこでは食蜂がピアノを弾いていたような気がする
しかし、今は
心理「・・・花?」
信じられないほどの数の花で埋められていたのだ
垣根「どうだよ、こういうのもいいんじゃないか?」
心理「・・・ど、どうして?」
垣根「生徒に頼んでさ、運んでもらっといた」
心理「・・・あなたが買ったの?」
垣根「おうよ、昨日御坂の演奏会があったろ?そのあと許可もらっといた」
心理「そ・・・そうなの?」
垣根「なんだよ、感動してるのか?」
心理定規の肩は震えていた
心理「・・・どうして?」
垣根「・・・今日さ、なんの日か分かるか?」
心理「・・・今日?」
垣根「あぁ、今日だよ」
11月の末
何の日か
そんなこと、心理定規が忘れるわけがなかった
心理「・・・あなたが帰ってきた日じゃない」
垣根「ご明答」
垣根がニカリと笑う
死んだと思われていた垣根が帰ってきたのは、二年前の今日
心理「・・・だから・・・?」
垣根「うーん・・・まぁそれとさ・・・」
垣根「・・・いろいろ、お前には世話になってるから、お礼も兼ねてな」
心理「・・・いまさら?」
垣根「今だからだよ」
恥ずかしそうに垣根が頬をかく
普段なら、素直にそんなことを口にしたりはできない
だから、こういう機会にこそりとまぎれて行うのだ
垣根「・・・あのさ、俺はお前をいろいろ待たせたりとかしてきた」
心理「えぇ、その度に私は待たされてるわよ」
垣根「でもさ・・・絶対に帰ってきてるだろ?」
心理「・・・そうね」
垣根「・・・お前が待っていてくれるからなんだ」
垣根が心理定規を抱きしめる
周りには、誰もいない
体験入学が終わったとはいえ、まだ一般解放されているはずなのに
まるで、誰かがこの二人の邪魔をさせないように誘導しているかのようだった
垣根「・・・愛してる、心理定規」
心理「・・・いまさら言われなくても分かってるわよ」
垣根「・・・それでも言わなきゃならないんだ、俺は愛がなにか分からないから」
心理「・・・私にも分からないわよ」
垣根「まぁ、そういうわけだから一緒に探してるんだけどな」
心理「・・・ねぇ垣根」
垣根「なんだよ」
心理「・・・この花の花言葉はなに?」
垣根「アイリス・・・お前を大切にする、だな」
心理「・・・これは?」
垣根「サンザシ、唯一つの恋だな」
心理「・・・これ」
垣根「・・・ヒマワリは、俺の瞳はお前だけを見つめる、だよ」
心理「・・・マーガレットは?」
垣根「真実の愛、かな」
心理「・・・全部、素敵な花言葉ね」
垣根「・・・クロッカス・・・これが、一番お前に似合う花なんだよ」
一輪の花を手にとって、垣根が心理定規に手渡す
心理「・・・これの花言葉、知ってる?」
垣根「知ってるからお前に似合うって言ってるんだろ」
心理「そうね・・・あなたを待ち続ける、ね」
垣根「あぁ」
心理定規が花を見つめる
さまざまな色があって
さまざまな形があって
心理「花は恋と似てるものね」
垣根「美しく咲いて、無様に散る・・・か」
心理「でもね、ときに種を残して・・・次の春にもう一度花を咲かせるのよ」
垣根「・・・じゃあ、俺たちはなんなんだよ?」
心理「・・・そうね、花ではないのかもしれないわ」
垣根「・・・散るのは悲しいもんな」
心理「そうね」
垣根「・・・これだけ花を集めてもさ、お前に伝えたい言葉にゃ足りなかったんだよ」
寂しそうに垣根が笑う
心理「あら、花言葉じゃ足りないほどなの?」
垣根「・・・いろいろ伝えたさ、愛を伝えて、思いを伝えて」
心理「えぇ、伝わってるわよ」
垣根「・・・でもさ、やっぱり行動で表すのも必要だろ?」
垣根が心理定規にキスをする
深く、深く
心理「・・・」
垣根「・・・やっぱり、俺にはこういうほうが似合ってるんだよ」
心理「メルヘンなのがあなたじゃないのかしら」
垣根「夢物語はいつか終わるんだぜ?」
心理「・・・じゃあ、メルヘンはいやね」
垣根「そうだろ?」
強く抱き合いながら、二人が笑う
垣根「・・・悪かったな、こういう計画は前にバレると恥ずかしいからよ」
心理「・・・いいわよ、素敵だったし」
垣根「・・・なぁ、心理定規」
心理「なに?」
心理定規が顔を上げる
彼女の瞳には、垣根だけが映っている
まるで、ヒマワリのような少女だった
垣根「・・・ずっとそばにいてくれるか?」
なぜか
そういう垣根の目は悲しそうだった
心理定規は知っている
ずっと、垣根帝督は孤独だったことを
彼は昔から、一人だったのだ
親に捨てられ、光を捨てて
一体、どれほど心理定規の存在が救いだっただろうか
昨日、心理定規は恐れていた
彼が、もしかしたら自分を捨てるのではないかと
だが、それは彼も同じだったのだ
今日のこんなサプライズだって、心理定規を喜ばせるためだけではなかっただろう
きっと、少しでも彼女に自分を必要としてほしかったから
まるで、子供が綺麗な花を一つ摘んできて、親の気を引くように
彼も、心理定規の気を引きたかったのだろう
他の女性に対するような、適当なアプローチではなく
ただ、彼女のためだけに必死に考えたアプローチだったのだ
垣根「・・・なぁ」
心理「えぇ、私だってやっと苦労して手に入れたのよ?」
心理定規が垣根の手を握る
放さないようにではなく、優しく包むために
垣根「・・・そりゃ、安心したよ」
心理「・・・もう捨てられるのは御免でしょ?」
垣根「そうだな、そうかもしれない」
心理「ふふ・・・ちょっと嬉しいわね」
垣根「なにが?」
垣根が首を捻る
心理「こうやって、あなたが必死になってくれることよ」
垣根「そんなに珍しいか?」
心理「えぇ、あなたは基本は冷めてるから」
垣根「・・・愛の炎に溶かされたんだろ」
心理「何よそれ」
垣根「自分でも分からないな」
心理「・・・ねぇ、垣根」
垣根「どした?」
心理「・・・どうして、他の生徒がいないのかしら?」
心理定規が辺りを見回す
あまりに不自然なほど、人がいなかった
垣根「あぁ・・・ちょっとお願いしといたからな」
心理「お願い?」
垣根「あぁ、そうそう」
美琴「・・・一般解放はあと30分ほどお待ちいただきます」
食蜂「・・・申しわけありませーん・・・はぁ、なんなのよ垣根のヤツ・・・」
美琴「さぁ・・・ちょっとだけ中庭を使いたいみたいだったけどね・・・こっちは朝早く起こされて最低よ・・・」
食蜂「彼氏は?」
美琴「別行動・・・」
常盤台の二人は、パシられていた
垣根「まぁ、いろいろとお手伝いを頼んどいたのさ」
心理「・・・なんだか、イヤな予感がするんだけど」
垣根「気にするな・・・それより、この花どうする?」
垣根が用意した花はどれほどの量だろうか
正直、そこらへんの公園に植えてあるよりも多い
心理「・・・持って帰れるのかしら」
垣根「トラックを用意すれば大丈夫」
心理「・・・はぁ、どうやって?」
垣根「浜面に頼む」
心理「・・・とりあえず、捨てるのはもったいないから庭に植えましょうよ」
垣根「お・・・いいな、庭が愛で埋め尽くされるのか」
心理「・・・素敵ね」
二人が顔を見合わせて笑う
垣根「さて・・・じゃあさっそく呼ぶか」
垣根が携帯を取り出す
垣根「あぁ、トラック用意して常盤台来いよ、じゃないと滝壺ブチコロ」
それだけ伝えて、垣根が通話を切る
心理「・・・なに言ってるのよあなた・・・」
頭が痛い、と心理定規は頭を抱える
垣根「じゃ、行きますか」
心理「・・・どこに?」
垣根「そうだな・・・噴水があるの知ってるか?」
心理「えぇ、たしか中心部にあったわよね」
心理定規が思い出す
ちなみに、昨日そこである不幸な少年が不幸なイベントに巻き込まれたのだが
そんなこと、知るはずは無い
垣根「そこ、行こうぜ」
心理「えぇ、いいわよ」
浜面の到着なんて待たずに、二人は噴水へと向かう
浜面「だ、だから!!彼女の命が掛かってて!」
黄泉川「はいはい、とりあえずなんでトラックの免許持ってないのに運転してるのかを説明するじゃん」
浜面「あぁ!!垣根になんか運べって頼まれたんだよ!!」
黄泉川「じゃあ、垣根の荷物は私が運ぶから、お前は連行じゃん」
浜面「ウソだろおい!?」
垣根「あー、涼しいな」
顔に噴水の水しぶきを浴びながら垣根がつぶやく
ちなみに、季節はそろそろ冬になろうかという頃
涼しいどころか、若干寒くもある
心理「・・・綺麗ね」
垣根「そういえば、昔お前と噴水を見たことなかったっけ?」
心理「あぁ・・・仕事中にね」
心理定規が小さく笑う
もちろん、仕事というのは暗部にいたころの、だ
その日は珍しく殺しではなかった
それが少しだけ嬉しくて、二人はついでにと公園に寄ったのだ
垣根「・・・あのときは、殺すのが当たり前の生活だったな」
心理「・・・表の世界では違法だけど、私達がいた世界は裏だったものね」
垣根「・・・そうだな、罪なんて権力の前ではないに等しいのさ」
心理「・・・あのときの噴水よりも綺麗だわ」
垣根「お前もそう思うか?」
心理「えぇ、ずっと素敵じゃない」
垣根「・・・綺麗な世界だな」
空を見上げると、暖かな太陽が浮かんでいる
垣根「やっと、光を浴びれるようになったんだな」
心理「・・・ねぇ、あなたはまだ過去のことを引きずってるの?」
垣根「いや、最近は懐かしく思えるまでになったよ」
心理「そう・・・よかった」
垣根「・・・心理定規」
心理「なに?」
垣根「・・・結婚・・・さ」
ぽつり、と垣根が口にする
一瞬、心理定規は自分の耳を疑った
垣根「・・・お前は魅力的だから、他の男も寄ってくるだろ?だから今のうちに俺のものにしとかなきゃなんねぇんだよ」
心理「結婚・・・がなによ?」
垣根「・・・いつかさ、俺と幸せになりたいって思ったら・・・結婚、しような」
心理「・・・もう思ってる場合はどうすればいいの?」
垣根「・・・抱きしめてキスでもしてくれりゃいいかな」
垣根がそう言った瞬間、心理定規が彼にキスをする
ここにはさすがに一般人もいた
周りの通行人は驚いたような顔をしている
しかし、そんなことは関係なかった
ただ、相手のことしか目に入っていなかった
垣根「・・・サンキュー」
心理「えぇ」
垣根「・・・これで、お前は俺のものだな」
心理「・・・そこまであなたが考えてるとは思わなかったわ」
垣根「そうか?」
心理「・・・あなたはいつもうやむやにするもの」
垣根「・・・これでも、お前には真剣なんだけどな」
垣根が苦笑する
心理「・・・指輪、いつ買うの?」
垣根「今日でもいいぜ?」
心理「じゃあ・・・そうしてくれる?」
垣根「あいよ」
眩しい光の中
静かなカップルは、微笑み合っていた
垣根「・・・もう一端覧祭も終わりか」
ぽつりと垣根がつぶやく
空はもうすっかりオレンジ色に染まっている
三日間なんてあっという間に過ぎてしまうのだ
心理「・・・結局、あんまり回れなかったわね」
垣根「いいさ、花のプレゼントは出来たからな」
心理「・・・プロポーズも?」
垣根「・・・あれは・・・その、あれだよ」
心理「あら、忘れたりはしないわよ?」
心理定規が垣根の手を握り締める
少し小さくて柔らかい、女性らしさのある手だ
心理「・・・指輪、買ってくれるのよね?」
垣根「・・・はぁ、仕方ないな」
心理「顔、笑ってるわよ?」
垣根「笑ってねぇよ」
そっぽを向きながら垣根が歩き出す
もう少ししたら噴水の周りは多くの人だかりが出来るだろう
なんでも、一端覧祭の最後を飾るために夜はライトアップされるらしい
垣根「・・・ライトアップ、見たかったか?」
心理「そうね・・・でも見るにしても人が少なくなる時間帯がいいわ」
垣根「じゃあ指輪買ったあとで見に来るか」
心理「えぇ」
歩きながら、二人は別々のことを考えていた
垣根(・・・恥ずかしいかと言っちまったな)
心理(・・・プロポーズ・・・よね、あれは)
垣根(・・・結婚なんざまだ早いのにな)
心理(・・・垣根と結婚、ね)
二人の視線がぶつかる
なぜか少し気まずくなってしまい、笑ってごまかしてみる
垣根「なぁ・・・そのさ」
心理「なに?」
垣根「・・・結婚、だけどさ」
心理「忘れたりしないって言ってるでしょ」
垣根「・・・だよな」
はぁ、と垣根がため息をつく
心理「イヤなのかしら」
垣根「いや・・・忘れられたらイヤだからさ」
心理「じゃあなんでため息ついたりするのよ」
垣根「・・・もうちょいカッコイイプロポーズがよかったからさ」
垣根は昔から、カッコイイことが好きだった
プロポーズなんていう、一世一代のときはとくにカッコイイ台詞を言いたいと考えていた
なのに、いざとなった時に口から出てきたのはまっすぐで、とてもカッコイイとは言えない言葉だった
垣根「・・・あんなプロポーズ、イヤじゃないか?」
心理「なによ、かなり嬉しかったのに」
垣根「お前って結構ベタな台詞が好みなのか?」
心理「言い方なんてどうでもいいのよ」
心理定規が垣根の背中を眺める
