関連
錬金術師「経営難に立ち向かう事になった」新人鉱夫「その3!」【前編】
…
……
…………
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―――【 本社地下 社員管理室 】
…ガチャッ
女店員「し、失礼しま~す……」
錬金術師「…この部屋も久々だな」
中央商人「へぇ、ここがセントラルカンパニーの社員名簿の倉庫ねぇ……」
女店員「…広い」
コォォォォ…ォォォ………
錬金術師「そりゃそうだ。ここはほぼ全ての社員情報の記録がされている場所だからな」
錬金術師「奥に行くほど古くなるわけだが……」
女店員「ほえ~……」
女店員「…」
女店員「…そういえば店長、よくココに入れたね?」
錬金術師「…まぁ元々俺は幹部候補員だったし、あのクソ親父のご子息様ってことになってるしな」
錬金術師「だが、受付の人にしろ現役社員にしろ、ここまですんなり通すとは思わなかった」
錬金術師「…親父のやつめ、どういう風の吹きまわしだ…?」
中央商人「…」
錬金術師「…ま!とりあえず探すとしますか!」
女店員「ど、どこから…?」
錬金術師「…事業拡大前後ってところか」
錬金術師「錬金術関係の仕事についている人間は、洗いざらい出してくれ」
女店員「…あ、それとさ店長」
錬金術師「ん?」
女店員「気になってたんだけど、どうして社員名簿なの?」
錬金術師「お?」
女店員「色々言ってたけど、なんで社員名簿なのかハッキリしてなくて……」
錬金術師「…あぁ、説明してなかったか。」
錬金術師「俺が社員記録に目を付けたのには、可能性としてとても低いが、それしか追える情報がなくてな」
女店員「…どういうこと?」
錬金術師「可能性としてとても低いし、多くの該当者が出る可能性がある」
女店員「うん?」
錬金術師「…まず、逆に質問だ」
錬金術師「たとえばの話、お前に子供が生まれたとする」
女店員「…はい?」
錬金術師「その子供を預けることとなった時、」
錬金術師「接したことのないけど、とても有名な人間と、接した経験がある人間、どちらに預ける?」
女店員「そりゃ、接したほうに預けるでしょ…」
錬金術師「まぁ、普通はそうだな」
女店員「うん」
錬金術師「俺は、錬金術のマスターとして有名だった」
錬金術師「だがそれは、あの機関での話であって…特別に接した人間は身内以外ほとんどいなかったわけ」
女店員「うん」
錬金術師「…俺が多くの人間に接したのは、いつだと思う?」
女店員「それは、今とか錬金術関係者になる前の、社長さんと一緒にいた時代でしょ?」
錬金術師「そうだな。それで、獣人族の子は錬金術関係者なら育てられるであろう可能性がある」
女店員「う、うん」
錬金術師「…そして、さっきの白衣の男。あれは錬金師で、俺のことを知っていた」
女店員「うん」
錬金術師「あれは、事業拡大当時に入ったらしいがそれでピンと来た。」
錬金術師「俺と接し、俺が錬金術の道で有名になったことを知った同業者。その可能性があるのは……」
女店員「…当時、錬金事業の拡大前後の錬金術業の関係者…!」
錬金術師「…そういうことさ」ニヤッ
女店員「そ、そっか!店長と接してるし、その後の有名になった錬金術に関しても知ってるから…!」
錬金術師「正確にいえば、俺が親父の下を去る前に事業拡大の着手はしていた」
錬金術師「さっきの男は知らないが、錬金術に関しての人間に何人か接してはいたと思う」
錬金術師「だから、その当時とそれの以前に関して調べてほしいと言ったのさ」
女店員「なるほどぉ……!」
錬金術師「…当時の魔犬の記憶は腑に落ちないが、今は可能性はどれでも追うべきだ」
錬金術師「この行動が、無駄な時間になるかもしれないけどな……」
錬金術師「だがまぁ!ってなわけで…!」
錬金術師「おふた方、かなり面倒だと思うけど…よろしく!」
女店員「うん、わかった!」
中央商人「了解した」ニカッ
錬金術師「…では、開始っ!」ビシッ!
クー「んっ♪」
………
……
…
…
……
………
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――――【 その頃 錬金術師のお店 】
新人鉱夫「今頃、店長さんたちは社長さんと戦ってるんでしょうかねぇ」
銃士「帰りが遅いのは気がかりだが、まぁ店長たちなら大丈夫だろう」
新人鉱夫「…ですねっ」
銃士「…しかし、代わりに店番をするとは。」
銃士「この数日で慣れたけどね…」
銃士「…」
銃士「…って、お客も来ないのに慣れるも何もないか」ハハハ
新人鉱夫「あはは…。賑わってたら賑わってたで、錬金術に関して無知なのでどうしようもないですよ」
銃士「…」
銃士「…そうだ。錬金術に無知なら、私たちで得意なのを前面に売り出すか?」
新人鉱夫「…僕たちが得意なもの?」
銃士「店長がいない以上、"万が一"お客さんが来た場合に錬金術関係の販売は出来ないからね」
銃士「だったら、店の外にでも露店風にして、鉱石やらの素材を売るとか!」
新人鉱夫「!」
銃士「幸い、倉庫にも余ってるものはあるし。」
銃士「時間がたって劣化しちゃうものもあるんだから、売っちゃおうか?」
新人鉱夫「良い考えですけど、勝手にやって店長さんが怒りませんかね…?」
銃士「む……」
銃士「う、う~ん…。店長だったら……」
……
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錬金術師「…外で露店?銃士たちが売ってくれるのか?」
錬金術師「…」
錬金術師「…おぉ、ナイスアイディア!俺は中から見守ってるから、よろしく頼むわ!」ビシッ!
女店員「…店長も手伝うこと!わかってるでしょ」ギロッ
錬金術師「…はひ」
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……
銃士「…女店員が突っ込みを入れるところまで想像が出来たし、大丈夫じゃないか…」
新人鉱夫「…」
新人鉱夫「は、はは…。僕も想像できました……」
銃士「…よし、それなら決まりだ!倉庫の在庫を集めて表に出そう!」
新人鉱夫「今日は幸い天気もいいですしね」
銃士「お店の中より、外側に出したほうが見栄えもいいだろうし」
新人鉱夫「ですね」
銃士「よっし、暇な日々が続いてたけど…私らが出来ることを探してお店も盛り上げようかっ!」
新人鉱夫「はいっ!」
………
……
…
…
……
…………
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――――【 そして本社 地下室 】
女店員「…」
錬金術師「…」
中央商人「…」
ペラッ…ペラッ……
女店員「…」
女店員「て、店長…。これって終わりがあるの……?」ピクピク
錬金術師「…あれから数時間。名簿帳、何冊目の何人目だ」
女店員「7冊目の192人目…」
錬金術師「…1冊に30人、それぞれの個人情報がいらないほど詳細に関して記載してあって…」
錬金術師「そしてこの棚の多さ……。」
錬金術師「思った以上の作業だぞこれは……」
中央商人「まぁ、大変だとは思うが……」
中央商人「…しかし、凄い情報集だなコレは」ホウ
中央商人「一人一人の情報が、ほぼ記入漏れがなく詳細で追っている」
中央商人「…その家族構成から、家族の詳細まで。さすがだな…」
女店員「…でも、時々本社と関係のない人も出てきますよね」
女店員「何なんだろ?」
錬金術師「あぁ、これは親父が影響を及ぼした相手まで事細かに記載してあるんだ」
女店員「影響を及ぼした?」
錬金術師「んむ。例えば……これだ」ポイッ
…バサッ!
女店員「ん~?」
錬金術師「…それに記載されているのは11年前の、12月20日」
錬金術師「親父の合併された企業が、それで取引が出来なくなり、潰された会社の社員の情報だ」
女店員「え、そんな情報まで?」
錬金術師「こういった中小企業は、実は潰れたあとが一番怖い」
錬金術師「それが怒りの引き金となり、やがて大手を脅かす存在ともなりうる場合がある」
錬金術師「その際、その当時にどんな経緯で潰されたか、どううちと関わり合っていたのか、弱点はないのか」
錬金術師「色々と情報を残しておくことで、いずれ歯向かわれた時の切り札となりうるっつーことだ」
女店員「あ~……」
錬金術師「ま~しかし、今はそんな情報はいらな……」
…ペラッ
錬金術師「…」
錬金術師「…っ!」
バッ…バババッ!!サッ!
女店員「?」
錬金術師「…そ、そんな情報はいらないな!」
錬金術師「だから、次々と錬金術関係だけ洗い出すか、怪しい人物を見つけてくれ!」
女店員「店長、今…何か隠さなかった?」
錬金術師「…な、何が?」
女店員「何がって…」
錬金術師「…ちょっと、変なモン見つけたからな!それだけ!」
女店員「えっ、なになに?」
錬金術師「…い、いや!」
女店員「気になるよ!どんな情報?」
錬金術師「あっ…!い…いや……!」
…バサバサバサッ!!!ドシャドシャッ!!!
錬金術師「ん…?」
女店員「え?何の音……」クルッ
クー「♪」
…バサバサバサッ!!
錬金術師「あ、あらら…?」
女店員「ちょ、クー!名簿を全部棚から落として…、オモチャじゃないんだからダメでしょ!」
中央商人「はっはっは、さすがにクーにとっては退屈な時間だったようだな……」
クー「ん~♪」
ポイポイポイッ…バサバサッ…!
女店員「こーら!ダメだって!」メッ!
クー「!」
女店員「片づけないといけないんだから、ダメでしょっ!」
クー「…」ショボンッ
錬金術師「…ま、こんな場所で長い時間いたら遊びたくもなるわな」ハハ…
中央商人「長い戦いになりそうだし、一旦休憩するかい?」
クー「…」グゥゥ
錬金術師「…ご飯の時間のようだ」
女店員「あ、ご飯のこと忘れてた…」
錬金術師「集中してたしなぁ…。どれ、クーが吹っ飛ばしたの片づけて飯でも行くか…」フワァ
錬金術師「急げ女店員!早く片付けるのだ!余はお腹がすいたぞ!」
女店員「…店長も手伝ってくれる」ギロッ
錬金術師「はい」
トコトコ…ヒョイヒョイッ……
錬金術師「…」
ヒョイヒョイヒョイ…ポロッ…
錬金術師「おっと…」
…バサッ!
錬金術師「やれやれ……」
…ヒョイッ
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「……ん?」ピタッ
女店員「…店長、何動きとめてるの!早く片付けないと!」
中央商人「クーもお腹を空かせてるようだぞ」
クー「…」グゥゥ
錬金術師「…ちょっと待ってくれ」
ペラッ、ペラッ……!!
女店員「…どうしたの?」
錬金術師「…」
ペラッ…
錬金術師「…」
ペラッ……
錬金術師「…!」
女店員「店長…?」
錬金術師「…これ、怪しいな」
女店員「えっ?」
錬金術師「この本社で、新人として仕事に着いた16歳の錬金師。」
錬金術師「…今から約8年前、錬金術の事業拡大時に入社。」
錬金術師「元中央都市に所属し、生態系に関しての研究に努めていた…。」
錬金術師「入社後にすぐに退社。所属ギルドに戻り、生態系の研究に再び着手……?」
女店員「!」
錬金術師「生態系に着手…!可能性はあるぞ…」
錬金術師「俺の言っていた時期とも当て嵌まるわけだし、1つの可能性としてはー……」
…チョイチョイ
中央商人「…店長、店長」
錬金術師「…なんスか?」
中央商人「ふと思ったんだが、クーに名簿に乗ってる顔フィルム(写真)を見せればいいんじゃないか…」
錬金術師「…へ?」
中央商人「もし知っているなら、それで反応してくれるはずだと思うが……」
錬金術師「…」
中央商人「…」
錬金術師「…」
錬金術師「……知っていた!今から言うつもりでしたっ!!」
中央商人「」
女店員「」
錬金術師「…冗談です。はぁぁ、情報ばかり辿ってて根本的なことを忘れてたよ……」
中央商人「入社当時のものだが、いくらクーでもそれは分かるだろ?」
錬金術師「そうッスね。ってなわけでクー、おいで…」
…チョイチョイ
クー「…?」
トテテテ…
錬金術師「…この名簿にいる男の顔。誰か…知っているか?」
クー「…」ジッ
錬金術師「…前にやっただろ?知ってるなら首を縦に、知らないなら横に……」
クー「…パパッ」
錬金術師「うん、そうか」
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「……ん?」
クー「パパッ!」
錬金術師「…」
錬金術師「……うん、何だって?」
クー「ぱぱ…!」フンッ!
錬金術師「…はい?」
錬金術師「き、君の…パパ……?」
クー「んっ!」コクンッ!
錬金術師「なっ……!」
女店員「み、見つかっちゃった!?」
中央商人「はは……」
錬金術師「お、おい本当かっ!?」バッ!
クー「んっ」コクンッ
錬金術師「…お、お前のお父さんか!この人が!?」
クー「んっ!」
錬金術師「き、奇跡だ……!」
錬金術師「おいみんなっ!情報はしっかりあるし、この人が所属する機関にいこう!!」
女店員「…それしかないよね」
中央商人「この機関、幸い遠くなさそうだな。同じ中央都市だし、今日中に色々と分かりそうだ」
錬金術師「…おっしゃああ!クーの親父、引っ張り出してやるぜ!!」
クー「♪」
錬金術師(おっし、おっしっ!!)
錬金術師(とりあえず、クーと関連性のある人間を見つけることはできた!)
錬金術師(…)
錬金術師(…だが、俺と当時の魔獣の繋がりと関係があるのか?)
錬金術師(こう言ったら何だが、確かに社員とはいえ、こいつに見覚えはないぞ…)
錬金術師(…)
錬金術師(…やはり、俺の記憶が何かしらで抜け落ちてるってことなのか)
……………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
そして4人はわずかばかりの休憩をとり終えると、
中央都市東部の「東部 錬金術研究機関」へと足を運び――……。
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――――【 東部 錬金術研究機関 】
東部機関長「はっはっは、貴方のような有名人がまさかココへいらっしゃるとは!」
錬金術師「は、はは…」
東部機関長「嬉しい限りですよ、ささ、お連れの方もお茶をどうぞ!」
女店員「ど、どーもです…」
中央商人「…」ズズッ
クー「…んぐっんぐっ」グビグビ
東部機関長「…さてと、では!うちの機関に何かご用事でしょうか?」
東部機関長「もしかすると、うちに入りたいとかそういう…!」
錬金術師「あ、あぁいや……。ちょっと、お聞きしたいことがありまして」
東部機関長「…聞きたいことですか?」
錬金術師「確かにこちらに、当時セントラルカンパニーで働かれた後に戻られた…」
錬金術師「"青年錬金師"という方がいるはずです」
錬金術師「その方について、少しお聞きしたいのです」
東部機関長「…ふむ」
錬金術師「…そちらの方は、今も此方に所属しているのですか?」
東部機関長「青年錬金師…。なぜ、その情報を欲しいのですか?」
錬金術師「どうしても必要な情報なのです」
東部機関長「…いくら有名人の頼みといえども、機関に属する人間の情報はお伝え出来かねます。申し訳ない」
錬金術師「どうしてでしょうか」
東部機関長「…分かっているでしょう。個人情報は、あまり表に出したくないのですよ」
錬金術師「…」
東部機関長「少なくとも、自分がここでその情報を出せばうちの信用は落ちてしまう」
東部機関長「…申し訳ありませんが、個人の情報だけは出すことは出来かねます」ペコッ
錬金術師「…」
錬金術師「……なるほど、確かにその通りですね」
東部機関長「分かって頂ければ、有難いです」
錬金術師「…」
錬金術師「しかし、我々もどうしてもその人の情報が欲しいのですが…」
東部機関長「…申し訳ないですが」ペコッ
錬金術師「どうしてもですか?」
東部機関長「…はい」
女店員「…」
中央商人「…」
クー「…」
錬金術師「…」
錬金術師(…ならば)
錬金術師「…仕方ないですね、情報を伝えてくれれば事を荒げずにしたんですが」フゥ
東部機関長「…どういうことですか?」ピクッ
錬金術師「実は、自分は引退した身とはいえ、錬金術の世界にまだ身を置いています」ペラペラ
錬金術師「それが何故か、知っていますか…?」
東部機関長「…未だに錬金術がお好きだから、では?」
錬金術師「ふふっ。このご時世に、不法者の過去の罪を、洗いざらい出させるためですよ」
東部機関長「…はい?」
錬金術師「残念ながら…お話していただけない以上、上の介入は絶対でしょうね」
東部機関長「…どういうことでしょうか」
錬金術師「これ以上の口に出来ることはありません」
錬金術師「さ、女てん…"女錬金師"、"側近術士"、"子錬士"…帰ろうか」
…スクッ
女店員「…えっ?」
中央商人「…なるほど」
中央商人「わかりました、マスター……」ニヤッ
女店員「え?ち、中央商人さ……」
中央商人「女錬金師、何を呆けているか…行くぞ」
女店員「へ?は、はい……」
クー「…」コクンッ
錬金術師「中央政府に報告する準備をして、強制捜査の手続きも進めさせていただきます」
錬金術師「残念ですよ、東部機関長。次に会う時は…牢屋の中ですね」ニコッ
クルッ、カツカツカツ……
東部機関長「ち、ちょっと!?」
錬金術師「…」
カツカツカツ……
東部機関長「…っ!」
東部機関長「…ま、待ってくれ!」バッ!
錬金術師「…はい?」クルッ
東部機関長「わ、分かった…!全てお話しますからっ!」
東部機関長「だから待ってください!ようやく俺のところも安定してきたのに、潰されたくはないんです!」
錬金術師「…」
錬金術師「…」ニヤッ
錬金術師「……では、話を聞かせていただきましょうか」
錬金術師「さ、みんな座っていいらしい。改めて話を訊こうじゃないか……」ニタァ
東部機関長「…っ!」ブルッ
女店員「……い、一体どういうことですか?」ボソボソ
中央商人「カマをかけたんだな」ボソボソ
女店員「カ、カマですか?」ボソボソ
中央商人「…俺らは青年錬金師が獣人へ関わっているのを知っているだろう」
中央商人「もしかすると、東部機関長もそれを知っているのかと思ってカマをかけたんだ」
中央商人「それで、俺らを獣人への禁忌を犯した事を知った、政府の命令で来た錬金術関係者と見せかけたのさ」
女店員「!」
中央商人「…あの機関長は急なことで驚き、完全に釣り上げられちまったわけだな」
女店員「…!」
中央商人「…ったく、頭が働くやつだ。もったいないくらいの逸材だぞ、あの頭の回転の速さ」ククッ
錬金術師「…」
錬金術師「…おいお前たち、何を話をしている…。早く席につけといっているだろう」ポンポンッ
女店員「あっ、はいっ!」
中央商人「はは、へいへいっ」
クー「…」ビシッ!
