1 : 以下、名... - 2015/02/09 21:00:01.43 dm+R5sre0 1/169
・このSSは
受付「勇者様! 英霊祭ですよ!」 幼女「♪♪♪」
http://ayamevip.com/archives/42744640.html
の続きです
・慣れない部分もありますがそこは見なかったことに…
・基本妄想の垂れ流しです
・前作を見てなくても雰囲気だけでぶわっとわかる気がしないでもないような気がします
・書き溜めの部分もありますが、ゆっくり進行していきます
以下読んでも読まなくてもいいニートの勇者と人形の幼女のお話
勇者「魔導人形?」 幼女「ユーシャ!」
http://ayamevip.com/archives/42167569.html
魔法使い「なにか食べたいものはあるかの?」幼女「チャーハン!」
http://ayamevip.com/archives/42280713.html
受付「勇者様! 英霊祭ですよ!」 幼女「♪♪♪」
http://ayamevip.com/archives/42744640.html
それでは今回も最後までお付き合いしていただけたら幸いです
元スレ
院長「あなたが幼女ちゃん?」幼女「むい!!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1423483201/
暗黒魔人襲撃事件から2週間後………
カチャカチャカチャ
商人貴族「チッ、英霊祭で魔族の邪魔が入ったお陰で収益が伸び悩んでいる……軍人貴族め、これだから筋肉で思考する輩は嫌いなんですよ!」
コンコン
部下「失礼します。商人貴族様」
商人貴族「なんですか? 今私は非常に忙しい、加えて少しばかり苛立っている。できれば邪魔して欲しくないのですが?」
部下「し、しかし……」
商人貴族「……それで、なんの用です?」
部下「…………王国騎士団総司令官殿が新任の挨拶にと」
商人貴族「軍人貴族の代わりの者ですか……追い返しなさい」ヒラヒラ
部下「ですが………」
商人貴族「なんですか!? 私は忙しいのです。軍人貴族の後釜だかなんだか知りませんが私はああいう連中が心底嫌いなんですよ!」
部下「それが……『儲け話がある』とかなんとか言ってまして……」
商人貴族「…………儲け話?」
部下「は、はい……」
商人貴族「……軍人が商人を儲け話で釣りますか……普段ならなめるんじゃないと一喝してやるところですが……いいでしょう、通しなさい」
部下「かしこまりました」
参謀「失礼します」
商人貴族「これはこれは……! 王国騎士団総司令官殿、ご就任おめでとうございます」
参謀「ありがとうございます。私の器量にはいささか大きすぎる役職ではありますが王都を守るため、尽力していきたいと考えています」
商人貴族「…………聞きましたよ、軍人貴族のこと。まさか英霊祭に魔族を仕向け、国家転覆を図るとは……」
参謀「…………普段閣下は聡明で、国のことを何よりも優先して考えるお方でした。なぜあの様なことを考えてしまったのか、私にはわかりません……」
商人貴族「全くその通りです。彼ほど国のことを考えていた貴族はいなかった…………しかし、彼がやったことは大罪です」
参謀「そうです……今は民衆に知られてはいませんが、いずれこのことが明るみに出てしまうかもしれない。そうなれば王国騎士団の威信は地に落ちます」
商人貴族「それで、私にどうして欲しいのですか?」
参謀「情報規制を。各報道陣に圧力かけて欲しいのです」
商人貴族「そうですね……私にとってはまぁそこまで難しい話ではないが……」フゥ
参謀「如何されましたか?」
商人貴族「メリットがない」
商人貴族「いいですか? 私は貴族である前に商人です。商人は軍人や貴族のような綺麗事の書かれたお題目で行動するのではありません。自分の利益のためだけに動くのです。お分かりですか?」
参謀「はい、心得ています」
商人貴族「ならば見返りを……私を十分に満足させるに相応しい対価を提示していただきたい」
参謀「…………ではこれを」バサッ
商人貴族「これは……?」
参謀「我々が独自のルートで手に入れた情報です。ここには『ある生物』が隠れ住んでいます」
商人貴族「話になりませんね、私に動物園でも開けと? 金になることには間違いなさそうだが、儲けが小さすぎる」
参謀「………そのような小さい話であれば商人貴族様にお話はしません……手土産と言ってはなんですが、どうぞお受け取りください」スッ
妖精「…………ここから出せ! こんなところに閉じ込めてあたいをどうしようって言うんだい!!」キラキラ
商人貴族「こ、これは、まさか!?」
参謀「ええ、お察しのとおり、『妖精』です」
商人貴族「………なんと素晴らしい!!! まさか天然の妖精をお目にかけることができるとは!!!」
妖精「なんだよおっさん! さっさとあたいを解放しな! でないと今にとんでもない目にあわせるよ!!!」ガルルル
参謀「…………このように少々口が悪いですが、紛れもなく本物です」
商人貴族「妖精は滅多に人前に姿を現さず、元々の個体数が少ない…………それに加えて」
参謀「ええ、極めて有用な特殊能力がある」
商人貴族「そうです! その特殊能力を狙った商人共が乱獲したために妖精族が人間を見限った。それからというもの誰も妖精の姿を見た者はいないとされています」
参謀「仮に今、この妖精一匹を競売にかけた場合、10億はくだらないはずです」
商人貴族「こ、これを……私に!?」
参謀「ええ。そしてその『狩場』の情報がこの書類の中に…………どうですか? ご協力していただけませんか?」
商人貴族「…………なにが目的です?」
参謀「…………ですから軍人貴族閣下の件で情報規制を……」
商人貴族「なめないでください。私も商人。この取引に裏があることくらいわかります。もう一度聞きます。なにが目的ですか?」
参謀「………それはお話できません」
商人貴族「そんな危険な賭けに私が乗ると本気で思っているのですか?」
参謀「ええ、乗るでしょう。そして我々はいい協力関係を築けるはず……私はそう信じていますよ」フフッ
商人貴族「1つ質問を」
参謀「なんなりと」
商人貴族「あなたは何者です?」
参謀「………そうですね、商人貴族様が満足される回答ではないかもしれませんが………私は『あなたの参謀』です」
商人貴族「ふふふ……あはっはっはっは!!!」
参謀「なにか、おかしなことでも?」
商人貴族「そうですか! あなたはそうやって軍人貴族を食ったのですね!?」ククク
参謀「…………いえ、そのようなことは断じて」
商人貴族「いいでしょう! 毒食えば皿まで! あなたに利用されてやろうじゃありませんか!」
参謀「……ありがとうございます」
商人貴族「では、そうですね。早速ではありますが、教えていただいた場所の周辺調査と土地の買い上げに着手するとしましょうか」
参謀「それでは情報規制の件、くれぐれもよろしくお願いします」
商人貴族「勿論です。『あなたもこの件に関しては探られたくないでしょう?』」
参謀「なんのことでしょう? 我が身は王国騎士団の存続のためにのみ存在しております故……」
商人貴族「いいでしょう。私もあなたの記す物語に参加させていただくとしましょう。もちろん、結末はハッピーエンドを頼みますよ?」
参謀「もちろんです」フフッ
商人貴族「よろしい。情報規制の件、商人貴族の名にかけてお約束しましょう」
参謀「では、私はそろそろ失礼させていただきます。その妖精をどうするかは、あなたにお任せします」
商人貴族「またいらしてください。軍人貴族と違って、あなたとは知的な話ができそうだ」
参謀「必ずやお伺いさせていただきます。では……」
ガチャン
商人貴族「………部下、聞いていましたね?」
部下「はい。早速調査隊を派遣します」
商人貴族「くれぐれも慎重にお願いしますよ」
部下「はっ!」
妖精「おいおっさん!! まさかあたいたちの里を襲おうって言うんじゃないだろうな!?」
商人貴族「襲うだなんてとんでもない……『搾取』させていただくんですよ、骨の髄までたっぷりと……ね?」ニヤニヤ
妖精「やめろ! そんなことしたら龍王様から天罰が下るぞ!!」
商人貴族「天罰が怖くてなにが商人ですか! いいですか、妖精…… 商人という生き物はこの世の何よりも意地汚く、自分勝手で傲慢な生き物なんですよ。ですがそれ故に尊い。目的、金のためならどんなことでもしてみせる。神を欺き、悪魔と契約をも結びましょう!! そんな己の本能のみに従う生き方……それが私の生き方なんですよ!!」
妖精「クソ……絶対お前の思い通りになんてさせないからな!!」
商人貴族「やってみなさい! 私はあなたの大切なものの全てを奪い尽くし、金に換えてみせましょう!!」
商人貴族「ふふふ……ふはははははは!!!!!」
2ヶ月後………
―――――役所―――――
山賊F「氷結魔法!!」バッ
ピキィィィィン!!
課長「エクセレント!」パチパチパチ
山賊F「………で、できた! 俺にもできましたよ! 課長!!」
課長「うんうん、氷系の魔法は君と相性がいいみたいだね。それにしてもこんな短期間でマスターするなんて私も驚きだよ」
山賊F「課長の教え方が上手だからですよ」ヘヘッ
課長「いやいや、謙遜することはない。それにこのままのペースで学んでいけば次の「魔法制御2級」試験の合格も決して夢ではないだろう」フフッ
山賊F「本当ですか!?」
課長「ああ、ただそのためにはもっともっと学んでもらわないとね?」
山賊F「お、俺! 頑張ります!!」
課長「よろしい」
山賊D「へぇ、おばあちゃん昔は巫女さんだったんっすか?」
隠居婆「そうだよぉ……。昔はこのあたりの山々は神聖な土地とされていてね……魔王が現れるまでは龍王様が山で暮らしていて、この土地を守っていたんだ」
山賊D「龍王様っすか?」
隠居婆「ああ、偉大なる龍族の王様だよ。竜王様が我々人間を守ってくださる代わりに我々はちょっとした貢物を捧げる。これが昔からの習わしだったのさ」
山賊D「でも、龍王様って死んじゃったんっすよね?」
隠居婆「ああ、嘆かわしいことに魔王との七日七晩に及ぶ戦いの末に破れてしまった。だがな、ご先祖様方は龍王様の復活を信じておった。それでいつでも龍王様がいつ帰ってきてもいいように私のような巫女が山を守っていたというわけさ」
山賊D「大変な仕事っすね……で、どの山なんっすか?」
隠居婆「ああ、もう無いよ」
山賊D「へ?」
山賊C「受付の姉貴! 資料、完成しました!」
受付「ありがとうございます。そこ、置いておいてください」ズバババババ
山賊C「へい! なにか他に手伝えることとかってありますかい?」
受付「そうですねぇ、では新しい仕事にチャレンジしてみますか?」
山賊C「はい!!」
頭領「おお! これさえあれば……!!」ワナワナ
山賊E「どうしたんですか? お頭。そんな嬉しそうな顔して」
頭領「おお、お前か。これを見てくれ!」スッ
山賊E「これは……種、ですか?」
頭領「本店さんから支給されてきたものだ。他の植物よりも生命力が強いらしい」
山賊E「これを……どうするんです?」
頭領「決まってるだろう! 蒔くんだよ、復興地に!!」
山賊E「なるほど、生命力が強い植物であるなら魔王に汚染されてしまった土壌でも芽が出るかもしれないというわけですね」
頭領「おう! もしこれが成功すれば土が蘇る! これは一大プロジェクトだぜ……!!」グッ
山賊E「そうですね……」
頭領「今はまだ研究段階らしいけどな、これが本格的に実用段階になったら俺は真っ先に復興地に行くつもりだ」
山賊E「本気ですか? 今もあそこは人を寄せ付けない土地。常人が踏み入れば死が待っていると噂されているのに……」
頭領「噂は噂でしかねぇ! それに、これは誰かがやらなきゃいけねぇ仕事だ。それなら俺みたいな奴が行ったほうがいいってもんだろ? 違うか?」
山賊E「無茶しますね……」
頭領「無茶も承知よ!」ガハハ
山賊E「………お頭」
頭領「ん?」
山賊E「………こんなこと言うのもおかしな話なんですが、最近、山賊やってた時よりも毎日楽しいんですよね」
山賊E「なんていうか、今までと全然違う生き方を求められて、たいへんなんだけどでも、それが楽しい。俺、こんな気持ちになったの初めてです」
頭領「お前………」
山賊E「俺、俺達を受け入れてくれたここの人たちに感謝してるんですよ。だって、今の俺たちってまるで真人間じゃないですか。信じられない。今俺すげー幸せです」
頭領「………」
山賊E「俺、できることならこんな毎日がずっと続けばいいなって、心の底から思うんですよ」
頭領「なーにカッコつけてんだよ! ただ単純にテメエは彼女ができたからだろ?」ガハハ
山賊E「そ、それはそうですけど……でもそういうことじゃなくて!!」
頭領「お? どうだ、可愛い子か?」ニヤニヤ
山賊E「か、可愛いですよ……俺が山賊やってたことを知った上で付いてきてくれるいい子です」
頭領「ははは!! これはいい!!」バシバシッ
山賊E「痛っ!! もう! からかわないでくださいよ!!」
山賊E「俺も仕事行ってきます。今日は早めに終わらせて彼女に会いたいんで」
頭領「へいへい、彼女によろしくな」ニヤニヤ
山賊E「まったく………」タッタッタ
頭領「そうだな、お前ら……」ハァ
頭領「………ずっとこんな毎日が続いて欲しいもんだぜ……」ボソッ
山賊F「お頭―! 見てくださいよ! 俺、ついに氷結魔法をマスターしたんですよ!!」
頭領「おっ! さっすが俺の息子だ! どれ、見せてみろ!」
山賊F「はい、早速………ってなに持ってるんですか?」
頭領「ああ、これは俺たちの『希望』だよ」ヘヘッ
18 : 以下、名... - 2015/02/09 21:28:59.49 dm+R5sre0 18/169といったところで今日の投下は以上です
今回からいわゆる『3部』という位置づけになる話です
明日も同じ時間位投下できたらいいなと思っています
今日もありがとうございました。明日もよろしくお願いします!
――南の岬 孤児院――
院長「あなたが、幼女ちゃん?」
幼女「むい!!」
院長「よろしくね?」スッ
幼女「よろし……く!! トー……」ニギッ
院長「私はここの院長をしているの。みんなからは先生って呼ばれてるわ。幼女ちゃんもそう呼んでくれる?」
幼女「……わかった! センセ!!」ニコッ
院長「うん、よくできました」ナデナデ
幼女「えへへ……」
院長「短い期間だけど、あの子達と仲良くしてあげてね?」
幼女「むい!!」ビシッ
院長「いい返事よ、幼女ちゃん。それじゃあ、みんなを紹介しましょうか………ってあら?」
勇者「なぁ剣士……」
剣士「なんだ勇者?」
勇者「なんで俺たちはこんなところにいるんだ?」グイグイグイ
剣士「…………社会奉仕のためだ……」ベタベタベタ
勇者「そういうの、俺は専門外なんだけど……わかるだろ?」ガシガシガシッ
助手「私は研究専門で実際の魔法はそんなに得意じゃないのよ……」アセアセ
剣士「我慢しろ……」ベタベタベタ
ワイワイガヤガヤ!!!
悪ガキ「勇者の兄ちゃん! 遊ぼーぜ!!」グイグイグイ
侍少女「剣士殿、拙者、一度剣士殿の剣技が見たいでござる! 見―たーいーでごーざーるー!!」ベタベタベタ
少年魔法使い「僕は助手さんの魔法が見てみたいです。本職の魔法使いの魔法を一度、是非!」
魔族少女「み、みんな、勇者様達、困ってるよ……?」オロオロ
勇者「だー!! 群がってくるんじゃねぇ!! このクソガキ共!!!」バッ
少年魔法使い「やばっ! 怒った!?」ダッ
侍少女「逃げるでござるよー!!」ダッ
魔族少女「ま、待って……!!」
勇者「おい待てこらクソガキ共! 俺が大人の厳しさ教えちゃる!!!」ガー
剣士「お前が言うなよ……」
助手「まったくね……」
勇者「おらぁ! 悪い子はいねぇがー!!」ガー
悪ガキ「兄ちゃん兄ちゃん!!」ツンツン
勇者「ああん!? まずはお前からか?」ギロッ
悪ガキ「おりゃ!」
キィィィィィィィィィィンン!!!
