昔々、弱い弱い魔族がいた。
そいつには何の取り柄もなく、周囲の奴等から馬鹿にされるくらい底辺の魔族だった。
魔族と言えるかどうかさえ不思議なほどに非力な魔族だった。
周囲は同族だと認めていなかったかもしれない。
痩せぎすで青白い肌、如何にも弱そうな風体。
美しかったが、美しさが力になる世界ではなかった。
【人間】と言われることさえあった。
馬鹿にされる度に愛想笑いを浮かべた。
悔しさを誤魔化して、憎しみを胸に過ごす日々を送っていた。
元スレ
吸血鬼「愛する女に出逢うまで」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1422206252/
だがそんな奴にも野心はあった。
力が全ての世界で成り上がる術を模索した。
弱者は、魔界の中で強くなろうとしていた。
だが自分より弱い魔族などいやしない、全く歯が立たない。
そんな弱小魔族が目を付けたのが、人間。
いや……ちょっと違うな。
目を付けたのは、人間の血。
人間の血を、命を【奪う】ことだった。
人界との接触は堅く禁じられているにも拘わらず、そいつは『それ』を実行した。
夜な夜な人界へと赴き、人間の命を奪い続けた。
そいつは信じていた……
何の力のない自分、蔑まれる自分を消し去る為に……
藁にも縋る想いだったんだろうな。
だから、命を奪えば力が増すという妄想妄執に取り付かれた……
しかしそれは現実となり、そいつは力を得た。
奪った分だけの命を得、不死とも言える肉体を得たんだ。
挙げ句、その馬鹿は血に酔い、一代で数万の命を奪った。
自分の為だけに、数万人の人間を殺し続けた。
つまり数万回殺されても生き延びられる力(命)を得たわけだ。
その後、入念に準備をして実行に移した。
それから自分より上位の魔族に戦いを挑んだんだ。
底辺だと、【人間】と蔑み侮っていた連中に……
どんな汚い手でも使った。
勝つ為、見下した者を見返す為に……
何度も何度も死を偽装し、己を蔑んでいた彼等彼女等、全員を殺した。
その後の戦い全てに勝利した。
奪った魔法で、奪った力で、奪った姿で……
勝利しただけでなく奪った。
敗者の力を奪い、力を高め、更なる力を求めた。
それから長い時、幾多の戦いを経て、その馬鹿は魔界を支配する王となった。
同族とさえ認められなかった屑は他者の力を奪い、這い上がり、遂には王となった。
王となった後、そいつ名は
ブラッドリー・アナステシア・ディーア。
こいつの一族は、こう呼ばれることになる。
【吸血鬼】と……
そういや言い忘れてたな。
俺は、俺の名は
ルクレーシャス・クリストファー・ディーア。
これは、妻と出逢う以前の物語り。
俺を愛し、救ってくれた女と出逢う以前。
友人と言っていいのか分からねえが、奴と出逢う以前。
息子、ロイ・クリストファー・アルノルトが生まれる以前。
アニ・アルノルトと出逢う前の物語りだ。
ーーーー
ーーー
ー
「さーて、どうすっかなぁ……」
真Ⅱ修正版、八千魔貨もすんのか。
いやいや、これくらい安いもんだろ。
寧ろ納得の額だと言える。
思えば長い道のりだった。
そういや始まりは真Ⅲだったっけ。
それからペルソナ2罪・罰、P3、P4、マニアクス、真Ⅰ……
「うっし、買うか。代引きにしよ」
ボイス付きとあって手を出しにくかったアバタールチューナー。
これもやってみれば中々良かった。
葛葉ライドウ対超力兵団も良かったな。
ネコマタは良かったな。
センリは何で……いや、まあいいや。
で、今回遂に真Ⅱを購入するに至った。
楽しみだなぁ、早くやりてえなぁ……
【黄昏に神、堕ちる】
とか格好良すぎんだろ。期待大だな。
「あー、暇過ぎる」
届いたら、すぐにプレイするから忙しくなる。
