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さやか「絶望?飲み干してやるよ」
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さやか「絶望?飲み干してやるよ」
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私にはもう一人の私がいる。
それは別の世界の可能性。
この世を呪って生まれた私。
そして。
私の成れの果て。
そんな「私」と私は生まれた時からずっと一緒だった。
さやか『まったく、やってらんないよ』
さやか『死んだと思ったら自分の人生をもう一度繰り返すなんて』
うるさいな。
あんたは遠くから眺めてただけでしょ。
さやか『ふふ、まあそれも悪くない』
とにかく私は「私」とずっと一緒だった。
初めは受け容れることができなかった。
それは私が「私」の事を勘違いしてたから。
まるで神様のような視点で見る「私」を。
許せなかったから。
何様のつもりだと思ってたから。
だけど。
私は「私」を受け入れた。
私は「私」と前へ進む。
ひとまず終わった私たちの物語は。
暗い夜を吹き飛ばして。
輝く未来を確かに捉えて。
そして更なる夜を迎える。
最強最悪にして災厄の象徴。
その夜は祈りも願いも関係なく。
そしてその夜はゆっくりと確実に。
私の音楽をかき消して行く。
杏子「にしてもさー」
だるそうな顔をして杏子はお茶をすする。
放課後はだいたい四人でマミさんの家でお茶をするのが当たり前になってきた今日この頃。
それは私が欲しかったもので。
当たり前のように存在する。
掛け替えのない幸せ。
杏子「この街魔法少女多くないか?」
マミ「そうねぇ…」
確かにこの街、というかこの市、見滝原は平均的に見ても魔女が多く出現する。
だから魔法少女の数も多いのだけど。
杏子「魔女が多いからってこんだけ魔法少女がいればいつか争いになると思うけどな」
分かっている。
私たち三人が争う事は多分ないだろう。
まどかは魔法少女ですらないし。
杏子「…イレギュラーがどう出てくるか、分かったもんじゃねぇしな」
暁美ほむら。
QBが契約した覚えのない謎の魔法少女。
あの日、「私」とほむらは初対面ではなかった。
それはつまり。
さやか『…』
それはつまり、あいつの事を「私」は知っているということ。
何か知ってるの?
さやか『…ほむらが転校してきてから二週間たった』
2週間。
短いように感じるが。
私が魔法少女の存在を知り、そして「私」を受け容れるまでにかかった時間。
案外長いものだ。
さやか『…あと…2週間…』
こいつはいつもそうだ。
肝心なところは教えてくれない。
さやか『…ほむら』
私が「転校生」と呼ぶ「暁美ほむら」の事をこいつは「ほむら」と呼ぶ。
それが何を意味するかは分からないけれど。
分からないけれど、「私」と転校生との大雑把な関わりは見えてくる。
それにしても。
ほむら。
炎、ね。
燃え上がれーって感じ?
さやか「…ふん」
燃え上がるどころかあの氷よりも冷たい目に。
炎の要素なんて一つもない。
冷めた炎、ほむら。
皮肉もいいところだね。
そう言えばあんたも冷めた目で見てたっけ。
さやか『私はただ眺めてただけ』
ふぅん。
その割には随分冷めてたみたいだけど。
さやか『…ごめん』
さやか『…本当の事をいうと…』
言わなくてもいいよ。
同じ人生だもんね。
二度も見たくないもんね。
さやか『…』
だけど。
私にはあんたがいた。
私には「私」がいた。
それだけでどれだけ救いになったことか。
魔法少女の成れの果てであるあんたが味方に付いてくれたこと。
これはきっと奇跡だよ。
さやか『…うん…!』
成れの果て。
私はまだマミさんにも杏子にも伝えていない事実を知っている。
きっとそれを聞いたら絶望してしまうであろう事実を。
魔法少女の魔女化。
希望を願った魔法少女は。
いずれ世界を呪い、絶望を振りまく魔女となる。
それがどれほどの恐怖で。
どれほどの怒りなのかは痛いほど知っている。
私が、「私」が知っている。
マミ「うふふ、佐倉さんたら」
