男 「あー……そうだな」
幽霊「ちなみに私の命日は12月25日です。これ豆な」
男 「別にどうでも良い……」
幽霊「人生二度目の誕生日みたいなものです」
男 「誕生日と全く真逆だと思うがな」
幽霊「結局あなたは今年も死人とクリスマスを祝うことになるわけですが」
男 「まだ決まってない……まだ一カ月近くある……」
幽霊「ま、完璧に独りで過ごすよりマシだと思いますよ。ファイト」
男 「いい加減成仏しろよテメェ」
元スレ
幽霊「クリスマスが近いですね」
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1259569982/
幽霊「クリスマスかぁ。死人のところにもサンタさん来てくれますかね」
男 「サンタなんて存在しねーよ。生きた奴のところにも死んだ奴のところにも来ねぇよ」
幽霊「平等ですね」
男 「……平等か?」
幽霊「でも、幽霊が居るくらいですしサンタも居るんじゃないですか?」
男 「居たら“生きてる”可愛い彼女頼むんだがなぁ」
幽霊「二股ですか。その子のこと、即刻呪い殺しますよ?」
男 「いつテメェと付き合っていると言った」
幽霊「あら」
男 「お前ってさ、俗に言う自縛霊なのか?」
幽霊「自爆? しませんよ」
男 「自爆じゃねーよ、自縛だ」
幽霊「ちょっとしたゴースト・ジョークなのに」
男 「で、どうなんだ。俺がこの部屋に来た時からずっと居るだろ?」
幽霊「自分ン家に居ちゃ悪いですか?」
男 「俺の家だ。たまには外に出ろよ馬鹿野郎」
幽霊「引きこもり最高ー。イエ―イ!」
男 「イエ―イじゃねーよ」
幽霊「遺影っ!」
男 「……」
幽霊「クリスマスツリーが欲しいです」
男 「俺はいらねぇ」
幽霊「じゃあせめてドアにクリスマスリース飾りましょ?」
男 「それもいらねぇ」
幽霊「じゃあ、クリスマスの日にケーキ供えて下さいよ」
男 「俺は今までクリスマスとは無縁の人生を歩んできたんだ。
今更クリスマスごときではしゃぐような愚行はしねぇよ」
幽霊「……彼女欲しがってるくせに」
男 「うるせぇ塩ぶつけんぞ」バラバラッ
幽霊「やめて」
幽霊「……せっかくだし、クリスマスイヴの時は外に遊びに行ってみましょうかね」
男 「イヴ(笑)」
幽霊「何か文句でも?」
男 「別にぃ」
幽霊「呪いますよ?」
男 「やれるもんならやってみな」
幽霊「まぁやれないんですけどね」
男 「じゃあ言うなよ」
幽霊「てへっ」
男 「可愛くねーぞ」
幽霊「ケーキとか、フライドチキンとか、シャンパンとかワインとかでお祝いしたいんですけどねぇ」
男 「お前死んでるから無理だろ。食えねぇだろ」
幽霊「気合い入れれば物も食べられましたよ」
男 「……まさか、この前奮発して買った辛子明太子の行方は」
幽霊「試してみたら案外すんなり食べられました」
男 「返せコノヤロウ」
幽霊「幽霊でもさすがにそれは無理です」
男 「幽霊のくせに物食ってんじゃねーよ」
幽霊「気晴らしにホラー映画でも見ましょう。この前借りてきたあれ」
男 「はいはい……」
幽霊「オープニングから怖いですね」
男 「怖いって言ってる割には平然とした顔してるじゃねぇか」
幽霊「そんなことありません。ほら、顔色真っ青でしょう?」
男 「それは元からだろう」
幽霊「そういえばそうでした」
幽霊「主人公ー、後ろ後ろー。……あー、だから言ったのに」
男 「画面に向かって話すのやめてくれない?」
幽霊「嫌ですか?」
男 「静かに見ろ」
幽霊「声に出してるとこう……臨場感がありませんか?」
男 「ねーよ」
TV 「うぅ……呪ってやる……呪ってやるうううううううおあああああああああああああ!!」
男 「うをっ」ビクッ
幽霊「あなただって声出してるじゃないですか」
男 「こ、これは……不可抗力だ」
幽霊「もしかして怖いんですかー?」
男 「怖くねーよ」
幽霊「初めて私見た時も悲鳴上げてましたもんねぇ?」
男 「あれはお前が髪振り乱して天井にしがみついてたから……」
幽霊「つまり、まんまと怖がってくれたわけですね」
男 「お前性格悪いぞ。普通の人間は、もっとこう第一印象を良くしようと努力すべきだと俺は……」
幽霊「だって私死人ですもん」
男 「うぜぇ」
幽霊「あー、面白かった」
男 「そうか?」
幽霊「映画の幽霊は私に死人の生きざまというものを見せてくれました」
男 「死にざまだろ」
幽霊「そう言われればそうですね」
男 「まだ生きてる気分でいるのか?」
幽霊「うーん……男くんと一緒に居るとたまに自分が死んでいることを忘れます」
男 「重要なことだろ、忘れるなよ」
幽霊「……。……はい」
幽霊「ねぇ」
男 「何だ?」
幽霊「私の頭についてるこの白い三角の布ってなんでしょう?」
男 「……お前、自分のことのくせに分からねぇのか?」
幽霊「棺に入れられる時に勝手につけられただけですし……」
男 「うーん……白三角?」
幽霊「今、テキトーに名前つけたでしょう?」
男 「あぁ、テキトーだ」
幽霊「ググって下さいよ。何だか気になるし」
男 「あー……『白い三角の布』っと。これか?」カチッ
幽霊「『天冠』……」
男 「ちょっと格好良い名前じゃねーか」
幽霊「喰らえっ! 天冠ビーム!」ベシッ
男 「投げつけんなアホ」
幽霊「こうかは ばつぐんだ! おとこは たおれた!」
男 「少し黙れ」
ピンポーン
友 「遊びに来た」
男 「幽霊に会いに来ただけだろ」
友 「ま、男は正直ついでなわけだが」
幽霊「いらっしゃい、友さん」
友 「いいなぁ。俺の部屋にも女の子の幽霊来ねーかな……」
男 「譲る」グイッ
幽霊「薄情な。金縛りますよ?」
男 「うるせー。明太子返せ」
幽霊「まだ根に持ってんですか。小さい男ですね」
友 「仲いいなぁ……」
友 「幽霊ちゃん可愛いなぁ」
男 「そうか?」
友 「肌も白いし」
男 「白いというか青白いな。完全に死人の顔色だ」
友 「髪も長くてサラサラだし」
男 「天井に張り付いた時に上からバサバサしてくるから迷惑なんだが」
友 「うちにも幽霊来ないかなぁ」
男 「こいつ勝手に冷蔵庫開けて明太子食うんだぞ。ゴキブリよりたち悪いぞ」
友 「うちに来たら明太子毎日食べさせてあげるのになぁ」
幽霊「……ちょっと心が揺らぎました」
男 「食べ物に釣られるとか……お前本当に幽霊か?」
友 「そっかー、クリスマス祝いたいんだね」
幽霊「ちょうど命日ですし」
友 「……そういえば幽霊ちゃんって何で死んじゃったの?」
幽霊「……」
友 「あ、その、言いたくないなら言わなくても……」
幽霊「ツリーの先端で刺殺されました」
友 「えぇ!?」
男 「嘘だろ」
幽霊「嘘です」
男 「……はぁ、分かったよ。ケーキくらいは買ってやるよ」
幽霊「やったー! 見直しましたよ男くん!」
男 「ケーキだけで見直されても……」
友 「……俺、今年も独りだし混ぜてくれねぇか?」
幽霊「……どうしましょう?」
男 「別にいいだろ」
幽霊「私と男くんだけの愛の園に一人混じろうがどうでもいい……と?」
友 「……邪魔だったら俺、やっぱりやめるわ」
友 「じゃあな。また来るわ」
男 「じゃーな」バタンッ
幽霊「うふふふ。ケーキ、ケーキ♪」
男 「……そんなに嬉しいか?」
幽霊「嬉しいですよ! すっごく!」
男 「そーかい、そりゃよかったな」
幽霊「ローソクの代わりにお線香立ててお祝いしましょうね!」
男 「……それはやめろ」
幽霊「えー……」
幽霊「……」コソコソ…
男 「何やってんの?」
幽霊「わぁっ!?」ササッ
男 「……今、何か隠しただろ?」
幽霊「隠してない隠してないです」
男 「本当かー……?」
幽霊「信用してませんね」
男 「ああ、お前は信用ならん」
幽霊「べ、別に何にもありませんから。向こう行ってて下さいっ」
男 「何隠してんのかは知らんが変な悪戯とかすんなよ」
幽霊「は……はーい」
幽霊(もう少しで手編みのマフラーばれちゃうところだった……セーフ)
幽霊(……でもこれ、クリスマスまでに完成するのかなぁ?)