しかし届くまでが暇だ。部屋掃除でもすっかなぁ……
でも、クリアしたらまた暇になっちまう。
「ったく、オレは何すりゃあいいんだよ」
同期の奴等は王の座を目指して頑張ってる。
目指すっつーか、現王を打倒しようとしてるんだっけか。
理由は単純。
強いだけの馬鹿が王になっちまったもんだから、民衆の不満が爆発した。
好き放題やりたい放題やってるから擁護する奴なんていやしない。
つーか、あんまり詳しく知らされてねーから分からん。
ただ、とんでもねえ野郎らしい。
しかも、厄介なことに強いんだよな。
魔界の王だしな、当たり前か。
覇者、勝利者、全てを手に入れた男。
つまり魔界最強なわけだ。
だから何をやっても許される。
【強き者が上に立ち、民を導く】
これが何千年も続いてる魔族の掟だ。
どんなに願っても、自ら王座を退くようなことは絶対しないだろう。
だから皆は協力して王を倒そうとしてる。
父ちゃんも現状を打開する為、同志と意見を交わす毎日。
色々と気を回しているからか最近顔色が悪い、かなり心配だ。
母ちゃんも結構きつそうだし、何かしてやりたい。
でもオレは戦うことを許されてない、毎日毎日だらだら過ごすだけ。
「約束、だもんな。でもこのままじゃ……あー、めんどくせえな」
オレはその時の出来事を憶えてないけど、子供の頃に何かやらかしちまったらしい。
それから父ちゃん母ちゃんに一つだけお願いされた。
今でもはっきりと思い出せる。
※※※※※
『いいかいクリス、今から言うことをよく聞くんだよ?』
ーーうん
『よし、良い子だ』
ーーえへへっ
『……クリス』
ーーなーに?
『何をしてもいい、自由に生きていい』
『貴族として振る舞えとも言わない、今や没落したようなものだからね』
『けれど、決して戦ってはいけない』
『これは父さん母さんからの一生に一度のお願いだ』
『分かってくれるかい?』
ーーうん、分かった。
ーーでもまた父さんを侮辱されたりしたら、僕は……
『確かに私は弱い』
『時と共に血は薄れ、最早吸血鬼と名乗っているに過ぎない力なき魔族だ』
『その事実を、私は否定はしないよ』
ーー父さんは強いよ!!
ーー優しい人は強いんだって、母さんが言ってたもん!!
『そうか、母さんがそんなことを……』
ーーうんっ、優しいのが一番だって言ってた
『クリスは強くなりたいかい?』
ーーうん、一番強くなりたい!!
『そうか……なら、誰よりも優しくなりなさい』
ーーえっ?
『優しくなるには、悪い気持ちに負けちゃ駄目だ』
『時にはどうしても我慢しなきゃならないこともある』
ーー父さんを馬鹿にされても我慢しなきゃならないの!?
ーーそんなの無理だよ!!
『うーん、じゃあこうしよう』
『ちょっとだけ我慢して、まずは話してみなさい』
ーー話す?馬鹿にした奴と?
『そう、何故そんなことを言うのか、何故それを口にしたのか。とかね』
ーー理由を聞いて、もっと嫌な気持ちになったらどうするの?
ーーそれでも我慢するの?
『うーん、母さんなら殴れと言うんだろうけど……』
『まあ確かに喧嘩程度なら仕方無いか。それに子供だから喧嘩の一つや二つ……』
『でも、うーん困ったな。あぁそうだ』
ーーどうしたの?
『暴力は嫌いだからあまり言いたくはないけど、喧嘩は許そう』
『けれどそれは、堪えかねない侮辱を受けた場合のみ、だからね?』
ーーうんっ、分かった!!
『でも、悪い気持ちに従っちゃ駄目だよ?』
ーー悪い気持ち?
『そう。この前のような、怒りに身を任るのは絶対しちゃいけない』
『そういう気持ちに負けないで、心を強くするんだ』
ーー心を強くって、どうやって?
『その為の我慢だよ。それが心を鍛えるんだ』
ーー分かんないよ。
ーーどうやって鍛えればいいの?
