1 : ◆qqtckwRIh. - 2014/12/04 21:30:11 qzw0FWDc 1/685■前回のあらすじ!
バターピーナツ器が爆発した。
ワイドレンジピーナツ器が誕生した。
錬金術師「経営難に立ち向かう事になった」
URL:http://ayamevip.com/archives/39103716.html
錬金術師「経営難に立ち向かう事になった」女店員「その2!」
URL:http://ayamevip.com/archives/39104466.html
元スレ
錬金術師「経営難に立ち向かう事になった」新人鉱夫「その3!」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1417696211/
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 錬金術師のお店 】
錬金術師「…」ポリポリ
錬金術師「…」ポリポリ
錬金術師「…」ポリポリ
錬金術師「…」ポリポリ
女店員「…店長」
錬金術師「んあ」
女店員「いつまでポリポリしてるの!早く仕事して!」バンッ!
錬金術師「おいおい…。このバニラピーナツが絶賛の嵐なんだよ」
女店員「な、に、が、絶賛の嵐なの!」
錬金術師「ちまたで話題なんだよ」
女店員「店長がここ最近、外に出てるの見たことないんだけどなー?」
錬金術師「ばれたか」ポリポリ
女店員「バレバレだから!!」
…ガチャッ
新人鉱夫「ただいまですー」
銃士「ただいまー」
女店員「あっ、お帰りなさい二人とも」
新人鉱夫「外まで声が響いてましたよ~」
銃士「相変わらず毎日元気だなーって話してたところさ」アハハ
女店員「あう……」
錬金術師「まぁまぁ…許してやってくれよ」
女店員「誰のせいだと思ってるのかな、誰のせいだと」
錬金術師「新人鉱夫かな」
新人鉱夫「ふぇっ!ご、ごめんなさい……」シュンッ
女店員「て~ん~ちょ~……!」ギロッ
錬金術師「申し訳ございませんでした」
女店員「本当に、営業でもなんでもいいからしてよ!」
女店員「ワイワイレンジでチンだか分からないけど、あのせいで260万も使ったの分かってる!?」
錬金術師「ワイドレンジピーナツ器だっつーの。相応の支出だ」キリッ
女店員「壊していいの?」
錬金術師「使いすぎました、ごめんなさい」
女店員「はい」
銃士「うーん…。私はあまり、経営に物言いしたくはないが…」
銃士「出納帳見て、ある程度儲けも出たと思ったが…あれから1か月もたち、客が全然来ないのはちょっとな…」
新人鉱夫「倉庫は潤って素材は増えていくけど、売れないと意味もないですよね」
錬金術師「素材が沢山…。素材…素材…?何か忘れているような……」
錬金術師「…」
錬金術師「…あっ」
錬金術師「あ…!あぁぁっ!!」ガタッ!
女店員「!?」
銃士「!?」
新人鉱夫「!?」
女店員「ど、どうしたの?」
錬金術師「忘れてたぁぁ!!」
女店員「何が?」
錬金術師「…鍛冶屋に鉱石届けるの!!やべえ!!」
女店員「…」
錬金術師「ちょ、ちょっと鍛冶屋んところ行ってくる!!」ダッ!
女店員「先週、別の固定ルートを結んだから、もういらないと言われたんだけどね」
錬金術師「」
ズザザァ!!ドシャアッ!
錬金術師「…ま、まじか」ムクッ
女店員「折角の契約だったのに。まぁ、私も言い忘れてたから悪いんだけど……」
錬金術師「…」
女店員「現状、うちの商品とってくれるところはないし、どうするの…」
錬金術師「…」
銃士「う~む…。ちょっと話を割るが、今の利益とかはどうなってるんだ?」
女店員「プラス240万ゴールドにはなってるけど、給料含めてそこから60万を引いて…」
女店員「今月の時点でお店の利益としては180万かな…。雑費とかは別にして計算して、だけどね」
銃士「…かろうじて、プラスか」
新人鉱夫「残り180万で出来る事といえば……。うん、難しいですね…」
女店員「…」ハァ
錬金術師「はは…客がこねえとな…」
…コンコン
錬金術師「!」
女店員「って、こういうタイミングでのお客さん!」
錬金術師「こういう時のお客って、たいていお金運んできてくれる気がするぞ」
女店員「じゃあ、精一杯の笑顔で!」
錬金術師「いらっしゃいませー!どうぞぉっ!」ニコォッ
ガチャッ…
親父「相変わらず、だな」
錬金術師「」
女店員「」
新人鉱夫「」
銃士「」
親父「…」
錬金術師「親父かよ!」
親父「少したったら、店の様子を見に来るといっただろう」
錬金術師「ちっ…。なんだ、何の用だ……」
親父「結果、出してるんだろうな。あれから2か月になる」
錬金術師「…」
親父「出納長の1つくらいは、つけてるんだろう。見せろ」
錬金術師「…ほらよ」ポイッ
…バサッ!
親父「…」
親父「…180万、か」
錬金術師「文句あんのかよ」
親父「情けないな。これがお前の言う結果か?」
錬金術師「…始まったばっかだろ」
親父「部下を3人も持っている癖に、これしか利益をあげられないとは」
錬金術師「うっせぇ!」
親父「それともなんだ、お前の部下は無能か?」
錬金術師「何…?」
女店員「…」
新人鉱夫「…」
銃士「…」
親父「見ろ、部下のあきれた顔を。お前のリーダーシップとしてのゴミさに、笑顔すら忘れてるんだろう」
錬金術師「てめぇが来たからだろうが!」
親父「…俺がいなければ、お前と女店員は重罪だったんだぞ?その口のきき方……!バカ息子が!」
錬金術師「うぐっ…」
親父「本来なら、今日まで結果を出さなければ店をつぶす気でいたんだが…」
錬金術師「…」
親父「お前の働きは知っている。今回も特別に見逃してやる」
錬金術師「働きって、何のことだ」
親父「"アルスマグナ"」
錬金術師「!」
親父「俺が知らないとでも思っているのか。あそこの副機関長は中々うるさいハエでな。困っていたんだ」
錬金術師「…別に俺は、アルスマグナ自体にダメージを与えるようなことはしてねーぞ」
親父「なに?」
錬金術師「確かに、あそこには行った。だがアルスマグナを騙しただけで、特別なことはしていない」
親父「……まさかお前、知らないのか?」
錬金術師「何がだ」
親父「副機関長な…死んだぞ」
錬金術師「!?」
女店員「!」
新人鉱夫「!」
銃士「!」
親父「お前が作った偽黒魔石を使用して、首をナイフで掻っ切ったそうだ」
錬金術師「…っ!!」
親父「…お前が殺したのと一緒だな」ククク
錬金術師「う、うそだろ!!」
親父「…なら、アルスマグナへ行ってみたらどうだ?」
錬金術師「嘘つくなよコラァ!!」
親父「嘘など言わん。完全にアルスマグナが消えたとは言えないが、副機関長がいなくなったのはでかい」
親父「俺は少し楽に事業を進められるわけだ…。」
親父「それに免じて、今回は見逃しておこう。ではな……」
ガチャッ…バタンッ…
錬金術師「なっ…な…!」
女店員「て、店長…」
錬金術師「俺が…殺したのか……」
女店員「店長!ち、違うって…店長のせいじゃないでしょ!」
錬金術師「一緒だろ…。そう仕掛けようともしていた…からな…!」ギリッ
銃士「店長、気にすることはないよ。元々あいつらが悪いんだから」
新人鉱夫「そうですよ!気にするだけ損です!」
錬金術師「…っ」
女店員「…」ギュッ
女店員「そ、それに…店長……」
錬金術師「ん…」
女店員「私だって、店長に協力したから…。私も、その人を殺したのと一緒だよ…」
銃士「…それなら私もだな」
新人鉱夫「僕もですね…」
錬金術師「違う!お前らは関係ない!」
女店員「関係なくなんかない!」
錬金術師「!」
女店員「関係なくなんか…ない…」
錬金術師「…」
女店員「…だから、店長…。一人のせいじゃないから…」ブルッ
錬金術師「…っ」
女店員「…」
女店員「…」グスッ
錬金術師「…わ、わかったよ!わかった、わかったわかった!」
女店員「…!」
錬金術師「お、俺は気にしない事にする。気遣ってくれて、ありがとうな」
女店員「…うんっ」ゴシゴシ
銃士「…」フッ
新人鉱夫「はは…」
錬金術師(これ以上いうと、お前が本気で泣きそうだ。泣き顔はあまり見たくねえしな…)
錬金術師(そこまで想ってくれたのを、泣く寸前まで分からないとか…情けねえなぁ)
錬金術師(だが…俺が殺したのには変わりはない。あの時、そう言っちまったんだから…)
錬金術師(くそっ……!)
女店員「…」グスッ
錬金術師「…さ、さぁて!店を潤わせる作戦でも考えますか!?」パンパン
女店員「うん…」コクン
銃士「そ、そうだね!」
新人鉱夫「そ、それがいいと思います!」
錬金術師「えーっと、意見のある人!」
銃士「…」バッ
錬金術師「はい、銃士さん」ビシッ
銃士「せっかく素材があるんだから、ココだけじゃなくて、別の場所で売れないのかな?」
錬金術師「別の場所って…支店ってことか?」
銃士「そんな大それたものじゃなくていいと思うけど…」
錬金術師「…」
錬金術師「…市場に出してみる、とかか?」
女店員「市場って、前に行った麓町だか麓村の…?」
錬金術師「そうそう。貸しスペースは料金がかかるが、それ相応の儲けは出るとは思うな」
女店員「!」
錬金術師「女店員、悪いけど倉庫にある在庫を、何がどれだけあるか確認してもらえるか?」
女店員「うんっ、見てくる」
トテテテ…
錬金術師「…銃士、ナイスアイディア」ビシッ
銃士「店長が本当は浮かぶべきでは…」
錬金術師「…銃士、ナイスアイディア」ビシッ
銃士「…そ、そうだな。どういたしまして」
新人鉱夫「でも、市場って基本的に素材のままの販売が基本ですよね?」
新人鉱夫「うちにある在庫は、店長さんが既に錬成しちゃったりしてませんでしたっけ?」
錬金術師「それは問題ない。加工品でも、販売できるっちゃ販売できるし」
新人鉱夫「そうなんですか?」
錬金術師「…確かに市場は、素材目的で安価で手に入るが、加工品だって売っていいんだ」
錬金術師「まぁその分、値段があがるし買い手もそこまで多くはないと思うが…」
銃士「冒険者なんかも、たまに市場に顔出ししてるよね。私も行った事あるし」
錬金術師「そうだな。代表的なのはアカノミとかはそのまま食えるし、保存食にもできるから冒険者がこぞって買いあさる」
銃士「アカノミはほとんどポーションにしちゃってるし、それを売ればいいね」
錬金術師「うむ。在庫管理もしっかりしねぇとなぁ…」
タタタタッ…
女店員「てーんちょ、在庫見たの、まとめたよ」スッ
錬金術師「お、ご苦労。どれどれ…」ペラッ
錬金術師「…」
錬金術師「素材がえーと…鉄鉱石、エレクトラム、銀鉱石、金鉱石」
錬金術師「アウルベアの毛皮、アカノミ、アオノミ…」
錬金術師「加工品は、鉄、レッドポーション、ブルーポーション、アウルベアの干し肉…」
錬金術師「武器防具等の修理用の鉄板、かまどや燃料用の高純度魔石、自動採掘機」
錬金術師「あとは、銃弾が火炎、凍結、雷撃の3種類のストックがある…と」
銃士「結構良いモノ揃ってるんじゃない?」
女店員「なんか錬金術のお店っていうより、何でも屋さんだね」
錬金術師「元々、錬金師なんて何でも屋さんだって」
女店員「それで、どうやって登録してどうやって販売するの?」
錬金術師「まずは麓村の村役場で、販売する商品の詳細にまとめた用紙を渡す」
錬金術師「そしたら販売に見合う大きさのスペースを渡されるから、そのスペース分の代金を支払う」
錬金術師「あとは販売した分の数パーセントの手数料を渡しせばオーケーだ」
錬金術師「まぁ、販売時間は早朝から朝10時までと限られているが、この間の盛り上がりを見た限りー…」
女店員「…」
銃士「…」
新人鉱夫「…」
錬金術師「…何よ、君たち。その顔は」
女店員「…店長っぽいなと」
銃士「やっぱり、店長なんだなぁと」
新人鉱夫「店長さんは、店長さん、なんですね!」
錬金術師「…」
錬金術師「…やかましい!」
………
……
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 早朝 】
ガサガサ…ゴソゴソ…ゴトンッ!
錬金術師「はぁ…はぁ~…!!こ、こんなもんか…!」
女店員「…販売用の素材を運び出すくらいで疲れすぎ!」
錬金術師「お、お前な…」ゼェゼェ
女店員「ほら、あの二人を見習う!」ビシッ
新人鉱夫「これで袋詰めの鉱石は全部ですね?」ヒョイヒョイ
銃士「鉱石は新人鉱夫の持ってるので全部だな。瓶詰めのポーション系もこれで全部か…」ヒョイヒョイ
錬金術師「…あいつらは、別格じゃないのか」
女店員「でもまぁ、昨日の計画からあっという間に行動したところは評価してあげる♪」
錬金術師「…明日にでも準備しないと、俺のワイドレンジピーナツ器を壊すと言ったからだろうが!」
女店員「ワイワイレンジなんか、愚の骨頂!」
錬金術師「…だから、ワイドレンジだと」
女店員「いいから、早く準備手伝ってくる!私は倉庫の掃除しなおしてくるんだから!」
錬金術師「えー…」
女店員「…」ジロッ
錬金術師「はい、やってきます」
銃士「…おぉ、ついに女店員も強き冒険者が持つというオーラによって店長を…」
新人鉱夫「うん、違うと思います」
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…ガタンッ!
錬金術師「よし、積荷オッケー!」
女店員「…っていうか、今気付いたんだけど、店長」
錬金術師「うん?」
女店員「何気なく積荷をしたけど、この巨大なリヤカーはどこから…?」
錬金術師「今朝方、早く起きて造った」
女店員「えっ」
錬金術師「ただの木材なら、近くの集積場にあるしな」
女店員「待って、待って待って。突っ込むべき場所が何ヶ所か」
錬金術師「何だよ」
女店員「まず、店長が大工的なことを出来るのはまぁ…不思議だけど、出来るとして」
錬金術師「うむ」
女店員「…集積場から、持ってきたって言わなかったかな、って言ったよね…?」ピクピク
錬金術師「うむ」
女店員「…返してきなさーーーいっ!!」
錬金術師「えー」
女店員「それ犯罪だから!分かってるの!」
錬金術師「…いやいや。集積場って、廃材置き場な。あのーほら、鉱山で利用する材木の余り」
女店員「えっ!そ、それなら…いいの?」
…チラッ
銃士「い、いや…私は知らんぞ…」
新人鉱夫「僕のいたところですけど、廃材置き場のなら基本的にいらないものですし…いいのかな…」
女店員「…また、怒られるのは勘弁してほしいんだけど」
錬金術師「大丈夫だって!一応、前の管理人には度々材木で貰ってたし!」
女店員「そ、そうなの…?」
錬金術師「腐りかけのやつだったし、それを錬成してちょいちょいと再利用できるようにしただけだし」
女店員「うーん…」
錬金術師「まぁ、それじゃ行こうか!朝市が終わる前にな!」
女店員「…はぁ、全く」
女店員「っていうか、朝市に全員で行くの?」
錬金術師「…あん?」
女店員「…それにこの巨大な積荷、何キロあるの。麓村まで行けるの?」
錬金術師「いや、町の馬車に引いて貰えるはずだ。輓馬っつー巨大な馬がいてな。ちと高いが」
女店員「…そこまではどうやって?」
錬金術師「…」
錬金術師「…女店員!」パチンッ!
女店員「人を召喚物扱いしない!指ぱっちんしない!!」
錬金術師「だって俺、無理だもん」
女店員「…」
錬金術師「つーか、全員で行くわけにもいかねぇよな。どうするか考えてなかった」ハハハ
女店員「どうするの…」
ググッ、ガラガラ…
新人鉱夫「…あ。これくらいなら僕が引けますよ。僕がそこまで着いていきますよ」ニコッ
錬金術師「!?」
女店員「!?」
銃士「お…」
新人鉱夫「…ど、どうしました?」
錬金術師「いやお前、そんなパワーキャラだっけ。いやパワーはあるのは分かるけど」
新人鉱夫「い、いえ…。前の仕事柄、力は他の人より有りますが、言うほどでは…」
錬金術師「じゃあなんだそのパワーは!!」
新人鉱夫「パワーっていうか…。ただ、コツがあるだけで…」
錬金術師「…」
銃士「…決まりだな。じゃあ私は留守番をしてるから、女店員と三人で行ってくるといい」
錬金術師「うんむ…」
新人鉱夫「じゃ、出発しますか?」
錬金術師「うい」
女店員「…店長、普通逆じゃない?ほら、リヤカー奪うくらいの気持ちで」
錬金術師「…」
女店員「何で無視してるのかな…?」
錬金術師「キコエナイ」
女店員「…」
ガラガラガラ…
ガラガラ…
……
…
銃士「…」
銃士「…行ったか」
銃士「早朝から、このお店は客はいないのに賑やかだな」ハハ
銃士「さて、それじゃあ私はお店番でもしてようかなっと」クルッ
ザッザッザ…ガチャッ!
トコトコ…ストンッ
銃士「…ふぅ」
銃士「…」
銃士「へぇ…。ここが店長のいつも座ってみてる景色…か」
銃士「…」
銃士(そういえば、こうして私が一人でここに座ってるのは初めてだな)
銃士(いつも、色々な買い物を新人鉱夫と一緒にしながら、素材を集めたりばっかで…)
銃士(朝からこうして落ち着いて座ることは、久方ぶりかもしれん…)
…ウトウト
銃士(こういう空気だと、少し眠くもなってくるな…)
銃士(はは…。何か、こうして眠くなるのも久しぶりだ……)
銃士(店長たち、沢山売って来てくれるかな…)
銃士(私の採った素材は売れるかな…)
銃士(う~…だめだ…)
銃士(少しだけ…)
銃士(眠い…)
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
36 : ◆qqtckwRIh. - 2014/12/04 21:54:26 qzw0FWDc 36/685
本日はここまでです。有難うございました。
錬金術師シリーズの第三弾となります。
だいぶ長い時間を置いたもので、忘れている方もいるとは思いますが、お時間がある時は是非読んでやって下さい。
今回は以前のような「長編」ではなく、中編と短編を併せたものを展開する予定です。
また、更新は基本的に2日~3日に1回のペースとなります。
それでは、有難うございました。
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数時間後 】
…パチッ
銃士「ふわぁぁ~…!」
銃士「あっ…」ハッ
銃士「す、すっかり寝てしまっていたのか…」
銃士「…」
…グゥゥ
銃士「お腹すいたな…」
スクッ…トコトコ…
銃士(確か、私が採った保存食が倉庫にあったな。それでも食べて、腹の足しにするか…)
…コンコン
銃士「ん…」
銃士(お客さんか、珍しい…)
銃士(……)
銃士(珍しいて、お店なのに…はは……)
銃士「はーい、どうぞ~」
…ガチャッ…
???「…」ヒョコッ
銃士「…ん?」
???「…」
銃士「…こども?」
???「…」
銃士「迷子か何か…かな?」
銃士「えっと、どうしたのかな~?」
???「…」
銃士「…うん?」
???「…」ジトッ
銃士「…」
???「…」グゥゥ
銃士「…えーと、どこの子かな?」
???「…」
???「…」グスッ
銃士「えっ」
???「あう…」グスッ
銃士「ま、待って泣かないで!お腹すいたのかな?」
銃士「今、何か探してあげるから…!ち、ちょっと待って……!」
???「ひぐ…っ!」
銃士「な、何でいきなり子供が…!」
…パサッ
銃士(おや、子供の手から何か…落ちた……?)
トコトコ…ヒョイッ
銃士「食べ物はちょっと待ってね~。」
銃士(何だろう、この紙……)ペラッ
???「…」
銃士「…」
銃士「…」
銃士「……えっ」
???「…」
銃士「ちょ、ちょっとこれって……!」
銃士「えっ…!えぇぇぇぇっ!?」
銃士「て、店長…なんていうかな……」
…………
……
…
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 3時間後 】
…ガチャッ!
