--見滝原中学校の食堂--
仁美「私、上条恭介君の事、お慕いしてましたの」
仁美「私、決めたんですの。もう自分に嘘はつかないって」
仁美「あなたはどうですか?さやかさん。あなた自身の本当の気持ちと向き合えますか?」
仁美「私、明日の放課後に上条君に告白します」
仁美「丸一日だけお待ちしますわ。さやかさんは後悔なさらないよう決めてください。上条君に気持ちを伝えるべきかどうか」
さやか「…」
さやか「…うーん…」
さやか「……うーん…」
QB「いつになく悩んでいるね。美樹さやか」
さやか「うわっ!?びっくりしたー。突然出てこないでよ」
QB「君の悩み事、僕なら力になってあげられるかもしれないよ」
さやか「…また契約の話?」
QB「魔法少女になれば、その時の願いで上条恭介の目を君に向けさせる事も、志筑仁美に恭介を諦めさせる事も出来る。そういう意味では、確かに契約も選択の一つと考えることは出来るだろうね」
さやか「…あたしがそんな理由で契約すると思ってるの?」
QB「僕は君の願いについて干渉する権利はない。ただ、君にはいつだってそういう選択が選べるってことは忘れないでほしい」
さやか「魔法少女ってそんなに人手不足なの?」
QB「この街には多くの魔法少女がいる。人手不足ってことはないね」
さやか「なら、あたし別にいらないじゃん」
QB「魔女と戦う人間は常に死と隣りあわせだ。少なすぎる事はあっても多すぎるという事はない。それに、君は既に叶えたい願い事を持っているんじゃないのかい?」
さやか「…もう少し考えさせて」
QB「仁美は明日にも告白するんだろう?だったら、君が悩める時間もそんなに残ってはいないと思うんだけどね」
さやか「…わかってるよ…」
--恭介の家--
恭介「…やぁ…さやか…」
さやか「恭介…」
恭介「何だい、また僕を馬鹿にしに来たのかい?」
さやか「ねぇ、恭介。…もしその腕が治す方法があると知ったら、その為なら何だって賭けられる?」
恭介「…決まってるだろう?僕にとって音楽は全てなんだ。そんな事君が一番知っているはずなのに…そうやってまた君は僕をいじめるんだね」
さやか「その言葉に嘘偽りはない?」
恭介「当然だろ…いい加減にしてくれ!」
さやか「わかった。その言葉だけ聞きたかったんだ…じゃぁね」パタン
恭介「…」
ゴン!
恭介「…くそ!僕は…!さやかに当たってもしょうがないのに…!!」
QB「決心がついたようだね」
さやか「あたしの願いは恭介の腕を治すこと。叶えられる?」
QB「大丈夫。君の祈りは間違いなく遂げられるだろう…でも、本当にその願いでいいのかい?その願いでは、君が報われないと思うのだけれど」
さやか「何、心配してくれてんの?」
QB「疑問に思っただけさ」
さやか「大丈夫。…あたしはこの願いを叶えたら、見滝原を出て行く」
さやか「魔法少女になるってことはさ、つまり命がけなんだよね。そんな人間と付き合ってほしいなんて言えないよ」
さやか「でも、仁美と恭介が一緒にいるのは、あたしが耐えられない…だからあたしは見滝原を出て行く。多分、それが一番いいんだと思う」
QB「…それが君の願いだと言うのなら、僕は何も言わない」
さやか「ありがと。キュゥべぇ。…いろいろ引っ掻き回しちゃって、ごめんね」
QB「言っただろう?僕に君の願いを干渉する権利はない」
QB「さて、美樹さやか。改めて聞くけど…本当にいいんだね」
さやか「うん。やって」
QB「受け取るといい。これが君の運命だ」
まどか「…」
マミ「鹿目さん…どうしたの?何か調子が悪いみたいだけど」
まどか「マミさん…さやかちゃんが、さやかちゃんがいなくなっちゃったんです」
マミ「さやかちゃんって確か…鹿目さんの友達の」
まどか「はい、美樹さやかちゃん。…朝、さやかちゃんの家から電話がかかってきて…昨日の夜から、帰ってないって」
マミ「そんな…キュゥべぇには聞いてみた?」
まどか「キュゥべぇは、『美樹さやかがどこにいるかは知らない』って。探してみるって言ってくれたけど…」
マミ「…鹿目さん。あと数日でワルプルギスの夜が現れる。今、美樹さんを探している余裕は私達にはない」
まどか「…でも!」
マミ「それとも鹿目さんは、見滝原がどうなってもいいっていうの?」
まどか「…!」
マミ「ごめんなさい。でも、今のあなたは見滝原を守る魔法少女なの。それだけは自覚して」
まどか「…はい…」
マミ「…キュゥべぇに任せておけば大丈夫。あの子はあれで結構頼りになるんだから。私だってキュウべぇのおかげで助かったのよ」
まどか「マミさん…そうですよね。キュゥべぇがさやかちゃんの為に頑張ってるんだから、私も見滝原の魔法少女として…頑張ってワルプルギスの夜を倒します!」
マミ「その意気よ。鹿目さん」
--どこかの街の銀行--
強盗A「いいから早く金を出せ!」
銀行員「も、もう少し待ってください。せめて後5分…」
強盗A「もういい…あんた、死にたいってことだよな。それ」
銀行員「っひ!」
?「もう少し待ってあげてもいいんじゃない?短気は損気ってね」
強盗A「あん…何だ餓鬼んちょ。変なコスプレしやがって」
?「コスプレ言うな!さやパンチ!」
強盗A「ベボァ!」
強盗B「な、何だ?」
強盗C「こいつ!」
さやか「…あ、つい手が」
強盗B「手をあげろ!」
さやか「いやーそのーなんっていうか」
強盗C「いいから早く上げろ!」
さやか「わかりました…なんてね!」ダッシュ!
強盗B「な…ウベボォ!」
強盗C「てめバベェ!」
さやか「ふっふっふ。魔法少女界最速を誇るさやかちゃんのスピードに人間がついてこられるかっての」
QB「君が最速ということはないね。…こんなところで何をやっているんだい?」
さやか「…キュゥべぇ?」
QB「…いいからすぐ外に出て。警察が来たら面倒だ」
さやか「わかった」ヒュン
QB「つまり、君は魔女を倒しつつ正義の味方の真似事をしていたと…前例がないわけではないけど、あまりお勧めは出来ないね」
QB「魔女と戦う為の魔力を他の事に使えば、それだけ魔女と戦う時の致死率が高くなる」
さやか「…あんたは、なんだかんだであたしを心配してくれるんだね」
QB「事実を言っているだけさ」
さやか「大丈夫。あたしは自分でこの生き方を選んだんだ。それで魔女に殺されたとしても、後悔なんてしない」
QB「…わかったよ。さやか」
さやか「…ところでキュゥべぇ。あんた、あたしを探してくれてたの?」
QB「そうだよ。時間はかかったけど、なんとか君を見つけることができた」
さやか「…ありがと。キュゥべぇ」
QB「礼を言われる話じゃないさ」
--織莉子の家--
織莉子「…」
キリカ「織莉子ー紅茶まだー?」
織莉子「あ…ごめんね。すぐ持っていくから」
キリカ「…ねぇ、織莉子。もうすぐワルプルギスの夜が来るけど…本当に私達、何もしなくていいの?」
織莉子「大丈夫。私の『未来予知』では、巴マミ・鹿目まどかの2人でワルプルギスの夜は倒せる。私達が下手に干渉をして、彼女達の邪魔をしてはいけない」
キリカ「うーん…大勢で挑んだほうが楽だと思うんだけど」
織莉子「キリカ。貴女は見ず知らずの魔法少女と一緒に魔女と戦う事になったら、どうする?」
キリカ「邪魔だから一緒に刻むね」
織莉子「…キリカ、めっ!」ピシィ!
キリカ「痛!」
キリカ「織莉子ーごめんよー嫌いにならないでー」
織莉子「なら刻むとか言わない!…信用できない魔法少女と一緒に戦うというのは、非常に難しい。私達2人が彼女達と一緒に戦ったほうが、不確定要素が高くなり結果として勝ちの目が確率が薄くなってしまう。今は下手な手は打たないのが最善ね」
キリカ「でも、何もしないなんてさー。私達2人のコンビは、あいつらより断然強いよ!」
織莉子「…もし、巴マミと鹿目まどかが敗れるような事があれば、その時は私達の出番よ。準備だけはしておいて」
キリカ「…わかった!任せておいて!」
織莉子「(…とはいえ、私の『未来予知』では巴マミと鹿目まどかの勝利は確定している。恐れる必要は何もないはず…)」
--数日後--
テレビ「見滝原でスーパーセルが発生しました。現場には近づく事すら出来ない状況で…」
さやか「…何これ」
さやか「キュゥべぇ!これは一体どういう事!?」
QB「ワルプルギスの夜が現れたんだよ」
さやか「ワルプルギスの夜?」
QB「最強の魔女さ。今、ワルプルギスの夜と見滝原の魔法少女達が戦っている。もし魔法少女達が負けてしまえば、見滝原に未来はないだろうね」
さやか「…なんでそんな話をだまってたの!」
QB「話せば君は見滝原に帰っただろう?君の実力ではワルプルギスの夜に傷一つつけられない。こんなところでいたずらに魔法少女の犠牲を増やしたくはない」
さやか「…今から見滝原に帰る」
QB「君が帰ったところで、何の力にもなれやしない」
さやか「ワルプルギスの夜と戦えなくても、避難の手助けぐらいは出来る。何の力にもなれないってことはないと思う」
QB「…君がそこまで言うのなら、もう止めはしないさ」
さやか「ごめん。キュゥべぇ」
--見滝原--
織莉子「キリカ!左!」
キリカ「了解!」ヒョイ
ワルプルギスの夜「アハハハハハ アハハハハハハ」
織莉子「(未来予知を過信した!…未来は絶対ではない事は理解していた。それでも自分が手を加えない限り未来が変わることはないと思っていた)」
織莉子「(…もしその未来予知が魔女によって意図的に見させられたものだとしたら?未来を変えることが出来る能力を持った魔女がいるだとしたら?…未来が変わる理由なんていくらでも考えられたはずなのに…!!)」
マミ「」
まどか「」
織莉子「(…彼女達が殺されたのは、私の責任だ…!)」
キリカ「織莉子!?前!!」
織莉子「…わかっているわ!」スィ
織莉子「(悔やんでも仕方がない。…せめて彼女達の犠牲を無駄にしない為にもワルプルギスの夜は…私達の手で倒す!)」
さやか「そいっと」
住民「助かったよ…さやかちゃん。これはどういうことだい?家出したと聞いたかと思えばそんな不良みたいな格好して…」
さやか「これにはいろいろ事情が…とにかくここを真っ直ぐいけばもう避難所ですから!気をつけて!」タタッ!
住民「ちょっと!さやかちゃ」
さやか「(ひどい風…魔女を肉眼で捉えられない地点でこれだけの影響が出るなんて…)」
さやか「…とにかく他に逃げ遅れた人がいないか探そう…ってあれって」
恭介「…!!…!!」
さやか「恭介!?どうしてこんな所に」
恭介「…さやか!やっと見つけた!」
ッギュ!
さやか「…え?」
恭介「馬鹿…すごい心配したんだからな」
キリカ「一手で…十手!」ザシュスパァ!
ワルプルギスの夜「アハハハハハハ!!アハハハハハハハ」
キリカ「…ふん。木偶の坊の割に硬いか」ブン!
キリカ「それにしても…ほんっとうに燗にさわる笑い方だね。さぞかし生前は男にも女にも縁がなかったんじゃないかな!」シュン!ヒュン!
織莉子「(…駄目だ。私達では火力が足りなすぎる。もうどの未来でもワルプルギスの夜の最後の一手には届かない。見滝原は壊滅する)」
織莉子「(…せめてキリカだけは…でも、この子は私が死んでしまえばそのまま絶望してしまう。何か方法を考えないと)」
さやか「…じゃぁ恭介はいるかどうかもわからないあたしの為にこの風の中一人で探し回ってたの!?」
恭介「…悪い?別に僕が誰を探そうと僕の勝手だろ」
さやか「勝手じゃないよ!…すぐに避難しないと」
恭介「…あんな思わせぶりな事言っていなくなったさやかがいけないんだろ!」
さやか「…恭介?」
恭介「あの日の夜、突然僕の腕は治ったよ。それこそ奇跡か魔法みたいにね。…そしてさやかがいなくなった」
恭介「これをただの偶然と捉えられるほど僕は馬鹿じゃない」
さやか「…それは…」
恭介「それに…今日は流石に僕しか探してないけど、昨日まではさやかのお父さんやお母さん、鹿目さんや暁美さん、志筑さんだってみんな君を探し回っていたんだ」
恭介「さやか、何で何も言わずにいなくなったんだよ。僕達がどれだけ心配したか君にわかるかい?」
さやか「…ごめんなさい。あたしそんなつもりで…」
恭介「…いや、僕のほうこそごめん。話したいことはいっぱいあるけど…一緒に避難所に行こう。みんな待ってる」
さやか「…それはできない」
恭介「…どうして?」
ワルプルギスの夜「アハハハハハ!アハハハハハハハハハ!」
キリカ「まずい。もう人形が最上部に到達しそうだ」
キリカ「…こうなって来るとあまり形振り構ってはいられないか。魔力全開で叩き込んでそのまま魔女化して纏わりつけば或いは…どうする?織莉子」
ダキィ
キリカ「織莉子…?…嬉しいけど、何で今私を抱きしめるの?」
織莉子「…キリカ。私から貴女に命令します」
キリカ「織莉子?」
織莉子「この世界を守りなさい」
キリカ「…!?」
さやか「あたしは魔法少女だから。みんなの為に最後まで力を尽くさないと」
恭介「…まさか、それが僕の腕を治した対価?」
さやか「…」
恭介「…確かに僕は音楽が全てだった」
恭介「でも、君をそんな風に追い詰めてまで、僕はそれを貫き通したかったわけじゃない!!」
さやか「…恭介。それは違う。あたしは…」
アハハハハハハハハハハ!!アハハハハハハハハハハハハハハ!!
