1 : ◆P8QHpuxrAw - 2015/01/14 20:31:42.96 y0Y8vSQe0 1/103悪魔のリドル12話前の妄想SSです。
地の文です。
中盤から終盤にかけてエロ描写がありますのでご注意ください。
以前に書いた続きになってます。これで最後です。
兎角「初恋」※エロあり
http://ayamevip.com/archives/39778305.html
兎角「不安」(「初恋」の続き)※エロあり
http://ayamevip.com/archives/41545305.html
少し長いですが、最後まで投げださないでやりますのでどうかよろしくお願いします。
晴「久しぶりだね」
待ち合わせ場所に行くと、まだ約束より早い時間なのに彼女はそこにいた。
兎角「先週会ったばかりだ」
晴「一週間って長いよ?」
兎角「そうか?」
どう返していいか分からなくて、素の表情を向けると晴は楽しそうに笑った。
無邪気に見える笑顔だったが、彼女にしたたかな一面がある事も今は知っている。
晴「晴は毎日だって会いたいけどね」
兎角「少し前まで毎日会っていたからな」
実際には寮で一緒に過ごしたのはほんの数ヶ月だった。
それでいてどんな時間よりも濃密だった気がする。
場所を変えようと思って自然に歩き出すと、晴が付いてきて腕にしがみついた。
そして気が付いたように顔を上げる。
晴「兎角さん、怪我してる?」
兎角「……どうして?」
晴「薬の匂いがする」
意外に鼻がいいんだなと思いながら、立ち止まって晴に離れるよう手で促した。
兎角「昨日、少し引っ掛けたんだ」
二の腕に軽く手を添えて見せると、晴が心配そうに覗き込んできた。
晴「ひどいの?」
兎角「全然」
そっけない返事が気に入らないのか、晴に疑いの目を向けられた。
嘘じゃない。
任務中に目測を誤って尖った枝にぶつかっただけだった。
本当に大した怪我ではない。
兎角「放っておいたら、晴が怒ると思って」
晴に心配をかけないために善処すると、以前に約束をしている。
晴「そっか……ありがとう」
兎角「なんでお前が礼を言うんだ」
晴「晴が言ったこと、守ってくれてる」
晴はいつもこうやって穏やかに笑う。
だから少し困らせてみたくなった。
兎角「働き蜂だからな」
女王蜂を守るための道具にすぎない。
一度はそんな絶望に見舞われた事があった。
今まで他に大切なものなんてなかったから、どこまでが自分の意思なのかも分からなかった。
二人にとって働き蜂という言葉は、傷付け合ったわだかまりそのものだ。
晴「意地悪……」
そう言う晴の目は困ったように笑っていて、その表情からは色々な感情が読み取れる。
兎角「冗談だよ。自分の意思だ」
兎角が歩き始めると、晴もそれに並んだ。
今ではそんな風にふざけた言い方も出来るようになった。
兎角には解決済でも、プライマーである晴にとっては生き続ける限り抱えていかなければならない問題である。
かといって、腫れ物のように扱ってその部分だけ穴を作るのも嫌だった。
もうお互いを勘繰る必要はないし、言いたい事や聞きたい事を隠す意味もない。
晴「うん」
兎角は晴の全てを認めて、全てを受け入れたいと思っている。
出来る事ならこれから先も。
兎角「もう少しで卒業だな」
空を見上げると、真綿のような雲の隙間から澄んだ青色が覗いていた。
近頃は暖かくなって、昼間は上着を着込むと汗ばむ事もある。
春はすぐそこに感じられた。
晴「うん。兎角さんのおかげ」
兎角「お前の力だろ」
晴「そういう言い方する?」
晴は働き蜂の話の延長だと思ったようだ。
冗談交じりに拗ねた顔をして、指先を脇腹に押し付けてくる。
兎角「プライマーの力とは言っていない」
兎角にそんなつもりはなかった。
晴の生に対する強い想いや、時折見せる容赦のなさとその覚悟は、あの黒組の中でも鋭い光だったと思う。
晴「じゃあやっぱり兎角さんのおかげだよ」
兎角「どうして」
晴「兎角さんが晴を守ってくれたんだよ」
確かに助けた場面もあったが、晴は結局一人だったとしても生き残っていた気もしている。
晴は少しも弱くない。
とても強いから、独りだけ取り残されないように守りたかった。
兎角「……おめでとう」
1年にも満たない時間を思い出し、なけなしの表現力で心を込めて伝える。
晴「うん」
今、晴の笑顔が見られる事が奇跡だった。
------------
日が暮れ始め、赤く染まった空が濃紺に変わっていくのも時間の問題だった。
晴「キスしておく?」
別れ際の雑談の中、唐突に晴は言い出した。
どきりと心拍が高くなり、思わず目線だけを一瞬唇に向ける。
兎角「バカ。外だぞ」
晴は辺りを見回して、兎角に向き直る。
晴「誰もいないよ?」
兎角「今は見えなくてもいつ人が通るか分かんないだろ」
決して人通りの多い道ではなかったが、全く人が通らないわけではない。
十分程度立ち話をしている間にも何人かが二人の近くを歩いて行った。
晴「けち……」
兎角「そういう問題じゃない」
口を尖らせる晴をなだめる為に頭を撫でるが、機嫌は直りそうにない。
晴「鳰と仲良くしちゃおうかな」
兎角「あいつと会ってるのか?」
