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金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」 #01
金剛「結局あの敵空母、分からずじまいでしたネー」
提督「当たり前のように提督室でお前の髪を梳いている私の方が分からんがな」
金剛「折角の休みなんですカラ甘えさせてくださいヨー」
金剛「それにしても、なぜ提督に敬礼したんデスかね?」
提督「あれは本当に謎だった」
金剛「もしかしてエネミーの司令官も同じ服を着ていたりシテ。ほら、それだったら提督に攻撃しないのも頷けるでショ?」
提督「それだとあのヲ級がすぐさま敬礼しなかった事に説明がつかん」
金剛「アー……たしかニ……」
金剛「まったく訳が分かりまセーン……」
金剛「……テートク」
提督「うん?」
金剛「昨日のよ──」
コンコン──。
提督「む、すまん金剛。……入れ」
瑞鶴「失礼します──って、金剛さん?」
提督「瑞鶴、どうした?」
瑞鶴「あ、えっと……その……提督さんとお話がしてくて……」
提督「私と? なんの話だ」
瑞鶴「…………」ジッ
金剛「? なんデスか?」
瑞鶴「やっぱり話は後で良いです! 提督さん、私の髪も梳いてください!」シュル
提督「…………」
金剛「オー。ロングヘアーだとは思っていまシタが、下ろすと思っていたよりも長いですネー」
瑞鶴「……それ、金剛さんが言う?金剛さんの方が圧倒的に長いじゃない」
金剛「自慢の髪デース♪」
瑞鶴「手入れ、大変じゃない?」
金剛「テートクにブラッシングしてもらってるおかげで、この通りデース」
提督「私は梳いてるだけで、他は全部、金剛自身がやってるだろう」
金剛「テートクー、ブラッシングは大事なんですヨー?」
瑞鶴「うんうん。そうなのよ、提督さん?」
提督「……どうして私なんだ?」
金剛「だって、テートクのブラッシングはとっても気持ち良いデス」
瑞鶴「それに、優しくて丁寧よね」
提督「……………………」
金剛「テートク、あと少しで瑞鶴にもブラッシングしてあげてくだサイ」
瑞鶴「え、良いの?」
金剛「こんなに気持ちの良いブラッシングを独り占めなんて、できまセーン」
瑞鶴「……ありがとう、金剛さん」
金剛「ノンノン。お礼はテートクにデース」
瑞鶴「…………うん。ありがとう、提督さん」
提督(やるとは言っていないんだが……まあ、良いか)
……………………。
瑞鶴「はー……幸せー……」
提督「そんなに良いものかね……」
瑞鶴「すっごく良い」
金剛「まさに至福の時デース」
提督「……どうして金剛は私のベッドの上に転がってるんだ」
金剛「普段はできないデスから、甘えさせてくださいヨー」
提督「まったく……」
瑞鶴「あ、それ私もしたい」
提督「……あー、分かった分かった。今日はハメを外して良いぞ」
金剛「ヤッター!!」ダキッ
提督「こら飛び付くな」
金剛「抱き付いているんでーすよー♪」ギュー
瑞鶴「……ハートが飛び交ってるのが見える気がするわ」
金剛「瑞鶴もやると良いでーす」
瑞鶴「え……でも私は……」チラ
提督「…………」
瑞鶴「ぅ…………」オズ
提督「……はぁ…………分かった。お前もハメを外せ。戦場ではハメを外す機会を設けるが良いしな」
瑞鶴「えっと……それじゃあ……えいっ」ピト
金剛「両手に花ですね、提督♪」
提督「どうしてこうなったのやら」
金剛「提督が私達のハートを撃ち抜いたからです」
瑞鶴「…………」
金剛「あれ、瑞鶴は同意できないですか?」
瑞鶴「分からない……うーん…………うーん……?」
金剛「じゃあ、私が提督に貰われますね」
瑞鶴「それはヤダ」
金剛「我儘でーす」
提督「……私の意志は関係無しか」
金剛「私は既に提督のモノですよ?」
提督「こら。自分を物扱いするんじゃない」
金剛「抽象的な意味の『モノ』でーす」
提督「まったく……」
金剛「ねー、提督。一つ、我儘を言って良いですか?」
提督「内容による。まずは言ってみなさい」
金剛「今夜は一緒に寝たいです」
瑞鶴「んなっ」
提督「……相変わらずオープンだな、お前」
金剛「だって、一緒の布団を被って寝るなんて幸せじゃないですか」
瑞鶴「あ、それ分かるわ。提督さん、私も一緒に……良い?」
提督「瑞鶴、お前まで……。どうしようかなぁ…………」
金剛「悩むという事は、可能性があるって事です! 瑞鶴、押していきましょう!」
瑞鶴「え? う、うん」
提督(まったく……本当にどうしてここまで懐かれてしまったのか……)
……………………
…………
……
響「さて、散々気になっている事を話そう」
電「どきどき」
雷「わくわく」
暁「…………」
響「おや、暁は司令官たち三人が気にならないのかい?」
暁「あんまり」
暁(本当は物凄く気になるけど、大人のレディはパパラッチみたいにならないわ)
響「そうか。少し残念だね」
響「じゃあ、私たち三人で──」
暁「ちょっと待ちなさい。あんまり気にならないだけで、会話に入らないとは言ってないわ」
響「そうかい? なら、私たち四人で司令官たち三人がどこまでいっているのか妄想しよう」
電「はわわわわ! 響ちゃん、ハッキリ言い過ぎだよぉ」
雷「私はBくらいならいってると思うわ!」
電「い、雷ちゃんも……」
暁「雷、はしたないわよ」
響「そうかい? 私はAもいってないと思うよ。電はどう思う?」
電「え、えっと……私も響ちゃんと同意見なのです……」
暁(私は最後までやってると思うなぁ)
雷「そう? 金剛さんは皆の見えない所でアタックをしてそうじゃない?」
響「あの司令官の事だ。きっとのらりくらりとかわしているさ」
暁「どうかしら? 普段はああでも、夜になるとケダモノかもしれないわよ?」
電「け、けだもの……!!」
雷「おおー、言うわね、暁!」
響「一番はしたない言葉を口にしているのは暁だね」
暁「あっ──」
響「もう遅いよ。大人しく素直になろうじゃないか」
暁「~~~~~~っ!!」
暁「はぁ……分かったわ。素直になる」
響「それでは、話の続きといこう。どうして雷はBまでだと思ったんだい?」
雷「なんとなくかしら。金剛さんにはBで瑞鶴さんにはAもいってないってイメージよ」
雷「だって瑞鶴さん、奥手そうじゃない?」
響「なるほど。確かに瑞鶴さんは奥手そうだ」
暁「ああいうのに限って積極的だったりもするわよ」
電「瑞鶴さんが積極的に、司令官さんに……!! はわわわ!!」
響「そう言われるとそんなイメージがあるね。恥ずかしいけれど司令官と……ってな具合に、自分の感情を抑え切れなくなってしまってそうだ」
電「わ、私はそんな感じがしない、かなぁ。いざって時にお二人とも動けなくなってそう、です……」
雷「特に瑞鶴さんはチャンスを逃しそうよね」
響「激しく同意するよ」
暁「そうかしらね? 金剛さんは大胆に誘って、瑞鶴さんは布団の上で待っていそうだわ」
響「しっくりくるね」
暁「そして行為に移ると、司令官への愛が大きくて二人とも貪るように腰を振りそう」
電「あうぅ……恥ずかしいよ……」
雷「意外とストレートね、暁」
響「これは流石に……恥ずかしいな」
暁「う……」
響「どこからそういう知識を手に入れているんだい、暁。ちょっと私にも情報源を教えてくれないか?」
雷「わ、私も気になるわ!」
電「あ、あの……私もです……」
暁(やっぱり参加するんじゃなかったぁー!!)
……………………
…………
……
川内「夜戦……やーせーんー……ぐぅ」
那珂「那珂ちゃん……パワー……アー……くー……」
神通「すぅ……すぅ……」
川内「──隣に駆逐艦がぁ!?」ガバッ
神通・那珂「ッ!?」ビクゥッ
川内「んが……ぐぅー……」
神通・那珂「…………」
川内「イタタタタタタタタ!?」ツネー
……………………
…………
……
金剛「三人一緒に布団の中でーす♪」
瑞鶴(やだ……自分でもびっくりするくらい落ち着くわ……)
提督「……………………」
金剛「ありがとうございます、提督♪」
提督「いつも私の為に一生懸命になってくれているんだ。このくらいはな」
瑞鶴「三十分は説得したと思うけど……」
提督「瑞鶴、自分の部屋に戻るか?」
瑞鶴「ごめんなさい!」
金剛「あははっ。提督と瑞鶴も仲良しでーす♪」
金剛「えいっ」ピト
提督「む」
瑞鶴「? 何したの?」
金剛「嫉妬したのでピッタリとくっつきましたっ」
瑞鶴「ず、ずるい! 私も!」ソッ
提督「……甘えん坊だな、二人共」ナデナデ
金剛「嫌いですか?」
提督「頭を撫でているこの手は何かな」
金剛「えへっ♪」
金剛「……提督、私の心臓の音、分かりますか?」
提督「…………速いな」
金剛「すごく幸せで、すごく嬉しくて、すごくドキドキしています」
金剛「瑞鶴はどうですか?」
瑞鶴「……え、私?」
金剛「はい! 私と同じですか?」
瑞鶴「私は……逆ね。ものすごく落ち着いてる。眠いくらい、安心してる」
金剛「おー……瑞鶴は肝が座ってマース……」
提督「人それぞれという事だろう」
金剛「そうですねー。不思議なものです」
金剛「提督はどうですか?」
提督「……色々な感情が巡りに巡って訳が分からない事になっている」
金剛「どんな感情なんでしょうかね~?」
提督「部屋に戻るか?」
金剛「冗談ですよー!」
提督「ああこら、大きな声を出すな」
金剛「?」
提督「瑞鶴、寝てしまったんだ」
瑞鶴「……くぅ……くぅ」
金剛「…………え? あの短時間で?」
提督「らしい」
金剛「……ある意味すごいわね」
提督「そういう事で、私達も眠りに就こうか。今日ほど寝れる日はそうそう無いぞ」
金剛「そうですねっ。提督、良い夢を」
提督「ああ、おやすみ」
……………………
…………
……
~翌日~
提督「──諸君、昨日は充分に休息が取れたか?」
全員「はいっ!」
提督「良い返事だ。今回は少し特殊な事情になるので、充分に注意されたし」
提督「第一艦隊は新しく出撃認可が下りたカムラン半島へ出撃」
提督「第二艦隊は旗艦を神通。続いて暁、響、雷、電の五名でマルハチマルマルより海上護衛任務」
提督「尚、今回は建造を行い、新たに仲間を加える予定となっている。その艦によって第一艦隊の編成が変わる為、まだ第一艦隊の編成は発表できない」
提督「以上。何か質問はあるか?」
提督「…………無いようだな。では、第二艦隊は遠征準備を始め、四十分後のマルロクヨンマルまでに第二船着場に集合するように」
神通・暁・響・雷・電「はい!!」
提督「瑞鶴を除く三名は母港にて警戒しつつ待機。瑞鶴は私と一緒に工廠へついてきなさい」
金剛・瑞鶴・川内・那珂「はい!」
……………………
…………
……
~工廠~
提督「さて、建造妖精」
建造妖精「ん? やーやー提督さん。建造かい?」
提督「うむ。総司令部からの指示で一隻分の特別資材を送られてきていると思う」
建造妖精「あー、うん来てるねー。にしても、何アレ? 本当にあんなので建造できるの?」
瑞鶴「…………」
提督「総司令部の考える事はよく分からん。私も出来るとは思っていない」
提督「なのでそれとは別にもう一隻、造ってもらおうと思っている」
建造妖精「なるほどねー。資材はどれくらい使うんだい?」
提督「総司令部が指示した各資材投入量はこうなっている。二つとも同じで頼む」
建造妖精「はいよー」
提督「ああ、総司令部からの指示で送られてきた資材と、普通の資材は混合して建造しないようにしてくれ」
建造妖精「総司令部用と普通のとで分けたら良いんだね? りょーかいー」テッテッテッ
瑞鶴「……提督さん」
提督「諦めろ、瑞鶴。ここを指示通りに動かなかったら流石に上も黙っちゃいないだろう」
瑞鶴「うん……そうだけど、一つ言いたい事があるの」
瑞鶴「あれ、絶対に造れないと思うよ」
……………………
…………
……
建造妖精「提督さん、できたよー」
提督「ご苦労。どうだった?」
建造妖精「普通の資材の方はきちんと出来たよ。でも、総司令部からの特別資材は無理だったよ」
建造妖精「いやぁ、びっくりしたね。だって、艦娘の魂が入ってこないんだもん。あれじゃただの船だよ」
提督「やはりか」
建造妖精「あれ、どうする?」
提督「総司令部からの指示によると、建造できなかった場合は解体して送り返せとの事だ」
建造妖精「えー……造りたてなのに解体しなきゃいけないのー……?」
提督「そのようだ。面倒を掛けてしまうな」
建造妖精「提督さんが悪いんじゃないさ。総司令部が残念なんだよ」
提督「お詫びといってはなんだが、間宮アイスクリーム券だ」
建造妖精「なんだって!? ひゃっほぉぉぉおおおおお!!!」
建造妖精「本当に提督さんは優しいなぁ」
提督「ありがとう。そして、建造できた艦娘はどこかな?」
ヒュ──ガシッ!
島風「お゙ぅ!?」
提督「ん? ああすまん。つい捕まえてしまった」
島風「こ、この私が捕まるなんてー……」
瑞鶴(何この子……速過ぎでしょ……)
提督「…………」スッ
島風「あなた何者? 今の結構全力だったんだよ?」
提督「…………」
島風「…………? ねえ、何か喋ってくれませんか?」
瑞鶴(あ、あぁぁ……これはマズい……)
提督「どうやら教育が成っていないらしい」
島風「──え? な、なんかやばい……?」
提督「吊るしてやるから覚悟しろ」
島風「て、撤退ッ!!」ビュン
瑞鶴「うわっ! 速っ!!」
提督「瑞鶴、この帽子を持っててくれ」ポスッ
瑞鶴「──わっ。え? はい……」
瑞鶴(あ……提督さんの帽子が私の頭に……)
提督「身体を激しく動かすのは久し振りだ。衰えていなかったら良いのだが」グッグッ
提督「ん、調子は良いみたいだな」
提督「──さて」ダンッ
瑞鶴「高ッ!?」
瑞鶴(ええええ……あの窓って10mはあるわよね……? 提督さん何者……?)
瑞鶴「……ん?」
島風「へ、へへーん! 島風には、誰にも追いつけないんだから!」ヒョコッ
提督「…………」スッ
瑞鶴(え!? あの高さから降りて音が無い……!? あの島風って子も、後ろに降りたのに気付いてないし……)
瑞鶴(……提督さんの帽子)ホッコリ
提督「そうかそうか」
島風「ひゃんっ!? …………っ」ソー
提督「…………」ジッ
島風「────ッ!!」ビクッシュバッ
提督「…………」タン──スッ
島風「ひゃあッ!!? 上から!? 目の前に!?」
提督「…………」ジッ
島風「あ、ああ……あぁああ、の……」ビクビクビク
島風「ひぃっ!!」ダッシュ
提督「…………」タッ
──ガシッ!
島風「お゙ぅっ!!?」
提督「…………」ジッ
島風「に、逃げる事すら……できない、なんて……」ガタガタ
提督「────吊るす」
島風「ひっ──!」
きゃあああああああああああああああああ────ッッッ!!!!!!!
金剛「なっ、なんの声デスか今のは!?」タタタ
川内・那珂「…………あー」タタ…
島風「やーめーてー!! やーめーてーよー!!!」ブラーン
提督「反省が足らんようだな」
島風「人!! 人が集まってきてるってば!!」
提督「ああそうだな」
島風「スカートの中が見えちゃう! 恥ずかしいってーっ!!!」
提督「…………」ジッ
島風「ひぃッ!?」ビクッ
那珂「……君、何をしたの?」
島風「なーにーもーしーてーまーせーんー!!」
金剛「……何もしなかった?」
瑞鶴「そう。何もしなかったの……」
金剛「ああー……何もしなかったのネ……」
川内「なるほどねー……」
那珂「那珂ちゃん納得……」
島風「どうして納得してるのーッ!?」
提督「島風」
島風「ひゃぅッ!? な、なんですか……?」ビクビク
提督「私がどんな立場の人間か答えろ」
島風「て、提督……です……」ビクビク
提督「自分の立場をなんだ」ジッ
島風「くち、く……駆逐艦、です」ビクビク
提督「上官に対しての第一声、貴様はなんと言った」
島風「あ……あぁぁあぁぁぁ…………」ビクビク
提督「答えよ」
島風「あ、あなた……何者……と、言いまし……た…………」ビクビクビク
金剛・瑞鶴・川内・那珂(こうなって当たり前よね……)
提督「何か言う事は」
島風「──ごめんなさい!! 提督に不敬を働いてごめんなさいっ!!」
提督「よろしい」クルクルホドキホドキ
島風「う、ぅぅ……」
提督「…………」ジッ
島風「ヒッ──!」ビクッ
島風「あ、あの……何か、罰が与えられるのですか……?」ビクビクビク
提督「うん? 既に罰は与えただろう」
島風「え……?」
提督「お前は私に不敬を働いた」
島風「はい……」ビクッ
提督「私は捕まえて吊るした」
島風「…………」ビクビク
提督「お前は自分の過ちを認め、そして謝っただろう」
島風「…………?」
提督「罰はそれで終わりだ」
島風「……え!? か、軽すぎじゃないですか!?」
金剛(やっぱり最初はそう思いますよネー)
提督「知らん。この鎮守府は私の城だ。私のやりたいようにやらせてもらう」
島風「……なんだか凄い人ですね」
提督「…………」
島風「──申し遅れました! 私、駆逐艦の島風です! スピードなら誰にも……提督以外に負けません! 速きこと、島風の如し、です!」ピシッ
提督「うむ。よろしく」
……………………
…………
……
提督「──さて、第二艦隊も見送ったところで第一艦隊の編成を発表する」
提督「カムラン半島へ出撃する第一艦隊の旗艦を金剛。続いて瑞鶴、島風。以上だ」
金剛「提督。一つよろしいデスか」
提督「なんだね?」
金剛「建造直後の島風をいきなり出撃に出すのは少々、酷じゃないデスか?」
提督「私が留守の間、この母港を守ってもらわないといけない。そこに島風を置く方が酷だろう」
提督「そして、私のやり方を覚えて貰い、尚且つ経験を積ませたいから連れて行く。金剛と瑞鶴が一緒ならば大丈夫であろう」
金剛「ナルホド……」
提督「他に質問のあるものは居ないか? …………居ないようだな。では、第一艦隊、出撃」
提督「川内、那珂。 私が居ない間、母港を守ってくれ」
川内・那珂「はい!」
……………………
…………
……
島風「提督もついてくるんですね」
提督「そうだ」
島風「…………なんか納得しました」
金剛「あんまり驚かないのデスね?」
島風「提督の凄さはもう身に染みてますから……」ブルブル
瑞鶴(そりゃあ、あんな事されたらねー……)
提督「──敵も近くに居ないようだ。今の内に島風に海の上での決まりを教えておこう」
~提督説明中~
提督「守らなかったら吊るす」
島風「はいっ!!」ピシッ
提督「…………瑞鶴」
瑞鶴「うん。偵察機を飛ばすわね」
島風「え?」
金剛「敵よ、島風」
島風「え、ど、どこ?」
瑞鶴「──提督さん、二時の方向に重巡リ級一隻、軽巡へ級二隻、駆逐イ級一隻、ロ級二隻。陣形は単縦陣みたい」
提督「…………重巡に艦攻、軽巡一隻に艦爆で先制攻撃。その間に金剛と島風は戦闘準備をしなさい」
瑞鶴「了解!」
金剛「──準備オッケーネー!」
島風「は、はやっ! 連装砲ちゃん、お願い!」
提督「…………準備ができたようだな」
──ッドォォォン!!