『我慢出来た時、自分を褒めてあげるんだ』
『よく我慢した。これで僕は一つ強くなれた!!ってね』
『まあ、おまじないみたいなものさ』
ーー僕は父さんみたいになりたい。
ーーだから、やってみる。
『……ありがとう、クリス……』
※※※※※
「相変わらず屋敷だけは立派だな」
アタシは、アイネイアス・ヒルデガード・エインズワーズ。
この屋敷に住むルクレーシャスと同族の吸血鬼だ。
しかし今や吸血鬼とは名ばかり、種族として名が残っているにすぎない。
吸血鬼が廃れたことには勿論理由がある。
彼の子孫が人界へ接触していたことが露見したのだ。
マヌケな話しだよ、まったく……
以来、人界へ接触することは禁忌とされ、接触した者は死罪されることとなった。
以後数百年が経ち、次第に血は薄れ、吸血鬼は力を失ったのだ。
だがアイツは違う。
アタシのような紛い物とは違う。
アイツは正真正銘の【吸血鬼】だ。
偉大なる始祖
ブラッドリー・アナステシアス・ディーア。
その力の全てを受け継いだ唯一の男。
途切れたかに見えた彼の血脈が突如蘇り、姿を現したのだ。
それが、アイツ……
ルクレーシャス・クリストファー・ディーアだ。
皆、その力に嫉妬した。
アタシもその一人だ。
嫉妬というより、奥底では憧れているのかもしれない。
だけどアイツは戦わない。
魔界を統べる力を持っていながら、それを行使しない。
そういうとこが大ッ嫌いだ。
大ッ嫌いだけど、王はアイツであるべきだ。
真に強い者が王となるのなら、アイツ以外に有り得ない。
幼い頃、私は【吸血鬼】を見た。
遠い記憶だけど、今も鮮やかに残っている。
アイツは父を侮辱されたことに怒り、魔力を放った。
そういった諍い、喧嘩は別段珍しいことじゃない。
ただ質が違った。
炎や氷、風や岩、そういったものを現出させ操る。
そんなありふれた魔法じゃなかった。
いや、そもそもあれを【魔法】と呼べるかどうか……
あの時、アイツの身体から膨大な赤い霧が立ち上り、霧は武器へ変わった。
斧、剣、槍、鉄球、鞭、矢、鎌……
あらゆる武器に形状を変え、全てが父を侮辱した相手へ向かった。
斬られ、弾け、潰され、貫かれた。
皆、見ていることしか出来なかった。
或いは見惚れていたのかもしれない。
当然、そいつは死んだ。
異常なのは、【何度も】死んだことだ。
アイツは、ルクレーシャスは蘇生の法すら使えたんだ。
あれだけの力を操りながら、超難度の魔法を難なく併用していた。
殺しては蘇らせ、再び殺す。
アイツの顔には、何の色もなかった。
ただ淡々と、まるで作業をこなすように命を終わらせては呼び戻した。
赤の中に浮かぶ青白い肌、さらさらと風に揺られる黒髪。
忘れられることの出来ない光景。
ただただキレイで、とっても美しかった。
生と死を自在に操り……
命を玩具のように扱う奴の姿は神々しささえ感じさせた。
アイツは、ルクレーシャスは蘇生の法すら使えたんだ。
あれだけの力を操りながら、超難度の魔法を難なく併用していた。
殺しては蘇らせ、再び殺す。
アイツの顔には、何の色もなかった。
ただ淡々と、まるで作業をこなすように命を終わらせては呼び戻した。
赤の中に浮かぶ青白い肌、さらさらと風に揺られる黒髪。
忘れられることの出来ない光景。
ただただキレイで、とっても美しかった。
生と死を自在に操り……
命を玩具のように扱う奴の姿は神々しささえ感じさせた。
「なのに……」
アイツはこんな辺鄙な地域に住み、屋敷に引き籠もり、何もしない。
魔族がすべきそれをしない。
アイツを口説きに来るのはこれで何度目になるだろう。
現王になってから来るのは初めてだ。
どうせ相も変わらず怠けてるに違いない。
【吸血鬼】としての誇りは本当にないのだろうか?