晴「同じ学校だもん。そりゃ会うよ」
そういえばそうだったと、鳰の制服姿を思い出してみる。
彼女の着ていた制服はミョウジョウ学園のものだ。
ついでに鳰の言動や態度も思い出した。
兎角「あいつ、お前の事気に入ってるだろ」
鳰はやたらに晴に構う事があった。
嫌味に絡む事も含めて。
晴「え?そんなわけないよ」
兎角「懸想じゃなくても、何か思うところはあるんじゃないのか」
晴「どうだろ……。晴を殺すための嘘だったのかもしれないけど……」
思い当たる事もあるようだ。
地下へ向かった際に晴と鳰がどんな話をしたのかは分からない。
その時に吐露した鳰の気持ちがあるなら、晴はきっと鳰を嫌いにはならない。
兎角「そうは思ってないんだろう」
晴「うん……。きっと鳰も明るい場所にいたいんじゃないかなって思うよ」
最後に鳰から聞いた言葉は、お互いが所詮腐った海の生き物である事。
あれは自分自身がそれを思い知ったからなんじゃないかと、後になってそう思うようになった。
兎角「じゃあ仲良くすれば」
晴「いいの?」
晴は嬉しそうに顔を上げた。
そんな顔をされるなんて思っていなかった。
好き勝手に友達くらい作ってしまいそうなのに。
兎角「私の許可なんているのか?」
晴「そうなんだけど……」
歯切れの悪い返事をする晴。
何か言いたそうにしている彼女の言葉を兎角は待った。
晴「兎角さんはいいの?」
兎角「なにがだ」
なぜ晴と鳰が仲良くする事に自分が関係するのかと思うと、素直に訝った表情が出てしまった。
晴「鳰と仲良くしてたよね?」
晴の表情は不機嫌で、以前責められた時の事を思い出した。
兎角「あ……。お前、まだ……」
いまだに根に持っているなんて思わなかった。
晴「キスされてた」
兎角「さ、されてない!首だけだ!」
慌てて否定をするが、晴の表情は不機嫌なままだ。
むしろさらに怒っている気がする。
晴「首にはキスされたんだ?」
しまった。
カマをかけられた事に気付いて、兎角は頭から血の気が引いていくのを感じた。
確か、当時は抱きつかれた事しか指摘されなかったはずだ。
兎角「あ、あれはその、あいつが勝手に……」
あの時も同じような言い訳をした気がする。
きっとそういう問題ではない事も分かっている。
晴「兎角さんのバカ……」
兎角「すまない……」
自分の油断で晴を不安にさせた事が情けない。
拗ねる晴に謝る事しか出来なくて、兎角は俯いた。
そんな兎角を見ながら晴は少し考え込んで、にこりと笑った。
晴「じゃあ、晴のお願い聞いてくれる?」
------------
金星寮。
兎角「まさかまたここへ来る事になるとはな……」
玄関に立ち、入り口を見ながら当時の事を思い出す。
初めて会ったその日から、晴は今と変わらないくらいに人懐っこい笑顔で寄ってきた。
自分を殺しに来た暗殺者だと分かっているはずなのに、どういう神経をしていたのか未だに理解できない。
ただ、それが晴の強さと優しさだという事は分かっている。
鳰「と、兎角さん!?なにしてるっスか!」
聞き覚えのある声と口調を背中に受け、振り返るまでもなくその顔を思い浮かべる。
兎角「お前……。何してるんだ?」
声のした方に顔を向けると、予想通り見知った顔がそこに立っていた。
あんなに殺意をぶつけ合った相手なのに、なぜか懐かしい。
鳰「聞いてるのはこっちっス。なんでここにいるっスか」
兎角「……困ったな。お前に見つかってしまったら晴との約束は反故にするしかない」
以前に武智乙哉が出戻ってきた時には強制退場を食らっていた事を思い出す。
きっと晴は残念がるだろうが、ここで揉め事を起こしてしまう方がよほど問題だろう。
鳰「なんスか?晴に呼ばれたんですか?」
警備員を呼ぶなり、幻術でも使うなり、何かしらのアクションがあるかと思いきや鳰の反応はどうという事はなかった。
性格の悪い笑い方や、おどけた態度も見られない。
裁定者なんて薄気味悪い立場でなければ案外まともに会話が出来るのかもしれない。
兎角「ああ。部屋の片付けをしたいんだそうだ」
鳰「え、そんなに汚いんスか?」
兎角「もう卒業だろう。だから荷物をまとめるのを手伝えと言われた」
晴からのお願いというのはそれだけだった。
何か思うところがあるんじゃないかと、一度だけ聞いてみたが答えにくそうにするだけだった。
嘘や誤魔化しでなければ無理に聞く必要もなくて、兎角はまた晴の言う事を大人しく聞くしかない。
これは女王蜂と働き蜂という関係ではなく、単に性格の問題だろうと自覚していた。
晴には逆らえない。
恋をした呪いのようなものだ。
鳰「あー、そういう事っスね」
鳰は納得すると黙り込んだ。
しかし立ち去る様子もなくて、兎角はもう少し話してみる事にした。
兎角「……晴とはよく話すのか?」
鳰「いえ?たまたま会った時に話すくらいっス。ウチは負け組っスからわざわざ連絡取ったりはしないっス」
急に機嫌悪そうに口を尖らせる鳰。
あの時の事でも思い出しているのか、胸の辺りに手を当てている。
疎ましい感情があるのかもしれないが、こちらだって銃を向けられたしナイフを散々振り回されたのだからお互い様だ。
きっと鳰も分かっているはず。
