男「いやだ」
女「なんで?わたしたちつきあってるんでしょう?」
男「そうだけど、キスだけは、いやだ」
女「なんで?つきあっているだんじょはキスするものでしょう?」
男「そうだよ。キスだけじゃない。
デートしたり、抱き合ったり、セッ○スもするものだよ」
女「じゃあデートもセッ○スもしよう?でもその前にキスがしたいの」
男「いいよ、デートもセッ○スもしよう。でもキスだけはいやだ」
女「なんで?」
男「だってキスしたら君はいなくなってしまう」
女「なんで?」
男「だってキスしたら君はいなくなってしまう」
男「せっかく、僕が、生き返らせたのに」
ゴーレム(ヘブライ語: golem)は、ユダヤ教の伝承に登場する自分で動く泥人形。「ゴーレム」とはヘブライ語で「胎児」の意味。
作った主人の命令だけを忠実に実行する召し使いかロボットのような存在。運用上の厳格な制約が数多くあり、それを守らないと狂暴化する。
ラビ(律法学者)が断食や祈祷などの神聖な儀式を行った後、土をこねて人形を作る。
呪文を唱え、(emeth、真理)という文字を書いた羊皮紙を人形の額や舌などに貼り付けることで完成する。
ゴーレムを壊す時には、(emeth)の( e )の一文字を消し、(meth、死んだ)にすれば良いとされる。
男「女、ご飯ができたよ」
女「なにができたの」
男「チャーハンと中華風スープを作ったよ」
女「いらない、たべたくない」
男「なんで?好きだったじゃない」
女「……おぼえていない。すきだったの?わからない」
男「……そう、じゃあ仕方ないね。君の分も僕が食べよう」
女「……ごめんね」
男「仕方ないよ」
男友「おーい。男っ」
男「やあ、男友。今日はもうおしまい?」
男友「まぁな。……なんだ、もうずいぶんよさそうだな」
男「なにが?」
男友「あー、いや。なんでもない。やぶへびった」
男「男友は相変わらず変な奴だ」
男友「言ってろ」
男「……女の事なら、心配はいらないよ」
男友「……おう」
男友「忘れろとは言えないけれど、
気分転換したかったらいつでも言えよ。
合コンならいつでも組んでやるぜ
男を誘えって女どもがうるせーんだ」
男「考えておくよ」
男友「じゃあな」
男「じゃあ」
男「……男友は気をつかうと早口になるな」
男「……だってさ、男友ったらおかしいよね」
女「……」ギュッ
男「うん?どうしたの、女?今日はずいぶん甘えん坊だ」
女「ごうこん、いくの?」
男「合コン?」
女「ごうこんいって、ほかのおんなのひととつきあうの?」
女「わたしはすてられちゃうの?」
男「そんなこと、しないよ。僕は女ひとすじだもの」
女「ほんとう?かみさまにちかう?」
男「誓うよ。神様に誓う」
女「じゃあ指きり」
男「うん、ゆびきり」
女友「あ、男君っ」
男「やぁ、女友さん」
女友「昨日、男友から男君に会ったって聞いて。いつから復帰したの?」
男「復帰だなんて、大げさ。やっと身辺が落ち着いてね、昨日から」
女友「じゃあ男友はかなーり目ざとかったわけだねっ」
男「うん、かなーり、ね。フフッ」
女友「……ねえ、男君、女の事なんだけど」
男「うん?」
女友「……ううん。男君が気に病む必要はないんだからね?