錬金術師「ただいま~」
女店員「銃士、遅くなってゴメンね~」
新人鉱夫「結構売れましたよ~!」
銃士「あっ!お、おかえり……」ヒクッ
錬金術師「…」
錬金術師「…浮かない顔だな。どうかしたのか?」
銃士「…その、驚かないでほしいんだけど。みんなにお伝えしたいことが」
錬金術師「何だ?」
銃士「実は、店長たちが出かけてる間に…凄いものがさ……」
錬金術師「凄いもの?」
銃士「…うん」
錬金術師「…見ないと分からんぞ。何がどうした」
女店員「何が凄いものなの?」
新人鉱夫「何かお届け物でも来たんですか?」
銃士「お、お届け物って言えば…お届け物かな……」
錬金術師「だから、何だよ」
銃士「えっとね。実はー……」
トテトテトテ…
???「…」ムニャムニャ
銃士「あ、起きたのか…」
錬金術師「…」
女店員「…」
新人鉱夫「…」
銃士「その…。今来たけど、この子なんだけど……」
ソッ…ポンポンッ
???「…」
錬金術師「…」
錬金術師「…なんでしょうか、この子供は。なぜうちの店に」
銃士「留守番してて、気が付いたら店の前にいてさ…」
錬金術師「店の前に?客じゃあるまいし、迷子か何かじゃないのか?」
銃士「それがさ…。この手紙も一緒に」スッ
…ガサッ
錬金術師「…手紙だと?」
錬金術師「えーと、何なに……」
銃士「…」
錬金術師「…錬金術師様へ」
錬金術師「どうか、この子をよろしく……」
錬金術師「お、おねがい……」ヒクッ
錬金術師「し…ま……す…………っ!?」
錬金術師「はぁぁあっっ!?」
女店員「えっ!?」
新人鉱夫「えぇぇっ!?」
???「!」ビクッ
銃士「…店長、この子に面識はないの?知ってる人の子供だとか」
銃士「私は、見たこともないんだけど……」
錬金術師「…し、知るかよ!見たこともねぇよ!」バッ!
女店員「…誰かとの子供じゃないでしょうね」ジトォッ
錬金術師「ちげぇっつーの!な、なんで俺に子供を預かって欲しいなんて来るんだよ!!」
女店員「…」ジトォッ
錬金術師「ま、待て待て待てぇ!そんな目で俺を見るんじゃないっ!!」
???「…」グスッ
銃士「あっ、あぁぁ!泣いちゃうから、大声出さないであげて…!」
錬金術師「…お、大声出さないでどうしろっつーんだよ!」
錬金術師「何でこんなこと……!」
???「ひぐっ…うぇぇ……」グスグスッ
銃士「ああぁ!ほ~ら、よしよし……」
…ナデナデッ
錬金術師「な、なんでこんな子供が……」
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「…ん?」ピクッ
女店員「店長、本当に身に覚えがないんでしょーねー……」ジロジロ
新人鉱夫「は、白状するなら今のうちだと思います!」
錬金術師「銃士、待て。その子……」
銃士「うん?」
女店員「あっ!や、やっぱり身に覚えが……!?」ブルッ
新人鉱夫「店長さん、やっぱり……」
錬金術師「…バカ、ちげぇよ!これだ!」
…ファサッ…
…ピンッ…
???「…?」
女店員「え?」
銃士「…えっ?」
新人鉱夫「あっ…!」
錬金術師「見ろ…。け、獣の耳だ…。こいつ…獣人族の子供か……!?」
女店員「じっ…」
銃士「獣人族!?」
新人鉱夫「な、なんですかそれ…!」
獣人の子「…?」
錬金術師「…そんなバカな」
女店員「店長、獣人って…」
錬金術師「その言葉通り、魔族のうちの魔獣、人型種だ」
錬金術師「滅多にいない希少種で、大人はまだしも、子供を見るのは俺も初めてだぞ……」
女店員「なんで、そんな子がうちに…」
錬金術師「それに、間違いないと思うが…獣人族っていう確証も正直ないっちゃない」
女店員「…ないの?」
錬金術師「言った通り、希少種ってことで数は少ないうえに研究は禁忌に認定され、その生態は謎に包まれているんだ」
女店員「そうなんだ…」
銃士「…でも、店長。店長への置手紙もあったし、どうも親は店長のことを知ってたみたいだね」
新人鉱夫「身に覚えはないんですか?」
錬金術師「…ない。一体これは……」
女店員「…」
銃士「…」
新人鉱夫「…」
獣人の子「…」
獣人の子「…」
獣人の子「…」
……モジッ
銃士「あ…」ハッ
女店員「…ど、どうしたの?」
銃士「その子、もしかして…」
獣人の子「…」モジモジ
女店員「あっ!と、トイレじゃない!?」
錬金術師「!?」
銃士「か、かも!ちょっと連れてってくるよ!」
錬金術師「お、おう。急いでやってくれ」
銃士「もちろんっ!」
…グイッ!
獣人の子「!」
銃士「いくよ!」
タタタタタッ……ガチャッ、バタンッ…
錬金術師「…」
…………
……
…
…
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数分後 】
タタタッ…
銃士「店長、終わったよ~」
獣人の子「♪」
錬金術師「…ご苦労」ハァ
銃士「それと、新情報」
錬金術師「なに」
銃士「分かってたと思うけど、やっぱり女の子だった」
錬金術師「あぁ……」
女店員「可愛い顔をしてると思ったら、やっぱり女の子だったんだ~」
…ナデナデッ
獣人の子「…♪」
錬金術師「…」
錬金術師「…見た目といい、仕草といい…」
錬金術師「そいつぁどうも、人間の血を強くひいてるな。人と獣人が交わって産まれた子供かもな」フム
女店員「ま、交わったって…」
錬金術師「…本来、もっと獣らしい姿になるはずなんだ」
錬金術師「その歳で言葉をそれなりに理解もしてるし、獣の証が耳だけ。人間の血が強いっつーことだ」
錬金術師「…だ、け、ど、な…」
錬金術師「ど~~してっ!!俺のっ!!店にっ!!置いていくかねぇ……」ハァ
女店員「店長ってば、本当にこの子のこと、知らないの?」
錬金術師「…獣人族っていう種族だけならば知らないことはないんだが」
女店員「どういうこと?」
錬金術師「少し前…っつっても、かなり前の話なんだが……」
錬金術師「獣人族はその希少性と、人間に似た容姿から、研究対象になってた時期があった」
女店員「!」
錬金術師「今はもう、非人道的っていうことで行ってはいないんだがな」
女店員「店長も…やったことあるの…?」
錬金術師「まさか、あるわけないっての。俺の現役時代にはとっくに禁忌だ」
女店員「だよね」ホッ
錬金術師「…しかし、獣人族の子か」
錬金術師「俺を頼ったってこたぁ、まさか同業者の仕業か……?」
女店員「確かに、同じ錬金術の人たちなら店長の名前も知ってそうだしね」
錬金術師「それもそうだが、恐らくはそうだな……」
錬金術師「子供の育成やその希少性から、狙われることも少なくないわけで」
錬金術師「獣人に興味を持ち、交わり、子を授かったものの……」
錬金術師「あまりにも手を焼き、俺へ頼ったとかそういうこととか……」
獣人の子「…」ジトッ
錬金術師「…そ、そんなワケはないなぁ!?は、はっはっは…!」
錬金術師「お前の親は、きっと戻ってくるから安心しとけよ、なっ!!」
獣人の子「?」
錬金術師「…」
錬金術師「……分からない、か」
女店員「…」
女店員「…あっ、そうだ!店長店長、この子に名前をつけてあげようよ!」
錬金術師「名前だ?」
女店員「手紙には、名前も載ってなかったんでしょ?」
錬金術師「まぁ」
女店員「なら呼び方にも困るし、つけてあげないと!」
錬金術師「…任せるよ」
女店員「じゃあ、みんなで名前を考えてあげよーよ!」
女店員「まずは、銃士からどーぞ!」
銃士「い、いきなり私か。う~ん……」
銃士「…」
銃士「で、では…!」ゴホンッ
銃士「獣の人の女の子だろ…!け、"けじんこ"とかどうだ!」
錬金術師「…絶望的なセンスだな」
銃士「」
女店員「ちっちっち…甘いよ銃士っ!」
女店員「私に任せて!ずばり、獣の女の子ということで…!」
女店員「じーこ!」
錬金術師「…出直せ。お前も絶望的だ」
女店員「」
新人鉱夫「ま、まぁそのまま普通の通りでいいじゃないですか」
新人鉱夫「獣の娘で、ケモたんとか、幼獣とか」
錬金術師「…なんか変態くせぇ」
新人鉱夫「」
女店員「ち、ちょっと店長!さっきから否定ばっかして…!」
銃士「そうだぞ!じゃあ、店長なら何てつけるんだ!」
女店員「そ、そうそう!店長はいい名前つけるんだろうな~!」フンッ
新人鉱夫「へんたい…へんたいですかぼくは……」グルグル
錬金術師「…」
錬金術師「…あのさぁ、魔娘(まこ)とかでいいじゃん」
錬金術師「あと、なんか仕草が犬っぽい。それと犬耳っぽい」
錬金術師「犬娘と書いて…わんことか?」
女店員「え~…」
銃士「う~ん…」
新人鉱夫「へんたいが…ぼくは……」グルグル
錬金術師「…ダメか?」
錬金術師「じゃあそうだな、うーむ……」
獣人の子「~♪」
錬金術師「犬……。」
錬金術師「…」
錬金術師「……あぁっ!」ポンッ
錬金術師「割といい名前を思いついたぞ」
女店員「何?あまりにもひどい名前だったら、店長をその名前で呼ぶからね」
銃士「私たちをけなしたうえでの名前…!さぁ、言ってみるといいよ!」
錬金術師「…」
錬金術師「"クー"とかどうだ」
女店員「クー?」
銃士「…どういう意味?」
錬金術師「遠い昔、妖精族を守りし魔犬というか…そういう魔獣がいた」
錬金術師「その名前を、"クーシィ"というんだがな。そこからとってみた」
女店員「クー…か」
銃士「くっ…!店長、知識が豊富なだけに、名前も出てくるのは割と良い名前を…」
錬金術師「…どうだ?クー」
獣人の子「…」
獣人の子「…」
獣人の子「…♪」
トテトテ…ギュッ!
錬金術師「おっ…」
女店員「!」
銃士「…悔しいけど、気に入ったみたいだね」クスッ
クー(獣人の子)「♪」
錬金術師「…よろしくな、クー」
クー「~♪」ギュウッ
女店員「…店長、店長」
錬金術師「あん?」
女店員「名前までつけて、ヨロシクねって言うことはさ」
錬金術師「うむ」
女店員「この娘、うちで面倒を見るの?」
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「……しまった」
女店員「…」
銃士「…」
クー「…♪」
錬金術師「…え、どうしよう。何これ、決まっちゃった感じ?」
女店員「…さ、さぁ」
銃士「でも、クーは店長にくっついてるし……」
錬金術師「…」
…ギュウーッ!
クー「♪」
錬金術師「…」
錬金術師「ど、どうすんべ……」
新人鉱夫「ぼくが…へんたい……」グルグル
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜 倉庫 】
スヤスヤ…
クー「…」クゥクゥ
錬金術師「…飯食ったと思ったら、あっという間に寝やがった」
新人鉱夫「人間のご飯でよかったんですかね?美味しそうに食べてはいましたけど」
錬金術師「獣の名がつくとはいえ、人として扱ったほうがいいな」
新人鉱夫「わかりました」
錬金術師「…しかし、どうするか」ハァ
新人鉱夫「面倒を見るか、見ないかのことですか?」
錬金術師「…」
錬金術師「……どうするかなぁ」
新人鉱夫「女店員さん、銃士さんの二人は面倒を見るつもりだったようですけど」
錬金術師「あいつら簡単に考えすぎ。親がいつ迎えに来るかも分からないんだぞ?」
新人鉱夫「…」
錬金術師「それにさっきも言ったが、獣の名を受けていてもあくまで人として扱うべきだ」
錬金術師「しかも、子供な」
錬金術師「…つまり、子供を育てるの一緒なんだぞ」
新人鉱夫「かといって、他に預けられる場所とかあるんですか?」
錬金術師「…ないだろうな」
新人鉱夫「やっぱり……」
錬金術師「俺が知ってる、有名な機関に預けるのもいいだろうが、」
錬金術師「何せ、獣人族っつーだけで好機の目で見られちまう」
錬金術師「俺としては、こんな幼い子をそんな表だった場所に置きたくはないんだよなぁ」
新人鉱夫「優しいですね、店長さん」
錬金術師「…優しいっつうか、俺は人として扱ってやりたいだけなんだよ」ボリボリ
新人鉱夫「…」
錬金術師「だが、育てる訳にもいかん。人一人を養うことが、どれだけのことか…」
新人鉱夫「…子供ですしね、色々大変かもしれないです」
錬金術師「…」
錬金術師「…どうすっかなぁ」ハァ
新人鉱夫「親を探したりしてみますか?」
錬金術師「俺のことを知ってる奴で、獣人と関係を持った人……」
錬金術師「やっぱり同業者、錬金術の類の人間の仕業だと考えて間違いはないとは思うんだが…」
錬金術師「同業者といえども、宛てがない。明日、隣町の機関に顔を出してみるか…」
新人鉱夫「隣町にある錬金術機関の、機関長さんですね」
錬金術師「そうそう。俺が現役引退後に獣人と関係を持った奴がいないか聞いてくるよ」
新人鉱夫「わかりました」
錬金術師「…」チラッ
クー「…」スヤスヤ
錬金術師(…まだ幼子だっつーのに、捨てる親も親だ)
錬金術師(何やってんだよ…)
錬金術師(はぁ…)
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 錬金術師のお店 】
新人鉱夫「というわけで、店長さんは朝からお出かけですね」
銃士「なるほど、隣町の機関にね」
女店員「確かに、機関長さんなら何とか分かるかもしれないね…」
クー「…」
女店員「…」
女店員「新人鉱夫、クーに朝ごはんは?」
新人鉱夫「もちろん食べさせましたよ~。それと、朝起きるの早くて……」フワァ
クー「…♪」
女店員「子供って、確かに朝早いイメージあるなー……」
新人鉱夫「イメージっていうか、朝から超元気でしたよ」
クー「♪」
新人鉱夫「起きた途端、店長の顔ひっぱたいて起こすし…」
女店員「ぷっ…!本当に?」
新人鉱夫「はは、本当です。その後も中々寝ないから、店長はずっと一緒に遊んでたみたいですよ」
女店員「店長が?」
新人鉱夫「倉庫の奥にあった道具引っ張り出して、一緒に遊んで笑ってました」
銃士「…意外と、可愛がってるな」
女店員「あんなこと言ってたけど、店長こそクーが可愛いと思ってるんじゃないかな」
銃士「ふむ……」
クー「…」
クー「…」ポンポン
女店員「…どうしたの?」
クー「…」ニコォッ
女店員「…!」
新人鉱夫「…遊んでほしいんじゃないでしょうか」
クー「♪」
女店員「…もー可愛いっ!!」
女店員「どうせ、今日もお客は来ないし…遊んじゃおうっ!」キャー
銃士「…それでいいのか、経営難で」
女店員「文句なら店長に…」
銃士「…だな」
クー「…?」キョトン
…………
……
…
…
………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 隣町 錬金術機関 機関長の部屋 】
…ガチャッ
錬金術師「ういーっす、いるか機関長」
機関長「!」
機関長「……お前か。いつも急に訪ねてくるな」
錬金術師「まぁまぁ」
機関長「というか、部屋に直接来るのは珍しいな。何かあったか」
機関長「…」
機関長「…いや、何かあったからか。何か、面倒なことがあったから、来たのか」ハァ
錬金術師「…分かってるじゃん」ニタニタ
機関長「…あのなぁ」
機関長「まぁ、大方予想はついてるがな。あのことだろ?」
錬金術師「…あのこと?えっ、既に知ってるのか?」
機関長「知らないわけないだろう。お前が来る理由はアレだけだ」
錬金術師「…は?じゃあ、あの子について詳細知ってるのか!」
機関長「あの子?」
錬金術師「そうだよ。あの子だよ」
機関長「…」
機関長「待て、お前…何の話だ?」
錬金術師「…」
錬金術師「…はぁ?」
機関長「はぁ?って…。え、何だお前、錬金術関連の話じゃないのか?」
錬金術師「…あ?そうだけど」
機関長「…じゃあ、やっぱりそのことじゃないか」
錬金術師「はぁ?じゃあさっきはなんで、"何の話だ"って聞いたんだよ」
機関長「いやいや、お前が"あの子"とか、子供の話をするから」
錬金術師「…そりゃそうだろ。そのことだからな」
機関長「…何言ってるんだ。錬金術関係のことだろ?」
錬金術師「だから、子供のことだろ?」
機関長「…いや、違うぞ。子供は一切関係ないだろ」
錬金術師「いやいや、関係あるだろ!」
機関長「…」
錬金術師「…」
機関長「…どうも何か食い違ってるな」
錬金術師「そのようだ」
機関長「…お前の話から聞かせてくれ」
錬金術師「…」
錬金術師「…うちの店の前に、獣人族の子供が捨てられていた」
錬金術師「だから、何か情報を知らないかと聞きにきたんだ」
機関長「…じ、獣人族の子供だと!?」
錬金術師「あぁ。しかも、俺宛てにしっかりと"よろしくお願いします"ってな」
機関長「なんと。本当か……!」
錬金術師「…で。次の機関長の話はなんだよ?やっぱり違う話だったか」
機関長「…あぁ。お前、新聞か何か見てないのか」
錬金術師「こっちに出る時だったし、情報誌は一切見てないな」
機関長「…」
機関長「…お前の住んでる町の付近の河原で、錬金術研究員の遺体が見つかったそうだぞ」
錬金術師「…なんだって?」
機関長「だから、てっきりお前がそれで訪ねてきたのかと」
錬金術師「…確かに、それはそれでこっちに来るかもしれん」
機関長「まぁ、違うなら違うでいいが…。それより、獣人族の子供の話…。本当なのか」
錬金術師「…本当だ。じゃなかったら、わざわざこんな所こねーよ」
機関長「こんな所っていうな、こんな所って」
機関長「…獣人族はただでさえ希少な存在なんだぞ?見間違えじゃないのか」
錬金術師「いや、間違いはないと思う。獣耳もしっかり見た」
機関長「純血か?」
錬金術師「恐らく人との混血」
機関長「尾は?」
錬金術師「直接見ていないが、うちの店員が脱がせた時に何も言わなかったから、ないと思う」
機関長「…それなら、人のほうが強く出ていると見えるな」
錬金術師「言語能力は割と高めだ。獣人年齢では3から4歳程度だと思うが、理解はしている」
機関長「しゃべれるのか?」
錬金術師「…いや。ただ、表情は豊かだな」
機関長「親とはぐれたのに、泣いたりしないのか?」
錬金術師「…人懐っこい。うちの店員に、敵意もなく笑っていてる」
機関長「ふーむ…」
錬金術師「…俺が引退したあと、獣人族の研究とか獣人族と関係を持ちそうな奴はいないか?」
錬金術師「置手紙には今の俺を指名してきてたし、俺の店も知っていた」
錬金術師「少なくとも、俺らの同業者だと思う」
機関長「…」
機関長「…ふむ。なるほどな」
錬金術師「…まぁなんだ、物好きなやつとか、金持ちの道楽野郎なら獣人族との混血もなくはない」
錬金術師「だが、俺の店、俺の名前を知っている以上…同業者以外の可能性はないと思う」
機関長「…しかしな。錬金師たるもの、研究対象から禁忌とされた研究は触れず、絶対に守るだろう」
機関長「それに、獣人族と聞いてそんな関係を持とうとするか……?」
機関長「もし同業者なら酷なことだが、研究対象として子供を作ってしまった可能性出てくるぞ…」ハァ
錬金術師「…」
機関長「そして、禁則事項を犯すといえば…あの機関だけだ」
錬金術師「…」
機関長「アルスマグナ…。その一つだけだろう」
錬金術師「…」
錬金術師「…はぁ」
機関長「…可能性がぐっと高いのはそこだけだ。お前を知っており、禁忌を犯す」
機関長「これ以上、当て嵌まる存在はないだろう」
錬金術師「…」
錬金術師「……確かに、"その可能性はある"」
機関長「可能性はある…だと?」
機関長「ふむ、確証レベルだと思うのだが…。違うと思っているのか?」
錬金術師「いや、何か違う気がするんだ」
機関長「…他に、禁忌を犯す人間がいると?」
錬金術師「…そういうことじゃないんだ。何か引っかかるっつーか」
機関長「だが…」
錬金術師「…」
錬金術師「…っ」
錬金術師「とりあえず、今日は戻る。何かあれば、また伝えに来るわ」
機関長「…あまり、深入りもするなよ」
錬金術師「わかってる…」
…………
……
…
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夕方 錬金術師のお店 】
ガチャッ……
女店員「!」
銃士「おっ…」
新人鉱夫「あ、お帰りなさい店長さん!何か情報は得られましたか?」
錬金術師「…お待たせ。なーんも得られなかったぜ」ハハハ
新人鉱夫「…そうでしたか」
トテテテ…
クー「…」
…ギュッ!