瑞鶴「提督さん、艦攻の攻撃を駆逐イ級が庇ったみたい。軽巡、駆逐、共に一隻撃沈よ!」
提督「よし、総員戦闘開始。金剛、敵重巡へ斉射。瑞鶴、第二次攻撃隊発艦。島風、蛇行を繰り返して最後尾の駆逐艦へ付かず離れずの距離を維持できるか?」
島風「……ちょっと怖いけど、行きます!」
提督「良い返事だ。瑞鶴の攻撃で一隻だけ切り離す。切り離せたら主砲で斉射しろ」
金剛・瑞鶴・島風「はい!」
リ級・前方ロ級・後方ロ級「!!」ドンドンッ!
島風「へへーん! そんな攻撃、当たらないんだから!!」ヒョイヒョイ
提督「金剛、今だ。放て」
金剛「バーニング・ラァァアアブ!!」
リ級「!?」 撃沈
提督「瑞鶴、敵進行方向の逆側から前方駆逐ロ級を攻撃。後方の駆逐ロ級を引き剥がせ」
瑞鶴「はい!!」
提督「そして──」
島風「どこ狙ってるのー!? 遅いおそーい!!」
島風「!! 前方の駆逐艦が大破炎上して、後ろの駆逐艦が回避行動を取った! ここね!! 逃がさないんだから!!!」
後方駆逐ロ級「ピ、ギ──!!」 中破
島風「あっ! 倒せなかった……! 砲身がこっちに──か、回避!!」
後方駆逐ロ級「ガ──ッ!?」ドゴドゴッ 撃沈
島風「──え?」
島風「今の……艦載機の攻撃? ……護ってくれたんだ。ありがとう……」
島風「よーし! 島風、もっと頑張ります!!」
……………………
…………
……
提督「戦闘終了、ご苦労」
金剛・瑞鶴・島風「周囲に敵は居ません!」
提督「よろしい」
島風「あの、瑞鶴さん」
瑞鶴「ん、なにかしら?」
島風「さっきは護ってくれて、ありがとう。おかげで助かっちゃった」
瑞鶴「それなら提督さんに言ってあげて? 島風の護衛に艦載機を割くよう指示をしたのは提督さんなの」
島風「提督さんが……?」チラ
提督「…………」
島風「──助けてくれてありがとう! 嬉しかったよ!」
提督「艦を護るのは私の務めだ」
島風「むー。素直じゃないんだから」
提督「時に島風。お前はヒットアンドアウェイを知っているか?」
島風「え? んー……攻撃してすぐに離れるって戦法ですか?」
提督「そうだ。島風は他のどの艦よりも速い。その長所を生かしてヒットアンドアウェイで戦ってみると良いだろう」
提督「攻撃を避けつつ射程に入り、攻撃をしてすぐに回避しつつ離れる。そうやって敵を撹乱できるのは恐らく、お前だけだ」
島風「私だけ……?」
提督「そうだ。島風が一番速いからだ。もしお前を追ってきたとしても、誰も追いつく事すらできんだろう」
島風「私が、一番……」
島風「────はい!! やっぱりそうよね! だって速いもん!」
提督「だが、調子に乗ったら……」
島風「しません! 吊るさないで!」ビクッ
提督「うむ。心得ておけ。慢心は敵だ。僅かな慢心が艦隊の全滅を引き起こす事さえあるだろう」
島風「はい!!」ピシッ
……………………
…………
……
提督「今帰った」
川内・那珂「おかえりなさいー」
川内「提督、あの島風って子、どうだった?」
提督「役に立ってくれたよ。そして、あの通りだ」
島風「ハー……ハー……もう、走れない……疲れた……」グッタリ
那珂「何があったのー?」
提督「敵に空母が三隻居てな。輪形陣を組んでいて中々倒せそうになかったから制空権争いをしている時、島風に全力で避けてもらいつつ一番近くの空母に肉薄して、攻撃してもらった」
川内「そんなに近く!? それって危なくない!?」
提督「肉薄さえ出来れば逆に敵が盾となるからな。見事に指揮が崩れ、その間に制空権を取って空母の護衛艦を沈め、金剛と島風の砲雷撃で空母を撃沈してくれたよ」
川内「島風が可哀想じゃないかな……」
島風「無理矢理じゃないもん……はぁ……私が、希望したんだもん……へぅぅ……」
那珂「え、自分から?」
提督「ほら、水だ」
島風「ありがと……。ん……」コクコク
島風「ふー……。そうだよ、私から希望したんだよ」
那珂「そんな危ない役、どうして買って出たの? 近付く時に沈んじゃうかもしれないのにー……」
島風「だって、島風にしか出来ない事だって、提督が、認めてくれたんだもん!」
島風「それに、提督だったら絶対、ぜーったいに島風を沈ませないから!」
川内(……ね、どうしてあんなに提督を信用してるの? 島風ってついさっき来た子のはずよね?)
金剛(沈まないようにテートクが密かにサポート指示していたのデス。それを瑞鶴がバラしたのヨ)
金剛(下手したら轟沈する状況だったのデスが、間一髪で助かりまシタ)
川内(なるほどねぇ……。吊り橋効果ってヤツだっけ?)
金剛(結果的にそうなりましたケド、絶対に考えてなかったでしょうネ。テートクですから)クス
川内(提督だしねー)クス
提督「ん、呼んだか?」
金剛「イイエー?」ニコニコ
川内「微笑ましい会話をしていただけですよー」ニコニコ
提督「……そうか」
……………………
…………
……
提督「──よし、今日の書類の片付けは終わりだ」
金剛「現在フタサンマルマル。凄いデス! 今まででベストタイムです!!」
提督「秘書が有能で助かるよ」
金剛「まだまだデース。いつか提督のスピードに追いつけるようになりマース!」
提督「楽しみにしておこう」
金剛「──あと、ここにも早くキスが欲しいですね。その先も勿論」
提督「唇に指を当ててまあ積極的なことで」
金剛「だってー。瑞鶴に負けてしまいますもんー」
提督「なんの話だ」
金剛「『提督になら身体を預けて良い』とか『艦娘は生殖能力が無いから戦闘に影響は無い』って聴こえましたよー?」
提督「……どこまで聴いた」
金剛「今言った所だけです。前後の話は聴いてませんけど、明らかにそういう話じゃないですか」
金剛「髪を梳いたりするのは良いですけど、流石にそれだけは誰にも譲りたくないです」
金剛「──提督、瑞鶴の誘い……受け取ったのですか?」
提督「勿論、拒否した」
提督「それより、金剛が盗み聞きをするとはな。お前はそんな奴だったか?」
金剛「言い出せなくてごめんなさい。シャワーを浴びようと通りかかった時、とても瑞鶴の大きな声が聴こえました」
金剛「なんて言ったのかは分かりませんでしたが、何があったんだろうと思ってドアに手を掛けた時、さっき言った言葉が聴こえてきたのです」
金剛「これは邪魔をしてはいけないなーと思ってその場をすぐに去りました」
提督「成程。たしかに金剛らしいな」
金剛「ぅー……信じてくれないですか……?」
提督「言い方が悪かった。信用するよ、金剛」
提督「だから昨日、急に甘えてきたのか」
金剛「そうです……。私へ振り向いてもらおうと、少しだけ自分に素直になりました……」
提督「うん?」
金剛「あっ……」
提督「聞かせてもらおうか」
金剛「あう……ここ最近で一番の失敗でーす……」
提督「…………」
金剛「…………」
提督「……喉が渇きそうだな。金剛、新しく紅茶を淹れてくれ。新しい茶葉でな」
金剛「えと……それは、私のも、ですか……?」
提督「無論だ」
金剛「くす……はい、少々お待ちくださいね」
……………………。
提督「うむ。やはり茶葉が新しいと舌触りが良い。これは口が滑りそうだ」ズズッ
金剛「…………」コクコク
金剛「…………」フゥ
金剛「……私ですね、本当は甘えん坊なのです」
金剛「できるなら、提督と四六時中くっついていたい、もっと提督に触れたい、髪を梳いてもらいたい──それくらい提督が大好きで、それくらい甘えん坊なのです」
金剛「提督なら知っていると思いますが、私は金剛型戦艦の長女です。それ故、私には甘えれる相手が居ませんでした」
金剛「榛名からは慕われ、比叡からは甘えられ、霧島からは頼りにされました。だから私は、妹達の望む姉になる為、頑張りました」
金剛「強く、凛々しく、頼れる──そんな姉に、です」
金剛「でも、私だって弱い心はあります。強い優しい人に憧れて、弱い自分を曝け出し、人に甘えたい気持ちなんていくらでもあります」
金剛「だから、私は提督に心を惹かれました。提督は強く優しく、甘えさせてくれました。今も、弱い私を目の前にして真剣に話を聞いてくれています」
金剛「……正直、怖いです、どんどん提督にのめり込んでいく自分が。いつか本当の私を曝け出した時、拒絶されるかもしれないんじゃ……と思っています」
金剛「──あはっ、これが私の本性です」
提督「…………」
金剛「……ごめんなさい。普段、気丈に振舞っている私は、本当の私であって本当の私ではないのです……」
提督「……たしかに、普段の金剛からは予測が付かないな。だが、人などというものはそういうモノだろう?」
提督「強い面と弱い面がある。矛盾した、本音と建前がある」
提督「そう、私もだ」
金剛「──え?」
提督「先程、金剛は私を強い人と言った。だが、それは間違っている」
提督「弱いなんてものではない。私は既に負けているのだ」
金剛「…………ごめんなさい。私の頭では分からないようです……」
提督「よい」
金剛「……いつか、提督が良かったら教えてくれますか?」
提督「……そうだな。約束しよう」
金剛「…………」
提督「…………」
金剛「……………………提督、弱い私からのお願いです。その腕の中に、私を収めてもらって良いですか?」
提督「……構わんよ」スッ
金剛「ぁ──。…………ありがとう、優しい提督……」ソッ
提督「紅茶が悪い」
金剛「?」
提督「紅茶が悪いんだ」
金剛「くす──。そうですね、紅茶が悪いです────」
……………………
…………
……
~翌日~
提督「さて……昨日忘れていた、新しい艦娘の実体化をしようか」
金剛「誰が来るんでしょうかネー?」
瑞鶴「空母系列と戦艦以外だったらなんでも良さそうよね」
川内「できれば駆逐艦とか軽巡とかが良いのかな? 資材的にも」
金剛「そうなんですよネー……もう少し良い遠征にも出ないと資材がカツカツなのデース……。かといって戦艦や空母を遠征に出すわけにはいきまセンし……」
……………………。
天龍「俺の名は天龍。フフフ……提督、怖いか?」フンス
龍田「…………」
提督「…………」
天龍「……あれ、どうした二人共?」
瑞鶴(ちょっとちょっとちょっと!? あそこ物凄く怖いんだけど!?)
響(背筋が凍りそうだ……ここはいつから北国より冷たくなったんだい……)
電(な、何か龍と虎が見える気がするのです!!)
金剛(あの天龍って子、そこが一番危険な場所と気付いていないのデスか……?)
龍田「…………」
提督「…………」
龍田「…………」タジ…
提督「…………」
龍田「…………!」ピシッ
龍田「天龍型二番艦、軽巡洋艦の龍田です。提督さん、よろしくお願いします」
提督「うむ。二人共よろしく」
全員(何かの決着がついた──!!)
天龍「ど、どうしたんだよ龍田? いつもと口調が違うぞ?」
龍田「提督さん、天龍ちゃんのご無礼、私がお詫び申します。許してください」
天龍「龍田!? こ、こんの野郎!! 龍田に何しやがった!!?」ジャキッ
瑞鶴(あ)
提督「…………」ジッ
天龍「ひっ──! お、おおお俺は、負けないぞ!?」ビクッ
提督「…………」
天龍「…………っ」ガタガタガタガタ
龍田「あ、あの~……」ビクビク
提督「龍田」
龍田「──はい!」ピシッ
提督「良い姉妹を持ったな」
龍田「え? はい……?」
提督「大切にするように」
龍田「────勿論ですよ~」
提督「さて……どうしてくれようか、天龍?」ジッ
天龍「ひぃっ!? ご、ごめんなさい!!」ビクン
提督「…………」
天龍「~~~~!」ビクビク
提督「龍田を護ろうとするその意思に免じて罰は無しだ」
天龍・龍田「…………」
天龍・龍田(良かったぁ~!)
提督「だが、次はない」
天龍・龍田「はいっ!」
提督「ああそれと、天龍、龍田。礼儀さえ弁えておれば口調などは素で構わん」
天龍「おう!」
龍田「は~い」
島風「……順応が早いわね」
瑞鶴「ある意味島風と同じね」
島風「私が速さで負けるなんてー……」
金剛「いや……漢字が違いますからネ?」
提督「では天龍と龍田はこれから出撃してもらおう。編成は──」
……………………
…………
……
~艦隊帰投後~
川内「提督ー、おかえりーっ!」ブンブン
提督「うむ。今帰った」
天龍・龍田「…………!」ガタガタガタ
那珂「ど、どうしたの一体……?」
金剛「それがー……」
天龍『なんでだよ提督!! あとちょっとでアイツを落とせるんだ!! 死ぬまで戦わせろよぉ!!』 中破
龍田『肉を切らせて骨を断つ……ふふっ……ふふふふっ…………え、提督さん……?』 中破
金剛「という事がありましてー……」
川内「ああ……提督なら絶対に認めないね、それ……」
提督「吊るしてくる」
天龍「あう……あぁぁ……」ビクビクビク
龍田「だ、大丈夫よ、天龍ちゃん……私も一緒……一緒だから……」ビクビク
……………………
…………
……
~翌日~
提督「まーた沖ノ島海域で大規模な戦闘か……」ズズッ
金剛「またデスか?」
提督「どうやら遠方偵察機が大量の敵艦を発見し、それの殲滅の為に元帥殿の艦隊が出撃したらしい」
提督「戦術的には勝利したらしいが、元帥殿の艦隊も相当な痛手を負ったようだ」
金剛「本当に、私達の管轄じゃなくて良かったデスね……」
提督「まったくだ。まあ、今のところ私達の管轄になる事はないよ。なにせ戦力が足りないからな」
金剛「あー……そういうのを考えたら戦力が小さいのも良いものですネー」
提督「そうも言ってられないのが懐事情だがな」
提督「それよりも気になるのがこっちだ」ガサッ
金剛「? 南方海域にて非常に強力な敵艦が現る?」
提督「航空戦、砲撃戦、雷撃戦、夜戦など、全ての攻撃を兼ね揃え、火力、装甲共に最高水準クラスのバケモノという話だ」
金剛「なんデスかそれ……どうやって勝つんデスか……」
提督「出撃、撤退を繰り返して削りきるしかないだろうな。まったく、厄介なものだ」
提督「どうやらこのバケモノ。この鎮守府の方面へ微速移動をしているらしい」
金剛「ハァ!?」
提督「あくまで作戦部の進路予測だが、この鎮守府が危ないと判断するのに充分だ」
提督「できれば早く地盤と戦力を固めたいよ」
コンコン──。
提督「入れ」
ガチャ──
任務嬢「提督さん、元帥がお見えになりました」
金剛「!」
提督「お通ししろ」
金剛「……………………」
金剛(なんだか嫌な予感がするネ……)
元帥「やあ、大将。久し振りだね」
提督「はっ」ピシッ
金剛「……」ピシッ
提督「数日前にお会いしたばかりですよ、元帥殿」
元帥「そうだったかな? ハッハッハッ。この歳になると流れる時間が速くて敵わんよ」
元帥「……うん? この艦娘は君の秘書かね?」
金剛「ハッ! 英国ヴィッカース社より建造された高速戦艦金剛型一番艦、金剛デス!」ピシッ
元帥「ふむ……。秘書としての板がしっかりと付いているみたいだね」
金剛「ありがとうございマス。お茶をお出ししマスので、こちらに掛けてお待ちくだサイ」
元帥「うむ。──ところで大将よ」
提督「はっ。なんでしょうか」
元帥「──なぜ瑞鶴が秘書でない?」
金剛「────────!!」
元帥「君の報告書を見る限り、瑞鶴がこの鎮守府での最大戦力であろう?」
金剛(…………ッ)ギリ
提督「元帥殿、それは彼女の淹れたお茶を口にしつつ話をしましょう」
提督「きっと納得されると思います」
……………………。
元帥「ほう、これは美味い! こんなに美味い紅茶を飲んだのはいつ振りだろうか」
金剛「光栄デス」
提督「この通り、彼女はお茶を淹れるのがこの鎮守府で群を抜いています。仕事中での気力維持に欠かせません」
提督「そして何よりも、瑞鶴と比べて仕事の出来が違います。艦娘全員を集え、二人を秘書としての評価を競った事がありますが、満場一致で彼女──金剛へ軍配が上がりました」
元帥「なるほどなるほど。戦果を上回る功績がこの艦娘にあるのか」
提督「はい。戦果についても目を通して頂いている通り、瑞鶴には及ばないものの非常に素晴らしいと言えます」
元帥「なるほど、良く分かった」
提督「話は変わりますが、元帥殿がどうしてこの小さな鎮守府へ? 今はお忙しいと伺っておりますが」
元帥「儂が忙しいと知っておるのならば、どうしてここへ来たのかも分かっておろう」
提督「…………南方の強力な敵艦ですか」
元帥「うむ。アレは非常に厄介だ。現存するどの艦娘よりも秀でた戦闘能力を持っておる」
提督「仰るとおりです。倒すには複数の大規模艦隊を用いて出撃、撤退をし、敵に休む間を与えず繰り返すしかないかと」
元帥「なるほど。敵を疲弊させて確実に討ち取る、か」
提督「はい。複数に分ける事で待機中の艦娘は休みを取る事ができ、損傷した場合でも修復する時間が得られます」
元帥「──だが、それをより確実に打開する方法を大将は知っておろう」
金剛(え?)
