先頭: ほむら「キュゥべえをレイプしたらソウルジェムが浄化された」#01
前回: ほむら「キュゥべえをレイプしたらソウルジェムが浄化された」#03
ほむら「スレタイ若干修正入ったわよ。とりあえず注意書きね」
バカエロ
生える
誰てめぇ
激しい厨二←new!
ほむら「あーあ本性出ちゃってるわよこの>>1……」
ほむら「あ、あと……もうそろそろこれかしらね」ホムッ
オリ展開
オリ解釈
前スレhttp://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/1306507584/l20
ほむら「『キュゥべえをレイプしたらソウルジェムが浄化された』、通称キュベレイ。予想外の2スレ目をお送りするわ」ファッサァ
――――恋に恋い焦がれる者。愛を愛する者。
キリカ「あ、この服良いなぁ」ワー
さやか「呑気にショッピングねぇ……」ハァ
キリカ「恩人はさ」
さやか「ん?」
キリカ「その身体が気に入らないのかい?」
さやか「……当たり前じゃん」
キリカ「何故かな?キミは愛する人の為に祈りを捧げたんだろう。誇りこそすれ、僻む事はないよ」
さやか「――アンタみたいなイカれた考えを持ってる訳じゃない!」
キリカ「恩人、店の迷惑だ。トーンを下げろ」
さやか「あ……うん」
キリカ「それにしても……なかなか面白い事を言うんだね」
キリカ「愛は狂気だよ。イカれてなけりゃ、愛する事なんて出来ない」
キリカ「私は身体全てがすっかり織莉子でイカれてしまっているさ」
さやか「…………」
キリカ「恩人は何と言うか、蛮勇だね」
キリカ「やる事は大胆だけれど……覚悟が足りないんじゃないかな」
キリカ「それを人は愚か者と呼ぶんだ」
さやか「……くっ」
――――一人、さやか
さやか「……」トボトボ
キリカ『織莉子だ!織莉子ぉー!』タタタッ、ガバッ
織莉子『あら、キリカ……に、美樹さやか?』
キリカ『恩人、今日はつれ回してすまなかったね。楽しかったよ、またね』
キリカ『さぁ行こう織莉子。キミに似合いそうな服を調達したんだ』
織莉子『あら、楽しみだわ』
さやか「……勝手だ。学校サボってるんだけどなぁ、アタシ」
さやか「……アイツは本当に織莉子を大切に思ってる」
さやか「アタシにとっての織莉子は、恭介……になるのかな」
さやか「こんなアタシの、唯一の支えに――」
さやか「……それも、悪くないかな」クスッ
杏子「……あ、いた!」
ゆま「いたー!」
さやか「へ?」ビクッ
杏子「良かった……まだ無事か」ハァハァ
ゆま「探したよー」
さやか「え、アタシを?」
杏子「ちょっと付き合えよ」
さやか「……今日は何だかモテるわね」
杏子「は?」
さやか「こっちの話」
――――誰かを愛する者、何かを愛する者
さやか「で、アンタは何の用事?」テクテク
杏子「いや、凹んでんじゃないかと思って……ソウルジェムが本体、なんて知っちまったら普通は正気じゃいられないしな」テクテク
さやか「……まぁ、ね」
杏子「さやかは他人の為に祈っちまった。だから、尚更だ」
杏子「魔法は、極力自分の為にしか使っちゃならねぇんだ。大体ろくな事にならない」
ゆま「……だから、あの時キョーコはゆまを叱ったんだね」
杏子「そうだ。でも、まぁ……ゆまが祈ってくれたからアタシが生きてるってのもあるからな」ナデナデ
ゆま「えへへ」ニコッ
さやか「…………」
杏子「(さて、ここからだ)」
杏子「(さやかはあの坊やの女絡みで魔女化する)」
杏子「(解決策は二つ。さやかの思いが昇華するか、さやかがそもそも坊やを何とも思わなくなるか)」
杏子「(前者は厳しいらしいし、となると後者だが……)」
杏子「(それはさやかの願いの否定だ……魔女に成りかねない)」
杏子「……だーっ、分からねぇ!アタシはアタシなりにやるか」
さやか「はい?」
――――教会
杏子「へい扉どーん!」バキィッ!
ゆま「とびらどーん!」キャッキャッ
さやか「……寂れた教会?」キョロキョロ
杏子「アタシの親父がやってたんだ。神父様だったんだぜ」ナッ
杏子「……よっと」ガサガサ
杏子「くうかい?」ヒョイッ
さやか「(りんご……)ふん」バシッ
コロコロ……
杏子「――ははっ。(こんな事まで同じかよ……まぁ、仕方ないか)」ヒロイ
バシィッ!!
杏子「え?」
さやか「――は?(叩かれた?頬?――痛い)」キョトン
ゆま「……食べ物を」
ゆま「食べ物を粗末にしちゃダメ……怒るよ」
さやか「アンタ――」
杏子「――あっはっはっはっはっはぁっ!!!」ゲラゲラ
さやか「はぁ!?」ビクッ
ゆま「……キョーコ?」ポカン
杏子「あはは……いや、悪い。そうだな、ゆま。食べ物を粗末にしちゃあいけねぇ。だろ?」
さやか「……まぁ、そうだけど」
杏子「うん。ゆまも、堪えてやれ。悪気があった訳じゃねぇんだ」
ゆま「キョーコがいいなら……」
杏子「さて、変な空気になっちまったが……」スワリ
杏子「昔話でも、しようかね」
――――何故気付いてしまったのか。
杏子「――って訳さ。ろくな事にならないだろう?」
さやか「……アンタは、杏子はお父さんを助けたかったんだね」
杏子「そうかもしれないし、違うかもしれない。飢えるのが嫌だっただけかもしれない」
杏子「今になっちゃ、それすら自分で分からない……でも、こんな身体だが――守りたいモノも、ある」ナデ
ゆま「くすぐったいよ、キョーコ」クシクシ
さやか「……お母さんみたい」クスッ
さやか「ゆまはどうして魔法少女になったの?」
ゆま「……ゆまは、ママにいじめられてたの」
さやか「――え」
ゆま「パパが帰ってこないのは、ゆまがかわいくないせいだって」
ゆま「たくさんいじめるの」
ゆま「でも、魔女に食べられて死んじゃった」クスッ
ゆま「ゆまも食べられちゃうとこだったけど、キョーコが助けてくれたの」
ゆま「食べ物くれて、住むとこくれて、生き方を教えてくれてる」
杏子「(そういや立て込んでて、すっかり相手してやれてないな……ワルプルギスを――ん?)」
杏子「(ほむら――捨てる――ワルプルギスまで――?)」
杏子「(キュゥべえ――織莉子――目的――いや、それじゃ矛盾――)」
ゆま「ゆまが弱いから、ダメだったから、ママはゆまを捨てたの」
ゆま「ゆまが弱いままだと、キョーコもゆまを捨てると思った」
ゆま「キョーコが死ぬのは……ママが死ぬより怖かった」
ゆま「だから、ゆまはキュゥべえとけーやくしたんだよ。『キョーコを死なせたくない』ってね」
さやか「――――正直、驚いてる」
杏子「(いや待て――さやか――さやか――因果集中、つまりほむらのループの目的――)」ハッ、クルッ
さやか「ゆまみたいな子が頑張ってるのに、アタシったら情けないね」タハハ……
杏子「(さやかの魔女化が、逃れられないとしたら――ほむらはどうする――いや、あり得ない!止めろ、考えるな!)」
さやか「……それにね、アタシにも少しだけ目印が出来たんだ。それを見ながら、頑張れそうなの」
ゆま「お互い、がんばろー!」オー!
さやか「えいおー、ってね」オー
杏子「(でも――でもそれなら)」
杏子「全ての、辻褄が、合う――?」
ゆま「キョーコ?」
杏子「(ほむら、何れが嘘だ?何れが冗談だ?何を隠してる?)」
杏子「(真実をぼかしてるだけなんて、勘弁してくれよ……?)」
さやか「?」
――――翌朝。通学路
まどか「……さやかちゃん、来ないね」
ほむら「そうね」ホムッ
マミ「きっと来るわよ。きっとね」
仁美「今日もお休みだと、流石に心配ですわ」
「おーい!」パタパタ
まどか「――さやかちゃん!」パァッ
ほむら「……」フッ
マミ「……」クスリ
仁美「おはようございます、さやかさん」
さやか「おっはよーみんな。ほむらにマミさんも」ニカッ
マミ「あら、オマケ扱いよ暁美さん」ヒソヒソ
ほむら「心外だわ。心の外と書いて心外だわ」ヒソヒソ
さやか「い、いや他意はないよ?」アハハー……
――――ビル屋上
キリカ「元気そうじゃないか、恩人は」
織莉子「本当ね」
杏子「まぁ、色々とな」
ゆま「色々ー」
キリカ「迷いも消えたようだ。思いがけず、私の話を聞いて効いたのかな?」
杏子「……昨日か?」
キリカ「おや、よくご存知だ。もしやキミもかな?」
杏子「……どうりで家にいない訳だ。要らねぇ時間を食ったよ」ハァ
織莉子「…………」
織莉子「(嫌な『予感』がしますわ……)」
――――学校、朝
さやか「恭介、おはよっ!」
上条「あぁ、さやかか。おはよう」
上条「……そういえば、退院してからさやかと話してなかったなぁ。色々してくれて感謝してるよ」
さやか「あぁ、うん。いいのいいのー」エヘヘ
上条「何だか保険が云々……お金の話はややこしいし、生々しくて嫌だね……それもあって少し疲れているよ」ハァ
さやか「うへー……大変だねぇ」
上条「まぁ、休んでたツケだと思う事にするさ……っと、チャイムだ」キーンコーン
さやか「あ……んじゃ席戻るよ」
上条「うん」
さやか「(なんだ、ちゃんと話せるじゃんアタシ!)」ニッパー!
まどか「(イエス!)」グッ
ほむら「(グッジョブ!)」グッ
仁美「……」
――――昼休み、屋上
マミ「あら?今日美樹さんは?」
まどか「上条君と学食です。上条君が今までのお礼にって、おごってくれるそうです」ニコニコ
ほむら「(意外に順調……って事は無いのでしょうけど)」ホムッ
ほむら「今日は私、お弁当を作りすぎてしまったの。皆で食べましょう」ドサリ
まどか「あはは……ほむらちゃん、重箱五段はちょっと……」タラー
マミ「太っちゃうわ……」ウワァ
ほむら「どうせ貴女は胸に行くでしょ。それに、まだ居るし」ホムッ
まどか「え」
シュタッ
杏子「ただ飯なら貰うぜ」ニッ
ゆま「いただきます!」ニパッ
織莉子「見つかったら不審者ですわ」フゥ……
キリカ「やぁ、お呼ばれしたよ」ヨッ
マミ「……どうりで」
ほむら「積もる話も、嫌な話も、食べながらの方が捗るわ。さぁ、頂きましょう?」ホムリ
さやか「あ、ここかぁ」バタン
まどか「さやかちゃん?」
さやか「恭介のやつ先生に拉致られちゃったよ。ケガの事について報告書みたいなのを纏めるんだってさ」ハァァ……
まどか「アハハ……ドンマイさやかちゃん」
――――
モクモク……
一同「…………(誰も喋らない……)」
まどか「あ、あのっ!」アセッ
まどか「……織莉子、さんはどうして……私が魔女になるって分かったんですか?」
織莉子「……私の父をご存知かしら?」
マミ「美国……確か議員にそんな名前の人が居たわね」
さやか「あぁ知ってる。確か汚職疑惑で自殺――」
杏子「さやか」
さやか「――っと、ごめん」
織莉子「えぇ、その通り」
織莉子「私は昔から回りに認められていたと思う」
織莉子「『美国』の子だから、と言う色眼鏡が私を鮮やかに見せていた」
織莉子「それがどう?」
織莉子「報道されるや否や私は謂れのない非難に晒された」
織莉子「学校に居場所は無くなり、家は安息の地では無くなり、知人は皆敵となった」
織莉子「私が何をしたというの?」
織莉子「私がお父様の一部でしかないのなら、私の生きる意味は何だというの?」
織莉子「……だから私は願ったのです。『私の生きる意味を知りたい』、と」
まどか「……それが、予知能力になったの、かな?」
織莉子「えぇ。私はワルプルギスの夜の襲来を見ました。そして、それを滅しながらも力尽き、魔女になる貴女を」
まどか「……そうなの」
織莉子「魔女になった貴女は凄まじい絶壁を振り撒く。だからこそ思った……摘み取らなければ、と」
ほむら「安心なさい。世界が絶壁に包まれる、なんて事にはさせない」ホムッ
織莉子「……一応、信じておきましょう」フッ
さやか「でもさ、じゃあお父さん何で死んだの?やっぱり後ろめたい――う」ビクッ
キリカ「恩人?」ギラッ
キリカ「恩人は本当に、魔法少女とは思えないくらい頭の回転が遅いね。無知は失礼と同義なんだ」
ゆま「……魔女だね?」
織莉子「……恐らく。突然の自殺は、魔女の得意分野ですから」
一同「………………」
ほむら「暗い話は止めましょ」ホムホム
マミ「そうね。ところで美樹さん、上条君の事についてどのくらいなのか聞きたいのだけれど」ニヤニヤ
さやか「はう!?」ドキーン!?