錬金術師「…おっ?」
クー「へへー♪」
錬金術師「…なんだなんだ」
クー「~♪」
グリグリ…
錬金術師「お、おいおい…くすぐってぇぞ」
クー「♪」
女店員「…店長、気に入られてるね~」
銃士「遊んであげてたみたいだし、クーはそれで好きになっちゃったかな?」
新人鉱夫「店長さん、優しいところありますからね~」
クー「…んっ♪」
錬金術師「…」
錬金術師「……!」
錬金術師(そ、そうか。何か引っかかってた点はここだ……!)
錬金術師(考えたら、もしクーの親がアルスマグナ含む禁忌を犯す面子に実験材料にされていたら…)
錬金術師(少なくとも、子供を手放すことは絶対にしないはず)
錬金術師(それに、獣人族の子は大人以上に希少な存在。彼らの手中にいては、ただでは済まない…)
クー「…?」
錬金術師(いや、その禁忌を犯す機関から、親とともにわざわざ逃げてきた可能性もゼロじゃないのは確かだ)
錬金術師(だが、そうなれば獣人族…いや、子供が他の人間へ懐くことは絶対にしない……!)
錬金術師(……)
錬金術師(…い、いや。そう考えるのは早いか…?)
錬金術師(そうだ、既に虐待を受けていたら……)
錬金術師(それを嫌い、わざとこうして誰にでも愛嬌をふりまいている可能性はある…っ)
錬金術師(……と、すると)
錬金術師「…銃士、聞きたいことがあるんだが」
銃士「私?」
錬金術師「…銃士、この間、クーの身体を拭いてくれた時、傷という傷は…なかったのか?」
銃士「傷か…。う~ん、なかったと思うよ」
錬金術師「確かだな?」
銃士「…うん。どうして?」
錬金術師「まぁ…」
錬金術師「…」
錬金術師「…クー。ちょっといいか?」
クー「…?」
錬金術師「言葉は、しゃべれるか?」
クー「…」
錬金術師「…しゃべれるなら、首を縦に。言葉が分かるだけなら、横に振ってくれ」
クー「…」クイッ
錬金術師「…横、か。」
女店員「言葉はやっぱり理解して……」
錬金術師(獣人族も人語はしゃべれるはずだが、この子は口がきけないのか…?)
クー「…」
錬金術師「クー。しゃべれないのか?」
クー「…」コクン
錬金術師「言葉は分かるがしゃべれない。声を出せない…のか?」
クー「…」コクン
錬金術師「…そうか。お前の親は、母親と父親のどちらかが人間なのか?」
クー「…」コクン
錬金術師「母親か」
クー「…」
錬金術師「父親か」
クー「…」コクン
錬金術師「…なるほど」
銃士「父が人、母が獣人族。まぁ…そうなるよね……」
錬金術師「…その可能性は高いと思っていた。あまり…いい話ではなさそうだな」
銃士「…」
女店員「…」
新人鉱夫「…」
クー「…」
錬金術師「…お前の親は、俺のことを知ってるのか?」
クー「…」コクン
錬金術師「…まぁそうだろう。父親の方だろう?」
クー「…」
錬金術師「…」
クー「…」
錬金術師「…まさか」
クー「…」
錬金術師「母親の…ほうなのか…?」
クー「…」コクン
錬金術師「…!」
銃士「獣人のほうが…店長を知ってるのか」
女店員「…っ!」
新人鉱夫「え……」
錬金術師「…冗談ってことばっかだな。本当に、母親が俺のことを知ってるのか?」
クー「…」コクン
錬金術師「…」
クー「…」
錬金術師「…母親は、どこへ行ったか知っているか?」
クー「…」
錬金術師「…知るわけないか」
女店員「店長…。本当は、その獣人族の母親とかと……」ブルッ
錬金術師「…ば、馬鹿言うな!本当にそうなら俺は今頃、檻の中だ!」
女店員「そ、そっか…。そうだよね……」
錬金術師「当たり前だ!」
銃士「…でも、獣人が店長のことを知ってるってことは何かしらの接点があったってことだよね?」
錬金術師「…」
銃士「本当に何も覚えてないの?どんな些細なことでも」
錬金術師「錬金師が獣人族と関わる機会は、俺が現役以前に禁則事項とされたんだ」
錬金術師「当時、どんなに腐ってた俺でもルールだけは破らなかったからな…」
女店員「そうだよね…」
銃士「…じゃあ、向こう側が勝手に店長を認識してたってことじゃ」
錬金術師「俺が認識がない以上、そうなるか」
銃士「う~ん…」
錬金術師「…」
クー「…」オロオロ
新人鉱夫「…み、みなさん。そんな悩んだりしたら、クーが困ってますよ!」
新人鉱夫「そんな顔見せずに、笑顔でいましょうよ!」
錬金術師「……そうだな。すまなかった、クー」ニカッ
クー「!」
錬金術師「不安にさせて、ごめんな。よおっし、遊ぶかぁ!?」
クー「…♪」コクン
錬金術師「新人鉱夫に、美味しいご飯作ってもらう間に…遊ぶぞぉ!いいかっ!?」
クー「…」コクンッ!
錬金術師「さぁ、ついてこぉい!何をするか!オモチャでも造るかぁ!?」
ダダダダッ!
クー「!」
トテテテテッ……!
銃士「……あらら」
女店員「店長ってば……」
新人鉱夫「…さりげなく、僕の料理の期待値を凄くあげていきましたね。頑張らないとっ」
銃士「それにしても、クーと店長…か」
新人鉱夫「何か繋がりはあるんでしょうけど、店長さんが何もないっていう以上は…」
女店員「店長、わざわざ隣町まで行くってことなんだから本気なんだっては分かるけど…」
銃士「とりあえず今は、クーが不安がらないようにするのが一番だね」
女店員「うん」
銃士「さて、お店も閉店時間だ。私たちも帰ろうか」
女店員「だねっ」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして夜 お店の外 】
ゴォォ…パチパチッ……
ザバァッ…
錬金術師「…うへぇ、どうだ。飯のあとの風呂は、気持ちいいだろう!」
クー「♪」
新人鉱夫「ひぃぃ!な、なんでドラム缶の薪風呂なんですか!」
新人鉱夫「火の調整、かなり難しくて……!」
錬金術師「自動で火を調整するやつも造れるが、手間かかるしなぁ」
錬金術師「俺らのあとに、お前も入れてやるから頼むぜ」
新人鉱夫「あっ、いえいえ…!」
錬金術師「俺らだけなら水洗いだとか、身体を綺麗にするだけでいいが…」
錬金術師「こんな子供だし、風呂らしい風呂で身体もあっためてやりてぇからな」
新人鉱夫「…ですね。クーも、喜んでますよ」
錬金術師「うっし。クー、空を見ろ。星が綺麗だろ~」
クー「…」ジー
キラキラッ…
クー「…っ♪」
錬金術師「空は広いだろー。こんな広い世界なのに…ったく。お前はどこから来たんだ?」
クー「…?」
錬金術師「…くくくっ、キョトンとしやがって」
…ポンッ、ナデナデ
クー「…♪」
新人鉱夫(…最初、戸惑ってた店長さんが何気に一番クーのことを気に入ってるじゃないですか)アハハ
新人鉱夫(一緒にお風呂なんか入っちゃって、ご機嫌ですね)
錬金術師「…どぉれ、ついでに頭も軽く洗ってやるか。ほれ、前を向いて頭こっちによせろ」
クー「…」クルッ
ザボザボッ…ゴシゴシッ……
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「…?」ピクッ
…
……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「…そうそう。一緒にお風呂に入るのは楽しいもんなぁ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
……
…
錬金術師「…」
錬金術師「……何?」
クー「…?」
新人鉱夫「…え?」
錬金術師「今、何か…」ゴシゴシ
錬金術師「…」
新人鉱夫「…店長さん?」
錬金術師「…」
錬金術師「…あっ」ハッ
新人鉱夫「店長さん、どうかしましたか?」
錬金術師「…い、いや!何でもない!」
新人鉱夫「のぼせたんじゃないですか?大丈夫ですか?」
錬金術師「…これしきでのぼせるかよ!さぁて、汚れ落とすぞクー!」
クー「…」コクンッ!
錬金術師「はーっははははっ!」
ゴシゴシッ…!
錬金術師「…」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
クー「…」スヤスヤ
錬金術師「…風呂も入って、飯も食って、随分と幸せそうに寝るやつだ」
新人鉱夫「はは、可愛いですよね」
錬金術師「…だが。可愛いから、問題にもなったんだろうな」
新人鉱夫「問題、ですか……」
錬金術師「…今、銃士と女店員がいないから言うが、獣人族の歴史は悲惨なものだった」
新人鉱夫「…」
錬金術師「獣人族は元々、魔獣の一種。」
錬金術師「人型の魔物自体は珍しくないが、獣人族という種族はそもそも存在していなかったんだ」
新人鉱夫「えっ…?」
新人鉱夫「そ、存在していなかった…ですか?」
錬金術師「魔族ないし魔物というものは、種族で分ければ数百以上いる」
錬金術師「総合して魔族。魔物と呼ぶのは知性の高い魔族。魔獣はその名の通り、分類は下位種族だ」
新人鉱夫「…じゃあ、この子は上位種族なんですか?」
錬金術師「分別をするとそうなるな」
新人鉱夫「へぇ…」
錬金術師「そして、さっき言った獣人族が存在していなかったというのは、歴史の勉強からしないといけないが…」
新人鉱夫「…聞きます。どういうことでしょうか」
錬金術師「…実は、獣人族は人型魔族と魔獣の混血で、それが進化を繰り返して生まれたものといわれている」
新人鉱夫「…!」
錬金術師「…生々しい話だが、魔族は同族以外にも交配し、産まれることが多々ある」
錬金術師「知性の高い人型魔族が、魔獣の何かと交配し、知性の高い獣人族として誕生したのが有力な説だ」
新人鉱夫「へぇぇ……」
錬金術師「そして、それを確かめる為に俺ら錬金師の先人たちは研究対象としたんだ」
新人鉱夫「な、なるほど…」
錬金術師「だが、いくら調べても交配された元となる人型魔族は特定することができなかった」
錬金術師「更に、知性が高い獣人族を研究することは"人体実験"と一緒となる」
錬金術師「それに国が歯止めをかけようと、錬金術機関の定めとして禁則事項の一つとなったわけだ」
錬金術師「ついでに、気持ち悪い金持ち共のペットとして扱われるのもタブーとなったんだがな」
新人鉱夫「…そういうことだったんですね」
錬金術師「結果、獣人族の生態は不明だし、その当時の乱獲で数も減っちまったわけさ」
錬金術師「そして、偶然によって生まれる獣人族という種族自体が少ないっつーことで」
錬金術師「それを踏まえ、獣人族同士が交わることは稀だし、純血を紡ぐ獣人族はほとんどいないってわけ」
錬金術師「…血が薄い以上、交わった相手側のほうの特徴をメインで産まれちまうことがほとんどだからな」
新人鉱夫「…だから今、獣人族は少ないし子供も滅多に見なくなってしまった…と」
錬金術師「そういうこと」ハァ
錬金術師「そのタブーを犯し、獣人族との子を産み、希少な獣人族の血が出た子を、うちに預けてった馬鹿野郎がいるわけだ」
錬金術師「俺は俺で錬金術の元マスターだし、禁忌団体のアルスマグナと関係がないわけじゃない」
錬金術師「…だから焦ってるんだよ」
錬金術師「もし獣人族の子がいると知られれば、既に動いてる可能性のあるアルスマグナだけじゃなく…国の法律が動く」
錬金術師「まず間違いなく、俺が犯人とされて牢屋行きだ」
錬金術師「…笑えてくるだろ?」
新人鉱夫「…そ、そんな!なんで店長さんが!」
錬金術師「知るかよ…」ハァァ
新人鉱夫「…っ」
錬金術師「…だが、な。」
新人鉱夫「はい…」
…ソッ
クー「…」スヤスヤ
錬金術師「…こいつに、何の罪があるわけじゃない。ただの子供だ」
錬金術師「出来れば……。いや、絶対に変なことには巻き込みたくない」
錬金術師「だから、どうにかして活路を見出さなければならない。」
錬金術師「今、こいつを守れるのは俺たちだけなんだからな」
新人鉱夫「…はいっ」
錬金術師「ま、うちの店はいっつもこういう事に巻き込まれるわけで…」
新人鉱夫「ははっ…。確かに、そうですね」
錬金術師「慣れたもんだ。なぁに、すぐに解決されるさ」
新人鉱夫「店長さんなら、絶対に大丈夫ですよ!僕も一生懸命サポートしますからっ!」
錬金術師「…おうよ、頼むぜ」ニカッ
新人鉱夫「はいっ…!」
錬金術師(……獣人族の母親のほうが俺を知っているとは言っていた)
錬金術師(だが、接点が見えない以上、その男も俺に接点がないわけじゃなかったと考えるべきだ)
錬金術師(とりあえず、どうするべきかは…きちんと考えねぇとな……)
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 朝 】
…ガチャッ!
女店員「おはようございます~」
銃士「おはよう~」
錬金術師「ういーっす」
新人鉱夫「おはよーございます!」
女店員「…って、クーちゃんは朝ごはん中か~」
新人鉱夫「僕の特製のスクランブルエッグに、特製サラダですっ」フンスッ
クー「♪」パクパクッ
錬金術師「…本気で食ってるよ。そしたら、すぐ寝るんだろうけどな」
女店員「ふふっ、可愛い~」
錬金術師「…」
錬金術師「ふわぁぁ……」クァ…
女店員「…朝からあくび?」
錬金術師「こいつ起きるの早くってよ…。朝5時に起こされて、遊んでな……」
女店員「あ~……」
銃士「…ご苦労様だね。でも、クーも喜んでたんじゃない?」
錬金術師「あぁ、大喜びだった…」フワァ
銃士「…」
銃士「…本当に店長、眠そうだね。少し、仮眠とったらどうだろ?」
錬金術師「…仮眠か」
女店員「う~ん…。店長、クーのためだったら、特別に許してあげる!」
錬金術師「へい、どうも」
女店員「でも、お客さんが来ないとは限らないんだから…。来たら起こすからね!」
錬金術師「どうせこねーよ」ハッハッハ
女店員「…」ギロッ
錬金術師「来るように努力し、精いっぱいみなさんで今日も頑張りましょう!」ビシッ!
銃士「おぉ、女店員はやはり気力を会得して…」
新人鉱夫「うん、だから違うと思います」
クー「…?」キョトンッ
…
………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 1時間後 倉庫 】
…コソッ
女店員「…てーんちょ」
銃士「…」
新人鉱夫「見事に、二人で寝てますね」
錬金術師「…」グォォ
クー「…」スゥスゥ
女店員「二人で並んで…。仲良くなっちゃって…」
新人鉱夫「…ドラム缶で、クーにお風呂作ってあげたりしてるんですよ」
女店員「!」
新人鉱夫「文句は少し言ってますが、クーとずっと遊んであげてますし…」
女店員「も~…。なんだかんだ言っても、クーのことを凄く気にかけて…。素直じゃないんだから」
新人鉱夫「はは、店長さんらしいですよね」
銃士「…それにしても、クーは本当にどこから来たんだろうね」
女店員「ん~…。置手紙があったってことは、確かにそこに親か誰かは来たってことだよね?」
銃士「…うん、そうだろうね。私が寝ていなければ…情けない」ハァ
女店員「あの日、本当にたまたま店長がやる気を出して3人で朝市に行ったし…」
女店員「タイミングが悪かったっていうか……」
銃士「…そう考えると、いつもいる店長っていうのは…意外と重宝する?」
女店員「そ、それはそれで……」ヒクッ
銃士「なんか、うちにはうちの空気の流れがあるのかもしれないな」クスッ
女店員「少しやる気出すと、裏目に出る店長ってお店としてダメな気が……」
銃士「あははっ!確かにその通りだ!」
錬金術師「うっー…?」モゾッ
クー「…」モゾモゾ
新人鉱夫「あっ、みなさん…。お店に戻りましょう、起きちゃいますよ…」シー
銃士「あ、そうか…。静かにしてよう…」
女店員「だねっ…」
タタタタッ………
……
…
錬金術師「むにゃ……」
クー「…」スヤスヤ
錬金術師「…」グォォ
クー「…」スゥスゥ
錬金術師「…」グォォ
………
……
…
…
………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「…あったかい」
「…」
「ははっ……」
「…」
「…可愛いやつだな~」
「…」
「…あ、先に寝る気かよ」
「じゃ、じゃあ俺も寝るし…。おやすみ……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
錬金術師「…」
錬金術師「…っ」
錬金術師「…!?」ハッ
クー「…」スヤスヤ
錬金術師「今のは…夢か……?」
クー「…」クゥクゥ
錬金術師(…今の夢、何かとても懐かしい匂いがした気がする)
錬金術師(…)
錬金術師(…俺の記憶?子供時代…?)
クー「…」ムニャッ
錬金術師(…)スンッ
錬金術師(…!)
錬金術師(……そ、そうだ)ハッ
錬金術師(あれは、クーと同じ匂い……!?)
錬金術師(いや、待て…!なんで俺の子供のころに、クーが……?)
錬金術師(…)
錬金術師(……)
錬金術師(……っ!)
…バチィッ!!…
錬金術師(あっ……!あぁっ……!!)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 錬金術師のお店 店側 】
…ガタガタァンッ!!!
銃士「!?」
女店員「な、何っ!?」
新人鉱夫「な、なんでしょうか!?」
タタタタッ…!