杏子「いや、ほんとだってば!」
まどか「あはは」
だからこそ。
この事実は誰にも言えない。
この真実は伝えられない。
魔女を殺す魔法少女が魔女になる。
こんな負の連鎖。
伝わる前に、私が断ち切ってやる。
その身を絶望に落とす前に、死んでやる。
さやか『…前例はないらしいよ』
前例はない。
魔法少女から魔女へ変わる。
それはどうあっても覆らない残酷な真実。
前代未聞。
なら。
私が前例になってやる。
やっと手に入れた中身を。
大事な人達を。
その人生を。
絶望で終わらせるもんか。
絶望?飲み干してやるよ
それで私が魔女になってしまっても。
それはそれで案外悪くない人生だったって思えるほどの。
そんな音楽を私達は知ってるから。
放課後。
マミさんの家でお茶会をしたあと、私達はパトロールに出た。
杏子「ったく、使い魔を倒すなんて勿体ねぇ」
相変わらず杏子は使い魔狩りに対して文句を垂れていた。
さやか『あはは、変わんないなぁ』
マミ「もう、使い魔狩りも立派な魔法少女の仕事よ」
杏子「ちっ、分かってるさー」
悪態はつきつつも杏子は笑顔でその歩みを進める。
似た者同士だからわかること。
私と似ていたから杏子の気持は凄く分かる。
意地っ張り。
強情な奴め。
さやか「…あは」
変な笑いがこみ上げる。
とっても不思議で。
すごく暖かい。
そんな笑いが確かに込み上げる。
マミ「…どうしたの?美樹さん」
悟られないように。
私は込み上げてくる笑いを抑えながら答えた。
さやか「あはは、何もないですよ」
杏子「変な奴」
抑えきれなかった。
大好きだよ。
皆、大好き。
単純だろうか。
安易だろうか。
だとしても。
この思いに嘘はない。
マミ「こっちね…!」
三人でパトロールに出てから数十分、マミさんのソウルジェムが魔力の痕跡を捉えた。
杏子「へぇ、大物だな」
結界の大きさを見て杏子がそう呟く。
マミ「…」
さやか「…マミさん?」
マミ「…隠れていないで出てきたら?」
すっ、と。
廃工場の奥。
飲み込まれるような闇の中から人影が現れる。
その髪の毛はその闇に溶け込むように黒くて。
瞳は紫水晶のように強くて冷たい光を灯していた。
ほむら「…」
杏子「…あんたがイレギュラー、ってやつかい?」
ほむら「…」
暁美ほむらは語らない。
転校生は語らない。
すべてを達観して。
すべてを上から見ているかのように。
冷めた目でこちらを見る。
ああ。
冷めた目で見てる神様のような奴、ね。
そっくりだよ。
さやか「…何の用?転校生」
私が嫌いだった奴に。
さやか『…ほむら』
何様のつもりだ。
神様のつもりか。
冷炎ほむら?
くだらない。
いつまでも冷めた炎で居るのなら。
さっさと。
さやか「…」
その灯火を消してしまえ。
ほむら「…貴方達は…」
転校生は歯切れ悪くそう言った。
紫水晶のような瞳は強く冷たく、そして寂しそうだった。
杏子「ここでやり合うってのか?」
杏子が喧嘩腰に突っかかる。
そうだ。
忘れるな。
ほむらがどうあれ。
コイツはイレギュラーなんだ。
何をしてくるか分かったもんじゃない。
ほむら「…貴方達にお願いがあるわ」
マミ「…お願い、ね」
どの口が言うのだろう。
私はあの時襲われたことを忘れてなどいないのに。
ほむら「…まどかを…」
忘れてなどいない。
恨んですらいる。
私の大切なまどかを。
私の支えを襲ったことに対して。
例えこいつにどんな目的があって。
どれほどの大義があろうとも。
こいつに心は開けない。
だけど。
どうして。
ほむら「…守ってあげて」
そんな顔するんだよ。
誰だって抱えているモノがある。
誰だって何かを抱えて生きている。
みんな何かを抱えてる。
私だって成れの果てを抱えてる。
魔法少女はやむにやまれぬ事情を持つ奴だけにふさわしい。
いつだったか杏子はそう言った。
杏子だって。
マミさんだって抱えてる。
それに向き合って、それでも前を見て生きてる。
ほむら「…それじゃあ」
すっ、と転校生、暁美ほむらは闇の中へ消えた。
停滞。
停止。
時が止まる。
流れ落ちる時の中で生きている私たち。
だけれど転校生がいるだけで時が止まる。
諦観?
傍観?
達観?