男 「じゃ、お休み」
幽霊「おやすみなさーい」
幽霊(男くんが寝てる時がチャンスっ!)
幽霊(さーて、編むよー……ん? あ、あれ? こんがらがってきた……)
幽霊(あー、もうどうしよう……ぐちゃぐちゃになっちゃったよ……)
幽霊(せっかくここまでできたのに……)
幽霊「……ぐすん」
男 「……何泣いてんだよ」
幽霊「ひゃあっ!?」
男 「何これ? 編み物?」
幽霊「み、見ないで下さいっ」
男 「……マフラー作ってんの?」
幽霊「……はい」
男 「そっか。死に装束だけじゃ寒そうだしな」
幽霊「え?」
男 「でもこんがらがってるじゃねーか。貸してみろ」
幽霊「へ? え?」
男 「ここをこうして……こうすれば……ほら、直った」
幽霊「……」
男 「どうした?」
幽霊「男くんの……ばか……っ」パッ
男 「……。……消えちゃった」
―次の朝―
男 「放っておいたらまた戻ってくるだろうと思ったが」
男 「もう朝なのに戻ってこない」
男 「……捜索願い出すか? えーと110番、110番」
男 「ちょっと待った。あいつ幽霊だった」
男 「……さて、どうしようか?」
男 「……。……マフラーだけ残った、か」
男 「死んでも寒さって分かるもんなのか?」
男 「……うーん」
幽霊「……もう朝かぁ」
幽霊「勢い余って出て来ちゃったけど……」
幽霊「もうそろそろ帰ろうかな……」
幽霊「……男くん、心配してるかなぁ」
幽霊「ちょっと気まずいけど帰ろう……うん」
幽霊「ただいまー……」コソッ
男 「……壁から急に現れるなよ」
幽霊「あの、その、夜は急に居なくなってごめんなさい」
男 「あー。もう一歩で警察に捜索願い出すところだった」
幽霊「……本当に、ごめんなさい」
男 「それよりほら、マフラー作っといてやったから」
幽霊「えっ」
男 「ネットで調べながらやったけど案外簡単なんだな」
幽霊「……」
男 「ほら、首に巻いてやるよ。……うん、結構似合うじゃねーか」
幽霊「……の……やる……」
男 「ん?」
幽霊「呪ってやるうううううううううううううっ!!」
男 「へ? ……ぐぇっ! マフラーで首絞めてくんなっ! ぐるじい……っ!!」
幽霊「死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえーっ!!」グス…ッ
男 「げほっ、げほ……っ。殺されるかと思った」
幽霊「本気で殺す気でしたもん。当たり前でしょう?」プンスカ
男 「何怒ってんだよ、なぁ」
幽霊「……別になんでもないです」
男 「なんでもないわけねぇだろーが。話してみろよ」
幽霊「男くんに相談したって……」
男 「俺、何か気に障ることやっちまったか? 謝るから言ってくれよ」
幽霊「……」
幽霊「……」
男 「……いいよ。そうやって完全黙秘するつもりならそれでも」
幽霊「……」
男 「もうそろそろ行かねーと学校遅刻するから行くわ」
幽霊「……いらない」
男 「え?」
幽霊「マフラーなんて、いらないです……」
男 「せっかく作ってやったのに……。……分かったよ。じゃあ俺が使わせてもらうわ」
幽霊「……いってらっしゃい」
男 「いってきます。……帰るまでに機嫌直せよ。あと、また行方不明になったら許さねーから」バタンッ
幽霊「……」
幽霊(だいぶ計画狂っちゃったけど……一応男くんにマフラー渡せた)
幽霊(……でも、三分の二は男くんが作ってるし)
幽霊(やっぱり幽霊の私はサンタの真似事なんてできる筈なかったんだなぁ……)
幽霊(……来世はサンタになりたいな)
幽霊(あ、でも私子供苦手だし……)
幽霊(……男くん専属のサンタ、ってことで)
幽霊(私ったら、何考えてんだか……こんなファンタスティックな妄想、叶うわけないのに)
幽霊(……あーぁ、つまんない。もやもやする……)
男「ってことがあったんだよ。参っちゃうよな」
友「……この鈍感」
男「は?」
友「そのマフラー、多分幽霊ちゃんがお前にプレゼントする為に作ってたんだと思うぞ」
男「えー、まさか。ワガママ放題のあいつがそんなこと……」
友「お前って奴は。……家帰ったら確かめてみろよ。さりげなくな」
男「……まさか」
友「そのマフラー、似合ってるぞ。幽霊ちゃんがお前に合う色を一生懸命選んだんだろーな」
男「……」
友「まぁ、まずは謝りな。そうした方がいいと思う。……ただし、童貞の意見だがな」
男「……分かった」
男 「……ただいまー」
幽霊「……」
男 「あー……えっと、あのさ……」
幽霊「ごめんなさい」
男 「……え?」
幽霊「急に怒って、出てったり首絞めたりして……ごめんね」
男 「いや、俺の方こそ……マフラー、ありがと。すげー暖かかった」
幽霊「……!」
男 「デリカシーなくて……すまなかった」
幽霊「……いいよ、そんなの。ありがとう、巻いてってくれて」
幽霊「本当はね、クリスマスイヴの夜に枕元にそっと置こうと思ってたの」
男 「そっか」
幽霊「でもどうせ私不器用だからさ、あのまま見つからなくても間に合わなかったでしょうし」
男 「でも、俺の為に作ってくれたんだろ? それだけでも嬉しいよ」
幽霊「……ありがとう」
男 「そうだ。まだ毛糸残ってるし、お前のやつ作ってやるよ」
幽霊「そ、それってペア……ペア……」
男 「ペアルック……だな。少し恥ずかしいけど」
幽霊「わ、私幽霊ですし、その、寒くても平気ですし……!」
男 「でも作りたい。……嫌か?」
幽霊「嫌……じゃないです」カアァ…
友「……で、学校でも編み物か」
男「早く渡してやりたいしな」あみあみ
友「見せつけやがって。お熱いねぇ……」
男「べ、別にそんなんじゃねーよ」あみあみ
友「あー、羨ましい。何のギャルゲだよ……全く」
男「ゲームと現実を混合するなよな」あみあみ
友「……ちょっと手伝っていい?」
男「いや、いい。俺、器用な方だし」
友「ちぇー」
男「……」あみあみ
男 「よし、できた」