錬金術師「…っ!」
女店員「て、店長?寝てたんじゃ……」
錬金術師「…ちょっと、凄い事に気が付いたかもしれん!」
女店員「凄いこと?」
錬金術師「…クーのわずかな匂いの中に、俺の記憶を呼び覚ますものがあったんだよ!」
女店員「え…?」
錬金術師「…まさかとは思うが、その匂いは錬金師である俺自身、確信がある!」
女店員「ま、待ってよ。何がどうしたの?落ち着いて」
銃士「店長、落ち着かないと私たちも話が見えないよ」
新人鉱夫「どうしたんですか?」
錬金術師「そ、そうか…」
錬金術師「では、えーと…ごほんっ!」
錬金術師「…クーと同じ匂いが、俺の子供時代に確かにあったことを思い出した」
銃士「…に、匂いって」
錬金術師「そういう、汗や人としての匂いじゃない」
錬金術師「クーは人の血が濃かったから、気付かなかったんだ」
錬金術師「落ち着いて眠りについた時、その匂いがようやく微かに現れたっつーかな…」
女店員「それって…?」
錬金術師「…」
錬金術師「俺の子供時代…。ともに過ごした、魔犬の匂いだ……」
銃士「!」
女店員「まっ…!」
新人鉱夫「ま、魔犬っ!?」
錬金術師「…俺が言うと、自分自身でイラっとするが、俺は金持ちのボンボンだったわけだ」イラッ
錬金術師「それでまぁ、子供の頃にゃ、そう言った道楽っつーのかな……。遊びを色々としてきた」
錬金術師「そんな中、うちに魔犬を飼っていたんだ。」
錬金術師「子供時代の話だし、記憶が曖昧で、そこまで覚えてるわけじゃないんだが……」
女店員「えっと…。当時飼ってた魔犬の匂いと、クーの匂いが一緒のように感じたってこと?」
錬金術師「……そういうこと。」
錬金術師「クーを見た時、魔犬と連想し、自然と名前が出てきたのもその体験からだったのかもしれん」
錬金術師「そのことをすっかり、さっきまで忘れていた…」
女店員「クーと一緒の匂い、か…」
錬金術師「だが、今いるクーから感じたのは、ただの微かな獣の匂いという共通点だけだ。」
錬金術師「どう考えても、クーと結びつく決定的なモノはないんだがなぁ……」
銃士「…もし、クーの獣の血がその魔犬のペットと同じ先祖の血を引いていたら?」
錬金術師「その可能性はなくはない。だが、混血した魔獣の血は、錬金師をもってしても辿ることは難しわけで……」
銃士「そしたらやっぱり、"獣"としての匂いだけを感じ取ったのでは?」
錬金術師「…うーむ。落ち着いてみると、それだけかもしれないな…」
銃士「…」
女店員「でも、店長……」
錬金術師「あん?」
女店員「店長と繋がりがあって、そのクーとも繋がりがあるっていうのなら、可能性を追ってみるべきじゃないかな」
錬金術師「…ふむ」
女店員「今、クーに関して有力なのは、その店長の記憶と当時飼っていた魔獣になったわけだし…」
女店員「クーが店長のことを知っていて、更に一緒の匂いをこのタイミングで思い出したんだよ!」
女店員「調べる価値はありそうだと思うんだけどな……」
錬金術師「ま、まぁ……」
錬金術師「…」
錬金術師「しかしなぁ……」ポリポリ
女店員「折角見つけ出した情報なんだから、少しでも可能性にかけてもいいと思うんけど…」
錬金術師「う~む…。だがなぁ……」
女店員「…店長?」
新人鉱夫「…なんか店長さん、乗り気じゃないですね?」
銃士「折角、手がかりとなりそうなのに…。どうしたんだ店長」
錬金術師「…」
錬金術師「…っ」
錬金術師「…お…だ…」
女店員「え?」
錬金術師「話を知るのは、親父だけなんだよ…。」
錬金術師「つまり、本社にいる親父にこっちから行かないといけないわけで……」ヒクッ
女店員「!」
銃士「お、お父さんのいる本社って…!」
新人鉱夫「ち、中央大陸を牛耳る大企業の、セントラルカンパニーの!?」
錬金術師「…そういうこと。あそこに行きたくねぇんだよ…マジで…」
女店員「そ、そうだったんだ……」
錬金術師「本社には顔見知りはいるし、親父に話を聞く他ないし……」
女店員「…」
錬金術師「はぁぁあ……」
女店員「じゃあ、やっぱり止めておくの…?」
錬金術師「…」
錬金術師「…止めれるわけないから、これだけ嫌がってるんだろうが…」ハァァ
女店員「…!」
錬金術師「元々行かないつもりなら、行かない行かないと笑って終わりだ」
錬金術師「だけど、このタイミングで思い出したこととか、色々と行かない訳にはいかんだろう」
錬金術師「…」
錬金術師「くっそ…!あ~~っ!!面倒~くっせぇぇなぁぁぁっ……!!」
女店員「…」
銃士「まぁ、仕方ないね……」
新人鉱夫「あ、あの社長さんに話を聞きにいくってことですよね…?」
錬金術師「…そういうこと。死ぬ。いや本当に」
新人鉱夫「ふぁ…ファイトです!」グッ
錬金術師「は、はは…。ありがとよ…」
女店員「…店長、いつから行くの?」
錬金術師「親父と顔合わせるって考えるだけで憂うつになる。つーか、アイツの事を考える時間が嫌なんだ」
錬金術師「終わらせられることなら、早く終わらせる」
女店員「ってことは…」
錬金術師「…昼過ぎから中央に向かう。アルスマグナと戦うわけじゃないし、心配はしなくていい…」
女店員「そ、そりゃそうなんだけど…」
女店員「アルスマグナと戦った時より、なんかすっごい負のオーラが……」
錬金術師「…そりゃ出るっつーの。親父に質問しに行くとか、もうないと思ってたからな…」
女店員「あはは……」
錬金術師「…準備すっかぁ。奥で着替えてくるわ…」クルッ
女店員「着替えてくる?」
錬金術師「…親父の仕事場は、なんかしっかりとした服装じゃねぇと門前払いなんだよ」
女店員「え?」
錬金術師「規律を正しくするとかで、正装式で。髪型整えたり…しねぇと……」
女店員「あ~……」
錬金術師「…とりあえず、着替えてくる」
トボトボ……
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 十数分後 】
トコトコ…バッ!
錬金術師「…お待たせ」ピクピク
女店員「…」
女店員「…ぶっ!?」
銃士「て、店長!?」
新人鉱夫「て、店長さんなんですか!?」
錬金術師「…セントラルカンパニーの正装だ。す、スーツとか言ったか」
女店員「す、すっごーい…!」
銃士「見事にビシっと決めて…。あまり見ない服だけど、すっごく決まってるな…」
新人鉱夫「それに、髪型も整えて…。普段と全然違いますね!」
錬金術師「…時々、新人鉱夫の言葉は痛く突き刺さるな!」
女店員「…店長、その恰好のほうがいいんじゃない?」
女店員「なんか出来る男っていうオーラが出てるし、髪型もしっかり整えてあるほうが…こう……」
銃士「…カッコイイよね」フフッ
女店員「うん!」
銃士「…」
女店員「…」
銃士「…」
女店員「……あっ!」ハッ
錬金術師「…ほう」ニヤリ
女店員「い、今のはちがっ!!」
錬金術師「…かっこいいねぇ」ニヤニヤ
女店員「ちょっ…!違うって!!かっこよくなんかないから、全然っ!!」
錬金術師「…」
女店員「そ、そうしてたほうが働いてるって感じするし!それだけだからっ!」
女店員「普段が普段だから、そういう恰好するとギャップがあるっていうか!そ、その!それで!!」
銃士「…お、落ち着け女店員。私が悪かった」
女店員「あう……」
錬金術師「は、はは……」
錬金術師「ま、まぁいい。それより、準備も思ったより早く終わったし出発しちまうかな」ハァ
新人鉱夫「中央行きの馬車の時間も、確かもうすぐ出ますしね」
錬金術師「往復に時間もかかるが、まぁ前と同じく気長に待っててくれ」
新人鉱夫「はいっ!任せて下さい!」
銃士「ふふ、まかせてくれ」
女店員「気を付けて行ってきてよ?」
錬金術師「おうよ」
…コソッ…トテトテ…
クー「う~……」ムニャッ
錬金術師「あ、クー…」
銃士「…少し騒いでたから、起きちゃったのかな」
女店員「ご、ごめんなさい……」
トトト……ギュウッ…
錬金術師「…おっと」
クー「…」
モゾモゾ…スリスリ…
錬金術師「…おうふ、どうした」
クー「…♪」
錬金術師「お前は、そんなにくっつくのが好きなのか…」
クー「…」グリグリ
錬金術師「しゃあねえなあ…よいしょっ」
…ダキッ、ヒョイッ
クー「!」
錬金術師「…奥から引っ張り出してきた服だから、汚れちまうぞ?」
クー「…」
…グニグニ…
錬金術師「あっ、あいでででっ!ほ、ほおをふねるな!」
クー「♪」
銃士「…仲良いねぇ、二人とも」
女店員「クーってば、店長のこと本当に気に入ってるんだね~」
新人鉱夫「ここに来てから、ずっと二人で遊んでますからね」
錬金術師「…」
錬金術師「…ふむ」
錬金術師「あ~…。すまん、三人とも…ちょっと考えが変わった」
銃士「うん?」
女店員「何?」
新人鉱夫「どうしたんですか?」
錬金術師「…女店員、やっぱりお前、俺に着いてくるか?」
女店員「えっ?」
錬金術師「一緒に中央に来て、なんかしらの手伝いをしてくれ」
女店員「わ、私っ?」
錬金術師「いや、面倒だったらいいんだが…」
女店員「い、行くっ!」
錬金術師「お…」
女店員「待ってて!すぐに準備してくるからっ!!」ダッ!
ドダダダッ!!ガチャッ、ダダダダダッ……!!!
………
…
錬金術師「お…おう……」
銃士「…」
銃士「…店長、どうして女店員を?」
錬金術師「やっぱり一人じゃ嫌だ」キッパリ
銃士「あ、あぁ…」
錬金術師「親父に一人で会いにいくとか、自殺行為じゃん」
銃士「は、はは……」
クー「?」
錬金術師「…話を聞いてたと思うが、クーはここでお留守番だからな」
クー「…」ブンブン
錬金術師「…こら。首を横に振るな」
クー「…」ブンブン
銃士「クーも一緒に行きたいんじゃないの?」
新人鉱夫「きっとそうですね」
錬金術師「…そうなのか?」
クー「…」コクン
錬金術師「…しかしな、獣人族とバレたら色々と不味いんだが」
銃士「見た目は子供のまんまだし、問題はなさそうだけど…」
錬金術師「そりゃそうだが、この獣耳が…」
…ピンッ
クー「…」
錬金術師「…」
錬金術師「…やっぱ、お留守番だ。悪いが、お前は連れていけんよ。」
クー「…」ブンブンッ
錬金術師「我がまま言うんじゃない。都会は危ないところなんだぞ?」
クー「…」ブンブンッ
錬金術師「…」
クー「…」ジー
錬金術師「…」
クー「…」ジー
錬金術師「…」
クー「…」ジー
錬金術師「……そ、そんな眼で俺を見るんじゃないっ!」
クー「…」ジー
銃士「おぉ…!クーも、いよいよオーラを……!」
新人鉱夫「うん、三度目ですが…そういうのじゃないと思います」
クー「…」ニヘラッ
錬金術師「…」
クー「ん~…」
…グリグリッ
錬金術師「…くすぐったいぞ」
クー「♪」
錬金術師「…はぁ」
クー「…」ジィッ
錬金術師「…わかった、わかったわかった!連れてけばいいんだろうが!」
クー「…!」コクンッ!
錬金術師「…しゃあねえなあ」
銃士「店長の負けだね」フフッ
新人鉱夫「はは、さすがクーですね」
錬金術師「…フードつきのコート、途中で買って隠していくか。きちんと被ってろよ?」
クー「…♪」コクンッ
錬金術師「…この、調子がいいときばっかり喜んだ目ぇしやがって!」バッ!
コチョコチョッ!
クー「!」
クー「…きゃはははっ!」
クー「んっ、んっ~~!」バッ!
…グリグリッ!
錬金術師「う、うおっ!くすぐったいぞ負けるかぁっ!」
クー「やぁ~っ!」キャハハッ
ワイワイ…!
銃士「…平和だ」
新人鉱夫「本当に仲良いですね、この二人……」
ダダダダッ……!!
ガチャッ、バタァンッ!!!!
女店員「はぁ…はぁぁっ……!お、お待たせして……!」ギラッ!
錬金術師「…」
クー「…」
銃士「…」
新人鉱夫「…」
女店員「…ど、どうしたのみんな…?」
錬金術師「……怖い」
銃士「こ、攻撃のオーラが漂っている……」
新人鉱夫「これは、感じます……」
クー「…」ビクビク
女店員「…えぇっ!?」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 そして昼過ぎ 】
銃士「気をつけてね」
新人鉱夫「お店番、任せてくださいねっ!」
錬金術師「おう、行って来る」
女店員「いってきまーす!」
クー「んっ♪」ブンブンッ
銃士「あはは、いってらっしゃいクー」
ザッザッザッザッザッ………
…………
……
銃士「…」
銃士「……行ったかな」
新人鉱夫「店長さんたち、きっと解決してくれますよね!」
銃士「うむ、店長はやるときはやる男だ…多分」
新人鉱夫「多分って」アハハ
銃士「ははっ!それじゃ、私たちはしっかり店番だ!」
新人鉱夫「ですねっ!」
…………
……
…
…
………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 しばらくして 大型馬車の中 】
ガタンガタンッ……
錬金術師「…何はともあれ、無事に出発か」
女店員「中央かぁ…。私、初めてだったかな……」
クー「♪」
錬金術師「…不安だらけだが、まぁ何とかなるだろ」
ガタンッ…ガタンガタンッ……
女店員「…」
女店員「…ねぇ、店長」
錬金術師「なんだ?」
女店員「そういえば、なんで私も一緒に来てほしいっていったの?」
錬金術師「…一人じゃ怖いから嫌だ」
女店員「」
錬金術師「…それだけだが?」
女店員(なっ…なななっ……!)
女店員(す、少しでも私と一緒にいたいとか、私が必要だったって言ってくれるとか……!)
女店員(そういう期待を少しでもした私が……)
女店員(…)
女店員(…って!ち、違ううぅ!べ、別に店長のことなんか何も思ってないし、何もないし、どうでもいいし!!)
錬金術師「…お、おい…大丈夫か?」
女店員「!」ハッ
錬金術師「随分と、顔が赤い……」
女店員「な、なんでもないから、バカァッ!!!」
…バチィンッ!!
錬金術師「っ!?」
ズドォンッ!!ズザザァ……!
女店員「…あっ」ハッ
モクモク…
錬金術師「な……!」
…ムクッ!
錬金術師「何をしやがるっ!!」
錬金術師「床に吹っ飛ばされるくらい叩かれたことなんざ、人生初だぞオイ!!」
女店員「ご、ごめん……!」
錬金術師「…ったく!」
トコトコ…ストンッ…
女店員「…」
錬金術師「いっつぅ……。急に叩くか、普通……」
女店員「ごめん……」
錬金術師「どうして叩いた……」ピクピク
女店員「…」
女店員「ひ、一人じゃ嫌だとかいうから、その気合入れ…とか……」ボソッ
錬金術師「…あぁ?」
女店員「お、お父さんに会うのが嫌だっていうし、気合も入れといたほうがいいかなって!」
錬金術師「…」
女店員「とか…」
錬金術師「…」
女店員「…」
錬金術師「……あのなぁ、嫌だ嫌だっつっても、覚悟は決めてるんだ」
錬金術師「お前に今更、気合を入れられるほど気持ちは揺らいじゃいねえよ、安心しとけ」
女店員「う、うん……」
錬金術師「…それと、本当はお前を連れてきた理由は別だ」
女店員「えっ?」
錬金術師「確かに、俺一人で会うのも嫌だっつー理由はあった」フンッ
錬金術師「…だけど、お前って中央に行くこともないし、俺の店にいながら中央カンパニーのこと知らないだろ?」
女店員「あ…。うん……」
錬金術師「何だかんだで、俺の店に繋がりのある場所は見せとかないといけないとか考えたんだよ」
錬金術師「多少厄介な場所だが、まぁ俺に着いてこれば何とかなるだろ」
錬金術師「…ってか、少し前にも似たようなこと話した気がするが」
女店員「…!」
錬金術師「…」
女店員「そ、そうだったんだ……」
錬金術師「…先に正直に言っておけば良かったか。殴られ損だ…」ズキズキ
女店員「ごめん……」
錬金術師「…まぁいい。気にするな」
女店員「うん…ごめんね……」
錬金術師「…」
…コテンッ
クー「…」スヤッ
錬金術師「…クー、寝るのはやいな!?」
女店員「ち、ちょっと難しい話だったかな~…」
錬金術師「…幸せそうに寝やがって、コイツ」
…グニグニッ
クー「うー…」モゾッ
女店員「イタズラしないっ!」
錬金術師「はひっ」
女店員「…」
女店員「…でも、本当に可愛いよね。」
女店員「なんで、こんな可愛い子を預けるのに、店長なんかを頼ったんだろう……」
錬金術師「なんだ貴様、悪口か」
女店員「う~ん……」
錬金術師「…まぁ、クーにだって、不憫な思いはさせねーさ」
錬金術師「頼られたなら、頼られたなりに、こんな子を見捨てる真似なんざ絶対にしねぇよ」
女店員「うんっ…」
クー「…」スヤスヤ
錬金術師「…」
錬金術師「……そ、それにしても」
女店員「なに?」
錬金術師「まさか、こんなに早く中央都市に戻ることになるとは…」ハァァ
女店員「え?」
錬金術師「あの事件があってから、中央都市は二度と来ないとか恰好つけてたんだがな…」
女店員「あの事件って…」
錬金術師「…」
女店員「…」
錬金術師「…だが、そんな下手なプライドよりクーのほうが大事ってこったな」フゥ
錬金術師「目の前で、その可能性がある限り…プライドなんかいらん」
錬金術師「…プライドなんかいらんというのが、俺のプライドだったりするのかもしれねーが」ククッ
女店員「店長……」
錬金術師「…」
女店員(…一人じゃお父さんに会いたくないこと)
女店員(アルスマグナのこと)
女店員(そして、私のこと。)
女店員(店長、意外と色々と考えてるんだよね……。)
女店員(…っ)
錬金術師「…ん、どうした。神妙な顔つきして」
女店員「…」
錬金術師「……ふんぬっ」
…グニッ!
女店員「い、いはいぃっ!」(いだぃぃっ!)
錬金術師「…おぉ、頬が伸びる」
女店員「な、何するのっ!」
…ベシッ!
錬金術師「…いでっ!」
錬金術師「はぁ~……。その顔つき、ま~た何か考えてたな?」
女店員「そ、そりゃ……」
錬金術師「…俺のことなら、心配すんな。お前が考えるより、よっぽど何でもねーよ」クククッ
女店員「…っ」
錬金術師「…まだまだ中央都市までは遠いんだ。クーの寝顔みたく、お前も少し可愛い顔して寝ろ。」
錬金術師「お前は寝てる時は、黙っててまだ女の子っぽくて可愛いかったりするんだからな」ハハハッ
女店員「なっ…!」カァッ!
錬金術師「っつーわけで、俺も可愛く寝る。おやすみ~…」
…カクッ
錬金術師「…」スゥッ
女店員「…」
女店員「…普段から、可愛いとかって言ってくれてもいいのに…」ボソッ
錬金術師「…何か言ったか?」バッ
女店員「うっさい!寝ててっ!!」
…ベシッ!!
錬金術師「ごあっ!」
…ドシャッ!!
錬金術師「」
女店員「はぁ……」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
そして、三人は馬車に揺られ、2日後。
無事に中央都市へと足を運び――……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央都市 】
ガヤガヤ…ワイワイ……!!
女店員「…っ!!」キラキラ
錬金術師「…目ぇ輝かせすぎだ」
女店員「こ、こんなに凄い建物が沢山…!人も…!」
錬金術師「そりゃ当然のことだ。コレが普通なんだぞ?」
女店員「へぇぇ……!凄いねクー!」キラキラ
クー「んっ…!」
錬金術師「…中央大陸にある、中央国の首都、中央都市。」
錬金術師「現在人口は600万強を誇り、世界一の人口密度と言われている」
錬金術師「歴史は古いが、常に世界の中心となってきたこの都市部はー……」
…キャー!!
女店員「クー、これすっごい美味しいよ!何これ~っ!」パクパクッ!
クー「♪」
ウェイトレス「テイクアウトで歩きながら食べられる、ミルキークレープです♪」
ウェイトレス「新作も続々出ているので、是非食べていって下さいね~!」
女店員「おいしいぃぃ~!」キラキラ
クー「んーっ♪」コクンッ!
錬金術師「聞けよお前ら」
女店員「!」
クー「!」
女店員「う、うんっ!聞いてたよ!中央都市の人口は6000万とか、都市部が都市とか!」
錬金術師「おう、何も聞いてなかったな」
女店員「あ、あはは…。ちょっと、色々と初めてで……」
錬金術師「…はしゃぐのはいいが、俺らの目的はセントラルカンパニーだぞ?」
女店員「う、うんっ!わかってるってば!」
錬金術師「今の時間はえーと、16時前か……」
錬金術師「まぁ…今の時間が時間だし、明日の朝一番で行けばいいとは思うがー……」
女店員「…じゃあ、遊ぼうっ!」
錬金術師「」
女店員「だ、だめ…?」エヘヘッ
錬金術師「…」
錬金術師「…はぁ」
錬金術師「仕方ねぇなぁ、先に宿とってからだ。それと、夜遅くなり過ぎないくらいまでだぞ…?」
女店員「わーいっ!」
クー「♪」
女店員「じゃあ、クー!店長!ほらほら、あそことか行ってみようよ!」
クー「!」コクンッ
女店員「なんか食べ歩きとか、アクセショップとか…!えぇぇっ、錬金道具ショップもあるよ~っ!」
クー「~♪」
ワイワイ…!!
錬金術師「…」
錬金術師(…まぁ、普通の女の子になっちまって)
錬金術師(…)
錬金術師(そりゃ、そうか。)
錬金術師(閉じ込めすぎたっつーか、中央都市とかに憧れるのは普通だもんな…。)
錬金術師(しゃあねえ、少し大目に見てやるか……)フゥ
女店員「てーんちょー!早く、色々あるよ~!」
クー「!」ピョンピョンッ!
錬金術師「へいへい…!待ってろ、今行くっての!!」
………
……
…
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 やがて時間は過ぎて…夜… 宿泊所 】
…ゴロンッ!