そんな事を気にするよりも、鳰には聞きたいことがあった。
兎角「お前は晴が好きなのか?」
いきなりの問いかけに、鳰は目を丸くした。
ただ驚いているだけで慌てている様子もない。
その態度で答えは出ている。
鳰「兎角さんに言われるとどういう意味なのか悩むっスね」
兎角「恋愛感情はあるのか?」
言い直すと鳰は笑うわけでもなく、呆れるわけでもなく、少し黙った後に、ふぅっと息を吐いた。
鳰「それはないっス。安心するといいっスよ」
兎角「……」
鳰「なんスかその顔。嘘だと思ってるっスか?」
別に訝って黙っているわけではない。
何も言わないだけでそんなに不機嫌に見えるのだろうか。
兎角「そうじゃないが、前にお前が私にやたらちょっかい出してきてたのがどういう意味なのか気になったんだ」
ただでさえ裁定者として不審に思っていたが、変にすり寄ってきた事に関しては鳰にメリットがあるとは思えなかった。
鳰「単なる嫌がらせっス」
兎角「それだけか?」
さらっとした返答がかえって不自然で、兎角はまっすぐ鳰の目を見つめ返す。
人を騙すのが得意なはずの鳰がわずかに怯んだように後ずさり、視線を下に逸らした。
鳰「どうせ二人の関係がギクシャクするの分かってましたし、兎角さんと晴の仲違いがウチのせいだったら面白いなーって思っただけっスよ」
兎角「それじゃお前が晴に嫌われるだけだろう」
鳰「それでいいっス。晴が嫌いなのがウチならいいんスよ」
そう言って笑う鳰の顔は少しも楽しんでいるようには見えない。
むしろ寂しそうにすら見えた。
それでもその目は今までに見た事がないくらいに穏やかで、晴が鳰を気に掛ける気持ちが分からなくもなかった。
彼女は誰かの記憶に残りたいのかもしれない。
ならば別に嫌われる必要はないはずだった。
兎角「お前、晴の友達になれ」
次の瞬間、時間が止まったかのように鳰の動きが止まった。
目は真ん丸に見開かれ、びっくりした猫みたいに硬直している。
数秒経って、目が乾いてくる頃に鳰は何度か瞬きをして口を開いた。
鳰「正気っスか。ウチ暗殺者っスよ?」
兎角「私だってそうだ」
鳰「晴を殺す依頼があったらどうするっスか」
兎角「断ればいいだろ。別に全ての依頼を受ける必要はない」
鳰「そうもいかない事もあるっしょ」
言い返せば言い返すほど、鳰の顔は不機嫌になっていった。
怒るというよりは呆れているような表情。
鳰の言い分はもっともだったが、晴の望むようにしてやりたいと思う。
それに兎角自身にも鳰を放っておけない想いがあった。
鳰「依頼があれば、ウチは晴を殺しに行くっスよ」
鳰の目は濁っていたが、腐った臭いはしなかった。
鳰は晴を殺す事を望んでいるわけではない。
それが分かれば十分だった。
兎角「じゃあその時は私がお前を殺してやるから遠慮なく来い。一生負け犬扱いしてやる」
兎角が鳰の目をもう一度まっすぐに見据えると、今度は怯む事はなく興味ありげに見つめ返された。
鳰「一生か……。長いっスね」
そう言って兎角を見て笑う鳰の顔はとても清々しくて、きっと本人も気付いていない。
屈託なく笑う鳰なんて初めて見るものだから、兎角も釣られて口角を上げてしまっていた。
兎角「ああ。ずっとお前の事は覚えていてやる」
鳰「負ける気なしっスね。分かったっス。晴が良ければ友達になるっスよ」
鳰は少し照れくさそうに頭を掻いて、体を兎角から逸らした。
そろそろ話も終わりか。
息をついて金星寮の奥を見る。
長話をするためにここに来たわけではない。
兎角「もう行くよ。晴が待ってる」
鳰「そうっスね」
一緒に寮に入るかと思いきや、鳰は兎角に背を向けた。
どこへ行くのか聞いてしまいそうになったがそんな事を気にする義理もなかったと思い直す。
彼女の都合や考えている事なんてどうでもいいのだから。
なのに、
兎角「……またな」
そんな風に声を掛けてしまう自分が不思議だった。
そして鳰も同じ思いなのか、振り返ったその顔は恐らく本心から驚いていた。
鳰「また、会う気があるんスか」
兎角「そういう機会もあるかもしれないだろ。晴の友達なんだから」
そう言いながら彼女に対する不思議な気持ちを、自分の言葉で納得させる。
鳰「兎角さんも友達っスか?」
兎角「私はお前が嫌いだ」
即答だった。
はっきり嫌いだと言える事が、こんなにも気持ちの良いものだとは思わなかった。
気付けば口元が緩んでいる。
そして鳰も堪えきれずに小さく吹き出した。
鳰「はっきり言うっスね。まぁ、兎角さんは無愛想な方がいいっス」
ほんの数秒向かい合って視線を交わらせると、鳰が再度兎角に背を向ける。
鳰「じゃ、またいつか」
ひらひらと片手を振って歩き出す鳰の足取りは軽快で、楽しそうにも見えた。
そんな様子に目を細め、兎角も鳰に背を向けて金星寮へと入った。
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1号室の前まで来ると、またさらに感慨深くなった。
誰もいない廊下は不気味に静まり返っている。
扉の色、形、辺りの匂い。
何気なく掴んでいたドアノブの冷たさも懐かしい。
兎角が生きてきた中で、この学園で過ごした時間がどんなに特別だったかを認識する。