さやか「…!…あれがワルプルギスの夜…?」
恭介「…さやか?」
ピカ!
目を開けた瞬間強烈な激痛が襲い、美樹さやかは慌てて癒しの魔法を使った。
辺りは瓦礫の山。その中でさやかは懸命に恭介を探す。
さやか「恭介!大丈夫!?」
結局のところ、さやかは恭介を探しだす事には成功した。だが……
恭介「」
さやか「……ねぇ、恭介。何で何も喋ってくれないの?さっきのことまだ怒ってるの?」
恭介「」
さやか「ごめんね恭介。でもあたしはさ、恭介のヴァイオリンをもっと多くの人に聞かせたかった。ただそれだけだったんだ」
さやか「追い詰められたのは……そりゃないと言えば嘘になるけどさ。仁美なら仕方がないと思ったんだ。恭介には勿体無いぐらいのいい子なんだよ」
恭介「」
さやか「だからね……恭介……」
恭介「」
さやか「……守れなくて……ごめん……」
恭介は、既に腕しか残っていなかった。
さやか「……」
さやか「…」
さやか「このままじゃ……駄目だ」
さやか「……仁美やまどか、ほむらだって生きてるかもしれないんだ。頑張らないと」
さやか「避難所に行こう」
--避難所--
避難所は既に地獄絵図であった。
ワルプルギスの夜の攻撃によって壊滅状態になっていたという事もあるが、それだけではない。
施設内を数え切れないほどの魔女が行き来していたのである。
さやか「……これは何!?何でこんなに魔女が」
その時、さやかは立ちすくんでいる人間を発見した。
……否、人間ではない。ソウルジェムを片手に持っている姿は、
紛うこと無き魔法少女だ。
魔法少女「……」
さやか「……!?……大丈夫?しっかりして!」
魔法少女は何も答えないかわりに、さやかに対して微笑みかけた。
そして、彼女のソウルジェムが割れた。
さやか「……え」
キリカ「どいて!」
さやか「!?」
そこに現れたのは、片目に眼帯をつけた黒髪ショートの少女。
その両手に装備したかぎ爪は、魔法少女だったものを瞬時に切り裂いていた。
キリカ「成り立てならこんなものか。大したことはないね」
さやか「……あんた、なんて事を!!」
キリカ「……ん?魔女を倒しただけだろ。責められるような事はしていないつもりだけど」
さやか「何を言っているの!あの人は魔法少女で」
キリカ「何かかみ合わないな……」
魔女の鳴き声が聞こえる。
キリカ「魔女が集まってきた。長居は無用だね」
さやか「でも、もしかしたら誰か逃げ遅れた人が」
その言葉に対して、キリカはさらりと告げた。
キリカ「0だよそんなの。全員死んでた」
さやか「!!」
結局さやかとキリカは2人で避難所から脱出した。
キリカ「ふー……ドン臭いように見えて、意外と早いね。君」
さやか「そろそろ教えてくれない?あれは何だったのか」
キリカ「いちいち説明しないとわからない馬鹿にも見えないけど」
さやか「……!」
キリカ「見たままの話だよ。ソウルジェムが魔女を産む。私達魔法少女は、皆等しく魔女の卵なのさ」
さやか「……嘘だ!」
キリカ「いや、嘘って言われても……他にあれをどう解釈できるっていうの?」
さやか「……それは」
キリカ「別に受け止められないならそれもいいと思うけどね」
さやか「……つまり、みんな魔法少女達に殺されたっていうの?」
キリカ「『元』ね。……確かにワルプルギスの夜も元魔法少女だったことも考えれば、その解釈は間違ってはいないかな」
さやか「……そん……な」
呆然としているさやかに対して、キリカは淡々と会話を続ける。
キリカ「私は見滝原を出る。もうこんな所いる意味もないしね。君はどうするの?」
さやか「……生存者を探す」
キリカ「……本気で言ってるの?」
さやか「どういう意味?」
キリカ「……そりゃ可能性の話をするなら0ではないのかもしれないけど、避難所の惨状を見る限り、とても生きている人間がいるとは、ね」
それは、さやかにとって受け止めることが出来ない現実であり
さやか「……黙れよ」
キリカ「現実が直視できないなら伝えてあげるよ。もう見滝原に生きている人間は」
さやかが怒りで我を忘れるには充分すぎる言葉だった。
さやか「黙れぇええええ!!」
気がつけば、さやかは剣を手に取り、キリカを斬りつけていた。
……少なくともさやかは斬りつけたつもりでいた。だが
キリカ「危ないなぁ」
キリカは美樹さやかの真後ろに立っていた。
さやか「速い!?」
キリカ「君が鈍いんだよ」
キリカの足蹴りがさやかの背中に直撃する。
さやか「ぐ……!」
キリカ「まだ近くに魔女が大勢いるんだよ。こんな状況で私に喧嘩を売るなんて正気なのかい?」
さやか「……」
キリカ「……まぁ、些細か。君が私に勝てるわけないし」
戦いは一方的だった。
さやかが懸命に攻撃するも、その全てをキリカは回避し、カウンターにもっていく。
ずっとその繰り返しだ。さやかが既にボロボロなのに対して、キリカは傷一つついていない。
さやか「強い……」
キリカ「こんなのんびりした気持ちで戦うなんて初めてだね」クスクス
さやか「馬鹿にして……!」ギリ!
キリカ「……少しは落ち着いたらどうだい?ここで私を倒しても何もならないことは、君だって理解はしているのだろう?八つ当たりされても困るんだよね」
さやか「……あんたは……」
キリカ「何?」
さやか「あんたは何でそんな簡単に諦められるの!?見滝原に大切な人が一人もいなかったの!?」
キリカ「……いたよ。大切な人が一人」
さやか「だったら……!」
キリカ「私自身が見取ったんだよ。その人の最後を」
さやか「……!!」
--回想--
キリカ「織莉子!」
織莉子「この世界の為、私は貴女を守りました。だからあなたにはこの世界を守る義務があります」
織莉子「まず手始めに……魔女になった私を倒しなさい。今の私の魔力を使い、魔女になった瞬間の私に対して拘束をかける」
織莉子「それを貴女が倒し、グリーフシードを手に入れれば、見滝原を脱出する為の魔力が、補充できる」
キリカ「無茶苦茶だよ織莉子!」
織莉子「……いい。キリカ。私の目標を、貴女が引き継ぐの。これは、世界で、貴女にしか、でき、な、」
キリカ「……」
織莉子「もう、このままじゃ、私は、頃氏」
キリカ「……織莉子。君の頼みを私が断るわけないじゃないか」
その言葉を聴き、織莉子は満足げに微笑んだ。
……そして、織莉子のソウルジェムは、砕け散った。
キリカ「……あははははは!」ブゥン!
--回想ここまで--
キリカ「後にも先にも私にとって大切なのは彼女一人だ。その彼女にこの世界を守れと言われた。……こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ」
さやか「……」
さやかの戦意は、既に喪失していた。
キリカ「……どうしたんだい?青い子」
さやか「美樹さやかだよ。……ごめん。あたし自分の事ばっかであんたの事何も考えてなかった」
キリカ「……君の言う事も一理はある。確かに可能性が0でないのならそこに時間をかける事事態は悪いことではないと思う。魔女を全く考慮しなければ、だけどね」
キリカ「ワルプルギスの攻撃で魔法少女が魔女になったというのもあるけど、それ以上に元々いる魔女への影響がまずい。使い魔達が呪いを吸い込んで一斉に魔女になっている。もうこの街の魔女は飽和状態だ」
キリカ「一刻も早く立ち去るべきというのが、私の見解だね」
さやか「……あんたはそれでいいと思う。でもさ、あたしは自分の目でいないって理解するまで諦めたくないんだ。だからあたしは見滝原をもう少し探索しようと思う」
キリカ「そうか、残念だよ」
さやか「……じゃぁ、あたし行くね」
さやか「って何でついてくるの!?」
キリカ「最初から手伝わないとはいってなかったよ。この状況下で一人で動きまわりたくはなかったし、仲間は欲しいと思っていたんだ」
キリカ「……要は生存者がいるかどうか確認できればいいんだよね?だったら一人より二人の方が早い。脱出だって一人より二人の方がやりやすい。その辺は利害が一致するんじゃないかな」
さやか「……あんたの名前は?」
キリカ「?……そういえば言ってなかったっけ。キリカだよ。呉キリカ」
さやか「キリカ。……ありがとう」
キリカ「いちいちお礼とかいらないよ。所詮見滝原を出るまでの関係だし。……ま、でも、そうだね。暫くはよろしく、さやか」
さやか「よろしく、キリカ」
キリカという魔法少女がどういう人間なのかはまだわからない。
ただ、親友の約束を守る為に戦い、こうして自分も助けてくれる辺り、
恐らく善人なのだろう。
さやか「じゃぁ、行こう!」
キリカ「その前にこれ」ポン
さやか「……グリーフシード?」
キリカ「さやか、自分のソウルジェムを確認してごらん?」
さやか「……嘘、真っ黒」
キリカ「ソウルジェムが濁ると精神状態にも影響するんだよ。さっき襲い掛かってきた時にちょっと引っかかりを覚えて見てみたら……案の定だ」
さやか「でも、このグリーフシードはキリカの」
キリカ「それはさっき倒した魔女のものだよ。あと、この状況下で誰が倒したとかそういうのも一切気にしないように。多分これからいちいちカウントするのも馬鹿らしくなるだろうし」
さやか「う……で、でも」
キリカ「魔女と戦ってる最中に魔女になった君に後ろから殺されましたなんて展開はごめんだからね」
さやか「……」
恐らく善人なのだろうが、もう少し言い方があるんじゃないかなぁ……と、さやかは思った。
--住宅街--
キリカ「首なし死体発見。さっきの首とくっつくかな」
さやか「……」
キリカ「……うん。全然合致しないね。いや、むしろこの右手がさっきの左手と……」
さやか「キリカ……真面目にやってよ……」
キリカ「最初の数時間は真面目にやってたじゃないか。いもしないであろう生存者の呼びかけとかね」
さやか「……」
キリカ「……それで、いつまで続ければいいんだい?こんな事」
さやか「生存者が見つかるまで、だよ」
キリカ「……それは大変だ」
正直、キリカはさやかの事を舐めていた。
数時間探し回ればさやかも現実を直視せざるをえない。
そうなれば、すぐにでも脱出できる。それぐらいに考えていた。
が、一向にさやかが諦める様子はない。
……ひょっとしてひどい思い違いをしていたのではないだろうか。
さやかは本当のところ生存者を探しているのではなく、ただ生存者を探すという行為を続けることで、自分の心を保っているだけなのではないだろうか。
「あたしは自分の目でいないって理解するまで諦めたくないんだ」
聞こえがいいこの言葉も、そういう読みをすると全く別の解釈が見えてくる。
つまりは、ソウルジェムが真っ黒になるまで永遠に見滝原をさまよい続けるという…
さやかを見限る事も視野に入れるべきかもしれないな、そうキリカは考えた。
だが、その時
さやか「あれ、ひょっとして人の足!?」
キリカ「死体だろ?その辺に転がってた胴体部分とでもくっつくかもね」
さやか「違うよ!何か動いてる!!」
キリカ「……え?」
そんな馬鹿な……そう思いさやかの方を見ると、確かに動いている。
瓦礫に覆い隠されてしまい足しか見えないが、どうもまだ生きているようだ。
キリカ「まさか……本当に生存者が?」
さやか「待ってて!すぐ助けるから!」
……いや、待て。
この辺はこんな状況になる前は、確か歩道だったはず。
その足は何故スケート靴なんかを履いている?