まあ、アイツと話すのは嫌いじゃないからいいけどさ。
いや、まあ……会いたいから来たんけど。
どうせ気にもとめられないのは分っているのに、髪を整えてる。
「さて、行こうかな。【吸血鬼】に会いに……」
ーーーー
ーーー
ー
「おっ、ヒルダか、久しぶりだな」
「はぁ……いつ来ても同じ恰好だな、アンタ」
半袖短パンのジャージ姿。
細く白い腕と脚、本当に彫刻みたいな奴だな。
第一、その鍛え抜かれた肉体は何なんだ……
一切運動してない癖に、その身体はおかしいだろ。
「これか? 動きやすくていいんだよ。お前も着てみるか?」
「へっ? い、いやっ、やめとく////」
こいつ、本当に意識してないんだな。
女として見られないから気軽に来れる、というのもある。
何だか複雑だ。
好意っていうか、認めて欲しいのかもしれない。
吸血鬼としてでなく、何の力もない私の存在を……
大嫌いなのに……自分でも、分からない。
「ふーん、着心地良いのにな。まっ、そこら辺に座れよ」
「う、うん。そうするよ」
「で? 今日も誇りだ何だって言いに来たのか? 暇だなー、お前」
「うっさい。今日は現王について話しにきたんだ」
「ああ、なんかとんでもねえ野郎何だろ?」
「……やっぱり、何も知らないんだな」
「あ?馬鹿にしてんの?」
「違うよ。大方知らされていないんだろ?」
「……まーな。で、そいつがどうしたんだよ」
「気に入った女を攫って、所有物としている。
人の嫁、結婚間近の娘、お構いなしさ」
「……攫われた女達は、生きてんのか」
「それは分からないよ。ただ、そのせいで問題が増えた」
「問題?」
「攫った女を餌に、下劣な魔族共を部下にし始めたのさ」
「……なる程、父ちゃん母ちゃんが教えないわけだ」
「お、おいっ、何処に
「ちょっと城行ってそいつと【話して】くる」
「アンタ、まさか……」
「真Ⅱクリアして丁度暇だったんだ。
まっ、いい暇潰しになんだろ。じゃあな」
「ち、ちょっと待ちなって!!」
「ああそうだ。父ちゃん母ちゃんには内緒な。
まあゆっくりしてけ。暇ならdmcでもやっとけ良かったぞ」
消えた。
転移の法か……
陣もなし詠唱もなしで使用出来るのはアイツくらいなものだろう。
何とか冷静を保ってたみたいだけど、怒りの熱が透けて見えた。
アイツは怠け者で馬鹿だ。
まっ、演じてるだけかもしれないけどさ。
けど何故だか正義感だけはめっぽう強い。
父親の影響が大きいんだろう。
アタシと同じ紛い物の吸血鬼なのに、それを受け入れてる珍しい種だ。
アイツがあんな風になったのも父親の影響なんだろう。
「でもあれじゃダメなんだ。あのままじゃダメ。だってアイツは……」
まあいいか、目的は達成したんだ。
これで、アイツは変わる。
「だってアイツは、吸血鬼なんだから」
※※※※※
女を攫ってる?
そんなことは知ってたさ。
オレは知ってて動かなかった。
「父ちゃん、母ちゃん、ごめん」
声を聞き取るくらい、わけない。
どんなに離れてても、聞こうと思えば聞こえるんだ。
盗み聞きってやつだ。
やっちゃならないことだってのは分かってる。
でもさ、父ちゃん母ちゃんが安全かどうかだけは知りたかったんだ。
言っちゃ悪いが、父ちゃんは弱い。
ただそれは魔力とかの話しだ。
父ちゃんにはそれより強い力がある。
魔力が弱かろうが力がなかろうが、問題ならないくらいに強い力。
それは魔族が持たないモノ、本来なら必要としないモノ。
それは優しさと実直さ、だから父ちゃんは信頼される。
相手を想い、尊重し、信じる。
だから皆は父ちゃんを頭に置いた。
現王が倒されれば間違い無く父ちゃんが王になるだろう。
時代は変わり、新たな世界に生まれ変わるはずだ。
今更になって動いたのは、父ちゃん母ちゃんが狙われてると知ったから。
父ちゃんは気付いてないだろうけど、組織の中に裏切り者がいる。
父ちゃんには言えなかった。きっと悲しむだろうから。
今夜、二人は暗殺される。
だから動いた。
ヒルダが来なかったとしても、オレは動くつもりだった。
ただ、あいつの所為で動くのが早まっちまった。
焚き付けてんのは見え見えだった。
けど、我慢ならなかった。
気に入らねえんだ。
何もかも気に入らねえ。
強さが全てだ?
