第一話『町をうごめく触手』
< 公園 >
女助手「先生、そっち行きましたよ~!」タッタッタ…
猫「ニャーニャー」タタタッ…
触手「おう、任せとけ!」シュルルッ
ガシィッ!
触手「よっしゃ! 迷子の猫、確保完了!」ウネウネ…
猫「ニャーニャーッ!」ジタバタ…
女助手「さっすが、先生! ナイス捕獲!」
触手「お前もよくやってくれたな。
んじゃ、コイツを依頼人に届けて、報酬をもらうとするか!」
元スレ
触手「こちら触手探偵事務所」ウネウネ…
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< 探偵事務所 >
女助手「先生、今日もお疲れさまでした!」
触手「おう」
触手「動きまわったせいで先っぽがだいぶ乱れたから、切って整えてくれ」ウゾ…
女助手「アイアイサー!」スラッ…
女助手が腰に差した剣を抜く。
女助手「はああ……」
スパパパパッ!
素早い剣さばきで、触手の先端が整えられる。
触手「お~、よくやってくれた!
放っておくとすぐボサボサになっちまうからな~、俺は」ウネウネ
女助手「あたしは先生のために、剣を練習してるんですもん!
これぐらい当然ですよ!」
触手「ところで、さっきポストに手紙が入ってたけど、ありゃなんだ?」ウネ…
女助手「あれですか? 今度の町長選のお知らせですよ」
触手「そういや、もうそんな時期だったな。候補は……だれとだれだっけ?」
女助手「もう……しっかりして下さいよ! 先生だって選挙権はあるんですから!
候補は町長さんと実業家さんです!」
触手「あ~……ずっと長い間、町長のじいさんが町長を務めてたけど、
よそから対抗馬が現れたんだっけか」
触手「対抗馬の実業家はまだまだ若いし……まさに老若対決だな」ウネウネ
女助手「しかも、実業家さんって性格がとってもさわやかなんですよ!
商売もバリバリやってて、お金持ちですし!」
触手「ふ~ん、だったら玉の輿でも狙ってみたらどうだ?」ウネッ
女助手「イヤですよ! あたしは先生一筋なんですから!」
触手「はぁ……」ニュル…
触手「お前はさ、人間なんだからちゃんと人間と恋愛しろって」ウネッ
女助手「なんでそんなこというんですか? 傷ついてますよ、あたし!
あたしは絶対、先生と結婚します!」
触手「俺、こうして言葉をしゃべってるけど、
魔法や呪いで人間から触手になった、なんてオチはないからな?」ウネウネ…
女助手「知ってますよ、そのぐらい!」
触手「いや、だからさ……俺なんかと結婚したら親御さん、泣くって」
女助手「大丈夫! お父さんもお母さんも先生ならいいっていってました!」
触手「ホントかよ……(おかしいって……絶対)」ウネ…
触手「だいたいさ、俺みたいな巨大イソギンチャクもどきのどこがいいんだよ?」
女助手「全部です!」
女助手「あたしは本気ですよ、先生!」
触手「分かった分かった、この話はまた今度な」ウネッ
女助手「あ~、またすぐはぐらかす!」
コンコン……
事務所のドアをノックする音がした。
実業家「こんにちは」
女助手「あ、ウワサをすれば実業家さん!」
実業家「ウワサ?」
触手「(バカ……)あ、いや、ちょうどコイツと町長選の話をしてたもんでね」
実業家「ハハハ、そうだったのかい。話題にしてもらえるとは光栄だな」
触手「ところで……今をときめく実業家さんが、ウチになにか用かい?」ウネッ
実業家「実は……触手さん。あなたを優秀な探偵と見込んで、仕事を依頼したいんだ」
触手「ほぉう? いったいどんな?」
実業家「仕事というのは、ずばり……町長の弱みを調べて欲しい!」
触手&女助手「!」
触手「ふうん……弱みっていうと?」
実業家「なんでもかまわない」
実業家「今度の町長選、今のところ戦況は五分五分といったところだ。
──となると、情報戦がカギとなる!」
触手「なるほど……弱みを握ってネガティブキャンペーンを展開するつもりか」ウネッ
実業家「……そのとおりだ」
実業家「この町はここしばらく、大きな変化がなく停滞しているが……
私が町長になれば、この町をもっともっと大きくすることができる!
もはや彼のような年寄りが、リーダーをやるべきではないのだ!」
実業家「おっと……興奮しすぎたようだ。失敬」
実業家「どうかこの頼み、引き受けてはもらえないだろうか」
触手「…………」
女助手(弱みを握る、かぁ……。なんだかフェアじゃない気がするけど、
先生はどうするんだろ?)
触手「オーケー、引き受けよう」シュビッ
女助手「!」
実業家「おお、本当かい!?」
触手「依頼料はまた相談することになるが、俺がもらえる期間は?」ウネウネ…
実業家「本格的な選挙戦は、町の決まりで一週間後からスタートすることになっている。
だから……それまでにお願いしたい」
触手「分かった、任せておきな!」ウネッ
実業家「ありがとう! これで私の勝利がぐんと近づいたよ!」
実業家は意気揚々と、事務所から出て行った。
女助手「あ、あの……先生」
触手「ん?」
女助手「町長さんの弱み探し、本当にやるんですか?」
触手「当たり前だろ。依頼を受けたんだから」ウネッ
女助手「でも……こういうのってなんだかずるい気がしません?
相手の弱みを握って選挙に勝つだなんて」
触手「な~にいってんだ。今や選挙戦なんてそんなもんだぞ」ウネウネ
触手「政策について議論するより、対立候補の弱みを握って評判を落とす方が
よっぽど手っ取り早いし効果がある」
触手「それに、握られるような弱みがあるとしたら、そいつだって悪いんだしな」
女助手「そういうもんですかねぇ」
触手「そういうもんさ」ウネウネ…
コンコン……
再びノックの音がした。
町長「おジャマするぞよ」
触手&女助手「!」
女助手「ちょ、町長さんっ!?」
町長「これは菓子折りじゃ。受け取ってくれ」スッ
女助手「わっ、クッキー! あたしこれ大好きなんです! ありがとうございま~す!」
町長「ところで触手君。君を町一番の探偵と見込んで、頼みたい仕事があるのだが……」
触手「頼みたい仕事?」
(町一番っていうか、この町に探偵は俺しかいないけどな)
町長「今度の町長選のことは君も知っておろう?
ワシの対立候補になっている実業家のことも……」
触手「ああ、もちろん」ウネッ
女助手(さっきまで忘れてたくせに……)
町長「君に頼みたい仕事というのはすばり……実業家の弱みを握って欲しいのじゃ!」
触手&女助手「!」
触手「弱みって……たとえばどんな?」
町長「なんでもかまわん」
町長「今度の選挙、ワシはなんとしても勝たねばならん」
町長「なにせ、奴は町長になったらこの町にあれこれと手を加えようとしておる。
町の発展のため、などといっておるが、
ようするに、この町を自分の商売道具にするつもりなんじゃ!」
町長「だから……どんな手を使っても奴が町長になるのを阻止せねばならん!」
女助手(まるで実業家さんと正反対……。先生、どうするつもりだろ?)チラッ
触手「分かった、引き受けよう。ところで、期限は?」
女助手(え~~~~~っ!?)
町長「おお、引き受けてくれるか! 選挙戦が始まる一週間後までにはお願いしたい」
触手「了解」ウネッ
満足そうな笑みを浮かべ、町長は事務所を出て行った。
女助手「先生! 同じような依頼を二つも受けるなんて、どういうつもりですか!」
触手「どういうつもり? なにか問題あるか?」
女助手「だって……なんかずるいですよ! 人の道から外れてます!」
触手「だって俺、人じゃないし」ウネッ
女助手「屁理屈……」
触手「冗談はともかく、この選挙が町の方向性を決めることになるのはまちがいない」
触手「二人が同じ戦法を取るってんなら、同じ土俵に立たせてやらなきゃな。
……町の人間のためにも」
女助手「あっ……そこまで考えてたんですね!」
触手「それにこんな面白い仕事、そうそうないぞ? やらないでどうする?」ウネッウネッ
女助手「……やっぱりそっちが本音ですか」
触手「触手ってのはそういうもんさ。面白いもんを見つけたら、
どれもこれも捕獲しなきゃ気が済まないもんなのさ」シュバッシュバッ
触手「ってわけだから、今夜から調査を始めるぞ」シュビッ
女助手「アイアイサー!」
その夜──
< 町長の家 >
触手「ここが町長の家か……古びてるが、けっこうデカイな」ウネッ
触手「よっしゃ、忍び込むとするか!」
女助手「え? 忍び込むってどうやって?」
触手「俺の『虹色(レインボー)触手』のうちの一つを使えば、どうってことねえさ」
女助手「おおっ、久々に!」
『虹色(レインボー)触手』とは──
触手探偵の触手は全部で百本近くあるが、そのうちの七本は、
他の触手とはちがう七つの色と、七つの特殊能力を備えている。
この「赤・橙・黄・緑・青・藍・紫」の触手を、
彼らは『虹色(レインボー)触手』と呼んでいる。
触手「今回使うのは、潜入や探索に持ってこいの──“青の触手”だ!」シュルッ
触手「この“青の触手”はもっとも細く長くしなやかで、しかも鋭い五感を持っている!
ゆえにどんな場所にも忍び込んで、情報を入手することができるのだ!」ウネッ
女助手「へぇ~」
女助手「──って知ってますけどね。なんで今さらあたしに説明したんですか?」
触手「……こないだ、町の広場で包丁の実演販売してるのを見てたら、
ああいうのをやりたくなっちまったんだよ!」
女助手「先生ったら、おちゃめなんですから~! 結婚しましょうね!」
触手「しません」
触手「んじゃ、さっそく“青の触手”で忍び込むとするか!」ウネッ
触手「お前は周辺を見張っててくれ。
“青の触手”を動かす時は、かなり集中しなきゃならねえからさ」シュビッ
女助手「アイアイサー!」
ウネウネ…… シュルルル……
青い触手が、窓の細い隙間から町長宅へと潜入する。
町長の家の中──
触手(町長の部屋はどこかいなっと……)シュルル…
触手(お、あそこっぽい!)ニュルッ
触手(鍵がかかってるが……“青の触手”なら数ミリも隙間があれば侵入できる)
触手(ノックは無しで、失礼しますよっと)シュルル…
青い触手が、町長の部屋に侵入を果たす。
町長の部屋──
触手(……なんだこの部屋?)ウネ…
触手(この町の古い写真や絵があちこちに飾られて……)
触手(しかも……だれだ、あの女性は? いや人間じゃない……ありゃ人形だ!