キリカ「さやか。様子がおかしい。少し離れて様子をみよう」
さやか「このままじゃ死んじゃうかもしれないんだよ!早く助けないと!」
キリカ「そういう意味じゃなくて……」
その時キリカは気づいた。
その足のすぐ近くに、同じようにスケート靴を履いた集団がいる事を。
彼らは埋まっている足と同様の靴を履いており、下半身より上が存在しなかった。
そしてそのすぐ後ろには地面に落ちた蜘蛛のように歩き回る首のない六本手の人間が……
キリカ「さやか!それは魔女の使い魔だ!!」
さやか「……?」
振り向いたさやかを見て、キリカはようやく自分の愚かさを悟った。
さやかの首には特徴的な意匠……『魔女のくちづけ』が描かれていたのだ。
キリカ「全く世話のやける……!!」
さやか「キリカ…?」
キリカ「……本来は結界を蜘蛛の糸のように構成して空中から襲うタイプの魔女なのかな。そういえば避難所にいた魔女達も結界を張っていなかったな……何か理由でもあるのかもしれないな」
さやか「何をしようとしているの?キリカ」
キリカ「そうだね。君には早く正気に戻れと言いたいけど、一度魔女の口づけに捉われたら自力での回復は難しいか。なら……」
キリカ「当然、大元を叩くのみだね!」
キリカは衝撃波を繰り出した。その魔女本来のスタイルで戦えればまた違ったのかもしれないが、地面に這い蹲ってる状態では逃げ道がない。
が、
さやか「キリカ?その人はまだ生きているんだよ?」
その攻撃はさやかによって防がれた。
さやかのスピードは厄介だ。
さやかと一対一で戦った時、技術面は置いといて、キリカの『時間遅延』をかけてもある程度その能力を維持していたスピードは非常に脅威だった。
もっともさやかの場合、ワンパターンに突進を繰り返すからひたすらにカウンターをとるだけで事はすんだが、今回のように防御主体の戦い方をされるとまた状況が変わってくる。
つまりはさやかを無視して魔女を攻撃するというのが極めて難しいのだ。
キリカ「……仕方ない。さやか、短い付き合いだったけど、つまらなくはなかったよ」
一手で十手
キリカは必殺の一撃を放った。
これならば、さやかを貫通してそのまま魔女も貫ける。……が、放ったものの、一向に衝撃波が現れない。
さやか「キリカ、折角生き残った人を攻撃しちゃいけないよ……?そんなことしたら、殺さないと」
キリカ「しくじった?こんな時に!!」
さやか「……もらったぁ!!」
さやかの剣がキリカを貫いた。
貫かれた状態でキリカはさやかを抱きしめる形をとりながら後方に飛ぶ。
さやか「…?」
キリカ「こんな三文芝居、さやかぐらいにしか通用しないんじゃないかな」
キリカの能力は『時間遅延』だ。
当然それは技の発動についても例外ではない。
キリカが後ろに飛び跳ねるのと、必殺の衝撃波が魔女に飛んでいくのはほぼ同時であった。
さやか「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
キリカ「自分の意思で攻撃したなら怒りもするけどね。魔女のくちづけに関してはどうしようもない。取り敢えず魔女本体に怒りはぶつけたし、気にする必要はないよ」
さやか「でも、あたしキリカに迷わいたたたた……何するんだ!」
キリカ「ほっぺたをつねった。これでおあいこってことで」
さやか「……キリカ、そういうのってちょっとずるいよ……」
キリカ「こずるい手は得意な方でさ。それより、治癒魔法とか持ってないかな。グリーフシードでもいいんだけど、少し回復に時間かかるし」
ほとんど冗談で言ったのだが、
さやか「うん。任せて」
さやかは治癒魔法の使い手だったらしい。
……なるほど。つまりはその再生能力でワルプルギスの夜の攻撃をのりきったのか。
キリカ「あのさ。さやか」
さやか「……何?」
キリカ「生存者探索。まだ諦められない?」
さやか「……ごめん」
キリカ「……まぁいいさ」
さやか「本当にごめん。キリカ」
無論、キリカは見滝原から脱出して織莉子の意思をつがなければならない。
その為にはさやかには何としてでも生存者探索を諦めてもらなければならないし、かなり強引な手段をとる必要もあるかもしれない。
……というより、このままでは確実にそうなるだろう。その時さやかがどうでるか……
今の時点で考えて答えが出るものでもない。
なので、取り敢えず今はこう伝えることにした。
キリカ「ま、飽きるまでは付き合うよ」
--夜--
キリカ「結局見つかったのは死体だけだったね」
さやか「・・・・・・まだ探してない所もいっぱいある。諦めるのは早いよ」
キリカ「そうかい。・・・・・・あの辺がいいかな」
さやか「キリカ、何してるの?」
キリカ「今日の寝床探しだよ。あの家とかうまい具合に形が残ってるし、そのまま使わせてもらおう」
さやか「でもそれって不法侵入・・・・・・」
キリカ「この状況下で気にする必要はないんじゃないかな」
--誰かの家の中--
キリカ「冷蔵庫の中見てみなよ!ケーキが入ってるよ!!」
さやか「キリカはしゃぎすぎ!!・・・・・・でもすごい、綺麗な部屋・・・・・・」
キリカ「しかしここまで綺麗に残ってるとなると・・・・・・案外この部屋は元魔法少女の部屋だったのかもしれないね」
さやか「え?」
キリカ「用心深い魔法少女の中には、自分の家に結界を張っている子もいる。寝ている時に魔女に襲われたら大変だしね・・・・・・そのおかげで、ワルプルギスの攻撃を食らってもここまで綺麗に残ったのかもしれない」
さやか「・・・・・・ひょっとするとうまくこういうところに逃げ込んだ子が!」
キリカ「ワルプルギスの攻撃を予測して事前に魔法少女の家に忍び込んだ子ねぇ・・・・・・いないいない」
さやか「むむむ・・・・・・」
キリカ「しかし本当に不思議な部屋だ・・・・・・この三角形のテーブルとか、侵入者撃退用かな」
さやか「それはないと思う」
キリカ「あの花瓶はきっとボタンを押すと発射・・・・・・」
さやか「絶対ない」
キリカ「冗談はさておいて、念のため結界は張っておくか」
さやか「ねぇ、キリカ」
キリカ「なんだい?」
さやか「その・・・・・・本当にごめん。刺したとこ、痛くない?」
キリカ「・・・・・・流石にそろそろ答えるのが面倒になってきたんだけど。君の回復魔法が効いたからほら、見ての通り傷一つない」ピラピラ
さやか「でも、刺した時は痛かったんじゃ・・・・・・」
キリカ「・・・・・・そういえばちゃんと説明してなかったね」
キリカ「魔法少女は魂をソウルジェムに変換させられる。言うならば肉体は外付けのハードウェアみたいな扱いになっている」
キリカ「これを利用して、ソウルジェムと肉体の感覚を一部遮断する事が可能になるんだ。今回私が使っていたのは『痛覚遮断』だね。正確に言えば刺された部分が把握できる程度の傷みは残していたけど、まぁこれで君の攻撃に関する痛みはほぼ完全にシャットアウトしてたというわけさ」
さやか「そんな・・・・・・自分の体を物みたいに」
キリカ「別に魔法少女じゃなくても体は物だろう。大事なのはその物を使って何を為すかだと私は考えているけどね」
さやか「・・・・・・キリカは、魔法少女ソウルジェムに変化させられていて、最後は魔女になるって話。最初から知ってたの?」
キリカ「ん?いや、織莉子から教えてもらったよ」
さやか「その、キリカは魔法少女が魔女になると知った時どう思った?」
キリカ「葬式がいらないから手軽でいいなぁと思ったね」
さやか「真面目に答えてよ・・・・・・」
キリカ「割と本気だったんだけど・・・・・・そうだなぁ。確か、これが織莉子の為にどんな役に立つだろうって考えた気がする」
さやか「え?」
キリカ「例えば私が魔女になって織莉子がその内に逃げれば、時間稼ぎぐらいにはなるじゃないか。他にもうまく魔女としての性質をコントロールできれば、織莉子の敵となっている存在を狙い撃ちで撃退する事が出来るかもしれない」
キリカ「いうなれば『魔女』とは魔法少女の持つ最後の切り札。そう私は解釈したね」
さやか「でも、こんな石っころにされちゃったんだよ!私達!しかもそれでいつか魔女になるなんてそんな事!」
キリカ「石ころにされたとか魔女になるとかそんな事は些細な事だ。もう一度言うけど、大事なの事はそれによって手に入れた力で何をするかということじゃないの?」
キリカ「私はその力を今まで織莉子の為にどうするかという事だけを考えて使ってきた。織莉子は死んでしまったけど・・・・・・だからこそ、今後は織莉子の願いの為にこの力を使っていきたい。私はそう考えているよ」
さやか「・・・・・・キリカは、強いね」
キリカ「私は強くなんかない。だからあんな願いを・・・・・・ってそれはいいか。そもそも私より、織莉子の方がよっぽど凄かったよ。織莉子は全てを知って、その上で世界の為に戦っていたんだから」
さやか「世界の為に?」
キリカ「そうさ。・・・・・・案外、君と似たとこはあったのかもしれないね。もっとも織莉子がそういう所で精神的にブレたりしたのは見た事がなかったけれど」
キリカ「織莉子が精神的にブレるのは・・・料理とか、掃除中とか・・・・・・意外と多かったかも」
さやか「えぇと・・・・・・ドジっ娘?」
キリカ「かなりね。でも、それでも彼女は一生懸命だったし尊敬できた。・・・・・・案外その辺なのかな。彼女に惹かれたのは」
さやか「好きだったんだね。その人のこと」
キリカ「そんな言葉では表せないぐらいにね。彼女は私の全てだった。それぐらいに、大切な人だったんだ」
キリカ「・・・・・・大切な人といえば、聞いていなかった」
さやか「?何を?」
キリカ「さやかの大切な人の話さ。私に大切な人がいるか聞いたぐらいなんだから、当然君にもいるわけだよね」
さやか「・・・・・・うん。いるし、いたよ」
キリカ「私だって喋ったんだから、今度は君の話を教えてくれよ」
さやか「・・・・・・わかった。じゃぁまず恭介との出会いから・・・・・・」
キリカ「・・・・・・出会いって・・・・・・嫌な予感が」
--省略--
キリカ「まさか生い立ちから話しはじめるとは・・・・・・」
さやか「で、その時にほむらが勉強についていけなくてあたしがノートを」
キリカ「うん。大体わかった。つまり恭介、まどか、仁美、ほむら。その辺が君の大切な人なんだね」
さやか「うん。恭介は死んじゃったけど・・・・・・まどかや仁美やほむらは生きてるかもしれない。特にまどかはなんだかんだで生き残ってそうな気がするんだよ。あの子、いい子だし、何かちゃっかり誰かに助けられたりしてさ」
キリカ「・・・・・・ふむ」
キリカ「そうだね。ひょっとしたら生きているのかもしれない」
さやか「そうだよ、だからあたしは、決して諦めない!」
キリカ「・・・・・・さて、そろそろ遅いし、君は少し休んだほうがいい」
さやか「キリカは?」
キリカ「外の様子を見てくる。少し街を回っていて気になる事があってね」
さやか「気になる事?」
キリカ「今の段階では何ともいえない。確証が得られたら話すよ」
さやか「・・・あたしもついて行」
キリカ「魔女の口づけを喰らったり、その前にも私にボコボコにされたりで肉体も精神も相当やられてるんだから、君は少し多めに休んでおいたほうがいい。まだ先は長いんだから」
さやか「う・・・・・・」
キリカ「今君に倒れられるのは、私としても困るんだよ」
さやか「・・・・・・わかった」
キリカ「素直でよろしい」
--外--
キリカ「キュゥべえ!」
QB「気づいていたんだね」
キリカ「こんなに魔女が大量発生しているんだ。エントロピー回収業者の君がいないわけがない」
QB「確かにワルプルギスの夜のおかげで僕としては大助かりさ。まだまだノルマにはほど遠いけどね」
キリカ「ときに、君とちょっとした取引がしたいんだけど、いいかな」
QB「相談?君が僕に何を」
キリカ「美樹さやかの希望から絶望への相転移、それによって発生するエントロピー・・・・・・欲しくないかい?」
QB「詳しく聞きたいね」
--家の中--
さやか「何かキリカに迷惑かけてばっかりだなぁ、あたし・・・・・・せめてもっと強くならないと」
さやか「・・・・・・そういえば、さっきから気になってたけど、あのノートなんだろう」
さやか「・・・・・・持ち主に悪いけど、ちょっとだけなら・・・・・・いいよね」
さやか「・・・・・・『必殺技帳』・・・・・・何でそんなものを」
さやか「どれどれ・・・・・・」
さやか「・・・・・・!!?こ、これは!?」
--早朝--
キリカ「流石に一晩では無理があったか」
キリカ「まぁ、今夜には準備が完了するかな。後は実行に移すのみ・・・・・・だけど」
キリカ「・・・・・・全てが徒労に終わればいい。私はそう考えているのか・・・・・・」
--家の中--
キリカ「さやかがいない!?・・・・・・特に戦闘のあった形跡もない。自発的に出て行ったと考えるべきか。・・・・・・何かをつかまれたかな」
キリカ「仕方ない。それならそれで一人で脱出する手段を」
チュドォォォォォォォンン!!
キリカ「・・・・・・爆発!?」
--外--
キリカ「確かこの辺で・・・・・・さやか!!」
さやか「キリカァ・・・・・・ごめん。グリーフシードを・・・・・・」
キリカ「さやか!魔女にやられたの!?」
さやか「いや、自分に・・・・・・」
キリカ「・・・・・・?」
キリカ「今はこれだけ魔女がいるからね。グリーフシードなんて貴重品でもなんでもないんだけど・・・・・・何故こうなったか、詳しく説明してもらいたいな」
さやか「その・・・・・・まずは、これを・・・・・・」
キリカ「・・・・・・『必殺技帳』?何これ」
さやか「それの22ページ辺りを読んでみて」
キリカ「どれどれ・・・・・・『遠距離を征するものは魔女を征する』・・・・・・何だこれは」
さやか「魔女戦において、いかに遠距離戦が有利かって事がその辺にずぅっとかかれてるんだ」
キリカ「・・・・・・まぁ理屈ではある。近距離タイプは常に相手の攻撃を受け流しつつ敵に接近しなければならないリスクがあるのに対して、遠距離タイプはダメージを受けず封殺させる事も可能だ」
キリカ「こと、対魔女戦においては近距離より遠距離が有利というのは、実のところ私も考えたことがあるよ。・・・・・・遠距離攻撃を持っているなら、だけど。さやか、君にそんなものあった?」
さやか「実は、ある」
キリカ「ふむ」
さやか「これで、とどめだぁああ!!」ピシュゥゥゥン!!ドカァアアアアアン!!