一歩先にいる彼
しかし、またすぐに並んでしまう
それが少しだけ嬉しかったりもする
心理「どんなに飾っても、どんなに綺麗に繕っても、中にある感情が汚れていたら意味がないもの」
垣根「・・・俺の言葉は合格点だったってわけか」
心理「満点だったわよ」
垣根「そりゃ光栄だ」
そっけなく答えたつもりだった
でも、なぜか声が少し嬉しそうな色を帯びてしまう
心理「ふふ・・・ホント、あなたは言葉にすると素直になるのね」
垣根「うるせぇな・・・言葉にするのが恥ずかしいから花言葉なんて回りくどいのに頼ったのによ」
心理「結局言葉じゃない」
垣根「・・・違いないがな」
心理「・・・愛してるわよ、垣根」
垣根「・・・そうかい」
心理「他の男なんて興味がないの、あなただけを愛してるのよ」
垣根「そうかよ」
心理「たくさんあなたには女が言い寄ってくるでしょうけど・・・その人達の誰よりも、あなたに対する気持ちは強いはずなのよ」
垣根「へぇ」
心理「・・・こんなに、あなたに夢中なのよ?」
垣根「・・・夢はいつか覚めるもんなんだぜ?」
心理「覚めない夢はやがて現実になるのよ」
垣根「・・・そりゃいいな」
垣根がケラケラと笑う
心理「・・・垣根、愛してる」
垣根「何度も言われてきた」
心理「聞き飽きたかしら?」
垣根「・・・飽きたりしないさ」
心理「そう、よかったわ」
垣根「・・・俺もさ、お前を大切にしてる」
心理「あら、もっと素直に言いなさいよ」
垣根「・・・」
垣根は、愛を語るのはあまり好きではなかった
愛というものに形などない
それぞれ、誰もが違う愛を持っているのかもしれない
愛は一つの形しかなくて、ただ状況によって見方が変わるのかもしれない
いや、愛なんてそもそも存在しないのかもしれない
いろんな可能性がある
それは、愛というものが形のないものだからだ
そんな形のないものを、わざわざ語って何になるのだろうか
口にして、言葉にして
形を無理矢理持たせたところで、結局それはむなしいだけだ
彼はそう考えていた
考えていたのだ、過去には
だが心理定規と付き合い出して、ときに相手に素直に気持ちを伝えて
そうやって愛を口にするのも悪くはないと思いはじめていた
垣根「・・・あんまり口にするのは好きじゃないんだけどな」
心理「私がしてほしいってお願いしてるのよ」
垣根「・・・俺もさ」
垣根「お前のこと、世界中の誰よりも愛してるよ」
垣根「俺達の世界には俺達二人しかいないんだ、そもそも他のヤツを愛しようもないけどな」
心理「・・・やっぱり素敵よ、あなたは」
垣根「そうか、よかった」
言葉にするのは苦手だったから、うまく言えていないのではないかと不安になってしまった
だから、彼女の笑顔はとても安心させてくれた
垣根「おっと、この店でいいか?」
垣根が一つの建物の前で立ち止まる
二人でよく来るアクセサリーショップだ
いや、宝石店といったほうが正しいだろうか
若い学生が手の届く値段の品物を扱っているような店ではない
高位の能力者や一部の大人向けに開かれている店だ
心理「いいけど・・・そんなに高いの買ってくれるの?」
垣根「婚約指輪になるかもしれないだろ・・・まぁお前を予約ってだけだが」
心理「・・・じゃあ、遠慮なく」
二人が店へと入っていく
すぐに店員が迎える
常連なため、余計な話をしながらも品定めを始める
垣根「あぁそうそう・・・婚約指輪に向いてる商品ってありますか?」
「婚約指輪でしょうか・・・それでしたらこちらが人気になっております」
店員が差し出してきたのはダイヤの指輪だ
たしかに、無難というかベタなデザインではあった
垣根「うーん・・・でももう少し高くてもいいかな」
心理「・・・ねぇ、婚約指輪なら別に宝石じゃなくてもいいんじゃないかしら」
垣根「あぁ・・・シルバーリングで婚約指輪になりそうなのとかは・・・」
「こちらが人気となっております、お名前を刻むことも出来ますので」
店員が差し出してきたのは少し落ち着いたデザインのシルバーリングだった
こういう大人びているデザインは心理定規にピッタリだろう
垣根「じゃあ、お願いします」
「何かお書きになられますか?」
垣根「・・・お前、ちょっと外せよ」
心理「あら、どうして?」
垣根「照れ臭いから」
心理「・・・どうせ渡されたら見ることになるんだけど?」
垣根「うるせぇ・・・今は見られたくないんだよ」
しっし、と垣根が追い払うような動作をする
心理「はぁ・・・分かったわよ」
心理定規が呆れたように言いながら少し距離を置く
垣根「じゃあ・・・これ、いいですか?」
垣根がサラサラ、とメモ帳に何かを書く
「えぇ、かしこまりました」
頭を下げてから、店員が去っていく
心理「もういいかしら?」
垣根「あぁ・・・まぁ掘るのに少し時間かかるだろうし、適当に・・・」
心理「何言ってるの?あなたのも買うのよ」
垣根「はぁ?じゃあ今のヤツで・・・」
心理「ペアリングはもう持ってるでしょ、別々のにしてみましょうよ」
そう言って心理定規がいろいろな指輪を見ていく
宝石の散りばめられたもの、シンプルなもの
中には、どこの成り金だろうかと思うゴツい指輪もあった
心理「これなんかどうかしら?」
心理定規が指差していたのは細いシルバーの指輪だった
垣根「なんだよ・・・さっきのお前のと似てるじゃん」
心理「こっちも好きな言葉が掘れるのよ」
垣根「・・・分かったよ、じゃあお前も頼んどけ」
垣根が心理定規から距離を取る
彼女も店員に何かを書いて渡したあと、垣根のもとにやってきた
垣根「・・・気になるもんだな、なんて書いたのか」
心理「あとで見なさいよ」
垣根「分かってるよ」
垣根がため息をつく
もし自分が書いたことと同じだったらどうしよう、なんて考えてしまう
それはそれで運命的なものを感じないこともないだろうが
「お待たせしました、こちらになります」
しばらくして、店員が二つのリングを差し出してきた
垣根「じゃあ・・・」
垣根が財布からカードを取り出す
上条のような貧乏学生が持っているものとはランクが違うカードだ
なんでも、車はおろかマンションやら土地やらもそれでぽん、と支払えるらしい
らしい、というのは彼はそういうものはたいてい現金で買ってしまうからだ
そのため、こういった小さい商品でしかカードを使ったことはない
垣根「それじゃまた」
「またのお越しをお待ちしております」
丁寧に店員に見送られた二人は、外に出てからすぐに指輪を取り出した
垣根「・・・右手の薬指か?わかんないけど適当でいいよな」
心理「その前に・・・なんて書いたのか見てもいいでしょ?」
垣根「あぁ、そうだったな」
お互いが指輪を交換し、その内側を覗き込む
心理「・・・I love you・・・なんか、あなたにしては素直な言葉ね」
垣根「・・・I will die for you・・・献身的なもんだな」
心理「じゃあ、もうつけていいわよね?」
垣根「おいおい、俺がつけてやるから貸せよ」
垣根が心理定規の手から半ば奪うようにして指輪を取る
垣根「ほれ、薬指」
心理「・・・はい」
心理定規が右手を差し出す
その薬指に、少し震える手で垣根が指輪をはめる
心理「・・・緊張したかしら」
垣根「おう・・・じゃ、頼む」
今度は垣根が右手を差し出す
心理「・・・私は、あなたのためならこの命を捧げてもいいのよ」
垣根「お前の命は俺のものなのか?」
心理「えぇ」
垣根「だったら精一杯最後まで輝いとけ、って言っとくべきだな」
垣根が微笑む
心理「・・・ありがと」
少し赤い顔でお礼を言ってから、心理定規が垣根の薬指に指輪をはめる
垣根「・・・婚約指輪、か」
心理「外すことがないように願いたいわね」
垣根「うーん・・・でもよ、たまには外してお前の刻んでくれた気持ちを確認してみてもいいだろ?」
心理「えぇ・・・少し恥ずかしいけど」
垣根「そりゃお互い様だろうが」
心理「そうね」
二人が自然と唇を合わせる
夕日がちょうど、沈んだ瞬間だった
垣根「・・・太陽も俺らの輝きには敵わないってさ」
心理「あら、そうかしら」
垣根「・・・飯はどうする?」
垣根が腕時計を確認する
夕食を摂ってからライトアップを見に行ったほうが時間的にもいいだろう
心理「そこらへんのレストランでいいわよ」
垣根「ん、ファミレスか?」
心理「たまにはそういうのもいいんじゃない?」
垣根「そうだな・・・悪くはないか」
二人が近くのファミレスに入る
そして、見覚えのあるカップルを見かけた
いや、見覚えがあるどころではない
上条「美琴、あーん♪」
美琴「あーん♪」
頭が痛くなるほど見せ付けられてきたカップルだった
垣根「・・・お前ら何してるんだよ」
上条「ん?垣根じゃんか」
美琴「あ、心理定規も」
心理「・・・相変わらずイチャイチャしてるわね」
心理定規が頭を抑える
何名かを尋ねにきた店員に相席ということを伝えて、上条たちのテーブルに座る
垣根「お前らみたいなイチャイチャカップルのことだからライトアップでも見てるのかと思ってたんだけどな」
美琴「食べ終わったら行く予定・・・ってどうしたのその指輪?」
ハンバーグを食べながら美琴が尋ねる
心理「婚約指輪よ」
上条・美琴「こ、婚約指輪ぁ!?」
垣根「なんだよ、悪いか?」
美琴「は、早すぎるんじゃないかしら!?」
上条「いや・・・でも二人ならなんとなくわかるよ」
うんうん、と上条が頷く
この二人は意外と一番大人びているカップルなのだ
垣根「婚約指輪くらいでそんなにビビるなよな」
心理「二人だっていつかは買うことになるんだから」
美琴「そ、それはそうだけど!」
上条「なぁ・・・いくらぐらいしたんだ?」
垣根「安いぜ、20万くらいかな」
上条「安い・・・」
上条ががっくりと肩を落とす
彼にとっては高すぎる値段に思えてしまうのだが
美琴「いいなぁ・・・当麻も買ってくれたらいいのに」
上条「いやいや!上条さんにそんなお金はないですよ!?」
美琴「・・・私のこと嫌い?」
上条「う・・・」
ウルウル、と美琴が目を潤ませる
完全に泣き落としにかかっている
上条「いや、好きだけどさ!」
心理「上条君、彼女を泣かせる男はダメよ?」
垣根「上条最低ー」
上条「なんでだよ!?こっちは生活費でいっぱいいっぱいなんだよ!」
垣根「でも彼女のために無理して買うのが男だろ、ステーキ定食二つ」
垣根が店員に注目を言う
そして、また上条のほうを睨む
垣根「だいたいな、金がないから買わないなんてのは言い訳だ」
上条「どこがだよ!?」
垣根「ないなら稼げ、バイトとかで」
上条「それが出来ないから言ってるんだよ・・・」
上条が肩を落とす
別に彼の学校がアルバイト禁止なわけではない
ただ、アルバイトを始めると美琴と二人の時間が減ってしまうのだ
上条はそれでもやむなし、と考えているが美琴はかなりイヤなようで
美琴「・・・アルバイトなんかしなくていいわよ」
上条「な?ずっと前からこんな感じなんだよ・・・」
心理「美琴、少しくらいは許してあげなさいよ」
美琴「だって!ア、アルバイト先に可愛い人とか・・・いたらどうするの?」
上条「いや、美琴さんより可愛い人なんていないと思うんですが」
ジュースを飲みながら上条がつぶやく
美琴ほどの美しい顔を持っている女性は珍しいだろう
なにしろ化粧の必要がないほどに整っているのだから
垣根「まぁ顔だけはいいよな」
美琴「・・・アンタね」
心理「あら、美琴は大丈夫よ、敵う女性なんていないもの」
クスクスと心理定規が笑う
上条「だからさ、アルバイト許してくれよ・・・」
美琴「だからダメ!絶対になんかフラグ立てたりするもん!」
上条「しないから、な!?」
美琴「・・・なんでそんなにアルバイトしたいのよ」
上条「だって美琴にいろいろ買ってあげたいし・・・」
上条は知っている
最近、美琴もアクセサリーなんかに興味を持ちだしてきていることを
もちろん派手なものではなくシンプルなものに限って、だが
彼としては自分で稼いだお金でプレゼントしてあげたいのだ
美琴「そ、それは嬉しいけどさ・・・でも、二人だけの時間はお金じゃ買えないのよ?」
上条「う・・・ごもっともです」
垣根「あ、来た来た」
心理「いただきます・・・上条君は一日だけのバイトとかは興味ないの?」
上条「あぁ・・・日当が出るやつか」
垣根「そうそう、そういうバイトも結構多いだろ」
学園都市は人口の8割が学生なのだ
中には長期のアルバイトをしたくても出来ない学生だっている
そういう学生のために、一日だけの短期アルバイトだってたくさんある
垣根「一日くらいなら御坂だって我慢できるだろ」
美琴「まぁ・・・一日だけって約束してくれるなら」
上条「そういうのって、指輪とか買えるくらいは稼げるのかな?」
心理「一日で一万くらいじゃない?もちろん高くて、だけど」
上条「・・・ちょっと安いのになっちまうけど・・・美琴はいいか?」