町長と人形が一緒にいる!)
等身大と思われる女性の人形に、熱い眼差しを向ける町長。
町長「ワシは必ずこの町を守る!」
町長「お前との思い出がたっぷり詰まったこの町を、
あんなよそからやってきた若造の好きにさせてたまるものか!」
触手(人形に話しかけてる……。なかなかショッキングな光景だな、触手だけに)
触手(こいつは、もっと調べていけば“弱み”になりそうだ。
よし、今日のところはこれぐらいにしておくか)シュルル…
触手「潜入完了!」シュルル…
女助手「お疲れさまで~す!」
女助手「……で、どうでした? 成果ありました?」
触手「ん~、まぁな。実業家の依頼はなんとかなりそうだ」
女助手「そうですか!」
触手「ここで調査を一段落してもいいが……まだ夜も更けてないし、
せっかくだからもう一軒行くぞ!」ウネウネッ
女助手「もう一軒って、はしご酒みたいにいわないで下さいよ、先生!」
< 実業家の家 >
触手「実業家の家も、町長の家に負けず劣らずデカイな……。
といっても、俺の“青の触手”にとっちゃ無防備も同然だがな」ウネウネ
女助手「先生、かっこいい! いよっ、大悪党!」
触手「さ~て、ちゃっちゃと忍び込んでくるか……」シュル…
女助手「気をつけて下さいね、先生!」
触手「おう」ニュルルル…
(──って、中に入るのは“青の触手”一本だけなんだけどな)
実業家の部屋──
触手(写真立てがある……)ウネ…
触手(スラム街かなんかの、不良集団の写真のようだな。
この中央にいる奴……誰かに似てるけど、もしかして実業家か?)
触手「!」
ガチャッ……
実業家が部屋に入ってきた。むろん、“青の触手”には気づかない。
実業家「もうすぐだ……」
実業家「あの地獄のようなスラム街から……やっとここまで上り詰めた!
もう俺は、昔の俺じゃない!」
実業家「町長になってこの町をでかくすれば、きっと俺はトラウマを払拭できる!」
触手(ふうむ……)
触手(実業家は実業家で、他人にはいえない“弱み”を持ってそうだな……。
今日のところはこれぐらいにしとくか!)シュルル…
女助手「先生、お疲れさまです! ……どうでした?」
触手「収穫はあった」ウネッ…
女助手「ホントですか!?」
触手「ただし、“弱み”にするには、もうちょい調査が必要だがな」
触手「残り一週間、俺とお前で調査して、なんとか報告できるレベルに持っていくぞ」
女助手「アイアイサー!」
触手「お? さっきはずるいとかいってたのに、やけに乗り気じゃんか」
女助手「なんたって、あたしは先生の助手ですから!
それにあたしも……ちょっと楽しくなってきました!」
触手「それでこそ、俺の助手だ」ウネッ
触手「じゃあ、本格的な調査は明日からってことで、今日はもう解散だ。
気をつけて帰れよ!」
女助手「はいっ!」
それから一週間──
触手「お前は実業家の故郷を探ってきてくれ」ウネウネ
女助手「アイアイサー!」
~
女助手「先生、聞き込み終わりました!」
触手「これで、だいたい町長の過去が分かったな」
~
触手「今晩、もう一度あの二人の家に忍び込む」シュルル…
女助手「いよいよ大詰めですね……!」
触手と女助手は、町長候補二人の“弱み探し”に奔走した。
………………
…………
……
調査期限当日──
< 探偵事務所 >
女助手「報告書、まとめ終わりました!」トントン…
触手「ご苦労」ウネッ
触手「さぁ~て、と。まずは実業家の家に報告に行くぞ」
女助手「はいっ! ……って、わざわざ家まで行くんですか?
お二人を事務所に呼べばいいのに」
触手「バカ。んなことして、あの二人がはち合わせたらどうすんだ?
あっという間に俺を糾弾する場になっちまうぞ」ウネッ…
女助手「あ、そっか!
先生がどっちの依頼も受けてたってバレたら、大変ですもんね!」
触手「そういうこと」
触手「さぁて、お出かけだ」ウネッ
< 町 >
女助手「あ、いい石みっけ! 実業家さんの家まで蹴っていきましょっか」コツッ
触手「子供じゃあるまいし、やめろよみっともない」ウネッ
女助手「アハハ……」
触手「──と、お前が子供じみたことをしてたら、あんなところに子供がいるぞ」
少年「あ! 触手さん、女助手さん、こんにちは!」
触手「おう」ウネッ
女助手「こんにちは~!」
少年「ねえねえ触手さん、またあれやってよ! スーパー触手たかいたかい!」
触手「遊んでやりたいのはやまやまなんだけどな……。
俺たち、これから仕事が待っててな。できる触手のつらいとこさ」ウネリ…
少年「ちぇっ、そうなんだ」
女助手「今度遊んであげるから、またね!」
少年「うん! バイバ~イ!」
< 実業家の家 >
実業家「待っていたよ。報告を聞かせてもらおうか」
触手「俺はこういうの苦手なんでな……女助手、頼む」ウネッ…
女助手「はいっ!」
女助手「え~っとですね……。町長さんは自宅の自室に、
等身大の女性の人形を置いています」
実業家「ほう、人形を……?」
女助手「これはご存じかもしれませんが、町長さんは若い頃に奥さまを亡くされて、
それからずっと独身なんです」
女助手「お子さまも皆、独立して町を出てしまったので、
寂しくなった町長さんは、人形職人に奥さまの人形を作らせたんです」
実業家「……なるほど」
(泣かせる話ではあるが、リーダーとしては女々しいともいえる。
うまく使えば十分、町長のイメージダウンにつなげられそうだ)
触手「死んだ嫁さんのことが忘れられず、
高い金かけてまでリアルな人形を作っちまうくらいだ……」ウネッ
触手「あのじいさんがこの町の現状維持にこだわるのは、
嫁さんとの思い出の町を変化させたくないから、ってのもあるようだ」
触手「職務上、不正したことも特にないし、弱みといえる弱みはこれぐらいだな。
この情報をどう使うかは……実業家さん、アンタ次第だ」
実業家「ありがとう、十分だよ。やはり君たちに依頼してよかった」
実業家「これは依頼料の残りだ。受け取ってくれたまえ」スッ…
触手「毎度」シュルッ…
女助手「ありがとうございます!」
実業家(この情報を使って……俺が、この俺が! 町長になってみせる!)
< 町 >
触手「次はじいさんの家だな」ウネッ
女助手「はいっ!」
少年「こんにちは~!」
触手「おうボウズ、また会ったな」
少年「お仕事終わったんでしょ? スーパー触手たかいたかい、やってよ!」
触手「わりィな、まだ終わっちゃいねえんだ。
その代わり、今度会ったらハイパー触手たかいたかいをやってやるから」
少年「ちぇ~っ! 絶対だよ! じゃあまたね!」
女助手「先生って、いいお父さんになりそうですね!」
触手「お父さんって……お母さんがいねえだろ」ウネ…
女助手「それはもちろん、あたしです!」
触手「アホくさ……急ぐぞ」ウネウネ…
< 町長の家 >
町長「おお、待っておったぞ。報告を聞かせてもらおうかの」
触手「んじゃ、女助手から説明させてもらう」
女助手「はいっ!」
女助手「実業家さんはですね、元々貧民街の生まれで、
少年時代は不良グループのリーダーをやってたこともあるんです」
町長「ほぉう……」
女助手「恐喝や窃盗などを日々繰り返し、実業家さんの故郷では、
今でも実業家さんの名前を耳にすると、震え上がる人も多いとか」
女助手「もっとも、実業家さんは両親もなく天涯孤独の身で、
育った貧民街も盗みでもしなきゃとても暮らしていけないような場所なので
仕方ないといえば仕方ないという部分もあるんですが……」
女助手「その後、ギャンブルで得た大金を元手に商売を始め、大成功を収め、
表舞台に立つようになり今に至る──というわけです」
町長「ふむふむ……」
(あのさわやかイメージの実業家を蹴落とすには、もってこいの材料じゃわい!)
触手「さらに調査を進めたところ、実業家が生まれた貧民街とこの町は、
町の大きさや構造がどことなく似てた」
触手「実業家はこの町をでかくする、と躍起になっているが──
これはその頃のつらい思い出を、この町を豊かにすることで払拭したい、
ってところから来てるようだ」
触手「俺たちは調査は、こんなところだな」ウネッ
町長「かたじけない」
町長「これは依頼料の残りじゃ」スッ…
触手「毎度」シュルッ…
女助手「ありがとうございます!」
町長(今のところ、ワシと実業家の戦況は五分五分じゃ……。
この情報をうまく使い、なんとしてもワシが町長として君臨し続けてみせる!)
町長(ワシが愛した妻との思い出が残る、この町を守るために……!)
< 探偵事務所 >
触手「あ~、終わった終わった!」ウネウネ…
女助手「やっと肩の荷が下りましたねぇ。
あの二人、選挙で“弱み”をどう活用するんでしょうか?」
触手「さぁな。こっから先は俺たちが立ち入るべきじゃねえよ」
触手「あとは町民って立場から、高みの……いや低みの見物をしてりゃいいのさ。
きっと選挙戦はドロドロになるぜ……?」ウネリウネリ
女助手「先生ったら、悪いウネウネの仕方してますよ」
触手「ほっとけ」
触手「あ、そうだ。せっかくだから、お前の剣で俺の先っちょを整えてくれよ。
長丁場の依頼だったから、だいぶボサボサになっちまってる」ウネッ…
女助手「アイアイサー!」
スパパパパッ!
長丁場の依頼を終えた解放感からか、女助手の剣は一段と冴えていた。
翌日から、いよいよ選挙戦が本格的にスタートする。
< 広場 >
町長「皆さん! 実業家は元々は不良グループのリーダーだったのじゃ!」
町長「町長になりたいのも、不良グループの時に抱いていた野心を、
この町で発散させたいがためだという!」
町長「あんな輩を町長にすれば、みんな後悔することになるぞ!」
~
実業家「町民の皆さまは、現町長の趣味をご存じでしょうか?」
実業家「なんと町長は、毎日自分の部屋で女の人形に語りかけているのです!」
実業家「しかも、この町を自分の思い出のままにしておきたいから、
現状を維持したいという女々しさ! こんな人が町長でよいのでしょうか!」
選挙戦は、触手の予想通りネガティブキャンペーンの応酬となった。
ザワザワ…… ドヨドヨ……
触手「こりゃ面白い! 俺たちの仕事が立派に生かされてるぞ!」ウネウネウネ…
女助手「先生……」ジロッ
投票日が間近まで迫ってきたある日──
触手「さぁ~て、今日も二人のバトルを楽しむとするか」ウネリウネリ
女助手「先生ったらもう……」
触手「お、やってるやってる!」
町長「ええい、元チンピラなんぞにこの町は渡さんぞ!」
実業家「黙れ! いい年こいて人形遊びなんかしてやがるくせに!」
町長「なんじゃと!? キサマには敬老精神というものがないのか!?」
実業家「敬老精神だと!? 敬われるような生き方をしてからいったらどうだ!」
女助手「……もはや、ただの悪口のいいあいですね。
町の人もみんな、二人の過去なんかどうでもよくなってますよ」
触手「うんうん。これぐらい派手にやってくれりゃ、探偵冥利に尽きる」ウネッウネッウネッ
女助手(先生、いつになくリズミカルに動いてる……)
実業家「だいたいアンタ、どうやって俺の過去を知ったんだ!」
町長「キサマこそ! なにか汚い真似をしたんじゃろうが!」
ギャーギャー……!