それを噛みしめるようにゆっくりと扉を開くと、よく知った内装が目に入り、直後物音に気付いて顔を覗かせる晴の姿も映った。
晴「兎角さん。遅かったね」
気付けば約束の時間はとっくに過ぎていた。
厳密には決めていなかったから催促の連絡はなかったが、きっと待ち遠しかったんだろう。
兎角「少し、人と話していた」
部屋に入り、ソファに座ると晴も隣に座った。
広いソファなのに肩の位置が近くて、わずかに胸の奥が熱くなる。
テーブルに用意された紅茶を淹れる晴の動作を眺めながら、彼女に見惚れている事に気が付く。
晴の匂いに引き寄せられそうになるのを堪え、視線を紅茶のポットに移した。
晴「もしかして鳰?」
兎角「ああ。偶然会ったんだ」
晴「喧嘩しなかった?」
保護者のような物言いに兎角は眉をひそめた。
兎角「お前は私をなんだと思ってるんだ」
晴「自分の胸に聞いてみてください……」
初めて鳰に会ってから、彼女と仲良く話した事なんて一度もない。
ずっと胡散臭い裁定者としか見ていなかったし、殺し合いまでした。
だから晴の言い分は十分に分かる。
それでもさっきは穏やかに話が出来たのだから言い返したい気持ちもあったけれど、仕方がないと思って兎角は諦めた。
兎角「お前と友達になればいいって話をしてきたんだ」
晴「なんで?」
心底不思議そうな顔をして晴は顔を近付けてきた。
少し意識してしまって、兎角は晴から顔を逸らす。
兎角「余計な事だとは思ったんだが、あいつにも思うところがあったみたいだから……」
晴は自分の友達くらい、自分で作れる。
お節介だった事を自覚して、兎角は言い訳のようなものを軽くまくし立てながら晴を見た。
晴「晴と鳰はもうずっと友達だよ?」
そっちか。
てっきり、鳰になんでそんな話をしたのかと言いたいのだと思っていた。
もう友達なのに、という意味だったようだ。
兎角「ああ、お前はそういうやつだったな……」
だから苦労をしてきたし、救われもした。
暗殺者に怯みもせず仲良くしようとする無防備さに何度も呆れて、何度も感心して、晴の温かさを感じた。
そんな事が兎角にとっての幸せだったのだと思う。
晴「兎角さんは?」
兎角「私は友達じゃない」
鳰のニヤついた顔を思い浮かべながら即座に否定してみせる。
鳰のニヤついた顔を思い浮かべながら即座に否定してみせる。
晴は紅茶をカップに注ぐ動作を一旦止めて兎角を見た。
晴「でも気になってるでしょ」
嬉しそうに笑う晴の顔を見ていると、全部見透かされているみたいで居心地が悪かった。
鳰の事は好きでもないし、友達になりたいわけでもない。
でも気になったのは事実で、言い当てられたのが癪だったから兎角は表情を変えずに低い声で答えた。
兎角「そんなことあるわけないだろ」
しかし晴は納得した様子は見せず、疑うようにじっとこちらを見ている。
目を逸らしたら負けだと言い聞かせて、泳ぎそうになる視線をなんとか固定させる。
晴「……浮気?」
兎角「それはもう勘弁してくれ……」
兎角は手で顔を覆うと、大きくため息をついてがっくりとうな垂れた。
------------
晴「ありがとう。兎角さんのおかげでもうほとんど片付けられました」
荷造りは思った以上に早く済んでしまった。
晴が物を溜め込んだり散らかしたりするタイプではない事はよく知っている。
兎角「私が手伝う必要はあったのか?」
まとめられた荷物をポンポンと軽く叩きながら尋ねると、晴は寂しそうに笑った。
晴「うーん……。兎角さんと過ごした部屋で、一人で片付けるのつまんなくて……」
兎角「……そうか」
普段からここで過ごす事も、授業を一人で受ける事にも寂しさを感じていたのかもしれない。
言いにくそうにしていたのは心配をかけたくなかったからなのだろう。
どうしたって兎角には何も出来ない。
晴「来てくれてありがと」
兎角「いや。私も来て良かったと思ってる」
少しでも晴の力になれた事もそうだが、鳰の事も思わぬ収穫だった。
晴「兎角さん、手が汚れてる」
晴がこちらへ寄ってきて、兎角の手を取った。
言われて見てみれば、腕にも埃が付いている。
きっと机の隙間に落ちたものを拾った時についたのだろう。
兎角「晴も……」
よく見ると晴の頭にも細かい埃が乗っていた。
晴「シャワー浴びてくる?」
そんな一言で心臓の音が大きくなった気がする。
どうしようかと少しの間考えて、ここで断るのも変に意識しているみたいだったから兎角は頷いておくことにした。
それにせっかく片付けた部屋を汚したくはなかったし、汗をかいたからすっきりしたい気持ちもあった。
兎角「晴が先に使えばいい」
晴「兎角さんが先でいいよ。晴、荷物の再確認しておくから」
晴は兎角にタオルを渡すと、積まれた荷物のそばに座って中身の確認を始めた。
それならばと、兎角は洗面所に向かう。
扉を開く直前で晴の背中を見ながら兎角は一度息を吐き、緊張を解いた。
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浴室に入ってパネルに手を当て、操作方法を確認する。
ここの使い方もしっかり覚えている。