トコトコトコ…ボスンッ……
東部機関長「…っ」
東部機関長「そ、それで……。何を聞きたいんです…かな……」ガタガタ
錬金術師「…だから、その男の情報ですよ。今も働いているのですか?」
東部機関長「せ、青年錬金師のことでしたね」
錬金術師「そうです」
東部機関長「も、申し訳ないのですがその男は既にうちの所属をやめておりまして……」
錬金術師「一体どこへ?」
東部機関長「…そ、それは分からないんです」
錬金術師「分からない?」
東部機関長「は、はい。ですが…"アイツがやったこと"は勝手にしたことです!」
東部機関長「俺には関係ないですし、話を聞いてからすぐに俺がやめさせましたので……!」
錬金術師「…」
東部機関長「だ、だからどうかお許しください!」
東部機関長「それ以外、うちでは禁術に触れたことはしておりませんし……!」
錬金術師「…その時のこと、詳細にお伝えできますか?」
東部機関長「しょ、詳細といえども彼がいなければ……。しかも、その青年錬金師の居場所は…」
錬金術師「…その彼の居場所は分からない、ですか」
東部機関長「はい……。も、申し訳ないです……」
錬金術師(…ふむ)
錬金術師(東部機関長、"アイツのやったこと"っつってたな……)
錬金術師(クーの親父は、獣人族へ手を染め、禁忌としてバレて解雇されたということだろう…が)
錬金術師(……こいつは、まだ何かを隠している気がする)
錬金術師(…)
錬金術師(…ここは少し、クーのためにあの言葉、嫌だが言うしかねーか)
東部機関長「あの……」
錬金術師「…アルスマグナ」ボソッ
東部機関長「っ!?」ビクッ!
女店員「!」
中央店員「…」
東部機関長「そ、それも知っておられるんですか……!?」
東部機関長「ま、まま…!まさか、そんなことまで……!?」ブルブルッ!
錬金術師(この一言で、この焦りよう…!反応してほしくなかったが、かかったか……)
錬金術師「…残念ですよ、東部機関長」ゴホンッ
錬金術師「貴方が、アルスマグナへ繋がりを持ってしまうとは……」ハァァ
東部機関長「…し、仕方なかったんです!」
東部機関長「うちも、何十人と雇っている機関です。ですが、研究結果と費用があまりにも…!」
錬金術師「…経営難だった、ということでしょうかね」
東部機関長「…っ」
東部機関長「そ、そんな時に青年錬金師があんな事をするから……!」
東部機関長「それにどこで知ったのか、アルスマグナの使いが、大金をもって情報をよこせと…!」
錬金術師「…っ!」
女店員「…」
中央商人「…」
錬金術師(…れ、冷静になれ)ブルッ
錬金術師「…貴方たちがしたことは知っています」
錬金術師「ですが、ここで話をすれば事を荒げずに済ませたいと思っております」
錬金術師「故の自白ということにはなりますが、悪いことはしません」
錬金術師「一体、どのように何をその男がしたのか、最初から全て…当時のことをお話下さい」
東部機関長「…は、はいっ」
東部機関長「そ、その……。」
東部機関長「もう、数年前に遡るのですが…。青年錬金師がセントラルカンパニーへ勤めて少しばかりのあと、」
東部機関長「か、彼がうちの機関へ、相談があると戻ってきまして……」
…………
……
…
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 約7年前 東部錬金術機関 】
…コンコンッ
東部機関長「どうぞ」
ガチャッ…
青年錬金師「…機関長、お久しぶりです」
東部機関長「お、おぉっ!?青年錬金師、どうしたんだ一体!」
青年錬金師「ちょっと、相談があって……」
東部機関長「…相談だって?」
青年錬金師「はい。頼れる人といえば、貴方しかいないと思って……」
東部機関長「…一体どうした。話しは聞いてやるぞ、まずは座れ」
青年錬金師「はい…」
トコトコ…ストンッ…
東部機関長「…」
青年錬金師「…」
東部機関長「…顔色が悪いな。何かあったのか?」
青年錬金師「あの…。絶対に…他言無用でお願いしたいのですが……」
東部機関長「はっはっは、俺をだれだと思ってる」
東部機関長「お前と付き合いが長いのも俺だ、そんな心配は無用だのは分かってるだろう?」
青年錬金師「!」
青年錬金師「…へ、へへっ。そうですよね。申し訳なかったです」
東部機関長「はははっ!で、どうしたんだ?」
青年錬金師「…」
青年錬金師「じ、実は…その……」
東部機関長「…」
青年錬金師「な、何て言えばいいのか……」
東部機関長「…落ち着いてしゃべってみろ。どうしたんだ、一体」
青年錬金師「は、はいっ。」
青年錬金師「その、俺……。好きな…人というか……」
東部機関長「…な、なぬっ?」
青年錬金師「その……」
東部機関長「…」
青年錬金師「好きな人が…できたんです!」
東部機関長「…お、おう?」
東部機関長「……なんだそんなことか!いいじゃないか、好きな人…」
青年錬金師「そ、それがですね!人だけど、人じゃないんですよ!!」
東部機関長「…うん?」
青年錬金師「その、その人は、人だけど、その……っ!!」
青年錬金師「…っ」ゴクッ
青年錬金師「じゅ…獣人族の方なんですっ!!」
東部機関長「!」
青年錬金師「その、既にお付き合いというか、色々とお互いを知っています!」
青年錬金師「でも俺は、公的機関に属する錬金術の人間!」
青年錬金師「ど、どうすればいいか…分からないんですっ!!」
東部機関長「…獣人族というのは、間違いないのか」
青年錬金師「は、はいっ…」
東部機関長「…」
東部機関長「……どこで知り合った。魔族の多く棲む、森の中ででも歩いたのか?」
青年錬金師「し、信じてもらえるか…分かりませんが……」
東部機関長「…信じるさ。そして、秘密は守る」
東部機関長「教えてくれ…。一体、どうして知り合ったのか……」
…………
………
…
…
………
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして現在 】
東部機関長「……彼によれば、道に倒れていた魔獣の犬を助けたと言っていました」
東部機関長「そして、その数日後に獣人族の彼女が現れた、と」
錬金術師「…おとぎ話ですね、まるで」
東部機関長「無論、自分も信じてはおりませんでした」
東部機関長「ですが、真剣に訴えるその眼は本物だったのを今も覚えています」
錬金術師「…錬金術を学ぶ人間には、信じられない話だ」
錬金術師「確かに人型の魔物はいますが、それが本当なら…魔獣と人型を行き来するってことになる……」
東部機関長「じ、自分もその話は半信半疑のままでしたが、しばらく共にココで研究に勤しんでおりました」
東部機関長「ですが…。」
東部機関長「青年錬金師の獣人族に関して、その話のもう記憶も薄れてきた頃にある問題が起き始めたんです」
東部機関長「それが先ほどの、経営難。」
東部機関長「うちは、機関としての結果が出せず、経営が苦しくなってきたんです」
東部機関長「しかし、そんな最中…。彼から子供が生まれると…聞かされました」
錬金術師「…!」
女店員「まさか…」
中央商人「…」
東部機関長「…そして、薄くなっていた記憶でしたが、彼の相談のことを思い出しました。」
東部機関長「彼が、希少な存在となっていた獣人族を愛していたことを…」
錬金術師「…」
東部機関長「そうだ、もしかしたら獣人族との子供かもしれない…と考えました」
東部機関長「まさかとは思うが、もしそうならうちにとって危機を脱するチャンスなんじゃないか…?」
東部機関長「そう…思いました」
女店員「…ッ」
錬金術師「…っ」ギリッ
錬金術師「……つ、続けろ」
東部機関長「…禁止されていた獣人研究。」
東部機関長「それを裏へ裁けば、金になるだろう……。」
東部機関長「もちろん、それは大罪になることを分かっていました」
東部機関長「自分としても、獣人族は人として扱うべきであり、研究対象にしてはならない」
東部機関長「そうは…思っていました」
錬金術師「…」
東部機関長「その思いを何とか飲みこみ、正当な研究結果でこの危機を脱してやる!」
東部機関長「そうだ、絶対にやってやる…!そう誓いました…」
東部機関長「…」
東部機関長「し、しかしそんな時……」
錬金術師「…アルスマグナか」
東部機関長「…はい」
東部機関長「突然、どこで情報を手に入れたのか……、」
東部機関長「アルスマグナの使者が現れ、青年錬金師の子に関して教えてほしいと…」
東部機関長「それで、今までは半信半疑だった獣人族と青年錬金師の話でしたが…」
東部機関長「その、アルスマグナの話でそれは確信へと変わりました……」
東部機関長「そしてー……」
錬金術師「その子供に関し……大金を目の前にでも積まれたか……?」ギロッ!!
東部機関長「…ッ!!」
錬金術師「それで、青年錬金師の情報を売り、アルスマグナはそれを買ったんだな!?」
錬金術師「く、クズが……!!」
錬金術師「てめぇは、人を売ったと同じことをしたんだぞ!!」
東部機関長「も、申し訳ありませんっ!!で、ですがっ!仕方なかったんです!」
東部機関長「多くの人を抱え、機関を潰しては、自分も二度とこの地位に上がることはできなかった…!」
東部機関長「元マスターさんである貴方なら、地位にもすがり付く気持ちはお分かりになるはずですっ!!」
錬金術師「…残念だったな」
東部機関長「へっ…」
錬金術師「俺は気が付けばただトップにいた」
錬金術師「そして、その地位で見えなかったモノが見えて、嫌になって自分で降りたんだ」
東部機関長「…!」
錬金術師「その見えなかったモノが何か…分かるか……?」
東部機関長「い、いえ…!」
錬金術師「…てめぇのような、自分しか見えねぇクズばかりしかいなかったからだよ!!」ゴォッ!!
東部機関長「…ひっ!!」
女店員「…っ」
中央商人「…」
クー「…っ」
錬金術師「…そいつを売ったのはいつの事だ!!答えろ……!!」グワッ!!
東部機関長「ひっ……!」ビクッ!
東部機関長「断り続けていましたが、情報を売ったのはつい先日です!!1か月もたってません!!」
錬金術師「…青年錬金師はどこに住んでいるか教えろ!」
…グイッ!
東部機関長「ごほっ…!か、彼の家なら郊外区4番通りの入り口の赤い屋根の家に……!」
錬金術師「…本当だな!」
東部機関長「は、はいっ…!」
錬金術師「…ふざけやがって!全員、行くぞ!」スクッ
女店員「あ、うんっ!」
中央商人「行かないわけにはいかないな」
クー「…っ」
東部機関長「あ、ま…マスターさん!正直にお話しました、罪は…!」
錬金術師「…」
錬金術師「…っ!」
錬金術師「…もちろん、悪いようにはしませんよ」ニコッ
東部機関長「…!」
錬金術師「ご協力、有難うございました」
錬金術師「また何かあれば、お会いしましょうね」
東部機関長「…あ、ありがとうございますっ!!」
錬金術師「では……」
ガチャッ、ギィィィ……
バタンッ……
………
…
コツコツコツ……
女店員「て、店長……」
錬金術師「ん?」
女店員「本当に、あの人を許す…の?」
錬金術師「…んなわけねぇだろ。かといって中央も黒い奴が多い」
錬金術師「俺の知りうる限りの人に、しかるべき制裁は受けてもらう」
錬金術師「…二度と、ココへは戻ってこれないだろう」
女店員「う、うん……」
中央商人「…」
クー「…」
錬金術師「…それよりも、気分悪い話だったが情報は得た」
錬金術師「あとは青年錬金師の家に行って、いることを願い、クーのことを聞くだけだ…」
女店員「…うん」
中央商人「そうだな」
クー「…」
錬金術師(…だが、不思議な話が多かった)
錬金術師(魔犬を救ったこと、それが獣人族だったこと?)
錬金術師(そんな話、聞いたこともない。本当におとぎ話のような話だ…)
錬金術師(だが、俺の魔犬との関連性はソコに絞れた…。)
錬金術師(一体、何が…どうなってるんだ……)
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 3時間後 郊外 赤い屋根の家の前 】
カァ…カァ……
…ザッ!!
錬金術師「さて、ここのはずだ」
女店員「郊外の赤い屋根の家。うん、ここだね」
中央商人「…確かに、家はそうだが」
クー「…!」
錬金術師「なんだ、この有様は……」
錬金術師(ちっ…。やっぱりか……)
オォォォ…ォォ………
女店員「郵便受けに大分いろいろと溜まってるし、ずっと留守にしてるみたい…だね」
錬金術師「…」
中央商人「ふむ…」
クー「…」
錬金術師「…」
錬金術師「クー、ちょっといいか?」
クー「?」
錬金術師「お前の住んでいた家は、ココなのか?」
クー「…」
クー「…っ」コクン
錬金術師「…そうか」
女店員「…っ」
中央商人「…」
クー「…」
錬金術師「…」
錬金術師(…アルスマグナに青年錬金師とその嫁、クーが追われたと見て間違いない)
錬金術師(つまり、その日からこの家はもぬけの空ってことか……)
錬金術師(折角ここまで来たっつーのに、情報はここで途切れちまったのか…?)
???「すいませーん」
錬金術師「…あん?」クルッ
バイト「あ、自分瓦紙の配達バイトなんスけど、あんたらこの家の人の知り合いスか?」
錬金術師「ん?」
バイト「まぁいいッス。最近滞ってたんですけど、この人にきちんと瓦代を支払するようにお願いしといてくださいッス」
錬金術師「…」
バイト「それと、夕刊ッス。どうぞ」スッ
錬金術師「あ、あぁ…」パシッ
バイト「では~」
チリンチリンッ……
錬金術師「…配達のバイトかい」
女店員「人のなのに、貰ってよかったの…」
錬金術師「…まぁ、郵便受けにでも突っ込んどけばいいだろ」
錬金術師「それとも、読む?」スッ
女店員「必要ないけど…」
中央商人「あ、じゃあ俺が読むかな。一面くらいは見といたほうがいいだろうしな」
錬金術師「どーぞ」スッ
中央商人「へいどーも」パシッ
…ペラッ
女店員「…それにしても店長、これからどうするの?」
錬金術師「ふむ…」
女店員「店長はこの現状、どう考えてるの…?」
錬金術師「…恐らく、アルスマグナに追われて逃げたんだろう」
錬金術師「そして、クーを俺へと預け、どこかへと消えたんだ」
錬金術師「そんな予感はしていたが……」
女店員「…」
クー「…」ブルッ
女店員「クー…」
クー「…っ」
錬金術師「…っ」
…ペラッ
中央商人「…」
ペラッ……
中央商人「…」
中央商人「…」
中央商人「…!」ピクッ
錬金術師「…と、とにかく一旦情報は切れたが…どうにかせにゃなるまい」
錬金術師「こうなったら、鍵でも壊して家にでも入るか」
女店員「ちょ、それは……」
中央商人「…て、店長。ちょっといいか…?」
錬金術師「はい?」
中央商人「ちょっとこっちに来てくれ」チョイチョイ
錬金術師「なんすか?」
トコトコ……
女店員「?」
クー「?」
中央商人「…これを見てくれ」ボソボソ
錬金術師「これ?」ペラッ
中央商人「…隅っこの記事だが、気になる記事を見つけたんだ」
錬金術師「ふむ…?」
"錬金術研究員、遺体で発見される"
錬金術師「!」
中央商人「まさかとは思うが…。この発見現場、お前の店の近くじゃなかったか…?」
錬金術師「…」
錬金術師「…あっ!」
錬金術師「ま、待てよ…!確か……!」
…
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
機関長「…お前の住んでる町の付近の河原で、錬金術研究員の遺体が見つかったそうだぞ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……
…
錬金術師「まさか……」
中央商人「どうした、心当たりでもあったか?」
錬金術師「少し前に、この記事の内容、俺のいた機関の機関長に話は聞いてたんです…!」
中央商人「なんだって…」
錬金術師「い、いやでも!確証がない限り、それは絶対に……!」
中央商人「…店長」
錬金術師「こ、こんな酷い話があるはずがない!何かの間違いで!」
中央商人「…店長。君が取り乱してどうする」
錬金術師「…っ!」
中央商人「…酷な話ではあるが、クーにとって今、君が一番頼れる人のはず」
中央商人「その真実の為にも、君自身、これに関してどう思ったのか…しっかりと教えてくれ」
錬金術師「…っ」
錬金術師「か、可能性としては非常に高く……」
錬金術師「その…!父親でしょう…ね……!」ギリッ!
中央商人「…」
錬金術師「な、なんで……!」
錬金術師「…っ!」ギリッ!
錬金術師「だ、だけど!まだ、その遺体が父親だと、それは絶対じゃない!!」
中央商人「…そうだな」
錬金術師「…と、とにかく!この場所は分かってますから、行ってみるまでです!」
錬金術師「お、女店員!クー!次へ行く場所が…決まった!」
クー「!」
女店員「本当!?」
錬金術師「あぁ……」
中央商人「…」
中央商人「…店長、その前にちょっといいか。」
中央商人「実は…、本当にすまないが手伝えるのはここまでだ」
錬金術師「!」
中央商人「来週までに、ちと準備をせねばならないことがあってね」
中央商人「年甲斐もなく、旅のようにして楽しんだ部分もあったが……」
錬金術師「いえ…。色々と、本当にありがとうございました」ペコッ
女店員「ありがとうございましたっ」ペコッ
クー「…」
中央商人「はは、クーも元気でな」
クー「…んっ」コクンッ
錬金術師「…じゃあ、女店員、クー。行くぞ」
女店員「あ、行くって…どこに行くの?」
錬金術師「次の目的地はな…。俺の店、だよ」
女店員「えっ?」
中央商人(…辛い結果となってしまうかもしれないが、頑張るんだぞ)
中央商人(折角知り合った同士、力を貸してもやりたいが……)
中央商人(ここからは、俺が入る余地のない話。強くなれよ、若者たち……)
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
それから…。
店長の心の中に渦巻くものがあったものの、
クーにそれを悟られないよう、
我が家のお店のある町行きの馬車へと乗り、ゆらゆらと揺られて行った……。
……そしてお店へ戻る帰路の途中……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 馬車の中 】
クー「…」スヤスヤ
女店員「…ふぅ。やっと、私らのお店にもうすぐ着くね~」ノビノビッ
錬金術師「短い旅のつもりが、随分と長くなったもんだ」
女店員「短い間に色々あって、自分の部屋に戻ったらすぐに寝ちゃいそう」エヘヘ
錬金術師「はは…」
錬金術師「…」
錬金術師「……ふむ、女店員」
女店員「なぁに?」
錬金術師「やっぱり、前もってお前に話をしておかないといけないと思ってな」
女店員「何が?」
錬金術師「この話は、クーにはまだ…内緒にしていてくれ」
女店員「…う、うん?」
クー「すぅ…すぅ…」スヤスヤ
錬金術師「…」
錬金術師「…実は、クーの親父は既にこの世にいない可能性がある」
女店員「えっ!?」
錬金術師「まだ実際に見ていないし、情報も足りないが、まず間違いないだろう……」
女店員「そ、そんな…嘘でしょっ!?」
錬金術師「…嘘ならよかったんだがな。ちなみに母親の情報は掴めていないが……」
錬金術師「もしかしたら母親も既に……」
女店員「あ、アルスマグナに…!?」
錬金術師「…」
女店員「…」
女店員「…めだよ…」
錬金術師「ん…」
女店員「だ、ダメだよそんなの!!そんなんだったら、クーが可哀想すぎるよ!!」
錬金術師「ば、ばか声が大きい…!」
女店員「あっ…」
クー「…」
クー「ん~…。むにゃっ……」モゾッ
錬金術師「…」ホッ
女店員「…」ホッ
錬金術師「…まぁ落ち着け。あくまで仮説だし、全てが決まったわけじゃないんだ」
女店員「でも、そうなってる可能性が高いんだよ…ね」
錬金術師「…言いたくはないが、そうだ」
女店員「も、もしお父さんがいなくて、お母さんも捕まってたら…どうするの…?」
錬金術師「…そうなったら、そうなっていた時に考えるさ」
女店員「…」
クー「…」クゥクゥ
女店員「……そ、それにしても店長」
錬金術師「んあ」
女店員「…最初から、クーにどこに住んでたかとか聞いて案内して貰えば済んだ話だったよーな」
錬金術師「…」
女店員「凄く遠回りな結果だったけど、なんか……」
錬金術師「…家に行ったところで、満足な結果が得られるとは思わなかったしな」
女店員「え?」
錬金術師「少なくとも、俺の記憶から感じたクーと俺の当時の関係性」
錬金術師「それは、俺が俺自身で身の回りから捜索しないといけないと思ったんだよ」
錬金術師「それに…。それを追求したことで見えなかった不思議な話になってきた」
錬金術師「……上手く言えないが、こういう道のりで良かったんだと思う」
女店員「そっか…」
ゴロゴロゴロ…ズザザァ……
馬車商人「…目的地に到着!さ、着いたよ、お客さんたち!降りてくれるかいっ!」
錬金術師「!」
女店員「あっ…」
クー「…?」ムニャッ
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして 錬金術師のお店 】
銃士「はぁ~…」
新人鉱夫「…数日で結構、売れましたね」
銃士「新鮮な素材やら、激安で鉄鉱やら、冒険者も意外とお客に来てくれたな」
新人鉱夫「値下げしてたので、売上げはそこまでじゃないですが、充分ですね!」
銃士「普段、表にもっと目立つものやセールと題して売れば、人が来るんじゃないか…?」
新人鉱夫「かもしれませんね~」
…ザッ
錬金術師「…それは知っているが、余り客が来ると対応が面倒なのだ」フンスッ
クー「…」フンスッ
女店員「こらクー、マネをしない」
銃士「あ…!店長!」
新人鉱夫「店長さんっ!お帰りなさい!と、面倒って……」
錬金術師「…色々と売ってくれたみたいだな、ありがとさん」
銃士「あぁ、それくらい」
錬金術師「売り上げはあとで出納帳にでも記載するから、詳細を出しといてくれるか?」
銃士「はいよ」
新人鉱夫「…それはそうと、店長さん。クーの手がかりはあったんですか?」
錬金術師「ん…」
錬金術師「……ま、まぁな。色々とあった…な」
銃士「へぇ、やっぱりクーと店長の記憶に出てきた魔犬は、繋がりがあったってことなのかな?」
錬金術師「あ~…。それは分からないんだが、色々とちょっとな」
銃士「…どういうこと?」
錬金術師「ま、あとで説明するさ。とりあえず今は、長旅で疲れて……」フワァ
銃士「…眠そうだね。いつもだけど」
錬金術師「…ちょっとだけ、休む」
錬金術師「もし俺が起きてこなかったら、夕方17時であがってくれ」
錬金術師「じゃ、おやすみ~……」
フラフラ……
ガチャッ、バタンッ……
銃士「…なんだ店長、凄く疲れてる感じだったな」
女店員「うん…。本当に色々あって、考えたいんだと思う」
銃士「…そこまでの何かがあったのか」
女店員「今は少し話しづらいから、あとで自宅に戻ったら話すね」
銃士「…わかった」
新人鉱夫「…それじゃ僕は、店長さんが夜中に起きても食べられるように、夜食でも作っておきますよ」
クー「…」グゥゥ
新人鉱夫「…おや」
女店員「クーは馬車の中でもずっと寝てきたから、お腹すいちゃったのかもね」クスッ
クー「…」グゥゥ
新人鉱夫「あはは、じゃあクーのためにも先に、美味しい料理を作ってあげるよ!」
クー「んっ!」ビシッ!