触手(あらら……。まさか二人とも探偵を雇いましたなんていうわけがないから、
安心して高みの見物ができるんだけどさ)
少年「あっ、触手さん!」
触手「おう、ボウズ」ウネッ
少年「聞きたいことがあるんだけど、聞いてもいい?」
触手「質問は子供の特権だ。なんでも聞けよ」
少年「こないだ、触手さんはどうして町長さんと実業家さんの家に遊びに行ってたの?
今やってる“せんきょ”に関係あるの?」
触手「!?」ギクッ
不運にも、少年の声は罵声を飛ばし合っている二人にも聞こえるほど、よく通った。
町長&実業家「!」ピクッ
町長「触手君!」
実業家「触手さん!」
触手「はいっ!?」ウゾッ…
町長&実業家「今のはいったいどういうことだ!?」
触手「あ、いや……その……」ウネウネウネ…
少年「?」
町長「まさか、おぬし……二重依頼を受けておったのか!?」
実業家「君を信頼していたのに……ひどすぎる!」
触手「ま、まぁ、ひとまず落ちついて下さいよ……ね?」ウネッ…
町長「これが落ちつけるか!」
実業家「きちんと説明してもらおうか!」
触手「えぇ~と、あ~っと……」ウネウネウネ…
女助手(あっちゃ~、大ピンチ! どうするんですか、先生!?)
すると──
触手「ショォォォォォック!!!」
町長&実業家「!」ビクッ
女助手(出た! 先生のショックシャウト! 半年ぶり……ぐらいかな?)
触手「俺が二重依頼を受けていた……それのどこが悪い?」
町長「い、いや……悪いじゃろ」
実業家「う、うん。町長のいうとおり……」
触手「俺が悪いなら、アンタらはいったいなんなんだ!?」ウネ…
触手「選挙戦とは名ばかりの、互いの誹謗中傷ばかり!
町民のことなんか完全に置き去りにしてしまっている!」ウネウネ…
触手「仮にも一つの町の運命を背負う身で、恥ずかしいとは思わないのか!?」シュビッ
町長「ぐっ……!」
実業家「むむ……!」
触手「町長目指すんなら──悪口じゃなく、政策で勝負せんかいッ!」
町長「それは……そうじゃな……」シュン…
実業家「た、たしかに……」シュン…
女助手(無理やり獲物を絡め取るような力技もお手のものですね! さっすが先生!)
女助手(って、本当にこんなんでいいのかなぁ……)
町長「おぬしのいうとおりじゃ……触手君。
ワシらは選挙に勝つことだけを考え、町民のことなど置いてきぼりじゃった」
町長「実業家君、これから投票日までは互いの誹謗中傷はやめ、
この町や住民をどうしたいか──政策だけで勝負といこうじゃないか!」
実業家「望むところだ、町長!」
にらみ合い、火花を散らすライバル同士。
触手(ふうっ、危ないとこだった……)ウネッ…
少年「女助手さん、ボクなにか悪いことしちゃったのかな?」
女助手「ん~ん、君はなんにも悪くないよ。悪いのは先生なんだから」
触手「うぐっ……!」ウゾッ
女助手「あ、もちろんあたしも共犯ですよ!
もしペナルティがあるならあたしも受けます!」
触手「おお、共犯になってくれるか……。でもなんでちょっと嬉しそうなんだよ」ウネウネ
女助手「だって先生とあたしは、運命共同体なんですから!」
触手「やっぱり俺の単独犯ってことで」
これまでのやり方を反省した町長と実業家は、
うってかわってこの町に関する政策のみを論ずるようになった。
実業家「この町は私の手でもっともっと発展できるのです!」
実業家「国王陛下のいる王都や他の市町村とのパイプを太くし、
この町をより豊かな土地としてみせます!」
~
町長「急速な変化というのは、必ずどこかに歪みを生じさせるものじゃ!」
町長「この町は歴史が古く、昔ながらのしきたりなども多い!
ゆるやかな発展こそが、この町にとって肝要なのじゃ!」
触手「へっ……最初からこうしとけってんだ」ウネウネ…
女助手「先生がいっていいセリフじゃないですね」ニコッ
そして、いよいよ投票日当日!
< 投票所 >
ワイワイ…… ガヤガヤ……
触手「にぎわってんなぁ~」ウネウネ…
触手「こりゃ、投票率100パーセントいくんじゃないか?」
女助手「ですね!」
触手「みんな、よっぽどヒマなんだな」ウネッ
女助手「先生!」
触手「こうして町のみんなが選挙に関心を持ったのには、
俺たちの仕事のおかげってのもあるだろうけどな!」ウネッ
女助手「……そういう側面も、あるにはあるとは思いますけどね」
やがて投票は終了し、町役場の人間による開票作業が始まった。
結果は──
有権者数 1659人
町長 829票
実業家 829票
ザワザワ……
「まったく同じ票数だ!」 「ホントだ!」 「この町の有権者は奇数のはずなのに!」
町長「うむぅ……。つまり、誰か一人が入れてないというわけじゃな?」
実業家「そういうことだな。いったい誰が……」
女助手「町長選挙は一票でも多く入った方が勝ちになる仕組みですけど……
棄権したのはいったいだれでしょうね?」
触手「…………」
触手「あ」ウネッ…
みんなの前に出る触手。
触手「わるいわるい」ウゾウゾ…
触手「そういや、俺も選挙権あったから今から投票するわ」ウゾウゾ…
「触手探偵だ!」 「最後の一票は彼か」 「彼にも選挙権があったのか!?」
町長「そういえばそうじゃった!」
町長「今の法律によれば、たとえ人間でなくとも、ある程度の知能を有しており、
規定年数以上居住していれば、選挙権を得られるからのう」
実業家「ということは……彼の一票で勝敗が決するというわけか!」
触手「ってことになるな」
女助手「ど……どっちに入れるんです!? 責任重大ですよ、先生!」ゴクッ…
触手「そりゃもちろん──」シュルッ
触手がペンで、白い紙に名前を書き入れる。
触手「町長だよ」ピラッ…
町長「おおっ!」
実業家「くっ……」ガクッ…
女助手「先生……いったいどうして町長さんに?」
触手「え、だって──」
触手「事務所にやってきた時、町長は菓子折りを持ってきてくれたからな」ウネウネ…
女助手「あ、クッキー……たしかにおいしかったです」
触手「ってわけで、菓子折りの差で、町長!」ビシッ
町長「たかが数百ゴールドのクッキーじゃったというに……」
実業家「いや……商売でも小さな心配りで大きな差が生まれることがある。
この勝負……私の負けだ!」
実業家「こうなった以上、私は町長の座をいさぎよく諦めるとしよう……」
町長「いや、待ってくれ! 実業家君!」
実業家「!」
町長「今回、触手君を通じて君に秘密を暴露されたことで、ワシは悟ったよ」
町長「ワシは……過去にこだわりすぎていたのではないか、とな」
実業家「町長……」
町長「実業家君……どうか、商売人としてワシをサポートしてくれんだろうか。
ワシとて、この町をもっと発展させたいという気持ちはあるのじゃ」
町長「きっと……そうした方が亡き妻も喜ぶと思うしのう」
実業家「…………!」
実業家「──私こそ! ああやって過去の自分を暴露されたことで、
むしろスッキリしました!」
実業家「これからは過去を消し去りたいなどという後ろ向きな気持ちではなく、
真に町の視点に立って、町の発展に力を尽くします!」
実業家「そしていつか……私の故郷をも救いたいと思います!」
ワイワイ…… ガヤガヤ……
町長「実業家君……よろしく頼む!」
実業家「はいっ! 町長!」
ガシィッ……!
固い握手を交わす二人に、町民からも温かい拍手と声援が送られる。
パチパチパチ……! パチパチパチ……!
ワアァァァァァ……!
触手「…………」
触手「全て……俺の狙いどおりだ」ウネッ
女助手「ウソつかないで下さい!」
~ おわり ~
47 : ◆DZVn09wdis - 2015/03/18 02:44:40 20F6e/3. 42/318第一話終了です
引き続き書いていきますのでよろしくお願いします
第二話『ドクター・触手』
< 探偵事務所 >
新聞を読みながら、はしゃぐ女助手。
女助手「先生、この記事すっごいですよ!」
触手「どんな記事だ?」ウネッ…
女助手「ある奇病に悩まされてた村に立ち寄った薬売りさんが、
たちまち村の人たちを救ったんですって!」
触手「へぇ~、医者が不足してる今の世にとっちゃ、ありがたい話だな。
この町も大してでかくもない診療所が一つあるだけだし……」ウネ…
コンコン……
触手「ん、客か?」
女助手「どうぞ、お入り下さい!」
依頼人は、まだ女助手と同世代であろう若い娘であった。
触手「ま、お茶でも飲んで……用件を聞かせてもらおうか」シュル…
村娘「は、はいぃっ!」
村娘「ア、アタシ……この町の人間じゃないですけれどもっ!
アナタならどんな事件も解決してくれると聞いて、やってきましたぁ!」
触手「ん~……それほどでも、あるけど……」ウネウネ…
村娘「お願いしますっ! どうかアタシたちの村を助けて下さい!
