1 : 以下、\... - 2014/12/22 21:17:32.64 /iVoyDSv0.net 1/16

夏凜「…………」

「あれ? 寝てるのかな?」

夏凜「…………」

「まあいいわ。とりあえず差し入れはここに置いとくわね」

夏凜「…………」

「……静かな部屋ね」

夏凜「…………」

「こうやって見ると、結構可愛い顔してるのよね。
  ……布団の上からなら触っても大丈夫かしら……」

そっ……

夏凜「…………」スヤスヤ

「……まるで子猫ね」

元スレ
風「夏凜~にぼし持ってきたわよ~」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1419250652/

6 : 以下、\... - 2014/12/22 21:29:35.24 /iVoyDSv0.net 2/16

夏凜「…………」パッチリ

「あ、起こしちゃったかな?」

夏凜「…………」もぞもぞ


彼女は、布団越しにかかる私の手の重みに気付いたのか

無事な方の腕をぺたぺたと動かして、私を探った。

夏凜「…………誰?……看護婦さん……?」

「あたしよ、夏凜」

夏凜「友奈?」

「『風よ』」

夏凜「なんだ風か……」

「『なんだとはなによ』」

「『にぼしの差し入れ』」

夏凜「…………ありがと」

11 : 以下、\... - 2014/12/22 21:47:42.47 /iVoyDSv0.net 3/16

夏凜「樹はどう? 元気にしてる?」

「『あいかわらず』」

夏凜「そう、なら良かったわ」

「『にぼしが好きみたい』」

夏凜「?」

「『いつきが気に入っちゃって』」

夏凜「……ふぅん」

「『かりんみたいに』」

夏凜「…………」

「『たくさん』」

夏凜「…………?」

「『たべ』」

夏凜「……風? どうしたの?」

「……夏凜みたいな……立派な人になりたいっ…て……っ……」

「う……あぁぁぁ……!!」ぽろぽろ

16 : 以下、\... - 2014/12/22 22:04:34.76 /iVoyDSv0.net 4/16

夏凜「……泣いてるの?」

夏凜「…………」

「『ごめんね』」

夏凜「……あんたって意外と涙もろいのね」

「『そうかもね』」

夏凜「泣きたいのはこっちよ。こんな身体にされちゃってさ」

「…………」ぎゅっ

夏凜「……ごめん」

17 : 以下、\... - 2014/12/22 22:05:41.00 /iVoyDSv0.net 5/16

夏凜「でもね……本当に勇者部のみんなには感謝してる」

夏凜「ここの世話をしてくれる人たちはみんな私と会話したがらないし」

夏凜「こうして私の声を聞いて、返事をしてくれるだけで」

夏凜「私はまだ生きていられるって思えるの」

夏凜「さっきはあんな事言ったけど、実は今はもう、そんなにつらくないのよ」

夏凜「……風のおかげね」

夏凜「…………」

「『泣かせないでよ』」

夏凜「……ふふっ」

25 : 以下、\... - 2014/12/22 22:33:50.02 /iVoyDSv0.net 6/16

彼女は部屋の真っ白な壁に向かって微笑んだ。

そんな痛々しい姿を見ていると、私は、

私自身の些末な不幸に怒りすら覚えた。

彼女と立場を入れ替えられたらどんなに良かったろうと思った。


……まだ入院して間もなかった頃、

彼女は、果てしない暗闇と静寂に恐怖し

私に助けを求めたことがあった。

いつものように様子を見に来て、ひとしき会話をしたあと

立ち去ろうとする私に向かって、恐ろしい悲鳴を上げたのだ。

28 : 以下、\... - 2014/12/22 22:46:05.51 /iVoyDSv0.net 7/16

その時は今ほど口数も多くなく、

絶望に打ちひしがれた彼女は、死人のように生気を失っていた――――――。


「――じゃあね夏凜。また来るわ」

夏凜「…………」

「『また今度』」

夏凜「…………」こくり

「……もうそろそろ樹も一緒に連れてこようかしら。じゃあね」

バタン

……シーン……

夏凜「…………」

夏凜「…………」

夏凜「…………!!」

夏凜「…………あ…!!」

夏凜「風!!! 風はどこ!!?」

32 : 以下、\... - 2014/12/22 22:56:59.19 /iVoyDSv0.net 8/16

夏凜「風!!!!! 風うううううう!!!!!!」

夏凜「わたしを一人にしないで!!!!!!」

夏凜「風うううううう!!!!!!」

夏凜「あああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


ガタン……!