新人鉱夫「少しお金も入ったし、クーのためなら奮発しても店長さんは怒りませんよねっ」
女店員「いいよいいよ、全部使っちゃったりしても…なんて」
銃士「それはそれで、私らの給料がなくなるのでは」
女店員「むしろ、売上全部を給料に……」
銃士「えっ…」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ワイワイ…キャッキャッ……
…ゴロンッ
錬金術師「…なーにが、売上全部給料だっての」
錬金術師「聞こえとるわ、バカどもが…」クククッ
錬金術師「…」
錬金術師「……」
錬金術師(…しかし、どうしたもんか)
錬金術師(最悪の結果だけは、避けてほしかったんだがな……)
錬金術師(…とにかく、そのクーの父親が亡くなったという場所に行ってみて…か)
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして深夜 錬金術師のお店 】
モゾモゾ……
錬金術師「…」パチッ
錬金術師「…」
錬金術師「…」チラッ
クー「…」スヤスヤ
新人鉱夫「…」グゥグゥ
錬金術師「…よし」
コソッ……
錬金術師(…あの亡くなったという錬金術師は、クーの親父で間違いないだろう)
錬金術師(その現場はとてもじゃないが、見せる気にはならん…)
錬金術師(まずは俺一人でも、何か手がかりがないか調べねーとな……)
錬金術師(場所は確か、近くの河原だったか……)
…………
………
…
…
………
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 河 原 】
ザァァァ……!
錬金術師(…確か、この辺だと言っていたな)
錬金術師(亡くなったと情報が入ったのはもう1週間以上前になる)
錬金術師(処理もされているだろうし、さすがに遅すぎたか…?)
ザッザッザッ…
錬金術師(…)キョロキョロ
ザッザッザッ…
錬金術師(…色々と思いつく考えはある。)
錬金術師(だが、俺の記憶が抜け落ちている以上、色々と確信は持てない)
錬金術師(確定するにはパーツが足りないし、当の本人がいなければどうにもならん)
錬金術師(くそっ…!)
錬金術師(開きかけていた扉が、また閉じていくのか……!)
ガサガサッ…!
錬金術師(…!)ハッ!
???「…」ボソボソ
???「…」ボソッ…
ガサガサ……
錬金術師(…河原の向こう側の木々の間に、誰かいる?)
錬金術師(一人じゃない、二人か…)
錬金術師(こんな時間に、怪しいこと極まりねぇな)
錬金術師(…)
錬金術師(仕方ねぇ、少し危険だがー……)
コソッ……コソコソッ……スッ…
錬金術師(…よし。ここなら、声も聞こえる)
ボソボソッ……
???A「…もう1度来たものの、ここも収穫はなし、か」ボソボソ
???B「殺したのはいいが、肝心な情報を聞き出せなかったら意味ないだろっつーの」ボソボソッ
錬金術師(…殺した?おいおい、何か物騒な話だな)ピクッ
???A「既に国に遺体や証拠品は処理されてるだろうし、意味ないよな」
???B「副機関長が死んで焦ってるのか、機関長も小さな仕事拾うようになっちまって…」
???A「はぁ…。俺らみたいな奴に面倒な仕事が回るようになって、いい迷惑だ」
錬金術師(副機関長が死んだ話ということは、こいつらは……!)
アルス機関員A「…ま、何もなかったって上には報告すればいいか」
アルス機関員B「それしかないだろ」
アルス機関員A「…獣人族の子供と母親、どこ消えちまったんだろうな」
アルス機関員B「金になる仕事ではあるっつってたけど、何だかなぁ~…」
錬金術師(!)
錬金術師(なるほど、こいつらはクーの手がかりを探しに来たのか)
錬金術師(ということは、先の"殺した"という言葉は、まさか……)
錬金術師(…っ)
アルス機関員A「とりあえず帰ろうぜ」
アルス機関員B「そうだな」
錬金術師(…)
錬金術師(……ちょっと待てよ。あいつら"母親"もどこへ消えたと…言っていたな…!)
錬金術師(ということは、一番心配していた"母親"はまだ捕まっていない!)
錬金術師(さ、最悪の事態は避けられた…!!)
錬金術師(…クー、母親はまだ生きているぞ!安心しろっ!!)グッ
…ジャリッ!
錬金術師(げっ!)
アルス機関員A「…むっ」ピクッ
アルス機関員B「今、そっちの水辺の方で音がしなかったか…?」
錬金術師(やっべえぇぇ!)
錬金術師(お、俺は非戦闘員だぞ!しかも二人とか!やべぇぇ!)
アルス機関員A「…おい!そこに誰かいるのか!」
アルス機関員B「いるなら出てこい!」
錬金術師(やべぇ、やべぇやべぇっ~!!)
アルス機関員A「…気のせいか?」
アルス機関員B「…」
錬金術師(そうです、気のせいです。ですので早く向こう側に行ってください)
アルス機関員A「…ま、気のせいか」
アルス機関員B「こんな時間に誰かいるわけもねーしな。俺らも戻ろうぜ」
錬金術師(…ほっ)
アルス機関員A「…」
アルス機関員B「…」
ザッザッザッ……
錬金術師(……って!)ハッ!
錬金術師(お前ら、どのみちこっちに来るんじゃねぇかああっ!!)
錬金術師(お、おいおいおいっ!どうすんだこれヤベェぞ!!)
アルス機関員A「宿に戻ったら一杯やるかぁ」
アルス機関員B「トリップフルーツもあるし、一緒に飲んでトリップして気持ちよくなろうぜ」ハッハッハ
ザッザッ…
錬金術師(トリップフルーツ…、幻惑果実か!)
錬金術師(さすがだな、一級禁種まで手ぇ染めてやがんのか…)
錬金術師(……つ~か!)
錬金術師(そんなの今は関係ねぇ!このままじゃマジでバレる!!どどど、どうするか!)
錬金術師(い、いっそのこと姿見せてでも逃げ出して……!!)
…ガサガサガサッ!!…
錬金術師「!?」ビクッ!
アルス機関員A「ん!」
アルス機関員B「なんだ?」
???「…っ」ダッ!
ザザザザッ……!
アルス機関員A「…おい!誰かいるぞ!人影だ!」
アルス機関員B「野郎、やっぱり誰かいやがったのか!待てコラァ!」ダッ!
タタタタタタッ……!
タタタッ……
………
…
錬金術師「…」
錬金術師「ふっ、ふぃぃぃ……!?」
錬金術師「た、助かった…のか……?」ダラダラ
ヒュウウウッ……
錬金術師「…」
錬金術師「つーか、今のは一体誰が……」
錬金術師「…」
錬金術師「と、とりあえず、戻るか……」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 お店の前 】
…うぇぇぇええんっ…!!!
錬金術師「…ん」
…す、すぐ戻るから大丈夫だから!…
錬金術師「…ん?」
…ひぐっ!うあああああんっ…!!!
錬金術師「…んん?」
…て、店長さん、どこにいったんですかぁ~!…
錬金術師「…んんんっ!」ダッ!
タタタタッ、ガチャッ!!
新人鉱夫「!」
クー「!」
錬金術師「お、おいどうした!?」
新人鉱夫「て、店長さん!!」
錬金術師「今、俺を呼んでなかったか!?」
錬金術師「それに、この泣き声ー……!」
ダダダダッ、ギュウッ!!!
錬金術師「おふっ…?」
クー「ひぐっ…!」グスッ!
錬金術師「クー…?」
クー「やぁぁ……」ギュウッ!
錬金術師「ん…」
新人鉱夫「…よ、よかったです」ハァァ
錬金術師「どうしたんだ一体」
新人鉱夫「どうもこうも、さっきクーが目覚めたら店長さんがいないって泣いて…」
錬金術師「なぬ?」
新人鉱夫「前に離れた時はこんな事なかったのに…」
錬金術師「…」
クー「あうぅ…。うぅぅ~~…っ」
グリグリッ……!
錬金術師「…」
錬金術師「…すまんかったな。寂しかったのか…」
クー「…っ」グリグリッ
錬金術師「…大丈夫だ。もう離れんよ」
…ポンポンッ
クー「んっ…」グスッ
錬金術師「うむ」
ヒョイッ、ダキッ…
錬金術師「どれ、抱っこしてるから寝なされよ、クー様」
錬金術師「クー様が寝たら、俺も一緒に隣で寝ますよっと」ニカッ
クー「んっ…!」
錬金術師「…」
クー「…」
クー「…」
錬金術師「…」
クー「…」
クー「…」トロンッ
錬金術師「…」
クー「…」
クー「…」スゥッ
クー「…」スヤッ…
錬金術師「…」
錬金術師「……ふぅ」
新人鉱夫「…良かった」ホッ
錬金術師「クー、俺がいないのに気付いて泣いたのか?」
新人鉱夫「はい…。前は泣いたりしなかったんですけどね……」
錬金術師「…」
新人鉱夫「ボフボフと物音がして起きたんですけど、クーが店長の布団を叩いてて…。」
新人鉱夫「中々戻ってこない店長さんに、クーが突然泣き始めて……」
錬金術師「…」
クー「…」スヤスヤ
新人鉱夫「…と、とりあえず寝ましょうか!」
新人鉱夫「クーも泣き止みましたし、店長さんも出かけたりしませんよね?」
錬金術師「ん、あぁ……」
錬金術師「…」
錬金術師「ま、そうだな。寝るか……」
クー「…」コクン…
錬金術師「…寝ながら返事するの得意だな、クー」
新人鉱夫「きっと、よっぽど店長さんが恋しかったんですよ」
錬金術師「はは……」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 店の外 】
…ザッ!
???「…」
???「…」
???「…」ダッ!
タァンッ…!
タタタタタッ…………
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 】
…ガチャッ!
女店員「おはよう~」
銃士「おはよー」
錬金術師「おう」
新人鉱夫「おはようございます~」
女店員「あれ、クーは?」
錬金術師「奥で寝てる。やっぱり疲れてたみたいだな」
女店員「まぁ、そうだよね……」
錬金術師「俺も眠いし、みんな来たから寝てくるかね」フワァ
女店員「店長が眠いのは年柄年中でしょ」
錬金術師「…失礼な!仕事中だけだ!」
女店員「目ぇ覚まさせてあげようか」スチャッ
錬金術師「おまっ、その錬成用のハンマーで何をするつもりだ!」
女店員「…目ぇ覚まさせてあげる」ニタァ
錬金術師「な、なんか最近ブラックだぞお前!殺される!!」
女店員「じゃあ、仕事しよっ」
錬金術師「断る」キリリッ
ビュッ、ゴチィインッ!!!
…ドサッ
女店員「てんちゅうっ!」
錬金術師「…」ピクピク
女店員「全く…」
錬金術師「…ったく、今は仕事もいいがクーのことだろ」ムクッ
女店員「それは分かってるよっ!」
錬金術師「じゃあ何で仕事しろって言って殴った…」
女店員「な、流れかな」テヘッ
錬金術師「…」
銃士「ははっ…」
銃士「…」
銃士「…あ、そうだ店長。ちょっと教えたいことがあったんだ」
錬金術師「なんだ?」
銃士「えっと、少し歩いた場所に林があるだろう?」
銃士「さっき外から来る時、遠目だったけど妙なものを見つけたんだ」
錬金術師「…妙なものとな?」
銃士「その林に、何個か獣っぽい足跡があったようで…」
錬金術師「獣か…。狸とかじゃねえの?」
銃士「いや、あれは魔獣関係だと思う。こんな町付近まで下りて来た事ってあるのかな?」
錬金術師「ふむ…」
銃士「一応、案内しようか?」
錬金術師「…」
錬金術師「……頼む。二人は、クーが起きたら泣くかもしれんから、」
錬金術師「俺は外の林に行ってくるだけで、直ぐ戻るって伝えてくれ」
女店員「うん、わかった」
新人鉱夫「わかりました」
銃士「じゃ、案内するよ」
錬金術師「おう…」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 お店の付近の林 】
ガサガサッ…
錬金術師「…秋の終わりで、銀杏くせぇぇえ!!」プゥン
銃士「店長、もっと紅葉を楽しむとかで考えたほうが…」
錬金術師「は、鼻がもげる…」
銃士「…錬金師だし、特別に鼻も効くみたいだし、仕方ないのかな?」
錬金術師「そ、それより早く…。どこに足跡が……」フガフガ
銃士「…そ、そこだよ。足元を見て」
錬金術師「んあ…」
錬金術師「…」ピクッ
錬金術師「……なるほどな」
銃士「どう考えても、普通の獣の足跡じゃない気がする。それに、途中で足跡は消えているんだ」
錬金術師「ちょっと待てよ、えーと……」キョロキョロ
錬金術師「…」
錬金術師「…おっ」ピクッ
銃士「…どうかした?」
錬金術師「……消えたんじゃない。上を見てみな」チラッ
銃士「上?」チラッ
錬金術師「…見えるか、あそこ?」
銃士「あっ…!」
錬金術師「…木々を踏んで、空中を飛んで行ったんだ」
錬金術師「並の人間じゃ出来ない技だ。とてつもない脚力がある」
錬金術師「…恐らく、魔族で間違いないだろう」
銃士「店長!それじゃ、もしかしたらクーの…」
錬金術師「…だが、魔族ないし魔獣は人の匂いにつられて里へ下りてくることは多い」
銃士「!」
錬金術師「…断定ではできない」
銃士「…っ」
錬金術師「…だが、俺も銃士の考えていることで間違いはないとは思うっちゃ思う」
銃士「へ?」
錬金術師「…実は昨晩、アルスマグナの面子と遭遇してな」
銃士「!」
錬金術師「そこで聞いた話なんだが…」
錬金術師「…」キョロキョロ
錬金術師「……あいつらには、まだ伏せておいてくれるか」
銃士「う、うん。どうしたんだ?」
錬金術師「…」
錬金術師「…父親は、やはりアルスマグナの手で既に殺されていた」ギリッ
銃士「なっ…!」
錬金術師「…そして、母親は未だに逃げている。それを、アルスマグナの下っ端が追ってるようだ」
銃士「そ、そうなのか……」
錬金術師「…母親といえども魔物の一種。実力は、人間とは違う」
錬金術師「少なくとも、下っ端に狙われたところでどうということはないはずだ」
銃士「そ、そうか……」
錬金術師「…ココまで様子を見に来るくらいならば、会いに来てもいいと思うんだがな」
銃士「会いに来れない理由があるの…か」
錬金術師「…」
…トテテテッ!
クー「ぎゅう~!」
…ギュッ!
錬金術師「!?」
銃士「!」
新人鉱夫「クー、足早い…!」ハァハァッ!
女店員「待ってクー!あ、足早すぎ……!」ゼェゼェ!