──お願いしますぅぅぅっ!」
女助手「お、落ちついて! ゆっくり話して下さい! ……ね?」
村娘「あ……失礼しましたぁっ!」
触手(女助手に似て、そそっかしそうな娘だな)
村娘「実は……アタシの村でおかしな病気が流行っとるんです!」
触手「病気?」ウネッ…
村娘「はい……体がだるくなって、微熱が出て、手足がシビれて……
大事には至っていないんですが、大勢の村人がそれにかかってしもうて……」
触手(ちょっと強力な風邪……みたいな感じか)ウネ…
女助手「あのう……。たしかに先生はすっごい探偵ですけど、
そういうことは、お医者さんに相談した方がいいのでは?」
村娘「おっしゃる通りです」
村娘「だけど……アタシの村には医者はいないし、
この町のお医者さんに頼んでみたら、忙しいからと断られて……」
触手「今はどこも医者が不足してるからなぁ……。
突然、風邪もどきみたいな病気を治しに村まで来てくれといわれても
すぐには動けないだろうな」ウネッ…
村娘「もしこのまま放っておいて、みんなが倒れていったら……!」
村娘「お願いします! アタシの村を……助けて下さい!」
触手「…………」ウネウネ…
女助手(いくら先生でも、こんな依頼は受けられないだろうなぁ……)
触手「引き受けよう」
女助手「え!?」
触手「病は専門じゃないし、力になれるかは分からんが、
ちゃんとした医者が来るまでの“つなぎ”にはなるかもしれないしな」ウネッ
村娘「あっ……ありがとうございますぅぅぅっ!」
馬車の支度をするという村娘を外に出し、準備を整える触手。
女助手「先生、ホントに行くんですか?」
触手「なんか面白そうだし、俺なら病気にかかることもないだろうしな。
お前は来なくていいんだぞ?」
女助手「なにをおっしゃる! 先生が行くところなら火の中、水の中、病気の中!
どこへだって、あたしはこの剣とともにお供しますよ!」
触手「くれぐれも用心しろよ。命に関わる病気じゃないらしいが……
俺が帰れっていったら大人しく帰るんだぞ」ウネッ
女助手「アイアイサー!」
~
触手「お、いい馬車じゃんか。それじゃ、村まで案内してもらおうか」ウネウネ
女助手「レッツゴー!」
村娘「はっ、はいぃっ!」
村娘が操る馬車に乗り、一行は村を目指す。
ガタゴト…… ガタゴト……
村娘「ところで、触手さんは今までどんな事件を解決してきたんですか?」
触手「ん~……色々あるよ。
猫を捕まえたり、盗賊団をやっつけたり、なくした宝石を見つけたり……
最近では町長選挙でのいさかいを、みごとに和解させてやった」
村娘「すごいなぁ~……」
村娘「女助手さんは剣を持っとりますけど、強いんですか?」
女助手「いえいえ! これはあくまで先生のお手入れをするための剣ですから!
あたしは全然強くないんですよ~」
触手「ウチの町にも剣の訓練場があるからコイツもちょくちょく通ってるが、
生徒の中で一番弱いんだとさ」
女助手「アハハ……」
村娘「そうなんですか……」
触手(そう、たしかに強くない……。普段はな)
村娘「さあ、もうすぐアタシらの村に着きますよぉ!」
< 村の入り口 >
ヒュゥゥゥ……
村娘「ここがアタシの村です! ……普段はもう少し、にぎやかなんですけどね」
触手(まるでゴーストタウンだな……)
女助手「のどかな村なのに……ひどいなぁ……」
しかし──
ワイワイ…… キャッキャッ……
子供A「いけいけ、ボクのカブトムシ!」
子供B「なんの、やれ! クワガタ!」
元気に昆虫と遊んでいる子供たちがいた。
触手「珍しいな。この季節にカブトムシやクワガタだなんて」
村娘「あれは少し前まで村にいた行商人さんが売っとったんですよ。
この季節にも活動する種類だとか」
触手「行商人?」ウネッ
村娘「ええ、珍しい虫をいっぱい売ってましてね……。
虫の成分から抽出したっていう軟膏を塗ってくれたこともありました」
触手「おいおい、もしかしてその軟膏が病気の原因ってオチじゃないのか?」ウネウネ
女助手「あっ、そうか!」
村娘「それも疑いましたけど……ありえませんよ!
だとしたら、アタシやあの子らだって病気になっとるはずですし。
たしか、村のほとんどの人が塗ってもらったはずです」
触手「さすがに、そううまくはいかないか……」ウネッ…
女助手「ドンマイ、先生!」
触手「…………」
< 村の寄り合い所 >
村娘「病気になった村人たちには、ここで寝泊まりしてもらっとります」
「うぅ~ん……」 「体がだるい……」 「くそぉ~、力が入らねえ」
患者は全て、村の十代から二十代の男性であった。
女助手「これはひどいですねえ……」
触手「…………」ウネッ
村娘「村の若いもんはこのとおりで……」
村娘「村にある薬草なども試したんですが、ちっとも効かなくて……」
女助手「病気になったのが、若くて体力のありそうな人たちだけっていうのが、
まだよかったですね」
村娘「ええ、不幸中の幸いでした。だけど、他の人間もいつ病気になるか……」
触手「一人……なるべく元気な患者を診せてもらってもいいか?」ウネウネ…
村娘「は、はいっ! アタシでよければっ!」
触手「いや、アンタは病気じゃないだろ」
村娘「失礼しましたぁぁぁっ!」
村娘「それじゃ、茶髪くん。触手さんに容体を診てもらっていいかね?」
茶髪「あ……いいっすよ……」ゲホゲホッ
触手「よし……俺の『七色(レインボー)触手』のうちの一本を、
使う時がきたようだな」ニュルッ
女助手「おおっ! 今日はいったいどれを?」
触手「“黄の触手”を使う!」
女助手「おおっ、“黄の触手”! たしかにこんな時にはうってつけですね!」
村娘「なんなんです? “黄の触手”って」
女助手「人や動物の体から、体液を吸い取ることができるんです。
しかも、その体液を分析することもできるんですよ!」
触手「チクっとするが、我慢してくれよ」シュッ
ドスッ……!
茶髪「あんっ……!」
触手&女助手&村娘(あんっ、て……)
触手「…………」チュウチュウ…
茶髪「いいっすねぇ~……。気持ちいいっすよぉ~……」ビクビクッ
触手「こらこら、あまり動くな」チュウチュウ…
女助手(先生に吸われてる……! いいなぁ……!)ソワソワ…
村娘(女助手さん、めっさソワソワしとる……)
体液をいくらか吸い取った触手が、分析に入る。
触手「…………」ウネウネ…
触手(やはり、これは──)
女助手「先生、なにか分かりましたか?」
触手「ああ、二つのことが分かった」ウネッ…
村娘「まさか、治療法!?」
触手「それが分かるようなら、俺は探偵じゃなくて医者になってるっつうの。
絶対そっちのが儲かるしな」
女助手「その時は、あたしはナースですね! で、二つのことというのは?」
触手「一つはこの若者たちが死ぬようなことはないってことだ。
彼から吸った体液に含まれてる成分は、到底人を殺せるようなもんじゃない」
村娘「よ、よかったぁぁぁ……」ホッ…
女助手「──で、もう一つは?」
触手「それをたしかめるため……ちょっと村を散歩してくる。女助手、お前も来い」グイッ
女助手「わ、わわっ!」
< 村 >
女助手「先生、いったいなにをたしかめるつもりですか?」
触手「…………」ウゾウゾ…
触手「お、やっぱり!」
女助手「?」
触手「よっと」ヒュババッ
ヒュバババババッ! ヒュバババババッ!
数本の触手が、ムチのように振り回される。
女助手「な、なにやってるんですか、いきなり!?」
触手「ん~と、昆虫採集」ウネッ
女助手「こ、昆虫……? 子供たちのカブトムシやクワガタが逃げたんですか?」
触手「んじゃ、寄り合い所に戻るぞ」ウネウネ
女助手「ちょ、ちょっとぉ~、教えて下さいよ~!」
< 村の寄り合い所 >
触手「村娘ちゃん」
村娘「は、はいぃっ!」
触手「おそらくあと二、三日でこの病気はこの村から消えてなくなる。
それはもう、キレイさっぱりとな」
女助手&村娘「ええええええええええっ!?」
村娘「なんでぇ!? なんでなんですぅ!?」
女助手「どういうことなんですか、先生!?」
触手(二人とも、期待以上のリアクションだな。実にやりがいがある)ウネッウネッ
触手「ま……とにかく待つことだ」ウネ…
触手「ってわけで村娘ちゃん、少しの間この村に厄介になってもいいか?
この騒動は見届けたいしさ」
村娘「それはもちろん、かまいませんけど……」
触手「女助手、お前は帰った方がいい。親御さんが心配するからな」シュルッ…
女助手「心配無用!」
女助手「こんなこともあろうかと町を出る時に、しばらく泊まりになるかもって
弟に手紙を渡しておきましたから!」
触手「……やるじゃん」
触手と女助手は、しばらく村に滞在することになった。
< 村娘の家 >
村娘「今日は……来て下さってありがとうございましたぁぁ!」
女助手「いえいえ」
触手「まだ村人の病気が治ったわけでもないしな」ウネッ
村娘「いえ……。アタシ、アナタたちが来てくれただけで嬉しいんです。
それだけで、なんていうかホッとしちゃって……」
村娘「さっきまでは村を救いたい気持ちだけでいっぱいでしたが、
今は……アナタたちに病気になって欲しくないです」
村娘「だから滞在中、決して無理はしないでくださいね」
触手「ありがとよ」ニュルッ
女助手「村娘ちゃんが少しでも元気になってくれてよかったです!」
村娘「えへへ……」
寝室──
女助手「ねえ、先生」モゾ…
触手「ん?」
女助手「さっきのチュウチュウ吸うの、あたしにもやって下さいよぉ~」
触手「なんでだよ。お前はいたって健康体だろうが」
女助手「じゃあ、久々にくすぐったりマッサージして下さいよぉ~!