幽霊「わぁ……わずか一日で完成とは」
男 「早速巻いてみろ」
幽霊「はい!」
男 「うん。お前の格好寒々しいからちょうどいいよ」
幽霊(寒さなんて、死んでから感じたことないけど……あったかいや)
幽霊「……これでお揃い、ですね」
男 「だな」
幽霊「ペアルックでクリスマスの街を歩いてみたいです」
男 「うーん……考えとく」
幽霊「どうも」
男 「でも、街に行って大丈夫なのか?」
幽霊「え?」
男 「お前一応幽霊だし、他の人には……」
幽霊「男くんって案外世間体を気にするんですね。死んだ人間より生きている人の方がいい、と。何事も生に限りますもんね」
男 「いや、そうじゃなくって。お前のこと俺や友には見えるけど、他の人にも見えるもんなのか? もし見えなかったら俺がブツブツ独り言言ってるように思われるだろ」
幽霊「見えますよ。ステルス機能ついていませんし」
男 「ステルス……」
男 「じゃあその服装をどうにかしないとな」
幽霊「これで出かけるのは駄目ですか?」
男 「駄目。クリスマスの街を死に装束で練り歩くアホがどこの世界に居る」
幽霊「私が第一号になります!」
男 「なるな! 他人から見たら俺がコスプレさせているように思われるだろ! マニアックなフェチズムを持つ者と勘違いされるだろーが!」
幽霊「……やっぱり世間体気にするんですね」ボソッ
男 「それに……」
幽霊「それに?」
男 「お前、いつも同じ服だろ」
幽霊「あるのはこれ一着だけですしね」
男 「女子なんだからたまにはお洒落な服着たいだろ?」
幽霊「洋服買ってくれるんですか!?」
男 「ああ、買ってきてやる」
幽霊「どうせ買うなら私、直接選びたいです!」
男 「……その格好でか?」
幽霊「この格好で行くつもりですが?」
男 「駄目だ。絶対駄目だ」
幽霊「まさに服を買いに行く服がない状態……」
男 「お前に似合いそうなやつ二、三着買ってくる」
幽霊「よろしくお願いします」
男 「じゃあ行ってくる」
幽霊「いってらっしゃーい。楽しみに待ってますよ」
男 「はいはい」バタン
幽霊「うひゃー、楽しみぃ。楽しみいぃ」
幽霊「お洒落なんて何年ぶりだろっ」
幽霊「えへへー、どんなの選んできてくれるんだろ」
幽霊「わくわくするなぁ。ふふふっ」
男 (さて、どんなの選ぶかな)
男 (幽霊の好み、訊いときゃ良かったな……うーん)
店員「どのような物をお探しですか」
男 「あー……えっと、女物の服を」
店員「彼女さんへのプレゼントですかー。それなら、こういったものはどうでしょう?」
男 (彼女……なのか? まぁいっか)
男 「じゃあそれを。あと二着くらい買いたいんですが」
店員「かしこまりましたー。少々お待ち下さいー」
男 (店員さんに任せときゃいっか……)
男 「ただいまー」
幽霊「お帰りなさい! わぁ、すごい」
男 「プレゼント用と間違われて綺麗にラッピングされちまった」
幽霊「間違いなんかじゃないです。立派なプレゼントですよ、これは」
男 「大体店員さんの助言で選んでみたんだが……どう?」
幽霊「可愛いです! 早くこれを着て男くんとクリスマスを楽しみたいですよー」
男 「気に入ってもらって何よりだ。今着てみたらどうだ?」
幽霊「え?」
男 「服買った記念に散歩でもしよう」
幽霊「……じゃあ、着てきますねっ。待ってて下さい」
幽霊「着替え完了です」
男 「中々似合うじゃねーか。……でも、その白い三角取ろうな」
幽霊「天冠です」
男 「よし、分かった。天冠を即刻取れ」
幽霊「……はーい」シブシブ…
男 「血色がやけに悪いこと以外は普通の人間だな、うん」
幽霊「生前も貧血体質でしたし、大丈夫です」
男 「何が大丈夫なのかは知らんが、まぁいい。早速外に出るか」
幽霊「はーい」
男 「靴も買っておいたからそれ履いてけ」
幽霊「ありがとです」
幽霊「寒くないですか?」
男 「マフラー巻いてるから大丈夫だ。お前は?」
幽霊「わ、私もマフラー巻いてますし……(本当はマフラーなんてなくても寒さなんて感じられないんだけど)」
男 「そっか、良かった」
幽霊「……(男くんと一緒だと、何だか暖かいや。……感覚なんて、とうの昔に手放したのに)」
男 「……どうした?」
幽霊「何でもないです。……あの、」
男 「ん?」
幽霊「手、繋ぎませんか?」
男 「うん、まぁいいけど」
男 「お前の手ぇ冷たいな。氷みたいだ」
幽霊「まぁ、死んでいますしね。……男くんの手はいいですね。すごく生きてる」
男 「すごく生きてるって、何か表現おかしくないか?」
幽霊「そうですか? ……私の手とは真逆で、羨ましいです」
男 「でも、手が冷たいと心があったけぇってどっかの偉い人が言ってたような」
幽霊「迷信ですよ、迷信」
男 「迷信の塊みたいな奴に言われてもなぁ。……せっかく褒めてやってんのに」
幽霊「褒めるべきところですか、それって」
男 「だと思うがな、俺は」
幽霊「……」
幽霊「街は早くもイルミネーションまみれ」
男 「ま、そんなもんだろ」
幽霊「男くん、あのツリー欲しいです」
男 「は?」
幽霊「持って帰っちゃ駄目ですか?」
男 「窃盗になるだろ」
幽霊「幽霊にも法律って関係あるんですかね?」
男 「あるある。大有りだ」
幽霊「死して尚この世に縛られ、法律に縛られ……」
男 「成仏したくないんだろ?」
幽霊「まぁそうなんですけどね」
幽霊「サンタさんの格好した人がチラシ配ってますね」
男 「寒い中頑張るなぁ」
幽霊「バイトですかねぇ?」
男 「多分そうだろ」
幽霊「バイトかぁ……何かやろっかな?」
男 「幽霊なのに?」
幽霊「死人差別は良くないと思います」
男 「履歴書になんて書くんだよ」
幽霊「年齢の欄は享年でいいんですかね?」
男 「知らねーよ」
幽霊「ねぇ、男くん」
男 「なんだ?」
幽霊「今、私ね。死ぬほど幸せですよ」
男 「死んでるだろ」