キリカ「一発目にとどめもなにもない・・・・・・ってこれは!?」
さやか「実はこの剣。トリガを引くと刀身だけ飛ぶように設計されているんだ。一応爆砕させないように飛ばす事も可能だよ」
キリカ「間違っても私が戦ってる近くで爆発させないでくれよ。・・・・・・しかしスペツナズナイフとは、また随分トリッキーな」
さやか「スペツナズナイフ?」
キリカ「旧ソ連の特殊部隊が使っていた刀身の射出が可能なナイフさ。主に不意打ち・奇襲に使われていたらしいよ。・・・・・・その遠距離攻撃、射程・攻撃力は充分実戦に耐えられる域に見える。前に私と戦った時は何故使わなかったんだい?」
さやか「あたしは近接戦の方が性にあってるし、そもそもキリカの場合照準を合わせてる暇もなかったよ」
キリカ「ふむ・・・・・・。でも、さっきの爆発はそれじゃないよね。今の君の起こしたものと比べても、もう少し大きかったはず」
さやか「答えはそのノートの126ページ目を見てほしい」
キリカ「随分長いノートだねっと・・・・・・」
キリカ「・・・・・・」
キリカ「(何てもの書き残してるんだあの黄色!!)」
キリカ「(鹿目まどかについてはのっていないか・・・・・・しかしよくもまぁこんなものを)」
さやか「一晩中練習してやっとこの剣の照準を合わせられるようになってきたから、ためしにその魔法を使ってみようと思ったら暴発しちゃってさ・・・・・・それで、こんな感じに」
キリカ「一晩程度でそんな武器の照準合わせられるようになるのはそれはそれで凄いけど・・・・・・そうだね。その魔法について少し解説をしてあげよう」
さやか「キリカ、知ってるの?」
キリカ「私も結構な新入りだけど、その魔法は知ってる。というか、魔法少女界隈では相当に有名なものらしい」
キリカ「武器に対して魔力を集中させ、そのエネルギーをそのまま敵に向けて射出する。言葉で言えばそれぐらい簡単な魔法さ。実際この魔法を使おうとした魔法少女は結構な数がいたらしい」
さやか「そうなんだ」
キリカ「噂では、それで死傷者が出たとも言われている」
さやか「え」
キリカ「この魔法を使うには、集めた巨大な魔力に耐えられるだけの巨大な受け皿が必要だ。ようするにそれだけの膨大な魔力をコントロールするだけの技術が要求される」
キリカ「そこを理解していなかった魔法少女達がポンッだよ。そんなギャグ漫画みたいな怪我ですんだ君は幸せものだ。自分の頑丈さに感謝したほうがいい」
さやか「・・・・・・」
キリカ「ま、君のスタイルに遠距離攻撃を加えるってのは正しいと思うし、そういう意味じゃその剣の射出を使いこなせるようなレベルに持っていくのはいいと思う。ただ、その魔法はまだ君に扱えるような代物ではない」
さやか「・・・・・・なら、キリカには扱えるの?」
キリカ「無理だね。だから手数を増やす方向で考えたのが、『一手で十手』というわけさ」
キリカ「まぁ技術を積んでから再挑戦すればいい。何、案外君ならすぐにできるようになるかもしれないよ」
さやか「え・・・・・・そ、そうかな」
キリカ「多分その魔法、『正義を信じる心』とか『悪を許さない心』とかそういうものが大切な気がするし。君にぴったりだよ。うん」
さやか「・・・・・・何か馬鹿にされてる気がする」
キリカ「さてっと。そろそろ怒ってもいいかな」
さやか「ん?」
キリカ「ちゃんと休めって言ったじゃないかこの馬鹿!」ポカ!
さやか「痛!何だよ!キリカだって寝てないじゃんか!」
キリカ「私は慣れてるからいいけど、君がそんな事をやったら・・・・・・ちゃんと教えなかった私のミスでもあるのか。例によってソウルジェムを見てごらん」
さやか「さっきグリーフシード使ったばっかだしまだ全然・・・・・・ってあれ?」
キリカ「ソウルジェムが濁ると精神状態に影響を及ぼすように、精神状態に影響が及ぶとソウルジェムにも影響が出来るんだ。つまり今の君は寝不足によりソウルジェムの濁りが早まっているというわけ」
キリカ「いくら外付けハードウェアといっても、魔法少女はこの外付けハードウェアが正常に機能していないと生きていけないんだから。ちゃんと大切にしないと駄目だよ」
さやか「でも、回復魔法を使えば」
キリカ「寝不足解消とかそんな事を願いにした魔法少女の回復魔法なら何とかなるだろうね。で、そんな願いを君はしたのかな?」
さやか「そりゃ・・・・・・違うけど」
キリカ「とにかく早く寝る。今日の活動は昼から!」
さやか「でも生存者を」
キリカ「いきなり仲間が背後で魔女になられたら」
さやか「わかったよ・・・・・・」
--昼--
キリカ「さやか、起きて」
さやか「恭介・・・・・・行かないで、恭介・・・・・・」
キリカ「ていやぁ!」パコ!
さやか「痛!・・・・・・キリカ?」
キリカ「そろそろ行くよ」
さやか「あ・・・・・・うん」
キリカ「これ、使う?」ポン
さやか「・・・・・・薬?」
キリカ「睡眠薬だよ。夢すら見られずぐっすり寝られる類のね」
さやか「・・・・・・ありがとう。でも、何でこんなものを」
キリカ「いや、鬱病とかが即死要因になりやすい魔法少女界において、意外とこの手の薬を持ってる子はいるよ」
さやか「・・・・・・ごめん。変なこと聞いた」
キリカ「(もっとも私が持ってるのは別目的だけど、それを言ったらさやかに怒られそうだし、黙っておこう)」
キリカ「この家が残ってるのは・・・・・・単純に作りがいいからかな」
さやか「・・・・・・恭介の家だよ。ここは」
キリカ「あぁ、君の大切な人の・・・・・・大丈夫?」
さやか「うん。大丈夫。行こう」
--恭介の家--
さやか「・・・・・・ない!恭介のヴァイオリンがない!!」
キリカ「知り合いに見てもらうのが一番だと思ったけど、これで確定だね」
さやか「・・・・・・キリカ?」
キリカ「昨日の夜、気になる事があるって言っただろう?昨日探し回った家々の中にも同じように貴重品が盗まれているような箇所があったんだ」
キリカ「とはいえ本人でもなし、断言できるような証拠はなかったんだけど・・・・・・これで確定だ。今この街には空き巣が徘徊してる。そしてこんな状況下でわざわざ空き巣を働ける余力があるとすればそれは・・・・・・」
さやか「魔法少女・・・・・・!」
キリカ「運が回ってきたかもしれない。もしその魔法少女がまだ見滝原に残っていて、味方につけることが出来れば」
さやか「街の人達から物を盗むなんて、絶対に許せない!!」
キリカ「・・・・・・ん?」
キリカ「確かに道徳的にはどうかと思うけど、今はそんな事を言っている場合じゃないし・・・・・・上条恭介のヴァイオリンなら、まぁ織莉子がこんな時の為に残したお金があるから、交渉次第で」
さやか「そういう問題じゃない!!」
キリカ「・・・・・・なら、どういう問題だっていうんだい、君は」
さやか「泥棒だよ!みんなが大変な事になっちゃったのに、平然とそんな事をやってる連中をキリカは許せるの!?」
キリカ「許すも何も・・・・・・正直、どうでもいいね」
さやか「キリカだって、織莉子さんの物が盗まれたら怒るんじゃないの!?」
キリカ「言ってる事が無茶苦茶だ・・・・・多分怒る。でもそれと現状分析は全く別に考えるべきだと思うよ。今は一人でも多くの仲間が欲しい」
さやか「そんな奴と仲間になんかなりたくない!!」
キリカ「君のくだらない正義感でこれだけの好機を見逃せっていうのかい!?」
さやか「・・・・・・キリカ、そんな風に考えてたんだ」
さやか「もういい。生存者はあたし一人で探すよ。キリカは空き巣を働いてる魔法少女と一緒にいればいい」
キリカ「・・・・・ふん。好きにすればいいさ」
さやか「バイバイ、キリカ」
キリカ「・・・・・・」
キリカ「・・・・・・キュゥべぇ」
QB「はいはい。今度は何だい?」
キリカ「空き巣に来ている子は、『佐倉杏子』。そして佐倉杏子は現時間においても見滝原の中にいる。それで間違いない?」
QB「その通りだ。何故わかったんだい?」
キリカ「勘みたいなものだよ」
QB「なるほどね」
QB「まぁ、僕としては君が美樹さやかのエントロピーを取り出す事を忘れないでくれていれば構わない。そのかわりに僕は君に情報を提供する。そういう取引だからね」
キリカ「一応はやるよ。でも、今回に関して言えば結果はあまり保障できないかもしれない」
QB「確かに、今の君を見る限りあまり期待はできそうもないね」モワン
キリカ「・・・・・・成功しようと失敗しようとどっちでもいいってところか。相変わらず何を考えているのか読みにくい・・・・・・或いは何も考えていないのか?」
キリカ「さて・・・・・・どうする?もし佐倉杏子が私の知る通りの人物なら、美樹さやかを捨てれば確実に協力は取り付けられる。逆に美樹さやかにつくなら、相当に分の悪い賭けをしなければならない」
キリカ「・・・・・・考えるまでもないか」
杏子「そんなところで何してるんだい?」
さやか「・・・・・・あんたが空き巣の犯人?そんな小さい子まで誑かして!!」
ゆま『キョーコ。後もう一人。近くで様子を伺っている』
杏子『ありがと、ゆま』
杏子「・・・・・・で、あたしが空き巣をやっていたらどうだっていうんだい?」
さやか「今すぐやめろ。やめないなら・・・・・・!!」
杏子「へぇ、あんたがあたしに?・・・・・・やめときな。あんたじゃ無理だ」
さやか「・・・・・・あんたが盗んだものは、街の人達がとても大切にしていたものなのかもしれないんだよ!!」
さやか「あのヴァイオリンだって・・・・・・あのヴァイオリンを恭介は一度は諦めて、それでも諦められてなんていなくて、やっと手が治って、それでやっと前に進めたはずだったのに・・・・・・!!」
杏子「・・・・・・で?そんなお涙頂戴の話がどうしたって?」
さやか「・・・・・・あんたは!!」
ゆま『キョーコ。このお姉ちゃん悪い人じゃ・・・・・・』
杏子『ゆまはもう一人の方の警戒を頼む。あたしはこいつを叩く』
ゆま『・・・・・・わかった』
さやか「あんたは・・・・・・あんただけは、絶対に許せない!!」
杏子「来なよ。遊んでやるから」
さやか「馬鹿にし」
シュン!!
ゆま「・・・・・・は、速い!?キョーコ!!」
キィィン!!
杏子「・・・・・・衝撃波!あたしの動きを止めに来ただけ!?・・・・・・ゆま!!」
ゆま「大丈夫!キョーコの足手まといにはならない!!」
キリカ「・・・・・・このタイミングで仕掛けても無駄か」
スト
さやか「キリカ・・・・・・あんた何をしに」
キリカ「本当は今の衝撃波のタイミングで一気にしとめにいって欲しかったんだけどね」
キリカ「・・・・・・さやかとしては不本意だろうけど、私も参戦させてもらうよ。佐倉杏子は君一人でどうにかなる相手じゃない」
さやか「でも、あんたは」
キリカ「くだらない正義感といった事だけは訂正する。今回、君の正義は間違えていない。ただ単純に正義の話をするのなら、間違えているのはあいつらだ」
さやか「・・・・・・キリカ?」
杏子「また、うざいのが出てきたね」
キリカ「言うね小悪党。巴マミの為に何もするわけでもなく、のうのうとすごしていたくせに」
杏子「・・・・・・!てめぇ!!」
さやか「・・・・・・巴マミ?誰?」
キリカ「どうせ巴マミが死んだかどうか諦め切れなくてここまできたってところじゃないのかい?で、あれば教えてあげるよ。巴マミは死んだ。私が死体まで確認しているんだから間違いない」
杏子「・・・・・・!!」
ゆま「キョーコ!落ち着いて!」
さやか「え?え?」
キリカ「大体、あの時君は何をしていたのかな?そこの青いのですら救助活動ぐらいはやっていたというのに、当時コンビを組んでいたはずの君はそこの緑とおままごとってわけか。いやぁ、本当に馬鹿だね。これでは巴マミもうかばれない」
さやか「キリカ!よくわからないけど何か言いすぎだよ!!」
杏子「・・・・・・うぜぇ」
ゆま「キョーコ!キョーコー!!!」
キリカ「(さて、取り敢えず挑発はしてみたけど、これで佐倉杏子が冷静さを欠いてくれれば多少は勝機がうまれるか・・・・・・?)」
さやか「キリカ・・・・・・」
キリカ「これだけ派手に挑発かませば、今更私だけ除け者って展開にはならないよね」
さやか「・・・・・・何で?キリカはあたしなんていらないと」
キリカ「正直、今回の戦いに利は何もない。・・・・・・でも、君の正義感ではここは通すべきだと判断したんだろう?ならもう仕方がないさ」
さやか「・・・・・・」
キリカ「ま、こういう事は、慣れてる。織莉子ともよくぶつかったしね」
杏子「さて・・・・・・覚悟は出来たか?」
キリカ「覚悟?君が刻まれる覚悟、かな」
杏子「・・・・・・っへ」
キリカ「・・・・・・」
まず動いたのはキリカ。
キリカのかぎ爪は一直線に佐倉杏子を目指し、しかし杏子はそれを後退して回避する。
キリカ「!?」
そして、杏子が後ろに下がったことにより、必然的に前衛になった千歳ゆま。
もう既にゆまは衝撃波を打つ体制に入っている。
キリカ「しま・・・!!」
さやか「キリカ!!」
しかし、もうこの時点でさやかも攻撃の態勢に入っていた。
近距離での斬撃ではなく、遠距離からの攻撃。
刀身の射出ではなく、投剣。
これに対し、ゆまはそれを防ぐ形をとらざるをえない。
キリカ「爆砕しない方って今の?また随分原始的な」
さやか「キリカ、油断しないで!」
杏子「油断しているのはどっちだよ」
さやか「!?」
キリカがゆまとの間合いを詰めた段階で、
杏子は既にさやかへと間合いを詰めていた。
最初から佐倉杏子はキリカではなくさやかを狙い撃ちにするつもりだったのだ。
キリカ「(あれだけ挑発してのらないなんて・・・・・・。いや、むしろ挑発した事で逆にこちらの行動が読まれたのか)」
これにより状況はゆまとキリカ、杏子とさやかが一対一で向かい合う構図となる。
キリカ「(仕方がない。こっちの緑を速攻で蹴散らしてさやかに参戦しよう)」
キリカはゆまに向かって速度低下をかける。
が、それをゆまは何かが見えているかのような動きで回避した。
キリカ「・・・・・・馬鹿な!?」
思わずキリカは声をあげた。
魔法を別の魔法にキャンセルされるならわかる。
だが、不可視の魔法を回避できるとすれば・・・・・・
キリカ「魔力察知か!?」
『魔力察知』
巴マミという魔法少女が、別の魔法少女に対して契約前の段階で、
その潜在能力を言い当てたという事があったらしい。
これの応用で本来不可視の魔力を形として認識する技術。
無論こんなものは巴マミクラスの強大な魔力がなければ使えるような代物ではない。
しかし、それをこの幼い緑の魔法少女はやってのけた。
キリカ「君、名前は?」
ゆま「・・・?ゆまは、千歳ゆまだよ。お姉ちゃんは?」
キリカ「・・・・・・呉キリカ」