最近、ご無沙汰じゃないですか~!」
触手「ダメだ」ウゾッ…
触手「お前はものすごい声出すからな……村の人たちが起きちまうよ」
触手「それにこの件では、お前をマッサージする必要はないだろうさ」
女助手「ちぇっ」
翌日──
< 村 >
女助手「おはようございます! 今日は何をするんです? 調査? それとも治療?」
触手「いや、何もしないぞ」
女助手「へ?」
触手「せっかくこんな静かな村に来たんだ……久々にのんびりしようぜ」ウネウネ
女助手「……そうですね!」
女助手「お、キレイな石が落ちてる! よ~し、蹴ってあっちまで持っていこう!」コツッ
触手「まぁ~た石蹴りかよ」ウネ…
触手(だけどコイツのこういうところ……俺、結構好きかも)ウネウネ
子供A「ねーねー、遊んでよ!」
子供B「行商人さんいなくなっちゃったしさ……」
触手「ん? 悪いがな、俺はけっこう多忙な触手なんだ」
女助手「今日はやることないっていってたじゃないですか! さ、遊びましょう!」
子供A&B「わぁ~い!」
触手「ったく、しょうがねえなぁ……。
つい最近開発した新技、ウルトラ触手たかいたかいをやってやる!」ウゾッ
子供A&B「うわぁ~い!」
女助手(先生って、ホント子供に好かれるよなぁ……)
触手「ところでボウズども」ウネッ
子供A「なぁに?」
触手「ボウズどもに、カブトムシやクワガタを売った行商人ってのは、
どんな顔だった?」
子供A「ん~、わかんない」
女助手「へ? どうして?」
子供B「だって……おかしな布で顔を包んでたから」
女助手「むむ……どうやらよほどシャイな人だったみたいですね!」
触手(やっぱり……そうなるよな)ウネ…
触手「よぉし、お礼に“触手乱舞”を見せてやる! めったにやんないんだぞ!」ウネッウネッ
子供A&B&女助手「やったぁ~!」
触手「──って、お前まで一緒に喜ぶなよ」
女助手「す、すみません……」
< 村娘の家 >
女助手「今日も泊めてもらっちゃって、ありがとうございます!」
村娘「いえいえぇ! 子供たちと遊んでくださったみたいで……。
若いもんがみんな倒れてしまったので、本当に感謝しとります」
村娘「それに、触手さんの診断で命に関わることはないと分かったので、
みんなホッとしとりますしねぇ」
触手「そりゃよかった。多分、明日あたりにこの一件は解決するしな」
村娘「明日ですかぁ!」
女助手「それはいったいどうして──」
触手「さぁ~て、寝るか!」ウネッ
村娘「は、はいぃっ!」
女助手(んもう、全部話してくれればいいのに、先生ったらもったいぶるんだから……)
翌日──
< 村 >
女助手「先生、今日はどうするんです?」
触手「昨日とおんなじさ。病気がなくなるのをのんびり待つ」ウネッ
女助手「アイアイサー!」
触手「ん? えぇ~、またですかぁ~、とかいわないんだな」
女助手「あたしこの村のことが結構気に入っちゃって……。
村の人としゃべったり、子供たちと遊ぶの楽しいし……」
女助手「もし、先生の推理が外れて当分この村にいることになっても、
それはそれでいいかな……って」
触手「……お前の適応力は見習うべきものがあるな」ウネウネ
ザワザワ…… ガヤガヤ……
女助手「あれ? なんだか……騒がしいですね」
触手「来たな……」ウゾッ…
村人たちが、薬箱を担いだ青年を囲んでいた。
「本当かね!?」 「あなたなら病気を治せると!?」 「まさか……」
薬売り「はい……全てぼくにお任せ下さい」
女助手「だれですか、あの人?」
村娘「なんでも、旅の薬売りさん、みたいです」
女助手「あっ、もしかして、新聞に載ってた人じゃ!?」
女助手「そうか! 先生は近いうちにあの人が来てくれるって、推理してたんですね!
すごいです! さすがです!」
触手「まぁ……な」
< 村の寄り合い所 >
薬売り「この症状には……この薬が特効薬になるはずです」
薬売り「さ、飲んでみて下さい」
茶髪「うう……」ゴクッ…
薬を飲んでから少し経つと──
茶髪「おお、ホントっす! だいぶ楽になったっす!」
「本当かよ!」 「オラにも飲ませてくれ!」 「お、俺にも!」
薬売り「薬はたっぷりあるので大丈夫です! お安くしておきますよ!」
ワイワイ…… ガヤガヤ……
村娘「やったぁぁ……みんな治っていく! よかったぁぁぁ……」グスッ…
女助手「よかったね、村娘ちゃん!」
触手「…………」ウネ…
夕方になり──
薬売り「皆さん、ほぼ全快されたようですし、ぼくはこれにて失礼します」
村人「あのう……ぜひ泊まっていって下さい!」
薬売り「ありがたい話ですが、ぼくはもっと大勢の病に苦しんでる人を救いたいので……」
「ありがとうございました!」 「あなたは救世主だ!」 「助かったよ!」
ワイワイ…… ガヤガヤ……
村娘「よかったぁ……これで村は元通りだぁ……」
女助手「結局あたしたちの出番はほとんどなかったですねぇ」
触手「しゃーない。こういうことは俺たちの専門じゃないからな」ウネウネ
村娘「いえ、お二人が来て下さったから、村が明るさを保てたんです!
アタシ、本当に感謝しとるんです! ありがとうございます!」
女助手「こちらこそ、村娘ちゃん!」
触手「そういってもらえるとこっちも嬉しいよ。
明るく楽しくうねる、ってのが俺のモットーだからな」ウネッウネッ
こうして村は活気を取り戻し、全てが元通りとなった。
触手「……さぁて」ウネッ
女助手「?」
触手「女助手、ヤツを追うぞ」ウネウネ
女助手「ヤツ? ヤツって……薬売りさんですか?」
触手「ああ」
触手「こっからが俺の、いや俺たちの“専門”だ」
女助手(なにがなんだか、よく分からないけど……)
「アイアイサー!」
薬売りは村からかなり離れた地点に、テントを設けていた。
< テント >
薬売り「よし……」ジャラッ…
薬売り(これだけあれば当分は生活できそうだ……。
だけど、こんなこといつまでも続けられるわけがない……)
薬売り(いいや、考えるのはよそう! 一度外の空気を吸って──)ガサ…
薬売りがテントの外に出る。
ウネウネ…… ザッ……
触手「よう、商売繁盛でなにより」ウネウネ…
女助手「こ、こんばんは」
薬売り(触手の魔物と……若い女の子!?)
薬売り「だ、だれだ君たちは……!?」
触手「俺はこのとおり触手なんだけどさ。
触手のくせにねちっこい責めってのが苦手なんだ。だからズバリいうぜ」
触手「お前、あの村でカブトムシやクワガタ売ってた行商人だろ」シュビッ
薬売り「!」ビクッ
女助手「へ?」
薬売り「な、な、なにを──」
触手「村の若者の体液に含まれてた成分、あれは細菌の類じゃねえ……」
触手「毒だ」
女助手「ど、毒ですって!?」
触手「毒性は大して強くない……せいぜい気だるさを覚える程度だ。
ただし、人体から排出されるのはえらく時間がかかるってシロモノだ」ウネウネ
触手「解毒剤がなきゃ、かなり長い間苦しむことになるだろうな。
たとえば……さっきお前が村人に売りつけてた薬とかな」
薬売り「…………!」
女助手「で、でも先生! あんな大勢に毒を盛るなんて、絶対ムリですよ!」
触手「虫だよ」
女助手「虫!? カブトムシやクワガタに毒なんてありましたっけ?」
触手「ちがうちがう。コイツはそいつらとは別に、虫を飼ってんだ。
ちっこいけど、厄介な毒を持ってる羽虫をな」ウネ…
触手「お前と村を散歩した時、案の定見慣れない羽虫が何匹かいやがった。
フェロモンかなんかで回収したんだろうが、しきれなかったんだろうな」
触手「捕まえてみたら、病人たちの体液に混ざってた毒と同じ毒が検出された。
多分、テントを調べりゃ、ビンかなんかであの羽虫を飼ってるはずだ」ウネウネ…
薬売り「ぐ……! うぅ……っ!」
女助手「つ、つまり、この人は……虫を使って毒をばら撒いて……
解毒剤を売りつけてたってことですか!」
触手「そういうこと」ウネッ
触手「自分で火をつけて、自分で消す。典型的なマッチポンプってやつだ」
触手「つまりお前の正体は、行商人でも薬売りでもなく──
虫使いにして毒使いだった! ……ってわけだ」
薬売り「う、ううっ……」
女助手「だけど先生、それだったら村娘ちゃんや子供たちも病気……
いえ、毒に侵されてないとおかしいんじゃ……」
触手「軟膏だよ」
触手「元々あの羽虫に人を刺す習性はないんだろうが……
おおかた、あの虫の攻撃行動を促す薬品だかを混ぜた軟膏を塗りつけることで、
人間を攻撃させたんだ」ウネウネ
女助手「だけど、軟膏は村の人みんなに塗りつけられたんですよ?」
触手「そんなもん、軟膏を二つ用意してたに決まってんだろ。
虫を刺激する成分が入った軟膏と、入ってない軟膏をな」ウネッ
触手「んでもって、羽虫を村にばら撒けば、“病人”が何人も誕生する」ウネウネ
触手「あとは虫を回収して村を出て、少し間を空けて解毒剤を持って村を訪ねれば……
救世主のできあがりってわけだ」
女助手「そういうことだったんですか……」
触手「さて……と、なにかいいたいことはあるかね? 薬売り君」ウネッ…
薬売り「あ、う……ううう……」ガタガタ…
触手「ホントはテントの中を調べる予定だったが……調べるまでもねえな、こりゃ」
触手「なんでこんなことをした?」ウネッ
薬売り「ぼ、ぼ、ぼくは……」
触手「あんなレアな羽虫を操るのも、解毒剤を作るのも、
生半可な知識じゃできねえはずだ」ウネウネ
触手「それだけの能力がありながら、なぜこんなマネをしたんだ?」
女助手(先生……)
薬売り「ぼ、ぼくは……昔は医者を目指していた……」
薬売り「だけど……医学界はぼくの想像してたような世界じゃ、なかった……」
薬売り「力のない医者の手柄は力のある医者に取られ、
お金を持ってない患者を親切心で治療すると、怒られ……」
薬売り「それに……医者同士も対立して、ほとんど交流をしない……。
ある国ではある病気に対する有効な治療法が見つかったのに、
隣の国の医者はそんなことまったく知らない、なんてこともザラなんだ……」
触手「…………」
薬売り「結局ぼくは……ダメになってしまった。
そ、それで……色んな国をあてもなく放浪して……」
触手「身につけた知識を生かして、こんなチンケな商売を始めたってわけか」ウネッ…
女助手(お医者さんって、一種の特権階級みたいなところがあるし、
厳しい社会だとは聞いてたけど……そこまでだったなんて……!)
女助手(だからって、この人のやったことは許されることじゃない……!)
触手「薬売り……ハッキリいって、お前は最低の人間だ」ウゾッ…
触手「医者の世界はすごく厳しくて汚いから……なんて理由にもならねえ。
ムシケラ以下だよ、お前」
薬売り「うぅっ……! そ、そのとおり、です! ぼ、ぼくはもう……!」
触手「そんなムシケラなお前に、俺から一つ提案したい」ウネウネ…
薬売り「提案……? な、なんですか……?」
触手「見逃してやろうか?」
薬売り「へ?」
女助手(え!?)