勇者「はびょあ!?」ドサッ
剣士「……勇者……」
助手「躊躇もなくあそこに蹴りを入れたわね」
剣士「あれは痛い」
勇者「…………!!!」ビクンビクン
悪ガキ「どうだ! 俺にかかれば勇者だってこのとおりだぜ!!」
侍少女「流石でござる! 悪ガキ殿!」
少年魔法使い「やるな! 悪ガキ!」
悪ガキ「へへーん!!」ドヤッ
勇者「ぬぉぉぉぉぉ……」プルプル
魔族少女「あ、あの……大丈夫ですか?」
勇者「こ、これは潰れたかも…………」プルプル
魔族少女「えぇ!? なにが潰れちゃったんですか!?」
勇者「それはおじさんの……金のた……」
剣士「子供に何を教えようとしてるんだ、お前は!」スパーン
勇者「う、うるせぇ……これは、良い子の誰もが通る……道……なんだよ……」プルプル
院長「みんな、そろそろ朝食の準備ができますよー、勇者さんたちと一緒に食べましょう!」
「「「「はーい」」」」
院長「では、みなさんも………」
助手「ああ、お気遣いどうも……」
剣士「わかった。いただくとしよう。勇者、行くぞ」
勇者「な、なんだって俺が……こんな所に……」プルプル
剣士「グチグチ言うな、これも勇者の仕事だ」
勇者「俺は勇者である前にニートなの!!」
剣士「嫌ならば帰ればいいさ。その代わり例のごとく支給金は打ち止めになるがな」フッ
勇者「働かなくていい生活のために働く……なんておかしな構造……」
剣士「世の中なんてそんなもんだろ」
勇者「大体、なんだよ。今さらこんな辺境の地に慰問なんてさ?」
剣士「それを判断するのはお前じゃない。それに……」チラッ
勇者「……ああ、俺もびっくりしたけどな。2つの意味で」
剣士「そういうことだ。わかったなら行くぞ。彼女が待っている」
勇者「へいへい、わかりましたよ」
勇者「それじゃ俺たちも行くぞ、幼女」
幼女「ユーシャ!!」ダキッ
勇者「だー!! 人前で抱きつくなって何回も言っておろーが!」
幼女「ユーシャ~」グリグリ
勇者「本当にそこだけは何回言っても直んないなお前は……」
幼女「えへへ」ムフー
「…………様、聞こえておりますか……様」
幼女「むい!?」キョロキョロ
勇者「どうした? 幼女?」
「聞こえて……したら……なにか……ばを……」
幼女「誰か……いる……の?」キョロキョロ
勇者「誰かって誰だよ?」
幼女「声が……聞こえた……の!」
勇者「声? どこから?」
幼女「あっち!!」
勇者「あっちって……森の中からか?」
幼女「…………」コクコク
勇者「幼女、それは気のせいだ。風の音と木の音が混ざって人の声のように聞こえちまうんだよ。森には誰もいません。わかったか?」
幼女「むぅ……」
勇者「いいから行くぞ。慰問なんてさっさと済ませて帰るんだから」スタスタ
「……様……どうか……お言……くだされ……」
幼女「やっぱり、聞こえ……た!! ユーシャ! 聞こえた……よ!!」
勇者「だから気のせいだって。先行ってるからな。ちゃんと中に入っておけよ?」スタスタ
幼女「聞こえた……もん!!」
勇者「はいはい……」
幼女「むぅぅぅぅ……!!」プクー
「……我らの……なので……どうか……を……」
幼女「もう! もっと……自己主張……? しなきゃダメだ……よ!?」
「…………お……ださい」
幼女「なーに?」
「お力を……お貸しください……」
幼女「助けて欲しい……の?」
「…………」
幼女「むぅぅぅ……ユーシャ、怒る……かな?」キョロキョロ
「どうか……」
幼女「むむむむ……」ウーン
「あの…………様……どう……なさい……か?」
幼女「決定……しました!!」
幼女「困ってる人は……助ける!! ……それがユーシャのお仕事……なのです!!」
幼女「声のする方へ……レッツゴー……なのです!!」タタタタタタ
――王立研究所――
魔法使い「それにしても見事じゃのう………このような現象見たことが無いわい」
「あんまりジロジロ見るんじゃねぇよ」
魔法使い「しかし不思議じゃ……あの質量をこのサイズに収めるとは……」ペタペタ
「お、おい! あんまり触るんじゃねぇ!!」
魔法使い「研究とは実際に観察し、触れることでそのものの本質を理解することなんじゃ、ゴチャゴチャ文句を言うな………なるほど、こうなっておるのか……」フムフム
「お、おい!!」
魔法使い「黙っておれ! お主の技術が明日の我が国の発展につながるかも知れないのだぞ?」ペタペタ
「人間がどうなろうと俺の知ったことかよ!」
魔法使い「この衣服、邪魔じゃの………よし、脱げ!」
「は、はぁ!? お前何考えて……」
魔法使い「ほれ、さっさと脱ぐんじゃ!」
「や、やめろ!!」
ガチャッ!
研究員A「所長、商人貴族様から所長宛に書簡が………ってなにしてるんですか!?」
魔法使い「無論、実験じゃが?」
研究員A「実験って……男の人の服をひん剥くなんてどういう実験なんです!?」
魔法使い「い、いや、これは単純な学術的好奇心での……」
研究員A「所長みたいなちびっ子が男を連れ込んでるだけでも恐ろしいのに、あまつさえその衣服を無理やり引っペがそうとしてるなんてちょっとした衝撃映像ですよ!?」
魔法使い「誰がちびっ子じゃ! 誰が!!」
研究員A「そういうのが気になるお年頃であるのは我々研究員一同心得ています。ですがいきなり自分の研究室に男連れ込んじゃだめでしょう!! 大体、誰なんですか? この男!!」
魔法使い「ああ、この姿ではわからぬか……こやつが例の火竜じゃよ」
研究員A「はぁ? この見るからにヤ○ザの鉄砲玉みたいな風貌のこれが?」
火竜「てめぇ、よくわかんねぇけど今相当馬鹿にしたよな? ああん?」
魔法使い「もう少し、龍族と幼女の関係性を知っておきたくての。研究所に来てもらうことにしたんじゃが、あのサイズでは研究室に入れん。どうしたものかと考えておったのじゃが龍族は昔人間と接する時は人型だったということを聞いての。試しになってもらったんじゃ」
火竜「まぁ、俺もあのガキについて興味がある。人間と組むのは癪に障るがここはしばらく休戦ってこった。世話になるぜ? 人間」ニタァ
研究員A「え? 本当に所長が言っていた火竜なんですか?」
火竜「なんならここら一体火の海にしてやろうか?」
研究員A「いいです、結構です!!」アタフタ
火竜「なんだよ、ノリ悪いな、お前」
研究員A「自分の一言で王都を火の海になんてできないですよ……」
魔法使い「ところで、なにか用か?」
研究員A「ああ忘れてました。商人貴族様から所長宛に書簡が届いています」スッ
魔法使い「商人貴族殿から……? どれ」カサッ
研究員A「なんて書いてあるんです?」
魔法使い「土地開発用の魔導器具の購入依頼書のようじゃな」
火竜「お前、そんなもんまで作ってんのかよ?」
魔法使い「全て我が研究命題の副産物じゃ。にしてもこれは……」
研究員A「なにか問題でもありました?」
魔法使い「商人貴族殿はなにを考えておるのじゃ? 天地創造でもするつもりかの?」
研究員A「掘削用の魔導器具に簡易爆破術式装置、その他諸々………しかもすごい量……」
魔法使い「やはり、あの噂は本当であったか……助手を向かわせておいて良かったわい」
研究員A「噂?」
魔法使い「最近、商人貴族殿が東の海沿いの土地を根こそぎ買い上げているようでの。なんでもあの辺りを国一番のリゾート地にするとか……」
研究員A「リゾート地? なんか嘘くさいですね」
魔法使い「であろう? わしも気になってその手の物に動きを調べさせたんじゃがどうやら本当の目的は別にあるらしい」
研究員A「といいますと?」
魔法使い「あの辺りに妖精の隠れ里があるとな」
火竜「妖精? 今妖精と言ったか? あいつらまだ生きてやがったのか……」
魔法使い「なんじゃ、知り合いか?」
火竜「ああ、龍族と妖精族は昔からの付き合いだ。龍族がそこに暮らす生物を守護する役割なら、妖精族はその土地や自然を守護する役割を担っている」
魔法使い「しかし、とある理由で人間は妖精族を乱獲してしまったという歴史がある。そのせいで妖精族は人々を見放し、姿を見せなくなってからと久しい。だが今回どうやら商人貴族殿は妖精の隠れ里があの一帯にあるとの情報を掴んだようじゃな」
研究員A「つまりリゾート開発計画は表向きということですか?」
魔法使い「確信は持てん。本当に妖精族の隠れ里があるのかもわからんしの」
研究員A「それで助手さんを南へ派遣したというわけですか……」
魔法使い「実際に妖精の乱獲が行われていても我々の権限では商人貴族殿を止めることはできん。しかし希少な妖精族の危機をみすみす放っておくわけにもいかん。そのためにはとにかく情報は必要だと思っての。ちょうど剣士と勇者が南へ慰問に行くというから、便乗させてもらったという次第じゃ」
研究員A「慰問、ですか?」
魔法使い「ある人が経営している孤児院にじゃ。そこの子供たちが勇者のパーティーに憧れているという話を剣士が聞いての。それならばと今回の話に至ったのじゃ」
研究員A「流石剣士様ですね、世のため人のため……うん、実に立派な方だ」
魔法使い「いや、そうでもないぞ? 剣士の場合は至極『個人的な理由』の方が大きいとわしは思う。あやつ、お堅いからの。理由が無ければあそこに行けなかったんじゃろうて」ニヤニヤ
研究員A「なんです、その理由って」
魔法使い「まぁ、長い付き合いじゃと色々あるんじゃよ……それにしても勇者が同行してくれて本当に助かったわい」
研究員A「助かった……とは?」
魔法使い「商人貴族殿がなにかしてきても全て『勇者が暴走して致し方なく』とあやつに責任をなすりつけられるじゃろ?」
研究員A「あ、なるほど………」
魔法使い「ニートのあやつならば肩書きに縛られることもなく、失うものも無い。後々問題になることもないじゃろうしの」
研究員A「所長も悪い人ですね」
魔法使い「これはある種の信頼関係じゃ。困っている人間をあやつは絶対に見捨てん。なんだかんだ文句を言いつつもあやつは必ずその誰かのために立ち上がる。そういう奴なんじゃよ」
火竜「けっ、忌々しい……」
魔法使い「それに、あそこには『あの人』もおるしの。商人貴族殿がなにを考えているのかは知らぬが、思い通りにはいかないじゃろう」
研究員A「誰です? その『あの人』っていうのは?」
魔法使い「………お主、『中抜き』という技術を知っておるか?」
研究員A「いや、聞いたことありませんね」
魔法使い「まぁ、知らぬのも無理はない。行為は褒められたものではないが、あれは一種の芸術じゃよ」
研究員A「は、はぁ……」
魔法使い「とにかく、この一件は助手と剣士たちに任せるとしよう。わしらはわしらの仕事がある。できることは早めに片付けておかねばなるまい」
研究員A「では、取り急ぎ商人貴族様からの依頼については進めてしまっていいですか?」
魔法使い「よろしく頼む」
研究員A「わかりました。少し時間はかかると思いますが準備します」
魔法使い「ああ、バレない程度にゆっくりで構わぬからな?」
研究員A「わかりましたよ。では取り掛かります」
スタスタスタ
火竜「へぇ、こっちもなかなか面白いことになってるじゃねぇか」ヘヘッ
魔法使い「どこがじゃ、世界は平和になったというのに、龍の封印は解ける、魔族は襲ってくる、おまけに今度は人間の手によって妖精族がピンチとは。なんのために戦ってきたのかわからんわい」ハァ
火竜「俺だっていきなりこんな時代に叩き起こされて迷惑してんだ。この状況を楽しむ努力をしたっていいだろうがよ」ケッ
魔法使い「………ずっと気になってたんじゃがなぜ今になって封印が解けたんじゃ?」
火竜「そんなの俺が知るかよ。ただ………」
魔法使い「ただ?」
火竜「目が覚めた時、近くにあいつ………魔王の魔力を感じた……ような気がした」
魔法使い「なに?」
火竜「まぁ、それが原因かどうかはわからねぇがな」
魔法使い「………全て偶然ということで済ませてしまっていいものなのか……」
火竜「とにかく、俺はあの金髪のガキと魔王のことについて知りてぇ。そんでもってもし魔王が生きていることがわかったら……」
魔法使い「どうする気じゃ」
火竜「殺してやる………!!」ギラッ
魔法使い「物騒な奴じゃの……」ハァ
火竜「それまでは精々利用させてもらうぜ、人間」
魔法使い「………」
火竜「全てが終わったらお前たち人間どもも灰にしてやるから覚悟しやがれ」ニタニタ
魔法使い「ならばその前に色々と実験に付き合ってもらおうかの」ニヤニヤ
ドサッ
火竜「なんだこれは?」
魔法使い「龍族の協力のもとに、できる実験をとりあえず列挙してみた。この紙束はその実験内容が記載されておる。その数実も1286!」
火竜「お、おい……まさかこれ全部?」
魔法使い「もちろんじゃ! お主の様な巨大トカゲを飼うと言うのじゃ。まさか働かずにここにいるつもりか?」
魔法使い「いやー、体内にあれほどの魔力を溜め込んでいる生物は自然界にはおらんからのう! 色々と実験がはかどりそうで良かったわい! 色々と協力してもらうぞ? 火竜よ!」ニヤニヤ
火竜「ちょ、ちょっと待て……」
魔法使い「待たん! 善は急げじゃ! 早速実験に取り掛かるとするかの!」
火竜「お、おい……」
魔法使い「たっぷりとこき使ってやるから覚悟しておけ!」ニカッ
火竜「マジかよ……」
おまけ
「崖の上の幼女」
幼女「………」ミョンミョンミョン
勇者「どうしたんだ? 幼女?」
幼女「………むぅ……」ミョンミョンミョン
魔法使い「なにかを受信しているようじゃな」
勇者「受信?」
魔法使い「幼女には感知機能も搭載しておるのじゃ。我々では感じることのできない特別ななにかを知覚することができる。今もああやってなにかを感じ取っているのじゃよ」
勇者「へぇ、そうなのか。なにかわかったのか? 幼女」
幼女「………にょ?」
勇者「にょ?」
幼女「………」ミョンミョンミョン
勇者「よ、幼女……?」
幼女「ヨージョ! ユーシャのこと、スキー!!」
勇者「うわ! びっくりした!」
幼女「ヨージョ、人間になるー!!」
勇者「やめて! お前が言うとなんか話が暗い方向に行きそうだからやめて!!」
すみません、魔が差したんです……すみません……
―南の岬 孤児院―
勇者「いいですかー、みなさん。この国の支給金と呼ばれるお金は全て国民が払う税金を資金源としています」
悪ガキ「なぁ、支給金ってなんだよ、兄ちゃん?」
勇者「いい質問です悪ガキ君。先生がわかりやすく教えてあげましょう。 一般的に支給金と呼ばれるものにも色々あります。例えば仕事を辞めた時に次の職場が見つかるまでの間もらうことができる『失業支給金』」
侍少女「仕事を辞めてお金がもらえるんでござるか?」
勇者「その通り。流石に今までもらっていた全額とういうわけにはいきませんが、給料の大体50~80%程度のお金を毎月もらえます。もちろん、その人が求職活動をしているという実績を証明しなければなりませんが……」
悪ガキ「じゃあ、じゃあ仕事始めてすぐ辞めたらしばらくは働かなくても金がもらえるってことか?」
勇者「雷魔法、弱め!!」バリバリッ
悪ガキ「あんぎゃぁぁぁぁあああ!!!」ビリビリ
勇者「先生はそんな甘えた考えのクソガキは嫌いです。『失業支給金』は一年以上働いた人のみがもらえるものです。そして、働いた年数が長ければ長い分だけ支給される金額と期間が増える……そういうシステムになっています。くれぐれも勘違いしないように」
悪ガキ「は、はい………」プスプス
魔族少女「あ、あの勇者様………?」
勇者「なんだい心優しい少女ちゃん?」ニコッ
魔族少女「えっと、勇者様はなぜ私たちにそのような話をするのですか………?」オドオド
悪ガキ「そうだぜ! そんな支給金の話なんかよりもっと勇者としての武勇伝とかさ、そういうのを俺たちに話してくれよ!」
勇者「お黙りなさいクソガキ。これは皆さんにとって、そして先生にとって重要な話なのです」
悪ガキ「だから、なんでそれが重要な話なのかってことを俺達は聞いてるんだけど!」ブーブー
勇者「よろしい。少し早いですがお話しましょう。皆さんが今日、一番覚えて帰らなければならないのは………そう! 『英雄支給金』についてです!」
少年魔法使い「英雄……?」
侍少女「支給金……でござるか?」
勇者「そう! この英雄支給金とは! 偉大な功績を成し遂げたものにのみ受給資格を与えられるものです。例えば、新しい魔法を開発して人類の繁栄に貢献した偉大な魔法使いとか、紛争地に赴き自らの身を顧みず、傷ついた人々のために奔走した僧侶とか、魔王を倒し世界を救った勇者様とか!!!」ババーン
シーン
勇者「魔王を倒し、世界を救った勇者様とか!!」ババーン
侍少女「なぜ二回も言うのでござるか………」ハァ
勇者「とにかく、そういう英雄的な行為を行った人間を称え、国はその英雄に毎月、『行った英雄的行為の見返りとしてはあまりにも少ない金額』を支給する………それが英雄支給金制度です」
悪ガキ「そうか! 俺たちもそういうのがもらえるくらい偉くなれってことだな! 兄ちゃん!」