「えっ……!?」

夏凜「風うううううう!!!! どこ??!! どこにいったの???!!!」

夏凜「待って風!!! わたしを置いていかないでえええええええ!!!!!」

夏凜「一人はいやああああああ!!! いや!! いやだ!! 助けてええええ!!!!」

「夏凜!!」

夏凜「うわああああああああ!!!!」バタンバタン

34 : 以下、\... - 2014/12/22 23:03:35.64 /iVoyDSv0.net 9/16

「夏凜! わたしならここにいるわ!」

夏凜「あ!!! 誰!!?? 誰なの!?」

夏凜「やめて!! 離してええええええ!!! 助けて!!!! 助けて風うう!!!!!!」

どんっ

「あっ…!」

夏凜「いやああああああああ……!!!!! 風はどこ!? 風!!!!!」ヨロヨロ

「……!!」

36 : 以下、\... - 2014/12/22 23:14:25.69 /iVoyDSv0.net 10/16

……彼女は延々と私の名前を叫びつづけ、動かない右半身を引きずりながら

病室の床を這いずり回った。

私は半狂乱になった彼女の姿を見て、ショックのあまりしばらく身体が動かなかった。

我に返って、気付くと私は彼女を抱きしめていた。

「はぁ……っ……はぁっ……夏凜……!」ぎゅっ

夏凜「うぁぁぁあぁぁ……!!」

「わたしはここにいるわ……夏凜のすぐ傍に……!!」

夏凜「ぁ…………!」

私だということが分かると、夏凜は、震えながら私の腕に抱かれた。

48 : 以下、\... - 2014/12/22 23:35:26.62 /iVoyDSv0.net 11/16

夏凜「風……風なんだよね……?」

「『ごめんね』」

夏凜「風……もうどこにも行かないで……ずっとここにいて……」

「『ずっとここにいるよ』」

夏凜「怖いの……すごく怖い……こんなの私には耐えられない……!」

「…………」

私には返す言葉がなかった。

それがとても辛かった。

夏凜「もしかしたら私はもう死んでるんじゃないかって……1人でいると、そんな事ばかり考える……」

夏凜「怖い……苦しい……! 風、助けて……!」

「『だいじょうぶ』」

「『わたしがついてるから』」

そんな言葉が慰めになるか分からなかった。

けど私は、恐怖に震えて怯えている彼女の心を、少しでも安心させてあげたいと思った。

51 : 以下、\... - 2014/12/22 23:44:29.32 /iVoyDSv0.net 12/16

彼女は右手で力いっぱい私の手をにぎりしめて、

告白するように、色々なことを呟いた。

私はその手を握り返したり、手のひらに文字を書いたりして

彼女を一人にさせまいと必死に返事をした。

夏凜「…………」

しばらくしゃべったあと、彼女は黙り、

今度は私の服や顔、髪の毛などを、ぺたぺたと確かめるように触っていった。

見つめる目は灰色に濁っていて、私ではないどこか遠くを眺めていた。

55 : 以下、\... - 2014/12/22 23:50:51.52 /iVoyDSv0.net 13/16

すると彼女はにわかに私の身体に擦り寄り、

胸に顔をうずめて、匂いを嗅ぐように息を吸った。

私はそんな彼女の頭を優しく撫でてやった。

彼女はそのまま、動かない右半身をぎくしゃくと曲げながら

私の首元に口を寄せ、舌を這わせた。

胸元の襟をずらし、鎖骨に唾液をしたたらせて、

まるで飢えた獣のように、彼女は私の肌を味わった。

私はその間、黙って彼女の頭を撫でつづけた。

58 : 以下、\... - 2014/12/23 00:02:10.47 avHV4rf30.net 14/16

私は彼女の求めているものを察し、

夢中になって吸い付く口の動きに合わせて

制服を脱ぎ、火照った肌をさらけ出した。

彼女は、自分以外の存在を確かめるために、

孤独ではないことを信じるために、

私の汗のにおい、熱を放つ体温、肌の感触を求めたのだ。



私はその日、彼女に、

自分の身体を捧げた。

61 : 以下、\... - 2014/12/23 00:11:01.04 avHV4rf30.net 15/16

――――
――

「――…あ、もうこんな時間」

夏凜「…………」

「『そろそろかえるね』」

夏凜「もう帰るの? まだちょっとしか経ってないじゃない」

「寂しがりやさんねぇ、まったく」

夏凜「どうせ今日は風のほかに誰もいないんでしょ? なら……」

「……ああ、そういうこと」

夏凜「ねえ聞いてる?」

「『ちょっとだけなら』」

夏凜「…………」

チュッ

「『またね』」

夏凜「…………また、ね」

62 : 以下、\... - 2014/12/23 00:12:16.44 avHV4rf30.net 16/16

おはり

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