提督「……はい」
元帥「建造の方はどうなっている?」
提督「残念ながら、上手くいっていないです」
金剛(……建造が上手くいっていない? それって本当なのデスか? あんなに速い艦娘が進水しましたよネ……?)
元帥「ふむ……」
提督「…………」
元帥「…………」
元帥「儂の方も同じだ。良い艦船は出来上がるが、どれも問題のある物ばかりでな」
元帥「南方の敵艦がこっちへ向かっている状況で、儂の艦隊も強化せねばならない。それゆえ、役目を果たせそうにない艦娘は──」
元帥「──解体を繰り返すという事も辞さない程だよ」
金剛(…………)
提督「……心中、お察しします」
元帥「ああ……儂も心が苦しい。大量の艦娘が解体され、普通の女子として暮らしているのだが……」
元帥「不思議な事に、解体された艦娘はある日、忽然と姿を消す」
提督「…………」
元帥「それが艦娘というものなのだろう。特に手塩に掛けていた艦娘が消えるのは、とてもとても悲しいものだ」
提督「はい。その気持ちはよく分かります。失うというのは、取り戻せないという事ですから」
金剛(…………)
元帥「金剛、と言ったな?」
金剛「! はっ!」ピシッ
元帥「ああ良い。楽にしたまえ」
元帥「大将は、艦娘をどう扱っておる」
金剛「……とても大切にしていマス。轟沈する可能性があるのならば、その可能性を徹底的に取り除き、私達が沈まない事を第一に作戦を立ててくれていマス。テートクへの信頼はとても厚いと言えマス」
金剛「これは私だけではなく、この鎮守府の艦娘全員の総意でショウ」
元帥「ふむ、なるほど。良い提督として働いてくれているようだな」
元帥「それだけ大切に思っているのであれば、絶対に沈ませれないな」
提督「……はい。私の大事な者達です」
元帥「良い返事だ」
元帥「ああそうそう。君に贈り物を届けに来た」
提督「元帥自らがですか? 郵送で宜しかったのでは……」
元帥「なに。あの厄介な敵を倒す方法と君の姿を見るついでだ。顔色を見るに、少々疲れているようじゃないか」
提督「管理が行き届いていない証拠です。申し訳ありません」
元帥「いや、君はむしろ働きすぎなぐらいだろう。もう少し休息を増やしてみたらどうかね」
元帥「いやはや、やはり持ってきて良かった」コト
提督「……これは? 見た所、ただの水の入った小瓶ですが……」
元帥「見た目はそうだが、実際は全く別の代物だ」
元帥「滋養強壮の漢方を使った薬だ。長く眠る前に飲むと良いだろう。……非常に苦いのが欠点だがのう」
元帥「漢方薬は現在、非常に入手しにくくなっておる。よって二つしか渡せん。決して無駄遣いをするんじゃないぞ?」
元帥「身体が弱ると指揮も鈍る。そうなる前にしっかりと休みを取りなさい」
元帥「取り扱い説明はこの紙に書いてある。注意を払って読みなさい」
提督「……はっ。お心遣い、感謝します」
元帥「では、儂はこれで失礼するよ。金剛、美味な茶であった」
金剛「光栄です」ピシッ
提督「お気を付けて」ピシッ
ガチャ──
金剛「どうぞ」
元帥「うむ」
元帥「…………」チラ
提督「…………」
元帥「…………」
──パタン
提督「…………」
金剛「…………」
提督「…………ふぅ」
金剛「はぁー…………」
金剛「物凄く神経を使いまシタ……」グッタリ
提督「まったくだ」
金剛「テートクー……私、あの元帥が苦手デス……」
提督「私もだ。出来れば関わりたくない。……だが、立場上どうしても関わらないといけない」
金剛「テートクが可哀想デース……」
金剛「その漢方薬を今すぐ飲み干したい気分ネー……」
提督「やめておけ。相当貴重な物らしいからな」
金剛「はーい……」
金剛「そういえば、建造が上手くいっていないってどういう事デスか? 島風って駆逐艦ではかなり良い艦娘デスよね?」
提督「強大な敵と戦う時、金剛なら駆逐艦と戦艦、どっちで戦う」
金剛「ああー……そういう事デスか……」
提督「まったく……元帥も人が悪い」
提督「──本当、色々と困るよ」
……………………
…………
……
コンコン──コン──。
提督「入れ」
ガチャ──パタン
瑞鶴「…………提督さん、どうしたの? ドアの隙間から手紙を入れて呼び出すなんて」
提督「非常に残念な知らせがある」
瑞鶴「……総司令部関連?」
提督「ああ。とうとう急かされた」
瑞鶴「────ッ! ……思ったよりも早かったわね」
提督「予想以上に早い。脅しながらこんな物を寄越してきたよ」コト
瑞鶴「……水?」
提督「見た目はな。中身は完全に別の物だ。大きな声を出すなよ」ピラ
瑞鶴「……………………!? ……催淫剤?」
提督「実際に滋養強壮の効果があるらしいが、その本質はそういう事のようだ」
提督「まったく……注意を払ってその紙を読めと言ったからまともな物じゃないとは思ったが、まさかこんな物だったとは……」
瑞鶴「……つまり、これを飲んでさっさとヤれと」
提督「端的に言えばそうなるな。本当に何を考えているんだかあのクソジジイは……。深海棲艦とは全く関係ないだろうに……」
瑞鶴「関係が無いようで、何かが関係しているのかしら……」
提督「それなら理由を言えば良い。なのにそれをしないという事は、何か隠したい事でもあるのだろうよ」
提督「それに書いてあるように、期限は一週間。一口飲めば効果があるとあるが……こんなもの、どこで手に入れたのやら……」
瑞鶴「…………」
提督「瑞鶴、その小瓶は二本ともお前に預けておく。お前の判断に任せる」
瑞鶴「…………え? わ、私?」
提督「ああ。心の準備が出来たらそれを持って私の所へ来てくれ」
提督「……私も、色々と腹を括るよ」
瑞鶴「…………ねえ。これ、今飲んでも良いの?」
提督「……ああ、構わない。が──」
提督「──震えているぞ、瑞鶴」
瑞鶴「…………!」
瑞鶴「あ、あれ……? なんでだろ……」
提督「さあな。それは私には分からない」
提督「だが、心の奥底ではダメだと言っているんじゃないのか?」
提督「あと一週間しかないが、逆に言えば一週間ある。焦らなくて良い。しっかりと心の整理をしてくるんだ」
瑞鶴「……うん。ごめんね、提督さん」
提督「なぜ謝る」
瑞鶴「だって、私のせいで不本意に……」
提督「誰のせいでもない。強いて言うならこの世界が悪い。大きな流れに逆らえば、身を滅ぼす結果しかないんだ……」
瑞鶴「……うん」
瑞鶴「提督さん、一つ約束して欲しいの」
提督「なんだ」
瑞鶴「……その、する……時さ、嘘でも良いから……私を恋人のように、優しくして……?」
提督「…………」
瑞鶴「…………」
提督「……分かった」
瑞鶴「…………!」
提督「約束だ」
……………………
…………
……
提督「……色々と、予定が狂ったな」
提督「そうだな……もう、無理だろう……」
提督「──護ろう。それが、私の────」
……………………
…………
……
雷「あら?」
提督「今戻った」
雷「おかえりなさい司令官! 皆! どうしたの? 帰ってくるのがすっごい早いじゃない」
天龍「俺のせいだよ」中破
龍田「も~……お洋服が~…………今度見つけたら切り刻まないと……」大破
島風「うー……」大破
金剛「いたたたた……」中破
瑞鶴「この飛行甲板、もう使い物にならないわね……」大破
提督「誰がお前のせいだと言った」
天龍「……俺がいきなり直撃弾を受けたからこうなっちまったのは、紛れもない事実だ」
龍田「そこに追撃してきた砲撃を、私が独断で庇ったの~。おかげでこの有様。我ながら無様よね~……」
提督「旗艦以外を庇うなと言った憶えはない。下手をしていたら天龍は轟沈していた。庇い方に問題はあれど、良くやってくれたと私は判断している」
提督「そこから島風が囮役になってくれなければ、恐らくどっちかが轟沈していただろう」
島風「……提督、ごめんなさい」
提督「なぜ謝る」
島風「だって……私、提督の命令を無視したんだよ?」
提督「しっかりと私の命令をこなしたではないか」
島風「必要以上に敵に近付いたんだよ!?」
提督「私は、沈まないよう回避できる距離で敵の注意を引き付けてくれ、と命令したはずだが?」
島風「普通に考えてよ!! あの距離、普通じゃ回避できないくらいの距離だったでしょ!?」
提督「だが、お前は沈んでいない。あの距離、あの砲弾の雨の中、ギリギリまで回避し続けてくれたじゃないか」
提督「どこが命令違反している?」
島風「でも……でもぉ!!」
提督「お前は、他の誰にも出来ない事を成し遂げたんだ。もっと誇って良い」ポンポン
島風「ぅ……ぅー…………」
龍田「あらあら~。提督さんに褒めてもらえてお顔が真っ赤~」
提督「そうだな、龍田にも褒めないといけない」
龍田「あらあら、何かしら~?」
提督「天龍が被弾した時、私は追撃が見えなかった。もし見えていたら、恐らく龍田の行動を指示していただろう」
提督「そして、庇ったのは天龍だけではないのだろう?」
龍田「…………どうしてそこまで分かるのでしょうかね~?」
提督「やはりか。どうりで変な庇い方をする」
金剛「やっぱり、あれってテートクを庇ったのデスか」
龍田「そうよ~。だって、提督さんと提督さんを庇った天龍ちゃんの直線上の敵が攻撃したのですもの。下手をしたら、天龍ちゃんの装甲を貫通して、提督さんに当たったかもしれないでしょ~?」
天龍「……なんで俺が提督を庇ったって分かってるんだよ」
龍田「だって~。本当だったら避けれる弾のはずですもの~。天龍ちゃんは優しいからね~」
龍田「きっとだけど、あの弾は提督さんに当たらなかった。でも、万が一の事を考えて庇ったのでしょ~?」
天龍「ちぇっ……バレてるなんて、カッコ悪いな、俺」
提督「いいや、あの時の姿は格好良かったぞ、天龍」
天龍「な!? 何を言ってるんだよ提督!?」
提督「世界水準を軽く超えた庇い方だった」
天龍「う、うぐぐぐぐぐ……!」
島風「やーい、天龍の顔真っ赤ー」
天龍「────ッ!! 沈めてやろうか島風ぇえ!!!」
島風「キャーこわーい!」
天龍「おりゃおりゃおりゃぁあ!!」ポンポン
島風「ひゃんっ! きゃははっ! くすぐったいってばー!」
龍田「…………」
龍田(頭をポンポン。自分でやるのは寂しいものね~)ポムポム
提督「…………」チラ
龍田「!」サッ
提督「…………」ポンポン
龍田「あ、あら? あらあらあらあら?」
提督「…………」スッ
龍田(あらあら……思ったよりも嬉しいものね~……)ホッコリ
金剛・瑞鶴(むー……)
……………………
…………
……
コンコン──。
提督「入れ」
ガチャ──パタン
川内「提督ー」
神通「失礼します……」
那珂「こんにちはー!」
提督「どうした、三人共。珍しい」
川内「いやー、ちょっと気になる事があってねー」
提督「話してみよ」
神通「あの……私達って基本的に遠征と母港を守る事しかしてませんよね?」
提督「ああ、そうだな」
那珂「いやー……私達、本当に役に立ってるのかなーって……」
提督「なるほど。役に立っている気がしていないから私に聞きに来た、と」
神通「はい……それで、もしよろしかったら何か新しくお仕事をくださらないかと思いまして……」
提督「ハッキリ言っておこう。私はお前たち三人が居なかったら非常に困っている」
那珂「……そうなのー? だって、私達ほとんど出撃してないよ?」
提督「出撃だけが仕事ではない。遠征で資源を拾ってくるのも仕事だ。母港を守るなんて最重要任務に等しい」
川内「遠征は分かるんだけど、母港を守るとかそんな感覚が無いんだけどなぁ……」
提督「では川内。明らかに使用されている敵母港を発見したが、艦船が一隻も居なかったらどうする」
川内「そりゃ勿論使えないように破壊するよ」
提督「では、同じように敵母港を発見したが、敵が船着場をウロウロして索敵していたらどうする」
川内「あー、確かに警戒するね。なるほど、私達がしているのって、ちゃんと母港を守ってるんだね」
提督「ああ。そして、それは信頼しているから任せれるんだぞ」
神通「信頼……ですか?」
提督「そうだ。実際に母港を襲われた際、しっかりと守れないと意味が無いだろう」
川内「でも、基本的に二隻しか居ないよ?」
提督「たかが二隻。されど二隻。居るのと居ないのとでは雲泥の差がある」
提督「それに、お前達なら一人でも敵艦が二~三隻居ようと倒せるだろう?」
那珂「確かにそれくらいなら倒せるねー。二人だったら倍かー!」
提督「そういう事だ。これからも母港を守ってくれ」
川内「私達のやってる事、すっごく大切だったんだね!」
那珂「なんだか、安心しちゃったー!」
神通「私達も、提督をお慕いしていますよ」
提督「うむ」
……………………
…………
……
響「あ、司令官。丁度良かった」
提督「うん? 響……だけではないな。暁に雷、電、どうした? もう夜中だぞ」
雷「あのね! 司令官に渡したい物があるの!」
提督「渡したい物?」
電「はい。いつもお世話になってる司令官さんに、プレゼントなのです」
暁「この掛け軸よ!」バッ
提督「第六駆逐隊……すぱしーば?」
響「スパスィーバ。日本語の発音だとなんて書けば良いのか分からなかったから、なるべく近い言葉で書かせてもらったよ」
提督「ふむ……。すまないが、なんという意味なんだ?」
電「せーのっ──」
暁・響・雷・電「──ありがとう!」
暁「そういう意味よ、司令官」
提督「────」
響「……あ…………お気に召さなかったかい、司令官……」
提督「いや、面食らってしまって声が出なかった」
提督「ありがとう。いつも私の為に動いてくれて、本当にありがとう」
暁「ひゃっ」ナデナデ
響「ん……」ナデナデ
雷「あ……」ナデナデ
電「はわわ……」ナデナデ
提督「この掛け軸は部屋に飾っておこう。皆が書いたのかね?」
響「絵と文字と書いたのは私だよ」
暁「私はこの花飾りを作ったの」
雷「私は材料を集めたわ!」
電「仕上げは私がしました」
提督「そうか。皆が協力して作ったのだな」
暁「大切にしてよね?」
提督「勿論だとも」
響「特に暁が喜ぶよ」
暁「ちょ、ちょっと響!」
雷「なんせ、考案と指揮をしたのって暁だもんね」
電「暁ちゃん、すごく一生懸命だったのです」
暁「あ、あああ……バラしちゃって……もー!!」
提督「こらこら、夜中だから静かにしなさい」
……………………。
金剛「──あら? この掛け軸、どうしたのデスか?」
提督「電たちが作ってくれた。とても素晴らしい品だと思うよ」
金剛「……本当。とても優しい気持ちになりマス。これは愛が詰まってマスね」
提督「ああ。慕われているようで嬉しいよ」
……………………
…………
……
神通「あの、提督さん……」
提督「うん? どうした神通」
神通「ここ四日ほど、遠征は警備任務だけですけど、大丈夫なのですか……?」
提督「その事か。安心しろ。ただの保険だ」
神通「保険、ですか?」
提督「南方の強力な敵艦がこっちへ進行している、というのは五日前から知っているだろう」
神通「だから、戦力の増強へ?」
提督「そうだ。金剛、瑞鶴を中心に艦隊の錬度を高め、ついでに艦娘のデータも手に入ると思っていたのだが……まさか一隻も手に入らないとはな……」
神通「運が悪かったのでしょうか……」
提督「さてな……ん?」
電報妖精「提督さーん、緊急電報だよー」
提督「緊急電報? ……暗号で送ってきたのか。一体どこの誰だ」
電報妖精「なんかやたら急いでたよ」
提督「ふむ……」サラサラ
神通「え。復号キーを憶えているんですか……?」
提督「一応な」
神通(それって本当はいけない事なんじゃ……)
提督「……………………」
提督「神通、全員を提督室へ呼べ。演習も全て中断。緊急招集だ」
……………………。
提督「緊急事態だ」
金剛「何があったのデスか?」
提督「……………………」
提督「鎮守府が一つ、襲撃された」
天龍「なっ──!?」
川内「襲撃されたって……」
瑞鶴「どういう事なの!?」
提督「どうしたもこうしたも、そういう事だ。更に、悪い知らせはこれだけではない」
提督「一つ──この襲撃に迎撃をした総司令部長の元帥が行方不明となった」
金剛・瑞鶴「────────!!」
暁「総司令部長……?」
提督「天皇陛下の次に偉い人だと思ってくれて良い。私たち海軍のナンバー2」
提督「そして、海軍で一番実力を持っているお方だ」
響「……そんな人が負けてしまったのかい?」
提督「ああ。完全に敗北だそうだ。艦娘は全て轟沈。敵の46cm級砲撃が元帥の居た部屋に直撃。その建物は勿論、砲弾を雨の如く撃ち込まれ母港全体が崩壊したらしい」
提督「まず生きていないだろう。死体が上がるかどうかさえ怪しい」
島風「うわー……悲惨でしょ……」
瑞鶴「……………………」
金剛「……提督、次の悪い知らせはなんデスか」
川内「ま、まだあるの!?」
提督「……ある」
提督「二つ目は、その敵がこの鎮守府へまっすぐ向かっているという事だ」
天龍「……マジかよ」
提督「本当だ。そして、私達に命令が下った」
提督「『南方棲戦姫を沈めろ』と」
那珂「なんぽーせいせんき……?」
提督「航空戦、砲撃戦、雷撃戦、そして夜戦──全ての戦闘をこなし、最高水準の火力と装甲を誇るバケモノだ」
提督「護衛艦として数十隻の敵も確認されている」
提督「その敵の全てが、黄のオーラを纏っているようだ」
神通「そんな艦隊がこの鎮守府に……。それを迎撃しろと……?」
提督「……そうだ」
龍田「滅茶苦茶ね~……。まるで死ねと言ってるみたい……」
雷「……提督、勝ち目はあるの?」
提督「ハッキリ言って、無い。数が違いすぎる」
暁「……どうするの?」
提督「…………このような事は言いたくないのだが」
提督「神に祈る他ないだろう…………────」
提督「……一つ、言っておく事がある」
提督「今回の出撃は任意だ。強制は勿論、私が決めもしない」
金剛「────え?」
電「どういう意味なのですか……?」
提督「艦娘は海から離れると死んでしまう。だが、解体をすると普通の女子になると聞く」
提督「今回の戦いは、間違いなく死ぬ。死にたくない者は解体を施すから逃げろ」
提督「海軍刑法によると敵前逃亡は罪に問われる。だがここは私の城だ。そんなモノは最初から存在しない」
提督「全員、目を瞑れ。私が許可するまで開いてはならん」
提督「……………………全員閉じたな。では、十秒与える。解体を希望する者は静かに手を上げろ」
提督「十……九……八……七……六……」
提督「…………」
提督「五……四……三……ニ……一……」
提督「そこまで──。手を下ろしてよい」
金剛(手を下ろしてよい……? 誰かが手を上げたのデスか……?)