勇者「はぁ? 何言ってんだお前?」
悪ガキ「え? だってそういうことだろ?」
勇者「違いますー、そういうことじゃありませーん」
悪ガキ「じゃ、じゃあどういうことなんだよ?」
勇者「君たちは偉くなる必要も、強くなる必要もありません。ただ大人になって出来るだけ多くの税金を納めなさい」
悪ガキ「はぁ!?」
勇者「私、前回の事件の後、色々調べました。なぜ私の支給金が毎回打ち切りの危機に瀕してしまうのか………そこには色々とシビアな事情があったんです」
少年魔法使い「シビアな事情?」
勇者「そう! この国は今、慢性的な財源不足に陥っている!」
勇者「考えてみればわかるはずでした。魔王軍との戦いのせいで失ってしまった多くの働き手。復興作業でかかる費用。金はいくらあっても足りない。必要な経費はたくさんあるのに、そんな収入源はどこにもない………ならばどうするべきか!? はい、魔族少女!!」
魔族少女「………節約、ですか?」
勇者「その通り! そしてそんな時、決まって矢面に立つのが………英雄支給金なんです!!」バンッ
勇者「事実! 他の受給資格保持者はほとんどが自らその資格を返上しています! 現在支給金をもらっているのは私1人だけなのです!!」バンバンッ
勇者「このままではなし崩し的に支給金という制度が無くなってしまうかもしれない。税金が足りないという、その程度の理由で!! 魔王を倒すの滅茶苦茶大変だったのに!!」クワッ
勇者「………いいですか? このままでは私は唯一の収入源を失ってしまう。そうなったら私は働かなければならない………そんなの絶対に嫌だ。私は働きたくない………断じて働きたくない!!!」ガンッ
勇者「だから君たちは、早く社会に出て、一生懸命働いて、税金を納めて………私を養ってください………」
勇者「それが今日、あなた達が覚えて帰らなければならないことの全てです。国を救った勇者様を養うためにたくさん税金を納めましょう。よろしくお願いします」ガバッ
魔族少女「勇者様………」
少年魔法使い「………」
侍少女「勇者殿………」
悪ガキ「勇者の兄ちゃん………」
悪ガキ「ふざけんなぁぁぁぁあああああああ!!!!!」ドゲシッ
勇者「げふぅぅ!!!」
侍少女「冗談じゃないでござるよ!! なんでお主のようなクズを拙者達が養わなきゃいけないんでござるか!!!」バシッバシッ
勇者「ぼ、木刀は痛い………」
少年魔法使い「……炎魔法強火!!」
勇者「アチィィィィ!!!!」ゴォォォォ
魔族少女「み、みんな……暴力はダメだよ?」
悪ガキ「勇者って聞いてたのにガッカリだぜ!!」ガンガンッ
少年魔法使い「非常に残念です! もっとすごい人かと思ってましたよ!!」
勇者「わ、若者よ………年長者には優しくするべきじゃよ……?」
悪ガキ「うるせぇ!!!」
ギャーギャーギャー!!!
助手「うわぁ………」
剣士「あの馬鹿………」ハァ
助手「誰ですか、あの人の話が聞きたいって言い出した人……」
剣士「彼女だ………勇者の話ならどんな話でもいいからと……」
助手「ああ……」
院長「………」ニコニコ
助手「どうするんですか?」
剣士「やっぱり止めた方がいいか?」
助手「このままじゃ、未来を担う子供たちが歪んで育ちますよ?」
剣士「それはなんとしても避けたいな」
助手「なら止めましょう」
剣士「そうだな、そうしよう……」
ギャーギャーギャー
剣士「あー、君たち。そろそろ許してやってくれないか?」
侍少女「剣士殿! こいつ本当に勇者なんでござるか!?」ハァハァ
悪ガキ「嘘だよな!? ただのそっくりさんだろ!?」ゼェゼェ
剣士「………残念ながら本物だ」
少年魔法使い「この絵に書いた様な人間のクズがですか?」
剣士「魔王との戦いの後遺症でな。基本的に頭がパーだったんだが、さらにパーになってしまったんだ」
侍少女「そうでござったか。さらにパーに……」
魔族少女「パーに………」
勇者「てめぇ……剣士……好き勝手言いやがって……」ゼェゼェ
悪ガキ「お前は寝てろ!!」ゲシッ
勇者「ギャン!!」
剣士「代わりと言ってはなんだが、私が話しても構わないか?」
侍少女「もちろんでござるよ! 拙者、剣士殿の武勇伝、聞きたいでござる!!」
悪ガキ「俺も聞きたい!!」
剣士「ああ、それじゃあ席に戻ろうか」ニコッ
「「「「はーい」」」」
勇者「……剣士、すまねぇ……俺はもうダメみたいだ……幼女のことを……頼むぜ……」ヘヘッ
剣士「お前はそこで寝てろ。私が子供たちに正しい大人のあり方というものを教える。お前の様な人間にならないようにな」フンッ
勇者「そうだぜ剣士……世界に俺みたいな奴が増えたら、俺がもらう支給金が減っちまう……」プルプル
剣士「本当にお前というやつは!!」スパーン
勇者「グハッ!! 段々……気持ちよくなってきた……」ゼェゼェ
剣士「まったく……」
剣士「……では改めて……私は、王国騎士団第一騎士団団長をしている剣士だ。先ほどの不甲斐ない勇者に変わって今日は私が所属している騎士団について話をさせてもらう。よろしく頼む」
侍少女「はい! よろしくお頼み申す!!」ガバッ
悪ガキ「なんかいつも以上にはしゃいでるな、あいつ」ボソッ
魔族少女「侍少女ちゃんは剣士様のこと本当に憧れてるから」フフッ
剣士「まず、王国騎士団の体系について君たちに話しておこうと思う。王国騎士団は基本的に第一騎士団から第四騎士団までの4部隊で構成されていてこの4部隊はそれぞれ受け持つ任務が違うんだ」
剣士「具体例を挙げるならば第四騎士団は騎士団全体の運営及び広報活動。第三騎士団は現場での後方支援、第二、第一騎士団は王都の護衛や紛争の直接戦闘行為などを担当している」
悪ガキ「へぇ……知らなかった。なんでそんな風に分けちゃうんだ?」
侍少女「そうでござるよ、各々が国のために一致団結し敵と立ち向かった方が良いのでは?」
剣士「………侍少女と言ったかな? 君の得意なことはなんだい?」
侍少女「無論! 剣術でござるよ! いつの日かこの剣術で剣士殿を超える剣豪になることが拙者の夢でござる!!」
少年魔法使い「その割に腰に差している剣はまだ使いこなせてないけどな」
侍少女「こ、この剣はちょっと特殊なんでござるよ!」
剣士「こらこら、喧嘩をしない。では魔族少女」
魔族少女「は、はい!」ビシッ
剣士「そんなにかしこまらなくて大丈夫だ……君は剣術が得意かな?」
魔族少女「え? 私ですか? 私はそういうのはちょっと……」
悪ガキ「お前、鈍臭いもんなー」ヘヘッ
魔族少女「うう……」
剣士「では君の得意なことは?」
魔族少女「私の得意なことは……えーっと……」
侍少女「魔族少女は珍しい回復魔法が使えるでござる!」
剣士「ほう、すごいじゃないか!」
魔族少女「あ、あれはお母さんが教えてくれただけでそんな特別なことじゃ……」アタフタ
剣士「そんなことは無い。私も回復魔法の使い手にはまだ両手で数える程度しか会ったことがない。それは十分君の得意なことだよ?」ニコッ
魔族少女「あ、ありがとうございます……」オドオド
悪ガキ「俺は足が早い!!」ムンッ
少年魔法使い「独学で魔法を少々……」
剣士「そうだ。人にはそれぞれ得意なことと苦手なことがある。戦うことが得意な者、魔術が得意な者、交渉が得意な者。それを無視して戦うことが苦手な者を戦わせ、結果死なせてしまったらそれは国にとっての大きな損害になる」
少年魔法使い「適材適所ってやつですか?」
剣士「その通り。個人個人が持っている素質を最大限に活かすこと。それが重要なんだ。だから各部隊で役割を分担している。各々が自分の最大限の力を国のために使えるようにね」
悪ガキ「へぇ……」
剣士「じゃあここで君たちに問題だ」
侍少女「なんでござるか!?」
悪ガキ「絶対俺が正解してやるぜ!」
少年魔法使い「いちいちはしゃぐなよお前ら……」
魔族少女「まぁまぁ……」
剣士「騎士団に入るために必要な資格とはなんだと思う?」
悪ガキ「はい! 強いこと!!」
剣士「ハズレ」
侍少女「はい! 最後の一兵になろうが敵を打ち倒すまで死を覚悟して戦い続ける覚悟でござる!!」
剣士「残念ながら不正解だ」
侍少女「ぬぅ……」
少年魔法使い「協調性……ですか?」
剣士「惜しいな」フフッ
悪ガキ「ええ? じゃあ一体なんなんだよ? 正解は?」
剣士「正解は『国を守りたい』という強い心………意志だ」
悪ガキ「意志ぃ?」
剣士「そうだ。国を守りたい。国のために自分の力を役立たせたいという意志こそが騎士としてもっとも重要なものとなる。そしてそれが一番辛い時に自らを助けてくれる強い武器になるんだ」
剣士「その意志を胸に我々騎士団は今日も各々の戦場に立っている。君たちがもし騎士団に入りたいと思っているのなら、そのことをどうか忘れないで欲しい。いいね?」
侍少女「はい!!」
悪ガキ「カッコイイな……あんたと違って」ジトー
勇者「おいおい……そんなこと言いなさんな、旦那ぁ~」ヘラヘラ
少年魔法使い「さすが王国騎士団の団長、だな。勇者様も見習ったらどうですか?」
勇者「え? 俺があいつを見習う? なんで?」
悪ガキ「未だにこいつが勇者だってことが信じられねぇ……」プルプル
勇者「だって、働かないでもお金が入ってくる生活を手にしたんだよ? これ以上なにが問題あるっていうの?」
悪ガキ「お前の素行が問題だらけじゃねぇか!!」
勇者「ええ!!??」ガガーン
悪ガキ「兄ちゃん……もうちょっとさ、勇者なんだからさ人に尊敬してもらえるような生き方しなよ」ポンポン
勇者「な、なぜこんなガキに説教されてるんだ、俺は……」ズーン
少年魔法使い「少なくとも今のあなたは尊敬できません」キッパリ
魔族少女「えっと、私は別にそんなことは……無いと……」フイッ
勇者「お嬢ちゃん、だったらなんで目をそらすんだい?」
魔族少女「こ、これは別に深い意味は……」フイッ
侍少女「剣士殿の方が圧倒的に実力も人間性も優っているでござるな!」フンス
魔族少女「ちょっと、侍少女ちゃん!」
勇者「く、くそう……俺、勇者なのに……剣士の方が圧倒的に支持されている……」ズーン
悪ガキ「どっちかって言うと剣士様の方が勇者っぽいよな」アハハ
勇者「く、悔しくなんかないもん!!」グスッ
少年魔法使い「そんな静かに涙目で言われても……」
剣士「まぁ、騎士団の概要についてはこれくらいにしておいて、なにか質問などはあるかな?」
勇者「はいはい! 剣士さんは月々いくらぐらいもらってるんですか!?」
剣士「勇者……」ハァ
悪ガキ「お前は黙ってろよ!」
勇者「なんだよー、気になんじゃねぇかよー、教えろよー」
剣士「………お前よりかはいい暮らしをさせてもらってる! 働いているからな!!」
勇者「みなさーん、こいつ国民の税金でVIPな毎日送ってますよー。いいんですかー! 税金の無駄遣いじゃないんですかー!?」
侍少女「先生、本当にこれが伝説の勇者なのでござるか?」
院長「そうよー、間違いないわ」
侍少女「間違いであって欲しいでござる……」
剣士「あの馬鹿は放っておいて……他に質問はないか?」
勇者「剣士さんはー、彼女とかっているんですかー?」
剣士「………貴様はさっきから私になにを言わせたいのだ……?」
勇者「それくらいのおエライさんならー、毎日女の子をー取っ替え引っ替えでー、よろしくやってるんじゃーないですかー?」
剣士「お前は子供の前でなにを言ってるんだ!?」ガンッ
院長「ふふっ、剣士さんは確かにモテそうですよね」
剣士「君まで……」
勇者「そこんとこ、どうなんすかー?」ジトー
院長「私も気になります」ジー
剣士「/// くっ……今はそういう時間は無いし、余裕も無い!」
勇者「あー! はぐらかしましたぜ、こいつ!!」
剣士「………後で覚えていろよ勇者……!! 次! 次の質問は無いか!?」
侍少女「剣士殿! 先日の英霊祭襲撃事件の時も騎士団の方達がご活躍を!?」バッ
剣士「あ、ああ。その件についてはだな……」チラッ
院長「……?」
剣士「……騎士団が一丸となって動き、事態収束に向け尽力した……」
侍少女「おお!!」
勇者「センセー、剣士様が嘘ついてまーす!!」ビシッ
剣士「なっ!? 勇者!」
院長「あら、そうなんですか? 剣士さん?」
剣士「い、いや実際に市民の避難誘導や混乱の収束、それに終わった後の後片付けなど……」
侍少女「では、王都を襲撃したという者達は一体誰が倒したんでござる?」
剣士「そ、それは……!」
勇者「確か巨人は魔法使い、襲撃者達は仮面の姫様の護衛と、陛下だっけ?」
助手「……ええ。まぁこれ以上は国家機密になってるから言えないですけど」
勇者「あれ? ということはー? 剣士様は誰と戦ったんですかー?」ニヤニヤ
剣士「勇者……!! お前……!!」
勇者「きゃー、剣士様がこっち睨んでくるよー、怖いよー」
侍少女「もしかして剣士殿はなにもしてないのでござるか……?」
剣士「い、いや……違う……!」
助手「いや、ちゃんと戦ってましたからね? 誤解しちゃダメよ?」
剣士「そ、そうだ! 私だってちゃんと戦っていただろう!」
勇者「えー? なんか『ぐっ……』とかしか言ってなかったような気がするけど?」
剣士「ぐっ………」プルプル
助手「そんなことないですって、ちゃんと戦ってましたって、ほら『あれ』と」
勇者「えー? 戦ってたかなー?」
助手「勇者様があそこに現れる前ですよ」
勇者「『あれ』ってあいつのことだろ? 確か俺が来た時もピンピンしてたはずだけど、ちゃんと戦ってたの?」
助手「えーっと……」
剣士「…………」プルプル
侍少女「………ということは剣士殿は『勇者殿に覚えてもらえていないほど地味なことしかしてなかった』ということですか?」
悪ガキ「おい、ビックリしすぎて『ござる』抜けてるぞ!」ヒソッ
魔族少女「そこはツッコまないの」ヒソッ
剣士「いや、違うんだ侍少女。なにも敵の大将とやりあうことが騎士の全てではない、まず第一に考えるのは民の命であって……」アタフタ
勇者「そうだぞ、侍少女。例え事件中でも目立った戦闘シーンも無く、いるんだかいないんだかわからない騎士団の連中だったけど、国のために色々と地味な作業を影でひっそりやってたんだ。あんまり表には出てこなかったけど」
侍少女「じゃ、じゃあ……みんなが襲撃者との死闘を演じている中、剣士殿達騎士団の方々は……」
勇者「まぁ、避難誘導してたか、逃げ回ってたかのどっちかだな!」アッハッハッハ
侍少女「そんな……」
勇者「あ、でも剣士はちゃんと『解説役』という大役をだな……」ニヤニヤ
剣士「いい加減にしろ! さっきから何がしたいんだお前は!」
勇者「うるせぇ! お前ばっかりなんか尊敬の眼差しで見られててずりぃんだよ! 剣士が勇者より目立つんじゃねぇ!!」
剣士「なにを無茶苦茶なことを……」
勇者「いいですかー、みなさん! 魔王を倒したのも王都の危機を救ったのも大半は俺の活躍のお陰なんですよー! 剣士じゃありませーん、この勇者様ですよー、もっと俺を崇め奉りなさーい」
悪ガキ「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ!」
侍少女「そ、そうでござる! い、いくら剣士殿が役に立たなかったとしても誰が貴様の様な者など……!!」
剣士「侍少女、私だってな色々頑張ってるんだぞ………?」ズーン
魔族少女「剣士様、しっかり!!」ワタワタ
少年魔法使い「まぁ、どっちがいいかなんて言うまでもないよな」フゥ
勇者「くっ! このクソガキども……!!」ワナワナ
剣士「そんなんだから力に飲み込まれて暴走するんだよ……」
勇者「そ、それを言っちゃうのかい、お前は……!!」
剣士「お前の心が弱いから王都が壊滅に追い込まれたんだ!」
勇者「追い込んでねぇよ! 未遂だよ! いいだろ! 俺の力が無かったらお前ら今頃死んでたんだぞ!?」
剣士「どうだか? 私の目には余計な仕事が増えた様にしか見えなかったが?」
勇者「だったらてめぇがああなる前にあいつぶっ倒しておけば良かった話じゃねぇか!」ガルル
剣士「そうしようとした時にお前が勝手に現れて勝手に暴走したんだ! まったく、勇者を辞めてからも私に迷惑をかけるつもりか? お前という奴は!!」
勇者「んだとおら! やんのか!?」
剣士「いいだろう。私ももう我慢の限界だ。一度どちらが本当に強いかはっきりさせなければならないようだな!」
勇者「表出ろ! てめえなんて月までぶっ飛ばしてやんよ!!」
剣士「ぬかせ! その腐った性根、叩き直してくれる!!」
ダダダダッ
院長「あらあらあら……」
悪ガキ「………なんていうか、その……俺、ガッカリだ」
侍少女「よもや勇者殿があのような人間だったとは……」
少年魔法使い「聞いてた話と随分と違うな」
魔族少女「いや、その……私は悪い人じゃないって……思うよ?」
悪ガキ「あれ見てもか?」スッ
勇者「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!! 雷装!!!!」
ドゴォォォォォンンンン!!!