晴の事を思い浮かべながら、自分の心の全てがこの部屋に残っている事を思い知った。
部屋の何かに触れるたびに、その時に何を考えていたのかを思い出していた。
今もそうして少し苦い思い出が頭をよぎる。
左手を目の前に上げて陰鬱な気分で開いた時、同じタイミングで浴室の扉が開かれた。
入ってきたのは当然晴だ。
兎角「晴!?なんでっ……」
何もまとわない状態の晴を直視できずに背を向ける。
そんな様子に気付いているはずの晴は何も気にする事もなく兎角に並んだ。
晴「順番に入ってると、たぶん晴が入ってる間に兎角さん帰っちゃうかなーって」
どきりとした。
兎角「そっ、そんな事は!」
慌てて否定しようとするが、自分でも分かるくらいに声が上ずっている。
晴「あ、ちなみに、兎角さんの服は洗濯しておきました。乾くまでしばらくかかります」
兎角「なに勝手に——!」
晴「ほら。帰る気満々だ」
言い返す事が出来なくなって、兎角は押し黙った。
確かに、晴が言う通り適当に用事でも作って早々に帰るつもりではあった。
晴「ねぇ……分かるよね?晴、誘ってるんだよ……」
一歩近付いてくる晴の体に素直に目を向ける。
触れたいと思う気持ちはもちろんあった。
晴「抱いてくれないの?」
晴は手を伸ばしてパネルを操作し、シャワーを止めた。
静まり返った浴室内では、ちょっとした息遣いですら響いてしまいそうだった。
晴「キスもあんまりしてくれなくなったし……」
兎角「外で会う時は、そういうのよくないだろ」
晴「じゃあ今は?」
兎角「……」
後ろめたい気持ちが視線に出る。
晴はそれを察して、自身の胸元に手を当てた。
晴「傷が気になるの?」
兎角の付けた傷は今も残っている。
晴は兎角の左手を握り、胸に抱いた。
晴「この傷は兎角さんが晴を救ってくれた時のものだから、大事なものなんだよ」
まっすぐに見つめる晴の目は輝いていた。
柔らかな笑顔は慰めなどではなくて、晴の本心なのだろう。
兎角「傷が大事……」
晴「うん」
晴にしてみればきっとどの傷にも意味があるはず。
辛い記憶や忌まわしい気持ちもあるに違いない。
そんな中で言ってもらえる言葉があるなら、兎角にとってそれは救いだった。
兎角「痛かっただろ」
ゆっくりと指先で傷をなぞる。
晴「痛かったし、苦しかった。でも嬉しかったよ」
兎角「そう……か」
晴「兎角さんの手は?」
兎角「傷が少し残ってる」
手を開いてみると、晴に付いたものよりずっと薄い傷が残っていた。
晴のナイフを受け止めた時に付いた傷。
しばらく放置したせいで治りは遅かったが、段々と薄れて消えて行く程度の浅い傷だ。
晴「見ると辛い?」
兎角「あぁ……」
思い出しただけで手が震えそうだった。
胸が押しつぶされそうで息が詰まる。
晴「もう大丈夫だよ。ありがとう。こんなに想ってくれて」
兎角「晴……」
晴「兎角、大好き」
満面の笑みを向けられて、視界が明るくなった気がした。
ずっと自分の事ばかり考えていた。
今大切にするべきは目の前にいる女の子なのだ。
その笑顔に触れようとして、思いとどまる。
晴「兎角さん?」
少し息を呑んだだけなのに、晴はそんな変化にも敏感だった。
兎角「さっさと体洗って出るぞ」
不審な態度だとは自覚していたが、さっきまでの空気と違う事も分かっているのか晴は笑って「うん」と返事をするだけで、特には何も言ってこなかった。
いきなり性的な気持ちが湧いてきたなんて晴が知ったら呆れてしまうかもしれない。
晴に背を向けたまま無言で体を洗い、シャワーで泡を流していく。
晴と一緒にシャワーを浴びているから肩が触れ合っているのだが、今は無心を貫いた。
全ての泡が流れていく頃に、暖かい手が兎角の背中に触れる。
兎角「晴……?」
ゆっくりと背中から腰の辺りまでをなぞり、晴は胸を密着させてきた。
明らかに誘っている。
晴「兎角さん……」
耳元で囁く声に理性が持っていかれそうだった。
さっきまであんな態度取っておいて、いきなり襲いかかるのもどうだろうかという思いがある。
今日のところは抑えたくて、ぐっと目を閉じた。
晴「我慢できなくなってきちゃった……」
懇願するような声が脳の奥まで響いてくる。
早く振りほどいてここを出ればいいのにそんな事すらも出来ない。
晴「一人でしてても全然気持ち良くなかった……。兎角さんの指じゃないと気持ちよくなれないよ……」
一瞬で頭に血が昇るのを感じた。
こんな事を言われて無視できる余裕なんてなかった。
兎角「晴……っ」
乱暴にパネルを叩いてシャワーを止めると、兎角は晴の名前を呼んで彼女の首元に吸い付いた。
晴「んっ……」
濃く残った赤い跡を舐め、今度は胸の先を咥え込む。
もう片方の胸に手を這わせ、強く掴んで根元から押し上げるように揉みしだいた。
晴「あっ……!あ……ンっ!」
刺激を与えるたびに晴の体は崩れ落ちそうになるくらいに震えた。
強引にキスをして晴の体を抱きしめる。
優しくする気なんて毛頭ない。
あんな誘い方をする晴が悪いのだから。
舌を差し込んで口内を掻き回し、息をつく間もないほどに貪り続けた。
晴「んっ……ふ……ぅんッ」
晴の顔が上気していく。
下半身に手を伸ばして、指でそこを開く。