提督「…………目を開け」
提督「……………………」
提督「…………死にたがりの大馬鹿者共め。馬鹿だよ、お前ら全員」
暁「当たり前でしょ、司令官」
響「……不死鳥も、ここでその名を終えるね」
電「そうです! 私達は皆、馬鹿なのです!」
雷「私達、誰も逃げることなんてしないわ!」
天龍「なんだ、みんな根性あるじゃねーか」
龍田「天龍ちゃんや提督さんと死ぬのなら本望ですよ~」
川内「よーっし! 私達の鎮守府を守るぞー!!」
神通「こんな私でも、やる時はやります」
那珂「那珂ちゃん、本気でいっきまーす!」
瑞鶴「…………?」
金剛「ふふっ……ホント、皆馬鹿デース」
提督「旗艦は金剛に任命する。──金剛、最後の出撃の掛け声を頼んだ」
金剛「ハイ!!」
金剛「私達の最後の出番ネ!! 皆さん! ついてきてくださいネー!!」
瑞鶴「……………………」
……………………
…………
……
ガチャ──
瑞鶴「……提督さん」
パタン
提督「うん? どうした瑞鶴。もう間宮アイスクリームは良いのか?」
瑞鶴「そんな事はどうでも良いの。ねえ、おかしいと思わない?」
提督「…………」
瑞鶴「どうして、総司令部は私を放棄する事にしたのかしら。貴重なサンプルだって言ってたのに……」
提督「瑞鶴」
瑞鶴「ぴゃいっ!」ピシッ
提督「私は一つ、嘘を吐いた」
瑞鶴「……嘘?」
提督「あの電報、胸糞が悪かったからな」
瑞鶴「…………何?」
提督「私と瑞鶴を除く全員で南方棲戦姫に全力突撃をしろ」
提督「それが本当の命令だ」
瑞鶴「……やっぱり」
提督「だが、私はこの命令に従うつもりはない」
提督「私の大事な艦娘達を犠牲にして、サンプルである瑞鶴とその提督である私だけ逃げろなんて命令、誰が聞いてやるものか」
瑞鶴「…………」
提督「すまんな、瑞鶴。本当は生き残れたのだが……」
瑞鶴「ううん! 私は嬉しいわ」
瑞鶴「だって、それって皆を見捨てろって事でしょ? 私はそんなの、絶対に出来ない! そんな事をするくらいなら死んだ方がマシよ!!」
提督「────うむ。良い意思だ」
提督「さて、逝こうか──」
瑞鶴「はい──」
……………………
…………
……
提督「総員、心の準備は出来たか」
全員「はいっ!」
金剛「──あ、ごめんなさい。私、一つだけ心残りがあります」
提督「調子を狂わせるんじゃない。…………まあ良い。なんだ」
金剛「提督、キスしてください」
龍田「あらあらあら~」
暁「お、大人……!」
提督「……金剛、時間と場所を弁えろ」
金剛「──時間と場所なら弁えてますよ」
金剛「残り少ない僅かな時間。二度と戻る事のないこの鎮守府の母港──」
金剛「死に行く私の、ささやかな最後のお願いです」
提督「…………」
金剛「…………」
提督「皆が見ているぞ」
金剛「私には提督しか見えないです」
提督「死にたくなくなるぞ」
金剛「良いことじゃないですか」
提督「何も残らないぞ」
金剛「私の魂に刻まれます」
提督「…………」
金剛「…………」
提督「負けたよ、お手上げだ」
金剛「それではご褒美を」
提督「後悔は?」
金剛「私の辞書には載ってませんね」
──そっと、提督が私の背に手を回しました。
「ぁ──」
服越しに伝わる提督の温もりが、私の心臓を跳ねさせる。
死んだ目をしている提督の目は私の瞳の奥を見据え、私だけを見てくれている。
暴れる心臓を押さえる為、閉じた右手を胸の前へ持っていくと、その手は提督の左手に阻まれた。
優しく、けれど強く──大切な物をその手に収めるかのよう握られた。
だから私は、余っている左手をさっきの右手と同じように胸の前へ持っていく。
──バクバクと飛び出しそうな程の鼓動が、ハッキリと伝わってきた。
「提督……」
そう呟くと、私の愛しい人は右手に力を込めた。
ゆっくり、ゆっくりと提督が近くなるにつれ、私は今更緊張してきた。
身体は強張り、手を固く結び、視線も提督の光の無い目に釘付け──。
そういえば、私はいつからこの不思議な目を追い続けたのだろう。
一緒の毛布に包まった時?
提督の秘書になった時?
──初めて会った時?
いつだったか、もう分からない。
ただ一つ、分かる事は──
「……金剛」
──ほんの一瞬。愛しい人が目を閉じる瞬間、光が宿ったという事。
「ん……」
不意打ちだった。
その瞳の美しさに見惚れているというのに、愛しい人は唇を重ねてきた。
触れ合うだけの、フレンチキス──。
それだけだと思った私だけれど、提督はそのつもりではなかったらしい。
舌で唇をつつかれる。
すぐに私は、閉ざしていた唇を小さく開けた。
そろりと、窺うように舌が入ってくる。
それに対して、控えめに舌で触れ、提督に合図をした。
小さく、腫れ物に触るかのように優しく触れ合っていた愛しい人の舌は、甘い、甘い味がした。
「あ……」
その甘美な即効性の毒は、私の身体から力を抜くのに一秒と掛からなかった。
いや、本当に抜いたのは骨かもしれない。
そんな言葉遊びを痺れる頭に思い浮かべ、私は目を瞑って提督の舌を堪能した。
絡み、絡まれ、唾液を交換する──。
もう、どれが提督の唾液か私の唾液か分からない。
そこで、私の右手の指が提督の左手の指と絡まっているのに気付いた。
互いを貪るように動く舌と同じように、私達の指は絡み合った。
絡まった唾液を呑みこむ度に頭がボーっとする。まるで麻薬だ。
頭が痺れ、脳が蕩け、どこからが私でどこからが提督なのか、もう分からない。
いや、実際に麻薬なのだろう。こんなに気持ちの良くて、もっと欲しくなっているのだから──。
「は、ぁ…………」
どちらからともなく、舌が、唇が離れる。
提督と私の間に出来た銀のアーチ。それは数瞬だけ形を保って、プッツリと切れてしまった。
「……提督」
──もっと、あの甘く蕩ける麻薬が欲しい──
けれど、それは言えなかった。
私の愛しい人が、悲しそうな顔をしていたから──。
だから私は、笑顔でこう言った。
「────ありがとう」
──I don't mind that everyting is a lie.
(たとえ全てが嘘でも構いません)
──As long as I love you forever.
(私が貴方を愛している限り、永遠に)
……………………
…………
……
金剛「──私は、最後まで沈みません」
金剛「提督が沈むのを見るまで、私は沈みません」
提督「……そうか」
金剛「…………」
提督「約束だ」
金剛「────はいっ!!」
瑞鶴「……あのー、良い所で悪いけど」
瑞鶴「…………見てるこっちが恥ずかしいんだけど……」
暁「お、大人……! 大人のキス……!!」
響「そうだね暁。とても深いキスだったね」
雷「エロいわね」
電「はわわわ……!」
天龍「おぉ……ぉぉぉ……」
龍田「天龍ちゃん、大丈夫~?」
川内「本当だったらこのあと夜戦になるんだろうなぁ」
神通「……夜戦…………や、やせん……」
那珂「神通って初心だねー」
提督「…………」
提督「整列」
全員「ッ!?」ビクゥ
……………………
…………
……
島風「…………」
提督「島風」
島風「ひゃいっ!?」ピシッ
提督「不自然な程えらく静かだが、どうした」
金剛「確かに、提督の言うようにサイレント過ぎデス。ちょっと心配になるくらいですヨ?」
瑞鶴「うん、それ私も気になってた。だって提督室での島風、普段からは想像もつかないくらいだったもん」
島風「あ……それは……」
提督「後悔してるのか、出撃した事に」
島風「後悔じゃないよ。色々と考えてるの」
提督「考え事?」
島風「うん。あのね、私、死んでも死ななくても良いの。皆の側に──特に提督の側に居られたら、それさえあれば、他に何も要らないの」
島風「だけど、私の中では絶対に死にたくないって思ってる自分も居る。それなのに、提督と一緒に海の底に沈みたいって思ってたり、どうにかして皆と逃げたいって思ってる自分も居るの」
提督「…………」
島風「この状況下で何を言ってるんだって話だけど、私にも良く分からない……。自分の気持ちすら良く分からない」
島風「……極めつけは提督と金剛さんのキスだけどね」
金剛「ホワイ? どういう事ですか?」
瑞鶴「あー……なんとなく分かる」
島風「嫌だーとか、私もしてほしいーとか、色々思ったんだけど、一番強く思ったのが……」
島風「提督がお父さんで金剛さんがお母さん、って気持ちなの」
瑞鶴「お父さんとお母さん……?」
提督「ふむ……」
島風「提督、この気持ちってなんですか? 私、こんなの初めてで分かんないよ」
提督「私にも分からん。だが、予測はできる」
提督「上手くは言えないが、今の島風は童女と少女の中間なんじゃないかと思う」
提督「電達ほど幼くはないが──」
暁「お子様言うなぁー!!」
雷「静かにしましょうね、暁」
響「電、一緒に抑えて」
電「はいなのです」
暁「もがー!」
提督「…………かといって、川内達ほど成長している訳でもない」
提督「大人の異性に対して、親のように思う気持ちと一人の異性として思う気持ちが一緒にあるのだろう」
島風「はー……なるほどねー……」
瑞鶴(親のように……)
金剛(私は一人の男としてテートクが好きネー)
島風「──うん! ありがとう提督! すっきりした!」
提督「うむ。良い目になった」
島風「提督の目は死んでるけどね」
提督「解体して一人母港に残してやろうか」
島風「泳いででも提督達と一緒に行くよ」
提督「……そうか。嬉しいよ」
……………………
…………
……
提督「──見えた。瑞鶴、偵察機は?」
瑞鶴「もうちょっと待って。もうそろそろ──お待たせ。情報が入ってきたわ」
瑞鶴「確認できた敵艦は五隻、単縦陣。南方棲戦姫と思われる艦が一隻、戦艦ル級が二隻、空母ヲ級が一隻、駆逐ロ級一隻! いずれも黄色のオーラを纏っています!!」
提督「五隻……? 数十居た艦は一体どこへ……」
提督「しかし、それでもふざけているな。黄のオーラを纏った艦は尋常じゃない強さと聞く。それが五隻。おまけに戦姫も居る」
提督「……恐らく勝てないだろうが、撤退させるのは可能かもしれん。……全員、沈むなよ!」
提督「複縦陣を敷け! 戦闘準備!! 奴らを私達の家に近付けさせるな!!」
全員「はい!」
提督「瑞鶴、第一次攻撃隊は空母のみ集中砲火を浴びさせろ。まずは敵航空戦力を出来る限り落とす」
提督「金剛、射程に入り次第、まずは敵後方戦艦を狙え。奴らの攻撃の精度を少しでも落とせ」
提督「水雷戦隊は艦載機からの回避に専念しろ。射程に入る前から攻撃を受けては勝てんぞ」
提督「いいか! まだいけると思ったら素直に下がれ! もう危ないと思ったら全力で引き撃ちを──!?」
提督「総員散開!! 回避行動を取れ!!」
瑞鶴「そん、な……制空権が……」
ドォンドォンドォンドォンドォンドォン──!
提督「ちぃっ……! なんとか全員回避したものの、制空権は劣勢か……。こっちの先制攻撃は期待できそうにないな……」
瑞鶴「……その通りよ、提督さん。敵も全部避けたみたい」
提督「…………仕方が無い。総員! 頭上には充分に注意しろよ! そろそろ射程──」
ドォン!
提督「──なに?」
金剛「なんデスかあれ!? まだ私のテリトリーじゃないのに届いてマス!!」
提督「バケモノどもめ……! 全員回避に専念しろ!! 砲撃距離になるまで耐えるんだ!!」
提督「…………なんだこの砲撃は。明確に当てる意思が感じられん……」
金剛「テートク!! 駆逐ロ級が突っ込んできます!!」
提督「何をするつもりだ一体……! 総員、回避のついでで構わん! 駆逐ロ級へ撃て!」
提督「────────全弾回避、するか。この砲撃の中を」
金剛「こ、こっちに……ぶつかる!?」
提督「回避だ!!」
提督「……一発も攻撃せず抜けて──まさか、直接母港を!」
金剛「────反転? 挟撃!?」
提督「くそっ! やられた!! 当てれなくて良い!! とにかく被弾するな!!」
提督「……味方がどんどん孤立させられていってる。なんてやり方だ……」
提督「敵一隻を相手にこちらは二隻、三隻で戦っている……それなのに一発も当てれないとは……!!」ギリ
提督(私の指導が甘かったという事か……!)
提督「南方棲戦姫がこっちへ近付いている……。ちっ……! 前門はバケモノの戦姫、後ろはバケモノ染みた駆逐ロ級……。逃げ場はないな」
金剛「テートク……アイツ、私の砲撃が効かないヨ!!」ドンドン
提督「……金剛、一点集中だ。まったく攻撃が効いていないという事もあるまい。同じ箇所を撃ち続けていたらいつか耐え切れなくなるはずだ」
金剛「──ハイ!」
ドン! ドン! ドン──! ドン──! ドン────!
提督「……ついに目の前に、か」
金剛「…………誰ですか、同じ箇所を撃ち続けたらいつか耐え切れなくなるなんて言ったのは。弾が尽きるまで撃ちましたけど傷一つ付いてませんよ」
提督「私だ。いやはや、まったくもって完敗だ。飛車角金銀桂馬香車を取られて王手を掛けられた気分だ」
金剛「それでも、歩が一個だけ残ってますよ?」
提督「そうだな。王を護る、武器を失った歩が一人だけ残っている」
南方棲戦姫「…………」ジャキッ
金剛「……その歩も、ここで取られそうですね」
提督「…………」
提督「知ってるか、金剛」
提督「──王も敵の駒を取れるんだぞ」バッ
金剛「な──」
南方棲戦姫「!!」
提督「いかに深海棲艦といえど、生身の部分は艦娘と同じ!! 装甲が硬いなら装甲が無い部分を攻撃すれば良い!!!」ガキッ
提督「王の目の前に玉を置いたのが間違いだったな南方棲戦姫! この首、へし折らせて貰う!!」グッ
金剛「ダメ!! 提と──」
ガンッ!!
嫌な音がした。
「────────」
大質量の金属が、硬い何かを叩いた時の音。
「──そんな、鉄の塊で……」
重々しく黒光りする金属の腕を持った敵は、己の首を──命を護った。
「人の頭、殴ったら……」
護る為に、人体を司る脳が入っている箇所へ、その腕で払った。
「────────」
殴られた人は、苦痛の声すらあげなかった。
「死んじゃ、う……」
敵の首を捉えていた白い制服の人の両手に、力が入っていないのが見える。
あと一瞬でも時間があれば、敵の首をへし折ったであろうその手は、弛緩してしまっている。
「やだ……」
手だけではない。
腕も、脚も、首も、何もかも──。何もかも、力が入っていなかった。
重力に従い、私の愛しい人は、崩れるように落ちていった。
──その中で、左手だけ、重力に逆らっていた。
「…………!」
「──それでは人を殺せん!」
再度、その手は敵の首に食らいついた。
「人間を甘く見るからこうなる!!」
間髪入れず、肋骨の直下へ内臓を抉るような角度で拳が敵を襲う。
そう──『慢心は最大の敵』
提督が何度も言っていた事だ。
「ッぁ゙──!?」
咳に近い、吐き出すような悲鳴。
今まで無表情だった敵が、初めて苦悶の表情を浮かべた。
明らかに拳一つ分はめり込んでいたのだ。耐えれるはずがない。
敵の視点はブレて、一瞬だけ無防備となった。
その一瞬で、提督は敵の背後を取る。右腕の根元付近で首を捉え、逃げれないように左腕でロック。更に、左手は後頭部をの右側面を掴んでいた。
絞めるのではなく、折る為の組み方。
──首があらぬ方向にへし曲がり、身体は先程の提督と同じように崩れるのだろう。
その生々しい姿を見たくなくて、私は目を堅く結んだ。
………………………………。
……おかしい。骨の折れる音がしない。
首の骨だ。とてつもなく嫌な音がするはずなのに、なぜ聴こえないのか。
恐る恐る、現実を見る為に瞳を開いた。
「────え?」
敵は変わらず立っていた。その代わり──。
「……提督?」
なぜか、提督がぐったりと敵の背に乗せられていた。
「どうして……?」
「キヲ ウシナッタヨウダ」
「────っ!?」
恨みや怨念を帯びたドス黒い声で、敵はそう言った。
「サスガダナ……。ニドメノシヲ、カクゴシタ」
二度目の死? どういう事……?