剣士「はぁぁぁぁあああああ!!!」
ズバァァァァァ!!!!
勇者「なんの! 極大雷魔法!!!」
バリバリバリバリ!!!
剣士「くらえぇぇぇぇ!!!」
バシュゥゥゥゥゥゥン!!!
勇者「負けられねぇ……俺が負けたら全国の同胞たちの生き方を否定することになっちまう……それだけはだめなんだ!!」
剣士「なにを世迷いごとを!!」
勇者「俺に力を貸してくれ! 全国のニートのみんなぁぁぁぁぁあああああ!!!」ゴゴゴゴゴゴゴ!
勇者「俺たちが働かなくていい世の中を! 作るんだァァァァ!!!!」
ドカァァァァァン!!!
院長「喧嘩もいいですけど、建物は傷つけないでくださいねー!!」
魔族少女「アハハ………」
悪ガキ「ああいう大人には絶対なりたくねぇな……」
侍少女「まったくでござるよ!」
少年魔法使い「右に同じ」
院長「終わったら声かけてくださいねー!」
悪ガキ「先生はなんでそんなに平然としてるんだよ……」
院長「まぁ、二人ともいつものことだから。お腹が空いたら仲直りするでしょう」
魔族少女「そんな子供じゃないんですから……」
院長「あら、男の子はいくつになってもそんなものですよ?」
侍少女「そうでござるか……」
院長「はい♪」
勇者・剣士「「うぉぉぉぉぉぉぉ!」」
ドガァァァァァン!!!
助手「……剣士様もいなくなっちゃいましたね」
院長「そうですね、できれば後学のためにももう少しお話を聞かせたかったのですが……」
助手「今日のところはもう十分じゃないですか?」アハハ
院長「そうだ! 助手さんもなにかこの子たちにお話を聞かせてあげてくれませんか?」
助手「冗談はやめてくださいよ。あの2人の功績に比べたら私なんかが話しても……それにそもそもは私は魔法使いの代理で来ているんです。子供たちになにか話せるような武勇伝なんかもありませんよ」
院長「ですが……」
悪ガキ「先生、俺たちちょっと遊びに行ってもいい?」
侍少女「もうすぐ秘密基地が完成するんでござるよ!」
院長「秘密基地、ですか?」
魔族少女「侍少女ちゃん、ダメだって!」
侍少女「し、しまったでござる!!」
院長「あら……4人とも先生になにか隠し事かしら?」ゴゴゴゴゴ!!
悪ガキ「わあああ!! なんでもない! なんでもないから先生!!」アタフタ
少年魔法使い「4人って僕もですか!?」
院長「当然です。先生は皆さんに隠し事はダメなことと教えたはずです」ゴゴゴゴゴ!!!
侍少女「違うでござる先生! 我々はここに来てからずっと内緒にしてきた秘密基地を完成させて先生を驚かそうとしてる計画だなんてこれっぽっちも考えてないでござるぅぅぅ!!」
少年魔法使い「お前はこれ以上喋るな! 僕の身まで危なくなる!」
助手「まぁまぁ、院長さん。このくらいの歳の子でしたら秘密の一つや二つくらいありますから……」
院長「ですが隠し事はダメです」ゴゴゴゴゴ
魔族少女「ひ、ひぃぃぃぃ!!!」ガタガタガタ
助手「いいじゃないですか。その隠し事もどうやら誰かさんを喜ばせようとしているだけみたいですよ?」フフッ
悪ガキ「助手の姉ちゃん……」
院長「そうなのですか?」グリン!
子供たち「!!!」コクコク
院長「………ならばいいでしょう……」フッ
悪ガキ「よかった……」
魔族少女「オシオキされるかと思ったよ……」
侍少女「オシオキは嫌でござる……オシオキは嫌でござる……」ガタガタ
少年魔法使い「お前は一度されるべきだと思うがな」
侍少女「なんでそういうこと言うでござるか!?」
少年魔法使い「一度たっぷりオシオキされてその緩んだネジを締め直してもらったらどうかと言っているんだ!」
侍少女「ムッキー!! でござる!!」
少年魔法使い「そのバカみたいな口癖をやめろ、なんだ安易なキャラ作りか?」
侍少女「これは全ての武士が扱う伝統的な喋り方なんでござる!」
少年魔法使い「そんな馬鹿みたいな喋り方をしていたなら武士とやらも絶滅して当然だな!」
侍少女「なんたる屈辱……生かしておけないでござる……!!」シャキン
少年魔法使い「お前が僕に勝てると本気で思っているのか?」スッ
侍少女「望むところでござる!!」
悪ガキ「お、おい!」
魔族少女「先生の前でやめておいた方が……」
少年魔法使い「下がっていろ。俺がこのバカに現実を教えてやる」
侍少女「何人たりともこの戦いを止めることはできないでござるよ……!!」
少年魔法使い「来いよ。脳筋バカ」
侍少女「参る!!」
院長「喧嘩をしてはいけないと先生は教えたはずですが?」シュン
助手「ってあれ? 院長さん? いつの間にそんなところに?」
院長「………」ニコニコ
少年魔法使い「邪魔しないでくれ先生。こいつにはちゃんと現実っていうものを教えなくちゃいけないんだ」ゴォ
侍少女「そうでござるよ先生武士の誇りをあやつは汚したでござる。許してはおけぬ! これは真剣勝負なのでござるよ!!」チャキン
院長「ダメです。悪い子には武器なんか持たせられません。没収です」シュバッ!
少年魔法「え?」
侍少女「け、剣が!?」
院長「まったく、侍少女ちゃんはまだちゃんとこの剣を扱えていないでしょう。少年魔法使いくんもこの杖は大人用です。子供用の杖を渡しておいたはずですが?」スッ
助手「気がつかなかった……いつの間に二人の持ち物を…・・」
悪ガキ「あ、やっぱり姉ちゃんでも見えねぇんだ」
助手「でもって?」
魔族少女「先生が『あれ』をやると自分の持っているものが入れ替わったりなくなってたりするんです。今みたいに」
助手「それ本当?」
悪ガキ「大人ならわかるかなーって思ったんだけどどうも違うみたいだな。なんかの魔法の一種かな? 助手の姉ちゃん、なんか知らない?」
助手「い、いや。あんな魔法なんて聞いたことないわ……」
悪ガキ「だよなー」
助手(一体なにが起きたというの?)
侍少女「か、返すでござるよー!」
少年魔法使い「また見破れなかった…」ギリッ
院長「ではいつものように、喧嘩をしたらどうするんでしたっけ?」
侍少女「くぅ………ごめんなさい」ペコリ
少年魔法使い「……こっちも悪かった……」
院長「よろしい。では二人共、こっちへ来なさい」
少年魔法使い「い、嫌だ……」ガタガタ
侍少女「そ、それだけは……」ガタガタ
院長「しょうがないですね。では、私の方から行くとしましょう」シュン
助手「今度は消えた!?」
悪ガキ「あちゃー、あれ痛いんだよなー」
魔族少女「回復魔法の準備しておこう……」ポワァ
侍少女「に、逃げるでござるよ!!」ダッ
少年魔法使い「なにもしないでやられてたまるか!!」ダッ
院長「ダメです。逃がしません」シュタッ
院長「二人共オシオキですよ☆」ゴゴゴゴゴゴ!!!
侍少女「い、いつの間に背後に……」ガタガタ
少年魔法使い「先生、勘弁してください……それは僕が得た知識に多大なダメージを……」ガタガタ
侍少女「も、もう喧嘩なんて金輪際しないでござる!! だから、だから許してください!!」ドゲザッ
院長「ダメです☆」ニッコリ
ゴチィィィィン! ゴチィィィィン!
助手「げ、げんこつって……」
少年魔法使い(チーン)プスプス
侍少女(チーン)プスプス
院長「さて、みなさん。なにをするかはわかりませんが、危ないことはしないように! わかりましたね?」
悪ガキ「わ、わかったぜ……」ガタガタガタ
魔族少女「絶対にしません……」ガタガタガタ
悪ガキ「……じゃあ、とりあえずお前あいつ連れて行け。俺は少年魔法使いを連れて行く」
魔族少女「わかったよ……えっと立てる?」
侍少女「う、うーん……昼なのに星が見えるでござるよー」エヘヘ
悪ガキ「そ、それじゃあ行ってきます……」
魔族少女「行ってきます……」
院長「暗くなる前に帰ってくるんですよー」
院長「……すみません、せっかく遠いところからわざわざ来ていただいたのに……」
助手「いえ、でも秘密基地なんて子供ぽくて可愛いじゃないですか」
院長「ここで孤児院を開いてからずっと作り続けているみたいでして、もう私にとっては秘密でもなんでもないんけどね。あの子達が必死になって隠そうとしているので私も知らない振りをしているんですよ」
助手「アハハ……」
院長「助手さんにはお見苦しいところをお見せしてしまいました」
助手(この人を敵に回しちゃダメだわ……)
院長「なにかお茶を出しましょう。ちょっと待っていてください」トテトテ
助手「あ、お構いなく」
助手(それにしても、あの動き……只者じゃない。魔法使いからはなにも聞かされていなかったけど……この人何者?)
リンゴーン!
院長「あら? 八百屋さんかしら、今日は随分と早いけど……」
助手「あ、私が出ますよ」
院長「そんな、お客様に……」
助手「いいですよ。それくらい」
院長「そうですか? すいません。お願いします」
リンゴーン!!