幽霊「もういっぺん死んでも良いくらいなんです」
男 「……そういえば、お前の本当の死因って何なんだ?」
幽霊「知りたいですか?」
男 「まぁ、気になるな」
幽霊「えーとですね。好きでも嫌いでもない男の子に刺されました」
男 「はぁ?」
幽霊「私は好きでも嫌いでもなかったけど、男の子は私のことが好きだったみたいです」
男 「……」
幽霊「クリスマスの日に誘われたんです。一緒に過ごそうって」
男 「……で、お前は断ったのか」
幽霊「まぁ、そういう感じです。そしたら心臓めがけて一刺し、二刺し。……気づいたら死んでました」
男 「……そうか」
幽霊「参っちゃいますよねぇ。めでたいクリスマスの日なのに」
男 「……」
幽霊「ツリーで刺されたようなものですよ、全く」
男 「……で、刺したそいつは今どうしてる?」
幽霊「さぁ? 刑務所ですかね?」
男 「……自分を殺した張本人のことくらい把握してろよ」
幽霊「だって、好きでも嫌いでもなかったですから」
男 「……」
幽霊「そういうものでしょう?」
男 「……そういうものか?」
幽霊「殺された時はすごく痛かったけれど、幽霊も案外楽しいですし。……男くんにもこうして出会えたし」
男 「……生き返ってみたいか?」
幽霊「何ですか、藪から棒に」
男 「口ではそう言ってるけどさ、こうやって化けて出るってことは何か未練があるんだろ?」
幽霊「それは……どうでしょう?」
男 「幽霊に未練は付き物じゃねーのか?」
幽霊「強いて言うなら……楽しいクリスマスを送りたいです」
男 「……まさか俺と楽しくクリスマス過ごしたら成仏するつもりか?」
幽霊「いや、それはないです。多分」
男 「多分って……」
幽霊「自分でも分かりませんもん。成仏の基準なんて」
幽霊「成仏なんかしたくありませんよ」
幽霊「ずっと、ずーっと男くんの側に居て」
幽霊「男くんが老いて死んだら一緒に向こうに逝きましょうね」
幽霊「……約束、ですよ?」
男 「……ああ、そうだな」
幽霊「それじゃ、辛気くさいのはナシにしてクリスマスの予行演習続けましょ!」
男 「……予行演習だったのか、これ」
幽霊「ええ。イルミネーションのお陰で、私もうクリスマス気分ですよ」
男 「……綺麗、だな。木も電飾されてて」
幽霊「これ全部巻き付けるのに何日かかったんでしょうか。電気代どれくらいかかるんでしょうね?」
男 「現実的なこと言うなよ」
幽霊「……ですね。綺麗なものは『綺麗』だけで充分、ですよね」
男 「……だな」
幽霊「はぁ、楽しかったですね」
男 「ただ歩いただけだがな」
幽霊「クリスマスイヴ~クリスマス当日は、お洒落なお店でご飯食べて、お家でケーキ食べましょうねー」
男 「お洒落な店って……あんま高いとこは選ぶなよ」
幽霊「イタリアン料理食べたいです! 高いワインで乾杯したいです!」
男 「贅沢な幽霊だな」
幽霊「生きてる時から贅沢思考です。……だから殺されちゃったのかな?」
男 「殺されたのは関係ないと思うぞ」
幽霊「そーですか?」
幽霊「楽しみだなぁ。クリスマス、クリスマスー」
幽霊はカレンダーの12/24と12/25に大きな丸を描き、過ぎていった一日にバッテンをつけていく。
かなり楽しみらしい。そんな幽霊を俺は微笑ましく見つめる。……こうして見ると、普通の生きた人間に見えるのに。
幽霊「……どうしました?」
男 「いや、何でもない」
幽霊「……? 変な男くん」
――そして、クリスマスイヴ、当日。
幽霊「とうとうきましたよー。イヴですよ、イヴ!」
男 「所詮クリスマスの前座なのにそんなにはしゃぐなよ」
幽霊「だって、楽しみでしたもん!」
男 「イヴでも学生は学校に行かにゃならねーんだ」
幽霊「えー……」
男 「……帰ったら、また街に行こうな」
幽霊「……はい!」
男 「じゃ、行ってくる」
幽霊「早めに帰ってきて下さいねー」
男 「努力する。じゃあな」バタン
男 (さてと。幽霊待ってるしサークルも休んでとっとと帰るか)
後輩「あの、先輩!」
男 「ん、後輩? どうしたんだ?」
後輩「あの……えっと、その……今日って暇、ですか?」
男 「いや……ちょっと用事がな」
後輩「……そうですか」
男 「どうした? 何か急用でも……」
後輩「あの。私、私……先輩と……その……!」
幽霊「男くん遅いなぁ……せっかくのイヴなのにどこで油売ってんだろう?」
男 「ただいまー」
幽霊「遅いっ!」
男 「ごめんな。ちょっと後輩と話してて……」
幽霊「待ちくたびれましたよ。全く、何を話してたんですか?」
男 「それは……」
幽霊「何です? 私に言えないようなことでも話してたんですか?」
男 「……怒らないで聞いてくれるか?」
幽霊「内容によります」
男 「告白、された。……後輩に」
幽霊「え。えええ!?」
幽霊「こ、こくこくはくはくはく……!」
男 「落ち着け。ちゃんと断ってきたから。きっぱりと」
幽霊「……その子、ショック受けてませんでしたか?」
男 「OKした方が良かったのか?」
幽霊「まさか」
男 「だよな」
幽霊「じゃあ行きましょ、行きましょ!」グイッ
男 「ちょ、おい、引っ張るな!」
男 「ごめんな。俺、今気になってる奴居るから……」
後輩「あ……あはは、そうなんですか。……私の方こそ変なこと言っちゃってすみません」
男 「じゃ、そいつと約束もしてるし……またな」
後輩「……。……はい」
後輩「う……ぐす……えぐっ……」
後輩「好きだったのに、ずっと前から好きだったのにぃ……っ!」
友 「あれ? 後輩ちゃんじゃん。……どしたの? 何泣いてんの?」
後輩「……」ガシッ
友 「え? へ? へ?」
後輩「……ちょっとお話聞いてもらっても良いですか?」
幽霊「でも、ちょっと意外です」
男 「何が?」
幽霊「だって男くん“生きてる”彼女が欲しかったんでしょう?」
男 「んー、まぁ、そうだけどさ。今日は前々からお前と約束してただろ?