美琴「いいから、一日だけよ!?あとはずっと構ってくれるのよね!?」
上条「もちろん、約束しますよ!」
上条がドン、と胸を叩く
彼がやるとそんなベタな仕種も頼れるように見えてしまう
垣根「よかったじゃねぇか」
上条「あぁ・・・やっと美琴にプレゼント買ってあげられますよ」
心理「美琴は幸せ者ね」
美琴「えへへ・・・//」
上条(あぁもう可愛い、ヤバいですよこの可愛さは)
垣根「で、具体的にどんなバイトがやってみたいんだ?」
上条「接客業・・・はトラブルが起きそうだな」
上条がげんなりとする
彼は意外と不良の間では有名な存在だ
いつも悪事のジャマをする男
あの一方通行を倒した男
大きなスキルアウト集団を壊滅させた男
超電磁砲を手駒にした男
能力者を簡単にあしらってしまう男
なんでも、話に尾鰭がついたありえない噂も流れているらしい
だから、接客業をしているとそういう不良に会うかもしれないのだ
不良が昼飯を食べに来たら上条がいた、なんてあまり可能性はないだろうが
上条「・・・はぁ、俺は不幸だからなぁ」
美琴「・・・あ、テクパトルのジムがたしか一日からの短期バイト探してたはずよ」
上条「え、マジか?」
垣根「そういえばなんか俺も誘われたな・・・たしか人手不足なんだとかよ」
心理「知り合いもいるわけだし、そのアルバイトがいいんじゃないかしら」
上条「そうだな・・・あとで詳しく聞いてみるよ」
垣根「そうしときな・・・っと、俺達も食べ終わったな」
心理「えぇ・・・じゃあそろそろ向かう?」
心理定規が上条と美琴に尋ねる
上条「そうだな、もう20時だしほとんどいないだろ」
美琴「じゃ、行きましょう」
四人がファミレスから出て、噴水へと向かう
やはりある程度観客は減っていた
それでもすんなりと入っていけたのはラッキーなのだろうが
上条「・・・ここからでも一応は見えるけど・・・」
美琴「どうせならもっと近づきましょうよ」
垣根「・・・めんどくさくねぇか?まだすぐ近くは人だかりできてるぜ?」
上条「・・・美琴のためなら構いません!」
心理「はぁ・・・ずいぶんとご執心なのね」
上条「?好きってそういうことだろ?」
垣根「お前・・・バカだろ」
上条「愛とはバカになることだ!!美琴、行こう!」
美琴「うん!!」
手を繋いだまま、二人は噴水のそばへと進む
垣根「はぁ・・・俺たちはどうしますかい?」
心理「・・・ここからでもいいわよ」
垣根「そういうほうが似合ってるかもな」
心理「えぇ」
溜め息をついてから、二人が先を見つめる
綺麗にライトアップされた噴水は幻想的だった
心理(・・・綺麗ね)
垣根(上条、そげぶすんなよ)
心理「・・・垣根、どこかに座らない?」
垣根「そうだな・・・」
垣根が辺りを見回す
そこかしこにベンチがあるため、簡単に座ることが出来た
垣根「・・・星も綺麗だし、文句無いな」
心理「そうね・・・神秘的」
垣根「人が作り出した灯りだぜ?あんま神秘ではないだろ」
心理「あら、星に負けないほどの輝きを作り出したんだから十分神秘じゃないかしら?」
垣根「・・・そうかもしれないけどな」
心理「・・・ねぇ・・・この指輪、なんでI love youだったの?」
垣根「当たり前だろ、シンプルがいいし」
心理「あなたのことだからもっとくさい台詞でも書くかと思ってたわよ」
垣根「長くなるだろうが」
垣根が呆れたように心理定規を見つめる
心理「・・・そうかしらね」
垣根「指輪一つじゃ足りないくらいに長くなるんだよ」
心理「あら、いくつも買ってくれればいいのに」
垣根「んなことできるかよ・・・」
はぁ、と溜め息をついてから空を見上げる
心理「・・・ライトアップを見つめなさいよ」
垣根「遠慮しとく・・・やっぱり俺は空のほうが好きだ」
心理「どうして?」
垣根「夢がある」
心理「絶望もあるわよ」
垣根「・・・それを言うなよな・・・」
心理「・・・垣根」
心理定規が垣根に近づく
彼女の体から匂う香水が、少し垣根の鼻をくすぐる
心理「・・・あなたは、今何を見つめてるの?」
垣根「・・・」
垣根が視線を空から隣にいる心理定規に移す
垣根「・・・お前かな」
心理「本当に?」
垣根「お前以外に誰を見つめろって言うんだよ?」
心理「・・・そうね」
垣根「ったくよ・・・今日の朝からお前、ヘンだぜ?」
心理「・・・イヤな夢を見たって言ったでしょ?」
垣根「・・・そうだな」
心理「・・・あなたとのいろいろな思い出を思い出したわ」
垣根「・・・たとえば?」
心理「私が怪我したときのこと」
垣根「怪我?お前・・・ってあのときか」
心理「・・・あのとき、わざわざあの薬・・・取りに行ってくれたのよね・・・?」
垣根「・・・だったらなんだよ」
心理「・・・ありがとう」
垣根「あのときは俺の責任でお前が傷ついたんだ、別に礼なんていらないだろうが」
心理「優しいわね、あなたは」
垣根「・・・優しくなんかないさ」
心理「・・・あの薬ね、皮膚が溶けるような痛みがしたのよ」
垣根「へぇ・・・細胞を無理矢理再生させるってのはマジだったんだな」
心理「一人だったらきっと気が狂ってたわ」
垣根「・・・一人だったら、ね」
垣根が息を吐く
その言葉の意味することが分かっていたから
心理「・・・あなた、ずっと手を握っていてくれてたでしょ?」
垣根「・・・うるさかったからってのもあるけどな」
心理「・・・あるけど?」
垣根「・・・あの頃から、お前が苦しそうにしてるのはイヤだったんだ」
心理「・・・どうして?」
垣根「・・・わかんないさ、昔のことは」
心理「好きだったの?私のこと」
垣根「そうかもしんない、そうじゃないかもしんない」
心理「・・・分からないわよね、そんなこと」
垣根「・・・でもさ、かけがえない存在だったのは分かってる」
心理「・・・あなたはどうして暗部に堕ちたの?」
垣根「忘れた、たぶん成り行きだったんだと思う」
つまらなそうに垣根が答える
親に捨てられ、社会からは「化け物」と見られて
そんな彼が、「化け物」「異端」「クズ」の巣窟であった暗部に堕ちたのも無理はなかったのではないか
心理「・・・成り行き・・・ね」
垣根「でもさ、お前と会えたのは悪くなかったぜ・・・」
心理「・・・アレイスターと直接交渉して、何を行いたかったの?」
垣根「・・・暗部の解散」
心理「解散?あそこがあなたの居場所だったんじゃないの?」
垣根「・・・そして、お前がいるべき場所じゃなかった」
垣根が溜め息をつく
彼のいるべき世界と、彼女のいるべき世界には少しだけ違いがあった
埋まることは決してない、小さな差が
垣根「・・・そうだったさ、でも次第にお前の隣が居心地よくなってた」
心理「・・・どうして?」
垣根「当時の俺にはそれも分からなかった・・・だから間違えたんだよ」
垣根が遠い目をする
垣根「・・・お前には、普通の世界にいてほしかった、暗部みたいな汚れた世界じゃなくて、普通の世界に」
心理「・・・そんなことのためにあなたは一方通行と戦ったの?」
垣根「お前にとってはくだらないことかもな」
はは、と小さく笑う
結局、暗部の解散は一番の敵であった一方通行が実現させてしまったのだが
垣根「・・・俺にとっては、それが戦う意味だったんだ」
心理「・・・ありがとう」
垣根「今思えば・・・もしかしたら、わりと最初からお前のこと、好きだったのかもな」
心理「あの頃はそんなこと気にしてる余裕はなかったものね」
垣根「あぁ」
心理「・・・あなたは、クズなんかじゃないわよ?」
垣根「それはお前が教えてくれた、なんだって俺が必要なことはお前が教えてくれる」
心理「・・・垣根、愛してる」
垣根「俺も愛してるさ」
垣根が心理定規の髪を撫でる
女性らしい、柔らかな髪だ
垣根「・・・お前はホント、こっちの世界のほうが似合ってるな」
心理「あら、あなたもじゃない」
垣根「そいつは光栄だな」
心理「・・・ねぇ、垣根」
垣根「なんだよ?」
心理「私はあなたのためなら命をかけてもいいの、それは他の誰にも命を預けたりはしないってことよ?」
垣根「・・・俺だけのもの、か」
嬉しそうに垣根が笑う
彼は独占欲が強いのだ
特に、心理定規に関することでは
垣根「・・・上条たち、はしゃいでるな」
遠くでは、上条と美琴がライトアップを前にしてはしゃいでいた
垣根「・・・最近さ」
心理「えぇ」
垣根「・・・あいつらのこと、羨望のまなざしで見ることがなくなったんだ」
心理「・・・」
垣根「昔は、あいつらみたいになりたいって思ってた」
光が誰よりも似合っていて
そして、その中で輝いている二人のように
舞台の中心に立つことができず、いつか主役になれるのを待っている脇役のように
いや、舞台の裏方のほうが過去の二人には似合っていただろう
それでも
垣根「・・・やっと、この世界の住人になれたんだ、俺は」
心理「・・・おめでとう、長かったわね」
垣根「・・・お前のおかげで、ずいぶんと早くなれたんだよ」
心理「・・・ワイン、お祝いに飲もうかしら」
垣根「そうだな、飲むか」
顔を見合わせて、二人が笑う
遠くでは、二人が憧れていたカップルが大声を上げてはしゃいでいた
上条「すげぇ!!めちゃくちゃ綺麗じゃんか!!」
美琴「すっごい!!!ねぇ当麻、すっごいよ!!」
上条「綺麗だなぁ・・・」
美琴「わ、私とどっちが綺麗?」
上条「美琴♪」
美琴「//」
垣根「おーす、お二人さん仲いいっすねー」
上条「あれ、垣根・・・さっきまであっちにいなかったか?」
垣根「それは残像だ」
心理「・・・二人とも、周りの視線をちょっとは気にしなさいな」
上条「周り?」
上条が周りの学生を見つめる
「あれって・・・御坂さんよね?」
「すごい、本物だよ!?」
「彼氏はぱっとしなくない?」
「うん、普通」
上条「ふ、普通・・・」
美琴「大丈夫よ、当麻は世界一カッコイイから!!」
上条「うぅ・・・美琴は優しいなぁ・・・」
美琴「え、えへへ//」
「あ、隣の男の人超イケメン!」
「その隣のドレスの人は彼女かな?」
「彼女じゃない?めっちゃ美人だし」
垣根「聞いたか、俺イケメンだって」
心理「聞いた、私美人だって」
上条「聞いた、俺は普通だって」
美琴「き、聞いた、私御坂さんだって」
垣根「・・・そこはお前がツッコむべきだったな」
心理「・・・私がツッコむべきだったかもしれないわね」
美琴「な、なんかゴメン・・・」
上条「・・・にしても綺麗なライトアップだな」
垣根「ごまかすなよ上条!!」
上条「はぁ!?」
垣根「・・・綺麗だなぁ・・・」
上条「・・・なんか、こういうの見てると懐かしく思うよ」
美琴「懐かしいってなにが?」
上条「いや、でも童心に返ったというか・・・」
心理「・・・子供の気持ちになれるわよね」
クスクス、と心理定規が笑う
上条「そうそう、なんか純粋になれるんだよ」
垣根「そうか?子供はこんなの見てもキラキラしてるとしか思わないだろ」
美琴「・・・夢のないヤツ」
垣根「うっせーな」
上条「・・・綺麗だな」
垣根「あぁ」
四人が噴水を見つめる
キラキラと水しぶきが光を反射する
垣根がたまに行う、能力を使ったプリズムにも似ている
心理「・・・写真、撮らない?」
垣根「お、いいな」
上条「オッケー」
美琴「うん、撮りましょう」
四人が噴水の前に並ぶ
カメラをセットして、肩を組む
美琴「・・・なんか、楽しいわね」
心理「ふふ・・・いつか懐かしく思い出すのかしら」
垣根「さぁな、でも写真があれば思い出せるだろ」
上条「いい思い出として、な」
美琴「うん」
パシャリ、とフラッシュがたかれる
眩しい光が一瞬辺りを包み込む
上条(・・・いつか、これも思い出になるんだな)
少しだけそれが寂しく感じる
でも
上条(それでも、絶対に忘れない)
彼は、そして他の三人は
この日を決して忘れない
出来上がった写真は
四人とも、素敵な笑顔だった
一端覧祭編終了
やりたかった美琴の演奏会と未元定規ができたからよしとしとくw
次は・・・12月上旬、上条さんの学校風景を単発で
上条「・・・」
小萌「となって、ESP・・・」
上条「・・・」zzz
小萌「つまり、自分だけの現実を・・・」
上条「・・・」zzz
小萌「・・・上条ちゃん?」
上条「・・・」zzz
小萌「・・・」
小萌「おいこら上条!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
上条「は、はぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
小萌「もう、補習中に寝ないでほしいのです」
上条「・・・はぁ」
上条当麻は不幸な少年だ
勉強はできず、体育もまぁまぁ
能力があるわけでもなければかなりのイケメンというわけでもない
上条「ですけどね、先生・・・」