キリカ「ゆま。君は強いね。なら私も全力で応じるしかなさそうだ」
ゆま「・・・!!」
慌ててゆまが防御の体制をとる。
・・・・・・魔力は化け物だが、経験はさやか並ってところか。
キリカはここで攻撃に全ての力を注ぎ込む。
キリカ「一手で二十手。線ではなく面による攻撃。君の防御ごと弾き飛ばしてあげよう」
杏子「とっととくたばれこのウスノロ!!」
杏子の多節槍による中間距離からの連撃。しかしこれをさやかは回避と投剣を駆使してぎりぎり凌いでいた。
無論本調子の佐倉杏子なら、この守りはあっけなく崩すことも可能だろう。だが、明らかに杏子は焦っており、それにより本来の調子が出せなくなっている。
さやか「・・・・・・あの子のことがそんなに心配?」
その言葉に対して、杏子は投槍で答えた。
これをさやかは片方の剣ではじき、そしてもう片方の剣のトリガを引いた。
杏子「!?」
予想外の攻撃だったが、杏子はなんとかそれを回避する。
・・・・・・正確には命中していなかったのだが、それでも杏子に回避という動作をとらせることには成功した。
さやかは迷わず間合いを詰める。二刀流から一刀流に切り替えての上段からの斬撃。
だが、この判断が既に佐倉杏子の術中にはまってしまった。
杏子「トーシロが!」
斬撃を完全に回避され、横からの槍一閃。近距離を狙っていたのは佐倉杏子も同じだったのだ。
キリカは悩んでいた。
このままこの攻撃をゆまに当てるべきか。それとも、予定通り佐倉杏子の方に向けて放ち、さやかを援護するか。
キリカの見る限り、さやかは今確実に押されていた。
杏子の横一閃を受けて以降さやかは防戦一方。
スピードも明らかに落ちている。
だが、それがおかしい。
自分と戦った時は芸もなく突進を繰り返すだけだったが、それでも速度が落ちるなんてことはなかったのだ。
つまり、何か狙いがある。ここで杏子を攻撃するのは、逆にさやかの策を崩す事にはならないか・・・・・・。
ゆま「あの!」
キリカ「?」
ゆま「巴マミの事、知ってるの?」
キリカ「私は聞いただけだよ。ま、私にはいくつか情報網があってね」
それは織莉子であったり、キュゥべえであったりするわけだが。
ゆま「・・・・・・マミは、キョーコの師匠だったんだ。でも、キョーコはその人と喧嘩別れをして、でもずっと仲直りをしたかったんだよ」
キリカ「・・・・・・」
ゆま「キョーコはマミが死んでずっと苦しんでた!ただの異常気象としか言われてなくても、マミの安否の確認しにいくべきだったとか、そんな風にずっと自分を追い詰めて・・・・・・!!」
キリカ「・・・・・・あちらもそろそろ終わりそうだ。そしたら、少し話をしようか」
ゆま「・・・・・・?」
ゆまの方を見つつ、照準は佐倉杏子に合わせる。
ソウルジェムは狙わない。だが、戦闘不能は狙う。
全員が生存出来れば、交渉の道はまだ残されているのかもしれない。
杏子「流石に拍子抜けだね!」
さやか「ぐっ!!」
佐倉杏子の中間距離からの多節槍。もうさやかにそれを避けるだけの気力はない。
ただ、さやかには思惑があった。
昨日の夜に読んだ必殺技帳に書かれていた一つの剣技。
速度向上の魔法を自身にかけ、そのまま相手を斬る必殺技。
まだ完全にマスターしたわけではないし、そんな未完成な技がこの赤い魔法少女に通用するとは思えない。・・・・・・普通ならば。
現状、さやかは自らの速度を意図的に落としている。
全てはその必殺の一撃の速度を、その速度以上のものに体感させる為に。
杏子「これで、終わりだよ!」
さやか「必殺・・・・・・」
さやか「スクワルタトーレ!!!」
蒼い光が、佐倉杏子を貫いた。
さやか「やった・・・・・・!!」
杏子「今のは良かった」
さやか「!?」
さやかの後ろ首に槍が突きつけられる。
さやか「そんな!?だってあたしは確かに・・・・・・」
杏子「幻覚だよ。あんたの一撃は完全に読めてた。読めてさえいれば当然その対応策は練るさ」
杏子「・・・・・・あんたはどうする。まだ続けるかい?眼帯」
キリカ「・・・・・・正直、君に勝つ手段は思いつかない。私は降参だ。さやかも、もういいよね」
さやか「・・・・・・まだだ」
キリカ「さやか・・・・・・」
さやか「まだ負けて(てぇーい)(バッ!)・・・・・・きゃあああ!!」
さやか「ななななんでスカートめくるんだよ!!」
ゆま「お姉ちゃんは誤解してるよ!キョーコは悪い魔法少女じゃない!!」
さやか「空き巣する魔法少女のどこが悪くないんだよ!!」
ゆま「うるさい!キョーコをこれ以上いじめるならあたしが許さない!!」
さやか「こ、こいつぅぅうううう!!」
杏子「・・・・・・終わりで、いいよな?」
キリカ「あぁ、うん。もういいんじゃないかな」
--夜--
さやか「・・・というわけで、女の子のスカートをめくっちゃ駄目なんだよ。ゆまちゃん」
ゆま「うんわかった!さやかお姉ちゃん!」
さやか「・・・くぅぅぅぅいい子だぁああ!!」ダキィ
ゆま「わ、さ、さやかお姉ちゃん」
キリカ「何かすごく仲良くなってるね」
杏子「精神年齢近そうだもんなぁ。あの二人」
さやか「む・・・・・・、あんな赤い奴捨てて、あたしと一緒にいよう?」
ゆま「・・・・・・ごめん。さやかお姉ちゃんも好きだけど、キョーコはもっと大好き!」
さやか「ぐぐ・・・・・・」
杏子「子供は残酷だねぇ」
さやか「うるさい!今度こそ決着つけるか!?」
杏子「今のあんたじゃ何度やっても結果は同じだよ」
キリカ「確かに、あの幻覚技を破れないと・・・・・・そういえば、あれってひょっとして『ロッソファンタズマ』?」
杏子「・・・・・・あんた、何か独自の情報網でも持っているのかい?」
キリカ「いや、途中の家にあった『必殺技帳』に書いてあった。ほら、これ」
杏子「・・・・・・マミのやつ、何でこんなもん書いてるんだよ・・・・・・」
キリカ「さぁ?」
さやか「あたしの『スクワルタトーレ』もその本に書いてあった技だよ」
杏子「・・・・・・イタリア語の時点でまさかとは思っていたけどさ・・・・・・あたしのあれはただの『幻覚技』だ。『ロッソ・ファンタズマ』と名乗れるような代物じゃない」
キリカ「性質は似たようなものに見えたけどね」
杏子「まぁな。・・・・・・いつかきっと、取り戻してみせるさ」
ゆま「Zzz」
さやか「うーん。ゆまちゃんは本当にかわいいなぁ、それにひきかえ・・・・・・」
杏子「あーうぜぇ。超うぜぇ」
杏子「・・・・・・そういや、あんた。戦闘前に結構好き勝手言ってくれたよな」
キリカ「ん?あぁ、言ったね。・・・・・・君を怒らせる為に言ったんだけど、全く効果がなかった」
杏子「いや、効果はあったよ。ただ、それをそのまま戦いに反映させない程度には、いろいろ経験したのさ」
キリカ「・・・・・・なるほど、ね」
キリカ「一応言っておくと、あれは君の事情を全く考えないからこそ言えた挑発だし、いちいち気にしなくていいよ」
杏子「いや、結構的は射ていたよ。・・・・・・ゆまが巨大な魔力を感じ取ってはいたんだ。だけど、あたしは巴マミなら大丈夫とか、今更どんな面して会うんだとか、あたしが死んだらゆまはどうするとか、そんな事ばっか考えちまって・・・・・・結局動けなかった」
杏子「・・・・・・なぁ、知ってたら教えてほしいんだけどさ」
キリカ「なんだい?」
杏子「巴マミは、出会えたのか?あいつにふさわしい仲間に」
キリカ「・・・・・・その質問の答えになるかどうかはわからないけど、巴マミには相棒がいた。あの二人は多分、見滝原で二番目ぐらいには強かったと思うよ」
杏子「・・・・・・そうか。・・・・・・二番目?一番目は?」
キリカ「私と織莉子さ!」
杏子「突っ込まないぞ。・・・・・・それだけが気がかりだったんだ。良かった」
キリカ「さやか、どうしたのさ」
さやか「いや、その・・・・・・あんた、そこまで悪い奴じゃなかったんだね」
杏子「あんたの悪い奴がどういうものかわかんないけど、空き巣やってる時点で充分悪党だろう」
キリカ「小悪党ぐらいじゃないかな」
杏子「茶化すな。・・・・・・こいつの言ったとおりだ。あんたの正義は間違えてない。窃盗は悪だ。だから許さない。正義ってのはそうあるべきさ」
さやか「・・・・・・ねぇ、巴マミってどんな人だったの?」
杏子「正義の味方にして、見滝原最強だな。あいつに勝てる奴なんて想像がつかなかった」
キリカ「最強は織莉子だけどね」
杏子「あんたの言う織莉子ってのがどれぐらいか分からないけど、本調子のあいつに勝てる奴なんかいないよ。・・・・・・精神状態がやたら揺らいで本調子が出し切れないところがあるのが、結構問題ではあったんだけどさ」
キリカ「それでも、織莉子の『未来予知』には通用しないさ」
杏子「食い下がるなぁ、あんたも。まぁ少なくともあたしの知る限りでは最強の魔法少女だったな。能力とかそういう類の強さではなく、ただ強かったんだ」
さやか「・・・・・・あんたがそこまで言うなんて、凄い魔法少女だったんだね」
杏子「あぁそうさ。・・・・・・どうせワルプルギスの夜だって、ついうっかりで負けたんだぜ。あいつ。普通に本気出してりゃどんな魔女だってマミの奴に勝てるもんか」
杏子「さて、あたしとゆまは明日、見滝原を出る。もうあらかた盗れるものは盗ったしな」
さやか「・・・・・・あんたはどうしていちいちあたしに喧嘩うるのさ!」
杏子「別にそういうつもりで言ったわけでもなかったんだけどな」
キリカ「そろそろ、じゃないかな」
さやか「ん?」
キリカ「もう、無理だよ。実は昨日の夜のうちに街から出るルートを探してみたけど、多分明日の朝ぐらいが『限度』だ。これ以上魔女に増えられたら、とても対応しきれない」
さやか「・・・・・・」
キリカ「佐倉杏子達と一緒に、街の外に出るべきだ。4人がかりなら、なんとかアレも突破できる」
さやか「・・・・・・3人で行ってくれないかな。キリカだって杏子やゆまちゃんがいればもう脱出できる。あたしがいる必要なんてない」
キリカ「さやか!!」
杏子「・・・・・・生きている人間はあたしも探した。ゆまもな」
さやか「!!」
杏子「ゆまの魔力探知は人間がいるかどうかぐらいは大よそつかめる。・・・・・・この街にはもう、人間はいない。いるのは魔法少女と、魔女だけだ」
さやか「・・・・・・あたしは、自分の目で見るまで諦めない」
杏子「そうかい。なら、あたしから言える事ももう何もない」
さやか「・・・・・・あたし寝る。・・・・・・少し疲れた」
キリカ「あまり眠れていないんだ。仕方ないよ。・・・・・・渡した睡眠薬を使うといい。深い睡眠に入れるだけで、随分疲れもとれるはずだ」
さやか「・・・・・・ありがと。使わせてもらうよ」
キリカ「・・・・・・さて、それじゃぁ脱出計画を練ろうか」
杏子「それでいいのか?あんたは」
キリカ「ん?何がだい?」
杏子「いや、あいつ・・・・・・さやかの事だよ。あんた、あいつの事結構気に入っているように見えたけどな」
キリカ「私にとっての一番は、織莉子だけだよ」
杏子「・・・・・・?いや、そういう話じゃなくて」
キリカ「そういう話なんだよ、これは」
杏子「・・・・・・そうか」
キリカ「明日の朝、説得はしてみる。それで応じないようなら置いていく。もともとこの街の中限定での仲だったんだ。いなくなったところで何も感じないね」
杏子「・・・・・・」
キリカ「さて・・・・・・と」
--朝--
さやか「視界がぼやける・・・・・・キリカの睡眠薬、しっかり使ったのにな・・・・・・」
キリカ「おはよう。さやか」
さやか「あ、キリカ・・・・・・もうおきてたの?」
キリカ「君に見せておきたいものがあるんだ」
さやか「・・・・・・何、これ」
キリカ「探し回ったよ。『君の大切なものの死体』。全部揃ってよかった」
キリカ「鹿目まどか。志筑仁美。暁美ほむら。親族一同もついでに探しておいた。後はクラスメイトの皆様。・・・・・・いくつかパーツがかけてるけどね。ま、これで全部だ」
さやか「あ・・・・・・」
キリカ「君が信じた希望、探していた大切な仲間、それはワルプルギスの夜によって既に全て失っていたのさ」
さやか「あはは・・・」ペタン
キリカ「どうしたんだい?さやか。全部見つかってよかったじゃないか」
さやか「・・・・・・あたしさ。別の街で正義の味方とかやっててさ。でも、見滝原のみんなはそんな中でもきっと幸せにやってるって、そう信じていたからやってこれたんだ」
キリカ「・・・・・・」
さやか「こんな事になってから気づくなんて、馬鹿だよね。あたしにとって・・・・・・あたしにとって本当に守りたかったのは、この街だったんだ・・・・・・」
キリカ「(・・・・・・やはり駄目、か)」
キリカ「・・・・・・いいかい、さやか。よく聞くんだ」
さやか「・・・・・・?」
キリカ「この人達は誰にやられたと思う?」
さやか「え・・・・・・ワルプルギスの夜?」
キリカ「そう、ワルプルギスの夜、つまり魔女だ。人間を食いつぶす化け物さ。・・・・・・憎くないかい?」
さやか「・・・・・・え?」
キリカ「君の全てを奴らは奪ったんだ。君は奴らに復讐する権利がある」
さやか「・・・・・・権利?」
キリカ「そう、権利だ。君はこれだけの事をやった魔女が許せるか?」
さやか「・・・・・・許せない」
キリカ「そう、許せない。ならば幸いにして、君には力がある。その憎しみを余すところなく奴らにぶつけるんだ」
さやか「・・・・・・ぶつける、そう、か」
キリカ「そうさ。憎むべきは全て、君の全てを台無しにした魔女なんだ。違うかい?」
さやか「・・・・・・うん。そうだ。その通りだよ。キリカ」
キリカ「(簡単に誘導できそうだな。流石さやか。単純馬鹿だ)」
杏子「・・・・・・結局、説得はできたのか?」
キリカ「ご覧の通りね」
さやか「キリカ?魔女はどこなの?はやく殺そうよ」
キリカ「さやか、もう少し待つんだ。ここから先に行けばすぐに大量の奴らに出会える。そしたらめいいっぱい殺せるよ」
さやか「あはは」
ゆま「・・・・・・さやかお姉ちゃん?」
杏子「・・・・・・おい、なんだよこれ」
キリカ「何だって?」
杏子「てめぇ、こいつに何をした!!」
キリカ『念話で喋ってくれ。あまりさやかに聞かれたくない』
キリカ『別に何をしたわけじゃない。さやかを導いてあげたんだよ』
杏子『導いてって・・・・・・どういう意味だ!』
キリカ『簡単な心理誘導だよ。普通に生きてたらまず引っかからない。でも、自分の全てが崩れていたら、あっけなくかかる事もある、そういう類のね』
杏子『・・・・・・あんたまさか!?』
キリカ『さやかの探していた大切な人。その全ての死体を見せてあげた。多少悲劇的になるよう、演出はさせてもらったけどね』
杏子「てめぇ!!!!」ガシィ!!