あれは、誰のせいにもできないわ」
男「全く、男友といい女友さんといい。
僕がそんなに参っているようにみえるのかな」
女友「あっ、ううん。そういうわけじゃ……」
男「クスッ、冗談。ありがとうね」
男「じゃあ僕もう行くから」
女友「あ、うん……じゃあ、ね」
女「おまじない、しよー?」
男「おまじない?」
女「うん、わたしと男くんとがずっといっしょにいれるおまじない」
男「えっ、したい。ぼく、女ちゃんとずっといっしょにいたい」
女「じゃあわたしの言うことにちゃんとおへんじするのよ、いーい?」
女「えーっと、やめるときもすこやかなるときもーっ……」
男友「おい、聞いてるか?」
男「え、な、なんだったっけ?」
男友「……しっかりしろよ。いいか次の日曜、合コンすっからな」
男「次の日曜は予定があるな」
男友「キャンセルだ」
男「横暴だっ!」
男友「いいから、無理してでも来い。
あの女友ちゃんも参加するんだぞ」
男「女友さんが?」
男友「そーだ。あんなAAAクラスの上玉と遊べるなんざめったにねえぞ」
男「AAAクラスって……」
男友「いいから、お前は一度気分転換しとけ
女ちゃんに操を立ててるわけでもあるまいし
ここらで他の女の子とも遊んでみろって」
男「……」
男友「う……とにかく、次の日曜だからな!忘れんなよ」
女「それで、つぎのにちようはいないの」
男「ごめん、本当にごめんね。
すっぽかしてもいいけれど、ここに来られるのも困るからさ」
女「……ううん、いい。そのかわり、うめあわせ、してね」
女「ごうこんおわったらすぐかえってきてね」
女「おかえりのちゅーするから、ただいまのキス、してね」
男「……」
女「ほかのおんなのひととつきあわないでね」
女「わたしを、すてないでね」
男友「ではっ、かんぱーい!」
「「「かんぱーい!!」」」
わいわい、がやがや
男「……」
男友「よーす、飲んでるかーっ」
男「ついさっき乾杯したばかりだろう。
僕は飲めないのに、とりあえず生って無理やり注文して」
男友「悪かったって、んじゃその生俺によこせ、ウーロン茶頼んでやっから」ゴッゴッ
女友「うわ、一気だ!恰好いいじゃん男友!」
男友「おおっ、女友ちゃんっ!」
女友「男の子二人でむさくるしー所に私が花を添えにきたよっ!へへー」
男友「うれしーな!ささ、ここに座って。男もスペース開けてっ」
男「……」スッ
女友「んじゃー遠慮せずっ。男君どーう?たのしんでる?」
男「まあ……ね」
女友「テンション低いなー。あ、もしかして迷惑だったかな」
女友「実は私が男友に無理言って男君を連れてきてもらったんだよ」
男「女友ちゃんが?」
女友「そ、だってやっぱり心配だよ。急だったし、幼馴染だったんでしょう」
男「うん、まあ……ね。」
男「でも、もう大丈夫だから。せっかくの飲み会なんだし、もっと楽しい話をしようよ」
女友「あ、男君がそういうなら……」
男友「なになにー、二人ともいい感じじゃん?」
男「いきなりうざいな男友」
女友「いやいやそんないい感じなんかじゃないって!男友こそいい幹事!」
男友「……女友ちゃん、それはないな」
男「うん、ないな」
女友「えっ!ひどーい!」
女「おとこ、おそい」
女「……とけい」
女「ながいはりが、じゅういち。みじかいはりが、に」
女「おそい」
女「おつきさま、きれい。おほしさま、きれい」
女「むかえに、いきたい」
女「でもおそとにはでちゃだめって、おとこがいってたし」
女「……わたし、すてられたくない」
女「すてられたくないよ、おとこぉ……」
女友「ううーん、もう飲めにゃい……」
男友「制止も聞かずに何杯も飲むからだ……
男、悪いけど女友ちゃん送ってってくれないか?」
男「……いや、それはまずいだろう」
男友「……男。据え膳食わねばなんとやらだ。
ここだけの話、女友ちゃんはお前の事が好きだ。なんの問題もない」
男「お前、さいてーだ」
男友「なんとでも。俺は幹事として二次会も抜けらんねーし。
良心がとがめるんなら手はださなきゃいいだけの話だ」
女友「うぅん……むにゃ」
男友「じゃ、そういうわけだから、頼んだぞ」
男「……さいてーだ」
女友「うぅん……頭、痛ぁい」
男「おはよう、女友ちゃん。水でも飲む?」
女友「ひゃうっ!?男君っ!?ど、どうしてここにっ!?」
男「君が泥酔して一人で帰れなそうだから送り狼を買って出たのさ」
女友「おおおお送り狼っ!?」
男「冗談。何にもしてないし、何もなかったよ」
女友「なんだ、そっか……」
女友「男君だったら、しても良かったのにな」ボソ
男「うん?」コトッ
女友「うううう、ううん!なんでもない!お、お水ありがとうね」
男「うん……じゃあ女友ちゃんも起きたし、僕は帰るとするよ」
女友「ええっ!も、もう少しゆっくりしていっても……そうだ、朝ご飯食べていってよ!」
男「ありがたい御誘いだけれど、今日は遠慮するよ。じゃあ――」
女友「待って!」
男「?」
女友「じゃ、じゃあ、送ってくれたお礼に、今度ご飯食べにいかない?