触手「見逃すにあたっての条件は二つ」ウネッ
触手「一つは、今回この村からもらった金は、全部返してもらう。
適当なこといって、俺から村人に返しておくよ」
触手「そしてもう一つは──」
触手「お前、もう一度医者を目指せ」シュビッ
薬売り「だけど! ぼくはもう……ただの犯罪者……」
触手「俺は探偵でな。こういう職をやってると、コネクションも広がる」
触手「お前のことを、ある医者に紹介してやるよ。
そいつはお前がいったような汚れた医学界とは無縁のヤツさ」
触手「もちろん、もう一度挫折したって俺は責めやしねえ……。
目指せば必ずなれるってほど、甘いもんじゃねえだろうしな」ウネッ
触手「ただし──」
触手「もしまた……今回みたいな下らない事件を起こしたと知った時には……」
触手「お前の穴という穴から侵入して、身動きも取れない状態にして、
三日三晩、死んだ方がよっぽど幸せっていう激痛を味わわせる」ウゾ…ウゾ…
触手「そんでもって体内から全身をバラバラに引き裂いて、殺してやる……!」ウゾッ…
薬売り「…………!」ゾクッ…
女助手「…………!」ゾッ…
薬売り「うあ、あ……!」
触手「ビビるんじゃねえよ」ウネッウネッ
女助手(今のを聞いて、ビビるなって方が無理ですって……)
触手「さて、薬売り。なんで俺がこんな提案するかってのも教えてやろう」
触手「お前は……あの羽虫で、女子供や老人といった弱い連中は狙わなかった。
村自体も、今の時期はさほど忙しいわけじゃなかった」
触手「お前はどうしようもないヤツだが……根っこまでは腐ってない、と思った」ウネッ
触手「でなきゃ、今ここでブチのめして村人に突き出すところだった」ウネウネ…
触手「それにさ、お前のことを救世主と思ってる人たちに、
アンタら騙されてたんだよって、今さらタネ明かしするのも気が引けるしな」
薬売り「…………」
女助手(先生……)
触手「……どうする?」シュルッ
薬売り「や、やります……! やらせて下さい!」
薬売り「ぼくにはもう……人を救う仕事につく資格なんかないけれど……!
も、もう一度……!」
触手「よし」ウネッ
触手「やるからにはしっかりやれよ」
薬売り「は、はいっ……!」
こうして触手は、村人たちに金を返還し、
薬売りについては“信頼のおける知人”に預けることにした。
そして──
< 探偵事務所 >
女助手「……先生」
触手「ん?」ウネッ
女助手「なんであの人……捕まえなかったんですか?」
触手「別に俺は正義の味方じゃないしな。それにほら、今医者不足だろ?
アイツならもしかしたら、すげえ医者か薬剤師になれるかもしれないしな」
触手「たとえとしては適当じゃないかもしれんが、
悪いことをしたニワトリを絞め殺して終わらすより、卵を生ませた方がいい。
──と考えたわけだな、俺は」ウネウネ
女助手「…………」
触手「不満か?」ウネッ
女助手「先生が正しいです! ……とはいいたくありません。
あの人はあれだけ大勢の人を苦しませたんですから……」
触手「だよな」ウネッ
触手「お前は俺にただくっついてきてるだけのように見えるが、
たまにそうやって俺にビシッといってくれるよな」
触手「お前のそういうところ……結構好きだぜ」ウネ…
女助手「ええっ、それってまさかプロポーズ!?」
触手「ちげーよ!」ウゾッ
女助手「……残念」
女助手「ところで、薬売りさんを預けたお医者さん、ホントに大丈夫なんですか?」
エルフ医師『ほぉ~う、虫を使ってそんな悪さを!? なかなか見どころある人間だな!
オレもやってみよっかな! ヒャヒャヒャヒャァ!』
触手「……多分」ウネ…
女助手「そ、そうですか」
女助手「あと……最後に一つだけ。
薬売りさんにやった脅し、もし彼が約束を破ったら本当にやるつもりですか?」
触手「さぁて、な」
~ おわり ~
第三話『王と触手と真剣勝負』
< 城 玉座の間 >
国王に謁見する二人の武器職人。
国王「今年の『ソードオブザイヤー』はおぬしら二人のうち、
どちらかの品から選ぶこととする」
国王「一ヶ月後までにそれぞれ一振りずつ剣を仕上げ、
より優れていた方が、『ソードオブザイヤー』受賞となる」
国王「よいな?」
鍛冶屋「はいっ!」
職人「承知いたしました!」
< 鍛冶屋の家 >
鍛冶屋(『ソードオブザイヤー』の候補になることができた……。
これだけでも、私にとっては十分誉れ高いことだ……)
鍛冶屋(あとは邪念を捨て、最高の剣を作ることだけを考えよう!)
カンッ! カンッ! カンッ!
これまでに培った技術と経験を全て注ぎ込むように、ハンマーを打つ鍛冶屋。
鍛冶屋(最高の剣を作るんだ……)カンッ カンッ
鍛冶屋(最高の剣を……!)カンッ カンッ
『ソードオブザイヤー』品評会まで残り十日──
鍛冶屋「やった! ついに完成したぞ!」ギラッ…
鍛冶屋「切れ味も強度も文句なし。グリップもしっくりくる。
まちがいなく今までの私の作品の中で、最高の剣だ!」
鍛冶屋(あえて余計な装飾はせず、このまま王に献上しよう)
鍛冶屋(おそらく職人も、ものすごい剣を作り上げてくるだろうが、
この剣で負けたのなら悔いはない!)
鍛冶屋(文字通り、職人との真剣勝負だ!)
ところが──
鍛冶屋「……あれ!?」
少し目を離した隙に、鍛冶屋の剣がなくなってしまった。
鍛冶屋「ない! ないぞ!? たしかにここに置いておいたのに……。
どこにもないッ! どこにいってしまったんだ!?」
鍛冶屋「……私としたことが、なんという失態だ!」
鍛冶屋(くう……! 今から大急ぎで作ったとしても、
似たようなものは作れても、あのレベルの剣はとても作れない!)
鍛冶屋(それに、もしあの剣を悪用されたら、大変なことになってしまう!)
鍛冶屋(なんとか見つけ出さなければ……)
鍛冶屋(しかし……どうやって探したらいいのか、見当もつかない!)
鍛冶屋(そうだ! この町にいる探偵さんに相談してみよう……!)
< 探偵事務所 >
女助手「どうぞ、コーヒーです!」コトッ
鍛冶屋「ありがとう、女助手ちゃん」
触手「なるほどね……。『ソードオブザイヤー』用に作った剣が突如消えてしまい、
それを探して欲しいと……」
鍛冶屋「はい……」
触手「ところで、先に聞いておくべきだったんだけど」ウネウネ
鍛冶屋「なんでしょう?」
触手「『ソードオブザイヤー』ってなに?」ウネッ
女助手「あれ、先生? 『ソードオブザイヤー』をご存じない?」
触手「え、お前知ってんの?」
女助手「これでも剣士のはしくれですからね!
では鍛冶屋さんの代わりに、あたしからご説明いたしましょう!」
女助手「『ソードオブザイヤー』というのは、王様の面前で行われる剣の品評会です!」
女助手「年に一度、優れた武器職人を二人選び、その二人に剣を作らせるんです!」
女助手「そして、王様の目の前で兵隊さんがその剣を使って試し斬りや演武をし──
王様の目にかなった方が『ソードオブザイヤー』受賞となるわけです!」
触手「ほぉ~」ウネウネッ
(剣術がさかんなこの国らしい催しではあるな)
女助手「受賞すれば、当然鍛冶職人としての名が上がりますし、
受賞をきっかけに宮廷鍛冶師にまでなった人もいるんですよ!」
女助手「しかも、候補になるまでがまた大変で……」
触手「分かった分かった、もういい、ストップ」シュバッ
触手「とにかく、アンタにとっちゃなんとしても獲得したい賞ってわけだ」
鍛冶屋「はい……。少なくとも、こんな形のリタイアでは悔いが残りすぎて……。
なんとかなりますでしょうか?」
触手「とにかくやってみよう。見つかり次第、アンタに連絡させてもらうよ」
鍛冶屋「どうか、お願いします……!」
鍛冶屋は触手たちに全てを託し、事務所を後にした。
女助手「…………」
女助手「実はあたしの剣を作ってくれたのも、鍛冶屋さんなんです!
だから絶対受賞して欲しいんですよね~」
女助手「だけど……たった十日で見つけられるものでしょうか?」
触手「……十日どころか、おそらく今日中に報告できるだろうよ」ウネッ
女助手「え……えええええっ!?」
触手「もう剣のありかの目星はついてる。
探索専門の“青の触手”の出番だ! 出かけるぞ!」シュバッ
女助手「アイアイサー!」
その日の夜──
< 鍛冶屋の家 >
触手「夜分に悪いね……アンタの剣のありかが分かったよ」ウネウネ…
鍛冶屋「こ、こんなに早く!? ──で、どこにあったんですか!?」
女助手「実は鍛冶屋さんの剣は、隣町にいる職人さんの工房にあったんです……」
鍛冶屋「!?」
鍛冶屋「ど、どういうことです!? なんで私の剣が、彼の工房に!?」
触手「アンタもお人よしだな……。ようするに、アイツはアンタの剣を盗んだんだよ。
『ソードオブザイヤー』を受賞するためにな」ウネッ
鍛冶屋「そ、そんな……」
触手「仕事場を覗いてみたが、職人はさほど腕がいいとはいえねえな。
おそらくだが、金をばら撒いたり宣伝をしたりして、
今年の『ソードオブザイヤー』の候補にまで上り詰めたんだろう」ウネウネ
触手「だが、品評会はそうはいかねえ。まともにぶつかりゃ、まずアンタの勝ちだ」
触手「だが、アンタの剣を盗んでしまえば……王に献上するにふさわしい剣と、
ライバルの脱落、同時にできることになる。一石二鳥ってわけだ」ウゾウゾ…
鍛冶屋「なんとか取り返す方法はないんでしょうか……!?」
触手「難しいな」ウネッ
触手「アンタとちがって相手はこっちが取り返しにくることを想定してる。
事実、職人は家に警備をつけていた」
触手「職人が剣を盗んだって証拠はないし、もし取り返そうとしてそれがバレたら、
まんまとこっちが悪者にされる可能性もある」ウネッ
触手「俺の“青の触手”は侵入はできても、剣を運び出すようなマネはできないしな」
鍛冶屋「では私はもう、どうしようもないんでしょうか……?」
女助手「そうですよ、このままじゃ鍛冶屋さんが気の毒すぎます!」
触手「俺も色々考えてたんだが……一つだけ方法がある」
触手「あの悪徳職人を出し抜いて、
なおかつ鍛冶屋さんが正当な評価を受けられるようにする方法がな……」ウゾ…
鍛冶屋「そんな方法があるんですか!?」
女助手「いったい……どういう方法なんです?」
触手「鍛冶屋さん。アンタ、アンタが作った剣と同じ外見の剣を、もう一振り作れるか?