助手「はいはい、今行きますよっと」タッタッタ
助手「はーい」ガチャ
部下「これはこれはどうもはじめまして。私、商人貴族様の使いの者で部下と申します。どうぞお見知りおきを……」ペコリ
助手「は、はぁ……」
助手(商人貴族? それって確か……)
助手「それで、その商人貴族様の使いの人が孤児院になんの御用ですか? まさか寄付活動?」
部下「まぁ慈善事業の方も近いうちに着手する予定にはなっておりますが、今日は別件で……」
院長「助手さん? どうかしました? なにかありましたか?」トテトテ
助手「いや、なんか商人貴族様の使いって……」
院長「商人貴族様というと……」
部下「ああ、これは院長様。ごきげんよう」ニコッ
院長「手紙の件でしたら何度もお断りしたはずです。お引取りください」
助手「手紙?」
院長「はい。1ヶ月ほど前からここを買い取りたいと……ですが私も子供たちもここを気に入っていますし、離れる気は無いんです。ですからお断りさせていただいたんですが……」
部下「院長さん。そんなことを仰らないでください。商人貴族様はこの辺境である南の海岸部を開拓し、王国一のリゾート施設にするおつもりなんです。」
助手「そのリゾート施設開発とここがどう関係があるっていうの?」
部下「あなたには関係ないことではありませんか?」
院長「いえ、私もそれを聞こうと思っていました。話していただけますか?」
部下「……いいでしょう。この孤児院が建っているこの場所は実に見晴らしがいい。商人貴族様はこの岬をリゾート地の目玉にしようと考えているのです。ですからここの場所をお譲りして欲しいとわざわざお願いに来ているんですよ」
院長「…………」
部下「それに子供達のことを考えるなら王都に移った方がいいのでは?」
院長「どういう意味ですか?」
部下「王都の方が人目に触れる機会が増えるではありませんか!」
助手「それがなんだっていうんです?」
部下「よく考えてみてください! 王都には子供ができなくて後継に困っている貴族というのが随分といるんです。その貴族達の多くは別の貴族の息子を養子にしたり、孤児院から引き取ったりしています」
部下「王都に移ればそういったチャンスも自ずと転がってくるのです。それにもし貴族の誰かがここの子供たちを養子にしたいというような話が出れば院長様、あなたにも少なからず謝礼金が出ると思いますよ?」ニヤリ
院長「……あの子達を金で売れと言うんですか?」
部下「そんなことは断じて言っておりません。ただそういう可能性があると言ったまでです。ですが子供たちのことを本当に考えるのならば! そういったチャンスのある場所で生活した方がいいのではないかと言っているんです」
院長「………」
部下「どうせ大人になれば皆都会である王都に行きたいと言い出します。早いか遅いかの違いでしょう?こんな何もないところで暮らしてなんのメリットがあるというのですか?」
部下「あなたが首を縦に一度振れば我々もリゾートの開発に着手でき、子供たちも都会である王都でのびのびと生活をし、上手くいけば貴族の家へ養子に行ける。いいことだらけではないですか。なにを躊躇っているのです?」
院長「別にためらってなんて……」
部下「……わかりました。責任感の強い院長様は子供たちが本当にそれで幸せになれるかどうかをご心配なさっているのでしょう。でしたら『我々が子供たちを受け入れてもいい』」
院長「!?」
助手「ちょ、ちょっと!?」
部下「商人貴族様のコネクションを使えば子供たちの受け入れ先などたくさんあります。大貴族の養子ですか? 魔術学院の特別受講生? なんでしたら王族の仲間入りっていうのもどうです?」
部下「商人貴族様はそれだけのことをしてもいいと言っております。院長様、ご決断を」
院長「………」
部下「なにを迷っているのです? 見たところあなたはまだお若い。こんな辺鄙なところで時間を浪費したりせず、全てを投げ出して自由に生きればいいじゃないですか。我々がちゃんとバックアップしますから……」
部下「どうです? 悪い話ではないと思いますが?」
院長「……」
助手「……ちょっと話が出来過ぎなような気がするのだけど」
部下「部外者は黙っていただきたい! 私は今院長様とお話をしているのです!」
助手「くっ……」
部下「どうですか? ここを売っていただけませんか?」
院長「確かに魅力的なお話ですね、部下さん」
助手「院長さん!?」
部下「そうでしょう、そうでしょう!」
院長「ここを売り払って王都に行けば私がさせてあげられない生活を送らせてあげることができるかもしれない。学びたいことを最高の環境で学び、美味しい食事に遊び道具も思いのまま……」
部下「そう、子供達の輝かしい未来のため、私共に是非……」
院長「でもあの子達はそんなこと望まないでしょう」
部下「なんですって?」
院長「だって、もうすぐあの子達の秘密基地が完成するんですもの」フフッ
部下「秘密基地ぃ?」
院長「ええ、毎日必死になって作っているみたいですよ? 毎日泥だらけになって帰ってきて……それももうすぐ完成間近だそうです。あの子達は必死に隠しているみたいですけどね。それを私の都合で王都に移動なんてしちゃったらかわいそうじゃないですか」
部下「……つまり、どういうことですか?」ワナワナ
院長「ここが私たちの家です。それが答えですよ。部下さん」ニッコリ
部下「商人貴族様がここまでしてあげてもいいと言っているのにですか?」
院長「ええ。職業柄多くの人を見てきましたがあなた方はどうも信用できません」
部下「なにを根拠に……」
院長「目です」
部下「目?」
院長「あなたは嘘をついている目をしています。そんな目をしている人を私は信用しません」
部下「そんな直感のようなものを信じると?」
院長「ええ、あなたとは『くぐってきた修羅場の数が違うので』」ニコッ
部下「………どうなっても知りませんよ……!!」
院長「なにがあってもあの子達は私が守ります。お引取りください」
部下「………がっかりですよ、院長さん。私はあなたがもっと高貴で聡明なお方だと思っていました」
院長「ええ、育ちが悪くて申し訳ありません」ウフフ
部下「……近いうちにあなたは自分の過ちに気づくでしょう」
院長「その時は馬鹿な女と笑ってください」フフッ
部下「………失礼します。ここを手放す気ができたらいつでも声をかけてください。すぐに対応させていただきます」
院長「すみません、お茶もお出しできませんでして……」
部下「いえ、結構。私も次の仕事がありますので……」
部下「それではお二人共、ごきげんよう。またの機会に……」
ザッザッザッザ
院長「……これでよかったんですよね?」
助手「もちろんです。あんなのを信用しちゃダメ。相手は商人貴族でしょ? あいつらは平気で人を騙すような男なんだから」
院長「……そうですよね、それに……」
助手「どうかしました?」
院長「……いえ、あの子達のことを考えるならこれが最善の選択だと信じることにします」
助手「商人貴族が嫌がらせしてきたらすぐに私たちに言ってください。こっちには年がら年中暇な勇者にうちのちびっ子魔法使いがいます。それに王国騎士団の団長も」フフッ
院長「それは頼もしいですね」
助手「でしょう?」ニコッ
――王都――
黒服達「「「………」」」ザッザッ
「………むぅ!! むぅぅぅ!!」ジタバタジタバタ
メイド「……ご苦労様です。そちらで結構ですよ」
黒服達「「「………!!!」」」ヒュン
「ぐえ!!」ベシャ
メイド「あらあら、女性はもう少し優しく扱わなければダメですよ?」
黒服達「「「………」」」ザッザッザッザッ
メイド「……どうもあの人たちは苦手ですわ」ハァ
「むぅ!!むぅむぅ!!」ジタバタ
メイド「おっと、私としたことがすっかり忘れていましたわ!」シュルシュルシュル
「ぶはぁ!!」
メイド「ご機嫌いかがですか?」
村娘「ご機嫌もへったくれもないですよ! なんなんですか? ここどこです!?」
メイド「手荒な真似をしてしまい大変申し訳ありません。ですがここへ来るまでの道のりは機密情報ですのでお見せすることができないのです。ですのであのような移動方法をとらせていただきました」
村娘「移動方法って……ほぼ拉致じゃないですか!?」
メイド「拉致だなんてそんな………的確すぎて笑えますわ」ウフフ
村娘「馬鹿にしてんですかあなたは……」
メイド「こうやってちゃんと挨拶をするのは初めてですね。私、宮廷にて主である仮面王女様の世話係兼護衛役を勤めておりますメイドと申します。お見知りおきを」ペコリ
村娘「ああ、これはご親切にどうも……西の村出身の村娘です」ペコリ
メイド「英霊祭の時はどうも……あなたも付き添ってくれたそうで……ろくにお礼もできずに申し訳ありませんでした」
村娘「い、いえ……メイドさんも元気そうでなによりです」
メイド「あれくらいの傷、姫様に仕えておりましたら日常茶飯事ですわ。怪我を治すのに一週間もいりません」
村娘「え!? 全身骨折だったんですよね!?」
メイド「はい♪ 他にも内臓損傷など色々……ですが今となってはほらこの通り」クルン
村娘「げ、元気そうですね……」
メイド「メイドという生き物は主を守るためでしたらこれぐらい……へっちゃらですわ!」
村娘「と、とにかく良かったです、元気そうで……」
メイド「ありがとうございます。………とまぁ、挨拶はこれくらいにしておいて早速本題に入るとしましょうか」
村娘「えっと、本題、ですか?」
メイド「そう、本題です」チャキッ
村娘「え?」
ヒュンヒュンヒュン!!!
村娘「ひぃ!!」カツカツカツ!!
メイド「あなたが知ってしまったことは国にとって最重要機密です。仮面王女様の正体ともなればその情報は国を揺るがしかねません。そのことに関しては十分理解していますか?」
村娘「で、でも私は知りたくて知ったわけじゃ……向こうが勝手に……」
メイド「重要なのは『知ってしまった』という事実だけですわ?」
村娘「……その前に一つ確認しておきたいんですけど」ダラダラ
メイド「なんでしょう?」
村娘「……その手に持ったナイフでどうするおつもりですか?」
メイド「あら? どうして欲しいですか?」ニコッ
村娘「で、できれば穏便な方向で……」
メイド「ではあなたに聞きましょう……『我が主のためにその身を捧げてくれますか?』」ニコッ
村娘「はい?」
メイド「ああ、わかりやすくした方がいいですね。今のあなたが辿る道は二つに一つだということです」
村娘「そ、そうなんですか?」
メイド「はい。一つは口封じのために軽く行方不明になっていただく道」
村娘「その軽く行方不明っていうのは……?」
メイド「安心してください。『死体は絶対見つからない所で処分しますので』」フフッ
村娘「あの、それは単純にここで死ぬって解釈で……?」
メイド「死ぬというより殺される、でしょうか? 主に私に」ニコニコ
村娘「な、なにをそんなにこやかに!? い、嫌ですよ! 私まだ死にたくないです!」
メイド「でしたらもう一つ選択肢ということで」
村娘「はい! ぜひお願いします!!」ガバッ
メイド「契約、といいうことでよろしいですか?」
村娘「よろしいです! よろしくお願いします!!」ブンブン
メイド「よろしい。ではこれを……」スッ
村娘「ああ、ありがとうございます……えっと、この服はなんですか?」
メイド「これはあなたがこれから一生身につけていく服です。大切にしなさい」
村娘「……あの、ちょっと話が見えないんですけど……」
メイド「ではそんなあなたのために私から一つ、重要なことを教えておきましょう」
村娘「な、なんですか?」
メイド「覚えておきなさい。メイドの基本は『奉仕』の精神です」ニコッ
村娘「は、はぁ……」
メイド「それさえ心に刻み込んでいればそれだけであなたは……」
ガチャ
ブルー「ほら、やっぱりここにいたでしょマスター!!」
蒼騎士「メイド、お前はまだ経過観測ちゅうだろ? 無理しないで大人しく自分の部屋で休んでろよ。姫様もいないことだしよ」
メイド「あら、メイドは働かなくなった途端に死ぬ生き物なんですの。蒼騎士さんは私に死ねと言うんですか?」
村娘「あああああ!!! あんたは!!」
蒼騎士「ん? お前は……」
村娘「あの時の元山賊!!」
蒼騎士「英霊祭の時の村娘!」
ブルー「やめて! マスターと一昔前のラブコメみたいな出会い方しないで!!」
蒼騎士「なんだってお前がここに?」
村娘「それは仮面の姫様の正体を……」
メイド「あー! あー!! コホン。蒼騎士さん。ご紹介しますわ。今日からここでメイドとして働くことになりました、村娘さんです」
村娘「え? ちょ、ちょっとどういうことですか?」
蒼騎士「こいつが!? 雇うのか?」
メイド「はい。姫様のご判断ですので」
村娘「えっと、メイドさん? 私、そんな話全然聞いてないんですけど……? メイド? 私が?」
メイド「ええ、これから言おうとしたんですもの」ウフフ
村娘「困りますよ! いきなり!!」
メイド「あら、でも姫様からは王都で働きたいという旨を伺ってますが?」
村娘「それは……確かに、そうですけど……」モニョモニョ
メイド「だったらいいじゃありませんか! それにあなたは姫様に逆らうことはできないはずです」キラン
蒼騎士「村娘、お前もか……」ハァ
村娘「あんたも!?」
蒼騎士「ああ、俺たちも拉致された」ハハッ
村娘「じゃ、じゃああんたたちも姫様の正体が役所の……」
ヒュンヒュンヒュン!!!
メイド「村娘さん……あんまりお口が軽いようですと、軽く行方不明になっていただくしかなくなりますけど?」
村娘「モウシワケアリマセンデシタ……」ガタガタガタ
メイド「というわけで改めて今日からここで働いてもらいます村娘さんです」
村娘「ああ、もう働くことは決定なんだ……」ガタガタ
メイド「姫様のおっしゃることは絶対なので☆」
村娘「なんでこんなことに……」
蒼騎士「諦めろ。あいつらの言うことにいちいち逆らってたら体がもたねぇぞ」
村娘「………なんで私、こんなところにいるんですかぁ……?なんでこんなことになってるんですかぁ……?」ヨヨヨヨヨ
蒼騎士「俺に聞くなよ……」
ブルー「とりあえずあんたはマスターから半径1メートルは離れること! 絶対だかんね!!」
村娘「……私っていつも大変なことに巻き込まれちゃうんだろう……」ズーン
メイド「あなたが余計なことするからじゃありませんの?」
村娘「うぅぅ………」
蒼騎士「天性の巻き込まれ体質だな。そのうち王都を災厄から守るために一人で魔王軍の大群と戦ったりするんじゃね?」
ブルー「ああ、わかる。それで唯一生き残った村娘が50年後、孫たちにそのことを語るんだね!」
蒼騎士「『おばあちゃん、勇者様達の話、してー』とかか?」
メイド「『そうねぇ、あれは私がまだ何も知らない村娘だった時のことよ……』って感じですの?」
ブルー「そうそう、そんな感じだよメイドさん!」
村娘「やめて! 私のこれからを不吉な感じにしないでぇぇぇ!!!」
――秘密基地――
悪ガキ「先生には秘密だって言っただろ? 侍少女」
侍少女「面目無いでござるよ…」
悪ガキ「先生を思いっきり驚かせたいからここまで頑張ったんじゃないか」
少年魔法使い「まぁ、驚かすもなにも、先生のことだからもう知ってるだろうけどな」
悪ガキ「……マジ?」
少年魔法使い「だって先生だぞ?」
悪ガキ「すごい説得力だ……」
魔族少女「とにかく、もうちょっとで完成じゃない。早く完成させて、先生に見せようよ!」
悪ガキ「そうだな、もうひと踏ん張りだし、さっさとやっちゃうか!!」
侍少女「おー! でござる!」
少年魔法使い「そんなことより僕は勉強がしたいんだがな……」
悪ガキ「なんでそんなこと今言うかな!?」
魔族少女「まぁまぁ、少年魔法使い君も一緒にやろう?」
少年魔法使い「……しょうがないな、どのみち馬鹿共に自由にやらせたらせっかくの苦労が数秒で崩れるのが目に見えてるからな」フッ
悪ガキ「でかいたんこぶしたまま言ったってカッコ悪いだけだぞ」
少年魔法使い「う、うるさいな! 元はといえばそこの『ござる女』のせいだろ!」
侍少女「まだ言うでござるか!!」
魔族少女「もう! すぐにこれなんだから!!」
ガサゴソ ザッザッザッ
悪ガキ「……それにしても伝説の勇者が来るって言うからどんな奴かと思ったけど、期待外れだったなー」セッセッ
侍少女「まったくもってその通りでござる」
少年魔法使い「あれは大人の皮を被った子供だな」ハァ
魔族少女「そんなこと言っちゃダメだよ。わざわざ遠い所から来てくれたんだし……」
悪ガキ「憧れてたんだけどなー、勇者。まさかあんなダメな大人だったなんて……」ズーン
侍少女「あれこそが人間のクズと言うやつでござろう」
悪ガキ「もう、勇者目指すのやめようかな……」ズズーン
少年魔法使い「こうして子供の夢は儚く消えていくんだな」
魔族少女「だ、ダメだよ! そんな簡単に諦めちゃ!」
少年魔法使い「言ってやるな、あれを見たら誰だってそう思う」
魔族少女「で、でも! 悪ガキ君言ってたじゃない! 勇者は悪を打ち倒すために戦う正義のヒーローだって! だから俺は勇者になるんだって! あれは嘘だったの?」
悪ガキ「だけどよ……」
侍少女「肝心の勇者が『あれ』でござるよ?」
魔族少女「そんなの私たちを油断させるための仮の姿なんだよ! あれは私たちを試してるんだよ。だからわざとあんな態度をとってたんだって! う、うん私はそう思うな!」
悪ガキ「そうなのか?」
魔族少女「そうに決まってるよ! だって、勇者様なんだよ? 皆が憧れるすごい人なんだよ?」
魔族少女「みんなのために悪い魔王様を倒して魔族から人間を守った英雄じゃない!」
魔族少女「強くてかっこよくて、誰からにも愛されるヒーローで………世界平和のために頑張ってて……それでそれで……」ポロッ
魔族少女「そんな勇者様のことが……みんな大好きで……」グスッ
魔族少女「お父さんとお母さんも……」グスッ
悪ガキ「お、おい!?」
侍少女「大丈夫でござるか!?」
少年魔法使い「あー、二人が魔族少女を泣かしたー」
魔族少女「……ごめんね、ちょっと思い出しちゃって……」
悪ガキ「い、いや俺の方こそごめん……」
侍少女「無神経だったでござるな、この話は……」
少年魔法使い「まったく、お前たち少しは魔族少女のことも考えろよ。勇者になるってことはそういうことなんだぞ?」
悪ガキ「お、俺はそんなことしねぇって! 俺が倒すのは本当に悪いやつだけだ! な!」
侍少女「そうでござるよ! 拙者の剣は悪を滅するためにあるのでござる!」シャキン
少年魔法使い「まだ全然使いこなせてないくせに」
侍少女「う、うるさいでござる……」
魔族少女「そんな……魔族の私が悪いんだから、私のことは気にしないで……」グスッ
悪ガキ「お前がどうして悪いんだよ! お前、すげえいい奴じゃないか!」
魔族少女「でもでも、私たち魔族が暴れたからみんなのお父さんやお母さんが……」
悪ガキ「……魔族少女、それ以上言ったら流石の俺も怒るぞ?」
魔族少女「え?」
悪ガキ「父ちゃんや母ちゃんがいないのはお前も同じだろ? 俺たちとなんの違いがあるってんだよ? 種族が違うから悪いのか? そんなの、絶対間違ってる!!」
魔族少女「悪ガキ君……」
侍少女「魔族少女はとても優しい子でござる。それを悪だという者は拙者が断じて許さないでござる!!」
悪ガキ「約束する! 俺は人間だけじゃなくて、魔族にとっての勇者にもなるって!」
少年魔法使い「お前は平気で無茶苦茶言うな……」ハァ
魔族少女「……本当?」
悪ガキ「ああ、本当だ。俺は正義のために戦う勇者になるんだ! お前に二度とそんなこと言わせない!」
侍少女「拙者もこの剣を正義のために使うでござるよ!」
悪ガキ「だから泣くな、魔族少女。お前が笑って暮らせる世界を、俺が作るから!」
侍少女「拙者も! もちろん協力するでござる!!」
悪ガキ「お前も手伝うんだからな、少年魔法使い!」
少年魔法使い「秘密基地を作るのとは訳が違うぞ? 悪ガキ」
悪ガキ「大丈夫、俺たち4人ならなんだってできるさ!」
少年魔法使い「……お前はいつもとんでもない無茶を言う。だが、そういうのは嫌いじゃない……しょうがないから付き合ってやるよ」
悪ガキ「ありがとな!」ニカッ
侍少女「素直じゃないでござるな……」ヤレヤレ
少年魔法使い「黙れ、脳筋女」
侍少女「なっ!」
悪ガキ「だからもう泣くなよ! 魔族少女! 家族にはなれないかもしれないけど俺たちはずっと一緒だ!」
魔族少女「うん、ありがとう。3人とも!」
悪ガキ「おう! あんな勇者なんてすぐ追い越して俺がみんな笑って暮らせる世界にしてやるよ!」
魔族少女「うん! 信じてるからね!」
少年魔法使い「……む?」
侍少女「どうしたでござる?」
少年魔法使い「なにか近くにいる……」
悪ガキ「敵襲か!?」
少年魔法使い「敵って誰だよ……」
侍少女「森から狼でも出てきたのでござろうか……」
魔族少女「狼!?」
悪ガキ「よっしゃ、俺がぶっ倒して今日は狼鍋にしてやる!!」
少年魔法使い「なにを言ってるんだお前は……来るぞ」
魔族少女「……」フルフル
ガサガサッ
悪ガキ「来い! 狼!!」チャキッ
ガサガサ!! バッ!!