もちろん私のおごりで!ねっ?」
男「いや、そういうのは……」
女友「ねっ、いいでしょ?決まりね!詳細はまた学校で会ったときに決めましょ」
男「……う、うん分かった」
女友「じゃ、また学校でねっ」
男「うん、また……」
女友「……やった、やってしまった。ちょっと強引だけど男君と約束しちゃったー!」
女友「って、ぎゃー!部屋きたなーい!下着とか落ちてるっ!髪にも寝癖がーっ!」
女友「ううううっ次に会うのが楽しみだけど、顔合わせづらいよーっ!」
男「……女友ちゃんの勢いにのまれて、断り切れなかった……」
男「すぐ帰るって言ったのに、外泊までするし」
男「女は、どうしてるかな。一人で、大丈夫だったろうか」
男「……早く、帰ろう」
男「女?」
女「……」
男「女っ!?どうした、大丈夫かっ!?」
女「あ、男。やっと、かえってきた」
男「うん、ごめんね。遅くなって」
女「ほかのおんなのひとと、いたの?」
男「……ううん。違うよ」
男(あれ?)
男「男友に無理やり二次会に連れてかれて、カラオケにいたんだ」
男(どうして僕は、嘘を?)
女「ほんとう」
男「う、ん……」
女「そう。なら、いいの」
女「ほんとうなら、いいの」
女友「男君っ」
男「女友、ちゃん」
女友「一日ぶりっ。約束だからねー。おごらせてもらうよ」
男「いいのに」
女友「いやいやそんなわけにはっ!で、いつ行く?いつなら暇?」
男「ん、学校帰りに行くわけじゃないんだ?」
女友「あ、ああああうん。こ、ここら辺の定食屋はもう行き尽くしたでしょう?」
女友「だから目先を変えて、町の方に出ようかと。いいカレー屋さんがあるのよ」
男「カレーって」クス
女友「あー、笑ったなっ!ますます食べさせたくなった!
一口食べたらもう笑えないんだからねっ」
男「うん、分かったよ。楽しみにしてる」クスクス
女友「もーっ……プッ」
女友「あはは、じゃあ今度の土曜は大丈夫?1時に北駅前」
男「うん、大丈夫……あれ?時間、中途半端だけど何ご飯?」
女友「え、晩御飯――っと!ああ!そう!ついでに、ついでにね、
映画とかお買いものとこにも付き合ってほしいなって思って!
私、仲の良い男の子って男君しかいないから、男の子の視点から服とか見てほしくって!
それに一人で映画も味気ないじゃん?でもみんな土曜は忙しいって!それで!」
女友「……だめ、かなあ?」
男「……まあ、それくらいなら。晩御飯をおごってもらう代わりに目利きと荷物持ちになるわけだ」
女友「そ、そう!そんな感じ!でへへ」
男「……でも意外だな。女友ちゃん、彼氏いないんだ」
女友「そりゃね。彼氏いるのに合コンなんか出ませんて」
男「女友ちゃん、モテそうなのに」
女友「そんな、ぜーんぜん。
高校のころから断り続けてたら誰も声かけてくれなくなっちゃった」
男「そういえば高校、同じだったね。好きなやつでもいたの?」
女友「……いたよ」
女友「男君は、その頃から、女と付き合っていたよね」
男「うん」
女友「いつも一緒にいて、仲良しで、夫婦みたいだったね」
男「……そうかな」
女友「そうだよ」
女友「……じゃあ、約束。忘れないでね」
男「……うん、また」
女友「またね」
男「夫婦みたい……か」
女「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、
富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、
死がふたりを分かつまで、愛し慈しみ貞節を守ることをここに誓いますか」
男「誓います」
女「なら私も誓います。でへー」
男「もう、十年か。いい加減照れくさいよ」
女「なーによ。私たちのどっちかが死ぬまでやるわよ
誓いのキスは本番までとっといたげるから感謝なさい
誓いのキスがファーストキスよ」
男「はいはい……」
女「誕生日おめでとう、男」
男「ありがと、女」
女友「ご、ごめん!待った?」
男「ううん、今来たとこ……とは、言えないかな」
男「15分遅刻。どうしたの、なにかあった?」
女友「いいいい、いやね?特に何があったってこともないんだけどね?
ちょっと服とかアクセとか見当たらなくってね?」
女友(昨日の夜からずーっと衣装で悩んでたなんて言えないよう)
男「ま、いいよ。気にしてない。それよりどうする?