お前も楽しみにしてたし……そこでOKしたら約束潰れるだろうしさ」
幽霊「……私のために断ってくれたんですか?」
男 「別にそんなんじゃねーよ。……確かに後輩は可愛いけど、一緒に話すならお前との方が気楽で良いし」
幽霊「……えへへー」
後輩「男先輩のばかっ、ばかっ、ばかぁ……」
友 「飲み過ぎだって、後輩ちゃん」
後輩「何か文句でもありますか?」ギロッ
友 「えー……いや、その……ありません、ハイ」
後輩「せっかくのイヴなのに振られてさー……ぐすっ」
友 「……男には幽霊ちゃんが居るからなぁ」
後輩「ゆう……れい……?」
友 「あれ? 後輩ちゃん知らなかったの?」
幽霊「あのお店入りましょー」
男 「……また少し高そうな場所をチョイスするな」
幽霊「クリスマスですもん。イヴですもん。楽しまなくっちゃ」
男 「んー……まぁ、たまには良いか」
幽霊「男くーん! 早く早くー!」
男 「そんなに急がなくても食いもんは逃げてかねーよ」
後輩「男先輩の部屋に幽霊? まさか」
友 「いやー、それが居るんだよ。すっげー可愛い。すっげー俺好み」
後輩「……その幽霊が先輩にとり憑いて、誰とも付き合えないようにしてるってことですか?」
友 「後輩ちゃん、目が怖いよ。……幽霊ちゃんはそんな悪い子じゃないよ。
ただ幽霊なだけで、普通の人間とはあんまり変わらない生活してるらしいし……」
後輩「……にわかには信じられませんね」
友 「会ってみたら? 多分、今も男と居るだろうし。……電話しよっか?」
後輩「……お願いします」
幽霊「うーん、美味しいですねぇ」
男 「……クソ高いワイン選びやがってコノヤロウ」
幽霊「ま、ま。飲んで忘れましょ? ね?」
男 「お前は気楽で良いよな」
幽霊「お化けの学校にゃー 試験もなんにもなーい♪」
男 「大声で歌うな。恥ずかしいだろ」
幽霊「えへー、男くん照れてるぅ」
男 「……駄目だ。こいつ完全に酔っぱらってる。死人のくせに」
男 「ん? 友から電話だ。何だろ?」
男 「もしもしー? うん、幽霊と一緒だけど」
男 「違う違う。店で食ってる。酒も。……もう酔ってるがな」
男 「……え? 後輩が?」
男 「うーん……今日はちょっとなぁ」
男 「……明日? うーん……ちょっと幽霊に訊いてみる」
幽霊「何の電話ですかー?」
男 「後輩がさ、お前に会いたいって」
幽霊「恋の敗北者が何の用です?」
男 「すげー嫌な言い方だな、それ。……もうその辺で飲むの止めとけよ」
幽霊「嫌です! まだいけますっ!」
男 「……でさ、明日会いたいってさ」
幽霊「明日ぁ? ……明日も男くんと二人っきりで過ごしたいです」
男 「分かった。……もしもし? 明日は駄目だって。また空いてる時に会うってことで。じゃーな」
友 「今日明日は駄目だってさ」
後輩「駄目……ですか」
友 「あ、でも今度空いてる時に会おうって……」
後輩「いいです。明日、会いに行きます」
友 「え。いや、だから明日は……」
後輩「悪いですか?」ギロリ
友 「わ、るくないです……ハイ」
後輩(幽霊だか何だか知らないけど悔しいっ! 死んだ奴より生きてる私の方がいいに決まってるのにぃっ!)
友 (今日の後輩ちゃん……怖い……)
幽霊「ふぃー、夜風が気持ちいーい」フラフラ
男 「幽霊のくせに飲んで食って酔って……お前、本当に幽霊なのか?」
幽霊「さて、どうでしょー? 自分でも分からなくなってきまひたぁ。……それより、ほら! 見てよ、イルミネーション!」
男 「はいはい、見てる見てる」
幽霊「最高の夜ですねぇ。明日も盛り上がっていきましょっ!」
男 「財布的には最悪の夜だがな」
幽霊「クリスマスなのに現実的なこと言わないのっ! ……あ」
男 「どうした?」
幽霊「あの人です」スッ
男 「あのオッサンがどうかしたのか?」
幽霊「……あの人が、私を刺した奴です」
男 「……マジか」
幽霊「あれから十年? 二十年? くらい経ってますからねぇ。豚箱から出てきててもおかしくは……え、男くん?」
男 「おい、おっさん」
おっさん「……? な、何ですか?」
男 「お前、人殺したことあるだろ」
おっさん「え。(何でこいつが知ってるんだ!?)」
男 「お前の殺した奴、あっちに居るから」
おっさん「は……?」
男 「……謝れよ。あいつに」
幽霊「久しぶり、○○くん」
おっさん「う、うわああああ!」
幽霊「すっかりおじさんになっちゃって」
おっさん「ひ……ひいぃっ!」
幽霊「歳を取るのって嫌だねぇ」
おっさん「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ!」
幽霊「私はあなたのお陰で歳を取らずに済んでるけどね。それだけは感謝してるよ」
おっさん「……! ……!」ガタガタブルブル
幽霊「ねぇ、話し聞いてる?」
おっさん「ひっ! き、聞いてますっ!」
男 「……お前さ、殺した張本人に会ったんだからそんな世間話してねーで、一発呪い殺したら?」
幽霊「嫌です。そんなことしたら、この子と一緒でしょう?」
男 「……お前、お人好しすぎるぞ」
幽霊「そうですか? ……でも、こっちにも多少なりとも否はありますし」
おっさん「すみませんでした……成仏して下さいぃ……」ガクブルガクブル
幽霊「成仏なんてしませんよ」ニヤッ
おっさん「ひぃ……っ」
幽霊「あの時振っちゃってごめんね。でも、やっぱり貴方のこと好きにはなれないや。じゃーね」スタスタ…
男 「お、おい幽霊! いいのかよ、それだけで」
幽霊「だいぶ怖がらせたし、もう充分。……それに、今夜はイヴでしょう?」
男 「え?」
幽霊「せっかくの聖夜ですもん。好きな人とだけ楽しまなくっちゃ損ですよ、損」
幽霊「……私を殺したい程好いていた筈なのに、死んだ後の私には恐怖しか抱いてくれなかったですね」
男 「そりゃ、殺した筈の人間がひょっこり現れりゃなー」
幽霊「……ちょっと残念、かな?」
男 「そんなもんか?」
幽霊「まぁ、また告白されたってなびきませんが。何か調子狂っちゃったなぁ。……飲み直しに行きません?」
男 「行きません」
幽霊「えー」
男 「お前の希望全部聞いてたら金が持たねーよ」
幽霊「それじゃ、家で飲みましょうよー。コンビニとかでお酒買って」
男 「んー……ま、いっか」
幽霊「やった!」
幽霊「ただいまー」
男 「酒が重たい……こんなに買うなよ。どうせ余るだろ」
幽霊「余っても明日飲めば良いじゃないですか」
男 「良くねーよ。……ケーキまで買いやがって。どうせ明日も食うんだろ?」
幽霊「明日の予行演習です」