幼女「……んう?」マヨッタ……
ズコッ
悪ガキ「なんだなんだ?」イテテ
幼女「むい!」ヨッ
悪ガキ「お前は……」
侍少女「確か……勇者殿と一緒にいた女の子でござる?」
魔族少女「わぁ、綺麗な髪……」
少年魔法使い「迷子か?」
幼女「…………」キョロキョロ
悪ガキ「な、なんだよ? ここは俺たちの秘密基地だぞ! 関係ない奴は入ってくんなよ!!」
魔族少女「こら! こんな小さい子にそんなこと言ったらダメだよ?」
悪ガキ「でもさ……」
魔族少女「ごめんね、確か……幼女ちゃんだったよね?」
幼女「…………」コクコク
魔族少女「私は魔族少女。よろしくね?」
幼女「よろし……く!」グッ
魔族少女「……かわいい……」
悪ガキ「お、おい……?」
侍少女「拙者は侍少女と申す。幼女殿はなぜここに?」
幼女「声が……した!」
少年魔法使い「声?」
悪ガキ「誰のだよ?」
幼女「知らない!」ドヤッ
悪ガキ「…………なぁ、こいつやべぇんじゃねーの?」ヒソッ
魔族少女「そんなこと言わないの!」スパーン
悪ガキ「痛ぇ!」
魔族少女「幼女ちゃん、その声ってどこから聞こえてきたのかな?」
幼女「こっち!」バコッ
悪ガキ「あー!! せっかく苦労してみんなで作った秘密基地が!!」
魔族少女「壁の板を外しただけでしょ!」
悪ガキ「だけって……そういう問題か!?」
幼女「♪♪♪」バコッ
バキバキ!!
悪ガキ「や、やめろよ!!」
魔族少女「また作ればいいじゃない!」
悪ガキ「なんでお前はこいつの肩を持つんだ!?」
魔族少女「かわいいは正義なの!」
幼女「……!!」ダッ
悪ガキ「お、おい!!」
魔族少女「追いかけるよ!」
侍少女「!! 待つでござるよ! この先は確か森でござる」
少年魔法使い「ああ、獣が出て危ないから入るなって先生が言ってたな」
悪ガキ「だったら止めねぇと! おい! そっから先は危ないから帰ってこい!」
幼女「…………」ピタッ
少年魔法使い「その森には凶暴な獣が出る。大事になる前にこっちへ来るんだ」
幼女「だいじょう……ぶ!」
悪ガキ「なんでだよ!」
幼女「なんとな……く?」
悪ガキ「理由になってねぇ!! いいから帰ってこいよ! 俺たちが先生に怒られるだろ!」
幼女「…………」スタスタスタ
侍少女「どうやら素直に言うことを聞いてくれたようでござるな」
悪ガキ「まったく……」
幼女「……」ピタッ ジー
悪ガキ「な、なんだよ?」
幼女「……怖いの?」クスクス
悪ガキ「なっ!!」
幼女「行ってき……ます!!」ダッ
悪ガキ「…………馬鹿にしやがって……」プルプル
幼女「バイ…バイ!!」フリフリ
悪ガキ「上等だこらぁぁあ!!」ダッ
幼女「♪♪♪」
少年魔法使い「あーあ、あの馬鹿……」ハァ
侍少女「こうしてはおれないでござる! 我らも行くでござるよ!!」
魔族少女「ちょっと……待ってよー!!」
――南の孤児院付近 海岸――
地上げ屋「ここか……」
舎弟「やっと着きましたね、兄貴!」
地上げ屋「まさかここまで時間がかかるとは思わなかったがな」
舎弟「王都から馬車で3日ってどんだけ遠いんだって話ですよ! 俺、座りすぎでケツが……」
地上げ屋「俺もケツが割れるかと思ったぜ……」
舎弟「兄貴、ケツは元々割れてます!」
地上げ屋「そうだな!」
アッハッハッハッハ!!!
部下「馬鹿なこと言ってないでさっさと仕事に取りかかってください。商人貴族様は一刻も早くここの土地が欲しいと仰っておりますので」
地上げ屋「おっと先生、交渉の方はどうだった?」
部下「ダメでした。いくら金を積んでも首を縦に振ろうとしない。強情ですよ」
地上げ屋「そりゃよっぽど昨日酷い寝方したんでしょうな」
舎弟「なんでだい? 兄貴?」
地上げ屋「寝違えて首を曲げられない」
舎弟「なるほど~って馬鹿野郎!」バシッ
地上げ屋「お、今日もいいツッコミしてんじゃねぇか!」
舎弟「兄貴のボケも今日は一段とキレがありますね!」
地上げ屋「それほどでも……あるかな!」
舎弟「あるんかい!」バシッ
アッハッハッハッハ!!
部下「なんですか!? この茶番は!?」
地上げ屋「気にすんな。『これ』は俺たちの仕事を始める前の儀式みてぇなもんだ。そこら辺は目を瞑ってくれや」カカカ
舎弟「そうっすよ!」
部下「…………ターゲットはそこの岬の上の孤児院です」
地上げ屋「商人貴族の旦那はここら一帯の土地を買い占める予定だったのにこの孤児院だけが土地の売り渡しを拒否したってことで合ってるよな?」
部下「ええ、金額を出来うる限り釣り上げたにも関わらずです。ですが我々もこの件に関してはどんな手を使ってでも土地を譲ってもらわなければなりません」
部下「ここの土地を開拓して国一番のリゾート施設にしたいと商人貴族様は考えています。あそこの岬は美しい景色が臨める最高の場所です。我々は是が非でもあの場所をこのリゾートの目玉にしたい」
地上げ屋「で、金で解決できねぇから俺たちの出番ということかい?」
部下「その通りですよ。あなた方は国一番の地上げ屋と評判です。我々も何度もお世話になりました。今回もあなた方のお力を是非お貸ししていただきたい」
舎弟「任せてくださいよ! ね、兄貴!!」
地上げ屋「いつも通り強引な方法になっちまいますけど構いませんよねぇ? 先生」
部下「ええ。できれば穏便に済ませたかったのですが、強情なあちらが悪いのですから」フフッ
地上げ屋「任してくださいよ。なに、ちょっと痛めつけてやれば素直に言う通りにするってもんだろう」ヘッヘッヘ
舎弟「流石兄貴、今日も輝いてるっすね!」
地上げ屋「おう! もし輝かなくなったらこれで磨いてくれや」スッ
舎弟「兄貴、これ紙やすりじゃないっすかー!」
アッハッハッハッハ
部下「早く仕事に取りかかってもらっていいですか!?」
地上げ屋「まぁ、そんな焦るなって! こういうのは準備が肝心なんだよ」
舎弟「……兄貴。あっちの方、随分と騒がしくないですか?」キィィィン
地上げ屋「おおう? なんだあちらさんもうちらに対抗して兵隊でも呼んできたってのかい? おもしれぇじゃねぇか、俺様が裏社会の厳しさを教えてやるか!」ポキポキ
舎弟「兄貴、かっけえっす!!」
地上げ屋「それほどでもねえよ」ニタニタ
部下(心配になってきた……)
地上げ屋「安心しな、先生。俺たちに任せておけば大丈夫だ。先生はドンッと泥舟に乗ったつもりでどっしり構えててくれよ」
舎弟「泥舟じゃダメだろ!」バシッ
地上げ屋「……」ドヤッ
舎弟「……」ドヤッ
部下(……私にどうしろと……?)
―――――
勇者「雷砲!」ガウン
剣士「甘い!」ヒラッ
剣士「はぁぁぁぁあああ!!」ザンッ
勇者「おっと!!」ヒラッ
剣士「魔法は使えなくなったのではなかったのか! 勇者!!」
勇者「あの事件が終わってからちょっとな!!」ダッ
剣士(断片的に僧侶のことを思い出した影響か……だが!!)
剣士「あの頃のお前に比べて随分とお粗末だな!」
ガキィィィィン!!
勇者「うるせぇ、てめぇを倒すには十分過ぎるくらいだろ!!」
剣士「ならばやってみるがいい! 勇者!!」
勇者「さっさとくたばれよこの解説役!」
剣士「お前はいつだってそうだ! 勇者の矜持はどこに置いてきた!」ザッ
勇者「そんなの! 燃えるゴミの日に捨てたわ!! 雷魔法!!」バリバリ
剣士「お前は勇者として、皆の手本にならなければならないんだ! しばらくは仕方ないとも思ったが今日という今日は許せん!!」バシュン
勇者「俺はいつだって自由でいなきゃいけないんだよ! 国を救ったっていうのになんでその後も働かなきゃいけねぇんだ!!」ガキィィン
剣士「いい加減大人になれ! 勇者! お前は幼女の保護者だろう!? 今のお前を幼女が見て誇らしいと思うのか!?」
勇者「…………」ザッ
剣士「どうした! なんとか言ったらどうだ!」
勇者「幼女のことは関係ねぇだろぉぉがぁぁぁぁあああ!!!」
剣士「!!!」ビリビリ
勇者「極大雷魔法!!」バチバチバチ
剣士「来るか!?」
勇者「これで終わりだぜ、剣士。今さら泣いて謝ったって許してやらねぇからな!!」
剣士「冗談言うな。貴様に頭を下げるくらいなら今ここで舌を噛み切る!」
勇者「そうかよ……それじゃあ! くらいやがれぇぇぇぇ!!」
剣士「それに、あんまり私をなめるなよ? 勇者」ニヤッ
剣士「はぁぁぁぁあああ!!!」
ザンッ
勇者「なんだと!?」
剣士「まぁ、こんなものか」フフッ
勇者「雷を……斬りやがった……」
剣士「私が対策をしていないとでも思ったか?」
勇者「おもしれぇ……今日はとことんやろうじゃねぇか……剣士!!」
剣士「望むところ!!」
地上げ屋「おうおうおう!! 兄ちゃん達! お前ら一体誰の土地で喧嘩してると思ってんだ!?」ドーン
舎弟「そうっすよ!!」ドーン
勇者「なんだ……?お前ら?」
地上げ屋「ここら一帯は俺らの依頼主、商人貴族様の土地だ! 勝手になに暴れてんだコラァ!!」
剣士「すまないが後にしてくれないか……今取り込み中だ」
地上げ屋「取り込み中もクソもあるか!! ……お前たちさてはあそこの人間だな? やられる前にやろうって魂胆か!!」
勇者「なんだかよくわかんねぇけど後にしろ」
舎弟「兄貴、こいつら兄貴の怖さ何にもわかってねぇみたいですよ!!」
地上げ屋「そうみたいだな……おうお前ら!! 俺を誰だと思ってやがる!!」ババン
勇者「……」
剣士「……」
地上げ屋「俺が通れば泣く子も笑う! 常に笑顔あふれる地上げ屋稼業。狙った獲物は逃がさねぇ、どんな手を使ってでも必ずご依頼果たしてみせます! 王都に轟くこの悪名! 知らざあ言って聞かせやしょう! 誰が呼んだか『笑う赤鬼………ってぐはぁぁああああああああ!!」ヒューン
舎弟「兄貴ぃぃぃぃぃぃ!!!」
勇者「後にしろって言ってんだろうが!!」
剣士「勇者、一般人だぞ!」
勇者「どう見ても裏社会の人だろ、あれは!」
剣士「人を見た目で判断するな!」
勇者「お前は昔っから固いんだよ!!」
地上げ屋「……あいつら……なんなんだ……」ガクッ
舎弟「兄貴ぃぃぃぃ!!!」
剣士「だ、大丈夫か……?」
ガウン!!