今からでも急げば映画に間に合うかもだけれど」
女友「うーん。なんかバタバタするのもアレだし、次の時間までお茶でも飲まない?」
男「いいよ、じゃああの喫茶店で」
女友「あそこはねー、カフェラテがおいしいよ」
男「へえ、詳しいね。ちょっと頼もしいかも」
女友「へへー、まっかせなさい?しっかりエスコートしたげる」
女「男、きょうはどこにいくっていってたっけ」
女「かいもの。まちにでるっていってたっけ」
女「ひとりでいくって、いってたっけ」
女「男、かいものとかへただから、わたしがついてかないといけないのに」
女「……?男、かいもの、へたなの?」
女「わたしが、ついていったことも、あるの?」
女「おもい、だせない。おぼえていない」
女「かいもの、ついていきたかったなあ」
女「そとにでたいなあ」
女「いつも、男と、いっしょに、いたい、なあ……」
女友「ね、これはどうかな」
男「ん、似合うよ」
女友「じゃあ、これは?」
男「良いと思う」
女友「なら、こっちとこっちはどっちがいいと思う?」
男「どっちも素敵だよ」
女友「……むーっ」
女友「男くーん、そんなになんでもかんでも褒められたら選べないよっ!」
男「え、あ、ああ。ごめん」
女友「……女と付き合ってた時もそんな感じだったのかな?」
男「え、ああ。まあ。女は僕の意見とかあんまり尊重してくれないタイプだったから。
僕はホントに荷物持ちに徹していたよ」
女友「ふふっ。まあ、らしいっちゃらしいかな。でもあたしにそんな態度は通用しないよ!
しっかり感想言ってもらうからねっ?」
男「うん……善処します」
女友「ふー、楽しかったあ。今日はありがとうね!」
男「こちらこそ。とっても美味しいカレーだった、びっくりしたよ」
女友「でしょー。とっておきだから滅多に人連れてかないんだよー。男君は特別。へへ」
男「それは、光栄だな」
女友「じゃあ、あたしこっちだから」
男「何言ってんの、女の子なんだから家の前まで送ってくって」
女友「え、そんな、悪いし……」
男「女友ちゃんに何かあった方が大変だよ」
男「……それで、死んじゃうことだって、あるんだよ」
女友「男、君……」
男「さ、じゃあいこ?往来で立ち止まってても迷惑だし、ね」
女友「ん、分かった。しっかり守ってね」
男「ちょっと頼りないけど、任せて」
男「女。ごめん、少し遅くなった」
女「男、おかえりなさい。おかいものは、ちゃんと、できた?」
男「……?」
女「男は、わたしがえらんであげないと、なにもかえないから」
男「……女!記憶が、戻って……!?」
女「男は、わたしがいないと、だめなんだから」
男「女……?」
女「男にはわたしがひつようなんだから」
女「ほかのおんなじゃあだめなんだから」
男友「よーうおうおう、聞いたぜ男ー!最近女友ちゃんといい感じなんだってー?」
男「……なにそれ、誰情報?」
男友「俺は顔が広いからな、土曜に町で遊んでる友達の一人や二人くらいはいるさ」
男「……全く、どこで誰が見てるか分からないね」
男友「喫茶店で楽しそうに話した後、話題の映画を見てからショッピングねぇ。
ま、デートとしちゃベタだけど悪くはないんじゃねえの?」
男「どこまで見られてんだよ……それにあれはデートじゃない。ただのお礼だ」
男友「え、それマジ?真剣と書いてマジで言ってんの男君?」
男「……まじ、だよ」
男友「っかー。こりゃ女友ちゃんも苦労するわ。つーことはあれか。
合コンの時も手ぇださんかったわけだ」
男「当然だ……なんでそれが悪い事みたいに言われなきゃいけないんだ」
男友「……もしかしなくても、お前、童貞だろ」
男「男友には、関係ない」
男友「……図星かよ」
男友「こりゃ本当に苦労するわ、女友ちゃん」
女「あんたってさあ、私の事抱きたいとか思わないわけ?」
男「な、ななな!?」
女「うら若き乙女とこーんな狭い部屋で一緒にいるってのに。
手え出すそぶりも見せないじゃない」
男「そそ、そういうことは結婚してからでもいいと……」
女「順番ってこと?」
男「じゅ、順番ってこと!」
女「誓いのキスがファーストキスで、新婚初夜が二人のハジメテ……ねえ
ちょっと出来すぎじゃない?」
男「は、ハジメテとか……女の子がそういうのはちょっとどうかと……」
女「なに恥ずかしがってんのよどーてー」
男「き、君だって処女だろっ!?」
女「ふっふっふー」
男「……え、チガウノ」
女「冗談!あたしもちゃんと初めてだよ!」
女「あたしのハジメテはあんたにあげるから、
あんたのハジメテはあたしのものなんだよ」
女友「男君っ」
女友「男くーん」
女友「おっとこ君っ」
男友「はぁーあ、熱烈なアタックですなあ男君?」
男「……」
男友「……もうあれからひと月だろ。
いつまでも女ちゃんにとらわれてたんじゃ、女ちゃんも成仏出来ねえぞ?」
男「……成仏、ね」
男友「それとも、女友ちゃんじゃダメとでも?