さやか「いきなり何してるの?・・・・・・そうだ、魔法少女が魔女になるんだから、今殺しちゃってもいいんじゃない?」
キリカ「さやか、それは駄目だ。魔女になるまでゆっくり待つんだよ」
キリカ『大体こういう事は、君の方が専業だろ。『聖女様』?』
杏子「!!!!!!」
キリカ「にしても、魔法少女の魔女化のほうはそれほど驚かないんだね」
杏子「ここに来るまでに散々見てきた。今、そんな話はどうでもいい」
杏子『・・・・・・いつから、こんな事を考えていた?』
キリカ『最初さやかに会った時に喧嘩になってさ。その時思ったんだよ。こいつは使えるって。そもそもワルプルギスの夜に生身で耐え切るほどの強度だ。ソウルジェムさえ回復させておけば、いい囮になる』
キリカ『最初の計画は、さやかを魔女の真っ只中に放り出し、それを陽動にして私は逃げる。それぐらいの単純な策だったんだよ』
キリカ『ところが、どうにもさやかは生存者を見つけるまで外に出たくないという』
キリカ『正直焦ったね。まぁ私一人で脱出してしまうという手もあったんだけど、やはり安全性は担保したい。そこで思いついたのが今回の作戦さ』
キリカ『これだけ魔女を殺したいと思うように仕向けてしまえば、魔女を殺してる分にはソウルジェムも中々濁らない。囮としてはうってつけだろう?』
キリカ『ま、うまく外に脱出させることが出来たなら、適当に魔女にする方針でキュゥべえとの取引材料にしてしまうもよし、君みたいな幻惑系魔法少女に頼んで駒に仕立て上げるもよし、どちらにしろ私にとっては実にうまい話だ』
杏子『もういい、充分だ』
キリカ『そう。ま、君も頑張って働いてね。私の脱出の為に』
キリカ「さぁ、さやか。そろそろ行くよ。思う存分魔女を殺すんだ」
さやか「うん!キリカ!」
杏子「・・・・・・ゆま。最悪、キリカとさやかは見捨てるぞ」
ゆま「キョーコ!何でそんな・・・・・・」
杏子「さやかはもう無理だ。・・・・・・そして多分、キリカもその死に惹かれてる。こっちまで巻き込まれるのはごめんだ」
ゆま「・・・・・・キョーコ?」
杏子「・・・・・・」
薔薇の魔女。影の魔女。箱の魔女。お菓子の魔女。鎧の魔女。猫の魔女。玩具の魔女。
ありとあらゆる魔女がそこには集結していた。
まるで外に出るのは決して許さない。そういった何者かの意思があるかのような配置だ。
キリカ「・・・・・・まさか。魔女にそこまでの意思があるわけがない。多少弱気になっているのかな」
さやか「あはははははは!!!」
さやかは一気に突進していった。最初にキリカと戦った時と同じようなやり方。
ただ、怒りに任せた真正面に突進するだけの戦法。
キリカ「・・・・・・もう少し頭を使ってくれるといいんだけどね。ま、フォローしつつ、かな」
杏子「おい、キリカ。何で囮を助けながら戦ってるんだ?」
キリカ「ん?やばくなったら見捨てるさ。でも、そこまで焦る必要もない」
杏子「・・・・・・あんたは・・・・・・」
杏子「分かった。あたしはゆまをフォローしつつ戦うから、そっちの援護にはあまりまわれない。悪いけどね」
キリカ「別に構わないさ」
戦局は劣勢だった。
杏子はゆまのフォローをしつつ、ゆまの攻撃を生かすような戦い方をしている。
対してキリカはさやかが完全に防御を無視して突進している為、
さやかの盾となるような戦い方しか出来ていない。
そしてさやか自身にそれほどの攻撃力がない以上、実質さやかとキリカはお互いの持ち味を殺してしまっている。
これでは、それこそキリカとさやかは囮程度にしか使いようがない。
杏子「・・・・・・何としてでもさやかを脱出させたかったのかもな。キリカは」
ゆま「キョーコ?」
杏子「・・・・・・なんでもない」
杏子は、この時点でキリカとさやかを見捨てることにした。
自分にとって大切なものはゆまだ。それだけは何としても守りきらなければならない。
さやかは最早傷だらけだ。
それなのにいつまでも笑い続けている。
恐らく痛覚遮断を使っているのだろう。・・・・・・痛覚遮断を使うと感覚が鈍るから、状況を見て使えって教えるべきだったかな。
いや、教えたところでこんな状態じゃ使いようがないか。
キリカ「・・・っつ!」
影の魔女の攻撃か。・・・・・・あの砲台戦法は厄介だ。
しかし・・・・・・心なしか自分の動きが鈍くなっているように感じる。
そういえばソウルジェムの濁りも心なしか早い。
特に身体的に影響が出るような事をやっているはずもないのに。
衝撃波を飛ばそうにも・・・・・・あの鎧の魔女が邪魔か。
あのぬいぐるみは・・・・・・ぬいぐるみ?何だあれ。
さやか「あはははは!死ね!死ね!」
さやかがそのぬいぐるみを切り裂こうとした時、ぬいぐるみの口から蛇のようなものが現れ、
キリカは咄嗟にさやかを庇っていた
・・・・・・つまりはこういうことか。
いつの間にか、私はさやかに対して情を持っていたらしい。
織莉子以外に私が情を持つなんて、ありえないと思っていた。
たまに感じていた感覚も、全てこんな状況になれば消え去ると思っていた。
・・・・・・甘かった。人に興味がないフリをして生活していたのが長かった分、
そういう感覚を軽視していた。
というか、そんな生活が長かったからこそ、逆に情を持った時自分がどうなるかは、既にサンプルケースがあったじゃないか。
織莉子に対する自分を見て、私は何も学べていなかったのか。
キリカ「・・・ま、片腕をとられた程度ですんだのは奇跡だったね。ただ、もうほぼ手詰まりかな」
・・・・・・さやかに衝撃波でも当てて、杏子のところまで弾き飛ばすか。
なんだかんだで情に熱そうな人みたいだし、ひょっとしたら助けてくれるかもしれない。
・・・・・・どうせあんな適当な心理誘導だ。憎しみがどうとかいったって、そんなものはそれこそそういう能力をもった魔法少女が念入りに暗示でもかけない限り、誰か周りに支えてくれる人がいさえすれば少しずつ癒されるはず。
さやかはまだ、生き延びる望みはある。私はもう無理そうだけど。
・・・・・・それはそれとして、あの世で織莉子にどんないいわけをしたものか。
ちょっといい案が思い浮かばないな。
杏子やゆまが戦っている。あっちも相当に傷だらけみたいだ。
魔女になったら殺してあげるのにな。
そんな事を考えながら、あたしは目の前の魔女を斬りつける。
ふとキリカの方を見ると、キリカの手と足がなくなっていた。
・・・・・・まぁいい。あたしは魔女さえ殺せれば満足なんだ。
この憎しみを魔女にぶつければ・・・・・・
あれ?
そもそもあたしはそんな風な戦い方をする魔法少女だったっけ?
それは確かにみんなを殺した魔女は確かに憎いけど・・・・・・
でも、それって今戦っている仲間を見殺しにしてまでやることだっけ。
・・・・・・いや、待て待て。いろいろおかしい。
大体わたしの根幹はなんだ?こんな憎しみに任せて魔女を倒すことだったか?
・・・・・・違うだろう。あたしの剣は本来・・・・・・
お菓子の魔女が口を開いた。
キリカには動くための足がない。かろうじて片手が残っているが、もうそれも満足には動かせていない。
ただ、キリカはぼんやりとその口を見つめ・・・・・・
その時、いくつもの青い刀身がお菓子の魔女の口の中に吸い込まれていった。
さやか「それでも食べてろ!!」
お菓子の魔女の中で大爆発が起こる。その隙を見てさやかはキリカを背負った。
さやか「ゆまちゃんパス!!」
さやかはキリカ思いっきりゆまに向かってぶん投げる
ゆまは慌ててキリカを受け取り、キリカに回復魔法をかける。
状況が見えていないのはキリカだ。
キリカ「え・・・・・・何でさやかが私を助けて・・・・・・?」
杏子「あんたが思っていたより、さやかがずっと強かったってことだろ?」
さやか「さて・・・・・・と」
さやかは痛覚遮断を解除した
さやか「っつううううう!!」
キリカ「・・・・・・!?何をやっているんだ!さやか!」
さやか「・・・・・・よし!目が覚めた!さやかちゃん完全復活だ!!」
さやかは不敵に微笑んだ。
キリカ「ゆま!ごめん、早く戻らないと」
杏子「ほんの少しでいいから待て。・・・・・・ゆまの回復が待てないとか、どんだけ追い詰められてるんだよ」
杏子「それにほら、あいつを見てみろ。結構普通に戦えてるぞ」
さやか「でぇやぁ・・・ってよっと」
さやかは鎧の魔女の斬撃を、お菓子の魔女の手前で回避した。
その結果として、鎧の魔女の剣がそのままそのお菓子の魔女を切り裂く。
さらに影の魔女の攻撃が、鎧の魔女を貫いた。
その影の魔女を、さやかの放った刀身が貫く。
この時点で、さやかを狙っているのは薔薇の魔女。あの鞭のような攻撃は、自分の後ろにいる魔女に誘導できそうだな。そうさやかは考えていた。
ゆま「さやかお姉ちゃん凄い!あれだけの魔女をあんな簡単に!!」
杏子「・・・・・・ひたすらに魔女の同士打ちを狙ってるんだな。なるほど、魔女同士の連携はひどいものなんだから、あーいう戦い方でいいのか」
キリカ「さやかはどこであんな戦い方を・・・・・・」
杏子「さぁなー。でもあいつ、結構自分勝手な正義感で好き放題喧嘩うってるみたいだし、結構やばい連中を相手にした事もあったんじゃないか?」
杏子の指摘は事実その通りで、さやかはワルプルギス前に正義の味方をやっている最中、強盗だのヤクザだのを相手に戦う事も多かった。
その為、一対多の戦いには慣れていたのである。しかも、人間は連携を考えて動くし、魔女だって使い魔達とは連携をとるものもいるが、魔女同士となると、それがまったく成立していない。
こうなると、そういった戦いに慣れているものにとっては独壇場となる。
ゆま「回復完了!」
キリカ「・・・・・・さやかに一つ問わなきゃいけないことがある。・・・・・・行ってくる」
杏子「まったく・・・・・・今度は無茶すんなよ」
キリカ「さやか!一つ聞きたい!」
さやか「キリカ?こんな時にどうしたの?」
キリカ「何故戻れた?君は魔女を憎んでいた。そう考えていたからこそ、あの心理誘導は通用したはずだ」
さやか「ん・・・えぇと、そりゃ確かに魔女を憎んではいたけどさ」
さやか「それって守るべき人間を捨ててまでやる事じゃないよね」
キリカ「君の守る人間はもう全員死んでしまったじゃないか!」
さやか「そういう事言わないでよ!・・・・・・今はいるじゃん。守るべき人間」
キリカ「・・・・・・」
さやか「キリカに、杏子に、ゆまちゃん」
キリカ「!・・・・・・そんな行きずりの仲間を!?」
さやか「そりゃキリカは何考えてるかよくわかんないし、杏子は小悪党っぽいし、ゆまちゃんは可愛いけどさ。じゃぁここで死んでいいかっていったらそれは違う」
さやか「だから、それは充分に守る理由たりえる」
キリカ「そ、そんな生き方通用しない!この街を出たら君はどうするんだ!!」
さやか「新しい守る対象を探すよ。多分、そういう事が必要な人って結構いると思うし」
キリカ「無茶苦茶だ!守られる人間に裏切られるかもしれない!自分が何を守っているかわからなくなるかもしれない!そんな生き方したらソウルジェムがもたない!!」
さやか「うーん・・・・・・裏切られたらそりゃしょんぼりするし、何を守っているのかわからなくなるかもしれない。後悔なんてずっとするような人生になるのかなーとは思うよ」
さやか「でも、そんな生き方を、あたしが選びたいんだからしょうがないじゃないか」
キリカ「・・・・・・!!」
さやか「ほら、また魔女が来るよ!」
キリカ「・・・ふふふ、くふふふふ、あはははははは!!」
さやか「キリカ!?」
キリカ「面白い!君は本当に面白馬鹿だね!いいじゃん、やってみなよ!!どうせどっかで挫折するだろうけどね!!」
さやか「そういう事言うな!・・・・・・あと、キリカ。朝のあれ、後で説教ね」
キリカ「いいさ!ここを生き延びられたら説教でも何でも聴いてやるよ!!」
杏子「これでやっとまともに連携がとれるな」
さやか「・・・・・・杏子!」
ゆま「キョーコ!もうさやかお姉ちゃん達を見捨てる必要ないんだよね!!」
杏子「ゆ、ゆま。・・・・・・あ、あぁ。まぁな」
さやか「杏子も説教ね」
杏子「いや、あたしの場合仕方ねーだろ!あんたらがあんな」
キリカ「さて、そろそろ馬鹿はやめといて・・・・・・あれ、どうしようか」