あいつが何を抱えているかは知らないけれど。
気に入らない。
何様のつもりなんだよ。
あんたは何を抱えてるんだ。
いつか暴いてやる。
あんたの心を覗いてやる。
嫌がっても。
拒否されても必ず。
さやか『素直じゃないね』
私はもう。
後悔なんてしたくない。
何故だか分からない。
考えが纏まらない。
空白。
私の音楽には足りない。
空白に当てはめる音がある。
私の音楽には転校生が必要だ。
もう一度始まるプロローグ。
いつ終わるかもわからない。
だけどそれでも。
始まりの終わりはまだ来ない。
もっと、音色を。
もっと、色彩を。
さやか「神様じゃ、ないんだろ」
カラフルに。
色鮮やかに私の世界を染め上げる。
その為に。
冷めた炎じゃない。
燃え上がるあんたが必要だ。
杏子「結局なんだったんだ?」
魔女退治も無事に終わり、棒状のお菓子を食べながら杏子は言う。
マミ「…さぁ」
杏子「何か知らないのか?QB」
QB。
そうだ。
例えどれだけ魔法少女に協力的であっても。
この事実だけは覆らない。
QBは魔法少女の契約を結ぶ。
そして。
魔法少女は魔女になる。
QB「さぁね、僕が彼女の事について話せることは何もないよ」
どんな顔をしているのだろう。
心の奥底では笑っているのだろうか。
魔女の卵であるわたし達を。
孵化するのを待っているのだろうか。
さやか『…』
ぎりり、と。
歯を食いしばる音が聞こえた。
成れの果ては。
冷めた目で。
神様のような視点から。
私達の事を見ていた。
それは。
諦めとか。
呆れから来るものだったかもしれない。
感情を表に出さないが故に、無関心。
心を押さえ込むが故に、無愛想。
そう思ってた。
だけど。
さやか『…Q…B…!』
どす黒い感情が次々に溢れてくる。
絶望とまでは行かないけれど。
怒り。
悲しみ。
恐怖。
後悔。
「私」に何があったのかは知らない。
私は何も知らない。
それは約束だったから。
もし私が一人になったら。
あんたのこと教えてよ。
私が「私」の事を知らないという事は。
それは私が幸せだっていうことだよね。
さやか「私の音楽には」
だったら。
次はあんたの番でしょ。
私の音楽には足りないんだよ。
さやか「あんたも、ほむらも必要だ」
因果じゃない。
心がそうさせる。
さやか「もう誰も、一人ぼっちになんてさせない」
私の祈りが確かに響く。
私の中に響く。
これ以上ない決意。
渇望。
希望。
それでも。
圧倒的存在の前には。
簡単に消え去ってしまう程に私の音楽は脆かった。
だって。
最後は。
最後には。
ある一人の少女の犠牲によって、この物語は幕を閉じたのだから。
例えば移り行く世界の中で。
その世界の動きを、私だけが知っているとしたら。
例えば流れ行く時間の中で。
その時間の進みを、私だけが知っているとしたら。
それはどれほど不幸なことだろう。
そして。
例えば移り行き、流れゆく世界や時間の動きや進みを。
私だけが繰り返せるとしたら。
それはどれほど残酷な事だろう。
ほむら「…今度こそ」
何度も願った。
何度も誓った。
だけれどその度にその思いは残酷な運命によって潰えていく。
どうして私は絶望しないのだろう。
私なんてどうなってもいいのに。
まどかさえ助けることができれば、もう。
分かっている。
私の中に諦めが生まれつつあることくらい。
私の中の時間が停滞しつつあることに。
だからこそ、冷徹。
だからこそ、冷静。
だからこそ、冷血。
ほむら「何様のつもりかしら」
あの子の。
あの子達の時間を繰り返して。
あの子達の思いを無為にして。
それでも私は繰り返す。
誰の同意も得ずに。
誰の了承も得ずに。
神様のつもり?
自虐的に自分に問いかける。
それはもう希望と言うにはあまりにも自分勝手な願い。
いっそ絶望してしまえ。
全力で生きるから。
だからもし、私が絶望したのなら。
その時は。
許して。
何回通ったかもわからない通学路。
見飽きるほどに、飽きるほど変わらない風景。
それでも視界の片隅にあの子が映ってくれれば。
私は救われた気持ちになった。
ほむら「…それさえも」
それさえも。
冷めてしまうほどに私は達観してしまった。
凍てつく炎。
何も燃やせない役立たず。
見せかけだけの希望。
私に、ぴったり。
さやか「よ、転校生」
不意に名前を呼ばれて私はたじろぐ。
何度も何度も聞いたこの言葉。
そしてこの声。
転校生。
私のことを「ほむら」と呼んでくれるあなたも確かにいたけれど。
それは遠い遠い過去の今。
もう、私は。
そんなことさえ許されない。
ほむら「…何の用?」
早くこの会話をおわらせたい。
あなたなんかと話したくない。
無駄に希望を持ってしまうから。
早く…!