それこそぶっ飛ばすぞこの贅沢野郎」
男「……ダメとかじゃ……ないけど」
女友「あーっ男君ーっ」
男友「見つかったな。んじゃ俺はもう行くから、ごゆっくり」
男「成仏、か」
女「男、おかえりなさい」
男「ああ、ただいま……ん、どしたの?」
女「おかえりなさいの、ちゅー」ンー
男「……しないって、ば」
女「むーっ」
男「ねぇ、女」
男「今、幸せ?」
女「しあわ、せ?」
男「生き返って、良かったと、思ってる?」
男(生き返らせて、良かったと、思ってる?)
女「……よく、わかんない」
男「ん、そっか。ごめんね、変な事聞いて」
女「ねえ、男?」
男「ん、なあに?」
女「男は、わたしのこと、いきかえらせて、よかったと、おもってる?」
女友「男君、次の日曜、暇?」
男「え、あーっと、どうだった、かな……」
女友「良かったら一緒に、お出かけしない?」
男「……」
女友「あーっと、えと、なんというか、こないだのお礼……とは違うな、えーっと」
男友「素直にデートのお誘いだと言えばいいだけでしょうに」
女友「お、おおお男友君っ!?な、なにを言っているのかな!?」
男「男友」
男友「君らホントに酸いも甘いも経験した大学生か?
いまどきの中学生のがよっぽど物を知ってそうだな」
女友「な、なにを失礼な……」
男友「で、どうなの男?
女の子直々のお誘いをまさか俺の眼の前で断るとか言わないよな?」
女友「……」ジッ
男「……分かった、よ」
女「また、おでかけ」
男「そう、ごめん。このところ毎週だね」
女「男がいないと、ひとり。ひとりは、さみしい、よ」
男「うん、ごめんね……ひとりがさみしいのは僕がよく知ってるのに」
女「すぐかえって、きてくれる?」
男「……わからない」
女「きょうじゅうに、かえって、これる?」
男「……わからない」
女「……そう、わかった、いってらっしゃい」
男「うん、ごめん。……いってきます」
女「男、おんなのこといっしょ?」
女「わたし、すてられちゃうの?」
女「すてられちゃったら、どうしたら、いいの?」
女「すてられちゃったら……ううん」
女「そうだ、すてられる、まえに」
男「今日も楽しかった、誘ってくれてありがとう」
女友「うううううううん、そそそそんなことないよ?もう全然!」
男「えっと、じゃあまた家まで送らせてもらおうかな」
女友「! え、えっとね、おちょこくん!?」
男「おちょこ?」
女友「あうう、かんじゃった……」
女友「えっと、良かったら、私の家で晩御飯食べていかない?」
男「女友ちゃんの家で?」
女友「そ、そんな深い意味とかでなくてっ、自炊の方が外食より安くつくし!
あたし料理には自信あるしっ!どう?若い娘の手料理だよっ!?」
男「でも、一人暮らしの女の子の家に男が上がりこむっていうのは……」
女友「そういって前は手ぇ出してくれなかったくせに……」ボソッ
男「うん?」
女友「あ、いやいやなんでもない!とにかく問題ないから、さ、いこ?」
男「……仕方、ないなあ」
女友「やたー!あたし腕ふるっちゃうねっ!」
女「あの公園、覚えてる?」
男「公園って、君と僕が最初に会った、あそこ?」
女「そう。あの時も桜が奇麗だったねえ」
男「うん、覚えてる。君が僕のサッカーボールを取り返してくれたんだっけね」
女「近所の悪ガキ数人によってたかっていじめられてるんだもん、ほっとけないよ」
男「うん、覚えてる。あの時の女、恰好よかったし」
女「それ、褒めてないから」
男「え、あ、ごめん」
女「初めて誓いをたてたのも、ここだったね」
男「え、そ、そうだったっけ」
女「む、覚えてないのか?失格だなあ」
男「えっ、失格!?な、何にさ!」
女「あたしのお婿さんに」
男「え、そ、そんなあ」
女「じゃあ、もっかい誓い直してくれたら、許したげる。
いーい?病める時も、健やかなるときも、……」
男「ごちそうさまでした」
女友「おそまつさまでした」
男「女友ちゃん、本当に料理上手だね。食べ過ぎで苦しいよ」
女友「ホントに?うれし。今飲み物持ってくるね」
男「お気遣いなくー」
女友「……ね、女さんは、さ」
男「……うん?」
女友「私が、こんな事言う資格がないのは分かってるんだけど。
女さんは、さ。男君に、早く次の幸せを見つけてほしいと思ってるんじゃないかな」
男「……似たような事、男友にも言われたよ」