――――インキュベーター、一人
QB「うーん……何だかダルいや」
QB「眠気もあるし、フラフラする……」
『よぉ、元気無いな。どうした?』
QB「……頭も痛い」
QB「……何か、あったような」
――――屋上
ほむら「そうだわ。ゆま、織莉子、キリカ。ちょっと良いかしら?」ホムッ
キリカ「なんだい?」
ほむら「手を貸して……失礼するわ」ギュッ
キリカ「暁美ほむら?」
ほむら「…………」
マミ「(祈りを捧げているの?)」
さやか「(手を握り……まさかほむら、そっちの気が!?)」ハッ
杏子「あぁ、なるほど。そうやるのか」フムフム
ほむら「――っと、終わったわ。織莉子とゆまもお願いするわ」
ゆま「?」ギュッ
ほむら「…………――はい、次」
織莉子「何かのお呪いかしら?」ギュッ
ほむら「…………」
キリカ「……あぁ、そういう訳か」ナルホドー
ほむら「終わったわ。マミ、結界を張って貰えるかしら。小さいのでいいから」
マミ「また?……正直疲れるのだけれど……」
キリカ「なら私がやろう。まだ出来るか試してみたいしね」スッ
キリカ「……来い」ズズッ……
さやか「うわ……慣れないなぁこれ」
キリカ「やれば出来るモノだね……ん、シルクハット?」チョコン
織莉子「あら、似合ってるわよキリカ」
キリカ「そうかい?そりゃあ嬉々とするよ」ニッコリ
ほむら「(……半魔女化している。後で釘を挿しておかないと)」
ほむら「悪いわね。すぐ済むから……」バサァッ
まどか「ほえー……いつも思うけれど、綺麗な羽だよね」ワァ
ほむら「誉められて悪い気はしないわね……さて」グッ
ほむら「『癒真』『桐華』『檻弧』」ガチャンッ
ゆま「わぁっ」
杏子「ハンマーに、球に、爪……こうやってアタシ達の武器を使ってたんだな」ホゥ
さやか「あれ?でもアタシはやってないんだけど……」
まどか「私も」
マミ「(……そういえば、暁美さんが美樹さんの前で『爽』を使った記憶は無いわね)」
ほむら「いえ、貴女達のはいいの。爪やハンマーが珍しかっただけだから」ホムッ
杏子「(見え見えの嘘……さやかのはもう持っているからにしろ、まどかの武器を使ったのは見た事ないぞ?)」
杏子「(いや、もしかしてもう持っているのか……?)」
さやか「その内歩く武器庫になるんじゃない?」ケラケラ
ほむら「かもしれないわね」クスッ
――――屋上。ほむらとキリカ
ほむら「貴女、余り結界を張らない方が良いわ」
キリカ「魔女に引っ張られるから、かい?」
ほむら「……えぇ。よく分かったわね」
キリカ「キミの顔に書いてあるよ。なに、織莉子を置いていったりはしない」
キリカ「巴マミもそうなんだろうね。魔女になりかけたか――魔女になって帰ってきたか」
ほむら「……へぇ」
キリカ「彼女が魔女になる程絶望して立ち直る図が思い付かなくてね、予測なんだけれどさ」
キリカ「はてさて、やはりキミはイカれてる」
キリカ「私なんかより、よっぽど愛を理解していそうだ」
ほむら「私は……」
キリカ「さて、お昼休みも終わりだ。キミの思い人が心配してしまうよ」
ほむら「……じゃ、失礼するわ」
――――学校、放課後
さやか「ねぇ恭介、今日これから時間ある?」
上条「なんだい?」
さやか「いやぁ、久々に恭介のバイオリンが聞きたくってさ……」エヘヘ
上条「そうか……うーん、今日は用事があるからまた今度でいいかい?」
さやか「あ、うんうん、全然良いよ!暇な時でいいからさ」
上条「分かった。僕もいくつか曲を用意しておくよ」ニコ
さやか「楽しみー」ニヘラ
――――放課後
まどか「今日はどうしよっか……パトロールは?」
ほむら「魔女の気配もちらほらあるし……一度帰ってから集まりましょう。マミ」
マミ『分かっているわ』テレパシー
まどか「うん。じゃあとりあえずは帰ろっか。仁美ちゃーん!一緒に帰るー?」フリフリ
仁美「申し訳ありませんの。私、今日は用事がありまして……」
まどか「あ、なら仕方ないね……ほむらちゃん、帰ろっか?」
ほむら「えぇ」ホムッ
――――帰り道
さやか「おーい!」タタタッ
まどか「さやかちゃん?上条君は?」
さやか「今日は用事あるから無理だってさ。でも今度アタシの為に準備してくれるんだってー」キャハー
杏子「さやか is very リア充……って訳か」シュタッ
さやか「いきなり現れて酷い罵声を浴びせられた気がする」
ほむら「気のせいね」ホムンッ
さやか「んなアホな」
ゆま「リアじゅーって日本語で何なの?」
杏子「……あぁ、忘れろ。それがいい」
ゆま「?」
――――増えるー
マミ「待たせたわね……って――」
まどか「あ、マミさん」ウェヒヒ
ほむら「遅いじゃない」ホムッ
さやか「準備万端ですよー!」ジャンッ
杏子「ほぅ……このうまい棒(納豆味)、地雷だと思ってたがやるじゃねぇか」モグモグ
ゆま「……ゆまはダメかも」モソモソ
キリカ「それでも吐き出さない辺り、お母さんの躾の良さが伺えるねぇ」ニヤニヤ
織莉子「微力ながら、お手伝い致しますわ」ペコリ
マミ「……こう見ると凄い人数ね」
ほむら「>>1はこのくらい慣れっこよ」ホムッ
マミ「メタらないの。さぁ、行きましょうか。手分けしましょ」
――――各員単独行動中
まどか「あ、使い魔だ」キラッ
まどか「爆っぜろー(棒」ズバァァァァァンッ!!
使い魔「――――……」
まどか「ふう。使い魔くらいなら全然余裕、かな」
――――
ほむら「この辺りにはいないみたいね」
ほむら「念のためもう少し探りましょうか」ホムッ
――――
杏子「お、使い魔か……」
ゆま「どうするの?」
杏子「普段のアタシなら狩らねぇが……ま、しゃあないよな」ズバッ
ゆま「えいっ」ドガン!
――――
キリカ「織莉子は大丈夫かなぁ。心配だなぁ」
魔女「」
キリカ「こんな雑魚じゃあ全然盛り上がれないしなぁ」ハァ
――――
織莉子「…………」テクテク
織莉子「……暇ね」
――――
マミ「ティロ・フィナーレ!!」ズドンッ!
魔女「――――……」
マミ「ふっ……生まれる前から出直さなきゃ勝てないわよ」
――――さやか
さやか「居ないなぁ……うーん、身体動かしたいんだけどな」テクテク
「――――」
さやか「ん?」
上条「――――」
さやか「っ!?」ガササッ
さやか「(きょ、恭介!?何でここに――)」カクレッ
仁美「――――」
――――無音
『いくら傷付こうと、いくら手を汚そうとも構わない』
『こんなアタシの、唯一の支え――』
「(――キス、した)」
仁美「(やっぱり、勇気を出して良かったですわ)」
仁美「(別れる前に見せてくれた笑顔、とても素敵でした……)」ホゥ……
「仁美」
仁美「え――あ、さやかさん。こんな所で会うなんて奇遇ですね」
さやか「あぁ、うん。そだね」アハハ
さやか「仁美……ごめんね。見ちゃった」
仁美「――そうですか。機会があれば言おうと思っていたのですけれど、なかなか……恥ずかしいモノでして」テレテレ
さやか「えー、いつから?」ニヤニヤ
仁美「少し前……避難訓練の時くらいからです。もう、人が悪いですよ?」テレリ
さやか「そっかー……」
さやか「仁美」
さやか「ごめん」
さやか「許さない」
電話のコール音。
さやか「あ、まどか?どしたの?」
さやか「あぁ、こっちには魔女も使い魔もいなかったよ」
さやか「うん、みんな先行ってて。アタシも後から行くから。んじゃ」
赤い青い服。
――――
ほむら「――っ!?」ゾクッ
杏子「――こりゃあ、まさか」
織莉子「魔女の結界の気配……しかも、大きい」
マミ「何ですって、何処!?」
まどか「……さやかちゃんの近くみたいです!行こ、皆!」
ゆま「うんっ!」
キリカ「あぁ、酷い話だ。悲劇だよ恩人。キミの戯曲は愈々カデンツァに差し掛かってしまった」
キリカ「せめて看取ろう。キミが奏でた曲を」
――――巨大な結界、ライブハウス
ほむら「(さやかの結界のパターンが違う……しかし早い。切っ掛けは一体――)」
マミ「(……コンサートホールじゃない?)」ザッ
杏子「(どういう事だ、オイ……さやかの深層心理が以前と違うって事か?)」
ゆま「――キョーコ、使い魔だよ!」
まどか「仁美ちゃん、そっくり……?」ハッ
ズバァッ!
キリカ「ほら、ボッとしてるんじゃないって」チャキッ
まどか「――うん」
織莉子「……?」クンッ
織莉子「血の匂いがしますわ……」
キリカ「ホントだ。こっちかな?」タタッ
キリカ「うわ、こりゃ酷い。ハラワタがズタズタだ」ウヘェ
マミ「――まさか」
まどか「……仁美ちゃん?」ヘタッ
「」
まどか「仁美ちゃんっ!仁美ちゃんっ!!」ユサユサ
杏子「ゆま」
ゆま「…………」フルフル
杏子「そうか……」
まどか「ひどいよ……こんなのってないよ……」ヒックヒック
ほむら「……まどかと杏子、ゆまは残っていて」クルッ
まどか「……ほむらちゃん?」
杏子「――ほむら、一つ良いか?」
ほむら「何かしら?」
杏子「アタシはさ、アンタをそれなりに買ってんだ。出来れば嘘だって言ってほしいんだ」
杏子「さやかを、殺しに行くのか?」
マミ「!!?」
まどか「――?」
ほむら「…………」
ほむら「…………」
ほむら「……えぇ」
杏子「て、め、え」グイィッ!!
ほむら「……苦しいわ」ググ……
杏子「お前、ふざけてんじゃねぇぞ!!さやかはな、さやかは――」
ほむら「そこに転がってる人間を死体にしたわね」
まどか「えっ――」
杏子「……遅かれ早かれこうなるのは分かってましたってか?澄ました顔でよくも――」
ほむら「へぇ」
ほむら「離して」
杏子「よくもお前は――」
ほむら「――離せと言っているのよ!!」バキィッ!
杏子「――ってぇな、ぅわ」フワ
ほむら「…………」ギリギリ……
キリカ「ひゅー、片手か。見た目によらず力持ちだねぇ」
ゆま「や、やめてよっ」
杏子「こ、この……」バタバタッ
ほむら「なら問うわ。貴女にさやかが救えるの?」
杏子「そ、それは……」
ほむら「力も無い癖に、吠えるものじゃないわ……」パッ
杏子「ぐっ……でも、でもそれじゃあ……」ドサッ
まどか「…………」
杏子「……みんな報われないじゃないか!」ドンッ
ほむら「皆を助ける為に、私は戦っているわ」
ほむら「嘘じゃない」
杏子「遠すぎるんだよ、ほむら……」
ほむら「私にとっては、とても短く感じるわ」
杏子「……アタシは、信じていいのか?ほむらを信用して、アタシは生きられるのか?」
ほむら「えぇ。ここで貴女を失うなんて愚は犯さない」
ほむら「……さて、まどか達には説明しておこうかしら」
――――
まどか「仁美ちゃんが、上条君と……?」
まどか「それだけ?それだけなんて……信じられないよっ!!」
キリカ「――あぁそうか。なるほど合点がいったぞ。なかなかどうして、恩人も愛の本質に近付いたようだね」
杏子「……おい、何か知ってるのか?」
キリカ「いやなに、この間ご一緒した時に愛について語り合ったのさ」
キリカ「恩人もようやく誰かの為に、全てを投げ出す覚悟が出来たようだ――」
――――
キリカ「――といった事を恩人と話していたよ」
マミ「――なんて事。それじゃあ美樹さんは……」
杏子「ちっ、アタシがもう少し早く起きてりゃ防げた話だっていうのか、これは……」ギリッ
キリカ「恩人の行動は間違ってはないと思うよ。ただ、正解かと言われれば怪しいがね」
杏子「……もうとやかくは言わねぇ。言わねぇが、黙れ」
織莉子「……この結界は広い。とりあえず、今は状況打破が先決だと思いますわ」
ほむら「えぇ、散りましょう。魔女の気配が薄い――もしかしたら、まだ魔女に成りきっていないかもしれないから、早く見つけましょう」
――――まどか、杏子。ゆま
まどか「……どうして、こんな事になったのかな」グスグス
杏子「…………」
ゆま「キョーコ」
杏子「――何だ?」
ゆま「行ってきなよ。ゆまはまどかお姉ちゃんとここにいるよ」
杏子「……本当に、よく出来た娘だ」
ゆま「でも、約束。必ず帰ってきてね?」
杏子「あぁ、約束だ」ダンッ!