女店員「あ~…極楽ぅ……」
クー「ん~…♪」
ゴロゴロ…!
錬金術師「…食べ歩きし、ショップを巡り、中央の温泉施設に浸かり」
錬金術師「軽く中央通りの大商店街を歩き、夜はそれなりの店でガッツリ食べ……」
錬金術師「…これ以上とないくらいに、満喫しすぎだお前らはっ!」
女店員「えへへ…。楽しかったぁ……」トロンッ
クー「…♪」
錬金術師「…さっさと風呂入って、明日に備えて寝ろ!」
錬金術師「明日は早いんだし、今日みたくのんびりはいかないんだからな…」
女店員「うん…」
クー「ん~…」
女店員「あ…。ところで、店長も一緒の部屋なのぉ…?」
錬金術師「貴様らが遊び過ぎて、俺の財布がすっからかんになったことに対し、詫びが欲しいわけだ」
女店員「なるほどぉっ!なら、特別にぃぃ……許してあげようっ!!」ビシッ
錬金術師「…お前、酔ってる?」
女店員「酔ってにゃあいっ!」ビシッ!!
錬金術師「…」
女店員「さぁて、クーちゃんっ!お風呂一緒に入りましょーっ!」
クー「んっ!」ビシッ
ヨロヨロ…
女店員「てんちょぉ~!覗いちゃダメだよ~…!」
錬金術師「…」
女店員「ではぁ、入ってきます……!」
ガチャッ…バタンッ……
錬金術師「…」
錬金術師「さ、最後の店で出されたやつ、あれ結構きつかった酒っぽかったしな…」
錬金術師「…」
錬金術師「まぁ、俺もあとで入って…明日のために身体も休めておくか…」
錬金術師「…つうかあいつ、未成年じゃなかったっけ…」
……………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 次の日 中央通り 】
…ガヤガヤ…!!
クー「…!」
女店員「あ、朝から凄い人……」
女店員「人の声が、頭に響く…!い、痛い……」ズキズキ
錬金術師「なんだ、人の声が頭に響く?新たな能力でも身に着けたか」
女店員「そ、そういう意味じゃないぃ…。こ、これが二日酔い……!」
錬金術師「調子に乗るからだ」
女店員「うぅぅ……」クラクラ
錬金術師「…仕方ねぇなぁ。」ゴソゴソ
…スッ
女店員「な、何これ……」
錬金術師「アカノミのエキスを抽出して、固めたやつだ。すぐ効くぜ」
女店員「あ、ありがとう……」
ヒョイッ…ゴクンッ……
女店員「ぷはぁっ……」パァァッ
錬金術師「…ったく。」
女店員「う、うぅ…。すいません……」
錬金術師「…その点、クーはあれだけ遊んでもまだ元気なのな」
クー「へへっ~!」
ピョンピョンッ!
錬金術師「…お、オジサンとオバサンには朝は辛いぜ」
女店員「…私も巻き込まないでくれる」
錬金術師「うっせ、二日酔い!」
女店員「うぅ……」ズキンッ
錬金術師「…とりあえず!今日は、俺のお…おや、親父の会社に行くんだ」
錬金術師「俺だってしっかり決めてるんだから、お前もビシっとしろ!」
女店員「わ、分かってるけど、怒鳴らないで……」
女店員「頭に響く~……」ズキズキ
錬金術師「…ダメだこりゃ」
女店員「いたた……」
女店員「…」
女店員「て、店長。店長のお父さん、社長さんのセントラルカンパニーってどこにあるの…?」
錬金術師「…中央商社、セントラルカンパニーか?」
女店員「うん…」
錬金術師「…形だけだというなら、もう…既にお前はその土地を踏んでいるぞ」
女店員「えっ…?」
錬金術師「この中央通りの店っつーか、商業施設の全て、親父の配下だ」
錬金術師「一部は違うが、目に見えてるものは大体そうだな」
女店員「えぇぇっ!?」
…キィィィンッ!!
女店員「」
錬金術師「…今、自爆しただろ」
女店員「じ、自分の声で頭が……」ジンジン
錬金術師「…」
女店員「そ、それより…。ここらへんのお店が、全部配下って……!」
錬金術師「…そうだな、細かく説明してなかったか」
錬金術師「うちの会社の、中央商社…故に"セントラルカンパニー"本社は、別の会社の吸収を繰り返してできたものだ」
錬金術師「今じゃ巨大な商社とし、この中央都市を牛耳るまでに成長している」
女店員「へぇ…」
錬金術師「…元々は、親父が母さんの錬金道具を売る、ただの売買を行う普通の店だった。」
錬金術師「だが、少しずつそれが伸び、余裕が出来て親父が新たな事業に手を出すと、それも全て成功していった」
錬金術師「…親父はあんなんだが、やっぱり次に伸びる事業を当てる、先読みに長けてたんだよ」
女店員「そのくらいの目があったからこそ、今のように立派になったんだもんね……」
錬金術師「…そうしてるうちに、4つ目だか5つ目に買収した1つの会社があったんだが…、」
錬金術師「その時、親父は全てを手に入れる階段を上ったんだ」
女店員「…どういうこと?」
錬金術師「…買収したその会社、実は裏取引で商工会を牽引していた国の人間との繋がりがあった」
錬金術師「その人間と知り合い、どんな手段を用いたかは知らないが商工会を乗っ取っちまった」
女店員「商工会?」
錬金術師「…普通の商工会とは違うが、中央通りの商工会は収益管理も全て行う、大組合とでもいうか…」
女店員「ごめん、どういうことか分からない…かな……」
錬金術師「つまり、中央通りの収入を全て管理してるってことだ」
女店員「あぁ…!」
錬金術師「…中央国にある、この都市における税を含むや決算額は年平均2兆ゴールド」
錬金術師「中央通り周辺は、そのうちの約25%で、年平均6000億ゴールドになるんだが……」
女店員「ろっ…!」
錬金術師「…それを管理していたのが、中央商工会の、その組合。」
錬金術師「だが、親父はそれをも乗っ取っちまったっつーことさ」
錬金術師「普通、商工会はそこまでの管理はしないんだが、歴史的にずっとそうしてたっぽくてな」
女店員「凄い…」
錬金術師「中央大陸は自由主義。それ故に、親父の進撃も許しちまったわけだ」
女店員「…!」
錬金術師「ま、ずっと昔の話さ。それに、分かってると思うが全部それが親父の懐に入るわけじゃねーしな…」
女店員「…」
錬金術師「一般市民としては、歴史にないほどの"経営者"として大成功を収めた人間」
錬金術師「下手をすれば、後にも先にも親父が最初で最後の存在となるかもしれん」
錬金術師「…今や、親父の邪魔をする人間は"ほとんど"いないはずだ」
女店員「…で、でもソレをジャマをする人間はいるんだ?」
錬金術師「いる。それが、あのアルスマグナ。」
女店員「!」
錬金術師「そして、国。政府だ」
女店員「く、国まで!?」
錬金術師「…ただの市民が、中央国の収入源の一つを担うことは、歴史上であり得ないことなんだ」
錬金術師「そして、中央国は世界の中心であり、世界政府の心臓部」
錬金術師「その心臓のポンプに、政府の人間ではなく…"ただの人"が紛れ込んだわけだぞ?」
女店員「…」
錬金術師「政府にとっちゃ、ただのばい菌。悪さをする菌に等しい」
錬金術師「つまり、国も必死になって税を上げたり、条例を出したり、様々な対策をしてきている」
錬金術師「だが…。クソ親父は上手いことやって、それを全部切り抜けてる」
錬金術師「…国に絡む人間も、親父の手の中に既にいたり、裏が色々とあるんだけどよ…」
女店員「…そんな凄い人だったんだ。政府が敵とか…」
錬金術師「凄いっちゃ凄いが、実はもっと凄い敵がいるんだぜ」
女店員「…えっ?」
錬金術師「…俺だぁ!!」ハッハッハ!
女店員「」
錬金術師「……なんつってな。さ、無駄話はおしまいだ。」
錬金術師「乗り込むぜ…セントラルカンパニーの本社によ!!」
女店員「…うんっ」
クー「…」コクンッ
女店員(……社長さんにとって、最大の敵はアルスマグナでも、国や政府でもない)
女店員(店長が、最大の敵……?)
女店員(…)
女店員(意外と、そうなのかも。だから、味方に早くつけたいとか……)
女店員(……な、わけないかっ)クスッ
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 セントラルカンパニー 本社 】
ガヤガヤ……!!
錬金術師「…着いたぞ」
クー「…っ!!」
女店員「おっ、おっきぃぃぃい!!」
錬金術師「…声デケッ!!」キーン!!
女店員「…だ、だってこんなに大きいなんて…!」
錬金術師「…二日酔いは、アカノミで治ったようで…何より」
女店員「あっ…!あはは……」
錬金術師「…さてと。じゃあ入るか」
スタスタスタ…
女店員「ち、ちょっと待って!そんな正面切って入れるの!?」
錬金術師「大丈夫じゃね?」
女店員「大丈夫じゃね、って…」
錬金術師「つか、正面以外の入り口ねーし。裏の搬入口とか、俺らコソ泥じゃねーんだぞ」
女店員「そ、そうだけど……」
錬金術師「じゃあ行くぞ」
女店員「…っ」
…
……
……………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 セントラルカンパニー ロビー 】
ウィィィン……
女店員「わっ、自動で開いた!?」
錬金術師「…田舎者め」
女店員「だ、だって自動って…!」
錬金術師「…錬金術だ。人に反応し、両脇のドアが自動で反応する効果がある」
女店員「へ、へぇぇ……」
錬金術師「それより、受付いくぜ」
女店員「う、うん…」
カツカツカツ……
錬金術師「…っと。受付サン、ちょっといいかい?」
受付嬢「はい、なんでしょうか?」
女店員(うわ、キレイな人ぉ……)
錬金術師「親父……じゃなくて、社長はいるかな?」
受付嬢「アポイントメントはお済みですか?」
錬金術師「いや、していない」
受付嬢「それでは、ご予約から必要になります。また、審査が必要となります」
錬金術師「どうせ最後まで話が通っても、返事はコミットしないでおけとかで、会えないんじゃないの?」
受付嬢「…そちらにつきましては、お答え致しかねます。」
女店員「何言ってるかサッパリ分からない…」
クー「?」キョトンッ
錬金術師「…やっぱり、一々話を通すのはダメだな」
受付嬢「…」
錬金術師「まさか俺から乗り込んでくるとは思わないだろうしな…」ハハ
受付嬢「…?」
錬金術師「…よし、受付サン」
受付嬢「はい」
錬金術師「…確か、ここに設置されている通話用の錬金道具。それを使い、優先面会もできるよな」
受付嬢「!」
錬金術師「そして、通話番号を知ってる人だけが秘書を通し、社長に優先面会できる」
受付嬢「…」
錬金術師「それと、どうしてその制度を設けたか。」
錬金術師「いくら多忙の身といえども、何かあった場合、すぐに連絡が取れない状況では困るから。」
錬金術師「自分の信頼できる面子のみ、その特例を出している。」
錬金術師「……だろ?」
受付嬢「…ど、どうしてそれを。トップシークレットのはずですが…」
錬金術師「…おう」
錬金術師「…"親父"に伝えてくれ!!息子が、会いに来たってな!!」
…
………
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 セントラルカンパニー 最上階 】
錬金術師「…相変わらず、憎たらしい眺めだ。見ろよ」クイッ
クー「…!」キラキラッ
女店員「たたたた、高い…!ガラス張りとか、危ないよ……!」ガクガク
錬金術師「…俺の母さんが設計した、魔強化ガラスだ。砕けはしねーよ」
女店員「そそそ、そういう問題じゃ…!」ガクガク
錬金術師「…この景色は、あの西方大陸にある"魔力の塔"をモチーフにして造られているんだぜ?」
女店員「あ、あの黒魔石の!?」
錬金術師「…そういうこと。だよな、親父?」クルッ
親父「…」
錬金術師「…怖い顔すんなって。折角の息子が遊びに来たんだぞ」
親父「…何をしに来た。俺に協力する気になったか?」
錬金術師「ないない。あるわけねーだろ」ハッハッハ
親父「…」ギロッ
…ゴゴゴゴッ…
錬金術師(…)
錬金術師(…こ、こえぇぇっ…!!)
錬金術師(普段、俺の店だから大きい態度で返答出来るが……)
錬金術師(この雰囲気、この部屋、この場所…!)
錬金術師(とてもじゃねえが、あの時代を思い出して…めっちゃ脚が震えてくるっつーの……!)
親父「…」ゴォォッ
錬金術師(そ、それにこのオーラ…)
錬金術師(やっぱり、上り詰めた最強の社長と呼ばれる男…。尋常じゃねえモンが…見える……)ブルッ
親父「…協力する気がなければ、ココは貴様の来る場所じゃないはずだ」
親父「それとも、あれから数日で…売上が俺に見せられるほどに、急成長でもしたか…?」
錬金術師「…ち、ちげぇよ。聞きたいことがあったんだ」
親父「…聞きたいことだと?」
錬金術師「俺の…子供時代の話さ」
親父「興味がない。」
錬金術師「…興味がないとかじゃないんだよ。答えてほしいことがあるんだ」
親父「…断る。」
錬金術師「はやっ!」
親父「長くなるならば、答える時間が勿体ない」
錬金術師「…長くなんかならねーっつうの!いいから聞いてくれ!」
親父「…」
錬金術師「俺が、子供時代に飼っていた魔犬…。あれのことを教えてほしい!」
親父「…」ピクッ
親父「……子供時代?犬、だと?」
錬金術師「どうしても、知りたいことなんだよ」
親父「…」
錬金術師「教えてくれ、頼む」
親父「…」
親父「…昔、お前が飼っていた魔犬……」
親父「あれはクー・シーの血を継いだ血統書付きの、ペット用に改良された魔獣…魔犬だ」
親父「教育の為に飼わせたものだった」
錬金術師「!」
親父「…」
錬金術師「やはり、クー・シーの血を……?」
親父「…」
錬金術師「…親父。その犬は、どこへ行ったんだ。俺の記憶に、子供時代で曖昧に残っていないんだよ」
親父「…何?それを…覚えていないだと?」
錬金術師「あぁ…」
親父「…それほどにショックだったのか?記憶があいまいになっているな」
錬金術師「あ?」
親父「…」
親父「…ふっ」
親父「教えて…ほしいか……?」
錬金術師「…得られる情報は、集めておきたい。教えてくれ…」
親父「…」
錬金術師「…頼む」
親父「…」
親父「…俺が教える情報に、どれくらいの価値がある?」
錬金術師「な、何?」
親父「お前にとって、その犬如きの情報で、どれくらいの価値があると聞いている」
錬金術師「…どういう意味だ」
親父「…お前との話をしている時間は、本来やるべき業務があった」
親父「その損失額は、おおよそ数千万…数億にも匹敵する可能性がある。」
親父「その全てを担えるというのなら、教えてやろう」
錬金術師「…はっ!?」
親父「…」
錬金術師「す、数億の仕事!?んなバカなことあるか!」
親父「…もう、年末も近い。もしも、俺が今日…この時間に商工会に行くべきハズだったらどうする?」
錬金術師「!」
親父「…あのトップシークレットである、秘書からの通話通達は、俺の信頼の置く人物しか知らぬ」
親父「俺の傍で経験を積んだお前は、その価値は知っていたはず」
親父「…どのような状態でも、あの通話からの優先面会は、必ず受けると決めていた」
親父「そして、それが…今、この時間となったわけだ。」
親父「お前の犬の話で、俺の時間は潰された。分かるかっ!」クワッ!
錬金術師「…っ!」ビリビリッ!
親父「…」
錬金術師「…ど、どうしろっつーんだよ!」
女店員「て、店長……」
クー「…っ」ビクビク
親父「…犬の情報を知りたいということに、潰された時間。この2つは、あることで手を打ってやろう」
錬金術師「何だ…」
親父「…ある男を連れてこい。このセントラルカンパニーのこの場所へ、だ」
錬金術師「…男?」
親父「ちょっとした俺の知り合いでな」
親父「…総合貿易事業の元社長である、中央商人という男だ」
錬金術師「中央商人…?」
親父「あいつに話があるのだが、あいつは引退し、遠く"田舎町"という場所で隠居している」
親父「そこに行き、ココへ来るよう伝えてほしい。それだけだ」
錬金術師「…男を呼び戻す。それだけでいいのか?」
親父「…行けば意味は分かる。そしてその約束を取り付けた時、それを許し、犬の情報を教えてやろう」
錬金術師「…わかった」
親父「くくっ…。たかが犬如きに、そこまでの価値があるというのか」
錬金術師「…親父にゃ教えられねぇことさ」
親父「…」
女店員「…店長、行くの?」
錬金術師「行くしかねぇだろう……」
親父「…素直な息子ならば、好きになれそうだぞ」ククッ
錬金術師「うるせぇ…」ギリッ
親父「ふっ……」
錬金術師「さっさと行って、戻って来てやるよ、クソッ!!」ダッ!
女店員「あ、待ってよ!」
クー「!」
タタタタタッ…!!
ガチャッ、バタンッ…………!
親父「…」
親父「…くくっ。犬の情報、か」
……
…
…コンコンッ…
…
……
親父「……入れ」
…ガチャッ
秘書「失礼いたします」ペコッ
親父「…」
秘書「たった今、ご子息様は下へと降りられました。」
親父「…そうか、ご苦労」
秘書「…」
秘書「…それにしても、見事なものですね」
親父「…」
親父「…あいつらの連れていた、フードの被った幼子…。あれが獣人の子か」
秘書「恐らく」
親父「こんな機会を逃すものか。仕事の時間だけで切り入れようとしたが…」
親父「あいつの記憶が曖昧になってたおかげで、随分と楽にことが進んだ」
秘書「……獣人の子。見逃すおつもりですか?」
親父「俺には関係のないこと。あのバカを上手く使えれば、それでいい」
秘書「…ご子息様も、既に全てを見通して上手く扱われてるとは思ってませんでしょうね」
親父「…上手く扱われる?」ピクッ
親父「…くくっ」
親父「……はははっ!上手く扱われる…か」
秘書「?」
親父(…)
親父(…腐っても、俺のガキだ。腹の内は、どう考えているものか…)
……………
………
…
…
………
……………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央都市 裏通り 】
タッタッタッタッ……
錬金術師「…っ」
女店員「店長、早いよ…!ど、どうしたの…!」
クー「…」オロオロ
錬金術師「…」
錬金術師「…クソッ!また負けだ……!」ギリッ!
女店員「…え?」
錬金術師「…恐らく、親父は俺の情報は全部知っていたんだ!」
錬金術師「それを含めて、全て通話も秘書も、既に準備させていた!俺がああいう風になるようにな!」
錬金術師「どこで情報を取ったかは知らないが、既に罠だったんだ!」
女店員「ま、まさかそんなわけ…!」
錬金術師「…あのクソ親父は抜け目がねぇ」
錬金術師「クーのことを知り、俺がこうすることを知り、仕事を依頼するつもりだったんだ」
錬金術師「考えてもみろ。朝方のこの時間に多忙な親父が、ココへいること自体おかしいはずだ!」
女店員「…!」
錬金術師「…そして!俺がこうして気づいてることも、気づいてやがるに決まってるっ!」
女店員「…っ」
錬金術師「…迂闊だった。」
錬金術師「だが…!クーのことを知るためには必要なことと思った…。」
錬金術師「さ、避けては通れなかった…」
女店員「…」
クー「…」
錬金術師「…」
錬金術師(しかし、親父に訊いた犬の情報で、"記憶が曖昧になっているな?"の一言…)
錬金術師(あれはどういう意味だ?)
女店員「…」
錬金術師(…子供のころの話で、どう別れたかは覚えていない)
錬金術師(子供ながらに、死別することがショックだったから、それで忘れてしまった…?)
錬金術師(…いや。それしきで俺は忘れるわけがねぇ)
錬金術師(俺自身の記憶なのに、出てこねぇっ……!!)
錬金術師(くそっ…!俺がもっときちんとしていれば、親父なんか頼ることはなかったものを……っ!!)ギリッ!!
女店員「…っ」
クー「…っ」
錬金術師(情けねぇ…。結局、親父にもまた負けているようでっ……!)ギリギリッ!
トテテ…ギュウッ!
錬金術師「…ん」
クー「…っ」
ギュウウウッ……!
錬金術師「…クー?」
クー「…っ!」
グリグリッ…!!
錬金術師「お、おいおい…。くすぐってぇ……」
女店員「…え、えいっ!」
…グニィッ!!グイッ!