男 「ケーキ食うのに予行も何もねーだろ」
幽霊「そうですか?」
男 「そうだ」
幽霊「ま、固いことは抜きに楽しみましょ。ケーキをつまみに、ね?」
男 「はいはい……」
幽霊「ケーキ美味しい! 酒ウマー!」
男 「この大食らいの大酒飲み幽霊め」
幽霊「幽霊は太らないし、安心して沢山食べられます。幽霊最高っ!」
男 「あー、そうかい。良かったな」
幽霊「へへっ」
男 「何得意気な顔してんだ。ムカつくな」
幽霊「明日はもっと大きなケーキ買いましょうね。サンタさんやトナカイの形した砂糖菓子が乗ってる奴!」
男 「どこまで贅沢なんだよ、お前」
幽霊「で、チョコプレートに『幽霊ちゃん 命日おめでとう』って書いてもらいましょ!」
男 「それはやめろ」
幽霊「うぃー……」バタン
男 「とうとう酔いつぶれたか……」
幽霊「おしゃけ、しゃいこー……むにゃむにゃ」
男 「どうしようもねー霊だな……一応、毛布かけといてやるか」
幽霊「おとこくん……」
男 「ん? 何だ?」
幽霊「……あしたも、たのしみましょーねぇ」
男 「……そだな。何だかんだで俺も楽しかった」
幽霊「ふふふ……むにゃ」
男 「……俺も寝るか」
後輩「除霊……除霊……」カチカチッ
後輩「……何故私はクリスマスイヴにこんなの調べているんでしょう」
後輩「これも男先輩をものにする為……堪えるのよ、私!」
後輩「……決行日は明日」
後輩「私の手でばっちり除霊してやるんだからっ」
後輩「待っててね、先輩……」
後輩「うふ、うふふふふ……」
―次の朝―
幽霊「んぅ? あれ……? 毛布かけてある……」
男 「……」スヤスヤ…
幽霊「えへへ。男くん、ありがとうございます」
男 「……」グウグウ…
幽霊「朝ごはんは……あ、ケーキまだ残ってる」
幽霊「食べちゃえ」ムシャムシャ
男 「ん……もう朝か?」
幽霊「おふぁようございまふ」モグモグ
男 「食ったまま喋るな、ばか」
幽霊「早速ですが、ケーキ買いに行きましょーよ」グイグイッ
男 「分かったから服を引っ張るな。伸びる」
幽霊「ウエディングケーキ並におっきいやつ、食べたいです!」
男 「アホか。普通のホールケーキしか買わねぇぞ」
幽霊「もちろんLサイズですよね?」
男 「はぁ……かなりでかいだろ、それ。二人で食いきれるサイズにしろ」
幽霊「じゃあ大きく譲歩してMサイズ?」
男 「……もうそれでいいよ」
幽霊「やったー!」
後輩「ここが先輩のお家……」
後輩「除霊グッズも持ってきたことですし……これで勝てるっ」
後輩「うふふ。先輩……」
ピンポーン
後輩「……」
ピンポーン、ピンポーン
後輩「……」
後輩「出かけてるのかな? ……幽霊と」
後輩「……待とう。頑張れ、私」
―ケーキ屋にて―
幽霊「これ! これがいいです!」
男 「また生クリームまみれで甘ったるそうなものを……」
幽霊「嫌ですか?」
男 「いや、もうそれでいーよ」
幽霊「やった! あの、チョコプレートには『幽霊ちゃん めいに……モガッ」
男 「普通にメリークリスマスって書いといて下さい」
幽霊「モガモガーッ!」
幽霊「うふふ。ケーキ、ケーキ♪ 結局『命日おめでとう』は書いてもらえなかったけど、食べちゃえばおんなじですしねぇ♪」
男 「こんな金のかかる幽霊、こいつだけだろーな……」
幽霊「オンリーワン! 希少価値ありますよ?」
男 「嬉しくねぇ希少価値だな。……ん? 家の前に後輩が居る……?」
幽霊「恋愛敗北者が何の用ですかね?」
男 「さぁ?」
男 「どうした、後輩」
後輩「先輩! ……えと、どちら様ですか?」
男 「あぁ、こいつだよ。お前の会いたがってた幽霊」
後輩(思ったより怖くない……というか、全然怖くない)
後輩(きっと見かけ騙しね。普通の人間みたいな顔してその実態は言うのもはばかれる程に凶悪に違いない……っ!)
後輩「喰らえっ! ファブリーズ!」シュッ シュッ!
幽霊「きゃあっ」
後輩「あははは! 効いてる効いてるー!」
男 「お、おい、幽霊!?」
幽霊「HPが1削られました」
後輩「……あれ?」
後輩「オカ板で『霊にはファブリーズが効く』って聞いたのに……」
男 「なんだそれ……」
幽霊「喰らえっ! 天冠ビーム!」ビシッ
後輩「痛いっ! 案外痛い!!」
男 「……それ、外してなかったか?」
幽霊「肌身離さずポケットにしのばせていました。お陰で助かったです」
男 「……」
幽霊「初対面の人間……いや、幽霊にいきなりファブリーズとはなんたる狼藉っ! 男よ、この者を引っ捕らえよ!」
男 「何時代の口調ですか?」
後輩「ま、まだまだ……! 除霊基本アイテム・塩!」バッバッ!
幽霊「あ。それは駄目。結構効くから」
後輩「本当!? よーし! まだまだー行くよー! 博多の塩の脅威を思い知りなさいっ!」
幽霊「やられっぱなしじゃいられません! 秘技・マフラーアタック!」ビシッビシッ
後輩「痛い痛い! 止めてよ、この悪霊!」
男 「平和だなー……」
後輩「一時休戦にしましょう」ゼイゼイ…
幽霊「賛成です」ゼーハー…
男 「とりあえず寒いし部屋入る?」
後輩「は、はい!(先輩のお家……初めて入るよ……!)」
幽霊「あくまで休戦ですからね。後で再開戦しますからね」
後輩「言われずとも分かってます」
男 「二人ともお茶飲むか? 紅茶と緑茶どっちが良い?」
幽霊・後輩「「緑茶で」」
幽霊・後輩「「……」」
男 「出会って早々仲良くなったな、お前ら」
幽霊・後輩「「仲良くなんてないですっ!」」
男 「息ぴったりすぎだろ。打ち合わせでもしたのか」
幽霊「……」ズズ…
後輩「……」ズズ…ッ
男 「……で、どうして後輩は幽霊のこと除霊しようとしたんだ?」
幽霊「どーせ、しょうもない理由でしょう? 嫉妬とか」
後輩「しょうもなくないです! 先輩にとり憑いた悪霊を取り払おうと私は……!」
男 「ま、まぁ落ち着けって」
幽霊「そうそう。男くんが私と居ることを望んでいるんだから無駄な足掻きは止めなさい」
後輩「……先輩、本当ですか?」
男 「うーん……」
後輩「ほら、きっぱり肯定してないじゃないですか!」
幽霊「だからと言って否定してるように見える?」
後輩「ぐぬぬ……やっぱり除霊してやるんだからっ」
幽霊「できるもんならやってみて下さい。男くん、お茶おかわり」
男 「自分で注げよ」
幽霊「さて、一服しましたしさっきの勝負の続きを致しましょう」
後輩「望むところです」
男 「部屋の中で暴れるのは止めろ」
幽霊「よーし、じゃあ表出ろ」
後輩「分かりました」
男 「近所迷惑にならない程度にな」
幽霊・後輩「「了解です」」バタンッ!