杏子「誰が・・・・・・っとまぁ、確かに、こんな事言ってる場合じゃないよな」
さやか「・・・・・・うん」
影の魔女10体。
それが魔女達の最終防波堤だった。
近寄ることすらできない。
さやかの投剣も、杏子の槍も、ゆまやキリカの衝撃波も全て弾かれた。
完全なる防御。同士打ちを狙うにも、まず近寄れないことにはどうしようもない。
さやか「一つ、試したいことがある」
キリカ「何だい?」
さやか「あれだよ。『必殺技帳』126ページ」
キリカ「無理・・・・・・でもないな。攻撃威力としてもあの魔女達を突破できる可能性はあるし・・・・・・試してみる価値はある」
杏子「何の話だ?」
キリカ「あの『必殺技帳』の中に、『悪を許さない心』とか『正義を信じる心』とか、そういうのをそのまま具現化したような必殺技がのっていたんだよ。君なら当然知ってる魔法だと思うけど」
杏子「あーあれかー」
ゆま「なになに?」
杏子「ま、すごい技だよ」
キリカ「さやかが魔力を作り出して、杏子が受け皿になる。多分それでこの魔法は成立する」
ゆま「ゆまはー?」
キリカ「ゆまと私は魔法が完成するまで、さやかと杏子を守るんだ!」
ゆま「了解!」
杏子「・・・・・・ま、やるしかないか」
さやか「いくよ、杏子!!」
さやかは巨大な剣を召喚した。
それを杏子がコントロールする。
杏子「・・・・・・結構な魔力じゃん。全くゆまといい、さやかといい、ルーキーってのはこんな奴らばっかなのか」
キリカ「私もルーキー。混ぜておいて」
杏子「あんたは知らん」
キリカ「む・・・・・・」
ゆま「ていぃ!やぁ!!」
キリカ「・・・・・・まだ!?」
さやか「よし、もういける!」
キリカ「ゆま!横に避けろ!!」
ゆま「わかった!!」
杏子「じゃぁ・・・・・・ぶちかますぞ!!」
杏子「ティロ・・・・・・!!」
さやか「・・・・・・フィナーレ!!!!!」
凶悪サイズの刀身が影の魔女達の中心に突き刺さり、爆砕した
さやか「・・・・・・やったの・・・・・・?」
キリカ「まだやってない!奴らが動揺してる今しかチャンスがないんだから、今すぐ突破しないと!!」
杏子「・・・・・・ま、よくやった」
ゆま「さやかお姉ちゃんかっこよかったよ!もちろんキョーコも!!」
--見滝原外--
さやか「・・・・・・やったああああ!」
杏子「全く・・・・・・まさか魔女だらけになってるとか想像もしなかったもんなー。あんたらに出会えて本当によかったよ」
キリカ「私はいろいろ学ぶ事が多かったかな。人の感情って難しいね」
杏子「何キュゥべえみたいな事言ってるんだか・・・・・・」
ゆま「・・・・・・キョーコー!!」
杏子「よしよし・・・・・・よくやったぞ。ゆま」
キリカ「ここからだと、かざみのが近いかな。・・・・・・正直、お腹すいたよ。実はカロリーメイトとかそういうのしか食べてないからさ」
杏子「あたしらはお菓子ばっか食べてたなー」
ゆま「キョーコは普段全然食べさせてくれないし!」
杏子「いいか。お菓子ばっかり食べてると大きくなれないんだぞ」
さやか「どこの保護者だあんたは・・・・・・」
キリカ「『かざみのの赤い保護者』・・・・・・うん、これでいいんじゃない?」
杏子「お前そっち側の人間かよ!!冗談じゃねぇぞ!!」
キリカ「いや、でもきっと他の魔法少女にそんな事言われてるんじゃないかな。この辺の魔法少女に会ったことないけど、間違えない気がする」
さやか「・・・・・・で、どっか食べにいくんじゃないの?」
杏子「そうだなぁ。・・・・・・ジャンクフードでいっか」
ゆま「いこー!」
キリカ「はいはい、・・・・・・いくよさやか」
サヤカチャン ガンバッテ
さやか「!?」
キリカ「・・・・・・どうしたの?さやか」
さやか「・・・・・・いや、何でもない」
さやか「(・・・・・・さようなら、見滝原)」
さやかは金がない。杏子のお金は出所が怪しい。
そこであーだこーだいいあったあげく、結局織莉子のお金をそのまま使えるキリカが払う事になった。
さやか「おいしい・・・!生きて食べれるハンバーガーがこんなにおいしいなんて・・・!!」
キリカ「織莉子のお金だって、実のとこ不正な金であるとかそういう説があったりするんだけど・・・・・・っと織莉子のお父さんを疑うなんて駄目駄目だ私!め!」
杏子「何をやってんだか・・・・・・ゆま、ゆっくり食べろよ」
ゆま「うん。キョーコ。・・・・・・あーん!」
杏子「いや、あーんって・・・・・・これでいいか?あーん」
さやか「おあついですなぁ」
杏子「・・・・・・てめぇ!覚えてろよ!」
さやか「そういえば、これからみんなどうするの?」
杏子「あたしはこのままかざみのに残るよ。いつも泊まってるホテルがあるからな」
ゆま「ゆまもゆまもー」
キリカ「私は適当にこの辺の織莉子の別荘を借りるよ」
杏子「適当にって・・・・・・」
キリカ「大体この辺の町には、どこにでも一つは織莉子の隠れ別荘があるからね」
杏子「待て。どんだけ金持ちだったんだよ。その織莉子って奴は」
キリカ「さやかは?」
さやか「あたしも元いたところに戻るけど・・・・・・うーん。まだ家、残ってるかなぁ」
キリ ゆま あん「?」
さやか「いやー川の下にダンボールで家作ったら、ここは俺の場所だって別の住民に怒られちゃってさー」
さやか「それで、公園のとある一角を領土にしてる人に一部譲ってもらってたんだけど」
キリ ゆま あん「・・・・・・」
さやか「いい人だったよ?たまにあたしを何かいやらしい目で見てる気がしたのが少し嫌だったけど。まぁ男の人だししょうがないのかな」
杏子「キリカ」
キリカ「さやか。今日は私の家に泊まろう。いろいろふかぁく君に、一人暮らしについてレクチャーしてあげるから」
さやか「え?何で?」
--夜--~エンディング的な話~
さやか「Zzz」
キリカ「まったく、髪すら洗ってなかったとは。ダンボールハウスねぇ・・・・・・たくましいといえば、その通りなんだろうけど」
キリカ「別荘をあげるといっても納得しないだろうし・・・・・・どっかのアパートでも探してあげようかな」
QB「さやかを魔女にするんじゃなかったのかい?」
キリカ「・・・・・・君か。その件は大失敗だった。ま、そういう事もあるさ」
QB「君には最初から、さやかを魔女にする意思なんてなかったように見えたけどね」
キリカ「大体私は『欲しくはないかい』と聞いただけで、ほんとうにあげるとは一言も言ってないよ」
QB「そんな事だろうとは思っていたよ」
キリカ「・・・・・・がめついなぁ。ワルプルギスの夜で、君は盛大に稼いだんだろう?なら、たかだか一人の魔法少女ぐらい見逃してもいいじゃないか。どの道遅かれ早かれって話になるかもしれないんだし」
QB「ところで、君がさやかに見せた死体。いくつかは完全な偽者だったよね。大体『暁美ほむら』は死んですらいない」
キリカ「さやかには全ての希望を捨ててもらう必要があったからね。暁美ほむらに生きていられるのは、少し都合が悪かったのさ。他にもいくつか死体がなかったものもあったけど、ま、顔を潰してしまえばなかなかバレない。ましてあの精神状態じゃね」
QB「なるほどね」
キリカ「そうだ。さやかを魔女化しなかった代わりと言っては何だけど、君にプレゼントがある」
QB「・・・・・・これは?」
キリカ「織莉子が持っていた切り札の一つ。魔法少女になれるだけの素養を持った子一覧。その1ページさ。どう扱うかは君次第だ」
QB「いいのかい?そんな真似をすればさやかが黙っていない」
キリカ「無論内緒さ。バレたら残りのページについては全て焼却処分するからそのつもりで」
キリカ「・・・・・・君とは、もう少し長く付き合いたいからね。先行投資とでも思ってほしい」
QB「君の考え方が少し分かった気がするよ」
QB「君は好きになった人間の価値観を尊重はするけど、自分自身の価値観については、全く人と相容れる気がない。自分と好きな人間の利益以外は考えないし、その為には道徳なんてものは最初から捨てている」
キリカ「その通りだけど、君にだけは言われたくないね。この利益最優先型異星人」
QB「『変わりたい・・・・・・違う自分になりたい・・・・・・』それが君の願いだったよね。君の願いは確かに成就された。だが、それによって生まれたのは君とは全く違う別の君だ。そんな偽者である事を知ったら、さやかはどう思うだろうね」
キリカ「・・・・・・君は、私を追い詰めたいのかい?少なくとも私は君に対してもう少し利益を提供してあげる気持ちはあるけど、そっちがその気ならこちらだって君とは手を切らせてもらうよ」
QB「別に、ただ疑問だっただけさ。そんな自分のまま生きていける君という人間の感情がね」
キリカ「君に知りたいと思われるなんて光栄だね。私の知る限り、君ほど人の感情を熟知している生物はいない」
QB「僕には人の感情は理解できないよ」
キリカ「だからこそ、君にしか辿り着けない域もあるということさ。感情がないからこそ、だ。そこは君自身も理解できていると私は思っていたけど?」
QB「君とは長い付き合いになりそうだね」
キリカ「そうだ、君は当然他の国の言葉も話せるんだろう。今後、通訳を頼みたいんだけど」
QB「?どういう意味だい?」
キリカ「『ワルプルギスの夜』と今回戦ってみて分かった。奴は強い。でも他にも何かある。奴のルーツ、過去の撃退方法、そもそも自然災害の一種なのか・・・・・・調べなければならない事は山ほどある。それも書物ではなく、実際に『魔法少女』に会わなければ分からないような情報が。・・・・・・君が教えてくれればはやいんだけど、どうせ教える気なんてないんだろう?」
QB「ワルプルギスの夜については、僕もよくわかっていない」
キリカ「過去にワルプルギスの夜を倒した者は?」
QB「倒したともいえるし、倒していないとも言えるね」
キリカ「倒したとして、いかにして倒した?」
QB「僕自身、何がきっかけで倒せたかは理解できていないんだ」
キリカ「ありえる可能性全てを羅列しろ」
QB「その羅列する情報を選定できないから、話す事はできないね。地球の創生からでも話せばいいのかい?」
キリカ「・・・・・・ま、こうなるよね」
キリカ「もしかすると私の時代にはもう来ないのかもしれない。ただ・・・・・・予感はある。もし奴が再び現れたなら、その時は織莉子の敵をとらせてもらう」
QB「それは君の感情かい?偽りの君の感情かい?」
キリカ「知らないよ、そんなこと。で、通訳の件、頼めるかな」
QB「構わないよ」
キリカ「なるべく私の意図を読み取ってくれよ。いちいち君の利益を絡まされて通訳に手間取るような展開は避けたい」
QB「保障はできないね」
キリカ「結局最終的には、現地の言葉を覚えていくしかないってことか・・・・・・」
その次の日、キリカは旅立った。
さやか、杏子、ゆまは自分達の街に戻り、それぞれの戦いを続けていくこととなる。
つづく
130 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(神奈川県) - 2011/11/03 13:16:14.50 0sLMXYfK0 99/365終わった!第一部完!
・・・・・・何かキリカ目立たせすぎた・・・・・・杏子主人公の頃に、すっげぇちょい役だったから油断してたぜ。くわばらくわばら。
131 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(神奈川県) - 2011/11/03 19:42:16.17 0sLMXYfK0 100/365第一部完って書いたけど、何か自分のSS見ててやり残したことがかなりあった事に気づいたので、その短編だけちょろっとやる。多分3本くらい。
てかエンディングキリきゅべ単品は流石にねぇよなぁ・・・・・・この作品、主人公さやかちゃんなのに
~杏子とさやかの話~
杏子「ロッソ・ファンタズマ!!」
杏子がそう叫ぶと同時に2人の分身が生まれた。
ゆま「すごい、キョーコ!」
喜ぶゆまを見て、少し杏子も調子にのってしまう。
よし、今日は3人目まで挑戦してみよう。
杏子「3人目・・・・・・!!」
世界が 暗転した
父親「お前は魔女に魅入られたのか?」
・・・・・・父さん?