錬金術師「あ、あだだだっ!?頬をつねるな!何を……!」
女店員「…だ、ダメだよ!そんな顔しちゃ!」
錬金術師「…あ?」
女店員「…お父さんみたいな顔になってたよ。」
錬金術師「!」
女店員「クーも気づいたんだよ。店長が、そんな顔しちゃだめだよ…って」
クー「…」コクンッ!
錬金術師「お、女店員…。クー……」
女店員「…店長は店長らしく!面倒だけど、やってやるかぁっていう感じで…ねっ!」
錬金術師「…っ」
クー「…」ジワッ
錬金術師「!」
クー「…」グスッ
錬金術師「お、おぉっ!?ど、どうしたクー!」
クー「ひぐっ…!」ポロポロッ
女店員「あ~!クーを泣かせたぁっ!」
錬金術師「ちょっ…!わ、わかった!もう怖い顔しないから、泣くなほらほらっ!」
ヒョイッ…!ポンポンッ…
クー「…っ」グスッ
錬金術師「…大丈夫だ。ほれほれ、笑顔だぜ?」ニカッ!
クー「…」グスッ
クー「…」
クー「…」
クー「…え、えへっ」ニコッ
錬金術師「…おし、おーしおし!」
錬金術師「さぁ、だっこしたまま"田舎町"への馬車を探すか!出発だ!」
クー「…♪」コクンッ!
タタタタッ……!
女店員「もー店長ったら……!ま、待ってよ~…!」
錬金術師(…)
錬金術師(女店員の涙にしろ、クーの涙にしろ……)
錬金術師(俺に流れる親父の血を止めてくれる存在があることは、幸せなんだろうな)
錬金術師(…っ)
錬金術師(……だが、所詮俺も親父の子。)
錬金術師(そう。あの冷酷な血や、経営に本気で関わっても……)
錬金術師(…)
錬金術師(…いや、考えるのはよそう。)
錬金術師(今は、今の目の前のことを精一杯…やるだけだ……)
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
そして、店長一行は田舎町へ向かう馬車へと乗り―……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数日後 田舎町付近の山道 】
ガタガタッ…ゴトンッ…!!ガタァンッ!!!
錬金術師「あばばば!揺れすぎだろ!!」
女店員「き、急にこんな道が悪くなるの!」
クー「~!」
ゴロンゴロンッ…!
女店員「く、クーが転がってく~!」
錬金術師「…い、田舎町は名前の通りだな!どんな田舎にあるんだよ!」
女店員「お、お尻がいたいい!」
ゴンッ…ゴツッ!!
錬金術師「いってぇっ!」
女店員「も、もう~やだ~!!」
クー「~…!」
ゴロゴロゴロッ……!!
錬金術師「…く、くそっ!」
女店員「あ、悪路すぎる~!!」
錬金術師「…っ!」
ゴトンッ!…ゴチィンッ!
錬金術師「ぬがあっ!」
女店員「いたぁいっ!」
クー「…!」
ゴロゴロゴロ……!
錬金術師「…は、早く平坦な道に出てくれっ~!!」
女店員「いつまで続くの~…!!」
クー「…っ!」
ゴロンゴロンッ……
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
パカッパカッ……
錬金術師「…ふぅ」
女店員「…やっと、落ち着いた」
クー「ふ~……」フゥッ
錬金術師「…な、なんて道だったんだ。本当に町があるのか…?」
女店員「こんな場所に隠居だなんて、大変な場所に住んでるんだなぁ…」
錬金術師「中央商人っつったっけ。本当にいるのかよ……」
女店員「…はぁぁ。少し中央都市から少し離れると、こんな場所になるんだもんなぁ」
女店員「中央都市とは全然違うよ…」
錬金術師「いくら人類の技術が進歩しても、変わらないところだってあるだろうよ」
女店員「うん……」
錬金術師「…確かに、錬金技術の発展で生活は大きく変化したはした。」
錬金術師「昔は、水は水魔石、火は火魔石、明かりは雷魔石という効果な代物が使われてたんだ」
錬金術師「そこで錬金術が発展し、それぞれが魔法に頼らずとも良い技術として発展」
錬金術師「今じゃ、それが当たり前になりつつはあるが……」
錬金術師「もしこのまま錬金術の発展がし続ければ、いずれ魔法は完全にいらなくなるかもな」クククッ
女店員「…えっ?魔法が当たり前じゃなくなるってこと?」
錬金術師「そういうこと。」
女店員「え~…。でも、魔法がなくなるなんて、そんなわけないと思うんだけど…」
錬金術師「くははっ、人の未来なんて誰が分かるもんか」
女店員「うーん…」
錬金術師「…技術の進歩はすげぇんだ。治らないと言われた病が、今は治る時代なんだぞ」
女店員「治らない病が?」
錬金術師「…魔力枯渇症っつー、身体の魔力が失われていく奇病ってあるだろ?」
錬金術師「昔は、相当悩まされた病だったらしいが…今は特効薬もあるんだぜ」
女店員「あ~…」
錬金術師「そういうことさ。不治の病が治るように、未来なんか人が考えるところじゃ、どうなるか分からんのよ」
女店員「まぁ…確かに……」
錬金術師「はは、だろう?」
パカッ…パカパカッ……ギギィ……ピタッ……
錬金術師「……お?」
女店員「馬車が…止まった…?」
クー「?」
馬車運搬屋「…ついたよ、お三方!」
馬車運搬屋「足元に気を付けて、おりてくれよ!この辺は土が柔らかいんだ!」
錬金術師「!」
女店員「…着いたっ!」
クー「!」
錬金術師「やっと着いたか!では、どれどれ……」スクッ
ギシッ…ガタガタ…ザッ…
……フワッ……
錬金術師「…っと、本当に土がフワフワしてて柔らかいな」
女店員「…よいしょっと」
…フワッ!
女店員「わっ……!」ヨロッ
錬金術師「おっ、あぶねぇ。気をつけろ」
…ガシッ!
女店員「あ、ありがとう…」
女店員「…」
女店員「って、クー!足元、気を付けてよ!転んじゃうから……!」
タタタタタッ!ピョオンッ!!
クー「♪」
女店員「…うわあ、凄い元気」
錬金術師「…あいつは獣の血が入ってるんだから、心配ないわな…」
女店員「な、馴染んでるなぁ……」
クー「えへへーっ!」ピョンッ!!
…ボフンッ!…
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 田 舎 町 】
ザッザッザッ……
錬金術師「…」
女店員「…」
クー「…」
ザッザッ……
錬金術師「…」
女店員「…」
クー「…」
ザッ……
錬金術師「…」
錬金術師「……ど、どこまでも大自然だなオイッ!」
女店員「自然がいっぱい…。空気がおいしいよ!」スゥゥッ
クー「~♪」
錬金術師「田舎もド田舎、ず~~~っと林…!つーか、森じゃねえか!!」
錬金術師「本当に田舎"町"なのかよ!」
錬金術師「こんな場所に住んでる奴なんざ、いるのか!」
女店員「ま、まぁどこかに町らしい所があるのかもしれないし」
錬金術師「…あの馬車の運転手、もっといい場所に連れてけっつーの…」ハァ
女店員「…文句ばっか言わない!たまにはこうして、自然を感じることも重要だと思うんだけどなぁ」
錬金術師「ぬぎぎ……」
女店員「も~っ…」
クー「♪」
ザッザッザッ……
錬金術師「…」
錬金術師「…」
錬金術師「……おっ?」ハッ
女店員「…あっ」
クー「!」
錬金術師「……なんだあれ、野道に一軒家が隣接してるよな?」
女店員「こんな森の中に…。町が近いのかな?」
錬金術師「…もしかして、中央商人の隠居してる家か!?」
女店員「そ、そんな調子よく見つかるかな…」
錬金術師「とにかく、行ってみよう!」ダッ!
タタタタッ…!
女店員「…あ、そんなに早く走ると…!」
タタタタタタッ……ズリッッ!
錬金術師「ぬあっ…!」
…ボフンッ!!モワモワッ…
女店員「…も~!!店長、運動に慣れてないんだから、転ぶに決まってるでしょ!」
錬金術師「ぐっ…!」
女店員「あーあ、大丈夫…?」
錬金術師「…土、なんでこんなに柔らかいんだよ!」
錬金術師「田舎ってのは、こうも歩きにくいのか!この土めっ!!」ブンッ!
ボフンッ!モワモワ……
錬金術師「げ、げほげほげほっ!うがあああっ!!」
女店員「は、はぁ……」ハァァ
クー「…」ハァァ
女店員「く、クーまで溜息を…。」
女店員「…」
女店員「…あっ!?」ハッ
女店員「て、店長っ!目の前、目の前!誰かいるよ~!」
錬金術師「…ん?」チラッ
???「…大丈夫か?」
???「この辺の土は、人の手が入らず、柔らかいからな。慣れない人は、すぐ転ぶんだ」
???「……手を貸そう」スッ
錬金術師「あ、あぁ……」
錬金術師(初老の男…。町民か何かか?手ぇ出されても、こんな初老に引っ張られるほど落ちぶれちゃ…)
ガシッ…!グイッ!!!
錬金術師「うおっ!?」
…ストンッ!
女店員「わっ…!」
クー「!」
錬金術師「なにっ……?」キョトンッ
初老の男「こんな田舎に、珍しい恰好だ。錬金師か何かか?」
錬金術師「ま、まぁそんなところだが……」
錬金術師(な、何をされた?引っ張られただけだと思ったが…!すげぇ力だ、このオッサン……!)
初老の男「そうか。この町はすごしやすくていいぞ、ゆっくりしていくといい」ニカッ
錬金術師「あ、あぁ……」
初老の男「では……」
トコトコ…
錬金術師「…」
錬金術師「…あ、待ってくれ!」
初老の男「なんだ?」クルッ
錬金術師「今、アンタ…この家から出てきたよな。この家の持ち主なのか?」
初老の男「…持ち主ってわけでもないが、ちょっとした懐かしむべき場所だからな」
錬金術師「…?」
初老の男「たまに来て、畑なんかをイジるのが趣味というか……。」
初老の男「ま、そんなところだ」
錬金術師「…そうか」
錬金術師「じゃあ、もう1ついいか?」
初老の男「何だ?」
錬金術師「…アンタは、中央商人さんか?」
初老の男「ん…」ピクッ
錬金術師「…そうなんだろ?オーラが違う気がするんだ」
初老の男「…」
錬金術師「それでその…。じ、実はアンタに頼みたいことが…!」
初老の男「……違う。俺は、中央商人じゃない」
錬金術師「お、おろ…?」
初老の男「中央商人は、ここから抜けた先にある通りの先、町はずれの家に住んでいる」
初老の男「……案内するか?」
錬金術師「…た、頼めるのか?」
初老の男「どうせ、暇を持て余していた。構わないさ」
錬金術師「助かるっ!」
女店員「やったぁ!」
クー「♪」
初老の男「…それほど喜ぶことなのか。まぁ、こっちだ」クイッ
ザッザッザッ……
錬金術師「…」
錬金術師「…なぁ、えーと…」
錬金術師「アンタのこと、なんて呼べばいい?俺は店長って呼んでくれていいんだが」
女店員「私は女店員で。こっちはクー」
クー「…!」ピョンッ!
初老の男「…ふむ、自己紹介ありがとう。そして、俺の自己紹介か」
初老の男「そうだな……。適当にオジサン…とでも呼んでくれ」ハハハッ
錬金術師「…オジサンねぇ。俺の親父くらいの歳に見えるんだが…」
初老の男「はっはっは、そうか。俺の娘も、君より少し上か…。」
錬金術師「…」
初老の男「……とりあえず、中央商人の家には連れてってやるさ」
錬金術師「…う、うむ」
錬金術師(……なんだ、妙なオッサンだな)
錬金術師(雰囲気といい、オーラといい、ついつい中央商人と思ったが…俺の勘も当てにならないな)
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 田舎町 商店街 】
錬金術師「お、おぉ……」
女店員「なんだ、商店街とかあるんだ!」
クー「~♪」
初老の男「はは、自然ばかりじゃないってことだ。」
初老の男「たとえば…あそこの店。中央都市にも出店している、割と有名な店の本店だぞ?」
錬金術師「ほぉ、そんな店がこんな場所に…?」
錬金術師「…」
錬金術師「…レストラン"カントリータウン"…」
錬金術師「…」
錬金術師「あ…!」ハッ!
錬金術師「あぁぁっ…!!か、カントリータウンかっ!!」
女店員「店長、知ってるの?」
錬金術師「中央都市で食べたぞ!?」
女店員「えっ?」
錬金術師「そ、そうだそうだ!そういえば、あの時のウェイターが"田舎町"から始まったと…!」
女店員「!」
錬金術師「そ、そういうことか…!」
初老の男「そこの店にいた、"コック"という男が中央へ店を出店し…」
初老の男「それから2代目が中央へ行き、跡を継いだ。」
初老の男「3代目となる今も、その味は守られているな。この町の本店は、2代目の息子がやっているんだ」
錬金術師「はぁぁ…!なんか、急に親近感がわいたぞ…。美味かったなそういえば」ジュルリ
女店員「…そういうところで、自分ばっかり食べてずるい」ジトォッ
クー「…」ジトッ
錬金術師「…こ、今度食べさせてやるから!」
女店員「約束だよ」ジトッ
クー「…」ジトッ
錬金術師「わーかった、わかった!!」
初老の男「ははは!じゃあ、通りを抜けて中央商人の家に案内しようか……」
…………
……
…
…
………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央商人の家 】
初老の男「…着いた。ここが中央商人の家だ」
錬金術師「へ?」
女店員「え…」
クー「?」
錬金術師「なんか、想像してたより……」
女店員「小さい、普通の家…。っていうか、古い?さっきのオジサンのいた一軒家より古い感じ……」
クー「…」コクンッ
初老の男「…どんな豪邸を想像してたんだ、お前たちは」
錬金術師「そりゃ、貿易商社の元社長だって聞いてたしな…」
初老の男「いくら金があろうとも、金には変えられないものがあるってことだ」
錬金術師「…?」
女店員「店長、それより早く中央商人さんに挨拶しないと。」
クー「んっ!」
錬金術師「あ、あぁそうだな…」
初老の男「分かったところで、俺はこれで。」
初老の男「……ではな」クルッ
錬金術師「…ありがとう、助かった!」
初老の男「またな……」
ザッザッザッザッ………
…………
…
錬金術師「…」
錬金術師「…し、渋いオッサンだったな」
女店員「なんか、不思議な人だったね」
クー「…」コクンッ
錬金術師「…それよか!さぁて…と!」
錬金術師「…中央商人とかいう男は、いるかなぁっと」スッ
…コンコンッ!
錬金術師「…」
女店員「…」
クー「…」
…シーン…
錬金術師「……いないのか?」
クー「?」
女店員「もう1回叩いてみたら?」
錬金術師「…」
…コンコンッ!
錬金術師「…」
…シーン…
錬金術師「…」
錬金術師「…」イラッ
…コンコンコンコンッ!!!…
コンコンコンコンコンッ!!!ゴンゴンッ!!!
女店員「ちょちょちょっ!た、叩き過ぎっ!」
錬金術師「…っ」ゼェゼェ
……ゴトッ……
錬金術師「……おっ?」
ゴトゴトッ…ドタドタッ!!
錬金術師「…いたみたいだな」
ダダダダッ!
…ガチャッ!ギィィ……
中央商人「ゴンゴンゴン、うるせぇなっ!!」
中央商人「気持ちよく寝てるっつーに…!一体誰だよ……っ」フワァ
錬金術師「…」ペコッ
女店員「ど、どうも…」ペコッ
クー「…」ペコッ!
中央商人「…んあ?」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 中央商人の家 居間 】
中央商人「…はっはっは、わざわざ中央からな!」
錬金術師「は…はは……」
女店員「…」
クー「…」
中央商人「ま、お茶でも飲んでくれ」
中央商人「それにしても、よく俺がここにいると分かったな」
中央商人「商店街を更に抜けた先だというのに…」
錬金術師「…通りすがりのオジサンが、教えてくれたんですよ」
中央商人「通りすがりのオジサン?」
錬金術師「ここと逆側の田舎町の入り口側にある、一軒家で畑仕事をしてたオジサンに教えられまして」
中央商人「…あぁ、軍支部の?」
錬金術師「へ?」
中央商人「ここと真逆にある家のところだろう?」
錬金術師「そうですが…。あれが、軍支部ですか?」
中央商人「おう、あれは軍の支部さ。そうは見えないだろうがな」ハハハッ
錬金術師「ふむ…」
中央商人「…というか、今、そこの畑のオッサンって言ったな」
中央商人「つーことは、アイツか…。毎日毎日、畑仕事とは柄にもなく……」
錬金術師「…」
女店員「…」
クー「…」
中央商人「……っと、すまんな。俺に用事だったか」
中央商人「わざわざ中央から、本題も聞いていなかったが…。どうして俺を訪ねた?」
錬金術師「…単刀直入に申し上げます」
錬金術師「中央商社…セントラルカンパニーの社長が、貴方にお会いしたいということです」
中央商人「…」
中央商人「……ふむ」
錬金術師「どうか、お会いになっていただけませんでしょうか?」
中央商人「…」
中央商人「…やはり、か」
錬金術師「!」
中央商人「君たちは見ない顔だと思っていたが、やはりセントラルカンパニーの関係者か」
錬金術師「…やはり、というと」
中央商人「子供まで連れて、同情か何かを狙っているつもりか?」
錬金術師「…申し訳ございません。そちらに関して、存じ上げないのですが…」
中央商人「ん…、何?君たちは新人か?」
錬金術師「…まぁ、そのようなものです」
中央商人「ふむ…」
錬金術師「…」
中央商人「…」
錬金術師「…」
中央商人「…」
中央商人「…ちょっと、待っててくれるか。」スクッ
錬金術師「…」
中央商人「直ぐ戻る、ここにいてくれ」
錬金術師「承知致しました」ペコッ
トコトコトコ…
…ガラッ、バタンッ……
女店員「…」
女店員「…て、店長」ボソッ
錬金術師「あん?」
女店員「なんか、急に仕事モードだね。敬語きちんと使うなんて珍しい」ボソボソ
錬金術師「…空気が違う」
女店員「え?」
錬金術師「…家から出てくるのは遅いし、最初は適当なオッサンかと思った」
錬金術師「だが、ココで話始めたら顔つきが仕事人のそれだ。」
女店員「へぇ…」
…ガラッ!!
錬金術師「!」
女店員「!」
クー「?」
中央商人「待たせた」
錬金術師「…いえ」
中央商人「…さて。これを見てくれるか」スッ
ペラッ…
錬金術師「…この紙は?」
中央商人「…知らないのか?」
錬金術師「失礼ながら…」ペコッ
中央商人「…これを狙ってきたわけではないのか。」
錬金術師「申し訳ございません。こちらに関し、何も聞かせておりませんので……」
中央商人「…」
中央商人「…」
中央商人「…ふむ」
中央商人「なるほど…。表立ったウソではなさそうだ……な」
錬金術師「…」
中央商人「お前たちが二度目の顔だったら、水をかけて追い払っていたところだ」ハハハ
錬金術師「み、水…ですか……」
中央商人「ふはははっ!あのクソ社長、何を思ってこんな奴らをよこしたのか…」
中央商人「…お前のような、セントラルカンパニーの人間が来るのはもう、20回を越しているぞ」ニヤッ
錬金術師「に、20回…ですか?」
中央商人「…泣き落としに、子供連れも。お前と一緒のようにして、コレを狙った社員は沢山来たもんだ」
…カサッ…
錬金術師「一体、その紙は……」
中央商人「…まぁ、待て」
中央商人「その前に、お前たちは中央商社の新人か?それとも何か別の目的か」
錬金術師「…?」
中央商人「見たところ、話をしてると分かるが"こちら側"の経験はあるのだろう」
中央商人「だが、これに関して何も知らないとなると…コレを狙った第三者か作戦か」
中央商人「先ずは、お前たちについて聞かせてもらおうか」
錬金術師「…」
女店員「て、店長…」
クー「…」
中央商人「お前が話を出来ないというのなら、俺も何も話すことはない」
中央商人「もし、そのまま時間がたつのを狙うというのなら……」
中央商人「怪しさ満点のお前らには、水をかぶって帰ってもらうことになるが」
錬金術師「…」
錬金術師「…はぁ、面倒くせぇ案件っぽいなこりゃ」ボソッ
中央商人「む…」
錬金術師「…かしこまった所で、何がどうするわけじゃねえ…か」ハァァ
錬金術師「中央商人さん、そんな言うなら…俺も俺らしく行かせて貰うかねぇ……」
中央商人「ふっ…」
錬金術師「…参ったね。性格は違えど、やっぱりうちの親父と一緒のタイプだ」
錬金術師「完全に腹ぁ見透かされてるんだな…。どこから気づいてましたかね」ハァ
中央商人「はっはっは!来た時から、そんなの分かるに決まっているだろう。」
中央商人「お前たちの目的は、コレだけじゃないな。何か別にあるはずだ…話すと良い」クイッ
錬金術師「分かりました、分かりましたよ!」
錬金術師「…話しますよ。ただ、他言無用でお願いしますね」
中央商人「心得た」
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
錬金術師「…という訳です。こちらがそのクーになります」
クー「んっ!」ビシッ!