笑わせんじゃねえ、クソったれ。
本当に強い奴なら、本当の強さを持つ奴だったら……
女を攫うなんて真似は絶対しねえ。
強い奴は優しいんだ。
いや、優しくなくちゃダメなんだ。
そうじゃなきゃ、狂っちまう。
今の魔界みてえに、ぐちゃぐちゃになっちまう。
魔力、腕力だけが強い馬鹿が王になるなんて間違ってる。
掟の意味を履き違えてやがるんだ。
強さの意味を間違って解釈しちまってるんだ。
だったら見せてやる。
てめえが信じる強さが如何にちっぽけなもんか、思い知らせてやる。
「くそっ、頭、いてえ……」
感覚、広げ過ぎたな。
攫われた女達の念が入ってきやがる。
でも、これでいい。
女達がどれだけ辛い想いをしたのか、奴等に分からせてやる。
「父ちゃん、母ちゃん。オレ、戦うよ」
許せないから、辛いから、悲しいから、止めたいから………
喪いたくないから、戦うよ。
父ちゃんは以前から言ってたよな。
魔界の在り方は間違ってるって……
でも自分にそれを変える力がないことも分かってた。
かなり悩んでたよな?
辛かったよな?
「知ってたよ……」
だから、戦わせてくれ。
オレが壊すから、父ちゃんが作ってくれ。
だって、父ちゃんには出来ないだろ?
オレと同じ力を持っていたとしても、父ちゃんには出来ないだろ?
力で解決するなんて、父ちゃんは大嫌いだからさ。
親孝行させてくれよ。
少しでも役に立ちたいんだ。
得体の知れない力を持ったオレを守ってくれたろ?
だからあんな辺鄙な所に引っ越したんだろ?
この【吸血鬼】の力の所為で、沢山迷惑掛けたんだよな。
色んな奴に嫌なこと言われたんだよな。
オレを殺せって、そう言われたりしたのも知ってるよ。
魔界を揺るがすとか何とか理由付けてさ……
二人が戦って、オレを守ってくれたのも知ってる。
父ちゃんが父ちゃんで良かった。
母ちゃんが母ちゃんで良かった。
「現王・ラモン・ファラムンド・ベニテス……だったっけか」
てめえはオレが……
てめえは、オレが殺す。
王位を渡さない以上、それしか方法はねえんだからな。
空席にしたら、父ちゃんに譲りゃあいいんだ。
「てめえの身の程を教えてやる」
てめえが王の器じゃねえってことを教えてやる。
てめえの犯した罪の数だけ、痛みを与えてやる。
魔界にお前は必要無い。
ただな、お前の死に意味がある。
お前が死ねば……
もう二度と、お前のような王は現れないだろうから……
※※※※※
ラモン、一体君はどうしてしまったんだ。
確かに君には王になる素質はあった。
力と知識を兼ね備え、私を含め数多くの友人がいた。
「ラモン、何故だ」
いつも笑顔で、力をひけらかすことなどせず、知識を鼻にかけることもしない。
皆に好かれる良識ある人物だった。
こんなやり方で王になる男では断じてなかったはずだ。
「何故、先生を……」
前王は、我々が幼い頃からの恩師だった。
皆、彼を尊敬し慕っていた。
ラモンも私も、彼に教わった。
何故、殺す必要があった。
そもそも信頼されていたし、後任は君だという話しだったじゃないか。
一体、何が君を凶行に走らせたんだ。
君は誰よりも学び、誰よりも励んでいたじゃないか。
そんな君が何故……
「あなた、大丈夫? あまり無理しちゃ駄目よ?」
「エミーネ……いや、私は大丈夫だよ」
「その資料。ラモンのこと、まだ調べていたのね」
「ああ、私にはどうしても納得出来ないんだ。
きっと我々が気付いていない何かがある」
「確かにそういう人ではなかったわ。
でも彼が前王を殺したことは事実なのよ?」
「……分かってる、分かってるさ」
「ヴェネリオ、少し休んだ方がいいわ。
きっとあの子も心配してる」
「……そうだね、もう何日も帰っていない。
それに、クリスはああ見えて寂しがり屋だから」
「ふふっ、そうね。さっ、行きましょ」
妻の手を取り立ち上がろうとした時、机から資料の一部がはらりと落ちた。
読み過ぎたせいか、どこかのページが破れ落ちてしまったようだ。
拾い上げてみると、ラモンに明らかな変化が見られた時期詳細を記載したものだ。
「本当に大丈夫?顔色が酷く悪いわ」
「……何故、見落としていたんだ。こんな重要なことを……」
「っ、しっかりして!!」
ふらふらとよろめく私を支える妻に、最悪の事実を伝えなければならない。
憶測であって欲しいが、そう考えれば全てが繋がる。
全ては、一人の男によって引き起こされたのだった。
「……エミーネ、クリスが力を覚醒させた日は憶えているね?」
「やめて。あの時の話しはしないって、そう言ったじゃない」
「同じなんだ」
「……ヴェネリオ、あなた一体何を言ってるの?」
「クリスが力に目覚めた日と、ラモンが変わった日が」
「っ、そんなの偶然でしょ!? ラモンを信じたい気持ちは分かるわ。
でもそんな考え、普段のあなたらしくないわ!!」
「前王が殺害された日も、【彼】が死んだとされる日も、同じなんだ」
「そんなの……偶然よ…」
「落ち着いて訊いてくれ」
「嫌よ。お願い、もうやめて……」
「……っ、エミーネ、これは偶然じゃない。全て仕組まれたものなんだ」
「クリスが、あの子がやったって言うの!?