ゆま「……まどかお姉ちゃん、その人……無理かもしれないけれど、治してみようか?」
まどか「――出来るの!?」
ゆま「からだは治ると思う……けど、からだが治ったからって全部元通りにはならないよ」
ゆま「私たちの一番大切な部分は、心なの。心は無くなったら治せない……」
ゆま「きっと、さやかお姉ちゃんも心をケガしちゃったんだと思う」
ゆま「まどかお姉ちゃんはどうするの?」
まどか「…………」
「」
まどか「……仁美ちゃんなら、何て言うんだろう」
ゆま「仁美お姉ちゃんを、外に運ぶ?」
まどか「……うん」
――――さやかの結界、広大
ほむら「広い……因果が集中しているからと言っても、これは凄まじいわ……」
ほむら「それに……」
ほむらは拳銃を構えて、使い魔の群れの中に降り立った。
それらが一斉にほむらを認識し、こちらへ襲いかかる。
使い魔「――――」
ほむら「不快……そして多い」
銃を乱射し、翻って手榴弾を投げる。
懐かしい戦い方だった。
――――
織莉子「……ダメね、未来が見えない」
織莉子「いや、既に美樹さやかは美樹さやかで無いとしたら……」
ケタケタと、笑い声が聞こえた。
使い魔が回りを囲んで踊っている。
張り付けた様な笑顔と、軽快なステップ。
織莉子「……貴女に、私たちの様な恋愛は無理だったのよ」
光弾が、それらを順番に撃ち抜いて行った。
――――
マミ「――退きなさい!」
マミのガントレットは鈍く輝き、手にしたマスケット銃は敵を撃つ。
いや、そもそも敵なのだろうか。
マミの行った先は、特に使い魔が多かった。
マミ「この物量……美樹さんはこの先にいるの?」
使い魔の数は、目算でも凡そ50を軽く超えていた。
マミ「くっ……」
マミの翼が解き放たれ、使い魔らを縦横無尽に撃ち貫く。
孤軍奮闘極まりない、その姿。
マミ「一人になんてさせない……待っていて、美樹さん」
――――
杏子「くっそ、出遅れた……使い魔が大分やられてるな」
杏子は回りを見回す。
毒々しい色のライブハウスの壁、そしてギラギラとしたミラーボールの光が視界を侵した。
杏子「……さやか、今行く。今行くからな」
――――そして深部。
キリカ「――よっ、と。なかなかハードだ。使い魔が多い……む」
キリカは深く潜ったその先で、使い魔では無いモノを見つけた。
噴水の縁に座り込んで項垂れているのは、彼女の恩人とやらによく似ていて。
キリカはそれに歩み寄った。
キリカ「……やぁ恩人。隣、良いかい?」
さやか「……アンタ、か」
キリカ「お邪魔するよ」
ゆっくりと腰かける。
さやかは顔を上げる事も無く、反応は薄い。
キリカ「大した結界だ。なかなかに引っ張られているようだね」
さやか「……アタシさ」
キリカ「……何かな?」
さやか「アンタの話聞いてさ、羨ましかった」
さやか「アンタは互いに分かり合えてた」
さやか「アタシも、恭介が生きていて、アタシがいて」
さやか「恭介がバイオリンを弾いて、それをアタシが聞いてさ」
さやか「それだけでも、アタシは戦っていけるくらい幸せだった」
さやか「幸せだと思ってた」
さやか「でもさ。恭介と仁美が二人で笑ってるのを見てさ、『あぁ、ダメだ』って思ってさ」
さやか「殺しちゃった」
キリカ「(……恩人を変えてしまったのは、私なのか……?)」
キリカ「(だとしても、なら、どうすれば恩人は報われたんだ?)」
キリカ「……愛は難しいね」
さやか「でもね、何でなんだろ?」
さやかの足元に、水滴が幾つも落ちる。
さやか「これで良い筈なのに、涙が溢れて止まらないの」
キリカ「――恩人、キミは」
破裂音と、ついで聞こえる着地音。
佐倉杏子がいち早くさやかの場所へと辿り着いた証だった。
杏子「――さやか!……良かった、まだ無事か……」
キリカ『いや、大分不安定だ。マズイよ』
テレパシーが杏子の頭の中で響く。
杏子「……さやか、迎えに来たぜ。みんな心配してる……帰ろう?」
手を差し伸べても、俯いた彼女には見えなくて。
届かない。
僅かな距離が、果てしなく遠い。
さやか「杏子、アタシどうしちゃったんだろう」
さやか「アンタなら分かる?」
杏子「(泣いてる……のか?)」
杏子の背筋を、薄ら寒いモノが駆け抜ける。
今、この瞬間に、かけがえのないモノが失われようとしていた。
さやか「アタシ、正義の、味方になりた、かったのに」
さやか「どうして、こうなっちゃった、んだろ」
杏子「お、おいさやか!!しっかりしろ、さやか!」
キリカ「――恩人」
キリカは重い腰を上げ、さやかから距離を取った。
キリカ自身にも良く分かる。
魔女に成りつつあるその様子が、手に取る様に伝わってきた。
さやか「仁美、殺しちゃった」
さやか「友達だった、のに。親友、だったのに」
震えと、涙が止まらない。
さやか「わけ、わかん、ない。アタシ、もうわけわかんないよ」
杏子「大丈夫だ、大丈夫だから!」
杏子がさやかを優しく抱きしめる。
抱きしめたはずなのに、不思議と手応えが無くて。
杏子も泣いていた。
誰だ。
さやかを泣かしたのは誰なんだ。
こんな世界を、誰か塗り替えてくれよ――
さやか「誰か、アタシを見つけて――」
さやか「誰か、アタシを愛して――!」
さやかのソウルジェムが、砕けた。
杏子「さやか、さやかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
キリカ「くっ――」
そうか。さやかは――
なぁ、もしさ。
もしも、もう一度会えたら。
その時は、きっと言うよ。
さやかをずっと見てる。
さやかを支えてやる。
一緒にいよう、って。
――――人魚の魔女、降誕。
キリカ「……恩人は結局、誰かの特別になりたかっただけなんだね」
杏子「さやか……ちくしょう、ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!」
魔女「――――」
使い魔「――――」
魔女と使い魔たちが二人に襲いかかる。
が、上空から放たれた射撃がその攻撃を阻んだ。
キリカ「おや、遅い御出座しだ」
ほむら「……」
マミ「美樹さん……っ」
織莉子「……キリカ」
キリカ「分かってるよ織莉子。ほむら、どうするのか一応聞こう」
ほむらは迷い無く答えた。
ほむら「こうなってしまっては助ける事は出来ない……少なくとも今は」
マミ「くっ……グリーフシードがあれば――」
マミ「(――グリーフシード?グリーフシードがたくさんあれば――)」
キリカ「オーケー、理解した」
キリカの爪が倍に増える。
杏子「おい、待ってくれ――」
キリカ「悔やめ。愛とは取り替えしがつかないんだ」
キリカ「――せめて私が刻もう、恩人」
――――まどか
まどか「大きい気配――さやかちゃん!」
走るまどかを、声が引き留める。
QB「さやかを助けるのかい、まどか」
白髪の少女が、引き留める。
まどか「キュゥべえ……」
QB「キミなら出来るだろう。キミの願いは『美樹さやかを助けたい』だったからね」
まどか「ホント!?」
QB「あぁ。きっとキミなら因果すら凌駕して奇跡を起こせるよ」
QB「ボクもキミが奇跡を起こす瞬間に興味がある。着いていかせてくれないか?」
まどか「うん、掴まって!」
QB「(魔女が再び人に戻ると言うなら……)」
『ベアトリクス殿……拙者は、何かを成し遂げられたのだろうか――』
QB「(それは、とても――くぅ、頭が、痛い)」
QB「ボクは、何かを思い出せるのかもしれない――」
――――魔女、敵対
杏子「さやか……」
ほむら「マミ、杏子を連れて後衛へ回って」
マミは無言で頷いた。
杏子の戦意は、最初から無いし、再び湧き上がりもしない。
キリカ「さて、使い魔ども。愉快に素敵にダンスパーリィと洒落込もうじゃないか!」
キリカが使い魔たちを切り裂き、残骸を次々と積み上げていく。
そこに魔女の打ち出した、車輪とも歯車とも見分けがつかない、ソレが襲い掛かってきた。
使い魔ごと薙ぎ払うソレを受け止めきれず、キリカの身体は吹っ飛んでしまう。
キリカ「――重い!」
織莉子「キリカ!」
体制を崩したキリカを守るように、光の球が使い魔を撃ち抜き、歯車を破壊していった。
ほむらの白い翼が、左肩に生える。
ほむら「(まどかが来ている……何とかして、来る前に終わらせる)」
ほむら「『カリバーン』……悪いけれど、一気に行くわよ!」
ほむらは魔力が凝縮された宝剣を構え、魔女に上段から叩き付けた。
魔女は自らの右手に持っていた剣で、それを――受け止める。
ほむら「なっ――がっ!?」
一瞬驚いたツケが、即座に回ってきた。
魔女の背後から放たれた車輪が、ほむらの腹部に深く沈み込む。
マミ「暁美さん!?――このぉっ!」
マミの的確な射撃によって、追撃は免れたが、ほむらのダメージは大きい。
マミ「やった――え、何!?」
魔女「――――」
マミの頭の中に、声無き声が聞こえる。
それはまるで呼んでいるようで――
マミ「ひ、う、あ――アア」
マミのガントレットが身体を侵食し始める。
巴マミと言う器が、徐々に魔女の身体に変わっていった。
キリカ「ぐ、あぁ――クハッ」
キリカにも、同じ現象が起こっていた。
魔女に成りつつあるモノを、引き摺りこんでいるのだろうか。
ほむら「マズい――」
ほむらは時を止めて二人のソウルジェムをもぎ取り、大きく距離を取った。
時を動かすと、二人の変身が解けて、そして死ぬ。
織莉子「暁美ほむら、早く!」
ほむら「分かっているわ!」
ほむらが圏内に戻ると、程なくして二人が目覚めた。
ソウルジェムを返す。
マミ「……危なかったわ」
キリカ「余り魔女の力を使わない方が良いみたいだ。うっかりシルクハットに呑まれるところだったよ」
魔女「――――」
ほむら「なるほど、一筋縄では行かないって訳ね……キリカ」
キリカ「ほい、時間遅延だ。ようやくだよ」
ほむら「ご苦労さま」
ほむらは真っ黒な自分のソウルジェムにグリーフシードを一つ当てた。
穢れが浄化されていく。
ほむら「――4096倍、8192倍、18384倍、36768倍」
グリーフシードをソウルジェムに。
ほむら「――73536倍、147072倍!」
ほむらの盾が高い金属音を発てて、魔女の周囲を幾千もの武器が囲う。
一つ一つが必殺の威力を持つそれらが、ほむらの合図で魔女に向かって飛散した。
キリカ「うわ……」
織莉子「くっ……」
それは、戦いと言うには余りに一方的で。
殺し合いと言うには余りに凶暴過ぎた。
杏子「止めろ――止めてくれほむらぁぁ!!」
ほむら「貴女は、ゆまを置いていくの?」
杏子「!」
ほむら「なら、一緒に死んでやるなんて、考えないで」
マミ「……これも、仕方ないの――?」
ほむらが魔女を見て、全ての武器が攻撃を終える。
後に残ったのは、針鼠の様になった魔女と――
まどか「そん、な」
間に合わなかった魔法少女だけだった。
――――
まどか「ほむらちゃん……その、魔女は?」
鹿目まどかは震えていた。
可能性が無くなってしまったなどと、信じたくはないのだ。
ほむら「かつて美樹さやかだったモノよ」
だがほむらは気休めなど与えない。
そんな行為に、何の意味も無いと知っているから。
まどか「嘘」
まどか「嘘だよ」
まどか「だって私の願いは――さやかちゃんを守る事だもん」
まどかが手を合わせ、目を瞑り、静かに祈りだす。
さやかが癒える様に、さやかが帰ってくるように。
しかし、いくら願おうとさやかは魔女になってしまっているのだ。
まどかのソウルジェムが静かに濁りだす。
ほむら「――まどか、止めなさい!!貴女まで魔女になってしまったら――」
まどか「離して、離してよほむらちゃんっ!」
ほむら「まど――」
ほむらがまどかの名前を最後まで呼べず、二人は剣で腹部を串刺しにされた。
ほむら「――ふふっ……まだ、動ける、のね」
まどか「あ、あ、いたい。さやかちゃん……?」
『さやか』の傷は癒えていた。
ほむらが全力を込めて放った武具の嵐も、全てが水泡に帰してしまう。
マミ「蘇った……!?」
キリカ「ほむら!」
キリカが魔女を切り裂こうと爪を振るい、魔女はそれに向かって歯車を飛ばす。
歯車を切り刻んで、未だ二人を突き刺している剣に向かって両腕を強く振りかぶる。
爪が一気に増えた。
キリカ「一手で十手だ、砕けろ!」
剣が半ばから粉々になって、消える。
当然、刺さっていた二人はそのまま地面に向かって落ちた。
マミ「暁美さん!」
ゆま「まどかお姉ちゃん!」
マミと、物陰から飛び出してきたゆまが二人を抱き止めた。
杏子「ゆま!?」
ゆま「仁美お姉ちゃんなら大丈夫。誰も近寄らないように魔法を掛けてあるよ」
まどかは剣の一撃で気を失っていた。
普段から圧倒的な強さで敵を寄せ付けない分、痛みには弱いのだろう。
ほむらが腹を抱えながらも立ち上がる。
翼が、くすんでいた。
ほむら「ゆま……治癒を。アレ、私じゃなきゃ、ヤバいわよ……」
ゆま「しっかり、ほむらお姉ちゃん。まかせて」
ほむら「さやか、を――」
「っ」
ゆまが二人を横にならせ、淡い光で包んだ。
少しずつ、傷が癒えていく。
車輪が、そこに投げこまれた。
ゆま「キョーコ」
杏子「っ」
ゆま「がんばって」
項垂れていた杏子の目に、ほんの僅かでしかないが光が灯る。
杏子は魔法壁を展開して、ゆまとほむらを車輪から守った。
織莉子「さて、如何いたしましょうか」
杏子「さやか……一緒に居てやれないけれど、ならせめてこの手で……」
キリカ「なぁ暁美ほむら。別に、倒してしまっても構わないんだろう?」
マミ「……ごめんなさい」
魔法少女が四人、人魚の魔女の前に立ち塞がる。
暁美ほむら抜きで、二度目の会瀬が始まった。
――――さやか、ソロライブ
魔女「――――」
杏子「くっ、歯車が多い……」
杏子が歯車の波に翻弄されて、体制を崩した。
そこを織莉子の光球が素早く援護する。
命中するべき歯車は全て爆散した。
織莉子「畳み掛けましょう、巴マミ!」
マミ「分かってるわ!」
マミのリボンが人魚の身体を縛り付ける。
身動きが取れずに、魔女はもがいていた。
マミの両腕にガントレットが装着され、マスケットの翼が生え――それらが全て前へと口を向けた。
両手には短いマスケット。
そして前方に大砲。
マミ「――ティロ・フィナーレ!」
それら全てを一斉に発射し、射線は硝煙で煌めいた。
しかし、それを受けて尚怯まない魔女。使い魔を壁にしている。