男 「はぁ、寒いのによくやるわ。……茶がうめぇ」ズズズ…ッ
後輩「塩に続く除霊アイテム・その二! 何かよく分かんない文字が書いてあるお札っ!」
幽霊「……本当に何が書いてあるのか分かりませんね」
後輩「漢字?」
幽霊「お経ですかねぇ?」
後輩「うーん……って、何で平気なの!?」
幽霊「だって何て書いてあるか分かりませんもん」
後輩「ぬぬぬ……これは何としても何が書いてあるのか解明しないと……!」
幽霊「日本語ですかね、これ?」
後輩「多分……」
幽霊「うーん……何でしょうねぇ」
後輩「うぅ……寒い……」
幽霊「外ですもんね」
後輩「何で平然としてられるんですか」
幽霊「幽霊ですから。中、入ります?」
後輩「そうですね。……あ」
幽霊「わぁ、雪ですよ、雪!」
後輩「ホワイトクリスマス……ですね」
幽霊「ロマンチックぅ。男くん、男くん! 雪が降ってますよー!」ドンドンッ
男 「うるせーな。扉叩くな」キィ…
幽霊「ほら、雪です。雪」
男 「……本当だ」
男 「じゃ、寒いから俺は部屋に戻る」
幽霊「えー」
後輩「せっかくだしもっと見ましょうよ」
男 「一瞬見れば充分だ。寒いの苦手なんだよ、俺は」
幽霊「……夏は暑いの苦手って言ってたくせに」
男 「夏は暑いのが苦手になる、冬は寒いのが苦手になる。そういう風に俺はできてんだ」
幽霊「男くんには情緒ってものがありませんよ。ねぇ、後輩さん」
後輩「ですよねぇ」
男 「……」
男 「……で、勝負はついたのか?」
幽霊「それは……」
後輩「……また後々にでも」
男 「あっそ」
幽霊「クリスマスですもんねぇ」
後輩「勝負はお札解読後にでも」
幽霊「そうしましょう」
後輩「私、まだ男先輩のこと諦めてませんからね」
幽霊「いつでも受けて立ちますよ」
男 「……もうそろそろお前らも中入ったら?」
幽霊・後輩「「はーい」」
幽霊「早速ケーキ食べましょうよ」
男 「もうか?」
幽霊「善は急げ、です!」
男 「何だそりゃ……後輩もケーキ食う?」
後輩「はいっ」
幽霊「冷蔵庫からお酒も持ってきて下さい」
男 「俺はお前のパシリかよ……まぁいいや」
男 「ほらよ」
幽霊「……私が男くんの隣に座るんですからね」
後輩「何寝言言ってるんですか」
幽霊「男くんの隣は以前から私の特等席ですが何か?」
男 「喧嘩すんなよ。俺が真ん中に座りゃいいだろ。……ほら、ケーキと酒」
幽霊「わーい! では、ローソクの代わりにお線香を……」
男 「さすなっ」
幽霊「むー……」
幽霊「チョコプレートもらいますねぇ」
後輩「え」
幽霊「何か文句あります?」
後輩「じゃあ、この砂糖菓子は私のです」
幽霊「え」
後輩「……何か文句でも?」
男 「お前ら仲良いんだか悪いんだかはっきりしろよ」
幽霊「悪いに決まってるでしょう。ねぇ?」
後輩「ねぇ」
男 「意気投合してるじゃねーか」
男 「チョコプレートもサンタ形の砂糖菓子も半分こすりゃ良いだろ。俺はいらねーから」
幽霊「男くんが言うなら……」
後輩「……仕方ありませんね」
男 「まずはチョコを真っ二つに、と」
幽霊「じゃ、こっちもらいます」
後輩「えー、私もそっちが良いです」
幽霊「そっちの方が大きいでしょ?」
後輩「どう見てもそっちの方が大きいでしょう」
幽霊「もう食べちゃいましたよー^^」モグモグ
後輩「や っ ぱ り 今 除 霊 し て や る !」
男 「チョコごときで騒ぐな、大人げない」
男 「じゃ、次はサンタの砂糖菓子な」ザクッ
幽霊「あ」
後輩「あ」
男 「……何だよ」
後輩「サンタ、真っ二つ」
幽霊「サンタ、惨殺死体」
男 「お前ら俺が好きなのか嫌いなのかはっきりしろよ」
後輩「もちろん好きですよ」
幽霊「私はその倍好きですよ」
後輩「それじゃあ私はその百倍好きでs(ry
男 「ほら、二人とも取り皿貸せ。切り分けてやるから」
後輩「はーい」
幽霊「……このサンタも私とお揃いですね」
後輩「え?」
幽霊「知りませんでしたか? 私ナイフで刺されて死んだんです。服の下には中々生々しい傷跡がまだ……」スル…ッ
後輩「……」ドキドキ
男 「見せんでいい! 見せんで!」
幽霊「じゃ、改めて……かんぱーい!」
後輩「乾杯です」
男 「乾杯っ」
幽霊「ぷはーっ、うまいっ!」
男 「ケーキをつまみにビールか。しかもまだ昼なのに……」
後輩「さ、さ、先輩も飲んで飲んで」
男 「飲むよ、飲む飲む」
幽霊「ケーキ食いながらのビールは美味いなぁ」
男 「『饅頭食いながらの焼酎うめぇ』みたいに言うなよ」
幽霊「で、学校での男くんはどうです?」
後輩「優しいですよぉ。……誰にでも」
幽霊「ふーん。私には冷たくあたるくせにぃ。外面良いんですねー」
男 「お前がうぜぇだけだ。……二人とも酒はそのくらいにしろって」
幽霊「まだまだ序の口ですよー」
後輩「ですよー」
男 「……お前らなぁ」
―数時間後―
幽霊「あははは。あなた、結構面白いですねぇ」
後輩「幽霊さんこそー。……あれー? 私、何しに先輩の家に来たんだっけー?」
幽霊「何言ってるんですか。ケーキ食べに来たんでしょう?」
後輩「あー、そうでした。お酒飲みに来たんでしたぁ」
幽霊「飲み過ぎですよ。ほら、もう一杯」
後輩「どうもー。何だかフワフワしてきたぁ」
男 「二人揃ってべろんべろんになりやがって……」
プルルル…
男 「お、友から電話だ」
男「もしもし?」
友「幽霊ちゃん大丈夫か!?」
男 「え? 大丈夫だけど?」
友 「そっかー、良かったぁ」
男 「どーしたんだよ」
友 「後輩ちゃんが今日除霊しに行くって言ってたからさ。メールでも止めたんだけど『除霊グッズ揃えました。もう後戻りはできません』って」
男 「あー……後輩来てるよ。除霊グッズ持って」
友 「……マジか」
男 「でも、今仲良く酒飲んでる」
友 「………どうしてそうなった?」
男 「まぁ、最初は除霊する気満々だったけど、何故か今はケーキをつまみに酒盛り状態だ。……お前も来るか?」
友 「行く行く!」
幽霊「誰から電話ですかー?」
男 「友から。今から来るらしい」
後輩「じゃ、お酒も残り少ないし買ってくるよう伝えて下さいー」
男 「……あー、友? 悪いが来る途中、適当に酒買ってきてくれねーか? 飲兵衛が二人居るから」
友 「え」
男 「よろしくっ。じゃーな」プツッ ツーツーツー
友 「お邪魔しまーす」
幽霊「酒ぇ! 酒ぇ!」
後輩「お酒キターー!」
友 「……す、すごい盛り上がりぶりだな」
男 「一緒の空間に居ると疲れる……」
友 「……だろーな」
幽霊「わーい、お酒追加ぁ。友さん最高!」
後輩「最高! 大好き! 愛してないけど!」
友 「……」
男 「……まぁ、座れよ。お前も飲め。潰れない程度に」
男 「寒かっただろ。雪降ってたし」
友 「まぁな。でも、良いんじゃないか。ホワイトクリスマス」
男 「珍しいよな。ピンポイントでクリスマスの日に降るなんて」
友 「今年はラッキーだなぁ。まさに聖夜だなぁ」
男 「……聖夜なのに女二人はこの有り様」
友 「ま、こっちはこっちで飲もうぜ。男同士で楽しくな」
男 「だなー」
幽霊「友さんに男くんが盗られるっ! 者共かかれー!」
後輩「わーっ!」ドスッ
幽霊「わーい!」ドスッ
友 「うわっぷ!」
男 「二人がかりでタックルすんなよ」
幽霊「やっぱりね、クリスマスってね、良いものだと思うんですよ」