錬金術師「…お、お前ら」ヒクッ
女店員「め、目が覚めて店長がいないことを知ったら、引き止めたんだけど、すぐに外に出ちゃって!」
新人鉱夫「ごめんなさいです…」
銃士「こら、ダメだろクー。お姉ちゃんとお兄ちゃんの言う事をきかないと」
錬金術師「クー…」
クー「あう…っ」
錬金術師「…」
クー「…」
クー「…」チラッ
錬金術師「…寂しかったんだろ。仕方ないさ…まぁ、気にするな」ニカッ
クー「!」
クー「えへっ…」ニコッ
錬金術師「……はて、クー。その前にどうやって、俺のあとを追いついてきた?」
クー「…」
錬金術師「…匂いか」
クー「んっ!」コクン
錬金術師(…やれやれ、獣としても開花し始めてるのか)
錬金術師「だがな、あまり女店員らを困らせちゃダメだぞ?」
ナデナデッ…
クー「あう……」
クー「…」
クー「あっ……!」ハッ
錬金術師「ん…?」
クー「ま…ま……?」ボソッ
錬金術師「…何?」
女店員「い、今なんて…」
新人鉱夫「ママって…」
銃士「ど、どっかにいるのか!?」
クー「ママ…」クンッ
錬金術師「…クー、ママの匂いか?」
クー「ん…」コクンッ
錬金術師「やはり…か…」
クー「…っ」キョロキョロ
女店員「…」
女店員「…あっ」
女店員「て、店長…!もし本当にいるなら、クーなら匂いを追えるんじゃない!?」
クー「…」
錬金術師(…銀杏の匂いの中、俺と母親の足跡から、わずかな匂いを見つけるとは)
錬金術師(さすがと言ったところだが、やはり母親はクーのことを気にかけている)
錬金術師(だが、会いに来ないのは母親自身、自分が危険な身だと分かっているのだろうな…)
女店員「…ね、店長聞いてる?」
錬金術師「ん…」
女店員「クーの鼻に頼って、お母さんを探してあげようよ!」
錬金術師「…」
錬金術師「……駄目だ」
女店員「ど、どうして?」
錬金術師「…母親の気持ちを尊重しよう。会えないには、会えない理由があるんだ」
女店員「で、でもっ…!」
錬金術師「いや、こればかりは……」
新人鉱夫「…」
新人鉱夫「ま、待って下さい店長さん、女店員さん……」
女店員「?」
錬金術師「ん…」
新人鉱夫「だ、大事なのは二人の気持ちより、クーの気持ちだと思います!」
錬金術師「!」
女店員「!」
新人鉱夫「…こ、こんなに幼い子なのに」
新人鉱夫「人の為を思って、こんな状況でも僕たちに笑顔を振りまいてくれてる」
新人鉱夫「だけど、きっと……」
錬金術師「…」
新人鉱夫「だ、だから!クーの気持ちを一番に考えてあげた方がいいと思います…!」
新人鉱夫「生意気でゴメン…なさい……」シュンッ
錬金術師(…母親の気持ちも考えないで、自分の気持ちをいいやがって)ククッ
錬金術師(だが…)
錬金術師「…」フゥ
錬金術師「…新人鉱夫」
…ポンッ
新人鉱夫「…っ!」ビクッ!
錬金術師「…全く、いつも肝心なところで色々と勇気の意見を出してくれるな」
錬金術師「お前の言う通りだよ。そうだ、俺らが決めることじゃなかったな」
新人鉱夫「て、店長さん…!」
女店員「うん…。大事なのは、クーの気持ちだったよね…」
銃士「私は、クーが会いたいと思うなら全力で力を貸すよ」
女店員「わ、私だって!」
クー「…」
錬金術師(……しかし、不思議なことがまだ数個ある)
錬金術師(クーがこの歳で、人語を理解していても口がきけないこと)
錬金術師(…そして、俺らに対し人懐っこいこと。父母がいなくても、平然としていること)
錬金術師(寂しさを出さないようにしているには、少し極端過ぎる気もする)
錬金術師(……まるで、昨日のあいつらじゃないが、幻惑果実のように、幻惑の魔法にかかったようだ)
錬金術師(…)
錬金術師(……!?)
錬金術師(……待て!幻惑の魔法?)
錬金術師(もし、母親が魔獣なら、それを扱うことは出来る…)
錬金術師(そうか、待て!待て待て待てっ!何か、思い浮かんで……!)
…ガサッ、ガサガサガサッ!!!
錬金術師「!」
女店員「!」
新人鉱夫「!」
銃士「!」
ガサガサ…ガサッ……
錬金術師「…何かいるな」
女店員「な、何…」
新人鉱夫「…っ」ゴクッ
銃士「母親だといいが…。一応、銃を構えるよ」スチャッ
ガサ…ガサガサガサッ……!!
ゴソゴソッ…!
ガサッ……
……ヌッ……
アルスマグナ構成員A「…みぃつけた」ニタァッ
アルスマグナ構成員B「こんなところにいたのか……」
錬金術師「なっ!!」
女店員「…だ、誰?」
錬金術師「…アルスマグナの面子だ!お前ら、後ろに下がれ!」
女店員「えっ!?」
新人鉱夫「な、なんでこんな場所に!」
銃士「…」チャキッ
クー「…っ」
アルスマグナ構成員A「…貴方はあの店長さん、ですよね?」
錬金術師「…さぁ、どうだろうな」
アルスマグナ構成員A「隠しても無駄です。貴方程の有名人を、見間違うはずがないですから」
錬金術師「…っ」
アルスマグナ構成員A「ま、要件は分かってますよね?」
錬金術師「…母親の居場所なら、知らないぞ」
アルスマグナ構成員A「嫌だなぁ、そこに子供がいるじゃないですか」
錬金術師「…」
アルスマグナ構成員A「…どうして?って顔ですね」
錬金術師「…」
アルスマグナ構成員A「…はははっ。父親がココへ来た理由…」
アルスマグナ構成員A「どう考えても、貴方を頼るためじゃないですか?」
錬金術師「…そりゃ、バレバレにもなるか」
アルスマグナ構成員A「いえ、最初は焦りましたけどね」
アルスマグナ構成員A「ほら…少し前、このお店でバーゲンをやってたじゃないですか」
銃士「!」
新人鉱夫「!」
アルスマグナ構成員A「あの時、実は自分たちは、客としてその子が本当にいるか偵察に来ていたんです」
アルスマグナ構成員A「しかし、姿もなく…。また上から適当な命令されたものだと思ってました」
アルスマグナ構成員A「だけど、念には念を押して最後の偵察に来たら……これですよ」クスッ
錬金術師「…素直に渡すと思うか」
アルスマグナ構成員A「自分らは末端組員ですが、そこにいるとなれば人数は呼べます」
アルスマグナ構成員A「大人しく、渡したほうがいいと思うのですが……?」
錬金術師「…おいおい、もうお前らとは関わるつもりはなかったんだぜ」
錬金術師「副機関長を失ったお前らが、そうそうすぐに次の仕事へ着手するとは思わなかったぞ…」
アルスマグナ構成員A「…確かに副機関長を失ったのは大きい」
アルスマグナ構成員A「ですが、それに焦った上層部はどんな仕事でもするようになった」
アルスマグナ構成員A「おかげで忙しく、面倒な仕事も押し付けられていますけどね」
錬金術師「…」
アルスマグナ構成員A「では、大人しく渡してください」
錬金術師「断る。お前ら二人、相手にできないわけではないんだぜ…?」
アルスマグナ構成員A「あははっ!貴方が戦闘向きじゃないことは分かってますよ!」
…ズキュウンッ!!!
アルスマグナ構成員A「!」
アルスマグナ構成員B「!」
…シュウウッ…
銃士「…私は、戦闘に長けていると思っているが?」
アルスマグナ構成員A「…銃士さんですね」
銃士「…」
アルスマグナ構成員A「おい…」クイッ
アルスマグナ構成員B「分かってるっつーの、おらっ!!」バッ!!
カチッ……バチッ、バチバチバチッ!!!
銃士「何っ!?」
ビリッ…!バチバチバチィッ!!
銃士「うあっ!?」ビリビリッ!!
錬金術師「じゅ、銃士っ!!」
新人鉱夫「銃士さん!?」
女店員「ちょっ…!」
クー「…!」
銃士「ぐっ…!?な、何が……!!」フラッ
…ガクッ!
アルスマグナ構成員A「既に、銃使いがいることは把握済みです」
アルスマグナ構成員B「今与えた電撃は、錬金道具の一種。ま、"武器封じ"とでもいいますか」
錬金術師「銃に直接、発射するエネルギー部分へ魔力をシャットダウンする電撃を与えたのか…」
錬金術師「隠し持てるほど小型化するとは、腐ってても高度な錬金技術だなこの野郎……!」
アルスマグナ構成員A「さすがの考察ですね、店長さん」
アルスマグナ構成員B「ま、それはいいですから降参してくださいよ。銃使いが銃を失っては……」
銃士「…な、何もできないと思うかぁぁっ!」
アルスマグナ構成員A「!」
アルスマグナ構成員B「何っ!」
銃士「…シッ!!」ダッ!!
ダダダダッ!ヒュオッ!!
アルスマグナ構成員A「はやっ…!」
銃士「はぁぁっ!掌底波ぁぁぁあっ!!」ビュッ!!
…バキィッ!!
アルスマグナ構成員A「がっ……!」
銃士「…っと!もう1本!」ビュッ!!
アルスマグナ構成員B「!」
……バキャアッ!!
銃士「…」
アルスマグナ構成員A「…」
アルスマグナ構成員B「…」
フラッ……
…………ドシャドシャッ
銃士「…どうだ!」ビシッ!
錬金術師「おぉぉ~!」
女店員「おぉー!」
新人鉱夫「おおぉ!」
クー「おーっ!」
パチパチパチパチッ……!!
銃士「へっへん!」
銃士「ま、これくらいはねっ!」
錬金術師「…とりあえず助かった、か」
錬金術師「しっかしどうするかなコイツら……。」
女店員「クーたちを狙って…。許せない……!」
錬金術師「これは俺の仕事じゃねぇし…」
錬金術師「殺人罪で国に引き取ってもらうか、いっそのこと、忘却薬でも使うか」ギラッ
女店員「…それって禁薬っぽい名前なんだけど」
錬金術師「一級禁則事項に当て嵌まる薬だな。記憶の消去を行えるが、効きすぎてアヘアヘに…」
女店員「それはさすがにダメに決まってるでしょー!」
錬金術師「分かってるって、冗談だ冗談!」
女店員「ったく、それじゃどうするの?」
錬金術師「ん~。とりあえず縛りあげておいてでもー……」
ガサッ…ガサガサッ!!
錬金術師「ん…」
女店員「うん?」
銃士「また何か茂みから音が……」
新人鉱夫「こ、今度はなんですか…!」
クー「…」
ガサガサガサッ……!
……ザッ!!
???「…ふぅ、やっと見つけたぞぉ」
錬金術師「…!?」
女店員「な、何この人…!」
銃士「で、でかっ…!」
新人鉱夫「こんな大きい人、見たことないですよ!?」
アルス構成隊長「…俺あ、今回この周囲のアルマグナの構成員を仕切ってるモンだ」
アルス構成隊長「見たことろ、おめぇら俺の部下やっちまったな……?」ハァ
アルスマグナ構成員A「…」
アルスマグナ構成員B「…」
錬金術師「…構成隊長、ってところか」
アルス構成隊長「まぁ、そうなるなぁ…。俺の部下、よーくもやってくれたなぁ……」
錬金術師「…今回のこと、お前らから仕掛けてきたことだろうが」
アルス構成隊長「ふん…。お前は、あの元マスターの店長かぁ」
錬金術師「…」
アルス構成隊長「伝説か何か知らないけどなぁ、うちの総合副機関長、どーもお世話になりましたぁ」
錬金術師「…そうだな」
アルス構成隊長「おかげで中央から飛ばされ、こんな場所で、汚い仕事をさせられてるんだけどなぁ?」
錬金術師「くっ…ははは!面白いこというじゃねえか!」
アルス構成隊長「おぉん…?」
錬金術師「…あんなゴミ溜めみてぇな錬金術機関にいるくせに、汚い仕事をさせられてるだ?」
錬金術師「何を言ってるんだか。ミスターガービッジくん…とでも呼ぼうか?」
アルス構成隊長「てめぇ……!その口、二度と聞けなくしてやるかぁっっ!?」ギロッ
女店員「ちょちょちょ!怒ってるじゃん、何て言ったの今!」
錬金術師「ははは、ミスターガービッジ。つまり、なんだ…。ゴミ溜め人間さんってことか」ククク
女店員「あぁ……」
錬金術師「…とはいえ、あの体格。怒らせてどうするかなー」タラッ
女店員「」
アルス構成隊長「な、何とでも言うがいぃさぁ……」
アルス構成隊長「今、ここでお前らからその娘を奪えば、俺の地位もあがるだろうしなぁ!!」
アルス構成隊長「…はぁぁぁっ!いくぞぉ!!!」ダッ!
ダダダダダッ…!!
銃士「…やらせるものかっ!掌底波ァッ!!」ビュッ!!
アルス構成隊長「邪魔だぁ!どりゃあっ!」ブンッ!
ガキィンッ!!ビリビリッ…!
銃士「いっつ……っ!」
アルス構成隊長「おっ…止められたか……」
銃士「こ、この馬鹿力が……!もう一度っ!!」ビュンッ!
アルス構成隊長「ふんっ!」ブォッ!!
…ガガキィンッ!!
銃士「ぐぅっ…!」ズキッ!
アルス構成隊長「おうおう…。おめぇ、本当に女かぁ?この力、その辺の男以上じゃねえかぁ…」ググッ
銃士「お、お前こそ…!いまどきの男と比べたら…よっぽど骨があるみたいだね……!」グググッ!
アルス構成隊長「強い女ぁ、嫌いじゃないぞ」ギリギリッ!
女店員「…て、店長!何とかできないの!?」
錬金術師「お、俺は骨のない男だしな~」
女店員「…」
錬金術師「……と、言われたら男が廃るってか!?」バッ!
女店員「!」
錬金術師「男が俺、超店長の力を見せる時が来たようだな!」バババッ!
女店員「そ、その俊敏な動き!何か秘策があるの!?」
錬金術師「…ていっ!!」ガシッ
……ビュオッ!!
アルス構成隊長「!」
ヒュウウウッ…ゴツッ!
アルス構成隊長「……いってぇ!?」タラッ
錬金術師「必殺…!石投げ!」ビシッ!
女店員「」
アルス構成隊長「てめぇ…!いてぇじゃねえかぁ!!」クルッ
ダダダダッ!…ビュッ!バキィッ!!
錬金術師「ぬぐおっ!」
ズザザザァ……!ドサッ!
錬金術師「」
女店員「て、店長…!弱すぎ……」
銃士「…うちの店長に手を出すなんて、いい度胸だね!」タァンッ!
タァンタァンッ…!!クルクルクルッ…ビュオッ!
アルス構成隊長「木々を利用しての飛び蹴りかぁ!?だがなぁ……!!」
……ガシィッ!
銃士「っ!」
アルス構成隊長「…所詮、女蹴り。片腕で止められるわけだぁ」
銃士「は、離せっ!」
アルス構成隊長「…本当は、遊びたいところだが目的もあるし」
アルス構成隊長「ここは……倒れていてもらおうかぁ…!」グググッ!
銃士「…じ、地面へ叩きつける気かっ!」
女店員「じ、銃士ぃっ!」
新人鉱夫「じゅ、銃士さん!」
クー「…っ」
女店員「……た、助けるんだからぁっ!」ダッ!
新人鉱夫「ぼ、僕だって…!」ダッ!
アルス構成隊長「…全員仲良く、吹き飛んでしまえぇ…!」
…ブオンッ!!!
銃士「ふ、二人ともそこにいたら巻き込まれー……!」
「…バーカ」ボソッ
カチッ…!
アルス構成隊長「ん……」
ビリッ…バチバチバチッ!!!ビリビリビリッ!!!
アルス構成隊長「あっ!あがががががっ!?」
女店員「!」
新人鉱夫「!」
銃士「!」
クー「!」
バチバチッ!ビリビリビリッ!!!バチィッ!!
アルス構成隊長「て……め…………」グラッ
錬金術師「…お仲間の持っていた電気ショック、効くっしょ?」ニカッ
アルス構成隊長「がはっ……」
…ズズゥン…!
モワモワ……
錬金術師「…ぷはぁっ!」
錬金術師「あぁぁぁ、死ぬかと思った!」
錬金術師「いってぇぇ…!!思いっきり殴りやがってクッソ!!!」ズキズキ!
女店員「て、店長っ!」
新人鉱夫「ま、まさか敵の武器を使ったんですか!」
銃士「店長…!助かったよ、ありがとう…っ」
クー「♪」
錬金術師「……あいつらの持ってた電撃武器は、雷の類と一緒だ。」
錬金術師「液体に浸透し、優先的に駆け巡る傾向がある」
錬金術師「最初に投げた石で、上手い具合に流血してくれたからな」
錬金術師「いくら図体がでかくても、血を巡り全身を電撃が駆け巡ったら…しばらくは立てないだろうよ」
女店員「ってことは、狙って石投げてたんだ!」
錬金術師「当たり前だろ…」
女店員「ただの嫌がらせかと…」アハハ…
錬金術師「…」
銃士「ま、まぁ…。さすがにこれ以上は敵はいないだろうし、どうする?」
錬金術師「町にいる、軍の支部にに突然襲われましたって言って突き出してやればいいな」
銃士「そっか」
新人鉱夫「あっ、じゃあ僕が呼んできますよ!」
錬金術師「おーう、頼んだ……」
…ガサッ…
錬金術師「!」
新人鉱夫「!」
銃士「ま、まだ何かいる!?」
女店員「う、うそっ!しつこいよっ!!」
クー「…!」
錬金術師「…」
ガサッ…ガサガサッ……
錬金術師「この野郎…。まだ敵だっつーなら、先にこれも打ち込んでやるか……?」カチャッ
クー「…」
クー「…」クンッ
クー「!」
ガサガサッ…
錬金術師「…出てこないなら、先にこの電気ショックで…!」
クー「ママ……?」ボソッ
錬金術師「…ん?」
クー「ママ…!?」クンッ!
錬金術師「な、なぬっ!?」
女店員「お、お母さん!?」
銃士「!」
新人鉱夫「ま、まさか…」
クー「ママ……?ママッ!!」
ガサッ…ガサガサッ……
…ザッ!
錬金術師「!」
女店員「!」
銃士「!」
新人鉱夫「!」
クー「…ママぁっ!」
錬金術師「クー…!まさか、本当に……!」
女店員「この…人が……?」
銃士「クーの…」
新人鉱夫「お母さん…なんですか……?」
クー「ん~っ♪」
母親「…」
母親「…っ」ペコッ
終わりは…唐突に……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 錬金術師の店 】
錬金術師「…よし。あいつらは軍へ引き渡したし、これで心配もないだろう」
錬金術師「問題はー……」チラッ
母親「…」
クー「…~♪」スリスリ
女店員「…」
銃士「…」
新人鉱夫「…」
錬金術師「…一体、どうしてクーを俺に預けたか聞かせてほしい。」
錬金術師「いや、それだけじゃない。どうして、何が、どうなっていたのか…聞かせて貰えるな」
母親「…はい」
母親「ですが、今日という日までご挨拶が遅れたことを、まずは謝らせてください」ペコッ
錬金術師「…」
女店員「…クーのお母さんも、獣人族なんだよね?」ボソボソ
銃士「うむ、そうらしいが」ボソボソ
女店員「…そうは見えないよね」ボソボソ
銃士「ただの美しい女性にしか見えないな…」ボソボソ
錬金術師「…謝罪はいらない。それより、本題だ」
母親「…はい。ですが、どこからお話すればいいのか」
錬金術師「…」
母親「まず、私がこの子の母親であること…」
クー「…♪」
母親「そして、貴方に飼われていた魔犬であること…でしょうか」
錬金術師「!」
母親「それで……」
錬金術師「…ま、待ってくれ!確かに、その路線も考えていたが…!」
錬金術師「その話、本当なのか!?」
母親「…」コクン
錬金術師「じょ、冗談だろう?一体、なぜ……」
錬金術師「俺は正直、あの時のことを覚えていないんだ。記憶が抜け落ちているようで…」
母親「それは、私のせいです」
錬金術師「何…」
母親「私の魔法のせいなんです」
錬金術師「…!」
母親「貴方に対し、私は忘却の魔法を…」
錬金術師「…ま、待ってくれ。話しが見えてこない…」
母親「…」
母親「……店長さん。それでは、頭を自分に向けて下げて貰えますか」
錬金術師「…こ、こうか?」クイッ
母親「…」
…パァァッ!!