小萌「言い訳は聞きません!」
上条「・・・土御門も青髪も今日来てないですよ!?あいつらサボってるじゃないですか!!」
小萌「?上条ちゃんだけですよ、補習受けなきゃいけないの」
上条「へ?」
上条が素っ頓狂な声を上げる
あぁそうか、あの二人は明日受ける予定なのかな?と意味の分からない理論を無理矢理組み上げてみる
小萌「だって、土御門ちゃんも青髪ちゃんもちゃんと単位足りているのです!」
上条「う、嘘だッ!!!!」
小萌「ふっふーん、あの二人もやっとやる気を出してくれたみたいです!」
上条「な、なんで!?あいつら落ちこぼれ・・・」
小萌「上条ちゃんが彼女さんとイチャイチャしているのを見返すために勉強をがんばったみたいなのです」
上条「テストとかどうだったんですか!」
小萌「二人とも偏差値50以上でしたー!」
上条「そ、そんな・・・」
小萌「上条ちゃん、彼女さんを大切にするのはとても大切なことです、でもそれだけじゃダメなのですよ?」
上条「ちくしょう・・・このどう見ても異性なんて知りませんよ的見た目の人間に愛について語られるなんてもう俺は・・・」
小萌「・・・先生は大人なのです!」エッヘン
上条「あぁとにかく!!12月の上旬、世間はそろそろ冬休み!!クリスマスとか大晦日とか正月とか!!そういうのに浮かれているこの時期にどうして俺は補習なんですか!?」
小萌「上条ちゃんもわりと成績は伸びてきてますね・・・」
小萌が上条の成績表を見つめる
頭のいい美琴に勉強を教えてもらった成果か
たった半年で偏差値が6も上がっている
しかし、もとが低かっただけにまだ足りないのだ
上条「・・・努力が報われない世の中・・・」
小萌「言い訳は見苦しいのです」ニコッ
上条「笑いながら言うセリフじゃねぇーーーーー!!!」
上条「・・・で、俺はあとどれくらい単位が足りないんですか?」
小萌「そうですね・・・上条ちゃんが先生と秘密の個人授業をした、って言うならいくらでも単位は減らすのです!」
上条「遠慮しときます、恋人がいるので」
小萌「冗談に真面目に返されると困るのです」
上条「・・・それで、どれくらいですか?」
小萌「あと3時間受ければ大丈夫なのですよー」
上条「・・・明日も確定か」
上条がうなだれる
美琴との時間が減ってしまうのが辛かった
外を見ると、チラホラと雪が降っている
そんな幻想的な一日なのに、なぜ自分は机と向かい合わなければならないのか
上条「・・・はは、幻想をぶち殺す・・・か」
小萌「?どうかしましたか、上条ちゃん?」
上条「なんでもないです・・・」
上条「・・・寒い」
補習を終え、上条は一人寂しい帰路についていた
上条の学校は昨日から冬休みだ
早い、と思うかもしれないが
なんでも改修工事があるため、長くなったらしい
その分来年に補習が回ってくるのだが
上条(・・・常盤台はまだ授業だもんな)
はぁ、と息を吐く
暖かかった息もすぐに白い塊になって空へと昇っていく
上条(・・・ちょっと立ち読みでもするかな)
普段はそんなことしないのだが、さすがにこの寒い中休憩も取らずに歩いて帰る気にはなれなかった
上条「・・・今週は全部面白くないな・・・」
週刊誌を読みながら、上条がつぶやく
もともと、漫画をたくさん読むほうではないのだが
上条(・・・帰るにしても、まだなぁ・・・)
外はまだ雪が降っている
それに、帰っても美琴はいないのだ
上条(・・・常盤台に迎えに行くのは無理だし・・・)
もう一度、上条が溜め息をつく
そのとき、コンビニのドアが開いた
テクパトル「あー・・・寒い寒い・・・」
上条「あれ?どうしたんだよテクパトル?」
テクパトル「ん、上条か・・・ここ、俺のバイトしてるコンビニだぞ?」
上条「え、そうだったっけ?」
テクパトル「お前何度か来てただろ・・・」
上条「あー・・・ついフラフラと来てしまったもので」
テクパトル「へぇ・・・寒いからな、ここはあったかくて助かる」
そう言ってからテクパトルは着替えをしに行った
上条(・・・いい暇つぶしになりそうだな)
テクパトルと話せば少しは時間もつぶれるだろう
それに、学生はほとんど学校のため、まだお客は上条だけだった
テクパトル「・・・で、なんで思いっきりレジの前に居座ってるんだよ」
上条「いいだろ、お客さんいないし」
テクパトル「いや、いいんだけどさ・・・」
上条「なぁ、最近、どう?」
テクパトル「悪いが、俺は渋谷でウォークマンをがんがんにかけている人じゃない」
上条「誰がそれわかるんだよ」
テクパトル「さぁな」
上条「・・・じゃなくて、どうなんだ?19090号とは」
テクパトル「・・・なんで言わなきゃならないんだよ・・・」
上条「気になるだろ?」
テクパトル「別に普通だ、相変わらずまったりと付き合ってるよ」
上条「?19090号からは毎日エッチしてるって聞いたけど」
テクパトル「!?お前なんてこと聞いてんだよ!?」
上条「いや、ウソだけどな」
テクパトル「」
上条「でもさ、たまにはそういうのもあるんだろ?」
テクパトル「・・・お前たちほどではないさ」
上条「ふーん・・・なぁ、やっぱり19090号も胸が弱いのか?」
テクパトル「んなこと知ってどうするつもりだ」
上条「美琴も弱いから」
テクパトル「そんな情報はいらねぇ・・・」
上条「で、どうなんだ?」
上条がニヤニヤと笑う
こういう話をできるのはテクパトルを始めとした一部の人間だけだ
土御門や青ピは彼女がいないのだから
いや、土御門は義妹がいるからそういうのはもう終わってるかもしれない
テクパトル「・・・弱いよ、たしかに」
上条「やっぱか・・・」
テクパトル「なぁ、もう少しまともな会話をしないか?」
上条「ん、そうだな・・・」
テクパトル「・・・冬休みの予定とか決まったか?」
上条「あぁ、イギリス旅行・・・垣根たちとな」
テクパトル「イギリス?」
上条「大覇星祭で無料旅行券もらったからさ」
上条が苦笑する
そういえば、そんなこともあったかもしれないな、とテクパトルが思い出す
テクパトル「・・・でも、なんで垣根たちも?」
上条「なんていうか・・・美琴と二人だけだと、迷ったときが・・・な」
テクパトル「義姉さんも英語しゃべれるだろ?」
上条「そうだけど、俺と美琴がはぐれたヤバいから」
テクパトル「ふーん」
上条「お前は?」
テクパトル「ミサカたちとおせち作るよ、あと・・・クリスマスは19090号とデートだ、17600号が上手く他のミサカを誘導してくれるらしくてな」
上条「そりゃよかったな・・・」
テクパトル「あぁ、助かるよ」
上条「できた娘だな・・・」
テクパトル「娘・・・なのか?」
上条「娘だろ」
テクパトル「・・・まぁそんなものかもな」
ははは、とテクパトルが苦笑する
そのとき、ドアが開いた
テクパトル「あ、いらっしゃいませ・・・って心理定規?」
心理「あら、久しぶり・・・ってほどでもないかしらね」
上条「あれ、垣根は?」
心理「上条君もいるなんて珍しいわね・・・垣根は家で昼寝よ」
心理定規がレジへと進む
心理「・・・で、こんなところで何の話かしら?」
上条「冬休みの予定・・・」
テクパトル「お前は上条たちと旅行か?」
心理「えぇ、そうよ」
テクパトル「・・・いいな、楽しそうだ」
上条「・・・そうだな、楽しみだ」
心理「はぁ・・・それにしても今日は寒いわね」
心理定規が外を見つめながらつぶやく
雪は相変わらず降っていた
彼女も普段とは違い、厚着をしている
ただのコートがオシャレに見えるのは彼女が美人だからだろう
上条「・・・心理さんがドレス以外のとこってあんまり見ないよな」
テクパトル「いつもドレスだからな」
上条「そうそう・・・たまに目のやりどころに困るよな」
心理「あら、そんなに?」
心理定規がいたずらそうに笑う
上条「誰だって困ると思うけどな・・・」
テクパトル「まぁ、正直な」
心理「ふふ・・・二人とも若いのね」
テクパトル「・・・お前が一番年下だろ」
心理「年齢じゃなくて、よ」
上条「・・・まぁ、今は大丈夫だけど」
心理「あら、じゃあコート脱ごうかしら」
テクパトル「やめてくれ・・・」
テクパトルが呆れたように溜め息をつく
心理「冗談よ、垣根に悪いもの」
上条「・・・そういえば、垣根はよく昼寝とかするのか?」
心理「えぇ・・・いっつも1時間くらいは寝てるわね」
テクパトル「疲れやすいタイプなのか?」
テクパトルが首を捻る
垣根はそこまで体力がないわけではない
それなのに、昼間から睡眠を取るとは思えなかった
心理「さぁ?でも趣味なんですって」
上条「らしくない趣味だな・・・」
テクパトル「・・・心理定規は一緒に寝たりしないのか?」
心理「私の性生活について知りたいのかしら」
テクパトル「・・・そういう意味じゃないんだけどな・・・」
テクパトルが頭を抱える
どうも、心理定規のような小悪魔タイプは苦手だ
心理「そうね・・・私はあんまり昼寝はしないもの」
上条「ふーん・・・」
心理「ねぇ、これ買っていいかしら」
心理定規がおでんを指差す
テクパトル「いいけど・・・」
心理「なに?」
心理定規が首を捻る
男二人は少し驚いたような顔をしていた
上条「・・・心理さんもコンビニおでんとか食べるんだな」
心理「あら、こういうのは結構好きなのよ?」
上条「意外だな・・・」
心理「そう?」
テクパトル「オシャレなものしか食べなさそうだからな・・・」
心理「おでんってなんだか優しい味がするじゃない・・・はんぺんちょうだい」
テクパトル「はいよ」
テクパトルがはんぺんを差し出す
上条「俺は・・・牛スジ」
テクパトル「美味いよな」
上条「あぁ」
心理「・・・この組み合わせって、珍しいわよね」
上条「そういえば・・・ちょっと異色だな」
テクパトル「別にそうでもないだろ」
心理「あら、ふてくされちゃって」
テクパトル「ふれくされては・・・」
心理「はんぺん、食べたいの?」
心理定規が自分の食べかけのはんぺんを差し出す
テクパトル「・・・いらないんだけど」
心理「・・・あなたって遊び甲斐がないわね」
テクパトル「そういうのは上条にやれよ、リアクションは期待できるぞ」
心理「上条君、あーん」
上条「み、美琴と垣根に悪いから!!」
心理「あら、ホントね」
テクパトル「はぁ・・・寒いな」
上条「そうだな・・・寒い」
心理「・・・もう少しいてもいいかしら?」
テクパトル「あぁ、別に構わんよ」
心理「・・・そういえば、テクパトルはなんでコンビニでバイトしてるの?」
テクパトル「うーん・・・近いからかな、あと店長がなんか外国人好きだったから」
上条「へぇ・・・時給は?」
テクパトル「800円・・・まぁまぁじゃないか?」
上条「いいな・・・俺もここで働きたいよ・・・」
心理「美琴がダメって言うでしょ?」
上条「そうなんだよ・・・」
テクパトル「俺もさっさと正社員とかになりたいんだけどな・・・」
心理「?コンビニの?」
テクパトル「まさか、ジムだよ」
上条「・・・ホント好きなんだな」
テクパトル「楽しいからな」
テクパトルの目が輝く
心理定規には分からない楽しさだ
テクパトル「ペットと同じさ、エサをあげて、世話をして・・・大きくなるのを楽しみにする」
上条「筋肉がペットって・・・」
テクパトル「でも似たようなもんだろ」
心理「私には理解できない世界ね・・・」
テクパトル「そりゃそうだろうな」
上条「・・・そうだ、心理さんはもう旅行の準備してるのか?」
心理「えぇ、もちろん」
テクパトル「イギリスか・・・あそこは飯がまずくないか?」
上条「行ったことあるのか?」
テクパトル「何度かな」
テクパトルが溜め息をつく
イギリスのご飯は金を払って食べるものではない
というか、金を払ってもらいたくなるくらいの店もある
某ハンバーガーチェーン店が大絶賛されるほど、食事が微妙なのだ
上条「・・・でも知り合いがいっぱいいるからな」
心理「あら、外国に?」
テクパトル「おおかた魔術つながりだろ?」
上条「よ、よく分かったな・・・」
テクパトル「必要悪の教会の禁書目録と知り合いなんて、お前はありえないな・・・」
上条「あいつってそんなにすごいのか?」
テクパトル「・・・まぁ今の俺には関係ないがな」
心理「魔術・・・ね、面白そう」
上条「・・・勉強とか好きな人?」
心理「あら、楽しいじゃない」
上条「楽しくないから!!」
心理「知らないことを知るのは面白いことよ?」
上条「・・・そうは思いません・・・」
上条がうなだれる
さきほどまで補習で苦しんでいたのだ
勉強の話はしたくなかった
心理「・・・そういえば上条君は学校帰り?」
上条「・・・一人だけ補習ですよ」
テクパトル「ははは!!そりゃいいな」
上条「あぁもうよくねぇよ!!」
半分涙目で噛み付くように上条が言う
テクパトル「いや、悪い悪い・・・それで、どうだ、勉強は?」