あなたと私の息子なのよ!? なのに、よくもそんなこと!!」
「違う!! 落ち着くんだエミーネ!!」
泣き崩れる妻を抱き締め宥めながら、私は怒りを抑えていた。
友人、恩師、何より愛する我が子を利用された……
いや、【奪われた】のだ。
きっと誰も気付いていない。
クリス自身ですら気付いていないだろう。
あの日、クリスが目覚めたのを境に【彼】はずっと狙っていたのだ。
ーー復活の時を……
何らかの方法で、彼は永遠すら手に入れていた。
この一件は、千年以上前から計画されていたのかもしれない。
単にラモンの暴走と考えた方が筋が通るし分かり易い。
しかし私はラモンという男を昔から知っている。
ラモン程の男を変えることが出来る存在……
それほど強大な魔力を持つ者など、現魔界には存在しない。
我が息子・クリスを除けば……
「落ち着いたかい、エミーネ」
「……ええ、もう平気。
ねえヴェネリオ、本当にクリスじゃないのよね?」
「ああ、ラモンや前王の件は全てクリスの内側の存在がしたことだ」
「じゃあ、あの力は本当に?」
「彼の力だろう。それがクリスの内側から出ようとしている」
「っ、帰りましょう。クリスに話さないと……」
妻は強い、その瞳にはもう涙はなかった。
しかし話したところで止められるのだろうか?
本人の意志と関係なく行動されては防ぎようがない。
だが今なら【彼】が動ける日は限定されている。
そこが鍵になるだろう。
「あなた、準備が出来たわ。早く陣の中に」
「ああ急ごう。早くクリスに伝えなければ」
「ええ、辛いかもしれないけど隠しては
『父ちゃん、母ちゃん』
「この声、クリス!?」
「クリス、どこにいるの!?」
『ごめん。オレ、戦うよ』
「駄目だクリス!!止すんだ!!」
……応えはなかった。
私と妻は陣の中で膝を突き、言葉を失った。
私は一人の男を呪った。
これほどまで誰かを憎いと感じたことはない。
こんなにも抑えがたい殺意を抱いたこともなかった。
こんなにも己の無力さを痛感をたこともなかった。
私は我が子すら救えないのか……
最愛の息子まで奪われてしまうのか……
ブラッドリー・アナステシアス・ディーア
お前は子孫の命すら、奪うというのか……
※※※※※
大方片付いたな。
数を集めただけの群れなんざ相手にならねえんだよ。
結束も信頼もありゃしない。
やられた奴を助けようともせず、自分だけ助かろうとしやがる。
逃げようとした奴等も、もれなく石化してやった。
お前等を壊すのはオレの役目じゃない。
これから助ける女達の役目だ。
旦那に逢いたい、息子・娘に逢いたい、愛する男に逢いたい。
生きて、この場所から出たい。
それが共通の想い、願い。
オレは馬鹿だ。
もっと早く動くべきだったんだ。
家族がいるのは皆同じ、オレはオレの家族しか考えてなかった。
もっと早く行動していれば……
こんなに悲しい想いをさせることはなかった。
さっさと終わらせて、家に帰ろう。
女達は地下だったな……
もうすぐ行くから、後少しだけ我慢してくれ。
絶対、この城から出してやる。
いくら魔法を使えても、受けた屈辱、心傷は消せない。
此処から出してやるくらいしか出来ない。
いくら魔力が強かろうと、それがオレの出来る精一杯だ。
「止まれ」
三、四……七人か。
揃いも揃って見事な悪役面だな。
「おい、聞いてんのか!!」
黙れ下っ端。
オレはすこぶる機嫌が悪いんだ。
消し炭にされたくなけりゃさっさと道を空けろ。
今なら石化で許してやる。
「舐めた口利きやがって」
馬鹿な野郎だ。
そんなに痛い目見てえのか、じゃあ【見せて】やる。
ほらどうだ?