錬金術師「…!」
母親「…全て、思い出すはずです。もう、忘れている必要もないと思いますので…」
母親「その記憶、お返しいたします……」
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「……あっ……!」ハッ
母親「…」
錬金術師「…な、なんだこの感覚は……!」
母親「思い出していただけましたでしょうか」
錬金術師「あ、頭が締め付けられ…!」
錬金術師「ぐっ……!」ズキンッ!
錬金術師「…っ!」パァァッ!
母親「…」
女店員「て、店長…?」
錬金術師「き、記憶と感覚が植えつけられる……!?」
錬金術師「がっ…!」ズキッ!
錬金術師「そ、そうだ…!段々と思い出してきたぞ…っ!」
錬金術師「お前は…あの時…!」
錬金術師「俺をかばって、馬車に……っ!」
母親「……はい。貴方を守るためでした」
母親「そして、そこで出会ったのがー……」
…………
………
…
…
………
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 8年前 中央都市郊外 】
ザワザワッ!!!
パカッパカッパカッ!!!キキィィ…!!
馬車引き商人「だ、ダメだ間に合わねぇっ!!」グイイッ!!
馬『…ッ!』
少年(錬金術師)「う、うあああっ!?」
馬車引き商人「ぬ、ぬあああっ!」
少年「…っ!」
魔犬「…ッ!」ダッ!!
ダダダダッ、ドンッ!!
少年「へっ…」フワッ
…ドゴォンッ!!!…
魔犬「ギャンッ…!!」
ズザザザ…ドシャアッ!!
少年「なっ…!」
馬車引き商人「ば、馬鹿野郎っ、死にてぇのか!!!」
馬車引き商人「犬っころで済んだことを、良かったと思うことだな!!」ペッ!
パカッパカッパカッパカッ………
…………
……
少年「お、俺を庇って……!」ダッ!
ダダダダッ……ソッ
魔犬「がふっ……!」ググッ
少年「なっ…!ひ、酷い傷が…!だ、誰かっ!!」バッ!
ザワザワ…
周囲の人々「何だあれ、ダッサ…」
周囲の人々「いいところの服着てるぜ?金持ちか何かか…?」
周囲の人々「犬の一匹くらい、また飼って貰えばいいじゃねえか、金があるならなぁ…」
ガヤガヤ…!
少年「く、くっそっ!誰か助けてくれよっ!!」
少年「金なら払うから!いくらでも払うからっ!!誰かっ……!」
タタタタッ…バシッ!!
少年「いっ…!?」
通りすがりの男「…しっかりしろ!取り乱すな!」
少年(俺を殴りやがったのかこいつ…!)
通りすがりの男「…俺は錬金術の卵だが、このくらいの傷なら治せるはずだ!」
少年「は…」
少年(傷が治せるだって?こいつ、俺と一緒くらいの歳じゃねえのか……)
通りすがりの男「…何してるんだ!治したいんだったら、その犬をしっかり見ててやれ!」
通りすがりの男「飼い主のお前がしっかり見てないで、治せるのも治せるものかっ!!」
少年「…っ!」ビクッ!
少年「う、うるせぇっ!分かってるよ、しっかり見ててやるっつーの!絶対治せよっ!!」
通りすがりの男「…言われなくても」ニカッ
少年「…っ!」
…パァァッ!
通りすがりの男「すぐに治してやるからな。直ぐに元気になるさ」パァァァッ!
魔犬「ッ!」
…………
………
…
…
………
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 現在 錬金術師のお店 】
錬金術師「…そうだったのか」
錬金術師「いや、そうだったんだな……。あの時の男が、青年錬金師…だったのか……」
母親「…私はそのお礼に青年錬金師の匂いを辿り、家に参りました」
母親「ですが、魔犬として生きてきた私は、言葉も知らず、何も知らず、ただ家の前に立ち尽くすだけ」
母親「そんな最中、脳裏にふと突然、知らぬ映像が次々と浮かびました」
母親「まるで、その時代を生きてきたかのように、走馬灯のように映像が流れ……」
母親「気が付けば、光の中で、私はこの姿になっていました」
母親「そして、青年錬金師は優しく接してくれて……」
錬金術師「…お前を認め、お互いに恋に落ちたと」
母親「…」コクン
錬金術師「…完全に思い出した。お前は、俺にそれを伝えると俺は反対したんだ」
母親「はい。当時、貴方は自分のものは自分のものだと豪語し、お父様に強く似ていられました」
錬金術師「…それで、恋の成就のため、過ごした日々の記憶を奪ったわけか」
母親「…」
錬金術師「…謝る必要もない。当時の俺は、それくらいしなければ絶対に許さなかっただろう」
女店員「ほ、本当におとぎ話みたいだね……」
銃士「お礼に行けば、人間の姿へとなった魔獣…か」
新人鉱夫「不思議ですね…」
錬金術師「…」
錬金術師「……先祖がえり、その可能性がある」ボソッ
母親「!」
女店員「先祖がえり…?」
錬金術師「…脳裏に浮かんだ、その映像。」
錬金術師「恐らく、自分の血を紡いできた中にいたであろう人型の魔物。」
錬金術師「その血に宿った魔力が覚醒し、見せたものだと思う」
母親「…!」
錬金術師「あんたを紡ぐ血の中に、人型魔族との関わり合いが何かしら深くかかわっていたんだろう」
錬金術師「覚醒することのないはずだった、封印された獣人としての魔力」
錬金術師「それが、馬車にひかれ瀕死状態となって、それを助ける際にやった青年錬金師の施術で覚醒した」
錬金術師「……偶然が偶然を呼んで、人としてお礼を思いたいアンタに、変異が起こったんだ」
母親「…」
錬金術師「…信じられないな」
母親「私が、魔獣だということ…ですか?」
錬金術師「…魔獣から変異することも、獣人として心の底から愛した人間がいることも。」
錬金術師「だが、その形がどうであれ…拒否する気もなければ、祝福する気持ちで一杯なのは本音だ」
錬金術師「それから今まで、二人は本気で生きてきたって分かるから…な」
母親「…っ」
錬金術師「…そして、当時の事を俺が覚えてるわけがなかったはずだ。」
錬金術師「獣人族、魔獣の純粋な魔法を使われたんだからな。」
錬金術師「人間である無力な俺が、どうこうしても思い出せるわけがなかったんだ」ハァ
母親「…短い間とはいえ、記憶を失わせたのは申し訳ありませんでした」
錬金術師「いや、いいんだ。俺だって同じ立場なら、そうしてたかもしれないしな」
母親「…」ペコッ
錬金術師「…」
母親「…それと、クー」
クー「?」
母親「少しだけ、ごめんなさい…」ソッ
…パァァッ!
クー「!」
クー「…っ」
クー「…」カクンッ
…スヤッ
女店員「あ、クーが!」
錬金術師「……寝た、のか?睡眠効果の魔法の類だな」
母親「…実は、クーに聞かれたくない話があります」
錬金術師「おいおい…。まだ何か秘密があるのか……」
母親「…」
母親「……クーにも、忘却と幻惑の魔法をかけてあるんです」
錬金術師「何!?」
母親「…」
錬金術師「ど、どういうことだ?クーにも何か、隠していることが?」
母親「…」
錬金術師「…一体、何を隠しているんだ」
母親「…」
母親「…知っておられるとは思いますが、父親の最期のことです」
錬金術師「!」
女店員「!」
銃士「…なるほど」
新人鉱夫「そういうことですか…」
母親「ココへ来る前に、父親を目の前で失ったことをこの子は見てしまったんです」
母親「…ショックだったでしょう」
母親「だから、私は父親のことを虚の記憶で埋めた。父親は、どこかへ遠くに仕事へ行ったんだと…」
錬金術師「…」
母親「…しかし、私の魔法が強すぎたせいで言葉の一部も失ってしまった」
母親「全てを解くのは一瞬です」
母親「で、ですけど…。父親を目の前で殺されたことを、この子には思い出して欲しくない……!」
錬金術師「…そういうことだったのか」
母親「…そして、ここまで話せば私が店長を頼った理由はお分かりだと思います」
錬金術師「知識を身に着けたお前が、頼れたのは有名になっていた俺だった……か」
母親「錬金師とし、知性もあり、今のあなたは頼るに十分すぎる存在だった」
母親「父親も、貴方と同じ職場で短いながら働き、やがて大きくなった貴方を頼ることに賛成してくれたんです」
錬金術師「…そうか。」
錬金術師「だが、それを踏まえても気になる点がある。この子は、俺により懐いてるように思えた」
錬金術師「そこも何か、工夫をしていたのか?」
母親「…いえ、それは当時、貴方につけてもらったスカーフです」
錬金術師「…!」
母親「プレゼントで貰ったのを覚えてます。首につけられたスカーフ、今も大事にしているんですよ…」
錬金術師「…スカーフについた、俺の匂いか」
母親「…はい。そして、この持ち主は素晴らしい人だ、お母さんの知ってる人なんだよ…」
母親「何かあったら、頼ってもいい人間なんだと、ずっと言い聞かせてきました」
錬金術師「…なるほどな。これで全てに合点がいったというわけか」ハァ
母親「…」
女店員「…店長」
錬金術師「ん?」
女店員「これからどうするんですか?クーにも母親が帰ってきたわけですし…」
錬金術師「…どうするも何も、母親がここに来たということは」チラッ
母親「…そのことなのですが」
錬金術師「…」
母親「昨日、夜中に貴方が夫の殺された現場に足を運んでいたのを見ました」
錬金術師「!」
母親「その時、危うく見つかるところでしたので、囮になって逃げたのですが…」
錬金術師「あの時のか…」
母親「そしてそのあと、娘が貴方に心から懐いてるのを見て…安心したんです」
母親「だから……」
錬金術師「…俺に預けるつもりか?」
母親「お願い出来ませんか…。」
錬金術師「…馬鹿いうな!母親はアンタだ、俺がどうこう出来る立場じゃない!」
母親「で、ですが…!」
錬金術師「ですがじゃねえよ!お前は、たった一人の親なんだ!」
錬金術師「それを、他人の俺に任せますじゃ…!クーがあまりにも可哀想だ!」
母親「…そ、そんなの分かってます!!」
錬金術師「!」
母親「だけど、まさか夫が殺されて、変な連中に追われることになるなんて…思ってもなかった……!」
母親「今となっては夫が死んだことや、娘がこんな境遇になったことを悔やんでも仕方ないのを分かってる…」
錬金術師「…分かってるなら、尚更、血縁のアンタが面倒を見るべきだ」
錬金術師「頼れるなら、俺を頼っても良いとは思う」
錬金術師「だが、この娘が最後の最後にすがるのは、誰でもない、アンタなんじゃないのか」
母親「…私と一緒にいては、娘まで危険になる!」
錬金術師「見た目は、立派な人だ。人間として、生きていく道もあるはず」
母親「…っ!」スクッ
パサッ…!
女店員「!?」
新人鉱夫「ふ、服を脱い…!?わわわっ!」バッ!
銃士「…!」
母親「こ、これでも同じ人間だと思いますか!?」クルッ
錬金術師「…」
母親「…確かに見た目は人型です。だけど、私は娘よりも獣の血が濃い…」
母親「時として、獣の血が戻り、より姿が戻ってくる…」
母親「人間から見れば、ただの化け物……。」
母親「私は、私だけでは、この世界を生きていくには…関われない、関わりあえないんです…」ブルッ
錬金術師「…」
錬金術師「…そんなアンタを、愛した人間がいた」
母親「!」
錬金術師「…この世だって、腐ったもんじゃない」
錬金術師「少なくとも、アンタを愛し、子を授かり、幸せを分かち合った人間が確かにいた」
錬金術師「……無茶なことなんてない。活路はどこかにあるはずだ」
母親「…っ!」
錬金術師「…人里離れ、山の中で、自給自足生活だって悪くないとか思わないか?」
錬金術師「クーと、田舎町っつー山の中へ行った時だったかな……」
錬金術師「自然の中で、コイツは一番はしゃいでいた」
錬金術師「…獣の血もあり、人里から離れた生活も悪いわけじゃないだろう」
母親「…っ」
錬金術師「…それとも、アンタはこの子を見捨てて一人で旅立つつもりか?」
母親「み、見捨てるなんて…」
錬金術師「見捨てると一緒だ。この子には、二度と治らない傷がつくんだ」
母親「…っ」
クー「…」
錬金術師「…アンタが見捨てることで、傷つき、二度と立ち直れないようにして、俺のもとで育ててほしいのか?」
錬金術師「そういう選択をしたいなら、それでいい」
錬金術師「このやり取りに、正解という正解はないんだからな」
女店員「ちょ、ちょっと店長そんな言い方…!」
銃士「…女店員、今回ばかりは店長が正論だ」スッ
女店員「!」
銃士「店長にいくら懐いていても、最後に頼れるのは…親。」
銃士「こんな幼い子を見捨てるのは、いくらなんでも…」
錬金術師「…」
母親「…」
女店員「…ッ」
銃士「…」
新人鉱夫「…」
錬金術師「…どうするんだ。アンタは、もうこの子と過ごしたくないのか?」
母親「…」
錬金術師「…」
母親「…」
錬金術師「…」
母親「…そ、そんなこと…」
母親「ないわけ……ない……っ!!」グスッ
母親「だけど、どうすればいいのか、私には分からなくて……!!」ポロポロッ
錬金術師「…」
錬金術師「…分からないとかじゃない!」
錬金術師「母親であるアンタは、その立場として!この子と、暮らしたくないのか!!」
母親「…っ!」
母親「…く、暮らしたいに決まってます!」グスッ
母親「幸せになれるなら、二人で…幸せになりたいっ……!」
錬金術師「…」
錬金術師「…そうか」ククッ
錬金術師「最初から、そう言ってくれればいいんだよ。それで、この子も救われると思うぞ」
母親「…っ!」
錬金術師「お前に、この子の前で、その言葉を言ってほしかったんだ」
錬金術師「今の叫びは、心の底から言えた言葉だと思う」
錬金術師「そう言ってくれたアンタなら、きっと…クーと幸せに暮らせるんじゃないか」
母親「…で、でも」
錬金術師「…俺も、アンタたちが幸せに過ごせる場所があるように、全力を尽くさせてもらおうか」
錬金術師「宛てがないわけじゃないんだ。きっと、大丈夫さ」ニヤッ
母親「えっ…!」
女店員「えっ?宛てが…?」
錬金術師「…まぁた迷惑かけちまうかもしれないが、悪くないと思うんだ」
錬金術師「あのオッサンなら、俺は信用できると思う。」
錬金術師「まぁ、何とかしてくれそうじゃね?」
女店員「…まさか」
錬金術師「人里離れてる田舎だし、あったけー人ばっかだし、信用できるし」
女店員「…だ、だけど」
錬金術師「…何とかしてみよう」フンッ
錬金術師「断られたら、また違う場所でも探せばいいさ!」
錬金術師「いざとなれば、隣町の機関にでもまた頼んでみるかぁ?」クククッ
女店員「ま、まぁそれはそうなんだけど…」
母親「い、いいんですか…!」
錬金術師「…気にするなって。っていうか、早く服を着ない?」
錬金術師「元魔犬だろうが、身体は女性のまんまなんだから、新人鉱夫が鼻血出してるぞ」
母親「あっ…」サッ
新人鉱夫「」
錬金術師「…」
錬金術師「…そうだ、娘の本当の名前は?俺らはクーって呼んでたんだけど」
母親「…あれ?手紙に入れておいたはずなんですけど…」
錬金術師「いや、聞いてないぞ」
母親「え?じゃあ何故、クーと娘の名前を……」
錬金術師「…」
母親「…」
錬金術師「…ぷっ」
母親「?」
錬金術師「…はっ、ははははっ!」
錬金術師「なるほどな、クー…か!やっぱりか!」
女店員「…」クスッ
新人鉱夫「さ、さすがです店長さん!」
銃士「やっぱりなぁ…。最初から、店長とつながりがあった存在だったんだよ」
クー「…」
クー「…っ」
クー「……うんっ」ボソッ
錬金術師「!」
クー「名前、嬉しかった……」
錬金術師「…お、お前起きて!っていうか、今、しゃべっ…!」ハッ!
母親「クー、言葉が…!」
女店員「クー!?」
銃士「しゃべれたのか!?」
新人鉱夫「…!」
クー「うん…っ」
クー「ごめん…なさい……」グスッ
錬金術師「クー……。い、いつからしゃべれたんだ…?」
クー「途中…から……」
錬金術師「どうして黙ってた?」
クー「前に魔法をかけられた時ね…。言葉を忘れてね……」
クー「お母さんにそのままがいいって…言ってたの…覚えてて……」
錬金術師「…!」
クー「…っ」
錬金術師「…」
錬金術師「…ま、待て。クー、まさか魔法が解けてるってことは…」
クー「お父さん…覚えてる……」ギュッ!
錬金術師「っ!」
母親「…っ!」
クー「だけどね、クーね、大丈夫……」
クー「店長ね、いっつもね……優しくしてれたから……っ」
錬金術師「…」
母親「クー…」
クー「…でも、昨日ね、店長がいなくなって……」
クー「お、お父さんみたく、ずっと…いなくなっちゃうって……思って……」グスッ
クー「ごめんなさい…泣いちゃって……!さっきも……!」ポロポロッ
錬金術師「…クー」ソッ
…ギュッ
クー「…っ」
錬金術師「子供が我慢するな。強気に見せるな。子供なら子供らしく、泣いてもいいんだ」ポンポンッ
クー「ひぐっ…」グスッ
錬金術師「…いつでも抱っこくらいしてやるっつーの!」
錬金術師「俺の温かさに酔いしれるがいいぞ、クー!」
ギュウッ!!
クー「!」
クー「えっ、えへへっ……」グシグシッ
錬金術師「…可愛いやつめ!」
クー「えへへっ…!」
母親「クー…」
クー「…お母さん」ニコッ
母親「ごめん…ね」
クー「ううん…!みんなといれて、楽しかったよ…!」
母親「クー…ッ!」グスッ
クー「…」ニコッ
錬金術師「…クーにはアンタが必要だ」
錬金術師「俺が全部進めるさ。」
錬金術師「幸せな生活が出来るよう、全力で尽くそう…」
錬金術師「…これ以上、怯えて暮らさなくてもいいように…な」
母親「…っ」ペコッ
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 十数分後 】
母親「…それじゃ、少しの間だけ頼みます」ペコッ
錬金術師「2日ほどか?」
母親「はい。全てを準備し、戻ってきます」
錬金術師「…家の周囲は危険だ。無理するなよ」
母親「クーの服や、道具、色々と持ってくるのもありますから…」
錬金術師「わかった」
クー「お母さん、早く戻ってきてね…!」
母親「クー、ちゃんという事きいて待ってるのよ?」
クー「んっ!」ビシッ!
女店員「クーってば、店長のマネはしなくていいんだからね~」
クー「は~いっ!」
錬金術師「…なんだ俺の真似って」
クー「へへーっ♪」
母親「それじゃ、急いで行ってきます」ペコッ
錬金術師「気を付けてな」
母親「…」ニコッ
…ガチャッ!、バタンッ……
錬金術師「…」
錬金術師「…行ったか」
新人鉱夫「それにしても、クーはしゃべれたんですかぁ」
クー「…ごめんなさい」シュンッ
新人鉱夫「あ、そ…そういうわけじゃないんだよぉ!べ、別に怒ってるとかじゃ!」
錬金術師「あ~あ~!泣かせた泣かせた、いけないんだいけないんだっ!」
錬金術師「こりゃあ、訴訟モンですわ。警備隊に連れて行かれますわ!」
新人鉱夫「あうっ…!」
女店員「この…!店員イジメはやめなさぁ~~~い!」
ビュッ…!!ゴチィンッ!!!