リボンを力ずくで引き千切り、マミに腕を伸ばした。
キリカがその腕を叩き斬る。
断面から溢れた黒とも蒼とも見分けが付かぬ液体が、彼女の衣を穢した。
魔女の腕は地に墜ちて消えて、再び生え替わる。
キリカ「……恩人、富士山を眺めている気分だよ。あんまり本気を出し過ぎるのも、私たちとしては困ってしまう」
ほむら『その魔女はかつて美樹さやかだったのよ、再生力は凄まじいわ』
ほむらからテレパシーが全員に響く。
ほむら『倒すには、再生させる余裕を与えない、致命的な一撃を与える必要がある……』
ゆま「無理しないで……治るのが遅くなっちゃう」
ほむらの口からは絶えず血が吐き出されていて、ほむらの髪の毛を紅黒く染めていた。
それに比べて、まどかの傷は既に完治していた。
突き刺される寸前に、ほむらによって守られていたのが生きたのだろう。
杏子「しかし、アタシらがほむら並みの火力を出そうと思ったら……命懸けだぞ」
杏子は魔法壁で歯車を弾き返しながら、槍で切りかかっている。
が、切った側から回復されてしまっていた。
キリカ「なら暁美ほむらが完治するまで時間を稼げばいいだけだろう。それに」
キリカはマミに目線を向ける。
「やれるだろう?」と言わんばかりのそれに、マミは首を縦に振った。
キリカ「半魔女化できる私たちなら、その火力を叩き出す事も不可能じゃない」
魔女が歯車を飛ばしてくるが、着弾を予知した織莉子が一切の無駄無く迎撃する。
織莉子「そして二人の一撃は同時であれば尚良い……」
キリカ「所詮戦闘に於いて思考をしない魔女さ。単純な策だが、聞くかい?」
杏子とマミが不思議そうな顔をして、キリカを見た。
キリカ「……なんだい?私だって頭を使うさ。見掛けによらず、キミ達は失礼だ」
キリカ「まぁいい。織莉子は完全に後衛だ。私たちに当たりそうな車輪を弾き飛ばしてくれないか?」
織莉子が黙って頷く。
キリカ「佐倉杏子は私と前衛に回ろう。私が隙を作るから、キミはその鎖で魔女を雁字搦めにしてくれ」
杏子が真剣な顔つきで頷いた。
キリカ「まぁ数秒動きを止められるのが限界だろうけれど、そこを後衛の巴マミのリボンで再び足止めする」
キリカ「そのタイミングで私が仕掛ける。巴マミは私が射線から退いた瞬間に撃てば良い」
キリカ「巴マミの……ティロフィナーレだっけ。それを当てる為の隙を、私の一撃が作る。二段構えって訳さ」
マミが射撃で使い魔を牽制しながら、小さく首肯する。
キリカ「これで折れないなら恩人も大したモノだ。暁美ほむらに任せよう……さぁ」
行くよ、の言葉は無かった。
魔女の剣が、降ってきたから。
咄嗟に散った魔法少女達は、素早く動き出した。
先ずは、前衛二人の接敵。
杏子「――ふっ!」
歯車の雨を突き進む二人。
背後からの的確な援護が、それに迅速さを与えていた。
キリカ「へいへいピッチャービビって、るぅっ!!」
キリカの斬撃が、魔女の腕を数瞬傷付ける。
すぐに癒えるそれも、積み重ねれば隙に成り得るのだ。
織莉子「(失敗は即ちキリカの死に繋がる……やってみせる)」
織莉子「行きなさい、さぁ!!」
光の弾丸が鋭い角を描いて跳ねる。
それは的確に車輪を砕いていった。
キリカ「ナイスアシストだ――くっ!?」
杏子「使い魔の群れ――退きなっ!!」
碧色の使い魔達が虚空から降り注いだ。
杏子の槍が分解されて、円を作る様に――切っ先の光が軌跡を綴る。
使い魔は例外無く身体の何れかの部位を斬り裂かれた。
だが、それは手前のモノだけ。
マミ「――行けっ!!」
マミが手を前に翳すと、マスケットが矢の様に使い魔に飛んでいった。
ゼロ距離で、意思を持ったかの如くそれらを沈めていく。
杏子が、魔女に肉薄する。
魔女が突き刺してきた剣を紙一重で避けながら、鎖を大きく拡げた。
杏子「――すまねぇ」
金属音を立てて、人魚を足から首まで縛り付けていく。
杏子は地に強く足を据え、有らん限りの力で踏ん張った。
杏子「早くしろ!」
キリカ「オーケーだ!」
キリカが手を鶴の様に広げる。
シルクハットだけでは無く、今や背中には滑らかなマントを羽織っていた。
魔女に近付く事で得られる、純粋な呪い(ぼうりょく)。
それを行使するための、正装であった。
キリカ「恩人、面白バカみたいだろ! やってやる、やってやるさ!!」
一際大きな鉤爪が片腕に一つずつ、ビルすら断ち切れそうなそれを、ただ真っ直ぐ構えた。
杏子「も、もう持たない……マミ!」
マミ「オッケー、分かったわ!」
マミがリボンを縛り付ける寸前に、杏子の槍は悲鳴を上げて砕け散った。
すかさずリボンが魔女の、今度は全身組まなく縛り上げる。
魔女はヤケになってもがいているようだった。
マミ「良いわ!」
キリカ「――ハハッ」
キリカの笑い声に三人が戦慄を覚えるが――キリカはそのまま、『周りを気にせず』その巨大な得物を振り回した。
マミ「(――くっ、半魔女化が進み過ぎている!?)」
キリカの爪に巻き込まれない程度に身を流す魔法少女達。
キリカ「――ハハハッ!!」
その禍々しい爪を、誇るべきその破壊を、キリカは魔女に叩きつけた。
魔女の両腕が地面に落ちる。
キリカ「楽しいなぁ恩人!戦っていると言う事は、即ち生きる事で、生きる事は、私にとって愛に他ならない!!」
言葉と共に、滅茶苦茶に大爪を振り回すキリカ。
腸を突き抜き、鎧を砕き、頭部に突き刺し――
尾を潰し、鱗を削ぎ、胴を真っ二つにして――尚緩めない。
魔女「――――」
キリカ「そうだそうだそうだ!!愛、キミの愛は温かったんだ!!」
キリカ「今分かったよ!!キミが私を凄いって言った、リユウガハッキリトネ――」
織莉子「キリカ!」
キリカがピクリと声に反応し、顔は見せずに小さく笑った。
大丈夫だ、と言う意思表示。
キリカ「――終いだ、さぁ往ね!!」
強く交差させた両の腕は、魔女の胸にX字の傷を付けた。キリカはその場から高く翻る。
魔女が再生を始めた。
杏子「マミ!」
使い魔の相手をしている杏子が、合図を出す。
マミの周囲には既に幾つも大砲が用意されていた。
マミ「佐倉さん、一つ頼まれて」
杏子「――なんだっ!?」
マミ「ちゃんと起こしてよ?」
杏子「――りょーかいっ!」
マミの身体から、『もしも』の恐怖がすっと抜けていった。
凛として構えたマミの胸には、西洋風の鎧が装着されていて――
マミ「――フフッ」
マミ「――そう、私は独りでもやれる子出来る子頑張る子……怖くないコワクナイ……」
銃口が一斉に輝く。
一発一発が、彼女の必殺だった。
マミ「ティロ・フィナーレ!!」
容赦無く魔女のボロボロの身体に孔を上げていく魔弾の舞踏。
全弾発射し尽くし、魔女は動く事すら儘ならなくなった。
が、しかしまだ止まれない。
勢いを付けすぎた車は、急には止まれないのだ。
マミ「――ハハハハッ!」
巨大な二振りのマスケットを手に、自慢の翼で舞い上がるマミ。
上空から魔女の残骸に向かって、それを滅多打ちにした。
グシャグシャと、何かの潰れる音が響く。
杏子「くっ、マミっ!」
杏子が鎖で彼女を絡め取った辺りで、マミは漸く正気を取り戻したようだった。
マミ「――はっ、私……」
杏子「やっぱお勧めは出来ないな、これ」
マミ「――そうね。私も、出来れば遠慮したいわ」
魔女はもう動かない。
四人の中に気の緩みが生まれたのも、至極当然だった。
織莉子が何者かに右腕に切傷を付けられた。
織莉子「きゃっ――何!?」
キリカ「――っ、このっ!!」
キリカが普通のサイズに戻った爪で、ソレを払おうとするが、ソレは素早く躱してしまう。
ほむら『――まどかの願いは、こんな所まで……皮肉ね。どんなに願っても、魔女からは戻れない』
ほむらがテレパシーで、誰にでも無く話し掛けた。
杏子「――おい、冗談だろ」
マミ「――まさか」
キリカ「――ハッハッハ、流石、流石恩人!!」
織莉子「イタタ……まだやれますのね」
四人が見たのは、使い魔と同じサイズくらいになってしまった魔女。
ただ、違ったのは外見。
ほむら『私たちに対応する為に、小さく、速くなったのね。マミの様に』
その外見は、仮面を付けた女騎士――仮面を斜めにかぶって左半分の顔だけ見えている――美樹さやかの様だった。
――――祈りは届く。しかし叶わない。
杏子「冗談だろオイ……」
ほむら『動揺しないで。美樹さやかの身体はこっちにある……あれはただ魔女が形を真似ただけなのよ』
魔女がゆっくりと歩いてくる。
何故か耳に入る水音が、酷く喧しい。
魔女「――――」
杏子「魔女……?あれが、魔女……?」
ヒタリ――
杏子「だってあれは……あれはどう見たって――」
ヒタリ――
杏子「――さやかじゃないか」
ピタリ
杏子「っ」
気付けば魔女は、息がかかる程の近さにいた。
虚ろな片方の眼が杏子を見つめる。
甘い。
吐息が、甘くて。
鼻先が触れてしまいそうなのに、そこから動く事が出来ない。
頭に声が響く。
私を見て。
私を愛して。
魔女が小さく口を開いて、顔を首へと近付ける。
魔女の口付けを交わそうとして。
織莉子「何をぼっとしているの!?」
飛び込んできた織莉子が杏子を抱き抱えて倒れ込む。
杏子が正気を失ってから取り戻すまで、回りには一瞬にしか感じられていなかった。
織莉子が素早く受け身を取って、光の球を魔女にぶつける。
着弾の煙が魔女の姿を隠した。
織莉子「構えなさい、佐倉杏子。死にたくなければ」
杏子「……言われなくとも」
杏子と織莉子、キリカにマミが一斉に魔女に向かって武器を構える。
煙が晴れ、そこに居たのは無傷の魔女だった。
無邪気な顔で伝わるのは――『今のは何だろう?』と言う意思。
ほむら『――マズいわ。まどかの祈りが魔女をより強固にしている……』
ほむら「ゆま……まだなの!?」
ゆま「お姉ちゃん身体千切れかけてたんだよ?……杏子じゃないと、すぐは治らないよ」
そう。魔法少女達には致命的な点が一つあった。
暁美ほむらが治癒の途中なのだ。
それが完了すれば即ち勝利が確定する。
しかし、いや、だからこそ。
彼女らに『一時撤退』という選択肢は与えられない。
ここでほむらを失えば彼女らには絶望しか残されていない。
そして、今あの魔女と対峙する上での最善手は『一時撤退』。
それ以外は全て悪手なのだ。
魔女は武器を構える魔法少女達を眺めて、ようやく理解した。
織莉子の身体が宙に舞った。
織莉子「え――」
魔女「――キヒ」
何てことは無い。
ただ腹を蹴り上げただけだ。
マミ「(――見えない!?)」
キリカ「――ぶっ殺ぉぉぉぉす!!!」
キリカが爪を煌めかせ、魔女に肉薄する。
速度低下も全開にして、魔女の胴体を切り裂こうと腕を振りかぶった。
魔女が剣を横に振って、その後に横腹から突き刺す。
つまらないモノを捨てるかの様に、刺した剣を抜いて――動かなくなった身体を捨てた。
キリカの身体が崩れて――遅れて、空を跳ねた首が墜ちてきた。
織莉子「ぐぅ……キリ――」
織莉子は地面に仰向けになって倒れていた。
先刻の一撃が、彼女の運動を阻害している。
そこに降り注ぐ、剣の雨。
名前すら最後まで呼べず、織莉子の身体には幾つもの剣が突き刺さった。
地面に縫い付けられ、しかしそんな事実は関係無く――織莉子はもう動けない。
マミ「――あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
マミがマスケットを一斉掃射するが、魔女は消えてしまう。
いや、消えてなどいなかった。
恐ろしい程の低姿勢で射線の下を駆け抜けて接近していた。
されていた。
まず下手から右腕が斬り上げられる。
切断されて、重力に服従して落ちた。
左手のマスケットを構える前に、そのまま上段からマスケットごと叩き斬られる。
魔女は笑って、抵抗出来なくなった魔法少女に向かって剣をバッティングの様に振りかぶった。
振り抜く。
両足が身体と別れ、巴マミは胴体だけで地面と接触した。
杏子は、魔法少女になって初めて、恐怖で立ち竦んでしまった。
目の前の圧倒的なモノに呑まれてしまって、思考する事すら儘ならない。
全員死んではいないとは分かる。
だが、そんな事実も関係無く、佐倉杏子はただ畏怖したのだ。
魔女に向かって槍を構えた。
しかしそれは形式ばったモノで、既に敗北すべきソレであった。
魔女の凶刃が迫る。
強く目を瞑って――しかし何も起こらなくて。
杏子は恐る恐る目を開けた。
ほむら「待たせた……わねっ!」
ほむらが、魔女と剣同士で競り合っていて。
ゆま「とりゃー!!」
そして動きを止めた魔女の頭を、ゆまのハンマーが張り倒した。
――――ほむら、再び臨戦
ほむら「2048倍――ちぃっ!?」
魔女が再びほむらに襲いかかる。
その剣を止めた得物は、人魚の剣『爽』。
ほむら「(今一度因果を練り直すのは現実的じゃない……どうすれば)」
凄まじい速度での打ち合いが続く。
剣圧で魔女とほむらの回りが切り裂かれていった。
杏子「ほ、ほむら――」
ゆま「キョーコ、後はほむらお姉ちゃんに任せようよ。私たちは皆を助けなきゃ」
杏子「――そうだな。流れ……弾?が怖いが……」
杏子が衝撃波舞う前線へと飛び込む。
織莉子の身体までは一飛びで事足りた。
杏子「おい、生きてるか……?」
織莉子「――いて」
杏子「良かった、大丈夫そうだな……」
織莉子「抜いて下さら、ないかしら……」
全身に突き刺さった剣が痛々しい。
杏子が槍を向けて祈ると、剣は光の粉になって消えた。
織莉子の顔に苦痛が走る。
白いドレスは今や真っ赤に染まっていた。
杏子「背負うぞ」
織莉子を背中に担ぎ、まどかが眠る場所まで下がる。
織莉子を下ろし、杏子は結界を張った。
ゆま「キリカお姉ちゃん……の頭」
キリカ『本体は胴体だよー』
キリカのソウルジェム自身からテレパシーが送られてくる。
ゆまがキリカの元へ走ろうとするが、そこに衝撃波が幾つも叩き付けられた。
ゆまがハンマーを盾に怯む。
キリカ『暁美ほむらは手こずっているようだ……やれるかな――いけるな』
首の無い身体が、むくりと起き上がった。
――――
ほむら「くそっ……」
流石と言った所だろうか、魔女のスタミナは凄まじかった。
魔女「――――」
ほむらと打ち合う魔女の姿は、まさしく強者のソレ。
ほむらに有効打は無く、魔女の全てはほむらに対して有効打だった。
一発喰らう事すら許されない戦いは、ほむらの、精神と言う石塊を磨り減らしていく。