さやか「なんだよ、クラスメートに声かけるのに」
さやか「用も何もないでしょ?」
ほむら「…おはよう」
何をしている。
言葉を交わすな。
心を冷やせ。
達観しろ。
いっそ、神様になってしまえ。
何が起こっても、何がどうなろうとも一切関しない。
冷えた神様。
それが。
さやか「おーはよ」
私?
そうだ。
案外。
私が。
この世界を作っているのかも。
だって私は。
世界を何度もやり直しているのだから。
時さえ止まる。
時さえ。
もう何も。
動かない。
もう何も。
変わらない。
私は何なんだ。
どれほどのことをしているのか分かっているつもりか。
頭ではわかってる。
心でもわかってる。
分かっているからと言って。
辞める理由にならないことも。
分かってる。
止まってる。
いや。
もしかして。
もう既にあの時。
彼女が死んでしまった時から。
止まっていたのかもしれない。
なんて皮肉。
なんて温度。
ほんと、私ってーーー
さやか「冷たいなぁ」
ほむら「…え?」
さやか「挨拶くらい返してくれてもいいじゃんか」
冷たい。
冷え過ぎた心。
さやか「白昼夢でも見てたの?」
けたけたと。
彼女はそう笑う。
夢。
なるほど確かに夢と言う言葉で片付けるのも悪くない。
これが覚めない夢ならば。
それが冷めた夢ならば。
私はただこんな夢を作り出す自分自身を呪っていれば良かったのに。
それだけで、良かったのに。
ほむら「…」
足早にその場を去る。
私はもう関わってはいけないから。
関わったら後悔するから。
関わったおかげで貴方達が何度。
何度死んだと思ってる。
後悔する。
あなたが、じゃないわ。
ほむら「…さよなら」
この時間にもさよならを告げる。
もう私には何の手立ても残されていない。
準備に取り掛かるのが遅すぎた。
もう。
遅すぎた。
さやか『…あいさつ、ね』
そ、あいさつだよ。
私はあいつから挨拶をもらいたい。
さやか『…先に挨拶してきたのは向こうなんだけど…』
分かってないなぁ。
あれはさ、社交辞令みたいなもんだよ。
もっと言えばただの反射。
私はさ、あいつから言葉を貰いたい。
大したことじゃなくてもいい。
くだらない事でも良い。
ただ。
挨拶のあとに、もっと続く。
そんな言葉が欲しいんだ。
さやか『…止めはしないよ』
「私」が勧めて。
私が進む。
これって素敵なことだと思わない?
私たちの音楽がもっともっと素敵になると思わない?
さやか『さぁね』
絶望から生まれて希望で終わる音楽。
なんだ、案外。
音楽って簡単じゃん。
さやか『やっぱ、あんたって私と違うわ』
そりゃあね。
同じ世界なんて有り得ない。
絶望を糧にしてなお笑え。
希望を盾にしてなお笑え。
止まる時間も冷えた炎も、それが全て私の音楽になる。
音楽は。
私の人生だ。
私は昔からあなたが苦手だった。
それは私には到底できないことを成し遂げるあなた。
それは私の心を揺り動かしそうになるあなた。
そんなあなたが苦手で。
羨ましかった。
だからこそ、遠ざける。
私はあなたは通して私を見る。
あなたという像を通して、私を見る。
あなたとは違いすぎる私を見る。
「さよなら」
何度もさよならを言った。
その度にあなたは怪訝な顔をするだけだった。
そうだよね。
「さよなら」をいうほど。
私達は。
分かり合えていないから。
この世界のあなたも。
きっと怪訝な顔をするだけなんだろう。
きっとそうなんだろう。
仲良くなんてなれないから。
だったら。
「さよなら」に意味なんて、ない。
いつになっても。
凍てつく炎は。
冷めた炎は。
覚めない私は。
あなたと分かり合えない。
私は。
凍てつく炎。
私は。
私は…。
さやか「…さよならってなんだよ…!」
腕を掴まれる。
恐怖が私を支配する。
未来を語る私が拒絶される。
そんな恐怖が。
それと同時に。
さやか「…こっちを見てよ」
それと同時に。
私の心が。
少しだけ。
さやか「…"ほむら"…!」
少しずつ。
確かに。
熱を帯びてきた。
ほむら「…さやか…」
やめろ。
何の意味もない。
そんな事をしても後悔するだけ。
希望を持つだけ無駄。
私の望みは。
この世界では叶わない。
その筈なのに。
ほむら「…お願いがあるの」
何の願いだ。
私の願いは。
まどかを助ける、それだけだ。
それ以外にない。
その願いは。
まどかのためじゃない。
私自身の願いでしょ?