割れ目をなぞると、水とは違うぬるりとした液体が指にまとわりついた。
兎角「濡れてる」
晴「……やだ……」
晴は兎角の肩に顔を隠すように押し付けた。
恥ずかしがるその姿が可愛らしくて、兎角は意地の悪い質問をしてみる事にした。
その前に中心に当てた手を引く。
兎角「一人でって、どんな風に?」
晴の体がビクッと震えた。
兎角の腰に両手が回り、強く抱き寄せられる。
晴「聞かないでよー……」
きっと晴の顔は真っ赤なんだろう。
白い肌がほんのり赤く染まっている。
それが楽しくて、面白くて、嬉しくて、兎角はさらに攻め立てた。
兎角「指、入れるの?」
すぐそばにある晴の耳元に囁きかけて、そっと耳たぶを食む。
腰に回された腕に力が入り、晴が感じやすくなっている事に気付いた。
晴もきっと興奮で体が我慢できなくなっている。
晴「……うん……」
兎角「してみて」
晴「や、やだ……!恥ずかしい……」
兎角「このままでいいから。顔は見ない」
晴は少し迷ってから、兎角に回した片腕を解いて自分の中心へと移動させた。
晴「ん……」
息の混じった声が漏れる。
それを抑えるように晴は兎角の首に噛み付いた。
兎角からは晴の中心も、顔も見えなくて、本当に入っているのかも分からない。
声を出す代わりに、吐息と舌の動きが兎角の首をくすぐる。
兎角「自分の指じゃ気持ち良くない?」
晴「分かん……ないっ……」
これだけ艶かしい声を出しておいて、感じていないわけがない。
兎角は約束を破って、晴の体を離した。
晴「見ないって——!」
兎角「ごめん。やっぱり見たい。続けて」
理不尽な言い方だと自分でも思う。
しかしもう火がついた晴の体は止まらなかった。
晴「あっ……ぁ……!は……っん……」
だんだんと声に熱がこもる。
晴の前に膝をついて、指が出入りするところをじっと見つめる。
兎角「気持ちよさそうだけど?」
晴「だ……って、兎角さんが……ぁっ、見てる……っ!」
兎角「一人でしてるの見られて、興奮するんだ?」
晴の顔を見上げると泣きそうなくらいに目を潤ませていて、余計に兎角の加虐心を誘う。
晴「兎角さん、ひどい……」
兎角「うん……」
晴は兎角の前に濡れた指を差し出し、兎角はそれを舐めた。
久しぶりの晴の味が愛しくて、股に顔を寄せた。
兎角「脚、開いて」
晴は赤い顔をさらに紅潮させて、少しだけ脚に隙間を作る。
兎角は晴の割れ目に指を当てて、浅い部分をそっと撫でながら陰核に舌を這わせた。
晴「あっ……ふ……!やっ……ぁ!」
少し刺激しただけなのに晴の膝が震えた。
なんとか兎角の肩に手を添えて崩れ落ちるのは我慢しているが、続けるのは難しそうだった。
兎角「やめるか?」
晴「やめたい……?」
兎角「やめたくない」
晴「じゃあ、ベッドいこ……?」
------------
晴「んっ、く……」
兎角は晴の存在を確かめるように全身を手でなぞった。
そして胸にある新しい傷に視線を落とす。
鋭利な刃物でついたその傷跡は、他のものと比べると小さくて薄い。
それでも兎角にとってはどの傷よりも存在感があった。
兎角「痛くはないか?」
晴「もう大丈夫だよ。ちゃんと治ってるから」
兎角「うん……」
ずっと避けていたその傷にそっと口付ける。
舌を当てて、動物が傷を癒すように何度も舐めた。
晴「……っ、くすぐったいよ……」
兎角「晴、好きだよ」
言葉が唐突過ぎて、晴が目を丸くしている。
しかしすぐに頬を染めて、嬉しそうに笑った。
この気持ちはもう疑う必要はない。
晴の傷がその証明だった。
晴「……うん……」
晴の目の端から涙が流れた。
兎角「なんで泣くんだ?」
晴「幸せだから……」
よく分からなかった。
幸せなのに、晴がどうして泣くのか。
兎角「私はどうしたらいい?」
そう聞くと今度は少し笑った。
晴「兎角さん、すごく困った顔してる」
兎角「本当に困ってるからだ」
何をしてやれば泣き止むのか分からない。
兎角が迷っていると、晴の手が伸びてきて首を引き寄せられた。
お互いの体が密着する。
晴「大好き」
兎角「……うん」
晴の声が心の中まで浸透してくる。
不安はもうどこにもない。
晴「晴は、晴の力で兎角さんの『好き』を縛り付けてるんじゃないかって思ってた」
それは兎角自身も疑っていた。
晴「晴は兎角さんが大好きだけど、兎角さんの気持ちは晴が作ったものだったらって思うと後ろめたくて……」
黒組の開始当初から晴はその能力の存在を知っていた。
そうでないと思いながらも、兎角が晴を護ろうとするたびにそうやって心を痛めてきたのかもしれない。
兎角が体を起こそうとすると、晴の腕の力が緩んだ。
手をつき、晴に覆いかぶさる形で彼女の顔を見下ろす。
兎角「今は私達の気持ちは一致している」
こんな言い方しか出来ないのがもどかしい。
プライマー能力の有無は重要ではない。
晴が大事に想う人が、同じように晴を大事に想っている事が重要だったのだと思う。
兎角「どう言えば伝わる?」
晴「全部は伝わらないよ、きっと」
あっさりと否定されて、思わず眉をひそめる。
しかしそう言う晴はとても嬉しそうに見えた。
晴「兎角さんがそう考えてくれるだけで十分」
兎角「よく、分からない……」