剣士「なっ!!」シュゥゥゥゥ
勇者「おいおい、まだ戦いは終わってないぜ?」バリバリバリ
剣士「だが、一般人が……」
勇者「だから、一般人じゃねぇだろ……それに手加減はしたから大丈夫だろ」バリバリバリ
舎弟「し、心臓が止まっている!? 兄貴、兄貴ぃぃぃぃ!!」
剣士「おい!? 勇者、手加減はどうした! 手加減は!!」
勇者「あれ、おかしいな? すまん! まだちょっとこの力不安定みたいで……」アハハ
剣士「お前……」
勇者「電気ショックなら今すぐにでもできますよ?」ビリビリビリ
剣士「そういう問題ではない!!」
舎弟「兄貴ぃぃぃぃ!!!」
地上げ屋「……あいつらに伝えてくれ……俺は地上げ屋として立派に戦った……てな……」ヘヘッ
舎弟「兄貴!」
勇者「やっぱり生きてんじゃねぇか!!」バリバリバリ
舎弟&地上げ屋「ギャー!!」ビリビリ
剣士「いい加減にしろ!!」
地上げ屋「てめぇ……今日のところはこれぐらいで勘弁しといてやる……覚えてやがれ!!」ダッ
舎弟「あ、兄貴! 待ってくれよう!!」ダッ
剣士「待ちなさい! 君たち!!」
勇者「なんだったんだ? あいつら?」
剣士(地上げ屋とはどういうことだ……?)
―――――
悪ガキ「あわわわわ……」
少年魔法使い「……!!」グッ
侍少女「ござるるるるる………」
魔族少女(チーン)
幼女「むぅー……」ジー
熊「グォォォォォオオオオオ!!!」
悪ガキ「熊だぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
侍少女「熊だよ! 食べられちゃうよぉぉぉ!!」アタフタ
少年魔法使い「これは流石にピンチだな……」
悪ガキ「おい、魔族少女しっかりしろ!!」
魔族少女「ああ……私死ぬんだ……」
悪ガキ「大変だ……なんとかしねぇと!」
幼女「…………」スタスタ
熊「グオ?」
悪ガキ「だからなんであいつはさっきからあんな感じなんだ!?」
侍少女「幼女殿! 危ないでござるよ!!」
幼女「むい!」ヨッ
熊「グオ!」ヨッ
幼女「♪♪♪」スタスタスタ
熊「グォォォオオオ♪」バイバイ
ズコッ!
悪ガキ「なんでだよ!!」ガンッ
侍少女「本当に幼女殿は何者でござるか……?」
魔族少女「なにか通じるものがあるのかな?」
少年魔法使い「俺には理解できないな」
悪ガキ「と、とにかく追いかけるぞ!」ダッ
熊「グォォォ……」ズーン
魔族少女「ひっ!!」
侍少女「大丈夫でござる。先ほどのやり取りを見ていたでござろう? 見かけによらず優しい熊なんでござるよ」アッハッハ
魔族少女「そうなのかな……?」ビクビク
悪ガキ「お前は心配性だなー、大丈夫だって!」
熊「グォォォオオオ!!!」
少年魔法使い「悪ガキ、どうやら大丈夫じゃなみたいだ」
悪ガキ「へ?」
熊「グォォォオオオ!!!」ブンッ
悪ガキ「うぉぉ!?」
バキィィ!!
魔族少女「きゃぁぁぁああ!!!」
少年魔法使い「逃げろ!!」
悪ガキ「なんで俺らはダメなんだよぉぉおお!!!」
侍少女「こっちが聞きたいでござるぅぅぅ!!!」
少年魔法使い「ちっ……氷結魔法!!」ピキーン
熊「グォ!?」ツルーン
悪ガキ「ナイス!少年魔法使い!!」
少年魔法使い「そんなことはいいからさっさと逃げるぞ!!」
魔族少女「逃げるってどっちに!?」
悪ガキ「とりあえずあの馬鹿が行った方向で!」
侍少女「こっちでござるな!」
ダダダダダ
―――――
「……様…………様…」
幼女「こっち……だよね?」
「……どうか……を……」
幼女「むい?」ピタッ
「……どうか我らを……」
幼女「湖?」
幼女「……ここから……聞こえてくる……」
「お助けください……」
幼女「君、湖の中に住んでる……の?」パシャパシャ
「……」
幼女「住んでない…の?」
「……」
幼女「むぅ……」ムムムム
ズドドドドド!!!
悪ガキ「うおおおおお!!」ダダダダダッ
侍少女「ぬぉぉぉぉぉ!!」タッタッタ
少年魔法使い「………」ゼェゼェゼェ
魔族少女「ひぃぃぃぃ!!!」タタタタタタ
熊「グォォォォォオオオオオ!!!」ズドドドドド
幼女「むい!?」
悪ガキ「いたぞ! 幼女だ!」
侍少女「見つけたのはいいけどこれからどうするんでござる?」
悪ガキ「…………えーっと」アハハ
少年魔法使い「まさか、なにも考えてないのか?」
悪ガキ「しょ、しょうがねぇだろ! 非常事態だったんだから!!」
少年魔法使い「この馬鹿!!」
魔族少女「見て! あそこ湖じゃない!?」
悪ガキ「突っ込むか!?」
少年魔法使い「熊は泳げるんだぞ!?」
侍少女「マジで!?」
少年魔法使い「お前、もうキャラが定まってないじゃないか!!」
魔族少女「今、それどころじゃないでしょ!?」
悪ガキ「…………お前たち、幼女を連れて遠くへ逃げろ」ザッ
魔族少女「悪ガキ君!?」
侍少女「どうするつもりでござる!?」
悪ガキ「俺がこいつを倒す!!」
少年魔法使い「無茶だ!」
悪ガキ「それしかないだろ! このままじゃどのみち俺たち全滅だ」
魔族少女「で、でも!!」
悪ガキ「安心しろ、俺は勇者になる男だぜ? こんな熊の1匹や2匹、どうってことないって!!」ヘヘッ
幼女「……!!」ピクッ
悪ガキ「おい! 熊! 俺が相手だ!!」
熊「グォ!?」ピタッ
悪ガキ「俺は勇者になる男! 今の勇者なんかよりずっとすごい勇者になる男だ!! そのためにはこんなところで死ぬわけにはいかないんだよ!!」
幼女「……」ピクピク
悪ガキ「俺が本物の勇者ってところをお前に見せてやる!!」チャキッ
魔族少女「悪ガキ君!!」
少年魔法使い「悪ガキ!」
侍少女「悪ガキ殿!!」
悪ガキ「今のうちに逃げるんだ!!」
熊「グォォォォォオオオオオ!!」
悪ガキ「いくぜ!!」
幼女「むぅぅぅぅぅぅぅ!!!」スゥゥゥゥゥ
幼女「めめめめめめめ!!!」シュババババ
悪ガキ「え?」
熊「グォ!?」
ズドドドドド!! ドッカーン!!!
悪ガキ「どわぁぁぁぁ!!!」
少年魔法使い「なんだ!?」
幼女「むふー……」シュゥゥゥゥ
魔族少女「幼女ちゃんがやったの?」
侍少女「魔法、でござるか?」
少年魔法使い「……あんな魔法なんて見たことが無い」
熊「グゥ……」
ズダダダダダ
侍少女「熊が逃げたでござるよ!!」
少年魔法使い「助かったのか?」
悪ガキ「……痛てて…どうなったんだ!?」
魔族少女「悪ガキ君!!」
少年魔法使い「無事か!?」
悪ガキ「ああ、それでなにが起きたんだ?」
魔族少女「幼女ちゃんが助けてくれたみたい」
悪ガキ「幼女が?」
幼女「………」ズンズンズン
悪ガキ「お前が助けてくれたのか?」
幼女「むぅぅぅぅ!!」ズイッ
悪ガキ「な、なんだよ?」
幼女「ユーシャ、お前じゃ……絶対無理!!」
悪ガキ「なぁ!? なんでだよ! あんな人間のクズ、すぐに超えてやるっつーの!!」
幼女「ユーシャを……馬鹿にしない…で!!」プンスカ
悪ガキ「俺よりあんなののどこがいいってんだよ!?」
幼女「お前の5億倍…凄い!!」ヘンッ
悪ガキ「なんだと!!」
魔族少女「まぁまぁ、それぐらいにして。私達は幼女ちゃんに助けてもらったんだよ? ちゃんとお礼しないと」
悪ガキ「なんで俺がこんなガキに……」
幼女「いいってこと……よ!」フンス
悪ガキ「野郎……!!」ピクピク
「やはりあなた様……らに!!」
幼女「……!!」ピクッ
悪ガキ「なんだなんだ?」
少年魔法使い「湖の方から声が……」
侍少女「見るでござる! 湖が!」
魔族少女「光ってる?」
幼女「君が呼んだ…の?」
「……」
悪ガキ「お、おい幼女?」
幼女「……」スタスタ
悪ガキ「なんでお前はそうやって人の話を聞かないの?」ハァ
幼女「……お前、うるさい」プイッ
悪ガキ「なぁ、いい加減殴っていいか?」
侍少女「堪えるでござるよ、相手はまだ幼子でござる」
悪ガキ「でもさ……!!」
魔族少女「本当に危ないかもしれないよ? 幼女ちゃん」
幼女「大丈夫……なのです!」ビシッ
幼女「困ってる人は……助ける!! ……それがユーシャのお仕事……ですから!!」
幼女「行かなければ……ならないのです!!」
ダダダダッ ピョン!! ボチャン!!
悪ガキ「おい!?……くそ! 俺たちも行くぞ!」
侍少女「ええ!?」
悪ガキ「このままあいつを放っておけないだろ! それに……」
魔族少女「それに?」
悪ガキ「勇者の仕事と聞いて黙ってられるか!」
少年魔法使い「……わかった。僕も行こう。この現象に興味がある」
侍少女「な、なにがあるのかわからないでござるよ!?」
悪ガキ「じゃあ、お前はあいつを放っておけって言うのか?」
侍少女「そんなことはないでござるが……」
侍少女(うう、水が怖くて泳げないなんて言えない……)
少年魔法使い「怖いのならそこで大人しく待ってろ」
侍少女「べ、別に怖くなんてないでござる!」
少年魔法使い「どうだか?」
侍少女「くっ、魔族少女はどうするでござる?」チラッ
魔族少女「私も行くよ。幼女ちゃんを放っておけないもん」
侍少女「い、いやそこはお主が『怖いよ~』的なことを言うタイミングでは……」
魔族少女「怖いよ? 怖いけど幼女ちゃんが心配だもん」
侍少女「そ、それはそうでござるがそう簡単に認められてしまうと拙者の立場が……」
少年魔法使い「そんなもん始めからないだろ」
侍少女「うぐ……」
魔族少女「私、先に行くね。幼女ちゃんが心配だから!」
ボチャン!
侍少女「ちょ、ちょっと!?」ガビーン
悪ガキ「あー! 抜け駆けずるいぞ!」
ボチャン!
侍少女「み、みんな、待つでござるよ……」
少年魔法使い「まったく……」
ボチャン!
侍少女「お主まで!?」
シーン……
侍少女「み、みんなぁ……本当に行っちゃったんでござるか……?」ビクビク
シーン……
侍少女「水……怖い……でもここにいるのも……」
侍少女「……も、もう仕方ないでござるな! 3人がどうしてもというから拙者も行くでござるよ!!……いや、別に水なんて怖くなんかないんでござるよ?」ビクビク
シーン……
侍少女「………本当に大丈夫でござるか~……」ダラダラ
シーン……
侍少女「うわぁぁぁん! 1人にしないで欲しいでござるよぉぉぉぉ!!!」ダッ
ボチャン!!
――王都 商人貴族の屋敷――
部下『報告は以上です。依然契約には至っておりません。ご期待に沿えず申し訳ありません』ザッ
商人貴族「……あの場所に勇者と剣士が……随分と厄介なことになりましたね」
部下『ええ、依頼した地上げ屋とひと悶着あったようでして……』
商人貴族「それで二人とやりあったと。ふむ……」
部下『どうなさいましたか?』
商人貴族「……彼らはなぜあの場所に?」
部下『どうやら慰問のようでして。あの2人に加えて王立研究所の助手の姿も確認しています』
商人貴族「では魔法使いもこの件に関与していると……聡明な彼女のことだ。私たちの目的に勘付いているかもしれませんね」
部下『……どうなさいますか?』
商人貴族「現段階であなたが彼らに干渉してもメリットはないでしょう、時期が来るまで放っておきなさい、地上げ屋の彼らにもそう伝えておくように、物事には準備が必要です。それに、切り札は最後までとっておきたい」
部下『切り札……ですか?』
商人貴族「伊達に彼らも国一番の地上げ屋を名乗っているわけではないというわけですよ」フフッ
部下(あの芸人崩れのような二人組が……?)
部下『……かしこまりました』
商人貴族「……それと、商談の際に手紙をやり取りした女性……院長といいましたか、彼女とはコンタクトはとれましたか?」
部下『はい、直接孤児院に伺った際に』
商人貴族「あなたの目から見て、彼女はどうでした?」
部下『私の主観でいいのですか?』
商人貴族「ええ、商談とは所詮、人と人とのコミュニケーションの延長線上です。事前に相手を知っておかなければいけませんからね」
部下『……ひとつだけ私が感じたことが……』
商人貴族「なんでしょう」
部下『彼女は金では動かない、ということでしょうか』
商人貴族「……一番厄介なパターンですね。損得勘定ではなく、自らの信念が行動理念。商人にとっては天敵です」フフッ
部下『それに奇妙なことが一つ……』
商人貴族「奇妙なこと?」
部下『彼女に関するデータがまったく無いんですよ』
商人貴族「データが無い?」
部下『はい。八方手を尽くして調べさせましたが何もわからず……周辺の人間に聞いても1年程前にここに移り住んできたとしか………彼女が何者なのか、ここに来るまでの間なにをしていたのかすらわからないんです。まるで何者かによって情報を抹消されているかのように』
商人貴族「そうですか……困りましたね」
部下『資料によると狩場はあの森です。妖精を独占するためにはあの土地が必要になります』
商人貴族「そのためにはやっぱり、邪魔なんですよねぇ…………あれは」
商人貴族「妖精の狩場はできる限り内密に行いたい。そのためにリゾートを建てるという名目で周辺の土地を買い占めているのです。そしてあの場所にはそれだけの価値がある」
部下『ええ、なんとしてでも手に入れたいところです』
商人貴族「……分かりました。強硬手段にでるとしましょう。私も転移魔法でそちらに向かいます」
部下『なにも商人貴族様、自ら……』
商人貴族「チャンスというものは自ら掴み取るものですよ?」
部下『ですが……』
商人貴族「それと早急に傭兵を雇っておいてください……そうですね、1000人程」
部下『1000人!?』
商人貴族「ああ、別に孤児院の前でやりあおうってことではないですよ? 我々の本気を彼女に見せつけたいのです。まぁ、その結果争うことになったとしてもやぶさかでないですが」フフッ
部下『それはつまり、武力で脅すと? 勇者相手にそれは……』
商人貴族「だからそのための1000人です。たとえ勇者と剣士といえど、たった二人で相手ができるとは思えない」
商人貴族「あとは彼女の弱みを見つけ、的確に明確に脅すだけ……違いますか?」
部下『………』
商人貴族「そうですね、孤児院の子供達を人質にとるというのもいい。なんなら彼女の目の前で孤児院ごと破壊するのもいいですね」
部下『そこまでしなくても……』
商人貴族「そこまでしなければならないほどあそこには……妖精には価値があるのです!………わかりますね?」
部下『……早急に準備します』
商人貴族「では早急に……よろしくお願いしますよ?」
ブツッ
妖精「なぁ、おっさん。いい加減あたいを解放してくれよ~。どうせおっさんの計画なんて失敗するんだしさ~」ガチャガチャ
商人貴族「……いい加減、狩場の行き方を教えてくれませんか? 大体の場所はわかっていますが最後のピースが埋まらないのです」
妖精「教えるわけないだろ!」
商人貴族「……わかりました。ではあなたにも付き合っていただくとしましょう」スチャッ
妖精「お、おい! 急に持ち上げるな!」
商人貴族「あなたはその籠の中で自分の故郷が焼かれる様をじっくりと見ればいい」
妖精「お前! 何をする気だ!」
商人貴族「あなたがいつまでも強情なら、狩場があるであろうあの森を根こそぎ焼き払います」
妖精「へへん! そんなことしたって無駄だぞ! もうすぐ龍王様がお前の悪事を裁くんだからな!」
商人貴族「龍王……?」
妖精「そうだ!長が教えてくれたんだ! 龍王様が来ればお前なんか……!!」
商人貴族「どうだと言うんです?」
妖精「お前なんかイチコロだってことだよ!」
商人貴族「……あいにく私はその手のおとぎ話は信じないんです」スクッ
妖精「出せー! あたいをここから出せー!!!」
商人貴族「それでは行くとしましょうか、ビジネスチャンスの場所に」ニヤリ
シュン!!