ほむら「…私を」
黙れ。
口を開くな。
何の為に冷めた炎になったと思ってる。
どんな苦難にも物怖じしないだけの。
罪の重さに潰されないだけの。
そんな心を持つためだろ。
どうして。
私は。
私は何度。
私は私の弱さを見せ付けられなければならないの?
さやか「…ほむら」
さやか「…あんたは神様じゃないんだよ」
さやか「そんな目で、そんな温度で」
さやか「この世界を見ちゃいけないんだよ」
さやか「…あんたは、ほむらなんだよ!」
なんにも知らないくせに。
私の苦労なんてなんにも知らないくせに。
眩しいほどの笑顔。
さらに激しく。
私の心は揺れ動く。
それはもう。
私の意志じゃ抑えきれないほど。
ほむら「…助けて…!」
さやか「助ける!」
もう。
本当に、馬鹿なんだから。
マミ「…」
杏子「よう、マミ」
私のことを呼び捨てで呼ぶのは佐倉さん。
年下だけれど生意気などと思ったことはない。
杏子「考え事か?」
いえ。
もう一人、居たわね。
マミ「…どう思う?暁美さんのこと」
目的も何もわからない。
QBですら知りえない過去を持つ少女。
だけれど。
何故か懐かしく感じる。
まるで前世で関わりがあったと思えるほどに。
色濃く、感じる。
杏子「…イレギュラー、ねぇ」
やっぱり佐倉さんは気に入らないのかもしれない。
元々優しい子だから。
暁美さんのような冷たいタイプの人間は苦手なのかも。
杏子「…なぁ、マミ」
マミ「なぁに?」
杏子「…あいつ、どこかであったことねーか?」
ある訳が無い。
ある訳が無いんだ。
だってそれは。
絶対にありえないことだから。
それは。
あってはいけないことだから。
マミ「…えぇ、私もそう感じていた」
頭では分かっていても。
心がそう叫ぶ。
杏子「…ほっとけない」
放っておけない。
佐倉さんは私と同じ思いを口にする。
杏子「…あいつがほんとに冷たいやつならさ」
もう、分かってる。
言いたい事は。
痛いほど、分かってる。
そう。
彼女が本当に冷たい人なら。
本当に冷めた人なら。
杏子「あんな顔、するはずねぇ」
それは。
希望すら潰えて。
絶望をも通り越して。
もはや諦めさえも無くなって。
ただ一つの悲しみだけが読み取れる。
そんな顔。
マミ「…佐倉さんはどうしたい?」
聞かなくても。
それはもう決まってる事なのに。
決まってる事なのに、私はあえて聞く。
迷わないように。
彼女の口からそれを聞きたいから。
杏子「…笑わせてやりたい」
…。
え?
杏子「あんな顔する暇もないくらい笑わせてやるんだよ!」
本当に。
あなたって真っ直ぐで。
マミ「…じゃあ、笑わせましょう」
素敵だわ。
マミ「二度とあんな顔させないように、ね」
体が軽い。
私はもう。
一人ぼっちじゃないもの。
さやか『どうして』
さやか『どうしてあんたはほむらって呼んだの?』
色々理由はあるよ。
だけど一番は。
あんたがほむらの事を嫌いじゃ無さそうだから。
さやか『…たったそれだけで?』
それだけ。
それだけだよ。
私とずっと一緒にいたあんたが。
ほむらの事を嫌いじゃないなら。
それはほむらがいいやつってことじゃないの?
さやか『…わかったよ』
さやか『…私も言いたいことがあったんだ』
さやか『ほむらに、伝えたいことがあったんだ』
それも教えてくれないの?