ほむら「(何か……何か突破口は――っ!?)」
思考の隙間で魔女に剣を弾かれてしまう。
ほむらに向かって剣が突き立てられて、ほむらにはソレを防ぐ術が無かった。
思わず目を瞑る。
ほむら「(南無三――)」
キリカ『どっせぇいぃぃぃ!!』
ほむらが驚きに目を開けると、其処には魔女を蹴り飛ばした――首なしの魔法少女が立っていた。
キリカ『やれば出来るものだ。本体は背中だからね』
ほむら「キリカ……大丈夫なの!?」
キリカ『たかがメインカメラをやられただけさ。でもぶっちゃけ視界はあの遠くにある頭頼りだし、何か思考も鈍い』
キリカ『正直時間稼ぎくらいにしか――どうしたんだい暁美ほむら?向こうにある私の頭からは、考え事をするキミの背中が見えるんだけど』
魔女がゆらり、と身体を起こした。
ほむらは自分の思考をより確実にするために、魔女の腹部を見る。
ある。グリーフシードの殻が。
ほむら「本体――キリカ、お手柄よ」
キリカ『へ?』
ほむらがキリカの身体を掴んで、ゆまの方へと投げ飛ばす。
キリカ『わわわ』
ゆま「キャッチだよ!」
ほむらは爛々とした目で、再び魔女と向き合った。
ほむら「見えたわ、突破口!!」
ほむらと魔女の剣がぶつかり合う。
斬って斬って斬って、斬れず斬らせず斬り返す。
お互いに一歩も引かない剣舞だった。
金属の擦れる音が、まるで空間を切り裂いているような錯覚を起こす。
ほむら「(おそらく、あれが魔女にとっての本体……貫ければ!)」
だが、火花が散り、剣の歯が欠ける程打ち合っても魔女に隙は生まれない。
ほむらに焦りが見え始める。
ソウルジェムもとうに黒ずんでいた。
ほむら「――っ!!」
その時、魔女の動きが一瞬遅れた。ほむらに確認する余裕は無かったが――
マミ「…………」
――魔女の足元に黄色いリボンが巻き付いていた。
ほむら「――うぉぉっ!!」
ほむらが一気に魔女に接近した。
しかし、間に合わない。
魔女が突き出したその剣は、ほむらの右目に深く突き穿った。
ほむら「ぐ――ああああっ!!」
ほむらが強引に、頭を左に振り抜く。
骨の砕ける音と共に、右半分の顔が潰れて――ほむらが魔女の武器を手首ごと斬り飛ばした。
魔女「――――!?」
ほむら「――おぉぉっ!!」
ほむらが吠え、魔女の腹部に突き刺した『爽』は、皮肉にも彼女に――止めを刺した。
――――消える結界、そして希望
ほむら「――っはぁ……」ドサッ
ほむら「杏子、ゆま。マミを」
ゆま「うんっ」
マミ「忘れてるかと思ったわ」フゥ
ほむら「貴女、見事に達磨ね……大丈夫なの?」
マミ「傷口に癒しの魔法を全開にして止血だけしているわ。勿論、痛覚遮断してるけど」
ほむら「……さっきのアシストは良かったわ。ありがとう」
マミ「いえ、どういたしまして」フッ
ほむら「ゆま、マミから治療を。回復役は多い方がいいわ……」ホムッ
杏子「潰れた顔で無理すんなよ……うわ、折角の美人が台無しじゃねぇか」ウワァ
ほむら「あら、お上手……ん」チラ
まどか「う、うーん……」ムクリ
ほむら「目覚めたのね、まどか」
まどか「あ、ほむらち――ひぃっ!?」ガタタッ
織莉子「あらあら……随分……怖がられてますこと」チマミレ
まどか「――わぁっ!?お、織莉子……さん?」パニック
まどか「何で……何でこんな――」ブルブル
キリカ『おいおいそりゃ他人事過ぎるんじゃないかい?』テレパシー
まどか「へ?」クルッ
キリカ「」ヤァ
まどか「――――っ、っ!!?」パクパク
マミ「どう、くっつきそう?」モゾモゾ
ゆま「もうちょっと……」ポワー
まどか「マミさん、まで……」
キリカ『いやぁ全くやってくれたねぇ、鹿目まどか』
キリカ『キミが余計な事をしてくれたお陰で、私らはボロボロだよ』
まどか「え……?」
ほむら「キリカ」
キリカ『いいや言わせてくれ暁美ほむら』
キリカ『いいかい鹿目まどか。キミのお陰で一度倒した魔女が蘇ったんだ。しかもびっくりするぐらいパワーアップしてね』
キリカ『回りを見れば結果は分かるだろう?少しばかり失敗していたら死人が出る所だったさ』
まどか「――魔女じゃない」ボソッ
キリカ『ん?』
まどか「魔女じゃない、さやかちゃんだっ!死人が出るところだった?――さやかちゃんは死人じゃないのっ!?」
ほむら「まどか、落ち着きなさい」
まどか「落ち着いてなんかいられないよっ!!ほむらちゃんも何で止めてくれなかった――」
キリカ『――首が無いのが残念だ』グイッ
まどか「は、離してっ」
キリカ『私が今どんな表情をしているか伝えられないんだからね』
キリカ『甘えるなよ、鹿目まどか』
キリカ『魔法少女が魔女になる事を、キミも、恩人も、知っていたんだろう。なら、覚悟をしていた筈だ』
キリカ『得るだけ得て失うのは嫌、なんて都合の良い言い訳が通ると思うなよ』
まどか「だからって――だからってさやかちゃんを――」
キリカ『――なら私たちは死ねば良かったと!!!お前はそう言うのか!!?』グイィ
まどか「ひっ……」
キリカ『暁美ほむらはな、美樹さやかを殺したんじゃない。私たちを助けたんだ、分かるか?』
キリカ『私みたいなイカれた女だって思うさ。美樹さやかが死ぬのは嫌だなってさ!!』
キリカ『自分なら助けられるとでも思ったか!?その有り様がこれだ!!』
キリカ『大体お前――』
ほむら「キリカ、もう良いわ」ポムッ
キリカ『――暁美ほむら。立てるのかい?』
ほむら「根性」ホムッ
キリカ『……大したモノだよ』パッ
まどか「けふっ、けふっ」
ほむら「まどか」スッ
まどか「っ」ビクッ
ほむら「大丈夫、私は怒っていないわ。まどかの言う通り、美樹さやかに止めを刺してしまった事に変わりはないもの」
まどか「…………」ポロッ
ほむら「泣いていいの。泣いて……ね?」ギュウッ
まどか「……さやか、ちゃん」ポロポロ
まどか「――うわぁぁぁぁん、やだよぉ、死んじゃやだよぉ――!!」
ほむら「…………」ギュッ
QB「やれやれ、無理だったのか」
「!?」
マミ「キュゥべえ……」
QB「酷いやられようだね。さやかも良くこんなに暴れたモノだ」
杏子「てめぇ……大体元はと言えばお前が――」グッ
QB「それはお門違いって言うんじゃないかな、杏子。君たちはいずれこうなる事を予測出来ただろう?」
QB「君たちはいつもそうだ」
QB「仲間だと言っても、魔女になってしまえば容赦無く殺す」
QB「わけがわからないよ」
ほむら「――インキュベーター?」
――――学校、葬儀。
上条「くっ……」
中沢「上条……」ポンッ
ほむら「…………」
まどか「…………」
マミ「…………」
――――屋上
杏子「…………」ボーッ
ゆま「キョーコ」
杏子「お、おぉ。何だ?」
ゆま「つらそうだったから。ゆま、キョーコの力になるよ?」
杏子「……ありがとな。でも、これはアタシの問題だからさ」ナデナデ
キリカ「この屋上からの景色はなかなかだね。腹立たしいよ」コキコキ
キリカ「しかし千歳ゆまの治癒魔法は大したモノだ。頭もしっかり天元突破で合体したよ」
織莉子「えぇ、助かりましたわ」
ゆま「おやすいごよーだよっ」ニパリ
杏子「(……さやかは死んだ、もういない)」
杏子「(でもほむらはこのまま進むだろう。でなければ今この時間軸にいる意味が無い)」
杏子「(さやかを助けるつもりだったにしても、今から助けるにしても……私たちには打つ手が無い)」
杏子「(ならループだろう。冷静に考えて)」
杏子「(ワルプルギスと戦う事で得られるモノは何だ?……アタシ達の経験だ)」
杏子「(つまりほむらは、アタシらを鍛える為にループしたって訳か)」
杏子「(いや、結論付けるのは早いし、何より理由が弱い)」
杏子「(……アタシは、また守れなかった。これが、ほむらの感じていた痛みか)」
杏子「……風が気持ち良いな」
ゆま「……うん」
キリカ「そうだね。風が……」
織莉子「……本当ですわね」
――――ほむら宅、寝室
ほむら「…………はぁ」トサッ
QB「……」ヒョイッ
QB「やぁ、暁美ほむら。一つ質問……いや、確認があるんだけど。いいかな?」
ほむら「……不法侵入の上でふてぶてしいわね。ま、別に構わないけれど」
QB「キミは、未来から来たね?」
ほむら「遅い理解ね」
QB「根拠は無かったんだけどね。本人から聞けるなら、それ以上の根拠は無いね」ゴロリ、モフモフ
QB「なるほどね。キミの存在が一つの疑問に答えを出してくれた」
ほむら「まどかの素質?」
QB「――驚いた。知っていたのかい……いや、なら」
QB「キミは……最強の魔女になるまどかを、どうするつもりだい?」
ほむら「……まどかと約束したわ。まどかが魔女になるとしたら、呪いを振り撒く前に――」
QB「……ワルプルギスの夜は、キミたちだけで本当に勝てるのかな?」
ほむら「さぁね。でも――」チラ
QB「?」
ほむら「因果が集中しているなら……厳しいかもしれない」
QB「ボクは、まどかを戦わせるようにけしかけるよ?」
ほむら「――くっくっ、どうぞご自由に。やれるモノならやってみなさい」
QB「……キミのその自信は、一体何処からくるんだろうね」
――――まどか宅
QB「…………」ヒョコッ
まどか「……さやかちゃん、死んじゃった」
まどか「……キュゥべえが今まで契約した魔法少女の中に、魔女になるのを知らない子はいたの?」
QB「むしろ知って契約する方が少ないよ。当たり前だろう?」
まどか「そう。なら、私達の戦いに意味なんて、無かったんだね」
QB「まぁ、そうだよ。魔女を倒して数を減らしたいなら、魔法少女なんて増やさなければいいんだから」
QB「ボクたちの目的はね――」
――――
まどか「宇宙の、寿命?」
まどか「――そんなモノの為に、さやかちゃんは死んだの?」ギリッ
QB「そんなモノって……宇宙の滅亡はキミ達にとっても害じゃないか。これは誉められるべき行為なんだよ」きゅっぷい
まどか「……ふざけないでよ。みんなアナタの所為で死んだようなものなのに」
QB「……」ヤレヤレ
QB「なら君は家畜を犠牲とする事に引け目を感じたりするのかい?」
QB「彼らは人間の糧となることを前提に、生存競争から保護され繁殖できている。君たちだって理想的な共栄関係にあるじゃないか」
まどか「私たちは……家畜なんかじゃない……っ」
QB「……信じられないなら見せてあげよう。ボクと人類が歩んできた歴史を、ね」サワッ、コツン
まどか「(――見える。過去の全てが……悲しみと、妬みと、呪い、絶望……)」
QB「ボクはね、有史以前から君たちの文明に干渉してきた」
QB「数えきれないほど大勢の少女がボクと契約を交わし――希望を叶え、時に歴史に転機をもたらし――」
QB「そして最後は皆絶望に身を委ねていった」
まどか「祈りから始まり……呪いで終わる――?」
QB「そうだよ。これまで数多の魔法少女が繰り返してきたサイクルだ」
まどか「……みんな、信じてたのに裏切られたの?」
QB「彼女たちを裏切ったのはボクじゃない。『自分自身の祈り』だよ」
QB「どんな希望も、条理にそぐわないモノである限り……必ず何らかの歪みをもたらす」
QB「やがてそこから災厄が生じるのは当然の摂理だ。それを裏切りだというのなら――そもそも」
「願い事なんてするのが――間違いだったのさ」
――――ほむら宅
ピンポーン
ほむら「……?――。」ガチャッ
まどか「上がって、いいかな」
――――
ほむら「座って」
まどか「ありがと」
ほむら「…………」
まどか「…………」
まどか「ワルプルギスの夜、だよね」
ほむら「……えぇ」
まどか「私も、戦うよ。私の願いは――さやかちゃんの思い。この街を守りたかったさやかちゃんの為にも、私――戦いたい」
ほむら「……ダメよ。いえ、必要無いわ」
まどか「……私が、魔女になるから?」
ほむら「えぇ」
まどか「……ほむらちゃん、約束したよね?私がもし――」
ほむら「……えぇ」
ほむら「インキュベーターに何を吹き込まれたのかは知らないけれど……私たちは大丈夫。あれだけの魔法少女がいれば、きっと撃退出来るわ」
まどか「…………なんでだろ」
まどか「ほむらちゃんの事、信じたいけれど、嘘つきだなんて思わないけれど……」
まどか「ほむらちゃんの言葉……甘すぎるよ……」
ほむら「っ!!?」ゾクッ
まどか「ほむらちゃんの言っていること、本当だって思えない――?」
ほむら「…………」ギュ
まどか「ほむら、ちゃん?」
ほむら「一つだけ、言うわ」
ほむら「私は……私は、未来から来たの」
まどか「――――っ」
ほむら「何度も何度も貴女に出会って、それと同じだけ、貴女がいなくなるのを見てきた……」
ほむら「ある時、貴女は世界全てを救って――概念になってしまった」
まどか「概、念?」
ほむら「誰にも理解されず、誰とも分かり合えない――宇宙で独りぼっちに」
ほむら「そんなアナタをずっと助けたくて、戦って戦って……」
まどか「ほむらちゃん……?」
ほむら「こうやって、貴女に触れている事さえ……夢の様で」
ほむら「訳が分からなくても良い、何も伝わらなくてもいい」
ほむら「ただ、貴女を守る為に……まどか」
まどか「……」キュッ……
ほむら「(……だから、ごめんなさい)」
――――ワルプルギスの夜、前座
キリカ「海か……出来ればデートで来たかったな」
織莉子「また来ましょう。平和になって、やる事が無くなったら……お弁当を持って」
キリカ「ふむ、悪くないね。この祈りは叶うのかな、暁美ほむら」
ほむら「えぇ、きっと」
QB「さて……しかし静かだね。ワルプルギスの夜の気配も無い。おかしいね」
マミ「……ここで、殺せば――」チャキッ
QB「――マミ?」
ほむら「ダメよ。これを越えた所で、魔法少女のシステムは変わらない。さやかも、置いていくつもりは無い」
QB「なら、もう時間移動すればいいじゃないか……ボクは困るけれどね」
杏子「まぁ良いじゃないかマミ。ワルプルギスの夜、ってのを見てみたいもんさ」
ゆま「どんな魔女でも、杏子を傷付けさせはしないよ」
ザッ
まどか「…………」
ほむら「まどか……」
マミ「……来たのね」
杏子「――おい、話してる暇はねぇみたいだぞ……?」
QB「う……うぅ……苦しい……何だい、これは……」トサッ
まどか「――キュゥ、べえ?」
ほむら「離れなさい、まどか」ザッ
織莉子「さぁ、行きましょうか。キリカ」
キリカ「オッケー。キミは私が守るよ」