上条「・・・明日でどうにか終わるよ」
心理「旅行には間に合いそうね」
テクパトル「いつから旅行なんだ?」
上条「えっと・・・ちょうどクリスマスを挟むくらい」
心理「23日に向こうについて、26日にこっちに帰ってくるわ」
テクパトル「じゃあ正月はみんなで祝えるな」
心理「そうね、そうなるわ」
テクパトル「・・・寒いな」
上条「あぁ、寒い」
心理「寒いわね・・・」
テクパトル「・・・もうすぐクリスマス、か」
上条「19090号に何してやるか決めたのか?」
テクパトル「そういやまだ決めてないな」
心理「・・・サプライズでプレゼントでもあげたら?」
テクパトル「・・・そうだな」
テクパトルが心理定規の手を見る
そこには、垣根から渡された指輪があった
テクパトル「・・・それ、垣根からのだよな?」
心理「えぇ、あなたも指輪・・・買ってあげたら?」
テクパトル「・・・指輪・・・か」
心理「どうかしら、喜ばれるわよ?」
上条「・・・指輪か・・・」
心理「あら、上条君も?」
上条「あぁ・・・美琴も喜んでくれるなら・・・いいからさ」
心理「でも高いんじゃないかしら」
上条「そうだよな・・・金貯めないと」
テクパトル「・・・心理定規のそれはいくらしたんだ?」
心理「20万くらいよ」
テクパトル「・・・高いなおい」
心理「そう?」
上条「高いんだよ・・・」
テクパトル「・・・そろそろ6時か・・・」
上条「・・・もうそんな時間か・・・」
心理「あら、じゃあもう帰るわね」
上条「俺も帰ろうかな」
テクパトル「じゃあな」
上条「おう、またな」
心理「またね」
二人がコンビニから出て行く
テクパトル「・・・補習、か」
テクパトルがぽつりとつぶやく
テクパトル「明日もがんばれよ、上条」
上条「・・・」
結局
上条は、家でも宿題に追われるのだった
上条「・・・わりと分かるようになってきたな」
ぽつり、と上条はつぶやいていた
今日は補習の最終日
やっと終わると思えば耐えられるものだ
小萌「・・・上条ちゃん、そこ間違ってますよ」
上条「・・・あり?」
小萌「はぁ・・・上条ちゃん、そのままじゃまた補習になりますよ」
上条「ほ、補習だって!?イヤですよそんなの!」
小萌「だったらもっと真面目にしてください」
上条「・・・あの、俺・・・そろそろ海外旅行が」
小萌「何日からですか?」
上条「・・・23日から」
小萌「まだ二週間近くあるじゃないですか!」
小萌が嬉しそうに手を叩く
なんとなく
なんとなくだがイヤな予感がしてしまう
小萌「このままじゃどうせ補習になりますから・・・明日も補習でいいですよね、上条ちゃん!」
上条「ま、待ってください!」
小萌「だって上条ちゃん、全部間違ってますよ?」
上条「う、嘘だ!この中の何個かくらいは出来てるはずでしょ!?」
小萌「合ってませんよ、一つも」
上条「そんな・・・もうダメだぁ!」
上条が頭を抱える
さっさと補習を終わらせて美琴とイチャイチャしたいのだ
なのに、明日も補習になるだなんて
上条「先生、頼みますよ!このままじゃ俺、美琴と・・・」
小萌「別れることになってしまう、ですか?」
上条「だって一緒にいられる時間がかなり減るんですよ!?」
小萌「上条ちゃん、そんなことで別れるほど薄い絆はありません」
上条「だって!美琴と一緒にいたいんですよ!」
小萌「まともに頑張って、今日のこれからのテストでいい点数を取ればいいんですよ」
上条「テストって・・・いい点が取れなかったらどうせまた明日補習になるんですよね・・・はぁ」
上条が泣きそうになる
小萌「・・・ですが上条ちゃん、上条ちゃんは大覇星祭ではよく頑張ってくれましたし・・・特別に今日で終わりにしてあげましょう」
上条「ほ、本当ですか!?」
小萌「その代わり、海外旅行から帰ってきたら絶対に勉強してくださいね?」
上条「よっしゃあ!ありがとうございます先生!」
両手を上げて上条が喜ぶ
天使、女神、そんな褒め言葉を並べながら
小萌「あぁ、あとお土産も買ってきてほしいのです!」
上条「そりゃもう喜んで!」
小萌「じゃあ、解散なのです!」
上条「よっしゃあ!」
上条がカバンに教科書を詰め、すぐさま教室から出ていく
上条「それじゃあ先生、また!」
小萌「またなのですー!」
上条「あぁ・・・最高だなぁ!」
学校からの帰路で、上条は喜びながら叫んでいた
上条「はぁ・・・明日から美琴と・・・」
上条が美琴との明るい生活を思い浮かべる
上条「あぁもう楽しみだな!」
急いで、寮へと向かう
上条「ただいま、美琴!」
美琴「ん、お帰り!」
寮の中ではすでに美琴がこたつに座っていた
上条「美琴、今日で終わったぞ、補習!」
上条が嬉しそうに美琴に伝える
美琴「ホント!?やったぁ!」
時間はもう午後の6時
上条「・・・だからさ」
上条がカバンをベッドに放り投げてすぐ、美琴のそばに行く
美琴「あ・・・や、やりたいの?」
上条「ん、ダメか?」
美琴「その前にご飯食べたいんだけど・・・今日学校が最後だったから、疲れちゃって」
上条「あれ?常盤台って今日までなのか?」
上条が首を捻る
たしか常盤台は普段、クリスマスの直前まで授業があるはずだが
美琴「なんでも、教員試験があるらしくてね」
上条「教員試験?それってわざわざ学校休みにしてまでやることなのか?」
美琴「うん、だから今日でおしまい・・・大掃除とかもあったから」
美琴が腕をグルグルと回す
肩がパキパキと鳴っている
上条「ん、じゃあ飯からにするか」
美琴「ありがと、当麻!」
美琴が上条にキスをする
それで一瞬欲情してしまいそうになる
上条「・・・ん、じゃあ飯でも作りますか」
上条がキッチンへ向かう
美琴「・・・今日から・・・一緒にいられるんだ」
上条「ん、まぁ・・・海外旅行終わったらみっちり勉強しないとな」
美琴「じゃ、じゃあ私が教えてあげるわよ!」
上条「お、それはありがたい」
美琴「・・・当麻、愛してる」
美琴がまた上条にキスをする
上条「?なんか甘えすぎじゃないか?」
美琴「・・・だって寂しかったんだもん」
上条「寂しかったって・・・いっつも会ってるじゃないか」
美琴「だ、だって・・・最近はちょっと忙しくて・・・」
上条「ごめんな、構ってあげられなくて」
上条が美琴の頭を撫でる
美琴「えへへ・・・//」
上条「イギリス旅行まではずっと一緒にいられるし・・・冬休みも楽しくなりそうだなぁ!」
嬉しそうに上条が笑う
美琴「・・・でも、一応今からも勉強しとかないとね」
上条「・・・は、はい」
美琴「当麻はしっかり前もって勉強しないといけないもんね」
上条「・・・まぁ・・・テストでいい点数は取りたいけどさ」
美琴「うん、だからあとで勉強よ?」
上条「あの・・・エッチは?」
美琴「お、終わってからよ!」
上条「はぁ・・・待ち遠しい」
美琴「とにかく!ご飯食べてお風呂入ったら勉強よ!?」
上条「・・・」
無言で上条が美琴の胸に手を伸ばす
美琴「んやぁっ・・・バ、バカじゃない!?いきなりは・・・あっ・・・」
上条「いいのか?勉強のあとで」
美琴「・・・い、いいわよ!」
上条「ふーん」
美琴「・・・い、いいわよ」
上条「いいの?」
美琴「あ・・・じゃあ勉強の前に・・・かな」
上条「よっしゃあ!」
美琴「け、結局当麻がしたいだけじゃない!」
上条「そりゃあ・・・美琴としたいに決まってるじゃないか」
美琴「・・・わ、私も・・・」
二人が見つめ合う
こんな会話をしていると、さすがに意識してしまう
美琴「・・・ねぇ」
上条「・・・疲れてるんじゃないか?」
美琴「・・・当麻、いいじゃない」
美琴が上条に抱き着く
上条「・・・いいのか?」
美琴「お願い・・・ねぇ?」
上条「・・・分かった」
上条が美琴をベッドに連れていく
美琴「やっ・・・ね、当麻・・・」
上条「美琴、愛してる」
上条が美琴の制服に手をかける
上条「・・・美琴っていつも短パン履いてるよな」
美琴「ん・・・だって、ほかの人に・・・」
上条「分かってる、見られたくないんだろ?」
美琴「ん・・・当麻にだけ・・・」
上条「・・・ありがと、美琴」
美琴「ふぁぁっ・・・」
上条が美琴の胸に手を触れる
上条「美琴・・・もうダメだ・・・」
美琴「・・・いいわよ、来て・・・」
その容認の一言で上条のリミッターが外された
上条「・・・美琴」
クチュクチュ、と音を鳴らしながら上条が美琴の下半身を弄る
美琴「・・・んっ・・・いきなり?」
上条「美琴、どうだ?」
美琴「・・・気持ちいい・・・はぁっ・・・」
上条「胸も触るからな」
美琴は最近、大人びた下着をつけるようにしている
もちろん、上条に好かれたいからだ
美琴「・・・子供っぽいかな?この下着・・・」
上条「いや・・・最高だよ」
美琴「・・・そ、そう?」
上条「・・・」
上条が指先で美琴の下半身の突起を弄る
美琴「んぁっ・・・急すぎるわよ・・・」
上条「だってさ・・・ガマンできないんだよ」
美琴「ふゅっ・・・あ、あぁっ!」
上条「ん・・・イきましたか」
美琴「・・・ねぇ、ねぇ・・・」
上条「・・・イったんじゃないか?」
美琴「・・・ま、まだ一回だもん・・・」
上条「・・・美琴さん、なんかエッチすぎませんか?」
美琴「い、いいの!当麻と最近一緒ににいられなかったんだもん!」
上条「・・・じゃあ、お望み通りに」
美琴「ふぁぁぁっ!」
上条の手の動きが一段と早くなる
一体どこで覚えたのかと聞きたくなるほど卑猥な手つきだ
美琴「あっ・・・!」
上条「・・・またイったか」
美琴「・・・当麻・・・当麻・・・」
上条「・・・美琴、可愛いな」
美琴「当麻・・・今度は私ね」
上条「ん、お願いします」
美琴「・・・」
上条の肉棒を、美琴が頬張る
彼女の口には少し大きすぎる
しかし、そんなことは気にしていなかった
美琴「ほぉまぁ・・・ほぉま!」
上条「しゃ、しゃぶりながらじゃ何言ってるか・・・はぁ、分かりませんよ」
美琴「・・・ぷはっ!」
一旦美琴が上条のそれを口から放す
美琴「・・・当麻、いつもより大きくなってるわよ」
上条「・・・美琴さんのエッチな姿を見せられたからですよ」
美琴「・・・分かってるわよ」
上条「・・・美琴、可愛いぞ」
美琴「ふゅっ!」
上条「あれ・・・何もしてないのにイっちゃったんですか?」
美琴「・・・」
くたぁ、と美琴が上条に体を預ける
美琴「・・・疲れちゃった」
上条「・・・美琴」
上条が美琴の首筋に舌を這わす
それだけで、美琴の体がビクリと奮える
上条「・・・綺麗だ・・・世界一だよ、美琴」
美琴「・・・分かってるわよ、当麻も世界一カッコイイじゃない」
上条「・・・好きだ、美琴」
美琴「当麻・・・」
上条の肉棒を再び美琴が口に含む
美琴(・・・こうしてると、なんだか落ち着く・・・)
上条「美琴、なんかエッチですよ・・・はぁっ・・・」
上条の顔が紅潮していく
その事実がより一層、美琴を興奮させる
クチュクチュ、と音が響く
美琴(ダメ、止まらない・・・)
美琴の口の動きはどんどん加速していく
上条「あっ!あっ!美琴、ヤバいって・・・」
美琴「んっ!んっ!」
上条「出すぞ!美琴の口の中に!」
美琴「んーっ!」
苦くて熱い液体が、美琴の口の中に出される
あまりにも量が多すぎて、簡単に飲み込めはしなかった
だが、吐き出すのはもったいなく思えてしまった
美琴(・・・熱い・・・)
ぼーっ、と美琴の思考がぼやける
その液体の、少し特有な匂いが美琴の脳内に満たされる
美琴「・・・」
美琴が喉を鳴らす
生暖かい液体が、美琴の喉を通っていく
美琴「・・・ぷはぁ・・・当麻、どうだった?」
上条「ヤバかった・・・美琴、苦くなかったか?」
上条が虚ろな目で美琴を見つめる
定まらない焦点が少しだけじれったい
今すぐにでも、愛している人の顔を見つめたいのに
上条「美琴、美琴」
上条が美琴の名前を呼ぶ
その甘えるような声に、一瞬美琴はどきりとしてしまう
美琴「・・・どうしたの、当麻?」
上条「・・・美琴」
上条がニコリと笑いながら美琴を抱きしめる
美琴「・・・あ」
上条「・・・幸せだなぁ」
ぽつり、と上条がつぶやく
何度も何度も、こういうことはやってきた
しかし、決して飽きたりはしない
美琴の体は、知れば知るほど魅力が増していくのだ
美琴「・・・なんか、いーっつもエッチしてるね」
上条「いいんだよ、俺はしたいけど?」
美琴「わ、私もよ」
上条「・・・いい匂いがする」
美琴「ふぇっ!?」
上条が美琴の頭に顔を埋める
シャンプーの匂いだろうか
だがそれとは別に、なにか甘い匂いがした
上条「はー・・・いい匂い」
美琴「ま、まだ風呂入ってないから・・・」
上条「?汗の匂いはしませんよ?」
上条が首を捻る
というよりも、美琴の汗なら愛せる自信があった
一部ではそれを変態と言うのだが
上条「・・・美琴って、髪の毛綺麗だよな」