後輩「当たり前でしょー。クリスマスですもん。聖夜ですもん」
幽霊「クリスマスに死んで、数年はクリスマスのこと嫌で嫌で仕方なかったんですけどねぇ」
後輩「クリスマスに殺しなんてナンセンスですよねー」
幽霊「クリスマスが来るたびに殺された記憶が蘇って、怖くて悲しくてどうしようもなかったけど……」
後輩「けど?」
幽霊「……男くんがここに住むようになってからは楽しみになっちゃいました」
友 「男、お前ってつくづく愛されてんな」
男 「そうか?」
友 「羨ましすぎるぞ、このぅ」
男 「肘でつつくな」
後輩「でも、フラれたその人の気持ちも……少し、分かる」
男 「え」
後輩「私も、先輩にフラれた時にね……一瞬、殺意? ですかね。そういうの、感じたんです」
男 「ちょ……」
友 「おいおいおい……」
後輩「比喩じゃなくって殺したい程好き。……でも、大丈夫。今はそんなこと思ってません。好きなのには変わりありませんが」
友 「ヤンデレ一歩手前だな」
幽霊「男くんのこと殺したらただじゃおきませんよ?」
後輩「きゃー、怖い」ケラケラ
幽霊「はぁ、ケーキ無くなっちゃいましたねー」
男 「そりゃ食えばいつかは無くなるわ」
後輩「おつまみ欲しいですー」
男 「……冷蔵庫に何かなかったかな?」
友 「冷凍庫に枝豆が」
男 「冷凍庫にはスルメとイカの塩辛と、チータラと……」
友 「もっとクリスマスっぽいのねーの?」
男 「無いものは無い。……今更だろ。見ろ、この惨状を」
友 「食べ散らかされたケーキの残骸と酒の缶の山……」
男 「情緒がないよな」
友 「……情緒云々以前の問題じゃね?」
幽霊「塩辛ウマー」
後輩「枝豆ウマー」
男 「……何だかなぁ」
幽霊「後輩さん、塩辛食べないんですか?」
後輩「えー。外見からして気持ち悪いですもん。エイリアンみたい」
幽霊「エイリアンを味わえー」グイグイ
後輩「やめてー。除霊しちゃうよー?」
友 「……微笑ましいな」
男 「幽霊にもようやく女友達ができたな」
友 「だな」
後輩「違いますっ!」
男 「え? 何が?」
幽霊「私たちはただの女友達などではありませんっ」
後輩「ライバルと書いて親友と読むっ!」
友 「親友と書いてライバルと読む……じゃないの?」
後輩「じゃあそれで」
男 「……仲が良いようでなによりだよ」
幽霊「男くんがなによりなら!」
後輩「私たちは永遠に仲良くしていく所存です!」
男 「……勝手にやってくれ」
後輩「許可がおりましたー」
幽霊「おりましたねー。ふふふっ」
友 「もうすぐ日付が変わるなぁ」
男 「もうそんな時間か」
友 「クリスマスが終わるな……」
幽霊「終わるの嫌ぁ」
後輩「ずっと飲んでたいです!」
男 「酒なんていつでも飲めるだろ」
幽霊「分かっていませんねぇ、男くんは」
後輩「クリスマスに飲むお酒の味は最高ですよ」
幽霊「クリスマスですもんね。聖夜ですもんねー」
後輩「聖夜、聖夜ぁ♪」
幽霊「カウントダウンしましょ!」
男 「何の?」
後輩「クリスマスからただの26日になる瞬間を、ですよ」
友 「意味あるの、それ」
幽霊「死に逝く今年のクリスマスを偲ぶ会!」
後輩「過ぎたクリスマスも幽霊になるんですかねぇ」
幽霊「クリスマスはね、思い出になるんですよ。多分」
後輩「ロマンチックぅ」
幽霊「10秒前!」
後輩「9」
幽霊「8」
後輩「7……」
幽霊「6!」
後輩「5!」
幽霊「4!」
幽霊・後輩「「3!」」
幽霊・後輩「「2!」」
幽霊・後輩「「1!」」
幽霊・後輩「「さよなら、クリスマスっ!」」
男 「終わったな」
友 「終わったね」
幽霊「はー……終わったって感じしますね」
後輩「ですねぇ。また来年のクリスマスもやりましょうね」
幽霊「賛成!」
男 「……で、友と後輩、これからどうする?」
友 「じゃ、俺帰るわ」
後輩「先輩の家に泊まりたいですっ!」
男 「うーん……うち、狭いしお客さん用の布団もないし」
後輩「むー……」
男 「家まで送ってってやるから」
後輩「……はーい」
幽霊「じゃあ私もついて行こうっと」
男 「じゃあ行くか」
友 「んじゃ、俺ん家こっちだから」
男 「じゃーな」
友 「また明日なー」
男 「……さて、さっさと後輩の家に行くか」
後輩「あはは、こっちですよぉ」タタ…ッ
男 「走るなよ。足元おぼつかないくせに」
後輩「大丈夫です。大丈夫です」
男 「大丈夫じゃなさそうだがな」
幽霊「酔いすぎで地に足がつかない状態です……」
男 「実際ついてないぞ。浮くなよ」
幽霊「実はこっちの方が楽なんですよねぇ」
男 「あー……そう」
後輩「それじゃ、また明日」
男 「二日酔いになんなよ」
後輩「大丈夫です。幽霊さんも二日酔いなんてならないで下さいよー」
幽霊「幽霊舐めないで下さい。死んでこのかた二日酔い知らずです」
後輩「先輩に変なことしないで下さいねぇ」
幽霊「女同士の骨肉の戦いが!」ゴゴゴ…
後輩「今、始まった!」ゴゴゴ…!
男 「なんだこのノリ」
男 「さて、帰るか」
幽霊「……雪、降り続けてますね」
男 「明日の朝には積もってるかもなぁ」
幽霊「積もってたら雪だるま作りましょう、雪だるま」
男 「嫌だ。寒いから」
幽霊「えー」
男 「一人で作ってろ」
幽霊「じゃあ玄関の前に超特大の雪だるま作ってやりますから」
男 「やめてくれ……」
幽霊「うふふ。冗談ですよ」
幽霊「一瞬前まではホワイトクリスマスだったのに、今はただのホワイトですね」
男 「だな。何だかんだで楽しいことはすぐ過ぎ去っちまうもんだな」
幽霊「今年のクリスマスは終わってしまいましたが、来年も、再来年もありますよ」
男 「一年先だがな」
幽霊「来年も再来年も、その次も、そのまた次のクリスマスも……一緒に祝いましょうね」
男 「……だな」
幽霊「男くんが老いて死んでしまうまで、ずっと一緒です」
男 「俺が死んだら?」
幽霊「向こうでも祝いましょう。永遠に、ずっと。……それが幸せってことなんですよ、きっと」
男 「……かもな」
幽霊「……雪、綺麗ですね」
男 「少し寒いがな」
幽霊「家に帰ったら来年のクリスマスの計画立てましょうねー」
男 「気が早すぎないか?」
幽霊「そうでもありません。一年なんてあっという間ですよ」
男 「まぁ、確かにそうかもな」
幽霊「決まりっ。じゃあ早く家に帰りましょう。家まで競争です! よーい、どん!」フヨフヨ…
男 「あ、おい! 待てよ、浮いて進むのは卑怯だろ!」タタタ…
幽霊「ルール無用っ!」
男 「ったく、本当にどうしようもねぇ幽霊だな。……でも」ボソッ
幽霊「……? どうしました?」
男 「何でもねーよ」
男 「来年の計画より、部屋の片付けが先だろ?」
幽霊「それこそ朝でも良いじゃないですか」
男 「……いやいやいや。あの部屋で寝ろと?」
幽霊「安眠間違いなしです」
男 「安眠できるかボケ」
幽霊「片付けってあんまり好きじゃないんですよねぇ。祭の後の静けさというか、そういうのをひしひし感じちゃうから」
男 「どうせまた来年があるだろ? そう言ってたじゃねーか」
幽霊「……そーですね」
男 「……来年も、よろしくな」
幽霊「こちらこそ。今年よりもっと楽しいクリスマスにしましょうね」
男 「……だな」
―幽霊「クリスマスが近いですね」 中途半端だけど、完 ―