女店員「こ、こらクー…」
中央商人「ほぉ…!」
中央商人「…まさか、獣人族とはな。噂は聞いたことがあったが、本当に見たのは初めてだぞ」
錬金術師「ですので、クーのためにも必ず貴方には中央都市に来てほしいということなのです」
錬金術師「…お願いします」ペコッ
中央商人「…」
中央商人「……店長、と呼べばいいか」
錬金術師「はい」
中央商人「まさか、君の親があのセントラルカンパニーの社長とは恐れ入った」
中央商人「あいつが子持ちだったことを知ったのは、今年一番の驚愕事実だ」
錬金術師「はは…」
中央商人「…その上で、話をしよう」
錬金術師「…はい」
中央商人「今、見せたこの紙。これはいわゆる…権利書なんだ」
錬金術師「…権利書」ピクッ
中央商人「…」
中央商人「…この権利書は、セントラルカンパニーが次回より着手しようとしている事業に必須なもの」
中央商人「君のお父さんは、これが欲しくて仕方ないんだろう」
錬金術師「…すると、貿易関係ですか」
中央商人「…」
錬金術師「…言うところ、貴方の造り上げた貿易会社を奪いたいと」
中央商人「ま、そうなるわな」
錬金術師「…」
中央商人「これは元々、俺の弟子商人に任せるはずのものだった」
中央商人「一旦は弟子商人に任せたものの…。色々あって俺の手に戻ってきちまったわけさ」
錬金術師「…」
中央商人「それをどこから嗅ぎつけたか、隠居してる俺を知り、お前のお父さんが目を付けた」
中央商人「そして、猛烈なアピールが始まったわけよ。」
中央商人「破格の金も積まれたが、まるで相手になんかしなかったがな!」ハハハ!
錬金術師「…そうでしたか」
中央商人「ま、そういうわけだ。これを手放すわけにはいかないさ」
錬金術師「…」
錬金術師「…手放すわけにはいかない、それで結構です」
中央商人「…何?」
錬金術師「ただ、中央都市に来てほしい。親父とあって欲しいんです」
中央商人「…」
錬金術師「…自分が言われたのはそれだけ。それ以上でも、それ以下でもありません」
中央商人「…」
錬金術師「…お願いします」
中央商人「…」
中央商人「…く、くくっ」
錬金術師「…」
女店員(笑った…?)
クー「…?」
中央商人「くっ…くはははっ!」
中央商人「お、おいおい。面白いな、君は!」
中央商人「それが本音だとしたら、君のお父さんも予想外だろうな!」
錬金術師「…」
女店員「ど、どういうことですか?」
クー「?」
中央商人「…女店員さん。いいか、社長の言う"連れてこい"というのは俺の話じゃないんだ」
女店員「え?」
中央商人「…権利書を持って来い。そういうことだろう」
女店員「!」
錬金術師「…」
中央商人「…俺が中央都市へ行ったところで、どうにもならんぞ?」
錬金術師「親父が言った言葉は、それだけです。権利書の話は関係ありません」
中央商人「ははは…!本気で言っているのか!」
錬金術師「…」
中央商人「…」
中央商人「…ま、何と言おうとその話は断らせて貰う。俺は、ここを離れるつもりはないんだ」
錬金術師「…っ」
中央商人「…それに。店長くんには、それをやる通りはあるのか?」
錬金術師「通り、ですか?」
中央商人「突然その娘を押し付けられ、それの為に親に従い、こんな田舎へと飛ばされた」
中央商人「君が、クーを見捨てればそれで終わると思うんだがね…?」
クー「っ!」ビクッ
錬金術師「!」
中央商人「見捨てるも何も、面倒事は嫌いな性格に見える。」
中央商人「別に、君がクーを背負うくらいなら、いっそのこと……」
錬金術師「…てめぇっ!!」ギロッ!
…ビュッ!!バキィッ!!
中央商人「でっ!?」
フラッ…ドサッ!
錬金術師「…ざけんなよ、コラァ!!」バッ!
女店員「…て、店長っ!?」
クー「…っ!」
中央商人「…」
錬金術師「…クーの素性を聞いて、目の前でそう言葉を使うかっ!?」
錬金術師「ふざけんじゃねぇぞ!」
中央商人「…」
女店員「て、店長っ…!」
クー「…」ブルッ
錬金術師「…最初、親父と違う気はしてた。だけど、やっぱりオメーも親父と一緒だったな!」
錬金術師「クー、安心しろ。絶対に、お前は見放さない!」
錬金術師「…くそっ!」
錬金術師「俺の力がないばかりに、んなイカれた老害共に、お前の将来を遊ばれてるようで…!」
クー「…」
クー「……っ」
トテテテッ……
錬金術師「…クー?」
クー「…」
…ポンポンッ
中央商人「ぬ……」
錬金術師「…お、おい」
女店員「クー…?」
クー「…」
…ナデナデ
中央商人「な、殴られたところを……」
錬金術師「…そんな奴、放っとけ!」
クー「…っ」ブンブンッ
錬金術師「どうして、そいつを庇う!」
女店員「クー、どうしたの…?」
クー「…っ」
…ムクッ
中央商人「やれやれ…。優しい子だな……」ソッ
…ポンポンッ
クー「ん…♪」
錬金術師「…?」
女店員「…」
中央商人「…汲み取られたか。獣人族というのは、感覚に長けているのかもな」ハァ
錬金術師「…あ?」
中央商人「冗談だ。すまない事を口走ったな…」
錬金術師「…は?」
中央商人「…クー、お前にはつらい言葉を言ったというのに…」
中央商人「こうして、俺を気にかけてくれるのか」
クー「♪」
錬金術師「…な、何だ?」
中央商人「…だから、冗談だと言っただろう」
中央商人「お前が、どれだけ本心なのか知りたかっただけだ」
錬金術師「!」
中央商人「お前のお父さんは頭がいい。これも、俺を欺く実力のある社員の作戦ではないかと考えた」
中央商人「…だが。お前自身が個人でお願いをしているなら本気で怒るだろう?」
中央商人「すまない選択だったが、俺としては試させてもらったんだよ」
錬金術師「うっ…」
中央商人「…だが、この子は自分のことより俺を心配した。」
中央商人「なんて…優しい子だ。悪いことを…言ってしまったな……」
クー「…」ブンブンッ
中央商人「…許してくれるのか」
クー「んっ!」ニコッ
中央商人「ふっ…」
錬金術師「…っ」
女店員「…」
中央商人「しかし効いたぞ…。人に殴られたことなんざ、いつ以来か」ハッハッハ!
錬金術師「…っ」
中央商人「…俺が全部悪いんだ。この子の素性を知り、傷つく一言を言ったのは本当のことだ」
錬金術師「…」
中央商人「だが、経営者だったらコレで一発の終わりだな」ハハハ!
錬金術師「…はい」
中央商人「…どうも、君はお父さんと違うようだ。」
錬金術師「へ?」
中央商人「あの社長ほど冷徹でもなし、温かい血が流れている」ニカッ
錬金術師「俺が……」
中央商人「…」
中央商人「…まぁ、いい。よし!分かった!」スクッ!
錬金術師「…えっ?」
女店員「!」
クー「!」
中央商人「…クーの優しさに免じて、中央都市へ赴いてやろう!」
中央商人「それで、クーの手掛かりとなり得るかもしれないらしいじゃないか」
錬金術師「い、いいんですかっ!?」
中央商人「…ま、権利書を手放すことはしないけどな。」
中央商人「だが、君の言う"中央都市へ呼べばクーの手がかりとなる"可能性がありうること…」
中央商人「可能性とはいえ、それが俺の時間を割けば得られるかもしれないんだろう?」
錬金術師「…っ!」
中央商人「こんな子供の未来を潰す可能性があるなら、足を運ばなけりゃ神様に怒られちまうっての!」
中央商人「よし、そうと決まれば準備だ!」バッ!
錬金術師「あ…!有難うございますっ!!」
女店員「有難うございますっ!」
クー「んっ♪」
中央商人「…とはいえ、馬車は一日に一本。しかも、ココから貸切りじゃないと中央都市へは出ていないんだ」
錬金術師「へ…。まだ昼間……」
中央商人「出発は明朝となるだろうな。今日はゆっくりしていくといい」
錬金術師「…」ピクピク
中央商人「…ははは、まぁそんな顔をするな!」
中央商人「今日は、レストラン"カントリータウン"でごちそうしてやろう!」
錬金術師「お…」
女店員「ほ、本当ですかぁっ!」キラキラッ
クー「へへっ♪」
中央商人「クーのこともだが、お前のように他人へ一生懸命になれ、正面からぶつかれる男も久々だ」
中央商人「こうして、対等を張って言葉を交わせる人間はもういなくなったと思っていた」
錬金術師「は、はは…。申し訳ないです……」
中央商人「…昼間から飲む酒も美味いぞ。さぁ、行こう!」
錬金術師「…有難うございます」ペコッ
女店員「はいっ!」
クー「んっ!」ビシッ!
…………
……
…
…
………
……………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 田舎町 商店通り 】
ザッザッザッ……
錬金術師「…本当に感謝いたします」
中央商人「だから、堅苦しい挨拶はいらねえっつーの!」
錬金術師「は、はい…」
女店員「よかったね、クー♪」ギュウッ!
クー「んっ~♪」ギュウッ
中央商人「うむ、若き女子と幼女が戯れる姿は、俺の刺激となりてゾクゾクと」
錬金術師「おいロリコン」
中央商人「…」
錬金術師「し、失礼しました!つい……!」
中央商人「…構わん!」
錬金術師「は、はは……」
ザワザワ…ガヤガヤ…!!
女店員「…ん?」
中央商人「なんだ、商店街が騒がしいようだが……」
錬金術師「何かあったのか?」
クー「?」
ザッザッザッ…
中央商人「おいーっす。どうしたんだ、みんな」
町人たち「あ、中央商人さん!」
町人たち「どうしたんだもこうもねぇよ!」
町人たち「仕入れたばかりで、町に設置した火魔石のランプが吹き飛んじまったんだよ!」
中央商人「…何?」
町人たち「行商に来た錬金師が、町並みに合うからって買った奴さ。高かったのによぉ…」
町人たち「税金で買ったモンが、無駄になっちまった…」
町人たち「錬金道具なんて触らないし、どうやって処理すればいいのかも……」
女店員「…店長」ボソッ
錬金術師「へいへい、わかってますよ」ハァ
ガヤガヤ…
中央商人「…その行商人の顔は?行商だったら、次の町でも捕まえられるかもしれん」
町民たち「流れモンなんて多いし、ハッキリした顔なんて……」
錬金術師「…へいへい、どいてどいて。」ズイッ
錬金術師「このくらいなら、俺が見るよっと」
町民たち「…なんだアンタ」
中央商人「ん、店長?」
錬金術師「…これでも、ちったぁ名前の売れた錬金師だったもんで」ニヤッ
町民たち「…本当か!?」
中央商人「おっ……」
錬金術師「えーと、とりあえず見てみましょっか、っと……」
錬金術師「…」
錬金術師「…な、なんじゃこりゃ!火魔石の導線、無茶苦茶じゃねえか!」
錬金術師「こんな酷いモンをよく売りつけられるな……」
中央商人「何とかなるか?」
錬金術師「…分解ありきってところだ」
錬金術師「だけど聞いたところ、コレは町並みの為に残したいんだろ?」
町民たち「…出来るのか?」
町民たち「出来るなら、お願いしたいが……」
ザワザワ……
錬金術師「…部品が足りんな。弾け飛んだ火魔石も必要だし、導線用の魔法糸も必要だ」
錬金術師「連鎖的に弾け飛ぶ危険性もあるから、一旦、コレ関連の導線は全部切断するぞ」
錬金術師「切断用の耐魔ペンチ、耐火制のあるゴムに各導線が欲しい」
錬金術師「それと、火魔石は純度が高ければ数年は交換いらずになるはず」
錬金術師「つかこれ、アンタらが設置しただろ?」
錬金術師「内部だけじゃなく、外側もグチャグチャだ。仕方ねぇな、俺が全部やってやるよ」ハァ
町民たち「…ほ、本当か!必要な部品なら、俺らで全部用意するよ!」
町民たち「有難う、金が無駄にならないで済みそうだよ…」
錬金術師「…あぁ、これくらいならいいって」
町民A「…」
町民A「な、なぁ…ちょっといいか!?」
錬金術師「ん?」
町民A「実は、うちにある錬金道具の調子も悪くてさ…」
錬金術師「…」ピクッ
町民A「も、もし良かったら見てくれないか…?」
町民A「ほら、中々こういう技術を持った錬金師さんに会えなくてさ……」
錬金術師(やっべぇ、面倒なことやらせられそうだぞ……)ピクピク
町民たち「…あ、じゃあうちもいいか!?」
町民たち「蛇口周りとかはどうだろうか!?」
町民たち「う、うちは火炎石の旧釜戸を使ってるんだけど、古くて中々火がつかなくて…!」
町民たち「俺は、氷魔石の冷凍庫が調子悪くて……」
錬金術師「」
町民たち「…きっと、すげぇ錬金師さんなんだろアンタ?」
町民たち「そうだよな!一瞬でこのランプのことを解析しちまったし、すげぇ名匠なんだろうなぁ!」
町民たち「頼むよ、名匠!よっ、世界一!」
錬金術師「…」
錬金術師「…」プルプル
町民たち「…出来る男は、やっぱり雰囲気から!カッコよさが出てるよ!」
女店員(あ…これは……)
錬金術師「…っ」
錬金術師「…仕方ねぇなお前ら!どんどん持って来い、一瞬で全部見てやるっつーのな!!」ニヘラッ
錬金術師「おら、時間が勿体ねぇぞ、早くしろぉっ!」ニヤニヤッ
女店員(…ちょろい)
町民たち(ちょろい…!)
中央商人(な、なんてちょろさだ…!)
クー「…」ハァ
…………
………
…
…
………
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜 レストラン"カントリータウン" 】
錬金術師「…ふぅっ、疲れたぁぁぁ」ハァ
中央商人「はっはっは、恐れ入ったぞ!凄い技術じゃないか!」
錬金術師「あのくらいなら、朝飯前ですよ」
中央商人「俺は錬金師と関わる機会も多かったが、あそこまでの技術…中々見た事ないぞ」
錬金術師「ははっ、まぁ……」
中央商人「…その腕、店長の店は儲かるんだろうな!」
女店員「えっ!?あはは、儲かるだなんて!実はうちのお店は……」
…グイッ
女店員「むぐむぐ…!」
錬金術師「…は、ははは!そりゃもう、連日大盛況で!」
中央商人「うははははっ!そうだろうなっ!」
ガチャッ、ギィィ……!
町民たち「お、いたいた!」
町民たち「おーい、店長さん!」
錬金術師「…お?」
女店員「あ、昼間の皆さん……」
タタタタッ…ドスンッ!!
町民たち「これ、昼間のお礼だ!わが町の銘酒、"竜の息"!」
町民たち「俺は、天然湖で採れた新鮮な魚の盛り合わせだぁっ!」
町民たち「何を、こっちは森の幸だってあるぞ!」
町民たち「おーい厨房担当たちっ!全部料理に使ってくれや、この人に美味いの食わせてやってくれぇっ!」
ガヤガヤ…!!
錬金術師「こ、これは……」
中央商人「はっはっは!おいおい、初日で人気者だな!」
女店員「す、すっごい!だけど、ここって料理店なのに、いいの…?」
中央商人「なに、本家カントリータウンは自由主義。構わんさ」
錬金術師「そ、そうなのか…」
中央商人「だが、懐かしいな。俺も、この店に材料を下ろしていた時期があったんだ」
錬金術師「へぇ…」
中央商人「俺がここに来たきっかけは、ある男に誘われて…なんだが」
中央商人「当時、今は離れちまった面子も多いが、俺の知り合いで賑わっていてなぁ……」
中央商人「……色々あった」
錬金術師「…」
中央商人「今じゃ、それぞれが独立したりバラバラになっちまったが…」
中央商人「たまぁに戻って来ては、全員で呑んだりしてるわけさ」
錬金術師「いい仲間たちなんですね」
中央商人「…そうだな。お前も、友達や仲間はいるだろう」
中央商人「悪いことは言わねぇ、大事にしてやれ。付き合いのある人間以上の宝は、ないはずだ」
錬金術師「…はい」
中央商人「さて、それはそうと…3代目コック~~っ!」
…ノソッ、トコトコ
料理長「…はいはい、なんでしょうか。自分はまだ、正式に3代目の名は受け継いでませんけどね…」
中央商人「はっはっは、どうせそのうち3代目になるのは決定だろうが!」
料理長「そうだといいんですがね」
中央商人「ま、それより!この御仁は、町のためにも尽くしてくれた人だ!いいもん、頼むぜ!」
料理長「…言わずとも、みなさんの声は届いておりましたから。」
料理長「店長さんでしたね、美味しい料理を提供いたしますので、素晴らしい夜をお過ごし下さい」ニコッ
錬金術師「…うむ」
料理長「では」ペコッ
トコトコトコ………
……
…
中央商人「…さて!」
中央商人「今日は俺の奢りだ、みんな!飲んで、食べてくれ!!」
町民たち「うおおおっ~!!」
町民たち「食うぞ~~!どんどん料理もってこぉい!!」
ウワァァァッ!!ウォォォオオッ!!!
錬金術師「…な、なんてパワフルなオッサンだ」
女店員「お~!えへへ、凄い熱気ですね!」
クー「♪」
錬金術師「…お前、はしゃいでもいいが酒だけは飲むなよ」
女店員「ふ~んだ!分かってますよ!」
錬金術師「それならいいんだが……」
…………
……
…
…
……
…………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 夜 宿のテラス 】
女店員「」ズキズキ
錬金術師「馬鹿はお前は!」
女店員「あ、頭に響く……!」キィィン
錬金術師「…今回はアカノミの粉末だ。飲んどけ、アホ」スッ
女店員「ありがとうございますぅ~……」
サラサラ…ゴクッ…
錬金術師「…ったく。あれほど言ったのに」
女店員「し、知らないうちに手元のお水とお酒が変わってたんだってばぁ……」
錬金術師「…匂いで気付け!」
女店員「うぅ~…」
錬金術師「…仕方ねぇやつだ」
女店員「面目ない…」
錬金術師「…」
錬金術師「…しかし、なんだ。中央商人のオッサン、思ったより豪快な人だったな」
女店員「…だね」
女店員「でもさ、それと別にビックリしたことが1つ……」
錬金術師「何がだ?」
女店員「…店長が、中央商人さんを殴ったこと」
錬金術師「あ、あぁ……」
女店員「いきなり殴るんだもん…」
錬金術師「…悪い」
女店員「ううん、でも怒る気持ちはすっごい分かったよ」
錬金術師「…親に関して、周りから口を出されるほど嫌な子供はいないと思ってる」
錬金術師「それがどんな些細な言葉でも、当人にはそれ以上の気持ちがあるはずなんだ」
錬金術師「だけどな……」
女店員「うん」
錬金術師「俺が殴ったことで、今のクーが可哀想な立場だと肯定しちまった…。」
錬金術師「俺は、それが自分自身で悔しくてたまらん」ギリッ
女店員「…っ」
錬金術師「…全てが済んだあとで、慰めの言葉だけでよかったんだと思う」
錬金術師「俺が手を出して、クーが自分はそういう立場なんだって悩んでしまうかもしれん」
錬金術師「…すまないことをした」
女店員「店長…」
錬金術師「それに、手を出したのも情けない…!」
錬金術師「くっそ…!本当に情けねぇな……!」
女店員「…っ」
女店員「で、でも!店長が殴らなかったから、私が殴ってたかもよ!」
錬金術師「な、何?」
女店員「うん、きっとそう!店長に先を越されて、悔しかったし!?」
錬金術師「…っ!」
女店員「あ~…残念だったな!店長、先に手ぇ出しちゃうんだもん!」
錬金術師「お前…」
女店員「へへっ!どっちみち…ああいう風になってたよ!だから、気にしちゃダメ!」
錬金術師「…っ」
…ゴソッ
錬金術師「ん…」
女店員「…あっ」
クー「んっ…」ゴシゴシ
錬金術師「…あっ、起こしちまったか?」
女店員「わ、私らが大声で話をしてたから…」
トテテテ…ギュッ!