焼かれると熱いだろ?
つーかめんどくせえ、どいつもこいつも、燃えちまえ。
「あぢぃぃ!!だずげでげれ!!」
「ぎぃぃやぁああ!?」
「いでぇぇ!!あじ、あじが、ぎられだ!!」
うるせえ黙れ。
どこも痛くも熱くもねえ。
それはお前等にしか見えねえし、お前等しか感じねえ。
幻惑の法だ。
どうせ死にゃしねえよ。
オレが王を殺すまで、そのまま叫んでろ。
ーーーー
ーーー
ー
囚われた女達は全員助けた。
そんで、一人一人を元々いた場所に帰した。
全員助けたけど数人は殺されてて、オレが生き返らせた。
それが良かったのか悪いのか、オレには分からない。
オレがそうしたいから、そうしたにすぎない。
死んだ瞬間の記憶は消せても、他はどうにも出来ない。
沢山ありがとうって言われたけど、オレにはそれが辛かった。
こんなに酷い目に遭ってるなんて、思いもしなかったから。
でも誰一人壊れちゃいなかった。
誰一人として生きることを諦めてなかった。
きっと彼女達は強いんだろう。
「ありがとう、か……」
オレはつくづく甘かったみてえだ。
父ちゃん、本当にごめん。
オレ、【話し】出来そうにねえや。
もう、我慢なんか出来ねえ……
そもそもオレが我慢する必要なんざねえだろ。
あんな外道共を許す必要も、何でこんなことしたのか……
そんな理由を考えることもない。
結果、奴等はそうしたんだから。
だったら、誰に何をされても文句言えねえだろ?
「なあ王様、あんたもそう思うだろ?」
※※※※※
流石、王になっただけはあるな。
真っ当な方法で王になりゃあ良かったものを、馬鹿野郎。
魔力も力も桁が違う。
こんな奴がいるなんて知らなかった。
それに戦うってのがこんなに楽しいもんだとも知らなかった。
一度も戦ったことねえのに、場の空気がしっくりくる。
流れ、吹き出す、地に落ちる……綺麗な赤だ。
あいつは他にどんな力を持ってる、見せろ。
それからゆっくりと奪ってやる。
オレの糧になれ、オレの為に死ね……
……あ? 今、何考えた?
何だか、頭がくらくらしてきやがった。
まあいいや、もうお終いだ。
楽しいから戦ってるわけじゃなし。
「どうした吸血鬼。お前の力はそんなものか?」
「黙れ」
「ぐっ……」
「その気になりゃあ、てめえ程度一瞬で殺せんだよ」
「ふっ……ふふふっ、見せてやりたかったなぁ」
「あ?」
「犯され泣き叫ぶ女共を、助けを請う哀れな姿……
お前にも見せてやりたかったよ!!」
「……てめえ、どこまで腐ってやがる」
「くくっ、ははははっ!!」
「……笑うな」
「ひゃははははっ!!」
「笑うなって、言ってんだろうが!!!!」
「がッは……ひひっ…私を殺したくてうずうずしているなぁ…
ほら、殺せ、殺し奪うのは、実に気持ちが良い…」
「ああ、今すぐ殺してやる。塵一つ遺さず消えろ」
『良い、実に良い。それでこそ、私に相応しい……』
終
87 : ◆tsRpeCzooQ - 2015/01/27 20:18:34.65 JCUbBa6YO 68/68続きはあるので良ければ見て下さい。
吸血鬼「俺はお前の血を飲みたくない」
http://ayamevip.com/archives/27465601.html
書き方とか違うしギャグよりだけど……
最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。