さやか『さぁね』
さやか『だけど、私はもう後悔したくない』
残酷な世界。
こんな残酷な世界だからこそ。
色濃く映える色も。
音楽も存在する。
色鮮やかな音楽はこの世界をカラフルに照らし出す。
みんなが都合よく。
一斉に前を向ける時なんて滅多に来ないけれど。
それでもありえないことじゃない。
もしそれが本当にありえないなら。
さやか「『私たちが前例になってやる』」
それは私たちが初めて口に出した決意。
初めて揃った願い。
この音楽がたとえかき消されようとも。
私の心は。
潰えない。
5
「ごめんだね、諦めるなんて」
赤い魔法少女は口悪くそう言った。
4
「死なないわ、誰も」
黄の魔法少女は凛々しく言った。
3
『さぁ、見せてもらうよ』
青い成れの果ては遠目からそう言った。
2
「二度と諦めない」
紫の魔法少女は冷たく言い放つ。
1
「行こう」
私は、そう言った。
例えそれが可能性の低い未来だとしても。
私は諦めない。
絶望。
そんなものは魔女にでも食べさせろ。
私は魔法少女。
希望の象徴。
どれほど辛くたって。
絶望なんてしてやるもんか。
可能性が低くても。
0
さやか「0じゃないっ!!」
あぁ、心地いい警報。
気持ちいい警告。
私の中で最大限鳴り続ける音。
目の前の魔女に対して警報を鳴らす。
その音すら。
ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
私の音楽にしてあげる。
まどか「…ねぇ、QB」
ただ一人、力になれない私は遠くから彼女たちの戦いを見続ける。
それはとっても辛いことで。
耐えがたい。
QB「なんだい、まどか」
私は知っている。
魔法少女はいつか魔女になっちゃうって事。
いつか世界を恨んで呪っちゃうって事。
まどか「…あの魔女に、勝てるの?」
それは魔法少女として生きてきた皆にとっては耐えがたい真実。
QB「可能性は低いだろうね」
まどか「…もういいよ、はっきり言って」
QB「…」
QB「…あの四人で勝つ可能性は、0だ」
QB「彼女達だけでは荷が重すぎる」
やっぱり。
さやかちゃん、マミさん、ほむらちゃん、杏子ちゃん。
あれだけ強い四人でも、勝てないんだね。
QB「…だけど、君が契約すれば」
まどか「契約は、しない」
しない。
人に流され流れて。
自分で決めたことなんてほとんどない私が。
きっと初めて、強い意志で決めた事。
QB「…そうかい」
QB「…気が変わったら」
まどか「変わらないっ!」
自分でも驚くほどの声が出る。
胸が苦しくなる。
声がかすれる。
恐怖で足がすくむ。
まどか「…私は、みんなを信じてる!」
何もしないで遠くから見てる私。
それってとっても卑怯な事。
分かってる。
命をかけて戦ってる「5人」を差し置いて。
自分だけ安全なところで見ている。
そんな自分が一番ずるいって。
まどか「…分かってる…!」
私は、絶対に契約しない。
それが「さやかちゃん」とほむらちゃんの。
お願いだったから。
ーーーーーーー
ーーーー
ーー
さやか「…ん」
さやか「…ふぅ」
久々の感覚。
腕を動かすのも足を動かすのも自分の思いのまま。
嬉しい。
でもそれより。
さやか「…んっ…はぁ」
こんな美味しい紅茶をもう一度飲むことが出来る。
それが何より、嬉しいよ。
ほむら「…久しぶりね、さやか」
さやか「そーだね、ほむら」
二人して目を合わせてくすりと笑う。
二人しか知らない秘密。
それを共有しあってるかのような。
そんなくすぐったい感覚。
杏子「…なぁ、さっき言ったこと、本当なのか?」
マミ「そうね、信じ難いわ」
さっき言ったこと。
それはほむらが世界を繰り返してるということ。
そして私が前の世界の私だということ。
さやか「本当だよ、杏子」
杏子「な、なんか感じ違うぞお前…」
少し驚いてよそを向く杏子。
初い奴め。
さやか「私は、さやか」
さやか「前の世界の「美樹さやか」だよ」
絶望に飲まれ、世界を呪った魔法少女。
その成れの果て。
それが私。
前の世界の、美樹さやか。
まどか「…えっと、じゃあ、ほむらちゃんは…」
まどかがたじろぐ。
そう、ほむらは敵じゃない。
ほむら「…ごめんなさい、まどか」
ほむら「怖がらせちゃったわね」
まどか「…ううん、ほむらちゃん、学校で優しかったから」
まどか「…でもどうしてQBを狙ってたの?」
そう。
それが最大の難関。
どうやってショックを受けさせずに魔女化の真実を伝えるか。
伝えないとほむらの目的も信憑性がなくなってしまう。
さやか「これをみて」
私は「私」のソウルジェムを机に置く。
器は一緒だがそれは美樹さやかのものではなく。
間違いなく私自身の物だった。
杏子「…お前っ…!これっ…!」
一度絶望に落ちた魔法少女。
確かに私は今自我を持ち。
魔法少女のような姿をしているが。
それでも中身は魔女。
当然ソウルジェムはどす黒く濁っている。
さやか「あはは、「私」はこれがデフォなの」
マミ「大変!急いで浄化を…!」
さやか「どうして?」
そこをつく。
魔法少女として最大の疑問を口にする。
どうしてソウルジェムを浄化する?