錬金術師「」
…ドサッ!
銃士「うわお…」
クー「わ~…」
新人鉱夫「こ、後頭部をハンマーで…」
錬金術師「…」
錬金術師「…さ、殺人事件だぞこれはオイ!!」ガバッ!!
女店員「きゃーきゃー!」
錬金術師「今のは死ぬぞ、マジでコラァ!」
女店員「ちょっ、またしがみつくなぁ!!きゃあ~~っ!」
ギャーギャー!!
クー「おぉっ……」
銃士「クーには悪影響だな」
新人鉱夫「はは…」
錬金術師「…ったく!この野郎~~!」ワシャワシャ!
女店員「へ、変態~~!」
錬金術師「誰が変態だ、コラァ~!!」グイッ!
女店員「せくはらぁぁ!」
錬金術師「なにを~……!」
………
……
…
……ドギュウゥゥンッ!!!!!……
バサバサッ……!
…
……
………
錬金術師「!?」
女店員「えっ!?」
新人鉱夫「い、今の音は…!」
銃士「じゅ…銃声っ!?」
クー「…!」
錬金術師「…ま、まさか」
女店員「店長っ!」
錬金術師「…わかってる!」ダッ!
女店員「…っ!」ダッ!
銃士「…私も行くぞっ!」ダッ!
新人鉱夫「…クー」
クー「クーも…行く……!」
新人鉱夫「…うん」ダッ!
クー「ま、ママッ……!」ダッ!
ダダダダダダッ…!!
…………
……
…
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 お店付近の林 】
錬金術師「はぁ、はぁ……!」
錬金術師「今の銃声はこの辺からだったな……!」
女店員「はぁっ、はぁ……!」
女店員「…っ」キョロキョロ
女店員「…」
女店員「…!」ハッ
女店員「て、店長っ!あそこに!」
錬金術師「!」
…ドロッ
錬金術師「あの、赤い溜まり…まさか…!!」
錬金術師「……っ!!」ダッ!
ダダダダダダッ……!!
ダダダダダッ…!
ズザザァ…!
錬金術師「…っ」ハァハァ
錬金術師「……ッ!」ハァハァ
錬金術師「嘘…だろ……!?」ハァハァッ!
母親「…」
ドロッ……
錬金術師「…嘘だろ、嘘だろっ!嘘だろっ!!!」
クー「…まま?」
銃士「クー、見るな!」バッ!
女店員「く、クーのお母さんっ!?」
新人鉱夫「ど、どうしてっ!!」
錬金術師「…嘘だろ嘘だろ!!おい!!」
錬金術師「何でここで倒れてるんだよっ!!」
女店員「なんで……」
錬金術師「お前は、クーと一緒に幸せになるんだろうが!!」
錬金術師「こんな場所で倒れてる暇なんかねぇだろ!!」
錬金術師「目ぇ覚ませよ、おい、おい!おいっ!!!」
女店員「てん…ちょ………」ヘナッ
銃士「どこのどいつが…!」ギリッ!
クー「ママ……」ヘナッ
新人鉱夫「な、なんで…!」
錬金術師「クーはどうするんだよ!!何、こんな場所でやられてんだ……!!」
錬金術師「ふざけんなぁぁぁああっ!!」
錬金術師「目ぇ覚ませ、クーシィィィッ!!」
母親「…」
母親「…」
母親「……っ」ピクッ
錬金術師「…っ!?」ハッ
錬金術師「…生きてる、のか」
母親「うっ…」ピクッ
錬金術師「い、生きてる…!クー!母さん、生きてるぞ!!」
クー「ママ…!」
女店員「い、生きてるの!?良かった…」ヘナッ
銃士「だが、呼吸が浅い!急いで治療院に運ばないと!」
新人鉱夫「僕、治療院の人らに声かけてきます!」ダッ!
ダダダダダッ…………
母親「…っ」
ドクッ…ドクッ……
錬金術師「…こ、この血の量では間に合わない!」
女店員「な、何とかならないの!?」
錬金術師「…クーシィ、失礼するぞ」
ソッ…ビリビリッ…!
母親「…ッ!」ズキンッ
錬金術師「…胸の下と、腹部に一発ずつの銃創…!貫通弾か…!」
女店員「…ッ!」
錬金術師「銃士、ヒールを使えるなら使えるだけ頼む!」
銃士「わかった!」パァァッ!
錬金術師「…だが、これだけでは血も体力の回復も追いつかない!」
錬金術師「女店員、店の在庫にあるアカノミをあるだけ!」
錬金術師「それと、倉庫に出てる錬金道具も一式持って来い!」
女店員「う、うんっ!」
クー「クーも…手伝う……っ!」
女店員「…うんっ」
クー「…」コクンッ
錬金術師「安心しろ、クー。必ず母親は助けてやる!」
クー「…っ」コクンッ
錬金術師「しかし、誰が…!」
錬金術師「…」
錬金術師「……!」ハッ!
錬金術師「…お、女店員待てっ!後ろだっ!」
女店員「えっ?」
…ガシッ!
女店員「きゃああっ!?」
錬金術師「…っ!」
…ヌッ!
アルス構成隊長「ぜぇ…ぜぇ……!」ギロッ
錬金術師「てめ…!気絶してたのを軍に引き渡したはずじゃ……!」
アルス構成隊長「軍の面子に、腕も折られたがぁ…仕事を失敗するほうが怖いからぁ……!」ゼェゼェ
錬金術師「逃げてきたのか…!」
アルス構成隊長「俺はアルスマグナの武闘派ぁ…。そうそうやられんよぉ……!」ハァハァ
錬金術師「こ、こんな時に……!」
アルス構成隊長「…その獣人のメスぅ、殺してでも持って帰るぞ…!」ゼェゼェッ
錬金術師「やらせると思うか…!」
アルス構成隊長「いう事ぉ、聞かないのかぁ…?人質がいるんだぞぉ……」ググッ
女店員「…がはっ!」ビキビキッ!
錬金術師「てめぇ……!」
アルス構成隊長「何もするな、そのまま見捨て、殺せ……!」
アルス構成隊長「遺体だけでもいいから、持ち帰ることにしたんだぁ……!」
錬金術師「…っ!」
女店員「て、店長!私のことは…!ごほっ……!」ギリギリッ
錬金術師「…見捨てなんかしねぇ!!余計な事言うんじゃねえ!!黙ってろォ!!」
女店員「ッ!」
銃士「くっ…!」チャキッ!
アルス構成隊長「おっと、動くなぁ!」スチャッ!
…ズキュウンッ!!!
ガキィンッ、クルクルクルッ…ガシャアンッ!
銃士「わ、私の銃が!何て早さ……!」ギリッ
アルス構成隊長「ふっ、ふははははっ!」
アルス構成隊長「銃は元々、我ら錬金師の武器だもぉん…!」
アルス構成隊長「歴史の浅い銃使いに、まけるわけがなぁい…!」
アルス構成隊長「形勢逆てぇ~ん……。ふ、ふふふふっ!」
錬金術師「てめぇ……!」
アルス構成隊長「…見捨てないなら、この女の首ぃ、へし折るだけだけどぉ…!」
ググッ、ググググッ……!ミシミシッ!
女店員「がっ…はっ……!ゲホッ…!」ビキビキッ!
錬金術師「やめろォッ!!」
アルス構成隊長「んふふっ……!」ググッ!
錬金術師「…ッ!」
錬金術師「……ッ!」
母親「わ……たし…は、いい…で…す……か…ら……」ゲホッ!
錬金術師「…め、目の前で死ぬんじゃねぇよっ!!母親なら、子のため、生きるんだよッ!!」
母親「…っ」
銃士「て、店長…!どうすればいいんだ……!」
錬金術師「…よ、ようやく全てが終わるところだったっつーのに!クソ野郎がぁ!!!」
アルス構成隊長「ふふふふっ!あっはっはっ!あはははっ!!」
錬金術師「…」
錬金術師「…っ」
錬金術師「…こ、これしかねぇか…!」
錬金術師「……おい、デカブツ!」
アルス構成隊長「何かなぁ?」
錬金術師「…お、お前を昇進できる立場にしてやる!それで手を打たないか!」
アルス構成隊長「…昇進だとぉ?」
錬金術師「…こんな獣人族の一人、遺体で持ち帰っても仕方ないだろう」
錬金術師「俺が、お前を昇進できる位に役立つ錬金道具を造ってやる!」
錬金術師「それで、手を打ってくれないか…!」
錬金術師「今、この子や母親は幸せになってほしいんだっ!!」
アルス構成隊長「…」
アルス構成隊長「……お断りぃ」ニタァ
錬金術師「っ!」
アルス構成隊長「身体はでかいけど、堅実に進めるタイプなんだよねぇ……」
アルス構成隊長「約束は嘘をつかないわけじゃないし、遺体のほうが確実だしねぇ……」
錬金術師「く、くそがぁっ!」
アルス構成隊長「あんた煩いから、黙ってて…」カチャッ
…ズキュウンッ!!!バシュッ!
錬金術師「!?」ブシュッ!
女店員「て、てんちょ……!」
クー「あっ…!」
銃士「て、店長っ……!!」
錬金術師「…あ゛っ…?」
…ブシュッ!ドロッ…!
アルス構成隊長「話す間に、色々やられちゃうことってよくあるし……」
アルス構成隊長「アナタは、最後まで面倒そうだから…先に倒しちゃう」ニコッ
錬金術師「うそ…だろ……」
…ドシャアッ…
女店員「てっ……!」
銃士「店長っ!!!」
クー「…ッ!」
母親「……っ」
錬金術師「…」
ドクッ…ドクッ…
アルス構成隊長「あ、あはははっ!よぉっし、あとは大人しくしてることぉ!」
アルス構成隊長「獣人のメスが死ねば、それで終わるんだからぁ!」
アルス構成隊長「ま、娘さんも貰っていけばいいかぁ……」ニタァ
クー「て…んちょ……」
トテテテッ……
錬金術師「…」
クー「てんちょ…う…?」
錬金術師「…」ユサユサ
クー「やだ…」
錬金術師「…」
クー「いやだ…!やだ……!しんじゃだめ……!!」
女店員「…ッ!」
銃士「な、なんで…こんな……」
クー「ままも、てんちょうも、やだ!!いやっ!!やだぁぁぁああっ!!」
…
…………
……
…
……ドギュウウンッ!!!……
…
……
…………
…
銃士「っ!?」
女店員「こ、今度は…なんなのぉ!もう、いやぁっ…!!」
クー「…!」
アルス構成隊長「…」
アルス構成隊長「…」
アルス構成隊長「……なに、これ……」ゴフッ
…ズリッ、ドシャアッ…
銃士「な、何っ!?」
女店員「…きゃあっ!」
…ドテッ!
女店員「い、いったぁい…!ど、どうしてこの男が倒れたの…!」
女店員「…っていうか、てんちょ……!」ハッ
クー「…あっ!」
銃士「…はは、そういうことね」
女店員「てっ…!」
錬金術師「…さすがに、倒れこんだ死角からじゃ…弾丸も予想できなかったか?」チャキッ
シュウゥッ……
女店員「て、店長……っ!店長っ~~!」
ダッ…ダキィッ!!ギュウウッ!
錬金術師「…い、いてててっ!撃たれてるんだよ俺は!」
錬金術師「ま、まるで死んだような迫真の演技だっただろ……ゴホッ!」
銃士「どうして、銃を…」
錬金術師「…返す」
…ポイッ
銃士「わっ、私のか!」
錬金術師「倒れた拍子に、お前の吹き飛ばされた銃を拾ったんだ」
錬金術師「…隙を見つけて、雷撃弾の装填で打ち込んでやった」
錬金術師「あの図体でも、2度目の雷撃はさすがに耐えれんはずだ…」ゴホゴホッ!
ドクッ…ドクッ……
女店員「で、でも血がっ!」
錬金術師「…撃たれたことにゃ変わりないが、俺は致命傷じゃねえ。すぐには死なねぇよ…」ゲホッ!
錬金術師「それより、母親だ…!銃士、ヒールの続きを……!」
銃士「わ、わかった!」パァァ!
クー「て、てんちょお…」グスグスッ
錬金術師「…お前が声をかけるのは俺じゃねぇ…。母さんだろうが、行って来い……!」バッ!
クー「う、うんっ…!」
錬金術師「女店員、倉庫からアカノミを持って来てくれ…!」
錬金術師「俺はいいから…!」
女店員「で、でもっ…!」
錬金術師「俺も、それで治すからよ……」ニカッ
女店員「う、うんっ…!」コクッ
タッ、タタタタタッ………
錬金術師(……ってぇな、クッソ!)ズキンッ!
錬金術師(まさか、銃で撃たれる日が来るなんて思わなかったぜ……)
錬金術師(あ~あ…)ゼェゼェ
錬金術師(手術、こえぇなぁ……)ハァハァ
錬金術師(弾丸摘出とかすんのかな……)
錬金術師(ん~…目が霞む……)フラッ
錬金術師(俺が倒れても、銃士がアカノミの配分は知ってるはず…だし……)
錬金術師(くそっ…眠い…な……)
錬金術師(ぐっ……)
錬金術師(…)
……ドシャッ……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・
・・
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 町の治療院 】
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「……あっ?」パチッ
モゾッ…
錬金術師「こ、ここは……」ムクッ
…スンッ
錬金術師「白い部屋、薬品の香り、治療院…か?」キョロキョロ
錬金術師「…」
錬金術師「…一体、俺は」
…ガチャッ!
銃士「…あっ!起きてるよ!」
女店員「て、店長っ…!」ブルッ
新人鉱夫「よ、良かったですぅぅ…」ヘナヘナ
錬金術師「お前ら……」
女店員「て~んちょお~っ…!」
ダダダダッ、ギュウッ!!
錬金術師「おふっ」
女店員「よ、よかったぁ……!店長っ…!」
錬金術師「…おいおい、わかったわかった!」
女店員「あうぅ……」グスッ
銃士「…ずいぶんと寝てたね。治療員の話じゃ、腹部に受けて、危ない所だったって話だよ」
錬金術師「俺は、どれくらい寝てたんだ」
銃士「…10日目さ」
錬金術師「!」
銃士「色々と、聞きたいこともあると思うけど…」
錬金術師「…そ、そうだ!クーは!?」
錬金術師「母親はどうなった、無事なのか!?」
女店員「て、店長。そのことなん…だけど……ね」
錬金術師「…どうした」
女店員「その…」
錬金術師「…まさか!」
…ガチャッ!
中央商人「…おっ、目が覚めたんじゃねぇか」
機関長「やれやれ、心配かけおって。お前はいつもそうだな」
錬金術師「…あぁん?」
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数分後 】
女店員「…っていうわけ」
錬金術師「…はぁ」
錬金術師「母親は機関長のオッサンの施術で助かって、クー共々、隣町機関で預かってる…と」
女店員「うん…」
錬金術師「…で、何でこのムサイーズはここにいるんだ?」
中央商人「おいコラ」
機関長「オッサン二人だが、ムサイーズはないんじゃないか……」
女店員「それはほら、店長が言ってた…」
錬金術師「…中央商人を頼るって話か?」
女店員「うん。一応、それを話したら中央商人さんがココへきてくれて…」
錬金術師「…そういうこと。中央商人サン、わざわざドモっす」ペコッ
中央商人「…お前が倒れたという話を聞いて、一応な」
中央商人「それに、あの二人の面倒を見てほしいとか言われ、どういうことなのか聞きに来たんだ」
錬金術師「なるほど…。」
錬金術師「…機関長、クーたちは元気なのか?」
機関長「あぁ、うちの部下と上手くやっている」
機関長「ただ、クーが元気すぎて白学士と錬成師は泡吹いてるがな」ハッハッハ
錬金術師「…そうか」フッ
機関長「…この町の治療院に運ばれた時、母親のほうが大変だったんだぞ」
錬金術師「ん?」
機関長「…獣人族として、バレるところだった」
錬金術師「あっ…」
機関長「応急処置だけ済ませ、女店員共々俺のところへきたんだ」
機関長「…俺が施術をしてやったが、もう問題ない。大丈夫だ」
錬金術師「…あんがと」
機関長「んむ」
錬金術師「女店員も、わざわざすまなかったな。助かったよ」
女店員「うんっ!」
錬金術師(…考えたら、俺が施術をしなければならなかったんだよな)
錬金術師(あの時は頭が動転して、治療院しか考えられなかった)
錬金術師(それに気絶しちまうし、くそっ!落ち着きや行動の点じゃ…まだまだだな、俺も)
女店員「それで店長、クーたちのこと…これからどうするの?」
錬金術師「どうするったって、本人らを交えないと話もできんだろうに…」
女店員「…あ、そっか」
銃士「ふむ、それなら問題ないんじゃないかな」
錬金術師「うん?」
銃士「確か、クーたちは今日ー……」
…ガチャッ!
クー「んっ♪」ビシッ!
母親「…」ペコッ
錬金術師「…クー!」
クー「あっ、てんちょ~!!」
ダダダダッ、ギュウッ~!グリグリッ!
錬金術師「うははっ!母さんも元気なようで、良かったな、クー!」
クー「うんっ!」
錬金術師「お前の笑顔、屈託のない笑顔を見れて…嬉しいぜ」
クー「…くったく?」
錬金術師「…最高の笑顔ってことさ。可愛いやつめ!」
…コチョコチョコチョッ!
クー「えへへへっ!きゃ~!」
ワイワイッ…!
…ザッ
母親「…その節は、本当にお世話に」ペコッ
錬金術師「…クーシィ」
母親「…」
錬金術師「…傷は」
母親「人より治りが早く、もう…大丈夫です」
錬金術師「そうか、よかった」
母親「…」ニコッ
錬金術師「…それじゃ、クーとクーシィ、中央商人サンと機関長以外は出てってくれないか」
錬金術師「少し、今後のことについて話合いたいんだ……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 治療院 待合室 】
銃士「…店長、元気になってよかった」
女店員「うんっ…」
新人鉱夫「ですねっ…」
銃士「それにしても、クーたちはこれからどうするんだろうね」
女店員「機関長に預かってもらうか、田舎町で中央商人さんにお世話になるか…だったかな」
銃士「クーのためを思うと、やっぱり中央商人さんのほうがいいのかもなぁ」
女店員「自然が多い場所のほうが、喜んでたしね」
新人鉱夫「…でも、クーは拒否しそうですよ」
女店員「どうして?」
新人鉱夫「隣町ならまだしも、田舎町とか遠くになると…店長さんと会うことは難しくなるじゃないですか」
女店員「あ~…」
新人鉱夫「店長さんに懐いてるクーなら、難しいと思いますが…」
銃士「だけどな、隣町だと足が着く危険性がある」
新人鉱夫「足…ですか?」
銃士「アルスマグナの連中が、そうそう諦めるとは思えないし」
新人鉱夫「!」
銃士「だったら、田舎の方がいいんじゃないかって思うんだ」
新人鉱夫「確かに…そうですね」
女店員「…とにかく、店長がどう考えているかかなぁ」
銃士「だね」
新人鉱夫「それなりに時間もたちましたし、そろそろ来てもー……」
…ガチャッ!…
錬金術師「…おう、話はついたぞ」
女店員「店長っ!」
銃士「それで、どうなったの?」
新人鉱夫「どうなったんですか?」
錬金術師「…とりあえず、中央商人の家で面倒を見て貰えることになった」クイッ
中央商人「長生きしてみるもんだな!こんな美人と住めることになるとは」ハッハッハ
錬金術師「…手ぇ出さんでくださいよ」ハァ
中央商人「バーカ、俺も歳だ。出したくても出せないっつーの」
錬金術師「ならいいんですけどね」ジトッ
母親「…」クスッ
クー「…お爺ちゃんが出来た!」
中央商人「おうおう、かまわんぞ!爺ちゃんとでも呼んでくれ!」
クー「うんっ♪」
中央商人「はっはっはっ!」
機関長「…」
機関長(…このまま住まわせておけば、美人との暮らしも待っていたというのに!)