美琴「一応・・・ちゃんと手入れもしてるから」
上条「・・・なんか、女優さんみたいだ」
上条がテレビで見る、黒髪の美しい女優にも似ている
美琴「・・・女優・・・ねぇ」
上条「でも、どんな女優さんよりも綺麗だ」
美琴「あ、ありがと」
上条「・・・美琴」
美琴「ん、入れたいの?」
上条「うーん・・・今日は美琴さんが動いてくださいー」
ベッドの上に上条が寝転がる
それはつまり、騎乗位というやつを要求しているのだろう
美琴「あ、あれって結構恥ずかしいのよ?」
上条「え、なんで?」
美琴「わ、私が・・・当麻を襲ってるみたいじゃない」
上条「気にしない気にしない」
上条が両手両足を無防備に広げる
襲ってくださいー、という意思表示だ
上条「・・・」
美琴「・・・わ、わかったわよ」
ぐい、と美琴が上条の肉棒にゴムをつける
そして、自分の秘部に導いていく
上条「うぉ・・・やべ」
美琴「ふぁっ・・・入ってくる・・・」
上条「あっつ・・・」
美琴「・・・はぁ・・・おっきい・・・」
美琴が腰をくねらせる
こういう動きをすると、奥にまで届いて気持ちいいらしい
上条「うあ・・・美琴さんの愛液が・・・」
美琴「い、言わなくていいの」
ギシギシ、とベッドがきしむ
隣の部屋に聞こえていないよな、と上条は一瞬思案する
美琴「・・・当麻、どう?」
上条「・・・最高です・・・」
上条が美琴の腰に手を当てる
グリグリ、と擦りつけるようにして奥をいじめる
美琴「あぅっ!!はぁ!!」
上条「・・・美琴、どうどう?」
ニヤニヤ、と上条が笑う
この体勢は、普段は美琴に動いてもらえばいいだけのため、わりと楽なのだ
美琴「ダ、ダメ・・・腰が・・・」
ビクビク、と美琴が体を震わせる
上条「・・・こら、ちゃんとしてないと危ないぞ?」
下から、美琴の胸に手を伸ばす
美琴「ひぁっ・・・」
上条「ほら、ちゃんと腰に力入れ・・・ってうわ!!」
美琴の体がバタリ、と上条の上に倒れる
美琴「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
上条「そ、そんなによかったのか?」
美琴「う、うん・・・」
上条「・・・よいしょ」
少し動きづらいが、それでも上条は腰を動かす
クチュクチュ、と二人の結合部が音を鳴らす
美琴「ん・・・当麻、大好き・・・」
上条「俺もだ・・・もうヤバい・・・」
美琴「来て・・・来て・・・」
上条「美琴!!」
上条が、肉棒を思い切り奥へと差す
美琴「くぁぁっ!!」
上条「はぁっ!!」
上条「・・・疲れました・・・」
美琴「疲れた・・・」
上条「・・・美琴、風呂入る?」
美琴「一緒でいいじゃない」
上条「ん、それもそうだな」
上条がベッドから身を起こす
少しだるいが、それは我慢しなければならないだろう
美琴「んー・・・当麻」
美琴が上条に手を伸ばす
起こしてほしいのだろうか
上条「はいはい、お姫様」
美琴「お、お姫様・・・」カァッ
上条「ふぁぁ・・・なんか疲れちまって眠くなってきた」
美琴「私も・・・もう遅いし、早く寝ましょ」
上条「はーい」
風呂に入り、そしてベッドへともう一度入る
今度は就寝するためだ
上条「いい夢が見られますように!」
美琴「私も・・・いい夢が見られますように」
上条「じゃ、おやすみな」
美琴「うん、おやすみ」
抱きしめあいながら、二人は眠りに着く
夏だと少し暑いが、今は冬だ
むしろこうやって抱き合うことで、お互いの体温を感じられる
それが幸せだった
上条(・・・どんな夢・・・見られるかな)
そっと目を閉じてすぐ、上条は夢の世界へと落ちた
夢の中では、補習に苦しまされるのであった
上条さんの補習編終了
クリスマスの上琴、未元定規+1カップルの旅行は次スレで
次は・・・削板、黒子&ウイーハルさんの「お勤めごくろう」編
削板「ふぁぁ・・・寒いな」
黒子「えぇ、寒いですの・・・」
初春「寒いです・・・」
削板「こうも寒いと・・・パトロールなんてしたくもないだろうな」
3人は風紀委員の支部にいた
とても暖かく、ここは快適だった
今日はパトロールはおやすみ
そのため、快適な仕事を出来る
黒子「夏はイヤなこの書類の山も・・・今は暖かいここにいる口実になりますの」
初春「いやぁ、こんな中パトロールの固法先輩は大変ですねー」
削板「ウイーハルさん、クッキーくれ!」
初春「はいはい・・・削板さんもいつの間にか風紀委員の一員みたいになってますね・・・」
黒子「あら、いいことではありませんの」
超能力者の削板軍覇
彼がいるだけで、スキルアウトの大半は活動を沈静化させてしまう
黒子「・・・軍覇さん、風紀委員に入るつもりはございませんか?」
削板「・・・そうだな・・・でも、そういうのは遠慮したいな」
初春「どうしてですか?」
削板「うーん・・・」
削板が考えるような仕草を見せる
彼は、独自の正義論というものを持っている
正義というものは、ふりかざすものではない
心の中に留めておき、いざというときにだけ解き放つものだ
普段から正義正義と語っていては、それは正義ではなく善の押し付けになってしまうと考えている
そのため、風紀委員のように常に正義のために行動するのは苦手なのだ
もちろん、風紀委員が偽善というつもりはない
しかし、自分のような力のありすぎるものが常に力を奮うのは間違っている
削板「あれだよ、俺は自由に行動したいんだ」
黒子「・・・自由に・・・ですの?」
削板「あぁ・・・そうだな、なんていうか・・・仕事として誰かを助けるのはイヤなんだよ」
初春「・・・私達は別に、仕事として助けているわけではありません」
削板「あぁいや!!違うんだよ!」
慌てて削板が手を振る
どうも、初春に不快な思いをさせてしまったらしい
削板「つまりあれだ・・・たとえば、黒子・・・お前が風紀委員じゃなくて、一般の学生だとしようか」
黒子「えぇ・・・?」
削板「それで、もしも不良に絡まれたとして・・・風紀委員が助けに来るだろ?」
黒子「はい、そうなりますの」
削板「・・・それは、当たり前じゃないか?」
削板が少し辛そうな顔をする
削板「つまりあれだ・・・たとえば、落ち込んでいる学生がいたとしよう」
黒子「・・・不良に絡まれて、ですか?」
削板「そうだ・・・そして、それを風紀委員に助けられても・・・もしかしたら、それは義務からきた救いだと感じるかもしれない」
初春「・・・たしかに、そうかもしれませんね・・・」
削板「俺は、強い人間を助けるつもりはないんだ」
削板が笑う
彼が守るのは弱い人間だけだ
削板「心が疲れてるヤツを・・・仕事とか、力とか、そんなことに関係無しに助けたいんだ」
黒子「・・・」
削板「たとえ風紀委員でなくても、ただ一人の男でも・・・」
削板「お前の味方をしてやる人間がいるって、そういうヤツに教えてやりたいのさ」
コーヒーを飲みながら削板が笑う
黒子「・・・素晴らしいですの」
初春「・・・なんか、見直しました」
削板「そうか?普通だろ?」
けろっとした顔で、削板が答える
黒子「・・・ですが、やはりそれは風紀委員にほしい正義ですの」
削板「正義じゃなくて根性だ!」
バーン!!と削板が胸をたたく
効果音がドン、でないあたり彼は化け物じみている
初春「・・・なんか、すごいですね」
黒子「そうですの・・・信じられませんの」
削板「まぁ、それはおいといて・・・」
削板が周りを見つめる
風紀委員の支部はなかなか綺麗な内装をしている
落ち着いた壁紙、綺麗なソファー
そして、クッキーやらコーヒーやらを乗せるためのカップや皿
削板「・・・これって、補助金が出るのか?」
黒子「えぇ、結構出ますの」
初春「・・・でも、大抵は活動で消えるんですよ?」
黒子「そうですの・・・ですから、意外とこういうものははした金を集めて買ったんですの」
削板「へぇ・・・大変なんだな・・・」
黒子「かといって自分のお金で買うと・・・他の方が遠慮してしまいますの」
削板「あぁ・・・それは分かるな」
黒子「ですから、意外と丁寧に扱うんですの」
黒子が溜め息をつく
そろそろ新調したい気もするのだが
初春「・・・これ、ちょっとヒビが入ってますね・・・」
初春がコーヒーカップを眺めながらつぶやく
黒子「あら、ホントですの・・・」
削板「・・・あ、そうだ」
削板がぽん、と手を打つ
削板「今日の仕事って早く終わるか?」
黒子「えぇ・・・ですがどうしてですの?」
削板「俺が買うよ、コーヒーカップとか」
初春「そ、それは・・・」
削板「いやいや、金が余ってるんだよ」
削板が笑う
彼は超能力者なため、有り余るほどの金があるのだ
黒子「・・・では、少しお願いしますの」
削板「じゃ、あとで一緒に買いに行くか」
初春「そうですね・・・分かりました!」
風紀委員の仕事は、ちょうど午後の6時に終わった
削板「よーし!!お勤めご苦労・・・」
初春「さようなら・・・」
黒子「なんですのそのネタ・・・というかなんで銃を撃つジェスチャーを?」
初春「・・・分からないんですね、白井さん」
削板「いや、俺もわからない・・・」
初春「みなさん、知ってますよね?」
黒子「聞かないでいいですの・・・それより、何から買いますの?」
削板「そうだな・・・」
初春「ティーカップからでいいんじゃないですか?」
削板「ん、じゃあ・・・デパートだな」
黒子「では行きますの」
黒子が二人の肩に触れる
その瞬間、三人の体が虚空に消える
黒子「さてと・・・着きましたの」
削板「相変わらず空間移動は便利だな!」
初春「学校にも遅れないでしょうね・・・」
黒子「どこでもドア代わりには使いませんの・・・」
はぁ、と溜め息をついてから黒子が目の前のデパートを見つめる
たまに削板と買い物に来るのだが、なかなか品揃えが抱負で便利な店だ
黒子「・・・さて、食器売り場は・・・」
削板「食器売り場・・・二階みたいだな」
店内の案内図を見つめて、削板がつぶやく
初春「じゃあ、行きましょうか!」
黒子「そうですのね」
三人がエスカレーターに乗る
初春「たまにエスカレーターとエレベーターってどっちがどっちか分からなくなりません?」
黒子「ならないですの」
削板「ならないな」
黒子「えっと・・・これとかどうでしょうか?」
削板「うーん・・・もう少し白が基調のデザインのほうが部屋に合うんじゃないか?」
黒子「あら、部屋に合わせるものなんですのね」
初春「白井さん・・・お嬢様なのに・・・」
黒子「お嬢様を気取るつもりはありませんの」
ふん、と黒子が鼻を鳴らす
彼女からしたら、こういう花柄のほうがオシャレな気がするらしい
削板「あ、じゃあうちにこれ買おうかな」
黒子が指差していたティーカップを削板が手に取る
黒子「あ、あら・・・いいんですの?」
削板「あぁ、黒子が選んだのなら間違いないだろ」
黒子「//」
初春「世界の、いわゆる非リア充と呼ばれるみなさん」
初春「カップルを見たら爆ぜろ、と思うみなさんや、女子との会話とか想像するだけで胸がキュンってするみなさん」
初春「立ち上がりましょう」
初春「革命のときは来ました」
黒子「その台詞はダメですの」
削板「・・・さて、ティーカップはいいとして・・・次は?」
初春「椅子も一つほしくないですか?削板さんの分が必要ですから」
黒子「あら、そうですのね」
削板「なんかいつもお邪魔して悪いな」
黒子「いえいえ、助かりますの」
初春「家具売り場は・・・向こうですね」
初春が指差した方向に三人が向かう
黒子「まぁ・・・これまた品揃えが豊富ですの」
削板「椅子からタンス・・・テーブルにベッドか」
黒子「いつか一人暮らしするときには重宝しそうですの」
削板「?一緒に暮らさないのか?」
黒子「//」
初春「こんにちは、滝川クリス春です」
初春「今日は、街中で幻の生物と言われるリア充が発見された、というニュースから」
黒子「初春、必死にボケないでくださいな」
初春「こうでもしてないと嫉妬でつぶれそうです」
黒子「・・・嫉妬は燃やすものですの・・・」
黒子「・・・この椅子などはどうでしょうか?」
削板「うん、デザインもいいし・・・なかなかいいんじゃないか?」
初春「・・・でも、少し大きくないですか?」
黒子「それもそうですのね・・・」
削板「俺が座れる椅子となるとどうしてもサイズが大きくなるからな・・・」
黒子「・・・うちは大抵女性ばかりでしたから、椅子が小さいですものね」
初春「やっぱり削板さんはガッシリしてますからね・・・」
削板「ははは!!そうかな?」
初春「なんか、どこかの空手師範にいそうなキャラですもん」
削板「?なんだそりゃ」
初春「はぁ・・・私、この買い物が終わったら家に帰ってアイス食べるんです」
黒子「死亡フラグですの」
初春「・・・ガリガリ君を食べるんです」
黒子「ガリガリ君に特定しても意味が無いですの」
初春「ガーキガーキーくん!!」