魔力が使えないから?
使わなければいいだけ?
黒くなったら魔法が使えない?
黒くなったら、どうなるの?
マミ「…?」
さやか「…それはね」
さやか「魔女になるから」
時が、止まる。
ほむら以外が凍りつく。
さやか「ソウルジェムは濁りきると、グリーフシードになる」
杏子「なっ…!?」
魔法少女は魔女になる。
いずれは知っていたであろう真実。
だけれど今知るべきでない真実。
それを私は口にする。
さやか「驚かないで聞いて」
さやか「魔法少女は、魔女になるんだ」
痛いほど知ってる。
「私」はそれを身を持って経験したから。
あのどす黒い感情に支配される感覚も。
思考がめちゃくちゃになる感覚も。
身を持って、経験した。
さやか「…ほむらはまどかを魔法少女にさせないために」
さやか「QBを殺そうとしたんだ」
殺す。
そんな事であいつらを止められるはずもない。
だけれど。
思考を止めてでも、取り敢えずQBを殺すという。
その気持ちは分かる。
マミ「そ、そんな…」
マミさんが声を震わせる。
ほむらは言っていた。
「巴マミに真実を伝えるときは、気を付けて」
知ってるよ。
強がってるマミさんのこと。
だけど、それを含めて。
私の大好きなマミさんなんだ。
マミ「…私達は…仲間を殺していたってこと?」
マミ「いつか私も…魔女になる…?」
ばしゅん、とマミさんが変身する。
見てみると少しだけ頭のソウルジェムが濁っていた。
ほむら「…真実よ」
マミ「…だったら…!私は今まで何の為に…!」
マミ「…そんなの…もう…」
やめて。
やめろ。
そんな事のために、私は。
この世界を見続けていたわけじゃない。
マミ「死ぬしかないじゃない!」
いつかは今じゃない。
それは絶対に起こることだけど。
だけど、だからって。
今を否定する理由なんかに、なり得ない。
だったら。
さやか「…絶望しなければいいんだよ」
私が、全部飲み込んでやる。
私が。
さやか「絶望?飲み干してやるよ」
さやか「もう誰も、絶望なんかさせない!」
絶望する暇もないくらい、希望で埋め尽くしてやる。
ーーー
ーーーー
ーーーーーー
思い返してみれば。
私はまるで神様のような立ち位置で、この世界を眺めていた。
何度も世界を繰り返すうちに。
いつしか冷めていた。
ほむらなんて笑わせる。
燃え上がったことなんて無かったくせに。
神様の温度。
それは冷めすぎて。
冷たすぎて。
世界を達観していた私を表すには充分過ぎた。
絶望しないからと言って。
希望を持たないんじゃ話にならない。
ほむら「…うっ…」
ほほを熱いものが伝う。
どうして。
目の前の敵を屠る事だけを考えなければいけないのに。
どうして私はないてるの?
ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
この熱も、久しぶり。
あったかい。
さやか「ほむら!行くぞ!」
燃える。
燃え上がる。
凍った心が溶けだして。
冷えた炎が燃えだして。
そうだ。
私は。
ほむらだ。
暗闇を照らす。
ほむらだ。
私は。
ほむらだ!
ーーーーーーーー
杏子「…う…ぐ」
マミ「…はぁ…」
ほむら「…くっ…」
あれだけやっても。
目の前の魔女は倒せない。
災厄の象徴は。
私の音楽を軽々と吹き飛ばす。
さやか「…強いなぁ」
QB「当然だよ」
QBが姿を現す。
QB「君たちが勝てる相手じゃない」
QB「普通の魔法少女では手が負えないよ」
黙れ。
だとしても。
やらなきゃいけないんだ。
私は。
もう二度と、空っぽになったりなんかしない。
私の音楽は、まだ止まない。
さやか『…普通の魔法少女じゃ、手に負えない』
さやか『だってさ、どうする?』
私は。
あんたが嫌いだった。
さやか『知ってるよ』
いっつも見下した位置から見てるあんたが大嫌いだった。
だから。
きっと、断られても仕方ない。
さやか『…』
さやか「力を貸して」
さやか『いいよ』
どうして?