QB「キミたち――まさか――まさか、知っていた――?」
QB「暁美ほむら?」
ほむら「――ふふっ」
QB「ボクが、ワルプルギス――痛いっ!!」ズキンッ
『ベアト』
『ベアトちゃんっ』
『ベアトリクス殿!』
『ベアトリクス』
QB「――そうか」
ほむら「?」
QB「アハハハハハッ!!」
一同「!?」
QB「そうか、考えてみれば当たり前じゃないか――」
「感情を持たない文明が、優れた技術を産み出せるはずがない」
ほむら「――――え」
QB「ボクは――ボクは――」
マミ「……魔女になるわ。みんな衝撃に備えて!」
まどか「キュゥべえ……キュゥべえも魔法少女……?何故?」
QB「あぁ――あぁ――暁美ほむら――」
ほむら「……何?」
QB「――タスケテ」
――――ワルプルギスの夜、開幕
マミ「今回は海上に叩き出せたわね」
ほむら「…………」
ほむらは手を口元に当てて考える。
先刻のインキュベーターの発言の意味を。
魔女「アハハ――!!」
ほむら「(助けて……?何に関して助けを求めるの……?)」
まどか「ほむらちゃん、一体何が起こっているの……?」
ほむら「……こればかりは、本当に分からないわ。だけど、一つ言えるのは――あの魔女が、インキュベーターで――それを倒せるって事よ!」
ほむらが盾から大量の兵器を取り出す。
ライフルやら、バズーカやら、その他もろもろの銃火器が地面に並んでいた。
マミ「前はちゃんと戦えなかったし……今度こそっ!」
マミの両腕にガントレットが装備され、背中にマスケットの翼が生える。
杏子「デカい……さぁて、仕置きの時間だ。キュゥべえ!」
ゆま「ごめんね、キュゥべえ」
杏子とゆまが並んで武器を構えた。
キリカ「滑稽だね。自分が魔女になってしまうなんて、こんな喜劇はなかなか無いよ」
キリカの頭にシルクハットが被られ、爪が巨大な一になる。
織莉子「運命を……変える」
織莉子の周囲には、光球が待機された。
杏子「ほむら」
ほむら「……何?」
杏子「信じてるぞ」
そう言って、杏子はいの一番に魔女の元へと飛び込んでいく。
ゆまもそれに続き、マミ、キリカ、織莉子と順番に空に舞い上がった。
ほむら「…………」
ほむら「……私だけでいい。傷付くのは」
ほむらは時間を止め、乱射するために火器へと歩いていった。
――――
杏子「オラァっ!!」
ワルプルギスの夜の使い魔は、影。
魔法少女によく似たそれが、幾つも襲いかかってきた。
杏子は槍を突き、それらを消し去っている。
杏子「どうしたどうした!さやかの方がまだ大分強かったぜ――っ!?」
目の前の影が、見覚えのある形になった。
杏子「――ちょー、うぜぇ!!」
それをさやかへの冒涜と取り、突き穿つ杏子。
彼女の強さは、その心の有り様だった。
魔女「アハハ、アハハハハハ」
逆さまの魔女は笑いながら、杏子に向かって黒い波動を投げつけてくる。
杏子「しゃらくさい!」
それを槍で切り裂き、四散させた。
散ったソレらが無数の使い魔になってしまう。
杏子「――こりゃマズい」
マミ「任せて!」
マミが手を真っ直ぐ前に伸ばして合わせた。
その手を横に開くと、扇状にマスケットが展開される。
マミがそのまま背中のマスケットを一丁ずつ握り、構え、一斉に放った。
使い魔の影達はその弾丸を受けて爆ぜる。
ゆま「どっけー!」
ゆまがハンマーをブーメランの様に投げた。
ハンマーは回転しながら弧を描き、影をいくつも弾き飛ばして再び手の中に収まる。
ほむら「いいわ、そのまま使い魔を足止めして!私は――」
ほむらが時を止め、そして動かした。
ほむら「――確認する事が、ある!」
膨大な量の火線が魔女に集中する。
凄まじい連続した着弾と爆発の応酬が、魔女を火だるまに仕立て上げた。
キリカ「おぉ。凄い火力だ」
織莉子「――いや、まだみたいよ」
かと思えば、ほむらはタンクローリーを運転している。
鉄橋の支柱をかけ上がって――ソレが飛び出す寸前に、ほむらがタンクローリーから飛び出した。
再び爆炎。
ほむら「(普段ならここらで使い魔の邪魔が入るけど――)」
キリカ「いいね。見ていて気分がいい」
織莉子「使い魔は手強いですが、私たちに任せていて」
ほむら「ふふっ、心強いわ」
キリカと織莉子はほむらの回りに近寄る使い魔を追い払う。
武器が尽きるまでの守護だが、それでも攻撃に邪魔が入らないのは幾分か楽だった。
ほむら「それから――これよ!」
海に投げ出されたほむらが『着地』する。
ほむらが降り立ったのは、水中から現れた巨大なミサイルランチャーの上だった。
同じ様に、次々と海中から水を切って現れるミサイルランチャー――占めて10機。
ほむら「――ってぇぇぇ!!」
ほむらの合図と共に無数の対空ミサイルが発射される。
命中したそれらがワルプルギスの夜を若干押し返し、轟音を上げて爆ぜた。
杏子「おいおい、まだやるのかよ!?」
マミ「私たちの出番が無くなっちゃいそうね」
ワルプルギスの夜が、海沿いにある空っぽのドームに倒れ込む。
ほむら「以前ならこれで倒す手前まで行けた――いくわよ!」
ほむらがいつの間にか手元に持っていたスイッチを押すと、予めソコにセットされていた大量の地雷が一斉に起動した。
閉所であることも相まって、酸素を奪い合っているような、連続した爆発が怒る。
ほむらが波止場に降り立った。
ほむら「さて、前々回と同じならもうピクリとも動けないはずだけれど――ん」
黒の衝撃がほむらの腹部を貫く。
ワルプルギスの夜は未だ健在だった。
笑いながら、魔女は再び宙を踊る。
まどか「――ほむらちゃん!」
ほむらは血を撒き散らしながら地面に叩き付けられ――そして何も動揺していなかった。
さも当然と言わんばかりに。
ほむら「(――やはり、インキュベーターに因果が集中してしまっていた。これでは、やはりまどか以外倒す事は出来ない……)」
杏子「ほむらぁっ!――くそっ、使い魔が多い……」
キリカ「なんと、しくじったのかい暁美ほむら――邪魔だよ黒子野郎!」
他の魔法少女は皆、数が増えた使い魔に苦戦していた。
使い魔たちの動きは単純だが、鋭く速い。
初めて戦うのならソレは免れないだろう。
マミ「ぐぅ……突っきるわ!みんな、支援して!」
杏子「おうよ!ゆまはほむらを頼む!」
ゆま「分かった!」
マミが周囲を大きく薙ぎ払い、ワルプルギスの夜へと突貫する。
回りで他の三人の魔法少女がサポートして、使い魔の満ちる空に道を抉じ開けた。
ゆまはほむらの元へと降り立った。
そこには既にまどかが駆けつけていて。
まどか「ほむらちゃん、しっかり!」
ほむら「問題無いわ、これくらい……」
ゆま「ほむらお姉ちゃん、治すよ?」
ゆまがほむらの傷を癒そうとすると、ほむらがそれを押し留めた。
ゆまは首を傾げてしまう。
ゆま「治さないの?」
ほむら「結界の外での私として、今やれる事は全てやったわ……私はもう足手まといよ。自己治癒だけでも持つから、貴女は皆を援護してあげて……」
ゆま「――分かったよ」
ゆまは再び戦場へと飛び立った。
ほむらは深く長く息を吐いて安堵する。
ここでしっかり経験を積んでもらわないと、意味が無いのだから。
まどかが、真剣な目付きで立ち上がる。
まどか「ほむらちゃん、私――」
ほむら「ダメよ」
ほむらの否定には力が込もっていなかった。
思いも込もっていなかった。
ほむら「杏子たちなら何とかしてくれるはずよ……まどかの出る幕はないわ」
まどか「……嘘でしょ?」
ほむら「……」
ほむらはまどかから目を反らした。
反らした先にインキュベーターの抜け殻が見える。
彼女も、死ぬのが嫌だったのだろうか。
いや待て。
ワルプルギスの夜は今までにも何度か現出したと聞いている……なら、その都度彼女の身体は魔女になっていたと言うのだろうか?
そもそも、ワルプルギスの夜は何故突然現れる?何故居なくなる?
あれだけの存在が、全ての魔法少女に感知されないというのは、おかしくないだろうか。
マミ「ワルプルギスの夜――喰らいなさい!」
キリカ「サポートするよ、巴マミ!」
――いや、身近に例がいるじゃあないか。
魔法少女と魔女は可逆たり得るのだ。
なら、魔女から魔法少女に戻る為のエネルギーは?
ほむら「――エネルギー?」
ほむらの思考が僅かに行き止まる。
あれだけの魔女なら、復帰に使うエネルギーも相当だろう。
この仮定なら、インキュベーターは普段からエネルギーを集めていなければならない筈だ。
インキュベーターがエネルギーを集めて――
ほむら「――っ!!?」
QB『ボクたちは宇宙の為に――』
思い当たった。
ほむらの頭の中で、パズルが次々に組み上がっていく。
そうだ。人型でないインキュベーターを使い魔とするなら、彼らが真実を知っているとは限らない。
事実、この周は人型を取る理由が違っていた。
そして、ほむらの仮定は最悪へと到達する。
ほむら「――インキュベーターは、自らを生かす為に……私たちからエネルギーを搾取していた?」
なら、もしそうなら――インキュベーターとは一体何なのか?
ほむらは、考えても答えは出ない場所へと、足を踏み入れてしまった。
それに、分からない。インキュベーターの目的が『不死』である事なら、助けを求めるのは間違っている。
望みは叶いつつあるのだから――いや、もしかすると。
ワルプルギスの夜と、その使い魔の関係に思い当たる。
使い魔は非常に魔法少女に酷似した形態を取る。
ワルプルギスの夜の現れる条件は――
ほむら「――魔法少女達が発したエネルギーの回収?」
ならば。
ほむら「――あの『助けて』は、ワルプルギスの夜を倒さないでくれという――哀願に過ぎない」
ほむらの顔に、嘲笑が張り付く。
ほむら「浅ましいわね、インキュベーター」
――――苦戦
杏子「ぐぅぅ……ちくしょう」
マミ「強い……なんて化物なのよ」
キリカ「いやはや、化物具合で負けるとは……げほっ」
織莉子「キリカ、肩を貸すわ……」
ゆま「も、もうソウルジェムが持たないよ……」
まさしく満身創痍といった所だった。
魔法少女たちはそのボロボロの身体を引き摺りながら、圧倒的な物量の使い魔と、圧倒的な質量の魔女に対峙している。
が、しかし旗色は当然悪い。
まどか「……ほむらちゃん、一ついいかな?」
ほむら「ダメよ」
まどか「ダメなのは、ほむらちゃんの方だよ。身体も治せてないし、もう動けないんでしょ?」
ほむら「……」
まどか「他のみんななら勝てるって言うのも、やっぱり嘘。ほむらちゃん、怖がりだから」
ほむら「……まどか」
まどか「――約束、覚えてるよね?」
ほむら「……えぇ」
まどか「――良かった。安心したよ」
まどか「これで私、心残り無く死ねるよ――さやかちゃん。この街は、ちゃんと守るからね」
ほむら「……」
まどか「さよなら、ほむらちゃん。ありがとう」
まどかは飛び立ち、弓を構えて――ワルプルギスの夜へと立ち向かった。
――――ワルプルギスの夜、閉幕。
杏子「……マジで倒しちまうのかよ」
マミ「鹿目さん……」
杏子は余りの強さに呆れ、マミはまどかの末路を嘆いて泣いた。
織莉子「……結局こうなるのね。暁美ほむらも、存外俗物だったのかしら」
キリカ「……いや、もしかしたら――彼女の愛はもうとてつもなく深いのかもしれない」
織莉子は落胆を抱えながらもキリカの発言に不思議なニュアンスを感じ、キリカは遠い目で、倒れたまどかの側に座り込むほむらを見ていた。
ゆま「キョーコ……」
杏子「大丈夫だ、何ともならない」
ゆまは怯えて、杏子の腕をギュッと握っている。
ほむらとまどかは、見つめ合っていた。
まどかの目は、既に覚悟を決めているソレで――
ほむら「まどか……ソウルジェムが――」
まどかは横に首を振る。
水に浸かった髪が、静かに揺れた。
まどか「ううん……もう限界みたい。だから、いいよ」
彼女は笑っていた。
満足したと、表情が伝えている。
ほむらの目に涙は無かった。
まどか「お願いだよ、ほむらちゃん……私、わがままだけれど――魔女にはなりたくないよ……」
まどか「だから、ね?」
ほむらは、黙ってそれを見ていた。
ただ、黙って、震えて。
杏子「……」
キリカ「……」
杏子とキリカは行く末をじっと見ていた。
マミは泣いてばかりで、織莉子は煮え切らないほむらに苛立ちを覚えていた。
織莉子「……暁美ほむら、何をしているの。急ぎなさい。時間はあまり無いのよ!」
まどか「ほむらちゃん――?」
まどかが、何かを感じ取る。
ほむらは、まどかに謝罪した。
ほむら「ごめんなさい――」
ただ一言。
ただ一言が、まどかに伝えるべき全てだった。
まどかは気付く。
そして、泣きながら笑って、言った。
「うそつき」
――――救済の魔女、降臨。
暁美ほむらは、鹿目まどかの亡骸を丁重に座らせた。
ほむら「絶望のトリガーは私、か。皮肉ね」
杏子がほむらに詰め寄り、襟を締め上げ、壁に叩き付けた。
睨む顔は、明確な怒りを湛えている。
杏子「やっぱりかよ……ほむらぁ!」
マミ「え――何なの?」
マミからすれば意味が分からない行動だった。
ほむらは悲しみのあまりまどかに止めを刺す事が出来ず、結果魔女が生まれてしまった様にしか見えなかったのだから。
ほむら「…………」
杏子「思えば最初からだった。因果の集中はさやかに起こってた……それはつまり、『まどかを救うつもりが無かった』って事だろうが!」
ゆま「!」
マミ「な――そんな、嘘」
杏子「だから最初に私は言った。『この周は捨てか?』ってな。さやかも契約してたし、それは望まないだろうと思っていたからな」
ほむら「……えぇ、そうね」
杏子「まどかも契約していた。私たちの切り札は無くなったも同然だったが……目的が魔法少女狩りについてだと、私は思った」
杏子「しかし、私はそこで更に気付いた。さやかを助ける方法は、何も契約させないだけじゃないってな」
キリカ「ふむ、魔女から魔法少女に戻す方法が、確かにあるね」
杏子「……お前も感づいてた口かよ」
織莉子「キリカ……?」
キリカ「愛は業だ。非常に罪深い」
杏子「だが、グリーフシードが足りねぇ……マミで5000だから、それよりは数が少なくて済むだろうが、それでも多いに越した事はない」
ほむら「…………」
杏子「じゃあどうする?また何周も何周も魔女を狩るだけの時間跳躍をするのか?――答えは否、だろう?」
ほむら「……えぇ」
杏子「グリーフシードを生むのは魔女だ……ほむら、お前は――」