女友「だから、だからってのもおかしいかもだけど、男君さえ良かったら、私が……」
男「……ちょっと、出よっか」
女友「男君……」
男「食べ過ぎたし、腹ごなしに、散歩いこう?」
男「ここから遠くないところに、良い公園があるんだ」
女友「ここ?」
男「そ、僕が初めて女と会った公園」
女友「……」
男「そして、僕が女と将来を誓い合った公園」
女友「将来を……だから、なの?」
男「ん」
女友「だから、私とは、だめなの?」
男「……それだけじゃないけれど。僕は、女以外の人と付き合う資格なんてないから」
女友「誓い、だから?」
男「それだけじゃ、ないけど」
女友「でも、女はもう、いなんだよ?」
男「ううん、いるよ」
女友「え……」
男「まだ、在るよ」
女「男、おかえり」
女「え」
男「ただいま、女。ごめん、今日はお客さんが居るんだ」
女「おきゃく、さん?」
女友「そんな……うそ」
男「紹介……は、いらないかな。高校で面識あったよね、覚えてる?」
女「こうこう?……おぼえて、ない」
男「そっか、こちら女友さん。高校の同窓生で、大学の同級生」
女「はじめ、まして……?」
男「うん、上手にできたね」
女友「そんな、なに、これ……え、ドッキリ?そっくりさん、だよ、ね?」
男「正真正銘……では、ないかな。まあ女本人ではないけど、そっくりさんでもない」
男「コレは僕が作った女のゴーレムなんだよ」
女友「え、何、言ってるの?男君……」
男「ゴーレムって、知らない?割と有名な怪物なんだけれど
女友ちゃんってゲームとか漫画とか読まない人?」
女友「え、え……」
男「そういえば女友ちゃんの家って漫画とかなかったねぇ
じゃあ説明が要るかな?」
女友「おと……」
男「ゴーレムはね、土をこねて作った人形に、呪文をかけて作るんだ
その際、人の肉体の一部を混ぜて作ると、その人に模した形になる」
男「女の肉体の一部を手に入れる事はそう難しくない。
収骨のときにくすねるだけで良かったからね」
男「でも肝心の魔術に失敗したらしくってね、記憶が所々欠けて、精神も退行してしまった」
女「うー?男むずかしーこといってる?」
男「でもそんな女も可愛いよね、そう思わない?女友ちゃん」ギュッ
女「男くるしい……でもきもちいー」
女友「いや……」
男「僕は女と添い遂げる。そう誓ったんだ、だから……」
女友「いやあああっ」ダッ
男「だから、君とも、他の人とも、付き合えないんだよ」
女「男、いまのひと、にげちゃった、よかったの?」
男「うん、僕には女さえいればいいんだよ」ギュッ
女「えへー。わたしも男がいればいい」
女「男、ずっといっしょよ?」
男「女、ずっと一緒だ。」
その健やかなるときも、病めるときも、死がふたりを、分かつても。
55 : 以下、名... - 2010/03/06(土) 18:01:37.68 RqTa/vH80 39/56といったところで第一部しゅうりょうです
「大通り――事故――」
「女の子――轢かれ――救急車――」
「動か――死――」
『本日昼ごろ、――市で飲酒運転の車両に少女一人が轢き殺される事件がありました
轢かれた少女は同――市に住む女さん19歳で、頭を強く打ち即死の状態でした
また、車を運転していた――さんもハンドルを切った勢いで電信柱に激突
救急病院に運ばれましたが、本日未明、息を引き取りました。県警はこの事件を受け――』
男「――嘘だ」ザクッ
男「嘘だ」ザクッ
男「嘘だ」ザクツ
男「嘘だ」ザクッ
男「女は、生きてる」ザクッ
男「女は、生きてる」ザクッ
男「僕が、生きかえ、らせ、る」ザクッ
ザクッ
男友「……おう、男」
男「やあ、男友。ごきげんよう」
男友「ふざけてる場合か。お前女友ちゃんに何したんだ」
男「何、って?」
男友「とぼけんな……日曜から連絡がつかねえんだと
家には居るみてえだが携帯も通じねえしどーも居留守してるみてえなんだとよ」
男「ふうん、それは変だね」
男友「日曜ったら最後に会ったのはデートしてたてめえだろ……
まさか無理やり手え出して傷つけたんじゃねえだろうな!?」
男「まさか……手を出すどころか何もなかったよ」
男「僕は穏便に取り扱ったさ……それを女友さんがどう思うかは別として」
男友「……そうかよ」
男「そうだよ」