黒子「逃げないでほしいですの・・・この椅子でいいですのね?」
削板「あぁ」
風紀委員の支部には少し大きいが、入らないことはない
椅子もどうにか決まった
黒子「さて・・・少し休憩しますの」
削板「そうだな・・・何か食べるか?」
初春「あ、クレープ買いませんか?」
削板「お、いいな」
クレープ屋はすぐそこにあった
いつも食べるクレープ屋と同じ系列なため、気軽に買うことが出来る
黒子「はぁ・・・この甘さが優しいですの」
削板「あぁ・・・最高だな」
初春「・・・ほっこりしますね・・・」
ほわーん、と柔らかな表情で三人が笑う
こういうのはとても平和に思える
黒子「・・・落ち着きますの・・・」
削板「・・・世間はそろそろクリスマスか」
ぽつり、と削板がつぶやく
黒子「そうですの・・・」
周りの店も、徐々にクリスマスのライトアップを用意したりしている
削板「・・・なんだか、いいな」
初春「はぁ・・・私は今年も一人です」
黒子「あら、佐天さんがいるではないんですの?」
初春「・・・佐天さんは、他の人とどっかに行くみたいです」
黒子「まぁまぁ」
削板「それはヒマだな・・・」
初春「どうして私は独り身なんでしょうか・・・」
うぅ、と初春が声を上げる
決して彼氏がほしいわけではない
ただ、クリスマスを誰とでもいいから過ごしたかった
黒子「・・・はぁ、わたくし達とでよければ」
削板「あぁ、大歓迎だ!」
初春「・・・ほ、本当ですか?」
黒子「えぇ」
その日
初春は、リア充に憧れた
削板「・・・さて、そろそろ帰るか・・・」
削板が腕時計を見つめる
時間は午後の7時
すっかり遅くなってしまった
削板「・・・じゃあ、俺はひとっ走りしてくるから」
初春「すごい体力ですね・・・」
黒子「あら、初春も一緒に走ったらどうですの?」
初春「え、遠慮しときます!それでは!!!」
初春が走って立ち去る
こういうときだけは速いものなんだな、と黒子は心の中でつぶやく
削板「黒子はどうする?」
黒子「では一緒に走りますの」
削板「おう!」
黒子「行きましょうか」
二人がデパートを出る
今日買った商品は宅配で届けてもらうことになっているので問題ない
削板「・・・はぁ、疲れるな・・・」
黒子「寒いですから・・・体力も奪われますの」
削板「ホント・・・困るよな」
二人は寒い夜の道を走っていた
寒い中でのマラソン、というのは体力をかなり使う
そのため、普段はなんでもない距離でさえ長く感じるものだ
削板「あ、おでんの屋台がある」
黒子「あら・・・本当ですの」
削板「どうだ、食べていかないか?」
黒子「時間もちょうどいいですし・・・分かりましたの」
二人が屋台に入っていく
「いらっしゃいー」
黒子「失礼しま・・・って垣根さん?」
垣根「お、なんだお前達も食べに来たのか?」
削板「・・・心理定規もいるのか」
心理「あら、私がおでんの屋台にいたらダメなのかしら」
削板「いや・・・」
黒子「・・・あなたにおでんは似合いませんの」
心理「・・・それ、この前上条君とテクパトルにも言われたわよ」
削板「イメージにも合わないからな・・・」
削板が屋台のおじさんを見つめる
どう見ても、どこかで見た相手だ
削板「・・・まぁいいや、ガンモ一つ」
さだのり「あーい」
黒子「ジャガイモ一つ」
さだのり「ねぇよ」
黒子「ちっ・・・では大根と卵と牛スジとはんぺんと昆布を」
さだのり「あいよー・・・垣根はいいのか?」
垣根「熱燗」
さだのり「あいよー」
黒子「み、未成年飲酒ですの!」
心理「あら、いまさら?」
黒子「わたくしはジャ」
垣根「いいか、決まりってのは破るものがいるから成り立つんだ」
黒子「意味の分からない理屈はやめてくださいな!!!」
心理「・・・はぁ、うるさくなっちゃったわね」
削板「・・・なんか悪いな」
垣根「いいっての・・・それで、二人さんはこんな夜遅くまでどしたんだ?」
黒子「いろいろと買い物ですの・・・風紀委員の備品を」
垣根「あー、パソコンとか?」
黒子「いえ、ティーカップとかですの」
垣根「・・・」
心理「風紀委員も所詮は政治家と同じね」
黒子「ち、違いますの!あんな薄汚い職業と一緒にしないでほしいですの!!」
垣根「みなさん見てください、これが風刺です」
心理「・・・風紀委員・・・ね」
心理定規が少し面白そうにつぶやく
黒子「・・・どうかしましたか?」
心理「私達も明日協力するわよ」
黒子「はい?」
心理「協力するわよ」
黒子「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
削板「お、協力してくれるのか?」
垣根「お前もどうせボランティアだろ?だったら」
黒子「え、遠慮しますの!!!」
心理「あら、私を疑ってるのかしら」
黒子「心理定規ではなく・・・」
黒子が垣根をじーっと見つめる
彼がまともに仕事をするだろうか
いや、そんなわけがない
垣根「いいだろ、ヒマなんだし、俺は超能力者だ」
黒子「・・・よ、よくありませんの・・・」
垣根「パトロールとかしてやってもいいぜ?」
削板「いいじゃないか、黒子!」
黒子「・・・はぁ」
溜め息をつく
これは、明日の風紀委員は大変なことになるだろう
静かなおでんの屋台
その中から、夜の空まで届く叫び声が放たれた
黒子「不幸ですのーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
翌日
風紀委員の支部は、いつもより賑やかになっていた
固法「・・・今日、手伝ってくれるみなさん?」
垣根「はーい」
心理「そうですけど」
黒子「・・・なんであんなにふてくされてるんですの?」
削板「だって固法さんからわざわざ最初から説明されなきゃいけないんだろ?」
初春「・・・なんであの人がいるんですか・・・」
固法「えっと・・・とりあえず・・・」
垣根「パトロールですね分かります、いってきますさようなら」
固法「待ちなさい、協力してもらうからにはこき使わないと」
心理「・・・この地図の通りに行けばいいんですよね」
固法「え、えぇ」
心理「じゃあ、行きましょう垣根」
垣根「了解、いくぞ花飾り」
初春「・・・え?」
心理「あら、あなたに教えてもらわないと」
初春「し、白井さんが・・・」
垣根「うるせぇ・・・俺は今つまんねぇ長話聞かされてムカついてんだよ」
垣根が初春を睨む
あの日あの時あの場所で
垣根に踏まれた肩がうずく
初春「わ、わかりましたから!!踏まないでください!」
垣根「じゃあ行くぞ」
垣根が初春の手を握る
心理「・・・あら、手を握るなんてなかなかね」
垣根「・・・ヤキモチはよせ、俺はこんなガキには興味ない」
初春「ガキ・・・」
そんな会話をしながら、三人は支部から出て行く
固法「・・・大丈夫かしら」
黒子「・・・さぁ・・・」
削板「なんとかなるさ!!」
垣根「えー、まずは路地裏の徘徊か」
初春「・・・裏通りのパトロールです・・・」
心理「ねぇ、その頭の花はなんなの?」
初春「・・・心です」
心理「そう、でなんなの?」
初春「・・・気がついたら生えてました」
心理「気がついたら?意識的にとかじゃなくて?」
初春「カチューシャから生えてきたんですよね・・・」
初春が花飾りを頭から取る
たしかに、カチューシャと一体化している
垣根「・・・怖いな」
心理「ねぇ、マタンゴって映画知ってる?」
初春「私は花にはなりませんから!!」
垣根「どうでもいいけど、あそこでガキがタバコ吸ってるぜ」
垣根が裏路地を指差す
初春「あ、と、止めなきゃ!!」
垣根「えー・・・」
心理「初春さん、一人で行ってきなさいよ」
初春「ひ、一人ですか!?」
初春が目を潤ませる
タバコを吸っているのはどう見てもヤンキーだ
もう、それはそれは怖いヤンキーだ
初春「い、一緒に・・・」
心理「はぁ・・・私達は風紀委員としては後輩、オーケー?」
初春「で、でも・・・」
心理「オーケーって言ってるのよ、聞こえないかしら」
初春「ひぃっ!!」
心理「言っておくけどね、私は別にあのガキどもがタバコ吸った挙句に肺がんになって体力がなくなったまま抗がん剤の副作用に苦しんでやせ細りながら家族と涙の別れを果たそうが知ったこっちゃないのよ」
垣根「俺も同感っす」
初春「で、でも法律違反・・・」
垣根「あーもー分かったよ、おいこらそこのガキども、ていうかハゲ」
その垣根の台詞を聞いた不良たちが、三人を睨みつける
「あぁ?なんだよお前・・・って風紀委員!?」
「ちょうどよかったなぁおい!!この前ケンちゃんが風紀委員にパクられたんだべ!?」
「憂さ晴らしってか、いいじゃんいいじゃん!!」
垣根(なんでヤンキーって名前にちゃん付けするニックネームが人気なんだろうな)
「おらおら!!お前ら覚悟しんしゃいやぁ!!」
垣根「なんだよそのキャラ、てかそっちは5人だけじゃねーか」
「ははぁ!!後ろのビッチっぽい女は俺が・・・」
不良の一人が心理定規を指差しながら言った
その時
垣根「待て、ビッチだと?」
垣根の額に青筋が浮かんだ
「ひゃひゃひゃ!!兄ちゃんみたいな遊んでそうなヤリチンと付き合う女なんざ・・・」
心理「・・・ヤリチン・・・?」
心理定規の額にも青筋が浮かぶ
初春「あ、あの・・・」
垣根「花飾り、ちょっと監視カメラ止めろ」
初春「で、でも・・・」
心理「止めろって言ってるのよ」
初春「は、はい!!!!」
垣根「・・・ムカついた」
垣根が翼を広げる
「な、なんだ!?」
「おいなんかヤバそうじゃないか!?」
垣根「覚えときな、俺の名前は第二位の垣根帝督だ」
「か、垣根・・・!?」
「ウソだろ!?未元物質だこいつ!!!!」
垣根「うるせぇな・・・垣根だって言ってるだろクズ」
垣根が不良の中の一人を睨みつける
垣根「お前・・・心理定規のことをビッチと言ったな」
「あ、あれは言葉の・・・」
垣根「どの口だ?あぁ?」
「・・・ひ、ひぃっ!!」
垣根「心理定規、こいつの一番大切なヤツとの距離は?」
心理「距離単位5・・・あら、意外と親思いなのね」
垣根「へぇ、親思いのクソガキがタバコ吸って粋がってるのか」
ニヤニヤと垣根が笑う
その笑みは、初春にかつて見せたのと同じものだ
垣根「失せろ」
「」
初春「あわわわわわ!!!!」
垣根と心理定規の能力は恐ろしかった
今、最後の一人をパンツ一丁にしているところだ
垣根「なんて落書きする?」
心理「そうね、ホモなので掘ってください、でいいんじゃない?」
垣根「了解」
初春「ま、待ってください!!それは犯罪・・・」
垣根「犯罪?犯罪?犯罪ぃぃぃぃぃ!?」
垣根が初春を睨む
垣根「いいか、俺が憎んだのはタバコを吸っていたこいつらじゃない!!!俺の心理定規をビッチ呼ばわりしたクソガキどもだ!!!!」
心理「私もね」
初春「で、でも・・・」
初春が不安そうに不良を見つめる
垣根は不良たちを気絶させただけだった
もちろん、心理定規の能力で彼らは一切手を出せなかったが
垣根「さーて・・・こいつには賞味期限切れって買いとくか」
心理「あら、マザコンでいいんじゃない?」
垣根「あ、了解ー」
ペンで垣根が落書きする
ちなみに、これはいつぞやの眉毛事件で使われたペンだ
一週間は消えない
垣根「さて、次は?」
初春「・・・まだパトロールは始まったばかりです・・・」
心理「じゃ、進みましょう」
心理定規が先に進む
その後ろを、二人が歩く
初春「・・・か、垣根さんって見た目はカッコイイ・・・」
垣根「黙って歩け、俺は今機嫌が悪いんだよ」
初春「」
初春が心理定規を見つめる
初春「メ、心理定規さんってスタイル抜群・・・」
心理「そう、ありがと」
初春「・・・か、会話が成立しました・・・」
垣根「なんだよお前・・・おい、ちょっと待て」
垣根が歩を止める
心理「・・・分かってるわよ」
心理定規も足を止める
初春「あ、あの・・・」
垣根「息遣いだ、男と女の」
初春「?」
心理「レイプかしらね」
初春「レ・・・!?」
垣根「あぁ、妙に息遣いが荒い・・・」
垣根が進んでいく
そこには
エツァリ「あぁ・・・ショチトル」ハァハァ
ショチトル「エツァリぃ・・・」ハァハァ
エツァリ「こ、こんなところで・・・」
ショチトル「か、体が熱いんだ・・・」
垣根「ジャッジメントですの!!!!!」
エツァリ「!?か、垣根さん!?」
初春「こ、公然猥褻および猥褻物陳列罪で拘束します!!」
ショチトル(こ、拘束・・・)ドキン
心理「何やってるのよこんなとこで・・・」
ショチトル「なにって青か」
エツァリ「ショチトルがおなかが痛いと言っていたのでさすっていたんです!!!!」
初春「あ、なんだ・・・」
垣根(ウソつき・・・か)
心理「じゃあさっさと行くわよ・・・」
心理定規が踵を返す
心理(・・・二人の距離を40・・・他人に・・・まぁ1時間で切れるようにしておきましょうかね)