「大容量のグリーフシードを得る為に、魔女化したまどかを殺すつもりだったんだ!!」
一同に戦慄が走る。
マミの脳裏にかつて交わした言葉が蘇ってきた。
ほむら『まだ、まどかに死んでもらっては困る――』
マミ「――まさか、そんな」
杏子「……そう考えりゃ、全て辻褄が合う。キュゥべえとは『まどかを契約させて魔女にする』という目的が一致し、織莉子とは『まどかを殺して見滝原を救う』という目的が一致する」
織莉子「――思えば、暁美ほむらの言い回しもおかしかった様な……決して『魔女にしない』とは言わなかった――?」
杏子「ほむら……私の勘違いか?なら謝るからさ……」
杏子は俯いていた。
ほむら「……いえ、貴女の言う通りよ」
杏子「嘘だろ……?それじゃ、それじゃあ報われない――何も、何も」
杏子「この世界のまどかは、お前のせいで、絶望して、魔女になったんだぞ!!」
ほむら「またやり直すわ。そのためにここに居るのだから」
杏子「おかしいだろ……おかしいよほむら。お前には、まともな心ってモノが無いのかよ……?」
ほむらは乾いた声で、話す。
ほむら「そんなモノ、とっくに無くなってしまったわ」
ほむら「迷わずに行けるなら、心なんて砕けてもいい」
杏子「ほむら……お前は、お前だって……泣いていいんだ。お前ばっかり、戦わなくていいんだよ」
杏子は泣いていた。自分の無力に。
ほむらは一つ息を吐いて、杏子の頭を優しく抱き締めた。
ほむら「貴女は優しいわ。それはとても心地好い……ありがとう」
魔女「――――!!」
魔女の嘆きが世界を震わせた。
結界は既に世界中を覆い、数日あればこの星は死に包まれてしまうだろう。
織莉子「――だ、だけれど。ワルプルギスの夜にすら手こずっていた私たちで、どうやってアレを倒すつもりなの!」
織莉子の疑問はもっともだった。
しかし、マミには分かっていた。
マミ「ワルプルギスの夜が暁けた……」
ほむら「マミ、覚えているかしら。いつか貴女が、私の底が見えないと言っていた事を」
きっと今のほむらは、過去と未来全てを戦い抜いてきた暁美ほむらなのだろう。
ワルプルギスの夜、というラインを越えた暁美ほむら――因果を纏め上げた暁美ほむらになったのだ。
ほむら「そして私は答えた。『いつか見れるわ』、と」
ほむらが羽を広げる。
それは今までの様に片翼でなく、力強い翼が二つ生えていた。
白き翼ではなく、極彩色の翼だった。
禍々しいそれが、空を覆っていく。
ほむら「それが今よ。良く見ておきなさい」
マミ「――」
言葉が出なかった。
格の違いがはっきりと分かりすぎて、それが故の失語だった。
織莉子「なんて……なんて因果。だけれど、アレは最悪の魔女なのよ――勝てっこない」
ほむらの翼が一つ羽ばたく。
魔力が集約されているようだ。
ほむら「それは誰が決めたの?」
織莉子「――え」
ほむら「最悪の魔女は――私よ」
マミ「――鹿目さんを救う為なら、鹿目さんを殺す事も厭わない。そうなの、暁美さん?」
ほむら「――そうよ」
ほむらは答え、また羽ばたく。
ほむらはいつの間にかリボンを手に持っていた。
それはいつか、まどかから渡された大切な物。
それが、光と共に形を変えて――弓を模す。
ほむら「この状態なら、これも使えるわね――救済の弓『円』……」
その弓を軽く引くと、ほむらを縛る因果線がギシリと音を立てた。
今のほむらでも、負担を掛けずには引く事は叶わないのだろう。
キリカ「援護はいるかい?」
ほむら「要らないわ。私一人で十分」
怪我も知らぬ間に完治していた。
ほむらの回りの空間が、ほむらの存在に耐えきれずに歪む。
ほむら「あぁ、力が溢れてくる――一月とはいえ、久しく忘れていたような、この感覚――たまらない」
ほむらが因果線を引きちぎって、大きく空へと舞い上がった。
まどかと唯一踊れる個として。
――――まどかとほむら、魔女と魔女。
ほむら「ふふっ、ふふふふふふ」
ほむらは空を途轍も無いスピードと軌道で疾駆しながら、空から魔女が降らす矢を躱していた。
高揚する気分は、含み笑いとして外に漏れる。
ほむら「絶好調、よ!」
エネルギー体の翼が高い空を覆って、またほむらの回りに圧縮される。
宇宙から見れば、地球に羽が生えたと錯覚するようなソレだった。
致命なるモノが空から際限無く降ってくるが、ほむらは全てを余裕ですり抜けていく。
ほむら「当たる訳、ないわ」
ほむら「ここには、時を越えた私と――あの時のまどかがいる!」
ほむらが弓を引き、光の矢を放った。
その一撃が、魔女の胴体にあっけなく風穴を開ける。
魔女「――――!!」
ほむら「まどかだけでは、勝てはしない」
二射、三射。
射った数だけ魔女が貫かれ、弱っていく。
魔女は思わぬ反撃に戸惑っているようだった。
戸惑う暇があれば、更に強い反撃をすべきだったが。
貫通。貫通。貫通。
繰り返される貫通。
孔だらけになった魔女が、必死に反撃として衝撃波を飛ばしてきた。
一般の魔法少女なら余波だけで粉々になる代物――それをほむらは易々と射ち抜いた。
ほむらが魔女へと距離を詰める。
飛翔するそれを撃退出来ず、魔女はほむらの接近を許してしまう。
ほむら「――斬れ」
ほむらの翼が、魔女の上半身を切断した。
長い胴体は遂に腐り落ちる。
魔女「――――!?」
魔女の悲鳴が響き渡る。
ほむらは構わず、翼を乱舞した。
魔女が、細切れになって――事も切れて、世界は残酷に救済された。
――――世界の終わりと始まり
ほむら「――素晴らしいグリーフシードだわ……密度が半端ではない」スタッ
杏子「終わっちまったか……」
ほむら「貴女が気にする事じゃないわ」
マミ「……言葉も、無いわ」
ほむら「……貴女には言えなかった。きっと酷く心を病むだろうから」
ゆま「まどかお姉ちゃん……かわいそう」ウルウル
ほむら「でも、これで次こそ良い未来をまどかに与えられるの……分かって」
織莉子「……そうよね。最悪の魔女が倒せないと、そう諦めたのは私だった」フッ
キリカ「愛の為に愛を殺す……狂ってるね」ケラケラ
ほむら「ふぅ……さて」トンッ
ほむら「有意義な周回だったわ。私は再びループするけれど、織莉子とキリカは残るのよね?」
織莉子「――え?」
ほむら「この世界はあの魔女を倒して平和が訪れた。貴女の望み通りでしょう?」
織莉子「――ば、バカも休み休み言いなさい!どうせ残ったって、貴女が過去を変えるなら意味が無いじゃない!」
キリカ「やだよ。私らが知らない内に世界が変わるなんて御免だ」
織莉子「貴女の創る未来を、世界を見届けるまでは、着いていくわ」
ほむら「……物好きね」フッ
杏子「……連れてけよ。私はさやかに伝えなきゃいけねぇ事がある」
ゆま「杏子と離れるのはやだ!」
マミ「私が独りになれないと知っているのに、酷いわ」
ほむら「……なら、私の手を握りなさい。離さないで――飛ぶわ」ギュッ
一同「ぅわ――」グラッ
ほむら「(これで、今度はさやかを救える。まどかは最後まで魔法少女にせず、世界改変に願いを使ってもらって――そしてまどかを助ける)」ズキ
ほむら「(さっきの戦いで確信出来た。解除された私は、驕る事なく強い)」ズキッ
ほむら「(次の周ではきっと――何かしら、頭が痛い――時間跳躍はまだ――意識、が――)」ズキンッ!
――――学校、昼休み。
――らちゃん。
ほむら「(眠い……何だか頭がぼんやりする)」ムニャムニャ
――むらちゃん。
ほむら「(誰かが呼んでる――誰?)」ムニャ
まどか「ほむらちゃんっ!」ガバッ
ほむら「ほえぇっ!?」ホムッ!?
まどか「もう、お寝坊さんだねほむらちゃんは」ウェヒヒ
さやか「もう四時間目終わっちゃったよ?」アハハ
ほむら「え、えっ――ワルプルギスの夜は――?」ポカン
まどか「ワル――?なにそれ、ほむらちゃん?」キョトン
ほむら「へ?」
さやか「ま、まさか電波を受信したのかー!?」クワッ
ほむら「……ワルプルギスの夜――って、何だろう?」ヘケ?
さやか「って、自分でも分からんのんかーい!」ビシィッ!
ほむら「うきゅっ!?……ツッコミが痛いです美樹さん……」ウルウル
まどか「ほら、ほむらちゃん。メガネずれてるよ」クイッ
ほむら「わわわ、恥ずかしい……」テレリ
――――屋上、お昼ご飯
まどか「わぁ、ほむらちゃんのお弁当キレイ!」キャッキャッ
ほむら「鹿目さんのも、キレイで美味しそう……」ワァ
まどか「えへー。パパのお手製だからねー」ニヘラ
さやか「うーん……パパさんすごいなぁ。アタシのお弁当はまだまだだよ、トホホ……」ショボーン
ほむら「でも、手作りってすごいと思いますよ」ホムンッ
まどか「それに、ね……今日も二つ作ってるんだよね」ティヒヒ
さやか「ま、まぁ一応ね」アセッ
バターン!
まどか「あ、きたきた」ニヤニヤ
ほむら「来ましたね」ニコニコ
杏子「おーいさやか!飯くれ!」バーン!
さやか「全くアンタは……そう言うと思って弁当作っといたわよ」ハァ
杏子「お、気が利くじゃんか……うめーうめー」ハグハグ
まどか「速いね」ワオ
ほむら「うん」ホム
さやか「ど、どうかな……?」オズオズ
杏子「ん?ちょーうめーけど?」モグモグ
さやか「そ、そっか……アハハ」テレリコテレリコ
マミ「あらあら、ウブね美樹さん」ヒョイッ
さやか「あ、マミさん……からかわないでくださいよー」プクー
マミ「ゴメンなさい。余りに可愛らしいモノだから、つい」ニコ
杏子「さやかはアタシの嫁だからやらんぞー」ハグハグ
さやか「ば、バッカじゃないの、バーカバーカ!」カァッ
杏子「さやかの弁当食えるならバカで結構ですぅー」ハグハグ
さやか「あ、う」カァァァ
まどか「(出たよ、杏子ちゃんの殺し文句)」ヒソヒソ
ほむら「(バリエーションに富んでますよね……今ので幾つでしたっけ巴先輩)」ヒソヒソ
マミ「(バージョン28って所かしら)」ヒソヒソ
まどか「(生まれてくる性別を間違えたとしか思えないね!)」ウェヒヒ
杏子「サンキュ、旨かった」カランッ
さやか「お、お粗末様……」テレッ
――――ほうかごっ!
上条「さてと、一日終わった……」ノビー
仁美「っ」ギュピーン!
さやか「っ」ジャキーン!
仁美「か、上条君。今日は一緒に帰りませんか?」モジモジ
さやか「(先手取られたー!?)」ガーンッ
上条「あ、いいけれど――」
さやか「きょ、恭介!今日CD買いに行きたいんだけどさっ、恭介に色々教えて欲しいな……」モジモジ
中沢「(『恭介に色々教えて欲しいな……』って、そこだけ聞いたら上条うらやま死ね)」
上条「それは良いねさやか。志築さんもどうだい?」ニコッ
仁美「(さやかさんめー……)」バチバチ
さやか「(どうよ。男はやっぱ趣味分かる女の子が好きなのさ)」バチバチ
上条「あ、あの、二人とも?腕を抱えて引っ張り合われると痛いんだけど――はっ」ピキンッ
上条「(この感触――これはまさか……)」
仁美「むー……」ムニュムニュ
さやか「うぐー……」フニフニ
上条「(roman――ヤバい、これはヤバい)」ピカッ!
上条「(っていうか二人ともデカい……ヤバい勃つ……冷静になれ僕。早乙女先生――よし萎えた)」スーハー
まどか「またやってる」ウェヒヒ
ほむら「決着はいつ着くんだろうね……あ、足音聞こえてきたよ」ホムンッ
バターン!
杏子「上条恭介ぇぇぇ!さやかはアタシの嫁だと言ってんだろうがぁぁぁ!」ジャジャーン!
まどか「わざわざ隣のクラスから来るんだから、ぞっこんだよねー」ウェヒヒ
ほむら「ホントだね」アハハ
上条「認めないよ僕は!さやかが欲しければ『幼なじみ』の僕を倒していけ!」クワッ!
さやか「ぐはぁぁぁぁっ!!?」ゲフー
中沢「あぁっ、美樹が血へど吐いて倒れたぁっ!?」ビックゥ!?
マミ「相変わらず、しっちゃかめっちゃかね……」ヒョコッ
まどか「あ、マミさん」
マミ「今日、私の家でお茶会を開こうと思うのだけれど、来るかしら?」
まどか「あ、じゃあお邪魔します。ほむらちゃんは?」ワーイ
ほむら「私も、巴先輩がよければ……」
マミ「大歓迎よ」ニコッ
――――下校
ほむら「美樹さんたち、結局三人でイチャイチャしながら帰りましたね」ホムッ
まどか「オブラートオブラート、ほむらちゃん」ウェヒヒ
杏子「全く、ダメな奴だな上条恭介は」ムゥ
マミ「あら、じゃあケーキに釣られた貴女は何なのかしら?」クスクス
杏子「あーあー聞こえなーい――って親父たち!?」
杏子父「おぉ、杏子か。今帰りかな?」ヤァ
マミ まどか ほむら「こんにちはー」ペコリ
ゆま 杏子妹「こんにちはっ」ペコッ
杏子父「お友達か。杏子がいつも世話になってるね」ニコリ
ゆま「キョーコお姉ちゃん、今日はごちそうだよ!」ニッパー!
杏子妹「学校帰りに、買い物を済ませたお父さんと会ったの」
杏子父「しかし……仕込みがいるから手伝いが欲しいんだが、杏子は友達と用事かな?」
杏子「う……いや、なら帰るぜ。マミ、悪い」ゴメヌ
マミ「ふふ、構わないわ。じゃあ、またね」
杏子「またなー!」タタタ
ゆま「あ、速いよー」ダダッ
杏子妹「全く忙しないんだから……皆さん、失礼します」ペコッ、タタッ
杏子父「また杏子と仲良くしてやってくれたら、父親としても嬉しいよ。では――おーい待ってくれー。父は大分年だぞー……」ワッセ、ワッセ
ほむら「……行っちゃったね」ホムリ
まどか「お父さんは神父さんで、お母さんはパン屋さんだってね」
マミ「ゆまちゃんは養子なのよね……そうは見えないけど」
まどか「神父って凄い」キリッ
ほむら「関係無いと思うよ……?」アハハ……
――――マミ宅、お茶会
まどか「そういえば、マミさんのご両親は大丈夫ですか?」モグモグ
ほむら「この間の事故……酷かったらしいですけど」モグモグ
マミ「あぁ……入院はしてるけど、元気なモノよ。骨折してるんだから大人しくしていればいいのに、あの二人ったらイチャイチャイチャイチャと……恥ずかしいったらありゃしないのよ」ハァ
まどか「でも良かったです、大事にならなくて」
マミ「ホントね……私が無事だったのも、奇跡みたいなモノだし……車には気を付けるわ」ウンウン
ピンポーン
マミ「あら、お客さんかしら。ちょっと待っててね」スクッ
ガチャッ
キリカ「ハロー巴マミ!」ジャンッ
織莉子「こんにちは……こんばんはかしら?」
まどか「マミさんー?どちらですかー?」
マミ「いつもの悪友ー」
キリカ「ひどいっ!?」ガーンッ!?