男「それにしても、そっか。女友さん、ひきこもっちゃったんだ」
男友「おう……?」
男「そっか、そっかあ……ふふふ、ふふふふ」
男「女友さん、賢明だなあ……そうまでして僕みたいなキチガイと関わりたくないんだってさ」
女「んー?」
男「警察やなんかに連絡したって信じてもらえるはずもないし。
何より僕の逆恨みも怖いよねえ、女友さん?ふふふっ」
女「どうしたの、男?なにかたのしいおはなし?」
男「ううん、不愉快なお話だよ。
大した覚悟も無いくせに僕らの間に割り込もうとした、不愉快なオンナの話さ」
女「オンナって、まえの、あのひと?まだ、男と、あってるの?」
男「ううん、会ってないよ?……多分もう、会うことも、無い」
女「そっかぁ、ふふ。じゃあ、ずっと男といっしょだ」
男「うん、そうだね」
女「男、ちゅー」
男「……ほっぺに、ちゅ」
女「……むー。わたしおくちでよかったのに……でも、うれしっ。ふふっ」
女友「や、男君」
男「……女友さん、学校、来れるようになったんだ」
女友「女友、さん、か。……まあ、ね。おかげさまでね」
男「僕はてっきり、もう学校に来ないものだと思っていたよ。
少なくとも、僕の前には姿を現さないと、ばかり」
女友「……私も、そうしようと、思ってたよ」
女友「でも、でもね。どーもダメなんだ」
男「ダメ?」
女友「こう何年も叶わない片思いしてると、ちょっとやそっとじゃ諦められないんだ」
男「僕の、女のゴーレムは、ちょっとやそっと、か」
女友「ビックリしたけど、逃げちゃったけど、もう挽回できないかもだけど」
女友「そんなの、女が生きていた頃から変わらないもんね」
女友「女を生き返らせちゃう男君と付き合おうと思ったら、こんなことでめげてられないもん」
男「……君は、変な人だ」
女友「あら、今頃気づいたのかしら。ふふっ」
女友「男君に、お似合いでしょう?」
女「たいようがのぼる」
女「ぽかぽか、あたたかい」
女「……ぴんくのはなびら」
女「これは、しってる。おぼえてる」
女「男とわたしのだいじなばしょにもさいてた」
女「男とわたしがであったばしょにもさいてた」
女「さくら」
女「男と、ずっと、いっしょ」
女「ちかった、もん」
女「すこやかなるときも、やめるときも」
女「男、すき」
女「男も、わたしのこと、すき、だよね」
女「えへ、えへへ」
男友「お、おおお、おお?」
女友「やっほ」
男「どうした、変な声だして」
男友「おおおお、女友ちゃんっ!?無事でっ!?」
女友「大げさだなあ……ちょっと風邪ひいてて、連絡取れなかっただけじゃん」
男友「風邪ぇ?本当に?」
女友「本当に。だから男友が心配することは何もないの。
聞いたよー?男君に乱暴されたと思ってたんだって?」
男友「ああいやあれは……」
男「ひどいよな、友達を疑うなんて。友達がいの無いやつだ」
男友「なっ!?男てめえ!?」
男「まあ、あながち間違いでもないんだけれど」ボソッ
女友「……まあまあ、じゃあ今日は私の復帰祝いってことで、ぱーっとおごってもらおうかなっ」」
男「え」
男友「いいね、よし決まりっ!もちろん男は強制参加!飲むぜー!」
女友「飲むぜ―!」
男「ただい、ま……」
女「男、おそかったね。どうしたの」
男「あ、いや、男友、に急に誘われて、飲みに」
女「あのおんなのひとも、いっしょに?」
男「いや、その……」
女「男。キス、して」
男「……いや、だ」
女「じゃあ、キスは、いい。」
女「男、おそとにつれていって」
女「男とはじめてであった、あのこうえんに、いきたい」
男「……それも、だめだ」
女「男、わたしのこと、すき?」
男「好き……だ、よ」
女「わたしも男のこと、すき」
女「わたしのほうが、男のこと、すき」
男「女……?」
女友「女……女なの……?」
女「ここ、おぼえてる。わたしと男のたいせつなばしょ」
女友「男君は……一緒じゃない、の?」
女「ここ、おぼえてる。わたしと男のちかいのばしょ」
女友「と、とにかく男君に連絡を――」スッ
女「ねぇ」ズッ
女友「!?」
女「男のなまえを、あなたがよばないで」ズズズ
女友「……っ!?」
女「男をあいしてるのはわたしだけなの」
女「わたしだけ、なの」
男「女っ!」
女友「男君っ!」
女「……おと、こ」ズズッ
男(巨大化……原型が薄れて暴走が始まってる……?)