この敵が何を言っているのか、私には分からなかった。
武器を失った私を前に、敵は背を向けた。
──私の愛しい人を乗せたまま。
「待ちなさい!!」
どうして防衛手段を持っていない私を見逃すのか──。そんな疑問が頭に巡っていたが、私が声を掛けた理由は一つだけだ。
「その人を連れて行かせない」
愛しい人が攫われそうになっているのだ。敵は私を見逃しても、私はそれを見逃せない。
「…………」
敵は振り向くだけで、何も答えなかった。
「……ブキガ ナイヨウダガ?」
「腕があります」
「ウデヲ チギロウ」
「まだ歯があります」
「アタマヲ ツブソウ」
「怨念になってでも、戦います」
「……………………」
ジャキッ──と、弾を装填する聞き慣れた音がした。
本能で何がくるのか理解し、回避行動を取った──けど。
「がっ──ッ!!」
轟音と共に、私の身体は吹き飛ばされた。
視界が目まぐるしく流れ、そして、身体に衝撃が走った。
「か、はッ……!」
……まだなんとか浮いている。完全には沈んでいない。
「待、ちなさ……い……!」
けれど、腕を伸ばすも、身体が動かない。
「待ちな……さい、よ……!!」
敵は今度こそ背を向け、その姿が小さくなっていった。
「待って……! 待っ、て……よ……!!」
意識が遠くなる──。
身体が言う事を聞いてくれない──。
やめて……その人を連れて行かないで──。
お願いだから動いてよ、私の身体──。
「て、いと……く…………」
その言葉を最後に、私の意識は闇に落ちた────。
……………………
…………
……
~母港~
金剛「…………」
瑞鶴「……惨敗だったわね」
金剛「…………皆は?」
瑞鶴「無事よ。小破が二隻であとは皆、掠り傷程度。修理と補給をして、自分の部屋に戻るように指示しておいたわ」
金剛「………………大破したのは、私だけですね」
瑞鶴「……金剛さんは、あの戦姫と戦ったのでしょう? 沈まなかっただけでも凄いわよ」
金剛「あんなの、戦いなんかじゃありません。本当の意味で、私の攻撃は意味がありませんでした」
瑞鶴「…………提督さんは?」
金剛「たぶん、生きています。気を失い、連れて行かれました……」
金剛「提督は、とても勇敢に戦いました……。私の攻撃が一切効かない戦姫を相手に、あと一歩で殺せる状況まで持っていきました……」
瑞鶴「……すごいよね、提督さんって」
金剛「……はい。私よりも、ずっとずっと強くて、勇ましくて、最後まで諦めませんでした……」
瑞鶴「…………これからどうしよう……」
金剛「総司令部の人が来て、私達を解体するはずです。そういう書類を見た事があります……」
金剛「その人達が来るのは、恐らく三日後です。提督がそんな電報を打っていました……」
瑞鶴「三日……。あと三日で、私達は……私は……」
金剛「…………」
金剛「瑞鶴、一つ、聞いても良いですか?」
瑞鶴「……何?」
金剛「私や他の艦娘には話せない、提督と瑞鶴の秘密って、なんですか?」
瑞鶴「…………」
金剛「…………」
瑞鶴「……解体されて普通の女の子になっても、殺されるわよ」
金剛「……構いません。どうせ、艦娘は解体された後、いきなり消えるんです」
瑞鶴「──え?」
金剛「元帥という人が言っていました。解体された艦娘は、ある日突然に姿を消すらしいです」
瑞鶴「…………」
金剛「だから、言ってください。今回、何か裏があるのでしょう?」
瑞鶴「…………分かったわ」
……………………
…………
……
金剛「そうですか……瑞鶴は深海棲艦から……。それに、総司令部からそんな命令が……」
瑞鶴「…………」
金剛「……どうしてですか」
瑞鶴「え……?」
金剛「どうして、無理矢理にでも提督を連れて逃げなかったのですか」
瑞鶴「何を言ってるのよ金剛さん……そんな事──」
金剛「そうしていたら、提督は連れ去られなかったじゃないですか!!!」
金剛「どうしてですか!? どうして貴女は提督と一緒に逃げなかったのですか!?」
金剛「どうして……どうして…………?」
瑞鶴「…………」
金剛「ごめんなさい……八つ当たりをしてしまいました……」
瑞鶴「ううん……私も金剛さんの立場なら、同じ事を言ったと思う」
金剛「ごめんなさい……」
瑞鶴「…………」
金剛「……あと、三日ですか」
……………………
…………
……
川内「う~~~~~~ん…………」
神通「どうしたの、川内?」
川内「いや、あの敵なんだけど、なーんか違和感っていうか引っ掛かるっていうかなんというか、そういうのがあったんだよねー……」
那珂「なんかって、何ー?」
川内「それが分かんないんだよなぁ……なんなんだろ…………」
川内「む~~~~~~~~…………」
神通「思い出したら、教えて? もし提督が帰ってこなかった場合、提督を見つける手掛かりになるかもしれないから」
那珂「那珂ちゃんも何かおかしい所があったか思い出してみる!」
神通「うん。私も頑張って探してみるね」
神通「……提督、帰ってきてくれますよね?」
……………………
…………
……
暁「…………」
響「…………」
雷「…………」
電「…………」
島風「…………」
雷「司令官、大丈夫かしら……」
響「……帰ってきた時、唯一行方を知っている金剛さんが塞ぎ込んでしまっていたからね」
暁「…………もしかして、死んじゃったんじゃ……」
島風「そんな事ない!! 提督は簡単に死ぬような人じゃないよ!」
電「そ、そうです! きっと道に迷ってるだけなのです!」
響「私も死んでないと思うよ」
暁「気休めはやめてよ……余計に辛いわ……」
響「気休めなんかじゃないよ。確証とまではいかないけれど、信用できる事がある」
暁「────っ! な、なに!?」
響「金剛さんさ」
島風「金剛さん?」
響「そう。金剛さんがこの鎮守府に居る事が、司令官が生きているという証だと私は思っているよ」
電「あの……どうしてですか?」
雷「あ、なんとなく分かったかも」
響「雷は察しが良いね。──金剛さんが、そんなに簡単に提督の側を離れると思う?」
暁「……ないわね、それは」
響「もし司令官が死んでしまってるのなら、金剛さんは後を追うと思うよ、ほぼ間違いなく」
雷「そうよね。普段の金剛さんを見ていたらそう思うわ」
響「だから、金剛さんが生きているという事は司令官が生きている──私はそう思ってる」
暁「で、でも……もしかしたら死ぬのが怖くなったって可能性もあるでしょ?」
響「勿論そうかもしれない。あの塞ぎ込みっぷりならそれも納得できる」
響「でも、私は前向きに考えるよ」
響「────そう、簡単に死ぬわけないじゃないか」
……………………
…………
……
提督「…………っ」
戦姫「……起きたか」
提督「…………」ジッ
提督(ここはどこだ……? 暗くて良く分からん……。腕は……ちっ、何かに縛り付けられているな)
提督(深海棲艦がこんなに……。というか、こいつらもあの武装を取れるのか)
提督(……ん?)
ザッ────ピシッ!
提督「……なぜ敬礼をした。しかも全員」
戦姫「単刀直入ですが、貴方に我々の上官になって頂きたい」
提督「断る」
戦姫「そうですか……。理由をお聞きしても?」
提督「何の目的か言ってくれるのなら考えもするが、いきなり上官になれと言われても納得する馬鹿は居るまい」
戦姫「なるほど。ごもっともです」
戦姫「私達は沈んだ──いや、死んだ艦娘です」
提督「知っている」
戦姫「ご存知でしたか。話が早くて助かります」
戦姫「……貴方は、似ているのです」
提督「似ている?」
戦姫「はい。私達の──」
ヲ級「…………」テテテ
戦姫「あっこら!」
ヲ級「♪」ギュー
提督「……このヲ級。もしかして」
戦姫「はい。貴方の鎮守府へ偵察に行った者です」
戦姫「この通りかなり自由奔放者で、甘えたがりなのです」ハァ
ヲ級「♪」
提督「……なぜこんなに懐くんだ」
戦姫「すみません。言うのが遅くなりましたが、貴方は私達の提督に似ているのです」
提督「……ただ似ているだけではここまで懐くとは思えん。しかも敵だろう」
戦姫「────という名前をご存知ですか?」
提督「私の父親だ」
戦姫「なるほど。だから……」
戦姫「あ……すみません。勝手に納得してしまいました」
提督「良い。話せ」
戦姫「ここに居る者達は全員、貴方の父親が保有していた──いたっ」
ヲ級「…………」ペシッペシッ
戦姫「あ、ああ分かった言い直す。言い直すから叩かないでくれ。……こほん。失礼しました」
戦姫「……全員、貴方の父親を慕っていた者達なのです」
提督「…………」
戦姫「特にその──貴方がヲ級と言った者は、私達の提督に懐いていました」
戦姫「本当はもう一隻、妹の空母が居るはずなのですが、どこに居るのか……」
提督「……非常に理解できない所がある」
戦姫「なんでしょうか」
提督「私の父親は誰もが厳しすぎるのでは、と思われる厳格な人だった。実際に父が指揮をしている所を見た事があるが、懐くとは到底思えない」
提督「それなのに、なぜこんなに懐いている」
戦姫「ああ……とても厳しかったです……それはもう、タービンが爆発しそうなくらい……」ドヨーン
提督「…………」
戦姫「────はっ! し、失礼しました!」ピシッ
提督(よっぽど厳しく仕込まれたんだろうなこれ……)
戦姫「……ですが、それは人前と仕事だけです。それ以外ではとてもとても、お優しいお方でした……」
戦姫「ああ~……美味しかったなぁ、あの間宮アイスクリーム……」
提督「……………………」
戦姫「!!!! しっ失礼しました!!」ピシッ
提督「……お前、よく父から罰を受けていただろ」
戦姫「…………はい。よく吊るされていました……」
提督(私は今、血は逆らえないという言葉を心の底から実感した)
戦姫「それで、深海棲艦となった艦娘は普通、記憶を無くすらしいのですが……どういう訳か私達はあまり記憶が消える事なくこうしているのです」
戦姫「提督への信頼や想いが魂に刻み込まれたのでは、という事で納得していますが、実際の所は分かりません……」
戦姫「そして……私達は提督の事を忘れる事ができません。確かに厳しかったですが、それも優しさだったのです」
戦姫「その優しさを……私は、私達は忘れられませんでした……」
提督「……だから、父と似ている私に提督になれと」
戦姫「勝手な言い分だとは分かっています。でも、万が一……いえ、億や兆、那由多の果ての一つしか可能性がなくても、私達はそれに縋りたかったのです」
提督「…………」
戦姫「…………」
提督「……なるほど、理由は分かった。私を縛っているのは、話を聞いてもらう為か?」
戦姫「はい。提督と同じく深海棲艦を相手にしても殺そうとされましたから、申し訳ありませんが縛ら……せ、て…………」
提督「…………」
戦姫「…………」タジ
提督「…………」ジッ
戦姫「…………っ!!」ビクゥ
戦姫「だ、誰かハサミを持ってきて!! 早く!!!」
提督「……縛ったのは誰だ」
戦姫「え……わ、私……です……」ビクビク
提督「そうか。それなのに切る道具を持ってくるのは別人なのか」
戦姫「行ってきます!!!」ダッシュ
提督(ああ……私の鎮守府と同じ感覚……)
……………………。
提督「ふー……」
戦姫「あ、あぁぁあの……痛くないようには縛ったつもりですが……だ、大丈夫ですか……?」
提督「うむ。問題ない」
戦姫「良かったぁ……」
提督「…………」
戦姫「? どうかなされましたか?」
提督「いや……敵だというのにこの接され方は少し戸惑いをな」
戦姫「…………」
提督「…………」
戦姫「ああっ!!」
提督(これがアホの子というやつか)
戦姫「深海棲艦になってからどうも色々なモノが抜け出ていったようで……すみません……」
提督「色々なものが抜け出ていった?」
戦姫「はい……。大まかに言うと感情や、言語、記憶などです。細かく言うと、私みたいにあまり深く物事を考えれなくなるなんて事もあります」
提督「……お前から感情や言語が抜けているようには思えないんだが」
戦姫「え? あぅ……説明が悪かったです……。深海棲艦になると大まかに感情や~と言いたかったんです……」
提督「…………」
戦姫「呆れないでください……アホの子になったっていうのは自覚しているんです……」
ヲ級「♪」スリスリ
提督「っと。本当に懐いてるなこいつは……」
戦姫「この子は主に言語と感情だと思います。感情はまだマシなのですが、特に言語が酷くて……」
ヲ級「?」
提督「なるほど、喋れないと」
戦姫「はい……」
提督「……少し、質問しても良いか」
戦姫「はい。なんでしょうか」
提督「私は、そんなに父に似ているのか」
戦姫「はい! それはもう!」
提督「私は父ではないぞ。私に提督になってくれと言ったが、できるのか?」
戦姫「どうやら艦娘特有の『刷り込み』は無くなってしまうようです。貴方に提督となってくださいと言えるので、これは間違いないですね」
提督「私が父の代わりになれるとも思っていないのだが」
戦姫「私達は代わりだなんて思っていません。後継者だと私達は思っています」
提督「そうか。それでは、艦娘をどう思っている」
戦姫「……正直に言って、憎いです。過去の自分達を見るのが嫌なのか、それとも仲間に引き込もうと思っているのか分かりません。ほとんど根拠のない憎しみなんです」
提督「ふむ……。深海棲艦はそういうものなのだろうな」
提督「では、私がお前達の提督になったとして、上官命令で艦娘と仲良くしろと言っても無理か?」
戦姫「それは…………無理そうですね。『刷り込み』があれば出来たかもしれませんが、提督の命令が私達の絶対命令でなくなってしまっています」
提督「そうか……和解の道は無いか……」
提督「ふと思ったのだが、他の深海棲艦も同じように集まって軍隊を成しているのか?」
戦姫「それはないでしょうね。私達が特別だと思います。他の深海棲艦が同じ編隊で居るのは、恐らく艦娘時代の仲間だからじゃないでしょうか」
戦姫「私達のように規律のようなものがあるのは、他に見た事がありませんね」
提督「ふむ。しかし、どうしてお前達は沈んだんだ? 戦艦の主砲を受けて無傷ならば沈みようがないと思うのだが」
戦姫「艦娘の頃はこんなに高性能ではありませんでした。少なくとも、戦艦の主砲を耐える事は出来ても無傷なんてありえませんでしたね」
提督「沈んだら逆に強化されているのか……不思議なものだ」
戦姫「本当、不思議ですよね……」
提督「では次の質問。私に提督になってくれと言ったが、私の艦娘はどうなる」
戦姫「…………」
戦姫「あー……考えた事がありませんでした……」
提督「……本当に深く考える事ができなくなってるのだな」
戦姫「返す言葉もありません……」
戦姫「そうですよね……私達が提督を失ったように、艦娘達も悲しみますよね……『刷り込み』がある分、私達よりも辛いでしょう……」
提督「……少し前にお前が言った勝手な言い分というのは『今の艦娘を捨てて私達の提督になってくれ』ではなくて『見ず知らずの私達の提督になってくれ』という意味だったのか」
戦姫「はい……その通りです……」
提督(もうこれは深海棲艦になったからじゃなくて元からなんじゃ……?)
提督「……次に、これは純粋な疑問だが、お前は私に手を上げたな?」
戦姫「ひっ! ご、ごめんなさい!!」ビクッ
提督「いや、責めている訳ではない。純粋な疑問だと言っただろう」
戦姫「あの……えと…………殺されそうだったのでつい……」ビクビク
提督「反射的に手が出たと」
戦姫「はい……」ビクビク
提督「その件については私にも非がある。すまない」
提督「鳩尾は大丈夫だったか?」
戦姫「失神しそうでしたけどなんとか……。痛いのは戦闘で慣れてますから……」
提督「そうか……」
戦姫「……優しいですね」
提督「優しかったら殺そうとするのはおろか、殴る事もない」
戦姫「貴方は私を敵だと言っているのに、心配してくれている。それは、優しいじゃないですか」
提督「…………」
提督「……では、最後の質問だ」
提督「私がお前達の提督にならない、と言ったらどうする」
戦姫「…………」
提督「ほとんど拉致に近い。何もしないという事はないだろう」
戦姫「…………」
提督「…………」
戦姫「私は──私達は、貴方を殺したくない。提督のご子息とあらば、尚更……」
提督「そうか」
戦姫「──翔鶴、その人を抱き締めて」
ヲ級「♪」ギュー
提督「なっ──!」
戦姫「……貴方を骨抜きにしてでも、私達の提督になってもらいます」ニコ
提督(……寂しそうに笑いおって。本当は嫌なんだろうな……)
提督(それでも、提督を欲する……か……)
……………………
…………
……
~提督室~
バアアアアンッッ!!!