晴「じゃあ、兎角さんは?晴が何て言えば兎角さんは嬉しい?」
兎角「別に……。私はお前のそばにいたいだけだ。それを受け入れてくれるなら、言葉はいらない」
そう答えると、晴は満足そうに笑った。
晴「兎角さんがそばにいてくれたら、それが兎角さんの気持ちなんだよね。晴は他に何を貰えばいいの?」
兎角「そんな事でいいのか?」
晴「一番大事なことじゃない。兎角さん、幸せなんでしょ?」
兎角「うん……」
晴「なら、それでいいんだよ」
まだ分からない事はたくさんある。
でも少しは理解出来た気がする。
明日はまた少し理解出来るかもしれない。
晴となら毎日、色々な事を知っていけるんだろうと思う。
晴「ねぇ、兎角さん?この状態って、結構辛いんだけど」
そう言いながら晴は自分の膝を擦り合わせた。
晴「……えっち、したいな……」
兎角「——!!」
心臓から一気に血が広がっていくような感覚。
次の瞬間には、二人の舌が絡み合っていた。
晴「は……ぁ……ん!んっ!」
貪るように深いキスを繰り返しながら、兎角は晴の胸を揉んだ。
柔らかくて、暖かい。
何度も揉んでいると、手の平に硬くなった先の感触が伝わってきた。
胸から手を離し、先だけを指で押しつぶしてぐにぐにといじり回す。
晴「んんっ!ふ、……ぅんっ!」
塞がれた口から嬌声が漏れる。
兎角は晴の唇を解放すると、胸へと移動して先の部分を強く吸った。
晴「あぁっ……」
興奮が抑えられなくて、少し強めに歯を立てる。
もう片方の胸は手で揉み続けた。
晴「ひぁっ、ンっ!ぅ……あっ!」
声に痛みが混じっている。
乱暴になっている事は自覚していたが、止められなかった。
めちゃくちゃに抱いて、自分を強く刻み付けたい。
晴の腰に空いた手を回すと、彼女の手が兎角の頰に触れた。
顔を上げると晴が潤んだ目でこちらを見ていた。
晴「兎角さん、こっちにお尻向けて……」
兎角は晴に言われるままの体勢になった。
晴「ん……そう。腰、落として……」
二人の目の前には、お互いの中心部分がある。
兎角は興奮で息が上がっていくのを感じた。
晴のそこに舌を伸ばそうとした時、自分の中心に生暖かいものが這った。
兎角「ぁ……、は……っ」
晴がそこを舐めている。
晴「兎角さん、濡れてるね。晴のおっぱい舐めて興奮してたの?」
兎角「そ、れは……っ」
兎角は跳ねる自分の体を抑えて、晴の中心に舌を当てた。
晴「んっ……」
濡れているどころか、そこからは体液が流れ出していた。
それを全て舐め取ると、兎角は晴の中に舌を差し込んだ。
晴「あぁっ!……や、兎角さ……っ」
兎角「晴、止まってるよ」
そう指摘すると、また晴は兎角の大事な部分を舐め始めたが、兎角が晴を刺激するたびに動きは止まり、小さく声を上げた。
もっと鳴かせたくて、兎角は晴に指を一気に差し込んだ。
晴「んンっ!?」
晴の中がびくりと反応し、指の隙間から体液が溢れてくる。
晴「あぁんっ!!あっ……!ずる……ぃっ!!」
兎角「こうして、欲しかったんだろ?」
指に肉壁が絡みつく。
中で指を曲げ、激しく往復させるとその度に体液がそこから流れ出した。
さらに指に力を入れようとした時、兎角は自分の中に何かが入ってくるのを感じた。
兎角「あ……ぅっ!」
すぐにそれが晴の指だと気付いた。
晴「と、かくさんっ……」
兎角「んくっ!は、る……っ」
お互いの指が中を掻き回す。
晴「あっ、あっ……!!だ、め……!イッちゃ……ぅっ!!」
腰が浮き、肉壁が激しく収縮し始めた。
指が締め付けられ、それと同時に下腹部の奥に晴の指が入り込んでくる。
兎角「はぁっ……、ぅ、ぁあっ!」
晴「んくぅ……っ!!あ……、ぁ……っ」
びくんっと晴の腰が震え、直後に体がぐったりとベッドに沈んだ。
兎角「あ、ぅくっ……」
晴の指が下腹部からずるりと抜けていく。
兎角はまだ達してはいなかったが、晴に夢中でそんな事は二の次だった。
正常位に戻して、力の抜けた晴にもう一度挿入する。
晴「と……かく……?」
兎角「ごめん……全然足りない。まだしたい」
晴は緩慢な動きで兎角の指と、そこから繋がった部分を指でなぞった。
晴「ん、もっと……欲しい……」
ねだるように晴の腰が揺れた。
最初から遠慮なんてするつもりはなかったが、手加減も出来そうにない。
人差し指と中指を奥まで突き込んで、中で押し広げながら出し入れを激しく繰り返す。
晴「ぅあっ!!あっ……!ひ……ぁぁっ!!」
晴の両脚を大きく開き、全て見えるくらいに腰を引き寄せた。
晴「やだっ……!とか……く……っ!!」
自分にしか見せない晴の姿に、兎角は興奮していた。
晴の全てが愛しくて、どんなに抱き締めても心が止めどなく溢れてくる。
こうやって欲望をぶつける事でしか今は表現できない。
兎角「晴……っ、はるっ……!」
まだ足りない。
体勢を変えて晴をうつ伏せに組み敷いて、腰を上げさせる。
晴「あんっ……!ふぁ……あっ!ん……っ!!」
晴の手がシーツを強く掴んでいる。
快感に体がついていかなくて、晴は何度も身をよじった。
悲鳴じみた嬌声を抑えるために、自分の腕に口を押し付けている。
苦しそうに喘ぐ姿を見ても、兎角の手は止まらなかった。