――???――
ヒューン!!
悪ガキ「どわぁぁぁあああああ!!!!」
魔族少女「きゃぁぁぁああああ!!!」
侍少女「やっぱりやめておけばよかったでござるぅぅぅぅ!!」
ベシャッ!!
悪ガキ「痛ててて……」
侍少女「おお……尻餅を……」イテテ
少年魔法使い「少しは落ち着いて行動できないのか?」スチャッ
悪ガキ「だってよ、湖に飛び込んだと思ったらいきなり空中だぜ?」
侍少女「これは予想してなかったでござる……」
少年魔法使い「……そういえば、幼女はどうした?」
侍少女「先に行ってるでござるか?」
魔族少女「悪ガキ君! 上!!」
悪ガキ「え?」
幼女「……」ヒューン
悪ガキ「ぐぇ!!」グニュ
幼女「むい!」スチャッ
魔族少女「ああ! 悪ガキ君!!」
幼女「むふー♪♪」ドヤッ
少年魔法使い「……完璧な着地だ」
侍少女「10点満点でござるな」
魔族少女「大丈夫!?」
幼女「伸身が描く……放物線は……栄光への……架け橋……だ!!」ビシッ
悪ガキ「てめぇ……殺す気か……」
幼女「避けないお前が……悪い!!」フンッ
悪ガキ「このっ……!!」
幼女「お前……鈍臭い」ププッ
悪ガキ「もう怒った! 幼女だろうが容赦しねぇ! 泣かす!!」
幼女「……上…等!!」キシャー
侍少女「すっかり嫌われてるでござるな……」ヒソッ
魔族少女「……さっき悪ガキ君、あの子の前で勇者様馬鹿にしちゃったから……ほらあの子、勇者様に懐いてるみたいだし……」ヒソッ
少年魔法使い「いい加減切り替えろ。この状況を分析する方が先だ」
侍少女「……それにしてもここは一体どこでござる?」
魔族少女「なんていうか……凄い場所だね……」
少年魔法使い「湖の中にこんな空間が?……いや、これは一種の転移魔法の応用か……?」
侍少女「ああ!!」
魔族少女「ど、どうしたの!?」
侍少女「……これってどうやって帰るのでござる!?」
少年魔法使い「そんなことはどうでもいいだろう……?」ハァ
侍少女「どうでもいいわけないでござる!」
少年魔法使い「帰る方法なんてここを調べていけば自ずと分かる。喚くな、ござる女」
侍少女「さっきからそうやって馬鹿にして……!!」
少年魔法使い「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い?」フフッ
魔族少女「もう! みんなして喧嘩してる場合じゃないでしょ!?」
「……そうか……もしやと思ったが違ったか……」
幼女「……誰!?」
悪ガキ「どこに隠れてやがる!?」
「人間の子供と魔族の子供……? いや、一人はどちらでもない。とても異質だ……」
魔族少女「どこにいるの?」
少年魔法使い「魔力を感じる、どこかにいるはずだ」
侍少女「もしかして……オバケ!?」
「……そうか、君が龍王様の力を……」
幼女「リューオー?」
悪ガキ「おい、隠れてないで出てきやがれ! 俺が相手をしてやる!!」チャキッ
「ああ……これは済まなかったね、こっちだ、こっち」
悪ガキ「こっちってどっちだよ?」
魔族少女「誰もいないよ?」
侍少女「怪異でござる! ここは魑魅魍魎が蠢く巣窟……」
少年魔法使い「黙れ、アホ」
「もうちょっと目線を下げてくれるか?」
悪ガキ「目線を……」
「やっほ♪」ヨッ
悪ガキ「うわぁ!?」
幼女「小ちゃ……い!!」
少年魔法使い「これは……妖精?」
魔族少女「妖精?」
侍少女「オバケじゃないんでござる!?」
少年魔法使い「まさか、妖精は姿を消したはず……」
幼女「……君が呼んだ……の?」
「そうとも。まぁ、呼んでないのも来ちゃったみたいじゃが……」
悪ガキ「……もしかして俺たちのことか?」
幼女「お前……帰れ」プイッ
悪ガキ「なんで俺だけなんだよ!」
少年魔法使い「……それで、ここはどこだ? 俺たちがいた森とはまるで違う」
「当たり前じゃ、我らが見放した人間の土地とは生気が違う。ここの地の植物たちは皆、生き生きとしているじゃろ?」
魔族少女「はい。凄く神秘的です……」
幼女「……君は……誰?」
「ああ、自己紹介がまだだった。ワシは妖精長。この里の長をしている」
少年魔法使い「では、ここは妖精たちの住処ということか?」
妖精長「左様。ようこそ、妖精の里へ」
――役所――
受付「ぶぇぇぇぇくしょん!! こんちくしょー!!!」ズルズル
同僚「もうちょっと女性っぽくできないの? それじゃあただのおっさんじゃない」ハァ
受付「生理現象だからしょうがないですよ」アハハ
受付「ぶぇぇぇぇくしょん!! こんにゃろー!!!………おかしいですね」ズズッ
同僚「風邪? やめてちょうだいよ? 仕事に穴あけられないんだから」
受付「いや、そんなことは無いはずですけどね……誰かが私のこと噂してるのかな?」
同僚「あー……」
受付「ちょっとなんですか?」
同僚「夜道には気をつけた方がいいわよ?」
受付「なんでですか!?」
同僚「だってあんた敵多そうだし」
受付「そんなこと……無いですよね?」
同僚「私に聞かないでよ」
受付「きっとあの子可愛いとか、そういう噂ですよ! いやーモテる女は辛い!」
同僚「さて、仕事仕事……」
受付「ちょっとは構ってくださいよ!」
同僚「私はあんたと違って仕事が遅いの。だから構ってあげる時間はありません」
受付「でもでも山賊さん達のお陰で少しは楽になったでしょう?」
同僚「ま、まぁね……最初はなに考えてんだって思ったけど、仕事覚えも早いし、真面目だし……結構頑張ってると思うわよ?」
受付「でしょう? 彼らを連れてきた私に感謝してほしいものですね!」フンス
同僚「そ・う・やっ・て! すぐ調子にのるんじゃないの!!」ギギギギ
受付「同僚ふぁん…とれちゃう……とれちゃいますぅぅ!!」ビヨーン
同僚「もう!!」パシッ
受付「痛い……」ヒリヒリ
同僚「さて、いい加減仕事しないと……」
受付「それにしてもなかなか終わらないですねー」
同僚「復興作業に関する書類が増えたからじゃない?」
受付「なにか動きがあったんですか?」
同僚「さぁ? でも書類から察するに随分と試行錯誤してるみたいよ? 今日だって試作品がうちに届いたし」
受付「試作品?」
同僚「なんでも魔王に犯された大地でも育つ植物だとか」
受付「すごいじゃないですか」
同僚「あくまでも試作品よ、実際にどうだかわからない」
受付「それで研究報告だとか会議資料だとかの書類がこんなにあると。予算なんてどこから出てるんです? 国だって財源不足でヒーヒー言ってるっていうのに」
同僚「さぁ? どっかの貴族様が出資してるって噂らしいけど?」
受付「殊勝な心がけを持った人がいるもんですね……」
同僚「あんたも見習いなさいよ」
受付「……そこらへんはノーコメントで」
同僚「なんでよ?」
受付「いいじゃないですか。そんなことより! この仕事がひと段落ついたら温泉でも行きません?」
同僚「………一段落なんて当分先の話よ?」
受付「いや、そろそろお色気回っていうのも必要だと思いませんか?」
同僚「よくそんな真っ平らでそんなこと言えるわね……」
受付「そんなことを言うのはこの胸か!!」ギュム
同僚「ひゃっ!」
受付「なんですかこの胸は? メロンですか? メロンが体内に埋め込まれているんですか!?」モミモミ
同僚「離しなさいよ!!」
受付「まったくもう! 悔しくなんか……悔しくなんかないんですからね!!」ストーン
同僚「ちょ、ちょっと! そ、そこは……///」
受付「ああん!? ここがええのんかぁ?」モミモミ
課長「あー、二人とも。ちゃんと仕事してくれないと困るよ?」
受付「課長は黙っていてください! このメロン女は全国の我が同胞を馬鹿にしたんです!!」モミモミ
同僚「なに……馬鹿なこと言って……んっ///」
受付「このメロンが! 収穫して食ってやる!!」
課長「そろそろやめなさい。受付くん」
受付「やめません! 私は悪くないもん!!」
課長「ならばしょうがないね、仕事しないものを見逃すわけにはいかない。こうなったら受付君を減給処分にするしかないようだ」
スチャ
受付「さっ、仕事するとしましょうか! あ、同僚さん、そのお仕事代わりにやっておきますよ!」
同僚「この馬鹿……」
課長「……二人ともよく覚えておくんだ。今のようなお色気シーンなど現実にはありえない!」
課長「女の子同士で胸を乳繰り合うなんてフィクションなんだよ、フィクション!! そんなこと絶対にありえないんだ! いやもう本当にありがたいことなんだけども!!」
同僚「課長もなにを言っているんですか……」
同僚「なにも泣かなくても……」
課長「おっといけない、つい心の声が漏れてしまったようだね。二人ともサボりは感心しないぞ? 私は定時だからこれで帰るけども、しっかりと業務をこなすように! いいね?」アッハッハ
受付「はい!! この受付! 誠心誠意、業務にあたります! お仕事楽しいです!!」ズバババババ
同僚「課長って時々変なこと言うのよね……」
受付「あー! お仕事楽しいですぅ!!」
同僚「そんなに減給が嫌か……」
受付「お仕事楽………ぶぇぇぇくしょい!! んにゃろおー!!」ズビッ
同僚「あんた本当に風邪ひいたんじゃないの?」
受付「本当にそんなことないはずなんですけど……随分と熱烈なファンの方がいるようですね……」
――王立騎士団総司令室――
参謀「………」
参謀「……誰だ?」
???「ありゃりゃ、気配を消したつもりだったんだがな!」ククク
参謀「馬鹿でもわかるさ」
???「そりゃ仕方ねぇな! 俺のカリスマ性はいくら押し殺しても表に出ちまうってことか、こりゃ困ったもんだ!」ハッハッハ
参謀「何の用だ? ここは王国騎士団の司令室だ。お前のような魔族が入っていい場所じゃない」
???「冗談きついぜ! 『お前が呼んだんだろ?』暗黒魔人の叔父貴を使って」
参謀「…………」
???「しっかし驚いたぜ、魔王の元を離れてフラフラしてる間に随分と世の中変わっちまったみたいじゃねぇか!」
参謀「あんたも元魔王軍なのか?」
???「魔王軍なんてそんなダセェ名前はやめてくれよ。俺はただ名前を貸してるだけだったんだ」
参謀「……それでなにが目的だ?」
???「話が早くて助かるねぇ、単純だよ……俺はデカイ喧嘩がしてぇんだ」
参謀「喧嘩?」
???「おおともよ。風の噂で聞いたぜ、あんたの喧嘩。叔父貴とひと暴れしたそうじゃねぇか。あんたのところでならデカイ喧嘩ができると思ってこうして来たってわけよ!」
参謀「ちゃんと情報統制はしているはずだが……なぜそんなことまで知っている?」
???「そんなもん、蛇の道は蛇ってな」ニシシ
参謀「…………」
???「おい、参謀とやら。俺は勇者って奴とやり合いてぇ。できるか?」
参謀「……それはできないな」
???「なんでだよ! わざわざ遠いところから来たんだぜ? 頼むよ」
参謀「まだ時期が早いんだ」
???「時期ぃ?」
参謀「勇者にはまだまだやってもらわなければならないことはある。お前の都合で舞台から降りてもらう訳にはいかない」
???「んだよ、せっかく期待して来たっていうのによ……」
参謀「勇者と戦いたいか?」
???「おおよ! あいつとなら久々に熱い戦いができるはずだ」
参謀「そんなことしてなんになる?」
???「それが俺の生き方なのさ! 強え奴とサシでやりあって勝つ! 最高に『粋』だろう?」
参謀「理解に苦しむな……」
???「今さら生き方なんて変えられるもんじゃないさ。俺もお前もな……」ニシシ
参謀「……ならば俺の元に来い」
???「なに?」
参謀「俺の配下になれば、最高の舞台を用意してやる。そこで思う存分戦えばいいさ」
???「俺の首に縄を着けようってか?」
参謀「不満か? 血塗れの道だが多くの戦場が待っている」
???「血塗れの道ね……気に入ったぜ。魔王のやり方は気に入らなかったがあんたとはどうも気が合いそうだ」
参謀「ならば時が来るまでの間、舞台作りを手伝ってもらおうか」
???「お、なんだなんだ?」
参謀「ちょうど誰かに暴れてもらおうと思っていたところだ。お前にピッタリだろう。これを見ろ」スッ
???「誰だこいつ?」
参謀「この女を殺してほしい。なんだったら辺り一面を消してもいい。後処理は俺がやろう」
???「いきなり女殺しとはまぁ……気が進まねぇな……」
参謀「だがこいつを殺せば間違いなく勇者が出てくると思うぞ?」
???「本当か!?」
参謀「ああ、本当だ。約束しよう」
???「それで何者なんだよ、こいつは?」
参謀「表向きはただの公務員だ。『表向きはな』」
???「……強えのか?」
参謀「強くはない。ただこの女は物語を『捻じ曲げる』」
???「なんだそりゃ?」
参謀「幾ら緻密に計画を練ろうともこの女がいるだけで全てを台無しにしてしまう。まるで世界がこの女の味方をするように……」
参謀「聖女が出しゃばって来たのも計算外だったが、勇者の暴走はあの魔導人形だけでは止められなかったはず。あの女がいなければ軍人貴族もボロを出すことは無かっただろう。その結果、聖女の列聖も止めることができなかった。この俺が計画を立てたも関わらず……だ」
参謀「全部捻じ曲げられたんだよ。この女によって」
???「……」
参謀「……不確定要素は早めに消しておかなければならない。手段はなんでもいい」
参謀「あんたならできるだろう? 見せつけてやればいいさ、魔族の力をな」
???「了解だ。それで勇者が出てくるっていうならお安い御用だぜ」
参謀「期待している」
???「ああ、それと……」
参謀「なんだ?」
???「邪魔する奴は皆殺しでも構わないよな?」
参謀「ああ、どんな手を使ってでも構わない……あの女を……仮面の王女を殺せ」ニヤッ
院長「あなたが幼女ちゃん?」幼女「むい!」 終わり
257 : 以下、名... - 2015/02/23 21:12:35.09 95nOfA2p0 169/169といったところで前半戦終了です
次回からは番外編をやりつつ後半戦を作成していこうと思っています
明日も同じ時間帯に投下できればと思っています!
今日もお付き合いくださり、ありがとうございました!!
番外編
院長「あなたが幼女ちゃん?」幼女「むい!!」番外編「山賊とお嬢様」【前編】