外見がそっくりなら、ナマクラでかまわない」ウネッ
鍛冶屋「装飾は最低限にしてましたし、外見だけならなんとか……」
触手「それでいい。アンタは十日後までになんとしても、剣を作り上げてくれ」
触手「──で、当日アンタはその剣を持って、女助手と一緒に城に行くんだ」
女助手「あたしと鍛冶屋さんで?」
触手「ああ……お前は鍛冶屋さんの弟子っていう設定でな。
そうすりゃ『ソードオブザイヤー』の品評会に参加できるはずだ」ウネウネ…
女助手「アイアイサー!」
触手「そして……鍛冶屋さん、アンタは品評会で絶対に余計なことをいうな。
全て俺に任せてくれ。どんなにピンチになっても、だ……いいな?」ウネッ
鍛冶屋「……わ、分かりました! 探偵さんにお任せします!」
『ソードオブザイヤー』品評会、当日──
< 鍛冶屋の家 >
女助手「おはようございます、鍛冶屋さん! おっと、今日は師匠でしたね!」
鍛冶屋「おはよう、女助手ちゃん」
鍛冶屋「ところで、触手の探偵さんは?」
女助手「先生は別ルートでお城に入るっていってました。
あたしにも詳しくは教えてくれなかったんですけど……」
女助手「ところで、剣は出来上がりましたか?」
鍛冶屋「このとおり、用意してあるよ」スラッ…
女助手「お~っ、かっこいい!」
鍛冶屋「見た目だけのナマクラだけどね。切れ味はないに等しいよ」
(しかし……いったいこんなもの、何に使うんだろうか?)
< 城門 >
鍛冶屋「『ソードオブザイヤー』の品評会のため、参りました」
門番「うむ、そうか。くれぐれも粗相のないようにな」
門番「ところで、後ろの女子は?」
女助手「あたしは……鍛冶屋さん──師匠の弟子です!」
鍛冶屋「なかなか骨のある娘で……勉強のために連れてきたんですよ」
門番「ほう、女で武器職人を目指すとは珍しいな。いい心がけだ。
ただし、腰に差している剣は置いていってもらおう」
女助手「分かりました。お預けします!」スッ…
門番「では入れ」
ギィィィ……
鍛冶屋「これもいい機会だ。しっかり勉強するんだぞ」
女助手「はいっ!」
(うわぁ~……。お城に入るなんて初めてだから、ドキドキしてきたぁ……)
< 城 >
職人「おや……これはこれは、鍛冶屋クン。いい剣は作れたかね?」
鍛冶屋「ああ、なんとかね」
職人「そりゃよかった。ワタシの剣とキミの剣、どちらが優れているか、
正々堂々勝負といこうじゃないか」ニィ…
女助手(鍛冶屋さんの剣を盗んでおいて……ひどい!)ムッ…
職人「ところで、そちらのお嬢さんは?」
鍛冶屋「この娘は私の弟子だよ。勉強のために連れてきたんだ」
女助手「よろしくお願いしますっ!」
職人「そうかね。なかなか活発そうなお嬢さんだが、ここはお城だからね。
くれぐれも王様に失礼がないようにね」
女助手「はいっ!」
職人「…………」
職人(妙だな……。調べによると、鍛冶屋に弟子はいなかったはずだが……?)
< 城 玉座の間 >
国王「ではこれより……今年の『ソードオブザイヤー』を決める品評会を開始する」
国王「両者、剣をこのテーブルの上に置くがよい」
鍛冶屋「はい」ゴトッ…
職人「かしこまりました」ゴトッ…
職人(む……盗んだ剣と同じ形だ! 同じのを作り上げてきたのか!?
いや、ワタシの方が性能がいいに決まっている!)
女助手(お~、すごい! あたしじゃ全然区別がつかないほど似てる!)
国王「ほう……そっくりだな(今はこういうデザインが流行っておるのか)」
国王「さて、品定めの方法だが──
剣は外見よりも性能、すなわち“切れ味”が重要であると余は考える」
職人「ごもっともでございます」
国王「ゆえに、まず第一に“切れ味”を試すことにする」
職人「ご存分にお試しくださいませ、陛下」
鍛冶屋(探偵さんからは余計なことはなにもいうな、といわれてるが……
いったいどうする気だ……?)
女助手(先生、このままじゃ鍛冶屋さんが負けちゃいます!)
国王「実は……今朝、この城に“剣の実験台”になりたいという者が現れてな。
ここに呼ぶとしよう」
国王「入ってくれたまえ」
玉座の間に入ってきたのは──
触手「はいは~い」ウネウネ…
触手「いくらでも再生できるので、いくらでも試してくださ~い」ウネウネ…
女助手「せ、先生!?」
国王「先生……?」
触手「バッ、バカ!」ウネッ
女助手「あっ!」
国王「先生、というのはどういうことだね?」
触手「う、うぐっ……。こうなっては仕方ありません……」ウネ…
触手「実は私はこのとおり、触手の魔物であるのですが──
職業は……探偵をしておりまして。彼女は私の助手でもあるのです」
国王「なるほど、触手の職種は探偵、と……。
して、なぜ探偵であるおぬしが、このようなところにやってきたのだ?」
触手「こういう職についていると、実にさまざまな情報を耳にするのですよ。
たとえば──」
国王「たとえば?」
触手「テーブルに置かれてある二つの剣のうち、片方は真っ赤な偽物、だとか」ウネッ…
国王「なんだと!? どういうことだ!?」
触手「つまり……彼ら二人のうち、どちらかは
相手の剣とそっくりなナマクラを作って、それをどこかの段階ですり替え、
『ソードオブザイヤー』をかすめ取ろうとした悪人というわけです」ウネッ
触手「いや……もしかしたら、もうすり替わってるかもしれませんな」ウゾッ
触手「だってこの二つの剣、いくらなんでもそっくりすぎやしませんか?
まるで示し合せたみたいじゃありませんか」
触手「“こういうデザインが流行ってるのか”では済まされないほど瓜二つです」
国王「う、うむ! そのとおりっ! 余も怪しいと思っておった!
あえて指摘はしなかったが……」
触手「しかし、ご安心下さい」シュルッ
触手「『ソードオブザイヤー』は私も毎年楽しみにしておりましてね。
それを汚す輩は許せない、という義憤にかられてこのたびやってきたのです」
触手「これから、私がどちらが悪人かをあぶり出してやろうと思います」ウネウネ
国王「ふむ、面白い! しかし、どうやって?」
触手「よっと」シュルッ…
バババババッ! ヒュバババババッ!
触手は二つの剣を掴むと、超高速でジャグリングを行った。
職人「な……!?」
触手「これでもう、どっちがどっちかは分からなくなりました。
この私と……まともな目を持つ武器職人以外にはね」パシッ
国王「読めたぞ! 今からあの二人にどっちが本物かを当てさせようというのだな!」
触手「そういうことです。さぁ~すが陛下!」ウネッ
国王「むふっ、照れるではないか」ニコッ
触手「ですが……それだとちょ~っと生ぬるい気もいたしますね」
触手「いっそ、斬り合いをさせるってのはどうでしょう?」ウネッ
女助手「えええっ!?」
職人「ふっ、ふざけるな! だれが斬り合いなど──」
触手「おっ、自信ありそうだなアンタ。よっしゃ、先に選んでいいぞ。
いいですよね、陛下?」ウネッ
国王「うむ、よかろう」
職人「ううっ……!」
女助手(先生、相変わらずの力技だなぁ……王様すら巻き込んじゃってる)
触手「お~し、じゃあ女助手! お前にも役目を与えないとヒマだろうからな。
お前が剣を持っとけ!」
女助手「はっ、はいっ!」
触手「まず一振り目」シュルッ…
女助手「はい」ガシッ
触手「もう一振り」シュルッ…
女助手「わっ、刃なんか持っちゃダメですよ!」
女助手「んもう……」ガシッ
そっくりな二つの剣は、女助手の手に渡った。
触手「職人さん、アンタから選んでもらおうか!
女助手が持ってる剣のうち、どっちが本物なのかをな!」
職人「ぐっ……!」
職人(この探偵と助手……まちがいなく鍛冶屋が雇った奴らだ!)
職人(鍛冶屋がわざわざ盗まれた剣とそっくりなナマクラを作ってきたのは、
当初の予定ではあの探偵が実験台のフリをして、
本物とナマクラをすり替える予定だったのだろう!)
職人(だが、あの娘の失言で自分が探偵だとバレてしまった……!
だから、シナリオを変更したんだ!)
職人(ようするに、待ってるんだ……。ワタシがビビって、自白するのを……)
職人(バカめ。だれが自白などするか……!)
職人(むしろ、このピンチを逆手にとってやる!
ここで“当たり”を引いてしまえば、ワタシの勝ちなのだからなァ!)
職人(だが……どっちだ! どっちでナマクラで、どっちが本物なんだ!?)ジッ…
職人(分からん……!)
鍛冶屋「…………」
職人(ヤツには分かっているのか!? どっちが本物かが!)
職人(くそっ、なにか手がかり……手がかりはないか!?)
職人(あの二振りの剣の切れ味を示すような手がかりは──)
職人「!」ハッ
触手『もう一振り』シュルッ…
女助手『わっ、刃なんか持っちゃダメですよ!』
職人(あの探偵、助手に剣を渡す時──二振り目を渡す時は刀身を持っていた!
もし剣が本物なら、あんなことをすれば、触手は切れてしまうはず!)
職人(つまり、“本物”は最初に渡した方ということになる!)
職人(ククク、バカめ! いくら探偵といってもしょせんは触手!
人間であるワタシにかなうわけがないんだ!)
職人「ようし……決まった」ニヤ…
職人「ワタシはキミが先に受け取った方の剣にしよう」
女助手「はいっ、どうぞっ!」サッ
鍛冶屋「…………!」
触手「んじゃ、鍛冶屋さんはもう一方の剣だな。渡してやれ」ウネウネ
女助手「どうぞ!」
鍛冶屋「あ、ああ……」ガシッ
(こっちの剣は……!)
触手「二人とも、もう交換はできないからな。変な動きするんじゃないぞ」
触手「陛下、始めてよろしいですね?」ウネッ
国王「うむ!」
触手「先攻は……今度は鍛冶屋さんにしよう」
触手「職人さんが構えてる剣に、鍛冶屋さんが剣を振り下ろすんだ。
どっちがナマクラか分かるまで、交代してこれを続ける」
触手「んじゃ、始めっ!」
鍛冶屋と職人が向かい合う。
職人(触手め……平静を装っているが、分かるぞ!