どうして断らないの?
さやか『あんたが、ほむらに手を差し出したから』
さやか『ほむらが燃え上がったから』
さやか『それ以外に、理由なんている?』
絶望の化身。
ぶち壊れた私の心。
あんたを眺めているうちに、少しずつ。
私は心を取り戻したんだ。
絶望の化身である私が。
希望を振りまく。
これってさ。
すごい嬉しいことだと思うよ。
さやか『任せて』
さやか『そして』
さやか『さようなら』
今度こそ、全てを希望で終わらせる。
オクタヴィア「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
何と言えばいいのか分からない。
私のソウルジェムから繋がって。
不気味な魔女が現れる。
QB「何が起こっているんだい?」
QB「彼女は、誰なんだ?」
やめてよ。
自分で言ってたじゃん。
魔法少女から魔女への変化は不可逆だって。
もう二度と戻れないんだよ?
QB「意思を持つ魔女か」
QB「興味深いね」
オクタヴィア「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
目の前の魔女が、ワルプルギスへと突っ込む。
体の大きさはあれど。
私達よりは押しているように思えた。
オクタヴィア「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
QB「…自ら呪いを募らせるなんて」
QB「彼女は何を呪っているんだい?」
QB「何に絶望してしまったんだ」
絶望?
違うよ。
あいつはきっと、絶望なんかしていない。
あいつ?
そうだ、私は一度も呼んだことがなかった。
さやか「…さやか…」
頬を伝う涙。
それすら吹き飛ばす轟音。
音楽は絶望も希望も取り込んで。
より人間らしい色へと染まっていく。
ありがとう。
私は。
幸せ者だ。
『 』
いつか聞いた時みたいに。
その声は少しずつ遠ざかっていく。
もう会えないとしても。
だとしても、私はあんたを覚えてる。
絶対に、忘れない。
絶望は、希望へ。
私達は、私だけに。
空っぽは、埋まって。
そして。
「さやか」は、消えた。
例えば。
集中してる時に。
例えば。
びっくりした時に。
自分を遠目で見ちゃうことってない?
それってちょっと怖かったりしない?
私はさ、それがずっとあったんだ。
それがずっと嫌だった。
どんな事をしても。
冷めた自分が遠くから眺めているようで。
それがずっと嫌だった。
「さやか」は消えた。
跡形もなく。
役目だけを終えて消えた。
あいつが幸せだったのかどうかは分からない。
だけど、確かに。
後悔はしていない、そう思う。
音楽はこれからも続いていく。
私が関わった全てを詰め込んだ。
派手で。
優しくて。
苦しくて。
でも人間らしい、私の記録。
私の音楽。
さやか「私って、幸せだよ」
これからは。
あいつの分まで生きてやる。
あいつがしたくて出来なかったことも。
嫌味ったらしく楽しんでやる。
そうして、私が死んだとき。
言ってやる。
「お帰り」って。
言ってやる。
これからも私の物語は続く。
楽しいことも辛いこともある。
だけど、その度に思い出す。
私ならざる私のことを。
別の可能性の私を。
この音楽は。
きっと死ぬまで終わらない。
きっと多くて語れない。
きっとちょっとやそっとじゃ、語れない。
だからここで。
ひとまず、お終い。
『ありがとう』
さやか「…こっちこそ」
さやか「今まで見てくれて、ありがとう」
155 : ◆WtqXBsnRH2i5 - 2015/01/14 05:47:17.23 qsSqZod6O 31/33おしまいです
終わりました
元々低かったクオリティがさらに下がりました
今まで見てくれてありがとうございます
質問あったら受け付けます
楽しかったです!
157 : 以下、名... - 2015/01/14 07:17:53.14 axcwgB9BO 32/33乙ー
いい感じに中二くさくて個人的には
良かったと思うな。
160 : 以下、名... - 2015/01/15 03:27:36.85 O0NW8q96o 33/33おつおつ
さやかちゃんかっこいい!



久しぶりにいいものを読ませていただきました、作者乙