機関長(ぐぬっ…!)
錬金術師「…そして時たま、機関長のところで身体の様子は見てもらう」
錬金術師「術士先生なら女性同士だし、腕も確かだから病気の際に役立つだろう」
女店員「なるほどね~」
錬金術師「やっぱり、自然の中で育てたほうがいいし、山の中へ離れたほうがいいと思ったんだ」
錬金術師「最初は泣いて嫌がってたけどなー。うりうりっ」
グリグリッ…
クー「だ、だって…。店長と離れちゃうの…やだ……」グスッ
錬金術師「…いつでも会えるさ」
クー「…っ」コクン
中央商人「…ははは、俺はこれでも、いっぱしの元社長だぞ!」
中央商人「少なくとも、俺は俺の力を使って…この子たちを幸せに、守っていけるはずだ」
母親「…本当にありがとうございます」ペコッ
中央商人「そんな畏まるな。」
中央商人「店長が俺と知り合ったことも、今日という日も、全部運命だってことさ」
中央商人「ただ、注意してほしいことがある」ギロッ
母親「…なんなりとおっしゃってください」
中央商人「…本当に田舎だし、畑やらもするし、虫も多い!」
中央商人「そんな生活に、アンタみたいな美人と!可愛い子供で!耐えられるかぁ!?」
母親「…!」
母親「…が、頑張ります。元々、獣なんですよ私たちは」ニコッ
クー「クーも頑張るっ!」
中央商人「くははははっ!そうかそうか!」
機関長「…」
機関長「いいなー…」ジトッ
錬金術師「…」
機関長「…」ハッ
機関長「ご、ごほんっ!みんな幸せな道を見つけたようで何より!これから頑張ろうな!」
錬金術師「…しょぼくれてんなよ、オッサン!あんたにもいつか春が来るさ!」
バンバンッ!!
機関長「い、いててっ!うるさいぞ!」
機関長「お前こそどうなんだ、お前にだって春は来てないだろう!」
錬金術師「えっ、俺?」
機関長「…中途半端にモテたりするくせに、恋愛っ気もないじゃないか!」
機関長「人に言う前に、お前が相手を見つけてから言ってくれぬか!」フンッ
女店員「!」ピクッ
銃士「!」ピクッ
錬金術師「…あ、あぁんっ!?」
機関長「オメーだって独り身だろうが!バーカバーカ!」
錬金術師「う、うっせぇ!俺はいいんだよ!」
機関長「なーにがいいだか!女性に囲まれた職場や、出会いがあるくせに一歩も踏み出せないだろーが!」
錬金術師「放っとけ!!」
機関長「ほらほら、銃士くんや女店員くんとかに声をかけてみたらどうだ!」
錬金術師「何であいつらに声かけないといけないんだよ!」
機関長「その哀しみを分かち合うように、慰めてもらえばいいんでないかい!」
錬金術師「んだとぉ!」
機関長「なんだぁ!?」
ギャーギャー!!!
クー「…」オロオロ
クー「…」オロオロ
クー「…」グスッ
クー「けんか…ダメだよぉ……」ヒグッ
錬金術師「はっ!」
機関長「はっ!」
クー「ダメだもん……」グシグシッ
錬金術師「け、ケンカなんかしてないぞぉ!」
機関長「そ、そうだそうだ!今度、こういう劇があってそういう練習をだな!」
クー「…そうなの?」ブルッ
錬金術師「お、おうよ!ほらほら、機関長と俺は仲良しだ!肩組んで踊るんだ!」ガシッ!
機関長「凄い仲良しなんだぞ!ほらっ!」ブンブンッ!
クー「…」
クー「……え、えへへっ。本当だ……」ニコッ
錬金術師「ふぅ…」
機関長「はぁ…」
女店員「……何してるんだか」
銃士「はは…。クーという最強の敵が出来てしまったな」
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――――【 少しして 】
錬金術師「…はぁ、全員帰ったか。クーらは中央商人の一軒家に向かったし」
女店員「銃士と新人鉱夫も、お店番に戻ってるって」
錬金術師「クーたちはあの人らに任せとけば安心だ」
女店員「うんうん。クーもまた遊びに来るって言ってたし」
女店員「あ、と、は~……っ!」クルッ
錬金術師「ん…」
ヌッ…グニッ
錬金術師「あだだだっ!?」
女店員「店長がお店に戻ってくれば、万事解決っと♪」
錬金術師「び、病人になんてことしやがる!」ズキズキ
女店員「ちょっと頬をつねっただけでしょー!」
錬金術師「いてぇの!」
女店員「えへへ~♪」
錬金術師「…」
錬金術師「はあぁ~……。早く、店に戻ってピーナツ食って過ごしたいぜ」
女店員「それよりお店の経営でしょ」ジトッ
錬金術師「わ、わかってるわ!」
女店員「どーだか」ジトォッ
錬金術師「…いつ治るんだかなぁ」
女店員「店長は純粋な人間なんだから、しっかり完治するまで入院だからね!」
錬金術師「分かってるよ!」
女店員「銃に撃たれて倒れるとか、一生に一度の体験じゃない?」
錬金術師「…二度とゴメンだっつーの」
女店員「…」
女店員「…でも、さ」
錬金術師「ん」
女店員「…店長が生きててくれて、本当によかった」
女店員「私、あんな風に店長と別れるの絶対に…嫌だったもん」
錬金術師「…」
錬金術師「……バーカ!」
…グイッ!
女店員「ひゃっ…!」
錬金術師「俺を誰だと思ってる?」
錬金術師「そうそう死ねないんだよ!まだまだ俺は、この世で遊び足りないからな!」
女店員「…うんっ」
錬金術師「…」
スルッ…サワッ…
女店員「ッ!?」
錬金術師「…お?柔らかい…」
女店員「ち、ちょっとドサクサに紛れてどこ触って……!」
錬金術師「ち、違う!!今のは、手が滑ったんだ!!」
女店員「…こ、このぉぉぉっ!」
錬金術師「ま、待て……!」
……ガチャッ
銃士「失礼するよ。店長、言い忘れてたことがあってー……」
新人鉱夫「あっ……」
女店員「ばかぁぁぁあっ!!」
ビュッ!!ゴチィィィンッ…!!!
錬金術師「」
女店員「天誅っ!!」ビシッ!
…ドサッ
錬金術師「」ピクピク
銃士「…」
新人鉱夫「…」
銃士「…くくっ、ははははっ!どこでも変わらないな、店長は!」ハッハッハ
新人鉱夫「凄く安心しますよね。早く、お店に戻って来てくださいね!」
女店員「あっ…!ふ、二人とも……」
銃士「くくくっ…」
新人鉱夫「あははっ!」
錬金術師「…」
錬金術師「…て、てめぇら…」プルプル
錬金術師「ちったぁ、病人の俺を心配しろ、泣くぞこらぁぁぁっ……!!」
……………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
――――そして。
店長たちの交友関係に、クーと母親、中央商人が加わった。
クーは、素晴らしい仲間たちに囲まれ、これからも成長していくことだろう。
一方、店長は少し遅れつつも無事に退院。
お店の切り盛りに追われると思ったが、お店はいつも通りの平常運転。
ようやく、落ち着いた日々が戻ってきたのだ。
……だが。
その中でただ一人、悶えている男がいた……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 その頃 セントラルカンパニー最上階 】
親父「…どういうことだ、コレは!!」ドンッ!!
バサバサバサッ…!
秘書「…完全にやられました」
秘書「あの、中央商人の持ってきた権利書には制約が多く、使えたものではありません…」
秘書「しかも、この内容では中央商人様自身が得をするように仕掛けられており……」
親父「あ、あのクソ野郎……!」
親父「俺に対して、一杯食わせやがったのか……!」ギリギリッ!
秘書「進行をさせていた企画は倒れ、数百億ゴールドの損害が出ております」
親父「…分かっている!」
秘書「…っ」
親父「…許さんぞ。これを計画したのは、クソ息子か!」
秘書「いえ、彼の単独犯だと思われます」
親父「…ならば!あの田舎町を買い取り、全てを潰す!アイツの住む町など、灰にしてくれるっ!」バッ!
秘書「そ、そうおっしゃると思って、準備も進めようとしたのですが……」
親父「…なんだ!!」
秘書「田舎町は、政府が直々に保護をした特別区域になっています…」
秘書「…世界に影響を及ぼす成果をあげた、"竜騎士"という男が住んでおり、国がそう定めているらしく…」
親父「なっ、なんだと……!!」
秘書「す、全て…反撃を出来ない事を含め、彼の、"中央商人"の計画のうちだったと……」
親父「バカな…!そんなバカな!!」
親父「俺が、この俺がぁぁぁ…!!」
親父「あんな引退した、隠居野郎に負けたというのかっ!!」ギリッ!
秘書「…」
親父「く、クソっ…!クソがぁぁっ!!」
親父「このままでは、絶対に済まさんからなっ……!!」
……………
………
…
…
………
……………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして 錬金術師のお店 】
錬金術師「…」ポリポリ
錬金術師「…」ポリポリ
錬金術師「…」ポリポリ
錬金術師「…」ポリポリ
女店員「…店長」
錬金術師「んあ」
女店員「いつまでポリポリしてるの!早く仕事して!」
錬金術師「おいおい…。このメープルピーナツが絶賛の嵐なんだよ」
女店員「な、に、が、絶賛の嵐なの!」
錬金術師「世界単位で話題なんだよ」
女店員「店長が退院してから、外に出てるの見たことないんだけどなー?」
錬金術師「ばれたか」ポリポリ
女店員「バレバレだから!!」
…ガチャッ
新人鉱夫「ただいまですー」
銃士「ただいまー」
錬金術師「あ、おかえり~」フリフリ
女店員「あ、お帰りなさい」
銃士「はっはっは、いつもと本当に変わらないパターンだな」
新人鉱夫「外まで響く、女店員さんの怒鳴り声!お店のスパイスですね!」
女店員「あうっ……」
錬金術師「…ははは、ドンマイ」ポンッ
女店員「…」
女店員「…」プルプル
銃士(あ、これは……)
新人鉱夫(落ちまで完璧に釣るとは、さすがです店長さん!)
錬金術師「まぁ、君もこの言われようなので心を入れ替えてー……」
女店員「だぁ…れぇ…のぉ……!!」グググッ
錬金術師「へっ?」
女店員「せいだとっ!!思ってるのぉぉぉぉっ!!!」
ビュオッ!!!!ゴッチィィィィンッ…!!!
…ドサッ!
錬金術師「」
女店員「はぁ~!はぁ~……!」ゼェゼェ
銃士「ナイス鈍器攻撃!」ビシッ!
新人鉱夫「さすがですね!」
女店員「はぁ……」
…コンコンッ…
女店員「ん……」
銃士「おっ?」
新人鉱夫「このタイミングでお客さんですか?」
女店員「…かな?」
錬金術師「ど、どーじょー……」ピクピク
…ガチャッ!
女店員「…」
女店員「……あっ!」
銃士「おっ!」
新人鉱夫「あっ!」
クー「…えへへっ!遊びに来たよ!てーんちょっ!」ピョンッ!
錬金術師「…」
錬金術師「…おう、いらっしゃいませ。最高のお客様」ニカッ
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
It is not time to close a shop!
―――――――――――――――――――――――
錬金術師「面倒だけど経営難に立ち向かう事になった」
新人鉱夫「その3!」
―――――――――――――――――――――――
Continues to the next story....Don't miss it!
【 E N D 】
713 : ◆qqtckwRIh. - 2014/12/29 22:28:00 npp0PusQ 623/685
錬金術師の第三弾の本編は、これにて終了になります。
今作は、一風変わった作品に仕上がったとは思いますが、途中途中で
「あれ、この話の流れは店長らしくないな」と、思うところもあったと思います。
そして、色々と錬金術要素を盛り込んだり、父親との戦いを初めて直接的に描いたりしました。
全てが終わってみると、裏をかきつつの、物語の真相を解く、
前作程ではありませんが、ミステリー的なファンタジー作品として店長たちは活躍したのではないかと思います。
…また、今作のように店長一派がガッツリ戦うシーンは珍しく、新鮮さとともにウキウキしておりました。
本編が終了し、次回は「短編」予定しております。
不思議な道具で起こすハプニングの、短く楽しめる作品と予定しておりますので、
是非、最後までお付き合いいただければ嬉しい限りです。
それでは、ありがとうございました。
727 : ◆qqtckwRIh. - 2015/01/08 21:22:37 0/6sj7.w 624/685皆さま有難うございます。
事情があり、大変遅くなりましたが短編の投下、開始いたします。
【 スペシャルエピソード 】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 とある日 錬金術師のお店 】
…ガチャッ!
女店員「はぁ~!疲れた、ただいま~」
錬金術師「おーう」
銃士「お帰り」
新人鉱夫「お帰りなさい~」
女店員「うっ、うぅ……」
女店員「相変わらず、どこに営業してもダメだった……」ガクッ
錬金術師「はっはっは」
女店員「…」ギロッ
錬金術師「ごめんなさい」
女店員「あのね…。うちは今、経営危機なの。わかる?」
錬金術師「んなの年中だしな」ハッハッハ
女店員「…」ギロッ
錬金術師「ごめんなさい」
銃士「やれやれ、飽きないやり取りだな」ハハハ
新人鉱夫「あはは…。でも、これがこのお店の良さですよ、なんて」
女店員「…」
女店員「…あ、そうそう。営業回りしてたら、これ貰ったんだよね」
…ゴトッ!
錬金術師「何この箱」
女店員「あの、魔法堂のおばあさ」
錬金術師「捨ててきて」
女店員「はやっ!」
錬金術師「…お前、あのスゴロクでどんな目にあったか忘れたのか」
(※「経営難その2」番外編等を参照)
女店員「そ、それはそうだけど~…」
女店員「折角だから持って行けって、しつこかったから……」
錬金術師「…どうせ、またろくなもんじゃないのは分かってるからな」
錬金術師「開ける前に、さっさと燃やしちまうぞ」ハァ
女店員「あ、うん…」
錬金術師「どれ、よいしょ……」
ヒョイッ…ポロッ
錬金術師「おっと……」
コロコロ……ピカッ!
錬金術師「ぬぁっ!?」
女店員「へっ、箱が光って……!」
銃士「何っ!?」
新人鉱夫「うっ、まぶしっ……!」
ピカァァァアッ……!!バシュンッ!!
錬金術師「…っ!」
女店員「…」
銃士「…」
新人鉱夫「…ひ、光っただけ…?」
錬金術師「なっ、なぁんだ……」
女店員「光っただけか、驚かせやがって……」
銃士「びっくりしたけど、何もなかったようだね」
新人鉱夫「あはは、良かったですね…」
錬金術師「…」
女店員「…」
銃士「…」
新人鉱夫「…」
錬金術師「…あれ?」
女店員「ん…?」
銃士「…え?」
新人鉱夫「えっ…」
錬金術師「…何で、私が立ってるの?」
女店員「なんで俺がもう一人いるんだ」
銃士「…」
新人鉱夫「…」
錬金術師「…え?」
女店員「あぁん…?」
銃士「…え、まさか」
新人鉱夫「ま、まさか……!」
錬金術師(女店員)「…えっ」ヒクッ
女店員(錬金術師)「お、おい……」ピクピク
銃士「二人とも、ま、まさか…逆に……」
新人鉱夫「か、身体を交換しちゃったんじゃないですか!?」
錬金術師「なっ…!」
女店員「な…」
錬金術師「なんでぇぇぇっ!」
女店員「なんだとぉぉっ!!」
銃士「あ、あらら……」
新人鉱夫「僕たちは変わらなかったようですが……」
錬金術師「やだぁぁ~!!わ、私店長になってるの~~!?」
女店員「…おいおい」
錬金術師「どどど、どうすればいいのぉ!?」
女店員「…落ち着け」
錬金術師「ああんもうっ!!落ち着けなんて言われてもぉぉ……!」クネクネ
女店員「…落ち着け言うとるだろうが!!」
錬金術師「あうぅ……」
女店員「…だから余計なもん貰ってくるなっつーんだよ」
女店員「身体だけ交換されたみたいだな。頭ん中は幸い、そのままだ。錬金術の事を忘れていない」
錬金術師「れ、冷静に解析してる場合っ!?」
女店員「慌てて色々あるほうが問題だろうが」
錬金術師「それはそうだけどぉ…っ!」
女店員「…とりあえず銃士、魔法堂の場所は分かるか?」
銃士「あぁ、うん」
女店員「この入れ替え道具、どうやったら戻るか聞いてきてくれないか」
銃士「わかった」
女店員「新人鉱夫は、少し離れて銃士のあとを着いて、一人でコレ返してきてくれ」
女店員「近づいてなければ発動もしないはずだ、多分な」
新人鉱夫「わ、わかりましたっ」ゴソゴソ
女店員「じゃ、頼んだぞ」
銃士「うん、すぐ行ってくるよ」
新人鉱夫「行ってきます!」
ガチャッ……バタンッ……
女店員「…」
錬金術師「…」
女店員「…はぁ」
錬金術師「…はぁ」
女店員「…自分が立ってるって気持ち悪いな」
錬金術師「そうだね…」
女店員「しかしまぁ、男女を交替するなんて中々出来ない経験だぞ」ククク
錬金術師「そうだけど、そういう問題じゃなぁい!」
女店員「…」
女店員「…」
女店員「……そぉい」
…フニュッ、フニュッ
女店員「ほぉ、やはり男と比べて女の身体は自分で触っても柔らかい…」
錬金術師「…っ!?!?」
女店員「うむ、色々とこれは未体験なことがー……」フニフニ
錬金術師「バッ、バカァァァッ!!!」
女店員「うるさっ!」
錬金術師「ななな、何をしてるの!!それ私の身体だから、変なことしないでよぉっ!!」カァァッ!