川内「思い出したぁぁああああああああ!!!!!」
瑞鶴「ど、どうしたの川内?」ビクッ
金剛「…………?」
川内「あれだよ!! あの敵空母!!」
瑞鶴「お、落ち着いて! 敵の空母がどうしたの?」
川内「さっき戦った敵空母、この前この鎮守府に来ていた変な敵の空母だって!!」
金剛「……それが、どうかしたのですか?」
瑞鶴「それより、なんでそんなのが分かるのよ」
川内「おお、金剛さんが喋るようになった! ──えっと、あの空母の折れ曲がった砲身、まったく同じだったよ!」
川内「あの空母が帰っていった方向に行けば、提督が居るんじゃないかなって思ったの!」
金剛「…………」
瑞鶴「そ、そうは言っても……本当にそうとは限らないじゃない。それに、中途半端にしか憶えてないわよ?」
金剛「…………」
金剛(……あの空母が帰っていったのはあの方向)
川内「でも、試してみる価値あるでしょ!」
金剛(南方棲戦姫が向かったのがあの方向……)
瑞鶴「……そうよね。皆を集めて、記憶を頼りに──」
金剛「──あった」
瑞鶴「え、え? どうしたの、金剛さん?」
金剛「あの二隻……方向……交点、放棄された泊地……」ブツブツ
川内「えーっと……どういう事?」
金剛「恐らく、あの敵の根城──!」
金剛「二人共、皆をここに集めて! 作戦会議をするわよ!」
……………………。
瑞鶴「全員集めたわよ」
暁「何? こんな夜中に呼び出して……。ちょっと眠いんだけど……」
響「何があったんだい? 提督の行方についてかい?」
金剛「そうデス。提督の行方です」
全員「!!」
島風「それ本当!?」
瑞鶴「ど、どこなの!?」
金剛「落ち着いて。今地図に描きマス」ペラッ
金剛「以前見かけた意味不明の空母が帰っていったのがこの方向デス」キューッ
響「……やけに精確だね?」
金剛「私はあの空母のすぐ近くに居ましたからネ」
響「なるほど……」
金剛「そして、私達がさっき戦った場所がココ。遠くに見えた島と鎮守府の場所から考えるとココで間違いないネ」キュキュ
金剛「そして、南方棲戦姫はこの方向へ向かいまシタ」キューッ
金剛「その交点が──」キュッ
瑞鶴「……ここは?」
島風「何かの島?」
金剛「敵に奪われたと言われている泊地デス。きっと、テートクはここに居ます」
響「……偶然という可能性は?」
金剛「それもありマス。なので、憶えている人だけで構いまセン。敵が退いていった方向を描いてみてくだサイ」
金剛「敵にかなり離されてしまっていたのでほとんど目測ですが、それぞれここら辺に居たはずデス」キュッキュッ
響「……たしか、こっちの方向だったと思う」キューッ
龍田「私が戦った敵はこの方向だったかしら~」キューッ
電「……こっちだったのです」キューッ
瑞鶴「…………これは」キューッ
金剛「……ほとんど確定ですネ。多少のバラつきはあれど、この交点に重なりマス」
金剛「ここまでくると、もう偶然じゃありまセン! 明日、この放棄された泊地に行きまショウ!!」
金剛「あ……」
雷「? どうしたの?」
金剛「違いマスね。皆、目を瞑ってください」
島風「何が始まるの?」
金剛「いいカラいいカラー。……………………準備は良いみたいですね」
金剛(……たしか、こうだったはずデス)
金剛「……死にたくない者は解体を施すから逃げろ」
瑞鶴「!!」
金剛「海軍刑法によると敵前逃亡は罪に問われる。だが、ここは提督の城だ。そんなモノは最初から存在しない」
金剛「十秒与える。解体を希望する者は静かに手を上げろ」
金剛「十」
島風(提督の真似ね。なんだか嬉しいかも)
天龍(ちょっとだけ怖いんだよなぁこれ……)
金剛「九」
龍田(天龍ちゃんは提督さんを思い出して怖がってるんでしょうね~)
暁(ああ……司令官はこう言っていたのよね……)
金剛「八」
響(なんだか懐かしいな……今日あった事のはずなのに……)
金剛「七」
雷(金剛さん、よっぽど司令官が好きなのね)
金剛「六」
電(司令官さんは、みんな馬鹿だって言っていましたね)
金剛「五」
川内(提督の真似かー。結構似てるなぁ)
金剛「四」
神通(そうですよね。提督なら、こうしていましたね)
金剛「三」
那珂(はっやくーはっやくー♪)
金剛「ニ」
瑞鶴(あの日、提督さんは私達を見捨てないって言った。だから、私も見捨てない)
金剛「一」
金剛(──提督、待っていて下さい)
金剛「そこまで──。手を下ろしてよい。……………………目を開け」
金剛「……………………」
金剛「……私達は死にたがりの大馬鹿者です。馬鹿ですね、私たち全員」
金剛(提督……ここに居る皆は、提督が大好きですよ)
……………………
…………
……
提督「それで、また縛り付ける訳か」
戦姫「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」ビクビク
提督「私でも捕虜にはこうするから気にするな。……まさか両手足にこんな鉄球を付けられるとは思わなかったが」
提督「しかし……思ったより綺麗だな、この拠点」
戦姫「……できるだけ、提督の鎮守府に近付けたかったんです」
提督「……なるほど。では、ここが提督室か」
戦姫「はい。……こんな感じの部屋で、こんな感じのベッドの上で、提督に一杯愛してもらいました」
提督「…………ちょっと待て。今なんと言った?」
戦姫「? 一杯愛してもらいました」
提督「……あの父が? まさか。暇があれば亡き母をずっと想っていた人だぞ?」
戦姫「ええ……その事はよく憶えています。例え出撃していようと、奥様の写真を片時も離しませんでした」
戦姫「ですから不思議に想いましたけど……寂しかったのでしょうね。よく、私を痛いくらいに抱き締めては泣いておられました」
提督「……想像できん」
戦姫「きっと、私が奥様と似ていたからでしょう」
提督「まったく似ていないんだが」
戦姫「深海棲艦となって姿が変わっていますから……」
提督「……すまん」
戦姫「いえ、気になさらないで下さい。この姿についてはもう諦めました」
戦姫「……こんな姿で申し訳ありませんが、お相手させて頂きます」
提督「待て」
戦姫「はいっ!」ピシッ
戦姫「あ……」
提督「…………」
提督「そんなに急がなくても良いだろう」
戦姫「そうでしょうか? 貴方の気骨は相当強いと思います。だから、早めに行動しようとしているだけですよ」
提督「本丸を攻め落とすにはまず外堀から、という言葉を知らんか?」
戦姫「いえ……聞いた事はありますが……」
提督「目的を達成する為には、まず周辺から片付けていけって事だ。人を手篭めにするのなら、まずは心を開かせれば話が早い」
戦姫「なるほど!」
提督(こんな事を言う時点で不可能だというものだが、それに気付く事もあるまい)
戦姫「それでは、失礼します」モゾモゾ
提督「……呆れた」
戦姫「え……え?」
提督「私とお前はどういう関係だ」
戦姫「……提督のご子息様と、提督の元艦娘ですか?」
提督「違う。立場で言え」
戦姫「…………あ、敵同士」
提督「そうだ。私は海の上でお前の首の骨を折ろうとしただろう。それを忘れたのか」
戦姫「憶えてますよ? それが何か……」
提督「……今度こそ折られるとは思わないのか」
戦姫「特には……。だって、折るだけなら今までいくらでも機会がありましたよね?」
提督「より確実な機会を待っている可能性があろう。虎視眈々とな」
戦姫「私にはそう見えません。目を見れば分かります」
提督「どうだかね」
戦姫「本当です。初めて会った時の貴方の目ではありませんもの」
提督「……どんな目だった」
戦姫「正直、怖かったですね。今と違って目に光が宿っていましたが、その目に明確な殺意が込められていました」
戦姫「……あの目は、知っていますから」
提督「知っている?」
戦姫「はい。私の提督も、最後にあの目をしていました」
提督「……父は、どんな最期だった」
戦姫「私を護ろうとする為、戦艦ル級に掴み掛かりました。貴方と同じように、相手の首を折ろうとしましたが、相手の砲撃の方が一瞬だけ速く、提督と私は一緒に……」
提督「……敵がそんなに接近し、尚且つ父とお前が気付かないとは、どう言う事だ」
戦姫「海の底から浮かんできたんです。恐らく、深海棲艦になったばかりだったのでしょう」
戦姫「提督も私も、満身創痍でしたから満足に動けず……」
提督「……沖ノ島海域最大規模戦闘だったか。味方二百隻弱、敵五百隻強の被害が出た戦闘だったと聞く」
戦姫「正確には味方が六十隻で、敵が六百隻とちょっとです。もうちょっとあるかもしれませんね」
提督「………………なんだと? 味方が六十? そんな馬鹿な」
戦姫「本当です。だって、支援艦隊が来なかったんですから」
提督「支援艦隊が来なかった……?」
戦姫「はい。いきなり通信が受信できなくなって、そのまま囲まれました」
提督「……どうなっている。こちらの資料では向かった支援艦隊もほぼ全て沈んだとあったぞ。来ていたのに気付かなかったんじゃないのか?」
戦姫「それはありません。航空戦隊が最後まで『支援艦隊はまだか』と叫んでいましたから」
提督「……キナ臭いな」
戦姫「し、信じてくれないのですか?」
提督「いや、キナ臭いのは総司令部の事だ」
提督「……戦姫。お前は知りたくないか?」
戦姫「えっと……何をですか?」
提督「支援艦隊が来なかった理由──いや、お前達が殺された理由だ」
戦姫「……殺された?」
提督「支援艦隊が本当に出撃していたのなら、お前の記憶と食い違うはずがない。ならば、意図的に出撃しなかった。そうとしか考えれな────」
戦姫「? どうしました?」
提督「………………戦姫……そのときの支援艦隊、指揮はなんて名前の奴が取っていた?」
戦姫「えっと……──少将と──中将と──中将と……」
戦姫「総指揮に──大将」
提督「────ビンゴだ」
戦姫「え? びんご……? え……?」
提督「そいつらは全員、大将になっている」
提督「総指揮の大将なんて元帥だよ。つい先日死んだがな」
戦姫「……どういう事ですか、それ」
提督「海軍の大将以上は全員黒だと言って良い」
提督「深海棲艦に対抗する為と謳った艦娘建造計画。深海棲艦を基盤とした艦娘の建造計画。解体した艦娘の行方不明」
提督「黒だ黒だと思っていたが、白い所なんて微塵も存在していない……!」
提督「そもそも始まりはどこだ。艦娘が先か? それとも深海棲艦か? 深海棲艦が先ならばどこから生まれた? 艦娘が先ならば本当の目的はなんだ?」
提督「深海棲艦を基盤とした建造計画も良く考えればおかしいじゃないか。一日に深海棲艦は何隻沈んでいる? 艦娘は何隻沈んでいる? 間違いなく深海棲艦の方が沈んでいるはずだ」
提督「解体した艦娘はどこへ行く。人間と変わらなくなるんだ。いきなり消える訳がない。売り飛ばされるのか、それとも何かの実験に使われているのか」
提督「一体どういう事だ、総司令部……!!」
戦姫「……………………」
戦姫(この人が何を言ってるのか良く分かんない……)クスン
……………………
…………
……
瑞鶴「────については、さっきの議論結果で問題ないわね。次の問題だけど、あの敵に対抗するにはどうしたら良いかしら」
金剛「それが一番の問題デス……特にあの南方棲戦姫はモンスターね。私の砲撃が全く効きませんでシタ」
響「……戦艦の砲撃が効かないならば、魚雷しかないのかな」
暁「でも、雷撃距離になる前に砲撃でやられちゃうわよ?」
金剛「本当に困りまシタ……」
瑞鶴「潜水艦があれば、まだ話は別なんでしょうね……」
金剛「無いものねだりは良くないのデース……」
ガチャ──
全員「!!?」
金剛「誰!?」ジャキッ
提督「お前ら……何をしている……」
瑞鶴「提督さん!? ど、どうし──!?」ハッ
ヲ級「?」ヒョコ
バッ──! ジャキジャキジャガジャコンガチャッ──!!
ヲ級「!?」ビクゥ
金剛「提督!! 離れて!!!」
提督「お前ら……」
島風「早く提督こっちに──!!」
提督「セイレツ……」
全員「────ッッッ!!!!!!」ビックゥ
全員「!!!」ピシッ
提督「…………」ツカツカツカ
シャッ──!
提督「砲撃の恐れがあるので、夜、見張りが居ない時に電気を付けるならばカーテンを必ず閉めるようにと言っ
たはず……」
全員「────ッ」ガタガタガタガタ
提督「シニタイノカ?」
全員「ご……ごめんなさい……!」ガタガタガタガタガタガタ
ヲ級「…………!」ガタガタガタ
……………………
…………
……
瑞鶴「あ、あの……」ビクビク
提督「…………」ジッ
瑞鶴「ぴぃっ!?」ビクゥ
提督「……なにかね」
瑞鶴「あ、ぁあの……ど、どどどうして敵艦が……提督さんと……」ビクビクビクビク
ヲ級「!」テテテ
瑞鶴「……はぇ?」
ヲ級「♪」ギュー
全員「…………」
瑞鶴「え、え? どういう事?」アワアワ
ヲ級「♪」スリスリ
金剛(………………瑞鶴は深海棲艦から生まれたからですかネ……?)
提督「……色々と話さなければならない事がある」
……………………。
金剛「はー……深海棲艦にも色々と居るんですネー……」
島風「ホントホント。破壊と殺戮しかしないのかと思ってたけど、そうじゃないのも居るのね」
提督(とりあえず、あの深海棲艦達は提督を欲しがっていた事と、本当に相容れれないか確かめてみるという名目で連れてきたと誤魔化したが、案外上手くいくものだな。これが人徳というものか)
提督「さて、特殊な深海棲艦も居ると分かってもらった所で、もう一人紹介しよう」
響「もう一人連れてきているのかい?」
提督「ああ。ちょっとした事情でドアの向こうで待機してもらっている」ツカツカ
ガチャ──
提督「……………………」
パタン──
金剛「!!!!」
響「ほう」
龍田「あらあら~……」
瑞鶴「…………」
戦姫「……………………」
提督「本日、諸君等と戦った深海棲艦のトップだ」
金剛「っ!」ジャキッ
戦姫「……ナンダ キサマカ」
金剛「よくのうのうとここに来れたものですね」
戦姫「ヨクアレデ イキテイタモノダ」
暁(ちょっとちょっと!? 物凄く怖いんだけどアレ!?)フルフル
電(だ、大丈夫です!! き、き、きっと大丈夫なのです!!)フルフル
金剛「その件についてはどうも。今度は逆の立場ですね」
戦姫「フン ヘイキサエアレバ キサマナド────」
提督「お前ら」
金剛・戦姫「ひっ──!!」ビクゥ
提督「私の城で、私の前で何をするつもりだ」
金剛・戦姫「ご、ごめんなさい……!」ビクビク
川内(あれ……第一印象と全然違う……)
提督「この通り、艦娘に対して根拠の無い恨みを持っているのが深海棲艦らしい。瑞鶴にしがみついている空母は相当な特殊だ」
ヲ級「♪」ギュー
提督「諸君ら艦娘にとって通常の深海棲艦は大変危険という事だけは忘れないように」
戦姫「…………」キッ
金剛「…………」キッ
提督「…………」ジッ
金剛・戦姫「!!!」ビクッ
提督(武装解除させてきて本当に正解だった)
提督「少しの間だが、戦姫と空母をこの鎮守府に置いておく。仲良くは……戦姫にはできないだろうが、そっちの空母にはできるかもしれないだろう。夜も深くなってくる頃だ。接するのは明日からにしてくれ」
提督「では、解散」
……………………
…………
……
雷「──司令官、金剛さん、瑞鶴さん、戦姫さん、空母さん、おやすみなさーい」
──パタン
金剛「……それで、本当はどういう事なんデスか?」
瑞鶴「さっきの説明、隠してる事があるわよね?」
提督「ああ。だが……」チラ
金剛「…………? ああ、大丈夫です。総司令部から殺される覚悟はもうしまシタから」
提督「……瑞鶴」
瑞鶴「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」ガタガタ
提督「次はない」
瑞鶴「ぴゃいっ!」ピシッ
金剛「……それよりも、物凄く羨ましい人が一人いるのですけど」ジッ
ヲ級「すー……すー……」
金剛「どうして提督の膝に座って寝ているんですか」
提督「……懐かれた」
瑞鶴「私はともかく、懐きっぷりが半端じゃないと思うんだけど……」
提督「どうやらこの子達の提督と私が非常に似ているらしい」
金剛「それでもここまで懐きますかね……?」
戦姫「……私とこの子は提督から特に可愛がられていたからだろうな」
瑞鶴「あ、普通に喋れるのね」
戦姫「さっきは艦娘が何人も居たからな。二人……いや一人ならばこの憎しみも抑えれよう」
金剛「やっぱり瑞鶴は私達と違うって分かるのデスか」
戦姫「ただ違うという訳ではなさそうだ。特別な何かを感じる」
瑞鶴「うん、私もよ。他の深海棲艦とは全然違う、落ち着くっていうか安心できるっていうか……そういうのがあるわね」
戦姫「私もだ。……お前があの瑞鶴だったら良いのだがな」
金剛「あの瑞鶴?」
戦姫「さっきも言ったが、私とこの子は特に可愛がられていたが、もう一人居る。この子、翔鶴の妹がな」
提督「それに、瑞鶴を一目見てすぐに懐いた。ここまでくるとそうとしか思えんよ」
瑞鶴「翔鶴姉が、この子……」
戦姫「いや、それでも違うだろう。お前はこの人の瑞鶴なのだろう?」
瑞鶴「そうだけど……私、深海棲艦から建造されてるわよ?」
戦姫「なんだと……?」
金剛「テートク、話していなかったのですか?」
提督「変に先入観を持たせたくなかったからな。もしやと思い、敢えて隠しておいた」
瑞鶴「そっか……なんだか納得したかも」
戦姫「納得?」
瑞鶴「私ね、提督さんに初めて会った時から特別な感情があったの。自分でも不思議に思っていたけど、沈む前の提督が提督さんに似ているなら納得よ」
戦姫「……それでも、やはりおかしいな。私達が沈んだ戦闘に瑞鶴は参加していなかった」
戦姫「極度の体調不良で、一人母港に残っていた。沈むのはありえん。解体されているはずだ」
提督「いや、しっかりと沈んでいるぞ。あの戦闘の話が大きすぎてあまり知られていないようだが、空母一隻が勝手に出撃をし、母港を出た直後に敵に沈められたという記事があった」
提督「その母港がここだ」
金剛「……本当にピタリと一致しますネ」
戦姫「という事は、ここは提督の鎮守府だったのか……」
提督「そうだ。気付くと思っていたのだが、気付かなかったのか」
戦姫「……鎮守府の名前と場所を憶えていないんです。どこの鎮守府も似たような造りですし、私達が居た頃と少し違うので気付きませんでした」
戦姫「そっか……ここが……」
戦姫「しかし……瑞鶴、提督の事や翔鶴の事など、本当に憶えていないのか?」
瑞鶴「うん……。翔鶴姉の事なら少し思い出せるけど、提督の事についてはさっぱり……」
提督「深海棲艦になると記憶などが抜け落ちるように、恐らく深海棲艦から艦娘に戻る時も記憶が抜けてしまうのだろう」
提督「さて、そろそろ本題に入ろう。私が戦姫と話していて新たに分かった事とかな──」
……………………。
金剛「──真っ黒じゃないですか!!」
提督「ああ、真っ黒だ。キャンパスの白地が見えないくらいにな」
瑞鶴「…………」
提督「どうした、瑞鶴」
瑞鶴「あ……ちょっと話題から逸れちゃうんだけど、どうしてあの鎮守府を襲撃したのかなって思って……」
戦姫「襲撃?」
提督「大方、先に手を出したのはクソジジイからだろう。迎撃をするも攻撃し続けてきたので鎮守府を攻撃。といった所ではないか?」
戦姫「そうです。さすがですね」
戦姫「あまり戦力を削ぎたくなかったので相手にしなかったのですが、調子に乗ったのかしつこく攻撃してきたので返り討ちにしました。艦娘を物のように扱うやり方にも腹が立ち、仲間を呼んでその鎮守府も一緒に落としました」
提督「……そういえば、どうして南方からこの鎮守府へ向かってきたんだ? 戦姫が拠点にしている場所は東南東方面だったと思うが」
戦姫「…………羅針盤が壊れていたんです」
提督「…………」
金剛「…………」
瑞鶴「…………」
戦姫「どれだけ進んでもそれらしい場所に辿り着かなかったので羅針盤を調べてみたら……くるくる回りました……」
提督「……………………」
戦姫「あぅ!! そんな哀れみの目で見ないで下さい!!」アウアウ
瑞鶴(この人アホ……?)