クー「むにゃ……」
錬金術師「お、抱っこしてほしいのか?」
ギュッ…ダキッ
クー「へへっ…♪」ムニャッ
錬金術師「…ははは、眠そうだな。無理せず寝とけ」
クー「…」コクンッ
…スヤッ
錬金術師「…はやっ」
女店員「…」クスッ
錬金術師「なんだ、寂しかったのかね」
女店員「…ううん、違うんじゃないかな?」
錬金術師「ん?」
女店員「ほら、いっつも店長が難しく考えたりしてるとクーが寄って来てたでしょ」
女店員「きっと、クーはクーなりに店長のことも考えてるんだよ」
錬金術師「…」
女店員「店長に懐くのは、店長が一番クーのことを考えてるって分かってるからだよ…きっと」
錬金術師「…そうなのか?」
クー「すぅ…すぅ……」カクンッ
錬金術師「…」
錬金術師「…寝ながら返事しやがった」
女店員「……ぷっ」
錬金術師「くくっ……!」
女店員「…あはは、ほらほら!外も寒くなってきたし中に入ろう。風邪ひいちゃうよ」
錬金術師「あぁ、そうだな」
女店員「明日も早いし、しっかり寝よっと…」
錬金術師「あぁ、俺も寝るわ…」フワァ…
クー「すぅ…すぅ……」ニヘラッ
クー「…へへっ♪」
クー「…」スヤッ
………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
……次の日。
店長、女店員、クーに加わった中央商人は中央都市へと向かう馬車に乗り込んだ。
生憎の雨模様だったが、馬車は問題なく進んでいった。
そして――……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 数日後 セントラルカンパニー 最上階 】
…コンコンッ
親父「…入れ」
ガチャッ、ギィィ…
錬金術師「…よう」
女店員「…」ペコッ
クー「…」
中央商人「ここが、社長サンの最上階か……」
親父「…来たか」
錬金術師「…約束通り、中央商人を連れてきたぞ」
親父「…」
錬金術師「これでいいんだろう!さぁ、話をしてくれ!!」
親父「…」
錬金術師「約束は守った!今度は、親父の番だろう!」
親父「く、くくくっ……」
親父「…舐めてるのか、貴様は?」ギロッ
錬金術師「!」
親父「…連れてこいとは言った。だが、その意味を分からなかったわけではないだろう?」
錬金術師「…」
親父「中央商人に話は聞いたはず。貴様は、連れてこいの意味も分からなかったか!!」
親父「…俺は権利書の事を指したと、お前は気付いていたはずだぞ…!?」
錬金術師「…ッ」
親父「馬鹿者がっ!!こんな仕事で、俺から話を聞けると思うなっ!!」
錬金術師「ぐっ…!」ビリビリッ!
女店員「…っ」
クー「…ッ」ビクビクッ
中央商人「…」
親父「…お前には何度も失望させられる!」
親父「出来そこないと思っていたが、改めて思うぞ!!」
錬金術師「ぐっ…!だ、だが!俺には俺の言い分がー……!」
親父「…しゃべるな、もういい呆れた。お前ならとも思ったが、この程度。」
親父「これでは、お前の言う犬や俺の損害時間に釣り合うほどのー……」
中央商人「…まぁ、落ち着いてくださいよ社長サン」
親父「…何っ!」
中央商人「アンタも人が悪いな。息子に俺をココへ来るように呼んでおいて、その仕打ちか?」
親父「…こいつも経営者の端くれ。意味くらいは分かるはずだ!」
中央商人「はっ?こ、こんな世間知らずが経営者!?笑わせてくれる……」ハハハ!
錬金術師「!?」
女店員「っ!」
クー「…」
中央商人「…土産の一つもなしに、権利書を取りに来た男が経営者?」
中央商人「はっはっは!俺から見れば、経営者の端くれにも及ばん、ただの子供だ!」
親父「…」
中央商人「…一つ聞くが、この子がアンタの言う経営現場を離れて何年になる?」
中央商人「恐らくこの子は"連れてこい"の意味すら分からなかったんだろうな」
錬金術師「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺は俺の話が……!」バッ!
中央商人(……しぃっ)スッ
錬金術師「!」
女店員(後ろにまわした手、静かにしろの合図…!)
クー「…♪」
親父「くくくっ…。確かに、現場を離れたのは事実…」
親父「…だが、俺のもとにいたくせに、その考えを及ばなかったコイツが悪いだろう!」
中央商人「ま、そうかもな。だが、その考えを及ばなかった子にお願いしたのは社長サンだろう?」
親父「…それがどうした」
中央商人「おいおい、子のしつけは親の責任。社長サンが悪いとは思わないのか」
親父「何だと…」
中央商人「すまないが、これは社長さんの負けだな」
親父「何を言う…」ギロッ
中央商人「意味がどうあれ、俺をここに連れてきた時点で約束は守っている。」
中央商人「社長サンの言葉を守ったというのに、それを認めない。」
中央商人「言うなれば、社長サンは後出しジャンケンの卑怯なクソ野郎ってことか」ハハハ!
親父「貴様っ!!口を慎めっ!!!」クワッ!
ビリビリッ……!!
錬金術師「…!」
女店員「…っ」ギュッ
クー「!」ビクッ!
中央商人(うおおっ…!俺と歳も変わらんのに、こんなに迫力に差があるのか…!)ビリビリッ
中央商人(さすがに現役とでは、負けるな…)
中央商人(だが、俺は俺で"世界一"の貿易会社を立ち上げた男だ……!)
中央商人(久々に……!)スゥゥ
親父「…分かったならば、帰れ!」
親父「そして、中央商人!貴様の権利書は、いずれどのような手を使っても必ず……!」
中央商人「…口を慎め?」
中央商人「…どのような手段でも…なんだ…?」
中央商人「どの口が、言ってるんだ……?コラァッ!!」クワッ!
…ゴッ!!!
親父「!」
錬金術師「ち、中央商人さ…!」
女店員「き、急に迫力が…!」
クー「…!」
中央商人「やれるもんなら、やってみるといい…!」
中央商人「だが、俺とて世界一の会社を担った男なのを忘れたか!?」
中央商人「てめぇが目の前にいるのは、ただの人間じゃねぇぞ…?」
中央商人「そして、子を巻き込むのが、てめぇのやり方なら、俺には俺なりのやり方だってある…!」
中央商人「対面きって話つけてやるよ、来い!!」
親父「面白い…。ならば、その全てを奪うまでだ!」
中央商人「はははっ…!」
親父「…」
中央商人「…色々と、アンタと話をしてみたいと思ってたところだしな!」
親父「くくっ…!」
中央商人「…」
中央商人「…」チラッ
錬金術師「…っ!」
錬金術師「…二人とも、一度外へ出るぞ」
錬金術師「ここからは、俺らが関与できる話じゃねえ……」
女店員「う、うん……っ」
クー「…っ」コクン
ガチャッ…バタンッ……!
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 社長室の外 】
女店員「…はぁっ!」ゼェゼェ
クー「…っ」ハァハァ
錬金術師「大丈夫か?」
女店員「き、急に雰囲気が変わって…。中央商人さんも……」
錬金術師「…何が隠居生活だ。全然現役じゃねえか、あのオッサン…」
女店員「しゃ、社長同士のやり取りってあんなに凄いの…?」
錬金術師「…世界を牽引するトップ同士となれば、お互いを食うか食われるかだ」
錬金術師「強気に出れない奴は、食われるだけ。」
錬金術師「久々にあの空気を感じた。やっぱり、俺には合わない空気だ……」
女店員「…っ」
クー「…」
錬金術師「…」
女店員「…」
女店員「…ね、ねぇ店長…」
錬金術師「ん?」
女店員「店長は、ああいう場所でずっと…生活してきたんだよね」
錬金術師「…嫌っつうほどな」
女店員「…そっか」
錬金術師「…前にも話をしたが、こんな生活で俺は逃げ出した」
錬金術師「そして、親父のようにはなりたくないと思った」
錬金術師「…気が付けば、こうして関わりたくない親父と何度も関わっちまってるけどな」
女店員「…」
錬金術師「…」
錬金術師「…錬金道具も無敵じゃねえ」ボソッ
女店員「え?」
錬金術師「…錬金術。あらゆる技術の結晶で、学者としての地位も天下一品」
錬金術師「俺はそれのマスターだった。そして、あの時は何でもできると思っていた」
女店員「…」
錬金術師「それが、世界を牛耳ろうとする男の息子で。」
錬金術師「世界の裏を仕切るアルスマグナに目ぇつけられてよ。」
錬金術師「…」
錬金術師「はぁ…。」
錬金術師「俺の人生、どうしてこうなっちまったかな」
錬金術師「親父の下に産まれなければ、もっと幸せだったのか…。」
錬金術師「そう思うことも何度もあったりしてなぁ……」
女店員「…店長」
錬金術師「…って、何を言ってるんだ俺は!」
錬金術師「久々に緊迫した空気で、俺もやられちまったみたいだ」ハハハ!
女店員「…っ」
女店員「…て、店長!」
錬金術師「お、おうっ?」ビクッ
女店員「その…。」
女店員「い、今も…。お父さんの下に産まれなければ良かったって…思う……?」
錬金術師「…」
女店員「…」
錬金術師「…それは思うぜ」
女店員「っ!」
錬金術師「…だが、まぁ。そうだったとしても、お前らと知り合えなかったら嫌だったな」
…ポンッ
女店員「!」
錬金術師「どのみち、お前らとは知り合ってたさ。別の形だろうが、俺はそう望む」
女店員「う、うんっ…!」
錬金術師「今はこういう形で俺らは知り合った」
錬金術師「だから、今は今を楽しめるよう、考えてるさ」ニカッ
錬金術師「無論、クー。お前とも出会えて良かったと思ってるぜ!」
女店員「へへっ…」テレッ
クー「んっ!」ムフー
……ガチャッ!!
錬金術師「!」
女店員「!」
クー「!」
中央商人「…話は終わった。入っていいぞ」
錬金術師「早いな…!ど、どうなった…?」
中央商人「…お前の処分はなし。犬の話もしてやるそうだ」ニカッ
錬金術師「!」
中央商人「老いたとはいえ、あんな親父に負けはしねぇさ」
錬金術師「お、親父に勝つ人間がいたなんて…!」
中央商人「…不満か?自慢の親父が、まさか負けるとは…とか」ククッ
錬金術師「ははは、馬鹿なっ!ありがとう…中央商人さん……」
中央商人「いいってことだ。田舎町の人々が認めたお前を、助けないわけにはいかんだろう」ニヤッ
錬金術師「…っ」
中央商人「それよか、早く入れ。話しを聞いて、その子の情報の可能性を教えて貰うといい」
錬金術師「…はい」
カツ…カツカツカツ……
錬金術師「…」
女店員「…」
クー「…」
親父「…」
錬金術師「親父!教えてくれ…。俺の魔犬のことを……」
親父「…」
錬金術師「…」
親父「…」
錬金術師「…」
親父「…覚えていないのか。本当に」
錬金術師「覚えていたら、わざわざ訪ねないと言ったはずだ……」
親父「…」
錬金術師「…教えてくれ」
親父「…」
親父「…お前は"子供時代に"魔犬を飼った…と、言ったな?」
錬金術師「あぁ」
親父「…それを飼ったのは、お前が俺から去る少し前のことだぞ」
親父「少なくとも、記憶が曖昧な年齢ではなかったはずだ」
錬金術師「な、何っ!?じゃあ俺が14、15…ってことか……?」
錬金術師「じょ、冗談だろ!?」
親父「冗談を言うか?」
親父「そして、その魔犬はお前が去る寸前に逃げ、姿を消している」
親父「だがお前は、そこまで気に留める様子もなく…。ショックか何かで記憶を落したのかと思ったがな」
錬金術師「…っ!」
親父「…それが全てだ。俺は、それ以上の情報は知らぬ」
錬金術師「なんだって…!」
親父「若年性のボケでも回ったか?」
錬金術師「…全く記憶にない。いや、わずかばかり遊んだ思いだけは覚えている…!」
錬金術師「い、一体どうして……」
女店員「…」
クー「…」
錬金術師「…っ」
中央商人「…」
親父「さて、俺はすぐに出かけねばならぬ」
親父「次に会う時は、貴様の店の査定を行う時だ。しっかり準備しておけ!」
カツカツカツ……!
ガチャッ、バタンッ……!
錬金術師「お、俺が…記憶を曖昧に…?」
女店員「店長…」
クー「…」オロオロ
錬金術師「そんなわけねぇ…!だが、親父が嘘をつく意味もない……!」
錬金術師「つまり、俺は記憶を失っていたということ……」
錬金術師「記憶を失う可能性があるのは、ショック状態に成りうる他にもある……」
錬金術師「…」
錬金術師「クーに、俺の記憶…。それと、俺を知りうる同業者の可能性……」
錬金術師「だが、クーいわく俺を知っているのは獣人族の母親のほう。いや、しかし父親が知らぬわけはないと思う…」
錬金術師「つまり同業者は父親で、俺との接点がなかったわけじゃないかもしれない……」
錬金術師「…」
錬金術師「く、くそっ!あの当時、俺は何をしていた……!?」
女店員「…っ」
錬金術師「…魔犬、記憶、同業者、母親、獣人族、クー…!」
錬金術師「パーツはあるが、それを埋める為のメインとなるキーパーツ……」
錬金術師「決定的な何かが……!」
錬金術師「…っ」
…コンコンッ!
錬金術師「!」
女店員「!」
クー「!」
中央商人「…こんな時に、お客さんか?」
…ガチャッ!
白衣の男「し、失礼いたします!」
錬金術師「…ん」
白衣の男「…良かった、まだいましたか!」
錬金術師「…誰だ?」
タタタタッ…!
白衣の男「良かったぁ、噂は本当だったんですね!あ、握手してください!」
錬金術師「ん…?お、おう……」
…ギュッ!
白衣の男「いや~、あのマスターさんが来ていると聞きまして!」
白衣の男「折角なので、同業者としてご挨拶に参りました!」
白衣の男「さすがに社長さんがいる時はご挨拶に行けませんでしたが、出張を確認したので!」
錬金術師「あ、あぁ…。君も錬金術関係者なのか……」
白衣の男「…マスターさん、自分と一緒くらいの歳なんですよねぇ」
白衣の男「錬金術関連の事業拡大の時、ここに新人で入ったのですが……」
白衣の男「こうして憧れの人を目の前にすると、意欲もわいてきそうです!」
錬金術師「は、はは…。そうか……」
錬金術師「…」
錬金術師「……って、何っ?」ピクッ
白衣の男「え?」
錬金術師「今、何て言った?」
白衣の男「え、えっと。憧れの人を目の前にすると……」
錬金術師「違う、その前だ!」
白衣の男「…じ、事業拡大ですか?」
錬金術師「そう!それって、いつのことだ!?」
白衣の男「自分が14、15歳…くらいには既に……」
錬金術師「…!」
錬金術師「お前、俺と一緒の歳といったな!」
白衣の男「は、はい」
女店員「…店長?」
錬金術師「…っ!」
錬金術師「…じ、事業拡大っ!」
錬金術師「そ、そうだ!俺の抜ける前に、錬金術の事業の拡大をしていた…!」
錬金術師「…っ」
錬金術師「まさか…!」
女店員「ど、どうしたの?」
錬金術師「俺は現役時代に、同業者と接したのは後輩や機関の連中だけ……」
錬金術師「と、なると可能性として高いものの一つとして……」ブツブツ
女店員「…」
女店員「て、て~んちょ~……?」
錬金術師「可能性は…追うのが鉄則……か」
錬金術師「……決まった!!」ビシッ!
女店員「!」ビクッ!
錬金術師「…ここの当時の錬金術事業拡大から、」
錬金術師「俺がマスターとして現役を引退するまでにいた…錬金術関係社員!」
錬金術師「その全てを調べ、俺やクーと関わり合いに深そうな人物を探し出す!!」
女店員「えぇっ!?」
クー「!」
白衣の男「え、えっと…?」
中央商人「はは、勢いのいい話で」
錬金術師「…幸い、どこに情報が保存されているかは知っている」
錬金術師「可能性がある限り、時間を要しても探す。ちと面倒くさいが、名簿を辿らせて貰う!」
女店員「そ、それってどのくらい……」
錬金術師「当時の本社、支部、仕事に関係した錬金術に少しでも関与した人物全て!」
錬金術師「…数はおそらく一万を越すはずだ」
女店員「い、いちまん……」クラッ
錬金術師「…いや、これは俺だけでも…。これ以上面倒なことはさせられんしー…」
女店員「…ていっ」
…ビシッ!
錬金術師「あいてっ!」
女店員「…何、一人でやろうとしてるの。私にもやらせてよ!」
錬金術師「だが、とてつもなく面倒な作業で…」ズキズキ
女店員「いいの!」
錬金術師「…」
中央商人「くく…。こんな可愛い子の頼みは、断れないな店長くん」
錬金術師「ぬっ…」
女店員「か、可愛いって……」テレッ
錬金術師「あ、そうだ…。中央商人さん、ここまで有難うございました。」ペコッ
中央商人「んっ」
錬金術師「あとは、迷惑もかけれないので自分たちで何とかします…」
錬金術師「本当に、ありがとうござ……」
中央商人「…ライバルとも呼べる人の、名簿帳を見せるのはさすがに無理かな?」
錬金術師「へっ?」
中央商人「戻ったところで、することもない。手伝わせてくれないか」
錬金術師「いや、しかし……」
中央商人「はっはっは、気にするな。それに人数は多いほうがいいだろう?」
中央商人「俺とて、それがどれだけ大変な作業は理解している。一人でも多くいたほうがいいだろう?」
錬金術師「…いいんですか。遠慮しませんよ?」
中央商人「若い頃は、遠慮を知らないほうがいいのさ」ニカッ
錬金術師「…っ」ペコッ
女店員「それじゃ…店長っ!」
クー「んっ!」ビシッ!
錬金術師「ちっとばかし、面倒なお宝探しに行きますかねぇ…!」コキコキッ
白衣の男「な、何がなんだか……」
錬金術師「あっ、君は自分部署に戻っていいからな」
白衣の男「は、はぁ……」
…………
……
…
…
………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――――【 同時刻 とある場所 】
カツカツカツ…
親父「…」
秘書「…社長、情報が入りました」ボソッ
親父「なんだ」
秘書「ご子息と、中央商人様たちが数年前の錬金術関連者の名簿を探ろうとしていると」
親父「…」
秘書「いかがなさいますか」
親父「…名簿なんぞ、どうでもいい」
親父「どうせ、本社の地下室にある社員名簿は見られたところでどうもせん」
秘書「…かしこまりました、ではそのようにお伝えします」ペコッ
親父「…」
親父「…しかし、アイツめ。あの中央商人をどう説得したのか」
秘書「どうかなされたのですか?」
親父「どれだけ金を積んでも動かなかった中央商人が、"権利書を明け渡す"と言ってきたのだ」
親父「…やはり侮れぬな。」
秘書「…!」
親父「今回、あいつを向わせたのは現役として、その前線を思い出させ、考えさせるためだった」
秘書「…」
親父「どうせ無理を承知で送り、二度、三度…。いや、そのまま利用し、再び下へ就かせようとした」
秘書「…やはり。そう考えてると思っておりました」
親父「ところが、あいつがそれを成功させるとは夢にも思わなかった」
親父「……いくらバカだろうが、俺の血を引いた経営者の端くれということか」
親父「認めるところは認めるのが道理。俺の持っていない概念をあいつは持っている」
親父「…アルスマグナに一人で挑んだことを含め、やはり実力はある」
親父「大人しく俺についてこれば、覇権を握るのももっと容易にいったものを……」
秘書「…ご子息様のことを、認めていらっしゃるのですね」
親父「…」
親父「…まぁ、いいがな」
…………
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
続き
錬金術師「経営難に立ち向かう事になった」新人鉱夫「その3!」【後編】