エツァリ「な、なんでショチトル・・・と!?いや、自分はショチトルと恋人のはず・・・」
ショチトル「な、なんだか知らないけどこういうことをやったのが不愉快だ!?」
垣根(・・・心理定規、よくやった)
初春「はぁ・・・次は・・・もう少し奥まで行ったら裏路地のパトロールは終了ですね」
垣根「オーケー」
心理「・・・ねぇ、あれ何かしら」
垣根「あぁ?麦野たちじゃねぇか」
麦野「おい浜面!!早く足拾って来い!!!」
浜面「だってよ・・・最近放置車両なんてないぜ?」
絹旗「超無能ですね」
滝壺「大丈夫、私はそんな無能なはまづらを応援してる振りをする」
浜面「振り!?」
垣根「ジャッジメントだボケ!!!」
麦野「あぁ・・・?なんだ、垣根か」
垣根「お前ら・・・車両盗む気だったな?」
浜面「ち、ちげぇよ!!」
浜面が慌てて手を振る
絹旗「?なんでそんなに超慌て・・・」
浜面「風紀委員だ、あの花飾りのヤツ!」コソッ
絹旗「ちょ、超なにをぉ!?」
垣根「まぁ、盗むな、以上」
滝壺「・・・待ってかきね」
垣根「なんだよ、出番がほしいか?」
滝壺「メタネタは嫌われるよ、かきね」
垣根「うるせぇな・・・で、なんだよ?」
滝壺「かきねにも、チェルシーあげる」
滝壺がポケットからたくさんのチェルシーを取り出す
垣根「・・・なんでそんなに持ってるんだよ」
心理「あら、私ももらっていいかしら」
滝壺「いいよ」
初春「な、なに和んで・・・」
垣根「じゃあ帰るか」
垣根が口にチェルシーを放り込む
さわやかな甘さが口に広がる
垣根「滝壺、今度焼肉奢ってやるよ」
滝壺「ありがとう、かきねは優しいね」
麦野「あぁ?私にも奢れよ」
垣根「まぁついでだな、絹旗も来るか?」
絹旗「超ゴチになります!!」
浜面「俺・・・」
垣根「お前はダメだ、俺のハーレム計画にはジャマだ」
浜面「」
垣根「じゃあな」
三人が裏通りから脱出する
垣根「・・・はぁ、次は?」
初春「・・・掃除ですね」
心理「掃除?」
垣根「そ、掃除って・・・お前、それただの清掃員じゃないか」
初春「・・・それが大切なんですよ」
初春がにこりと笑う
心理「でも、風紀委員がやることなの?」
垣根「そうそう、俺もそう思うんだけどな」
初春「ゴミのある世界は、風紀が乱れるんですよ・・・」
初春が溜め息をつく
初春「地味ですけど、でもとっても大切な仕事です」
垣根「大事ねぇ・・・」
垣根が疑わしそうに言う
たしかに、性格がずぼらな人は部屋も汚い
それと同じで、汚い環境ではどうしても綺麗な心は生まれない
それは分かってはいるが
垣根「・・・俺がチリトリ・・・」
心理「・・・私がほうき・・・」
二人がそんなものを持っている絵はかなりシュールだ
初春「似合ってますよ、二人とも!」
垣根「・・・おい花飾り」
初春「・・・あの、初春です」
垣根「分かってんだよ・・・あのよ、なんで周りのガキが笑ってるんだよ」
垣根が公園を見回す
そう、三人は公園にいるのだ
垣根「・・・くそ、小学生はもう冬休みかよ・・・」ハァ
心理「いいんじゃない?別に」
初春「そうですよ」
「ねぇ、お姉ちゃん達!」
初春「はい、なんですか?」
「風紀委員なんだよね!?すごーい!」
心理「あら、君もなってみたいの?」
「うん、いつかなるんだ!」
心理「それは偉いわね」
心理定規が男児の頭を撫でる
垣根「・・・がんばれよ」
「うん、お兄ちゃんもがんばってね!!」
垣根「あぁ」
男児が走って駆けていく
初春「あぁやって憧れてくれる子がいると、励みになりますよ」
垣根「・・・ガキの頃から、正義に憧れるんだな」
心理「・・・可愛いわよね、あの年の子供は」
垣根「・・・もしかして、ショタコンか?」
心理「そういう意味じゃないわよ」
クスクスと心理定規が笑う
初春「はい、掃除しますよ!」
垣根「あいよ」
心理「さて・・・どこから掃除するの?」
初春「あっちに枯葉が落ちてますから・・・あっちからですね」
垣根「ほうきの出番だぜ」
心理「分かってるわ」
心理定規はほうきをひきずりながら
垣根はちりとりを振り回しながら、枯葉の元へ歩いていく
初春「あ、待ってください!!」
垣根「早くしろよ、花飾り」
初春「初春です!!」
垣根「・・・なんだよこの量」
心理「・・・こんなに枯葉って落ちるものなのね」
二人は溜め息をついていた
いくらはいても枯葉は減らない
垣根「・・・がんばらねぇとな」
心理「・・・こういう、ボランティアなんて初めてね」
垣根「あぁ」
初春「結構いいものですよね」
垣根「・・・そうだな、悪くは無い」
垣根が周りを見つめる
子供達が応援してくれている
垣根「・・・俺みたいな人間が、ね」
心理「あら、あなただからこそでしょ?」
垣根「そうかもな」
垣根が鼻で笑う
初春にはよく分からない話だった
垣根「・・・そろそろクリスマスか」
心理「初春さんは何か予定はあるの?」
初春「はい、白井さんと削板さんと・・・」
垣根「・・・おジャマ虫だな」
初春「はい?」
心理「・・・そうね」
垣根「・・・いや、なんでもねぇよ」
垣根が溜め息をつく
黒子と削板が性なる夜を過ごすのはどうせあと4年後くらいだろう
垣根「・・・雪も降りそうだな」
空は少し雲がかかっている
初春「さ、早めに終わらせちゃいましょう!!」
心理「えぇ・・・そうね」
心理定規が枯葉をはく
少し寒い、冬の昼間だった
垣根「あー・・・寒い・・・」
心理「・・・寒いわね・・・」
初春「・・・あの、手を握り合って歩かないでもらえませんか?」
公園から支部へと帰る道
心理定規と垣根は、お互いの手を握っていた
そこから相手の体温が伝わり、なんとも心地いい
初春「・・・はぁ、うらやましいですね・・・」
垣根「お前にはそういう相手もいなさそうだしな」
心理「そうね、かわいそう」
初春「なんでですか!!」
初春が顔を真っ赤にする
垣根「・・・お前よ、大人しく黙ってれば男も寄ってくるんじゃねぇの?」
心理「そうね・・・見た目は悪くないんだから」
初春「お、大きなお世話です!」
初春が顔を真っ赤にしながら叫ぶ
垣根「はぁ・・・お、着いた着いた」
支部に到着し、体を震わせながら中へと入る
固法「あら、おかえりなさい」
削板「おかえり!」
黒子「お疲れ様でしたの・・・」
垣根「おう、なかなかにいい仕事だったな!」
心理「えぇ、楽しかったわ」
初春「・・・私は疲れました」
初春だけが肩を落とす
固法「とにかく、報告書をよろしくね、初春」
初春「わ、私ですか!?」
固法「だって二人は知らないだろうし、第一風紀委員の正規なメンバーでもないのにやらせるわけにはいかないわよ」
垣根「そういうこと」
削板「大変だな、ウイーハルさんも」
初春「・・・初春です」
初春が肩を落としながら書類作成に向かう
黒子「わたくしも少し手伝いますの」
初春「あ、ありがとうございます・・・」
垣根「じゃあ俺はこれで」
心理「私も」
初春「え、ちょ、ちょっと!?」
垣根「たまには手伝ってもいいぜ、まぁ気まぐれだけどな」
心理「それじゃあね」
初春「な、なんで!?」
バタン、と二人がドアを閉める
初春「・・・不幸なんてものじゃありません・・・」
垣根「あー、楽しかったな」
心理「・・・そうね、楽しかったわ」
垣根「なぁなぁ、今日はこれからどうするんだ?」
心理「どうする・・・ね」
心理定規が人差し指を顎に当てる
そんなベタな仕草でさえ可愛く見えるのだ
垣根「・・・飯でも行くか?」
心理「ちょっと早いけど、いいんじゃないかしら」
垣根「じゃあ行きましょうかい」
垣根が心理定規の手を握る
心理「そうね、行きましょう」
二人は、近くのレストランへと向かった
さて、次はほん怖の話が出たため、美琴さんのガクブルwith上条さんを
美琴「・・・」ブルブル
「稲川淳二です・・・あれはー・・・そうそう、僕が高校生だったときだぁ・・・」
「僕の友達に、新聞配達のバイトをしている、田中君っていう人がいたんですが・・・」
「その彼が、正月に少し遠い集落へ新聞を配達しに行ったときに話だ・・・って言って聞かせてくれたんです・・・」
美琴「ポ、ポテチ食べれば怖くないもん!!」
「その時ね、後ろでヒタヒタと音がしたそうで」
「ぱ!!!!!!っと振り返ってもだーれもいない」
「あれれ、なんだか少しおかしくないかーーー???と思った彼はすぐさまその家から出ようとした」
「でも開かない、さっきまで開いていたはずの扉が!!!まるで誰かに向こう側から押さえられてるかのように!!」
「・・・開かなかったんです」
美琴「・・・」
美琴は、上条の部屋である番組を見ていた
こんな時期にするような内容ではない、もっと夏休みとかにしてほしいものだ
そして、彼女は今一人
上条は風呂に入っている
こういうときだけ、なぜかニヤニヤ笑いながら「今日は一人で入りたいから」と言ってさっさと入ってしまうのだ
美琴「・・・あ、開かない・・・なんてないわよね」
ははは、と美琴が力なく笑う
なぜか近くにあるタンスの観音開きの戸をパカパカしながら
美琴「あ、あああああ開くのよね!!??」
「何度も何度も、開けようとしてみたそうです、引いたり押したり、少ししてからは体当たりをしたり」
「でも、全然開かない」
「誰かのいたずらか?そう思った彼は、そっと扉の隙間を覗いたんです」
「そしたら、見てしまったんですよ」
「扉の向こうから彼を見つめる、無数の目を」
美琴「」
無言のまま、美琴がタンスの中を覗く
もちろん、何もいるはずがない
美琴「や、やっぱりウソじゃない!」
美琴の額から冷や汗が落ちる
美琴「ね、やっぱり・・・」
その時
少し、湿った誰かの手が、美琴の肩に触れた
美琴「」
上条「あはははは!!!怖かった?」
美琴「」
上条「?美琴?おーい」
上条だった
風呂上りのため、湿っていたのだ
音も立てずにここに来たのか、という疑問も湧くだろう
しかし、実際は美琴がテレビに集中しすぎていただけである
上条「お、おい美琴?」
美琴「・・・と、当麻?」
上条「あぁ、そうだけど・・・そんなにこわか・・・」
その瞬間
美琴が上条にぎゅっ、と抱きつく
美琴「当麻はお化けさんなの?」ウルウル
上条「」
美琴は、布団の中にうずくまっていた
中からは「怖かったよ・・・」という、今にも泣き出しそうな声が聞こえる
あのあと
上条は自分が「お化けじゃない」ということと、「驚かせて悪かった」ということを美琴に伝えた
そしたら、なぜかそそくさと毛布の中に隠れてしまったのだ
上条「なぁ・・・悪かったって」
美琴「・・・怖かった・・・」
美琴が布団の隙間から上条を見つめる
どうにも困った、という表情をしている
彼からしたら、ちょっと驚かせるだけのつもりだったのだ
上条「そ、そんなに怖かった?」
美琴「・・・当麻のバカ、もう今日は口きかない」
そう言って、美琴が完全に毛布の中に隠れる
もう隙間もなかった
上条「み、美琴?」
上条が毛布をはがそうとするが、あまりにも強い力で中からしがみつかれている
美琴「んーーーー!!!!!!!!!」
上条「こらこら、その可愛いお顔をお見せなさい!」
美琴「か、可愛くないもん!」
上条「ほれほれ!!お化けが来ちゃうぞ!」
またからかうつもりで、上条が言う
すると、ぴたりと美琴の動きが止まった
美琴「お、おおおおおおお化けが来るの?」
上条「?悪い子を連れて行くお化けが・・・」
美琴「や、やだ!!」
布団を跳ね除け、すぐに美琴が上条に抱きつく
上条「あ、あの・・・」
美琴「ま、守って!」
上条(なんだこの可愛いの)
上条「・・・あの、そんなにぴったりくっつかれたら」
美琴「ど、どこから来るか分からないもん!」
ウルウル、と上条の瞳を見つめる
その涙目上目遣いの破壊力を美琴は知らない
それとも、知った上で使っているのか
どちらにしろ、上条の心拍数が跳ね上がったことには違いない
上条「あ、あぁ」
美琴「そ、そのお化けを追い払うにはどうするのよ!?」
上条(あ、これは面白いことに)
上条「いい子にすればいいんだよ?」
美琴「ぐ、具体的には?」
上条「この部屋の持ち主は俺だろ?俺に従えばオッケー」
美琴「わ、分かった!」
上条「じゃあ、風呂に入ってきなさい」
美琴「えぇ!?」
もうこの世の終わり、といった感じで美琴が叫ぶ
上条「どうした?」
美琴「そ、その・・・」
モジモジ、と美琴が恥ずかしそうに体をくねらせる
上条「どうかしたか?」
美琴「こ、怖いんだ・・・一人」
上条「はぁ」
美琴「だ、だから・・・」
美琴「い、一緒に・・・入ろ?」
上条「」
続き: 上条「1に愛情!」美琴「2に愛情!」心理「3、4がなくて?」垣根「後藤さん」一同「誰だよ」【後編】
一週間分を一日でやらせんなよw一日で二日分を一週間とかにしろよwwww
勉強のしすぎで過労死した人も実際にいるのにさ