ワタシが自白しなかったから、焦っているんだろう!?)
職人(さぁ……来い! ナマクラでの一撃など、きっちり受け止めてやる!)サッ
鍛冶屋「ぐ……!」
鍛冶屋(ダメだ……! この剣では勝てん!)
鍛冶屋(探偵さんの計算では、剣を選ぶ段階で職人が降参するはずだったんだろうが、
失敗に終わってしまった!)
鍛冶屋(しかし、今さらどうすることもできない……!)
触手「ところでさ」ボソッ…
女助手「なんですか?」
国王「なにをしておる、鍛冶屋。早くせんか」
鍛冶屋「は、はいっ!」チャキッ
職人(さぁ、来い! キサマの一撃を受け止めて、
ワタシの剣でナマクラ剣を叩き折ってやる!)
職人(これでワタシは『ソードオブザイヤー』を受賞……!
武器職人としての栄えある人生が約束されるというわけだ!)
職人(キサマを踏み台になァ……)ニタ…
触手「お前ってさ、城に似つかわしくない女だな、っていったら傷つく?」ヒソヒソ…
女助手「もう! 傷ついてますよ!」
触手「バ、バカッ……! 声がデカイ!」ウネウネッ
職人「!?」
突然、みるみる職人の顔が青ざめていく。
職人(今のは……今のはまさか!?)ガタガタ…
鍛冶屋「?」
国王(なんだ? 急に職人が震え始めたが……?)
女助手(どうしたんだろ?)
触手「…………」
触手「おい、ボケっとしてんなよ、鍛冶屋さん! とっととやれっ!
ヤツが構えてる剣に、思いっきり振り下ろしてやれっ!」ウネッウネッ
鍛冶屋(そうだ……もうやるしかないんだ!)チャキッ
鍛冶屋が剣を上段に構える。
職人(思いっきり振り下ろす……? ま、待て! そんなことされたら──)
国王「では──始めっ!」
鍛冶屋「だあああああっ!」ビュアッ
職人「ま、待ったァァァァァッ!!!」
女助手&国王&鍛冶屋「!?」
触手「…………」ウネッ…
青白くなった顔で、床にひざまずく職人。
職人「ワ、ワタシの負けだ……ッ!」
触手「──ってことは認めるんだな? お前の罪を」ウゾッ
職人「そうだよ……。ワタシが、鍛冶屋の剣を盗んだんだよォォォッ!」
職人「う、ぐぐっ……」ガクッ
触手「──だそうです、陛下」ウネッ
国王「ふ、ふむう……。なるほど……」
(といってみたものの、なにがなにやら……)
触手「勝負あったところで鍛冶屋さん、アンタに聞こう。
アンタの剣と職人の剣、ちゃんと切れ味がある“本物”はどっちだ?」ウネウネ
鍛冶屋「……職人が持っている方です」
職人「!?」
職人「な、なんだって!? ワタシが持っていた方が“本物”だとォ!?
バカな、そんなはずがあるかァ!」
国王「え……えぇ!? ちょっと待て! いったいどういうこと!?」
触手「逆に俺から聞こう」
触手「職人、なんでアンタはそっちの剣を選んだんだ?」ウネッ
職人「そ、それは……キサマが剣を助手に渡す時、刀身を持っていなかったからだ!
だからこっちが切れ味があると判断して“本物”だと……!」
触手「そう……よく見ててくれたよ。
さすが、腕はともかく『ソードオブザイヤー』候補になるだけのことはある」
触手「んじゃ、せっかく“本物”を選んだのに、なんでビビっちまったんだ?」ウネッ
職人「その女が、キサマに向かって“傷ついてる”っていったからだ!
だから……キサマが刀身を持っていた方が切れ味のある“本物”だと──」
職人「!」ハッ
職人「そ、そうか! キサマ、助手に“傷ついてると言え”といったな!?」
触手「い~や、俺たちはただ雑談してただけだぜ?
俺はさ、女助手にこうささやいてやったんだ」ウネウネ…
触手「“お前って城に似つかわしくないな、っていったら傷つく?”ってな」ウネッ
職人「な……!」
触手『お前ってさ、城に似つかわしくない女だな、っていったら傷つく?』ヒソヒソ…
女助手『もう! 傷ついてますよ!』
触手『バ、バカッ……! 声がデカイ!』ウネウネッ
触手「もちろんアンタにゃ、俺のヒソヒソ声は聞こえなかった」
触手「そしてアンタはこのやり取りを、“俺(触手)に傷がついてる”と解釈した。
──俺の狙い通りにな」ウネッウネッ
職人「ぐ、ぐぐっ……!(なんてムカつくうねり方だ……!)」
女助手「ちょっと待って下さい、先生!」
女助手「それだったら、あたしに悪口いわなくても、
職人さんのいうとおり“傷ついてると言え”っていってくれれば……」
触手「そんなことしちまったら、職人に演技っぽさを見破られるかもしれないだろ?」ウネッ
触手「逆にいえば、演技っぽささえ排除できれば、
職人は女助手のいうことを信じてくれると確信してたしな」ウネウネ
鍛冶屋「!」ハッ
鍛冶屋「もしかして……女助手ちゃんが最初に口を滑らしたのも、
探偵さんの計算のうちだったんじゃ?」
触手「正解」シュビッ
触手「あそこで女助手が、俺のことを盛大に探偵だとバラしてくれたおかげで、
この場にいる人間にあることを植えつけることができた」
触手「“この娘は思ったことをすぐ口に出してしまう人間だ”ってな」ウネッ
触手「だから職人は、女助手の“傷ついてますよ”で、
俺が刃を持った剣は切れ味のある“本物”だったと判断してしまい──
自分の剣こそが“ナマクラ”だと思っちまったわけだ」
国王「ふうむ……ようやく分かった!」
国王「触手探偵よ。君の作戦は君が女助手君のことをよく理解していたからこそ、
成功したというわけだな?」
触手「おっしゃるとおりです、陛下」
触手「コイツは……俺の最高のパートナーです」ウネッ
女助手「せ、先生……」ドキッ…
職人「ワタシの……完敗だ……!」
触手「陛下をだまそうとしたのは未遂だし、
アンタが問われるのは窃盗罪ぐらいだろう。すぐ出てこられる」ウネウネ
触手「観察眼だけはたしかなんだから、次はもっとそれを生かした商売をするんだな」
職人「うぅっ……。うぐぅぅ……」
国王「残念だが、罪はつぐなってもらわねばならん。兵よ、職人を連行してくれ」
兵士「はっ!」ビシッ
うなだれた職人は、兵士によって玉座の間から連れ出された。
国王「鍛冶屋よ、災難であったな。あらためて、おぬしの剣を評価させてもらおう」
鍛冶屋「かしこまりました、陛下」
触手「切れ味は俺で試させてやるよ」ウネウネウネ…
女助手「じゃああたし、斬る役やっていいですか!?
あたし、いつも先生を斬ってますから自信あります!」
国王「うむ、よかろう!」
スパァッ!
鍛冶屋渾身の作は、期待以上の切れ味を誇った。
国王「うぅむ……みごと! おぬしの剣が、今年の『ソードオブザイヤー』である!」
鍛冶屋「あ……っ、ありがとうございますっ!」
女助手「やりましたね、鍛冶屋さん!」
国王「さてと……触手探偵にも、なにか褒美を与えたいが……」
触手「いえ! すでに鍛冶屋さんから依頼料はいただいてますし、
これ以上なにかを望むことはいたしません」
触手「あれこれ捕獲しようとする触手は身を滅ぼす、といいますしね」ウネ…
女助手(そんな格言聞いたことないけど……)
国王「そうか……。ならば無理強いはすまい」
国王「これにて、今年の『ソードオブザイヤー』品評会は終了とする!」
………………
…………
……
< 探偵事務所 >
女助手「今日はお疲れ様でした、先生!」
女助手「きっと鍛冶屋さんはもっとすごい武器職人になりますよ!」
触手「だといいがな」ウネッ
女助手「でも……一つだけ聞いてもいいですか?」
触手「ん?」
女助手「今回の件なんですけど、王様の目の前で
“鍛冶屋さんは職人さんに剣を盗まれました”っていえば、
全部解決したんじゃないんですか?」
触手「…………」
女助手「なのに、ずいぶん回りくどい方法を取ったな、と思いまして……」
触手「残念ながら、それじゃ解決しないんだな」ウネウネ
女助手「へ? どうしてです?」
触手「まず、俺たちには職人を盗っ人呼ばわりする証拠がなにもなかった」ウネッ
触手「あそこで職人を糾弾しても、盗んだ盗んでないの水かけ論になっちまう。
すると、目の前で口論を始められた王様はどう思う?」
女助手「──そうか! 呆れてしまうかもしれませんね……」
触手「そう。で、今年の『ソードオブザイヤー』は“該当なし”にされる可能性が高い。
下手すりゃ、鍛冶屋さんは二度と候補にすらなれなくなるかもしれない」
触手「武器職人にとっちゃ、自分の人生がかかった一大イベントかもしれんが、
王様にとっちゃ余興みたいなもんなんだからな」
触手「それによ、鍛冶屋さんが剣を盗まれたこと自体がそもそも大チョンボなんだ」ウネッ
触手「私は剣を盗まれました~なんて泣きついたら
じゃあお前の管理はどうだったんだよ、って話にだってなりかねない」
触手「つまり、鍛冶屋さんに『ソードオブザイヤー』を受賞させ、
なおかつ職人のやったことを暴く方法はただ一つ」ウネウネ
触手「こっちからは盗まれたといわずに、王様を楽しませるような演出を盛り込み、
職人に“私が盗みました”といわせる罠を仕掛けることだったってわけだ」ウネッ…
触手の説明に、女助手は納得した表情を浮かべる。
女助手「なるほど! よく分かりました!
あたしはてっきり、目立ちたいがためにあんなことしたのかと……」
触手「そんなわけないだろうが。ちゃんと考えてるんだよ、俺は」ウゾウゾ
女助手「はいっ、すみませんでした!」
触手「…………」
触手(そんなわけ……あったりして……)ウネッ
触手(コイツもだいぶ、俺のことを理解してきたようだな……)
~ おわり ~
139 : ◆DZVn09wdis - 2015/03/23 02:43:20 53.q3dz. 115/318これで第三話終了です
次回へ続きます
続き
触手「こちら触手探偵事務所」ウネウネ…【後編】