晴「ああぁっ!んんっ!!く……あぁあっ!」
晴の体が強張っていく。
中が痙攣して指を強く締め付けてくる。
そして晴は2回目の絶頂を迎えた。
晴「はぁ……はぁ……、と……か……」
名前を呼ぼうとするその声はかすれていて、目は虚ろに閉じかけている。
兎角は紅潮した晴の顔を眺め、限界を悟った。
ゆっくりと指を引き抜こうとすると、晴が手でそれを抑えた。
晴「……抜いちゃ、だめ……」
兎角「お前……。どうなっても知らないぞ」
兎角は晴に口付けると、また指で中を掻いた。
晴の中も腿も、兎角の手も晴の体液にまみれていてどこが境界が分からなくなってきた。
もう晴しか見えなくて、悲鳴みたいな喘ぎ声と、兎角と混じり合う水音だけが室内に響く。
その後は、ただただお互いを貪り続けて、晴の意識が飛んでしまうまで行為を続けた。
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唇に柔らかい物が触れる。
眠りが浅かった事もあってすぐにそれが晴の唇だという事は理解できた。
晴「もう夜だよ」
目を開けるとすっかり夜も更けていた。
目の前にいる晴も同じ体勢で寝転んでいるから、彼女も目を覚ましたばかりらしい。
スタンドの明かりをつけて晴の顔を覗き込む。
兎角「大丈夫か?」
晴「ん……、ちょっと無理かも……」
もぞもぞと毛布の中で体を寄せ、晴は兎角に抱きついた。
肌同士が触れ合って、晴の体温が直接伝わってくる。
兎角は晴を受け止めながら、その温もりに愛しさを感じた。
ずっとこのままでいたい。
しかし時計を見るとそうも言っていられない時間だった。
兎角「帰らないと……」
独り言のように呟くと、晴が身を起こした。
晴「ダメだよ。深夜に女の子一人で出歩くのは危ないよ?」
両手をついて覆い被さるような体勢で諌めてくるが、兎角の視線に気付いて片腕で晒された胸を覆った。
晴「えっち」
兎角「お前が言うか……」
ため息混じりに応えると晴は慌てた顔をして息を吸った。
晴「は、恥ずかしいから忘れてください!」
兎角「無理だろ」
ここであんなにも乱れていた晴は印象的で、とても可愛かった。
兎角「私は、あーいう晴も好きだから別に構わない」
晴「兎角さん……」
兎角「それに、晴の体は女性的で色気があるから私もつい——」
晴「もっ、もういいです!やめてください!」
しがみ付くように抱き着かれて、一瞬息が詰まる。
驚いて兎角がまばたきを繰り返していると、晴が頬に軽く口付けてきた。
晴「兎角さん、素直過ぎて晴が恥ずかしくなるよ……」
兎角を抱きしめる晴の腕に力が入る。
あまり言うと、怒らないにしても拗ねてしまうかもしれない。
晴のあんな姿が見られなくなるのは困る。
晴「とにかく。一人で遅い時間に出歩くのはダメですよ?」
話を逸らそうとしているのは分かっている。
しかし兎角を心配する真剣な眼差しが本物だと知っているから、大人しく頷く事にした。
兎角「わかった。じゃあ明日は一緒に出る」
晴「兎角さん、学校は?」
兎角「いいよ。どうせ問題児だ」
学校生活を大事にしている晴には悪いが、遅刻したってサボったって構わないと思っている。
晴「そうなの?」
兎角「ダメな人生なんだって」
カイバの言葉を思い出す。
ダメだとか、間違っているとか、正直に言うと当時は不愉快だった。
きっと晴は今、それと同じような気持ちでいるのだろう。
晴「そんな風に言われたの?」
自分のために眉根を寄せて不機嫌になる晴を見て、胸の奥が温かくなった。
代わりに怒ってくれる人がいる事がこんなにも嬉しい。
兎角「いやいいんだ。確かにそうだったから」
晴「今は?」
自分自身で何も決める事が出来ずに過ごした空っぽの人生は晴のおかげで終える事が出来た。
他人がいる事はずっと枷だと思っていた。
人の気持ちを背負う事が強さになるなんて思ってもみなかった。
大切な物があるだけで、表情も行動も、話す言葉のニュアンスだって全てに色が付く。
晴の質問にはまだ答えられない。
これから求めるのは自分だけの人生ではないから。
兎角「晴。卒業式の後、迎えに来るよ」
晴「うん……」
吐息と一緒に漏れる優しい声。
噛みしめるみたいに身を縮めて兎角の首に鼻先を当てる。
何も言ってこないのは、兎角の言葉に続きがある事を察しているからだろう。
兎角は晴のふわふわした髪の毛を撫でて、そっと息を吸った。
兎角「その後は、ずっと一緒にいよう」
世界が優しくないなら、晴にとって何よりも優しい存在でありたいと思う。
晴からの返事はない。
震える吐息と温かい涙がその答えだった。
終わり
142 : ◆P8QHpuxrAw - 2015/01/26 23:23:24.15 D3znLltS0 103/103
以上でございます。
毎回、いつ怒られるかと思いながら書いていましたが、見て下さる方皆様優しくて嬉しかったです。
長々とお付き合い頂きましてありがとうございました。
まだまだリドル熱は冷めませんので、ネタさえひねり出せれば次も書いていきたいと思っています。
またそのうちに次のSSを投下しますので、その時に気が向いたら見てやって下さい。
今後ともよろしくお願いします。