女「おと、こ。ここ。たいせつ。ちかい、の……」ズズズ
女友「男、君」
男「女友は下がって……いや、ここから逃げて」
女「おとこ」
男「うん、誓いの公園だ……
僕の部屋から出てはいけないって言ったのに。
どうしても来たかったの……?」
女「おと、こ」ズズズ
男「それはゴーレムの制約の一つなんだ……
一度暴走したゴーレムは、二度と元には戻らない」
女友「じゃあ、女は……」
男「誰かが止めるまで、暴走を続けてしまう」
女「おと、こ」ズズズ
男「ねえ女、誓いを立てよう?
女友、危険だけれど協力してくれるだろうか」
女友「……?」
男「いいかい?僕の言った言葉を復唱してくれるだけでいい……」
女友「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、
富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、
死がふたりを分かつまで、愛し慈しみ貞節を守ることをここに誓いますか」
男「誓います」
女「ちかい、ま、す」
男「女」
女「えへ、へ」ズズ
女「ね、キスして?」
男「うん、いいよ」
男「ファーストキス、だよ」
男「女の羊皮紙は、舌にしこんであったんだ」
男「何かの間違いで、羊皮紙の呪文を消してしまわないように、キスはしないでいたんだ」
男「もちろん、誓いとか、約束とか、そういうのもあったけれど」
男「女、そんなことも忘れてさ、いつもキスをせがんでくるから、困っちゃって」
男「本当は、生前の女も、我慢してたのかな」
男「僕とキスしたくても、約束で、誓いだからって、我慢して……」
男「……女、女女女、おんなあ」
男「うわあああああああああああああああああ」
こうして、おとことおんなは、しでわかたれてしまいました
女「ねえ、男。わたし、幸せだったよ」
女「二人きりの部屋で、一緒に過ごすのは、夫婦みたいで」
女「ただいまのちゅーとか、へへ。いっぱいいちゃいちゃしたよね」
女「一人で部屋にいるのはちょっと寂しかったけれど」
女「その分、二人の時は、いっぱい優しくしてくれたね」
女「それに、誓いの、キスとか……ヘヘ」
女「最後に、キス出来て、良かった」
女「生き返って、良かった」
女「男が好きで、良かった、よ」
女「だから、ね。男――」
男「……すげえ独善的な夢を見た」
女友「なに、それ?ふふ」
男「女が、僕に、生き返らせてくれてありがとう、幸せだった、っていうんだ」
女友「……ふうん、良い夢じゃん」
男「枕元立つほど恨めしいみたいで、あんまり気分よくないよ」
女友「あら、男君って意外と素直じゃないね」
男友「……おい、まだか?その絶景花見スポットってのは。
俺にばっか重い酒だの持たせやがって、怨むぞコラ」
男「あーはいはい、わかったよ。もうすぐだから」
女友「あ、見えてきた。あれだよ」
男友「あん?あのちっせえ公園か?」
男「そ、結婚式に招待してやったことを感謝しろよ」
男友「結婚式って……男と女友ちゃんが!?」
男「違う」
女友「あら、わたしはゆくゆくはそうなれたらいいなーと思ってるんだけれど?」
男「君って人は懲りないね……」
だから、ね。男、あなたはあなたの人生を悔いなく生きてください。
そうして、沢山の幸せをつかんだら、必ず私のもとに帰ってきてね。
女友「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、
富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、
死がふたりを分かちても、愛し慈しみ貞節を守ることをここに誓いますか」
男「誓います」
男友「うおーいおいおい、良い話だなあ、悲しい話だなあ!」オイオイ
男「……いつまで泣いてんだ、もうこっちは終わったぞ」
男友「おうっ!飲もうっ!桜と女ちゃんに乾杯だーっ!」
女友「かんぱーい!」
男「……全く、仕方ないなぁ」
女『あら、いいお友達じゃない。これで私が居なくても安心ね』
男「!……」
男「ふふ、あははははっ」
風が桜吹雪とともに、僕のほほを優しく通り過ぎて行った。
それはまるで、彼女が頬にキスをしたかのようだった。
女「ね、キスして?」 おわり