金剛(こんなアホに私は……)ズーン…
……………………。
瑞鶴「その黒い総司令部を調べる為にここへ来たのね?」
戦姫「ああ。総司令部を叩き潰す手伝いをすれば私達の提督になるのも考えると言ってくださったのでな」
金剛(考える、ね。考えるだけで、なるとは言っていないのに気付いているのでショウか……。それとも、テートクは艦娘と深海棲艦、両方の提督にでも?)
提督「そういう事だ。勝手に決めてすまない」
金剛「ノー、謝らないでくだサーイ! 私はテートクについていきますネー」
瑞鶴「私もよ。提督さんについていくわ。……それに、総司令部の事も気になるしね」
提督「話は纏まったな。もうこんな時間だ。寝るとしよう」
金剛・瑞鶴・戦姫「はいっ」
戦姫「貴方のベッドはあちらで宜しいのですよね?」
金剛「待ちなさい。何をする気ですか」
戦姫「一緒に寝るだけだが、何か?」
瑞鶴「!?」
金剛「提督は渡しません。空き部屋がありますのでそっちを使って下さい」
戦姫「私の提督になってもらう為にも、私はこの人を篭絡しないといけない」
金剛「か、身体で奪う気ですか!? だからそんな格好で提督を誘惑しているのですか!!」
戦姫「いや……これは、服がもう無くてな…………。それに、なぜか服を着るとその瞬間、服が消えてしまうんだ……」
瑞鶴「うわぁ……なんだか一気に不憫になったわ……」
戦姫「いつもこうしていたら流石に慣れたさ」
提督「……それはそれで問題がないか?」
戦姫「気持ちの切り替えです。性行為をする時に裸を見られるのは流石に恥ずかしいですよ?」
金剛「やっぱりヤる気じゃないですか!!!」
戦姫「せんよ。本丸を落とすなら外堀からだ」
提督(しっかりとは憶えれてないんだな)
金剛「……信用できません。提督!! 私も一緒に寝ます!」
戦姫「寝惚けてお前を殺すかもしれんぞ」
提督「そんな事をしたらどうなるか分かっているだろうな」
戦姫「ぴぃっ!!! ごめんなさい!!」ビクゥ
提督「それに、風紀的に問題があるだろう。許可などできん」
金剛「既に私、提督と二回寝ているんですけど?」
瑞鶴「私も一回──って、二回ですって!?」
金剛「はい♪ 一回分、私の勝ちネ!」
瑞鶴「提督さん……ズルいよぉ……!」
ヲ級「~~~……」
提督「静かにしろ。起きる──ん?」
金剛・瑞鶴・戦姫「…………」ジー
提督「…………」
金剛・瑞鶴・戦姫「…………」ジー
提督「…………分かった、一緒に寝よう。狭いのは文句言うなよ」
……………………。
瑞鶴「提督さんを真ん中にして、私達の寝る場所は左右とあとは……」
戦姫「……上?」
金剛「譲りません」
瑞鶴「私もよ」
提督「却下だ馬鹿者。左右二人ずつだ」
瑞鶴「金剛さんと戦姫さんは一緒じゃない方が良いわよね。なんだか色々と危なそうだし」
金剛「そうね」
戦姫「私も、下手したら殺しかねないからそれでお願いしたい」
提督「さらっと物騒な事を言うな」
瑞鶴「あと……私、提督さんと戦姫さんの間が良いなぁ……」
戦姫「間? どうしてだ?」
瑞鶴「なんだか、お父さんとお母さんみたいで……。お父さんとはなんだかまた違うと思うんだけど……」
戦姫「それは良いな。私も賛成だ」
提督「あとは金剛とヲ級だな」
ヲ級「すー……」
金剛「私は端っこが良いです」
瑞鶴「あら、意外ね?」
提督(嫌な予感しかしないな)
金剛「だってー、提督との子供みたいじゃないですかー」
提督「…………」
瑞鶴「くっ……!!」
金剛「ふふーん♪」
提督「仲良くしなかったら全員追い出す」
金剛・瑞鶴「仲良くしますっ」
金剛「それでは、私は備蓄倉庫から毛布を取ってきますね」
提督(予備の毛布を少し多めに申請しておいて良かったよ)
……………………。
金剛「それでは、電気を消しますねー。………………よいしょ」モゾモゾ
提督「ギリギリだが、思ったよりは大丈夫みたいだな」
金剛「ですねー。私も落ちる心配はしなくて良いみたいね」
金剛「……それにしても、こうしてみると家族みたいです」
提督(また嫌な予感が)
瑞鶴「本当ね。……でも、この場合誰が提督さんの奥さんになるの?」
提督「……………………」
戦姫「まず、内側の人は子供だな」
瑞鶴「……悔しいけどその通りだと思うわ」
金剛「それじゃあ、私と戦姫、どっちがお嫁さんなのですか?」
提督「…………まさかとは思うが、それは私に聞いているのか」
金剛「はい。提督じゃないと決着が付きそうにないでーす」
提督「……面倒だ。両方で良いじゃないか」
金剛「ここは日本でーす。一夫多妻制は認められていませんよー?」
提督「ここは私の城だ。そんなもの知らん」
瑞鶴「大胆ね……提督さん」
戦姫「どっちが第一夫人なのですか?」
金剛「どっちですか提督?」
瑞鶴「私……第三夫人でも良いわよ?」
提督「よっぽど外で寝たいらしい」
金剛・瑞鶴・戦姫「おやすみなさい」
提督「よろしい。おやすみ」
──モゾ。
瑞鶴「…………」
提督「?」
瑞鶴「────」チュ
提督「……………………」
瑞鶴(おやすみのキス……。今度こそおやすみ、提督さん)コソッ
提督「…………」
提督(……本当、金剛と瑞鶴をどうしたら良いのか…………)
……………………
…………
……
提督「総司令部の大将宛に電報を送った。明日には全員この鎮守府へ来るだろう」
金剛「全員を集めてどうするのデスか?」
提督「奴等の目論見を全て聞き出す為に信用を得る」
金剛「だから戦姫とヲ級を連れて来たのデスね」
提督「ああ」
戦姫(どういう事だろう……)
瑞鶴「えっと……いまいち分からないんだけど、どういう事なの?」
提督「深海棲艦とは会話どころか意思疎通もできていない、というのが現状だ」
提督「だが、私は既に瑞鶴という深海棲艦を基盤に造られた艦娘を所有している。そこに深海棲艦を従えている所を見せたらどうなる」
瑞鶴「えっと……自分達の知らない、深海棲艦の秘密を知っていると思われる?」
提督「そう。奴等の本当の目的は何かは知らないが、瑞鶴のような強力な艦娘を造ろうとしているのは事実。それを餌にする」
瑞鶴「でも、戦姫さんと翔鶴姉を連れて行っても、信用させるのには弱いんじゃない? 深海棲艦が提督さんに従うハッキリとした理由がないと……」
提督「深海棲艦も艦娘に戻りたがってるとでも言おう。戦姫はこの通り会話ができる。深海棲艦側の圧倒的勝利を目前に瑞鶴を見た戦姫が対話を希望し、そこで協力関係となったとしておこう」
提督「本当は金剛が戦ったが、そこは瑞鶴が戦ったという事にする。三人共、良いな?」
金剛・瑞鶴・戦姫「はいっ」
提督「念の為に、口裏合わせで他の艦娘達にも『戦姫と戦ったのは瑞鶴だった』と言うようにしておく。これでまずバレないだろう」
提督「作戦は以上。各自自由にして良い」
……………………
…………
……
提督「戦姫、聞きたい事がある」
戦姫「はい、なんでしょうか?」
提督「私達と戦った時、こちらの戦艦よりも長い射程で撃ってきたよな。あれはどういう事だ?」
戦姫「私の装備は46センチ砲です。見た所、あの艦娘の主砲は35.6センチ砲。私の射程より短くて当たり前でしょうね」
提督「46センチ……なんだその馬鹿げた数字は。16インチ砲と呼ばれているものでも40センチ程度だぞ」
戦姫「極秘……とまでは言いませんが、ほとんど知られていないでしょうね。この砲のおかげで戦艦のアウトレンジから砲撃が可能です」
提督「ふむ……開発妖精に頼んでみるか」
戦姫「……それよりも、どうしてあなたの艦娘達は装備が充実していないのですか? どれも良い装備とは言えなかったのですけれど……」
提督「天が私に微笑んでくれていないだけだ。あと、各資材の適切な投入量も分からないので試行錯誤というのもある。ついでに資材が乏しくて回数を重ねる事もできないのが現状だ」
戦姫「あ、それでしたら──」
……………………。
開発妖精「ヒャッホォーウ!! また良いのが出来たよー! 今度は46センチ三連装砲だ!!」
金剛「……凄いデスねこのレシピメモ」
提督「ああ。今までの失敗が嘘のようだ」
戦姫「全ての配分を憶えている訳ではないのですが、お役に立てたようで何よりですっ」
提督「うむ。感謝する」ナデナデ
戦姫「あ……」
金剛「!」
提督「む。嫌だったか」スッ
戦姫「いえ! もっとお願いします!!」
提督「ふむ」ナデナデ
戦姫「はにゃー……提督みたい……」
提督「父も同じように?」ナデナデ
戦姫「はいー……。こうされるのがとても好きでしたー……」
提督(……蛙の子は蛙というものか。本当に似ているのだな、父と私は)
開発妖精「おぉっほぉー!! 32号対水上電探がきたああああ!!!!」
提督「…………素晴らしい」ナデナデ
戦姫「はぅー……」ホッコリ
金剛(ぅー……羨ましいです……──っと、そろそろ資材が危ないですね)
……………………
…………
……
天龍「~~~~」フルフル
龍田「もー、天龍ちゃんったら~。まだ嬉し泣きしているのかしら~?」
天龍「う、うっせぇ……ずびっ…………本気で心配しらんだからな……」
龍田「はい、天龍ちゃん、ちーん」
川内「私も嬉し泣きとかしそうだったけど、天龍の姿を見たら涙が引っ込んだよ」
神通「くすくす。代わりに泣いてくれているみたいですね」
那珂「那珂ちゃんも、提督が帰ってきてくれて嬉しいよーっ」
龍田「そうよね~。私も提督さんが帰ってきてくれて嬉しいわ~」
龍田「私を屈服させる人なんて、居なかったもの~」
川内「……龍田って人を尻に敷くタイプだよね」
龍田「提督さん以外の男性は肌に触れる事すらできないわよ~。触れる前に落ちちゃうもの」
川内「……何が落ちるのかは聞かない事にしておくよ」
那珂「たった一人の男の人にだけ肌を許すって、なんだか純愛だねー」
龍田「提督さんが望むなら、私はなんでもしちゃうかも。それが秘密の夜伽でも」
那珂「わお、爆弾発言! 那珂ちゃんだったらスキャンダルだー!」
龍田「身の程を弁えなさい?」
那珂「……はい」ビクッ
……………………
…………
……
島風「うー……」ゴロゴロ
暁「どうしたのよ。服が乱れるからやめなさい、はしたない」
島風「だってー……。なんだか提督と一緒に居られないんだもん……」
響「行ったら良いじゃないか。側に居たいんだろう?」
島風「いーきーにーくーいー。金剛さんと瑞鶴さんに加えて、あの戦姫とヲ級ちゃんが居るんだよ? ヲ級ちゃんも提督と瑞鶴以外は苦手みたいだし……。戦姫は論外。怖い」
電「私も、戦姫さんは苦手です……。必死に抑えてくれているのは分かるのですが、迷惑を掛けてしまってるような気がするのです……」
雷「私は『エロいわね』って言ったら追いかけられちゃった。ちょっと楽しかったわ」
島風「私だったら口が裂けても言えないよ……」
響「それだったら我慢をするしかないだろう? 想いが強ければ割と耐えられるものさ」
島風「なんだかそれ、響が提督に恋をしてるみたい」
響「恋ではない。親に対する好きと同じさ。差し詰め、お父さんといった所か」
雷「だから最近の響は提督の口調とちょっとだけ似てるのね! 納得したわ!」
響「ん……元から近かったというのもあるけれど、違和感があったのなら戻すよ」
電「どっちも響ちゃんに似合ってるのです。響ちゃんが可愛いのには変わらないのです」
暁「……司令官の口調を真似してたから、最近の響はちょっとだけ大人に見えたのかしら」
島風「暁が真似しても似合わないと思うなー」
暁「なっ!」
雷「私も似合わないと思うわ」
響「私もだよ」
暁「う、ぅ……」チラッ
電「え、えっと……ごめんなさい……暁ちゃんは今のままの方が可愛いかなぁ……」
暁「うわぁああん!!」
……………………
…………
……
コンコン──コン──。
提督「入れ」
ガチャ──パタン
瑞鶴「……提督さん」
提督「何があった。総司令部がなにかしらの方法で接触してきたのか?」
瑞鶴「え? ううん。違うわよ?」
提督「……なら、なぜノックを二回と一回に分けた」
瑞鶴「あっ! ご、ごめんなさい……。最近、このノックばかりだったから……」
提督「……まあ良い。何か話したい事があるのだろう。言ってみろ」
瑞鶴「ん、とね……。これ……」スッ
提督「……その小瓶」
瑞鶴「うん……提督さんから貰ったヤツ」
提督「その事についてだが、明日、訪問する大将共に交渉する。功績をあげているんだ。このくらい許可してくれるだろう」
瑞鶴「それなんだけどね……。ちょっと、思う事があったの」
提督「思うところ?」
瑞鶴「……私が前の艦娘の時、提督さんのお父さんが提督で、私はその人に似ている提督さんに惹かれて好きになった……。そう思っちゃったの」
提督「…………」
瑞鶴「でも、私はそうじゃないと思う。……そう思いたいの。だから、それを振り払う為にこれを持ってきたの」
瑞鶴「私は……私は、前の提督がどうこうじゃなくて、私個人が提督さんが好きなんだって思わせてほしい」
瑞鶴「だから……お願い。不安で潰れちゃいそうだから……」
提督「……………………」
瑞鶴「あっ、も、勿論……提督さんの意思に任せるわ。提督さんが言ってくれたように、私も無理矢理は嫌だから」
提督「……分かった。分かったからそう思い詰めた顔をするな。悪い事をした気分になる」
瑞鶴「──ありがとう! それじゃあ、ちょっと待っててね」
ガチャ──
提督(……待ってて?)