父親「娘を魔女に変えられてしまって、何を語れと言うのか!!」
・・・・・・そうだ。今になって思えば父さんの言うとおりだった。
あたしは魔女に変えられてしまった。
それなのにこんな風に生きていて、巴マミを助けることができなくて。
杏子「なんであたしは生きているんだろうな」
ゆま「キョーコ!!!」
杏子「・・・・・・ゆま?・・・・・・しまった!!」
杏子「あたしは、あたしの魔法に魅入られていたのか・・・・・・」
ゆま「キョーコ!しっかりして!!」
杏子「もう大丈夫だ。心配かけた」
ゆま「キョーコ・・・・・・ごめんなさい。ゆまがあんな事いわなければ」
杏子「ゆまのせいじゃないよ。調子にのったあたしが悪い」
それに、このトラウマを乗り越えない限り、ロッソファンタズマの復活はありえない。
一度は捨てた魔法。
だが、ゆまという守るべき対象ができ、杏子にとって生きる目的ができた今となっては事情が変わった。
たとえゆまの回復魔法がどんなに強くても、回復魔法では対処できないような即死系の攻撃は防ぐことができない。
ソウルジェムの秘密が分かった今となってはなおさらだ。
戦う為ではなく、守る為。
杏子は再びロッソファンタズマに手を出した。
--夜--
ゆまが眠ったのを確認した杏子は、一人外を歩いていた。
杏子「・・・・・・くそ!昔はあんな簡単にできたのにどうして・・・・・・!!」
トラウマが原因なのは分かっている。
乗りこえなければいけないのもわかっている。
だが、そもそもトラウマを乗り越えるとはどうすればいいのか。
杏子「・・・・・・正義の味方の真似事でもしてみるか?」
かつて自分自身が憧れ、巴マミの中に見た正義の味方。
或いはあの時の自分を取り戻せば、ロッソファンタズマも使えるようになるかもしれない。
杏子「・・・・・馬鹿馬鹿しい」
今更すぎる。
正義は捨てた。巴マミも死んだ。あの時の自分に戻るなんて事、とても自分自身が耐えられない。
さやか「動くな!そこの不審人物!!・・・・・・って杏子じゃん」
杏子「・・・・・・」
そこには当時の自分以上に甘っちょろい正義の味方がいた。
さやか「さてはATM強盗を!」
杏子「やってねーよ。何でさやかがかざみのにいるんだよ。人の巣に入るってのが魔法少女にとってどういう意味がわかってんのか?」
さやか「いやまぁ・・・・・・でも、杏子がいるし」
杏子「そりゃあたしは別に構わないさ。ただ、他の魔法少女が黙っていないだろ?」
さやか「最近では杏子の知り合いということで素通りできるようになりました」
杏子「・・・・・・なんだそりゃ」
さやか「この街じゃ有名だよ。『かざみのの赤い保護者』『子連れ狼』連れている子供に手を出すと家族諸共殺されるとかなんとか」
杏子「よし、構えな」
さやか「噂だよ噂!・・・・・・でも実際杏子ってゆまちゃんに手を出したら、そんなきれかたしかねないと思う」
杏子「・・・・・・ま、生かしちゃおかないかもな」
杏子「で、結局何でさやかがここにいるんだ?」
さやか「うちの街で無差別殺人を起こした奴が、かざみのにいるって情報が入ってさ。それでついさっき生きているのを後悔させる勢いでボコボコにして自首させてきたところだったんだよ」
杏子「・・・・・・そんな仕事、警察に任せろよ」
さやか「それがその事件を起こした奴の親が偉い人でさ・・・・・・。警察も動きにくかったみたい」
杏子「・・・・・・」
くだらない。一ヶ月前の自分ならそう言っていた。
魔女が人間を食い、その魔女をあたし達が食う。
そんな弱肉強食の世界で、人間同士が殺しあっていたところで知ったことか。
だが・・・・・・もしその殺されたのがゆまだったなら?
あたしはそんな理論を振りかざす事は到底できないだろう。
杏子「・・・・・・用はすんだんだろ。出てけよ」
さやか「む……すぐ出てくつもりだったけど、その言い方はすごい腹がたつ」
杏子「あんたとは見滝原で共闘しただけの関係なんだ。いちいちなれなれしくされても困るってだけだよ」
さやか「……キリカは1日1回電話してくるのになぁ」
杏子「あいつと一緒にするんじゃねぇ。・・・・・・そういや、あいつ、元気なのか?」
さやか「元気そうだよ。・・・・・・たまにすごい事言うけど」
杏子「へぇ、どんな?」
さやか「この前は『全人類皆殺しにすれば、結果的に世界は救済されるんじゃないかな』とか言ってた」
杏子「相変わらずぶっ飛んでるな・・・・・・」
さやか「後、『さやかは無理をしすぎる傾向があるから、何かあったら絶対に私か杏子に相談するように』、ってよく言われる」
杏子「あたしに相談されてもな・・・・・・。ただ、あいつの言いたくなる気持ちはなんとなくわかる。さやかの正義はあぶなっかしぃんだよ」
さやか「そりゃまぁ、変な団体とかヤクザとかいろんなものに敵視されてるという自覚はあるけどさ・・・・・・」
杏子「そこじゃないよ。キリカにも言われてただろ?さやかの正義は簡単に揺らぐ。信じていた人間に裏切られたら、さやかはさやかではいられなくなってしまうかもしれない」
さやか「確かにへこむことは多いよ。子供の護衛の仕事したら、その子供にいきなり後ろから刺されたりとか、何か強盗の片棒担がされそうになったりとか。……キリカが聞いてくれなかったら気づかなかったな。あれは」
杏子「……そして、あんた自身がちょろすぎるんだよな……」
さやか「なんだとー!」
杏子「いや、自覚しろよ。本当に」
そりゃキリカも一日一回電話したくなる。
さやか「この世界には救いのない絶望や避けようのない悲劇が溢れてる。そんなものに襲われてる人達を助ける為に戦ってる人が、一人ぐらいいてほしい。少なくとも、あたしはそう思う」
さやか「だからあたしはこの生き方を選んだ。やってることは後悔だらけだけど、この事に関しては今のところ後悔はしてないよ」
杏子「……さやかは、そういう強さがあるよな」
もし、昔の自分にそんな強さがあったら、マミと一緒にいられたのだろうか
さやか「うーん……たまに考えるんだけどさ」
さやか「多分あたしって、見滝原で全部失っちゃったから今がある気がするんだよ」
さやか「……少し話をしてもいいかな」
杏子「別に構わないよ。どうせ何かあてがあったわけでもないし」
さやか「……あたし、好きな人がいたんだけど、友達がその人の事好きになっちゃってさ。今住んでるとこってその恋愛から逃げてきて、そのままいついちゃった場所なんだよね」
さやか「もしあの時見滝原にとどまっていたら、ワルプルギスの夜を待つまでもなく魔女化してたんじゃないか。なーんて考えたりする時がある」
杏子「……好きなら、奪いとっちまえば良かったんじゃねぇの?その友達からさ」
さやか「あんたならそうするんだろうけどさ。あたしはできなかった」
さやか「その好きな人が、ヴァイオリニストでさ。でも、事故にあって弾けなくなっちゃって……その事をずっと引きずっていたんだ」
さやか「あたしはそれが見ていられなかった。その人の為になんとかしたいと思った。
その人のヴァイオリンをもう一度聞きたい。そのヴァイオリンをみんなに聞かせてあげたい。そう考えた」
さやか「あたしの魔法少女としての願いは、そういうものだったんだ」
さやか「そんな願いをして、その人にそのまま告白なんてできないよ。なんか願いでその人を振り向かせようとしたみたいで、あたし自身が許せない。……ま、その友達には絶対勝てないっていう諦めのような気持ちもあったんだけどね」
さやか「後は、もう知っての通り。見滝原のみんなは死んじゃって、それで全てが真っ白になって……杏子やゆまちゃんに会ったり、キリカに変な事吹き込まれたりいろいろあって今があるわけで」
杏子「何だよ、その願い」
さやか「え?」
杏子「そいつの為に願っておいて、何でいなくなってるんだよ!そんな願い、何の意味もねーじゃんか!!」
さやか「い、いきなりひどい事言うな……。でも、そうかもしれない。その好きな人からも言われたんだ。あたしを追い詰めてまでヴァイオリンを弾きたくなかったって」
杏子「……」
さやか「あたしの願い自体、実は大切な人を傷つけてしまっただけなのかもしれない。そういう風に考える事はあるよ」
杏子「……なぁ、今度はあたしの昔話を聞いてくれるか?」
さやか「ん?何さ、突然」
杏子「大切な人を傷つけるどころか、大切な人を潰してしまった願いの話さ」
杏子は語った。己の過去を。忘れられない過ちを。
さやか「……杏子……」
杏子「その時以来、あたしは自分の為だけに魔法を使っていこうと決めた。願いで得た魔法も、いつのまにか使えなくなってた」
さやか「願いで得た魔法が使えなくなる?そんな事が」
杏子「ひどいフラッシュバックが襲うんだよ。……あんたと前に戦った時に幻術を使ったことがあったろ。あれの発展系があたしの魔法だ」
杏子「本来は大量の分身を出して相手をかく乱する。そういう魔法なのさ。あんなちゃちな技じゃない」
さやか「……杏子はさ。その願いをしたことが間違いだったと思ってる?」
杏子「当たり前だろ?あたしの願いが家族をみんな潰しちまったんだ」
さやか「でも、ゆまちゃんは凄い大切にしてるよね。なんだかんだで人の為に魔法を使ってることにならないのかな」
杏子「……何が言いたい」
さやか「……そりゃあんたの願いは家族を滅ぼしてしまった。そういう意味では願いそのものは確かに間違えていたのかもしれない。でも、家族を救いたい、そういう思いからあんたは願い事をしたんだ。その思いは決して間違いなんかじゃない。あたしにはそう思えるんだけど」
杏子「……!」
さやか「……ごめん。なんか説教みたいな言い方になっちゃったね」
杏子「……はは」
さやか「……杏子、どうしたの!涙流して笑い出して……大丈夫?……よかったら一緒に病院まで」
杏子「あたし達魔法少女が病院行ってどうするんだよ。でも……そうか。あんたはそんな風に言ってくれるんだな」
あんな馬鹿だったあたしを、認めてくれるんだな
さやか「……」
さやか「よし、夜遅くなったし、杏子のところに泊まっていこうかな!」
杏子「おい。なんでそうなるんだよ」
さやか「いいじゃん。たまにはさ」
杏子「……あんたの嫌いな、ATM強盗や空き巣で稼いだ金で泊まってるホテルだぞ?」
さやか「今日だけは目をつぶる。……ちょっと今のあんたは放っておけない」
杏子「……さやかにそんな事言われるなんてね」
さやか「てかあんたが悪事をやめてくれればいろいろ解決なんだけど。なんとかならないの?」
杏子「今更あたしの生き方変えろって言われてもな」
杏子「そうだ、あんたに渡さなきゃいけないものがあったんだ」
さやか「何?」
杏子「上条恭介のヴァイオリンだ」
さやか「……!!」
杏子「少し破損がひどかったから修理してもらったが……迷惑だったか?」
さやか「そんな事ない!……ありがとう。ありがとう、杏子」
杏子「……いや、あたしは盗んでいたものを返しただけだしな……」
さやか「少し、弾いてみてもいいかな」
杏子「あんたの好きにすればいい。……でも、あんたヴァイオリンなんて弾けたのか?」
さやか「昔好きな人……恭介に憧れてちょっとだけ……ね」
ギィーギァー
さやか「あれ、確かこんな感じだったはずなのに……」
杏子「……貸してみな」
♪~♪~
さやか「……すごい」
杏子「すごくねぇよ。あんたと同じで、少し昔弾いたことがあるってだけだ。……しっかしいい音でるなぁこれ。上条恭介はプロか何かだったのかい?」
さやか「同じようなものだよ」
杏子「す、すごい奴だったんだな」
さやか「恭介の音はね。すごく綺麗で……どんな大人も子供みたいになっちゃうんだ」
杏子「ふーん。……一度聞いてみたかったな。そいつの弾くヴァイオリン」
--数日後--
杏子「ロッソファンタズマ!!」
ゆま「1人、2人、3人……やったよキョーコ!。3人いった!!」
さやか「こ、これは……こんな技を出されたら、とても杏子には……」
杏子「……ふぅ」
今更生き方は変えられない。
あの時の願いも、思いも間違っていた。
今でもそう思っている。
でも……その思いを肯定してくれた人がいた。それは、少しだけあたしにとって救いになったのかもしれない。
杏子「多分あんたのおかげだ。ありがとな、さやか」
さやか「ま、負けないよ!!」
杏子「……?」
おしまい
149 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(神奈川県) - 2011/11/06 15:35:10.85 XHqTiikM0 114/365この話を書いてて、案外おりこEND後にさやかちゃん魔法少女になってたら、似たような事やってそうだなーと思った。
短編3つやると言ってたけど、うまい具合に2つに収まりきりそう。
そしたら2部かな。多分2部はボリューム的には1部より少なくなるはず。
しかしあのキリカ、投稿する時は「これ、このまま書き込んで大丈夫かなぁ」とガクガクものだったよw
あそこまででの反応が怖すぎて、本来>>108までで区切る予定を一気に書き溜めて最後までやったとかそんな事情もあったりする
キリカの解釈はおりこSS系の難易度を上げまくってる理由の一つなんじゃないかなーと個人的には思う。このSSのキリカさんは、『対人間と接する場合、たまに会話時、主に戦闘時、やたら言葉に意味を含ませて相手に対する感情操作を狙ったり、あえて演じる事で自分の内心を読み取られないようにする。不利な時は逆に物凄く余裕そうに見せる』とかそんな解釈をしてたりする
>>34ぐらいで「こんなにのんびりとした~」とか言いつつ、内心ではさやかのスピードを速度低下で殺しきれず結構焦りまくりだったのだが、そんな事は絶対口には出さない。そんな子
続き
さやか「見滝原の悪夢」【第二部】


そして、その感想が良くても悪くても、きっと読んだ気になって満足してしまうだろう