女店員「いや折角だし…」
錬金術師「折角も何もなぁいっ!!」
錬金術師「あぁぁ、私の身体じゃなかったら殴ってるところなのに~~!!」
女店員「自分の身体で、自分の身体触ってるだけだし問題ないかなと」
錬金術師「大問題~~~!!!」
女店員「あら、そうか」
錬金術師「も、も~やだぁぁっ!」
錬金術師「…うぅっ」
錬金術師「…」
錬金術師「…」ブルッ
錬金術師「…っ?」
錬金術師「えっ、待って……!」
錬金術師「まさか、これって…………!」サァァッ
女店員「どうした?」
錬金術師「と、トイレ……!?」ボソッ
女店員「あぁ、今朝のごはんの時、水めちゃくちゃ飲んだしなぁ」
錬金術師「ま、待ってよ…!ど、どうすればいいの…!」
女店員「まず、ズボンを脱いでだな」
錬金術師「そういうことじゃくてぇ~~っ!!」
女店員「じゃあ何だよ」
錬金術師「て、店長の身体で私がトイレするのっ!?」
女店員「俺の身体で漏らすのは勘弁してほしいんだが」
錬金術師「…」
女店員「早くトイレいってこいよ」
錬金術師「待ってよ…。やだ……」
女店員「いいから、早く行けっての!」
錬金術師「て、店長の見ることになるでしょ~~!!絶対にやだ~~!!」
女店員「俺の身体で漏らすのも、俺も嫌だっつーの!!」
錬金術師「え、えぇぇっ……!」
錬金術師「が、我慢するっ!我慢できるもんっ!!」
女店員「ば、ばかっ!俺の身体だぞ!!」
錬金術師「そのうち戻ったら、その時にやればいいじゃんっ!」
女店員「馬鹿言うなっつーの!!おまっ、無理やりにでも連れてくぞ!こっちこいっ!!」グイッ!
錬金術師「やだぁぁぁっ!トイレなんて行きたくないいい!」
女店員「ふ、ふざけんなっ!漏らしたらどうすんだよ!!」
錬金術師「我慢するぅぅっ!」
…ガチャッ
お客さん「こんにちわ……」
女店員「いいからトイレ来いっつーの!!やり方なら教えてやるからよっ!!」
錬金術師「やだぁぁぁっ!トイレ行きたくないぃぃっ!」
お客さん「…」
女店員「…あっ」
錬金術師「あっ…」
お客さん「…」
お客さん「…失礼いたしました」ペコッ
ガチャッ…バタンッ……
女店員「」
錬金術師「」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 お店にあるトイレ 】
女店員「だから最初から来いっつったじゃねーか!」
女店員「俺の身体で騒ぎやがって、恥かいたの俺だぞ!!」
錬金術師「て、店長がどうしても行かないなら私の身体で遊ぶっていうからでしょ!!」
ギャーギャー!!
女店員「いいから早くしろっつーの!!」
錬金術師「…どうしても?」
女店員「…裸で町ん中走るぞ」
錬金術師「脅迫…。も、戻ったら覚えててよ……」ピクピク
女店員「いいから、早くやってこい。やり方分かるだろさすがに」
錬金術師「…」
女店員「…」
錬金術師「…やっぱやだ」
女店員「全裸になるぞ」
錬金術師「うっ、うぅぅぅ~……」
錬金術師「…どうしてこんな目にぃぃ」
ガチャッ……
女店員「…しっかりやれよ!」
錬金術師「うっさいっ!!」
…バタンッ
女店員「…」
女店員「…」
錬金術師「きゃあぁ~~っ!いやぁ~~~っ!」
女店員「…」
女店員「…」
錬金術師「や、やだやだやだやだっ!無理無理無理ぃぃっ!」
女店員「…」
女店員「…」
錬金術師「ひぐっ…!何これぇ……」グスッ
女店員「…」
女店員「……早くしてくださいね」
錬金術師「やだぁぁぁっ…!」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 30分後 錬金術師のお店 】
…ガチャッ
銃士「ただいま、返してきたぞ」
新人鉱夫「ただいまです~」
女店員「おう、お帰り」
錬金術師「」チーン
銃士「…店長、じゃなかった。女店員はなんで死んでるんだ…」
女店員「まぁ、色々あってな」
女店員「それよか、解除方法について魔法堂のババァ何か言ってたか?」
銃士「試作品で、24時間以内で戻るって」
女店員「あぁ、そうか。じゃあ明日くらい目安ってことか」
銃士「それと、店長にヨロシクって」
女店員「…俺はよろしくしたくねーけど」
錬金術師「…い、一日このままなの?」
女店員「まぁ、しゃあないべ」
錬金術師「…っていうか、私、家とかどうすればいいの」
女店員「…俺はこのまま、ココで寝泊まりのままでいいが。家はそのままでよくね」
錬金術師「だ、ダメぇっ!私がいない間、色々やりそうだからっ!」
女店員「え~…」
新人鉱夫「中身は店長さんですけど、身体は女店員さんで、僕としても恥ずかしいです…」
女店員「じゃあ、俺が女店員の家に行くか?」
錬金術師「う、う~ん…。それならいいの…かな……。」
女店員「ふむ…。んじゃ、今日はこういう事情だし店閉めて、お前の家で休むか」スクッ
銃士「…なぁ、二人とも。トイレやら、風呂はどうするつもりなんだ?」
女店員「あぁ、トイレは既にコイツは体験済み」クハハ
銃士「!?」
新人鉱夫「!?」
錬金術師「ち、ちょっとそういうこと言わないでよぉっ!」
錬金術師「……っていうか」
錬金術師「今言われて気付いたけど…お風呂のこと、考えてなかった」サァァ
女店員「どのみち、俺もお前の身体で色々行くことにはなるんだろうし」
女店員「風呂も気にせず入っていいぞ。」
錬金術師「だだだ、ダメだってば!」
錬金術師「店長は気にしなくてもっ!」
錬金術師「私の身体で入ることも、店長の身体で入ることも私は気にする~~!!」
女店員「じゃあ入らない方向で」
錬金術師「うっ、でも…私の身体を綺麗にされないのは嫌かも……!」
女店員「どっちだっつーんだよ!」
銃士「…」
銃士「じゃあ、お互いにそのままの家に戻るなら、面倒を見合うってのはどうだろうか?」
女店員「んっ?」
錬金術師「えっ?」
銃士「…店長はどうでもいいようだが、女店員は見たくないし、見せたくないんだろう?」
銃士「なら、目隠しとかの面倒にしろ、お互いにやってあげればいいんじゃないかな」
錬金術師「!」
銃士「さすがに女店員の身体で、風呂の面倒を新人鉱夫が見るわけにはいかないし」
銃士「もちろん、店長の身体を見るのは私だってその…は、恥ずかしいし」
銃士「だから、それぞれの家で、私は店長、新人鉱夫は女店員の面倒を見ればいいだろう?」
女店員「あぁ、それなら」
錬金術師「いいかも…」
銃士「…じゃ、決定かな」
女店員「おっけぃ。じゃ、俺は女店員の家に行くかね」クルッ
錬金術師「…ま、待ってその前に銃士っ!」ダッ
ダダダダッ、グイッ!
錬金術師「私の下着とかも、トイレももちろん、何もかも見せたりしちゃダメだからね!」
錬金術師「あと知ってると思うけど、隠してるアレとか、アレとかもダメだよ!」
銃士「わ、分かってるって!」
銃士(中身が女店員だけど、て…店長の身体なんだから…)
銃士(いつものように寄られると恥ずかしいぞ……)
錬金術師「…銃士に任せとけば安心かなっ」ホッ
錬金術師「じゃあ、私の面倒は新人鉱夫に任せるよ?」
新人鉱夫「…任せて下さい!」
女店員「んじゃ、また明日の朝にな」
錬金術師「本当に変なことしないでよ…!」
女店員「わーったわった!」
錬金術師「…」
銃士「ははっ…。じゃあ、今日はこれで解散で……。」
銃士「お疲れ様でした」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして夕刻 女店員の部屋 】
…ドサッ!
女店員「…女の身体って、意外と疲れるんだな」ハァッ
女店員「ここまで歩くのに…少しだけ息が上がっちまった」フゥ
銃士「あはは、そりゃそうだよ。私ならともかく、女店員ちゃんは普通の女の子だよ?」
女店員「ふーむ…。体力のなさ、まるで俺の身体のようだ」
銃士「…」
銃士「…ま、まぁあまり色々研究しないであげてね」
女店員「目の前で色々触ったら怒られたからな」
銃士「…そ、そりゃ怒るね」ハハ…
女店員「滅多に出来ない体験だし、しておくことはしておいたほうがいいかと…」
銃士「それで女店員が、二度と立ち直れなくならないようにね…」
女店員「そりゃ…」
銃士(…身体は女店員だけど、こういう話すると中身は店長だって認識するな)
銃士(やばっ、少しだけ意識したらドキドキしてきた……)
女店員「…さて、どうするかな」
女店員「帰ってきてばかりでなんだが、ハズいことは先に済ませたいし、風呂とか入っちゃうか?」
銃士「えっ!」ドキッ!
女店員「目隠し用のタオルとかあればいいだろ。どこだ?」
…ゴソゴソ
銃士「あっ、待って!そこは…!」
…ピラッ
銃士「あっ…!」
女店員「おふっ…。失礼、下着置き場だったか……」
女店員「…なんだ、あいつも意外と可愛いのを」
銃士「それ、私のね…」カァァ
女店員「…えっ」
銃士「わ、私はそこまで気にしないけど、恥ずかしいからやめてくれ……」プイッ
女店員「…これお前の下着か!悪い!」ババッ!
銃士「い、いや…。いいよ……」
女店員「…勝手にあさるのは良くないな。タオルはどこだろうか」
銃士「今出すから、浴室で待っててくれる…?」
女店員「わかった」
トコトコトコ……ガチャッ、バタンッ!
銃士「…」
銃士「…」
銃士「……まずい、これは思ったより…私が持たないかもしれない」カァッ
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 浴 室 】
モワモワ……
女店員「じ、銃士…。ちと目隠しを絞め過ぎじゃないか…キツいぞこれ……」ギリギリ
銃士「仕方ないだろう、私だって恥ずかしいんだから……」
女店員「んあ?」
銃士「風呂に入るのに、私も脱いでるんだ。辛いと思うが、勘弁してくれ……」
女店員「あぁ…そういうことか」
銃士「…身体、洗うから。失礼するよ」
…スッ
女店員「へい」
コシッ……
女店員「…ぬおっ!くっ、くすぐったいな」
銃士「あ、ごめん…」
女店員「ぐっ…、自分で洗うのはダメか?」
銃士「…色々触るのはアウトだと思うぞ。女店員との約束だし」
女店員「かといって、くすぐられるのもなぁ。」
銃士「…」
銃士「…えぇいもうっ、我慢するんだ店長っ!」
…ゴシゴシゴシッ!
女店員「くっ、くはははっ!おいバカ、待てっ!!」
銃士「時間だけがたっちゃうし、無理にでも洗っちゃうから!」
女店員「ははははっ!ば、ばかやめろっ……!」
ツルッ……
女店員「げっ、足がすべっ……!」
…ドシャッ!!バシャアッ!
銃士「あっ…!」
女店員「っててて……!」
銃士「す、すまない大丈夫か…!」
女店員「無理するからだろーが……」
女店員「…」
女店員「……って」ハッ
銃士「え…?」
女店員「泡で滑って、タオルがな…?」
銃士「…ちょっ!?」
銃士「め、目隠しのタオル外れてるじゃないかっ!?」
銃士「ちょっ、店長っ!そっち向いててっ!!」バッ!
女店員「お、おうっ!」クルッ!
…フラッ
女店員「…っとと、おわっ!」
ドシャアッ!グニュッ…!
銃士「て、店長っ!?ちょっ、何を……!」カァァッ
女店員「す、すまん足場が悪くて!」ワチャワチャ
…フニッ…
銃士「…あっ!?」ビクッ!
銃士「あ、暴れないで…今、どけるからっ!」
女店員「わ、わかってるが…!」
銃士「うぅっ…!じゃあ、今先にどけるよ…」スクッ!
ツルッ……
銃士「へっ…」
…ドシャッ!ギュウッ!ムニュッ…ヌルッ…
銃士「ちょっ、身体絡めないで!?」
女店員「今度はお前が滑ったんだろうが!」グイグイッ!
銃士「そ、そこで暴れちゃだ…めっ……!」ゾクッ!
女店員「ぬぐっ…!」
銃士(…なっ、なななっ!何でこんなことに!?)
銃士(風呂の熱気と、泡でニュルニュルするし、うぅぅっ~~……!)
女店員「…泡のせいで滑るんだよ!しゃ、シャワーで流すぞ!」バッ!
銃士「う、うんっ!早く~~~っ!」
…シャッ、シャアアアッ……!
女店員「…っ」
銃士「…はぁ、はぁ~……!」
女店員「よし、これで泡は全部流れたな…」
銃士「うん…」
銃士「…」
銃士「……って、泡が全部流れたってことは」
女店員「あ…」
銃士「…」
女店員「…見えましたね」
銃士「…~~っ!」バッ!
銃士「ちょ、ちょっと一回先に外に……!」カァァッ
クルッ、ダッ……!
女店員「あっ、そこの足元まだ滑りそうだぞ……」
銃士「えっ…」
ツルッ……!
女店員「あっ…」
…ドシャッ、ゴチィンッ…!!
銃士「」
女店員「…お、おいっ!大丈夫か!」
銃士「…」
女店員「…」
銃士「…」
女店員「…どうすんだよ、この状況」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 少しして 】
ソヨソヨ…
銃士「…」
銃士「…あっ」ハッ!
女店員「目ェ覚めた?」
銃士「私…は……」
女店員「風呂場で足滑らせて倒れたんだよ」
女店員「…すまんと思いつつ、放置もできんから着替えさせて横にさせてたんだよ」
銃士「…」
銃士「…えっ?」
銃士「…」
…チラッ
銃士「下着…。穿いてる……。」
銃士「…」ソッ
…ポフポフ
銃士「上も…」
銃士「…」
銃士「……」カァァァッ!
女店員「…」
銃士「…ふ、不覚だぁぁっ!」
銃士「ち、違う!別に私はハンターだし、そういうことは見られても恥ずかしくなんかないぞ!」バッ!
銃士「だけどこう、女性としてその、慌てたふりもしたほうがいいとか思ってるだけで!」
銃士「あの、そのあれだ!色々、アレで!あれが~~っ……!」
女店員「…お、おいおい落ち着け。身体は大丈夫か?」
銃士「う、うんっ、それは……!」
女店員「それならヨシ」
銃士「…っ!」
銃士(わ、私を着替えさせただって…?)
銃士(うぅ、自己嫌悪…!そ、そりゃ特別、嫌なわけじゃないけど……!)
銃士(で、でも……っ!)
女店員「…なんか、やっぱ恥ずかしかったよな。色々とゴメンな」
銃士「あっ、そ…そういうことじゃなくて…!」
女店員「ふぉ、フォローのつもりだが…」
女店員「銃士はやっぱりハンターだけあって、鍛えてあってスマートだと思ったぞ!」
銃士「」
女店員「だが、女性らしいところは女らしく、いい身体だったぞ、うん!」
銃士「…」
銃士「……て、店長、ダメだぁぁっ!」
銃士「フォローになってないし……!」
銃士「やっぱり本音じゃ恥ずかしすぎるっ!!え、えぇいっ!!」ビュッ!
女店員「んっ…?」
…ストンッ!
女店員「ぐおっ!?」
…ドサッ!
銃士「首へ、軽い気の一撃っ…。これなら負担もなく、明日まで寝てるはず…」ハァ
銃士「……女店員の身体だが、すまん」
銃士「…」
銃士「…ッ」カァッ!
銃士「うぅ、思い出すと…ダメだぁぁぁっ!」ブンブンッ!
銃士「心頭滅却しないと…」
スクッ…トコトコッ……
銃士(…店長には、あとで布団で寝かせるとして)
銃士(この一瞬で、変な汗やら色々と流し直さないとダメみたいだ……)
銃士(…)
銃士(……どうしよう、こんな…)
銃士(…っ)
銃士(き、気にしないもん……!)
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 朝 女店員サイド 】
錬金術師「…」フワァ
錬金術師「……あれ、ここどこ…?」
錬金術師「…」
錬金術師「あっ…。そっか、私ってば店長と身体が入れ替わったんだった……」
…ジュウジュウ
新人鉱夫「…あ、目が覚めましたか?」
新人鉱夫「今、朝ごはんが出来るので待っててくださいね」
錬金術師「良い匂い…。新人鉱夫、朝早いね……」フワァ
新人鉱夫「いつものことですよ」
錬金術師「昨日は色々とゴメンね。風呂場で暴れたり……」
新人鉱夫「あはは、いいですよ。仕方ないですって」
錬金術師「でも、今日は戻れるらしいし…早く戻りたいな」ハァ
新人鉱夫「24時間たちそうですし、店長さんたちが戻ってきたら意外とすぐ戻れるかもしれないですね」
錬金術師「そうだといいんだけど…」
…ガチャッ!!
女店員「ういーっす」
銃士「お、おはよ~…」モジモジ
錬金術師「っ!」ピョンッ!
タタタタッ…
錬金術師「店長、銃士、おはよ…!」
女店員「おう、起きてたか。少し早めに来てみたぞ」
錬金術師「うん」
女店員「お前、俺の身体で何もなかっただろうな」
錬金術師「それは私のセリフっ!銃士、きちんとしてくれたよね!」
銃士「あ、あぁ…。きちんとできた…やったぞ……」
錬金術師「そっか、よかったぁ……」ホッ
トコトコ…
新人鉱夫「…会ったら意外と治ると思ってましたけど、まだ入れ替わらないんですね」
錬金術師「やっぱり24時間ピッタリにならないとダメなのかなぁ?」
女店員「そろそろ24時間たつし、治る時ってどうなるんだろうか」
錬金術師「光るとか?」
女店員「お前、そんな簡単に…」
…パァァァッ!
錬金術師「って、言ってるそばからほらぁっ!」
女店員「う、うそぉっ!?」
パァァァッ…!!
女店員「戻るのか…!」
錬金術師「も、戻れる~~!」
銃士「やれやれ…」
新人鉱夫「これで一安心ですね!」
…ピカッ!!…
女店員「…っ!」
錬金術師「っ…!」
ピカァァァァッ……パシュンッ!!
錬金術師「…」
女店員「…」
銃士「…」
新人鉱夫「…」
錬金術師「…戻った?」
女店員「の…?」
銃士「か…?」
新人鉱夫「うん…?」
銃士「…」
銃士「……おや?」
新人鉱夫「あれ…」
女店員「え…」
錬金術師「あ…」
銃士(錬金術師)「なんだって……」
女店員(銃士)「…つくづく、店長と運がある期間らしいね」
新人鉱夫(女店員)「どういうことかな…」
錬金術師(新人鉱夫)「て、店長さんになってます!?」
銃士(直ってねぇぇっ!つうか、もう女にならなくていいっつーの!色々面倒くせーし!!)
女店員(…これはこれで、店長とまた一緒に1日過ごせるのを少しだけ嬉しいかも…なんて)
新人鉱夫(…新人鉱夫には悪いけど、入れ替わるなら店長のままのほうがよかったな…)
錬金術師(店長さんの身体、凄くだるいです!運動不足です!)
銃士「…っ」
銃士「うおぉぉぉっ、いつまで続くんだよ~~~っ!!!」
……………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
【 E N D 】
794 : ◆qqtckwRIh. - 2015/01/10 21:00:44 .7fZR/ck 685/685
これにて「錬金術師その3」は全て終了となります。
ここまでお付き合いくださった方々、ありがとうございました。
後半部分を銃士をメインとした作品としましたが、いかがだったでしょうか。
…当初予定していたお風呂のシーンは、もろネタの展開でした。
こちらで公開する際に"かなり"修正を入れたので、銃士の描いていないシーン(R指定ネタ)の解除版は、
当Wikiのスペシャルストーリーにて全編公開をこの後すぐに更新させていただきます。
そちらも併せて遊びに来てくれればうれしく思います。
尚、その4につきましては未定となっておりますが、この続編とはいわず、
また新作があれば皆様、ぜひ一度お読みになってください。
それでは、ありがとうございました。
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