――――
マミ「貴女も自分の学校で友達を作りなさいよ……」ハァ
キリカ「友人はそんなに易く作れるものじゃないよ。キミは恩人だからね」モグモグ
織莉子「あら、私は?」
キリカ「キミは恋人」キッパリ
織莉子「キリカー」ムギュー
キリカ「織莉子ー」ナデナデ
マミ「え、なにこれ私の家に来た意味って何?」イラッ
ほむら「いつも思うけれど……」
まどか「キリカちゃんたちは凄まじいねぇ……」ウェヒヒ……
ほむら「あ、そういえば美国さん。お父さんの当選おめでとうございます」
織莉子「ありがとう。お父様も、『これから忙しくなるぞーっ!』って張り切ってました」フフッ
キリカ「いずれ挨拶しに行かなくちゃね……巴マミ、ごちそうさまだ」カチャッ
マミ「ハイハイ」クスッ
――――帰り道。
まどか「政治家の娘って大変なのかな?」ンー?
ほむら「うーん、よく分からないけど、きっと大変だよ」ホム
まどか「だよねー。すごいな、織莉子ちゃん」ホエー
まどか「あ、もう家だ。それじゃほむらちゃん、また明日!」フリフリ
ほむら「うん、また明日」フリフリ
――――
ほむら「遅くなっちゃったな……早く帰らなきゃ」テクテク
「やぁ暁美ほむら!」
ほむら「へっ?」クルッ
シーン――
ほむら「あれ……誰もいない。気のせいかな?」テクテク
まどか「…………」
――――日常と、非日常。
まどか「今日も騒がしい一日だったねー」ハワー……
ほむら「そうだね……でも、平和って楽しいよ――ぅ」ズキッ
まどか「またまた、ほむらちゃんったらオーバー!」ウェヒヒッ
ほむら「そ、そうかな……」カァ
ほむら「(幸せ……だけれど、何か、大事な事を忘れているような――)」
まどか「あ、さやかちゃん」ヤッホー
さやか「お、二人とも。帰り道に出会うなんて珍しいね」ヨッ
ほむら「美樹さんはどちらへ?」ホムッ
さやか「CDショップに用事が……そうだ、まどかたちも来ない?一人も寂しいしさ」カモンカモン
まどか「あ、いくいくー」パタパタ
ほむら「鹿目さんが行くなら私も……」ホムホム
――――CDショップ
さやか「うーん、どれにしようかな……」ムムム……
まどか「これなんてどうかな?」スッ
ほむら「わぁ、高い……なかなか手が出せないや」ホムゥ
『助けて――助けて――』
ほむら「――?」ピクッ
まどか「ほむらちゃん、どうしたの?」ウェヒ?
ほむら「誰か――呼んでる」タタッ
まどか「ほむらちゃん?」テテッ
――――廃ビル
ほむら「この辺りから声が……」キョロキョロ
「やぁ、暁美ほむら!」
ほむら「猫……が喋った?」ビクッ
「ボクと契約して魔法少女になってよ!」
ほむら「魔法……少女……?」ズキ
ほむら「あなたは一体何なの……?」ズキン
「ボクと契約して魔法少女になってよ!」
ほむら「え……?」ズキンッ
「ボクと契約して魔法少女になってよ!」
ほむら「な、なに……」ズキンッ!
「ボクと契約して魔法少女になってよ!(タスケテ――)」
ほむら「ぐぅぅ……頭が……」ハッ
ほむら「魔法……少女。そうよ、私は――」フラッ
ほむら「……しっかりしなさい、暁美ほむら。この世界は……一体?キュゥべえ?」
QB「…………」スゥゥ……
ほむら「消えた……なんだったのかしら」
ほむら「それより皆の様子が変だったわね……時間跳躍から記憶が無いわ」
ほむら「世界が改変された?……でも何によって――」
まどか「もう……ほむらちゃん速いよー……」ハァハァ
ほむら「まどか?」
まどか「?」キョトン
ほむら「どうかしたの?」
まどか「ほむらちゃんが私の名前を呼ぶなんて珍しいなって思って……ほむらちゃん、何か雰囲気変わった?」ホニャ?
ほむら「気のせい――ですよ、鹿目さん」ニコ
まどか「そうかなー……まぁいいや。さやかちゃん待たせてるし、行こっ」ギュッ
ほむら「うん」トテテッ
ほむら「(……この世界は、優し過ぎる。故に――不自然だわ)」
――――学校、放課後
ほむら「(……昔の私のフリをするのも骨が折れるわ。今日は少し調べないと……)」フゥ
まどか「ほむらちゃん、一緒に帰ろっ」ダキッ
ほむら「あ、ありがとう鹿目さん……でも、私今日は用事があって、行かなきゃいけない所があるの」ゴメンネ
まどか「あ、そっか。なら仕方ないね……また明日!」バイバーイ
ほむら「うん、また明日」フリフリ
ほむら「さて」チャッ、バサッ
ほむら「もうこの容姿の方が楽になってしまったわね……少し悲しいわ」ホムッ
ほむら「行きましょう」
――――見滝原、市街
ほむら「市街地に変わりは無いわね……」
ほむら「(魔法少女に変身する事も出来ないし、ソウルジェムも見当たらない)」
ほむら「……普通の人間に戻った、という事かしら。実感は湧かないけど」フゥ
ほむら「(当然、魔女の気配なんて感じない……あのキュゥべえも気になるけど)」
ほむら「……ここは、私の望む最高の世界ね。何が起こったのかしら……私が過去の改変に成功した?私の記憶が書き換えられたのかしら……」
ほむら「まぁでも、悪くないわ。グッジョブ私」ホムリ
ほむら「……っと、いつの間にか町外れだわ。見滝原から出てしまう所だった――」
ゴツンッ
ほむら「――何、これ」コンコンッ
ほむら「見えない、壁――?」ゾッ
ほむら「――っ!」バッ
ほむら「(車や自転車、鳥や虫は越えられている……いや、この壁は私を出さない為のモノ――ならば!!)」
ほむら「この世界は――何もかも偽り……?」
『ボクと契約して――』
ほむら「……そういう事か!」ダッ
――――見滝原、港
ほむら「はっ、はぁっ……」タッタッタッ
ゴツンッ!
ほむら「――痛ぅ……入れない!?」ガバッ
ほむら「開け、開けぇ!!」ガンガンッ!
「何してるの、ほむらちゃん?」
ほむら「え?」クルッ
まどか「髪、下ろしたんだね。とっても似合ってるよ……今日の用事って、もしかしてイメチェン?」ティヒヒッ
ほむら「あ、あぁ、そうなの」
ほむら「(――まさか)」
ほむら「ねぇ、まどか」
まどか「何かな、ほむらちゃん」
ほむら「貴女、誰?」パァッ
まどか「魔法少女になっちゃったね、ほむらちゃん」
ほむら「答えて」
まどか「私は鹿目まどかだよ。ホントにね」スタスタ
ほむら「……」
まどか「今のほむらちゃんなら、その先へと進めるよ。世界を壊してみて」
ほむら「……」ペタッ
ガシャンッ……
ほむら「――ここは」
まどか「そう。あの時のここだよ――ほむらちゃんが契約した、ね」
ほむら「この世界は――いや、貴女は」
ほむら「概念になった、あのまどか、ね?」
まどか「――正解。さすがほむらちゃんだよね……久しぶり」ニコ
ほむら「久しぶり……と言いたい所だけれど、私は急いでいるから……ここから出してくれないかしら?」
まどか「ねぇ、ほむらちゃん。ここは、キライ?」
ほむら「……いいえ。居心地は、最高だわ」
まどか「ならもう良いんじゃないかな?ほむらちゃんは良く頑張ったよ」
ほむら「……でもここは偽りの楽園。真実では無く、ただの逃避でしかないわ」
まどか「ほむらちゃん」
ほむら「……何かしら」
まどか「じゃあ、ほむらちゃんの居た世界が本物だって証拠はあるの?」
ほむら「――――え?」
まどか「ほむらちゃんは本当に凄い力を持ったよ。遥か未来から帰って来ちゃうんだから」
まどか「でも、ほむらちゃんが居たのは、ほむらちゃん自身が作った世界の中だったの」
ほむら「――どういう意味かしら」
まどか「ほむらちゃんは、世界の歴史の中の――あの一ヶ月だけをそのままコピーして、別の次元に張り付けたの」
まどか「ほむらちゃんが成功すれば、その書き換えられたデータが世界の歴史に上書きされて……きっと未来は変わる」
ほむら「……?なら、何の問題も無いと思うのだけれど」
まどか「でもね、ほむらちゃんはルール違反をしちゃったんだ」
ほむら「――――まさか」
まどか「ほむらちゃんの、最初の願いは何?」
ほむら「……『まどかに守られる私じゃなく、まどかを守る私になりたい』――」
まどか「でも、ほむらちゃんは私を殺してしまった」
ほむら「――仕方なかったの!」
まどか「うん、分かってるよ。でも、その所為でほむらちゃんが抱えていた因果が幾つかバラけてしまったの」
まどか「このままじゃ世界線が滅茶苦茶になってしまう……だから私は世界を再び練り直したの」
まどか「ほむらちゃん、ごめんね」
まどか「本当の世界はね、私が改変した直後に戻っちゃったんだ」
ほむら「――そん、な」
まどか「ほむらちゃんがあの一ヶ月で、結界の中でしか未来の力を使えないのはね、私のせいなんだ。大変だったんだよ、ほむらちゃんが気付いちゃった所為で、私も気付いちゃった」
ほむら「……?」
まどか「『魔法少女は魔女と等価値』」
ほむら「――!!」
まどか「私の願いは『過去と未来、全ての魔女を生まれる前に消し去りたい』……意味が分かるかな?」
ほむら「……あ、あぁ――」ブルッ
まどか「もう、ね。抑えるだけで、精一杯なの――救済の魔法少女は、今、滅びの魔法少女になりそうなんだよ?」
まどか「私も、こんな姿になっても、結局舞台の上で踊ってるだけだったの」ポロポロ
ほむら「ま、まどか……」
まどか「それでも行くなら……私が耐えきれなくなる前に、世界を変えて……」
まどか「私を、救って」
ほむら「――分かったわ。貴女の為なら……あと数千年くらい、余裕よ。時間跳躍があれば、何度だってやり直せるわ」
まどか「……ほむらちゃんは知らないんだよ。失う事の、辛さを」
ほむら「失うなら、失う前に戻る。それだけよ……さて」ジャキッ
ザザザザザザザザザザザッ!!!
ほむら「これだけの武器があれば、まどかの空間に孔を開けられるかしら……試すには、ちょうど良いわ!!」
フワッ……
ほむら「全ての奇跡よ、突き穿て!!」
――――
ほむら「案外簡単なモノね。出口はあっさり作れたわ」フゥ
ほむら「ここから出たら……私は改変後の世界に居るのね?」
まどか「……そうだよ。盾じゃなく、弓を持ったほむらちゃんが待ってる」
ほむら「次に盾が現れた時……中身は空になるのかしら?」
ほむら「まだ盾に入ってるのは……あ」ゴソゴソ
ほむら「バイオリン……か。勿体無いし、一本出しときましょうか」スポンッ
まどか「……本当に、後悔しない?」
ほむら「えぇ、待ってなさいまどか。必ず迎えに来るから」バサァッ
まどか「…………」
――――現実、魔獣の犇めく地上。
ほむら「――はっ」パチッ
QB「ようやく起きたのかい、ほむら」きゅっぷい
ほむら「キュゥべえ……戻ってきたのね、私」
ほむら「マミたちと連絡が取りたい……キュゥべえ、彼女たちはどこ?」
QB「?……ほむら、申し訳ないんだけれど――」
――それは誰の事だい?
ほむら「――え」
ほむら「な、何を言っているの……巴マミに佐倉杏子、千歳ゆま……美国織莉子に呉キリカ。みんな魔法少女の――」
QB「……どうしたんだいほむら。夢でも見ていたのかな?」
QB「そもそもこの街にいる魔法少女は、ずっと君だけじゃないか」きゅっぷい!
『因果が――』
『失う――』
ほむら「あ、あ……まさか、まさか……」
ほむらちゃんは、知らないんだよ。失う事の、辛さを。
ほむら「私は、私は――」
――取り返しのつかないことを、してしまった?
ほむら「――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
スレッドタイトル――ほむら「キュゥべえをレイプしたらソウルジェムが浄化された」
「インキュベーターは優しい夢を見るか」後編
完。
――予告と言う名の幕間
ベアトリクス「やぁ、皆。お疲れさま。これで、この物語は終わりを告げた。キミたちの及び知れる範囲はここまでだ」
ベアトリクス「ここからは、あの一ヶ月とはかけ離れた世界だ」
ベアトリクス「暁美ほむらはどうなってしまったのだろうか。絶望に身を焦がしたのかもしれないし、未だに戦い続けているのかもしれない」
ベアトリクス「でも、もし――暁美ほむらが未来を切り開くのなら……それはとても素晴らしいね」
ベアトリクス「何?こんな結末は嫌だって?」
ベアトリクス「なら、キミは読み続けると良い。ほら、舞台の奥へと――歩いておいで?」
――魔獣と戦う者、魔法少女。
彼女らは願いを叶える代償として、ソレと戦う運命を背負う。
そんな魔法少女たちの間に、ある噂が流れた。
曰く、「天使が助けに来てくれた」
曰く、「死神が私たちを殺しに来た」
魔法少女たちは、如何なる願いでそのソウルジェムを輝かせるのだろうか。
「インキュベーターは優しい夢を見るか」終章
QB「カミングスーン、だよ。きゅっぷい!」
423 : 伊吹 ◆LPFQRD/rxw - 2011/08/17 00:34:04.60 XCSmECkAO 631/1642って訳で後編終了。次は終章って事で一つ宜しく。
回収するべき伏線は回収してるはずなんだけど、すっげー不安。
やったね皆、終章ではまたエロスが帰ってくるよ!
とまぁ、良く考えたら激しいスレタイ詐欺かもしれないと思い至る訳で。訴えられかねないよねアハハー
途中凄い書き込み増えて驚いたよ。うん。やる気も出たね。
ていうか暇潰しに立てたスレがこんなになっちゃって……本スレが疎かになってヤバいね。
って訳でまた書いた時にでも。
続き: ほむら「キュゥべえをレイプしたらソウルジェムが浄化された」#05