──パタン
金剛「は、はぁい提督……」
提督「……そうか。二人を相手にしろという事か」
瑞鶴「ご、ごめんなさい。無理だったらそう言って良いから……」
提督「まったく……瑞鶴だけでなく金剛、お前もか」
金剛「だって……提督の愛が欲しいですもん……」
金剛「キスをしてくれてから、私はおかしいんです……。側に居てくれるだけで良い、側に置いてくれているだけで良い──。そう思っていたはずなのに、あのキスから私は狂いました」
金剛「提督の側に居るだけじゃ満足できなくなりました……。一緒のベッドで眠ってもまだ足りませんでした……。もっと、もっともっと提督に近付きたくなりました……」
金剛「提督……私、どうにかなってしまいそうです……だから、助けてください……」
提督「そんな消えそうな声で言ってくれるな。不安に思わなくて良い」
金剛「────! あはっ。ありがとう、提督──」
提督「それにしても、どうして二人は一緒になってきたんだ? 出し抜けばそれだけリードできていただろう」
瑞鶴「私が話を持ち掛けたの。確かにそれも思ったんだけど……提督さんが好きな気持ちは同じで、金剛さんなんて私よりもずっと頑張ってるって思ったの。だったら一緒に──って」
金剛「…………」コクン
提督「……なるほど、分かった」
提督「──二人一緒に愛するから、電気を消してきなさい」
金剛・瑞鶴「はいっ──!」
……………………
…………
……
パチン──、という音と共に、部屋が真っ暗になった。
いや、完全な闇というわけではない。ベッドの脇に置いてある燭台に火が灯った。真っ暗ではいけないと思って提督が点けたのだろう。
金属テールの上に乗った皿に、短い蝋燭の火が曖昧にゆらゆらと揺れている。その火を見ると、私の心も、身体も、なんだか曖昧になった気分がした。
隣に立っている瑞鶴と目が合う。彼女が小さく顎を引いたのを見て、私も意を決して足を進めた。
提督はベッドに座っていて、私と瑞鶴を静かに待っている。その表情は、仕事で見せる厳しい顔付きでもなく、時折見せる優しい表情よりも、柔らかく温かみのある顔をしていた。
私は提督の左に、瑞鶴は右に座った。
瑞鶴は身体を提督に寄せたが、私は恥ずかしくて拳一つ分の隙間を空けて座っていた。
(あ……瑞鶴、頭を撫でてもらってる……)
私よりも一歩先に進んでいる瑞鶴は、提督に頭を優しく撫でられていた。
その彼女の顔はとても幸せそうで、そんな彼女を撫でる提督もまた、幸せそうに見えた。
私もしてもらいたい……。けど、勇気が出ない。
こういう時に限って、本当の私が前に出てくる。とても弱く、そして臆病な私が。
普段は気丈に振舞っているくせに、どうしてこの時に弱くなってしまうのか、自分で自分が情けなくなった。
「ひゃ……」
そう思っていると、急に提督は私の肩を抱いて引き寄せた。
……この察しの良い提督の事だ。きっと私が何を考えていたのか想像できたのだろう。
触れている身体が、優しく撫でてくれる手が、私のさっきの気持ちを溶かしていく。
それでも私は弱いままだ。いや、この弱い私こそが本当の私だ。
そんな私を、提督は真っ直ぐ見てくれた。真っ直ぐ向かい合ってくれた。
だから私は素を出せる。甘えれる。そして、求めてしまう。
「提督さん……」
か細い声で、瑞鶴は提督の名を口にした。
少し下から覗き込むようにして、提督の目と唇を交互に見ている。
私から見ても分かるほど明確なおねだりだった。
するり、と提督の手が私から離れ、瑞鶴の顔へと触れる。
「ん……」
少しくぐもった声。閉じた二人の瞼。触れ合っている唇──。二人のキスを見て、少しだけ嫉妬した。
寂しいけれど、ここは我慢をするべきだろう。瑞鶴が先に行動を起こしたのだ。先にしてもらう権利は瑞鶴にある。
「ぁ……は、あ」
瑞鶴の艶めかしい声が、室内に広がる。
この薄暗い中でも分かるくらいに彼女は紅潮させていた。
「ん、ふ……ぁ…………んん……」
ジクジクと胸が痛み、脈拍が速くなる。
私がキスをしてもらった時、瑞鶴は今の私と同じ気持ちだったのだろうか。嫉妬と羨望と羞恥と期待が混ざり合い、ぐちゃぐちゃになって訳が分からない、この気持ちと……。
そう思ったら、少しだけ罪悪感が胸に刺さった。
「ん…………」
二人の唇が離れる。
その離れた唇の間には、私の時と同じように銀の橋が出来上がっていた。
なるほど。雷が言っていた意味が良く分かる。これはエロい。
提督が先に目を開いた。その数瞬後、瑞鶴も同じように開く。
その瑞鶴の瞳は潤っており、今にも溶け出しそうな程トロけ、息は荒くなっていた。
そんな状態の瑞鶴の頬を一撫ですると、提督はこっちへ振り向いた。
「金剛」
いつもとは違う、とてもとても優しく甘い声。
その声に、胸を絞られたかのように息苦しくなった。
ドキドキする。上手く息ができない。
私の肺は酸素を求め、少しだけ速く、浅く呼吸を繰り返した。
「大人しく待っていたから、ご褒美」
「え──きゃっ」
そう言うが早いか、私の手首を掴み、背中に腕を回すと、そのまま押し倒してきた。
「んっ──んんっ」
片腕は軽く押さえつけられ、背が少しだけ反るように持ち上げられ、そして口を塞がれた。
これはダメッ──前の比じゃない──!
無理矢理だけど、無理矢理でない、荒々しい甘いキス。
「んっ! んぅっ! ぁ──っは!」
口の中を蹂躙するように提督の舌は私の舌を貪り、口内を犯す。
強引なのに、とても優しく、愛がある。
まるで飴を与えられながら鞭で叩かれているような感覚。その感覚に、私の頭は一瞬でトロけてしまった。
「あ……ぁ…………ふ、ぁ……っ」
だらしなく口を開け、提督が蹂躙してくれるのを受け入れ続ける。それが、堪らなく気持ちが良い──。
不意に、口を離された。何の前触れもなく、パッタリと。
一気に訪れる虚無感。胸がキリキリと痛んだ。
「ん……ダメ、もっと……もっとぉ……」
だから、ねだった。だらしなく口を開けたまま、提督に唇を、歯を、舌を、口内の全てが犯されるのを待った。
それに応えてくれたのか、提督は優しく微笑んで柔らかく口を付けてきた。
今度のキスは、さっきよりも優しかった。
手の拘束は解かれ、その手は私の頬へ添え、浮かせられていた身体はふかふかのベッドへ下ろされた。
胸が温かい気持ちで一杯になるキス。
舌でお互いの口内を撫で、愛を分かち合っているようだった。
「ん……」
だんだんと触れ合う回数も減り、最後は唇で触れ合うだけになった所で、また口が離れていった。
けれど、さっきとは違って満足な終わり方だ。幸せな気持ちが溢れている。
ふと、瑞鶴の方へ顔を向けてみると、彼女は俯き、手の中の小瓶を弄んでいた。
その姿は、無視をされた子犬のようにも見える。
「大人しく……待ってたんだからね……?」
弱々しくそう言うと、小瓶を開けて口に含んだ。
「…………っ」
苦かったのだろう。少し顔を引き攣らせると、チラリと私へ目配せしてきた。
中身は何か知っている。これと同じものを彼女から貰い、そして説明をしてもらった。
それを飲み込む様子を見せず、瑞鶴は提督へ無理矢理キスをした。
提督は少し驚いた顔をしたが、すぐに受け入れ、ほとんど舌を絡ませるだけの口付けを続けた。
その意図に、すぐに気付く。
彼女はこの媚薬を、口移しで提督に分けているのだ。
「んく……っ」
ほんの数秒の口移しの後、彼女は口の中の液体を飲み込んだようだ。
提督が私の方へ向き、顔を近付けてくる。
提督の意図を理解し、私は舌を少し出した。
──我慢はできない程ではないが、確かにそれは苦かった。
まるで粘膜に刷り込むよう、念入りに舌を絡ませてきた。
媚薬と、提督と私の混ざった液体が口の中に溜まった頃、私はその液体を飲み込んだ。
効果はすぐに現れた。
身体が熱いほど火照り、下半身──特に子宮辺りにドス黒い何かが溜まっていくのが分かった。
性欲で身体が震え、息が荒くなる。
それは瑞鶴も一緒のようで、必死に堪えるように身体を強張らせていた。
あまり感情を出さない提督も、今回ばかりはそうもいかなかったようだ。
少しばかり顔を引き攣らせ、私や瑞鶴と同じように息が荒くなっていた。
「ん……」
提督を欲しがる身体をなんとか抑え付け、瑞鶴の隣に座り、一緒に仰向けで倒れた。
「てぇとくぅ……」
自分でもびっくりするくらいの甘い声──。
その声に反応したのか、提督は私たちに覆い被さってきた。
「────ぁっ」
「んっ!」
最初はお腹だった。気を遣っているのか、服の上から臍の辺りを優しく撫で回している。
けれど、それも長くは続かなかった。
手はだんだんと上に登っていき、胸へと辿り着く。
「ぁ、ぅ……!」
「ひっ、ん──っ」
私は脇の隙間から、瑞鶴はY字となった服の隙間から手を入れられ、ゆっくりと胸を愛撫してくれた。
「んっ……ぁ、っ──んん……」
サラシは巻いてきていないので、提督の手が直接触れる。
触られた箇所がビリビリする。円を描いて胸全体に指を這わされ、ゾクゾクした。
「ぁ……ひゃんっ! アッ!」
瑞鶴は敏感なのか、既に大きく喘ぎ始めていた。
「は、ァ──ッ! ひんっ、あぁっ! や、やぁぁ……ひっ、乳首……やぁ──あっ!」
「ん……ぅ! ず、るいです……はぁ──、わた、しも……あぅ!?」
瑞鶴がさっきから攻められているように、私も乳首を攻められた。
コリコリに硬くなっているのが自分でも分かる。
触れられると身体が震え、なぞられると声が我慢できなくなって、摘ままれると大きく喘いだ。
その間もお腹の奥にあるドス黒い何かは大きくなっていき、アソコに力を加えたり緩めたりしていた。
──たっぷりと胸を愛撫され、私達は息も絶え絶えとなっていた。
「瑞鶴、涎」
「や、やぁあ……止めないでぇ……言わないでぇ……」
「金剛、涙」
「てぇとく……もっとぉ……もっと、くださいぃ……」
気持ちが良くて、頭の中はトロトロになっている。
まともな思考など既になく、ただ快楽が欲しいとばかり思っていた。
──ちゅくっ……。
「ん……っ」
「ぁ…………」
重く、粘度の高い音が頭に響いた。
鳴った場所は二箇所。私と、瑞鶴の股からだ。
「ぐしょぐしょだな。触るだけでべっとりだ」
そう言って、手を私達に見せてきた。
提督の手は私達の愛液で塗れ、蝋燭の光でぬらぬらと光っていた。
それを、私はボーっと眺めていた。
……あそこまで濡れているのなら、もう準備は出来ているだろう。
「てぇとく……ほしい、です……」
なんとか声を振り絞る。
「わたしに、てぇとくを……てぇとくの、ください……」
我慢なんて、できなかった。
「……ほぐしていないぞ」
「いいからぁ……いいですからぁ……!」
欲しくて欲しくて、堪らない。
異物が身体に侵入してくる怖さはある。けれど、それ以上に提督の肉棒が欲しかった。
「…………分かった」
「あんっ」
抱き起こされ、提督は仰向けになり、腰の上に座らされた。
「自分で挿れるんだ」
「そ、そんなぁ……」
トロけた頭でも、物凄く恥ずかしかった。
それでも──。
「ゆっくり……ゆっくり挿れなさい」
「はぁ、い……」
私は欲しかった。
提督のズボンを下ろし、男根を取り出す。
「あ……」
硬く、そして強い弾力を持った、大きく太い肉の棒──。
軽く匂いを嗅いでみると、男の人の匂いが強くした。
初めて、男の人の性器を見た。
初めて、男の人の性器を嗅いだ。
──それが、提督で本当に良かった。
「やだぁ……ていとくさん……わたしもぉ…………」
提督に跨る形となった時、瑞鶴も私と同じようにおねだりをした。
「指で我慢できるよな?」
「できるっ……できるから、あとでちょうだい……っ!」
そのやりとりを無視し、私は目を瞑って、膣口へ提督の肉棒を添えた。
「んっ……」
熱い。
提督の大事な熱いモノが、私の大事な部分に触れている。
これから私の純潔を提督に捧げる──。そう思うと、とても嬉しく思った。
「ん、ん……っ」
身体に力は入れていない。いや、入らない。
だから精一杯、自分の腰をなんとか浮かせていた。
ハジメテは痛いと聞いたので、ゆっくり、ゆっくりと、提督の肉棒を私の膣内へ沈みこませる。
入り口はすんなりと通ったが、すぐに何かに阻まれてしまった。
「ていとく……分かりますか……? はぁ……。これが、わたしの…………処女膜、です……んっ」
これを破ると、痛く、そして血が出ると聞いている。
でも、それでも、それは私にとって、嬉しいと思えた。
「ぁ……あ、ぁぁ…………」
ゆっくりと、じっくりと、提督の肉棒の形を覚えながら腰を下ろしていった。
「あ、ぐ……ひ、ぁ……ぁっ、ん……!」
少しだけ、痛みが走る。
それに驚いて、少しだけ腰を引かせてしまった。
「は、ぁ……はぁ……ん、んんっ……!」
痛いけれど、肉欲と純潔を捧げたい気持ちには敵わない。
私は、再び体重を掛けた。
「ぅ──く……んっ、ぁ……!!」
ズルリと、いきなりスムーズに膣の奥へと肉棒が滑り込んだ。
「ぁ……あぁ…………あー……っぁ」
そこからは速かった。
背筋がゾクゾクしながら、私は腰を提督の腰へ下ろしていった。
「ん……ぁ、ゃんっ!」
完全に腰を落とした時、トン、と何かが奥の壁に当たった気がした。
「はぁー……は、ぁ……全部、入り、ました……んっ……」
嬉しい。心の底から嬉しい。
提督の熱さがお腹の底で感じる。
子宮辺りに溜まっていたドス黒い何かが、満足したかのようにスゥーっと消えていった。
「痛く、なかったです……けど…………んっ」
自然と、腰が動いた。
「あ……は、んんっ──きもち、はぁ……っ……いいで、す……っ!」
少しだけ腰を浮かせ、ゆっくりと下ろす──。
提督の肉棒の形を、身体で、頭で覚えながら、ゆっくりと動かした。
「あぁ……ぁ…………ん、ふ、ぅ──っあ……」
傘の部分が、私の膣壁を抉っていく。
ズルズルと引き抜き、呑み込むように奥へ誘うと、甘い電気が全身を駆け巡った。
にちゃり、にちゃりと粘っこい水の音が部屋に響く。
「っ──あ、はぁ……! ひ、っぁあ、あっ!」
その水音の鳴る間隔は、だんだん速く、大きくなっていった。
ギリギリまで引き抜く時、背骨から頭の芯へ電気が走っていく。
子宮口と亀頭がキスする時、お腹の底にズンと深い快楽が溜まっていく。
「あっ、はぁ、んっく──ゃあ、あっ! はぁ、ぁあぁぁ!」
単調に、ただ単調に腰を振る。
膣壁のいたる所が抉られ、穿たれ、擦られる──。
それが、堪らなく気持ち良い。
「あ、ぅ……!」
初めての深い気持ち良さに疲れ、身体が倒れこんでしまった。
それでも、ゆっくりと腰が動き続ける。
「あぁ……あっ、はぁ……っ!」
さっきまでとは違った場所が刺激され、身体が震えた。
「──あくっ!?」
突如、深く強く、肉棒が私の奥を襲った。
「すまん、金剛……もう、我慢できない」
「あっ、はぁ! やぁ、あっ! ──ひ、ぐ、ぅぁっ!」
提督が、腰を激しく動かし始めた。
ゾリゾリと膣壁が削られる。
電気が身体中を駆け巡る。
子宮が壊れてしまうんじゃないかってくらい、提督の肉棒は激しく暴れまわった。
「ま……って! あぁ! やっ! はっ──あん! こ、怖い! なにか、くるよぉ!」
頭の奥で、何かが膨らんでいく気がした。
どこからともなく来るそれが、とても怖かった。
その怖いのから逃げる為、私は提督にしがみ付いた。
「て、とく──あぐっ! てっ! と……っい──くっ! ていと、くッ!」
頭の奥で膨らんでいる何かは、もう限界ではち切れそうだった。
提督の肉棒もまた、ビクビクと脈動して膨らんでいく。
全身に力を入れ、必死に提督を呼び続け、私は提督に助けを求め──。
「くっ……!」
「ア──────ッッ!! ひ、ぁあああぁぁあッッッッ!!!!」
膣の奥で、熱い液体が撒き散らされると同時にソレは、パチンと弾け飛んだ。
「あ、アアっ! ひ、あぁあ! あ、はぁああっっ!!」
中身が津波のように私に襲い掛かり、その間はずっと、全身に電気が流れ続けていた。
目の前がパシパシする──。
瞑っているはずなのに白くフラッシュする。
──やがて波はゆっくりと引いていき、小さな波が私の身体を痙攣させていた。
頭の中が真っ白だ──。何も考えれない──。
自分は荒々しい息をしていると気付いたのは、それからどれくらい経った後なのか分からない。
けれど、ハッキリと分かった事が一つ。
「ていとく……すごく……きもちよかった、です……」
あれが、イったというものなのだろう。
「ん…………っ」
膣からズルリと肉棒が引き抜かれる。
「あ……や、やだ! 何か垂れてきてます……!」
股間から何かが垂れてきそうな感覚に慌て、お漏らしをしてしまったのかと思った。
けど──。
「あ……これって……」
それは、白くドロドロとした液体──提督の、子種だった。
「あはっ……。嬉しい……」
目を瞑り、お腹をさする。
──熱い、提督の子種を感じた気がした。
「金剛、さん……」
隣で、切ない声が聴こえてきた。
「はやく……はぁ……わたし、にもぉ……」
瑞鶴が、甘ったるい声で身体を震わせていた。
きっと、ずっと我慢していたのだろう。
「──はい。次は瑞鶴の番です」
まだこの余韻を楽しんでいたかったけど、仕方が無い。
私は満足したのだ。次は瑞鶴が満足をする番だろう。
……………………────────。
「ぁっ──はぁ……! ひ、っかは、あっ!」
「わぁ……」
瑞鶴は、物凄かった。
腰を上下前後に激しく振り、喘ぎ声も悲鳴に近いものだ。
私よりも身体が少しだけ小さいのに肉棒は根元まで咥え込み、それを悦んでいる。
見ているこっちが恥ずかしい。
けれど……自分も同じだったのだろうかと思うと、嬉しくなった。
あれだけ周りが気にならなくなるほど、気持ち良かったのだろう。
それだけ、提督と一つになれたのだろう。
「ん──っ!! い、あッ──、あぁああっっっ!!! ────────ッッ!!!」
「すごい……」
声になっていない声をあげ、瑞鶴はイった。
痛いんじゃないかってくらいに背を反らせ、提督の子種が入っている袋に瑞鶴の大事な部分が触れるほど深く挿し込まれている。
ビクビクと二人が痙攣する度に、提督の子種が瑞鶴の奥深くに放たれているのが良く分かる。
「わ、私もこうだったのでしょうか……」
恥ずかしいけれど、凝視してしまう。
やがて二人の痙攣が終わると、瑞鶴は提督へ倒れた。
二人共、肩で息をしている。それだけ疲れても気持ちが良いから止められない。
それは、私も良く分かっていた。
行為を終えた二人へ四つん這いのまま這い寄って、そして、提督の隣で寝転がった。
「提督……とても気持ち良かったです……」
瑞鶴の頭を撫でつつ、提督はこっちへ微笑んでくれた。
……私もああやって撫でてもらえたのだろうか。
イった直後は何もかも分からなくなっていたので、実感が沸かない。
…………明日、瑞鶴に聞いてみよう。恥ずかしいけど。
そして──私達は裸のまま、提督を抱き合って眠りに就いた。
とても幸せな気持ちをそのままに、幸せのまま、私達は意識を落とした──。
……………………
…………
……
続き
金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」 #03



ら抜き言葉が気になってまうwww